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弱視とERG

2019年8月31日 土曜日

弱視とERGTheUseofERGsonChildrenwithAmblyopia長谷岡宗*佐藤美保**はじめに日常診療では,矯正視力不良や視力検査不能な小児がしばしば受診する.通常の眼科一般検査で器質的疾患がみられない場合,斜視や不同視,形態覚遮断などによる弱視の可能性を考えながら経過をみる.視力発達途中の低年齢児では,成長に伴う視力改善を待つ場合もあるが,知的障害や発達障害があり,正確な視力検査ができるのがいつになるかわからない場合もある.一方,仮に弱視となる要因があって,屈折矯正や弱視治療を十分に行っても期待するような視力の改善が得られない場合には,本当に弱視だけなのか,見逃している器質的疾患がないのか考える.とくに小児では詳細な眼底検査が困難であること,網膜変性疾患があっても特徴的な所見がまだ現れていないことなどのために,正確な診断に難渋する.そのような場合に,網膜機能を客観的に評価するためには網膜電図(electroretinogram:ERG)検査が有効である.しかし,小児におけるERGの検査にはしばしば鎮静を必要とすることから,外来での実施が困難であった.しかし,最近,LKC社からRETevalRComplete(以下,RETevalRC)という手持ち式皮膚電極で記録可能な装置が発売となり,本装置を用いて弱視疑いの小児の網膜電図を記録することが比較的容易になった(図1).また,RETevalRCは無散瞳でも記録が可能であること,持ち運べるため測定場所を選ぶことなく記録できることが特徴である.I記録の方法RETevalRCは,センサーストリップというシール型電極を顔に貼って検査を行うため,このシールさえ貼ることができればほとんどの症例で測定が可能である.このような皮膚電極ERGの測定で重要なのが固視をいかにして確認するかである.RETevalRCでは図2のように測定中にモニターを通して固視の観察が可能である.また,国際臨床視覚電気生理学会(InternationalSoci-etyforClinicalElectrophysiologyofVision:ISCEV)が提案する標準ERG波形がすべて記録できるようになっており,詳細な網膜機能の評価が可能である.装置は232gと小型で軽量なため片手で簡便に持つことができ,座位・仰臥位などいずれの姿勢でも測定可能である.II判定上の注意点記録に際しては無散瞳や暗順応なしでも可能となっているが,その結果の評価については,まだ確立していない.とくに小児においての正常反応は未確定であるため,できる限り散瞳をして,暗順応をしたうえでの測定が望ましい.外来で小児を記録する場合,時間を短縮するためには明順応でできる検査から始めてもよい.振幅の数値は,通常の角膜電極の1/5になる(潜時は変化なし)1)こと,小児の正常値が確定していないことから,振幅の数値で評価する場合は注意が必要である.なお,センサーストリップを貼る位置は,下眼瞼縁から*TakashiHaseoka:浜松医科大学医学部附属病院眼科**MihoSato:浜松医科大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕長谷岡宗:〒431-3192浜松市東区半田山1-20-1浜松医科大学医学部眼科学講座0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(13)983図1RETevalRa:本体,b:センサーストリップを貼る位置,c:センサーストリップ外側,d:センサーストリップ内側.図2RETevalRCで測定中の写真固視をしっかり観察することが可能である.Ca右眼左眼a波b波a波b波msμVmsμVmsμVmsμV114.8-47.245.671.2113.3-46.441.759.7214.2-47.841.565.0214.1-32.643.450.814.5-47.541.668.113.7-39.542.555.3604020016012402200μVμV-20-20-40-60-80b-40-60-80050100150050100150msmsms23.327.0μV20.554.2ms23.327.0μV20.554.2125.0(67%)16.7(■%)5040302015024030μV20μV100-10100-10020406080100020406080100msms図3症例1のフラッシュERG(a)とフリッカーERG(b)c12ms13.213.4a波μV-60.6-66.6右眼ms48.738.2b波μV78.483.01213.513.3a波μV-60.7-57.4左眼ms43.345.0b波μV72.278.313.3-63.643.580.713.4-59.144.275.340200-20140122020-20μVμVμV-40-40-60-80-60-80-100-100050100150050100150msmsd右眼左眼msμVmsμV23.427.020.454.023.427.020.454.011221150502240403030μV2020101000-10-10020406080100020406080100msms図4症例2の右眼OCT(a,b)とフラッシュERG(c),フリッカーERG(d)図5症例3の右眼眼底写真(a,b)とOCT(c,d)-=--=-ams右眼μVms左眼μV1119.313.61135.815.62121.918.2290.711.2120.615.9113.313.41160260240402020μVμV00-20-20-40-40050100150050100150msms検査#2:フラッシュ:3.0cd・s/m2,色度(0.33,0.33),0.1Hz背景光:0.0cd/m2右眼左眼ba波b波a波b波msμVmsμVmsμVmsμV118.7-39.938.627.3b118.4-40.039.326.5218.2-37.138.223.5218.0-43.039.231.518.5-38.438.425.418.2-41.539.329.011404022202000μVμV-20-20-40-40-60-60-80-80050100150050100150msms図6症例3の杆体応答:減弱(a),フラッシュERG:陰性型(negative)(b),錐体応答:減弱(c),フリッカー応答:減弱(d)図7症例4のフリッカーERGフリッカー応答は良好である.

調節麻痺薬使用に関する再考

2019年8月31日 土曜日

調節麻痺薬使用に関する再考ReconsiderationontheUseofCycloplegia若山曉美*はじめに調節麻痺薬使用による屈折検査は,弱視や斜視の診断や治療に不可欠である.とくに小児では視覚発達の時期であり,調節麻痺薬の使用は正確な屈折値を検出するために必須となる.おもに調節麻痺薬として副交感神経遮断薬であるアトロピン硫酸塩(以下,アトロピン)とシクロペントラート塩酸塩(以下,サイプレジン)が使用されている.両薬剤は副交感神経末端でアセチルコリンと競合阻害して神経伝達を遮断し調節麻痺作用を引き起こす.調節麻痺薬の施設基準について実施した日本弱視斜視学会の多施設共同研究によるアンケート調査1)では,アトロピン使用率はC86.2%(100/116施設),サイプレジン使用率はC96.6%(112/116施設)と両薬剤ともに使用率は高く,小児の眼科診療において調節麻痺薬の使用が不可欠であることを示している.一方,アトロピンを使用しない理由として「副作用が気になるため」との回答が多く,調節麻痺薬の使用の必要性を理解しているものの副作用の発生が懸念されていることがわかる.調節麻痺薬による副作用発生率や症状に関してさまざまな報告がある.副作用の症状としてアトロピンでは顔面紅潮や発熱など2~4),サイプレジンでは眠気や運動失調や視覚幻覚などが報告されている5~7).しかし,これらの報告は各施設で実施された後ろ向き研究であり,より詳細に調節麻痺薬使用による副作用発生率や症状について検討する必要がある.そこで筆者らは,日本弱視斜視学会の多施設共同研究としてC15歳以下の小児に対する調節麻痺薬による副作用の発生率や症状に関するC1年間の多施設共同前向き研究を実施した8).本稿では,おもな研究成果について述べる.CI調査内容調査は,日本弱視斜視学会の多施設共同前向き研究として,倫理委員会の承認を得てC9施設でC1年間(2016年4月C1日~2017年C3月C31日)の調査を実施した.対象はC15歳以下で屈折検査のために調節麻痺薬を使用した者とした.調査項目は,副作用発生率,年齢,副作用症状,副作用を起こした症例の全身疾患の有無とした.CII調節麻痺薬の点眼方法アトロピンの点眼方法は,9施設中C6施設がC1日C2回7日間,3施設がC1日C2回C5日間で実施していた.過去に実施した調節麻痺薬使用に関するアンケート調査でも1日2回7日間,1日2回5日間の実施が全体の65%と多かった1).サイプレジンの点眼方法は,9施設中C8施設でC2回点眼(点眼間隔C5~15分),1施設がC1回点眼であった.検査は点眼後C40~90分後に実施していた.過去のアンケート調査ではC5分間隔でC2回点眼し,60分後に検査を実施するが全体のC54.6%と多かった1).*AkemiWakayama:近畿大学病院眼科〔別刷請求先〕若山曉美:〒589-8511大阪狭山市大野東C377-2近畿大学病院眼科C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(9)C979表1アトロピン点眼濃度別の使用年齢と副作用発生濃度使用年齢(歳)副作用年齢(歳)副作用発生率(%)1%(n=391)C0.5%(n=329)C0.25%(Cn=80)C1.0%眼軟膏(n=11)C5.6±2.2C4.2±1.6C1.7±0.8C3.2±1.54.9±2.1(Cn=49)3.7±1.4(Cn=16)1.3±0.9(Cn=6)12.5(C49/391)4.9(C16/329)7.5(6/80)0(0/11)嘔吐微熱(%)(%)図1アトロピン点眼による副作用症状図2サイプレジン点眼による副作用症状(文献C8より改変)(文献C8より改変)発生率(%)(%)252520201515発生率10551.2%00月別(月)図3アトロピン点眼による月別の副作発生率図4サイプレジン点眼による月別の副作発生率(文献C8より改変)(文献C8より改変)456789101112123月別(月)456789101112123

乳幼児の屈折スクリーニング

2019年8月31日 土曜日

乳幼児の屈折スクリーニングRefractiveScreeningforPreschoolChildren林思音*はじめに眼科医が視機能を評価する際にもっとも頻用する検査値は,おそらく矯正視力である.Landolt環などの指標を用いて,屈折を矯正しつつ最高矯正視力を検出する.しかしながら,乳幼児ではこれがうまくできないため,眼科医は困惑してしまう.たとえ測定できても,年齢ごとに視力の基準値が変化し,かつ個人差があるため,その評価に苦しむ.では自覚的な検査がむずかしい乳幼児ではどのように視機能を評価するか.その代表的な検査法が他覚的屈折検査(以下,屈折検査)である.したがって,乳幼児の視覚スクリーニングを屈折検査を用いて行うことは理にかなっている.最近ではフォトスクリーナーなどが登場し,乳幼児でも屈折を容易にスクリーニングできるようになってきた.本稿では,乳幼児の屈折値の読み方を,とくにスクリーニングで用いる場合に焦点を当てて紹介する.I乳幼児の屈折の特徴乳幼児の屈折の特徴は,年齢ごとに正常値が変化することと,検査の際に調節が介入すること,そして同じ屈折異常であっても年齢ごとに視力に影響する程度が変化するということである.乳幼児の屈折値は,角膜,水晶体,および眼軸長の成長とともに大きく変化する.新生児期は軽い遠視を示し,生後3カ月頃に平均等価球面度数は+3.0~+4.0D前後となり,遠視のピークを迎える.そして,学童期頃に正視化していくといわれている.また,乳幼児では調節の介入が強い.指標を覗き込むような検査機器ではさらに調節の影響を受けやすく,得られた値は近視化する.そのため,正確な検査を行うためにはアトロピン硫酸塩点眼液やシクロペントレート点眼液などの調節麻痺薬を使用する.しかし,スクリーニングでは調節麻痺薬の使用がむずかしいため,常に調節の存在を念頭におく必要がある.強い屈折異常が存在する場合,屈折異常弱視(両眼の屈折異常が強い)もしくは不同視弱視(片眼の屈折異常が強い)が生じる.不同視が弱視の原因である頻度は,年齢によっても異なるが,弱視全体の2/3を占めるといわれており,屈折が弱視の重要ファクターであることがわかる.ここで弱視の有無を評価する際のポイントは,同じ屈折度数でも年齢により弱視の発症のしやすさが異なるということである.3歳までは,強い屈折異常があっても弱視になりにくいが,屈折異常に左右差があると弱視を発症しやすい.一方,3歳以上では,強い屈折異常そのものが弱視の原因となる.そこで以下に,3歳以上と3歳未満とに分けて,どのように屈折値を視覚スクリーンングに用いるかについて解説する.とくに,3歳6カ月で行われることが多い三歳児眼科健診では屈折スクリーニングが重要と考えられるため,詳しく解説する.*ShionHayashi:山形大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕林思音:〒990-9585山形市飯田西2-2-2山形大学医学部眼科学講座0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(3)973図1三歳児眼科健診の流れ(一般的に行われている方法)図2フォトスクリーナー(SpotVisionScreener)(http://welchallyn.jp/product/visionscreener/visionscreener.htmlより)図3携帯型屈折検査機器(レチノマックススクリーン)(http://www.jfcsp.co.jp/products/righton/1728より)-表1米国小児眼科学会が定める弱視リスクファクター基準表2現行のSVSの屈折異常判定の基準値年齢(月齢)リスクとなる屈折異常値乱視遠視近視不同視12~3031~48>48>2.0D>4.5D>-3.5D>2.5D>2.0D>4.0D>-3.0D>2.0D>1.5D>3.5D>-1.5D>1.5D屈折値以外のリスクファクター全年齢恒常性斜視8Δ以上中間透光体の混濁年齢(月齢)不同視乱視近視(等価球面値)遠視(等価球面値)6~1212~3636~72≦1.5≦1≦1≦2.25≦2≦1.75≦2≦2≦1.25≦3.5≦3≦2.5(D:ジオプター)(文献9より引用)(文献8より引用)表3日本弱視斜視学会・日本小児眼科学会が推奨するSVSの屈折基準値年齢(月齢)不同視乱視近視(等価球面値)遠視(等価球面値)6~12未満12~36未満36~72≦5≦1.5≦1.5スケールオーバー≦3≦2スケールオーバー≦5≦2スケールオーバー≦3≦2.5(D:ジオプター)(文献9より引用)–

序説:弱視と斜視のカレントトピックス

2019年8月31日 土曜日

弱視と斜視のカレントトピックスCurrentTopicsofAmblyopiaandStrabismus仁科幸子*佐藤美保**弱視や斜視の病態や解析法は,多くの眼科医にとって難解な部分が多く,一般的な症例の診断や治療はできても,非定型的な場面に出くわすと途方に暮れることがある.また,最近の大きな変化として,先進の検査機器や検査方法が急速に小児眼科や斜視の分野でも用いられるようになっていることに着目したい.本特集では,診療に役立つ新しい情報を総括するために,過去2年間の弱視斜視の分野のトピックスの中から,専門外の医師や視能訓練士の方々にも知っておいていただきたい内容をピックアップしてみた.それらの背景や今後の発展を含めて,専門の先生方にわかりやすく解説していただくように企画した.弱視のトピックスとして,近年,3歳児健診における弱視の見逃しをなくすために屈折検査の必要性が強調されているが,ようやく導入する自治体が増えてきている.また,新たな手持ち自動判定機能付きフォトスクリーナー装置SpotTMVisionScreenerは小児科医にも急速に普及しているが,乳幼児の視覚スクリーニングにどのように利用していくか,また,眼科との連携をどうするかが大きな課題となっている.山形大学の林思音先生は,3歳児健診における本装置の有用性や精度について自治体と連携して研究を進めておられるので,乳幼児の屈折スクリーニングの現状と課題を示していただいた.第2のトピックスは,小児の弱視斜視診療に必須の精密屈折検査に用いる調節麻痺薬(アトロピン硫酸塩点眼,シクロペントラート点眼薬)の使用法と注意すべき副作用について日本弱視斜視学会が行った多施設研究である.その結果について,近畿大学の若山曉美先生に解説していただいた.第3のトピックスとして弱視と紛らわしい眼底疾患の鑑別を取りあげる.RETevalは皮膚電極で無散瞳,さらに暗順応なしでERGが記録できる装置である.さらにISCEVプロトコールに従ってさまざまな条件下での記録が可能である.そのため,小児にも簡便に外来で網膜電図(ERG)を記録・分析することが可能となった.その利用法について浜松医科大学の長谷岡宗先生と佐藤美保が解説した.いずれも明日からの診療に役立つ情報が満載であり,ぜひ目を通していただきたい.斜視のトピックスとしては,まず,斜視の原因に対する新たな知見である眼窩角と斜視の関連性について,眼科やがさき医院の矢ヶ﨑悌司先生に興味深いご研究の成果を解説していただいた.次に,近年,スマートフォンなどのデジタルデバイスの過剰使用との関連が指摘されている急性内斜視の話題である.デジタルデバイスの使用との因果*SachikoNishina:国立成育医療研究センター眼科**MihoSato:浜松医科大学医学部眼科学講座0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(1)971

Kinect®センサーを用いた視作業距離の測定

2019年7月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科36(7):962.965,2019cKinectRセンサーを用いた視作業距離の測定矢崎香菜*1干川里絵*1,2半田知也*2庄司信行*1*1北里大学病院眼科*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学CMeasurementofVisualWorkingDistanceUsingKinectRSensorKanaYazaki1),RieHoshikawa1,2),TomoyaHanda2)andNobuyukiShoji1)1)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KitasatoUniversity,2)DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthScience,KitasatoUniversityC目的:屈折矯正法の多様化に伴い,患者の日常生活における視作業距離を改めて評価する必要がある.今回筆者らはCKinectセンサー(Microsoft社)を用いて,PC視作業中の視作業距離を経時的に計測し検討した.対象および方法:北里大学病院外来患者C43名(平均年齢C46.6±20.9歳,男女比=16:27,矯正視力C1.0以上)を対象とした.眼科的手術既往のある症例は除外した.視作業距離はCKinectセンサーを利用した読書距離計測システムを用いて,10分間経時的に計測し,PC視作業距離と年代別における視作業距離の変化量を先行的に検討した.結果:PC視作業中における平均視作業距離はC63.6±9.8Ccm(51.5.92.6Ccm)であった.視作業距離の変化量は,10.30歳代C2.4±7.0Ccm,40.50歳代C2.3±6.6Ccmに比較し,60.70歳代はC5.0±11.6Ccmと大きく視作業距離変化量に有意差を認めた(p<0.05).結論:PC視作業距離は個人差および時間的変動が大きく,経時的測定値から作業距離を求める必要性が示唆された.CPurpose:Indiversifyingtherefractivecorrectionmethod,refractioncorrectionforvisualworkingdistanceisimportant.Inthisstudy,weusedtheKinectsensortodeterminevisualworkingdistanceduringPC-viewingworkoverCtime.CSubjectsandmethods:IncludedCwereC43outpatientsCatCKitasatoUniversityCHospital(averageage:C46.6±20.9years;maletofemaleratio:16:27;correctivevision:≧1.0);onecasewithahistoryofophthalmicsurgerywasexcluded.Inthepreliminarystudy,wedeterminedvisualworkingdistanceduringPC-viewingworkandthechangeinvisualworkingdistanceover10minutes,afterstratifyingbyage.Results:TheaveragevisualworkingCdistanceCwasC63.6±9.8Ccm.CChangesCinCvisualCworkingCdistanceCshowedCsigni.cantCdi.erencesCinCtheC60sand70sagegroups.Conclusion:PC-viewingworkingdistanceshowedlargeinter-individualdi.erencesandtem-poralvariation.Werecommendthatthisparameterbedeterminedbyperiodicmeasurementsovertime.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(7):962.965,C2019〕Keywords:視作業距離,Kinectセンサー,経時的測定,PC視作業距離,年代別における視作業距離変化量.vi-sualworkingdistance,Kinectsensor,periodicmeasurementsovertime,visualworkingdistanceduringPC,visualworkingdistancechargeamountbyage.Cはじめに現在,眼鏡矯正やコンタクトレンズ矯正,屈折矯正手術など屈折矯正法の多様化により,患者の見え方に対する要求度は高まっている.そのため,患者の見え方の希望に対するシミュレーションや屈折矯正前のインフォームド・コンセントは重要である1,2).多様な生活環境に応じた実際の視作業距離に合わせた屈折矯正が必要であり,遠用・中間・近用における患者の希望する日常生活に対する視距離の把握が求められる.屈折矯正法のなかでも,とくに眼鏡による屈折矯正はその簡便性,安全性などを考えるともっとも基本的で欠くことのできない矯正手段である3).現代の視覚情報社会では長時間の近方作業を強いられることも少なくない.調節疲労の緩和の目的として近用眼鏡を装用する機会も多くなっており,従来の老眼鏡とは趣が若干異なってきている背景も報告されている4).視作業距離の評価には問診または,検査時の患者による視作業距離の再現が考えられる.しかし,実際の視作業中は作業時間とともに,疲労や集中度などによる姿勢の変化により,経時的に変化して〔別刷請求先〕矢崎香菜:〒252-0375神奈川県相模原市南区北里C1-15-1北里大学病院眼科Reprintrequests:KanaYazaki,CO,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,1-15-1Kitasato,Minamiku,Sagamihara,Kanagawa252-0375,JAPANC962(124)いると考えられる.これまでの方法では定点での実測のみで,作業時の変動を詳細に捉えることはできていない.また,これまでに眼鏡の処方変更の割合は高くなっていること5)などを考慮すると,日常生活における視作業距離において経時的かつ他覚的に評価することが必要であると考えた.そこで今回筆者らは,赤外線の距離センサーであるCKinectCRを用いてCPC作業中の視作業距離の経時的測定を行い,先行的に検討を行ったので報告する.CI対象および方法対象は,北里大学病院外来患者C43名(平均年齢C46.6C±20.9歳,男女比=16:27,矯正視力C1.0以上,平均屈折値C.2.77C±3.34D[C.12.06D.+2.75D])である.眼科的手術既往のある症例は除外した.各年代対象人数はC10.30歳代C15名,40.50歳代C14名,60.70歳代C14名であった.KinectCRセンサー(Microsoft社)は小型のモーションセンサーデバイスである.3D赤外線光を対象物に投射し,カメラで物体に反射した赤外線光を読み取ることで対象物との距離変化を捉えることが可能である.今回筆者らはこの基本機能を応用し,対象者の眼と対象物の距離を任意の時間,経時的に計測した.測定機器本体,および測定外観を図1に示す.本検討における作業課題はC23インチモニターに提示された文字サイズC18フォントC32行の図書の黙読(10分間)である.サンプリングレートはC1秒である.室内の机上面照度はC750Clxであり,被験者は日常のCPC視作業時における近見屈折矯正下(日常のCPC視作業を矯正なしで行っている被験者に対しては裸眼で施行)にて測定した.検討項目は,年代別のC10分間の平均CPC視作業距離と開始時測定位置からの視作業距離ド・コンセントの後,同意を得られたことを確認した.本検討は北里大学医学部・病院倫理委員会の承認を受けている(承認番号:B17-008).CII結果PC視作業距離のC10分間の平均値を図2に示す.全年代の平均CPC視作業距離はC63.6C±9.8Ccm,年代別ではC10.30歳代C59.7C±7.13Ccm,40.50歳代C63.6C±9.6Ccm,60.70歳代C67.8±11.4Ccmであり,高年齢になるにつれ視作業距離が遠ざかる傾向にあったが,統計学的な有意差は認められなかった.PC視作業距離変化量を図3に示す.計測開始時から視作業距離が変動する被験者を多く認めた.各被験者の測定開始全年代10~30歳代40~50歳代60~70歳代n=43n=15n=14n=14図2PC視作業距離の10分間の平均値統計的な有意差は認められないものの,年齢とともに視作業距離が遠ざかる傾向がみられた.Bonferronitest(p>0.05).変化量である.統計解析にはCBonferronitestを用い,有意水準は危険率5%未満とした.対象者に対して本研究内容についての十分なインフォーム図1KinectRセンサーと測定画面23インチモニターにCKinectCRセンサーを取り付け,測定した.図3PC視作業距離の10分間の変化量変化量は,測定開始時の視距離を基点(0)とし,10分間の経時的な視作業距離変化を算出した.グレーの線は全被験者のデータを示す.グラフに示す黒線は,視作業距離が変化しなかったC1例(実線),遠方変化を示したC1例(上段点線),近方変化を示したC1例(下段点線)のそれぞれわかりやすい変化を示した者を示す.上方に変化した場合は遠ざかる,下方に変化した場合は近づいたことを示す.図4年代別PC視作業距離変化量横軸に計測時間(単位:分),縦軸に視作業距離の変化量(単位:cm)を示す.10.30歳代(左上図),40.50歳代(左下図),60.70歳代(右図)の年代別に分けた視作業距離変化量を示す.時の位置をC0とし,視作業距離変化がC±5Ccm以内を視作業距離変化なし群C10例(23%),計測開始後に+5Ccm以上の遠方変化を示した群C7例(16%),計測開始後にC.5Ccm以上の近方変化を示した群C26例(61%)に大別された.計測開始から視作業距離は近方変化を示す者が多かった.代表例を実線と点線にて示す.つぎに,年代別CPC視作業距離変化量のグラフを図4に示す.PC視作業距離変化量(平均)は,10.30歳代C2.4C±7.0Ccm,40.50歳代C2.3C±6.6Ccm,60.70歳代C5.0C±11.6Ccmであった.10.30歳代,40.50歳代に比べてC60.70歳代で変化量が平均C5.0Ccmと大きく,最大でC16Ccmの変化を認め,年代別に分けると有意差を認めた(p<0.05).CIII考按近用眼鏡の処方においてもっとも大切なことは,その患者の作業距離を把握することである.そのため,処方時には患者の希望する視距離で検査を行うことが重要である4).しかし,実際に作業距離を経時的に測定することは現実的にむずかしい.今回筆者らは,Kinectセンサーを用いて経時的なPC作業時における視作業距離の測定を行うことができた.PC作業における眼鏡処方はC50Ccm程度と報告されている6).本検討におけるCPC視作業距離のC10分間の平均値はC63.6±9.8Ccmであった.既報に比べ距離が遠い結果となった要因として,本検討では患者がCPC作業を行う際の日常の屈折矯正下にて測定したこと,掲示物が一定の場所に固定(掲示物の距離を変えるのではなく,被験者自らが体勢を変えて掲示物との距離を調整する必要があった)されていたこと,掲示物の文字の種類やサイズ,行数などの条件が過去の報告や患者の日常生活とは異なっていたことが考えられる.年代別において,10.30歳代,40.50歳代に比べC60.70歳代で視作業距離変化量が有意に大きくなった.PC作業中には視作業距離が変動し,個人差や年代差が大きい可能性が示唆された.臨床的にも近用,中間用の眼鏡処方変更の割合は高く,屈折矯正度数を検査値から一義的に決定することはできないことが報告されている5).PC作業時における視作業距離は時間的に変動することを考慮すると,経時的な視作業距離の結果から適切な屈折矯正度数を導くことが重要であると考えられる.とくに本検討においてC60.70歳代はCPC作業における視作業距離の変動が大きかったことから,経時的な視作業距離の測定が,より正確な眼鏡度数の選択につながると考える.日常生活における視作業距離は,屈折矯正状態,文字のサイズや種類,視環境などさまざまな要因により変化するため,できるだけ患者の日常に近い視作業条件で評価する必要がある.屈折矯正前に患者の見え方の希望を正確に評価するために,PC作業だけでなくさまざまな視作業環境の距離を正確に把握する必要性が示唆された.利益相反:庄司信行(アールイー・メディカル株式会社,株式会社トーメーコーポレーション)ら考える成人への眼鏡処方.日眼会誌42:115-120,C2013文献4)梶田雅義:近用眼鏡の処方.あたらしい眼科C14:677-682,1)中島純子,新田任里江,神垣久美子ほか:LASIKによるモC1997ノビジョン法を施行したC4症例.あたらしい眼科C20:385-5)岡田栄一,塩田朋子,西崎律子ほか:眼鏡処方変更の実態C389,C2003調査第C1報.臨眼61:445-449,C20072)井上俊洋,清水公也,新井田孝裕ほか:白内障術後のモノ6)加藤佳一郎:近用眼鏡(老眼鏡)の処方.あたらしい眼科ビジョンによる満足度.臨眼54:825-829,C2000C9:296-301,C19923)倉満満香,中村麻莉絵,髙野明日香ほか:度数変更理由か***

免疫チェックポイント阻害薬と低分子性分子標的治療により発症,遷延化した原田病様ぶどう膜炎

2019年7月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科36(7):957.961,2019c免疫チェックポイント阻害薬と低分子性分子標的治療により発症,遷延化した原田病様ぶどう膜炎立花亮祐水戸毅上甲武志白石敦愛媛大学医学部付属病院眼科CACaseofVogt-Koyanagi-HaradaDisease-likeUveitisthatOccurredandProlongedduringAdministrationofImmuneCheckpointInhibitorsandTargetedAgentsRyosukeTachibana,TsuyoshiMito,TakeshiJokoandAtsushiShiraishiCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,EhimeUniversityC悪性黒色腫に対する新規癌治療薬である免疫チェックポイント阻害薬と低分子性分子標的薬の投与中に原田病様ぶどう膜炎を発症し遷延化した症例を報告する.64歳,男性,悪性黒色腫の加療中にベムラフェニブの投与から間もなく漿液性網膜.離を発症した.ステロイド薬全身投与量に応じて漿液性網膜.離の増減を認めベムラフェニブの中止により漿液性網膜.離は消失した.その後のニボルマブとイピリムマブによる治療中に皮膚白斑と白髪化,さらに脈絡膜の脱色素斑が出現した.ペムブロリズマブによる治療に変更後,両眼性の前房内炎症と硝子体混濁が出現し,ステロイド薬の全身投与と局所投与により速やかに所見の消失を得た.これらの新規癌治療薬は原田病様のぶどう膜炎を発症することがあるとされており,薬剤を変更しても遷延化することがあり留意する必要がある.CWereportapatientwhodevelopedVogt-Koyanagi-Haradadisease-likeuveitisthatwasprolongedwithahis-toryCofCmetastaticCmelanomaCtreatedCbyCsequentialCimmuneCcheckpointCinhibitorsCandCtargetedCagents.CThisC64-year-oldmalehaddevelopedunilateralsubretinalC.uidsoonafterinitiatingvemurafenib.Thoughsystemiccor-ticosteroidCtherapiesCwereCe.ectiveCagainstCthisCsymptom,CrecurrenceCwasCseenCduringCtheCtaperingCofCcorticoste-roiddosage.Finally,clinicalimprovementoccurredwhenvemurafenibtherapywasdiscontinued.Afteradministra-tionCofCnivolumabCandCtheCfollowingCipilimumabChadCcommenced,Cvitiligo,CpoliosisCandCchoroidalCdepigmentationCoccurred.CSubsequentCtoChisCswitchingCfromCtheseCdrugsCtoCpembrolizumab,CbilateralCin.ammationCcellsCwereCobservedintheanteriorchamberandvitreous.Visualsymptomsimprovedrapidlywithoralandtopicalcorticoste-roidtherapy.PhysiciansshouldkeepinmindthepossibilityofdevelopingVogt-Koyanagi-Haradadisease-likeuve-itisassociatedwithimmunecheckpointinhibitorsandtargetedagents,whichconditionmaybecomeprolongedintheeventofchangetootherdrugs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(7):957.961,C2019〕Keywords:免疫チェックポイント阻害薬,ペムブロリズマブ,ベムラフェニブ,原田病様ぶどう膜炎,悪性黒色腫.immunecheckpointinhibitor,pembrolizumab,vemurafenib,Vogt-Koyanagi-Haradadisease-likeuveitis,malig-nantmelanoma.Cはじめに悪性黒色腫は生命予後不良の疾患であるが,近年は薬物療法のパラダイムシフトによってその治療成績は大幅に向上している.その中心となるのは新規癌治療薬である免疫チェックポイント阻害薬と低分子性分子標的薬でありわが国においては前者では抗CPD-1抗体(ニボルマブ,ペムブロリズマブ)と抗CCTLA-4抗体(イピリムマブ)が,後者ではCBRAF阻害薬(ベムラフェニブ,ダブラフェニブ)とCMEK阻害薬(トラメチニブ)が承認されている1).以前から海外ではこれらの薬剤の影響によると思われるぶどう膜炎の発症の報告が相ついでおり,とくに原田病様ぶどう膜炎の報告が散見される2,3).今回筆者らは低分子性分子〔別刷請求先〕立花亮祐:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学医学部付属病院眼科Reprintrequests:RyosukeTachibana,M.D.,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,EhimeUniversity,Shitsukawa,Toon-city,Ehime791-0295,JAPANC標的薬の副作用により発症した原田病様ぶどう膜炎が免疫チェックポイント阻害薬への薬剤変更後により遷延・悪化をきたしたと考えられるC1例を経験したので報告する.CI症例患者:64歳,男性.主訴:なし(ベムラフェニブ投与前の眼科的評価目的).既往歴:糖尿病,糖尿病性腎症,糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固術後,眼内レンズ挿入眼.現病歴:2015年C3月頃,右耳介後部の黒色結節を指摘され増大傾向であったことから,9月上旬に近医皮膚科を受診した.悪性黒色腫が疑われたため愛媛大学病院皮膚科を紹介され,精査の結果,悪性黒色腫と診断された.病変部外科的切除および頸部リンパ節郭清後,後療法としてインターフェロンCb局所投与を施行された.しかしC2016年C2月にCPET-CTで新たに肝転移,右肺門部リンパ節転移がみつかり,BRAF変異陽性であったことから,ベムラフェニブでの治療に変更となった.ベムラフェニブ投与前の眼科的評価目的で当科を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼C0.5(0.7C×sph.1.25D),左眼C0.4(1.2C×sph.1.0D(cyl.1.75DAx80°),眼圧は右眼20mmHg,左眼C18CmmHg.光干渉断層計(opticalCcoherentCtomogra-phy:OCT)では右眼に黄斑前膜を認めた.経過:2016年C2月中旬よりベムラフェニブ内服加療を開始したが,3月初旬に発熱・発疹が出現,腎機能の悪化から投与を一時中断し,ステロイド薬全身投与による全身状態の改善後,4月よりベムラフェニブを再開した.ベムラフェニブ投与中の眼科所見としては開始C2.3週間で右眼漿液性網膜.離が出現し約C1カ月間で消失が認められた(図1).その後C9月に右眼視力低下を主訴に受診した際,右眼漿液性網膜.離の再発を認めた.10月上旬にCCTで転移巣の拡大,増悪を認めたことからベムラフェニブ内服を中止.10月下旬のCOCTでは漿液性網膜.離は改善を認め,2017年C1月には完全に消失した.ベムラフェニブ中止後のC10月中旬よりニボルマブ投与を開始し,10クール投与するもCCTで転移巣の拡大を認めたことから,2017年C4月よりイピリムマブに変更となった.しかしイピリムマブC2クール終了後より肝障害が出現したことから中止となり経過をみていたが,8月中旬より全身に白斑が出現した(図2).8月下旬よりペムブロリズマブ投与が開始となったが,その後も白斑の拡大および白髪化を認めた.またペムブロリズマブ投与開始時点で脈絡膜の脱色素斑を認め,以後拡大傾向を示した(図3).ペムブロリズマブ投与開始からC4カ月が経過したC2018年1月下旬に右眼に軽度硝子体混濁が出現した.当初糖尿病網膜症からの硝子体出血と考えていたため経過をみていたが,前房内浮遊細胞も出現し両眼性の硝子体混濁となったことから原因検索目的に血液検査を実施した.可溶性CIL-2レセプターがC966CU/mlと高値であったが,内科的にはサルコイドーシスは否定的であった.同時にCHLA抗原を調べたところHLA-DR4が陽性であった.またフルオレセイン蛍光眼底造影検査を実施したところ,網膜血管炎および視神経乳頭炎の所見を認めた(図4).原因としてペムブロリズマブによる薬剤性の副作用が考えられたことから,ペムブロリズマブの中止とプレドニゾロン(predonisolone:PSL)10Cmg内服を開始し,両眼トリアムシノロンCTenon.下注射を施行した.直後より硝子体混濁は改善傾向を示しCPSL5Cmgの投与を継続しペムブロリズマブを再開した.その後は硝子体混濁の再燃なく経過している(図5).CII考按初発の原田病では前眼部炎症は認めないこともあるが,遷延化すると前眼部炎症は強くなり眼底は夕焼け状,視神経乳図2白斑および白髪の経過a:2017年C9月.Cb:2018年C1月.Cc:2018年C5月.Cd:2018年C7月上肢写真.ペムブロリズマブ投与開始後より全身に白斑が出現し,投与後白斑の拡大および白髪化の進行を認めた.図3脈絡膜の脱色素斑の経過眼底写真a,b:2017年C1月(ベムラフェニブ投与後).c,d:2017年C8月(ニボルマブ,イピリムマブ投与後).e,f:2018年C9月(ペムブロリズマブ投与後).薬剤変更によっても脈絡膜斑状萎縮巣の進行,および拡大傾向を認めた.頭周囲の網脈絡膜萎縮,黄斑部の色素脱失と集積,周辺部には網脈絡膜萎縮による白斑がみられるようになり,さらに網膜血管炎,硝子体混濁を呈することもある.本症例は最初に投与されたベムラフェニブにより原田病様ぶどう膜炎を生じ,ステロイド薬全身投与,ベムラフェニブからニボルマブ,イピリムマブへの薬剤変更により漿液性網膜.離は消失するも,白斑の出現・白髪化,脈絡膜萎縮巣の拡大といった臨床所見から遷延化が示唆され,その後のペムブロリズマブへの薬剤変更により前房内炎症と硝子体混濁の出現など悪化をきたしたと考えられる症例である.低分子性分子標的薬は細胞の増殖・分化・生存にかかわるMAPKシグナル伝達経路(RAS-RAF-MEK-ERK)においてCBRAF遺伝子変異により異常増殖が生じている癌細胞の癌促進的なシグナルを阻害することで抗腫瘍効果を発揮する薬剤である.BRAF阻害薬は副作用としてのぶどう膜炎の報告があるため,本症例は皮膚科から薬剤投与前のスクリーニング目的で紹介され,初診時には漿液性網膜.離や他のぶどう膜炎症状を疑う所見はみられなかったが,ベムラフェニブ投与後C1カ月経過して片眼の漿液性網膜.離を発症した.ほぼ同時期に慢性腎不全の増悪からステロイドミニパルス療法が開始され,結果的に一度は漿液性網膜.離は消失するもステロイド内服漸減中に漿液性網膜.離が再発し,ベムラフェニブの中止後C2.3カ月で漿液性網膜.離は再度消失した.以上の経緯より漿液性網膜.離はベムラフェニブによる副作用と考えられた.Choeら4)によるとベムラフェニブ投与中にぶどう膜炎がC4%に生じるとされており,その発症までの期間は薬剤投与後C19日.7カ月であったとしている.発症の理由としては,悪性黒色腫の潜在性の脈絡膜転移巣に対するベムラフェニブによる直接的な攻撃的作用の結果生じるリンパ球の浸潤,あるいは脈絡膜のメラノサイトへの薬理作用に対する炎症性反応などが関与していると推察している.片眼のみの発症となったのは発症眼に黄斑上膜を認め網膜牽引が影響している可能性や,あるいは発症前後のステロイド加療により反対眼の時間差の発症を予防できた可能性も考えられる.一方,免疫チェックポイント阻害薬はCTリンパ球に発現する免疫チェックポイント分子に結合し抗腫瘍免疫のブレーキを解除・活性化し抗腫瘍効果を得る薬剤であるが,国内ではニボルマブやイピリムマブ投与中の原田病様ぶどう膜炎の報告があり5.7),その発症には注意する必要がある.本症例では当初ニボルマブが約半年間投与されるも転移巣の拡大を認めたためイピリムマブへ変更となったが重篤な肝障害が出現しC1カ月で中止,4カ月間の中断期間の後にペムブロリズマブの投与が開始されている.その休薬期間中に全身の皮膚白斑と白髪が出現し以後進行した.また時期を同じくして眼底の脱色素斑も認められている.免疫チェックポイント阻害薬の投与中の白斑の出現や白髪化はよく知られており8),本症例もメラノサイト由来である悪性黒色腫に対する腫瘍免疫の増強に伴って毛髪や皮膚,網膜色素上皮や脈絡膜など全身のメラノサイトへの攻撃が顕在化したと考えられる.またHLA-DR4陽性であったことも原田病類似の症状を生じやすい素因となったと考えられる9).ペムブロリズマブ投与中のぶどう膜炎発症に関してわが国での報告はない.海外での報告によると両眼性の前房内炎症性細胞と角膜後面沈着物,硝子体混濁,網膜血管炎,視神経乳頭炎,.胞様黄斑浮腫が指摘されている10.12).ペムブロリズマブはニボルマブと同じ抗CPD-1抗体であるが,ニボルマブ投与中に生じなかった前房内炎症や硝子体混濁がペムブロリズマブ投与後に生じたことに関しては薬剤特性や有効性の違いなどが影響したことも考えられるが,その時点での患者の全身状態も関係してくるため一概に評価はできない.今回,汎ぶどう膜炎発症後は主治医と相談のうえ,ペムブロリズマブ国内臨床試験時に規定されていた対処法に則りペムブロリズマブ休薬とステロイド薬全身投与を開始した.ただしステロイド薬大量投与による悪性黒色腫の悪化を懸念し,全身投与は少量にとどめ両眼へのステロイドCTenon.下注射を併用したところ,速やかに前房内炎症と硝子体混濁は改善したため,ステロイド薬局所投与は有効であったと考えられた.これらの新規癌治療薬の休薬やステロイドの使用に関しては原病のこともあり主治医と連携して治療に努めるべきである.悪性黒色腫に対する新規癌治療薬としての免疫チェックポイント阻害薬と低分子性分子標的薬は承認薬剤が増えさらに生命予後が改善しているため,眼科医がこれらの薬剤が関与するぶどう膜炎に遭遇する機会は今後増えると予想される.抗腫瘍効果が不十分であったり,あるいは全身性の副作用の発現のため新規癌治療薬の変更が行われることは少なくないが,本症例のように新規癌治療薬の副作用として発症した原田病様ぶどう膜炎は薬剤を変更しても遷延化することがあり,注意深い経過観察や加療が必要である.文献1)山﨑直也,清原祥夫,宇原久ほか:悪性黒色腫(メラノーマ)薬物療法の手引.SkinCancerC32:1-5,C20172)WongRK,LeeJK,HuangJJ:Bilateraldrug(ipilimumab)C-inducedvitritis,choroiditis,andserousretinaldetachmentssuggestiveofVogt-Koyanagi-Haradasyndrome.RetinCasesBriefRepC6:423-426,C20123)MatsuoCT,CYamasakiO:Vogt-Koyanagi-HaradaCdisease-likeCposteriorCuveitisCinCtheCcourseCofnivolumab(anti-PD-1antibody)C,interposedbyvemurafenib(BRAFinhibi-tor),formetastaticcutaneousmalignantmelanoma.ClinicalCCaseReportsC5:694-700,C20174)ChoeCCH,CMcArthurCGA,CCaroCICetal:OcularCtoxicityCinCBRAFmutantcutaneousmelanomapatientstreatedwithvemurafenib.AmJOphthalmolC158:831-837,C20145)水井徹,臼井嘉彦,原田和俊ほか:抗CprogrammedCcelldeath1抗体ニボルマブ投与中にぶどう膜炎と脱色素を生じたC1例.日眼会誌121:712-718,C20176)木下悠十,野田拓志,古川真二郎ほか:ニボルマブ投与後にCVogt-小柳-原田病に類似した汎ぶどう膜炎を発症したC1例.臨眼71:1019-1025,C20177)大西瑞恵,大西英之,堀内義仁ほか:イピリムマブ投与後に発症したCVogt-小柳-原田病の様相を呈する汎ぶどう膜炎の一例.眼臨紀11:819-823,C20188)KadonoT:Immune-relatedCadverseCeventsCbyCimmuneCcheckpointinhibitors.NihonRinshoMenekiGakkaiKaishiC40:83-89,C20179)雪田昌克,阿部俊明,高橋秀肇ほか:Vogt-小柳-原田病におけるCHLA-DRB1040501検出の頻度.あたらしい眼科C27:129-132,C201010)DiemCS,CKellerCF,CRueschCRCetal:Pembrolizumab-trig-gereduveitis:AnCadditionalCsurrogateCmarkerCforCrespond-ersCinmelanomaimmunotherapy?CJImmunotherC39:379-382,C201611)AbuSamraK,Valdes-NavarroM,LeeSetal:AcaseofbilateralCuveitisCandCpapillitisCinCaCpatientCtreatedCwithCpembrolizumab.EurJOphthalmolC26:e46-48,C201612)TaylorSC,HrisomalosF,LinetteGPetal:Acaseofrecur-rentCbilateralCuveitisCindependentlyCassociatedCwithCdab-rafenibCandCpembrolizumabCtherapy.CAmCJCOphthalmolCCaseRepC13:23-25,C2016***

視野障害を契機に診断されたHIV感染症の1例

2019年7月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科36(7):952.956,2019c視野障害を契機に診断されたHIV感染症の1例松下高幸*1菅野彰*1金子優*1石澤賢一*2山下英俊*1*1山形大学医学部眼科学講座*2山形大学医学部血液内科学講座CVisualFieldDisorderleadingtoDiagnosisofHIVInfection─ACaseReportTakayukiMatsushita1),AkiraSugano1),YutakaKaneko1),KenichiIshizawa2)andHidetoshiYamashita1)1)DepartmentofOphthalmology,YamagataUniversityFacultyofMedicine,2)DepartmentofHematology,YamagataUniversityFacultyofMedicineC目的:視野障害を契機にヒト免疫不全ウイルス(humanimmunode.ciencyvirus:HIV)網膜症と診断され,high-lyCactiveCanti-retroviraltherapy(HAART)で改善したC1例を経験したので報告する.症例:39歳,女性.2014年C5月頃から右眼の視野異常を自覚.症状が悪化したためC2015年C5月当院眼科を受診.初診時矯正視力:右眼=(1.2),左眼=(1.2).両眼に軟性白斑を認めた.視野検査で右眼中心下方に比較暗点あり.蛍光眼底造影検査にて右眼中心窩上方に網膜循環障害を認め,下方の視野異常と一致した.血液検査にてCWBCの減少,CD4陽性CT細胞数の減少,HIV抗体陽性,HIV-RNA量増加を認めたためCHIV感染症と診断.血液内科にてCHAART開始後,両眼の軟性白斑は消失し,右眼の循環障害も改善したが,視野異常は残存した.経過中,日和見感染症に伴う眼合併症は認めなかった.結論:軟性白斑が主体の網膜症ではCHIV感染症を鑑別にあげる必要がある.HIV網膜症の網膜循環障害はCHAARTにより改善する.CObjective:Weencounteredacaseinwhichvisual.elddefectsledtothediagnosisofhumanimmunode.cien-cyvirus(HIV)-associatedCretinopathyCthatCwasCimprovedCbyChighlyCactiveCanti-retroviraltherapy(HAART).CCase:AC39-year-oldCfemaleCnoticedCvisualC.eldCproblemsCinCherCrightCeye.CAtCtheCinitialCvisit,Ccotton-woolCspotsCwereobservedinbotheyes.Visual.eldtestsrevealedrelativescotomaintheinferiorcenteroftherighteye.Flu-oresceinCfundusCangiographyCrevealedCretinalCcirculationCdisorderCinCtheCsuperiorCregionCofCtheCfoveaCofCtheCrightCeye.CBloodCtestsCrevealedCaCdecreaseCinCCD4-positiveCT-cellCcount,CHIV-antibodyCpositivityCandCincreasedCHIV-RNA.CConsequently,CHIVCinfectionCwasCdiagnosed.CCotton-woolCspotsCdisappearedCandCtheCcirculationCdisorderCimproved,CbutCvisualC.eldCdefectsCremainedCafterCHAART.CDuringCfollow-up,CnoCocularCcomplicationsCwereCobserved.CConclusion:WhenCcotton-woolCspotsCareCpredominantCinCretinopathy,CHIV-infectionCshouldCbeCconsid-eredasoneofthedi.erentialdiagnoses;HAARTimprovesretinalcirculationdisorderassociatedwithHIV-associ-atedretinopathy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(7):952.956,C2019〕Keywords:軟性白斑,ヒト免疫不全ウイルス,視野障害,無症候期,網膜循環障害.cotton-woolspots,humanimmunode.ciencyvirus,visual.elddefects,asymptomaticstage,retinalcirculationdisorder.Cはじめにヒト免疫不全ウイルス(humanimmunode.ciencyvirus:HIV)感染者にもっとも多くみられる合併症であるCHIV網膜症は,非感染性のCretinalmicrovasculopathyであり,視機能障害をきたすことはまれである.眼底所見としては軟性白斑,出血が主体であるため,特徴的所見や自覚症状に乏しく,他の全身疾患や日和見感染症との鑑別を要する1).今回,視野障害を契機にCHIV感染症と診断されたC1例を経験したので報告する.CI症例患者:39歳,女性.主訴:右眼の視野異常.既往歴:アトピー性皮膚炎,急性腎盂腎炎,虫垂炎.〔別刷請求先〕松下高幸:〒990-9585山形市飯田西C2-2-2山形大学医学部眼科学講座Reprintrequests:TakayukiMatsushita,M.D.,DepartmentofOphthalmology,YamagataUniversityFacultyofMedicine,2-2-2Iida-nishi,Yamagata990-9585,JAPANC右眼左眼図1初診時眼底写真両眼.軟性白斑(C.),NFLD(C.)を認めた.左眼右眼図2初診時Goldmann視野検査左眼は明らかな視野障害は認めない.右眼は中心下方に比較暗点(C.)を認めた.現病歴:2014年C5月頃から右眼の視野異常を自覚.症状が悪化したため,2015年C5月C22日近医眼科を受診し,両眼底の軟性白斑を指摘され,視野検査にて右眼の中心下方の感度低下を認めたため,精査目的にC5月C26日に当院眼科を紹介受診した.初診時眼科所見:視力は右眼C0.15(1.2C×.1.75D),左眼0.2(1.2C×.1.5D(cyl.0.5DAx80°),眼圧は右眼C10mmHg,左眼C10CmmHg.両眼の前眼部,中間透光体に明らかな異常所見は認めず,両眼底に軟性白斑および神経線維層欠損(nerveC.berClayerdefect:NFLD)を認めた(図1).Gold-mann視野検査で右眼の中心に比較暗点を認めた(図2).フルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinangiography:FA)にて右眼早期での中心窩上方に流入遅延を認め,後期で静脈からの蛍光漏出と毛細血管瘤を認めた(図3a,b).左眼では後期に中心窩上方の静脈からの蛍光漏出と毛細血管瘤を認めた(図3c).経過:全身疾患に伴う眼合併症を疑い,血液検査・胸部CX線検査・心電図検査を施行した.検査結果(表1)から高血圧,不整脈,糖尿病,膠原病は否定されたが,白血球数の減少(2.66C×103/μl,基準値C3.5.8.9C×103/μl)を認めた.リンパ球サブセット検査を施行したところ,CD4陽性CT細胞数の著明な減少(29/μl,基準値C554.1,200/μl)を認めたため,HIV検査を施行.HIV抗体陽性を認めたため,同日当院血液内科へ紹介.HIV-RNA定量検査にて血中ウイルス量の増加(HIV-RNA量:2.5C×105コピー/ml)を認め,HIV感染症と診断.6月C10日から血液内科にてChighlyCactiveCanti-図3蛍光眼底造影検査a:右眼(早期).中心窩上方に流入遅延(C.)を認めた.Cb,c:両眼(後期).蛍光漏出(C.),毛細血管瘤(C.)を認めた.表1初診時検査所見血圧C94/68mmHg,心拍数C93回/分(不整脈なし)胸部CX線検査:異常所見なし血液検査CTP8.5Cg/dlCBUN12Cmg/dlCWBC2.66×103/μlRF<10CIU/mlCAlb3.7Cg/dlCCrea0.47Cmg/dlCRBC4.04×106/μl抗Cds-DNA抗体<10CIU/mlCT.Bil0.4Cmg/dlCeGFR114.4Cml/min/lCHb11.1Cg/dlCACE11.0CU/mlCAST25CU/lCCRP0.13Cmg/dlCPlat156×103/μlANA<40倍CALT21CU/lCNa140Cmmol/lCCD4C29/μlP-ANCA<1.0CU/mlCLDH167CU/lCK3.7Cmmol/lCCD8C440/μlC-ANCA<1.0CU/mlCALP233CU/lCCl104Cmmol/lCNEUT1.34×103/μl抗カルジオリピン抗体<=8CU/mCChE379CU/lCGlu81Cmg/dlCLYMP0.96×103/μlCb-Dグルカン<3Cg-GTP27CU/lCHbA1c5.5%HIV抗体陽性血中CMVAg陰性TP:総蛋白,Alb:アルブミン,T.Bil:総ビリルビン,AST:アスパラギン酸・アミノ基転移酵素,ALT:アラニン・アミノ基転移酵素,LDH:乳酸脱水素酵素,ALP:アルカリホスファターゼ,ChE:コリンエステラーゼ,Cg-GTP:Cg-グルタミルトランスペプチターゼ,BUN:尿素窒素,Crea:クレアチニン,eGFR:推算糸球体濾過量,CRP:C反応性蛋白,Na:ナトリウム,K:カリウム,Cl:クロール,Glu:空腹時血糖,WBC:白血球,RBC:赤血球,Hb:ヘモグロビン,Plat:血小板,CD4:CD4陽性CT細胞,CD8:CD8陽性CT細胞,NEUT:好中球,LYMP:リンパ球,RF:リウマチ因子,抗Cds-DNA抗体:抗二本鎖CDNA抗体,ACE:アンギオテンシン転換酵素,ANA:抗核抗体,P-ANCA:抗好中球細胞質ミエロペルオキシダーゼ抗体,C-ANCA:細胞質性抗好中球細胞質抗体価,血中CMVAg:血中サイトメガロウイルス抗原.右眼左眼c,dともCFAでは流入遅延,蛍光漏出,毛細血管瘤は認めなかった.Cab図5治療開始2年後の視野検査a:右眼.Goldmann視野検査で比較暗点は消失した.Cb:右眼.Humphrey視野検査で中心下方の感度低下(.)は残存した.retroviraltherapy(HAART)を開始された.治療開始後,血中ウイルス量の減少に伴い,両眼ともに軟性白斑は縮小し,治療開始C3カ月時点で両眼底の軟性白斑は消失したが,NFLDは残存した(図4a,b).治療開始C2年後に施行したFAでは両眼とも流入遅延,蛍光漏出,毛細血管瘤は認めなかった(図4c,d).Goldmann視野検査では右眼の比較暗点は消失したが,Humphrey視野検査では右眼の中心下方の感度低下は残存した(図5).なお,左眼にもCNFLDがみられたものの視野検査では感度低下はみられなかった.経過観察中,日和見感染症に伴う眼合併症は認めなかった.CII考按HIV感染症に伴う最多の合併症であるCHIV網膜症は,網膜の軟性白斑および網膜出血を特徴とする2).その発症機序はCHIVに対する抗原抗体反応による網膜微小血管の閉塞を起点として網膜神経線維層が虚血に至り生じるとされ,糖尿病,高血圧症,膠原病患者にみられる軟性白斑と組織学的には同様と考えられている3).幅広い範囲の免疫状態において認めるが,血液中のCCD4陽性CT細胞数の減少や血液中のHIV-RNA量が増加した患者で発症頻度は高いとされ4,5),傍中心窩に病変が存在しない限り自覚症状はない3).本症例は,両眼性の軟性白斑と網膜出血を主体とする網膜症であり,血液検査において白血球数の減少,CD4陽性CT細胞数の著明な減少,HIV抗体陽性,HIV-RNA量の増加がみられ,全身検査において糖尿病,高血圧症,貧血,膠原病,日和見感染症などの軟性白斑をきたす疾患を除外することができた.Newsomeら6)の報告と同様,蛍光眼底造影検査では,局所的な網膜循環障害と毛細血管瘤のような微小血管の変化がみられた.さらに,HAART導入後,軟性白斑と毛細血管瘤が消退したことから,最終的にCHIV網膜症と診断した.多くのCHIV網膜症は無症状であり,箕田ら3)は傍中心窩に生じた病変による虚血性黄斑症の結果,視力低下を生じた症例は約C3%のみと報告していることからも,眼症状を契機にCHIV網膜症が診断されることは少ないと考える.通常,帯状疱疹やカンジダ症,梅毒などの日和見感染症を発症して,眼科以外の医療機関でCHIV感染症と診断された後に眼科紹介となる場合が多い.しかし,本症例は右眼の傍中心窩に病変が存在したために視野異常を呈し,最初に眼科を受診されCHIV網膜症の診断に至った.その結果,日和見感染症を発症する前にCHAARTを導入し,免疫機能の改善を得られたことからも,眼科での診断が患者の生命予後に大きな影響を与えたといえる.また,本症例では治療前のCFAで右眼の中心窩上方に造影剤の流入遅延,蛍光漏出を認め,Goldmann視野検査にて右眼の中心下方の比較暗点がみられたが,HAART後には流入遅延,蛍光漏出,比較暗点も消失したことから,HAARTがCHIV網膜症における網膜循環改善に一定の効果があったと考えられる.しかしながら,1年前から自覚症状を認めていたことや,Humphrey視野検査では右眼の中心下方の感度低下が残存していることから,HIV網膜症による網膜循環障害が長期間存在していたことが推測できる.HIV感染の成立後に血中CHIV-RNA量は一時的に増加するが,感染からC6.8カ月後には,宿主の免疫応答によってCHIV-RNA量はある一定レベルまで減少し,定常状態となる.その後,免疫能が低下するまでに数年からC10年近くは無症候期となり,CD4陽性CT細胞数の低下やCHIV-RNA量の増加も緩徐に進行する7).本症例も自覚症状を認めてから,1年以上の経過があるにもかかわらず病態進行が緩徐であった点,日和見感染症を起こしていなかった点から,無症候期であったと考えられる.2017年末時点でわが国の累計CHIV感染患者数はC28,000人を超えており8),HIV感染患者は増加傾向にある.今後,われわれ眼科医が一般外来で本症例のような無症候期のHIV感染患者に遭遇する可能性は十分にあるため,軟性白斑や網膜出血を伴う網膜症を認めた場合には,糖尿病や高血圧症などを否定するだけではなく,HIV感染症も鑑別疾患として考える必要がある.利益相反:松下高幸【N】,菅野彰【N】,金子優【N】,石澤賢一【N】,山下英俊【P】山形大学医学部倫理委員会承認済文献1)武田憲夫,八代成子:HIV網膜症と鑑別を要した疾患の検討.眼臨紀2:968-971:20092)HollandGN,GottliebMS,YeeRDetal:Oculardisordersassociatedwithanewsevereacquiredcellularimmunode-.ciencysyndrome.AmJOphthalmolC93:393-402,C19823)箕田宏:HIV網膜症.あたらしい眼科C22:1521-1522,C20054)CunninghamCET,CBelfortR:HIV/AIDSCandCtheCeye.CACglobalperspective.AmericanAcademyofOphthalmology,SanFrancisco,20025)FurrerH,BarloggioA,EggerMetal:Retinalmicroangi-opathyCinChumanCimmunode.ciencyCvirusCinfectionCisCrelatedCtoChigherChumanCimmunode.ciencyCvirus-1CloadCinplasma.OphthalmologyC110:432-436,C20036)NewsomeDA,GreenWR,MillerEDetal:Microvascularaspectsofacquiredimmunede.ciencysyndromeretinop-athy.AmJOphthalmolC98:590-601,C19847)白阪琢磨:これでわかるCHIV/AIDS診療の基本プライマリケア医と病診連携のために.p38-40,南江堂,20098)厚生労働省エイズ動向委員会:平成C29年エイズ発生動向年報

糖尿病網膜症によるロービジョン者の糖尿病の自己管理における困難の要因と対策─半構成的面接調査の結果から─

2019年7月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科36(7):948.951,2019c糖尿病網膜症によるロービジョン者の糖尿病の自己管理における困難の要因と対策─半構成的面接調査の結果から─小泉麻美東京労災病院看護部CChallengesandSupportforSelf-managementofPatientswithVisionLossduetoDiabeticRetinopathy:FindingsfromSemi-structuredInterviewsMamiKoizumiCNursingDepartment,TokyoRosaiHospitalC目的:糖尿病網膜症によるロービジョン者が,糖尿病の自己管理を行うなかで経験した困難と必要な支援を明らかにする.方法:東京労災病院に通院する糖尿病網膜症によるロービジョン者C16名を対象とし,半構成的面接を行い,質的記述的に分類した.結果:糖尿病網膜症によるロービジョン者の困難なこととして,四つのカテゴリー【買い物の困難】【調理の困難】【移動の困難】【薬剤管理の困難】が抽出された.また,視力の程度によらず,見えにくさを自覚している対象者においても同様の困難を経験していた.そのため,見えないことが,糖尿病の食事療法である食品の選択や調理に影響し,糖尿病の自己管理に影響を与えていた.糖尿病と診断された時点で,糖尿病網膜症の発症や進行に備え,糖尿病の自己管理が継続でき,生活の再構築がはかれるような支援をしていくことが重要である.CPurpose:Toclarifythechallengesexperiencedbypatientswithvisionlossfromdiabeticretinopathy,regard-ingCtheirCself-managementCofCdiabetesCandCtheCnecessaryCsupportCsystems.CMethods:Semi-structuredCinterviewsCwereCconductedCwithC16patientsCwhoChadCvisionClossCdueCtoCdiabeticCretinopathyCandCpresentedCtoCHospitalCA.CInterviewswerethenqualitativelyanddescriptivelyanalyzed.Results:Thechallengesconfrontingthesepatientswereclassi.edintofourcategories:shopping,mealpreparation,mobility,andmedicationmanagement.Allpartici-pantsCreportedCsimilarCchallenges,CregardlessCofCvisionCimpairmentCdegree.CVisionClossCthereforeCa.ectedCself-man-agement,CparticularlyCofCdiet,CincludingCselectionCofCfoodCandCmealCpreparation.CItCisCimportantCtoCsupportCpatientsCfromCtheCtimeCtheyCareCdiagnosedCwithCdiabetesCsoCthatCtheyCcanCcontinueCtheirCdiseaseCself-managementCandCregainindependentdailylivingevenafterdiabeticretinopathycausesvisionloss.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(7):948.951,C2019〕Keywords:糖尿病網膜症,ロービジョン者,糖尿病の自己管理,生活.diabeticretinopathy,visionloss,self-managementofdiabetes,dailyliving.Cはじめに糖尿病は慢性疾患であることから,糖尿病患者の多くは,ロービジョン状態になっても食事療法や運動療法,毎日の内服薬やインスリン自己注射を欠かすことができず,自己管理を継続しなければならない.しかしながら,糖尿病網膜症によるロービジョン者が,よりよい血糖コントロールを維持するために,どのように自己管理しながら生活しているのか,その実態は明らかになっていない.そこで,糖尿病網膜症によるロービジョン状態の患者が経験する困難を明らかにし,必要なケアを検討する必要があると考えた.糖尿病患者がロービジョン状態になり経験した困難の実態〔別刷請求先〕小泉麻美:〒143-0013東京都大田区大森南C4-13-21東京労災病院看護部Reprintrequests:MamiKoizumi,NursingDepartment,TokyoRosaiHospital,4-13-21Oomoriminami,Ota-ku,Tokyo143-0013,JAPANC948(110)を報告する.CI方法1.対象・期間2014年C7.9月に東京労災病院眼科通院中の糖尿病網膜症と診断されたロービジョン者C16名を対象とした.C2.調査方法(質問内容含む)対象者の概要は,対象者の同意を得て診療録記載の数値から分類し,1人C1.2回,20.80分の面接を実施した.家族の同席は本人の判断に委ね,面接は面談室で行った.面接中の会話は許可を得てCICレコーダに録音し,逐語録を作成した.対象者の概要に関しては,一部を単純集計し,面接調査の内容に関しては,質的記述的に分類した.質問項目は家族と同居しているか,普段の買い物はどうしているか,困ったことや不便なことはないか,食事の支度は自分でしているか,洗い物などの片づけはどうしているかなどである.久保1)は,視機能低下によって社会生活に適応しにくくなった行動を再び適応させるためには,少しの工夫だけでも多くの効果があると述べている.また,山田2)は,視覚障害者の身辺処理として,身だしなみや入浴,貨幣の区別,掃除,洗濯,インスリン注射などで困らない人は多くみられたと述べていた.それらを参考に,今回の調査の目的を踏まえ,糖尿病の自己管理における困難を明らかにするため手技的日常生活動作(activitiesCofdailyCliving:ADL)を中心にインタビューガイドを作成した.なお,糖尿病網膜症によるロービジョン者の基本的CADLである移動,階段昇降,入浴,トイレの使用,食事,排泄などについてもインタビューガイドの流れのなかで確認し現状を把握することとした.C3.用語の定義ロービジョン者:視力の程度にかかわらず,視覚的に困難を感じている人.中食:総菜やコンビニ弁当などの調理済み食品を自宅で食べること.CII倫理的配慮本研究は東京労災病院倫理委員会の承認を受けて実施した.対象者には,研究の主旨と目的および調査への協力は自由意志であること,回答しなくても不利益を被らないこと,個人が特定されることのないようプライバシーの保護および倫理的配慮について万全の注意を払うこと,データは研究目的以外では使用せず,学会発表,論文として公表することを依頼文で十分説明し,研究が終了後データを破棄することを伝えた.また,同意文書への署名・提出をもって同意の確認とした.III結果対象者C16名全員が増殖前網膜症や増殖網膜症と診断されていた.視力の状態は,良眼の視力がC0.03.0.6とさまざまであった.また,全盲の対象者はCSL(+)からCSL(C.)であった.対象者の年代はC30.80歳代であり,平均年齢はC67.3歳(SD14.6),罹病年数C20.7年(SD12.8),糖尿病の血糖コントロールの状態は,1名が不明であったが,HbA1cの平均はC7.5%(SD1.7)であった.また,職業はC14名が無職であり,そのうちC7名が生活保護受給者であった.面接時の家族の同伴はC1名であった.視覚障害者の程度はC1級がC1名,2級がC1名,3級がC1名となっていた.しかし,視覚障害の障害等級に該当するが認定を受けていない対象者がC5名いた.理由は,「聞いたことがないし自分はそこまで悪くないと思う」(4名),「認定を受けてもたいしたサービスは受けられないだろうし,認定とかどうでもいい」(1名)であった.日常生活訓練はC1名のみがC1日のみの歩行訓練を受講していたが,他のC15名は受講経験なしであった.1日歩行訓練を受けた対象者のみ白杖を使用していた.身体障害者手帳や福祉サービスの説明を聞いたことがある対象者はC5名であった.対象者の困難なこととして,四つのカテゴリーとC17のサブカテゴリー,56のコードが抽出された(表1).本文中のカテゴリーは【】で示した.1)【買い物の困難】【買い物の困難】は,商品の値段や内容,商品に記載されているカロリーや塩分,蛋白量,賞味期限や重量,電子レンジの加熱時間が見えないことであり,不自由さを感じながら生活していた.また,見えなくなる前の生活体験を活かし,自分自身の感覚や小売店で聞きながら買うことでそれらの問題に対処していた.支払いにおいても,多くの対象者がお金の判別がむずかしく,余分に支払ったり釣銭を間違えられたり不快な体験をしていた.また,糖尿病の食事療法では商品購入時にカロリー表示や塩分表示を確認してから購入するよう医療者から指導を受けていたが,見えないために適切な食品が選択できず医療者から指導されたことが実行できないと自分自身を責めていた.2)【調理の困難】【調理の困難】は,調味料や水,火加減,焼き加減ができない,なんでも茹でるか煮てしまうであり,調理法がワンパターン化していた.また,煮えたかわからず鍋を焦がす,異物混入が発見できない,食器が割れたりしていることに気づけない,洗い物の汚れが見えないであった.それらのことから調理をおっくうと感じ,中食が中心の食事となっている傾向があった.また,男性においてはロービジョン者になる以表1カテゴリーとサブカテゴリー,その基となったコードカテゴリーサブカテゴリー代表的なコード金銭の管理がむずかしい5円とC50円,5千円札とC1万円札などお金の区別がつかない釣銭を間違えられる,余分にお金を支払ったなどの不快な体験値段が見えない値段を見ないで適当に買う値段が見えないので店員に聞く外出先でルーペを使うことに抵抗がある【買い物の困難】商品の表示が見えない賞味期限が見えないカロリーや塩分,蛋白質量,重量表示が見えない電子レンジの加熱時間が見えない商品の選択ができない家族や店員に売り場を聞かないと買えないのでめんどくさい商品に顔を近づけることで周囲に嫌悪感を示されるお弁当を見てもおかずが肉なのか魚なのかわからない1人で外出できない買い物は必ず誰かと一緒に行く馴染みの店にしか行けない信頼できる店員がいる気心の知れた店にしか行けない他者に買い物を依頼する他者が自分の気に入った物を買ってこないので不満火加減の調節ができない炎が見えないので火加減の調節ができない包丁を使用することがむずかしい包丁の刃が見えない食材の焼き色が見えない焼き色がわからず,火が通っているかわからない生煮えにならないよう茹でる,煮るしか調理法がない【調理の困難】味つけがむずかしい調味料の量が見えない水加減の調節がむずかしいお米を炊飯する際に,水の加減がわからず失敗する洗い物ができない食器についた汚れが見えない家族からの調理の制限火事になることや食器の破損に気づけず危ないと制限食卓の準備ができない料理の中の異物に気づけない【移動の困難】移動に不安がある段差が見えずにつまずいたり転倒する乗り物の行先表示や運賃表が見えない信号の色が見えない【薬剤管理の困難】薬剤管理間違いインスリンの単位の目盛りが見えないインスリン製剤を取り違え打ち間違えたことがある複数ある点眼薬や内服薬の識別ができない薬袋の文字や効能が書かれた紙が見えない前から調理を行う習慣がないという対象者もおり,茹でることさえもめんどくさいと話していた.また,家族と同居している対象者は,自分の能力の限界を認識したうえで,焼き物は家族がいるときに行う,買い物は家族と一緒に行うようにしていると家族に協力を求め,対処していた.さらに,調理の困難の流れのなかで外食について聞くと,対象者C5名がメニューが見えないから外食はしないと返答し,見えないことで食の楽しみが縮小していることがうかがえた.3)【移動の困難】【移動の困難】は,バスや電車の運賃表,行き先表示が見えない,段差が見えないのでよく転ぶ,人に挨拶されても誰だかわからないので相手に不快感を与えてしまう,人にぶつかってしまう,信号の色が見えない,外に出るのが怖い,夜間外出できないなどであった.移動の困難により,日常的な買い物すらも自粛する様子がみられ,運動療法について問うと,やらなければいけないことはわかっているができていないと全員が認識していた.4)【薬剤管理上の困難】2種類のインスリンや点眼薬の識別に迷うことや,取り違え,錠剤の識別ができず飲み間違えた経験があり,薬のシートの切り込みの入れ方を薬によって変えてみたり,シートの裏を黒く塗り識別が容易にできるよう対象者個々に薬を取り違えないよう工夫していた.CIV考察対象者は,糖尿病は食事や運動に気をつけなければいけないと認識してはいるものの,買い物が思うようにできないことや調理方法の偏りから,栄養バランスが乱れる結果となり,医療者に指導されたことができないことや過去に治療を自己中断したことを振り返り,今まで糖尿病の治療に真剣に取り組んでこなかった自分を反省し,自責の念を抱えていた.さらに,運動療法も思うようにできず体重や血糖値のコントロールが十分にできないことから,合併症が悪化するのではないか,透析になるのではないか,失明するのではないかと不安を感じていた.また,糖尿病網膜症は増殖期に進行するまで自覚症状がないことが多く,光凝固療法後や黄斑浮腫,硝子体出血,牽引性網膜.離,血管新生緑内障などが生じた際の自覚症状により,ぼやけて見える,まぶしい,中心暗点,視野狭窄などによって移動や買い物,薬物管理において困難を感じ,糖尿病の管理をよりいっそう困難にしている現状があった.糖尿病網膜症が進行しても,日常生活に対する支障を最低限に抑えるために糖尿病と診断された時点で,糖尿病の自己管理が継続でき,糖尿病網膜症が発症しないこと,あるいは進行せずに生活の再構築が図れるような支援をしていくことが重要であると考える.高田ら3)の調査では,外出時の転倒や衝突の経験は,視機能においてロービジョン者のほうが全盲者よりも多く,「危険な外出」経験が多かったと報告している.ロービジョン者は保有視覚が活用できることから,全盲者と比べて安全との誤解が生じやすいことが理由としてあげられる.したがって,糖尿病の自己管理能力を向上させるためには,外出などの移動が安全にできることが自立度を高め,食事療法や運動療法を実践する意欲にもつながると考えられる.また,新井4)は,「患者がもっている視覚を有効に利用できるようになることで自立を助けることが可能である」と報告している.そのことからも,個々の見え方や視覚障害による困難なことを把握し,ときに地域で多職種と連携しながら,ロービジョン者の自立を支援することがさらに糖尿病の自己管理能力を高めていくことにもつながると考えられる.CV結論糖尿病網膜症によるロービジョン者の困難として四つのカテゴリー【買い物の困難】【調理の困難】【移動の困難】【薬剤管理の困難】が明らかとなった.進行した糖尿病網膜症によりロービジョン状態になったロービジョン者の見えない状態,見えにくい状態のなかで糖尿病の自己管理を行う苦労や不安なことを聞きながら,個別の身体的・心理的課題に合わせて,食事療法や薬物療法を行うための情報提供を行い対応することで糖尿病の自己管理が向上することが考えられる.患者が残存視機能を活用できるよう,個々の患者の状態に合わせた遮光眼鏡や拡大鏡に関する説明,社会保障制度や日常生活を安心して過ごすためのアドバイス,訓練施設に関する情報提供が眼科の日常診療のなかで実施できるよう体制を確立していく必要がある.文献1)久保明夫:ロービジョンへの対応/生活訓練,ロービジョンへの対応,眼科診療プラクティス3:72-74,C20002)山田幸男,高澤哲也,平沢由平ほか:中途視覚障害者のリハビリテーション第C5報.眼紀50:687-691,C19993)高田明子,佐藤久夫:地域で生活する視覚障害者の外出状況と支援ニーズ.社会福祉学53:94-107,C20124)新井三樹:糖尿病網膜症による視力低下患者の自立支援.眼紀56:311-315,C20055)辰巳佳寿恵:中途障害者のリハビリテーションにおける課題.大阪ソーシャルサービス研究紀要,49-74,C20016)正木治恵:慢性病患者へのケア技術の展開,QualityCNurs-ingC2:1020-1025,C19967)望月小百合:糖尿病性網膜症による視力障害のある患者への自己管理に向けて.川崎市立川崎病院看護部教育委員会,C37-40,C20068)下中紀代子:増殖糖尿病網膜症患者の糖尿病管理に対する姿勢の実態.眼科ケア6:776-780,C20049)西川みどり:血糖コントロールのためのロービジョンエイドの活用と支援.看護技術48:57-61,C200210)黒田久美世,中村真由美,宮崎和恵:糖尿病網膜症による視力障害者への日常生活援助.眼科ケア8:80-85,C200611)工藤良子,荒川和子,工藤翔子:中途視覚障害者の家族が抱える問題と家族へのケア.眼紀57:553-558,C200612)堀田一樹,佐生亜希子:視覚障害による身体障害者手帳取得の現況と課題.日本の眼科74:17-19,C200313)CARROLLTJ,松本征二監修,樋口正純訳:失明.日本盲人福祉委員会,196114)横田美恵子:糖尿病網膜症による視覚障害者のリハビリテーション看護の実際.臨床看護24:1775-1788,C199815)坂本洋一:視覚障害リハビリテーション概論.p64-65,太洋社,2007***

前視野緑内障と早期緑内障の黄斑部網膜神経節細胞複合体異常領域面積評価

2019年7月31日 水曜日

《第29回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科36(7):942.947,2019c前視野緑内障と早期緑内障の黄斑部網膜神経節細胞複合体異常領域面積評価水上菜美*1山下力*1,2家木良彰*1瀬戸口義尚*1後藤克聡*1荒木俊介*1春石和子*1,2三木淳司*1,2桐生純一*1*1川崎医科大学眼科学1教室*2川崎医療福祉大学リハビリテーション学部視能療法学科CAbnormalGanglionCellComplexAreainPreperimetricandEarlyGlaucomaNamiMizukami1),TsutomuYamashita1,2),YoshiakiIeki1),YoshinaoSetoguchi1),KatsutoshiGoto1)CAraki1),KazukoHaruishi1,2),AtsushiMiki1,2)andJunichiKiryu1)C,Syunsuke1)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,2)DepartmentofOrthoptics,FacultyofRehabilitation,KawasakiUniversityofMedicalWelfareC目的:前視野緑内障(PPG)と早期緑内障(EG)の検出における網膜神経節細胞複合体(GCC)異常領域面積(GCC異常面積)の有用性について検討した.対象および方法:対象はCPPG群C34眼,EG群C34眼,正常対照群C34眼である.スペクトラルドメイン光干渉断層計のCRTVue-100を用い,GCCパラメータ(GCC厚,FLV,GLV),cpRNFL厚,乳頭形態を測定した.GCC解析ソフトを用い,正常眼データのC5%未満のCGCC異常面積を算出した.受信者動作特性曲線下面積(AUC)を用い,緑内障検出力を評価した.結果:GCC異常面積パラメータは,正常対照群,PPG群,EG群の順で大きかった.PPGのCAUCは全体のCGCC異常面積がもっとも高値を示した(0.998).GCC異常面積の領域別評価では,耳側領域のCAUCが鼻側領域に比べ高かった.結論:GCC異常面積はCPPGの検出に有用な新たなパラメータであることが示唆され,とくに耳側の評価が有用であると考えられる.CPurpose:CToCevaluateCtheCdiagnosticCabilityCofCtheCganglionCcellcomplex(GCC)signi.canceCmapCwithCspec-tral-domainCopticalCcoherencetomography(SD-OCT)inCdetectingCpreperimetricglaucoma(PPG)andCearlyCperi-metricglaucoma(EG).CSubjectsandMethods:CAnalyzedCwereC34controlCeyes,C34eyesCwithCPPGCandC34eyesCwithCEG.CGCCCparameters,CcircumpapillaryCretinalCnerveC.berlayer(cpRNFL)thicknessCandCopticCnerveChead(ONH)parametersCwereCmeasuredCbySD-OCT(RTVue-100).AbnormalCareasCofCtheCGCCConCSD-OCTCimages(yellowandredareas;pixelsat1%and5%level,respectively,insigni.cancemapofGCCmeasurements)werequanti.edCwithCsoftwareCforCanalyzingCsectoralCGCC.CTheCabilityCofCtheCGCCCparameters,CcpRNFLCthicknessCandCONHparameterstodiscriminatebetweenglaucomatousandnormaleyeswasexaminedusingtheareaunderthecurve(AUC)ofCreceiverCoperatingcharacteristics(ROC).CResults:CAbnormalCareasCofCtheCGCCCinCbothCPPGCandCEGweresigni.cantlydecreasedincomparisontocontroleyes.Signi.cantly,intheAUCofPPG,abnormalareasoftheCGCCCwerehighest(0.998).InCtheCevaluationCaccordingCtoCtheCregionCofCGCCCabnormalCareas,CAUCsCofCbothCPPGandEGwerehigherinthetemporalregionthaninthenasalregion.Conclusion:CItissuggestedthatGCCabnormalareaswereusefulfordetectingPPG.EvaluationofthetemporalregionofGCCabnormalareasisusefulfordetectinglocalizedretinalganglioncelldamageduetoearlyglaucomatousopticneuropathy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(7):942.947,C2019〕Keywords:前視野緑内障,早期緑内障,光干渉断層計,網膜神経節細胞複合体.preperimetricCglaucoma,earlyglaucoma,opticalcoherencetomography,ganglioncellcomplex.C〔別刷請求先〕水上菜美:〒701-0192倉敷市松島C577川崎医科大学眼科学C1教室Reprintrequests:NamiMizukami,DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,577Matsushima,Kurashiki701-0192,CJAPANCはじめに前視野緑内障(preperimetricCglaucoma:PPG)は,眼底検査において緑内障性視神経乳頭所見や網膜神経線維層欠損所見などの緑内障を示唆する異常がありながらも,通常の自動静的視野検査で視野欠損を認めない状態のことである1).光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)の進歩により,網膜神経節細胞(retinalganglioncell:RGC)の障害を容易に捉え,定量化することが可能となり,緑内障診断において有用な検査となっている.PPGの診断はCOCTが主体となっているが,一般に用いられている黄斑部網膜神経節細胞複合体(ganglionCcellcomplex:GCC)厚の実測値による確率判定では,緑内障極初期の局所的なCRGCの障害が平均化して判定されるためCPPGの初期変化を検出できない可能性が考えられる.一方で,Kanamoriら2)は黄斑C6C×6Cmmの網膜神経線維層(retinalCnerveC.berlayer:RNFL)厚および神経節細胞層(ganglionCcelllayer:GCL)+内網状層(innerCplexiformlayer:IPL)厚マップを用いて詳細なグリッド解析を行い,確率マップで1%以下の点がCRNFLの走行に沿って連続した場合をクラスターと定義し,PPGの診断力を定性的に検討したところ,高い診断力が得られたことを報告している.また,Rimayantiら3)は早期緑内障(earlyCglaucoma:EG)以降の緑内障性視神経症の検出においてCGCC異常領域面積(GCC異常面積)による定量解析が高い診断力であったことを報告している.そこで筆者らは,GCC異常面積を領域別かつ定量的に評価することで緑内障極初期の局所的な構造障害を捉えられる可能性に着目し,PPGとCEGを対象に,GCC異常面積による緑内障性視神経症の検出力について検討した.CI対象および方法対象はC2015年C4月.2018年C2月に川崎医科大学附属病院眼科でCPPGもしくはCEGと診断され,スペクトラルドメインCOCT(spectraldomain-OCT:SD-OCT)とCHumphrey静的視野計(CarlCZeissMeditec)を施行したCPPG群C34眼,EG群C34眼および年齢を適合させた正常対照群C34眼とした.今回の研究は,川崎医科大学附属病院倫理委員会の承認のもとに行われた(承認番号C3028).本研究におけるCPPGの定義は,緑内障専門医による検眼鏡および眼底写真を用いた観察において,緑内障性視神経乳頭所見や網膜神経線維層欠損所見などの緑内障を示唆する異常はあるが,Humphrey静的視野計(中心C30-2SITA-Satan-dardまたはCSITA-Fast)で,AndersonPatellaの基準4)である1)パターン偏差確率プロットで,p<5%の点がC3個以上隣接して存在し,かつそのうちC1点がCp<1%,2)パターン標準偏差がCp<5%,3)緑内障半視野テストが正常範囲外を満たさない症例とした.EG群はCAndersonPatellaの基準を満たした症例で,Anderson-Hodapp分類を用い,meandeviation(MD)値がC.6CdB以上の初期症例と定義した.視野検査は,OCT施行後からC3カ月以内に測定し,固視不良,偽陽性,偽陰性のすべてがC20%未満の結果のみを採用した.各群において,矯正視力がC0.8未満の者,C±6D以上の屈折異常がある者,緑内障以外の眼疾患を有する者,内眼手術の既往がある者は対象から除外した.SD-OCTはCRTVue-100(Optovue社)を用い,スキャンプロトコルはGCC,ONH,3DDiscとした.OCTはsignalstrengthindexがC45以上のデータを採用した.検討項目は,黄斑部直径C6Cmm範囲内のCGCCパラメータ(GCC厚,glob-allossvolume:GLV,focallossvolume:FLV),視神経乳頭中心から直径C3.4Cmm部位の視神経乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryretinalnerve.verlayer:cpRNFL)厚,乳頭形態パラメータ(乳頭陥凹面積,リム面積,C/D横径比,C/D縦径比,陥凹体積,リム体積,神経乳頭体積)とした.GLVおよびCFLVは,年齢別正常データベースとの差をもとにCGCC厚の菲薄化をパーセント表示するプログラムである.GLVはCGCCのスキャンエリア全体の菲薄化,FLVは局所的な菲薄化を意味する.GLVはCdeviationmapの0%以下のCdeviation値の合計をCGCCmapのトータルデータポイント数で割って算出している.FLVはCdeviationmapおよびCpatternCdeviationmapを使用して算出しており,devi-ation値が0%以下であり,かつ,patterndeviation値が5%以下であるポイントのCdeviation値の合計をCGCCmapのトータルデータポイント数で割って算出される.GCC異常面積の算出には,筆者らが株式会社スーパーワンと共同開発したCRTVue-100のCGCC厚解析ソフト(スーパーワン)5)を用いて行った.スーパーワンは,4ファイル(xmlファイル,GCC厚,signi.cancemap,deviationmap)のデータを入力し,画像およびテキストファイルとして解析結果を出力し,それらの有効範囲内の色要素を取り出し,1pixel当たりのCred,yellow,greenの面積を算出することができる.今回は,signi.cancemapを用い中心窩を中心として垂直および水平経線にC4分割したCGCC異常面積(正常眼データの5%未満)のセクター別面積を算出した(図1).統計学的検討は,正常眼とCPPG群およびCEG群の比較は,Kruskal-Wallis検定で比較検討を行い,そこで有意差が得られた場合はCSche.e多重比較法を行った.受信者動作特性曲線下面積(areaCunderCtheCreceiverCoperatingcurve:AUC)を用い,緑内障性視神経症の検出力を評価した.AUCの比較はCMedCalc(MedCalcCSoftwareInc)を用いた.統計学的分析は,統計解析ソフトCSPSSStatistics23.0(IBM-SPSSInc)を使用した.危険率5%未満を統計学的に有意とした.図1GCC解析ソフトにより解析した結果(左眼)GCC厚(上),signi.cancemap(中),deviationmap(下)の中心窩を中心にC4分割されたデータが数値化される.表1患者背景pvalueCNormalgroupCPPGgroupCEGgroupCNormalvs.PPGCNormalvs.EGCPPGvs.EGC年齢(歳)C65.5±6.0C62.4±11.2C65.2±12.0C0.1609C0.6296C0.6370等価球面度数(D)C.2.1±1.5C.2.1±2.2C.1.7±2.2C0.1376C0.0687C0.4601MD(dB)C0.3±1.3C.0.3±1.5C.2.2±2.1C0.3128C0.0001C0.0024PSD(dB)C1.7±0.3C1.9±0.5C4.4±2.9C0.1678C0.0001C0.0001VFI(%)C99.5±0.7C99.0±1.0C94.5±4.5C0.1482C0.0001C0.0001平均値±標準偏差.MD:meandeviation,PSD:patternstandarddeviation,VFI:visualC.eldindex.II結果PPG群,EG群,正常対照群の年齢,屈折値,MD値,PSD値,visualC.eldindex(VFI)値の結果を表1に示す.各群において,年齢および等価球面度数に有意差はなかった.MD値,PSD値,VFI値は正常対照群とCPPG群で有意差がなかったが,EG群では正常対照群,PPG群と有意差を認めた.各群におけるCGCC異常面積の結果を表2に示す.GCC異常面積は,正常対照群C0.18C±0.11Cmm2,PPG群C6.66C±4.76Cmm2,EG群C12.33C±5.90Cmm2の順で有意に拡大していた.また,セクター別の評価においては,PPG群は正常群よりも全セクターで拡大し,EG群はCPPG群よりも下鼻側,上耳側で有意に拡大していた.各COCTパラメータによる緑内障性視神経症の検出力の結果を表3に示す.PPGのCAUCは,GCC異常面積がもっとも高値を示しC0.998,平均CcpRNFL厚C0.932やCFLVC0.949よりも有意に高く,GLV0.982とは同等であった.EG群におけるCGCC異常面積のCAUCは,cpRNFL厚,GCC厚パラメータと差がなかった.また,GCC異常面積の領域別評価では,PPG群ではCGCC異常面積の耳側領域(上:0.959,下:0.957)のCAUCが,鼻側領域(上:0.855,下:0.784)に比べて有意に高かった(それぞれ,p=0.0182,p=0.0038).EG群においても同様の結果であった.視神経乳頭パラメータは,PPG群,EG群どちらも他のパラメータの検出力には及ばなかった.表2GCC異常面積の実測値pvalueCNormalgroupCPPGgroupCEGgroupCNormalvs.PPGCNormalvs.EGCPPGvs.EGCGCC異常面積(mmC2)CWholeC0.18±0.11C6.66±4.76C12.33±5.90C0.0001C0.0001C0.0405CSuperiornasalC0.03±0.02C1.32±1.15C1.76±1.19C0.0001C0.0001C0.2889CInferiornasalC0.04±0.02C0.98±1.08C1.66±1.30C0.0004C0.0001C0.0481CSuperiortemporalC0.06±0.07C2.38±2.02C4.62±2.64C0.0001C0.0001C0.0430CInferiortemporalC0.05±0.05C1.98±2.08C4.30±3.05C0.0001C0.0001C0.0691表3各パラメータの緑内障検出力Normalvs.PPGCNormalvs.EGCAUCC95%CILowerboundCUpperboundCpvalueCAUCC95%CICLowerboundCUpperboundCpvaluecpRNFLparametersCAverageC0.9317C0.8662C0.9971p<C0.001C1.0000C1.0000C1.0000p<C0.001CSuperiorC0.9191C0.8511C0.9871p<C0.001C1.0000C1.0000C1.0000p<C0.001CInferiorC0.9152C0.8454C0.9851p<C0.001C0.9965C0.9890C1.0041p<C0.001CSTC0.8932C0.8136C0.9727p<C0.001C0.9935C0.9808C1.0062p<C0.001CTUC0.8685C0.7776C0.9594p<C0.001C0.9537C0.9010C1.0064p<C0.001CTLC0.8222C0.7241C0.9204p<C0.001C0.8672C0.7854C0.9490p<C0.001CITC0.9109C0.8410C0.9808p<C0.001C0.9836C0.9548C1.0123p<C0.001CINC0.8123C0.7058C0.9188p<C0.001C0.9022C0.8228C0.9817p<C0.001CNLC0.6916C0.5604C0.8228C0.0042C0.8581C0.7562C0.9601p<C0.001CNUC0.7292C0.6039C0.8546p<C0.001C0.9308C0.8682C0.9934p<C0.001CSNC0.8387C0.7437C0.9336p<C0.001C0.9260C0.8569C0.9951p<C0.001CONHparametersCRimVC0.7924C0.6819C0.9028p<C0.001C0.8153C0.7142C0.9164p<C0.001CNHVC0.7868C0.6733C0.9003p<C0.001C0.8036C0.6995C0.9077p<C0.001CCupVC0.5731C0.4350C0.7112C0.2997C0.5061C0.3641C0.6480C0.9334CODAC0.5112C0.3710C0.6515C0.8751C0.6704C0.5389C0.8019C0.0111CC/DRC0.7664C0.6545C0.8784p<C0.001C0.7189C0.5972C0.8406p<C0.001CHC/DRC0.6817C0.5528C0.8105C0.0057C0.6981C0.5710C0.8252C0.0022CVC/DRC0.8170C0.7183C0.9158p<C0.001C0.8525C0.7576C0.9475p<C0.001CRimAC0.7829C0.6704C0.8953p<C0.001C0.8283C0.7327C0.9238p<C0.001CCupAC0.6708C0.5402C0.8015C0.0104C0.5740C0.4358C0.7121C0.2939CGCCparametersCAverageC0.9715C0.9312C1.0117p<C0.001C1.0000C1.0000C1.0000p<C0.001CSuperiorC0.9351C0.8620C1.0082p<C0.001C0.9697C0.9121C1.0274p<C0.001CInferiorC0.9792C0.9522C1.0062p<C0.001C0.9983C0.9941C1.0024p<C0.001CFLVC0.9490C0.9044C0.9935p<C0.001C0.9888C0.9712C1.0063p<C0.001CGLVC0.9818C0.9537C1.0100p<C0.001C1.0000C1.0000C1.0000p<C0.001GCC異常面積CWholeC0.9983C0.9941C1.0024p<C0.001C1.0000C1.0000C1.0000p<C0.001CSuperiornasalC0.8547C0.7479C0.9614p<C0.001C0.9537C0.8976C1.0099p<C0.001CInferiornasalC0.7837C0.6610C0.9065p<C0.001C0.9455C0.8892C1.0018p<C0.001CSuperiortemporalC0.9593C0.9149C1.0038p<C0.001C0.9922C0.9763C1.0081p<C0.001CInferiortemporalC0.9567C0.8970C1.0165p<C0.001C0.9948C0.9861C1.0036p<C0.001ST:superiorCtemporal,CTU:temporalupper,CTL:temporalClower,CIT:inferiorCtemporal,CSN:superiorCnasal,NU:nasalCupper,NL:nasallower,IN:inferiornasal,AUC:areaunderthereceiveroperatingcharacteristiccurves,CI:con.denceinterval.(107)あたらしい眼科Vol.36,No.7,2019C945III考察本研究ではCPPGおよびCEGの診断パラメータとしてCOCTによるCGCC異常面積の検出力を検討した結果,GCC異常面積は他のCOCTパラメータに比べてCPPGの検出力が高いことが明らかとなった.本研究におけるCGCC異常面積は,正常対照群よりもCPPG群,PPG群よりもCEG群の順で大きかった.Kimら6)の緑内障と診断された同一患者をC3年間追跡した検討では,cpRNFL厚,GCL+IPL厚の異常領域面積が経時的に増加し,緑内障の進行評価に有用であると報告している.そのため,本研究の結果は,病期の進行に伴うCRGCの障害を反映した結果であり,GCC異常面積においても緑内障の進行に伴い拡大すると考えられる.したがって,GCC異常面積を経時的に評価することは緑内障初期の進行評価に有用であると思われ,OCTの新たなパラメータとして期待される.GCC異常面積によるCPPGの検出力は,平均CcpRNFL厚やCFLVよりも有意に高い結果となり,GLVとは同等であった.cpRNFL厚がCGCC異常面積よりも検出力が低かった理由としては,cpRNFL厚は個人差によるばらつきが存在すること,極早期の網膜神経線維層欠損が存在しても平均化されるためにその局所の変化を捉えられないことがあげられる.また,局所的な菲薄化の割合を反映するCFLVでは,patterndeviation値がC5%以下であるポイントを用いて算出されているため,緑内障極初期のわずかなCGCCの菲薄化が異常として検出されない可能性が考えられる.一方,GCC厚全体における菲薄化の割合を反映するCGLVでは,deviationmapにおけるC0%以下のCdeviation値の合計を用いて算出されているため,PPGにおけるわずかなCGCC厚の減少を検出できたと考えられる.したがって,PPGの検出に有用なCOCTパラメータはCGCC異常面積とCGLVであることが示唆された.つぎにCGCC異常面積によるCEGの検出力は,cpRNFL厚やCGCC厚パラメータと同等の検出力であった.Rimayantiら3)は,初期・中期・後期の緑内障においてCGCC異常面積は診断に有用な指標であり,初期緑内障においてはCGCC異常面積が全体CcpRNFL厚よりも検出力が高く,GCC厚パラメータと同等の検出力であったと報告している.そのため,EGにおいてもCGCC異常面積はCcpRNFL厚やCGCC厚パラメータと同様に早期の緑内障性視神経症の検出に有用であると考えられる.GCC異常面積におけるセクター別の検討では,PPG群,EG群ともに,耳側領域のCAUCが鼻側領域に比べて高かった.Mwanzaら7)は,黄斑部耳側CGCL+IPL厚は,鼻側に比べて緑内障検出力が高く,緑内障性初期変化は黄斑耳側から起きていると報告している.そのため,GCC異常面積はCGCL+IPL厚と同様に耳側領域の検出力が高く,緑内障初期における黄斑耳側のCRGC障害を反映した結果であると考えられる.また,これまでCPPGの検出にはCGCL厚における上下非対称性の評価が有用であると報告されている8).しかし,本研究の結果から,PPGの検出には上下非対称性の評価だけでなく,GCC異常面積における黄斑部の耳側と鼻側の左右非対称性の評価も有用であることが示唆された.また,本研究において耳側領域のCAUCが鼻側領域よりも高くなった理由として,RTVue-100のCGCC測定領域は測定領域中心が中心窩から耳側にC0.75Cmmずれており,耳側面積の解析範囲が鼻側面積に比べて広く解析されていることが影響している可能性も考えられた.視神経乳頭パラメータはCPPGおよびEG群ともに他のOCTパラメータよりも検出力が低い結果となった.以前に筆者ら9)は,RTVue-100によるCGCC厚,cpRNFL厚,GLV,FLVはいずれも緑内障性視野障害を初期から反映しており,視神経乳頭パラメータよりも緑内障性視神経症の検出に有用なパラメータであることを報告した.視神経乳頭パラメータが他のOCTパラメータよりも検出力が低かった理由として,視神経乳頭の個人差10)による影響が考えられる.したがって,PPGやCEGにおける視神経乳頭パラメータは,他のOCTパラメータに比べて早期の緑内障性視神経症による変化を捉えにくいと考えられる.今回の検討により,GCC異常面積はCPPGの診断に有用な新たなパラメータであることが示された.また,PPGやCEGにおける早期の緑内障性視神経症による局所的なCRGCやその軸索の障害の検出には,耳側領域のCGCC異常面積を評価し,耳側と鼻側の左右非対称性を観察することが有用であると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌C122:5-53,C20182)KanamoriA,NakaM,AkashiAetal:Clusteranalysesofgrid-patternCdisplayCinCmacularCparametersCusingCopticalCcoherencetomographyforglaucomadiagnosis.InvestOph-thalmolVisSciC54:6401-6408,C20133)RimayantiCU,CLatiefCMA,CArinatawatiCPCetal:WidthCofCabnormalCganglionCcellCcomplexCareaCdeterminedCusingCopticalCcoherenceCtomographyCtoCpredictCglaucoma.CJpnJOphthalmol58:47-55,C20144)AndersonCDR,CPatellaVM:AutomatedCstaticCperimetry.CMosby,St.Louis,19995)山下力,三木淳司:外側膝状体以降の視路疾患のCOCT.神眼C31:181-191,C20146)KimHJ,JeoungJW,YooBWetal:PatternsofglaucomaprogressionCinCretinalCnerveC.berCandCmacularCganglionCcell-innerplexiformlayerinspectral-domainopticalcoher-enceCtomography.JpnJOphthalmolC61:324-333,C20177)MwanzaJC,DurbinMK,BudenzDLetal:Glaucomadiag-nosticCaccuracyCofCganglionCcell-innerCplexiformClayerthickness:comparisonCwithCnerveC.berClayerCandCopticCnervehead.OphthalmologyC119:1151-1158,C20128)NakanoN,HangaiM,NakanishiHetal:Maculargangli-onCcellClayerCimagingCinCpreperimetricCglaucomaCwithCspeckleCnoise-reducedCspectralCdomainCopticalCcoherenceCtomography.OphthalmologyC118:2414-2426,C20119)山下力,家木良彰,後藤克聡ほか:スペクトラルドメインCOCTによる網膜神経線維層厚と黄斑部網膜内層厚の視野障害との相関.あたらしい眼科C26:997-1001,C200910)Ho.mannCEM,CZangwillCLM,CCrowstonCJGCetal:OpticCdisksizeandglaucoma.SurvOphthalmolC52:32-49,C2007***

Humphrey視野計におけるSITA StandardとSITA Fasterの比較検討

2019年7月31日 水曜日

《第29回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科36(7):937.941,2019cHumphrey視野計におけるSITAStandardとSITAFasterの比較検討田中健司*1,2水野恵*2後藤美紗*2薄雄斗*2岩瀬愛子*2*1平成医療短期大学リハビリテーション学科視機能療法専攻*2たじみ岩瀬眼科CComparisonofSITAStandardandSITAFasterinHumphreyFieldAnalyzerKenjiTanaka1,2)C,MegumiMizuno2),MisaGoto2),YutoSusuki2)andAikoIwase2)1)DepartmentofRehabilitationMajorinOrthopticsHeiseiCollegeofHealthSciences,2)TajimiIwaseEyeClinicC目的:Humphrey視野計においては,検査時間の短縮化を可能にしたCSITAFasterがC800シリーズに搭載された.本研究では,SITAStandardとCSITAFasterの検査結果を比較し,その違いの有無と臨床的意義について検討する.対象および方法:対象は,視野異常のない正常視野眼C30例C30眼と緑内障眼C60例C60眼である.24-2SITACStandardとCSITAFasterをC3カ月以内に施行し,両者の測定時間,検査値についてCWilcoxonの符号付き順位検定にて比較検討した.結果:正常視野眼,緑内障眼ともに測定時間,MD値で有意差があった(p<.0001).SITAFasterの平均測定時間は,SITAStandardに比べて,正常視野眼で約C60%,緑内障眼で約C53%短縮した.MD値は,平均値,中央値ともにCSITAFasterで測定したCMD値のほうが高かった.CPurpose:TheCHumphreyC.eldCanalyzerC800seriesCintroducedCtheCSITACFaster,CwhichCshortenedCinspectionCtime.Inthisstudy,wecomparetheresultsofSITAStandardandSITAFasterandexaminetheirdi.erenceandclinicalCsigni.cance.CSubjectsandMethods:In30normalsubjects(30eyes)andC60glaucomaCsubjects(60eyes)C,24-2SITACStandardCandCSITACFasterCwereCimplementedCwithinC3months;theirCmeasurementCtimesCandCtestCresultswerecomparedandexaminedusingWilcoxonsigned-ranktest.Results:Therewassigni.cantdi.erenceinCmeasurementCtimeCandMD(p<.0001)inCbothCnormalCandCglaucomaCsubjects.CTheCaverageCmeasurementCtimeCofCSITACFasterCwasCshortenedCbyCapproximately60%CinCtheCnormalCsubjectsCandCbyCapproximately53%CinCtheCglaucomaCsubjects,CasCcomparedCwithCSITACStandard.CMDCasCmeasuredCbyCSITACFasterCwasChigherCforCbothCtheCaverageandmedianvalues.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(7):937.941,C2019〕Keywords:緑内障,視野,SITAFaster,HFA3,HFA800.glaucoma,visualC.eld,SITAFaster,HFA3,HFA800.Cはじめに視野検査は,緑内障の診断ならびに経過観察に欠かすことのできない重要な検査である.現在,視野検査は静的視野計での測定が主流であり1),緑内障診療ガイドラインでは,初期緑内障における視野異常の検出に鋭敏である静的視野検査を推奨している2).一方で,静的視野検査は自覚的検査であるが故に,検査中の疲労や集中力の低下が,しばしば測定結果に影響を及ぼすことがある3).その一つの要因が測定時間である.このため,測定時間の短縮を目指してCSwedishinteractivethresholdingalgorithm(SITA)やCZippyestima-tionbyCsequentialCtesting(ZEST)など,さまざまな測定時間短縮プログラムが考案され,測定時間は以前より短縮した4).しかしながら,なお両眼検査にはC20分程度の測定時間が必要となる.検査時間の大幅な短縮化を可能にしたCSITAFasterがHumphrey視野計のC800シリーズに搭載されたが,検査結果や測定時間についての検証が十分に行われているとはいえない.そこで本研究では,緑内障眼および正常視野眼において,SITAStandardとCSITAFasterで視野検査を行い,その検査結果および測定時間を比較検討する.そして,その違〔別刷請求先〕田中健司:〒501-1131岐阜県岐阜市黒野C180平成医療短期大学リハビリテーション学科視機能療法専攻Reprintrequests:KenjiTanaka,DepartmentofRehabilitationMajorinOrthopticsHeiseiCollegeofHealthSciences,180KuronoGifu501-1131,JAPANCいの有無と臨床的意義について検討する.CI対象および方法対象は,眼科疾患がなく,Humphrey視野計CSITAStan-dard24-2プログラムでCAnderson-Patella基準において視野異常を認めない正常視野眼C30例C30眼と,たじみ岩瀬眼科に通院加療する緑内障による視野障害が認められ,検査期間内に臨床的に大きな変動のないC60例C60眼である.平均年齢は,正常視野眼はC56.3C±12.6歳(平均C±標準偏差),緑内障眼はC59.8C±12.5歳であった.対象者の背景を表1に示す.方法は,Humphrey視野計にて中心C24-2SITAStandardとCSITAFasterをC3カ月以内に施行し,両者の測定時間,Cmeandeviation(MD)値,patternstandarddeviation(PSD)表1対象者の背景正常視野眼(n=30)緑内障眼(n=60)年齢C56.3±12.6歳28.7C9歳C59.8±12.5歳21.7C9歳性別男性9人女性2C1人男性2C8人女性3C2人MD値C.10.6±7.8CdBC.1.0.C.29.0CdBCmeandeviation(MD)年齢およびCMD値は,平均C±標準偏差と範囲を記載.MD値は,SITAStandardで測定したCMD値.値,visualC.eldindex(VFI)値,patterndeviationの確率プロット数についてCWilcoxonの符号付き順位検定を用いて比較検討した.なお,測定順についてはランダムに行った.CII結果SITAStandardとCSITAFasterの測定時間および検査値の結果を,表2,3に示す.測定時間は,正常視野眼,緑内障眼ともに有意な差があった(p<.001)(図1,2).正常視野眼の平均測定時間は,SITAStandardでC261.3秒C±17.5秒,CSITAFasterでC102.4C±10.2秒であった.緑内障眼では,CSITAStandardでC358.9C±46.7秒,SITAFasterでC168.5C±36.0秒であった.検査値で有意差のあった項目は,正常視野眼では,MD値(p<.001)とCPatternDeviationのCp<1%の確率プロット数(p<.05)であった.MD値は,SITAStandardでは,平均値C0.0C±1.0CdB,中央値C0.1CdB,SITAFasterでは,平均値C0.6±1.0CdB,中央値C0.5CdBであり,SITAFasterで測定したCMD値が高い結果となった(図3).緑内障眼では,MD値(p<.001),PSD値(p<.001),VFI値(p<.001),p<0.5%の確率プロット数(p<.001),p<1%の確率プロット数(p<.001)で有意差があった.MD値は,SITAStandardでは,平均値C.10.6±7.8CdB,中央値C.8.9CdB,CSITAFasterでは,平均値C.9.5±7.8CdB,中央値C.8.4dBであり,SITAFasterで測定したCMD値が高い結果となった(図4).PSD値は,平均値では,SITAFasterで測定した表2正常視野眼の検査結果SITAStandardCSITAFaster有意確率測定時間Cmean±SDC261.3±17.5C102.4±10.2(秒)CmedianC256C104.5<.001MDCmean±SDC0.0±1.0C0.6±1.0(dB)CmedianC0.1C0.5<.001PSDCmean±SDC1.3±0.2C1.3±0.3(dB)CmedianC1.3C1.3C0.82CVFICmean±SDC100±0.5C100±0.6(%)CmedianC100C100C0.206Cp<0.5%Cmean±SDC0.0±0.2C0.1±0.3(個)CmedianC0C0C0.18Cp<1%Cmean±SDC0.1±0.3C0.5±1.1(個)CmedianC0C0<.05p<2%Cmean±SDC0.4±0.6C0.6±1.4(個)CmedianC0C0C0.747Cp<5%Cmean±SDC1.7±1.7C2.3±2.7(個)CmedianC1C1C0.583C確率プロットCmean±SDC2.3±2.2C2.6±3.5総数(個)CmedianC2C3C0.128Cmeandeviation(MD),patternstandarddeviation(PSD),visualC.eldindex(VFI).C938あたらしい眼科Vol.36,No.7,2019(100)表3緑内障眼の検査結果SITAStandardCSITAFaster有意確率測定時間(秒)Cmean±SDCmedianC358.9±46.7C356C168.5±36.0C165<C.001CMD(dB)Cmean±SDCmedianC.10.6±7.8C.8.9C.9.5±7.8C.8.4<C.001CPSD(dB)Cmean±SDCmedianC9.7±4.3C9.9C9.1±4.3C10.1<C.001CVFI(%)Cmean±SDCmedianC71±23.5C75C73.6±22.5C79<C.001p<0C.5%(個)Cmean±SDCmedianC12.6±9.5C11.5C10.8±8.7C9.5<C.001p<1%(個)Cmean±SDCmedianC1.4±1.3C1C2.3±1.3C2<C.001p<2%(個)Cmean±SDCmedianC1.6±1.3C1C1.9±1.7C2C0.38p<5%(個)Cmean±SDCmedianC2.66±2.0C2C2.7±2.2C2C0.71確率プロット総数(個)Cmean±SDCmedianC18.2±8.8C19C17.7±9.0C16.5C0.367Cmeandeviation(MD),patternstandarddeviation(PSD),visualC.eldindex(VFI)C50030025040020030015020010050100SITAFasterSITAFasterSITAStandard図1正常視野眼の測定時間(秒)の箱ひげ図41002-100-20-2-30SITAFasterSITAFasterPSD値が低く,中央値は高い結果となった.VFI値は,平央値ともに,SITAFasterで測定した確率プロット数が少均値,中央値ともに,SITAFasterで測定したCVFI値が高ない結果となり,反対にCp<1%の確率プロット数は,平均い結果となった.p<0.5%の確率プロット数は,平均値,中値,中央値ともに,SITAFasterで測定した確率プロット数が多い結果となった.また,有意差のあった測定時間やCMD値の差異が,緑内障の有無や年齢,感度低下の程度(SITAStandardで測定したCMD値)と関連があるか検討した.緑内障の有無との関連についてはCMann-WhitneyCUtest,年齢および感度低下の程度との関連についてはCSpearmanの順位相関係数を用いて検討した.なお差異については,SITAStandardで測定した値からCSITAFasterで測定した値を引いた値を用いた.その結果,測定時間の差と緑内障の有無(p<.001)および感度低下の程度(r=..449,p<.001),MD値の差と年齢(r=..234,p<.05)で有意差があった.CIII考按本研究では,SITAStandardとCSITAFasterの検査値および測定時間の比較検討を行った.測定時間については,正常視野眼では,SITAStandardの平均測定時間はC261.3秒C±17.5秒,SITAFasterはC102.4C±10.2秒であり,SITAFasterはCSITAStandardに比べて約C60%短縮した.緑内障眼では,SITAStandardはC358.9C±46.7秒,SITACFasterはC168.5C±36.0秒であり,約C53%短縮した.これはCHeijlら5)の検証と一致する.つまり,SITAFasterはCSITACStan-dardの半分以下の時間で視野が測定できることが実証された.また,緑内障眼やCMD値が低くなるほど,より測定時間が短縮されることが示唆された.臨床においては,視野検査中の疲労や集中力の低下がしばしば問題となる.また,検査時間が長いことで視野検査を拒否する患者にも遭遇する.複数回の正確な視野検査結果があってこそ,進行の判定は容易になる2).新たに緑内障と診断された患者の場合,最初のC2年間は進行速度をみるために,定期的な複数回の検査が必須といわれる6).しかし,視野検査は,測定時間が長く疲れる検査であるため,高齢者など集中力を維持できないものは,頻回の測定は困難となる場合がある.一方,緑内障の有病率は年齢とともに増加する傾向にあり7,8),高齢人口の増加とともに高齢の緑内障患者の増加が予想される.測定時間の短縮は,これらの問題を解決する有効な手段になりうると考える.検査値については,本研究では,正常視野眼,緑内障眼ともに,SITAFasterとCSITAStandardで測定したCMD値に有意な差があった.平均値,中央値ともにCSITAFasterで測定したCMD値のほうが高く,感度が高く測定される可能性が示唆された.さらに,緑内障眼において,SITAFasterでCVFI値が高く測定されたことや,patterndeviationのCp<0.5%の確率プロット数が少なく測定されたことから,視野の重症度が軽度に測定されることが示唆された.Patterndeviationのp<1%の確率プロット数がCSITAFasterで多くなったことについては,SITAStandardでCp<0.5%と測定されたポイントが,SITAFasterではCp<1%と測定されたことによるものであると推測される.MD値の差と年齢が負の相関を示したことについては,相関係数は低く,緑内障眼のみで分析すると有意差は認められなかった.本研究では,正常視野眼の症例数がC30眼と少なかったため,症例数を増やして検討する必要があると考える.SITAStandardとCSITAFastを比較した研究においては,CSITAFastはCSITAStandardより測定精度や異常検出感度が低く9,10),MD値が高く測定されることが示されている10,11).一方でCSaundersら12)は,進行の検出のためには両者の差は無視できるとしている.本研究では,SITACStan-dardとCSITAFasterの検査値に有意差があり,SITACStan-dardに比べて,SITAFasterで測定したCMD値が高く測定されることが示唆されたが,両者の検査値の差に対する臨床的意義については,今後さらなる検証が必要である.利益相反:岩瀬愛子(カテゴリーP:株式会社トプコン)文献文献1)HeijlCA,CPatellaCVM,CBengtssonB:TheC.eldCanalyzerprimer:E.ectiveCPerimetry.C4thCedition,CCarlCZeissCMed-itec,20122)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第C4版.日眼会誌122:5-53,20183)奥山幸子:測定の信頼性/測定結果に影響を及ぼす諸因子.松本長太(編):視野検査とその評価.中山書店,p57-65,C20154)松本長太:視野検査の今後.あたらしい眼科C31:987-993,C20145)HeijlCA,CPatellaCVM,CChongCLXCetal:ACnewCSITACperi-metricCthresholdtestingCalgorithm:constructionCandCaCmulticenterCclinicalCstudy.CAmCJCOphthalmolC198:154-165,C20196)ChauhanCBC,CGarway-HeathCDF,CGoniCFJCetal:PracticalCrecommendationsCforCmeasuringCratesCofCvisualC.eldCchangeinglaucoma.BrJOphthalmolC92:569-573,C20087)IwaseCA,CSuzukiCY,CAraieCMCetCal,CTajimiCStudyCGroup,JapanGlaucomaSociety:Theprevalenceofprimaryopen-angleCglaucomaCinCJapanese,CtheCTajimiCStudy.COphthal-mology111:1641-1648,C20048)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TajimiStudyGroup,JapanCGlaucomaSociety:TheCTajimiCStudyCreport2:CprevalenceCofCprimaryCangleCclosureCandCsecondaryCglau-comainaJapanesepopulation.OphthalmologyC112:1661-1669,C20059)ArtesPH,IwaseA,OhnoYetal:Propertiesofperimet-ricCthresholdCestimatesCfromCFullCThreshold,CSITACStan-dard,andSITAFaststrategies.InvestOphthalmolVisSciC43:2654-2659,C200210)BudenzDL,RheeP,FeuerWJetal:Sensitivityandspeci-.cityCofCtheCSwedishCinteractiveCthresholdCalgorithmCforCglaucomatousCvisualC.eldCdefects.COphthalmologyC109:12)SaundersLJ,RussellRA,CrabbDP:Measurementpreci-1052-1058,C2002CsionCinCaCseriesCofCvisualC.eldsCacquiredCbyCtheCstandard11)BudenzDL,RheeP,FeuerWJetal:Comparisonofglau-andCfastCversionsCofCtheCSwedishCinteractiveCthresholdingCcomatousvisualC.elddefectsusingstandardfullthresholdalgorithm:analysisoflarge-scaledatafromclinics.JAMAandCSwedishCinteractiveCthresholdCalgorithms.CArchCOph-OphthalmolC133:74-80,C2015CthalmolC120:1136-1141,C2002***