多焦点眼内レンズの使い方ChoosingtheBestMultifocalIntraocularLensforYourPatients野口三太朗*はじめに老視矯正眼内レンズ(intraocularlens:IOL)は完璧ではなく,グレア,ハロー,コントラストの低下などの副症状を発症することがわかっており,患者によっては,それは数字上の視力の改善よりも不快で,IOLの摘出に至ることもある.老視矯正IOLを移植するにあたり,視力はもちろんではあるが,それ以外の副症状をよく理解し,それらを天秤にかけながら患者と向き合う必要があると思われる.ある程度の使用経験のあるIOLを一覧にまとめ,串刺しに比較することで各IOLの性格の理解を深められたらと考えている.重要と思われるコントラスト,グレア・ハロースコア(Glare&Halosimulator:EyelandDesignNetwork社,Verden,Germany),全距離視力,レンズスペック一覧(メーカー公表値を参考に,筆者のシミュレーションスペックを記述,表1),各レンズの特徴を掲載する.これらのデータを参考にし,老視矯正IOLの癖を少しでも理解してもらえればと思う.どの患者にも一辺倒でよいということはなく,複数のIOLの引き出しをもち,ベストフィットのIOLを処方するのがもっとよいと思われる.Iコントラストコントラスト(図1)は,各IOLを理解するうえでもっとも重要であるといっても過言ではない.視力の次に重要な視機能とされる.光学的に近方加入の強いレンズほど遠方エネルギーは減少し,光学的ロスが発生するため,遠方コントラストは低下する傾向にある.低加入IOLのLC,MW,SV25T,ZXR00Vは他レンズよりもコントラストが良好であることがわかる.逆に加入の強いSN6AD1,ZMB00は加入が高いためコントラストは低い.IC-8は開口が小さく,エネルギー量が少ないためextendeddepthoffocus(EDoF)であるが,コントラストは不良である可能性がある(症例数が少ないため,参考程度としていただきたい).TECNISfamilyであるZKB00,ZLB00などは加入の割に,同加入IOLよりも若干コントラストが良好である.老視矯正IOL移植の不満感の多くはコントラストの低下の自覚である.術前よりも必ずコントラストを下げないようIOLの選択を行う.IIグレアとハローグレアとハロー(図2,3)は,多焦点IOLである以上,さらには単焦点IOLであっても不可避の光視現象である.移植した本人しか詳細な映像はわからず,定量化は困難とされてきたが,いくつかの手法でそれぞれをある程度評価することができるようになってきている.今回はGlare&Halosimulatorを用いたスコアを紹介する.低加入IOLはハロースコアが小さく,グレアも小さい.回折レンズでは加入が大きくなるとH1タイプのハローが増え,サイズも大きくなる傾向にある.単焦点のW60は70%以上の患者がハロー自体の自覚もないこと*SantaroNoguchi:ツカザキ病院眼科〔別刷請求先〕野口三太朗:〒671-1227兵庫県姫路市網干区和久68-1ツカザキ病院眼科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(25)1501表1各種老視矯正IOLのスペック会社IOL名焦点回折/屈折技術回折領域ringlighloss(3mm)光配分(3mm瞳孔)加入非球面値屈折率アッベ数リング製造法マテリアル製造範囲AcufocusIC-81Pinhole─022%100%D0D-0.22μm1.4849レースカット疎水性/PVDF15.5D-27.5D(0.5Dstep)Santen,OculentisLentiscomfort:LC2分節型──7%62%D/38%I1.5D0μm1.4658レースカット親水性疎水性表面(HydroSmart)10.0D-27.0D(0.5Dstep)OculentisLentisMplusX:LMX2分節型──6%52%D/48%N3.0D0μm1.4658レースカット親水性疎水性表面(HydroSmart)S:0.0D.36.0D(0.01Dstep)C:+0.25D.+12.0D(0.01Dstep)SIFIMiniWellReady:MW2.progressive,asphericcontroled──10%─3.0D非公開1.46非公開レースカットハイブリッド(親水性+疎水性)0.0D-10.0D(1.0Dstep)10.5D-30.0D(0.5Dstep)PhysIOLPodF3blazed,Apodizedfull2814%40%D/14%I/30%N1.75D,3.5D-0.11μm1.4658レースカット親水性6.0D-35.0D(0.5Dstep)RaynerRayOne:RAO3binary,Non-Apodized4.5mm1614%48%D/19%I/19%N1.75D,3.5D0μm1.4656レースカットRayacryl親水性6.0D-30.0D(0.5Dstep)AlconSN6AD12blazed,Apodized3.6mm915.6%58.9%D/25.5%N3.0D-0.1μm1.5539キャストモールディング疎水性6.0D-30.0D(0.5Dstep)AlconActivefocus:SV25T2blazed,Apodized3.4mm712.6%69.4%D/18%I2.5D-0.2μm1.5539キャストモールディング疎水性6.0D-30.0D(0.5Dstep)AlconPanOptix:TFNT3blazed,Non-Apodized(ENLIGHTEN)4.5mm1512.0%44%D/22%I/22%N2.17D/3.25D-0.1μm1.5539キャストモールディング疎水性6.0D-30.0D(0.5Dstep)VSYBiotechnologyAcrivaTrinova3binary,sinusoi-dalfull1510%31%D/28%I/31%N1.5D/3.0D-0.165μm1.4658レースカット親水性疎水性表面0.0D-32.0D(0.5Dstep)Johnson&JohnsonZKB002blazed,Non-Apodizedfull1519%41.5%D/41.5%N2.75D-0.27μm1.4755クライオレースカット疎水性アクリル5.0D-30.0D(0.5Dstep)Johnson&JohnsonZLB002blazed,Non-Apodizedfull1819%41.5%D/41.5%N3.25D-0.27μm1.4755クライオレースカット疎水性アクリル5.0D-30.0D(0.5Dstep)Johnson&JohnsonZMB002blazed,Non-Apodizedfull2219%41.5%D/41.5%N4.0D-0.27μm1.4755クライオレースカット疎水性アクリル5.0D-30.0D(0.5Dstep)Johnson&JohnsonSymfony:ZXR00V2blazed,ApodizedEDoFfull98%92%D.I1.75D-0.27μm1.4755クライオレースカット疎水性アクリル5.0D-30.0D(0.5Dstep)■nonGlare■Glare図1コントラストスコアが高いほどコントラストは高い.全体比較のための参考値として.EDoFが高く,高加入IOLは低い傾向にある.80706050403020100H3H2H1■H1■H2■H3■なし図2ハローのタイプIOLによってハローの種類が異なるのがわかる.IC-8,MW,LCは約半数がハロー自体を自覚していない.HaloGlare803025602040151020500■size■intensity■size■intensity図3グレア,ハローのサイズと強度基本的にサイズと強度は同程度であることが多い.ハローがもっとも強いのはRAOで,グレアがもっとも強いのはPodFという結果であった.ablogMARlogMAR-0.15-0.15-0.1-0.05-0.0500.050.050.10.150.150.250.20.250.350.30.350.455m1m70cm50cm40cm30cm5m1m70cm50cm40cm30cm─ZKBbi─ZLBbi─ZXRbi─ZLB&ZXR─D1&SV25─SNAD1Bi─SV25Bi図4ブレンドビジョンa:ZLBとZXRのブレンド.b:SN6AD1とSV25Tのブレンド.両者とも30cmの視力は高加入IOL両眼視よりは悪いが,40cm付近までの視力は中間の落ち込みも軽減され良好な明視域となる.40cmまでの明視域を獲得する手法である.両方の組み合わせとも,両眼加算コントラストは,EDoF両眼よりは若干不良ではあるが,それに近いコントラストを得ることができるのもメリットである.デメリットは左右差,立体視,ハローの残存,両眼移植の場合のみ施行可能なことである.IVSymfony(ZXR00V)回折型(di.ractive)格子をもったレンズは色収差を補正する.従来の回折型多焦点IOLでもある程度は補正されていた.しかし,遠方の焦点は屈折型(refrac-tive)にて焦点を作っていたrefractive-di.ractiveIOLということになる.Symfonyは回折ステップを約2.5倍深くすることにより,0次光がなくなり,すべての光を回折させ,一次光,二次光の両方がdi.ractiveになっている,di.ractive-di.ractiveIOLとなる.回折ステップは2種類になっており,中心の3ringは深く,遠方,中間両方にバランスよく光が配分されるが,残りの6ringは浅く,遠方重視となり,中間へのパワーは少ない.赤,緑,青の焦点が異なっており,とくに特徴的なこととして,青色光は中間に焦点をもち,遠方には焦点をもたない.逆に赤色光は遠方に焦点をもち,中間には焦点をほとんどもたない.つまり,光の波長(色)により非対称性のエネルギー効率となっている1).1.メリットTECNISプラットフォームは球面収差,素材,レンズの透明性,IOLデザインなどがもっとも眼科医に好まれるものである.色収差補正による遠方コントラストが非常に良好である.遠方から70cmまでの視力は全レンズのなかで一番良好である.瞳孔の小さい高齢者でも遠方視力が出やすい傾向がある.2.デメリット特徴的なスターバーストを伴ったハローが強く,夜間運転が多い患者には不向きである.近方視力が不良であるため,単独よりもブレンドビジョンなどで使用するほうがより有効であると考えられる.若年者ではハロー,近方視力不足を訴えやすい傾向がある.VMiniWellReady(MW)世界初のEDoFIOLで,一つのIOLの中にプラスとマイナスの球面収差をもったウェーブフロントカスタマイズEDoFIOLである2).IOLオプティカルゾーンは3ゾーンに分割されており,中央とその周辺のゾーンは異なる球面収差をもった領域となっている.最周辺のゾーンは単焦点となっている.瞳孔依存性の強いオプティカルデザインであることが考えられ,中央部は中近,周辺部は遠となっている.瞳孔は近見反射によって縮瞳し,遠方視には縮瞳は解除され散瞳する.瞳孔は固定ではなく絶えず動いており,瞳孔の運動ともにフォーカスが移動し,それにより全焦点性(polyfocality)を実現している.つまり,瞳孔運動量の大きい若い患者がとてもよい適応となる.従来型多焦点IOLで問題となるグレア,ハロー,単眼複視などがほとんどないといっても過言ではない.筆者はとくに若年者(30代まで)の白内障症例に用いることが多い.レンズの長径が小さいため水晶体.拡張リング(capsulartensionring)の併用が推奨される.1.メリット従来型多焦点で問題となるグレア,ハロー,単眼複視などがほとんどないといっても過言ではない.夜間遠方視には単焦点と同等の視機能を得る可能性がある.2.デメリット加入の割に近方エネルギーは少なく,近方視力は弱い.瞳孔依存性が高く,小瞳孔眼では近方加入部分の露出比率が高くなり,近視化する.レンズ長径が小さいためcapsulartensionring併用が推奨される.VIIC.8単焦点IOLの中心に,ナノ粒子の炭素(カーボン)を入れたポリフッ化ビニリデン(PVDF)製で開口部(aperture)に1.36mmのマスクが入ることで,眼内入射光の開口を小さくして,焦点深度を深くすることができている(図2).開口が小さいため集光する光はより鋭角となる.焦点から前後の部分もデフォーカスが少なく(29)あたらしい眼科Vol.36,No.12,20191505図5IC.8移植眼の視野a,c:術前の視野.b,d:IC8移植後も視野欠損は認めない.abD0.80.6-0.20.4-0.40.2-0.601W-SRK/T1M-SRK/T3M-SRK/T-0.2─LC─SV25T─W-60─ZXR00V60708090年齢図6自覚屈折変化,矯正視力と年齢の関係a:術後C1.3週にかけての自覚屈折変化.Cb:矯正視力と年齢の相関.a少数視力1.31.10.90.70.50.35m1m70cm50cm40cm30cm─IC-8─LC─MW─SV25T─ZXR00Vb少数視力1.31.21.11.00.90.80.70.60.50.40.35m1m70cm50cm40cm30cm─PodF─RAO─TFNT─Trinova図7EDoFと三焦点IOLの全距離視力a:EDoFIOL矯正全距離視力.Cb:三焦点CIOL矯正全距離視力.=が,コントラストがやや不良で,グレア,ハローが比較的出やすい.アポダイズド回折であるために,暗所での近方視力は弱くなる.今回は紹介をしていないが,遠方色収差補正を行ったCPodLGFというモデルが登場しており,視力,コントラストの改善が期待される.全体として平均的な視機能で,大きく当たることもないが,大ハズレもしないCIOLである印象である.CXIRayOne(RAO)Binaryを採用したCIOLである.特徴は回折格子数が少なくてすむために,製造リスクが減り,理論に近いIOLの作製が可能で,比較的コントラストが良好である.C1.メリット遠方コントラストが比較的良好で,近方コントラストも良好である可能性が考えられ,数字以上に日常近方作業には満足が得られやすい.インジェクターが非常に優秀でレンズはプリロードで,必要切開創も小さくて可能で,2.0Cmm角膜切開でも移植可能である.今回は紹介していないが,addonレンズとして,sulco.exという同じ三焦点CIOLがあり,単焦点から多焦点へアップグレードさせることが可能となっている.C2.デメリット遠方軸上色収差は増加することになるが,もともと人眼には大きな色収差が存在しているため,それを強く自覚する患者はいない.回折格子スムージングを行っていないため回折効率は高いが,グレア,ハローが現存する回折レンズのなかでもっとも強く大きい.また,逆光に弱く,グレアコントラストも不良となるのが特徴である.夜間作業がない患者には良好な結果を得やすいと考えられる.CXIIAcrivaTrinova正弦波回折を採用したCIOLである.回折エッジが立っていないため,くっきりとしたCH2ハローよりはモヤッとしたCH1タイプハローであるのが特徴である.メーカー公表値では光学的ロスはC8%と非常に低値である.1.メリット三焦点のなかでは比較的ハローのサイズ,強度が弱く,夜間運転も問題なく行える程度である.視力としても遠方からC70Ccm程度までを得意とし,その距離で満足される場合は非常に良好な結果が得られやすい.遠方から中間,夜間を重視とした患者にはとてもよいCIOLと考えられる.C2.デメリット近方視力が弱く,SV25Tと同程度の視力曲線であり,眼鏡の必要を術前に患者に理解してもらう必要がある.遠方軸上色収差は増加するが,患者からそのような訴えがあったことはない.CXIIIPanOptix四焦点CIOLを作製し,その一次回折を遠方重視に再配分することにより三焦点としたとてもユニークなCIOLである.アポダイズド回折は採用できず,4.5Cmmまでフル回折となっている.三焦点CIOLのなかで唯一キャストモールディング製法であり,回折格子の面精度,レンズの度数のバラツキ,レンズ製造のバラツキがもっとも少ないと考えられ,それが最大のアドバンテージであると考えられる.C1.メリット三焦点CIOL,3.25D加入でありながら,EDoFに迫るコントラストを実現できており,非常に用いやすい印象である.40Ccmまでの視力は良好であるが,30Ccmは若干厳しい.アクリソフマテリアルであるために固定性がよく,回旋が少ない.レンズが柔らかいため取り扱いも容易である.C2.デメリットハローはCSN6AD1よりも大きく,グレアも大きい.最大のデメリットはアクリソフマテリアルを採用している点である.アクリソフは.との癒着も強くなるためレンズ摘出に不適で,摘出する必要が出た際には.の損傷の覚悟が必要となる.グリスニングは減ったとしてもまだ存在し,新しい素材への移行が切に望まれる.(33)あたらしい眼科Vol.36,No.12,2019C1509