‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

局所麻酔下涙囊鼻腔吻合術鼻外法の疼痛管理と術後アンケート調査

2019年11月30日 土曜日

《第7回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科36(11):1437.1440,2019c局所麻酔下涙.鼻腔吻合術鼻外法の疼痛管理と術後アンケート調査城下哲夫*1,2城下ひろ子*2栗原秀行*1*1栗原眼科病院*2城下医院CPainManagementandQuestionnaireSurveyofExternalDacryocystorhinostomyunderLocalAnesthesiaTetsuoJoshita1,2)C,HirokoJoshita2)andHideyukiKurihara1)1)KuriharaEye-Hospital,2)JoshitaClinicC目的:局所麻酔下での涙.鼻腔吻合術鼻外法(externaldacryocystorhinostomy:ExDCR)の疼痛管理および手術満足度についてのアンケート調査を検討した.方法・対象:同一術者による局所麻酔下でCExDCRを施行した症例のうち,術後アンケート調査を行えたC33例C40眼(男性C8例,女性C25例,平均年齢C67.2歳,術後平均経過観察期間C26.0カ月)についてアンケート調査をした結果を検討した.結果:痛くなかったと答えた症例(以下無痛群)は全体のC57.5%であった(アセトアミノフェン投与群C17眼でC58.8%,非投与群C23眼でC56.5%).手術をしてよかったと答えた症例はC80.0%であった.結論:アセトアミノフェンは副作用も少なく,術中疼痛管理として選択しやすい.他の鎮痛薬や鎮静剤の併用など今後さらなる疼痛管理の方法の検討が必要ではあるが,局所麻酔下でのCExDCRは有用であると考えられた.CPurpose:ToCconductCaCquestionnaireCsurveyCofCpatientsCregardingCintraoperativeCdiscomfortCandCpostopera-tiveCsatisfactionCafterCundergoingCexternaldacryocystorhinostomy(ExDCR)C.CMethods:ThisCstudyCinvolvedC40Ceyesof33patients(8males,25females)whounderwentExDCRbyasinglesurgeon.Inallpatients,thesurgerywasperformedusinglocalanesthesia,withorwithoutpreoperativeadministrationofacetaminophen.Results:Ofthe40treatedeyes,thepatientsreportedexperiencingnopainin23(57.5%)eyes(58.8%incaseswithapreoper-ativeadministrationofacetaminophenand56.5%incaseswithoutit)C.32(80%)eyesreportedsatisfactionafterthesurgery.Conclusion:TheresultsofourquestionnairesurveyrevealedthatExDCRcanbewellperformedunderlocalanesthesia.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(11):1437.1440,C2019〕Keywords:涙.鼻腔吻合術(鼻外法),局所麻酔,鼻涙管閉塞症,アセトアミノフェン静注,術中疼痛.externalCdacryocystorhinostomy,localanesthesia,nasolacrimalductobstruction,intravenousinjectionofacetaminophen,in-traoperativepain.Cはじめに涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)は慢性涙.炎,鼻涙管閉塞症,涙小管閉塞などの治療として有効な術式と評されている.骨窓形成などを必要とするため手術侵襲が大きいという印象があるが,適切な麻酔法を行うことで局所麻酔下での手術は十分可能であり,70%以上の症例で疼痛の訴えがなかったという報告がある1.4).また,発症から長期経過した症例においては涙管チューブ挿入術に対して有意に治療成績がよいともされている5).今回筆者らは,局所麻酔下での涙.鼻腔吻合術鼻外法(externaldacryocystorhinostomy:ExDCR)の術中疼痛管理および術後成績について,術後アンケート調査による検討を行ったので報告する.〔別刷請求先〕城下哲夫:〒348-0045埼玉県羽生市下岩瀬C289栗原眼科病院Reprintrequests:TetsuoJoshita,M.D.,KuriharaEyeHospital,289Shimoiwase,Hanyu-shi,Saitama348-0045,JAPANC0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(95)C1437I対象および方法対象は,2013年C10月.2018年C5月に,栗原眼科病院および城下医院にて同一術者により局所麻酔下でCExDCRを施行したC58例C66眼中,術後アンケート調査を行えたC33例C40眼(男性C8例,女性C25例,平均年齢C67.2歳,術後平均経過観察期間C26.0カ月).術式は全例CExDCRでシリコーンチューブ留置を併用した.術直前にC0.1%ボスミンCR,4%キシロカインCR溶液に浸したタンポン長尺ガーゼを鼻腔内に挿入し,2%キシロカインER5Cmlによる内眼角,下眼瞼皮下への局所浸潤麻酔と滑車下神経麻酔を行った.内眼角と鼻梁中心線を結ぶ中点から下方約15°耳側に向かいC12.13mmの皮切をおき,栗原式開創器で術野を広げた.内眼角靭帯下方を.離していき前涙.稜と涙.を骨膜ごと.離した.前涙.稜を栗原式丸ノミ(3Cmm)と槌で削開し,約C12x12Cmmの骨窓を作製した.つぎに涙.をスプリング剪刀で切開して涙.粘膜前弁を作製し,上下涙点からシリコーンチューブ(ニデックCPFカテーテルRまたはカネカメディックス社CLACRIFASTEXショートR)を挿入して,4-0絹糸で結紮した.続いて鼻粘膜を外科用替刃メスでコの字型に切開し,鼻粘膜前弁を作製した.この際,鼻腔内に見えるタンポンガーゼは一部引き出し切除した.シリコーンチューブを鼻粘膜フラップ内に通し鼻腔内に挿入し,涙.前弁と鼻粘膜前弁をC6-0吸収糸でC2糸縫合した(one.ap法).皮下組織をC6-0吸収糸でC2糸縫合し,皮膚切開創はC7-0ナイロン糸で端々縫合した.17眼には術直前からアセトアミノフェン(アセリオCR)1,000Cmgを静注した.術後最終診察時(平均術後期間C26.0カ月)に,術中の疼痛,術前術中の恐怖,術後の満足度,手術の創痕に対する感想を表1術後通水テスト結果Pass+34/40(C85.0)CPass±4/40(C10.0)CPass.2/40(C5.0)眼(%)表3術中の疼痛(アセリオR併用との比較)アンケート調査し,その結果を検討した.加えて術後の疼痛に関して,全身麻酔の症例も含め入院中の記録を確認できたC53例C58眼について,アセリオCR静注併用の有無で術後疼痛の訴えの有無を比較検討した.術中の疼痛に対するアンケート結果および術後の疼痛については,Fisherの正確検定(片側検定)によって解析した.CII結果1.手.術.成.績平均術後期間C26.0カ月での通水テストで良好に改善した手術成功例(Pass+)はC40眼中C34眼(85.0%),通水テスト不良例(PassC.)はC2眼(5.0%),通水テスト時に逆流が認められ,通水が曖昧な症例(PassC±)はC4眼(10.0%)であった(表1).通水良好でないC6眼のうちC4眼は急性涙.炎後の症例であった.再手術を要した症例はC2眼で,そのうちC1眼(50%)は手術成功であった.C2.術後アンケート調査対象期間中に局所麻酔下でCExDCRを施行したC58例C66眼中,術後アンケート調査を行えたのはC33例C40眼であった.アンケート内容は,表2,3,5~7のとおりである.Ca.術中の疼痛無痛群はC40眼中C23眼(57.5%)であり,とても痛かったと答えた症例はC4眼(10%)であった(表2).40眼中C17眼にアセリオRの静注を併用した.そのC17眼中無痛群はC17眼中C10眼(58.8%)(p=0.5714)であった(表3).平均手術時間は疼痛群と無痛群でそれぞれC61.6分とC59.2分で差はなかった.b.術後の疼痛術後疼痛を訴えなかった症例は,アセリオCRの静注を併用した群ではC21眼中C17眼(81.0%)(p=0.0089<0.01)であ表2術中の疼痛とても痛かった4/40(C10.0)痛かった13/40(C32.5)痛くなかった23/40(C57.5)眼(%)表4術後の疼痛(アセリオR併用との比較)アセリオR群17/40(C42.5)アセリオR非使用群23/40(C57.5)とても痛かった0/17(C0)4/23(C17.4)痛かった7/17(C41.2)6/23(C26.1)痛くなかった10/17(C58.8)13/23(C56.5)術後疼痛の訴えなし術後疼痛の訴えあり(鎮痛薬不使用)(鎮痛薬使用)アセリオR群21眼17/21(C81.0**)4/21(C19.0)アセリオR非使用群37眼17/37(C45.9)20/37(C54.1)C眼(%)Cp=0.0089(p<0.01)眼(%)1438あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019(96)表5術前術中の恐怖表6術後の満足度表7皮膚創の瘢痕についてとても怖かった2/40(C5.0)怖かった17/40(C42.5)怖くなかった21/40(C52.5)満足32/40(C80.0)どちらでもない5/40(C12.5)不満3/40(C7.5)気になる0/34(C0)少し気になる2/34(C5.9)気にならない32/34(C94.1)眼(%)った(表4).Cc.術前術中の恐怖怖くなかったと答えた症例はC40眼中C21眼で,とても怖かったと答えた症例はC2眼であった.恐怖を感じた症例の約90%が女性であった(表5).d.術後の満足度術後結果に満足と答えた症例はC40眼中C32眼(80%)で,不満と答えた症例はC3眼(7.5%)であった.不満の原因は術後通水テスト不良で症状の改善が得られないことであった(表6).Ce.皮膚創の瘢痕について皮膚創の瘢痕についてのアンケートは,40眼中C6眼は回答が得られず,34眼のみ回答を得られた.そのうちC32眼(94.1%)は気にならないと答え,気になると答えた症例はなかった(表7).CIII考按DCRの成功率は,82.1.100%ともいわれている1.8).今回の結果では,成功例はC40眼中C34眼(85.0%)であった.アンケートを取れなかった症例も含めた全C66眼で検討してもC58眼(87.9%)であり,既報よりやや低い印象であった.骨窓の大きさをより大きくするなどの工夫が今後の課題となると思われるが,平均経過観察期間がC26.0カ月と長期であることを考慮すると今回の成功率は納得のいくものであると考える.術中の疼痛管理に関しては,2%キシロカインCECR5Cmlによる内眼角,下眼瞼皮下の局所浸潤麻酔と滑車下神経麻酔を全例に行った9).疼痛の訴えは涙.切開時と骨窓作製時に生じることが多いが,今回の検討では,無痛群の割合はC57.5%で,痛みを訴えた症例のうちC76.5%は自制内に留まるものであった.また,アセリオCRを併用することにより痛みを訴えない症例はC58.8%に増加し,痛みを訴えた症例も全例が自制内に留まった.今回の検討では術中の疼痛に関しては有意差は出なかったが,術後の疼痛の訴えはアセリオCRの併用で有意に減少した.今後は術直前ではなく術C1時間前などから事前投与することで,より効果的な術中の疼痛緩和効果が期待できると思われた.アセリオCRは鎮静薬特有の呼吸抑制や血圧低下などの重篤な副作用が少なく,ExDCRの疼痛管理としては使いやすいと考えられた.ただし,過剰投与と眼(%)眼(%)肝障害,アスピリン喘息の有無などには注意が必要である.術前術中の恐怖感については,骨窓を作製する手術の性質上,術前の恐怖は避けられないと思われる.術中の恐怖の多くは槌とノミを使用する際の音と衝撃によるものであろう.これについてはドリルを使用して骨を掘削することである程度緩和できる可能性があり,筆者らは現在ドリルの使用も取り入れているところである.皮膚創の瘢痕については,94.1%の症例で気にならないという結果が得られた.少し気になると答えたC2例中C1例は術後観察期間C2カ月であったことも考慮すると,ある程度長期にみれば創痕はほぼC100%気にならなくなる.これを患者に事前に伝えることで術前の不安を軽減することはできる.DCRには鼻内法と鼻外法があり,それぞれの利点がある.術後成績に関しては統計学的には差はないものの鼻外法優位の傾向がある8).鼻内法は皮膚切開が不要である利点があるが,鼻内視鏡の技術が必要であり,侵襲が大きく全身麻酔やコカインの使用を要するため,設備コストやラーニングカーブの問題が欠点となる.一方,鼻外法では局所麻酔で手術が十分可能であることが利点であり,今回の研究でアセトアミノフェンの使用でその利点が高まることがわかった.また,皮膚の切開瘢痕についても気になる患者は少ない結果であったので,手術に慣れた術者にとっては欠点の少ない術式であるといえる.高齢者や全身状態に不安がある症例など,全身麻酔を避けたい状況は多々ある.局所麻酔下のCExDCRはそのような状況下においても適応に大きく影響されることなく選択できる手術であるといえる.ExDCRは局所麻酔下で十分に施行可能であり,高い成功率と満足度を得られる有用な術式である.さらに鎮痛薬の全身投与を併用することでより幅広い症例に対応できる.文献1)阿部恵子,林振民,中村昌弘ほか:涙.鼻腔吻合術(DCR)の手術成績とアンケート調査.眼科手術15:133-140,C20022)大川みどり,栗原秀行:栗原眼科病院における過去C12年間の涙.鼻腔吻合術(DCR)術後成績.日眼紀C48:281-285,C19973)河本旭,嘉陽宗光,矢部比呂夫:涙.鼻腔吻合術を施行した高齢者C83例の手術成績.あたらしい眼科23:917-920,C20064)中島未央,後藤聡,小原由実ほか:涙.鼻腔吻合術の適(97)あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019C1439応と手術成績.臨眼紀4:650-6527)後藤聡:涙.鼻腔吻合術鼻外法.眼科58:821-828,C20165)加藤愛,矢部比呂夫:涙.鼻腔吻合術における閉塞部位8)鈴木亨:DCR:鼻外法vs鼻内法.臨眼71:226-230,別の術後成績.眼科手術21:265-268,C2008C20176)OzerS,OzerPA:Endoscopicvsexternaldacryocystorhi-9)栗原秀行:涙.鼻腔吻合術の術中トラブルと対処.1.術前Cnostomy-comparisonfromthepatients’aspect.IntJOph-準備─麻酔と出血対策.臨眼C51:1028-1030,C1997CthalmolC7:689-696,C2014***1440あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019(98)

基礎研究コラム 30.マイクログリア

2019年11月30日 土曜日

マイクログリア普段私たちは,網膜硝子体疾患の診察をするときには視細胞やCMuller細胞の存在を,緑内障診療をするときには網膜神経節細胞の存在を意識していると思います.ですが,マイクログリアの存在を意識しながら診療を行っている先生はまだ少ないのではないかと思います.筆者は加齢黄斑変性での出血病変やドルーゼンなどの沈着物,緑内障での乳頭出血などを診たときには,それら網膜内の異物を貪食除去するために遊走してくるマイクログリアの存在を強く意識し,過剰炎症に伴う細胞死が生じることを予測しています.当コラムではマイクログリアに対する現状の理解や,未来の可能性に対して述べます.マイクログリアの起源と役割マイクログリアは胎生期に卵黄.より胎児体内に侵入したprimitiveCmacrophageが起源とされています.血管の生成に伴いCprimitiveCmacrophageは血流に入り,硝子体より網膜内へ侵入します(residentmicroglia:在住マイクログリア)1).マイクログリアのように組織内を監視する貪食細胞を“在住マクロファージ”とよびます.似て非なる細胞にマクロファージがあります.マクロファージは血流をモノサイトとして移動しており,組織での感染や炎症を感知するとマクロファージへと形質転換し組織内へと侵入してきます(健康な網膜は血液網膜関門が存在していますので,マクロファージは侵入してこないと考えられます).異物や老廃物を貪食したマクロファージは速やかに抗原提示を行い,自身は死滅していく短寿命な細胞です.一方,マイクログリアは網膜内に長く生存し続け,自身で自己増殖を繰り返し,生涯にわたり網膜内を監視し続けるClongClivingcellです.健康な網膜においてマイクログリアは神経保護,抗炎症因子を産生しながら網膜内を監視し,障害を受けた細胞や老廃物を適切に貪食除去することで,網膜内での発癌や自己免疫の発生を抑制する働きがあるとされています.マイクログリアは痛図1Merk遺伝子欠損により網膜変性を発症し,ケモカインレセプターであるCx3cr1にGFPを,Ccr2にRFPを発現しているMertk-.-Cx3cr1GFP.+Ccr2RFP.+マウスの網膜フラットマウント像a:網膜変性発症前の網膜フラットマウント.放射状に突起を進展した休止状態のマイクログリアを認め,Cx3cr1単陽性であることがわかる.Cb:網膜変性重症期の網膜フラットマウント.Cx3cr1陽性マイクログリアはアメーバ状に形質変換している.活性化マイクログリアの所見である.同時にCCcr2陽性の細胞が侵入してきており,血液網膜関門破綻により網膜内へ侵入してきたモノサイト由来のマクロファージであると考えられる.(文献C3より転載)神野英生東京慈恵会医科大学眼科学講座みの伝達など,炎症細胞として以外の機能を有しているようで,現在世界中で盛んに研究が行われています.マイクログリアと網膜疾患の関与マイクログリアとさまざまな網膜疾患の関連性が基礎実験やヒト剖検眼により示唆されています.たとえば,網膜色素変性における視細胞死の促進にマイクログリア由来の炎症が関与していると推察されます.その機序については不明な点がまだまだ多いのですが,筆者らは「①視細胞が遺伝的要因に伴い障害を受ける,②障害を受けた視細胞をマイクログリアや網膜色素上皮細胞が貪食除去する際に,過剰な炎症状態が網膜内に生じる,③炎症に伴い細胞死のシグナルが視細胞において誘導され,二次的に視細胞死の加速が生じる,④死滅した視細胞をさらにマイクログリアが貪食し,炎症に伴う細胞死のサイクルが活性化され,やがて広範囲な視細胞死を伴う網膜菲薄化が生じる」と提唱しました2).マイクログリア由来の炎症をうまくコントロールすることが未来の視細胞保護治療へと結びつくと考えられます.また将来,iPS細胞由来視細胞移植などが始まった場合には,移植細胞生着のためにマイクログリア由来の炎症をどのようにコントロールするのかが治療成績に大きく影響すると予想されます.文献1)JinCN,CGaoCL,CFanCXCetal:FriendCorCfoe?CResidentCmicrogliaCvsCboneCmarrow-derivedCmicrogliaCandCtheirCrolesintheretinaldegeneration.MolNeurobiolC54:4094-4112,C20172)KohnoCH,CChenCY,CKevanyCBMCetal:PhotoreceptorCpro-teinsCinitiateCmicroglialCactivationCviaCToll-likeCreceptorC4CinCretinalCdegenerationCmediatedCbyCall-trans-retinal.CJBiolChem288:15326-15341,C20133)KohnoCH,CKosoCH,COkanoCKCetal:ExpressionCpatternCofCCcr2CandCCx3cr1CinCinheritedCretinalCdegeneration.CJNeuroin.ammation12:188,C2015緑:Cx3cr1-GFP赤:Ccr2-RFP(89)あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019C14310910-1810/19/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス 198.糖尿病網膜症の硝子体手術後に生じる血管新生黄斑症(初級編)

2019年11月30日 土曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載198198糖尿病網膜症の硝子体手術後に生じる血管新生黄斑症(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに糖尿病網膜症に脈絡膜新生血管を合併することは比較的まれである1)が,最近わが国ではこのような症例がいくつか報告されている2~4).筆者らも,糖尿病網膜症に対する硝子体手術後に黄斑部に硬性白斑を集積し,その後に脈絡膜新生血管を併発した症例を経験し報告したことがある5).●症例症例1:63歳,男性.両眼の糖尿病黄斑浮腫と硝子体出血に対して硝子体手術を施行した.左眼は術後硝子体出血を繰り返したため再手術を施行した.この時点で矯正視力は右眼0.4,左眼は中心窩硬性白斑集積のため0.05であった.その3年後,左眼に脈絡膜新生血管に起因する黄斑部網膜下出血をきたした.当時は抗VEGF療法の普及前で,患者が積極的な治療を希望しなかったため,そのまま経過観察にとどめた.現在は瘢痕病巣のため矯正視力は0.01にとどまっている(図1).症例2:60歳,男性.両眼の糖尿病黄斑浮腫に対して薬物療法を施行したが効果に乏しく,両眼に硝子体手術を施行した.術後両眼とも視力は若干改善したが,右眼はその後黄斑部に硬性白斑の集積を認めた.術1年後,右眼に脈絡膜新生血管に起因する黄斑部網膜下出血認めた.症例1と同様に患者が積極的な治療を希望しなかったため,そのまま経過観察にとどめた.出血は徐々に消退したが,視力は0.06にとどまっている(図2).●糖尿病網膜症の硝子体手術後に生じる脈絡膜新生血管糖尿病網膜症に脈絡膜新生血管が発生する機序として,脈絡膜虚血,局所的脈絡膜血管障害,糖尿病黄斑症による網膜色素上皮障害,加齢黄斑変性症の合併などが指摘されている2).糖尿病網膜症と加齢黄斑変性は両方とも発症頻度が高い疾患なので,単にこの2疾患が合併図1症例1の経過硝子体手術前後で黄斑部硬性白斑が増加しており(a,b),黄斑部網膜下出血をきたした(c).出血は自然吸収したが瘢痕病巣を残した(d).図2症例2の経過硝子体手術前後で黄斑浮腫および黄斑部硬性白斑が増加しており(a,b),脈絡膜新生血管が生じた(c,d).することも考えられるが,糖尿病は加齢黄斑変性症の危険因子とされている.また,びまん性糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術後に黄斑部への硬性白斑集積が生じることはよく知られているが,硬性白斑を貪食するために集まってきたマクロファージが血管内皮増殖因子(VEGF)などのサイトカインを放出することが脈絡膜新生血管発生の誘因となっている可能性も考えられる5).高木らは硝子体手術時に摘出した黄斑部網膜下の硬性白斑に著明なVEGFの発現を認めたと報告している6).糖尿病網膜症の硝子体手術後に黄斑部硬性白斑集積を認める症例は血管新生黄斑症を発症する可能性があり,より注意深い眼底の経過観察が必要と考えられる.文献1)HenkindP:Ocularneovascularization.TheKrillmemoriallecture.AmJOphthalmol85:287-301,19782)奥芝詩子,竹田宗泰,今泉寛子:糖尿病網膜症に脈絡膜新生血管を伴った15例.眼紀47:171-178,19963)岡本知子,岡本紀夫,三村治:長期間経過観察することができた糖尿病網膜症に脈絡膜新生血管を合併した1例.眼臨医報101:585-588,20074)中尾陽子,小林かおり,小林博ほか:糖尿病網膜症に併発した脈絡膜新生血管膜の免疫組織学的検討.眼臨医報97:249-252,20035)北垣尚邦,荻田小夜子,宮本麻起子ほか:糖尿病網膜症に合併した脈絡膜新生血管の2例.あたらしい眼科28:1468-1472,20116)高木均,大谷篤志,小椋祐一郎:眼科図譜糖尿病黄斑症における中心窩硬性白斑の組織学的検討.臨眼52:16-18,1998(87)あたらしい眼科Vol.36,No.11,201914290910-1810/19/\100/頁/JCOPY

眼瞼・結膜:乳児血管腫の病態と治療

2019年11月30日 土曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人田邉美香56.乳児血管腫の病態と治療九州大学大学院医学研究院眼科学分野乳児血管腫は乳幼児期に頻度の高い脈管性腫瘍であり,臨床的には赤色斑や青色の皮下腫瘤として触知し,眼部では弱視の原因になることがある.病理組織像は増殖活性のある内皮細胞の像であり,免疫染色であるGLUT-1が陽性となる.治療は非選択的Cb遮断薬であるプロプラノロールが第一選択薬である.●乳児血管腫とは乳児血管腫とは乳幼児期にもっとも頻度の高い良性の脈管性腫瘍であり,日本における乳児血管腫の有症率は出生児のうちC1.7%1)とされている.男女比は男:女=1:3~92)と女児に多く,発症部位は頭頸部がC60%,体幹C25%,四肢C15%とされるが,全身どこにでもできる可能性があり,内臓に発症する場合もある.血管内皮細胞が腫瘍性に増殖し,アポトーシスにより自然退縮するため2),一般的には生後C5.5~7.5週で急速増大し3),生後C5カ月までにピーク時のC80%の大きさに達する4).1歳を過ぎるころには増大傾向を失い,大部分はC5歳頃までに自然消退する(図1)が,未治療の場合,24.8~68.6%に瘢痕などの後遺症が残る5,6)ことが報告されており,またこの時期がちょうど視覚発達時期と合致するため,治療のタイミングを逃してはならない.C●血管性病変の分類乳児血管腫は,これまで一般に「いちご状血管腫」とよばれてきた疾患である.近年,「血管腫」「リンパ管腫」「血管性母斑」などと呼称されてきた脈管病変に関する根本的で体系的な分類として,InternationalCSocietyCforCtheCStudyCofVascular(ISSVA)分類が国際的に標準化されつつある2).ISSVA分類は国際血管腫・血管奇形学会のホームページ(http://www.issva.org/User-Files/.le/ISSVA-Classi.cation-2018.pdf)から閲覧可能である.それによると,血管内皮細胞の腫瘍性増殖があるものを「vasculartumor:管腫または血管性腫瘍」とし,血管内皮細胞の腫瘍性増殖がないものを「vascularCmal-formation:血管奇形あるいは血管形成異常」と分類する.乳児血管腫はCISSVA分類では「vasculartumors」>「Benign」に分類される.(85)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1乳児血管腫の経過図2乳児血管腫の臨床分類境界明瞭な赤色斑が認められる表在型(Ca)と,皮下に弾性でやや硬い境界が比較的明瞭な腫瘤として触知される深在型(Cb)に分類される.(a:マルホ株式会社提供)C●乳児血管腫の臨床像乳児血管腫は,欧米では表在型(super.cialtype)・深在型(deeptype)および混合型(mixedtype)といった臨床分類が一般的だが,わが国ではおもに局面型,腫瘤型,皮下型に分類される.表在型(図2a)は血管拡張や発赤といった初期症状ののち早期に隆起し,境界明瞭な赤色斑が認められる.弾性でやや硬く境界が比較的明瞭な一塊の腫瘤として触知され,擦過により容易に皮膚潰瘍化し,感染や出血がみられることがある.深在型(図2b)は,表面に皮膚病変がないため赤色斑や熱感はなく,弾性でやや硬い境界が比較的明瞭な腫瘤として触知される.あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019C1427図3乳児血管腫のマクロ像ピンク色の柔らかい腫瘤であり,生検時も出血は少量であった.乳児血管腫は増殖性があることが特徴であり,過去C1~2週間と比較して腫瘤が増大しているか,また,1~2週間の経過観察を経て増殖性があるかどうかを確認する.また,局面型の場合は毛細血管奇形など,皮下型の場合はリンパ管奇形など,類似した病変を呈する血管奇形と鑑別することが重要である.C●乳児血管腫の病理乳児血管腫のマクロ像はピンク色の柔らかい腫瘤である(図3).組織像は毛細血管腫に類似しており,卵円形ないし曲玉状の血管内皮様細胞が密に増殖しており,増殖活性のある内皮細胞の像である(図4).血管の受動的拡張からなる海綿状血管腫とはまったく異なる組織であることがわかる.免疫染色でCGLUT-1陽性であることが乳児血管腫の特徴である.C●乳児血管腫の治療プロプラノロールは非選択的Cb遮断薬で,古くから高血圧,狭心症,不整脈などの治療薬として使用されていた.プロプラノロールの乳児血管腫に対する有用性は,ボルドー大学のCLeaute-Labrezeらが,乳児血管腫を合併する肥大型閉塞性心筋症患者にプロプラノロールを使用したことをきっかけに偶然発見され,2008年に論文報告されたことから広く認知されるようになった7).わが国でもC2016年に乳児血管腫治療薬プロプラノロール塩酸塩のシロップ製剤(商品名:ヘマンジオルシロップ小児用C0.375%)が承認された.「血管腫・血管奇C1428あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019図4乳児血管腫の組織像(HE染色)毛細血管腫に類似しており,卵円形ないし曲玉状の血管内皮様細胞が密に増殖しており,増殖活性のある内皮細胞の像である.形・リンパ管奇形診療ガイドラインC2017」においても,「推奨度:1(行うことを強く推奨する),エビデンス:A(強い)」とされており,乳児血管腫に対して第一選択の薬剤である.しかし,プロプラノロールは低血圧,徐脈,房室ブロック,低血糖,気管支痙攣などの重篤な副作用を生じる可能性があるため,小児科医と連携のうえ,全身状態をモニタリングしながら慎重に投与する必要がある.文献1)HidanoCA,CPurwokoCR,CJitsukawaCKCetal:StatisticalCsur-veyofskinchangesinJapaneseneonates.PediatrDerma-tolC3:140-144,C19862)「難治性血管腫・血管奇形・リンパ管腫・リンパ管腫症および関連疾患についての調査研究」班:血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドラインC20173)TollefsonMM,FriedenIJ:Earlygrowthofinfantilehem-angiomas:whatCparents’CphotographsCtellCus.CPediatricsC130:e314-320,C20124)ChangLC,HaggstromAN,DroletBAetal:Growthchar-acteristicsofinfantilehemangiomas:implicationsforman-agement.PediatricsC122:360-367,C20085)BaselgaCE,CRoeCE,CCoulieCJCetal:RiskCfactorsCforCdegreeCandtypeofsequelaeafterinvolutionofuntreatedheman-giomasCofCinfancy.CJAMACDermatologyC152:1239-1243,C20166)BaulandCCG,CLuningCTH,CSmitCJMCetal:UntreatedChem-angiomas:growthCpatternCandCresidualClesions.CPlastCReconstrSurg127:1643-1648,C20117)Leaute-LabrezeCC,CDumasCdeClaCRoqueCE,CHubicheCTCetal:PropranololCforCsevereChemangiomasCofCinfancy.CNEnglJMed358:2649-2651,C2008(86)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性の抗VEGF療法の抵抗症例

2019年11月30日 土曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二70.加齢黄斑変性の抗VEGF療法の抵抗症例原千佳子大阪大学眼科学教室抗CVEGF薬抵抗症例の中には,当初から効果のないノンレスポンダーと,途中で効果が得られなくなるタキフィラキシー症例があり,それぞれ特徴がある.それらの特徴とその後治療について解説する抗VEGF薬抵抗症例とは現在,加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegenera-tion:AMD)の治療は,抗CVEGF薬の硝子体内注射がおもに行われており,どの臨床試験においてもとても良好な成績が報告されている.しかし,その中に少数ではあるが,抗CVEGF薬投与を行っても,期待するような治療効果の得られない症例(抗CVEGF薬抵抗症例)がある.ノンレスポンダー症例ノンレスポンダーの定義は報告によってさまざまである.どのタイミングで判断するのか,視力改善を基準とするのか,滲出性変化の改善を基準とするのかどうかということである.どれが正解というわけではないが,判断のタイミングについては,タキフィラキシーと区別するため,また視力については,白内障の進行や網膜色素上皮萎縮など,薬剤効果と直接関係のないことが影響している場合も多いため,本稿では,ノンレスポンダーを,「治療開始直後(導入期後)に滲出性変化の改善が得られない症例」と定義する.ノンレスポンダーの判断は,基本的にC3回の導入期投与のあとに行う.1回投与ではあまり効果がないようにみえる症例でも,数回続けて投与することにより効果が得られる症例も多くあり,数回の連続投与は必要である.3回の連続投与を行っても光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)にて滲出性変化の明らかな改善のない症例をノンレスポンダーと診断する(図1左).このようなノンレスポンダー症例は,ラニビズマブでC10~20%1),アフリベルセプトではC5%程度2)あると報告されている.アフリベルセプトノンレスポンダー症例は,視力良好で網膜下高反射物質がなく(つまり出血や網膜色素上皮上の新生血管がなく),脈絡膜血管の透過性亢進所見の強い症例に多かった.その特徴を総合して考えると,最近話題となっているCpachychoC-roidに関連したCAMD(pachychoroidCneovasculopa-(83)ノンレスポンダータキフィラキシー図1ノンレスポンダーとタキフィラキシーのイメージthy:PNV)のような病態が関与している可能性がある.タキフィラキシー症例タキフィラキシーとは薬剤耐性という意味で,治療を繰り返しているうちに薬剤効果が得られにくくなることである.AMD症例は長期間にわたって治療を行う必要があることから,こういった症例に遭遇することもしばしばある.原因としては,①薬剤抗体ができること,②慢性的にCVEGFが抑制されることにより,その他の血管増殖因子が活性化すること,③新生血管内のマクロファージが増殖することでCVEGF濃度が上昇することなどが推測されているが,決定的なことはわかっていない.タキフィラキシーの診断基準も決まったものがあるわけではないが,毎月連続で複数回投与を行ってもOCT上でそれ以上滲出性変化が改善しなくなった場合と定義されていることが多い(図1右).タキフィラキシー症例の特徴としては,網膜色素上皮より下に病変のある症例で,網膜浮腫を伴わないものという報告もあり,病変が網膜色素上皮下に限局しているということであり,薬剤の到達しやすさは原因の一つとしては影響している可能性がある3).抗VEGF薬抵抗症例に対する治療ノンレスポンダー症例の治療についてのみまとめた報告は少ないが,光線力学的療法(photodynamicCthera-py:PDT)は有効であったという報告はある2).ノンレスポンダー症例の特徴(脈絡膜透過性亢進あり)からもあたらしい眼科Vol.36,No.11,2019C14250910-1810/19/\100/頁/JCOPY図21型脈絡膜血管新生(65歳,女性)初診時,網膜下液とフィブリンを認め,抗CVEGF薬C3回投与行うも,網膜下液は悪化したため,抗CVEGF薬併用CPDTを施行し,網膜下液の改善が得られた.初診時のインドシアニングリーン眼底造影検査所見では脈絡膜血管の透過性亢進を認める.PDTが有効である可能性は高いと考えられる(図2).また,薬剤の変更も有効な症例がみられるため,PDTを躊躇するような症例(薄い脈絡膜の症例,大きな網膜色素上皮.離症例,視力良好例など)では,薬剤変更も選択肢となる.タキフィラキシー症例に対する治療は薬剤変更が有効であると報告されており,ベバシズマブに対してタキフィラキシーとなった症例をラニビズマブに変更したり4),ラニビズマブにタキフィラキシーとなった症例に対しペガプタニブ5)やアフリベルセプト投与6)が有効であったという報告がある.薬剤変更は効果が期待でき,またデメリットが少ないため,試す価値はある(図3).ただ,変更後の薬剤にもタキフィラキシーとなる症例も珍しくなく,再度変更を迫られる場合もある.PDTについては,ポリープ状病巣があったり,活動性の高い症例に対しては有効だが,活動性が低いが滲出性変化が消失しないような症例では効果は限定的であることも多い.おわりにノンレスポンダー症例でもタキフィラキシー症例でも,一度効果がないと判断した薬剤でも,再燃時やその他の治療後に効果を示すこともある.そのため,長い治療生活のなかではときどき治療を変更しながら継続していくことも必要である.しかし,頻回投与やCPDTを追加することにより,患C1426あたらしい眼科Vol.36,No.11,20191カ月後滲出性変化再燃薬剤A薬剤B図31型脈絡膜血管新生(78歳,男性)初診時に認めた網膜下液はC3回連続投与後,完全に消失したが,その後すぐに再燃.再燃が早いため連続で投与行うも,投与後C1カ月でも滲出性変化が減少しなくなった.7回連続投与後,薬剤変更したところ,滲出性変化は消失した.者本人が治療を負担に感じ,今後の治療継続がむずかしいと思わせる原因となってしまうこともあり,治療中断してしまうことで,結果的には視力予後を悪化させることにもなりうる.活動性が低い場合には,患者本人の負担も考慮し,悪化させない程度の頻度での投与という選択肢もある.個々の状態をみながら,どの選択をするのかを検討することも重要である.文献1)OtsujiT,NagaiY,ShoKetal:Initialnon-responderstoranibizumabCinCtheCtreatmentCofCage-relatedCmaculardegeneration(AMD)C.CClinCOphthalmolC7:1487-1490,C20132)HaraC,WakabayashiT,ToyamaHetal:Characteristicsofpatientswithneovascularage-relatedmaculardegener-ationCwhoCareCnon-respondersCtoCintravitrealCa.ibercept.CBrJOphthalmol103:623-629,C20193)HaraCC,CWakabayashiCT,CFukushimaCYCetal:Tachyphy-laxisCduringCtreatmentCofCexudativeCage-relatedCmacularCdegenerationwitha.ibercept.GraefsArchClinExpOph-thalmolC2019〔Epubaheadofprint〕4)GasperiniCJL,CFawziCAA,CKhondkaryanCACetal:Bevaci-zumabandranibizumabtachyphylaxisinthetreatmentofchoroidalCneovascularisation.CBrJCOphthalmolC96:14-20,C20125)ShiragamiC,OnoA,KobayashiMetal:E.ectofswitch-ingCtherapyCtoCpegaptanibCinCeyesCwithCtheCpersistentCcasesCofCexudativeCage-relatedCmacularCdegeneration.CMedicineC93:e116,C20146)HoCVY,CYehCS,COlsenCTWCetal:Short-termCoutcomesCofCa.iberceptforneovascularage-relatedmaculardegenera-tionCinCeyesCpreviouslyCtreatedCwithCotherCvascularCendo-thelialCgrowthCfactorCinhibitors.CAmCJCOphthalmolC156:C23-28,Ce2,C2013(84)

緑内障:緑内障患者のアドヒアランス向上のために

2019年11月30日 土曜日

●連載233監修=山本哲也福地健郎233.緑内障患者のアドヒアランス向上のために野呂隆彦東京慈恵会医科大学眼科学教室緑内障はアドヒアランスがとても重要であるが,その維持が大変むずかしい疾患である.アドヒアランスは最初の数カ月が大切で,緑内障患者はわれわれが考えているほど点眼薬を使用していない.アドヒアランスの維持には患者教育が大切であるが,同時に医療従事者の教育も大切である.●緑内障治療とアドヒアランスどんなに優れた薬剤であっても,使用されなければ効果を発揮することはできない.アドヒアランスとは,患者が治療方法の決定過程に参加し,その治療法を自ら実行することとされている.緑内障は多くの場合慢性に経過し,長期の点眼や定期的な経過観察を必要とし,かつ自覚症状がないこともあることから,アドヒアランスがきわめて重要であると同時に,その維持が大変むずかしい疾患である.緑内障治療におけるアドヒアランス不良は失明リスクをC1.8倍に上昇させるとの報告があるが1),近年の報告により緑内障患者はわれわれが考えているほど点眼薬を使用していないことがわかってきた.C●アドヒアランス不良の原因と分類アドヒアランス不良は以下のC3種類に分類されている.目的が緑内障の点眼治療とすると,治療を始めない(non-acceptance),点眼が十分にされていない(non-compliance),点眼の中止(non-persistence)と分類されるが(表1),治療を始めないタイプのアドヒアランス不良はランダム化したコントロール試験では除外されるため,本当のアドヒアランスが正しく評価されていないことに注意が必要である.新たに緑内障と診断・点眼処表1アドヒアランス不良の分類種類具体的な内容CaCnon-acceptance治療を始めないCbCnon-compliance点眼が十分にされていないCcCnon-persistence点眼の中止アドヒアランスの不良は上記のように分類される.緑内障治療におけるアドヒアランスはCbやCcに関する問題がよく取りあげられるが,実は治療そのものを開始しないCaの患者が多く存在し,過小評価されていることがわかってきた.方された患者は最初のC3カ月でC30%がドロップアウトしているとの報告や(図1)2),アドヒアランスは最初の1カ月で方向性が決まり,脱落者は最初のC1カ月に集中していたため,適切な再診の期間はC2週間程度であるとの報告もある3).治療開始の初期段階では,点眼効果や副作用の確認だけではなく,患者の治療に対する不安や疑問を解決する目的で早めの再診を行うべきである.C●高齢化社会とアドヒアランス一般的に高齢者のアドヒアランスは良好とされるが,リウマチや老人性円背(首や腰の曲がり)などの運動機能系の原因から点眼手技の不良例が増えてゆく傾向にあり4),点眼方法のコーチングや点眼補助器具などのサポートが大切である.また,超高齢社会を迎えた日本で(81)あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019C14230910-1810/19/\100/頁/JCOPY表2アドヒアランスに影響する要因表3アドヒアランスを改善するためのチェックシート問題の種類要因生活および環境の問題患者の生活上の問題,不規則な生活スタイル,通院困難な環境治療の問題医療費,薬剤の副作用,昼点眼,複雑な治療患者側の問題他疾患の合併,疾患の理解不足,若年医療者側の問題患者とのコミュニケーション不良アドヒアランス不良の要因は多岐にわたる.あらゆる側面を考慮し,患者の状況をより深く理解することが緑内障治療の成功につながる.(緑内障ガイドライン第C4版より改変)は,65歳以上のC15%,85歳以上のC40%が認知症であると報告され(厚生労働省研究班:2013),緑内障は年齢とともに有病率が増えることから,認知症と緑内障をあわせもつ高齢患者のアドヒアランスは大きな問題である.認知症患者にとって,決まった時間に決まったことをすることはむずかしく,正確な病状把握や意思疎通が困難な場合は,家族や施設職員などの支援が最終的な治療の要となることも少なくない.治療におけるキーパーソンを見つけ,チームとして治療に参加してもらうことが大切である.C●アドヒアランス向上に有用なものアドヒアランスを改善する方法は「患者教育」と「点眼回数を減らすこと」であると報告されている5).しかし,診察室での説明や教育には限界があり,患者教育をサポートする診療体勢を整える必要がある.看護師,視能訓練士,薬剤師の役割は重要で,視能訓練士から患者の重要な情報が得られることも多く,診察後の看護師や薬剤師のひとことや指導が患者のよりよい理解とやる気を導くことも多い.総合的な緑内障診療チームを構築し,そのメンバーの教育からスタートすべきである.緑内障患者からの情報をよく収集し,個別な対策と修正を繰り返す必要がある6)(表2,3).また,緑内障の病態や患者の病状と治療の説明がわかりやすい言葉で書いてある小冊子などを渡すことは,説明内容を患者が家に帰ってからも復習でき,その家族の理解も得ることもできるため効果的である.配合剤や持続性点眼薬の使用による点眼回数の減少は,アドヒアランス向上に大切な要素であり,単剤治療に追加投与するとアドヒアランスはC7%悪化し7),点眼回数をC1日C2回からC1回に変更するとアドヒアランスは17%改善する8)などの報告がある.一方で,緑内障点眼C1424あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019□疾患,治療の目的,方法,副作用について説明したかC□最小限でより負担と副作用の少ない治療法を選択したかC□患者個々のライフスタイルに合わせた治療を行っているかC□正しい点眼指導を行ったかC□患者からアドヒアランスの状況について情報を収集したか日々の診療では上記の項目に注意し,医師,看護師,視能訓練士を含む医療者と患者の協力関係を見なおす.(緑内障ガイドライン第C4版より改変)のもっとも耐えられない副作用は「霧視」であるとの報告もあり9),アドヒアランスが得られやすい薬剤を選択することが望ましい.C●アドヒアランスに頼らない治療の考慮アドヒアランスの不良が原因で薬剤治療の効果が十分に得られない場合は,アドヒアランスに頼らない治療として手術治療の早期導入を考慮せざるをえない場合もある.近年はレーザー線維柱帯形成術や各種のCMIGS(minimallyCinvasiveCglaucomasurgery)とよばれる低侵襲な手術が登場しており,患者の社会的背景や経済的・時間的負担を考慮し,患者の視機能予後を把握したうえで最適な治療を判断するべきである.文献1)ChenPP:BlindnessCinCpatientsCwithCtreatedCopen-angleCglaucoma.Ophthalmology110:726-733,C20032)NordstromCBL,CFriedmanCDS,CMoza.ariCECetal:Persis-tenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmol140:598-606,C20053)ModiCAC,CRauschCJR,CGlauserTA:PatternsCofCnonadher-encetoantiepilepticdrugtherapyinchildrenwithnewlydiagnosedepilepsy.JAMAC305:1669-1676,C20114)HoskinsCG,CMcCowanCC,CNevilleCRGCetal:RiskCfactorsCandCcostsCassociatedCwithCanCasthmaCattack.CThoraxC55:C19-24,C20005)Oltho.CCM,CSchoutenCJS,CvanCdeCBorneCBWCetal:Non-compliancewithocularhypotensivetreatmentinpatientswithCglaucomaCorCocularChypertensionCanCevidence-basedCreview.OphthalmologyC112:953-961,C20056)安田典子:より質の高い緑内障治療をめざして.あたらしい眼科28:1115-1123,C20117)RobinCAL,CNovackCGD,CCovertCDWCetal:AdherenceCinglaucoma:objectiveCmeasurementsCofConce-dailyCandCadjunctiveCmedicationCuse.CAmCJCOphthalmolC144:533-540,C20078)野呂隆彦,中野匡,柳沼厚仁ほか:2%カルテオロール塩酸塩持続性点眼液への切り替えによる患者満足度評価.臨床眼科64:1325-1330,C20109)ParkCMH,CKangCKD,CMoonCJCetal:NoncomplianceCwithCglaucomaCmedicationCinCKoreanpatients:aCmulticenterCqualitativestudy.JpnJOphthalmolC57:47-56,C2013(82)

屈折矯正手術:LASIK術中の感染症対策

2019年11月30日 土曜日

●連載234234.LASIK術中の感染症対策監修=木下茂大橋裕一坪田一男小島美帆京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学Laserinsitukeratomileusis(LASIK)周術期の感染症対策としては,術前後の抗菌薬を適切に使用することと,術中の層間洗浄,すなわちまずフラップを翻転したあとにC1回洗浄し,さらにフラップを戻したあとにフラップ下の層間を再度洗浄することが重要である.C●LASIK術後の角膜感染症LaserCinCsitukeratomileusis(LASIK)は,エキシマレーザーによる角膜屈折矯正手術のうち,角膜フラップを作製して角膜実質のみ切除する術式で,現在の屈折矯正手術の標準的な術式である.LASIKはCsurfaceabla-tionと異なり,角膜上皮の.離や除去は行わないため,術後の角膜感染症のリスクは比較的低いとされ,sur-faceablationではC0.021)~0.2%2),LASIKではC0.0353)~0.095%4)と報告されている.また,2017年のCSchall-hornらの大規模なCretrospectiveCcase-controlstudyでは,レーザー角膜屈折矯正手術後の角膜感染の発症率は,LASIKではC0.0046%,レーザー屈折矯正角膜切除術(photorefractiveCkeratectomy:PRK)ではC0.013%であり,エンハンスを行った症例ではC0.011%であったと報告された5).図2症例2:LASIK術後感染(ペニシリン耐性肺炎球菌)44歳,女性.LASIK術後C2日目発症のフラップ層間感染.フラップ下洗浄を行うも改善乏しく当院を紹介受診.起因菌はペニシリン耐性肺炎球菌.強膜散乱法による細隙灯顕微鏡所見では,フラップエッジに沿って多数の点状白色の細胞浸潤を認める.1990年代半ばよりCLASIK術後の角膜感染症が海外で相ついで報告され,近年は手術器具の汚染による感染は減少した.ただ,広域スペクトラムの抗菌薬が効きに図1症例1:LASIK術後感染(酵母型真菌)32歳,女性.LASIK術後C14日目発症の角膜感染症.フラップ層間に病巣を認め,抗菌薬点眼およびステロイド点眼でいったん軽快したが再増悪し当院を紹介受診.起因菌は酵母型真菌.瞳孔耳下側に浸潤を伴った角膜潰瘍を認め,少量の前房水流出,虹彩嵌頓を認める.図3術中洗浄フラップを翻転しレーザーを照射したのち,BSSで洗浄する.点線は翻転したフラップを示す.(79)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.36,No.11,2019C1421くい耐性菌による感染が問題となっている.本稿では,筆者らの施設(以下,当院)で現在行っているCLASIK周術期の感染症対策について,LASIK術後角膜感染症例(図1,2)および術中の写真(図3)を提示して解説する.C●周術期の抗菌薬の使用方法術前の抗菌薬点眼に関しては,当院では現在はモキシフロキサシン点眼C4回/日に加えて,3日間のセフカペンピボキシル塩酸塩内服を行っている.また,術後はガチフロキサシン点眼,0.1%フルオロメトロン点眼,ヒアルロン酸ナトリウム点眼各C4回/日を約C1週間使用している.それ以降は状態に応じてヒアルロン酸ナトリウム点眼のみ継続する.一方,epipolis-LASIKの場合は,上記の術前処方にベタメタゾンリン酸エステルナトリウム内服(0.5Cmg)3錠,3日分を追加し,術後点眼は炎症性サイトカインを抑制するため,ヒアルロン酸ナトリウム点眼の代わりにトラニラスト点眼を使用し,点眼期間はC1カ月継続し,その後約C1カ月かけて漸減している.米国白内障屈折矯正手術学会の報告書によると,LASIK術後感染の起因菌は術後C2週間以内であればグラム陽性菌,術後C2週以降であれば真菌や非定型抗酸菌を疑うこととされている.また,近年のCLASIK術後の感染症の起因菌にはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantCStaphylococcusaureus:MRSA)などの多剤耐性菌や真菌の頻度が高いことが指摘されている6,7).このうちCMRSAは結膜.や皮膚の常在菌であり,アトピー性皮膚炎の患者や医療従事者に多い.MRSAを保菌することが術後角膜感染症の発症に直結する頻度は低いが,菌の量が多い場合やアトピー性皮膚炎やCcompromisedhostなど,hostが免疫抑制環境にある場合は発症のリスクが高くなる可能性があり注意を要する.また,手術終了時にも角膜フラップ下の層間にある一定量の菌が存在するため,術前と術後両方の抗菌薬点眼使用が重要である.ただし,近年キノロン耐性菌が増加しているため,抗菌薬の選択や使用方法には留意を要する.●術中の感染対策まず,手術開始にあたってポビドンヨード(生理食塩水でC8倍希釈したもの)と生理食塩水をそれぞれ綿棒に浸して眼瞼皮膚消毒を行う.その後,睫毛が術野に露出しないように注意しながら速やかにドレーピングを行い,術野をCBSS10Cmlで洗浄する.術中はフラップを翻転しレーザーを照射したあと,BSSで洗浄するが,その際,フラップのヒンジの部分に菌や分泌物などが貯留しやすいことに注意する(図3).さらに,フラップを戻したあと,再度フラップ下の層間を洗浄しフラップを戻して手術終了とする.手術終了時には,ガチフロキサシン点眼,ベタメタゾン点眼リン酸エステルナトリウム点眼,ブロムフェナクナトリウム点眼を各C1回点眼している.LASIKにおいては開瞼器をかけた際にマイボーム腺からCPropionibacteriumacnesが放出され,このP.acnesがフラップ下に迷入すると推定され,このことからも術中の層間の洗浄が重要であると考えられる.文献1)WroblewskiKJ,PasternakJF,BowerKSetal:InfectiouskeratitisCafterCphotorefractiveCkeratectomyCinCtheCUnitedCStatesCarmyCandCnavy.COphthalmologyC113:520-525,C20062)RojasCV,CLlovetCF,CMartinezCMCetal:InfectiousCkeratitisCinC18651ClaserCsurfaceCablationCprocedures.CJCataractCRefractSurgC37:1822-1831,C20113)LlovetCF,CRojasCV,CInterlandiCECetal:InfectiousCkeratitisCinC204586CLASIKCprocedures.COphthalmologyC117:232-238,C20104)MoshirfarM,WellingJ,FeizVetal:Infectiousandnon-infectiouskeratitisafterlaserinsitukeratomileusisoccur-rence,Cmanagement,CandCvisualCoutcomes.CJCCataractCRefractSurgC33:474-483,C20075)SchallhornCJM,CSchallhornCSC,CHettingerCKCetal:Infec-tiouskeratitisafterlaservisioncorrection:Incidenceandriskfactors.JCataractRefractSurgC43:473-479,C20176)NomiCN,CMorishigeCN,CYamadaCNCetal:TwoCcasesCofCmethicillin-resistantCStaphylococcusCaureusCkeratitisCafterCEpi-LASIK.JpnJOphthalmol52:440-443,C20087)稗田牧,外園千恵,中村隆宏ほか:エキシマレーザー角膜屈折矯正手術後の重症感染症.日眼会誌C119:855-862,C2015C1422あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019(80)

眼内レンズ:L-ポケット切開法と眼内レンズ摘出

2019年11月30日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋市川浩平396.L-ポケット切開法と眼内レンズ摘出順天堂大学医学部附属静岡病院眼科L-ポケット切開法は,6mmPMMAシングルピース眼内レンズ(IOL)を強膜3mm切開で摘出可能とする新しい切開法である,術後惹起乱視がごく軽度であること,フォーダブルIOLも眼内で切断する必要がなく容易に摘出可能であること,Soemmering’sringや残留皮質,水晶体.拡張リングの摘出も.ごと一塊で摘出可能であることなどの利点を有している.●眼内レンズ摘出時の問題点最近の高齢社会の到来による白内障手術件数の増加とともに,術後の眼内レンズ(intraocularlens:IOL)偏位・落下例が増加している.これらの症例に対して,偏位・落下IOLの摘出とともに,適したIOLを用いて縫着や強膜内固定などのIOL二次挿入術が行われている.しかし,光学部径6mmのポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate:PMMA)シングルピースIOL摘出時には,光学部径と同じ6mmの強膜切開幅が必要となり,術後惹起乱視が問題となっている.●L.ポケット切開法とはL-ポケット切開法1~3)とは,輪部に3×3mmのL字の強膜半層切開を行い,クレセントナイフを用いて幅6mmの強膜ポケットを作製したあと,スリットナイフを用いて前房内へ入り,L字の強膜創口からIOLを眼外へ摘出するというものである(図1a).本法を用いることにより,6mmPMMAシングルピースIOLが強膜3mm切開で摘出可能となる.●実際の手術手技IOL摘出位置の結膜切開,強膜止血後に,L-ポケット切開用マーカー(図2)を用いてマーキングを行う.その後,強膜上のマーキングに沿って,フェザーナイフを用いて3×3mmのL字の強膜半層切開を行う(図1b).次に,クレセントナイフを用いて強角膜内にL-ポケット切開を作製するが,ポケットの幅を6mmとする(図1c).3mmスリットナイフを用いて前房内に刺入後に,角膜内方切開線を幅6mmまで拡大する(図1d).左手図1L.ポケット切開法の手順(77)あたらしい眼科Vol.36,No.11,201914190910-1810/19/\100/頁/JCOPY図2太田氏L.ポケット切開用マーカー(Duckworth&Kent社)本マーカーを用いることによりL字切開が容易に作製可能となる.のプッシュアンドプル鈎でIOLの位置をコントロールしながら,右手のIOL摘出鑷子でIOL光学部を把持してL字強膜創より摘出する(図1e).同時に,Soem-mering’sringや残留皮質,.などの摘出も行う.眼内灌流による眼内圧と,角膜内方線,強膜ポケットの幅が広いために,強膜の創口を鑷子で開けると,Soemmer-ing’sringや残留皮質などが容易に眼外へ押し出される.そして,IOL挿入後にL字強膜創の交差部を8-0バイクリル糸で1針縫合を行う(図1f).●L.ポケット切開法の利点L-ポケット切開法の利点として,創の作製が容易で自己閉鎖が可能であること,6mmPMMAシングルピースIOLの摘出が容易で,術後惹起乱視が従来の3mm強膜切開の術後惹起乱視と同等であり4),6mm直線強膜切開の術後惹起乱視のほぼ半分の値であること(図3),アクリルやシリコーン素材のフォーダブルIOLの摘出も眼内で切断する必要がなく,そのまま摘出可能であり,角膜内皮への影響も少ないこと,Soemmering’sringや残留皮質,水晶体.拡張リングの摘出も.ごと一塊で摘出可能であること,さらに,L-ポケット切開法を用いて,3ピースのフォーダブルIOLを,インジェクターを用いることなく,そのまま挿入可能であることなどがあげられる.とくに3ピースIOLが挿入されており,術前に光学部素材がアクリル,シリコーンか,あ図3術後角膜乱視変化L-ポケット切開法の術後惹起乱視は6mm直線切開のほぼ半分の値である.るいはPMMAか判別不能の場合には有用な切開法である.3×3mmのL字切開で,光学部径6mmのPMMAシングルピースIOLの摘出が可能な理由として,強膜の弾性があげられる.また,術後惹起乱視が従来の6mm直線強膜切開のほぼ半分である理由として,強膜ポケットの左半分は術後乱視変化に関与しないことがあげられる.●おわりにL-ポケット切開法は,IOL偏位・落下例に対するIOL二次挿入術において,IOL摘出時の術後乱視軽減のみならず合併症のリスク軽減にもつながるため,今後のさらなる普及が期待される.文献1)太田俊彦:IOL摘出時のL-ポケット切開法.第39回日本眼科手術学会総会抄録集,p107,20162)OhtaT:L-shapedpocketincisionfordislocatedIOLexplantation.FilmFestival,ASCRS,NewOrleans,20163)太田俊彦:IOL偏位・脱臼に対する強膜内固定:T-.xationtechniqueとL-ポケット切開法を併用した整復術.臨眼73:171-180,20194)OshikaT,TsuboiS,YaguchiSetal:Comparativestudyofintraocularlensimplantationthrough3.2-and5.5-mmincisions.Ophthalmology101:1183-1190,1994

コンタクトレンズ:光が網膜に与える影響

2019年11月30日 土曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一61.光が網膜に与える影響●はじめに光はもともと有害なものであることは,皮膚にメラノサイト(色素細胞)が存在して光線曝露に反応してメラノソームを産生する防御機構からもうかがえる.一方,眼は光を感受するための臓器であり,紫外線は網膜までほとんど到達しないといっても,可視光線の中の青色光を中心とした傷害に曝される宿命にある.光を感受するための機能は実に巧妙であるが,皮肉にも光線曝露の影響を受けやすく,防御機構を有しているが徐々に加齢性変化が蓄積する(図1).●光を受ける宿命の網膜のジレンマ網膜の視細胞は光子に反応する感度を高めるために,ロドプシンを有する外節は円盤を重ねたような構造をしている.この特徴ある構造をとるために細胞膜は通常の体細胞よりしなやかである必要があり,そのために不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(docosahexaenoicacid:DHA)を多く含むようである.DHAといえば,一般的に酸化ストレスを引き受けるサプリメントとして安川力名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学有名であるが,わざわざ光線曝露の影響で酸化変性しやすいDHAが網膜に豊富なわけである.このジレンマに対する生体の防御機構として,皮膚の表皮が再生しているように,外節は内節のほうから常に新生され,酸化変性した先端部は網膜色素上皮(retinalpigmentepitheli-um:RPE)細胞がレセプターで認識して貪食処理している.さらに,貪食処理した外節を処理してリポ蛋白を精製,Bruch膜側に産生し,同時に,血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)を分泌して脈絡膜毛細血管を保持して,脂質代謝,その他の物質輸送や酸素供給など,網膜外層の恒常性維持に重要な役割を果たしている.ロドプシンは,ビタミンA由来の11-cis-レチナールのアルデヒド基とオプシンのアミノ基がシッフ塩基を形成することによって産生されるが,光線曝露のあと,分解して産生されたall-trans-レチナールのアルデヒド基が,細胞膜のリン脂質のホスファチジルエタノールアミンのアミノ基などとシッフ塩基を形成してしまう.視細胞外節の細胞膜に存在するフリッパーゼであるABCA4図1網膜色素上皮の生理機能と加齢変化光線曝露はリポフスチン蓄積,沈着脂質の過酸化,網膜色素上皮(RPE)障害,加齢黄斑変性(AMD)発症など,網膜外層の加齢変化や疾患発症の随所で関与している.(75)あたらしい眼科Vol.36,No.11,201914170910-1810/19/\100/頁/JCOPYや,外節を貪食するRPEのレチノールデヒドロゲナーゼ(retinoldehydrogenase:RDH)-8,12などの酵素によりレチノイドはリサイクルされているが,副産物であるシッフ塩基がさらに不可逆的な反応を起こしていく.●光を起点とした網膜の加齢変化網膜視細胞外節,RPE,脈絡膜毛細血管は相互作用しながら恒常性維持しているわけであるが,巧妙な機能のほころびとして加齢性変化が生後すぐに起こってくる.まず,RPE細胞が貪食した視細胞外節がライソゾーム内で処理される中で,前述のDHAなどの不飽和脂肪酸の過酸化した物質や,all-trans-レチナール由来のシッフ塩基を経て産生される副産物のA2E(all-trans-レチナール2分子とエタノールアミン1分子の化合物)などの自発蛍光物質が残渣として残留し,光線曝露の影響も受け,複雑に酸化,糖化,物質の架橋反応が進み,難溶性のリポフスチンとしてRPE細胞内に加齢性に蓄積してくる.30歳ぐらいになるとリポフスチンがRPE細胞の細胞質内を占拠するようになり,この頃から前述のリポ蛋白産生機構がうまく行かなくなり,RPE直下に脂質沈着を認め,加齢とともにBruch膜が肥厚してくる.脂質やRPE細胞由来の膜性沈着物などが局所に沈着するとドルーゼンとして眼底検査で認識できるようになり,「加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegenera-tion:AMD)前駆病変」と診断されるが,ドルーゼンを認める状況ではすでにBruch膜への著明な脂質沈着を伴うと考えられる.組織学的にはびまん性に沈着する脂質,その他の物質はbasallineardepositsやbasallami-nardepositsとよばれる.●眼のメタボRPE下に沈着する脂質はDHAなどの不飽和脂肪酸が多いこともあり,光線曝露や脈絡膜由来の高い酸素分圧の影響で過酸化が進む.Basallineardepositsには過酸化脂質のほか,中間産物で反応性の高いマロンジアルデヒド,最終糖化産物などの変性物質のほか,補体の活性化を伴い,慢性炎症の温床となる.また,沈着した脂質の壁がBruch膜の水の透過性を下げ,RPEが産生する水溶性のVEGFの透過も妨げ,30代以降,代償性にRPEのVEGF発現が亢進し,中心性漿液性脈絡網膜症(centralserouschorioretinopathy:CSC),滲出型AMDの発症条件が揃ってくると考えられる.●網膜色素上皮の萎縮と加齢性の黄斑疾患CSCやAMDの病態にVEGFと並んで重要なものにRPEの機能障害,接着障害,萎縮がある.RPE細胞は内部にリポフスチンを溜めこみ,直下に過酸化脂質を伴い,光線曝露環境下で徐々に内部からも外部からも酸化ストレスに曝されるようになり,RPEの局所的な障害として,AMD前駆病変である色素異常や接着障害である色素上皮.離を認めるようになる.また,RPE萎縮部位はVEGFの産生能は低下する一方,Bruch膜の沈着脂質が減少し,VEGFの透過性が部分的に回復するため,その周囲の30代以降発現亢進しているVEGFの影響で,パキコロイドや脈絡膜新生血管誘導の原因となると推測される.RPE萎縮の要素と脂質沈着によるVEGFの発現亢進量のバランスで,CSC,滲出型AMDの各種病型,萎縮型AMDといったさまざまな病態を引き起こすと考えられる.●おわりに青色光はサーカディアンリズムに関与し,過剰な遮断や,逆に夜間の曝露は睡眠障害の原因となりうるという考えや,紫光は近視の抑制に重要であるという報告があり,適切な時間に適量の短波長光の刺激は必要であるかもしれないが,青色光による傷害を抑えるために進化の過程で黄斑部にキサントフィルを備えているという状況証拠と,エネルギーの高い短波長の光の物理的特性と,前述のように生理的レベルでも加齢性変化が蓄積することなどを総合すると,サングラス,眼鏡,コンタクトレンズによる適切な遮光や,テレビやパソコンや携帯電話のディスプレイの短波長光の調節は,AMD発症やRPE萎縮の予防の観点では重要であることは間違いない.PAS123

写真:釣り針による角膜穿孔

2019年11月30日 土曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦寺内稜田聖花426.釣り針による角膜穿孔東京慈恵会医科大学眼科学講座図2図1のシェーマ①角膜穿孔部②虹彩刺入部図1前眼部所見右眼角膜の耳側輪部より約C1.5Cmmの位置から釣り針が刺入した.針先は虹彩を貫通し硝子体腔へ及んでいた.図3前眼部OCT画像刺入した釣り針の断面が角膜上と隅角に観察された.図4術後の前眼部所見角膜穿孔部および意図的切開創をC10-0ナイロン糸にて縫合した.(73)あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019C14150910-1810/19/\100/頁/JCOPY釣りをしていた際に釣り針が右眼に刺さり救急搬送された35歳男性の症例を紹介する.釣り針は自己抜去せず,釣り糸を切断した状態で来院した.釣り針は角膜の耳側輪部から約1.5mmの周辺部より刺入しており,針先は虹彩を貫通し硝子体腔に及んでいた(図1~3).前房は保たれ,眼内に明らかな感染徴候は認めなかった.水晶体,毛様体,網脈絡膜の損傷は明らかでないが,硝子体出血や網膜.離は認めなかった.だたちに釣り針の抜去および創閉鎖を試みた.虹彩下に及んだ針先の深達度は不明であったが,釣先に可動性があったため二重穿孔は否定的であった.15度ナイフを用いて穿孔部から輪部方向に角膜を拡大切開し,釣り針の胴(軸)をペアンで把持しながら慎重に抜去した.穿孔部および意図的切開創をC10-0ナイロン糸にて縫合した(図4).術後感染,水晶体混濁,網膜.離その他の合併症は認めず,術後C1カ月の矯正視力は(1.5)と良好であった.日常診療において釣り針による眼外傷に遭遇する頻度は低いが,釣りはスポーツ関連眼外傷のC19.5%を占めるとの海外報告もあり1),釣り針の使用に伴う眼外傷のリスクは高いと推定される.釣り針にはエサや魚が針先からはずれるのを防ぐため「返し(barb)」が付いており,眼球穿孔例では釣り針の抜去操作が困難となる.釣り針を眼外へ抜去する手法については多くの報告があり,そのなかで有用と思われるものを紹介する.①CBack-out法2):穿孔創から釣り針をそのまま引き抜く.返しのない針に有効だが,返し付きの針では抜去時に組織が挫滅するため不適切である.②CCut-out法3):穿孔創を抜去前に意図的に切開し,引き抜く際の返しによる創部挫滅を回避する.③CAdvance-and-cut法2,4):穿孔創とは別の場所に創口を作製する.針先と返しを同部位から眼外へ出し,返しを含む針先を切断する.残存した釣り針はCback-out法により引き抜く.④CNeedle-cover法5):穿孔創から大口径の注射針を挿入する.返しに注射針の先端を覆いかぶせ,釣り針と注射針を同時に穿孔創から引き抜く.網膜穿孔例で有効である.本症例の釣り針は返しがC1個付いたトリプルフックであった.針先と返しは虹彩下に達し視認できなかったため,cut-out法を選択した.穿孔部位は角膜周辺部であり,その他の外傷性変化はなく視力予後良好であった.釣り針の大きさや形状,刺入部位や深達度は症例により異なるため,症例ごとに最適な抜去法を選択すべきである.文献1)AlfaroCDVC3rd,CJablonCEP,CRodriguezCFontalCMCetal:CFishing-relatedCocularCtrauma.CAmCJCOphthalmolC139:C488-492,C20052)GammonsCMG,CJacksonE:FishhookCremoval.CAmCFamCPhysicianC63:2231-2236,C20013)NakatsukaCAS,CKhanamiriCHN,CMerkleyCKHCetal:Fish-hookCinjuryCofCtheCanteriorCchamberCangleCofCtheCeye.CHawaiiJMedPublicHealthC78:200-201,C20194)AielloCLP,CIwamotoCM,CTaylorHR:PerforatingCocularC.shhookinjury.ArchOphthalmolC110:1316-1317,C19925)GrandCMG,CLobesCLAJr:TechniqueCforCremovingCaC.shhookfromtheposteriorsegmentoftheeye.ArchOph-thalmolC98:152-153,C1980