タブレット端末と学校保健TheStateoftheUsageofTablet-TypeDigitalDevicesamongSchoolChildren柏井真理子*はじめに世の中のIT化に伴い,児童生徒などのスマートフォン(以下,スマホ)やタブレット端末を利用する機会や時間がかなり多くなってきている.一方このような情報社会では児童生徒が新たな時代を豊かに生きる力を育成するために,学校での学習に情報通信技術(informationandcommunicationtechnology:ICT)環境を整備し,教育の情報化やICTを積極的に活用する教育の推進が謳われている.文部科学省(以下文科省)は,2011年4月に2020年に向けた「教育の情報化ビジョン」を発表し,総務省と連携し「学びイノベ-ション事業」を実施してきた.本稿では,現在の児童生徒のインターネット,スマホ,タブレットなどの利用状況,法整備がなされ2019年4月より導入されたデジタル教科書を始めとする学校でのICTの現状,そしてこれらIT機器と学校保健や眼の健康との関連について述べる.今回のデジタル教科書導入を契機に,児童生徒が「ICTをうまく活用する方法」をしっかりと学び,日常生活で実践していくことが望まれる.I児童生徒の視力やデジタル機器など使用の現状1.児童生徒の視力の状況(文科省調査より)文科省「平成30年度学校保健統計(学校保健統計調査報告書)」1)によると,学校健診の児童生徒の視力検査における「裸眼視力1.0未満の者」は2018年度は統計を取りはじめた1980年より右肩上がりの傾向があり,幼稚園児では26.7%,小学生34.1%,中学生56.0%,高校生では67.2%と,幼稚園児以外では過去最高となっている(図1)1).1.0未満の多くは,近視によるものと考えられている.2.インターネット利用状況の現状(総務省調査より)総務省の「平成30年度青少年のインターネットの利用環境実態調査」2)では,小学生(85.6%),中学生(95.1%),高校生(99.9%),平均93.2%と多くの児童生徒がインターネットを利用している.また,高校生がインターネットを利用するときの機器はスマホが93.4%となっており,ほとんどの生徒がスマホを保持していることが把握できる.また,青少年のインターネットの1日あたりの利用時間は,2017年度より9分増加し平均169分,小学生は21分増加し118分,中学生が163.9分,高校生では217.2分であり,学校の授業で使用する時間に比べ日常生活での使用時間や頻度のほうが多いと想定される.目的ごとの利用時間は動画視聴をはじめとする趣味娯楽がもっとも多く約106分となっている.前述の学校健診から把握できる児童生徒の裸眼視力低下割合の増加には,このような環境要因が大きく作用していると思われる.*MarikoKashii:柏井眼科医院(日本眼科医会学校保健担当)〔別刷請求先〕柏井真理子:〒603-8162京都市北区小山東大野町50-2柏井眼科医院0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(13)851%67.234.126.7男子(%)100500050女子(%)10046.353.154.825.627.928.2携帯電話・スマートフォンを利用する23.025.137.264.596.597.237.132.829.434.444.246.9タブレット・パソコンを利用する25.834.040.244.323.618.2全体小学校1・2年生小学校3・4年生小学校5・6年生中学生高校生図2インターネット時の携帯電話・スマホ・タブレット・パソコンの使用日本学校保健会「平成28.29年度児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書」より男子4°00’3°00’2°00’1°00’1°40’1°53’2°24’0°34’0°37’0°48’1°11’0°45’0°50’0°58’1°35’1°23’全体小学校1・2年生男子0°00’0°00’1°00’2°00’3°00’4°00’携帯電話・スマートフォンを利用するタブレット・パソコンを利用する1°50’0°31’0°35’0°42’1°53’2°38’1°03’0°43’0°43’0°54’1°24’1°13’小学校3・4年生小学校5・6年生中学生高校生図3インターネット時の携帯電話・スマホ・タブレット・パソコンの使用時間日本学校保健会「平成28.29年度児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書」より図4テレビ時間別の視力低下者の割合日本学校保健会「平成28.29年度児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書」より図5携帯電話・スマホ使用時間別の視力低下者の割合日本学校保健会「平成28.29年度児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書」より(人/台)H30年3月1日現在45.65.966.86.66.66.56.56.46.27.37.07.27.78.18101214HHHHHHHHHHHHHH1718192021222324252627282930図7教育用コンピューター1台当たりの児童生徒数学校における教育の情報化の実態に関する調査結果(文部科学省)表1学校種別学校におけるおもなICT環境の整備状況平成30年3月1日現在・3・3・3・3・3・3・3・3・3・3・3・3・3・3全学校種小学校中学校義務教育学校高等学校中等教育学校特別支援学校学校数33,63819,5299,389463,570311,073児童生徒数11,857,3776,333,2883,063,47920,7502,280,61122,399136,850普通教室数462,995254,996109,01786968,98067628,457教育用コンピュータ台数2,100,950996,860552,1034,320491,1825,06551,420教育用コンピュータ1台当たり児童生徒数5.6人/台6.4人/台5.5人/台4.8人/台4.6人/台4.4人/台2.7人/台普通教室の無線LAN整備率34.5%37.2%35.2%60.4%22.5%30.8%36.2%(参考)普通教室の校内LAN整備率90.2%89.3%88.4%88.3%94.7%94.7%93.9%超高速インターネット接続率(30Mbps以上)91.8%91.2%91.2%89.1%95.7%96.8%94.1%(参考)超高速インターネット接続率(100Mbps以上)63.2%61.3%61.1%65.2%75.8%80.6%74.6%普通教室の電子黒板整備率26.8%28.2%32.4%81.1%20.1%24.7%7.5%教員の校務用コンピュータ整備率119.9%117.2%117.4%125.5%133.7%132.9%110.0%統合型校務支援システム整備率52.5%50.6%51.1%65.2%67.0%54.8%49.2%(学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果文部科学省)置率(大型掲示装置)は26.8%となっている.学校別におけるおもなICT環境の整備状況を示す(表1)4).2.デジタル教科書2020年度から実施される文科省新学習指導要領の総則においては,「ICT環境を整備する必要性」が規定されるなど教育の情報化が一層増しており,これまでの紙によるものを前提としていた教科書についても「教科書へのICTの活用のあり方」という観点から学習用デジタル教科書について検討が行われ,2019年度から,学校教育法などの一部改正を経て,一定の基準の下で,必要に応じ紙の教科書に代えて学習用デジタル教科書を使用できる制度が実施されることになった.2018年に文科省から発出された「学習者用デジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン」5)(以下,デジタル教科書ガイドライン)には以下のような記述がある.「学習用デジタル教科書は,(中略)学習者用コンピューターにおいて児童生徒一人一人が使用するものである」もちろん現状では紙の教科書は今までどおりの位置づけで重要な役割を果たすのであり「教育課程の一部において,紙の教科書に代えて学習用デジタル教科書を使用できることとなる」.ただし「特別な配慮を必要とする児童生徒等(視覚障害や発達障害等の障害,日本語に通じないこと,これらに準ずるものにより紙の教科書を使用することが困難な児童生徒)は文字の拡大や音声読み上げ等により,その学習上の困難の程度を低減させる必要がある場合には,教育課程の全部においても,紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書の使用をできることとなる」.たしかにデジタル教科書を使用することにはいろいろなメリットが考えられる.たとえば紙面を拡大して表示することはロービジョンの児童生徒には大変有益である.また,読字障害のある児童生徒にとっては紙面を機械音声で読み上げる機能は大変ありがたいサポートになるであろう.他に背景色・文字色の変更・反転,漢字にルビを振るなどの配慮も紙面が読みやすくなる方法である.また,一般の授業では,音読やネイティブ・スピーカーなどが話す音声を聴けることや,教科書の紙面にマーカーなどで書き込みを繰り返しできること,写真や地図やイラスト・グラフなど掲載内容を拡大することでさまざまな角度から調べることができる.内容を保存するなどデジタル教科書ならではの有益なさまざまな学習方法が期待されるところである.さらに大型掲示装置や教師のコンピューターに児童生徒の学習者用デジタル教科書の画面を表示し,教師や児童生徒間で共有することができる.個別学習場面やグループ学習の場面,一斉学習の場面など,いろいろな活用の仕方が今後も検討されていくと思われる.3.デジタル教科書の使用にあたり指導上で留意すべき点上記デジタル教科書ガイドライン5)には指導上の留意点として1)あくまでデジタル教科書の使用を段階的に進めるよう,「紙の教科書を主体として使用し,学習用デジタル教科書と適切に組合わせること」学習用デジタル教科書は各学年で「授業時数の2分の1未満であること.ただし特別の配慮を必要する児童生徒等については,この限りでないこと」.2)「常に紙の教科書は使用できるようにしておくこと」.3)「児童生徒一人一人がそれぞれの学習者用デジタル教科書を使用すること」.一人一台パソコンがない場合はクラス間で調整し,「当該授業において一人一台の学習者用コンピューターを用意すること」.その他,漢字や計算などの繰り返し学習にはノートの使用を基本とすること,デジタル教科書の効果や影響をみつつ指導方法や指導体制の改善に努めることなどが記載されており段階的導入や紙教科書との併用が強調されている.4.児童生徒の健康に関する留意点今回のデジタル教科書ガイドライン5)作成にあたっての検討会議や,それ以前の「児童生徒の健康に留意してICTを活用するためのガイドブック」6)(文科省,2014年)策定に際し日本眼科医会は眼の健康に留意するよう専門家としての助言や種々の意見・要望を文科省に提言856あたらしい眼科Vol.36,No.7,2019(18)目線は画面に直交する角度に近づける画面の角度背中を伸ばすを傾けるお尻を後ろにして床に両足深く腰掛けるをつける図8タブレットPCを利用する際のポイント(文部科学省「児童生徒の健康に留意してICTを活用するためのガイドブック」より転載)図9近視予防啓発ポスター(公益社団法人日本眼科医会)