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デジタルデバイスとドライアイ

2019年7月31日 水曜日

デジタルデバイスとドライアイDryEyeinVisualDisplayTerminalUsers坂根由梨*白石敦*はじめに近年,情報技術化の発展に伴い,パソコンやスマートフォン,タブレット端末などのデジタルデバイスが急速に普及し,若年者から高齢者まで幅広い年齢層で利用されている.もはやCVDT(visualCdisplayterminal)作業は現代の仕事や日常生活に欠かせないものになっており,職場でも家庭でもディスプレイを見つめる時間が増加したことで,眼精疲労やドライアイを発症する人も急増している.本稿ではCVDT作業による眼症状のうちドライアイについて,そのメカニズムや疫学調査,対策法などを述べる.CIVDT作業とドライアイ2008年に行われた厚生労働省の調査報告によると,VDT作業に従事する労働者の割合は増加傾向であり,4時間以上CVDT作業に従事する労働者の割合が全労働者の約半数近くに及んでいる.VDT作業による健康影響は,眼に関するもの,筋骨格系に関するもの,精神・心理的なものに大別できる.これらの症状はCVDT作業者全体の約C70%にあり,そのうち約C90%が眼精疲労やドライアイなど眼に関する症状であるとされている.調査からC10年以上経過した現在では,さらにCVDT作業従事者の割合は増加していると考えられ,作業の長時間化や複雑化により,眼症状を有している人も増加していることが推測できる.VDT作業によるドライアイでは,とくに涙液層破壊時間(break-uptime:BUT)短縮型ドライアイが多くみられ,乾燥感や痛みなどドライアイに特徴的な症状だけでなく,視機能低下や眼精疲労の原因にもつながっていると考えられ,日常生活の大きなストレスになっていると思われる.VDT作業によるドライアイの発症には,まず一番に瞬目回数の減少が関与していることが指摘されている.1993年,坪田らの報告1)では,VDT作業は読書などに比べて瞬目回数が減少していること,ディスプレイ画面が読書などに比べ上方に位置するため視線の関係で開瞼幅が広くなり,単位面積あたりの涙液蒸発量が増え,ドライアイが発症することが指摘されている.また,最近の研究では,VDT作業者では涙腺上皮細胞に分泌顆粒が過剰に貯留していることが報告2)されており,瞬目低下が涙液分泌を減少,つまり涙腺の機能不全を惹起する可能性が示されている.結膜杯細胞から分泌される分泌型ムチンCMUC5ACが,VDT作業が長いほど減少していることも報告3)されており,涙液安定性もCVDT作業者では低下していることが推測される.これらの報告から,VDT作業によるドライアイには,瞬目回数の低下による蒸発亢進,涙腺の機能不全による涙液分泌減少,分泌型ムチンの減少による涙液安定性の低下など,いくつかの要因が関与していると考えられる(図1).CIIVDT作業者に対するドライアイ疫学調査2011年にオフィスワーカーにおけるドライアイの実*YuriSakane&*AtsushiShiraishi:愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻器官・形態領域眼科学〔別刷請求先〕坂根由梨:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻器官・形態領域眼科学C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(63)C901瞬目回数の減少表1ドライアイを防ぐ作業環境涙液の蒸発↑涙腺機能不全涙液分泌量↓ムチン分泌低下涙液安定性↓図1VDT作業によるドライアイ画面位置視線が下向きになるようディスプレイ画面を設置する.調整しやすいよう適度な高さの机と高さを調整できる椅子を使用する.画面サイズ眼を凝らさないでも見やすいサイズのものを選択する.室内の明るさディスプレイ画面が見やすいよう調整する.直射日光直射日光が当たらないようブラインドやカーテンなどで調整する.能動的休息連続作業時間がC1時間を超えないようC10分程度の能動的休息を取る.室内の空調直接当たらないようエアコンの風向きを調節し,空気が乾燥しているときは加湿器を使用する.

デジタルデバイスとブルーライト

2019年7月31日 水曜日

デジタルデバイスとブルーライトOcularandNeuropsychiatricE.ectsofBlueLightEmittedfromaDigitalDisplay綾木雅彦*坪田一男**Iサーカディアンリズムとメラトニンの発見から現代のデジタルデバイスまでデジタルデバイスは人類史上初めての光環境で,サーカディアンリズム(用語解説参照)に影響を与えている.サーカディアンリズムは太陽光を絶対的環境基準としてできあがったもっとも基本的な生理機能である.25億年前に葉緑素をもつ原生動物シアノバクテリアが光合成を始め,サーカディアンリズムが形成された.その研究はオジキソウがC24時間周期で動き続けることをC18世紀にフランスの科学者が報告してから始まったとされている.サーカディアンリズムと密接に同期して分泌されるメラトニン(用語解説参照)が発見されたのは約C60年前で1),オタマジャクシの皮膚を黒くする物質として松果体から分離された.明るいと眠気が減るのは光によるメラトニンの分泌抑制の効果であると知られてきたのは,そのC20年後のC1980年代になってからである2).さらに,21世紀になって,短波長であるブルーライト(用語解説参照)を内因性光感受性網膜神経節細胞(intrinsicallyphotosensitiveCretinalCganglioncell:ipRGC)が受容して体内時計の中枢である視交叉上核に信号を送り,そこから全身の臓器と松果体にリズムの指令が出されることが発見された3,4).一方,ブルーライトを含む照明光の普及が近年めざましい.人類誕生以来夜の照明は月光か燈火しかなかった時代が何万年も続いたのち,1870年代にエジソンが白熱電灯を発明し,夜も明るくなった.その後,蛍光灯,そしてC2014年に日本人がノーベル賞を受賞した青色発光ダイオード(lightCemittingdiode:LED)の発明後,光環境は大きく変化し,LEDを使用したデジタルデバイスという光源が急速に普及した.CII網膜神経節細胞がサーカディアンリズムの発振を担うサーカディアンリズムを調整する最大の同調因子は光であり,ブルーライトの波長のみに反応するCipRGCが体内時計の中枢に信号を出すことによって,全身の細胞の時計遺伝子にそれが伝わり,サーカディアンリズムが維持される.ipRGCにはブルーライトを受容する機能はあっても視覚情報を処理する機能は少なく,他の視細胞である錐体細胞と杆体細胞とは大きく異なる.網膜神経節細胞が障害される緑内障においてもCipRGCが障害されていることが示されていて5),緑内障患者では睡眠障害が多いことの一因と考えられる6).健常者でも習慣的に夜間ブルーライトが眼内に入り続けると,サーカディアンリズム障害が起こり,睡眠障害として顕性化する7,8).CIIIブルーライトの眼への影響ブルーライトは普段降り注ぐ太陽光に含まれている光環境の一部であり,角膜と水晶体を透過して眼底に達す*MasahikoAyaki:おおたけ眼科つきみ野医院**KazuoTsubota:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕綾木雅彦:〒242-0001神奈川県大和市下鶴間C521-8おおたけ眼科つきみ野医院C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(57)C895ブルーライトUVB/UVA400780[nm]紫外線可視光線赤外線図1可視光線の波長とブルーライト領域電磁波を波長別に並べると,放射線,紫外線,可視光線,赤外線の順になる.ブルーライトは可視光線なので環境光に普通に含まれているが,紫外線の隣なのでエネルギーが大きい.(ブルーライト研究会HP:http://blue-light.biz/about_bluelight/より許可をえて引用)ブルーライトALLスマートフォンゲームPC液晶テレビブラウン管テレビ300400500600700800波長(nm)図2画面による背景光の波長特性同じ白色透明な可視光線でも機器ごとに特性があり,ブラウン管テレビは波長が広く均一に分布している.一方,スマートフォン,ゲーム,PC,液晶テレビは波長C460nm付近のブルーライト成分が突出して多い.図3ブルーライトの散乱乳白色のプラスチック板に赤色(左)と青色(右)のレーザー光をあてると,赤色光はあまり減衰せずに透過するが,ブルーライトは反射と散乱が多い.表1ブルーライトによる健康障害12108642022時23時24時時刻図4暗い部屋でのデジタルデバイス使用時のメラトニン値夜間に携帯端末を使用すると,メラトニン分泌が強く抑制される.ブルーライトカット眼鏡を使用すると正常に分泌される.唾液メラトニン量(pg/ml)■用語解説■サーカディアンリズム:生体が地球の自転にあわせて約24時間周期で生理機能を営むリズム.概日リズム.メラトニン:睡眠ホルモンともよばれ,松果体から分泌されて眠りに導く作用がある.ブルーライト:可視光線の一部で,波長がC380.500nm(ナノメートル)の青色光領域.–

学童の近視化増加に対する対応

2019年7月31日 水曜日

学童の近視化増加に対する対応MedicalTreatmentsforIncreasedMyopiainSchoolChildren稗田牧*はじめにスマートフォンやタブレット端末などのデジタルデバイスが普及するにつれ,小学生になる前から近視になる子供が増えている.退屈した子供にデジタルデバイスを与えると,魔法にかかったかのようにおとなしくなる.子供のお楽しみ用具として,その効果は絶大である.しかし,そのために近視が増えているとしたら問題である.デジタルデバイスで情報にアクセスすることが便利になるだけでなく,近くを見ることの頻度が増えているのは間違いない.しかも,スマートフォンなどは見る距離がかなり近く,人類の経験したことのない近業負荷のかかかった時代にわれわれは生きている.本稿では,デジタルデバイスと近視の考えられる関連について推測する.I学童の近視増加の現状近視の低年齢化が進行している.また,一時止まったかにみえた高校生の近視割合がさらに増加している.文部科学省の統計によると,平成30年度(2018)の「裸眼視力1.0未満の者」の割合は,幼稚園26.68%,小学校34.10%,中学校56.04%,高等学校67.23%となっている.小学校および高等学校では過去最高を更新した.中学校でも過去最高となった昨年度と同様の高い割合であった.図1の経年変化をみると,2010年代前半のデジタルデバイスの普及とともに割合が高くなっていることがわかる.これは近業の増加の結果,近視が増加していると考えられる.高校生の近視が増えていることも注目すべきである.高校生の1.0未満の割合は2000年代に入り一時減少していた.それが2010年代に再び増加傾向に転じたことと,スマートフォンが中学生・高校生に普及したことには何らかの関係がありそうである.とくに裸眼視力0.3未満の中等度以上の近視の割合が高校生で39.34%(矯正なし6.8%,矯正あり32.54%)と過去最高となっていることからは,スマートフォンが近視の発生を増やすだけでなく,進行を促進していることが推測される(表1).II学童の近視増加,強度近視増加の意味近視の学童が増えて,かつ進行することの問題点は,そこから強度近視が増加し,さらに進行して病的近視の頻度が増えることである.生まれてきたときは,多くが遠視であるが,小学校に入学する6歳前後に±0.5D以内の正視になる.そのまま正視を保つものが大半であるが,一部近視になるものがあり,いったん近視になると正視に戻ることはなく進行しつづける1).この正視である状態を保つ,もしくは積極的に正視になるメカニズムは「正視化メカニズム(emmetropization)」とよばれている.近視は近業の増加により,この正視化メカニズムが破綻した状態と考えられる.いったん近視になると近視は進行しつづけるので,早*OsamuHieda:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕稗田牧:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(51)889区分視力非矯正者の裸眼視力視力矯正者の裸眼視力計(%)1.0以上1.0未満0.7以上0.7未満0.3以上0.3未満1.0以上1.0未満0.7以上0.7未満0.3以上0.3未満高等学校平成C25年度C32.68C10.30C12.24C6.98C35.45C9.72C9.93C7.01C35.55C9.56C10.38C6.90C33.43C11.06C12.03C7.77C36.07C10.07C11.69C7.08C32.53C10.43C11.09C6.80C1.48C2.93C6.98C26.42C1.66C1.81C5.60C28.82C0.67C1.09C6.58C29.26C0.57C0.77C4.56C29.81C1.63C1.75C4.89C26.82C0.24C0.88C5.48C32.54C100.00100.00100.00100.00100.00100.00平成C26年度C平成C27年度C平成C28年度C平成C29年度C平成C30年度C(文部科学省統計資料から)表2学童における近視進行抑制治療の現状治療法エビデンスレベル効果副作用日本で薬事承認(近視治療としての承認)1%アトロピン高高+++有(無)0.01%アトロピン中中+無(無)オルソケラトロジー高中+有(無)多焦点コンタクトレンズ中中+有(無)多焦点眼鏡中小+有(無)低矯正眼鏡無無++有(無)図3オルソケラトロジーレンズレンズを装用した状態のフルオレセインパターン.中央部がおさえつけられている.図4LAMP研究における近視進行図プラセボに比較すると三つの濃度いずれも近視進行は抑制されているが,0.05%がもっとも効果がある.(文献C5より引用)図5同心円型二重焦点多焦点コンタクトレンズ紫の部分にC2D程度の近用度数が入っている.図6周辺部度数付加累進多焦点コンタクトレンズ周辺部に近用度数が加入され,中央に向けて累進屈折多焦点レンズになっている.表3近視性後天性内斜視の鑑別疾患名近視性後天性内斜視高度近視性内斜視開散麻痺輻輳けいれん急性内斜視発症潜行性潜行性急性急性急性眼球運動障害なしありなしあり(両眼)なし眼球脱臼なしありなしなしなし調節障害なしなしなしありなし潜行性:insidious.負荷調節図7近視性後天性内斜視の調節機能調節機能は正常で,両眼視機能も良好であることが多い.C’C-

近業と近視化

2019年7月31日 水曜日

近業と近視化AssociationbetweenNearWorkandMyopia四倉絵里沙*鳥井秀成*はじめに近年,近視人口は世界的に増加傾向にある.かつて近視人口が少ないと思われていた米国でも,1972年にC25%だった成人の近視有病率がC2004年にはC44%になったことが報告1,2)され,近視人口が多いと考えられているアジアでは学童の近視有病率がC80%を超えたことが明らかになっている3,4).さらにC2050年には近視人口が,世界の人口の約半分であるC50億人弱になると予測している既報5)もある.このように増加している近視人口だが,特筆すべきはこのわずか数十年で近視人口が急増6)していることである.近視は遺伝因子と環境因子により発症,進行すると考えられているが,この短期間での近視人口急増の原因は,遺伝因子の変化というよりも何らかの環境因子の変化による影響とみるのが妥当であると思われる.近視と関連する環境因子は多岐にわたり,これまで代表的なCstudyであるCOrindaCStudy7,8),Singa-poreCohortStudyoftheRiskFactorsforMyopia9,10),CSydneyCMyopiaCStudy11,12)で報告されている近視進行の要因としては,都市部に住むこと,勉強などの近業時間が長いこと,屋外活動時間が短いこと,学歴やCIQが高いことなどがあげられる.そのうちコンセンサスが得られている環境因子には,近業(近くを見る作業)と屋外活動があげられ7,8,10,11),それぞれ,近業時間が長いほど近視化し,屋外活動時間が長いほど近視が抑制されるといわれている.本稿では環境因子のなかでも,とくに近業と近視との関連性について取り上げる.CI近業時間の増加われわれを取り巻く環境因子の中でも,最近数十年間で明らかに変化したと思われるものには,テレビ,パソコン,携帯電話やスマートフォン,携帯用/家庭用ゲーム機などのデジタル機器の登場と普及がある.それらによる近業時間の増加や屋外活動時間の減少など,われわれを取り巻くライフスタイルのさまざまな変化が,近視人口の増加に関係している可能性がある.近業時間は近年増加傾向にあり,Buckschら13)はC11歳,13歳,15歳におけるテレビを見る時間とパソコンを行う時間の合計近業時間を,2002年,2006年,2010年で経時的に比較検討した.その結果,11歳男児では平日の平均近業時間がC2002年ではC3.93時間/日であったのが,2010年ではC5.33時間/日に増加し,それは他の年齢でも同様の傾向が認められ,女児においても近業時間が増加傾向であったことが報告された.近業時間の内訳として,10年前はテレビが多かったが,最近では子供たちにもスマートフォンやパソコンなどのデジタル機器が普及してきているため,それを反映した結果も報告されている14)(図1).パソコンに焦点を絞った研究においても,米国の高校生を対象に,平日C3時間以上/日パソコンを使用している高校生の割合を調べたところ,2003年はC22.1%だったが,2011年はC31.1%と増加傾向にあることがわかった14)(図2).これらの*ErisaYotsukura&*HidemasaTorii:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕四倉絵里沙:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(45)C8831日あたりの総メディア使用時間(時間)543210199920042009年図1若年者のメディア総使用時間の推移とその内訳1999年,2004年,2009年の米国のC8.18歳の若年者におけるC1日あたりのメディア総使用時間を示した.2009年はそれまでと比べメディア総使用時間が増加し,テレビを見る時間が減少したかわりに,録画番組の視聴時間(time-shiftedTV)や,パソコン,スマートフォン,タブレット端末の使用時間が増えたことがわかる.(文献C14より引用)==.19315.18図3近視有病率と近業時間との関係近視有病率と近業時間との関係について報告した横断研究をメタアナリシスした結果である.近業時間が長いほど近視有病率は高くなる(オッズ比=1.14)ことがわかる.(文献C20より引用)Mutti20021.02(1.01,1.03)65.45Lu20091.27(0.75,2.14)0.02Deng20101.02(0.94,1.10)1.02Yingyong20101.02(1.01,1.03)33.39Guo20131.38(1.09,1.75)0.11Overall(I-squared=42.8%,p=0.136)1.102(1.01,1.03)100.00.46812.14図4近視有病率と1週間の読書時間との関係読書時間が増えると近視有病率は上昇する可能性がある.(文献C20より引用)近視発症のオッズ比30252015105=0図5読書距離・両親の近視の有無と近視発症との関係両親が近視であり読書距離がC20Ccm未満の場合,両親が近視でなく読書距離がC20Ccm以上の場合と比較し,26.3倍も近視を発症しやすい.(文献C16より引用)==眼軸長の伸長量(mm/年)0.290.270.250.230.210.190.170.15ⅣⅢⅡベースラインにおける図61年間の眼軸長伸長量とenvironmentalriskfactors(環境危険因子)の関係1日の屋外活動時間,テレビ視聴時間,パソコン使用時間,スポーツ習慣の有無,読書量,9歳時における読書時間と連続読書時間,読書距離を,environmentalCriskfactorsとしてスコア化し,1年間の眼軸長伸長量を,ベースラインのCAL/CR(axiallength/cornealradius)とCenvironmentalriskfactorsの程度別に解析した.その結果,眼軸長伸長量はCenvironmentalriskfactorsと有意(p<0.001)に相関し,1週間にC1冊以上の読書をすること,読書時間が長いこと,スポーツをしないこと,屋外活動時間が短いこと,という環境条件下では眼軸長伸長量が大きくなることが示された.(文献C24より引用)’C–

デジタルデバイスと急性内斜視

2019年7月31日 水曜日

デジタルデバイスと急性内斜視AcuteAcquiredComitantEsotropiaRelatedtotheExcessiveUseofaDigitalDevice吉田朋世*仁科幸子*はじめに近年,デジタルデバイスはわれわれの生活と切り離せないほど身近なものになり,成人だけではなく小児の生活にも影響を及ぼしつつある.内閣府による青少年のインターネット利用環境実態調査1)では,種々のデジタルデバイスの使用率が年々増加しており,平成30年度には小学生高学年の40.7%,中学生の65.8%,高校生の94.3%がスマートフォン,小学生高学年の44.3%,中学生の32.9%,高校生の20.8%が携帯ゲーム機,小学生高学年の43.1%,中学生の34.3%,高校生の20.1%がタブレットを使用してインターネットを行っているという結果であった.こうした背景の中,デジタルデバイスの過剰使用を契機に起こる急性内斜視が専門医の間で指摘されるようになり2~7),報道機関でも取り上げられて注目を集めている.その因果関係について,まだ確証が得られていないが,眼科医の立場から現状を把握し,注意を喚起すべき問題と考える.本稿では,急性内斜視とデジタルデバイスの関係性について,筆者らの経験を踏まえながら解説する.I急性内斜視とは急性内斜視とは,生後6カ月以降に急性に発症する内斜視で,調節性要因の関与がない共同性の内斜視である.急性後天性共同性内斜視(acuteacquiredcomitantesotropia:AACE)には,いくつか分類法がある.もっとも有名なものはBurianらによる分類8)で,I型(Swantype)は片眼の遮閉や視力低下による融像の遮断によって起こるもの,II型(Burian-Franceschettitype)は明らかな原因はないが,心身のストレスや精神的ショックが誘因となって起こるもの,III型(Bielschowskytype)は近視の低矯正によって起こるものとされている.これら三つのタイプ以外に,頭蓋内病変によって急性共同性内斜視を発症した症例9)も報告されており,慎重な鑑別診断が必要な疾患である.BuchらはAACEと診断された1~15歳の小児48症例を七つのタイプに分類し,急性の調節性内斜視,decompensatedmono.xationsyndrome(代償不全),特発性のタイプが多く,ついで,頭蓋内病変によるものが3例(6%)にみられたと報告している10).実際にAACEを鑑別していくと,Burianの分類以外に,mono.xationsyndromeの代償不全と重なる病型や,他の病態も含まれており,急性内斜視の定義,病型,分類には依然として論議がある.症状としてもっとも特徴的なものは「突然生じる複視」であり,問診が診断材料になることが多いが,小児の場合は急性内斜視を生じてもすぐに抑制がかかり,または低年齢のため複視を訴えられず,保護者が眼位異常に気づいて受診することが多い.6歳未満で両眼視機能が確立していない不安定な状態では,治療せずに放置すると不可逆的な両眼視障害をきたすケースもある.診断には発症の状況,複視などの自覚症状,外傷や発*TomoyoYoshida&*SachikoNishina:国立成育医療研究センター眼科〔別刷請求先〕吉田朋世:〒157-8535東京都世田谷区大蔵2-10-1国立成育医療研究センター眼科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(39)877表1デジタルデバイス過剰使用を契機とする急性内斜視の症例報告報告症例年齢(歳)デジタルデバイスの使用状況治療Leeら(C2016)急性後天性共同性内斜視C12例7~1C61日C4時間以上4カ月以上使用デジタルデバイス使用制限および手術治療で改善吉田ら(C2018)急性後天性共同性内斜視C2例,内斜視増悪・再発C4例,間欠性外斜視増悪・複視C1例6~1C71日C3時間以上3カ月以上使用デジタルデバイス使用制限および近視矯正,プリズム眼鏡,手術治療で改善Mehtaら(C2018)急性後天性共同性内斜視C1例C161日C8時間以上1カ月使用近視非矯正デジタルデバイス使用制限および近視矯正で改善Kaurら(C2018)調節痙攣C3例(うち内斜視C2例)8~1C21日C4時間以上1週間以上使用デジタルデバイス使用制限およびシクロペントラート点眼で改善ab図1デジタルデバイス使用を契機とした急性内斜視(6歳男児)a:術前眼位.内斜視C35プリズム,立体視(-),融像(-).b:術後眼位.正位,立体視C40秒.ab図2タブレット使用を契機とした急性内斜視(11歳女児)a:タブレット使用後の眼位.内斜視C35プリズム,立体視(-),融像(+).b:タブレット使用制限後の眼位.正位,立体視C50秒.Cab図3図2の症例の手術経過a:術前眼位.内斜視C35プリズム,立体視(-),融像(+).b:術後眼位.正位,立体視C50秒.tive-feedbackを起こすことで制御されている17).デジタルデバイスの使用は近距離で長時間にわたるため,調節-輻湊間の制御が崩れる可能性が高い.とくに小児では過剰な輻湊反応が誘発され眼位の内斜化を起こし,もともと不安定だった両眼視の維持が困難になり,内斜視を発症すると考えられる.一方,筆者らはデジタルデバイスの過剰使用による外斜視の増悪と複視の出現も経験した.Hirotaらは,間欠性外斜視の症例の視線解析を行い,一般書籍の読書時と比べスマートフォン読書時は眼位ずれが起こりやすく,視距離がC20Ccmと近くなるほど単眼視になりやすいことを報告している18).自験例は術後眼位が正位に安定し正常両眼視を維持していた症例であるが,デジタルデバイスの過剰使用によって近距離における眼位ずれを起こし続けた結果,日常でも融像を維持しにくくなり,眼位の悪化と複視を生じたと考えられた.さらに,スマートフォンによる視機能障害として,Alim-Marvastiらは,暗闇のなかでベッドに寝転がりながら数分間スマートフォンの画面を見た後に,一過性の片眼視力低下を繰り返したC2症例を報告している19).この機序として,臥位でスマートフォンを見ているときに単眼視になっており,片眼はスマートフォンの光を受けて明順応,もう片眼は枕に隠れて暗順応の状態にあり,体位を変えて両眼視に戻したときに,明順応した片眼に一時的な視力低下をきたしたのではないかと仮説を立てている.自験例の中に一時的な視力低下を生じた例はなかったが,夜間に同様の態勢でデジタルデバイスを使用すると,たとえ短時間でも本機序によって両眼視が困難となり,眼位異常が顕性化しやすくなる可能性があると思われる.もちろん,必ずしもデジタルデバイスを使用している若年者すべてに,これらの機序が働いて眼位異常を生じるわけではないことは,デジタルデバイスを過剰使用している母数人数が相当数に上ることをみても明らかである.平成C30年度の内閣府調査では,小学校高学年の85.6%,中学生のC95.1%,高校生のC99.0%は何らかのデジタルデバイスを用いてインターネットを使用しており,インターネットの平均的な利用時間はC2時間未満が34.4%,2時間以上C3時間未満がC21.4%,3時間以上C4時間未満がC15.6%,4時間以上C5時間未満がC10.2%,5時間以上がC14.4%であった1).これまでの報告ではC3~4時間以上の使用で急性内斜視が発症しているが,大多数の若年者は過剰使用にもかかわらず斜視を発症していない.したがって,もともと融像が崩れやすい素因をもつ若年者や小児において,デジタルデバイスの長時間使用,近距離の使用,あるいは夜間の使用や悪い態勢での使用などの要因が働いて両眼視が困難となり,急性内斜視の発症に至ると考えられる.さらに,Rechichiらはデジタルデバイスのなかでもとくにビデオゲームは小児の視機能に影響を及ぼしやすいことを指摘している.ビデオゲームを毎日C30分以上している健常の小児において,有意に眼位変化や複視の出現,立体視の低下がみられるが,ゲーム以外のデジタルデバイスC3時間以上の高使用群と低使用群の間では有意差がなかった.高速で反応する必要のあるビデオゲームでは,両眼視した状態よりも単眼視の状態のほうが脳が早く反応するため,優位眼で単眼視を続けた結果,両眼視機能を悪化や眼症状を生じたと推測している.昨今は若年者がインターネットゲームに過度に依存する問題が頻発し20),ゲーム障害(gamingdisorder)という疾患概念が,世界保健機構(WHO)によって国際疾患分類第11版(ICD-11)に加えられ,新たな依存症として広く認識されるようになった.幼少時からゲームを開始することが,その後のデジタルデバイス依存のリスクを高めることも示唆されており21),今後,デジタルデバイスの用途(ゲームや読書など)についても詳しく調査し,視機能への影響を検討する必要がある.おわりに長時間のデジタルデバイスの使用と急性内斜視の間に直接的な因果関係はまだ証明されていないが,両眼視機能を管理する眼科医として懸念材料は多い.とくに両眼視の確立していない,あるいは脆弱な小児では,デジタルデバイスの使用法に十分に留意すべきであると考える.日本弱視斜視学会では,専門医に対する全国調査(一次調査)を踏まえ,本年度に急性内斜視の発症例や発症条件について多施設で前向き調査を開始する予定である.今後の検討によって,内斜位斜視の素因や発症の(43)あたらしい眼科Vol.36,No.7,2019C881–

仮想現実環境が姿勢制御と両眼視機能に及ぼす影響-映像酔いと3D映像視覚疲労について-

2019年7月31日 水曜日

仮想現実環境が姿勢制御と両眼視機能に及ぼす影響─映像酔いと3D映像視覚疲労について─In.uenceofVirtualReality(VR)EnvironmentonAttitude-ControlandBinocularVisionFunction─3D-RelatedVisionFatigueandDisorder─原直人*折笠智美**はじめに映像による生体への影響の一つとして映像酔いがある.映画やテレビ,ビデオゲームなど動きをもつ映像を見ると,眼の疼痛や吐気,めまい,疲労,冷汗などの不快感を生じる場合がある.映像酔いのメカニズムは現在,感覚不一致説が有力である.人間のもって生まれた機能と,生後学習で得た機能(自己座標系)により周囲の環境に適応していく.人工映像により生じた「仮想的空間」に適応しない場合(con.ict),ストレス状態を生じて種々の酔い症状が出現する.映像により脳に伝えられた情報と,現実との固有感覚,平衡感覚が一致しないため,脳がなんとか修正しようとするストレスによりVR酔いが生じる.本稿では,映像酔いと両眼視機能との関係について解説する.I映像による生体への影響3D映像など立体映像技術は日常のさまざまな場所で用いられるようになり,その応用として眼鏡型ウェアラブル端末が広まり,より気軽に仮想現実(virtualreali-ty:VR)や拡張現実,複合現実など種々の映像環境も利用可能となった.これらの映像呈示により,医療,運輸,シミュレーション,製造・設計,計測,教育,ゲーム,テーマパーク・博物館など広い分野で利用されつつある.日常生活の利便性を増加させたが,立体映像に限らず映像自体は,視聴条件や体調,年齢,個人差などの要因によって,適応性と脆弱性をあわせもつ脳には好ましくない危険な影響を及ぼす場合がある.人類史上でも大きな環境変化の一つであるデジタル革命によりコンピューター,携帯電話・スマートフォンやビデオゲームは10歳代の若年者の学習や遊び,対人とのコミュニケーションに大きな影響を及ぼしている.その一つに動きの激しい映像や自然界とは大きく異なる映像による映像酔いがある.II仮想現実とは視覚や聴覚などの感覚器に働きかけ,コンピューターによって作り出された人工環境を実質的・本物・現実のように(virtually)知覚させる技術であり,仮想現実,人工現実感などと訳される.像が実際にあるわけではないが,レンズや脳の働きで実際に像があるのとまったく同等の効果を及ぼす虚像を感覚する仮想現実感である.この感覚をもたらす仮想環境のためには,視覚,聴覚,触覚などの多種感覚を介して臨場的に呈示して複数の感覚要素から成り立っている三次元空間を構成する技術が必要である(図1).感覚的には仮想環境が現実環境だと脳を騙す仮想幻視(virtualhallucination)である.*NaotoHara:国際医療福祉大学保健医療学部視機能療法学科**SatomiOrikasa:横浜労災病院眼科〔別刷請求先〕原直人:〒324-8501栃木県大田原市北金丸2600-1国際医療福祉大学保健医療学部視機能療法学科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(29)867外的要因内的要因視覚・聴覚・触覚・過去の経験・学習嗅覚など五感記憶情報からの連想多感覚情報統合イメージ想起図1仮想現実感を作り出す三つの多種要素「外的要因による臨場感」は,視覚・聴覚・体性感覚(触覚)・嗅覚・味覚などの感覚器官で感知される外界の情報に基づく臨場感である.「内因的要因による臨場感」とは,過去の経験,学習により脳内に蓄積された感覚の記憶に基づき脳内で生成される臨場感である.過去の経験から想起される視覚イメージが臨場感を作り出している.「時間要素」は,動き変化,リアルタイム感覚くる時間経過を示す.表1仮想現実が及ぼす予想される健康リスク図2映像酔いとは映像視聴により,いわゆる乗り物酔いのような症状を発症した状態となる.図3映像酔い:Visually.InducedMotionSickness(VIMS)についてのミスマッチ仮説重力の加速度や自分の運動の加速度を検知するセンサーとして前庭器官がある.姿勢制御は,頭の位置が重力に対して決まり,次に頸の筋肉の反射が働いて,頭部に対して身体位置が決まる.そのあとで,身体や足にある抗重力筋が働いて床に垂直に立つことができる.われわれの空間認知の基本は「重力の方向」にある.このような空間認識を基本として,視覚刺激が前庭系に影響を与える制御には感覚からのフィードバックが不可欠である.視覚,体性感覚および前庭感覚からの情報を基に常に姿勢制御を行っている.また,各感覚からの情報の組み合わせについても常に適応・学習して変化させている.図4視覚・体性感覚および平衡機能の入・出力系の概要仮想現実感を与えて「臨場感」を作り出すには,人間の感覚である五感(視覚,聴覚,触覚,嗅覚,味覚)が必要である.出力系として,眼の動き,姿勢を正す脊髄反射,そし心拍呼吸,消化器系の自律神経系の活動として表現される.耳石器情報による神経回路として①耳石器動眼反射,②耳石器脊髄反射,③耳石器頸反射,④耳石器自律反射,⑤耳石器皮質投射系,⑥耳石器小脳投射系を示す.(和田佳郎:眼球運動から見た耳石器のはたらき─耳石器動眼反射研究の紹介─.EquilibriumRes69:152.160,2010より改変引用)⑤⑥②③④①図5単眼視でも得られる奥行き感奥行き知覚の手がかりは,片眼でも可能ある.映画『モダンタイムス』のラストシーンであるが,これだけでも奥行きの知覚はされている.①対象物間の隠蔽(光は,上から注ぎ物の下側が暗くなり地面に影を作る.②物体により背後にあるものは隠れる.③サイズ=大きさの恒常性(近いものは大きい).道路は遠方ほど狭く,近方ほど広い.vanishingpointともいわれる.網膜像は実際の大きさに比例し,距離に反比例するためである.④きめの密度(近いものほど粗い).⑤視野内の高さ(上にある方が遠方にある).⑥大気遠近法(遠くはぼんやりしている).⑦調節(遠近の物体に対して,ピントを合わせる).⑧運動視差(動きながらみると,近くのものほど動いて見える).-図6IPLの局在と生理学的機能IPL(Inferiorparietallobule)の大きな特徴は,網膜からの視覚入力だけではなく,眼球運動の信号や中心後回体性感覚野からの体性感覚入力,平衡感覚として前庭入力,さらに側頭葉から聴覚情報を受けている.それらを統合することによって,自己を中心とする三次元空間内の物の位置や運動の識別が可能となる.統合される高次感覚野領域これらの領域では対象の空間知覚,運動知覚にかかわる情報処理が行われている.また,体性感覚情報の統合による自己身体情報をもとに,自己の空間・運動知覚や対象物と自己との相互関係などの情報処理が行われる.VR視聴に関連した重要な領域とされる.ab左右図7視空間失認の一症例症例はC58歳,女性.主訴:右側が見えづらい.Ca:頭部CMRI検査により右)中大脳動脈/後大脳動脈境界領域と左)後頭葉内側の梗塞を認める.Cb:視野検査では,右同名半盲,左下C1/4半盲を認めた.Cc:左視空間失認者の時計作図.“分水界領域”梗塞であり,頭頂連合野C39野(角回)障害から左視空間失認を呈した.図8成人と小児の飛び出し量輻湊-調節の不一致は,眼-眼間隔(瞳孔間距離)が小さい小児では,成人が感じる飛び出し量よりも大きくなる.

デジタルデバイスと眼疲労評価

2019年7月31日 水曜日

デジタルデバイスと眼疲労評価EvaluationofVisionFatigueRelatedtoDigitalDevices広田雅和*はじめにパーソナルコンピューター,スマートフォン,タブレット端末などのデジタルデバイスは世界的に普及している.デジタルデバイスは仕事の効率向上や,ソーシャルネットワーキングサービス(socialnetworkingser-vice:SNS)をはじめとした私生活におけるコミュニティの入り口としての役割をもち有用性が高い.近年ではスマートフォンアプリケーションのポケモンGO(Niantic社)に代表される拡張現実(augmentedreali-ty:AR),OculusRift(Oculus社)やPlayStationVR(ソニー)に代表される仮想現実(virtualreality:VR),MREAL(キャノン)やHoloLens(Microsoft社)に代表される複合現実(mixedreality:MR)などのXRと称される技術を用いたソフトウエア,ハードウエアが各社から発売され,普及しはじめている.一方で,デジタルデバイスの普及に伴い眼疲労症状を訴える患者が増加しており,国際的な健康問題となっている1).眼科臨床において,眼疲労は患者の自覚症状を基に診断・評価されている.眼疲労は輻湊と調節の負荷によって惹起されることが指摘されている.その裏付けとして,輻湊と調節の矛盾(vergence-accommodationcon.ict)が大きい三次元(3-dimension:3D)映像視聴時のほうが二次元(2-dimension:2D)映像視聴時よりも自覚的な眼疲労症状が大きいことが報告されている2)(図1).本稿では,今後も普及が進むと予想される2Dおよび図13D映像視聴時における輻湊と調節の矛盾3.8°の視差に対して,はじめは輻湊と調節が惹起される.しかし,徐々に調節反応が減弱し,ディスプレイに焦点を結ぶ.(神田ら,眼科臨床紀要,2012)*MasakazuHirota:帝京大学医療技術学部視能矯正学科〔別刷請求先〕広田雅和:〒173-8605東京都板橋区加賀2-11-1帝京大学医療技術学部視能矯正学科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(21)8593D映像を扱うデジタルデバイスの眼疲労評価について解説する.CI眼疲労の評価指標1.輻湊近点輻湊近点は,遠方から接近(1Cor2Ccm/s)する調節視標を被験者が固視し続ける検査である.被験者の融像が壊れて一眼が偏位した時点,あるいは被験者が複視を自覚した時点における角膜頂点からの距離を求める.調節視標が鼻根部に接触するまで両眼視を維持できていた場合は,便宜上C0CcmもしくはC1Ccmとする3).C2.融像幅融像幅は,遠見C5.0Cmまたは近見C33Ccmの視距離において被験者に固視目標を注視させた状態でプリズムレンズを負荷する.プリズムレンズの加入度数を増やし,被験者の融像が壊れて一眼が偏位したとき,あるいは被験者が複視を自覚した時点におけるプリズム度数を,基底内方および外方において測定し加算する.C3.調節微動高周波成分調節微動高周波成分は,毛様体筋の動きを反映しているとされる.調節微動はオートレフラクトメータあるいは波面センサーで測定した屈折値におけるC2Cnの測定点をフーリエ変換しスペクトル解析する.高周波成分の帯域は研究によって異なるが,周波数C1.0.2.3CHzの帯域における積分値を高周波成分として扱うことが多い4).C4.中心フリッカー中心フリッカーは,被験者がちらつきを認識した周波数(出現),およびちらつきを認識しなくなった周波数(消失)を上下法によって測定する.眼疲労によって中心フリッカー値は低下することが報告されている5).C5.融像維持能力眼疲労の自覚症状は,複視や視界のぼけが上位にランクインしている.筆者らは,眼疲労になると融像を維持する能力が低下するのではないかと仮説を立て,融像維持能力を測定する方法を開発した6).融像は左右眼の入射光量に差をつけると破壊される.融像維持能力の測定はこの特性を利用し,液晶シャッターで非優位眼の入射光量を落とし,両眼波面センサー(トプコン)に搭載されたアイトラッカーで一眼が偏位した時間を同定する.融像維持能力は,同定した時間における左右眼の入射光量比から算出する(図2,3).CIIパーソナルコンピューター使用による眼疲労パーソナルコンピューターはオフィス作業において主流のデジタルデバイスである.パーソナルコンピューターの作業は長時間同じ姿勢,同じ視距離でディスプレイを注視し続けるため,8時間の業務終了後に輻湊近点が有意に延長したと報告されている7).眼疲労症状を訴える患者を対象に融像幅を測定したCSedaghatらの研究では,眼疲労症状を訴える患者は健常者と比較して近見の融像幅が有意に延長した8).国内においても,Kajitaらが眼疲労患者は調節微動高周波成分が健常者よりも有意に増加していたと報告している9).これらの先行研究は,長時間のパーソナルコンピューター作業によって輻湊と調節に負荷がかかった結果,眼疲労が惹起されたことを示唆している.中心フリッカーの出現値を測定した先行研究において,デジタルデバイスを使用するオフィスワーカーは,週明けよりも週末のほうが中心フリッカー出現値が有意に低下していることが報告されている5).したがって,眼疲労は日々のデジタルデバイス使用によって蓄積することが示唆される.CIIIスマートフォン使用による眼疲労わが国におけるC2016年度のデジタルデバイス普及率はパーソナルコンピューターが微減しスマートフォンが増加している.先行研究において,スマートフォンの視距離はC20Ccm以下であることや10),座位よりも側臥位のほうが視距離が短いことが報告されている11).スマートフォン使用時の視距離はパーソナルコンピューターよりも短いことから,輻湊と調節に過度な負荷がかかることが推測される.860あたらしい眼科Vol.36,No.7,2019(22)図2融像維持能力の測定方法融像維持能力の測定は,両眼波面センサーを用いて行う(Ca).被験者は両眼波面センサーの前眼部に取り付けた液晶シャッター(Cb)越しに視距離C33cmで視力換算1.52logMARの固視目標(Cc)をC50秒間注視する.測定中非優位眼の液晶透過率をC1.15%ずつ変化させる(Cd).非優位眼図3融像維持能力測定中の眼位被験者の非優位眼(右眼)の液晶透過率を徐々に減少(左下図)させると,ある程度両眼の入射光量に差がついた時点で融像が破壊され,非優位眼(右眼)が偏位する(左上図).両眼波面センサーで眼位を経時的に記録すると,液晶シャッターの透過率が最低値を取る22秒よりも早い段階(右図の黒線)で眼位が外方偏位している.~視覚負荷前視覚負荷後*********自覚的眼症状スコア43210Q1Q2Q3眼の疲れ視界のボケ眼の乾きや瞼の重さ図43D映像による視覚負荷前後の自覚的眼症状スコア眼の疲れ(Q1),視界のボケ(Q2),眼の乾きや瞼の重さ(Q3)のC3項目すべてがC30分間の視覚負荷後,有意に増加した.***:p<0.001,Wilcoxonsigned-ranktest.a視覚負荷前b視覚負荷後5014輻湊近点(cm)10200視覚負荷前視覚負荷後視覚負荷前視覚負荷後16401210融像幅(PD)30864200.8調節微動高周波成分)(D2/Hz×10-20.60.40.20.0視覚負荷前視覚負荷後視覚負荷前視覚負荷後図53D映像による視覚負荷前後の各検査結果30分間の視覚負荷後,輻湊近点(Ca),融像幅(Cb),調節微動高周波成分(Cc)は視覚負荷前と比較して有意差を認めなかった.融像維持能力は視覚負荷後有意に低下した(Cd).***:p<0.001,Wilcoxonsigned-ranktest.C0.1融像維持能力変化量0.0-0.1-0.2図6融像維持能力と自覚的眼症状スコアの関係赤実線は回帰直線(調整済みCRC2=0.752,Cp<0.001)を示す.融像維持能力変化量(視覚負荷後-視覚負荷前)は自覚的眼症状の総合スコア(Q1+Q2+Q3)変化量と有意な負の-0.3相関を認めた.-0.4-0.5-4-22604自覚的眼症状の総合スコア変化量図7VR.HMD(a)と2D液晶ディスプレイ(b)の視覚負荷前後の融像維持能力群内比較において,VR-HMDとC2D液晶ディスプレイともに視覚負荷後の融像維持能力は視覚負荷前よりも有意に低下していた.*:p<0.05図8VR.HMDと2D液晶ディスプレイにおける自覚的眼症状スコア変化量(a)と融像維持能力変化量(b)の群間比較自覚的眼症状スコア変化量,融像維持能力ともにCVR-HMDとC2D液晶ディスプレイの間に有意差は認めなかった.-

タブレット端末と学校保健

2019年7月31日 水曜日

タブレット端末と学校保健TheStateoftheUsageofTablet-TypeDigitalDevicesamongSchoolChildren柏井真理子*はじめに世の中のIT化に伴い,児童生徒などのスマートフォン(以下,スマホ)やタブレット端末を利用する機会や時間がかなり多くなってきている.一方このような情報社会では児童生徒が新たな時代を豊かに生きる力を育成するために,学校での学習に情報通信技術(informationandcommunicationtechnology:ICT)環境を整備し,教育の情報化やICTを積極的に活用する教育の推進が謳われている.文部科学省(以下文科省)は,2011年4月に2020年に向けた「教育の情報化ビジョン」を発表し,総務省と連携し「学びイノベ-ション事業」を実施してきた.本稿では,現在の児童生徒のインターネット,スマホ,タブレットなどの利用状況,法整備がなされ2019年4月より導入されたデジタル教科書を始めとする学校でのICTの現状,そしてこれらIT機器と学校保健や眼の健康との関連について述べる.今回のデジタル教科書導入を契機に,児童生徒が「ICTをうまく活用する方法」をしっかりと学び,日常生活で実践していくことが望まれる.I児童生徒の視力やデジタル機器など使用の現状1.児童生徒の視力の状況(文科省調査より)文科省「平成30年度学校保健統計(学校保健統計調査報告書)」1)によると,学校健診の児童生徒の視力検査における「裸眼視力1.0未満の者」は2018年度は統計を取りはじめた1980年より右肩上がりの傾向があり,幼稚園児では26.7%,小学生34.1%,中学生56.0%,高校生では67.2%と,幼稚園児以外では過去最高となっている(図1)1).1.0未満の多くは,近視によるものと考えられている.2.インターネット利用状況の現状(総務省調査より)総務省の「平成30年度青少年のインターネットの利用環境実態調査」2)では,小学生(85.6%),中学生(95.1%),高校生(99.9%),平均93.2%と多くの児童生徒がインターネットを利用している.また,高校生がインターネットを利用するときの機器はスマホが93.4%となっており,ほとんどの生徒がスマホを保持していることが把握できる.また,青少年のインターネットの1日あたりの利用時間は,2017年度より9分増加し平均169分,小学生は21分増加し118分,中学生が163.9分,高校生では217.2分であり,学校の授業で使用する時間に比べ日常生活での使用時間や頻度のほうが多いと想定される.目的ごとの利用時間は動画視聴をはじめとする趣味娯楽がもっとも多く約106分となっている.前述の学校健診から把握できる児童生徒の裸眼視力低下割合の増加には,このような環境要因が大きく作用していると思われる.*MarikoKashii:柏井眼科医院(日本眼科医会学校保健担当)〔別刷請求先〕柏井真理子:〒603-8162京都市北区小山東大野町50-2柏井眼科医院0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(13)851%67.234.126.7男子(%)100500050女子(%)10046.353.154.825.627.928.2携帯電話・スマートフォンを利用する23.025.137.264.596.597.237.132.829.434.444.246.9タブレット・パソコンを利用する25.834.040.244.323.618.2全体小学校1・2年生小学校3・4年生小学校5・6年生中学生高校生図2インターネット時の携帯電話・スマホ・タブレット・パソコンの使用日本学校保健会「平成28.29年度児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書」より男子4°00’3°00’2°00’1°00’1°40’1°53’2°24’0°34’0°37’0°48’1°11’0°45’0°50’0°58’1°35’1°23’全体小学校1・2年生男子0°00’0°00’1°00’2°00’3°00’4°00’携帯電話・スマートフォンを利用するタブレット・パソコンを利用する1°50’0°31’0°35’0°42’1°53’2°38’1°03’0°43’0°43’0°54’1°24’1°13’小学校3・4年生小学校5・6年生中学生高校生図3インターネット時の携帯電話・スマホ・タブレット・パソコンの使用時間日本学校保健会「平成28.29年度児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書」より図4テレビ時間別の視力低下者の割合日本学校保健会「平成28.29年度児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書」より図5携帯電話・スマホ使用時間別の視力低下者の割合日本学校保健会「平成28.29年度児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書」より(人/台)H30年3月1日現在45.65.966.86.66.66.56.56.46.27.37.07.27.78.18101214HHHHHHHHHHHHHH1718192021222324252627282930図7教育用コンピューター1台当たりの児童生徒数学校における教育の情報化の実態に関する調査結果(文部科学省)表1学校種別学校におけるおもなICT環境の整備状況平成30年3月1日現在・3・3・3・3・3・3・3・3・3・3・3・3・3・3全学校種小学校中学校義務教育学校高等学校中等教育学校特別支援学校学校数33,63819,5299,389463,570311,073児童生徒数11,857,3776,333,2883,063,47920,7502,280,61122,399136,850普通教室数462,995254,996109,01786968,98067628,457教育用コンピュータ台数2,100,950996,860552,1034,320491,1825,06551,420教育用コンピュータ1台当たり児童生徒数5.6人/台6.4人/台5.5人/台4.8人/台4.6人/台4.4人/台2.7人/台普通教室の無線LAN整備率34.5%37.2%35.2%60.4%22.5%30.8%36.2%(参考)普通教室の校内LAN整備率90.2%89.3%88.4%88.3%94.7%94.7%93.9%超高速インターネット接続率(30Mbps以上)91.8%91.2%91.2%89.1%95.7%96.8%94.1%(参考)超高速インターネット接続率(100Mbps以上)63.2%61.3%61.1%65.2%75.8%80.6%74.6%普通教室の電子黒板整備率26.8%28.2%32.4%81.1%20.1%24.7%7.5%教員の校務用コンピュータ整備率119.9%117.2%117.4%125.5%133.7%132.9%110.0%統合型校務支援システム整備率52.5%50.6%51.1%65.2%67.0%54.8%49.2%(学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果文部科学省)置率(大型掲示装置)は26.8%となっている.学校別におけるおもなICT環境の整備状況を示す(表1)4).2.デジタル教科書2020年度から実施される文科省新学習指導要領の総則においては,「ICT環境を整備する必要性」が規定されるなど教育の情報化が一層増しており,これまでの紙によるものを前提としていた教科書についても「教科書へのICTの活用のあり方」という観点から学習用デジタル教科書について検討が行われ,2019年度から,学校教育法などの一部改正を経て,一定の基準の下で,必要に応じ紙の教科書に代えて学習用デジタル教科書を使用できる制度が実施されることになった.2018年に文科省から発出された「学習者用デジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン」5)(以下,デジタル教科書ガイドライン)には以下のような記述がある.「学習用デジタル教科書は,(中略)学習者用コンピューターにおいて児童生徒一人一人が使用するものである」もちろん現状では紙の教科書は今までどおりの位置づけで重要な役割を果たすのであり「教育課程の一部において,紙の教科書に代えて学習用デジタル教科書を使用できることとなる」.ただし「特別な配慮を必要とする児童生徒等(視覚障害や発達障害等の障害,日本語に通じないこと,これらに準ずるものにより紙の教科書を使用することが困難な児童生徒)は文字の拡大や音声読み上げ等により,その学習上の困難の程度を低減させる必要がある場合には,教育課程の全部においても,紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書の使用をできることとなる」.たしかにデジタル教科書を使用することにはいろいろなメリットが考えられる.たとえば紙面を拡大して表示することはロービジョンの児童生徒には大変有益である.また,読字障害のある児童生徒にとっては紙面を機械音声で読み上げる機能は大変ありがたいサポートになるであろう.他に背景色・文字色の変更・反転,漢字にルビを振るなどの配慮も紙面が読みやすくなる方法である.また,一般の授業では,音読やネイティブ・スピーカーなどが話す音声を聴けることや,教科書の紙面にマーカーなどで書き込みを繰り返しできること,写真や地図やイラスト・グラフなど掲載内容を拡大することでさまざまな角度から調べることができる.内容を保存するなどデジタル教科書ならではの有益なさまざまな学習方法が期待されるところである.さらに大型掲示装置や教師のコンピューターに児童生徒の学習者用デジタル教科書の画面を表示し,教師や児童生徒間で共有することができる.個別学習場面やグループ学習の場面,一斉学習の場面など,いろいろな活用の仕方が今後も検討されていくと思われる.3.デジタル教科書の使用にあたり指導上で留意すべき点上記デジタル教科書ガイドライン5)には指導上の留意点として1)あくまでデジタル教科書の使用を段階的に進めるよう,「紙の教科書を主体として使用し,学習用デジタル教科書と適切に組合わせること」学習用デジタル教科書は各学年で「授業時数の2分の1未満であること.ただし特別の配慮を必要する児童生徒等については,この限りでないこと」.2)「常に紙の教科書は使用できるようにしておくこと」.3)「児童生徒一人一人がそれぞれの学習者用デジタル教科書を使用すること」.一人一台パソコンがない場合はクラス間で調整し,「当該授業において一人一台の学習者用コンピューターを用意すること」.その他,漢字や計算などの繰り返し学習にはノートの使用を基本とすること,デジタル教科書の効果や影響をみつつ指導方法や指導体制の改善に努めることなどが記載されており段階的導入や紙教科書との併用が強調されている.4.児童生徒の健康に関する留意点今回のデジタル教科書ガイドライン5)作成にあたっての検討会議や,それ以前の「児童生徒の健康に留意してICTを活用するためのガイドブック」6)(文科省,2014年)策定に際し日本眼科医会は眼の健康に留意するよう専門家としての助言や種々の意見・要望を文科省に提言856あたらしい眼科Vol.36,No.7,2019(18)目線は画面に直交する角度に近づける画面の角度背中を伸ばすを傾けるお尻を後ろにして床に両足深く腰掛けるをつける図8タブレットPCを利用する際のポイント(文部科学省「児童生徒の健康に留意してICTを活用するためのガイドブック」より転載)図9近視予防啓発ポスター(公益社団法人日本眼科医会)

デジタルデバイスの視距離と文字サイズ

2019年7月31日 水曜日

デジタルデバイスの視距離と文字サイズDigitalDevice-RelatedViewingDistanceandFontSize野原尚美*丹沢慶一*はじめに近年,日本も情報通信技術(informationandcommu-nicationtechnology:ICT)環境となり,1995年頃よりパーソナルコンピューター(以下パソコン)通信やインターネット接続のために携帯電話が利用されるようになった.その後2007年に米国でスマートフォンが発売されると,日本ではとくに2010年以降,爆発的にスマートフォンが普及し,急速に携帯電話からスマートフォンへの移行が始まった.総務省によると,2017年における個人のスマートフォン保有率は60.9%である1).スマートフォンは,電話やメールはもちろん,ゲームやウェブサイトの閲覧がいつでもどこでもできるため,使用者は小さな画面を長時間見つづけることが常態化しやすく,しかもその視距離は非常に短いといわれている.また,教育の現場でもICT教育の取組みが本格化し,小・中学校の授業でタブレット端末(以下タブレット)を使用した授業が急速に進んでいる.文部科学省は2013年度よりタブレットを用いたデジタル教科書の標準化事業を始めており,2020年度から本格的に全国の小・中学校で導入される見通しが示され2),今後ますます初等教育にタブレットが取り入れられていくことになる.このような状況のなかで,視覚の発達途上にある子どもたちが一体どのようにタブレットを使用しているのか,とても気になるところである.本稿では,視距離が短いといわれているスマートフォンや,教育の場で取り入れられるタブレットを使用しているときの視距離に焦点を絞り,従来からの紙媒体を見ているときの視距離と比較検討しながら視機能への影響について考察し,今後の対策について述べる(図1).I成人におけるデジタルデバイスの使用1.携帯電話ならびにスマートフォン使用時と書籍の視距離筆者らは,67名の成人(平均年齢20.2歳)を対象として,書籍を読んでいるときとスマートフォンならびに携帯電話を使用しているときの視距離を比較検討し報告した3).表1には書籍,携帯電話ならびにスマートフォンの作業別の視距離と,文字サイズ(mm・ポイント数),視距離での視角(分),輻湊角(⊿)が示されている.スマートフォンや携帯電話使用時の視距離は,書籍を読んでいるときの視距離に比べ有意に短く,とくに文字が小さいウェブサイトを見ているときは19.3±5.0cmと非常に短い視距離であった(p<0.01)(図2).文字サイズが1~2mmの通常文字で見ているときは,全体の71%の者が書籍を読んでいるときよりも10cm以上視距離が短縮しており,3~5mmに拡大しても,31%の者は視距離が短いままであった.以上より,書籍を読むことが中心の時代に比べて,現代は小さな画面を,30cmよりも短い視距離で長時間見続ける時代へと変化しており,眼に対する影響としては,常時調節負荷がかかり,より近見反応を酷使しているといえる.現に,最近20代,30代の若者の間で「手*NaomiNoharaand*KeiichiTanzawa:平成医療短期大学リハビリテーション学科視機能療法専攻〔別刷請求先〕野原尚美:〒501-1131岐阜市黒野180平成医療短期大学リハビリテーション学科視機能療法専攻0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(7)845教育現場に導入・拡大テレビ使用する際の対策図1本稿の概要表1成人における作業別の視距離・文字サイズ・視角・輻湊角(対象者年齢:20.2歳,n=67)①書籍②携帯電話メール③スマートフォンメール④スマートフォン通常文字⑤スマートフォン拡大文字⑥スマートフォンゲーム⑦スマートフォン歩き・メール視距離C±SD(cm)C33.7±5.7C27.8±5.0C27.7±4.8C19.3±5.0C25.2±5.4C26.2±5.7C26.5±5.0文字サイズ(mm)(相当するポイント数)C3(8)2~3(5C.67~8)2~3(5C.67~8)1~2(C2.83~C5.67)3~5(8~14)C─2~3(5C.67~8)視距離での視角(分)(文字サイズ/視距離)C3025~3C725~3C718~3C641~6C8C─26~3C9輻湊角(⊿)C18.0±3.0C21.0±4.0C22.0±4.0C31.0±7.0C23.0±5.0C23.0±5.0C22.0±4.0C444240-2.5383634323028262422201816視距離(cm)調節(D)-3.0-3.5-4.0-5.0-6.0-8.0①書籍②携帯電話③スマートフォン④スマートフォン⑤スマートフォン⑥スマートフォン⑦スマートフォンメールメール通常文字拡大文字ゲーム歩き・メール(*p<0.01)図2成人における書籍と携帯電話・スマートフォン使用時の作業別視距離454035302520151050小文字中文字大文字(*p<0.01)図4視距離の測定(赤い線は基準値,青い線は視距離を示す)図3成人におけるスマートフォンの文字サイズ別の視タブレットの一辺が写るように写真撮影し,その写真をパソコ距離(対象者平均年齢:19歳,n=15)ン上のCMapMeasure(地図上の道のりを測定する距離測定ソフト)で開く.まず,基準値となるタブレットの一辺をクリックし,実際の長さを入力し,続いて角膜頂点と基準値とした一辺上をクリックすると自動で視距離が算出される.1010550教科書タブレット調べ学習(*p<0.01)0小学4年小学6年中学3年図5小・中学生における教科書とタブレットで調べ学習(n=25)(n=31)(n=29)時の視距離(n=85)図6学年別におけるタブレットで調べ学習時の視距離40403535*視距離(cm)30252015-

序説:弱視と斜視のカレントトピックス

2019年7月31日 水曜日

弱視と斜視のカレントトピックスCurrentTopicsofAmblyopiaandStrabismus仁科幸子*佐藤美保**弱視や斜視の病態や解析法は,多くの眼科医にとって難解な部分が多く,一般的な症例の診断や治療はできても,非定型的な場面に出くわすと途方に暮れることがある.また,最近の大きな変化として,先進の検査機器や検査方法が急速に小児眼科や斜視の分野でも用いられるようになっていることに着目したい.本特集では,診療に役立つ新しい情報を総括するために,過去2年間の弱視斜視の分野のトピックスの中から,専門外の医師や視能訓練士の方々にも知っておいていただきたい内容をピックアップしてみた.それらの背景や今後の発展を含めて,専門の先生方にわかりやすく解説していただくように企画した.弱視のトピックスとして,近年,3歳児健診における弱視の見逃しをなくすために屈折検査の必要性が強調されているが,ようやく導入する自治体が増えてきている.また,新たな手持ち自動判定機能付きフォトスクリーナー装置SpotTMVisionScreenerは小児科医にも急速に普及しているが,乳幼児の視覚スクリーニングにどのように利用していくか,また,眼科との連携をどうするかが大きな課題となっている.山形大学の林思音先生は,3歳児健診における本装置の有用性や精度について自治体と連携して研究を進めておられるので,乳幼児の屈折スクリーニングの現状と課題を示していただいた.第2のトピックスは,小児の弱視斜視診療に必須の精密屈折検査に用いる調節麻痺薬(アトロピン硫酸塩点眼,シクロペントラート点眼薬)の使用法と注意すべき副作用について日本弱視斜視学会が行った多施設研究である.その結果について,近畿大学の若山曉美先生に解説していただいた.第3のトピックスとして弱視と紛らわしい眼底疾患の鑑別を取りあげる.RETevalは皮膚電極で無散瞳,さらに暗順応なしでERGが記録できる装置である.さらにISCEVプロトコールに従ってさまざまな条件下での記録が可能である.そのため,小児にも簡便に外来で網膜電図(ERG)を記録・分析することが可能となった.その利用法について浜松医科大学の長谷岡宗先生と佐藤美保が解説した.いずれも明日からの診療に役立つ情報が満載であり,ぜひ目を通していただきたい.斜視のトピックスとしては,まず,斜視の原因に対する新たな知見である眼窩角と斜視の関連性について,眼科やがさき医院の矢ヶ﨑悌司先生に興味深いご研究の成果を解説していただいた.次に,近年,スマートフォンなどのデジタルデバイスの過剰使用との関連が指摘されている急性内斜視の話題である.デジタルデバイスの使用との因果*SachikoNishina:国立成育医療研究センター眼科**MihoSato:浜松医科大学医学部眼科学講座0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(1)971