提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一60.片頭痛と光原直人国際医療福祉大学保健医療学部視機能療法学科C●はじめに近年,情報通信技術(informationCandCcommunicationCtechnology:ICT)の発達でスマートフォン,タブレット,電子書籍など長時間のディスプレイ凝視が増加し,またCLED照明の普及,自動車のライトなど高輝度環境下で暮らす生活となった.片頭痛は,光過敏(光により不快感や疼痛が生じる現象)を生じる代表的疾患1)である(図1).頭痛発作により日本では毎日C60万人が苦痛を感じる社会生活を余儀なくされている.このため生産性の低下・能率低下をきたし,年間C2,880億円程度の膨大な経済的損失を招いている2).したがって片頭痛に対図1片頭痛発作を引き起こす光環境因子とそのマネージメント野外では太陽光,自動車のライトにより,室内ではCLED照明,する発作予防として,光マネージメントは重要である.C●片頭痛の臨床症状ズキンズキン・ガンガンと脈打つような拍動性頭痛で,“頭の中に心臓があるようだ”とも表現される.頭部の片側のこめかみから眼のあたりに起こり,頭部全体が痛むこともある(全体の約C40%).嘔吐,光過敏や音過敏などを伴う.20~40歳に多く,日本における有病率は約C8.4%である.頭痛に先立つ前兆の有無により,前兆のある片頭痛(片頭痛の約C25%)と前兆のない片頭痛に分類される.前兆は欠伸,空腹感,肩・頸部のこりなど多彩であるが,視覚感覚がC90%以上を占める.視覚前兆である閃輝暗点には,陽性徴候のキラキラした光(scintillatingClights)と陰性徴候の暗点(scotoma)があり,これらの症状のため眼科を受診する.C●片頭痛脳とその頭痛発作の機序片頭痛には後頭葉皮質の易興奮性3)が存在していて(片頭痛脳),てんかんと類似疾患とされる4).この易興奮性が,三叉神経系とともに第一次視覚野を中心とした視覚伝導路にも変化を及ぼしている5).全盲の片頭痛患者と光覚弁の片頭痛患者への光刺激では,後者で頭痛発作が誘発されたことから,残されたメラノプシンを含有する内因性光感受性網膜神経節細胞(intrinsicallypho-(61)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPYデジタルデバイス画面などにより光過敏が誘発される.それぞれ遮光眼鏡,ナイトドライブレンズそして調光可能な照明により光をマネージメントする.画面からの光の軽減には,遮光眼鏡やフィルターにより光を軽減させることが重要である.CtosensitiveCretinalCganglioncells:ipRGCs)が頭痛誘発に関与していることが示された6).その後の光による頭痛発作の機序として,ラット研究より網膜(ipRGC)→視床→硬膜→三叉神経節を介したCphotophobiaCcircuitsが考案された7,8).トリガーとしての光が,神経ペプチド(calcitoningene-relatedCpeptide:CGRP)を硬膜血管周囲に放出させ,その結果,血管拡張や神経原性炎症を引き起こし,疼痛が惹起される(三叉神経血管説)(図2)9).C●遮光に基づく頭痛発作の予防の試み①遮光眼鏡:欧米では遮光眼鏡による頭痛発作の抑制効果の報告は多い10~13).わが国の報告では,ipRGCのピーク波長であるC480Cnmの光(白色CLED)で片頭痛患者は健常者より羞明を強く感じること,そのピーク波長を低減した「アクティビューナイトドライブ」レンズ(東海光学)により夜間運転中のヘッドライトに惹起される頭痛発作日数,頭痛薬の服用日数と程度を減少できることが報告14)されている.一方,片頭痛患者C16名を対象とした遮光眼鏡(CCP-400,東海光学)の色調選択トライアルの自験例では,25%がCMGを,44%がCFLあたらしい眼科Vol.36,No.10,2019C1283硬膜血管に分布する神経終末が刺激され血管作動性物質が放出される,を選択した(図3).②高機能フィルター:VDT作業者に対して高輝度ディスプレイに装着することを推奨している4).③暗い静かな環境:調光ができる照明器具への変更,室内の色彩への配慮など,住環境も工夫されつつある.以上,光量を軽減し快適なコントラスト視力が得られる遮光眼鏡により,また調光により頭痛発作が抑えられる.文献1)HayCKM,CMortimerCMJ,CBarkerCDCCetal:1044CwomenCwithmigraine:theCe.ectCofCenvironmentalCstimuli.CHead-acheC34:166-168,C19942)LiftingCTheCBurden,CGlobalCCampaignCtoCReduceCtheCBur-denCofCHeadacheCWorldwide.CKyotoCDeclarationConCHead-ache.October9th,20053)WrayCSH,CMijovic-PrelecCD,CKosslynSM:VisualCprocess-inginmigraineurs.Brain118:25-35,C19954)RogawskiMA:CommonCpathophysiologicCmechanismsCinCmigraineandepilepsy.ArchNeurolC65:709-714,C20085)ShibataK,YamaneK,IwataM:ChangeofexcitabilityinbrainstemCandCcorticalCvisualCprocessingCinCmigraineCexhibitingallodynia.Headache46:1535-1544,C2006(人)876543210図3片頭痛患者による遮光レンズの色調選択の結果片頭痛患者C16名(男性C2名,女性C14名,年齢C32~71歳,平均C53.7歳)のうち,44%がCFLを,25%がCMGを選択した.逆に,若年健常者C46名(男性C6人,女性C40名,年齢C19~22歳)を対象としたレンズ選択では,一律に選択された色調はなかった.とくにCFLは好まれなかった(1名のみ).色調名はCTR:Trunk,SC:SpringColor,LG:LightCGrey,NA:NewAutumn,MG:MiddleGray,FL:FallenLeaves(東海光学社)を示す.6)BursteinR,NosedaR,FultonAB:Neurobiologyofphoto-phobia.JNeuroophthalmol39:94-102,C20197)NosedaR,KainzV,JakubowskiMetal:Aneuralmecha-nismforexacerbationofheadachebylight.NatureNeuro-scienceC13:239-245,C20108)DigreKB,BrennanKC:Sheddinglightonphotophobia.JNeuroophthalmol32:68-81,C20129)濱田潤一:片頭痛の病態生理─Cgeneratorを中心に.臨床神経48:857-860,C200810)AfraCJ,CAmbrosiniCA,CGenicotCRCetal:In.uenceCofCcolorsConhabituationofvisualevokedpotentialsinpatientswithmigraineCwithCauraCandCinChealthyCvolunteers.CHeadache40:36-40,C200011)GoodCPA,CTaylorCRH,CMortimerMJ:TheCuseCofCtintedCglassesCinCchildhoodCmigraine.CHeadacheC31:533-536,C199112)WilkinsAJ,BakerA,AminDetal:Treatmentofphoto-sensitiveCepilepsyCusingCcolouredCglasses.CSeizureC8:444-449,C199913)WilkinsCAJ,CPatelCR,CAdjamianCPCetal:TintedCspectaclesCandCvisuallyCsensitiveCmigraine.CCephalalgiaC22:711-719,C200214)辰元宗人:光と片頭痛.日本頭痛学会43:47-49,C2016TRSCLGMGFLNAPAS122