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わたしの工夫とテクニック 硝子体内注射の練習用モデル眼の試作

2019年10月31日 木曜日

わたしの工夫とテクニックあたらしい眼科36(C10):C1335~C1337,C2019MyDesignandTechnique硝子体内注射の練習用モデル眼の試作要約初心者向けに,硝子体内注射の練習用モデル眼を試作した.ペットボトルの「ふた」をビニールテープで覆い,模擬眼を作製した.テープが貼ってある箇所を模擬強膜とした.短時間でモデル眼は作製でき,硝子体内注射の練習が可能であった.工夫をすれば,眼内に刺入させる注射針の長さを,調整するトレーニングが可能であった.本モデル眼は,細部にこだわらないので,低予算で作製でき,手軽に練習ができる.はじめに硝子体内注射による薬物治療では,手技そのものは熟練を要しないが,留意すべき点がある1~3).有水晶体眼の場合,注射針の接触による外傷性白内障の合併に注意が必要である.発症頻度は少ないが,注射数が大幅に増えているので,その絶対数の増加が懸念されている1).これまでに筆者は,初心者向けに硝子体手術関連の練習用モデル眼を作製し,硝子体内注射や硝子体手術の一部の練習ができることを報告した4).今回,そのモデル眼を改良して,硝子体内注射のトレーニングに特化した模擬眼を試作したので解説する.模擬眼の作製と練習市販されている飲料水のペットボトルの「ふた」とビニールテープで,硝子体内注射の練習用モデル眼を作製した.テープが貼ってある箇所は模擬強膜とした.注射針を刺入する位置は,事前にマークすることができる(図1).このモデル眼は,1~2分程度で作製できた.今回使用したビニールテープの幅はC45Cmm,厚みはC0.18mmである.ヒト強膜の厚みはC0.5~1.0Cmmである.テープをC3~5枚重ねると近似させることができるが,強度が増すTrainingMethodsforIntravitrealInjection上甲覚*ためC1~2枚で十分である.本モデル眼は,テープC1枚で作製してある.この作製したモデル眼を耐震マットの上に乗せて固定した後,硝子体内注射の練習をした.針をC1Cmlの注射器に取り付けた後,定規で眼内に刺入させる長さを確認した(図2a).目標の長さを決めた後,針先に意識を集中して硝子体内注射の練習を行った(図2b).今回は,30ゲージ針を使用しているが,各施設で実際に用いている注射針で何度も練習するのがよい.ビニールテープの代わりにラップフィルムとセロハンテープで模擬強膜を作製すれば,刺入した針先を視認できる(図3).モデル眼と耐震マットの間に,紙や粘土などを挟めば,模擬強膜の刺入部位を意図的に傾けることもできる(図4).本モデル眼は,インスタ映えしない単純な作りであるが,2次創作しやすい.合併症対策の工夫抗CVEGF薬の硝子体内注射による合併症で外傷性白内障を発症し,手術を施行した報告が散見される1,5,6).また,硝子体内注射の既往のある白内障手術では,術中の後.損傷が高いとする報告もある7,8).したがって,有水晶体眼では,注射の位置や角度,患者の固視不良の有無,短眼軸や水晶体の膨隆に対して,より注意が必要と考えられている.通常の硝子体内注射の合併症対策は,細菌性眼内炎の予防に重点が置かれている.術野の消毒以外に,口腔内細菌などの飛沫汚染を防ぐため,患者と術者はマスクを着用する必要がある2,3).だだし,もともと空気中に浮遊している細菌や真菌が注射針に付着する懸念は残る.生体にとって異物である注射針は,どの程度の長さを眼内へ刺入させるのが最善なのか,不明である.エビデンスはないが,眼内に入る針先の*SatoruJoko:国立病院機構東京病院眼科〔別刷請求先〕上甲覚:〒204-8585清瀬市竹丘3-1-1国立病院機構東京病院眼科C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(113)C1335図1硝子体内注射の練習用モデル眼の作製a:飲料用ペットボトルの「ふた」を準備する.Cb:「ふた」の開口部をビニールテープで覆い,輪ゴムで固定し,耐震マットの上に乗せて固定した.テープに描いたC2つの円は,内側は直径C11.0mm,外側はC18.0mmで,幅は3.5Cmmになる.2つの円の大きさや間の幅は,自由に変えることができる.内側の円は,模擬角膜輪部になる.Cc:刺入部位のマークは,円ではなく,実践を意識して点にすることもできる.この点の位置は,模擬角膜輪部から3.5Cmmにしてある.長さは,短いほうが細菌の侵入のリスクは少ない,と個人的には考える.また,不意に患者の眼球が動いても,硝子体内での針の動きは小さくて済む.さらに針の刺入と抜去による強膜創へのストレスも少ないと考える.強膜の厚みは約C1Cmmである.したがって,針先がC3~4図2刺入させる針の長さを意識した練習a:まず,注射器に取り付けた針の眼内に刺入させる長さ,すなわち目標の長さを確認する.今回はC30ゲージ針を用いたが,実際に使用している注射針で練習を行うのがよい.b:ビニールテープの模擬強膜に刺入させるときは,2つの円の幅であるC3.5Cmmの長さを参考にして行うこともできる.練習は,円の刺入位置をずらして繰り返してできる.mm眼内に入れば,硝子体内への薬物注入が十分できる.また,この長さであれば,水晶体に触れる危険はきわめて少ない.注射針が水晶体に触れるリスクのある症例では,眼内に刺入させる針の位置や角度だけでなく,長さも考慮する必要がある.繰り返しトレーニングし,眼内に入れる針先の長さもコントロールできれば,外傷性白内障のリスクを克服できると考える.ただし,硝子体内の刺入した針先の長さが短すぎると,薬液の注入時に針が抜ける可能性がある.また,毛様体無色素上皮下に誤注入する危険性があるので注意が必要である.注射針には,長さのめもりは付いていない.実際に利用できる長さの情報として,以下のことが考えられる.一つは,キャリパーを使ってマークした角膜輪部から針の刺入部位までの距離で,有水晶体眼の場合,通常その幅はC3.5~4Cmmとなる.また,針の長さも参考になる.12Cmmの長さの針の場合は,半分でC6mm,3分のC1でC4Cmmとなる.1336あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019(114)図3針先を確認できる模擬眼の作製食品包装用ラップフィルムで「ふた」を覆い,ラップフィルムの一部にセロハンテープを貼り強度を高めた.テープを貼った位置で,硝子体内注射の練習を行った.刺入した針先の確認ができる.刺入された針先が長ければ,その角度が水平方向に傾くと水晶体損傷を起こす1,5,6).本モデル眼では,刺入時の角度や抜去時の角度を意識した模擬練習も繰り返し可能である.また,実際の薬物の代わりに,空気や水を注入する練習も容易にできる.おわりに今回紹介した硝子体内注射のトレーニング方法は,わずかな時間とスペースがあれば可能である.また,衛生面での注意も必要なく,使用したモデル眼と注射針を何度も再利用できる利点もある.文献1)服部知明:抗CVEGF薬硝子体内注射による合併症.あたらしい眼科31:1003-1004,C2014図4モデル眼の傾きの調整今回は使用済みのハガキを利用した.これを細く切り,重ねてテープで固定した後,模擬眼の下に置いた.切ったハガキをC9枚重ねてあるが,異なる種類の紙や枚数を変えれば,傾斜は意図的に調整できる.2)小椋裕一郎,髙橋寛二,飯田知弘:黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン.日眼会誌120:87-90,C20163)猪俣武憲,本田美樹:硝子体内注射の日米ガイドラインの比較.眼科手術30:5-11,C20174)上甲覚,中山馨:新しい眼科手術練習用モデル眼の試作.臨眼72:419-423,C20185)安井絢子,山本学,芳田裕作ほか:硝子体内注射後の水晶体後.破損に対する硝子体手術併用水晶体再建術を施行したC1例.臨眼69:457-460,C20156)加納俊介,清崎邦洋,福井志保ほか:硝子体内注射C1カ月後に診断された外傷性白内障のC1例.あたらしい眼科C36:C544-547,C20197)LeeCAY,CDayCAC,CEganCCCetal:PreviousCintravitrealCtherapyisassociationwithincreasedriskofposteriorcap-suleCruptureCduringCcataractCsurgery.COphthalmologyC123:1252-1256,C20168)ShalchiCZ,COkadaCM,CWhitingCCCetal:RiskCofCposteriorCcapsuleruptureduringcataractsurgeryineyeswithpre-viousCintravitrealCinjections.CAmCJCOphthalmolC177:C77-80,C2017C☆☆☆(115)あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019C1337

両眼に視神経管浸潤による視神経障害のみをきたした篩骨洞原発びまん性大細胞型B細胞性悪性リンパ腫の1例

2019年10月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科36(10):1330.1334,2019c両眼に視神経管浸潤による視神経障害のみをきたした篩骨洞原発びまん性大細胞型B細胞性悪性リンパ腫の1例阿部竜大佐藤智人高山圭竹内大防衛医科大学校眼科学教室CACaseofPrimaryDi.useLargeBCellLymphomaoftheEthmoidSinusIn.ltratingtheOpticCanalTatsuhiroAbe,TomohitoSato,KeiTakayamaandMasaruTakeuchiCDepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollegeC目的:視神経管浸潤による視神経障害のみをきたした篩骨洞原発びまん性大細胞型CB細胞性悪性リンパ腫(DLBCL)のC1例を報告する.症例:68歳,男性.数週間前より徐々に進行する右眼視力低下で近医眼科を受診し,右眼視神経炎疑いで当院紹介となった.初診時,矯正小数視力は右眼C0.7,左眼C1.2.相対的瞳孔求心路障害(RAPD)は右眼陽性.限界フリッカ値(CFF)は右眼C10CHz,左眼C27CHzであり,前眼部と眼底に特記すべき異常はなかった.複視もなく,眼球突出・眼位も異常なく,眼球運動も正常で眼球運動時痛もなかった.コンピュータ断層撮影で右側が大きい篩骨洞内の腫瘤性病変と右眼視神経管内浸潤があり,生検でCDLBCLと診断された.左眼も同様に視神経管に浸潤し矯正小数視力は右眼光覚弁・左眼C0.3まで低下し視野障害も悪化したが,化学療法による腫瘍の縮小と視神経管浸潤の消失に合わせて改善し,RAPDは右眼陽性が残存したが矯正視力は右眼C0.8,左眼C1.5,CFFは右眼C23CHz,左眼35CHzに回復した.結論:視神経管に浸潤した篩骨洞原発CDLBCLを経験した.視神経障害のみでも腫瘍性病変を検索することが重要である.CPurpose:Toreportacaseofprimarydi.uselargeBcelllymphoma(DLBCL)oftheethmoidsinusin.ltratingtheopticcanalanddefectingbilateralopticnerves.Casereport:A68-year-oldmalewasreferredtoourdepart-mentwithsubacutevisualacuitydefectandvisual.elddefectinhisrighteye.At.rstpresentation,visualacuitywas20/30intherighteyeandrelativea.erentpupillarydefectwaspositiveintherighteye.Duringthecourse,visualCacuitiesCinCbothCeyesCworsened.CComputerizedCtomographyCdisclosedCaCmassCinCtheCethmoidCsinus,CwithCin.ltrationtotherightopticcanal.AfterdiagnosisasprimaryDLBCLbypathologicalexamination,systemicche-motherapyCwasCinitiatedCandCvisualCacuityCimproved.CConclusion:ItCisCimportantCtoCsearchCforCneoplasticClesionsCwithopticnervedisorder.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(10):1330.1334,C2019〕Keywords:視神経障害,視神経管,悪性リンパ腫,化学療法.opticnervedisorder,opticcanal,malignantlym-phoma,chemotherapy.Cはじめに悪性リンパ腫は通常リンパ節ないしは生理的にリンパ組織をもつ臓器に発生し,頭頸部悪性腫瘍における悪性リンパ腫の占める比率は約C10%とされる1,2).頭頸部領域の悪性リンパ腫の好発部位は頸部リンパ節3)やCWaldeyer輪4)だが典型的なリンパ節組織を欠く鼻副鼻腔にも悪性リンパ腫は発生する可能性があり,副鼻腔悪性リンパ腫の発生頻度は頭頸部悪性リンパ腫のC10.25%1,5)とされる.そのなかで,篩骨洞に発生した悪性リンパ腫の場合,視神経,動眼神経,外転神経など,三叉神経のさまざまな神経障害や眼窩部腫脹をきたすことが報告されている6.12).今回,両眼の視神経管に浸潤したことによって視神経障害のみをきたした篩骨洞原発びまん〔別刷請求先〕高山圭:〒359-8513埼玉県所沢市並木C3-2防衛医科大学校眼科医局Reprintrequests:KeiTakayama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollege,3-2Namiki,Tokorozawa,Saitama359-8513,JAPANC1330(108)abcd図1初診時の眼底写真とCT画像両眼底・視神経乳頭に異常はなかった(Ca,b)が,CT検査にて両側の篩骨洞に腫瘤性病変,右視神経管浸潤(.)と右眼眼窩内浸潤があった(Cc).また,右後頭葉に陳旧性脳梗塞と考えられる一部低吸収域があった(C.,d).性大細胞型CB細胞性悪性リンパ腫(di.uselargeBcelllym-phoma:DLBCL)のC1例を経験したので報告する.CI症例68歳,男性.1カ月前から右眼の視力低下が出現し徐々に増悪するため近医を受診した.矯正小数視力が右眼C0.8・左眼C1.0,相対的瞳孔求心路障害(relativea.erentpupillarydefect:RAPD)が右眼陽性,限界フリッカ値(criticalCfusionfrequency:CFF)が右眼低下していたとのことで,右眼視神経炎疑いで当院に紹介となった.既往歴として,62歳時に脳梗塞の既往があるが副鼻腔炎はなかった.当院初診時,矯正小数視力は右眼C0.7,左眼C1.2,眼圧は右眼11.0CmmHg,左眼C10.5CmmHg,RAPDは右眼陽性,対座法で右眼耳側の視野狭窄があり,CFFは右眼C10CHz,左眼C27Hzと右眼が優位に低下していた.眼瞼腫脹はなく,眼位は正位,眼球運動は正常で眼球運動痛はなかった.両眼の前眼部・中間透光体・眼底に特記すべき異常なく,視神経乳頭も色調正常・境界明瞭で腫脹はなかった(図1a,b).右眼の球後視神経障害を疑い,占拠性病変の除外診断のために当日に緊急でコンピュータ断層撮影(CT)を施行したところ,両側の篩骨洞に腫瘤性病変,右眼視神経管浸潤,右眼眼窩内浸潤があった(図1c).また,右後頭葉に陳旧性脳梗塞と考えられる一部低吸収域があった(図1d).右視力障害・視野障害の原因として篩骨洞悪性腫瘍の眼窩内浸潤を疑い,耳鼻咽喉科にて内視鏡下鼻副鼻腔手術を施行し病理検査を施行したところ,腫瘍は明瞭な核小体を含有する類円形核を有する比較的大型で核/細胞質(N/C)比の高い腫瘍細胞が一部CstarryCskyappearanceを呈しつつびまん性に増殖し,免疫染色にてCCD20,CD10,bcl-2が陽性だった(図2a.d).転移性悪性リンパ腫を疑い陽電子放出断層撮影を施行したが,同部位以外の有意な集積はなかった(図2e,f).以上から,篩骨洞原発のCDLBCLと診断した.上記精査中のC10日間で視力ef図2病理画像と陽電子放射断層撮影の結果強拡大像(400倍)にて,腫瘍は明瞭な核小体を含有する類円形核を有する比較的大型でCN/C比の高い腫瘍細胞が一部CstarryCskyappearanceを呈しつつびまん性に増殖し(Ca),免疫染色にてCCD20(b),CD10(Cc),bcl-2(Cd)が陽性だった.転移性悪性リンパ腫を疑い陽電子放出断層撮影を施行したが,同部位以外(Ce)の有意な集積はなかった(Cf).スケールバー:50Cμm.障害・視野障害が増悪し,矯正小数視力が右眼光覚弁,左眼に対してシクロフォスファミド・ドキソルビシン・ビンクリ0.3,CFFは右眼測定不可,左眼C25CHzと減少,CT検査にスチン・プレドニゾロンからなるCCHOP療法を施行したとて篩骨洞腫瘤性病変の拡大,右眼眼窩内浸潤の拡大,左眼視ころ,眼窩内浸潤と視神経管浸潤の縮小(図3c)に伴い視神経管への浸潤がみられ(図3a),Goldmann視野検査にて力・視野障害が改善した.治療開始C1カ月にてCRAPDは右右眼測定不能,左眼多数の暗点が出現した(図3b).DLBCL眼陽性と残存したが,矯正小数視力が右眼C0.8,左眼C1.5,図3治療前後でのCT画像とGoldmann視野検査結果CTにて篩骨洞腫瘤性病変の拡大,右眼眼窩内浸潤の拡大,左眼視神経管への浸潤がみられ(Ca),Goldmann視野検査にて右眼は検査不能,左眼に多数の暗点が出現した(Cb).化学療法で腫瘍が縮小し視神経管浸潤が消失すると(Cc),Goldmann視野検査も右眼は耳側の欠損が残存したが,左眼は正常と改善した(Cd,e)CFFが右眼C22CHz,左眼C35CHzに改善し,治療C2カ月にて,矯正小数視力が右眼C1.0,左眼C1.0,CFFが右眼C20CHz,左眼C36CHz,Goldmann視野検査も右眼は耳側の欠損が残存したが,左眼は正常と改善した(図3d,e).現在,血液内科で化学療法を継続している.CII考按今回,片眼性の視力低下・視野障害で発見された,視神経管に浸潤し視神経障害のみが出現した篩骨洞原発CDLBCLの1例を経験した.頭頸部悪性腫瘍全体のなかで悪性リンパ腫は約C10%とされ1,2),副鼻腔原発悪性リンパ腫の発生頻度は頭頸部悪性リンパ腫のC10.25%1,5)とされる.以上から,頭頸部悪性腫瘍のうちで副鼻腔原発悪性リンパ腫は1.3%(10%×10.25%)と予想される.金田らはC36例の副鼻腔原発悪性リンパ腫の症例検討を行い,DLBCLとCNK/Tcelllym-phomaがそれぞれ半数を占め,さらにCCT検査にて悪性リンパ腫に特徴的とされる浸透性進展像はあまり示さずに非特異的所見が多いことを報告した13).本症例では病理検査でDLBCLと確定診断されたが,CT検査にて浸透性進展像を示した点と両眼に進展したために両眼に症状が出現した点が既報とは違う点だった.浸透性進展がみられたため,視神経への圧迫による症状が出現するとともに急速に増悪したと考えられる.篩骨洞に発生した悪性リンパ腫の場合,視神経,動眼神経,外転神経など,三叉神経のさまざまな神経障害や眼窩部腫脹をきたすことが報告されている6.12).本症例では,視神経障害のみが出現,増悪し,その他の神経症状や眼窩部症状は出現しなかった.CT検査でCDLBCLが両視神経管を経由して眼窩先端部に浸潤していたことを確認したが,眼窩先端部に浸潤すると多数の神経症状や血流圧迫による眼窩部腫脹が出現すると考えられる.しかしながら,解剖学的に視神経と非常に密に接している関係にある視神経管への浸潤による視神経圧迫か視神経への浸潤によって,眼窩先端部症候群の症状が出現する前に視神経障害が出現したと考えられる.CHOP療法が奏効したため視神経障害による症状が改善し他の症状は出現しなかったが,もし同療法の効果が不十分な場合には他の神経症状・眼瞼腫脹も出現したと予測される.一般的に視神経症の鑑別診断には造影CMRIが必要とされている14).本症例では,まず占拠性病変の除外のために緊急で検査を行う必要があった.当院では緊急で核磁気共鳴画像検査(MRI)を撮影できないため,CT検査を選択して副鼻腔内腫瘍を発見した.後日,耳鼻科での腫瘍生検前にCMRIを施行して,篩骨洞原発CDLBCLの視神経管への浸潤を確認するとともに視神経を確認している.CIII結論今回,片眼性の視力低下・視野障害で発見され,両眼の視神経管に浸潤することによって視神経障害のみが出現した篩骨洞原発CDLBCLのC1例を経験した.視神経障害のみ場合でも悪性リンパ腫によるものの可能性があるため,球後視神経炎が疑われる場合も画像検査にて腫瘍性病変を検索することが重要である.文献1)久保田修,榎本仁美,善浪弘善ほか:症例をどうみるか鼻副鼻腔悪性リンパ腫のCCT画像の検討.JOHNSC17:C1407-1411,C20012)丹生健一:頭頸部がん.日本癌治療学会誌C50:335-336,C20153)若杉哲郎,三箇敏昭,武永芙美子ほか:頸部リンパ節生検術C114例の臨床的検討.頭頸部外科24:101-107,C20144)長谷川昌宏,古謝静男,松村純ほか:当科におけるワルダイエル輪リンパ腫型CATLのC15症例の検討.日本耳鼻咽喉科学会会報103:1101,C20005)古謝静男,糸数哲郎,新濱明彦ほか:当科における鼻・副鼻腔悪性リンパ腫症例の検討.耳鼻と臨床46:37-40,C20006)後藤理恵子,米崎雅史:三叉神経の単神経障害を初発症状とした悪性リンパ腫例.日本鼻科学会会誌56:103-109,C20177)高橋ありさ,川田浩克,錦織奈美ほか:眼症状を伴った小児の副鼻腔原発CBurkittリンパ腫のC1例.眼臨紀C11:349-352,C20188)山本一宏,神田智子,中井麻佐子:Tolosa-Hunt症候群様症状を呈し,篩骨洞病変で診断された悪性リンパ腫のC1症例.日本鼻科学会会誌41:19-22,C20029)浅香力,三戸聡:外転神経麻痺で発症した蝶形骨洞悪性リンパ腫例.耳鼻咽喉科臨床補冊:48-52,201010)米澤淳子,安東えい子,手島倫子ほか:急速な増大を示した眼窩悪性リンパ腫のC1例.眼臨C97:107-109,C200311)野澤祐輔,佐藤多嘉之,十亀淳史ほか:非ホジキンリンパ腫の一症例.北海道農村医学会雑誌41:100-102,C200912)三浦弘規,鎌田信悦,多田雄一郎ほか:当院における鼻腔・篩骨洞悪性腫瘍の検討.頭頸部癌39:21-26,C201313)金田将治,関根基樹,山本光ほか:鼻副鼻腔原発悪性リンパ腫の検討下鼻甲介腫大を呈する症例の紹介.日本耳鼻咽喉科学会会報121:210-214,C201814)毛塚剛司:【多発性硬化症最前線】視神経炎の鑑別と治療について.神経眼科35:33-40,C2018***

眼窩先端部症候群を合併した眼部帯状疱疹の1例

2019年10月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科36(10):1326.1329,2019c眼窩先端部症候群を合併した眼部帯状疱疹の1例川端真理子*1,2福岡秀記*1向井規子*1,3奥村峻大*1,3岩間亜矢子*1外園千恵*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2京都市立病院眼科*3大阪医科大学眼科学教室CACaseofOrbitalApexSyndromewithHerpesZosterOphthalmicusMarikoKawabata1,2),HidekiFukuoka1),NorikoMukai1,3),TakahiroOkumura1,3),AyakoIwama1)andChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoCityHospital,3)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollegeC症例はC68歳,男性.左眼部帯状疱疹と眼球運動障害を発症した.水痘帯状疱疹ウイルス血清抗体価の上昇と,磁気共鳴画像法ガドリニウム造影検査にて動眼神経および滑車神経の炎症と視神経周囲炎を認めたため,眼窩先端部症候群と診断した.帯状疱疹に対する治療は新規作用機序の抗ヘルペスウイルス薬であるアメナメビル内服を使用し,さらにステロイドミニパルス療法(125Cmg/日)に加え大量ステロイドパルス療法(1,000Cmg/日)を施行することで発症C2カ月で改善を得た.本症例では適切な検査とステロイドパルス療法を行ったことにより,早期の眼合併症状改善と早期の社会復帰につなげることができた.CPurpose:ToCreportCaCrareCcaseCofCorbitalCapexCsyndromeCwithCherpesCzosterophthalmicus(HZO).CCaseReport:A68-year-oldmalepresentedwithHZOontheleftsideofhisfaceandophthalmoplegiainhislefteye.UponCexamination,ChisCserumCvaricella-zostervirus(VZV)antibodyCtiterCwasCincreased,CandCmagneticCresonanceCimagingshowedgadoliniumenhancementintheleftopticperineuritis,oculomotornerve,andpulley-liketrochlea.HeCwasCdiagnosedCasCorbitalCapexCsyndromeCsecondaryCtoCHZO.CAfterCaC2-monthCsystemicCtreatmentCwithCame-namevir,CaCnovelCantiviralCagentCagainstCVZVCandCherpesCsimplexCvirus,CandCsteroidCpulseCtherapy,CtheCpatient’sCconditionCimproved.CConclusions:WeCconcludeCthatCophthalmoplegiaCsecondaryCtoCHZOCshowedCearlyCimprove-mentviatheproperchoiceofexaminationsandsubsequenttherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(10):1326.1329,C2019〕Keywords:眼部帯状疱疹,眼球運動障害,視神経周囲炎,眼窩先端部症候群,アメナメビル.herpesCzosterCoph-thalmicus,ophthalmoplegia,opticperineuritis,orbitalapexsyndrome,amenamevir.Cはじめに帯状疱疹とは水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zostervirus:VZV)が原因となるウイルス感染症であり,一次感染によって神経節に潜伏していたCVZVが,なんらかの原因で再活性化されることで発症する.そのなかでも眼部帯状疱疹は,三叉神経節に潜伏したCVZVが再活性化し,三叉神経第C1枝支配領域の帯状疱疹として発症する.眼部帯状疱疹は眼瞼を含む広範な皮疹に加えて角膜炎,虹彩炎・ぶどう膜炎や結膜炎などを認めることが多いが,ほかにも動眼神経,外転神経,滑車神経麻痺による外眼筋麻痺を引き起こすこともある.まれではあるが中枢神経内感染などによる神経症の合併も報告されている1).帯状疱疹の治療薬としては長年,抗ヘルペスウイルス薬であるアシクロビル,バラシクロビル塩酸塩,ファムシクロビルが用いられてきたが,2017年より新規作用機序をもつアメナメビルが処方可能となった.既報では,帯状疱疹による外眼筋麻痺に対して,従来の抗ヘルペスウイルス薬に加えてステロイド内服や静脈投与での加療が中心に行われているが,その治療方針は確立するに至っていない.今回,眼窩先端部症候群を合併した眼部帯状疱疹に対し,アメナメビルとステロイドパルス療法により著明な改善を得た症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕川端真理子:〒604-8845京都市中京区壬生東高田町C1-2京都市立病院眼科Reprintrequests:MarikoKawabata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoCityHospital,1-2Higashi-Takada,Mibu,Nakagyo-ku,Kyoto604-8845,JAPANC1326(104)図19方向眼位左眼は外転方向以外の運動障害を認める.図2初診時前眼部写真およびフルオレセイン染色(左眼)毛様充血と,5時からC8時にかけての角膜周辺部に浮腫と上皮障害を認める.I症例68歳,男性.特記すべき既往歴はなし.左眼痛と充血を自覚し前医を受診した.点状表層角膜炎および虹彩炎と診断され,0.1%フルオロメトロン左眼C4回/日点眼を開始された.2病日に左顔面に皮疹を認めたため,近医皮膚科を受診し,帯状疱疹の診断にてアメナメビル内服とレボフロキサシン左眼C4回/日点眼を開始された.また,同日頃より複視も自覚しはじめた.7病日には左眼の眼圧上昇(33CmmHg)を認めたためドルゾラミド点眼左眼3回/日,アセタゾラミド500Cmg内服を開始されたが,高眼圧の改善なく,11病日に当院紹介となった.当院初診時の検査では,右眼矯正視力C1.2,左眼矯正視力0.3,右眼眼圧C14CmmHg,左眼眼圧C28CmmHgであった.左前頭部,左眼瞼,鼻尖部といった三叉神経第C1枝領域に痂皮化した皮疹を認め,軽度左眼瞼下垂を認めた.眼位は右眼正位,左眼外転位であり,著明な左眼内転,上転,下転運動障害を認めた(図1).瞳孔径は右眼C3Cmm,左眼C6Cmmと左眼は散瞳固定しており,対光反射が消失していた.左眼には毛様充血を認め,角膜周辺部に上皮障害と角膜浮腫を認め,前房内炎症を認めた(図2).中心フリッカ値は右眼C39CHz,左眼C35CHzであった.図3MRI画像(ガドリニウム造影)左眼窩部(1)視神経周囲炎,(2)動眼神経,(3)滑車神経に炎症を示す造影効果を認める.左眼ヘルペス角膜炎およびヘルペス虹彩炎,左動眼神経麻痺と診断し,アシクロビル眼軟膏左眼C5回/日点入,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム左眼C6回/日点眼,レボフロキサシン左眼C6回/日点眼,ドルゾラミド塩酸塩チモロールマレイン酸塩液(コソプトCR)左眼C2回/日点眼で治療開始した.14日目には,左眼の角膜上皮障害,浮腫ともに改善を認め,前房内炎症も消失し,左眼圧C11CmmHgと低下した.abcd図4HESS試験a:当院初診時C11病日.Cb:ステロイドパルス開始前C53病日.Cc:ステロイドパルス終了後C60病日.Cd:81病日.眼球運動の改善を認める.図581病日前眼部写真(左眼)毛様充血や角膜上皮の状態は改善し,散瞳状態も改善傾向にある.しかし,左眼痛と左動眼神経麻痺は改善を認めなかったため,メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム125Cmg点滴を投与したあとに,プレドニゾロン(PSL)30mg/日をC3日間,また同時にアメナメビルC400Cmg/日をC4日間内服し,点眼薬はベタメタゾンリン酸エステルナトリウム左眼C4回/日へ減量し,その他は継続とした.18病日には,角膜上皮はさらに改善したが,依然,眼痛と動眼神経麻痺は改善を認めなかった.その後もCPSLの投与量を漸減したが,眼球運動障害は改善なく,左眼視力も矯正C0.7以上の改善が乏しいため,25病日に脳神経内科に対診を依頼した.血液検査でCVZV抗体価:IgM1.20(基準値:0.80未満)IgG367(基準値:2.0未満)と高値でありCVZVによる感染初期と考えられ,また磁気共鳴画像法(MRI)ガドリニウム造影検査で,左視神経周囲炎および動眼神経(第CIII脳神経),滑車神経(第CIV脳神経)の炎症を示す造影効果を認めたため(図3),左眼窩先端部症候群と診断された.髄液検査ではリンパ球の増加を認めるもののCVZV-PCRではCDNAを検出しなかったため,髄膜炎への移行のリスクは低いと判断し,54病日よりステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロンC1,000mg/日をC3日間)を入院にて施行し,その後にCPSL50Cmg/日の内服を開始し徐々に漸減した.60病日には眼球運動と矯正視力ともに急激に改善し退院となった(図4).その後もCPSLを漸減するも再発は認めず,左眼散瞳状態は時間経過により徐々に改善傾向である(図5).CII考按眼窩先端部症候群とは,眼窩深部や海綿静脈洞の病変により,視神経(第CII脳神経)と,動眼神経(第CIII脳神経),滑車神経(第CIV脳神経),三叉神経(第CV脳神経),外転神経(第CVI脳神経)が障害される複合神経麻痺であり,主症状は視力低下と眼球運動障害,眼痛である.眼窩深部から海綿静脈洞にかけては,非常に狭い範囲に第CIII.VI神経が走行しており,どの神経が障害されるかによって上眼窩裂症候群や海綿静脈洞症候群とよばれるが,これらに第CII神経障害が加わった場合,眼窩先端部症候群と診断される2).本症例では,眼瞼下垂,瞳孔散大,眼球運動障害を認め,初診時にはヘルペス角膜炎およびヘルペス虹彩炎による視力低下と考えていたが,それらが治癒したあとも視力低下が遷延したことにより,眼窩先端部症候群を疑った.さらに造影CMRI検査にて視神経周囲炎(第CII脳神経)と,動眼神経(第CIII脳神経),滑車神経(第CIV脳神経)の造影効果があったことにより確定診断に至った.Marshらは眼部帯状疱疹の合併症について,頻度の高いものでは,結膜炎(75%),眼瞼浮腫(68%),虹彩炎(54%)があるが,精査すればC29%に眼球運動障害を認め,それらは動眼神経,外転神経,滑車神経の順に多いと報告している1).一方,眼球運動障害のC29%に比して,視神経障害は0.4.1.9%と報告されており1,3)本症例のように眼球運動障害に加えて視神経障害を合併する眼窩先端症候群の例はきわめてまれである4.7).治療に関しては,皮疹に対しては抗ヘルペスウイルス薬の内服投与,神経合併症がある場合は点滴静注を行うとされている.眼球運動障害を合併した既報では,ステロイドは内服投与が中心であり,投与量はC30.60Cmgと体重C1Ckg当たりCPSL1Cmg量から開始されることが多いが,ステロイドミニパルス(PSL500Cmg/日をC3日間)やステロイドパルスを施行した報告もあるなかで,佐藤らの報告では,発症後C3カ月で眼球運動の改善を認めたが8),西谷らの報告は発症後C24カ月でも眼球運動の改善は得られなかった9).本症例における眼球運動障害は,125Cmgステロイドミニパルスで十分な改善が得られなかったため,さらに大量ステロイドパルスを追加することで,治療開始からC1.5カ月で著明な改善を得ることができた.本症例では前医からアメナメビル内服にて加療されていた.従来の抗ヘルペスウイルス薬のアシクロビルやバラシクロビルが核酸類似体であるのに対して,アメナメビルはヘリカーゼ・プライマーゼ複合体として新規作用機序として抗ヘルペスウイルス活性をもつ.VZVへの活性が高いとされており腎排泄性でないことから,腎機能の低下した患者に使用しやすい薬剤となっている.本症例ではアメナメビルで加療を行ったが,眼合併症に対してアメナメビルで加療した既報にはなく,十分な検討はなされておらず,今後のさらなる臨床応用が待たれる.眼球運動障害の自然寛解率は76.5%,2週間からC1.5年(平均C4.4カ月)を要するとされている10).自然寛解が多いとされながらも,眼球突出を伴う全眼筋麻痺や虚血性乳頭炎などのように閉塞性血管炎が疑われる場合はステロイドの全身投与が推奨される2).血管炎が進行し虚血性変化が高度になったことにより眼球癆となった全眼筋麻痺を伴う症例も報告されており11),不可逆な虚血性変化が起こる前に迅速なステロイドの全身投与が必要であるといえる.一方でステロイドの全身投与は,ヘルペス脳炎や髄膜炎への移行,免疫抑制作用による合併症の懸念もあるため,全身状態の評価や投与後の全身管理が重要となる.今後,免疫抑制薬の使用やヒト免疫不全ウイルス(humanCimmunode.ciencyvitus:HIV)感染などにより免疫不全状態の患者が増加すると考えられる.これらは眼部帯状疱疹発症の高いリスク因子であり,なおかつ合併症が強く顕在化しやすいため,その治療と全身管理にはよりいっそうの注意が必要となる12).本症例ではステロイドパルス加療前に,感染症検査および髄液検査を施行し,髄膜炎移行リスクが低いことを確認して治療へと踏み切った.本症例では適切な検査とステロイドパルス療法を行ったことにより,早期の眼合併症状改善と早期の社会復帰につなげることができたといえる.CIII結論眼窩先端部症候群を合併した眼部帯状疱疹に対し,ステロイドパルス療法により著明な改善を得た.適切な時期のステロイドパルス療法は早期の眼合併症状改善と早期の社会復帰を可能とした.文献1)MarshCRJ,CDulleyCB,CKellyV:ExternalCocularCmotorCpal-siesCinCophthalmiczoster:ACreview.CBrCJCOphthalmolC61:677-682,C19772)藤田陽子,吉川洋,久冨智朗ほか:眼窩先端部症候群の6例.臨眼59:975-981,C20053)KahlounCR,CAttiaCS,CJellitiCBCetal:OcularCinvolvementCandCvisualCoutcomeCofCherpesCzosterophthalmicus:CreviewCofC45CpatientsCfromCTunisia,CNorthCAfrica.CJCOph-thalmicIn.ammInfect:4-25,C20144)ArdaH,MirzaE,GumusKetal:OrbitalapexsyndromeinCherpesCzosterCophthalmicus.CCaseCReportsCinCOphthal-mologicalMedicine:854503,C20125)青田典子,平原和久,早川和人ほか:眼窩先端部症候群をともなった眼部帯状疱疹のC1例.臨皮C62:220-223,C20086)曺洋喆,国分沙帆,竹内聡ほか:眼部帯状疱疹に続発した眼窩先端部症候群が疑われたC1例.あたらしい眼科C31:453-458,C20147)岡本真奈,細谷友雅:眼部帯状疱疹に合併した眼窩先端部症候群.目のまわりの病気とその治療,(外園千恵,加藤則人編),p153-155,学研メディカル秀潤社,20158)佐藤里奈,山田麻里,玉井一司:眼部帯状疱疹に続発した全眼筋麻痺.臨眼C62:1223-1227,C19849)西谷元宏,児玉俊夫,大橋一夫ほか:眼部帯状疱疹に続発した海綿静脈洞症候群のC1例.眼紀C53:898-903,C200210)LeeCY,TsaiHC,LeeSSetal:Orbitalapexsyndrome:CanCunusualCcomplicationCofCherpesCzosterCophthalmicus.CBMCInfectDisC15:33,C201511)土屋美津保,輪島良平,田辺譲二ほか:全眼筋麻痺および眼球突出をきたした眼部帯状ヘルペスのC2例.眼臨C81:C855-858,C198712)GhaznawiN,VirdiA,DayanAetal:Herpeszosteroph-thalmicus:diseasespectruminyoungadults.MiddleEastAfrJOphthalmolC18:178-182,C2011

発症後10年でコーツ病を疑う眼底所見を呈した網膜中心静脈閉塞症の1例

2019年10月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科36(10):1321.1325,2019c発症後10年でコーツ病を疑う眼底所見を呈した網膜中心静脈閉塞症の1例神田慶介*1張野正誉*2呉文蓮*3中井慶*4*1関西ろうさい病院眼科*2はりの眼科*3住友病院眼科*4淀川キリスト教病院眼科CACaseofCentralRetinalVeinOcclusionPresentingFundusAppearancelikeCoats’Disease,10YearsafterOnsetKeisukeKanda1),SeiyoHarino2),BunrenGo3)andKeiNakai4)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiRosaiHospital,2)HarinoEyeClinic,3)CHospital,4)DepartmentofOphthalmology,YodogawaChristianHospitalCDepartmentofOphthalmology,Sumitomo背景:網膜中心静脈閉塞症を発症しC10年以上経過後に,周辺部にのみコーツ病のように多量の硬性白斑が出現したC1例を報告する.症例:44歳,女性.1995年に右眼の網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫を発症し,薬物療法,硝子体手術により加療された.その後黄斑浮腫の再燃もなく視力良好であったが,10年以上経過後に周辺部から硬性白斑が増加し,成人型コーツ病のように多発連続した形態を示した.しかし,レーザー光凝固により改善した.結論:網膜中心静脈閉塞症は,急性期を過ぎ,いったん寛解したと考えられても,硬性白斑を伴う滲出性の病変が出現することもある.それにより成人型コーツ病との鑑別が困難となる場合がある.CBackground:WereportacaseofdeterioratedCRVOinwhichmultiplehardexudatesresemblingCoats’dis-easeCincreasedConlyCperipherally,C10CyearsCafterC.rstConsetCofCCRVO.CCase:WeCreportCtheCcaseCofCaC44-year-oldCfemalewhodevelopedmacularedemawithCRVOinherlefteyein1995,andwastreatedwithinfusiontherapy,oralCtreatmentCandCvitrectomy.CVisualCacuityCwasCmaintainedCatC20/20CwithoutCtheCrecurrenceCofCmacularCedema.CHowever,CmoreCthanC10CyearsCafterC.rstConset,ChardCexudatesCincreasedConlyCinCtheCperipheralCretina,CandCpro-gressed,CeventuallyCdemonstratingCadult-onsetCCoats’Cdisease-likeC.ndings.CTherapeuticCphotocoagulationCwasCe.ective.Conclusion:AfterCRVOisresolvedintheposteriorpolelesion,anexudativelesionwithhardexudatesmaydevelop.Di.erentiationfromadult-onsetCoats’diseasemaytherebybecomedi.cult.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(10):1321.1325,C2019〕Keywords:網膜中心静脈閉塞症,硬性白斑,コーツ病,網膜周辺部,無灌流領域.centralretinalveinocclusion(CRVO),hardexudates,Coats’disease,peripheralretina,non-perfusionarea(NPA)C.Cはじめに網膜中心静脈閉塞症(centralCretinalCveinocclusion:CRVO)は,黄斑浮腫や血管新生がおもな治療の対象である.後者は,無灌流領域(non-perfusionarea:NPA)の広さにより,10乳頭径以上は虚血型,それ以下は非虚血型と診断され治療されている1).筆者らは,CRVOの後極の病変がいったん寛解後C10年以上たって周辺部から硬性白斑が増加しコーツ病を疑う眼底所見を呈したCCRVOのC1例を経験したので,周辺部の網膜血管変化とその臨床経過を中心に報告する.周辺部の血管異常やCNPAを,長期にわたり観察した報告はまれである.CI症例症例はC44歳,女性.10日ほど前からの右眼の視力低下を主訴にC1995年C7月に淀川キリスト教病院眼科(以下,当科)を受診した.右眼の矯正視力はC0.7であり,黄斑浮腫および眼底全象限に火炎状出血としみ状出血を認めた(図1).両眼とも白内障はごく軽度であった.既往症として高血圧があった.〔別刷請求先〕神田慶介:〒660-8511兵庫県尼崎市稲葉荘C3-1-69関西ろうさい病院眼科Reprintrequests:KeisukeKanda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiRosaiHospital,3-1-69Inabasou,Amagasaki,Hyogo660-8511,JAPANC図11995年7月,初診時の右眼眼底写真眼底全象限に火炎状出血としみ状出血を認めた.矯正視力は0.7.図21996年8月,硝子体手術後の右眼眼底写真網膜出血はかなり減少したが,乳頭上にCCRVOが原因と考えられるシャント血管がループを形成していた.矯正視力はC0.3.図32003年12月,右眼FA写真赤道部より周辺を中心に毛細血管瘤の多発と,約C2乳頭径の無灌流領域,黄斑部に蛍光色素の漏出を認めた.矯正視力はC1.2.画像は残っていないが,同年C8月のフルオレセイン蛍光眼底造影(.uoresceinangiography:FA)により,NPAはみられず,非虚血型CCRVOと診断した.ウロキナーゼC12万単位と低分子デキストランC250Cmlの点滴をC5日間行い,以降ワーファリン内服による抗凝固療法をC5カ月間行った.その後,右眼の視力は徐々に低下し,1996年C1月にはC0.2(矯正不能)となった.同月,黄斑浮腫に対して硝子体手術を施行し後部硝子体.離の作製を行った.術後の眼底を図2に示す.網膜出血はかなり減少したが,乳頭上にCCRVOが原因と考えられるシャント血管がループを形成していた.徐々に視力は改善しC2002年には矯正視力C1.0となった.2003年頃より眼底C11時方向の赤道より周辺に硬性白斑が出現し,FAでは耳上側に軽度のCNPAと網膜毛細血管瘤の多図42009年4月,右眼眼底写真周辺部の硬性白斑は軽度の増加を認めるのみである.矯正視力は1.0.発,毛細血管の透過性亢進を認めた(図3).その後,視力も良好であったためか通院中断された.2007年C2月,右眼の視力低下を主訴に当科を再診した.右矯正視力はC0.5であり,中等度の核性白内障を認めた.白内障による視力低下と考え,同年C3月に右眼白内障手術を行った.術後の右眼矯正視力はC0.9であった.その後半年ごとに再診し,2009年C10月時点で右眼矯正視力C1.0であり安定していると考え不調時再診を指示した.硬性白斑はわずかに増加を認める程度であった(図4).2015年C3月,右眼視力低下を訴え再診した.右眼の矯正視力はC0.6であった.右眼の後発白内障を認めたためCYAGレーザーによる後.切開術を施行した.眼底は網膜周辺部の9.1時に硬性白斑の範囲が拡大し,成人型コーツ病のよう図52015年5月,右眼眼底写真と光干渉断層計(OCT)写真硬性白斑が多発し,連続性を示していた.一部,網膜毛細血管腫様の変化を認めた(C.).OCTで黄斑部の形態は異常を認めなかった.矯正視力はC1.0.図72016年1月,光凝固後1カ月の右眼眼底写真硬性白斑の範囲はほぼ変わっていなかった.に多発連続した形態を示した.一部に網膜毛細血管腫様の変化もみられた(図5).2015年C12月,視力は保たれていたが,今後の中心窩への影響を危惧し毛細血管障害部およびCNPAに散発的に光凝固を行い,網膜毛細血管腫様変化をきたした部位に直接光凝固を行った(図6,7).条件はC200μm,0.2秒,120発であった(使用レンズはMainsterCPRPC165Lens,波長は532nm).その後,周辺部の硬性白斑はゆっくりと減少を認め,1年以上の経過後でも視力は良好に保持されている(図8).図62015年5月,右眼のFA写真とOCT写真FAで網膜新生血管の存在は明らかでなかった.黄斑部に軽度蛍光漏出を認めたが,OCTでは黄斑浮腫を認めなかった.周辺部に約C15乳頭径のCNPAを認めたが,後極部に虚血性変化は認めなかった.後に破線部分に光凝固を施行した.矯正視力はC1.0.図82017年2月の眼底写真光凝固からC1年以上経過し,硬性白斑は減少し,沈着の範囲も縮小していた.矯正視力はC1.0.CII考按本症例はCCRVO発症後C10年以上たってから,周辺部に網膜血管腫様の変化と,成人型コーツ病を疑う多発連続する硬性白斑を認めたものである.周辺部の毛細血管の軽微な透過性亢進が持続し,硬性白斑が増加したものと考えた.本症例では急性期を過ぎ,後極の血管が正常化しても,周辺部の血管の変化が長期に残存していた.本症例では通常のCRVOと経過が異なったのか,もしくは通常の症例では周辺のために気がつかれなかった経過が本症例で認識されたものと考えられる.周辺部のCNPAの広さは,2003年(図3)の時点でいったん安定していたのか,その後に徐々に拡大したのか,FA検査を最周辺部まで繰り返し撮影することが困難であったこともあり,明確ではない.最終的に周辺部のCNPAがC10乳頭径以上(図6)となり,定義上虚血型に移行していたといえる.周辺部に約C15乳頭径のCNPAを認めるが,後極部に虚血性変化は認めなかった.すなわち本症例では,後極部の眼底出血の増加や網膜静脈の再度の拡張を認めず,周辺部にのみ循環障害を残したものと考えられる.既報では網膜静脈分枝閉塞症(branchCretinalCveinCocclu-sion:BRVO)から成人型コーツ病様の変化をたどったものがある2,3).しかし,これらの報告では初診時より成人型コーツ病様の滲出性変化が起こっている点,初期から虚血型のBRVOである点,血管交差部に近接した部位や後極がおもな病変部位である点で,本症例とは異なる.近年,光干渉断層計の進歩,抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialCgrowthfactor:VEGF)薬の普及によりCCRVOの病態の理解が格段に進んだ.また,広角眼底撮影の開発により,周辺部CNPAに関する議論が注目を集めるようになっていきている.それらによると,通常のCCRVOでは,眼底のCNPAが広いほど黄斑浮腫が増悪し,視力低下とも相関すると報告されている4.6).本症例ではCNPAの拡大後も黄斑浮腫の増悪はなく視力低下も認めなかった.また,その他の報告では後極部のCNPAと灌流領域との境界ではCFAで蛍光漏出を認めることが多いが,周辺部ではCNPAと灌流領域の境界では漏出はごくわずかであるとされている4).しかし,周辺部の血管異常からきわめて緩徐に硬性白斑が広範囲に増加した報告はない.本症例のようなケースの存在にも留意すべきである.1996年に黄斑浮腫に対する硝子体手術を行った.合併症なく通常の型どおり手術を終了しており,手術により網膜血管の異常に影響を与えたとは考えにくい.本症例では,透過性の亢進した異常血管を光凝固で閉塞,瘢痕化させる目的のため,および色素上皮層から脈絡膜への滲出液の吸収を期待して,散発的にレーザー加療を行った.網膜毛細血管腫様変化以外の直接光凝固は行わず,虚血網膜すなわちCNPAを中心に行った.NPAから産生されるCVEGFを減少させ,異常血管からの漏出を軽減させる目的で行った.時間は要したが,硬性白斑はゆっくり減少した.その治療根拠は成人型コーツ病の周辺部に対するレーザー加療に準じたものとした.硬性白斑が減少したことから,レーザー光凝固の効果があったと考えられた.本症例のように初期からの経過が追えた場合は,大量の硬性白斑はCCRVOの変化に伴う周辺部の滲出性変化であると診断することができる.しかし仮に,初診時にすでにCCRVOの後極の変化が落ち着いており,周辺部の変化のみが目立つ場合,診断に苦慮するかもしれない.鑑別は成人型コーツ病やイールズ病などがあげられる.成人型コーツ病7)との鑑別はむずかしい.本症例のように乳頭に血管ループを形成するなど過去のCCRVO発症を疑う所見があれば,CRVOの長期変化によるものと診断できる.成人型コーツ病は,周辺部の滲出性変化に起因する病態が主体で,乳頭に血管ループを形成することはない.イールズ病はおもに両眼性で,周辺部から後極に向けて進行する網膜血管の強い閉塞所見が主体となる疾患である8).本症例ではC2009年の眼底写真(図4)でわずかな硬性白斑を認めているが,2015年の受診時では同部位を含む広範囲で硬性白斑の拡大を認めた.このように始めは微小な周辺部の変化であっても,長期の変化で強い滲出性変化を伴うことがある.網膜静脈閉塞症では定期的に最周辺部の変化を経過観察することが望ましい.成人型コーツ病と診断されたもののなかに網膜静脈閉塞症に続発するものがあるかもしれない.近年,超広角走査レーザー検眼鏡を用いることで従来の眼底カメラよりも網膜周辺部の観察が容易となった.BRVOにおいて比較的高率に静脈閉塞の存在しない網膜周辺部に網膜血管外漏出がみられたという報告9)もあるが,本症例のように広範囲な滲出性変化を認めたものはまだ報告されていない.しかし,今後この方法を駆使することにより,多数例での経過観察が容易になり,最周辺の血管異常の病態解析が進歩することが期待される.本症例から,CRVOは急性期を過ぎていったん寛解したと考えられても長期の観察が必要であり,注意深い周辺部の観察で異常血管や硬性白斑などがみられた場合は,適宜CFAを施行して病態を解析することが重要である.文献1)CentralVeinOcclusionStudyGroup:Naturalhistoryandclinicalmanagementofcentralretinalveinocclusion.ArchOphthalmolC111:1087-1095,C19932)LuckieAP,HamiltonAM:AdultCoats’diseaseinbranchretinalCveinCocclusion.CAustCNCZCJCOphthalmolC22:203-206,C19943)ScimecaG,MagargalLE,AugsburgerJJ:Chronicexuda-tiveischemicsuperiortemporal-branchretinal-veinobstruc-tionCsimulatingCCoats’Cdisease.CAnnCOphthalmolC18:118-120,C19864)SpaideRF:PeripheralCareasCofCnonperfusionCinCtreatedCcentralCretinalCveinCocclusionCasCimagedCbyCwide-.eldC.uoresceinangiography.RetinaC31:829-837,C20115)SingerM,TanCS,BellDetal:AreaofperipheralretinalnonperfusionCandCtreatmentCresponseCinCbranchCandCcen-tralretinalveinocclusion.RetinaC34:1736-1742,C20146)JaniPD,VeronicaKJ,MauriceL:In.uenceofperipheral8)MohammedCK,CBaraziCR,CMurphyP:EalesCdisease.In:CischemiaCinCtheCdevelopmentCofCmacularCedema.CInvestCRetina,4thed.ElesvierMosby,Philadelphia,p1479-1482,OphthalmolVisSciC53:908,C2012C20067)SmithenLM,BrownGC,BruckerAJetal:Coats’disease9)鈴木識裕,太田聡,島田郁子ほか:網膜静脈閉塞症におCdiagnosedCinCadulthood.COphthalmologyC112:1072-1078,ける超広角蛍光眼底造影の有用性.眼臨紀C6:650-653,C2005C2013***

側頭部殴打にて後房型有水晶体眼内レンズが脱臼し観血的整復が必要だった1例

2019年10月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科36(10):1317.1320,2019c側頭部殴打にて後房型有水晶体眼内レンズが脱臼し観血的整復が必要だった1例山本彌佐藤智人高山圭神田貴之竹内大防衛医科大学校眼科学教室CACaseofImplantableCollamerLensDislocationCausedbyBlowtoTempleWataruYamamoto,TomohitoSato,KeiTakayama,TakayukiKandaandMasaruTakeuchiCDepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollegeC目的:頭部殴打にて後房型有水晶体眼内レンズ(ICL)が脱臼したC1例を報告する.症例:33歳,男性.両側頭部の殴打後(左側頭部C2回,右側頭部C1回)の左眼視力低下で受診した.10年前に他院で両強度近視・乱視に対しCICL挿入術が施行され,裸眼小数視力は両眼C1.5だった.初診時,左眼小数視力は裸眼C0.4(矯正C1.5),眼圧はC14CmmHg,右側頭部に皮下血腫と左眼眼瞼に皮下血腫がみられたが,眼球運動は正常で眼窩底骨折はなかった.左眼の前眼部に前房出血とCICLの鼻側側が虹彩上に脱臼し,眼底は網膜振盪を呈していた.散瞳および仰臥位によるCICL整復を試みたが戻らず,観血的整復を要した.術後,炎症は消失し矯正視力は良好でCICLは虹彩下に復位したが乱視が残存した.その後外科的にCICLのトーリック軸を修正し,乱視は消失した.結論:頭部外傷によりCICLは脱臼・回転することがあり,観血的処置により整復が可能であっても乱視の残存に留意することが必要である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCposteriorCimplantableCcollamerlens(ICL)dislocationCcausedCbyCtempleCblow.CCasereport:A33-year-oldmalewasreferredtoourdepartmentwithvisualacuitydefectafterreceivingablowtoChisCleftCtemple.CHeChadCreceivedCposteriorCtoricCICLCimplantationC10CyearsCbefore,CandCpreviousCtoCtheCtempleCblowChadCuncorrectedCvisualacuity(UCVA)ofC30/20CinCtheCleftCeye.CAtC.rstCpresentation,ChisCUCVACwasC20/50ClefteyeandICLhadbeencapturedbytheirisandrotated.Aftersurgicalrepositioning,UCVAwasnotimproved,duetoastigmatism.Additionalrotationsurgerywasnecessarytodecreaseastigmatism.Conclusion:ICLdisloca-tionCmayCoccurCwithCaCblowCtoCtheCtempleCatC10CyearsCafterCimplantation.CPatientsCwithCICLCshouldCtakeCcareCregardingheadtrauma,includinghandblows.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(10):1317.1320,C2019〕Keywords:有水晶体眼内レンズ,脱臼,外傷,後房型.implantablecollamerlens,dislocation,trauma,posterior.はじめに近視は世界的に増加傾向を示しており,2050年には世界人口のC50%が近視に分類され,さらにC10%が強度近視になると予測されている1).とくに東アジアにおいて有病率が高く,わが国においても成人の近視率が世界平均より高い2,3).近視矯正法として眼鏡使用およびコンタクトレンズ装用が主流だが,一度施行すればメンテナンスが不要であり,裸眼視力で眼鏡の煩わしさから解放されるとのことで屈折矯正手術を受ける割合が増加している.屈折矯正手術は以前よりさまざまな手術方法が開発されてきた.当初は角膜をメスで放射状に切開するCrefractiveker-atectomyが施行されたが,エキシマレーザーやフェムトセカンドレーザーにより可能となったCphotorefractiveCkera-tectomy,laserCinCsitukeratomileusis(LASIK)やClaser-assistedCsub-epithelialkeratectomy,さらにはCsmallCinci-sionClenticuleCextractionCsmallCincisionClenticuleCextraction(ReLexSMILE)によって一般的な手術となった4.6).2010年に有水晶体眼に眼内レンズ(implantableCcollamerlens:ICL)を挿入するCICL挿入術が認可された7).ICL挿入術での創は小さく,術後合併症もCLASIKに比べ少ない可能性が〔別刷請求先〕高山圭:〒359-8513埼玉県所沢市並木C3-2防衛医科大学校眼科医局Reprintrequests:KeiTakayama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollege,3-2Namiki,Tokorozawa,Saitama359-8513,JAPANCabcd図1初診時顔面写真・前眼部写真・眼底写真両側頭部の眉毛外側を殴打され,左が強く腫脹している(Ca).左眼の前眼部に結膜出血がみられ(Cb),ICLの鼻側側が虹彩上に脱臼していた(Cc).眼底は鼻側・下方の周辺部網膜に網膜振盪(白色部)があった(Cd).指摘されており8),ICL挿入術の施行数は増加傾向である9,10).今回,頭部打撃にて後房型CICLが脱臼し,観血的整復が必要だったC1例を経験したので報告する.CI症例33歳,男性.両側頭部の殴打直後(左C2回,右C1回,図1a)の左眼視力低下で当院を受診した.10年前に他院で両強度近視に対し後房型CICL挿入術が施行され,殴打前の裸眼小数視力は両眼C1.5と良好だった.初診時,裸眼での小数視力は右眼C1.5,左眼C0.4と左眼低下していたが,矯正視力では左眼(1.5C×.0.25D(cyl.5.00DAx20°),オートレフラクトメータCsph:+1.25Dcyl:C.3.50DAx:29°と強い乱視があり,眼圧は右眼C17CmmHg,左眼C14CmmHgだった.右側頭部に皮下血腫と左眼瞼に皮下血腫があったが,眼球運動は正常で眼窩底骨折はなかった.左眼の後房型CICLの鼻側側が虹彩上に脱臼し(図1b,c),軽度の前房出血があった(図1c).眼底は周辺部に網膜振盪があった(図1d).水晶体動揺および前房内硝子体脱出は術前では確認できなかった.また,ICLのトーリック軸は約C135°にあった.当初,非観血的整復である散瞳および仰臥位安静によるCICL整復を試みたが整復せず,観血的整復が必要と判断し,緊急入院・観血的整復を施行した.点眼麻酔・消毒ののち,角膜創を作製して前房を粘弾性物質で置換したうえで,ICLを虹彩下に再挿入,その後前房内を洗浄し縮瞳させて整復を終了した.ICL挿入時に入れられたトーリック軸が整復時には不明であったため,ICLの角度はそのままの位置にした.術C2週間後,左眼CICLの位置は正常の後房に復位し(図2a)周辺部網膜振盪は消失したが(図2b),左眼矯正視力は(1.5C×.0.25D(cyl.5.00DAx20°),オートレフラクトメータCsph:+0.25Dcyl:C.5.00DAx:19°と乱視が残存した.整復術後にCICL挿入を施行した前医に確認したところ,ICL施行時のトーリック軸はC7°であった.その後待機的にICL回転術を施行し,左眼矯正視力は(1.5C×.0.25D(cyl.0.75DAx155°)となり,全乱視が改善した(図3).CII考察今回,殴打によって後房型CICLが脱臼・回転したC1例を経験した.後房型CICLが外力によって脱臼したという報告は海外では散見されるが11,12),筆者らが調べるかぎりわが国では初めての報告である.既報での後房型CICL脱臼の原因は転倒や殴打などの鈍的外傷によるものが多く11,12),また受傷部位も前頭部から後頭部まである.本症例も同様に,図ab図2整復術後2週間の前眼部写真・眼底写真整復術後,ICLの位置は正常位に復位し(Ca),周辺部網膜振盪は消失した(Cb).1aのとおり眼球正面ではなく眉毛外側からの殴打が原因で脱臼した.側方.やや後方からの衝撃によって前方への外力がかかり虹彩上に脱出・回転した可能性がある.また,後房型CICL挿入術から外傷による脱臼までの期間は,既報ではC4カ月からC6年の幅があるが12.14),本症例ではCICL挿入術施行から受傷までC10年であった.後房型CICL挿入眼は長期経過後でも衝撃時にCICLが脱臼する可能性があり注意する必要がある.本症例では,外傷性にCZinn小帯が断裂している可能性も否定できないこと,整復術前にトーリックレンズの軸位置が不明であったため,脱臼部位からそのままの位置で虹彩下に再挿入とした.当院初診でのCICLの軸は前眼部写真から約C135°であった.整復術後に取り寄せできた前医での診療記録・手術記録からは,ICL挿入術前に角膜乱視がC.4.0D・軸C12°がありトーリックレンズ(TICM125V4C.16.5+4X90)を軸C7°で挿入し術後乱視はC0であった.整復術後に乱視が残存(C.5.0D軸20°)してしまった原因として,殴打の衝撃によってCICLが脱臼とともに回転し,そのままの位置で整復したために約C50°のトーリック軸ずれとなったために,レンズの乱視矯正効果が消失したことが考えられる.LASIKは後遺症としてドライアイ15)や角膜上皮接着不良16),グレアやハローによる夜間視力の低下の可能性がある17).さらに,術後の近視化も問題とされ18),裸眼視力で夜間の活動が必要とされる職業で問題となる可能性がある.一方,ICLは術時の創も小さく上述したCLASIKの後遺症とされる症状の発現が少なく19,20),また白内障手術時や必要時には眼内から除去可能であるため21,22),今後,屈折矯正手術としてCICLが挿入される患者が増加することが予想される.しかしながら,本症例のように鈍的外傷を受けた場合,ICL脱臼およびCICL回旋が生じて裸眼視力が低下し,観血的整復術が必要となる可能性がある.図3待機的に施行したICL回転術の術直前写真整復したCICLのトーリック軸(C.)は前医で施行されていたトーリック角度(C━)から回転していた.今回,側頭部への殴打によってCICLが脱臼・回転し,観血的整復および軸位置の調整を必要とした症例を経験した.ICL挿入眼は挿入後長期間経過しても脱臼する可能性があり,整復時には前医のデータを収集し,ICLが乱視矯正レンズが用いられている場合は軸度数を確認することが重要である.わが国でも今後の施行例増加に伴い本症例と同様の合併症が増加することが予測される.文献1)HopfCS,CPfei.erN:EpidemiologyCofCmyopia.COphthalmo-logeC114:20-23,C20172)川崎良:近視および強度近視の疫学と疾病負担.日本の眼科88:1459-1466,C20173)WuPC,HuangHM,YuHJetal:Epidemiologyofmyopia.AsiaPacJOphthalmol(Phila)C5:386-393,C20164)小橋長英,坪田一男:屈折矯正手術.あたらしい眼科C35:C11-15,C20185)川守田拓:屈折矯正手術.眼科手術31:519-522,C20186)小島隆司:SMILE手術と術後成績.IOLC&CRSC31:552-557,C20177)荒井宏幸:強度近視に対する屈折矯正手術(有水晶体眼内レンズ).OCULISTA:53-60,20168)野口三太朗:MiniWellReady.あたらしい眼科35:1089-1090,C20189)神谷和孝,五十嵐章史,林研ほか:屈折矯正手術前向き多施設共同研究.眼科手術31:392-396,C201810)五十嵐章史:屈折矯正手術の最新動向.視覚の科学37:36-40,C201611)MoshirfarCM,CStaggCBC,CMuthappanCVCetal:TraumaticCdislocationofimplantedcollamerphakiclens:acasereportandreviewoftheliterature.OpenOphthalmolJC8:24-26,C201412)SchmitzCJW,CMcEwanCGC,CHofmeisterEM:DelayedCpre-sentationCofCtraumaticCdislocationCofCaCVisianCImplantableCCollamerLens.JRefractSurgC28:365-367,C201213)Espinosa-MattarCZ,CGomez-BastarCA,CGraue-HernandezCEOCetal:DSAEKCforCimplantableCcollamerClensCdisloca-tionCandCcornealCdecompensationC6CyearsCafterCimplanta-tion.OphthalmicSurgLasersImaging43Online:e68-72,C201214)KongCJ,CQinCXJ,CLiCXYCetal:ImplantableCcollamerClensCdislocation.OphthalmologyC117:399.Ce391,C201015)CohenCE,CSpiererO:DryCeyeCpost-laser-assistedCinCsitukeratomileusis:majorCreviewCandClatestCupdates.CJOph-thalmolC2018:4903831,C201816)TingCDSJ,CSrinivasanCS,CDanjouxJP:EpithelialCingrowthCfollowingClaserCinCsitukeratomileusis(LASIK):preva-lence,riskfactors,managementandvisualoutcomes.BMJOpenOphthalmolC3:e000133,C201817)SalzJJ,BoxerWachlerBS,HolladayJTetal:NightvisioncomplaintsafterLASIK.OphthalmologyC111:1620-1621;Cauthorreply1621-1622,200418)IkedaCT,CShimizuCK,CIgarashiCACetal:Twelve-yearCfol-low-upCofClaserCinCsituCkeratomileusisCforCmoderateCtoChighmyopia.BiomedResIntC2017:9391436,C201719)PackerM:Meta-analysisandreview:e.ectiveness,safe-ty,CandCcentralCportCdesignCofCtheCintraocularCcollamerClens.ClinOphthalmolC10:1059-1077,C201620)GuberI,MouvetV,BerginCetal:ClinicaloutcomesandcataractCformationCratesCinCeyesC10CyearsCafterCposteriorCphakicClensCimplantationCforCmyopia.CJAMACOphthalmolC134:487-494,C201621)LiCS,CChenCX,CKangCYCetal:FemtosecondClaser-assistedCcataractsurgeryinacataractouseyewithimplantablecol-lamerClensinsitu.JRefractSurgC32:270-272,C201622)AlmalkiCS,CAbubakerCA,CAlsabaaniCNACetal:CausesCofCelevatedCintraocularCpressureCfollowingCimplantationCofCphakicintraocularlensesformyopia.IntOphthalmolC36:C259-265,C2016C***

病巣の切除およびポビドンヨードによる洗浄が奏効した緑膿菌による壊死性強膜炎の2例

2019年10月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科36(10):1312.1316,2019c病巣の切除およびポビドンヨードによる洗浄が奏効した緑膿菌による壊死性強膜炎の2例厚見知甫明石梓下山剛徳永敬司原ルミ子加古川中央市民病院眼科CTwoCasesofNecrotizingScleritisDuetoPseudomonasAeruginosaCChihoAtsumi,AzusaAkashi,TsuyoshiShimoyama,TakashiTokunagaandRumikoHaraCDepartmentofOphthalmology,KakogawaCentralCityHospitalC症例1:78歳,男性.2013年C4月に左眼の翼状片手術を受け,6月より左眼痛と充血が出現しステロイドおよび抗菌薬点眼にて治療が開始されたが改善せず,当科を紹介受診となった.抗菌薬全身投与後も改善がなく,結膜・強膜融解部分を切開し培養提出を行ったところ,融解した鼻側強膜よりCPseudomonasaeruginosaが検出された.まずC0.02%クロルヘキシジングルコン酸塩で連日洗浄を開始したが,経過中,他部位に結膜下膿瘍を認めたため,洗浄液をポビドンヨードに変更し,病巣の切除,洗浄を繰り返したところ病巣部は徐々に縮小し,瘢痕治癒した.症例2:69歳,男性.2011年に硝子体出血に対して左眼の水晶体再建術および硝子体切除術が施行された.2016年C10月に左眼痛と充血が出現しステロイドおよび抗菌薬点眼にて治療後も改善せず,当科紹介となった.融解した鼻側強膜からCPseudo-monasaeruginosaが検出され,症例C1と同様に病巣の切除およびポビドンヨードによる洗浄を行い,最終的に瘢痕治癒した.CPurpose:ToCreportC2CcasesCofCnecrotizingCscleritisCdueCtoCPseudomonasCaeruginosa.CaseReports:Case1involvedCaC78-year-oldCmaleCwhoCwasCreferredCafterCsteroidCandCantibioticCdropsCwereCfoundCine.ectiveCforCtheCtreatmentofpainandhyperemiainhislefteyethatoccurred2monthsafterpterygiumsurgery.Anasalconjunc-tival/scleralCtissueCsamplesCwereCobtainedCforCculture,CandCtreatmentCwithCsystemicCantibioticsCwasCinitiated.CTheCculturesCwereCfoundCpositiveCforCP.Caeruginosa.CTreatmentCwithCsystemicCantibioticsCwasCdiscontinued,CandCdailyCwashingCwithCpovidoneCiodineCwasCinitiated.CHowever,CaCsubconjunctivalCabscessCdevelopedCinCaCdi.erentCarea.CAfterCresection,CtheCdailyCwashingCwithCpovidoneCiodineCwasCresumedCandCtheCsymptomsCwereCresolved.CCaseC2Cinvolveda69year-oldmalewhobecameawareofpaininhislefteye5yearsafterundergoingvitreousandcata-ractCsurgeryCforCaCvitreousChemorrhage.CScleritisCwasCdiagnosed,CandCsteroidCandCantibioticCeyeCdropsCwereCpre-scribed.However,hewasreferredtoourinstitutionafterhissymptomsdidnotimprove.P.aeruginosawasisolatedfromnasalnecrotizingsclera.AsinCase1,dailywashingwithpovidoneiodinewasinitiated,whichresultedintheresolutionofsymptoms.Conclusion:Dailywashingwithpovidoneiodinewasfounde.ectiveforthetreatmentofnecrotizingscleritisduetoP.aeruginosa.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(10):1312.1316,C2019〕Keywords:緑膿菌,壊死性強膜炎,ポビドンヨード,結膜下膿瘍,結膜切開,排膿.Pseudomonasaeruginosa,necrotizingscleritis,povidone-iodine,subconjunctivalabscess,conjunctivalincision,abscessdrainage.Cはじめに類されている1).今回,筆者らはまれな緑膿菌による壊死性壊死性強膜炎はしばしば強膜穿孔をきたす難治性疾患であ強膜炎のC2例を経験し,繰り返し病巣の切開,排膿,16倍る.病因として,自己免疫性疾患に合併するもの,ウイルス希釈ポビドンヨードによる洗浄を施行し,病勢を終息させるや細菌などによる感染によるもの,および特発性のC3群に分ことができたので報告する.〔別刷請求先〕厚見知甫:〒675-8611兵庫県加古川市加古川町本町C439加古川中央市民病院眼科Reprintrequests:ChihoAtsumi,DepartmentofOphthalmology,KakogawaCentralCityHospital,439Kakogawacho,Honmachi,Kakogawa-city,Hyogo675-8611,JAPANC1312(90)〔症例1〕78歳,男性.主訴:左眼痛と充血.現病歴:2013年C6月より左眼痛,充血が出現し近医を受診した.モキシフロキサシン,ベタメタゾン点眼が開始されたが改善せず,精査加療目的に同年C7月某日加古川中央市民病院(以下,当院)紹介となった.既往歴:糖尿病,膵臓癌(手術後).眼科手術歴:2013年C3月左眼白内障手術,2013年C4月左眼翼状片手術(マイトマイシン使用については不詳).初診時所見:視力は右眼(1.0C×sph+1.0D(cyl.1.5DCAx80°),左眼(0.4C×sph.0.5D(cyl.1.5DAx90°),眼圧は右眼C10CmmHg,左眼C18CmmHgであった.左眼に膿性白色の眼脂と毛様充血および前房蓄膿を認め(図1),眼底には上方と耳側に脈絡膜.離を認めた.血液検査ではCRPは2.01Cmg/dlと軽度上昇,白血球数はC6,040/μlと正常値であった.血沈はC1時間値C59mmと亢進していたが,リウマチ因子は9CIU/ml,抗核抗体はC40倍未満と陰性で,自己免疫性疾患を疑わせる所見は認めなかった.経過:臨床所見から細菌感染によるものを疑い,同日より入院のうえ,モキシフロキサシン,セフタジジム,バンコマイシンの点眼,チエペネムC0.5CgC×2/日の点滴治療を開始した.また,白内障術後C3カ月であったため術後眼内炎の可能性も考え前房洗浄を施行し,前房水を提出したが培養検査の結果は陰性であった.治療開始後も病状に改善傾向がなく,また,鼻側結膜下に白色の膿瘍病巣を認めたため排膿目的に同部位の切開を行ったところ,病巣の底部には硬い板状Ccalci.cationplaque(図2)を認め,周囲の強膜は壊死性変化を伴い菲薄化していた.16倍希釈ポビドンヨードで病巣を洗浄後,切開部は強膜を露出したままとし翌日から連日C0.02%クロルヘキシジングルコン酸塩を用いてC1日C1回洗浄を行った.入院C1週目に眼脂および切除したCcalci.cationplaqueの培養からCPseudomonasaeruginosaが検出され,薬剤感受性を参考に,点眼液をバンコマイシンからトブラマイシンに変更した.いったんは改善傾向にあったが,入院C3週目に他部位にも同様の結膜下膿瘍(図3)が出現したため,病巣部結膜を切開し排膿を行ったうえで,今回はC16倍希釈ポビドンヨードを用いてC1日C1回の創部洗浄を連日行ったところ,徐々に病巣は縮小した.入院約C6週目で洗眼を中止し,点眼治療のみ継続したところ瘢痕化が得られたため,治療開始からC9週目に退院となった(図4).その後点眼を漸減し中止したが,強膜の強い菲薄化は残存するものの再発は認めていない(図5).〔症例2〕69歳,男性.主訴:左眼痛と充血.現病歴:2016年C10月初旬に左眼痛が出現し近医を受診し図1症例1:初診時前眼部写真結膜毛様充血,前房蓄膿を認める.図2症例1:左眼鼻側融解した結膜下にCcalci.cationplaqueを認める.図3症例1:新たに出現した上方の結膜下膿瘍点眼点滴モキシフロキサシンセフタジジムバンコマイシントブラマイシンチエペネムセフタジジム入院1W3W4W6W9W退院クロルヘキシジン(洗眼)ポビドンヨード(洗眼)切開排膿★★★★図4症例1:治療経過モキシフロキサシン,セフタジジム,バンコマイシンの点眼,チエペネムの点滴治療を開始した.病状に改善傾向がなく,鼻側結膜下に認めたCcalci.cationplaqueを切除し,0.02%クロルヘキシジングルコン酸塩で病巣を連日洗浄した.入院C1週目に眼脂および切除したCcalci.cationplaqueの培養からCPseudomonasaeru-ginosaが検出され,感受性を参考に抗菌薬の点眼,点滴を変更した.入院C3週目に他部位に結膜下膿瘍が出現したため,そのつど病巣を切除しC16倍希釈ポビドンヨードによる洗浄を入院C4週目からC6週目まで繰り返し行った.図5症例1:治療1年後の前眼部写真図7症例2:結膜切開後結膜下にCcalci.cationplaqueを認める.図6症例2:初診時前眼部写真結膜毛様充血,鼻側結膜に白色病巣を認める.た.左眼結膜充血と前房内炎症を認め,モキシフロキサシン,ベタメタゾンの点眼加療が開始されたが,眼痛の増悪と所見の悪化があり,精査加療目的にC10月某日当院紹介となった.既往歴:糖尿病,慢性腎不全(透析中),狭心症.眼科手術歴:2011年左眼硝子体出血に対し白内障手術および硝子体手術.初診時所見:視力は右眼(1.0C×sph.2.0D(cyl.1.5DCAx90°),左眼C0.03(矯正不能),眼圧は右眼C10mmHg,左眼12CmmHgであった.左眼は全周性に球結膜充血と毛様充血があり,鼻側結膜に一部膿状の黄白色病巣(図6)を認めた.角膜には既往の腎不全に伴うと推測される帯状角膜変性部位があり,前房内に軽度の炎症細胞を認めた.眼底には既存のトブラマイシンセフタジジムシプロフロキサシン点眼点滴内服入院1W2W3W4W5W6W7W8W9W10W再入院退院退院ポビドンヨード(洗眼)切開排膿★★★★図8症例2:治療経過モキシフロキサシン,セフメノキシム塩酸塩,トブラマイシンの点眼,セフタジジムの点滴治療を開始した.入院C6日目,結膜下に認めたCcalci.cationplaqueを切除し,16倍希釈ポビドンヨードで洗浄した.眼脂およびCcalci.cationplaqueの培養からCPseudomonasaeruginosaが検出された.いったんは改善がみられ退院となったが,退院後再度疼痛と下方の結膜充血の悪化をきたしたため,再入院のうえ同様の処置を行った.その際に採取した強膜の膿瘍病変からもCPseudomonasaeruginosaが検出された.その後,多発する結膜下膿瘍に対し切開・洗浄を繰り返し行った.図9症例2帯状角膜変性部に角膜障害を認める.図10症例2:治療開始1年半後の前眼部写真糖尿病網膜症を認めるのみであった.血液検査ではCCRPは0.86Cmg/dlと軽度上昇,白血球数はC6,690/μlであった.リウマチ因子はC9CIU/ml,抗核抗体はC40倍未満と陰性で自己免疫性疾患を疑わせる所見は認めなかった.経過:感染性強膜炎を疑い,同日より入院のうえ,モキシフロキサシン,セフメノキシム塩酸塩,トブラマイシンの点眼,セフタジジムC0.5Cg48時間毎(透析中のため)の点滴治療を開始した.治療開始後も自他覚所見の改善が得られなかったため,入院C6日目に病巣の切開排膿およびC16倍希釈ポビドンヨードによる洗浄を行ったが,その際症例C1と同様に強膜に癒着したCcalci.cationplaqueを認めた.また,周囲の強膜は軟化し,強い壊死性変化も伴っていた(図7).後日,眼脂およびCcalci.cationplaqueの培養からCPseudomo-nasaeruginosaが検出され,薬剤感受性を参考にシプロフロキサシンの内服を追加した.症例C1の経験からC16倍希釈ポビドンヨードで病巣の洗浄を続け,いったんは改善がみられ治療開始C4週目に退院となったが,退院後再度疼痛と下方の結膜充血の悪化をきたしたため,退院後C1週目に再入院のうえ,同部位に対しても再度同様の処置を行った.同部位の強膜は融解し膿瘍を形成しており,その際に採取した,壊死した強膜片からもCPseudomonasaeruginosaが検出されたが,Ccalci.cationplaqueの形成はなかった.その後,切開・洗浄を繰り返したところ,徐々に病巣部が縮小し,瘢痕化が得られたため,発症C10週間で退院となった.当院での治療経過を図に示す(図8).複数回に及ぶ希釈ポビドンヨード洗浄により,帯状角膜変性部に角膜障害が遷延したが血清点眼などで治療を行い,徐々に改善した(図9).治療開始後C1年半が経過し,強膜の菲薄化は残存し,ぶどう膜が透見されているII考按一般的に壊死性強膜炎の病因は感染性自己免疫性,特発性の三つに大別できる1)が,自己免疫性疾患に伴うものが圧倒的に多い.感染性そのものは強膜炎のC5.10%を占める2)と報告されており,とくに緑膿菌による壊死性強膜炎は翼状片切除後の報告が多く,Huangら3)は翼状片切除後の壊死性強膜炎C16例中C13例で培養により緑膿菌が検出されたと報告している.硝子体手術や斜視手術後でも報告はあるが,眼科手術歴と発症までの時期は一定でない4,5).今回のC2症例でも,症例C1は白内障手術後C3カ月,翼状片手術後C2カ月で発症しているが,症例C2では眼手術後C5年が経過してからの発症であった.緑膿菌による壊死性強膜炎の発症機序については明らかではないが,2症例とも既往の手術創と病巣が一致しており,手術後に局所的な強膜の軟化が起こり易感染性の状態が継続していた可能性が高い.また,両者とも既往に糖尿病があり,全身的に免疫機能の低下があったことも影響したと推測される.緑膿菌感染では特徴的なCcalci.cationplaqueを強膜に認めることがあるとされ6),今回のC2症例ともに病変部に同所見が確認され,後日培養で緑膿菌が検出された.緑膿菌感染による壊死性強膜炎は薬物治療のみでは治療に難渋することが多いが,これは菌が産生するプロテアーゼが組織を破壊しバイオフィルムを形成することで,薬剤が病巣部に到達しにくい環境となり,感染の遷延化,難治化に関与している7,8)と考えられている.Calci.cationplaqueはバイオフィルムの結果生じる所見であり,緑膿菌感染を疑う有力な所見となりうる.いったんバイオフィルムが形成されると薬剤は到達しにくくなるため,緑膿菌による強膜炎では外科的治療が有効とされ,その一つに病巣部の膿瘍切除,殺菌作用のあるポビドンヨード液・生食による洗眼9)がある.今回のC2症例でも結膜を切開,排膿し,calci.cationplaqueを切除したうえで洗浄することにより,薬剤の浸透性が増し,殺菌作用が向上したことが病勢の鎮静につながったと考えられた.また,2症例とも初発の病巣と隣接した部位に新たな病巣が出現し,結果的に複数回の外科的治療を要した.これは初回治療の時点で切開部隣接の結膜下に緑膿菌が残存し,感染を再燃させた可能性が高く,初回の切開排膿や病巣切除をできるだけ広く行うことが重要と考えられた.ポビドンヨード液には細菌,ウイルスに幅広く有効で,耐性ができにくいという利点があるが,一方で粘膜障害,角膜障害が生じるリスクもある9)ため,ポビドンヨードによる治療中は角膜障害に注意が必要であると考えられた.他の外科的治療方法として病巣部への保存強膜移植や大腿筋膜移植などの報告があり良好な成績を納めているが10,11),手技の簡便さや薬剤入手の容易さを考慮すると,長期治療期間を要するもののポビドンヨードによる洗浄はどの施設でも施行でき,有効な治療方法と思われる.薬物治療に抵抗し,融解した強膜にCcalci.cationCplaqueを伴う場合は緑膿菌感染の可能性を念頭におき,早期に広範囲の切開・排膿,病巣切除ならびにポビドンヨード液を用いた洗眼などの外科的治療を検討すべきである.文献1)RaoCNA,CMarakCGE,CHidayatAA:Necrotizingscleritis:CAclinic-pathologicstudyof41cases.Ophthalmology92:C1542-1549,C19882)RamenadenCER,CRaijiVR:ClinicalCcharacteristicsCandCvisualCoutcomesCinCinfectioussclerosis:aCreview.CClinCOphthalmolC7:2113-2122,C20133)HuangCFC,CHuangCSP,CTsengSH:ManagementCofCinfec-tiousscleritisafterpterygiumexcision.Cornea19:34-39,C20004)RichRM,SmiddyWE,DavisJL:Infectiousscleritisafterretinalsurgery.AmJOphthalmolC145:695-699,C20035)ChalDL,AlbiniTA,McKeownCAetal:InfectiousPseu-domonasCscleritisCafterCstrabismusCsurgery.CJCAAPOSC17:423-425,C20136)DunnCJP,CSeamoneCCD,COstlerCHBCetal:DevelopmentCofCscleralCulcerationCandCcalci.cationCafterCpterygiumCexci-sionandmitomycintherapy.AmJOphthalmol112:343-344,C19917)亀井裕子:細菌バイオフィルムとスライム産生.あたらしい眼科17:175-180,C20008)戸粟一郎,久保田敏昭,松浦敏恵ほか:緑膿菌による壊死性強膜炎の一例.臨眼57:25-28,C20039)松本泰明,三間由美子,河原澄枝ほか:緑膿菌性壊死性強膜炎のC1例.あたらしい眼科22:1253-1258,C200510)SiatiriCH,CMirzaee-RadCN,CAggarwalCSCetal:CombinedCtenonplastyCandCscleralCgraftCforCrefractoryCPseudomonasCscleritisCfollowingCpterygiumCremovalCwithCmitomycinCCCapplication.JOphthalmicVisRes132:200-202,C201811)児玉俊夫,鄭暁東,大城由美:壊死性強膜炎に対して大腿筋膜移植が奏効したC3例.臨眼65:647-653,C2011***

大阪医科大学附属病院における糖尿病眼筋麻痺症例の検討─複視に対する治療法─

2019年10月31日 木曜日

《第24回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科36(10):1307.1311,2019c大阪医科大学附属病院における糖尿病眼筋麻痺症例の検討─複視に対する治療法─筒井亜由美菅澤淳奥英弘戸成匡宏松尾純子西川優子荘野明希中村桂子濵村美恵子稲泉令巳子清水みはる池田恒彦大阪医科大学眼科学教室CInvestigationofDiabeticOphthalmoplegiaatOsakaMedicalCollegeHospital─TreatmentsforDiplopia─AyumiTsutsui,JunSugasawa,HidehiroOku,MasahiroTonari,JunkoMatsuo,YukoNishikawa,AkiShono,KeikoNakamura,MiekoHamamura,RemikoInaizumi,MiharuShimizuandTsunehikoIkedaCDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollegeC目的:大阪医科大学附属病院における糖尿病眼筋麻痺の臨床所見および複視に対する治療について検討した.対象および方法:2014年C2月.2018年C5月に複視を主訴として受診し,糖尿病眼筋麻痺と診断されたC15例を対象とした.検討項目は神経麻痺の種類・HbA1c・治癒率・治癒までの期間・複視の治療とした.結果:年齢はC52.83歳,神経麻痺の種類は動眼神経麻痺C2例,滑車神経麻痺C5例,外転神経麻痺C8例で,すべて片眼性であった.滑車神経麻痺のC1例は再発がみられた.全体では,HbA1cは平均C7.4C±1.1%,治癒率はC94%,治癒までの期間は平均C3.9C±3.3カ月であった.複視に対する治療は,膜プリズムC33.3%,遮閉膜C26.7%,眼帯C13.3%,経過観察C26.7%であった.結論:治癒までの期間は既報とほぼ同様で短かったが,複視を軽減するために膜プリズムや遮閉膜を試みる価値があると思われた.CPurpose:Weinvestigatedtheclinical.ndingsandthetreatmentsfordiplopiaindiabeticophthalmoplegiaatOsakaMedicalCollegeHospital.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved15patientswhopresentedwithdiplo-piaandwerediagnosedasdiabeticophthalmoplegia,atourHospitalfromFebruary2014toMay2018.Weretro-spectivelyCinvestigatedCtheCtypeCofophthalmoplegia,Chemoglobin(Hb)A1c,CcureCrate,CelapsedCtimeCperiodCuntilChealing,andtreatmentmethodfordiplopia.Results:Agesrangedfrom52to83years.TypesofophthalmoplegiawereCoculomotorpalsy(n=2)C,Ctrochlearpalsy(n=5)andCabducentpalsy(n=8)C.CAllCcasesCwereCunilateral.COneCrecurrentcasewasobservedinthetrochlearpalsytype.Forallcases,themeanHbA1cscorewas7.4±1.1%,thecureratewas94%,andthemeantimeperioduntilhealingwas3.9±3.3months.Thetreatmentmethodsfordiplo-piaCwereCmembraneprism(33.3%)C,Cocclusionfoil(26.7%)C,eyepatch(13.3%)orCfollow-upobservation(26.7%)C.CConclusions:AlthoughCtheCelapsedCtimeCperiodCuntilChealingCwasCasCshortCasCinCtheCpreviousCreport,CmembraneCprismandocclusionfoilwerefoundtobeusefulande.ectivetreatmentsforrelievingthesymptomsofdiplopia.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(10):1307.1311,C2019〕Keywords:糖尿病,糖尿病眼筋麻痺,複視,膜プリズム,遮閉膜.diabetesmellitus,diabeticophthalmoplegia,diplopia,membraneprism,occulusionfoil(Bangerter)C.Cはじめに糖尿病の合併症はさまざまあるが,眼合併症では糖尿病網膜症をはじめ,白内障,角膜症,視神経症などが存在する.そのなかで,眼球運動障害を生じる糖尿病眼筋麻痺は,比較的予後が良好であるため看過されやすいが,重要な眼合併症の一つである.糖尿病眼筋麻痺はCI型およびCII型糖尿病,それに耐糖能異常のみられる患者に眼筋麻痺を生じ,他に鑑別すべき原因疾患の認められない病態とされており1,2),糖尿病患者の約C1%に認められると報告されている1.7).本疾患は,動眼神経麻痺,滑車神経麻痺,外転神経麻痺などの単神〔別刷請求先〕筒井亜由美:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学附属病院眼科Reprintrequests:AyumiTsutsui,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-cho,Takatsuki-city,Osaka569-8686,JAPANC表1神経麻痺別の背景因子動眼神経麻痺滑車神経麻痺外転神経麻痺全体疾患Cn=2(眼)Cn=6(眼)Cn=8(眼)Cn=16(眼)年齢(歳)C62±14.1C64±6.9C75±6.6C69.3±9.3*HbA1c(%)C7.0±0.1C8.0±1.5C7.1±0.8C7.4±1.1治癒率100%83%100%94%治癒までの期間(月)C4.3±3.9C3.6±1.6C4.1±4.2C3.9±3.3痛み100%0%12.5%経障害として発症することが多く,複視を主訴とすることが多い.糖尿病眼筋麻痺の臨床的特徴像についての報告はみられるものの,糖尿病眼筋麻痺による複視に対する具体的な治療についての報告は少ない1.10).今回,大阪医科大学附属病院における糖尿病眼筋麻痺の臨床所見および複視に対する治療について検討したので報告する.CI対象および方法対象は,2014年C2月.2018年C5月に複視を主訴として大阪医科大学附属病院眼科を受診し,糖尿病眼筋麻痺と診断されたC15例(男性C10例,女性C5例),年齢はC52.83歳(平均C69.7±9.5歳)であった.検討項目は,神経麻痺の種類,HbA1c,治癒率,治癒までの期間,疼痛の有無,複視に対する治療とした.なお,今回の治癒については,正面位で顕性の偏位がなく,日常生活において複視を自覚することがないものとした.CII結果1.神経麻痺の種類症例はC15例だが,1例再発例があるためC16眼とした.神経麻痺の種類は,外転神経麻痺がC8眼(50%),滑車神経麻痺がC6眼(38%),動眼神経麻痺がC2眼(12%)であった.すべて片眼性で複合神経麻痺の症例はなかった.麻痺眼は,右眼C10眼,左眼C6眼であった.再発を認めたC1症例は,左眼滑車神経麻痺発症後C1.5カ月で治癒したものの,9カ月後に右眼滑車神経麻痺を発症した.C2.背景因子と臨床症状各神経麻痺別に年齢,HbA1c,治癒率,治癒までの期間,疼痛の有無についてまとめたものを表1に示す.年齢については,外転神経麻痺がやや高齢であった(p<0.05,一元配置分散分析法p<0.05,Tukey-Kramer法).HbA1cは,各神経麻痺間に有意差はみられなかった(ns,一元配置分散分析法).今回治癒に至らなかった残存例は,滑車神経麻痺のC1眼のみであり,治癒率は各神経麻痺間に有意差はみられなかった(ns,Cc2検定).治癒までの期間も,各神経麻痺間に有意差はみられなかった(ns,一元配置分散分析法).疼*p<0.05痛については,動眼神経麻痺はC2眼とも疼痛を伴い,滑車神経麻痺では疼痛を伴うものはなく,外転神経麻痺ではC1眼のみで,神経麻痺間で差がみられた(p<0.01,Cc2検定).動眼神経麻痺のC2症例については,瞳孔異常は認められなかった.糖尿病の推定罹患期間は,0.25.15年(平均C6.0C±5.2年)であり,10年以上C3例,5年以上C3例,5年未満C6例,不明3例であった.今回,眼筋麻痺の発症を契機に糖尿病が発見された症例はなかったが,糖尿病と診断されたが治療を放置していて,眼筋麻痺の発症を契機に内服治療を開始したものがC2例あった.また,治癒までの期間に影響を及ぼす要因として,年齢・HbA1c・糖尿病の罹患期間について検討したが,いずれも相関はみられなかった(年齢:r=0.22,p=0.45HbA1c:Cr=.0.21,Cp=0.46,糖尿病の罹患期間:r=.0.21,Cp=0.52).今回の症例の合併症については,糖尿病網膜症はC3例に認められ,1例が単純糖尿病網膜症,2例が増殖糖尿病網膜症であった.その他合併症では,糖尿病腎症はC4例,高血圧10例,動脈硬化症C1例,末梢神経障害C2例,高脂血症C4例であった.C3.複視に対する治療全症例の偏位量を図1に示す.滑車神経麻痺は比較的偏位量が少ないものが多く,外転神経麻痺は麻痺の程度により偏位量は広範囲に渡っていた.各神経麻痺別の複視に対する治療法を図2に示す.つぎに偏位量と治療法を合わせた図を示す(図3).膜プリズムを処方したのは,5.14CΔの比較的偏位量が少ない症例で,処方したプリズム度数はC4.12CΔであった.偏位量が多くなると遮閉膜や眼帯で対応した.経過観察となったのはC5眼であった.そのうち動眼神経麻痺のC1眼は眼瞼下垂によって日常複視を感じなかったものであった.滑車神経麻痺のC3眼のうち,1眼は頭位で代償したもの,あとのC2眼は再発例であり,この症例は以前にも自然治癒の経験があり,患者自身が治療を希望しなかった.外転神経麻痺のC1眼は,第一眼位で複視の自覚があいまいで治療を希望しなかった.また,眼科で内服治療として,おもにビタミンCBC12製剤や(眼)■動眼神経麻痺滑車神経麻痺■外転神経麻痺543210図1疾患別偏位量縦軸は眼数,横軸が偏位量を表す.偏位量については,疾患により水平と上下偏位の両方ある場合はプリズムの合成した量で示す.~5未満~10~15~20~25~30(⊿)(眼)■動眼神経麻痺滑車神経麻痺■外転神経麻痺☆膜プリズム△遮閉膜○眼帯543210~5~10~15~20~25~30(⊿)図3疾患別偏位量と複視に対する治療法縦軸は眼数,横軸が偏位量を表す.循環改善剤をC16眼中C13眼に処方した.処方しなかった症例は,眼筋麻痺の発症以前より内科で類似の処方を受けていた症例であった.斜視手術による治療については,治癒に至らなかったC1例に対して斜視手術を検討したが,複視の自覚があいまいであったため手術は行わなかった.C4.代.表.症.例代表的な症例を示す.73歳,男性,右眼外転神経麻痺,複視を主訴として近医より紹介受診.既往歴はラクナ梗塞.現病歴は糖尿病,単純糖尿病網膜症.糖尿病の罹患期間は10年,HbA1cはC8.4%.視力は右眼矯正(1.0),左眼矯正(0.9).眼位は近見・遠見ともに内斜視で,右眼に外転制限があり,右方視で内斜視が増大した(図4).Hesschartを図5に示す.この症例は,所持眼鏡にC10CΔの膜プリズムをCbaseoutで麻痺眼である右眼のレンズに貼り付けたところ,正面視で複視が解消した.■膜プリズム■遮閉膜■眼帯■経過観察動眼神経麻痺滑車神経麻痺外転神経麻痺(眼)図2疾患別の複視に対する治療法縦軸は疾患,横軸が眼数を表す.CIII考按神経麻痺の種類について各施設の報告をまとめたものを示す(表2).既報3,4,7,8)では,施設により差があるものの,外転神経麻痺が多い傾向がみられ,今回も同様であった.糖尿病眼筋麻痺の治癒率については,既報では施設により治癒の基準が異なるが,湯口ら3)はC100%,三村ら4)はC93.3%,高橋5)はC100%,有村ら7)はC100%,横山ら9)はC71%と報告しており,今回の報告でもC94%であった.また,三村ら4)は全眼球運動神経麻痺ではC62%,湯口ら3)は糖尿病以外の原因による眼筋麻痺ではC40%という報告をしており,他の原因による神経麻痺に比べ糖尿病眼筋麻痺の予後は良好であると考えられる.治癒までの期間について,既報では,板野ら8)はC14.5C±8.4週,横山ら9)はC2.8カ月,湯口ら3)がC12.6C±6.6週,三村ら4)はC12.6週,有村ら7)はC104日と報告しており,どの報告でもC3.4カ月であった.今回もC3.9C±3.3カ月と同様の結果であり,比較的短期間で治癒すると考えられる.治癒までの期間と年齢・HbA1c・糖尿病の罹患期間には相関はみられず,治癒までの期間に影響を及ぼす因子ではないと考えられる.疼痛については,既報5.8,10)と同様に今回の症例でも動眼神経麻痺ではC2例とも疼痛がみられた.海綿静脈洞部で動眼神経の栄養血管が閉塞し,三叉神経が影響を受けている可能性が推察される.複視に対する治療法は,他の原因による眼筋麻痺と同様で,偏位量が少ない場合はプリズム,偏位量が多い場合は遮閉膜や眼帯が適応となることが多い.今回プリズムを処方した症例の偏位量はC5.14CΔであり,15CΔ以下がプリズムの適応となりやすいと考える.しかし,既報11)ではそれ以上の偏位量でも処方している例もあり,大きな偏位量でもプリズ012345678眼位近見8~10ET’Δ遠見25ET←8~10ET→orthoΔΔ右方視左方視右方視第一眼位左方視図4症例右眼外転神経麻痺Hesschart図5Hesschart(左)と膜プリズムを貼り付けた所持眼鏡(右)右眼の外転制限が認められる.麻痺眼の右眼レンズにC10CΔbaseoutで膜プリズムを貼り付けた.表2神経麻痺の内訳症例数動眼神経麻痺滑車神経麻痺外転神経麻痺報告年板野ら8)C横山ら9)C湯口ら3)C三村ら4)C今回C2241418421641(C15.2%)7(5C0.0%)6(3C3.3%)9(2C1.4%)2(1C2.5%)59(C17.2%)4(2C8.6%)2(1C1.1%)4(9C.5%)5(3C7.5%)124(C67.4%)C6(4C2.9%)C10(C55.5%)C27(C64.3%)C8(5C0.0%)2017201420021998注1:横山らの症例数については再発C3例を含む.注2:三村らの症例数についてはC2例の注視麻痺を含む.ムが適応となるか試してみる価値はあると思われる.神経麻痺別では,動眼神経麻痺は,眼瞼下垂の程度が強い場合は複視を自覚することがないため,複視に対する治療は必要ではない.下垂が軽度の場合は複視を自覚するため治療が必要となる.この場合,向き眼位により偏位が大きく変化するため,プリズムでは両眼単一視が十分に得られず適応となりにくく,遮閉膜や眼帯が適応となる.滑車神経麻痺では,他の神経麻痺と比べ比較的偏位量が少なく,今回の症例でもC1例にみられたように頭位で代償できることもある.水平偏位と上下偏位がともにみられることが多く,プリズムの基底を患者の自覚に基づき微調整可能な場合にはプリズムの適応となる.外転神経麻痺では,麻痺の程度が軽度である場合,頭位で代償できることもあるが,滑車神経麻痺と異なり水平偏位のみの場合が多い.今回の症例でもみられたように,プリズムである程度の範囲で両眼単一視を得ることができるため,プリズムの適応となりやすい.麻痺の程度が高度な場合は度の強いプリズムが必要となるため,収差や違和感が強くなり装用はむずかしく,遮閉膜や眼帯が適応となる.また,一般的に眼筋麻痺では,複視の症状が長期化し固定した症例で,偏位が大きいと斜視手術の適応となる場合もあるが,偏位が少ない場合は組込みプリズムも選択肢の一つとなる.しかし,糖尿病眼筋麻痺は短期間で治癒するため,プリズムは組込みではなく,眼位の改善に応じて取りはずしが可能な膜プリズムが有用である.膜プリズムや遮閉膜は,突然複視を生じ,日常生活に支障をきたして受診する患者に対して,所持眼鏡に貼ることで初診時でもすぐに複視の辛さに対応できる利点がある.遮閉膜は,プリズムと異なり両眼視はできないが,プリズムが適応とならない場合は選択肢の一つとなると思われる.糖尿病眼筋麻痺は,治癒までの期間は一般的に報告されているように短く,他の原因による眼筋麻痺と比べ予後が良好であるが,複視の辛さを軽減するために,膜プリズムや遮閉膜は簡便で試してみる価値があると再認識した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)勝井義和,高橋昭,竹沢英郎:糖尿病眼筋麻痺─本邦報告C151症例の臨床統計分析と外国C3部検例の再評価を中心にして.神経内科23:122-134,C19852)向野和雄,難波龍人,阪本則敏:糖尿病とニューロパチー特に眼球運動障害(診断と治療).眼科CMOOKC46:213-222,C19913)湯口琢磨,海谷忠良:海谷眼科における糖尿病性眼筋麻痺の統計的観察.眼紀C53:104-107,C20024)三村治,鈴木温:糖尿病性眼筋麻痺.眼紀C49:977-980,C19985)高橋洋司:糖尿病性眼筋麻痺.神経内科70:13-21,C20096)奥野泰久,丸毛和男,上田進彦ほか:糖尿病患者に合併した眼筋麻痺.糖尿病23:619-625,C19807)有村和枝,小島祐二郎:糖尿病における外眼筋麻痺.眼臨C89:688-690,C19958)板野瑞穂,菅澤淳,戸成匡宏ほか:大阪医科大学附属病院眼科における糖尿病性眼筋麻痺の検討.眼臨C71:1755-1759,C20179)横山大輔,瀧川円,小野しずかほか:当院における糖尿病眼筋麻痺の予後について.日視会誌43:161-166,C201410)向野和雄,青木繁,庄司治代:糖尿病の神経眼科眼球運動障害.眼紀46:132-137,C199511)筒井亜由美,中村桂子,澤ふみ子ほか:成人の複視に対するフレネル膜プリズムの装用状況.眼臨紀C1:233-239,C2002C***

ニュープロダクツ ジャパンフォーカス株式会社 視力表及びコントラスト感度測定装置<アキュパッド>

2019年10月31日 木曜日

●ジャパンフォーカス株式会社視力表及びコントラスト感度測定装置<アキュパッド>タブレット型両眼開放多焦点視力表「アキュパッド」は視力,コントラスト視力及びコントラスト感度測定を行うことができる視機能測定器機です.ホワイトスクリーン加工を施した特殊なタブレットにより,偏光レンズを透して日常視に最も近い両眼開放下での検査ができます.5mから33cmまで複数の検査距離にて測定,多焦点IOL挿入眼の評価がこの1台で可能となりました.本体はコンパクトで持ち運びがしやすく,設置場所を選びません.◇各検査で使用している視標【視力検査】視標:ランドルト環,絵視標検査距離:5m.33cm【コントラスト視力検査】視標:ランドルト環検査距離:5m.33cm【コントラスト感度検査】視標:正弦波格子縞検査距離:5m.70cm<総販売元・問い合わせ先>株式会社JFCセールスプラン東京都文京区本郷4-3-4明治安田生命本郷ビルTEL:03-5684-8531http://www.jfcsp.co.jp/製造販売元:ジャパンフォーカス株式会社https://www.japanfocus.co.jp/(83)あたらしい眼科Vol.36,No.10,20191305

基礎研究コラム 29.Neurovascular unitからみた難治性網膜疾患の病態と新規治療戦略

2019年10月31日 木曜日

Neurovascularunitからみた難治性網膜疾患の臼井嘉彦病態と新規治療戦略Neurovascularunitとは?Neurovascularunit(NVU)はもともと脳卒中の病態生理を理解するために提唱されましたが,現在この概念は脳卒中という枠組みを超えて,網膜疾患を含めたさまざまな疾患に応用されるようになっています.網膜では,血管内皮細胞や周皮細胞などの毛細血管,それを取り囲むニューロンとアストロサイト,Muller細胞やマイクログリアなどのグリア細胞がunitを形成し,細胞間のクロストークを介して網膜のさまざまな機能を調節しています.マウスの網膜表層の毛細血管では,神経節細胞,アストロサイトやマイクログリアなどのグリア細胞により,中層はアマクリン細胞の神経突起やマイクログリアを代表としたグリア細胞に,深層は水平細胞の神経突起および中層と同様にマイクログリアにより囲まれ,NVUが構成されています1).また,血液-網膜関門(bloodretinalbarrier:BRB)は,神経系と血管系組織が機能的に相互補助関係にあるNVUを基盤に構築されているといえます.網膜そのものがNVUであり,同じ中枢神経である「脳」は経時的かつ直接的に観察することは困難ですが,私たち眼科医は眼底検査をとおして網膜のNVUを直接視ることができます.黄斑浮腫とNeurovascularunit糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症,ぶどう膜網膜炎では黄斑浮腫をきたしますが,これらは外的要因や虚血,炎症,酸化ストレス,またはそれらによって分泌される炎症性サイトカインによりBRBが破綻することにより生じることが推測されます.神経節細胞やアマクリン細胞などのニューロンは,本来視機能にのみ関与していると考えられてきましたが,NVUを構成し,視機能以外にも網膜血管形成やBRBのバリア機能にも関与する可能性があります.そのため,これらのニューロンが障害を受けることにより間接的に網膜血管やグリア細胞に影響を及ぼす可能性があり,NVUを構成するどの細胞もBRB破綻に関係することが推測されます.たとえば糖尿病黄斑浮腫では,BRBの破綻が網膜内層に存在するアマクリン細胞の機能破綻であり,アマクリン細胞が障害されるためアマクリン細胞が制御する網膜内層の毛細血管障害をきたし,結果として浮腫および視機能の低下をきたしている可能性があります2).東京医科大学臨床医学系眼科学分野図1アマクリン細胞と水平細胞によるneurovascularunitの構成網膜の中層の毛細血管はアマクリン細胞が,深層の毛細血管は水平細胞の神経突起が血管を包み込むように存在している.Neurovascularunitが障害されることで,ヒト黄斑浮腫が生じてくることが推測される.今後の展望NVUは網膜疾患病態解明でも治療の面でも重要であり,神経および血管障害をきたす網膜症では,網膜のニューロンが制御するNVU全体を治療標的とし,網膜血管の破綻を救済するneurovascularprotection(NVP)という新たなコンセプトで,糖尿病網膜症以外のさまざまな網膜疾患(網膜静脈閉塞症,加齢黄斑変性症,未熟児網膜症など)の治療法に波及していく可能性があります.また,2011年多能性幹細胞から網膜の三次元形成に成功した報告3)がありましたが,血流や血管がない(すなわちNVUを形成していない)ニューロンやグリアが,invitroで再生させたときに,生着あるいはどのように機能するか,NVUの観点からの研究の発展が待たれます.文献1)UsuiY,WestenskowPD,KuriharaTetal:Neurovascu-larcrosstalkbetweeninterneuronsandcapillariesisrequiredforvision.JClinInvest125:2335-2346,20152)臼井嘉彦:黄斑浮腫の病因血液─網膜関門およびNeuro-vascularunitの破綻の観点より.眼科59:399-405,20173)EirakuM,TakataN,IshibashiHetal:Self-organizingoptic-cupmorphogenesisinthree-dimensionalculture.Nature472:51-56,2011(75)あたらしい眼科Vol.36,No.10,201912970910-1810/19/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス 197.黄斑疾患の発症における肥満細胞の関与(研究編)

2019年10月31日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載197197黄斑疾患の発症における肥満細胞の関与(研究編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに特発性網膜前膜(epiretinalmembrane:ERM)や特発性黄斑円孔(macularhole:MH)はおもに中高年者に発症し,変視症,視力低下をきたす.これらC2疾患の成因としては,後部硝子体皮質前ポケット後壁の牽引1)が考えられているが,生化学的な研究はほとんど行われていない.筆者らは過去にCMHやCERMでは硝子体内のキマーゼやトリプターゼなどのセリンプロテアーゼの活性が上昇していることを報告した2,3).さらに,これらのセリンプロテアーゼの産生源としてCbursapremacularisの可能性を検討し報告した4).C●Bursapremacularisと肥満細胞Bursapremacularisは,Worstらが提唱した黄斑前に存在する袋状の形態を有する硝子体の一部である5)が,その生理的な役割については十分に解明されていない.筆者らは硝子体手術時に硝子体腔中央部の硝子体ゲルおよびCbursapremacularisを別々に採取し,ヘマトキシリン染色,トルイジンブルー染色,および抗キマーゼ抗体,抗トリプターゼ抗体を用いた免疫染色を行った.その結果,bursapremacularisに多数の細胞を認め,トルイジンブルー染色では肥満細胞に特徴的とされるメタクロマジーが認められた(図1).また,キマーゼ,トリプターゼいずれの抗体に対しても,bursapremacularisは中央部の硝子体ゲルよりも強く染色された(図2)4).C●黄斑疾患と肥満細胞キマーゼやトリプターゼなどのセリンプロテアーゼの産生細胞は肥満細胞であり,近年,肥満細胞が組織の線維化,アポトーシス,リモデリングに関与することが報告されている.肥満細胞は眼球では脈絡膜,毛様体,結膜,強膜などに存在するが,今回硝子体内でもその存在が確認されたことは興味深い.キマーゼはアポトーシス作用が,トリプターゼは線維化をきたす作用が優位とされているが,MHではキマーゼ活性が,ERMではトリ(73)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPYab図1トルイジンブルー染色中央部の硝子体(Ca)では染色がみられなかったが,bursapremacularis(Cb)では肥満細胞に特徴的なメタクロマジーが認められた().(文献C4より引用)CCase1Case2Case3図2抗キマーゼ抗体を用いた免疫染色中央部の硝子体(Ca)に比べてCbursapremacularis(Cb)では強い染色性を認めた.また,bursapremacularis部位はC2例で膜状構造を呈しており,その中にキマーゼ陽性の核が多数認められた.(文献C4より引用)プターゼ活性が優位であったことより,MHでは結合組織型肥満細胞が,ERMでは粘膜型肥満細胞が発症に深く関与しているのかもしれない.MHとCERMは一種の肥満細胞病ではないかと考えられる.文献1)KishiS,ShimizuK:Posteriorprecorticalvitreouspocket.ArchOphthalmolC108:979-982,C19902)MaruichiM,OkuH,TakaiSetal:Measurementofactivi-tiesCinCtwoCdi.erentCangiotensinCIICgeneratingCsystems,Cchymaseandangiotensin-convertingenzyme,inthevitre-ousC.uidCofCvitreoretinaldiseases:aCpossibleCinvolvementCofCchymaseCinCtheCpathogenesisCofCmacularCholeCpatients.CCurrEyeResC29:321-325,C20043)IkedaT,NakamuraK,OkuHetal:Theroleoftryptaseandanti-typeIIcollagenantibodiesinthepathogenesisofidiopathicCepiretinalCmembranes.CClinCOphthalmolC9:C1181-1186,C20154)SatoCT,CMorishitaCS,CHorieCTCetal:InvolvementCofCpremacularmastcellsinthepathogenesisofmaculardis-eases.PLOSONEC14:e0211438,C20195)WorstJG:Cisternalsystemsofthefullydevelopedvitre-ousCbodyCinCtheCyoungCadult.CTransCOphthalmolCSocCUKC97:550-554,C1977あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019C1295