わたしの工夫とテクニックあたらしい眼科36(C10):C1335~C1337,C2019MyDesignandTechnique硝子体内注射の練習用モデル眼の試作要約初心者向けに,硝子体内注射の練習用モデル眼を試作した.ペットボトルの「ふた」をビニールテープで覆い,模擬眼を作製した.テープが貼ってある箇所を模擬強膜とした.短時間でモデル眼は作製でき,硝子体内注射の練習が可能であった.工夫をすれば,眼内に刺入させる注射針の長さを,調整するトレーニングが可能であった.本モデル眼は,細部にこだわらないので,低予算で作製でき,手軽に練習ができる.はじめに硝子体内注射による薬物治療では,手技そのものは熟練を要しないが,留意すべき点がある1~3).有水晶体眼の場合,注射針の接触による外傷性白内障の合併に注意が必要である.発症頻度は少ないが,注射数が大幅に増えているので,その絶対数の増加が懸念されている1).これまでに筆者は,初心者向けに硝子体手術関連の練習用モデル眼を作製し,硝子体内注射や硝子体手術の一部の練習ができることを報告した4).今回,そのモデル眼を改良して,硝子体内注射のトレーニングに特化した模擬眼を試作したので解説する.模擬眼の作製と練習市販されている飲料水のペットボトルの「ふた」とビニールテープで,硝子体内注射の練習用モデル眼を作製した.テープが貼ってある箇所は模擬強膜とした.注射針を刺入する位置は,事前にマークすることができる(図1).このモデル眼は,1~2分程度で作製できた.今回使用したビニールテープの幅はC45Cmm,厚みはC0.18mmである.ヒト強膜の厚みはC0.5~1.0Cmmである.テープをC3~5枚重ねると近似させることができるが,強度が増すTrainingMethodsforIntravitrealInjection上甲覚*ためC1~2枚で十分である.本モデル眼は,テープC1枚で作製してある.この作製したモデル眼を耐震マットの上に乗せて固定した後,硝子体内注射の練習をした.針をC1Cmlの注射器に取り付けた後,定規で眼内に刺入させる長さを確認した(図2a).目標の長さを決めた後,針先に意識を集中して硝子体内注射の練習を行った(図2b).今回は,30ゲージ針を使用しているが,各施設で実際に用いている注射針で何度も練習するのがよい.ビニールテープの代わりにラップフィルムとセロハンテープで模擬強膜を作製すれば,刺入した針先を視認できる(図3).モデル眼と耐震マットの間に,紙や粘土などを挟めば,模擬強膜の刺入部位を意図的に傾けることもできる(図4).本モデル眼は,インスタ映えしない単純な作りであるが,2次創作しやすい.合併症対策の工夫抗CVEGF薬の硝子体内注射による合併症で外傷性白内障を発症し,手術を施行した報告が散見される1,5,6).また,硝子体内注射の既往のある白内障手術では,術中の後.損傷が高いとする報告もある7,8).したがって,有水晶体眼では,注射の位置や角度,患者の固視不良の有無,短眼軸や水晶体の膨隆に対して,より注意が必要と考えられている.通常の硝子体内注射の合併症対策は,細菌性眼内炎の予防に重点が置かれている.術野の消毒以外に,口腔内細菌などの飛沫汚染を防ぐため,患者と術者はマスクを着用する必要がある2,3).だだし,もともと空気中に浮遊している細菌や真菌が注射針に付着する懸念は残る.生体にとって異物である注射針は,どの程度の長さを眼内へ刺入させるのが最善なのか,不明である.エビデンスはないが,眼内に入る針先の*SatoruJoko:国立病院機構東京病院眼科〔別刷請求先〕上甲覚:〒204-8585清瀬市竹丘3-1-1国立病院機構東京病院眼科C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(113)C1335図1硝子体内注射の練習用モデル眼の作製a:飲料用ペットボトルの「ふた」を準備する.Cb:「ふた」の開口部をビニールテープで覆い,輪ゴムで固定し,耐震マットの上に乗せて固定した.テープに描いたC2つの円は,内側は直径C11.0mm,外側はC18.0mmで,幅は3.5Cmmになる.2つの円の大きさや間の幅は,自由に変えることができる.内側の円は,模擬角膜輪部になる.Cc:刺入部位のマークは,円ではなく,実践を意識して点にすることもできる.この点の位置は,模擬角膜輪部から3.5Cmmにしてある.長さは,短いほうが細菌の侵入のリスクは少ない,と個人的には考える.また,不意に患者の眼球が動いても,硝子体内での針の動きは小さくて済む.さらに針の刺入と抜去による強膜創へのストレスも少ないと考える.強膜の厚みは約C1Cmmである.したがって,針先がC3~4図2刺入させる針の長さを意識した練習a:まず,注射器に取り付けた針の眼内に刺入させる長さ,すなわち目標の長さを確認する.今回はC30ゲージ針を用いたが,実際に使用している注射針で練習を行うのがよい.b:ビニールテープの模擬強膜に刺入させるときは,2つの円の幅であるC3.5Cmmの長さを参考にして行うこともできる.練習は,円の刺入位置をずらして繰り返してできる.mm眼内に入れば,硝子体内への薬物注入が十分できる.また,この長さであれば,水晶体に触れる危険はきわめて少ない.注射針が水晶体に触れるリスクのある症例では,眼内に刺入させる針の位置や角度だけでなく,長さも考慮する必要がある.繰り返しトレーニングし,眼内に入れる針先の長さもコントロールできれば,外傷性白内障のリスクを克服できると考える.ただし,硝子体内の刺入した針先の長さが短すぎると,薬液の注入時に針が抜ける可能性がある.また,毛様体無色素上皮下に誤注入する危険性があるので注意が必要である.注射針には,長さのめもりは付いていない.実際に利用できる長さの情報として,以下のことが考えられる.一つは,キャリパーを使ってマークした角膜輪部から針の刺入部位までの距離で,有水晶体眼の場合,通常その幅はC3.5~4Cmmとなる.また,針の長さも参考になる.12Cmmの長さの針の場合は,半分でC6mm,3分のC1でC4Cmmとなる.1336あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019(114)図3針先を確認できる模擬眼の作製食品包装用ラップフィルムで「ふた」を覆い,ラップフィルムの一部にセロハンテープを貼り強度を高めた.テープを貼った位置で,硝子体内注射の練習を行った.刺入した針先の確認ができる.刺入された針先が長ければ,その角度が水平方向に傾くと水晶体損傷を起こす1,5,6).本モデル眼では,刺入時の角度や抜去時の角度を意識した模擬練習も繰り返し可能である.また,実際の薬物の代わりに,空気や水を注入する練習も容易にできる.おわりに今回紹介した硝子体内注射のトレーニング方法は,わずかな時間とスペースがあれば可能である.また,衛生面での注意も必要なく,使用したモデル眼と注射針を何度も再利用できる利点もある.文献1)服部知明:抗CVEGF薬硝子体内注射による合併症.あたらしい眼科31:1003-1004,C2014図4モデル眼の傾きの調整今回は使用済みのハガキを利用した.これを細く切り,重ねてテープで固定した後,模擬眼の下に置いた.切ったハガキをC9枚重ねてあるが,異なる種類の紙や枚数を変えれば,傾斜は意図的に調整できる.2)小椋裕一郎,髙橋寛二,飯田知弘:黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン.日眼会誌120:87-90,C20163)猪俣武憲,本田美樹:硝子体内注射の日米ガイドラインの比較.眼科手術30:5-11,C20174)上甲覚,中山馨:新しい眼科手術練習用モデル眼の試作.臨眼72:419-423,C20185)安井絢子,山本学,芳田裕作ほか:硝子体内注射後の水晶体後.破損に対する硝子体手術併用水晶体再建術を施行したC1例.臨眼69:457-460,C20156)加納俊介,清崎邦洋,福井志保ほか:硝子体内注射C1カ月後に診断された外傷性白内障のC1例.あたらしい眼科C36:C544-547,C20197)LeeCAY,CDayCAC,CEganCCCetal:PreviousCintravitrealCtherapyisassociationwithincreasedriskofposteriorcap-suleCruptureCduringCcataractCsurgery.COphthalmologyC123:1252-1256,C20168)ShalchiCZ,COkadaCM,CWhitingCCCetal:RiskCofCposteriorCcapsuleruptureduringcataractsurgeryineyeswithpre-viousCintravitrealCinjections.CAmCJCOphthalmolC177:C77-80,C2017C☆☆☆(115)あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019C1337