眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人中山知倫渡辺彰英55.脂腺癌と遺伝子京都府立医科大学眼科学教室脂腺癌の遺伝子解析はこれまであまり行われていない.分子標的薬の開発が進むなか,遺伝子解析による癌細胞の動態解明は,これらの新たな治療薬の適応の根拠を探る意味でも重要である.アジアに多い疾患であり,脂腺癌の研究におけるわれわれ日本の眼科医が果たすべき役割は大きいと考える.●はじめに脂腺癌は,ほとんどが眼瞼の脂腺であるCMeibom腺,Zeis腺から発生する.多くはCMeibom腺より発生するため,Meibom腺の多い上眼瞼にできることが多い.高齢者に多いことが知られている.脂腺癌は局所再発やリンパ節転移,遠隔転移の可能性があり,臨床的な悪性度が高い.腫瘍死の原因となるうる疾患であり,早期発見,早期治療が重要である.肉眼的所見は大きく二つのタイプに分けられ,黄色調結節状の病変として眼瞼結膜や眼瞼縁に隆起してくるタイプ(nodulartype,図1)と,びまん性の眼瞼肥厚や眼瞼炎,慢性結膜炎のような所見を認めるタイプ(di.usetype,図2)がある.Di.usetypeは病理学的に腫瘍細胞の上皮内浸潤であるCpagetoidspread(図3)を認めることがある.人種差があり,白色人種よりもアジア人に多いことが知られている.また,臨床所見についてはアジア人にはCnodulartypeの方がCdi.usetypeよりも多い1)が,白色人種ではCdi.usetypeとCnodulartypeはほぼ同じ頻度であることがわかっている2).なんらかの遺伝的背景があると推測されるが,脂腺癌についての遺伝子検索はこ図1脂腺癌(nodulartype)図2脂腺癌(di.usetype)図3Pagetoidspread(HE染色)(71)あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019C12930910-1810/19/\100/頁/JCOPYれまであまり行われておらず,はっきりしたことはわかっていない.C●脂腺癌と遺伝子脂腺癌症例の大部分で,癌抑制遺伝子の一つであるTP53の変異が認められている3,4).ただし,紫外線を原因とする変異様式は認められず4),紫外線が脂腺癌の原因とならないことが遺伝子変異からも説明できている.また,ヒト上皮成長因子受容体C2(HER2)遺伝子の増幅によるCHER2蛋白質の過剰発現が多く認められている5).HER2蛋白質に対しては分子標的薬が存在しており,脂腺癌に対する分子標的治療の可能性を示唆している.そのほか,サイクリン依存性キナーゼ阻害C2A(CDK-N2A)遺伝子の過剰発現を認めることが多く,発症者が若年であることと,CDKN2A遺伝子の過剰発現は,相関関係を示すことがわかっている6).CDKN2A遺伝子の過剰発現の原因としてヒトパピローマウイルス(HPV)の関与がよく知られているが,脂腺癌症例でHPV感染はほぼ認めないことがわかっている.次世代シーケンサーによる解析も始まっている.脂腺癌C27症例のC409の癌関連遺伝子の全エクソーム次世代シーケンスの結果では,もっとも一般的な変異としてTP53,RB1,PIK3CA,PTEN,ERBB2,およびCNF1の遺伝子変異が同定された7).これらの変異はCPI3Kシグナル伝達経路を活性化すると予測される.この経路の阻害薬がすでに存在していることから,これらの薬剤が脂腺癌の制御に有効であることが示唆されている.●おわりに遺伝子解析は,臨床像の遺伝子による裏付けともなるが,それだけではない.細胞シグナル伝達経路が解明され,その阻害薬の開発や,分子標的薬の開発が進む現代では,それらの薬剤適応の根拠となるという意味でも重要である.脂腺癌は欧米よりもアジアで多い疾患であり,脂腺癌の遺伝子解析はわれわれ日本の眼科医が推し進めていくべき分野であると考える.文献1)WatanabeCA,CSunCMT,CSelvaCDCetal:SebaceousCcarcino-mainJapanesepatients:clinicalpresentation,stagingandoutcomes.BrCJOphthalmol97:1459-1463,C20132)ShieldsJA,DemirciH,MarrBPetal:Sebaceouscarcino-maCofCtheeyelids:personalCexperienceCwithC60Ccases.COphthalmologyC111:2151-2157,C20043)BellCWR,CSinghCK,CRajanCKdCACetal:ExpressionCofCp16Candp53inintraepithelialperiocularsebaceouscarcinoma.OculOncolCPathol2:71-75,C20154)KiyosakiCK,CNakadaCC,CHijiyaCNCetal:AnalysisCofCp53Cmutationsandtheexpressionofp53andp21WAF1/CIP1proteinCinC15CcasesCofCsebaceousCcarcinomaCofCtheCeyelid.CInvestOphthalmolVisSciC51:7-11,C20105)KwonCMJ,CShinCHS,CNamCESCetal:ComparisonCofCHER2CgeneCampli.cationCandCKRASCalterationCinCeyelidCseba-ceouscarcinomaswiththatinothereyelidtumors.PatholResPract211:349-355,C20156)LiauCJY,CLiaoCSL,CHsiaoCCHCwtal:HypermethylationCofCtheCCDKN2ACgeneCpromoterCisCaCfrequentCepigeneticCchangeinperiocularsebaceouscarcinomaandisassociat-edCwithCyoungerCpatientCage.CHumCPatholC45:533-539,C20147)Tetzla.MT,SinghRR,SeviourEGetal:Next-generationsequencingCidenti.esChighCfrequencyCofCmutationsCinCpotentiallyclinicallyactionablegenesinsebaceouscarcino-ma.CJPathol240:84-95,C20161294あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019(72)