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眼瞼・結膜:脂腺癌と遺伝子

2019年10月31日 木曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人中山知倫渡辺彰英55.脂腺癌と遺伝子京都府立医科大学眼科学教室脂腺癌の遺伝子解析はこれまであまり行われていない.分子標的薬の開発が進むなか,遺伝子解析による癌細胞の動態解明は,これらの新たな治療薬の適応の根拠を探る意味でも重要である.アジアに多い疾患であり,脂腺癌の研究におけるわれわれ日本の眼科医が果たすべき役割は大きいと考える.●はじめに脂腺癌は,ほとんどが眼瞼の脂腺であるCMeibom腺,Zeis腺から発生する.多くはCMeibom腺より発生するため,Meibom腺の多い上眼瞼にできることが多い.高齢者に多いことが知られている.脂腺癌は局所再発やリンパ節転移,遠隔転移の可能性があり,臨床的な悪性度が高い.腫瘍死の原因となるうる疾患であり,早期発見,早期治療が重要である.肉眼的所見は大きく二つのタイプに分けられ,黄色調結節状の病変として眼瞼結膜や眼瞼縁に隆起してくるタイプ(nodulartype,図1)と,びまん性の眼瞼肥厚や眼瞼炎,慢性結膜炎のような所見を認めるタイプ(di.usetype,図2)がある.Di.usetypeは病理学的に腫瘍細胞の上皮内浸潤であるCpagetoidspread(図3)を認めることがある.人種差があり,白色人種よりもアジア人に多いことが知られている.また,臨床所見についてはアジア人にはCnodulartypeの方がCdi.usetypeよりも多い1)が,白色人種ではCdi.usetypeとCnodulartypeはほぼ同じ頻度であることがわかっている2).なんらかの遺伝的背景があると推測されるが,脂腺癌についての遺伝子検索はこ図1脂腺癌(nodulartype)図2脂腺癌(di.usetype)図3Pagetoidspread(HE染色)(71)あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019C12930910-1810/19/\100/頁/JCOPYれまであまり行われておらず,はっきりしたことはわかっていない.C●脂腺癌と遺伝子脂腺癌症例の大部分で,癌抑制遺伝子の一つであるTP53の変異が認められている3,4).ただし,紫外線を原因とする変異様式は認められず4),紫外線が脂腺癌の原因とならないことが遺伝子変異からも説明できている.また,ヒト上皮成長因子受容体C2(HER2)遺伝子の増幅によるCHER2蛋白質の過剰発現が多く認められている5).HER2蛋白質に対しては分子標的薬が存在しており,脂腺癌に対する分子標的治療の可能性を示唆している.そのほか,サイクリン依存性キナーゼ阻害C2A(CDK-N2A)遺伝子の過剰発現を認めることが多く,発症者が若年であることと,CDKN2A遺伝子の過剰発現は,相関関係を示すことがわかっている6).CDKN2A遺伝子の過剰発現の原因としてヒトパピローマウイルス(HPV)の関与がよく知られているが,脂腺癌症例でHPV感染はほぼ認めないことがわかっている.次世代シーケンサーによる解析も始まっている.脂腺癌C27症例のC409の癌関連遺伝子の全エクソーム次世代シーケンスの結果では,もっとも一般的な変異としてTP53,RB1,PIK3CA,PTEN,ERBB2,およびCNF1の遺伝子変異が同定された7).これらの変異はCPI3Kシグナル伝達経路を活性化すると予測される.この経路の阻害薬がすでに存在していることから,これらの薬剤が脂腺癌の制御に有効であることが示唆されている.●おわりに遺伝子解析は,臨床像の遺伝子による裏付けともなるが,それだけではない.細胞シグナル伝達経路が解明され,その阻害薬の開発や,分子標的薬の開発が進む現代では,それらの薬剤適応の根拠となるという意味でも重要である.脂腺癌は欧米よりもアジアで多い疾患であり,脂腺癌の遺伝子解析はわれわれ日本の眼科医が推し進めていくべき分野であると考える.文献1)WatanabeCA,CSunCMT,CSelvaCDCetal:SebaceousCcarcino-mainJapanesepatients:clinicalpresentation,stagingandoutcomes.BrCJOphthalmol97:1459-1463,C20132)ShieldsJA,DemirciH,MarrBPetal:Sebaceouscarcino-maCofCtheeyelids:personalCexperienceCwithC60Ccases.COphthalmologyC111:2151-2157,C20043)BellCWR,CSinghCK,CRajanCKdCACetal:ExpressionCofCp16Candp53inintraepithelialperiocularsebaceouscarcinoma.OculOncolCPathol2:71-75,C20154)KiyosakiCK,CNakadaCC,CHijiyaCNCetal:AnalysisCofCp53Cmutationsandtheexpressionofp53andp21WAF1/CIP1proteinCinC15CcasesCofCsebaceousCcarcinomaCofCtheCeyelid.CInvestOphthalmolVisSciC51:7-11,C20105)KwonCMJ,CShinCHS,CNamCESCetal:ComparisonCofCHER2CgeneCampli.cationCandCKRASCalterationCinCeyelidCseba-ceouscarcinomaswiththatinothereyelidtumors.PatholResPract211:349-355,C20156)LiauCJY,CLiaoCSL,CHsiaoCCHCwtal:HypermethylationCofCtheCCDKN2ACgeneCpromoterCisCaCfrequentCepigeneticCchangeinperiocularsebaceouscarcinomaandisassociat-edCwithCyoungerCpatientCage.CHumCPatholC45:533-539,C20147)Tetzla.MT,SinghRR,SeviourEGetal:Next-generationsequencingCidenti.esChighCfrequencyCofCmutationsCinCpotentiallyclinicallyactionablegenesinsebaceouscarcino-ma.CJPathol240:84-95,C20161294あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019(72)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性に対する変則Treat and Extend

2019年10月31日 木曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二69.加齢黄斑変性に対する変則大中誠之関西医科大学医学部眼科学教室CTreatandExtend滲出型加齢黄斑変性は慢性疾患であり,大多数の症例において継続した治療が必要である.Treatandextend(TAE)法はCproactive治療を組み入れた個別化医療であり,長期にわたって視機能を維持することが可能である.理想的な治療法であるが,問題点がないわけではない.本稿では,その問題点と解決策として当院で行っているCmodi.edTAE法について解説する.はじめに現在,滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)の治療として,おもに抗CVEGF療法や光線力学的療法(photodynamicCtherapy:PDT)が用いられているが,発症後早期に治療を開始することにより,多くの患者において視機能の改善が得られるようになった.しかし,滲出型CAMDは慢性疾患であり,改善した視機能を維持するためには継続した治療が必要となるため,いかに少ない治療回数で視機能を維持させるかが重要なポイントとなる.長期にわたる維持期治療一般的に滲出型CAMDの治療は,視機能の改善をめざす導入期と,改善した視機能を保つための維持期に分けて考えられる.導入期の治療はその後の経過に大きく影響するため,徹底して行うことが望ましい.しかし,導入期に徹底した治療を行っても再発する症例は多く,滲出型CAMDの全治療期間を通して考えると圧倒的に維持期のほうが長い.維持期の治療は抗CVEGF単独療法を選択する施設が多いが,投与法はCreactive投与である必要時(proCrenata:PRN)投与と,proactive投与を含む固定投与あるいはCTAE法に分けられる.PRN投与を厳密に行うことができれば,他の投与方法と比較してもっとも少ない治療回数で長期にわたって視機能を維持することが可能と考えるが,10年以上CPRN投与で治療を行うことは現実的にむずかしい.TAE法は個々の病状に合わせて投与間隔を調整する方法で,維持期の治療法としては理想的であり,長期成績も良好であることから多くの施設で用いられている.CTreatandextend法の問題点一般的なCTAE法は,導入期として滲出性所見の消失(69)(ドライ)まで毎月投与を行い,その後は維持期として,病態に合わせて投与間隔を調整しながら,可能なかぎりproactiveに投与を続けていく方法である.PRN投与より治療回数は多くなるが,長期視力予後が良好であることに加えて,受診日と投与日が同日であるため,多くの患者において毎月通院する必要がなくなることもメリットの一つである.現状では,維持期にCTAE法によるproactive治療を継続することは理想的と考えるが,問題点がないわけではない.問題点の一つめは,proactive治療であるために過剰投与となっている可能性があることである.再燃させないことがCproactive治療であるため,個々に合った投与間隔をみつける早期の段階では投与間隔の延長は慎重に行うべきであり,治療回数がある程度多くなることはしかたがないことかもしれないが,投与間隔を調整する以前に,一定の割合で導入期治療後長期にわたって再燃なく追加治療を必要としない症例が存在することに気をつけなければならない.当院において導入期にアフリベルセプトを用いて治療を行ったところ,治療開始後半年以内に約半数が再発し,1年では約C7割の患者で少なくともC1回は再発を認めたが,残りのC3割はC1年間再発なく経過した.これらの患者に対して導入期治療後,継続的に治療を行うことは過剰投与となっている可能性が高い.問題点の二つ目は,proactive治療を終えるタイミングが定まっていないことである.これまでにさまざまな報告がなされているが,治療後の経過が良好で順調に投与間隔を延長できた症例では,12週間あるいはC16週間の投与間隔で2~3回病状が落ち着いていた場合にCTAE法を中断している報告が多いようである.当院ではC16週間の投与間隔でC3回,つまりC1年間病態の悪化を認めなかった場合に一度治療を中断している.また,治療を継続しても視力や自覚症状の改善が望めない場合には,僚眼の状態を考慮し,患者と相談のうえ,治療を中断すあたらしい眼科Vol.36,No.10,2019C12910910-1810/19/\100/頁/JCOPYることも必要である.変則Treatandextend法治療早期の過剰投与を避けるための一つの方法として,導入期後すぐにCproactive治療を始めずに,経過観察を行うことがあげられる.多くの症例で再発するため,追加治療がいつかは必要となるが,長期間再発しない症例に対して過剰投与を避けるための有効な方法である.いわゆるCPRN投与であり,reactive治療となるために再発による視力低下が懸念されるが,当院で調べたところ,導入期で改善した視力が再発時に有意に低下した患者の割合はC5%程度であったことから,一度の再発は許容できるものと考える.しかし,reactive治療を繰り返すことは長期的には視力低下につながる可能性が高く,やはりCproactive治療を行うことが理想的である.過剰投与と視力低下の両方を回避する方法として,observe-and-plan(OAP)法1)や当院で行っているCmodi.edTAE法2)があげられる.両者とも導入期治療後に一度再発するまで経過観察を行い,再発後は再発までの期間を参考に計画的に投与を行う方法である.一般的なCTAE法と比較すると,治療成績は同等であり,OAP法では通院が少なく,modi.edTAE法では治療回数が少ないことが特徴である.以下,modi.edCTAE法について導入期,経過観察期,TAE期に分けて概説する.導入期は,少なくともC4週毎にC1回,連続C3回は投与を行い,それでもドライにならなければ,ノンレスポンダー症例でないかぎりはドライになるまでC4週ごとに投与を行う.導入期治療として少なくとも連続C3回行う理由としては,大規模臨床試験の結果からわかるように,視力改善の大部分がこのC3回の治療で得られることと,3回の治療のなかでドライになるまでの治療回数が多い症例のほうが早期に再発する傾向にあるなど,治療による反応性の違いからその後の経過をある程度予測できるためである.経過観察期はドライになってから再発するまでの期間であるが,この再発期間を参考にCTAE期の最初の投与間隔を決定するため,modi.edTAE法のなかでもっとも重要な期間となる.再発間隔は症例ごとにある程度決まっている3)ことから,ここで再発期間を正確に把握することにより,TAE期における投与間隔の調整が少なくてすむため,調整中に認める再発による視力低下のリスクの軽減と結果的には治療回数の減少につながる.したがって,再発するまでは基本的に毎月診察が望ましい.C1292あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019TAE期は,経過観察期で得た再発間隔から1~2週間短縮した期間を最初のCTAE法の投与間隔とし,それ以降は通常のCTAE法と同様に投与を続けていく.ここで大事なことは,最初と途中で滲出性所見の再発を認めて投与を行った場合には,1カ月後に診察を行うことである.たとえばC10週間隔で再発した場合,次の投与はC8週後になるが,4週後の診察でドライであればそのまま8週後でよいが,ドライになっていない場合はその時点で追加投与を行うべきであり,8週間隔でCTAE法を再開するのはドライになってからとしている.また,繰り返しの再発を避けるために,投与間隔を短縮した場合,ドライになってもすぐに投与間隔を延長せずに,基本的にはC1年間同じ投与間隔で行うようにしている.このように厳密に管理を行うことで,長期にわたって視機能を維持することが可能となるが,当院のデータでは大多数の症例において,最初の投与間隔から大幅な延長・短縮なく経過しており,この結果は再発間隔が症例ごとにある程度決まっているとする既報3)と一致し,modi.edTAE法における最初の投与間隔の決定法が妥当であることを示している.CModi.edTAEの中断はC16週間隔でC1年間病態が安定していた場合に行っているが,これまでの結果では約2割の症例が中断基準に合致し,一度治療を中断している.幸い,その後再発する症例はC15%程度と少ないことから,基準としては妥当と考える.おわりに滲出型CAMDは慢性疾患であり,現状の治療法では完治は望めないが,超高齢社会を迎えているわが国においては,少ない治療回数で長期間視機能を維持するために,今後もよりよい治療法の開発に努める必要がある.文献1)MantelCI,CNiderprimCSA,CGianniouCCCetal:ReducingCtheCclinicalCburdenCofCranibizumabCtreatmentCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegenerationCusingCanCindividuallyCplannedregimen.BrCJOphthalmolC98:1192-1196,C20142)OhnakaCM,CNagaiCY,CShoCKCetal:ACmodi.edCtreat-and-extendregimenofa.iberceptfortreatment-naivepatientsCwithCneovascularage-relatedCmacularCdegeneration.CGrae-fesArchClinExpOphthalmolC255:657-664,C20173)MantelI,DeliA,IglesiasKetal:Prospectivestudyeval-uatingCtheCpredictabilityCofCneedCforCretreatmentCwithCintravitrealranibizumabforage-relatedmaculardegener-ation.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC251:697-704,C2013(70)

緑内障:緑内障と患者啓発活動

2019年10月31日 木曜日

●連載232監修=山本哲也福地健郎232.緑内障と患者啓発活動小川俊平東京慈恵会医科大学眼科学講座緑内障の原因は不明で,発症を予防することはできない.また初期の緑内障は自覚症状に乏しく,しばしば発見が遅れてしまう.そのため緑内障によるQOL低下を防ぐためには早期発見,早期治療しか選択肢はない.広く一般の方に緑内障を認知してもらい,検診を受診していただくことが大変重要である.●緑内障認知度調査企業が2015年と2018年の「緑内障の日」に合わせて行った緑内障認知度調査が公開されている.2015年に日本アルコンは,インターネットを通じて緑内障に関する意識調査を実施した.対象は全国の40歳以上の360人で,「一般層」「緑内障の疑いがある層」「緑内障患者層」の各グループ120名の緑内障に関する知識,受診行動,治療の実態を調査した1).また,2018年にファイザーは,月1回以上車を運転する全国47都道府県の40歳以上の男女10,708人を対象に,インターネットを通じて緑内障意識調査を行った2).2015年の調査で「緑内障をまったく知らなかった」と答えた一般層(緑内障疑い歴および指摘歴なし)は12.5%であり,認知度は87.5%であった.2018年調査では認知度は98.7%に上昇していた.疾患理解では,2015年では正答率が「視野が狭くなる病気」37.5%,「高齢になるほど罹患率が高まる」31.7%,「眼圧を下げることで進行を抑えることができる」24.2%,「失明原因の第一位」20.8%などであったのに対し,2018年調査では,「視野が狭くなる病気」67.2%,「自覚症状はほとんどない」47.2%,「年齢とともに増加」75.5%,「視力が良ければ緑内障ではない」(に対し「そう思わない」を選択)60.8%,「早期発見早期治療により失明は防げる」71.8%と,正答率が増加していた.両調査は対象も方法も異なるため結果の解釈には注意を要するが,緑内障認知度は向上しているのではないかと期待される.図12019年ライトアップinグリーン運動筆者の勤務地より望める虎ノ門タワー(正面).頭だけ緑色にライトアップされた.(http://www.ryokunaisho.jp/infomation/wgwgreenlightup2019.html#Toranomonより転載).(67)あたらしい眼科Vol.36,No.10,201912890910-1810/19/\100/頁/JCOPY表1現在の特定健診項目●世界緑内障週間(3月)と緑内障の日(6月7日)世界緑内障連盟と世界緑内障患者連盟は,2008年から毎年3月上旬の1週間を世界緑内障週間(WorldGlaucomaWeek:WGW)として,世界中で緑内障啓発活動を展開している.2019年のWGW(3月10~16日)では,世界中で626の緑内障啓発活動が開催された.日本でも多くの市民講座や無料健診など啓発活動が積極的に行われた.WGWのシンボルとして地域のランドマークをグリーンにライトアップする「ライトアップinグリーン運動」があるが,本年は日本全国から150カ所が参加した(図1).初年度の2015年5カ所,2016年20カ所,2017年44カ所,2018年85カ所から参加施設が爆発的に増加したことがわかる3).この他にも,緑内障フレンド・ネットワークの申請により,6月7日が「緑内障の日」として制定された.日付は「りょく(6)ない(7)」(緑内)と読む語呂合わせからである.緑内障についての正しい理解と,「一年に一度は検診を受けるように」と呼びかけている.記念日は一般社団法人日本記念日協会により認定・登録されており,当日は日本緑内障学会が市民講座や講演会など多くの広報活動を行っている.●眼科健診と成人緑内障検診緑内障の啓発活動が地道に確実に広がっている様子を紹介した.次の受け皿は健診(健康診断)になる.成人健診には,公的健診,自治体健診,企業健診や任意健診1290あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019がある.公的健診はこれまで「老人保健法による地域住民対象の基本健康診査(老人健診)」のもとに行われてきたが,平成20年から「特定健診」へと変更された.特定検診の目的はメタボリックシンドロームの予防と改善であり,高血圧,高脂血症,糖尿病を想定した項目が多く採用された.眼科領域では視力検査が廃止され,「詳細な健診項目」として“眼底検査を医師が必要と認めた場合に限る”という条件つきで行われることとなった(表1).ここでいう医師が必要と認めた場合とは,平成30年3月までは「前年データ(腹囲,血糖値,血圧,中性脂肪)の“すべて”が基準値を超える対象者」をさしており,この結果,名古屋,松江,出雲の3都市では特定健診開始後の眼底写真撮影頻度は1/100へと減少したとのデータがある.平成30年4月からは「血圧または血糖値の基準を超えた対象者」へと,眼底検査の条件が一部拡大された.特定健診のみから緑内障診断に結びつく潜在患者は少なく,自治体健診と任意健診による緑内障検診の拡充が望まれる.緑内障検診の実施には,1)検診の根拠となる研究を科学的に検証し,有効な検診方法を明らかにすること,2)科学的根拠のある検診の精度を改善・維持し,正しく行うための支援をすること,3)多くの人が受診するための受診率向上の推進対策をすること,が必要である.近年の人工知能を用いた画像診断技術は,人的,経済的問題を改善する可能性があり,おおいに発展,活用が期待される.●おわりに緑内障による視覚障害を少しでも減らすためには,病因解明のための基礎研究,診断・治療法の進歩に加えて,予防(緑内障啓発活動と緑内障検診の拡充)が重要である.文献1)日本アルコン株式会社:緑内障に関する意識調査.2015/6/2.https://www.alcon.co.jp/sites/www.alcon.co.jp/.les/nc-ryokunaisho150607.pdf2)ファイザー株式会社:緑内障に関するドライバー1万人調査.2018/5/29.https://www.p.zer.co.jp/p.zer/company/press/2018/documents/20180529.pdf3)日本緑内障学会:2019年ライトアップinグリーン運動http://www.ryokunaisho.jp/infomation/wgwingreen.html(68)

屈折矯正手術:再発性角膜上皮剝離に対するエキシマレーザー治療

2019年10月31日 木曜日

監修=木下茂●連載233大橋裕一坪田一男233.再発性角膜上皮.離に対する天野史郎井上眼科病院エキシマレーザー治療再発性角膜上皮.離が内科的治療でも再発を繰り返す場合は手術を考える.周辺部病変には針による角膜実質穿刺を行う.角膜中央部病変にはエキシマレーザー照射を行う.上皮.離後,中央C7~8Cmmの範囲に,15~20μmの深さのエキシマレーザー照射を行う.原因が外傷の場合はレーザー治療後の再発は少ない.皮を引き.がす力がかかり,上皮.離が発生する.角膜●再発性角膜上皮.離の臨床像上皮の接着不良の原因としては,外傷後,糖尿病,角膜再発性角膜上皮.離は文字通り再発を繰り返す角膜上上皮基底膜変性症(図3),角膜実質変性症(顆粒状,格皮.離である.朝の起床時に疼痛が発生することを繰り子状,斑状)などがある.返すという病歴と角膜スリット所見から,診断は比較的容易である(図1).上皮.離が治っているときでも,上皮層内の水疱状の混濁や,フルオレセインをはじくような所見がみられる(図2).最下層の角膜上皮細胞の基底部にあるChemi-desmo-someに発現するCintegrins,それに結合する上皮基底膜内のClaminin,基底膜からCBowman膜に伸びるCanchor-ing.brilsといった接着構造により,角膜上皮細胞は基底膜・Bowman膜に接着している.この接着構造に障害が発生すると角膜上皮.離が発生しやすくなる.就眠中は瞬目の減少から涙液分泌が低下し,眼瞼結膜と角膜上皮が接着しやすくなり,起床し開瞼した瞬間に角膜上図1角膜中央から中間周辺部にみられる再発性角膜上皮.離上皮の被覆が進んでいる.図2再発性角膜上皮.離を繰り返す部位にみられる水疱状混濁()と点状混濁図3角膜上皮基底膜変性症にみられる指紋状混濁()(65)あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019C12870910-1810/19/\100/頁/JCOPY図4Anteriorstromalpuncture(ASP)後にみられた線状混濁()角膜周辺部に頻繁に再発していた角膜上皮.離はCASP後に再発しなくなったが,穿刺部に淡い線状混濁が残った.C●治療の選択治療としては,まず内科的治療として就寝時の眼軟膏点入と日中のヒアルロン酸製剤点眼を行う.疼痛が治まってからもこの治療をC1~2カ月継続することで,多くの場合は再発が終息する.しかし,疼痛が治まるとすぐに治療をやめてしまい再発を繰り返す患者も多い.内科的治療でも再発を繰り返す場合は外科的治療を考える.上皮.離部位が周辺部にある場合,針を用いた角膜実質穿刺であるCanteriorCstromalpuncture(ASP)を考える.27ゲージ針などの細い針の最先端部分を白内障手術で使うチストトームのように折り曲げたものを使って,上皮.離を繰り返す部位に穿刺を行う.深さは実質のC1/4~1/3くらいである.上皮.離を起こす範囲の広さに応じてC10~30回程度の穿刺を行う.ZaubermanらはC35眼にCASPを施行し,平均経過観察期間C14カ月の間にCASPなどの再処置が必要であったのはC6眼(17%)と報告している1).C●エキシマレーザー治療の実際ASPは安価で有効な方法であるが,穿刺部位が瘢痕化により混濁を生じるため(図4),角膜中央部には施術しづらい.角膜中央部の再発性角膜上皮.離に対してはエキシマレーザーを用いたCphototherapeuticCkeratecto-my(PTK)を考える(図5).PTKで上皮-基底膜-1288あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019図5図1の眼にPTKを行った1年後上皮層に異常所見はみられず,1年以上再発はない.Bowman膜にある異常部位を除去し正常化を図ることを目的とする.眼表面の消毒後,角膜中央C7~8Cmmの範囲の上皮を.離する.本疾患を有する眼では角膜上皮の接着がゆるくなっており,少し触るだけで容易に上皮を.離できることが多い.上皮.離後,PTKモードで,中央7~8mmの範囲にC15~20μmの深さのエキシマレーザー照射を行う.照射後ソフトコンタクトレンズをのせ,抗菌薬を点眼し手術を終了する.術後の点眼は抗菌薬,ステロイド,ヒアルロン酸をC1日C4~5回から開始し漸減していく.Dedesらは再発性角膜上皮.離C89眼にCPTKを行い,10年間経過観察し,25眼(28%)で再発がみられたと報告している2).原因別のCPTK後再発率は,外傷後でC55眼中C8眼(15%),角膜上皮基底膜変性症でC29眼中C14眼(48%),特発性でC5眼中C3眼(60%)であった.外傷後の再発性角膜上皮.離眼ではPTK後の再発率が比較的低いことが示されている.国内ではCPTKの保険適用が角膜変性症と帯状角膜変性に限定されているため,本疾患へのCPTKはC10万円程度の自己負担がかかる.このことは手術法の選択について患者に説明する際に伝えておくべき情報である.文献1)AvniCZaubermanCN,CArtornsombudhCP,CElbazCUCetal:CAnteriorstromalpunctureforthetreatmentofrecurrentcornealCerosionsyndrome:PatientCclinicalCfeaturesCandCoutcomes.AmJOphthalmol157:273-279,C20142)DedesW,FaesL,SchipperIetal:Phototherapeutickera-tectomy(PTK)forCtreatmentCofCrecurrentCcornealCero-sion:CorrelationCbetweenCetiologyCandCprognosisC.Cpro-spectiveClongitudinalCstudy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmol253:1745-1749,C2015(66)

眼内レンズ:低加入度数分節眼内レンズ「レンティスコンフォート」 新インジェクター使用のコツ

2019年10月31日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋395.低加入度数分節眼内レンズ「レンティスコン大鹿哲郎筑波大学医学医療系眼科フォート」新インジェクター使用のコツレンティスコンフォートの新しいインジェクターは,鑷子による眼内レンズの把持・装.が不要で,プリロード・タイプに準じた簡便さを有する.しかし,使用に際しては若干の注意が必要である.とくに眼内レンズを保存容器から取り出したあと,カートリッジからレンズの端がはみ出していないことを確認してからインジェクターに装着することが非常に重要である.●はじめに親水性の素材からなるレンティスコンフォートは1),保存液に浸った状態で保管・出荷されることから,疎水性眼内レンズのように完全なプリロード型のインジェクターを作ることは困難である.今回開発された新インジェクター(図1)は,鑷子によるレンズの把持・装.を不要としたものであり,プリロード・タイプに準じた簡便さを有する.しかし,使用に際しては若干の注意が必要である.C●挿入の前に前.切開は大きめに行う(図2).5.5Cmm以上が望ましい.眼内レンズが固定されたカートリッジを保存容器から取り出し,レンズの位置を確認する.具体的には,眼内レンズの上下がカートリッジから飛び出していないことを確認する(図3,4).眼内レンズの端がカートリッジからはみ出した状態でインジェクターに装着すると,眼内レンズが正しくセッティングされず,挿入時にトラブルが生じる.眼内レンズがはみ出していないことを確認したのち,カートリッジをインジェクター側面の開口部に差し込む(図5).一方向でしか噛み合わないので,上下左右を間違えることはない.装.したのち,インジェクター内部を粘弾性物質で満たし(図6),プランジャーを前進させ,眼内レンズを前方に押していく.C●挿入操作強角膜の場合,2.2Cmmの創口からカートリッジ先端(63)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1新インジェクターの外観を前房内に挿入し,眼内レンズを押し出していく(図7).眼内レンズが水平に出るように方向を調整しながらプランジャーを押す.通常はインジェクターの回転操作は必要なく,単純に押し出していくだけでよい.まず眼内レンズの前方部分を.内に入れ,続いて手前部分を挿入する.レンズ手前部分がインジェクターから出てきたところで,フックで下に向かって押すようにすると(図8),レンズは.内に挿入される(図9).この操作でレンズが.内に挿入されなかった場合は,前回の本欄で示したように,T字フックで手前のホールを引っかけて押しながら,レンズの両肩を.内に挿入するようにする.眼内レンズ裏の粘弾性物質は必ず洗浄する(図10).レンズが大きく,.内での安定性はきわめて良好である(図11).文献1)OshikaT,AraiH,FujitaYetal:One-yearclinicalevalu-ationofrotationallyasymmetricmultifocalintraocularlenswith+1.5dioptersnearaddition.SciRepC9:13117,C2019あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019C1285図2前.切開図3眼内レンズ位置の確認①図4眼内レンズの位置確認②CALLISTOeyeのガイドに従い,直径カートリッジの下端から眼内レンズが飛カートリッジの上端から眼内レンズが飛5.7Cmmの連続円形切.を作製している.び出していないか,鑷子で確認している.び出していないか,鑷子で確認している.図11手術終了時.内での安定性はきわめて良好である.図5インジェクターへの装着インジェクター側面の開口部に,カートリッジを差し込む.図6粘弾性物質注入インジェクター内部を充.する.図7眼内レンズ挿入2.2Cmmの強膜創口から前房内に挿入.図8手前部分の挿入レンズ手前部分がインジェクターから出てきたところで,フックで下に向かって押すようにする.図9.内への挿入後左手フックの操作により,.内に挿入された.図10眼内レンズ裏の粘弾性物質を洗浄I/Aチップを眼内レンズ裏に挿入し,洗浄している.

コンタクトレンズ:片頭痛と光

2019年10月31日 木曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一60.片頭痛と光原直人国際医療福祉大学保健医療学部視機能療法学科C●はじめに近年,情報通信技術(informationCandCcommunicationCtechnology:ICT)の発達でスマートフォン,タブレット,電子書籍など長時間のディスプレイ凝視が増加し,またCLED照明の普及,自動車のライトなど高輝度環境下で暮らす生活となった.片頭痛は,光過敏(光により不快感や疼痛が生じる現象)を生じる代表的疾患1)である(図1).頭痛発作により日本では毎日C60万人が苦痛を感じる社会生活を余儀なくされている.このため生産性の低下・能率低下をきたし,年間C2,880億円程度の膨大な経済的損失を招いている2).したがって片頭痛に対図1片頭痛発作を引き起こす光環境因子とそのマネージメント野外では太陽光,自動車のライトにより,室内ではCLED照明,する発作予防として,光マネージメントは重要である.C●片頭痛の臨床症状ズキンズキン・ガンガンと脈打つような拍動性頭痛で,“頭の中に心臓があるようだ”とも表現される.頭部の片側のこめかみから眼のあたりに起こり,頭部全体が痛むこともある(全体の約C40%).嘔吐,光過敏や音過敏などを伴う.20~40歳に多く,日本における有病率は約C8.4%である.頭痛に先立つ前兆の有無により,前兆のある片頭痛(片頭痛の約C25%)と前兆のない片頭痛に分類される.前兆は欠伸,空腹感,肩・頸部のこりなど多彩であるが,視覚感覚がC90%以上を占める.視覚前兆である閃輝暗点には,陽性徴候のキラキラした光(scintillatingClights)と陰性徴候の暗点(scotoma)があり,これらの症状のため眼科を受診する.C●片頭痛脳とその頭痛発作の機序片頭痛には後頭葉皮質の易興奮性3)が存在していて(片頭痛脳),てんかんと類似疾患とされる4).この易興奮性が,三叉神経系とともに第一次視覚野を中心とした視覚伝導路にも変化を及ぼしている5).全盲の片頭痛患者と光覚弁の片頭痛患者への光刺激では,後者で頭痛発作が誘発されたことから,残されたメラノプシンを含有する内因性光感受性網膜神経節細胞(intrinsicallypho-(61)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPYデジタルデバイス画面などにより光過敏が誘発される.それぞれ遮光眼鏡,ナイトドライブレンズそして調光可能な照明により光をマネージメントする.画面からの光の軽減には,遮光眼鏡やフィルターにより光を軽減させることが重要である.CtosensitiveCretinalCganglioncells:ipRGCs)が頭痛誘発に関与していることが示された6).その後の光による頭痛発作の機序として,ラット研究より網膜(ipRGC)→視床→硬膜→三叉神経節を介したCphotophobiaCcircuitsが考案された7,8).トリガーとしての光が,神経ペプチド(calcitoningene-relatedCpeptide:CGRP)を硬膜血管周囲に放出させ,その結果,血管拡張や神経原性炎症を引き起こし,疼痛が惹起される(三叉神経血管説)(図2)9).C●遮光に基づく頭痛発作の予防の試み①遮光眼鏡:欧米では遮光眼鏡による頭痛発作の抑制効果の報告は多い10~13).わが国の報告では,ipRGCのピーク波長であるC480Cnmの光(白色CLED)で片頭痛患者は健常者より羞明を強く感じること,そのピーク波長を低減した「アクティビューナイトドライブ」レンズ(東海光学)により夜間運転中のヘッドライトに惹起される頭痛発作日数,頭痛薬の服用日数と程度を減少できることが報告14)されている.一方,片頭痛患者C16名を対象とした遮光眼鏡(CCP-400,東海光学)の色調選択トライアルの自験例では,25%がCMGを,44%がCFLあたらしい眼科Vol.36,No.10,2019C1283硬膜血管に分布する神経終末が刺激され血管作動性物質が放出される,を選択した(図3).②高機能フィルター:VDT作業者に対して高輝度ディスプレイに装着することを推奨している4).③暗い静かな環境:調光ができる照明器具への変更,室内の色彩への配慮など,住環境も工夫されつつある.以上,光量を軽減し快適なコントラスト視力が得られる遮光眼鏡により,また調光により頭痛発作が抑えられる.文献1)HayCKM,CMortimerCMJ,CBarkerCDCCetal:1044CwomenCwithmigraine:theCe.ectCofCenvironmentalCstimuli.CHead-acheC34:166-168,C19942)LiftingCTheCBurden,CGlobalCCampaignCtoCReduceCtheCBur-denCofCHeadacheCWorldwide.CKyotoCDeclarationConCHead-ache.October9th,20053)WrayCSH,CMijovic-PrelecCD,CKosslynSM:VisualCprocess-inginmigraineurs.Brain118:25-35,C19954)RogawskiMA:CommonCpathophysiologicCmechanismsCinCmigraineandepilepsy.ArchNeurolC65:709-714,C20085)ShibataK,YamaneK,IwataM:ChangeofexcitabilityinbrainstemCandCcorticalCvisualCprocessingCinCmigraineCexhibitingallodynia.Headache46:1535-1544,C2006(人)876543210図3片頭痛患者による遮光レンズの色調選択の結果片頭痛患者C16名(男性C2名,女性C14名,年齢C32~71歳,平均C53.7歳)のうち,44%がCFLを,25%がCMGを選択した.逆に,若年健常者C46名(男性C6人,女性C40名,年齢C19~22歳)を対象としたレンズ選択では,一律に選択された色調はなかった.とくにCFLは好まれなかった(1名のみ).色調名はCTR:Trunk,SC:SpringColor,LG:LightCGrey,NA:NewAutumn,MG:MiddleGray,FL:FallenLeaves(東海光学社)を示す.6)BursteinR,NosedaR,FultonAB:Neurobiologyofphoto-phobia.JNeuroophthalmol39:94-102,C20197)NosedaR,KainzV,JakubowskiMetal:Aneuralmecha-nismforexacerbationofheadachebylight.NatureNeuro-scienceC13:239-245,C20108)DigreKB,BrennanKC:Sheddinglightonphotophobia.JNeuroophthalmol32:68-81,C20129)濱田潤一:片頭痛の病態生理─Cgeneratorを中心に.臨床神経48:857-860,C200810)AfraCJ,CAmbrosiniCA,CGenicotCRCetal:In.uenceCofCcolorsConhabituationofvisualevokedpotentialsinpatientswithmigraineCwithCauraCandCinChealthyCvolunteers.CHeadache40:36-40,C200011)GoodCPA,CTaylorCRH,CMortimerMJ:TheCuseCofCtintedCglassesCinCchildhoodCmigraine.CHeadacheC31:533-536,C199112)WilkinsAJ,BakerA,AminDetal:Treatmentofphoto-sensitiveCepilepsyCusingCcolouredCglasses.CSeizureC8:444-449,C199913)WilkinsCAJ,CPatelCR,CAdjamianCPCetal:TintedCspectaclesCandCvisuallyCsensitiveCmigraine.CCephalalgiaC22:711-719,C200214)辰元宗人:光と片頭痛.日本頭痛学会43:47-49,C2016TRSCLGMGFLNAPAS122

写真:鉗子分娩による角膜外傷

2019年10月31日 木曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦川端真理子425.鉗子分娩による角膜外傷京都市立病院眼科福岡秀記京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①Descemet膜破裂②角膜浮腫図1前眼部写真垂直方向の多数のDescemet膜破裂を認める.図4CASIA画像角膜後面にDescemet膜破裂後の皺皮を認める.図3フルオレセイン染色角膜下方に限局した角膜上皮浮腫を認めるが,瞳孔領には及んでいない.(59)あたらしい眼科Vol.36,No.10,201912810910-1810/19/\100/頁/JCOPY出生時の鉗子分娩などによる眼球圧迫が原因となり,Descemet膜破裂を発症することがある.分娩時に鉗子の先端が眼窩下縁から眼球を垂直方向に圧迫するため,Descemet膜破裂の方向は垂直から斜め方向が多いが,しばしば三日月状線状や曲線的なものもある1).通常は片眼性であり,左方後頭位の場合が多いため左眼に生じることが多い.出生直後はDescemet膜の破裂部から角膜実質への前房水の流入により角膜浮腫を生じるが,生後数週間から数カ月で障害部周囲への角膜内皮細胞の移動により角膜浮腫は自然軽快する.その後,角膜実質に破裂のラインが瘢痕化し角膜は透明化するが,破裂したDescemet膜の影響により高度の角膜乱視を引き起こし,屈折異常性弱視を招くことが多い.症例は幼少期より右眼低視力を指摘されていた51歳の男性.細隙灯検査にて右眼下方に角膜実質浮腫と,中央部に垂直方向のDescemet膜断裂を認めた(図1,2).生後しばらくは右眼が白濁していたが,徐々に透明化したという既往がある.既報によると,角膜乱視は2D以上,視力は0.3以下となることが多く2,3),本症例でも4Dの角膜乱視を認め,右眼視力(0.2)と矯正視力不良であった.鑑別疾患として先天緑内障,先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ,後部多形性角膜ジストロフィ,Fuchs角膜内皮ジストロフィなどがあげられるが,先天緑内障は基本的に水平なDescemet膜破裂(Haab線)が認められることや,遺伝性や両眼発症の有無が鑑別の参考となる4).治療方針としては,角膜実質の透明度が保たれている場合は経過観察が基本であるが,加齢による角膜内皮機能低下により水疱性角膜症となった場合には角膜内皮移植が必要となる.本症例では現在のところ角膜下方の浮腫のみにとどまっており(図3),至急の治療は不要であるが,今後悪化の可能性が高いため注意深い経過観察が必要であり,瞳孔領に浮腫が及んだ際は内皮移植などが必要となる.文献1)AlobaidyR,SrinivasanS:Forceps-inducedbirthinjurytothecornea.BMJCaseRep2014.doi:10.1136/bcr-2013-2017862)AngellLK,RobbRM:VisualprognosisinpatientswithruptureinDescemet’smembraneduetoforcepsinjuries.ArchOphthalmol99:2137-2139,19813)矢野眞知子,神鳥高世:出生時デスメ膜破裂と角膜内皮細胞.臨床眼科36:605-609,19824)近間泰一郎,西田輝夫:鉗子分娩によるデスメ膜破裂.臨床眼科60:1566-1568,2006

不同視・眼位異常などにおけるコンタクトレンズ処方

2019年10月31日 木曜日

不同視・眼位異常などにおけるコンタクトレンズ処方ContactLensWearforAnisometropiaandOcularDeviation土至田宏*はじめにコンタクトレンズ(contactlens:CL)は眼光学的に眼鏡に勝る点が多く,屈折矯正に秀でているのが最大のメリットである.その有用性は不同視の矯正の際にも発揮される.本特集はCL装用に伴う眼精疲労をテーマに取り上げられており,ともすれば眼精疲労の原因がCLにあるという,見過ごされやすい領域にフォーカスをあてている.本稿ではそのなかでも,これまで掘り下げたことが少ない不同視・眼位異常などにおけるCL処方について述べる.I不同視とは不同視は,両眼の屈折値に差がある状態であり1),その差がおおむね2.00Dを超える状態をいう2).両眼で異なる視性刺激を受けることによって不等像視,眼位不同,調節障害などを引き起こし,それに伴う眼精疲労が誘発されうる.通常,小児では弱視が問題となり,成人では完全矯正による不等像視や眼精疲労による不快感が問題となる.以下,専門用語の解説とともに,解決策を検証することとする.II不等像視不同視の屈折矯正を眼鏡のみで行おうとすると,左右でものの大きさが異なって見えてしまうことがある.これを不等像視という.レンズによる拡大・縮小効果は,矯正しない状態で無限遠の物体を注視したときの網膜像の大きさと,レンズで矯正したときの網膜像の大きさの比で表される(図1a).通常,後述するCL装用ではその効果が減弱される.眼鏡による1Dあたりの矯正量で1~2.5%の像の大きさの変化が生じ,1D以上でも左右差で眼鏡装用困難者が出はじめるが,個人差は大きく,若年者では約4Dでも眼鏡装用可能との報告もある3).眼鏡装用困難な場合,一般にCL処方という選択肢が考慮される.III眼位不同眼鏡による屈折矯正のもう一つの弱点としてレンズのプリズム作用があげられ,Prenticeの法則とよばれ,レンズの光学中心からはずれるとプリズム作用が入ってくることによるもので(図2),そのプリズム量(Δ)=光学中心からのずれ(cm)×レンズの度数(D)として計算される.言い換えれば,レンズの光学中心からの1cmのずれは,レンズのパワー1Dにつき1プリズムジオプター分の光の偏位を生じる.とくに問題となるのは,第1眼位以外のときに生じるプリズム作用量が左右の眼で異なることにより斜位が誘発される眼位不同である.とくに下方視時に誘発される眼位異常には要注意である.IV眼鏡とCLの光学的な違い不同視例においても屈折矯正の第一選択は眼鏡であるが,CLの絶対的適応となるのは小児における不同視弱視を含む屈折性弱視の治療と,その後もCL装用を必要*HiroshiToshida:順天堂大学医学部附属静岡病院眼科〔別刷請求先〕土至田宏:〒410-2295静岡市伊豆の国市長岡1129順天堂大学医学部附属静岡病院眼科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(53)1275a1.51.41.31.2b1.51.41.31.2CL眼鏡CL眼鏡拡大率拡大率1.11.11.01.00.90.90.80.80.70.7-20-15-10-505101520D-20-15-10-505101520D屈折力屈折力図1屈折性屈折異常の網膜像の変化率(a)と軸性屈折異常の網膜像の変化率(b)(文献12より引用)遠視眼近視眼光学中心光学中心凹レンズ凸レンズ図2Prenticeの法則視軸が光学中心からのズレ(h)が生じた場合,プリズム効果は=プリズム作用度数(Δ)=h(cm)×レンズの度数(D)で計算され,遠視眼で装用する凹レンズではbaseout効果が,近視眼で装用する凸レンズではbasein効果が生じる.前焦点a.眼鏡装用時b.コンタクトレンズ装用時図3Knappの法則軸性屈折異常に対する網膜像の大きさを矢印で示す.a:眼鏡レンズを前焦点の位置で装用した場合(レンズの厚さは無視),Knappの法則に則り,常に一定で不等像視は生じない.b:コンタクトレンズ装用時はKnappの法則に適合しないため,網膜像の大きさ(矢印)に変化が生じて,不等像視が生じる可能性がある.(D)876543210度数(D)図4眼鏡またはコンタクトレンズ装用時における近見時に必要な調節量=必要な調節量-20-16-12-8-4048121620くなって眼精疲労が出現または増加するといった結果につながることを理解しておくべきである.2.遠視矯正における調節量の変化遠視を矯正する場合は,近視矯正の場合とは反対に,CLによる矯正時よりも眼鏡矯正のほうが調節量が多く必要となる.このことから,成人における眼精疲労抑制のための屈折矯正手段としては,遠視眼に対してはCLのほうに軍配が上がるが,ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)では,市販され供給されている遠視矯正度数のラインナップの乏しさはいかんともしがたい現況である.VII小児における不同視例でのCL処方の留意点片眼の先天白内障術後無水晶体眼や片眼の強度近視眼,強度乱視眼ではCLの適応となる.よい適応となるのが酸素透過性ハードコンタクトレンズ(rigidgasper-meablecontactlens:RGPCL)であるが,小児へのCL装用には親の協力が必須である.具体的な配慮点に関しては筆者の既報を参照していただきたい5,6).視力発達時期は一般的に8~9歳前後で終了するといわれており,タイムリミットがあるため,なるべく早期から矯正しはじめることが重要である.小児の不同視弱視例では弱視眼が軸性の遠視であることが多く,その場合はできるかぎり弱視眼の完全矯正か,または日常的に遠方よりも近方のほうが見ている時間が長いため,近方にピントが合いやすい度数とするとよい.上述のように眼鏡矯正で不等像視が起こりにくいため,左右の屈折差が5Dくらいでも眼鏡装用可能なケースが多いとの報告もある4).その場合は眼鏡装用を優先するが,いずれの場合にせよ必ずあらかじめ調節麻痺下での他覚的屈折検査を含む,一通りの眼科的検査を行っておく必要がある.一方,小児の片眼の強度近視性不同視弱視例は一般に弱視治療に反応しにくく,とくに弱視眼の屈折が.6D以上,不同視差5D以上のものは弱視治療に抵抗することが多いとされている7).しかし白濱らは,弱視眼の屈折が.15D,乱視.7D,不同視差が17Dの軸性屈折異常による弱視の3歳児にSCLと眼鏡の併用と健眼遮蔽訓練によって矯正視力1.2が得られた症例を報告している.このことから,近視性不同視弱視といえども,親の協力の下で適切な時期に適切な屈折矯正と弱視訓練を行うことが重要と考えられる.HCLは小児にかぎらず装用当初の異物感が強く,軌道にのるまでが険しい道のりになることが少なくない.つい最近までは連続装用可能な従来型SCL(ブレスオーR)が絶大な支持を集めていたが,2020年春をもって終売となってしまうのは,弱視治療における大きな痛手である.VIII成人における不同視例でのCL処方の留意点梶田によれば,片眼の遠視例で矯正視力が出にくいために弱視と思われて,未矯正のまま成人になっても放置され,眼精疲労の原因となっている場合も少なくなく,その矯正手段は眼鏡よりもCLのほうが不等像視と歪曲収差が少ないため,CLによる矯正のほうが推奨されるとのことである8).IX眼位異常1.斜視明らかな斜視は手術適応であってCLのみで矯正できるものではないが,石田らは,近視のCL矯正目的で眼科を受診した症例に対して,網膜対応を考慮した斜視手術によって背理性複視を回避したという報告をしている9).斜視症例といえども,屈折矯正のみならず視機能全体を再確認することの重要性が読み取れる.症例によっては屈折矯正をCLで行い,斜視術後にも残余する軽微な斜視に対してプリズム眼鏡との併用を行うのが有効な場合もあるので,選択肢に含めるとよい.梶田は,眼鏡とCLの双方による矯正法をコンビネーション矯正処方とよんでいる10).2.斜位眼精疲労の原因の一つとして,近年急速にクローズアップされているのが斜位である.両眼で注視すれば眼位が正常となるために軽んじられがちだが,近視の過矯1278あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019(56)

白内障術後眼における遠近両用コンタクトレンズ処方

2019年10月31日 木曜日

白内障術後眼における遠近両用コンタクトレンズ処方ThePrescriptionofMultifocalContactLensesforPostCataractSurgery塩谷浩*はじめに白内障術後の眼内レンズ挿入眼(intraocularlens挿入眼:IOL眼)の患者は,単焦点IOL眼では,完全矯正された場合には多焦点IOL眼と異なり不自由なく日常生活を送るために近方視の補助が必要となる.最近では若年時からコンタクトレンズ(contactlens:CL)を使用する生活をしてきた中高年への白内障手術が増加するのに伴い,白内障術後も術前と同様に眼鏡を使用しない生活スタイルを維持することを希望する患者が多く認められるようになってきている.また,白内障術後の残存屈折の状態や左右眼の屈折差,調節力を失うことによる見え方の変化などによって眼精疲労を訴えることがある.このような白内障術後眼に対して,眼鏡や単焦点CLでは対応が困難な場合に,遠近両用CLの装用が有効な場合がある.白内障術後眼は,一般的に遠近両用CLの処方対象となる有水晶体眼である老視とは異なり,調節力がほとんどない状態であるため,遠近両用CLの処方には工夫が必要となる.そこで本稿では白内障術後の単焦点IOL眼に対しての遠近両用(多焦点)ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)と遠近両用(多焦点)ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)の処方について解説する.I白内障術後眼への遠近両用コンタクトレンズ処方の可能性これまで遠近両用CLは,調節力のほとんどない白内障術後眼の近方視の補助をするためには,製品の規格にある加入度数は実効加入度数が不十分であると考えられており,患者の満足を得るように近方を見やすくすることは困難であると思われていた.そのため白内障術後眼の近方視への対応法は,近用眼鏡の使用,遠近両用眼鏡の使用,CLと眼鏡の併用が一般的であり,いずれの方法においても眼鏡を使用することが当然とされてきた1~4).最近は各メーカーからさまざまな光学部デザインの遠近両用HCL,遠近両用SCLの新製品が発売されており,筆者はこれらのいくつかの遠近両用CL製品を,調節力が著しく低下し,単焦点IOL眼のモデルに相当される70歳代後半から80歳代前半の高齢者に処方し,患者の満足が得られている.この臨床経験が白内障手術後眼に対して遠近両用CLを応用するきっかけとなり,実際の処方で白内障術後の単焦点IOL眼へも遠近両用CL処方が成功する可能性があることを確認している.II白内障術後眼への遠近両用コンタクトレンズ処方1.遠近両用コンタクトレンズの適応白内障術後眼における遠近両用CLの適応は,眼鏡を使用しない生活を希望している患者で,とくに白内障術前にCLの使用経験のある患者である.HCLの使用経験者には遠近両用HCLの処方を最初に考える.球面HCLが適応となっていた患者では遠近両用HCLを処方しようとした場合にフィッティング,残余乱視とも問題*HiroshiShioya:しおや眼科〔別刷請求先〕塩谷浩:〒960-8034福島市置賜町5-26しおや眼科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(47)1269表1白内障術後眼への遠近両用コンタクトレンズ処方手順更する方法が,遠近両用SCL処方においては,最初から高い加入度数を選択する方法が,加入度数の決定の基本的な考え方として勧められる4).4.遠近両用コンタクトレンズの球面度数の決定老視に対する遠近両用CL処方においては,遠近両用HCL,遠近両用SCLとも球面度数は角膜頂点間距離補正後の完全屈折矯正度数より0.50~1.00D程度プラス側の度数から設定を開始し,患者の遠方の見え方が不十分であれば,マイナス側の球面度数を追加矯正していく処方方法が推奨される5).老視と比べ必要とされる調節補助の程度が大きい白内障術後眼に対する遠近両用CL処方においては,球面度数は,さらにプラス側の度数から設定する必要があると考えられる.後述するように遠近両用HCLにおいては,完全屈折矯正度数より2.00Dプラス側に球面度数を設定して処方が成功した症例を経験している.しかし,遠近両用SCLにおいては,老視への処方と同程度に球面度数を設定することで患者の不満がほとんどないことを処方経験している.そこで白内障手術後眼に対する遠近両HCL処方においては,球面度数は完全屈折矯正度数(角膜頂点間距離補正度数)より1.00~2.00D程度プラス側の度数から設定を開始し,遠近両用SCL処方においては,球面度数は0.50~1.00D程度プラス側の度数から設定を開始する方法が,患者の近方の見え方を確保しながら遠方の見え方に満足する度数が得やすい基本的な考え方となる4).以上の加入度数,球面度数の設定で患者の見え方の満足が得られない場合には,モディファイド・モノビジョン法を応用することで患者の満足度を上げることが可能である.すなわち,近方の見え方の調整は,まず非優位眼の球面度数を最初の設定よりプラス側に変更し,それで対応できない場合には両眼の球面度数をプラス側に変更し対応する.遠方の見え方の調整は,まず優位眼の球面度数をマイナス側に変更し,それで対応できない場合には両眼の球面度数をマイナス側に変更し対応するという方法が勧められる.III白内障術後眼への遠近両用コンタクトレンズ処方例1.遠近両用ハードコンタクトレンズ処方例症例は60歳の女性で,HCLの使用経験が19歳から白内障手術時までの38年間あり,白内障手術時の年齢は57歳であった.両眼の白内障手術(単焦点IOL挿入)の施行後6カ月となった58歳時に術後の状態が安定したため,手術を施行した眼科からHCLの処方を目的に紹介され受診した.受診時検査所見は,視力および自覚的屈折度数は右眼0.08(1.2×-3.50D(cyl-1.25DAx160°),左眼0.07(1.2×-3.50D(cyl-1.50DAx180°),優位眼は左眼,最良の近方視力が得られる最小の近方矯正加入度数は両眼とも+2.75Dであった.角膜曲率半径および角膜乱視は右眼(7.76mm/7.44mmcyl-1.75DAx167°),左眼(7.77mm/7.47mmcyl-1.75DAx6°)であった.細隙灯顕微鏡所見は,両眼のIOLは透明で,瞳孔は正円形で虹彩に運動制限はなく,眼内に炎症所見は認められなかった.角膜,結膜に異常が認められなかったため遠近両用HCLを処方することにした.両眼に遠近両用HCL(マルチフォーカルO2ノア,シード)を右眼7.75/-2.00add+1.00/9.3(ベースカーブmm/球面度数Dadd加入度数D/サイズmm),左眼7.80/-2.75add+1.00/9.3の規格で処方した.遠近両用HCLのフィッティングは,右眼は.at.tで角膜中央に停止し,左眼はparallel.tでやや角膜上方に停止しており,両眼レンズとも動きはnormalで,固着は認められなかった.本症例を経験するまで筆者は,白内障手術後眼に対する遠近両用HCL処方では,高加入度数であっても遠近両用HCLだけで対応することは困難であると考えていたが,実際には低加入度度数でモディファイド・モノビジョン法を応用する球面度数の設定で対応が可能であることがわかった.すなわち,本症例では加入度数は低加入度数の+1.00D(本レンズの加入度数は+1.00Dの1規格)を選択し,球面度数は非優位眼の右眼は完全屈折矯正球面度数(角膜頂点間距離補正度数)の等価球面度数-4.00Dより2.00Dプラス側となる-2.00D,優位眼(49)あたらしい眼科Vol.36,No.10,20191271の左眼は完全屈折矯正球面度数(角膜頂点間距離補正度数)の等価球面度数-4.00Dより1.25Dプラス側となる-2.75Dに設定し処方した.CL装用時の遠方視力は右眼0.5×HCL(1.0×HCL=-0.50D),左眼1.0×HCL(1.0×HCL=-1.00D),両眼1.2×HCL,近方視力は両眼0.6×HCLで,患者は遠方視,近方視ともに日常生活に問題がなく,HCL装用状態で普通自動車運転免許の更新ができた.近用眼鏡を併用することなく装用を継続している.2.遠近両用ソフトコンタクトレンズ処方例症例は57歳の女性で,従来型SCLの使用経験が20歳から白内障手術時まで34年間あり,白内障手術時の年齢は54歳であった.両眼の白内障手術(単焦点IOL挿入)後から1日使い捨てSCLを使用していたが,近方視時に近用眼鏡を使用する生活に不満を感じており,57歳時に遠近両用SCLの処方を希望して受診した.受診時検査所見は,視力および自覚的屈折度数は右眼0.05(1.2×-2.75D),左眼0.05(1.2×-4.00D),優位眼は左眼,最良の近方視力が得られる最小の近方矯正加入度数は両眼とも+2.50Dであった.角膜曲率半径および角膜乱視は右眼(7.49mm/7.42mmC-0.50DAx150°),左眼(7.35mm/7.25mmC-0.50DAx20°)であった.使用していたSCLは1日使い捨て単焦点SCLで,右眼は9.0/-2.50/14.2(ベースカーブmm/度数D/サイズmm),左眼は9.0/-3.25/14.2の規格であり,SCL装用時の近方視時には両眼+2.00Dの眼鏡を使用していた.両眼のIOLは透明で,瞳孔は正円形で虹彩に運動制限はなく,眼内に炎症所見は認められなかった.角膜,結膜に異常が認められなかったため遠近両用SCLを処方することにした.両眼に頻回交換遠近両用SCL(ボシュロム製・メダリストマルチフォーカル)を右眼9.0/-2.00add+1.50/14.5(ベースカーブmm/球面度数D加入度数D/サイズmm),左眼9.0/-3.00add+1.50/14.5の規格で装用させた.老視に対する処方方法4,6)と同様に,加入度数は低い加入度数の+1.50D(本レンズの加入度数は+1.50D,+2.50Dの2種類)を選択し,球面度数は,右眼は完全屈折矯正度数-2.75Dより0.75Dプラス側となる-2.00D,左眼は完全屈折矯正度数(角膜頂点間距離補正度数)-3.75Dより0.75プラス側となる-3.00Dの球面度数に設定した.フィッティングは両眼ともセンタリグは良好で,動きはnormal,固着はなかった.装用直後から近方が見づらいとの訴えが強かったため,両眼の加入度数を+2.50D,優位眼の左眼の球面度数を-3.50Dに変更し,右眼9.0/-2.00add+2.50/14.5,左眼9.0/-3.50add+2.50/14.5の規格でテスト装用を開始した.CL装用時の遠方視力は右眼0.4×SCL(1.2×SCL=-1.50D),左眼0.6×SCL(0.9×SCL=-0.75D),両眼0.8×SCL,近方視力は両眼0.6×SCLで,テスト装用1週間後,近方視に満足が得られたが,遠方視には不満の訴えがあった.そこで右眼の球面度数を-2.50Dに変更し,9.0/-2.50add+2.50/14.5の規格で処方した.CL装用時の遠方視力は右眼0.7×SCL(1.2×SCL=-1.00D),左眼0.6×SCL(0.9×SCL=-0.75D),両眼0.8×SCL,近方視力は両眼0.6×SCLとなり,遠方視,近方視ともに患者の満足が得られた.処方後,就寝前の数時間を除き眼鏡を使用していない生活を送っており,近用眼鏡を併用することなく装用を継続している.おわりに白内障術後眼への遠近両用CLの処方は,患者の生活の質を向上させる可能性があり,白内障手術時に多焦点IOL挿入する方法と比較すれば,どの施設でも処方ができる,やり直しの効く安全な方法である.残存する屈折がどういう状態であっても,調節力がほとんどないことにおいては共通である白内障手術後眼では,遠近両用CL処方が一般化しやすいと考えられ,本稿での処方方法は広く応用の効くものと思われる.白内障術後に眼鏡の使用を望まない患者に対して遠近両用CLは試みるべき有用な矯正方法であると考えられる.文献1)塩谷浩,梶田雅義:眼内レンズ挿入眼への遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方例.日コレ誌57:164-167,20152)塩谷浩:私の処方私の治療第21回眼内レンズ挿入眼への遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方例.日コレ誌1272あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019(50)

コンタクトレンズ装用時のアレルギー

2019年10月31日 木曜日

コンタクトレンズ装用時のアレルギーAllergiesAssociatedwithContactLensWear宮本裕子*はじめに眼の疲れを訴えるコンタクトレンズ(contactlens:CL)装用者の中に乾燥感,掻痒感,異物感などを同時に感じているケースは多いと思われる.アレルギー性結膜炎やドライアイがあって,角膜中心部の瞳孔領にかかる上皮障害を認めたり,分泌物が増えそれがCCLに付着することでCCLが汚れやすくなるなど,それらがぼやけの原因となって眼精疲労を生じることもある.逆に,眼の疲れだけだと思い眼科を受診せずに放置している例で,CL処方希望で来院したところ,アレルギー性結膜炎を生じていることが判明する場合もある.また,花粉症の時期に,CLを装用してもよいかどうか患者に聞かれることがある.それとは逆に,CLやケア用品によってアレルギーを発症することもある.さらには,海外では抗ヒスタミン薬を徐放するCCLを用いて痒みを治療することがすでに行われている1)が,わが国においても,治療用CCLによってアレルギー性結膜炎を治療しようという試みも今後展開される可能性が考えられる.今回は,CL装用時にアレルギーを合併した症例を提示しながらCCL装用時のアレルギーについて,アレルギーのある眼にCCLを装用する場合とCCLやケア用品によってアレルギーを発症する場合とに分けて考えてみる.CIアレルギーとCL装用花粉症の時期やアレルギー性結膜炎を有する患者に対してCCLの装用をどうするか悩むことがある.春季カタ図1アレルギー性結膜炎(50歳,男性)円錐角膜でハードコンタクトレンズ(HCL)を使用中,当院を初診し上眼瞼を反転したところ,アレルギー性結膜炎を認めた.ルなどの重篤なアレルギー疾患の場合,屈折異常に対するCCL装用はお薦めできない.しかし,たとえば図1のようにアレルギー性結膜炎を合併するが,円錐角膜(keratoconus:KC)のために,ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)が必須となることはよくある.そのような場合は,アレルギーをコントロールしながらCHCLを装用し続けなければならない.KCにアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患を合併することは多く,図1の症例もCKCでCHCLを使用中に当院を初診し,上眼瞼を反転するとアレルギー性結膜炎を生じていた.そのため抗アレルギー点眼液を併用しながらCHCL*YukoMiyamoto:アイアイ眼科医院〔別刷請求先〕宮本裕子:〒558-0023大阪市住吉区山之内C3-1-7アイアイ眼科医院C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(41)C1263図2コンタクトレンズ関連乳頭結膜炎(21歳,男性.右眼)他院で,診察を受けずに頻回交換型のシリコーンハイドロゲルレンズ(SHCL)を購入し使用していた.痒みがあり抗アレルギー薬を内服していたが,レンズのケアに問題があり,SHCLが汚れていた可能性を否定できない.Ca:右眼上眼瞼を反転したところコンタクトレンズ関連乳頭結膜炎(CLPC)を認めた.Cb:フルオレセイン染色したところ,増殖した乳頭と結膜との間にフルオレセイン染色液が貯留し,増殖乳頭がよくわかる.図3図2の左眼a:左眼上眼瞼を反転したところ,コンタクトレンズ関連乳頭結膜炎(CLPC)を認めた.Cb:フルオレセイン染色したところ,増殖した乳頭と結膜との間にフルオレセイン染色液が貯留し,増殖乳頭がよくわかる.図4図2の症例の点眼開始約1カ月後の右眼図5図2の症例の点眼開始約1カ月後の左眼コンタクトレンズ関連乳頭結膜炎(CLPC)は軽快傾向でコンタクトレンズ関連乳頭結膜炎(CLPC)は軽快傾向である.ある.図6コンタクトレンズ関連乳頭結膜炎(16歳,女性)a:乾燥と痛みを主訴に来院.左眼の上眼瞼を反転したところ,コンタクトレンズ関連乳頭結膜炎(CLPC)を認めた.b:SCLが上方にずれている.図7汚れたハードコンタクトレンズによるコンタクトレンズ関連乳頭結膜炎a:非常に汚れたHCL.Cb:HCLの汚れが原因と思われる広範囲のコンタクトレンズ関連乳頭結膜炎(CLPC).-