Sti.ness(硬さ)と細胞分化はじめに細胞外マトリックス(extracellularmatrix:ECM)は結合組織線維(コラーゲン線維,エラスチン線維),基質(グリコサミノグリカン,プロテオグリカン),蛋白質などから構成されており,細胞と細胞を埋めている物質をさします.適切なCECMはCES/iPS細胞などのような幹細胞から目的細胞に分化させるときに非常に重要となります.近年ではとくにそのCsti.nessに注目が集まっています.たとえば,間葉系幹細胞を培養するときに,基材のCsti.nessを変えることで分化制御できることが明らかになってきており,骨再生などの再生医療においても応用されています.CSti.nessと角膜健常な角膜上皮は角膜輪部から常に新しい上皮細胞が供給され,その恒常性が維持されています.角膜輪部が広範囲に障害されると角膜上皮細胞の供給が妨げられ,代わりに結膜上皮細胞が侵入します.しかし,角膜実質すなわちCECMが正常である場合,その透明性が維持されていることをしばしば経験します.Stevens-Johnson症候群,眼類天疱瘡および熱・化学外傷などによって引き起こされる角膜上皮幹細胞疲弊症では慢性炎症が持続しており,角膜上皮細胞の分化異常が生じます.近年の研究において,Notch1をノックアウトして慢性炎症を引き起こしたモデルでは,YAP(Y-chromosomeCalupolymorphism)が核内に移行し,ECMが正常より硬くなることで角膜上皮特異的蛋白であるケラチンC12の発現が低下し,角化上皮細胞のマーカーであるケラチンC1の発現が上昇し,分化異常をきたします1).また角膜輪部では角膜中央部と比べてCECMのCsti.nessが違うことが知られており2),石田学京都府立医科大学北澤耕司京都府立医科大学,BuckInstituteforResearchonAgingsti.nessを点眼によって実験的に変えることで,幹細胞マーカーの発現量が変わることが報告されています3).今後の展望上述したような機械的刺激を生物学的シグナルに変換することをメカノトランスダクションといいます.角膜上皮細胞は,コア転写因子によってその細胞恒常性が維持されていることが報告されており4,5),ECMのCsti.nessが転写因子の発現を制御していると考えられます.すなわち,このCECMの制御を人工的に操作することができれば,重症の難治角結膜疾患における異常細胞分化を制御することができ,健常な角膜上皮細胞に戻すという,一種のダイレクトリプログラミング治療も夢物語ではないかもしれません.文献1)NowellCCS,COdermattCPD,CAzzolinCLCetal:ChronicCin.ammationCimposesCaberrantCcellCfateCinCregeneratingCepitheliathroughmechanotransduction.NatCellBiol18:C168-180,C20162)FosterJW,JonesRR,BippesCAetal:Di.erentialnucle-arCexpressionCofCYapCinCbasalCepithelialCcellsCacrossCtheCcorneaCandCsubstratesCofCdi.eringCsti.ness.CExpCEyeCResC127:37-41,C20143)GouveiaRM,LepertG,GuptaSetal:Assessmentofcor-nealCsubstrateCbiomechanicsCandCitsCe.ectConCepithelialCstemCcellCmaintenanceCandCdi.erentiation.CNatCCommunC10:1496,C20194)KitazawaK,HikichiT,NakamuraTetal:OVOL2main-tainsCtheCtranscriptionalCprogramCofChumanCcornealCepi-theliumCbyCsuppressingCepithelial-to-mesenchymalCtransi-tion.CellCRepC15:1359-1368,C20165)KitazawaCK,CHikichiCT,CNakamuraCTCetal:PAX6Cregu-lateshumancornealepitheliumcellidentity.ExpEyeResC154:30-38,C2017図1細胞のsti.nessと細胞分化細胞外マトリックスのCsti.nessが変わることにより細胞分化が変わる.メカノトランスダクションの制御が今後の細胞分化制御に重要であるかもしれない.Elasticity+++Elasticity+角膜上皮幹細胞角膜上皮細胞Elasticity+/-異常角化上皮細胞(69)あたらしい眼科Vol.36,No.9,2019C11710910-1810/19/\100/頁/JCOPY