《第8回日本視野画像学会シンポジウム》あたらしい眼科37(9):1153.1156,2020c視路疾患の視野中.村.誠神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野CPatternofVisualFiledLossinVisualPathwayDisordersMakotoNakamuraCKobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,DivisionofOphthalmology,DepartmentofSurgeryCはじめに網膜に投影された視覚情報は,視神経,視交叉,視索,外側膝状体,視放線を経由して後頭葉一次視覚野に送られる.このいずれの部位に障害が生じても,何らかの視野障害をきたす.そして,上記視覚経路内を神経線維は明確な規則性をもって走行するので,障害部位に応じて特有の視野欠損パターンを呈する.逆にいえば,視野欠損のパターンをみれば,どこに病変が局在するか推測できる(図1)1,2).MRIやCCTをオーダーする際は,その推定部位を検査員に知らせることで,効率的に病変を描出できる.したがって,視覚経路内の神経線維の走行ならびに各々の部位における視路障害が引き起こす視野欠損パターンを理解しておくことは,日常臨床上非常に重要である.CI視路の部位別障害における視野欠損パターン図12)に視路の部位別障害における視野欠損パターンのシェーマを示す.一側の視神経障害は片眼の視野障害を呈する.おもに病因により,中心暗点,弓状暗点,水平半盲などの特徴的変化をきたす(図2).眼内の神経線維は,中心窩を通る垂直経線を境に,耳側由来であれば同側の,鼻側由来であれば対側の外側膝状体に投射する.鼻側由来の線維は,上方象限由来のものは視交叉を比較的まっすぐ進んで対側の視索に進入するのに対し,下方象限由来であれば,視交叉に入ったのち,いったん対側の視神経に弯入してから視索へ向かうという独特の走行をとる.この弯入のことをCWilbrandの膝とよぶ(図1).視交叉近傍の,この特徴的な神経線維の走行のため,視神経が視交叉に移行する(接合する)部分に障害がみられた場合,障害側の視神経障害のため,同側の視野障害(おもに中心暗点)がみられるだけでなく,対側眼由来のCWilbrandの膝も巻き込まれ,対側眼のC1/4耳上側半盲を呈する(図3).この視野障害の組み合わせを接合部暗点ないし連合暗点とよぶ.視交叉ほぼ中央が障害を受ければ,両眼の交叉線維障害のため,両耳側半盲を呈することはよく知られている.視交叉中央を圧迫する疾患として下垂体腺腫が有名である.しかし下垂体と視交叉の位置関係には個人差があり,なかには下垂体が視交叉より前方に位置したり,後方に位置したりする個人もいる.前者の解剖関係をもった個人に下垂体腺腫が生じると,視交叉に接合する左右どちらかの視神経が圧迫されるため,上述の接合部暗点を呈する.逆に後者の解剖関係をもった個人に同疾患が生じると,左右どちらかの視索が圧迫されるため,以下に記載する視索症候群(病変と対側の同名半盲)を呈する(図4,5).視索は同側眼の耳側由来の神経線維と対側眼の鼻側由来の神経線維から構成される.そして,外側膝状体の手前であるため,中を走行する神経線維は長く伸びた網膜神経節細胞の軸索そのものである.この段階においては,視野を伝達する経路も対光反射の入力経路を構成する経路も共通している.こうした解剖学的特性のため,視索障害は同名半盲を呈するのみならず,つぎのような臨床的所見を示す.まず,病変が一定期間(おおむねC1カ月)以上持続した場合,逆行性軸索変性により,対応する網膜神経線維と網膜神経節細胞の脱落が生じる.具体的には同側眼の視神経乳頭の上下領域に流入する神経線維の菲薄化と,対側眼の耳鼻領域に流入する神経線維の菲薄化が生じる(図5).また,対光反射の入力線維は視交叉において交叉する線維のほうが非交叉線維よりも多いため,鼻側半盲を呈する同側眼に比べ,耳側半盲を呈する対側眼の直接反射が強く障害される.結果として,対側眼に相対的瞳孔求心路障害(relativeCa.erentCpupillarydefect:RAPD)を呈する.〔別刷請求先〕中村誠:〒650-0017神戸市中央区楠町C7-5-1神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野Reprintrequests:MakotoNakamura,M.D.,Ph.D.,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,DivisionofOphthalmology,DepartmentofSurgery,7-5-1Kusunoki-cho,Chuo-ku,Kobe650-0017,JAPANCWilbrandの膝●①①片眼視野障害Meyer’sloop⑥-a②④⑤③②③連合暗点・接合部暗点両耳側半盲④不調和性同名半盲⑥-b⑤水平性同名性楔状欠損⑦⑥-a上1/4同名半盲⑥-b下1/4同名半盲⑦調和性同名半盲図1視路と障害部位に対応した視野欠損パターンのシェーマ(文献2,p246の図より改変引用)Cab図3接合部暗点のGoldmann視野右眼の耳上側C1/4半盲,左眼の中心暗点を認める.図2左眼視神経炎急性期a:視神経乳頭拡大写真.乳頭腫脹を認める.b:Goldmann動的視野.大きな中心暗点を認める.Cc:眼窩部拡大脂肪抑制冠状断T1強調ガドリニウム造影CMRI,左球後視神経に強い造影効果を認める(.)図4視索障害による左同名半盲を示すGoldmann視野外側膝状体は特有の動脈灌流支配を受けるので,同部位の限局性の病変は,楔状の水平性同名半盲ないし,楔状の水平領域のみ残った同名半盲を生じる.視放線は,外側膝状体の神経細胞の軸索である.その病変は視索障害と同様,対側の同名半盲を呈するが,網膜神経節細胞の軸索ではなく,対光反射線維を含まないため,RAPDは生じない.上方視野に対応する視放線線維は側頭葉のやや前方に回ってから後方へ向かう.これをCMeyerloopとよぶ(図1).したがって,Meyerloopの障害は上側C1/4同名半盲を呈し,他の前部視放線障害では下側C1/4同名半盲を呈する.片側の一次視覚野障害でも同名半盲を呈するが,この際,黄斑部と周辺網膜に対応する,後頭視覚領域の配置に特徴があるため,独特の視野障害を呈することがある.この点は後述する.以下,症例ベースで各部位における視野障害パターンを提示する.CII症例でみる視路疾患の視野障害パターン図2に左眼視神経炎の急性期視神経乳頭写真,Goldmann視野,冠状断脂肪抑制CT1強調造影CMRI像を示す.先に述べたとおり,片眼性の視神経障害では患眼の視野欠損を示す.視神経炎では乳頭黄斑線維束障害が強いため,中心暗点をきたすことが多い.視神経乳頭は腫脹することもしないこともある.近年注目を集めている抗アクアポリンC4抗体による視神経脊髄炎では,中心暗点以外に水平半盲などさまざまな視野変化をきたすこと,視神経乳頭腫脹を伴わないことが多いことが知られている3).図6はエタンブトールによる中毒性視神経症の視野変化の推移である.もともと緑内障に関して前医で経過観察されていたが,ある時期急激に視野変化が進行したため,当科を紹介された.視神経障害は局所障害の場合は,片眼性であるが,中毒性や遺伝性の視神経症の場合は,両眼性となる.近年,非結核性抗酸菌,とくにCMycobacteriumCaviumCcom-plex(MAC)による肺CMAC症が急増しているため,エタンブトールの処方量が増えている.エタンブトールの亜鉛のキレート作用が視神経毒性を発揮するともいわれ,内服期間が長引くと中止後も回復に時間がかかったり,場合によっては改善しないことがあるので注意が必要である.図3は左眼中心暗点と右眼内部イソプターに耳上C1/4半盲を呈するCGoldmann視野である.先に述べたように,このパターンは左視神経が視交叉に接合するあたりの病変により右眼からの鼻下網膜由来の神経線維がCWilbrandの膝となって左視神経に弯入している部分の障害の存在を示すため,MRIならびにCMRangiographyを撮像したところ,図7に示すように巨大な内頸動脈の動脈瘤を認めた.図6は左同名半盲を示している.これだけでは,視索以降のどこに病変が存在しているかはわからない.しかし,このCa右眼左眼b冠状断矢状断図5図4の症例の光干渉断層計RNFLdeviationmap(a)と頭部MRI(b)a:右眼の上下優位の,左眼の耳鼻側優位の神経線維菲薄化を認める.Cb:冠状断(左),矢状断(右)MRIで右後方に屈曲して成長している下垂体腺腫を認める.右眼左眼図6エタンブトール視神経症のHumphrey静的視野の経時的変化図7図4の症例の頭部冠状断MRI(a)とMRangiography(b)a:不規則な造影効果をもつCmass病変が右視神経を鼻側から圧迫している.Cb:巨体動脈瘤を認める.図8右眼の耳側半月を残した右同名半盲のGoldmann視野症例の左眼にCRAPDを認め,図5aに示すような,光干渉断層計所見,すなわち右眼は上下線維有意な神経線維の菲薄化,左眼は耳鼻側有意な神経線維の菲薄化を呈している場合,右の視索障害が推定される.事実CMRIを撮像すると,巨大な下垂体腺腫が右後方に進展し,右視索を圧迫していることが明らかになった(図5b).図8は右同名半盲であるが,右眼の耳側再周辺部のイソプターが温存されている.一次視覚野は黄斑拡大とよばれるほど,後頭葉後極から前方に向かって広い範囲が中心窩周囲のごく狭いエリアに対応する.耳側視野で,両眼視ができる範囲は後頭葉においてその前方が占めており,最周辺耳側視野で単眼しか認知できないエリアは,後頭葉のもっとも前端に対応する.図8の右眼視野のように耳側最周辺部が維持されているということは,この後頭葉一次視覚野の前端が障害から免れていることを意味する(図9).この視野エリアを耳側半月とよび,その存否は病変の局在診断に画像所見よりも威力を発揮する4).図9図8の症例の頭部軸位断CT左後頭葉に低信号領域を認める.おわりに以上述べたように,両眼の視野欠損パターンは視路の神経線維走行にきれいに対応するため,障害の局在診断を行ううえで,画像検査に匹敵するか,それ以上の価値を有していることに留意し,ていねいに所見を読む訓練を行いたいものである.文献1)中村誠:神経眼科疾患の光干渉断層計像.日眼会誌C120:339-351,C20162)関谷義文:神経眼科.視路.眼科診療マニュアル(山本節,久保田伸枝編).南江堂,p246,19983)IshikawaH,KezukaT,ShikishimaKetal:EpidemiologicandclinicalcharacteristicsofopticneuritisinJapan.Oph-thalmologyC126:1385-1398,C20194)LeporeFE:Thepreservedtemporalcrescent:Theclini-calCimplicationsCofCan“endangered”.nding.CNeurologyC57:1918-1921,C2001