《原著》あたらしい眼科36(9):1204.1208,2019c脈絡膜骨腫に伴う脈絡膜新生血管がベバシズマブ硝子体注射により退縮した経過をOCTAngiographyで描出した1例北原潤也*1星山健*1,2榑沼大平*1田中正明*1京本敏行*1,2吉田紀子*1村田敏規*1*1信州大学医学部眼科学講座*2長野赤十字病院眼科CACaseofChoroidalOsteomawhoseChoroidalNeovascularizationwasVisualizedbyOpticalCoherenceTomographyAngiographyJunyaKitahara1),KenHoshiyama1,2),TaiheiKurenuma1),MasaakiTanaka1),ToshiyukiKyoumoto1,2),NorikoYoshida1)andToshinoriMurata1)1)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,ShinshuUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,NaganoRedCrossHospitalC目的:脈絡膜骨腫に伴う脈絡膜新生血管(CNV)をCswept-sourceCopticalCcoherenceCtomographyCangiography(SS-OCTA)で検出し,ベバシズマブ硝子体注射によるCCNVの治療経過を確認できた症例を報告する.症例および経過:20歳,女性.左眼の歪視を自覚し前医を受診.左脈絡膜骨腫と診断され当科紹介.初診時,左眼矯正視力(0.4)でありCOCTで中心窩に漿液性網膜.離(SRD)を認め,フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)では黄斑部にCCNVの存在が疑われる過蛍光が存在した.SS-OCTAで同部位にCCNVが明瞭に描出された.同日に左眼にベバシズマブ硝子体注射を施行.治療C2カ月後にCSRDは消失し左眼矯正視力は(1.0)に改善した.OCTAでは黄斑部のCCNVの退縮が確認できた.7カ月後もCOCTAでCCNVの再発は認めず良好な視力を維持している.結論:脈絡膜骨腫に伴うCCNVやSRDにより視力低下をきたしても抗CVEGF療法により視力の改善を期待できる.OCTAは脈絡膜骨腫に続発したCNVを鮮明に描出できるため,診断や治療の経過を追ううえで有用なツールである.CPurpose:Wereportacaseofchoroidalosteomawhosechoroidalneovascularization(CNV)wasvisualizedbyswept-sourceCopticalCcoherencetomographyCangiography(SS-OCTA)andCtreatedCwithCintravitrealCbevacizumab(IVB).Case:A20-year-oldfemalepresentedwithmetamorphopsiainherlefteye.Atalocaleyeclinic,shewasdiagnosedwithCOandwasreferredtoourhospitalbecauseofdecreasedvisualacuity.At.rstvisittoourhospi-tal,herleftvisionacuitywasdecreasedto0.4andOCTshowedserousretinaldetachment(SRD)inthefovea.WevisualizedCNVlocatedinthemaculawithSS-OCTA.WeadministeredIVBafterobtaininginformedconsent.By2monthsafterIVB,herleftvisualacuityhadimprovedandregressionofCNVwasobservedwithOCTA.Conclu-sion:CNVCsecondaryCtoCchoroidalCosteomaCwasCclearlyCdetectedCbyCOCTACandCsuccessfullyCtreatedCwithCanti-VEGFtherapy.OCTAisusefulfordetectionandfollow-upofCNVinchoroidalosteoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(9):1204.1208,C2019〕Keywords:脈絡膜骨腫,光干渉断層血管撮影,脈絡膜新生血管,漿液性網膜.離,抗CVEGF療法,ベバシズマブ硝子体注射.choroidalosteoma,opticalcoherenttomographyangiography,choroidalneovascularization,serousreti-naldetachment,anti-VEGFtherapy,intravitrealbevacizumab.C〔別刷請求先〕北原潤也:〒390-8621長野県松本市旭C3-1-1信州大学医学部眼科学講座Reprintrequests:JunyaKitahara,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,ShinshuUniversity,3-1-1Asahi,Matsumoto,Nagano390-0304,JAPANC1204(102)e図1初診時の左眼の所見a:広角眼底写真.黄斑部を含む境界明瞭で黄白色の病変を認める.Cb:頭部単純CCT.左眼の眼底に骨と同程度の高吸収域(C.)を認める.Cc:Bモード超音波検査.高反射の病変(C.)とその後方に音響陰影を認める.d,e:OCT.黄斑部の脈絡膜に腫瘍性病変を認める.中心窩下にCSRDを認める.はじめに脈絡膜骨腫はCGassら1)が報告した比較的まれな脈絡膜原発の良性腫瘍である.若年女性の片眼,傍乳頭部に好発し,境界明瞭で黄白色の隆起性病変を呈し,緩徐に腫瘍が拡大することが特徴とされる.また,computedtomography(CT)で骨と同じ高吸収域と,Bモード超音波検査で音響陰影を伴う高反射域を認めることも特徴的である.脈絡膜骨腫は良性腫瘍ではあるが,10年間で約半数の症例が矯正視力(0.1)以下まで低下する2).その原因として脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV),漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SRD),網膜下出血,病変下の網膜色素上皮(retinalCpigmentepithelium:RPE)の変性,病変の脱石灰化などがあげられるが,とくにCNVによる視力低下はC10年間で約C30%にも及ぶ2).脈絡膜骨腫の標準的な治療はいまだ確立されていないが,CNVやSRDといった合併症に対しては光線力学療法(photodynam-ictherapy:PDT),抗血管内皮増殖因子(vascularCendo-thelialgrowthfactor:VEGF)薬硝子体注射が有効であるといった報告が散見される3.5).また,近年の光干渉断層血管造影(opticalcoherencetomog-raphyangiography:OCTA)の登場により迅速で非侵襲的な網脈絡膜血管の構造評価が可能になり6),脈絡膜骨腫に続発したCCNVをCOCTAで描出した症例も報告されている8.10).今回,黄斑部にまで進展した脈絡膜骨腫に続発したCCNVをCswept-source光干渉断層血管造影(SS-OCTA)で鮮明に描出し,またベバシズマブ硝子体注射(intravitrealbevaci-zumab:IVB)によってCCNVが退縮したことをCOCTAで確認でき,かつ視力改善も得られたC1例を経験したので報告する.CI症例患者:20歳,女性.主訴:左眼歪視,左眼視力低下.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.現病歴:2018年C1月頃より左眼の歪視を自覚,前医を受診し左眼脈絡膜骨腫と診断され経過観察されていた.2018年C4月初旬より左視力低下を認めたため当科紹介となった.初診時所見:視力は右眼C0.7(1.2C×sph.0.5D),左眼C0.4(矯正不能)で,眼圧は右眼C14CmmHg,左眼C15CmmHgであった.両眼の角膜,前房,水晶体,硝子体,右眼の眼底には明らかな異常は認められなかった.広角眼底写真では,左眼の視神経乳頭から上方の血管アーケードにかけて黄斑部を含む形で境界明瞭な黄白色の病変が認められた(図1a).頭部単純CCT検査では病変は左眼眼底に骨と同程度の高吸収域として描出され(図1b),同部位はCBモード超音波検査では病変部は音響陰影を伴う高反射域として描出された(図1c).光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では,左眼の黄斑部の脈絡膜に腫瘍性病変を認め,正常な脈絡膜血管構造はみられず,内部に一部高反射域を認めた(図1d).また,中心窩にはCSRDを認めた(図1e).フルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinangiography:FA)では,脈絡膜骨腫に一致した過蛍光と黄斑部にCCNVの存在が疑われる蛍光漏出を認めた(図2a).インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(indocyanineCgreenangiography:IA)でも,FA同様に黄斑部にCCNVと考えられる過蛍光を認めた(図2b).SS-OCTAはCCarlZeiss社のCPLEXCEliteC9000Rを用い,セグメンテーションは網膜外層からCchoriocapillar-iesに設定してCOCTA画像(6C×6Cmm)を取得した.OCTA図3IVB前後のOCTA画像a:初診時COCTAen-face画像.黄斑部にCCNVが描出されている.Cb:初診時COCTABスキャン画像.中心窩下にCCNVの血流を示すC.owsignalを認める.Cc,d:IVBよりC2カ月後のCOCTA画像.黄斑部のCNVの退縮と中心窩下のC.owsignalの消失を認める.Bスキャン画像で中心窩にCCNVの血流を示すC.owsignalが認められ(図3c),OCTAen-face画像では黄斑部にCCNVが鮮明に描出された(図3a).以上より視力低下の原因は脈絡膜骨腫に伴うCCNVによるCSRDであると診断した.経過:当科初診日に,脈絡膜骨腫に対する確立された治療法がないことを患者に十分に伝えたうえで,信州大学医学部附属病院倫理委員会承認のもとで行っているCIVBについて説明した.書面での同意が得られたので,脈絡膜骨腫とCNVがみられた左眼にCIVBを施行した.2カ月後にはCOCTでは中心窩のCSRDは消失しており(図2f),またCFAでは黄斑部の蛍光漏出の減少を認めた(図2d).OCTAでは黄斑部のCCNVの退縮を認め(図3b,d),左眼視力は(1.0)まで改善した.治療開始よりC7カ月後の現在もCSRDの再発はなく,OCTAではCCNVの中心窩下への進展は認められず良好な視力を維持して経過している.CII考按若年女性の脈絡膜骨腫症例にCCNVによるCSRDを合併した症例を経験した.FA/IAと異なり,SS-OCTAでは漏出による影響を受けないため,本症例ではCSS-OCTAでCCNVがより明瞭に検出できた.IVBを施行後,SRDは消失し良好な視力を得たが,その過程でCCNVの退縮する詳細な経過をCSS-OCTAで明瞭に描出可能であった.OCTAとは連続的なCOCT断層像を撮影し,得られた複数枚の画像間に存在する位相変化や信号強度変化を血流情報として抽出し,血管を画像化する技術であり,蛍光眼底造影検査で描出する血管ときわめて類似した血管画像を得ることができる6).蛍光眼底造影検査と異なり,静脈路確保や造影剤の静注が必要ないため非侵襲的でかつ迅速に撮影できるので,詳細な経過観察目的に頻回の検査を安全に大きな負担なく施行可能である.OCTAは網脈絡膜血管構造の評価が層別に行える点が優れている.造影剤を用いないので血管の透過性亢進の評価ができないという難点もあるが,漏出が同定されないため注目する血管の形状などを鮮明に描出できる利点もある.とくに脈絡膜骨腫においては,蛍光眼底造影検査では腫瘍自体が過蛍光であるため,合併症であるCCNVの検出が困難な症例もある.このような症例では,FA/IAで検出できなかったCCNVを,OCTAにより描出できたという報告もある10).脈絡膜骨腫に伴うCCNVの診断や,治療の経過を追ううえでCOCTAは有用な検査であると考えられる.SS-OCTAは従来のCspectraldomain(SD)-OCTAと比較して迅速に広角・高深達なCOCTA画像を取得することができる9).中心窩下にまで進展し視力低下の原因となった脈絡膜骨腫に続発したCCNVをCSS-OCTAで鮮明に描出し,かつIVBによりCCNVが退縮したことをCOCTAで確認でき,さらに視力改善も得られた症例の報告は,筆者らが知る限り初めてである.脈絡膜骨腫とその合併症に対する標準的な治療はいまだ確立されておらず,経瞳孔的温熱療法やCCNV抜去術,網膜光凝固術などによる治療が以前は行われていた.最近では,抗VEGF薬硝子体注射やCPDTをそれぞれ単独で,もしくは併用で治療することが多い6,7).Khanら3)は,中心窩にCSRDを認めるCCNVを合併した脈絡膜骨腫に対する抗CVEGF単独療法とCPDT併用抗CVEGF療法の比較をしており,PDTを併用することにより中心窩のCSRDの消退に必要な抗CVEGF薬注射の回数は減ると報告している.また,PDTは石灰化している病変部を脱石灰化させることで腫瘍の増大を予防できるとされている.脱石灰化は,脈絡膜骨腫内の海綿状血管が退縮することにより腫瘍内や辺縁に生じ,脱石灰化した病変部の外観は灰白色に変化する.この変化は自然経過でも生じる11)が,PDT12)や網膜光凝固術11)でも生じさせることができ,脱石灰化した病変部からは腫瘍は進展しないとされている2).しかし,脱石灰化した部分ではCRPEや脈絡膜毛細血管は萎縮し,また網膜外層の菲薄化し視細胞が喪失してしまうことが多い13).そのため,黄斑部に腫瘍が進展している症例では脱石灰化することにより非可逆的な視力低下をきたすおそれがあるのでPDTは適応になりにくい3,14).本症例においても,すでに黄斑部に脈絡膜骨腫病変が存在するためCPDTは避け,抗VEGF薬硝子体注射のみによる治療を選択した.脈絡膜骨腫に続発するCCNVとこれに伴うCSRDに対する抗CVEGF療法の有効性については多くの報告で言及されている3.5).腫瘍の圧迫によって引き起こされる脈絡膜毛細血管板の閉塞や,網膜虚血によるCVEGFの発現が,脈絡膜骨腫に伴うCCNVの発生機序に関与していると推測されており14),それがそのまま抗CVEGF療法が奏効する大きな理由であると考えられる.本症例でも抗CVEGF療法により黄斑部のCCNVの消退とCfeedervesselの退縮を認め,その様子をCOCTAで観察できたが,脈絡膜骨腫内の海綿状血管の大きな構造変化は観察することができなかった.前述したように腫瘍内の海綿状血管が退縮すると脱石灰化が生じるが,抗VEGF療法では脱石灰化を誘発しないとされる点からも,腫瘍内血管の退縮機序にCVEGFは大きくは関与していない可能性も示唆される.今後のCOCTAを用いた症例の蓄積により,脈絡膜骨腫のさらなる病態解析が期待される.Khanら3)の脈絡膜骨腫の治療成績をまとめた報告では,中心窩にCSRDを認める脈絡膜骨腫の症例に対して抗CVEGF療法を施行した結果,最終的にCSRDの消退を得た症例はC8例中C7例であったが,その経過中にC8例中C4例がCSRDの再発をきたし,その再発までの期間は治療開始より平均C10カ月後と報告している.本症例は治療開始よりC7カ月後の現在もCSRDの再発はなく良好な視力を維持しているが.再発のおそれは十分にあるため今後の慎重な経過観察が必要と考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GassCJD,CGuerryCRK,CJackCRLCetal:ChoroidalCosteoma.CArchOphthalmolC96:428-435,C19782)ShieldsCCL,CSunCH,CDemirciCetal:FactorsCpredictiveCofCtumorCgrowth,CtumorCdecalci.cation,CchoroidalCneovascu-larization,CandCvisualCoutcomeCinC74CeyesCwithCchoroidalCosteoma.ArchOphthalmolC123:1658-1666,C20053)KhanCMA,CDeCroosCGC,CStoreyCOOCetal:OutcomesCofCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCtherapyCinCtheCmanagementCofCchoroidalCneovascularizationCassociatedCwithchoroidalosteoma.RetinaC34:1750-1756,C20144)JangCJH,CKimCKH,CLeeCSJCetal:PhotodynamicCtherapyCcombinedwithintravitrealbevacizumabinapatientwithchoroidalneovascularizationsecondarytochoroidalosteo-ma.KoreanJOphthalmolC26:478-480,C20125)GuptaA,GopalL,SenPetal:Long-termresultsofintra-vitrealCranibizumabCforCosteoma-relatedCchoroidalCneovas-cularizationinachild.OmanJOphthalmolC7:78-80,C20146)MakitaCS,CHongCY,CYamanariCMCetal:OpticalCcoherenceCangiography.OptExpressC14:7821-7840,C20067)MillerAR,RoismanL,ZhangQetal:Comparisonbetweenspectral-domainandswept-sourceopticalcoherencetomog-raphyCangiographicCimagingCofCchoroidalCneovasculariza-tion.InvestOphthalmolVisSciC58:1499-1505,C20178)Clemente-TR,Cerda-IM,Gargallo-BAetal:Choroidalosteomawithchoroidalexcavationandassociatedneovas-cularmembrane:AnCOCT-angiographyCstudy.CArchCSocCEspOftalmolC93:242-245,C20189)AzadCSV,CTakkarCB,CVenkateshCPCetal:Sweptsource:CopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCfeaturesCofCchoroidalCosteomaCwithCchoroidalCneovascularCmembrane.CBMJCCaseCRep.doi:10.1136/bcr-2016-215899,C201610)ShenC,YanS,DuMetal:Assessmentofchoroidaloste-omaCcomplicatingCchoroidalCneovascularizationCbyCopticalCcoherenceCtomographyCangiography.CIntCOphthalmolC38:C1-6,C201811)TrimbleSN,SchatsH:Decalci.cationofachoroidaloste-oma.BrJOphthalmolC75:61-63,C199112)ShieldsCCL,CMaterinCMA,CMehtaCSCetal:RegressionCofCextrafovealchoroidalosteomafollowingphotodynamicther-apy.CArchOphthalmolC126:135-137,C200813)ShieldsCCL,CPerezCB,CMaterinCMACetal:OpticlalCcoher-enceCtomographyCofCchoroidalCosteomaCinC22Ccases.COph-thalmologyC114:e53-e58,C200714)高橋静,鈴木幸彦,陣内嘉浩ほか:両眼脈絡膜骨腫に脈絡膜新生血管を合併したC1例.臨眼70:695-702,C2016***