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I.眼球運動編 中枢性眼球運動障害を理解する

2019年5月31日 金曜日

I.眼球運動編中枢性眼球運動障害を理解するUnderstandingCentralDisordersofOcularMotility城倉健*はじめに眼球運動障害は一見複雑に感じられるが,基本となる神経機構のいくつかさえ押さえておけば,理解することはそれほどむずかしくはない.本稿ではまず,非共同性の眼球運動障害を個々の脳幹神経核からの視点で解説し,次いで共同性の眼球運動障害を各種眼球運動の発生機構からの視点で解説する.I眼球運動神経核からみた眼球運動障害(単眼性.非共同性眼球運動障害)1.動眼神経核中脳の動眼神経核に障害が及ぶと,両側性の眼瞼下垂が生じる(midbrainptosis)1)(図1).これは,左右の上眼瞼挙筋が,正中に1つしかないcentralcaudalnucle-usにより同時に支配されているためである.動眼神経の他の亜核にも障害が及び,内転や上転,下転制限がさまざまな程度で加わることも多いが,centralcaudalnucleus以外の亜核は左右別々に存在するため,これらの障害は通常片側優位(非対称性)に出現する.動眼神経の亜核の解剖は複雑なので,上転や内転,下転制限から病変の広がりを推測するのはやや困難である.一方,両側性の眼瞼下垂は一目瞭然の眼症候であり,たとえ動眼神経亜核の解剖を理解していなくても,中脳動眼神経核自体の障害を知ることができる大変価値の高い眼症候といえる.両側の眼瞼下垂と異なり,一側の眼瞼下垂は多くの場合,髄外(末梢性)動眼神経麻痺で出現する.ただし,動眼神経核を出た後の髄内動眼神経線維が中脳病変で障害されれば,髄外動眼神経麻痺と類似する一側眼瞼下垂を伴う眼球運動障害をきたす.梗塞(虚血)が原因の場合は通常瞳孔が障害を免れるため,糖尿病性髄外(末梢性)動眼神経麻痺と紛らわしいが,中脳の梗塞では瞳孔とともに下直筋も障害を免れやすいことが鑑別の参考になる2)(図2).2.外転神経核および関連する内側縦束と傍正中橋網様体橋の傍正中橋網様体(paramedianpontinereticularformation:PPRF)が障害されると患側への側方注視麻痺が生じるが,外転神経核の障害でも同様に側方注視麻痺をきたす(図3a).ちなみに単眼の外転障害は髄外(末梢性)外転神経障害を示唆する眼症候である.まれに橋病変(外転神経核を出た後の髄内外転神経線維障害)で単眼の外転障害が出現することもあるが,通常は単独ではなく,他の神経症候(顔面神経麻痺や片麻痺,感覚障害など)とともにみられる.一方,単眼の内転障害は橋病変を示唆する所見である.橋病変による内転障害は,内側縦束(mediallongi-tudinalfasciculus:MLF)が障害されたことによる(核間性眼筋麻痺,MLF症候群)(図3b).橋病変による単眼の内転障害(核間性眼筋麻痺)は,他の神経症候を伴わず,単独で出現することも多い.核間性眼筋麻痺に*KenJohkura:横浜市立脳卒中・神経脊椎センター神経内科〔別刷請求先〕城倉健:〒235-0012神奈川県横浜市磯子区滝頭1-2-1横浜市立脳卒中・神経脊椎センター神経内科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(11)581図1動眼神経核障害による両側眼瞼下垂視床中脳に生じた悪性リンパ腫により両側眼瞼下垂をきたした69歳,男性.両側眼瞼下垂は動眼神経核自体に障害が及んでいることを示唆する.この患者は他に下方注視麻痺も伴った.bOculomotornerveInterpeduncularfossaPosteriorcerebralarteryMRLidSRPerforatingbranchIOBasilartipSubstantianigraRednucleusOculomotornucleusCerebralaqueduct図2中脳梗塞による髄内動眼神経線維障害79歳,男性にみられた中脳梗塞による瞳孔異常を伴わない動眼神経麻痺(a).瞳孔が障害を免れた動眼神経麻痺は糖尿病による髄外(末梢性)動眼神経麻痺に特徴的だが,中脳梗塞による動眼神経麻痺では下直筋も障害を免れる場合が多い.これは,中脳の虚血の場合には深部(つまり動脈の遠位部)から障害され,表層(つまり動脈の近位部)にある瞳孔成分や下直筋成分は障害を免れやすいことによる(b).Pupil:瞳孔成分,IR:下直筋成分,MR:内直筋成分,Lid:上眼瞼挙筋成分,SR:上直筋成分,IO:下斜筋成分.ab■PPRF障害:患側注視麻痺■MLF障害:核間性眼筋麻痺両眼とも障害側に向かない■外転神経核障害:患側注視麻痺■MLF+PPRF/外転神経核障害:one-and-a-half症候群両眼とも障害側に向かない図3傍正中橋網様体,外転神経核,内側縦束の眼症候a:傍正中橋網様体(PPRF)が障害されると患側への側方注視麻痺をきたす.また,外転神経核が核性に障害された場合にも,PPRFの障害と同様に患側への側方注視麻痺を生じる.これは外転神経核に,同側の外直筋へのmotoneuronのみならず,反対側の動眼神経核内の内直筋motoneuronへ連絡するinternuclearneuronが含まれていることによる.b:内側縦束(MLF)が障害されたことによる患側眼の内転障害を核間性外眼筋麻痺(internuclearophthalmoplegia)という.さらにMLFに加え,同側のPPRFないし外転神経核が障害されると,患側眼の外転,内転障害と,健側眼の内転障害をきたす.これをone-and-a-halfsyndromeとよぶ.c:左橋被蓋部の梗塞によりone-and-a-half症候群を呈した75歳,女性.PPRF:傍正中橋網様体,VI:外転神経核,MLF:内側縦束,III:動眼神経核.bcdCT図4水平性saccadicsystema:水平性saccadicsystemのシェーマ.テント上病変では眼球は患側に偏倚し,テント下病変では眼球は健側に偏倚する.b~d:70歳,男性の右中大脳動脈の塞栓症(b)と83歳,女性の右視床出血(c)では,いずれも眼球が病変側に向く方向に偏位している.これに対し,橋出血の77歳,女性(d)では,眼球は病変と反対方向に偏位している.FEF:前頭眼野,PPRF:傍正中橋網様体,VI:外転神経核.MRIDWICT患側への眼球偏倚L健側向き眼振健側への眼球偏倚患側向き眼振図5水平性vestibularsystem水平性vestibularsystemのシェーマ.延髄病変では眼球は患側に偏倚し,健側向き眼振が生じる.一方,小脳病変では眼球は健側に偏倚し,患側向き眼振が生じる.VN:前庭神経核,VI:外転神経核,MLF:内側縦束,III:動眼神経核.riMLFからの興奮性線維連絡健側への眼球回旋偏倚赤矢印:上転方向の線維連絡青矢印:下転方向の線維連絡図6垂直.回旋性saccadicsystem垂直/回旋性saccadicsystemのシェーマ.赤矢印は上転方向の線維連絡を示し,青矢印は下転方向の線維連絡を示す.また,下段の薄い矢印は各外眼筋が眼球に作用する力の向きを示す.一側のriMLFが障害されると,眼球は反対側に回旋偏倚する.riMLF:内側縦束吻側間質核,IR:下直筋,cSR:反対側の上直筋,IO:下斜筋,IV:滑車神経核,cSO:反対側の上斜筋.ab右中脳病変左延髄病変図7垂直.回旋性vestibularsystema:垂直/回旋性vestibularsystemのシェーマ.前庭神経核のある延髄の障害では,眼球は患側に回旋偏倚し,健側向き回旋性眼振が生じる.一方,橋より吻側の障害では,前庭神経核からの線維が交差後に障害されるため,眼球は健側に回旋偏倚し,患側向き回旋性眼振が生じる.b:上段は右中脳梗塞の59歳,男性,下段は左延髄梗塞の43歳,男性.左末梢前庭器から延髄の前庭神経核を経て交差し,橋を上行する経路が障害されるため,いずれの患者も眼球は左に回旋偏倚し,右向き回旋性眼振が出現する.VN:前庭神経核,IV:滑車神経核,III:動眼神経核.

I.眼球運動編 複視を主訴とした患者が来院したら

2019年5月31日 金曜日

I.眼球運動編複視を主訴とした患者が来院したらHowShouldYouExamineaDiplopiaPatient?中馬秀樹*I診察の手順1.単眼性か両眼性か複視を主訴とする患者をみたら,まず行うべきことは,単眼性の複視か,両眼性の複視かを鑑別することである1~3).以下の手順で確認する.1.病歴聴取の際に,片眼を閉じると一つに見えるか,片眼を閉じていても二つに見えるかを聞く.2.診察で実際に片眼を隠してみて,一つに見えるか,二つに見えるかを検査する.3.ピンホールを用いて単眼複視が消失するかどうかを検査する(図1).単眼性の複視で,ピンホールで消失すれば,原因は眼球自体にある(未矯正屈折異常,白内障など)1~3).単眼性の複視で,ピンホールで消失しなければ,原因は大脳にある(大脳性多視症,視覚保続,心因性など)可能性がある1).2.斜視の有無両眼性の複視であれば,以下の手順で斜視があるかを確認する.1.病歴聴取で水平性の複視か,垂直性の複視か,回旋性の複視かを聞く.2.水平性の複視であれば交叉性か同側性かを聞く.3.診察では,カバーテストで水平斜視か,上下斜視か,自覚と一致するかを確認する.図1ピンホール検査単眼複視が消失するかどうか検査している.4.斜視があれば,共同性か,非共同性かを確認する.5.眼球運動制限があるかを確認する.垂直性の複視であれば,原因は甲状腺眼症と滑車神経麻痺が多い4).明らかな眼球運動制限(とくに上転制限)があれば甲状腺眼症をまず考え,以下の手順で確認する(図2).a.眼窩部MRIまたはCTで外眼筋の腫脹を確認す*HidekiChuman:宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野〔別刷請求先〕中馬秀樹:〒889-1692宮崎市清武町木原5200宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(3)573図2甲状腺眼症の眼球運動制限顕著な右眼の上転制限がみられる.表1甲状腺眼症の症状,徴候-図3甲状腺眼症の眼窩部MRI右眼下直筋の腫脹がみられる.図4甲状腺眼症の圧迫性視神経症の眼窩部MRI外眼筋が肥厚し,視神経を圧迫している.図5滑車神経麻痺の眼球運動明らかな眼球運動制限が観察できない.図6Maddoxロッドの写真左眼ロッド眼(右眼)図7Maddoxロッドを用いた眼位検査法1赤い線(右眼)が下ロッドを縦方向に当て,ペンライトを固視させる.図8Maddoxロッドを用いた眼位検査法2赤い線が上か下か確認する.赤い線が下であれば6PDRH2PDRH右上斜視が左方視,右斜頸で増加図11右の滑車神経麻痺パターン正面視で右上斜視が左方視,右斜頸で悪化する.同じ高さになったプリズム度数を記録図10Maddoxロッドを用いた眼位検査法4赤い水平線とペンライトの光が重なるプリズム度数を記録する.C2PDLH4PDLH15゜EX図12両側性の滑車神経麻痺パターン両側方時に内転眼が上斜視になり,外方回旋が10°以上ある.眼底写真がわかりやすい.表2眼筋型重症筋無力症の症状,徴候図13両側性の滑車神経麻痺の眼底写真(下)より外方回旋が目立つ.図14右動眼神経麻痺動眼神経麻痺瞳孔不完全完全外眼筋不完全動脈瘤完全虚血性動脈瘤図15動眼神経麻痺の発症初期からの変化と原因図16内頸動脈―後交通動脈分岐部の動脈瘤のCT血管像図17右外転神経麻痺==’図18小児の外転神経麻痺で判明した脊索腫

序説:神経眼科診療を楽しもう!

2019年5月31日 金曜日

神経眼科診療を楽しもう!Let’sEnjoyNeuro-OphthalmologicalPractice!中村誠*第56回日本神経眼科学会総会を去る平成30年12月14日,15日の両日,神戸国際会議場で開催しました.総会のテーマが,まさに「神経眼科診療を楽しもう!」でした.『あたらしい眼科』誌編集委員の大橋裕一先生から,折も折,本特集を編むにあたって,「先生の学会のテーマに大変共感しました.それを骨子に特集企画を作れませんか?」とのご下命をいただきました.願ったり叶ったりのご依頼に,一も二もなく編集を引き受けさせていただいた次第です.理由は至極明瞭です.編者が眼科サブスペシャリティの一つである「神経眼科」に対して強い危機感を抱いているからです.現在,医師や診療科の偏在が声高に叫ばれています.だが,事はそう単純なものではありません.診療科内におけるサブスペシャリティの偏在もまた深刻な問題です.若手眼科医師はこぞって屈折矯正や網膜硝子体サージャンをめざそうとする風潮にあります.一方,神経眼科,小児眼科といった領域を専攻しようとする若手医師はとても少ないです.それほどに神経眼科は医師が一生を捧げるに値しない無意味な領域なのでしょうか?少なくとも編者は決してそうとは思いません.いえむしろ,ともすれば,他診療科から,「いったい眼科は何をしているのだろう?」と訝しがられるほどに孤立した診療内容が多い中,神経眼科ほど,「チーム医療」という他診療科では当たり前の取り組みを実践し,患者の視覚のみならず生命予後にも貢献できるサブスペシャリティはないのではないでしょうか?その醍醐味に,若手眼科医が触れる機会さえなく,「少年老い易く学成り難し」を地で行くことを放念することは,あまりにも眼科医,患者双方にとって不幸なのではないでしょうか?要するに,神経眼科診療がいかに面白く,そして,未だすべてとはいえないまでも,多くの疾患を治療できるようになった分野であることを,次世代の眼科医に知ってもらいたい!これこそが編者が希求するテーマそのものです.このテーマに挑むには,単に優秀な研究者を寄せ集めるだけでは事足りません.小難しい理屈を書き連ねるのではなく,informativeかつinstructiveな解説のできるメンターを結集しなければなりません.神経眼科は視覚を扱うだけでなく,眼球運動の理解が不可欠な領域です.正常な立体視ができてこそ,初めて,ヒトは後方の視野を大幅に犠牲にしてまでも,両眼を顔の前面に配置する解剖構造を進化論的に選択した甲斐があります.その正常立体視を脅かす眼球運動経路障害をどのような手順で鑑別し,治療していくか.一般の眼科医にとって,とり*MakotoNakamura:神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(1)571

画像鮮明化処理ソフトウェアSoftDEF®の眼科画像に対する有用性の検討

2019年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(4):559.565,2019c画像鮮明化処理ソフトウェアSoftDEFRの眼科画像に対する有用性の検討福岡秀記横井則彦外園千恵京都府立医科大学眼科CE.ectivenessofSoftDEFAdaptiveImageSharpeningSoftwareinOphthalmologyHidekiFukuoka,NorihikoYokoiandChieSotozonoCDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:眼科診療においては,異常所見や経時変化のさまざまな目的で数多くの種類の画像を扱う.さまざまな眼科画像に対しCSoftDEF(ロジックアンドシステムズ)を用いた画像鮮明化処理が有用であるか否かについて検討を行った.対象および方法:京都府立医科大学眼科外来を受診し,ファイリングのために眼科画像を取得された症例の写真を解析対象とした.10人の眼科医に盲検法にて画像鮮明化処理ソフトウェアによる処理前,処理後の写真を提示し,処理が臨床的に有用であるか判定させた.結果:前眼部写真における異常血管,角膜後面沈着物を鮮明化,およびフルオレセイン染色画像の点状表層角膜症の鮮明化が可能であった.眼底画像では,網膜裂孔,網膜下出血,網膜変性が鮮明化できた.その他にもマイボグラフィー像,眼底自発蛍光画像も鮮明化でき,医師全員が臨床的に有用と判定した.結論:画像鮮明化処理ソフトウェアは眼科のさまざまな画像に有用と考えられた.CPurpose:InCtheCclinicalCsetting,CnumerousCtypesCofCophthalmicCimagesCareCtakenCtoCdetectCandCfollowCupCabnormalC.ndings.CTheCpurposeCofCthisCstudyCwasCtoCinvestigateCtheCe.ectivenessCofsoftDEF(LogicC&CSystems,Kobe)adaptiveimagesoftwareinsharpeningthede.nitionofophthalmicimages.SubjectsandMethods:Ophthal-micimageswereobtainedofpatientsseenatKyotoPrefecturalUniversityofMedicine;normalphotographsandphotographssharpenedwithsoftDEFwerethenevaluatedandcomparedby10ophthalmologistsviadouble-blindclinicaltest.Results:softDEFsharpenedthede.nitionofabnormalbloodvessels,keraticprecipitatesandstainedsuper.cialCpunctateCkeratitisCinCtheCophthalmicCimages,CasCwellCasCtheCcontourCofCretinalCtears,CsubretinalChemor-rhageCandCretinalCpigmentosaCinCfundusCphotographs.CInCaddition,ClidCmeibographyCandCfundusCauto.uorescenceCbecameclearer;allCtheCophthalmologistsCjudgedCtheCsoftwareCtoCbeCuseful.CConclusions:ImageCsharpeningCsoft-wareisusefulforvarioustypesofphotographsinthe.eldofophthalmology.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(4):559.565,C2019〕Keywords:画像鮮明化処理ソフトウェア,眼科,画像.adaptiveimagesharpeningsoftware,ophthalmology,im-age.Cはじめに眼科では,細隙灯顕微鏡(スリット)や眼底カメラなどさまざまな光学機器を駆使し,眼球および眼付属器を観察することで診察を行う.そのため,前眼部細隙灯顕微鏡(スリット),フルオレセイン染色,前眼部光干渉断層計,網膜光干渉断層計,造影眼底カメラなどで撮影されたさまざまな種類の画像を取り扱う.そして,日常の診察では画像を注意深く観察することで異常所見を検出したり,診察で読影された異常所見の経時変化をファイリングしたりする.画像鮮明化処理ソフトウェアとは,デジタルもしくは,アナログをデジタル変換した画像から,オリジナリティ(独自性)は保持した状態で画像に独自な処理を行うことで,目的の所見を強調する技術である.具体的には,霧がかかった悪い天候における霧の除去,暗所での監視カメラ映像の鮮明化のほか逆光や半逆光により相対的に暗くなった画像の変換などに利用され,画像鮮明化処理は,さまざまな領域で応用さ〔別刷請求先〕福岡秀記:〒602-8566京都府京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科Reprintrequests:HidekiFukuoka,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465,Kajiicho,Hirokoji-agaru,Kawaramachidori,Kyoto602-8566,JAPANCabcd図1今回用いたソフトウェアの説明a:低コントラスト画像のヒストグラム.ある一定の領域にシグナルが集簇しており,急峻な山なりの形状であることがわかる.Cb:ヒストグラム平坦化後のヒストグラム.Cc:ソフトウェアでの処理画像.上方が処理後の画像,下方が画像鮮明化処理前の画像である.処理前には画像の右側は低コントラストとなっているが,処理後はコントラストの改善がみられる.Cd:ソフトウェアの各パラメータの設定パレット.パラメータのスライダーを調整するとリアルタイムで処理結果ウインドウの画像が変化する.れている.今回筆者らは,眼科領域のさまざまな画像に対し画像鮮明化処理を行い,従来の画像と比較し,処理後の画像がどのように鮮明化し有用であるかについて検討を行った.CI対象および方法京都府立医科大学眼科外来を受診し,ファイリングのために眼科画像を取得された症例の写真を解析対象とした.前眼部写真としては,スリット眼科撮影装置CTL54(TOPCON)およびマイボグラフィー装置CDC4(TOPCON)を用いて撮影されたものを,後眼部写真としては,超広角走査型レーザー検眼鏡CDaytona(Optos),F-10TM(NIDEK社,蒲郡),眼底光干渉断層撮影CRS3000(NIDEK社)を用いて撮影された眼底画像を用いた.今回,不鮮明な画像を鮮明化する画像鮮明化処理ソフトウェアとして,鮮明化処理アルゴリズム(AdaptiveCDetailCEnhancementFilter:ADEF)(PN:patentCnumber.4386C959,PN.6126054)を利用しているCSoftDEF(ロジックアンドシステムズ)を使用した.以下にこの画像鮮明化処理ソフトウェアで用いている方法の原理と処理手順,性能について説明する.ここにいう不鮮明な画像とは,コントラストの低い領域(暗い,もしくは濃度差が著しく小さい)に観察対象が存在する画像であり,不鮮明な画像であってもフォーカスのずれやブレが要因となった画像は対象ではない(撮影時の物理的な要因は対象外).すなわち,画像の鮮明化とは,低コントラスト画像の画像処理といえるが,コントラストの低い画像は一般にヒストグラムが偏る傾向にある.ヒストグラムとは画素の明度分布図のことで,横軸に明度,縦軸に面積(特定明度の画素数)で表される.ヒストグラムに偏りがある画像はヒストグラムの平坦化(histogramCequalization)1)という技術を用いてコントラストを回復させる.ヒストグラムの平坦化とは,たとえば,原画像の明度がC8ビットで表現され,原画像の総画素数をCTとすると,0.255のすべての明度の頻度がCT/256になるように変換する処理のことをいう.図1aが低コントラスト画像のヒストグラム,図1bがヒストグラム平坦化後のヒストグラムである.従来の低コントラスト画像のヒストグラムの平坦化には二つの問題点があった.すなわち,1)コントラストが高い領域にコントラストが低い領域が混在し,ヒストグラムの点からみると偏りが少ない画像の場合はコントラストを高めたい領域が十分にコントラストを回復できないという問題(コントラストの高低混在画像の問題),2)ダイナミックレンジの低い画像(非常に暗い領域や輝度差が小さく淡い領域)の場合,コントラストを広げ過ぎるとざらついたノイジーな画像になってしまうというコントラスト過多の問題である.以上のような従来からの克服課題であったコントラストの高低混在という画像の問題は,適応的ヒストグラム平坦化(adaptiveChistogramequalization:AHE)2)として知られる画像を細かく分割し狭い範囲で個別にヒストグラム平坦化を実行した後に合成することで解決可能となった.また,コントラスト過多の問題はCCLAHE(ContrastCLimitedCAdaptiveHistogramCEqualization)として知られるCLUTを生成する際に一定以上の大きな変化を制限することで軽減可能となった.一方,以上のような処理は膨大な反復演算のために非常に大きなメモリやアクセスを要するが,ADEFにより軽量かつ高速で実行可能となった.ADEFによる画像処理の手順は以下のとおりである.C①テスクトップ上に変換したい画像を表示する.ADEF処理を行うソフトウエア(SoftDEF)を起動し,処理結果ウインドウをドラッグして処理結果ウインドウに変換したい画像を入れる(図1c).②SoftDEFメインウインドウで各パラメータを調整する(図1d).③パラメータを確定させ,目的の画像ファイルをCSoftDEFメインウインドウ上にドラッグ&ドロップすると,出力ファイルの指定ウインドウが開くため,出力パス,ファイル名およびファイルフォーマットを指定して処理画像ファイルを出力する.特徴としてファイルフォーマットには“JPEG”,C“PNG”,“TIFF”,“BMP”が利用できる.“PNG”と“TIFF”フォーマットではC16ビットフォーマットに対応しているため,DICOMを変換したハイビット画像も変換可能である.処理速度はコンピュータのCCPUやCGPUの能力に左右されるが,最新の機種を利用するとCADEFはフルハイビジョンをC30枚/秒以上で処理が可能となり,動画をリアルタイムで処理する能力を有することになる.今回のソフトウェアにより鮮明化した画像が臨床的に有用であるかに関して,当院のC10人の眼科医に,画像鮮明化処理ソフトウェアによる処理前,処理後の写真を,盲検法にて提示し,①どちらが鮮明か否か,および,②臨床的に所見が明確か否かについての判定を得た.なお当研究は,京都府立医科大学の倫理委員会の承認のもと行われた.CII結果画像鮮明化処理ソフトウェアによる処理を前眼部細隙灯顕微鏡(スリット)写真に対して行った.ディフューザー法で撮影された画像では角結膜にある血管や睫毛が強調され,鮮明化した画像が得られた.図2aにあるような結膜の角膜への侵入例では結膜血管の起始部から末端までの血管走行を追うことが可能であった.また,図2bは翼状片に結膜腫瘍を合併した症例であるが,画像鮮明化処理ソフトウェアにより,一見見逃しやすい腫瘍に特徴的な血管異常を強調することができた.図2cのフルオレセインの画像では,点状表層角膜症が判然としないが,処理により角膜中央部におけるその存在が明瞭に描出された.このように背景の暗い画像に存在する所見を鮮明化することが,今回の方法で可能であった.一方,図2dにおける逆光のような強膜散乱撮影写真では,処理前には角膜下方C1/3の部分の限局した範囲にしかみられなかった角膜後面沈着物が,処理後にはより広範囲かつより数多く観察された.また,図2eはスクレラルスキャッタリング法による画像であるが,逆光画像のように暗く認識がむずかしい虹彩が,処理後には虹彩紋様が認識できるほどに鮮明化された.つぎに,眼底画像に対して処理を行った.図3aでは病変が周辺部にあり,かつ淡い硝子体出血により不鮮明な画像であったが,処理後には網膜周辺の巨大裂孔の形状,網膜.離の範囲がより明確となった.図3bでは網膜下血腫は色調が暗くその範囲がオリジナルの画像では判別がむずかしいが,処理後は明瞭化,判別が容易となった.また,網膜にある点状病巣がとくに強調され,観察が容易になった.さらに,図3cのように,網膜血管の白線化や骨小体など範囲や色調が暗い画像が,処理後には網膜周辺部まで追える画像となった.図3dの眼底自発蛍光画像では,オリジナル画像では通常白味がかっており病変がわかりにくいが,処理後には白い霧のような領域は大部分除去され,自発蛍光の強弱が認識しやすくなった.図3eの眼底光干渉断層計画像では,全体的に輝度が上がり黄斑浮腫の範囲や場所が明確になった.その他の眼科の特殊な画像についても処理を行った.図4aに示すように直接法によるマイボグラフィー像では,オリジナルは白黒のはっきりしない画像であるが,処理後は,コントラストが強調されマイボーム腺の観察が容易となった.図4bはチューブシャントおよび強膜パッチ後の水疱性角膜症の画像であるが,処理後は結膜血管が強調されるとともに角膜上皮浮腫がとくに強調された.また,図4cに示すように結膜下の強膜の境界が鮮明化し,その範囲の認識が容易になった.以上すべての画像において処理後の画像の質の低下は認めなかった.すべての画像においてC10名中C10名(100%)の医師により,①画像は鮮明化したと判定され,同様に全医師により②臨床的な所見を取得しやすくなったと判定された.CIII考按画像鮮明化処理ソフトウェアは,現在,さまざまな製品が利用可能であり,各製品には,固有のアルゴリズムが内蔵され,さまざまな特長がある.このような画像鮮明化処理ソフトウェアの技術の向上が目覚ましく,撮影条件が悪く失敗した画像を修正できるだけでなく,降雪や濃霧などの悪天候での監視画像の処理や,暗所での監視画像の処理など,その有用性はさまざまな領域で認知されてきている.他科領域でも画像鮮明化が有用であったとの報告はあり3,4),眼科領域では,見えにくいものを強調するという意味で充血解析ソフト5),ブルーフリーフィルター6),赤外光マイボグラフィー7,8)などが開発されている.今回,前眼部写真,眼底カメラ画像から眼底自発蛍光画像までさまざまな眼科画像に対し画像鮮明化処理を行った.前眼部写真では,結膜においては結膜の血管が強調される画像が得られた.そのことから角結膜腫瘍など,血管の異常走行を伴う疾患に関して有用である可能性がある.角膜においては,正常では無血管で透明であるため強膜散乱法により撮影した角膜混濁,フルオレセインによる角膜の点状染色病変の鮮明化に有効であった.また,ぶどう膜炎,角膜移植後の拒絶反応やサイトメガロウイルス角膜内皮炎の角膜後面沈着物など,微細で見逃されやすいものも強調表示された.とく図2今回処理を行った眼科前眼部画像のオリジナル(1)と画像鮮明化処理ソフトウェアにより処理後の画像(2)の比較a:角膜移植後に移植片に結膜血管が侵入した症例.Cb:結膜腫瘍を合併した翼状片.Cc:点状表層角膜症のフルオレセイン染色像(ブルーフィルター使用).Cd:サイトメガロウイルス角膜内皮炎による角膜後面沈着物.Ce:真菌角膜感染症の強膜散乱法像.図3今回処理を行った眼科後眼部画像のオリジナル(1)と画像鮮明化処理ソフトウェアにより処理後の画像(2)の比較a:網膜.離裂孔(上方巨大裂孔および下方のC2箇所の網膜裂孔).Cb:加齢黄斑変に併発した網膜下出血.Cc:網膜色素変性.Cd:加齢黄斑変性の眼底自発蛍光像.Ce:黄斑浮腫の眼底光干渉断層計画像.図4今回処理を行った眼科の特殊画像のオリジナル(1)と画像鮮明化処理ソフトウェアにより処理を行った画像(2)の比較a:上眼瞼マイボグラフィー画像.Cb:前房内へのチューブシャント手術後の水疱性角膜症.Cc:チューブシャントと強膜パッチを行った症例.に,角膜後面沈着物については,強調されただけではなく,画像鮮明化により詳細な形状が観察可能となった.マイボーム腺は近赤外線を用いたマイボグラフィーで一般に導管や腺房の撮影が可能である.ライトガイドを用いたマイボーム腺撮影法は,コントラストや明るさが高く有用であるが,正面より近赤外光を当て,その反射を撮影する方法ではコントラストや感度が低いことが問題であった.しかし,画像鮮明化処理を行うと,ライトガイドを用いたマイボグラフィーと同様の高いコントラストの画像を得ることが可能であった.眼底カメラにおいては結膜部の処理結果と同様に網膜血管が強調された.なんらかの網膜病変や網膜血管が強調されたほか,角膜混濁や白内障によって不鮮明な眼底画像でも病変の描出が可能であった.とくに超広角走査型レーザー検眼鏡においては周辺部が暗くなることが多く,この画像鮮明化処理ソフトウェアにより自然な状態で鮮明化されたことは非常に興味深い結果であった.スペキュラーマイクロスコープ(角膜内皮細胞撮影装置)や生体レーザー共焦点顕微鏡などの画像においても画像鮮明化処理が可能であった(データ未掲載).コントラストなどが高い画像取得は可能であったが,オリジナルの画像でまったく診断不可能な病変が処理後に診断可能になることはなかった.今回の検討で多くの眼科画像の画像鮮明化処理を行い,有用な画像が得られた.筆者らが今回行った処理方法はパソコン内に画像鮮明化処理ソフトウェアをインストールしたうえでのソフトウェアでの処理である.この方法ではさまざまな装置からのさまざまな種類のデジタル画像を安価な値段で処理できるというメリットがあるもののさまざまな装置からのデータ抽出と移行などによるデータ流出などの安全性の問題,撮影時にリアルタイムでみられないという問題などが残る.しかし,より高度なCCPUやCGPUが搭載されたコンピュータを利用すれば,フルハイビジョンをC1秒あたりC30枚以上処理でき,ほぼリアルタイムで処理できるレベルにあるほか,ハードウェアでの画像鮮明化も可能とされる.リアルタイムな画像処理では,その速度もソフトウェアと比較し非常に速い.今後の方向性を考えると,さまざまな眼科機器への応用のほか,眼科手術顕微鏡への応用により,より低侵襲で安全な手術が可能になるかもしれない.今回,眼科画像を画像鮮明化処理ソフトウェアで処理することで今まで見えなかった,もしくは見えにくかった画像が鮮明になった.ただ,画像鮮明化処理ソフトウェアにより病変所見をマスクしてしまう可能性,病変でない所見を病変と認識させてしまう可能性は否定できない.今後さらなる機器やソフトウェアの進歩が予想されるので,その眼科への応用に期待したい.本研究は科研費C16K11269の助成を受けて行われた.文献1)HumYC,LaiKW,SalimM;MohamadSalimetal:Multi-objectivesCbihistogramCequalizationCforCimageCcontrastCenhancement.ComplexityC20:22-36,C20142)PizerCSM,CAmburnCEP,CAustinCJDCetal:AdaptiveChisto-gramCequalizationCandCitsCvariations.CComputerCVision,CGraphics,andImageProcessingC39:355-368,C19873)児玉陸,湊泉,堀米洋二ほか:人工股関節の設置位置評価の精度検証.HipJoint41:403-406,C20154)MatsuoCS,CMorishitaCJ,CKatafuchiCTCetal:ComparisonCofCedgeenhancementsbyphasecontrastimagingandpost-processingCwithCunsharpCmaskingCorCLaplacianC.ltering.CMedicalCImagingCandCInformationCSciencesC33:87-95,C20165)福島敦樹:結膜充血の定量的評価(解説/特集).アレルギー・免疫(1344-6932)C22:666-672,6)KohS,WatanabeH,HosohataJetal:DiagnosingdryeyeusingCaCblue-freeCbarrierC.lter.CAmCJCOphthalmolC136:C513-519,C20037)AritaCR,CItohCK,CInoueCKCetal:NoncontactCinfraredCmei-bographytodocumentage-relatedchangesofthemeibo-mianglandsinanormalpopulation.OphthalmologyC115:C911-915,C20088)AritaR,ItohK,MaedaSetal:Anewlydevelopednonin-vasiveandmobilepen-shapedmeibographysystem.Cor-neaC32:242-247,C2013***

学校現場における重傷眼外傷

2019年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(4):553.558,2019c学校現場における重傷眼外傷戸塚伸吉*1,2恩田秀寿*2*1とつか眼科*2昭和大学医学部眼科学教室CSevereEyeInjuriesatSchoolNobuyoshiTotsuka1,2)CandHidetoshiOnda2)1)TotsukaEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,ShowaUniversity,SchoolofMedecineC平成C24年度からC26年度までのC3年間に,日本スポーツ振興センターに報告があり,障害見舞金を支給された東海北陸C7県(愛知,岐阜,三重,石川,富山,福井,静岡)の学校現場における眼外傷症例全C40例を報告した.原因をスポーツとそれ以外の事故に分けると,小学生がスポーツC2例,事故C5例の計C7例,中学生がスポーツC13例,事故2例のC15例,高校生がスポーツC14例,事故C4例のC18例であった.スポーツ眼障害は中高生に多く,中高生の学校内の重傷眼外傷の原因は大部分がスポーツであることがわかった.スポーツの種類別では,ソフトボールを含む野球(18例),フットサルを含むサッカー(9例),その他の順に多かったが,野球でより重症であった.小学生にはしつけや指導・観察と危険作業時の保護眼鏡,中高生はスポーツ眼鏡をすることで,大部分の眼外傷を予防できると考えた.CWeCinvestigatedC40CcasesCofCsevereCeyeCtraumaCatCschoolsCofCsevenCTokaiCHokurikuprefectures(Aichi,CGifu,CMie,Ishikawa,Toyama,FukuiandShizuoka)for3years(2012to2014)thatreceivedexgratiapaymentfromtheJapanCSportCCouncil.CThereCwereC7CcasesCinCtheCelementaryCschools,CwhereCtheCsportsCactivity/accidentCratioCwas5:2;15casesinthejuniorhighschools(ratio13:2)and18casesinthehighschools(14:4)C.Bytypeofsport,baseball(18cases)andfootball(9cases)rankedC.rstCandCsecond.CMoreCsevereCcasesCwereCfoundCinCbaseballCthanCinfootball.Wethinkitisimportanttoeducatestudentsastobehaviorandtheuseofsafetyglasseswhenengag-ingCinCdangerousCactivitiesCinCelementaryCschools,CasCwellCasCtoCinstructCstudentsCtoCwearCsportsCglassesCinCbothCjuniorhighandhighschools,topreventeyeinjuries.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(4):553.558,C2019〕Keywords:眼のけが,眼外傷,予防,スポーツ,スポーツ眼鏡,学校,学校管理.eyeinjury,oculartrauma,prevention,sports,sportsglasses,school,schoolmanagement.Cはじめに学校現場における眼外傷については,スポーツを原因とする報告が多くあるのに対し,学校内の眼外傷をまとめた報告は少ない1.3).その原因と重症度から対策について言及した報告は筆者らの調べた限りなかった.今回,東海北陸C7県という限られた地域ではあるが,過去C3年間の学校現場における眼外傷のC40例について調査し,いくつかの知見が得られたので報告する.CI対象および方法平成C24年度からC26年度までのC3年間に,日本スポーツ振興センターに報告があり,障害見舞金を支給された東海北陸C7県(愛知,岐阜,三重,石川,富山,福井,静岡)の学校現場における眼外傷症例全C40例である.これらの事例は,日本国内の小学校から高等学校までに在籍した生徒に起きた眼外傷事例の一部(47都道府県のうちのC7県)である.スポーツ振興センターでは,障害見舞金支給規定としての重症度分類があり(表1),その規定に該当しなければ見舞金は支給されない.したがって今回のC40例は,後遺障害が残る比較的重傷の眼障害といえる.このC40例について,スポーツ振興センターが公開している統計データをもとに,同センターへ再調査を依頼し詳細をレトロスペクティブに検討した.原〔別刷請求先〕戸塚伸吉:〒457-0808名古屋市南区松下町C1-1とつか眼科Reprintrequests:NobuyoshiTotsuka,M.D.,Ph.D.,TotsukaEyeClinic,1-1,Matsushita-cho,Minami-ku,Nagoya,457-0808,CJAPANC表1障害等級表(眼障害のみ)等級金額第1級37,700,000円(C18,850,000円)両眼が失明したもの第2級33,600,000円(C16,800,000円)一眼が失明し,他眼の視力がC0.02以下になったもの両眼の視力がC0.02以下になったもの第3級29,300,000円(C14,650,000円)一眼が失明し,他眼の視力がC0.06以下になったもの第4級20,400,000円(C10,200,000円)両眼の視力がC0.06以下になったもの第5級17,000,000円(C8,500,000円)一眼が失明し,他眼の視力がC0.1以下になったもの第6級14,100,000円(C7,050,000円)両眼の視力がC0.1以下になったもの第7級11,900,000円(C5,950,000円)一眼が失明し,他眼の視力がC0.6以下になったもの第8級6,900,000円(C3,450,000円)一眼が失明し,又は一眼の視力がC0.02以下になったもの第9級5,500,000円(C2,750,000円)両眼の視力がC0.6以下になったもの一眼の視力がC0.06以下になったもの両眼に半盲症,視野狭窄又は視野変状を残すもの両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの第10級4,000,000円(C2,000,000円)一眼の視力がC0.1以下になったもの正面視で複視を残すもの第11級2,900,000円(C1,450,000円)両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの一眼のまぶたに著しい欠損を残すもの第12級2,100,000円(C1,050,000円)一眼の眼球に著しい調節機能障害または運動障害を残すもの一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの第13級1,400,000円(C700,000円)一眼の視力がC0.6以下になったもの一眼に半盲症,視野狭窄または視野変状を残すもの正面視以外で複視を残すもの両眼のまぶたの一部に欠損を残し,又はまつげはげを残すもの第14級820,000円(C410,000円)一眼のまぶたの一部に欠損を残し,又はまつげはげを残すもの・()内の金額は通学中およびこれに準ずる場合の障害見舞金額を示す.・一眼の瞳孔異常があり羞明が著しいような場合や中心視野に障害がある場合にはC14級を準用する,などの運用詳細があるがここでは省略する.・日本スポーツ振興センターのホームページ「学校安全Cweb」の中の障害等級表Chttps://www.jpnsport.go.jp/anzen/saigai/seido/tabid/790/Default.aspxより,眼障害のみを抜粋した.因と発生した疾患と重症度,対策について考察した.CII結果外傷の原因,外傷の種類もしくは疾病名,重症度等級,学年を一覧表にした(表2).重症度等級はスポーツ振興センターが公表している等級分類に従った(表1).24年度は20例(症例番号1.20),25年度はC9例(症例番号C21.29),26年度はC11例(症例番号C30.40)と年間C15例前後の報告があった.このC3年間のスポーツ振興センター加入者(小学校,中学校,高校の順に,3,009,015人,1,592,485人,1,557,224人)で発症率を計算すると,約C0.0002%,0.0009%,0.0012%となり,学校内での重傷眼外傷発生率は,小学生ではC50万人に約C1人,中学校,高校ではC10万人に約C1人程度となる.原因をスポーツとそれ以外の事故に分けると小学生がスポーツC2例,事故C5例の計C7例,中学生がスポーツC13例,事故C2例のC15例,高校生がスポーツC14例,事故C4例のC18例となっていた(表2).スポーツ眼外傷C29例のみに注目すると,小学生がC2例,中学生C13例,高校生C14例であり,中高生に多かった.中高生の学校内の重傷眼障害の原因は大部分(中学生が約C87%,高校生が約C78%)がスポーツであることがわかった.スポーツの種類別では,ソフトボールを含む野球(18例),表2全症例の被災年齢,性別,障害等級,傷病名と原因年度CNo.被災年齢性別障害等級主傷病名原因中2男C14外傷性黄斑円孔野球(含軟式)高2男C13硝子体出血,外傷性黄斑円孔サッカー・フットサル高2男C14網膜硝子体出血サッカー・フットサル高1男C8眼球破裂,眼窩骨折野球(含軟式)高2男C8外傷性視神経損傷野球(含軟式)中2男C13眼窩底骨折サッカー・フットサル中3男C13眼窩底骨折,裂孔原性網膜.離テニス(含ソフトテニス)中2男C14切迫黄斑円孔,網膜出血野球(含軟式)24平成年度中1男C14網膜.離サッカー・フットサル中2男C10前房出血,網膜前出血野球(含軟式)小4男C14視野異常サッカー・フットサル中2女C13網膜硝子体出血ソフトボール中2男C14視野異常ソフトボール高3男C12外傷性散瞳,前房出血,硝子体出血ペットボトルロケットによる眼打撲小6男C8外傷性視神経萎縮,外斜視,下斜視転倒時の持ち物による眼打撲高3男C7外傷性視神経症,顔面多発骨折,難聴,その他4Fからの転落,顔面打撲小2男C13眼窩下壁骨折他の児童との衝突中1男C12角膜穿孔,外傷性白内障じゃれあって友のシャーペンで打撲小6男C12角膜穿孔,外傷性白内障工作時の針金で受傷小5男C14網膜振盪症サッカーボールの打撲中2男C14前房出血,硝子体出血,麻痺性散瞳野球(含軟式)高1男C10外傷性視神経症,外傷性脈絡腱断裂野球(含軟式)高2男C14脈絡膜破裂,外傷性散瞳野球(含軟式)25平成年度高2男C8外傷性横斑円孔および網膜裂孔,外傷性網膜打撲壊死サッカー・フットサル高2男C8外傷性視神経症,眼窩骨折野球(含軟式)中2女C11角膜混濁(角膜裂傷),偽水晶体眼グラウンド整備高3男C13硝子体出血,網膜振盪症サッカー・フットサル小6男C12強膜穿孔,外傷性白内障図画工作中,針金が右眼に刺入小5男C13眼窩底骨折他の児童との衝突高1男C12外傷性散瞳ソフトボール高2女C13外傷性脈絡膜断裂,眼窩内側壁骨折ソフトボール高1女C11外傷性白内障バドミントン高2女C14脈絡膜断裂による網脈絡膜萎縮サッカー・フットサル平成年度26中2男C12網膜.離,硝子体出血,外傷性白内障野球(含軟式)中2男C13隅角後退野球(含軟式)中2女C14外傷性散瞳ソフトボール中2男C13外傷性黄斑円孔野球(含軟式)高2男C8黄斑変性症野球(含軟式)高2男C10左外傷視神経症自転車による自損事故高3男C12眼球破裂,外傷性白内障→眼内レンズ挿入眼技術家庭時,アクリル板加工中の事故(主傷病名は保存された記録用紙に基づく)表3学校別の重傷眼外傷原因分類(人数)眼外傷原因スポーツ事故発生なし合計小学校C2C5C3,009,008C3,009,015中学校C13C2C1,592,470C1,592,485高校C14C4C1,557,206C1,557,224原因別の発症率について,小学校と中学校,小学校と高校には,それぞれCc2検定(Fisherの直接確率検定)で,p=0.000,p=0.000と,どちらも有意な差がある.中学校と高校には有意差は認められない(p=0.720).フットサルを含むサッカー(9例)の順に多く,テニス・バドミントンが各C1例,発生していた.一方,小学生では,スポーツより事故例のほうが多く,これに基づく対策を急ぐ必要があるとわかった.CIII考按小学生から高校生までの学校での外傷を統計的に考察してみる.日本スポーツ振興センターの報告では,眼の外傷だけを数えてみると,小学校でC9.4%,中学校でC6.6%,高校で4.2%と低下していき,全身の外傷に占める割合は高くない4).一方で後遺障害となる外傷のC20%以上が眼の外傷である.今回の症例でも,同時期のC3年間に同センターに報告され障害見舞金を支給された全身の外傷と対比する(眼の外傷/全身の外傷)と,年度別に,48.8%(20/41),25.7%(9/35),16.9%(11/65)であり,合計するとC28.4%(40/141)が,全体のなかの眼の外傷ということになる.眼障害は全身の外傷に占める割合はC10%以下であり,学年が高くなるにつれ頻度は低くなるが,ひとたび発生すると重症化しやすく,後遺障害を残す学校での外傷のうちC4例にC1例以上が眼障害で,歯牙疾患についで多い障害といえる.小学生の眼外傷原因では,スポーツC2例に対してスポーツ以外の事故C5例であった.事故の原因としては衝突C2例と転倒時の持ち物での受傷がC1例であった.これらは,成長発達に従って起こりにくくなる原因と思われる.未熟性から起こる小児の眼外傷へ親の監視や環境面での予防を訴える,18歳以下の眼外傷C353例をまとめた報告5)にも述べられているとおり,集団のなかでの行動に関するしつけや指導者の監視が必要である.残るC2例に工作中の外傷があり,高校生にも1例あった.工作中の針金など鋭利なものを扱う場合や危険な作業を伴う実験などの授業では,やはり注意が必要と思われる.中学校から高校までの重症眼外傷の多くは,スポーツによるものであり,小学校よりも部活動が盛んになり,運動そのものの強度が強くなるために,重症眼外傷が多くなると考えられる.学校別にスポーツとそれ以外の事故による原因に分けた表を発症率で統計処理すれば,中学校や高校に比し小学校では有意にスポーツ以外の事故によるものが多い(表3).小学生と中高生の眼外傷対策は分けて考える必要があると思われた.端的には小学生にはしつけや指導・観察と作業時の保護眼鏡,中高生にはスポーツ眼鏡の装用が必要であると思うが,山形県の学校眼外傷を論じた菅野ら6)の報告にも同様の示唆を読み取れる.スポーツ眼外傷C29例の内訳は,小学生C2例,中学生C13例,高校生C14例であり,中高生に多く,男性C23例,女性C6例と圧倒的に男子に多い.このC29例の重症度を考えると,8級(片眼障害の最重症等級)からC14級(片眼障害の最軽傷等級)までとなっていて,両眼の障害(1.7級)はなかった.スポーツ種類別では野球がC18例,サッカーがC8例で,他の競技に比し圧倒的に多かった.学校内のスポーツ眼外傷の多くは野球とサッカーであることは,過去の報告と同様であり7),競技人口の変遷からサッカーによるものが増加してきていることは実感できる.日本スポーツ振興センターへ報告があった眼外傷すべての原因のスポーツの種類分けをすると,球技が圧倒的に多く,軟式野球やソフトボールを含めた野球がC1位で,サッカーがC2位,つぎにバスケットボールが続く.中学生になるとテニスが,高校になるとバドミントンが加わってくる4).今回のC29例でも原因もまさにその内訳どおりのスポーツが原因であった.過去の報告ともおおむね一致する1,8,9).この原因比率は競技人口に左右されると考えられ,競技人口比で換算した外傷の起こる割合はゴルフをC1としてラグビーは約C13,サッカーは約C10,野球は約C5という報告がある10)が,小学生から高校生までの眼外傷では,野球とサッカーがC2大スポーツであることは間違いない.正確な競技人口数は,児童・生徒であっても知りえず,競技人口あたりの正確な発症率を求めるには競技人口の統計が公表されることに期待したい.網膜.離や脈絡膜破裂や黄斑疾患などを眼底疾患としてひとくくりにすると,原因疾患としては多い順に眼底疾患C21例,眼窩骨折C7例,外傷性白内障C7例,外傷性視神経症C6例,外傷性散瞳C5例,眼球破裂・強膜角膜裂傷がC3例,角膜混濁がC1例となった(重複C10例).外傷性視神経症(7級,8級,8級,8級,10級,10級)と,眼球破裂・強膜角膜裂傷(8級,11級,12級)に比較的視力予後不良の重症例が多く,同様の報告もある11.14).眼窩骨折や外傷性散瞳では軽症例が多く,眼底疾患は中心窩への影響による視力障害が主原因のため重症例,軽症例が混在していた.外傷性視神経症のC6例のうち転倒や転落のC3例以外では,いずれも野球が原因であった.この調査では軟式,硬式の区別がつかないが,その3例は高校生であることからおそらくは硬式ボールと推測され,とくに硬式野球では重症の眼外傷が起こりやすいと考えられる.木村13)はサッカーによる黄斑円孔の発症率が高く重症としたが,近年は観血治療技術の向上から後遺障害の程度が低くなっていると推測される.平成C4年までのC5年間の日本体育・学校センター(現在の日本スポーツ振興センター)から障害共済給付金を受けた眼外傷症例C938名の報告をした長谷川ら3)によれば,8級(356例)が最多であり,野球とサッカーとでは重症度に違いがないとした.その報告より20年経過した現在,サッカーによる黄斑円孔症例やその他の疾患も含めた早期診断や治療技術の向上により,今回の報告での全体の軽症化(等級数の低下)や野球に重症例が多い結果を説明できると考える.個々の症例については,日本スポーツ振興センターの報告に基づくものであり,発症機序の詳細は眼鏡装用も含めて不明であった.スポーツ眼外傷予防として,眼鏡ガラスよりコンタクトレンズを勧める報告もまれにあるが15),スポーツ眼外傷のC90%は,スポーツ眼鏡などの保護眼鏡で防ぐことが可能と考えられているため7,16),成人のみならず,学生スポーツとくに球技ではスポーツ眼鏡が導入されるべき1,17,18)であると考える.スポーツの指導やルール改正により防ぐ方法もある12,19)と思われるが,別に譲る.屈折異常を有する場合には,視機能が不良で運動能力が向上するとは考えにくいという観点から,大前提として適切な屈折矯正は必要である.もちろん眼鏡レンズによる眼外傷の報告20)があるため,ガラスより強いとされたCCRC.39とよばれる古いタイプのプラスチックレンズでは,眼外傷への保護効果は限定的と考えるべきである.島崎10)は,これに関して,眼鏡をしていると眼瞼裂傷や穿孔性眼外傷が起こりやすく,眼窩骨折や外傷性散瞳は起こりにくいと報告した.保護眼鏡の素材については米国規格やヨーロッパ規格などの耐衝撃実験を考慮して21),現時点ではポリカーボネートにすべきである.わが国でもプラスチックレンズの耐久性について実験した報告があり22),ポリカーボネートには及ばないが,プラスチックレンズでも耐衝撃性コートを施せばかなり強くなるとしている.レンズの破損がなければ,穿孔性眼外傷や眼瞼裂傷を含めた眼外傷は,眼鏡装用で防げる可能性が高い.保護眼鏡はとくに,眼外傷が重症化しやすい硬式野球では必須と考える.海外では,16歳以下の開放性眼外傷C893眼のまとめ23),前出のCBuC.anら5),16歳以下のC220例の眼外傷をまとめたもの24)などがあるが,学校保健がわが国ほど発達していないためか,種々雑多の原因があり,それぞれの原因論からの対策を論じてはいない.眼鏡装用により周辺視野が狭くなるとの考えから,眼鏡を装用していることで自転車事故が多くなるとの報告があり25),その根拠に眼鏡枠で確実に視野が障害されること26)と有効視野の障害で自動車事故が増加するとの報告をあげている27).しかし,視野のC50.60°以内は障害されていないこと,有効視野には年齢の要素も関係するため,高齢者でなく,適切な眼鏡と適切な装用状態であれば運動能力への影響は限定的と考えた.ただし,周辺視野に影響する可能性があるレンズひずみの問題や,眼鏡装用による精神的な影響の観点から,眼鏡装用が及ぼす運動能力への影響については,さらに検討を要する.工作などの危険な作業や実験を行うときにも,保護眼鏡を装用することが望まれるが,今回の調査比率から,とくに小学校の工作では保護眼鏡の装用を義務付ける必要があると考える.ただし,耐久性の面ではスポーツ眼鏡に推奨されるほどの強度は必要ないと考える.針金を使用する工作ではCCR-39などのガラスやプラスチックレンズでもよく,爆発もありうる実験では,スポーツ眼鏡と同程度にする必要があるかもしれない.作業内容に応じた保護眼鏡の基準が作られるべきと考える.謝辞:ご協力いただきました独立行政法人日本スポーツ振興センター名古屋支所の皆様に感謝いたします.文献1)宇津見義一:学校での眼外傷とスポーツ用眼鏡.あたらしい眼科30:1101-1107,C20132)長田健二,渋谷勇三,古瀬萠ほか:島根県内C5市の小中学校での校内発生眼外傷の現状.島根医学C26:251-256,C20063)長谷川二三代,川西香,石田俊雄ほか:学校における眼外傷の後遺症について.眼臨C91:638-641,C19974)独立行政法人日本スポーツ振興センター:学校の管理下の災害〔平成C27年版〕.p151-205,C20155)BuC.anK,MatasA,LovricJMetal:Epidemiologyofocu-larCtraumaCinCchildrenCrequiringChospitaladmission:aC16-yearretrospectivecohortstudy.JGlobHealthC7:1-7,C20176)菅野馨,中村洋一:山形県における学校眼外傷の実態.眼臨C89:66-70,C19957)枝川宏:スポーツによる眼外傷.あたらしい眼科C14:C325-334,C19978)枝川宏:スポーツ眼外傷.日臨スポーツ医会誌C20:209-211,C20129)湯川英一,丸岡真治,原嘉昭ほか:天理市立病院における小児スポーツ眼外傷の発生状況.JournalCofCNaraCMedi-calAssociationC58:11-15,C200710)島崎潤:慶大眼科におけるスポーツ眼外傷の統計的観察.眼科C26:1413-1419,C198411)岩田充弘,北村昌弥,浅野徹ほか:スポーツと眼外傷.日職災医誌C49:509-513,C200112)大島剛,黒坂大次郎,田中靖彦ほか:学校スポーツにおける重篤な眼外傷についての検討.眼紀49:539-545,C199813)木村肇二郎:小児のスポーツ眼外傷.あたらしい眼科C8:C1551-1555,C199114)木村肇二郎:学校スポーツにおける眼外傷の重症例についての検討.日災医会誌C37:693-698,C198915)木下雅夫,荻原博実,稲富誠:スポーツによる眼外傷.日災医会誌C29:887-890,C198116)LuongCM,CDangCV,CHansonC:TraumaticChyphemaCinCbadmintonplayers:Shouldeyeprotectionbemandatory?CanJOphthalmolC52:143-146,C201717)武田桜子:アスリートの眼外傷とその予防(特集スポーツ視覚研究の最前線).臨床スポーツ医学C32:1182-1187,C201518)AmericanCAcademyCofCPediatrics,CCommitteeConCSportsCMedicineandFitness,AmericanAcademyofOphthalmol-ogy,EyeHealthandPublicInformationTaskForce:Pro-tectiveCeyewearCforCyoungCathletes.COphthalmologyC111:C600-603,C200419)VingerPF:Sorts-related-eye-injury.CACpreventableCproblem.SurvOhthalmolC25:47-51,C198020)今村裕,黒坂大次郎,小口芳久ほか:スポーツ時のプラスチックレンズ(CR-39)の破損による穿孔性眼外傷のC2例.眼紀46:1011-1014,C199521)DainSJ:MaterialsCforCoccupationalCeyeCprotectors.CClinCExpOptomC95:129-139,C201222)有澤武士,黒坂大次郎,大島剛ほか:スポーツにおけるプラスチック製眼鏡レンズの安全性の検討:レンズの耐衝撃性実験.眼紀C50:525-529,C199923)BaturCM,CSevenCE,CAkaltunCMNCetal:EpidemiologyCofCopenglobeinjuryinchildren.JCraniofacSurgC28:1976-1981,C201724)SinghS,SharmaB,KumarKetal:Epidemiology,clinicalpro.leandfactors,predicting.nalvisualoutcomeofpedi-atricoculartraumainatertiaryeyecareofCentralIndia.IndianJOphthalmolC65:1192-1197,C201725)ZhangM,CongdonN,LiLetal:Myopia,spectaclewear,andriskofbicycleaccidentsamongruralChinesesecond-aryschoolstudents.ArchOphthalmolC127:776-783,C200926)SteelCSE,CMackieCSW,CWalshG:VisualC.eldCdefectsCdueCtoCspectacleframes:theirCpredictionCandCrelationshipCtoCUKCdrivingCstandards.COphthalmicCPhysiolCOptC16:95-100,C199627)BallK,OwsleyC,SloaneMEetal:Visualattentionprob-lemsCasCaCpredictorCofCvehicleCcrashesCinColderCdrivers.CInvestOphthalmolVisSciC34:3110-3123,C1993***

出産後に片眼性に漿液性網膜剝離を認めた全身性エリテマトーデスおよび抗リン脂質抗体症候群合併妊娠の1例

2019年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(4):548.552,2019c出産後に片眼性に漿液性網膜.離を認めた全身性エリテマトーデスおよび抗リン脂質抗体症候群合併妊娠の1例高辻樹理*1山田成明*1八田裕貴子*1藤永洋*2炭谷崇義*3舌野靖*3*1富山県立中央病院眼科*2富山県立中央病院内科和漢・リウマチ科*3富山県立中央病院産婦人科CACaseofUnilateralSerousRetinalDetachmentafterCesareanSectionwithSystemicLupusErythematosusandAntiphospholipidSyndromeJuriTakatsuji1)CNariakiYamada1)CYukikoHatta1)CHiroshiFujinaga2)CTakayoshiSumitani3)andYasushiShitano3),,,,1)DepartmentofOphthalmology,ToyamaPrefecturalCentralHospital,2)DepartmentofMedicine,DivisionofRheumatologyandEasternMedicine,ToyamaPrefecturalCentralHospital,3)DepartmentofObstetricsandGynecology,ToyamaPrefecturalCentralHospitalC全身性エリテマトーデス(systemicClupuserythematosus:SLE)に抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipidCsyn-drome:APS)を合併した患者で,妊娠高血圧症候群を発症し,帝王切開後に片眼の視力障害を生じ,漿液性網膜.離を認めたC1例を報告する.症例はC29歳の女性で,妊娠C5週時にCSLE,APS合併妊娠と診断され,SLEに対してステロイド,APSに対してアスピリン,ヘパリンを投与された.妊娠C31週で重症妊娠高血圧症候群による胎児機能不全を認め,緊急帝王切開を施行.出産翌日,右眼の視力障害を訴え,眼科を受診.眼底検査で漿液性網膜.離を認めた.出産後,徐々に漿液性網膜.離は自然軽快した.本症例において,出産後に認めた漿液性網膜.離は重症妊娠高血圧症候群が直接の原因と思われるが,SLE,APSが関与していたのではないかと思われた.CWeCreportCaC29-year-oldCfemaleCpatientCwithCcomplicationsCofsystemicClupusCerythematosus(SLE)andantiphospholipidCsyndrome(APS)whodevelopedCpregnancy-inducedChypertension(PIH)andChadCunilateralCblurredvisionandserousretinaldetachmentafterundergoingcesareansection.HavingbeendiagnosedwithSLEandAPSather.fthweekofpregnancy,shewasgivensteroidfortheSLE,andaspirinandheparinfortheAPS.AtCweekC31CofCpregnancy,Cnon-reassuringCfetalCstatusCdueCtoCsevereCPIHCoccurredCandCcesareanCsectionCwasCcar-riedouturgently.Thedayafterthebirth,shecomplainedofblurredvisionandwasdiagnosedwithserousretinaldetachmentviafundusexamination.Shegraduallyrecoveredfromthedetachment.Inthiscase,whilethepostnatalserousretinaldetachmentseemstohavebeenprimarilycausedbyseverePIH,SLEandAPSalsoseemtobepart-lycausative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(4):548.552,C2019〕Keywords:全身性エリテマトーデス(SLE),抗リン脂質抗体症候群(APS),妊娠高血圧症候群(PIH),漿液性網膜.離,ステロイド.systemiclupuserythematosus(SLE),antiphospholipidsyndrome(APS)C,pregnancy-inducedhypertension(PIH),serousretinaldetachment,corticosteroid.Cはじめに妊娠高血圧症候群の経過中に,まれに漿液性網膜.離を生じることがある.血小板減少やフィブリノーゲン低下などで微細な播種性血管内凝固症候群(disseminatedCintravascularcoagulation:DIC)が起き,脈絡膜循環障害を引き起こすことが原因と考えられている1).また,全身性エリテマトーデス(systemicClupusCerythematosus:SLE)にはさまざまな眼疾患を生じることがあるが,比較的まれに漿液性網膜.離を合併することがある2).今回筆者らは,SLEと抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipidCsyndrome:APS)を合併した患者で,重症妊娠高血圧症候群による胎児機能不全を認め,緊急帝王切開を施行後に急激な視力低下を自覚し,片眼性の〔別刷請求先〕高辻樹理:〒930-0975富山県富山市西長江C2-2-78富山県立中央病院眼科Reprintrequests:JuriTakatsuji,DepartmentofOphthalmology,ToyamaPrefecturalCentralHospital,2-2-78Nishinagae,Toyama-city,Toyama930-0975,JAPANC548(126)漿液性網膜.離を認めた症例を経験したので報告する.CI症例患者:29歳,女性.主訴:右眼視力低下.既往歴:28歳時死産(妊娠C17週).現病歴:201◯年C3月に妊婦検診で蛋白尿を指摘され,4月に死産となった.5月に顔面に紅斑が出現し,皮膚科にてステロイド外用薬を処方されたが改善せず,10月に当院皮膚科を受診.両頬部および耳介に蝶形紅斑様皮疹を認め,関節炎や微熱も伴っていた.抗核抗体C640倍を指摘され,当院和漢リウマチ科を紹介受診した.前医産婦人科で妊娠C5週と診断されていた.妊娠の継続を希望し,SLE,APS合併妊娠の診断で,入院のうえCSLEに対してプレドニゾロン図1初診時の右眼眼底写真およびOCT写真の十字はCOCTの切片を示している.30Cmg内服,APS合併妊娠に対してヘパリン投与,バイアスピリン内服加療を開始した.退院時には,ヘパリン自己注射を開始した.プレドニゾロンは,12月よりC20Cmg,2017年C1月よりC12Cmgと漸減となった.2017年C1月(妊娠C15週)より尿蛋白陽性となり,4月末(妊娠C31週)に血圧C135/79mmHg,尿蛋白C3+となり,胎盤に多発梗塞巣が出現した.胎児機能不全,羊水過少を認めた.5月初め(妊娠C32週),血圧C145/84CmmHg,著明な下腿浮腫,体重増加,胎動減少を認めたことから全身麻酔下での緊急帝王切開が施行された.出産翌日,起床時に右眼視力低下を自覚し当院眼科(以下,当科)を受診した.初診時所見:瞳孔不同なし,対光反射正常,相対性求心性瞳孔反応欠損(relativeCa.erentCpupillarydefect:RAPD)陰性,眼球運動正常,眼球運動痛なし.視力はCVD=0.02C左眼図2初診時の左眼眼底写真およびOCT写真の十字はCOCTの切片を示している.図3右眼のHFA上:出産後C7日目,下:出産後C78日目.(0.04C×sph.1.00D(cyl.1.00DAx180°),VS=0.07(0.8C×sph.2.50D(cyl.1.00DAx180°).前眼部に炎症所見なく,右眼後極部に円形の漿液性網膜.離を認めた.超音波CBモード,OCTでも右眼漿液性網膜.離が確認された(図1).左眼眼底には網膜.離は認めなかった.血液検査では,Hb8.4Cg/dl(12.16),血小板数C5.1万/μl(15.40万)と低下あり,BUN21mg/dl(8.20),Cre0.95mg/dl(0.7.1.3),CeGFR58と軽度の腎機能障害を認めた.C357Cmg/dl(80.図4出産後18日目の右眼眼底写真網膜色素上皮萎縮を.で示した.140),C44Cmg/dl(11.34)と補体低値を認めた.抗CDNA抗体はC5.6CIU/ml(0.6.0)と上昇はなかった.経過:当科初診後,同日に和漢リウマチ科より五苓散が処方され,産婦人科よりアルブミン投与開始された.出産前,プレドニゾロンC10Cmg内服下でCSLEの活動性は落ちついていたが,産褥期のCSLE増悪を予防する目的に,出産翌日よりプレドニゾロンC20Cmgに増量された.出産後C2日目,右眼漿液性網膜.離はやや改善傾向を認めた.出産後C3日目,網膜.離はさらに改善.出産後C4日目,右眼矯正視力はC0.4となり,網膜.離は前日より改善していた.原田病などの鑑別のためCHLA遺伝子型測定を行ったが,HLA-DR4,HLA-DRB1はいずれも陰性であった.出産後C6日目,自覚症状の悪化なく漿液性網膜.離は改善傾向だった.血圧は150/100CmmHg台と低下なく,降圧薬内服が開始された.出産後C7日目,Humphrey静的視野検査で右眼に上方および下方の障害を認め,漿液性網膜.離の影響が疑われた(図3)中心フリッカ検査では,右眼C20.24CHz,左眼C28.32CHzと左右とも低下を認めた.出産後C8日目,頭部CCTを施行したが,明らかな異常は認められなかった.降圧薬内服開始後,血圧はC130/80CmmHg台に低下し,出産後C14日目に産婦人科退院となった.出産後C18日目,右眼矯正視力C0.9,左眼矯正視力C1.5,中心フリッカ値は右眼C23.27CHz,左眼32.40CHz,両眼眼底周辺部に三角形状の網膜色素上皮萎縮巣を認め(図4),OCTでは右眼漿液性網膜.離は完全に消失していたが黄斑部網膜外層の菲薄化を認めた.色素上皮萎縮は漿液性網膜.離を生じた後極部から離れており,連続性は認められなかった.6月下旬(出産後C48日目),右眼矯正視力C1.0に改善.後極部の漿液性網膜.離は消失していた.7月下旬(出産後C78日目),右眼矯正視力C1.2,Humphrey静的視野検査での視野障害は両眼とも消失し,OCTで漿液性網膜.離の再発も認められなかった(図5).蛍光眼底造影検査を勧めたが,検査後一時的に授乳を中断しなければならないことを理由に検査を拒否された.その後通院を中断していたが,10月に和漢リウマチ科よりヒドロキシクロロキン内服投与開始され,11月当科再診.視力:VD=0.1(1.5C×sph.3.50D(cyl.0.75DCAx165°),VS=0.2(1.5C×sph.2.50D(cyl.1.00DAx5°),OCTで異常は認められなかった.現在,外来にて経過観察中である.CII考察妊娠高血圧症候群は,胎盤の形成障害や母体の血管内皮障害などの全身の血管性変化に起因するといわれている3).妊娠高血圧症候群の経過中に,妊娠高血圧性網膜症を呈することがある.妊娠高血圧性網膜症には,網膜動脈狭細化や網膜出血,白斑を呈する高血圧性網膜症と,脈絡膜循環障害による網膜色素上皮障害が原因とされる漿液性網膜.離があげられる.発症時期は,妊娠中,出産後数日などさまざまであるが,妊娠末期,あるいは分娩後の高血圧を呈している時期の発症が多い4).一般に出産後に自然寛解し,予後は良好である.妊娠高血圧症候群で漿液性網膜.離が起こる機序としては,血小板減少やフィブリノーゲン低下などで微細なCDICが起き,それが脈絡膜循環障害を引き起こし,脈絡膜に隣接する網膜色素上皮が障害され漿液性網膜.離が起こると考えられている1).宇都らは,妊娠高血圧症C74例を検討し,74例中C32例(43.2%)に眼底病変を認め,そのうち高血圧性網膜症に分類されたのはC23例(72%),漿液性網膜.離を認めたのはC9例(28%)であったと報告している5).また,眼底変化を認めたC32例のすべてが重症妊娠高血圧症候群であったとされており,妊娠高血圧症の重症度と眼底変化との関係を考えるうえで興味深い.また,SLEは女性に発症率が高く,妊娠高血圧症候群のハイリスクとされている.SLE合併妊娠における妊娠高血圧症候群の発生率は,23.3%との報告がある6).また,SLE患者において,免疫的負荷がかかる妊娠時図5出産後78日目の右眼眼底写真およびOCTに妊娠高血圧症候群を発症した場合は,分娩後に自己免疫異常が増悪するリスクが高く,長期予後も不良である可能性が示唆されている7).一方,妊娠や出産とは別に,比較的まれにCSLEの患者に漿液性網膜.離を生じることがある.多発性後極部網膜色素上皮症(multifocalposteriorCpigmentCepitheliopathy:MPPE)は,網膜色素上皮の障害により眼底後極部に多発性の漿液性網膜.離を生じる疾患である.MPPEがCSLEに合併する場合,発症機序としては,ループス腎炎に続発する高血圧や脈絡膜の血管炎により脈絡膜血管障害を起こし,網膜色素上皮の外血液網膜関門が破綻するとする考え8,9)と,腎障害や副腎皮質ホルモン,免疫複合物,抗網膜色素上皮抗体により網膜色素上皮自体に障害が起きるとする考え10,11)がある.SLEに合併したCMPPEについて,15例中C10例が両眼性で,10例に高血圧,9例に腎障害を合併していたという報告がある.13例でステロイドが投与されていたが,増量により改善した症例も認められた2).また,抗リン脂質抗体は,SLE患者のC30%で陽性となり12),SLEに合併することはまれではない.APSの合併は,血管閉塞イベントの増加に関与し,自己抗体により形成された免疫複合体が血管壁を障害し,血小板凝集の亢進により血流低下を生じる.これらの変化は,種々の臓器,さまざまな太さの血管に生じるが,微小な血管に富む網膜や視神経では,より障害が強くなる.APSの眼症状としては,網膜中心(分枝)動脈閉塞症,網膜中心(分枝)静脈閉塞症,虚血性視神経症,球後視神経炎,SLE網膜症などがある.SLE網膜症は,APSを合併するとしばしば難治性となり,眼症状も重篤化する14,15).今回の症例は,重症妊娠高血圧症候群を発症し,帝王切開を契機に漿液性網膜.離を発症した.出産前の血圧がC150.160/90.100CmmHgと高値だったが,出産約C1週間後には120/80CmmHg前後に低下し,同時期に片眼の漿液性網膜.離の改善を認めた.漿液性網膜.離の発症時,プレドニゾロンは漸減されており,出産の約C1カ月前から内服量はC10Cmgと低用量であった.SLEについては,低補体血症を認めるものの,低アルブミン血症がおもな原因と考えられ,抗CDNA抗体の上昇もなかったことから,出産前後でCSLEの増悪はないと考えられた.また,APSに対しては,出産前までヘパリン自己注射,アスピリン内服が継続されていた.これらのことから,今回の症例では,重症妊娠高血圧症候群が漿液性網膜.離のおもな原因になっていると推察されるが,SLE,APSの合併も発症に関与している可能性が考えられる.今回,蛍光眼底造影検査を施行できず,発症機転について詳細な検討はできなかったが,眼底周辺部に残った三角形状の網膜色素上皮の萎縮から,脈絡膜循環障害が起きていたことがうかがわれる.本症例の場合,SLEによる網膜色素上皮の脆弱性,APSによる循環不全が素因にあり,妊娠高血圧症候群を合併したことにより網膜色素上皮障害を生じたのではないかと考えた.今回,漿液性網膜.離は片眼のみの発症だった.これまで,MPPEについてはC2/3が両眼性だったという報告がある2).妊娠高血圧症候群による漿液性網膜.離についても,片眼性と両眼性の割合について今後検討の必要があると思われる.SLEとCAPSを合併する患者で,妊娠高血圧症候群を発症し,出産後に漿液性網膜.離を発症した症例は,筆者らが調べた限りでは確認できなかった.SLE合併妊娠は妊娠高血圧症候群を併発しやすく16),APSと妊娠高血圧症候群の関連も以前から指摘されている17,18)ことから,両者を合併した患者で漿液性網膜.離を発症する可能性も少なくないと考えられる.本症例のような場合,出産後もCSLE増悪のリスクがあり,次回妊娠時にも重症妊娠高血圧症候群を合併する可能性があることから,内科,産婦人科と連携して,眼合併症について長期の経過観察が必要と思われる.文献1)飯田知弘,萩原徳一,大谷倫裕ほか:赤外蛍光造影による漿液性網膜.離の脈絡膜血管病変.日眼会誌C100:817-824,C19962)安藤一郎,桂弘:全身性紅斑性狼瘡(SLE)に合併した多発性後極部網膜色素上皮症のC1例.あたらしい眼科C14:C467-471,C19973)TsukimoriK,FukushimaK,NakanoHetal:TrophoblastdysfunctionCandCmaternalCendothelialCcellCdysfunctionCinCtheCpathogenesisCofCpreeclampsia.CTextbookCofCPerinatalMedicine2edition,(KurjakA,ChervenakFAeds)C,p926-934,InformaHealthcare,NewYork,20054)ValluriS,AdelbergDA,CurtisRSetal:Diagnosticindo-cyanineCgreenCangiographyCinCpreeclampsia.CAmCJCOph-thalmolC122:672-677,C19965)宇都美幸,上村昭典:妊娠中毒症の脈絡膜症と全身所見.日眼会誌95:1016-1019,C19916)ChakravartyCET,CNelsonCL,CKrishnanE:ObstetricChospi-talizationCinCtheCUnitedCStatesCforCwomenCwithCsystemicClupusCerythematosusCandCrheumatoidCarthritis.CArthritisCRheumC54:899-907,C20067)新垣精久,正本仁,青木陽一:妊娠高血圧症候群を発症したCSLE合併妊娠の臨床的検討.日本妊娠高血圧学会雑誌C19:97-98,C20118)高橋明宏,水川淳,沖坂重邦:胞状網膜.離を伴った脈絡膜循環障害のCSLEのC1症例.眼紀40:1081-1085,C19899)DiddieKR,AronsonAJ,ErnestJT:ChorioretinopathyinaCcaseCofCsystemicClupusCerythematosus.CTransCAmCOph-thalmolSocC75:122-129,C197710)田村喜代,杉目正尚,田宮宗久ほか:SLEに合併した胞状網膜.離のC1症例.眼紀38:790-797,C198711)MatsuoT,NakayamaT,KoyamaTetal:Multifocalpig-mentCepitherialCdamagesCwithCserousCretinalCdetachmentCinCsystemicClupusCerythematosus.COphthalmologicaC195:C97-102,C198712)岡田純:抗リン脂質抗体症候群.最新医学C45:351-356,C199813)AshersonCRA,CCerveraR:C‘Primary’,‘secondary’CandCotherCvariantsCofCtheantiphospholipidCsyndrome:culpritCorconsort?JRheumatolC21:397-399,C199414)HallS,BuettnerH,LuthraHS:OcclusiveretinalvasculardiseaseCinCsystemicClupusCerythematosus.CJCRheumatolC11:846-850,C198415)SnyersCB,CLambertCM,CHardyJP:RetinalCandCchoroidalCvaso-occlusiveCdiseaseCinCsystemicClupusCerythematosusCassociatedCwithCantiphospholipidCantibodies.CRetinaC10:C255-260,C199016)YanYuenS,KrizovaA,QuimetJMetal:Pregnacyout-comeCinsystemicClupusCerythematosus(SLE)isCimprov-ing.CResultsCfromCaCcaseCcontrolCstudyCandCliteratureCreview.OpenRheumatolC2:89-98,C2008

硝子体内注射1カ月後に診断された外傷性白内障の1例

2019年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(4):544.547,2019c硝子体内注射1カ月後に診断された外傷性白内障の1例加納俊祐*1,2清崎邦洋*1福井志保*1久保田敏昭*2*1国立病院機構別府医療センター眼科*2大分大学医学部眼科学講座CACaseofTraumaticCataractDiagnosed1MonthafterIntravitrealInjectionShunsukeKano1,2)C,KunihiroKiyosaki1),ShihoFukui1)andToshiakiKubota2)1)DepartmentofOphthalmology,NationalHospitalOrganizationBeppuMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicineC目的:硝子体内注射C1カ月後に診断した外傷性白内障のC1例を経験したので報告する.症例:85歳,男性.別府医療センター眼科(以下,当院)でポリープ状脈絡膜血管症と診断し,抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)薬硝子体内注射を施行した.4回目の注射からC1カ月後に当院を受診した際に治療眼の視力低下を訴えた.後.下白内障を認めたが,後.の亀裂の有無は不明だった.硝子体内注射を原因とした外傷性白内障に対して水晶体再建術を施行した.術中,後.破損が判明したが,これは術前から生じていたものと考えられた.術後は,滲出性病変の再発を認めた際に抗CVEGF薬硝子体内注射を施行している.結論:硝子体内注射C1カ月後に判明した外傷性白内障に手術を施行した.合併症には十分注意して硝子体内注射を行う必要がある.CPurpose:WeCreportCaCcaseCofCtraumaticCcataractCdiagnosedConeCmonthCafterCintravitrealCinjection.CCase:An85-yearColdCmaleCwasCdiagnosedCwithCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCatCBeppuCMedicalCCenterCDepartmentCofCOphthalmologyandreceivedintravitrealinjectionsofanti-vascularendothelialgrowthfactor(VEGF)drug.Hevis-itedourhospitalonemonthafterthefourthinjection,complainingofvisualloss.Weobservedposteriorsubcapsu-larcataract,butthepresenceofposteriorcapsulerupturewasnotclearlyobserved.DuringlensreconstructionfortraumaticCcataract,Chowever,CposteriorCcapsuleCruptureCwasCnoticed.CAfterCtheCsurgery,CuponCrealizingCtheCrecur-renceofexudativelesion,weagainperformedintravitrealinjectionofanti-VEGFdrug.Conclusion:Weperformedsurgeryontraumaticcataractobservedonemonthafterintravitrealinjections.Weshouldtakecareregardinglenscomplicationsfollowingintravitrealinjectionsofanti-VEGFdrug.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(4):544.547,C2019〕Keywords:外傷性白内障,硝子体内注射.traumaticcataract,intravitrealinjection.はじめに近年,黄斑疾患に対して,ペガプタニブ(マクジェンCR),ラニビズマブ(ルセンティスCR),アフリベルセプト(アイリーアR)といった血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)阻害薬や副腎皮質ステロイドの硝子体内注射が承認され,さらに適応が次第に拡大していくことでわが国における硝子体内注射の施行数は増加している.その一方で,硝子体内注射は侵襲的な治療であり,硝子体内注射の合併症として眼内炎,無菌性眼内炎,外傷性白内障,網膜.離,眼圧上昇などが知られている.硝子体内注射施行数が増加していくにつれ,これらの合併症が増加することが予測される.しかし,硝子体内注射を契機に発症した後.損傷に対して手術を施行した報告は少ない1).筆者らは硝子体内注射からC1カ月後に外来受診した際に水晶体後.に混濁を認め,硝子体内注射を契機に発症した外傷性白内障と診断した症例に,硝子体手術併用の水晶体再建術を施行したので報告する.CI症例患者:85歳,男性.既往歴:喘息.主訴:右眼視力低下.〔別刷請求先〕加納俊祐:〒879-5503大分県由布市挾間町医大ヶ丘C1-1大分大学医学部眼科学講座Reprintrequests:ShunsukeKano,DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,1-1Idaigaoka,Hasama-machi,Yufu-shi,Oita879-5503,JAPANC544(122)現病歴:2015年C10月,近医で両眼白内障の経過観察中に右眼加齢黄斑変性を疑われ,精査加療目的に当科へ紹介となった.経過:当科にて,右眼ポリープ状脈絡膜血管症と診断し,ラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealCinjectionCofCranibi-zumab:IVR)を導入し,3回連続投与を行った.最終投与からC5カ月後,漿液性網膜.離および.胞様黄斑浮腫を認めた.視力はCVD=0.1(0.9C×sph+3.0D(cyl.1.0DAx90°),CVS=0.4(1.0C×sph+2.5D(cyl.1.0DAx100°)であった.ポリープ状脈絡膜血管症の再発に対して,4回目のCIVRを試行した.IVRの方法は,ポリビニルアルコールヨウ素液(PAヨードR)で消毒後,ドレーピングを行い,リドカイン塩酸塩(2%キシロカインR)で点眼麻酔を行った.角膜輪部よりC3.5mmの位置を計測し,19CmmのC30CG針でラニビズマブ(ルセンティスCR硝子体内注射用キットC10Cmg/ml)0.5Cmg(0.05ml)を硝子体内注射した.注射後,オフロキサシン眼軟膏(タリビッド眼軟膏CR)を塗布した後,ガーゼを貼付して終了した.注射翌日から視力低下を自覚していたが眼科受診はせず,1カ月後の定期受診時に視力低下を訴えた.受診時の右眼視力はC0.3(0.4C×sph+3.5D)であり,右眼眼圧は17mmHgであった.3.9時方向にかけての水晶体後.に扇型の混濁を認めた(図1).水晶体後.の亀裂の有無は不明であった.水晶体融解による炎症や眼圧上昇は認めなかった.眼軸長は,右眼はC22.50Cmm,左眼はC22.62Cmmであった.水晶体厚は術後に左眼のみ測定したが,5.93Cmmであった.硝子体内注射を原因とした右眼外傷性白内障と診断した.患者本人には硝子体内注射の合併症として白内障が発症したこと,視力回復のためには手術が必要なことを説明し,患者の同意のうえで白内障手術を施行した.水晶体後.の状態が不明であったため,経毛様体扁平部硝子体切除術(parsCplanavitrectomy:PPV)を行う準備をしたうえで,コンステレーションRビジョンシステムにて超音波乳化吸引術(phacoemulsi.cationandaspiration:PEA)および眼内レンズ挿入術(intraocularlens:IOL)を併施することとした.角膜輪部のC2時およびC10時方向に角膜サイドポートを作製し,粘弾性物質で前房を置換した後,26CGチストトームで作製した前.フラップを前.鑷子で把持して連続円形切.(continuousCcurvilinearcapsulorrhexis:CCC)を施行した.11時方向から経結膜強角膜切開を施行した.後.損傷の可能性があったため,少量のオキシグルタチオン液(BSSplusR)で前房圧を上げないようにChydrodissectionを施行した.ボトルの高さを低く設定し低吸引流量でCPEAを行ったが,核処理中に核落下を認め,術前から後.が破損していたことが判明した.硝子体脱出およびこれ以上の水晶体核落下を予防する目的でヒーロンCVCRを水晶体核の後方に注入して(図2),ヒーロンCVCRを吸引しないように吸引流量を下げ,低灌流下で残存核を処理した.落下した水晶体核を処理するため,25CGトロカールでポートを作製した.前部硝子体切除後,水晶体.に付着した水晶体皮質は硝子体カッターで吸引処理した.Corevitrectomy後,トリアムシノロンアセトニド(マキュエイドCR)を散布し後部硝子体.離を生じさせた.落下した水晶体核を硝子体カッターで破砕し,処理した(図3).周辺部硝子体切除を行ったのち,眼内レンズ(参天製薬,モデル:NX70,レンズパワー:+24.0D)を挿入した.CCCは完全であったため,術後の屈折を安定させ,遷延性の眼内炎を予防することを目的に,IOLopticcapture法を試みたが2),困難だったため光学部も.外固定とした(図4).硝子体ポートを抜去し,8C.0絹糸で創を縫合した.アセチルコリン塩化物(オビソートCR)で縮瞳させ,硝子体脱出のないことを確認し,手術終了とした.手術後に,後.破損のために眼内レンズを.外固定したことを説明し,とくに医師患者関係のトラブルは生じなかった.術後早期に網膜病変の再燃はなく,経過順調のため退院となった.手術からC4週間後に滲出性病変の再発に対してCIVRを施行した.その後は,滲出性病変の再発を認めた場合は,抗CVEGF薬硝子体内注射をCprorenata(PRN)投与している.最終視力はCVD=0.7(1.0C×sph.0.5D(cyl.1.5DAx100°)であった.CII考察抗CVEGF薬硝子体内注射(ベバシズマブ,ラニビズマブ,アフリベルセプト)の合併症としての外傷性白内障の発症率はC0.0.8%と報告されており3.6),服部の報告では,硝子体内注射による水晶体損傷は注射針の抜去時に生じたとされている7).後.への注射針の接触は,突発的な眼球運動,注射刺入位置および角度のずれが原因として生じると考えられる.既報では角膜輪部からC3.5.4.0Cmm後方において注射針の刺入を行うとされており8,9),今回の症例で筆者が施行した角膜輪部からC3.5Cmm後方からの注射については,一般的な位置である.今回の症例は,軽度ではあるものの短眼軸長の遠視眼であり瞼裂幅は狭小であった.また,僚眼の検査結果から考えると加齢に伴い水晶体は軽度膨隆していたものと考えられる.これらの要素から,この患者にとって適正な刺入位置から注射針を刺入できなかったこと,また,針を抜去する際に角度が水平方向に近くなったことで注射針が後.に接触した可能性がある.現在,合併症予防策として,硝子体内注射用の針を本症例で使用したC19mmのC30G針からC12mmのC31G針に変更した.以前より細く,短い針を用いることで患者の疼痛の軽図1硝子体内注射1カ月後の後.混濁水晶体後.に扇型の混濁を認めた.亀裂の有無は不明だった.図3術中写真:落下した水晶体核の処理落下した水晶体は硝子体カッターで処理した.減,針の操作性の向上が得られている.刺入位置については,安全を期して,現在は偽水晶体眼では角膜輪部からC3.5mm,有水晶体眼では角膜輪部からC4.0Cmmの位置から刺入している.また,刺入角度に関しては施術者の技量,患者の眼球運動に左右されるものではあるが,強膜に垂直よりもやや深部に向けて刺入し,角度を保ったまま抜去している.本症例以後,硝子体内注射による水晶体.損傷は経験していない.また,網膜裂孔や網膜.離の発症も経験していない.本症例では,術中所見から考えると,術前から後.破損が存在していたと思われた.水晶体後.に認めた扇型状の混濁は破.部位だと思われるが,術前には確定できなかった.既報において,針で経角膜的にマウスの水晶体前面に損傷を与図2術中写真:破.判明後の水晶体核処理術前から破.しており,術中に水晶体核落下を認めた.水晶体核の後方にヒーロンCVCRを注入し,それ以上の核落下と硝子体脱出を予防しながら核処理を行った.図4術中写真:眼内レンズの.外固定CCCは完全だった.眼内レンズは.外固定とした.えた場合,損傷数日以内に線維芽細胞が増殖して傷口周辺に充満して前房に突出,傷口前面を被覆する.その後,損傷C7.10日程度で増殖細胞が紡錘形に変化し,損傷C15日になると損傷部周辺上皮細胞の分裂活動はほぼ停止し,損傷部は線維芽細胞様の紡錘形細胞が密に接し合うようになる10).本症例でも,このような水晶体.の創傷治癒機転が働いたものと考えられ,傷口の周辺には混濁を認め,これにより後.に亀裂が生じているのか,後.下皮質白内障が生じているだけなのかの鑑別は術前には不可能だった.また,傷口が増殖細胞で被覆されているためか,水晶体融解による前房炎症,硝子体混濁,眼圧上昇などの合併症は生じなかった.注射により後.損傷を生じた場合,白内障手術を施行する際には硝子体手術が必要となる可能性があることを念頭に置いて手術に臨む必要がある.また,硝子体切除術後には硝子体内注射した薬物の薬物動態は変化し,半減期が短縮することが報告されている11).加齢黄斑変性などの原疾患への治療効果も減弱し,注射回数が増える可能性があり,患者側の負担が増大する恐れがある.これらの点から,患者に多くの不利益を与える合併症であり,硝子体内注射導入の際には必ず説明を行う必要があると考える.現在までにも,硝子体内注射による合併症として,外傷性白内障以外にも眼内炎,無菌性眼内炎,外傷性白内障,網膜.離,眼圧上昇などは一定の割合で報告されている7,12).外傷性白内障の発症については予防できる可能性があり,今後予測される硝子体内注射施行数の増加に比例して,外傷性白内障の発症数も増加していかないように,眼科医の技術研鑽が必要である.CIII結論硝子体内注射後,視力低下と後.下白内障の出現を認めた症例に対して,硝子体手術併用白内障手術を施行した.現在,抗CVEGF薬硝子体内注射の適応拡大に伴い,硝子体内注射の試行数は増加している.治療にあたっては,安全面に十分に配慮し,不要な合併症を生じさせない努力が必要である.文献1)安井絢子,山本学,芳田裕作ほか:硝子体注射後の水晶体後.破損に対する硝子体手術併用水晶体再建術を施行したC1例.臨眼69:457-460,C20152)GimbelHV,Debro.BM:Intraocularlensopticcapture.JCataractRefractSurgC30:200-206,C20043)NguyenQD,BrownDM,MarcusDMetal:Ranibizumabfordiabeticmacularedema:resultsfrom2phaseIIIran-domizedtrials:RISECandCRIDE.COphthalologyC119:789-801,C20124)CampochiaroCPA,CHeierCJS,CFeinerCLCetal:RanibizumabCforCmacularCedemaCfollowingCbranchCretinalCveinCocclu-sion:six-monthCprimaryCendCpointCresultsCofCaCphaseCIIICstudy.OphthalmologyC117:1102-1112,C20105)HaslerCPW,CBlochCSB,CVillumsenCJCetal:SafetyCstudyCofC38503intravitrealranibizumabinjectionsperformedmain-lyCbyCphysiciansCinCtrainingCandCnursesCinCaChospitalCset-ting.ActaOphthalmolC93:122-125,C20156)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:RanibizumabforneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CNEnglJMedC355:1419-1431,C20067)服部知明:抗CVEGF薬硝子体注射による眼合併症.あたらしい眼科31:1003-1004,C20148)FrankelRE,HajiSA,LaMetal:Aprotocolforthereti-naCsurgeon’sCsafeCinitialCintravitrealCinjections.CClinCOph-thalmolC4:1279-1285,C20109)小椋祐一郎,髙橋寛二,飯田知弘ほか:黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン.日眼会誌120:87-90,C201610)宇賀茂三,西本浩之:外傷に対する水晶体上皮細胞の反応水晶体.の創傷治癒を中心にして.眼科手術C3:227-235,C199011)MoisseievCE,CWaisbourdCM,CBen-ArtsiCECetal:Pharama-cokineticsCofCbevacizumabCafterCtopicalCandCintravitrealCadministrationinhumaneyes.GraefesArchClinExpOph-thalmolC252:331-337,C201412)永井博之,平野佳男,吉田宗徳ほか:硝子体内薬物注射に伴う合併症の検討.臨眼64:1099-1102,C2010***

ビマトプロスト点眼液(ルミガン®点眼液0.03%)の使用成績調査(サブ解析)

2019年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(4):537.543,2019cビマトプロスト点眼液(ルミガンR点眼液0.03%)の使用成績調査(サブ解析)末信敏秀*1石黒美香*1北尾尚子*1川瀬和秀*2山本哲也*2*1千寿製薬株式会社研究開発本部育薬研究推進部*2岐阜大学大学院医学系研究科眼科学CSubanalysisofPost-marketingStudyofBimatoprostOphthalmicSolution(LUMIGANROphthalmicSolution0.03%)ToshihideSuenobu1),MikaIshikuro1),NaokoKitao1),KazuhideKawase2)andTetsuyaYamamoto2)1)MedicalScienceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)DepartmentofOphthalmology,GifuUniversityGraduateSchoolofMedicineC本研究は,ビマトプロスト点眼液(ルミガンCR点眼液C0.03%)使用成績調査のサブ解析である.対象は,1年超の経過観察症例C3,219例のうち,プロスタグランジン関連薬+他の緑内障治療薬による前治療が,ビマトプロストへ切り替えられたC778例とした.その結果,前治療プロスタグランジン関連薬は,ラタノプロストC432例,トラボプロスト192例,タフルプロストC154例であった.ラタノプロスト+b遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬の組み合わせがC184例でもっとも多く,このうちラタノプロストのみがビマトプロストに切替えられたC177例では,切替時眼圧C16.8C±5.4CmmHgがC1カ月後にC14.6C±4.2CmmHgと有意に低下した.他の組み合わせからのビマトプロストへの切替え例においても,おおむね,統計学的に有意な眼圧下降が認められた.ビマトプロスト点眼液は,他のプロスタグランジン関連薬からの切替によって,さらなる眼圧下降効果が期待される薬剤であると考えられた.CThisCstudyCisCaCsubanalysisCofCtheCresultsCofCaCbimatoprostCophthalmicsolution(LUMIGANCRCophthalmicCsolu-tion0.03%)investigation.Among3,219casesfollowed-upformorethan1year,thetargetwas778casesinwhompretreatmentCwithCprostaglandinCanaloguesCandCotherCglaucomaCtherapeuticCdrugsCwasCswitchedCtoCbimatoprost.CThepretreatmentprostaglandinanalogueswerelatanoprostin432cases,travoprostin192cases,andta.uprostin154cases.Latanoprostplusbetablockerpluscarbonicanhydraseinhibitorwasthemostcommon,in184cases.Inthe177patientsinwhomonlylatanoprostwasswitchedtobimatoprost,therewassigni.cantdecreaseinintraocu-larpressure:16.8C±5.4CmmHgCatCtheCtimeCofCswitchingCandC14.6±4.2CmmHgCatConeCmonthClater.CStatisticallyCsigni.cantdecreaseinintraocularpressurewasalsoobservedinmanycasesofswitchingtobimatoprostfromoth-erCcombinations.CTheseCresultsCsuggestCthatCbimatoprostCmayChaveCanCadditionalCocularChypotensiveCe.ectCwhenCswitchingfromotherprostaglandinanaloguesandothercombinations.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(4):537.543,C2019〕Keywords:ビマトプロスト,ルミガンCR点眼液C0.03%,プロスタグランジン,安全性,有効性,眼圧.bimato-prost,LUMIGANRophthalmicsolution0.03%,prostaglandin,safety,e.cacy,intraocularpressure.はじめに緑内障は,わが国における主たる失明原因の一つであり,眼圧下降が唯一のエビデンスに基づく確実な治療法である1).眼圧下降の手段としては,薬物治療,レーザー治療,手術治療があげられるが,初期治療の第一選択は薬物治療である.なかでも,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬は優れた眼圧下降効果を有し,全身性の副作用が少ないことから,第一選択薬として汎用されて久しい.PG関連薬による眼圧下降が,緑内障治療の第一義である視野障害進行抑制に有効であることが報告2)され,改めて眼圧下降の重要性が認識された.一方,PG関連薬に対するレスポンスには個体差が存在す〔別刷請求先〕末信敏秀:〒650-0047神戸市中央区港島南町C6-4-3千寿製薬株式会社研究開発本部育薬研究推進部Reprintrequests:ToshihideSuenobu,MedicalScienceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,6-4-3Minatojima-Minamimachi,Chuo-ku,Kobe-shi,Hyogo650-0047,JAPANCるとともに,眼圧下降による視野障害進行の程度にも個体差が認められ,さまざまな治療選択肢を駆使しても視野障害が進行する例が存在する.PG関連薬であるラタノプロスト点眼液,トラボプロスト点眼液およびタフルプロスト点眼液においても,7.7.15.0%の割合でノンレスポンダーの存在が報告されている3).このようななか,ビマトプロスト点眼液(ルミガンCR点眼液C0.03%,以下,ビマトプロスト)がC2009年に新たな選択肢に加わり,上市後に実施した使用成績調査(2009年C10月.2015年C12月)において,その眼圧下降効果が証明された4).すなわち,原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG),正常眼圧緑内障(normalCtensionCglau-coma:NTG),原発閉塞隅角緑内障(primaryCangleCclosureglaucoma:PACG),続発緑内障(secondaryCglaucoma:SG)および高眼圧症(ocularhypertension:OH)の病型別,新規単剤投与および前治療薬別,開始時眼圧値別のいずれにおいても投与C1カ月後に有意な眼圧下降が得られた.今回筆者らは,PG関連薬+他の緑内障薬による前治療が,ビマトプロストによる治療へ切替られた症例における眼圧推移に着目し,使用成績調査対象例のサブ解析(以下,本研究)を行ったので報告する.CI対象および方法1.研究デザイン本研究は,ビマトプロストの使用成績調査(以下,調査)にて集積された症例におけるサブ解析である.調査は,本剤の使用経験のない緑内障・高眼圧症患者を対象とし,中央登録方式でプロスペクティブに実施したものであり,調査方法の詳細,全般的な結果はすでに報告した4).調査では,投与開始後C1年を超える経過観察症例としてC3,219例,観察期間は原則C12カ月以上,最長C24カ月とし,投与開始日からC3カ月後,12カ月後およびC24カ月後までのC3分冊の調査票を各観察期間終了後に回収した.なお,医薬品医療機器総合機構によるプロトコルの審査を経て,調査を実施した.C2.解析対象集団ビマトプロスト投与開始時および投与後C24カ月後までに1時点以上の眼圧が測定された症例のうち,前治療としてPG関連薬(ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト)+b受容体遮断薬(以下,Cb遮断薬),PG関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicCanhydraseinhibitor:CAI)またはCPG関連薬+b遮断薬+CAIが投与され,このうちCPG関連薬がビマトプロストに切り替えられた症例,ならびにビマトプロスト単剤治療に切り替えられた症例を対象とした.なお,PG関連薬,Cb遮断薬およびCCAI以外の緑内障薬が併用された症例は除外した.評価眼はC1症例C1眼とし,両眼投与の場合は投与開始時の眼圧が高い眼,開始時眼圧が同値の場合は右眼とした.ただし,投与期間中に内眼手術(レーザー治療を含む)を施行した眼は除外し,休薬期間がある場合は休薬前まで,中止症例は中止時までの眼圧値を評価対象とした.眼圧値は平均C±標準偏差を算出し,投与開始時と各経過観察時の眼圧を,Dunnett型の多重性調整を行った対応のあるCt検定で比較した.また,(開始時眼圧C.投与後眼圧)/開始時眼圧C×100(%)として,投与C1カ月後,3カ月後およびC24カ月後の眼圧下降率を算出した.本研究は事後解析であり,統計解析は千寿製薬にて行った.統計解析ソフトはCSAS9.4(SASInstituteInc.)を用い,有意水準は両側5%とした.CII結果1.解析対象集団の構成本研究の選択基準に該当する症例はC778例であった.患者背景は表1に示すとおりであり,性別,年齢および病型分布については調査全体4)と同様の傾向であった.また,図1に示したとおり,前治療として投与されていたCPG関連薬+b遮断薬Cand/orCAIの組み合わせのうち,ラタノプロスト+b遮断薬+CAIがC23.7%(184/778)でもっとも多かった.同様に,トラボプロストおよびタフルプロストにおいても,+b遮断薬+CAIの構成比がもっとも高かった.+CAIの組み合わせが,いずれのCPG関連薬においてももっとも少なかった.切替時の眼圧は,ラタノプロスト+b遮断薬でもっとも低く(15.9C±3.7CmmHg),タフルプロスト+CAIでもっとも高かった(19.1C±6.0CmmHg)(表2).これら解析対象の多くにおいて,PG関連薬のみがビマトプロストに切り替えられていたが,ビマトプロスト単剤に変更された症例が散見された.すなわち,ラタノプロスト前投与でC11.6%(50/432),トラボプロスト前投与でC8.9%(17/192),タフルプロスト前投与でC5.8%(9/154)がビマトプロスト単剤に変更されていた.PG関連薬のみが変更された症例におけるC1カ月後の眼圧下降率は,ラタノプロスト前投与,トラボプロスト前投与およびタフルプロスト前投与で,それぞれC12.6.14.3%,9.3.14.1%およびC15.2.16.4%であった.同様に,24カ月後の眼圧下降率は,それぞれC11.3.16.1%,11.7.16.9%およびC12.7.33.0%であった.また,ビマトプロスト単剤への切替例におけるC1カ月およびC24カ月後の眼圧下降率は,10.5%およびC8.0%であった.C2.眼.圧.推.移ラタノプロストのみがビマトプロストへ切替られた症例におけるC24カ月目までの眼圧推移は図2に示したとおりであり,+b遮断薬,+CAI,+b遮断薬+CAIいずれの群にお表1患者背景症例数(%)患者背景項目本研究(n=778)調査全体*(n=4,680)性別男性女性362(C46.5)416(C53.5)2,249(C48.1)2,430(C51.9)年齢(投与開始時)平均C±SDC最小.最大69.7±11.5歳C16.9C8歳67.9±12.8歳11.9C8歳病型(本剤投与眼)緑内障719(92.4)4,260(91.0)POAG(狭義)446(57.3)2,008(42.9)C│┌NTG176(22.6)1,752(37.4)C│CPACG34(4.4)185(4.0)C│CSG61(7.8)306(6.5)C└その他の緑内障2(0.3)9(0.2)COH27(3.5)216(4.6)その他(複数の使用理由を含む)32(4.1)204(4.4)POAG:原発開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障,PACG:原発閉塞隅角緑内障,SG:続発緑内障,OH:高眼圧症.*:文献4)より改変して引用(性別の調査不能C1例が存在したが本表では除外).タフルプロスト前投与n=154,19.8%ラタノプロスト前投与n=432,55.5%図1前治療いても投与開始C1カ月以降,24カ月後までのすべての経過観察時点において,切替時に比べ有意な眼圧下降(p<0.05)を認めた.トラボプロストのみがビマトプロストへ切替られた症例におけるC24カ月後までの眼圧推移は図3に示したとおりであり,+b遮断薬+CAIにおいては,21カ月後を除く経過観察時点において,切替時に比べ有意な眼圧下降を認めた.一方,+b遮断薬ではC9カ月,18カ月およびC24カ月後でのみ有意な眼圧下降を認め,+CAIでは切替以降いずれの観察時点においても有意な眼圧下降を認めなかった.タフルプロストのみがビマトプロストへ切替られた症例におけるC24カ月後までの眼圧推移は図4に示したとおりであり,+b遮断薬ではC1カ月およびC9カ月後を除く観察時点において切替時に比べ有意な眼圧下降を認めた.また,+b遮断薬+CAIにおいては,24カ月後を除く経過観察時点において,有意な眼圧下降を認めた.一方,+CAIでは2カ月,表2追加解析対象一覧切替時眼圧切替後治療内容1カ月後眼圧3カ月後眼圧24カ月後眼圧前治療内容(成分)(平均C±SD)(成分)症例数平均C±SD下降率平均C±SD下降率平均C±SD下降率(mmHg)(mmHg)(%)(mmHg)(%)(mmHg)(%)LAT+b遮断薬C15.9±3.7BIM+b遮断薬C127C13.9±3.5C12.6C14.0±3.1C11.9C14.1±3.2C11.3CLAT+CAIC16.8±5.0BIM+CAIC78C14.4±4.3C14.3C14.7±3.7C12.5C14.2±4.1C15.5CLAT+b遮断薬+CAIC16.8±5.4BIM+b遮断薬+CAIC177C14.6±4.2C13.1C15.2±4.3C9.5C14.1±4.3C16.1CTRA+b遮断薬C16.6±3.0BIM+b遮断薬C33C15.0±3.6C9.6C14.8±2.5C10.8C13.8±2.6C16.9CTRA+CAIC16.2±4.5BIM+CAIC35C14.7±4.2C9.3C14.9±3.1C8.0C14.3±2.9C11.7CTRA+b遮断薬+CAIC17.7±4.3BIM+b遮断薬+CAIC107C15.2±4.1C14.1C15.1±3.9C14.7C15.5±4.1C12.4CTAF+b遮断薬C18.3±7.2BIM+b遮断薬C43C15.3±4.4C16.4C14.5±3.5C20.8C14.8±3.6C19.1CTAF+CAIC19.1±6.0BIM+CAIC23C16.2±4.0C15.2C16.5±4.5C13.6C12.8±3.2C33.0CTAF+b遮断薬+CAIC18.1±5.4BIM+b遮断薬+CAIC79C15.3±4.7C15.5C15.1±4.5C16.6C15.8±5.8C12.7CPG関連薬+b遮断薬Cor/andCAIC16.2±4.1BIM単剤C76C14.5±3.7C10.5C13.6±3.1C16.0C14.9±4.3C8.0C┌CLAT+b遮断薬C32C│CLAT+CAIC11C│CLAT+b遮断薬+CAIC7C│CTRA+b遮断薬C10C│CTRA+CAIC2C│CTRA+b遮断薬+CAIC5C│CTAF+b遮断薬C4C│TAF+CAIC2C└CTAF+b遮断薬+CAIC3C計C778CLAT:ラタノプロスト,TRA:トラボプロスト,TAF:タフルプロスト,BIM:ビマトプロスト.:トラボプロスト+b遮断薬→ビマトプロスト+b遮断薬:トラボプロスト+CAI→ビマトプロスト+CAI25眼圧(mmHg)201510123691215182124経過観察期間(月)123691215182124経過観察期間(月)図2ラタノプロストからビマトプロストに切り替えられた症例の眼圧推移図3トラボプロストからビマトプロストに切り替えられた症例の眼圧推移:タフルプロスト+b遮断薬→ビマトプロスト+b遮断薬:タフルプロスト+CAI→ビマトプロスト+CAI2520眼圧(mmHg)2015151010123691215182124経過観察期間(月)123691215182124経過観察期間(月)図4タフルプロストからビマトプロストに切り替えられた症例の眼圧推移12カ月,18カ月,21カ月およびC24カ月後で有意な眼圧下降を認めた.PG関連薬+b遮断薬Cand/orCAIのうち,76例がビマトプロスト単剤へ切替られ,以降の眼圧推移は図5に示したとおりである.すなわち,投与C1カ月.15カ月後まで有意な眼圧下降を認めた.CIII考按ラタノプロスト前治療からビマトプロストへの切替例では,+b遮断薬,+CAI,+b遮断薬+CAIのすべてのパターンにおいて,切替C1カ月以降C24カ月後まで有意な眼圧下降が認められた.ラタノプロストからビマトプロストへの切替による眼圧下降効果については多くの既報がある.Imasa-waら5)は,ラタノプロストからビマトプロスト切替C6週後図5PG関連薬+b遮断薬and/orCAIからビマトプロスト単剤に切り替えられた症例の眼圧推移の眼圧下降値はC1.7CmmHg(下降率:10.3%)であったと報告しており,本研究のC1カ月後の眼圧下降値であるC2.0.2.4mmHg(下降率:12.6.14.3%)は同程度であった.3カ月後の眼圧下降値はC1.6.2.1CmmHg(下降率:9.5.12.5%)であったことから,既報におけるC1.6CmmHg(下降率:9.4%)5),1.9CmmHg(下降率:11.9%)6),1.6CmmHg(下降率:12.1%)7)と同等であった.さらに,24カ月後の眼圧下降値はC1.8.2.7mmHg(下降率:11.3.16.1%)であり,有意な眼圧下降が認められた.Sontyら8)は,同様にラタノプロストからビマトプロストへの切替後の長期成績について報告しており,切替C24カ月後の眼圧下降値はC4.9.5.3CmmHg(下降率:21.2.23.8%)であり,切替時に比して有意であったと報告している.このようにビマトプロストは,さらなる眼圧下降を必要とするラタノプロスト治療例に対して,よい選択肢となりうると考えられる.トラボプロスト前治療からの切替例では,+b遮断薬の観察期間中に統計学的に有意な眼圧下降が認められた観察時点は,投与C9カ月,18カ月およびC24カ月後のみであり,ビマトプロストへの切替による効果は限定的であった.また,+CAIでの切替C1カ月,3カ月およびC24カ月後の眼圧下降率はC8.0.11.7%であったが,観察期間中を通じて統計学的に有意な眼圧下降は認められなかった.一方,+b遮断薬+CAI例では,切替C1カ月後の眼圧下降値はC2.5CmmHg(下降率:14.1%)で統計学的に有意であった.また,投与C21カ月後を除き,24カ月までの観察期間中を通じて有意な眼圧下降が認められた.ビマトプロストとトラボプロストの眼圧下降作用については,ビマトプロストが優れているとする報告9,10)が散見されるが,本研究のようにトラボプロストからビマトプロストへの切替後の眼圧推移に関する報告は見あたらない.一方,ビマトプロストからトラボプロスト/チモロール配合剤への切替時の眼圧推移については,ビマトプロストのノンレスポンダーからの切替C12週後の眼圧下降値はC3.8mmHgで有意であったとする報告11)のほか,PG関連薬(ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロスト)単剤からトラボプロスト/チモロール配合剤への切替後の眼圧はビマトプロスト前投与以外では有意に低下したとする報告12),さらには同配合剤とビマトプロスト単剤の眼圧下降効果は同等とする報告13)などがある.本研究においては,トラボプロスト+b遮断薬(33例)およびトラボプロスト+CAI(35例)の症例数が少なかったものの,トラボプロスト+b遮断薬+CAIはC107例が集積され,切替C1カ月以降,有意な眼圧下降が認められたことから,さらなる眼圧下降を必要とするトラボプロスト治療例に対しても,一定の効果が期待されるものと考える.タフルプロスト前治療からの切替例では,+b遮断薬の観察期間中では,投与C1カ月およびC9カ月後を除き,統計学的に有意な眼圧下降が認められた.また,+CAIでの眼圧下降率はC13.6.33.0%であったが,統計学的に有意な眼圧下降は一部の観察時点でのみしか認められなかった.一方,+b遮断薬+CAIでは,切替C1カ月後の眼圧下降値はC2.8CmmHg(下降率:15.5%)で統計学的に有意であった.また,投与24カ月後を除き,有意な眼圧下降が認められた.Rannoら14)は,PG関連薬からタフルプロストへの切替C3カ月後の眼圧値は,ラタノプロストおよびトラボプロスト前投与例では同等であったが,ビマトプロストからの切替例では有意に眼圧が上昇したと報告している.Hommerら15)は,PG関連薬からタフルプロストへの切替C12週後の眼圧値は,ラタノプロストおよびトラボプロスト前投与例では有意に下降したが,ビマトプロストからの切替例のみ有意な低下を認めなかったことを報告している.このように,さらなる眼圧下降を必要とするタフルプロスト治療例に対しても,一定の効果が期待される.PG関連薬+b遮断薬Cand/or+CAIからビマトプロスト単剤への切替例では,投与C1カ月後の眼圧下降値はC1.7CmmHg(下降率:10.5%)で統計学的に有意であった.したがって,多剤併用によってアドヒアランスの低下が疑われる症例については,ビマトプロスト単剤による治療に切替えることも選択肢として考慮される.このように,ビマトプロストによる眼圧下降効果については,現存するCPG関連薬からの切替時において一定の効果が期待される.一方,先の報告4)を含め,ビマトプロストは結膜充血やCDUES(deepeningCofCupperCeyelidsulcus)が一定頻度で発現することから,アドヒアランス低下を防止する意味でも注意深い経過観察が必要である.本研究は,ビマトプロスト投与期間中の観察記録データのサブ解析であり,ビマトプロストを他のCPG関連薬に切替えた際の眼圧推移については検討されていない.したがって,本研究の対象とした切替例における眼圧下降効果については,ビマトプロストに限定されるものと言及することはできない.また,先の報告4)のとおり,投与開始C1カ月時点の判定であるが,ビマトプロストの新規単剤投与例のC15.7%は眼圧下降率がC10%未満であり,他のCPG関連薬のよい適応であった可能性が示唆される.このほか,本研究の結果は,薬剤変更によるアドヒアランスの向上,十分な眼圧下降が得られた症例のみが評価された可能性などを考慮する必要はあるが,切替後C24カ月にわたって一定の持続的な眼圧下降が認められ,ビマトプロストは緑内障薬物治療の有用な選択肢であると考えられる.謝辞:調査に協力を賜り,データを提供いただきました全国の先生方に,深謝申し上げます.利益相反:本稿は,千寿製薬株式会社により実施された使用成績調査結果に基づき報告された.末信敏秀,石黒美香,北尾尚子は千寿製薬株式会社の社員である.山本哲也は本使用成績調査の医学専門家である.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5-53,C20182)Garway-HeathDF,CrabbDP,BunceCetal:Latanoprostforopen-angleCglaucoma(UKGTS):aCrandomised,Cmulti-centre,Cplacebo-controlledCtrial.CLancetC385:1295-1304,C20153)InoueCk,CSetogawaCA,CTomitaG:NonrespondersCtoCpros-taglandinanalogsamongnormal-tensionglaucomapatients.CJOculPharmacolTherC32:90-96,C20164)石黒美香,北尾尚子,末信敏秀ほか:ビマトプロスト点眼液(ルミガン点眼液C0.03%)の使用成績調査.あたらしい眼科35:399-409,C20185)ImasawaCM,CTanabeCJ,CKashiwagiCFCetal:E.cacyCandCsafetyCofCswitchingClatanoprostCmonotherapyCtoCbimato-prostCmonotherapyCorCcombinationCofCbrinzolamideCandClatanoprost.OpenOphthalmolJC7:94-102,C20166)SatoCS,CHirookaCK,CBabaCTCetal:E.cacyCandCsafetyCofCswitchingfromtopicallatanoprosttobimatoprostinpatientswithCnormal-tensionCglaucoma.CJCOculCPharmacolCTherC27:499-502,C20117)MaruyamaY,IkedaY,MoriKetal:Comparisonbetweenbimatoprostandlatanoprost-timolol.xedcombinationfore.cacyCandCsafetyCafterCswitchingCpatientsCfromClatano-prost.ClinOphthalmolC9:1429-1436,C20158)SontyCS,CDonthamsettiCV,CVangipuramCGCetal:Long-termCIOPCloweringCwithCbimatoprostCinCopen-angleCglau-comaCpatientsCpoorlyCresponsiveCtoClatanoprost.CJCOculCPharmacolTherC24:517-520,C20089)NoeckerRJ,EarlML,MundorfTKetal:Comparingbima-toprostCandtravoprostinblackAmericans.CurrMedResOpinC22:2175-2180,C200610)CantorLB,HoopJ,MorganLetal:Intraocularpressure-loweringCe.cacyCofCbimatoprost0.03%CandCtravoprostC0.004%inpatientswithglaucomaorocularhypertension.BrJOphthalmolC90:1370-1373,C200611)SchnoberCD,CHubatschCDA,CScherzerML:E.cacyCandCsafetyof.xed-combinationtravoprost0.004%/timolol0.5%inpatientstransitioningfrombimatoprost0.03%/timo-lol0.5%CcombinationCtherapy.CClinCOphthalmolC9:825-832,C201512)NakanoT,MizoueS,FuseNetal:FixedcombinationoftravoprostCandCtimololCmaleateCreducesCintraocularCpres-sureCinCJapaneseCpatientsCwithCprimaryCopen-angleCglau-comaCorCocularhypertension:analysisCbyCprostaglandinCanalogue.ClinOphthalmolC11:55-61,C201713)西村宗作,伊藤初夏,中西正典ほか:DynamicCContourTonometerを用いたトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液とビマトプロスト点眼液の眼圧下降率の比較.あたらしい眼科31:1535-1539,C201414)RannoS,SacchiM,BrancatoCetal:AprospectivestudyevaluatingCIOPCchangesCafterCswitchingCfromCaCtherapyCwithCprostaglandinCeyeCdropsCcontainingCpreservativesCtoCnonpreservedta.uprostinglaucomapatients.SciWorldJ2012:804730,C201215)HommerCA,CKimmichF:SwitchingCpatientsCfromCpre-servedCprostaglandin-analogCmonotherapyCtoCpreserva-tive-freeta.uprost.ClinOphthalmolC5:623-631,C2011***

初回手術でバルベルトインプラントを挿入したAxenfeld-Rieger症候群の1例

2019年4月30日 火曜日

《第29回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科36(4):533.536,2019c初回手術でバルベルトインプラントを挿入したAxenfeld-Rieger症候群の1例松谷香菜恵*1中倉俊祐*1小林由依*1田淵仁志*1木内良明*2*1三栄会ツカザキ病院眼科*2広島大学視覚病態学講座InitialInferiorBaerveldtImplantationforAxenfeld-RiegerSyndrome:ACaseReportKanaeMatsuya1),ShunsukeNakakura1),YuiKobayashi1),CHitoshiTabuchi1)andYoshiakiKiuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,SaneikaiTsukazakiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversityC緒言:Axenfeld-Rieger(AR)症候群は,後部胎生環やそれに付着する虹彩の索状物ならびに発達緑内障を認め,全身的には顔面骨や歯牙の発達異常,低身長,精神発達遅滞などを合併する.症例:60歳,女性.平成C28年に両眼の角膜びらんで当院初診となった.完治後右眼視力C0.01(0.01),左眼視力C20cm/手動弁(矯正不能),右眼眼圧C26mmHg,左眼眼圧C40CmmHg(iCare)であった.後部胎生環を両眼全周に認め,特異的な顔貌,歯牙の欠損,低身長(103Ccm)からCAR症候群と診断した.抗緑内障点眼薬を両眼に開始するも眼圧は右眼C18.28CmmHg,左眼C22.40CmmHgで推移した.強い閉瞼と前頭部の突出,下方視が困難なことから上方での濾過手術は術後管理が困難と判断し,両眼ともに白内障手術とバルベルト(耳下側,毛様溝)挿入術を全身麻酔下で同日施行した.最終診察時(術後C6カ月目),右眼視力C0.01(0.01),左眼視力C20cm/手動弁(矯正不能),右眼眼圧C14mmHg,左眼眼圧C10CmmHg(iCare)となった.考察:上方からの濾過手術が困難と予想されたCAR症候群に,初回下方からのバルベルト挿入術は有効であった.Axenfeld-RiegerCsyndrome(AR)isCanCautosomalCdominantCdiseaseCwhoseCocularCcharacteristicsCareCposteriorCembryotoxonCwithCiridocornealCattachmentCanddevelopmentalCglaucoma(about50%)C.CWeCdiagnosedCaCfemaleCpatientashavinglate-onsetdevelopmentalglaucomaduetoAR,basedonposteriorembryotoxonandnon-ocularfeatures.Becauseofuniquefacialfeatures,mentalretardation,narrowpalpebral.ssureandstrongeyelidclosure,wejudgedtrabeculectomyatasuperotemporalsitetobeunwise.WethereforeconductedinitialinferiorBaerveldtimplantationCwithCcataractCsurgeryCinCbothCeyesCunderCgeneralCanesthesia.CAsCaCresult,CherCintraocularCpressureCdecreasedfrom20-30CmmHgtounder15CmmHg.WesuggestthatinferiorBaerveldtimplantationatinitialsurgeryisabetteroptionforglaucomaduetoARsyndrome.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(4):533.536,C2019〕Keywords:緑内障,バルベルトインプラント,Axenfeld-Rieger症候群,後部胎生環.glaucoma,Baerveldtim-plant,Axenfeld-Riegersyndrome,posteriorembryotoxon.CはじめにAxenfeld-Rieger(AR)症候群は神経堤細胞の遊走異常による前眼部間葉異発生の一つとされ,常染色体優性遺伝の形式をとる1.3).眼科的には角膜輪部に後部胎生環や発達緑内障を認め,虹彩低形成,瞳孔変位を認めることもある1.3).全身的には顔面骨や歯牙の発達異常,低身長,心疾患,難聴,精神発達遅滞などを合併する1.3).AR症候群に伴う緑内障の発生頻度は約C50%で,線維柱帯とCSchlemm管の発育不良が原因とされ3),流出路再建術は不向きとされている3,4).今回筆者らはCAR症候群に伴う緑内障に対し,特異な顔貌と強い閉瞼,精神遅滞により下方視が困難なことから,濾過手術は術後管理が困難と判断し,初回からバルベルトインプラ〔別刷請求先〕松谷香菜恵:〒671-1227兵庫県姫路市網干区和久C68-1三栄会ツカザキ病院眼科Reprintrequests:KanaeMatsuya,C.O.,DepartmentofOphthalmology,SaneikaiTsukazakiHospital,68-1AboshiWaku,Himeji,Hyogo671-1227,JAPANCントを両眼ともに耳下側に挿入した症例を報告する.CI症例60歳,女性.家族歴:母親がCAR症候群の疑いあり.姉妹C2人は正常であった.既往歴:2型糖尿病と精神遅滞がある.現痛歴:2016年に原因不明の両眼の角膜びらんで当院紹介となった.角膜びらん完治後右眼視力C0.01(矯正不能),左眼視力C20cm/手動弁(矯正不能),右眼眼圧C26mmHg(iCare),左眼眼圧C40CmmHg(iCare)であった.中心角膜厚は右眼C0.508mm,左眼0.487mm,角膜内皮細胞は右眼2,762個/mmC2,左眼C2,060個/mmC2でCguttataは認めなかった.細隙灯顕微鏡にて,両眼全周に後部胎生環を認め(図1a),特異な顔貌(図1b),歯牙の欠損(図1c),低身長(103Ccm)(図1d),虹彩の菲薄化(図1e)からCAR症候群と診断した.隅角検査では,全周に後部胎生環を認めたがそこに至る虹彩の索状物は認めなかった.眼底所見では,進行した緑内障性視神経症を認めた.視野検査(Goldmann視野)Cabでは湖崎分類で両眼CV-bであった(図2).CII経過トラボプロストC0.004%とブリンゾラミドC1%を両眼に開始するも,眼圧は右眼C18.28CmmHg,左眼C22.40CmmHgで数カ月推移した.Goldmann圧平式眼圧計の測定には困難を要したため,reboundtonometer(iCareCorIcarePRO)を用いた.強い閉瞼と前頭部の突出,精神遅滞から下方視が困難なことから,上方での濾過手術は術後管理が困難と判断した.全身麻酔下で両眼ともに超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術,ならびにバルベルトインプラント(BaerveldtGlau-comaImplant)(エイエムオー・ジャパン社:BG101-350)挿入術を施行した.瞼裂も狭く,術後管理も考慮し,耳上側ではなく耳下側の毛様溝にチューブを挿入した(図3).バルベルトインプラントはC8-0バイクリル糸で結紮し,完全閉塞を確認したうえで,SherwoodスリットをC3箇所作製した.チューブ内へのステント留置は行わず,8-0バイクリル糸が融解するまで眼圧下降を待つ方法をとった.チューブの被覆には強膜反転法を用いた5).図1特異な前眼部ならびに全身形態異常a:両眼全周に後部胎生環(黒矢印)を認めた.瞼裂は狭い.Cb:特異な顔貌.Cc:歯牙の欠損.Cd:低身長(103cm).Ce:虹彩の菲薄化(.).図2Goldmann視野(術前)両眼ともに湖崎分類でCV-bで,著明な視野狭窄を認めた.図3術中ならびに術後前眼部写真上段:術中前眼部写真.瞼裂は狭い.下段:術後の前眼部写真.両眼ともに耳下側から毛様溝に挿入されたバルベルトのチューブ先端が確認できる.両眼ラタノプロスト0.005%(1回/日)術翌日右眼眼圧C23.0CmmHg(icarePRO),左眼眼圧C22.2眼圧(mmHg)353025201510533mmHg(IcarePRO)であった.両眼にラタノプロストC0.005%の点眼を開始した.術後C1週間で両眼ともに眼圧はC11mmHg(IcarePRO)と安定した.術後C2週間からC1カ月で眼圧上昇がみられたが,その後眼圧は安定し最終診察時(術11後C6カ月目),右眼視力C20cm/指数弁(0.01p),左眼視力0眼前/手動弁(矯正不能),右眼眼圧C14CmmHg(iCare),左眼眼圧C10CmmHg(iCare)であった(図4).図4術後眼圧の経過III考察今回筆者らはCAR症候群と診断できた患者に,初回から耳下側にバルベルトを挿入することで良好な眼圧下降を得ることができた.隅角検査で発見できるものを含めると,眼科外来で後部胎生環はC17.9%でみられるという報告もあり6),後部胎生環のみではCARの確定診断にはならないが,家族歴,歯牙の欠損や身体的特徴からCARと診断できた.AR症候群における緑内障発症年齢はC2ピークで,小児か若い成人である4).これまでCAR症候群の小児緑内障に対しては長期間の術後経過を報告したものがあるが,成人ではない4,7).MandalらはCAR症候群C44眼に初回からCtrabeculectomy+trabecu-lotomyもしくはCtrabeculectomyを施行し,術前の眼圧はC27.0±4.8CmmHgから術後C14.8C±3.6CmmHgと有意に低下し,平均下降率はC45.14%であった4).また,Kaplan-Meier生存解析による成功確率(全身麻酔下<16CmmHgCorCGoldmann圧平式<21CmmHg)はC6,7,8,9,10年でそれぞれC88.1%,82.3%,70.5%,56.4%,42.3%で良好であったと報告している.Goniotomyで行ったCRiceら7)は11例19眼のうち,2眼のみ眼圧のコントロールができたと報告している.AR症候群は線維柱帯とCSchlemm管の発育不良が原因とされ3),trab-eculectomyが成人でも向いている可能性が高い.ただ本症例のようにCDeepCseteyeで強い閉瞼をし,下方視が困難な症例の場合,術後のレーザー切糸はかなり困難と術前に予測できる.Changら1)も隅角手術が失敗に終わった場合,下方からのインプラント挿入術がCtrabeculectomyに比べて診察の頻度も少なく,よい選択肢であると述べている.今後長期間の経過観察が必要である.CIV結論上方からの濾過手術が困難と予想されたCAR症候群に,初回下方からのバルベルト挿入術は有効であった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ChangCTC,CSummersCCG,CSchimmentiCLACetal:Axen-feld-RiegerCsyndrome:newCperspectives.CBrCJCOphthal-molC96:318-322,C20122)尾関年則,白井正一郎,馬嶋昭生:Axenfeld-Rieger症候群の臨床像.臨眼C51:1727-1730,C19973)ShieldsMB:Axenfeld-RiegerCsyndrome:aCtheoryCofCmechanismanddistinctionsfromtheiridocornealendothe-lialCsyndrome.CTransCAmCOphthalmolCSocC81:736-784,C19834)MandalCAK,CPehereN:Early-onsetCglaucomaCinCAxen-feld-Riegeranomaly:long-termsurgicalresultsandvisu-aloutcome.Eye(Lond)C30:936-942,C20165)藤尾有希,中倉俊祐,野口明日香ほか:強膜反転法を用いたインプラントチューブ被覆術.あたらしい眼科C35:957-961,C20186)尾関年則,白井正一郎,佐野雅洋ほか:後部胎生環の臨床的検討.臨眼C48:1095-1098,C19947)RiceNSC:Thesurgicalmanagenmentofcongenitalglau-comas.AustJOphthalmolC5:174-179,C1977***

急性原発閉塞隅角症眼における虹彩厚の検討

2019年4月30日 火曜日

《第29回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科36(4):529.532,2019c急性原発閉塞隅角症眼における虹彩厚の検討小林由依*1中倉俊祐*1松谷香菜恵*1田淵仁志*1木内良明*2*1三栄会ツカザキ病院眼科*2広島大学視覚病態学講座CEvaluationofIrisThicknessinPatientswithAcutePrimaryAngle-closureGlaucomaYuiKobayashi1),ShunsukeNakakura1),KanaeMatsuya1),HitoshiTabuchi1)andYoshiakiKiuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,SaneikaiTsukazakiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversityC目的:急性原発閉塞隅角症(APAC)眼における虹彩厚を検討すること.対象および方法:APACを発症したC36例C36眼(女性C28眼,平均年齢C71.0歳).全例一期的に水晶体再建術を初診時に施行し(平均推定発症経過日数C3.1日),僚眼も数日以内に施行した.術後平均C27.4日目に施行した前眼部光干渉断層計から,虹彩厚を瞳孔縁から耳側と鼻側それぞれC1CmmとC2Cmmの部位でC2回測定した.結果:耳側虹彩厚はCAPAC眼でC0.47C±0.09Cmm(1Cmm)/0.44C±0.07mm(2Cmm),僚眼でC0.50C±0.10Cmm(1Cmm)/0.43C±0.08Cmm(2Cmm)で有意差はなかった(p=0.189,C0.488.CStudent’st-test).鼻側虹彩厚はCAPAC眼でC0.54C±0.10Cmm(1Cmm)/0.46C±0.08Cmm(2Cmm),僚眼でC0.52C±0.11Cmm(1Cmm)C/0.47±0.08Cmm(2mm)で同様に有意差はなかった(p=0.635,0.680.Student’st-test).また,虹彩厚の変化にかかわる特徴的な因子はなかった.結論:APACによる短期的な眼圧上昇や炎症は虹彩厚に影響を及ぼさないと推測された.CPurpose:WeCevaluatedCtheCiristhickness(IT)inCacuteprimaryCangle-closure(APAC)eyesCandCfellowCeyesCtoinvestigatethee.ectofhighintraocularpressure(IOP)duetoAPAC.Patientsandmethods:WemeasuredITin36APACeyesandfelloweyes(28females;meanage71.0years).Meanarrivaltimewas3.1days;theAPACeyeshadcataractsurgeryontheC.rstvisitday;thefelloweyeshadcataractsurgerywithinafewdays.ITat1and2Cmmfromthepupiledgewasmeasuredusinganteriorsegmentopticalcoherencetomographyatmean27.4daysafterinitialvisit.Results:Therewasnosigni.cantdi.erenceinITatanymeasurementpointbetweentheAPACCeyeCandCtheCfelloweye(allp>0.05byCStudent’st-test)C.Conclusion:OurCstudyCsuggestsCthatCacuteCIOPCriseinAPACdoesnota.ectIT.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(4):529.532,2019〕Keywords:緑内障,虹彩厚,急性原発閉塞隅角症,前眼部光干渉断層計.glaucoma,iristhickness,acuteprimaryangleclosureglaucoma,anteriorsegmentopticalcoherencetomography.Cはじめにぶどう膜は虹彩,毛様体,脈絡膜からなる血管豊富な組織である.このなかで脈絡膜厚に関しては,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)の開発,とくに深部強調画像CEDI(enhanceddepthCimaging)-OCTの出現により精密な脈絡膜厚を測定できるようになった1).急性原発閉塞隅角緑内障眼(acuteCprimaryCangleCclosureCglauco-ma:APAC)ではその僚眼に比べて有意に眼圧が高く,脈絡膜厚は薄い2)とする報告や,逆にCAPAC眼では厚い3)とする報告もある.また,トラベクレクトミー眼では眼圧下降に伴い有意に脈絡膜厚が増加することが判明している4,5).しかしながら,より前方のぶどう膜である毛様体や虹彩の厚みに関する報告は数少なく6.9),眼圧や病態による変化はまだ解明されていない.今回筆者らはCAPAC眼とその僚眼の虹彩厚を前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentopticalcoher-encetomography:ASOCT)を用いて計測し,短期的な眼圧上昇や炎症が虹彩厚に影響を及ぼすかを検討した.CI対象および方法この研究はツカザキ病院倫理委員会の承認を得て行われ,〔別刷請求先〕小林由依:〒671-1227兵庫県姫路市網干区和久C68-1三栄会ツカザキ病院眼科Reprintrequests:YuiKobayashi,C.O.,DepartmentofOphthalmology,SaneikaiTsukazakiHospital,68-1AboshiWaku,Himeji,Hyogo671-1227,JAPANCヘルシンキ宣言に準じて行われた,カルテベースの後ろ向き研究である.対象はツカザキ病院眼科にCASOCT(SS-1000CASIATM,TOMEY,CNagoya,CJapan)が導入されたC2010年C4月.2017年C7月までにCAPACで来院し,両眼ともにレーザー虹彩切開や内眼手術既往歴のない患者C41名とした.APAC眼は当院初診時,発作状態で来院し,降圧薬の点滴や点眼による降圧ののち,同日,一期的に超音波乳化吸引術ならびに眼内レンズ挿入術を施行した.手術は白内障手術に熟練した医師が行った.僚眼に対しても同様に超音波乳化吸引術ならびに眼内レンズ挿入術をC1週間以内に同一術者が施行した.術後撮影したCASOCTを用いて虹彩厚の解析を行った.レンズが.内固定できなかった症例やCASOCTが術後撮影されていない症例を除いた患者C36眼を解析対象とした.患者背景を表1に提示する.女性はC28例(77%),発作眼は右眼がC13眼(36%),平均年齢はC71.0C±8.4歳(平均C±標準偏差)であった.既往歴の聴取より,発作から手術までの日数は中央値C2日(四分位範囲C1.4日),初診時から術後のASOCT撮影日までの中央値はC19.5日(四分位範囲C9.33.7日)であった.CASOCT撮影方法ASOCTはすべて高画質C2Dmodeで撮影し,もっともきれいに撮影されている水平画像を選択した.虹彩厚は,虹彩後面にある高輝度線に沿い,瞳孔縁からC1Cmm(C±0.005Cmm)表1患者背景性別(女性,%)28(77)発作眼(右眼,%)13(36)年齢(平均C±標準偏差)(範囲)C発作期間(中央値,IQR)(日)71.0±8.4(39.84)2(1.4)初診時から前眼部撮影時までの日数(中央値,IQR)19.5(C9.C33.7)IQR:四分位範囲Cinterquartilerange.とC2Cmm(C±0.005Cmm)のところで,耳側と鼻側でC2回ずつ内部キャリパーを用いて測定し(図1),そのC2回の平均を解析に用いた.眼圧はCGoldmann圧平式眼圧計を用いて測定した.統計発作眼と僚眼の比較には,StudentC’st-検定を用いてCp値がC0.05未満を有意であるとした.発作眼と僚眼の虹彩厚の差と,初診時の眼圧差,ならびに初診時眼圧C×発作期間との相関関係にはCSpearmanの順位相関係数検定を用いた.CII結果初診時ならびにCASOCT撮影時の眼圧,初診時の眼軸長や前房深度を表2に提示する.初診時の眼圧は発作眼が僚眼に比べて有意に高かったが(54.7C±12.7CmmHgCvsC15.8±5.7mmHg,p<0.001),ASOCT撮影時には差がなかった(14.0C±4.4CmmHgCvsC13.9±4.0CmmHg,p=0.932).また,初診時の前房深度は発作眼で有意に狭かったが(1.55C±0.35vsC1.95±0.60Cmm,p<0.001),眼軸長には差はなかった(22.5C±0.8vsC22.4±0.7Cmm,p=0.619).虹彩厚の比較では,耳側C1Cmmで発作眼がC0.47C±0.09Cmmに対して僚眼はC0.50C±0.10Cmm(p=0.189)と有意な差はなかった.同様に耳側C2Cmmで発作眼がC0.44C±0.07Cmmに対して僚眼はC0.43C±0.08Cmm(p=0.488),鼻側C1mmでは発作眼がC0.54±0.10Cmmに対して僚眼はC0.43C±0.08Cmm(p=0.635),鼻側C2Cmmでは発作眼がC0.46C±0.08Cmmに対して僚眼はC0.47C±0.08Cmm(p=0.680)とすべて有意な差はなかった.つぎに発作眼と僚眼の虹彩厚の差と,初診時の眼圧差,ならびに初診時眼圧C×発作期間との相関関係を調べた(表3).いずれもrs<0.2,p>0.3と有意な相関はみられなかった.CIII考察今回これまで報告のない,APAC眼とその僚眼の虹彩厚図1ASOCTによる虹彩厚の測定左:発作眼,右:僚眼.瞳孔縁からC1CmmとC2Cmmのところで,内部キャリパーを用いてC2回ずつ,鼻側,耳側とにも測定した.表2発作眼とその僚眼の比較発作眼僚眼Cpvalue初診時眼圧(mmHg)C54.7±12.7(C28.C78)C15.8±5.7(6.38)<C0.001前眼部撮影時眼圧(mmHg)C14.0±4.4(6.32)C13.9±4.0(6.23)C0.932初診時前房深度(mm)C1.55±0.35(C1.06.C2.51)C1.95±0.60(C1.03.C4.58)<C0.001初診時眼軸(mm)C22.5±0.8(C20.5.C24.1)C22.4±0.7(C20.9.C24.1)C0.619虹彩厚耳側1CmmC0.47±0.09(C0.27.C0.64)C0.50±0.10(C0.25.C0.74)C0.189耳側2CmmC0.44±0.07(C0.26.C0.56)C0.43±0.08(C0.20.C0.67)C0.488鼻側1CmmC0.54±0.10(C0.36.C0.78)C0.52±0.11(C0.25.C0.75)C0.635鼻側2CmmC0.46±0.08(C0.28.C0.63)C0.47±0.08(C0.17.C0.65)C0.680両側1mmC0.50±0.10(C0.27.C0.78)C0.51±0.11(C0.24.C0.75)C0.566両側2mmC0.45±0.07(C0.26.C0.63)C0.45±0.08(C0.17.C0.67)C0.869pvalue:Student’st-test.表3初診時眼圧ならびに発作期間×眼圧値との関係初診時眼圧差(発作眼C.僚眼)初診時眼圧差(発作眼C.僚眼)C×発作期間(日)虹彩厚の差(発作眼C.僚眼)両側1CmmCrs=0.07,Cp=0.531Crs=.0.05,Cp=0.638虹彩厚の差(発作眼C.僚眼)両側2CmmCrs=.0.01,Cp=0.876Crs=.0.10,Cp=0.383Crs=Spearman’srankcorrelationcoe.cient.を検討したが有意な差は認められなかった(allp>0.1).以前筆者らは,血管新生緑内障眼の虹彩厚を本研究とまったく同じ方法で計測し,病期のCstageで分類し検討した9).その結果,360°隅角閉塞した血管新生緑内障眼では,隅角開放期の血管新生緑内障眼や健常人に比べて有意にどの測定点でも薄くなっており,健常人の約C60%の厚みであった.多変量回帰分析では病期の進行により虹彩厚が薄くなること以外に,1Cmmの部位の虹彩厚に関与する因子として汎網膜光凝固術(0.23),2Cmmの部位の虹彩厚に関与する因子としては汎網膜光凝固術(0.16),抗CVEGF注射(0.05)と眼圧(C.0.001)がパラメータとして残った9).血管新生緑内障眼の場合,長期間の高眼圧が虹彩厚に影響を与えた可能性がある.したがって今回の研究目的であるCAPAC眼での数日間の眼圧上昇により,虹彩厚に変化を及ぼすのではと推測したが,結果として差はなかった.本研究では,一期的白内障手術により発作を解除されてから中央値でC19.5日空いて計測しているが,発作眼の虹彩厚の継時的な変化は今後の検討課題である.発作解除後で比べたCAPAC眼における脈絡膜厚の報告では,APAC眼のほうが僚眼に比べて有意に脈絡膜が厚いという報告3)と差がない7)という報告がある.これまでに落屑緑内障8),血管新生緑内障眼9)とCFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎10)において虹彩厚が菲薄することが報告されているが,本研究と同じく,継時的変化を追った報告はない.また,筆者らが用いたCASOCTの内部キャリパーを用いた虹彩厚の測定方法では,水晶体により前方に弧を描く虹彩の厚みを正確に測定することはできない.したがって全例,白内障手術を完了し虹彩が平坦になった状態での虹彩厚を測定している.CIV結論APACによる短期的な眼圧上昇や炎症は虹彩厚に影響を及ぼさないと推測された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)五味文:総説C74黄斑疾患と脈絡膜.日眼会誌C122:C341-353,C20182)SongCW,CHuangCP,CDongCXCetal:ChoroidalCthicknessCdecreasedCinCacuteCprimaryCangleCclosureCattacksCwithCelevatedintraocularpressure.CurrEyeResC41:526-531,20163)WangCW,CZhouCM,CHuangCWCetal:DoesCacuteCprimaryCangle-closureCcauseCanCincreasedCchoroidalCthickness?CInvestOphthalmolVisSciC54:3538-3545,C20134)KaraN,BazO,AltanCetal:Changesinchoroidalthick-ness,axiallength,andocularperfusionpressureaccompa-nyingCsuccessfulCglaucomaC.ltrationCsurgery.Eye(Lond)C27:940-945,C20135)ChenS,WangW,GaoXetal:Changesinchoroidalthick-nessCafterCtrabeculectomyCinCprimaryCangleCclosureCglau-coma.InvestOphthalmolVisSciC55:2608-2613,C20146)InvernizziCA,CGiardiniCP,CCigadaCMCetal:Three-dimen-sionalCmorphometricCanalysisCofCtheCIrisCbyCswept-sourceCanteriorsegmentopticalcoherencetomographyinaCau-casianCpopulation.CInvestCOphthalmolCVisCSciC56:4796-4801,C20157)LiX,WangW,HuangWetal:Di.erenceofuvealparam-etersCbetweenCtheCacuteCprimaryCangleCclosureCeyesCandthefelloweyes.Eye(Lond)C32:1174-1182,C20188)BaturCM,CSevenCE,CTekinCSCetal:AnteriorClensCcapsuleCandCirisCthicknessesCinCpseudoexfoliationCsyndrome.CCurrCEyeResC42:1445-1449,C20179)NakakuraS,KobayashiY,MatsuyaKetal:IristhicknessandCseverityCofCneovascularCglaucomaCdeterminedCusingCswept-sourceCanterior-segmentCopticalCcoherenceCtomog-raphy.JGlaucomaC27:415-420,C201810)InvernizziCA,CCigadaCM,CSavoldiCLCetal:InCvivoCanalysisCoftheiristhicknessbyspectraldomainopticalcoherencetomography.BrJOphthalmolC98:1245-1249,C2014***