いろいろな水晶体関連緑内障AVarietyofLens-InducedGlaucoma栗本康夫*はじめに一般に緑内障は開放隅角型と閉塞隅角型に大別されるが,水晶体に関連する緑内障も開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障に分けられる.緑内障全体としては開放隅角型が多数を占めるが,水晶体が関与する緑内障で眼科医がより頻繁に遭遇するのは閉塞隅角型である.水晶体が関与する閉塞隅角緑内障は,器官としての水晶体の位置や容積ないし形状の問題に起因する.かつては水晶体に関連する閉塞隅角緑内障は続発閉塞隅角緑内障に分類されていたが,近年,原発閉塞隅角緑内障においても水晶体の関与が注目されており,水晶体関連の閉塞隅角緑内障は原発性と続発性の境界が曖昧になっている.これに対し,水晶体が関与する開放隅角緑内障は基本的に水晶体.の破綻に伴う水晶体内容物の.外への漏出ないし拡散に起因し,原則としてすべて続発開放隅角緑内障に分類される.CI水晶体に関連した閉塞隅角緑内障ヒトの水晶体の容積は約C160.mm3で1),虹彩容積の約C45.mm32)を大きく上回り,硝子体や房水などのゲルおよび液体を除けば眼球内腔においてもっとも大きな空間を占有している.隅角の構成要素である虹彩の位置や形状が隅角の房水流出路に大きな影響を与えることは自明であるが,水晶体の位置や形状ないし容積の変化も房水流出路にしばしば大きな影響を与えることになる.水晶体の前面は虹彩の後面に接しており,水晶体の前方偏位表1いろいろな水晶体関連緑内障や容積の増大,形状の変化により水晶体前面が前方に移動すれば虹彩が前方に圧排され,その結果,虹彩周辺部が対面する線維柱帯に押しつけられ,隅角の閉塞が生じうる.C1.原発閉塞隅角緑内障原発閉塞隅角緑内障における隅角閉塞は,①瞳孔ブロック,②プラトー虹彩,③水晶体因子,④水晶体後方因子の四つのメカニズムによって起こると考えられている3).③の水晶体因子による原発閉塞隅角緑内障が水晶体に関連した緑内障とみなされるのは字義どおりであるが,③以外のメカニズムにも水晶体は大きく関与している.①の瞳孔ブロックについては,水晶体前面が瞳孔部において水晶体を前方に圧す力が瞳孔ブロックの発生原因となっている4).したがって,水晶体容積の増大や前*YasuoKurimoto:神戸市立神戸アイセンター病院〔別刷請求先〕栗本康夫:〒650-0047神戸市中央区港島南町C2-1-8神戸市立神戸アイセンター病院C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(3)C1105方偏位により水晶体前面が前方に偏位すると瞳孔ブロックを駆動する力が強まり,隅角閉塞に至りやすくなる.③の水晶体因子と④の水晶体後方因子はどちらも水晶体前面がダイレクトに虹彩全体を前方に圧排して虹彩周辺部が線維柱帯に接触することで隅角閉塞が生じる.また,もっぱら虹彩や毛様体の形状に依存すると考えられている②プラトー虹彩による隅角閉塞についても,水晶体が関与していることが示されている5).したがって,原発閉塞隅角緑内障で隅角閉塞をきたす四つのメカニズムのすべてに水晶体は関与していることになり,水晶体は原発閉塞隅角緑内障の発症要因の主役の座にあるといっても過言ではない.水晶体摘出あるいは同再建術が狭隅角の形態を劇的に改善することが示され6),近年,水晶体再建術が原発閉塞隅角緑内障および同症の治療の第一選択の地位を占めつつある7)のはその傍証といえよう.水晶体容積の増大については,いわゆる膨隆水晶体のように明らかに異常な水晶体容積の増大は続発閉塞隅角緑内障に分類されるが,眼球容積が小さい遠視眼においては生理的状態でも水晶体容積が相対的に過大となり隅角閉塞を引き起こすリスクが高くなる.加齢に伴う生理的な水晶体容積の増大もこのリスクを高める.さらに短眼軸眼では水晶体はより厚く,相対的水晶体位置はより前方に偏位していることが知られており8),これは光学的には遠視を軽減し屈折を正視に近づける効果がある一方で,水晶体前面が前進して虹彩を前方に圧排することで隅角が狭まり,隅角閉塞のリスクを高めることになる.C2.続発閉塞隅角緑内障水晶体の容積ないし厚さの増大や位置の前方偏位は隅角閉塞を引き起こすが,これらの水晶体の変化が生理的な多様性の範囲内であれば,上述のように原発閉塞隅角緑内障ないし原発閉塞隅角症に分類するのが妥当である.しかしながら,水晶体の変化が生理的な変動を越えるとみなされる場合には続発閉塞隅角緑内障に分類される.ただし水晶体の位置や形状には個人差が大きいので,原発と続発の境界は必ずしも明確ではない.続発閉塞隅角緑内障を引き起こす水晶体の問題としては,原発閉塞隅角と同様に水晶体容積の増大と水晶体の位置異常があり,これに水晶体の形状異常も加わる.それぞれの問題をきたす原因として,過熟白内障などによる膨隆水晶体,外傷やCZinn小帯の脆弱性に起因する水晶体(亜)脱臼,Marfan症候群などの全身疾患に伴う球状水晶体などがある.それぞれの病態の詳細については本特集の各論の稿に譲る.CII水晶体に関連した開放隅角緑内障水晶体に関連する開放隅角緑内障は,いずれも水晶体.が破綻して水晶体の内容物が水晶体.外に拡散ないし漏出することが発症のトリガーとなる.原因としては,成熟ないし過熟白内障,白内障手術,その他の内眼手術,後発白内障切開などのレーザー治療,外傷などがある.眼圧上昇のメカニズムとしては,水晶体蛋白の.外漏出による線維柱帯の微小閉塞,水晶体小片による物理的な隅角の閉塞,水晶体成分の.外漏出によって引き起こされた炎症あるいはアレルギー反応,前房水の蛋白濃度上昇による浸透圧の変化,などがあげられ,病態が遷延すれば二次的な線維柱帯組織の変化も加わると思われる.水晶体が関連する開放隅角緑内障は,その病態により下記のように分類されるが,複数の分類にまたがったマルチメカズムによる水晶体関連開放隅角緑内障症例も多いと思われる.C1.水晶体融解緑内障(水晶体蛋白緑内障)白内障が成熟白内障ないし過熟白内障に進行すると,水晶体が融解し水晶体蛋白が水晶体.外に流出する場合がある.漏出した水晶体蛋白を貪食したマクロファージ9),あるいは水晶体蛋白そのもの10)が線維柱帯を閉塞するのが本緑内障の病態である.眼圧上昇には物理的な閉塞と炎症の両者が寄与している.原則として片眼性で,しばしば急性の経過をとる.C2.水晶体小片緑内障白内障手術,後発白内障に対するレーザー手術,外傷などによって水晶体の小片が前房に拡散し,隅角を閉塞して眼圧が上昇する11).上述の水晶体蛋白緑内障と眼圧上昇のメカニズムはオーバーラップする場合もある.1106あたらしい眼科Vol.C36,No.9,2019(4)3.水晶体過敏緑内障(水晶体アナフィラキシー緑内障)水晶体蛋白は生体にとって隔離抗原であるが,白内障手術や外傷,あるいは過熟白内障による水晶体蛋白の.外への流出によって水晶体蛋白を抗原とする自己免疫反応が引き起こされ12),これが原因となって眼圧が上昇する13).CIII治療総論緑内障ガイドライン14)では緑内障治療の原則として「治療できる原因があれば原因治療」としている.水晶体関連緑内障は水晶体が原因となって発症する緑内障であるから,この原則があてはまる.水晶体関連の閉塞隅角緑内障については,水晶体を除去することで原因治療はほぼ完遂されるので,水晶体を摘出すべきではない特段の理由がなければ第一選択治療として水晶体摘出ないし水晶体再建術を適用すべきである.ただし,若年者での水晶体再建術では調節力の喪失のデメリットもあり,水晶体関連の閉塞隅角緑内障ではしばしば水晶体再建術の合併症リスクが高くなるので,手術のメリットがそのデメリットやリスクを上回るかどうかを個別に判断していかなければならない.水晶体を除去したあとも周辺虹彩の器質的癒着や線維柱帯の変化など二次的変化により高眼圧が解消されない場合もまれではない.その場合には,周辺虹彩癒着に対しては癒着解離術の追加,あるいは開放隅角メカニズムに対しては薬物治療や線維柱帯切開術,線維柱帯切除術などの手術治療を検討する.水晶体に関連する開放隅角緑内障についても原因治療として水晶体,あるいは残余水晶体を可及的に除去することが治療の原則である.ただし,原因である水晶体を除去しても二次的な問題により眼圧上昇は直ちには解消しない場合も多い.上述した閉塞隅角緑内障の二次的変化に対する治療と同様に開放隅角メカニズムに対する薬物治療や手術治療を検討していくこととなるが,加えて炎症が関与する水晶体関連開放隅角緑内障ではステロイド投与などの消炎治療も必要となる.治療の詳細についてはそれぞれの病型についての各論の稿を参照されたい.文献1)HermansCEA,CPouwelsCPJ,CDubbelmanCMCetal:ConstantCvolumeCofCtheChumanClensCandCdecreaseCinCsurfaceCareaCofCtheCcapsularCbagCduringaccommodation:anCMRICandCScheimp.ugCstudy.CInvestCOphthalmolCVisCSciC50:281-289,C20092)AptelCF,CDenisP:OpticalCcoherenceCtomographyCquanti-tativeCanalysisCofCirisCvolumeCchangesCafterCpharmacologicCmydriasis.COphthalmologyC117:3-10,C20103)FosterCP,CHeCM,CLiebmannJ:Epidemiology,Cclassi.cationandCmechanism.In:AngleCclosureCandCangleCclosureCglauC-coma(editedCbyCWeinrebCRN,CFriedmanDS)C.Cp1-20,CKuglerCPublication,CNetherlands,C20064)MapstoneR:MechanicsCofCpupilCblock.CBrJOphthalmolC52:19-25,C19685)NonakaCA,CKondoCT,CKikuchiCMCetal:AngleCwideningCandCalterationCofCciliaryCprocessCcon.gurationCafterCcata-ractCsurgeryCforCprimaryCangleCclosure.COphthalmologyC113:437-441,C20066)KurimotoCY,CParkCM,CSakaueCHCetal:ChangesCinCtheCanteriorCchamberCcon.gurationCafterCsmall-incisionCcata-ractCsurgeryCwithCposteriorCchamberCintraocularClensCimplantation.CAmJOphthalmol124:775-780,C19977)Azuara-BlancoCA,CBurrCJ,CRamsayC;EAGLECstudygroup:E.ectivenessCofCearlyClensCextractionCforCtheCtreat-mentCofCprimaryCangle-closureglaucoma(EAGLE):aCrandomisedCcontrolledCtrial.CLancetC388:1389-1397,C20168)LoweRF:CausesCofCshallowCanteriorCchamberCinCprimaryCangle-closureCglaucoma.CUltrasonicCbiometryCofCnormalCandCangle-closureCglaucomaCeyes.CAmCJCOphthalmolC67:C87-93,C19699)FlocksCM,CLittwinCCS,CZimmermanLE:PhacolyticCglauco-ma;aCclinicopathologicCstudyCofConeChundredCthirty-eightCcasesCofCglaucomaCassociatedCwithChypermatureCcataract.CArchOphthalmol54:37-45,C195510)EpsteinCDL,CJedziniakCJA,CGrantWM:Identi.cationCofCheavy-molecular-weightCsolubleCproteinCinCaqueousChumorCinChumanCphacolyticCglaucoma.CInvestCOphthalmolCVisCSciC17:398-402,C197811)EpsteinCOL,CJedziniakCJA,CGrantWM:ObstructionCofCaqueousCout.owCbyClensCparticlesCandCbyCheavy-molecu-lar-weightCsolubleClensCproteins.CInvestOphthalmolVisSciC17:272-277,C197812)RahiCAH,CMisraCRN,CMorganG:ImmunopathologyCofCtheClens.CIII.CHumoralCandCcellularCimmuneCresponsesCtoCautol-ogousClensCantigensCandCtheirCrolesCinCocularCin.ammation.CBrJOphthalmolC61:371-379,C197713)PerlmanCEM,CAlbertDM:ClinicallyCunsuspectedCphaco-anaphylaxisCafterCocularCtrauma.CArchCOphthalmolC95:C244-246,C197714)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌C122:5-53,C2018(5)あたらしい眼科Vol.C36,No.9,2019C1107