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緑内障:続発緑内障の原因診断のためのPCR法

2019年4月30日 火曜日

●連載226監修=山本哲也福地健郎226.続発緑内障の原因診断のための高瀬博東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学CPCR法続発緑内障はぶどう膜炎の主要な合併症であるが,ヘルペスウイルスによるぶどう膜炎には眼内液CPCR法による診断が重要である.PCR法の適応を検討すべき臨床所見には,片眼性,豚脂様角膜後面沈着物,高眼圧があげられる.Posner-Schlossman症候群と診断されている症例にも,PCR法を検討すべきものが多く含まれる.●はじめに続発緑内障はぶどう膜炎患者の予後を規定する重要な合併症であり,そのマネジメントには的確な原因診断が不可欠である.非感染性ぶどう膜炎が原則的にステロイドや免疫抑制薬によって治療されることに対して,感染性ぶどう膜炎には感染病原体特異的な治療が必要となるため,その診断には正確を期す必要がある.ポリメラーゼ鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)法は,検索対象となる遺伝子を含む眼内液と,それ特異的に結合するプライマーとよばれる一対の短い核酸断片,酵素,基質などの混合液に加熱と冷却をくりかえすことで,プライマーに結合するCDNA領域を大量に複製,検出するものであり,微量な眼内液から感染病原体遺伝子を検出できる鋭敏な検査法である.しかし,眼内液の採取は侵襲を伴うものであり,すべてのぶどう膜炎で行うことはできない.本稿では,PCR法が有用なぶどう膜炎続発緑内障について述べる.C●PCR法で検出しやすい病原微生物と検出しにくい病原微生物ぶどう膜炎の原因となる微生物でCPCR法が有用なものには,単純ヘルペルウイルス(HSV),水痘帯状疱疹ウイルス(VZV),サイトメガロウイルス(CMV),トキソプラズマ,ヒトCT細胞白血病ウイルスC1型(HTLV-1)プロウイルス,細菌C16SリボソームCRNA,真菌C28SリボソームCRNAなどがあげられる1).一方,結核菌,梅毒トレポネーマ,トキソカラなどはCPCR法での検出率は一般に低い.C●PCR法を考える前にやるべきことぶどう膜炎の診断は,詳しい問診,両眼の隅角検査と(87)散瞳眼底検査,可能であれば蛍光眼底造影検査を含む徹底的な眼科的検査,そして臨床所見に応じた全身検査が必要である.サルコイドーシス,Vogt・小柳・原田病,Behcet病などは診断基準に沿った検査を漏れなく行うことで多くの場合で診断が可能であり,トキソプラズマ,HTLV-1,結核,梅毒,トキソカラなどは全身検査による診断が基本である.これらのプロセスを経ることなく,まして眼底検査を施行せずにCPCR法を検討することは通常ない.C●PCR法が有用なぶどう膜炎続発緑内障とその特徴上述のプロセスによる診断が困難であり,かつCPCR法が有用なぶどう膜炎続発緑内障は,HSV,VZV,CMVなどによる前部ぶどう膜炎(anterioruveitis:AU)である.その特徴は,片眼性,豚脂様角膜後面沈着物(keraticprecipitates:KP)(図1),ときに「びっくりするような」眼圧上昇(図2)の三つである.原則的に片眼罹患だが,CMV-AUの数パーセントと,ごくまれにCHSV-AUに両眼性病変が存在する.KPは大小さまざまで,色素沈着の程度もさまざまである.CMV-AUでは角膜内皮炎によるCcoinlesionを形成することもある(図1).眼圧はC40CmmHgを超すような場合でも激しい自覚症状は伴わず,ケロっとしていることが多い.しばしばステロイド点眼によって一時的な眼圧下降が得られるが,最終的には抗ウイルス治療なくしては眼圧下降が得られなくなる.隅角には色素の左右差がみられることが多く,強い色素沈着はCVZV-AUを,色素脱失はCCMV-AUを疑う.原則的に開放隅角であり,隅角結節やテント状周辺虹彩前癒着を多数認める場合はサルコイドーシスや結核を疑うべきである.VZV-AUでは分節状の虹彩萎縮(図1)あたらしい眼科Vol.36,No.4,2019C5090910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1ヒトヘルペスウイルスによる前部ぶどう膜炎の前眼部写真aba:水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)による前部ぶどう膜炎(AU)の豚脂様角膜後面沈着物(KP).大型で薄く色素を伴い,汚い印象である.Cb:VZV-AUに生じた軽度の分節状虹彩萎縮.Cc:サイトメガロウイルス(CMV)によるAUのCKP.色素を伴わず白色小型のものが少数みられる.Cd:CMV-AUのcoinlesion.c図2ヒトヘルペスウイルスによる前部ぶどう膜炎の最大眼圧単純ヘルペスウイルス(HSV),水痘帯状疱疹ウイルス(VZV),サイトメガロウイルス(CMV)による前部ぶどう膜炎(AU)の炎症期における最大眼圧(IOP).(文献C2より許可を得て改変,転載)を認め,CMV-AUではびまん性の虹彩萎縮を認めることがある.罹患眼の角膜内皮細胞密度の減少はCCMV-AUでしばしばみられる2).ここまで述べたぶどう膜炎像の多くは,Posner-510あたらしい眼科Vol.36,No.4,2019Schlossman症候群(Posner-Schlossmansyndrome:PSS)3)と重なるものであり,PSSとして加療されているぶどう膜炎続発緑内障にはCCMV-AUや,さらには風疹ウイルス4)やサルコイドーシスの初期なども含まれている可能性がある.PSSはあくまで除外診断の果てに用いる診断名であり,PSSに合致する症例でも原因検索の努力を怠るべきではない.長年にわたり再発を繰り返すCPSSには,PCR法を含めたぶどう膜炎検査を再考すべき症例が数多く存在するものと考えられる.文献1)SugitaS,OgawaM,ShimizuNetal:Useofacomprehen-siveCpolymeraseCchainCreactionCsystemCforCdiagnosisCofCocularinfectiousdiseases.OphthalmologyC120:1761-1768,C20132)TakaseH,KubonoR,TeradaYetal:Comparisonoftheocularcharacteristicsofanterioruveitiscausedbyherpessimplexvirus,varicella-zostervirus,andcytomegalovirus.JpnJOphthalmolC58:473-482,C20143)PosnerCA,CSchlossmanA:SyndromeCofCunilateralCrecur-rentCattacksCofCglaucomaCwithCcycliticCsymptoms.CArchCOphthalmolC39:517-535,C19484)CheeCSP,CJapA:PresumedCFuchsCheterochromicCiridocy-clitisCandCPosner-Schlossmansyndrome:comparisonCofCcytomegalovirus-positiveCandCnegativeCeyes.CAmCJCOph-thalmol146:883-889,C2008(88)

屈折矯正手術:EDOF眼内レンズ(Technis Symfony)

2019年4月30日 火曜日

監修=木下茂●連載227大橋裕一坪田一男227.EDOF眼内レンズ(TechnisSymfony)三木恵美子南青山アイクリニックEDOF眼内レンズのひとつであるCTechnisSymfony(テクニスシンフォニーオプティブルーとテクニスシンフォニートーリックオプティブルー)について,見え方と使い方を紹介する.従来の多焦点眼内レンズに比べて見え方の質は改善されているが,術後に得られる見え方と可能性のある不具合を理解し,それぞれの目的に合ったレンズを選ぶことが重要である.C●はじめに多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の種類が増え,それぞれに見え方の質の改善にいろいろな工夫がなされており,白内障術後に眼鏡使用を減らし,より快適な生活が期待できるようになった.しかし,にじみ,グレア,ハローなどは避けることができず,それらを軽減しCQOVの向上がさらに望まれるところである.テクニスシンフォニーオプティブルーとテクニスシンフォニートーリックオプティブルー(いずれもジョンソン・エンド・ジョンソン,以下,Symfony)はCextend-eddepthoffocus(EDOF)IOLのひとつで,焦点深度を拡張することにより,遠方から中間まで連続して見ることができる.単焦点CIOLの遠方視力の質を落とすことなく,多焦点CIOLのように広範囲が見えるCIOLである.C●レンズの設計Symfonyは独自のエシェレット回折デザインにより,すべての透過光が相互に干渉し,焦点深度を拡張(約1.5D相当)するように設計されている.Achromatictechnologyにより色収差を低減しコントラスト感度をlogMAR視力(少数視力)(2.00)-0.3(1.60)-0.2(1.25)-0.1(1.00)0.0(0.80)0.1(0.63)0.2(0.50)0.3(0.40)0.4(0.32)0.5(0.25)0.6■TECNISSymfony.IOL2.01.51.00.50.0-0.5-1.0-1.5-2.0-2.5-3.0付加度数図1焦点深度曲線単焦点CIOLに比べて中間(1.5D)まで良好な視力が続き,その後の落ち込みも少ない.(ジョンソン・エンド・ジョンソン提供)向上させ,回折溝のない中心部も広く設定されており,光の損失率は8%と他の多焦点CIOLに比べ少なくなっている1).Symfonytoricの乱視矯正量はC4段階(角膜面で1.03/1.54/2.06/2.57D)である.C●見え方の改善焦点深度拡張に伴い,遠方から中間まで落ち込みがない自然な見え方が得られ(図1)グレア,ハローなどのdysphotopsiaが軽減される(図2).また,光の損失率が抑えられることによって,従来の加入度数が多い多焦点CIOLで問題になる夜間視も比較的良好に保たれると考えられる.色収差の低減によってコントラスト感度低下は少ないとされる2).しかし,近距離視力は不十分なので,近見時の眼鏡使用が前提となる.図2IOLの違いによる光学特性a:Symfonyでは焦点深度が延長される.Cb:単焦点ではC1カ所に焦点が結ばれる.Cc:2焦点ではC2カ所に焦点を結ぶが,周辺にCdysphotopsiaの原因になる焦点を結ばない光がみられる.(ジョンソン・エンド・ジョンソン提供)(85)あたらしい眼科Vol.36,No.4,2019C5070910-1810/19/\100/頁/JCOPY図3Symfony挿入例回折溝のない中心部が広く設計されている.●Symfonyの適応2重,3重焦点の多焦点CIOLにより眼鏡使用頻度は少なくできるが,グレア,ハローが避けられず,場合によっては夜間運転に影響する可能性がある.不満例では摘出も報告されている3).SymfonyでもCdysphotopsiaは起こるが軽度であり,多焦点CIOLによる見え方の質の低下が心配な人にはいい適応である.また,従来の多焦点CIOLより収差は許容でき,LASIKやレーザー屈折矯正角膜切除術(PRK)後の眼にも使用可能である.ただし,強い収差や角膜の不正乱視などは慎重に検討するべきである.緑内障や黄斑変性症などがある場合は視力が出にくいと考えられるので,術前のCOCTなどで十分に評価を行う.読書には老眼鏡が必要(1~1.25D加入)だが,海外ではタブレットなどの端末は裸眼で問題ないとしている.また,片眼を軽い近視にして焦点深度を読書距離まで広げ,近方視力の改善も得られるとされる.Cochenerら4)はマルチセンタースタディーでCSymfonyを用いたモノビジョン(片眼を遠方,他眼を-0.5D程度に合わせる.DiscussionでCmini-monovisionとよんでいる)を報告している.両眼を遠方に合わせた症例と比べてモノビジョン群のほうが裸眼での中間と近方視力はよく,老眼鏡使用はC14%であった.満足度は両群で高かった.90%以上の症例でグレア,ハロー,スターバーストの自覚は「なし」から「軽度」であるが,モノビジョンではCdys-photopsiaのリスクが増えることとCneuroadaptできない症例もあることには注意が必要である.当院の症例で両眼遠方狙いのC13例C21眼(男性C6例,女性C7例,平均年齢C60.4歳)をみてみると(図3),術後平均視力は遠方裸眼視力C1.04(矯正C1.26,平均等価球面度数-0.20±0.22D,球面+0.07±0.29D,乱視-0.53C508あたらしい眼科Vol.36,No.4,2019±0.59D),中間裸眼視力(60Ccm)0.96,近方裸眼視力(30Ccm)0.56であった.近見時の眼鏡装用については「使わない」がC30%,「ときどき使う」がC45%,「いつも使う」がC25%であった.グレアはC65%,ハローはC75%で「感じない」から「軽度」であり,気にならないようである.おおむね良好な結果であるが,1例,ハローがかなり気になるという症例がある.59歳,男性で裸眼視力は遠方右眼C1.2/左眼C1.5,中間右眼C1.2/左眼1.2,近方右眼C0.6/左眼C0.7,眼軸長は右眼C23.17/左眼22.97Cmmであった.検査結果だけをみていると問題がないように思われるが,近方がかなり見づらいと訴える.しかし眼鏡は使用していない.このように検査結果と自覚症状の乖離が起こることもあり,多焦点CIOL使用のむずかしさを感じる症例である.C●おわりにSymfonyは多焦点CIOLの選択肢として有用である.白内障治療と同時に屈折矯正も考える時代である.患者のライフスタイルと希望を伺い,十分なインフォームド・コンセントを行い,単焦点,モノビジョンを含めてふさわしいCIOLを選択してほしい.文献1)平岡孝浩:Symfony.CIOL&RSC32:120-127,C20182)Esteve-TaboadaJJ:E.ectoflargeaperturesontheopti-calCqualityCofCthreeCmultifocalClenses.CJRefCSurgeryC31:C666-672,C20153)DaviesEC:Intraocularlensexchangesurgeryatatertia-ryCreferralcenter:Indications,Ccomplications,CandCvisualCoutcomes.JCataractCRefractSurgC42:1262-1267,C20164)CochenerB:ClinicalCoutcomesCofCaCnewCextendedCrangeCofCvisionCintraocularlens:InternationalCmulticenterCCon-certostudy.JCataractRefractSurgC42:1268-1275,C2016(86)

眼内レンズ:代用水晶体嚢を用いた水晶体脱臼症例に対する超音波乳化吸引術

2019年4月30日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋389.代用水晶体.を用いた水晶体脱臼症例に秋元正行大阪赤十字病院眼科対する超音波乳化吸引術硝子体内に脱臼した水晶体の処理は困難であり,さまざまな工夫が行われてきた.筆者らは,テストチャンバーから切り出したシリコーン製薄膜を用いる方法を確立した.シリコーン製薄膜を眼内に挿入して脱臼水晶体を確保し,虹彩面まで挙上し代用水晶体.として使用することで,通常症例に近い超音波乳化吸引ができる.●シリコーン製薄膜の作製シリコーン製薄膜は超音波白内障手術のパッケージに必ずついてくるシリコーン製テストチャンバーを用いる(図1a).切断して帯の付いたボウル状にする(図1b).6-0ナイロン糸を通糸して,帯と合わせて三点固定できるようにする.●術中操作角膜ポートを3カ所に作製し,帯部を下方に挿入,糸部を上方に通糸する(図2a).帯部は長さが約20mmなので,眼外部分をわずかに残して眼内に挿入しておくことで,ボウル部分は脱臼水晶体のおおむね直上にくる.脱臼水晶体を硝子体カッターの吸引でボウルの上に乗せる(図2b).3本の足を引き上げ,虹彩面まで挙上する(図2c).●超音波乳化吸引シリコーン薄膜の代用水晶体.は破.する懸念がないので,通常より強めの条件で超音波乳化吸引を行うことができる(図2d).水晶体処理後,ナイロン糸を切断し,ボウルのエッジを有鈎鑷子で把持すれば,スルリと抜き抜くことができる(図2e).硝子体内には細かい皮質片が散乱していることはあるが,ボウルをしっかり引き揚げて隙間をなくしておけば,核片の落下はまずみられない(図2f).●まとめ本法は,広く行われている液体パーフルオロカーボンを使用する方法と比べると,眼内への挿入はやや煩雑ではあるが,水晶体片はボウル中央部に位置し,超音波操作は通常に近くやりやすい.破.の心配なく,強く破砕できる.抜去はボウルエッジが確認できれば比較的容易で,残留物の心配はない.テストチャンバーは付属品のため,費用対効果は圧倒的である.現在,販売元はんだや・製造元河野製作所と2019年中に製品として上市をめざして改良中である.シリコーンボウルの形状がくらげ(jelly.sh)に似ていることから本法をSilicone.sh法と名づけた1).文献1)KiritoshiS,KusakaM,AkimotoM:Elasticsiliconebowltosalvagedislocatedlensesandsubstituteforthesubsti-tutiveposteriorlenscapsuleduringphacoemulsi.cation.Retina2018Jul23.doi:10.1097/IAE.0000000000002267図1シリコーンボウル作製a:シリコーンスリーブ.先端肉薄部分を使用する.b:完成状態.(83)あたらしい眼科Vol.36,No.4,20195050910-1810/19/\100/頁/JCOPY図2手術手技a:シリコーンボウルの挿入.b:右側にシリコーンボウル,左側に脱臼水晶体.c:シリコーンボウルを虹彩面まで挙上.d:超音波乳化吸引中.e:本体を把持して抜去.f:終了直後.

コンタクトレンズ:老視用コンタクトレンズの光学特性

2019年4月30日 火曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一54.老視用コンタクトレンズの光学特性川守田拓志北里大学医療衛生学視覚機能療法学●はじめに日本における総人口に占める65歳以上の割合は27.7%であり,超高齢社会にある1).加えて,老視発現のめやすを40歳とすれば,人口に占めるその割合は約6割であり,老視改善のニーズは高い.さらには世界においても先進諸国,開発途上国ともに高齢化率は増加し,全体では2015年の8.3%から2060年には17.8%に上昇すると予測されている1).そのような中,老視矯正法の向上と確立は課題であり,多くの医療関係者や企業などが,その解決に向けて挑戦している.老視の矯正法にはさまざまなものがあるが,遠近コンタクトレンズ(CL)が注目されている.その背景として,CLを積極的に使用している世代が老視になり,そのニーズが高まっていることがある.しかし,各社各様の光学デザインのレンズが登場していることから,その光学的特徴を把握する必要が出てきた.そこで本稿では,老視矯正法のCLとその光学的特徴について述べる.●遠近CLの光学デザイン遠近両用CLには,大別して交代視型と同時視型がある.交代視型は,セグメント型で視線が通る位置によっ図1さまざまな老視用コンタクトレンズ光学デザインのイメージ図(各社ウェブサイトより引用改変)(81)Johnson&JohnsonワンデーアキュビューRモイストRマルチフォーカルて度数が異なるデザインになっており,発想としては累進屈折力眼鏡に近い.また,同時視型デザインでは,遠用光学部と近用光学部が同心円状に配列されていて,大きな瞳孔径の場合,遠用光学部と近用光学部を通過する光線が同時に入射し,網膜に結像させるが,その場合,中枢系の処理により見るものを選択させる.ただし,実際の生活では,遠近同時に物体が置かれて見るものを選択するといったシーンはみられず,注視対象が,遠方,中間,近方のいずれかに置かれ,必要なものを見るというのが大半である.遠近CLの同時視型デザインに関しても,各社さまざまであり,中心が近用光学部,周辺が遠用光学部,あるいはその逆のデザインもある(図1).レンズの設計によっては遠用光学部と近用光学部の間は移行部という形になっていて,中間距離の結像性を向上させる.●瞳孔径考慮型遠近両用コンタクトレンズ各社,優れた光学デザインを考案している中でも,とくにユニークなデザインに,同心円型で瞳孔径考慮型の遠近CL,ワンデーアキュビューRモイストRマルチフォーカル(ジョンソン・エンド・ジョンソン社)がある.一般的な同時視型のレンズ設計では,その光学特性SEEDワンデーピュアマルチステージ近・中・遠カバーを一つのレンズでカバーAlconデイリーズトータル1RMeniconプレミオ遠近両用CooperVisionプロクリアRワンデーマルチフォーカルHOYAマルチビュー(L)あたらしい眼科Vol.36,No.4,20195030910-1810/19/\100/頁/JCOPY慮型の光学設計のイメージ図一般的な設計では遠用光学部を通過する光線が虹彩により遮られる.が瞳孔径に異存し,小瞳孔の場合,虹彩により遠用光学部を通過する光線が遮られ,遠方視の結像性が低下する(図2).そのため,ぼけやにじみも出やすくなるが,この瞳孔径考慮型設計では,その影響は小さくなる.また,瞳孔は加齢変化で縮小するが,その加齢変化に対応した形で,LOW(+0.75~+1.25D),MID(+1.50~+1.75D),HIGH(+2.00~+2.50D)の3段階の設計がなされており,瞳孔を活用する設計となっている.この光学設計は,詳細がブラックボックスになっているものの,視機能に影響するさまざまな因子に加え,CL装用下にて遠方から近方までの両眼視力が最良となる視機能予測モデルから作られており,処方成功率が高まりやすい設計となっている.ただし,上述したような特徴的なレンズ設計であるため,その機能を最大限活かすためには,フィットガイドを参照し,矯正手順には注意を要する(図3).具体的には,①視力1.0のラインで屈折矯正するのではなく,ベ遠方が見えにくい場合近方が見えにくい場合図3ワンデーアキュビューRモイストRマルチフォーカルフィットガイド(ジョンソン・エンド・ジョンソン社)ストフォーカスで合わせること,②遠方の見えにくさを訴えたときは,フィットガイドに従い優位眼の結像性を高めること(LOWでは単焦点にし,MIDではLOWにする.HIGHのみ例外あり),③近方の見えにくさを訴えたときは,加入度を高めるのではなく,非優位眼に+0.25Dを加入し,マイルド・モノビジョンを作ること,があげられる.濱野,およびジョンソン・エンド・ジョンソン社のデータによると,この手順を守ることで,処方の成功率は両者ともに94%とされ,高い満足度につながるものと考えられる2).●おわりに老視矯正は,遠方矯正を行った後に行うことから,待ち時間が長く忙しい外来において患者,医療者ともに多くの時間と手間を要する.また,現時点においては,光線を遠方から近方に振り分けているため,網膜像コントラストの高さと明視域の間で,一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないというトレード・オフが発生する.そのため,もっとも効率的な手順の構築と,患者の眼球光学系の特徴から最適な光線配分の追求が必要不可欠と思われる.文献1)内閣府.平成30(2018)年版高齢社会白書.20182)濱野孝,小谷摂子:はじめてのCL処方(第15回)遠近両用ソフトコンタクトレンズ(ワンデーアキュビューモイストマルチフォーカル)(解説).日コレ誌59:116-119,2017PAS116

写真:リンパ嚢胞様の外観を呈した結膜封入嚢胞

2019年4月30日 火曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦川崎麻矢419.リンパ.胞様の外観を呈したバプテスト眼科クリニック結膜封入.胞横井則彦京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①結膜封入.胞図1術前前眼部写真耳側にソーセージ様に隆起した病変を認め,外観からはリンパ.胞との鑑別がむずかしい.図4術後前眼部写真再発を認めず治癒し,経過良好である.図3前眼部光干渉断層計写真結膜下に.胞壁を明瞭に追うことができ,内腔は不均一な顆粒状の高反射を示し,結膜封入.胞に特徴的な所見といえる.(79)あたらしい眼科Vol.36,No.4,2019C5010910-1810/19/\100/頁/JCOPY結膜封入.胞は半透明のドーム状の腫瘤であり,外傷や眼科手術後に結膜上皮が実質内に迷入することで生じるとされるが,特発性のものも多く,迷入した数層の非角化上皮が増殖し,中央に腔をもつ.胞を形成する1)..胞壁に杯細胞を含むこともある2).治療は経過観察または外科的に摘出する.一方,リンパ.胞はリンパ管拡張症の一種で,球結膜のリンパ管の拡張や蛇行で起こる特発性のものと,眼窩内占拠性病変などによるリンパ液のうっ滞を原因とするものがある..胞状の形態をとるものをリンパ.胞とよぶ.治療は,自然に消退することもあり,経過観察または穿刺,改善しない場合は外科的切除を行う1).症例はC48歳の女性で,10年以上前からの左眼球結膜の.胞状病変を主訴に来院した.他院でC10年前に一度穿刺を施行されたこともあるが,再発し増大傾向を認めた.眼科手術歴や外傷歴などはなかった.初診時の細隙灯顕微鏡所見ではソーセージ様の隆起を認め(図1,2),リンパ管拡張が局所的に拡大したリンパ.胞に思われたが,前眼部光干渉断層計(anteriorCsegmentCopticalCcoherencetomography:ASOCT)では結膜下に.胞壁を明瞭に追うことができ,内腔は不均一な顆粒状の高反射を示し(図3),結膜封入.胞に特徴的な所見であった3).手術は,術前に点眼麻酔を行い,出血予防のためにアドレナリン注射液の点眼を行ったのち,スプリング剪刀で腫瘤近傍の結膜を切開し,無鈎鑷子とスプリング剪刀で周辺組織との癒着を解除した.穿刺歴があるためか癒着が強く破.したため,.胞壁,およびそれに癒着していた結膜を含めて切除し,9-0シルク糸で縫合して手術を終了した.病理学的所見も結膜上皮封入.胞に矛盾しなかった.術後再発を認めず経過良好である(図4).今回筆者らは結膜小切開による全摘出を行ったが,他の治療法としては外来で簡便に行える結膜.胞穿刺や,インドシアニングリーンやピオクタニンなどの染色液や粘弾性物質を併用して可視化し,結膜.胞切除を行う方法などが報告されている4).結膜.胞穿刺は簡便ではあるが被膜が残存するために再発しやすく,再発すると周辺組織との癒着のために摘出しにくくなる可能性があるため,最初から全摘出することが推奨される5).本症例でも穿刺歴があり,周囲組織との癒着を認め,.胞を一塊として摘出することは困難であった.結膜封入.胞はしばしばリンパ.胞と類似した外観を示す場合があり,外科治療の方法が異なるため,その鑑別は重要である.可能であればCASOCTで確認し,結膜封入.胞が疑われる場合は不用意な穿刺は避け,全摘出を行うのがより良い方法と考えられる.文献1)斎藤禎子:結膜の良性腫瘍.オキュラーサーフェス疾患目で見る鑑別診断(西田幸二,天野史郎編),p232-234,医学書院,20132)WilliamsCBJ,CDurcanCFJ,CMamalisCNCetal:ConjunctivalCepithelialCinclusionCcyst.CArchCOphthalmolC115:816-817,C19973)寺尾信宏,横井則彦,丸山和一ほか:前眼部光干渉断層計を用いた結膜封入.胞の観察と治療,あたらしい眼科C27:C353-356,C20104)西野翼,小林顕:.胞性結膜疾患.OCULISTAC65:C38-44,C20185)山田桂子,横井則彦,加藤弘明ほか:結膜封入.胞の臨床的特徴と外科的治療についての検討.日眼会誌C118:652-657,C2014C

AIによる視覚障害者支援

2019年4月30日 火曜日

AIによる視覚障害者支援ArtificialIntelligenceSupportfortheVisuallyImpaired三宅琢*はじめに視覚障害者は移動障害を伴う情報障害者と表現されることがある.一方であらゆる情報がインターネットを介して入手,発信することが可能な情報社会において,スマートフォン(以下,スマホ)をはじめとした情報通信技術(informationandcommunicationtechnology:ICT)端末はわれわれの生活にとって情報の入手・発信デバイスとして欠かせない存在となった.iPadやiPhoneに代表されるiOSを搭載したアップル社の端末には障害者が端末を利用する際の補助機能であるアクセシビリティ機能の設定が初期設定として実装されている.そのためこれらの端末が視覚障害者にとっての情報保障(身体的なハンディキャップにより情報を収集することができない者に対し,代替手段を用いて情報を提供すること)の支援ツールとして活用できることをこれまでに解説した1,2).また近年,多くの電化製品が人工知能(arti.cialintel-ligence:AI)を搭載しており,AIを搭載したICT端末の登場により視覚障害者が生活情報を入手,発信するうえで情報障害者に陥ることを予防するための情報支援の形も変化しつつある.本稿では情報支援ツールとしてAIを搭載した各種端末が,視覚障害者が情報を入手発信する際に有効と考えられる具体例を紹介し,今後の情報社会が作る未来についても簡単に解説する.I情報入手における画像認識AIの可能性画像情報から撮影対象を認識するAI機能は,視覚障害者が日常生活で必要とする情報を入手する際の支援ツールとして機能する可能性がある.スマホやタブレット端末向けに,端末の背面カメラを利用した画像認識AIを搭載した安価なアプリケーションソフトウェア(以下,アプリ)が多数提供されている.図1~4で紹介したのはカメラの画像認識機能の一部であり,これまで視覚障害者が情報を入手する際に困難さを伴っていた紙幣,色調,文字情報などをはじめ,近年では顔認証や表情認識機能などの開発も始まりつつある.表情認識AIなどの開発により,ICT端末が視覚障害者に対する表情情報などの非言語的コミュニケーションの情報保障としても活用できる可能性を示唆している.これら機能の一般化により,スマホなどの日常的に使用されるICT端末が,視覚障害者が視覚情報に依存しない情報入手経路を用いて情報を入手できる情報支援ツールとなりつつある.II情報発信における音声認識AIの可能性近年登場したiPhoneに代表されるスマホには,Siri(Speechinterpretationandrecognitioninterface:発話解析・認識インターフェース)のような完全対話型の音声コントロールシステムが搭載されている.Siriは液晶画面に表示された文字情報に依存することなく端末に*TakuMiyake:東京医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕三宅琢:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(73)495図1背面カメラを利用して紙幣情報を認識解析し音声情報に変換するアプリ海外の紙幣も識別可能なため,海外渡航の際,視覚障害者が紙幣の額面を独力で確認できる.アプリ名:NantMobileマネーリーダー.画像・販売元:IPPLEXHoldingsCorporation.図3写真に撮った対象(犬種など)を識別し該当データの詳細情報を表示する画像認識アプリ本アプリはクラウド(クラウドコンピューティングの略,コンピューター内で管理・利用してきたソフトウェアやデータなどを,インターネットなどのネットワークを通じてサービスの形で必要に応じて利用する方式.)サービスを利用して,検索のたびに集積された情報がインターネット上で統合されることで,画像認識の精度が向上する.視覚障害者がアクセシビリティ機能を活用してこれらサービスを利用することで,より実用性の高いツールとなることが期待される.アプリ名:Googleレンズ.画像・販売元:GoogleLLC.図2撮影対象中央部の色情報を認識し音声化するアプリ靴下の仕分けなどをはじめ,日常生活において色情報による識別を要する際に活用することができる.アプリ名:ColorSay.画像・販売元:WhiteMartenUG(haftungsbeschraenkt).図4撮影対象内の文字情報を認識しテキスト化するアプリ対象をカメラで撮影すると,対象内の文字が光学的文字認識(opticalcharacterrecognition:OCR)機能によりテキスト化される.テキスト情報は端末の音声読み上げ機能により音声化することが可能である.全盲者もアクセシビリティ機能を併用することで,適切な撮影距離を習得することにより撮影を行えば,印刷物を音声情報として情報入手することが可能である.アプリ名:画像,写真から文字を認識するOCRアプリ.画像・販売元:GenShinozaki.図5Siriを利用して音声でアラームを設定Siriを利用して音声でアラームを設定することが可能である.また,スマートフォンなどは全地球測位システム(globalpositioningsystem:GPS)機能を搭載しているため,「家を出る時にゴミ出しをリマインド」など,位置情報と合わせたメモを作成することも可能である.画像:AppleホームページcApple,Inc.~図6Siriを利用して日本語を英語に翻訳Siriを利用して日本語を英語に翻訳することが可能である.多言語対応のため,視覚障害をもつ外国人旅行客などに対しても活用の可能性がある.画像:AppleホームページcApple,Inc.図7Siriによる現在使用可能な機能の一覧と各機能を利用する際の話し方の例文「Siriは何ができるの?」と問いかけることで現在使用可能な機能の一覧を表示(左図),各機能を利用する際の話し方の例文を表示(右図)することが可能である.図8腕時計型のデバイス腕時計型のデバイスでは電話,メール,ナビゲーション,音楽視聴ほか,さまざまなスマートフォンと連動した機能を実行することが可能である.また,Siriにも対応している端末では,話しかけることで操作が可能である.端末名:アップルウォチ.販売元:AppleInc.図10スマート家電話しかけることで,ニュースや音楽視聴,ネットショッピングなどが可能である.製品名:EchoSpot.販売元:Amazon.図9メガネに装着するデバイスメガネに装着デバイスのカメラ機能を用いて,指差しをした対象の文字,紙幣の種類,顔,色などを認識して,音声化するウェアラブルデバイス.視界をさえぎることなく,必要なときに指差し動作を行うことで,対象の情報を音声で入手できるため実用性は高いと考えられる.製品名:OrCamMyEye2.販売元:OrCam.図11Siriを利用した音声でのスマート家電の操作Siriを利用して,音声で一部のスマート家電を操作することが可能である.エアコン,照明,ブラインド操作,鍵の開閉など,操作可能な項目は日々増加している.画像:AppleホームページcApple,Inc.

眼科診療におけるコミュニケーションロボットの活用

2019年4月30日 火曜日

眼科診療におけるコミュニケーションロボットの活用RoboticCompanionasSupportiveToolforPreoperativeExplanations窪谷日奈子*はじめに人工知能(arti.cialintelligence:AI)を搭載したコミュニケーションロボットと聞くと,まず思い浮かぶのは街角や店頭に置かれているソフトバンク社のPepperだろう.当院でも病院の入り口で患者を迎えてくれているが,コミュニケーションをとるにはコツが必要で,慣れるまではうまく会話がかみあわなかったり,こちらの言葉を認識できないことも多い.医療の現場に導入するのはまだ先と感じている方も多いかもしれない.AIロボットというと前述のPepperや犬型ロボットのAiboのような高度なコミュニケーションロボットを想像しがちだが,広い意味では自動で温度調整をするエアコンや,掃除ロボットのルンバ,googleHome・Ama-zonechoなどのスマートスピーカーもそうである.家電製品のレベルであれば,すでに生活のさまざまな場所でAIロボットは活躍しているのである1).さて病院内にAIロボットを導入する場合問題となるのは,生死にかかわる病院という場所でロボットに説明を受けることに対する「心理的抵抗」がどの程度あるのかという点であろう.患者側はもちろんであるが,医療スタッフ側に受け入れられないのではと考える方も多いかと思われる.そこで今回は当院における白内障術前説明と硝子体内注射説明におけるコミュニケーションロボットの活用について紹介する.コミュニケーションロボットTAPIA,そしてペッパーの臨床における使用経験と患者満足度,今後のAIロボット活用,そしてAIロボットがなぜ日本で率先して浸透してきつつあるのかを,私見を交えて述べる.Iコミュニケーションロボットコミュニケーションロボットは,冒頭に述べたように,現状ではまだ人とコミュニケーションをスムーズにとることができない.一番の原因は人の声や顔を認識するインターフェースがまだ不十分で,問いかけに対して柔軟に回答・会話をすることがむずかしいからである.現状病院でコミュニケーションロボットを活用する場面は,患者側が情報量ゼロの状態で,医療側から一方的に情報を提供される最初の段階が望ましい.情報を受け取る場面であれば双方のやりとりは必要ないので,コミュニケーションロボットによる説明で代用できる.患者がある程度情報を得たあとは,疑問や不安点などに柔軟に対応する必要が出てくるため,コミュニケーションロボットでは対応がむずかしくなってくる.情報提供を受けたあとの説明は,医師や看護師など人が行う必要があるだろう.「AIを導入すると人の仕事が奪われるのではないか」という危惧が何度も議論されているが,円滑なコミュニケーションを行えるにはまだまだ時間が必要なので,最終的な説明の場面ではまだ人の存在が不可欠ということになる.*HinakoKubotani:あさぎり病院〔別刷請求先〕窪谷日奈子:〒673-0852兵庫県明石市朝霧台1120-2あさぎり病院0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(67)489図1外来に置かれたTAPIA図2患者の前に置かれたTAPIA図3選択肢を表示するTAPIA2520.7±6.2分18.1±5.4分94.4%95.2%10020TAPIA15による説明5010500スタッフTAPIA図4説明時間図5簡易試験の正答率スタッフTAPIAp=0.681X,t-test=人TAPIA満足ほぼ満足普通やや不満不満p=0.015Fisher’sexacttest図6満足度50~60代とてもよいまあよいどちらでもない70代よくないまったくよくない80代図7医療にロボットが入ることをどう感じるか50~60代TAPIAどちらでも70代人80代図8人×ロボット,どちらの説明がわかりやすいか50~60代TAPIAどちらでも70代人80代図9人×ロボット,次回説明を受けるならどちらがいいか図10ベッドサイドに置かれたTAPIA

医師のための診断補助アプリケーション

2019年4月30日 火曜日

医師のための診断補助アプリケーションDiagnostic-SupportApplicationforDoctors物部真一郎*竹村昌敏**はじめに診断補助(アプリケーション)を大きく分類すると,人工知能(arti.cialintelligence:AI)自動診断システムと遠隔医療に使用するもの,医師が診断の際に必要な知識を確認するアプリケーションに分類することができる(図1).IAI自動診断システムIDxTechnologies社のIDx-DR(糖尿病網膜症自動診断システム)は自律型AI診断システムとして米国食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)に2018年4月に承認された.臨床医が画像や結果を解釈する必要がない自律型AI診断システムとしてはFDAの初承認であった(図2).しかし日本では2018年12月19日に厚生労働省医政局医事課長から「AIは診療プロセスの中で医師主体判断のサブステップにおいて,その効率を上げて情報を提示する支援ツールに過ぎない」「判断の主体は少なくとも当面は医師である」との文書(医政医発1219第1号)が出されており,IDx-DRは日本においては診断補助アプリケーションとして運用される見込みである.II遠隔医療アプリケーション遠隔医療のなかでも医師と医師をつなぐ(doctortodoctor:DtoD)の遠隔医療は医師のための診断補助アプリケーションといえるものである(図3).DtoDの遠隔医療にも大きく分けて,①遠隔画像診断と②DtoDコミュニケーションツールが存在している.①の例としては日本では大きく分けて遠隔病理診断,遠隔画像読影,遠隔皮膚科・眼科疾患診療補助などがある(図4).遠隔病理診断,遠隔画像読影に関しては施設基準などを満たせば診療報酬の請求が可能であり診断補助アプリケーションとして有用なものである.遠隔皮膚科・眼科疾患診療補助に関しては専門医からアドバイスが得られ,医師個人の診断の補助となりうるが,診療報酬的な裏付けはない.②は医師と医師がインターネット上で症例に関して議論を行う場である.さまざまな診療科の医師が参加して自分の専門外のことに関して他科の意見を組み上げる場として有用である.英語圏ではかなり一般的なサービスとなっており,米国の研修に当たるインターンシップではほぼ必須となっている.日本では未だ黎明期であり参加者もこれから増加が見込まれる.インターネットを介することで症例の議論に参加できるだけでなく,自分では経験できない症例を知ることにもつながる(図5).エクスメディオの運営するDtoDコミュニケーションサイト「ヒポクラ×マイナビ」における実際の症例では,内科医師の臨床上の問題に,小児科,整形外科,眼科の医師がコメントを行い問題解決につながっている.このように実際にさまざまな臨床上の問題をDtoDコミュニケーションツールを用いて解決している医師が数多く存在している.*ShinichiroMonobe:株式会社エクスメディオ**MasatoshiTakemura:東京医科歯科大学〔別刷請求先〕物部真一郎:〒102-0083東京都千代田区麹町3-5-1全共連ビル麹町館株式会社エクスメディオ0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(63)485AIが診断を行うDoctortoDoctor遠隔医療遠隔地の人が診断を行う知識確認アプリケーション診断に必要な知識を確認できる図1診断補助アプリケーションの分類図2AI糖尿病網膜症スクリーニングシステムIDx社のIDx-DR図3DoctortoDoctorの遠隔診療遠隔病理診断図4遠隔画像診断の例海外サービス例図5DoctortoDoctorコミュニケーションの例ヒューマンアナトミーアトラスVisibleBody医療計算機MediCalcMedicalDictionaryTheFreeDictionary.comOxfordMedicalMobiSystems添付文書ProQLife,Inc.医療系ハンドブックじほう★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★図6GooglePlay内の医療知識を確認するアプリケーション

眼科臨床へのAI導入の試み

2019年4月30日 火曜日

眼科臨床へのAI導入の試みFirstArtificialIntelligenceApplicationforEyeCare田淵仁志*はじめに本稿では,編集方針にしたがって,筆者の考えを全面に押し出して論述した.分子生物学的手法とは異なり,人工知能(arti.cialintelligence:AI)技術は「誰でも」使える.誰にでも使えるようにGoogleなどがしてくれている.AIの背景,応用の方向性,筆者チームの取り組みを,独自過ぎる視点で解説した.筆者らの信念と論理性を感じていただき,読者の中から日本眼科のために働く新しいAIプレーヤーが登場されることを期待する.IGoogleAIとは深層学習(deeplearning)のことであり,deeplearningとは人間のやることを忠実に真似できるモノマネ芸人である.何時間でも電源が続く限り人間と同じレベルで作業を続けられる.バイアス(思い込み,誤解による認知ミス)と集中力低下こそが人間らしさの本質であるので,AIシステムが人間と同じレベルの能力をもつならば,その圧倒的な安定性と持続力,そして電気代以外に何もいらないという低コスト性により,AIが社会的に実装されていくことは確実である.そのうえ,どんなことにも使えるという汎用性からAIに携わる人たちの背景は多岐にわたる.数学者であったり,コンピューターサイエンティストとよばれる情報処理学の専門家であったり,認知学の専門家であったりする.生物系,工学系,社会学系,経営学系,そして最近ではわれわれのような医学系も盛んにこの領域に参加している.AI研究開発に誰でも参加できるようにしている「企業」がその広がりを可能にしている.その最たるものがGoogleである.畳み込みニューラルネットワークやバックプロパゲーションをおもな核とするdeeplearningを世に出したジェフリー・ヒントン,VGG16とよばれる費用対効果に抜群に優れる学習済AIモデル,ディープマインドを世に出したオックスフォード大学の研究者など,AI開発研究のキープレーヤーをGoogleは自分達のチームとして迎え入れ,まさに飲み込んでいる.血気盛んな若いAIエンジニアですらGoogleを畏敬し,対抗する気概はゼロのようにみえる.IIGoogleCollaboratorGoogleCollaboratorというインターネット・サービスをこの機会にぜひ紹介したい(図1).当然のように無料である.Googleのインターネットブラウザ,Chromeさえパソコンにインストールされていれば誰でもすぐに使える.筆者が自分の講演でAI用プログラミング言語のデファクトスタンダードであるPythonを紹介したのが2016年7月のことであるが,その当時は環境構築から何から全部自分でやらなければならず,「プログラミングなどに興味がある人はどうぞ」という感じであった.このGoogleCollaboratorは,「老若男女,皆さんどうぞ,どうぞ,どうそ!」である.ひょっとしたらこの文章はここまでで,誰かの人生に十分に役に立った可能性がある(人生が本当に変わった人は10年後ぐらいに*HitoshiTabuchi:ツカザキ病院眼科,広島大学医学部医療のためのテクノロジーとデザインシンキング寄付講座〔別刷請求先〕田淵仁志:〒671-1227兵庫県姫路市網干区和久68-1ツカザキ病院眼科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(55)477ないし,ネット会議を用いなければ活動の維持ができない.それらすべてを低価格で提供しているのがGoogleであり,逆にそのためのシステム構築にお金と時間と人材のリソースを割けるほど国民皆保険制度内で活動するわれわれは潤沢ではないのである.フリーウエア運動のおかげで研究活動ができている.何かしら成果が出たら,無料あるいは必要最低限の経費でコミュニティーに何かお返しするというのが,世界共通の大切な流儀である.IVデジタル・マーティングGoogleに加えてAmazon,Facebook,Apple(まとめてGAFA,ガーファとよばれている),つまりインターネットプラットフォーマーとよばれる現代のガリバー企業達が大挙してAI研究になだれこんでおり,その桁違いの研究開発費を前にして,日本AI研究の第一人者である松尾豊が「良い企業が良い研究をする」と嘆息している.GAFAはインターネットによるデータ収集とその統計分析を企業基盤としている点に共通点がある.Deeplearning登場の前からデジタル・マーケティングとよばれていた,計測パラメータ設定,データ収集,統計解析,フィードバックによる業務改善サイクルを高速で回転させることで他の企業との差を広げ続けてきたのである.デジタル・マーケティングの方向性はおもに二つある.一つが購買誘発であり,レコメンド機能としてよく知られている機能である.消費者が欲しいものを「予測」して「提案」するというこの機能は,まず何よりも消費者の購買行動データを大量に必要とする.Googleのアルゴリズム検索もこの範疇である.顧客が知りたいサイトは「これではないか」と大量の検索データからページ・ランキングし,その精度の高さで世の中を席巻したのである.そしてデジタル・マーケティングのもう一つの目的が業務効率化である.消費者が何を買うのか予測することで,商品在庫のムダが抑制され,物流にかかわる人員や設備投資の効率化が図られるし,最終的に余剰人員を減らすことにつながる.つまり,デジタル・マーケティングは購買誘発で売り上げを拡大し,効率化で利益を拡大するのである.これをやる企業とやらない企業との差がどれほど拡大していくか,想像にかたくない.VクラウドApple社が世界を席巻したのは,2001年10月23日に発売されたiPodであることを30代以上の読者の方々はよく記憶しておられると思う.当時筆者がもっとも衝撃を受けたのは,iPodをコントロールするソフトウエアであるiTuneであった.筆者が昔から所有していた古いCDの題名や歌詞が,サーバー上のAppleのデータベースからまさに天空を超えて(その当時クラウドなどという言葉はなかった)自動的に降りてきたのである.中学1年のときに,今ではNHKの大河ドラマとかの演出家になった幼馴みとレコードレンタル店に初めて入ったとき,手術室のポリクリ学生なみの挙動不審ぶりで店員に笑われたことをよく覚えているが,レンタルした音楽をカセットテープにダビング(死語!)して題名や曲名をキレイにレタリングして自分のカセットボックスに入れておくのが,当時の中学生の普通の課外活動だった.iPodの登場によってクラウド環境は約20年で確実に日常に浸透した.今や音楽はスマホで聴くものであり,題名や曲名をメモしたり手帳に残したり誰もしないのである.音楽視聴のために費やしていた膨大な青春の時間を思い出せば,現代の若者がずっとスマホをいじっていることは,なんというか至極当たり前である.VIネット医療は必ずやってくるApple社が音楽を売らなくなる.というIT業界の都市伝説がある.その根拠とされるのが,音楽は今ストリーミング再生で聴かれることがもっとも多いという統計である.データをダウンロードすらせずWiFi環境下のラジオ視聴のように楽しむスタイルが,iTuneで始まった音楽業界でのクラウドの今の姿である.利便性はコスト意識をも超えるのである.ミュージシャンが現在もっとも稼ぐ場がライブである.音楽「データ」はYoutubeで無料配信され広告収入でわずかに回収される.金銭に変えるための(マネタイズできる)付加価値部分は音楽の「非データ部分」す(57)あたらしい眼科Vol.36,No.4,2019479なわち,ライブ会場での生の臨場感,ファン同士の一体感であるとか,グッズ販売であるとか,ファッション性だとかに移動している.医療もデータ部分に関しては最終的にクラウド化する.ネット上でAIが判断しドローンが薬を配達する医療への危機感を筆者のチームと共有してほしい.日本が誇るSONYはコピーガードに奔走してアップルに敗北した.今から考えても,SONYが音楽のデジタルコピーを配布できないようにプロテクトしたことは権利保持行動として当然である.それにもかかわらず,最終的に決定権を握っていたのは顧客であり,オープンマインドであり,クラウド環境の利便性であったのである.良いとか悪いとかではない.大切なのは備えることである.AI研究に日本のプレーヤーは多ければ多いほどよいのである.あまりにも重大な未来が予見されている.筆者らは眼科領域のネット医療で用いられるアルゴリズムの世界シェア10%が日本発信であるべきだと考えている.合わせて「非データ部分の医療」への真摯な取り組みも大切であり,筆者らはAIとは別部門でキチンとカタチにしていく所存である.「病気を診て,ヒトを診ない」というスタイルはネットAI医療に淘汰される.さらにSONYの名誉のためにも付け加えると,たとえば今世界を席巻する電子マネーの基幹技術FeliCaはSONY製品である.時代を作り,変えるのは米国だけではない.そもそも日本は進取の気性で一流の端くれに今も踏み留まっている国であることを忘れてはいけない.VIIデジタル・マーケティングを眼科医療にあてはめて考えてみよう前述したとおり,デジタル・マーケティングの主たる目的は売り上げと利益の両面の拡大である.これはそっくりそのまま,大学病院であれ,一般病院であれ,開業医院であれ,すべての眼科医療のチームに必要なテーマである.顧客すなわち患者がいかにたくさん来てくれるかは,医療チーム運営の基本である.顧客からの信頼という意味で重要であるといえばもう少し意味が伝わるであろうか.たとえば網膜を専門としている施設に,小児斜視の患者が想定よりも多く来ているという正確な情報が入れば,その組織の運営方針は変化していくべきであろう.ツカザキ病院眼科では,加齢黄斑変性,近視眼底疾患,網膜血管閉塞疾患,糖尿病網膜症,小児斜視神経眼科疾患,涙道治療疾患,眼瞼疾患,多焦点眼内レンズ挿入患者,緑内障,角膜疾患,網膜遺伝および色覚疾患,アレルギーぶどう膜炎の計12の専門領域ごとの通院患者数をリアルタイムで把握している.どの領域でも,患者数が減ることは医学的にはあり得ない.専門疾患は治ることはないし,多焦点眼内レンズ挿入患者も長期観察の学術的価値が高いからである.それにもかかわらず患者数が伸びないとしたら,受け入れ側である医師やスタッフのキャパシティーの限界か,ドロップアウトが初診流入を上回っているからに他ならない.そこにいろいろの運営上の観点が生じるわけである.筆者らの基本もデジタル・マーケティングである.皆さんにもバイアスを排した数字による顧客視点ベースの運営をお勧めする.患者のニーズに基づいて専門的知識と技術を用意すべきであり,それは必ずさらなる患者増につながる.日本の眼科全体が顧客ベースになることで損をする人たちは絶対にいない.必要な医療が必要な人に効率的に行きわたり,結果として全体最適にも結びつく.人口減少が日本最大の問題であるが,逆に後進国では爆発的に人口は増加している.しかもスマホというクラウド環境は最貧国においても確実に浸透している.われわれ全員が何かを合言葉にするなら,「世界の患者を呼び込もう!」である.VIII集約化のためのデータベース筆者らはデータベース(図2)をそもそも15年前から自主構築してきた点で,日本の他の眼科医療チームの組織形態とは大きく異なる.デジタル・マーケティングという言葉は当時,医療界ではもちろんのこと,商業の世界でも存在しなかった.数値化してフィードバックをかけることをこれほどまでに筆者が追及してきたのは,ただただ医療の集約化にかける強い信念によるものである.集約化で最大の問題になるのが,エゴイスティックな医師のぶつかり合いである.その不毛さを避けるようにして眼科専門医の7割近くが開業形態という分散化を選択してきたのが,2000年の歴史を誇る日本の“大人の選択”であろう.ただ自殺者も出るような医師のワー480あたらしい眼科Vol.36,No.4,2019(58)図2ツカザキ病院眼科データベース・EyeCenterONEのデータウインドウa:専門外来別リアルタイム患者数.通院中,治癒リリース,ドロップアウトなどが表示される.b:チーム業務全体量および医師別業務量(診察人数+手術件数)がリアルタイム表示される.サイコロジカル・デンジャーサイコロジカル・セーフティーPsychologicalDangerPsychologicalSafety~悪い病院はミスが少ない(認めないから)~良い病院はミスが多い(認めるから)上司ミス発覚を恐れる堂々とミスを認める問題の先送り他人を責める意見を聞かない部下図3サイコロジカル・デンジャーとサイコロジカル・セーフティーサイコロジカル・セーフティー環境ではデータによる論理的ルールがあり,ミスから改善につながるサイクルで組織が成長し続ける.図4ツカザキ病院眼科手術運営ネットワークシステムa:リアルタイム手術状況パネル.現在進行中の手術は青いバックグラウンドで表示される.b:術野リアルタイムモニター.15ある外来診察室などの科内全域に常時強制配信される.c:タイムアウトモニター.手術情報,顔写真,AI手術キー画像を手術室内にモニター掲示される.図5ツカザキ病院眼科手術安全AIシステム(DeepSafetyR)a:入室時顔認証システム.b:眼内レンズチェッカー.c:顕微鏡下左右識別システム.d:手術キー画像抽出表示システム(a.d特許申請中)

患者からデータベースへ,データベースから患者へ

2019年4月30日 火曜日

患者からデータベースへ,データベースから患者へBedsidetoDatabasetoBedside武蔵国弘*Iインターネットの本質からインターネットがもたらす情報革命のなかで,情報発信源が企業・団体から個人に移行した大きなパラダイムシフトはWeb2.0と表現された.近年はヒトだけでなくモノが情報発信源となり,腕時計,自動車,家電,住宅から情報が発信され,個人の健康状態を管理したり,自動運転が可能になり,スマート住宅とよばれる省電力の住宅が誕生した.農産物一つひとつにもICタグが付けられネットを通じて管理されている.医療機器からも情報が発信されクラウド型の電子カルテに蓄積され,往診や遠隔診療を支援する.ほんの数年前まで,医療情報は病院で保有しなければならない,といった強い制約があったことを忘れてしまいそうである.現在のモノが情報発信源となる潮流はIoT(InternetofThings:直訳すれば「モノのインターネット」)とよばれている.この言葉と概念を初めて提唱したのは,1999年にマサチューセッツ工科大学のAutoIDセンサー共同創始者であるKevinAshtonとされている.当時はradiofrequencyidentification(RFID)による商品管理システムをインターネットに例えたものであった.RFIDとは,電波を用いてRFタグのデータを非接触で読み書きするシステムである1,2).2000年に入る前に「IoT」という言葉はすでに存在していたことになる.しかし,その言葉が一般的になったのは2010年代後半で,IoTの言葉の誕生から10年以上かかっている.概念自体が生まれた当時,センサーやデバイスなどの機器の単価はとても高く,通信環境もまだ整っていたとはいえない.筆者が『あたらしい眼科』で,情報発信源が個人からモノに移行する潮流を提唱したのは2009年のことである3).当時,同様のことを考えた開発者が世界中にいたのであろう.簡単にいえば情報発信源がヒトからモノへ増えただけのことである.インターネットが行う作業を二つの動詞に集約すると,「繋ぐ」と「蓄積する」になると考えられる.SNSで個人が多角的に繋がり,同じ趣味で繋がり,同じ思想で繋がる.ときにデモや反政府活動のような現実世界に大きな影響を与える繋がり方をする.繋がり方はさらに進化し同時性を求める.世界中の人間がリアルタイムに繋がるサービスはTwitterに始まり,通信技術の進歩に伴い世界中の利用者がオンラインゲームを同時に楽しめるようになった.オンラインゲームは,インターネットが利用者の時間だけでなく心を支配する.今後普及するインターネットサービスは心を支配するサービスである.「インターネットが利用者の心を支配する」とはどういうことか,のちほど改めて説明する.インターネットにはもうひとつ重要な機能がある.「蓄積する」ことである.人間と違って,いくら情報が蓄積されても整然と整理され,さまざまな角度で解析が可能である.インターネットと「蓄積」についてはその歴史から説明が可能である.インターネットはそもそも軍事利用から始まった.一つの基地を爆破されてもデー*KunihiroMusashi:むさしドリーム眼科〔別刷請求先〕武蔵国弘:〒543-0027大阪市天王寺区筆ヶ崎町5-52ウェルライフ上本町クリニックプラザ203むさしドリーム眼科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(49)471タが他の基地にも残るように,遠隔地に分散してデータを蓄積させる必要があり,DARPA(DefenseAdvancedResearchProjectsAgency:アメリカ国防高等研究計画局)というアメリカの国防総省の機関がその研究開発を担っていた.DARPAはインターネットの前身のARPANETだけでなく,GPSやSiriなどの技術を開発したことで知られている.DARPAがARPANETを民間に開放し第三次産業革命が始まった4).1983年のことである.それまでの規模を求めるビジネスとは相反し,事務所をもたずに商売をしたり,世界中に向けて情報発信ができるようになり,インターネット登場前には考えられなかった新しい職種を生み出した.銀行や保険など社会のインフラでさえインターネット上で完結できるようにもなった.エストニアのように電子市民を受け入れる国家も現れた.現実世界のビジネスや営みをインターネットに移す,その連続である.そもそも商売というものは,まず顧客がいて顧客の満足の対価を継続して得ることによって成立する.これはインターネットが登場する前から今も基本的には変わらない.ただ,インターネット登場前までは,利用者の金銭をより多く支配できる企業が成長した.第三次産業革命後つまりインターネット登場後は,価値の高い情報を無料で開示する代わりに広告料を得る,収益性の高いビジネスモデルが確立した.さまざまな広告手法が誕生した.検索連動広告,動画広告,成果報酬型,位置情報型広告など.広告は見せられるほうからすると邪魔なものでしかない.テレビのコマーシャルもそうである.ないほうがありがたいが無料で見ているのでその時間を容認している.広告手法は,インターネットであれテレビであれ,利用者の時間をいかに支配するかが重要である.インターネットを無料で利用することは,さまざまな便利さを享受するとともに,広告を見せられる時間を容認しているのである.インターネットは利用者の時間を支配しようと,あの手この手を打つことになる.広告を見せられる時間をより多く容認すれば,理論的には電子カルテを無料で利用できる可能性もゼロではない.その代わり,相当多くの広告を診療中に見せられることになるであろう.ただ,有効な広告を打とうとすると,より詳細な個人情報が必要になる.住所,年齢,職種,趣向などの個人情報はGAFA(Google,Apple,Facebook,Amazon.com)と総称されるIT業界の巨大企業達が蓄積し,その蓄積を基に広告収入を得て,高品質なサービスを顧客に無料で提供している.膨大な個人情報を所有し,利用者の時間を支配しようとしているGAFAであるが,やはり,広告はどこまでいっても利用者にとって邪魔なものである.ある特定のグループが,「これは非常に楽しい.このサービスなしでは生きていけない」もしくは「非常に役立つ.このサービスなしでは仕事に支障がでる」と感じさせるインターネットサービスが次の時代に必要である.それが,前述した「心を支配する」サービスである.時間を支配するサービスから心を支配するサービスへ.特定のグループから得られる,セグメントされたビッグデータから新しく「心を支配する」サービスが生まれるのでは,と可能性を感じている.医療界から,さらに限定して眼科医から,さらに限定して眼科の特定の疾患から,蓄積されたビッグデータを用いて,利用者を唸らせるサービスが登場するのはこれからでる.IIBedsidetoDatabasetoBedside医学研究と臨床は別々の道ではなく,研究室で得られた成果を臨床に結び付けるために,橋渡し研究(transla-tionalresearch)という考え方が生まれた.橋渡し研究とは,おもに医学や生物学における基礎研究の成果の中から有望な知見を選び出し,医薬品や医療機器の開発に要する工程を効率的・効果的に策定し,医療としての実用化を円滑にする医学研究の一領域とされている.一般的にtranslationalresearchはBench(研究室)toBed-side(患者)とよばれ,開発は研究室から始まり最終的に患者に届くが,その距離はきわめて大きく,臨床応用にはとてつもなく長い時間がかかり,しばしば死の谷と表現される(図1).柳田は,医薬品の開発には臨床現場からの視点が重要である,という観点から“BedsidetoBenchtoBedside”が重要だと説いている.患者の所見からresearchquestionを立て,それを基礎研究で解明し,よりよい形で臨床に届けるBedsidetoBenchtoBedsideが必要であって,その第一段階を担うのは臨床472あたらしい眼科Vol.36,No.4,2019(50)図1死の谷Bench(研究室)Database臨床医臨床医Bedside(患者)Bedside(患者)図2BedsidetoBenchtoBedside図3BedsidetoDatabasetoBedsideータベースから生まれる成果物はどうであろう.膨大なデジタルデータ(整理されていることが肝要だが)となった患者情報にこそ価値がある.貢献度としては,患者群>発明者と筆者は考える.データベースから得られるサービスには,価値の源泉である患者群への配慮が求められる.診療データは誰のものかを考察する.デジタル化された診療データの所有には患者,医師,医療機関,システム会社の四者がかかわる.このうち誰が診療データの所有者か,という議論には終わりがない.筆者は,診療データは誰のものでもなく,所有権を捨てない限りにおいて「全員が所有者」と考えている.2018年5月11日より次世代医療基盤法が施行された6).次世代医療基盤法は,いかに医療情報を匿名加工して,個人が特定されない状態にして,誰がどんな目的で利用してよいか,のルール作りである.規制を厳しくすればビジネスが成り立たず産業を創出できない,という国の方針は理解するものの,診療データの所有者の一人であって,情報源となる医療機関や患者への配慮が見あたらない点が気になる.情報源という観点においては,診療データは根源的に患者のものであって,患者にはなんらかの利益が還元されなければならない.成果物は患者に向かうサービスであるべきである.治療効果が上げる,安心して治療が受けられる,迅速な診断が得られる,などの医療水準の向上に寄与しなければいけない.患者もしくは医療機関に対する配慮は,金銭ではなくデータの一次利用で可能である.一次利用を怠ったサービスは,心に響かず,いずれ淘汰されることであろう.BedsidetoDatabasetoBedsideによって生まれる成果物は,BedsidetoBenchtoBedsideによって生まれる創薬と違って,臨床医の仕事のパートナーとなるインターネットサービスが主軸となるであろう.電子カルテ,医療機器,ウェアラブルデバイス,携帯アプリなどが発信し集積された巨大なビッグデータを基に,診断支援・治療支援・手術支援をするサービスが創出される.DatabaseBasedServicesがわれわれ眼科医の診療水準を向上させることであろう.筆者は現在,データベースを基にした緑内障の診療支援システムを構築中であるが,企業との共同開発のため機会を改めて紹介させていただければと思う.III近未来への提言20年以上前のことである.診断や治療に難渋した際に,「〇〇と△△の合併例は□□を起こしやすい,それは19××年のOphthalmologyに掲載されていたよ」と話ができる先生が凄い先生といわれていた.論文を沢山読まれて頭の中で整理している先生は,確かにすごいのだが,インターネットが登場し,論文を縦横無尽に検索できるようになり,事情はまったく変わった.目的とする論文を的確に検索できる先生が凄い先生となった.今後の10年はどうであろう.蓄積されたビッグデータを基に自動診断ソフト,診断支援ソフトが誕生し,より精度の高い診断ソフトを上手に使いこなす先生が「凄い」と評価されるであろう.多くの医師は仕事を愛している.眼科医なら眼科診療を愛している.われわれが心を奪われているのは,診療中もしくは手術中である.その診療中に医師や患者にとって有益な情報がデータベースを通じて次々と与えられる診療風景はどうであろうか.たとえばヘルペス角膜炎を疑う患者を目の前にして,前眼部写真から自動的に補助診断をしてもらい,もしくはヘルペス角膜炎ではない,と言い切ってくれたり.その病院の体制に応じて必要な検査や専門医の処方例まで示してくれる.これは非常にありがたいサービスである.自分の診療レベルを引き上げてくれる.外来診療だけではない.手術中にリスクを感じた手術支援ソフトが,顕微鏡の画面を通じて術者にアドバイスを送る.「それ以上削らないで」「裂孔できてないか確認しよう」「創の閉鎖が弱いと思われる」など指摘してくれる.精度が高ければ,間違いなくわれわれ眼科医の心を奪うインターネットサービスになり,その対価に対して喜んでお金を払うであろう.インターネットに心を奪われることは,決して悪いことではない.それだけの価値があれば奪われて当然である.インターネットの本質は「繋ぐ」と「蓄積する」である.われわれ眼科医は,データベース上に蓄積されたものから生まれる叡知を上手に活用しながら診療すればよいのである.その成果物を生み出す源泉は目の前の患者である.BedsidetoDatabasetoBedside,患者からデ474あたらしい眼科Vol.36,No.4,2019(52)