●連載226監修=山本哲也福地健郎226.続発緑内障の原因診断のための高瀬博東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学CPCR法続発緑内障はぶどう膜炎の主要な合併症であるが,ヘルペスウイルスによるぶどう膜炎には眼内液CPCR法による診断が重要である.PCR法の適応を検討すべき臨床所見には,片眼性,豚脂様角膜後面沈着物,高眼圧があげられる.Posner-Schlossman症候群と診断されている症例にも,PCR法を検討すべきものが多く含まれる.●はじめに続発緑内障はぶどう膜炎患者の予後を規定する重要な合併症であり,そのマネジメントには的確な原因診断が不可欠である.非感染性ぶどう膜炎が原則的にステロイドや免疫抑制薬によって治療されることに対して,感染性ぶどう膜炎には感染病原体特異的な治療が必要となるため,その診断には正確を期す必要がある.ポリメラーゼ鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)法は,検索対象となる遺伝子を含む眼内液と,それ特異的に結合するプライマーとよばれる一対の短い核酸断片,酵素,基質などの混合液に加熱と冷却をくりかえすことで,プライマーに結合するCDNA領域を大量に複製,検出するものであり,微量な眼内液から感染病原体遺伝子を検出できる鋭敏な検査法である.しかし,眼内液の採取は侵襲を伴うものであり,すべてのぶどう膜炎で行うことはできない.本稿では,PCR法が有用なぶどう膜炎続発緑内障について述べる.C●PCR法で検出しやすい病原微生物と検出しにくい病原微生物ぶどう膜炎の原因となる微生物でCPCR法が有用なものには,単純ヘルペルウイルス(HSV),水痘帯状疱疹ウイルス(VZV),サイトメガロウイルス(CMV),トキソプラズマ,ヒトCT細胞白血病ウイルスC1型(HTLV-1)プロウイルス,細菌C16SリボソームCRNA,真菌C28SリボソームCRNAなどがあげられる1).一方,結核菌,梅毒トレポネーマ,トキソカラなどはCPCR法での検出率は一般に低い.C●PCR法を考える前にやるべきことぶどう膜炎の診断は,詳しい問診,両眼の隅角検査と(87)散瞳眼底検査,可能であれば蛍光眼底造影検査を含む徹底的な眼科的検査,そして臨床所見に応じた全身検査が必要である.サルコイドーシス,Vogt・小柳・原田病,Behcet病などは診断基準に沿った検査を漏れなく行うことで多くの場合で診断が可能であり,トキソプラズマ,HTLV-1,結核,梅毒,トキソカラなどは全身検査による診断が基本である.これらのプロセスを経ることなく,まして眼底検査を施行せずにCPCR法を検討することは通常ない.C●PCR法が有用なぶどう膜炎続発緑内障とその特徴上述のプロセスによる診断が困難であり,かつCPCR法が有用なぶどう膜炎続発緑内障は,HSV,VZV,CMVなどによる前部ぶどう膜炎(anterioruveitis:AU)である.その特徴は,片眼性,豚脂様角膜後面沈着物(keraticprecipitates:KP)(図1),ときに「びっくりするような」眼圧上昇(図2)の三つである.原則的に片眼罹患だが,CMV-AUの数パーセントと,ごくまれにCHSV-AUに両眼性病変が存在する.KPは大小さまざまで,色素沈着の程度もさまざまである.CMV-AUでは角膜内皮炎によるCcoinlesionを形成することもある(図1).眼圧はC40CmmHgを超すような場合でも激しい自覚症状は伴わず,ケロっとしていることが多い.しばしばステロイド点眼によって一時的な眼圧下降が得られるが,最終的には抗ウイルス治療なくしては眼圧下降が得られなくなる.隅角には色素の左右差がみられることが多く,強い色素沈着はCVZV-AUを,色素脱失はCCMV-AUを疑う.原則的に開放隅角であり,隅角結節やテント状周辺虹彩前癒着を多数認める場合はサルコイドーシスや結核を疑うべきである.VZV-AUでは分節状の虹彩萎縮(図1)あたらしい眼科Vol.36,No.4,2019C5090910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1ヒトヘルペスウイルスによる前部ぶどう膜炎の前眼部写真aba:水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)による前部ぶどう膜炎(AU)の豚脂様角膜後面沈着物(KP).大型で薄く色素を伴い,汚い印象である.Cb:VZV-AUに生じた軽度の分節状虹彩萎縮.Cc:サイトメガロウイルス(CMV)によるAUのCKP.色素を伴わず白色小型のものが少数みられる.Cd:CMV-AUのcoinlesion.c図2ヒトヘルペスウイルスによる前部ぶどう膜炎の最大眼圧単純ヘルペスウイルス(HSV),水痘帯状疱疹ウイルス(VZV),サイトメガロウイルス(CMV)による前部ぶどう膜炎(AU)の炎症期における最大眼圧(IOP).(文献C2より許可を得て改変,転載)を認め,CMV-AUではびまん性の虹彩萎縮を認めることがある.罹患眼の角膜内皮細胞密度の減少はCCMV-AUでしばしばみられる2).ここまで述べたぶどう膜炎像の多くは,Posner-510あたらしい眼科Vol.36,No.4,2019Schlossman症候群(Posner-Schlossmansyndrome:PSS)3)と重なるものであり,PSSとして加療されているぶどう膜炎続発緑内障にはCCMV-AUや,さらには風疹ウイルス4)やサルコイドーシスの初期なども含まれている可能性がある.PSSはあくまで除外診断の果てに用いる診断名であり,PSSに合致する症例でも原因検索の努力を怠るべきではない.長年にわたり再発を繰り返すCPSSには,PCR法を含めたぶどう膜炎検査を再考すべき症例が数多く存在するものと考えられる.文献1)SugitaS,OgawaM,ShimizuNetal:Useofacomprehen-siveCpolymeraseCchainCreactionCsystemCforCdiagnosisCofCocularinfectiousdiseases.OphthalmologyC120:1761-1768,C20132)TakaseH,KubonoR,TeradaYetal:Comparisonoftheocularcharacteristicsofanterioruveitiscausedbyherpessimplexvirus,varicella-zostervirus,andcytomegalovirus.JpnJOphthalmolC58:473-482,C20143)PosnerCA,CSchlossmanA:SyndromeCofCunilateralCrecur-rentCattacksCofCglaucomaCwithCcycliticCsymptoms.CArchCOphthalmolC39:517-535,C19484)CheeCSP,CJapA:PresumedCFuchsCheterochromicCiridocy-clitisCandCPosner-Schlossmansyndrome:comparisonCofCcytomegalovirus-positiveCandCnegativeCeyes.CAmCJCOph-thalmol146:883-889,C2008(88)