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眼球結膜に発症した無色素性結膜悪性黒色腫の1例

2019年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科36(3):403.406,2019c眼球結膜に発症した無色素性結膜悪性黒色腫の1例古川友大*1三田村麻里*2長谷川亜里*1小島隆司*3加賀達志*1市川一夫*4*1JCHO中京病院眼科*2岐阜赤十字病院眼科*3慶應義塾大学医学部眼科学教室*4中京眼科CACaseofAmelanoticMalignantMelanomainBulbarConjunctivaYudaiFurukawa1),MariMitamura2),AsatoHasegawa1),TakashiKojima3),TatsushiKaga1)andKazuoIchikawa4)1)DepartmentofOphthalmology,JapanCommunityHealthCareOrganizationChukyoHospital,2)DepartmentofOphtalmology,JapaneseRedCrossGifuHospital,3)DepartmentofOphthalmology,KeioUnivercitySchoolofMedicine,4)DepartmentofOphthalmology,ChukyoEyeClinicC結膜原発の悪性黒色腫は,わが国では非常に頻度が少ない.そのなかでも無色素性悪性黒色腫はさらにまれである.筆者らは,結膜に発症した無色素性悪性黒色腫を経験した.症例はC67歳,女性で,左眼耳側角膜輪部にC1Ccm程度の淡紅色で血流に富み表面に潰瘍を伴う隆起性病変を認めた.超音波生体顕微鏡では腫瘤と角膜の境界は明瞭で,MRIでは腫瘤の眼窩内浸潤は認めなかった.診断および治療目的で腫瘍摘出術を施行した.病理組織検査にて悪性黒色腫と診断,断端陽性だったため後日追加切除を施行した.追加検体には病理組織上悪性所見を認めなかった.初診時よりC2カ月後の血清C5-S-システイニルドーパはC3.1Cnmol/lで,造影CCT,PET-CTでもその他の原発巣,転移巣は認めなかった.術後C15カ月現在まで,遠隔転移および局所再発は認めていないが今後も長期間の定期観察が必要である.CTherehavebeenfewreportedcasesofconjunctivalmalignantmelanomainJapan,butconjunctivalamelanoticmalignantmelanomaisespeciallyrare.Weexperiencedacaseofconjunctivalamelanoticmalignantmelanomaina67-year-oldfemalewhopresentedwithherlefteyeshowinganabout1Ccmpolypoidlesionwithulceronthetem-poralCsideCofCtheCcornealClimbus,CwhichCwasCpaleCredCinCcolorCwithCrichCvascularization.CInCUBM,CtheCmarginCbetweentumorandcorneawasclear.MRIdidnotdiscloseanyinvasionintotheorbit.WeperformedCwideexcisionfordiagnosisandtreatment.Bypathology,wediagnosedamalignantmelanoma.Sincethetumormarginwasposi-tivewithmalignantcells,weperformedadditionalexcision.Wefoundnomalignanciesintheadditionallyobtainedtissues.CContrast-enhancedCCTCandCPET-CTCdidCnotCdiscloseCanyCotherCprimaryCtumorCorCmetastasis.CBloodC5-S-cysteinyldopawas3.1Cnmol/l.At15monthsafterinitialsurgerywehavefoundnometastasisorlocalrecur-rence.Weneedtocontinuewithlong-termfollowup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(3):403.406,C2019〕Keywords:無色素性悪性黒色腫.conjunctivalamelanoticmalignantmelanoma.はじめに結膜悪性黒色腫は,わが国ではC10万人にC0.059人と非常にまれな疾患であり結膜悪性腫瘍のC6%程度を占める1).多くは茶色から黒色,結節性の隆起性病変だが,無色素性の場合もあり,視診や細隙灯顕微鏡検査のみでは診断がむずかしい例もある.また,症例数が少ないため標準的な治療方針が定まっていない.今回,耳側眼球結膜に発生した腫瘤を摘出し,免疫組織学的検査にて無色素性結膜悪性黒色腫と診断した症例を経験したので報告する.I症例患者:67歳,女性.主訴:左眼結膜腫瘤.現病歴:数年前より左眼耳側結膜に腫瘤を認め,増大傾向であったため近医を受診し,精査目的にてCJCHO中京病院眼科を紹介受診となった.既往歴,家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼C0.4(1.2C×sph.0.5D(cyl.2.0DAx100°),左眼C0.7(矯正不能).眼圧は右眼14mmHg,左〔別刷請求先〕古川友大:〒491-8551愛知県一宮市桜C1-9-9総合大雄会病院眼科Reprintrequests:YudaiFurukawa,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,DaiyukaiGeneralHospital,1-9-9Sakura,Ichinomiya,Aichi491-8551,JAPANC図1初診時前眼部細隙灯顕微鏡所見左眼耳側角膜輪部に径C1Ccm,厚さC3Ccm程度の淡紅色で血流に富み,表面に潰瘍を伴う隆起性病変を認めた.図2初診時より1カ月後のUBM(.は腫瘤を示す)腫瘤と角膜の境界は明瞭であり,角膜への浸潤は認めなかった.〈術前〉〈術後〉図3初回手術所見安全域として腫瘤からC2Cmm離して結膜切開し,角膜実質表層レベルまでを切除した.また,強膜側は表層切除した.その後切除部位にC3分間CMMCを塗布し,生理食塩水で十分に洗浄した.その後,保存角膜を用い表層角膜移植を施行した眼C19CmmHg.前眼部細隙灯顕微鏡検査で左耳側角膜輪部に1Ccm程度の,淡紅色で血流に富み,表面に潰瘍を伴う隆起性病変(図1)を認めた.輪部は眼球との癒着が疑われ可動性は不良,角膜上は輪部からポリープ状に突出した病変で可動性はあり瞳孔領の約C1/3を占めていた.また,腫瘤および腫瘤周囲にCprimaryCacquiredmelanosis(PAM)を疑う所見はなかった.中間透光体,眼底には異常は認めなかった.超音波生体顕微鏡(Ultrasoundbiomicroscope:UBM)では腫瘤と角膜の境界は明瞭であった(図2).造影CMRIでは腫瘤の眼窩内浸潤は認めなかった.治療計画:無色素性の血流豊富な隆起性病変であることから,扁平上皮癌を疑った.また,診断および治療のため,結膜腫瘍摘出術および表層角膜移植術を予定した.初回手術所見:腫瘤は角膜には浸潤なく,耳側角膜輪部にルーズに接着していた.安全域として腫瘤からC2Cmm離して結膜切開し,角膜実質表層レベルまでを切除した後,切除部位にC3分間C0.04%マイトマイシンCC(MMC)を塗布し,生理食塩水で十分に洗浄した.その後,保存角膜を用い表層角膜移植を施行した.強膜上の保存角膜は,結膜を寄せて被覆した(図3).病理所見:異型細胞の増殖あり,多数の核分裂像を認めた.上皮内病変であるCPAMの確実な証明は困難であった.大型異型細胞は免疫染色CHMB-45染色にて陽性だった.以上より悪性黒色腫と診断した(図4).なお,耳側断端は陽性であった.初回術後経過:術後感染などの合併症はなかった.転移の可能性を除外するために造影CCT,PET-CTを施行したが,その他原発巣,転移巣は認めなかった.悪性黒色腫の腫瘍マーカーである血清C5-S-シスレイニルドーパはC3.1nmol/lと正常範囲内であった.(日本人の場合カットオフ値はC10Cnmol/l).AmericanJointCommitteeonCancer(AJCC)のCTNM分類では(pT2b,N0,M0)に該当した.病理検査にて断端陽性であったため後日追加切除施行した.追加切除所見:初回手術時の角膜移植片上を被覆した結膜に腫瘍の残存した断端があると思われた.そのため安全域として角膜移植片からC3.0Cmm離して結膜切開し,角膜移植片図4初回手術時に摘出した腫瘤の病理所見(CHE染色)Ca:潰瘍形成を伴うC7Cmm大の褐色調腫瘤で深さはC3.5Cmmであった.上皮内病変であるCPAMの確実な証明は困難であった.Cb:大型異型細胞は免疫染色CHMB-45染色にて陽性だった.〈術前〉〈術後〉羊膜図5拡大切除所見安全域として角膜移植片からC3.0Cmm離して結膜切開し,角膜移植片の下の角膜および強膜も層状に切除した.その後,角膜移植片を再度縫着し,羊膜を結膜欠損部へ移植し終了した図6拡大切除術後10カ月の前眼部細隙灯顕微鏡所見および角膜形状解析装置所見a:局所再発は認めないが,拡大切除により一部強膜が菲薄化していた.Cb:角膜トポグラフィーでは切除部にわずかに不正乱視を認める程度であった.の下の角膜および強膜も層状に切除した.その後,角膜移植瘍の残存はなかった.一部強膜の菲薄化を認めていたが,保片を再度縫着し,羊膜を結膜欠損部へ移植し終了した(図5).存角膜にて十分覆われていた(図6).術後視力は左眼C0.9追加切除後術後経過:拡大切除の検体には病理検査上,腫(1.2C×sph.0.50D(cyl.1.5DAx45°)であった.術後C15カ月現在まで造影CCTなどにて経過観察中だが,全身転移および局所再発は認めていない.CII考察結膜悪性黒色腫は,角膜以外のすべての眼表面組織より発生し,角膜や眼窩,眼内にも浸潤しうる.欧米の報告では発生母地としてCPAMが約C75%,母斑が約C20%,denovoが約5%と報告されている2).本症例では病理所見においてCPAMを確実に証明できなかったが,臨床的には他に原発巣がないため,結膜の原発と考えられる.また,問診をし直すと過去に腫瘤の隆起のみではなく,褐色調であったと答えられた.これがCPAMであった可能性もあり,臨床的にCPAM由来の悪性黒色腫が考えられる.術前の詳細な問診と無色素性であっても悪性黒色腫を否定しないことが重要だと思われた.現在治療法として外科的切除のほか,冷凍凝固術,MMCなどの代謝拮抗薬,インターフェロンなどの補助療法の併用などが主流となりつつあるが,これらの治療を行っても局所再発や遠隔転移をきたす症例があると報告されている3).本症例では初回手術でCMMCを用いた外科的切除と角膜移植術を施行した.初回手術では断端陽性であったが,追加切除にて腫瘍を認めなかったためMMCが奏効した可能性も考えられる.一方でCMMCの晩期副作用として強膜融解が知られているが,本症例では拡大切除が避けられなかったことから強膜を広範囲に切除することになり,一部強膜が菲薄化している.今後強膜融解が生じるリスクは高いと思われ,慎重に経過観察する必要がある.また,初診時左眼の腫瘍が角膜部に接触していたため,不正乱視が生じ視力低下をきたしていたと考えられた.本症例に対して単純切除のみを施行した場合は,角膜および結膜の組織欠損により不正乱視が生じ術後の視力も限定されると予想されたため,本症例では角膜移植を施行した.このことにより術後の不正乱視も小さく良好な視力を得ることができたと思われた.結膜悪性黒色腫のC5年生存率はC53.4%4),約C50%に局所再発をきたすとされ,再発巣の治療後も約C25%で再々発を生じ,45.60%がリンパ節転移する5)とも報告されている.木村らの報告では耳下腺,顎下,頸部リンパ節へのリンパ節転移を認めた3).また,涙丘,角膜実質,円蓋部,瞼結膜の病変は再発リスクが高いとされる一方で,球結膜病変の症例は再発の可能性は低いとの報告がある6).木村らの報告では初回治療から初めての再発までの期間は約C2年であり,2年再発率が約C4割であったことから,少なくともC2年間は密な経過観察が必要だと報告されている3).本症例では球結膜の腫瘤に対しCMMCを用いた外科的切除を施行し,現在までC1年C15カ月再発や遠隔転移はないものの,今後も長期間の経過観察が必要である.文献1)金子明博:日本における眼部悪性腫瘍の頻度について.臨眼33:941-947,C19792)FolbergR,McLeanIW,ZimmermanLE:Malignantmela-nomaoftheconjunctiva.HumPatholC16:136-143,C19853)木村圭介,臼井嘉彦,後藤浩:結膜悪性黒色腫C11例の臨床像と治療予後.日眼会誌116:503-509,C20124)松本章代,稲富勉,木下茂ほか:結膜原発の悪性黒色腫の長期予後に関する調査および統計学的検討.日眼会誌C103:449-455,C19995)WerschnikCC,CLommatzschPK:Long-termCfollowCupCofCpatientsCwithCconjunctivalCmelanoma.CAmCJCClinCOncolC25:248-255,C20026)MissottenGS,KeijserS,DeKeizerRJetal:ConjunctivalmelanomaintheNetherlands:anationwidestudy.InvestOphthalmolVisSciC46:75-82,C2005***

ニボルマブ投与後に眼表面と口腔粘膜にStevens-Johnson症候群所見を呈した1例

2019年3月31日 日曜日

《第52回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科36(3):399.402,2019cニボルマブ投与後に眼表面と口腔粘膜にStevens-Johnson症候群所見を呈した1例永田篤大高康博名古屋第二赤十字病院眼科CCaseofStevens-JohnsonSyndromeDiagnosedonInitialSymptomsofOcularandOralFindingsafterOneNivolumabInjectionAtsushiNagataandYasuhiroOtakaCDepartmentofOphthalmology,JapaneseRedCrossNagoyaDainiHospitalC目的:免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブによるさまざまな免疫関連有害事象は報告されているがCSte-vens.Johnson症候群(SJS)の眼科的な報告は少ない.舌癌治療のためニボルマブを使用し,最初に眼表面と口腔粘膜にCSJS所見を呈し発見に至ったC1例につき報告する.症例:53歳,女性.既往に舌癌切除術施行も頸部リンパ節転移.2018年C1月下旬の朝より両眼の充血を認め,近医にて細菌性結膜炎と診断された.2日後に口腔内のびらんを認めヘルペス性口内炎を疑われ入院し,翌日より両眼眼痛と視力低下を認め当科初診.両眼の角膜びらん,結膜充血と瞼結膜の偽膜形成,口腔内の水疱,びらんを認めた.全身の皮膚所見は認めなかった.SJSと考え誘因薬剤を調査したところ,1月中旬にニボルマブを使用していたことが判明し同薬剤が発症に関与していると考えた.結論:適応拡大に伴いニボルマブ使用が急速に増えることが予想され,われわれ眼科医はCSJSが起こる可能性を念頭において診察する必要がある.CPurpose:WeCreportCaCcaseCofCStevens-Johnsonsyndrome(SJS)thatCinitiallyCpresentedCocularC.ndingsCafterCnivolumabinjection.Case:A53-year-oldfemalehadahistoryoftonguecancersurgicalremoval,recurrenceandcervicalClymphCnodeCmetastasis.CSheCinitiallyCpresentedCeyeredness;anCeyeCpractitionerCsuspectedCbacterialCcon-junctivitis.Oralerosionsappearedintwodays;herpeticoralstomatitiswassuspectedandthepatientwashospi-talizedinourhospital.Thefollowingday,sheexhibitedbilateralconjunctivalinjection,pseudomembranesandcor-nealerosions.Oralmultiplemucouserosionsweresimultaneouslypresented,withnoskineruption.WediagnosedSJS,basedontheclinical.ndings.Possiblerelevanceofnivolumabusage12daysbeforeSJSoccurrencewascon-sidered.Positivereactionstolymphocytestimulationtestwereobservedforloxoprofen.Conclusion:Theoncologi-calCuseCofCimmuneCcheckpointCinhibitorsCsuchCasCnivolumabCisCbecomingCmoreCwidespread.CWeCophthalmologistsCmustbeopentoearlyrecognitionofnivolumab-inducedSJS.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(3):399.402,C2019〕Keywords:Stevens-Johnson症候群,ニボルマブ,免疫関連有害事象,免疫チェックポイント阻害薬,抗CPD-1抗体.Stevens-Johnsonsyndrome,nivolumab,immunerelatedadverseevents,immunecheckpointinhibitor,anti-PD-1antibody.Cはじめに近年,癌治療において免疫チェックポイント阻害薬とよばれる新たな作用機序の治療薬が登場し,殺細胞性抗癌薬や分子標的薬に抵抗性を示す癌においても優れた治療効果を発揮している.抗CcytotoxicT-lymphocyte-associatedprotein4C(CTLA-4)抗体のイピリムマブ(ヤーボイCR),抗CprogrammedcellCdeath1(PD-1)抗体のニボルマブ(オプジーボCR)は現在国内で使用可能で,2014年C7月にニボルマブが悪性黒色腫に対して承認され,その後はさまざまな癌に適応拡大され使用量も急激に増えている.現在ニボルマブによるCStevens-〔別刷請求先〕永田篤:〒466-8650名古屋市昭和区妙見町C2-9名古屋第二赤十字病院眼科Reprintrequests:AtsushiNagata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JapaneseRedCrossNagoyaDainiHospital,2-9Myoken-cho,Showa-ku,Nagoya-shi,Aichi466-8650,JAPANCJohnson症候群(Stevens-Johnsonsyndrome:SJS)の国内での有害事象報告はC29,000例近くの使用に対してC25例あるが,眼科領域での臨床報告は少ない1).今回眼所見を契機に診断に至ったニボルマブが関与したと考えられたCSJS症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.CI症例患者:53歳,女性.既往歴:2017年C2月舌癌切除術を施行するも術後再発を認め,5月から化学療法,10.12月にかけて化学療法と放射線療法を行った.現病歴:2018年C1月下旬の朝より両眼の充血を認め近医を受診し,結膜炎の診断にてニューキノロン点眼薬を処方された.同時に口腔内の痛み,顔面の腫脹も自覚していた.2日後に口腔粘膜に多発したびらんを認め,舌癌治療の当院口腔外科でヘルペス性口内炎を疑われ入院にて治療を開始した.翌日より両眼眼痛と視力障害を認め口腔外科より眼科診察依頼を受けた.初診時所見:視力は右眼C0.04(矯正不能),左眼C0.06(0.2C×cyl.2.0DAx20°),両眼の球結膜充血が著明で瞼結膜には偽膜の形成,角膜には広範囲にびらんを認めた(図1).また口唇,口腔内粘膜のびらん,水疱,痂皮化所見,舌には白苔所見を認めた(図2).全身検査所見ではCWBC7,300/μl,CRP5.31Cmg/dlとCCRPの軽度上昇,また体温はC38.9℃であ図1初診時前眼部写真両眼の球結膜の著明な充血,瞼結膜の偽膜形成,角膜の広範囲のびらんを認めた.った.全身皮膚には異常所見は認めなかったが,これらの所見からCSJSを疑い皮膚科に紹介した.全身には皮疹は認めなかったが結膜,口唇,口腔粘膜所見と発熱所見よりCSJSと診断された.経過:同日よりメチルプレドニゾロンC500Cmgの点滴静注をC3日間施行した.眼科的にはリン酸ベタメタゾン点眼,モキシフロキサシン点眼をC2時間ごとで開始し,また偽膜除去を毎日行った.同時に眼所見発症前後の治療,服薬歴を調査した.2018年C1月中旬に舌癌の再発に対してニボルマブ150Cmg点滴静注を施行されたが,点滴後の体調不良を訴え1回の使用のみで中断された.下旬に両結膜充血にて近医にてニューキノロン点眼が処方され,翌日喉,耳に疼痛を感じ市販感冒薬ルルRを服薬した.翌々日にヘルペス性口内炎を疑われアシクロビル点滴治療が行われていた.それ以外には癌性疼痛除去のためロキソプロフェンナトリウム錠,レバミピド錠が頓用で使用されていた.ニボルマブ注射以降にはこれらの薬剤の使用歴はなかったがいつまで使用したかは不明であった.リンパ球刺激試験を行い(表1),ロキソプロフェンとアセトアミノフェン錠が陽性を示した.ステロイド治療後は徐々に充血,偽膜は改善し,発症後約C1カ月後には視力右眼C0.6(0.9)左眼C0.5(1.0)にまで改善し,角膜びらん,充血は消退し瞼球癒着は認められなかった(図3).口唇,口腔内も著明に改善した.ステロイド内服はCPSL30Cmgから開始し漸減され発症C1カ月半後に中止となった.CII考按ニボルマブをはじめとする免疫チェックポイント阻害薬ではその作用機序により自己免疫機能が増強されてさまざまな免疫関連有害事象(immune-relatedadverseevents:irAE)が発症することは避けられず,多臓器でCirAEが報告されている2,3).もっとも頻繁に,かつ比較的早期に観察されるirAEは皮膚障害で,多くは軽症であるが重症型としてCSJS図2初診時口唇,口腔内所見口唇,口腔内粘膜のびらん,水疱,痂皮化所見,舌には著明な白苔所見を認めた.表1リンパ球刺激試験薬剤名測定値(c.p.m)SI(%)レバミピドC136C99ロキソプロフェンC1,257C917アセトアミノフェンC1,577C1,151コントロールC137判定基準S.I.%180以下:陰性,181以上:陽性.SI:stimulationindex(刺激指数)図3発症1カ月後前眼部写真角膜びらん,充血は消退し瞼球癒着は認められなかった.や中毒性表皮壊死症(toxicCepidermalnecrosis:TEN)も報告されている2).また,Goldingerらは抗CPD-1抗体治療の皮膚病変の副作用として,22%に軽度の発疹から重度のCSJS発疹が出現したと報告している4).抗CPD-1抗体治療によるSJSやCTENの報告は数例の報告があり,それらは抗CPD1抗体単独使用または放射線治療との併用で起こったと報告されている5.7).今回の症例では眼所見が初発所見で,直後に口腔内所見が出現し全身皮膚所見は認めなかったが,その特徴的な眼所見,口腔粘膜所見と発熱からCSJSと考え,ニボルマブ投与後C12日後の発症であることからニボルマブの関与によるSJSを強く疑った.リンパ球刺激試験ではロキソプロフェンとアセトアミノフェンが陽性を示したが,近医眼科での結膜炎所見とその翌日に喉,耳の自覚症状があったことからこの時点を発症と考えると,総合感冒薬ルルCR(アセトアミノフェン含有)はそれ以降に使用した薬剤であり,発症前に使用している薬剤はロキソプロフェンとニボルマブのみであった.ロキソプロフェンはリンパ球刺激試験で陽性を示し,以前からCSJSの原因薬剤として抗菌薬と下熱鎮痛薬は原因薬の代表であり8),今回の原因薬剤としての関与は否定はできない.ニボルマブの作用機序は,T細胞上に発現したCPD-1と癌細胞上に発現したリガンドであるCPD-L1の相互作用でCT細胞の活動性が抑制されているのをブロックする抗体でCT細胞の活性化につなげるメカニズムであり9),ロキソプロフェンに反応して活性化したCTリンパ球がさらにニボルマブにより反応した可能性も考えられた.今回の症例では全身の皮膚に所見を認めずCSJSの診断基準は認めていないが8),ニボルマブではないが皮膚所見を伴わず粘膜病変のみを呈したCSJSの報告も散見されている10,11).一方,免疫チェックポイント阻害薬の眼科的副作用の報告として,LaurenらはC1990.2017年の文献をCPubMedを使用して眼科的副作用病名をキーワードに検索した.そのキーワードにはCSJSは含まれていなかったが,ぶどう膜炎(1%)とドライアイ(1.24%)がもっとも多かったと報告している12).免疫チェックポイント阻害薬によるCSJSの報告は癌関連や皮膚科のジャーナルでの報告が大多数で5.7),われわれ眼科医が眼科的副作用の観点からは認識しにくい傾向があると思われた.今後ニボルマブなどの免疫チェックポイント阻害薬の使用が急激に増えることが予想され,使用早期の眼所見としてCSJSも常に念頭に置いて診察し早期発見,治療に努めることが重要であると考えた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)小野薬品工業:オプジーボ副作用発現状況全体集計(集計期間:2014/07/04.2018/01/15)2)MichotCJM,CBigenwaldCC,CChampiatCSCetal:Immune-relatedCadverseCeventsCwithCimmuneCcheckpointCblock-age:acomprehensivereview.EurJCancerC54:139-148,C20163)門野岳史:免疫チェックポイント阻害剤による免疫関連副作用の実際.日本臨床免疫学会会誌40:83-89,C20174)GoldingerSM,StiegerP,MeierBetal:Cytotoxiccutane-ousCadverseCdrugCreactionsCduringCanti-PD-1Ctherapy.CClinCancerResC22:4023-4029,C20165)NayarCN,CBriscoreCK,CFernandezPP:ToxicCepidermalCnecrolysis-likeCreactionCwithCsevereCsatelliteCcellCnecrosisCassociatedCwithCnivolumabCinCaCpatientCwithCipilimumabCrefractoryCmetastaticCmelanoma.CJCImmunotherC39:149e52,C20166)ItoJ,FujimotoD,NakamuraA:AprepitantforrefractorynivolumabCinducedCpruritus.CLungCCancerC109:58-61,C20177)SalatiCM,CPi.eriCM,CBaldessariCCCetal:Stevens-JohnsonCsyndromeCduringCnivolumabCtreatmentCofCNSCLC.CAnnCOncolC29:283-284,C20188)重症多形滲出性紅斑ガイドライン作成委員会:重症多形滲出性紅斑・スティーブンス・ジョンソン症候群・中毒性表皮壊死症診療ガイドライン.日眼会誌121:42-86,C20169)OkazakiCT,CHonjoT:PD-1CandCPD-1ligands:fromCdis-coveryCtoCclinicalCapplication.CIntCImmunolC19:813-824,C200710)LatschCK,CGirschickCH,CAbele-HornM:Stevens-JohnsonCsyndromewithoutskinlesions.JMedMicrobiolC56:1696-1699,C200711)鈴木智浩,大口剛司,北尾仁奈ほか:眼所見から診断されたCStevens-Johnson症候群のC1例.あたらしい眼科C33:C451-454,C201612)LaurenAD,CarolLS,MarlanaOetal:Checkpointinhibi-torCimmuneCtherapyCsystemicCindicationsCandCophthalmicCsidee.ects.RetinaC38:1063-1078,C2018***

生命予後が不良であった癌関連網膜症の1例

2019年3月31日 日曜日

《第52回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科36(3):394.398,2019c生命予後が不良であった癌関連網膜症の1例太田浩一*1佐藤敦子*1千田奈実*1福井えみ*1菊池孝信*2野沢修平*3石井恵子*4*1松本歯科大学歯学部眼科*2信州大学基盤研究センター機器分析支援部門*3まつもと医療センター呼吸器内科*4岡谷市民病院病理科CACaseofCancer-associatedRetinopathywithPoorPrognosisKouichiOhta1),AtsukoSato1),NamiSenda1),EmiFukui1),TakanobuKikuchi2),ShuheiNozawa3)andKeikoIshii4)1)DepartmentofOphthalmology,MatsumotoDentalUniversity,2)ResearchCenterforSupportstoAdvancedScience,ShinshuUniversity,3)DepartmentofRespiratoryMedicine,MatsumotoMedicalCenter,4)DepartmentofPathology,OkayaCityHospitalC癌関連網膜症(cancer-associatedretinopathy;CAR)症例は,癌を伴わない症例に比べ生命予後が良好との報告がある.抗リカバリン抗体強陽性で生命予後が不良であったCCAR症例を報告する.症例はC79歳,男性で,急激な両眼の視力低下にて発症した.初診時矯正視力は右眼(0.01),左眼(0.2),網膜動脈の狭細化,粗造な網膜所見を認めた.光干渉断層計では黄斑部網膜外層の著明な障害,網膜電図の平坦化,視野検査では大きな中心暗点を認めた.気管支鏡検査で原発性肺癌の診断となった.眼病変に対しステロイドの後部CTenon.下注射とパルス療法を行ったが,視力改善はなかった.化学治療により腫瘍の縮小傾向を認めたが,4カ月後に永眠された.血清抗リカバリン抗体が強陽性であった.免疫染色では視細胞内節・外節が強陽性となった.本例は視力予後に加え,生命予後も不良であった.CTheCprognosisCofCcancerCpatientsCwithCcancer-associatedretinopathy(CAR)isCbetterCthanCofCthoseCwithout.CWereportacancercasewithaworseprognosis.Thepatient,a79-year-oldmale,rapidlydevelopedvisualloss.AtC.rstvisit,hisbest-correctedvisualacuitywas0.01ODand0.2OS.Fundusexaminationshowedattenuatedretinalarteriolesandmottledretina.Thetotalretina,especiallytheouternuclearlayer,wasthinnedonopticalcoherenceimages.Hiselectroretinographyshowedanegativewaveform,andGoldmannperimetryrevealedlargecentralsco-toma.CPrimaryClungCcancerCwasCdiagnosed.CDespiteCtreatmentCwithCsub-Tenon’sCinjectionCofCsteroidCandCsteroidCpulseCtherapy,ChisCvisualCacuityCdidCnotCimprove.CAlthoughCtheCtumorCsizeCdecreased,CheCpassedCawayCafterC4months.CAnti-recoverinCantibodyCwasCextremelyChighCandCphotoreceptorCwasCpositiveCwithCpatient’sCserum.CBothCvisualandlifeprognosiswerepoor.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(3):394.398,C2019〕Keywords:癌関連網膜症,抗リカバリン抗体,ステロイド治療,肺癌,予後不良.cancer-associatedretinopathy,anti-recoverinantibody,steroidtherapy,lungcancer,poorprognosis.Cはじめに癌関連網膜症(cancer-associatedretinopathy:CAR)は腫瘍随伴症候群の一つであり,急進行する視力低下,視野障害を特徴とする1).腫瘍随伴症候群とは,悪性腫瘍に罹患した際,腫瘍抗原に対する自己抗体が産生され,腫瘍とは異なる他臓器に障害が生じる病態である.まれな疾患であるが,CARにおいては視細胞に特異的な蛋白質が異所性に腫瘍細胞に発現して,自己抗体が産生され,視細胞の障害が生じると考えられている.原因となる蛋白質はリカバリン2)がまず報告された.他にもエノラーゼ3),抗Chsc704),TULP-15)などが報告されている.自己抗体のなかではCa-エノラーゼ抗体の検出率に比べ,抗リカバリン抗体の検出率は高くはない.3回の採血による検出を推奨する報告もある6).腫瘍随伴症候群の原疾患は悪性腫瘍であり,生命予後は不〔別刷請求先〕太田浩一:〒399-0781長野県塩尻市広丘郷原C1780松本歯科大学歯学部眼科Reprintrequests:KouichiOhta,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,MatsumotoDentalUniversity,1780Gobara,Hirooka,Shiojiri,Nagano399-0781,JAPANC394(92)図1眼底写真・光干渉断層像(COCT)Ca:右眼眼底写真,Cb:左眼眼底写真.網膜動脈の狭細化がみられ,網膜の色調は粗造である.左眼黄斑部上方には網膜色素上皮異常を認めた.Cc:右眼COCT,Cd:左眼COCT.網膜全層の層構造は崩れ,網膜外層の菲薄化,ellipsoidzoneの消失を認めた.良である.しかし,肺小細胞癌においては腫瘍随伴症候群を伴う症例のほうが伴わない症例より生命予後がよいとの報告がある7).CARにおいても生命予後不良な肺小細胞癌において抗リカバリン抗体を有する症例のC1年半以上の生存例の他,9年生存の報告がある8).今回,血清抗リカバリン抗体が強陽性かつ生命予後が不良であったC1例を経験したので報告する.CI症例患者:79歳,男性主訴:両眼視力低下既往歴:63歳,大腸癌(1年後終診).喫煙10本/日(20歳から)現病歴:2017年C7月両眼の視力低下を自覚し,近医を受診した.矯正視力は右眼(0.9),左眼(0.8)にて,左眼の白内障手術が予定された.2017年C9月左眼の水晶体再建術を施行するも術前矯正視力右眼(0.2),左眼(0.2)が術後矯正視力右眼(0.01),左眼(0.2)と改善はなく,右眼の著明な低下を認めた.視神経障害または脳疾患を疑い,脳神経外科病院に紹介されるも,原因となりうる病変はなく,精査目的に松本歯科大学病院眼科(以下,当科)に紹介となった.初診時眼科所見:瞳孔不同なし.対光反応鈍.RV=0.01(矯正不能),LV=0.1(0.2C×.1.5D).眼圧は右眼C8mmHg,左眼C9CmmHg.結膜,角膜に異常なく,右眼は軽度の白内障,左眼は軽度の前房炎症と眼内レンズ挿入眼.前部硝子体にごくわずかの細胞を認めるも硝子体混濁は認められなかった.両眼とも網膜は粗造で,網膜動脈の狭細化を認めた(図1).光干渉断層計では網膜の層構造が崩れ,とくに外顆粒層厚図2フルオレセイン蛍光眼底造影写真a:右眼,Cb:左眼.明らかな血管閉塞所見はなく,網膜色素上皮障害と思われる過蛍光および一部の網膜血管壁の組織染を認めた.c図3全視野網膜電図a:フラッシュ,Cb:フリッカー,Cc:錐体,Cd:杆体.各網膜電図で著明な平坦化を認めた.の減少とともに外境界膜・ellipsoidzone・interdigitationzoneの区別がつかないほど障害されていた(図1).フルオレセイン蛍光眼底造影検査では網膜血管への流入遅延を認め,ごくわずかの血管漏出を一部に認めた.両眼の黄斑部に網膜色素上皮障害と思われる過蛍光を認めた(図2).全視野網膜電図ではフラッシュ,フリッカー,錐体,杆体反応ともnon-recordableであった(図3).Goldmann視野検査では両眼ともにC30°におよぶ大きな中心暗点を認めた(図4).当科での全身検査ではCCRP0.69Cmg/dl,LDH468CU/lと上昇を認めた.胸部CX線写真にて右肺野異常(6Ccm径の腫瘍疑い)を認めた(図5).経過:肺腫瘍に伴うCCARと診断し,大腸癌治療歴のある総合病院外科に紹介した.当科への短期的な通院は困難になると判断し,右眼に対し,トリアムシノロン(約C20Cmg)の後部CTenon.下注射を行った.外科では大腸癌とは関係なく,原発性肺癌疑いの診断にてまつもと医療センター呼吸器内科に再紹介された.まず,CARに対し,ステロイドのパ図4Goldmann視野検査a:左眼,Cb:右眼.大きな中心暗点を認めた.図5胸部単純X線写真右下肺野に径C6Ccmの肺陰影を認めた.ルス療法およびプレドニゾロンC30Cmg/日からの漸減投与が行われた.呼吸器内科では気管支鏡検査にて肺癌の診断にて9月下旬からCCBDCA(カルボプラスチン)+CPT-11(イリノテカン)の化学療法C1コースが行われた.胸部CX線写真上は腫瘍の縮小傾向を認めた.初診後C1カ月にはCRV=(0.03),CLV=(0.2)にてステロイド治療による視力の改善は認められなかった.肺組織のCPCR検査でCEGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子変異陽性にて腺癌としてエルロチニブに変更した.しかし,肝障害にて中止となった.CBDCA+CPT-11へ戻す予定も全身倦怠感が強くなり,腫瘍の増大および筋転移もあり,当科初診からC4カ月後のC2018年C1月永眠された.免疫染色より,病理学的な最終診断は未分化の大細胞癌となった(図6).血清抗リカバリン抗体:初診時に採血した血清中の抗リカバリン抗体は強陽性(abnormalClevelsCofCantibodiesCdetect-ed)(AthenaCDiagnostics,CMarlborough,MA)であった.また,リコンビナントのヒトリカバリンを用いたウェスタンブロット法にて患者血清はリカバリンに陽性となった.CARの原因となりうるCaエノラーゼ,Cgエノラーゼ,トランスデューシンC1,ビシニンの網膜蛋白には陰性であった(非供覧).患者血清C1,000倍希釈で陽性であったので,4,000倍,32,000倍まで希釈しても陽性であり,強陽性を裏付けた(図7a).(錐体細胞の蛋白であるビシニンをコントロールとした.)血清を用いたマウス網膜に対する免疫染色(図7b)では網膜色素上皮細胞を含む網膜全体が陽性となった.とくに視細胞内節および錐体と推測される外節および内網状層上部が強陽性となった.CII考按CARの臨床的な特徴としては両眼性の急激な視力低下,視野障害(輪状暗点,中心性狭窄),光視症,羞明の自覚症状がある.検眼鏡的所見では,網膜動脈狭細化,網膜色素変性様眼底があるが,眼底の所見に乏しいことも多い.血清中の抗リカバリン抗体の証明はCCARの確定診断には有用である.抗網膜抗体にはほかにも抗エノラーゼ3),抗ChscC704),抗CTULP-15)抗体によるCCARの報告もある.しかし,この抗リカバリン抗体の証明は容易ではない.CARを疑い,血清を調べても抗リカバリン抗体陰性の報告例も多い.横井らは初回の検査で抗リカバリン抗体が検出されなくても,3回測定を行うとC100%陽性が確認できたと報告した6).これらのことから,抗リカバリン抗体陽性のCCARにおいてもその発現量はきわめて少ないと考えられる.一方,肺癌,胃癌,大腸癌を含めた悪性腫瘍におけるリカバリンの発現率を検討したところ,10.40%での発現が報告されている9).Bazhinらの報告では肺癌患者C143例(小細胞癌C99例,非小細胞癌C44例)のリカバリン発現を検討した.リカバリンの発現率は小細胞癌でC68%,非小細胞癌でC85%×40図6経気管支鏡による生検(ヘマトキシリン・エオジン染色)大型核を有する異型細胞が散在性に出現.免疫染色の結果より大細胞癌と診断された.CabrRrVrRrVrRrVrRrV×1,000×4,000×32,000Control*患者血清(50倍希釈)図7ウェスタンブロット・免疫染色a:リコンビナントのヒトリカバリンに対する患者血清によるウェスタンブロット.rR:リカバリン蛋白,rV:ビシニン.32,000倍希釈でもリカバリン特異的に陽性.Cb:患者血清を用いたマウス網膜に対する免疫染色.二次抗体はCAlexa488anti-humanIgG(MolecularProbes社).網膜全体に陽性.とくに内網状層,網膜視細胞内節・外節が強陽性であった(.).であった10).抗リカバリン抗体陽性率はそれぞれC15%,20本症例では通常検出されにくい抗リカバリン抗体が強陽性%であり,肺小細胞のみならず,非小細胞癌においても腫瘍であった.免疫染色でも網膜外層が染色され,抗リカバリン内のリカバリン発現および血清抗リカバリン抗体が確認され抗体が網膜組織を認識することを示唆している.実際,血清た.しかし,CARの発症はなかった.以上より,腫瘍内で中の抗リカバリン抗体を検出し,腫瘍内のリカバリン発現をのリカバリン発現,さらには血清中の抗リカバリン抗体の存証明したCCAR症例の報告がある11,12).本症例では残念なが在にもかかわらず,CARの発症はきわめて少ないという結ら気管支鏡検査による生検の検体量が少なく,肺腫瘍におけ論となる.るリカバリンの発現は確認できなかった(非供覧).これまでCCARの診断における抗リカバリン抗体の抗体価または定量化に関しての報告はほとんどない.血清の希釈度も報告により異なり,比較は困難と思われる.既報における“抗リカバリン抗体陽性”には,3回の採血後かろうじて陽性となるわずかな抗体量から,本症例のような高い抗体価まで広い範囲の“陽性”が含まれると考えられる.抗リカバリン抗体陽性CCAR患者における生命予後良好の報告例ではリカバリン特異的細胞障害性CT細胞の関与が示唆されている13).抗リカバリン抗体陽性のCCAR患者では細胞障害性CT細胞が腫瘍を攻撃しているという説である.しかし,臨床的には本症例だけではなく,抗リカバリン抗体陽性CCAR患者で,1年以内の死亡例も少なくない14.17).血清に検出される抗体はCB細胞が腫瘍細胞に対して産生されたものであり,細胞障害性CT細胞の活動性を示しているわけでない.本症例を含め,生命予後が不良であったCCAR症例での抗リカバリン抗体陽性例ではCT細胞性による腫瘍障害性を発揮することができなかった,もしくは抗原量=腫瘍細胞が多く,腫瘍障害まで至らなかったと推測した.抗リカバリン抗体が強陽性であってもCCAR患者の原疾患は悪性腫瘍であり,生命予後が不良であることが再認識された.また,本症例はステロイドの局所および全身治療にまったく反応せず,視力予後も不良であった.今後は症例の蓄積により抗リカバリン抗体の抗体価と生命予後および視力予後の関連性を検討する必要があると思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SawyerRA,SelhorstJB,ZimmermanLEetal:Blindnesscausedbyphotoreceptordegenerationasremotee.ectofcancer.AmJOphthalmolC81:606-613,C19762)ThirkillCE,FitzGeraldP,SergottRCetal:Cancer-asso-ciatedretinopathy(CARsyndrome)withantibodiesreact-ingCwithCretinal,Coptic-nerve,CandCcancerCcells.CNEnglJMedC321:1589-1594,C19893)AdamusCG,CAptsiauriCN,CGuyCJCetal:TheCoccurrenceCofCserumautoantibodiesagainstenolaseincancer-associatedretinopathy.CClinCImmunolCImmunopatholC78:120-129,19964)OhguroCH,COgawaCK,CNakagawaT:RecoverinCandCHscC70arefoundasautoantigensinpatientswithcancer-asso-ciatedCretinopathy.CInvestCOphthalmolCVisCSciC40:82-89,C19995)KikuchiCT,CAraiCJ,CShibukiCHCetal:Tubby-likeCproteinC1asanautoantigenincancer-associatedretinopathy.JNeu-roimmunolC103:26-33,C20006)横井由美子,大黒浩,大黒幾代ほか:癌関連網膜症の血清診断.あたらしい眼科C21:987-999,C20047)MaddisonP,Newsom-DavisJ,MillsKRetal:FavourableprognosisCinCLambert-EatonCmyasthenicCsyndromeCandCsmall-celllungcarcinoma.LancetC353:117-118,C19998)KobayashiM,IkezueT,UemuraYetal:Long-termsur-vivalCofCaCpatientCwithCsmallCcellClungCcancerCassociatedCwithCcancer-associatedCretinopathy.CLungCCancerC57:C399-403,C20079)MatsuoCS,COhguroCH,COhguroCICetal:ClinicopathologicalCrolesofaberrantlyexpressedrecoverininmalignanttumorcells.OphthalmicResC43:139-144,C201010)BazhinCAV,CSavchenkoCMS,CShifrinaCONCetal:RecoverinCasaparaneoplasticantigeninlungcancer:theoccurrenceofCanti-recoverinCautoantibodiesCinCseraCandCrecoverinCinCtumors.LungCancerC44:193-198,C200411)SaitoW,KaseS,OhguroHetal:Slowlyprogressivecan-cer-associatedCretinopathy.CArchCOphthalmolC125:1431-1433,C200712)SaitoCW,CKaseCS,COhguroH:AutoimmuneCretinopathyCassociatedCwithCcolonicCadenoma.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC251:1447-1449,C201313)MaedaCA,COhguroCH,CNabetaCYCetal:Identi.cationCofChumanCantitumorCcytotoxicCTClymphocytesCepitopesCofCrecoverin,CaCcancer-associatedCretinopathyCantigen,Cpossi-blyrelatedwithabetterprognosisinaparaneoplasticsyn-drome.CEurJImmunolC31:563-572,C200114)SalgiaR,HedgesTR,RizkMetal:Cancer-associatedreti-nopathyCinCaCpatientCwithCnon-small-cellClungCcarcinoma.CLungCancerC22:149-152,C199815)尾辻太,棈松徳子,中尾久美子ほか:急速に失明に至り,特異な対光反射を示した悪性腫瘍随伴網膜症.日眼会誌C115:924-929,C201116)高坂昌良,石原麻美,木村育子ほか:前立腺原発神経内分泌癌に随伴した癌関連網膜症のC1例.あたらしい眼科C31:C443-447,C201417)浅見奈々子,澁谷悦子,石原麻美ほか:癌関連網膜症のC2例.あたらしい眼科35:820-824,C2018***

ハードコンタクトレンズ装用者におけるScedosporium属による感染性角膜炎の1例

2019年3月31日 日曜日

《第55回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科36(3):389.393,2019cハードコンタクトレンズ装用者におけるScedosporium属による感染性角膜炎の1例山本雅*1,2重安千花*1久須見有美*1藤井かんな*1千葉知宏*3長濱清隆*3菅間博*3山田昌和*1*1杏林大学医学部眼科学教室*2亀田総合病院眼科*3杏林大学医学部病理学教室CACaseofKeratomycosisCausedbyScedosporiumspecieswithHardContactLensWearCMasashiYamamoto1,2)C,ChikaShigeyasu1),YumiKusumi1),KannaFujii1),TomohiroChiba3),KiyotakaNagahama3),HiroshiKamma3)andMasakazuYamada1)1)DepartmentofOphthalmology,KyorinUniversitySchoolofMedicine,2)CCenter,3)DepartmentofPathology,KyorinUniversitySchoolofMedicineCDepartmentofOphthalmology,KamedaMedicalScedosporium属による真菌性角膜炎に対し,ボリコナゾールをはじめとする複数の抗真菌薬の併用により,良好な治療経過を得ることができたので報告する.症例はC67歳,女性.右眼の角膜ヘルペスと診断されたが改善がみられず,3日後に杏林大学病院を紹介受診した.ハードコンタクトレンズ装用以外に外傷歴などはなかった.初診時,右眼の視力は指数弁で,角膜中央に不整な円形潰瘍を認め,毛様充血,角膜浮腫,endothelialplaqueと前房蓄膿がみられた.比較的急速で高度な炎症所見がみられ,角膜擦過物の培養からCScedosporium属を認めたため,ボリコナゾール点眼,ピマリシン眼軟膏を処方し,ボリコナゾール内服および結膜下注射,ミカファンギン点眼も併用した.約C2カ月で毛様充血および角膜浮腫はほぼ消失し,角膜浸潤は中央部に集簇した.表層に限局した病巣は混濁がシート状の塊として.離され,病理組織学的にもCScedosporiumが確認された.12カ月目の現在,感染の再燃はみられず,矯正視力は(0.5)である.CWereportacaseofkeratomycosiscausedbyScedosporiumthatwassuccessfullytreatedbyseveralantifungaldrugs,includingvoriconazole.Thepatient,a67-year-oldfemalediagnosedwithherpetickeratitisinherrighteye,wasCreferredCtoCourChospital.CSheCworeChardCcontactClensesCandChadCnoChistoryCofCtrauma.COnCinitialCexamination,CvisualCacuityCwasCcountingC.ngers.CSlit-lampCexaminationCrevealedCaCcornealCulcerCwithCfeatheryCmargin,CciliaryCinjection,CcornealCedemaCwithCendothelialCplaque,CandChypopyon.CMicroscopicCcultureCofCcornealCscrapingCrevealedCScedosporiumCspecies.CTheCpatientCwasCtreatedCwithCtopicalCvoriconazoleCandCnatamycinCointment,CwithCtheCassis-tanceCofCoralCandCsubconjunctivalCinjectionCofCvoriconazoleCandCtopicalCmicafungin.CAtC2CmonthsClater,CtheCciliaryCinjectionandcornealedemahadregressed.Sincethefocuswaslocalizedinthesuper.cialepithelia,cornealscrap-ingCwasCperformed.CPathologicalCdetectionCrevealedCthatCtheCdetachedCtissueCcontainedCScedosporiumCspecies.CNoCrecurrencehasbeenseenin12months,andvisualacuityhasimprovedto20/40.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(3):389.393,C2019〕Keywords:角膜真菌症,Scedosporium,ハードコンタクトレンズ,ボリコナゾール,角膜掻爬.keratomycosis,CScedosporium,hardcontactlens,voriconazole,corneascrape.Cはじめにいる1,2).Scedosporium属は真菌性角膜炎の起因菌としては真菌性角膜炎は抗真菌薬に治療抵抗を示すことが多く,難まれであるが,眼科領域では角膜炎3)のほかに,ステロイド治性眼感染症の一つであり,その起因菌としてわが国では点眼に誘発された可能性のある難治性の慢性結膜炎4),翼状Candida属,Fusarium属,Aspergillus属などが報告されて片術後のステロイド点眼治療中の強膜炎5),急性骨髄性白血〔別刷請求先〕山本雅:〒181-8611東京都三鷹市新川C6-20-2杏林大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MasashiYamamoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyorinUniversitySchoolofMedicine,6-20-2Shinkawa,Mitaka,Tokyo181-8611,JAPANC病治療中の眼内炎6)などの報告があり,免疫の関与が考察されている.また,全身的には肺炎,髄膜炎,関節炎,副鼻腔炎の報告7)がある.Scedosporium属は土壌中や汚染水・腐敗した野菜など環境中から単離することのできる糸状真菌の一種であり,Scedosporium角膜炎は他の真菌性角膜炎と同様に異物や植物などによる外傷が契機となって発症することが多い8,9).Scedosporium属感染症はCS.apiospermum,S.proli.cansのC2種によるものが医学的に重要であり10),治療に難渋することが知られている.今回,コンタクトレンズ(CL)装用者に生じたCScedosporium属による真菌性角膜炎を経験し,良好な治療経過を得ることができたので報告する.CI症例患者:67歳,女性.主訴:右眼の眼痛,視力低下.既往歴:高血圧,糖尿病およびその他免疫能低下をきたす疾患はなし.全身的および局所的に長期の抗菌薬およびステロイドの使用なし.家族歴:特記すべきことなし.生活歴:自宅で家庭菜園を行うも,外傷歴なし.現病歴:2017年C5月,常用していたハードコンタクトレンズ(HCL)を装用したところ右眼痛を自覚したため近医を受診した.角膜中央に小型の樹枝状潰瘍を認めたことから,角膜ヘルペスの診断でC0.5%モキシフロキサシン点眼,3%アシクロビル眼軟膏を処方されたが,第C3病日,眼痛は増悪し視力低下も自覚したため前医を再診した.角膜中央の病巣の拡大がみられたため,同日杏林大学医学部付属病院眼科を紹介受診した.初診時所見:矯正視力は右眼指数弁,左眼C0.04(0.8C×.8.00D(cyl1.00DAx110°).眼圧は右眼20mmHg,左眼14CmmHgであった.細隙灯顕微鏡検査で右眼の角膜中央に円形・辺縁不整の角膜潰瘍を認め,その周囲を取り囲むように免疫輪が生じていた(図1).周囲の角膜は浮腫状で,毛様充血,endothelialplaque,前房蓄膿がみられた.また,前眼部光干渉断層計(anteriorCsegmentCopticalCcoherencetomography:AS-OCT)では角膜内皮面に高輝度の沈着物が認められた(図2).HCLをC45年前から装用していたが,使用法などには問題はなかった.また,発症時に使用していたCHCLはC8カ月前に作製したものであり,HCL表面に明らかな傷や付着物は認められなかった.当日の角膜病巣擦過物の検鏡(グラム染色)では菌体は検出できなかった.経過:急速な進行がみられたため緑膿菌などの細菌感染の可能性を考慮し,0.5%アルベカシン点眼,0.5%セフメノキシム点眼を開始した.しかしながら病巣の悪化を認め,第C7病日,擦過物より糸状菌が分離培養されたため真菌性角膜炎と診断した.1%ボリコナゾール点眼およびC1%ピマリシン眼軟膏を開始し,0.5%アルベカシン点眼は継続し,0.5%セフメノキシム点眼は中止した.再度角膜擦過を行ったところ,糸状真菌を認め,初診日と第C7病日に行った角膜擦過物の微生物学的検査の結果はいずれもCScedosporium属であった.第C11病日,AS-OCT上は角膜浸潤と浮腫の改善を認めたが,Scedosporium角膜炎が難治性であることを考慮し,ボリコナゾールC400mg/日内服を開始した.さらに第C14病日,第C18病日にそれぞれC1%ボリコナゾールを結膜下注射し,その後病巣の縮小傾向がみられた.しかし,第C36病日に結膜充血および前房蓄膿の再増悪を認めたため,0.1%ミカファンギン点眼を追加したところ,2週間後(第C50病日)には結膜充血,前房蓄膿はほぼ消退した(図3).図1初診時前眼部所見角膜中央に辺縁不整な円形潰瘍を認め,その周囲に免疫輪が生じていた.周囲の角膜は浮腫状で毛様充血,endothelialplaque,前房蓄膿がみられた.図2初診時AS-OCT画像角膜内皮面に高輝度の沈着物を認めた.0.5%モキシフロキサシン点眼3%アシクロビル眼軟膏0.5%セフメノキシム点眼0.5%アルベカシン点眼1%ボリコナゾール点眼1%ピマリシン眼軟膏ボリコナゾール内服0.1%ミカファンギン点眼0371114183657(病日)当院初診角膜掻爬1%ボリコナゾール糸状真菌を検出結膜下注射図3治療経過当院初診時からセフメノキシム点眼,アルベカシン点眼で加療を開始するも病巣の悪化があり,糸状真菌を検出したためボリコナゾール点眼,ピマリシン眼軟膏へ変更し,ボリコナゾール内服および結膜下注射も追加した.図4角膜掻爬前(a)と後(b)の前眼部所見鑷子で病変を把持したところ白色シート状の混濁が容易に除去できた.抗真菌薬投与C7週後(第C57病日),病巣は角膜中央の表層に限局し,薬剤沈着物が主体の角膜プラーク状の病巣と思われたため角膜掻爬を試みたところ,シート状の白色塊が容易に.離できた(図4).掻爬した検体につき病理組織学的検査を施行したところ,壊死した角膜組織に多数の真菌塊が集簇,残存しているのが確認された.菌体はレモン型の分生子を有しており,その分枝は直角に近く,Scedosporium属として矛盾しない所見であった(図5).角膜の瘢痕化による扁平化は生じたものの,新たな感染兆候はみられず,抗真菌薬の点眼および内服はC3カ月目で漸減後,中止した.発症から12カ月後の現在,感染の再燃はみられず,右眼視力はC0.09(0.5×+5.00D(cyl.3.00DAx135°),右眼眼圧は10mmHgである.CII考按Scedosporium属は角膜炎の起因菌としてはまれである.米国南フロリダでの真菌性角膜炎のC10年間にわたる報告ではCScedosporium属に起因した症例はC125例中C1例(0.8%)図5角膜病理所見a:Hematoxylin-eosin(HE)染色C×40(対物レンズC4C×).壊死した角膜プラーク表層に菌体を多数認める.Cb:PeriodicCacidSchi.(PAS)染色C×200(対物レンズC20C×).菌体は紫色に染色される.Cc:Grocott染色C×400(対物レンズC40C×).黒色に染色される菌体はレモン型の分生子を持ち(.),分枝が直角に近い(.).組織学的にCScedosporiumとして矛盾しない.のみであった3).また,CChanderら11)は北インドにおける角べ,比較的良好な感受性を示すことが報告されている2,22).膜潰瘍C730例のうちC61例(C8.4%)から真菌が検出され,そ本症例では経過中に角膜炎の増悪を一度認め,ミカファンギのうちC1例(1C.6%)がCScedosporium属によるものであったン点眼を追加して改善を得たが,SCcedosporium属へのミカことを報告している.CScedosporium属は免疫能低下症例でファンギンの感受性が低いことや22),掻爬した角膜にCScedo-多く発症することが知られており,これまでの報告では,sporiumの菌体が残存していたことを考慮するとミカファンScedosporium属による角膜炎発症例の基礎疾患としては糖ギンの効果というより,ボリコナゾールの点眼アドヒアラン尿病8)や白血病12),消化器の悪性腫瘍13)などが報告されておスが低下したことで角膜炎が増悪し,その後アドヒアランスり,その他,ステロイドの投与14)があげられる.発症の契が改善したことで結膜充血や前房蓄膿の改善が得られたので機としては,異物や植物などの有機物による角膜外傷がもっはないかと考えている.とも多く8),その他,小切開白内障手術9),ClaserCinCsituCker-Scedosporium属による真菌性角膜炎は難治性であるため,atomileusis後8,15),CCLの使用10),翼状片手術時に併用したCb抗真菌薬点眼,内服に外科的治療のC3者を併用することが好線照射による強膜壊死16),ステロイドCTenon.下注射17),ましいとされている23).外科的治療の方法としては,病巣が他臓器の感染巣からの播種18)などが報告されている.わが角膜に限局している間は病巣掻爬,表層角膜切除,治療的角国では大串ら19)や高橋ら20)によって報告されているが,い膜移植8,21,24)が報告されており,CRyngaら21)の報告ではC23ずれも外傷が契機となったものであった.本症例は基礎疾患例中C5例が抗真菌薬に併用してこれらの外科的治療を行い良や外傷の既往はなかったが,HCCL装用者であった.今回CCL好な結果を得ている.さらに病巣が眼内に及べば,水晶体摘およびその保存液,保存ケースの培養検査を行っていないた出24),硝子体手術25)などで対処するが,その場合の視力予後め感染経路に関しては明らかではないが,CCLを介した感染は不良である.本症例では第C3病日に提出した培養結果に基である可能性が高いと考えている.づき,比較的早期の第C7病日には抗真菌薬による治療を開始従来,CScedosporium属による真菌性角膜炎は治療に抵抗することができた.真菌に対する薬剤感受性試験は当施設でし,予後が不良であるとされてきた.CWuら8)はC2002年には施行できなかったものの,過去の文献に基づきボリコナゾS.apiospermum感染のC28症例の報告について検討を行ってールをはじめとした複数の抗真菌薬を選択することにより,いる.その結果,C27例のうち眼球摘出に至ったものがC6例臨床所見の改善が得られた.さらに角膜掻爬を併用したこと(C21%),眼球内容除去術が行われたものC3例(C11%),眼球により,治癒を得ることができた.早期診断に基づく薬剤選癆C1例(C4%)と眼球を温存できなかった症例がC1/3以上,択が本症例において予後良好の経過を得ることができたと考失明C3例(C11%)も含めるとおよそ半数が失明に至ったと報え,改めて早期診断の重要性を確認した.告している.一方,CRyngaら21)はC2017年にCS.Capiosper-HCL装用者に生じたCScedosporium属によるまれな真菌性mumに起因した角膜炎C22例の報告について検討を行って角膜炎のC1例を経験した.微生物学的検査の結果に基づく早いる.その結果C18例のうちC15例で視力温存あるいは回復期の診断と,ボリコナゾールをはじめとする複数の抗真菌薬が得られたとしている.また,CRamakrishnanら9)はC2018の併用,病巣掻爬が奏効し,比較的良好な治療結果を得るこ年にCS.apiospermumに起因した角膜炎および強角膜炎の自とができた.験例C12例について報告しているが,眼球内容除去術が行われたものC2例,治療的全層角膜移植術が行われたものC1例を利益相反:利益相反公表基準に該当なし除く,C9例で薬物治療によって治癒が得られたとしている.Wuらの報告とCRyngaらやCRamakrishnanらの報告で大きく異なっている点は,ボリコナゾールやフルコナゾールなど文献のトリアゾール系抗真菌薬の承認時期と使用の有無であると1)井上幸次,大橋裕一,鈴木崇ほか:真菌性角膜炎に関す考えている.とくにCWuらの報告ではボリコナゾールがC1る多施設共同前向き観察研究患者背景・臨床所見・治療・例も使用されていないのに対し,CRyngaらの報告ではC9例予後の現況.日眼会誌C120:C5-16,C2016でボリコナゾールが使用されていた.また,RCamakrishnan2)砂田淳子,浅利誠志,井上幸次ほか:臨床研究真菌性角膜らの報告では全例でボリコナゾールまたはフルコナゾールあ炎に関する多施設共同前向き観察研究:真菌の同定と薬剤感受性検査について.日眼会誌C120:C17-27,C2016るいはその両方が使用されていた.ボリコナゾールはC20023)CRosaCRHCJr,CMillerCD,CAlfonsoCECCetal:CTheCchangingC年に米国食品医薬品局(CFDA)で承認されたトリアゾール系spectrumoffungalkeratitisinsouthFlorida.Ophthalmol-抗真菌薬であり,わが国でもC2005年に内服および静注用がogyC101:C1005-1013,C1994承認されている.ボリコナゾール点眼液は自家調整が必要と4)沖田絢子,吉川洋,吉村武ほか:CScedosporiumCapio-spermumによる真菌性結膜炎のC1例.臨眼C69:C1551-1555,なるが,CScedosporium属についてはその他の糸状真菌に比20155)宮永久美子,細谷友雅,三村治:翼状片術後にCScedospo-riumによる真菌性強膜炎を生じたC1例.眼科C58:893-898,C20166)伊野田悟,佐藤幸裕,新井悠介ほか:ScedosporiumCpro-li.cansによる両眼の内因性網膜下膿瘍のC1例.日眼会誌C119:632-639,C20157)RajR,FrostAE:Scedosporiumapiospermumfungemiainalungtransplantrecipient.Chest121:1714-1716,C20028)WuZ,YingH,YieSetal:FungalkeratitiscausedbySce-dosporiumCapiospermum:reportCofCtwoCcasesCandCreviewCoftreatment.Cornea21:519-523,C20029)RamakrishnanS,MandlikK,SatheTSetal:Ocularinfec-tionscausedbyScedosporiumapiospermum:Acaseseries.IndianJOphthalmol66:137-140,C201810)CortezCKJ,CRoilidesCE,CQuiroz-TellesCFCetal:InfectionsCcausedbyScedosporiumspp.ClinMicrobiolRevC21:157-197,C200811)ChanderJ,SharmaA:PrevalenceoffungalcornealulcersinnorthernIndia.Infection22:207-209,C199412)ReinosoR,CarrenoE,HileetoDetal:FataldisseminatedScedosporiumCproli.cansCinfectionCinitiatedCbyCophthalmicCinvolvementCinCaCpatientCwithCacuteCmyeloblasticCleuke-mia.DiagnMicrobiolInfectDis76:375-378,C201313)YoonCS,CKimCS,CLeeCKACetal:ACcaseCofCScedosporiumCapiospermumCkeratitisCcon.rmedCbyCaCmolecularCgeneticCmethod.KoreanJLabMed28:307-311,C200814)ThomasPA:FungalCinfectionsCofCtheCcornea.CEyeC17:C852-862,C200315)SridharCMS,CGargCP,CBansalCAKCetal:FungalCkeratitisCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.CJCCataractCRefractCSurgC26:613-615,C200016)MoriartyCAP,CCrawfordCGJ,CMcAllisterCILCetal:Fungalcorneoscleritiscomplicatingbeta-irradiation-inducedscleralnecrosisCfollowingCpterygiumCexcision.CEyeC7:525-528,C199317)IkewakiCJ,CImaizumiCM,CNakamuroCTCetal:PeribulbarCfungalCabscessCandCendophthalmitisCfollowingCposteriorCsubtenonCinjectionCofCtriamcinoloneCacetonide.CActaCOph-thalmologicaC87:102-104,C200918)Vage.MR,KimET,AlvaradoRGetal:Bilateralendoge-nousCScedosporiumCproli.cansCendophthalmitisCafterClungCtransplantation.AmJOphthalmolC139:370-373,C200519)大串淳子,秦堅,西内貴子ほか:ピマリシンとミコナゾールの併用が有効であったCScedosporium属による角膜真菌症のC1例.眼科C31:1547-1551,C198920)高橋知子,望月清文,波多野正和ほか:Scedosporiumapio-spermumによる角膜真菌症.あたらしい眼科C19:649-652,C200221)RyngaCD,CCapoorCMR,CVarshneyCSCetal:ScedosporiumCapiospermum,anemergingpathogeninIndia:CaseseriesandCreviewCofCliterature.CIndianCJCPatholCMicrobiolC60:C550-555,C201722)佐々木香る,砂田淳子,浅利誠志ほか:ボリコナゾール眼局所投与の使用経験.あたらしい眼科27:531-534,C201023)石橋康久,徳田和央,宮永嘉隆:角膜真菌症のC2病型.臨眼C51:1447-1452,C199724)KepezCYildizCB,CHasanreisogluCM,CAktasCZCetal:FungalCkeratitisCsecondaryCtoCScedosporiumCapiospermumCinfec-tionCandCsuccessfulCtreatmentCwithCsurgicalCandCmedicalCintervention.IntOphthalmolC34:305-308,C201425)RoyCR,CPanigrahiCPK,CPalCSSCetal:Post-traumaticCendo-phthalmitisCsecondaryCtoCkeratomycosisCcausedCbyCScedo-sporiumCapiospermum.OculCImmunolCIn.ammC24:107-109,C2016C***

基礎研究コラム 22.先天性網膜変性と視覚の可塑性

2019年3月31日 日曜日

先天性網膜変性と視覚の可塑性Leber先天盲遺伝子治療と視力の回復2008年以降,欧米を中心に,先天的に重度の視覚障害をもつCLeber先天盲の患者を対象とした遺伝子治療臨床試験の結果が複数報告されています1).これらの臨床試験では,4歳以上の幼児から若年成人を対象に,アデノ随伴ウィルスを用いて,病的な遺伝子に対して正常遺伝子コピーを網膜細胞に遺伝子導入する治療が行われました.治療により,網膜感度が上昇し,暗所歩行が改善することが報告されました.一方で,視力に関しては,はっきりとした改善効果が得られませんでした.これに対して,同じく先天性の視覚障害をきたす先天性白内障に対する手術は,生後,再建可能な視力が次第に低下することが知られています2).このことは,良好な視力再建が可能な「感受性期」が幼少期に存在し,それを超えると視覚の可塑性が失われることを示唆しています.しかし,希少疾患であるCLeber先天盲の臨床試験は少人数で行われたため,治療の時期と視力回復の関連性(つまり,視覚の可塑性)を明らかにすることは容易ではありません.先天性網膜変性マウスにおける遺伝子治療時期と視力の回復の関係そこで筆者らは,「先天的に低視力の網膜変性マウスでは,網膜機能再建時期の遅れにより,回復可能な視力が低下する」と仮説を設定し,検証実験を行いました(図1)3).先天的に杆体視機能と錐体視機能の両方を欠損した全盲マウスに対して遺伝子治療を行い,杆体視細胞の視覚再建時期と回復した視力の関係を検討しました.その結果,想定どおり,治療時期(生後C1カ月,3カ月,9カ月)によって,回復可能な網膜機能は変わりませんでした.しかし驚くべきことに,治療が遅れても,大脳視覚野レベルでも回復可能な視力は変わらないことがパターン視覚誘発電位(visualevokedpoten-図1先天性網膜変性マウスにおける遺伝子治療時期と視力の回復の関係の研究の概要杆体機能欠損マウス(Gnat1欠損マウス)と錐体機能欠損マウス(Pde6c欠損マウス)を交配し,杆体錐体機能欠損マウス(Gnat1/Pde6c両欠損マウス)を作製した.さまざまな月齢のCGnat1/Pde6c両欠損マウスに対して,Gnat1遺伝子治療で杆体機能を再建後,網膜電図(ERG),VEP,Coptokineticresponse(OKR),Arc発現解析,網膜組織学的解析を行うことにより,治療時期と再建可能な視覚の関係を検討した.(文献C3より引用)CERG/VEP西口康二東北大学大学院医学系研究科視覚先端医療学寄付講座tials:VEP)の測定により明らかになりました.しかも,成体マウスでもコントロールマウスと同等なレベルの視力回復が可能でした.さらに,大脳視覚野の可塑性に強く関連する因子CArcの転写プロフィールを調べたところ,転写が低下する正常成体マウスとは異なり,成体全盲マウスでは転写がむしろ更新していました.これらは,成体の先天性網膜変性マウスの杆体系視覚においては,視覚の可塑性は維持され,治療時期にかかわらず良好な視力回復が可能であることを示すものです.臨床へのフィードバックと今後の展開この研究の結果,少なくとも視路が比較的シンプルな杆体系視覚においては,成人でも視力回復の可能性があることが示唆されました.しかし,ヒトで視力の回復を規定するのは,実際はより複雑な神経回路を有する錐体系視路です.よって,杆体系視力回復により大きな恩恵を受ける患者は多くないと予測されます.また,本研究の杆体系視覚の解析結果により,Leber先天盲に対する臨床試験での不十分な視力回復の理由を説明することはできません.今後,錐体系視覚の再建時期と回復視力の関係をマウスで検討することが重要です.文献1)JacobsonCSG,CCideciyanCAV,CAguirreCGDCetal:Improve-mentCinvision:aCnewCgoalCforCtreatmentCofChereditaryCretinaldegenerations.ExpertOpinOrphanDrugsC3:563-575,C20152)BirchCEE,CChengCC,CStagerCDRCetal:TheCcriticalCperiodCforCsurgicalCtreatmentCofCdenseCcongenitalCbilateralCcata-racts.JAAPOSC13:67-71,C20093)NishiguchiCKM,CFujitaCK,CTokashikiCNCetal:RetainedCplasticityandsubstantialrecoveryofrod-mediatedvisualacuityatthevisualcortexinblindadultmicewithretinaldystrophy.MolTherC26:2397-2406,C2018対象:Gnat1・Pde6c両欠陥マウス(生後1カ月,3カ月,9カ月)Gnat1補充AAVベクター投与視機能解析組織学的解析OKRArc発現解析網膜組織染色(79)あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C3810910-1810/19/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス 190.液体パーフルオロカーボンとシリコーンオイルの相互作用(中級編)

2019年3月31日 日曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載190190液体パーフルオロカーボンとシリコーンオイルの相互作用(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに液体パーフルオロカーボン(liquidCper.uorocarbon:LPFC)は高比重,高界面張力,低粘稠度,疎水性の液体で,巨大裂孔網膜.離をはじめ硝子体手術の有用な補助材料として頻用されている.LPFC使用時の問題点としては,LPFCが糊のように周囲の網膜同士を接着させる,いわゆる“糊様作用”が報告されている1).これについては本シリーズでも記載したことがある2)が,シリコーンオイル(siliconeoil:SO)との相互作用でCSO抜去時に支障をきたすこともある.以前に筆者らは,このような術中トラブルを報告したことがある3).C●症例患者はC39歳,男性.下方弁状裂孔による胞状の網膜.離(図1)に対して硝子体手術を施行した.硝子体切除後にCLPFCで網膜を伸展し,眼内光凝固を施行した.さらに術後伏臥位保持が困難であることが予想されたため,LPFCとCSOを置換した.この際に,LPFCとCSOの間の人工房水が裂孔を介して網膜下に迷入し,裂孔周囲に限局性の網膜.離が生じた.SOを抜去して再度LPFCで網膜を伸展しようとしたところ,LPFCを介して網膜とCSOが癒着し,SOの抜去が困難となった(図2).硝子体カッターの吸引によりCSOのバブルは変形するものの,網膜との癒着は解離できなかった(図3).そこで,網膜とCSOの間に認められたCLPFCを抜去したところ,SOは容易に網膜から分離した.その後,再度LPFCで網膜を伸展し,LPFCとCSOを置換して網膜の復位を得た.C●LPFCとSOの相互作用筆者らの報告例から,LPFCは網膜だけでなくCSOとも癒着しやすい性質があるようである.LPFCとCSOを置換する際には,その間隙に灌流液が存在するので,相互の癒着が生じることはまれであると考えられるが,今回のようにCLPFCとCSOを再置換する際,間隙の灌流液(77)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1術前の眼底写真下方に胞状の網膜.離を認める.(文献C3から引用)図2術中所見(1)SOを抜去して再度LPFCで網膜を伸展しようとしたところ,LPFCを介して網膜と残りのCSOが癒着し,SOの抜去が困難となった.(文献C3から引用)図3術中所見(2)硝子体カッターの吸引によりCSOのバブルは変形するものの,網膜との癒着は解離できなかった.(文献C3から引用)を早く吸引しすぎると,LPFCとCSOの癒着が生じやすくなる可能性がある.このようなケースでCSOが抜去しにくいときには,まず網膜とCSOの間のCLPFCを抜去すべきと考えられる.文献1)CaponeAJr,AabergTM:Siliconeoilinvitreoretinalsur-gery.CurrOpinOphthalmolC6:33-37,C19952)池田恒彦:硝子体手術のワンポイントアドバイス液体パーフルオロカーボンの糊様作用(初級編).あたらしい眼科C33:1317,C20163)FukumotoM,NishidaY,KidaTetal:AcaseofsiliconeoilCadheredCtoCtheCretinalCsurfaceCviaCper.uorocarbonCliq-uid.BMCOphthalmolC18:82,C2018あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C379

眼瞼・結膜:春季カタルの病態

2019年3月31日 日曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人海老原伸行48.春季カタルの病態順天堂大学医学部附属浦安病院眼科0.1%タクロリムス点眼液の登場により,単剤でも重症春季カタルの治療が可能になった.しかし,同点眼液と高力価ステロイド点眼液を併用しても治療に抵抗する症例も存在する.難治症例患者の巨大乳頭組織の遺伝子発現解析や動物実験により,難治症例では十分なCT細胞の活性化抑制ができていないことや,自然型アレルギー反応の関与が明らかになった.●はじめに春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)患者の巨大乳頭組織(giantpapillae:GP)中に浸潤している免疫系細胞の動態からみえてくる春季カタルの病態を解説する(図1).C●好酸球(eosinophils)GPには著明な好酸球浸潤を認める.電子顕微鏡で観察すると,結膜上皮細胞間に迷入した好酸球,脱顆粒した好酸球(ghosteosinophils)(図2),好酸球細胞内顆粒のみの遊走などがみられる.好酸球細胞内顆粒に含まれるCmajorCbasicprotein(MBP)やCeosinophilCcationicprotein(ECP)などの強塩基性細胞障害性蛋白が角結膜上皮障害を起こす.C●肥満細胞(mastcells)GPには,粘膜型肥満細胞と結合織型肥満細胞の両方が著明に増加している.多くの肥満細胞は脱顆粒過程または脱顆粒後にある.脱顆粒の様式には,IgEを介する急性型脱顆粒とサブスタンスCPやCstemcellfactorを介する緩徐型脱顆粒がある.GPではこの二つの脱顆粒形式が共存している1).脱顆粒により放出されるヒスタミン,トリプターゼ,キマーゼ,TNF-aと,脱顆粒後産生される各種サイトカイン,ロイコトリエン,プロスタグランジンが春季カタルの病態形成に関与する.C●樹状細胞(dendriticcells:DC)GPにはCDCが多数浸潤している.そのCDCの多くに高親和性CIgE受容体(FcCeRI)の発現を認める2)(図3).CFceRI受容体陽性CDCは,IgEを介し抗原を効率的にCT細胞に提示し,T細胞の活性化を誘導する.C●好塩基球・好中球GP組織内には少数の好塩基球を認めるが,その働きは不明である.一方,好中球は重症症例や慢性化症例で認め,感染の関与が考えられる.C●T細胞GPには多くのCT細胞の浸潤を認める.T細胞の増殖・分化・サイトカイン産生を抑制するカルシニューリン阻害薬であるシクロスポリンやタクロリムスの点眼液が春季カタルに著効するので,春季カタル病態形成にもっとも中心的な役割を演じている細胞と思われる.0.1%タクロリムス点眼液と高力価ステロイド点眼液に抵抗する難治症例のCGPにおける遺伝子発現を次世代シークエンサーにて解析すると,T細胞の活性化抑制が不十分であ図1春季カタル,上眼瞼結膜の巨大乳頭図2巨大乳頭組織内のghost好酸球(脱顆粒している)(75)あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C3770910-1810/19/\100/頁/JCOPY図4巨大乳頭組織におけるテネイシンCの発現(赤い染色)×400図3巨大乳頭組織内のFceRI陽性樹状細胞ることがわかる3).以上からも,T細胞がCVKCの病態形成・治療標的としてもっとも重要であることがわかる.C●Innatelymphoidcells2(ILC2)ILC2は自然リンパ球の一つで,上皮細胞の産生するIL-33,TSLP,IL-25などに反応し,大量のCIL-13,IL-5を産生し,T細胞を介さない自然型アレルギー反応を始動させる.GPには多くのCILC2が存在している.また,GPの上皮層にはCIL-33,TSLPの発現が強く認められる.自然型アレルギー反応は獲得型アレルギー反応と異なり,免疫抑制薬やステロイドに抵抗性であり,難治性春季カタルの病態として重要である.C●異所性誘導性結膜リンパ装置VKC患者の涙液中には多量のCIgEが含まれている3).一方,血液中のCIgEは正常値であることが多い.この涙液中と血液中のCIgE値の乖離は,GPに異所性に誘導された結膜リンパ装置(inducibleCectopicCconjunctiva-associatedlymphoidtissue:IECALT)でCIgEが産生され,涙液中に放出されているためである.実際にCGPにはCIgEを産生しているCB細胞や形質細胞が多数浸潤している4).その産生メカニズムは不明だが,濾胞性ヘルパーCT細胞,病原性記憶CTh2細胞などの関与が想定されている.C●細胞外基質VKCの病態形成にもっとも重要な細胞外基質は,ペリオスチン(periostin)とテネイシン(tenascin)(図4)である.ペリオスチンとテネイシンは強く結合し,強固な線維性組織を形成する.ペリオスチンはCVKCやアトピー性角結膜炎患者の涙液中に高濃度で認められ,涙液中バイオマーカーにもなる5).また,マウスアレルギー性結膜炎モデルにてペリオスチンをノックアウトすると,局所の好酸球浸潤が抑制される.ペリオスチンはアレルC378あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019ギー性炎症の結果だけではなく増悪に働いている6).C●おわりに病態から考えると,免疫抑制薬点眼液に抵抗する難治症例には,より強いCT細胞の活性化抑制やサイトカインやCIgEを標的とした抗体療法が考えられる.IL-4受容体Ca鎖に対するヒト型抗体でCIL-4とCIL-13の働きを抑制するデュピルマブや,IgEに対するヒト型抗体であるオマリズマブなどが効果的であったことが報告されている.(保険適用はない).将来,点眼投与可能な小型化抗体の開発が期待される.一方,デュピルマブには上強膜炎様の充血を惹起する報告もあり注意が必要である.また,自然型アレルギー反応や異所性に誘導された結膜リンパ装置を標的にした薬剤の開発も期待される.文献1)EbiharaCN,COkumuraCK,CNakayasuCKCetal:HighClevelCofCFceRI-bindableIgEinthetear.uidandincreaseIgE-sat-uratedcellsinthegiantpapillaeofvernalkeratoconjuncti-vitispatients.JpnJOphthalmol46:357-363,C20022)海老原伸行,渡部保男,村上晶:春季カタル巨大乳頭組織における肥満細胞特異顆粒の超微構造.日眼会雑C112:C581-589,C20083)MatsudaCA,CAsadaCY,CSuitaCNCetal:TranscriptomeCpro.lingofrefractoryatopickeratoconjunctivitisbyRNAsequencing.CJCAllergyCClinCImmunol2018CNovC22.pii:S0091-6749(18)31639-74)MatsudaA,EbiharaN,YokoiNetal:Lymphoidneogen-esisCinCtheCgiantCpapillaeCofCpatientsCwithCchronicCallergicCconjunctivitis.JAllergyClinImmunC126:1310,C20105)FujishimaCH,COkadaCN,CMatsumotoCKCetal:TheCuseful-nessCofCmeasuringCtearCperiostinCforCtheCdiagnosisCandCmanagementCofCocularCallergicCdiseases.CJCAllergyCClinCImmunolC138:459-467,C20166)AsadaCY,COkanoCM,CIshidaCWCetal:PeriostinCdeletionCsuppressesClate-phaseCresponseCinCmouseCexperimentalCallergicconjunctivitis.AllergolIntC2018CNov9.Cpii:S1323-8930(18)30144-8(76)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性:難症例への私のこだわり

2019年3月31日 日曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二62.加齢黄斑変性:難症例への私のこだわり松宮亘神戸大学大学院医学研究科外科学講座眼科学分野現在の加齢黄斑変性診療において,抗CVEGF薬は必要不可欠となっている.しかし,今なお対応に苦慮する難症例や治療抵抗例は多く存在する.本稿では網膜色素上皮.離に着目したポリープ状脈絡膜血管症の治療選択について述べる.背景ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvascu-lopathy:PCV)を含めた滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)の治療は,抗VEGF薬硝子体内注射がおもに選択されている.また近年,PCVに対する抗CVEGF薬硝子体内注射と光線力学療法(photodynamicCtherapy:PDT)の併用療法の有効性も注目されている.一方で,漿液性網膜色素上皮.離(pigmentCepithelialdetachment:PED)の存在や線維血管性CPEDなどは,抗CVEGF薬に対する治療反応不良因子として報告されている1).本稿ではCPEDの変化に着目したCPCVへの治療選択を取りあげ,治療抵抗例や難症例への対応について述べる.PCVに伴うPEDPEDはCBruch膜から網膜色素上皮(retinalCpigmentepithelium:RPE)が.離して形成され,その空隙に含む性状により漿液性,出血性,線維血管性,drusenoidに分類される.PCVでは約半数に漿液性CPEDもしくは出血性CPED認め,実臨床でも経験することが多い.またとくに丈の高い漿液性CPEDや出血性CPEDは,その背景に疾患活動性の高いCPCV病変を有している可能性が示唆される.抗VEGF治療現在,抗CVEGF薬硝子体内注射は加齢黄斑変性治療における第一選択とされている.一方で,抗CVEGF薬を用いてもCPEDの完全消退を達成することは困難なこ上段:(左から)治療前のCOCT,FA(3分),IA(3分).中段:(左から)12カ月後(IVA7回)のOCT,FA(1分),IA(1分).下段:18カ月後(IVA+PDT追加後C6カ月)のOCT.図1アフリベルセプト治療抵抗性PCVに対するIVA+PDT併用療法の奏効例治療前には明らかなポリープ状病変は認めず,典型加齢黄斑変性としてCIVAにて治療を行った.治療C6カ月頃からCPEDは増大し,IVAへの抵抗性を認めた.巨大なCPEDを伴うCPCVを認め,12カ月時にCIVA+PDT併用療法を行い,下液の消失とCPEDの縮小を認めた.(73)あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C3750910-1810/19/\100/頁/JCOPY上段:(左から)治療前のOCT,FA(3分),IA(3分).中段:(左から)15カ月後(IVA+PDT1回)のCOCT,FA(1分),IA(1分).下段:(左から)48カ月後(IVA+PDT3回,IVA11回)のOCT,FA(1分),IA(1分).図2巨大なPEDを伴ったPCVの難治例巨大なCPEDを伴ったCPCVに対し,初回治療としてCIVA+PDT併用療法を施行した.1年以上追加治療なく経過観察を行っていたが,15カ月時に巨大な出血性CPEDを認めた.IAにてCPCV病変の増悪を認めた.その後もCIVA単独およびCPDT併用療法を繰り返し,視力は維持されたものの新たなCPEDの出現や新生血管の進展を認め,病勢の管理は困難である.とが多い.PEDに対する効果について議論の余地を残しているが,ラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealranibizumab:IVR)に反応しない症例でもアフリベルセプト硝子体内注射(intravitreala.ibercept:IVA)が奏効する例は少なくないため,実臨床では初回C3回連続投与を行ってもCIVRに反応しない場合は,IVAに切り替えるべきと考えられる.抗VEGF薬+PDT併用療法IVRやCIVAにもかかわらず漿液性.離が残存しCPEDが増悪するような治療抵抗例においても,抗CVEGF薬+PDT併用療法を追加することで解剖学的な改善が得られることが多い(図1).ただし再発を繰り返すなど長期にわたって治療継続している症例では,潜在的な黄斑萎縮や網膜外層障害をきたしていることが多く,PDT治療により,かえって視力低下を顕在化させるおそれもある.それゆえ,治療実施の際には蛍光眼底造影やOCT検査を施行して慎重に病態評価を行う必要がある.最近はCEVEREST2studyをはじめ,PCVに対する初回CPDT併用療法の良好な治療成績が報告されている2,3).確実なポリープの退縮や治療回数の軽減などを目標とする場合は初回からCPDT併用療法を考慮する.難症例への対応PEDの平坦化をめざした積極的な治療を行えばCRPEC376あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019tear形成の可能性やCRPE萎縮をきたす可能性も憂慮され,常に治療効果とそのリスクを天秤にかける必要性がある.一方,巨大な漿液性CPEDを有する症例では,治療継続にもかかわらずCPEDが増大し,出血性CPEDや巨大な網膜下出血をきたすことがある(図2).このような場合は,患者に十分な説明を行って理解を得たうえで,積極的な抗CVEGF治療(.xeddosingまたはCtreatCandextend)やCPDT併用療法を行い,解剖学的な改善の維持に努め,視力維持を図るべきと思われる.文献1)NagaiCN,CSuzukiCM,CUchidaCACetal:Non-responsivenessCtoCintravitrealCa.iberceptCtreatmentCinCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration:implicationsCofCserousCpig-mentepithelialdetachment.SciRepC6:29619,C20162)KohCA,CLaiCTYY,CTakahashiCKCetal:E.cacyCandCsafetyCofranibizumabwithorwithoutvertepor.nphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy:Arandom-izedCclinicalCtrial.CJAMACOphthalmol135:1206-1213,C20173)MatsumiyaCW,CHondaCS,COtsukaCKCetal:One-yearCout-comeCofCcombinationCtherapyCwithCintravitrealCa.iberceptCandvertepor.nphotodynamictherapyforpolypoidalcho-roidalCvasculopathy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC255:541-548,C2017(74)

緑内障:自動静的視野検査の測定点配置

2019年3月31日 日曜日

●連載225監修=山本哲也225.自動静的視野検査の測定点配置野本裕貴近畿大学医学部眼科学教室緑内障診断および経過診察に際し,多くの施設では自動静的視野検査にて視野評価を行っていると思われる.本稿では自動静的視野検査における従来の測定点配置と,新たな測定点配置による検査の試みについて紹介する.●従来の検査測定点配置現在,自動静的視野検査にて緑内障性視野障害の評価を行う際は,測定点間隔が視角C6°のC24-2もしくは30-2測定点配置での検査,そして進行症例では中心視野(中心C10°内)を評価するために視角C2°間隔のC10-2測定点配置での検査が行われている(図1).その測定点数は片眼でC24-2:54点,30-2:76点,10-2:68点となっている.このようにC10-2では検査範囲内を密に測定している一方,24-2およびC30-2は比較的粗な測定点で検査していることになる.24-2,30-2検査では病初期での視野異常を測定点密度の粗さのために検出できていない可能性があり,このことがCOCT,眼底検査にて緑内障性構造変化を認めるにもかかわらず,視野検査では異常を認めない前視野緑内障(preperimetricglau-coma:PPG)が存在する一因と考えられる.24-2:54点●PPGおよび早期緑内障の視野異常検出PPGは自動静的視野検査ではCPPGによる異常を検出することが不可能なのか?そうではなく,あくまでも6°間隔測定点のC24-2,30-2での検査では異常を検出しないのであって,10-2で検査を行う1),あるいは測定点配置を変更(24-2測定点C10°内に測定点追加)する2)ことで異常が検出でき,また早期視野異常の検出力も向上すると報告されている.つまり,測定点を追加することで異常検出能力が上がることになる.一方で問題としては,どこに,いくつの測定点を追加するかということと,測定点追加することで検査時間が長くなることがあげられ,視野測定アルゴリズムの改良を含め,さらなる検討が必要だと思われる.30°10-2:68点30°30°30-2:76点30°30°30°図224plusの測定点配置(右眼)図124.2,30.2,10.2の測定点配置および測定点数測定点数はC78点となっている.(71)あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C3730910-1810/19/\100/頁/JCOPY図364歳,NTG(右眼)のOCTと24.2,24plus視野検査結果24-2では中心C4点の測定点に異常を認めないが,24plusではC○内の測定点で異常を検出しており,固視点近傍まで障害が生じていることを示している.●中心視野の重要性と24plus測定点配置中心視野の重要性は改めて述べるまでもないが,近年多くの論文にて中心視野と日常生活の見え方の質(visionCrelatedQOL:VRQOL)との関連性が報告されており,とくに中心下方視野がCVRQOLの低下に大きく影響するとされている3).このことは進行症例ではもちろんのこと,初期から中期症例においても中心視野の重要性を示している.これらのことを踏まえ,ヘッドマウント視野計アイモ4)では,24plus(図2)とよばれる測定点での検査が行えるようになっている.24plusの測定点数はC78点で,通常のC30-2とほぼ同じ点数である.これは,従来の24-2の測定点のC10°内に測定点を追加し,早期の異常検出と進行期での残存中心視野の評価を行うことを目的とした配置となっている.24plusでは,図3のように24-2検査では検出できていない中心領域の異常を検出できている.緑内障の経過診察を行っていくうえで,初期から中期症例でもこのような測定点配置の検査にて中心視野評価を行うことは,VRQOLの観点からも大切だと考える.文献1)DeMoraesCG,HoodDC,ThenappanAetal:24-2Visual.eldsmisscentraldefectsshownon10-2testsinglauco-maCsuspects,CocularChypertensives,CandCearlyCglaucoma.COphthalmologyC124:1449-1456,C20162)EhrlichCAC,CRazaCAS,CRitchCRCetal:ModifyingCtheCcon-ventionalvisual.eldtestpatterntoimprovethedetectionofCearlyCglaucomatousCdefectsCinCtheCcentralC10°C.CTranslCVisSciTechnolC3:6-8,C20143)AbeCRY,CDiniz-FilhoCA,CCostaCVPCetal:TheCimpactCofClocationCofCprogressiveCvisualC.eldClossConClongitudinalCchangesCinCqualityCofClifeCofCpatientsCwithCglaucoma.COph-thalmology123:552-557,C20164)MatsumotoC,YamaoS,NomotoHetal:Visual.eldtest-ingwithhead-mountedperimeter‘imo’.PLoSCONEC11:Ce0161974,C2016C374あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019(72)

屈折矯正手術:SMILE後の追加矯正手術

2019年3月31日 日曜日

監修=木下茂●連載226大橋裕一坪田一男226.SMILE後の追加矯正手術中村友昭名古屋アイクリニックフェムトセカンドレーザーのみで屈折矯正を行うCSMILEは,術後の近視への戻りが少なく,LASIKに比べ追加矯正を必要とする頻度は低いが,追加矯正が困難なことがデメリットでもある.さまざまな追加矯正法がなされているが,それぞれ得失があり,新たな方法も開発中である.●はじめにSMILE(smallCincisionCfemtosecondClenticuleCextrac-tion)はCCarlZeissMeditec社(以下,CZM社)がC2010年に開発した,フェムトセカンドレーザー(以下,FSレーザー)VisuMaxのみで屈折矯正手術を行う新技術である.角膜を光切断し,最小C2Cmmの切開創からレンチクルを抜去して屈折矯正を行う1)(図1).SMILEにはドライアイになりにくい,外力に対して強いなどのメリットがあげられるが,さらに屈折が長期に渡って安定していることもそのひとつである.そのためCSMILEは術後の近視への戻りが少なく,屈折誤差への許容度があるためか,ほとんど追加矯正する必要がない.海外での報告でも追加になった症例はC1.3%と一般にC5.10%といわれるレーシックに比べて少ない.ただし,追加矯正が困難であることがCSMILEのデメリットになっている.今回,さまざまな追加矯正法について述べる.C●SMILE後の追加矯正施行された順に,以下のものがあげられる.それぞれ得失があり(表1),どれを選択するかは術者の考えでよいと思われる(表2).①CPRK:もっとも簡便で安全であるものはCPRKやClaser-assistedsub-epithelialCkeratectomy(LASEK)などのCsurfaceablationであろう.SMILEのCcap内で矯正することができ,いわゆるフラップを作らないという意味からも,ドライアイになりにくく外力に強いなどのCSMILEのメリットが維持される.ただし,視力回復の遅さや,術後の痛みなどのCPRKの従来の課題点は残される2).②CLASIK:Capの深さを基にフラップの厚みを設定し,FSレーザーにてフラップを作製して,エキシマレーザーを照射する.SMILEの切断面とフラップの断端が干渉しないよう,フラップの厚み,サイズとヒンジの位置を決める必要がある.Capのなかで薄いフラップを作製しレーザーを行うCthin-.apLASIKや,capの厚みに合わせたフラップを作るCthick-.apCLASIKが提案されている.その設定はやや難易度が高く,若干のリスクを伴うことが報告されている.これによりLASIKの術後と同様となり,SMILEの本来の利点がなくなる.③CCircle:最近ではCCIRCLEというプログラムで,ドーナッツ状に周辺を切開し,LASIK様のフラップを作製することにより簡便に追加矯正を行うことができるようになった(図2,3).Capとフラップの厚みに気を払う必要がないので,より安全にCLASIKにコンバートできる方法といえる.ヒンジの位置は通常,SMILEのサイドカットと干渉しないよう,やや時計方向へ振った上方に作製する.結果的にはCLASIKに表1追加矯正法の比較PRK/LASEK低侵襲の維持回復に時間を要す高いFs-LASIK回復時間が短い低侵襲でなくなる中等度低侵襲乱視だけCLRIレーザーが不要予測性に乏しい低い図1SMILEの模式図フェムトセカンドレーザーにより光切断した角膜実質(レンチクル)を最小C2Cmmの切開創から抜き取る.CIRCLE回復時間が短い低侵襲でなくなる高いSubCap-LE低侵襲の維持難易度が高い高いLRI:limbalrelaxingincision.(69)あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019C3710910-1810/19/\100/頁/JCOPY表2過去の報告著者方法例数観察期間術前CSE術後CSE術後裸眼2段階低下安全係数有効係数CSiedlecki2)CPRKC433カ月-0.86±0.43C0.03±0.57C0.08±0.15C0C1.06C0.90CReinsteinCLASIKC1003カ月-0.04±0.99C0.19±0.4695%1.0以上C0CNRCNRCSiedlecki3)CCIRCLEC223カ月-0.51±1.08C0.18±0.31C0.03±0.07C0C1.03C0.97CDonate4)CSubCap-LEC13カ月-1.5C0.125C20/16C0C─C─CCIRCLEの切断端SMILEの切断端3=Capを拡大1=SMILEcap~3カ月4=Flapサイドカット2=SMILEサイドカット5=Flapヒンジ5図2CIRCLEの模式図なってしまうが,より安全に行え,PRKと違い痛みが少なく視力の回復が早いので,今後もっとも普及する方法と思われる3).C④CSubCap-LE:SMILEのメリットを最大に活かした追加矯正は,やはりCcap下に追加分だけ再度レンチクルを作製し,それを元の小切開創から抜き取ることであろう.ただし,通常,追加矯正の度数は小さく,そのためレンチクルは薄くなり,正確にその度数で作製できるかなど,難易度の高い技術といえる.限られた施設での臨床治験が始まっている4).C●自院でのデータ名古屋アイクリニックにてCSMILEを施行した症例のうち,追加矯正手術となったのはC10名C16眼で,全症例C1,046眼中C1.5%と海外での報告と同様であった.追加症例の術前平均等価球面度数は-6.70±1.87Dと全症例の平均等価球面度数-4.5Dより高く,過去の報告5)にあるようにやや高度の近視症例に追加が必要となった.追加矯正前の平均等価球面度数は-0.73±0.96D(-1.5.+1.5D)で,その内訳は近視C13眼(うちC2眼は軽度近視狙いで術後正視希望),遠視C3眼であった.追加矯正の方法はLASEK4眼,PRK8眼,Circle3眼,CLASIK1眼であった.追加後C3カ月で平均等価球面度数は-0.07±0.87Dへとほぼ正視となり,平均裸眼視力も術前C0.56からC1.19へと改善した.術中,術後合併症はなく,矯正視力はC2段階以上低下するものはなかっC372あたらしい眼科Vol.36,No.3,2019ヒンジの長さ[mm]ヒンジ位置[°]た.PRKの症例で矯正が不足し,再々矯正となったものがC1例C2眼で,最終的には両眼裸眼視力C1.2に改善した.安全係数はC0.95C±0.22,有効係数はC0.73C±0.30と良好であった.C●おわりにSMILEは多くのメリットのある優れた技術である.デメリットである追加矯正のむずかしさも,今後さらに改善していくものと思われる.文献1)ShahR,ShahS,SenguptaS:Resultsofsmallincisionlen-ticuleextraction:all-in-oneCfemtosecondClaserCrefractiveCsurgery.JCCatractRefractSurgC37:127-137,C20112)SiedleckiCJ,CLuftCN,CKookCDCetal:EnhancementCafterCmyopicCsmallCincisionClenticuleextraction(SMILE)usingCsurfaceablation.JRefractSurgC33:513-518,C20173)SiedleckiCJ,CLuftCN,CKookCDCetal:CIRCLECenhancementCaftermyopicSMILE.JRefractSurgC34:304-309,C20184)DonateD,ThaeronR:PreliminaryevidenceofsuccessfulenhancementCafterCaCprimaryCSMILECprocedureCwithCtheCsub-cap-lenticule-extractionCtechnique.CJCRefractCSurgC31:708-710,C20155)LiuYC,RosmanM,MehtaJS:Enhancementaftersmall-incisionClenticuleextraction:incidence,CriskCfactors,CandCoutcomes.OphthalmologyC124:813-821,C2017(70)