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コンタクトレンズ:乱視用ソフトコンタクトレンズ処方(レンズ選択・フィッティング)

2019年2月28日 木曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一52.乱視用ソフトコンタクトレンズ処方(レンズ選択・フィッティング)東原尚代ひがしはら内科眼科クリニック京都府立医科大学眼科●はじめに乱視用ソフトコンタクトレンズ(SCL)処方の第C1回目では,トーリックCSCLの適応と検査について解説した.今回はトーリックCSCLの選択とフィッティングについて解説する.C●トーリックSCLの種類トーリックCSCLのデザインには,プリズムバラストとダブル・スラブ・オフのC2種類がある(図1).プリズムバラストは,レンズ下方に厚みをもたせ重力で下方に向きやすくさせ,薄くなったレンズ上方は上眼瞼に挟まれる.瞬きで眼瞼から受けた圧力でレンズの厚いほうが先に飛び出る性質(スイカの種理論)によってレンズの回転が抑えられ,正しい位置を維持できる.ダブル・スラブ・オフはレンズの上下方向が薄く,左右方向が厚くなっており,薄く設計されたレンズの上下が眼瞼に挟み込まれることでレンズの回転が抑えられる.トーリックCSCLは乱視の方向にあった正しい位置で安定することが重要なため,各メーカーはより安定した装用が得られるよう製品の改良を重ねている(図2).トーリックCSCLは単焦点レンズに比較してレンズに厚い部分があり,角膜への酸素供給の低下や角結膜への圧迫所見が懸念されたが,シリコーンハイドロゲルレンズ素材のトーリックCSCLが登場して酸素透過性の問題は改善されている.また,近年はプリズムバラストとダブル・スラブ・オフを組み合わせたハイブリッドデザインの製品も登場している(図3).図1トーリックSCLのデザイン(イメージ図)左:プリズムバラスト,右:ダブル・スラブ・オフ.●トーリックSCLの選択基準1日使い捨て,2週間交換のいずれも,プリズムバラストとダブル・スラブ・オフのデザインを少なくともC1種類ずつ準備しておき,乱視や眼瞼の条件に応じて円柱軸の回転がより安定するタイプを選択する.筆者は乱視眼で瞼裂幅が狭い症例にはダブル・スラブ・オフデザインを好んで処方している.トーリックCSCLは単焦点レンズに比較してレンズ直径が大きいものが多い.とくにダブル・スラブ・オフデザインでは左右の厚みが強くなるため,結膜への圧迫所見が生じることがある1).装用感に影響する場合には,プリズムバラストデザインやレンズ直径の小さいトーリックCSCLへの変更を検討する.C●トーリックSCLのフィッティングの見方フィッティングでは,トライアルレンズ装用でガイドマークがC10~30°程度の範囲に偏位する場合に円柱軸を補正する.円柱軸の補正方法は,レンズが時計回りに回転した場合には円柱軸に回転偏位度を加えた軸度,反時計回りに回転した場合には円柱軸から回転偏位度を減じた軸度を処方レンズの円柱軸とする2).(アイリッド・スタビライズド・デザイン)図2アキュビューRのトーリックSCLのデザインアキュビューCRのトーリックCSCLは左右をやや厚めに設計し,薄くなったレンズとの間に移行部(アクセラレイト・スロープ)を設け,数回の瞬目でスピーディに軸が安定するようデザインされている.(101)あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019C2310910-1810/19/\100/頁/JCOPY図3ハイブリッドトーリックデザイン(イメージ図)2WEEKメニコンプレミオトーリックは上下非対称ダブル・スラブ・オフデザインと,左右のバラストデザインを組み合わせている.(メニコン社のCHPより転載)●症例1:26歳,男性2週間交換球面CSCLを他院で処方された.装用時間はC10時間/日で,装用感は気に入っていたものの,長時間スマートフォンを使用すると夜に目の疲れが出やすい.当院受診時の角膜形状解析は直乱視のパターンであり(図4),視力はCRV=0.05(1.0C×sph-5.75D(C-1.75DCAx180°)CLV=0.06(1.0C×sph-5.75D(C-1.50DCAx180°)アキュビューRオアシスR(ジョンソン・エンド・ジョンソン社)装用にてCRV=(0.9C×880/-6.50/14.0)(R<G)CLV=(1.0pC×880/-6.25/14.0)(R<G)と乱視は未矯正であり,SCLは近視の過矯正であった.トーリックCSCLでの乱視矯正を勧めたが価格を気にされたため,トライアルレンズを渡して見えかたの変化を体験してもらうことになった.眼瞼圧が高く瞼裂幅が図4症例1の角膜形状解析両眼とも直乱視を示す.狭かったためダブル・スラブ・オフデザインのアキュビューCRオアシスCR乱視用を選択.トライアル装用で良好なフィッティングと視力を得た.CRV=(1.2C×880/sph-5.25/cyl-1.75CAx180°)(R>G)CLV=(1.2C×880/sph-5.25/cyl-1.75CAx180°)(R>G)2週間体験ののち再診.夕方以降の目の疲労が消失したとのことで,アキュビューCRオアシスCR乱視用の処方を希望された.C●おわりに今回紹介した症例のように,乱視を適正矯正すれば眼精疲労から解放され,患者満足度は向上する.最近はカラーコンタクトレンズのトーリックCSCLや遠近両用乱視用CSCLも登場し選択肢が増えた.トーリックCSCLのデザインは飛躍的に改良され,円柱軸の安定性は高くなっており,ぜひ,積極的な処方をお勧めしたい.文献1)東原尚代,渡辺彰英:コンタクトレンズとドライアイ.あたらしい眼科35:797-798,C20182)塩谷浩:トーリックソフトコンタクトレンズの処方.最近コンタクトレンズ処方の実態と注意点.OCULSTAC14:C73-80,C2014CPAS114

写真:粘膜類天疱瘡(眼型)の急性増悪

2019年2月28日 木曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦417.粘膜類天疱瘡(眼型)の急性増悪向井規子*福岡秀記***大阪医科大学眼科学教室**京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図1右眼前眼部所見高度の結膜充血,結膜の堤防状の肥厚,角膜上皮欠損を認める.図3図1のフルオレセイン染色所見輪部を越えて広範囲の角膜,結膜上皮欠損を認める.図4左眼前眼部所見高度の結膜充血,結膜の肥厚を認める.(99)あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019C2290910-1810/19/\100/頁/JCOPY症例は53歳,男性で,両眼性の難治性結膜炎,蜂巣炎の疑いで近医より京都府立医科大学附属病院眼科に紹介受診となった.初診時は両眼眼瞼結膜の充血・偽膜形成と眼球結膜の充血,右眼は角膜上皮欠損を限局性に認めた.重症型ウイルス性角結膜炎を疑い,抗菌薬点眼とベタメタゾン点眼を投与したが改善せず,右眼は堤防状の結膜肥厚と広範囲の角膜上皮欠損が出現した(図1~4).同時期に鼻根部に皮疹を認めたため,眼科的所見と併せて粘膜類天疱瘡を疑い,皮疹部位より皮膚生検を皮膚科にて施行したが,蛍光抗体法はいずれも陰性であった.眼科臨床所見的に粘膜類天疱瘡(眼型)の急性増悪と診断し,プレドニゾロンとシクロスポリンの内服投与を追加したところ,右眼の角膜上皮欠損や結膜の増殖性変化はおよそC3週間で鎮静化した.自己免疫性水疱症である粘膜類天疱瘡は,表皮下水疱やびらん性病変が粘膜優位に生じる疾患で1),口腔,眼,鼻,咽頭,喉頭,食道,陰部などの粘膜に病変を認め,皮膚病変も一部では合併する.とくに口腔粘膜と眼粘膜に多く発症し,そのうち,眼表面にのみ病態が生じるものは「眼型粘膜類天疱瘡」や「眼類天疱瘡」とよばれており,角結膜の瘢痕性変化を特徴とする.粘膜類天疱瘡の眼科的臨床所見は,Foster分類によって病期分類され1,2),充血を主とする慢性結膜炎や結膜下組織の瘢痕性変化から始まり,結膜.の短縮や瞼球癒着,睫毛乱生,涙液分泌減少がみられるようになり,最終的には眼表面の角化へと進行する.本症例のような急性増悪時の臨床像としては,これまでに角膜上皮欠損と泡状膜様物質の出現の報告がある3).診断は,臨床診断に加えて,確定診断には病理組織学的所見,および蛍光抗体直接法の少なくとも一方(あるいは両方)の項目を満たす必要があり1),生検により得られた試料を用いた免疫組織学的染色を行う.粘膜類天疱瘡の抗原には多様性があり,さまざまな自己抗原を標的にするが,眼病変を呈する症例においては,結膜上皮基底膜成分に対するCa6b4インテグリンが標的になることが多い4).治療は,本症例のように眼病変が主である粘膜類天疱瘡は高リスク群とされ1),急性増悪期には大量のステロイド内服療法や免疫抑制療法を行うのが原則である.本症例は,難治性結膜炎の経過中に結膜の増殖性変化や角膜上皮欠損が出現し,皮疹を伴ったことで,粘膜類天疱瘡を疑い,大量のステロイド内服療法と免疫抑制療法の加療で角結膜所見を早期に改善しえたものである.結膜.短縮などの結膜増殖性の初期変化に気づきにくい病期早期の症例では,粘膜類天疱瘡との診断に至っていない症例も多いと推測されるが,本症例のように急性増悪する可能性もあり,疑わしい場合には他科と連携して検査を施行し,早期に診断,加療することが望ましい.また,結膜.短縮手術や外傷がきっかけで急性増悪の契機になることも知られており,粘膜類天疱瘡が疑われる症例になんらかの手術侵襲を与える場合には,ステロイドや免疫抑制薬を用いての周術期管理が必要である.文献1)氏家英之,岩田浩明,山上淳ほか:類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン.日皮会誌C127:1483-1521,C20172)FosterCS:ClinicalCpemphigoid.CTransCAmCOphthalmolCSocC84:527-663,C19863)横山真介,佐々木香る,斎藤禎子ほか:眼類天疱瘡の急性期臨床所見としての膜様物質とそのムチンの発現.あたらしい眼科28:119-122,C20114)稲富勉:眼類天疱瘡と結膜変化.あたらしい眼科C33:C555-556,C2016C

今後の加齢黄斑変性治療-新しい薬剤の開発や新しい治療について

2019年2月28日 木曜日

今後の加齢黄斑変性治療─新しい薬剤の開発や新しい治療についてFutureTherapiesforAge-relatedMacularDegeneration─LatestResearchRegardingNewDrugsandDevices片岡恵子*はじめに抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬が滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の治療として登場し,そして滲出型AMDの第一選択薬となりおよそ10年が経過した.現在,日本において認可されているのは,抗VEGF抗体であるラニビズマブ(ルセンティスR)と,VEGFと結合するVEGF受容体の細胞外ドメインを融合させて作製したアフリベルセプト(アイリーアR)の2種類である.抗VEGF薬の使用により視力の改善や視力の維持が可能であったという良好な治療成績が多数報告されているものの,月1回.数カ月に1回の頻回治療を要することや,高額な薬剤による患者および医療経済への負担の増大といった問題がある.さらにラニビズマブ治療の長期成績(SEVEN-UPstudy1))では,抗VEGF薬により改善した平均視力が7.8年後には治療前の平均視力にも戻ってしまったことが報告され,解決すべき問題は未だ多いのが現状である.一方,萎縮型AMDに対する有効な治療薬は現在のところ確立されておらず,地図状萎縮による視力低下は不可避であり,新しい治療薬の開発が期待される.本稿では,滲出型AMDに対する,より長期間の効果が期待される抗VEGF薬やチロシンキナーゼ阻害薬,その他,血管新生にかかわる因子の阻害薬の開発などを,また萎縮型AMDに対する補体経路の阻害薬の開発などを中心に紹介する.I滲出型AMDに対する新規治療薬や新規治療戦略2018年11月現在における滲出型AMDに対する治療薬の開発状況を表1にまとめた.現在,施行されている治験情報はClinicalTrials.govというサイトにデータベース化されている.このサイトでは,途中で中止となってしまった治験の情報なども入手でき,いかに薬剤の開発が困難であるかを垣間みることができる.1.長期間作用型抗VEGF薬現在,滲出型AMDに使用されている抗VEGF薬はラニビズマブとアフリベルセプトの2種類であるが,ラニビズマブが4週ごと,アフリベルセプトが8週ごとの投与を想定してデザインされた薬剤である.実臨床においては,固定投与法(毎月もしくは2カ月ごとなど)だけでなく,必要時投与法(prorenata:PRN)や計画的投与法(treatandextend:TAE)にて治療されることが多いが,患者の頻回の通院や頻回の硝子体注射が患者や医療機関,さらには医療経済の負担増となっている.したがって,新規治療法の開発戦略としては,より長期間抗VEGF薬の作用を維持することで,患者の来院回数や治療回数を減らすことである.より長期間の作用持続をめざして開発された抗VEGF薬として,現時点でもっとも有望であるのはアラガン社のabiciparpegolとノバルティス社のbroluci-*KeikoKataoka:名古屋大学大学院医学系研究科眼科学・感覚器障害制御学教室〔別刷請求先〕片岡恵子:〒466-8550名古屋市昭和区鶴舞町65名古屋大学大学院医学系研究科眼科学・感覚器障害制御学教室0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(91)221:チロシンキナーゼ,:促進,:阻害,VEGF:血管内皮増殖因子,VEGFR:VEGF受容体,TKI:チロシンキナーゼ阻害薬図1血管内皮増殖因子(VEGF)を介した血管新生VEGFがVEGF受容体に結合すると,VEGF受容体内に存在するチロシンキナーゼが活性化し,細胞内にシグナルが伝達され血管新生もしくはリンパ管新生が生じる.抗VEGF薬はおもにVEGFAを,チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)は受容体内のチロシンキナーゼを阻害することで血管新生を抑制する.血管新生リンパ管新生とする分子をリン酸化する酵素を意味し,チロシンキナーゼはアミノ酸のC1種であるチロシンをリン酸化する酵素である.VEGFなどがCVEGF受容体に結合すると,VEGF受容体内に存在するチロシンキナーゼが活性化し,その下流の分子をリン酸化することで細胞内のシグナル伝達が行われ,最終的に血管内皮の増殖,そして血管新生が生じる2).したがって,チロシンキナーゼ阻害薬は,このチロシンキナーゼの働きを阻害することで血管新生を抑制する(図1).VEGFを阻害する従来の抗VEGF薬よりも下流のシグナル経路をブロックすることで,より直接的に血管内皮細胞の増殖を抑制できることが期待される.現在,チロシンキナーゼ阻害薬の内服(vorolanib)の治験が中国で,VEGF受容体C2特異的なチロシンキナーゼ阻害薬の点眼(PAN-90806)の治験が米国とヨーロッパで開始されている.また,チロシンキナーゼ阻害薬の長期間作用型薬剤として,薬剤を含有するハイドロゲルファイバーの硝子体注入や薬剤を内包する微粒子の硝子体注入の開発も現在行われており,一部はすでに米国でCPhase1の治験が開始されている(表1).チロシンキナーゼ阻害薬のCSunitinibは,すでに腎細胞癌の治療などに使用されているが,内服薬では,高率で骨髄抑制や高血圧,消化管症状など全身副作用が出現することが報告されているため3),硝子体腔への局所投与のほうが副作用低減の観点からは有用だと思われる.C3.抗VEGF薬との併用で効果の増大が期待される薬剤血管新生の過程においてもっとも重要かつ強力な役割を担うのがCVEGFであることはすでに明らかであるが,VEGF以外にも多くの因子が複雑に相互的に作用することによって血管新生は促進し,生体の機能を維持している.それらの血管新生促進因子を制御する薬剤を抗VEGF薬と併用することで,より強力な抗血管新生作用が期待され,抗CVEGF薬投与回数の低減が望める可能性がある(表1).新規薬剤の開発には,海外の企業だけでなく日本の企業も参戦している.参天製薬が開発中のCDE-122は,低酸素によって血管内皮細胞膜に発現が誘導されるエンドグリンが血管内皮細胞の増殖にかかわることに着目し,その中和抗体である抗エンドグリン抗体をラニビズマブと併用する治験を米国で開始した.また,第一三共が開発中のCDS-7080aは,humanround-about4(hROBO4)とよばれる血管新生にかかわるとされる因子に着目し,抗ChROBO4抗体をラニビズマブと併用する治験のCPhase1を完了したばかりである.ほかにも,VEGF受容体C2を介した血管新生を増強させるCIntegrinCavb3やCVEGFCとCVEGFDを阻害することで,VEGF受容体C2のシグナルをより強力に阻害する薬剤なども開発されている.いずれも治験はCPhase1もしくはCPhase2の段階であり,実際に効果が証明されて使用できるようになるまでにはまだ数年の時間を要すると思われる.C4.ラニビズマブのバイオ後発品(バイオシミラー)ラニビズマブの先発品であるルセンティスRの特許期間が満了するにあたり,先発品と生物学的に同等性を示すバイオ後発品(バイオシミラー)の開発がすでに開始されている.現在,日本では千寿製薬のバイオシミラーがCPhase3の治験を行っているほか,ドイツ,中国,韓国などでも同様にラニビズマブのバイオシミラーが開発され治験が始まっている.バイオシミラーの登場によりラニビズマブの価格が抑制されるため,患者負担や医療経済への負担の軽減が期待される.CII萎縮型AMDに対する新規治療薬や新規治療戦略萎縮型CAMDに対する治療薬として現在もっとも期待されているのが補体経路の阻害薬である.補体経路とは免疫経路の一つであり,病原体や酸化ストレスなどさまざまな要因で活性化し,AMD発症の一因となると考えられている.そのほか,新規の治療戦略として,抗炎症作用や網膜変性に着目した薬剤,胚性幹細胞(ES細胞)由来の網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium:RPE)細胞の網膜下注入などが試みられている.C1.補体経路を阻害する新規治療薬補体経路のCAMD発症への関与が初めて報告されたのはC1992年のことである.Baudouinらは,AMD患者の(93)あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019C223表1滲出型AMDに対する治験状況薬剤名作用機序投与経路現状国企業詳細RTH258(broluciC-zumab)抗CVEGF-A抗体硝子体注射CPhase3completed米国,欧州,日本などCAlconResearch12週(一部C8週)間隔投与.対照薬はa.ibercept.CabiciparpegolVEGF-A阻害薬硝子体注射CPhase3米国,欧州,日本を含むアジアなどCAllergan8週もしくはC12週間隔投与.CRGX-314可溶性抗CVEGF抗体の遺伝子導入アデノ随伴ウイルスベクターの網膜下注入CPhase1米国CRegenxbioInc.CPortDeliverySystemImplant抗CVEGF抗体(ranibizumab)毛様体扁平部CPhase3米国CRoche硝子体腔に挿入されたポートからranibizumabを徐放するシステム.CHB002.1M抗CVEGFR1阻害薬硝子体注射CPhase1中国CHuaboBiopharmCo.,Ltd.CPAN-90806VEGFR2チロシンキナーゼ阻害薬点眼CPhase1/2米国,欧州CPanOptica,Inc.CCM082(vorolanib)チロシンキナーゼ阻害薬内服CPhase1中国CAnewPharmaCOTX-TKIチロシンキナーゼ阻害薬硝子体注射CPhase1未定COcularTherapeutix,Inc.チロシンキナーゼ阻害薬を含有するハイドロゲルファイバー.作用期間は12カ月とされる.GB-102(SCunitinibmalate)長期間作用型チロシンキナーゼ阻害薬硝子体注射CPhase1/2米国CGraybugVisionチロシンキナーゼ阻害薬のCsunitinibを内包する微粒子は薬剤がC6カ月作用するように設計されている.対照薬はa.iberceptである.CAAVCACGsCD59可溶性CCD59の遺伝子導入治療アデノ随伴ウイルスベクターの硝子体注入CPhase1米国CHemeraBiosciences補体制御因子であるCCD59を遺伝子導入により強制発現させる.CALK4290CCL11阻害薬内服CPhase2ハンガリーCAlkahest,Inc.炎症性ケモカインであるCCCL11を阻害する.AS1011%内服液Cintegrinavb3/verylateantigen-4(VLA-4)阻害薬内服CPhase1/2イスラエルCFeramdaCSF0166CIntegrinavb3阻害薬点眼CPhase1/2米国CSciFluorLifeSciences,Inc.COPT-302可溶性CVEGFR-3硝子体注射CPhase2米国,欧州などCOptheaLimitedranibizumabとの併用.CVEGF-CおよびCVEGF-DをブロックすることでVEGFR-2とCVEGFR-3経由のシグナルを阻害する.CDE-122抗エンドグリン抗体硝子体注射CPhase2米国CSantenInc.ranibizumabとの併用.低酸素誘導性に血管内皮細胞膜に発現し,増殖に関与する.ICON-1(humanimuno-conjugate1)組織因子阻害薬硝子体注射CPhase2米国CIconicTherapeutics,Inc.A.iberceptと併用.血液凝固第C7因子類似物質であり,組織因子と結合し作用をブロックする.CAPL-2補体因子CC3阻害薬硝子体注射CPhase1/2米国CApellisPharmaceuticals,Inc.Cavacincaptadpegol(ZimuraCR)補体因子CC5アプタマー硝子体注射CPhase2米国COphthotechCorporationranibizumabとの併用.CDS-7080a抗Chumanroundabout4(hROBO4)抗体硝子体注射CPhese1completed米国CDaiichiSankyo,Inc.ranibizumabとの併用.CROBO4は血管新生に関与するとされる.C24CGyStrontium90強膜小線源療法球後CPhase2米国CSalutarisMedicalDevices,Inc.標準的なCPRNによる抗CVEGF治療と併用.経結膜的に強膜上にプローベを挿入し,放射線治療を行う.VEGF:血管内皮増殖因子,VEGFR:血管内皮増殖因子受容体.:促進,:阻害,C3:補体第3成分,C5:補体第5成分,CFH:補体因子H,CFD:補体因子図2補体経路と炎症,細胞融解補体経路が活性化することで炎症が惹起され,また細胞融解により細胞死が誘導される.加齢黄斑変性への関与が示唆されている補体因子CH(CFH)は第C2経路を抑制することで補体の過剰な活性化を制御している.現在,補体第C3成分CC3や補体第5成分CC5をターゲットとした薬剤の開発が進行中である.表2萎縮型AMDに対する治験状況薬剤名作用機序投与経路現状国企業詳細Cavacincaptadpegol(ZimuraCR)補体因子CC5アプタマー硝子体注射CPhase2米国,欧州COphthotechCorporationCAPL-2補体因子CC3阻害薬硝子体注射CPhase3米国CApellisPharmaceuticals,Inc.CAAVCAGsCD59可溶性CCD59の遺伝子導入治療アデノ随伴ウイルスベクターの硝子体注入CPhase1米国CHemeraBiosciences補体制御因子であるCCD59を遺伝子導入により強制発現させる.CAlg-1001(Risuteganib,LuminateR)CIntegrinavb5,a5b1,aMb2阻害薬硝子体注射CPhase2米国CAllegroOphthalmics,LLC酸化ストレスにて活性化されたインテグリンを阻害することで抗炎症,神経保護として働く.CDoxycycline(ORACEACR)抗炎症内服CPhase2/3米国CUniversityofVirginia抗菌薬であるCdoxycyclineは低容量で抗炎症作用を示す.CAlphaLipoicAcid(ALA)抗酸化作用内服CPhase1/2米国CUniversityofPennsylvaniaCOpRegenRPE細胞移植網膜下注入CPhase1/2米国,欧州CCellCCureNeurosciencesLtd.ヒトCES細胞由来のCRPE細胞を網膜下へ移植.CMA09-hRPERPE細胞移植網膜下注入CPhase1/2米国CAstellasInstituteforRegenerativeMedicineヒトCES細胞由来のCRPE細胞を網膜下へ移植.PRE:網膜色素上皮,ES細胞:胚性幹細胞.マクロファージなどの侵入・活性化VEGFなどのサイトカインの増加RPE:網膜色素上皮,VEGF:血管内皮増殖因子図3加齢黄斑変性の発症メカニズム加齢に伴う酸化ストレスや免疫機能の異常により炎症や細胞障害が誘導され,その結果,網膜色素上皮や神経網膜の萎縮,病的血管新生が生じると考えられている.

加齢黄斑変性の予防アップデート

2019年2月28日 木曜日

加齢黄斑変性の予防アップデートUpdateonProphylacticApproachesinManagingAge-relatedMacularDegeneration安川力*はじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)はわが国の身体障害の原因疾患の第4位である難治性疾患である1).脈絡膜新生血管が発生し,放置すると多くは数カ月で不可逆的な視力障害に至る「滲出型」と,視細胞,網膜色素上皮,脈絡膜新生血管が徐々に萎縮(地図状萎縮)し,やはり最終的には視力障害に至る「萎縮型」に分類される2).滲出型AMDに対して,現在,抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬の硝子体内注射が標準治療であり3.6),光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)7)と使い分けることにより,視力の改善・維持できる症例が多くなった8,9).しかしながら,約半数の症例では再発を数年にわたって繰り返し,医師側の治療判断がむずかしいうえに,高額な医療費や高齢者疾患であることに関連して,十分な治療の継続がときに困難となり,また線維性瘢痕や網膜下出血など上記治療のみでは避けられない網膜障害,さらには過剰投与でも起こる黄斑部萎縮など,種々の原因により視力低下してしまう症例も散見される10.14).このような背景から,AMD診療において,「良い薬があり,費用がかかりますが,視力低下を防ぐために治療継続が大切です」とだけ患者に説明して治療に積極的になるように促し,予防的(proactive)投与をやみくもに続ける方針は,行き当たりばったりで,AMDという疾患の本質がみえていない.もともと再発が少ない約半数の症例ではうまくいくが,残りの半数では再発を繰り返すか治療に抵抗し,このような症例ではしばしば患者も今後の方針や予後について不安に感じ,医師から十分な説明がないと,費用を費やした分,不満も募り,医師と患者の信頼関係は崩れ,やがて大学病院など高次機能施設へ紹介されることとなる.「AMDは頑張って治療しても視力低下の可能性があり,ときに(大学病院に紹介して)PDTなどの代替療法も検討することがあります.また,反対眼も発症したら身体障害のリスクが高くなります.仮に片眼が発症しなければ,自動車の普通免許は取得できますし,身体障害にはならないので,健常眼を発症させないことが治療と同等に大切です」と患者に説明し,(一次)予防の大切さを認識してもらう必要がある.医師と患者が,AMD治療のむずかしさと予防の大切さに関して共通意識をもち,医師は治療,患者は予防という共同作業ができていれば,将来,AMD発症眼が視力低下に至っても患者の不安も少なく,良好な信頼関係を保つことができる.I予防が大切な理由1.高齢者の諸事情AMDは高齢者疾患であり,そもそも最近の脳梗塞の既往や85歳以上や糖尿病患者などでは慎重に適応を決めるべきであるし,治療を開始した患者でも,全身疾患などの入院治療のためにときに眼の治療は中断される事態をしばしば経験する(表1).ポリープ状脈絡膜血管症*TsutomuYasukawa:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学〔別刷請求先〕安川力:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(81)211表1加齢黄斑変性の視力悪化に関連しうる因子患者自身の因子考えられる理由治療困難通院困難通院遅れ治療拒否生活スタイル全身状態脳心血管系疾患,認知症,超高齢他の全身疾患治療,付き添いの問題,施設入所予約日まで自覚悪化放置,他の病気(風邪なども含む)経済的理由喫煙,サプリメント(緑黄色野菜)非摂取,光線暴露高血圧(糖尿病,腎機能障害)医師による因子考えられる理由・背景過少投与過剰投与過剰な検査白内障手術生活指導の怠り外来の忙しさ,治療判断のむずかしさ標準治療遵守,治療判断のむずかしさ光線暴露手術侵襲,光線暴露,術後炎症,後.破損喫煙,サプリメント(緑黄色野菜)非摂取,光線暴露眼の中の因子関連する病態・要因線維性瘢痕網膜内.胞黄斑部萎縮網膜色素上皮欠損無水晶体2型脈絡膜新生血管,線維血管性色素上皮.離網膜血管腫状増殖,SHRM,.胞様黄斑変性(黄斑部萎縮)地図状萎縮,黄斑下血腫,硬性白斑,SHRM,過剰投与色素上皮裂孔,地図状萎縮青色光障害SHRM:subretinalhyperre.ectivematerial(網膜下高輝度病変).表2加齢黄斑変性前駆病変の診断基準18)とその他の関連初見・5C0歳以上・中心窩からC2乳頭径の範囲に以下の病変前駆病変a)軟性(中型,大型)ドルーゼン:直径C63Cμm以上がC1個以上b)網膜色素上皮(RPE)異常:色素沈着,脱色素,色素むらc)C1乳頭径未満の漿液性網膜色素上皮.離(serousPED)前駆病変関連所見d)異常眼底自発蛍光(Cminimal,Cfocal,Cpatchy,Cplaque-like,linear,reticular,speckled)萎縮型加齢黄斑変性(dryAMD)e)地図状萎縮(geographicatrophy:GA)図1黄斑部の加齢現象と加齢黄斑変性(AMD)前駆病変眼は光を感受するがゆえに,網膜視細胞の外節が光線暴露により変性してくる.これに対するメンテナンス機構として,外節の再生と古くなった外節先端を網膜色素上皮(RPE)が貪食している.生直後から酸化変性物質が難溶性で自発蛍光を有するリポフスチンとして蓄積する.続いて,30歳代からCRPE下に脂質沈着が始まる.50歳代以降,7人にC1人にCAMD前駆病変を認め,疫学上,AMDのリスクである.(文献C19より引用)表3加齢黄斑変性および前駆病変を認める患者への指導・留意事項AMD前駆病変からのC5年発症率:18%AMDの僚眼のC5年発症率:43%→予防がさらに大切①サプリメント(緑黄色野菜)摂取サプリメント摂取でC25%の予防効果ビタミンC,E,亜鉛,ルテインの組み合わせがよい(AREDS2のエビデンス)緑黄色野菜摂取でもよい②禁煙(できるだけ減煙)喫煙のリスクは3.4倍10年禁煙したらリスクは半分以下に(AMDはC85歳ぐらいまでリスク上昇)電子タバコの悪影響はまだ不明(現時点では禁煙がよい)③遮光(エビデンスレベル低いが理論上の推奨)屋外ではサングラス(青以外),帽子暗所での携帯電話,テレビ鑑賞は控えるモニターの明るさは室内の読書環境での白い紙の明るさぐらいにするLEDの悪影響は議論あり(直視しなければよい)④その他の生活指導血圧コントロール肥満解消(BMI改善)前駆病変は4.6カ月ごとに診察(光干渉断層計と眼底自発蛍光検査)AMD僚眼は1.3カ月ごとにチェック白内障手術は免許更新困難になるか全身状態悪化前に検討(着色眼内レンズ))13.03m12.0(m11.0体積10.0黄斑9.08.0最終受診時)m7.0390(μ膜厚330網270中心窩2201.5矯正視力1.00.520102011201220132014201520162017201867歳75歳初診時STTA/PDTIVRIVA図2加齢黄斑変性の鎮静化で治療終了した症例2010年C3月初診時:67歳,男性,喫煙歴あり.左眼矯正視力(0.4).ポリープ状脈絡膜血管症を認めた.サプリメント摂取開始.2010年C10月に左眼トリアムシノロン併用光線力学的療法(STTA/PDT)施行,その後,ラニビズマブ硝子体内注射(IVR)6回,アイリーア硝子体内注射(IVA)7回後,2014年C12月以降,約C4年再発なし.最終矯正視力右眼(1.5),左眼(1.0).C-をブロックする着色(黄色)眼内レンズを選択するほうが無難であろう47).術後はサングラスなどによる遮光や帽子の着用を勧める.おわりにエキスパートが熱心に手厚く治療を続ける一方,予防の指導を怠っていて,毎月の診察で検査機器の強い光に僚眼もさらして,数年後に僚眼も発症してしまうケースよりも,治療の術のない開業医がしっかりと予防の指導をして,発症眼は視力低下してしまったとしても,僚眼が生涯発症しないですんだ患者のほうがCQOL保持の観点では優っているということになることを肝に命じるべきである.糖尿病網膜症の予防としての血糖管理や食事指導は内科医や栄養士が行うだろう.では,AMDの場合は誰が生活指導を行うべきであろう.治療している医師が行うべきだと考えるが,かかりつけ医でもできることではあり,責任の所在がはっきりしていないことも指導徹底できない原因である.治療に専念するが余り,予防の指導が疎かになりがちであるが,AMD患者こそ予防が最後の砦である.全眼科医にCAMD患者が受診したら,または,生活指導を受けていないすでに治療中の患者に遭遇したら,エビデンスを示して,しっかり,①禁煙,②サプリメント(緑黄色野菜)摂取,③(エビデンスレベルが低いが理論上)遮光(屋外でのサングラスや帽子着用,暗所でのテレビやスマートフォンの使用を控える)の指導を行ってほしい(表3).もちろん,それでも両眼視力低下に至るケースでは,ロービジョンケアを早めに取り入れ,患者が前向きになれるよう心のケアを行うことが重要で,そこまでがCAMD診療の一部である.文献1)若生里奈,安川力,加藤亜紀ほか:日本における視覚障害の原因と現状.日眼会誌118:495-501,C20142)EvansJR:Riskfactorsforage-relatedmaculardegenera-tion.ProgRetinEyeResC20:227-253,C20013)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal;MARINAStudyGroup:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMedC355:1419-1431,C20064)BrownDM,KaiserPK,MichelsMetal;ANCHORStudyGroup:RanibizumabCversusCvertepor.nCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CNCEnglCJCMedC355:C1432-1444,C20065)HeierJS,BrownDM,ChongVetal;VIEW1andVIEW2StudyGroups:Intravitreala.ibercept(VEGFtrap-eye)CinCwetCage-relatedCmacularCdegeneration.COphthalmologyC119:2537-2548,C20126)CATTCResearchGroup;MartinCDF,CMaguireCMG,CYingCGSCetal:RanibizumabCandCbevacizumabCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CNCEnglCJCMedC364:C1897-1908,C20117)JapaneseCAge-RelatedCMacularCDegenerationTial(JAT)StudyGroup:Japaneseage-relatedmaculardegenerationtrial:1-yearCresultsCofCphotodynamicCtherapyCwithCvertepor.nCinCJapaneseCpatientsCwithCsubfovealCchoroidalCneovascularizationCsecondaryCtoCage-relatedCmacularCdegeneration.AmJOphthalmolC136:1049-1061,C20038)髙橋寛二,小椋祐一郎,石橋達朗ほか:加齢黄斑変性の治療指針.日眼会誌116:1150-1155,C20129)KohCA,CLaiCTYY,CTakahashiCKCetal:E.cacyCandCsafetyCofranibizumabwithorwithoutvertepor.nphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy:arandom-izedCclinicalCtrial.CJAMACOphthalmolC135:1206-1213,C201710)BresslerNM,BoyerDS,WilliamsDFetal:Cerebrovascu-laraccidentsinpatientstreatedforchoroidalneovascular-izationCwithCranibizumabCinCrandomizedCcontrolledCtrials.CRetinaC32:1821-1828,C201211)UetaCT,CMoriCH,CKunimatsuCACetal:StrokeCandCanti-VEGFtherapy.OphthalmologyC118:2093-2093,C201112)CATTCResearchGroup;MartinCDF,CMaguireCMG,CFineCSLetal:RanibizumabandbevacizumabfortreatmentofneovascularCage-relatedCmaculardegeneration:two-yearCresults.OphthalmologyC119:1388-1398,C201213)RofaghaS,BhisitkulRB,BoyerDSetal:Seven-yearout-comesCinCranibizumab-treatedCpatientsCinCANCHOR,CMARINA,CandCHORIZON.CACmulticenterCcohortCstudy(SEVEN-UP).OphthalmologyC120:2292-2299,C201314)CATTResearchGroup;GrunwaldJE,DanielE,HuangJetal:RiskCofCgeographicCatrophyCinCtheCcomparisonCofCage-relatedCmacularCdegenerationCtreatmentsCtrials.COph-thalmologyC121:150-161,C201415)HataCM,COishiCA,CYamashiroCKCetal:IncidenceCandCcausesofvisionlossduringa.ibercepttreatmentforneo-vascularCage-relatedCmaculardegeneration:one-yearCfol-low-up.RetinaC37:1320-1328,C201716)YasudaM,KiyoharaY,HataYetal:Nine-yearincidenceandriskfactorsforage-relatedmaculardegenerationinade.nedJapanesepopulationtheHisayamastudy.Ophthal-mologyC116:2135-2140,C200917)KawasakiCR,CWangCJJ,CJiCGJCetal:PrevalenceCandCriskCfactorsCforCage-relatedCmacularCdegenerationCinCanCadultJapaneseCpopulation:theCFunagataCstudy.COphthalmologyC115:1376-1381,C2008(87)あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019C21718)髙橋寛二,石橋達朗,小椋祐一郎ほか:加齢黄斑変性の分類と診断基準.日眼会誌112:1076-1084,C200819)安川力:加齢黄斑変性の前駆病変とその症状.老年医学C49:409-412,C201120)TamakoshiCA,CYuzawaCM,CMatsuiCMCetal:SmokingCandCneovascularCformCofCageCrelatedCmacularCdegenerationCinClateCmiddleCagedmales:.ndingsCfromCaCcase-controlCstudyCinCJapan.CResearchCCommitteeConCChorioretinalCDegenerations.BrJOphthalmolC81:901-904,C199721)KabasawaS,MoriK,Horie-InoueKetal:AssociationsofcigaretteCsmokingCbutCnotCserumCfattyCacidsCwithCage-relatedCmacularCdegenerationCinCaCJapaneseCpopulation.COphthalmologyC118:1082-1088,C201122)DelcourtCC,CDiazCJL,CPonton-SanchezCACetal:SmokingCandCage-relatedCmacularCdegeneration.CTheCPOLACStudy.CPathologiesCOculairesCLieesCaCl’Age.CArchCOphthalmolC116:1031-1035,C199823)TanJS,MitchellP,Ki.eyAetal:Smokingandthelong-termCincidenceCofCage-relatedCmaculardegeneration:theCBlueCMountainsCEyeCStudy.CArchCOphthalmolC125:1089-1095,C200724)Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyCResearchGroup:ACran-domized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesup-plementationCwithCvitaminsCCCandCE,CbetaCcarotene,CandCzincCforCage-relatedCmacularCdegenerationCandCvisionloss:AREDSCreportCno.C8.CArchCOphthalmolC119:1417-1436,C200125)Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyC2CResearchGroup:CLutein+zeaxanthinandomega-3fattyacidsforage-relat-edCmaculardegeneration:theCAge-RelatedCEyeCDiseaseCStudy2(AREDS2)randomizedCclinicalCtrial.CJAMAC309:C2005-2015,C201326)YanagiCY,CMohlaCA,CLeeCWKCetal:PrevalenceCandCriskCfactorsfornonexudativeneovascularizationinfelloweyesofCpatientsCwithCunilateralCage-relatedCmacularCdegenera-tionandpolypoidalchoroidalvasculopathy.InvestOphthal-molVisSciC58:3488-3495,C201727)SangiovanniCJP,CAgronCE,CMelethCADCetal;Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyCResearchGroup:{omega}C-3CLong-chainCpolyunsaturatedCfattyCacidCintakeCandC12-yCinci-denceCofCneovascularCage-relatedCmacularCdegenerationandcentralgeographicatrophy:AREDSreport30,apro-spectiveCcohortCstudyCfromCtheCAge-RelatedCEyeCDiseaseCStudy.AmJClinNutr90:1601-1607,C200928)Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyCResearchGroup:RiskCfactorsCassociatedCwithCage-relatedCmacularCdegeneration.CACcase-controlCstudyCinCtheCage-relatedCeyeCdiseasestudy:Age-RelatedEyeDiseaseStudyreportnumber3.OphthalmologyC107:2224-2232,C200029)HoggRE,WoodsideJV,GilchristSEetal:CardiovasculardiseaseCandChypertensionCareCstrongCriskCfactorsCforCcho-roidalneovascularization.OphthalmologyC115:1046-1052,C2008C30)FritscheCLG,CFreitag-WolfCS,CBetteckenCTCetal:Age-relatedmaculardegenerationandfunctionalpromoterandcodingCvariantsCofCtheCapolipoproteinCECgene.CHumCMutatC30:1048-1053,C200931)FritscheLG,ChenW,SchuMetal:Sevennewlociasso-ciatedCwithCage-relatedCmacularCdegeneration.CNatCGenetC45:433-439,C201332)ChengCCY,CYamashiroCK,CChenCLJCetal:NewClociCandCcodingvariantsconferriskforage-relatedmaculardegen-erationinEastAsians.NatCommunC6:6063,C201533)KleinCR,CKleinCBE,CTomanyCSCCetal:RelationCofCstatinCuseCtoCtheC5-yearCincidenceCandCprogressionCofCage-relat-edmaculopathy.ArchOphthalmolC121:1151-1155,C200334)McGwinGJr,OwsleyC,CurcioCAetal:TheassociationbetweenCstatinCuseCandCageCrelatedCmaculopathy.CBrJOphthalmolC87:1121-1125,C200335)WilsonCHL,CSchwartzCDM,CBhattCHRCetal:StatinCandCaspirinCtherapyCareCassociatedCwithCdecreasedCratesCofCchoroidalCneovascularizationCamongCpatientsCwithCage-relatedCmacularCdegeneration.CAmCJCO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加齢黄斑変性の遺伝要因アップデート

2019年2月28日 木曜日

加齢黄斑変性の遺伝要因アップデートUpdateonGeneticComponentsAssociatedwithAge-relatedMacularDegeneration秋山雅人*はじめに病気は,喫煙や加齢など環境要因と遺伝的な要因により,そのなりやすさが影響される.加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)もこのように,環境要因と遺伝要因からなる多因子疾患(complexdis-ease)であり,年齢や性別,喫煙が発症リスクに関与することは疫学研究により示されており,遺伝的な要因が病気のなりやすさにかかわることは双子を用いた研究(双生児研究)によって1990年代から示されている1).多因子疾患の遺伝要因をゲノム上から特定する方法として,ゲノムワイド関連解析(genome-wideassocia-tionstudy:GWAS,ジーバスと発音)という手法がおもに用いられる.AMDでは2005年に,この手法が用いられた論文が“Science誌”に報告された2).それから10年以上が経過した現在では,多量の塩基配列を読解可能な次世代シークエンサー(nextgenerationsequencer:NGS)という機器の登場に加えて,GWASの解析手法も進歩しており,たくさんの生物学的新規知見が得られている3).さらには,病気の発症にかかわる遺伝要因だけではなく,AMDの病型や治療への反応性に関与する遺伝要因の検索も試みられるようになってきた(図1)4,5).本稿では,これまでに明らかとなったAMDの遺伝要因ついて概説し,これからのゲノム研究の役割について考察する.Iゲノムワイド関連解析が明らかにした疾患感受性領域とその解釈GWASについて,まず簡単に説明を行う.本手法は,2002年に理化学研究所が世界に先駆けて報告した手法6)であり,手法の開発から15年以上が経過した今でも,多因子疾患のゲノム解析手法として広く一般的に用いられている.方法については図2に示した.GWASは,一塩基多型(singlenucleotidepolymorphism:SNP)(用語解説参照)をマーカーとして,網羅的にゲノムのスクリーニングを行い,疾患だけでなく眼圧や眼軸など量的な形質に関連する領域も同定することが可能である.ここで注意が必要なことは,GWASにより同定が可能なのは,病気のなりやすさにかかわるゲノム領域であり,GWAS単独では発症に寄与する遺伝子を特定することは困難であることである.しかし,後で述べるように,生物学的情報との統合や候補遺伝子のシークエンスによって,発症の原因となる遺伝子を絞り込む手法も開発されてきており,GWASが起点となって原因遺伝子の同定につながっている例も増えてきている.AMDでは,これまでに国際コンソーシアムを中心とした活躍により,おおよそ40の感受性領域が同定されている.本稿の執筆時点で最大規模の研究は,2016年にInternationalAMDGenomicConsortium(IAMDGC)が報告したものであり,約1万6千人を超えるAMD患者と1万8千人程度の対照群を用いて,AMD発症に関*MasatoAkiyama:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕秋山雅人:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(73)203AMD患者対照群AMD発症にかかわるVS遺伝要因AMD患者AMD患者病型や治療反応性VSなどAMD患者間の違いにかかわる遺伝要因図1AMDのゲノム解析ゲノムワイド関連解析では,患者対照群の比較だけではなく,患者間の臨床的な違いにかかわる遺伝要因の同定を目的に,病型や治療反応性などについて検索を行うことも可能である.DNAアレイによるゲノム上のマーカーの遺伝子多型測定(数十万~数百万塩基)全ゲノム配列情報を用いた遺伝的変異の推定(genotypeimputation)ゲノムワイド関連解析(アレル頻度の網羅的な比較)病気のなりやすさや,薬の効きやすさなどに影響する感受性領域の同定図2ゲノムワイド関連解析の手順ゲノムワイド関連解析では,収集したDNAサンプルに対して,アレイを用いて数十万から数百万塩基の遺伝型を網羅的に測定する.測定した遺伝型について品質管理を行ったあとに,全ゲノムシークエンス情報を用いて,測定が行われていない遺伝型をコンピュータにより推定(genotypeimputation)する.これにより,数十万程度の遺伝型から一千万を超える遺伝型を推定し解析に用いることが可能となる.推定で得られた遺伝型を用いて統計学的な検定(関連解析)によるスクリーニングを実施する.このスクリーニングにより,対象とした形質に関する感受性領域を同定することができる.が存在する可能性が高いことを示唆する.同研究では,領域に存在する遺伝子について,網膜での発現やCAMDに関与し得る分子生物学的パスウェイへの関与,GWASで同定されたマーカーの遺伝子の機能的変化など,さまざまな生物学的な知見に基づいて,遺伝子が病態に関与し得る情報を付与しスコア化することにより,よりCAMDの発症に関与する可能性が高いと考えられる遺伝子を抽出している.特記すべきは,生物学的情報から推測されたCAMD候補遺伝子における薬剤の開発状況を提示していること,つまりゲノム解析から得られた情報に基づいて,治療ターゲットとなり得ると考えられた遺伝子群が参照可能である.今後,生物学的な研究にこれらの情報を役立てることにより,ゲノム研究から得られた研究成果に基づいたCAMDの創薬が加速することが期待される.CII次世代シークエンサーにより同定されたまれな遺伝子変異次世代シークエンサーは,一言で説明すると,多量の塩基配列を一度に読解可能な機器である.ヒト疾患研究では,多量に読める長所を生かして,全ゲノムシークエンスや全エクソンを対象としたエクソームシークエンスなどの網羅的なシークエンスが可能であるが,関心のある領域に限定してシークエンスを行うターゲットリシークエンスという方法が存在する.ターゲットリシークエンスでは,次世代シークエンサーの多量に読めるという特性を生かして,数千人から数万人規模でも塩基配列を決定することが可能である.GWASでは網羅的なスクリーニングが可能である一方で,頻度が低い変異については実験的に遺伝型が測定されていなければ,コンピューターでの推定(genotypeimputation)精度の問題により形質との関連を同定することが容易ではなく,GWASの弱点を補完できる手法であるといえる.先ほど説明したCIAMDGCのCGWASC3では,まれな変異も同定されているが,これはここで紹介するターゲットリシークエンスや,全ゲノムシークエンスの結果などを参考にして,AMDに関連しそうな低頻度な変異を直接測定可能な遺伝型測定アレイが開発されたためであり,シークエンスがその基盤となっている.次世代シークエンサーを用いた研究では,低頻度の変異を評価することにより,二つの成果が期待される.一つは患者群と健常者を比較し,どちらかに変異が偏って観察される遺伝子をみつけること(図3)であり,もう一つは,頻度は低いが発症への影響が強い変異をみつけることである.前者については,前述の通りCGWAS単独では,どの遺伝子が原因遺伝子であるかを決定することが困難であるためである.しかし,GWASにより発症への影響が示された領域に存在する候補遺伝子であり,かつ変異を有するものが患者群や健常人に偏っていれば,その遺伝子は発症に寄与する遺伝子である可能性が高いといえる(図3).後者について,AMDでは2011年にCRaychaudhuriらにより,CFH遺伝子に発症リスクをC20倍も高めるようなまれな変異(p.R1210C)が欧米人で報告されている7).この変異の発見は,非常に重要であり,欧米ではCAMD患者に常染色体優性遺伝のような遺伝形式で発症している者が存在することを示すだけでなく,変異を有する症例では,他の患者に加えて発症年齢がC8.6年早いことも明らかになっている.ターゲットリシークエンスを用いた研究として,三つをここで紹介する.二つは,欧米人を対象としたものであり,一つは日本人を対象として筆者らの研究グループが報告したものである.2013年に,Seddonらは,1,676名のCAMD患者群,745名の対照群,36名の同胞について,その時点でCGWASにより同定された領域に存在する遺伝子や,それに関連する生物学的パスウェイにあるC681の遺伝子を対象に,次世代シークエンサーによるスクリーニングを実施した8).この結果,CFIの翻訳領域に変異を有する患者が対照群と比較してC3倍以上多いこと,さらにCC3とCC9これらはいずれも補体系の遺伝子であるが,これまでに関連が知られていない低頻度な変異(C3Cp.K155Q,CC9p.P167S)を報告している.同様に,Zhanらも,57遺伝子について,2,335名のAMD患者群,789名の対照群を対象に次世代シークエンスを実施し,Seddonらが報告したものと同一のCC3の変異(C3p.K155Q)を報告している9).しかし,日本人を含むアジアで頻度が低い変異がCAMD発症のリスクになっているか,この時期には明らかではなかった.2016年に筆者らは,日本人を対象に次世代シークエ(75)あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019C205AMD患者VS対照群AMD発症にかかわる遺伝子の同定遺伝子変異あり遺伝子変異なし図3遺伝子レベルの関連解析GWASでは,一つの塩基が発症に関与するかを網羅的に検討するが,シークエンスデータを用いた解析では,ある特定の遺伝子が疾患などの形質に関与するか検討する手法も開発されている.さまざまな方法が開発されているが,ここではもっとも単純な手法を紹介する.解析の対象とするある遺伝子について,蛋白質の機能に影響すると考えられる遺伝子変異を有している人の割合を患者群と対照群で比較する.機能喪失を起こすCETP遺伝子変異の頻度(%)1.00ナンセンス変異スプライスサイト変異フレームシフト変異0.750.500.250.00AMD患者対照群図4CETP遺伝子に機能喪失を生じる変異CETPの機能喪失を生じることが予想されるナンセンス変異,スプライスサイト変異,フレームシフト変異について,文献10に基づいて図示化した.AMD患者では対照群と比較し,統計学的有意に機能喪失をきたすと考えられる変異を有するものが多く観察された.強い(OR>3)中程度(OR:1.5~3.0)弱い(OR<1.5)まれで影響が強いCFHp.R1210C,C3p.K155Qまれで影響中等度C9p.P167S頻度高く中等度の影響CFH,ARMS2影響が弱いVEGFA,LIPC,TIMP3,APOE,COL4A3,TRPM3MMP9,etc…まれ低頻度高頻度アレル頻度図5これまでに同定されたAMD感受性領域と遺伝子変異本稿で取り上げた遺伝子変異や感受性領域についてアレル頻度と効果の強さに注目して要約した(文献:3,7,9,10.12).アジア人に特有と思われる遺伝子変異を赤で示している.OR:オッズ比.ics),ゲノム薬理学(pharmacogenomics)とよばれ,これまでにさまざまな薬の効き目や副作用に関する論文が報告されている13).AMDにおいても,光線力学療法や抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfac-tor:VEGF)治療の反応性に遺伝要因が関与する可能性を検証した研究がこれまでに報告されている14.16).しかし,過去の報告はおもに研究者が関心のある遺伝子のみを対象とした候補遺伝子アプローチとよばれる方法であり,網羅的に遺伝要因の検索を行った報告は今でも限られている.筆者らは国内のC7施設と共同で,滲出型CAMDに対する抗CVEGF治療の反応性に影響する遺伝要因の同定を目的に,GWASを行い報告している.本研究ではC434名の滲出型CAMDについて,ラニビズマブにてC3カ月治療した後に,視力が改善もしくは維持できているC361名と,視力が低下したC73名の患者について,ゲノム上のC700万程度のマーカーを網羅的に比較した5).再現性の検証と統合解析の結果,抗CVEGF治療反応性に影響する四つのCSNPが示唆(p<1.0C×10.5)されたが,GWASで用いられる有意水準(p<5.0C×10.8)には到達しなかった.しかし,このC4領域に存在する位置的候補遺伝子とCVEGFに関連するパスウェイに属する遺伝子群との関係性について解析したところ,4領域のうちC3領域に存在する遺伝子(KCNMA1,SOCS2,OTX2)が過去にCVEGF関連の遺伝子への影響が報告されていることから,これらの遺伝子が機能的にも治療反応性に影響する可能性が示唆された.また,国内では,Yamashiroらによって,導入期後の滲出性病変の消失と追加治療の有無,治療開始からC12カ月後の視力変化などについて,GWASが実施されているが,同研究においても統計学的に有意に関連する座位はみつからなかった4).薬理遺伝学研究は,同一の治療を受けた患者を収集する必要があるために,大規模な研究を実施することは容易ではない.しかし,筆者は薬剤反応性に関する遺伝学研究の重要性は今後ますます増加すると考えている.近年では,数千円から二万円程度でゲノムの網羅的な遺伝型測定が可能である.1回の抗CVEGF治療に必要な金額を考えてみると,治療方針に影響する有用なマーカーを発見できれば,個人に最適な治療プロトコールの実践が可能となり,注射回数の削減やそれに伴う金銭的負担の軽減,合併症の予防に貢献するであろう.また,GWASのような網羅的なスクリーニングだけではなく,分子標的薬のターゲットとなる遺伝子の変異が治療反応性に影響することもこれまでに報告されており17),分子標的薬の開発が進む今日では,臨床的な要因だけでなく,遺伝学的な要因による治療感受性の違いについても検討を行うことが個人に応じた医療を提供するために必要である.CIVこれからのゲノム研究ゲノム研究の医療への還元とはおもに,1)発症予測に役立てること,2)生物学的な理解を深めることで新規治療法の開発につなげること,であると筆者は考えている.発症予測に関しては,これまでの研究では,統計学的な有意水準を満たすマーカーを用いてその有用性について議論がなされてきた.一方で,ゲノム上に存在する数千を超える非常にたくさんの塩基が弱い効果をもっており,病気の原因や形質の違いの元になるとするポリジェニックモデルという概念が存在する.この概念に基づいて,多因子疾患のリスク予測のブレイクスルーとなり得る報告が“NatureGenetics誌”に報告された.Kheraらは,5つの疾患に対してゲノム全体から数百万までの塩基情報によるC31の疾患予測モデルを構築し,それらの疾患発症予測における有用性を検討した18).本研究で対象としたC5疾患のうち,4疾患でC700万程度の塩基を用いたモデルがもっとも予測精度が高かった.これまでの方法との大きな違いとしては,過去の方法は有意水準を超えた塩基情報のみで予測してきた点である.AMDでは,有意な関連を示している領域がC40程度しかないことを考えると,このようなモデルを適応することで予測能が向上する可能性は十分にあると思われる.AMDでは,CFHやCARMS2など影響が比較的強く,頻度が高いCSNPがみつかっているため,他の多因子疾患と比較して発症予測の有用性が高いことが示唆されてきたが,このような新しい概念も取り入れて,遺伝的な知識が現在の段階でどの程度発症の予測が可能なのかを,そ208あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019(78)■用語解説■一塩基多型:ある集団において,1%以上の頻度で認められる個人間の塩基の違いを一塩基多型(single-nucleotidepolymorphism:SNP)という.

長期経過を考えたポリープ状脈絡膜血管症治療-光線力学療法+抗VEGF薬併用療法

2019年2月28日 木曜日

長期経過を考えたポリープ状脈絡膜血管症治療─光線力学療法+抗VEGF薬併用療法TreatmentStrategyforPolypoidalChoroidalVasculopathytowardObtainingGoodLong-TermPrognosis─Anti-VEGFTherapyCombinedwithPhotodynamicTherapy本田茂*Iポリープ状脈絡膜血管症わが国においてポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)は滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の特殊型として分類されている1).眼底検査で橙赤色隆起病巣あるいはインドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(indo-cyaninegreenangiography:ICGA)で特徴的なポリープ病巣を認めたときに確実例と診断される.2015年になって脈絡膜厚の増加を一義的変化とする網膜後極部の萎縮性あるいは滲出性病変としてpachychoroidspec-trumdisease(PSD)(用語解説参照)という疾患概念が提唱されたが2),PCVは脈絡膜厚の増加や脈絡膜血管の拡張および透過性亢進を伴うケースが多くみられることからPSDの一つともされている.実際にはPCVの中に多くのサブタイプが認められ,ポリープ病巣の性状(集属性や大きさ),異常血管網の大きさ,脈絡膜厚や血管透過性に相当のばらつきがみられることから,PCVはさまざまな病態が混在した一種の症候群とも考えられる.本稿ではPCVのサブタイプについての記述は最小限にとどめる.II光線力学療法眼科における光線力学療法(photodynamictherapy:PDT)においては光感受性物質のベルテポルフィン(ビスダインR)を静脈内投与し,15分後に非発熱性近赤外レーザー光を眼底治療部位に照射する3).作用機序としては,ベルテポルフィンが血中low-densitylipoprotein(LDL)に結合し,脈絡膜新生血管(choroidalneovascu-larization:CNV)の血管内皮細胞に多数発現しているLDLレセプターを介してCNVの内皮細胞に高率に取り込まれる.そこにレーザー光が照射されるとCNV中のベルテポルフィンに光化学反応が起こり,発生した一重項酸素によって傷害された血管内皮細胞に血小板などが付着し,血栓形成によってCNVが閉塞すると考えられている(図1).PDT導入にあたって行われた欧米における大規模臨床試験の結果では,PDTによってAMDによる視力低下を抑制する効果が認められた3).しかしながら,後に登場する抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)療法では視力の改善が得られたことから4),欧米では現在AMD治療にはほとんど用いられなくなった.その一方で,わが国のAMD症例に対するPDTでは視力の維持および改善効果が認められ5),その理由としてとくにアジア人に多いPCVに対する病巣縮小効果が高いことがあげられる.ただ,PCVに対してPDTを単独で施行することは脈絡膜毛細管板および網膜色素上皮細胞(retinalpigmentepithelium:RPE)の萎縮(図2)や術後早期の多量網膜下出血などの合併症による著明な視力低下を15%ほどの確率で生じること6)からは,現在では一般的でないといえる.*ShigeruHonda:大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学〔別刷請求先〕本田茂:〒545-8585大阪市阿倍野区旭町1-4-3大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(61)191光感受性物質(ベルテポルフィン)非発熱レーザー血中LDLと結合新生血管への集積新生血管のLDLレセプター活性酸素血管内皮障害新生血管閉塞血栓形成図1PDTの作用機序5年後図2PCVに対するPDT単独治療経時的変化量ベースラインから12カ月後の変化量(文字)ラニビズマブ0.5mg+vPDT(n=168)非劣性のp値*<0.001,優越性のp値=0.013(片側検定)(文字)1098BCVAのベースラインからの平均変化量(95%信頼区間)76543210123456789101112経過(月)ベースラインラニビズマブ0.5mg+vPDTラニビズマブ0.5mg(n=167)(n=151)図3EVERESTII試験における最高矯正視力(BCVA)スコアの変化量(KohA.etal:JAMAOphthalmol2017)=抗VEGF薬単独療法抗VEGF薬導入療法PDT+抗VEGF薬併用療法図4抗VEGF薬単独療法無効でPDT併用療法が奏効したPCV症例(83歳,男性)図4つづき視力中心領域網膜厚MeanChangeinBCVA(ETDRSLetterScore)-2200-20-40-60-80-100-120-1401216243240485212162432404852WeekWeek図5PLANET試験においてPDTを行った症例群のサブ解析(LeeWK.etal:JAMAOphthalmol2018)図6PCVに対するPDT+抗VEGF薬併用療法12カ月後視力1010.10.010.010.1110治療前視力0.010.1110治療前視力図7PDT単独とPDT+抗VEGF薬併用療法の視力変化分布(Hondaetal:Ophthalmologica,2009)PDT+抗VEGF薬併用療法24カ月間再発なし図8大きな漿液性色素上皮.離を伴うPCV症例(72歳,男性)PDT+抗VEGF薬併用療法図9Pachychoroidを伴うPCV(61歳,男性)■用語解説■Pachychoroidspectrumdisease(PSD):脈絡膜厚の増加(pachychoroid)を一義的変化とする眼底後極部の病変群のこと.脈絡膜血管の拡張や透過性亢進を伴うことが多い一方,ドルーゼンを伴わないことが多い.Pachychoroidに色素上皮異常のみ伴うものをpachychoroidCpigmentCepitheliopathy(PPE),脈絡膜血管新生を伴うものをCpachychoroidCneovasculopa-thy(PNV),ポリープ病巣を伴うものをポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalCchoroidalvasculopathy:PCV)とするほか,中心性漿液性脈絡網膜症(centralserouschorioretinopathy:CSC)を同じカテゴリーの疾患として扱う概念である.—

長期経過を考えたポリープ状脈絡膜血管症治療-抗VEGF薬単独療法

2019年2月28日 木曜日

長期経過を考えたポリープ状脈絡膜血管症治療─抗VEGF薬単独療法Long-TermManagementofPolypoidalChoroidalVasculopathy─Anti-VEGFAgentMonotherapy玉城環*古泉英貴**はじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegenera-tion:AMD)の治療として,抗血管内皮増殖因子(vas-cularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬が認可されてから約10年が過ぎた.その恩恵を受け,治療目標は視力維持から視力改善をめざす時代となり,現在の滲出型AMD治療において抗VEGF薬療法がゴールドスタンダードとなったことに疑念の余地はない.一方,改善した視力を維持するために,多くの症例で抗VEGF薬の頻回投与や長期の治療継続が必要なことも明らかとなり,また長期管理に伴う問題として,副作用や医療経済への影響などの問題が浮き彫りになってきた.従来,滲出型AMDの治療では,病態に応じた症例ごとの個別化管理の重要性が謳われてきたが,本稿ではポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopa-thy:PCV)にフォーカスを絞り,そのなかでも抗VEGF薬単独療法の長期治療管理について述べる.Iポリープ状脈絡膜血管症(PCV)PCVはYannuzziらによって提唱された概念であり1),その後アジア人に多く2),インドシアニングリーン蛍光眼底造影(indocyaninegreenangiography:IA)が診断に有用であることも報告された3).わが国でのhospi-dal-basedの研究において,滲出型AMD患者の54.7%がPCVであったとの報告もある4).PCVは検眼鏡的には橙赤色隆起病巣,IAで異常血管網とその先端の拡張したポリープ状病巣を特徴とする.PCVに対しては光線力学的療法(photodynamicthera-py:PDT)で高いポリープ状病巣の閉塞効果が示されていることもあり5),わが国での治療ガイドラインでも中心窩下に病変を有するPCVでは,視力(0.5)以下では抗VEGF薬とPDTの併用療法,視力(0.6)以上では抗VEGF薬単独療法も考慮する,とされている6).近年は抗VEGF薬単独療法でも良好な治療経過が得られるという報告も相次いでおり,実臨床では以前と比較して抗VEGF薬の位置づけが大きくなっていると考えられる.II抗VEGF薬の投与方法抗VEGF薬療法は,毎月1回,もっとも標準的には3カ月連続の投与を行う「導入期」と,その後の「維持期」からなる.維持期の投与方法は,以下の3パターンが代表的である(図1).①PRN(prorenata)法:受診時の解剖学的変化(網膜下液・網膜浮腫・出血など)と視力などに基づき,必要時にのみ追加投与を行う.②固定投与法:通院間隔を一定の間隔に決めて投与を継続する.③TAE(treatandextend)法:受診時に投与を継続しながら,個々の病態に応じて通院と投与間隔の調整を行う.*TamakiTamashiro:豊見城中央病院眼科,琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座**HidekiKoizumi:琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座〔別刷請求先〕古泉英貴:〒903-0125沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(51)181固定投与法毎月投与8週ごと投与病態によらず投与PRN法病態悪化時に投与TAE法病態安定時は延長病態悪化時は短縮Modi.edTAE法初回のみPRN法治療間隔を計りTAE法受診注射どちらでも病態安定病態悪化図1抗VEGF薬療法維持期の投与方法治療前(0.6)×33カ月後(0.7)×41年後4年3カ月後(1.0)×3(1.0)×32年後4年6カ月後(1.0)(1.0)×45年6カ月後:モニタリング(1.0)緑字:ラニビズマブ注射回数赤字:アフリベルセプト注射回数図2ポリープ状脈絡膜血管症に対してtreatandextend法で治療した症例76歳,男性.治療前視力はC0.6.中心窩下にポリープ状病巣と出血性CPEDを認め,ラニビズマブを用いて治療を開始した.導入期終了後,滲出はCdryになったため,2週間ごとのCtreatandextend(TAE)法で治療を継続した.視力はC1.0まで改善し,12週間隔の連続C4回投与で病態が安定していたため,84週間後に治療を中断しモニタリングへ移行した.その後C2年C6カ月は安定し視力も維持できていたが,PEDが増大したため(),再燃と考えラニビズマブによる治療を再開した.しかし,むしろ漿液性網膜.離が出現し消退しなかったため,アフリベルセプトへ変更(switch)したところCdryの状態となり,現在はそれを維持しながら再度CTAE法で管理している.=初診時(0.7)1カ月後(1.0)2カ月後(1.0)3カ月後(1.0)3年後(1.0):モニタリング図3Modi.edTAE法で過剰投与せずにすんだ症例77歳,男性.治療前視力はC0.7.中心窩下にポリープ状病巣と漿液性網膜.離,網膜内浮腫を認め,アフリベルセプトで治療を開始した.初回投与からC1カ月後,漿液性網膜.離と浮腫は完全に消失し,視力もC1.0へ速やかに改善した.病変サイズが小さかったため導入期終了後はCmodi.edTAE法を選択したが,再燃せず経過良好であった.徐々に通院間隔を延長し,現在はC3カ月ごとの通院で約C3年追加投与をせずに視力も良好に維持できている.標準的なCTAE法ならば,順調に経過し中止基準を満たすまで9.10回投与しなければならないところを,導入期のみC3回の投与ですんだ症例である.現在までのエビデンスに基づけば,ラニビズマブを用いたCPCV治療に対しては,単独療法よりもCPDT併用療法が有利かもしれない.C3.アフリベルセプト(アイリーアR)2012年に認可されてから,PCVに対するアフリベルセプト単独療法も多く行われており,ラニビズマブ同様に滲出性変化を減少させ,視力改善に有効なだけでなく,ポリープ状病巣の退縮率も他の抗CVEGF薬と比較しても高率であるとされる18).APOLLO試験では,導入期C3回と,維持期はC2カ月ごとにアフリベルセプト固定投与を行い,97.6%の症例でC1年後に視力改善・維持が得られ,ポリープの完全退縮率はC72.5%,drymacula達成率もC78.1%と非常に良好な結果であった19).最近,アフリベルセプトで導入期治療後,PDTをレスキュー治療として併用したCPLANET試験のC1年結果が報告された20).視力改善の程度に関しては,レスキューCPDT併用群に対しアフリベルセプト単独群は非劣勢であり,またC85%以上の症例でCPDTレスキュー治療を必要としないばかりか,レスキューCPDTに視力改善の付加的効果がないことも示された.これらの結果からも,アフリベルセプトに関しては単独療法でもCPCVに対する治療選択として有用なオプションであるといえる.CIV長期治療管理の諸問題1.安全性眼局所では,注射C1回あたりC0.02%の眼内炎発症率が報告されている.ほかにも硝子体出血や網膜.離,緑内障など視機能の予後に影響しうる有害事象も報告されているため,留意しながら診療にあたらなければならない.全身性の有害事象として動脈血栓塞栓症が重要であるが,シャム群と注射群とを比較しても有害事象の発生率に有意差はつかない結果であった21).ただし,AMD患者は高齢者がほとんどであり,既往歴や治療後の症状などに十分留意する必要がある.2.治療抵抗性ラニビズマブ単独療法で導入期に滲出が消失しなかった“導入期ノンレスポンダー”症例は,網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium:RPE)下に脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)がある,いわゆるC1型CCNVでC19.7%,PCVでC10.7%の割合で認めたと報告されている22).PCVの臨床像でみると,大きなポリープ状病巣,1乳頭径面積以上の網膜色素上皮.離(pigmentCepithelialdetachment:PED),IAでの脈絡膜血管透過性亢進(choroidalCvascularChyperperme-ability:CVH)などが抗CVEGF薬の治療抵抗因子であることも報告されている23.27)(図4).導入期でCdrymaculaを得られたものの,その後の維持期において再発し,治療経過とともに効果が減弱していき“耐性(タキフィラキシー,トレランス)”を獲得する症例もある.その場合,①他の薬剤に変更する,②休薬期間を設ける,③CPDT併用療法を検討するなどの対応が必要である.これらの対応をしても治療に難渋する場合には,僚眼の視力や患者背景などを考慮したうえで,消極的な治療中断を選択せざるを得ない場合もある8).C3.RPE萎縮と瘢痕病巣視力予後の重要な規定因子とされるCRPE萎縮は,CATT試験のC2年経過においてC18.3%に新規発症を認め,毎月投与とCPRNでは,毎月投与で発症リスクが高いと報告された28).ただし,抗CVEGF薬自体がCRPE萎縮を引き起こすかどうかについての結論は出ていない29,30).RPE萎縮の他の危険因子として,治療前視力がC0.1未満・高齢・大きな病変サイズ・網膜内液の存在・網膜下高反射病巣(subretinalChyperre.ectivematerial:SHRM)の存在・患眼や僚眼におけるCRPE萎縮の存在などもいわれている.病型では,脈絡膜の薄い網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)や,RPEより上にCCNVがある,いわゆるC2型CCNVのほうが萎縮を起こしやすい28,31,32).SHRMは,光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomog-raphy:OCT)画像で感覚網膜とCRPEの間に確認でき(55)あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019C185初診時(0.7)3カ月後(0.7)5カ月後(0.7)8カ月後(0.7)11カ月後(0.7)70歳,男性.一見すると中心性漿液性脈絡網膜症を疑う画像所見だが,IAでポリープ状病巣を認めたため,PCVと診断してアフリベルセプトで治療開始した.導入期終了後,わずかに漿液性網膜.離が改善したかどうか,という程度でアフリベルセプトの効果が乏しく,OCTで脈絡膜大血管の拡張(),IA後期で脈絡膜血管透過性亢進所見()を認めた.視力および所見が安定しているため,現在C3カ月ごとでアフリベルセプト投与中だが,今後視力低下や滲出性変化の増悪を認めるようなら,PDT併用を検討する方針である.図4脈絡膜血管透過性亢進のあるPCV初診時(0.3)初診から1カ月後治療開始時(0.2)12週後(0.2)16週後(0.2)28週後(0.2)50週後(0.2)62週後(0.15)78週後(0.15)中止図5治療介入が遅れ瘢痕病巣のために視力不良となり治療中断した症例86歳,男性.初診時視力C0.3.諸事情により治療開始がC1カ月遅れ,治療開始時には初診時と比べ,ポリープ状病巣と網膜下出血の顕著な増大を認めた.アフリベルセプトで治療を開始するも,導入期終了後もCSHRM(矢印間)は残存し,TAE法で順調に投与間隔を延長できたが,これ以上の視力改善が見込めないために治療中断を希望された.exudativeCage-relatedCmacularCdegenerationCinCJapaneseCpatients.AmJOphthalmolC144:15-22,C20075)KohCA,CLeeCWK,CChenCLJCetal;EVERESTSTUDY:CE.cacyCandCsafetyCofCvertepor.nCphotodynamicCtherapyCinCcombinationCwithCranibizumabCorCaloneCversusCranibi-zumabCmonotherapyCinCpatientsCwithCsymptomaticCmacu-larCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.CRetinaC32:1453-1464,C20126)TakahashiCK,COguraCY,CIshibashiCTCetal:TreatmentCguidelinesCforCage-relatedCmacularCdegeneration.CNipponCGankaGakkaizasshiC116:1150-1155,C20127)RofaghaS,BhisitkulRB,BoyerDSetal:Seven-yearout-comesCinCranibizumab-treatedCpatientsCinCANCHOR,CMARINA,CandHORIZON:aCmulticenterCcohortCstudy(SEVEN-UP).OphthalmologyC120:2292-2299,C20138)FreundCKB,CKorobelnikCJF,CDevenyiCRCetal:Treat-and-extendCregimensCwithCanti-vegfCagentsCinCretinalCdiseas-es:aCliteratureCreviewCandCconsensusCrecommendations.CRetinaC35:1489-1506,C20159)ArendtP,YuS,MunkMRetal:Exitstrategyinatreat-and-extendCregimenCforCexudativeCage-relatedCmacularCdegeneration.RetinaC39:27-33,C201910)OhnakaCM,CNagaiCY,CShoCKCetal:ACmodi.edCtreat-and-extendregimenofa.iberceptfortreatment-naivepatientsCwithneovascularage-relatedmaculardegeneration.Grae-fesArchClinCExpOphthalmolC255:657-664,C201711)ShiragamiC,OnoA,KobayashiMetal:E.ectofswitch-ingCtherapyCtoCpegaptanibCinCeyesCwithCtheCpersistentCcasesCofCexudativeCage-relatedCmacularCdegeneration.Medicine(Baltimore)C93:e116,C201412)HikichiCT,CHiguchiCM,CMatsushitaCTCetal:One-yearCresultsCofCthreeCmonthlyCranibizumabCinjectionsCandCas-neededCreinjectionsCforCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCinCJapaneseCpatients.CAmCJCOphthalmolC154:117-124,Ce111,C201213)OishiCA,CKojimaCH,CMandaiCMCetal:ComparisonCofCtheCe.ectCofCranibizumabCandCvertepor.nCforCpolypoidalCcho-roidalvasculopathy:12-monthCLAPTOPCstudyCresults.CAmJOphthalmolC156:644-651,Ce641,C201314)OishiA,MiyamotoN,MandaiMetal;LAPTOPstudy:CAC24-monthCtrialCofCvertepor.nCversusCranibizumabCforCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.COphthalmologyC121:C1151-1152,C201415)MiyamotoN,MandaiM,OishiAetal:Long-termresultsofCphotodynamicCtherapyCorCranibizumabCforCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCinCLAPTOPCstudy.CBrCJCOphthal-mol2018〔Epubaheadofprint〕16)KohCA,CLeeCWK,CChenCLJCetal;EVERESTstudy:CE.cacyCandCsafetyCofCvertepor.nCphotodynamicCtherapyCinCcombinationCwithCranibizumabCorCaloneCversusCranibi-zumabCmonotherapyCinCpatientsCwithCsymptomaticCmacu-larCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.CRetinaC32:1453-1464,C2012C17)KohCA,CLaiCTYY,CTakahashiCKCetal:E.cacyCandCsafetyCofranibizumabwithorwithoutvertepor.nphotodynamictherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy:Arandom-izedCclinicalCtrial.CJAMACOphthalmolC135:1206-1213,C201718)YamamotoA,OkadaAA,KanoMetal:One-yearresultsofCintravitrealCa.iberceptCforCpolypoidalCchoroidalCvascu-lopathy.OphthalmologyC122:1866-1872,C201519)OshimaCY,CKimotoCK,CYoshidaCNCetal:One-yearCout-comesfollowingintravitreala.iberceptforpolypoidalcho-roidalCvasculopathyCinCJapanesepatients:TheCAPOLLOCStudy.OphthalmologicaC238:163-171,C201720)LeeCWK,CIidaCT,COguraCYCetal:E.cacyCandCsafetyCofCintravitrealCa.iberceptCforCpolypoidalCchoroidalCvasculopa-thyCinCtheCPLANETstudy:aCrandomizedCclinicalCtrial.CJAMAOphthalmol136:786-793,C201821)KitchensCJW,CDoCDV,CBoyerCDSCetal:ComprehensiveCreviewofocularandsystemicsafetyeventswithintravit-realCa.iberceptCinjectionCinCrandomizedCcontrolledCtrials.COphthalmologyC123:1511-1520,C201622)OtsujiT,NagaiY,ShoKetal:Initialnon-responderstoranibizumabCinCtheCtreatmentCofCage-relatedCmaculardegeneration(AMD)C.CClinCOphthalmolC7:1487-1490,C201323)KoizumiCH,CYamagishiCT,CYamazakiCTCetal:PredictiveCfactorsCofCresolvedCretinalC.uidCafterCintravitrealCranibi-zumabCforCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.CBrCJCOph-thalmolC95:1555-1559,C201124)KoizumiCH,CYamagishiCT,CYamazakiCTCetal:RelationshipCbetweenCclinicalCcharacteristicsCofCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCandCchoroidalCvascularChyperpermeability.CAmJOphthalmolC155:305-313,Ce301,C201325)ChoCHJ,CKimCHS,CJangCYSCetal:E.ectsCofCchoroidalCvas-cularChyperpermeabilityConCanti-vascularCendothelialCgrowthfactortreatmentforpolypoidalchoroidalvasculop-athy.AmJOphthalmolC156:1192-1200,Ce1191,C201326)NagaiCN,CSuzukiCM,CUchidaCACetal:Non-responsivenessCtoCintravitrealCa.iberceptCtreatmentCinCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration:implicationsCofCserousCpig-mentepithelialdetachment.SciRepC6:29619,C201627)HaraC,WakabayashiT,ToyamaHetal:Characteristicsofpatientswithneovascularage-relatedmaculardegener-ationCwhoCareCnon-respondersCtoCintravitrealCa.ibercept.BrJOphthalmol2018〔Epubaheadofprint〕28)GrunwaldJE,DanielE,HuangJetal:RiskofgeographicatrophyCinCtheCcomparisonCofCage-relatedCmacularCdegen-erationCtreatmentsCtrials.COphthalmologyC121:150-161,C201429)GrunwaldCJE,CPistilliCM,CYingCGSCetal:ComparisonCofCage-relatedCmacularCdegenerationCtreatmentsCtrialsresearchG:growthofgeographicatrophyinthecompari-sonofage-relatedmaculardegenerationtreatmentstrials.OphthalmologyC122:809-816,C2015188あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019(58)–

長期経過を考えた網膜内血管腫状増殖治療

2019年2月28日 木曜日

長期経過を考えた網膜内血管腫状増殖治療TreatmentStrategyforRetinalAngiomatousProliferationtoImproveLong-TermVisualPrognosis松本英孝*I網膜内血管腫状増殖(RAP)とは1992年にHartnettらは,網膜内新生血管を伴う加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)を初めて報告した1).そして,1996年にこの網膜内新生血管を“deepretinalvascularanomalouscomplex”と名付けた2).さらに,2001年にはYannuzziらによって,AMDの特殊型である網膜内血管腫状増殖(retinalangi-omatousproliferation:RAP)として分類された3).彼らは,RAPの起源は網膜内新生血管であると報告し,進行過程により3ステージに分類した(Stage1:網膜毛細血管からの網膜内新生血管発生,Stage2:新生血管の網膜下への進展と網膜色素上皮.離の発生,Stage3:脈絡膜新生血管の発生).しかし,この報告とは対照的に,2003年にGassらはRAPの起源はGass分類(用語解説参照)type1脈絡膜新生血管であると報告した4).2008年にFreundとYannuzziらは,彼らのオリジナル分類を改定し,RAPの新生血管は網膜からだけでなく脈絡膜からも発生しうるとして,これをtype3新生血管と名付けた5,6).RAPにおける新生血管の起源については,現在も議論の余地はあるものの,近年の病理組織学的研究において網膜内新生血管は確認されているが,脈絡膜新生血管の存在は証明されていない7,8).RAPは日本人の滲出型AMDの4.5%を占めると報告されており9),多発性軟性ドルーゼンを伴う高齢者の黄斑部に発生する.また,両眼発生率が非常に高く10),急速進行性で予後不良な疾患とされている.さらに,reticularpseudodrusen(用語解説参照)や黄斑萎縮の合併率が高いことや11),脈絡膜循環障害,脈絡膜菲薄化がみられることも報告されている12,13).IIRAP治療の変遷RAPに対しては,レーザー光凝固,経瞳孔温熱療法,硝子体手術による栄養血管切断,光線力学的療法(pho-todynamictherapy:PDT),トリアムシノロン硝子体注射または後部Tenon.下注射,そして,これらの併用療法が試みられてきた.しかし,抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬の登場により,他の滲出型AMDサブタイプと同様にRAPの治療成績は大きく改善した14).視力改善が得られ,それを維持できるようになったのである.高齢者ではBruch膜の肥厚と脈絡毛細管板の萎縮が確認されている15).生理的な状態では,網膜色素上皮から脈絡毛細管板に向かってVEGFが分泌され,脈絡毛細管板の透過性が制御されている16).しかし,高齢者では,色素上皮からのVEGFが加齢によって肥厚したBruch膜によってブロックされるため,脈絡毛細管板の萎縮が起こると考えられている17).RAPでは,前房水中のVEGF濃度が,他のAMDサブタイプと比較し有意に高値であると報告されている18).RAP眼では,肥厚したBruch膜でブロックされた色素上皮からのVEGFによって網膜外層から前房にかけてVEGF濃度*HidetakaMatsumoto:群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学〔別刷請求先〕松本英孝:〒371-8511群馬県前橋市昭和町3-39-15群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(43)173が上昇しているのかもしれない.前述したように,RAPでは多発性軟性ドルーゼンの合併が多くみられ,これはCBruch膜の肥厚が進行していることを支持する所見である.これらのことから,RAPに対する抗VEGF薬硝子体注射は,理にかなった治療といえる.CIII抗VEGF薬の投与レジメン滲出型CAMDに対するラニビズマブ硝子体注射の大規模臨床試験であるCMARINA,ANCHORstudyで,毎月C1回のラニビズマブ硝子体注射は視力の改善,維持に有効であることが示された19,20).しかし,この方法では患者の負担が大きく,これを軽減させる目的でCPIER,CPrONTOstudyが行われた21,22).PIERstudyでは,最初のC3回は毎月ラニビズマブ硝子体注射を行うが,その後はC3カ月ごとに追加を行うという方法をとった.しかし,1年後の視力は治療前とほぼ同等となってしまい,視力改善は得られなかった.一方,PrONTOstudyでは,最初のC3回は毎月ラニビズマブ硝子体注射を行うが,その後は視力,眼底所見,OCT所見から病変の活動性を毎月評価し,必要な場合のみ追加投与を行うという方法をとった.そして,ラニビズマブの投与回数を減らしてもCMARINA,ANCHORstudyと同様に改善した視力を維持できることが証明された.しかし,この方法では依然として毎月の受診が必要であり,患者の負担を十分に軽減できるようになったとはいえない.このため,近年,treatandextend(TAE)という方法が主流になってきている14).この方法では,導入期に月C1回の抗CVEGF薬硝子体注射をC3回施行し,その後の維持期は受診時に毎回追加治療を行うが,受診間隔をC2.4週ずつ延長していき,最長C12.16週間隔で治療を行う.再燃がみられた場合には,受診間隔をC2.4週短縮することによって,最適な治療間隔を見きわめる.Freundらのグループはこの方法でCRAPを治療し,改善した視力をC3年間維持できたと報告している14).RAPで良好な視力を維持するためには,発病早期に治療を開始することが重要である23).病期が進行してからでは,たとえ病変が鎮静化しても視力回復は困難である.このため,両眼発生率が高い疾患であるCRAPでは,僚眼も注意深く診察する必要がある.そして,網膜内出血や網膜浮腫がみられた際には,可及的速やかに抗VEGF薬硝子体注射を施行することが望ましい.抗VEGF薬硝子体注射によるCTAEで治療を行う場合には,投与間隔を延長できたとしても,僚眼のCRAP発生に注意して診察間隔はあまり延長しないほうが無難である24).CIVRAPと黄斑萎縮滲出型CAMDの治療においては,undertreatmentとならないよう,できる限り滲出を抑えることが重要である.Undertreatmentになると黄斑萎縮を形成し,中心窩に黄斑萎縮が及んだ場合,重度の視力低下をきたすためである25).一方で,RAPに関しては,発症時すでに黄斑萎縮の合併が多く,抗CVEGF薬硝子体注射やCPDT後に黄斑萎縮が拡大することが報告されている26.28).つまり,RAPで長期に視力を維持するためには,undertreatmentを防ぐことはもちろんだが,overtreat-mentにならないための配慮も必要である.滲出型CAMDに対するラニビズマブ硝子体注射によるTAEの前向き研究では,治療中の黄斑萎縮発生のリスクファクターとして治療前の薄い脈絡膜厚があげられている29).滲出型CAMDに対するアフリベルセプトを用いたCTAEの効果を評価した筆者らの研究でも,RAPは他の病型より脈絡膜が薄く,黄斑萎縮の拡大が速いことが確認されている28)(図1~3).抗CVEGF薬硝子体注射やCPDT後には,脈絡毛細血管板や脈絡膜血管の閉塞が起こることが知られており30,31),もともと脈絡膜が菲薄化しているCRAPでは,これらの治療によってさらに脈絡膜循環が減少することになる.そして,この脈絡膜循環の減少によって,黄斑萎縮とそれに伴う視力低下が起こる可能性が高い.これらのことから,RAPにおいて長期的に視力を改善,維持させるためには,治療に伴う脈絡膜循環の減少を最小限に抑えることが肝要といえる.RAP治療におけるラニビズマブとアフリベルセプト硝子体注射の効果を前向きに比較した研究はまだないが,各薬剤の脈絡膜への影響を十分考慮して治療を行う必要がある.Julienらは,ラニビズマブまたはアフリベルセプト硝子体注射後の脈絡毛細管板の変化をサル眼球174あたらしい眼科Vol.36,No.2,2019(44)図1網膜内血管腫状増殖(RAP)stage1,79歳,女性,左眼視力(1.0)a:眼底写真.中心窩耳側に網膜内出血,黄斑部に軟性ドルーゼンの集簇,アーケード血管の上方を中心にCreticularpseudodrusenがみられる.Cb:眼底自発蛍光.中心窩耳側に網膜内出血による蛍光遮断,視神経乳頭の耳側と中心窩上方に色素上皮萎縮を反映する低蛍光領域がみられる.Cc:光干渉断層計.中心窩耳側の.胞様黄斑浮腫と脈絡膜の菲薄化がみられる.視神経乳頭近傍では高度に脈絡膜が菲薄化し,色素上皮から外顆粒層までが消失している.Cd:フルオレセイン蛍光造影.中心窩耳側に網膜内出血による蛍光遮断と網膜内新生血管から網膜内への蛍光漏出がみられる.また,色素上皮萎縮の領域にCwindowCdefectがみられる.Ce:インドシアニングリーン蛍光造影.網膜内新生血管を反映するChotspotがみられ,網膜血管との吻合(retinal-retinalanastomosis)が確認できる.図2図1の3カ月後,アフリベルセプト硝子体注射3回後,左眼視力(1.2)a:眼底写真.網膜内出血はほぼ消退している.Cb:眼底自発蛍光.網膜内出血による蛍光遮断はほとんどなくなっている.網膜色素上皮萎縮を反映する低蛍光領域に変化はみられない.Cc:光干渉断層計..胞様黄斑浮腫は消退している.その他の所見に変化はみられない.Cd:フルオレセイン蛍光造影.網膜内出血による蛍光遮断はほとんどなくなり,網膜内新生血管から網膜内への蛍光漏出も消退している.Windowdefectの領域に変化はない.Ce:インドシアニングリーン蛍光造影.網膜内新生血管を反映するChotspotは消失している.図3アフリベルセプト硝子体注射による治療経過a:1年後,アフリベルセプト硝子体注射C8回後,左眼視力(1.0).Cb:2年後,アフリベルセプト硝子体注射C14回後,左眼視力(0.9).Cc:3年後,アフリベルセプト硝子体注射C21回後,左眼視力(0.6).Cd:4年後,アフリベルセプト硝子体注射C27回後,左眼視力(0.07).眼底写真・眼底自発蛍光:眼底写真ではC4年間で大きな変化はみられないが,眼底自発蛍光では顕著な色素上皮萎縮の拡大がみられる.光干渉断層計:脈絡膜の菲薄化が進行し,色素上皮と外顆粒層の消失範囲が中心窩方向へ拡大している.網膜前膜の形成も確認される.滲出性変化はコントロールされていたが,色素上皮萎縮が徐々に拡大して中心窩に達し,治療開始からC4年後には高度の視力障害をきたしている.-■用語解説■脈絡膜新生血管の組織学的分類(Gass分類):組織学的な位置による脈絡膜新生血管の分類.網膜色素上皮下の脈絡膜新生血管をCtype1,網膜色素上皮上の脈絡膜新生血管をCtype2と分類する.CReticularpseudodrusen:1990年にCMimounらによってCmaculardrusenとして初めて報告されたドルーゼンの一種.2010年のCZweifelらの光干渉断層計による研究で,網膜色素上皮下ではなく網膜下に存在することが明らかとなった.また,滲出型,萎縮型加齢黄斑変性のリスクファクターであることや網膜感度低下の原因になることがわかっている.CReduced.uencePDT:照射するレーザーのエネルギーを減らして行う光線力学的療法.照射エネルギーを50%に設定することが多い.C’C-

長期予後を考えた加齢黄斑変性治療-典型加齢黄斑変性

2019年2月28日 木曜日

長期予後を考えた加齢黄斑変性治療─典型加齢黄斑変性ExudativeAge-relatedMacularDegenerationTreatmentConsideredinTermsofLong-TermOutcome─TypicalAge-relatedMacularDegeneration山本亜希子*はじめに典型加齢黄斑変性(typicalage-relatedmaculardegeneration:AMD)の治療方針については2012年に厚生労働省網膜脈絡膜・視神経萎縮症調査研究班が示しているように抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬での治療が中心となっている1).ここでは,長期予後をふまえた抗VEGF薬を用いた治療の進め方および考え方を述べる.治療を開始する際に必ず意識しておくべきことは,AMDが慢性疾患であるということである.長期予後を考えるうえで筆者が大切にしていることは患者のQOL(qualityoflife)を維持することであり,それには視力維持が不可欠と考えている.治療を止めるということを目標にするのではなく,いかに視力を維持することができるかに目標をおいて治療方針を計画することが望ましい.I治療方針の立て方―reactive治療かproactive治療か視力維持を考えるにあたり,もっとも大切なことは再発を起こさないことである.AMDに対し抗VEGF薬の使用が始まった当初は,導入期3回投与後,毎月診察をし,再発がみられてから治療するPRN(prorenata)(用語解説参照)という方針が多く用いられていた.ただし,この方針では悪化してからの対処となるため,場合によっては不可逆的な視力低下をきたすことがあった.SEVEN-UPstudy2)ではラニビズマブを毎月投与後,視力改善が得られていたのちにPRNの方針に変更したところ,視力が低下したと報告されている(図1).そこで最近では,再発が起こる前に計画的に治療をするproactive治療(用語解説参照)を採用している施設が増えている.Proactive治療には固定投与とtreatandextend(TAE)(用語解説参照)という方法がある.固定投与は8週ごとなど決められた間隔で治療を続けていく方針である.固定投与では治療計画を立てやすいというメリットはあるが,悪化した場合には治療不足となり,また場合によって治療過多となることもあるため,個別化治療にはならない.一方,TAEは患者の状態に合わせて投与間隔を調整するため,治療過多・不足を最小限にすることができる.TAEの問題点は,PRNに比べ治療回数が多くなることである.また,患者や担当医の都合により計画した通りに行うことがむずかしい場合もあり,患者の経過や僚眼の状況をふまえながら調整をしていくことが求められる.表1にreactive治療(用語解説参照)とproactive治療の利点・問題点をまとめた.患者の背景,病状に合わせ求められる治療を提供していくことが望ましい.IITreatandextendの進め方次にTAEについてさらに詳しく述べる.まずどのような治療方針についても大切なポイントは,滲出がなくなるまで毎月の投与を継続することである.網膜色素上*AkikoYamamoto:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕山本亜希子:〒181-8611東京都三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(37)167ETDRSLettersreactive治療proactive治療proactive治療(PRN)(固定投与)(TAE)・治療回数を減らすことが・治療計画が立てやすい・個別化治療が可能利点できる・通院回数を減らすことが可能・再発後の治療のため視力・治療不足・過多が起きや・治療回数が多くなること問題点低下のリスクあり・厳密な再投与基準が必要すい・悪化した場合,治療計画が多い・通院回数が多いの変更が必要延長期間12~16週までDry&Wetの判断基準Dry:OCTで網膜内・網膜下に滲抗VEGF薬投与出性変化がない.PEDは丈がもっとも低くなるまで,出血は消失するまでWet:OCTで滲出性変化が存在,新たな網膜出血,PDEの拡大図2杏林アイセンターにおけるTAEの方針Dryになるまで毎月投与し,その後,投与間隔をC6週間に延長する.同じ投与間隔でC2回drymaculaを確認したあとにC2週間ずつ延長する.W:週MeanVisualChange(numberoflines)VisualChangefromBaseline1.81.61.41.210.80.60.40.20Month061218243036424854606672Visualchange(lines)─1.0020.8731.2451.1491.0291.0610.9270.8960.9770.7820.8771.626Visualchange─-0.1002-0.0873-0.1245-0.1149-0.1029-0.1061-0.09270.0896-0.0977-0.07820.0877-0.1626(logMAR)n(eyes)2102102101881741441281088868544027図3滲出型AMDに対しベバシズマブ・ラニビズマブ・アフリベルセプトのいずれかを用いたTAEの継続期間が延長するにつれ経過観察できた症例数は減少しているが,視力が維持されていることがわかる.(文献C5より転載)表2TAE(T&E)とPRNの比較(既報のレビューより)T&ERegimenCPRNRegimenPRNRegimen(RCT)Difference(Mann-Whitney’stest)CPRN/PRNRCTCWeightedmean/mean9.17/10.4C3.5/5.4C5.1/5.8Cp=0.0006/0.0051Signi.cantCETDRSlettersgained(SD=3.8,Cl7.4to13)(SD=4.5,CClC4.28Cto6.43)(SD=2.7,Cl4.4to7.2)CWeightedmean/mean8.34/8.09C5.3/5.6C6.6/6.5Cinjectionsin1year(SD=0.66,CClC7.6Cto8.6)(SD=0.99,CClC5.32Cto5.79)(SD=0.88,CClC6.0Cto6.9)Cp=0.0001/0.0002Signi.cantCWeightedmean/mean85.71/87.7C99.2/100.32C122.2/110CchangeinCRT(SD=27.67,CClC64.58Cto110.8)(SD=40.69,CClC89.1Cto111.54)(SD=32,Cl90to120)Cp=0.41/0.1784NotSigni.cantCDatafortheRCTemployinganasneededregimenareincludedinaseparatecolumm.CThesigni.cancelevelwassetatp<0.05.CRT,centralretinalthickness;RCT,randomisedclinicaltrial;PRN,prorenata,T&E,treatandextend.TAE(T&E)とCPRNを比較し,TAEのほうが有意に視力改善していると報告されている.(文献C6より転載)表3治療方針別費用対効果の比較TreatmentCIAI2Cmgevery8weeks(afterthreeinitialmonthlyinjections)CRanibizumab0.5Cmgevery4weeksCRanibizumabasneededCPegaptanibsodium0.3Cmgevery6weeksCPDTwithvertepor.nCBestsupportivecareCTotalcosts(JPY)C4,807,230C5,983,667C5,219,596C6,252,842C5,583,394C6,464,544TreatmentcostsC1,768,170C2,858,245C2,121,804C2,147,336C1,166,231C0MonitoringcostsC69,228C92,892C92,892C71,282C60,197C38,316AdverseeventcostsC0C2,411C1,476C6,075C2,187C0CostsofblindnessC2,969,832C3,030,118C3,003,424C4,028,149C4,354,778C6,426,227CQALYgainedC6.90C6.87C6.88C6.53C6.41C6.09CIncrementalcosts(JPY)C─C.1,176,436C.412,366C.1,445,612C.776,163C.1,657,313CIncrementalQALYgainedC─C0.027C0.014C0.369C0.486C0.804ICUR(JPY/QALY)C─CIAIdominatesCIAIdominatesCIAIdominatesCIAIdominatesCIAIdominatesNMB(JPY)C─C1,314,619C482,691C3,357,924C3,297,796C5,827,939CIAI,CintravitrealafilberceptCinjection(s);ICUR,CincrementalCcost-utilityratio;JPY,CJapaneseyen;NMB,CnetCmonetaryCbenefit,CPDT,Cphotodynamictherapy;QALY,quality-adjustedlifeyear.77歳からCAMD治療を開始しC12年間での費用換算を示している.(文献C8より転載)InductionphaseMonthlyinjectionsuntiladrymaculawasachieved.(atleast3times)InjectionOnlyvisit(Drymacula)DiseaserecurrenceIntialtreatmentintervalinterval≦6weeks4weeks6~8weeks6weeks8~10weeks8weeks10~12weeks10weeks12weeks<12weeks図4Modi.edtreatandextendの方法(文献C7より転載)ObservationphaseMonthlyvisitsuntilsignsofexudativeactivityappeared.(atleast3times)DiseaseRecurrenceintervalTAEphaseMonthlyinjectionsuntiladrymaculawasachieved.InjectionafterInitialtreatmentintervalbasedondiseaserecurrenceintervals.Exudativechange(-)intervalextendedExudativechange(+)intervalshortenby2weeks■用語解説■PRN:proCrenataというラテン語から発生している.英語ではCasneeded.必要時(再発がみられた場合)に投与するという意味をさす.CProactive治療:再発がみられる前に投与間隔を事前に決定し,治療する方法である.CTAE(treatandextend):患者の治療反応に合わせて治療間隔を調整する方法である.CReactive治療:再発がみられてから治療する方法である.Cdrymacula:OCTにおいて網膜下液,網膜浮腫などの滲出性変化がみられない状態をさす.-

萎縮型加齢黄斑変性の診断-わが国の萎縮型加齢黄斑変性の診断基準

2019年2月28日 木曜日

萎縮型加齢黄斑変性の診断─わが国の萎縮型加齢黄斑変性の診断基準DiagnosisofAtrophicAge-relatedMacularDegeneration─DiagnosticCriteriaofAtrophicAge-relatedMacularDegenerationinJapan永井由巳*はじめにわが国の加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegen-eration:AMD)の診断基準においては,AMDは滲出型と萎縮型の二つのタイプを定義している(表1)1).実際の臨床では,AMDの患者の約9割を占め,積極的に治療を行うことができる滲出型AMDが診療の中心となっていて,滲出性所見を認めない萎縮型AMDの患者については,現在のところ経過観察するのみとなっている2).しかしながら近年,萎縮型AMDの治療についての研究や治療薬の開発が進みつつあり,萎縮型AMDの注目度が高まっている.このような背景を受けて,2015年に「萎縮型加齢黄斑変性の診断基準」が公表された3).I萎縮型AMDとは萎縮型AMDでは,滲出型のような漿液性網膜.離や出血などの滲出性所見を認めず,地図状萎縮(geograph-icatrophy:GA)を生じる.その発生の主原因は,滲出型AMDと同じく網膜色素上皮(retinalpigmentepi-thelium:RPE)やBruch膜の加齢性変化と考えられている.このGAは境界鮮明な円形または楕円形で,低色素,脱色素もしくはRPE欠損領域であり,周囲網膜よりも鮮明に脈絡膜血管を透見できるものと考えられている4).なお,日本における萎縮型AMDは,久山町研究において50歳以上の0,2%に認め,5年発症率は0.3%と報告されている5).GAについては萎縮型AMD以外にも,滲出型AMDの滲出消退後のRPE傷害による萎縮性変化や,黄斑ジストロフィや鎮静化した各種黄斑疾患などで似たような萎縮巣を認めることがあり,萎縮型AMDと混同されることもあるので区別して考える必要がある.II萎縮型AMD発症前の眼底の特徴的な所見萎縮型AMDの眼底で必須所見とされているGAは,ドルーゼンを認める眼底に多い.AREDSstudyもドルーゼンに色素沈着を生じ,さらに脱色素,ドルーゼンの消退と進展してGAを生じるとしている4).これらのドルーゼンや色素沈着,色素脱失は,加齢黄斑変性の診断基準で定義されている前駆病変に相当する.この前駆病変における所見からは滲出型AMDに進展することもあり,萎縮型AMDか滲出型AMDかへの進展に注意して経過観察する必要がある.III萎縮型AMDの定義(診断基準による)2015年に厚生労働省網膜脈絡膜・視神経萎縮症調査研究班の萎縮型加齢黄斑変性診療ガイドライン作成ワーキンググループによって萎縮型AMDの診断基準が作成され公表された(表2)3).診断にあたっては,眼底所見のGAが必須条件となっている.診断基準に沿って各項目を解説する.*YoshimiNagai:関西医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕永井由巳:〒573-1010大阪府枚方市新町2-5-1関西医科大学眼科学教室0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(31)161表1加齢黄斑変性の診断基準(2008年)注:滲出型加齢黄斑変性の特殊型:ポリープ状脈絡膜血管症(PCV),網膜内血管腫状増殖(RAP)(文献1より転載)図1萎縮型AMDの眼底写真黄斑部に円形の境界鮮明なRPEの地図状萎縮(GA)を認める().周囲にドルーゼンを多数認める(◯で囲んだ範囲).表2萎縮型加齢黄斑変性の診断基準(2015年)(文献3より転載)図2萎縮型AMDの造影写真(図1の症例)a:FA(後期).GAの領域は境界鮮明なwindowdefectによる過蛍光を示す().b:IA(晩期).GAの領域は脈絡膜毛細血管の閉塞による低蛍光を示し(),脈絡膜中大血管を透見できる().図3萎縮型AMDのOCT(図1の症例)GAの領域のRPEや網膜外層の菲薄化,ellipsoidzone,interdigitationzone,外境界膜が消失している(に挟まれた範囲).GA領域の脈絡膜や強膜の信号が,RPEの萎縮による撮影光の深部への透過性亢進の結果,増強している(※印).図4萎縮型AMDのFAFGAの領域は周囲との境界鮮明な低蛍光として観察される.bはaを撮影してから1年半後の写真であるが,低蛍光の範囲が拡大している.GAの経過観察に有用な検査といえる.-