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HIF-PH 阻害薬投与の開始前後における糖尿病黄斑浮腫の 変化の観察

2024年3月31日 日曜日

《第29回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科41(3):335.339,2024cHIF-PH阻害薬投与の開始前後における糖尿病黄斑浮腫の変化の観察鈴木陽平*1,2小堀朗*1小森涼平*2高村佳弘*2稲谷大*2*1福井赤十字病院眼科*2福井大学眼科学教室CRetrospectiveStudyofDiabeticMacularChangesBeforeandAfterInitiationofHIF-PHInhibitorTreatmentYoheiSuzuki1,2)C,Akirakobori1),RyoheiKomori2),YoshihiroTakamura2)andMasaruInatani2)1)DepartmentofOphthalmology,FukuiRedCrossHospital,2)DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicalSciences,UniversityofFukuiC目的:低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素(hypoxia-inducibleCfactorprolylChydroxylase:HIF-PH)阻害薬を投与された糖尿病患者において糖尿病黄斑浮腫(DME)が増悪したか検討した.対象および方法:HIF-PH阻害薬を開始した糖尿病患者を対象とし,投与前後における中心網膜厚(CRT)を比較した.結果:5例9眼中2眼でDMEが増悪した.症例C1ではCHIF-PH阻害薬の内服中止に加え,抗CVEGF薬硝子体内注射を施行したが,CRTの回復には約C3カ月を要した.症例C2ではCHIF-PH阻害薬の内服中止のみで軽快したが,CRTの回復には約C7カ月を要した.結論:HIF-PH阻害薬の開始によりCDMEの悪化を認めた症例があったが,自然経過との鑑別は困難であった.CPurpose:Toassesswhetherdiabeticmacularedema(DME)worsenswhendiabeticpatientsaretreatedwithahypoxia-induciblefactorprolylhydroxylase(HIF-PH)inhibitor.SubjectsandMethods:ThisretrospectivecaseseriesCstudyCinvolvedC9CeyesCofC5CpatientsCwithCDMECwhoCwereCtreatedCwithCHIF-PHCinhibitorsCandCfollowedCforseveralmonths.Centralretinalthickness(CRT)wascomparedbeforeandafterinitiationoftheHIF-PHinhibitors.Results:DMEworsenedin2ofthe9eyesafterinitiationofHIF-PHinhibitors.InCase1,thepatientwastreatedwithCvitreousCanti-VEGFCinjectionCinCadditionCtoCdiscontinuationCofCHIF-PHCinhibitors,Chowever,C3CmonthsCwasCrequiredCforCCRTCtoCrecover.CInCCaseC2,CtheCpatient’sCCRTCrecoveredCafterConlyCdiscontinuationCofCtheCHIF-PHCinhibitor,yetapproximately7monthswasrequiredfortherecovery.Conclusions:Our.ndingsshowedthatDMEcanCworsenCafterCinitiatingCtreatmentCwithCHIF-PHCinhibitors,CyetCsinceCthisCwasCaCretrospectiveCstudyCitCwasCdi.culttoassesswhetherHIF-PHinhibitorswererelatedtoDMEworsening.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(3):335.339,C2024〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,HIF-PH阻害薬,抗CVEGF薬,腎性貧血.diabeticmacularedema,HIF-PHinhibi-tors,anti-VEGFdrugs,renalanemia.Cはじめに糖尿病は世界中で推定C4億C6,300万人が罹患しており,糖尿病患者の約C10.15人にC1人の割合で糖尿病黄斑浮腫(dia-beticmacularedema:DME)が発症しているといわれている.糖尿病罹患率は今後さらに増大すると考えられ,黄斑浮腫による視力低下は大きな問題となっている1,2).DMEにおいては,持続した高血糖状態が慢性的な微小血管障害,虚血,炎症を引き起こし,眼内において増加した血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)などのサイトカインにより血管透過性が亢進し,黄斑部に血液成分が漏出することで視力の低下,変視症などの自覚症状が生じる.低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素(hypoxia-inducibleCfactorprolylhydroxylase:HIF-PH)阻害薬は腎性貧血の治療薬である.HIFは通常CHIF-a,HIF-bで二量体を形成し,血中に存在している.HIF-aのサブユニットにはCHIF-1Ca,〔別刷請求先〕鈴木陽平:〒918-8501福井県福井市月見C2-4-1福井赤十字病院眼科Reprintrequests:YoheiSuzuki,DepartmentofOphthalmology,FukuiRedCrossHospital,2-4-1Tsukimi,Fukuicity,Fukui918-8501,JAPANCde図1症例1の右眼の網膜光干渉断層計(OCT)像a:HIF-PH阻害薬投与の開始前.Cb:投与開始約C1カ月半後.Cc:投与開始C2カ月半後.このC5日後に投与中止となった.Cd:投与中止C2カ月後.e:投与中止役C3カ月半後.HIF-2a,HIF-3Caが存在する.HIFはCHIF-PHにより,プロリン残基の水酸化を受け,これがCVHL蛋白によりユビキチン化され,その後,プロテアソームによって分解される.エリスロポエチン(EPO)の産生に関与するCHIF-2Caは通常,上記の経路により,分解される.しかし,HIF-PH阻害薬はこの分解を阻害し,HIF-2Caを安定化させる効果がある.これにより,EPOの腎臓での産生を促進するが,同時にCHIF-1aも安定化させることにより,網膜のCVEGFを増加させることでCDMEが悪化する危険性が懸念されている3.5).実際,HIF-PH阻害薬により安定化されるCHIF-1Caを眼内で阻害した場合には,VEGFの発現が抑制されたと報告されている6).臨床研究においては,HIF-PH阻害薬の高容量内服した場合では血中CVEGF濃度は上昇するとされる一方で,実臨床で使用する範囲内では血中CVEGF濃度に変化はなかったとも報告されている7,8).これまでにCHIF-PH阻害薬による網膜症増悪の報告は少数であり,一定の見解は得られていない3,9,10).今回,糖尿病患者に対し,HIF-PH阻害薬を投与した際にCDMEが増悪するかを検討した.CI対象および方法2018年から現在までに福井赤十字病院へ受診した患者のうち,糖尿病を伴う腎性貧血に対して,HIF-PH阻害薬の投与を開始された症例を対象とした.HIF-PH阻害薬の投与前後において,網膜光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)検査の経過を追えた症例の視力,中心網膜厚(centralCretinalthickness:CRT)について倫理審査委員会で承認の元,後ろ向きに検討した.眼球破裂によりCOCT検査を行えなかったC1眼を除外した.CII結果5名C9眼が対象となった.5名中C2名,9眼中C2眼でCDMEが増悪した.以下,増悪した症例を提示する.〔症例1〕47歳,男性(図1)a:初診時,Cb:ダプロデュスタット投与C1カ月半後.両増殖糖尿病網膜症で汎網膜光凝固が施行されており,左眼は角膜混濁のため矯正視力はC0.1だった.糖尿病性腎症で透析中であり,腎性貧血に対するダプロデュスタット使用前における網膜症評価のため,腎臓内科より紹介となった.初診時視力はVD=(1.2C×sph.8.50D(cyl.0.50DCAx165°),VS=(0.1C×.7.00D(cyl.3.00DCAx90°),右眼CRT:258Cμm,左眼CCRT:246Cμmであった(図1a).ダプロデュスタット開始C49日後,右眼視力低下を自覚し再診となった.VD=(0.6C×sph.8.75D(cyl.0.75DCAx170°),VS=(0.1C×.7.00D(cyl.3.00DAx100°)で黄斑浮腫は認めなかったが,右眼の矯正視力はC1.2からC0.6に低下していた.翌日の視力検査でC1.0へ回復,経過観察とした.さらに約C1カ月後,視力低下を再度自覚し,再診した(図1b).VD=(0.4C×sphC.8.50D(cyl.0.50DAx160°),VS=(0.06C×.7.00D(cylC.3.00DAx100°),右眼CRT:296μmであり,わずかではあるが中心窩に黄斑浮腫が出現したと判断し(図1c),抗VEGF薬(アフリベルセプト)の硝子体内注射を施行した.腎臓内科にダプロデュスタット投与中断の検討を依頼し,5日後に投与中止となった.抗CVEGF薬硝子体内注射,ダプロデュスタット内服中止後に視力は徐々に上昇したが,CRTは増加し(図1d),約C3カ月後に投与前の水準まで回復した(図1e).この間,左眼視力,CRTともに著変はなかった.ダプロデュスタットを中止して約C5カ月後でCVD=(1.0C×sph.8.00D(cyl.0.50DC再初診時視力はCVD=(SLC.),VS=0.8(矯正不能),左眼黄斑浮腫を認め,左眼CCRT:632Cμmであった(図3b).入院中であり,全身状態を考慮してそのまま経過観察となり,無治療でCDMEは徐々に軽快した(図3c,d).最終視力はCVS=(0.9C×sph.1.25D(cyl.1.50DAx180°)まで回復した.CRTの経過を図4に示す.他C3症例C6眼においては,HIF-PH阻害薬使用後に視力,CRTの著変を認めなかった(図5).中心網膜厚(μm)300250Ax180°)まで回復した.CRTの経過を図2に示す.〔症例2〕68歳,女性(図3)左眼単純網膜症で右眼は眼球破裂の既往があり,眼底は観察困難であった.抗好中球細胞質抗体関連腎炎で透析中であ200150症例1右眼症例1左眼100500り,腎臓内科より視力低下の精査目的で紹介となった.当科紹介の約C1カ月前までロキサデュスタットが処方されていた.約C1年前の当科受診時には軽度の黄斑浮腫を中心窩外にHIF-PH阻害薬投与認めていた(図3a).その後,受診が途絶えており,今回再図2症例1におけるOCTでの中心網膜厚の推移初診となった.実線は右眼,点線は左眼.C図3症例2の左眼のOCT像a:HIF-PH阻害薬投与が開始されるC1年前.Cb:再初診時でCHIF-PH阻害薬投与が終了してC1カ月後.高度の黄斑浮腫を認める.Cc:投与終了してから約C3カ月後.Cd:投与終了してから約C7カ月後.III考察HIF-PH阻害薬投与中にCDMEの増悪をC5例C9眼のうちC2例C2眼で経験した.HIF-1は通常,HIF-1CaとCHIF-1Cbで二量体を形成して血液中には存在し,酸素濃度の低下を感知する.眼内のCVEGF濃度に関係するのはCHIF-1Caである9).慢性腎臓病に伴う腎性貧血においては,腎臓でのCEPOの産生が低下している.EPO産生増加に作用するCHIF-2CaはHIF-PHの作用により最終的にプロテアソームにより分解されるため,HIF-PH阻害薬の使用により,結果的にCEPO産生が誘導される.しかし,HIF-PH阻害薬はCEPOだけでなくCVEGFをも産生を促すため,その結果,DMEや糖尿病網膜症の悪化が危惧されている.よって,網膜出血を発現するリスクが高い患者(増殖糖尿病網膜症,DME,滲出型加齢黄斑変性症,網膜静脈閉塞症などを合併する患者)に対してはとくに注意してCHIF-PH阻害薬を投与すること,本薬剤6005004003002001000を開始後には,定期的に眼科で網膜の状態について評価を受けることが推奨されている3).今回,筆者らが経験した症例のうち,増悪したC2眼はいずれもCHIF-PH阻害薬の投与を開始してC2,3カ月後にCDMEが悪化し,HIF-PH阻害薬の内服を中止してC3.6カ月後に軽快しており,似た経過をたどった.HIF-PH阻害薬による増悪とすれば,両眼への影響とも考えられるが,いずれの症例においても片眼のみの変化であった.DMEは眼局所の因子と全身の因子が複雑にかかわりあって発症するものであ中心網膜厚(μm)HIF-PH阻害薬投与り,HIF-PH阻害薬による影響か,DMEの自然経過かを判図4症例2におけるOCTでの中心網膜厚の推移断することは容易ではない.ABCc図5症例3(A),4(B),5(C)におけるOCT像顕著な浮腫の悪化を認めなかった.C338あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024(102)今回のCDMEが増加したC2眼においては,DMEは内服中止した後も3.7カ月まで浮腫が遷延した.過去においては,HIF-PH阻害薬内服中止後にC2週間程度でCDMEは軽快したとの報告があり10),今回のC2症例の経過とは異なるものであった.血糖のコントロール不良は,終末糖化産物と活性酸素の蓄積をもたらし,関与する炎症経路を活性化することにより,DMEを増悪させるといわれているが11),今回のC5例のDMEにおいては明らかな血糖コントロール不良な例はなかった.人工透析の導入によって,DMEは速やかに,かつ強力に浮腫が改善し,長期にわたって維持されることが報告されている12).今回のC5例中C4例が透析患者であり,透析によってCDMEの進行が抑制され,HIF-PH阻害薬による悪化が抑制された可能性も考えられた.DMEに対する治療については,抗CVEGF薬の硝子体内注射が治療の第一選択として用いられることが多い13).HIF-PH阻害薬によって,眼内の抗CVEGFレベルが増加してCDMEが悪化するとすれば,悪化に際して抗CVEGF治療を行うことは理にかなっている.しかし,HIF-PH阻害薬を中止しただけで軽快した症例も報告されているので,まずは薬剤中止で経過観察することも選択肢の一つとしてよいだろう.ただし,浮腫の遷延は不可逆的な視機能低下にもつながるので,注射のタイミングが遅くならないように注意することも重要であろうと考えられる.HIF-PH阻害薬の中止のみで経過をみるべきか,抗CVEGF薬の硝子体内注射を行うべきか一定した見解はなく,今後検討していく必要があると考えられる.本報告では,すでにCHIF-PH阻害薬を開始されていたDME症例を後ろ向きに検討した.DMEの悪化には,透析の導入や糖尿病の程度,糖尿病歴の長さなどが複雑に関与している11,14).よって,HIF-PH阻害薬のCDMEへの影響を調べるには,条件を揃えたうえでの前向き研究が望ましいと考えられる.前向き研究によりCHIF-PH阻害薬を開始する前のCCRTがわかれば,治療開始後のわずかな変化もCOCTの解析で検出することができるだろう.文献1)LeeR,WongTY,SabanayagamCetal:EpidemiologyofdiabeticCretinopathy,CdiabeticCmacularCedemaCandCrelatedvisionloss.EyeVis(Lond)C2:17,C20152)SaeediP,PetersohnI,SalpeaPetal:Globalandregionaldiabetesprevalenceestimatesfor2019andprojectionsfor2030Cand2045:ResultsCfromCtheCinternationalCdiabetesCfederationCdiabetesCatlas,C9thCedition.CDiabetesCResCClinCPractC157:107843,C20193)内田啓子,南学正臣,阿部雅紀ほか:日本腎臓学会HIF-PH阻害薬適正使用に関するrecommendation.日腎会誌62:711.716,C20204)GuptaCN,CWishJB:Hypoxia-inducibleCfactorCprolylChydroxylaseinhibitors:ACpotentialCnewCtreatmentCforCanemiainpatientswithCKD.AmJKidneyDisC69:815-826,C20175)CatrinaCB,CZhengX:HypoxiaCandChypoxia-inducibleCfac-torsCinCdiabetesCandCitsCcomplications.CDiabetologiaC64:C709-716,C20216)ZhangD,LvFL,WangGH:E.ectsofHIF-1aondiabet-icCretinopathyCangiogenesisCandCVEGFCexpression.CEurCRevMedPharmacolSciC22:5071-5076,C20187)HaraCK,CTakahashiCN,CWakamatsuCACetal:Pharmacoki-netics,pharmacodynamicsandsafetyofsingle,oraldosesofGSK1278863,anovelHIF-prolylhydroxylaseinhibitor,inChealthyCJapaneseCandCCaucasianCsubjects.CDrugCMetabCPharmacokinetC30:410-418,C20158)SanghaniNS,HaaseVH:Hypoxia-induciblefactoractiva-torsCinCrenalanemia:CurrentCclinicalCexperience.CAdvCChronicKidneyDisC26:253-266,C20199)HirotaK:HIF-aprolylChydroxylaseCinhibitorsCandCtheirCimplicationsCforbiomedicine:ACcomprehensiveCreview.CBiomedicinesC9:468,C202110)浦橋佑衣,小島祥:HIF-PH阻害薬投与後に糖尿病黄斑浮腫が増悪したC1例.臨眼77:324-328,C200311)LiuCE,CCraigCJE,CBurdonK:DiabeticCmacularoedema:Cclinicalriskfactorsandemerginggeneticin.uences.ClinExpOptomC100:569-576,C201712)TakamuraY,MatsumuraT,OhkoshiKetal:FunctionalandCanatomicalCchangesCinCdiabeticCmacularCedemaCafterChemodialysisinitiation:One-yearCfollow-upCmulticenterCstudy.SciRepC10:7788,C202013)YoshidaS,MurakamiT,NozakiMetal:Reviewofclini-calCstudiesCandCrecommendationCforCaCtherapeuticC.owCchartCforCdiabeticCmacularCedema.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmol259:815-836,C202114)MusatCO,CCernatCC,CLabibCMCetal:DiabeticCmacularCedema.RomJOphthalmolC59:133-136,C2015***

基礎研究コラム:82.角膜内皮の一次繊毛

2024年3月31日 日曜日

角膜内皮の一次繊毛一次繊毛とは一次繊毛(primarycilia)は細胞膜からC1本のみ突出した構造物であり,ほとんどの真核生物の体細胞に存在します.1世紀以上前から一次繊毛の存在は知られていましたが,その機能はほとんどわかっていませんでした.近年,解析技術の進歩により,その構造と機能が明らかとなり,さまざまな遺伝性疾患との関連が知られるようになりました.一次繊毛には多数の受容体やイオンチャネルが集積し,細胞外シグナルを受容して細胞内に伝達するアンテナのような役割をしていることがわかっています.その他の機能の例として,腎臓の尿細管・集合管上皮細胞においては,尿流を感知するメカノセンサーとして働いています.また,細胞分裂する際には一次繊毛は消失し,静止期に戻ると再び一次繊毛が現れることから,細胞周期の制御・増殖・分化にも関与すると考えられています.さらに視細胞の外節は光受容に特化した一次繊毛の特殊型であり,一次繊毛に異常をきたす疾患(繊毛病)の一つであるCBardet-Biedl症候群では,網膜色素変性症を合併することが知られています.角膜内皮における一次繊毛角膜内皮にも一次繊毛が存在することは知られており,前房側へC1本のみ突出しており,また角膜の中央にはほとんど存在せず,周辺部に少数が存在することが報告されていました1)(図1).また,マウスを用いた研究で,角膜内皮が傷害された際に一次繊毛が出現し,創傷治癒が完了すると消失するとの報告がありますが2),具体的にヒト角膜内皮の一次繊毛が何をしているかはほとんどわかっていません.そこで筆角膜実質Descemet膜角膜内皮前房図1角膜内皮における一次繊毛の模式図一次繊毛は各細胞にC1本のみ存在し,前房側へ突出している.(文献C3より改変引用)出口英人京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学者らは水疱性角膜症に対する角膜移植術の際に摘出されたDescemet膜と角膜内皮を解析することにしました.その結果,角膜内皮が残っていたC8例中C6例で一次繊毛が確認され,コントロールとして採取した円錐角膜の角膜内皮には一次繊毛が存在しないことがわかりました.この結果から,少なくとも水疱性角膜症という病態が一次繊毛発現を誘導している可能性が示唆されました3)(図2).今後の展望1.5Cμmという小ささゆえに解析が難しかった一次繊毛ですが,技術の進歩によりその機能が徐々に明らかになってきています.角膜内皮に限らず,一次繊毛研究はまだスタートラインの段階です.今後,繊毛病だけでなく,さまざまな疾患との関連が明らかになれば,一次繊毛をターゲットとした治療につながるかもしれません.文献1)SvedberghB,BillA:Scanningelectronmicroscopicstud-iesofthecornealendotheliuminmanandmonkeys.ActaOphthalmol(Copenh)C50:321-336,C19722)BlitzerCAL,CPanagisCL,CGusellaCGLCetal:PrimaryCciliaCdynamicsCinstructCtissueCpatterningCandCrepairCofCcornealCendothelium.ProcNatlAcadSciC108:2819-2824,C20113)DeguchiCH,CTaniokaCH,CWatanabeCMCetal:Identi.cationCandCanalysisCofCprimaryCciliaCinCtheCcornealCendothelialCcellsCofCpatientsCwithCbullousCkeratopathy.CCurrCEyeCResC1-6,2023[publishedonline.rst:20230914]図2水疱性角膜症で摘出された角膜内皮の一次繊毛緑内障ブレブ眼で水疱性角膜症に至った症例の角膜内皮.核染色(青)の周囲にアセチル化Caチューブリン(緑)で染色される毛様構造が確認できる(..).(93)あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024C3290910-1810/24/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:250.硝子体手術に起因する医原性網膜静脈分枝閉塞症(初級編)

2024年3月31日 日曜日

250硝子体手術に起因する医原性網膜静脈分枝閉塞症(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに硝子体手術の合併症のうち循環障害に関するものとしては,網膜動脈閉塞症や虚血性視神経症の報告が多いが,網膜静脈閉塞症の報告はきわめて少ない.硝子体手術は網膜に直接侵襲を加える操作が多いため,術中の網膜静脈への機械的損傷などにより網膜静脈分枝閉塞症(branchCretinalCveinocclusion:BRVO)を発症するリスクは常に伴う.C●症例提示80歳,男性.左眼の眼内レンズ毛様溝縫着術後の網膜.離で紹介受診した.耳側に裂孔を認め,耳側から下方に胞状の網膜.離を認めた.コアの硝子体を切除したのち,強膜を圧迫しながら周辺部の硝子体を切除した.血管アーケード近傍にC1カ所医原性裂孔を形成したので,その部位から粘稠な網膜下液を吸引し,気圧伸展網膜復位術,眼内レーザー光凝固を施行して手術を終了した.術後早期にはとくに異常所見を認めなかった(図1)が,術C1カ月後に裂孔周囲の網膜静脈の分岐部が光凝固瘢痕に牽引され,その末梢に散在性の網膜出血が生じていた(図2).凝固斑部位の組織の収縮によって網膜静脈分岐部が牽引されたため生じた限局性CBRVOと考えられた.出血はその後徐々に自然消退した.C●硝子体手術に起因する医原性BRVO硝子体手術の術中操作による網膜静脈損傷や術後の牽引によりCBRVOが生じることは十分に考えられるが,その報告はきわめて少ない.Fischerらは,眼科手術に起因する血管閉塞性合併症を多数例で検討しており,黄斑上膜に対する膜.離時の網膜への直接侵襲が原因と考えられるCBRVOのC1例を報告している1).硝子体手術ではないがCShieldsらは,YAGClaservitreolysisによる網膜傷害によりCBRVOを発症したC1例を報告している2).後藤らは,網膜細動脈瘤による網膜下血腫のC1眼において,網膜切開部に生じた膜組織が静脈を絞扼して,術C7日後にCBRVOを生じたC1例を報告しており3),今回の提(91)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1術1週間後の左眼眼底写真上方の血管アーケード近傍に裂孔および光凝固斑を認める.網膜出血は認めない.図2術1カ月後の左眼眼底写真裂孔周囲の網膜静脈の分岐部が凝固瘢痕に牽引され,その末梢に散在性の網膜出血が生じている.示例と発症機序が類似している.網膜血管近傍の裂孔に対して種々の手術操作を施行する際には,血管に機械的侵襲が加わらないように注意する必要がある.また,内部排液のための意図的裂孔を作製する際には,既存の網膜血管から距離をおいて作製するよう心がける.文献1)FischerC,BruggemannA,HagerAetal:Vascularocclu-sionsCfollowingCocularsurgicalCprocedures:aCclinicalCobservationofvascularcomplicationsafterocularsurgery.JOphthalmol2017:9120892,C20172)ShieldsCRA,CChengCOT,CRubyCAJCetal:RetinalCcomplica-tionsCafterCyttrium-aluminum-garnetClaserCvitreolysisCforCvitreousC.oaters.COphthalmicCSurgCLasersCImagingCRetinaC52:610-613,C20213)後藤真里,舘野静香,輪島良平ほか:黄斑部硝子体手術の合併症.臨眼C52:1190-1194,C1998あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024327

考える手術:27.重症涙小管閉塞に対する結膜涙囊吻合術(涙囊移動術)

2024年3月31日 日曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅重症涙小管閉塞に対する結膜涙.吻合術(涙.移動術)鎌尾知行愛媛大学医学部眼科学教室涙道は涙点,涙小管,涙.,鼻涙管で構成され,そのうち涙点から涙小管は重層扁平上皮,涙.から鼻涙管までは重層円柱上皮と,裏打ちする上皮が異なり,症状や治療方法,予後なども異なる.そのため,涙道閉塞は涙点・涙小管閉塞と涙.・鼻涙管閉塞に分類される.鼻涙管閉塞に対する治療のゴールドスタンダードは涙.鼻腔吻合術である.手技や医療機器の進歩により安定して良好な治療成績を得られるようになり,治療に苦慮することはほとんどなくなった.わが国では涙道内視鏡を用いた涙道閉塞治療が開発され,低侵襲化のフェイズに移行か手術を行っていないため,治療を受けられずに症状を我慢している患者も多い.しかし,涙道閉塞に伴う流涙や眼脂といった症状は患者のQOLやQOVを損なうため,可能であれば涙道再建が望ましい.本稿で紹介する結膜涙.吻合術は特殊なデバイスを準備する必要がなく,比較的導入のハードルが低い.本術式が広まれば,涙道閉塞症状で悩む患者を減らせる可能性がある.しかし,いくつかのコツが存在するため紹介する.聞き手:結膜涙.吻合術(涙.移動術)とはどのような部が閉塞する,当時のステントが吻合部にフィットしな治療でしょうか?い,といった問題が生じ,良好な経過を得ることができ鎌尾:文字の通り結膜と涙.を外科的に吻合する手術でず,一般的な治療法とはなりませんでした.す(図1a).涙液は涙点から涙小管,涙.,鼻涙管を介して鼻腔へ排出されますが,涙小管が閉塞して再建でき聞き手:結膜涙.吻合術のよい適応はどのような場合でない場合に結膜と涙.を吻合し,涙液が涙点・涙小管をしょうか?介さずに涙.,鼻涙管を介して鼻腔へ排出されるように鎌尾:重症の涙小管閉塞です.涙小管閉塞の重症度は一します.本術式は2017年の日本涙道・涙液学会で嘉鳥般的に矢部・鈴木分類が用いられます.Grade1は涙点信忠医師が涙.移動術として報告されたため,わが国でからブジーが10mm以上挿入可能で,涙管通水検査には涙.移動術としても認知されています.本術式の原法て上下交通を認める総涙小管閉塞が該当します.Gradeは,1962年にLesterJonesがconjunctivodacryocys-2は涙点からブジーが7.8mm以上挿入可能で,涙管tostomyとして報告しました.ただし,涙.を結膜まで通水検査にて上下交通のない上または下涙小管閉塞が該持ち上げて吻合することが困難,ステントなしでは吻合当します.Grade3は涙点からブジーが7.8mm未満(89)あたらしい眼科Vol.41,No.3,20243250910-1810/24/\100/頁/JCOPY考える手術しか挿入できない状態です.涙小管の閉塞距離が長いほど重症と判断されます.Grade1は涙管チューブ挿入術,Grade2は涙小管形成手術,最重症のGrade3が結膜涙.吻合術,結膜涙.鼻腔吻合術のよい適応となります.聞き手:結膜涙.吻合術のメリットを教えてください.鎌尾:Grade3の重症涙小管閉塞に対して以前から行われてきた治療は,結膜涙.鼻腔吻合術です(図1b).結膜の内眼角と鼻腔にJonesチューブというガラス管の両端が出ている状態で,涙液は眼表面からこのガラス管腔を通って鼻腔へ排出されます.ただし,骨の削開,Jonesチューブという特殊なステントの永久留置と定期的なメンテナンスが必要で,チューブの脱落や破損などの合併症が起こるといった問題があります.加えてJonesチューブはわが国では市販されておらず,海外から輸入するか自作する必要があるため,ごく限られた施設しか行われていません.一方,結膜涙.吻合術は,骨の削開や,特殊なチューブの準備,定期的なメンテナンスの必要がなく,わが国で市販されている涙管チューブを数カ月留置するだけでよいので,結膜涙.鼻腔吻合術と比較して導入のハードルが低い.聞き手:結膜涙.吻合術の方法を教えてください.鎌尾:涙.摘出術の要領で進めていきます.内眼角の皮膚を皮膚割線に沿って20mm程度切開し,眼輪筋を.離し,前涙.稜を同定します.上顎骨前頭突起の骨膜を前涙.稜に平行に内眼角腱も含めて切開し,骨膜を.離し,そのまま涙.の鼻側から後方を涙.窩から.離します.次に,涙.底部と耳側を周囲組織から切開.離を進め,涙.を完全にフリーの状態にします.涙.底部から涙.壁を切開して涙道内腔にアプローチし,涙道内視鏡abを挿入して涙.以降の涙道内腔に異常がないか確認します.次に涙丘やや下方の結膜を切開し,結膜下にトンネルを作製します.涙.底部をトンネルに通して結膜上に持ち上げます.涙.底部の切開位置と結膜切開位置を合わせて,8-0バイクリル糸などの吸収糸で縫合します.吻合部に涙管チューブを挿入して吻合部の閉塞を予防します.吻合部の創傷治癒がおちついた1.数カ月でチューブを抜去します.聞き手:コツはありますか?鎌尾:本術式でもっとも問題となるのが,涙.が結膜上まで届かないことです.涙.は硬い線維性の外膜で包まれているため伸展性が不良です.そのため,この外膜に涙.の単軸方向にいくつか割線を作り,長軸方向の伸展性を向上すると届きやすくなります.また,吻合部は結膜上皮と涙.上皮をピッタリと合わせ,皮下組織が露出しないように8.9カ所縫合すると,吻合部の癒着が起こりにくくなります.さらに現在一般的に用いられるポリウレタン製の涙管チューブの両端を吻合部に通すことで,吻合部の再閉塞を予防します.聞き手:結膜涙.吻合術の問題を教えてください.鎌尾:涙液排出にはさまざまな機構が関与していますが,もっとも重要なものが涙小管のポンプ作用と考えられています.本術式後は,結膜から涙小管を介さずに直接涙.に流れるため,涙小管のポンプ機能が働きません.そのため,涙液排出機能が正常まで回復しないという問題があります.また,涙.や鼻涙管に閉塞を合併している患者では再閉塞のリスクが高くなるため,手術適応を慎重に検討する必要がありますが,術前の涙.・鼻涙管閉塞の評価は困難な場合があります.図1結膜涙.吻合術と結膜涙.鼻腔吻合術a:結膜涙.吻合術は,涙.を周囲組織から.離してフリーにし,涙.底部を内眼角に移動させて結膜と涙.を吻合する.涙丘付近に涙.の吻合部が開口()する.b:結膜涙.鼻腔吻合術は,涙.鼻腔吻合術のように上顎骨前頭突起と涙骨の一部を削開し,結膜から鼻腔への皮下のトンネルを作製し,そこにJonesチューブというガラス管を挿入する.結膜の内眼角と鼻腔にチューブの両端が出ている().326あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024(90)

抗VEGF治療セミナー:加齢黄斑変性と黄斑色素

2024年3月31日 日曜日

●連載◯141監修=安川力五味文121加齢黄斑変性と黄斑色素尾花明郷渡有子聖隷浜松病院アイセンター黄斑色素は中心窩のCMullercellconeとその周囲の内外網状層に多く存在し,青色光の吸収と抗酸化作用によって視細胞の光酸化ストレス障害を抑制する.その成分であるルテイン・ゼアキサンチンの摂取不足は加齢黄斑変性発症リスクであり,それらを含有したサプリメントは発症予防効果を示す.はじめに多因子疾患である加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の予防・進行抑制は要因ごとにいくつかのアプローチが考えられるが,年齢や遺伝要因は対処困難なので,現実的には禁煙と,高血圧・動脈硬化など全身疾患予防,光による酸化ストレスの抑制が主となる.黄斑色素は感覚網膜内に存在する黄色色素で,黄斑の名のゆえんである.光が視細胞に及ぼす酸化ストレスを軽減することから,AMDの発症と予防・進行抑制に深くかかわる.黄斑色素の成分と働き黄斑色素は中心窩周囲直径C1.5.2Cmmの黄斑(maculalutea)に多く集積するが,周辺部にも少量が広く分布する(図1).黄斑色素の成分はルテイン(3R,3’R),ゼアキサンチン(3R,3’S),メソゼアキサンチンのC3種類のカロテノイドで,これらは構造式に酸素原子をもつキサントフィル類である.カロテノイドはCCCH56を基本とし,9個の共役二重結合からなるポリエン鎖40の両端に末端基が結合する.自然界に約C800種類が存在し,人体に約C30種類,眼にはC3種類が検出される.カロテノイドは抗酸化作用を有し,活性酸素(一重項酸素など)やラジカル類,とくに脂質ラジカル消去により視細胞を酸化ストレスから防御する.活性酸素の余剰エネルギーは共役二重結合の伸縮による運動エネルギーから熱に緩和図1サル眼網膜断面の無染色写真黄色く見えるのが黄斑色素で,中心窩のCMullercellconeと外網状層と内網状層などにみられる.(文献C1より改変引用)(87)される.カロテノイドは抗炎症作用ももつ.また,ルテインの最大吸収波長はC460Cnmであり,黄斑色素は青色光を吸収する.ルテイン・ゼアキサンチンは小腸で吸収されておもに高比重リポ蛋白(highCdensityClipoprotein:HDL)に結合し,脈絡膜毛細血管から網膜色素上皮細胞のCHDL受容体(SR-BI)を介して取り込まれ,光受容体間レチノイド結合蛋白(retinolbindingCprotein:RBP)を介して視細胞外節に移動する.網膜内でルテインはCStARCrelatedClipidCtransferCdomainCcontaining3(STARD3)に,ゼアキサンチンはCPi-classCglutathioneCS-transfer-ase(GSTP1)に結合して蓄積する2).なお,メソゼアキサンチンは網膜色素上皮細胞内のレチノイドサイクル酵素であるCretinalCpigmentCepithelium-speci.cC65CkDaprotein(RPE65)によりルテインから変換される.黄斑色素の存在部位黄斑色素は中心窩にもっとも多く周辺部は少ない.ただし,分布形態には個人差があり,必ずしも中心窩がピークではない.中心窩のルテイン:ゼアキサンチン:メソゼアキサンチンの割合は1:1:1で,周辺部はルテインの割合が高い.網膜の組織切片と色素分布を重ねると,中心窩ではCMullercellconeに集積し,その周囲の内外網状層に広がる.周辺網膜では視細胞外節と網膜色素上皮細胞付近に存在すると考えられる(図2).Muller細胞の多彩な機能の一つに光ファイバー機能が報告されており,網膜表層に到達した光はCMuller細胞を通じて視細胞に到達するとされ,黄斑色素は光路内で青色光をカットしているのかもしれない.ただし,未だ組織学的にCMuller細胞内のカロテノイドは観察されていない.加齢黄斑変性の黄斑色素AMD眼の黄斑色素量の測定はむずかしく未だ不明点もあるが,既報では同年代の健常眼より少なく,また,片眼にCAMDを発症した患者の反対眼は,AMDを発症あたらしい眼科Vol.41,No.3,20243230910-1810/24/\100/頁/JCOPY図2黄斑色素の分布上はエリア図,中央はCauto.uorescencespectroscopyによるヒトの黄斑色素写真,下は同一眼のCOCT水平断写真に黄斑色素を記したイメージ図.エリアCAではCMullerCcellconeに集積し,ゼアキサンチンが多い.エリアCBでは網状層に広がり,エリアCCでは視細胞・網膜色素上皮細胞付近に少量のルテインが広がると考えられる.していなくても黄斑色素が少ない.このことから,色素が少ないことがCAMDの発症要因の一つである可能性が考えられる.ルテイン・ゼアキサンチン摂取による加齢黄斑変性の予防米国人を対象としたCcase-controlstudyでは,ルテイン・ゼアキサンチン最大摂取群(中央値C3.5Cmg/日)は最小摂取群(中央値C0.7Cmg/日)より,滲出型CAMDのオッズ比はC0.65,萎縮型はC0.45であった.女性を対象とした研究で,intermediateAMD(AMD前駆病変)の頻度とルテイン・ゼアキサンチン摂取量に有意な関係はなかったとの報告もあるが,一般的にはルテイン・ゼアキサンチン摂取はCAMD発症に抑制的に働くと考えられる.Age-relatedCEyeCDiseaseStudy(AREDS)Groupのカロテノイドと抗酸化ビタミン,ミネラルを含む複合サプリメントを使用したC2001年の報告(図3a)2)では,5年間摂取でCAMD発症率が対照群のC36%に対して摂取群はC27%となり,有意な低下が認められた.しかし,Cb-カロテンの多量摂取は肺癌リスクを上昇させることから,AREDS2試験3)ではルテイン・ゼアキサンチンを含むサプリメント(図3b)が検証され,滲出型CAMDC324あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024ab図3Age-RelatedEyeDiseaseStudyで滲出型加齢黄斑変性の予防効果の認められた複合サプリメントa:2001年の報告2)で使用されたもの.Cb:2013年の報告3)で使用されたもの.発症率がC22%低下することが確認された.ただし,AREDSの亜鉛含有量は厚労省基準では過剰になり,国内のCAREDS2準拠商品は含有量が調整されている.ルテイン・ゼアキサンチン含有サプリメントを摂取すると,摂取開始後C1カ月で血中濃度に相関する皮膚カロテノイド密度が上昇し,2カ月後に黄斑色素密度の上昇がみられた.ただし,サプリメントの効果には個人差があり,摂取後の黄斑色素の増加程度や増加時期は人によって異なる.サプリメントの具体的な推奨開始年齢は未定だが,AREDS2開始時の平均年齢C72歳が一つの目安になる.おわりに黄斑色素は視細胞を保護し,その成分であるルテイン・ゼアキサンチン摂取はCAMDの予防・進行抑制に有用であると考えられる.食事からのルテイン推奨摂取量はC6Cmg/日であるが,日本人の平均摂取量はそれに及ばないと推定される.禁煙意識は進んだが,カロテノイドを含む緑黄色野菜・果物の積極的な摂取を心がける必要がある.文献1)SnodderlyCDM,CAuranCJD,CDeloriFC:TheCmacularCpig-ment.IISpatialdistributioninprimateretinas.CInvestOph-thalmolVisSciC25:674-685,C19842)Age-RelatedEyeDiseaseStudyResearch,Group:Aran-domized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesup-plementationCwithCvitaminsCCCandCE,CbetaCcarotene,CandCzincCforCage-relatedCmacularCdegenerationCandCvisionloss:AREDSCreportCno.C8.CArchCOphthalmolC119:1417-1436,C20013)Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyC2CResearch,Group:CLutein+zeaxanthinandomega-3fattyacidsforage-relat-edCmaculardegeneration:theCAge-RelatedCEyeCDiseaseCStudy2(AREDS2)randomizedCclinicalCtrial.CJAMAC309:C2005-2015,C2013(88)

緑内障セミナー:緑内障におけるAI 画像処理の有用性

2024年3月31日 日曜日

●連載◯285監修=福地健郎中野匡285.緑内障におけるAI画像処理の有用性二宮高洋東北大学医学部眼科学教室近年の人工知能(AI)の革新的な進歩に伴って,医療分野でもCAIが徐々に身近な存在となってきている.そのような中で,本稿では緑内障におけるCAIの活用について,OCTアンギオグラフィーでのCAI画像処理に着目して,その有用性について考察する.●はじめに緑内障性視神経症の評価は,一般的に視野検査による機能的評価と光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)などの画像検査による構造的評価によって行われているが,画像検査の定量的評価においては画質不良がしばしば問題となる.画質不良は固視不良や中間透光体の混濁などさまざまな原因で起こり,従来はガウシアンフィルターや加算平均処理などでその影響を軽減させてきた.しかし,フィルターによる処理ではその性質上,元の画像と比較して情報量が減るという点,また加算平均処理では撮影時間が長くなり患者負担が大きくなるといった問題があった.一方,近年,人工知能(arti.cialintelligence:AI)による画像処理技術が発展し,緑内障の評価においてこれらの問題を解決する新しい可能性が生まれてきている.今回は,画像検査において,とくに画質が問題となりやすいCOCTアンギオグラフィー(OCTangiography:(85)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPYOCTA)のCAIを活用した画像処理と,緑内障診療への有用性との関連について,当科からの報告を交え紹介する.C●AIによるデノイジングAIを用いた画像処理が急速に発展したきっかけとして,畳み込みニューラルネットワーク(convolutionalCneuralnetwork:CNN)に代表される深層学習の技術が,画像分類タスクにおいて非常に高い精度を達成したことがあげられる.AIによるデノイジングでは不必要な部分のみを除去するため,重要な部分の情報の喪失が抑えられ,加算平均処理と違い,1回の撮影画像で画質の向上ができることがメリットである.図1はCOCTA画像の通常の画像,加算平均処理による画像,AIデノイジングによる画像を比較したものであるが,AIの処理により粒状のノイズが除去され,血管走行が明瞭になっている様子が確認できる.視神経乳頭部COCTAの定量的評価においても,AIデノイジングを行った画像のほうが,放射状乳頭周囲毛細血管の血管密度(vesselCareadensity:VAD)と乳頭周囲網膜神経線維層厚(circumpapillaryCretinalCnerveC.verClayerthickness:cpRNFLT)との相関が向上したほか,とくに後期緑内障においてCVADとCmeandeviation(MD)値での有意な相関がデノイジングにより得られる結果となった1).このことは,AIデノイジングによるCVADが緑内障性視神経症の構造変化をより鋭敏に捉えていることを示唆している.C●AIによるセグメンテーションAIの活用が進んでいるもう一つのタスクとして,セグメンテーションがあげられる.当科では,独自のCAIモデル(図2)を考案し,黄斑部COCTAの中心窩無血管域(fovealCavascularzone:FAZ)の検出において,従来手法と比較してより精度が高く領域を検出することを報告している2).図3は具体的なCFAZ検出の比較例であたらしい眼科Vol.41,No.3,2024321図3AIによるセグメンテーション精度と従来手法の比較黄斑部COCTAの表在性毛細血管叢(SCP)スラブ画像におけるFAZの検出.Ca:元画像.Cb:従来手法.Cc:AIによるCFAZ検出.(文献C3より改変)あるが,従来手法ではアーチファクトを血管と評価している部分があり,視覚的に認識される実際のCFAZの形状と検出領域との乖離がみられる一方で,AIセグメンテーションによるCFAZはそのような乖離がなく境界をトレースできていることがわかる.このCFAZ検出モデルを用いて,広義開放隅角緑内障患者C558人C885眼のFAZと視野の関係を検討したところ,FAZの面積,周長,正円率が中心下方視野におけるCtotaldeviation(TD)値およびCTDスロープと有意に相関していた.さらに,FAZを上下に分けたとき,上下のCFAZがいずれも中心下方視野との相関を示し,全身因子として睡眠時無呼吸症候群の合併が関連していた3).この結果は,開放隅角緑内障患者における下方から中心にかけての視野障害が眼血流低下に関連するという以前の当科からの報告4)もふまえると,AIセグメンテーションによるCFAZの定量は,緑内障患者における血流低下の早期検出に有用な手段となる可能性がある.C322あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024図2セグメンテーションモデルの構造広く普及しているCU-Netをベースとして小さい容量で精度の高いモデルを構築した.(文献C2より引用)●今後のAI活用の展望近年のCAI技術の発達は少し前まで不可能と思われていたことを次々と実現し,今もなお進歩を続けている.一方で,画像処理においては存在しない構造を描出してしまうことや,ChatGPTを代表とする自然言語処理では,あたかも本当であるかのような虚偽の文章を生成してしまうことなど,AIであるがゆえに起きる現象も問題となってきている.AIは非常に便利な手段ではあるものの,ことに医療CAIの開発においては,その判断と性能向上に医療者が介在する,人間参加型(human-in-the-loop)のCAIを意識することが重要であろう.文献1)OmodakaCK,CHorieCJ,CTokairinCHCetal:DeepClearning-basedCnoiseCreductionCimprovesCopticalCcoherenceCtomog-raphyangiographyimagingofradialperipapillarycapillar-iesCinCadvancedCglaucoma.CCurrentCEyeCResearchC47:C1600-1608,C20222)SharmaCP,CNinomiyaCT,COmodakaCKCetal:AClightweightCdeeplearningmodelforautomaticsegmentationandanal-ysisofophthalmicimages.SciRepC12:8508,C20223)NinomiyaCT,CKiyotaCN,CSharmaCPCetal:TheCrelationshipCbetweenCarti.cialCintelligence-assistedCOCTCangiography-derivedfovealavascularzoneparametersandvisual-.elddefectCprogressionCinCeyesCwithCopen-angleCglaucoma.OphthalmologyScience:100387,C20234)KiyotaN,ShigaY,OmodakaKetal:Time-coursechang-esCinCopticCnerveCheadCbloodC.owCandCretinalCnerveC.berClayerCthicknessCinCeyesCwithCopen-angleCglaucoma.COph-thalmologyC128:663-671,C2021(86)

屈折矯正手術セミナー:放射状角膜切開術後の長期角膜屈折力変化

2024年3月31日 日曜日

●連載◯286監修=稗田牧神谷和孝286.放射状角膜切開術後の長期角膜岩本悠里高静花大阪大学医学部眼科学教室屈折力変化放射状角膜切開術(RK)後に進行性の角膜扁平化が生じることは知られている.RK後C20年以上経過した患者の長期的な角膜屈折力の変化の検討でも,角膜扁平化や不正乱視の増加,屈折力の変動が大きいことがわかった.白内障手術目的でCRK後患者が受診した際には,とくに眼内レンズ選択において十分な注意が必要である.●はじめに放射状角膜切開術(radialkeratotomy:RK)はC1980.1990年代にかけて行われていた屈折矯正手術である.前方角膜を放射状に切開することで角膜中央部を平坦にし,近視を矯正する.術後C10年の長期報告によれば,RKは妥当な安全域を有しているとされているが1),RKに伴う術後合併症には以下のようなものが知られている.術後長期にわたる遠視化,正乱視および不正乱視の増加,屈折の日内変動,ハロー・グレアの出現,角膜生体力学的強度の低下,角膜穿孔,角膜内皮機能障害,三叉神経切断に伴うドライアイ,感染症などである2).新しい屈折矯正手術の出現によりCRKは現在ではほぼ行われていない.C●角膜屈折力の経時的変化RK後に角膜扁平化が生じることは知られており,Scheimp.ugカメラを用いた既報においても角膜前面および後面の曲率半径の球面成分の減少がみられ,角膜前面および後面の平衡性の崩れ,角膜曲率の前後比の減少も報告されている3).RK後C20年間の視力やケラトメトリーの値に関する症例報告は知られているが,長期にわたって角膜前面,後面について経時的に検討した報告は知られていない.1990年代にCRKを受け,術後C20年以上経過した患者について,前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)を用いて長期的な角膜屈折力の変化を後ろ向きに検討したので紹介する4).C●症例初診時C41歳,男性.1993年に両眼CRK施行.術後から霧視の訴えがあり,1997年当科紹介受診.細隙灯顕微鏡検査で両眼角膜に8本の放射状切開痕,微小穿孔(microperforation:MP)を認め,左眼には乱視矯正角膜切開術(astigmatickeratotomy:AK)も併用されていた(図1).(83)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1症例1の細隙灯顕微鏡検査写真両眼ともにC8本切開のCRK痕が認められる..はMP,.はAKの瘢痕を示している.(文献C4より改変引用)初診時右眼視力はC0.1(0.5×sph+11.0(cyl.5Ax5°),左眼はC0.07(0.5×sph+13.0(cyl.5Ax180°)と強い遠視化を認めた.初診時から両眼ともに球面ハードコンタクトレンズ装用を開始,2023年現在も継続している.RKの術中角膜穿孔はCMPとCmacroperforationに分類される.Macroperforationと異なりCMPは通常,縫合や手術の中止を必要としないがCMPによる瘢痕は不正乱視を誘発する可能性があり,約C2.35%の患者に発生する.OCTを用いた屈折力の評価は,Fourier解析を用いて球面成分,正乱視成分,非対称成分,高次不整成分のC4成分に分類し,それぞれ定量化した.後者二つの非対称成分,高次不整成分が角膜不正乱視である.片眼または両眼にCMPを生じたC3人の患者においてC8年以上COCTを用いて角膜屈折力を評価したところ,総じて「角膜扁平化,不正乱視が強い,また観察期間中の変動が大きいことがわかった(図2).角膜前面および後面の不正乱視がともに大きく,経過中の変動が大きい傾向があった.前面の非対称成分は観察期間中に減少傾向を認めた.提示症例のように片眼のみに乱視矯正角膜切開術が追加された症例では,前面および後面の正乱視成分と後面の非対称成分の両方で値が大きかった.RKの術前および術中の情報がないため詳細は不明だが,手術適応および術式が適切であったかどうかが不正乱視の量に影響している可能性がある.あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024319a球面成分(D)角膜前面50454035302520151050192021222324252627282930(Y)c非対称成分角膜前面(D)(D)122.510281.56140.5200192021222324252627282930(Y)192021222324252627282930(Y)Case1RCase1LCase3RCase3L(D)角膜後面0-1-2-3-4-5-6192021222324252627282930(Y)角膜後面b正乱視成分角膜前面(D)3.5(D)0.7角膜後面30.62.50.521.510.50192021222324252627282930(Y)d高次不整成分(D)角膜前面2.521.510.50192021222324252627282930(Y)Case2RCase2LCase4RCase4L0.40.30.20.10192021222324252627282930(Y)(D)角膜後面0.80.70.60.50.40.30.20.10192021222324252627282930(Y)図2角膜屈折力変化(角膜前面,後面)横軸はCRK後の年数.Case1とCCase3は両眼に,Case2は右眼のみにCMPを伴っている.Case4は術後裸眼視力含め経過良好なCRK後の症例を対照例として示した.(文献C4より改変引用)●RK患者を診たら現在CRKが行われることはなくなった.しかし,RK後の患者が加齢に伴って白内障手術のために眼科を受診する機会は増えてきている.もともと近視眼ゆえ,緑内障,網膜疾患などの診断および治療で受診する可能性も十分にある.RK眼では前述のとおり,前後面の角膜曲率半径の比率が変化するため,標準的な眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数計算式では換算屈折率の誤差が大きく,IOLの度数ずれを引き起こす可能性が高い.術後のCIOL度数計算式の比較について数多くの研究がなされている.術後屈折値のより正確な予測のためには,BarrettTrueK式,標準CHaigis式,またはそれらの式を含め,平均C3種類以上の計算式を用いることが推奨されている5).術後のCIOL度数ずれについても患者に十分な術前説明が必要である.不正乱視の増大やハロー・グレアなどの合併症を伴う患者も多く,多焦点IOLは推奨されない.術中にCRK切開部の.離や,同部位の穿孔リスクがあることから,切開の部分を適切に計画することも重要である.C●おわりにRK施行眼では術後C20年以上経過しても角膜屈折力C320あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024の変動が見られるため,術後長期経過後も注意深い観察が必要である.RK後の患者が受診した際には十分な説明,とくに白内障手術の際はCIOLの選択に注意を要する.文献1)WaringCGOCIII,CLynnCMJ,CMcDonnellPJ:ResultsCofCtheCprospectiveevaluationofradialkeratotomy(PERK)study10yearsaftersurgery.ArchOphthalmolC112:1298-1308,C19942)山口達夫:角膜全面放射状切開術の現況.眼科手術C5:C19-30,C19923)CamellinCM,CSaviniCG,CHo.erCKJCetal:Scheimp.ugCcam-erameasurementofanteriorandposteriorcornealcurva-tureCinCeyesCwithCpreviousCradialCkeratotomy.CJCRefractCSurgC28:275-279,C20124)IwamotoCY,CKohCS,CInoueCRCetal:Long-termCcornealCrefractiveCpowerCchangesCtwoCdecadesCqfterCradialCkera-totomywithmicroperforations.EyeContactLens49:258-261,C20235)Do.owiec-KwapiszCA,CMisiuk-Hoj.oCM,CPiotrowskaH:CCataractCsurgeryCafterCradialCkeratotomyCwithCnon-di.ractiveCextendedCdepthCofCfocusClensCimplantation.Medicina(Kaunas)C58:689,C2022(84)

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く コンタクトレンズの湿潤性,洗浄,消毒および涙液との相互作用(前編

2024年3月31日 日曜日

■オフテクス提供■3.コンタクトレンズの湿潤性,洗浄,消毒土至田宏順天堂大学医学部附属静岡病院眼科および涙液との相互作用(前編)松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学,川崎市立多摩病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の第C3章は,コンタクトレンズの湿潤性や洗浄・消毒,および涙液との相互作用をとりあげている1).今回は前編として,湿潤性や物性について解説する.はじめに今回は第C3章でとりあげているCCLのポリマーとレンズ表面について,また,これらと酸素透過性,湿潤性,涙液との相互作用について解説する.酸素透過性CLの素材は過去C20年間で大きな進歩をとげており,とくにシリコーンハイドロゲル素材の導入は注目に値する.その登場はCCL装用における低酸素症の問題を解決させた一方,とくにCCL装用時の快適性の追求など,CLの処方成功とその後の装用継続のための要因に関する研究はさらに必要だとしている.研究室レベルでの実験では,CLの酸素透過性の向上によって,レンズに吸着される蛋白質や脂質などの涙液成分の種類や,付着する微生物の種類に変化が生じた.これらの変化は,酸素透過性を高めるために使用されるポリマー固有の疎水性によって引き起こされた可能性がある.CLの生体適合性はレンズ表面の湿潤性と関連しており,湿潤性向上への取り組みが行われている.湿潤性の研究成果CLの湿潤性とCCL装用中の快適性に関する研究が展開されている.以下に湿潤性に関連する用語のいくつかを解説する.C①CDynamicCsessileCdropConCinclinedsubstrates:板上の水滴などの液滴が,板を傾け基板上を動き出す直前に,液滴の前進および後退接触角を測定する方法.その挙動を通じて,CL材料の湿潤性や液体との相互作用や表面特性の評価を行う.C②CDynamicCsessiledropCgoniometry:動的な液滴角度測定法(伸縮法)で,斜面での液滴の移動により液滴の体積を変化させ,接触角を前進および後退時に測定する方法.材料表面の湿潤性,液体の滴が表面をどれだけ速く拡散するか,液体滴の移動における相互作用,固体表面の特性などを評価する.C③CDynamicCcaptiveCbubblemethod:固体の表面に触れた気泡を拡大・収縮させて,前進および後退接触角を測定する方法.材料の表面特性や液体との相互作用の評価に有用である.C④CWilhelmyplate:サンプルを液体に浸すときと引き表1国際標準化機構(InternationalOrganizationforStandardization,ISO)による,ISO18369-1:2017に基づくソフトコンタクトレンズ(SCL)素材の分類2)グループレンズタイプ特性CIIIIIIIVVVAVBVC低含水率・非イオン性高含水率・非イオン性低含水率・イオン性高含水率・イオン性高酸素透過性素材(例:シリコーンヒドロゲル,シリコーンエラストマー)イオン性サブタイプ高含水サブタイプ低含水サブタイプ含水率がC50%未満であり,pH6.8で非イオン性のモノマーがC0.5質量%以下含まれている素材C含水率がC50%以上であり,pH6.8で非イオン性のモノマーがC0.5質量%以下含まれている素材C含水率がC50%未満で,pH6.8でイオン性のモノマーがC0.5質量%以上含まれている素材C含水率がC50%以上で,pH6.8でイオン性のモノマーがC0.5質量%以上含まれている素材C酸素透過率(CDk)がC40CDk単位以上であり,そのCDk値が材料の水分含有量のみを基準として予想されるCDk値よりも高い素材CグループⅤに該当し,pH6.8でイオン性のモノマーまたはオリゴマーを含むサブグループCグループⅤに該当し,含水率がC50%以上で,CpH6.C8でイオン性のモノマーまたはオリゴマーを含まないサブグループCグループⅤに該当し,含水率がC50%未満で,CpH6.C8でイオン性のモノマーまたはオリゴマーを含まないサブグループ注:FAD分類とは異なる(I.IVも一部異なっている)(81)あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024C3170910-1810/24/\100/頁/JCOPY上げるときに必要な力を測定して,前進接触角と後退接触角を算出する方法で,界面活性剤の表面吸着や材料の浸透性,液体の湿潤性などの評価に有用である.湿潤性と快適性の明確な関連性は不明確であり,研究の方法や被験者の違い,環境要因などが影響している.湿潤性を測定する方法はいくつかあるが,臨床的に確立されたものはまだなく,さらなる研究が必要である.非侵襲的な表面乾燥時間(non-invasiveCtearCbreak-uptime:NIBUT)はCCLの湿潤性を評価するためのもっとも一般的な方法の一つであるが,再現性に課題がある.CLへの涙液成分の付着は装用開始後数分で発生する可能性があり,これがCCL表面の湿潤性に影響を及ぼすことから,湿潤性を維持し,眼へのCCL装用中の快適さを長期間保つ必要がある.湿潤性の維持レンズ表面の湿潤性は装用中に変化し,快適性に影響を与える可能性がある.個々の要因,たとえば涙液組成,瞬目に伴う涙液の蒸発,眼表面温度,レンズの材質,装用時間,レンズ交換スケジュールなどが湿潤性に影響を及ぼす可能性がある.①ブリスターパック内の保存液:CLの湿潤性を向上させる方法の一つは,ブリスターパック内の保存液の表面張力を低減させる手法である.以前は緩衝剤が使用されたが,最近では各種界面活性剤が使用され,CL装用時の快適性向上に寄与している.しかし,保存液の表面張力,粘度,pHなどの物理的特性も湿潤性に影響を及ぼす可能性がある点に要注意である.②瞬目と涙液の蒸発:CLの湿潤性を保つ実用的な方法の一つは,瞬目頻度を適切に保つことである.瞬目は眼表面で涙液を均等に広げることによりレンズ表面の湿潤性を向上させる.高度な作業やデバイスの使用は瞬目頻度を減少させ,涙液の不安定性を引き起こす可能性がある.瞬目不全は症状を悪化させ,快適性に影響を及ぼす可能性がある.③湿潤液:CL装用者の眼の乾燥と不快感を緩和するために湿潤液が使用されるが,その効果は一時的である.涙液の状態改善のために点眼薬も使用される.これらはそれぞれ特性が異なり,CLの材料とも相互作用が異なる.また,CLの湿潤性に対する影響は個人差があり,効果判定まで数カ月かかることもある.涙液や粘膜の分泌を促進する薬剤もCCLの湿潤性向上に寄与する可能性がある.CLの湿潤性向上には,点眼薬の種類や成分,使用期間による効果の違いがあり,とくにヒアルロン酸ナトリウムを含む点眼薬が有益であることが示唆された.④レンズケア剤:レンズケア剤は消毒と洗浄,保存を目的とし,一般に抗菌薬,界面活性剤,緩衝剤,キレート剤,保存料を含む.SCLの場合,保存中にもレンズを湿潤させる必要がある.レンズケア溶液は,湿潤剤やCCLの特性によって異なる相互作用が生じる.研究によってその効果はCCLの湿潤性についても一致した結論はまだ得られていない.おわりに今回はCCLEARの第C3章の前半を要約し解説した.日本では湿潤液の使用の有無やレンズケア剤の種類など,いくつかの点で英国での事情とは異なることに留意しておく必要がある.とくに表1の国際標準化機構(ISO)によるCSCLの分類2)は,米国食品医薬品局(FDA)による含水性CSCLの素材別に分類したCFDA分類とは異なる点に注意を要する.ISO分類では一部素材の割合が異なるほか,FDA分類にはまだないグループⅤとそのサブタイプがある.このグループⅤにはシリコーンハイドロゲル素材が,シリコーンエラストマーとともに分類されている.文献1)WillcoxM,KeirN,MaseedupallyVetal:CLEAR-Con-tactlenswettability,cleaning,disinfectionandinteractionswithtears.ContLensAnteriorEyeC44:157-191,C20212)ISO18369-1:2017.Ophthalmicoptics-contactlenses-part1:vocabulary,Cclassi.cationCsystemCandCrecommen-dationsCforClabellingCspeci.cations.C2017.Chttps://www.iso.Corg/standard/66338.htmlC

写真セミナー:Thiel-Behnke角膜ジストロフィ

2024年3月31日 日曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史478.Thiel-Behnke角膜ジストロフィ下田悠元福岡秀記京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①ハニカム状混濁図1紹介受診時の前眼部写真(左眼)中央およびその周辺の角膜上皮から実質浅層にかけて,ハニカム状の上皮下混濁を認めた.図4前眼部OCT所見中輝度の沈着物がCBowman層から角膜上皮層に向かって鋸歯状のパターンで認められた.図3前眼部所見(フルオレセイン染色による観察)角膜上皮の凹凸を認めた.(79)あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024C3150910-1810/24/\100/頁/JCOPY幼少期より両眼の角膜びらんの再発を繰り返し眼科に通院していた症例(61歳,女性)を提示する.成人後は角膜びらんの再発はなくなったが,びらんの治癒過程で生じた角膜混濁は残存しており,視力低下を認めていた.白内障手術後から視力低下およびコントラストの低下といった自覚症状が増悪してきたため,精査および加療目的で京都府立医科大学附属病院を紹介を受診した.初診時所見として,細隙灯顕微鏡および前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で両眼の角膜中央から周辺部に,上皮から実質浅層のハニカム状の混濁を認めた(図1~3).また,角膜不正乱視を認め,両眼の矯正視力は右眼(0.5),左眼(0.6)と不良であった.家族歴としては父親が両眼に同様の角膜混濁があり視力不良であった.同胞の弟には角膜混濁を認めなかった.病歴および各種検査所見から角膜ジストロフィを疑って遺伝子検査を行ったところ,後日,transformingCgrowthCfactorCbetainduced(TGFBI)遺伝子のCArgC-555Glnの変異を認め,Thiel-Behnke角膜ジストロフィ(Thiel-Behnkecornealdystrophy:TBCD)の診断となった.角膜不正乱視の補正目的で両眼のソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)の装用を行ったところ,矯正視力はCSCL装用下で右眼(0.7),左眼(1.0)と視力の改善を認めた.TBCDはCTGFBI遺伝子の変異により引き起こされる,角膜上皮からCBowman層,実質浅層にかけてハニカム状の混濁を示すまれな角膜ジストロフィの一種である1).幼少期より両眼性の角膜混濁や再発性角膜びらん,緩徐に侵攻する視力低下が生じることが特徴であり,TGFB1遺伝子に変異を認めることが多く,常染色体優性遺伝の遺伝形式をとる.診断は遺伝子検査や前眼部COCT,invivo共焦点顕微鏡などによって行われる.わが国では角膜ジストロフィに対する遺伝子検査は保険適用であり,TGFBI遺伝子においてCArg555Glnの変異が認められればCTBCDの確定診断となる2).前眼部COCTでは中輝度の沈着物がBowman層から角膜上皮層に向かって鋸歯状のパターンで認められ3),また,invivo共焦点顕微鏡にて角膜上皮層からCBowman層にかけて高輝度の沈着物が認められることでCTBCDの診断となる4).治療は,角膜不正乱視に対してはCSCL装用やハードコンタクトレンズ装用が行われる.角膜混濁に対しては治療的表層角膜切除術(phototherapeuticCkeratecto-my:PTK),全層角膜移植術(penetratingCkeratoplas-ty:PKP),表層角膜移植術(lamellarkeratoplasty:LKP)などが行われる.PTKはCPKPやCLKPと比較し,低侵襲で回復も早く比較的安全な術式であるが,術後合併症として遠視化や角膜不正乱視などが認められる.近年,PTKに波面収差を用いたレーザー屈折矯正術を併用することで,遠視化や高次収差を減少させることができたという報告もある5,6).文献1)ThielCHJ,CBehnkeH:AChithertoCunknownCsubepithelialChereditaryCcornealCdystrophy.CKlinCMonblCAugenheilkdC150:862-874,C19672)YuCY,CQiuCP,CZhuCYCetal:ACnovelCphenotype-genotypeCcorrelationCwithCanCArg555TrpCmutationCofCTGFBICgeneCinThiel-BehnkecornealdystrophyinaChinesepedigree.BMCOphthalmolC15:131,C20153)NishinoT,KobayashiA,MoriNetal:InvivoimagingofReis-BucklersCandCThiel-BehnkeCcornealCdystrophiesCusingCanteriorCsegmentCopticalCcoherenceCtomography.CClinOphthalmol14:2601-2607,C20204)KobayashiA,SugiyamaK:Invivolaserconfocalmicros-copyC.ndingsCforCBowman’slayerCdystrophies(Thiel-BehnkeandReis-Bucklerscornealdystrophies).Ophthal-mologyC114:69-75,C20075)HiedaCO,CKawasakiCS,CWakimasuCKYCetal:ClinicalCout-comesCofCphototherapeuticCkeratectomyCinCeyesCwithCThiel-Behnkecornealdystrophy.AmJOphthalmolC155:C66-72,C20136)HsiaoCC,HouYC:Combinationofphototherapeuticker-atectomyCandCwavefront-guidedCphotorefractiveCkeratec-tomyCforCtheCtreatmentCofCThiel-BehnkeCcornealCdystro-phy.IndianJOphthalmol65:318-320,C2017

ぶどう膜炎(Vogt・小柳・原田病)

2024年3月31日 日曜日

ぶどう膜炎(Vogt・小柳・原田病)Uveitis(Vogt-Koyanagi-HaradaDisease)長谷川英一*はじめにぶどう膜炎疾患では眼内全体に炎症が起こる可能性がある.とくに後眼部に炎症が波及した場合は,網膜に加えて脈絡膜にも種々の変化が起きる.光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では検眼鏡的に観察のむずかしい脈絡膜の描出が可能であり,診断や治療効果判定に有用である.本稿では,ぶどう膜炎をきたす疾患として頻度が高いCVogt・小柳・原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)におけるCOCTの活用と治療について概説する.CIVogt・小柳・原田病のOCT所見VKHは霧視や羞明などを伴う視力低下を自覚し,典型例では急性期に黄斑部や視神経乳頭周囲を中心に両眼性の漿液性網膜.離を生じる.OCTにてこの漿液性網膜.離を観察すると,視細胞外節が網膜色素上皮から.離した網膜.離の像がみられる(図1).さらに分離した視細胞内節と外節の間に滲出液が貯留し,フィブリンによる隔壁を伴い多房性を呈することがある(図2).また,OCTでみられる特徴的な所見として脈絡膜皺襞と脈絡膜肥厚がある.脈絡膜皺襞は網膜色素上皮がひだ状に波打つ像で,これは脈絡膜が肥厚することで網膜色素上皮細胞層が隆起することによる(図3).VKHでは脈絡膜に存在するメラノサイトを標的として,類上皮細胞やリンパ球など多数の炎症細胞が脈絡膜に浸潤することにより脈絡膜が肥厚する(図4).通常,脈絡膜厚は平均250CumでCOCTでは脈絡膜と強膜の境界を容易に確認することができるが,病初期には脈絡膜厚の肥厚がみられ,ときにC800Cum以上に肥厚することもあり,脈絡膜と強膜の境界が不明瞭となる.漿液性網膜.離とびまん性の脈絡膜肥厚はCVKHの診断基準に含まれており,これらの所見をCOCTで確認することは診断に重要となる.乳頭浮腫型のCVKHでは視神経乳頭炎がおもであり,漿液性網膜.離を呈さないこともあるが,脈絡膜皺襞と脈絡膜肥厚はみられるので診断の補助となる.CIIVogt・小柳・原田病の治療とOCT所見VKHでは発症早期に十分な炎症抑制を行うことが,のちの再発や遷延化の予防に重要である1,2).一般的にはステロイドパルス療法を行うことが多く,メチルプレドニゾロン(mPSL)1,000Cmg/日をC3日間点滴静注したのち,プレドニゾロン(PSL)内服をC40.60Cmg/日から開始し,5.10Cmg/日ずつ内服量を数カ月かけて漸減しながら継続する3).1回目のステロイドパルス療法でも炎症が強く残存し漿液性網膜.離や脈絡膜皺襞所見の改善に乏しい場合は,続けてC2回目のステロイドパルス療法を行うこともある.ステロイドが奏効し炎症の鎮静化が得られると,漿液性網膜.離や脈絡膜皺襞は消失し,肥厚した脈絡膜も正常化していく(図5).ステロイドパルス療法直後から所見が正常化し視力回復がみられる患者もいれば,PSL内服を継続しながら数週間から数カ月かかって徐々に所見が正常化し視力が回復する患者も*EiichiHasegawa:国立病院機構九州医療センター眼科〔別刷請求先〕長谷川英一:〒810-8563福岡市中央区地行浜C1-8-1国立病院機構九州医療センター眼科C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(75)C311図1VKHでみられる漿液性網膜.離図2多房性の漿液性網膜.離隔壁内にはフィブリンの貯留もみられる.図3脈絡膜皺襞図4脈絡膜肥厚網膜色素上皮が波打っている像がみられる.脈絡膜と強膜の境界線が不明瞭となっている.図5図4の治療寛解後図6脈絡膜の菲薄化(遷延型の寛解後)漿液性網膜.離は消失している.脈絡膜厚も正常化し,脈絡膜脈絡膜が菲薄化している.と強膜の境界線が明瞭となっている.PSLを増量し治療の強化を図る.当院では再発時のPSL投与量よりプロトコル上C2段階多いCPSL投与量へ戻したうえで,投与期間をC2倍に延ばして再度漸減を行っている.再発の場合でもステロイド治療の強化により多くの患者では炎症の鎮静化を得られるが,この際にステロイドの総投与量に気をつけておかねばならない.ステロイドの総投与量が増えるにつれて,白内障や緑内障などの眼疾患はもちろん大腿骨頭壊死や胸腰椎圧迫骨折などの全身合併症の出現するリスクが高くなるとされる5).再発を繰り返す患者では,炎症鎮静化を得るためにも,またステロイドの総投与量が増えることを避けるためにも,免疫抑制薬や生物学的製剤の導入が必要である.CIII免疫抑制薬と生物学的製剤による治療免疫抑制薬のシクロスポリン(CYA)はC2013年に非感染性ぶどう膜炎に対して保険適用となり,VKHでも使用される.CYAはステロイドを減量するたびに再発する難治患者に対してステロイド内服薬と併用することで,ステロイドを減量することを目的として用いられている.CYAを導入する場合は,ステロイドを有効容量まで増量し消炎が得られたのちにCCYAを導入する.炎症所見の軽快,再燃がないことをCOCTでも確認しながら,ステロイドは漸減していく.CYAの投与量については2.3.mg/kg/日から開始し,1.2.mg/kgずつ増減しながら,最終投与からC12時間後の血中濃度(トラフ値)がC100.ng/mlを目標としC150.ng/mlを超えないようにする.CYAの代表的な副作用として腎障害や肝障害があり,使用中は血中濃度の定期的な測定と同時に肝腎機能のモニタリングも必要である.CYAによる副作用が出現した場合は使用を中止し,生物学的製剤の導入を検討する.生物学的製剤である抗腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisfactor:TNF)Ca抗体のアダリムマブ(ADA)はC2016年に非感染性の中間部,後部または汎ぶどう膜炎に適応となった.ステロイド増量やCCYA併用による治療強化を行っても再発を繰り返す難治性のCVKHではCADAを導入する.ADAは結核やCB型肝炎などの各種感染症や悪性疾患の出現リスクがあり,導入に際して事前のスクリーニング検査が必須である.また,使用中も全身状態の定期的な観察が必要であり,内科医との密な連携が求められる.Behcet病による難治性ぶどう膜炎に対して使用されているCTNF阻害薬のインフリキシマブは点滴静注による投与であるのに対し,ADAは自己による皮下投与であるため比較的安易に導入され管理が不十分になる可能性があることから,日本眼炎症学会から使用する医師と施設の基準が示されている6).医師基準は,眼科専門医かつ眼炎症学会の会員でぶどう膜炎診療の十分な経験があること,eラーニング講習を受講しCTNF阻害薬の知識を習得することである.また,施設基準は,副作用の定期的な検査や副作用に迅速に対応できること,TNF阻害薬の使用に精通した内科医との連携が可能なこととされている.ADAの投与方法は,初回にC80Cmgを皮下投与し,1週間後にC40Cmgを,以降はC2週間ごとにC40Cmgを投与する.投与開始後はC2.3カ月ごとに眼所見,全身所見の経過観察をしっかり行う.ADAの導入もやはり炎症の改善とともにステロイドの減量が目的であり,投与後は炎症所見の改善を確認しながらステロイドを漸減していく.日本人の非感染性ぶどう膜炎患者に対するCADA使用の市販後調査では,炎症所見の改善に伴い導入前にはC14.6Cmg/日であった平均ステロイド投与量が,導入C1年後にはC7.2Cmg/日まで減量されており,ADAのステロイド減量効果が示されている7).おわりにVKHの治療においては炎症抑制のための早期の治療導入,また病状に合わせたステロイド量の調整,免疫抑制薬や生物学的製剤の適切な導入が重要である.OCTで病状を正しく把握し治療を行うことで,早期寛解や再発の防止につなげたい.文献1)IwahashiCC,COkunoCK,CHashidaCNCetal:IncidenceCandCclinicalCfeaturesCofCrecurrentCVogt-Koyanagi-HaradaCdis-easeCinCJapaneseCindividuals.CJpnCJCOphthalmolC59:157-163,C20152)LaiCTY,CChanCRP,CChanCCKCetal:E.ectsCofCtheCdurationCofCinitialCoralCcorticosteroidCtreatmentConCtheCrecurrenceCofCin.ammationCinCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease.CEye(Lond)C23:543-548,C2009(77)あたらしい眼科Vol.C41,No.3,2024C313