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黄斑部にEpiretinal Proliferation類似の網膜隆起性病変を認めた1例

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1560.1562,2018c黄斑部にEpiretinalProliferation類似の網膜隆起性病変を認めた1例戸邉美穂*1,2石田友香*1内田南*1大野京子*1*1東京医科歯科大学医学部附属病院眼科*2多摩南部地域病院眼科CARareCaseofEpiretinalProliferation-likeElevatedLesionintheMacularAreaMihoTobe1,2),TomokaIshida1),MinamiUchida1)andKyokoOhno-Matsui1)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,TokyoMedicalandDentalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,TamananbuAreaHospitalCEpiretinalproliferation(ERP)とは,黄斑円孔や分層円孔に伴う増殖性病変である.今回,筆者らは,黄斑円孔や分層円孔の明らかな既往がないCERP類似病変を認めた症例を経験した.症例はC47歳,女性.2010年に左眼の視力低下と歪視を自覚,症状が増悪したためC2015年に東京医科歯科大学医学部附属病院を受診.左眼視力は(0.9),左眼黄斑部に不整形白色病変を認めた.フルオレセイン蛍光眼底造影検査で病変は後期で淡い過蛍光を呈し,光干渉断層計(OCT)では,周囲の黄斑上膜に一部連なる,内部ほぼ均一の中等度反射を示すCERPに類似した病変を認めた.本症例は,従来報告されているCERPよりも,網膜外層からの増殖組織が硝子体側へ隆起している点で非典型的な症例であった.病変はその後C2年間形態に変化なく,視力も不変であった.CA47-year-oldfemalenoticedvisualobscurationanddistortionofherlefteyein2010andvisitedourhospitalin2015duetoworseningofsymptoms.Herlefteyesightwas0.9.Anirregularlyshapedwhitelesioninthemacu-larregionoftheeyewasobservedinfunduscopy.Fluoresceinangiography(FA)revealedslighthyper.uorescenceatthemacularlesion,indicatedbylatestageFA.Opticalcoherencetomographyrevealedthepresenceofanele-vatedClesionCofChomogenousCmediumCre.ectivity,CwhichChadCadvancedCtoCpartCofCtheCretinaCandCcontinuedCtoCtheCepiretinalmembrane.Thepatienthadnoclearhistoryofexperiencingamacularholeorlamellarhole,andshowedatypicalityinthatthelesionhadelevatedintothevitreousratherthanbeingaprotrusionsimilartoepiretinalpro-liferation.Thelesionhasremainedstableduringthepast2yearsandvisualacuityhasnotchanged.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(11):1560.1562,C2018〕Keywords:黄斑部隆起性病変,網膜上増殖組織,黄斑上膜,分層円孔,グリオーシス.elevatedClesionCofCtheCmaculararea,epiretinalproliferation,epiretinalmembrane,lamellarmacularhole,macularhole,gliosis.CはじめにEpiretinalCproliferationとは,分層円孔,黄斑円孔などの網膜欠損部周囲に認められる網膜上増殖組織で,分層黄斑円孔のC30%,黄斑円孔のC8%に合併するといわれている1).光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で中等度反射を示すが,黄斑上膜(epiretinalmembrane:ERM)よりもCOCTでの輝度がやや低く,厚みを有する点が特徴である1).病理学的にはグリア細胞,網膜色素上皮細胞,硝子体細胞に由来すると考えられている2).合併所見としては,円孔基底部の増殖組織,ellipsoidzoneの欠損,Henle神経線維層の亀裂があり,円孔基底部の増殖組織と結合していることが多いと報告されている1).今回,筆者らは,黄斑部にCepiretinalCproliferation類似の隆起性病変を認めた症例を経験した.黄斑円孔や分層円孔の明らかな既往がなく,従来報告されているCepiretinalprolif-erationよりも,網膜外層からの増殖組織が硝子体側へ隆起している点で非典型的な症例であった.調べた限りで今までそのような報告がなく,今回その所見と経過について報告〔別刷請求先〕戸邉美穂:〒113-8519東京都文京区湯島C1-5-45東京医科歯科大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:MihoTobe,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,TokyoMedicalandDentalUniversity,1-5-45Yushima,Bunkyo-ku,Tokyo113-8519,JAPANC1560(112)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(112)C15600910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1画像検査所見a:左眼カラー眼底写真(50°).b:同拡大図.黄斑部に不整形の白色病変を認める.Cc:左眼フルオレセイン蛍光眼底造影写真(後期).黄斑部に組織染による淡い過蛍光を呈する.d.f:左眼病変部のCOCT所見.外顆粒層から硝子体側へ伸展する隆起性病変が認められ,内部不均一な中等度反射を呈し,一部網膜上にまで伸展している(Cd).別の断面のCOCTでは周囲に黄斑上膜を認め,網膜上で隆起性病変が一部黄斑上膜に連なっているように見える(Ce).病変の一部はCellipsoidCzoneにまで達している(Cf).g:左眼病変部のCenfaceOCT所見.黄斑部に円盤状の隆起性病変を認め,耳側と鼻側に一部伸展し,周囲のCERMとの連なりが認められる.Ch:左眼病変部のCOCTangiographyのCenface画像.病変内部には明らかな血流成分は認められない.し,鑑別も含め考察した.CI症例患者:47歳,女性.主訴:左眼視力低下,歪視.現病歴:5年前から左眼の視力低下と歪視を自覚していたが,症状が悪化したため当院を受診した.既往歴:高血圧.家族歴:特記事項なし.初診時所見:視力は右眼=1.2(1.5×+0.25D(cyl.0.75DAx100°),左眼=0.8(0.9×+0.25D(cyl.0.5DAx65°).眼圧は右眼=17CmmHg,左眼=19CmmHg.前眼部と中間透光体に両眼ともに異常認めなかった.眼底は右眼異常なし,左眼は黄斑部に不整形の白色隆起病変を認めた(図1a,b).両眼ともに周辺部には異常を認めなかった.蛍光眼底造影検査では,黄斑部病変はフルオレセイン蛍光眼底造影(.uoresce-inangiography:FA)早期で異常なく,後期で組織染による淡い過蛍光を呈した(図1c).OCTでは黄斑部に内部ほぼ均一の中等度反射を示す辺縁整の不整形隆起性病変を認めた.病変は網膜内から硝子体側に隆起しており,脈絡膜側は一部がCellipsoidzoneまで貫いていた.周囲にはCERMがあり,硝子体側は一部でCERMと連なっていた(図1d~f).CEnCfaceOCTでは隆起性病変は黄斑部に不整形病変として認められ,耳側と鼻側へ一部伸展し,周囲のCERMとの連なっていた(図1g).検眼鏡的にもCOCTでも後部硝子体.離は黄斑部とその周囲には生じていなかった.また,OCTangiographyでは隆起性病変の内部に明らかな血流成分は認められなかった(図1h).その後,無治療でC2年間経過観察をしたが,視力,OCT所見ともに変化がなかった.(113)あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018C1561II考按OCTで中等度反射の黄斑上膜に連なる隆起性病変を示す,黄斑部の不整形白色病変を有するC1症例を示した.FAでは淡い組織染を示したが,OCTangigraphyでは内部血流はみられなかった.今回,このような黄斑部隆起性病変の鑑別診断として,腫瘍性,寄生虫感染症,非腫瘍性増殖が考えられた.網膜起源の腫瘍はまれであり,後天性星細胞腫,網膜色素上皮細胞と網膜内細胞の混合性過誤腫,転移性網膜腫瘍,網膜血管腫が挙げられる.後天性星細胞腫は境界明瞭な円形病変を呈し好発部位は乳頭周囲であるため,可能性は低いと考えた.混合性過誤腫は血管蛇行やCOCTで網膜の層構造の乱れを伴うため本症例とは所見が異なっていた.転移性網膜腫瘍や網膜血管腫はやはり無血管野である黄斑に限局した病変を生じる可能性は低いと考えた.つぎに,寄生虫感染症のうち,トキソカラ症は検眼鏡所見やOCT所見が本症例と類似しているが,炎症所見や周囲の浸出斑が認められず,継時的な増悪がないことからも否定的であった.非腫瘍性増殖として,focalpseudoneoplasticCgliosis(特発性のグリア細胞の過形成,通常滲出性変化や網膜牽引を伴わず,増大傾向を認めない3))が鑑別に挙げられ,検眼鏡所見で黄白色病変を示す点は本症例と類似するが,focalpseudoneoplasticCgliosisは辺縁整で円形な病変であること,OCTでシャドーを引くドーム状の隆起を認めること,FAでは後期相で過蛍光を示すことが異なっていた.EpiretinalCproliferationとは,冒頭にも述べたように,黄斑円孔や分層円孔に伴う網膜上増殖組織である.2014年にPangらにより初めて提唱され1),合併所見としては,円孔基底部の増殖組織,ellipsoidzoneの欠損,Henle神経線維層の亀裂があり,円孔基底部の増殖組織と結合していることが多いと報告されている1).Laiらは,epiretinalCprolifera-tionを伴う黄斑円孔が自然閉鎖後,網膜上増殖組織と網膜隆起性病変が残存したという報告4)をしているが,OCT所見が本症例と類似しており,上記の除外診断と合わせて,本症例もCepiretinalCproliferation類似の病変と診断した.なお,FA所見に関しては,既報の論文で報告はなかったため比較はできなかった.本症例は,高輝度病変が分層円孔にはまり込んでいるような形状をしており,視力低下の既往がないことからも黄斑円孔よりも分層円孔が過去に生じていた可能性が高いと思われた.本症例では既報のCepiretinalCproliferationに比べ,合併所見としての網膜外層からの増殖組織が硝子体側まで過剰に隆起している点が非典型的であった.EpiretinalCproliferationは,病理学的にはグリア細胞の増生によるグリオーシスと考えられている5)が,本症例では後部硝子体.離が生じていなかったため後部硝子体膜沿いにグリア細胞増殖が進み,網膜の新生血管のように後部硝子体膜を足場にさらに細胞増殖が進行することで,隆起性病変が形成されたのではないかと推測した.EpiretinalCproliferationは網膜上膜とは異なり,収縮などによる視機能の悪化や急激な増殖の可能性は低く,5年間の経過観察でC97%に形態学的変化を認めなかったとの報告がある1).本症例でも同様にC2年間,OCT所見に変化なく,視力低下や歪視の増悪も認めていない.今回はC1例報告であり経過観察期間も短いため,所見の経時的変化や長期予後については不明であり,今後多数例での長期観察の検討が必要と思われる.文献1)PangCE,SpaideRF,FreundKB:Epiretinalproliferationseeninassociationwithlamellarmacularholes:adistinctclinicalentity.RetinaC34:1513-1523,C20142)KaseS,SaitoW,YokoiMetal:Expressionofglutaminesynthetaseandcellproliferationinhumanidiopathicepiret-inalCmembrane.BrJOphthalmolC90:96-98,C20063)ShieldsJA,BianciottoCG,KivelaTetal:Presumedsoli-taryCcircumscribedCretinalastrocyticCproliferation:theC2010JonathanW.WirtschafterLecture.ArchOphthalmolC129:1189-1194,C20114)LaiCTT,CChenCSN,CYangCM:EpiretinalCproliferationCinClamellarmacularholesandfull-thicknessmacularholes:CclinicalandsurgicalC.ndings.GraefesArchClinExpOph-thalmolC254:629-638,C20155)PangCE,MaberleyDA,FreundKBetal:Lamellarhole-associatedepiretinalproliferationincomparisontoepireti-nalmembranesofmacularpseudoholes.RetinaC36:1408-1412,C2016C***(114)

足立区における糖尿病患者に対する重症化予防への取り組み─ UNDER 7%─

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1554.1559,2018c足立区における糖尿病患者に対する重症化予防への取り組み─UNDER7%─神前賢一*1,2,3杉浦立*4渡邉亨*4山田冬樹*4早川貴美子*4佐藤和義*5鈴木優*6大高秀明*7増田和貴*7高橋伸治*7馬場優子*7千ヶ崎純子*7江川博文*7小林智春*7鳥山律子*7大山悟*7鈴木克己*8伊東貴志*8*1こうざきアイクリニック*2東京慈恵会医科大学*3足立区眼科医会*4足立区医師会*5足立区歯科医師会*6足立区薬剤師会*7足立区衛生部*8足立区区民部CApproachtoPreventingSeverityofUntreatedDiabetesPatientsinAdachiCity─UNDER7%─KenichiKohzaki1,2,3),TatsushiSugiura4),ToruWatanabe4),FuyukiYamada4),KimikoHayakawa4),KazuyoshiSato5),CMasaruSuzuki6)CHideakiOhtaka7),KazuyoshiMasuda7),ShinjiTakahashi7)CYukoBaba7),JunkoChigasaki7),CHirofumiEgawa7),ChiharuKobayashi7),RitsukoToriyama7)CSatoruOhyama7),,KatsumiSuzuki8)andTakashiIto8)1)KohzakiEyeClinicJikeiUniversitySchoolofMedicine,3)iOphthalmologistsAssociation,4)AdachiMedicalAssociation,5)AdachiDentalAssociation,6)AdachiPharmacistsAssociation,7)AdachiCityO.ceHygieneDivision,8)Adachi,2),Adach,CityO.ceCitizensDivisionC緒言:東京都足立区の糖尿病未治療者に対して重症化予防対策を行い,平成C26年度の結果について報告した.対象および方法:足立区国民健康保険に加入し,足立区特定健診を受診したC40.59歳で,ヘモグロビンCA1c7%以上の糖尿病未治療者を対象とした.方法は自宅に訪問通知書を郵送後,保健師と栄養士が自宅訪問し,検診結果を説明し,生活状況を聞き取り,医療機関受診の勧奨を行った.結果:該当者はC231人で,男性C173人,女性C58人であった.自宅面談はC121人,保健センター面談はC13人,電話相談はC35人であり,合計C169人(73.2%)からいずれかの方法で話を聞くことができた.糖尿病診療科への継続受診者は,132人(57.1%)で,中断者はC48人(20.8%),未治療者はC51人(22.1%)であった.眼科受診者はC70人(30.3%),歯科受診者はC81人(35.1%)であった.結語:保健師および栄養士による面談は,医療機関受診の動機づけに有効であると考えられ,保健師,栄養士を含めたメディカルスタッフと患者を交えた連携が重要と考えられた.CPurpose:WepresentaprojectforpreventingseverityinuntreateddiabeticpatientsinAdachicity.Subjectsandmethods:SubjectsCwereCuntreatedCdiabeticCpatientsCwithChemoglobinCA1c7%CorCmore,CagedC40to59,whohaveCjoinedCAdachiCCityCNationalCInsuranceCandCreceivedCspeci.cCcomprehensiveCmedicalCexamination.CAfterCtheCCitymailedavisitnoticetothesubjects,apublichealthnurseandnutritionistvisitedeachhouse.Subjectsweretheninterviewedastotheresultsofthespeci.ccomprehensivemedicalexamination,lifestyleandrecommendingmedicalinstitute.Results:Visitnoticewasmailedto231patients(173males,58females).Ofthe231,169(73.2%)ChadCsomeCformCofCinterviewCbyCaCpublicChealthnurse:121atChome,C13atCaChealthCcenterCandC35byCtelephoneCcounseling.CPeriodicCvisitsCtoCdiabetesCdepartmentCtotaled132(57.1%)patients;cessationsCnumbered48(20.8%).Untreatedpatientsnumbered51(22.1%).Visitstoophthalmologytotaled70(30.3%)patientsandtodentistry81(35.1%).Conclusions:AnCinterviewCbyCpublicChealthCnurseCandCnutritionistCwasCe.ectiveCinCmotivatingCmedicalCinstitution.CCooperationCbetweenCmedicalCsta.,CincludingCpublicChealthCnurse,CnutritionistCandCpatientsCwasCconsid-eredimportant.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(11):1554.1559,C2018〕〔別刷請求先〕神前賢一:〒121-0815東京都足立区島根C3-8-1山一ビル島根CII-2FこうざきアイクリニックReprintrequests:KenichiKohzaki,M.D.,KohzakiEyeClinic,YamaichibuildingShimaneII-2F,3-8-1Shimane,Adachi-ku,Tokyo121-0815,JAPANC1554(106)Keywords:足立区,特定健診,糖尿病,重症化予防,メディカルスタッフ.AdachiCcity,medicalcare,diabetesmellitus,preventionofseverity,medicalsta.Cはじめに生活習慣病は若年時からの生活環境を改善することで,その発症を予防することができるが,むずかしいのも事実である.InternationalCDiabetesFederationによると糖尿病は世界的に増加傾向にあり1),国ごとにさまざまな対策がなされている2.5).また,近年ではさまざまなCIT機器を利用した介入も試みられている6).これは日本においても同様であり,糖尿病の予防,重症化予防,合併症予防のために,各市町村や各地域の医師会などで特定健診7)をはじめとする積極的な取り組みが行われている.東京都足立区は,以前から区民の健康維持増進に取り組んでいたものの,いずれも本質的な改善には至らなかった.糖尿病に関する新たな事業を発足させるにあたり,過去C10年間の健康調査を行ったところ,①足立区国民健康保険における医療費は糖尿病および腎不全が毎年上位を占め,②糖尿病患者一人当たりの医療費は東京C23区内で最高位であり,③糖尿病患者の腎透析に至る割合は,特別区および東京都の平均値を上回り,④区民は糖尿病が重症化するまで放置する傾向にあるということが判明した8).これらのことを踏まえて,平成C25年に足立区は「糖尿病対策アクションプラン」を発足した.このアクションプランには,「野菜を食べる・野菜から食べることを推進する」「乳幼児期からよい生活習慣づくりを推進する」「糖尿病を重症化させない取り組みを推進する」という三つの基本方針が掲げられている.足立区眼科医会は平成C26年度から,糖尿病を重症化させない取り組みである糖尿病重症化予防対策事業に参加を始めた.この事業では,糖尿病の重症化および合併症により区民の生活の質が低下するのを抑制することを目標としている.今回筆者らは,足立区の糖尿病重症化予防対策における平成C26年度の結果について報告する.本研究は,東京慈恵会医科大学倫理委員会の承認を得て行った〔臨床研究CNo.29-334(8950)〕.CI対象および方法足立区国民健康保険に加入し,平成C26年C5月.平成C27年C3月に足立区特定健診7)を受診した区民のうち,年齢が40.59歳,ヘモグロビンCA1c値がC7%以上,糖尿病未治療者を糖尿病重症化予防対策の対象者とした.対象者はC231人で,男性はC173人(40歳代C79人,50歳代C94人),女性58人(40歳代C20人,50歳代C38人)であった.平均年齢は,40歳代でC45.3C±2.8歳,50歳代でC54.7C±2.9歳であった.また,足立区特定健診の検査内容は身長体重,肥満度,腹囲,血圧の計測,胸部CX線,心電図,血液,尿検査であった.はじめに足立区国民健康保険課より対象者の自宅に訪問通知書を発送した.つぎに保健師および栄養士が自宅を訪問し,本人または家族と面談を行った.自宅での面談が困難な場合は保健センターでの面談や電話による相談を行った.面談時の内容は,過去の通院歴や治療内容の把握,特定健診結果の状況および病気の説明,医療機関への受診の必要性などであった.また,個人の生活習慣の把握および改善へのアドバイス,栄養指導なども行った.その後,対象者の追跡調査を行うために,複数回の訪問や面談を行う症例があった.面談後の各診療科への受診状況,糖尿病網膜症や歯周病の有無の判定,継続通院・中断状況などは,足立区国民健康保険課のレセプトデータから抽出し解析した.対象者の特定健診結果は平均値±標準偏差で示し,平成C26年の厚生労働省の国民健康・栄養調査の結果を基準値とし,年代別および性別ごとに血糖値,ヘモグロビンCA1c値,血圧,脂質代謝,腎機能,肥満度を比較検討した.また,網膜症の有無との関連についても検討した.CII結果今回の対象者C231人は,同年代(40.59歳)の足立区特定健診受診者C17,140人のうちのC1.4%であった.自宅にて面談できたのはC231人中C121人で,訪問回数は延べC263回であった.自宅での面談がむずかしく保健センターで面談できたものはC13人で,延べC26回であった.直接の面談が困難で電話による相談となったものはC35人で,その回数はC236回であった.全体でC231人中C169人(73.2%)にいずれかの方法で聞き取り調査ができた.また,訪問時の面談拒否や不在,自宅の特定ができないものがC62人(26.8%)みられた.訪問時の面談拒否の理由としては,「自己管理しているので必要ない」,「医療機関は信用できない」などが聴取できた.また,このC62人に対して不在票をポスティングしたところ,後日C22人(35.5%)から連絡をもらうことができた.足立区国民健康保険課のレセプトデータによる解析では,面談後に眼科受診をしているものはC70人(30.3%)であり,そのうち網膜症あり(以下,DR+群)と診断されたものは43人(61.4%)で,男性C33人,女性C10人であった.一方で網膜症なし(以下,DRC.群)のものはC27人で,男性C17人,女性C10人であった.歯科受診はC81人(35.1%)で,うちC72人(88.9%)は歯周病の診断を受けていた.面談後に糖尿病診療科へ受診し継続中のものはC132人(57.1%)で,治療歴はあるものの通院を中断した者はC48人(20.8%),面談後も未治療だったのはC51人(22.1%)であった(表1).複数回の面談において,中断者C48人の中断理由は,糖尿病に対する理解不足がC22人(45.8%),このうちC6人は外国人であった.残りのC26人(54.2%)は経済的問題,時間的制約,家庭事情などであった.未治療者C51人の理由は,中断者と同様に糖尿病に対する理解不足が原因と考えられるものはC21人(41.2%)であり,30人(58.8%)が医療不信,経済的問題,時間的制約,家庭事情などであった.対象者の特定健診結果の検討(表2)では,空腹時血糖値およびヘモグロビンCA1c値は性別および年代に関係なく基準値を有意に上回っていた.また,血圧,脂質代謝,腎機能および肥満度に関しても,多くの項目で対象者は有意に高値であった.さらに眼科受診をしたC70人を網膜症の有無で比較すると,DR+群の平均血糖値はC236.7C±98.3Cmg/dlで,40歳代C253.2C±104.7mg/dl,50歳代C223.7C±93.2mg/dlであった.一方でCDRC.群はC190.7C±54.2mg/dlで,40歳代C232.8±85.6mg/dl,50歳代C181.2C±41.5mg/dlであった.血糖値においてはC40歳代,50歳代とも基準値と比較して有意に高値であった.DR+群の血糖値は,40歳代とC50歳代ともにCDRC.群に比べ高い傾向を示したが,有意な差はみられなかった(図1a).同様に平均ヘモグロビンCA1c値ではCDR+群はC10.4C±2.5%で,40歳代C10.8C±2.0%,50歳代C10.1C±2.8%であった.DRC.群ではC8.7C±1.5%で,40歳代C10.1C±1.5%,50歳代C8.4C±1.4%であった.ヘモグロビンCA1c値に関しても血糖値と同様にC40歳代,50歳代ともに有意に高値であった.DR+群のヘモグロビンCA1c値もまた,40歳代とC50歳代ともにCDRC.群に比べ高い傾向がみられ,50歳代においては有意差を認めた(図1b).CIII考按以前より,足立区は区民に対して健康維持についての啓発を行っていたが,本質的な改善には至らなかった.足立区民の平均寿命は東京都の平均を下回り,足立区の医療費は糖尿病および腎不全による部分が上位を占めていた.平成C20年における糖尿病外来患者数の全国比較において,東京都は人口C10万人に対してC123件と報告9)され,全国でC41位であった.しかしながら,足立区国民健康保険課が独自に算出した足立区の糖尿病患者レセプト件数は,人口千人に対して継続中132(C57.1)C..治療歴があるが中断48(C20.8)22(C45.8)26(C54.2)未治療51(C22.1)21(C41.2)30(C58.8)中断・未治療の理由受診状況(n=231)人(%)理解不足その他表1面談後の受診状況表2特定健診結果の比較男性女性40歳代50歳代40歳代50歳代対象者基準値対象者基準値対象者基準値対象者基準値血糖値(mg/dl)C206.3±89.0**C93.3±11.4C189.0±82.7**C97.4±13.7C193.8±56.0**C94.9±13.7C198.1±75.3**C97.0±17.9CHbA1c(%)C9.6±2.2**C5.5±0.3C8.8±2.0**C5.6±0.4C9.2±1.9**C5.5±0.4C9.2±2.2**C5.6±0.5収縮期血圧(mmHg)C136.3±23.0**C124.4±12.1C133.4±16.4C132.7±17.9C134.8±21.5**C118.2±14.7C134.4±16.2**C124.0±15.8拡張期血圧(mmHg)C86.0±13.0**C81.2±10.0C83.2±11.2C85.6±11.3C81.3±12.6C75.8±10.2C81.7±10.5*C77.5±10.2LDL(mg/dl)C146.0±44.3**C119.2±27.2C135.0±39.1**C122.0±30.1C129.5±27.9**C110.0±27.5C149.5±36.8**C129.9±31.0中性脂肪(mg/dl)C244.1±302.5C182.1±131.4C223.4±189.7*C177.0±163.8C167.9±117.9*C111.1±100.0C211.3±171.0**C130.2±80.0HDL(mg/dl)C49.5±13.8**C55.9±16.2C50.8±13.4**C58.6±15.5C54.7±11.4**C67.2±15.7C55.9±11.6**C68.6±15.6尿酸(mg/dl)C5.5±1.3**C6.0±1.4C5.4±1.2*C5.8±1.3C4.5±1.0C4.1±1.0C4.5±1.4C4.5±1.0eGFR(ml/min/1.73mC2)C90.7±17.9**C79.3±12.0C84.5±17.7**C73.5±12.8C96.6±25.4*C82.2±13.3C86.4±15.5**C75.3±13.0Cr(mg/dl)C0.8±0.2**C0.9±0.1C0.8±0.2**C0.9±0.5C0.6±0.1C0.6±0.1C0.6±0.1C0.6±0.1腹囲(cm)C96.3±13.2.92.4±13.2.93.9±14.4.95.2±16.4.BMI(kg/mC2)C28.3±5.1**C24.0±3.6C26.2±4.4**C23.9±3.3C28.0±6.1**C22.2±3.6C27.8±5.3**C22.7±3.6CHbA1c:ヘモグロビンCA1c値,LDL:低比重リポ蛋白,HDL:高比重リポ蛋白,eGFR:推算糸球体濾過量,Cr:クレアチニン値,BMI:BodyMassIndex.UnpairedCtCtestCwithCWelch’scorrection*:p<0.05,**:p<0.01.47.9件で,その医療費も患者一人当たりC1143.8円となり,ある.東京都内で最高位となった(図2).そこで足立区は,平成今回の検討で,面談後の継続通院者は全体のC57.1%であ25年に「糖尿病対策アクションプラン」を発足させ,糖尿った.一方で,継続通院できない理由として,自身の問題,病を重症化させないために訪問面談を取り入れた糖尿病重症化予防対策を開始した.Ca400*訪問面談の取り組みは,日常診療と異なる環境で血糖値や****血糖値(mg/dl)300**ヘモグロビンCA1c値の再確認,病気の説明を受けることができ,さらに食生活や生活習慣の改善に向けての相談も可能200である.この訪問面談が動機づけとなり,医療機関へ導き,継続受診につなげることが今回の事業の目的であり,医師,100歯科医師,薬剤師とメディカルスタッフの役割でもある.糖尿病患者の受診に関して,村田10)はメディカルスタッフがC040歳代50歳代受診行動を支援し,同居家族の存在が受診行動継続への動機CDR+群DR-群基準DR+群DR-群基準づけになると報告し,飯野ら11)は,健診後の眼科受診において,十分な説明と患者の納得が重要であることを報告している.実際の面談では,「受診の際に医師からあまり説明がない」という声も聴取されたため,訪問時の面談内容を充実させることが治療への意識改革と受診率の向上につながる可能性があると考えられた.一般的に未治療の糖尿病患者は,まず糖尿病診療科に受診し,その後に眼科や歯科へ紹介となることが多い.しかしながら,受診の動機づけという観点かヘモグロビンA値(%)1Cb15.010.05.00.0らは,眼科や歯科から糖尿病診療科へ紹介するという違った視点の動機づけも必要であると考えられる.2010年に足立区薬剤師会は「糖尿病診断アクセス革命」12,13)を開始した.これは患者が薬局にて自己指先採血を行い,ヘモグロビンA1c値を簡易測定器にて測定し,薬剤師から説明を受けるという内容である.この革命も薬局から医療機関への受診勧奨であり,違った視点の動機づけとなりうる.とくに過去に受診歴や中断歴がある患者に対しては,再診を促す可能性が(円/人)1,20040歳代50歳代DR+群DR-群基準DR+群DR-群基準図1血糖値およびヘモグロビンA1c値の比較40歳代およびC50歳代の平均血糖値(Ca)は,DR+群およびCDRC.群ともに基準値と比較して有意に高値を示した.平均ヘモグロビンCA1c値(Cb)においても,DR+群およびCDR.群ともに基準値と比較して有意に高値を示した.さらに,50歳代においてはCDR+群とCDRC.群との間に有意差を認めた.UnpairedCtCtestwithWelch’scorrection*:p<0.05,**:p<0.01.(件/千人)60.01,10050.01,00040.090030.080020.070010.06000.0足立区特別区東京都A区B区C区D区E区F区G区H区I区J区K区L区M区N区O区P区Q区R区S区T区U区V区図240~74歳における糖尿病に関する比較(平成27年5月)足立区の糖尿病患者件数と医療費は東京都および特別区平均を有意に上回る.A.V区:足立区以外のC23区.データは東京都国民健康保険連合会「特定健診・保健指導支援システム」より足立区国民健康保険課が独自に算出したものである.また,医療費は保険診療のC10割相当分である.サポートの問題,金銭的な問題,時間的制約などがあげられた.藤原ら14)は医療機関を受診しない理由として,健診結果の軽視,生活の変更に対する抵抗感,家族や経済状況などを報告している.平谷ら15)は,保健指導の基本に,「自分の生活を日常的に振り返る習慣を身に着けさせる」ことの重要性を述べている.以前から「糖尿病患者の病識不足」という言葉があげられているが,今回の対象者もしくは家族は糖尿病の病態を詳しく知らなくても,血糖値が高いこと,食生活の乱れ,生活習慣,受診の必要性などについて意識している様子はうかがえた.しかしながら,経済問題,とくに金銭面や仕事に追われる時間的制約は,医療機関への受診を遠ざける要因となる.Hayashinoら16)の報告からも受診には多方面の介入が重要であり,医師やメディカルスタッフだけではなく,患者自身や家族も医療行為の実践者17)であり,今回の事業を継続することで,医療行為のチームの輪が広がれば,糖尿病受診者の増加と中断者の減少が期待できると考えられた.今回の検討において,糖尿病診療科への継続受診者がC132人(57.1%)であったにもかかわらず,眼科受診者はC70人(30.3%),歯科受診者はC81人(35.1%)に留まった.残念ながら,今回の報告はレセプトを利用しての検討であり,眼科検査の詳細は個人情報の問題から不明である.しかし,眼科受診者C70人の比較では,40歳代とC50歳代の血糖値およびヘモグロビンCA1c値はともにCDR+群がCDRC.群より高く,40歳代でその傾向はより強くみられた.DR+群は,平均血糖値がC200Cmg/dl以上または平均ヘモグロビンCA1c値がC10%以上であり,これに当てはまる対象者は網膜症を発症している可能性が高いと考えられ,今後の面談において活用できると思われる.最後に,今後の事業の問題点として,訪問先が不明,面談の拒否,面談内容が医療者側に伝わらないことがあげられる.面談拒否の理由に,「自己管理しているので必要ない」「医療機関は信用できない」などが聴取できた.加藤ら18)は,雑談方式の勉強会においてお互いの顔を覚えることで,医療への心理的なハードルを下げる働きがあると述べている.初回訪問時に反応なく不在票をポスティングしたC62人中C22人(35.5%)から後日連絡があったことから,患者または家族と何らかのかかわりを継続することが重要であると考えられた.一方,医療機関側,おもに糖尿病診療科では,面談時の内容が不明で診察の際の説明に困惑するという意見があげられた.現状では,患者が受診した際に保健師との面談について話さない限り,対象者かどうかは不明である.今後,患者本人の同意が得られれば,面談内容を医療機関へフィードバックする方法も検討中である.患者自身の意識改革や長年続けてきた生活習慣の改善は短時間ではむずかしく,時間をかけて説明を繰り返す必要があり,そこには患者とメディカルスタッフとの十分なコミュニケーション19)が必要であると思われる.今回の事業から,保健師および栄養士による自宅訪問面談は,受診の動機づけとして有効であると考えられた.保健師,栄養士を含めたメディカルスタッフが患者に寄り添い,繰り返し観察・指導していくことが,糖尿病ひいては糖尿病網膜症の重症化予防に大きく貢献すると考えられた.本内容は,第C22回日本糖尿病眼学会にて報告した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)FederationCInternationalDiabetes:IDFCDIABETESCATLASCSeventhCEditionC2015.Chttp://www.diabetesatlas.Corg/2)梶尾裕:世界のなかの糖尿病戦略特に東アジアの糖尿病診療の現状をふまえて.プラクティスC29:516-524,C20123)浅尾啓子:米国の糖尿病事情.プラクティスC29:525-530,C20124)中神朋子:欧州の糖尿病事情デンマークを中心に.プラクティスC29:531-541,C20125)田中治彦,植木浩二郎,門脇孝:世界の糖尿病臨床・研究における日本の位置づけ.プラクティスC29:510-515,C20126)GrockCS,CKuCJH,CKimCJCetal:ACreviewCofCtechnology-assistedCinterventionsCforCdiabetesCprevention.CCurrCDiabCRepC17:107,C20177)厚生労働省:特定健診・特定保健指導について.http://Cwww.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161103.Chtml8)足立区データヘルス計画:妊娠早期から始める生活習慣病予防.www.gikai-adachi.jp/iinkai/shidai/kousei/pdf/2017C0419houkoku4.pdf9)厚生労働省:平成C21年地域保健医療基礎統計.http://www.Cmhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/hoken/kiso/21.html10)村田祐子:糖尿病新規患者の背景が受診継続に影響する要因A病院内科外来における糖尿病新規患者の教育指標を求めて.山口県看護研究学会論文集C2:1-6,C201611)飯野矢住代,井上浩義:糖尿病診断後の網膜症治療状況の実態調査糖尿病網膜症患者の受診行動に影響を及ぼす要因.日本糖尿病教育・看護学会誌C11:150-156,C200712)足立区薬剤師会:http://a1c.umin.jp/index.shtml13)ShonoCA,CKondoCM,CHoshiCSLCetal:Cost-e.ectivenessCofCaNewOpportunisticScreeningStrategyforWalk-inFin-gertipHbA1CCTestingatCommunityPharmaciesinJapan.DiabetesCareC41:1218-1226,C201814)藤原絢子,原祥子:糖尿病が強く疑われる高齢者が受診をしない理由に関する質的研究.島根大学医学部紀要C38:C45-53,C2016C15)平谷恵,中村繁美,中西早百合ほか:特定保健指導の効果に関する検討4年後の状況.日本農村医学会雑誌C64:C34-40,C201516)HayashinoY,SuzukiH,YamazakiKetal:Aclusterran-domizedCtrialConCtheCe.ectCofCaCmultifacetedCinterventionCimprovedthetechnicalqualityofdiabetescarebyprima-ryCcarephysicians:TheCJapanCDiabetesCOutcomeCInter-ventionTrial-2(J-DOIT2)C.DiabetMedC33:599-608,C201617)村上陽一郎:新しい医師・患者関係.jams.med.or.jp/sym-posium/full/100s06.pdf18)加藤公則,上村伯人,布施克也ほか:地域包括糖尿病総合対策新潟県魚沼地域CProject8.内分泌・糖尿病・代謝内科C42:431-437,C201619)西垣悦代,浅井篤,大西基喜ほか:日本人の医療に対する信頼と不信の構造:医師患者関係を中心に.対人社会心理学研究C4:11-20,C2004***

糖尿病黄斑浮腫の治療経過中に両眼の血管新生緑内障を生じた1例

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1550.1553,2018c糖尿病黄斑浮腫の治療経過中に両眼の血管新生緑内障を生じた1例呉香奈白矢智靖荒木章之加藤聡東京大学医学部附属病院眼科CACaseofBilateralNeovascularGlaucomaduringtheCourseofTreatmentforDiabeticMacularEdemaKanaKure,TomoyasuShiraya,FumiyukiArakiandSatoshiKatoCDepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoHospitalC糖尿病黄斑浮腫の患者(68歳,女性)に対して抗CVEGF(vascularendothelialgrowthfactor)療法を行ったところ,両眼に血管新生緑内障を生じ,治療に苦慮した症例を経験したので報告する.糖尿病網膜症に対し両眼網膜光凝固術を開始し,糖尿病黄斑浮腫の悪化を認めたため,右眼から抗CVEGF療法を開始したところ,先に左眼の血管新生緑内障を発症し,そのC6カ月後に右眼も血管新生緑内障を発症した.その後,網膜光凝固術の追加により鎮静化した.本症例では結果的に透析導入によって糖尿病黄斑浮腫の改善が得られたが,全身状態も踏まえて抗CVEGF療法の適応やタイミングを考慮する必要があると考えられた.また,抗CVEGF治療中も血管新生緑内障の発症について常に念頭に置く必要があると考えられた.CWeencounteredthecaseofa68-year-oldfemalewhodevelopedbilateralneovascularglaucoma(NVG)afterundergoinganti-vascularendothelialgrowthfactor(VEGF)therapyfordiabeticmacularedema(DME),exacerbat-edbyCpanretinalCphotocoagulation(PRP)forCdiabeticCretinopathy.CAfterCanti-VEGFCtherapyCinitiationCinCtheCrightCeye,CtheCleftCeyeCdevelopedNVG;theCrightCeyeCdevelopedCNVGC6monthsClater.CItCsubsidedCafterCadditionalCPRPCwasperformed.WefoundthatC.uorescenceangiographywasusefulinevaluatingthetherapeutice.ectofphotoco-agulation.Also,althoughinthiscaseDMEimprovementwasachievedafterdialysisinitiation,itseemsnecessarytoalsoconsidertheindicationandtimingofanti-VEGFtherapybasedonthegeneralconditionofthepatient.TheriskofNVGmustbekeptinmindwhenplanninganti-VEGFtherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(11):1550.1553,C2018〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,血管内皮増殖因子,血管新生緑内障,蛍光眼底造影検査.diabeticmacularedema,vascularendothelialgrowthfactor,neovascularglaucoma,C.uoresceinangiography.Cはじめに抗CVEGF(vascularCendothelialCgrowthfactor)薬の登場によって糖尿病黄斑浮腫の治療は変貌を遂げ,大規模臨床研究では積極的な抗CVEGF薬の投与により,従来のレーザー治療よりも浮腫軽減効果や視力改善について,より良好な成績が示されている1,2).わが国の網膜専門家に対する調査では,70%以上の医師がびまん性糖尿病黄斑浮腫に対する第一選択であると報告されている3).しかし,その一方で臨床研究の結果によるエビデンスと実臨床における治療マネージメントに相違もみられ3),臨床研究のプロトコールに沿った治療を行うことはきわめてむずかしいと考える.今回,筆者らは糖尿病黄斑浮腫の抗CVEGF療法を含めた治療経過中に網膜症が増悪し,汎網膜光凝固術(panretinalphotocoagu-lation:PRP)を行うも不十分であったため,結果として両眼の血管新生緑内障の発症をきたし,治療に苦慮した症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕呉香奈:〒113-8655東京都文京区本郷C7-3-1東京大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:KanaKure,M.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoHospital,7-3-1,Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPANC1550(102)図1初診時の前眼部と眼底写真およびOCT所見(2014年2月)図2初診時の蛍光眼底造影写真(2014年3月)両眼に広範囲の無灌流領域が存在し,右眼鼻上側に網膜新生血管を認める.I症例患者:68歳,女性.主訴:両眼の霧視,歪視.眼科既往歴:特記事項なし.全身既往歴:50歳時にC2型糖尿病を指摘される,63歳頃糖尿病性腎症の疑い.家族歴:特記事項なし.現病歴:1カ月前からの両眼の歪視と霧視で近医眼科を受診した.糖尿病による網膜症が疑われ,当院糖尿病代謝内科へ紹介.まもなく血糖コントロール目的で入院,その後網膜症精査目的でC2014年C2月に当科へ紹介となった.全身検査所見:糖尿病代謝内科初診時の採血結果は,総コレステロールC298Cmg/dl,CBUNC17.8Cmg/dl,CCreC0.64Cmg/dl,WBC7,600Cμl,RBC353万Cμl,PLT30.5万Cμl,HbA1cC11.7%.尿糖C4+,尿蛋白C2+,ケトン体(-).血圧はC160/74mmHg.頸動脈エコーでは両側に狭窄性病変なし.糖尿病治療開始後のCHbA1cの推移は,9.8%(2カ月後),7.1%(4カ月後),6.7%(6カ月後),6.4%(8カ月後)であった.当科初診時所見:視力は,右眼C0.2(0.3×+0.50D),左眼0.3(矯正不能),眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C15CmmHgであった.両眼に軽度の白内障が認められ,両眼底に点状,しみ状の網膜出血,硬性白斑および軟性白斑が散在し,さらに光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で漿液性網膜.離を伴う黄斑浮腫を認めた(図1).また,フルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinangiography:FA)では右眼上鼻側に網膜新生血管,さらに両眼に多象限に及ぶ広範囲の無灌流領域が確認された(図2).CII経過両眼のCPRPを開始したが,左眼C3回,右眼C2回の光凝固が終了した時点で両眼の黄斑浮腫が増悪し(図3),2014年6月には両眼視力が(0.15)まで低下した.検眼鏡的所見でも両眼に一部凝固斑が不足している領域を認めていたが,自覚的にも視力低下が著しく,PRPの完成よりも視力回復を優先し,抗CVEGF療法〔2回+PRN(proCrenata:必要時投与)〕で浮腫を軽減させたのちに再度レーザーを追加する方針とした.しかし,内科での精査受診や家庭の事情もあ図3汎網膜光凝固術開始後の両眼OCT所見(2014年5月)両眼にCPRPを行っている途中で,黄斑浮腫の増悪所見を認めた.図4汎網膜光凝固術後の蛍光眼底造影写真(2015年7月)両眼に無灌流領域が残存している.図5透析導入前(2015年9月:写真左)および透析導入後(2016年4月:写真右)の右眼OCT所見人工透析の導入とともに,速やかに黄斑浮腫の改善がみられた.り,結果的にC3カ月後のC2014年C9月に右眼ラニビズマブ(ルセンティスCR)の硝子体注射(IVR:intravitrealCranibi-zumab)を行った.右眼のCIVR施行C2週間後に左眼の眼圧がC39CmmHgと上昇し,隅角所見は開放隅角,ルベオーシスを認め,また虹彩にもルベオーシスが検出され,血管新生緑内障と診断した.当日左眼のCPRPを完成させ,その後もレーザーを追加し,眼圧は正常化した.また,右眼については予定どおり初回からC1カ月後にC2回目のCIVRを行った.網膜光凝固術の評価目的でCFAを予定したが,血圧の上昇(186/90CmmHg)のほか,両下肢の浮腫,尿量減少,全身倦怠感の出現をきたし,かつ内科入退院を繰り返したため,施行を見送った.その際,右眼の血管新生緑内障の発症リスクを考慮し,PRPを完成させた.その後の隅角検査ではルベオーシスは認めず,また両眼の黄斑浮腫は経過とともに改善傾向にあり,PRPの完成によって網膜症も鎮静化していたと判断した.右眼C2回目CIVRからC4カ月後のC2015年C2月再診時に右眼後.下白内障によって(0.2)から(0.09)へ視力が低下し,かつ眼底の透見も不十分となったため手術を検討したが,体調不良のため実際に手術を予定したのは,さらにそのC5カ月後であった.その後,2015年C7月の右眼白内障手術前日に右眼眼圧が26CmmHgと上昇,隅角所見は開放隅角,ルベオーシスは認めなかったが,虹彩にルベオーシスが確認され,血管新生緑内障と診断した.同日に透見可能な範囲でレーザーを追加し,さらに手術の影響による前房出血や網膜症活動性の上昇を危惧し,右眼にC3回目のCIVRも行った.右眼手術は合併症なく終了し,術後矯正視力は(0.2)まで回復した.全身状態の確認のもとCFAを再検したところ,検眼鏡的にはすでに両眼底にCPRPが完成したと考えられていたが,両眼に無灌流領域が残存しており(図4),この領域にレーザーを追加した.その後虹彩ルベオーシスは完全に消失し,以後眼圧は安定した.腎機能は増悪傾向にあり,2016年C3月に透析導入となったが(右眼白内障手術C9カ月後),右眼のわずかに残存していた黄斑浮腫も改善が得られた(図5).左眼は薬物療法を施行せずに黄斑浮腫が改善,経過中に後.下白内障が進行したため手術を施行し,視力は両眼(0.4)が得られている.CIII考按抗CVEGF療法によって網膜症の改善や新生血管が抑制されることが示されており4,5),本症例においても抗CVEGF療法を行った眼は僚眼と比較して一定期間が経過してから血管新生緑内障を発症しており,網膜症の活動性が抑制されていた可能性が考えられる.すなわち抗CVEGF療法は,治療を中断した際に活動性が再燃することが懸念されるため,虚血網膜の有無に対しても十分に評価することが重要である.また,全身状態が悪化した場合,投与を継続できなくなる可能性も考慮し,網膜光凝固術を早めに行い,虚血の進行を防ぐことが重要であると考えた.血管新生緑内障を発症した場合には徹底的したCPRPが必要とされ6),本症例でも検眼鏡的には完成していた.しかし,FAによって無灌流領域の残存が確認され,その有用性を改めて認識した.ただし,本症例のように高血圧を合併している症例に対してCFAを行う際には,十分に血圧をコントロールすることが勧められている7).しかし,糖尿病患者では,その他にも全身疾患を合併していることもあり,本来必要な情報であるCFAを施行できない場合もある.近年,造影剤を必要としないCOCTangiographyが注目されているが,市販機種の画角は最大C10C×10mmからC12C×9Cmm程度であり,眼底周辺部において十分虚血の評価が可能な技術には至っていない.今後はさらなる広画角化や精度の向上が期待される.本症例では最終的に透析導入によって残存していた右眼黄斑浮腫の改善が得られた.糖尿病腎症による腎機能低下により,全身血管の血漿膠質浸透圧が低下する.透析導入することで浸透圧が改善され,結果的に黄斑浮腫が改善するといわれている.透析導入することでを糖尿病黄斑浮腫を治療するうえで,透析導入が予測される症例については,抗CVEGF療法の適応やタイミングを再考慮する必要があり,また抗VEGF治療中も血管新生緑内障の発症について常に念頭に置き,適宜隅角検査を行う必要があると考えられた.文献1)ElmanCMJ,CAielloCLP,CBresslerCNMCetal:RandomizedCtrialevaluatingranibizumabpluspromptordeferredlaserorCtriamcinoloneCplusCpromptClaserCforCdiabeticCmacularCedema.OphthalmologyC117:1064-1077,C20102)KorobelnikJF,DoDV,Schmidt-ErfurthUetal:Intravit-reala.iberceptfordiabeticmacularedema.Ophthalmolo-gyC121:2247-2254,C20143)OguraY,ShiragaF,TerasakiHetal:Clinicalpracticepat-terninmanagementofdiabeticmacularedemainJapan:CsurveyCresultsCofCJapaneseCretinalCspecialists.CJpnCJCOph-thalmolC61:43-50,C20174)BrownCDM,CNguyenCQD,CMarcusCDMCetal:Long-termCoutcomesCofCranibizumabCtherapyCforCdiabeticCmacularedema:theC36-monthCresultsCfromCtwoCphaseCIIItrials:CRISEandRIDE.OphthalmologyC120:2013-2022,C20135)HeierCJS,CKorobelnikCJF,CBrownCDMCetal:IntravitrealA.iberceptforDiabeticMacularEdema:148-WeekResultsfromtheVISTAandVIVIDStudies.OphthalmologyC123:C2376-2385,C20166)安藤文隆:糖尿病網膜症の治療の進歩血管新生緑内障の治療.眼科C39:41-47,C19977)湯澤美都子,小椋祐一郎,高橋寛二ほか:眼底血管造影実施基準(改訂版).日眼会誌C115:67-75,C2011***

薬剤感受性試験で耐性を示したにもかかわらずレボフロキサシン点眼が著効したノカルジア角膜炎の1例

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1545.1549,2018c薬剤感受性試験で耐性を示したにもかかわらずレボフロキサシン点眼が著効したノカルジア角膜炎の1例飯田将元子島良平小野喬森洋斉野口ゆかり岩崎琢也宮田和典宮田眼科病院CACaseofKeratitiswithNocardiaasteroidesHighlyResistanttoLevo.oxacin(LVFX)InVitro,butShowingGoodResponsetoTopicalLVFXInVivoCMasaharuIida,RyoheiNejima,TakashiOno,YosaiMori,YukariNoguchi,TakuyaIwasakiandKazunoriMiyataCMiyataEyeHospitalC症例はC63歳,男性.2週間前に右眼に土が飛入した後,疼痛・視力低下が出現し当院を受診した.右眼に淡い浸潤を伴う角膜潰瘍を認め,角膜塗抹標本のグラム染色で糸状のグラム陽性菌を検出した.セフメノキシム,エリスロマイシン・コリスチンの頻回点眼,エリスロマイシン・コリスチン軟膏の結膜.点入を開始したが,眼所見は改善せず,第C4病日の塗抹標本には糸状のグラム陽性菌が多数残存していた.1.5%レボフロキサシン(LVFX)点眼を追加したところ,角膜病巣は縮小し,以後,再発なく経過した.角膜病変からはCNocardiaasteroidesが分離され,LVFX高度耐性を示した.本症例では,起炎株の薬剤感受性と臨床経過に乖離があった.抗菌点眼薬の選択に際しては総合的に判断することが重要と考えられる.CAC63-year-oldCmaleCvisitedCourChospitalCdueCtoCrightCeyeCpainCwithCdecreasedCvisualCacuity,CtwoCweeksCafterCsoilexposure.Slit-lampexaminationdisclosedpatchycornealulceroftherighteye.Gram-stainedsmearofcornealscrapingCshowedCtheCpresenceCofCmanyCGram-positiveC.laments.CFrequentCtopicalCinstillationCofCcefmenoximeCandCerythromycin/colistinCwasCstarted.CHowever,CocularClesionsCdidn’tCbecomeCsmallCandCmanyC.lamentousCbacteriaCremainedonthecornealsmearobtainedonthe4thclinicalday.Wethereforeaddedtopical1.5%LVFXandthecorneallesionshealed.CNocardiaasteroideswasisolatedandshowedhighresistancetoLVFX.ThiscaseillustratestheCdiscrepancyCbetweenClaboratoryCantibiogramCandCclinicalCe.ectivenessCinCocularCinfection.CSelectionCofCtopicalCantibioticsmustbebasedonintegratedinformationfrompatients,laboratorydataandliterature.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(11):1545.1549,C2018〕Keywords:ノカルジア,感染性角膜炎,薬剤耐性,レボフロキサシン.Nocardia,infectiouskeratitis,drugresis-tance,levo.oxacin.Cはじめにノカルジア属細菌は土壌中に生息し,グラム陽性に染色される菌糸体を形成する.日常診療では,病変の擦過検体は塗抹上では最初に放線菌群として認識され,分離結果に基づき最終同定されている.本菌は健常人の皮膚などの体表面感染症ならびに,免疫抑制状態の患者における肺炎,脳膿瘍を生じる.眼科領域のノカルジア感染として角膜炎,強膜炎,眼内炎が報告されているが1,2),わが国におけるノカルジア角膜炎例の報告は少ない3.5).ノカルジア角膜炎の治療には抗菌点眼薬が用いられる.ニューキノロン系抗菌薬に対する感受性は菌種・菌株で大きく異なり1,6.9),初期治療としては選択しにくい.今回,分離株が薬剤感性試験でレボフロキサシン(LVFX)に高度耐性であったにもかかわらず,臨床的にCLVFX感受性を示したノカルジア感染を伴った角膜炎のC1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕飯田将元:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町C6-3宮田眼科病院Reprintrequests:MasaharuIida,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPANC0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(97)C1545cdef図1前眼部病変と擦過塗抹標本a:初診時の前眼部写真.結膜充血および角膜傍中心領域の潰瘍を認める.Cb:病巣部の拡大.膿瘍の形成(.),辺縁部の浸潤病変(.)を認める.Cc:初診時のフルオレセイン染色細隙灯顕微鏡検査.病巣に一致した上皮欠損を認める.Cd:初診時の角膜擦過物の塗抹検鏡.グラム陽性の分岐状糸状菌体とグラム陽性球菌を認める.Ce:治療開始C40日目の細隙灯顕微鏡検査.強い角膜上皮浮腫,実質浮腫を認める.Cf:治療開始C54日目の細隙灯顕微鏡検査.角膜上皮浮腫,実質浮腫の消失を認める.CI症例現病歴:2016年の夏期,草刈り中に右眼に土が飛入した後,徐々に霧視,充血,疼痛,視力低下が進行し,受傷から患者:63歳,男性.約C2週後に当院を受診した.主訴:右眼の視力低下.初診時所見:視力は右眼C0.2(0.7C×cyl.3.0DAx70°),左既往歴:内科的基礎疾患はなく,定期的内服はない.右眼眼C1.0(1.5×+0.50D(cyl.1.5DAx100°)であった.右眼ヘルペス性角膜実質炎にて当院外来通院.には結膜の充血,角膜傍中心部に膿瘍を形成する角膜潰瘍,表1分離菌の薬剤感受性試験結果Nocardiaasteroides分離株コアグラーゼ陰性CStaphylococcus分離株抗菌薬CMIC判定CMIC判定CcefmenoximeC2C8CRCceftriaxone>2CtobramycinCvancomycinCerythromycinCmoxi.oxacinC128C128C18CRCRC64C2C>6C4C64CRCSCRCRCgati.oxacinClevo.oxacinC8C64CR128C>C128CRCRClinezolid<2CS<2CSCimipenemminocyclinC<C0.25C4CSSC<2C8CSCRMIC:minimuminhibitoryconcentration(μg/ml).S:susceptible.R:resistant.潰瘍周辺部の淡い浸潤巣を(図1a~c),前房内に軽度の炎症細胞を認めた.角膜知覚は右眼C20Cmm,左眼C60Cmmと右眼で低下していた.チェックメイトCRヘルペスアイ(わかもと)を用いたイムノクロマト法および,ヘルペス(1・2)FA「生研」,VZV-FA「生研」(デンカ生研)を用いた蛍光抗体法で,単純ヘルペスウイルスC1型・2型,水痘帯状疱疹ウイルス抗原は陰性であった.超音波CBモード断層検査では後眼部の異常は指摘できなかった.経過:所見から感染性角膜炎を疑い,角膜擦過物の塗抹検鏡と培養検査を行った.塗抹標本のグラム染色ではグラム陽性の分岐状糸状菌体とグラム陽性球菌を認めた(図1d).ファンギフローラ染色では真菌は検出せず,放線菌群細菌とグラム陽性球菌による複合感染と診断し,セフメノキシム,エリスロマイシン・コリスチンのC1時間毎点眼,エリスロマイシン・コリスチン軟膏の就寝前C1回,ST合剤内服を開始した.上記点眼を開始するも角膜潰瘍は改善しなかったため,第4病日に再度角膜擦過を行った.塗抹検鏡でグラム陽性球菌はほとんどみられなくなったが,放線菌群菌体は依然として多数残存していた.再度,問診を行ったところ,右眼受傷後に自己判断で手持ちのCLVFXを点眼し,LVFXがなくなり,症状が悪化したため当院を受診したという事実が判明した.同日よりC1.5%CLVFXの毎時点眼を追加後,徐々に潰瘍底は浅くなり,潰瘍周辺部の浸潤巣も消退傾向を認めた.初診時の擦過検体から,Nocardiaasteroidesとメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativeCStaph-ylococcus:CNS)が分離された.LVFXの最小発育阻止濃度(minimumCinhibitoryconcentration:MIC)は両菌とも高値であったが,点眼追加後に角膜所見が改善していることから点眼継続とした(表1).第C27病日には上皮欠損の消失を認めたが,結膜充血,実質浮腫,上皮浮腫は遷延していた.第40病日には実質浮腫,上皮浮腫により右眼視力C20Ccm指数弁と低下したが(図1e),角膜細胞浸潤は軽微であり感染は終息していると考え,消炎を目的にC0.1%フルオロメトロン点眼C4回を追加した.点眼追加後に実質浮腫,上皮浮腫の消退傾向を認め,第C54病日には右眼視力C0.06(0.3C×.5.0D)と改善を認めた(図1f).発症後C9カ月が経過し,角膜病巣3.0D)で角膜炎の再燃C×.5p.は瘢痕化し,右眼視力0.3p(0はなく経過している.CII考按本症例は,角膜へルペスの既往があるものの,全身的な基礎疾患のない成人男性の右眼に,土が飛入した後に発症した細菌性角膜炎のC1例である.角膜病変の擦過標本では,放線菌群の菌とグラム陽性球菌を検出し,細菌培養ではCN.Caster-oidesとCCNSが分離され,当初はこの両者の複合感染による角膜炎と診断した.セフメノキシム,エリスロマイシン・コリスチンの点眼と軟膏,ST合剤の内服により,第C4病日にはグラム陽性球菌はほとんど消失するも,角膜所見はほとんど改善せず,塗抹でも多数の放線菌の残存を認め,角膜病変の主たる起因菌はノカルジアと判断した.ノカルジア分離株はCLVFX高度耐性であったが,病歴より効果があると判断しCLVFXの点眼を開始,潰瘍は縮小した.ノカルジア角膜炎は植物との接触を伴う外傷3,5),コンタクトレンズ装用4),角膜屈折矯正手術2,10)に関連した症例が報告されている.本例では,農作業中の土の飛入が発症の契機となっているが,角膜ヘルペスによる角膜知覚低下のため外傷を認識していなかった可能性もある.これまで報告されているノカルジア角膜炎の眼所見は,上皮欠損を伴うリース状,斑状の角膜細胞浸潤を呈し,真菌性角膜炎に類似しているため,真菌性角膜炎として治療が開始されていた症例が多い1,3,5,8).本例でも草刈り後に発生しており,塗微生物学的検査をもし行わなければ,真菌性角膜炎として治療されてしまう可能性があった.角膜病変の診断と治療においては,微生物学的検査,とくに塗抹検査が重要である.ノカルジア角膜炎を引き起こすノカルジア属細菌は複数報告されているが,とくにCN.asteroidesはノカルジア角膜炎のC19.93%で分離され,原因菌種として占める割合が大きい1,6,7,9).しかし,N.asteroidesの薬剤感受性試験で,ペニシリン系,セファロスポリン系,ニューキノロン系,ST合剤に対して,株間で感受性のばらつきが大きく,N.Casteroi-desは薬剤感受性結果に基づき,さらに細分類されている11).本例の分離株は感受性検査でリネゾリド・イミペネムに感受性を有し,フルオロキノロンに耐性を示したことより,狭義のCN.asteroidesあるいはCN.novaに近い菌種と考えられる.本症例では,臨床的に有効性が期待されたセフメノキシム,エリスロマイシン・コリスチンの点眼では角膜病変は改善せず,高度耐性と判定されたCLVFX点眼が有効であった.わが国の既報においても,薬剤感受性試験で有効性が期待されていた抗菌薬で角膜所見が改善せず,点眼変更を余儀なくされた症例が報告されている3,5).薬剤感受性試験と臨床経過の乖離の原因として,Sridharらは培地のCpHや寒天の種類による変化が一因であると考察している7).また,眼科領域の感染症治療では,抗菌点眼薬が全身投与と比較し非常に高濃度であるため,感受性検査で耐性を示すにもかかわらず臨床的に有効性を示す可能性が指摘されている12,13).感染症の治療では,臨床所見や検鏡の結果から起因菌を類推し,効果があると考えられる抗菌薬を投与するCempirictherapyから開始し,起因菌の同定後は,薬剤感受性結果に基づき,抗菌薬を変更するspeci.ctherapyを行うことが一般的である.しかし,眼科領域では,先に述べたように高濃度製剤を局所投与することより,本例のように臨床上の効果と薬剤感受性試験の結果が乖離することも多い.分離株のCMICのみを根拠として抗菌薬を変更するのでなく,自覚症状や角膜所見の変化を考慮し,抗菌薬変更の必要性について総合的に判断する必要がある.また本例では,実質混濁,角膜上皮浮腫の遷延に対して,感染が終息した後にフルオロメトロンの点眼を追加した.角膜感染症に対するステロイド点眼の併用は,実質融解や新生血管の抑制による角膜混濁の軽減といった利点がある一方,上皮化の抑制や感染の増悪といった問題点がある.細菌性角膜炎に対するステロイド点眼併用のランダム化比較試験では,ノカルジア角膜炎に対する初期からのステロイド点眼の併用は最終的な角膜混濁のサイズを有意に増大させ,視力改善にも関連しない一方,ノカルジア以外の細菌性角膜炎では,ステロイド点眼の併用は最終視力を有意に改善させ,角膜混濁の増加も認めないと報告されている9,14).したがって,ノカルジア角膜炎においては通常の細菌性角膜炎のように,初期からのステロイド点眼の併用を行うことは好ましくないと思われる.しかし,本報告のように感染が終息したと判断し,消炎を目的にステロイドを点眼し,角膜浸潤,実質浮腫の改善を認めたノカルジア角膜炎の報告もあり3),角膜所見の悪化に十分注意する必要はあるものの,治療の終盤に消炎を目的にステロイド点眼を使用することは瘢痕の拡大を防ぐ点で有効である可能性がある.CIII結語今回,分離株の薬剤感受性試験では耐性であったCLVFXが著効したノカルジア角膜炎のC1例を経験した.ノカルジア角膜炎では,分離株の薬剤感受性試験の結果と臨床的な薬剤有効性に乖離がみられることがあり,抗菌薬選択に際しては感受性試験の結果だけで判断せず,注意深く臨床所見を観察し,総合的に判断することが重要である.文献1)DeCroosFC,GargP,ReddyAKetal:Optimizingdiagno-sisCandCmanagementCofCNocardiaCkeratitis,Cscleritis,Candendophthalmitis:11-yearmicrobialandclinicaloverview.OphthalmologyC118:1193-1200,C20112)LalithaP,SrinivasanM,RajaramanRetal:NocardiaCker-atitis:ClinicalCcourseCandCe.ectCofCcorticosteroids.CAmJOphthalmolC154:934-939,C20123)菅井哲也,竹林宏,塩田洋:ノカルジアによる角膜潰瘍の1例.眼臨C91:1708-1710,C19974)竹内弘子,近間泰一郎,西田輝夫:ノカルジアによる角膜放線菌感染症のC1例.眼科C41:301-304,C19995)越智理恵,鈴木崇,木村由衣ほか:NocardiaCasteroidesによる角膜炎のC1例.臨眼C60:379-382,C20066)FaramarziA,FeiziS,JavadiMAetal:BilateralCNocardiaCkeratitisCafterCphotorefractiveCkeratectomy.CJCOphthalmicCVisResC7:162-166,C20067)SridharMS,SharmaS,ReddyMKetal:Clinicomicrobiol-igicalCreviewCofCNocardiaCkeratitis.CCorneaC17:17-22,C19988)SridharMS,SharmaS,GargPetal:Treatmentandout-comeofCNocardiaCkeratitis.CorneaC20:458-462,C20019)PatelNR,ReidyJJ,Gonzalez-FernandezF:Nocardiaker-atitisCafterClaserCinCsitukeratomileusis:clinicopathologicCcorrelation.JCataractRefractSurgC31:2012-2015,C200510)LalithaCP,CTiwariCM,CPrajnaCNVCetal:NocardiaCKerati-tis;species,CdrugCsensitivities,CandCclinicalCcorrelation.CCorneaC26:255-259,C200711)Brown-ElliottCBA,CBrownCJM,CConvilleCPSCetal:ClinicalCandClaboratoryCfeaturesCofCtheCNocardiaCspp.CbasedConCcurrentmoleculartaxonomy.ClinMicrobiolRevC19:259-282,C200612)AiharaM,MiyanagaM,MinamiKetal:AcomparisonofC.uoroquinoloneCpenetrationCintoChumanCconjunctivalCtis-sue.JOculPharmacolTherC24:587-591,C200814)SrinivasanCM,CMascarenhasCJ,CRajaramanCRCetal:The13)TouN,NejimaR,IkedaYetal:Clinicalutilityofantimi-steroidsCforCcornealCulcerstrial(SCUT):SecondaryC12-crobialCsusceptibilityCmeasurementCplateCcoveringCformu-monthCclinicalCoutcomesCofCaCrandomizedCcontrolledCtrial.ClatedCconcentrationsCofCvariousCophthalmicCantimicrobialCAmJOphthalmolC157:327-333,C2014Cdrugs.ClinOphthalmolC10:2251-2257,C2016***

コンタクトレンズの新型ブリスターパックの有効性

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1540.1544,2018cコンタクトレンズの新型ブリスターパックの有効性平田文郷*1熊沢あづさ*2*1平田眼科*2株式会社メニコンCE.cacyofNovelBlisterPackageforContactLensFumisatoHirata1)andAzusaKumazawa2)1)HirataEyeClinic,2)MeniconCo.LtdC目的:1DAYメニコンプレミオに採用された新型ブリスターパック(BP)が従来型CBPと比較し,コンタクトレンズ(CL)の表裏判別,指とCCLの接触時間にどのような影響を与えるかを評価した.方法:CL未経験者C55人に対しBPからソフトコンタクトレンズ(SCL)を取り出した際のCSCL表裏判別容易性を,新型CBPと従来型CBPを用いてリッカート尺度の質問票調査をした.また,CL既装用者C30人に対し,BP開封後CSCLを指に正しい向きに乗せるまでの時間の評価を新型CBPと従来型CBPを用いて行った.結果:質問票調査のリッカート尺度の中央値は新型CBPではC1,従来型CBPではC2であり統計学的に有意差を認め(p<0.01),新型CBPはCSCLの表裏がわかりやすいことが示された.SCLを指に正しい向きに乗せるまでの時間の中央値は新型CBPではC9.53秒,従来型CBPではC10.03秒で統計学的な有意差を認めた(p<0.05).結論:新型CBPは従来型CBPと比較し,SCLの表裏がわかりやすく,指とCSCLの接触時間を減らすことができる.CObjectives:ToCcompareCaCnovelCblisterpack(BP)forC1DAYCMeniconCPremioCcontactlenses(CLs)withCtheCconventionalCBPCregardingCcorrect-sideCidenti.cationCeaseCandC.ngerCcontactCtime.CMethods:Correct-sideCidenti.cationeaseofthenovelandconventionalBPsoftCLs(SCLs)wasinvestigatedin55non-CLwearersusingaLikertscale-typequestionnaire.Additionally,thetimerequiredtoplaceanSCLfromthenovelorconventionalBPonaC.ngertiponthecorrectsidewasevaluatedin30CLwearers.Results:Themedianscoreof1forthenov-elBPwassigni.cantlylowerthanthatof2fortheconventionalBP(p<0.01).Therewasastatisticallysigni.cantdi.erenceinthemediantimerequiredtocorrectlyplaceaSCLona.ngertip:9.53and10.03secondsforthenov-elCandCconventionalBP,Crespectively(p<0.05).Conclusion:TheCnovelCBPCenablesCsuperiorCcorrect-sideCSCLCidenti.cationandlessC.ngercontacttimethantheconventionalBP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(11):1540.1544,2018〕Keywords:ブリスターパック,ソフトコンタクトレンズ,角膜感染症,コンタクトレンズ関連角膜浸潤事象,コンタクトレンズ関連愁訴.blisterpackage,softcontactlens,microbialkeratitis,contactlens-associatedcornealin.l-trativeevents,contactlensdiscomfort.Cはじめにわが国におけるC2007年C4月からC2年かけて行われた重症コンタクトレンズ(contactlens:CL)関連角膜感染症全国調査で,CL装用が原因と考えられる角膜感染症で入院を要した症例はC1日使い捨てソフトCCL(softCcontactlens:SCL)がC7.4%,頻回交換型CSCLがC56%,定期交換型CSCLがC16%であった1).この調査のうちC2007年C4月からC1年間に受診した症例を解析した報告によると,ハードCCLやC1日使い捨てCSCLは他のCCLに比較して有意にCCL関連角膜感染症は少なかった2).SCLのなかではC1日使い捨てCSCLは細菌感染のリスクが低いと考えられている.一方で,1日使い捨てCSCLは微生物による角膜炎のリスクは再使用するCSCLと比較し低下しないが,視力喪失の危険性は低い3)との海外の報告もある.つまりC1日使い捨てCSCLは,入院や視力喪失などの重篤な角膜感染症は少ないと思われるが,角膜感染症はしばしば発生すると考えられる.1日使い捨てCSCLに関連する角膜感染症には装用期間を守らずC1日使い捨てSCLを再使用している例も含まれるが,装用期間を守って〔別刷請求先〕平田文郷:〒486-0845愛知県春日井市瑞穂通C6-22-3平田眼科Reprintrequests:FumisatoHirata,M.D.,HirataEyeClinic,6-22-3Mizuhodori,Kasugai,Aichi486-0845,JAPANC1540(92)abc図1新型BPと従来型BP代表例の写真a:新型CBPはCSCL外面が上になるように封入されておりCCL外面を指でつまんでとる構造.Cb:新型CBPは底面に凸部があり,かつ底面が傾斜している.傾斜の上方(図の右側)でのCBP内の空間上下幅は狭くなっている.Cc:従来型CBPの代表例,メニコンC1DAYのCBPの側面写真.いる人にも生じている.重症コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査で,1日使い捨てCSCLにおいて装用期間を守っていたのはC46.2%であった1).CLへの指からの微生物の付着を減らすためにはできるだけCCLに触らずに,かつ短時間で装用するのが望ましいと思われる.CL表面に付着した微生物は瞬目や涙液によりCCLから.離し,涙液交換により排出されるが,CL外面と比べCL内面は瞬目の影響も小さく,涙液交換もCCL外面と比べ長時間必要とする.そのためCCL内面の微生物は除去されにくいと考えられ,できるだけCCL内面に触れないことが大切である.その目的を達するためにメニコンはフラットパックというブリスターパック(blisterpackage:BP)を開発した.このCBPは,厚さが約C1Cmmで両面がアルミシートで包まれた超薄型で,SCL外面が上になるように設計されているため必要以上に内面を触ることがなく,メニコンC1DAYフラットパック(Magic*)というレンズに採用された.フラットパックから蛍光ビーズを付着させた手でCSCLを取り出すと,蛍光ビーズの付着が通常のCBPのCSCLと比べて有意に少なかった.また,菌付着評価試験では黄色ブドウ球菌を一定数付着させた手指でCSCLを取り出した際に,フラットパックのCSCLではCSCL外面への付着菌は少なく,内面への付着菌を認めなかった4).しかし,フラットパックに入っている流通保存液(shippingsolution:SS)はごく少量である.近年CLを眼に入れた際の初期快適性を改善する目的で,いろいろな種類のCCLで製造業者がCSSにさまざまな成分を加える場合がある5,6).フラットパックはCSSが少ないため,そのような改良は困難であった.今回新しくメニコンから十分な量のCSSを含み,かつCCL内面を必要以上に触ることがない,底面に凸部と傾斜のある新型CBP(図1a,b)が開発され,1日使い捨てシリコーンハイドロゲルCSCLであるC1DAYメニコンプレミオに採用された.今回筆者らはこの新型CBPに入ったCSCLと,底面に凸部のない従来型CBP(図1c)に入ったCSCLそれぞれにおいて,BPからCSCLを取り出した際のCSCL表裏の判別容易性質問票調査,BP開封からCSCLを指に正しい向きに乗せるまでの時間評価を行った.*「Magic」は特徴的な包装を表現するものであり,CLの視覚的機能・効果ではありません.CI対象および方法1.BPからSCLを取り出した際のSCL表裏の判別容易性質問票調査a.対象平成29年9月1日.29年12月27日に,平田眼科または小牧平田眼科に受診し,過去にCCLを使用したことがなく従来型CBPが採用されているカラーCCLを除くC1日使い捨てSCLと,新型CBPのC1DAYメニコンプレミオのC2種類のSCL装用を希望し,アンケート調査を承諾されたC55人を対象とした.年齢の中央値,四分位範囲および範囲はC16歳(14.20歳)[12.47歳]である.全対象に文書による説明を行い,本人の自由意思による同意を得た.Cb.方法BPからCSCLを取り出して指に乗せる方法を教示し,さらにCSCLの表裏の判別方法を説明した.2種類のCBPのうち被検者は任意のパッケージから開封し指に乗せ,SCLの表裏を確認後そのCSCLは廃棄した.BP開封からCSCLを指に乗表1質問票調査の従来型BPの内訳従来型BP従来型CBPの内訳例数デイリーズトータルワンRC5C60バイオトゥルーRワンデーC5C■1■2■3■45(人数)マイデイRC5ワンデーアキュビューRトゥルーアイRC3図2BPから取り出したSCLの表裏の判別容易性のリッカート尺度大変わかりやすかった=1,ややわかりやすかった=2,どちらと*もいえない=3,ややわかりにくかった=4,大変わかりにくかっC25た=5.メニコンC1DAYC17ワンデーアキュビューRオアシスRC10ワンデーアキュビューRモイストRC10新型BP時間(秒)せるまでの練習用の仮の度数として,SCLの度数はすべて.3.0Dとした.無記名自記式の質問票にて,「今開封したコ201510ンタクトレンズ容器はコンタクトレンズ装用の際,コンタクトレンズの表裏がわかりやすかったでしょうか?」と質問した.質問票にはC5段階のリッカート尺度(大変わかりやすかった=1,ややわかりやすかった=2,どちらともいえない=3,ややわかりにくかった=4,大変わかりにくかった=5)を用いた.C2.BP開封後SCLを指に正しい向きに乗せるまでの時間およびSCL反転回数評価a.対象CL既装用者でC60歳未満の成人ボランティアC30人を対象とした.年齢の中央値,四分位範囲および範囲はC34歳(25.41.75歳)[20.53歳]である.全対象に文書による説明を行い,本人の自由意思による同意を得た.Cb.方法メニコンのメニコンC1DAY,およびC1DAYメニコンプレミオの計C2種類のC1日使い捨てCSCLを使用した.Magicと異なり,メニコンC1DAYには従来型CBPが採用されている.1DAYメニコンプレミオには新型CBPが採用されている.SCLの度数はすべてC.3.0Dとした.2種類のSCLのBPともC1個のみに分離した状態で机に置き,被検者にどちらのSCLのCBPを先に開封するか任意で決めてもらいそのCBPを手に触れて待機をさせた.「スタート」の合図で,普段装用しているようにCBPを開封してもらい,SCLを装着できるように正しい向きにCSCLを指に乗せることができたと思った時点で,「ストップ」といってもらい,「スタート」から「ストップ」までの秒数をストップウォッチ(CITIZENLC058-A02)で計測した.「ストップ」の時点でCSCLの表裏が誤っている場合は,正しい向きにCSCLを指に乗せることができるまでストップウォッチでの時間の計測を継続した.また,BP開封後,正しい向きでCSCLを指に乗せるまでに,SCLの表裏を反転して再度指に乗せ換えた回数も調査した.なお50従来型BP新型BP図3BP開封後SCLを指に正しい向きに乗せるまでの時間新型CBPは従来型CBPと比較し指とCSCLの接触時間が有意に短い(p=0.016).*:p<0.05.新型CBPでは表裏が誤って入っていることはないとの説明は行っていない.C3.統計統計学的解析にはCWilcoxon符号付順位和検定を行い,有意水準は5%とした.CII結果1.BPからSCLを取り出した際のSCL表裏の判別容易性質問票調査質問票調査のリッカート尺度の中央値,四分位範囲および範囲は,1日使い捨てCSCLが入っている従来型CBPではC2(2.3.5)[1.5],1DAYメニコンプレミオの新型CBPではC1(1.2)[1.5]であった(図2).従来型CBPと新型CBPの比較で統計学的に有意差を認めた(p<0.01).従来型CBPの内訳は表1のとおりであった.C2.BP開封後SCLを指に正しい向きに乗せるまでの時間およびSCL反転回数評価BP開封後CSCLを指に正しい向きに乗せるまでの時間の中央値,四分位範囲および範囲は,従来型CBPのメニコン1DAYではC10.03秒(8.92.12.95秒)[5.64.19.93秒],新型BPのC1DAYメニコンプレミオではC9.53秒(8.04.10.69秒)[5.83.21.28秒]であり,両者の比較で有意差を認めた(94)(p=0.016)(図3).SCL反転回数はメニコンC1DAYでは,30例のうちC4例でCBP開封後最初に指にCSCLを乗せた際にSCLの内面が指に接触する向きになっていたため,SCLの反転操作を必要とした.1DAYメニコンプレミオではCBP開封後最初に指にCSCLを乗せた際にC30例ともレンズの外面が指に接触する向きになっており,今回の検討では反転操作を必要としなかった.CIII考察1日使い捨てCSCL装用者における微生物による角膜炎の危険因子の検討で,毎日の装用,夜通しの装用,装用前の低頻度の手洗い,喫煙が危険因子と報告されている7).このうち毎日の装用や夜通しの装用によるリスクは使用頻度に依存し,夜通しの装用を避ける説明が必要である.喫煙に関しては,CLを装用する危険性を減らすために禁煙を勧めるのは困難である.手洗いに関しては装用者の理解も得られやすく,十分な説明が大切である.装用前には必ず毎回手洗いを行う必要がある.石鹸と水道水で手洗いはできていても,そのまま手が濡れた状態でCCLを装用している人もいる.CL装用前には手を十分に乾燥させる必要があるが,使い捨てのペーパータオルが使用されている頻度は高くなく,タオルで手をふくことが多いが,そのタオルがどの程度衛生的かは不明である.手指に付着した微生物による角膜感染症を減らすためには,CL使用者への手洗い方法の啓発という方法以外に,手指から微生物が付着しにくいCCLの普及が望まれる.今回筆者らは,CL新規装用者に対して質問票調査を行った.従来型CBPと比べ新型CBPは統計学的に有意にリッカート尺度が低く,新型CBPはCCL新規装用者において感覚的に表裏がわかりやすいことが示された.また,筆者らは,CL既装用者に対して,BP開封からCSCLを指に正しい向きに乗せるまでの時間評価を行った.この検討で従来型CBPと比べ,新型CBPは統計学的に有意に短い時間でCSCLを指に正しい向きに乗せることができることが示された.また,今回の検討では,新型CBPのC30例ではCBP内でのレンズの反転はなく,従来型CBPのC30例ではC4例がCBP内でCCLが反転していた.新型CBPは底面の凸部や傾斜により,BP内でCSCLが反転するのに十分な空間がなく,BP内でのCSCLの製造,輸送,保管中の反転はなかったと推察される.また,従来型BPのC30例のうちC4例はレンズの反転作業を要し,他のC26例と比較しより広い面積でCCLの外面および内面が指に触れていたと思われる.CLと微生物の付着はCCLの素材,微生物の種類,指の微生物付着量,指とCCLの接触時間,指とCLの接触面積などが関与していると考えられる.新型CBPは指とCCLの接触時間を減らすことができ,また接触面積を狭める可能性があり指からCCLへの微生物の付着の軽減が期待できる.シリコーンハイドロゲル素材は十分な酸素を通すことができ,低酸素による角膜障害を減らすことができると思われ今後C1日使い捨てCSCLにおいても,わが国で使用の増加が予想される.しかし,シリコーンハイドロゲル素材は,従来のハイドロゲル素材と比べてCmicrobialkeratitisのリスクを低減させなかった3,8).CL関連角膜浸潤事象(contactClens-associatedcornealin.ltrativeevents:CIEs)にはCmicrobialkeratitis(MK),contactClens-inducedCperipheralCulcer(CLPU),contactlens-inducedacuteredeye(CLARE)などが含まれる.CLPUやCCLAREは非感染性であるが,微生物に対する免疫反応が関与している.CIEsのリスクは,シリコーンハイドロゲルCSCLは,ハイドロゲルCSCLと比較し約C2倍との報告もある9,10).これらの報告はシリコーンハイドロゲルCSCLのなかでも比較的早い段階で開発されたものの報告である.今回の新型CBPに組み合わされたC1DAYメニコンプレミオのように含水率が高くヤング(Young)率が低くて柔らかい新しい世代のシリコーンハイドロゲルCSCLにも当てはまるかは不明であるが,シリコーンハイドロゲルSCLを入れるCBPには,今回報告したような新型CBPや,既報のフラットパックのようなCSCLへの微生物の付着の軽減が期待できるCBPが望ましいと思われる.CLを中断する大きな理由としてCCL関連愁訴(contactClensdiscomfort:CLD)がある11).外部浸潤剤をケア用品やSSに加えることは役立つように思われるが,その利点はC1日のCCLの使用時間のうちのおもにCCL装用後早期の快適性を増すことであると報告されている12).櫻井らは,SSに2-methacryloyloxyethylCphosphorylcholine(MPC)ポリマーを配合することで,よりよい装用感が持続する可能性があると報告している6).新型CBPはCSSをフラットパックと比較し多く含むことができ,今後CMPCポリマーなどの外部浸潤剤をCSSに配合したりするなどさまざまなCSSの変更も可能である.メニコンC1DAYフラットパック(Magic)の素材であるポリC2ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)-グリセロールモノメタクリレート(GMA)にはフラットパックは使用できたが,他のCCL素材ではフラットパックはCSSが少ないため使用が困難な場合があると考えられる.新型CBPはCSSを多く含むことができさまざまなCCL素材に対応可能で汎用性がある.また,今回の報告から新型CBPは感覚的にSCLの表裏がわかりやすく,SCLと指との接触時間を減らすことができると考えられる.新型CBPは感染対策と装用感の対策の両方のバランスをとったCBPといえる.新型CBPはSCLをつまんで取り出す構造のため,爪が極端に長い人には使用が困難な場合がある.新型CBPを使用する場合は実際に練習し,使用可能か確認をすることが望ましい.今回の検討では指とCSCLの接触時間を用いて,SCLへの微生物付着への影響を間接的に検討した.新型CBPを用いたSCLへの微生物付着試験や各種CBPに入ったCSCLの市販後角膜感染症臨床調査など,より直接的な検討を行うことが今後の課題としてあげられる.新型CBPは指からCSCLへの微生物の付着を軽減する可能性がある.1日使い捨てCSCL装用者においても起きる微生物による角膜障害を減少させるために,さまざまな種類のC1日使い捨てCSCLの容器が指からCSCLへの微生物がより付着しにくい構造のCBPに発展していくことが期待される.利益相反:熊沢あづさ(カテゴリーE:株式会社メニコン)文献1)宇野敏彦,福田昌彦,大橋裕一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査.日眼会誌115:107-115,C20112)稲葉昌丸,井上幸次,植田喜一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症調査からみた危険因子の解析.日コレ誌C52:25-30,C20103)DartJK,RadfordCF,MinassianDetal:RiskfactorsformicrobialCkeratitisCwithCcontemporaryCcontactlenses:aCcase-controlstudy.OphthalmologyC115:1647-1654,C20084)NomachiCM,CSakanishiCK,CIchijimaCHCetal:EvaluationCofCdiminishedmicrobialcontaminationinhandlingofanoveldailyCdisposableC.atCpackCcontactClens.CEyeCContactCLensC39:234-238,C20135)MenziesCKL,CRogersCR,CJonesL:InCvitroCcontactCangleCanalysisCandCphysicalCpropertiesCofCblisterCpackCsolutionsCofCdailyCdisposableCcontactClenses.CEyeCContactCLensC36:C10-18,C20106)櫻井俊輔,島村佳久,宮本幸治ほか:パッケージングソリューションにおけるCMPCポリマーの有用性.日コレ誌C58:C31-38,C20167)StapletonF,NaduvilathT,KeayLetal:RiskfactorsandcausativeCorganismsCinCmicrobialCkeratitisCinCdailyCdispos-ablecontactlenswear.PLoSOneC12:e0181343,20178)StapletonCF,CKeayCL,CEdwardsCKCetal:TheCincidenceCofCcontactClens-relatedCmicrobialCkeratitisCinCAustralia.COph-thalmologyC115:1655-1662,C20089)ChalmersRL,WagnerH,MitchellGLetal:Ageandotherriskfactorsforcornealin.ltrativeandin.ammatoryeventsinyoungsoftcontactlenswearersfromtheContactLensAssessmentCinYouth(CLAY)study.CInvestCOphthalmolCVisSciC52:6690-6696,C201110)ChalmersRL,KeayL,McNallyJetal:Multicentercase-controlstudyoftheroleoflensmaterialsandcareprod-uctsonthedevelopmentofcornealin.ltrates.OptomVisSci89:316-325,C201211)NicholsJJ,WillcoxMD,BronAJetal:TheTFOSInter-nationalCWorkshopConCContactCLensDiscomfort:execu-tiveCsummary.CInvestCOphthalmolCVisCSciC54:TFOS7-TFOS13,201312)PapasEB,CiolinoJB,JacobsDetal:TheTFOSInterna-tionalCWorkshopConCContactCLensDiscomfort:reportCofCtheCmanagementCandCtherapyCsubcommittee.CInvestCOph-thalmolVisSciC54:TFOS183-TFOS203,C2013***

術前に結膜囊より分離されたコリネバクテリウムの薬剤耐性動向調査(2005〜2016 年)

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1536.1539,2018c術前に結膜.より分離されたコリネバクテリウムの薬剤耐性動向調査(2005.2016年)神山幸浩*1北川和子*1萩原健太*1,2柴田伸亮*1佐々木洋*1*1金沢医科大学眼科学講座*2公立宇出津総合病院眼科CAntibacterialResistanceofCorynebacteriumsp.DetectedfromCul-de-sacbeforeOcularsurgeries,2005.2016CYukihiroKoyama1),KazukoKitagawa1),KentaHagihara1,2),ShinsukeShibata1)andHiroshiSasaki1)1)DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,UshitsuGeneralHospitalC術前に結膜.より分離されたコリネバクテリウムの薬剤耐性について,2005.2007年までのC3年間(前期群)と2014年C1月.2016年C6月までのC2年半(後期群)を比較した.前期群,後期群ともペニシリン,セフェム,カルバペネム,テトラサイクリン,アミノ配糖体では感受性が良好であったが,マクロライド,クロラムフェニコールには耐性株が高率にみられた.フルオロキノロンを代表してレボフロキサシンに対する感受性を検討したが,耐性率は後期群で有意に増加していた(前期群:40.1%,後期群:56.7%).コリネバクテリウム耐性株が増加する因子として年齢が関係したが,性別,糖尿病診断歴,およびC1年以内の眼科受診歴については,有意な差は認められなかった.CWeexaminedthedrugresistanceofCCorynebacteriumsp.isolatedfromthecul-de-sacsofpatientsbeforeeyesurgeryduringtheC.rstterm(2005.2007)andthelatterterm(2014.2016),respectively.Duringbothterms,thesensitivitytopenicillins,cephems,carbapenem,tetracyclineandaminoglycosidewasgood.TheresistanceratewashighCinCmacrolideCandCchloramphenicol.CAsCregardsC.uoroquinolones,CweCexaminedCsensitivityCtoClevo.oxacin.CTheCrateofresistancewashighduringbothterms,therateincreasingduringthelatterterm(from40.1%to56.7%).WhenCexaminingCprobableCfactorsCrelatingCtoCthisCincrease,ConlyCagingCwasCsigni.cant,CwithCnoCmeaningfulCdi.erenceregardingsex,presenceofdiabetesorhistoryofeyedoctorconsultationwithinthepreviousyear.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(11):1536.1539,C2018〕Keywords:コリネバクテリウム,レボフロキサシン,薬剤耐性,結膜.常在菌,周術期感染予防,糖尿病.Cory-nebacteriumsp.,levo.oxacin,drugresistancy,bacterialC.oraincul-de-sac,preventionofperioperativeperiodinfec-tion,diabetes.Cはじめに白内障術後眼内炎の起炎菌は術前結膜.分離菌と一致することが多く,その薬剤感受性を知ることは眼内炎予防策として重要である.フルオロキノロン系抗菌薬としてオフロキサシン(OFLX)がわが国で初めて上市されたのはC1987年であり,その後さまざまなフルオロキノロン点眼薬が登場している.グラム陽性菌,グラム陰性菌に広い抗菌スペクトルを有していることにより,周術期における結膜.の減菌を目的として単独投与されることが多い1).コリネバクテリウムはグラム陽性桿菌でヒトの皮膚,粘膜,腸内に存在し,結膜.の常在細菌叢として高頻度に認められ,その病原性は低いといわれてきたが,近年結膜炎,眼瞼結膜炎,術後眼内炎などを引き起こすことが報告されており2,3),かつコリネバクテリウムのフルオロキノロン系抗菌薬に対する耐性化が問題となっている4).今回,金沢医科大学病院においてC2005.2007年,2014.2016年の期間に術前患者より分離されたコリネバクテリウムついて,薬剤感受性の経年変化,耐性化率の推移について検討するとともに,耐性株が増加する因子として患者側の要因(年齢,性別,糖尿病診断歴,眼科受診歴)についても着目し,それによる耐性化増加の有無も比較したの〔別刷請求先〕神山幸浩:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学C1-1金沢医科大学眼科学講座Reprintrequests:YukihiroKoyama,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,1-1Daigaku,Uchinada,Kahoku,Ishikawa920-0293,JAPANC1536(88)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(88)C15360910-1810/18/\100/頁/JCOPYで報告する.CI対象および方法1.対象本研究は後方視的観察研究であり,2005年C1月.2007年12月のC3年間(前期群),およびC2014年C1月.2016年C6月のC2年半の間(後期群)に金沢医科大学病院(以下,当院)において術前検査でコリネバクテリウムが検出された患者を対象とした.患者数は,前期群C495名(男性C234名,女性C261名,平均年齢C74.2C±10.1歳)756眼,後期群C85名(男性C43名,女性C42名,平均年齢C77.9C±8.2歳)98眼であった.C2.方法患者カルテより情報を収集した.まず,細菌学的検査でコリネバクテリウムおよびその薬剤感受性について調査した.ちなみに当院での検査法は以下のとおりである.輸送培地(改良アミーズ半流動培地)のスワブを滅菌生理食塩水で湿らせ下結膜.内を拭い,検体を採取した.菌の同定は,増菌培養後のグラム染色でのグラム陽性桿菌の形態確認と,カタラーゼ試験陽性の有無で判定した.薬剤感受性はディスク法で検査し,当院施設基準に基づく阻止円直径値に照らし,感受性(susceptible,17Cmm以上),中間感受性(intermedi-ate,14.16Cmm),耐性(resistant,13Cmm以下)の判定をした.耐性,中間感受性を合わせて耐性率を算出した.当院検査部で採用されている薬剤(抗菌薬名と略号)は以下のとおりであるが,検査時期により若干種類が異なる.なお,上記の患者に対して併せて糖尿病罹患歴の有無および過去C1年以内の眼科受診歴の有無も調査した.統計解析にはCc2検定,多変量ロジスティック回帰分析を用い,解析ソフトはCSPSS(IBMSPSSStatistics,versionC24)を使用した.本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,金沢医科大学医学研究倫理審査委員会の許可を受けて行った(No.1288).C3.検討抗菌薬一覧アンピシリン(ABPC),アンピシリン/スルバクタム(ABPC/SBT),セファクロル(CCL),セフォタキシム(CTX),セフトリアキソン(CTRX),メロペネム(MEPM),ゲンタマイシン(GM),エリスロマイシン(EM),テトラサイクリン(TC),レボフロキサシン(LVFX),クロラムフェニコール(CP),ST合剤(ST).CII結果分離されたコリネバクテリウムの株数は前期群でC756株,後期群でC98株であったが,前期群,後期群ともに各C1株ずつ感受性試験が行えなかったため,薬剤感受性試験に供されたのはそれぞれC755株,97株となった.当院検査部で採用されている薬剤ごとの耐性率を図1に示す.薬剤感受性検査はC2014年C6月C1日にCCPが削除され,バンコマイシン(VCM)が追加されているため,後期群ではCCPについては4例と少数であった.前期群でのそれぞれの抗菌薬に対する耐性率(耐性+中間感受性)は,ABPC:4.2%,ABPC/SBT:0.5%,CCL:0.5%,CTX:1.1%,CTRX:1.1%,MEPM:0.1%,GM:6.9%,EM:52.4%,TC:1.5%,LVFX:40.1%,CP:27.7%,ST:12.3%であった.耐性率の高かったものはCEM(52.4%),LVFX(40.1%),CP(27.7%),ST(12.3%)であり,ペニシリン系およびセフェム系抗菌薬のほとんどに感受性が高かった.後期群ではCABPC:C4.1%,ABPC/SBT:0%,CCL:0%,CTX:0%,CTRX:0%,MEPM:0%,GM:8.2%,EM:63.9%,TC:0%,LVFX:56.7%,CP:75.0%,ST:11.3%,VCM:0%であった.耐性率が高かったものは前期群と同様EM(63.9%),LVFX(56.7%),CP(75.0%),ST(11.3%)であった一方,CCL,CTX,CTRXなどのセフェム系抗菌薬,MEPM,TC,VCMには耐性株はまったく認めなかった.EM,LVFX,CPの耐性率は後期群のほうが有意に高かった(Cc2検定,それぞれp<0.05,p<0.001,p<0.05).年度別にみたCLVFX耐性率を図2に示す.2005年C48.6%,2006年C36.0%,2007年C41.7%であり,前期群全体としては40.1%であったのに対し,後期群ではC56.7%と,有意に増加した(Cc2検定,p<0.05).前期,後期を通してC4つの因子(年齢,性別,糖尿病診断歴,眼科受診歴)およびCLVFX耐性率との関連を多変量ロジスティック回帰分析で解析したところ,年齢のみがリスク因子となった(表1).年齢がC1歳増加することによる調整オッズ比はC1.026(95%信頼区間:1.011.1.042,p=0.001)であった.たとえば,50歳に比べC70歳でのCLVFX耐性化のリスクは約C1.7倍になる.性別(男性),糖尿病診断歴,眼科受診歴の調整オッズ比はそれぞれC0.980(95%信頼区間:0.743.1.292,p=0.884),0.871(95%信頼区間:0.625.1.214,p=0.415),0.802(95%信頼区間:0.558.1.152,Cp=0.232)で,いずれも有意な関連はみられなかった.CIII考按白内障手術をはじめとする内眼手術における細菌性眼内炎の発症原因のほとんどは,術前の消毒により完全に除去されなかった眼瞼皮膚,睫毛,結膜の常在細菌が,手術操作に伴い眼内に侵入し増殖することによるといわれている1,5,6).周術期の感染予防目的として強力な殺菌作用と広い抗菌スペクトルをもつフルオロキノロン系抗菌薬が日常的に使用されているが,常在菌の一つであるコリネバクテリウムのキノロン耐性化の増加が近年問題となっている4).フルオロキノロン薬剤の作用機序は,DNAジャイレース,トポイソメラーゼIVの阻害によるものであり,これにより細胞の増殖を阻害するが,コリネバクテリウムにはCDNAジャイレースだけが(89)あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018C1537前期群100%■耐性(R)■中間(I)■感受性(S)100%80%80%60%60%40%20%40%0%20%0%48.6%36.0%41.7%56.7%2005年2006年2007年2014~2016年前期群後期群後期群100%80%60%40%20%42株0%■耐性(R)■中間(I)■感受性(S)■耐性(R)■中間(I)■感受性(S)■耐性(R)■感受性(S)図2年度別LVFX耐性率の推移および前期・後期別LVFX耐性率の比較図1薬剤感受性(前期群・後期群)前期群,後期群ともにペニシリン系,セフェム系,テトラサイクリン,バンコマイシンに対してはほぼすべて感受性であったが,ゲンタマイシン,ST合剤で少数耐性,エリスロマイシン,レボフロキサシン,クロラムフェニコールでの耐性率は高度であった.※略語:ABPC(アンピシリン),ABPC/SBT(アンピシリン/スルバクタム),CCL(セファクロル),CTX(セフォタキシム),CTRX(セフトリアキソン),MEPM(メロペネム),GM(ゲンタマイシン),EM(エリスロマイシン),TC(テトラサイクリン),LVFX(レボフロキサシン),CP(クロラムフェニコール),ST(ST合剤),VCM(バンコマイシン).存在することにより,このアミノ酸が変異して耐性メカニズムを獲得しやすいとされる7).今回の検討でも,コリネバクテリウムのCLVFXに対する耐性率は,2005年からのC3年間ではC40.1%,2014年からのC2年半ではC56.7%と有意に増加していたことにより,耐性率が年々増加している可能性が示唆された.フルオロキノロン系抗菌点眼薬の使用はC1987年のCOFLXに始まる.OFLXはラセミ体であり,薬理学的活性体であるCLVFX(50%)とその鏡像異性体であるデキストロフロキサシン(50%)を含んでいることにより,2000年よりCLVFX単独製剤である点眼薬が登場した.その抗菌活性はCOFLXのC2倍となる.OFLXについでCLVFXの薬剤耐性率に関してコリネバクテリウムを含む術前分離菌を検討した報告では,1995.1999年のCOFLX耐性率はC13.5%からC32.8%へと有意に増加,LVFX耐性率はC2000年でC14.5%,2002年にはC20.5%とやはり増加の傾向がみられている8,9).コリネバクテリウムのCLVFX耐性率については結膜炎を含めた前眼部感染症眼からの分離菌の検討(2003.2004年)でC57.1%10),同じ施設の白内障術前分離菌の検討ではC44.3%(2012.2013年)11)であった.術前患者の耐性率に関しては当院の検討結果と併せて鑑みると,2010年代になってもさらに増加傾向にあることが示唆されたが,感染症眼では耐性率がさ上段:LVFX耐性率の年度別比較を示す.2005,2006,2007年度におけるCLVFX耐性率と比較し,2014.2016年では高率に耐性化が増加した(56.7%).下段:前期群と後期群のCLVFX耐性率の比較を示す.前期群は40.1%,後期群はC56.7%と,有意に増加した(Cc2検定,p<0.05).表1リスク因子ごとの多変量ロジスティック回帰分析オッズ比95%信頼区間p値年齢C1.0261.011.C1.042C0.001性別(男性)C0.9800.743.C1.292C0.884糖尿病診断歴C0.8710.625.C1.214C0.415眼科受診歴C0.8020.558.C1.152C0.232Cらに高くなる可能性が考えられた.その理由の一つとして,感染症眼ではフルオロキノロンを中心とする抗菌薬がすでに投与されていることが考えられた.コリネバクテリウムはCLVFX以外ではCEMに対しても高率に耐性菌が存在し,しかも後期群で有意に増加していた(前期群:52.4%,後期群:63.9%).CPに対しても高率に耐性株がみられたが,後期群では検査薬の変更のためC4株のみの検討であることより,増加の可能性が疑われるにとどまった(前期群:27.7%,後期群:75.0%).フルオロキノロン以外にもコリネバクテリウムのCEM耐性率が高いことについては以前から報告されている9,10).今回,前期群,後期群を通してセフェム系薬剤が高い感受性を示したが,これもコリネバクテリウムのセフェム系薬剤に対する高い感受性,フルオロキノロン系薬剤に対する耐性傾向を述べた秦野らの報告4)と一致するものだった.リスク要因として,年齢,性別,糖尿病診断歴,眼科受診歴を選び,コリネバクテリウムのCLVFX耐性率との関係を検討した.性別,糖尿病診断歴,眼科受診歴のいずれにも有意な関連はみられず,唯一年齢のみが有意なリスク因子とな(90)った.既報でも,糖尿病患者においてフルオロキノロン耐性株を多く認めるものの有意でないことが示され10,11),また,80歳以上の群でCLVFX耐性化率が有意に上昇する報告11)がある.今回の結果もそれらと一致するものであった.糖尿病は易感染性が指摘される疾患であるが,コリネバクテリウム耐性化との関係はなく,また眼科受診により菌への接触リスク,抗菌薬投与による耐性化誘発の可能性が予測されたが,今回の結果では否定された結果となった.コリネバクテリウムの保菌リスクとしては,年齢,性別(男性),緑内障点眼薬の使用が独立した保菌リスク因子であるとする報告12)もあり,年齢が保菌リスクとともに耐性リスクを高める因子と考えられた.今回の検討時期はC2005年からのC3年間(前期群)とC2014年からのC2年半(後期群)であるが,このC10年余に分離されたコリネバクテリウムの株数を比較すると前期群のC755株から後期群のC97株へと減少している.この間に培養方法,同定方法,培養期間に変更はないが,眼科での全分離菌を対象とした当院中央検査室のデータでは前期群ではC30.40%を超えてコリネバクテリウムが分離され,後期群ではC10数%台であったことが,その原因と考えられた.分離率になぜそのような変動がみられたのか不明であるが,もともとコリネバクテリウム検出頻度は施設,検査時期により非常にばらつきが大きい13).2016年のCWattersらの同報告では,コリネバクテリウムを含めた主要細菌の分離率をC10編以上の論文を引用して示しておりコリネバクテリウムの比率はC1980.1990年代ではC40.60%以上であったが,2010年代ではC11%,7.6%と低下している13).本研究でも同様に,時代とともに宿主のコリネバクテリウム保菌率の低下していることが示された結果となったが,低下の理由として生活環境の変動とともに結膜.細菌叢に変化が生じた可能性が考えられた.内眼手術の大部分を占める白内障手術は高齢者に行うことが多い手術であることより,結膜.常在菌に対し適切な抗菌薬を選択し,周術期に投与することは術後眼内炎発症の一つの対策として重要である.抗菌薬としてフルオロキノロン系点眼薬が使用される頻度が高いが5),今回の検討結果ではコリネバクテリウムでは半数以上が耐性であった.しかも耐性率は経年的に有意に増加している.ブドウ球菌においてもメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(MRSE)ではC60.80%が耐性であることが判明している11).これらの結果は術前の薬剤感受性結果に基づいて周術期の抗菌薬を選択することの重要性を示すものである.当院ではほぼ全例に術前抗菌薬点眼としてモキシフロキサシン(MFLX)を用いているが,コリネバクテリウムがフルオロキノロン耐性である場合には,感受性のあるセフェム系薬剤を併用している.フルオロキノロン耐性化率はその使(91)用頻度と関連していることより,今後も次第に高率となっていく可能性があるが,上記に示した手順を確実に行うことがコリネバクテリウム関連の眼内炎発症予防に有用であると考える.本論文の要旨はC2017年第C54回日本眼感染症学会(大阪)にて発表した.文献1)矢口智恵美,佐々木香る,子島良平ほか:ガチフロキサシンおよびレボフロキサシンの点眼による白内障周術期の減菌効果.あたらしい眼科C23:499-503,C20062)JosephCJ,CNirmalkarCK,CMathaiCACetal:ClinicalCfeatures,CmicrobiologicalCpro.leCandCtreatmentCoutcomeCofCpatientsCwithCorynebacteriumendophthalmitis:reviewofadecadefromCaCtertiaryCeyeCcareCcentreCinCsouthernCIndia.CBrJOphthalmolC100:189-194,C20163)井上幸次,大橋裕一,秦野寛ほか:前眼部・外眼部感染症における起炎菌判定:日本眼感染症学会による眼感染症起炎菌・薬剤感受性多施設調査(第一報).日眼会誌C115:C801-813,C20114)秦野寛,井上幸次,大橋裕一ほか:前眼部・外眼部感染症起炎菌の薬剤感受性日本眼感染症学会による眼感染症起炎菌・薬剤感受性多施設調査(第二報).日眼会誌C115:C814-824,C20115)片岡康志,佐々木香る,矢口智恵美ほか:白内障手術予定患者の結膜.内常在菌に対するガチフロキサシンおよびレボフロキサシンの抗菌力.あたらしい眼科C23:1062-1066,C20066)河原温,五十嵐羊羽,今野優:白内障手術術前患者の結膜.常在細菌叢の検討.臨眼C60:287-289,C20067)長谷川麻里子,江口洋:【眼感染症の治療-最近のトピックス-】細菌感染症コリネバクテリウム感染症「キノロン耐性との関係」.医学と薬学C71:2243-2247,C20148)KurokawaN,HayashiK,KonishiMetal:Increasingo.ox-acinCresistanceCofCbacterialC.oraCfromCconjunctivalCsacCofCpreoperativeophthalmicpatientsinJapan.JpnJOphthal-molC46:586-589,C20029)櫻井美晴,林康司,尾羽澤.実ほか:内眼手術術前患者の結膜.細菌叢のレボフロキサシン耐性率.あたらしい眼科C22:97-100,C200510)松尾洋子,柿丸晶子,宮崎大ほか:鳥取大学眼科における分離菌の薬剤感受性・患者背景に関する検討.臨眼C59:C886-890,C200511)大松寛,宮崎大,富長岳史ほか:白内障手術前患者における通常培養による結膜.内細菌検査.臨眼C68:637-643,C201412)HoshiCS,CHashidaCM,CUrabeK:RiskCfactorsCforCaerobicCbacterialconjunctivalC.orainpreoperativecataractpatients.Eye(Lond)C30:1439-1446,C201613)WattersCGA,CTurnbullCPR,CSwiftCSCetal:OcularCsurfaceCmicrobiomeCinCmeibomianCglandCdysfunction.CClinCExpCOphthalmolC45:105-111,C2017あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018C1539

BUT短縮タイプのドライアイ患者に対するムコスタ点眼液UD2%の有効性と安全性:実臨床下での解析結果

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1529.1535,2018cBUT短縮タイプのドライアイ患者に対するムコスタ点眼液UD2%の有効性と安全性:実臨床下での解析結果安田守良*1増成彰*1曽我綾華*1坪田一男*2大橋裕一*3木下茂*4*1大塚製薬株式会社ファーマコヴィジランス部*2慶應義塾大学医学部眼科学教室*3愛媛大学*4京都府立医科大学感覚器未来医療学CE.icacyandSafetyofRebamipideEyeDropsinPatientswithDryEyeSyndromeofShortBUTType.ResultsofRealWorldSettingsMoriyoshiYasuda1),AkiraMasunari1),AyakaSoga1),KazuoTsubota2),YuichiOhashi3)andShigeruKinoshita4)1)PharmacovigilanceDepartment,OtsukaPharmaceuticalCo.Ltd,2)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,3)EhimeUniversity,4)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC2016年に新しいドライアイ診断基準が公表されたことから,角結膜上皮障害のない涙液層破壊時間(break-uptime:BUT)短縮タイプのドライアイ患者に対するレバミピド点眼液の有効性と安全性を,実臨床下で実施した製造販売後調査を用いて検討した.登録患者からCBUT5秒以下の患者を選択し,さらに生体染色スコアにより分類したところ,角結膜上皮障害なしまたは軽度のドライアイ患者がC291名,明らかな角結膜上皮障害をもつ患者がC411名であった.これらC2群の患者についてレバミピド点眼液の有効性を比較したところ,点眼前の角結膜上皮障害の程度にかかわらず,BUTの改善,自覚症状の改善が認められた.さらにコンタクトレンズ装用患者,ドライアイの原因が眼手術であった患者のサブグループでもCBUT,自覚症状の改善が認められた.以上の結果より,BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度のドライアイ患者に対するレバミピド点眼液の実臨床下の有効性,安全性を確認した.CInresponsetopublicationofthenewDiagnosticCriteriaforDryEye,weinvestigatedthee.icacyandsafetyofrebamipideophthalmicsuspensioninpatientswithshortBUTandnoormildcorneal/conjunctivalepithelialdis-ordersusingtheresultsofpost-marketingsurveillanceconductedinJapan.AmongallenrolledpatientswithBUTof5secondsorless,411(44.9%)hadcorneal/conjunctivaldisorderand291Cdidnot.Thee.ectivenessofrebamip-ideregardingBUTanddryeyesymptomswerecomparablebetweenthetwogroups.Moreover,inasubgroupofpatientswithcontactlenses,dryeyecausedbyophthalmicsurgeryalsohadsigni.cantimprovementinBUTandtheseverityof.vesubjectivesymptoms.Theseresultsdemonstratedthee.icacyandsafetyinclinicalpracticeofrebamipideophthalmicsuspensionindryeyepatientswithnoormildcorneal/conjunctivaldisorders.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(11):1529.1535,2018〕Keywords:ドライアイ,レバミピド,コンタクトレンズ,眼手術.dryeye,rebamipide,contactlens,ophthalmicsurgery.Cはじめにレバミピド点眼液(商品名:ムコスタ点眼液CUD2%,大塚製薬)はムチン産生促進作用をもつ薬剤で,ヒアルロン酸点眼液との比較試験でその有効性と安全性が証明され,2012年にドライアイに対する治療薬として発売された1).また,最近では抗炎症作用をもつことも報告されている2).さらに,筆者らは実臨床における有効性と安全性の結果をC916名の患者が参加した製造販売後調査の結果としてすでに公表してきた3).ドライアイの診断基準は,2006年に公表された「ドライ〔別刷請求先〕安田守良:〒540-0021大阪府大阪市中央区大手通C3-2-27大塚製薬株式会社ファーマコヴィジランス部Reprintrequests:MoriyoshiYasuda,Ph.D.,OtsukaPharmaceuticalCo.Ltd.3-2-27,Otedori,Chuo-kuOsaka540-0021,JAPANC0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(81)C1529アイ診断基準」においては自覚症状,涙液異常,角結膜上皮障害の三つが併存していることとされていた4).レバミピド点眼液の第CIII相臨床試験はその診断基準を加味し,角膜上皮障害の指標として生体染色スコアC4以上(15点満点)を対象患者として実施し,その結果を用いてレバミピド点眼液は承認されている.しかし,2016年の「ドライアイ診断基準」の改訂により角結膜上皮障害は必須ではなくなり,涙液層破壊時間(break-uptime:BUT)短縮タイプのドライアイ患者も含むと定義された5).そこでレバミピド点眼液で治療を行った製造販売後調査結果を見直したところ,916例全例がなんらかの自覚症状を有しており,BUT5秒超の患者はわずかC36名(3.9%)であった.したがって,ほぼ全例が新しい「ドライアイ診断基準」に該当することが判明した.さらにCBUT5秒以下の患者群を明らかな角結膜上皮障害が認められる患者と,角結膜上皮障害がないまたは軽度な患者に分類したところ,前者はC44.9%(411/916名),後者はC31.8%(291/916名)であった.角結膜上皮障害がないまたは軽度なドライアイ患者は第CIII相臨床試験では除外されていた患者群であったことから,これら患者に対するレバミピド点眼液の有効性と安全性を解析することにした.また,コンタクトレンズ(contactlens:CL)装用はドライアイのリスクファクターであることが知られている.レバミピド点眼液は防腐剤を含まない製剤であり,CL装用者にも広く使用されている.また,眼手術もドライアイのリスクファクターであるとされている.そこでCCL装用者とドライアイの原因が眼手術と報告されていた患者のサブグループ解析も実施したので報告する.CI対象および方法2016年に報告した製造販売後調査3)と同一のデータを新たに解析した.すなわち,合計C916名の製造販売後データを用いて,BUTがC5秒以下(2016年の診断基準によるドライアイ)とC5秒超または不明のC2群に分け,5秒以下の患者群をさらに生体染色スコアがC0,C1,2の患者群とC3以上の患者群のC2群に分け,患者背景を比較した.このときC3以上とした理由はC2006年の「ドライアイ診断基準」を参考にした.患者背景の比較には連続変数はCt検定,カテゴリー変数ではFisherの直接確率法を用いた.また,BUTの推移について投与開始からC52週までの平均値の推移を集計解析した.ドライアイの自覚症状としては調査したC5項目(異物感,乾燥感,羞明,眼痛,霧視)それぞれについて(0:症状なし,1:弱い症状あり,2:中くらいの症状あり,3:強い症状あり,4:非常に強い症状あり)のC5段階で患者からの聞き取りにより評価した.これらのスコアの推移を生体染色スコア2以下の患者群とC3以上の患者群で投与開始からC52週までその平均値を集計した.なお,各自覚症状の解析では,投与開始時にスコアがC1以上である患者を解析対象とした.また,生体染色スコアC2以下の患者群からCCL装用者,ドライアイの原因が眼手術と報告されていた患者を抽出してサブグループとした.BUT,各自覚症状の投与開始時からの推移については,症例数が少ないことから最終観察時と比較して投与前後のスコアを比較した.上記すべての解析で,開始時と投与後の比較には対応のあるCt検定を行った.CII結果データを収集した全体C916名中CBUT5秒以下(2016年診断基準によるドライアイ)はC708名,5秒超または不明は208名であった.BUT5秒以下の患者群をさらに生体染色スコアで分類したところ,スコアC2以下はC291名(全体の31.8%),スコアC3以上はC411名(全体のC44.9%),であった(図1).C1.患.者.背.景BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度な患者群と,BUT短縮かつ明らかな角結膜上皮障害をもつ患者について患者背景を比較した.その結果,角結膜上皮障害なしまたは軽度の患者群では,医師が判定した重症度において軽度の患者が多く(64%vs.24%,p<0.0001),BUTが長かった(2.9秒vs.2.7秒,p=0.0078).また,合併症としてはアレルギー性結膜炎の割合が高く(15.5%Cvs.8.3%,p=0.0035),Sjogren症候群の割合が低かった(1.7%vs.8.8%,p<0.0001)(表1).レバミピド点眼液投与前の自覚症状をもつ患者割合と自覚症状スコアの平均値では,染色スコアC2以下の患者群では,調査したC5項目の自覚症状すべてで症状のある割合が低かった(表2a).また,染色スコアC2以下の患者群では,異物感,乾燥感のスコアの平均値が低かった(表2b).C2.BUT・自覚症状の推移角結膜上皮障害の程度別にC2群に分類した患者群について,レバミピド点眼液投与後のCBUTの推移を示した(図2).角結膜障害なしまたは軽度な患者群で,開始時のCBUTはC3.0C±1.3秒であった.4週後にはC4.0C±2.1秒と有意な増加を示し(p<0.001),52週までのすべての観察時点で開始時と比べて有意な増加を示した.最終観察時点の平均値はC4.3C±2.2秒であった.角結膜障害が明らかな患者群(スコアC3以上)では,開始時C2.7C±1.3秒,4週後C3.9C±2.0秒と有意な改善を示し(p<0.001),52週までのすべての観察時点で開始時と比べて有意な増加を示した.最終観察時点の平均値はC4.5C±2.2秒であった.どちらの患者群でも開始時に比べてC4週後以降は有意な改善を示し,レバミピド点眼液の有効性が確認できた.患者ごとに投与前と最終評価時を比較すると,角結膜障害なしまたは軽度の患者群でCBUT改善C55%,変化なし34%,悪化C11%,角結膜障害が明らかな患者群でCBUT改善76%,変化なしC21%,悪化C3.7%であった.図3に角結膜上図1症例構成表1患者背景の比較全体Cn=916BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度(BUTC5秒以下,染色スコアC2以下)(n=291)BUT短縮かつ角結膜上皮障害(BUTC5秒以下,染色スコアC3以上)(n=411)p値性別:女性の割合(%)C83.8C83.9C86.6C0.32861)年齢:平均値(年)C63±16C62±17C63±16C0.66412)重症度(医師判定)軽度(%)中等度(%)重症(%)C41C51C8C64C34C2C24C64C11<C0.0001***C1)BUT(秒)C3.0±1.6C2.9±1.3C2.7±1.3C0.0078**2)染色スコアの平均値C3.1±2.3C0.98±0.82C4.67±1.64<C0.0001***C2)ドライアイの原因環境因子(%)合併症(%)眼手術(%)コンタクトレンズ(%)薬剤(%)その他(%)C44.5C12.2C9.2C5.6C3.3C36.7C46.7C11.0C10.7C7.9C3.1C32.7C47.5C13.4C7.5C4.9C2.9C36.5C0.87821)C0.35541)C0.17701)C0.11091)C1.00001)C0.29741)合併症白内障(%)緑内障(%)アレルギー性結膜炎(%)結膜炎(%)Sjogren症候群(%)C17.4C12.0C11.6C5.8C5.8C15.8C8.3C15.5C7.9C1.7C16.3C10.2C8.3C6.8C8.8C0.91711)C0.43171)C0.0035**1)C0.65841)<C0.0001***C1)コンタクトレンズあり(%)C6.9C9.3C6.6C0.19611)前治療薬ヒアルロン酸(%)ジクアホソルCNa点眼(%)ステロイド(%)人工涙液(%)C12.4C13.2C4.7C1.3C11.7C16.2C4.8C1.4C13.9C13.1C3.9C1.2C0.42611)C0.27621)C0.57411)C1.00001)1)Fisherの正確検定,2)t検定.表2a投与前自覚症状の比較BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度(BUTC5秒以下,染色スコアC2以下)BUT短縮かつ角結膜上皮障害中等度以上(BUTC5秒以下,染色スコアC3以上)p値異物感75.4%(C211/280名)89.4%(C361/404名)<C0.00011)乾燥感77.8%(C217/279名)90.6%(C366/404名)<C0.00011)羞明25.2%(69/274名)54.7%(C217/397名)<C0.00011)眼痛45.0%(C125/278名)60.8%(C245/403名)<C0.00011)霧視25.0%(69/276名)54.0%(C216/400名)<C0.00011)1)Fisherの正確検定.表2b投与前自覚症状のスコアの比較BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度(BUTC5秒以下,染色スコアC2以下)BUT短縮かつ角結膜上皮障害中等度以上(BUTC5秒以下,染色スコアC3以上)p値異物感C1.78±0.86(C211名)C2.10±0.95(C361名)<C0.00012)乾燥感C1.91±0.91(C217名)C2.22±0.97(C366名)C0.00022)羞明C1.65±0.84(69名)C1.80±0.87(C217名)C0.21122)眼痛C1.70±0.90(C125名)C1.85±0.94(C245名)C0.13392)霧視C1.59±0.79(69名)C1.63±0.91(C216名)C0.74202)2)t検定.BUT5秒以下かつ染色スコア2以下BUT5秒以下かつ染色スコア3以上9.08.07.06.05.04.03.02.01.0BUT(秒)スコアC2以下Cn=291C146C93102C75C58C51C68C44C47C37C32C31C44249スコアC3以上Cn=411C176133138119C72C79C91C80C80C66C71C66C64325図2BUTの推移(染色スコア別)皮障害の程度別にC2群に分類した患者群について,レバミピ時と最終観察時点で比較した.24名でCBUTの投与前後の比ド点眼液投与後の自覚症状の平均値の推移を示した.すべて較が可能であった.BUTは開始時C2.9C±1.1秒からC4.0C±1.8の自覚症状について角結膜上皮障害の程度にかかわらず有意秒へ有意な改善が認められた(p<0.01).また,自覚症状C5な改善が認められた.項目について開始時と最終観察時のスコアを比較したとこC3.CL装用者の結果ろ,すべての自覚症状で開始時と比べて有意な改善が認めらBUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度な患者C291れた(すべてp<0.01)(図4).名のうちCCL装用者C27名を抽出し,BUT,自覚症状を開始異物感乾燥感羞明染色スコア2以下染色スコア3以上染色スコア2以下染色スコア3以上染色スコア2以下染色スコア3以上2.52.52.50.50.50.50.00.00.0スコアスコア2.02.02.0スコア1.51.51.51.01.01.0開始時481216202428323640444852開始時481216202428323640444852開始時481216202428323640444852眼痛霧視染色スコア2以下染色スコア3以上染色スコア2以下染色スコア3以上2.52.50.50.50.00.02.02.0スコアスコア1.51.51.01.0開始時481216202428323640444852開始時481216202428323640444852図3自覚症状の推移(生体染色スコア別)BUT(n=24)自覚症状■投与前■最終観察時■投与前■最終観察時6.03.53.05.02.54.0BUT(秒)2.0スコア3.01.52.01.01.00.50.00.010)=n(霧視16)=n(眼痛11)=n(羞明22)=n(21)乾燥感=(n異物感図4コンタクトレンズ装用者のBUTと自覚症状の投与前と最終観察時の比較4.眼手術既往患者の結果秒からC3.4C±1.6秒へ改善傾向が認められたが,統計学的有BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度な患者C291意差はなかった(Cp=0.0761).自覚症状C5項目についても開名のうち眼手術がドライアイの原因であった患者C31名を抽始時と最終観察時のスコアを比較した結果,異物感,乾燥出し,BCUT,自覚症状を開始時と最終観察時点で比較した.感,眼痛は投与開始時に比べて有意な改善を示した(いずれ24名で投与前後のCBUTが比較可能であり,開始時C2.9C±1.4もp<0C.01).一方で,羞明,霧視ではスコアの改善傾向は4.02.05.02.5BUT(秒)3.01.52.01.01.00.50.00.0図5ドライアイの原因が眼手術であった患者のBUTと自覚症状の投与前と最終観察時の比較表3おもな副作用発現率副作用名BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度(BUTC5秒以下,染色スコアC2以下)BUT短縮かつ角結膜上皮障害中等度以上(BUTC5秒以下,染色スコアC3以上)味覚異常9.6%(C28/291名)9.5%(C39/411名)霧視3.8%(C11/291名)2.9%(C12/411名)アレルギー性結膜炎0.7%(2/291名)0.7%(3/411名)眼脂0.7%(2/291名)0.0%(0/411名)眼痛0.7%(2/291名)0.7%(3/411名)眼そう痒症0.7%(2/291名)0.2%(1/411名)MedDRA/Jversion20.0で集計.認められたものの有意ではなかった(図5).C5.副作用表3にC0.5%以上報告された副作用を発現率順に示した.もっとも多く報告された副作用は本剤の物性である苦味に起因すると考えられる味覚異常であり,染色スコアC2以下の患者,3以上の患者でそれぞれC9.6%,9.5%であった.次に多く報告された事象は霧視であり,それぞれC3.8%,2.9%であった.なお,副作用の霧視はドライアイの症状としての霧視とは区別して評価した.これらの発現率は製造販売後調査データ全体(916名)の発現率,味覚異常C9.3%(85/916名),霧視C3.2%(29/916名)とほぼ同じであり,差異は認められなかった.CIII考察2016年に新しい「ドライアイ診断基準」が公表されたことから,レバミピド点眼液の製造販売後調査結果を再解析したところ,916例の全例がなんらかの自覚症状を有していた.そしてCBUT5秒超であった患者割合はわずかC3.9%であり,ほとんどの患者がCBUT5秒以下の患者であったと推測された.すなわち,このC916名ほぼ全員が,新しい「ドライアイ診断基準」ではドライアイと確定診断されると考えられる.レバミピド点眼液の承認申請に用いた第CIII相試験では,フルオレセイン染色スコアがC4以上(15点満点)の患者を対象としていた.そのため,角結膜上皮障害がないまたは染色スコアが低い患者に対するレバミピド点眼の有効性・安全性は確認されていなかった.今回,製造販売後調査データから,BUT短縮例のうち,角結膜上皮障害がないまたは軽度な患者と明らかに角結膜上皮障害がある患者の患者背景,有効性を比較した.患者背景の比較から角結膜上皮障害がないまたは軽度な患者では医師判定の重症度が低く,アレルギー性結膜炎の割合が高いという特徴が見いだされた.これは戸田らの報告と一致していた6).有効性の指標としてCBUTの改善を比較したところ,角結膜上皮障害の程度にかかわらずレバミピド点眼液の効果を確認することができた.同様にC5項目の自覚症状についても二つの患者群でともに改善を確認することができた.これらの結果から,レバミピド点眼液は角結膜上皮障害の程度にかかわらず有効性を示すと考えられた.サブグループとしてCCL装用患者の解析も実施した.レバミピド点眼液は防腐剤を含まないユニットドーズ点眼薬であり,防腐剤による眼表面上皮への細胞損傷の可能性が無視できる.今回,筆者らはCCL装用患者でCBUT,自覚症状の改善を確認することができた.CL装用者に対するレバミピド点眼液の有効性については人工涙液との比較でコントラスト感度,BUT,結膜上皮障害スコアが有意に改善することを浅野らが報告している7).今回は比較対象薬がない検討ではあるが,さまざまな治療薬が使用されている実臨床下で開始時と比較してレバミピド点眼液の有効性が示されたことには意義があると考えられる.また,サブグループとして眼手術がドライアイの原因である患者の解析を行ったところ,自覚症状のうち乾燥感,異物感,眼痛で投与後に有意な改善を示した.BUTおよび羞明,霧視という自覚症状では有意傾向を示すものの統計学的有意差が認められなかった.今後,手術の種類や時期などについて詳細に解析,検討する必要がある.なお,副作用の発現状況においても染色スコアC2以下の患者群と染色スコアC3以上の患者群で発現率に大きな違いは認められなかった.副作用のうち味覚異常(苦味)は本剤が鼻涙管を経由して鼻咽頭へ流れ込むこと,霧視は本剤が懸濁製剤であることに起因すると考えられるが,いずれも一過性の事象である.以上,実臨床データを用いた解析から,BUT短縮かつ角結膜上皮障害がなしまたは軽度なドライアイ患者に対しても,レバミピド点眼液の有効性と安全性が示されていることを確認した.謝辞:本報告にあたり,調査にご協力いただいた先生方に厚くお礼申し上げます.また,統計解析を実施していただきましたエイツーヘルスケア株式会社竹田眞様に感謝いたします.文献1)KinoshitaS,OshidenK,AwamuraSetal:ArandomizedmulticenterCphaseC3studyCcomparing2%Crebamipide(OPC-12759)with0.1%sodiumhyaluronateinthetreat-mentofdryeye.OphthalmologyC120:1158-1165,C20132)TanakaH,FukudaK,IshidaWetal:Rebamipideincreas-esCbarrierfunctionandattenuatesTNFa-inducedbarrierfunctionandattenuatesTNFa-inducedbarrierdisruptionandcytokineexpressioninhumancornealepithelialcells.BrJOphthalmolC97:912-916,C20133)増成彰,安田守良,曽我綾華ほか:レバミピド懸濁点眼液(ムコスタ点眼液CUD2%)の有効性と安全性―製造販売後調査結果─,あたらしい眼科33:101-107,C20164)島崎潤;ドライアイ研究会:2006年ドライアイ診断基準,あたらしい眼科24:181-184,C20075)島﨑潤,横井則彦,渡辺仁ほか;ドライアイ研究会:日本のドライアイの定義と診断基準の改訂(2016年版).あたらしい眼科34:309-313,C20176)TodaCI,CShimazakiCJ,CTsubotaK:DryCeyeCwithConlyCde-creasedCtearCbreak-upCtimeCisCsometimesCassociatedCwithCallergicconjunctivitis.OphthalmologyC102:302-309,C19957)浅野宏規,平岡孝浩,大鹿哲郎:コンタクトレンズ装用眼におけるレバミピド点眼の安全性と有効性.眼臨紀8:155-157,C2015C***

基礎研究コラム 18.緑内障による中枢神経障害について

2018年11月30日 金曜日

緑内障による中枢神経障害について緑内障による中枢神経障害緑内障は,眼球の眼圧が上昇することにより眼球に視神経障害が生じ,その結果として視野障害をきたすことが知られていますが,日本人では,眼圧が正常で緑内障性の視神経障害をきたす正常眼圧緑内障が緑内障患者全体のC70%程度を占めています1).このことから,眼圧以外の因子の検索の必要度はきわめて高いと考えられます.最近では,緑内障は視神経の障害だけではなく,より高次の脳中枢の外側膝状体,上丘や視皮質まで障害されると報告されています.しかしながら実験動物として一般的なマウス,ラットでは脳中枢神経系が未発達であるため詳細な解析が行えず,ヒトやサルで解析を行うしかありませんが,これまでに詳細な検討はなされていません2).実験動物としてのフェレットは,マウスではC5%程度しか非交叉性神経線維がないのに対し,35%程度の非交叉性神経線維が存在するため,緑内障による中枢神経障害をより容易に解析することができます.欧米では実験動物としての社会的なコンセンサスが得られていますが,これまで眼科疾患への応用はありませんでした.しかし,高度な脳中枢をもつメリットを生かせることから,筆者らはファレットを実験動物として用い,世界で初めて緑内障モデルを作製することに成功しました3).フェレット高眼圧モデルを用いた視覚路の検討フェレットの結膜を採取し培養を行い,con.uentとなった結膜培養細胞を前房内に注入すると,結膜細胞が隅角で増殖して隅角閉塞を起こし,閉塞隅角緑内障を発症させること藤代貴志東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学ができました3).図1に示すように,緑内障となった眼球から投射する中枢神経である外側膝状体と上丘で色素の減弱がみられ,視神経だけでなく,外側膝状体,上丘における神経障害をフェレットにおいて証明することができました.さらにこれまでサル,ヒトで解析がむずかしかったCKonio細胞の障害も,フェレットでは外側膝状体の構造がサル,ヒトと異なることから容易に解析できるようになりました.今後の展望今後は外側膝状体,上丘だけでなく,より高次の視皮質の障害を詳しく検討することで,緑内障の中枢神経障害を視覚路の中枢神経全般にわたって詳細に解析できます.これらの神経細胞の障害のメカニズムの解明を進めることで,緑内障での神経障害抑制の手がかりをつかめる可能性があります.そしてこれらの知見から,これまで眼圧下降だけが唯一の選択肢であった緑内障治療において,中枢神経の保護をターゲットとする異なったアプローチによる新しい治療法の開発が期待できます.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:theCTajimiCStudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C20042)YucelYH,ZhangQ,WeinrebRNetal:E.ectsofretinalganglioncelllossonmagno-,parvo-,koniocellularpath-waysinthelateralgeniculatenucleusandvisualcortexinglaucoma.ProgRetinEyeResC22:465-481,C20033)FujishiroCT,CKawasakiCH,CAiharaCMCetal:EstablishmentCofCanCexperimentalCferretCocularChypertensionCmodelCforCtheCanalysisCofCcentralCvisualCpathwayCdamage.CSciCRepC4:6501,C2014図1右眼を高眼圧にしたフェレットの脳幹写真LGN:外側膝状体,SC:上丘,OH:高眼圧.左側:Normalフェレットの色素の分布.右眼に赤色素,左眼に緑色素を注入した.中枢神経では,交叉するため,左のCLGN,SCには赤色素が投射さて,右のCLGN,SCには緑色素が投射される.両側ともに色素の減弱はなく,正常に投射が行われている.右側:右眼を緑内障にしたフェレットの色素の分布.Normalフェレットと同様に右眼に赤色素,左眼に緑色素を注入した.右眼から投射される左のCLGN,SCにおいて赤色素の減弱がみられる一方で,左眼から投射される右のCLGN,SCにおいて緑色素はNormalフェレットと同様に投射され,減弱はみられない.以上から,眼球の緑内障の障害が高次の中枢であるCLGN,SCまで及んでいることが確認できた.(71)あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018C15190910-1810/18/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス 186.星状硝子体症を伴う黄斑円孔に対する硝子体手術(中級編)

2018年11月30日 金曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載186186星状硝子体症を伴う黄斑円孔に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに星状硝子体症(asteroidhyalosis:AH)を伴う症例は後部硝子体未.離眼が多く,網膜硝子体癒着が強固で後部硝子体.離(posteriorvitreousdetachment:PVD)作製がむずかしいことが多い.このような解剖学的特徴のため,AHを伴う増殖糖尿病網膜症や裂孔原性網膜.離(retinaldetachment:RD)などでは,硝子体手術の難易度が高いことを本シリーズでも紹介した1,2).AH眼に生じる黄斑合併症としては黄斑浮腫や黄斑上膜などが多く,黄斑円孔(macularhole:MH)はまれである.筆者らは以前にAHを伴うMHを2例経験し,同様に網膜硝子体癒着が強固で,人工的PVD作製時には注意を要することを報告した3).●症例症例1は67歳,女性.中心窩周囲のPVD(perifovealPVD)は生じており(図1a),後極部の人工的PVD作製は容易であった(図1b)が,中間周辺部からは網膜硝子体癒着が面状に強固で,人工的PVD拡大時に下方中間周辺部に医原性裂孔を形成した(図1c).眼内光凝固を施行し術後にRDの発症は認めなかった.症例2は74歳,男性.症例1と同様にperifovealPVDは生じていた(図2a)が,中間周辺部からは網膜硝子体癒着が面状に強固で,人工的PVD作製時に中間周辺部に複数個の医原性裂孔を形成し,術中にRDが生じた.眼内光凝固とガスタンポナーデを施行したが,術後にRDが再発し,複数回の再手術を要した(図2b).●硝子体手術時の注意点AHを伴うMHは,通常のMHと同様にperifovealPVDによって生じるものと考えられる.よって黄斑円孔周囲の硝子体や内境界膜の処理は通常のように問題な図1症例1の術前,術中所見術前のOCTではperifovealPVDが認められ(a),黄斑円孔周囲の人工的PVD作成は容易であったが(b),中間周辺部からは網膜硝子体癒着が強固であった(c).(文献3より引用)図2症例2の術前,術後所見症例1と同様に術前のOCTではperifovealPVDが認められた(a)が,中間周辺部からは網膜硝子体癒着が強固で,人工的PVD作製時に複数の医原性裂孔を形成した(b).(文献3より引用)く施行できることが多いが,中間周辺部からは網膜硝子体癒着が強固で,不用意な硝子体牽引は医原性裂孔形成のリスクが高くなる.人工的PVD作製時は網膜硝子体癒着の境界部位の網膜が線状に挙上される所見が全周で観察されることが多いので,網膜が過度に挙上され,医原性裂孔形成のリスクが高くなると判断された場合には,それ以上の人工的PVD拡大は控えるべきである.文献1)池田恒彦:硝子体手術のワンポイントアドバイス(93)星状硝子体症を伴う増殖糖尿病網膜症の硝子体手術(上級編).あたらしい眼科28:249,20112)池田恒彦:硝子体手術のワンポイントアドバイス(180)星状硝子体症を伴う網膜.離(中級編).あたらしい眼科35:657,20183)KitagakiT,SuzukiH,KohmotoRetal:Idiopathicmacu-larholewithasteroidhyalosis:Twocasereports.Medi-cine97:e11243,2018(69)あたらしい眼科Vol.35,No.11,201815170910-1810/18/\100/頁/JCOPY

眼瞼・結膜:眼瞼ヘルペス

2018年11月30日 金曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人福田昌彦44.眼瞼ヘルペス近畿大学医学部眼科学教室眼瞼ヘルペスの原因は,単純ヘルペスウイルスと水痘・帯状ヘルペスウイルスの2種類がある.両者は似ているところもあるので,しっかり鑑別する必要がある.また,単純ヘルペスがアトピー性皮膚炎に合併すると,広範囲に皮疹を伴うKaposi水痘様発疹症となる.ウイルス性眼瞼炎は結膜炎を合併することも多いので,そちらにも留意する必要がある.●はじめに眼瞼ヘルペスは,単純ヘルペスウイルス(HSV)の初感染,再活性化時,あるいは水痘・帯状ヘルペスウイルス(VZV)の再活性化時(眼部帯状ヘルペス)に発症する.HSVの場合,アトピー性皮膚炎があると皮疹が眼周囲に広範囲に拡大して非常に重症化することがあり,Kaposi水痘様発疹症とよばれ,眼部帯状ヘルペスとの鑑別がむずかしくなるケースもある.●単純ヘルペスウイルス眼瞼炎HSVの初感染,再活性化時に眼周囲にできる眼瞼の皮疹である.頻度としては多いほうではないが,特徴的な所見に注意しておく必要がある.小児の角膜ヘルペス患者は眼瞼ヘルペスを頻回に起こしている場合もあるので,問診上注意が必要である.皮疹の特徴はわずかな発赤として始まり,その上に中央が臍のようにくぼんだ小水疱が集まって発症する.ピリピリした軽度の疼痛を伴い,眼瞼は腫脹,発赤する.上下眼瞼に広がることが多い.初感染,再活性化を問わず,眼瞼炎は片側性の流行性角結膜炎様の強い濾胞性結膜炎を伴うこともある.アトピー性皮膚炎のある患児では皮膚のバリア機能が弱く,皮膚病変に沿って感染が拡大して両眼周囲から顔面全体に広がり,Kaposi水痘様発疹症とよばれる(図1).皮疹は7.14日で痂疲化する.感染のメカニズムへの理解は重要である.初感染は不顕性感染が多く,HSVは三叉神経の第一枝領域に潜伏感染する.潜伏感染ウイルスは発熱,紫外線暴露,ストレス,過労などがきっかけで再活性化する.感染したウイルスの病原性の強弱と個体の免疫力の強弱が発症に関与すると考えられる.診断はHSV-1の証明が必要である.水疱内容から塗(67)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1Kaposi水痘様発疹症両眼周囲にHSV眼瞼炎を認める.抹標本を作製し,モノクローナル抗体を用いた蛍光抗体法を行う.ウイルス分離培養は普通の施設ではむずかしい.血清学的診断は発症2週間後のIgGおよびIgMの抗体価を測定する.IgG抗体価は上昇せず,IgM抗体価だけが上昇した場合は初感染と診断できる.治療は抗ヘルペスウイルス薬の内服が中心となる.バラシクロビル,ファムシクロビルのいずれかを5日間投与する.外用薬は皮膚用の5%アシクロビル軟膏が保険適用であるが,眼周囲には使いにくいので,眼科用の3%アシクロビル眼軟膏を2,3回眼瞼に塗布する.ただしこちらは眼瞼ヘルペスへの保険適用はない.●水痘・帯状ヘルペスウイルス眼瞼炎VZVの初感染は水痘であるので,眼周囲に特徴的な眼瞼炎を呈することはない.VZV眼瞼炎は眼部帯状ヘルペスの三叉神経第一枝領域の皮疹に伴う眼瞼炎である.神経痛様の痛みが先行,または同時に発疹を生じる.発疹は片側性,不連続の帯状に分布する.はじめはあたらしい眼科Vol.35,No.11,20181515図2眼部帯状ヘルペス鼻尖や鼻背部に皮疹があり,Hutchinson徴候が認められる.紅斑,ついで赤い丘疹,小水疱,出血性の膿疱と変化し,痂疲を伴い瘢痕治癒する.経過はほぼ2週間である.眼瞼炎を伴った場合,眼瞼の発赤,腫脹が強く,流涙,羞明もある.軽度の結膜炎を合併することが多く,角膜炎,虹彩炎を伴うこともある.HSVは頻繁に再発する例があるが,VZVの再発は通常1回のみとされている.感染メカニズムは,初感染で水痘を発症したVZVは神経節の外套細胞に潜伏し,なんらかの誘因でウイルスの再活性化が起こり,帯状ヘルペスとして再発する.眼瞼炎となるのは三叉神経第一枝領域に再発した場合である.とくに鼻背から鼻尖部に皮疹を認めた場合,眼合併症の頻度が高くなる(図2).これは三叉神経第一枝からの分枝である鼻毛様神経が角膜,強膜,虹彩,毛様体とともに鼻背にも分布しているためで,これをHutchin-son徴候という.診断はHSV-1同様,水疱内容液からの免疫組織化学でVZV抗原が陽性ならば確定診断できる.補体結合反応を用いて測定したVZVの抗体価は,健常人ではほとんどの場合8倍以下を示す.眼部帯状ヘルペス発症後1週間目から16倍以上に上昇し,6カ月間は継続するとされているので,これを参考とすることも可能である.眼部帯状ヘルペスの治療は多くは皮膚科で行われる.皮膚科領域においては,遅くとも皮疹発現後5日以内に抗ウイルス薬による治療を開始することが皮疹の治癒,および帯状ヘルペス後疼痛に対して有効とされている.重症例では入院,アシクロビルの点滴静注も行われる.多くの場合はバラシクロビル,ファムシクロビルいずれ1516あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018かを7日間投与する.HSV-1と比較すると,量は倍で期間は2日長いことになる.●Kaposi水痘様発疹症Kaposi水痘様発疹症はHSVがおもにアトピー患者の皮膚に感染することにより発症する.顔が好発部位であり,乳幼児に多く発症するが,成人にもときに発症する.感染はアトピー性皮膚炎の皮膚病変に沿って広がるので,顔面以外に体幹にも及ぶことがある.前駆症状として感冒様症状や発熱などが多い.中心のくぼんだ小水疱が生じ,まもなく融合し,膿疱,出血性びらん,血痂などが混在するようになる.この状態はあたかも既存の湿疹が悪化したようにみえる.病変は一般に皮膚表層に限局している.経過は2週間ほどで軽快することが多いが,ときに予後不良のことがある.診断,治療はHSV眼瞼炎に準じるが,重症例が多いので皮膚科で入院,点滴治療になることが多い.眼合併症の精査のために眼科対診となることが多い.自験例では眼合併症は50%で,結膜炎は39%,角膜炎は27%,そのうち樹枝状角膜炎は14%であった.HSVの樹枝状角膜炎は通常は片眼性であるが,Kaposi水痘様発疹症に関しては両眼性に認められることがあるのが特徴である.眼合併症を眼部帯状ヘルペスと比較すると,Kaposi水痘様発疹症は頻度,重症度ともにやや少ないといえる.●おわりに眼瞼ヘルペスは結膜炎,角膜炎と密接に関連している.眼周囲に広範囲の皮疹をみた場合は,VZV眼瞼炎かKaposi水痘様発疹症かの鑑別が必要である.また,アレルギー性の眼瞼炎と間違い,ステロイド眼軟膏を処方したりしないように知識の整理が重要である.文献1)内田幸男:水痘・帯状ヘルペスウイルス感染症.眼とヘルペス(真鍋禮三編),p42-51,医学書院,19902)村田恭子,福田昌彦,妙中直子ほか:眼部帯状ヘルペスとカポジ水痘様発疹症の眼合併症.眼科45:97-102,20033)高村悦子:ウイルス性眼瞼炎(HSV/VZV).眼感染症の傾向と対策(下村嘉一,福田昌彦編),p113-117,医学書院,2016(68)