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抗VEGF治療:未熟児網膜症における抗VEGF療法

2018年11月30日 金曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二58.未熟児網膜症における抗VEGF療法福嶋葉子大阪大学医学系研究科眼科学未熟児網膜症(ROP)に対するベバシズマブの効果を示した前向き無作為比較試験(BEAT-ROPstudy)が報告されてからC5年以上経過し,適応外使用とはいえ,抗CVEGF薬がCROPに有効であることは広く知られるところとなった.その使用に関する知見は徐々に蓄積され,新たな課題も生じている.はじめに未熟児網膜症(retinopathyofprematurity:ROP)では,過剰に産生されたCVEGFにより正常血管の伸展過程が破綻し,血管伸長の停滞と異常血管新生が生じる.そのため,VEGFを抑制する薬剤を用いて治療することは理に適っている.ただし,VEGFは異常血管の原因となる一方で,正常血管の伸展にも必須であるため,その抑制は正常な網膜血管発達にも影響を与えることが懸念される.現在,ROPに対する抗CVEGF薬は適用外使用であるため,各医療機関の倫理委員会の承認を得たうえで,医師の判断により投与されている.治療適応と方法多くの報告では,BEAT-ROP(BevacizumabCElimi-natestheAngiogenicThreatofRetinopathyofPrema-turity)studyに準じて使用されている1).また,病期とは別に,光凝固治療が困難な視認性が悪い症例,麻酔のリスクがある症例には有効な選択肢となる.一方,すでに網膜.離がみられる場合や,円周方向に連続する増殖膜や丈の高い増殖膜に対する投与は控えるべきである.治療方法は,初回治療として抗CVEGF薬を用いるmonotherapy(図1),光凝固と同時に投与するCcom-binedtherapy,光凝固治療後の再燃に対して投与するCsalvagetherapy(図2)があげられる.いずれも数日で効果が出現し,増殖膜ならびにCplusdiseaseは速やかに退縮する.抗CVEGF薬の硝子体内投与は光凝固と比べて施行時間が短く,治療に伴う患児への全身負担は少ない.抗VEGF薬が網膜血管に与える影響Monotherapyでは,増殖組織が退縮した後,血管は周辺網膜に向かって伸長を再開する.しかし,その過程は正常発達から大きく遅延することが明らかになってきた.ベバシズマブ投与後,修正C54週までに最周辺まで血管が到達したものはC9%のみで,1例は最終的に修正108週(暦年齢C1歳C5カ月)まで到達しなかったとの報告がある2).報告によってばらつきはあるが,網膜血管の完成は修正C54週以降に遅延する傾向があることは間違いない3).自験例で網膜最周辺まで血管が伸展した平均時期を調べたところ,発症なし群では修正C41週,発症あり治療なし群では修正C49週であった.この結果から,早産による未熟性だけでなく,抗CVEGF薬が血管伸展の遅延に影響すると考えられる.こうした血管伸展の遅延により,再燃の可能性も継続する.再燃時には,以前の増殖組織の位置あるいは新たに伸展した血管先端の位置に増殖組織が形成されてくる4)(図3).追加治療時期は初回治療からおおむねC3,4カ月後で,光凝固治療と比較すると再燃までの期間は長い3,4).再燃リスクのある期間は毎週診察をするのが望ましいが,通院の負担や脱落の可能性もあり,実臨床では現実的でない.そこで,一定期間が経過しても無血管領域が残存すれば,光凝固を施行しておく方法も選択肢の一つと考えられるようになっている.抗VEGF薬が視機能に与える効果冷凍凝固や光凝固に比較して近視化は有意に少ない3).視野や視力発達についての効果はまだわかっていない.抗CVEGF薬は非常に未熟な児に多い重症CROPに選択されるため,長期的に知的発達障害がみられる頻度は高くなり,年齢相応の視覚評価がむずかしくなる可能性がある.抗VEGF薬が全身に与える影響全身移行による組織発達の影響や精神運動発達への影響が懸念されているが,いまのところ一貫した結論は得られていない3).わが国では極小低出生体重児の救命率が高いため,非常に未熟な重症CROP児の治療に携わる機会が多いと想定される.このため,未熟性の高い児におけるCVEGF抑制のリスクを十分理解しておく必要がある.(65)あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018C15130910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1Monotherapy前後の眼底写真a:修正C32週(在胎C24週C6日,出生体重C562g).血管の拡張蛇行が顕著で,明瞭な境界線はみられないが鼻側に増殖組織があり,AP-ROPと判断される.Cb:ベバシズマブ投与C5日で増殖は消退し,血管拡張も改善した.図2Salvagetherapy前後の眼底写真a:修正C36週(在胎C23週C4日,出生体重C740g).Zone1stage3+ROPに対する光凝固後C1カ月.耳側に増殖膜が形成されている.Cb:ベバシズマブ投与C1カ月.増殖は消退し,血管拡張もみられない.おわりにROPに対する抗CVEGF薬治療はさまざまなレジメンが試みられており,統一された方法は確立されていない.抗CVEGF薬適応の追加承認に向けた取り組みとして,ラニビズマブと光凝固術との比較試験が行われており,近い将来には光凝固・抗CVEGF薬の二つの選択肢を生かした標準治療が確立されることが期待される.文献1)Mintz-HittnerCHA,CKennedyCKA,CChuangAZ;BEAT-ROPCooperativeCGroup:E.cacyCofCintravitrealCbevaci-zumabCforCstageC3+retinopathyCofCprematurity.CNEnglJMedC364:603-615,C2011図3抗VEGF薬投与後の再燃投与C1カ月の眼底写真.治療時の境界線()から血管は伸展し,新たにCridgeが形成されている().Ridgeは自然軽快し,再治療は不要であった.(あたらしい眼科35:1229-1236,2018より引用)2)ToyCBC,CSchacharCIH,CTanCGSWCetal:ChronicCvascularCarrestCasCaCpredictorCofCbevacizumabCtreatmentCfailureCinCretinopathyCofCprematurity.COphthalmologyC123:2166-2175,C20163)VanderVeenDK,MeliaM,YangMBetal:Anti-vascularendothelialCgrowthCfactorCtherapyCforCprimaryCtreatmentCofCtypeC1CretinopathyCofprematurity:ACreportCbyCtheCAmericanCAcademyCofCOphthalmology.COphthalmologyC124:619-633,C20174)Mintz-HittnerCHA,CGeloneckCMM,CChuangAZ:ClinicalCmanagementofrecurrentretinopathyofprematurityafterintravitrealCbevacizumabCmonotherapy.COphthalmologyC123:1845-1855,C20161514あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018(66)

緑内障:さらに進歩した緑内障領域におけるOCT angiography

2018年11月30日 金曜日

●連載221監修=岩田和雄山本哲也221.さらに進歩した緑内障領域における新田耕治福井県済生会病院眼科COCTangiography非侵襲的に眼局所の血流動態を観察できるCOCTangiography(OCTA)をC2015年からわが国でも使用できるようになり,緑内障領域でもCOCTAによる新たな知見が増えている.しかし,artifactやトラッキングシステムの欠如による画質不良や位置ずれによる再現性の課題もある.本稿では,Optovue社のCRTVueXRAvantiを取りあげ,OCTAの緑内障領域における有用性と最新の機能について述べる.●OCTangiographyのartifactOCTangiography(OCTA)撮影にはさまざまなCarti-factが出現する1).CProjectionartifactは血管部のシグナル変化の対象となる血球が動くとそれに連動して動く影によるCartifactで,血管組織のない部位でもシグナル変化が抽出され,描出される可能性がある.このCprojectionartifactはとくに網膜色素上皮を光が通過した際に生じることが多く,血管を通過する光は常に変化し,その光の反射が血球の流れとよく似た影を別の層に映し出すことがある.Optovue社のCRTVueCXRAvantiのCOCTAソフトウェアCAngioVueの新バージョンでは,3DCprojectionCarti-factremoval(3DPAR)という新しいアルゴリズムによりCprojectionartifactの軽減が期待される.また,眼球が動いてもCmotionCcorrectiontechnologyにより画像ブレがかなり修正できるが,再現性の欠如した画像となることがある.眼球運動だけでなく,脈拍,呼吸,振戦などでも生じるが,新バージョンではその点を解決するためにトラッキングシステムを搭載したので,画質のさらなる向上が期待できる.良好なCOCTAの画質を得るためには強い強度のシグナルが必要となるが,シグナル強度の弱い領域では,ノイズの変動により一つの画像が次の画像と比較される際に,血流に関する誤った所見を生み出すCfalse.owarti-factを生じる可能性がある.網膜浮腫,萎縮,出血などのほかに,緑内障後期の乳頭周囲の撮像でも同様のことが起きる.このような画像はCsignalCstrengthCindex(SSI)が低く,40以下のことが多い.緑内障進行評価に際し血管密度も参考にするのであれば,SSIがC60以上の画像で比較することが望ましいと思われる.なお,新バージョンではCSSIは廃止され,ScanQuality(SQ)としてC10段階表示されるようになった.SQ7以上の画像にて評価することが望ましい.(63)C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY●緑内障眼におけるOCTAの放射状乳頭周囲毛細血管評価当院にてC2015年C3月より使用しているCbバージョンでは,乳頭周囲は,nervehead(撮影画面上端.内境界膜C150Cμm下方まで),vitreous(撮影画面上端.内境界膜C50Cμm下方まで),radialperipapillarycapillaries(内境界膜.網膜神経線維層まで),choroid/disc(網膜色素上皮よりC75Cμm下方.撮影画像下端まで)のC4区画がセクターごとにデフォルトでCangioC.owdiscとして表示される(図1a).2018年C6月から使用している新バージョンでは,vitreous(画像の上部.内境界膜),super.cial(内境界膜.内網状層),radialCperipapillarycapillaries(内境界膜.網膜神経線維層),choroid/disc(内境界膜.画像の下部)が表示される(図1b).楔状網膜神経線維層欠損(nerveC.berClayerdefect:NFLD)を有する正常眼圧緑内障症例にCOCTAを乳頭中心に撮像してみると,いずれのバージョンの画像においても楔状CNFLDに一致して放射状乳頭周囲毛細血管(radialperipapillaryCcapillaries:RPC)の減少を認め,RPC密度低下領域と視野障害部位もほぼ一致していることがわかる(図1).OCTAを使用した報告では,緑内障眼では病期の進行とともにCRPCの血管密度がびまん性に脱落しており,前視野緑内障>初期緑内障>中期.後期緑内障の順に毛細血管は減少している2).そのほか,緑内障診断や進行評価にCOCTAを使用した解析報告が相次いでおり,その有用性が確認されてきている3.7).さらに新バージョンでは,RPC血管密度カラーマップと網膜神経節細胞複合体(ganglionCcellcomplex:GCC)mapが同時に表示され,しかもそれぞれのマップにセクター別のCGCC厚や血管密度が表示されるようになった(discquickvue表示,図2).これらを生かして新たに血管密度変化のtrendを解析できるようにもなった(disctrendAnaly-あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018C1511a図1OCTAの各層における毛細血管の分布a:旧バージョンで撮影した緑内障眼.Cb:新バージョンで撮影した同一症例.Caでは,左からCopticCnervehead,vitreous,RPC,choroidの順に表示Cbされている.Cbでは,硝子体側から脈絡膜層へ順番に表示されている.いずれの画像においても楔状CNFLD部位に一致して乳頭周囲の浅層毛細血管が減少していることが確認できる.しかし,aよりCbが血管密度低下領域をより明瞭に表記できている().sis表示)ので,緑内障における治療強化の新たなツールとしてこれらが活用できる可能性がある.文献1)SpaideCRF,CFujimotoCJG,CWaheedNK:ImageCartifactsCinCopticalCcoherenceCtomographyCangiography.CRetinaC35:C2163-2180,C20152)YarmohammadiCA,CZangwillCLM,CDiniz-FilhoCACetal:CRelationshipCbetweenCopticalCcoherenceCtomographyCangi-ographyvesseldensityandseverityofvisual.eldlossinglaucoma.Ophthalmology123:2498-2508,C20163)RaoHL,PradhanZS,WeinrebRNetal:Acomparisonofthediagnosticabilityofvesseldensityandstructuralmea-surementsCofCopticalCcoherenceCtomographyCinCprimaryCopenangleglaucoma.PLoSOneC12:e0173930,C2017図2新バージョンのdiscquickvue表示新バージョンのCdiscCquickvue表示は,OCTAだけでなく,OCTによる乳頭周囲の網膜神経線維厚も同時に撮影し表示される.4)RaoCHL,CPradhanCZS,CWeinrebCRNCetal:VesselCdensityCandCstructuralCmeasurementsCofCopticalCcoherenceCtomog-raphyinprimaryangleclosureandprimaryangleclosureglaucoma.AmJOphthalmol177:106-115,C20175)MansooriCT,CSivaswamyCJ,CGamalapatiCJSCetal:RadialCperipapillaryCcapillaryCdensityCmeasurementCusingCopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCinCearlyCglaucoma.CJGlaucomaC26:438-443,C20176)YarmohammadiCA,CZangwillCLM,CDiniz-FilhoCACetal:CPeripapillaryCandCmacularCvesselCdensityCinCpatientsCwithCglaucomaandsingle-hemi.eldvisual.elddefect.Ophthal-mology124:709-719,C20177)AkilH,HuangAS,FrancisBAetal:Retinalvesseldensi-tyCfromCopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCtoCdi.erentiateearlyglaucoma,pre-perimetricglaucomaandnormaleyes.PLoSOneC12:e0170476,C20171512あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018(64)

屈折矯正手術:角膜クロスリンキングの適応

2018年11月30日 金曜日

監修=木下茂●連載222大橋裕一坪田一男222.角膜クロスリンキングの適応中村葉四条烏丸眼科小室クリニック角膜クロスリンキングは厚生労働省未認可であるが,効果が認められつつある方法である.適応は,角膜形状解析装置にて円錐角膜またはペルーシド角膜変性と確定診断を受け,2年間で自覚乱視度数やCsteepKのC1.0D以上の増加,またはハードコンタクトレンズのベースカーブのC0.1Cmm以上の減少を認めた場合に適応と判断する.●はじめに角膜クロスリンキング(cornealcross-linking,以下CXL)は,2003年にドイツのドレスデン工科大学のSeilerらにより開発された円錐角膜に対する治療法である1).基本原理としては,長波長紫外線(UV-A)に対するリボフラビン(ビタミンCBC2)感受性を利用し,一重項酸素を発生させることにより角膜実質のコラーゲン線維の架橋(クロスリンク)を強め,剛性を高める方法である.C●適応疾患(円錐角膜およびペルーシド角膜変性)円錐角膜は,角膜中央部が菲薄化し突出する進行性角膜形状異常疾患である.眼をこすることやアトピー性皮膚炎との関連性が指摘されており,遺伝的な要因も検討されているが原因は確定されていない2).円錐角膜の進行はC10歳未満.20歳と若年で生じることが多く,30歳代頃まで進行する症例が多い.若年者で急激な視力低下を生じた場合や強度乱視を認めた場合は,角膜形状解析を行う必要がある(図1,2).CXLによる予防ができるようになるまでは,ハードコンタクトレンズ(hardCcontactlens:HCL)による矯正を行う方法,20歳以上については角膜内リングを挿入する方法も可能であったが,他の治療法を行っても進行してしまい矯正視力が落ちた場合は角膜移植術が行われていた.CXLができるようになった現在でも,基本的にはCHCLによる矯正治療が必要ではあるが,予防ができるようになったため,世界的に円錐角膜に対する角膜移植症例が減少したとの報告も出てきている3).関連疾患としてペルーシド角膜変性がある.下方の角膜周辺部が菲薄化し,菲薄部位の上方がやや下方に垂れたような形状で突出する疾患である.角膜形状解析を行(61)C0910-1810/18/\100/頁/JCOPYうと「かにの爪」や「蝶々の羽」とよばれる形状パターン所見を認める(図1).円錐角膜との合併や家族例なども散見され,円錐角膜類縁疾患と考えられており,円錐角膜同様,原因不明の疾患である.発症は円錐角膜より遅く,20歳頃からであり,頻度は円錐角膜より低い.いずれの疾患も,確定診断をつけるためには角膜形状解析が必要である.角膜前面にプラチドリングを投影させて判定をするCTMS(トーメーコーポレーション)やPR-8000(サンコンタクトレンズ)で確定診断をつけることができるが,初期段階は判定できない場合もある.スリット光を投影させて前後面の形状や角膜厚を測定できるオーブスキャン(ボシュロム),角膜収差も測定の上判定できるCOPD-scan(ニデック),シャインプルーフ像の投影によって角膜前後面,角膜厚も測定できるペンタカム(OCULUS社),光干渉を用いて詳細な形状まで測定できるビサンテ(カールツァイス),カシア(トーメーコーポレーション)など,さまざまな機種がある.後面測定ができる機種は早期診断をつけることができる図1TMS(トーメーコーポレーション製)で測定した円錐角膜とペルーシド角膜変性の症例角膜前面にプラチドリングを投影させて形状を測定する.Ca:円錐角膜症例の角膜前面形状.下方突出を認める.Cb:ペルーシド角膜変性の角膜前面形状.「かにの爪」または「蝶々の羽」とよばれる形状を示している.あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018C1509表1クロスリンキングの適応が,角膜混濁があると測定精度が落ちる場合もある.一方,前面プラチドリング形式は再現性がよいが涙液状態や上皮障害に左右される可能性があるなど,機種により長所短所があるため,可能であれば複数の機種で確認することが望ましい.C●円錐角膜に対する角膜CXLの適応前提として,上記のように角膜形状解析を行い,確定診断がついていることである.そのうえで進行を認めた場合が適応となる.わが国では未認可であるが,若年者の進行例が多いことから,米国食品医薬品局(FDA)では上皮.離を伴うドレスデン法についてC14歳以上を適応年齢としている.進行の指標としては,24カ月以内でCsteepKがC1.0D以上増加,自覚乱視度数がC1.0D以上増加,自覚屈折度数(等価球面)がC1.0D以上増加,HCLのベースカーブがC0.1Cmm以上減少のうち,いずれか一つを満たす場合と考えてよい4)(表1).進行例になると通常のケラトメータでは測定困難になることもあり,角膜形状解析装置によって確認していくこととなる.角膜の厚みがあまりに薄い場合は,紫外線照射による内皮障害が起こることが報告されている.角膜厚は,C1510あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018図2カシア(トーメーコーポレーション製)で測定した円錐角膜症例光干渉を用いて前面のみならず後面や隅角の形状も測定可能である.a:円錐角膜である確率.前面後面とも突出していることより94%と算出.Cb:角膜前面ケラトマップ.中央部からやや下方の突出を認める.Cc:角膜厚マップ.最薄点はC423μm.Cd:角膜後面ケラトマップ.中央からやや下方の突出を認める.Ce:角膜後面の各点の接線方向の変化を示したマップ.各地点での細かい変化をとらえやすい.通常のパキメーターではもっとも進行して薄くなっている部分の測定が困難であるため,局所的な角膜厚測定のできるペンタカムやカシアなどを用いて確認することが必要である.角膜のもっとも薄い部分がC450Cμm以上あることが望ましいが,400Cμm以上あれば術中の処置によって通常の方法を行うことが可能になることが多い.角膜厚が大きいほど安全性が高くなるため,進行を認めた場合はCHCLで視力が十分得られていても,できるだけ早期にCCXLを行うことが望ましいと考えられる.C●おわりに近年,CXLの術後成績として多くの報告が集まりつつあり,一定の進行抑制効果が認められてきている.円錐角膜を疑った場合は角膜形状解析を行い,診断がつけば,適切な時期にCCXLを受けていただくことが望ましいと考える.文献1)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Ribo.avin/ultraviolet-a-inducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkerato-conus.AmJOphthalmol135:620-627,C20032)Perez-StraziotaCC,CGasterCRN,CRabinowitzYS:CornealCcross-linkingCforCpediatricCkeratcoconusCreview.CCorneaC37:802-809,C20183)SandvikGF,ThorsrudA,RaenMetal:Doescornealcol-lagenCcross-linkingCreduceCtheCneedCforCkeratoplastiesCinCpatientswithkeratoconus?Cornea34:991-995,C20154)加藤直子:角膜クロスリンキング.角膜・結膜・屈折矯正,眼手術学C4(大鹿哲郎監修),p198-201,文光堂,2013(62)

眼内レンズ:眼表面操作のためのスポンジ麻酔

2018年11月30日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋原岳384.眼表面操作のためのスポンジ麻酔原眼科病院手術開始時,あるいは麻酔時などに結膜を鑷子で把持するとき,患者が痛がることがある.その予防策として筆者がしばしば用いているのが,手術用止血スポンジをキシロカインに浸したものを結膜上に眼瞼と挟むように留置する表面麻酔である.●はじめに〔筆者が大学を卒業した平成元年は,現在のような研修医制度はなく,卒業の翌月には眼科に入局し,すぐに眼科医として外来,病棟で患者の診察を開始した.平成元年末には最初の白内障手術を執刀し,平成3年頃は白土城照講師,新家眞講師が執刀したトラベクレクトミー後の患者をベッド上に並べて毎朝5-FU(5-Fluoro-uracil:術後の線維芽細胞の増殖抑制目的で使用)の結膜下注射を行うのが日課であった.平成5年には大宮(現さいたま)赤十字病院に勤務し,自らがトラベクレクトミーを執刀し始めたが,当時の流儀は白土講師,新家講師に倣って,上直筋付着部に制御糸をかけ,輪部基底結膜辺を作製するために円蓋部結膜を切開していた.上直筋付着部を太い鑷子で結膜上からつまむと痛がる患者がいたため,何とかできないかと考案したのが,今回ご紹介するキシロカインに浸したMQA(MedicalQuickAbsorber,イナミ),通称,「ヒタヒタ」(命名は獨協医科大学の松島博之先生)である.決して筆者自身のオリジナルを主張するものではなく,同様の麻酔方法を用いている先生もいらっしゃると思うが,より多くの先生方に眼表面操作時の患者の疼痛緩和に役立てていただけるように,筆を執った次第である.〕●スポンジ麻酔の手順とその適応(仮)2%キシロカインをシャーレに取り,MQAを切らず(59)0910-1810/18/\100/頁/JCOPYに浸しておく(図1①).線維柱帯切除術の術後に,線維芽細胞増殖抑制の目的でMMC(MitomycinC)に止血用スポンジを浸すのと要領は同じである.このスポンジを上眼瞼と結膜の間に挟んで約1分留置する(図1②).タイミングは皮膚消毒をしている間に留置してもよいし,洗顔後,ドレープをかけてから手術開始前に留置してもよい.スポンジ除去後,洗浄はせずに上直筋付着部を鑷子でつかむと(図1③),痛みが和らぐ.利点は,ベノキシール点眼よりも局所に接して塗布することで,鑷子で把持するときの疼痛を緩和する効果が期待できることである(図1④).最近では,白内障でも緑内障でも上直筋に制御糸をかけることはなくなったので,「スポンジ麻酔」を使用することはなくなっていた.しかしながら,この表面麻酔法は現在でも応用は可能である.若い患者にTenon.下麻酔をするときに,結膜をつまんだだけでも痛がる,あるいは結膜を切開したときに痛がり,その不安が手術中ずっと続いて硝子体圧が高くなったり,閉瞼の緊張が続くことを経験することがあるが,そのような事態を予防するためには有用であるかもしれない.また,適応範囲を拡大して可能性を考えれば,加齢黄斑変性に対する硝子体注射や,ぶどう膜炎の治療でのステロイド結膜下注射,結膜下結石除去など,結膜に接する直前に表面麻酔として応用できるかもしれない.若年者や疼痛に敏感な患者に内眼手術をする際の参考にしていただければ幸いである.あたらしい眼科Vol.35,No.11,20181507図1スポンジ麻酔の実際①2%キシロカインをシャーレにとり,MQAを1枚まるごと浸しておく.②MQAを下眼瞼と結膜の間に留置する.この症例は6時にTenon.麻酔を行う予定である.③Tenon.下麻酔を行うために結膜を把持したところ.疼痛が緩和され,患者の不安を和らげることができた.④上眼瞼,下眼瞼だけでなく,内眼角,外眼角でも応用は可能である.

コンタクトレンズ:コンタクトレンズの弾性率

2018年11月30日 金曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一49.コンタクトレンズの弾性率●はじめにコンタクトレンズ(CL)は,ハードCCLとソフトCCL(SCL)に大別される.現在主流となっているCSCLは,含水性ゲル素材でできているため,その柔らかさゆえに装用感に優れる.SCLの弾性率(モジュラス)は柔らかさの指標の一つであり,装用感のみならず,前眼部への物理的な影響を考える場合においても重要である.本稿では,SCLの弾性率の臨床的意義について概説するとともに,弾性率とは何か,そして各種CSCLの弾性率の測定結果も紹介する.C●ソフトコンタクトレンズの弾性の臨床的意義弾性率の高いCSCLは,SCLを装着する際の取り扱いを容易にさせる.なぜならば,弾性率が高いと,SCLを指に乗せたときにレンズ形状(お椀のような形状)を保持しやすいので,指との接地面積が小さくなり,指からCSCLが離れやすく,眼に装着しやすくなるからである.一方で,弾性率が低いと,角結膜の形状にCSCLがフィットしやすくなり,装用感はよくなる.実際に,SCL装用時の装用感が弾性率と逆相関するという臨床結果も報告されている1).また,SCLの弾性率が眼表面に与える物理的な影響としては,epithelialCsplitting〔またはCsuperiorCepitheC-lialCarcuatelesions(SEALs)ともよばれる〕2)および乳頭性結膜炎〔CLにより生じる乳頭性結膜炎をCcontactClens-relatedpapillaryCconjunctivitis(CLPC)とよぶ〕3)などの合併症が知られている(図1).SEALsとは,上方の角膜輪部に沿った弓上の角膜上皮障害のことであり,輪部から角膜側へC3mm程度の部位にみられる.SEALsは弾性率の高いCSCLで発症しやすく,おもに弾性率の高い第一世代のシリコーンハイドロゲルレンズ(SHCL)で発症しやすいことが報告されている4).また,SEALsはCSCLの高い弾性率だけでなく,レンズデザインとも関係する.強度近視のような強いマイナス度数のSCLは周辺が厚くなり,SEALsが発症しやすくなる.(57)C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY丸山邦夫ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社ビジョンケアカンパニーEpithelialSplitting(Superiorepithelialarcuatelesions:SEALs)図1高い弾性率を有するSCLが眼表面に与える影響(イメージ図)CLPCとは,SCL装用によって生じる上眼瞼結膜の乳頭性結膜炎の総称であるが,とくに乳頭がC1.0Cmm以上のものを巨大乳頭性結膜炎(giantCpapillaryCconjunctivi-tis:GPC)とよぶ.GPCは,CLに付着した汚れ(おもに変性した蛋白質)による免疫学的反応と物理的刺激の関与が考えられている.CLPCは弾性率の高い第一世代のCSHCLで発症しやすいことが報告されており5),高い弾性率のCSCLはCCLPCのリスクになりうると考えられる.C●ソフトコンタクトレンズの弾性率の測定弾性率とは,18世紀にCThomasYoungが提唱した弾性特性の指標であり,引張,圧縮,せん断などによる応力負荷をかけることで得られる.SCLにおいては,一般的に引張強度試験が採用されてきた.弾性率は,ひずみに対する応力の比として計算でき,単位はメガパスカル(MPa)で表示され,メーカーの製品カタログなどでは「モジュラス」と記されている.応力は,試験サンプルに加えられる力をその断面積で割って算出され,ひずあたらしい眼科Vol.35,No.11,2018C1505A図2弾性率の応力-ひずみ曲線みは,試験サンプルが変形した量(サンプルの元の長さに対するサンプル長の変化率)を示す.図2に応力.ひずみ曲線を示すが,この曲線における立ち上がりの線形領域(B点-C点)の傾きが「弾性率」となる.SCLの柔らかさの指標である弾性率は,臨床的に重要な指標であるにもかかわらず,統一された測定方法がなく,各製造業者が独自の方法で測定しているため,異なる製造元の製品の弾性率を単純に比較することはむずかしい.そこで,同一方法にて測定した各社製品の測定値を図3に示した.この結果からわかるように,製品によって弾性率が異なることがわかる.C●おわりにSCLを処方する医療従事者は,ときとしてフィッティング不良やCCLに起因する合併症に遭遇する.そのよう1.000.900.900.780.800.690.680.670.650.630.600.470.700.500.400.300.260.200.100.00eta.lconoma.lconneso.lconnara.lconsten.lconseno.lconsomo.lcondele.lconnel.lconAAAAAAAAA弾性率(MPa)図3各社製品の弾性率の測定値(JohnsonandJohnson,Inc.,2017)な場合,対策を考えるうえでCSCLの弾性率も念頭におくことが大切である.眼表面への物理的な刺激による合併症や装用感を考慮すれば,弾性率の低いCSCLを選ぶことが望ましいという結論に至る.文献1)BrennanN:ContactClensCbasedCcorrelatesCofCsoftClensCwearingcomfort.AAOC86:E-abstract90957,20092)KlineCLN,CDeLucaTJ:AnCanalysisCofCarcuateCstainingCwiththeB&LSOFLENS.PartI.JAmOptomAssocC46:C1126-1132,C19753)SpringTF:Reactiontohydrophiliclenses.MedJAustC1:C449-450,C19744)DumbletonK:Nonin.ammatorysiliconehydrogelcontactlenscomplications.EyeContactLensC29:S186-S189,C20035)CarntNA,EvansVE,NaduvilathTJetal:Contactlens-relatedCadverseCeventsCandCtheCsiliconeChydrogelClensesCanddailywearcaresystemused.ArchOphthalmol127:C1616-1623,C2009CPAS111

写真:Stevens-Johnson症候群におけるLid Wiper部の異常に起因する角膜上皮障害

2018年11月30日 金曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦414.Stevens-Johnson症候群における吉川大和*,**横井則彦***大阪医科大学眼科**LidWiper部の異常に起因する角膜上皮障害京都府立医科大学眼科●①●②図2図1のシェーマ①病的角化を生じている眼結膜領域②耳側に生じている眼球癒着図1SJS発症1カ月後Lidwiperを含んで眼瞼結膜に幅をもって病的角化を生じている.図3眼表面のフルオレセイン染色所見眼瞼結膜の異常部位との摩擦亢進が生じる部位に高度の角膜上皮障害を生じている.図4眼瞼結膜のフルオレセイン染色所見(図1の8年10カ月後)健常結膜と病的角化の境界が明瞭である.慢性期でも病的角化領域の範囲が変化しうることがわかる.(55)あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018C15030910-1810/18/\100/頁/JCOPYStevens-Johnson症候群(Stevens-Johnsonsyn-drome:SJS)は高熱や全身倦怠感などの症状を伴って全身に紅斑・びらん・水疱が多発し,皮膚・粘膜の壊死性障害をきたす重症薬疹の一つである.発症数日の急性期に眼病変を生じはじめることが多く,皮膚粘膜移行部はとくに障害されやすい.慢性期の眼合併症としてもっとも多いのはドライアイであるが1),その機序として,結膜の瘢痕性変化による涙液減少に加えて,結膜上皮の扁平上皮化生・病的角化による水濡れ性低下やマイボーム腺機能不全による涙液層の安定性低下がある.この涙液層の安定性低下に加えて,他のドライアイの他覚所見,自覚症状の悪化の原因として,皮膚粘膜移行部の後方移動やその領域の結膜の病的角化があり,これらは,瞬目時の摩擦を増強する要因となり,慢性期のCSJSにしばしばみられる異常である.症例はC52歳,女性.SJS発症当時はC40歳.2006年9月C23日より感冒様症状を自覚し,発熱に対して非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidalCanti-in.ammatorydrugs:NSAIDs)を内服した後にCSJSを発症した.急性期は広範囲の角膜上皮欠損や結膜の偽膜形成,体幹の発疹,口腔内潰瘍などの局所および全身所見を認めたが,局所および全身のステロイドによる消炎治療により全身状態は回復し,眼表面の急性期病変も治癒した.発症後C1カ月となるC2006年C10月C19日,今後の管理目的に京都府立医科大学附属病院眼科を紹介受診となった.紹介時には眼表面の上皮化は得られており,角膜への結膜侵入は伴っておらず,経過は良好であったが,眼球表面と眼瞼縁が接触するClidwiperから瞼結膜に幅をもって瘢痕化と病的角化を生じていた(図1,2).その後,矯正視力は比較的良好なものの,眼痛および眼の開けづらさといったドライアイ症状を訴えていた.そして,その原因として上眼瞼結膜のClidCwiper2)を含む病的角化部位と眼球表面との瞬目時の摩擦亢進が考えられた.2015年C8月の時点においても同部位の異常所見は持続し,SJSに伴う涙液層の安定性低下も加わり,瞬目時の摩擦亢進によると考えられる角膜上皮害は遷延していた(図3).ドライアイと上眼瞼結膜の瘢痕化,病的角化(図1,4)に伴う摩擦亢進に対してレバミピド点眼液のC1日C4回点眼,および防腐剤無添加の人工涙液点眼をC1日C4回開始することで症状の改善が得られた.また,同部位には白い蝋状の付着物がたえず生じており,瞬目時の摩擦を増強する要因になっていると考えられたため,それを除去したことで自覚症状はさらに改善した.SJSで眼表面上皮に高度の病的角化を伴う例では,角化した部位に本症例と同様の分泌物が生じることが知られており,脂質または角質と考えられている.SJSの上眼瞼縁の瘢痕化や病的角化に伴う摩擦亢進に対する治療としては,点眼治療だけではなく白色蝋状の分泌物の除去も重要と思われる.上眼瞼縁の瘢痕化や病的角化は,SJSに合併する涙液層の安定性低下に加えて,眼球表面上皮を障害する要因となる.レバミピド点眼薬は,結膜杯細胞増加を介した至適なムチンの産生作用によって,結膜に瘢痕形成を伴うCSJSの眼表面においても摩擦の軽減作用が期待できる3).より重症例では,眼瞼の瘢痕化組織を除去し,口唇粘膜を移植することで眼表面の障害と疼痛症状が改善するとの報告がある4).本症例のように,輪部疲弊を生じずに急性期を脱しても,眼瞼縁の瘢痕化やドライアイに伴う眼症状で長期にわたって苦しむCSJS患者が存在する.多くの眼科医がこの疾患を理解し,継続的に経過観察および治療してゆくことが必要であると思われる.文献1)SotozonoCC,CUetaCM,CNakataniCECetal:PredictiveCfactorsCassociatedwithacuteocularinvolvementinStevens-John-sonCsyndromeCandCtoxicCepidermalCnecrolysis.CAmCJCOph-thalmolC160:228-237,C20152)KorbDR,GreinerJV,HermanJPetal:Lid-wiperepithe-liopathyCandCdry-eyeCsymptomsCinCcontactClensCwearers.CCLAOJC28:211-216,C20023)UetaM,SotozonoC,YokoiNetal:Rebamipidesuppress-esPolyI:C-stimulatedcytokineproductioninhumancon-junctivalepithelialcells.JOculPharmacolCTherC29:688-693,C20134)IyerCG,CPillaiCVS,CSrinivasanCBCetal:MucousCmembraneCgraftingCforClidCmarginCkeratinizationCinCStevens-Johnsonsyndrome:Results.Cornea29:146-151,C2010

カラーコンタクトレンズの将来(なにを求めるか)

2018年11月30日 金曜日

カラーコンタクトレンズの将来(なにを求めるか)TheFutureofColorContactLenses渡邉潔*はじめにカラーコンタクトレンズ(以下,カラーCL)は,透明なコンタクトレンズ(CL)と同様に,見えやすく,装用感がよく,安全なCLである必要がある.透明なCLとの大きな違いは,色素(金属)が含まれていること,酸素透過性の低いヒドロキシエチルメタクリレート(hydroxyethylmethacrylate:HEMA)の素材のCLが多いことである.生産国は,欧米と東アジア(台湾,韓国など)に大別できる.カラーCLの購入ルートは,眼科医の処方を受けるルートは少なく,診察を受けずに通販や大型ディスカウントショップで購入するルートがほとんどである.したがって,正しい装脱方法や消毒方法を知らない装用者がほとんどである.また,眼痛や充血が生じても,眼科に行くと医者に怒られるから薬局の市販目薬でなんとか治そうとする者がほとんどである.数年前までは,カラーCL装用者のコンプライアンスは悪いから診察はしたくないという眼科医もいたが,眼科離れした現在では,受診してきたら「よくぞ,眼科に来てくれました」と患者を褒めるべきであろう.カラーCLの将来を語るためには,これまでの歴史と現状も把握する必要がある.IカラーCLの歴史カラーCLは,白内障手術による虹彩欠損や広範な角膜白斑を自然な虹彩色に見せるために,治療目的に近い意味で開発使用されていた.現在は,シード社がその目的の「シード虹彩付きソフト」を販売してくれている.1990年頃までは,ハードのカラーCLも販売されていた.1990年頃から,虹彩色がいろいろな人種のいる米国では,髪の毛の色を変えるのと同様に虹彩色を変えたいということで,グレー,グリーン,ブルー,ブラウンなどのソフトのカラーCLが販売された.日本でも米国製のカラーCLが輸入され,カラーCLの第一次のブームになったが,素材が酸素透過性の低いグループ1(用語解説参照)のHEMAという素材で酸素不足を起こし,色素は表面に露出しており,角膜や結膜を擦って眼障害を起こした.しかも,1年以上使う従来型のタイプであり,HEMAのCLは熱に比較的強いため煮沸消毒を用いることが多く,6カ月以上使っているとCLは熱でオムレツ状に丸まって変形することが多かった.その後,2004年にジョンソン・エンド・ジョンソン社のワンデーアキュビューカラー(グループ4)が発売され,カラーCLの第二次のブームが始まった.茶色の虹彩色のアジア人などが角膜径を大きく見せるエンハンスタイプのカラーCLを希望し,台湾や韓国でグループ1のHEMAのレンズ表面に色素を印刷したようなカラーCLが安価に製造され,一気に市場を拡大した.2005年頃より,度数が入っていないカラーCLによる眼障害が多発したため,日本眼科医会と日本コンタクトレンズ学会などが厚生労働省に要望書を出し,2009年に厚生労働省は度数の入いっていないカラーCLも*KiyoshiWatanabe:ワタナベ眼科〔別刷請求先〕渡邉潔:〒530-0001大阪市北区梅田1丁目大阪駅前ダイヤモンド地下街5-5270ワタナベ眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(49)1497ハード1950年1970年→RGP現在に至るソフト1970年1980年1991年2006年高含水使い捨てシリコーングループ2グループ4ハイドロゲルグループ51984年図1CLの歴史(日本)・透明なソフトCL1970年1980年1991年2006年2000年にはほぼ使用されなくなった・カラーCL2009年図2ソフトCLの歴史(日本)180156160140120100806040200201320142015(年度)図3ワタナベ眼科においてカラーCLによる中等度以上の眼障害を認めた医療機器安全性情報報告件数の年次変化症例数■オパーク(opaque)タイプ■エンハンス(enhancers)タイプ図4カラーCLのデザインによる分類201816141210864202012201320142015201620172018(年)(451)(454)(457)(465)(482)(493)(493)(女子高生総数)■オパークタイプ■エンハンスタイプ図5女子高校生の健診時にカラーCLを装用していた生徒の頻度頻度(%)頻度(%)10090807060504030201002011201320152017(年)(152)(145)(173)(186)(調査人数)■オパークタイプ■エンハンスタイプ図6接客業の女性のカラーCL装用者の頻度表1カラーCLの安全性の見きわめの要因安全性が高い安全性が低い1.色素封入の部位2.Dk/t値素材(ISO分類)厚み3.使用サイクル眼瞼側近くにサンドイッチ表面が平滑24以上グループ5,4,2(高含水)0.10mm以下毎日2週間角膜側or近くに色素が露出レンズ表面に凹凸24未満グループ1(低含水)0.11mm以上1カ月交換従来型図7ソフトCLの素材による分類厚生労働省・FDA分類とISO分類の違い.■用語解説■厚生労働省分類,FDA分類,ISO分類:2006年に日本でもシリコーンハイドロゲルのSCLが販売されるようになり,厚生労働省のソフトCLの分類では,無理やりグループ1や3に分類している.ISO分類では,シリコーンハイドロゲルはグループ5として分類している(図7).たとえば,HEMAを素材とするカラーコンタクトレンズ(カラーCL)はグループ1に分類され,Dk/t値が10くらいである.シリコーンハイドロゲルレンズのエアーオプティクスカラーズというカラーCLも厚生労働省の分類では同じグループ1に分類されるが,Dk/t値は138であり,とても同じグループのレンズとはいえない.日本コンタクトレンズ学会の理事会(2016年1月)でも議論し,厚生労働省の含水性SCLの分類はあくまで消毒液の申請のための分類と考え,学術的にはISO分類を用いることを推奨することになった.

コンタクトレンズトラブルへの対応(カラーコンタクトレンズを含む)

2018年11月30日 金曜日

コンタクトレンズトラブルへの対応(カラーコンタクトレンズを含む)HowtoDealwithContactLensTroubles佐渡一成*はじめにコンタクトレンズ(以下,CL)を取り巻く問題について,これまでいろいろと対処してきたが,解決されたとはいえない.われわれ眼科医は,CL装用者の眼の安全を守ることを第一に考えて,CLを取り巻く諸問題の解決を図らなければならない.このためにはCL診療の質を向上させることに加えて,販売などに関する問題も解決しなければならない.さらに厚生労働省などにも働きかけを強化する必要がある.本稿では,諸問題の背景から現状を整理し,これらを踏まえて眼科医が行うべき対応について,私見を述べる.ICLを取り巻く諸問題の背景①CLは,ユーザーにとって日用品・生活必需品である反面,高度管理医療機器である.②高度管理医療機器であるにもかかわらず,唯一管理をユーザーに委ねている商品である.③販売店もメーカーも医師の処方を守る法的な義務がない1).④個々の「株式会社の第一の使命は株主への利益還元を最大にすること」である2).⑤CL関連企業では社会的責任(corporatesocialresponsibility:CSR)よりも利益が優先されている.また,法令を遵守するより自分たちの組織が生き残ることが優先される「集団の凝集性」が存在している2).⑥ユーザーとメーカーでは情報量にきわめて大きな格差がある.⑦購入(販売)額は流通経路によって大きく異なっている1,3).⑧CL協会はメーカーや販売店などへの通知の周知や遵守の呼びかけを積極的に行っているが,協会に加入しているメーカーへの指導すらできない2).⑨保健所なども指導を行っているが,局長通知には強制力がないため,効果は認められない.⑩眼科医のCLを取り巻く問題への関心が低いのか,CLトラブルの実情を正確に伝えるためのチャンネルすべてで,眼科医からの報告がきわめて少ない.これでは厚生労働省(厚労省)が問題を過小評価し,有効な対策が遅れるのも無理はない2).II上記の背景が招いている現状①通知を守っていない販売店の乱立:店舗販売(図1)とネット販売(図2,3).②代表症例が示すこと.1)CL処方の禁忌例でも容易にCLが購入できることと国内未承認のカラーコンタクトレンズ(以下,カラーCL)の流通:<症例1>19歳,女子学生のカラーCLによる角膜びらん(図4).メーカーのホームページにはサンドイッチ構造という記載があった.販売していた雑貨店では「当店では装用の指導,処方は一切できません」と記載のある書類*KazushigeSado:さど眼科〔別刷請求先〕佐渡一成:〒980-0021宮城県仙台市青葉区中央2-4-11水晶堂ビル2Fさど眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(41)1489図1通知を守っていない店舗販売図2通知を守っていないネット販売図3受診しなくてもそのままクリックすれば,なんらこれまでと変わらず容易に購入できる状態図4カラーCLによる角膜びらん(2012年11月5日,19歳,女子学生)図5定期検査を受診していればもっと早期に見つかったはずのPPGまたは原発開放隅角緑内障(2017年9月22日,29歳,女性医師)Q5:コンタクトレンズの定期検査を受けていますか(n=59)■受けている■受けていない■受けたり受けなかったり対象:眼科外来・病棟を中心とした病院スタッフ図6眼科・病院スタッフのアンケート結果Q10:定期検査を受けていない理由を教えてください(n=27複数選択可)■定期検査は必要ない■時間がない■検査を受けると費用がかかる■レンズ代金が高い■その他図7定期検査を受けていない理由図8PMDAおよび保健所への報告(FAX)図9国民生活センターへの報告(WEB)図10報告を受理したとPMDAから届いた葉書■用語解説■企業の社会的責任(corporatesocialresponsibility:CRS):「企業が,社会に及ぼす自己の事業のマイナスの影響を最小限にとどめる一方で,プラスの影響を最大化することを確保する経営上の実践である」(カナダ・フィランソロピー・センター)社会心理学でいう「集団の凝集性」:法令を遵守するより優先されるのは,自分たちの組織が生き残ること.集団規範は同調者に対する報酬として機能する一方で,逸脱者に対する制裁機能ももつため,同調圧力に抗して疑問の声を上げることは困難となる.

カラーコンタクトレンズに関する診療のあり方

2018年11月30日 金曜日

カラーコンタクトレンズに関する診療のあり方ClinicalPracticeRelatingtoColorContactLenses宇津見義一*はじめに若い女性にとってカラーコンタクトレンズ(以下,カラーCL)は美容上必須アイテムともなっている.2000年以前からもカラーCLは装用されていたが,その頃のカラーCLはグループIの低含水性2-hydroxyethyl-methacrylate(以下,HEMA)の酸素透過性の低いもので,品質的にも問題があった.2004年2月にグループIVの高含水素材の1日使い捨てタイプのカラーCLの販売が開始された.現在,カラーCLの種類は約400種類にも達しているが,そのほとんどはグループIであり,その品質,不適切な販売と購入,そして不適切な使用法などが大きな問題となっている.日本眼科医会(以下,日眼医)が実施した「平成27年度全国学校現場でのコンタクトレンズ使用状況調査」(2015年)では,カラーCLの使用率は6年間で中学生が25.5倍,高校生が6.5倍に増加した.購入場所では,医師の処方を必ずしも必要としない利便性のよいインターネット・通信販売,雑貨店などが中学生81.4%,高校生68.8%であり,不適切購入・販売・使用と多くの問題を抱えていることが明白となった1).本稿では,カラーCL診療の変遷,学校でのカラーCL使用状況と行政の対応,そしてカラーCL装用者のコンプライアンスと啓発活動などについて述べる.IカラーCL診療の変遷2000年以前からもカラーCLは装用されていたが,その頃のカラーCLはグループIのHEMA素材の透過性の低いもので,品質的にも問題があった.一般眼科医療機関では処方されておらず,そのほとんどがCLの営利的処方,販売を主とする医療機関,販売店,ネット・通販で処方されていた.眼科医はカラーCLによる重症な角膜潰瘍など多くの重症例を経験するとともに,その患者の中にはコンプライアンスが低く,診療態度に問題がある者が少なくなかった.そのためか,眼科医にとって,カラーCLは問題が多く,処方をすることに疑念をもたざるを得なかった.2005~2008年の日眼医による全国調査にてカラーCLによる眼障害が167例報告され,そのうちの21名が失明の恐れがある重症例であった.2009年日眼医のインターネット・通信販売による購入者のCL眼障害調査の種類別では,カラーCLによる眼障害者が全体の45.9%ともっとも高率であった2).種類も視力補正・非視力補正(度なしおしゃれ)用が混在しており,レンズ素材と使用者の低いコンプライアンスが問題となっていた.それに伴い,それまで雑貨扱いであった度なしのカラーCL(非視力補正用CL)が2009(平成21)年11月4日以降は通常のCLと同様に医師の処方が必要な高度管理医療機器となり,2011(平成23)年2月4日以降は薬事法〔現,医薬品医療機器等法(以下,薬機法)〕にて認可されたものでないと販売できないようになった.以後,厚労省は,過去に承認されているCL素材であ*YoshikazuUtsumi:宇津見眼科医院〔別刷請求先〕宇津見義一:〒231-0066神奈川県横浜市中区日ノ出町2-112宇津見眼科医院0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(31)1479れば,色素の有無とは関係なく承認しており,まったく同じカラーCL製品であっても製品名が異なれば,それを別のCLとして承認しているために,現在,400種類にも及ぶカラーCLが販売されている.2011年以前より,CL販売店(ネット・通販を含む)は医師の処方を経ずにCLを販売しても処罰されることがないために,堂々と処方せん不要とする販売を広告している.装用者は低価格で利便性がよく,医師の処方を経なければ診療費もかからないために,そのような販売店で購入する者が増加した.2011年と2015年に日本コンタクトレンズ学会は処方せんの法制化を認めるよう日眼医に要望したが,日眼医は反対していた.2014年の神奈川県眼科医会調査では,神奈川県内8,000名の中高生のCL全種類の購入先は,一般眼科隣接販売店が高校生11.5%,中学生20.0%であり,カラーCLでも同様であり,一般眼科を受診する子どもたちが激減してきていた(宇津見義一,坂本則敏,小口和久ほか:平成26年度神奈川県の学校のコンタクトレンズ・カラーコンタクトレンズ使用調査.第57回日本コンタクトレンズ学会総会一般口演.2015).2016年4月になり,日眼医はやっとCL販売における処方せんの法的規制に同意し,行政への働きかけをしてきたが,罰則がないために現在でも不適正販売の歯止めとはなっていない.II国民生活センターの注意呼びかけ2014年5月22日に国民生活センターはカラーCLの使用について,注意をよびかけた3).2009年から5年間に全国消費生活センターにはカラーCLトラブルの相談が541件あった.カラーCLは酸素の通りにくい素材の使用が多く,着色の影響などにより透明のCLより眼障害が生じやすいため注意が必要であると報告した.薬事法で認可された17製品のカラーCLを調査し,11製品は色素が角膜・まぶたに直接触れていたが,製品表示には内部に色素が封入と記され,6製品はレンズの厚さ,直径,曲率半径,度数などの基準を満たしていなかった.さらに,度数入りのカラーCL16製品のうち,15製品は8時間装用で角膜浮腫,角結膜上皮障害,輪部充血などの治療や使用中止が必要な眼障害を生じた.アンケート調査(10~20代使用者1千人)では,購入先はインターネット通販が約39%,約43%は購入時に眼科を受診せず,眼異常があった約23%のうち半数も眼科を受診しなかったと報告した.カラーCLを使用する場合はそのリスクを理解したうえで,必ず眼科医を受診し,眼科医の処方に従ったレンズを選ぶこと.粗悪品を消費者が見分けることが困難であるため,必ず眼科を受診して眼科医と相談のうえで商品を選んでほしい.異常時は眼科を受診し,異常がなくても必ず眼科医の定期検査の受診を推奨し,業界団体に安全な商品開発を,厚生労働省に業者に品質管理を指導するよう要望など,国民に使用注意のよびかけをした.それに伴い,消費者庁からは2018年5月28日にカラーCLの販売業者に対する指導要請の通知があった4).III学校でのCLの使用状況日眼医の2015年度の調査では,全国の学校の子どもたちのCL使用率は小学生が0.2%,中学生が8.0%,高校生が27.0%である(表1,図1).とくに中学生は年々使用者が増えている.この調査では,使い捨てソフトCL(以下,ソフト)は1日使い捨てソフト,1週間連続装用ソフト,2週間頻回交換ソフト,消毒して1~6カ月使用する定期交換ソフトとの名称を使用しているために,この報告でも同様の名称とした.2015年の調査でのCLの種類は,小中高生ともに使い捨てソフトがもっとも多く,小学生はオルソケラトロジー(以下,オルソK)が15.9%と多く,オルソKガイドラインを守っていないことが危惧された.中高生はソフト通常が使い捨てソフトに続いた(表2).CLの種類の年度別変化では,中高生は使い捨てソフトがもっとも多く,中学生は2000~2012年まで増加したが,2015年は80.3%と低下した.高校生は2000~2009年まで増加したが,2012年以降低下し,2015年は78.6%と低下した(図2).カラーCL使用者では2009年は中学生が0.2%,高校生が0.6%,2015年は中学生が5.1%,高校生が3.9%であり,6年間で中学生が25.5倍,高校生が6.5倍と増加した.とくに中学生に急速に広まっていることが危惧された(図3).2015年カラーCLの種類では,カラーCL1480あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018(32)表12015年度全国の学校現場でのコンタクトレンズ使用状況調査2000年調査人数2003年調査人数2006年調査人数2009年調査人数2012年調査人数2015年調査人数102,924名92,797名101,571名99,751名97,233名100,239名44校30校54校55校55校56校小学生19,235名中CL使用者12,714名中CL使用者29,792名中CL使用者30,683名中CL使用者30,194名中CL使用者30,402名中CL使用者31名12名36名53名54名63名(0.2%)(0.1%)(0.1%)(0.2%)(0.2%)(0.2%)61校63校53校54校53校55校中学生33,265名中CL使用者30,627名中CL使用者25,598名中CL使用者26,296名中CL使用者25,555名中CL使用者25,174名中CL使用者1,544名(4.6%)1,727名(5.6%)1,511名(5.9%)1,687名(6.4%)1,877名(7.3%)2,008名(8.0%)56校60校55校53校54校57校高校生50,424名中CL使用者49,456名中CL使用者46,181名中CL使用者42,772名中CL使用者41,484名中CL使用者44,663名中CL使用者11,027名(21.9%)11,492名(23.2%)11,640名(25.2%)11,366名(26.6%)11,484名(27.7%)12,075名(27.0%)各調査年度別の小学生,中学生,高校生の調査対象者とコンタクトレンズ使用者の割合.(文献1より引用)■2015年■2012年■2009年■2006年■2003年■2000年27.0%27.7%高校生中学生小学生図1小中高校生のコンタクトレンズ使用割合と年度別変化(文献1より引用)表22015年度調査でのコンタクトレンズの種類小学生中学生高校生ハード通常0.0%3.8%5.6%ハード連続装用0.0%0.4%0.5%オルソK15.9%1.3%0.2%ソフト通常3.2%9.0%13.1%カラーCL0.0%5.1%3.9%使い捨てソフト81.0%80.3%76.6%この調査では,1日使い捨てソフト,1週間連続装用ソフト,2週間頻回交換ソフト,消毒して1~6カ月使用する定期交換ソフトを総称して「使い捨てソフト」とした.オルソケラトロジーはオルソKと略す.(文献1より改変引用)(%)中学生(%)高校生100100808060604040202000図2中高生が使用していたコンタクトレンズ種類と年度別変化2015年と比較し高校生は使い捨て,ソフト通常,定期交換はすべて有意差あり,*p<0.01,c2検定(文献1より改変引用)20%10%0%図3小中高生カラーコンタクトレンズの年度別変化2015年と比較:**p<0.01,*p<0.05,c2検定(文献1より改変引用)■高校生■中学生カラーCL合計カラーCL(度数入)カラーCL(度数なし)カラーCL(度数入)透明CL併用0%1%2%3%4%5%6%図42015年の中高生のカラーコンタクトレンズの種類(文献1より改変引用)50%40%30%20%10%図52015年の中高生カラーコンタクトレンズ購入場所必ずしも医師の処方に基づかない購入が可能な販売店のインターネット・通信販売と雑貨店・化粧品店・CLショップ・薬局の総計は,中学生が81.4%,高校生が68.8%であった.(文献1より改変引用)■毎日■週3~6日■週1~2日■月1~3日■遊びに行く時高校生図62015年の中高生カラーコンタクトレンズの使用頻度(文献1より改変引用)図72015年の中高生カラーコンタクトレンズ購入時の使用方法の説明(文献1より改変引用)6.0%5.7%3.9%中学生3.5%■眼科を受診しなかった■眼科を受診した高校生■ある■ない高校生中学生中学生図82015年の中高生カラーコンタクトレンズで充血,痛み図92015年の中高生カラーコンタクトレンズの使用を中止で使用を中止した割合(文献1より改変引用)した時の対処(文献1より改変引用)中学生CL全体合併症高校生CL全体合併症中高生カラー合併症カラーCL高校生購入前の検査(2015年)中学生カラーCL高校生購入後の検査(2015年)中学生カラーCL高校生定期検査状況(2015年)中学生33.2%66.8%19.0%81.0%30.5%69.5%14.3%85.7%41.1%36.5%22.3%36.7%36.7%26.7%図102015年の中高生カラーコンタクトレンズ購入前後の検査と定期検査(文献1より改変引用)角膜炎・角膜むくみ角膜のキズ角膜新生血管アレルギー性その他病名不明角膜潰瘍中学生は有意差なし結膜炎18.3%16.4%*0.7%1.0%0.9%43.8%*40.7%37.7%38.1%39.3%*13.9%7.4%10.6%5.3%*角膜炎・角膜潰瘍角膜むくみ角膜のキズ角膜新生血管アレルギー性結膜炎その他病名不明■2009年■2012年■2015年*2p<0.01(2015年との比較,x検定)80.0%(2015年)0%角膜炎・角膜むくみ角膜のキズ角膜新生血管アレルギー性その他病名不明角膜潰瘍結膜炎図112015年の中高生コンタクトレンズ(全体,カラーCL)合併症(複数回答))有効回答数CL全体:中学生211名(10.5%),高校生1,864名(15.4%)カラーCL:中学生5名(4.9%),高校生466名(19.5%)(文献1より改変引用)40%20%0%60%40%20%0%80%60%40%20%表3まとめ(文献1より改変引用)表4平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業「カラーコンタクトレンズの規格適合性に関する調査研究」(文献5より改変引用)売している.また,カラーCLを含むCL使用者は眼科を受診しないでCLを購入している方が増加している.今までの多くのCL(カラーCLを含む)調査ならびに啓発活動が実施されているが,CL販売側とCL使用者のコンプライアンスが改善する見通しはきわめて暗い.罰則を含めた行政の対応が必須である.2016年6月~2017年4月に日眼医と日本コンタクトレンズ学会は共同で,CL処方せん,適正販売などに関する検討会を立ち上げた.オブザーバーとして,日本CL協会とともに厚労省医薬・生活衛生局,医政局と保険局の担当者を迎えて協議した.その後,2017年5月に日本コンタクトレンズ学会,日眼医と日本CL協会は共同でCL処方せんと適正販売についての要望書を厚労省へ提出した.要望の概要は,「CLの不適正な販売に対する罰則規定を定める法律改正」「CL処方せん不要,検査不要の広告等への行政指導を行う通知の発出」「CLに関する話題を提供し,適正販売への一層の注意喚起」などである.その結果,厚労省は2017年6月29日から1カ月間にCL適正販売に対するパブリックコメントを求め,その後に正式な通知を発出する予定とした.2017年9月26日に厚労省医薬・生活衛生局長から「CLの適正使用に関する情報提供等の徹底について」の通知10)が発出された.その概要では,今までの通知ではCL販売・製造販売業者に対しては日本CL協会の販売自主基準の周知徹底を図ることとしているが,今回の通知は,厚労省が自らの基準を守るよう通知しているために,CL販売・製造販売業者がその基準に違反した場合に,都道府県がCL販売の規制ができることであるが,CLの不適正な販売に対する罰則規定は含まれていない.2018年8月現在,CL処方せん不要を広告するなどの不適切販売は収まっていないのが現状である.VカラーCL装用者のコンプライアンスと啓発活動カラーCLを含めてCL装用者のコンプライアンスを改善するためには,啓発活動がある.CLを初めて装用する時期は,前述のように中学生以上が多い1).初めてCLを装用する者に適切な指導があれば,医師の処方を経て,CLを購入し装用するし,医師の指導に従いやすい.さらに将来にわたってCLの基礎知識として記憶に残る.最初に適切な処方を受けないで,数年以上経過し問題がなかった装用者は,説明しても聞こうとしない場合が多くなり,コンプライアンスが低くなる.学校の眼科学校医はCLの健康教育,学校保健委員会などを有効に利用して,子どもたちにCLの基本的な知識を周知すべきである.さらに,保護者,養護教諭などの学校関係者,教育委員会,医師会などへの啓発活動も同様である.横浜市では学校や学校関係者,教育委員会,医師会などCLの啓発活動を積極的に実施してきた(宇津見義一,池田桐子,戸倉純ほか:横浜市中学・高等学校のコンタクトレンズ教育による装用状況の効果.第44回日本コンタクトレンズ学会総会,展示,2001).2000年頃は定期健康診断にて中学生に「CLはトラブルを生じやすいでしょうか」と問うとほとんどが返答できなかった.帰宅したらCLをはずしてメガネを使用するようにと指導しても,怒りだす子どももいた.しかし,啓発活動を実施してからは,それに従う子どもたちがほとんどとなった.学校,地区での啓発活動,そしてマスコミ報道などにより,正しいCLの基礎知識の周知が必要である.もっとも有効な啓発活動はTVなどのマスコミ報道であるが,マスコミ報道が数年ないと再度コンプライアンスは低下する.カラーCLを含むCLのコンプライアンスの向上を図るために日本コンタクトレンズ学会,日眼医,日本CL協会は個々で,さらにその3団体で構成されている日本CL協議会,そして日本学校保健会などの各団体は,今までに学会発表,論文,ポスター,冊子・チラシ,ネットでの注意喚起,メディア(TV,新聞など),学校など地域での啓発活動,そして前述のような行政対応などによっても,コンプライアンスの向上を図ってきたが,その改善はむずかしい.啓発活動は継続的に実施することが不可欠である.現在,費用負担や時間が必要となる医師の処方を受けないCL装用者は激増し,価格が安く,ネットなどで簡単に手に入る利便性に優れた方法で装用しているCL装用者は激増している.CL添付文書には,「定期検査を受けること」と必ず記載されている.「自覚症状がなく装用していても,眼(39)あたらしい眼科Vol.35,No.11,20181487やレンズにキズがついたり,眼障害が進行していることがあります.異常がなくても医師に指示された定期検査を必ず受けてください」と赤字の警告として表紙に記載されている.禁忌として,「医師の指示に従うことができない人」ともある.一方,インターネットの書込みどには,「眼科医は自らの利益のために眼科受診を勧めている」などの主張がある.高度管理医療機器であるCLを安全に使用するには,添付文書のように定期検査は不可欠であることを理解しているのであろうか.VIカラーCLの処方筆者は平成20年(2008年)頃まではカラーCL処方には否定的であった.しかし,一般眼科での処方を拒めば,装用者は医師の処方なしで,不適切な販売所で購入する.CL販売業者は医師の処方は不要であるとして,不適切な販売していることで,さらなる眼障害の増加が懸念されたために,どうしてもカラーCLを希望する場合には処方している.現在,薬機法で認可されたカラーCLは約400品目である.その多くはグループIのHEMA素材であり,前述したように多くの問題点がある.一部,酸素透過性の高い素材のカラーCLもある.筆者は従来からグループIのカラーCLは角結膜上皮への影響が大きいために,酸素透過性の高いグループのカラーCLを処方してきている.筆者らは,グループIのカラーCLを使用していた者が,グループIVのカラーCLに変更すると,著明に角結膜上皮障害が軽減することを報告した(植田喜一,宇津見義一,渡邉潔:カラーコンタクトレンズの安全使用を目指して,日本コンタクトレンズ学会モーニングセミナー講演,2017).以上より筆者のカラーCL処方は,コンプライアンスが保たれている者,酸素透過性の高い素材,1日使い捨てタイプ,1日6~8時間の短い時間での使用を条件に,通常は透明なCLを使用し,カラーCL使用が必要な場合のみの使用を推奨している.カラーCLの使用は美容目的であり,風紀上の問題もあるため学校現場には好ましくないと考える.おわりに「カラーCLの使用は通常のCLに比して眼に負担がかかる.通常のCLは酸素透過性の高い素材が多いが,カラーCLはまったく逆で酸素透過性の低い素材が多くを占めていることに,十分に注意してほしい.現在,装用者のコンプライアンスを上げることが困難となっており,カラーCLを含めて,CL販売には罰則のある行政の積極的な介入が不可欠となっている.文献1)宇津見義一,柏井真理子,宮浦徹ほか:平成27年度学校現場でのコンタクトレンズ使用状況調査,日本の眼科88:179-199,20172)植田喜一,宇津見義一,佐野研二ほか:インターネット・通信販売による購入者のコンタクトレンズ眼障害の集計結果報告(平成21年度).日本の眼科81:75-84,20103)国民生活センター:カラーコンタクトレンズの安全性─カラコン使用で目に障害も─.国民生活センター報道発表資料,平成26年5月22日4)消費者庁消費者安全課長:カラーコンタクトレンズの安全性,消費者庁消費者安全課長通知,消安全第186号,平成26年5月28日5)渡邉潔,植田喜一,佐渡一成ほか:カラーコンタクトレンズ装用にかかわる眼障害調査報告.日コレ誌56:2-10,20146)金井淳,澤充,小野浩一:学校現場でのコンタクトレンズ使用状況調査データの2次解析(分担研究課題),平成26年度厚生科学研究費補助金特別研究事業カラーコンタクトレンズの規格適合性に関する調査研究(H26-特別-指定-009).50-60,平成27(2015)年3月7)厚生労働省医薬食品局長:コンタクトレンズの適正使用に関する情報提供等の徹底について,厚生労働省医薬食品局長通知,薬食発0718第17号,平成24年7月18日8)厚生労働省医薬食品局長:コンタクトレンズの適正使用に関する情報提供等の徹底について(再周知).厚生労働省医薬食品局長通知,薬食発0628第17号,平成25年6月28日9)厚生労働省医薬食品局長:コンタクトレンズの適正使用に関する情報提供等の徹底について(再周知).厚生労働省医薬食品局長通知,薬食発0628第17号,平成26年10月1日10)厚生労働省医薬生活衛生局長:コンタクトレンズの適正使用に関する情報提供等の徹底について.厚生労働省医薬生活衛生局長通知,薬生発0926第5号,平成29年9月26日1488あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018(40)

カラーコンタクトレンズの眼障害

2018年11月30日 金曜日

カラーコンタクトレンズの眼障害OcularComplicationsofColorContactLensWear糸井素純*はじめにソフトコンタクトレンズ(SCL)の素材は低含水性ヒドロキシエチルメタクリレート(hydroxyethylmethac-rylate:HEMA),中含水性HEMA,高含水性HEMA,シリコーンハイドロゲルの四つの素材に分けることができる.酸素透過性は低含水性HEMA,中含水性HEMA,高含水性HEMA,シリコーンハイドロゲルの順に高くなる.一般に流通している透明なSCLは高含水性HEMA素材,中含水性HEMA素材,あるいはシリコーンハイドロゲル素材が主流であるが,カラーコンタクトレンズ(以下,カラーCL)は低含水性HEMA素材のものが多い.とくに台湾,韓国で製造され,日本で販売されているカラーCLは,一部の製品を除き酸素透過性が低い低含水性HEMA素材である.日本では低含水性HEMA素材のSCLの歴史は長いため,たとえカラーCLであっても,新たな臨床試験を実施せずに,書類上の手続きだけで高度管理医療機器として承認を受けることができる.多くのカラーCL装用者は,度あり,度なしカラーCLともに,眼科医の処方を受けずに,インターネット,通信販売,雑貨店,薬局,カラコンショップなどでCLを購入している1).近年,とくに非対面販売であるインターネットによる購入が増えている.日本コンタクトレンズ学会が2012年7~9月に実施したカラーCLの眼障害調査によると,インターネット,通信販売,雑貨店,大型ディスカウントショップでのカラーCLの購入が81.0%,購入時に眼科を受診していない人が80.5%と報告された2).国民生活センターが10代,20代のカラーCL使用者に行ったアンケート調査でも,インターネット,通信販売でカラーCLを購入した人が39.2%ともっとも多く,とくに10代では45.6%を占めていた.購入時に眼科を受診していない人も43.5%,10代では52.6%と半数以上を占めた3).現在,流通しているカラーCLで眼科医の処方に基づいて販売されているカラーCLは10品目以下と推測される.トライアルレンズが流通し,眼科医の処方に基づいて販売されているカラーCLの多くは高含水性HEMA,中含水性HEMA,あるいは,シリコーンハイドロゲル素材のカラーCLで,低含水性HEMA素材のカラーCLでは数品目にかぎられる.ほとんどの低含水性HEMA素材のカラーCLは,トライアルレンズが流通していない.低含水性HEMA素材のカラーCL装用者の多くは,眼科医の処方を受けず,レンズの素材やフィッティングなどに左右される安全性を無視して,パッケージやカラーCLを装用しているモデルの写真などをみて,好みのデザインのカラーCLを選択し,インターネットや大型雑貨店で購入している.カラーCL装用者に眼障害が多いことが問題となっているが,中含水性HEMA,あるいは,高含水性HEMA素材のカラーCL装用者の眼障害は,通常の透明なSCL(1日使い捨てSCL,2週間交換SCL)の装用者と眼障害の内容や発症頻度も大きく変わらない印象がある.臨*MotozumiItoi:道玄坂糸井眼科医院〔別刷請求先〕糸井素純:〒150-0043東京都渋谷区道玄坂1-10-19糸井ビル1F道玄坂糸井眼科医院0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(23)1471表1低含水性HEMA素材のカラーコンタクトレンズの問題点図1前眼部OCT(SS.1000)CASIAの2D画像色素が眼瞼側の低含水性HEMA素材のカラーコンタクトレンズの断面像.図2前眼部OCT(SS.1000)CASIAの2D画像色素が角膜側の低含水性HEMA素材のカラーコンタクトレンズの断面像.表2おもな低含水性HEMA素材の従来型ソフトコンタクトレンズの規格販売名含水率(%)中心厚(mm).3.00Dの場合レンズ径(mm)ベースカーブ(mm)シードスカイ37.60.0714.08.4,8.7,9.0クララソフトファシル1437.60.0714.08.1~9.9クララソフトファシル1337.60.1214.07.9~9.3図3低含水性HEMA素材の1日使い捨てカラーコンタクトレンズ装用者にみられた色素の露出による角膜上皮障害図4図3と同一眼図5低含水性HEMA素材の1カ月交換カラーコンタクトレン角膜上皮障害の部位に色素の沈着がみられる.ズ装用者にみられた角膜上皮障害色素による角膜側のレンズ表面の凹凸が原因と考えられた.図6各種カラーコンタクトレンズ装用(8時間)による角膜浮腫の違い左上:非装用.右上:中含水性C1日使い捨てカラーコンタクトレンズ.左下:低含水性C1日使い捨てカラーコンタクトレンズ.右下:低含水性C1カ月交換カラーコンタクトレンズ.図7約1年間の低含水性HEMA素材の1日使い捨てカラーコンタクトレンズ装用者にみられた角膜内皮細胞障害(右).左は正常角膜図8低含水性HEMA素材の1カ月交換カラーコンタクトレンズ装用者にみられた慢性酸素不足が原因と考えられた点状表層角膜症図9カラーコンタクトレンズ装用者にみられた角膜変形カラーCCLの装用歴:13年.上段:初診時(左:instantaneousradiusmap,右:pachymetrymap),下段:SCL装用中止C1カ月後(左:instantaneousradiusmap,右:pachymetrymap)図10低含水性HEMA素材の従来型カラーCL装用者に図11低含水性HEMA素材の1カ月交換カラーコンタクトみられた角膜上皮障害(角膜上方)レンズ装用者にみられた結膜ステイニングタイト症状が原因と考えられた.タイト症状が原因と考えられた.図12低含水性HEMA素材の1日使い捨てカラーコンタクトレンズ装用者にみられた輪部充血タイト症状が原因と考えられた.図13低含水性HEMA素材の1カ月交換カラーコンタクトレンズの短時間(8時間)装用後にみられた角膜変形右:装用前,左:装脱直後.図14低含水性HEMA素材のサークルタイプ1日使い捨て図15低含水性HEMA素材の1カ月交換カラーコンタクトカラーコンタクトレンズ装用者にみられた角膜潰瘍レンズ装用者にみられた角膜浸潤,輪部充血,球結上方の角膜輪部に病変がみられる.膜充血