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写真:眼類天疱瘡(翼状片合併Early Stage)

2018年10月31日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦413.眼類天疱瘡奥村峻大*,**福岡秀記***大阪医科大学眼科学教室(翼状片合併EarlyStage)**京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学abcdef図1初診時前眼部写真(上段:右眼,下段:左眼)a,d:スリット写真(正面視).翼状片しか確認できない.b,e:スリット写真(上方視).上方視時にようやく結膜下線維性増殖を確認できる.c,f:フルオレセイン染色写真.ドライアイ(areabreak)を認める.(69)あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018C13810910-1810/18/\100/頁/JCOPY眼類天疱瘡(ocularcicatricialpemphigoid:OCP)はII型アレルギー反応により角結膜の瘢痕化をきたす自己免疫性疾患であり,免疫組織学的に上皮基底膜への免疫グロブリン(IgG,IgM)や補体C3の沈着が観察されたことから,結膜上皮基底膜に対する自己抗体産生が原因とされている1).基底膜成分に対する自己抗体はこれまでに何種類か報告されているが,結膜ではCa6b4インテグリンのCb4サブユニットがターゲットになることが多い2).結膜では,結膜下線維芽細胞の増殖の進行とともに結膜.短縮から瞼球癒着が生じる.反復する炎症により結膜杯細胞の減少と涙腺の排出管の閉塞を引き起こし,結果としてドライアイを合併する.ドライアイは重症であり,まず結膜上皮の扁平上皮化生や錯角化を生じる.進行すると結膜上皮細胞の肥厚や角化,角膜輪部上皮幹細胞疲弊症に至り,角膜内への結膜侵入を生じる2).OCPは,FosterCI~IV期の病期分類が可能である.I期では慢性結膜炎症から下方の結膜.下組織に白色の線維性増殖を認める.II期では下方の結膜円蓋部の短縮に至る.III期では瞼球癒着が進行し,角膜内への結膜侵入や涙液減少が著明になる.IV期では角膜は結膜上皮に置き換わり,角化し,末期のステージとなる2).OCPは非対称性であることが多く,最初は片側性の非特異的な慢性結膜炎として現れることがある.症状には灼熱感のような痛みや異物感,羞明,涙流などがある3).確定診断は,結膜生検で得られた試料を用いた免疫組織学的染色によりCbasementmembranezone(BMZ)への免疫グロブリンの沈着により行われる1).治療は,低濃度ステロイド点眼で慢性炎症を抑制し,角膜上皮保護や睫毛管理を行う.進行例では全身の免疫抑制が必要となる.ドライアイに対しては人工涙液や涙点プラグ挿入や涙点閉鎖の治療を行う.FosterIII期やIV期では,羊膜移植や角膜上皮移植など外科的治療の適応となる2).提示症例はC66歳の女性で,近医より翼状片手術目的で当科に紹介された.両眼鼻側の翼状片を認めた.Breakup分類でCareabreak,Schirmer試験(CI法)は両眼ともC0Cmmで,著明な涙液減少型ドライアイが確認された.血液検査より抗CSS-A抗体,抗CSS-B抗体は陰性であり,Sjogren症候群は否定的であった.上方視時に結膜下線維性増殖を認め,OCP(FosterI期)の合併が疑われた.このようなCOCPを合併した翼状片の症例では,結膜切開を含む外科的介入は重篤なCOCPの悪化を招く可能性がある.可能であれば十分な活動性疾患の制御がされるまで延期されるべきである.本症例のように初期COCPは判別がむずかしい場合もあり,高齢者で前眼部手術を予定する際などはとくに注意をして診察をする必要がある.文献1)横山真介,佐々木香る,斎藤禎子ほか:眼類天疱瘡の急性期臨床所見としての膜様物質とそのムチンの発現.あたらしい眼科28:119-122,C20112)稲富勉:眼類天疱瘡と結膜変化.あたらしい眼科C33:C555-556,C20163)PaulCS,CGrahamL:OcularCcicatricialpemphigoid:patho-genesis.ClinExpOptom86:47-50,C2003

薬剤副作用と医薬品被害救済制度

2018年10月31日 水曜日

薬剤副作用と医薬品被害救済制度AdverseDrugReactionandReliefServicesforAdverseHealthE.ects三重野洋喜*外園千恵*はじめに薬剤副作用は予期せずに生じるものであり,患者にとっても,主治医にとっても,製薬会社にとっても避けたい被害である.その被害を救済するための制度として,「医薬品副作用被害救済制度」がある.わが国が誇るべき制度ともいえるが,詳しく知っている眼科医は少ないので,本稿で解説する.I医薬品副作用被害救済制度の概要医薬品および再生医療などの製品(医薬品など)は,医療上必要不可欠なものとして国民の生命,健康の保持増進に大きく貢献している.一方,医薬品などは有効性と安全性のバランスの上に成り立っているものであり,その使用に当たって万全の注意を払っても,副作用を完全に防止することは非常に困難とされている.医薬品の副作用による健康被害は防止しえない性格のものがあり,このような副作用による被害は,現行の過失責任主義のもとでは民事責任が発生しない.また,被害と医薬品使用との因果関係を証明するには,きわめて専門的な知識と膨大な時間と費用が必要であり,製薬企業に過失があったとしても,過失の存在の証明は容易ではない.訴訟による解決には長時間を要すること,製薬企業には安全かつ有効な医薬品の適切な供給を図るべき社会的責任があることから,そのような健康被害に対して医療費などの給付を行い,被害者の救済を図る制度が「医薬品副作用被害救済制度」である.医薬品副作用被害救済制度は,医薬品などを適正に使用したにもかかわらず発生した副作用によって健康被害が生じた場合に,迅速な救済を図ることを目的として1980年に創設された,医薬品医療機器総合機構法に基づく公的な制度である(再生医療等製品については,2014年11月25日以降より適用).副作用としては,入院治療が必要な程度の重篤な疾病や障害などの健康被害を想定している.救済給付の必要費用は,医薬品の製造販売業者がその社会的責任に基づいて納付する拠出金が原資となっている(図1).ここでいう「医薬品」とは,厚生労働大臣による医薬品の製造販売業の許可を受けて製造販売された医療用医薬品および一般用医薬品などであり,病院・診療所で処方された医療用医薬品,薬局・ドラッグストアで購入した要指導医薬品,一般用医薬品のいずれをも含む.ただし,別途対象除外医薬品が定められている.医薬品副作用被害救済制度についての詳細は独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下,PMDA)のホームページで確認できる(http://www.pmda.go.jp/kenkouhigai_camp/index.html).II給付の対象と対象除外医薬品1980年5月1日以降(再生医療等製品については2014年11月25日以降)に医薬品を適正に使用したにもかかわらず発生した副作用による疾病(入院治療を必要とする程度のもの),障害(日常生活が著しく制限さ*HirokiMieno&*ChieSotozono:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕三重野洋喜:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(63)1375図1医薬品副作用被害救済制度の仕組み(独立行政法人医薬品医療機器総合機構のホームページより転載)表1副作用救済給付(障害年金,障害児養育年金)の対象となる障害の程度等級障害の状態1級1.両眼の視力の和が0.04以下のもの2.両耳の聴力レベルが100デシベル以上のもの3.両上肢の機能に著しい障害を有するもの4.両下肢の機能に著しい障害を有するもの5.体幹の機能に座っていることができない程度または立ち上がることのできない程度の障害を有するもの6.前各号に掲げるもののほか,身体の機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって,日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの7.精神の障害であって,前各号と同程度以上と認められる程度のもの8.身体の機能の障害もしくは病状または精神の障害が重複する場合であって,その状態が前各号と同程度以上と認められる程度のもの2級1.両眼の視力の和が0.08以下のもの2.両耳の聴力レベルが90デシベル以上のもの3.平衡機能に著しい障害を有するもの4.咀嚼の機能を欠くもの5.音声または言語機能に著しい障害を有するもの6.一上肢の機能に著しい障害を有するもの7.一下肢の機能に著しい障害を有するもの8.体幹の機能に歩くことができない程度の障害を有するもの9.前各号に掲げるもののほか,身体の機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって,日常生活が著しい制限を受けるか,または日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの10.精神の障害であって,前各号と同程度以上と認められる程度のもの11.身体の機能の障害もしくは病状または精神の障害が重複する場合であって,その状態が前各号と同程度以上と認められる程度のもの【備考】視力の測定は,万国式試視力表によるものとし,屈折異常があるものについては,矯正視力によって測定する.表2給付額(2018年4月1日現在)給付の種類区分給付額①医療費健康保険などによる給付の額を除いた自己負担分通院のみの場合(入院相当程度の通院治療を受けた場合)1カ月のうち3日以上月額36,400円1カ月のうち3日未満月額34,400円②医療手当入院の場合1カ月のうち8日以上月額36,400円1カ月のうち8日未満月額34,400円入院と通院がある場合月額36,400円③障害年金1級の場合年額2,767,200円(月額230,600円)2級の場合年額2,214,000円(月額184,500円)④障害児1級の場合年額865,200円(月額72,100円)養育年金2級の場合年額692,400円(月額57,700円)⑤遺族年金年金の支払は10年間(ただし,死亡した本人が障害年金を受けたことがある場合,その期間が7年に満たないときは10年からその期間を控除した期間,その期間が7年以上のときは3年間)年額2,420,400円(月額201,700円)⑥遺族一時金7,261,200円⑦葬祭料206,000円表3請求の期限給付の種類請求の期限①医療費医療費の支給の対象となる費用の支払いが行われたときから5年以内②医療手当請求に係る医療が行われた日の属する月の翌月の初日から5年以内③障害年金請求期限は定められていない④障害児養育年金請求期限は定められていない⑤遺族年金死亡のときから5年以内注ただし,死亡前に医療費,医療手当,障害年金または障害児養育年金の支給決定があった場合には,死亡のときから2年以内注:遺族年金を受けることができる先順位者が死亡した場合にはその死亡のときから2年以内⑥遺族一時金遺族年金と同じ⑦葬祭料遺族年金と同じ表4請求に必要な書類給付の種類添付書類①医療費②医療手当1.医療費・医療手当請求書2.医療費・医療手当診断書3.投薬・使用証明書または販売証明書4.受診証明書など③障害年金④障害児養育年金1.障害年金請求書または障害児養育年金請求書2.障害年金/障害児養育年金診断書.視覚障害用.聴力・平衡機能障害用.運動・感覚障害用.肝臓・腎臓・血液・造血器障害用.遷延性脳障害用/精神障害用.呼吸器疾患障害用.その他の障害用3.投薬・使用証明書または販売証明書など⑤遺族年金⑥遺族一時金1.遺族年金請求書または遺族一時金請求書2.遺族年金/遺族一時金/葬祭料診断書3.投薬・使用証明書または販売証明書など⑦葬祭料1.葬祭料請求書2.遺族年金/遺族一時金/葬祭料診断書3.投薬・使用証明書または販売証明書など未支給の救済給付1.未支給の救済給付請求書2.請求しようとする種別の請求書類など【備考】1.投薬・使用証明書は,診断書を作成した医師が投薬した場合(処方せんの交付を含む)は不要.2.医療費・医療手当の請求に係る受診証明書は,副作用の治療を受けた病院等での証明が必要.3.副作用の治療を受けた病院が2カ所以上の場合は,それぞれの病院などから診断書などの作成が必要.4.複数の給付請求を同時に行う場合,同じ医師による診断書は,副作用のより重篤な症状の様式を使用し,同一の書類の添付は省略可能.表5Stevens.Johnson症候群の診断基準赤字の部分が追加されたことにより,2018年4月1日から慢性期においても問診および臨床所見からStevens-Johnson症候群と診断し,難病申請ができるようになった.<診断基準>(1)概念発熱と眼粘膜,口唇,外陰部などの皮膚粘膜移行部における重症の粘膜疹を伴い,皮膚の紅斑と表皮の壊死性障害に基づく水疱・びらんを特徴とする.医薬品のほかに,マイコプラズマやウイルスなどの感染症が原因となることもある.(2)主要所見(必須)1.皮膚粘膜移行部(眼,口唇,外陰部など)の広範囲で重篤な粘膜病変(出血・血痂を伴うびらんなど)がみられる.2.皮膚の汎発性の紅斑に伴って表皮の壊死性障害に基づくびらん・水疱を認め,軽快後には痂皮,膜様落屑がみられる.その面積は体表面積の10%未満である.ただし,外力を加えると表皮が容易に.離すると思われる部位はこの面積に含まれる.3.発熱がある.4.病理組織学的に表皮の壊死性変化を認める.5.多形紅斑重症型(erythemamultiforme[EM]major)およびブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)を除外できる.(3)副所見1.紅斑は顔面,頸部,体幹優位に全身性に分布する.紅斑は隆起せず,中央が暗紅色の.atatypicaltargetsを示し,融合傾向を認める.2.皮膚粘膜移行部の粘膜病変を伴う.眼病変では偽膜形成と眼表面上皮欠損のどちらかあるいは両方を伴う両眼性の急性角結膜炎がみられる.3.全身症状として他覚的に重症感,自覚的には倦怠感を伴う.口腔内の疼痛や咽頭痛のため,種々の程度に摂食障害を伴う.4.自己免疫性水疱症を除外できる.診断のカテゴリー副所見を十分考慮のうえ,主要所見5項目をすべて満たす場合,SJSと診断する.初期のみの評価ではなく全経過の評価により診断する.*慢性期(発症後1年以上経過)では眼瞼および角結膜の瘢痕化がみられる.慢性期で粘膜病変が眼瞼および角結膜の瘢痕化の場合,主要所見4は必須ではない.ただし,医薬品副作用被害救済制度において,副作用によるものとされた場合は医療費助成の対象から除く.

重症薬疹と眼障害

2018年10月31日 水曜日

重症薬疹と眼障害OcularSequelaandStevens-JohnsonSyndrome上田真由美*はじめにあらゆる薬剤は,その薬剤に対するなんらかの免疫反応で生じる発疹,つまり,薬疹を誘発する可能性を有するが,薬疹のなかでも臓器障害を併発し,生命に危険を及ぼす可能性のある薬疹は,重症薬疹とよばれる.重症薬疹には,スティーブンス・ジョンソン症候群(Ste-vens-Johnsonsyndrome:SJS),中毒性表皮壊死症(toxicepidermalnecrolysis:TEN),薬剤過敏症症候群(drug-inducedhypersensitivitysyndrome:DIHS)などがあり,このうちSJS,その重症型とされるTENでは,眼障害も生じることが多い.本稿では,眼障害を生じるSJS/TENについて,その臨床所見,治療方法,発症にかかわる遺伝素因,今まで明らかとなってきた病態を,筆者の知見をもとに解説する.I眼障害を生じるSJSならびにTENその臨床所見SJSは突然の高熱と皮膚・粘膜の発疹,びらんで発症し,最初に数個で始まった発疹が急速に全身に拡大する急性の皮膚粘膜疾患である.TENは,その一部はSJS重症型と考えられ,日本では皮疹の面積が10%未満のものをSJS,それ以上のものをTENとよぶ.厚生労働省研究班はSJSとTENの診断基準を作成しホームページで公開している.SJS:https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1a23.pdfSJSTEN皮膚表皮.離の面積10%未満10%以上眼科で診療する広義のSJS粘膜病変あり粘膜病変なし図1皮膚科で診断されるStevens.Johnson症候群.中毒性表皮壊死症(SJS.TEN)における重篤な眼合併症を伴うSJS.TEN(SJS)の位置づけ(文献1より引用)TEN:https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1a27眼障害を生じているSJSとTENの眼所見は類似し,急性期(眼合併症)ならびに慢性期(眼後遺症)を通して,眼所見より両者を鑑別することは困難である.眼科では,瘢痕性角結膜上皮症に至った慢性期の患者を診ることが多く,重篤な眼障害を伴うSJSとTENを併せて広義のSJSと呼称している1,2)(図1).眼障害を生じるSJS患者には,共通の特徴が存在する.急性期に口唇・口腔内の出血性びらん,爪囲炎を全例に認める(図2)3).また,SJS/TENは,薬剤の投与が誘因となって発症するが,眼障害を生じるSJS患者を対象に行った調査では,約8割の患者が感冒様症状を*MayumiUeta:京都府立医科大学特任講座感覚器未来医療学〔別刷請求先〕上田真由美:〒602-0841京都市上京区河原町広広小路上ル梶井町465京都府立医科大学特任講座感覚器未来医療学0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(53)1365ab図2眼障害を伴うStevens.Johnson症候群(SJS)の早期所見眼合併症を伴うSJS患者では,急性結膜炎(a),口唇・口腔内の出血性びらん(b),爪囲炎(c)を必発する.(文献3より許可を得て引用)ab#*図3眼後遺症を残す重篤な眼合併症を伴うSJS.TENの急性期の眼所見皮疹,粘膜疹とほぼ同時に両眼性の重度の結膜充血(a),角結膜上皮欠損(b),偽膜形成(c)を生じる.(文献1より引用)a.眼表面に広範囲の上皮欠損が生じ角膜上皮幹細胞が消失した場合b.眼表面の上皮欠損が少なく角膜上皮幹細胞が残存した場合図4急性期の角結膜上皮欠損と視力予後a:十分に眼表面の消炎がされないと急性期に角膜上皮幹細胞(輪部上皮の基底部に存在)が消失し,慢性期に角膜は結膜組織で被覆され混濁する.b:十分に消炎ができて角膜上皮幹細胞が残存した場合には,角膜ほぼ透明化する.(文献1より引用)日C4回に変更する.ステロイドの副作用として続発性緑内障を発症することがあるので注意が必要である.C3.癒着防止消炎が不十分な場合には,瞼球癒着が進行する.瞼球癒着を予防するためには,ステロイド点眼により眼表面の消炎を図るとともに,癒着を生じかけたら点眼麻酔下に硝子棒を用いて機械的に癒着を.離する.C4.感染予防:適切な抗菌薬の点眼急性期は広範囲の角結膜上皮欠損があるために感染のリスクが高い.二次感染を予防するために,適切な抗菌薬の点眼を行う必要がある.結膜.あるいは眼脂の塗沫・培養検査を初診時に行い,菌を検出すれば薬剤感受性を考慮して,適切な抗菌薬を局所投与する.眼障害を生じるCSJSでは,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantCStaphylococcusaureus:MRSA)あるいはメチシリン耐性表皮ブドウ球菌(methicillin-resistantCStaphylococcusepidermidis:MRSE)が検出されることが多いため,初回検査で陰性であっても,急性期には週C1回程度の監視培養を続けることが重要である.C5.遷延性上皮欠損に対する手術治療眼障害を生じるCSJSの急性期には,角膜上皮欠損が治らないままに遷延することがある.角膜上皮欠損が遷延すると,角膜穿孔を生じ失明につながるため,角膜穿孔の可能性が高い難治性の角膜上皮欠損に対しては,培養粘膜上皮移植術が有効である6).CIV慢性期の眼所見(眼後遺症)慢性期の眼障害,つまり眼後遺症としては,重篤なドライアイ,瞼球癒着,睫毛乱生,視力障害があげられる7,8).C1.ドライアイ(図5a,b)慢性期患者の多くは重篤なドライアイを伴う.ドライアイが著しいため,乾燥感,異物感,羞明,眼痛などが慢性期の症状として持続し,重篤なドライアイによる点状表層角膜症のために視力障害も生じる.C2.瞼球癒着(図5c,d)急性期の癒着防止治療にもかかわらず,瞼球癒着が生じることは珍しくなく,また,慢性期の炎症持続によって瞼球癒着が進行することもある.C3.睫毛乱生(図5e)眼瞼炎症の後遺症として睫毛乱生が生じる.眼障害を生じるCSJSでは,従来の睫毛根部とはまったく異なった眼瞼結膜から睫毛が伸びていることもしばしば観察され,急性期の炎症が眼表面だけではなく眼瞼の深部にまで及んでいたことがうかがわれる.睫毛乱生を放置すると睫毛が眼表面に触って刺激し,眼表面炎症を惹起する.C4.視力障害(図5f,g)もっとも重篤な眼後遺症は視力障害である.急性期に角膜上皮幹細胞が消失すると,血管・結合織を伴った結膜組織が角膜表面を被覆し,角膜は不透明,凹凸不整となって著しい視力障害をきたす.さらには,眼表面を被覆した結膜上皮が分化異常をきたし,皮膚のように角化することもある.CV慢性期の治療眼表面の管理が主体となる.重症ドライアイに対しては人工涙液の点眼,涙点プラグを用いた涙点閉鎖・手術による涙点閉鎖などの治療を行う.睫毛乱生に対しては定期的に睫毛抜去を行い,睫毛乱生がひどい症例では,手術的に睫毛乱生が生じている睫毛根部の切除を行うこともある.眼障害を生じるCSJSでは眼表面からCMRSAあるいはCMRSEが検出されることが多いので,眼脂を伴って充血を生じた場合には結膜.培養を行い,適切な抗菌薬を点眼する.慢性期に炎症が持続,あるいは再燃を繰り返す場合は,低濃度のステロイド点眼により炎症を抑制し,瘢痕性変化の進行を防止する.最近では,ドライアイ治療薬であるレバミピド点眼を開始すると眼表面炎症が減弱する症例が多く,レバミピドの抗炎症作用が奏効していると考えられる.1368あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018(56)図5重篤な眼合併症を伴うSJS.TENの眼後遺症重篤な眼後遺症として,重症ドライアイ(Ca,b),眼瞼結膜の瘢痕形成(Cc),瞼球癒着(Cd),睫毛乱生(Ce:),症例によっては角膜への結膜侵入(Cf)または眼表面の角化(Cg)による重度の視力障害があげられる.(文献C8より引用)眼・粘膜障害無型では関連なし眼・粘膜障害無眼・粘膜障害有(眼科のSJS)図6原因薬剤によりSJS.TENの遺伝素因が異なる(文献C1より引用)A.ymetrixAXIOMGenome-WideASI1Array151050chromosome図7IKZF1遺伝子多型感冒薬関連眼合併型CSJS日本人患者C117名ならびに健康コントロールC691名を対象にした全ゲノム関連解析の結果(マンハッタンプロット).既報のCHLA領域に加えて,IKZF1遺伝子に強い関連を認めた.(文献C29より許可を得て引用)Pvalue(-log10)12345678910111213141516171819202122図8SJSの発症機序についての上田の仮説発症の遺伝子素因がない人では,なんらかの微生物感染が生じても,正常の自然免疫応答が生じ,薬剤服用後に解熱・消炎が促進され,感冒は治癒する.しかし,発症の遺伝子素因がある人に,なんらかの微生物感染が生じると異常な自然免疫応答が生じ,さらに炎症を抑制しているプロスタグランジンCEC2の産生を抑制する作用のある感冒薬服用が加わって,異常な免疫応答が助長され,SJSを発症する.(文献C8より引用)—-

全身薬による眼瞼や眼球運動の障害

2018年10月31日 水曜日

全身薬による眼瞼や眼球運動の障害SideE.ectsofEyelidsandEyeMovementsduetoSystemicMedications若倉雅登*はじめに全身薬副作用は,呼吸器系,心循環系,内分泌代謝系,神経系など内科的視点に偏りがちで,神経眼科領域への副作用は,処方医が領域外の場合はほとんど注意が払われない.視力低下など視覚系障害が生じれば,角膜,水晶体,網膜,視神経など視器への副作用として認識されやすいが,眼瞼や眼球運動系への副作用は,顕著になるまでは眼科医でさえ見逃しやすい.新薬は次々と出現するが,副作用調査は法的には短期のものを把握すればよいことになっており,連用や,晩発するもの,他の薬物との併用によって生じる副作用には十分目が行き届かない.また,生死に直結するものや,機能廃絶(眼科でいえば失明)にかかわる副作用は重大視されるが,一般に添付文書にある眼副作用は「かすみ目」「視力低下(感)」「複視」「流涙」など症状本位の取り上げ方しかされず,その実態は不明なものがほとんどであるのに,いずれも軽い副作用とされてしまう.しかも,近年は多くの学術誌が症例報告を採用しない傾向にあり,副作用の可能性がある症例を経験しても報告されないことが増えているので,臨床医が眼瞼や眼球などに生じる,まれな副作用を知る機会も減ってしまった.それゆえ,医師自身が副作用は起こることは当然という姿勢で,疑う姿勢で注意して観察しなければ,不可逆的機能障害にしてしまうことがありうる.本稿では,全身薬の副作用の中でも見逃されやすい眼瞼と眼球運動の異常について概観する.CI眼瞼1.眼瞼腫脹など眼瞼腫脹は副腎皮質ホルモン薬の長期投与で,眼窩内脂肪の増加につれて眼瞼組織内の脂肪も増えてくることに伴い生じることは,よく知られている.そのほか,非小細胞肺癌などに用いられる抗癌薬ペメトレキセド(アリムタ=点滴)1)や,臓器移植後の免疫抑制に用いられるエベロリムス(サーティカン)2)で眼瞼浮腫の報告がある.眼瞼ミオキミアは,多くは片側の下眼瞼や上眼瞼が数秒.十数秒程度,不随意に蠕動するように動く不随意の筋収縮で,ときどき繰り返す.多くは過労や睡眠不足などが誘因となる一過性のもので,休息すれば回数が減り,やがて消失する.ただし,数カ月以上出没する例もある.抗てんかん薬のトピラマート(トピナ)は海外では偏頭痛治療に用いられることがある.140例の偏頭痛に本剤を投与したところ,8例で眼瞼ミオキミアが発現,中止により消失したが,再投与例では再度出現したとの報告がある3).C2.眼瞼痙攣眼瞼痙攣は神経眼科では頻繁にみられる疾患である.*MasatoWakakura:井上眼科病院〔別刷請求先〕若倉雅登:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(47)C1359ロフラゼブ酸ロラゼパムトリアゾラムアルプラゾラムフルニトラゼパムブロチゾラムゾルピデムエチゾラム112図1眼瞼痙攣発症前に使用されていた薬物(上位8位)(N=359)(文献C4に追加,改変引用)類似薬と考えるべきである.図1にはC8位までのものを示したが,しばしばそれより下位にはどのような薬物があるのかを質問されるので,8位以下のものを示しておく.一般名(総数,1剤使用例数+2剤使用例数)の形で列挙する.9位:スルピリド(28,2+6),10位:プロマゼパム(26,1+2),11位:パロキセチン(22,1+2),12位:ジアゼパム(21,6+1),13位:クロチアゼパム(19,2+4),14位:バルプロ酸(17,0+2),同:オランザピン(17,1+1),同:クロナゼパム(17,1+4),17位:クロルプロマジン(15,0+0),18位:リスペリドン(14,0+0),19位:ゾピクロン(13,3+0).20位には,アリピプラゾール,トラゾロン,リチウムがC11例で並ぶが,いずれもC3剤以上使用しているうちのC1剤であった.以上のようにC10,12,13,14位にベンゾジアゼピン系が入っており,本症との関連の深さを示唆している.C3.ベンゾジアゼピン眼症の提唱薬物性眼瞼痙攣の場合,5年以上常用した場合は,離脱が困難になるだけでなく,離脱成功後も眼瞼痙攣としての強い症状が残存することが多い.また,離脱を急速に行うと離脱症候群が生じ,心身症状の悪化だけでなく,光過敏が高度になるなど,眼瞼痙攣の症状自体が増悪する症例を経験する.一方,比較的早期に離脱に成功した場合,眼瞼痙攣の各症状の改善が期待でき,ボツリヌス治療が不要になるケースもある7,8).さて,軽症例を一般眼科で発見することは,その医師が本症を熟知していないかぎりかなり困難である.とくに随意瞬目負荷試験4)などをしても眼瞼運動の異常が検出できない場合,診断に迷う可能性が高い.薬物性の場合,早期もしくは予備軍の状態で発見できれば,早期においては依存性が低く,離脱しやすい.離脱に成功すれば,症状は明らかに改善し,消失する場合も少なくない.そこで筆者らは,原因不明の羞明や光過敏,眼痛,霧視,眼部違和感などにおいてベンゾジアゼピン系薬物もしくは類似薬を使用している場合は,処方医と相談して離脱を試みた.すると,かなりの症例で明らかに自覚症状が改善することを経験したので,最近は「ベンゾジアゼピン眼症」として,注意することを提唱している4,9)CII重症筋無力症重症筋無力症(myastheniaCgravis:MG)の患者は,その病歴のなかで眼瞼下垂,複視など眼症状を呈する例がC70%以上といわれ,とくに小児では眼症状で発症する場合が多く,眼筋型も多い.実際,神経眼科医が眼筋型や眼筋症状が主体のCMG症例の治療を行っている,または治療方針を助言しているケースは少なくない.眼筋機能の詳細な評価は眼科でしかできないので当然である.そこで,MGやCMG様症候の発症や,増悪に関連する薬物をここに示す.MG様症状を惹起することが報告され,添付文書にも記載されている薬物としては,D-ペニシラミンとチオプロニンがある.また,C型肝炎治療などに用いられるインターフェロンCa,インターフェロンCbも可能性がある10).このほか,MG有病者の症状悪化をきたす可能性が指摘されているものを表1に列挙した11).CIII眼球運動異常薬物による眼球運動障害は,急性の薬物中毒の形で出現する場合が多いが,常用量でもさまざまな眼球運動障害が報告されている.Pulaら11)はこれらをまとめているので,そこに記されていない最近の知見も併せて表2にまとめる.双極性障害に用いられるリチウムや,局所麻酔薬,抗痙攣薬,抗不整脈薬などさまざまな薬物が含まれるナトリウムチャネルブロッカーで,眼振を生じるような中枢性メカニズムが作動することは容易に推測される.ことに抗痙攣薬は,以前から下向き眼振などの眼球運動障害を惹起することが報告されている12).こうした中枢性作用が強調されていない,胃潰瘍治療薬ラニチジン(ザンタック)13)や,末梢神経障害性疼痛治療薬プレガバリン(リリカ)14)など,日常よく使われる薬物で小脳への作用を推測させる下向き眼振の報告があるのことにも注意しておく必要があるだろう.ちなみに,妊婦がオピエートやベンゾジアゼピン系薬(49)あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018C1361表1重症筋無力症を増悪させうる薬剤薬物名薬品分類注意事項ボトックスイソフルレン,サクシニルコリンテリトロマイシン,アミノ配糖体,ポリミキシン,コリスチンバンコマイシン,クリンダマイシン,マクロライド,フルオロキノロンキニジン,キニンラベタロール,プロプラノロール,アテノロールなどアムロジピン,ニフェジピン,ニカルジピンなどアトルバスタチン,プラバスタチン,ロスバスタチン,ピタバスタチンなどフェニトイン,ガバペンチン,カルバマゼピン,バルビツール系マグネシウムリチウム,三環系,フェノチアジンA型ボツリヌス毒素麻酔薬抗菌薬抗不整脈薬ベータブロッカーカルシウムチャネルブロッカータチン系抗てんかん薬便秘,制酸薬精神病薬眼瞼痙攣に重症筋無力症が合併していることがある使用の場合は低用量,人工呼吸器準備ケラトイド系抗菌薬テリトロマイシン(販売中止)絶対禁忌バンコマイシン,クリンダマイシンはリスク高いマクロライド,フルオロキノロンはややリスク低い抗マラリア薬としても有名疲労現象の増強まれに心原性,呼吸器系の抑制自己免疫機序を介したものか,重症筋無力症の発症,増悪の症例報告あり症例報告あるもリスクはフェニトインを除き低い高用量で注意通常量でも悪化しうるが,用量低減で改善表2眼球運動系に影響する全身用薬眼球運動障害おもな関連薬物注意事項衝動性運動速度低下滑動性運動の異常核間麻痺注視麻痺オプソクローヌス眼振(とくに下向き眼振)輻湊痙攣オクロギーリッククライシスベンゾジアゼピン,カルバマゼピン,ガバペンチン,バルビツール系,ハロペリドール,リスペリドンベンゾジアゼピン,フェニトイン,カルバマゼピン,バルビツール系,リチウム三環系,バルビツール系,フェノチアジン,リチウム,ベータブロッカー,タクロリムス,麻薬三環系,フェニトイン,カルバマゼピン,バルビツール系,リチウム,バクロフェン,バルプロ酸ジフェンヒドラミン,三環系,リチウム,シクロスポリンCAリチウム,ラニチジン,プレガバリン,種々の抗痙攣薬ナトリウムチャネルブロッカーフェニトインカルバマゼピン,フェノチアジン,リチウム,ラモトリギン,メトプロクラミド,セフィキシム抗てんかん薬でもプレガバリンは影響微小常用量でも起こるが,毒性とまではいえない薬物の高度の毒性では,昏睡にもなりうる薬物毒性の徴候抗てんかん薬は多数の報告がある若年者に多い-

薬物性視神経症

2018年10月31日 水曜日

薬物性視神経症ToxicOpticNeuropathies中馬秀樹*はじめに薬物性視神経症は,薬物摂取後に両眼性に発症し,中心視力の低下,色覚異常,視野検査で中心盲暗点をきたす.初期は視神経乳頭に検眼鏡的変化を示さない.薬剤中止により視機能が可逆性に改善するものもあれば非可逆的な例も存在する.視神経乳頭は時間経過とともに萎縮に至る.視神経症を生じたと報告されている薬剤は数多く存在する(表1).しかし,この中には因果関係が明らかにされていないものもあり,その証明はしばしば困難である.今後も次々と新しい薬剤性視神経症の報告がなされるであろうが,その判断には慎重でありたい.また,薬物性視神経症はあくまでも除外診断となる.鑑別すべき視神経疾患をチャートに示す(図1).以下,各論的にそれぞれの薬物性視神経症の特徴を示す.Iエタンブトールエタンブトール(Ethambutol)は発売当初より視神経症の報告がなされており,当初はL型とD型が販売されていた.D型は抗結核菌に有効である一方,L型は視神経症を多く発症したため,市場からなくなった.サルを用いた動物実験では視交叉に軸索障害が認められている.一方,ウサギを用いた実験では視神経に軸索障害が認められているが,視神経症の発症機序は明らかにされていない.現時点では,エタンブトールの抗菌作用が,菌複製に必要な金属含有酵素をキレートすることに関連していると考えられているので,ヒトのミトコンドリア内の銅または亜鉛を含む酵素をキレート化することによりミトコンドリアの機能異常を生じ,視神経症を発症すると考えられている.血清中の亜鉛が減少している症例が存在することや,血清中の亜鉛の減少が視神経症発症の危険因子であるとの報告もある.また,ほかのキレート剤であるジスフィラム(Disul.ram)やDL-ペニシラミン(DL-penicillamine)も視神経症をきたすことが知られている.エタンブトール視神経症は投与されている患者の6%に生じるとされる.エタンブトール視神経症の発症は容量依存性であることが知られている.25.mg/kg/日以上投与されている症例に発症しやすいとされる.しかし,推奨されている15~25mg/kg/日で投与されている例のなかでも約1%で発症すると報告されている.投与後2カ月以内では発症するのはまれで,4~12カ月,平均7カ月で発症する.腎機能不全,糖尿病,肝機能不全,低栄養状態,タバコ・アルコール摂取者が危険因子とされる.もっとも速い視機能の変化は色覚異常で,青黄色異常が多いとされる.視力低下は通常両眼性で,視野は中心盲暗点が多い(図2).しかし,周辺部視野欠損や両耳側半盲を生じる例もある(図3).初期は視神経乳頭に異常はみられない(図4)が,次第に視神経萎縮に至る.しかし,初期に乳頭腫脹を生じる例もある.*HidekiChuman:宮崎大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕中馬秀樹:〒889-1692宮崎市清武町木原5200宮崎大学医学部眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(39)1351表1報告されている中毒性,薬剤性視神経症の原因薬物Amantadinehydrochlorideアマンタジン塩酸塩AmiodaroneアミオダロンArsenicalsヒ素Cafergotエルゴタミン酒石酸ChlorambucilクロラムブシルChloramphenicolクロラムフェニコールChlorpromazineクロルプロマジンChlorpropamideクロルプロパミドCisplatinシスプラチンClioquinolクリオキノールまたはキノホルムClomipheneクロミフェンCyclosporineシクロスポリンDiaphenylsulfoneジアフェニルスルフォンDe.errioxamineデフェロキサミンDisul.ramジスルフィラムElcatoninエルカトニンEmetineエメチンEthambutolエタンブトール5-Fluorouracil5フルオロウラシルHalogenatedhydroxyquinolinesIn.iximabインフリキシマブInterferonalfaインターフェロンaIodoquinolヨードキノールIsoniazidイソニアジドMethanolメタノールMethylacetate酢酸メチルPenicillamineペニシラミンQuinineキニーネSildena.lシルデナフィルStreptomycinストレプトマイシンSulfonamideサルファ剤TacrolimusタクロリムスTamoxifenタモキシフェンThaliumタリウムTobaccoタバコTolueneトルエンVincristineビンクリスチンシンメトレルアンカロンクリアミンリューケランクロロマイセチンコントミン,ウインタミンなどアベマイドブリプラチン,ランダなどクロミッドネオーラルなどレクチゾールエクジェイドノックビンエルカトニンエサンブトール5-FUキノホルム,スモンの原因,日本では1970年に発売停止,米国などでは重症アルツハイマー病の治療に用いられる.レミケードスミフェロン,オーアイエフイスコチンメタルカプターゼ硫酸キニーネバイアグラプログラフなどノルバテックスオンコビンYES図1薬物性視神経症の診断,鑑別(文献C3より改変引用)図2エタンブトール投与中に生じた視神経症の視野盲中心暗点を呈している.図3エタンブトール投与中に生じた視神経症の視野両耳側半盲を呈している.図4エタンブトール投与中に生じた視神経症の乳頭乳頭に変化はみられない.ばよいかは現時点では明らかにされていない.CIIジスルフィラムジスルフィラム(Disul.ram)は,抗酒薬である.アルデヒド脱水素酵素を阻害してアセトアルデヒドを蓄積させ,悪心・嘔吐を誘発させる.ジスルフィラムは視神経症を生じることがあり,その機序は明らかにされていないが,他の視神経症を発症させうる薬剤と同様にキレート剤である.ジスルフィラム視神経症は,他の薬剤性視神経症と同様に,両眼性に亜急性または慢性に発症し,中心視力の低下,色覚異常,視野検査で中心盲暗点をきたし,初期は視神経乳頭に検眼鏡的変化を示さず,時間経過とともに萎縮に至る.薬剤中止による視力予後は良好で,視機能が可逆性に改善する.CIIIシルデナフィルシルデナフィル(Sildena.l)は,ホスホジエステラーゼ-5の阻害薬で,勃起不全の治療に用いられる.一酸化窒素による海綿体の血管拡張により改善させる.全身的な副作用は全身血管拡張によるもので,頭痛,発赤,低血圧である.ほかの窒素系薬剤と併用すると重篤な低血圧を引き起こすことがある.もっとも一般的な眼副作用は,一過性の色覚異常で,シルデナフィルの弱いホスホジエステラーゼ-6の阻害作用によるものと推定されている.ホスホジエステラーゼ-6は視細胞外接に存在するCphototransductionenzymeである.ほかに中心性漿液性脈絡網膜症,網膜動脈分枝閉塞症,動眼神経麻痺,非動脈炎性虚血性視神経症(non-arteriticCanteriorischemicCopticneuropathy:NAION)の報告がある.通常用量のシルデナフィルを服用した患者でCNAIONを発症した報告が多数みられるが,その関与はCcontro-versialである.多くの症例の症状,所見はCNAIONに特有で,急性視力低下,水平経線で境界された下方視野欠損,乳頭腫脹,相対的瞳孔求心路障害がみられ,服用中止後,腫脹消失後も視機能は改善しない.患者らは,危険因子である動脈硬化性因子はなかったが,小乳頭であった.シルデナフィルとCNAIONとの関連は,一つは全身の低血圧による乳頭血流の阻血,もう一つはCNOの網膜神経節細胞に対する毒性が可能性として考えられる.たまたま合併した可能性もあるが,報告されている多くの症例は動脈硬化性因子がなかったことと,服用して数分から時間単位で発症していることから,関連は高いと考えられる.どのような症例がシルデナフィルを内服することでCNAIONを発症するかは明らかではないが,片眼NAIONの既往例はシルデナフィルを服用すべきでない.また,シルデナフィルを服用する際は,永続的な視覚喪失の危険があることを患者に示すべきである.CIVアミオダロンアミオダロン(Amiodarone)はCbenzofuranCderiva-tiveで,難治性心房性または心室性不整脈の治療に用いられる.眼科的な合併症は,3分のC2以上の患者に可逆性渦状角膜沈着,50~60%の患者に青白色の水晶体前.下混濁,多発霰粒腫,ドライアイがあるが,いずれも視機能には大きな影響を与えない.アミオダロンは,NAIONと共通した特徴をもつ視神経症を合併する(図5).アミオダロン視神経症は原則として両眼性である.しかし,アミオダロンの副作用なのか,アミオダロン服用中に偶然CNAIONを発症したのか,判断が困難な症例も多いようである.80例のアミオダロン視神経症のレビューでは,69%が片眼性の乳頭腫脹(図6),12%が両眼性の腫脹であった.またC296例の報告された症例をレビューしたところ,16例のみが視神経症の診断が確実で,32例のみがアミオダロンとの関連ありと判断された.アミオダロン服用中の視神経症の発症率がC1.79%なのに対し,50歳以上の一般的なCNAIONの発症率はC0.3%であった.しかし,アミオダロン服用の患者はしばしば重篤な血管障害を合併するので,一般人よりCNAIONの発症危険率は高いと考えられるという意見もある.NAIONと異なり,両眼性にじわじわと発症し,アミオダロンを中止することにより改善して初めて関与が考えられるようである.アミオダロン投与から平均C9カ月(1~84カ月)で視力低下し,中止後はC58%で改善,21%は不変,21%は悪化するようである.乳頭腫脹はCNAIONよりも遅く回復するようである.20%で少なくとも片眼がC0.1以下で(43)あたらしい眼科Vol.C35,No.C10,2018C1355図5アミオダロン投与中に生じた視神経症の視野NAIONに似た神経線維束欠損型視野欠損を呈している.図6アミオダロン投与中に生じた視神経症の乳頭NAIONに似た乳頭腫脹を呈している.’C-

全身薬と緑内障

2018年10月31日 水曜日

全身薬と緑内障GlaucomatousSideE.ectsofSystemicMedications川瀬和秀*はじめに全身薬によって引き起こされる緑内障のグループは大きく分けて二つある.一つは隅角閉塞による閉塞隅角緑内障であり,もう一つはステロイド緑内障である.どちらのグループも結果として高度の視機能障害をきたす可能性があり,関連薬剤使用時に担当の科の医師が注意する必要がある.このためには危険な薬剤の周知とともに緑内障の発症機序や症状を理解して,処方時に患者に注意を促すことが大切である.I全身薬による緑内障発症に関する注意喚起1)厚生労働省は平成21年5月に「重篤副作用疾患別対応マニュアル感覚器(眼)緑内障版」を作成して各医療機関に配布している.眼科医は,患者や各科の医師が薬剤部から以下の項目において注意喚起がなされていることを理解しておく必要がある.以下に同マニュアルの内容を紹介する.1.患者に対する注意喚起早期発見と早期対応のために次の3点をあげている.①総合感冒薬,抗アレルギー薬などの医薬品を使った後,急激に「目の充血」「目の痛み」「目のかすみ」「頭痛・吐き気」が生じた場合には,放置せずにただちに医師・薬剤師に連絡すること.②原因と考えられる医薬品の使用からこれらの症状が現れるまでの期間は数時間以内あるいは1カ月以上であることもあること.③慢性のタイプは初期には症状があっても軽微なことが多いので,とくに副腎皮質ステロイドを使用している場合は定期的な眼科検査が必要であること.①は緑内障発作,②は副作用一般,③はおもにステロイド緑内障への注意喚起である.2.医療関係者に対する注意喚起早期発見と早期対応のポイントや副作用の概念,判別基準などが詳しく説明されている.散瞳・毛様体浮腫による緑内障発作に対して,①初発症状として,眼痛,頭痛,吐き気,嘔吐,充血,視力低下などが示されている.②好発時期として,発症までの期間は原因薬剤使用後数時間から数カ月後あるいは1年以上経過して発症し,一日の時間帯としては夜が多く,季節は冬に多いとしている.③患者側のリスク因子として,狭隅角眼および原発閉塞隅角緑内障眼,高齢・遠視・女性をあげ,片眼に急性原発閉塞隅角緑内障を生じていた場合は,片眼にも5~10年以内に生じる可能性が高いとしている.④原因となる医薬品として,a:散瞳作用によるものとして,散瞳薬,チエノジアゼピン系抗不安薬,三環系抗うつ薬,カテコラミン系昇圧薬,ベンゾジアゼピン系全身麻酔薬,ベラドンナアルカロイド,非ベンゾジアゼピン系睡眠薬,b:毛様体浮腫によるものとして,*KazuhideKawase:岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野〔別刷請求先〕川瀬和秀:〒501-1194岐阜市柳戸1-1岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(33)1345スルホンアミド系薬剤が示されている.⑤早期発見のポイントとして,疼痛(三叉神経第C1枝に一致した痛み),角膜浮腫(かすみ目,霧視,光輪や虹が見える),迷走神経反射(吐き気,嘔吐,徐脈,発汗)のほか,毛様充血,中等度散瞳,対光反射の消失などなどが記載され,数日で失明することも示されている.⑥眼科医以外が診察を行う場合の検査として,触診による眼球の硬化や視診による角膜周囲の結膜充血,角膜の混濁を確認し,眼圧上昇を予測するとしている.副腎皮質ステロイドによる緑内障に対して,①症状は,初期にはまったくなく,あっても充血,虹輪視,羞明,霧視,軽い眼痛,頭痛であり,幼児では流涙,角膜混濁,角膜径拡大などであると記載されている.②副腎皮質ステロイド投与後の眼圧上昇までの期間はさまざまで,眼圧上昇の程度には個体差があり,投与後1~2週間で眼圧上昇をきたす症例もある一方,短期間で眼圧上昇を生じない症例でも長期使用で眼圧上昇をきたすことがあるとしている.③患者側のリスク因子として,副腎皮質ステロイドを頻回,あるいは長期間使用している患者,原発開放隅角緑内障患者とその近親者,糖尿病患者,強度近視眼,膠原病患者,幼小児ではとくに眼圧が上昇しやすいことが示されている.④原因となる医薬品のリスクとして,ベタメタゾン,デキサメタゾン,プレドニゾロン,トリアムシノロン,ヒドロコルチゾン,メチルプレドニゾロン,フルオロメトロン,クロベタゾール,ジフルプレドナート,フルオシノロン,クロベタゾン,アルクロメタゾンなど,副腎皮質ステロイドであれば種類や投与方法にかかわらず眼圧上昇をきたしうると記載している.⑤眼圧上昇作用はおもに糖質コルチコイド作用の力価と眼内移行性,および投与方法の眼内移行の程度に比例するとしている.⑥早期発見のポイントとして,初期には自覚症状がなく,診断には眼科の精査を要するため,副腎皮質ステロイドを使用している患者には定期的眼科受診を勧めるべきであることが明記してある.II閉塞隅角緑内障の発生機序閉塞隅角緑内障の眼圧上昇機序として「緑内障診療ガイドライン第C4版」では,A(相対的)瞳孔ブロック,Bプラトー虹彩,C水晶体因子,D水晶体後方因子(悪性緑内障因子・毛様体因子)の四つのメカニズムを提唱している2~5).散瞳作用によるものとして,①抗コリン作用(副交感神経遮断作用)による瞳孔括約筋の麻痺,②アドレナリン作用(交感神経刺激作用)による瞳孔散大筋の収縮があり,散瞳状態において,相対的瞳孔ブロック(虹彩と水晶体の接触による後房圧の上昇)とプラトー虹彩(虹彩根部が隅角を閉塞することによる房水流出阻止)の二つの眼圧上昇機序が単独あるいは複合して生じるとされている.また,毛様体浮腫によるものとして,①虹彩根部の前方偏位による隅角閉塞,②水晶体前方偏位による相対的瞳孔ブロックの誘発がある.CIIIステロイド緑内障の発生機序①線維柱帯にグリコサミノグリカンが蓄積,②線維柱帯に細胞外成分が蓄積,③線維柱帯内皮細胞の食作用を阻害することで残渣が沈着することなどによる前房隅角での房水流出障害などが原因とされている.これに関して,ステロイド負荷された培養ヒト線維柱帯細胞の観察において,細胞外マトリックスの増加や形態変化および弾性率の増加による線維柱帯細胞外基質の変化により,房水流出抵抗増大がみられたと報告されている6).CIV緑内障を引き起こす可能性のある薬剤と各科の対応緑内障を引き起こす可能性のある薬剤はさまざまな診療科で使用されているが,薬剤によっておもに使用する科が異なる(表1).閉塞隅角緑内障の危険は若年者では少ないが,精神科や消化器・循環器・呼吸器内科あるいは泌尿器科などは高齢者も多いので注意が必要である.高次救急救命センターや麻酔科のように緊急で短期に使用する場合は緑内障の確認がむずかしいが,緑内障発作の危険性について知識と薬剤使用後の対応法の知識は,各科ともに必要と考える.副腎皮質ステロイドは内科で長期に大量に使用することも多く,また外用として小児1346あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018(34)表1緑内障を引き起こす可能性のある薬剤抗コリン作用による散瞳薬剤名主使用科(当院における使用率)抗ヒスタミン薬,抗アレルギー薬ベンゾジアゼピン系薬薬(睡眠薬,抗不安薬,抗てんかん薬)三環系・四環系抗うつ薬パーキンソン病治療薬(抗コリン性)鎮痙薬抗めまい薬抗不整脈薬気管支拡張薬散瞳薬神経因性膀胱治療薬,過活動膀胱治療薬ジフェンヒドラミン,プロメタジンなどジアゼパムなどアミトリプチリン,マプロチリンなどビペリデンなどブチルスコポラミンなどジフェニドールなどジソピラミドなどチオトロピウムなどアトロピン,フェニレフリンなどプロピベリン,ソリフェナシンなど小児科(13%)精神神経科(25%)精神神経科(43%)精神神経科(68%)消化器内科(34%)耳鼻科(44%)循環器内科(51%)呼吸器内科(65%)眼科(97%)泌尿器科(49%)アドレナリン様作用による散瞳薬剤名主使用科(当院における使用率)強心薬昇圧薬SNRI[セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬](抗うつ薬)中枢神経刺激薬パーキンソン病治療薬アドレナリンアメジニウム(リズミックCR)デュロキセチンメチルフェニデート・コンサータなどレボドパ(マドパー配合薬)など高次救命センター(45%),小児科(34%)小児科(28%)麻酔科(20%)小児科(85%)神経内科(77%)脈絡膜血管拡張による散瞳薬剤名主使用科(当院における使用率)硝酸薬亜硝酸アミル,ニトログリセリンなど循環器内科(44%)毛様体浮腫をきたす薬剤薬剤名主使用科(当院における使用率)サイアザイド系利尿薬ヒドロクロロチアジド循環器内科(18%)副腎皮質ステロイド薬剤名主使用科(当院における使用率)副腎皮質ステロイド(経口・注射)副腎皮質ステロイド(外用)プレドニゾロンなどベタメタゾンなど呼吸器内科・総合内科(9%)皮膚科(62%),小児科(10%)表2当院における他科医師の認識と対応に関するアンケート集計結果(n=10)散瞳薬はいC/いいえ(「はい」の割合)1該当の薬剤が散瞳作用を有することを知っている8人C/2人(80%)2処方時に緑内障の有無を確認している8人C/2人(80%)3処方時にCPACGの有無を確認している5人C/5人(40%)4散瞳薬はCPACGで問題となるが,その他の緑内障では問題とならないことを理解している5人C/5人(50%)5緑内障発作の症状は頭痛・嘔吐・眼痛であることを知っている9人C/1人(90%)6緑内障発作は治療が遅れると失明することを知っている10人C/0人(1C00%)7PACGは女性・高齢者に多いことを知っている3人C/7人(30%)8CPACGは緑内障の約C10%と少なく,PCACGの多く(約C80%)は未発見潜在患者であることを理解している5人C/5人(50%)9このためCPACGと診断されていなくても使用後に緑内障発作が起きる可能性があることを説明している3人C/7人(30%)10処方後に緑内障発作が起きた場合は眼科に受診するよう説明している3人C/7人(30%)副腎皮質ステロイドはいC/いいえ(「はい」の割合)1ステロイドの長期使用で発症する9人C/1人(90%)2ステロイドの眼局所(点眼・軟膏)使用で発症する8人C/2人(80%)3ステロイドの眼周囲の使用でも発症する5人C/5人(50%)4ステロイドの内服・点滴使用でも発症することがある8人C/2人(80%)5内因性ステロイド産生過多でも発症することがある5人C/5人(50%)6早期中止で眼圧は正常化するが,長期使用で不可逆性となる7人C/3人(70%)7若年者ほどステロイド緑内障をきたしやすい5人C/5人(50%)8高眼圧が続くと視神経・視野障害をきたすことを説明している5人C/5人(50%)9ステロイド使用前にステロイド緑内障について説明している4人C/6人(40%)10ステロイド使用前後に眼科に眼圧測定を依頼している1人C/9人(10%)表3代替薬剤の可能性(赤字:添付文書の副作用欄に緑内障の記載のある薬剤,青字:添付文書の副作用欄に緑内障の記載がない薬剤)a.三環系・四環系抗うつ薬・SSRI:薬剤によって使用できない病気が異なるため緑内障に使用できる薬剤(レクサプロ錠・サインバルタ)で代用薬剤作用使用できない病気SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)パロキセチン(パキシル)などセロトニンだけを増やす躁うつ,統合失調症,てんかん,緑内障,高齢者などレクサプロ錠は緑内障の副作用なしSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬)デュオキセチン(サンバルタ)などセロトニンとノルアドレナリンに作用(偽抗コリン作用)肝機能障害,腎機能障害,前立腺肥大,高血圧,心疾患,緑内障サインバルタはコントロール不良なCPACGのみ禁忌CNaSSAミルタザピン(レメロン)などノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動薬セロトニンとノルアドレナリンの分泌促進肝機能障害,腎機能障害,てんかん,心疾患,緑内障,排尿困難,高齢者,小児三環系抗うつ薬イミプラミン(トフラニール)など効果が強いが副作用も多い排尿困難,緑内障,心不全,甲状腺機能亢進,てんかん,躁うつ病,肝腎障害,低血圧,低カリウム血症,高齢者,小児四環系抗うつ薬ミアンセリン(テトラミド)など三環系の副作用を軽減ノルアドレナリンだけに作用緑内障,排尿困難,心疾患,肝腎障害,てんかん,糖尿病,妊娠,b.鎮痙薬:グルカゴンやミンクリアで代替薬剤作用使用できない病気ブスコパン(皮下注,筋注,静注)抗コリン剤心疾患,緑内障,前立腺肥大グルカゴン(筋注,静注)血糖値上昇,消化管運動抑制糖尿病ミンクリア(胃内散布)メントール製剤投与禁忌なしc.抗めまい薬:メリスロンの使用で緑内障の危険はなくなる薬剤一般名作用使用できない病気セファドールジフェニドール抗コリン作用緑内障,前立腺肥大メリスロンベタヒスチンヒスタミンCH1受容体刺激作用胃潰瘍,十二指腸潰瘍,気管支喘息トラベルミンジフェンヒドラミン抗コリン作用緑内障,前立腺肥大ジプロフィリンアデノシン受容体阻害心筋梗塞,甲状腺機能亢進症,てんかんd.サイアザイド系利尿薬:トリクロルメチアジドやサイアザイド系類似利尿薬で代替可能.スルホンアミド系薬スルホンアミド基成分薬品名サイアザイド系利尿薬トリクロルメチアジドフルイトラン錠,トリクロルメチアジド錠などヒドロクロロチアジドエカード配合錠,コディオ配合錠などサイアザイド系類似利尿薬インダパミドナトリックス錠ループ利尿薬アゾセミドダイアート錠トラセミドルプラック錠フロセミドラシックス錠・細粒,フロセミド錠「NP」など炭酸脱水酵素阻害薬アセタゾラミドダイアモックス錠・末・注射用

網膜障害をきたす全身薬

2018年10月31日 水曜日

網膜障害をきたす全身薬RetinalToxicityofSystemicMedications石龍鉄樹*はじめに網膜は,神経組織,血管と網膜固有の細胞である視細胞から構成される.全身に投与された薬剤は,いずれの構成組織でも障害を発現する可能性がある.休薬により障害の停止,機能回復が期待できるので,これら障害をきたす可能性がある薬物を認識しておくことと詳細な病歴聴取が大切である.網膜に障害をきたすとされているおもな薬剤のリストを表1にあげる.本稿では,最近増えている化学療法薬剤の中からタモキシフェン,パクリタキセル,最近認可された点頭てんかんに対する薬剤のビガバトリン,ほかにインターフェロン,シルデナフィルについて述べる.CIタモキシフェンタモキシフェンはイギリスのCICI社(現アストラゼネカ)によりC1963年に開発された薬剤で,現在はクエン酸塩化合物がノルバデックスとして販売されており,適応は乳癌である.通常量はC20Cmg/日でC40Cmg/日まで増量することができる.眼科領域では網膜障害,角膜障害を生じる.組織学的検討によれば,網膜では薬剤投与により網膜神経線維層,内網状層の細胞内に沈着物が出現する1).網膜障害例の症状は視力障害,色覚異常,視野障害である.網膜障害は総投与量C100Cgで起きることが多いといわれているが,長期投与ではC20Cmg/日でも網膜症が生じるといわれている.眼底所見では黄斑浮腫と白色沈着が両眼性に生じる2).光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では,中心窩に.胞性変化,網膜外層欠損がみられる.この所見はCmaculartelangiectagia(MacTel)Ctype2に類似する.MacTelCtype2では中心窩近傍の網膜内に顆粒状の沈着が生じ,網膜外層が障害される.OCTでは網膜外層の消失を認める.この障害は耳側に生じることが多い.特発性黄斑円孔,加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD),中心性漿液性脈絡網膜症(centralCserouschorioretinopathy:CSC),網膜色素変性症,BEST病,Stargardt病などの変性疾患でも,中心窩網膜外層の欠損が生じることがあるが,いずれも中高年に発症するので,本症との鑑別には詳細な病歴の聴取がポイントとなる.フルオレセイン蛍光眼底造影では,黄斑浮腫に一致した過蛍光がみられる.網膜電図(electroretinogram:ERG)は,錐体応答,杆体応答ともにCa波,b波の振幅低下がみられることがある.発見したら,タモキシフェンの投与を中止すると,黄斑浮腫と網膜外層欠損はある程度の回復が期待できる.網膜沈着は年余にわたり残留するが,長期的には消失し色素沈着を残す.症例C1:44歳,女性.5年前に乳癌の摘出を受け,放射線療法とタモキシフェン投与を受けていた.両眼の視力障害を自覚し,眼科を受診した.矯正視力は両眼C0.7と低下していた.右眼では中心窩および中心窩下方に顆*TetsujuSekiryu:福島県立医科大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕石龍鉄樹:〒960-1295福島市光が丘1福島県立医科大学医学部眼科学講座C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(27)C1339表1網膜に障害をきたすおもな薬剤視細胞と網膜色素上皮間の障害フェノチアジン,キニン,クロロキン,ヒドロキシクロロキン,チオリダジン,クロファジミン,クロルプロマジン,デフェロキサミン,副腎皮質ホルモン,シスプラチン,カルムスチン,パクリタキセル血管障害アミノグリコシド,インターフェロン,エルゴット化合物,タルク,フェニルプロパノールアミン,サルファ誘導体,ヒドロクロロチアジド,アセタゾラミド,トリアムテレン,メトロニダゾール,クロルタリドン,バンコマイシン,ゲムジダビン,フルダラビン,バンコマイシン,ボリコナゾール黄斑浮腫ニコチン酸,ピオグリタゾン,フィンゴリモド,ラロキシフェン,イマニチブ,シルデナフィルクリスタリン網膜症タモキシフェン,タルク,カンタキサンチン,ニトロフラントイン,メトキシフルラン脈絡膜炎リファブチン,シドホビル,プロカインアミド視神経線維障害ビガバトリン視細胞と網膜色素上皮間の障害フェノチアジン,キニン,クロロキン,ヒドロキシクロロキン,チオリダジン,クロファジミン,クロルプロマジン,デフェロキサミン,副腎皮質ホルモン,シスプラチン,カルムスチン,パクリタキセル血管障害アミノグリコシド,インターフェロン,エルゴット化合物,タルク,フェニルプロパノールアミン,サルファ誘導体,ヒドロクロロチアジド,アセタゾラミド,トリアムテレン,メトロニダゾール,クロルタリドン,バンコマイシン,ゲムジダビン,フルダラビン,バンコマイシン,ボリコナゾール黄斑浮腫ニコチン酸,ピオグリタゾン,フィンゴリモド,ラロキシフェン,イマニチブ,シルデナフィルクリスタリン網膜症タモキシフェン,タルク,カンタキサンチン,ニトロフラントイン,メトキシフルラン脈絡膜炎リファブチン,シドホビル,プロカインアミド視神経線維障害ビガバトリン図1症例1(タモキシフェン黄斑症)の初診時カラー眼底写真両眼中心窩に顆粒状沈着を認める.右眼では中心窩下近傍に顆粒状病変が広がっている.左眼は網膜外層欠損に一致する部分にChaloを認める.図2症例1のOCT像両眼の網膜外層欠損,Ellipsoidzoneの断裂を認める.図3症例1のタモキシフェン投与中止後1年の所見カラー眼底写真(左)で顆粒状病変消失.OCT(右)ではCellipsoidzone断裂が消失しているのがわかる.図5症例2のOCT所見図4症例2のカラー眼底写真(パクリタキセル黄斑症).胞様黄斑浮腫を両眼に認める.図6症例2のフルオレセイン蛍光眼底造影左眼:早期像,右眼:後期像.後期まで.胞浮腫内に蛍光色素貯留を認めない.図7症例2の休薬1年後のOCT所見一部.胞形成がみられるが,ほとんどの.胞所見は消失している.底検査で両眼に.胞様黄斑浮腫を認めた(図4).OCTでは中心窩の外顆粒層,内顆粒層に.胞形成がみられた(図5).フルオレセイン蛍光眼底造影では,早期から後期まで蛍光色素貯留がみられないCsilentmacularedemaがみられた(図6).特徴的な蛍光眼底所見とパクリタキセル投与の病歴から,パクリタキセル黄斑症と診断した.パクリタキセル休薬後は,黄斑浮腫は次第に軽快し,1年後にはほぼ正常な黄斑所見に回復した(図7).休薬C1年後の時点で,矯正視力は右眼C0.6,左眼C0.5であった.パクリタキセル黄斑症は早期であれば,急速に消退し,視力障害を残さないことが多いので,早期診断が大切である.CIIIビガバトリンビガバトリン(サブリルCR)はC2016年に小児点頭てんかんの治療薬として薬価承認された薬剤である.点頭てんかんは,出生数C1,000人に対しC0.16.0.42人の割合で発症する難治性疾患で,指定難病である.攣縮,精神運動発達遅滞,脳波異常がみられる.これまでは副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)や抗てんかん薬で治療されてきた.ビガバトリンはCGABAトランスアミナーゼの不可逆的阻害薬で,脳内CGABA濃度を上昇させることにより抗てんかん作用を発揮する.ビガバトリンでは視力障害,求心性視野狭窄などの視野障害が生じる.投与患者の約C20%に生じ.総投与量500Cgを超えると約C40%以上に生じるといわれている.眼底検査では視神経乳頭の蒼白化がみられる.OCTを撮影すると神経線維層菲薄化がみられ,ERGでは錐体反応が低下する.乳幼児では,OCTや視野検査はむずかしいため,定期的な眼底検査と皮膚電極などを用いたERGでのスクリーニングが推奨されている.CIVインターフェロンインターフェロンは肝炎や抗腫瘍療法に用いられる.網膜症が発症する場合はインターフェロン投与開始後,2,3カ月で発症する.眼底所見では,軟性白斑を伴う網膜出血を認める.糖尿病を有する症例では,新たな糖尿病網膜症の発症および進行がみられる.インターフェロンが血中で免疫複合体を形成し,補体CC5aを活性化し血管障害をきたすといわれている.肝炎に対する投与では約C40%の発症が報告されている4).気づかないと糖尿病網膜症が急速に進行し硝子体出血をきたすこともあるので,早期発見が重要である.CVシルデナフィルシルデナフィルは,勃起不全または肺動脈性肺高血圧症に使用されるホスホジエステラーゼC5阻害薬である.視細胞に存在するホスホジエステラーゼC6に対する阻害効果がわずかに存在するといわれており,この作用により色視,羞明などを引き起こす可能性が示唆されている.亜硝酸塩と同様の作用機序をもつことから心血管系を含めた循環器へ対する副作用が知られている.眼科領域では虚血性視神経症,中心性漿液性脈絡網膜症や網膜動脈分枝閉塞症の合併報告がある.これらの眼障害とシルデナフィル服用の直接の関連性は証明されていない.おわりに全身投与薬剤による網膜障害で受診される患者の中には,全身的に倦怠感や悪心などの症状をもつ人も多いので,ともすると病歴聴取や眼科検査が十分に行われず,発見が遅くなってしまうことがある.急がず患者に合わせた診察をすることを心がけ,また散瞳がむずかしい場合はCOCTや広角眼底撮影装置などを用いて検査を行い,できるだけ早期発見し,休薬のタイミングを逃さないことが障害を残さないために大切である.文献1)Kaiser-KupferCMI,CKupferCC,CRodriguesMM:TamoxifenCretinopathy.CACclinicopathologicCreport.COphthalmologyC88:89-93,C19812)McKeownCCA,CSwartzCM,CBlomCJCetal:TamoxifenCreti-nopathy.BrJOphthalmolC65:177-179,C19813)SmithSV,BenzMS,BrownDM:CystoidmacularedemasecondaryCtoCalbumin-boundCpaclitaxelCtherapy.CArchCOphthalmolC126:1605-1606,C20084)川崎綾,門正,水本桂ほか:C型慢性肝炎患者におけるインターフェロン網膜症の発症因子についての検討.臨眼58:517-519,C2004(31)あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018C1343

角膜障害をきたす全身薬

2018年10月31日 水曜日

角膜障害をきたす全身薬AdverseReactionofCorneaCausedbySystemicDrugs山田昌和*はじめに薬剤による角膜障害は点眼薬や眼軟膏など眼局所投与によるものと全身薬によるものに大別される.また,薬剤起因性角膜障害はその機序によって,薬剤の沈着によるもの,薬剤毒性によるもの,薬剤に対する免疫反応によるものの三つに大別される1).ごく一般的には,角膜は無血管であるために全身投与された薬剤の影響を受けにくい一方で,高濃度で眼表面に投与される点眼薬の影響を受けやすい.このために薬剤起因性角膜障害という場合,臨床的には点眼薬によるものの頻度が圧倒的に多い.しかし,全身薬のなかには特徴的な角膜障害を生じるものや重篤な角膜障害を生じるものがあり,眼科医として知っておくべき薬剤と病態がいくつかある.ここでは全身薬による角膜障害の最近のトピックスをいくつか取りあげて概説する.CI薬剤沈着による角膜障害1.角膜上皮の薬剤沈着薬剤が上皮に沈着する場合の多くは,脂溶性の高い薬剤の長期内服によるものであり,上皮に淡い渦巻き状,または線状の混濁をきたす.このパターンを示す薬剤としては,非ステロイド系抗炎症薬のインドメサシンやナプロキセン,全身性エリテマトーデスの治療薬であるヒドロキシクロロキン,抗癌薬であるタモキシフェン,抗不整脈薬のアミオダロンなどがあげられ,臨床的にはアミオダロンの頻度が高い(図1).この上皮混濁が視力障害など自覚的な愁訴の原因となることはほとんどないが,Fabry病の渦巻き状角膜上皮混濁との鑑別を要することがある(図2).Fabry病はCaガラクトシダーゼ欠損症であり,セラミドなどの糖脂質が上皮に沈着,混濁を呈する.希少疾患であるが,2004年に酵素補充療法が導入されるようになり,製薬会社と一部の内科医が高い関心をもっている.眼科にCFabry病の疑いで紹介されることがあるが,そのほとんどはアミオダロン角膜症であることに注意したい.C2.角膜実質の薬剤沈着抗精神薬であるフェノチアジン系の薬剤は長期連用により実質,とくにCDescemet膜直上に茶褐色の沈着を生じることがある.フェノチアジン系の薬剤により水晶体のヒトデ状の白色混濁,結膜に茶褐色の色素沈着を生じることも知られている.また,関節リウマチの治療薬として用いられる金も,実質の深層を中心として微細な混濁を生じることがある.CII薬剤毒性による角膜障害1.抗癌薬による角膜上皮障害抗癌薬による角膜障害で有名なのはフッ化ピリミジン系経口抗癌薬,ティーエスワン(TS-1CR)による角膜上皮障害であるが,ここでは別稿に譲ることとし,TS-1CR以外の抗癌薬による角膜障害について述べる.抗癌薬による角膜への影響は角膜上皮に表れやすい.*MasakazuYamada:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕山田昌和:〒181-8611東京都三鷹市新川C6-20-2杏林大学医学部眼科学教室C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(23)C1335図1アミオダロン角膜症図2Fabry病の角膜混濁薬剤の上皮内沈着によって渦巻き状の角膜混濁がみられる.一上皮に渦巻き状の混濁を呈して,診断的価値がある.般に視力障害など自覚症状を伴わない.-図3パクリタキセルによる角膜上皮障害図4トラスツズマブ―エムタンシンによる角膜上皮障害角膜上方の輪部から中央部にかけて流れるような生体染色パタフルオレセイン生体染色によって角膜上方の輪部から広がる異ーンを示す.型上皮様の病変が描出されている.図5点眼薬による薬剤起因性角膜上皮障害渦巻き状角膜症では点眼薬によるものが考えやすい.図6アマンタジンによる角膜内皮障害Descemet膜皺襞を伴う著明な角膜実質浮腫がみられる.

ヒドロキシクロロキン網膜症

2018年10月31日 水曜日

ヒドロキシクロロキン網膜症HydroxychloroquineRetinopathy榎本寛子*近藤峰生*はじめにヒドロキシクロロキン硫酸塩(hydroxychloroquinesulfate:HCQ)は,抗炎症作用,免疫調節作用,抗マラリア作用,抗腫瘍作用など多岐にわたる作用を有する薬剤である.HCQは皮膚エリテマトーデス(cutaneouslupuserythematosus:CLE)および全身性エリテマトーデス(systemiclupuserythematosus:SLE)に対する標準的な治療薬として位置づけられており,2015年7月にプラケニルR錠がCLE,SLEに対して承認され,同年9月に発売された.HCQは,海外ではCLE,SLE,関節リウマチの標準的な治療薬とされているが,米国で初めて承認が得られて以降,60年間の臨床使用のなかで適正使用に関する研究が続けられてきた.もっとも留意すべき副作用である網膜障害(ヒドロキシクロロキン網膜症)は,発現はまれであるが本剤を使用している患者に一定の割合でみられる副作用であり,本剤を安全に使用するには眼科医の関与が必須である.I臨床所見典型的な眼底所見として,初期には中心窩周辺の網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)に顆粒状変化がみられ,進行すると黄斑部にリング状の変性,bull’seyemaculopathy(標的黄斑症)が出現し,末期には周辺部網膜までメラニン色素沈着を伴った網脈絡膜萎縮をきたす1).HCQによる毒性の発生機序は明らかになっていないが,組織学的検査では,網膜全層にわたる神経細胞の変性と網膜色素上皮細胞の萎縮が認められる1).また,電子顕微鏡下では網膜神経節細胞,視細胞および網膜色素上皮細胞に多層構造が認められており,この多層構造体の蓄積はリソソーム阻害や蛋白質合成阻害に起因すると考えられる1).初期には,視力は保たれるが中心周囲の視野障害をきたし,進行すると視力低下や重篤な視野障害を生じる2).また,内服を中止しても回復せず,進行することもあるとされている2).II網膜症の発症頻度ヒドロキシクロロキンによる網膜症の発症頻度は,投与量や網膜症診断に用いた検査,および基準が異なるため一概に比較することはできないが,多くは1%未満や数%と報告されている2).用量においては6.5mg/理想体重kgあるいは400mgを超えないようにする規定が提唱されている2).また,累積投与量に関しては,わが国の添付文書では200g,2011年の米国眼科学会(AmericanAcademyofOph-thalmology:AAO)のガイドラインでは1,000.gがリスク因子としている2).網膜障害は投与開始から5~7年を超えると発現率が1%を超えるとの報告もあり,米国では投与開始から5年超から1年に1度の眼科検査を推奨している1).わが国においては,「長期にわたって投与する場合には,少*HirokoEnomoto&*MineoKondo:三重大学大学院医学研究科臨床医学系講座眼科学〔別刷請求先〕榎本寛子:〒514-8507三重県津市江戸橋2-174三重大学大学院医学研究科臨床医学系講座眼科学0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(17)1329なくとも年C1回眼科検査を実施すること」とし,加えて本剤の添付文書にあるように,累積投与量がC200Cgを超えた患者,肝機能障害患者または腎機能障害患者,視力障害のある患者,あるいは高齢者は網膜障害など眼障害のリスクが高い患者は,さらに頻回に検査を実施することを規定している1).CIII網膜症の発現部位の人種差網膜症の発現部位に関する人種差については,アジア人では傍中心窩のみでなく,黄斑辺縁部での障害が他の人種に比べて高頻度であるとの報告が最近されており3,4),中心C10°のみでなくその周辺部も含めた検査(たとえばC30°以内)の重要性も示されている5).CIV網膜症以外の眼障害6)HCQによる網膜症以外の眼障害として,角膜症,白内障,調節障害,霧視,外転神経障害,視神経萎縮,睫毛の白色化などの報告がある.角膜症はCHCQ内服で発生するが,中止にて可逆的である.角膜症の発現が網膜症のリスクファクターであるかについては意見が分かれている.白内障については,HCQによる眼毒性として報告されているが,高齢者の発現頻度が高いため,関連性を確定することがむずかしい.CV眼科検査の実施時期1)本剤による眼障害を早期に検出するために,本剤投与開始前および投与中も定期的に眼科検査を主治医と連携することが重要である.眼科検査のタイミングとして,処方前,処方開始後C1回/年を基本として,眼障害に対してリスク因子を有する場合は頻回に検査を実施する.①処方前:患者が禁忌対象(SLE網膜症を除く網膜症,黄斑症の既往や合併)に該当しないことを確認すること,および本剤投与前のベースラインを把握することを目的として実施する.②処方開始後:眼障害の早期発見を目的として実施する.②眼障害に対する下記のリスク因子に該当する場合は頻回に検査を行う.・本剤の累積投与量がC200Cgを超えた患者(累積投与量がC1,000.gを超えたら要注意)・高齢者・肝機能障害,腎機能障害患者・視力障害のある患者,SLE網膜症患者,投与後に眼科検査異常を指摘された患者一般的な投与方法は「200Cmg錠を隔日でC1錠そして2錠」である.すなわち,本剤の累積投与量C200Cgとなる期間の目安としては,1日投与量をC300Cmgとすると2年で累積投与量がおよそC200Cg,1日投与量をC200CmgとするとC3年でC200.gとなる2).CVI本剤の添付文書に規定されている眼科検査1)および検査所見の推移規定されている眼科検査は,①視力検査,②細隙灯顕微鏡検査,③眼圧,④眼底検査,⑤スペクトラルドメイン光干渉断層計(spectral-domainCopticalCcoherencetomography;SD-OCT),⑥視野検査,⑦色覚検査である.これらC7項目は必須とされている.以下に詳細に述べる.①視力検査:網膜症,およびそれ以外の眼障害による視機能低下を捉える目的で行う.②細隙灯顕微鏡検査:網膜症以外の眼障害による外眼部,前眼部などの状態,変化を捉える目的で行う.③眼圧:わが国で行われた臨床試験では,海外市販後において眼圧変化にかかわる副作用の報告はないが,本剤の適応症であるCSLE,CLEでは経口副腎皮質ステロイドを併用している患者もいることから,眼圧測定を行うこととしている.④眼底検査(図1):網膜症,黄斑症,黄斑変性による眼底の状態,変化の詳細を捉えるために眼底カメラ撮影を行う.アジア系人種では黄斑部より周辺にも病変が出現することがあると報告されており,広角眼底カメラでの撮影も検討されている.⑤CSD-OCT(図2,3):SD-OCTにより傍中心窩から黄斑辺縁領域にかけて網膜層における局所的な菲薄化を捉えることで,本剤による網膜障害の検出が可能である.この変化は,SD-OCTなどの古い機種では適切に捉えられないことに注意する.初期症例はわずかな変化,中期症例ではCellipsoidzone(innerCsegment-outerCseg-1330あたらしい眼科Vol.C35,No.C10,2018(18)図1ヒドロキシクロロキン網膜症の眼底所見黄斑部にCRPEの萎縮がリング状(.)にみられる.(文献C7の図を承諾を得て改変引用)図2ヒドロキシクロロキン網膜症の初期の視野(HFA10.2)とSD.OCT所見初期では,傍中心窩にわずかな感度低下領域がみられ(左),SD-OCTでは傍中心窩のCellipsoiodzoneが不鮮明となる().(文献C8の図を承諾を得て改変引用)図3ヒドロキシクロロキン網膜症の中期の視野(HFA10.2)とSD.OCT所見初期では,黄斑部に輪状の暗点が出現し(左),SD-OCTでは傍中心窩のCellipsoidzoneが欠損し,外顆粒層も菲薄化する().(文献C9の図の承諾を得て改変引用)図4ヒドロキシクロロキン網膜症の多局所ERG所見a:正常,b:ヒドロキシクロロキン網膜症.網膜症の患者では,黄斑部の局所CERGの振幅が低下する.(文献C9の図を承諾を得て改変引用)図5ヒドロキシクロロキン網膜症の眼底自発蛍光所見a:正常,Cb:初期のヒドロキシクロロキン網膜症,Cc:中期,Cd:進行期.初期では輪状の過蛍光がみられるが,中期や進行期になるとCRPEが萎縮して中心部が低蛍光となる.(文献C9の図を承諾を得て改変引用)表1ヒドロキシクロロキン網膜症スクリーニングのポイント野,色覚等を,視力検査,細隙灯顕微鏡検査,眼圧検査,眼底検査(眼底カメラ撮影,光干渉断層計検査を含む),視野テスト,色覚検査の眼科検査により慎重に観察すること.長期にわたって投与する場合には,少なくとも年にC1回これらの眼科検査を実施すること.また,以下の患者に対しては,より頻回に検査を実施する.・累積投与量がC200.gを超えた患者・肝機能障害患者または腎機能障害患者・視力障害のある患者・高齢者②CSLE網膜症を有する患者については,本剤投与による有益性と危険性を慎重に評価したうえで,使用の可否を判断し,投与する場合は,より頻回に眼科検査を実施する.③視野異常などの機能的な異常は伴わないが,眼科検査(OCT検査など)で異常が認められる患者に対しては,より頻回に眼科検査を実施するとともに,投与継続の可否を慎重に判断する.④視力低下や色覚異常などの視覚障害が認められた場合は,直ちに投与を中止すること.網膜の変化や視覚障害は投与中止後も進行する場合があるので,投与を中止した後も注意深く観察する.⑤視調節障害,霧視などの視覚異常や低血糖症状が現れることがあるので,自動車の運転など危険を伴う機械の操作や高所での作業などには注意させる.CVIIISLE網膜症網膜症または黄斑症の患者は既往も含めて投与禁忌であるが,SLE網膜症だけは慎重投与となっている1).SLE網膜症は,本剤投与によって発現する網膜症(ヒドロキシクロロキン網膜症)とは発現機序や経過中の眼底所見などが異なるため鑑別可能である1).したがって,網膜症のなかでもCSLE網膜症の既往や合併は本剤の使用によりCSLEの病態改善に対して有益性が危険性を上回る場合にのみ慎重に投与することが可能である1).CIXわが国での臨床試験における眼障害の発現1)活動性皮膚病変を有するCCLEおよびCSLE患者を対象C1334あたらしい眼科Vol.C35,No.C10,2018に国内第CIII相試験が実施された.本剤を投与された101例中C31例に副作用(臨床検査値異常も含む)が認められた.眼障害に関連した副作用は,眼乾燥,結膜炎,網脈絡膜萎縮,硝子体浮遊物が各C1例であり,いずれも軽度であり,本剤投与は継続された.試験期間中に網膜症や黄斑症の発現はなかった.おわりにわが国では,まだヒドロキシクロロキン網膜症の報告はないが,2015年C9月にプラケニルCR錠が販売されていることから累積投与量がC200Cgとなる症例が出てきているはずであり,つまりヒドロキシクロロキン網膜症発症リスクが高い症例が増えてくると考えられる.他科との連携を密に行い,HCQを安全に使用することために眼科医として尽力していく必要があるといえる.文献1)近藤峰生,篠田啓,松本惣一ほか:ヒドロキシクロロキン適正使用のための手引き.日眼会誌C120:419-428,C20162)篠田啓,松本惣一,近藤峰生ほか:ヒドロキシクロロキン網膜症のスクリーニング.日本の眼科C88:80-84,C20173)MellesCRB,CMarmorMF:TheCriskCofCtoxicCretinopathyCinCpatientsConClong-termChydroxychloroquineCtherapy.CJAMAOphthalmolC132:1453-1460,C20144)LeeCDH,CMellesCRB,CJoeCSGCetal:PericentralChydroxy-chloroquineCretinopathyCinCKoreanCpatients.OphthalmologyC122:1252-1256,C20155)MarmorCMF,CKellnerCU,CLaiCTYCetal;AmericanCAcade-myCofOphthalmology:RecommendationsConCscreeningforCchloroquineCandChydroxychloroquineCretinopathy(2016Revision).COphthalmologyC123:1386-1394,C20166)BrowningDJ:HydroxychloroquineCandCchloroquineCreti-nopathy.CSpringer,CNewYork,C20147)SaurabhCK,CRoyCR,CThomasCNRCetal:MultimodalCimagingCcharacteristicsCofChydroxychloroquineCretinopathy.CIndianCJOphthalmolC66:324-327,C20188)AllahdinaCAM,CStetsonCPF,CVitaleCSCetal:OpticalCcoher-enceCtomographyCminimumCintensityCasCanCobjectiveCmea-sureCforCtheCdetectionCofChydroxychloroquineCtoxicity.CInvestOphthalmolVisSciC59:1953-1963,C20189)KellnerCU,CRennerCAB,CTillackH:FundusCauto.uores-cenceCandCmfERGCforCearlyCdetectionCofCretinalCalterationsCinCpatientsCusingCchloroquine/hydroxychloroquine.CInvestOphthalmolVisSciC47:3531-3538,C2006(22)

TS-1®による眼障害

2018年10月31日 水曜日

TS-1Rによる眼障害OcularComplicationofTS-1R末岡健太郎*近間泰一郎*はじめに5-フルオロウラシル(5-FU)配合薬であるテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(ティーエスワン,以下TS-1R)は日本で開発され,1999年に胃癌に対して承認された経口抗癌薬である.その後,頭頸部癌,大腸癌,肺癌,乳癌,膵臓癌などに適応が拡大され,TS-1Rは国内でもっとも汎用されている抗癌薬である.近年の投与患者数の増加に伴い,涙道閉塞や角膜障害という眼副作用が問題視されている.I涙道障害2005年にEsmaeliらがTS-1Rの副作用として涙道通過障害を報告し1),2012年には涙道閉塞が重大な副作用として添付文書に記載された.しかしながら,発症頻度を含めその実態についての詳細は不明であった.そこで,流涙症研究会がTS-1Rによる涙道障害について多施設研究を行い,2012年に報告した2).TS-1Rによる涙道狭窄の発生頻度は約10~25%2~4),発症時期は6.8±8.4カ月2),ほんどが両側性で,涙点や涙小管が高頻度に障害を受ける2)(図1).涙道障害の起こるメカニズムについては,血漿中から涙液に移行したTS-1Rによる涙道内腔上皮の肥厚と間質の線維化が原因と考えられている.眼科による検査は,涙液メニスカス高測定,涙点狭窄・閉塞の確認,涙管通水検査を行い,必要に応じてブジーによる涙小管閉塞部位の確認を行う(図2).TS-1R内服中は,流涙症状がなく,通水所見にも問題がない場合でも,TS-1Rを含む涙液をwashoutし薬物濃度を下げる目的で,防腐剤無添加人工涙液(ソフトサンティアR)を1日6回以上点眼するように指導し,処方医の受診に併せて通水検査を行うことが望ましい.涙道障害が疑われた際の治療介入の時期について明確な基準はないが,TS-1Rによる涙道閉塞は不可逆的変化をきたすことが多いため,TS-1R内服患者に流涙症状が少しでも生じた時点で速やかに涙管チューブを留置するよう当科では心がけている(図3).坂井らの報告においても,流涙などの症状発症から治療までの期間は,チューブ留置を完了し経過が良好な群では平均6.2±8.2カ月であるのに対して,チューブ留置を完了できなかった群では12.0±9.0カ月とより長く,速やかなチューブ留置が望ましいとしている2).上下いずれかの涙小管しか開放できなかった場合には,開放できた涙小管に2本のチューブを挿入するか(図4),涙点プラグ付き単管型涙道チューブ(涙道チューブMASTERKA,イーグル涙道チューブ)(図5)を用いる.チューブ留置後は,チューブ脇から定期的な通水洗浄を行う.チューブ留置期間についてもとくに決まってはいないが,経過中に留置チューブを抜去した66側のうち16側に再閉塞が生じたと報告されており2),当科ではTS-1R内服中は継続して留置し,内服終了後2~3カ月してから抜去するようにしている.TS-1R投与が長期に及ぶ場合,チューブ汚染が懸念されるため,定期的なチューブの入れ替*KentaroSueoka&*TaiichiroChikama:広島大学大学院医歯薬保健学研究科視覚病態学(眼科学)〔別刷請求先〕末岡健太郎:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医歯薬保健学研究科視覚病態学(眼科学)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(11)1323図1TS-1Rによる涙点狭窄症例涙小管閉塞は矢部・鈴木分類Cgrade2~3であった.grade1grade2grade3図2涙小管閉塞の矢部・鈴木分類(改変版)grade1:涙点よりブジーを挿入して,11Cmm以上挿入できて,涙道通水試験で上下涙点間の流通が認められる場合.grade2:涙点より7~8Cmmの部位で閉塞しており,上下涙点間の流通がない場合.grade3:涙点より挿入できるのが5~6Cmm以下の場合.(眼科手術C21:265-268,2008より引用)図3早期治療介入例a,b:通水検査で異常はなかったが,わずかに流涙症状が出現していたため早期に治療介入した症例(Ca:治療前,Cb:涙管チューブ留置後).c,d:別症例における涙管チューブ挿入前後の涙液メニスカス高変化(Cc:治療前,Cd:治療後).図4下涙小管のみ開放できた例右上涙小管は開放できず,涙管チューブ中央部にビーズを通して右下涙小管にC2本のチューブを挿入した症例.Ca図5涙点プラグ付き単管型涙道チューブa:涙道チューブMASTERKA.Cb:イーグル涙道チューブ.abc図6Jonesチューブ留置症例a:適切な位置に留置されている.b:鼻腔側に迷入している.c:眼球側に変位し角膜びらんを発症している.図7TS-1角膜症にみられたシート状病変図8TS-1角膜症にみられたSPK状病変図9TS-1角膜症にみられたクラックライン上皮の脱落が亢進し,周囲にCSPKを伴うひび割れ状の線状混濁(クラックライン)がみられる.図10強膜散乱法を利用したシート状病変の観察ディフューザーを利用した観察(Ca)では上皮の透過性の低下はわかりにくいが,強膜散乱法を用いた観察(Cb)では,上方の輪部から連続する透明性の低い異型上皮の侵入が観察される.C-