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悪性リンパ腫治療経過中の播種性血管内凝固症候群に合併した両眼Acute Macular Neuroretinopathyの1例

2018年10月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(10):1427.1431,2018c悪性リンパ腫治療経過中の播種性血管内凝固症候群に合併した両眼AcuteMacularNeuroretinopathyの1例志水智香*1,2石田友香*1相馬亮子*1,3大野京子*1*1東京医科歯科大学眼科学教室*2柏市立柏病院眼科*3玉川病院眼科CACaseofAcuteMacularNeuroretinopathyinBothEyesAssociatedwithDisseminatedIntravascularCoagulationduringMalignantLymphomaTreatmentTomokaShimizu1,2)C,TomokaIshida1),RyokoSoma1,3)CandKyokoOhno-Matsui1)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,TokyoMedicalandDentalUniversity,2)CKashiwaMunicipalHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TamagawaHospitalCDepartmentofOphthalmology,緒言:Acutemacularneuroretinopathy(AMN)は血流障害が原因と考えられる網膜外層の異常により黄斑部に赤茶色・白色病変を呈するまれな疾患である.今回,両眼に出血を伴う多発性CAMNの症例を経験した.症例:56歳,男性.播種性血管内凝固症候群を併発したCT細胞リンパ腫の化学療法中に両眼の中心暗点を生じた.両眼に水滴状・楔状の白色病変と,Roth斑を含む網膜浅層出血の多発を認めた.OCTで外網状層からCellipsoidzoneに高反射領域がありCAMNと診断した.発症C3週間後に消化管出血,多臓器不全にて死亡した.考察:本症例はさまざまな大きさと形状のCAMN病変が網膜出血やCRoth斑を伴って多発し,多層性多発性の血流障害が示唆された.発症C3週間後に死亡しており,これらの所見は,全身の重篤な血栓傾向や易出血性を示唆していた可能性がある.CIntroduction:Acutemacularneuroretinopathy(AMN)israrediseasearisingfromdisorderintheouterreti-na,CpresentingCreddish-brownCorCwhiteClesionsCinCtheCmacula.CItCisCsuggestedCthatCtheCcauseCisCinterruptionCinCmicrovasculation.CWeCexperiencedCaCcaseCofCmultipleCAMNCwithCretinalChemorrhagesCinCbothCeyes.CCase:A56-year-oldmalewithdisseminatedintravascularcoagulationpresentedcentralscotomainbotheyesduringTcelllymphomaCchemotherapy.COphthalmoscopyCrevealedCmultipleCteardropCandCwedge-shapedCareasCwithCsuper.cialCretinalChemorrhages,CincludingCaCRothCspot.COCTCrevealedChyper-re.ectiveCbandsCfromCouterCretinaCtoCellipsoidCzone.Threeweeksafteronset,thepatientdiedduetogastrointestinalhemorrhageandmultipleorganfailure.Con-clusion:ThiscaseshowedvarioussizesandshapesofAMNwithretinalhemorrhagesandaRothspot,suggest-ingmultipleblood.owocclusionsinmultiplelayers.Theseaspectsmayimplyseriousthrombogenesisandhemor-rhagictendencythroughoutanentirebody.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(10):1427.1431,C2018〕Keywords:acutemacularneuroretinopathy(AMN),播種性血管内凝固症候群,Roth斑,T細胞リンパ腫.acutemacularneuroretinopathy(AMN)C,disseminatedintravascularcoagulation(DIC)C,Rothspot,Tcelllymphoma.CはじめにAcuteCmacularneuroretinopathy(AMN)はC1975年CBosとCDeutmanによって初めて報告された,黄斑部の網膜外層の異常により視力低下,中心暗点,傍中心暗点をきたす比較的まれな網膜疾患である1).典型的には黄斑部に赤茶色または白色の楔状または花弁状や涙滴状病変がみられ,その先端は中心窩に向いていることが特徴である.網膜表層出血を伴う症例の報告もあるが,少数である2).光干渉断層計(opticCcoherencetomography:OCT)所見では網膜内の高反射病変,網膜の菲薄化,ellipsoidzoneの途絶や消失などを示すと報告されている2).フルオレセイン蛍光造影検査(.uores-ceinangiography:FA)では,多くが正常所見であるが,少数の例で低蛍光領域を認め2,3),インドシアニングリーン蛍光造影検査(indocyanineCgreenangiography:ICGA)で〔別刷請求先〕石田友香:〒113-8519東京都文京区湯島C1-5-45東京医科歯科大学眼科学教室Reprintrequests:TomokaIshida,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,TokyoMedicalandDentalUniversity,1-5-45Yushima,Bunkyo-ku,Tokyo113-8519,JAPANCも同様に少数の例で低蛍光であったという報告がある2,4).発生機序として微小毛細血管叢の血流障害が考えられているが,梗塞部位については不明な点が多い2,5.8).今回,播種性血管内凝固症候群(disseminatedintravascu-larcoagulation:DIC)を併発したCT細胞リンパ腫の化学療法中に,両眼に出血を伴う多発性CAMNを発症し,そのC3週間後に消化管出血,多臓器不全にて死亡したまれな症例を経験した.このような眼底所見は全身状態悪化の徴候である可能性があり,重要な所見と考えられるため,ここに報告する.CI症例患者:56歳,男性.現病歴:末梢性CT細胞リンパ腫化学療法中に,DICを併発し東京医科歯科大学附属病院(以下,当院)内科入院中であった.突然の両眼の中心部の見えにくさを訴え,発症C5日後に当院眼科を紹介受診した.既往歴:難治性末梢性CT細胞リンパ腫,汎血球減少,重症筋無力症,ステロイド糖尿病初診時所見:視力は右眼C0.02(0.9C×sph.9.00D(cyl.0.75CDAx80°),左眼C0.03(0.4C×sph.9.00D(cyl.1.00DCAx170°).眼圧は右眼C20mmHg,左眼C20mmHg.前眼部所見は,両眼の軽度白内障のみであった.右眼の眼底所見は,中心窩から鼻下方向に放射状に広がる水滴状の白色病変が一つと,視神経乳頭上方に網膜浅層の出血が観察された(図1a,b).黄斑付近の網膜外層のCenfaceOCTでは,水滴状病変は,内部がほぼ均一な高輝度な病変として,カラー眼底写真よりも明瞭に観察された(図1e).また,その鼻側に同様な高輝度の小さい円形病変を認めたが,この病変は,検鏡的にも,カラー眼底写真でも観察されなかった病変であった(図1e).これらの病変はCOCTのCBスキャンではCellipsoidzoneから外網状層にかけて広がる高輝度病変としてみられた(図1d).とくに水滴状病変は,ellipsoidzoneよりも外網状層よりのほうが幅の広い台形を示した.OCTangiography(初診からC7日目に撮影)のCenface所見では網図1右眼眼底所見a:カラー眼底写真(50°).黄斑部鼻下側に水滴状の白色病変を認めた.また,視神経乳頭の上方に網膜浅層の出血(.)を認めた.Cb:カラー写真拡大図.黄斑鼻下側に水滴状の白色病変(.)を認めた.d:黄斑部水滴状病変のCsweptCsourceOCT(Ccのカラー眼底写真の点線部位のCBスキャン).CEllipsoidzoneから外網状層にかけて大小の高輝度病変がC2箇所(2個の.の間と.の病変)みられた.Ce:黄斑部水滴状病変のCsweptsource-OCT(網膜外層レベルのCenface画像).カラー眼底写真と同形状の水滴状病変がカラー眼底写真より明瞭に観察された.また,カラー眼底写真で判別できない小さな病変(.)が描出された.Cf~i:黄斑部のカラー写真(Cf)と同部位のCOCTangiography像(Cg:網膜表層,Ch:網膜深層,Ci:脈絡膜毛細血管板層).どの層においても病変部位の血流障害は認めなかった.gh図2左眼眼底所見a:カラー眼底写真(50°).黄斑部に双葉状の白色病変と出血を認めた.Cb:黄斑部拡大図.水滴状が中心でつながったような双葉状の白色病変(.)がみられた.二股の中心に小さい斑状出血(.)とその鼻側に大きいRoth斑(.)を含む網膜浅層出血を認めた.Cd:SweptsourceOCT(Ccのカラー眼底写真の点線部位でのCBスキャン).中心窩付近の小出血は浅い高輝度病変としてみられた(.).水滴状白色病変は,ellipsoidzoneから外網状層にかけて広がる高反射病変として認めた(.).f:SweptsourceOCT(Ceのカラー眼底写真の点線部位でのCBスキャン).水滴状病変はCdと同様に網膜外層に高輝度病変として認めたが,網膜浅層出血下の外層部位まで病変が連続していた(.).g~j:黄斑部付近のカラー写真(Cg)とそれに対応するCOCTCangiogra-phy.網膜表層(Ch)の血流は保たれていたが,網膜深層(Ci)で病変よりやや広範囲(.)に低信号領域あり,灌流の欠如はなかったが灌流低下を認めた.脈絡膜毛細血管板層(Cj)は出血によるブロックにて評価不能であった.図3Goldmann視野検査左眼に傍中心暗点を認めた.膜表層と深層の毛細血管網にも脈絡膜毛細血管板にも病変部の中心窩の癒合部分の根本に小さい網膜出血がみられた.黄位の血流障害は認めなかった(図1g~i).斑部の鼻側には,Roth斑を含む大きい網膜浅層出血を認め左眼の眼底所見は黄斑部に中心窩から広がる水滴状病変がた(図2a,b).二葉状病変のCOCTのCBスキャンでは中心窩中心窩で癒合した二葉状の白色病変を認めた.その白色病変に網膜の浅層出血がみられ,白色病変自体はCellipsoidCzoneCから外網状層にかけて外網状層側が扇状にやや広がるような形状の高輝度病変として観察された(図2d).二葉状病変の二葉部分のうちの上側の病変は,Roth斑を伴う網膜浅層出血下の網膜外層部位まで広がっていることがCOCTで確認された(図2f).また,OCTangiography(初診からC7日後に撮影)のCenface所見では網膜表層の血流は保たれていたが,深層毛細血管網では病変より少し広い範囲で低信号の領域あり,灌流の欠如はなかったが低下を認めた.脈絡膜毛細血管板層は,出血によるブロックにて評価不能だった(図2h~j).Goldmann視野検査では左眼の傍中心暗点を認めた(図3).本症例は,全身状態が不良であるために,蛍光眼底造影検査は施行できなかったが,検鏡的眼底所見とCOCT所見より両眼に発症した出血を伴ったCAMNと診断した.経過:OCTangiography撮影C2週間後にCDICに伴う消化管出血を起こし,多臓器不全にて死亡した.CII考察本症例は,両眼に大小のCAMNと網膜浅層出血(Roth斑含む)が多発し,網膜浅層と深層または脈絡膜内で多層性多発性の梗塞が起きた可能性が示唆されるまれな症例である.T細胞性悪性リンパ腫にCDICを併発し,AMN発症からC3週間後に多臓器不全で死亡したが,眼病変が全身の微小な血流障害を反映し,厳しい生命予後を表していた可能性がある.AMNは狭義CAMN(OCTで外網状層より網膜外層にかけて病変を認める),paracentralCacuteCmiddleCmaculopathy(PAMM)(OCTで外網状層より内顆粒層にかけて病変を認める),type3AMN(外網状層から外顆粒層にかけての病変で網膜色素上皮とCBruch膜,ellipsoidzoneとCinterdigita-tionzoneに病変を伴う)のC3パターンが報告されている8,9).本症例は,外網状層より外層にCOCT変化を認め,狭義AMNの診断であった.発症の契機として感染や発熱性疾患,経口避妊薬の服用,エピネフリン・エフェドリンの使用などが考えられ,全身状態に大きな問題がない症例に発症することが多いが,一方で重篤な全身外傷,全身性ショック,芽球性B細胞リンパ腫2,10)など全身状態が悪い疾患でも併発の報告がある.出血を伴う例は,外傷,中毒,潰瘍性大腸炎,芽球性CB細胞リンパ腫に報告があり,また,AMNの多発している症例では風邪症状,経口避妊薬の服用,エピネフリン使用,子癇前症などでの報告がある2,10).しかし,筆者らの調べた限りでは,Roth斑を伴ったCAMN症例の報告は今までなく,本症例はまれな眼底所見を呈したといえる.本症例は中心窩から放射状に広がる水滴状病変と二葉状病変を示し,Henle線維層の走行と一致して病変が放射状に広がっているようにみられた.それらの病変はCOCTでも中心窩付近のCellipsoidzoneから始まり,外網状層に向かうにつれて広がりを見せ,Henle線維層の細胞体である視細胞の障害を示唆した.視細胞の酸素供給はC85.90%は脈絡膜から,残りが深層毛細血管網から栄養されていることが知られており11),狭義のCAMNの原因として,それらの虚血が考えられる.狭義CAMNで詳細な血流変化を網脈絡膜の層別にとらえることのできるOCTangiographyの報告は,今までThanosらの報告5)のみであるが,彼らは狭義CAMNの原因を脈絡膜毛細血管網レベルの血流低下と考察している.今回,筆者らも,初診からC7日目にCOCTangiographyの撮影を行い,右眼は網膜深層の血流障害はみられず,脈絡膜毛細血管板は病変のブロックのため評価不能であった.AMN発症C3日後に梗塞していた血管がCFA,ICGAで再灌流したのを確認した報告3)もあり,AMNは一過性の血流障害の場合もある可能性も指摘されているため,今回右眼の病変のCOCTangiography所見の解釈として,①発症時には網膜血管障害があったが,一過性の血流障害が解消された後の撮影のため所見が得られなかった,または,②脈絡膜毛細血管板の血流障害であったが,病変ブロックで見えなかったという二つの可能性が考えられた.一方,左眼は明らかとはいえないが,網膜深層の毛細血管血流にわずかな低下を示し,網膜深層の血流障害の可能性も示唆された.これらの,障害部位については,今後多数例における詳細な検討が必要である.本症例はCOCT所見から狭義のCAMNであったが,さまざまな大きさと形状の病変が,浅層の出血やCRoth斑を伴って多発し,多層性多発性の血流障害が示唆された.本症例はAMN発症C3週間後に死亡しており,これらの所見は,全身の重篤な血栓傾向や易出血性を示唆していた可能性があり,注意が必要である.文献1)BosCPJ,CDeutmanAF:AcuteCmacularCneuroretinopathy.CAmJOphthalmolC80:573-584,C19752)BhavsarCKV,CLinCS,CRahimyCECetal:AcuteCmacularCneu-roretinopathy:aCcomprehensiveCreviewCofCtheCliterature.CSurvOphthalmolC61:538-565,C20163)QuerquesG,LaSpinaC,MiserocchiEetal:Angiograph-icCevidenceCofCretinalCarteryCtransientCocclusionCinCpara-centralacutemiddlemaculopathy.RetinaC34:2158-2160,C20144)HashimotoCY,CSaitoCW,CMoriCSCetal:IncreasedCmacularCchoroidalCbloodC.owCvelocityCduringCsystemicCcorticoste-roidCtherapyCinCaCpatientCwithCacuteCmacularCneuroreti-nopathy.ClinOphthalmolC6:1645-1649,C20125)ThanosA,FalaLJ,YonekawaYetal:Opticalcoherencetomographicangiographyinacutemacularneuroretinopa-thy.JAMAOphthalmolC134:1310-1314,C20166)DelCPortoCL,CPetzoldA:OpticalCcoherenceCtomographyCangiographyCandCretinalCmicrovascularCrami.cationCinCacuteCmacularCneuroretinopathyCandCparacentralCacuteCmiddlemaculopathy.SurvOphthalmolC62:387-389,C20177)PacenPE,SmithAG,EhlersJP:Opticalcoherencetomog-raphyCangiographyofacutemacularneuroretinopahyandparacentralacutemiddlemaculopathy.JAMAOphthalmolC133:1478-1480,C20158)SarrafCD,CRahimyCE,CFawziCAACetal:ParacentralCacuteCmiddlemaculopathy:anewvariantofacutemacularneu-roretinopathyCassociatedCwithCretinalCcapillaryCischemia.CJAMAOphthalmolC131:1275-1287,C20139)HufendiekK,GamulescuMA,HufendiekKetal:Classi.-cationCandCcharacterizationCofCacuteCmacularCneuroreti-nopathyCwithCspectralCdomainCopticalCcoherenceCtomogra-phy.IntOphthalmol,C201710)MunkMR,JampolLM,CunhaSouzaEetal:Newassoci-ationsCofCclassicCacuteCmacularCneuroretinopathy.CBrJOphthalmolC100:389-394,C201611)BirolG,WangS,BudzynskiEetal:OxygendistributionandCconsumptionCinCtheCmacaqueCretina.CAmCJCPhysiolCHeartCircPhysiolC293:H1696-1704,C2007***

網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫を対象としたTenon囊下投与によるWP-0508ST(マキュエイド®眼注用40mg)の第III相試験

2018年10月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(10):1418.1426,2018c網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫を対象としたTenon.下投与によるWP-0508ST(マキュエイドR眼注用40.mg)の第III相試験小椋祐一郎*1飯田知弘*2伊藤雅起*3志村雅彦*4*1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学*2東京女子医科大学眼科学教室*3わかもと製薬株式会社臨床開発部*4東京医科大学八王子医療センター眼科Phase3ClinicalTrialofSub-Tenon’sInjectionofWP-0508ST(MaQaidROphthalmicInjection40mg)forMacularEdemainRetinalVeinOcclusionYuichiroOgura1),TomohiroIida2),MasakiIto3)andMasahikoShimura4)1)DepartmentofOphthalmology&VisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversitySchoolofMedicine,3)ClinicalDevelopmentDepartment,WakamotoPharmaceuticalCo.,LTD.,4)DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityHachiojiMedicalCenterC網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫患者C50人を対象に,WP-0508STの有効性および安全性を検討するため多施設共同非遮蔽非対照試験を実施した.WP-0508ST20CmgをCTenon.下に単回投与し,投与後C12週とスクリーニング時の中心窩平均網膜厚の変化量を比較した結果,平均値は.150.0Cμm,95%信頼区間は.200.9..99.1Cμmであった.本治験において,あらかじめ有効性の基準として設定したC95%信頼区間上限の.100Cμmとの差はC1Cμm以内であり,平均値では十分な改善効果が認められ,中心窩平均網膜厚ではスクリーニング時と比較し有意な減少が示された.投与後12カ月までのおもな副作用は,眼圧上昇(14.0%),結膜充血(12.0%),結膜浮腫(10.0%),血中コルチゾール減少(10.0%)および血中トリグリセリド増加(8.0%)であり,水晶体混濁の発現率はC4.0%であった.いずれも軽度または中等度であり,外科的処置は行われなかった.以上より,網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫患者におけるCWP-0508STの有効性および安全性が確認された.CWeCconductedCaCmulticenter,Cnon-masked,CuncontrolledCstudyConC50CRetinalCVeinOcclusion(RVO)patientsCwithmacularedematoinvestigatethee.cacyandsafetyofWP-0508ST(MaQaidRCOphthalmicInjection40mg).Afterasinglesub-Tenon’sinjectionofWP-0508ST,wecomparedtheamountofchangeinmeancentralmacularthicknessbetweentimeofscreeningand12weekslater.Theresultsrevealedameanvalueof.150.0Cμmanda95%con.denceinterval(CI)of.200.9Cto.99.1Cμm,indicatingthatthedi.erenceinthe95%CIwaswithin1CμmoftheCmaximum95%CCICpreviouslyCsetCasCtheCcriteriaCfore.cacy(.100Cμm).CInCaddition,CtheCmeanCvalueCdemon-stratedsu.cientimprovement,andthemeancentralmacularthicknessshowedsigni.cantdecreasefromthetimeofCscreening.CTheCmajorCadverseCe.ectsCobservedCupCtoC12CmonthsCpost-administrationCwereCintraocularCpressureincrease(14.0%),conjunctivalChyperemia(12.0%),chemosis(10.0%),CdecreasedCbloodcortisol(10.0%)andCincreasedbloodtriglycerides(8.0%).Theincidenceoflensopacitywas4.0%.Allcasesweremildtomoderate,sosurgicalCtreatmentCwasCnotCperformed.CTheCaboveCresultsCindicateCthatCWP-0508STCisCe.ectiveCandCsafeCinCRVOCpatientswithmacularedema.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(10):1418.1426,C2018〕Key.words:網膜静脈閉塞症,網膜静脈分枝閉塞症,網膜中心静脈閉塞症,黄斑浮腫,有効性,安全性,トリアムシノロンアセトニド,Tenon.下投与,WP-0508ST.retinalveinocclusion,branchretinalveinocclusion,centralretinalveinocclusion,macularedema,e.cacy,safety,triamcinoloneacetonide,sub-Tenoninjection,WP-0508ST.C〔別刷請求先〕小椋祐一郎:〒467-8601愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:YuichiroOgura,M.D.,Ph.D.,CDepartmentofOphthalmology&VisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya,Aichi467-8601,JAPANC1418(106)はじめに網膜静脈閉塞症(retinalCveinocclusion:RVO)は,高血圧,糖尿病,高脂血症などが危険因子となり,血栓の形成により網膜静脈が閉塞し,網膜に出血,浮腫,毛細血管閉塞などの病態を引き起こす.RVOは網膜中心静脈閉塞症(cen-tralCretinalCveinocclusion:CRVO)と網膜静脈分枝閉塞症(branchCretinalCveinocclusion:BRVO)とに分類される.網膜浮腫が黄斑部に及ぶと黄斑浮腫となり,視力障害の原因となる.黄斑浮腫が遷延すると,慢性的かつ不可逆的な視力障害に至る.RVOによる黄斑浮腫は,糖尿病黄斑浮腫(dia-beticmacularedema:DME)についで頻度が高く,有病率はC40歳以上の成人のC2.1%であることが報告されている1).RVOの黄斑浮腫の治療には,格子状網膜レーザー光凝固術および硝子体手術が行われてきたが,2001年にCJonasら2)がトリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneacetonide:TA)を硝子体内に注射することで,DMEに対する有効性を報告して以来CTAが使用されるようになった.その後,2002年にはCGreenbergら3)がCCRVOに伴う黄斑浮腫に,2004年にはCChenら4)がCBRVOに伴う黄斑浮腫にCTAの硝子体内投与による有効性を報告している.硝子体内投与は低頻度ながらも眼内炎が報告されているため5),国内では感染のリスクを軽減し低侵襲なTAのTenon.下投与(sub-Tenontriamcinoloneacetonideinjection:STTA)が臨床上多用されている.抗CVEGF薬は,特異的にCVEGFを阻害するため浮腫に対する治療効果が大きいが,頻回投与が必要とされていることから,患者への負担軽減および経済性のため,補助的治療としてCSTTAが選択されることもある.TAを有効成分とし無菌的に充.された粉末注射剤であるマキュエイドR(WP-0508)は,硝子体内手術時の可視化を目的に,2010年に手術補助剤として承認され,2012年には硝子体投与によるCDME治療の効能・効果が追加承認されている.さらにC2017年C3月には,Tenon.下投与によるDME,ぶどう膜炎およびCRVOに伴う黄斑浮腫の軽減に対する効能・効果が追加承認された.今回筆者らは,RVOに伴う黄斑浮腫の効能・効果承認のために実施された,多施設共同非遮蔽非対照試験の結果を報告する.本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,薬機法,薬事法施行規則,「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」および治験計画書を遵守し実施した.I対象および方法1..実施医療機関および治験責任医師本治験は,2014年C12月.2016年C6月に,表1に示した全国C13医療機関において実施された.治験の実施に先立ち,各医療機関の治験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.C2..対象表2に示したCRVOの分類基準6)に従い,BRVO(半側RVOを含む)およびCCRVOに伴う黄斑浮腫と診断された患者を対象とした.ただし,虚血型のCCRVOは被験者に対する安全性を考慮し,本試験からは除外した.表3にはおもな選択および除外基準を示した.なお開始前に,すべての被験者に対し本治験の内容を十分に説明し,自由意思による治験参加の同意書を得た.C3..試.験.方.法a..治験デザイン本治験は,多施設共同非遮蔽非対照試験とし,単群で実施した(第CIII相試験).Cb..治験薬・投与方法1バイアル中にCTA40Cmgを含有するCWP-0508STに生理食塩液をC1Cml加え,懸濁液C0.5Cml(TA20Cmg)を対象眼のCTenon.下に単回投与した.方法は以下の手順に従った.抗菌薬および麻酔薬を点眼後,耳側下方の角膜輪部より後方を結膜小切開し,切開創から挿入した鈍針を強膜壁に沿っ表.1治験実施医療機関一覧治験実施医療機関名治験責任医師名*桑園むねやす眼科竹田宗泰順天堂大学医学部附属浦安病院海老原伸行日本大学病院服部隆幸東京医科大学八王子医療センター野間英孝,安田佳奈子聖路加国際病院大越貴志子独立行政法人国立病院機構東京医療センター野田徹名古屋市立大学病院吉田宗徳名古屋大学医学部附属病院安田俊介大阪市立大学医学部附属病院河野剛也医療法人社団研英会林眼科病院林研医療法人出田会出田眼科病院川崎勉鹿児島大学医学部・歯学部附属病院坂本泰二鹿児島市立病院上村昭典*治験期間中の治験責任医師をすべて記載した(順不同).表.2網脈静脈閉塞症の分類基準網膜静脈分岐閉塞症網膜出血または顕微鏡下で観察される網膜静脈閉塞をC1象限以下に認める半側網膜静脈閉塞症網膜出血または顕微鏡下で観察される網膜静脈閉塞はC1象限を超え,4象限未満に認める網膜中心静脈閉塞症網膜出血または顕微鏡下で観察される網膜静脈閉塞はC4象限すべてに認める表.3おもな選択および除外基準選択基準(1)年齢が満C20歳以上(2)スクリーニング検査来院前C52週間以内に,対象眼がCBRVOまたはCCRVOに伴う黄斑浮腫と診断された者(3)対象眼の最高矯正視力(ETDRS)が,35文字からC80文字(小数視力換算でC0.1以上C0.8以下)である者(4)対象眼の中心窩平均網膜厚が,光干渉断層計[スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)]による測定でC300Cμm以上である者(5)対象眼の眼圧がC21CmmHg以下である者(6)自由意思による治験参加の同意を本人から文書で取得できる者除外基準(1)緑内障,虚血性CCRVO*,糖尿病網膜症,ぶどう膜炎,加齢黄斑変性症,偽(無)水晶体眼性.胞様黄斑浮腫,重度の黄斑上膜,中心性漿液性網脈絡膜症,虹彩ルベオーシス,強度近視の症状を対象眼に有する(2)いずれかの眼に活動性の眼内炎または非活動性のトキソプラズマ症が認められる(3)血清クレアチニンがC2.0Cmg/dl以上(4)治験薬投与前C52週以内に,対象眼に薬剤の硝子体内投与を実施(5)対象眼に薬剤の硝子体内投与を治験薬投与前C52週以内に実施(6)対象眼に副腎皮質ステロイド薬のCTenon.下または球後への投与を,治験薬投与前C24週以内に実施(7)対象眼にレーザー治療または内眼手術を,治験薬投与前C12週以内に実施(8)副腎皮質ステロイド薬,経口炭酸脱水酵素阻害薬,ワルファリンおよびヘパリンの投与を,治験薬投与前C4週以内に実施(9)妊婦または授乳婦(10)その他,治験責任医師または治験分担医師が不適と判断*蛍光眼底造影による無灌流領域がC10乳頭面積以上.て押し進め,後部CTenon.に懸濁液を投与した.投与後は抗菌薬にて感染予防処置を行った.C4..検査・観察項目検査・観察スケジュールを表4に示した.スクリーニング時に蛍光眼底造影検査を行い,黄斑浮腫の有無および無灌流領域の面積を判断した.中心窩平均網膜厚は,各実施医療機関で光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)を用いて対象眼の測定を行い,東京女子医科大学に設置されたCOCT判定会において専門家による判定を行った.観察項目はCETDRS(EarlyTreatmentCDiabeticRetinopathyStudy)チャートを用いた最高矯正視力,眼圧,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,血圧・脈拍数および臨床検査とした.治験薬投与後C12週を観察期間とし,この間は被験者の利益性から必要となる場合を除き,本治験の評価に影響を及ぼす併用治療(レーザー治療,内眼手術,高圧酸素療法,星状神経節ブロック,透析治療)は禁止とした.さらに,治験薬投与後12カ月まで追跡調査を実施した.C5..評価項目および方法a..有効性主要評価項目は,スクリーニング時と比較した投与後C12週(最終評価時)の中心窩平均網膜厚の変化量とし,各評価時期の中心窩平均網膜厚および最高矯正視力の推移と変化量を副次評価項目とした.12週以内に中止または脱落した場合は,もっとも遅くに測定されたデータを最終評価時データとして採用した.中心窩平均網膜厚の変化量は,以下の既報を参考に基準を定めた.1)RVOに対する非投与(Sham)群における中心窩平均網膜厚の変化量の平均値は.85Cμm,95%信頼区間は.101.43.C.68.57μm7),2)RVOにおける抗VEGF薬投与による黄斑浮腫改善の定義として,50Cμm以上の網膜厚の減少を設定した8,9).これらを指標にC.100μmを臨床的に改善効果が示された基準として設定し,本治験で得られた変化量のC95%信頼区間上限値がC.100Cμm以下であれば,WP-0508STの有効性が確認されたものとした.Cb..安全性治験薬投与後C12カ月までに発現した有害事象のうち,WP-0508STとの因果関係が否定できないものを副作用とし,最高矯正視力,眼圧,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,血圧・脈拍数および臨床検査の各項目について安全性を評価した.C6..解.析.方.法a..解析対象集団有効性は,最大の解析集団(FullAnalysisSet:FAS)とし,治験実施計画書に適合した解析対象集団(PerCProtocolSet:PPS)についても検討した.安全性は投与が実施され表.4検査・観察スケジュール観察項目スクリーニング時観察期間追跡調査投与日翌日1週4週8週12週中止時6,9,1C2カ月同意取得C●患者背景C●症例登録C●治験薬投与C●眼科検査光干渉断層計測定C●C●C●C●C●C●C●最高矯正視力C●C●C●C●C●C●C●眼圧C●C●C●C●C●C●C●C●細隙灯顕微鏡検査C●C●C●C●C●C●C●C●眼底検査C●C●C●C●C●C●C●眼底撮影C●C●C●蛍光眼底造影検査C●血圧・脈拍数C●C●C●C●臨床検査C●C●C●C●C●診察・問診C●C●C●C●C●C●C●妊娠検査C●併用薬・併用療法の検査C●C●C●C●C●C●C●C●有害事象C●Cたすべての被験者から得られたデータを対象とした.Cb..解.析.方.法中心窩平均網膜厚は,各評価時期および最終評価時おけるスクリーニング時からの変化量について要約統計量を算出し,対応あるCt検定を実施した.検定は両側検定で行い有意水準はC5%とした.最高矯正視力についても中心窩平均網膜厚と同様の解析で実施した.主要評価項目は,最終評価時の中心窩平均網膜厚の変化量についてC95%信頼区間を算出した.CII試.験.成.績1..被験者の内訳被験者の内訳を図1に示した.本治験の参加に同意し,スクリーニング検査を実施した被験者はC56例であり,50例が登録され全例で投与が実施された.このうち,8例が治験薬投与後C12週以内に中止・脱落し,42例がC12週間の観察期間を完了した.中止・脱落となった理由は,有害事象が発現し,治験責任医師または治験分担医師が中止すべきと判断したためがC7例(眼圧上昇,視力悪化などにより併用禁止薬および併用禁止治療が必要と判断),治験開始後に被験者が同意を撤回したためがC1例であった.12週間の観察期を完了したC42例のうち,2例が同意撤回により投与後C12週で本治験を終了した.その後C1例(治験薬投与後C7カ月で治験責任医師の判断で治験終了)を除くC39例がC12カ月までの安全性追跡調査を終了した.解析対象集団CFASの被験者背景を表5に示した.被験者のCRVO罹病期間は平均C2.22カ月であり,病型の内訳はBRVOがC45例,CRVOはC5例であった.C2..有効性投与が実施された被験者C50例のうち,FAS不採用例は認められなかった.1例でスクリーニング検査からC12カ月の追跡調査期間を通じて最高矯正視力検査の測定手順の逸脱があったため,最高矯正視力の有効性解析では当該C1例をPPS不採用とした.したがって,有効性解析対象集団のFASはC50例,PPSはC50例(最高矯正視力の解析ではCPPSはC49例)となった.Ca..主要評価項目に関する結果本治験の主要な解析対象集団CFASにおける,最終評価時の中心窩平均網膜厚を表6に示した.中心窩平均網膜厚の変化量の平均値(95%信頼区間下限.上限)はC.150.0Cμm(.200.9.C.99.1Cμm)であり,信頼区間の上限と設定したC.100Cμmとの差はC1Cμm以内であった.中心窩平均網膜厚はスクリーニング時と比較した対応あるCt検定で有意な減少が認められた(p<0.001).なおCPPSはCFASと同一の結果であった.また,病型別での中心窩平均網膜厚の変化量を表7に示した.BRVOがC.152.6μm(C.209.2.C.96.1μm),CRVO8例2例1例投与後12カ月追跡調査終了例数39例性別男C29(58.0)女C21(42.0)登録被験者数治験薬被験者数投与12週観察期間終了例数項目50例50例42例投与12週内中止・脱落例数投与12週時終了例数投与7カ月終了例数図.1被験者の内訳表.5被験者背景(FAS)解析対象被験者数C50C年齢(歳)平均値±標準偏差C64.7±8.0最小.最大47.77RVO罹病期間(カ月)平均値±標準偏差C2.22±2.41最小.最大0.133カ月未満C40(C80.0)3カ月以上C6カ月未満C6(C12.0)6カ月以上C4(8C.0)病型網膜静脈分枝閉塞症C45(90.0)網膜中心静脈閉塞症C5(10.0)中心窩平均網膜厚(μm)平均値±標準偏差C575.3±176.5最小.最大301.1047400Cμm未満C8(C16.0)400Cμm以上C500Cμm未満C11(C22.0)500Cμm以上C600Cμm未満C9(C18.0)600Cμm以上C22(C44.0)最高矯正視力(文字)平均値±標準偏差C67.1±9.5最小.最大41.80眼圧(mmHg)平均値±標準偏差C15.0±2.3最小.最大10.21被験者数(%)が.126.0Cμm(C.194.8.C.57.2Cμm)であった.Cb..副次評価項目に関する結果FASにおける中心窩平均網膜厚および変化量の推移を図2および表8に示した.各評価時期および最終評価時のスクリーニング時からの変化量は,投与後C1週より減少し,投与後のすべての観察期において有意な減少がみられた(いずれもp<0.001).また,FASにおける最高矯正視力および変化量の推移を図3および表9に示した.各評価時点におけるスクリーニング時からの中心窩平均網膜厚は,治験薬投与後4週から有意な文字数の改善がみられたが(4週でCp=0.023,8週およびC12週でCp=0.001),最終評価時は有意差が認められなかった.なおいずれもCPPSでもCFASと同一の結果であ表.6最終評価時における中心窩平均網膜厚(FAS)中心窩平均網膜厚中心窩平均網膜厚(μm)変化量(μm)被験者数C50C50平均値C±標準偏差C425.4±191.3C.150.0±179.1最小.最大184.0.C1018C.683.0.C31395%信頼区間(下限.上限)C─C.200.9.C.99.1対応あるCt検定p<C0.001C─表.7最終評価時における病型別中心窩平均網膜厚の変化量平均値±標準偏差最小.最大95%信頼区間病型被験者数(下限.上限)(μm)(μm)(μm)網膜静脈分枝閉塞症C45C.152.6±188.1C.683.0.313.0C.209.2.C.96.1網膜中心静脈閉塞症C5C.126.0±55.4C.197.0.C.69.0C.194.8.C.57.2C中心窩平均網膜厚(μm)8007006005004003002001000スクリーニング時図.2中心窩平均網膜厚の推移(FAS)平均値C±標準偏差.***:p<0.001対応あるCt検定.表.8中心窩平均網膜厚変化量の推移(FAS)1週後4週後8週後12週後最終評価時評価時期評価時期1週後4週後8週後12週後最終評価時被験者数C5046C44C42C50C平均値C±標準偏差(μm)C.84.0±114.1C.124.3±116.4C.167.9±155.0C.192.1±155.5C.150.0±179.1Cった.C3..安全性a..副作用治験薬投与後C12カ月までにC5%以上発現した副作用は,眼圧上昇,結膜充血,結膜浮腫,血中コルチゾール減少および血中トリグリセリド上昇であった(表10).なお重篤な副作用は認められなかった.治験薬投与後C12週以内に,スクリーニング時に認められた現病の悪化によりC8例が中止に至り,その内訳は,RVOの悪化C4例,一過性の視力低下C3例,黄斑浮腫の悪化C1例であった.これらはいずれも投与対象眼に発現し,程度は軽度から中程度の悪化とされ,治験薬との因果関係は「関係なし」と判定された.Cb..眼圧上昇および水晶体混濁投与対象眼での眼圧上昇はC7例(14.0%)に認められ,その内訳は治験薬投与後C12週までにC5例(10.0%),12週以降12カ月後までにC2例(4.0%)であった.これらC7例の眼圧上昇はC24CmmHg未満がC1例(2%),24CmmHg以上C30CmmHg未満がC5例(10.0%),30CmmHg以上がC1例(2.0%)であった.治験薬投与後C12週までにみられたC5例については,いずれも眼圧下降点眼薬の使用により,転帰は軽快または消失となった.12週以降C12カ月後までのC2例は,被験者への連最高矯正視力(文字)1009080706050403020100スクリーニング時1週後4週後8週後12週後最終評価時評価時期図.3最高矯正視力の推移(FAS)平均値C±標準偏差.*:p<0.05,**:p<0.01対応あるCt検定.表.9最高矯正視力変化量の推移(FAS)評価時期1週後4週後8週後12週後最終評価時被験者数C50474442C50C平均値±標準偏差(文字)C1.7±8.1C2.3±6.8C3.9±7.1C4.6±8.1C2.6±9.8C表.10副作用一覧副作用名発現数(%)CMedDRA/Jver.18.150例眼結膜浮腫眼脂水晶体混濁点状角膜炎硝子体.離硝子体浮遊物結膜充血前房内細胞眼圧上昇5例(1C0.0%)1例(2C.0%)2例(4C.0%)2例(4C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)6例(1C2.0%)1例(2C.0%)7例(1C4.0%)眼以外アラニンアミノトランスフェラーゼ増加1例(2C.0%)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ増加1例(2C.0%)血中コルチゾール減少血中ブドウ糖増加血圧上昇血中トリグリセリド増加血中尿素減少血中尿素増加尿中ブドウ糖陽性白血球数減少好中球百分率増加単球百分率増加リンパ球百分率減少筋骨格痛体位性めまい頭痛5例(1C0.0%)2例(4C.0%)2例(4C.0%)4例(8C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)1例(2C.0%)2例(4C.0%)絡がとれなかったことおよび治験薬投与C12カ月時に眼圧上昇がみられたことから,転帰は不変と判定した.なお,WP-0508ST投与から眼圧上昇が発現されるまでの期間は,平均C100.1日(最小C29日,最大C357日)であり,持続した期間は平均C157日(最小C28日,最大C315日)であった.水晶体混濁はC2例(4%)で発現し,治験薬投与後C57日目およびC169日後にそれぞれC1例が認められ,細隙灯顕微鏡検査による水晶体混濁では,投与後C12カ月の時点でいずれもC1段階の進展であった(WHO分類).なおすべてにおいて外科的処置は行われなかった.CIII考察RVOは網膜内に分枝した静脈が閉塞するCBRVOと,視神経内で静脈が閉塞するCCRVOとに大別されるが,いずれも黄斑浮腫に起因して視力障害を引き起こす.黄斑浮腫の悪化にはCIL-6やCVEGFなどの炎症性サイトカインが関与するため10),これらを抑制するCTAは有効であることが報告されている11,12).黄斑浮腫は自然治癒する場合も認められるが,慢性化することも多く症例により予後には大きな違いがある.本治験における罹病期間の平均はC2.22カ月であるが,症状の悪化に伴い投与後C12週以内に中止となったC7例の罹病期間は平均0.86カ月であった.これらの患者は,VEGFや炎症性サイトカインが急激に産生され悪化したと推察された.そのため中止例により信頼区間幅が拡大し,最終評価時におけるC95%信頼区間上限があらかじめ設定した基準に及ばなかったと考えられた.しかし,その差異はC1Cμm以内とわずかであり,(112)投与後C12週における中心窩平均網膜厚はC.192.1Cμmの減少を示し,変化量のC95%信頼区間はC.240.5.C.143.6Cμmと信頼区間上限は.100Cμmを超える改善が示された.また,早期の時点(投与後C1週目)に中止となったC2例を除外した最終評価時の平均値は.163.4Cμm,信頼区間上限はC.114.8μmであり,投与後すべての観察期で中心窩平均網膜厚に有意差が認められたことからも,本治験におけるCWP-0508STの有効性は示されたと判断した.病型別の部分集団におけるそれぞれの中心窩平均網膜厚の変化量を既報と比較すると,TAの硝子体内投与による中心窩平均網膜厚の変化量は,BRVOではC.142Cμm11)およびCRVOではC.196Cμm12)に対し,本治験ではCBRVOはC.152.6μmおよびCCRVOではC.126.0Cμmと,CRVOでは報告された数値よりも改善効果が低かった.この背景には,CRVOの被験者数はわずかC5例であったため,例数不足により十分に評価されなかったことに起因していると考えられた.TAの局所投与は硝子体内やCTenon.下に行われるが,STTAのほうが効果はやや劣る可能性が報告されている13).STTAは投与されたCTAが強膜や短後毛様動脈を介して脈絡膜に移行するが,硝子体内投与は,TAが病変部である網膜に直接接触するためCSTTAよりも即効性に優れていると考えられる.しかし,本治験において最終評価時の中心窩平均網膜厚の変化量が.150Cμmであったこと,また投与後C12週の結果と比較しても,BRVOではCTAの硝子体内投与の報告11)と同程度であった.そのため,Tenon.下投与においても黄斑浮腫の改善効果は硝子体内投与と同等であることが期待される.硝子体内投与は,Tenon.下投与と比べると眼内炎のリスクが懸念され,またCTAによる眼圧上昇や水晶体混濁の副作用を軽減するためにも,日本ではCTenon.下投与が選択されることが多い.TAの硝子体内投与における眼圧上昇はC33.50%,白内障はC59.83%で発現する報告例があり14,15),またCWP-0508の硝子体内投与16)で報告された眼圧上昇(25.6.27.3%),白内障(15.2.23.5%)と比較しても本治験では半分程度の発現率であった.したがってCWP-0508STのCSTTAによるCRVOに伴う黄斑浮腫の改善は,副作用の軽減を目的とする意味においても十分有用であると考えられる.また,硝子体内投与に比べCSTTAは,外来などで比較的に簡易的に行えるメリットもある.しかし,ステロイドに対し過敏に反応して眼圧が上昇するステロイドレスポンダーが存在し,その頻度は原発開放隅角緑内障およびその血縁者,若年者,高度近視患者,糖尿病患者に多いことが報告されているため17),TAの投与には十分な配慮が必要となる.黄斑浮腫の治療に用いられる抗CVEGF薬は,浮腫を抑制する効果は高いものの,1.2カ月ごとに投与を繰り返す必要がある.一方CTAは抗CVEGF薬と比べ,即効性に劣るが持続期間は約C3カ月と長く,頻回投与が避けられる特徴がある.そこで抗炎症作用を有するCTAと抗CVEGF薬の併用による有効性が検討され,Choら18)はベバシズマブの硝子体内注射とCSTTAを組み合わせることによる中心窩平均網膜厚の改善効果を,またCMoonら19)はCSTTAにより抗CVEGF薬の投与間隔の延長が可能であることを報告している.これらの結果は,抗CVEGF薬による治療が必要とされながらも,長期的な継続使用が困難な患者にとっては一助となるものであろう.したがって,WP-0508STのCSTTAは,RVOに伴う黄斑浮腫治療法の選択肢の拡大に寄与するものである.利益相反:小椋祐一郎,飯田知弘,志村雅彦(カテゴリーCC:わかもと製薬㈱)文献1)YasudaM,KiyoharaY,ArakawaSetal:PrevalenceandsystemicriskfactorsforretinalveinocclusioninageneralJapanesepopulation:theHisayamaStudy.InvestOphthal-molVisSciC51:3205-3209,C20102)JonasCJB,CSofkerA:IntraocularCinjectionCofCcrystallineCcortisoneCasCadjunctiveCtreatmentCofCdiabeticCmacularCedema.AmJOphthalmolC132:425-427,C20013)GreenbergCPB,CMartidisCA,CRogersCAHCetal:IntravitrealCtriamcinoloneacetonideformacularedemaduetocentralretinalveinocclusion.BrJOphthalmolC86:247-248,C20024)ChenCSD,CLochheadCJ,CPatelCCKCetal:IntravitrealCtriam-cinoloneCacetonideCforCischaemicCmacularCoedemaCcausedCbyCbranchCretinalCvainCocclusion.CBrCJCOphthalmolC88:C154-155,C20045)MoshfeghiCDM,CKaiserCPK,CScottCIUCetal:AcuteCendo-phthalmitisCfollowingCintravitrealCtriamcinoloneCacetonideCinjection.AMJOphthalmolC136:791-796,C20036)TheCSCORECStudyCInvestigatorCGroup.CSCORECStudyCReport2:InterobserverCagreementCbetweenCinvestigatorCandCreadingCcenterCclassi.cationCofCretinalCveinCocclusionCtype.OphthalmologyC116:756-761,C20097)OZURDEXCGENEVACStudyGroup:Randomized,Csham-controlledCtrialCofCdexamethasoneCintravitrealCimplantCinCpatientswithmacularedemaduetoretinalveinocclusion.OphthalmologyC117:1134-1146,C20108)KreutzerCTC,CAlgeCCS,CWolfCAHCetal:IntravitrealCbeva-cizumabCforCtheCtreatmentCofCmacularCoedemaCsecondaryCtoCbranchCretinalCveinCocclusion.CBrCJCOphthalmolC92:C351-355,C20089)PriglingerSG1,WolfAH,KreutzerTCetal:IntravitrealbevacizumabCinjectionsCforCtreatmentCofCcentralCretinalCveinocclusion:six-monthCresultsCofCaCprospectiveCtrial.CRetinaC27:1004-1012,C200710)坂本泰二:黄斑浮腫に対する局所ステロイド薬治療.あたらしい眼科27:1333-1337,C201011)TheCSCORECStudyCResearchGroup:ACrandomizedCtrialCcomparingthee.cacyandsafetyofintravitrealtriamcin-oloneCwithCstandardCcareCtoCtreatCvisionClossCassociatedCwithCmacularCedemaCsecondaryCtoCbranchCretinalCveinCocclusion.ArchOphthalmolC127:1115-1128,C200912)TheCSCORECStudyCResearchGroup:ACrandomizedCtrialCcomparingthee.cacyandsafetyofintravitrealtriamcin-oloneCwithCstandardCcareCtoCtreatCvisionClossCassociatedCwithCmacularCedemaCsecondaryCtoCcentralCretinalCveinCocclusion.ArchOphthalmolC127:1101-1114,C200913)CardilloJA,MeloLA,CostaRAetal:Comparisonofintra-vitrealCversusCposteriorCsub-Tenon’sCcapsuleCinjectionCofCtriamcinoloneacetonidefordi.usediabeticmacularedema.OphthalmologyC112:1557-1563,C200514)DiabeticCRetinopathyCClinicalCResearchNetwork:Ran-domizedCtrialCevaluatingCranibizumabCplusCpromptCorCdeferredlaserortriamcinolonepluspromptlaserfordia-beticCmacularCedema.COphthalmologyC117:1064-1077,201015)DiabeticCRetinopathyCClinicalCResearchNetwork:Three-yearfollowupofarandomizedtrialcomparingfocal/gridphotocoagulationandintravitrealtriamcinolonefordiabet-icmacularedema.ArchOphthalmolC127:245-251,C200916)小椋祐一郎,坂本泰二,吉村長久ほか:糖尿病黄斑浮腫を対象としたCWP-0508(マキュエイドCR硝子体内投与)の第II/III相試験.あたらしい眼科31:138-146,C201417)RazeghinejadCMR,CKatzLJ:Steroid-inducedCiatrogenicCglaucoma.OphthalmicRes47:66-80,C201218)ChoCA,CChoiCKS,CRheeCMRCetal:CombinedCtherapyCofCintravitrealbevacizumabandposteriorsubtenontriamcin-oloneinjectioninmacularedemawithbranchretinalveinocclusion.JKoreanOphthalmolSocC53:276-282,C201219)MoonJ,KimM,SagongM:Combinationtherapyofintra-vitrealCbevacizumabCwithCsingleCsimultaneousCposteriorCsubtenonCtriamcinoloneCacetonideCforCmacularCedemaCdueCtobranchretinalveinocclusion.EyeC30:1084-1090,C2016***

強度近視に伴うOptociliary Vein様の異常血管の1例

2018年10月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(10):1415.1417,2018c強度近視に伴うOptociliaryVein様の異常血管の1例竹内弥生*1,2石田友香*1相馬亮子*1,3大野京子*1*1東京医科歯科大学医学部附属病院眼科*2柏市立柏病院眼科*3玉川病院眼科COptociliaryVeininHighMyopiaYayoiTakeuchi1,2)C,TomokaIshida1),RyokoSoma1,3)CandKyokoOhno-Matsui1)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,TokyoMedicalandDentalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KashiwaHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TamagawaHospitalC強度近視に伴う視神経乳頭周囲の静脈異常として網膜循環から脈絡膜循環への短絡路であるCoptociliaryveinの報告は少ない.今回筆者らはCoptociliaryCvein様の異常血管を有する強度近視眼C1例C1眼を経験したので報告する.症例:65歳,男性.左眼底視神経乳頭周囲に全周性の近視性コーヌスを認め,乳頭耳側辺縁にインドシアニングリーン蛍光眼底造影(indocyaninegreenangiography:ICGA)で網膜静脈流入期に描出されるCoptociliaryvein様の異常血管がみられた.吻合する脈絡膜血管を認めなかった.光干渉断層計(OCT)で乳頭耳側の血管途絶部位に隣接して急峻なridgeがみられた.強度近視に伴う乳頭周囲の形状の変化が異常血管の発生に関係していると思われた.CTherehavebeenfewcasereportsontheoptociliaryvein,ashuntvesselbetweenthecentralretinalveinandthechoroidalveinintheprelaminarregionoftheopticnerveheadassociatedwithhighmyopia.Weexperiencedthecaseofanoptociliary-likevesselinahighmyopiceye.Ina65-year-oldmalewhovisitedourclinic,wefoundanCanomalousCvesselCappearingCfromCtheCdiscCedge.CICGACshowedCtheCvesselC.lledCwithCdyeCinCtheCretinalCvenousphase;however,ICGdidnotshowanychoroidalvesselsaroundtheanomalousvessel,anditwasdi.cultto.ndtheout.owvessel.Wealsousedopticalcoherencetomography(OCT)C,which[disclosedahighscleralridgebesideOK?]theanomalousvessel.[WeconcludethatundetectedvesselsinICGareassociatedwithanatomicalchangesinhighmyopia.OK?i.e.,generalconclusion?]〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(10):1415.1417,C2018〕Keywords:optociliaryvein,強度近視.optociliaryshunt,highmyopia.はじめに視神経乳頭縁で網膜静脈から脈絡膜循環へ交通する短絡路である網膜毛様静脈は,網膜静脈の分枝が視神経乳頭縁から脈絡膜静脈へ直接交通するCretinociliaryveinと,視神経乳頭上の網膜中心静脈の分枝部分から視神経乳頭縁を貫いて脈絡膜静脈へと注ぐCoptociliaryveinのC2通りがある1).正常の視神経乳頭においては網膜静脈と脈絡膜静脈を繋ぐ毛細血管が存在し,両者の圧は等しく保たれているが,後者のCoptociliaryveinは何らかの原因で網膜静脈圧が亢進することによりその毛細血管が拡張,可視化したものと考えられている.多くは網膜中心静脈閉塞症,髄膜腫,晩期緑内障などに合併するが2,3),これまでに強度近視に伴うCoptociliaryveinの報告は筆者らが調べた限りではC1例のみであった2).今回,強度近視眼に生じたCoptociliaryvein様の異常血管を有する症例を経験し,FA,ICGA,swept-sourceCopticalCcoherencetomography(SS-OCT)で詳細に観察したので報告する.CI症例症例はC65歳,男性.強度近視に伴う左眼視野障害の進行のため近医より当院強度近視外来に紹介となった.初時視力は右眼C0.7(1.0C×IOL×sph.2.00D(cyl.0.25DAx180°),左眼C0.1p(0.1C×IOL×sph.2.00D(cyl.0.25DAx180°),眼軸は右眼C32.4Cmm,左眼C31.5Cmmであった.両前眼部に異常なし,両眼内レンズ挿入眼であった.左眼の視神経乳頭中心部で上方の網膜中心静脈から分枝し乳頭耳側辺縁へ向か〔別刷請求先〕竹内弥生:〒113-8150東京都文京区湯島C1-45-5東京医科歯科大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:YayoiCTakeuchi,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,TokyoMedicalandDentalUniversityMedicalHospital,1-5-45Yushima,Bunkyo-ku,Tokyo113,JAPANC0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(103)C1415図1左眼視神経乳頭周囲の画像所見a:カラー眼底写真.近視性視性コーヌスを伴う視神経乳頭が観察される.視神経乳頭耳側辺縁に網膜中心静脈から乳頭辺縁に走行する異常血管(.)を認める.Cb:FA.同異常血管(.)が造影されている.Cc:ICGA(脈絡膜静脈流入期).異常血管(.)は視神経乳頭中心部のみ造影され,過蛍光を認める.d:ICGA(網膜静脈流入期).異常血管(.)は,視神経乳頭の中心部より辺縁部へと造影されたが,視神経乳頭縁で途絶したようにみられる.い,視神経乳頭辺縁で途絶したように観察される血管を認めた(図1a).その視神経乳頭周囲には全周性の近視性コーヌスがみられ,視神経乳頭耳側には丈の高い強膜のCridgeを伴う広域の後部ぶどう腫が認められた.FAで網膜静脈流入期に同血管が造影され,蛍光漏出はみられなかった(図1b).ICGAで同異常血管は脈絡膜静脈流入期に視神経乳頭中心部のみ造影され,過蛍光を認めた後(図1c),網膜静脈流入期に視神経乳頭の中心部より辺縁へと造影されたが,視神経乳頭縁で途絶しており,その先は不明であった(図1d).SS-OCTでは視神経乳頭耳側の急峻な強膜Cridgeがみられ,ridgeの立ち上がりでは神経線維層の菲薄化と脈絡膜の欠如,乳頭内ピットが観察されたが,視神経乳頭辺縁で途絶したシャント血管の断面は撮影されていなかった(図2a).Gold-mann視野検査では中心暗点を認めた(図2b).CII考按網膜中心静脈の分枝が乳頭辺縁で脈絡膜血管へ吻合するシャント型の異常血管であるCoptociliaryveinは先天性のほか,網膜中心静脈閉塞症,髄膜腫,乳頭浮腫後,緑内障性視神経萎縮などでの合併の報告があり2,3),前述したように成因として,網膜静脈圧の亢進により元来存在した網膜静脈と脈絡膜血管に交通する毛細血管大のシャント血管が可視化し図2SS.OCTとGoldmann視野検査a:SS-OCTでは視神経乳頭耳側に急峻な強膜Cridgeを認める(.).ridge内側の神経線維層は菲薄化し,脈絡膜は欠如している.乳頭内にピットが観察される(C.)が,異常血管は捉えられていない.Cb:Goldmann視野検査ではCridgeによると思われる中心部暗点を認める.たものと考えられている.今までに強度近視眼での報告はMasuyamaらのC1例のみであり,これはCFAでの観察の報告であったが,強度近視眼の眼球伸長による何らかの網膜静脈還流障害がかかわっている可能性が考察されている2).ICGAでCoptociliaryveinを観察した報告は少ないが,Muci-Mendozaらは髄膜腫のC5症例において,ICGAでCoptocili-aryveinが視神経乳頭辺縁で脈絡膜静脈と吻合し,渦静脈へ流出する様子を報告している4).強度近視眼では,眼球の機械的伸展により視神経乳頭周囲の網膜静脈の高度な屈曲がみられることがある5)が,通常,走行が途絶したように観察されることはない.本症例は眼底所見とCFAにて視神経乳頭中心から乳頭辺縁の方向に血流が流れていることからはCoptociliaryveinであると考えられたが,ICGAで網膜静脈の描出前,つまり脈絡膜静脈相に視神経乳頭中心部の造影がみられた点と,視神経乳頭辺縁で脈絡膜静脈との吻合がみられず途絶しているように観察された点で,純粋に網膜静脈血が脈絡膜血流へ交通しているかどうか1416あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018(104)が不明であった.網膜静脈相より早期の脈絡膜静脈相にシャント血管の視神経乳頭中心部位が造影され始める理由としては,①血流が網膜静脈由来である場合(同部位での網膜静脈の鬱滞により蛍光色素濃度が他の網膜静脈よりも高くなったために網膜静脈相よりも早期に染まった可能性),もしくは②血流が脈絡膜静脈由来である場合(ICGAでも脈絡膜毛細血管の残存している強膜Cridgeのない鼻側の脈絡膜静脈由来の血流が,顕在化していない短絡路を通って視神経乳頭中心部に集まっていた可能性)が考えられる.一方,異常血管がCICGAにおいても途絶したように観察された理由としては,以下のことが考えらえた.異常血管が途絶した乳頭耳側部位には急峻な強膜ridgeがCSS-OCTでみられ,ridge斜面では神経線維層と脈絡膜層が著明に菲薄化し,乳頭内ピットが観察された.得られたCSS-OCTの切片では血管の途絶部位にはピットの存在は確認できなかったが,ピットが多発している可能性はあり,ピットから眼外に走行しCridge下で強度近視によって後極に移動してきた渦静脈6)に交通した可能性はある.また,通常眼において,脈絡膜静脈から渦静脈を通らず,直接視神経鞘に注ぐ脈絡膜-視神経鞘の細静脈叢の短絡路であるCchoroid-pialshuntの存在が知られているが7),本症例でも同様の短絡路を通って,視神経鞘の細静脈叢へ流出した可能性も考えられる.視神経乳頭周囲の高度の構造変化を伴う症例では,視神経乳頭周囲網膜循環が障害されることにより,代償シャントであるCoptociliaryvein様の異常血管が形成されうることが示唆された.今回の症例では特徴的なCICGA所見を示したが,症例数が限られていたため,今後同様の症例を積み重ね長期の経過を追うことで,強度近視眼の視神経乳頭周囲の血行動態の変化とその成因について,さらに詳しく明らかにできると考えられる.文献1)ZaretCCR,CChoromokosCEA,CMeislerDM:Cilio-opticCveinCassociatedCwithCphakomatosis.COphthalmologyC87:330-336,C19802)MasuyamaY,KodamaY,MatsuuraYetal:Clinicalstud-iesConCtheCoccurrenceCandCtheCpathogenesisCofCoptociliaryCveins.JClinNeuroophthalmolC10:1-8,C19903)LeeCJJ,CYapEY:OptociliaryCshuntCvesselsCinCdiabetesCmellitus.SingaporeMedJC45:166-169,C20044)Muci-MendozaCR,CArevaloCF,CRamellaCMCetal:Optocili-aryCveinsCinCopticCnerveCsheathCmeningiomaCindocyanineCgreenCvideoangiographyC.ndings.COphthalmologyC106:C311-318,C19995)HayashiCW,CShimadaCN,CHayashiCKCetal:RetinalCvesselsCandhighmyopia.OphthalmologyC118:791,C20116)Ohno-MatsuiK,MorishimaN,ItoMetal:PosteriorroutesofCchoroidalCbloodCout.owCinChighCmyopia.CRetinaC16:C419-425,C19967)GordonR:PeripapillaryCvenousCdrainageCfromCtheCcho-roid:aCvariableCfeatureCinChumanCeyes.CBrCJCOphthalmolC81:76-79,C1997***(105)あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018C1417

単純ヘルペスウイルス性角膜輪部炎の再発についての検討

2018年10月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(10):1411.1414,2018c単純ヘルペスウイルス性角膜輪部炎の再発についての検討神田慶介大矢史香森弓夏中田瓦渡辺仁関西ろうさい病院眼科CInvestigationoftheRecurrencePatternofHerpesSimplexLimbitisKeisukeKanda,FumikaOya,YukaMori,KoNakataandHitoshiWatanabeCDepartmentofOphthalmology,KansaiRosaiHospitalC目的:角膜輪部炎として角膜ヘルペスを発症したものについて,その後の角膜ヘルペスの再発の有無,その臨床的特徴について明らかにする.方法:2013年C1月.2016年C9月に関西ろうさい病院を受診し,単純ヘルペス性角膜輪部炎の診断を受けたC9例についてC2017年C12月まで経過観察し,再発の有無,再発時の臨床的特徴,治療経過について検討した.結果:角膜ヘルペスの再発を認めたものはC9例中C5例であり,そのすべてで角膜輪部炎としての再発を認めた.再発期間はC3カ月.3年C11カ月であった.輪部炎の再発部位はC2例でほぼ同部位で,3例では異なる部位であった.いずれの症例も再発後の治療によりC2週間.1カ月で治癒した.CPurpose:Toevaluateclinicalcharacteristicsoftherecurrenceofcorneallimbitiscausedbyherpeticsimplexvirus.CMethods:UntilCDecemberC2017,CweCfollowedC9CpatientsCwhoChadCbeenCdiagnosedCwithCcornealClimbitisCatCKansaiRosaiHospitalfromJanuary2013toSeptember2016.Weexaminedtherecurrenceofherpessimplexkera-titisCinCtheseCpatients,CinvestigatingCcharacteristicsCofCrecurrenceCandCresponseCtoCtreatment.CResults:RecurrenceCwasCobservedCinC5cases;allCcasesChadCoccurredCwithCcornealClimbitis.CRecurrenceCwasCatCfromC3CmonthsCtoC3Cyears,11monthsafterthe.rstepisode.Recurrencewasatalmostthesamelocationin2cases,andatadi.erentlocationin3cases.Everyrecurrencewashealedwithusualtreatmentatfrom2weeksto1month.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(10):1411.1414,C2018〕Keywords:角膜ヘルペス,輪部炎,再発.herpessimplexkeratitis,limbitis,recurrence.Cはじめに角膜ヘルペスは,30年ほど前には適切な治療薬に乏しく,しばしば角膜穿孔から緊急の角膜移植に至る難治性疾患であった.その後,アシクロビルの研究開発そして上市により,その治療効果が高いことから,角膜ヘルペスは比較的治療しやすい疾患となった.このため,最近では実質型角膜ヘルペス,とくに壊死性タイプをみることがまれになった.このような経緯のなかで,現在では角膜ヘルペスが角膜移植の対象となることも少なくなってきている1,2).角膜ヘルペスの臨床的な特徴や分類は詳細に把握され,その臨床的分類は現在でも十分に利用できるものである3)(表1).このなかで,角膜ヘルペスの内皮型の一つである角膜輪部炎は,角膜輪部結膜の充血および腫脹が特徴であり,それが進展すると近傍の周辺部角膜浮腫,さらには角膜後面沈着物の出現と眼圧上昇という臨床的特徴を示す.しかし,角膜表1角膜ヘルペスの分類(I)上皮型樹枝状角膜炎地図上角膜炎(II)実質型円板状角膜炎壊死性角膜炎(ICII)内皮型角膜内皮炎角膜輪部炎文献3)より引用ヘルペスの上皮型や実質型と比較して症例数が多くないことから,分類のなかでも括弧付きで紹介,分類されてきた.ただし,昨今,患者の高齢化に伴い角膜ヘルペス自体の症例数は増えてきており,角膜輪部炎も増加している4,5).しかし,角膜輪部炎については,過去それほど対象例が多くなかったこともあり,その実態についての報告もわずかであり,その〔別刷請求先〕神田慶介:〒660-8511兵庫県尼崎市稲葉荘C3-1-69関西ろうさい病院眼科Reprintrequests:KeisukeKanda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiRosaiHospital,3-1-69Inabasou,Amagasaki,Hyogo660-8511,JAPANC0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(99)C1411表2経過を追うことができた角膜輪部炎症例の再発の有無とその特徴症例年齢性別輪部炎の初回位置再発の有無再発の時期再発パターン輪部炎の再発位置C167歳,女8-9時あり1年4カ月後角膜輪部炎11-4時C279歳,男6-8時あり6カ月後角膜輪部炎4-6時C366歳,男12-4時あり3カ月後角膜輪部炎3-5時C451歳,女1-2時なしC553歳,男3-5時なしC657歳,女2-5時なしC774歳,女10-2時なしC851歳,男1-3時あり3年11カ月後角膜輪部炎1-3時C964歳,女12-5時あり3年10カ月後角膜輪部炎11-2時情報が十分に把握されているとは言いがたい.さらに,角膜輪部炎として発症した角膜ヘルペスの再発や臨床的特徴について明確な報告がないのが実情である.そこで今回,関西ろうさい病院でヘルペス性角膜輪部炎(疑い)と診断された症例において,その再発の有無,再発までの期間,再発例での特徴について検討したので,ここに報告する.CI方法対象は関西ろうさい病院眼科(以下,当科)でC2013年C1月.2016年C9月に単純ヘルペスウイルスによる角膜輪部炎(疑い)の診断を受けたC9例C9眼で,内訳は男性C4例C4眼,女性C5例C5眼,年齢はC51.79歳である.これらC9例C9眼についてC2017年C12月まで経過観察し,細隙灯顕微鏡にて診察し,フルオレセインによる生体染色にて角結膜上皮障害を調査し,角膜輪部炎を含めた角膜ヘルペスの再発について検討した.検査項目としては,その角膜ヘルペスの再発の有無,再発時の角膜ヘルペスのパターン,角膜輪部炎については初回発症部位と再発部位の比較,再発の時期,その治療経過について検討した.CII結果経過を追うことができたC9例C9眼の結果を表2として記す.角膜輪部炎については,輪部結膜に沿った充血と腫脹があり,過去に角膜ヘルペスの既往があるということ,進行したものでは周辺部の角膜浮腫や眼圧の上昇といった既報の角膜輪部炎の特徴4,5)を示していることから臨床的に診断した.角膜ヘルペスの再発を認めたものはC5例C5眼であった(男性3例C3眼,女性C2例C2眼).角膜ヘルペスの再発を認めたC5例のうち,すべてが角膜輪部炎としての再発を示した.再発の時期はC3カ月.3年C11カ月とさまざまな間隔で再発しており,平均再発期間はC23.6カ月であった.角膜輪部炎の再発部位はC2例でほぼ同部位であり,3例では異なる部位であった.いずれの症例も再発後の治療によりC2週間.1カ月でC1412あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018治癒した.今回の経過観察の期間では初回の角膜輪部炎の再発後,2回目の角膜ヘルペスの再発を認めたものはなかった.CIII代表症例(症例2)症例はC79歳の男性.2016年C6月に左眼の充血を主訴に近医を受診した.そこで前房炎症を指摘され,虹彩炎の診断でステロイド点眼を処方された.しかし,下方結膜充血が改善せず,近医を初診してからC1カ月が経過した頃に精査加療目的で当科を紹介受診した.当科初診時の矯正視力は右眼(1.0),左眼(0.7),眼圧は右眼C13CmmHg,左眼C11CmmHgであった.6-8時方向に角膜輪部結膜の充血と腫脹,およびその位置に近接する周辺部角膜の浮腫があり,その先端では角膜後面沈着物を認めた(図1a).また,過去に上皮型ヘルペスの既往があったことから,臨床的特徴により本症例をヘルペス性角膜輪部炎と診断した.これに対しバラシクロビル内服C500Cmg2錠分C2,アシクロビル軟膏を左眼にC2回,レボフロキサシン点眼とベタメタゾン点眼を左眼にC4回で治療を開始した.治療に反応し,当科で治療を開始してからC2週間で充血は改善し,左眼の視力は(1.0)に改善した(図1b).病変は消失し,安定したものと考え近医での経過観察を指示した.しかし,それからC6カ月後,近医で経過観察中に前房炎症が再燃し,精査加療目的で当科を再診した.このとき左眼視力は(0.5),眼圧は左眼C11CmmHgであった.前回とは異なりC4-6時方向の角膜輪部結膜の充血と角膜後面沈着物を認めた(図2a).初回のエピソードに加えて上記の臨床的特徴からヘルペス性角膜輪部炎の再発と診断し,前回と同様の投薬により治療を行った.2週間で結膜充血や輪部結膜の腫脹は改善し,左眼視力は(1.2)に改善した(図2b).CIV考按今回の症例から,単純ヘルペスウイルスC1型でしばしばみられる角膜ヘルペスの再発が,角膜輪部炎でもみられること(100)図1症例2の初回角膜輪部炎の前眼部写真a:治療前,b:治療後.が明らかとなった.今回は最長の経過観察期間がC3年C11カ月と長期ではないものの,9例中C5例で再発していたことが判明した.角膜輪部炎でヘルペス性角膜炎が再発する例があることは,助村の報告にも記載されており4),再発については注意して経過をみていく必要性があることを示している.角膜輪部炎の診断については,サイトメガロウイルス感染を含む種々の角膜内皮炎との鑑別が必要な場合がある.その際には前房水のCPCRによる単純ヘルペスウイルスの検出は有効な診断ではあるが6),今回の症例ではいずれも過去に上皮型角膜ヘルペスの既往があり,輪部結膜の充血や腫脹といった角膜輪部炎の特徴をもつことから臨床的に角膜輪部炎(疑い)と診断した.さて,単純ヘルペスウイルスによる角膜輪部炎での再発の頻度については助村らの報告では言及されておらず,角膜輪部炎が発症した場合,その再発がすべて角膜輪部炎を生じていることが今回初めて明らかとなった.ただ,再発しても今回のC5例では抗ヘルペス薬眼軟膏および内服,ステロイド点眼で良好な治療経過をたどっていた.再発までの期間については,今回の症例でも再発期間に幅があり,一定の傾向は見いだせなかった.このことは逆に期間があいても輪部炎での再発が起こりうることを示唆しており,経過観察の重要性を示している.さらに,今回の研究で図2症例2の再発時の角膜輪部炎の前眼部写真a:治療前,b:治療後.は角膜輪部炎の再発部位が異なっている例,同じ部位で発症する例がそれぞれ一定の確率であり,経過観察するうえでの注意点であるといえる.表1からもわかるように,20年以上前からヘルペスによる角膜輪部炎が角膜ヘルペスのC1病態としてあげられているが3),上皮型,実質型に比較して,角膜輪部炎はその発症頻度も少なく,一般的な眼科医のなかでも認識が少ないと考えられ,診断や経過観察において注意していく必要がある.角膜輪部炎の発症としては以下のように推定される.通常の角膜ヘルペス同様,三叉神経節に潜伏する単純ヘルペスウイルスC1型がなんらかの刺激により活性化し,線維柱帯まで神経をたどり移動し,線維柱帯での炎症を引き起こす.これより輪部にあるリンパ組織に炎症が波及し,結膜輪部付近の充血,腫脹につながり,輪部炎が発症するというメカニズムである.輪部炎が拡大し角膜方向へ波及すると,輪部での結膜の腫脹,充血に加えて,その近傍の周辺部角膜が浮腫をきたし,前房の炎症が生じるとCkeratoprecipitatesがみられるようになり,それは眼圧上昇も引き起こす.線維柱帯にヘルペスウイルスがたどり着き,その感染が角膜内皮へとすぐに波及すれば角膜内皮炎を呈することになる.輪部炎から角膜の浮腫が生じた例での報告で,天野らは角膜内皮炎として扱っているが,その症例では眼圧上昇が継続したため,線維柱(101)あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018C1413帯切除術が施行されている7).そのなかで線維柱帯の組織で単純ヘルペスウイルスC1型に感染した細胞が認められており,三叉神経節から来たウイルスが線維柱帯で増殖し角膜輪部炎につながったとみるのが妥当であろう.高齢者増加により,これまで以上に通常の上皮型角膜ヘルペス罹患者は増加している.そうした背景から今後,角膜輪部炎患者も増加すると推定できる.角膜輪部炎の臨床上の特徴を再度理解し,角膜ヘルペスの一病態であると認識し,速やかな治療を行うことが今後さらに必要であり,また,いったん発症した場合,再発することを患者にも説明し,充血が再度生じれば速やかな受診を行うよう指導するべきである.そうした点で今回の研究結果から得られた輪部炎の再発に関する情報は経過観察するうえで参考となる.ただ,本報告の観察期間はかならずしも長期なものではなく,今後長期的な観察でさらなる詳しい情報も必要である.文献1)赤木泰:当科における最近C3年間の全層角膜移植術成績.眼紀C37:83-87,C19862)松清貴幸:大阪大学における角膜移植適応の変遷.眼紀C48:1270-1273,C19973)大橋裕一:角膜ヘルペス─新しい病型分類の提案─.眼科C37:759-764,C19954)助村有美,高村悦子,篠崎和美ほか:単純ヘルペス性角膜輪部炎の臨床所見.あたらしい眼科C30:685-688,C20135)高村悦子:単純ヘルペス性輪部炎の診断と治療.日本の眼科C63:637-640,C19926)KoizumiA,NishidaK,KinoshitaSetal:Detectionofher-pesCsimplexCvirusCDNACinCatypicalCepithelialCkeratitisCusingCpolymeraseCchainCreaction.CBrCJCOphthalmolC83:C957-960,C19997)AmanoCS,COshikaCT,CKajiCYCetal:HerpesCsimplexCvirusCinthetrabeculumofaneyewithcornealendotheliitis.AmJOphthalmolC127:721-722,C1999***1414あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018(102)

Achromobacter xylosoxidans感染により両側性の急性涙囊炎を発症した1例

2018年10月31日 水曜日

《第6回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科35(10):1407.1410,2018cAchromobacterxylosoxidans感染により両側性の急性涙.炎を発症したC1例児玉俊夫*1田原壮一朗*1平松友佳子*1大熊真一*1岡奈央子*1大城由美*2*1松山赤十字病院眼科*2松山赤十字病院病理診断科CACaseofAcuteBilateralDacryocystitisInfectedbyAchromobacterxylosoxidansCToshioKodama1),SoichiroTahara1),YukakoHiramatsu1),ShinnichiOkuma1),NaokoOka1)andYumiOshiro2)1)DepartmentofOphthalmology,2)DepartmentofPathology,MatsuyamaRedCrossHospitalC目的:Achromobacterxylosoxidans(AX)感染により両側の急性涙.炎を発症したC1症例の報告.症例:患者はC85歳,女性.4年前より左涙.炎を繰り返し,他院で繰り返し抗生物質を投与されていたが,抗生物質投与では寛解しないために松山赤十字病院眼科(以下,当科)を紹介受診した.涙.切開で膿よりCAXが検出され,その後涙.摘出を行って感染は寛解した.1年後,肺炎で他院入院中に右涙.部腫瘤を生じたため,当科を再受診した.当科受診時には右涙.炎と眼窩膿瘍を併発しており,膿よりCAXが検出された.涙.摘出と眼窩膿瘍摘出を行ったところ感染は寛解した.分離されたCAXはいずれもキノロン,アミノグリコシド,セファロスポリン系抗菌薬に耐性を示した.結論:AXによる涙.炎は今までに報告がないが,環境菌であり抗菌薬に多剤耐性を示すことから,治療抵抗性の涙.炎では非発酵グラム陰性棹菌も疑って細菌検査を行い,治療に当たることが重要と思われた.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCbilateralCacuteCdacryocystitisCcausedCbyCAchromobacterxylosoxidans(AX)C.Case:An85year-oldfemale,whohadbeendiagnosedwithleftdacryocystitis4yearspreviously,wasadmittedtotheeyeclinictoundergoantibiotictherapyseveraltimes.Herinfectionwasnotresolved,soshewasreferredtoourclinic.AXwasisolatedfromthepurulentdischargeafterlacrimalsacincision.Theinfectionwasresolvedafterdacryocystectomy.Oneyearlater,whileshewashospitalizedbecauseofpneumonia,atumorwasobservedintherightClacrimalCsacCarea.CMRICrevealedCdacryocystitisCandCadjacentCorbitalCabscess.CBothCwereCremoved,CandCsinceCthennorecurrenceofdacryocystitishasbeenobserved.TheAXwasresistanttoquinolones,aminoglycosidesandcephalosporins.Discussion:AcutebilateraldacryocystitiscausedbyAXisrare,butAXisanenvironmentalbac-teriumwithmulti-drugresistance.Ifacaseofdacryocystitishasapooroutcomewithantibiotictreatment,anon-fermentativegram-negativerodbacteriummightbeconsidered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(10):1407.1410,C2018〕Keywords:Achromobacterxyloxidans,非発酵グラム陰性桿菌,環境菌,急性涙.炎,涙.摘出.Achromobacterxyloxidans,non-fermentativegram-negativerodbacterium,environmentalbacterium,acutedacryocystitis,dacryo-cystectomy.CはじめにAchromobacterxylosoxidansはブドウ糖非発酵で好気性,運動性を有するグラム陰性桿菌である1).A.xylosoxidans感染症はC1971年に藪内と太山によって慢性中耳炎患者の耳漏から分離されたC7株に対して最初に報告された2).以前,A.xylosoxidansはCAlcaligenes属に分類されていたが,ribo-somalRNA塩基配列の違いによりCAchromobacter属は独立菌属とされた.A.xylosoxidansは水や土壌など自然環境下に広く分布し,弱毒菌とされ,眼感染症において起炎菌としてはまれな病原微生物である1).今回,両側性の急性涙.炎の起炎菌としてCA.xylosoxidansが検出されたC1症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕児玉俊夫:〒790-8524愛媛県松山市文京町1松山赤十字病院眼科Reprintrequests:ToshioKodama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,MatsuyamaRedCrossHospital,1Bunkyo-cho,Matsuyama,Ehime790-8524,JAPANCI症例患者:85歳,女性.4年前より左涙.部の腫脹を何回も繰り返し,他院でそのたびに抗生物質の点滴が施行されていたが,ガチフロキサシン点眼とセフェピム点滴治療を行っても左涙.炎が改善しなかったため,2014年C8月に松山赤十字病院眼科(以下,当科)を紹介され,受診した.既往歴として生後間もなく,原因不明の眼疾患によって両眼とも失明した.20歳代で発症した統合失調症のために入退院を繰り返したのち,救護院に移ってからは長期間入所中である.なお家族歴は不明であ図1左涙.炎a:左涙.炎.左涙.部に発赤腫脹を認めた(→).Cb:眼窩CCT写真.左涙.部は広範囲に混濁していた(→).右涙.部には腫脹は生じていなかったが,石灰化陰影(☆)を認めた.両眼窩部には石灰化を伴い,萎縮した眼球と思われる陰影を認めた(.).Cc:摘出した涙.(→).Cd:摘出した涙.のCHE染色所見.摘出組織は炎症細胞を伴う肉芽組織であった.バーはC50Cμm.右下の挿入図では一部,線毛を有する円柱上皮を示す.バーはC100Cμm.る.初診時視力は両眼ともC0で,眼圧は測定不能であった.両眼とも小眼球で眼球癆の状態であった.左涙.部の発赤および腫脹が認められたため(図1a),眼窩CCT撮影を行ったところ,左涙.部の腫脹は広範囲に広がっていた.右涙.部の腫脹は生じていなかったが,内部に高吸収の涙道結石を認めた.なお,両眼とも眼内に石灰化を伴った小眼球を示していた(図1b).おもな血液検査所見として,末梢血では白血球数はC4,700/μlで好中球C47.1%,好酸球C2.1%,好塩基球C0.4%,単球C5.9%,リンパ球C44.7%と異常を認めなかった.C反応性蛋白(CRP)はC0.72Cmg/dlと軽度上昇していた.肝,腎機能異常は認められなかった.即日入院となり,涙.切開を行って排膿が認められた.セファゾリンナトリウムの点滴とレボフロキサシンの点眼治療を開始した.第C3病日に細菌培養検査で分離された細菌はグラム陰性桿菌でCA.xylosoxidansと同定された(図2a,b).薬剤感受性の結果を表1に示す.分離されたCA.Cxylosoxi-dansはキノロン,アミノグリコシド,セファロスポリン系抗菌薬に耐性を示した.抗菌薬の治療に反応せず,涙.炎が増悪していたので同日局所麻酔で左涙.摘出を行った.左涙.部の皮下には涙.と周囲の壊死組織がみられ摘出した(図1c).摘出組織の病理組織学的所見として,ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色で一部に涙.上皮組織がみられたものの,大部分は炎症細胞を伴う肉芽組織であった(図1d).左涙.摘出後には同部位の発赤,腫脹は消失した.術後C7カ月までは左涙.炎の再発は認めなかったが,2015年C7月に肺炎のため他院に入院中,右涙.部に腫瘤を形成したために同月末に当科を紹介され,受診となった.涙.部の発赤,腫脹は軽度であったが,皮下腫瘤を形成しており右慢性涙.炎と考えた.他院を退院となったC8月下旬に当科を受診したところ右涙.部に発赤を伴った腫瘤およびその耳側に図2涙.切開時の排膿の細菌培養a:チョコレート寒天培地(右)とヒツジ血液寒天培地上に形成されたコロニー.Cb:排膿して得られた試料の塗抹標本.グラム染色でグラム陰性桿菌(→)が認められた.表1A.xylosoxidansの薬剤感受性薬剤CMIC判定薬剤CMIC判定CPIPC<=8CSCGM>8CRCCAZC8CSCTOB>8CRCCZOP>16CRCAMK>32CRCCFPM>16CRCMINO<=2CSCIPM<=1CSCLVFXC4CICMEPMC8CICCPFX>2CRCDRPMCN/RCST<=2CSCAZT>16CRCFOM>16CNACC/S<=16CNACCLCN/RCP/T<=8CS細菌分離は当院微生物検査室において通常培養で行い,薬剤感受性検査は微量液体希釈法(NCCLS法)によりCMicroScanTM(Siemens社)を用いて測定した.薬剤感受性については被検菌の発育阻止最小濃度(MIC)より各薬剤の判定基準に従い,S(Susceptible,感受性あり),I(Intermediate,中間感受性),R(Resistant,耐性)と判定した.検査薬剤は,ペニシリン系はピペラシリンナトリウム(PIPC),セファロスポリン系はセフタジジム(CAZ),セファゾプラン(CZOP),セフェピム(CEPTM),カルバペネム系はイミペネム(IPM),メロペネム(MEPM),ドリペネム(DRPM),モノバクタム系はアズトレオナム(AZT),ペニシリン系配合剤はスルバクタム/セフォペラゾン(C/S),ピラシリン/タゾバクタム(P/T),アミノ配糖体系はゲンタマイシン(GM),トブラマイシン(TOB),アミカシン(AMK),テトラサイクリン系はミノサイクリン(MINO),キノロン系はレボフロキサシン(LVFX),シプロフロキサシン(CPFX),その他の抗生物質としてスルファメトキサゾール/トリメトプリム(ST),ホスホマイシン(FOM),コリスチン(CL)である.N/R:マイクロスキャンでは測定限界,NA:判定不能.も皮下腫瘤を触知したために(図3a),眼窩CMRI検査を行った.右涙.部に比較的高信号の腫瘤病変とその耳側に被膜に包まれた比較的低信号の球状の腫瘤病変を認めたので(図3b)涙.炎と眼窩膿瘍を併発していると考えた.涙.部を圧迫すると膿の排出が認められ,A.xylosoxidansが検出された.涙.摘出および眼窩膿瘍摘出を行った.眼窩膿瘍と考えられた病変は.胞様組織であり,摘出途中に破.して膿が流出した(図3c).さらに.胞は涙.上端に続いており(図3d),涙道結石も認めたために涙小管炎が増悪して憩室を形成していた可能性も考えられた.分離されたCA.xylosoxidansは前回と同様にキノロン,アミノグリコシド,セファロスポリン系抗菌薬に耐性を示した.2回目の手術よりC2年C3カ月後に両涙.炎の再発は認めていない.なお入居していた救護施設の水道および風呂の水の細菌培養を行ったが,A.Cxylosoxi-dansをはじめ病原微生物は検出されなかった.CII考按両側性に発症した急性涙.炎の起炎菌としてCA.Cxylosoxi-図3右涙.炎a:右涙.炎.右涙.部のやや上方に発赤を伴った腫瘤(→→)とその耳側にも腫瘤形成を認めた(→).Cb:眼窩CMRI画像.涙.部に比較的高信号の腫瘤病変(→)とその耳側に被膜に包まれた比較的低信号の球状の.胞(→)を認めた.Cc:右下眼瞼に皮膚切開を行い,球形の眼窩腫瘤病変を摘出した(→).Cd:皮膚切開線を鼻側に延長して切開を加え,涙.部腫瘤を摘出した(→).dansが検出されたC1症例を経験した.A.xylosoxidansはブドウ糖非発酵グラム陰性棹菌の一つで,水や土壌などに広く分布し,弱毒菌とされている.そのためCA.xylosoxidansは環境常在菌と位置づけられており,クロルヘキシジングルコン酸塩消毒液に対して強い抵抗性をもつことより,日和見病原体として病院内感染や老人ホームなどの施設内感染の原因となりうる1).A.xylosoxidansが環境菌である根拠として,Nakamotoらは河川など戸外の環境水や屋内の生活水から採取したC89検体で細菌培養を行ったところ,9検体で本菌が検出できたと報告している3).さらに乳癌の全身転移患者がCA.xylosoxidansの敗血症で死亡したが,家庭環境を調査したところ井戸の飲み水よりCA.xylosoxidansが検出されたという報告例があり4),環境菌が日和見感染の原因となりうることが証明された.本症例では入居していた救護施設の水道および風呂の水の細菌培養を行ったが,A.xylosoxidansは検出されなかったために感染経路を特定できなかった.眼科領域ではコンタクトレンズ保存液から検出されることが多く,稲葉らが,ソフトコンタクトレンズ消毒剤容器の出口部擦過において検出される細菌の頻度を調べたところ,A.xylosoxidansは第C4位に位置していた5).一方,コンタクトレンズより抽出したC16SリボゾームCRNAの遺伝子解析によりCAchromobacter属は検出菌の首位を占めており,さらに走査電子顕微鏡による観察でCAchromobacter属はコンタクトレンズ上においてバイオフィルムを形成するという報告6)があり,コンタクトレンズ関連角膜感染症の起炎菌として重要であるとしている.南インドではC8カ月の観察期間でCA.xylosoxidansによる眼感染症はC10例を数え,角膜移植後感染C6例,それ以外の角膜感染症C2例,眼内炎C2例と高率に発症していたが7),米国ではCA.xylosoxidansによる眼感染症はC28年間にC28例とまれではあるが,視力予後は悪いと報告されている8).A.xylosoxidansによる重症の眼感染症として,角膜潰瘍の報告例9),白内障術後眼内炎10)および網膜.離後のバックル感染11)の報告例が散見される.一般的にグラム陰性桿菌の感染症は緑膿菌感染が多いためにアミノ配糖体による治療が第一選択となるが,ゲンタマイシンに抵抗性を示すグラム陰性桿菌の感染症ではCA.xylosoxidansによる感染症を考慮に入れる必要がある.A.xylosoxidansによる涙.炎は今までに報告がないが,アミノ配糖体をはじめ多剤耐性を示すことから,治療抵抗性の涙.炎では非発酵グラム陰性棹菌も疑って細菌検査を行い,治療に当たることが重要と思われた.謝辞:A.xylosoxidansの分離同定を行った松山赤十字病院検査部西山政孝技師長,谷松智子係長に感謝いたします.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)藪内英子:AchronobacterとAchronobacterCxylosoxidans─27年の歩み─.JARMAM10:1-12,C19992)YabuuchiCE,COhyamaA:AchromobacterCxylosoxidansCn.sp.CfromChumanCearCdischarge.CJpnCJCMicrobiolC15:477-481,C19713)NakamotoCS,CSakamotoCM,CSugimuraCKCetal:Environ-mentalCdistributionCandCdrugCsusceptibilityCofCAchrono-bacterxylosoxidansCisolatedfromoutdoorandindoorenvi-ronments.YonagoActaMedicaC60:67-70,C20174)SpearCJB,CFuhrerCJ,CKirbyBD:AchromobacterCxylosoxi-dans(Alcaligenesxylosoxidanssubsp.xylosoxidans)bctere-miaCassociatedCwithCaCwell-watersource:CaseCreportCandCreviewCofCtheCliterature.CJCClinCMicrobiolC26:598-599,C19985)稲葉昌丸,糸井素純,井上幸次ほか:ソフトコンタクトレンズ消毒剤の汚染状況.日コレ誌55:109-113,C20136)WileyCL,CBridgeCDR,CWileyCLACetal:BacterialCbio.lmCdiversityCinCcontactClens-relateddisease:EmergingCroleCofaCAchromobacter,CStenotrophomonasCandCDelftia.InvestCOphthalmolVisSciC53:3896-3905,C20127)ReddyAK,GargP,ShahVetal:Clinical,microbiologicalpro.leandtreatmentoutcomeofocularinfectionscausedbyAchromobacterCxylosoxidans.CorneaC28:1100-1103,C20098)SpiererCO,CMonsalveCPF,CO’BrienCTPCetal:ClinicalCfea-tures,CantibioticCsusceptibilityCpro.les,CandCoutcomesCofCinfectiouskeratitiscausedbyAchromobacterxylosoxidans.CorneaC35:626-630,C20169)NewmanPE,HiderP,WaringIIIGOetal:CornealulcerduetoAchromobacterxylosoxidans.BrJOphthalmolC68:C472-474,C198410)VillegasCVM,CEmanuelliCA,CFlynnCHWCJrCetal:EndoC-phthalmitisCcausedCbyCAchromobacterCxylosoxidansCafterCcataractsurgery.RetinaC34:583-586,C201411)HottaCF,CEguchiCH,CNaitoCTCetal:AchromobacterCbuckleCinfectionCdiagnosedCbyCaC16SCrDNACcloneClibraryCanaly-sis:acasereport.BMCOphthalmolC14:142-149,C2014***

基礎研究コラム 17.脈絡膜血管形成制御機構-発生学から疾患を考える

2018年10月31日 水曜日

網膜色素上皮Aldh1a1脈絡膜中大血管メラノサイト脈絡膜VEGF脈絡膜毛細血管板神経網膜Sox9網膜色素上皮視神経レチノイン酸神経網膜で発現する神経網膜Aldh1a1脈絡膜血管形成制御機構――発生学から疾患を考える後藤聡網膜で合成されるレチノイン酸網膜は光信号を電気信号に変換し脳へ伝えるという視覚において大切な役割を担っていますが,網膜を構成する各細胞から分泌される蛋白質が組織の分化に重要であることも忘れてはなりません.たとえばその一つにアルデヒド脱水素酵素(ALDH)があげられます.ビタミンCA誘導体であるレチノイン酸は,ALDHを含むC2段階の酵素反応を経てレチノールから生成されます.レチノイン酸は,個体の発生において重要な分子であり,脊椎動物胚の前後軸を決定するのにレチノイン酸の濃度勾配が必要です.また,iPS細胞から三次元網膜を作製する際にも重要な因子であることが知られています.つまり網膜の発生においても必須な分子の一つです1).脈絡膜の発生に網膜由来のレチノイン酸が必要脈絡膜の血管形成には網膜色素上皮(retinalpigmentepi-thelium:RPE)細胞から分泌される血管内皮増殖因子(vas-cularendotherialgrowthfactor:VEGF)が重要であることは知られていますが,その分泌制御機構はよくわかっていませんでした2).筆者らは,アルデヒド脱水素酵素のひとつであるCAldh1a1の遺伝子欠損マウスで背側脈絡膜血管の形成不全が観察されることを報告しました(図1)3).そのメカニズム解析の結果,網膜特異的に発現するアルデヒド脱水素酵素によって合成されるレチノイン酸が,網膜色素上皮細胞で図1脈絡膜フラットマウント標本Aldh1a1遺伝子欠損マウスの背側の脈絡膜が,野生型と比べて血管低形成になっている.赤で示す抗エンドムチン抗体は脈絡膜毛細血管を描出することができ,緑で示すイソレクチンCB4はおもに脈絡膜中大血管を描出することができる.(文献C3より改変引用)大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室Sox9やCVEGFの発現を制御していることを明らかにしました(図2).今後の展望網膜やCRPEは正常であるにもかかわらず脈絡膜が低形成である若いマウスは,老化とともに脈絡膜からCRPEへの栄養や酸素の供給不足が蓄積することで,将来変性を生じることが予想されます(現在,検証中).もしかすると,加齢とともに病気を発症する患者の中には,生まれつき脈絡膜が低形成だけれども,若いときには病気を発症しなかった患者がいるかもしれません.また,脈絡膜の表現型を示す疾患は必ずしも脈絡膜での遺伝子異常だけが原因ではなく,表現型を示す部位以外にも原因がある可能性を示しています.たとえば萎縮型加齢黄斑変性は,まだまだ原因遺伝子の探索が続いていますが,RPEだけでなく網膜で発現する遺伝子も含めて病態を考えると新しい発見があるかもしれません.基礎研究で培った視点をもって日々の診療に臨むと,今まで見えなかった新たな発見に出会える可能性が広がるように思います.文献1)CunninghamCTJ,CDuesterG:MechanismsCofCretinoicCacidCsignallingCandCitsCrolesCinCorganCandClimbCdevelopment.CNatRevMolCellBiolC16:110-123,C20152)LeCY,CBaiCY,CZhuCMCetal:TemporalCrequirementCofCRPE-derivedCVEGFCinCtheCdevelopmentCofCchoroidalCvas-culature.JNeurochemC112:1584-1592,C20103)GotoCS,COnishiCA,CMisakiCKCetal:NeuralCretina-speci.cCAldh1a1CcontrolsCdorsalCchoroidalCvascularCdevelopmentCviaCSox9CexpressionCinCretinalCpigmentCepithelialCcells.ElifeC2018Apr3:7.pii:e32358図2脈絡膜形成制御機構に関する分子メカニズム網膜で発現するCAldh1a1によって合成されたレチノイン酸が,網膜色素上皮(RPE)に作用しCRPE内で転写因子CSox9を介してCVEGFの分泌をうながすことで脈絡膜血管形成を制御している.(文献C3より改変引用)(85)あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018C13970910-1810/18/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス 185.硝子体手術後の細菌性眼内炎(初級編)

2018年10月31日 水曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載185185硝子体手術後の細菌性眼内炎(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに内眼手術後に発症する細菌性眼内炎の治療には硝子体手術が有効であるが,本来は治療手段となるべき硝子体手術後にも細菌性眼内炎が生じることがある.Micro-incisionvitreoussurgery(MIVS)の導入時期には,強膜創を縫合しないケースで術後眼内炎が問題となったことがあったが,最近では強膜創を縫合する術者が増えたことと,より細い25ゲージ(G)や27Gが主流となってきていることもあり,その発症頻度は減少している.●硝子体手術後の眼内炎の臨床的特徴硝子体手術後の細菌性眼内炎は以下のような臨床的特徴がある.1)細菌が直接硝子体に侵入するため,前房炎症よりも眼底病変が強くなり,予後不良となることがある.2)硝子体が切除されているため硝子体混濁が不明瞭であることや,術後炎症が他の内眼手術よりも強いことなどより,診断が遅れる傾向にある(図1).3)他の眼内炎と同様に,糖尿病などの易感染性基礎疾患を有している症例が多い.4)他の眼内炎と同様に,最近はMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)やMRSE(メチシリン耐性表皮ブドウ球菌)による眼内炎が増加しており,とくにアトピー性皮膚炎を有する症例では要注意である.5)穿孔性眼外傷,眼内異物,眼球破裂例に対する硝子体手術後には眼内炎の発症頻度が高い.6)糖尿病黄斑浮腫などの硝子体手術後に浮腫が遷延する例では,術後にステロイドの硝子体注射を施行することがあるが,これが眼内炎を誘発することもある.7)硝子体手術後晩期に発症する眼内炎は,結膜.内の弱毒菌(表皮ぶどう球菌やアクネ菌)が原因であることが多く,まずは抗菌薬による薬物療法を開始する.反応が悪い場合には硝子体手術を考慮する.8)黄斑疾患では初回硝子体手術時に周辺部の硝子体を(83)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1自験例の細隙灯顕微鏡写真糖尿病黄斑浮腫に対して他院で硝子体手術が施行され,術後の炎症が遷延するとのことで紹介となった.多数の角膜後面沈着物と前房内炎症細胞を認める.図2硝子体再手術時の所見周辺部の残存硝子体は混濁し,眼内液から表皮ブドウ球菌が検出された.十分に切除しないケースが多いので,残存硝子体皮質が細菌感染の足場となりやすい.9)シリコーンオイル注入眼では眼内炎の所見がマスクされることがあり,眼内液の存在する下方網膜で病変が進行しやすい.●治療まず抗菌薬の硝子体注射を行うことが多いが,重症例では硝子体再手術にふみきる.再手術では,必要に応じて眼内レンズを抜去し,感染源となっている周辺部の残存硝子体をできるだけ切除する(図2).あたらしい眼科Vol.35,No.10,20181395

眼瞼・結膜:瞬目摩擦と結膜疾患

2018年10月31日 水曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人白石敦43.瞬目摩擦と結膜疾患愛媛大学大学院医学研究科医学専攻器官・形態領域眼科学瞬目時には,眼瞼結膜と眼表面の間に摩擦が生じており,病的に摩擦が亢進するとCsuperiorClimbicCkerato-conjunctivitis(SLK)やClidwiperCepitheliopathy(LWE)に代表される摩擦関連疾患が生じる.眼表面摩擦亢進が生じる要因は,眼瞼,眼表面,涙液側から複数の因子が関係していることが多く,その病態における摩擦亢進の要因を的確に判断して治療することが必要である.●はじめに瞬目は,眼表面の涙液の拡散と排出に働くことで,導涙機能とともに安定した涙液膜を形成している.一方で,瞬目時には眼瞼結膜と眼表面の間に摩擦が生じており,病的に摩擦が亢進すると過度な上皮細胞の脱落が生じ,角結膜上皮障害が生じる.C●瞬目時の眼表面摩擦二つの物体が接触して動いているとき,その物体間には常に摩擦力が生じ,摩擦力CF=摩擦係数CμC×垂直力CNという公式で表される.瞬目時の眼瞼と眼表面の関係図1眼瞼と眼表面の解剖と瞬目による眼表面摩擦眼瞼はClidwiper部で眼表面と接しており,その上方の結膜.はCKessingspaceとよばれ,涙液のリザーバーの役割を果たす.摩擦力CF=摩擦係数CμC×垂直力CNの式で表せるが,これを眼瞼と眼球との間にあてはめると,眼瞼と眼球との摩擦力CF=眼瞼結膜やClidwiperと角膜や眼球結膜との間の状態により決まる摩擦係数CμC×眼瞼圧CNと表記できる.(81)C0910-1810/18/\100/頁/JCOPYにあてはめた場合,「眼表面と眼瞼間の摩擦力CF=眼表面と眼瞼間の粗さ係数CμC×眼表面と眼瞼間にかかる垂直力N(=眼瞼圧)」と示される(図1).摩擦係数Cμは眼表面の凸凹と涙液の状態に影響を受ける.眼瞼および眼表面の解剖に注目してみると,皮膚粘膜移行部(muco-cutaneousjunction:MCJ)から瞼板下溝までの眼表面ともっとも密接している部分は,KorbらによってClidwiperと命名されており,瞬目時の摩擦の中心となる1).また,眼瞼結膜と眼球結膜の間にはCKessingspaceがあり,瞬目で涙液がCKessingspaceから拡散することにより均一な涙液膜が形成されている.つまり解剖学的構造,涙液,瞬目運動の複合的要因によって瞬目による眼表面摩擦が構成されている.C●眼表面摩擦を亢進させる要因摩擦関連疾患において眼表面摩擦亢進が生じる要因にも複数の因子が関係していることが多く,眼瞼,眼表面,涙液側のC3方向からその要因を考えるとわかりやす図2眼表面摩擦亢進が生じる要因眼表面摩擦亢進が生じる要因は,眼瞼側(眼瞼圧上昇,不規則な瞬目),眼表面側(結膜弛緩症,眼表面上皮障害),涙液側(涙液減少,不安定な涙液層)のC3方向からなる.あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018C1393図3Superiorlimbickeratoconjunctivitis(a)とLidwiperepitheliopathy(b)い(図2).眼瞼側の要因では,眼表面と眼瞼間にかかる垂直力CNである眼瞼圧があげられる.眼表面側の要因としては,結膜弛緩症や結膜乳頭などの表面が凸凹した病態や,点状表層角膜症(super.cialCpunctateCkeratopC-athy:SPK)などの眼表面上皮障害も凸凹状態となるために眼表面側の要因の一つとなる.結膜弛緩や摩擦関連疾患に伴う眼表面上皮障害では摩擦亢進がその病態の原因となり,それに伴う上皮障害がさらに摩擦亢進に働くために病態が悪循環に陥ってしてしまう.涙液側の要因としては,涙液の減少型ドライアイでは,涙液減少による摩擦係数(上昇)に加えて上皮障害が生じることで,やはり悪循環に陥った状態となる.一方で,不安定な涙液層では眼表面における涙液の粘度が低下しており,やはり摩擦亢進の要因となる.C●眼表面摩擦関連疾患の病態a.Superiorlimbickeratoconjunctivitis(SLK)SLK(図3a)の病態は,上眼瞼結膜と上方の角結膜間の摩擦亢進である.従来よりドライアイの合併症とされ,眼瞼結膜乳頭形成や上方の結膜弛緩が指摘されているように,涙液減少や不安定な涙液膜,眼表面の凸凹による摩擦係数上昇がその要因である.一方,重症度が上がるにつれて上眼瞼圧が有意に上昇しており,SLKの発症には眼瞼圧の上昇,眼表面の不正,涙液の減少や安定化のC3要素すべてが関与している2).Cb.Lidwiperepitheliopathy(LWE)Lidwiper部は常に眼球表面に接しているため,瞬目によりもっとも摩擦が高くなる部位である.LWE(図3b)は,とくに眼表面より摩擦係数の高いコンタクトレンズを装用することで高頻度に認められる.ドライアイとの関連では,ドライアイ患者で正常者の約C6倍の高頻度で認められるとの報告がある一方で,涙液所見はLWEと正常者では変わらないとの報告がある3,4).c.ドライアイ涙液減少型ドライアイが悪化してくると,瞼裂間に境界明瞭な結膜上皮障害を認めるようになる.涙液減少型ドライアイでは涙液層が薄く,またCSjogren症候群によるドライアイでは分泌型ムチンも減少するため,摩擦が亢進している状態である.C●瞬目に伴う眼表面摩擦関連疾患の治療摩擦関連疾患においては,複数の眼表面摩擦亢進が生じる因子が関係していることが多いため,治療をするにあたってはその病態における摩擦亢進の要因を可能なかぎり検出または推測し,もっとも影響している可能性のある要因に対する治療から開始することが望ましい.C●おわりに2016年に改訂されたドライアイ診断基準では「さまざまな要因により涙液層の安定性が低下する疾患」と定義されたが,瞬目による摩擦はまさに主要因となりえる.ドライアイや眼表面の上皮障害を診察するにあたっては,要因の一つとして瞬目による摩擦も考慮しながら診察に臨むことが肝要である.文献1)KorbDR,GreinerJV,HermanJetal:Lid-wiperepitheli-opathyCandCdry-eyeCsymptomsCinCcontactClensCwearers.CCLAOJC28:211-216,C20022)山口昌彦:摩擦をターゲットとしたドライアイ治療.あたらしい眼科34:361-370,C20173)KorbDR,HermanJP,BlackieCAetal:PrevalenceoflidwiperCepitheliopathyCinCsubjectsCwithCdryCeyeCsignsCandCsymptoms.CorneaC29:377-383,C20104)ShiraishiCA,CYamaguchiCM,COhashiY:PrevalenceCofCupper-andlower-lid-wiperepitheliopathyincontactlenswearersandnon-wearers.EyeContactLensC40:220-224,C2014C1394あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018(82)

抗VEGF治療:網膜中心静脈閉塞症に挑む!

2018年10月31日 水曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二57.網膜中心静脈閉塞症に挑む!鈴間潔香川大学医学部眼科学講座レーザースペックルフローグラフィー(LSFG)を用い,網膜中心静脈閉塞症の網膜血流を評価したところ,抗VEGF治療により黄斑浮腫と血流の両方が改善する症例が視力予後良好であった.LSFGを用いて血流を評価することは,病状把握および治療を行ううえで有用である.網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO)は虚血型に移行すると失明につながる疾患であり,黄斑浮腫は視力予後を不良にする.格子状光凝固,高圧酸素療法,炭酸脱水酵素阻害薬内服,硝子体切除,視神経乳頭放射状切開,ステロイド局所投与,全身または局所の線溶療法など,さまざまな治療が試みられてきたが,決定的な治療法は確立されていない.最近,抗VEGF薬の硝子体内注射がCCRVOの黄斑浮腫を著明に改善することが明らかとなり,治療の主流となりつつある.CRVOは非虚血型がC75~80%を占め,30%の黄斑浮腫は自然治癒するといわれているが,3年でC34%が虚血型に移行するともいわれている.虚血型になると著しい視力低下が生じ,3カ月以内にC60%以上が虹彩血管新生や血管新生緑内障に進行するといわれている.CRVOに対する抗CVEGF治療の大規模臨床試験の報告では,平均C17文字以上という非常に大きな視力改善が得られている.黄斑浮腫に対しても抗CVEGF治療は非常に有効であり,筆者らのデータでも多くの症例で黄斑浮腫が著明に改善していた1).すなわちCCRVOにおけるCVEGFの役割は非常に大きいということがいえる.眼内CVEGFの発現を亢進させるのは網膜血流の低下とそれによる網膜虚血であると考えられるため,CRVOで網膜血流の評価を試みた.網膜血流評価の基本は蛍光眼底造影であるが,定量的な評価は非常に手間がかかり,侵襲的な検査なので受診ごとに施行することができない.そこで日本発の眼底血流解析装置であるレーザースペックルフローグラフィー(laserCspeckle.owgraphy:LSFG)を採用した.LSFGは眼底に存在する散乱粒子の移動速度分布,すなわち眼底血流分布を画像化して表示することができる.視神経乳頭の大血管の平均血流速度を自動解析するプログラムを開発し,網膜全体の血流を反映する指標として用いた.まずCCRVOの前房CVEGF濃度と血流(meanCblurrate:MBR)の相関を調べたところ,負の相関を認めた2).このことは中心静脈閉塞が高度であるほど眼内(79)C0910-1810/18/\100/頁/JCOPYVEGF濃度が高くなるということを意味しており,重症例ほど頻繁な抗CVEGF治療が必要であることを説明できる.その後,LSFGにより網膜血流を評価しながらCRVOの診療をしていると,抗CVEGF治療により網膜血流が改善する症例があることに気づいた(図1).非可逆的変化になってしまっている例もあるが,抗CVEGF治療をすると網膜血流が改善する例があるということから,VEGFと血流の間に悪循環があると考えられた(図2)3).その後症例を重ね,最終視力を目的変数として多変量解析を行なったところ,最終血流がよいほど最終視力がよいということが明らかとなった4).すなわち,抗VEGF治療を行う場合でも,血流をモニターしながら血流がよくなるような管理をするべきであるといえる.抗CVEGF治療を行って浮腫が改善しても,虚血により網膜細胞死から視機能障害が起こる(図2)ため,CRVOの本質である中心静脈閉塞や虚血そのものの治療法を開発する必要がある5).文献1)TsuikiE,SuzumaK,UekiRetal:Enhanceddepthimag-ingopticalcoherencetomographyofthechoroidincentralCretinalCveinCocclusion.CAmCJCOphthalmol156:543-547,C20132)YamadaY,SuzumaK,MatsumotoMetal:Retinalblood.owCcorrelatesCtoCaqueousCvascularCendothelialCgrowthCfactorCinCcentralCretinalCveinCocclusion.CRetinaC35:2037-2042,C20153)MatsumotoCM,CSuzumaCK,CFukazawaCYCetal:RetinalCblood.owlevelsmeasuredbylaserspeckle.owgraphyinpatientsCwhoCreceivedCintravitrealCbevacizumabCinjectionCformacularedemasecondarytocentralretinalveinocclu-sion.RetinalCases&BriefReportsC8:60-66,C20144)MatsumotoM,SuzumaK,YamadaYetal:Retinalblood.owCafterCintravitrealCbevacizumabCisCaCpredictiveCfactorCforCoutcomesCofCmacularCedemaCassociatedCwithCcentralCretinalveinocclusion.RetinaC38:283-291,C20185)鈴間潔,北岡隆,隈上武志ほか:眼疾患メカニズムの新しい理解.網膜血管障害の新しい理解.日眼会誌C119:C216-227,C2015あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018C1391IVR前VEGF=116pg/ml視力RV=0.15(0.3),CRT=641μmMV-MT=28.34回目IVR4週後視力RV=0.7(1.2),CRT=282μmMV-MT=38.34回目IVR9週後,5回目IVR施行視力RV=0.8(0.9),CRT=303μmMV-MT=39.45回目IVR5週後視力RV=0.7(0.9),CRT=278μmMV-MT=39.85回目IVR9週後,6回目IVR施行視力RV=0.6(0.8),CRT=355μmMV-MT=45.4図1非虚血型網膜中心静脈閉塞症の治療経過左:OCT,右:視神経レーザースペックルフローグラフィー.抗CVEGF治療により最終的に黄斑浮腫と血流の両方の改善が得られ,視力も改善した.IVR:intravitrealranibizumab,CRT(centralretinalthickness):平均中心窩網膜厚,MV(meanblurrateatvasculature):大血管血流,MT(meanblurrateattissue):組織血流網膜中心静脈閉塞症網膜血流低下網膜虚血悪循環図2網膜中心静脈閉塞症では血流改善の有無が予後を左右する眼内CVEGF濃度の上昇がさらに網膜血流を低下させるという悪循環が存在するが,抗CVEGF治療を行って悪循環を断ち切り,浮腫が改善しても,虚血そのものにより網膜細胞死から視機能障害が起こる.網膜細胞死視機能障害1392あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018(80)

緑内障:OCT angiographyの基本

2018年10月31日 水曜日

●連載220監修=岩田和雄山本哲也220.OCTangiographyの基本鈴木克也野崎実穂名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学(眼科)OCTangiography(OCTA)は非侵襲的に網脈絡膜血管を描出できる検査法である.従来の蛍光眼底造影検査より短時間で実施でき,病変の三次元的な評価が可能である.さまざまな疾患の評価に有用であるが,造影剤の漏出は描出できず,造影検査と完全に一致するものではない.OCTAの特性を理解した正しい読影が肝要である.●OCTAの原理と特徴光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)のスキャンスピード高速化や高解像度化が進み,さらに新たな技術として,造影剤を用いることなく非侵襲的に網脈絡膜血管を描出できる光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyCangiography:OCTA)が登場した.OCTAは同一部位のCBスキャン画像を複数回撮影し,その画像の差分から動きのあるシグナル(血流)を検出し,再構築し画像化(Cスキャン)している1).OCTAは検査時間も従来の造影検査より短時間で実施でき2),かつ非侵襲的な検査法であるため,頻回の検査も可能で,経時的な変化を評価することが容易にできる.また,従来の蛍光眼底造影検査で得られる画像は二次元であるが,OCTAは断層像に基づいて画像を再構成するため,網脈絡膜血管の層別解析が可能で,さらには立体的な構造を描出することができる.CRTVueCXRAvanti(Optovue社)では,黄斑部では網膜表層毛細血管層(super.cialCcapillaryCplexus),網膜深層毛細血管層(deepCcapillaryCplexus),網膜外層(outerretina),脈絡膜血管層(choroidcapillary)のC4層に自動的に分けて描出され(図1),病変の三次元的な評価が可能である.また,視神経乳頭部でも,視神経乳頭(nervehead),硝子体(vitreous),放射状視神経乳頭周囲毛細血管(radialperipapillaryCcapillaries),脈絡膜(choroid)のC4層に自動表示され(図2),網膜黄斑部や視神経乳頭周囲では血管密度を評価することもできる.図1RTVueXRAvantiを用いた正常人の黄斑部OCTA画像(3mm)三次元的な網脈絡膜血管構造をC4層に分離して描出することが可能である.図2RTVueXRAvantiを用いた正常人の視神経乳頭部OCTA画像(4.5mm)乳頭周囲の血管構造もC4層に分離して表示可能である.(77)あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018C13890910-1810/18/\100/頁/JCOPY図3右眼加齢黄斑性の症例(65歳,男性)抗CVEGF薬の投与によりCOCT(Bスキャン)(c)では漿液性.離は消失しているが,OCTAではCouterretina(Ca),choroidcapillary(Cb)に脈絡膜新生血管が描出されている.図4左眼網膜静脈分枝閉塞症の症例(63歳,女性)OCTA(DRIOCTTriton)では,super.cialcapillaryplexus(Ca),deepcapillaryplexus(Cb)に閉塞部位の無灌流領域と毛細血管瘤を認める.フルオレセイン蛍光眼底造影像(Cc)と比較しても,病変の描出は鮮明である.C●現在のOCTAの限界OCTAは加齢黄斑変性における脈絡膜新生血管の描出や,糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症の毛細血管瘤や無灌流領域の評価には有用であり,病変検出率は従来の造影検査と比較し,同等か場合によってはCOCTAのほうが優れるとの報告もある2,3)(図3).しかし,OCTAはフルオレセイン蛍光眼底造影でみられる血管外への造影剤の漏出という所見は描出できず,血流速度が遅い血管も検出できないため,現状では従来の造影検査と完全に一致するものではない.一方,OCTAでは漏出所見が得られないため,従来の蛍光眼底造影と比べ,鮮明な毛細血管病変を描出できるという利点もある3)(図4).OCTAの登場当初は,画角は黄斑部ではC3CmmあるいはC6Cmmに限られ,画角を広げると解像度はやや低下する傾向にあった.最近では,画角C12Cmmまで広がってきてはいるが,現状では周辺部の無灌流領域を評価することはできない.また,複数箇所を撮影したCOCTA画像からモンタージュ画像を作成することで,解像度を落とさずに広範囲の評価が可能にはなってきたが,検査や画像処理にかかる時間が問題である.また,近赤外光を前方から照射して画像を取得していC1390あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018るため,表層の血管陰影が網膜外層や網膜色素上皮へ映り込み,実際には血管が存在しない層にあたかも血管があるかのように描出されるというプロジェクションアーチファクトに注意が必要である4).さらに,層別解析では,漿液性網膜.離や浮腫によりセグメンテーションエラーが生じることもあるため,常にCBスキャン画像でセグメンテーションをチェックし,表示される血流シグナルからプロジェクションアーチファクトではないことを確認しながら,病変を解析評価する必要がある4).文献1)JiaY,TanO,TokayerJetal:Split-spectrumamplitude-decorrelationCangiographyCwithCopticalCcoherenceCtomog-raphy.OptExpressC20:4710-4725,C20122)野崎実穂,園田祥三,丸子一郎ほか:網脈絡膜疾患における光干渉断層血管撮影と蛍光眼底造影との有用性の比較.臨眼71:651-659,C20173)SuzukiCN,CHiranoCY,CYoshidaCMCetal:MicrovascularCabnormalitiesConCopticalCcoherenceCtomographyCangiogra-phyinmacularedemaassociatedwithbranchretinalveinocclusion.AmJOphthalmolC161:126-132,C20164)SpaideCRF,CFujimotoCJG,CWaheedNK:ImageCartifactsCinCopticalCcoherenceCangiography.CRetinaC35:2163-2180,C2015(78)