眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋片岡卓也451.多焦点眼内レンズの整復眼科杉田病院多焦点眼内レンズの普及に伴い,その脱臼に遭遇する機会も増加した.しかし,整復が困難であるため,これまでは摘出しC3ピース単焦点眼内レンズなどに置換するのが一般的であった.本稿では,現在の主流であるシングルピースアクリル多焦点眼内レンズの脱臼を,非摘出で整復する手法を紹介する.●はじめに多焦点(multifocal:MF)眼内レンズ(intraocularlens:IOL)は偏心と傾斜に弱いため,整復するには固定位置を厳密に再現する必要がある1).シングルピースアクリル(single-pieceacrylic:SA)IOLは,hapticsが太いため眼内組織に接触すると炎症を惹起し,また軟性ゲル素材であるため結紮すると剪断される,という弱点がある2).ゆえにCSA-MF-IOLの整復には,毛様溝縫着や強膜内固定などの従来の二次固定法は適用できない.上記を解決すべく,体操競技の平行棒を模したC2本の支持糸を介してChapticsを固定する「平行棒縫着法」が考案された3).いくつかの変法を経て,現在では眼内組織への干渉による併発症を回避しつつ,本来の.内固定と同等の位置に安定して再固定することが可能となった3).C●方法概要は図1のとおりである.平行棒に相当するC2本の支持糸は,それぞれ角膜輪部C2mmから虹彩後方に6Cmm間隔で平行となるよう通糸する.長期の張力保持を目的にC9-0ポリプロピレン糸を選択している.Hap-ticsは支持糸の後方に位置するように,輪状縫合を介して根部と先端の計C4カ所で固定する.断端の虹彩への干渉を防ぐため,これらはC1本糸で連続して形成する.手順を示す.鼻側と耳側の結膜を切開.強膜に穿刺用スリットC4カ所(図1)と縫合用スリットC2カ所(図)を作製し,hapticsexternalization用の角膜ポートをC1.5Cmm幅でC2カ所作製する.作業域に干渉しないよう硝子体ポートなどを設置する(図2a).脱臼CIOLの周囲組織および硝子体を除去する.一方のChapticの先端を軽く把持し,破損しないよう慎重に角膜ポートから眼外へ導出する(図2b).両端針のC9-0ポリプロピレン糸で,hapticの根部(図2c)と端部(図2d)を輪状に縫合.結紮になってしまうとゲルが断裂するため間隙に余裕をもたせる.支持糸の牽引で結び目が締まらないよう,縫(61)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1固定イメージ上段:正面,下段:断面.:穿刺用スリット,:縫合用スリット,↑:支持糸,Ca:6Cmm,Cb:3Cmm,Cc:2Cmm(刺入部~輪部).合はC2-1-1などとする.結び目がChapticの前方にあることと,支持糸を牽引しても結び目が絞まって行かないことを確認し(図2e),縫合が回転しないよう注意しつつChapticを眼内へ戻す(図2f).穿刺用スリットから角膜輪部C2Cmmで迎え針を刺入し,両端針それぞれを角膜ポート経由で対面通糸する(図2g,h).両端針はそれぞれ穿刺用スリットから強膜内を穿刺して縫合用スリットへ通糸する(図2i).もう一方のChapticも同様に作業する.支持糸を軽く牽引し,絡まっていないこと,結び目がChapticsの前方にあることを確認し,問題があれば眼内鑷子などを用いて修正する.支持糸の引き具合を制御してCIOLを厳密にセンタリングする.Hapticsについても,毛様体に接触しないよう,適度な折れ曲がりとなるよう調整する(図2j).位置が確定したら縫合用スリット内で支持糸同士を縫合し,断端は強膜内に埋没する.あたらしい眼科Vol.41,No.12,2024C1445図2手術写真a:準備,b:Hapticsexternalization,Cc:根部縫合,d:端部縫合,e:縫合確認,f:眼内戻し,g:対面通糸,h:支持糸導出,i:縫合用スリット通糸,j:センタリング.図3Hapticsの反発力による支持糸の緩みの吸収●結果と考按本法の最大の利点は,支持糸の制御で精密にセンタリングできること,また平行線上のC4点という擬似的な平面で支持するため,傾斜しにくいことである.そのため,術後は偏心C0.3C±0.24mm,傾斜C3.9C±1.27°,等価球面度数.0.08±0.67D,前房深度C4.52C±0.49Cmm(7例7眼,当院および愛知医科大学病院)と,.内固定に匹敵する固定状態を再現できている.支持糸の緩みに対しても,hapticsの反発力が緩みを吸収する構造であるため,長期にわたり安定性が維持される(図3).また,原法では指示糸の前方にも部材やChapticsの一部が張り出していたため,虹彩裏面と干渉し炎症を惹起することがあったが,変法ではChapticsは支持糸の後方に吊り下げられるように固定されるため,虹彩への接触がなくなり安全性も向上した.整復困難とされていたCSA-MF-IOLも,工夫次第で整復可能であることが示唆された.今後も増加するであろうCIOL脱臼に対し,本法も含めよりよい整復手法が開発され発展することを期待する.文献1)SodaCM,CYaguchiS:E.ectCofCdecentrationConCtheCopticalCperformanceCinCmultifocalCintraocularClenses.COphthalmo-logicaC227:197-204,C20122)MostafaviD,NagelD,DaniasJ:Haptic-inducedpostoper-ativeCcomplications.CEvaluationCusingCultrasoundCbiomi-croscopy.CanJOphthalmolC48:478-481,C20133)馬嶋一如,片岡卓也,瓶井資弘:「平行棒縫着法」により非摘出整復を試みたシングルピース多焦点眼内レンズ脱臼のC3例.第C74回臨眼CO5:5,20204)片岡卓也:多焦点眼内レンズの整復.第C77回臨眼COphthal-micSurgeryFilmAward:NC-5,2023C