■■コンタクトレンズセミナーあたらしいコンタクトレンズ診療監修前田直之5.デジタル時代のコンタクトレンズ乱視矯正糸井素啓はじめに総務省のC2021年の調査では,わが国のスマートフォンとタブレット端末の世帯保有率はそれぞれ約C9割と約4割に迫る勢いとなっており,デジタル環境はもはや生活のあらゆる場面に浸透している1).筆者自身の生活を振り返っても,スマホ,PC,タブレット,テレビなど複数のデバイスを並行して使用する機会は決して少なくない.こうした状況の中,長時間のデジタルデバイス使用による首・肩の凝りや腰の痛み,頭痛,かすみ目といった症状がCdigitaleyestrain(DES)として社会的な問題となっている.このCDESへの対策のひとつとして,トーリックソフトコンタクトレンズ(softCcontactlens:SCL)による弱度乱視矯正が注目を集めている.本稿ではCDESに対するトーリックCSCLの有効性について解説する.CDigitalEyeStrainとはDESは「デジタル機器の視聴に関連した再発性の眼症状・徴候の発現・増悪」と定義され2),「デジタル眼精疲労」と訳される.パソコンの使用に限定されていないこと,またドライアイ症状以外の眼症状や,首や肩の痛みなどの眼外症状を含むという特徴がある.その症状は,①乾燥感・異物感などの眼表面症状,②かすみ目・不快感などの視覚的・調節にかかわる不快感,③頭痛や腰の痛みなどの眼以外の症状,に分類される.おもな原因としては,瞬目不全(瞬目頻度の低下と浅い瞬目の増加)や作業時の無理な体勢,ディスプレイの過剰な明るさに加えて,未矯正の乱視を含む不適切な屈折矯正があげられている.こうしたメカニズムから,TearFilm&OcularCSurfaceSociety(TFOS)はCDESの予防策として,ドライアイの管理,作業環境の適正化,ディスプレイ距離に応じた屈折矯正と並んで「乱視の完全矯正」を推奨しており,弱度乱視(0.75~1.0D程度)に対する適切な乱視矯正を重要視している.弱度乱視矯正の意義わが国では弱度乱視を意図的に矯正しない傾向が根強(83)道玄坂糸井眼科医院く,アンケート調査(イプソスヘルスケアビジョンケアプロモーショントラッカーC24Q1調査.n=103)では0.75Dの乱視にトーリックCSCLを処方しない医師がC9割にのぼる.しかし,弱度乱視に対するトーリックSCLの有用性は,視力矯正効果だけでなく,患者満足度や快適性といった主観的な側面からも示されている.以下にその一部を紹介する.若年(18~40歳)の弱度乱視患者を対象に遠方と近方の矯正視力を比較した研究では,遠方3)のみならず近方4)でも,トーリックCSCLのほうが有位に良好な視力が得られた(表1)3,4).また,見え方に対する主観的な満足度の比較でも,球面レンズ装用時にはC8割の患者がC5段階評価のC4をつけ,最高評価のC5をつけたのはC1割にも満たなかった.一方,トーリックCSCL装用時には約半数の患者が最高評価をつけており4),弱度乱視であってもトーリックCSCLは遠近の視力だけでなく,主観的な満足度でも球面レンズを大きく上回ることが示された8).CDESと弱度乱視矯正上述のトーリックCSCLと球面レンズの見え方の差は,デジタル作業にも影響する.弱度乱視患者を対象にタブレット端末での作業時の文字の読みやすさを比較した研究では,トーリックCSCL装用時のほうが小さな文字を読みやすく4),またスマートフォンを使用した研究でも同様にトーリックCSCL装用時のほうが読み間違いが少なかった5).また,近見作業時の快適性を評価するCNearCActivityCVisualQuestionnaire(NAVQ)では,スマートフォンやメールの視認性など,デジタル作業に関連する多くの項目でトーリックCSCLのほうが有位に快適性に優れているという結果が示されている6).加えて,若年の弱度乱視患者を対象に,両種のレンズ装用後にデジタル作業に関連した検査を行い,「どちらのレンズを装用したいか」を尋ねた装用希望に関する調査では,74%がトーリックCSCLを選択しており,上述の結果を裏付ける結果となっている4).もちろん,上記の研究はあくまでもアルファベットでの読み書きを基準に論じられており,言語形態の異なる日本での再検討が必要でああたらしい眼科Vol.43,No.9,2026C11310910-1810/26/\100/頁/JCOPY表1遠方および近方視力の比較対象者詳細球面CSCL乱視用CSCLp値円柱度数年齢(人数)logMAR視力logMAR視力遠方最高矯正視力3)0.75~C1.25D18~4C0歳(3C6名)C0.04C±0.03C.0.04±0.06C0.01近方最高矯正視力4)0.75~C1.5D18~3C9歳(2C3名)C.0.03±0.21C.0.10±0.02C0.03ることは留意すべきである.一方,実臨床において,眼精疲労や作業時の視覚的不快感を訴えるC20代を中心とした若年患者は少なくない,その一因として未矯正,あるいは不十分に矯正された乱視の関与が示唆される患者をしばしば経験する.たとえ球面レンズで十分な矯正視力が得られていたとしても,デジタル作業時の快適性や視認性という観点では必ずしも最適とは限らない場合があるのだ.未矯正の乱視が遠方だけでなく近方の矯正視力を低下させ,若年者であってもデジタル作業時の「見えづらさ」と「疲労感」を生じることは,日常臨床において重要な事実である.おわりに現在,仕事・学習・コミュニケーションのあらゆる場面でデジタルデバイスの使用が日常化している.読書,メール作成,資料閲覧,オンライン会議など「近方かつ長時間の視作業」が避けられないビジネスパーソンや学生を含む現役世代に対しては,0.75D以上の乱視も見過ごさずに矯正することが重要である.デジタル全盛の現代だからこそ,乱視矯正は「より快適な見え方」と「疲(文献3,4より作成)れない目」を得るための重要な手段となっている.文献1)総務省:令和C3年情報通信白書.第C1部第C1章第C1節国民生活におけるデジタル活用の現状と課題,1.デジタル活用の現状.2021.Chttps://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/Cr03/html/nd111100.html2)Wol.sohnCJS,CLinghamCG,CDownieCLCetal:TFOSCLife-style:ImpactCofCtheCdigitalCenvironmentConCtheCocularCsurface.OculSurfC28:213-252,C20233)ChaudhryM,SahSP,SharmaIPetal:Doeso.eringonlytheCsphericalCcontactClensCtrialCtoCtheClowCastigmatsCmis-leadCtheCpractitioners?CIntCJCOphthalmolC14:1281-1284,C20214)ChaoCC,CSkidmoreCK,CTomiyamaCESCetal:SoftCtoricCcon-tactlenswearimprovesdigitalperformanceandvision-ArandomisedCclinicalCtrial.COphthalmicCPhysiolCOptC43:C25-34,C20235)ReadCSA,CVincentCSJ,CColoradoCLHCetal:ToricCcontactClensCcorrectionCimprovesCfunctionalCnearCvisionCwithCdigi-taldevices.InvestOphthalmolVisSciC65:2688,C20246)LoganAM,DattaA,SkidmoreKetal:Randomizedclini-calCtrialCofCnearCvisualCperformanceCwithCdigitalCdevicesCusingCsphericalCandCtoricCcontactClenses.COptomCVisCSciC97:518-525,C2020