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眼内レンズセミナー:3焦点トーリック眼内レンズ亜脱臼症例の眼内縫着

2026年3月31日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋466.3焦点トーリック眼内レンズ亜脱臼症例水戸毅金沢医科大学眼科学講座の眼内縫着多焦点眼内レンズ眼における良好な視力の獲得のためには,レンズの偏位・傾斜,屈折誤差や残余乱視を最小限にする必要がある.それゆえに亜脱臼した多焦点レンズの温存整復はきわめて困難である.本稿ではトーリックモデルの多焦点レンズ亜脱臼に対して,眼内での縫着により良好な位置固定が得られた症例を紹介する.●はじめに多焦点眼内レンズ(multifocalintraocularlens:M-IOL)を扱うにあたっては,乱視のマネージメントは必須であり,トーリックモデルのラインアップもますます充実してきている.近年の社会の高齢化によりIOL亜脱臼症例が増えている状況にあるが,万が一トーリックM-IOLが亜脱臼を生じた場合は,M-IOLを抜去し単焦点IOLを用いた強膜内固定術などを行うことが一般的であり,多焦点機能は失われてしまう.今回,亜脱臼したトーリックM-IOLの眼内縫着を試み,良好な成績が得られた症例を経験した1).●症例患者は43歳,男性.他院にて左眼の白内障手術を施行され,PanOptixtoric(TFNT30,Alcon社)を乱視軸55°で.内固定された.術後2年経過した時点で突然の見えにくさを訴え,前医にてIOL亜脱臼を指摘され当院を紹介受診した(図1).当初はIOL抜去をすすめたが,患者自身がM-IOLの温存を希望されたため,縫着による眼内整復を施行した.術式はhapticexternalization(HE)法2)を用いた.まず眼内で完全に脱臼させたIOLを虹彩上に挙上し,支持部先端のみを角膜創から眼外へ引き出した.目標乱視軸55°にIOLのトーリック軸が近くなるように,強膜への縫着通糸部をあらかじめ設定しておき,眼内に通した10-0縫着用の糸を角膜創から引き出し,眼外にて支持部先端に結紮し眼内に戻した.その際にIOLの強い傾斜を認めたため,IOL光学部の前面あるいは後面に糸を張るtram-tracksuture(TTS)法3)によりIOL傾斜を修正した(図2).術後の偏心や深さといったIOL固定位置は良好で,IOL傾斜も許容範囲であり,目標軸に近いトーリック軸固定が得られた(図3).近方から遠方までの各距離における裸眼視力は0.8以上あり,グレアやハローも少なく(65)0910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1術前の散瞳下での前眼部写真下方のhapticが虹彩前方に亜脱臼している.1時と7時方向に乱視軸マークが確認できる.患者の満足度は高かった.●まとめ亜脱臼したM-IOLを抜去せずに眼内で整復固定した報告は少なく,トーリックモデルのシングルピースの場合となるとさらにまれである.その理由は明白であり,トーリックM-IOLの縫着には偏位・傾斜・屈折誤差(IOL深度)・そして残余乱視のすべてが最小限でなければならないという4重苦が待ち受けるからである.とくにトーリック軸合わせが最難関ポイントであり,術前の入念なシミュレーションが必須となる.本症例では結果的に良好な視力が獲得できたが,毎回同様の結果が得られるかは不明であり,症例を蓄積して検証する必要がある.また将来的には,より簡便に行える新たな術式や,縫着に適した乱視矯正M-IOLの登場が待たれる.あたらしい眼科Vol.43,No.3,2026293図2術中写真亜脱臼IOLを前房内に移動させ,hapticのみを角膜創から眼外に引き出す(a,b).縫着時にIOLの乱視軸マークが目標軸に近づくよう,あらかじめ強膜への縫着部位を設定し,長針付き10-0糸を眼内に通糸する(c).眼内から10-0糸を引き出し,haptic先端に結び,眼内に戻す(d~f).強膜への縫着時にIOLが傾斜したためTTS法で修正を図った(g,h).a図3トーリックM-IOLの眼内整復術後の所見センタリングは良好であり,乱視軸マークも目標軸に近い位置に確認できる(a).ウェーブフロントアナライザーでは,角膜収差に対してトーリックM-IOLによる内部収差が打ち消しあい,眼球収差が改善されている(b).文献raryhapticexternalizationthroughaclearcornealinci-1)MitoT,TsuruokaH,OmuraSetal:Suturerepositioningsion.JCataractRefractSurg30:1049-1056,2004forsubluxationofatoric-typesingle-piecemultifocal3)KimSI,KimK:Tram-tracksuturetechniqueforpupil-intraocularlens.Cureus17:e89566,2025larycaptureofascleral.xatedintraocularlens.CaseRep2)KokameGT,YamamotoI,MandelH:Scleral.xationofOphthalmol7:290-295,2016dislocatedposteriorchamberintraocularlenses:Tempo-

コンタクトレンズセミナー:乱視と視機能

2026年3月31日 火曜日

■■コンタクトレンズセミナーあたらしいコンタクトレンズ診療監修前田直之2.乱視と視機能はじめにコンタクトレンズ(CL)診療において,乱視は日常的に遭遇する屈折異常であるが,トーリックCCLの選定の煩雑さや費用などの面から球面CCLが選択され,弱度の乱視は矯正されないことが多い.弱度の乱視であっても,見え方の質やパフォーマンスを低下させることが知られており,近年は弱度乱視の積極的矯正が推奨されつつある1.3).本稿では乱視の見え方と視機能への影響を整理し,弱度乱視矯正の意義について述べる.乱視の見え方乱視では,経線方向で異なる屈折力により光が一点に集まらず,方向性のある像のぼけを生じる.図14)は倒乱視眼の前焦線・最小錯乱円・後焦線での視標の見え方を示しており,遠方視(後焦線)では水平線が見やすい.直乱視は縦と横のぼけの方向が逆転し,垂直線が見やすくなる.一方,近方視により網膜の位置が前焦線に変わると,像のぼけ方が逆転し,倒乱視でも直乱視の遠方と同様の見え方となる(図2)5).強主経線弱主経線長谷川優実筑波大学眼科弱度の乱視が視機能に与える影響乱視量に応じて像のぼけは強くなり,視機能も低下する.どの程度の乱視から視機能は低下するのであろうか.通常視力は直乱視C2.0D以上,倒乱視C1.0D以上の乱視で低下する6)とされるが,実用視力はより弱度の直乱視C0.5Dから低下する7)という報告がある.筆者らの検討でも,倒乱視ではC1.0Dで通常視力が,0.75D以上で実用視力とコントラスト感度が低下した.斜乱視では0.75D以上で通常視力と実用視力が低下し,0.5D以上でコントラスト感度が低下した.一方,直乱視ではC1.0Dで通常視力と実用視力が低下し,コントラスト感度は低下しなかった4).乱視がもつ方向性のため,視機能に与える影響は視標や乱視軸によって異なり,視機能が低下しやすい倒乱視や斜乱視は,積極的に矯正する必要があると考えられる.弱度乱視を矯正する意義近年,弱度の乱視をトーリックCCLで矯正すると視機能や自覚症状が改善することが示されている.トーリックCCL装用で近方の高・低コントラスト視力,読書ス前焦線最小錯乱円後焦線図1倒乱視の前焦線,最小錯乱円,後焦線およびその見え方(文献C4より引用)(63)あたらしい眼科Vol.43,No.3,2026C2910910-1810/26/\100/頁/JCOPY直乱視倒乱視遠方視50cm図22Dの直乱視・倒乱視における遠方視と近方視(50cm)のシミュレーション2Dの直乱視・倒乱視の遠方視・近方視(50cm)における焦点と網膜面の関係を示した図とV・H・Rの文字が乱視によってどのようにぶれて見えるかをシミュレーションした像である.直乱視の遠方視と倒乱視の近方視でぶれの方向が同じになり,直乱視の近方視と倒乱視の遠方視よりも文字が判別しやすいように見える.(文献C5より引用)ピード,必要コントラスト,読書エラー,自覚的な近見作業時の快適性やかすみ目が改善する1,2).Chaudhryらの報告では,両眼視力は球面CCLと同程度でも,視覚の鮮明度や満足度,疲れにくさがトーリックCCLで改善した3).これらの結果は弱度乱視の矯正が視力を改善するだけでなく,見え方の質,近方作業の効率,眼精疲労を改善するうえで重要であることを示しており,弱度乱視の積極的な矯正は,より良いCCL診療に不可欠である.まとめ1.0D未満の弱度の乱視であっても視機能が低下する可能性がある.CLは取りはずしが容易で,外科的な屈折矯正と異なり,乱視矯正の効果を気軽に試せるという利点がある.患者の「なんとなく見えにくい」「疲れる」「違和感」を見逃さず,乱視の影響を考慮することがより質の高いCCL診療につながると考える.文献1)ChaoCC,CSkidmoreCK,CTomiyamaCESCetal:SoftCtoricCcon-tactlenswearimprovesdigitalperformanceandvision-ArandomisedCclinicalCtrial.COphthalmicCPhysiolCOptC43:C25-34,C20232)ReadCSA,CVincentCSJ,CColoradoCLHCetal:TheCimpactCofCtoricCcontactClensCcorrectionCuponCfunctionalCnearCvisualCperformanceCwithCdigitalCdevices.CJCContCLensCAnteriorCEyeC48:102415,C20253)ChaudhryCM,CSahCSP,CSharmaCIPCetal:DoesCo.eringConlyCtheCsphericalcontactClenstrialtotheClowastigmatsmisleadCtheCpractitioners?CIntCJCOphthalmolC14:1281-1284,C20214)長谷川優実:乱視視機能への影響と各種治療アップデート乱視眼の視機能.IOL&RS36:356-361,C20225)長谷川優実:乱視と視機能.OCULISTAC135:6-11,C20246)大谷伸一郎,宮田和典,阪上祐志ほか:白内障手術時における乱視矯正同時手術の適応.IOL&RSC14:142-145,C20017)WatanabeCK,CNegishiCK,CKawaiCMCetal:E.ectCofCexperi-mentallyCinducedCastigmatismConCfunctional,Cconventional,CandClow-contrastCvisualCacuity.CJCRefractCSurgC29:19-24,C2013C

写真セミナー:結膜錯角化症

2026年3月31日 火曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史林仁502.結膜錯角化症神戸赤十字病院眼科高静花大阪大学大学院医学系研究科視覚先端医学講座図2図1のシェーマ①不鮮明な皮膚粘膜移行部②凹凸不整な肥厚した組織結膜本来の所見はみられない.図1初診時の上眼瞼翻転所見(左眼)通常みられる眼瞼結膜は存在せず,凹凸不整の肥厚した組織に覆われている.皮膚粘膜移行部も不鮮明である.図3左眼の角膜フルオレセイン染色所見広汎な角膜上皮障害を認める.上眼瞼異常組織による物理的な擦過刺激が主因と考えられる.図4図1の病理検査結果結膜組織はなく,異常に重層角化した皮膚のような構造である.結膜錯角化症と診断された.(61)あたらしい眼科Vol.43,No.3,20262890910-1810/26/\100/頁/JCOPY数年前からの左眼の異物感と視力低下を主訴に受診した75歳男性の症例を提示する.職業はトラック運転手.上眼瞼を翻転すると,本来存在するはずの眼瞼結膜はみられず,赤色調かつ凹凸不整に肥厚した組織に覆われていた(図1,2)1).結膜血管走行は確認できず,皮膚粘膜移行部も不鮮明であった.組織表面は湿潤状態というよりむしろ乾燥傾向を示していた.下眼瞼結膜では,瞼縁近くに慢性炎症所見がみられて血管走行は不明瞭であったが,上眼瞼結膜のような凹凸不整や肥厚は認められなかった.左眼の角膜全域にわたって著明な上皮障害があり,いわゆる“ハリケーン様”の所見を呈していた(図3).一方で,右眼の眼表面や上下眼瞼結膜には異常所見は認められなかった.既往歴として両眼の眼瞼下垂手術歴があったが,内眼手術歴や熱傷などの外傷既往歴はなく,点眼薬の頻回使用歴もなかった.この眼瞼結膜の病変に対して限局的切除による病理織診断を施行したところ,所見はおおむね次のとおりであった.①異常な重層化と角化,②偽膜形成なし,③軽度の炎症細胞の浸潤を認めるが悪性所見なし,④汗腺を含む皮膚に類似した構造.以上より,本病変は眼瞼結膜の錯角化症(parakeratosis)と病理学的に診断された(図4).この診断をふまえて,ステロイドを主とした消炎治療およびドライアイ治療に準じた湿潤加療で経過をみた.しかし数カ月間の保存的治療にもかかわらず所見の改善はみられず,逆に悪性化や増悪化も認められなかった.治療用ソフトコンタクトレンズにより角膜上皮障害および視力は一時的に改善したものの,上眼瞼からの圧排によりレンズが容易に脱落するため,継続装用は困難であった.さて錯角化症の理解には,まず正常角化という過程を考える必要がある.正常角化とは,皮膚(表皮)基底部にある角化細胞が順次表層へ分化移行して,最終的には自らの細胞死によって角質層という体表面を覆う層(膜)を形成する過程である.そして異常角化症には,錯角化と過角化がある.錯角化は不全角化ともよばれ,角化周期が早まることが根底にある.角化日数が短縮されて角質層が急に薄くなると,肌細胞は核をもったままの未完成な角質細胞となる.一方で,過角化は角化周期が遅れることが根底にある.角質層は過剰に作られて,角質層の上層がはがれ落ちずに付着したままになって続発的に肥厚する状態である.一般的に生体粘膜では皮膚(表皮)と異なり,通常角質層をもたないため,粘膜に角質層が出現することはすでに病的である.粘膜の角化病変としては,口腔外科学における口腔白板症(oralleukoplakia)と扁平苔癬(orallichenplanus)がある2).前者は口腔粘膜が角化と肥厚を呈する前癌状態,後者は口腔粘膜が癌化するリスクをもっている慢性炎症性角化症である.本症例は,病理像から扁平苔癬に近い病態と考えられた.扁平苔癬や結膜角化の原因としては,遺伝・免疫・金属などによる接触性アレルギー・精神的ストレスなどがあげられる3)が,本症例のように誘因なく片眼性に眼瞼結膜のみが特発的に角化する例はきわめてまれである.また,眼球結膜に異常所見が認められなかった点も特異的であり,病態形成には不明な要素が残る.治療方針としては,外科的切除と粘膜再建治療が最善であると思われ,その再建材料として羊膜,口唇・口腔粘膜,あるいは再生医療的な生体粘膜組織などが最適であると考えられる.文献1)HayashiH,KohS:Unilateralconjunctivalparakeratosis:Ararecaseofmucosalkeratosiswithpathological.ndings.AmJOphthalmol276:e3-e4,20252)水城春美:口腔粘膜の角化性病変─口腔白板症ならびに扁平苔癬の臨床病理と病因.岩医大歯誌27:67-73,20023)MaumeneeAE:Keratinizationoftheconjunctiva.TransAmOphthalmolSoc77:133-143,1979

オキュロミクスとその展望

2026年3月31日 火曜日

オキュロミクスとその展望OculomicsandItsPerspective三宅正裕*はじめに眼はしばしば「全身の窓」と称される.眼底を覗けば,高血圧による細動脈狭窄,糖尿病性の微小血管障害,動脈硬化の進行,さらに神経変性や腎障害など,身体の多様な病態が反映されていることが知られている.すなわち,眼底とは「生体内部を非侵襲的に直接観察できる臓器」であり,脳や心血管,腎臓と密接に連動する全身の鏡である.この「眼と全身の相関」は古くから注目されてきたが,近年,深層学習(ディープラーニング,deeplearning:DL)を中心としたAI技術の発展により,その概念は質的に変化した.人工知能(arti.cialintelligence:AI)が眼底画像から,年齢・性別・喫煙歴・血圧・血糖など,従来は採血や測定を要した多様な全身情報を直接推定できるようになったのである.DLによって,眼底がもはや「観察の対象」ではなく,「情報を抽出するセンサー」として再定義されたと言える.さらに,この動きは基盤モデル(foundationmodel)の登場によって新たな段階に入った.これらのモデルは,数百万枚規模の眼底画像を事前学習し,わずかなラベル付きデータで多様な疾患(心不全,糖尿病,認知症など)を予測できる.従来の単一疾患ごとのAIモデルから,全身状態を包括的に推定する「汎化された医療AI」への転換である.すなわち,眼底から読み取れる情報量は指数的に拡大しつつあり,眼は今や「全身のマルチモーダル指標」を映し出す生体スクリーンとして位置づけられる.このような背景のもと,オキュロミクス(oculomics)という新しい学問領域が生まれた.オキュロミクスは,眼科画像データをビッグデータ解析とAIで統合し,全身疾患の診断・予測・リスク層別化に応用する取り組みである(図1).これにあたっては,ハードウェア(高解像度イメージング),ビッグデータ(大規模連結コホート),そしてソフトウェア(AIアルゴリズム)の三位一体的進化が,この領域の急速な発展を支えている.本稿では,このオキュロミクスの最新動向を,深層学習による眼底情報抽出,基盤モデルによる進展,それによって開かれた新たな医療応用の可能性,という流れに沿って整理し,その展望を概説する.IDLによるパラダイムシフト2015年前後からのDLの登場は,眼科画像解析のありかたを根底から変えた.従来の研究では,血管径や屈曲度,乳頭径などを専門家が定義し,半自動ソフトウェア(例:IVAN,SIVA)で解析していたが,人間の眼で捉えられない情報を扱うことはできず,また,膨大な画像を扱うには限界があった.これに対して,DLは「人間が特徴を設計せず,画像そのものから特徴量を自動抽出できる」点で革命的であり,眼底から得られる情報の次元を大きく拡張した.*MasahiroMiyake:京都大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕三宅正裕:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科眼科学(1)(55)2830910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1眼に映る全身疾患のオーバービュー眼は「全身の窓」として,脳・心血管・腎・肝など多臓器の病態を反映する.ディープラーニングをはじめとする人工知能(AI)技術の発展により,眼底画像から神経変性疾患(Alzheimer病,Parkinson病,多発性硬化症),心血管疾患(冠動脈疾患,心血管イベント),代謝疾患(高血圧,高血糖,脂質異常症),腎疾患(慢性腎臓病,糖尿病性腎症),および肝胆疾患など,従来は血液検査や画像検査を要した全身情報を非侵襲的に推定できるようになった.オキュロミクスは,このような「眼を通じた全身疾患の解析」を統合的に捉える新たな研究領域である.個別化医療非侵襲的アウトカムスクリーニング改善科学的洞察疾患の早期検出費用対効果のよい診断適時介入経済的負担の軽減図2オキュロミクスがもたらす臨床的価値オキュロミクスは,眼底画像を通じて全身疾患を非侵襲的に評価する新たな医療パラダイムである.これにより,費用対効果の高い診断,疾患の早期検出,適時介入が可能となり,個別化医療やアウトカム改善,医療経済負担の軽減へとつながる.さらに,網膜を介した生体情報の解析は,病態理解を深化させる「科学的洞察(scienti.cinsights)」をもたらし,医療と研究の両面で新たな価値を創出する.-Ahdiらは,眼底年齢と実年齢の差の指標として,実年齢に眼底年齢を回帰した残差を眼底年齢加齢(eyeageaccel)と定義し,ゲノムワイド関連解析を行った.この結果,38の遺伝子座で示唆的な関連が得られ,そのうち12遺伝子座はゲノムワイドレベルで有意な関連を示した.非常に強い関連を示したのはSH3YL1,ACP1,ALKAL2の3遺伝子を含む遺伝子座で,これはのちに行われた筆者らの日本人での研究においても再現性が確認されている.また,眼科医にとって興味深いのは,加齢黄斑変性の疾患感受性遺伝子であるARMS2がヒットしている点である.これらヒットした遺伝子が他疾患の疾患感受性遺伝子と重複しているかどうかを評価したところ,黄斑網膜厚,注意欠陥多動性障害,加齢黄斑変性,等価球面度数,屈折異常などと共通点がみられた.筆者らも長浜スタディの参加者においてretinalagegapを計測して全身疾患との関連を評価したところ,脂質異常症と糖尿病の存在が有意に関連していた.Reti-nalagegapは高血圧・脂質異常症・糖尿病・脳梗塞・心疾患の発症を予測することはできなかったが,高血圧や脂質異常症が発症するとretinaagegapが大きくなる(網膜年齢と実年齢の乖離が大きくなる)ことがわかった.このように,眼底年齢と実年齢の乖離は,各種疾患との関連が見られるのみならず,ゲノムレベルで評価しても強い関連をもつ遺伝子も同定されており,加齢に伴う微小変化を統合的に反映する可能性のある興味深い新規バイオマーカーである.2.心血管・代謝疾患の予測心血管疾患はオキュロミクス研究の中心領域である.眼底血管の口径・屈曲度などが動脈硬化や高血圧の指標となりうることは昔から知られていたが,人間の眼による読影には限界があり,精密な予測はむずかしかった.しかし,AIモデルを用いれば,冠動脈石灰化スコア(coronaryarterycalciumscore:CAC)や心筋梗塞リスクを非侵襲的に推定できることが明らかになっている.たとえば,Rimらは21万枚超の眼底画像を用い,冠動脈石灰化の存在確率を推定する深層学習モデルreti-nalCACscore(RetiCAC)を開発・検証した.Reti-CACは,CACの有無を予測する性能でAUC0.742(95%信頼区間:0.732.0.753)を示し,単一の臨床パラメータモデルをすべて上回った.これは外部検証でも一定の精度を示したことから,RetiCACはCT計測と同等の心血管イベント予測性能を示すと報告されている.このアプローチは,放射線被曝を伴わず,低リソース環境でも容易に取得可能な眼底画像を活用できることから,非侵襲的で汎用性の高い心血管スクリーニングツールとしての応用が期待される.代謝疾患領域でも,AIは血糖・HbA1c・脂質・腎機能〔推算糸球体濾過量(estimatedglomerular.ltrationrate:eGFR)など〕を推定できることが報告されている.Zhangらは,57,672名から得られた115,344枚の眼底写真を用いて,慢性腎臓病(chronickidneydis-ease:CKD)および2型糖尿病(type2diabetesmelli-tus:T2DM)を同時に検出する深層学習モデルを開発した.このモデルは,眼底画像単独ないしは臨床メタデータ(年齢・性別・BMI・血圧など)と組み合わせてCKDおよびT2DMを識別でき,AUC0.85.0.93の高い性能を示した.このモデルは,血液検査に依存せずにeGFRを平均絶対誤差11.1.13.4ml/分/1.73m2で推定,血糖値を0.65.1.1mmol/lの誤差で予測できた.さらに,外部検証やスマートフォン眼底画像による前向き試験でも再現性が確認され,疾患進行リスクの層別にも有用であることが示された.この研究は,眼底画像が腎・代謝機能の非侵襲的バイオマーカーとしても利用可能であることを初めて大規模に実証し,オキュロミクスの応用範囲を「臓器疾患」から「生化学的表現型」へと拡張した.3.神経疾患の予測眼と脳は発生学的に同一の外胚葉由来構造をもち,血管・神経の微細構築も相似している.このため,古くから眼底所見が中枢神経疾患の間接的指標となることが知られてきた.近年ではDLを活用することで,この関連がより定量的かつ予測的に示されつつある.Cheungらは,11の多国籍コホートから収集された12,949枚の眼底画像(AD患者648名・対照3,240名)を用いて眼底写真のみからAlzheimer型認知症を識別する286あたらしい眼科Vol.43,No.3,2026(58)深層学習モデルを開発した.モデルにはE.cientNet-B2を基盤ネットワークとして採用し,両眼の視神経乳頭中心像および黄斑中心像(計4枚)を統合する「bilateralmodel」を構築した.内部検証データセットでは,精度83.6%(±2.5),感度93.2%(±2.2),特異度82.0%(±3.1),AUC0.93(±0.01)を達成した.外部テストデータでは,国・施設の異なる5研究を用いてAUC0.73.0.91を維持し,うち三つのコホートではpositronemis-siontomography(PET)によるアミロイドb陽性・陰性を分別可能であった(AUC0.68.0.86)と報告されている.この研究は,眼底画像からADを高精度に検出できることを初めて多施設レベルで示したものであり,非侵襲的な認知症スクリーニングの可能性を拓いた.現在では,光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)や光干渉断層血管撮影(OCTangiogra-phy:OCTA)による網膜神経節細胞層・毛細血管密度解析と組み合わせることで,軽度認知障害(mildcogni-tiveimpairmen:MCI)や前臨床期ADにおける神経変性の早期検出をめざす試みも進展している.これらの成果は,眼底が「脳を覗くための新しい窓(anewwin-dowtothebrain)」として中枢神経疾患の予防・早期診断の入口となりうることを示している.III基盤モデルの登場とオキュロミクスの加速1.基盤モデルとは医療AI研究は近年,個別疾患・個別表現型を対象とする教師あり学習から,大規模自己教師あり学習へと移行しつつある.この流れのなかで登場したのが基盤モデル(foundationmodel)と総称される新たな枠組みである.基盤モデルとは,膨大なデータを事前学習し,得られた特徴表現を多様な下流タスクに転移させることで,少量のラベル付きデータでも高精度な学習を可能にするモデル群をさす.自然言語処理でいうとChatGPTの元となっているGPT5にあたる(GPT5という基盤モデルに,Q&Aという下流タスクを学習させたものがChatGPTである).これは,医療画像分野においても「疾患ごとに学習するAI」から「基盤的視覚表現を共有するAI」への移行を意味する.眼科領域における代表的研究が,RETFoundである.RETFoundは英国NHSデータベースの約90万枚の眼底画像と約70万枚のOCT画像を用いてVisionTrans-former(ViT)をベースに自己教師あり学習を行い,多疾患転移性能を検証した.糖尿病網膜症・緑内障・加齢黄斑変性などの眼疾患だけでなく,心不全やParkinson病などの全身疾患のリスク推定にも一定の汎化性能を示した.基盤モデルを使用することにより,従来よりも少ないラベル付きデータによって高精度のモデルを作成することが可能となることから,オキュロミクスの加速が大きく期待される.このようななかにおいて,基盤モデルを自国で作成することの重要性が増すと考えられており,各国で競争が始まっている.2.眼科領域の基盤モデルの具体例RETFoundの登場以降,眼科領域では基盤モデルの概念を応用した多様な試みが報告されている.これらは単なる疾患分類精度の向上にとどまらず,眼底画像を多疾患・多モダリティ解析のための生体情報プラットフォームとして再定義する動きを加速させている.RETFoundは,英国Moor.eldsEyeHospitalのデータセットなどから得られた904,170枚のカラー眼底写真と736,442枚のOCT画像を用いてViTベースの自己教師あり学習を行った.上述の通り,学習後の表現を下流タスクに転移した結果,糖尿病網膜症・加齢黄斑変性・緑内障といった眼疾患だけでなく,心不全やParkinson病などの全身関連タスクにも一定の性能を示した.この流れを汎用化したのが,VisionFMである.VisionFMはCT,X線,病理画像など複数の医用モダリティを横断的に統合したマルチモーダル・マルチタスク型基盤モデルであり,約340万枚の画像と50万人超の被験者データから事前学習を行った.眼底画像はその一部として扱われ,少数データでも精度を保つ転移性能が報告された.眼科特化モデルに比べ精度はやや劣るが,医療画像横断的なモデルを実現した点で意義が大きい.さらに,画像基盤モデルを言語情報と結合する試みも進んでいる.RetiZeroは,画像と言語の対応関係を学(59)あたらしい眼科Vol.43,No.3,2026287

眼と糖尿病

2026年3月31日 火曜日

眼と糖尿病EyesandDiabetes三田村瑞穂*齋藤理幸*はじめに糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)は日本における視覚障害の原因疾患の第3位であり1),とくに労働年齢層における失明原因としてもっとも多い疾患である.網膜は全身の窓であるといわれ,人体で唯一微小血管系を直接観察できる部位として積極的に研究されている器官であり,網膜の状態と全身の状態を結びつける研究は兼ねてより行われてきた.近年,画像解析技術手法や人工知能(arti.cialintelligence:AI)の発展に伴って,この事実が再度クローズアップされており,眼から得られる情報と全身状態の関連を探求する学問はオキュロミクス(oculomics)と名づけられている2).IDRの自動診断DRについても例外ではなく,2018年には米国で,AIによるDRに対する自動診断システムであるIDx-DR(DigitalDiagnostics社)が承認され3)(図1),カナダでも同様のスクリーニング機器であるEyeArtを承認,2022年には農村部に同機器を提供する民間サービスが発表された.これらの自動診断システムは,眼科医が眼底検査や眼底写真の読影をしなくても自動でDRのスクリーニングを行ってくれるため,眼科医の労力を減らしてくれるスクリーニングツールとして非常に重要であると考えられる.IDx-DRは,図2のように眼底写真から出血や軟性・硬性白斑を検出して,DRの有無を自動的に判定してくれる.しかし,眼底における糖尿病性変化とは出血と白斑だけではない.糖尿病網膜症の発症に先行する眼底所見としてよく知られているものに,網膜血管の変化がある.眼底写真を用いて網膜血管径を測定した先行研究では,網膜血管の拡大は網膜症の予測因子であり,網膜細動脈拡張は1型糖尿病の若い患者の網膜症の発症を予測すること4,5),また,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)では発症前に網膜細動脈細静脈およびそれらの黄斑枝が有意に拡張伸長している6)といった報告がある.このように,DRにおける眼底変化は人間の眼で容易にわかる所見からわかりづらい所見まで多岐にわたるが,AIを用いてDRの「有無」を学習し判定するときには,AIがこの血管変化を検出することは困難であると考えられる.その理由の一つは,出血や軟性・硬性白斑の有無という指標はわかりやすいからである.AIは判定精度の向上を至上命題として画像を解析するため,網膜血管の変化よりもわかりやすい出血や白斑の有無を検出したほうが判定精度が向上するので,微細な網膜血管の変化はAIには無視されてしまう.理由の二つめは,そもそも血管変化をAIに学習させていないからである.糖尿病があり網膜血管に変化があっても,DRがない,つまり出血や白斑がない眼は「網膜症なし」として学習させているので,当然基準に該当しない網膜血管の変化は学習対象とならず無視されてしまうわけである.それでは,DR発症の予測という観点に立ってみるとどうであろうか.*MizuhoMitamura&MichiyukiSaito:北海道大学大学院医学研究院眼科学教室〔別刷請求先〕三田村瑞穂:〒060-8648北海道札幌市北区北14条西5北海道大学大学院医学研究院眼科学教室(1)(47)2750910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1眼科用AI医療機器・IDx-DR糖尿病網膜症(DR)を1分で自動診断できる.(https://www.healthvisors.com/en/idx-dr/より転載)Lesion-BasedDiseaseDetectionLeslonDetectionQualityDiseaseAssessmentPassAssessment:AnatomyDR+/DR-Localization図2IDx-DRによる画像解析と判定網膜のデジタル画像を独自のAIアルゴリズムで解析し,DRが陽性か陰性かの判断を行う.(https://www.healthvisors.com/en/idx-dr/より転載)AI:arti.cialintelligence,DL:deeplearning.図3ニューラルネットワークの概念図(https://medium.com/@UdacityINDIA/di.erence-between-machine-learning-deep-learning-and-arti.cial-intelligence-e9073d43a4c3より改変引用)図4ニューラルネットワークを用いた画像認識の1例(https://wiki.tum.de/display/lfdv/Image+Semantic+Segmentationより転載)ニューラルネットワーク生成図5HokkaidoUniversityretinalvesselsegmentation(HURVS)model筆者らが開発したCHURVSmodelは,眼底写真から網膜動静脈を自動識別するニューラルネットワークである.(文献C7改変より改変引用)(pixels)(pixels)動脈面積5,00010,00015,000静脈面積10,00020,00030,0002,5002,5002,500(cm/秒)2,5001,0001,5002,000(cm/秒)2,500脈波伝播速度脈波伝播速度動脈面積R=-0.40,静脈面積R=-0.36,各p<0.001図6脈波伝播速度と動脈面積,静脈面積との負の相関(文献C9より改変引用)図730歳代の糖尿病患者の眼底DR発症前に比較的血管密度が高い領域,とくに動脈で血管密度が変化する.Ca:網膜動脈.b:網膜静脈.赤領域:増加.青領域:減少.(筆者らが作成)図8HokkaidoUniversitymacular.uidsegmentation(HUMFS)modelHUMFSmodelはCOCT画像から網膜液の予測画像を作成するニューラルネットワークである.(文献C15より引用)図9網膜液(MF)画像生成の代表的画像a,d:糖尿病黄斑浮腫(DME)の網膜液(MF)のみを抽出した網膜内液(IRF)画像.Cb,e:面積測定用の二値化画像.c,f:平均輝度および輝度分散を測定するための重み付け画像.(文献C16より引用)図10Gradient-weightedClassActivationMapping(Grad-CAM)画像AIが視力の判定に重要であると認識した部位を可視化したCGrad-CAMのC1例.(筆者らが作成)=メンテーションモデルを用いて,定量的・定性的なCMFのパラメータを分析できたことは意義があると考える.この定性的CMFパラメータは,MF内部の高反射性物質の濃度の変化と不均一性を反映している可能性があり,DR進行に伴うCDME病態の理解を深めるうえで有用であると考えられる.また,同研究ではCMFのみを抽出したマスク処理COCT画像から視力を推量することが可能であった.MFの形態や性状が最終的に視力に影響を与えることが証明されるとともに,今後どのようなCMFが視力に影響を及ぼすのか解析対象として有用であることが示された.図10はCAIが視力の判定に重要であると認識した部位を可視化したCGradient-weightedCClassCActivationMapping(Grad-CAM)画像18)であるが,MF部位やCMFが存在しない部位がさまざまに強調されており,MFの性状(形態,輝度,部位など)やそれ以外の複数の微細構造の変化を,AIが視力の判定に重要であると認識している可能性がある.このCDME研究の展望としては,AIの判断根拠部位の解析により黄斑浮腫と視力の関係をより明らかにできると考え,治療薬剤の種類による黄斑浮腫の治療効果の違いなど臨床に即した研究を計画しており,今後治療効果予測や視力予後予測など臨床応用できる可能性がある.おわりに眼底画像やCOCTなどの医療画像を用いたCAI研究は,眼と全身疾患を結びつける新たな視点を与え,スクリーニングや診断から治療判定・予後予測まで筆者らの日常診療に欠かせないものとなっている.そして,眼科学の知見とCAIの計算力の融合によって,糖尿病を含めた全身疾患におけるさまざまな眼底変化を定量化,可視化することは,病態解明につながると考える.文献1)MatobaCR,CMorimotoCN,CKawasakiCRCetal:ACnationwideCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividualsCinCJapanCforCtheC.scalCyear2019:impactCofCtheCrevisionCofCcriteriaCforCvisualCimpairmentCcerti.cation.CJpnCJCOphthal-molC67:346-352,C20232)WagnerCSK,CFuCDJ,CFaesCLCetal:InsightsCintoCsystemicCdiseaseCthroughCretinalCimaging-basedCoculomics.CTranslCVisSciTechnolC9:6,C20203)KhanZ,GaidhaneAM,SinghMetal:DiagnosticAccura-cyofIDX-DRforDetectingDiabeticRetinopathy:ASys-tematicCReviewCandCMeta-Analysis.CAmCJCOphthalmolC273:192-204,C20254)CheungN,RogersSL,DonaghueKCetal:Retinalarteri-olardilationpredictsretinopathyinadolescentswithtype1diabetes.DiabetesCareC31:1842-1846,C20085)VelayuthamCV,CCraigCME,CLiewCGCetal:Extended-zoneCretinalvascularcaliberandriskofdiabeticretinopathyinadolescentsCwithCtypeC1Cdiabetes.COphthalmolCRetinaC4:C1151-1157,C20206)KristinssonCJK,CGottfredsdottirCMS,CStefanssonE:RetinalCvesseldilatationandelongationprecedesdiabeticmacularoedema.BrJOphthalmolC81:274-278,C19977)FukutsuK,SaitoM,NodaKetal:Adeeplearningarchi-tectureCforCvascularCareaCmeasurementCinCfundusCimages.COphthalmolSciC1:100004,C20218)MitamuraM,SaitoM,FukutsuKetal:Sexdi.erencesinage-relatedCchangesCinCretinalCarteriovenousCareaCbasedCondeeplearningsegmentationmodel.OphthalmolSciC5:C100719,C20259)FukutsuCK,CSaitoCM,CNodaCKCetal:RelationshipCbetweenCbrachial-ankleCpulseCwaveCvelocityCandCfundusCarteriolarCareacalculatedusingadeep-learningalgorithm.CurrEyeResC47:1534-1537,C202210)SaitoM,MitamuraM,FukutsuKetal:Retinalarteriove-nousCinformationCimprovesCtheCpredictionCaccuracyCofCdeepClearning-basedCpulseCwaveCvelocityCfromCcolorCfun-dusphotographs.InvestOphthalmolVisSci66:63,C202511)WongTY,KnudtsonMD,KleinRetal:Computer-assist-edmeasurementofretinalvesseldiametersintheBeaverDamEyeCStudy:methodology,CcorrelationCbetweenCeyes,Cande.ectofrefractiveerrors.OphthalmologyC111:1183-1190,C200412)SchleglCT,CWaldsteinCSM,CBogunovicCHCetal:FullyCauto-matedCdetectionCandCquanti.cationCofCmacularC.uidCinCOCTCusingCdeepClearning.COphthalmologyC125:549-558,C201813)HsuHY,ChouYB,JhengYCetal:Automaticsegmenta-tionCofCretinalC.uidCandCphotoreceptorClayerCfromCopticalCcoherenceCtomographyCimagesCofCdiabeticCmacularCedemaCpatientsCusingCdeepClearningCandCassociationsCwithCvisualCacuity.BiomedicinesC10:1269,C202214)AlryalatCSA,CAl-AntaryCM,CArafaCYCetal:DeepClearningCpredictionofresponsetoanti-VEGFamongdiabeticmac-ularCedemapatients:TreatmentCResponseCAnalyzerSystem(TRAS)C.Diagnostics(Basel)C12:312,C202215)MitamuraCM,CSaitoCM,CNishiyama-HirookaCKCetal:AI-basedCanalysisCofCsurgicalCoutcomesCinCvitrectomyCwithCandCwithoutCcystotomyCforCrefractoryCcystoidCdiabeticCmacularedema.SciRepC15:14629,C2025(53)あたらしい眼科Vol.43,No.3,2026C281

眼で見つかる全身血管障害

2026年3月31日 火曜日

眼で見つかる全身血管障害SystemicVascularDisordersDetectedThroughtheEye坪田欣也*はじめに眼底は「全身の鏡」と古くからよばれ,網膜の血管変化は高血圧症や動脈硬化症など全身の血管状態を映し出す重要な指標である.眼科領域では,網膜動脈硬化の重症度評価にKeith-Wagener-Barker(KWB)分類やScheieのS/H分類が歴史的に用いられてきた.とくに,Keith-Wagener-Barker分類(KWB分類)は高血圧性網膜症の古典的な分類として知られ,健診の現場などで広く使われてきた1).一方で,Scheie分類は網膜動脈硬化度(S0.S4)と高血圧性変化(H0.H4)をそれぞれ評価する特徴をもち,高血圧症の眼底所見判定基準として定着している2).こうした古典的な手法により,眼科医は全身の血管疾患の影響を眼底所見から評価し,内科的管理に役立ててきた3).近年では,眼科領域にオキュロミクス(oculomics)とよばれる新たな概念も登場しつつある.オキュロミクスは網膜をはじめとする網膜の画像データを高度に解析することによって,従来の肉眼では捉えきれない微細な変化を検出し,各種データ処理手法や人工知能(arti.cialintelligence:AI)の発展によって,眼所見から全身疾患を予測することが改めて注目され,眼科領域でのオミクス技術を活用した研究や診療の概念をさす造語である.オキュロミクスの台頭によって,眼科は古典的な診察所見のみならず,AIとビッグデータを活用した最先端の全身スクリーニングの場へと変貌しつつある.本稿では,動脈硬化,高血圧や血管炎症候群などの全身血管障害を示唆する眼所見から,オキュロミクスの新しい知見について紹介する.I高血圧性網膜症と網膜動脈硬化症高血圧症による網膜血管の変化は,高血圧性網膜症(高血圧性眼底)と網膜動脈硬化症の二つの側面がみられる.高血圧性網膜症とは,急性または可逆的な血圧上昇による網膜血管の攣縮や透過性亢進による所見をさし,軽度の網膜細動脈狭細や局所的な動静脈交叉現象から,重症例では網膜出血,硬性白斑,軟性白斑,乳頭浮腫に至る段階的な所見を呈する(図1).KWB分類ではI群(軽度の狭細),II群(狭細と交叉現象の著明化),III群(網膜出血や白斑の出現),IV群(乳頭浮腫の合併)と4段階に分類される.急性発症した悪性高血圧(高血圧緊急症)では漿液性網膜.離を伴うこともあり,Vogt-小柳-原田病と誤診されることもある(図2)4).近年は降圧療法の進歩により悪性高血圧眼底(IV度)を目にする機会は減少したものの,軽度の網膜症所見であっても心血管イベント発症リスクの上昇と相関することが報告されている5).日本の吹田研究(SuitaStudy)では,KWB分類で軽度と判定される網膜症所見を有する高血圧患者は網膜所見のない患者に比べ将来の脳卒中リスクが有意に高いことが明らかとなった6).したがって,高血圧性網膜症の評価は単に眼合併症の有無をみるだけでなく,全身の臓器障害の有無や今後のリスク予測において重要であることが示された.KWB分類I群以上は血管疾患リスクおよび脳卒中リスクと正の相関を示してお*KinyaTsubota:東京医科大学臨床医学系眼科学分野〔別刷請求先〕坪田欣也:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野(1)(39)2670910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1高血圧性網膜症の眼底写真a:右眼.Cb:左眼.両眼ともに網膜出血,黄斑近傍の硬性白斑,乳頭周囲の軟性白斑,一部銀線動脈がみられ,右眼には網膜下出血と硝子体硝子体出血まで伴っている.Keith-Wagener-Barker分類のCIII群,Scheie分類のHIII度,SIV度.ab図2悪性高血圧(高血圧緊急症)に伴う漿液性網膜.離a:右眼.b:左眼.乳頭周囲の出血・白斑に加え,後極部を中心とした漿液性網膜.離がみられ,OCTではVogt-小柳-原田病急性期に類似した漿液性網膜.離を呈しているが,脈絡膜の肥厚はみられない.-図3Hollenhorst斑(網膜動脈内コレステロール塞栓)網膜動脈分枝内に黄色光沢を伴う塞栓子がみられ(.),硝子体出血,網膜新生血管と増殖性変化までみられる.図4多発血管炎性肉芽腫症の眼球破裂a:転倒受傷前.角膜輪部周辺の強膜の菲薄化がみられ,脈絡膜が薄く透見されている.b:転倒受傷後.転倒により眼球を打撲し,強膜菲薄部が裂け眼球破裂をきたした.図5顕微鏡的多発血管炎による虚血性視神経症a:右眼.b:左眼.右眼の視神経乳頭は蒼白浮腫をきたし,乳頭周囲には虚血を思わせる軟性白斑様の変化と動脈白線化がみられる(Ca1).左眼の動脈血管の一部は反射が亢進しているものの明らかな虚血を疑う所見はみられない(Cb1).OCTAでは右眼に視神経乳頭周囲領域の毛細血管灌流低下を示す低信号がみられ(Ca2),左眼の視神経乳頭周囲領域の灌流低下はみられない(Cb2).眼徴候を手がかりに血管炎症候群が診断される症例も少なくなく,眼科医はぶどう膜炎や強膜炎を発見した際には常に背景にある全身疾患を鑑別にあげる必要がある.とくに原因不明の血管炎性眼疾患に遭遇した場合は,リウマチ専門医との連携のもとで早期に全身検索を行い,適切な診断と治療につなげることが患者の予後改善につながる.PANとCAAVにおけるオキュロミクスは,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)/光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)などの有用性の報告が蓄積しつつあるものの(図5)17,18),どの眼所見が血管炎の発症・再燃・全身イベントを一貫して予測しうるかは,現段階では確立していない.一方で,測定・解析の標準化と前向き検証が進めば,将来的に臨床予測へ実装可能となる見込みがある.おわりに眼を通じて全身の血管疾患を診るという眼科の伝統的アプローチは,古典的な眼底所見の把握からCAI時代のオキュロミクスへと大きな広がりを見せている.高血圧性網膜症の所見は依然として患者の全身管理における貴重な指標であり,眼科医はそれらを正確に評価・報告することで内科診療に寄与している.一方で,網膜に現れるサインから全身疾患を予見しようとする試みはますます高度化しており,深層学習(ディープラーニング,Cdeeplearning:DL)技術の応用により,これまで人間が捉えきれなかった微細なパターンから疾患リスクを読み解くことが可能になりつつある.高齢社会を迎えるなかで生活習慣病や認知症の早期発見・予防が重要課題であり,眼科がその入り口として大きな役割を果たすことが期待される.今後,オキュロミクスのエビデンスが蓄積され実用性が高まれば,眼科健診での眼底写真一枚から個々の患者の心血管リスクプロファイルや臓器障害の程度を評価し,必要に応じて専門診療科へ迅速に紹介する,といった新たなクリニカルパスが確立する可能性もある.これは眼科医にとって従来の視力や眼病変の管理を超え,全身の健康管理に深く関与することを意味する.幸い,眼科医療はテクノロジーとの親和性が高く,多くの眼科医や研究者を中心にCAI性能のさらなる向上やデータサイエンスへの関心も高まりつつある.「予防眼科」ともよぶべき新しいコンセプトのもと,眼科と他科の垣根を越えた包括的な医療提供が将来のスタンダードになるかもしれない.古典的知見と最新技術の融合により,眼科診療は今後ますます発展し,患者の全身の健康長寿に貢献できる分野へと進化していくことが期待される.文献1)KeithCNM,CWagenerCHP,CBarkerNW:SomeCdi.erentCtypesofessentialhypertension:theircourseandprogno-sis.AmJMedSciC268:336-345,C19742)SCHEIEHG:EvaluationCofCophthalmoscopicCchangesCofChypertensionandarteriolarsclerosis.AMAArchOphthal-molC49:117-138,C19533)川崎良:眼底検査の方法高血圧症に伴う眼底変化・糖尿病による眼底変化.日循環器予防誌56:226-232,C20214)HayrehCSS,CServaisCGE,CVirdiPS:FundusClesionsCinCmalignantChypertension.CVI.CHypertensiveCchoroidopathy.COphthalmologyC93:1383-1400,C19865)SairenchiCT,CIsoCH,CYamagishiK:MildCretinopathyCisCaCriskCfactorCforCcardiovascularCmortalityCinCJapaneseCwithCandwithouthypertension:theIbarakiPrefecturalHealthStudy.CirculationC124:2502-2511,C20116)LiCJ,CKokuboCY,CArafaA:MildChypertensiveCretinopathyandriskofcardiovasculardisease:theSuitaStudy.JAth-erosclerThrombC29:1663-1671,C20227)LiewG,XieJ,NguyenH,KeayL:Hypertensiveretinopa-thyCandCcardiovascularCdiseaserisk:6Cpopulation-basedCcohortsmeta-analysis.IntJCardiolCardiovascRiskPrevC17:200180,C20238)Gra.-RadfordJ,BoesCJ,BrownRDJr:Historyofhollen-horstplaques.StrokeC46:e82-e84,C20159)WongTY,IslamFM,KleinRetal:Retinalvascularcali-ber,CcardiovascularCriskCfactors,Candin.ammation:theCmulti-ethnicCstudyCofatherosclerosis(MESA)C.CInvestCOphthalmolVisSciC47:2341-2350,C200610)LiCL,CVermaCM,CWangCBCetal:AutomatedCgradingCsys-temCofCretinalCarterio-venouscrossingCpatterns:aCdeepClearningCapproachCreplicatingCophthalmologist’sCdiagnosticCprocessCofCarteriolosclerosis.CPLOSCDigitCHealthC2:Ce0000174,C202311)PoplinCR,CVaradarajanCAV,CBlumerCKCetal:PredictionCofCcardiovascularCriskCfactorsCfromCretinalCfundusCphoto-graphsCviaCdeepClearning.CNatCBiomedCEngC2:158-164,C201812)YavariCN,CGhorabaCH,CMohammadiCSSCetal:PresumedCgranulomatosisCwithCpolyangiitisCpresentingCwithCanteriorCscleritisCandCin.ammatoryCciliaryCbodyCgranuloma.CJCOph-thalmicIn.ammInfectC15:26,C2025272あたらしい眼科Vol.43,No.3,2026(44)’C-

眼で見つかる神経疾患

2026年3月31日 火曜日

眼で見つかる神経疾患RetinalImaginginNeuropsychiatricDisorders上田瑛美*はじめに眼の網膜は脳と共通点が多く,視神経を介して直接つながっている(図1a).精神神経疾患患者の剖検脳を用いた病理学的研究において,脳の神経変性の初期に網膜の神経節細胞の壊死や異常蛋白の沈着が確認されている1.5)(図1b).さらに,近年の脳画像研究では,網膜の神経節細胞層(ganglioncelllayer:GCL)の厚みと,海馬などの認知機能関連領域の萎縮との関連も報告されている.Alzheimer病やParkinson病などの精神神経疾患の形態学的評価には脳MRI検査や髄液検査が用いられるが,費用や侵襲性,定量性,撮像時間などの問題から,より簡便な手法の必要性が指摘されている.一方で,網膜イメージング技術は近年急速に進歩している.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では造影剤を用いずに網膜の構造や血管を詳細に描出可能であり,さらに光学フィルター付き眼底カメラを用いた特定波長での反射測定も実用化されている.これらは非侵襲的かつ簡便であり,眼科診療を超えて精神神経疾患領域での臨床応用が期待されている.本稿では,精神神経疾患のなかでもAlzheimer病とParkinson病に焦点をあて,各疾患における網膜の病理学的および臨床学的特徴を概説する.さらに,従来の眼底画像診断に加えて新たに登場したハイパースペクトル網膜イメージング(hyperspectralretinalimaging:HSRI)を紹介し,精神神経疾患における網膜イメージングの臨床的有用性について考察する.I精神神経疾患における網膜の病理学的特徴Alzheimer病やParkinson病といった代表的な精神神経疾患において,神経変性異常蛋白の沈着は脳病理の中心的所見である.一方で,網膜においても同様の変化が生じるかについて病理学的検討が重ねられてきた.これらの知見は,網膜が単なる観察しやすい組織にとどまらず,脳内病理を映し出す窓として機能し得ることを示唆する.本節では,Alzheimer病におけるアミロイドb(amyloidb:Ab)やリン酸化タウ(phosphorylatedTau:p-Tau)の沈着との関係性,ならびにParkinson病におけるaシヌクレイン(a-synuclein:aSYN)関連病変との報告を整理する.1.Alzheimer病との関連Alzheimer病患者の剖検脳を用いた病理学的研究では,GCL近傍にAbの沈着が認められることや,神経変性の初期過程で網膜に神経節細胞壊死および樹状突起構造の変化が起こることがすでに明らかとなっている1.5).APPswe/PS1ΔE9トランスジェニックマウスでは,網膜の内外網状層にAbプラークが形成され,ミクログリア活性の亢進や網膜電図の振幅の低下といった機能障害が認められた3).denHaanらの研究ではAlzheimer病患者6例と対照6例の剖検網膜を比較し,Abは網膜にも存在するが脳内とは異なる形態で特異的ではない一*EmiUeda:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕上田瑛美:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野(1)(31)2590910-1810/26/\100/頁/JCOPYb網膜と共通した病態●網膜神経節細胞の壊死●網膜神経節細胞近傍に異常蛋白が沈着●網膜血管の病変が存在図1網膜.脳ネットワークa:眼の網膜は発生学的,解剖学的,および生理学的に脳と多くの共通点をもち,脳と視神経を介して連結している.b:老年期精神疾患の病態が脳と網膜の両方に認められることが明らかになっている.病理学的研究において,脳の神経変性の初期過程で網膜の神経節細胞が壊死することや,近傍に異常蛋白の沈着が認められることなどが示されている.精神神経疾患の診断・予測に向けた網膜イメージングの多様性HSRI:ハイパースペクトル網膜イメージング(hyperspectralretinalimaging)図2精神神経疾患の診断・予測に向けた網膜イメージングの多様性多様な網膜イメージング手法(眼底カラー画像,OCT,OCTA,HSRI)は,精神神経疾患に関連する網膜症,神経変性,微細循環障害,異常蛋白沈着を反映する可能性がある.表1Alzheimer病に関連する網膜変化網膜変化網膜イメージング代表的な研究の知見網膜症の出現(毛細血管瘤,点状・斑状出血,硬性・軟性白斑などの異常所見)眼底カラー画像久山町研究による追跡調査では,網膜症はCAlzheimer病の発症リスクが上昇した11).オランダのCRotterdamstudy12)と米国のCARICstudy13)では,網膜症とCAlzheimer病発症に有意な関連はなかった.視神経乳頭周囲の網膜神経線維層および黄斑部の網膜神経節細胞層・網膜神経節細胞複合体の菲薄化光干渉断層計(OCT)Thomsonらのメタ解析ではCAlzheimer病患者において網膜神経線維層が菲薄化し,網膜神経節細胞層や網膜神経節細胞複合体も菲薄化していた14).Chanらの軽度認知機能障害患者を対象とした報告では,網膜神経線維層および網膜神経節細胞層の菲薄化が確認され,AClzheimer病の発症前から網膜変化が出現することが示唆された15).久山町研究では網膜神経節細胞層の菲薄化がCAlzheimer病と有意に関連した16).網膜毛細血管密度の低下,中心窩無血管域(FAZ)の拡大OCT血管造影画像(OCTA)CdenHaanらのメタ解析では,網膜浅層毛細血管叢の血管密度はCAlzheimer病で有意に低下し17),軽度認知障害患者や早期のCAlzheimer病患者でも認められた18).FAZの拡大や網膜深層毛細血管叢の変化は一貫した結果が得られていない.短波長域の網膜反射スペクトル変化,アミロイドCb沈着の反映ハイパースペクトル網膜イメージング(HSRI)Hadouxらの報告では,脳内のアミロイドCb沈着陽性群では短波長域で網膜に特徴的スペクトル変化が検出され,脳CPET検査におけるアミロイドCb負荷と有意に相関した19).LemmensらはCOCTでの網膜神経線維層厚とCHSRIデータを統合した結果,Alzheimer病患者と対照群をCAUC0.74で識別できた20).表2Parkinson病に関連する網膜変化網膜変化網膜イメージング代表的な研究の知見視神経乳頭周囲の網膜神経線維層および黄斑部の網膜神経節細胞層・網膜神経節細胞複合体の菲薄化光干渉断層計(OCT)Zhouらによるメタ解析では,視神経乳頭周囲の網膜神経線維層厚がCParkinson病群で有意に減少していた.黄斑部の網膜神経節細胞層・網膜神経節細胞複合体の厚みも有意に減少していた21).網膜毛細血管密度の低下,中心窩無血管域(FAZ)の拡大OCT血管造影画像(OCTA)CAndreasKatsimprisらのメタ解析では,PCarkinson病患者の網膜浅層毛細血管叢の血管密度が健常者より低下していた.CFAZ面積や網膜深層毛細血管叢については研究間で結果が不一致だった22).短波長域の網膜反射スペクトルの変化ハイパースペクトル網膜イメージング(HSRI)Parkinson病患者の短波長域(上鼻側<C490Cnm,下鼻側<C510Cnm)において,網膜反射スペクトルの低下が確認された.線形判別分析とCleave-one-outクロスバリデーションによる機械学習解析では,AUC0.60と中等度の水準であった23).us:DCP)の血管密度は全体として有意差を認めず,FAZについては拡大が認められたが,効果量や統計的有意性は一貫しなかった.さらにCBiscettiらの解析では,軽度認知障害患者や早期のCAlzheimer病患者において,SCP・DCPの灌流密度低下が検出され,血管分岐の複雑性を示すフラクタル次元の上昇も認められた18).これはCAlzheimer病の初期に,毛細血管密度の低下と並行して代償的な血管再構築が進む可能性を示唆している.OCTAを用いたメタ解析の結果,Alzheimer病ではSCPの血管密度の低下が一貫して認められ,重要な指標となることが示唆された.Cd.網膜スペクトル画像を用いた神経変性異常蛋白の検出HSRIによる網膜スペクトル画像は,ACbなどの神経変性異常蛋白の沈着に伴う網膜の構造的・光学的変化を非侵襲的に検出する手法として開発されている.Hadouxらが,脳のCpositronCemissionCtomography(PET)検査によるCACbの陽性群C15例と陰性群C20例を対象に解析を行い,眼内メラニンや水晶体混濁の影響を補正する独自アルゴリズムを適用した結果,565Cnm以下の短波長域で陽性群と陰性群の間に有意な反射スペクトル差が認められた19).補正後のスコアは陽性群で有意に高値を示し,とくに上方網膜や黄斑中心窩で顕著であった.ROC解析では,陽性群・陰性群を識別するCAUC(曲線下面積)が主解析コホートでC0.82,検証コホートでC0.87と良好な診断能を示し,スコアは脳CPET検査で定量されたCACb負荷と有意に相関した.これにより網膜スペクトル変化が脳内のCACb沈着を反映する可能性が示唆された.一方で,多波長のスペクトル情報と形態学的パラメータを機械学習で統合し,診断精度を向上させる試みも報告されている.LemmensらはCOCTでの視神経乳頭周囲のCRNFL厚とCHSRIデータを統合した結果,Alzheimer病患者と対照群をCAUC0.74で識別でき,とくに下象限CRNFLの菲薄化が有意な特徴量として抽出された20).C2.Parkinson病との関連a.OCT画像を用いた網膜層の菲薄化近年では,Parkinson病でもCOCTによる網膜構造解析が進み,客観的評価指標として注目されている.Zhouらのメタ解析によると,Parkinson病患者では視神経乳頭周囲のCRNFLの平均厚が有意に低下していた21).また,黄斑部のCGCLおよびCGCCの厚みも有意に低下しており,網膜全体にわたる変性を反映する所見と考えられる.これらの変化は,網膜内に存在するドーパミン作動性アマクリン細胞の減少や神経節細胞の変性に起因し,色覚異常やコントラスト感度の低下など臨床的な視覚症状と関連する可能性がある.Cb.OCTA画像を用いた網膜血管密度の低下Parkinson病は,網膜のCSCPの血管密度の低下との関連も示唆されている.Katsimprisらのメタ解析によると,Parkinson病のCSCPの血管密度は健常者と比較して低下していたと報告されている22).しかし,FAZや浅層血管叢(shallowCvascularplexus:SVP)の血管密度には統計的な差異は認めなかった.したがって,OCTAによるCSVPの血管密度はCParkinson病における視覚系変化や神経変性の非侵襲的マーカーとなりうる可能性がある.今後CParkinson病においてCOCTA所見を臨床応用するには,縦断的研究や多施設共同研究を通じて,パラメータの再現性や疾患進行との関連性を検証することが重要である.Cc.網膜スペクトル画像を用いた神経変性異常蛋白の検出Parkinson病患者にもCHSRIの網膜スペクトル画像によって,網膜反射スペクトルの特徴を検討した臨床報告がある23).対象はCParkinson病患者C20例と,年齢・性別をマッチさせた対照群C20例で,眼疾患の既往を有する者は除外された.黄斑部のC4領域を設定し反射スペクトルを解析したところ,Parkinson病ではとくに短波長域(上鼻側<490Cnm,下鼻側<510Cnm)で反射強度が有意に低下していた.線形判別分析とCleave-one-outクロスバリデーションによる機械学習解析では,識別能はCAUC0.60,感度C60%,特異度C50%と,中等度の水準にとどまった.HSRIによる網膜スペクトル画像がCPar-kinson病の病態やCaSYNの蓄積を反映し得る可能性を示したが,今後大規模研究やCOCT・OCTAなど他の網膜画像との統合的解析研究への進展が期待される.(35)あたらしい眼科Vol.43,No.3,2026C263脳網膜●画像データOCT,OCTA,HSRI…図3深層学習による網膜画像からの精神神経疾患推定近年では,深層学習を応用した網膜イメージングによる精神神経疾患の識別研究が急速に進展している.網膜画像から精神神経疾患に関する有用な情報を抽出し,疾患の有無を識別(診断)するとともに,進行度や重症度を推定することが期待される.’C’C’C’C-’C’C’C’C

眼で見つかる悪性疾患

2026年3月31日 火曜日

眼で見つかる悪性疾患DetectingMalignancyThroughOcularFindings中島勇魚*岸本達真*はじめに眼は全身の病態を反映する臓器であり,しばしば「全身の窓」と表現される.悪性疾患においても,眼科的な異常が全身疾患の初発所見となる場合が少なくなく,眼科医が診断の契機を担うこともありうる.眼に現れる悪性疾患には原発性の眼内腫瘍や眼窩腫瘍も含まれるが,中枢神経リンパ腫や白血病,悪性リンパ腫といった血液腫瘍,あるいは乳癌や肺癌に代表される転移性腫瘍のように,全身の病変の一部としても生じる.これらの疾患はその存在を見抜くことで全身疾患の診断や治療方針の決定に大きく貢献できるが,炎症疾患など他の眼疾患と類似し診断に難渋する例も散見される.本稿ではこれらの疾患を,眼内悪性リンパ腫・眼付属器悪性リンパ腫・白血病・転移性腫瘍の項に分け概説する.I眼内悪性リンパ腫1.疫学眼内悪性リンパ腫は網膜硝子体リンパ腫(vitreoreti-nallymphoma:VRL)ともよばれる悪性リンパ腫の一亜型である.原発性VRLと既知のリンパ腫が眼に進展した二次性VRLに大別され,頻度としては原発性VRLが多い.臨床的にはぶどう膜炎に類似した症状を呈することから「仮面症候群」とも呼称される.わが国でのぶどう膜炎全国疫学調査において,眼内悪性リンパ腫は全ぶどう膜炎の1.2%を占めると報告されており,ぶどう膜炎診療において常に念頭におく必要がある1).また,VRLは50.60歳代の比較的高齢者に好発する.VRLの生命予後は不良であり,わが国の多施設共同研究では5年生存率が約60%にとどまることが示されている.2.診断VRLの病型は大きく,硝子体混濁を主体とする型と,網膜から網膜下にかけて斑状の黄白色病変を呈する型(図1a,b)に分けられ,両者が混在する場合も少なくない.硝子体混濁は,いわゆる「オーロラ状硝子体混濁」とよばれる濃淡のある混濁として観察され,大型の細胞が確認されることがある.しかし,虹彩毛様体炎,角膜後面沈着物,網膜血管炎など所見を伴うことも多く,熟練した検者であっても他のぶどう膜炎との鑑別が困難な患者も存在する.とくに硝子体混濁型では鑑別がむずかしく,強い硝子体混濁を呈する中高年のぶどう膜炎症例において,ステロイド点眼や全身投与による消炎治療に反応が乏しい場合にはVRLを留意する.VRLにおける網膜病変は黄白色で多発し,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では網膜色素上皮(reti-nalpigmentepithelium:RPE)の粒状影や,RPEとBruch膜の間にドーム状の隆起や網膜の波打ち像として描出される(図1c).さらに,VRLでは病変が一見自然に軽快することがあり,新しい浸潤巣と,色調が淡く萎縮傾向を示す,やや古い病変が同時に存在することも特徴の一つである.確定診断は硝子体手術によって採取した硝子体検体の*IsanaNakajima&TatsumaKishimoto:高知大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕中島勇魚:〒783-8505高知県南国市岡豊町小蓮高知大学医学部眼科学講座(1)(23)2510910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1眼内悪性リンパ腫a:網膜に多発する斑状の黄白色病変.b,c:後極に多発する白色病変を認め(b),OCTにてRPEの粒状影や結節状の隆起,網膜の波打ち像を認める(c).d:VRL治療中に生じた頭蓋内病変.-a図2眼付属器悪性リンパ腫a:結膜円蓋部に生じた結膜悪性リンパ腫.いわゆる「サーモンピンク様」病変を呈している.b,c:眼窩悪性リンパ腫におけるCT2強調CMRI画像.冠状断では両側に腫瘍を生じていることが確認できる(Cb).矢状断では上直筋に沿って,眼窩間隙を這うように腫瘍が増大していることが確認できる(Cc).図3白血病により生じた網膜症a:右眼.b:左眼.若年男性の両眼に網膜しみ状出血,火炎状出血を認める.採血で重度の赤血球および血小板低下を認め,白血球分画で異常血球が検出され,白血病と診断された.図4白血病の視神経浸潤白血病細胞が視神経に浸潤し,視神経乳頭腫脹および出血を呈している.本病変は白血病寛解期に発症し,眼部以外には異常所見を認めず,髄液検査も正常であったことから,眼所見のみで白血病の再燃と診断した.図5転移性脈絡膜腫瘍a:視神経上方に黄白色の扁平な隆起病変を認める.b:Bモードでは扁平な充実性の隆起病変が確認できる.図6網膜.離を生じた転移性脈絡膜腫瘍a,b:視力低下で紹介となり,眼底検査で胞状.離を認めた.c:エコーでは.離(.)下に充実性病変(.)を認め,脈絡膜腫瘍が想起された.既往歴に治療中の転移性耳下腺腫瘍があり,転移性脈絡膜腫瘍と診断し,放射線治療を施行した.

眼で見つかる免疫疾患

2026年3月31日 火曜日

眼で見つかる免疫疾患ImmuneDisordersRevealedThroughOcularManifestations松宮亘*はじめに眼は中枢神経系と血管・免疫系に富む特殊な臓器であり,全身の免疫異常や血管炎症が鋭敏に反映される「全身疾患の窓」としての役割を担う.とくに免疫・炎症性疾患においては,関節,皮膚,腸管など他臓器症状に先行して眼症状が出現することも少なくなく,眼科医が最初に疾患の存在に気づく機会も多い.実臨床では,原因不明のぶどう膜炎,強膜炎,網膜血管炎,視神経障害などを契機に,背後に潜む全身性免疫疾患が診断される例をしばしば経験する.本稿では,「眼で見つかる免疫疾患」という視点から,サルコイドーシス,Behcet病,Vogt-小柳-原田病の三大疾患を除く,抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilcytoplasmicantibody:ANCA)関連血管炎(ANCA-associatedvasculitis:AAV),関節リウマチ(rheuma-toidarthritis:RA),全身性エリテマトーデス(system-iclupuserythematosus:SLE),大血管炎(巨細胞性動脈炎・高安動脈炎),炎症性腸疾患(in.ammatoryboweldisease:IBD),脊椎関節炎の6疾患をとりあげ,それぞれに併発するぶどう膜炎を含む代表的眼病変の特徴,眼症状の臨床的意義,そして全身症状に先行しうる可能性について概説し,日常診療における早期診断のポイントを整理する.I抗好中球細胞質抗体関連血管炎抗好中球細胞質抗体関連血管炎(AAV)は多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosiswithpolyangiitis:GPA),顕微鏡的多発血管炎(microscopicpolyangiitis:MPA),好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilicgranulo-matosiswithpolyangiitis:EGPA)を含む小.中型血管炎であり,全身臓器に多彩な炎症をきたす.眼病変はAAVの重要な臓器障害の一つであり,GPAでは30%以上,EGPA・MPAでは約5.10%に認められる.GPAでは眼病変が初発症状となる割合は8.16%前後と比較的高いのに対し,EGPAでは約5%前後,MPAでは1.3%未満とされ,眼初発はGPAに特徴的である.EGPAやMPAでは多くの場合に喘息,好酸球増多,腎炎,肺病変などの全身症状が眼症状に先行するが,眼病変が全身症状に先行する例も少なくなく,診断の契機となることがある1,2).AAVにおける前眼部病変は結膜炎・上強膜炎・強膜炎・周辺部角膜潰瘍・虹彩炎(前部ぶどう膜炎)が主体である.とくにGPAでは強膜炎がもっとも多く,約25.40%を占める.強膜炎は壊死性に進展しやすく,強い眼痛とともに強膜菲薄化や穿孔をきたす重篤な病態で注意を要する.ぶどう膜炎はおもに前部ぶどう膜炎(虹彩炎)として出現し,眼内炎症に伴って前房混濁,羞明,霧視を呈し,強膜炎や角膜病変に合併することも多い.網膜病変については,網膜血管炎はEGPAで比較的多く(22%),GPAでは3%前後とされる.血管炎により血管漏出,黄斑浮腫,網膜出血が生じ,さらに網膜動静脈閉塞症へ進展すると急激な視力低下をきたす.視神経*WataruMatsumiya:神戸大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕松宮亘:〒650-0017神戸市中央区楠町7-5-2神戸大学医学部眼科学教室(1)(15)2430910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1関節リウマチに伴う壊死性強膜炎の症例(83歳,女性)a:左眼耳側上方にびまん性に広がる壊死性強膜炎を認め,強い菲薄化により脈絡膜がかすかに透見される.Cb:治療後.同部位の炎症は鎮静化したものの,強膜融解が進行し,強膜下の脈絡膜がより明瞭に透見されるようになった.bc図2全身性エリテマトーデス(SLE)に伴う閉塞性網膜血管炎の症例(29歳,女性)a:カラー眼底写真.右眼耳側下方網膜に,白鞘化した血管に沿う網膜出血()を認める.また,上方および鼻側上方の網膜血管にも部分的な白色変化()を認める.Cb:フルオレセイン蛍光造影(FA).耳側下方網膜に無血管領域を認め,鼻側上方の網膜血管には血管炎を示唆する部分的な過蛍光を認める.c:OCTangiography(OCTA)画像.FAで確認された部位に一致して血流欠損領域を認め,同部の境界では網膜血管の蛇行や形態異常を認める.C-abc図3巨細胞性動脈炎に伴う前部虚血性視神経症の症例(70歳,男性)a:右眼視神経乳頭に腫脹・発赤を認め,視神経周囲には出血を伴う.b:視神経乳頭部の拡大像.c:FA.視神経乳頭上方に充盈欠損を認め,その他の部位では蛍光色素の漏出を認める.図4潰瘍性大腸炎に伴う虹彩炎の症例(36歳,女性)a:前眼部写真.左眼に毛様充血およびC6時からC9時に虹彩後癒着を伴う前部ぶどう膜炎を認める.Cb:カラー眼底写真.軽度硝子体混濁を伴うが,眼底に異常所見は認めない.図5強直性脊椎炎に伴う虹彩炎の症例(34歳,女性)a:前眼部写真.左眼に強い毛様充血およびC12時に虹彩後癒着を伴う前部ぶどう膜炎を認める.Cb:MRI所見(STIR法).仙腸関節で軽度の炎症を認める().’C—

眼で見つかる全身感染症

2026年3月31日 火曜日

眼で見つかる全身感染症CUveitisAssociatedwithSystemicInfectiousDiseases松田順繁*はじめにぶどう膜炎は,その病因から大きく感染性および非感染性(自己免疫性)に分けられる.どちらも眼局所に病変が留まらない場合も多く,眼所見を契機に全身疾患が見つかることがある.本稿では,眼局所だけではない全身感染,とくに結核・梅毒・転移性眼内炎・ウイルスについてとりあげ,日常診療でよく遭遇するものから,頻度は高くないものの鑑別に重要なものまで,各疾患概念や眼・全身所見,治療法につき概略をまとめた.CI結核再興感染症としても注目される結核によるぶどう膜炎は,他のぶどう膜炎と臨床所見が重複することが多いが,眼症状から全身の結核感染が判明することもあり,網脈絡膜炎の原因として常に念頭におくべき疾患である.豚脂様の角膜後面沈着物(keraticprecipitate:KP)や虹彩結節・後癒着,雪玉状硝子体混濁に代表される肉芽腫性の炎症を呈するが,特徴的なのは下記C3タイプの後眼部病変である.「脈絡膜粟粒結核」は全身の粟粒結核の眼所見としてみられ,網膜下レベルで黄白色円形病巣が散在する.「脈絡膜結核腫」は後極部を中心に隆起性黄白色病巣が孤立性ないしは多発性に形成される.そしてもっとも頻度が高いのは「網膜血管炎」であり,境界不明瞭な白鞘を伴った網膜静脈周囲炎と,蛍光眼底造影にて周辺部網膜に無灌流領域(non-perfusionarea:NPA)が認められる.全身検査所見としては,結核菌由来物質(puri.edCproteinderivative:PPD)に対する皮膚の遅延型過敏反応であるツベルクリン反応,血中結核菌インターフェロン(interferon:IFN)C-c(クォンティフェロン)やCT-SPOT陽性があげられる.眼外病変として肺病変を伴わない場合もあるが,とくにCNPAを伴う肉芽腫性の網脈絡膜炎をみた場合には,結核感染を想定した血液検査から実際に陽性が判明し,病変の所在を含めたさらなる全身検索へとつながることがある.治療はステロイドや散瞳薬の点眼に加え,イソニアジド(INH)やリファンピシン(RFP)を含む抗結核薬の内服,硝子体混濁が強い場合にはステロイド(プレドニゾロンC0.5Cmg/kg/日)の服用,そしてCNPAへは新生血管の破綻による硝子体出血を防ぐために網膜光凝固が必須である.CII梅毒梅毒トレポネーマ(Treponemapallidum)によって引き起こされる性感染症であり,駆梅療法や疾病予防対策により一時は患者数が減少していたが,近年再び増加傾向にある.先天梅毒と後天梅毒に分類され,先天梅毒では「角膜実質炎・内耳難聴・Hutchinson歯(上顎中切歯切縁の半月状切痕)」を代表徴候とする「Hutchinson三徴候」が認められる.*YorishigeMatsuda:信州大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕松田順繁:〒390-8621長野県松本市旭C3-1-1信州大学医学部眼科学教室(1)(3)C2310910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1黄色ブドウ球菌による細菌性眼内炎(78歳,女性)右眼の眼痛・霧視・充血を主訴に来院.前房蓄膿と,瞳孔領にはフィブリン膜が析出していた.既往歴に糖尿病があり,全身検査にて腎膿瘍が判明した.ab図2Candidaalbicansによる真菌性眼内炎(78歳,男性)既往歴に糖尿病・尿管結石・腎盂腎炎があり,尿道カテーテルが長期に留置されていた.左眼の飛蚊症を主訴に近医を受診したところ,ぶどう膜炎に対しトリアムシノロンCTenon.下注射が施行されたが悪化し当科紹介となった.Ca:前眼部.前房蓄膿と瞳孔領にフィブリン膜が形成されていた.Cb:眼底.大小不同の雪玉状硝子体混濁(真菌塊)が連なっていた.a治療前b治療後図3単純ヘルペスウイルス(HSV)樹枝状角膜炎に対し,アシクロビル眼軟膏が奏効した症例(80歳,男性)右眼の霧視・充血を主訴に来院.ゾビラックス眼軟膏C5回/日にステロイド点眼・眼圧下降点眼を併用.改善とともに漸減・終了した.Ca:治療前.右眼視力(0.5),右眼眼圧C32CmmHg.Cb:治療後.右眼視力(0.8),右眼眼圧C9CmmHg.図4水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)虹彩炎を繰り返し,部分的な虹彩萎縮と瞳孔の変形をきたした症例(81歳,男性)左眼C11時方向の虹彩が萎縮し菲薄化している.発症時,前房水CPCRからはCVZVが陽性であった.図5VZV-急性網膜壊死(ARN)に対し保存的加療が奏効した症例(17歳,男性)a:左眼の飛蚊症・霧視にて受診.周辺部網膜に多発する黄白色壊死病巣が認められた.左眼視力(0.4),左眼眼圧C43mmHg.Cb:病変は急速に癒合・拡大していき,閉塞性血管炎も生じた.Cc:アシクロビルの全身投与,ステロイド・抗血小板薬の内服を行うとともに,残存する健常部網膜に汎網膜光凝固を施行した.Cd:視神経萎縮により左眼視力(0.1)となったが,現在も網膜.離はなく経過している.d図6VZV-ARNに対し硝子体手術により網膜復位が得られた症例(47歳,女性)a:左眼のぶどう膜炎に対し近医でトリアムシノロンCTenon.下注射を施行されるも悪化.左眼視力(0.3).Cb:アシクロビルの全身投与を行うも,多発する網膜裂孔および増殖膜の牽引・収縮により網膜全.離となった.左眼視力(0.01).c,d:術後黄斑浮腫は残存するものの,最終的にシリコーンオイルタンポナーデにて後極部網膜は復位した.左眼視力(0.8).abc図7サイトメガロウイルス(CMV)角膜内皮炎に対し,1%ガンシクロビル点眼が奏効した症例(79歳,男性)既往に左眼の末期緑内障があったが,霧視・視力低下進行を主訴に来院.左眼角膜にコインリージョンを認め(.),前房水ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)にてCCMV陽性であった.1%ガンシクロビル点眼C2回/日の継続にて改善した.a:初診時.b:治療前.左眼視力(0.01),左眼眼圧C21mmHg.c:治療後.左眼視力(0.2),左眼眼圧C10CmmHg.ab治療前治療後図8CMV網膜炎に対しバルガンシクロビル内服が奏効した症例a:後極血管炎型.72歳,女性.骨髄異形成症候群の既往あり,腋窩リンパ腫に対し化学療法後であった.血球減少に対し,顆粒球コロニー刺激製剤併用にて抗ウイルス薬を投与した.治療前の右眼視力(0.02),治療後の右眼視力(0.05).Cb:後極血管炎型.69歳,女性.重症筋無力症に対し長期にプレドニゾロンC10Cmg内服中.胸腺腫への化学療法後であった.治療前の右眼視力(0.3),治療後の右眼視力(0.5).c:周辺部顆粒型.72歳,男性.胃癌術後であり,頸部濾胞性リンパ腫へも化学療法後であった.治療前の右眼視力(0.4),治療後の右眼視力(0.7).右眼左眼ab図9HIV感染症および梅毒性ぶどう膜炎の症例(19歳,男性)両眼の飛蚊症を主訴に受診.両眼に硝子体混濁と網膜血管炎,網膜白斑が認められた.血液検査にてCRPR256倍,TPHA46,960倍の梅毒感染が判明し,HIVも陽性であった.抗CHIV薬にて改善し,現在も治療経過観察中である.a:治療前.右眼視力(1.0),左眼視力(0.9).b:治療開始後.右眼視力(1.5),左眼視力(1.5).’C