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眼内レンズセミナー:多焦点眼内レンズの整復

2024年12月31日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋片岡卓也451.多焦点眼内レンズの整復眼科杉田病院多焦点眼内レンズの普及に伴い,その脱臼に遭遇する機会も増加した.しかし,整復が困難であるため,これまでは摘出しC3ピース単焦点眼内レンズなどに置換するのが一般的であった.本稿では,現在の主流であるシングルピースアクリル多焦点眼内レンズの脱臼を,非摘出で整復する手法を紹介する.●はじめに多焦点(multifocal:MF)眼内レンズ(intraocularlens:IOL)は偏心と傾斜に弱いため,整復するには固定位置を厳密に再現する必要がある1).シングルピースアクリル(single-pieceacrylic:SA)IOLは,hapticsが太いため眼内組織に接触すると炎症を惹起し,また軟性ゲル素材であるため結紮すると剪断される,という弱点がある2).ゆえにCSA-MF-IOLの整復には,毛様溝縫着や強膜内固定などの従来の二次固定法は適用できない.上記を解決すべく,体操競技の平行棒を模したC2本の支持糸を介してChapticsを固定する「平行棒縫着法」が考案された3).いくつかの変法を経て,現在では眼内組織への干渉による併発症を回避しつつ,本来の.内固定と同等の位置に安定して再固定することが可能となった3).C●方法概要は図1のとおりである.平行棒に相当するC2本の支持糸は,それぞれ角膜輪部C2mmから虹彩後方に6Cmm間隔で平行となるよう通糸する.長期の張力保持を目的にC9-0ポリプロピレン糸を選択している.Hap-ticsは支持糸の後方に位置するように,輪状縫合を介して根部と先端の計C4カ所で固定する.断端の虹彩への干渉を防ぐため,これらはC1本糸で連続して形成する.手順を示す.鼻側と耳側の結膜を切開.強膜に穿刺用スリットC4カ所(図1)と縫合用スリットC2カ所(図)を作製し,hapticsexternalization用の角膜ポートをC1.5Cmm幅でC2カ所作製する.作業域に干渉しないよう硝子体ポートなどを設置する(図2a).脱臼CIOLの周囲組織および硝子体を除去する.一方のChapticの先端を軽く把持し,破損しないよう慎重に角膜ポートから眼外へ導出する(図2b).両端針のC9-0ポリプロピレン糸で,hapticの根部(図2c)と端部(図2d)を輪状に縫合.結紮になってしまうとゲルが断裂するため間隙に余裕をもたせる.支持糸の牽引で結び目が締まらないよう,縫(61)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1固定イメージ上段:正面,下段:断面.:穿刺用スリット,:縫合用スリット,↑:支持糸,Ca:6Cmm,Cb:3Cmm,Cc:2Cmm(刺入部~輪部).合はC2-1-1などとする.結び目がChapticの前方にあることと,支持糸を牽引しても結び目が絞まって行かないことを確認し(図2e),縫合が回転しないよう注意しつつChapticを眼内へ戻す(図2f).穿刺用スリットから角膜輪部C2Cmmで迎え針を刺入し,両端針それぞれを角膜ポート経由で対面通糸する(図2g,h).両端針はそれぞれ穿刺用スリットから強膜内を穿刺して縫合用スリットへ通糸する(図2i).もう一方のChapticも同様に作業する.支持糸を軽く牽引し,絡まっていないこと,結び目がChapticsの前方にあることを確認し,問題があれば眼内鑷子などを用いて修正する.支持糸の引き具合を制御してCIOLを厳密にセンタリングする.Hapticsについても,毛様体に接触しないよう,適度な折れ曲がりとなるよう調整する(図2j).位置が確定したら縫合用スリット内で支持糸同士を縫合し,断端は強膜内に埋没する.あたらしい眼科Vol.41,No.12,2024C1445図2手術写真a:準備,b:Hapticsexternalization,Cc:根部縫合,d:端部縫合,e:縫合確認,f:眼内戻し,g:対面通糸,h:支持糸導出,i:縫合用スリット通糸,j:センタリング.図3Hapticsの反発力による支持糸の緩みの吸収●結果と考按本法の最大の利点は,支持糸の制御で精密にセンタリングできること,また平行線上のC4点という擬似的な平面で支持するため,傾斜しにくいことである.そのため,術後は偏心C0.3C±0.24mm,傾斜C3.9C±1.27°,等価球面度数.0.08±0.67D,前房深度C4.52C±0.49Cmm(7例7眼,当院および愛知医科大学病院)と,.内固定に匹敵する固定状態を再現できている.支持糸の緩みに対しても,hapticsの反発力が緩みを吸収する構造であるため,長期にわたり安定性が維持される(図3).また,原法では指示糸の前方にも部材やChapticsの一部が張り出していたため,虹彩裏面と干渉し炎症を惹起することがあったが,変法ではChapticsは支持糸の後方に吊り下げられるように固定されるため,虹彩への接触がなくなり安全性も向上した.整復困難とされていたCSA-MF-IOLも,工夫次第で整復可能であることが示唆された.今後も増加するであろうCIOL脱臼に対し,本法も含めよりよい整復手法が開発され発展することを期待する.文献1)SodaCM,CYaguchiS:E.ectCofCdecentrationConCtheCopticalCperformanceCinCmultifocalCintraocularClenses.COphthalmo-logicaC227:197-204,C20122)MostafaviD,NagelD,DaniasJ:Haptic-inducedpostoper-ativeCcomplications.CEvaluationCusingCultrasoundCbiomi-croscopy.CanJOphthalmolC48:478-481,C20133)馬嶋一如,片岡卓也,瓶井資弘:「平行棒縫着法」により非摘出整復を試みたシングルピース多焦点眼内レンズ脱臼のC3例.第C74回臨眼CO5:5,20204)片岡卓也:多焦点眼内レンズの整復.第C77回臨眼COphthal-micSurgeryFilmAward:NC-5,2023C

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く 強膜レンズ(2)

2024年12月31日 火曜日

■オフテクス提供■コンタクトレンズセミナー英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く12.強膜レンズ(2)松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学,川崎市立多摩病院眼科土至田宏順天堂大学医学部附属静岡病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の第C7章は強膜レンズについてである1).強膜レンズに関する第C7章1)の後半で,フィッティングの評価方法や強膜レンズの課題,今後の展望について取りあげている.強膜レンズのフィッティング評価強膜レンズは,結膜上に安定し,角膜や角膜周辺部に接触しないように,レンズの動きを最小限にすることが原則である.レンズ装用直後の中央部涙液クリアランス(lensvault)がC500Cμmよりも多い場合や,100Cμmよりも少ない場合は,レンズ頂点からレンズエッジまでの高さ(lensCsagittaldepth,以下,レンズCsag)の異なるトライアルレンズに変更する必要がある.また,レンズ下の気泡の有無も重要である.約C200~400Cμm程度の適切な中央部涙液クリアランスが得られたら,レンズが安定するまで約C30分間待ったのち,以下の評価項目を確認する.①レンズ下涙液層の厚み:レンズ下涙液層の厚みを細隙灯顕微鏡で観察する際には,細くしたスリット光を斜めC45°から照射し,角膜やレンズ自体の厚みを参考にして評価する.レンズ自体の厚みが中央部と周辺部で異なる場合があるため,角膜中央,上方,下方でのレンズ下涙液層の厚みを観察する.また,レンズ下涙液層の厚みを正確に評価するには,前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)やCScheimp.ug画像を参考にするとよい.C②Landingzoneの評価:landingzoneの観察は,細隙灯顕微鏡のディフューザー光で低倍率から始め,各象限で必要に応じて倍率を上げ,血管の途絶や圧迫の有無,エッジリフトの評価を行う.また,レンズをはずしたあとの充血や結膜への圧迫,結膜ステイニングの有無を観察する必要がある.定期検査の際には,フルオレセインを結膜.に滴下し,フルオレセインがClandingzoneに入り込むことを確認することで,レンズエッジの微妙な浮き上がりやレンズ装用時の涙液交換の評価が可能である.③レンズの動きとセンタリング:レンズの水平方向や垂直方向の偏心は,細隙灯顕微鏡の目盛りやCOCTで定量が可能である.強膜レンズは,吸着力があるので瞬目や眼球運動によるレンズの動きは少ないが,fenestraC-(59)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPYtion(開窓)のあるレンズでは吸着力が落ちるため,わずかにレンズの動きが大きくなる.そのほか,レンズが過度に動く原因としては,中央部涙液クリアランスが多い場合や,landingzoneのアライメントが悪い場合があげられる.レンズの平均偏心は耳側よりも下方で大きく,水平方向に約C0.1~1.0mm,垂直方向に約C0.2~1.7Cmmであることが報告されているが,これらの値は,Clandingzoneの設計,強膜の形状,中央部涙液クリアランス,および装着時間によって大きく異なる.④定期検査の頻度と検査項目:定期検査の頻度は,患者の基礎疾患や重症度,病状によって異なるが,初めてのレンズ処方後の検診はC1~3週間後に行うことを推奨している.すでに装用している場合にも,3~6カ月を目安に定期検査を行う.定期検査の際には,通常の診察に加えて,数時間レンズを装用したあとのレンズフィッティングや日中の曇り,角膜浮腫,眼圧などの潜在的な合併症をスクリーニングできるように予定する.強膜レンズの課題①光学性能:強膜レンズは,重力や眼瞼,強膜形状の影響により,下耳側に偏心することが多い.下方偏心は,非対称なレンズ下涙液により,小さな基底下方のプリズム効果を引き起こすことがあり,片眼のみのレンズ装用者にとって問題となることがある.また,残余乱視は,レンズのたわみによっても発生することがある.これらの光学的影響は,トーリックまたはClandingCzoneのカスタマイズによりレンズの偏心を抑えること,中央部涙液クリアランスを狭めることによって最小限に抑えることができる.②細菌性角膜炎:ソフトコンタクトレンズ装用における細菌性角膜炎のリスク要因は,不衛生,夜間のレンズ装用,水道水への曝露であり,強膜レンズ関連の細菌性角膜炎を調査した正式な分析はないが,これらと同じリスク要因が当てはまる可能性が高い.③角膜浮腫:現代の強膜レンズは,円錐角膜や健康なあたらしい眼科Vol.41,No.12,2024C1443眼では約C2%,角膜移植後では平均で約C4%の角膜浮腫が生じる.これまで強膜レンズ装用により生じる角膜浮腫を軽減させるために,強膜レンズの酸素透過性を高くすることや定期的なレンズつけはずし,装用時間の短縮,涙液交換と酸素供給を改善させるデザインなど,さまざまな方法で対処されてきたが,レンズ下涙液層の厚さを最小限に抑えることが有効であるとされている.④分泌物の貯留:レンズ下涙液中の分泌物貯留は装用直後から数時間後に発生し,約C26~46%に認められるが,この分泌物は細隙灯顕微鏡やCOCTで観察できるものの正確な病因や組成は不明である.おもな症状はレンズ装用中の霧視であるが,1日C1~2回のレンズの取りはずしで改善される.また,レンズ下涙液の影響により,角膜上皮が「bogging」という状態になる.これは,レンズ除去後にフルオレセイン染色が不均一となる角膜表面の凹凸である.角膜上皮細胞の脱落を促す瞬きがない状態で,角膜上皮細胞が生理食塩水に長時間さらされることにより生じると考えられている.⑤圧迫と吸着(1)結膜弛緩:圧迫と吸着の双方が結膜弛緩の原因とされているが,レンズ下涙液の厚い部位で観察されることが多い.美容上の問題を除いて,結膜弛緩の長期的な生理学的影響は不明であるが,結膜の癒着による輪部血管新生およびパンヌスの発生に関する懸念が示されている.⑥圧迫と吸着(2)眼圧:強膜レンズ装用に伴う眼圧の変化は,短時間のレンズ装用ではほとんどないものの,装用C8時間後には平均C5.8mmHgの眼圧上昇が認められた.強膜レンズの取りはずし後の眼圧測定においては,レンズ装用による角膜厚や角膜形状の変化により,眼圧が過大評価される可能性があることを考慮する必要がある.⑦レンズの装脱着:レンズの取り扱いのむずかしさは,ハードコンタクトレンズ装用者(40%)と比較して強膜レンズ装用者(63%)のほうが高く,これが強膜レンズ脱落のおもな理由となっている.そのため,最初はゴム製のプランジャーを使ったほうがスムーズなレンズの装脱着が可能である.レンズの装脱着の際には,石鹸による手洗いが必須であり,装着の際にレンズを満たす溶液には,防腐剤を含まないものを使用する必要がある.強膜レンズの可能性①高次収差の矯正:円錐角膜に多い,コマ収差などの回転対称ではない高次収差を矯正するには,レンズの動きや回転を最小限に抑えられるトーリック,またはカスタマイズされたClandingzoneをもつ強膜レンズが適している.カスタマイズされた前面矯正デザインの強膜レンズでは,高次収差が大幅に減少し,視力が改善されたと報告があり,今後も発展する可能性がある.②ロービジョン対策:強膜レンズに埋め込まれた反射望遠鏡システムが開発されており,瞬きに反応して拡大なしとC3倍の拡大を迅速に切り替えることができるため,ロービジョン対策としての潜在的な用途がある.③スマートレンズ:スマートデバイスの分野では,多機能の仮想現実や拡張現実,涙液バイオセンシングに使用される小型化された電子部品を組み込んだレンズの設計が可能となっている.近年,強膜レンズに埋め込まれた人工虹彩が,さまざまな照明条件下での視覚シミュレーションに基づいて,レンズの透過率と有効瞳孔サイズを能動的に変更することにより,焦点深度を拡大し,球面収差などの光学収差を低減する可能性が示唆された.また,埋め込み型ディスプレイを組み込んだスマート強膜レンズが開発中であり,このデバイスはロービジョンのリハビリテーションや視覚拡張への応用が期待されている.結論強膜レンズは,角膜不正乱視や眼表面疾患の治療だけでなく,ロービジョン対策やスマートレンズなど,さまざまな用途への応用が期待されている.だからこそ,エビデンスに基づくガイドラインの作成が必要であろう.文献1)BarnettM,GoureyG,FadelDetal:CLEAR.Sclerallens-es.ContLensAnteriorEyeC44:270-288,C2021

写真セミナー:眼窩内静脈奇形(海綿状血管腫)

2024年12月31日 火曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史487.眼窩内静脈奇形(海綿状血管腫)奥拓明京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図1左眼窩内腫瘍(MRI画像)造影MRI,ダイナミックでは徐々に造影増強効果の範囲が広がり,斑状で不均一な状態から遅延相で全体に濃染される像を認めた.図4術中写真図3初診時左眼窩筋円錐内に濃赤色の腫瘍を認める.左眼球突出を認める.(57)あたらしい眼科Vol.41,No.12,2024C14410910-1810/24/\100/頁/JCOPY人間ドックの頭部MRI検査で左眼窩内に腫瘍性病変を認めたため,京都府立医科大学病院(以下,当院)に紹介となった75歳,女性の症例を提示する.複視などの自覚症状はなかったが,当院受診時,左眼球突出を認めた.造影CMRIにて精査を行ったところ,耳下側の筋円錐内にC23C×16×22Cmm大の腫瘍性病変を認めた.T2強調画像では高信号を示し,ダイナミック造影では徐々に造影増強効果の範囲が広がり,斑状で不均一な状態から遅延相で全体に濃染される像を認めた(図1~3).腫瘍サイズが大きかったため,腫瘍摘出術を行った.手術は下眼瞼睫毛下皮膚よりアプローチした.筋円錐内に濃赤色の腫瘍を認め(図4),冷凍手術システム(クライオ)にて腫瘍の被膜を損傷することなく摘出した.病理学的検査では静脈奇形(海綿状血管腫)の診断であった.術後,眼球突出は改善を認め,その後は腫瘍の再発なく経過している.静脈奇形は,従来は海綿状血管腫として知られていた.しかし,近年では腫瘍ではなく,血管奇形の一種であり,静脈奇形とよばれることが多い.眼窩内静脈奇形(海綿状血管腫)は眼窩内腫瘍としてはリンパ腫,炎症性疾患についでC3番目に多いとされている.女性にやや多く,中年に多い傾向である.眼窩のどの部位からでも発症するが,症状は眼窩内の生じた部位により異なる.眼球突出がとくに多く,視力低下,眼球運動障害,疼痛を認めることがある1).一方,自覚症状を認めない患者も多く,約C30%は健診などで偶発的に発見される2).比較的柔らかい腫瘍であるため,他の腫瘍と異なりサイズが大きいものであっても視神経圧迫による視力障害は生じにくい.画像的特徴として,CT検査では境界明瞭な卵円形の形状を示す.MRIではCT1強調画像で筋肉や脳と等信号,脂肪より低信号を呈する.T2強調画像では脂肪や脳より高信号となる.ダイナミック造影では徐々に造影増強効果の範囲が広がり,斑状で不均一な状態から遅延相で全体に濃染されることが特徴である.治療は外科的に腫瘍摘出を行う.完全摘出後に再発した報告は少なく,被膜を保ったまま摘出することが望ましい.自覚症状がない場合は必ずしも手術加療は必要なく,腫瘍径の経過観察を行い,増大傾向や症状出現時に考慮する.また,放射線療法による腫瘍サイズの縮小の報告があり,治療後C12カ月で平均腫瘍体積のC63%の減少を認めたとされている3).本症例は偶発的に発見された眼窩内静脈奇形である.眼窩内静脈奇形は特徴的な画像所見より診断は容易である.比較的柔らかい腫瘍であるため,腫瘍径が大きくならないと自覚症状が生じにくい.手術加療による摘出が望ましいが,本症例のようにとくに筋円錐内にある腫瘍の場合は,手術による合併症(出血や視神経障害など)も考慮する.一方,閉経後に腫瘍径が小さくなるとの報告もあり4),自覚症状の有無や腫瘍径の推移などにより手術加療の可否を判断する必要がある.文献1)CalandrielloCL,CGrimaldiCG,CPetroneCGCetal:CavernousCvenousmalformation(cavernoushemangioma)ofCtheorbit:CurrentCconceptsCandCaCreviewCofCtheCliterature.CSurvOphthalmolC62:393-403,C20172)McNabCAA,CSelvaCD,CHardyCTGCetal:TheCanatomicalClocationandlateralityoforbitalcavernoushaemangiomas.COrbitC33:359-362,C20143)RatnayakeCGS,CMcNabCAA,CDallyCMJCetal:FractionatedCstereotacticCradiotherapyCforCcavernousCvenousCmalforma-tionsCofCtheCorbitalCapex.COphthalmicCPlastCReconstrCSurgC35:322-325,C20194)JayaramCA,CLissnerCGS,CCohenCLMCetal:PotentialCcorre-lationCbetweenCmenopausalCstatusCandCtheCclinicalCcourseCofCorbitalCcavernousChemangiomas.COphthalmicCPlastCReconstrSurgC31:187-190,C2015

甲状腺眼症

2024年12月31日 火曜日

甲状腺眼症ThyroidEyeDisease佐藤信之*神前あい*はじめに甲状腺眼症(thyroideyedisease)は,Basedow病やまれに橋本病に伴ってみられる眼窩組織(眼瞼や涙腺,球後軟部組織の外眼筋や脂肪組織)の自己免疫疾患と定義される.甲状腺機能の異常に追従して起こる場合も先行して起こる場合もあり,甲状腺機能が正常の場合はeuthyroidGraves’diseaseとよばれる.罹患率は人口10万人当たり女性16人,男性3人とされ,多彩な眼症候を呈し,重症例では複視や視力障害をきたし,生活の質(qualityoflife:QOL)が著しく損なわれる.I甲状腺眼症の病因と病態TSH受容体,insulinlikegrowthfactor(IGF-1)受容体(IGF1R)に対する自己免疫機序が推定されており,機序を促進する遺伝因子として免疫調節因子の遺伝子多型,環境因子として喫煙が報告されている.自己免疫機序から眼窩線維芽細胞が活性化することで上眼瞼挙筋・外眼筋・脂肪組織・涙腺へのリンパ球やマクロファージの浸潤,グリコサミノグリカンの産生・脂肪組織の増生,外眼筋腫大・線維化といった病態を引き起こす.とくに甲状腺刺激ホルモンレセプター(thyroidstimulat-inghormonereceptor:TSHR)に対する刺激抗体(thy-roidstimulatingantibody:TSAb)が高値であると眼症が誘発されやすい.II甲状腺眼症を疑う眼瞼・眼所見の特徴(図1)1.上眼瞼後退Muller筋の交感神経刺激の増加による緊張や,上眼瞼挙筋の炎症性肥大や周辺組織との間の瘢痕化によって上眼瞼後退が起こる.瞼裂が開大し,本来上眼瞼で被覆されるはずの上方角膜輪部周囲の強膜が露出する.上眼瞼後退に加え後述する眼球突出が進行すると,下方角膜輪部周囲の強膜も露出し,睫毛内反や眼瞼内反を生じる.2.眼瞼発赤・腫脹涙腺やMuller筋と上眼瞼挙筋が炎症を起こすと眼瞼が発赤・腫脹する.3.外眼筋運動障害外眼筋は組成上の特徴からきわめて高い親水性をもつため,重量の何倍もの水を含むことができる.そのため活動期には筋肉は非常に強く腫大し浮腫状となり,非活動期になると筋束の萎縮・線維化や,隣接する脂肪組織への線維性ストランドの伸展を生じる.その結果,活動期・非活動期ともに筋肉の伸展障害を生じ,障害筋の反対側への眼球運動が障害される.一般に眼球運動障害は麻痺性ではなく拘束性で,下直筋がもっともよく侵される筋である.拘束性であるかの判断はMRI所見以外では,外眼筋を経結膜的に把持して強制的に動かす牽引試*NobuyukiSato&AiKozaki:オリンピア眼科病院〔別刷請求先〕佐藤信之:〒150-0001東京都渋谷区神宮前2-18-12オリンピア眼科病院0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(51)1435図1甲状腺眼症の顔貌異なる症例の左右眼の画像である.Ca:左上眼瞼が後退している.b:両上眼瞼は浮腫・発赤を呈し,睫毛は内反している.角膜頂点が鼻根部より前方に突出しており,眼球突出が疑われる.c:結膜の充血と浮腫が著明であり,眼窩内圧の上昇に伴ううっ滞性変化を示唆する所見である.表1ClinicalActivityScore(CAS)眼球や球後の痛み・圧迫感や違和感眼球運動時痛(上方視,下方視,側方視)の痛み眼瞼の発赤眼瞼の腫脹結膜の充血結膜の浮腫涙丘の腫脹図2眼球突出のMRI評価T1強調画像の水平断である.両眼窩外縁を結ぶ線(破線)から,角膜頂点を通る垂線()を引き,その長さを眼球突出度とする.Cab1.3カ月間にC2Cmm以上の眼球突出の進行1.3カ月間にC8度以上の眼球運動障害1.3カ月間に視力低下図3外眼筋の活動性炎症と線維化脂肪抑制CT2強調画像の冠状断である.Ca:4直筋の炎症性肥大を認める.とくに左内直筋は均一な高信号を呈しており,活動性の炎症が疑われる.Cb:4直筋は肥大しているが信号強度が低く,両下直筋は信号強度の高い部分と低い部分が混在しており,線維化が起きていると推測される.図4上眼瞼挙筋の炎症性肥大脂肪抑制CT2強調画像の冠状断である.両眼とも薄い上直筋と,その上方に上眼瞼挙筋が撮像されている.左上眼瞼挙筋は高信号を呈しており(C.),右よりも厚く,炎症性肥大が示唆される.このようなCMRI画像が得られ,かつ診察所見上で左上眼瞼後退を併発していた場合,トリアムシノロンの眼瞼皮下注射のよい適応と考えられる.①Daily法←7日間→←7日間→←7日間→4週間4週間4週間4週間②Weekly法ステロイドパルス療法※日帰り入院もしくは外来処置室にて※メチルプレドニゾロン0.5g/日週1回投与×6週間0.25g/日週1回投与×6週間←7日間→←7日間→←7日間→←7日間→←7日間→←7日間→←7日間→←7日間→←7日間→←7日間→←7日間→←7日間→←7日間→※重症例には0.75g/日週1回投与×6週間,0.5g/日週1回投与×6週間で投与を行う.※6回投与後のMRIで効果が弱い場合は投与量を減量せず,0.5g/日で維持する.図5ステロイドパルス療法の治療例

眼窩骨折

2024年12月31日 火曜日

眼窩骨折OrbitalFracture奥拓明*I眼窩骨折とは眼窩部は前頭骨,上顎骨,頬骨,口蓋骨,蝶形骨,涙骨,篩骨のC7種類の骨により構成されており,いずれかの骨が骨折を認めると眼窩骨折の診断となる.下壁と内壁の骨は薄く,眼窩下溝鼻側が骨折部位としてはとくに多い.眼窩壁骨折は吹き抜け骨折(blowoutfracture)とCblow-infractureに大別される.Blowoutfractureは外的要因により眼窩内圧が上がって骨折する.Blow-infractureは頬骨骨折などの顔面骨折に伴い骨折する.筋絞扼型骨折では緊急での手術が必要であり,顔面外傷において症状に応じて眼窩壁骨折を鑑別に入れ,見逃さないようにする.問診はまずは受傷した日時,受傷機転,自覚症状などの聴取を行う.受傷機転は,スポーツ,喧嘩,転倒,転落,交通事故などさまざまあるが,眼球打撲時の衝撃の程度は骨折の範囲と関連する.高齢者では転倒による受傷が多く,骨が脆いため骨折範囲が大きくなる傾向がある.一方,若者の場合は,スポーツや喧嘩による受傷が多く,とくに野球のボールによる外傷が多い.CII眼窩骨折の症状眼窩壁骨折の症状には,複視,眼球運動時痛,眼瞼腫脹,悪心・嘔吐,鼻出血などさまざまである.とくに若年者の場合は閉鎖型骨折が生じやすく,強い眼球運動痛や悪心・嘔吐を認めることが多い.また,骨折部位は内壁,下壁,内下壁に分かれ,内壁骨折ではおもに水平方向,下壁骨折ではおもに垂直方向の眼球運動障害を認める.内壁は篩骨蜂巣に支えられており,下壁よりも薄いが折れにくく,骨折部位としては下壁骨折がもっとも多くを占める.下壁骨折では眼窩下神経溝の鼻側で骨折していることが多く,眼窩下神経支配の頬部のしびれを同時に認めることがある.そのため,受傷後,頬部のしびれを認めている場合は積極的に眼窩骨折を疑う.内下壁骨折では,骨折の範囲が広くなることが多く,複視症状はより強くなる.晩期に認める症状としては,眼窩内容積が大きくなることによる眼球陥凹の可能性がある.一方,眼窩壁骨折と同時に頬骨骨折,鼻骨骨折を合併している場合があり,手術時期を逃さないために,これらの骨折を認めた場合は早急に各科へ紹介し,必要に応じて眼窩骨折と同時に整復を行う.また,絶対に見逃してはいけない所見の一つに頭蓋底骨折がある.頭蓋内にCfreeairを認める場合は頭蓋底骨折の可能性があり,脳神経外科にすぐに紹介する.一方,上記以外の眼科的な合併症は,麻痺性散瞳,外傷性黄斑円孔,網膜.離,網膜振盪などさまざまである.術後トラブルを避けるために,眼窩骨折の精査とともに,手術前に視力検査,前眼部検査,眼底検査を行い,見逃さないようにする.*HiroakiOku:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕奥拓明:〒602-8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(45)C1429左眼右眼耳鼻鼻耳側側側側図1左眼窩下壁骨折症例のHess所見患側(左眼)の基線が上方時,30°枠線より小さく,健側(右眼)が枠線より大きくなる.上方視時に複視を認める.図2左眼窩下壁骨折のCT画像a:冠状断画像.b:矢状断画像.図3眼窩内壁骨折のCT画像a:冠状断画像.b:軸位断画像.図4左眼窩下壁骨折(筋絞扼型骨折)図5左眼窩下壁骨折(脂肪絞扼型骨折)左眼窩内に下直筋の陰影が消失し,左上顎洞内に眼窩内脂肪,左上顎洞内に眼窩脂肪を認める.下直筋の絞扼は認めない.下直筋を認める(missingrectus).図6術後CTa:図C2の症例の術後CT.Cb:図C3の症例の術後CT.脱出組織は眼窩内に返還されており,骨折部位に人工骨が挿入されている.-図7術中所見(骨折の後端の確認と人工骨の挿入)後端の上に人工骨が乗るように整復を行う.人工骨より副鼻腔側に眼窩内組織がないことを確認する.

眼窩炎症性疾患

2024年12月31日 火曜日

眼窩炎症性疾患OrbitalIn.ammatoryDisease朝蔭正樹*臼井嘉彦*はじめに眼窩には眼球以外にも外眼筋,涙腺,脂肪組織などが存在し,それらの組織が炎症の原因となり,さまざまな眼窩炎症性疾患を発症する(表1).眼窩炎症性疾患の原因として眼窩蜂窩織炎などの感染性のものと,特発性眼窩炎症などを代表とする非感染性に大別する必要がある.本稿では日常診療で遭遇する機会の高い眼窩炎症性疾患に関する各疾患の診断と治療について解説する.CI眼窩蜂窩織炎眼窩蜂窩織炎は急性涙.炎や副鼻腔炎などの細菌感染による炎症が直接的に眼窩の軟部組織に波及する場合と,他の臓器から血行性に感染が波及する場合がある.CT検査による眼窩内での炎症の広がりを確認することで,副鼻腔など他の隣接臓器の状態を確認する(図1).眼窩蜂窩織炎の重症度評価として,Chandlerの分類があり1),治療方針の参考となる.膿瘍形成をしていればCMRIのCT1強調像で等信号,T2強調像で高信号を示すため,膿瘍が疑われる場合はCMRIの撮像を追加することが望ましい.眼周囲に原因が見あたらない場合は他臓器から血行性に感染が波及している可能性があるため,全身のCCT検査や血液培養を行い,感染源の同定を行わなければならない.起炎菌はブドウ球菌が多いとされるが,小児ではインフルエンザ菌,肺炎球菌が多く,糖尿病などの免疫不全者,高齢者,ステロイドや免疫抑制薬の投与歴のある患表1眼窩炎症性疾患特発性眼窩炎症眼窩蜂窩織炎IgG4関連眼疾患サルコイドーシス反応性リンパ組織過形成Sjogren症候群涙腺炎多発血管炎性肉芽腫症甲状腺眼症外眼筋炎者では緑膿菌による感染の報告もあり,真菌(眼窩真菌症)を含めたさまざまな菌種を念頭に置く必要がある.起炎菌は多岐にわたるため,治療はまず広域の抗菌薬の全身投与を行う.抗菌薬への反応が悪い場合やCChan-dler分類のグループCIII以降に該当する膿瘍の場合は早急に切開排膿を行い,炎症のコントロールを図るとともに起炎菌の同定を試みるほうがよい(図2).CII特発性眼窩炎症特発性眼窩炎症(図3)は眼窩内に原因不明の炎症が生じる病態の総称である.発生部位によって外眼筋炎型・涙腺型・びまん型・眼瞼型・眼窩先端部型に分類され,多くは片側性である.両側性の場合には後述するIgG4関連眼疾患などの全身性疾患を疑い,全身検索を行う必要がある.わが国における眼窩腫瘍の原因としてもっとも多く2),遭遇する機会は多い.腫瘤などが表面から増えるようであれば,可能なかぎり病変を生検し他疾患の除外を行う必要がある.生検が困難であっても血液検査や胸部CX線検査を施行し,可*MasakiAsakage&YoshihikoUsui:東京医科大学臨床医学系眼科学分野〔別刷請求先〕朝蔭正樹:〒160-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(41)C1425図1左眼窩蜂窩織炎a:55歳,男性.結膜浮腫を伴う左眼瞼の発赤・腫脹・疼痛で受診.Cb:同患者の眼窩CCT検査では右眼に比べ左眼の眼窩脂肪織濃度は上昇し,眼瞼腫脹を認める.a:6歳,女児.右眼窩蜂窩織炎に対して抗菌薬治療が行われたが改善しないため転院.右眼を中心に前額部から左眼の上眼瞼にかけて腫脹と疼痛あり.Cb:MRIのCT2強調像では前額部から上直筋直上にかけて高信号の腫瘤を認めたため,膿瘍の診断で切開排膿を施行した.a:30歳,女性.左眼の眼球突出の精査目的に紹介受診.甲状腺ホルモンや血清CIgG4は正常であった.Cb:MRIのCT1強調像では左眼の涙腺腫脹を認めた.図4甲状腺眼症a:69歳,女性.甲状腺眼症を契機に甲状腺機能亢進症が判明した.両眼にCdalrymplesignを認める.Cb:眼窩CMRIの脂肪抑制のCT2強調像で両眼の下直筋と内直筋が腫大し高信号を示す.図5IgG4関連眼疾患a:82歳,女性.両眼の眼瞼腫瘤の精査で受診.Cb:眼窩CMRIでは両眼の涙腺腫大を認める.血清CIgG4値は1,170Cmg/dlであり,生検の結果,IgG4関連眼疾患の診断となった.’C

悪性眼窩腫瘍

2024年12月31日 火曜日

悪性眼窩腫瘍MalignantOrbitalTumor中島勇魚*辻英貴*はじめに悪性眼窩腫瘍はまれな疾患群であり臨床で遭遇する機会は少ないが,視機能や生命予後に重大な影響を与え,その診断と治療には高度な専門知識と技術が要求される.眼窩は複雑な解剖学的構造をもち,眼球,外眼筋,神経,血管,涙腺など多様な組織が狭いスペースに密集しているため,ひとたび腫瘍が発生するとその影響は広範囲に及ぶ.悪性眼窩腫瘍には,眼窩から発生する原発性腫瘍に加え,眼瞼や結膜などの眼部や副鼻腔,中枢神経系から眼窩に浸潤する浸潤性眼窩腫瘍,他の臓器の悪性腫瘍からの転移性眼窩腫瘍も含まれる.原発性悪性眼窩腫瘍は上皮性腫瘍とリンパ増殖性腫瘍に大別され,前者の代表は腺様.胞癌,後者の代表は悪性リンパ腫である.浸潤性眼窩腫瘍は,周囲組織の癌が眼窩に直接浸潤することで発生し,初期は症状を自覚しづらいため,しばしば進行した段階で発見される.転移性眼窩腫瘍は乳癌をはじめとして肺癌,前立腺癌,腎細胞癌などが眼窩に転移し,全身転移を伴うことが多い.これらの腫瘍の管理には,全身的な治療と眼窩への局所的治療を組み合わせる必要性や,腫瘍の性質や進行度に応じた多角的な治療戦略が求められ,個々の患者に応じて最適化されたアプローチが必要である.また,他科と連携した治療が必要な疾患も多く,眼科医も診断および治療に関する知識を備えておく必要がある.本稿では,悪性眼窩腫瘍の疫学,診断,治療について解説する.I疫学良悪性含めた眼窩腫瘍の診断年齢については,10歳未満と50.60歳代付近の二峰性であることが知られている.その中で悪性眼窩腫瘍は比較的高齢者に多く,60歳未満で良性腫瘍,60歳以上で悪性腫瘍の頻度が高いとする報告もある1).悪性眼窩腫瘍は全眼窩腫瘍においては20.30%を占め,その中でもっとも頻度が高いのは悪性リンパ腫である2).悪性リンパ腫としては低悪性度であるMALTリンパ腫(extranodalmarginalzonelymphomaofmucosa-associatedlymphoidtissuetype)が60%以上を占め,悪性度の高いびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(di.uselargeB-celllymphoma:DLBCL)が次に多い2,3).上皮性悪性腫瘍の代表は腺様.胞癌で40.50歳前後の壮年期にも発症のピークがあり4),若年者でも必ず鑑別疾患として念頭に置くべきである.II診断悪性眼窩腫瘍の診断はまず病歴の聴取が重要である.症状としては眼球突出,視力低下,眼球運動障害,眼痛,眼瞼腫脹などを訴えることが多く,これらの症状の出現順序や進行速度,疼痛の有無は,腫瘍の性質や進行度を示す重要な手がかりとなる.たとえば悪性リンパ腫においては,進行速度によりある程度の悪性度を予測することも可能である.低悪性度であるMALTリンパ腫*IsanaNakajima&HidekiTsuji:がん研究会有明病院眼科〔別刷請求先〕中島勇魚:〒135-8550東京都江東区有明3-8-31がん研究会有明病院眼科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(33)1417はその多くが月単位での緩徐な増大であるが,悪性度の高いDLBCLは週単位で増大して著しい眼瞼腫脹や視神経障害を生じる.このため可及的速やかに生検を行わなくてはならないケースにしばしば遭遇する.また,上皮性腫瘍においても多型腺腫のような良性腫瘍では腫瘤自覚後初診までの期間は1年以上の場合が多く,症状が10カ月未満の際には悪性腫瘍の疑いが高まるとする報告もある5).また,疼痛を伴う場合は神経浸潤が疑われ,腺様.胞癌や進行した扁平上皮癌などで痛みを訴える場合がある.涙腺部上皮性悪性腫瘍40例中39例において疼痛を認めるとする報告もあり6),炎症を伴わない疼痛のある患者は注意を要する.眼窩腫瘍の発生には免疫抑制状態,慢性炎症性疾患,特定のウイルス感染が関与するものや,抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilcytoplasmicantibody:ANCA)関連血管炎などの自己免疫性疾患に合併するものもあり,既往や内服薬などの確認も重要である.血液検査においては,可溶性IL-2受容体は悪性リンパ腫のマーカーとして知られ,活動性の高い悪性リンパ腫において上昇を認める.また,血清IgG4値は悪性リンパ腫と似た臨床像を呈するIgG4関連眼疾患との鑑別に有用である.眼窩蜂窩織炎などの感染性疾患では血算や血液分画で白血球や好中球,C反応性蛋白(C-reactiveprotein:CRP)が異常値を示すため参考となる.画像診断においては,MRIは腫瘍の性状や境界,腫瘍と視神経や外眼筋との位置関係を把握するのに有用で,眼窩腫瘍の鑑別において重要な検査である.ガドリニウム造影を用いると腫瘍の血流や浸潤パターンを評価できるので,喘息や腎機能低下がない限りは,原則として造影MRIを施行する.CT検査は骨構造の評価にとくに優れており,腺様.胞癌などの骨浸潤が疑われる場合や石灰化の把握には,CTが重要な役割を果たす.また,CTは撮像時間も短く,緊急の検査としても用いやすい.画像の読影においてもっとも需要なポイントは,腫瘍が周囲組織と境界をもった一塊のものか,境界が不明瞭なびまん性のものかを見分けることである.境界が明瞭な一塊の腫瘍であれば,上皮性の腫瘍では多型腺腫や腺様.胞癌,肉腫,血管奇形の中では海綿状血管腫,神経系の腫瘍では神経鞘腫,孤立性線維性腫瘍(solitary.broustumor),.胞では類皮.胞(デルモイド)などが鑑別にあがる.このような腫瘍は比較的硬い「塊」として眼窩内で増大するため,眼球を強く偏位させ複視を訴えることが多い.眼底所見として,眼窩後方から眼球を圧迫して眼底に網膜皺襞を生じることや,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)で脈絡膜にwavingを認める場合もある.上皮性である多型腺腫や腺様.胞癌は腫瘤内に低信号と高信号部が混在することが多く,ガドリニウム造影にてより所見が明確になる(図1,2).CTにて骨浸潤や骨破壊がある場合は腺様.胞癌や,良性である多型腺腫が悪性化した多型腺腫源癌なども考える.多型腺腫や多型腺腫源癌では生検や全摘出時の被膜損傷により腫瘍が散布され,その後多発する腫瘍として再発し難治になることや,デルモイドのような.胞であっても,内容物の流出により強い炎症を起こすことや,.胞壁が残存すると再発を生じる場合がある.そのため境界明瞭なこれらの腫瘍では一期的な全摘出による生検(excisionalbiopsy)による診断的治療をめざすことが望まれる.一方でびまん性腫瘤を生じている場合は,良性のリンパ増殖であるIgG4関連疾患や悪性リンパ腫が鑑別にあがる.リンパ増殖疾患はMRIにおいてT1強調で低信号,T2強調で低.中信号で比較的均一な造影効果を示す(図3).リンパ増殖性の腫瘍の特徴としては,眼窩内の隙間を埋めるような,いわゆる鋳型を流し込んだような「molding」とよばれるびまん性増殖を生じることが特徴である(図4).悪性度が高く増大が急激なDLBCLでもやはりmoldingがみられ(図5),周囲の骨破壊を生じることはまれである.リンパ増殖疾患においては必ずしも全摘出する必要はなく,まずは可能な限りの部分生検(incisionalbiopsy)により診断し,組織診断および全身精査に応じた治療を行う.手術時の所見としては,若干の赤みを伴うポロポロとした腫瘍を認めた場合は悪性リンパ腫を疑う.また,悪性リンパ腫の診断は通常の病理検査だけでは限界があり,ホルマリンに浸漬する前の生標本を用いたフローサイトメトリーやIgH遺伝子再構成の提出がきわめて重要である.転移性腫瘍もびまん性の形状をとる場合が多く,この場合も組織診断が必1418あたらしい眼科Vol.41,No.12,2024(34)図1眼窩部に認めた多型腺腫源癌a,b:MRI.水平断CT1強調(Ca)およびCT2強調(Cb).円形で境界明瞭な腫瘤が確認できる.c,d:ガドリニウム造影画像,水平断(Cc)および矢状断(Cd).被膜に包まれ内部は高信号と低信号が入り混じる像であり,上皮性の腫瘍と考えられた.矢状断では頭蓋底の骨の菲薄化があり,脳神経外科による開頭手術により切除を行った.図2腺様.胞癌a,b:MRI水平断CT1強調(Ca)およびCT2強調(Cb).c:ガドリニウム造影画像.水平断(Cc)および冠状断(Cd).円形に増大する腫瘍を認め,内部は一部Ccysticであり,高信号と低信号領域が混在している.眼窩骨の骨切りを併用した前方アプローチでの亜全摘手術により腺様.胞癌の診断であり,重粒子線治療を行ったところ,治療後C2年で血管新生緑内障により失明したが,6年間再発を認めていない.図3MALTリンパ腫のMRI所見a~c:MRI.水平断CT1強調(Ca)およびCT2強調(Cb).c:ガドリニウム造影画像.T1低信号,T2低-中信号であり,比較的均一な造影効果を認める.Cd:本症例は生検後,低線量放射線治療(4CGy)にて治療を行った.腫瘍は消失し以降C5年再発を認めていない.図4MALTリンパ腫のMRI所見―moldinga,b:MRI.T2強調(Ca)およびガドリニウム造影画像(Cb).眼球突出を主訴に受診し,眼球後部に腫瘍を認める.眼球の形状は保たれており,眼窩の隙間を埋めるような腫瘍増殖(molding)を認める.Cc,d:MRI.T1強調(c)およびガドリニウム造影画像(Cd).上直筋付近に腫瘍を認め,moldingを認める.図5眼窩に生じたびまん性大細胞型B細胞リンパ腫a:右眼の著しい眼瞼腫脹,下垂を認める.本症例は初診時からすでに光覚弁であった.b:眼瞼を他動的に開瞼すると,著しい結膜浮腫を認めた.Cc,d:MRI.水平断CT1強調(Cc)およびCT2強調(Cd).e:ガドリニウム造影画像.T1低信号,T2低.中信号であり,比較的均一な造影効果を認め,リンパ増殖性疾患の特徴と一致する.Cf:臨床所見および腫瘍増大は急激であるが,矢状断では眼窩の隙間を埋めていくようなCmoldingの所見を認める.本症例の眼窩腫瘍は後方に位置し前方アプローチでの生検が困難であり,副鼻腔にも腫瘍を認めたため(C.),腫瘍耳鼻咽喉科に依頼し準緊急で副鼻腔より腫瘍生検を施行した.図6転移性乳癌MRI水平断CT1強調(Ca),ガドリニウム造影画像水平断(Cb)および冠状断(Cc).非造影ではわかりづらいが,造影にて眼球を取り囲むような腫瘍が確認できる.本症例はC30代,女性であり,リンパ増殖疾患を鑑別に生検を行ったところ,腺癌の病理所見であり,全身精査により乳癌が判明した.化学療法を開始したところ眼窩病変は縮小を認めた.–

眼窩腫瘍全摘出

2024年12月31日 火曜日

眼窩腫瘍全摘出CompleteExcisionofOrbitalTumors米田亜規子*はじめに眼窩腫瘍に対する治療は腫瘍の種類により異なり,手術摘出が根治治療となる疾患のほかに,ステロイドや抗癌剤などの薬物治療や放射線治療が第一選択となる疾患もある.治療方針の決定の際は,症状や臨床経過,眼科検査に加え,CTやMRIの画像所見から鑑別疾患を絞っていくが,確定診断には腫瘍生検あるいは腫瘍摘出のいずれかによる病理組織学的診断が必要となる.各種検査所見から全摘出が必要な疾患と判断した場合は,CTやMRIを正確かつ詳細に読み込み,腫瘍までのアプローチ法を詳細に計画する.本稿では,腫瘍全摘出術を選択する各疾患の特徴と腫瘍までのアプローチ方法の選択,術中操作のポイント,そして術後の注意点について述べる.Iどのような疾患で全摘出を選択するか腫瘍の全摘出が治療の第一選択となる疾患には,以下のような腫瘍がある.血管奇形(海綿状血管腫),多形腺腫,類皮.腫や,そのほかの.胞性疾患などが腫瘍全摘出のよい適応であり,これらはいずれも周囲組織との境界が明瞭な良性腫瘍である.また,孤立性線維性腫瘍(solitary.broustumor)も腫瘍摘出が治療の第一選択となるが,血流豊富な腫瘍であり,術中出血に注意が必要である.一方,悪性リンパ腫などのリンパ増殖性疾患,またIgG4関連眼疾患やサルコイドーシスのような炎症性疾患,そのほか腺様.胞癌,眼窩内腺癌などを疑う場合には,全摘出術ではなく腫瘍生検をまず計画し,病理検査による確定診断を行ってから治療方針を決定する.1.血管奇形〔海綿状血管腫(cavernoushemangio-ma)〕静脈の形態をとる異常血管が拡張子腫瘤形成したもので,眼窩内腫瘍では悪性リンパ腫や眼窩内炎症についで頻度の高い疾患である.比較的柔らかい腫瘍で,MRI検査のダイナミック造影において濃染遅延を認める(図1a).2.多形腺腫(pleomorphicadenoma)眼窩ではおもに涙腺部に生じ,ときに腫瘍に接する眼窩骨に圧排変形を生じる.腫瘍は比較的硬く,MRIで隣接する眼球にも圧排変形を認めることがある(図1b).長期経過において悪性化を認める場合がある.3.類皮.腫(dermoidcyst)生下時や幼少期から生じ,緩徐な増大傾向を認める.発生の段階で眼窩骨の縫合部に外胚葉成分が迷入することで生じるとされている.おもに前頭骨頬骨縫合部に生じるが,前頭骨上顎骨縫合部に認める場合もある.骨縫合部の外側(側頭筋側)に生じる場合と眼窩内側*AkikoYoneda:聖隷浜松病院眼形成眼窩外科〔別刷請求先〕米田亜規子:〒430-8558静岡県浜松市中央区住吉2-12-12聖隷浜松病院眼形成眼窩外科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(23)1407図1全摘術の適応となる眼窩腫瘍a~e:MRI(ガドリニウム造影T1強調像).c:CT(軟部条件).腫瘍により造影パターンや発生部位に特徴がある.a:海綿状血管腫(血管奇形):造影MRIで濃染遅延を認める.b:多形腺腫:眼窩内ではおもに涙腺部に生じ,ときに隣接する眼窩骨に圧排性変化を認める.c:類皮.腫:おもに前頭骨頬骨縫合部に生じる.d:孤立性線維性腫瘍:眼窩内のさまざまな部位に生じる.血流豊富でときに.owvoidを認める.e:神経鞘腫:腫瘍は由来となる神経に沿って生じる.眼窩内では三叉神経に生じることが多い.眼瞼腫脹,眼球突出視野障害網膜皺襞(Mariotte盲点の拡大を認めた症例)図2眼窩腫瘍により認める症状眼瞼腫脹や眼球突出,視力/視野障害,眼球運動障害のほか,腫瘍による眼球圧迫により眼底検査において網膜皺襞を認める場合もある.視神経と腫瘍の位置関係をみる1視神経より上方2視神経より下方3先端部まで及ぶもの外側/中央:Wright切開睫毛下切開前頭側頭開頭内側:Lynch切開経涙.アプローチ外上方アプローチ外下方アプローチ図3経眼窩(経皮膚)アプローチの選択方法経眼窩アプローチにおいて,どこから眼窩内に進入するかを選択する際には,まず眼窩内における腫瘍と視神経との位置関係をみる.腫瘍が視神経より上方あるいは外側に位置する場合は重瞼線切開やWright切開,眉毛下切開などを選択し,視神経より鼻側に位置する場合はLynch切開,視神経より下方に位置する場合は睫毛下切開を選択する.腫瘍が眼窩内の比較的深い部位(眼球赤道部より後方)や筋円錐内に存在する場合,あるいは腫瘍のサイズが大きい場合は,必要に応じて眼窩縁骨切りの併用(骨切りアプローチ)や経涙.アプローチを選択する.下段は骨切りアプローチを行った症例のCT所見および術中所見(surgeon’sview).ac図4経涙.アプローチ(surgeon’sview)皮膚切開は睫毛下切開およびCLynch切開で行い(Ca),涙.を一度切断し(Cb),眼窩内下方から腫瘍にアプローチする方法で,腫瘍摘出後に再度涙.を吻合する(Cc).経涙.アプローチでは,眼窩内側骨切りを行わずとも,腫瘍摘出に十分な広い術野が得られる.(文献C2より引用)図5眼瞼領域のおもな皮膚切開の位置経皮膚アプローチのおもな皮膚切開には,重瞼線切開,睫毛下切開,Wright切開,Lynch切開などがある.図6眼瞼部の自然皺襞とaestheticunit皮膚切開の際は,自然皺襞やCaestheticunitに加えて,産毛の有無や毛流れの方向も細かく観察してデザインを決めると,手術創の瘢痕が目立ちにくくなる.(aは引用文献C3より,bはC4より引用)図7経副鼻腔アプローチ腫瘍が眼窩下方(上顎洞に近い),内方(篩骨洞に近い),上方(前頭洞に近い)など,眼窩骨を介して副鼻腔付近に位置する場合に用いる(.は各位置に存在する腫瘍へ副鼻腔側からアプローチする方向をさす).副鼻腔から発生した続発性眼窩腫瘍などに同術式を用いる.図8経頭蓋アプローチ(冠状切開)腫瘍が眼窩先端部に位置し,視神経を下方に圧排している場合,あるいは経眼窩アプローチでは摘出が困難な場合に用いる(.は各位置に存在する腫瘍へ副鼻腔側からアプローチする方向をさす).脳神経外科医の協力のもとで,皮膚は冠状切開を行い,前頭側頭開頭で上方から眼窩へ進入する.表1眼窩腫瘍摘出術のおもなアプローチ方法アプローチ方法眼窩への進入方向デザインメリットデメリット①経皮上方,外側重瞼線切開Wright切開眉毛下切開術野が広い皮膚に手術痕が残る皮下出血,眼瞼腫脹下方睫毛下切開1.経眼窩内側Lynch切開上方結膜円蓋部切開皮膚に手術痕が残らない術野が狭い結膜下出血瞼球癒着による眼球運動障害②経結膜下方,外側Cswingingeyelid内側涙丘切開上方(前頭洞)前頭洞切開皮膚に手術痕が残らない術野が狭い術後耳鼻科管理が必要副鼻腔の発育不良では困難鼻出血2.経副鼻腔下方(上顎洞)歯肉粘膜切開上顎洞切開上方(前頭洞)下方(上顎洞)内側(篩骨洞)鼻内視鏡下鼻粘膜切開3.経頭蓋上方(頭蓋底)冠状切開術野が広く見やすい皮膚の手術痕は毛髪で隠れる手術侵襲が大きい術後CICU管理が必要頭蓋内出血や髄液漏のリスク(参考文献C1より引用)図9術中所見(腫瘍と周囲組織の.離)左眼窩下方に生じた眼窩腫瘍に対する全摘出術の術中所見(surgeon’sview).周囲の脂肪組織を脳ベラで優しくよけながら,腫瘍と周囲組織との間にベンシーツを挿入し.離を進めていく

眼窩腫瘍生検の適応と術式

2024年12月31日 火曜日

眼窩腫瘍生検の適応と術式IndicationsandProceduresofOrbitalTumorBiopsy高比良雅之*はじめに眼窩腫瘍やその類縁疾患(炎症性疾患で占拠病変がみられる場合など)の診察においては,まずはその時点での治療介入が必要かどうかを判断する必要がある.そのためには視力・視野や眼球運動などの視機能検査と,MRIやCTなどの画像診断が必須である.たとえば,視機能に影響しないような眼窩深部の小さい海綿状血管腫ではまずは経過観察の方針でよいし,一方で重篤な視力低下をきたしている腫瘍性病変では早急な診断と治療を要する.眼窩腫瘍の治療については,1)生検を行ったうえで次の治療を考えるべき病態,2)生検は行わずに最初から腫瘍の全摘出を予定すべき病態,3)生検や腫瘍摘出などの手術を行わずに治療を始める病態,4)経過観察とすべき病態,といった選択肢に分けられる(表1).本稿では,これら治療の選択について概説し,ついで眼窩腫瘍の生検の術式について解説する.I眼窩腫瘍の治療の選択1.生検を行う病態眼窩腫瘍とその類縁疾患のうち,まず生検を行ってから次の治療を考える病態には,MRI(あるいはCT)でその病変の領域が不鮮明で一期的な手術による全摘出が望めないような疾患や,全摘出手術よりも放射線治療やステロイドなどの薬剤による治療が望ましいと考えられる疾患があげられる.その代表的な疾患のひとつはリンパ腫を含むリンパ増殖性疾患である.また,眼窩骨の破表1代表的な眼窩腫瘍と治療方針1)生検を行ったうえで次の治療を考える①リンパ腫(MALTリンパ腫,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫など)②良性のリンパ増殖性疾患(IgG4関連疾患,反応性リンパ過形成など)③眼窩の原発性上皮性悪性腫瘍(腺様.胞癌,多形腺腫源癌など)④転移性腫瘍(乳癌などの眼窩転移)2)生検は行わずに最初から腫瘍の全摘出を予定する涙腺多形腺腫,海綿状血管腫,神経鞘腫など3)生検や腫瘍摘出などの手術を行わずに治療を始める特発性眼窩炎症,眼窩深部の良性腫瘍(視神経鞘髄膜腫など)4)経過観察とする視機能に影響のない良性腫瘍(小さい海綿状血管腫など)壊像を伴う所見などから上皮性悪性腫瘍(carcinoma)が疑われる場合には,まずは生検で確定診断を得てから,その後の眼窩内容除去術や放射線照射などの治療方針を決めることが多い.a.リンパ腫わが国において眼窩に発症する悪性腫瘍でもっとも頻度の高いのはリンパ腫であり,なかでもB細胞由来のmucosaassociatedlymphoidtissue(MALT)リンパ腫(図1a,b)がもっとも多く,ついでびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(di.uselargeB-celllymphoma:DLBCL)(図1c,d)や濾胞性リンパ腫(follicularlymphoma)がみられる.そのほかのB細胞由来のリンパ腫(マントル細胞リンパ腫など)や,T細胞由来のリンパ腫はまれで*MasayukiTakahira:金沢大学医薬保健研究域医学系眼科学教室〔別刷請求先〕高比良雅之:〒920-8641石川県金沢市宝町13-1金沢大学医薬保健研究域医学系眼科学教室0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(15)1399図1リンパ腫a:70代,男性のMALTリンパ腫.左内眼角部皮下から眼球後方にかけて腫瘤がみられた().b:aと同一症例の術中写真(surgeon’sview).左内眼角上方の皮膚を切開し,病変部の生検を行った.c:50代,女性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫.両眼の球後,筋円錐内に腫瘍がみられた().d:cと同一症例の術中写真(surgeon’sview).右眼の鼻側球結膜を切開し,内直筋を付着部で一端はずして,生検鉗子()で腫瘍の一部を切除した.図2IgG4関連疾患a:50代,女性のCIgG4関連涙腺炎.CTにて両涙腺腫大がみられた().b:aと同一症例の術中写真(sur-geon’sview).右上眼瞼耳側の皮膚切開(重瞼線切開)により涙腺の内容物の生検を行った.Cc:70代,男性のCIgG4関連眼疾患.MRIで右眼瞼皮下から眼窩にかけて腫瘤がみられた().d:cと同一症例の術中写真(surgeon’sview).右下眼瞼皮膚の鼻側の睫毛下を切開して,腫瘤の生検を行った.図3眼窩の上皮性悪性腫瘍a:50代,男性の腺様.胞癌.CTにて左涙腺に骨破壊を伴う腫瘍がみられた().b:aの腫瘍の病理像.腺様.胞癌と診断された.Cc:60代,男性の多形腺腫源癌.MRIで右涙腺に眼窩骨破壊を伴う腫瘍がみられた().d:cの腫瘍の病理像.多形腺腫源癌と診断された.~~図4転移性腫瘍a:40代,女性にみられた乳癌の眼窩転移().b:60代,男性にみられた肝細胞癌の眼窩転移.MRIで右涙腺に眼窩骨破壊を伴う腫瘍がみられた().c:bと同一症例の術中写真(surgeonC’sview).眉毛下切開で生検を行った.d:病理で肝細胞癌の転移が疑われ,原発巣である肝細胞癌が発覚した.図5生検はしないで全摘出術を行った眼窩腫瘍a:80代,男性にみられた右涙腺多形腺腫().b:50代,女性にみられた左眼窩筋円錐内の海綿状血管腫().c:50代,女性にみられた右眼窩上方の神経鞘腫().d:70代,女性にみられた右眼窩のCsolitary.broustumor().図6手術を行っていない眼窩腫瘍a:30代,女性にみられた左視神経髄膜腫().左眼視力が徐々に低下したので放射線照射を行った.Cb:50代,女性にみられた左眼窩筋円錐内の海綿状血管腫().10年以上大きさは変わらず,視力低下・視野障害もないので経過観察としている.図7眼窩手術における切開線の例(左眼).眉毛下切開線(図C4c参照),.重瞼線切開線(図C2b参照),C.下眼瞼睫毛下切開線(図C2d参照),.内眼角切開線(図C1b参照),.結膜切開線(図C1d参照).上眼窩切痕(×)を通る三叉神経第C2枝に留意する.

眼窩疾患の画像検査

2024年12月31日 火曜日

眼窩疾患の画像検査DiagnosticImagingforOrbitalDisease橋本雅人*はじめに眼窩疾患は,病変が細隙灯顕微鏡や眼底検査,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)などによって発見できるものではないため,診断にはCT,MRI検査が不可欠である.ただし,撮影条件や撮影法が不適切であると,病変を見逃してしまう可能性がある.その理由として,眼窩は骨で囲まれた円錐型の小さなスペースであり,その中は脂肪が充満し,そこに視神経,外眼筋,涙腺などの眼付属器が密集していること,さらに眼窩周囲が空気で充満された副鼻腔であるため,磁場が不均一になりやすい環境であることが,より一層画像検査をむずかしくしている要素でもある.本稿では眼窩部画像検査に最適なCT,MRIの撮影条件,オーダー法などについて解説する.ICTとMRI,どちらを選択するか眼窩部画像検査にはCTとMRIという二つの検査法があるが,どちらを選択するかは患者によって変わってくる.CTはMRIに比べて解像度が劣る反面,骨折や骨破壊などの骨変化をみるには有用な検査である(図1).とくに外傷による眼窩底骨折や視神経管骨折を疑った場合は,軟部組織で撮る条件のほかに骨条件(bonewindow)での撮影を併用することが望ましい.一方,MRIは高分解能で解像度がよいため,眼窩内の詳細な構造の描出には,CTよりも優れていることはいうまでもない.しかし,MRIは撮像時間がCTに比べて長いこと,撮影禁忌例があること,緊急時にすぐ対応しにくいなどの短所もあるため,状況に応じた選択をすることが大切である.IIMRIの障害陰影(アーチファクト)眼窩部撮影時,とくにMRIで明確な画像を撮影するコツとして,障害陰影(以下,アーチファクト)をいかに防ぐかがあげられる.もっとも多いアーチファクトは,動きで起こるブレ(motionartifact)である.頭部MRI撮影ではmotionartifactを防ぐためにコイルと頭部の隙間にクッションを入れて頭が動くのを防いだり,検査前に十分な説明を患者にしたりする.眼窩部MRI撮影ではそれに加え,眼球を動かさないよう指示することが大切である.そのため,寝台上の患者の正面に,固視できるようなマーキングをするなどの工夫をするとよい.その他のアーチファクトとしては,共鳴周波数の違いにより生じる化学シフトアーチファクト(図2a)や,信号強度が大きく異なる部位で撮像画素数が少ないと出現する打ち切りアーチファクト(truncationartifact)などがある.眼窩部MRI画像でよくみるtruncationarti-factとしては,shorttauinversionrecovery(STIR)法で眼窩内視神経を冠状断で撮影する場合に,MRIの画素数や画素の形状さらに磁場方向によって一つまたは二つの円形高信号が視神経内に出現することがあり(図2b),網膜中心動脈や網膜中心静脈として読影してしまうことがあるので注意を要する.*MasatoHashimoto:医仁会中村記念病院眼科〔別刷請求先〕橋本雅人:〒060-8570札幌市中央区南1条西14丁目291-190医仁会中村記念病院眼科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(9)1393図1単純CTによる眼窩骨変化a:眼窩悪性リンパ腫.右涙腺部に腫瘍を認め,辺縁の眼窩骨の破壊(bonedestruction)がみられる().Cb:涙腺多形性腺腫.左涙腺腫瘍の辺縁が平滑で隣接する骨の菲薄化(boneerosion)がみられる().図2MRIのアーチファクトa:化学シフトアーチファクトにより,脈絡膜腫瘍と硝子体の境界が高信号()を示している.Cb:打ち切りアーチファクトによって,二つの円形高信号が視神経内に認められる().abc図3孤立性線維性腫瘍(solitary.broustumor)のMRI所見筋円錐内にCT1強調画像で低信号(Ca),T2強調画像で低信号(Cb)を示し著明な造影効果(Cc)を示した.腫瘍は視神経を圧排し,矯正視力は半年間でC1.0からC0.1まで低下した.図4特徴的な画像所見を有する眼窩部腫瘍a:視神経鞘髄膜腫.造影CMRI水平断において視神経鞘が造影されCtram-trucksign()を示している.Cb:出血性リンパ管腫:T2強調画像水平断において,筋円錐内に高信号を示す多房性の腫瘤陰影であり,腫瘍内に一部液面形成()を認める.Cc:海綿状血管腫:造影CMRIにおいて筋円錘内に円形の腫瘤が認められ,造影開始から緩徐に造影されている(左から造影C1分後,5分後,10分後,15分後).図5眼窩炎症性疾患のSTIR所見a:特発性眼窩炎症.眼窩内脂肪の不均一な高信号()を認める.Cb:甲状腺眼症.上直筋の著明な肥大と高信号()を認める.c:球後視神経炎.眼窩先端部における視神経の高信号()を認める.表1STIR法が有用な眼窩疾患視神経炎:アクアポリンC4抗体陽性視神経炎MOG抗体陽性視神経炎典型的視神経炎視神経周囲炎動脈炎性虚血性視神経症甲状腺眼症特発性眼窩炎症表2中村記念病院で行っている眼窩部撮影プロトコール眼窩部CCTの場合水平断はCReid-baseline(RBline)で撮る冠状断は必須であるスライス厚はC2Cmm位がよい条件設定は腹部撮影の条件とほぼ同じでよい骨折疑いのときは骨条件(bonewindow)も併用する眼窩部CMRIの場合水平断はCRBlineで撮り,冠状断は必須であるスライス厚はC2.5CmmがよいSTIR冠状断T1またはCT2強調画像水平断造影時は脂肪抑制法を併用する図7外眼筋の形態異常を示すCT所見a:慢性進行性外眼筋麻痺.両側内直筋,外直筋の著明な萎縮を認める.b:Saggingeye症候群:両側外直筋―上直筋間の開大()および外直筋の下方偏位を認める.c:甲状腺眼症:両側内,上,下直筋の肥厚を認める.