コンタクトレンズによる近視進行抑制MyopiaManagementwithContactLenses松村沙衣子*I小児近視抑制治療の必要性全世界的に小児や若年層の近視人口が増加し,公衆衛生上の脅威となっている.近視が進行することによるデメリットとしては,視覚の質の低下だけでなく,高度近視眼における近視黄斑症,網膜.離,緑内障などの合併症の罹患率の上昇があげられる.Bullimoreらの報告によると1D増加するごとに近視性黄斑症は58%,網膜.離は30%,後.下白内障は21%,開放隅角緑内障は20%の割合で発症するリスクが増加する1).近視の進行は小児期に著しく,日本人では男女ともに8歳前後に進行のピークを迎えると報告されている.この時期に有効性の高い介入を施し,将来の高度近視合併症リスクを下げることが重要である.近年ではスマートフォンの急速な普及やデジタル機器による学習活動の増加から,さらなる近視発症の低年齢化が懸念されている.中国の69カ所の幼稚園における336,608人の未就学児(3.6歳)を対象とした報告では,調節麻痺下屈折値の近視有病率は,2011年の2.5%から2021年の6.5%へと著しい増加が認められている2).また,2005.2021年に受診した4.18歳の患者870,372人を対象とした病院ベースの研究では,近視の平均発症年齢は2005年の10.6歳から2021年の7.6歳へと低年齢化していた3).このような早期発症近視は将来に高度近視になるリスクが高いとされるため,積極的な介入が必要となる.II小児近視抑制治療のトレンド近年多くの介入研究が行われ,すでに確立されつつある治療法から急速に進歩しているものも含め,近視進行抑制治療の選択肢は増加しつつある.現在世界で臨床に使用されている治療法としては,低濃度アトロピン点眼薬,defocusincorporatedmultiplesegments(DIMS)レンズ,highlyasphericallenslettarget(HALT)レンズ,di.usionopticstechnology(DOT)レンズなどを含めた特殊眼鏡,多焦点ソフトコンタクトレンズ(multifo-calsoftcontactlens:MFSCL),オルソケラトロジー(以下,オルソK),レッドライト療法があげられる.このなかでも,視覚の質・生活の質の向上効果が得られるオルソKやMFSCLによるCL治療の需要は年々高まっている.世界66カ国を調査した報告では,全CL処方のうち近視進行抑制用CLの割合(ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)とSCLを含む)は2011年の0.2%から2018年の6.8%へと増加している4).CL治療のメリットは高い有効性だけでなく,併用療法の選択肢や良好なコンプライアンスもあげられる.80件のランダム化比較試験(27,103眼)を対象としたメタアナリシスでは,対照群と比較するとオルソKと低濃度アトロピン点眼治療の併用療法が屈折値と眼軸長の両方に対して有効性の高い治療法であると述べている5).近視進行抑制治療は長期にわたるため,コンプライアンスは治療効果に直接影響する重要なファクターで*SaikoMatsumura:東邦大学医療センター大森病院眼科〔別刷請求先〕松村沙衣子:〒143-8540東京都大田区大森西6-11-1東邦大学医療センター大森病院眼科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(49)1319図1乱視眼によるオルソKのルーズなフィッティング乱視眼では強主経線の方向のアライメントカーブが浮き,染色されるルーズなフィッティングを示すことがある.リバースゾーンの陰圧がかからない状態になるため,トーリックデザインのレンズ選択を考慮する.図2アカントアメーバによる角膜感染症近医から紹介となった使用歴6年目(右眼.4.25D,左眼.5.00D使用)の19歳女性の両眼発症のアカントアメーバ角膜感染症.毛様充血と角膜中央のレンズ圧迫部に沿った上皮下浸潤,放射状角膜神経炎,偽樹枝状病変を認めた.図3リバースカーブに汚れが付着したオルソKの実体顕微鏡写真リバースカーブというC1mm程度の溝状の部位には構造上蛋白質や脂質が蓄積しやすい.長時間レンズに付着した変性蛋白質は除去するのがむずかしく,使用を継続すると装用時の不快感,角膜障害や角膜感染のリスクにつながる.表1多焦点ソフトコンタクトレンズと近視進行抑制効果レンズデザインレンズ名製造会社名レンズ種類近視抑制効果同心円状(2重焦点)CMisightCCooperVisionC1Day13)59%(3年RCT対照群:SVSCL)MyloCMark’ennovyC1Month15)C32%(3年RCT対照群:SVSCL)1daypure*CSEEDC1Day17)C59%(1年RCT対照群:SVSL)多焦点(EDOF)CNaturalVueCVisioneeringTechnologiesC1Day約C90%が年間の近視進行減少(後ろ向き多施設研18)C究:ベースライン比較)MeniconBloomdayCMeniconC1Day(上記のCNaturalVueのCOEM製品)多焦点(累進屈折)*MeniconDuo(Low)MeniconC2Weeks19)32%(1年CRCT.対照群:SVSCL)*Bio.nity(High)CooperVisionC2Weeks20)43%(3年CRCT.対照群:SVSCL)同心円状(特殊デザイン)CAcuvueAblilitiCJohnson&JohnsonC1Day21)0.11CmmのCAL抑制(6CMRCT.対照群:SVSCL)*わが国で使用可能な製品RCT:ランダム化比較試験,SVSCL:単焦点ソフトコンタクトレンズ,SVSL:単焦点眼鏡,AL:眼軸,OEM:相手先商標製造会社製品.+2.00D加入のトリートメントゾーンより近視性デフォーカスを作製近視性デフォーカス矯正ゾーン焦点図4Misightの光学デザイン+2.00Dの加入度部分が同心円状に交互に配置されたデザインであり,視距離によらず網膜上に近視性のデフォーカスを作製する.(クーパービジョンジャパン提供,一部改変)図5MeniconDuoの光学デザイン+0.50Dの周辺部加入度をもつ累進屈折型コンタクトレンズであり,光学中心は鼻側に偏心したデザインとなっている.(メニコン提供,一部改変)+7.0D+7.0D+10.0D網膜RingBoost技術トリートメントゾーンを通過する光を網膜前方に収束視軸からずらす図6ACUVUEAbilitiの光学デザイン+7.0D加入の外側のトリートメントゾーンを通過した光は網膜の前方で焦点を結ぶが,視軸からははずれるといったCRingBoost技術.さらに+10.0Dを中心に加入した特殊なデザインである.(Johnson&CJohnsonビジョンケア社ホームページより改変引用)少数/対数1.6/-0.21.25/-0.11.0/0.00.8/0.10.63/0.20.5/0.30.4/0.40.32/0.50.25/0.60.2/0.70.16/0.80.125/0.90.1/1.0図7多焦点SCL使用の小児の実用視力11歳,男児.多焦点CSCL(シードC1dayPureEDOF)使用.ドライアイ症状に伴い実用視力の低下が認められた.実用視力は,視標提示時間C2秒としてC1分間連続して視力測定することで,日常生活を想定した視機能を評価する検査である.051015202530354045505560.18歳のC3433人の高校生を対象としたドライアイの有病率は男子C4.3%(重症C21.0%)女子C8.0%(重症C24.4%)であり,HCL使用率C1.7%だったのに対し,SCLの使用率はC36.1%と高かった22).ドライアイは生活の質に大きく影響する因子であるため,防腐剤フリーのヒアルロン酸ナトリウム点眼などで積極的に対処されたい.また,MFSCLに特化した合併症としては,調節変動,周辺コントラスト感度の低下やグレア・ハローがあげられる.グレア・ハローは瞳孔径と依存して出現しやすくなるため,低濃度アトロピン点眼を併用する際は注意が必要である.C4.MFSCLの限界と今後の課題使い捨てのCMFSCLは簡便で装用感も良好である一方で,複雑な光学デザイン構造をもつため,視覚の質を担保することが課題となる.オルソCKと比較し,広範囲な適応度数をもつものの,多焦点性からも乱視があると視覚の質が落ちやすい.小児における乱視の有病率は20%程度と少なくないため,今後はとくに高度近視の乱視眼に対する安全な治療選択肢を増やすことが課題と考える.MFSCLの分野は,近視進行のメカニズムの研究や技術の進歩により有効性の高いデザイン製品が多数開発されている.近年の近視発症低年齢化から,CL装用による治療期間は長期にわたると予想される.長期の安全性と良好な装用感,視覚の質の向上と優れた有効性のバランスの取れた製品開発が期待される.文献1)BullimoreCMA,CRitcheyCER,CShahCSCetal:TheCrisksCandCbene.tsCofCmyopiaCcontrol.COphthalmologyC128:1561-1579,C20212)PanCZ,CWangCZY,CWangCYXCetal:PrevalenceCandCtimeCtrendsCinCmyopiaCamongCpreschoolCchildrenCinCchina.CInvestOphthalmolVisSciC64:1960,C20233)ChenCZ,CGuCD,CWangCBCetal:Signi.cantCmyopicCshiftCovertime:sixteen-yearCtrendsCinCoverallCrefractionCandCageofmyopiaonsetamongChinesechildren,withafocusonages4-6years.CJglobHealthC13:04144,C20234)EfronCN,CMorganCPB,CWoodsCCACetal:InternationalCsur-veyCofCcontactClensC.ttingCforCmyopiaCcontrolCinCchildren.CContactClensC&Canterioreye:ContCLensCAnteriorCEyeC43:4-8,C20205)ZhangCG,CJiangCJ,CQuC:MyopiaCpreventionCandCcontrolCinchildren:asystematicreviewandnetworkmeta-anal-ysis.Eye(Lond)C37:3461-3469,C20236)VanderVeenCDK,CKrakerCRT,CPinelesCSLCetal:UseCofCorthokeratologyCforCtheCpreventionCofCmyopicCprogressionCinchildren:aCreportCbyCtheCAmericanCacademyCofCoph-thalmology.OphthalmologyC126:623-636,C20197)KakitaCT,CHiraokaCT,COshikaT:In.uenceCofCovernightCorthokeratologyConCaxialCelongationCinCchildhoodCmyopia.CInvestigativeOphthalmolVisSciC52:2170-2174,C20118)HiraokaCT,CKakitaCT,COkamotoCFCetal:Long-termCe.ectCofovernightorthokeratologyonaxiallengthelongationinchildhoodmyopia:a5-yearfollow-upstudy.InvestigativeOphthalmolVisSciC53:3913-3919,C20129)ChoCP,CCheungSW:DiscontinuationCofCorthokeratologyConeyeballCelongation(DOEE)C.CContCLensCAnteriorCEyeC40:82-87,C201710)HuP,ZhaoY,ChenDetal:Thesafetyoforthokeratolo-gyinmyopicchildrenandanalysisofrelatedfactors.CContLensAnteriorEyeC44:89-93,C202111)LiuYM,XieP:Thesafetyoforthokeratology–asystem-aticreview.EyeContactLensC42:35-42,C201612)GuoCB,CCheungCSW,CKojimaCRCetal:VariationCofCortho-keratologylenstreatmentzone(VOLTZ)study:a2-yearrandomisedCclinicalCtrial.COphthalmicCPhysiolCOptC43:C1449-1461,C202313)ChamberlainP,Peixoto-de-MatosSC,LoganNSetal:A3-yearrandomizedclinicaltrialofMisightlensesformyo-piacontrol.OptomVisSciC96:556-567,C201914)ChamberlainCP,CBradleyCA,CArumugamCBCetal:Long-termCe.ectCofCdual-focusCcontactClensesConCmyopiaCpro-gressionCinchildren:aC6-yearCmulticenterCclinicalCtrial.COptomVisSci99:204-212,C202215)SankaridurgP,BakarajuRC,NaduvilathTetal:MyopiacontrolCwithCnovelCcentralCandCperipheralCplusCcontactClensesandextendeddepthoffocuscontactlenses:2yearresultsfromarandomisedclinicaltrial.OphthalmicPhysi-olOptC39:294-307,C201916)WengCR,CLanCW,CBakarajuCRCetal:E.cacyCofCcontactClensesCforCmyopiacontrol:InsightsCfromCaCrandomised,CcontralateralCstudyCdesign.COphthalmicCphysiolCOptC42:C1253-1263,C202217)ManoharanCMK,CVerkicharlaPK:RandomisedCclinicalCtrialofextendeddepthoffocuslensesforcontrollingmyo-piaCprogression:outcomesCfromCSEEDCLVPEICIndianCmyopiastudy.BrJOphthalmol108:1292-1298,C202418)CooperJ,O’ConnorB,AllerTetal:ReductionofmyopicprogressionCusingCaCmultifocalCsoftCcontactlens:aCretro-spectiveCcohortCstudy.CClinCOphthalmolC16:2145-2155,C202219)FujikadoT,NinomiyaS,KobayashiTetal:E.ectoflow-additionsoftcontactlenseswithdecenteredopticaldesignonCmyopiaCprogressionCinchildren:aCpilotCstudy.CClinC1326あたらしい眼科Vol.41,No.11,2024(56)