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眼内レンズセミナー:初心者のための眼内レンズ強膜内固定術の習得法

2025年2月28日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋453.初心者のための眼内レンズ強膜内固定術赤田真啓京都大学大学院医学研究科眼科学の習得法眼内レンズ(IOL)の強膜内固定術は,無縫合で施行可能という簡便さから,広く施行される手術となっている.しかし,一般的な白内障手術と比べて患者数が少なく,手技の習得には依然として課題がある.本稿では,おもにこれから強膜内固定術を習得しようと考えている術者を対象に,手技習得のために知っておくべき事項について解説する.●はじめに眼内レンズ(intraocularlens:IOL)強膜内固定術は,無水晶体眼や水晶体脱臼,IOL脱臼例などに対して行われる.強膜内固定術はさまざまな方法が知られているが,現在もっとも一般的に施行されている山根らによる方法1)を前提に解説する.●IOLハプティクスの30G針への挿入この手術の肝となる行程は,IOLハプティクスを内腔の広い30G針(ない場合は27G針)に挿入する行程である.術前のシミュレーションがきわめて重要な行程でもある.まず主創口からIOLを挿入する.IOL挿入時に先行ループを直接30G針に挿入する手法も知られているが,筆者は原法に則り先行ループは虹彩上に乗せることとしている.後方ループは眼外に出しておき,IOLが眼底に落下することを防ぐ.この際に分散型粘弾性物質を用いると,角膜内皮保護を図ることができると同時に,粘弾性物質にIOLが張り付いて落下しにくくなる.虹彩上にIOLを乗せたのち,眼内鑷子を用いて先行ループをつかむ.この際,老人環などでハプティクスの先端が見えづらい場合がある.ブラインドで無理につかもうとすると隅角を損傷することがあるため注意を要する.この場合は後方ループを少し引くと,先行ループの先端が見えてくるため,つかみやすくなる(図1).必要に応じてneedlestabilizerを用いて両30G針を刺入する2).30G針の屈曲部まで刺入してしまうと針先の向きがわかりづらくなり,網膜を損傷する可能性があるため,深く刺しすぎないよう注意する.ハプティクスを把持する位置は,先端に近すぎると挿入する部分が少なくなるため挿入しづらく,遠すぎるとコントロールがむずかしくなるので,適切な位置をつかむ必要がある.(89)図1眼内鑷子によるIOLの先行ループの把持a:先行ループが見えづらく把持しづらい状態.b:後方ループを引くことで(),先行ループがよく見える状態(.)となり,安全に把持できる.ハプティクスを30G針に挿入するにあたってとくに重要なのが,両者のなす角度を適切に合わせることである.熟練した術者であれば困難な角度でも挿入することは可能だが,初心者はいかにしてあらかじめ入れやすい角度にもっていくかが手技の成否を分ける.事前のセッティングを誤るときわめて困難になりうる(図2a).ハプティクスを30G針に入れやすい角度にするには,主創口と30G針を刺入する位置の角度を適切な角度にしておかねばならない.ここを70.90°程度にしておくと,ちょうどハプティクスを30G針に挿入しやすい位置関係になる(図2b).小瞳孔の場合は,30G針で虹彩をよけるようにして周辺部で挿入するようにしたほうが角度を合わせやすい.主創口の位置そのものは頭側,耳側,ベントいずれでも可能だが,30G針を刺入する位置との相対的な位置関係にはくれぐれも注意されたい.硝子体ポートを設置する場合は,これらと干渉しないよう,あらかじめ設置位置を計画しておく必要がある.ハプティクスの挿入時には針を少し傾けて,ハプティクスを針の内壁に沿わせるようなイメージで行うとよい.ハプティクスに過度な力を加えると変形の原因となり,ひいてはIOL偏位の原因となるため注意されたい.先行ループを30G針に挿入したのち,後方ループのあたらしい眼科Vol.42,No.2,20252230910-1810/25/\100/頁/JCOPYabc図2眼内レンズハプティクスと30G針の位置関係a:主創口と30G針挿入位置が不適切な場合.b:主創口と30G針挿入位置が適切な場合.c:その際の後方ループ挿入時.挿入の前に先行ループを眼外に出してフランジで固定することは推奨されない.先行ループを先に固定してしまうと,後方ループ挿入時の自由度が下がり,難度が上がってしまう.両方の30G針を用いた,いわゆるダブルニードルの状態で行うことが重要である.主創口と先行ループを挿入する30G針を刺入する位置の角度が適切であれば,後方ループも自然とスムーズに挿入可能な位置関係になる(図2c).30G針を引き抜いてハプティクスを眼外に出す際は,途中で針から抜けてしまわないよう注意する.先に出したループが眼外に出すぎないよう少し戻しておくと,あとから抜くループが抜け落ちるリスクを減らせる.必要に応じて両端を剪刀で処理し,フランジを作製する.ハプティクス先端を焼灼するパクレンとハプティクスが直接接触しないようにしたほうが,きれいなフランジとなる.術後フランジが結膜上に出てくると,レンズの安定性を損ねるばかりではなく感染にもつながりうるため,適切な大きさのフランジを強膜内に確実に埋め込むことが必要である.●その他の手技IOL脱臼例では,脱臼しているIOLを強膜内固定に使用しない場合は摘出する必要がある.摘出にあたっては,IOLカッターによるさまざまな分割法が知られているほか,インジェクターやレンズグラバーを用いた方法などがある.IOL落下例でない場合は,IOLの摘出も含め前眼部のみで手術を行うことも不可能ではない.しかし,毛様体扁平部周辺の硝子体処理が不十分になる可能性があり,原則として本手術は硝子体の処理に慣れた術者が施行することが望ましい.合併症としてとくに注意すべきものに裂孔原性網膜.離がある.これは30G針による網膜の損傷,不十分な硝子体処理による網膜の牽引によって発生すると考えられる.また,術後の虹彩捕獲,逆瞳孔ブロックを予防するため,上方に周辺虹彩切除をしておくとよい.●おわりに強膜内固定術は無水晶体眼や水晶体脱臼,IOL脱臼例の視機能回復に重要な役割を果たす手術である.その安全な施行にあたっては事前準備がきわめて重要である.強膜内固定術練習用の模型眼も販売されているので,必要に応じてこれらも活用し,十分な練習を積んだうえで手術に臨むべきと考える.文献1)YamaneS,SatoS,Maruyama-InoueMetal:Flangedintrascleralintraocularlens.xationwithdouble-needletechnique.Ophthalmology124:1136-1142,20172)YamaneS,Maruyama-InoueM,KadonosonoK:Needlestabilizerfor.angedintraocularlens.xation.Retina39:801,2019

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く 医療用コンタクトレンズ(2)

2025年2月28日 金曜日

■オフテクス提供■コンタクトレンズセミナー英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く14.医療用コンタクトレンズ(2)松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学,川崎市立多摩病院眼科土至田宏順天堂大学医学部附属静岡病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の第C8章は医療用コンタクトレンズを取りあげている.今回はその第C2回として,慢性疾患に対するレンズや視覚リハビリテーションのためのレンズ,医療用着色レンズについて解説する.はじめにコンタクトレンズ(CL)は,屈折異常の矯正だけでなく,円錐角膜や眼表面疾患に対する医療用として使用されることがある.今回は医療用CCLについての第C2回で1),慢性疾患に対するCCLや視覚リハビリテーションのためのCCL,医療用着色レンズに関する部分を解説する.なお,わが国ではC2025年C1月現在未承認である強膜レンズやハイブリッドレンズについても記載されている.慢性疾患に対するコンタクトレンズ①慢性移植片対宿主病(chronicgraftversushostdisease:cGVHD)cGVHDによる中等度以上のドライアイ症状のある患者を対象とした研究では,シリコーンハイドロゲル(SiHy)レンズを夜間装用し,1週間後およびC1カ月後に視力と眼表面疾患指数(ocularCsurfaceCdiseaseindex:OSDI)スコアが改善した.また,ソフトCCL(SCL)は,持続的に上皮欠損を修復する効果や上輪部角結膜炎様の症状を管理できる効果も期待できる.一方,強膜レンズを装用したCcGVHD患者では,痛みや羞明などの症状,視力とCOSDIスコア,生活の質(qualityoflife:QOL)が改善した.また,強膜レンズを夜間装用し遷延性上皮欠損が治癒した報告もあり,SCLよりも利点があるとしている.C②Sjogren症候群Sjogren症候群の患者では,SiHyレンズの装用により視力やCOSDIスコア,角膜染色スコアが改善し,自己血清点眼よりも効果的であるが,SCL装用に伴う感染性角膜炎を生じることが危惧される.また,強膜レンズの装用によってドライアイ症状とCQOLが改善するが,インプレッションサイトロジーでは,強膜レンズの装用により炎症反応は増加しており,強膜レンズ装用と炎症の関係については,さらなる研究が必要である.③Stevens-Johnson症候群(Stevens-Johnsonsyndrome:SJS)SJSの眼症状の治療にCSCL装用がメリットを示したとする報告もあるが,細菌性角膜炎などの合併症の多くはCSCLが原因であるとされており,SJSの治療および管理のためには強膜レンズの使用が増加している.SJS患者の大多数は強膜レンズの装用により痛みと羞明が軽減し,OSDIスコアやCQOLが改善した.また,SJS患者は角膜混濁だけでなく角膜不正乱視によっても視覚的な影響を大きく受けており,高次収差に対する対策も必要である.④アトピー性角結膜炎/アレルギー皮膚関連疾患に対する強膜レンズの使用により,痛みと羞明が軽減し,視力が改善した.また,強膜レンズを1年以上日中に装用することで,アトピー性角結膜炎を管理することができ,視力,結膜充血,浮腫,角膜上皮欠損の改善が認められた.⑤上輪部角結膜炎(Superiorlimbickeratoconjunctivitis:SLK)/糸状角膜炎SLKに対する医療用CCLは,瞬目による上眼瞼の摩擦から輪部を保護することでCSLKを改善し,再発を予防できる.進行したCSLKでは,強膜レンズによって眼瞼結膜から角膜をより効果的に保護する必要がある.また,点眼などで効果がなかった重篤な糸状角膜炎に対しては,医療用CCLが用いられる.医療用CCLの装用により,上皮の治癒促進,眼瞼の摩擦からの角膜保護,上皮神経終末の刺激を防ぎ痛みを和らげる効果が得られる.⑥眼類天疱瘡治療用CSCLで上皮が完全に治癒しなかった,持続性上皮欠損を伴う眼類天疱瘡に対し,強膜レンズを夜間装用することで,上皮欠損の治癒と視力の改善が認められた.ただし,強膜レンズの夜間装用には角膜浮腫や感染性角膜炎などの合併症のリスクがある.⑦神経麻痺性角膜症CLによる神経麻痺性角膜症の治療は,角膜損傷の進(87)あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025C2210910-1810/25/\100/頁/JCOPY行を防ぎ,上皮治癒を促進することができるため推奨されている.しかし,SCLでも強膜レンズでも,適切な注意を払わずに扱うと二次感染や眼瞼下垂の合併症を引き起こすことがある.そのため,涙液貯留層にステロイドや防腐剤が入らないようにするとともに,再上皮化したらすぐに日中のみの装用に移行し,予防的抗菌薬点眼を中止することが推奨されている.⑧角膜ジストロフィ角膜ジストロフィの多くが,再発性角膜びらんと関連しており,上皮欠損の管理には高弾性率CSiHyレンズが有利であることが示唆されている.また,膠様滴状角膜ジストロフィの患者にCSCLを夜間装用することで角膜混濁の進行が遅くなり,手術を遅らせることが可能であった.一方,後部多形性角膜ジストロフィのC37%に円錐角膜様の角膜不正乱視を生じるため,視覚リハビリテーション目的にCCLを使用する場合がある.視覚リハビリテーションのためのコンタクトレンズ一部の眼疾患では,眼鏡による矯正方法では十分な視力を得られないことがある.このような場合には,医療用CCLが最高視力や良好なCQOLを提供するための視覚リハビリテーションに不可欠である.それぞれの疾患や重症度に応じて,ハードCCL(HCL),特殊CSCL,ハイブリッドレンズ,ピギーバック,強膜レンズを選択する.強い屈折異常の患者は,眼鏡装用時に生じる過大なプリズム効果や像の拡大,縮小をCCL装用によって軽減できる可能性がある.とくに不同視や無水晶体眼はCCL装用のよい適応である.①角膜拡張症(円錐角膜・ペルーシド角膜周辺部変性症・球状角膜)視覚リハビリテーションのために医療用CCLを必要とする患者の多くは,角膜拡張症などの不正乱視の患者である.これらの患者は不規則な角膜形状のため視力や視機能が低下しており,HCLや強膜レンズなどの硬質なレンズを装用することで,光学的に規則的な屈折面を形成し,視力や視機能向上が可能となる.HCL不耐症の場合やドライアイの患者には,強膜レンズを選択すると,最高視力に変化はないものの,快適性が向上するため,角膜移植を選択するリスクを減少させることができる.②手術後や外傷,感染などによる不正乱視角膜移植後には,術後の遷延性角膜上皮欠損,創口からの前房水漏出,ドライアイ,糸状角膜炎などの治療を行うために,バンデージCSCLを使用する.一方,角膜移植後の不正乱視や不同視の場合には医療用CCLにより矯正を行うが,角膜内皮機能が不十分な場合には角膜浮腫を生じることがあるため,強膜レンズを選択しないほうがよい.レーシックなどの屈折矯正術後には,残存屈折異常を矯正するだけでなく,高次収差および不正乱視の矯正のためにCHCLや強膜レンズを選択する.また,外傷後の不正乱視では,角膜に瘢痕や凹凸がある場合があるため,HCLや強膜レンズを選択すると最高視力が得られる場合がある.医療用着色レンズ医療用着色レンズは,外傷後の虹彩欠損や眼白皮症などによる羞明やグレアの軽減,外傷後の角膜混濁などに対する整容目的に使用される(図1).羞明を訴える患者は,視力が正常であっても視機能とCQOLに大きな影響を生じている可能性があり,医療用レンズの装用により羞明とCQOLを改善することが可能である.おわりに今回はCCLEARの第C8章を要約し解説した.医療用CLはさまざまな疾患の治療や視覚リハビリテーションに使用され,大変有用な医療機器であること再確認する必要がある.文献1)YacobsDS,CarrasquilloKG,CottrellPDetal:CLEARC─CMedicalCuseCofCcontactClenses.CContactCLensCandCAnteriorCEye44:289-329,C2021

写真セミナー:デルモリポーマ

2025年2月28日 金曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史松村健大489.デルモリポーマ福井大学医学部眼科学教室図2図1のシェーマ①隆起した腫瘤図1前眼部写真左眼の耳側結膜に腫瘤を認める.図3MRI所見腫瘤は脂肪性の病変であり,眼窩脂肪との連続性は認められない.図4摘出標本所見摘出された腫瘍は,おもに間質膠原線維と脂肪組織で構成されていた(ヘマトキシリン・エオジン染色).(85)あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025C2190910-1810/25/\100/頁/JCOPY生下時から,左眼の耳側結膜に腫瘤を認めていた12歳の女児の症例を提示する.小児科での診察にて経過観察となっていたが,最近,瞼裂部において腫瘤が隆起している状態が気になってきたため,近医眼科を受診したところ,眼窩脂肪ヘルニアと診断された.手術による切除を希望し,当院へ紹介受診となった.診察では左眼の耳側結膜にピンク色.黄色の腫瘤を認めた(図1,2).腫瘤は表面平滑で隆起しており,上耳側から下耳側の範囲で扇状に外眥部へ進展していた.腫瘤表面に毛は認めなかった.また,圧迫によって腫瘤の眼窩内への移動は認められなかった.前眼部はほかに異常を認めず,中間透光体および眼底には異常を認めなかった.外耳の奇形,顔面の非対称,頸椎の異常は認められず,そのほか,全身に特記すべき異常はなかった.眼窩CMRIでは,腫瘤は脂肪性の病変であり,眼窩脂肪との連続性は明らかではなかった(図3).臨床所見から,腫瘤は眼窩脂肪ヘルニアではなく,デルモリポーマが疑われた.異物感などの自覚症状はなかったが,整容的な理由で患者および両親が切除を希望したため,腫瘍減量目的と病理組織学的診断のため,全身麻酔にて,腫瘍切除術を行った.手術では,異所性上皮と腫瘍を.離し,切除は腫瘍内部にとどめ,上皮は切除せずに温存した.腫瘍は,眼球耳側で上直筋から下直筋の間で扇状に広がっており,外直筋を損傷しないように慎重に.離した.最後に切開を行った結膜部を吸収糸で縫合した.切除された標本の病理検査では,腫瘍はおもに間質膠原線維と脂肪組織で構成されており,悪性所見は認められなかった(図4).異所性上皮は切除していないが,上皮下の病理所見はデルモリポーマとして矛盾のないものであった.術後は眼球運動障害や複視,眼瞼下垂,ドライアイなどの合併症を認めず,再発も認めていない.外来通院にて経過観察を継続している.デルモリポーマや輪部デルモイドは,分離腫に分類される先天良性腫瘍である.輪部デルモイドは角膜輪部の下耳側に発生することが多いが,デルモリポーマは上耳側の結膜円蓋部に発生することが多く,結膜デルモイドとよばれることもある.デルモリポーマは病理組織学的に密な結合組織に囲まれた成熟脂肪組織からなり,毛,皮脂腺,汗腺などを含んだ重層扁平上皮で覆われている.また,これらの腫瘍はCoculo-auriculo-vertebralCspec-trumに合併することがある1).Oculo-auriculo-verte-bralspectrumは,Goldenhar症候群や半側小顔面症としても知られており,第C1および第C2鰓弓の発達異常が原因で,耳の奇形,下顎骨形成不全,頸椎の異常,輪部デルモイドあるいはデルモリポーマといった異常がみられる.デルモリポーマはとくに治療を行わずに経過観察される場合もあると思われるが,腫瘍が瞼裂より露出する場合や異物感などの自覚症状がある場合は手術適応となることがある.しかし,過剰な切除やそれに伴う瞼球癒着によって,術後に眼瞼下垂,複視を伴う眼球運動障害,乾性角結膜炎などの合併症を生じることがあるため,手術には配慮を要する2,3).結膜を温存した腫瘍部分切除による合併症の回避や,結膜移植などによる再建の有用性が報告されている4,5).文献1)KhongCJJ,CHardyCTG,CMcNabAA:PrevalenceCofCoculo-auriculo-vertebralCspectrumCinCdermolipoma.COphthalmol-ogyC120:1529-1532,C20132)BeardC:Dermolipomasurgery,or,“anounceofpreven-tionisworthapoundofcure”.OphthalmicPlastReconstrSurgC6:153-157,C19903)FryCL,LeoneCRJr:Safemanagementofdermolipomas.ArchOphthalmol112:1114-1116,C19944)SaCHS,CKimCHK,CShinCJHCetal:DermolipomaCsurgeryCwithCrotationalCconjunctivalC.aps.CActaCOphthalmolC90:C86-90,C20125)ChoiCYJ,CKimCIH,CChoiCJHCetal:EarlyCresultsCofCsurgicalCmanagementCofconjunctivalCdermolipoma:partialCexci-sionandfreeconjunctivalautograft.BrJOphthalmolC99:C1031-1036,C2015C

近視抑制治療の評価法

2025年2月28日 金曜日

近視抑制治療の評価法HowtoAssesstheE.cacyofTreatmentsfortheControlofMyopia五十嵐多恵*I小児の近視管理に重要なパラメータ小児の近視管理を行ううえで,屈折度数と眼軸長はどちらも重要なパラメータである.国際近視機関(interna-tionalmyopiainstitute:IMI)は,近視の診断はサイプレジン調節麻痺下屈折検査による屈折検査で実施し,近視進行のモニターは屈折検査と眼軸長計測結果を用いることを推奨している1)(図1)2).実際に海外では,屈折度数と眼軸長による近視進行管理の指標が作成されており,近視抑制治療の評価が簡便に行われるようになっている(図2)3).近視の診断に関しては,たとえば眼軸長が長い症例でも,角膜曲率が平坦で角膜屈折力が弱い場合は眼球全体としては正視となる(図1)2).眼軸長はあくまでも屈折度を形成する要素の一つであり,近視の診断は,屈折度数を形成するその他の要素である角膜屈折力,水晶体屈折力を含む総合的な評価値を用いるべきである.このため,小児期の近視の診断は調節麻痺下屈折検査による屈折度数で行うことが前提であるが,眼軸長を用いる場合は,眼軸長単独ではなく角膜曲率半径を組み合わせた「axiallength(AL)/cornealradiusofcurvature(CRC)比>2.9.3.1」による定義を用いるほうが,より正確に近視を診断できる4).II眼軸長による評価がより正確一方で屈折検査は再現性が低く,自覚的屈折検査では標準偏差(standarddeviation:SD)±0.50D,非調節麻痺下他覚的屈折検査ではSD±0.57D,調節麻痺下自覚的屈折検査ではSD±0.17Dの誤差が報告されており,近視の進行を定期的に評価するうえで無視できない誤差量である5.7)(図1).しかし,非接触型の光学的眼軸長計測の再現性は高く,誤差範囲は小児でも眼軸長で50μm以下であり8),屈折度数で換算すると多くてもSD±0.12D以下の誤差で,報告によっては非調節麻痺下自覚的屈折検査よりも10倍正確である.さらに,眼軸長計測であれば調節麻痺薬による副作用の問題がなく,計測時間も短時間である.以上から,近視の進行をモニターするうえでは眼軸長がより適している.III小児期の屈折と眼軸に関する前提知識図3にさまざまな屈折の小児の眼の眼軸の伸展形式を示す9).「正視化過程にある遠視」が正常な小児の眼であり,小児の正常な屈折度数は,正視ではなく年齢に応じた軽度の遠視である.一般的に成人のgullstrandの模型眼では,眼軸長1mmの伸展は,屈折度数に換算すると3.0Dもしくは2.7Dに相当する.しかし,近視進抑制治療のターゲットとなるような年齢の低い小児では,そのような単純換算ができない.6歳までの小児において,年間1mmの眼軸長の伸展は屈折度に換算してわずか0.45Dの変化にしか相当しない10).発育に伴う眼軸長の伸展に対して,水晶体や角膜の屈折力が弱まることで代償が生じる幼少期では,同じ眼軸伸展量であっ*TaeIgarashi:東京都立病院機構広尾病院眼科〔別刷請求先〕五十嵐多恵:〒150-0013東京都渋谷区恵比寿2-34-10東京都立病院機構広尾病院眼科0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(77)211図1小児の近視を診断し,進行を管理するうえで重要視すべきパラメーター1.DIAGNOSINGMYOPIA(図左側):図中のAおよびBには二つの正視眼が示されている.たとえば,両者ともに屈折度数が+0.5Dであったとしても,眼軸長はAが23.5mmであり,Bが25.1mmである.Aでは角膜屈折力が44.2Dである一方で,Bは38.9Dであり,BはAよりも長い眼軸長だが,角膜曲率が平坦であり角膜屈折力が弱いため,眼球全体としては正視となっている.2.MONITORINGPROGRESSION(図右側):再現性の観点から,近視の進行をモニターするうえでは,屈折度よりも眼軸長が適している.(文献2より引用)図2屈折度数と眼軸長による近視進行管理の指標屈折度数に関する治療について上図の「Best」欄では,9歳より低年齢では年間.0.5Dまで,9.11歳では.0.37Dまで,12歳以降は.0.25Dまで年間近視進行を抑制できている場合が該当する.「Next-Best」「Lesse.ective」「Note.ective」も順に示されている.眼軸長に関しても年齢別に検討されており,7-10歳では,無治療の近視では年間0.3mmを超えて眼軸長が伸展するが,正視眼の眼軸伸展に相当する0.2mmにまでに年間伸展量に抑えよう,11歳以降は正視眼の0.1mmを目標に抑制しよう,そして最終的に26mmを超えないように治療を行おう,との指標が無作為化比較試験のデータをもとに作成されている.(文献3より引用)Axiallength(mm)2524.52423.52322.52221.5Age(years)図3さまざまな屈折の小児の眼の眼軸の伸展形式屈折異常によって眼軸長の年間当たりの伸展量は異なる.長眼軸眼であればあるほど伸展速度は速くなる.(文献C9より改変引用)Cba図4年間眼軸伸展量による治療効果判定表a:ドイツ人小児のための治療効果判定表CKaymakらは,ドイツでは正視眼に該当するC50パーセンタイルまでの小児のデータから正視眼における年齢ごとの年間眼軸伸展量を算出し,有効性の評価表を作成した.濃い実線が,ドイツ人小児の正視眼における年齢別の眼軸伸展量であり,薄い実線が信頼区間の上限である.薄い実線までが治療有効と判断する許容範囲とされている.青で示す単焦点眼鏡の対照群の眼軸伸展量と異なり,黄色で示すCDIMS眼鏡群は,3年間継続して有効な眼軸伸展抑制効果を維持している(文献C11より改変引用).b:HAAG-STREIT社製CLS900CMyopiaAMMCの治療効果判定表.HAAG-STREIT社製CLS900MyopiaAMMCやCOCULUS社製CMyopiaMasterでは治療効果判定表が搭載されており,治療効果が自動的に判定される.Axiallength(mm)27262524232221図5OCULUS社製MyopiaMasterのパーセンタイル曲線を用いた眼軸長管理2万C5,000眼近い中国人小児の眼軸長データをもとにパーセンタイル曲線が作成されている.将来的な無治療での屈折度数の予後予測が,サイプレジン調節麻痺下屈折度数,角膜曲率,性別,眼軸長などデータに基づき算出され,95%信頼区間±1.85Dの幅で表示される(①).初診時に近視進行抑制治療を実施する動機づけとなる.この症例は,無治療では通常よりも早い眼軸伸展が認められたが,併用療法実施以後は進行速度が低下したことが視覚化されており,患者への説明も容易である.(文献C13より改変引用)表1近視を管理する眼軸長計測装置の概要比較項目近視治療用白内障手術用機種名CMyopiaMasterCMYAHCAL-ScanM+MyopiaViewerMV-1(オプションソフト)レンズスターCMYOPIAAPS+AMMCライセンスCOA-2000+AxialManagerCAL-Scan+MyopiaViewerMV-1(オプションソフト)製造元/販売Oculus社製,販売CNikonVisio社製,販売CTopconNIDEK社製CHAAG-STREIT社製,販売ジャパンフォーカスTOMEY社製NIDEK社製価格550万円380万円385万円+30万円(MV-1)408万円+24万円560万円+45万円550万円(Aあり)480万円(A無)+30万円(MV-1)機能眼軸長測定方式(フルオートトラッキング)タイムドメイン(×)タイムドメイン(×)タイムドメイン(○)タイムドメイン(×)フーリエドメイン(○)タイムドメイン(○)角膜形状解析C×○C×△(オプション)C△C×レフラクトメーターC○C×××××近視管理機能屈折度数推移のグラフ化(トレンド解析)C○C○C○〇〇C○眼軸長推移のグラフ化(トレンド解析)C○C○C○〇〇C○眼軸長パーセンタイル曲線(データ引用元)中国人CBrienHoldenVisionInstituteデータ欧州人Tidemanらコホート研究欧州人Tidemanらコホート研究欧州人中国人Tidemanらコホート研究CDr.HakanKaymak日本人令和C3年度児童生徒の近視実調査報告書欧州人Tidemanらコホート研究軸性近視,屈折性近視の成分分析C○C×××××年間眼軸伸展量の自動計算C○C○C×〇C○C×予後予測C○C○C×〇C××治療効果判定表C○C××〇C××治療歴管理C○C×〇〇C○〇生活習慣管理C○C×〇〇C○〇患者レポート出力C○C○C○C○C○C○その他計測機能角膜曲率半径(mm)C○C○C○C○C○C○前房深度(mm)C×××○C○C○水晶体厚(mm)C×××○C○△CAモード測定では可中心角膜厚(mm)C○C××○C○C○角膜横径(mm)C○C○C×○C○C○瞳孔径(mm)C○C○C○C○C○C○C図6Tomey社製の眼軸長計測機器であるOA-2000に搭載可能な眼軸長トレンド解析ソフトウェアAxialManager日本人データを用いた眼軸長管理が可能となっている.(文献C14より改変引用)①⑤図7OCULUS社製MyopiaMasterに搭載されたGullstrandRefractiveAnalysisSystemによる軸性近視と屈折性近視の鑑別と成分分析初診時にC7.9歳の年齢で,等価球面度数がC.2.5D程度の近視であった(①).7.9歳の年齢相当の模型眼では+1.64Dの遠視が正常であるため,4Dを超えて近視化している(②).各屈折要素の状態を確認してみると,明らかな軸性近視を生じていない.(③)将来的な眼疾患のリスクを軽減するために抑制治療の対象となる近視は軸性近視である.一方で,角膜の屈折度数は近視化が進行しており(④),この症例がここC1年あたりで近視が進行した原因は,角膜に原因がある可能性がある.角膜屈折力は平均よりも強めであり(⑤),角膜形状解析などの精査を行い,経過観察する方針とした.(文献C15より引用)–

近視性不同視の治療

2025年2月28日 金曜日

近視性不同視の治療TreatmentofAnisometropicMyopia松村沙衣子*はじめに不同視(anisometropia)は両眼の屈折力の差が1ジオプター(D)以上である状態と定義されており,重症化した不同視は眼精疲労や両眼視機能低下などの症状を引き起こす.そのなかでも就学児で増加する近視性不同視(anisomyopia)は,経時的に有病率や進行量が増加することが知られており,近年では不同視近視の進行量と眼軸長(axiallength:AL)伸長進行量の関連性や不同視の種類による進行度の傾向も注目されている.不同視の有病率は非近視群よりも近視群で高いとされ,世界的規模で近視が増加しているなか,わが国においても近視性不同視の小児を診療する機会は増えている.現在,世界中で近視抑制治療の普及が拡大しているが,近視性不同視に対する治療的介入法は確立されているとはいいがたい.本稿では,小児における不同視の有病率および進行パターン,近年明らかになりつつある治療的介入の有効性について解説する.I不同視の定義と有病率不同視とは,屈折異常が両眼で異なる状態であり,等価球面度数(sphericalequivalent:SE)の差が1D以上の場合に不同視と定義される.不同視についての報告は,近視やその他の屈折異常の報告に比較して少なく,眼の成長において屈折異常がどのように不均衡を引き起こすかについては,いまだに不明な点が非常に多い.不同視が大きくなると,両眼視機能の低下や斜視の顕性化などが生じ,症状として頭痛や眼精疲労が現れることもある.不同視の有病率は年齢に依存しており,幼児では1.6.4.3%と比較的低いのに対し1.3),成人では9.15%程度と増加する4.7).高齢者の不同視については白内障を含めた加齢に伴う眼疾患が関連している可能性があり,小児における不同視とは病態が異なると考えられる.本稿では小児の不同視,とくに近視性不同視を中心に概説する.6カ月,5歳,12.15歳の計1,827人の非調節麻痺下屈折値での不同視の有病率を調査した米国の研究では,SEの両眼間の差が1.00D以上の不同視は6カ月,5歳,12.15歳でそれぞれ1.96%,1.27%,5.77%であり,乳児や未就学児と比較し中学生において高い有病率を認めた(図1)1).わが国の小学生350人を対象とした5年間の縦断研究においても,球面不同視(球面度数差が1.00D以上)の有病率は6歳では1.43%であったのが11歳では3.14%に増加した.さらに,乱視性不同視(円柱度数差≧1.00D)の有病率も6歳時の2.6%から11歳時の4.3%へと増加していた8).シンガポールでの7.9歳の小児1,979人を対象とした縦断研究でも同様であり,不同視の有病率は3年間の追跡期間中に3.6%から9.9%に増加し,近視小児と非近視小児を比較すると,近視小児のほうが不同視の有病率が有意に高かった9).II不同視の進行パターン6.12歳の小児469人を対象とし,米国で行われた*SaikoMatsumura:東邦大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕松村沙衣子:〒143-8540東京都大田区大森西6-11-1東邦大学医療センター大森病院眼科0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(69)203不同視の有病率(%)30%25%20%15%10%5%0%乳児(6カ月)未就学児(5歳)中学生(12~15歳)年齢(歳)図1小児の年齢別の不同視の有病率両眼の等価球面度数の差がC0.50D以上またC1.00D以上の不同視の有病率は,乳児や未就学児では低く,12.15歳の中学生において増加傾向を認める.(文献C1より改変引用)a右眼左眼近視度が近視度が近視眼遠視眼大きい眼小さい眼0.00年間近視進行量(D)-0.25-0.50-0.75両側近視両眼性近視性不同視片眼性近視性不同視(BAM)(UAM)*:p<0.05**:p<0.01b近視が近視が***:p<0.001大きい眼弱い眼近視眼正視眼0.003年間の屈折変化(D)-0.50-1.00-1.50-2.00不同視なしの両眼近視性不同視片眼性近視性不同視近視眼(BAM)(UAM)図2不同視のない両眼近視眼,両眼性近視性不同視(BAM),片眼性近視性不同視(UAM)の近視進行量の比較a:1年間の近視進行量.不同視のない両眼近視眼の年間近視進行量はC.0.49Dであり,BAMでは近視度が大きい眼の年間近視進行量は.0.45D,近視度が小さい眼はC.0.37Dであり,両眼間の近視の差はC0.08Dであった.その一方でCUAMでは,近視眼の年間近視進行量はC.0.39Dであり,正視眼のC.0.22Dと比較して有意差を認め,両眼間の近視の差はC0.17Dと大きかった.Cb:3年間の近視進行量.UAMは不同視のない両眼近視眼や両眼性近視性不同視と比較し,両眼間の屈折の差が拡大する傾向があるが,3年間の変化ではより顕著に拡大する.(文献C11より改変引用)a0.80.6近視眼0.4近視眼正視眼等価球面度数の進行量(D)0.2正視眼0.0-0.2-0.4-0.6-0.8-1.0装用前6カ月装用後6カ月装用前6カ月装用後6カ月図3UAMにおける眼鏡装用前6カ月と装用後6カ月の近視進行量の比較a:SEの進行量の比較.UAMの近視眼の眼鏡装用C6カ月前のCSEの増加(C.0.38D)は,正視眼の増加(C.0.04D)よりも有意に大きかった.装用後のC6カ月間におけるCSEの増加については,両眼間に有意差は認められなかった.眼鏡装用前では近視眼が正視眼よりも進行するが,眼鏡装用後では進行量はほぼ同程度になる.Cb:ALの伸長量の比較.近視眼の眼鏡装用C6カ月前のCAL伸長量の増加は,正視眼の増加よりも有意に大きかった.眼鏡装用後のC6カ月の正視眼のCAL伸長量は,装用前の眼軸伸長量と比較し,有意に増加していた.一方で,眼鏡装用後の近視眼のCAL伸長量は,装用前と比較し,有意に減少していた.装用後のC6カ月間での両眼間のCAL伸長量の増加は有意な差を認めなかった.(文献C12より改変引用)少したが,0.01%アトロピン点眼群の眼間差は,ベースラインのC0.41C±0.25mmからC2年後のC0.42C±0.27Cmmとほぼ変化しなかった.この研究では対照群がないため近視進行抑制の程度は評価できないが,両眼点眼による治療は両眼の近視抑制となるため,0.01%アトロピン点眼群においては不同視の差は変わらなかったという可能性も考えられる14).CVオルソケラトロジーによる不同視治療オルソケラトロジー(以下,オルソCK)は,近視性不同視の管理に有効な手段であり,単焦点眼鏡の装用と比較して,ALの両眼間の差を減少させることが報告されている.UAMとCBAMにおけるオルソCKの研究結果をそれぞれ示す.C1.UAMに対するオルソKの有効性8.15歳のCUMAをもつC25名の小児を対象とした後ろ向き研究では,治療眼の1年後のAL伸長量(0.08Cmm/年)は未治療眼(0.39Cmm/年)と比較し有意に抑制されていた.しかし,1年の経過でC25名中のC16名(64%)が未治療眼に近視を発症したとも報告している15).31名のCUMA患児に対するC2年間の後ろ向き研究においても,ALの両眼間の差はベースライン(0.83C±0.45Cmm)と比較し,2年後には(0.59C±0.49Cmm)著しく減少していた16).また,この研究では,オルソCKレンズを長期間装用すると,不同視の大きい小児では,不同視が小さい小児より顕著なCALの両眼間の差の減少が得られたことも報告されている.筆者らの臨床経験においても,オルソCKを処方したUMAの小児のCALの眼間差はベースラインのC1.07CmmからC2年後にはC0.47Cmmへと著しく減少し,不同視の改善が認められた(図4).図からわかるように,2年間のCAL伸長量は治療眼でC0.15mm/2年,未治療眼で0.75Cmm/2年であり,両眼間の差が小さくなった理由は治療眼のCAL伸長量が抑制される一方で,未治療眼のAL伸長量が自然経過にしたがったためと考えられる.未治療の場合は,近視度が大きい眼の進行量が大きく不同視の眼間差が拡大するため,治療アウトカムを不同視における両眼間の差の縮小とすれば本治療法は成功であるが,症例によっては正視眼が近視化することには留意する必要がある.同様に,FuらはC1年間の追跡調査後にCUAM患者の48.1%がCBAMを発症したこと17),Chenらは,平均15.5カ月の追跡調査後にCUAM患者のC32%がCBAMを発症したことを報告している15).この研究ではCBAMを生じた後は,両眼のオルソCK治療を開始し,新たに近視になった眼におけるオルソCK治療後の年間CAL伸長量(0.20mm/年)は,同じ眼におけるオルソCK治療前の伸長量(0.49Cmm/年)よりも有意に遅くなったことを報告している.筆者らの症例においても,3年目から新たに近視化した眼に対してもオルソCKの処方を行い,その後のCAL伸長量は新たに治療した眼でC0.01Cmm/年,治療継続眼でC0.05Cmm/年と両眼間の差(0.51Cmm)の拡大なく経過している(図4).このことからも,UAMで単眼のオルソCKレンズ治療を受けている子どもには,正視眼の近視進行の可能性が高いことを十分に説明すべきであろう.また,もし正視眼が近視になった場合,オルソCKレンズは依然として良好な治療法であると考えられる.C2.BAMに対するオルソKの有効性両眼に近視がある不同視の場合においても,オルソCK治療で良好な結果が示されている.BAMの子どもC102人を無作為に眼鏡群とオルソCK群に割り当て,1年の経過を観察した中国の前向き介入研究では,オルソCK群において近視度の大きい眼のCAL伸長量(0.06C±0.15mm)は近視度の小さい眼の伸長量(0.15C±0.15Cmm)と比べ有意に少なくなっており,1年間の治療によりCALの両眼間の差は有意に減少した(0.47C±0.32mmからC0.38±0.28mm).一方,眼鏡群ではCAL伸長量は両眼でほぼ同等であり,1年間の治療でCALの眼間差に有意な減少は認められなかった(図5)18).また,BAMの両眼にオルソCKレンズ,0.01%アトロピン点眼,0.05%アトロピン点眼で治療した後ろ向き研究では,オルソCK群(0.53C±0.29CmmからC0.44C±0.27Cmm)においてC0.01%アトロピン点眼群(0.41C±0.25CmmからC0.42±0.27mm)やC0.05%アトロピン点眼群(0.42C±0.20CmmからC0.34C±0.19mm)と比較して,2年後の(73)あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025C20798th2795th左眼:0.01%AT+オルソK開始2690th75th2550th2425th10th23右眼:オルソK開始25ndth22右眼0.01%AT開始右眼21左眼20眼軸長(mm)6789101112131415(歳)年齢※治療によるAL変化量初診時:右眼23.72mm,左眼24.79mm(両眼間の差;1.07mm),1年後:右眼23.95mm,左眼24.81mm(両眼間の差;0.86mm),2年後:右眼24.47mm,左眼24.94mm(両眼間の差;0.47mm)右眼にオルソK開始,3年後:右眼24.48mm,左眼24.99mm(両眼間の差;0.51mm)図4UAMの近視眼に対してオルソケラトロジー(オルソK)治療を行った自験例9歳,女児.UAMによる眼精疲労の症状にて,左眼の近視眼にオルソCK治療+0.01%アトロピン(AT)点眼の併用療法,右眼の正視眼にC0.01%CAT点眼開始となった.治療開始からCALの両眼間の差は順調に改善し,症状の改善を認めたが,治療C2年後には右眼も近視眼による視力低下を認め,左眼同様にオルソCKの開始となり,現在はCALの両眼間の差の悪化は認められていない.図5BAMにおける眼鏡装用群とオルソケラトロジー(オルソK)群の1年間の近視進行量の比較オルソCK群では,近視度の大きい眼のCAL伸長量は,近視度の小さい眼の伸長量と比べ有意に少なく,1年間の治療によりALの不同視は有意に改善した.一方,眼鏡群では,AL伸長量は両眼でほぼ同等であり,1年間の治療でCALの不同視の改善は認められなかった.(文献C18より改変引用)–

レッドライト治療による近視抑制

2025年2月28日 金曜日

レッドライト治療による近視抑制RepeatedLow-LevelRed-LightTherapyforMyopiaControlinChildren李惇馥*はじめに中国では,可視光線による光治療機器がC2008年から弱視治療用として認可を受けて,中国国内の病院で使用されていた.2012年には,弱視治療に対する光治療の有効性が国際誌でも報告されている1).2014年に本機器で用いられる赤色光に,近視眼での過剰な眼軸伸展を抑制する効果があることが偶発的に発見された.その後,中国から長波長の可視光線である赤色光が高い近視進行抑制効果を有するという研究結果が報告されている2.5).中国国内ではレッドライト治療に対する近視進行抑制効果の知見が集積したことから,この光治療装置は,弱視治療用だけでなく近視治療用としても中国の国家食品薬品監督管理局(ChinaCFoodandCDrugCAdministration:CFDA,現在はCNationalCMedicalCProductsCAdministra-tion:NMPA)に承認された.2024年C10月現在,本機器は日本では未承認であるが,30カ国以上で医療機器として許可されており(図1),全世界ですでにC15万人以上の小児に使用されている.CIレッドライト治療の近視進行抑制効果と副作用1.レッドライト治療の初年度の成績2021年以降,レッドライト治療の近視進行抑制効果に関する研究結果が報告されるようになり1.4),中山眼科センターのCHeらのグループが,レッドライト治療に対する大規模な多施設共同無作為化比較試験での非常に良好なC12カ月の中間成績を報告し話題となった2).この研究は,8.13歳の近視(.1.00..5.00D)の中国人小児C264人を,レッドライト治療群(1600ルクス/C650.nm/2.mW/1日2回3分/週5日)と,単焦点眼鏡(single-visionspectacles:SVS)群に割り当てた比較試験である.1年後,SVS群の眼軸伸展量はC0.38Cmmであったのに対し,レッドライト治療群ではC0.13Cmmの伸展であった.また,SVS群の近視進行量は.0.79Dであったのに対し,レッドライト治療群では.0.20Dであった.レッドライト治療の近視進行抑制効果はCSVS群と比較して,眼軸長でC69.4%,近視度数でC76.6%もの高い効果が得られた.75%以上のコンプライアンス良好群のみを抽出した場合,近視進行抑制効果は眼軸長でC76.8%,近視度数でC87.7%であった.一般的に,近視の進行は不可逆性と考えられる眼軸伸展を特徴とするが,レッドライト治療群ではCSVS群と比較して有意な眼軸伸展抑制が得られるだけでなく,12カ月間の治療後にC0.05Cmm以上の眼軸長の短縮がC21.6%の患児で観察された.C2.レッドライト治療の2年目の成績とリバウンドさらにCHeらのグループは,1年間の比較試験の続報として,2年目のフォローアップスタディをC2022年に報告した3).2年目フォローアップスタディでは,1年目のレッドライト治療群・SVS群はぞれぞれレッドライトC2年継続群,レッドライト-SVS変更群,SVS2年*JunfukuLee:東京科学大学眼科学教室〔別刷請求先〕李惇馥:〒113-8519東京都文京区湯島C1-5-45東京科学大学眼科学教室C0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(65)C199地域承認状況安全基準(IEC60825-1:2014)ヨーロッパCEマーククラスⅡaイギリスMHRA(医療品・衣料製品規制庁)クラスⅡaニュージーランドMedsafe(医薬品医療機器安全当局)クラスⅡaオーストラリアTGA(保健省薬品・医薬品行政局)クラスⅡa中国CFDA(中国食品薬品監督管理総局)クラスⅢトルコTMMDA(薬品・医療機器庁)クラスⅡaマレーシアMDA(医療機器庁)クラスBメーカーHP使用説明動画https://www.eyerisihttps://vimeo.com/nginternational.com/803740195図1近視治療用機器Eyerising(アイライジング)とその承認状況レッドライト治療装置は中国国内ではさまざまな機器が流通している.EyerisingInternational社(オーストラリア)のCEyerising近視治療用機器は,中国,オーストラリア,英国,欧州(EU),ニュージーランド,トルコ,マレーシアの世界C7地域ですでに医療機器として認可され,ISO13485認証を取得している機器である.文献C2.5において有効性と安全性が詳細に評価されている.動画サイトに説明動画(上記QRコード)が公開されている.-(mm)0.8SVS-SVSSVS-RLRL0.6RLRL-SVSRLRL-RLRL0.40.20.0期間図2レッドライト治療の眼軸伸展抑制効果とリバウンド赤色のレッドライト(repeatedClow-levelred-lightCtherapy:RLRL)2年継続群の眼軸伸展抑制効果は,青色の単焦点眼鏡(single-visionCspectacles:SVS)2年継続群と比較して約C75%であった.黄色のC1年目でレッドライト治療を中断した群では,中断後に赤色の継続群よりも速い眼軸伸展が観察された.リバウンドの程度は,青色のCSVS2年継続群のC2年目の進行速度より速いものの,青色のCSVS2年継続群のC1年目の進行速度と同程度であることから,中程度と判断された.なお,緑色の2年目に単焦点眼鏡からレッドライト治療に切り替えた群では,最終的にC2番目に高いC22.6%の眼軸伸展抑制効果を得ることができた.(文献C3より引用)眼軸長の変化01361224(カ月)PhaseonePhasetwo0.8-0.05ChangesinAL(mm)0.60.200.150.40.100.20.050.000.0012-0.10baseline1month3months6monthsTime(Months)図3異なるレッドライト出力での眼軸長伸展抑制効果の違いすべての異なる出力のレッドライト治療(low-levelCred-lighttherapy:LRL)群において,Control群(単焦点眼鏡装用)と比較して,有意な眼軸長伸展抑制効果が認められた.三つの出力間で平均眼軸長伸展量に有意差は認めなかったが,より高い出力のほうが効果的であることが示唆された.(文献C7より引用)Time(months)OKgroupOK-RLRLgroup図4オルソケラトロジー単独治療群vsレッドライト併用療法群での眼軸長伸展量の比較オルソケラトロジー治療C1年目(フェーズC1)に,0.30Cmm以上眼軸長が伸展したC7-15歳までの患児を,オルソケラトロジー単独治療群(OK,Cn=45)とレッドライト併用療法群(OK-RLRL,Cn=55)に分け検討した.OK-RLRL群ではCOK群よりも眼軸長伸展が有意に低いのみならず,過剰な眼軸長伸展は完全に抑制された(OK-RLRL群;C.0.10±0.16CmmCvsOK群;0.30C±0.19.mm,p<0.001).(文献C9より引用)C-

多焦点ソフトコンタクトレンズによる近視抑制

2025年2月28日 金曜日

多焦点ソフトコンタクトレンズによる近視抑制MyopiaControlwithMultifocalContactLenses二宮さゆり*はじめにわが国で近視抑制治療用コンタクトレンズ(contactlens:CL)といえば,オルソケラトロジー(以下,オルソK)が認知されはじめ,徐々に処方も広まりつつある段階である.しかし,世界は一歩先を行っており,オルソKは当たり前,近視抑制治療用の多焦点ソフトCL(myopiacontrolsoftCL:MCSCL)や近視治療用特殊眼鏡の処方に注目が移っている.MCSCLの処方割合がオルソKを上回ったという2021年の調査結果からも(図1)1),CLによる近視抑制治療は,処方者にとって処方が比較的容易なMCSCLに向かう流れとなるだろう.世界ではさまざまなMCSCLが開発され,販売されている.表1に代表的なMCSCLを示すが,ここではわが国でMCSCLとして承認をめざし臨床治験が進んでいるMiSight1day(クーパービジョン)とSEED1day-PureEDOFMiddle(シード)に絞って解説する.IMiSight1dayMiSightは,すでに世界30カ国以上の国々でMCSCLとして承認を受け販売されており,わが国でも承認に向けた臨床治験が進んでいる.東アジア地域では中国,韓国が最近承認を得て販売開始となっているが,両国内では臨床治験は行われておらず,米国食品医薬品局(FDA)による治験結果などを受けて認可されたという.よって,わが国で実施されている臨床治験からアジア人におけるMiSight1dayの近視抑制効果を知りたいとい%2017年2021年806040200MCSCLオルソKMCSCLオルソK図1世界におけるコンタクトレンズを用いた近視進行抑制治療の傾向2021年の調査ではMCSCLの処方割合がオルソKを上回っていた.(文献1をもとに作成)う期待も高まっている.MiSightのレンズ素材は高含水ハイドロゲル(Oma.lconA)で,治療開始時の年齢は8.12歳,等価球面値.0.75..4.00D,乱視度数0.75D以下の子どもを対象としている.レンズ度数の制作範囲は.7.00Dまでだが,今後は.10.00Dまで拡大される予定である(販売国による).また現時点では乱視の強い眼には対応していない.1.メカニズム中心に遠用度数があり,周辺に向かって+2.00D加入部と交互に配置された2重焦点デザインとなっている(図2).この加入部分が作り出す軸上および軸外の近視性収差により,眼軸伸長が抑制されると考えられている.*SayuriNinomiya:伊丹中央眼科〔別刷請求先〕二宮さゆり:〒664-0851兵庫県伊丹市中央1-5-1伊丹中央眼科0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(57)191表1代表的な近視抑制治療用多焦点ソフトコンタクトレンズ(MCSCL)製品名MiSight1daySEED1dayPureEDOF(Middle)MYLO(1M交換)ACUVUEAbiliti1-DayNaturalVueEnhancedMultifocal1DayMeniconBloomDay販売会社CooperVisionSEEDMark’ennovyJohnson&JohnsonVisionVisioneeringTechnologies,IncMenicon光学性と製品特長中心遠用の2重焦同心円状に交互に配置された+2.00D加入ゾーンが近視性軸上軸外収差を生む.遠方・中方・近方の度数を年輪状に連続的に配置し,EDOF効果とともに近視性軸上軸外収差を生む設計.遠用度数,+7.00Dの非同軸性加入度数,+10.00Dの同軸性加入度数が同心円状に配置されている.中心遠用のEDOF.仮想ピンホール効果.軸上および軸外の近視性軸外収差を生む.制作度数.0.25..10.00D+5.00..12.00D.0.25..15.00D.0.25..8.00D+4.00..12.25D.0.25..12.25D乱視タイプあり.0.75..8.00D(0.25Dstep)全乱視軸(1°step)Add効果最大+3.00D程度Add効果は瞳孔径依存最大で+6.00.+8.00D素材ハイドロゲルOma.lconA含水率:60%Dk/L:22.8※ハイドロゲルSBI(両性イオン素材)含水率:58%Dk/L:42.9※シリコーンハイドロゲルFilcon5B含水率:75%Dk/L:50※シリコーンハイドロゲルSeno.lconA含水率:38%Dk/L:121※ハイドロゲルEta.lconA含水率:58%Dk/L:33※直径z14.2mmz14.2mmz13.50.15.50mm(0.50mmstep)z13.8mmz14.5mmベースカーブ8.7mm8.4mm7.10.9.80mm(0.30mmstep)7.9mm8.3mm臨床治験終了臨床治験進行中※単位:×10.9(cm・mLO2/sec・mL・mmHg)(.3.00Dの場合)表に示したもの以外にも世界でさまざまなMCSCLが開発され,販売されている.遠用度数図2MiSightの光学デザイン中心に遠用度数があり,周辺に向かって+2.00D加入部と交互に配置されている.表2MiSight長期治験の被験者詳細コントロール群(n=74)MiSight群(n=70)p年齢10.1±1.410.1±1.3.83範囲8-128-1210歳未満42(57%)40(57%)10.12歳32(43%)30(43%)性別男性37(50%)38(54%).62女性37(50%)32(46%)人種白人40(54%)39(56%).79東アジア人18(24%)16(23%)西アジア人7(9%)5(7%)その他4(5%)2(3%)混血5(7%)8(11%)眼数n=148n=140等価球面値(D).2.19±0.81.2.02±0.77.08範囲.0.83..4.00.0.77..3.77乱視度数(D).0.40±0.21.0.40±0.21.82範囲0.00..0.750.00..0.75眼軸長24.46±0.7024.42±0.66.90範囲23.0.27.022.7.26.0被験者の約半数は白人という人種構成である.長期7年前向き8~18歳多施設ランダム化比較試験Part3(1年)リバウンドを調べる(mm)10.80.60.40.20図3MiSightの臨床治験計画(7年間)治験は抑制効果,持続効果,リバウンドを調べるC3部構成となっている.(文献2.4を基に作成)CPart1Part2Part3効果を調べる持続効果を調べるリバウンドを調べる012243648607284経過時間(月)図4Misightの臨床治験(眼軸長変化)Part1(3年間)の近視抑制効果は,眼軸長でC52%であった.(文献C4をもとに作成)眼軸長の変化眼数181614121086420-0.25-0.26to-0.50-0.51to-0.75-0.76to-1.00-1.01to-1.25-1.26to-1.50-1.51to-1.75-1.76to-2.00-2.01to-2.25-2.26to-2.50>-2.50-0.01to.+0.75+0.50to+0.74+0.25to+0.490.00to+0.243年間の屈折の変化図5MiSightの臨床治験(屈折変化分布比較,3年間)MiSight装用眼のC41%(図中の赤囲み)では,3年間の近視の進行がC.0.25D以下であった.(文献C2をもとに作成)年間の近視進行度数(D)-1.50-1.25-1.00-0.75-0.50-0.250.00単焦点SCLMiSight789101112装用開始年齢図6MiSightの臨床治験(装用開始年齢と近視抑制効果)装用開始年齢にかかわらず,約C50%の近視抑制効果が得られていた.(文献C5をもとに作成)1.00.80.60.40.20.0Through-Focus網膜後方網膜上-1.00.80.60.40.20.0Through-Focus網膜後方網膜上Log(RetinalImageQuality)0-1-2-3-4-5瞳孔径3.00mm瞳孔径5.00mm0+1.00+2.00defocus(D)図9EDOF(Mid)の網膜像ピーク位置網膜像のピーク位置は.0.25.C.0.75D程度近方寄りとなっている(瞳孔径により異なる).-

オルソケラトロジーによる近視抑制

2025年2月28日 金曜日

オルソケラトロジーによる近視抑制MyopiaControlthroughOrthokeratology平岡孝浩*I初の症例報告2004年にCheungら1)によってオルソケラトロジー(以下,オルソK)の初のケースレポートがなされた.片眼だけにオルソK治療を施した11歳男児の2年間の眼軸長変化を調べたところ,治療眼の眼軸長伸長は僚眼よりも1/2以下(治療眼0.13mmvs僚眼0.34mm)に抑えられていることが報告された1).IIパイロット研究2005年にはChoら2)により2年間のパイロット研究の結果が報告された.オルソK継続群では眼鏡対照群と比較して46%の眼軸長伸長抑制効果が確認された.また,Wallineら3)はソフトコンタクトレンズ(softcon-tactlens:SCL)装用群を対照とした2年間の縦断研究を行い,オルソK治療群では対照群よりも56%抑制されていることを明らかにした.ただし,これらの研究で用いられた対照群のデータは,他の報告からの引用(historicaldata)であり,真の対照群を設定していないことからエビデンスレベルは低い(Level2b)といわざるをえなかい2,3).しかし,これらの研究結果を受けて,オルソKの眼軸長伸長抑制効果が世界的に注目されるようになった.III非ランダム化比較試験2011年に世界初の非ランダム化比較試験(Level2a)の結果がわが国から報告された.Kakitaら4)は単焦点眼鏡群を対照群として設定した2年間の前向き研究を行ったが,非接触型光学式眼軸長測定装置のIOLMaster(CarlZeissMeditec)を初めて導入することによって,学童においても正確な眼軸長測定を行うことに成功した.その結果,日本人学童において2年間で36%の眼軸長伸長抑制効果が確認された.2012年にスペインのSantodomingo-Rubido5)らはまったく同じプロトコルを用いて白人を対象とした2年間の前向き研究を行い,32%の眼軸長伸長抑制効果を確認した.IVランダム化比較試験2012年,香港のChoら6)のグループにより,retarda-tionofmyopiainorthokeratology(ROMIO)studyというはじめてのランダム化比較試験〔randomizedcon-trolledtrial:RCT(Level1b)〕の結果が報告され,オルソK群は単焦点眼鏡群と比較して2年間で43%の眼軸長伸長抑制が達成されており,治療開始年齢が若い(7.8歳)ほうが抑制効果が強く得られていることが示された.さらに同グループは,強度近視眼に対してオルソKで.4Dだけ部分的に近視矯正を行い,残存した近視度数に対して眼鏡を装用させる(たとえば.7Dの症例に対して.4DはオルソK,残りの.3Dは眼鏡で矯正する)というhighmyopia-partialreductionオルソKと命名されたRCTを行った.2年間の眼軸長変化が検討*TakahiroHiraoka:筑波大学医学医療系眼科〔別刷請求先〕平岡孝浩:〒305-8575茨城県つくば市天王台1-1-1筑波大学医学医療系眼科0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(47)1812年間の眼軸長伸長抑制効果70%60%50%40%30%0.90y=0.147×+0.2050.800.60y=0.115×+0.010.70ChangesinAL(mm)0.50TwinA0.200.400.3020%TwinB0.100.006mth12mth18mth24mth10%0%文献5文献4文献6文献2文献8文献3文献7図2一卵性双生児の眼軸長変化)TwinA()はオルソK治療を受けており,TwinB(図1オルソKの眼軸長伸長抑制効果の既報比較は単焦点眼鏡を処方されている.横軸は時間経過を示すが,代表的な臨床研究(2年間)の結果を示す.OK群は対照群(単TwinAでは治療開始後6カ月時点で半分以下の眼軸長変化焦点眼鏡もしくはSCL)と比較して32.63%の眼軸長伸長抑に留まっており,TwinBよりも抑制されていることが明ら制効果が得られている.かである.2年の経過を通して,この差が保たれていることもわかる.(文献9より引用)眼軸長(mm)27.026.526.025.525.024.524.023.523.0pre1Y2Y3Y4Y5Y時間(年)図3オルソK群と眼鏡群における5年間の眼軸長変化両群とも年々有意に眼軸長は伸長していくが,両群の差が徐々に広がっていくのがわかる.開始時点では両群の眼軸長に有意差はないが,1年目以降はオルソK群の眼軸長は眼鏡群より有意に短い.(文献16より改変引用)*10年間の近視進行度数(D)-6-5-4-3-2-10治療開始時の年齢(歳)図4治療開始年齢毎の10年間近視進行比較横軸は治療開始年齢,縦軸はC10年間での近視進行度数を示す.たとえばC8歳で治療を開始した場合に,オルソCKではC10年間で約C1.6Dの近視進行がみられるが,単焦点CSCL群では約C3.5Dであり,有意差をもってオルソCK群での近視進行が抑制されているのがわかる.同様に,いずれの開始年齢においてもオルソCK群の近視進行はCSCL群よりも抑制されており,16歳以外では有意差が認められた.(文献C18より改変引用)ab結像面結像面周辺部遠視性デフォーカス遠視性デフォーカスの改善図5周辺部遠視性デフォーカスa:眼鏡(凹レンズ)で近視矯正すると,周辺部に遠視性デフォーカス(焦点ぼけ)を生じ,これが眼軸を伸長(近視を進行)させるトリガーとなる.Cb:オルソCK後は角膜中央がフラット化し近視が軽減するが,周辺部角膜はスティープ化するため周辺での屈折力が増し,その結果,周辺網膜像での遠視性デフォーカスが改善する.そのため眼軸長伸長が抑制され,近視進行が鈍化すると考えられている.1年間の眼軸長変化(mm)0.60.50.40.30.20.10-0.20.8-0.1-0.2眼球のコマ様収差変化量(μm)r=-0.461p=0.000300.20.40.6図6オルソK治療眼におけるコマ様収差と眼軸長の関連横軸にC1年間のコマ様収差変化量,縦軸にC1年間の眼軸長変化量をプロットした散布図である.コマ様収差の増加が大きい症例ほど,眼軸長の伸長が抑えられている.逆にコマ様収差の変化が少ない症例では眼軸長の伸びが大きい.これらの関係から高次収差は眼軸長伸長に対して抑制的に働いている可能性が示唆されている.(文献C23より改変引用)ことを意味する.2020年には続報が報告され26),2年間の治療継続の結果,オルソCK+0.01%アトロピン点眼併用群ではオルソCK単独群よりもC28%強い抑制効果が示された.しかし,弱度近視(C.1.00.C.3.00D)と中等度近視(C.3.01.C.6.00D)に分けてサブグループ解析を行うと,弱度近視ではオルソCK+アトロピン併用群はオルソCK単独群よりも有意に抑制されていたが,中等度近視では群間の有意差が認められなかった.これらの結果から,弱度近視眼ではオルソCKの眼軸長伸長抑制効果が比較的弱いため,アトロピンの相加効果が期待できるが,中等度近視眼ではオルソCKの眼軸長抑制効果が十分に強いため,アトロピンの相加効果は限局的であると考察している.また,類似のCRCTが香港でも行われており,comC-binedCatropineCwithorthokeratology(AOK)studyとよばれている27).本研究でもC6.11歳の近視学童に併用治療(AOK群)もしくは単独治療(オルソCK群)を施し,眼軸長の変化を検討しているが,AOK群のC1年間の眼軸長変化は,対照のオルソCK単独群よりもC0.09Cmm抑制されており,Kinoshitaら25)の結果ときわめて類似していたと報告している.しかし,2年間の経過観察を行った続報では,併用群は単独群よりも約C50%の眼軸長伸長抑制を達成しており,Kinoshitaら26)のC2年間の結果よりも強い効果が確認された28).AOKstudyではC.3.00Dを超える中等度以上の近視眼においても,弱度近視眼(C.1.00.C.3.00D)と同様に併用による相加効果が認められたとしており,この点でCKinoshitaらの結果と異なる.この理由については定かではないが,試験方法や対象の違いが示唆されている.さらに,AOKstudyにおいて高次収差や瞳孔径の影響を検討した報告も公開されており29),AOK群の眼軸長変化量は明所瞳孔径の拡大やいくつかの高次収差成分と有意に相関したことから,併用群ではアトロピンによる瞳孔拡大効果により光学的な作用がエンハンスされ,近視進行抑制効果を増大した可能性が示唆されている.CXIIIオプティカルゾーン縮小による抑制効果のエンハンスさらに抑制効果を高めるための工夫として,レンズ中央部のCopticalzoneを小さくする試みが行われている.すなわちCbackCopticCzonediameters(BOZD)を通常の6Cmm径からC5Cmm径へと縮小することにより,より強い眼軸長伸長抑制効果(1年間でC0.13Cmm)を得たという報告がなされた30).BOZDの縮小に伴い角膜のトリートメントゾーン(treatmentzone:TZ)の直径も小さくなるが,TZサイズと眼軸長伸長には有意な相関(TZサイズが小さいほうが眼軸長が伸びにくい)がみられた.このメカニズムとして周辺部デフォーカスへの影響や高次収差の増加が示唆されている.CXIV中止後のリバウンドオルソCKに関しては,Choら31)により行われたCdiscon-tinuationCofCorthokeratologyConCeyeballCelongation(DOEE)というリバウンド研究が報告されている.かなり複雑な試験デザインであるため,以下に概要を解説する.DOEEではCROMIOstudy6)とCTO-SEEstudy8)という別のCRCTに参加してすでにC2年間オルソCK治療を継続していたC8.14歳のC31症例が再エントリーし,そのうちC16症例はそのままオルソCKを継続し(orthokeratolo-gycontinue,OKc群),残りのC15症例はオルソCKを一時中止し代わりに単焦点眼鏡を装用し(orthokeratologydiscontinue,OKd群),まずC7カ月間の経過が観察された(phase1).続いて,OKd群はオルソCKを再開し,さらにC7カ月フォローアップされ(phase2),合計C14カ月に及ぶ検討がなされている.対照群(control群)に関してもC13症例が上記のCRCTから再エントリーしている.まとめると,OKc群はCphase1とC2の全期間を通してオルソCKを継続しており,OKd群はCphase1の7カ月間だけ治療を中止して,後半のC7カ月間はオルソKを行い,Control群は全期間にわたり単焦点眼鏡を装用していたということになる.そして対象期間の平均眼軸長変化量を算出したところ,OKc群でC0.087mm(phase1),0.068Cmm(phase2),OKd群でC0.153Cmm(phase1),0.059Cmm(phase2),Control群でC0.082Cmm(phase1),0.064Cmm(phase2)という結果が得られ,Cphase1にのみ有意差が認められた(OKd群>OKc群,Control群)(図7).これらの結果から,オルソCKの中186あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025(52)Axialelongation(mm)1.41.210.80.60.40.20-0.206121824303642Time(month)図7オルソK中止後のリバウンド縦軸に眼軸長,横軸に月数をとった眼軸長変化曲線.合計C38カ月の変化が提示されているが,DOEE研究としてリバウンドを評価したのはC24カ月以降である(赤線で囲んだ四角内).OKd群(黒丸)はCPhaseI(24.31カ月)で急激に眼軸長が伸びており,これはオルソCK中止によるリバウンド現象と考えられている.PhaseII(31.38カ月)ではオルソCKを再開したことによりCOKd群の眼軸長変化が小さくなっている.(文献C31より引用)も伴いやすい.ケア方法,とくに洗浄法が間違っていないことを確認する.C4.角膜輪状鉄沈着(cornealironring)角膜中間周辺部,とくにリバースカーブに一致して茶褐色でリング状の色素沈着が角膜浅層に認められることがある.これはCcornealCironringとよばれ,角膜上皮内に鉄分が環状に沈着することにより生じると考えられている.リバースカーブ部に相当する角膜上皮層は,その厚さを増し角膜表面のカーブに急激な変化がみられる箇所である.さらにレンズ後面の溝状構造により,その部に相当するレンズ下には涙液の貯留がみられ(tearCreservoirzone),涙液中の鉄分が沈着しやすいと考えられる.しかし,病的な変化ではなく,視機能にも影響を及ぼさないため,この所見が出現しても治療を継続して問題ないと考えられている.治療を中止するとこの輪状沈着は消失することも知られている.C5.感染性角膜潰瘍本レンズのみならず夜間装用のレンズを処方する場合は,角膜感染症のリスクが増加することを常に念頭に置く必要がある.CL装用に伴うもっとも恐ろしい合併症であるといっても過言ではない.その発生頻度は決して高くないものの,いったん発症すればきわめて重篤となる.睡眠中の瞬目の消失や眼球運動の減少は病原体の除去機能を妨げ,角膜表面の涙液交換も減少するため,涙液中に含まれる免疫グロブリンやラクトフェリン,リゾチウムといった涙液蛋白による抗菌作用も減弱する.起因菌としては緑膿菌やアカントアメーバが圧倒的に多い.2013年の米国からの報告では,オルソCK患者C1,317人のレトロスペクティブデータから感染性角膜炎の頻度を求めており,7.7回/1万人/年と推定された32).2021年のロシアからの報告ではC4.9.5.3回/1万人/年とされ,1日使い捨てCSCLの感染頻度と変わらない頻度まで低下したことが示された33).最近のわが国のデータでも5.4回/10,000人/年と算出されており34),ロシアからの報告と同等であった.これらのデータから,オルソCK関連感染性角膜炎は減少傾向であると解釈でき,処方者の知恵と努力によりデメリットを克服し,近視進行抑制効果という大きなメリットを最大限に生かす工夫が繰り返されてきた結果が現れていると考えられる.C6.角膜内皮細胞酸素供給低下による内皮障害が懸念されていたが,現在までに明らかな内皮障害は報告されていない.C7.ハロー・グレアLaserCinCsitukeratomileusis(LASIK)と同様,角膜屈折矯正治療においては宿命ともいえる合併症である.センタリングが良好であっても,患者の瞳孔径に比してトリートメントゾーンサイズが小さい場合にはハロー・グレアの原因となる.とくに瞳孔径が大きくなる夜間は症状が強くなりやすい.近視矯正量が増えると有効なトリートメントゾーンが小さくなる傾向があるので注意が必要である.C8.不正乱視・高次収差オルソCKは積極的に角膜形状を変化させるため,不正乱視や高次収差の問題は避けて通れない.レンズのセンタリングが良好でも球面収差の増加は避けられず,レンズが偏心すればコマ様収差の増加へとつながる.しかし,これらの変化は近視矯正量に相関することが報告されており,過度の矯正をしなければ不正乱視や高次収差の発生も許容できる範囲となることが多い.これらの変化は通常の屈折・視力検査やスリットランプでは評価できないため,角膜トポグラフィーや波面センサーによる評価を行う.C9.コントラスト感度低下,薄暮時視機能低下角膜不正乱視や眼球高次収差の増加と相関して,コントラスト感度や薄暮時の視機能が低下し,さらに患者の満足度も低下するという報告がなされている.やはり,近視矯正量が大きくなるとこれらの視機能低下も強くなると考えられている.おわりにオルソCKの眼軸長伸長抑制効果は,多数の研究報告の蓄積により最高エビデンスレベルまで到達し,既報に188あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025(54)基づけばC2年間で3.6割程度の抑制効果が期待できる.最近ではC7年,10年といった長期経過の検討も報告され,光学的アプローチによる近視進行抑制法としては中心的な地位を確立しつつある.さらに低濃度アトロピン点眼との併用療法に関しても研究が進んでおり,より強い効果が期待されている.しかし,介在する真の近視進行抑制メカニズムは依然として解明されておらず,また,最大限の効果を得るための治療開始年齢や継続期間が不明である.さらに,中止後のリバウンド現象や他の治療法へ切り替えた際の効果維持評価も今後の検討課題である.なお,近視進行抑制効果を追求するあまり,過度の矯正を行うことは絶対に避けなければならない.安全性を担保してはじめて近視進行抑制の恩恵を受けることができる.感染性角膜潰瘍を生じた場合はきわめて重篤な障害を残す可能性があるため,レンズケアを含めた患者教育や定期検査をはじめ,通常のコンタクトレンズ診療以上に厳格に管理する必要があることを強調しておく.文献1)CheungCSW,CChoCP,CFanD:AsymmetricalCincreaseCinCaxiallengthinthetwoeyesofamonocularorthokeratolo-gypatient.OptomVisSciC81:653-656,C20042)ChoCP,CCheungCSW,CEdwardsM:TheClongitudinalCortho-keratologyresearchinchildren(LORIC)inHongKong:apilotCstudyConCrefractiveCchangesCandCmyopicCcontrol.CCurrEyeResC30:71-80,C20053)WallineCJJ,CJonesCLA,CSinnottLT:CornealCreshapingCandCmyopiaCprogression.CBrCJCOphthalmolC93:1181-1185,C20094)KakitaCT,CHiraokaCT,COshikaT:In.uenceCofCovernightCorthokeratologyConCaxialClengthCelongationCinCchildhoodCmyopia.InvestOphthalmolVisSciC52:2170-2174,C20115)Santodomingo-RubidoJ,Villa-CollarC,GilmartinBetal:CMyopiaCcontrolCwithCorthokeratologyCcontactClensesCinSpain:refractiveCandCbiometricCchanges.CInvestCOphthal-molVisSciC53:5060-5065,C20126)ChoCP,CCheungSW:RetardationCofCmyopiaCinCorthokera-tology(ROMIO)study:a2-yearrandomizedclinicaltrial.CInvestOphthalmolVisSciC53:7077-7085,C20127)CharmCJ,CChoP:HighCmyopia-partialCreductionCortho-K:aC2-yearCrandomizedCstudy.COptomCVisCSciC90:530-539,C20138)ChenCC,CCheungCSW,CChoP:MyopiaCcontrolCusingCtoricorthokeratology(TO-SEEstudy)C.CInvestCOphthalmolCVisCSciC54:6510-6517,C20139)ChanCKY,CCheungCSW,CChoP:OrthokeratologyCforCslow-ingCmyopicCprogressionCinCaCpairCofCidenticalCtwins.CContCLensAnteriorEyeC37:116-119,C201410)LiCSM,CKangCMT,CWuCSSCetal:E.cacy,CsafetyCandCacceptabilityCofCorthokeratologyConCslowingCaxialCelonga-tionCinCmyopicCchildrenCbyCmeta-analysis.CCurrCEyeCResC41:600-608,C201511)SunCY,CXuCF,CZhangCTCetal:OrthokeratologyCtoCcontrolmyopiaCprogression:aCmeta-analysis.CPLoSCOneC10:Ce0124535,C201512)SiCJK,CTangCK,CBiCHSCetal:OrthokeratologyCforCmyopiacontrol:aCmeta-analysis.COptomCVisCSciC92:252-257,C201513)WenD,HuangJ,ChenHetal:E.cacyandacceptabilityoforthokeratologyforslowingmyopicprogressioninchil-dren:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CJCOphthal-molC2015:360806,C201514)VanderVeenCDK,CKrakerCRT,CPinelesCSLCetal:UseCofCorthokeratologyCforCtheCpreventionCofCmyopicCprogressionCinchildren:aCreportCbyCtheCAmericanCacademyCofCoph-thalmology.OphthalmologyC126:623-636,C201915)FuAC,ChenXL,LvYetal:HighersphericalequivalentrefractiveerrorsisassociatedwithsloweraxialelongationwearingCorthokeratology.CContCLensCAnteriorCEyeC39:C62-66,C201616)HiraokaCT,CKakitaCT,COkamotoCFCetal:Long-termCe.ectCofovernightorthokeratologyonaxiallengthelongationinchildhoodmyopia:aC5-yearCfollow-upCstudy.CInvestCOph-thalmolVisSci.53:3913-3919,C201217)Santodomingo-RubidoJ,Villa-CollarC,GilmartinBetal:CLong-termCe.cacyCofCorthokeratologyCcontactClensCwearCinCcontrollingCtheCprogressionCofCchildhoodCmyopia.CCurrCEyeResC42:713-720,C201718)HiraokaCT,CSekineCY,COkamotoCFCetal:SafetyCandCe.cacyCfollowingCten-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低濃度アトロピン点眼による近視抑制

2025年2月28日 金曜日

低濃度アトロピン点眼による近視抑制MyopiaControlviaLow-ConcentrationAtropine中村葉*Iアトロピンとはアトロピンはムスカリン受容体拮抗薬である.ムスカリン受容体は,一般的に副交感神経からの情報伝達をする物質(神経伝達物質)であるアセチルコリンの受容体であり,M1.M5のサブタイプがある.アトロピンはM1.M5のすべての受容体に対して拮抗作用を示すことがわかっている.ムスカリン受容体はさまざまな部位に存在するため,アトロピンの抗コリン作用(副交感神経遮断作用)を利用して胃・十二指腸潰瘍の疼痛緩和,尿管・胆管の疼痛緩和,麻酔前投薬や房室伝導障害による不整脈など,さまざまな疾患に対してアトロピンが用いられる.眼組織におけるムスカリン受容体は,おもに毛様体筋や瞳孔括約筋などの平滑筋,涙腺など腺組織に分布するM3受容体である.眼科においてアトロピンは,毛様体筋への作用を利用して調節麻痺薬として一般的に用いられてきた薬剤である.その他の眼組織の部位として角膜や結膜,網膜,強膜,水晶体上皮,脈絡膜血管内皮などにもさまざまなムスカリン受容体が存在することがわかっている.IIアトロピンの近視進行抑制効果の作用機序アトロピンは近視進行抑制効果を示すが,その理由についてはいまだに不明な部分が多い.光学的な機序により,近視進行抑制効果を示すオルソケラトロジーや多焦点コンタクトレンズ,デフォーカス眼鏡などは,網膜後方へのデフォーカスを抑制することがおもな作用機序と考えられている.対して,アトロピンの薬理作用はムスカリン受容体が存在する組織で発揮されるが,ヒトの眼におけるムスカリン受容体の作用機序自体がすべて解明されているわけではない.アトロピンの作用として,眼においてもっとも顕著に現れるのは,副交感神経遮断作用としての毛様体筋麻痺による調節麻痺および瞳孔括約筋麻痺による散瞳である.以前より近業作業と近視の関連性について指摘されてきたが,近業作業時の調節負荷が近視のトリガーとなるのかどうかについては,いまだに統一見解がないのが現状である.調節負荷が近視のトリガーであれば,アトロピンの調節麻痺作用が近視進行抑制効果をもつのは当然と考えられる.調節をかけることによって,眼球の形状変化やぶどう膜の血流変化が起こる可能性についても考えられている.動物実験においては,おもに形態覚遮断により近視誘導をさせて実験を行うことが多いが,この近視実験系においては調節をかけることなく近視が進行することを考えると,調節のみで近視化するのではないことがわかる.ヒヨコではムスカリン受容体ではなくニコチン受容体を通じて視機能が調整されるといわれており,動物種によってムスカリン受容体の分布や作用機序には差があるため,動物実験の結果をそのままヒトの機序として採用してよいかどうかについても注意が必要である.*YoNakamura:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学,四条烏丸眼科小室クリニック〔別刷請求先〕中村葉:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(37)171以下にいくつかの仮説を列挙する.1.網膜説網膜にはM1.M5すべてのムスカリン受容体が存在し,アマクリン細胞におけるドーパミン産生が減少することによって近視が進行している可能性が指摘されている.アトロピンの硝子体内投与によりドーパミンが増加し,近視進行を抑制する可能性がおもにヒヨコやマウスによる研究結果として報告されている1).ウサギでは点眼が網膜に到達したとの報告もあり,ヒトでも同様に結膜から強膜,脈絡膜を透過し,バリアーを通り抜けて網膜に到達する可能性もありうる.2.強膜説強膜の線維芽細胞にもM1.M5すべてのムスカリン受容体が存在することがわかっており,眼軸伸長との関連性が指摘されている2).直接的な作用点としては受け入れやすい考え方ではあるが,強膜はおもにコラーゲン線維組織であり,細胞成分が少ないことを考えると,効果器として作用が大きいのかどうかには疑問が残る.3.脈絡膜説脈絡膜の血流増加と近視進行抑制効果についての報告も出ている.モルモットにアトロピン結膜下注射をすると脈絡膜の血流が増加し,強膜の虚血のマーカーが減少し,強膜の菲薄化を抑制している可能性が示唆されている3).また,脈絡膜血流についてはヒトにおいても光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)にて測定が可能となってきているため,アトロピン点眼により濃度依存性に脈絡膜の血流が増加し,近視進行抑制効果と関連している可能性が示唆されている4).脈絡膜の血管内皮細胞にはM3受容体があり,拮抗薬では血流が下がるため逆の効果となるが,脈絡膜血管はおもに交感神経支配であること,視機能を保つために脈絡膜血管は血圧変動などの影響を受けにくい構造となっていることなどを考慮したうえで,アトロピンの直接作用であるのかどうかについてはさらなる検討が必要である.以上,研究結果からさまざまな作用機序が検討されているところである5).作用機序が明らかになれば,選択的に近視進行抑制効果を発揮し,副作用の少ない薬剤が登場する可能性を秘めている.III近視進行抑制効果に関する研究報告アトロピン点眼による近視進行抑制治療は,1930年代からすでに行われており,日本においても1940年代に研究が行われていた.当時行われていたのはアトロピン1%点眼による研究であり,点眼時には効果があるが点眼終了後には効果がなくなることや,羞明・調節麻痺作用の副作用が大きかったことが,そのまま治療として定着しなかった原因と考えられる.その後,1970年代にも数多くのレトロスペクティブスタディが行われ,1980年代以降にランダム化比較試験が行われるようになってきた.これらの研究のなかで,低濃度アトロピン点眼の有効性についてエビデンスを確立してきた報告について解説する.1.ATOMstudy(シンガポール)シンガポールで行われたAtropineforthetreatofchildhoodmyopia(ATOM)-1studyは,2006年に最初に報告されており,現在の低濃度アトロピン治療の流れを作るきっかけとなった研究の一つである6).6.12歳,屈折度数.1.0..6.0Dの学童において片眼1%アトロピン点眼,もう片眼プラセボ点眼のアトロピン点眼群と両眼プラセボ点眼のコントロール群に群分けした二重盲検ランダム化比較試験である.この研究では,1%アトロピン点眼群のアトロピン点眼した眼において屈折度(2年間で0.92D),眼軸長(Aモード測定,2年間で0.38mm)ともに近視進行抑制効果が認められた(図1)7).しかし,点眼中止によって1%アトロピン点眼群はプラセボ点眼群と比較して近視の進行が早くなり,点眼中止後にプラセボ点眼群に追いついてしまうリバウンド現象が問題となった8).このリバウンド現象の機序については明らかとなっていないが,受容体のアップレギュレーションも機序の一つである可能性がある.その後,同グループが行ったATOM-2studyでは,年間0.5D以上近視進行の認められる.2.0..6.0Dの6.12歳学童において,0.5,0.1,0.01%の濃度設定をして,両眼点眼にて2年経過観察後,1年間点眼を中止し172あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025(38)等価球面度数の変化量(D)0-.2-.4-.6-.8-1-1.2-1.4-1.6-1.8-206121824303642485460MonthPlacebo(ATOM1)A0.01%A0.1%A0.5%A1.0%(ATOM1)図1ATOM-Study1%,0.5%,0.1%,0.01%のアトロピン点眼群とプラセボ点眼群の経過.1年後の中止によって濃度の高い点眼群のほうがプラセボ点眼群の近視の進行よりも早くなるリバウンド現象が生じた.途中中止ののち,0.5%,0.1%群の中で年間0.5D以上近視の進行した症例は0.01%に切り替えて最終5年までの経過観察を行った.その結果,途中中止期間を含めると0.01%アトロピン点眼はリバウンドが少なく有効性が高かった.(文献7より改変引用)a0ベースライン1年2年3年等価球面度数の変化量(D)-0.2-0.4-0.6-0.8-1-1.2-1.4-1.6-1.80.05%(3年目点眼継続)0.05%(3年目中止)0.025%(3年目点眼継続)0.025%(3年目中止)0.01%(3年目点眼継続)0.01%(3年目中止)プラセボ⇒1Y後0.05%に切り替えb10.90.8眼軸長の変化量(mm)0.70.60.50.40.30.20.10ベースライン1年2年3年0.05%(3年目点眼継続)0.025%(3年目点眼継続)0.01%(3年目点眼継続)0.05%(3年目中止)0.025%(3年目中止)0.01%(3年目中止)プラセボ⇒1Y後0.05%に切り替え図2LAMPstudy0.05%,0.025%,0.01%のアトロピン点眼群とプラセボ群の経過.1年後プラセボ群はC0.05%に切り替え,2年後にはプラセボ群以外は継続群と中止群にわけてC3年経過観察した.その結果,屈折度(Ca)および眼軸長(Cb)においても濃度依存性に近視進行抑制効果を認めた.中止によって濃度依存性にリバウンド現象を生じたが,有効性・安全性を考慮してC0.05%が最適な濃度と考えられる.(文献C9より改変引用)等価球面度数のベースライン(2W)からの変化量(D)0.40.20.0-0.2-0.4-0.6-0.8-1.0-1.2-1.4-1.6-1.8-2.0Follow-UpTime-Point図3ATOM-JStudy日本人学童においてC0.01%アトロピン点眼群とプラセボ群のC2年経過で屈折度および眼軸長で近視進行抑制効果を確認できた.(文献C10より引用)0.80.70.60.50.40.30.20.100.05%0.025%0.01%■ATOMStudy■LAMPStudy■ATOM-JStudy図4おもな報告の近視進行抑制効果のまとめATOM-JStudyは他の報告よりも効果が少なかったが,有効性は確認できた.濃度依存性に有効である.a0投与期間Ⅰ調節麻痺下他覚等価球面度数(mm.ベースラインからの変化量)(D.ベースラインからの変化量)-0.5-1-1.5-2-2.5ベースライン4812162024来院(月)b1.2投与期間Ⅰ10.80.60.40.20眼軸長ベースライン4812162024来院(月)図5日本におけるDE-127治験の結果報告0.025%アトロピン,0.01%アトロピン,プラセボ点眼群のC2年間の屈折度(Ca)と眼軸長(Cb)の経過.低濃度アトロピンは濃度依存性に有効である.(文献C17より引用)くるかもしれない.また,あまり積極的ではない保護者の場合は,1年間にC0.5Dの近視化は進行ととらえられるため,経過観察を行い説明のうえで点眼を開始するのも一つの方法である.C2.副作用前述のように,副作用としてもっとも生じる確率が高いのは羞明の自覚である.0.01%ではC3.5%程度の頻度であるが,0.025%では報告にもよるがC10.20%と,濃度が高くなれば副作用の頻度も上がる.羞明を感じていても日常生活に支障をきたさなければ継続できる場合もあるが,日常生活に支障をきたす場合は,濃度を落とすか調光レンズのように羞明を予防する眼鏡処方が必要となってくる.つぎに多い副作用は近見障害だが,頻度はかなり低く,わずかの自覚があっても日常生活に支障をきたす症例はほとんどない.現状ではC5年経過程度の期間の報告が多く,長期投与における副作用の出現については,いまだ不明な点も多いが,これまでその他の重篤な副作用については報告されていない.冒頭で述べたようにムスカリン受容体は眼以外のさまざまな部位にも存在するため,全身疾患(とくに心血管系の疾患)のある場合は主治医への確認が必要であると考える.C3.経過観察経過観察としては,6カ月ごとに屈折度および眼軸長の測定をすることがよいと考えている.近視進行の評価について,1年間にC0.5D以上進行した場合を進行とする場合,6カ月ではC0.25Dとなる.通常診療時C0.25Dの屈折差は調節の状態によっては誤差範囲に入ってしまう可能性もあるため,毎回サイプレジン点眼による調節麻痺下の屈折検査が行える場合は,6カ月C0.25Dを進行ととらえてもよいのかもしれない.少なくともC6カ月で0.5Dの進行があれば,なんらかの追加治療を検討する必要があるのではないか.眼軸長については,年齢によって違いはあるものの,小学生であれば年間平均C0.3Cmm程度の眼軸伸長があるため16),6カ月であればC0.15Cmm以上の伸長を近視進行ととらえるといった考え方もありうる.年齢によっても眼軸長の伸長には違いがあることには注意が必要である.いつまで継続するのかについては,リバウンドを考慮する必要がある.経過観察中に進行が止まっていたとしても,15歳くらいまでは継続したほうがよいと考えられ,その後は漸減して中止する.もちろん,近視が進行する患者では,少なくともC10代の間は併用療法を行いながら継続したほうがよいと考える.おわりに日本人におけるC0.025%アトロピン点眼の有効性が参天製薬の治験により確認された(図5)17).同社はC2024年,厚生労働省にアトロピン硫酸塩水和物点眼液の製造販売承認を申請し,12月に承認を得ている.有効性の確認された処方薬が出て,承認された近視治療ができることは大きなメリットである.今後さらに日本人における処方例が増えることによって,適応や経過観察のスタンダードが確立されることを期待する.文献1)ThomsonCK,CKellyCT,CKaroutaCCCetal:InsightsCintoCtheCmechanismCbyCwhichCatropineCinhibitsmyopia:evidenceCagainstCcholinergicChyperactivityCandCmodulationCofCdopa-minerelease.BrJPharmocolC178:4501-4517,C20212)BarathiCVA,CBeuermanRW:MolecularCmechanismsCofCmuscarinicreceptorsinmousescleral.broblasts:PriortoandCafterCinductionCofCexperimentalCmyopiaCwithCatropineCtreatment.MolVisC17:680-692,C20113)ZhouCX,CZhangCS,CZhangCGCetal:IncreasedCchoroidalCbloodCperfusionCcanCinhibitCformCdeprivationCmyopiaCinCGuineapigs.InvestOphthalmolVisSciC61:25,C20204)YamJC,JiangY,LeeJetal:TheassociationofchoroidalthickeningCbyCatropineCwithCtreatmentCe.ectsCforCmyo-pia:two-yearCclinicalCtrialCofCtheClow-concentrationCatro-pineCformyopiaCprogression(LAMP)study.CAmCJCOph-thalmolC237:130-138,C20225)UpadhyayCA,CBeuermanRW:BiologicalCmechanismsCofCatropineCcontrolCofCmyopia.CEyeCContactCLensC46:129-135,C20206)ChuaCWH,CBalakrishnanCV,CChanCYHCetal:AtropineCforCtheCtreatmentCofCchildhoodCmyopia.COphthalmologyC113:C2285-2291,C20067)ChiaCA,CLuCQS,CTanD:Five-YearCclinicalCtrialConCatro-pineCforCtheCtreatmentCofCmyopiaC2:MyopiaCcontrolCwithCatropineC0.01%Ceyedrops.COphthalmologyC123:391-399,178あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025(44)–

眼鏡による近視抑制

2025年2月28日 金曜日

眼鏡による近視抑制MyopiaPreventionviaSpectacles不二門尚*はじめに近視人口の増加が世界的に問題になっている.2050年までに世界の人口の約半数が近視になり,10分の1が高度近視になると予測されている1).近視性合併症は,中高年になってから生じるため,将来における視覚障害者の増加を防ぐためには,小児期の近視進行抑制が必要になる.歴史的には,低矯正眼鏡が近視進行抑制に有効だと考えられてきたが,近年のメタ解析の結果では,完全矯正眼鏡装用者のほうが低矯正眼鏡装用者より,近視進行が少ないと報告されている2).現在進行形でさまざまな近視進行予防の臨床試験が行われている.近視進行抑制眼鏡はわが国では未承認だが,侵襲性が低いため,早期発症の近視の小児に対する介入法として有用な選択肢となる.本稿では近視抑制眼鏡のコンセプトと,歴史的経過,最近注目されている特殊な眼鏡の成績,リバウンドなどについて概説する.I累進多焦点(二重焦点)眼鏡による近視進行抑制視軸上の遠視性のボケが近視を誘起することは,実験近視で示されてきた3,4)(図1).また,近見時には調節ラグ(理論的な調節量と,実際に誘発される調節量の差)が増大することにより,網膜上の遠視性のボケが生じることが示され,累進多焦点眼鏡の近視進行抑制の理論的根拠となった.臨床研究では,COMETstudyやOKAYAMAstudyで累進多焦点眼鏡の近視進行抑制効果は示されたが,抑制効果は年に0.1diopter(D)程度で臨床的に有意な効果ではないとされた.二重焦点(executive)眼鏡は,遠用部と近用部の境界がはっきりしており,累進多焦点眼鏡と比較して,近視進行予防効果が大きいという報告がある(近用部にprismを基底内方に入れると近視抑制効果がより大きい)5).II軸外収差理論に基づく眼鏡による近視進行抑制サルの黄斑部網膜をレーザー光凝固しても実験近視(凹レンズ誘起性近視および形態覚遮断性近視)が起きること6),臨床的にも中間周辺部網膜に網膜有髄神経のある患者(図2)で近視化することなどから,軸外(周辺部網膜)の遠視性,または遮断性のボケが近視を誘起すると考えられてきた.軸外収差を理論的に抑制する眼鏡は,中国における臨床試験のサブグループ解析で近視進行抑制に有効であることが示唆されたが7),わが国における多施設研究では近視進行の抑制効果を示すことはできなかった8).これは,眼鏡では視線がレンズの中心以外の方向を向いている場合,軸外収差を抑制する効果が十分発揮されないためと考えられた.*TakashiFujikado:大阪大学大学院生命機能研究科脳神経工学講座〔別刷請求先〕不二門尚:〒565-0871大阪府吹田市山田丘1-4CiNet内3B3-2大阪大学大学院生命機能研究科脳神経工学講座0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(29)163abd100-10-20-30-40-20-10010負荷レンズ値(d)網膜より後ろに焦点を結ぶボケ→眼軸長延長図1凹レンズ負荷による近視化の機構(実験近視)a,b:成長期のひよこの片眼に.18Dのゴーグルを装着させて飼育すると(a),装着眼の眼軸が対照眼と比較して伸びる(b).c,d:近視化は,負荷レンズの度数に応じて起きる(c)ことから,網膜より後ろに焦点を結ぶ遠視性のボケが,眼軸延長のトリガーになる(d)と考えられている.屈折値の左右差(d)ab図2中間周辺部の網膜有髄神経線維による近視化左眼の中間周辺部網膜に網膜有髄神経線維が存在するC6歳男児の眼底写真.Ca:右眼,正常.右眼視力(1.5C×sph+0.25D(cyl.1.5DAx180°).b:左眼,網膜有髄神経線維.左眼視力(0.2C×sph.5.0D(cyl.2.0DAx155°).中心窩に問題がなくても,中間周辺部の視細胞への結像が遮断されると近視化することが推察された症例.Cab網膜より前に焦点を結ぶボケ→眼軸伸長抑制図3凸レンズ負荷による近視化抑制の機構(実験近視)a,b:成長期のひよこの片眼に+16Dのゴーグルを装着させて飼育すると(Ca),装着眼の眼軸が対照眼と比較して短くなる(Cb).これは,網膜より前に焦点を結ぶ近視性のボケが眼軸伸長を抑制するトリガーになることを示唆する.図4周辺部網膜への近視性ボケを形成するコンセプトのレンズの光学defocusincorporatedmultisegment(DIMS)眼鏡レンズは,中心部C9Cmmは通常の単焦点レンズで,周辺部に+3.5Dの小さなレンズ(直径C1.03Cmm)を配置し,周辺部網膜への近視性ボケを形成するコンセプトになっている.経過期間(月)a061218243036424854606672b00.8-0.250.70.60.50.40.30.2近視進行度(mm)-0.5-0.75-1-1.25-1.50.1-1.7500612182430364248546066経過期間(月)図5DIMS眼鏡レンズ装用開始から6年後までの近視進行度(等価球面値の変化)と眼軸長伸長度a:近視進行度(等価球面値の変化).b:眼軸長伸長度.第C1群はC0.6年間CDIMS眼鏡を装用(青線),第C2群はC0.3.5年間CDIMS眼鏡を装用し,その後単焦点眼鏡装用に変更(緑線),第C3群は最初のC2年間は単焦点眼鏡を装用し,その後CDIMS眼鏡に変更(黒線),第C4群は最初のC2年間は単焦点眼鏡を装用し,1.5年間CDIMS眼鏡装用に変更し,その後再び単焦点眼鏡に変更した(赤線).実線はCDIMS眼鏡装用時,点線は単焦点眼鏡装用時の値を示す.3.5年からC6年までCDIMS眼鏡から単焦点眼鏡に変更した群(2群,4群)での等価球面値および眼軸の変化は,同年齢の近視の小児の変化と大きく変わらず,リバウンドはほぼないとしている.(文献C11より改変引用)a単焦点領域(中央9mm)b小玉のφ=1.12mm中央の単焦点領域φ=9mm図6DIMS眼鏡レンズ(a)とHALTレンズ(b)の構造a:DIMS眼鏡レンズは中心部C9Cmmは通常の単焦点レンズで,周辺部に配置された小さなレンズの直径,球面度数もほぼ同じである.b:HALT(highlyasphericallensletstarget)レンズの小玉は非球面性の高い設計となっている点が眼鏡CDIMSレンズと異なっている.いずれも,周辺部網膜への近視性ボケを形成するコンセプトは同じである.(文献C12より改変引用)a図7DOTレンズ(a)およびCAREレンズ(b)の構造a:DOT(di.usionopticstechnology)レンズは,中心部は単焦点レンズである点はCDIMSレンズやCHALTレンズと同様であるが,レンズ周辺部に拡散板を配置している点が異なっている.入射光を拡散板で軽度に散乱させることにより,網膜像のコントラストをわずかに低下させることで近視を抑制するコンセプトである.b:CARE(cylindricalCannularCrefractiveelement)レンズは,レンズ周辺部に同心円状に細い円柱レンズが多数配置された構造になっている.周辺部網膜に高次収差によるボケを作るコンセプトである.(文献C11より改変引用)-0.80-0.60-0.40-0.200.000.200.400.600.80図8低矯正眼鏡と完全矯正眼鏡による近視進行度の差モノビジョン矯正,非矯正,および完全矯正における近視進行の平均差およびC95%信頼区間(CI)のフォレストプロット.半分以上の報告で低矯正眼鏡は完全矯正眼鏡より近視化を促進するという報告がされている.(文献C2より改変引用)-’C-