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考える手術:Hydrus緑内障マイクロステントによる白内障併用緑内障手術

2026年7月31日 金曜日

考える手術監修松井良諭・奥村直毅Hydrus緑内障マイクロステントによる白内障併用緑内障手術庄司拓平小江戸眼科内科/埼玉医科大学眼科HydrusMicrostent(以下,Hydrus)はIvantis社が開発しAlcon社が取り扱うニチノール製のSch-lemm管内留置型デバイスである.全長8mmで約90°にわたりSchlemm管を拡張・支持し,前房側のinletから房水をSchlemm管へ導く.線維柱帯をバイパスするだけでなく,留置範囲のSchlemm管を足場として拡張し,複数の集合管への流出経路を確保する点が特徴である.低侵襲緑内障手術(MIGS)の一つであり,白内障を合併した初期.中期の原発開放隅角緑内障(広義)および落屑緑内障が適応となる.術前には隅角鏡で開放隅角,周辺虹彩前癒着の有無,Schlemm管の視認性を確認する.進行例や正常眼圧緑内障で一桁台.十台前半mmHgの眼圧を目標とする患者には白内障併用緑内障手術(Phaco-Hydrus)単独では目標眼圧達成が困難な場合があるため,慎重に適応を判断する.手技では顕微鏡と頭位を調整し,隅角鏡下にSchlemm管を正確に同定することが最重要である.筆者は連続円形切.(CCC)作製後,水晶体乳化前にHydrusを挿入する.粘弾性物質で前房を安定させ,インジェクター先端で線維柱帯を穿破し,鼻側Schlemm管内へデバイスを進める.抵抗を感じたら押し込まず先端位置を再確認する.留置後はinlet(流入口)が前房側に残り,sca.old部がSchlemm管内に展開されていることを確認する.多施設RCTのHORIZON試験では,Phaco-Hydrusは白内障手術単独に比べ眼圧下降および点眼薬数の減少に優れ,5年成績でも効果持続,二期的緑内障手術への移行リスク低下,視野進行抑制が示された1,2).合併症として前房出血,一過性眼圧上昇,留置位置異常,PAS形成,inlet閉塞などに注意し,術後は眼圧・視野進行に加え隅角鏡でデバイス位置を継続的に確認する.聞き手:どのような患者が対象となりますか?ています.とくに点眼を使用していても眼圧をさらに下庄司:Hydrusは白内障手術と同時に施行でき,結膜をげたい患者,点眼アドヒアランスに課題がある患者,薬切開しないため,将来の濾過手術やチューブシャント手剤数を減らしたい患者がよい適応と考えます.白内障手術に備えて結膜を温存できる点が大きな利点です.わが術単独よりも追加の眼圧下降と点眼薬数の減少が期待で国の使用要件では,白内障を合併した初期.中期の原発き,患者のCQOL改善にもつながります.一方で,隅角開放隅角緑内障(広義)または落屑緑内障が対象とされ視認性が不良な患者,周辺虹彩前癒着が強い患者,角膜(73)あたらしい眼科Vol.43,No.7,2026C7890910-1810/26/\100/頁/JCOPY考える手術内皮細胞密度が低い患者では,慎重な判断が必要です.また,正常眼圧緑内障や進行緑内障で一桁台.十台前半の眼圧を目標とする場合は,Hydrusのみでは達成困難なことがあります.そのような患者には点眼追加や他のMIGS,あるいは二期的な濾過手術の可能性も含めて治療計画を立てる必要があります.聞き手:他のCMIGSデバイスとの違い,使い分けを教えてください.庄司:私の病院ではCMIGS術式としてCmicrohook法,CiStentCinjectW,Hydrusを患者ごとに選択します.CiStentCinjectWは操作が比較的シンプルで出血が少ない傾向があります.一方,HydrusはCSchlemm管内に長く留置されるため,より広い範囲の流出路に作用することが期待されます.Microhook法は眼内にデバイスを残さず,白内障非合併例にも単独で施行しやすいなど,柔軟性がありますが,術後一過性の前房出血は比較的多くなります.Hydrusは留置型デバイスで再現性が高い反面,位置異常,周辺虹彩前癒着形成,inlet閉塞,虹彩接触などCHydrus特有の注意点があります.したがって,術式選択では病期,僚眼の状態,目標眼圧,隅角形態,白内障の有無,点眼負担,患者背景,術者の習熟度を総合的に判断することが重要です.聞き手:手術手技のポイントを教えてください.庄司:もっとも重要なのは,隅角鏡下でCSchlemm管を正確に同定することです.患者の頭位,顕微鏡の傾き,隅角鏡の位置を安定させ,線維柱帯とCSchlemm管の走行を明瞭に確認してから操作を開始します.インジェクター先端で線維柱帯を穿破する際は,過度な力をかけないことが肝要です.抵抗を感じた場合には,そのまま押し進めず,いったん先端位置を確認します.無理な挿入はCSchlemm管外への迷入や後壁穿孔につながります.私は白内障手術のCCCC作製後,水晶体乳化前の段階でHydrusを挿入しています.メイン創を大きく開ける前に行うことで,Schlemm管からの逆血や粘弾性物質の漏出による前房不安定化を抑えやすくなります.また,前房深度と隅角視認性が保たれた状態で操作できるため,Schlemm管を確認しやすい利点があります.留置後はCinletが前房側に適切に残り,sca.old部がCSch-lemm管内に展開されていることを確認します.術後は,眼圧だけでなく,隅角鏡でデバイス位置,PAS形成,虹彩接触,inlet閉塞の有無を確認します.適切に留置されていれば,デバイスが角膜内皮に過度に近接することは多くありませんが,角膜内皮細胞密度は定期的に測定することが望ましいです.聞き手:術後の長期管理について教えてください.庄司:術後管理は基本的には白内障手術後の標準的な点眼レジメンに準じます.濾過手術と異なり,濾過胞管理,縫合調整などが不要ですので,外来管理は比較的容易です.ただし,MIGSであっても術後早期の眼圧上昇や前房出血には注意が必要です.術後早期に一過性眼圧上昇を認めた場合は,粘弾性物質の残存,前房出血,炎症,ステロイド反応,inlet閉塞などを鑑別します.必要に応じて緑内障点眼薬を短期的に追加し,炎症所見や眼圧推移をみながらステロイド点眼の減量・変更を検討します.前房出血は多くの場合軽度で,数日以内に自然吸収されますが,眼圧上昇を伴う場合には慎重に経過をみます.HORIZON試験ではCPhaco-Hydrusは白内障手術単独に比べ,眼圧下降および点眼薬数の減少に優れ,5年成績でも効果の持続と二期的緑内障手術への移行リスク低下が示されています1,2).また,5年データを用いた視野解析では,白内障手術単独群と比べて視野進行が有意に抑制されたと報告されており3),長期的な疾患管理の観点からも注目されます.私の病院でもC12カ月以上の観察でおおむね安定した眼圧推移を認めていますが,わが国での長期多施設データは今後さらに蓄積が必要です.症例ごとの目標眼圧とリスクを踏まえて選択することが重要です.文献1)AhmedCIIK,CDeCFrancescoCT,CRheeCDCetal:Long-termCoutcomesfromtheHORIZONrandomizedtrialforaSch-lemm’scanalmicrostentincombinationcataractandglau-comasurgery.OphthalmologyC129:742-751,C20222)MontesanoCG,COmettoCG,CAhmedCIIKCetal:Five-yearCvisualC.eldCoutcomesCofCtheCHORIZONCtrial.CAmCJCOph-thalmol251:143-155,C2023☆☆☆790あたらしい眼科Vol.43,No.7,2026(74)

抗VEGF治療セミナー:パキコロイド疾患と抗VEGF療法

2026年7月31日 金曜日

●連載◯監修=安川力五味文169149パキコロイド疾患と抗VEGF療法三原直久寺崎寛人鹿児島大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野アジア人の新生血管型加齢黄斑変性ではドルーゼンを欠き,脈絡膜大血管の異常を基盤とするパキコロイド病態が重要である.Pachychoroidneovasculopathyは抗CVEGF薬におおむね良好に反応するが,一部に治療反応性が不十分な患者が存在する.その際は病態を考慮し,光線力学的療法併用を含めた治療の最適化を検討することが重要である.はじめに新生血管型加齢黄斑変性(neovascularCage-relatedCmaculardegeneration:nAMD)は,欧米ではドルーゼンを基盤とした網膜色素上皮(retinalCpigmentCepitheli-um:RPE)障害が中心的病態とされてきた.しかし,日本人を含むアジア人ではドルーゼンを伴わないnAMDが半数以上を占めるとも報告されており,欧米とは異なる発症基盤を有していることが明らかになってきた1).実際,ドルーゼンを伴わないCnAMD患者の中には,脈絡膜が厚く,Haller層とよばれる脈絡膜大血管の拡張を伴うなど,従来のCnAMDとは異なる特徴を示す症例が存在することが次第に認識されるようになった(図1).こうした臨床所見の蓄積を背景に,脈絡膜病態に着目したパキコロイド疾患という概念が提唱された1).パキコロイド病態の概念とスペクトラムパキコロイドとは,脈絡膜大血管の拡張(pachyves-sel),脈絡膜血管透過性亢進(choroidalvascularhyper-permeability:CVH),脈絡膜うっ血,脈絡毛細血管板の菲薄化など,脈絡膜血管構造および循環動態の異常を基盤とした病態概念である.単なる脈絡膜肥厚をさすのではなく,これらの脈絡膜側の異常を背景としてCRPE障害や漿液性網膜.離が生じ,最終的に黄斑新生血管(macularneovascularization:MNV)形成へ至る点に特徴がある.このパキコロイドの病態は,中心性漿液性脈絡網膜症(centralCserouschorioretinopathy:CSC)やCpachycho-roidpigmentCepitheliopathy(PPE)といったCRPE異常の段階から,MNVを伴うCpachychoroidCneovasculopa-thy(PNV),さらにCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCwithpachychoroidへと連続するスペクトラム病として整理される.近年,こうした臨床的区別を支持する所見として,遺伝学的な差異も報告されている.補体系関連(71)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPYab図1ドルーゼン依存型nAMDとパキコロイドを背景とするnAMDa:ドルーゼン(.)を伴うnAMD.OCTで脈絡膜は薄く(赤線),従来型(drusen依存型)nAMDの所見を示す.b:ドルーゼンを伴わないCnAMD.OCTで脈絡膜は肥厚し(赤線),大型脈絡膜血管の拡張を伴うCPNVの所見を示す.遺伝子において,ドルーゼン依存型CnAMDとパキコロイドを背景にもつCnAMDとで異なる遺伝学的関連が示され,両者が異なる病態軸を有する可能性が示唆されている2,3).CPNVおける抗VEGF薬療法の反応性と基本戦略パキコロイドの背景をもつCnAMDであるCPNVに対しても,治療の第一選択は抗CVEGF薬療法である1).近年の日本人を対象とした研究において,PNVと従来型(ドルーゼン依存型)nAMDの抗CVEGF療法後の視力改善には有意な差が認められないと報告されている.PNVは導入期以降の網膜下液や浮腫の制御が比較的良好であり,treatandextendで投与間隔が延ばしやあたらしい眼科Vol.43,No.7,2026787すく,再治療回数が少ない傾向が示されている4).これらの知見は,PNVが従来型CnAMDと比較して形態学的制御や治療負担の点で抗CVEGF薬に良好な反応性を示す可能性を支持している.一方で,脈絡膜うっ血やCpachyvesselが高度な患者では,MNVの活動が抑制されても脈絡膜側の異常が残存し,滲出が遷延する,治療間隔が十分に延ばせない,再発が早いといった経過をたどることがある.このような場合,滲出がCMNVの活動のみならず脈絡膜循環異常にも依存している可能性を考慮し,VEGFを標的とした治療の限界を意識して治療方針を検討する必要がある.CPNVに対する抗VEGF薬併用光線力学的療法の位置づけと筆者の治療戦略抗CVEGF療法で十分な制御が得られない患者では,治療抵抗性の背景として脈絡膜側病態の関与が示唆される.そのような患者に対しては,脈絡膜循環に直接作用しうる光線力学的療法(photodynamicCtherapy:PDT)の併用を考慮している.PDTはpachyvesselの縮小や脈絡膜血管透過性の改善を通じて,抗CVEGF薬では制御しきれない脈絡膜側病態に作用する点が特徴である(図2).PNVに対する抗CVEGF薬併用CPDTの報告では,追加治療を要する割合はおおむねC5~20%とされ,滲出の改善や再発抑制が得られる患者が多い5).脈絡膜が厚く,pachyvesselが顕著で,CVHが残存し,網膜下液が遷延するような患者では,抗CVEGF薬単独では治療間隔が短縮しやすい一方,PDTを追加することで脈絡膜側の異常が安定し,治療間隔を延ばせる場合がある.このような利点から,筆者らは抗CVEGF薬の継続投与が経C788あたらしい眼科Vol.43,No.7,2026図2抗VEGF薬抵抗性PNVに対しPDT併用が有効であった症例a:54歳,男性.初診時のCOCT所見.厚い脈絡膜を背景にCMNVを認め,網膜下液(subretinalfluid:SRF)およびフィブリン沈着を伴っている.矯正視力はC0.5.Cb:抗VEGF薬をC3回導入後のCOCT所見.SRFの消失は得られず,滲出は遷延している.PDTを実施.Cc:PDT施行C3カ月後のCOCT所見.SRFは完全に消失し,脈絡膜厚の減少を認める.矯正視力(1.0)の改善を認めた.その後C1年間,再発や追加治療は認めなかった.d:初診時のインドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)後期像.病変部を中心にCVH(C○)を認める.Ce:PDT施行C3カ月後のCIA後期像.CVHの消失(C○),脈絡膜循環異常の改善が示唆された.済的に困難な場合や,離島・僻地在住などの理由で頻回通院がむずかしい患者においても,治療負担軽減の観点からCPDTを選択肢として考慮することがある.一方で,PDT後の合併症には注意が必要である.PNVは一般にCtype1MNVに相当し,PCVと比べて出血リスクは低いとされるが,黄斑下出血が生じた場合には重篤な視機能低下を残す可能性があるため,治療後の経過観察には細心の注意を要する.PDTは施行可能な施設が限られていることから,治療の基本軸はあくまで抗CVEGF療法とし,反応性や脈絡膜所見の経時的変化を踏まえて段階的にCPDTの追加を判断している.パキコロイド背景を適切に評価し,抗VEGF薬とCPDTの役割を整理しながら治療を組み立てることが,実臨床におけるCnAMD管理において合理的であると考えている.文献1)日本網膜硝子体学会新生血管型加齢黄斑変性診療ガイドライン作成ワーキンググループ:新生血管型加齢黄斑変性の診療ガイドライン.日眼会誌128:680-698,C20242)YanagiY:Pachychoroiddisease:aCnewCperspectiveConCexudativeCmaculopathy.CJpnCJCOphthalmolC64:323-337,C20203)CheungCCMG,CLeeCWK,CKoizumiCHCetal:Pachychoroiddisease.Eye(Lond)C33:14-33,C20194)YoonCJ,CYoonCW,CNaCSKCetal:Long-termCoutcomeCofCintravitrealCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCtreat-mentCforCpachychoroidCneovasculopathy.CSciCRepC11:C12052,C20215)寺崎寛人,椎原秀樹,船津諒ほか:Pachychoroidneovas-culopathyに対する光線力学的療法単独療法と抗血管内皮増殖因子薬治療の治療成績.日眼会誌127:1119-1126,C2023(72)

緑内障セミナー:緑内障疫学調査でわかったこと

2026年7月31日 金曜日

●連載◯309監修=福地健郎中野匡309.緑内障疫学調査でわかったこと藤原康太九州大学大学院医学研究院眼科学分野福岡県久山町での地域住民調査では,緑内障有病率はC7.6%であり,13人にC1人が緑内障を有していた.加齢に伴い緑内障有病率は上昇し,とくに高齢者では落屑緑内障の割合が多くなっていた.眼科的因子のほかに全身因子との関連も明らかとなり,新たに角膜ヒステリシスとの関連も認められている.●はじめに視覚障害原因の第C1位である緑内障は,高齢化の進展に伴い今後さらに増加することが懸念され,その実態把握と予防策の構築が求められている.わが国における代表的な地域住民ベースの疫学研究にC2000年に岐阜県多治見市で実施された多治見スタディがある.多治見スタディでは,全緑内障の有病率はC5.0%,広義の原発開放隅角緑内障(primaryCopen-angleCglaucoma:POAG)の有病率はC3.9%であり,約C20人にC1人が緑内障を有していた.また,おもな関連因子として加齢・眼圧・近視が報告されている.緑内障は多因子疾患であり,眼科的因子のみならず全身因子の関与も指摘されていることから,全身要因との関連性にも注目が集まっている.筆者らは緑内障の実態把握と全身因子との関連を明らかにすることを目的に,福岡県久山町において緑内障疫学調査を実施した.C●緑内障の有病率対象はC2017~2018年に受診したC40歳以上の住民3,405名とし,緑内障スクリーニング検査にはステレオ眼底写真およびスウェプトソース光干渉断層計(swept-soursCopticalCcoherencetomography:SS-OCT)を使用し,国際基準であるCInternationalCSocietyCforCGeo-graphicalCandCEpidemiologicalCOphthalmology(ISGEO)の基準で緑内障診断を行った1).本調査での緑内障を有する者はC259名で,有病率はC7.6%であった.すなわち,40歳以上の約C13人にC1人が緑内障を有していた.年齢階級別にみるとC40代の有病率はC2.7%で,年齢の上昇とともに病率は増加し,70歳以上ではC11.5%に達しC40代の約C4倍となっていた(図1).病型別にみるとPOAGが大部分を占めてるが,落屑緑内障の有病率は(69)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPY1.1%であり既報と比較して高かった.落屑緑内障の原因となる落屑症候群の分布には地域差があり,九州地方で多いことが報告されているため,それが高い有病率の要因になった可能性が考えられる.C●緑内障と関連する因子全身因子を含めて緑内障との関連を検討した結果,POAGでは加齢,眼圧上昇,眼軸の伸長,角膜厚の菲薄化が有意な関連因子となった.全身因子では腎機能低下がオッズ比C1.15と有意な上昇を示した.原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)では,加齢および女性でオッズ比が高く,全身因子では糖尿病でオッズ比が高くなった.落屑緑内障で加齢と角膜厚の菲薄化が関連し,糖尿病でのオッズ比も上昇した.このように緑内障の病型により関連因子は異なり,病型ごとに全身因子の関与が示唆される結果となっている.有病率(%)15.012.09.06.03.00.040~4950~5960~69≧70年齢階級(歳)図1年齢階級別の緑内障有病率(文献C1より改変引用)あたらしい眼科Vol.43,No.7,2026785オッズ比2.01.00.0(n)(571)(640)(572)(555)≦8.78.8~9.59.6~10.2≧10.3CHレベル(mmHg)図2角膜ヒステリシスと緑内障との関連調整因子:年齢,性別,高血圧,糖尿病,血清総コレステロール,BMI,eGFR,喫煙習慣,飲酒習慣,運動習慣,眼圧,眼軸,角膜厚,緑内障点眼治療.C●角膜ヒステリシスとの関連角膜の生体力学的特性は,空気刺激に対する角膜反応を検出した角膜ヒステリシス(cornealhysteresis:CH)として定量化される.CHは緑内障患者で低値を示し,CHが低いと緑内障進行リスクが上昇することが病院ベースの研究で報告されている.しかし,地域住民を対象としてCCHと緑内障の関連を検討した疫学研究は限られていたため調査を行った.久山町の地域住民C2,338名を対象にした解析では,平均CCHはC9.5mmHgとなり,緑内障群ではC9.1CmmHgと正常群に比べ有意に低値を示した.緑内障との関連では,高CCH群(≧10.3mmHg)に対して,低CCH群(≦8.7CmmHg)における緑内障のオッズ比はC1.9と有意に上昇し,多変量調整後もこの関連は維持された(図2).病型別にみても,CHが低下するほどCPOAGおよび落屑緑内障を有するオッズ比は上昇し,とくに落屑緑内障では関連が強くなった2).これらの結果から,CHの低下は緑内障の独立した関連因子であることが推察された.機序として,CHは視神経篩状板の脆弱性を反映するマーカーとなっている可能性が考えられる.落屑緑内障の発症には篩状板の脆弱性が関与することが指摘されており3),本研究で落屑緑内障においても関連がみられたことは,この機序を示唆する結果と考えられた.C●おわりにわが国では地域住民を対象とした追跡研究が少ないため,緑内障に関する疫学的エビデンスの蓄積が重要である.追跡研究によって関連因子との因果関係を検証できるため,緑内障の発症予防を実現するには継続的な調査が不可欠であり,あわせて緑内障の病態解明にも寄与するものと考える.文献1)FujiwaraCK,CYasudaCM,CHataCJCetal:PrevalenceCofCglau-comaCandCitsCsystemicCriskCfactorsCinCaCgeneralCJapanesepopulation:CTheHisayamastudy.TranslVisSciTechnol11:11,C20222)FujiwaraCK,CUedaCE,CHataCJCetal:AssociationCbetweenCcornealChysteresisCandCglaucomaCinCaCJapaneseCpopula-tion:CtheCHisayamaCStudy.CBrCJCOphthalmolC108:1204-1209,C20243)BraunsmannC,HammerCM,RheinlaenderJetal:Evalu-ationCofClaminaCcribrosaCandCperipapillaryCscleraCsti.nessCinCpseudoexfoliationCandCnormalCeyesCbyCatomicCforceCmicroscopy.CInvestCOphthalmolCVisCSciC53:2960-2967,C2012C786あたらしい眼科Vol.43,No.7,2026(70)

屈折矯正手術セミナー:Light adjustable lensの老視治療への使用

2026年7月31日 金曜日

●連載◯314監修=稗田牧神谷和孝314.Lightadjustablelensの老視市川慶総合青山病院/中京眼科/治療への使用グランドセントラルタワーCTokyoアイクリニックLightAdjustableLens(LAL)(RxSight社)は白内障術後に実際の見え方を患者に体験してもらいながら度数調整が行える眼内レンズである.今回,老視治療も考慮し焦点深度を少し拡張したCLAL+を使用し,良好な成績であった症例を経験したので紹介する.●LALとはLightAdjustableLens(LAL)(RxSight社)はその原理がCSchwartzによってC2003年に報告されていた術後度数調整眼内レンズである1).実際に米国でCLALが普及しはじめたのはC2017年に米国食品医薬品局(FoodCandCDrugAdministration:FDA)で承認されて以降である.LALはヒトの眼球内に挿入した状態でCLightCDeliveryDevice(LDD)という専用の機械を用いて紫外線照射を行うことで,LAL内のCphotosensitiveCsiliconemacromerを刺激して形状変化を誘発し,眼球内で屈折を変化させる2).日本人での有効性については筆者らがLALを挿入したC21名C34眼の術後短期成績について2024年に報告している3).安全性については,SchojaiらがC2008~2012年にドイツでCLALを挿入したC61名の患者を対象に,約C7年目の患者データを確認して,とくに問題がなかったことをC2020年に報告している4).LALの度数は+4.0~+30.0Dで,そのうち+16.0~+24.0DはC0.5D刻み,その他の範囲ではC1.0D刻みのラインナップとなっている.LALは全長C13Cmm,光学径C6Cmmのシリコーン製の眼内レンズで,3Cmm以上の切開創からの挿入を推奨されている.LALを眼内に挿入後の流れは,紫外線防止用の眼鏡を使用し約C3~4週間経過し屈折度数がおおむね安定したのち,LDDを用いて紫外線をCLALに照射することとなっている.LDDで変更可能な範囲は球面度数で±2.0Dで,乱視はC2.0Dまで矯正可能となっている.度数変更はCphoto-sensitiveCsiliconemacromerの量から通常C2回程度で,最大C4回まで可能となっており,度数変更が終了したあとにClock-in(度数固定)照射をC2回行ってCLAL内のCphotosensitiveCsiliconemacromerを完全に消費するこ(67)とで度数の固定を行う.これら一連の治療の終了後C24時間経過してから,紫外線防止用の眼鏡をはずしての生活が可能となる.2024年からはこのCLALだけでなく,LALよりも少し焦点深度を拡張したCLAL+も使用されている.LALとCLAL+の詳細な違いなどについてはメーカーからの情報はないが,LAL+は約C0.5D程度の焦点深度が拡張されているといわれており,わが国で保険収載されているプレミアム単焦点眼内レンズのCTec-niseyhance(AMO社),Vivineximpress(HOYA)と同様な加工がされていると思われる.しかしC2026年C1月時点で当該眼内レンズは国内未承認であり,医師の裁量で行う手術となっている.C●症例提示今回筆者らは中京眼科で白内障治療を希望しCLAL+を挿入し良好な成績を得た症例を紹介する.<症例>白内障視力低下に対してCLAL+を両眼に挿入した症例.47歳,女性.特記すべき既往歴なし.Emery-Little分類Ⅲ.術前視力は右眼C0.05(0.2×sph-8.50DCcyl-2.50DCAx25°),左眼C0.08(0.5×sph-5.50DCcyl-2.50DAx5°).両眼の視力低下治療目的で来院.白内障手術であれば多焦点眼内レンズ挿入の希望があったが,ハロー・グレアなどの術後合併症を心配し,相談のうえCLAL+を-0.5D狙いで挿入することとした.術後C1カ月時点での視力は右眼C1.0(2.0p×sph+0.25DCcyl-2.50DCAx180°),左眼-1.0(2.0×sph+0.25DCcyl-2.50DAx180°)と角膜乱視による乱視の残存が大きかった.術前と同様に-0.5D狙いを希望しあたらしい眼科Vol.43,No.7,20267830910-1810/26/\100/頁/JCOPY両眼右眼左眼1.51.00.630.55m1m70cm50cm40cm30cm両眼1.21.51.51.21.21.0右眼0.91.51.51.00.90.8左眼1.01.51.51.21.00.9図1Lock-in後の症例2の全距離視力たため,両眼にC1回目のCLDDによる度数調整を施行.1回目の度数調整後の視力は,右眼C1.0(2.0C×sph-0.25DCcyl-1.25DCAxC5°),左眼C1.0(2.0C×sph-0.25DCcyl-1.00DCAx10°)と乱視量が半分程度となった.1回目と同様に-0.5Dを狙い両眼のC2回目のLDDによる度数調整を施行.2回目の度数調整後の視力は右眼C1.0p(2.0C×sph-0.50D),左眼C1.0(2.0C×sph-0.50D)と予定通りの度数となった.70cm視力は両眼ともC1.2,40Ccm視力は両眼ともC0.8であったがC30Ccm視力は両眼ともC0.4で文字を書く際に不便なため,もう少し近視を強くすることを希望した.コンタクトレンズを使用してシミュレーションし,-0.75Dの見え方を希望したためC3回目のCLDDを施行した.3回目の度数調整後の視力は右眼C1.0(2.0C×sph-0.75D),左眼C1.0(2.0C×sph-0.75D)と予定通りの度数となった.40cm視力は両眼ともC1.5,40Ccm視力は両眼ともC1.0となり患者の満足を得たためCLDDを用いて両眼のCLock-in照射を2回行った.Lock-in後の全距離視力とコントラスト感度を測定したが遠方視力は右眼C0.9(2.0C×sph-0.75D),左眼C1.0(2.0C×sph-0.75D)と裸眼視力の若干の変化があった.しかし遠方から近方C50Ccmまでは両眼とも裸眼視力でC1.0以上見えており,40cm近方視力では右眼0.9,左眼C1.0,30Ccm近方視力でも右眼C0.8,左眼C0.9とおおむね良好であった.また両眼視では遠方からC30Ccm近方視力まですべての測定距離で裸眼視力C1.0以上であった.明所コントラスト感度も正常範囲内で患者満足度も非常に高かった(図1,2).C●おわりにLALは.内固定をした後に,患者本人の自覚を確認しながらモノビジョンを含めた度数調整を行えるため老視治療を希望の患者に挿入しても高い満足度が得られるC784あたらしい眼科Vol.43,No.7,202687654321Ages56-75SpatialFrequency(CyclesperDegree)361218図2Lock-in後の症例2のコントラスト感度可能性がある眼内レンズである.海外では強膜固定にも利用され良好な成績であったことが報告されておりLALを利用する場面は増えている5).また現在米国ではLALよりも焦点深度を拡張したCLAL+の使用例も増加しており,2026年C1月時点で論文は見つけられなかったが,2025年のCAmericanCsocietyCofCcataractCandCrefractivesurgery(ASCRS)でも術後成績の報告が散見された.今後もこの新しいテクノロジーに引き続き注目していきたいと考えている.文献1)SchwartzDM:Light-adjustablelens.TransAmOphthal-molSocC101:417-436.C20032)KatoCY,CIchikawaCK,CTanakaCYCetal:LensCshapeCcon.rmedinlightadjustablelens:Areportoftwocases.AmJOphthalmolCaseRep40:102465,C20253)IchikawaK,SakaiY,TodaHetal:VisualoutcomesaftercataractsurgerywiththelightadjustablelensinJapaneseCpatientswithandwithoutpriorcornealrefractivesurgery.CJRefractSurgC40:e854-e862,C20244)SchojaiM,SchultzT,SchulzeKet.al:Long-termfollow-upandclinicalevaluationofthelight-adjustableintraocu-larlensimplantedaftercataractremoval:7-yearresults.JCataractRefractSurgC46:8-13,C20205)MaCC-J,CSchallhornCCC,CStewartCJMet.al:Modi.edCintra-scleralhaptic.xationofthelightadjustablelensinacaseofCspontaneousCadult-onsetCbilateralClensCsubluxation.CAmJOphthalmolCaseRepC31:101864,C2023(68)

眼内レンズセミナー:前房内バブルを利用した眼球水平の視覚化「レベラー法」

2026年7月31日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋470.前房内バブルを利用した眼球水平の坪井孝太郎愛知医科大学眼科学教室視覚化「レベラー法」眼内レンズ強膜内固定術では眼球の傾きが眼内レンズ傾斜・偏心の原因となる.前房内ガスバブルを水平器として用い,眼球水平を客観的に可視化する「レベラー法」を考案した.本法は簡便でかつ再現性が高く,左右対称な固定を補助し,術後合併症低減に有用である.●強膜内固定の発展と課題眼内レンズ(intraocularlens:IOL)強膜内固定術は,従来のCIOL縫着術と比較して手技が簡便であることや術後安定性に優れることから,近年主流の術式となっている.一方で,通常のCIOL.内固定と異なり,IOLの位置決定が術者の操作に依存するため,術後のCIOL傾斜や偏心が課題となる.IOLの傾斜はレンズ性乱視を生じさせ,術後屈折誤差や裸眼視力低下の要因となる.また,IOLの偏心は高次収差,とくにコマ収差の原因となる.さらに,IOL位置異常は虹彩との接触による炎症やCuveitis-glaucoma-hyphema(UGH)症候群の原因となることも報告されており,IOLの固定位置は単なる屈折精度の問題にとどまらず,術後合併症を回避するうえでも重要である.IOLの傾斜および偏心は,術式特有の構造的要因に起因することが近年の研究で示されている.とくに,IOLChapticの左右非対称性や強膜トンネル長の左右差が,術後CIOL傾斜および偏心の主因であることが報告されている.Parkらはモデル眼を用いた検討において,強膜トンネルの位置や長さに左右差が生じた場合は,IOLの傾斜および偏心が有意に増大することを示した1).また,hapticが過長となった症例で高度のCIOL傾斜を呈し,術後にChaptic長を調整することで傾斜および屈折異常が改善した症例報告もなされている2).すなわち,術中におけるChaptic固定精度が,強膜内固定後のCIOL位置決定に重要な役割を果たしている.C●理想の強膜内固定をめざして強膜穿刺位置の決定やトンネル作製を行う際に,眼球が水平でない状態で手技を進めた場合は,術者が意図した左右対称の固定を達成することは困難となる.とくにCYamane法3)では,30ゲージ針を用いて強膜トンネルを作製するため,穿刺時の抵抗によって眼球が傾く可能性がある.しかし,煩雑な操作や針先への集中により眼球の傾きに気づかず手技を進めてしまうと,非対称な強膜穿刺となり,IOL傾斜や偏心の原因となりえる.(65)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPY術中に眼球の水平を担保する方法としては,角膜反射や瞳孔を基準とする視覚的評価が一般的である.顕微鏡照明によるCPurkinje像や虹彩縁,瞳孔中心を指標として眼球の回旋や傾きを確認し,患者頭位や顕微鏡角度を微調整することで眼球を水平化する.この手法は特別な器具を必要とせず日常診療で広く用いられている一方,術者の主観に依存しやすく,とくに眼球偏位を伴う症例では微小な傾きを見逃す可能性がある.このような課題を克服するため,筆者らは前房内に注入したガスバブルを利用して眼球の水平を視覚化する「レベラー法」を考案した.家庭などで使用される水平器は,液体中の気泡が重力に従って常にもっとも高い位置に移動する性質を利用した装置である.装置が水平な状態では気泡は中央に位置し,傾きが生じると高い側へ移動する.同様に,前房内に注入されたガスバブルは前房中でもっとも高い位置に集まり,その上縁は常に真の水平面を反映するため,眼球の傾きを客観的に評価する指標として利用できる.筆者らはC5ccシリンジに空気を少量充填し,前房内に注入している.ガスバブルの上縁は常に真の水平を反映するため,これを基準として眼球の回旋や傾きを客観的に把握することが可能となる.また,ガスバブル自体が真円を描くことから,瞳孔や角膜との位置関係を通じて眼球中心の把握も容易となる(図1).術者はガスバブルの水平を確認しながら患者頭位や眼球姿勢を調整することで,より再現性の高い眼球水平化を達成できる.この方法は特別な機器を必要とせず,術中に即時かつ直感的に眼球の傾きを補正できる点で有用であり,強膜内固定におけるC.xationpointの左右対称性を高める補助的手段として有望であると考えている.実際の手順としては,IOL抜去および硝子体郭清後,30ゲージ針の刺入前に本手技を行っている(図2a).レンズ抜去時に注入した粘弾性物質が前房内に残存している場合には,ガス注入前に十分に除去する必要がある.前房内がクリアになったのち,適量の空気を注入する(図2b).ガスバブルの位置を角膜中心に維持しながら刺入部位をマーキングあたらしい眼科Vol.43,No.7,2026C781図1前房内ガスバブルを活用した水平視覚化「レベラー法」a:眼球が下転しておりガスバブルがやや上方に移動している.Cb:鑷子を用いてガスバブルを角膜中心に保持しマーキングを行っている.Cc.d:角膜のみを拡大し,補助線(C○)を描くと中心のズレが明瞭になる.両者の中心点のズレは図Ccで角膜径の約C5%,図Cdでは約1%であった.し,30ゲージ針による強膜穿刺を行う(図2c).この際も,トロカールなどを把持して眼球の水平を保ちながら操作することで,再現性の高い手術を行うことが可能となる.C●おわりに本術式の注意点としては,ガスバブルと角膜輪部の位置関係から水平を把握するので,結膜が侵入している場合に輪部位置を見誤らないこと,前房内に粘弾性物質が残ることでバブルの移動を妨げていないかを確認することが重要である.近年,多焦点CIOLの縫着を試みるケースも増えてきており,IOLの傾斜,偏心はそのような場合にとくに重要になってく図2レベラー法の手順a:眼内レンズ抜去,硝子体郭清後に行う.Cb:前房内に適量のガスバブルを注入し,角膜中心に保持しながらマーキングを行う.この際に角膜輪部とバブルの外周が平行であることが目安となる.c:30ゲージ針を刺入する際にも,同様にガスバブルが角膜中心に維持されていることが重要である.Cd:強膜内固定後,角膜前面とCIOLのCPurkinje像が揃っており,角膜に対して水平な固定ができていることがわかる.ると思われる.簡便に行え,眼球の水平確認を容易にする本術式が,IOL強膜内固定術の助けになれば幸いである.文献1)ParkCCH,CMoonCK,CKimCJHCetal:ContributionCfactorsCofCe.ectivelensposition,tilt,anddecentrationduring.angedscleralC.xationCofCintraocularlens:ACModelCEyeCStudy.CRetinaC44:324-332,C20242)KurimoriHY,InoueM,HirakataA:Adjustmentsofhap-ticsClengthCforCtiltedCintraocularClensCafterCintrascleralC.xation.AmJOphthalmolCaseRepC10:180-184,C20183)YamaneCS,CSatoCS,CMaruyama-InoueCMCetal:FlangedCintrascleralCintraocularClensC.xationCwithCdouble-needleCtechnique.OphthalmologyC124:1136-1142,C2017

コンタクトレンズセミナー:トーリックソフトコンタクトレンズ(2)

2026年7月31日 金曜日

■■コンタクトレンズセミナーあたらしいコンタクトレンズ診療監修前田直之4.トーリックソフトコンタクトレンズ(2)山岸景子かしはら山岸眼科クリニックトーリックソフトコンタクトレンズの適応以前から日本は世界水準に比べて乱視用ソフトコンタクトレンズ(以下,トーリックSCL)の処方率が少ない1).しかし近年,残余乱視がある程度以上残っていると読書スピードやパソコンの作業効率が落ちる2),眼精疲労を起こしやすい3)という発表がなされ,トーリックSCLの必要性が見直されている.ではどの程度の乱視からトーリックSCLを処方すべきなのであろうか?当院では眼鏡矯正視力を基に直乱視で-1.00D,倒乱視で-0.75D以上の乱視のある患者に対して,積極的にトーリックSCLの処方を検討している.ただし,斜乱視,遠視,強度近視など,屈折状態によってはトーリックSCLの規格が存在しない場合があるので,患者に話す前に屈折状態を確認するように気をつける.各社のトーリックSCLのラインナップは5月号の表1,2を参照されたい.トーリックSCLの度数決定度数決定は他覚的屈折度数ではなく,自覚屈折度数(眼鏡矯正視力)を基に行う.1.軸度軸度は15°以上ずれると矯正効果が下がり,30°以上ずれると円柱度数による矯正効果はまったくなくなってしまう.矯正視力測定時,レフ値を参考にしてCLの規格を考えながら,軸度の検査をすると時間短縮できる.2.球面度数・円柱度数眼鏡矯正視力度数に頂点間距離補正を行い決定する.トーリックSCLの度数選択早見表を基にすると便利である(図1).症例1患者は31歳,女性.球面レンズを装用中だが,眼が疲れやすいという訴えで来院.SCL視力:右眼(0.8×SCL),左眼(1.0×SCL)(両眼とも度数は-8.00D)オーバーレフ:右眼sph+0.25cyl-1.25Ax173°,左眼sph+0.75cyl-1.75Ax9°図1トーリックSCL度数早見表の一例(日本アルコン社提供)(63)あたらしい眼科Vol.43,No.7,20267790910-1810/26/\100/頁/JCOPY左眼右眼右眼sph-7.75cyl-1.00Ax180°左眼sph-7.75cyl-1.50Ax180°図2症例1の頂点間距離補正矯正視力:右眼(1.0×sph-8.50cyl-1.25Ax180°),左眼(1.0×sph-8.50cyl-1.75Ax180°).矯正視力でも円柱度数が1.0Dを超えていた.まずは図2のように頂点間距離補正した.過矯正にならないようトライアルレンズは右眼sph-7.50cyl-0.75Ax180°,左眼sph-7.50cyl-1.25Ax180°を選択した.装用テスト:右眼(1.0×),左眼(1.0×)患者は球面の過矯正がとれて残余乱視が軽減したため,パソコン業務がしやすくなり眼精疲労も減ったととても喜んでいた.症例2患者は17歳,女性.球面レンズを装用中視力がよく出ていたが,オーバーレフで残余乱視が増えてきた.右眼(1.0×SCL),左眼(1.0×SCL)(右眼sph-4.50D,左眼sph-4.75D)オーバーレフ:右眼sph-0.50cyl-1.25Ax7°,左眼sph-1.00cyl-1.25Ax167°このため上からcyl-0.75Ax180°を追加して検査した.明室ではとくに変化がなかったが,半暗室では球面レンズで0.7であった両眼近方視力が1.0に改善し,本人の希望でトーリックSCLに変更となった.10~20代は調節力が豊富なので明室検査では視力が出てしまうが,きっちり検査をすれば本人がトーリックSCLを希望することも多い.定期オーバーレフで屈折度数の変化を見守ることが大切である.おわりに患者が自分で乱視の存在に気づくことはない.患者に快適な生活を送ってもらうためには,われわれの方から積極的に働きかけて,トーリックSCLのメリットについて説明していくことが重要である.その際に,やや暗い部屋で近方視力を計ったりコントラスト感度を測定したりと検査に工夫をし,「夜になると数字の3,6,8が見えにくいか」とか「夜の運転で見えにくいか」など具体的に問診すると患者の理解を深めるきっかけにつながる.

写真セミナー:虹彩支持型前房型有水晶体眼内レンズ挿入後に発症した角膜内皮機能不全 

2026年7月31日 金曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史506.虹彩支持型前房型有水晶体眼内レンズ外間梨沙慶應義塾大学医学部眼科学教室挿入後に発症した角膜内皮機能不全図2図1のシェーマ①CpIOL②部分的な角膜浮腫図1初診時の前眼部写真(左眼)虹彩支持型前房型有水晶体眼内レンズの虹彩支持部近傍の部分的な角膜浮腫を認めた.図3図1のフルオレセイン染色同部位の角膜上皮浮腫を認めた.図4角膜内皮移植手術後(左眼)(61)あたらしい眼科Vol.43,No.7,2026C7770910-1810/26/\100/頁/JCOPY虹彩支持型の前房型有水晶体眼内レンズ(phakicintraocularlens:pIOL)は,2004年に米国で承認されたPMMA素材のArtisanとシリコーン素材のArti.ex(ともにOphtec社)がある.症例は48歳,男性.10年前に他院で近視矯正目的にCArti.exを両眼に挿入した.術後の定期受診はなく,9年後のC5月に左眼の痛みを訴えて筆者の病院を受診した.左眼角膜周辺部の虹彩支持部近傍の部分的な角膜浮腫を認めた.視力は右眼C1.2(n.c.),左眼C1.2(n.c.)であった.角膜内皮細胞密度(endothelialcelldensity:ECD)は右眼(角膜中央)C612Ccells/mm2,左眼(角膜中央)605Ccells/mmC2,左眼(角膜周辺虹彩支持部近傍)測定不能で,ECD減少を認めた.同年C8月に左眼CpIOL抜去と白内障同時手術を実施した.術後の左眼視力はC0.02(n.c.)であった.術後に水疱性角膜症の増悪を認めたため,同年C9月にCDes-cemet膜非.離角膜内皮移植術(non-DescemetCstrip-pingCandCautomatedCendothelialkeratoplasty:nDSAEK)を実施した.nDSAEK後C1カ月の左眼視力は(1.2C×sph-1.75DCcyl-1.00DAx55°)であった.虹彩支持型CpIOL挿入眼ではCECD減少例が報告されており,1年あたりC64cells/mmC2(p<0.001,SE3.58)のCECD減少を認めるという報告がある1).ECD減少の機序としては,虹彩支持部の角膜内皮間距離の短縮やそれによる炎症の関与等が示唆される2,3).虹彩支持型pIOL挿入後にCECD低下を理由に抜去した症例の割合の報告はC0%からC32%とばらつきが大きく4),挿入から抜去までの期間は平均7~13.8年であった4).2017年の米国眼科学会によるガイドラインでは,pIOL挿入後に術前と比較してC20%以上のCECD減少,またはCECDがC1,500Ccells/mmC2以下の場合に4~6カ月ごとの診察が必要とし,その後の期間における年間ECD喪失率がC1%/年以上であればCpIOL抜去を検討してもよいとしている5).虹彩支持型CpIOL眼においては,挿入後にCECDを定期的にフォローし,ECD減少を認める場合には適切なタイミングでレンズ抜去を検討することが重要である.文献1)JonkerCSMR,CBerendschotCTJM,CRondenCAECetal:Five-yearCendothelialCcellClossCafterCimplantationCwithCArti.exCMyopiaandArti.exToricphakicintraocularlenses.AmJOphthalmol194:110-119,C20182)YoonHY:CorneaCendothelialCcellClossCbeforeCandCafterCexplantationCofCArtisanCandCArti.exCiris-.xatedCphakicCintraocularlenses.AmJOphthalmolC270:52-60,C20253)YamaguchiT,NegishiK,YukiKetal:AlterationsintheanteriorCchamberCangleCafterCimplantationCofCiris-.xatedCphakicCintraocularClenses.CJCCataractCRefractCSurgC34:C1300-1301,C20084)Moura-CoelhoN:Descemet’smembraneendothelialkeraC-toplastyCforCcornealCendothelialCfailureCsecondaryCtoCthreeCtypesofphakicintraocularlens-Retrospectivestudy.ClinOphthalmol17:931-940,C20235)MacRae,CS,CHolladayCJT,CHilmantelCGCetal:Specialreport:CAmericanCAcademyCofCOphthalmologyCTaskCForceCrecommendationsCforCspecularCmicroscopyCforCpha-kicintraocularlenses.Ophthalmology124:141-142,C2017

眼科医が知っておくべきアトピー性皮膚炎治療のアップデート

2026年7月31日 金曜日

眼科医が知っておくべきアトピー性皮膚炎治療のアップデートUpdatesintheManagementofAtopicDermatitisforOphthalmologists葉山惟大*はじめにアトピー性皮膚炎(atopicdermatitis:AD)は強い.痒と湿疹を特徴とする慢性炎症性皮膚疾患であり,顔面や眼周囲は高頻度に罹患する部位である.1).とくに眼瞼部は皮膚が非常に薄く,外的刺激や摩擦の影響を受けやすいため,軽微な炎症でも症状が遷延しやすい.また,顔面病変は患者の整容面や生活の質(qualityoflife:QOL)に大きな影響を及ぼすことから,日常診療において重要な問題となる.2).従来,顔面・眼周囲病変に対してはステロイド外用薬が中心的に用いられてきた.しかし,眼周囲では皮膚萎縮,毛細血管拡張などの皮膚副作用に加え,長期使用による眼圧上昇や白内障などの眼合併症への懸念から,漫然とした継続使用は避けるべきとされている1,3).このため,近年のアトピー性皮膚炎診療では,ステロイド外用薬による寛解導入後に非ステロイド外用薬へ移行し,長期的な寛解維持をめざす治療戦略が重視されている.1).日本皮膚科学会の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」では,タクロリムス軟膏を中心とした非ステロイド外用薬によるプロアクティブ療法の有用性が示されている1,4,5).さらに近年では,ホスホジエステラーゼ(phos-phodiesterase:PDE)4阻害薬であるジファミラスト(モイゼルト)や,外用ヤヌスキナーゼ(Januskinase:JAK)阻害薬であるデルゴシチニブ(コレクチム)など,新たな非ステロイド外用薬が登場し,顔面・眼周囲病変に対する治療選択肢は大きく拡大した6,7).加えて,デュピルマブをはじめとする生物学的製剤やJAK阻害薬の導入により,中等~重症ADの治療体系は大きく変化している.一方で,デュピルマブ投与中に顔面病変が残存あるいは増悪するresidualfacialdermatitisが注目されており,顔面病変に対する局所治療の重要性は依然として高い.8).本稿では,顔面・眼周囲アトピー性皮膚炎の特徴を概説したうえで,わが国の最新ガイドラインを踏まえ,非ステロイド外用薬を中心とした実践的な治療戦略について解説する.I顔面・眼周囲アトピー性皮膚炎の特徴顔面・眼周囲は,ADにおいてとくに治療に難渋しやすい部位である.眼瞼部は人体でもっとも皮膚が薄い部位の一つであり,バリア機能が低下しやすく,外的刺激や摩擦の影響を受けやすい.9).また,汗,涙液,化粧品,点眼薬など,多様な外的因子が接触するため,刺激性接触皮膚炎やアレルギー性接触皮膚炎を合併しやすい点も特徴である.10).顔面病変は患者の整容面や社会生活への影響が大きく,QOL低下との関連が強いことが報告されている.11).さらに,.痒による掻破や慢性的な炎症によって色素沈着,苔癬化を生じやすく,症状が長期化しやすい.また,眼周囲の.破を繰り返すと眉毛外側の脱毛を生じることがあり,ヘルトゲ徴候(Hertoghesign)として.*KoremasaHayama:日本大学医学部皮膚科学系皮膚科学分野,日本大学医学部附属板橋病院アレルギーセンター〔別刷請求先〕葉山惟大:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部皮膚科学系皮膚科学分野(1)(53)7690910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1ヘルトゲ徴候眼周囲の.破を繰り返すと眉毛外側の脱毛を生じることがある.確実な診断と重症度評価現病歴,既往歴,家族歴,罹病範囲や重症度の評価(患者および家族の社会的背景も含めて)疾患と治療の目標(ゴール)の説明寛解導入療法かゆみや炎症を速やかに軽減する合併症治療・細菌感染症,ウイルス感染症真菌感染症:抗微生物薬の投与・バリシチニブ内服・紫外線療法・心身医学的療法などa:シクロスポリンは原則として連続投与期間は12週間以内とする.再投与が必要な場合は2週間以上の休薬期間をはさむ.b:中等症以上の難治状態に対してデュピルマブを導入後,6カ月を目安として寛解の維持が得られた場合には一時中止などを検討する.治療アドヒアランスへの配慮保湿外用薬・スキンケアの継続補助療法・抗ヒスタミン薬の内服・悪化因子の検索と除去・心身医学的アプローチなど図2アトピー性皮膚炎の診断治療アルゴリズム(文献1より引用)表1アトピー性皮膚炎の定義・診断基準(日本皮膚科学会)アトピー性皮膚炎の定義(概念)アトピー性皮膚炎は,増悪と軽快を繰り返す,.痒のある湿疹を主病変とする疾患であり,患者の多くはアトピー素因を持つ.アトピー素因:①家族歴・既往歴(気管支喘息,アレルギー性鼻炎・結膜炎,アトピー性皮膚炎のうちいずれか,あるいは複数の疾患),または②CIgE抗体を産生し易い素因.アトピー性皮膚炎の診断基準1..痒2.特徴的皮疹と分布①皮疹は湿疹病変・急性病変:紅斑,湿潤性紅斑,丘疹,漿液性丘疹,鱗屑,痂皮・慢性病変:浸潤性紅斑・苔癬化病変,痒疹,鱗屑,痂皮②分布・左右対側性好発部位:前額,眼囲,口囲・口唇,耳介周囲,頸部,四肢関節部,体幹・参考となる年齢による特徴乳児期:頭,顔にはじまりしばしば体幹,四肢に下降.幼小児期:頸部,四肢関節部の病変.思春期・成人期:上半身(頭,頸,胸,背)に皮疹が強い傾向.3.慢性・反復性経過(しばしば新旧の皮疹が混在する):乳児ではC2カ月以上,その他ではC6カ月以上を慢性とする.上記C1,2,およびC3の項目を満たすものを,症状の軽重を問わずアトピー性皮膚炎と診断する.そのほかは急性あるいは慢性の湿疹とし,年齢や経過を参考にして診断する.除外すべき診断(合併することはある)・接触皮膚炎・手湿疹(アトピー性皮膚炎以外の手湿疹を除外するため)・脂漏性皮膚炎・皮膚リンパ腫・単純性痒疹・乾癬・疥癬・免疫不全による疾患・汗疹・膠原病(SLE,皮膚筋炎)・魚鱗癬・ネザートン症候群・皮脂欠乏性湿疹診断の参考項目・家族歴(気管支喘息,アレルギー性鼻炎・結膜炎,アトピー性皮膚炎)・合併症(気管支喘息,アレルギー性鼻炎・結膜炎)・毛孔一致性の丘疹による鳥肌様皮膚・血清総CIgE値の上昇臨床型(幼小児期以降)・四肢屈側型・痒疹型・四肢伸側型・全身型・小児乾燥型・これらが混在する症例も多い・頭・頸・上胸・背型重要な合併症・眼症状(白内障,網膜.離など:とくに顔面の重症例)・伝染性軟属腫・伝染性膿痂疹・カポジ水痘様発疹症(文献C1より引用)るエビデンスが豊富であり,症状安定後も間欠的に外用を継続することで再燃抑制効果が示されている4,5).一方で,使用初期に灼熱感や刺激感を生じることがあり,とくに炎症が強い顔面病変では注意が必要である.18).C2.ジファミラストジファミラスト(モイゼルト)はCPDE4阻害薬であり,炎症性サイトカイン産生を抑制する.19).ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏と比較して刺激感が少ない症例があり,顔面や眼周囲など刺激症状が問題となる部位で使用しやすい可能性がある.国内第Ⅲ相試験では,成人CAD患者に対する有効性と安全性が示されており.6),比較的軽症~中等症の顔面病変や維持療法に適していると考えられる.また,小児への適応を有する点も特徴である.20).C3.デルゴシチニブデルゴシチニブ(コレクチム)はCJAK-STAT経路を阻害する外用CJAK阻害薬であり,多数の炎症性サイトカインシグナルを抑制する.14).ADではインターロイキン(interleukin:IL)-4,IL-13,IL-31など複数のサイトカインが病態に関与しており,デルゴシチニブはこれらを広範に抑制する点が特徴である.国内第Ⅲ相試験では,中等症から重症CAD患者に対する有効性が示されており.14),.痒改善効果も比較的速やかであることが報告されている.実臨床では,タクロリムス軟膏で刺激感が強い症例や,炎症が比較的強い顔面病変に対して有用な場合がある.一方で,長期安全性については今後さらなる検討が必要であり,ガイドラインや添付文書に基づいた適切な使用が求められる.1).C4.タピナロフタピナロフ(ブイタマー)はCarylChydrocarbonCrecep-tor(AhR)調節薬であり,皮膚バリア機能改善や炎症抑制作用を有する新規外用薬である.21).海外ではCADに対する有効性が報告されており,非ステロイド外用薬の新たな選択肢として注目されている.22).とくにCAhR経路は皮膚バリア機能や酸化ストレス制御に関与しており,従来の免疫抑制型外用薬とは異なる作用機序を有する点が特徴である.今後,日本においても顔面・眼周囲病変への使用経験の蓄積が期待される.CIV全身療法時代の顔面・眼周囲病変分子標的薬の登場によりCADの治療は大きく変化し,強力な全身療法によって従来よりも長期的な疾患コントロールが可能となっている.一方で,顔面・眼周囲病変は全身病勢とは異なる経過を示す場合があり,全身症状が改善しているにもかかわらず,顔面病変のみが残存あるいは新規出現する症例が報告されている8,12).このような病態はCresidualCfacialdermatitisやデュピルマブfacialCrednessとよばれ,近年注目されている.その病態は一様ではなく,接触皮膚炎,Malassezia関連炎症,酒さ様皮膚炎,Demodex関連炎症など,多様な機序が想定されている8,23).また,デュピルマブ導入による免疫バランス変化が関与している可能性も指摘されている.24).そのため,顔面病変が残存する患者では,単純にCAD増悪と判断するのではなく,接触皮膚炎や酒さなどの鑑別を考慮することが重要である.デュピルマブでは結膜炎などの眼表面疾患が問題となる場合がある.このような患者では,外用薬による局所治療が重要となる.とくにタクロリムス軟膏やデルゴシチニブは,ステロイドの副作用が出やすい顔面病変に対して使用しやすく,全身療法との併用が行われることが多い.さらに,経口CJAK阻害薬は比較的速やかな.痒改善効果を有し.16),顔面病変を含めた難治性CADに対する有力な選択肢となっている.とくに.痒が強い患者や,デュピルマブで十分な効果が得られない患者では,JAK阻害薬への切り替えが検討される場合がある.25).実際に筆者らは,デュピルマブ投与中に難治性結膜炎と眼周囲湿疹を呈したCAD患者において,JAK阻害薬であるupadacitinibへ変更後に結膜炎および眼周囲病変が速やかに改善した症例を報告している(図3).26).この症例では,全身の皮膚症状は比較的良好にコントロールされていた一方,眼症状と眼周囲.痒が強くCQOL低下をきたしており,顔面・眼周囲病変が全身病勢と独立して問題となりうることが示唆された.(57)あたらしい眼科Vol.C43,No.7,2026C773図3Upadacitinibへ変更後に結膜炎および眼周囲病変が速やかに改善した症例30歳代,男性.中等症アトピー性皮膚炎に対してデュピルマブ投与後,皮膚症状は改善したものの,難治性結膜炎と強い眼周囲湿疹を発症した(Ca).抗ヒスタミン点眼やステロイド点眼では改善せず,upadacitinibへ変更後,結膜炎および眼周囲湿疹は速やかに改善した(Cb).(文献C26より引用)VI眼科と皮膚科の連携AD患者では,眼瞼炎,結膜炎,角結膜炎などの眼合併症を伴うことが少なくない1,27).そのため,眼科で長期フォローされている患者も多い.一方で,眼症状の背景には眼周囲皮膚炎の活動性が関与している場合があり,眼局所治療のみでは十分な改善が得られない患者が存在する.近年では,生物学的製剤やCJAK阻害薬の導入によって,中等症から重症CADに対する治療選択肢が大きく拡大している15,16).そのため,眼症状が遷延する患者では,「皮膚炎自体のコントロールが不十分ではないか」という視点をもつことが重要である.とくに以下のような患者では,皮膚科専門医への相談を考慮することが望ましい.・眼瞼湿疹が遷延する患者・.痒が強く,掻破を繰り返す患者・ステロイド外用薬を長期反復使用している患者・顔面紅斑や落屑が持続する患者・AD皮疹自体のコントロールが不良な患者・デュピルマブ投与中に顔面・眼周囲症状が遷延する患者また,眼周囲病変では接触皮膚炎の合併にも注意が必要である.10).化粧品,保湿剤,点眼薬,睫毛美容製品などが原因となる場合があり,難治例では詳細な問診やパッチテストでの判定が有用となる場合がある.一方で,眼周囲病変ではステロイド外用薬が有効であるものの,長期使用による眼圧上昇や白内障などへの懸念がある1,3).そのため,眼科診療のなかで眼圧上昇やステロイド関連眼合併症が問題となった場合には,皮膚科と連携しながら治療内容を再検討する必要がある.そのため,・眼圧上昇が懸念される患者・ステロイド外用薬を中止・減量したい患者・ステロイド依存となっている患者・点眼治療のみでは改善が乏しい患者では,眼科単独で対応するのではなく,皮膚科専門医へ相談し,非ステロイド外用薬への切り替えや全身治療強化を含めた再評価を行うことが望ましい.現在では,多くの非ステロイド外用薬を組み合わせることで,顔面・眼周囲病変の長期管理が可能となってきている.1).そのため,眼科診療においても「点眼治療のみでは限界がある患者が存在する」という認識をもち,必要に応じて皮膚科専門医へ治療強化を相談することが重要である.おわりに顔面・眼周囲のCADは,整容面やCQOLへの影響が大きいだけでなく,ステロイド外用薬の長期使用による副作用にも注意を要する特殊な病変部位である1,3).そのため,急性炎症期には適切なステロイド外用薬による速やかな炎症鎮静を行いつつ,長期管理では非ステロイド外用薬を活用した維持療法が重要となる.近年では,タクロリムス軟膏に加え,ジファミラストやデルゴシチニブなど新規非ステロイド外用薬が使用可能となり,顔面・眼周囲病変に対する治療選択肢は大きく拡大した6,7).また,生物学的製剤やCJAK阻害薬の導入によって,中等症から重症CADの長期コントロールも大きく進歩している15,16).一方で,顔面・眼周囲病変では,接触皮膚炎や酒さ様皮膚炎,residualCfacialdermatitisなど,多様な病態が関与する場合があり8,23),単純なCAD増悪として一律に対応することは困難である.そのため,病態評価を踏まえた個別化治療が重要となる.また,眼科診療においても「点眼治療のみでは改善が乏しい背景に皮膚炎活動性が存在する可能性」や,「眼圧上昇などの理由からステロイド外用薬の減量が必要となる患者が存在すること」を認識することが重要である.そのような患者では,皮膚科専門医と連携し,非ステロイド外用薬や全身療法を含めた治療強化を検討することが望ましい.今後,AD治療はさらに個別化が進むと考えられる.そのなかで,顔面・眼周囲病変に対しては,皮膚科と眼科が連携しながら,局所病態を適切に評価し治療介入することが重要である.文献1)佐伯秀久C,大矢幸弘C,荒川浩一ほか:アトピー性皮膚炎診療(59)あたらしい眼科Vol.C43,No.7,2026C775ガイドラインC2024.日皮会誌C134:2741-2843,C20242)WollenbergCA,CBarbarotCS,CBieberCTCetal:Consensus-basedCEuropeanCguidelinesCforCtreatmentCofCatopicCeczema(atopicdermatitis)inCadultsCandchildren:partCI.CJEurAcadDermatolVenereol32:657-682,C20183)HenggeCUR,CRuzickaCT,CSchwartzRA:AdverseCe.ectsCofCtopicalCglucocorticosteroids.CJCAmCAcadCDermatolC54:C1-15,C20064)WollenbergCA,CReitamoCS,CGirolomoniCGCetal:ProactiveCtreatmentCofCatopicCdermatitisCinCadultsCwith0.1%Ctacroli-musCointment.CAllergyC63:742-750,C20085)ThaciCD,CReitamoCS,CGonzalezCEnsenatCMACetal:ProacC-tiveCdiseaseCmanagementCwith0.03%CtacrolimusCointmentCforCchildrenCwithCatopicdermatitis:resultsCofCaCrandom-ized,Cmulticentre,CcomparativeCstudy.CBrJDermatolC159:C1348-1356,C20086)SaekiCH,CItoCK,CYokotaCDCetal:DifamilastCointmentCinCadultCpatientsCwithCatopicCdermatitis:CaCphaseC3Crandom-ized,Cdouble-blind,Cvehicle-controlledCtrial.CJCAmCAcadCDermatol86:607-614,C20227)NakagawaCH,CNemotoCO,CIgarashiCACetal:DelgocitinibCointmentCinCpediatricCpatientsCwithCatopicdermatitis:aCphaseC3,Crandomized,Cdouble-blind,Cvehicle-controlledCstudyCandCaCsubsequentCopen-label,Clong-termCstudy.CJAmAcadDermatolC85:854-862,C20218)JoCCE,CFinstadCA,CGeorgakopoulosCJRCetal:FacialCandCneckCerythemaCassociatedCwithCdupilumabCtreatment:CaCsystematicCreview.CJCAmCAcadCDermatolC84:1339-1347,C20219)EliasCPM,CSteinho.M:C“Outside-to-inside”(andCnowCbackCto“outside”)pathogenicCmechanismsCinCatopicCder-matitis.CJInvestDermatolC128:1067-1070,C200810)SimonsenCAB,CJohansenCJD,CDeleuranCMCetal:ContactCallergyCinCchildrenCwithCatopicCdermatitis:CaCsystematicCreview.CBrJDermatol177:395-405,C201711)ChernyshovPV:Health-relatedCqualityCofClifeCinCadultCpatientsCwithCatopicCdermatitisCandCpsoriaticCpatientsCmatchedCbyCdiseaseCseverity.CGCItalCDermatolCVenereolC151:37-43,C201612)WaldmanCRA,CDeWaneCME,CSloanCBCetal:CharacterizingdupilumabCfacialCredness:aCmulti-institutionCretrospectiveCmedicalCrecordCreview.CJAmAcadDermatolC82:230-232,C202013)ReitamoCS,COrtonneCJP,CSandCCCetal:ACmulticentre,Cran-domized,Cdouble-blind,CcontrolledCstudyCofClong-termCtreatmentCwith0.1%CtacrolimusCointmentCinCadultsCwithCmoderateCtoCsevereCatopicCdermatitis.CBrJDermatolC152:C1282-1289,C200514)NakagawaCH,CNemotoCO,CIgarashiCACetal:Long-termCsafetyCandCe.cacyCofCdelgocitinibCointment,CaCtopicalCJanusCkinaseCinhibitor,CinCadultCpatientsCwithCatopicCdermatitis.CJDermatolC47:114-120,C202015)SimpsonCEL,CBieberCT,CGuttman-YasskyCECetal:TwoC776あたらしい眼科Vol.C43,No.7,2026phaseC3CtrialsCofCdupilumabCversusCplaceboCinCatopicCder-matitis.CNEnglJMedC375:2335-2348,C201616)SilverbergCJI,CSimpsonCEL,CThyssenCJPCetal:E.cacyCandCsafetyCofCabrocitinibCinCpatientsCwithCmoderate-to-severeCatopicdermatitis:aCrandomizedCclinicalCtrial.CJAMACDer-matolC156:863-873,C202017)KangCS,CLuckyCAW,CPariserCDCetal:Long-termCsafetyCandCe.cacyCofCtacrolimusCointmentCforCtheCtreatmentCofCatopicCdermatitisCinCchildren.CJCAmCAcadCDermatolC44(1Suppl):S58-S64,C200118)PallerCAS,CLebwohlCM,CFleischerCABCJrCetal:TacrolimusCointmentCisCmoreCe.ectiveCthanCpimecrolimusCcreamCwithCaCsimilarCsafetyCpro.leCinCtheCtreatmentCofCatopicCdermati-tis:CResultsCfromC3Crandomized,CcomparativeCstudies.CJAmAcadDermatol52:810-822,C200519)Hani.nCJM,CEllisCCN,CFriedenCIJCetal:OPA-15406,CaCnovel,Ctopical,Cnonsteroidal,CselectiveCphosphodiesterase-4C(PDE4)Cinhibitor,CinCtheCtreatmentCofCadultCandCadolescentCpatientsCwithCmildCtoCmoderateCatopicCdermatitisC(AD):CACphase-IICrandomized,Cdouble-blind,Cplacebo-controlledCstudy.CJAmAcadDermatol75:297-305,C201620)SaekiCH,CItoCK,CYokotaCDCetal:DifamilastCointmentCinCadultCpatientsCwithCatopicCdermatitis:CACphaseC3Crandom-ized,Cdouble-blind,Cvehicle-controlledCtrial.CJCAmCAcadCDermatol86:607-614,C202221)SmithCSH,CJayawickremeCC,CRickardCDJCetal:TapinarofCisCaCnaturalCAhRCagonistCthatCresolvesCskinCin.ammationCinCmiceCandChumans.CJCInvestCDermatolC137:2110-2119,C201722)PallerCAS,CSteinCGoldCL,CSoungCJCetal:E.cacyCandCpatient-reportedCoutcomesCfromCaCphaseC2b,CrandomizedCclinicalCtrialCofCtapinarofCcreamCforCtheCtreatmentCofCado-lescentsCandCadultsCwithCatopicCdermatitis.CJCAmCAcadCDermatol84,C632-638,C202123)deCBeerCFSA,CBakkerCDS,CHaeckCICetal:DupilumabCfacialredness:positiveCe.ectCofCitraconazole.CJAADCCaseCRepC5:888-891,C201924)BakkerCDS,CAriensCLFM,CvanCLuijkCCCetal:GobletCcellCscarcityCandCconjunctivalCin.ammationCduringCtreatmentCwithCdupilumabCinCpatientsCwithCatopicCdermatitis.CBrJDermatolC180:1248-1249,C201925)BlauveltCA,CTeixeiraCHD,CSimpsonCELCetal:E.cacyCandCsafetyCofCupadacitinibCvsCdupilumabCinCadultsCwithCmoder-ate-to-severeCatopicdermatitis:aCrandomizedCclinicalCtrial.CJAMADermatolC157:1047-1055,C202126)HayamaCK,CFujitaH:ImprovementCofCdupilumab-associ-atedCconjunctivitisCafterCswitchingCtoCupadacitinibCinCaCpatientCwithCatopicCdermatitis.CDermatolTherC35:e15575,C202227)ThyssenCJP,CToftCPB,CHalling-OvergaardCASCetal:Inci-dence,Cprevalence,CandCriskCofCocularCdiseaseCinCadultsCwithCatopicCdermatitis.CJAmAcadDermatolC77:280-286.Ce1,C2017(60)

アレルギー性結膜炎治療の新たな選択肢

2026年7月31日 金曜日

アレルギー性結膜炎治療の新たな選択肢ANewTherapeuticOptionforAllergicConjunctivitis原祐子*はじめにアレルギー性結膜炎の治療は基本的に薬物療法である.第一選択は抗アレルギー点眼薬であり,効果不十分例や重症例では副腎皮質ステロイド(以下,ステロイド)点眼薬の追加を考慮し,春季カタルでは免疫抑制点眼薬を選択することができる.1).通常の季節性あるいは通年性アレルギー性結膜炎において,抗アレルギー点眼薬のみで十分なコントロールが得られない場合には,ステロイド点眼薬の併用が必要となることも少なくない.しかし,ステロイド点眼薬には眼圧上昇や易感染性などの副作用があり,とくに小児では眼圧上昇のリスクが高いことが報告されており,長期使用には注意を要する.2).一方で,抗アレルギー点眼薬は安全性に優れるものの,花粉飛散量が多い場合や用法遵守が不十分な場合には十分な効果が得られないことも少なくない.アレルギー性結膜疾患の有病率は48.7%に達すると報告されており.1),より高い有効性,安全性,利便性を兼ね備えた治療法へのニーズは高い.このような背景のもと,2024年に世界に先駆けて,眼瞼に塗布することにより薬剤を結膜へ移送する新しいアレルギー性結膜炎治療薬が発売された.本稿では,エピナスチン塩酸塩眼瞼クリーム0.5%の特徴と臨床的有用性について概説する.I抗アレルギー点眼薬の歴史わが国で最初の抗アレルギー点眼薬は,1984年に販売されたクロモグリクサンナトリウムを主成分とするインタール点眼薬2%である.本剤はメディエーター遊離抑制薬であり,細胞内へのCa2+流入抑制やホスホジエステラーゼ活性の阻害を介して細胞膜を安定化し,肥満細胞(マスト細胞)からの化学伝達物質を抑制する.安全性に優れる一方で,効果発現までに時間を要し,アレルギー反応が惹起されたあとでは十分な効果が得られにくいという課題があった.そのため,より即効性が期待される抗ヒスタミン点眼薬の開発が進められ,1991年にケトチフェンフマル酸塩点眼薬が発売された.その後レボカバスチン塩酸塩,オロパタジン塩酸塩,エピナスチン塩酸塩の点眼薬が次々と登場した.これらの薬剤は毛細血管や三叉神経末に存在するヒスタミンH1受容体を遮断し,結膜の充血や浮腫,掻痒感などの即時反応を抑制する.また,多くの薬剤は抗ヒスタミン作用に加えてメディエーター遊離抑制作用もあわせもつ.このように,抗アレルギー点眼薬の主流は,メディエーター遊離抑制薬から抗ヒスタミン作用を主体とする薬剤へと移行してきた.II従来の点眼薬の限界と問題点抗アレルギー点眼薬の改良は進んでいるものの,適切な用法・用量で使用されなければ,本来の効果を十分に得ることはできない.花粉症患者を対象としたアンケート調査では,内服薬の服薬遵守率が90%以上であったのに対し,点眼薬や点鼻薬では遵守率が明らかに低いこ.*YukoHara:住友別子病院眼科〔別刷請求先〕原祐子:〒792-8543愛媛県新居浜市王子町3-1住友別子病院眼科(1)(47)7630910-1810/26/\100/頁/JCOPYとが報告されている.従来,抗アレルギー点眼薬の多くはC1日C4回の点眼を必要としていたが,近年は薬効の持続性向上により,1日C2回で使用可能な製剤も登場している.しかし,季節性アレルギー性結膜炎患者を対象とした使用実態調査では,1日C4回点眼製剤を使用した患者のうち,症状の有無にかかわらず用法どおりに点眼していた患者はC4.0%に過ぎなかったと報告されている.3).一方で,1日C2回点眼製剤では遵守率の改善が認められたものの,その割合はC22.3%にとどまり,十分とはいいがたい.また,抗ヒスタミン点眼薬による治療中であっても,起床時や就寝前の眼掻痒感,あるいは目頭や眼瞼縁のかゆみが残存する患者が一定数存在することが報告されており,従来の点眼治療にはなお課題が残されている.CIII眼瞼塗布による新しい薬剤送達システムの開発点眼薬は投与後,瞬目,涙液のターンオーバー,さらに鼻涙管への流出によって眼表面から速やかに排出される.そのため,薬剤は結膜.内に長時間とどまることがむずかしく,多くの抗アレルギー点眼薬では有効濃度を維持するためにC1日C2.4回の点眼が必要とされてきた.しかし,実際には抗アレルギー点眼薬の用法遵守率は高いとはいえず,これが治療効果を十分に得られない一因と考えられている.米国ではC1日C1回投与の抗アレルギー点眼薬も承認されているが,その効果は点眼後の経過とともに減弱することが報告されており,点眼薬という剤形そのものの限界を示しているとも考えられる.このような背景のもと,投与回数を減らしながら持続的な抗アレルギー効果を得ることを目的として,点眼薬以外の薬剤送達技術が検討されてきた.その一つが,薬剤を眼瞼皮膚に塗布し,眼瞼組織内を通過させて結膜へ移送するという新しいコンセプトである.エピナスチン塩酸塩を含有するクリームを,ヒスタミン誘発性結膜炎モデルモルモットの眼瞼皮膚に塗布したところ,投与C24時間後においても結膜血管透過性亢進が強く抑制され,その効果はC0.1%エピナスチン点眼薬よりも有意に高かったことが報告されている.4).また,最大の抑制効果は投与C2時間後に認められ,その後C24時間以上持続した.さらに,ウサギの眼瞼皮膚にエピナスチン塩酸塩眼瞼クリームC0.5%を塗布し,薬剤分布を経時的に検討した結果を図1に示す.5).投与C0.5時間後には眼瞼表層に高濃度のエピナスチンが認められ,その後徐々に深部へ拡散し,8時間後およびC24時間後には結膜層に分布していることが確認された.これらの結果から,眼瞼塗布によって薬剤が結膜へ到達し,24時間にわたり分布が維持されることが示され,1日C1回投与で持続的な治療効果が得られる可能性が示唆された.CIVエピナスチン塩酸塩眼瞼クリーム0.5%2024年C5月,アレルギー性結膜炎治療薬として初めての剤形であるエピナスチン塩酸塩眼瞼クリームC0.5%(アレジオン眼瞼クリームC0.5%)(図2)が発売された.現時点で,1日C1回,上下眼瞼に塗布するという用法を有する唯一のアレルギー性結膜炎治療薬である.使用方法は,適量のクリームを指先にとり,軽く閉眼した状態で上下眼瞼に塗布する(図3).「適量」という表現はややわかりにくいが,片眼あたりC1.3Ccm(成人の人差し指第一関節の約半分),約C30Cmgを塗布することが推奨されている.1包装にはC2Cgが含まれており,両眼に使用した場合,およそC1カ月分に相当する.本剤の特徴の一つは,基剤にも工夫が施されている点である.眼瞼に塗布する薬剤としては,タリビッド眼軟膏やステロイド眼軟膏を思い浮かべることが多い.これらの眼軟膏は油性基剤であるため,被覆性に優れる一方で,べたつきが強く,伸展性にも乏しい.これに対し,アレジオン眼瞼クリームC0.5%には油中水型(W/O)のクリーム基剤が採用されている.軟膏に比べて伸展性が高く,塗布後のべたつきも少ない(表1).眼内に入った場合には速やかに洗浄することが推奨されているが,誤って眼内に入っても刺激感は比較的少なく,軽度の異物感を認める程度である.CVエピナスチン塩酸塩眼瞼クリーム0.5%の治療成績エピナスチン塩酸塩眼瞼クリームC0.5%の治療成績についての報告はまだ少ない.第Ⅲ相環境試験では,アレルギー性結膜炎患者C186764あたらしい眼科Vol.C43,No.7,2026(48)TimeafteradministrationEpinastinedistnbutionPostLMDPreLMD0.5h8h24hEpidermissideLidmarginsideConjuctivalside10510310110-1Concentration(pg/mm3)図2アレジオン眼瞼クリーム0.5%図3アレジオン眼瞼クリーム0.5%患者向けの塗り方指導パンフレットアレジオン眼瞼クリームは,約C1.3Ccmのクリームを目のまわり全体に塗るように指導している.表1外用製剤の基剤による特徴油中水型クリーム水中油型クリーム製剤の例油脂性軟膏(水中水型:W/O)(水中油型:O/W)(W/O:water-in-oil)(O/W:oil-in-water)イメージ図使用感(べたつき)高低被膜性(保護性)高低伸展性(伸びのよさ)低高刺激感(一般に)低高眼科でよく用いられる油性軟膏はべたつきやすく,伸展性が低いのに対し,油中水型クリームは使用感も良好で伸展性が高いC.表2使用成績調査中間報告での副作用出現率承認時前調査(1C24例)使用成績調査(1C72例)眼瞼炎1(0C.6%)眼瞼紅斑1(0C.8%)1(0C.6%)眼瞼腫脹1(0C.6%)眼瞼.痒症2(1C.6%)1(0C.6%)眼瞼刺激1(0C.6%)結膜出血1(0C.6%)眼の異物感1(0C.6%)副作用発現症例数2/124例(1C.6%)6/172例(3C.5%)MedDRA/J(ICH国際医薬用語集日本語版)version(28.0)ab図4エピナスチン塩酸塩眼瞼クリーム0.5%による眼瞼炎72歳,男性.アトピー皮膚炎既往あり.Ca:エピナスチン塩酸塩眼瞼クリームC0.5%塗布開始後C3日目に眼瞼の発赤,腫脹を生じた.b:エピナスチン塩酸塩眼瞼クリーム中止後C1週間.塗布中止後は速やかに改善した.

アレルギー性結膜炎の基礎研究―花粉の殻により誘導される抗原取り込み

2026年7月31日 金曜日

アレルギー性結膜炎の基礎研究─花粉の殻により誘導される抗原取り込みBasicResearchonAllergicConjunctivitis:AntigenUptakeInducedbyPollenShells木村芽以子*はじめにアレルギー性結膜炎は,Ⅰ型アレルギーが関与する結膜の炎症性疾患である.1).原因物質である花粉やハウスダストなどの抗原(狭義にはアレルゲンと呼称されるが,本稿では便宜上「抗原」と記載する)が,鼻粘膜や喉などを介して体内へ侵入すると,樹状細胞などの抗原提示細胞に取り込まれ,2型ヘルパーT細胞(Thelper2cell:Th2)型免疫応答が誘導される.その後,B細胞によって産生された抗原特異的免疫グロブリンE(immunoglobulinE:IgE)抗体は血液に乗って全身をめぐり,全身の肥満細胞(マスト細胞)の表面に結合して,アレルギーを起こす「準備状態(感作)」が成立する(図1).その後,再び同一の抗原が結膜に侵入し,マスト細胞上のIgE抗体と結合して架橋する.これがトリガーとなってマスト細胞からヒスタミンなどの化学伝達物質が放出される(脱顆粒)ことで,かゆみや充血といった即時型のアレルギー症状が引き起こされる(発症)(図1).これらの症状は,眼が抗原に曝露されてから数十分以内に生じる即時型反応である.このことから,抗原は結膜においてきわめて迅速に組織内へ侵入していると考えられる.したがって,原因物質である抗原がいかにして眼表面のバリアを突破し,結膜組織内へ侵入するかという仕組みは,本疾患の発症メカニズムを理解するうえで重要な鍵となる.「Ⅱ結膜組織内への抗原の侵入方法」の項では,この抗原の侵入の仕組みについて解説する.われわれ医師が診療でアレルギー検査を行う際,通常よく検査するのは血液中のIgE抗体である.ところが,実際には血液検査ではIgE抗体が陰性であるにもかかわらず.2),強いかゆみなどアレルギー性結膜炎の症状を訴える患者も少なくない.こうした患者の場合は,結膜局所だけで感作から発症までの病態が成立していると考えられ,localallergicconjunctivitisと呼称されている.筆者らは結膜局所で感作から発症まで引き起こすマウスモデルを確立し,同モデルにおいて花粉の殻が重要な役割をしていることも明らかにした.「ⅤLocalallergicconjunctivitisと花粉の殻」では,この詳細についても解説する.I眼表面バリア機構と杯細胞眼表面は外界に晒されている粘膜であり,外界からの異物の侵入を防ぐため複数のバリア機構が機能している.なかでも結膜上皮細胞の1種である杯細胞は,MUC5ACやMUC5Bといった分泌型ムチンを産生することで涙液の安定性を高め,眼表面の湿潤性と潤滑性の保持に寄与する.また,ムチンに含まれるシアル化した糖鎖は,異物をカプセル化してトラップし,効率よく除去する機能を有しており.3),杯細胞は異物の除去においても重要な役割を果たしている.さらに,杯細胞はレチノイン酸.4)やTGF-β2.5)の産生を通じて免疫寛容を誘導するなど,免疫調節細胞としての側面ももつことも明らかになってきた.このように,これまで杯細胞は,おも.*MeikoKimura:順天堂大学医学部附属浦安病院眼科,順天堂大学大学院医学研究科アトピー疾患研究センター〔別刷請求先〕木村芽以子:〒279-0021千葉県浦安市富岡2-1-1順天堂大学医学部附属浦安病院眼科(1)(39)7550910-1810/26/\100/頁/JCOPYマスト細胞IgE脱顆粒充血流涙浮腫掻痒感図1Ⅰ型アレルギー反応感作相:侵入した抗原に対して特異的IgE抗体が産生され,マスト細胞の表面に結合し,アレルギーの準備が整う段階.惹起相:再び侵入した抗原がマスト細胞上の複数のIgEを橋渡し(架橋)するように結合すると,ヒスタミンなどが放出され(脱顆粒),アレルギー症状が発症する段階.GAP図2抗原の侵入経路杯細胞関連抗原経路(GAP)は杯細胞が抗原を取り込み,実質へと抗原を受け渡す経路である.①②③TopZBottomZWGAOVA-AF647図3結膜におけるGAP花粉の殻と蛍光ラベルした蛋白抗原を点眼すると,多数の杯細胞が抗原を取り込み,GAPを形成していることが確認された.緑色に染まっているのが杯細胞,赤色が蛍光ラベルした蛋白抗原である.(文献C8より改変引用)C.CKimuraCM.CetCal.C2023.CACnerve-gobletCcellCassociationCpromotesCallergicCconjunctivitisCthroughCrapidCantigenCpassage.CJCIInsight,DOI:10.1172/jci.insight.168596.CCC-BY4.0https://creativecommons.org/licenses/Cby/4.0/CStromallayerfluorescenceintensity10,000(Arbitraryunit)8,000OVA-AF6476,000Shell+OVA-AF647MostGAParea4,000LeastGAParea2,00000400Gobletcelllayerfluorescenceintensity80012,000(Arbitraryunit)図4表層のGAP形成と実質層の抗原取り込み表層のCGAP分布と実質層の抗原取り込みは空間的によく相関していた.①CGAPありエリアは実質層の抗原の取り込みが多い.②GAPなしのエリアでは取り込みが少ない.(文献C8より改変引用)C.CKimuraCM.CetCal.C2023.CACnerve-gobletCcellCassociationCpromotesCallergicCconjunctivitisCthroughCrapidCantigenCpassage.CJCIInsight,DOI:10.1172/jci.insight.168596.CC-BYC4.0https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/a花粉の殻の有無bZ事前に局所麻酔薬(Lidocaine)を点眼ZZ200150100500SalLDC三叉神経を電気焼灼(Ablation)図5各条件によるGAPの数a:蛋白抗原を単独点眼するとCGAPはほとんど形成されなかった.GAP形成は花粉の殻刺激により誘導される.Cb:事前に局所麻酔薬を点眼すると,GAPの数が減少する.c:三叉神経を電気焼灼した側では,GAPの数が減少する.(文献C8より改変引用)C.CKimuraCM.CetCal.C2023.CACnerve-gobletCcellCassociationCpromotesCallergicCconjunctivitisCthroughCrapidCantigenCpassage.CJCIInsight,DOI:10.1172/jci.insight.168596.CCC-BY4.0https://creativecommons.org/licenses/Cby/4.0/C抗原抗原提示細胞図6GAPを介した迅速な抗原の取り込み好酸球性炎症(アレルギー性結膜炎)図7花粉の殻により誘導されるGAP形成花粉の殻は三叉神経を介してCGAP形成を誘導する.GAPによる迅速な抗原通過はアレルギー性結膜炎の発症に関与するC.(文献C8より改変引用)C.CKimuraCM.CetCal.C2023.CACnerve-gobletCcellCassociationCpromotesCallergicCconjunctivitisCthroughCrapidCantigenCpassage.CJCIInsight,DOI:10.1172/jci.insight.168596.CCC-BY4.0https://creativecommons.Corg/licenses/by/4.0/アレルギー性結膜炎の発症花粉懸濁液事前の全身感作なし花粉の殻と抽出液図8Localallergicconjunctivitisの発症の条件アレルギー性結膜炎の発症には,花粉の殻(粒子性成分)と花粉の抽出液(水溶性蛋白抗原)の両者が必要である.-