監修=木下茂●連載221大橋裕一坪田一男221.術中収差計の実力森井勇介森井眼科医院水晶体再建術において,術中収差計を使用することによって,より最適な眼内レンズ(IOL)度数やトーリック度数および固定位置を決定することが可能となる.正確な術後屈折をめざして眼軸長測定装置やCIOL度数計算式が進歩してきたように,術中収差計も今後進歩していくことはまちがいないと考える.●はじめに手術機器,および眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の進歩により,現状の超音波水晶体乳化吸引術は安全性も確立され,すばらしい手術成績を収めているが,患者の期待は単なる視力の改善ではなく,生活の質に関連した視力の向上へと変化しつつある.とくに,年々増加傾向にある多焦点CIOLは,乱視矯正も含めて,術後屈折の正確さが患者満足度に直結する.これまで,術前検査におけるさまざまなCIOL度数計算法が考案され,日々進歩しているのはご承知のとおりであるが,想定外の屈折度数ズレを経験することもある.近年,術中にリアルタイムで球面度数や円柱度数を測定し,より最適なCIOL度数やトーリック度数および固定位置を決定する術中収差計が登場し注目されている.C●術中収差計現在,日本で使用することのできる術中収差計はAlcon社製CORA術中波面収差解析装置(以下,ORA)のみである.アナライザー,アベロメーター(図1),サージカルカート(図2)のC3要素で構成される.アナライザーはソフトウェアであり,WEB経由で院内のどのパソコンからもデーターベースに入力が可能である.ここに術前データを入力し,術中計測の基本情報とする.また,術後データを入力することによって,サーバー内のノモグラムに反映され,最適化および術後結果の統計的レポートを受けることが可能となる.アベロメーターは顕微鏡に取りつける測定装置で,赤外線LED光が波面収差解析を行い,無水晶体眼,偽水晶体眼の術中屈折情報を測定する.サージカルカートは手術室内に設置するカートで,米国内のサーバーと常に同期し,リアルタイムにアベロメーターの測定結果の表示と検証を行い,最適なCIOL度数,トーリックCIOLの固定位置を提案する.術中測定の最大のポイントは,水晶体を摘出した状態での切開創による惹起乱視,角膜後面乱視を含む全乱視を測定するため,円錐角膜,あるいはClaserinsituker-atomileusis(LASIK)やCradialkeratotomy(RK)などの屈折矯正手術後で角膜形状異常のある眼に対しての効果が期待できることである.また,トーリックCIOL使用図1ORAのアベロメーター付けはずしは容易である.重量がかなりあるので,当院ではORAを使用するとき以外ははずしている.図2ORAのサージカルカート手術室内に設置する.米国のサーバーと常に同期している.図3ORAによる乱視軸決定の画面①術前データの表示.②残余乱視のCORA実測値.トーリックCIOLが最適な位置(残余乱視がC0.5D以下,もしくは測定された残余乱視の軸が予想残余円柱軸からC5°以内の範囲)になれば,NoCRotationRecommendedと表示される.③トーリックCIOLインプラント後のORA実測値.球面度数,円柱度数,等価球面値の表示.(75)あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018C13870910-1810/18/\100/頁/JCOPY対象当院にてCORAを使用してCIOL度数を選択し,C1カ月以上観察可能であった全症例.CLASIK既往を含む.期間2017年1月16日.C12月25日症例数129例221眼男性52例89眼女性77例1C32眼年齢平均C64.0歳(C57C±20歳)表1解析対象表2ORA使用によるIOL度数変更の100%90%有無と術後自覚屈折度数値の比較80%術後自覚屈折度数変更なし(術前予定IOL挿入)変更あり合計C±0.25D以内95眼87眼180眼C±0.50D以内107眼98眼205眼C±1.00D以内114眼103眼218眼全度数118眼103眼221眼70%60%50%40%30%20%10%0%84.4%90.1%81.4%80.5%92.7%98.6%96.6%95.1%100.0%±0.25D以内±0.50D以内±1.00D以内術後の屈折誤差全症例ORAによる変更なしORAによる変更あり図4術後自覚屈折度数値の比較半分以上の症例で術前予定CIOLとCORA表C2をパーセント表示にしてグラフで比較した.の推奨度数が一致していた.時に角膜全乱視は最小となるように,IOLの固定方向を指示し,残余乱視がC0.5D以下,もしくは測定された残余乱視の軸が予想残余円柱軸からC5°以内の範囲になればCNRR(NoCRotationRecommended)と表示され,最適なCIOL固定位置を指示してくれる(図3).患者の固視状態にもよるが,測定時間はおおむね数秒であり,筆者は術中測定のストレスはほとんど感じない.C●当院での成績術後正視狙いで水晶体再建術時にCORAを使用し,術後C1カ月以上経過観察できた全症例の術後自覚等価球面度数値の結果を示す.術前の光学式眼軸長測定装置による予定レンズと,ORAによる度数変更を行った症例の比較である(表1,2,図4).ORAによる度数変更を行った症例のほうが達成率は高かったが,統計学的有意差は認めなかった.C●術中収差計の意義近年,Haigis式やCBarrett式も登場し,術前の光学式眼軸長測定装置によるCIOL度数計算式は年々進歩し,さらに正確性を増している1,2).とはいえ,それはあくまでも術前の眼の形状を正確に測定したうえでの話であって,実際の臨床の現場では,成熟白内障など,そもそも水晶体の混濁が強すぎて正確な眼軸長測定が困難な患者,閉瞼が強く開瞼困難な患者,涙液の安定性が悪く再現性のある角膜曲率測定が困難な患者,検査時に頭位が傾いていて,適切な乱視軸角度測定ができない患者などが,一定の割合で存在する.術中収差計を使用する最大のメリットは,十分な開瞼が得られている術中に,角膜表面の状態を確認しながら,無水晶体眼の状態で計測したデータを得られることである.さらに,トーリックIOLでの乱視矯正を伴う場合,リアルタイムに残存全乱視の数値を見ながらCIOLpositionを決定することがでC1388あたらしい眼科Vol.35,No.10,2018ORAによる度数変更を行った症例のほうが達成率は高かったが,統計学的有意差は認めなかった.きるのは非常に理にかなっており,有用である.当院での結果で示した通り,術中収差計を使用したからといって全例で屈折誤差がゼロになるわけでもなく,半分以上の症例で術前検査結果から準備したCIOLを追認して挿入しているわけであり(表2),術中収差計を使用していない場合と術後屈折において有意差が出ているわけではない.しかし,術中収差計測によってCIOL度数を変更し,その結果,満足度の高い術後結果となった症例も確実に存在する.より,正確な術後屈折度数を追求するならば,必要な器機であると考える.C●おわりに当院の結果では,術中収差計測を使用しているにもかかわらずC1.0Dを超える屈折誤差を生じた症例もわずかながら存在した(表2,図4).非生理的な眼球状態で測定したデータなら,術前検査値のほうの信頼性が高くなっている局面も存在していると考える.術中収差計測時の眼球状態が生理的な状態であることを確認する術は現時点ではない.前眼部光干渉断層計などを駆使して,術中計測直前の確認が可能になれば,さらに正確性が増すのではないかと思われる.今後のいろいろな研究成果が待たれるところである.いずれにせよ,より正確な術後屈折をめざして眼軸長測定装置やCIOL度数計算式が進歩してきたように,術中収差計も今後進歩していくことはまちがいないと考える.文献1)HaigisCW,CLegeCB,CMillerCNCetal:ComparisonCofCimmer-sionCultrasoundCbiometryCandCpartialCcoherenceCinterfer-ometryforintraocularlenscalculationaccordingtoHaigis.GraefesArchClinExpOphthalmol238:765-773,C20002)BarrettGD:AnCimprovedCuniversalCtheoreticalCformulaCforCintraocularClensCpowerCprediction.CJCCataractCRefractCSurgC19:713-720,C1993(76)