‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

眼瞼基底細胞癌の治療方針の検討

2024年2月29日 木曜日

《原著》あたらしい眼科41(2):223.228,2024c眼瞼基底細胞癌の治療方針の検討大沼貴哉高村浩公立置賜総合病院眼科CTreatmentStrategiesforBasalCellCarcinomaoftheEyelidTakayaOnumaandHiroshiTakamuraCDepartmentofOphthalmology,OkitamaPublicGeneralHospitalC目的:公立置賜総合病院における眼瞼基底細胞癌(BCC)に対して施行した治療法について検討すること.対象および方法:対象はC13年間に当眼科で治療した眼瞼のCBCCのC9例.5例は,腫瘍を安全域C2Cmmで真皮の深さで切除し,迅速病理検査で切除断端での腫瘍細胞陰性を確認後,皮膚欠損部をCV-Y前進皮弁(V-Yadvancement.ap)を用いて眼瞼前葉のみの眼瞼形成を行った.1例は同様の手順で腫瘍切除し,余剰皮膚を伸展させて再建した.もうC1例は,病変が瞼結膜まで浸潤していたため,眼瞼全層切除を行って瞼板結膜弁とCV-Y前進皮弁を用いて前葉・後葉を再建した.2例は生検の結果,BCCと判明したものの,さらなる治療を希望しなかったため経過観察とした.結果:腫瘍切除後に前葉のみの眼瞼形成を施行したC6例と,眼瞼の前葉・後葉の眼瞼形成を施行したC1例では,術後,整容的および機能的に問題なく経過した.生検のみを施行した症例は皮膚欠損部が肉芽形成で閉鎖し,もうC1例は腫瘍が自然退縮した.全例で再発はなく,腫瘍関連死もみられなかった.結論:BCCは瞼板まで浸潤していることは少ないので治療は眼瞼の前葉のみの切除および眼瞼形成で十分であると考えられた.ただし,術中迅速病理検査を行って切除断端に腫瘍細胞がないことを確認することが重要である.CPurpose:Toreviewthetreatmentmethodsimplementedatourhospitalforbasalcellcarcinoma(BCC)oftheeyelid.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved9casesofeyelidBCCtreatedattheDepartmentofOphthal-mologyofOkitamaGeneralPublicHospitalovera13-yearperiod.In5cases,thetumorwasexcisedatadepthoftheepidermiswithasafetymarginof2Cmm.Aftercon.rmingtheabsenceoftumorcellsthrougharapidpathologi-calCexamination,CeyelidCreconstructionCofCtheCanteriorClamellaConlyCwasCperformedCusingCaCV-YCadvancementC.apCfortheskindefect.In1case,thetumorwasremovedusingasimilarmethodandthesurplusskinwasstretchedandreconstructed.In1caseinwhichthelesionhadin.ltrateduptothepalpebralconjunctiva,full-thicknesseye-lidCexcisionCwasCperformedCandCtheCanteriorCandCposteriorClamellaeCwasCreconstructedCusingCaCtarsalCconjunctivalC.apandadvancement.ap.In2casesinwhichthebiopsycon.rmedBCC,wedecidedtosimplyobservetheprog-ress,asthepatientsrefusedtoundergofurthertreatment.Results:Inthe6casesthatunderwentanteriorlamellareconstructiononlyposttumorexcisionandthe1casethatunderwentbothanteriorandposteriorlamellarecon-struction,nofunctionaloraestheticcomplicationswereobservedpostsurgery.Inthe2casesinwhichonlyabiop-sywasperformed,theskindefectclosedduetogranulationinonecase,andthetumornaturallyregressedintheotherCcase.CInCallCcases,CthereCwereCnoCrecurrencesCorCtumor-relatedCdeaths.CConclusion:SinceCBCCCrarelyCin.ltratesuptothetarsus,weconcludedthattreatmentwithexcisionandanterior-lamella-onlyeyelidreconstruc-tionCisCgenerallyCsu.cient.CHowever,CitCisCcrucialCtoCcon.rmCtheCabsenceCofCtumorCcellsCatCtheCresectionCmarginsCduringsurgeryviaarapidpathologicalexamination.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(2):223.228,C2024〕Keywords:眼瞼基底細胞癌,腫瘍切除,眼瞼形成,眼瞼前葉.basalcellcarcinoma,tumorresection,eyelidre-construction,anteriorlamellaoftheeyelid.C〔別刷請求先〕大沼貴哉:〒992-0601山形県東置賜郡川西町西大塚C2000公立置賜総合病院眼科Reprintrequests:TakayaOnuma,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OkitamaPublicGeneralHospital,2000Nishiotsuka,Nishikawa-machi,Higashiokitama-gun,Yamagata992-0601,JAPANCはじめに基底細胞癌(basalCcellcarcinoma:BCC)は,全身の皮膚悪性腫瘍のなかでもっとも頻度が高く,そのC80%が頭頸部に発生し,さらにそのC20%は眼瞼に発生する1.3).眼瞼悪性腫瘍のなかでもわが国を含むアジア地域では,脂腺癌と並んでそれぞれC30.40%の発症頻度とされC1位,2位を占める4.7).眼瞼悪性腫瘍の治療においては,外科的切除が第一選択とされ,その際には切除範囲を慎重に検討することが必要である.水平方向の切除範囲は安全域(safetymargin)を設定して決定するが,深度については腫瘍の深達度に応じて,眼瞼の前葉と後葉を含む全層切除を行うか,前葉のみ表層切除を行うかを決定する.全層切除と表層切除では腫瘍切除後の眼瞼再建方法の難易度が大きく変わってくる.BCCは,表皮から真皮内に限局して瞼板まで浸潤していることは少ないため前葉のみの切除で十分なことが多いとされる1,8).この点を勘案しての公立置賜総合病院眼科(以下,当科)で治療した眼瞼CBCCの症例について検討したので報告した.CI対象および方法2010年C4月.2023年C3月に当科で眼瞼CBCCと診断されたのはC12例だった.そのうち,2例は患者の希望で他院へ紹介した.1例は手術を希望しなかった.これらのC3例を除いた残りのC9例を対象とした.これらの症例について,年齢,性別,部位,腫瘍のサイズ,腫瘍の臨床像,再発の有無,生存率について検討した.CII結果(表1)C1.年齢年齢はC62.88歳で平均C76.8C±7.9歳であった.C2.性別性別は,男性C6例,女性C3例であった.C3.患側と部位患側は右側C3例,左側C6例であった.部位は上眼瞼C2例,下眼瞼C7例であった.C4.腫瘍のサイズ腫瘍のサイズは,最小でC7C×4Cmm,最大でC10C×9mmであった.C5.腫瘍の臨床像全症例が結節・潰瘍型で,表在型や斑状・強皮症型,破壊型はなかった.C6.治療法症例C1.5は,腫瘍を水平方向は安全域C2Cmmで切除した.深度は真皮の厚さとした.水平方向と深部の切除断端に対して術中の迅速病理検査を施行した.深部断端については眼輪筋の半層を切除して迅速病理検査に提出した.すべての断端に腫瘍細胞が陰性であることを確認した後,皮膚欠損部は皮下茎皮弁を付けたCV-Y前進皮弁(V-YCadvancement.ap)を作製して表層のみの眼瞼形成を行った11)(図1b,c).症例C6は腫瘍切除および術中病理検査を症例C1.5と同様に施行したが,再建には前進皮弁を作製しないで,切除範囲の上方の余剰皮膚の皮下組織を.離して表皮を伸展させて皮膚欠損部を被覆した(図2).症例C7は病変が瞼縁を越えて瞼結膜までの浸潤がみられたので安全域C2Cmmで眼瞼全層切除を行った.眼瞼欠損部は健側の右下眼瞼から瞼板結膜弁を採取して後葉を形成し,前葉はCV-Y前進皮弁で形成した(図3).症例C8とC9は生検を施行した(図4).いずれも病理検査結果がCBCCだったのでさらなる切除および眼瞼形成を勧めたが,とくに症例C9は認知症が進行していたこともあり,2例ともさらなる治療を希望しなかったためそのまま経過観察となった.C7.平均観察期間9症例の平均経過観察期間はC46.7C±35.6カ月,最短経過観察期間はC19カ月,最長経過観察期間はC144カ月であった.C8.術後経過表層のみの切除・眼瞼形成を施行したC6例,眼瞼全層切除・眼瞼形成を施行したC1例はすべて整容的・機能的にも問題はなく経過している(図1~3).結果的に生検のみで経過観察することになった症例C8は肉芽が形成されて皮膚欠損部は閉鎖した.生検のみを施行した症例C9は腫瘍が残存していたが,その後,病変は自然退縮した(図4).C9.再発の有無,生存率全例において再発は認められず,腫瘍関連死はなかった.CIII考按眼瞼悪性腫瘍のなかでCBCCは欧米ではC90%程度と圧倒的に多いが,日本を含めたアジアではCBCCと脂腺癌がそれぞれC40%程度とほぼ同じ頻度である.残りのC10.20%に扁平上皮癌やCMerkel細胞癌などが含まれる4.6).脂腺癌のほとんどは眼瞼の皮脂腺であるマイボーム腺が発生母地であり1,10),増殖速度が速く悪性度も高いため,いったん発症すると表皮側から瞼結膜側まで眼瞼の全層に浸潤することが多い.よって脂腺癌を切除するにあたっては広い安全域を設けて眼瞼を全層切除しなければならない5).それに対してCBCCは皮膚の表皮の最下層にある基底細胞や,毛包を構成する細胞が発生母地で,その増殖は緩徐であり,病変は長期間表皮から真皮内に限局していることが多い.瞼板まで浸潤していることは少ないのでCBCCを切除するにあたっては真皮までの切除で十分であることが多い1,8).腫瘍の切除にあたっては安全域が必要であるが,皮膚科的表1対象症例症例年齢性別局在サイズ長径×短径(mm)治療法経過観察期間(月)再発の有無C1C75男性左下眼瞼C13×5表層切除+皮弁形成C52無C2C84女性右下眼瞼C7×6表層切除+皮弁形成C24無(術後C6年後に肺炎で死亡)C3C77男性右下眼瞼C11×4表層切除+皮弁形成C31無C4C80男性左下眼瞼C6×5表層切除+皮弁形成C43無C5C83男性左下眼瞼C10×7表層切除+皮弁形成C19無C6C76女性左上眼瞼C10×7表層切除+皮膚伸展C22無C7C66女性左下眼瞼C9×6全層切除+眼瞼形成C144無C8C62男性右上眉毛部C10×9生検のみC62無C9C88男性左下眼瞼C7×4生検のみC23無図1表層のみの腫瘍切除と眼瞼形成を施行した症例a:症例C1の術前所見.左下眼瞼の鼻側に不整形で黒色調の病変がみられる.Cb,c:症例C1の術中所見(図の上方が頭側).腫瘍切除跡の耳側に皮弁をデザイン.皮下茎をつけたCV-Y前進皮弁を作製して切除痕へ移動.Cd:症例C1の術後C1週間の所見.Ce:症例C2の術前の所見.右下眼瞼の鼻側に色素に乏しい半球状の病変がみられる.Cf:症例C2の術後C11カ月後の所見.Cg:症例C3の術前の所見.右下眼瞼の中央に不整形で潰瘍形成を伴う病変がみられる.Ch:症例C3の術後C17カ月後の所見.Ci:症例C4の術前の所見.左下眼瞼耳側に黒色調の不整形の病変がみられる.Cj:症例C4の術後C1週間後の所見.創に血餅が付着しているが,外眼角部は形成されている.Ck:症例C5の術前の所見.左下眼瞼中央に比較的大型で不整形,潰瘍形成を伴う病変がみられる.Cl:症例C5の術後C1カ月後の所見.瞼縁にやや変形がみられるが,再発の徴候はない.図2症例6の術前・術後の所見a:術前の所見.左上眼瞼鼻側に潰瘍形成を伴う病変がみられる.Cb:腫瘍切除跡の上方の皮膚を伸展させて欠損部を被覆した.術後C3カ月後の所見.にはBCCで4Cmm以上2),悪性黒色腫ではC10.20Cmmとされているが,眼科的にはCBCCや扁平上皮癌ではC2.3Cmm,脂腺癌や悪性黒色腫ではC5Cmm程度というのが一般的である5,6,8,11).実際,10Cmm程度までの腫瘤に対してはC2.3Cmmで切除しても追加切除が必要になることはほとんどないとされる11).今回,当科では安全域はC2Cmmに設定した.眼瞼は,前葉と後葉の二つの部位から構成され,前葉は皮膚と眼輪筋,後葉は瞼板と眼瞼結膜からなる10,12).腫瘍切除後の眼瞼形成は切除後の組織の欠損の範囲,皮膚のみか眼瞼全層かという深達度によって難易度が異なる.図3症例7の術前・術後の所見a,b:術前の所見.左下眼瞼に潰瘍形成を伴う病変がみられ,瞼結膜側まで病変が浸潤している.Cc:眼瞼を全層で切除し,後葉は健側の右下眼瞼から瞼板結膜弁を採取し,前葉はCV-Y前進皮弁で形成した.術後C12年後の所見.整容的に良好である.今回,当科でのCBCCの治療戦略として意図したのは,BCCが表皮から真皮に限局していることを前提にして腫瘍切除を皮膚のみの深さで行うことである.その際には術中迅速病理検査で切除断端(とくに眼輪筋側の深部断端)に腫瘍細胞がないことを確認することは必須である.腫瘍切除後の眼瞼形成は後葉の形成が不要であるので,欠損部の周囲の眼瞼や.部から皮弁を作製して前葉を形成するのでそれほど煩雑ではなく,術後の眼瞼変形なども少ない.局所麻酔での対応も可能である.今回の症例C1.6はこの方法で治療して全症例とも整容的にも機能的にも問題はなく,再発もなく,有図4生検のみを施行した症例a:症例C8の初診時所見.右眉毛部の鼻側にドーム状の病変がみられる.切除生検を施行した.Cb:症例C8の生検C1週間後の所見.皮下組織までに及ぶ欠損がみられる.Cc:症例C8の生検C18カ月後の所見.欠損部に肉芽が形成され,欠損は修復されている.Cd:症例C9の初診時の所見.左下眼瞼中央に潰瘍形成を伴う病変がみられる.切除生検を施行した.Ce:症例C9の生検C1週間後の所見.病変の残存がみられる.Cf:症例C9の生検C2カ月後の所見.病変は縮小している.用な方法と考えられた.症例C8は病変を核出したのみで,眼瞼形成も行わないとい症例C7は病変が瞼縁を越えて瞼結膜側まで進展していたたう経過になった.結果的には腫瘍を切除するのみで欠損部のめ,眼瞼全層切除を余儀なくされた.眼瞼全層切除後の眼瞼自然な肉芽形成と上皮化を待機するというCopenCtreatment形成は,欠損範囲が瞼裂の幅のC1/3未満であれば単純縫縮,となった.Opentreatmentは母斑や脂漏性角化症などの眼それ以上なら前葉は皮弁作製,後葉は硬い瞼板および粘膜で瞼良性腫瘍で多用されるが,血流が豊富で創傷治癒が良好なある結膜の代用品を他部位から移植して作製しなければなら内眼角付近のCBCCや脂腺癌にも応用したという報告もあない9).後葉形成に硬口蓋粘膜8,13),鼻中隔軟骨,耳介軟骨なる1,11).皮膚欠損に対して自然に肉芽の形成を待つ方法(lais-どを作製したり,Hughes法10,12.14)などのさまざまな術式がCsezfaire)もある12,15).症例C8は経過観察中には再発など増あるが,いずれも手技は煩雑であり一定の経験,熟練を要す悪はみられていないが,腫瘍細胞が残存しているリスクはある.るので注意が必要である.症例C9は生検のみで終了したが,その後自然退縮した.神経芽腫,腎細胞癌,悪性黒色腫,リンパ腫,BCC,大腸癌,肺癌などの悪性腫瘍が自然縮小したという報告もあるが,それはC60,000.100,000例にC1例程度とされ,非常にまれな状況であるので最初から自然退縮を期待するという方針は適切ではないと思われる16.18).今回,検討した症例は経過観察中の再発はなかった.基本的にCBCCは術中迅速病理検査で切除断端に腫瘍細胞がないことを確認することを条件にすれば眼瞼の前葉のみの操作で腫瘍のコントロールは可能であると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)中山知倫,渡辺彰英:眼瞼の腫瘤:脂腺癌・基底細胞癌.あたらしい眼科34:1113-1118,C20172)帆足俊彦,石川雅士,上原治朗ほか:皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第C3版基底細胞癌診療ガイドラインC2021.日皮会誌131:1467-1496,C20213)ShiY,JiaR,FanX:Ocularbasalcellcarcinoma:abriefliteraturereviewofclinicaldiagnosisandtreatment.OncoTargetsTherC10:2483-2489,C20174)TakamuraCH,CYamashitaH:ClinicopathologicalCanalysisCofCmalignantCeyelidCtumorCcasesCatCYamagataCUniversityHospital:StatisticalCcomparisonCofCtumorCincidenceCinCJapanCandCinCotherCcountries.CJpnCJCOphthalmolC49:349-354,C20055)渡辺彰英:脂腺癌の臨床.あたらしい眼科C32:1717-1718,20156)林暢紹:基底細胞癌の臨床.あたらしい眼科C34:1743-1744,C20177)YuCSS,CZhaoCY,CZhaoCHCetal:ACretrospectiveCstudyCofC2228CcasesCwithCeyelidCtumors.CIntCJCOphthalmolC11:C1835-1841,C20188)大湊絢,尾山徳秀,張大行ほか:原発性上皮型眼瞼部悪性腫瘍の切除後の再建術についての検討.臨眼C67:C1295-1298,C20139)高村浩:眼瞼腫瘍切除と眼瞼形成.新CESCNOWCNo.2外来小手術外眼部手術達人への道.山本哲也,江口秀一郎,ビッセン宮島弘子ほか編,メジカルビュー社,p136-143,C201010)中山知倫:眼表面に配慮した眼瞼腫瘍切除再建術.あたらしい眼科38:33-41,C202111)古田実:眼瞼腫瘍切除術.あたらしい眼科C29:891-898,C201212)柿崎裕彦:眼にやさしい眼瞼腫瘍の切除後再建.臨眼C66:C1701-1708,C201213)福井歩美,渡辺彰英,中山知倫ほか:眼瞼脂腺癌の臨床像と再建術後合併症の検討.日眼会誌124:410-416,C202014)真島麻子,後藤浩,木村圭介ほか:眼瞼脂腺癌に対するHughes変法の治療成績.日眼会誌121:125-129,C201715)HarringtonJN:ReconstructionCofCtheCmedialCcanthusCbyCspontaneousgranulation(Laissez-Faire):aCreview.CAnnOphthalmolC14:956-960,C963-966,C969-970,C198216)河北一誠,武田圭佐,田中友香ほか:自然消退した上行結腸癌のC1例.日消外会誌52:106-111,C201917)村西佑介,上島康生,長谷川浩一ほか:自然退縮がみられた肺多形癌のC1例.日呼吸誌1:498-501,C201218)眞鍋公,柏木孝之:Bowen病を思わせた表在型基底細胞上皮種のC1例および名寄市立総合病院皮膚科における基底細胞上皮種の統計的観察.名寄市病誌6:40-45,C1998***

ぶどう膜炎と辺縁系脳炎が同時発症した アテゾリズマブによる免疫関連有害事象の1 例

2024年2月29日 木曜日

《原著》あたらしい眼科41(2):217.222,2024cぶどう膜炎と辺縁系脳炎が同時発症したアテゾリズマブによる免疫関連有害事象の1例曽谷拓之石川裕人五味文兵庫医科大学眼科学教室CACaseofImmune-RelatedAdverseEventduetoAtezolizumabwithSimultaneousUveitisandLimbicEncephalitisHiroyukiSotani,HirotoIshikawaandFumiGomiCDepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicineHospitalC目的:免疫チェックポイント阻害薬であるアテゾリズマブ導入C2週間後に,ぶどう膜炎と辺縁系脳炎を同時発症した症例を経験したので報告する.症例:50歳,男性.肺腺癌CStageIVに対しアテゾリズマブが導入された.2週間後,発熱・嘔吐,意識レベル低下を呈し,辺縁系脳炎と診断された.ステロイドパルス療法が施行され,翌日には意識レベルは改善するも,3日後視野異常を自覚し眼科を受診した.矯正視力は右眼C0.2・左眼C0.3,前眼部・中間透光体に異常認めず,両眼底には網膜血管炎と漿液性網膜.離を認めた.アテゾリズマブによるぶどう膜炎と辺縁系脳炎の同時発症と考え,ステロイド治療を継続した.初診からC1年後,血管炎や漿液性網膜.離は改善するも,網膜外層障害は残存しており視力は改善していない.結論:免疫チェックポイント阻害薬はCT細胞の活性化により腫瘍細胞を攻撃し癌を退縮する.活性化CT細胞が他の抗原提示正常細胞を攻撃した場合には,炎症を惹起する.アテゾリズマブはまだ新しい薬剤であり,今後も非典型的なぶどう膜炎には注意が必要である.CPurpose:Toreportacaseofsimultaneousuveitisandlimbicencephalitisthatdeveloped2-weeksafterintro-ductionCofCatezolizumab.CCase:AC50-year-oldCmaleCdevelopedCfever,Cvomiting,CandCdecreasedClevelCofCconscious-nessC2CweeksCafterCreceivingCatezolizumabCforCstageCIVClungCadenocarcinoma,CandCwasCdiagnosedCwithClimbicCencephalitis.CSteroidCpulseCtherapyCwasCadministered,CandCtheChisClevelCofCconsciousnessCimprovedCtheCnextCday.CHowever,C3CdaysClater,CheCsoughtCophthalmologicalCconsultationCdueCtoCabnormalitiesCinChisCvisualC.eld.CSlit-lampCexaminationrevealedbilateralretinalvasculitisandserousretinaldetachment.Thepatientwasconsideredtohavesimultaneousuveitisandlimbalencephalitiscausedbyatezolizumab,andsteroidtherapywascontinued.At1yearaftertheinitialdiagnosis,thevasculitisandserousretinaldetachmenthadimproved,yettheextraretinaldamageremainedandhisvisualacuitydidnotimprove.Conclusion:Sinceatezolizumabisstillanewagent,itshouldbeusedwithstrictcautionincasesofatypicaluveitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(2):217.222,C2024〕Keywords:免疫チェックポイント阻害薬,アテゾリズマブ,ぶどう膜炎,辺縁系脳炎免疫関連有害事象.im-munecheckpointinhibitor,atezolizumab,uveitis,limbicencephalitis,immune-relatedAdverseEvents.Cはじめに免疫チェックポイント阻害薬(immuneCcheckpointCinhibi-tor:ICI)には抗CPD-1抗体,抗CPD-L1(programmeddeath-ligand1)抗体,抗CCTLA-4抗体のC3種類が存在する.アテゾリズマブは免疫チェックポイント阻害薬の一種であり,PD-L1を標的としたヒト化CIgG1モノクローナル抗体である.現在わが国では肺癌・乳癌・肝細胞癌の一部に適応がある比較的新しい薬剤であるが,その一方で使用により従来の殺細胞性抗腫瘍薬や分子標的薬ではみられなかった免疫関連の副作用として,眼障害,内分泌障害,間質性肺疾患,消化器系障害,脳神経系障害,肝胆膵障害など,さまざまな副作用が報告されている1,2).眼障害は全体の約C1%に生じると〔別刷請求先〕曽谷拓之:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町C1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:HiroyukiSotani,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-city,Hyogo663-8501,JAPANC図1a初診時眼底写真アーケード血管周囲の滲出性変化と黄斑部の漿液性網膜.離を認める.図1b初診時広角眼底写真周辺部の血管にも滲出性変化を認める.され,そのなかでもおもな疾患はドライアイ(1.24%),ぶどう膜炎(約C1%)とされる3).今回アテゾリズマブ導入C2週間後に両眼後部ぶどう膜炎と自己免疫性脳炎を同時発症した症例を経験したので報告する.CI症例患者:50歳,男性.主訴:両視野異常.現病歴:肺腺癌CStageIVに対しアテゾリズマブを導入,15日後に発熱・嘔吐を主訴に緊急入院した.その翌日意識レベル低下と強直間代性けいれんが出現したため頭部造影MRIを施行され,辺縁系脳炎が疑われた.アテゾリズマブを中止し,ステロイドパルスC1,000CmgをC3日間施行され意識レベルは改善したが,両中心暗点の自覚症状があり同日眼科受診となった.既往歴:肺腺癌CStageIV(cT4N3M1a)に対し以下の抗癌剤治療を施行していた.C1stline:カルボプラチン(CBDCA)/パクリタキセル(PTX)/ベバシズマブ(Bev)/ニボルマブ(抗CPD-1抗体)4コース.C2ndlineドセタキセル(DOC)+ラムシルマブ(RAM)4コース.3rdlineアテゾリズマブ(抗CPD-L1抗体).初診時所見:初診時の視力は右眼C0.15(0.2C×sph.1.25D(cyl.1.00DAx100°),左眼C0.09(0.3C×sph.1.25D(cylC.2.50DAx90°),眼圧は右眼13mmHg,左眼12mmHg,図1c初診時動的視野検査両眼に中心比較暗点を認める.図1d初診時OCT画像漿液性網膜.離と黄斑から鼻側の一部にCEZ/IZの欠損と外顆粒層の高反射病変を認める.IR画像では特異な所見は認めない.対光反射は両眼迅速かつ十分,相対性求心性瞳孔反応欠損(relativea.erentpupillarydefect:RAPD)は陰性であった.前眼部・中間透光体には軽度白内障を認める以外異常はなく両眼眼底に滲出性変化を伴う網膜血管炎所見と漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SRD)を認めた(図1a,b).動的視野検査(Goldmannperimetry:GP)では両眼に中心比較暗点を認めた(図1c).また,光干渉断層撮影(opticalCcoherencetomography:OCT)では両眼にCSRDと黄斑から鼻側にかけて視細胞外層障害を認めた(図1d).なお,全身状態を考慮し蛍光眼底造影検査は施行されなかった.経過:内科では頭部造影CMRI(図2a)や髄液検査などを施行された結果,免疫関連有害事象(immune-relatedAdverseEvents:irAE)による自己免疫性脳炎と診断,眼科では視神経疾患,腫瘍関連網膜症や他のぶどう膜炎を疑う所見は認めずCICI使用歴があることからCirAEによる後部ぶどう膜炎と診断された.眼科初診後(発症C10日後),さらにステロイドパルスC1,000Cmg3日間をC1クール施行された.パルスC2クール後にはCSRDは消失(図3),矯正視力は右眼0.3),左眼(0.2)であった.また,頭部造影CMRIでも自己免疫性脳炎は軽快(図2b)し,ステロイドC35Cmgから漸減を開始された.その後アテゾリズマブ中止からC2カ月後C4thlineカルボプラチン(CBDCA)/ペメトレキセド(PEM)を導入時点で矯正視力は両眼(0.4),発症C6カ月後にはステロイド内服を終了,GPでは中心比較暗点の改善を認めた(図図2頭部造影MRIT2WI・FLAIR像a:両側海馬全体が腫脹し高信号を示す.辺縁系脳炎が疑われる.Cb:腫脹は同程度だが信号の減弱を認める.図3ステロイドパルス療法2クール後(発症C10日後)の所見EZ/IZの不整欠損の残存はあるが漿液性網膜.離は改善を認める.4),7カ月後よりC5thlineテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(TS-1)が導入された.1年後時点で矯正視力は両眼(0.4),視細胞外層障害が残存した(図5).なお,患者は最終受診C1カ月後に進行性癌により死亡している.CII考按アテゾリズマブはCPD-L1を標的としたヒト化CIgG1モノクローナル抗体である.活性化CT細胞上に発現するCPD-1(programmeddeath-1)が,癌細胞や抗原提示細胞が発現するリガンドであるPD-L1に結合することによりCT細胞活性化を抑制し,癌細胞の免疫逃避が起こる.抗CPD-L1抗体は,PD-L1に結合することによりCT細胞上のCPD-1との相互作用を阻害し,その結果抑制シグナル伝達をブロックしCT細胞の活性化を維持する3).免疫系の主要な調節因子を対象とした治療であり効果がある反面,免疫学的副作用リスクも上昇する.irAEとしてのぶどう膜炎の機序は現在解明されていないが,網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium:RPE)細胞の表面にはCPD-L1受容体が発現しておりCT細胞上のCPD-1受容体との相互作用を遮断すると,RPE細胞に対する細胞毒性とCTh1反応が持続し,ぶどう膜炎を引き起こすとされる4,5).また,PD-L1シグナル伝達の欠如により,PD-1陽性CT細胞が炎症を起こした血管壁に浸潤し,インターフェロン-c,インターロイキン-17,インターロイキン-21などのエフェクターサイトカインを産生することがわかっておLR図4アテゾリズマブ中止から1年後の動的視野検査両眼とも暗点の残存は認めるも改善は認めている.図5発症から1年後のOCT所見両眼に視細胞外層の不整が残存している.り,その結果生じるリンパ球の蓄積が,フルオレセイン血管造影でみられる関連する静脈炎を説明する可能性がある6,7).Dowらのレビューによると報告された免疫チェックポイント阻害薬関連ぶどう膜炎C241眼のうち,37.7%(91)が前部ぶどう膜炎,0.01%(2)が中間部ぶどう膜炎,25.7%(62)が後部ぶどう膜炎,34.0%(82)が汎ぶどう膜炎を発症し,アテゾリズマブは他のCICIと比較して後部ぶどう膜炎の発生率が有意に増加していた(80.0%対C23.7%,p<0.001)8).さらに,アテゾリズマブを服用している患者のC15眼のうちC10眼は,網膜血管炎または静脈炎を伴い,しばしば網膜外層の破壊を伴う急性黄斑神経網膜症(AMN)または傍中枢性急性中部黄斑症(PAMM)に似た所見を示したとされる6,8).また他にもアテゾリズマブによる眼副作用では,前部ぶどう膜炎9)や,Vogt・小柳・原田病様ぶどう膜炎を呈した報告がある10)(表1).抗CCTLA-4抗体や抗CPD-1抗体使用後の両眼後部ぶどう膜炎と網膜.離をきたした症例11)はあるが,アテゾリズマブによる同様の症状を呈した報告は筆者らの知る限りでは本症例が最初の報告である.ただし今回C1stlineに抗CPD-1抗体のニボルマブを使用しており,ニボルマブによる遅発性irAEの可能性も考えられる11.13).本症例では両側の網膜血管炎をきたし,初診時CSD-OCT表1アテゾリズマブによる眼副作用報告と自験例との比較年齢・性別(疾患)眼所見(両眼)C/全身症状発症までの投与期間治療経過本症例50歳,男性(肺腺癌)中心比較暗点網膜血管炎・SRD/発熱・嘔吐・意識障害・強直間代性けいれん15日ステロイドパルスC1,000Cmg/3日間2クール後,経口ステロイド漸減・ステロイドパルス療法C2クール後CSRD消失・発症C6カ月後暗点改善,ステロイドオフ64歳,男性9)(非小細胞肺癌)Descemet膜皺襞角膜後面色素沈着前房細胞C2+(SUNWorkingGroup基準)/全身症状なし3週間ステロイド点眼C3時間ごと/日および散瞳薬C2回/日で開始・C14日後色素沈着減少,前房細胞・Descemet膜皺襞消失・1カ月後前部ぶどう膜炎完全消失局所ステロイド漸減76歳,女性10)(非小細胞肺癌)前房内フィブリン視神経乳頭腫脹多発性CSRD波状CRPE脈絡膜肥厚/全身症状なし17カ月ステロイドパルスC1,000Cmg/3日間後,経口・局所ステロイド漸減・開始C5日後前房内炎症消失・2カ月後CSRD完全消失・3カ月後ステロイドオフ上,黄斑部に漿液性網膜.離・黄斑から鼻側にかけて一部外顆粒層の高反射病変ならびにCellipsoidzone(EZ)とCinter-digitationzone(IZ)の不整欠損を認めた.また,眼底写真や自発蛍光画像,近赤外眼底撮影(IR)画像ではCAMNやPAMMを特徴づける有意な所見は認めなかった14).Ramto-hulらは,抗CPD-L1抗体の最初の投与から約C2週間後に発熱・インフルエンザ様症状とともに両側傍中心暗点をきたすAMN様病変で構造的・機能的障害が残存するものを「抗PD-L1抗体関連網膜症」とよんでおり6),本症例も明らかな確定所見は得られないが類似した経過をたどっており,その一部である可能性も示唆される.CIII結論眼科領域のCirAEは他臓器に対し頻度が少なく,見逃される可能性がある.免疫チェックポイント阻害薬は比較的新規の薬剤であり,今後も適応拡大が予想される.内科医との連携は重要であり,眼科的CirAE発生には注意を要する.文献1)只野裕己,鳥越俊彦:免疫チェックポイント阻害剤の免疫性副作用.JpnJClinImmunolC40:102-108,C20172)ChampiatCS,CLambotteCO,CBarreauCECetal:ManagementCofCimmuneCcheckpointCblockadeCdysimmunetoxicities:aCcollaborativeCpositionCpaper.CAnnCOncolC27:559-574,C20163)DalvinLA,ShieldsCL,Orlo.Metal:Checkpointinhibi-torimmunetherapy:systemicindicationsandophthalmicsidee.ect.RetinaC38:1063-1078,C20184)ZhouR,CaspiRR:Ocularimmuneprivilege.F1000BiolRepC2:1-3,C20105)ParikhCRA,CChaonCBC,CBerkenstockMK:OcularCcompli-222あたらしい眼科Vol.41,No.2,2024cationsCofCcheckpointCinhibitorsCandCimmunotherapeuticagents:aCcaseCseries.COculCImmunolCIn.ammC29:1-6,C20206)RamtohulP,FreundKB:Clinicalandmorphologicalchar-acteristicsCofCanti-programmedCdeathCligandC1-associatedretinopathy:expandingCtheCspectrumCofCacuteCmacularCneuroretinopathy.OphthalmolRetinaC4:446-450,C20207)ZhangH,WatanabeR,BerryGJetal:Immunoinhibitorycheckpointde.ciencyinmediumandlargevesselvasculi-tis.ProcNatlAcadSciUSAC114:E970-E979,C20178)DowER,YungM,TsuiE:Immunecheckpointinhibitor-associateduveitis:reviewCofCtreatmentsCandCoutcomes.COculImmunolIn.ammC29:203-211,C20219)MitoT,TakedaS,MotonoNetal:Atezolizumab-inducedbilateralanterioruveitis:acasereport.AmJOphthalmolCaseRepC24:101205,C202110)SuwaCS,CTomitaCR,CKataokaCKCetal:DevelopmentCofCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease-likeCuveitisCduringCtreat-mentCbyCanti-programmedCdeathCligand-1CantibodyCforCnon-smallcelllungcancer:acasereport.OculImmunolIn.ammC30:1-5,C202111)PengCL,CMAOCQQ,CJiangCBCetal:BilateralCposteriorCuve-itisCandCretinalCdetachmentduringCimmunotherapy:aCcaseCreportCandCliteratureCreview.CFrontCOncolC10:1-8,C202012)RichardsonCDR,CEllisCB,CMehmiICetal:BilateralCuveitisCassociatedwithnivolumabtherapyformetastaticmelano-ma:acasereport.IntJOphthalmolC10:1183-1186,C201713)MiyamotoCR,CNakashizukaCH,CTanakaCKCetal:BilateralCmultipleCserousCretinalCdetachmentsCafterCtreatmentCwithnivolumab:aCcaseCreport.CBMCCOphthalmolC20:1-7,C202014)HufendiekCK,CGamulescuCMA,CHufendiekCKCetal:CClassi.cationandcharacterizationofacutemacularneuro-retinopathyCwithCspectralCdomainCopticalCcoherenceCtomography.IntOphthalmolC38:2403-2416,C2018(112)

眼内レンズの囊外偏位が原因と考えられた続発緑内障の1 例

2024年2月29日 木曜日

《原著》あたらしい眼科41(2):213.216,2024c眼内レンズの.外偏位が原因と考えられた続発緑内障の1例安次嶺僚哉力石洋平新垣淑邦古泉英貴琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座CACaseofSecondaryGlaucomaCausedbyExtracapsularFixationofIntraocularLensRyoyaAshimine,YoheiChikaraishi,YoshikuniArakakiandHidekiKoizumiCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyusC目的:眼内レンズ(IOL)の.外偏位が原因と考えられた続発色素緑内障を経験したので報告する.症例:45歳,男性.右眼水晶体再建術後に眼圧コントロール不良で紹介となった.初診時,右眼視力はC1.0,眼圧C60CmmHg,明らかなCIOL偏位はなく隅角に全周性色素沈着を認めた.色素緑内障と診断し線維柱帯切開術を施行した.術後一時的な眼圧下降を認めるも,再上昇をきたし線維柱帯切除術を施行した.眼圧は下降したが経過中に術眼を打撲,軽度浅前房と前房出血以外に異常所見なく経過観察とした.受傷C3日後に眼痛が出現し著明な浅前房とCIOL光学部の虹彩捕獲を認め,前房形成術とCIOL整復術を施行した.術中所見はCIOL支持部の一方が.外固定であった.術後前房深度,眼圧ともに安定した.結論:IOLの.外偏位が原因と考えられた続発色素緑内障を経験した.水晶体再建術後の色素沈着を伴う続発緑内障では術後早期でもCIOLの.外偏位が原因であることも考慮すべきである.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCsecondaryCpigmentaryCglaucomaCcausedCbyCintraocularlens(IOL)dislocation.CCaseReport:A45-year-oldmalewasreferredtousduetopoorintraocularpressure(IOP)controlpostcataractsurgery.Uponexamination,hisright-eyevisualacuityandIOPwas1.0and60CmmHg,respectively.Hewasdiag-nosedaspigmentaryglaucomaduetohyperpigmentationinthetrabecularmeshwork,andtrabeculotomywasper-formed.Postsurgery,theIOPwaspoorlycontrolled,sotrabeculectomywasperformed.Aftertrabeculectomy,theIOPdecreasedandwaswellcontrolled.At5-dayspostoperative,theoperatedeyewasseverelyinjured,andat3daysCpostCinjury,CtheCanteriorCchamberCdepthCbecameCveryCshallowCandCirisCcaptureCofCtheCIOLCopticsCwasCobserved.CTheCIOLCwasCthenCsurgicallyCguidedCintoCtheCcapsuleCandCanteriorCchamberCdepthCbecameCdeepened.CIntraoperative.ndingsshowedthatonesideoftheIOLhapticswaslocatedoutofthecapsule.Conclusion:Sec-ondarypigmentaryglaucomaearlypostcataractsurgerymaybecausedbyIOLdislocation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(2):213.216,C2024〕Keywords:続発緑内障,眼内レンズ,.外固定.secondaryglaucoma,intraocularlens,extracapsular.xation.はじめに色素緑内障は,線維柱帯への色素沈着により眼圧上昇をきたす疾患である1).原因の一つとして,眼内レンズ(intraocu-larlens:IOL)支持部と虹彩後部が接触することで,虹彩上皮から色素が過剰に遊離し,線維柱帯の流出路が障害されることにより生じると考えられている2).IOL.外固定による続発色素緑内障の発症時期は術後約C13カ月やC22カ月と,おおむね術後C1年以上と報告されている3,4).今回,筆者らは水晶体再建術後C9日目と比較的早期に発症した,IOL.外偏位が原因と考えられた続発色素緑内障のC1例を経験したため報告する.CI症例45歳,男性.家族歴や既往歴に特記事項なし.X年C3月に前医で右眼水晶体再建術(HOYAisert255,度数不明)を施行.術翌日の右眼眼圧がC42CmmHgと上昇,高張浸透圧薬の点滴および抗緑内障点眼治療にて下降した.術後C3日目の右眼矯正視力はC1.5,眼圧はC13CmmHgであった.術後C9日目に右眼の霧視と視力低下を主訴に前医受診,右眼矯正視力はC0.3,眼圧はC40CmmHg,角膜浮腫と前房内に虹彩色素を〔別刷請求先〕安次嶺僚哉:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原C207琉球大学大学院医学研究科医学科専攻眼科学講座Reprintrequests:RyoyaAshimine,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPANC図1当院初診時の右眼前眼部写真角膜浮腫とCIOL上に色素沈着を認める.認めた.前述の点滴・点眼を使用するも眼圧コントロール不良のため,術後C10日目に琉球大学附属病院(以下,当院)へ紹介となった.初診時所見はCVD=0.1(1.0C×sph.3.00D(cyl.1.00DAx160°),VS=0.03(1.0C×sph.4.75D(cylC.1.00DAx5°)であり,眼圧は右眼60mmHg,左眼18mmHgであった.右眼角膜浮腫とCIOL上の色素沈着を認めた.散瞳検査は未施行でありCIOL光学部までしか観察はできず,明らかなCIOL光学部の偏位や動揺はなかった(図1).隅角鏡検査にて右眼優位の線維柱帯への全周性色素沈着を認めた.周辺虹彩前癒着は認めなかった.眼底に特記所見は認めなかった.CII経過線維柱帯への高度な色素沈着と眼圧上昇より,術後早期の続発色素緑内障と診断し,受診日当日に線維柱帯切開術を施行した.術後眼圧はC20CmmHg以下に下降したが術後C5日目に右眼視力低下のため外来受診,右眼矯正視力はC0.08,眼圧はC55CmmHgと再上昇を認めた.炭酸脱水酵素阻害薬内服および抗緑内障点眼使用にても眼圧コントロール不十分であったため,線維柱帯切開術施行C10日後に線維柱帯切除術を施行した.術後眼圧はC15CmmHg程度にコントロールされた.線維柱帯切除術後C5日目,ベッドの手すりで右眼を打撲した.前房出血があり,右眼眼圧C7CmmHgとやや低下あるものの,中心前房深度はC3.4角膜厚と保持されていたため予定どおり退院とした.退院C3日後に眼痛,嘔気を主訴に予約外受診,眼圧はC12CmmHgであったが中心前房深度はC0.5角膜厚と高度な浅前房とCIOL光学部の虹彩捕獲を認めたため,外来処置室にてオキシグルタチオン(BSS)を用いてCIOL光学部を虹彩後方に整復した.しかし,翌日診察時には再度浅前房およびCIOLの虹彩捕獲を認めた(図2).眼圧はC3CmmHgであった.細隙灯顕微鏡検査にて周辺虹彩切除部から前.上に図2打撲後,予約外診時の右眼前眼部写真a:高度な浅前房化を認める.Cb:IOL光学部の虹彩捕獲を認める.IOL支持部が観察された.この所見よりCIOL支持部.外偏位による続発色素緑内障と診断した.同日粘弾性物質を用いて,IOL支持部の水晶体.内への整復術と前房形成術を施行した.術中所見では連続円形切.(continuousCcurvilinearcapsulorhexis:CCC)径はC7Cmm程度で上方支持部は.外に偏位しており,下方支持部は.内に固定されていた.術後,IOL偏位はなかったが中心前房深度はC2.3角膜厚と浅前房化しており,右眼眼圧はC4CmmHgと低眼圧であったため過剰濾過と判断し,IOL整復術後C5日目に強膜弁を追加縫合した.その後前房形成および眼圧コントロール良好で経過している.CIII考察Changら2)はCIOLを毛様溝に挿入後に発症した続発色素緑内障について,平均発症時期は初回水晶体再建術後C21.9C±17.1カ月と報告している.一方,Micheliら3)は.内固定されたCIOLの片側が経過中に.外へ脱出したことにより術後C27日目と比較的早期に続発色素緑内障を発症した症例を報告しており(表1),支持部が脱出した要因としてCCCCが表1水晶体再建術後に続発色素緑内障を発症した期間とIOLの種類UySHetal4)CChangSHetal2)CMicheliTetal3)本症例平均発症期間C13.0±9.6カ月C21.9±17.1カ月27日9日CIOLアクリル,1ピース9眼:アクリル,1ピース1眼:シリコーンアクリル,1ピースアクリル,1ピース症例数20眼10眼1眼1眼眼圧(mmHg)図3本症例の治療と眼圧の経過7Cmmと大きかったためとしている.本症例においてもCIOL整復術中の所見で,7Cmm程度と大きめのCCCCを認めており,既報と同様,水晶体再建術後早期に片側のCIOL支持部が.外偏位し,虹彩と接触することにより色素散布が起こり眼圧上昇した可能性が考えられた.しかし,前医からの追加情報として前医の術中灌流・吸引(I/A)ハンドピース抜去時にCIOLの下方支持部が虹彩上に脱出し,整復を施行したこと,および当院でのCIOL支持部の整復術中所見では上方支持部は.外,下方支持部は.内に固定されていた所見から,前医でのCI/A抜去時にCIOL支持部は上下ともに.外へ脱出し,整復の際にCIOL上方支持部が十分に.内に戻らず.外に固定されたままであった可能性も考えられた.また,.外固定と比較して片側のCIOL支持部が脱出した場合のほうが虹彩と支持部の接触する角度がついて,より色素散布が強く起こり,早期に眼圧が上昇する可能性が考えられた.IOL支持部の偏位時期に関しては,眼球打撲時の可能性も否定できないが,受傷後の診察でも明らかなCIOL支持部の偏位は認めなかったため打撲の影響ではなく前医の術中,もしくは術後早期のCIOL支持部の.外偏位の可能性が高いと考えられた.IOLによる続発色素緑内障は虹彩とCIOLの接触が原因であるため,治療は早期に虹彩とCIOLの接触を解除することである.その後も眼圧下降が不十分な場合はレーザー線維柱帯形成術や流出路再建術,濾過手術を施行する4,5).本症例では濾過手術とCIOL整復術後,眼圧の大きな変動はなく安定した.今回は未施行だったが,既報では超音波生体顕微鏡(UBM)での虹彩とCIOL前面の接触所見は診断に有用6)とあり,術後早期の色素沈着を伴う続発緑内障ではCIOLが原因の可能性も考慮して,前眼部の画像検査が重要であると考えられた.CIV結論水晶体再建術後早期にCIOLの.外偏位が原因と考えられた続発色素緑内障の症例を経験した.水晶体再建術後早期の色素沈着を伴う続発緑内障ではCIOLの.外偏位が原因であることも考慮すべきである.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SugarCHS,CBarbourFA:PigmentaryCglaucoma;aCrareCclinicalentity.AmJOphthalmolC32:90-92,C19492)ChangCSH,CWuCWC,CWuSC:Late-onsetCsecondaryCpig-mentaryCglaucomaCfollowingCfoldableCintraocularClensesCimplantationCinCtheCciliarysulcus:aClong-termCfollow-upCstudy.BMCOphthalmolC13:Articlenumber22,20133)MicheliCT,CLeanneCMC,CSharmaCSCetal:AcuteChaptic-inducedCpigmentaryCglaucomaCwithCanCAcrySofCintraocu-larlens.JCataractRefractSurgC28:1869-1872,C20024)UyHS,ChanPS:Pigmentreleaseandsecondaryglauco-maCafterCimplantationCofCsingle-pieceCacrylicCintraocularClensesCinCtheCciliaryCsulcus.CAmCJCOphthalmolC142:330-332,C20065)LeBoyerRM,WernerL,SnyderMEetal:Acutehaptic-inducedCciliaryCsulcusCirritationCassociatedCwithCsingle-pieceCAcrySofCintraocularClenses.CJCCataractCRefractCSurgC31:1421-1427,C20056)Detry-MorelML,AckerEV,PourjavanSetal:AnteriorsegmentimagingusingopticalcoherencetomographyandultrasoundCbiomicroscopyCinCsecondaryCpigmentaryCglau-comaCassociatedCwithCin-the-bagCintraocularClens.CJCCata-ractRefractSurgC32:1866-1869,C2006***

自己結膜被覆術の術後成績

2024年2月29日 木曜日

《原著》あたらしい眼科41(2):206.212,2024c自己結膜被覆術の術後成績都筑賢太郎*1輿水純子*1山口達夫*2,1,3*1聖路加国際病院眼科*2新橋眼科*3石田眼科CConjunctivalFlapSurgeryfortheTreatmentofCornealDiseaseKentaroTsuzuki1),JunkoKoshimizu1)andTatsuoYamaguchi2,1,3)1)DepartmentofOphthalmology,St.Luke’sInternationalHospital,2)ShinbashiGanka,3)IshidaEyeClinicC目的:1988年C1月.2020年C12月に,角膜の菲薄化を伴う難治性の角膜疾患に対して結膜被覆術を施行し,術後成績について検討した.方法:角膜が高度に菲薄化(穿孔例C8眼を含む)したC18例C18眼に対して,自己結膜を用いて結膜被覆術を施行した.男性C7例C7眼,女性C11例C11眼で,平均年齢はC63.3歳.対象疾患は多剤抗菌薬に耐性のある重症角膜潰瘍C12眼,真菌性角膜潰瘍C1眼,ヘルペス角膜潰瘍C2眼,眼類天疱瘡C1眼,アカントアメーバ角膜炎C2眼であった.17眼に対しては,Gundersenの方法に準じて結膜弁を作製し病巣部を被覆したが,結膜と強膜に癒着の認められたC1眼に対しては,反対眼より作製した遊離結膜弁を用いて被覆した.結果:18眼中C15眼で感染による炎症は消退し,前房は維持され,創傷は治癒した.ヘルペス角膜炎のC2眼の結膜弁は融解した.結論:自己結膜による結膜被覆術は,角膜の厚みが増すことにより角膜保護効果と同時に,血流により病巣部に薬剤を浸透させるという特徴を生かし,症例によるがよい結果が得られた.とくに細菌,真菌の感染症例に有効であった.術後の混濁など欠点もあるが,症例を的確に選択すれば,菲薄角膜の治療に有用な術式であると考えられた.CPurpose:Toevaluatethee.cacyofconjunctival.apsurgeryforthetreatmentofcornealdiseaseaccompa-niedCbyCcornealCthinning.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC18CeyesCofC18patients(7CmalesCandC11females)withdeepcornealulcerswhounderwentconjunctival.apsurgeryfromJanuary1988toDecember2020.OfCtheC18Ceyes,C8CexhibitedCcornealCperforation,CandCtheCcornealCulcersCwereCcategorizedCasCbacterialCulcersCresistanttoantibiotics(12eyes),CfungalCcornealulcer(1eye),Cherpetickeratitis(2eyes),Cacanthamoebakeratitis(2eyes),Candocularcicatricialpemphigoid(1eye).Apartialpedunculatedconjunctival.apwasusedin17eyesandafreeconjunctivalC.apCwasCusedCinC1Ceye.CResults:InC15Ceyes,CconjunctivalC.apCsurgeryCsuccessfullyCstabilizedCtheCpatient’socularsurface,yetinthe2eyeswithheretickeratitis,therewaspostoperativerecurrence,astheconjunc-tival.apsmeltedandcornealperforationwasrepeated,andtheysubsequentlyunderwenttarsorrhaphyandphthi-sisbulbideveloped.Conclusion:Althoughcornealopacitywasobservedinsomecases,conjunctival.apsurgerywasfoundtobeane.ectivesurgicalprocedureforthetreatmentofcornealdiseaseaccompaniedbycornealthin-ning.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(2):206.212,C2024〕Keywords:結膜被覆術,角膜,角膜潰瘍,角膜穿孔.conjunctival.aps,cornea,ulcer,perforation.Cはじめに結膜被覆術は角膜疾患に対し,有茎弁にした結膜組織を用いて病変部を被覆し治療する古典的な術式であったが1),CGundersen2,3)により当初は水疱性角膜症の痛みを軽減する術式として用いられ再び注目をされるようなった.その後,再発性角膜びらん,角膜周辺部潰瘍,糸状角膜炎,神経麻痺性角膜炎,細菌性角膜炎,真菌性角膜炎,ヘルペス角膜炎,化学腐蝕などに応用されてきた4.10).わが国では北野ら11)により被覆した結膜弁の角膜中央部に位置する部位に,小さな穴を開けて瞳孔領を維持する術式開発された.近年,治療用ソフトコンタクトレンズの改良,シアノアクリレートの使用12,13),角膜の入手が以前より容易になったこと,羊膜移植術14)の普及などにより本術式の適応は狭くなってきてはいるが4,15),いまだに種々の疾患に用いられている16.22).〔別刷請求先〕都筑賢太郎:〒104-8560東京都中央区明石町C9-1聖路加国際病院眼科Reprintrequests:KentaroTsuzuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,St.Luke’sInternationalHospital,9-1Akashicho,Chuo-ku,Tokyo104-8560,JAPANC206(96)わが国では本術式の多数例での報告がないことより,筆者らはC1988年C1月.2020年C12月末に,角膜の菲薄化を伴う難治性の角膜病変に対し,聖路加国際病院(以下,当院)で施行した自己結膜を用いた結膜被覆術の術後成績を検討したので報告する.CI症例1988年C1月.2020年C12月末に,角膜が高度に菲薄化(穿孔例C8眼を含む)したC18例C18眼に対して,自己結膜を用いて結膜被覆術を施行した.男性C7例C7眼,女性C11例C11眼で,平均年齢はC63.3歳であった(表1).手術適応症例は,①角膜の菲薄化が進行性である,②菲薄部の穿孔が小さく前房水の漏出がないか,あっても極微量である(ソフトコンタクトレンズ,羊膜や,シアノアクリレートを用いても漏出が止まらない),③菲薄部の炎症が活動的でない,④菲薄部の感染が,拡大傾向にはないが完治しない,などである.対象疾患は,細菌培養後の検査で多剤に耐性のある重症角膜潰瘍C12眼,真菌性角膜潰瘍C1眼,ヘルペス角膜潰瘍C2眼,眼類天疱瘡C1眼,アカントアメーバ角膜炎C2眼(治療的全層角膜移植後がC1眼)であった.CII術式および治療18眼に対しては,Gundersenの方法に準じて結膜弁(有茎)を作製し病巣部を被覆した2,3,21)(図1a).結膜を被覆する部位であるが,病変の位置と大きさにより方法が異なり,1)病変が角膜中央部にあって大きい症例では上方から幅の広い結膜を用いるが(図1a,症例1,2,4,5,6,7),それだけでは足りない症例では下方の結膜を上方の方法と同様に切り出し,上下の結膜を合わせて角膜に縫合した(図1c,症例C13,18).2)病変が角膜上方あるいは中央にあるが小さい症例には上方の球結膜を用いて角膜上部を被覆した(図1d,症例8,9,10,12,14,16,17).3)病変が角膜下方にあり被覆する部位が小さい症例では下方の球結膜を用いる術式を選択した(図1b,症例3).手術は局所麻酔下にて,結膜被覆する部位の角膜上に無水アルコールを含んだCMQAを接触させただちに生理食塩水で洗い流した後,ゴルフ刀で上皮層を完全に除去し,その後,角膜輪部で結膜を切開し,術後の結膜弁の収縮を考慮し計測値よりC1.2Cmm大きめの球結膜を角膜輪部と平行に切開し,水平方向に帯状の結膜弁(有茎)を作製した.結膜弁はTenon.をなるべく厚く取るように強膜から.離した.結膜弁を角膜中央部側に移動させ病巣部を被覆した後,結膜弁が輪部と接する部位は結膜弁が張った状態になるようにC9-0バージンシルク糸を用いてしっかりと縫合し,その他のC4カ所部位は結膜弁を角膜と強膜にそれぞれC10-0ナイロン糸で端々縫合した.結膜弁を切り取った後の結膜.側の結膜断端部は,8-0吸収糸で強膜に縫合した(図1).術後の治療であるが,手術前と同じ薬剤を用い,充血が消失するまで継続した.CIII結果全症例の経過を表1に示す.全症例C18例C18眼中,症例C11,14,18を除き,15症例(症例C1.10,12,13,15.17)では感染による炎症は消退し,自己結膜被覆後の角膜創傷治癒は良好で,自己結膜は角膜上に生着した.1例に僚眼からの無茎弁移植を行ったが,術後8日目に結膜弁は生着せず脱落し,同日,羊膜移植を行った(症例C11).症例C14とC18は,術後ヘルペス角膜炎が再燃し被覆結膜が融解を起こし,術後C1年で眼瞼縫合をし,眼球癆となり現在に至っている.細菌感染例では結膜弁が融解した症例はなくC8眼中C8眼で鎮静化を認めた.術後に眼瞼下垂等の合併症は認められなかった.代表的な症例として症例C10を示す.患者:89歳,女性.主訴:左眼の疼痛.現病歴:糖尿病で定期通院中に左眼角膜周辺部に潰瘍を発症.所見・経過2008年C4月C4日:来院時左眼の角膜の高度な菲薄化を認め(図2a),同日表層角膜移植術を施行した(図2b).2008年C4月C15日:術後C10日目より角膜移植片が融解した.眼脂の検鏡と培養の結果にて,グラム陽性球菌,グラム陽性桿菌,グラム陰性桿菌,およびノカルジアが陽性であった(図2c).2008年C4月C23日:前房蓄膿とCDescemet膜瘤を認め,自己結膜被覆術を施行した.2008年C4月C30日:結膜被覆術術後よりC7日目.抗菌薬の併用で前房は維持され,前房の炎症は消退し,角膜の菲薄化も進行を認めなかった(図3a).2009年C1月C27日:結膜被覆術術後よりC9カ月目.菲薄化していた角膜は被覆した結膜に覆われており,感染は鎮静化した(図3b).CIV考按結膜被覆術の手術効果の原理であるが,結膜で角膜を覆うことから,穿孔部あるいは菲薄部の構造的な補強,難治性角膜潰瘍部への結膜血管を介しての抗菌剤の直接浸潤,免疫担当細胞の浸潤による抗炎症作用と瘢痕化の促進,その結果,原疾患が治癒し不快感や疼痛の軽減が得られるものと考えられている.他の治療法の開発に伴い適応症例は狭まっているがいまだ用いられており,手術適応としては,1)難治性角膜潰瘍,2)遷延性角膜上皮欠損,3)角膜菲薄,Descemet表1症例性年齢病名症状術式起因菌術後期間経過上方より1CFC66眼類天疱瘡菲薄化有茎弁原因不明16年1カ月感染症治癒→LKP・羊膜移植→混濁治癒角膜潰瘍上方より2CMC78(LKP後)穿孔なし有茎弁G(+)球菌不明感染症治癒→CPKP予定するも認知症で断念下方より3CMC65角膜潰瘍下方菲薄化有茎弁緑膿菌15年8カ月感染症治癒→CLKPC→CPKPC→CGraft透明治癒角膜潰瘍潰瘍・穿孔上方より4CFC73(PKP後)不明有茎弁CMRSA不明感染症治癒→CPKP予定するも希望せず角膜潰瘍・上方より5CMC63穿孔穿孔あり有茎弁培養せず12年11カ月感染症治癒→緑内障で光覚(C.)角膜潰瘍上方より6CFC72(LKP後)穿孔不明有茎弁G(+)球菌不明感染症治癒→緑内障で光覚(C.)角膜潰瘍上方よりG(+)球菌,C7CFC86(PTK後)穿孔なし有茎弁黄ブ菌2年11カ月感染症治癒→悪性腫瘍にて死亡上方よりYeast,ブドウ糖C8CFC30角膜潰瘍中心穿孔あり有茎弁非発酵菌4年2カ月感染症治癒→混濁治癒上方より9CMC45角膜潰瘍中央穿孔なし有茎弁CNegative1年5カ月感染症治癒→CPKP予定角膜潰瘍・上方よりG(+)球菌C10CFC89Descemet瘤上方菲薄化G(.)桿菌1年10カ月感染症治癒→混濁治癒(LKP後)有茎弁ノカルジア角膜潰瘍僚眼より11CMC38(LKP後)移植片融解無茎弁CNegative2年融解→羊膜移植→感染症治癒→CPKP予定アカントア上方よりアカント12CFC27メーバ移植片融解有茎弁アメーバ7年感染症治癒→希望で他院でCPKP予定(PKP後)角膜潰瘍・下方の穿孔上方と下方13CFC75Descemet瘤ありより有茎弁CNegative4年感染症治癒→CPKP予定角膜潰瘍上方より14CMC61(LKP後)Descemet瘤有茎弁ヘルペス8年11カ月角膜穿孔→光覚(C.)→CTarsorraphyやや下方穿孔上方より真菌C15CFC78角膜潰瘍(Candida2年10カ月感染症治癒→混濁治癒あり有茎弁albicans)アカントア上方よりアカント16CFC29メーバ中央部穿孔7カ月感染治癒→他院に希望で転院(SCL)有茎弁アメーバ角膜潰瘍上方より17CMC80(兎眼)下方穿孔有茎弁G(+)球菌2年5カ月感染治癒→混濁治癒角膜潰瘍移植片融解上方と下方18CMC84(PTK穿孔ありより有茎弁ヘルペス7カ月角膜穿孔→眼球.→CTarsorraphyLKP後)G:グラム染色,LKP:lamellarkeratoplasty,PTK:phototherapeutickeratectomy,PKP:penetratingkeratoplasty,Tarsorraphy:眼瞼縫合,MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌,Negative:陰性,SCL:softcontactlens.膜瘤,角膜穿孔,4)水疱性角膜症などが報告されている.術式は上方の球結膜は,幅と奥行きに余裕があることより筆者らはC1988年より角膜の菲薄化を伴う難治性の角膜疾Gundersenの術式に準じて原則,上方結膜を用いた.結膜患に対し,自己結膜を用いた結膜被覆術を施行してきた.と強膜に癒着の認められたC1眼に対しては,反対眼(僚眼)a切開線b切開線b結膜結膜c切開線d切開線結膜遊離結膜弁結膜潰瘍9-0バージンシルク糸10-0シルク糸8-0吸収糸9-0バージンシルク糸10-0シルク糸8-0吸収糸図1術式のシェーマa:上方からのC.ap.全周の輪部で結膜を切開後,上方の結膜を弧状に切開.Cb:下方からのC.ap.3時.9時の輪部で結膜を切開後,下方の結膜を弧状に切開.Cc:上・下方向からのC.ap.上方と下方の結膜弁を合わせて角膜に縫合(上方結膜→角膜→下方結膜).d:遊離結膜弁による被覆術(結膜と強膜が癒着している症例で,反対眼の上方結膜より結膜弁を作製).より作製した遊離結膜弁を用いて被覆した(症例C11,図1d).小さな病変が角膜周辺にある場合はその近くの球結膜から結膜弁を作り角膜の被覆を行っても良いし,角膜のC3時,またはC9時の周辺に病巣がある場合には,縦の結膜弁(12時からC6時)を作り被覆する方法18)もあるが,今回の症例ではこれらの術式が適応となる症例はなかった.上方の結膜弁だけでは足りずに全角膜を被覆できない場合は,下方の結膜を上方に引き上げ,上方の結膜と縫合した(図1c).病変が角膜下方の輪部近くにある場合は,下方の球結膜を帯状に切開し用いた(図1b).その他の部位に病変がある場合は,原則,上方より結膜弁を帯状に作製し用いた.18例C18眼にこの術式を施行し,15例で被覆した結膜は生着したが,他眼からの無茎弁移植のC1例とヘルペス角膜炎が再燃したC2例は被覆結膜が融解し,目的を達せなかった.本術式の利点としては,1)自己結膜を用いるのでいつでも手術が可能である,2)物理的に角膜を保護し,創部を外界から遮断する,3)結膜弁は有茎弁であり血流があるため,無茎弁に比較し創傷治癒が速い,4)前房が維持される.5)創傷治癒に伴い,結膜弁から病変部に十分な抗菌薬が供給される,6)拒絶反応がない,などがあげられる(表2).術式の選択をするときに羊膜移植術にするか結膜被覆術にするかの判断基準であるが,感染症のない角膜で小さな穿孔であれば羊膜を角膜上に被せるかあるいは穿孔部に羊膜を補.した後,羊膜を角膜上に被せる方法や,羊膜と結膜被覆術を併用する術式もある23).穿孔部が小さければ,ソフトコンタクトレンズやシアノアクリレートの使用も有効であるが,感染症がある角膜では羊膜移植術やシアノアクリレートは適応ではないと考える.当院では抗菌薬の全身投与を行っていないことより,結膜被覆術では被覆した結膜血管から抗菌薬が直接病巣部に浸透していくものと推測される.これはソフトコンタクトレンズやシアノアクリレートや羊膜移植などより優れている点と考える.感染を伴わない角膜びらんには羊膜移植術を試みてもよいaab図2症例10の前眼部写真(初診~結膜被覆術施行前)a:初診時.糖尿病で定期通院中に左眼角膜周辺部に潰瘍を発症(.).b:Lamellarkeratoplasty(LKP)術翌日.角膜の高度な菲薄化を認め,LKPを施行した.c:結膜被覆術前.LKP術後10日目にCgraftの一部にCmeltingが出現し,細菌培養にてCG(+)coccus,G(+)rod,G(.)rod,およびノカルジアが陽性.LKP術後C19日目にCdescemetoceleと前房蓄膿を認めた.が,羊膜が融解脱落後も上皮が被っていない難治性の角膜びらんでは,結膜被覆術が適応であると考える.結膜で被覆することにより角膜を保護し創部を外部から遮図3症例10の前眼部写真(結膜被覆術後)a:結膜被覆術後C7日目.LKP術後C19日目にCgraftの上に自己結膜被覆術(上方より有茎弁を作り角膜,結膜に縫合)を施行.前房の炎症は消退し,前房蓄膿は消失.前房水の漏出は認めず,前房は維持されていた.b:結膜被覆術後C9カ月目.術後経過は良好で,感染は鎮静化した.表2術式の利点と欠点.利点1)自己結膜を用いるのでいつでも手術が可能2)物理的に角膜を保護3)創傷治癒が速い(結膜からの血流を獲得)4)十分な抗生物質の供給5)拒絶反応がない.欠点1)病巣部の直接観察が困難2)角膜混濁による視力低下(視力回復のための手術が必要)3)美容面(角膜混濁)4)眼瞼下垂断することであるが,GundersenがCFuchs角膜ジストロフィによる水疱性角膜症の患者に本術式を用いて疼痛から解放したことが示すように,この術式の利点の一つであり,筆者らの症例でもC15例で術後は異物感や疼痛を感じなくなった.また種々の角膜疾患で上皮細胞の修復が遅く,ソフトコンタクトレンズなどを使用しても上皮が被らず実質層が融解した症例(症例C12)や,穿孔した症例(症例5,8,13,15.17)にも本術式は有効であった.角膜感染症で薬剤治療の効果はあるが治癒が遅く,上皮が修復せずに穿孔寸前の症例や,穿孔したが前房水の漏出が止まっている症例のC18例中C15例で本術式により感染症が治癒した.これは結膜弁が病変部を塞ぎ,創傷治癒を惹起させた後,血管から滲出した血液を介して抗菌薬が直接病変に浸透していき,感染を早く治癒させることができた結果であると考える.ただし細菌性や真菌性の角膜潰瘍で使用している薬剤の効果が得られていない症例では,結膜弁が融解する可能性があることより,そのような症例では,本術式を用いずに治療的全層角膜移植術を選択すべきと考える.既報告ではヘルペス角膜炎による角膜上皮.離に有効であるとの報告があるが8,23),ヘルペス角膜炎の再発の報告もある24,25).今回の筆者らのヘルペス角膜炎のC2症例では炎症の活動は抑えられず結膜弁が融解してしまったことより,内服薬も含め他の薬剤を併用し効果がなければ表層角膜移植術を選択すべきと考える.1眼ではあるが細菌感染が原因と思われる角膜潰瘍に対し,僚眼からの無茎弁移植を施行した症例(症例C11)ではC8日目に結膜弁は融解脱落してしまったことより,結膜被覆術ではなく,治療的全層角膜移植術を選択すべきであったと思われる.1症例の結果ではあるが,結膜被覆術を行うときは有茎弁を選択したほうがよいと考える.本術式の欠点としては,1)角膜に結膜弁が被覆されるため,病変部の観察が困難になり,とくに角膜全体を被覆してしまうと前房の状態が把握できなくなる.また,2)結膜弁が角膜中心部を覆うと視力低下をきたす.3)被覆部が結膜により混濁しているため,美容的に問題となる(表2).美容的な問題の解決には結膜弁の除去が必要であるが,感染症が完全に消炎したことが確認されてもC6カ月ほど経過観察し,血管の活動性が鎮静化するのを待ち患者の希望があれば,結膜弁の除去と全層角膜移植術や表層角膜移植術を考慮するのがよいと考える(症例9,12,13).術後合併症として,まれではあるが眼瞼下垂が起こるとの報告がある4).病変部が大きく角膜全体を被覆するには上方の結膜のみで被覆する場合,輪部からC12Cmm以上と結膜.に近いところまで結膜切開を行わなければならず,その結果,上方の結膜欠損部分で瞼球癒着が起き結膜.が浅くなり,眼瞼下垂を起こす可能性がある.今回筆者らの症例では眼瞼下垂は認められなかった.これは結膜.が本来の位置にあるように,barescleraになることを気にせずに切開された結膜断端部を強膜に縫合し,術後瞼球癒着に注意を払えば防げる合併症と思われた.結膜被覆術は古典的な術式ではあるが,的確に症例を選択し手術を行えば臨床的には有用な術式であると考える.CV結論角膜の菲薄化を伴う難治性の角膜疾患に対し,結膜被覆術を施行し良好な結果を得た.とくに,多剤抗菌薬に抵抗性を示すような重症の角膜潰瘍症例でも,術後全症例で感染は鎮静化した.抗菌薬に抵抗し,穿孔,あるいは穿孔の危険性のある重症角膜潰瘍に対し,結膜被覆術(有茎弁)は,比較的簡便であり試みてよい術式と思われた.文献1)VieiraCAC,CMannisMJ:ConjunctivalCflaps.CCORNEACIIIedition,(KrachmerCJH,CMannisCMJ,CHollandEJ)C,Cchap-ter145,p1639-1646,ElsevierMosby,Philadelphia,20112)GundersenT:Conjunctival.apsinthetreatmentofcor-nealdiseasewithreferencetoanewtechniqueofapplica-tions.ArchOphthalmolC60:880-888,C19583)GundersenT:SurgicalCtreatmentCofCbullousCkeratopathy.CArchOphthalmolC64:260-267,C19604)CockerhamCGC,CFosterCS:ConjunctivalC.aps.CcornealCsurgery,theory,thechniqueandtissue,IIIedition(Bright-billFS)C,p135-141,Mosby,StLouis,19995)早川正明,三島済一:角膜潰瘍に対する結膜瓣被覆法の効果について.臨眼C24:867-872,C19706)SanitatoCJJ,CKelleyCCG,CKaufmanHE:SurgicalCmanage-mentCofCperipheralCfungalkeratitis(keratomycosis)C.CArchCOphthalmolC102:1506-1509,C19847)LugoCM,CArentsenJJ:TreatmentCofCneurotrophicCulcersCwithCconjunctivalC.aps.CAmCJCOphthalmolC103:711-712,C19878)InslerCMS,CPechousB:ConjunctivalC.apsCrevised.COph-thalmicSurgC18:455-458,C19879)PortnoyCSL,CInslerCMS,CKaufmanHE:SurgicalCmanage-mentCofCcornealCulcerationCandCperforation.CSurvCOphthal-molC34:47-58,C198910)斉藤圭子,稲田紀子,庄司純ほか:自己結膜移植術が有効であった角膜化学腐蝕のC2症例.眼科C45:103-107,C200311)北野周作,東野巌,竹中剛一ほか:水疱性角膜症に対するCGundersen法による結膜被覆術の効果について.臨眼C30:683-687,C197612)WebsterRGJr,SlanskyHH,RefojoMfetal:TheuseofadhesiveCforCtheCclosureCofCcornealCperforations.CreportCofCtwocases.ArchOphthalmolC80:705-709,C196813)織田公貴,子島良平,木下雄人ほか:角膜穿孔に対するシアノアクリレートによる角膜穿孔閉鎖術の有効性の検討.日眼会誌C125:579-585,C202114)原竜平,宮田和典,宮井尊史ほか:宮田眼科病院における羊膜移植の使用法別成績.日眼会誌C109:580-590,C200515)HirstCLW,CSmiddyCWE,CStarkWJ:CornealCperforations.Cchangingmethodsoftreatment,1960-1980.Ophthalmolo-gyC89:630-635,C198216)西田幸二:角膜(結膜被覆術).眼科診療プラクティスC19外眼部の処置と手術(丸尾敏夫編),p182-184,文光堂,C199517)木村内子:結膜手術.眼科手術書,角膜・結膜(澤充編),第C6巻,p205-221,金原出版,199618)下村嘉一:結膜被覆術.眼科診療プラクティス(丸尾敏夫編),p63,文光堂,200019)NicholsCD,CAnjemaCM:ConjuctivalCflaps.CcorneaCIICedi-tion(KrachmerCJH,Cetal)C,CVol.2,Cp1763-1771,CsurgeryCofCtheCcorneaCandCconjunctiva.CElsevierCMosby,CPhiladelphia,C200520)佐竹良之,島崎潤:結膜被覆術,眼科プラクティスC19.外眼部手術と処置(大鹿哲郎編),p270-275,文光堂,C2008C21)山口達夫:角膜結膜被覆術.眼手術学C4.角膜・結膜・屈折矯正(大鹿哲郎編),p341-344,文光堂,201322)杉田稔,門田角遊,熊谷直樹ほか:久留米大学における羊膜移植術の術後成績.臨眼C60:1443-1447,C200623)BrownCDD,CMcCulleyCJP,CBowmanCRWCetal:TheCuseCofCconjunctival.apsinthetreatmentofherpeskeratouveitis.CCorneaC11:44-46,C199224)LesherMP,LohmanLE,YeakleyWetal:Recurrenceofherpeticstromalkeratitisafteraconjunctival.apsurgicalprocedure.AmJOphthalmolC15:231-233,C199225)RosenfeldSI,AlfonsoEC,GollamudiS:Recurrentherpessimplexinfectioninaconjunctival.ap.AmJOphthalmolC15:242-244,C1993***

広角光干渉断層血管撮影を用いた網膜無灌流領域の 各象限ごとの検討

2024年2月29日 木曜日

《第28回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科41(2):201.205,2024c広角光干渉断層血管撮影を用いた網膜無灌流領域の各象限ごとの検討山本学平山公美子居明香本田聡河野剛也本田茂大阪公立大学大学院医学研究科視覚病態学CInvestigationofEachQuadrantoftheRetinalNonperfusionAreausingWide-FieldOpticCoherenceTomographyAngiographyManabuYamamoto,KumikoHirayama,AkikaKyo,SatoshiHonda,TakeyaKohnoandShigeruHondaCDepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,OsakaMetropolitanUniversityGraduateSchoolofMedicineC目的:広角フルオレセイン蛍光造影(FA)と広角光干渉断層血管撮影(OCTA)を用いて糖尿病網膜症(DR)の無灌流領域(NPA)の評価を各象限ごとに比較検討した.対象および方法:2021年C1月.2022年C8月に大阪公立大学医学部附属病院眼科で広角CFAと広角COCTAを撮影したC38例C76眼.広角CFAの撮影にはCOptos200Tx(Optos社,撮影画角200°)を,広角OCTAはCOCT-S1(キヤノン)を使用した.NPAの検討は,眼底を上下内外のC4象限に分け,FAを基準にCNPAの一致率を検討した.結果:各象限の所見一致率は上下内外それぞれ,80.6%,96.2%,96.8%,81.8%で下方,内側に高い傾向にあったが有意差はなかった(p=0.076).OCTAでのCNPAの感度はC72.7%,100%,100%,73.3%で有意差を認め(p<0.01),特異度はC100%,87.5%,85.7%,88.9%で有意差はなかった(p=0.737).結論:各象限ごとでCNPAの検出に違いがみられた.OCTAの特性を理解し活用することで,日常診療におけるCFAの機会の減少やより確実なCDRの評価につながると考えた.CPurpose:Tocompareandevaluatenon-perfusionareas(NPA)ofdiabeticretinopathy(DR)usingwide-.eld(WF)fundus.uoresceinangiography(FA)(WF-FA)andWFopticalcoherencetomographyangiography(WF-OCTA)ineachfundusquadrant.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved76eyesof38patientswhounder-wentWF-FAandWF-OCTAimaging.TheOptos200TxUltra-Wide.eldRetinalImagingDevice(OptosPlc)wasusedCforWF-FA(200°CangleCofview)C,CandCtheCXephilioOCT-S1(CanonInc.)wide-.eldCretinal-imagingCdeviceCwasusedforWF-OCTA.ForNPAexamination,thefunduswasdividedintofourquadrants(upper,lower,inner,andouter)C,andtheagreementrateofNPAwasexaminedbasedonFA.Results:Fortheupper,lower,inner,andouterCquadrants,CtheCagreementCratesCwere80.6%,96.2%,96.8%,Cand81.8%,respectively(p=0.076)C,withnosigni.cantdi.erencebetweenthelowerandinnerquadrants.ThesensitivityofNPAinOCTAwas72.7%,100%,100%,and73.3%,respectively,withasigni.cantdi.erence(p<0.01)C,andthespeci.citywas100%,87.5%,85.7%,and88.9%,respectively,withnosigni.cantdi.erences(p=0.737)C.CConclusion:Althoughthereweredi.erencesintheCdetectionCofCNPACinCeachCquadrant,CunderstandingCandCutilizingCtheCcharacteristicsCofCOCTACmayCleadCtoCaCmorereliableevaluationofDR.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(2):201.205,C2024〕Keywords:糖尿病網膜症,フルオレセイン蛍光造影,光干渉断層血管撮影.diabeticretinopathy,.uoresceinan-giography,opticcoherencetomographyangiography.CはじめにFA)が広く行われてきた.撮影には眼底カメラ型のものか糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)は糖尿病患者ら最近ではレーザー光を使用した広角に撮影できる広角CFAにおける重大な眼合併症であり,その病期分類の評価には従も登場し,その有用性は確立している1.4).しかし,FAは来からフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:造影剤を使用し,アナフィラキシーショックなどの合併症リ〔別刷請求先〕山本学:〒545-8585大阪市阿倍野区旭町C1-4-3大阪公立大学大学院医学研究科視覚病態学Reprintrequests:ManabuYamamoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,OsakaMetropolitanUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-4-3,Asahi-machi,Abeno-ku,Osaka545-8585,JAPANC表1症例の内訳特徴症例数;例(眼)38(76)性別(例)男性C26,女性C12年齢;平均(範囲)60.7(C32.C87)高血圧;例(%)28(74)高脂血症;例(%)11(29)HbA1c(%);Median(Range)7.7(C4.9.C11.6)インスリン使用歴;例(%)15(39%)糖尿病網膜症重症度;眼(%)網膜症なし2(3%)軽症増殖前網膜症11(14%)中等度増殖前網膜症22(29%)重症増殖前網膜症20(26%)増殖網膜症21(28%)スクもあるため,眼底の経過観察のために頻回に行うことは躊躇される5).FAがCDRの詳細な眼底評価検査としてゴールドスタンダードであることは論をまたないが,DRの国際重症度分類では眼底観察所見が主体であり,FA所見が採用されていないことも日常診療での判断に制約を与えているともいえる.近年,眼底の断層像撮影が可能な光干渉断層計(opticCcoherencetomography:OCT)の,動的シグナルを抽出し眼底の血流を同定する光干渉断層血管撮影(opticcoherencetomographyCangiography:OCTA)が登場し,無侵襲に網膜血流を評価できるようになってきた6).当初COCTAは画角が小さいことが欠点であったが,最近では撮影技術の向上により,広角でCOCTAを撮影できる装置も市販化されてきた.OCTAでの血流シグナルの同定はいまださまざまな問題点もあるが,DRにおいてはCOCTAを活用する報告も多くなってきている7.9).今回筆者らは,DRの活動性評価に重要な所見である無灌流領域(nonperfusionarea:NPA)について,広角COCTAを用いてCFAと比較評価し,所見の一致率や病期分類の妥当性を検討したので報告する.CI対象および方法本研究はヘルシンキ宣言に基づき,大阪公立大学医学系研究等倫理審査委員会の承認のもと,オプトアウトによる後ろ向き観察研究である.対象はC2021年C1月.2022年C8月に大阪公立大学医学部附属病院眼科を受診し,広角CFAおよび広角COCTAを同時期に行ったCDR症例C38例C76眼である.表1に症例の内訳を示す.男性C26例,女性C12例,平均年齢は60.7歳(32.87歳)であった.広角CFAの撮影にはCOptos200TX(Optos社,撮影画角約C200°)を,広角COCTAにはOCT-S1(キヤノン,撮影画角約C80°)を用いた.FAとOCTAの撮影時期はC1週間以内のものを採用した.FAの画像には造影後C1分後以降の静脈相のものを使用した.また,OCTAの画像の検出にはCdefaultのCOCTAモード(20C×23mm)で撮像し,denoise処理を行ったCsuper.cialCperiphery(網膜内層用モード)で解析したものを採用した.NPAの検討方法は,眼底を上下内外のC4象限に分け,各象限ごとにCNPAの有無を比較した(図1).NPAは長径がC1乳頭径以上のものをCNPAありとし,二人の専門医(M.Y.,A.K.)でCNPAあり,NPAなし,判定不能のC3段階で評価した.判定不能の基準は,FA,OCTAともに網膜血管の陰影が追えていることを目安とし,各象限ごとの範囲内にC50%以上判定できない領域がある場合を判定不能とした.検討項目は,FAとCOCTAで判定が可能であった割合,FA所見を基準としたCOCTAによるCNPAの検査精度(全体および各象限ごと),NPAの程度のみでレーザー網膜光凝固術の適応判定を行うと仮定した場合の一致率(NPAがC1.2象限:局所光凝固,3象限以上:汎網膜光凝固)を検討した.統計学的手法として,各機器の診断可能であった割合にはCMcNemar’stestを,各象限同士のCFAとCOCTAでの判定可能率および所見の一致率にはCChi-squaredtestを,レーザー網膜光凝固術の一致率にはCChi-squaredtestを用いた.統計解析の有意水準はCp=0.05とし,多重比較の補正にはBonferroni法を用いた.統計解析ソフトはCSPSSCver24.0(IBM社)を使用した.CII結果76眼C304カ所の象限中,NPAの判定不能であった箇所を除いた総数は広角CFAではC281カ所(92.4%),広角COCTAではC238カ所(78.3%)で,両者で判定可能であったものは225カ所(全体のC74.0%,広角CFAで判定できたもののうち80.1%)であった.このC225カ所を両機器のCNPA判定比較に採用した.また,広角CFAで判定不能とされたC23カ所では,13カ所(56.5%)が広角COCTAでCNPAの判定が可能であった.各象限ごとの両機器の比較では,全象限で広角CFAのほうが広角COCTAより判定できた割合は高く(p<0.001,CMcNemar’stest),象限ごとの判定可能率は下側で低い傾向はあったが有意差はみられなかった(p=0.18,Chi-squaredtest)(図2).広角CFA所見を基準とした場合のCNPAの検査精度を表2に示す.所見の一致率は下側,鼻側で高く,上側,耳側で低い傾向にあった(p<0.01,Chi-squaredtest).とくに上側では感度は低いが特異度は高く,外側では感度・特異度とも低い傾向にあった.NPAの象限数のみでレーザー網膜光凝固術の適応判定を行った場合,広角COCTAで非適応はC10眼(17.9%),局所網膜光凝固術はC18眼(32.1%),汎網膜光凝固術はC28眼図1FAとOCTAでの各象限の区分け黄斑部を中心とし,上側,下側,内側,外側のC4象限に分けて,各象限ごとに無灌流領域を比較した.糖尿病網膜症の診療におけるCFAの役割は,網膜症の病期判定できた割合を判定し,治療適応の可否を決定することが主体である.網膜症の病期ごとに比較した検討では,軽症よりも重症網膜症でCFAの重要性が高いという報告もある.重症であればあるほど頻度は厭わず網膜症を詳細に評価することが望ましくなる一方で,FAでは造影剤を使用するため,頻回な評価は困難である.OCTAでは,非侵襲的に網膜や脈絡膜の循環動態を観察でき,臨床上はCFAより簡便に施行できるのがメリットである7).今回の検討では,広角CFAでの診断可能率がC92.4%,広角COCTAではC78.2%であり,OCTAで割合が劣るものの,非侵襲,頻回の評価が可能なことは使用に足るものと思われる.広角CFA・OCTAで検出率の違いが生じた原因として,検出方法の違いがあげられる.今回使用したCOCTAでは,約1分程度の固視が必要であり,固視が不十分であるとCcomb-ingnoiseといわれる横縞様の水平のずれが生じてしまい,評価が困難となる.今回の検討でも,OCTAで評価不能であったもののほとんどはこのCcombingnoiseによるものであった.一方,FAでは固視不良であっても撮影可能であり,新生児や乳幼児であっても撮影可能との報告もある4,10).これが診断可能な割合の大きな原因となっているが,現行の診断機器ではCOCTAの検出技術上はむずかしい.しかし,さらなる機器の発展により克服できる可能性は十分にある.逆に,FAで評価不能であったもののうち,56.5%でCOCTA評価が可能であった.この理由の一つとして光源波長の違いがある.FAで使用されている波長はC488Cnmであるのに対表2広角FA所見を基準とした広角OCTAによるNPAの一致表3広角OCTAでのNPAの象限数によるレーザー適応判定と率と検査精度広角FAとの一致率一致率86.7%81.4%95.9%94.8%76.3%感度84.8%71.1%97.1%97.8%66.7%特異度90.0%100.0%92.9%84.6%84.4%陽性的中率93.8%100.0%97.1%95.7%78.3%陰性的中率76.6%65.6%92.9%91.7%75.0%偽陽性率10.0%0.0%7.1%15.4%15.6%偽陰性率15.2%28.9%2.9%2.2%33.3%陽性尤度比C8.48C∞C13.60C6.36C4.27陰性尤度比C0.17C0.29C0.03C0.03C0.40では,鼻側から進行しやすく周辺部へと進むものが多いこと,前述のように下側の最周辺部は検出しにくいことから,撮影画角が狭いCOCTAとの一致率は下側・鼻側で高い傾向にあったと考えられる12.14).Zengらの広角COCTAの画角に広角CFAを合わせて検討した研究では,FAとCOCTAで検出できたCNPAの面積には差はみられなかったと報告している15).この研究での画角はC81°C×68°とほぼCOCT-S1と同等のものであり,画角が同一であった場合は両者ともほぼ同一の検出率であるかもしれない.ただし,この報告では全例でCFAとCOCTAの撮影が可能であったとされているので,前述した硝子体出血などの画像構築に支障をきたす病態があると両者に違いが生じる可能性はあり,対象の違いは考慮する必要がある.さらに,富安らは,広角CFAを使用しC7.7%で最周辺部のみにCNPAを認める症例があるとしており,画角が狭いCOCTAではこのような所見を検出できていなかった可能性がある2).OCTAでも,撮影枚数を増やしパノラマ画像を作製することも可能であり,簡便さとのトレードオフになるが,眼底所見で疑わしい場合にはそのような工夫も必要かもしれない.NPAのみを判断基準とした網膜光凝固術の治療適応基準では,OCTAで非適応となったものはCFAでも非適応であり,汎網膜光凝固術が適応となったものはCFAでも適応となっていた.あくまでCNPAに限定した適応基準であり,実臨床では総合的に判断する必要はあるものの,OCTAを活用することでCFAの施行回数を少なくすることはできると考えられる.糖尿病網膜症診療ガイドラインにも示されているように,NPAの出現を早期に判断して汎網膜光凝固術を行うほうが網膜症の重症化を予防できるとされているため,頻回に検査ができることはCOCTAでの利点である1,16).今回の結果をふまえ,軽症非増殖網膜症以上の進行や前回よりも悪化がみられた場合には,FA施行の前にCOCTAを撮影することで,FAの機会を少なくしつつ網膜光凝固の適応を適切な時期に考慮できると思われる.今後もさらなる症例の蓄積,解析を行い,より精密な評価が必要と考えられる.非適応10(C17.9)C100局所網膜光凝固術18(C32.1)C66.7汎網膜光凝固術28(C50.0)C100C文献1)瓶井資,石垣泰,島田朗ほか:糖尿病網膜症診療ガイドライン(第C1版).日眼会誌C124:955-981,C20202)富安胤,平原修,野崎実ほか:超広角蛍光眼底造影による糖尿病網膜症の評価.日眼会誌C119:807-811,C20153)FalavarjaniGK,TsuiI,SaddaSR:Ultra-wide-.eldimag-ingCinCdiabeticCretinopathy.CVisionCResC139:187-190,C20174)MagnusdottirCV,CVehmeijerCWB,CEliasdottirCTSCetal:CFundusCimagingCinCnewbornCchildrenCwithCwide-.eldCscanninglaserophthalmoscope.ActaOphthalmolC95:842-844,C20175)大矢佳,中村裕,安藤伸:フルオレセイン蛍光眼底造影における副作用の危険因子と安全対策.日眼会誌C122:95-102,C20186)石羽澤明:OCTアンギオグラフィーのすべて糖尿病網膜症への応用.眼科グラフィックC5:335-339,C20167)HorieS,Ohno-MatsuiK:ProgressofimagingindiabeticretinopathyC─CfromCtheCpastCtoCtheCpresent.CDiagnostics(Basel):12,C1684,C20228)ZhangCQ,CRezaeiCKA,CSarafCSSCetal:Ultra-wideCopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCinCdiabeticCretinopa-thy.QuantImagingMedSurgC8:743-753,C20189)SawadaCO,CIchiyamaCY,CObataCSCetal:ComparisonCbetweenCwide-angleCOCTCangiographyCandCultra-wideC.eldC.uoresceinCangiographyCforCdetectingCnon-perfusionCareasandretinalneovascularizationineyeswithdiabeticretinopathy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC256:C1275-1280,C201810)KothariCN,CPinelesCS,CSarrafCDCetal:Clinic-basedCultra-wideC.eldCretinalCimagingCinCaCpediatricCpopulation.CIntJRetinaVitreousC5:21,C201911)CoscasCF,CGlacet-BernardCA,CMiereCACetal:OpticalCcoherenceCtomographyCangiographyCinCretinalCveinCocclu-sion:evaluationCofCsuper.cialCandCdeepCcapillaryCplexa.CAmJOphthalmolC161:160-171Ce161-e162,C201612)JacobaCMP,AshrafM,CavalleranoJDetal:AssociationofmaximizingvisibleretinalareabymanualeyelidliftingwithCgradingCofCdiabeticCretinopathyCseverityCandCdetec-tionCofCpredominantlyCperipheralClesionsCwhenCusingCultra-wide.eldimaging.JAMAOphthalmolC140:421-425,C202213)FluoresceinCangiographicCriskCfactorsCforCprogressionCofCdiabeticCretinopathy.CETDRSCreportCnumberC13.CEarlyCTreatmentCDiabeticCRetinopathyCStudyCResearchCGroup.COphthalmologyC98:834-840,C199114)JungCEE,CLinCM,CRyuCCCetal:AssociationCofCtheCpatternCofCretinalCcapillaryCnon-perfusionCandCvascularCleakageCthalmolC15:1798-1805,C2022CwithCretinalCneovascularizationCinCproliferativeCdiabetic16)JapaneseCSocietyCofCOphthalmicCDiabetologyCSotSoDRT,Cretinopathy.JCurrOphthalmolC33:56-61,C2021CSatoY,KojimaharaNetal:Multicenterrandomizedclini-15)ZengQZ,LiSY,YaoYOetal:Comparisonof24C×20CmmCcalCtrialCofCretinalCphotocoagulationCforCpreproliferative(2)swept-sourceOCTAand.uoresceinangiographyfordiabeticretinopathy.JpnJOphthalmolC56:52-59,C2012Ctheevaluationoflesionsindiabeticretinopathy.IntJOph-***

基礎研究コラム:18.ヒト角膜内皮細胞の概日時計

2024年2月29日 木曜日

ヒト角膜内皮細胞の概日時計概日リズムとは地球の自転に伴う環境変化に適応するために,生物が自らの体内に組み込んできた約C24時間周期のリズムで,バクテリアからヒトに至るほとんどの生物が普遍的に有しています.哺乳類では概日時計の中枢は視交叉上核に存在しますが,末梢のほぼすべての臓器・細胞に概日時計があることが明らかになっています1).また,概日時計は細胞分化と密接に関連しており,概日時計が備わっていないCES細胞をCinvitroで分化誘導すると,約C2週間で概日時計の振動体が形成され,逆に時計が形成された細胞をリプログラミングしiPS細胞にすると,概日時計は再び消失します2).概日リズムの本態となっているのが時計遺伝子で,時計遺伝子群が構成する転写翻訳のネガティブフィードバックループが基本骨格となって遺伝子発現リズムが形成され,生理機能の概日リズム制御が行われています(図1).眼における概日時計眼においては,眼圧,脈絡膜厚,角膜厚などに日内変動が報告されています.角膜浮腫に至った水疱性角膜症患者では,起床時がもっとも見にくく,夕方にかけてだんだん見やすくなるという訴えをしばしば聞きますが,その病態メカニズムについてはこれまで明らかになっておらず,角膜厚の調節を担う角膜内皮細胞の概日性制御についても報告はありませんでした.そこで今回,筆者のグループはヒト角膜内皮細胞における概日リズム制御を解明するため,培養ヒト角膜内皮細胞に対してC2種類のプラスミドを用いたCTol2Ctranspo-sonsystemによってCBmal1-Lucレポーターを導入し,その発光リズムを観察する実験を行いました3).その結果Cn=20以上の細胞で発光リズムを確認でき,約C24時間周期の明瞭な振動を認めました.これによりヒト角膜内皮細胞に概日時計が備わっていることを初めて明らかにしました.また,培養ヒト角膜内皮細胞のリズムを同調させたのち,4時間ごとにC48時間にわたって細胞からCRNAを抽出し,RNAシークエンスを行いました.約C24時間周期の発現リズムをもつ遺伝子をC329個同定し,それらは解糖系,ミトコンドリア機能,エネルギー恒常性や酸化ストレス応答に関する遺伝子を多く含んでおり,ヒト角膜内皮の重要な機能を表していました.環境の日内変動に対する適応機構として,角膜内皮細胞に備わる概日時計が生理機能制御にかかわっていると考えられました.中井浩子京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学時計遺伝子のコア・フィードバックループCProteinmodi.cationCRNAeditingCRNAmodi.cationCetc…CBMAL1CCLOCKBCCICBmal1CmPer1,2,3CPERCCRYアウトプットCClock-controlledgenesmCry1,2CREVCRev-erbCE-boxCRORECE-boxアウトプット生理機能の概日リズム表出CClock-controlledgenes(metabolism,functionalactivities,cellcycle,etc..)図1時計遺伝子のコア・フィードバックグループ時計遺伝子群が構成する転写翻訳のネガティブフィードバックループが基本骨格となって遺伝子発現リズムが形成され,生理機能の概日リズム制御が行われている.(京都府立医科大学統合生理学・八木田和弘教授のご厚意による)今後の展望水疱性角膜症患者の内皮細胞では概日リズムに関する遺伝子群の発現が有意に低下しているという報告があり,正常な概日時計機能が細胞の健常性と密接にかかわっていることが示唆されます.そのため,時計遺伝子発現リズムの周期や振幅,安定性などのパラメータを,角膜内皮移植に用いる細胞の機能評価に用いることができる可能性が考えられます.謝辞本研究は,京都府立医科大学大学院医学研究科統合生理学・八木田和弘教授および土谷佳樹講師の指導のもとに行ったものです.この場を借りて御礼を申しあげます.文献1)YagitaCK,CTamaniniCF,CVanCDerCHorstCGTCetal:Molecu-larCmechanismCofCtheCbiologicalCclockCinCculturedC.broblasts.CScience292:278-281,C20012)YagitaK,HorieK,KoinumaSetal:Developmentofthecircadianoscillatorduringdi.erentiationofmouseembry-onicCstemCcellsCinCvitro.CProcCNatlCAcadCSciC107:3846-3851,C20103)NakaiH,TsuchiyaY,KoikeNetal:Comprehensiveanal-ysisCidenti.edCtheCcircadianCclockCandCglobalCcircadianCgeneexpressioninhumancornealendothelialcells.InvestOphthalmolVisSci63:16,C2022(79)あたらしい眼科Vol.41,No.2,2024C1890910-1810/24/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:249.黄斑浮腫におけるFAとOCTの乖離(初級編)

2024年2月29日 木曜日

249黄斑浮腫におけるFAとOCTの乖離(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに黄斑浮腫(macularedema:ME)を検出するには,従来のフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinCangiogra-phy:FA)と光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)が日常臨床でおもに行われている.これらの結果はよく相関することが知られているが,なかにはこのC2検査の所見が乖離する症例に遭遇することがある.MEに対する治療は抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)療法が主流となり,硝子体手術を施行する機会は減少しているものの,手術適応を決定する際にはこの乖離現象の存在を知っておいたほうがよいので,今回とりあげることにした.C●症例提示63歳,男性.30歳頃に糖尿病を指摘されたが,そのまま放置.44歳時に再度糖尿病と高血圧を指摘され,内服加療が開始された.その後,糖尿病腎症が悪化し,48歳時に透析導入.その後インスリン治療が開始された.両眼とも眼底出血を中間周辺部中心に認めたため,FAを施行したところ,後極から中間周辺部にかけて旺盛な蛍光漏出を認めた(図1).しかし,OCTではどのスライスでみてもCMEを認めず(図2),FAとCOCT所見が乖離していた.矯正視力は両眼ともC1.0であった.C●黄斑浮腫におけるFAとOCTの乖離KozakらはC1,272眼という多数例のCME症例においてCFAとCOCT所見を比較している1).その結果,FAで黄斑部の色素漏出が確認され,OCTで黄斑部の輪郭が正常であったものはC49眼(3.86%)あり,逆にCOCT(77)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1フルオレセイン蛍光造影所見(a:右眼,b:左眼)両眼とも後極から中間周辺部にかけて著明な蛍光漏出を認めた.図2OCT所見(a:右眼,b:左眼)両眼とも明らかな黄斑浮腫を認めない.で網膜内液と網膜下液を認めたが,FAでは見逃されたものがC15眼(1.17%)あったと報告している.FAで漏出があってもCOCTで異常がないものは,網膜組織の変化を伴わない色素の微妙な拡散の結果であると考えられ,Fineらは,浮腫を起こしたCMuller細胞内に色素が蓄積した結果であると推測している2).逆にCOCTで網膜内液と網膜下液を認めるもののCFAで漏出を認めない症例は,黄斑部の網膜硝子体牽引が関与する,いわゆるCtractionalMEの可能性があるとされている3).抗VEGF療法あるいは硝子体手術の適応を決定する場合には,このようなCFAとCOCTの乖離現象が存在することを念頭においておく必要がある.文献1)KozakCI,CMorrisonCVL,CClarkCTMCetal:DiscrepancyCbetweenC.uoresceinCangiographyCandCopticalCcoherenceCtomographyCinCdetectionCofCmacularCdisease.CRetinaC28:C538-544,C20082)FineCBS,CBruckerAJ:MacularCedemaCandCcystoidCmacu-laredema.AmJOphthalmolC92:466-481,C19813)JohnsonMW:TractionalCcystoidCmacularedema:aCsub-tleCvariantCofCtheCvitreomacularCtractionCsyndrome.CAmJOphthalmol140:184-192,C2005あたらしい眼科Vol.41,No.2,2024187

考える手術:26.下眼瞼内反症の手術

2024年2月29日 木曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅下眼瞼内反症の手術木下慎介MIE眼科四日市下眼瞼内反症は,睫毛内反症と眼瞼内反症に分類される.睫毛内反症は,眼瞼の位置は正常であるが,眼瞼余剰皮膚が眼瞼縁に乗り上げることによって睫毛が眼球方向へ押されている状態であることが多い.一方,眼瞼内反症は,加齢による変化や瘢痕などのさまざまな原因により眼瞼自身が内反している状態である.本稿では,下眼瞼内反症の中でも,日常診療で遭遇する頻度の多い加齢性下眼瞼内反症について解説する.下眼瞼内反症のうち睫毛内反症は小児でよくみられ,その主たる原因は,capsulopalpebralfascia(CPF)離を行い,後葉を延長する必要がある.なお小児では,外科的介入を行わなくとも,成長とともに睫毛内反が改一方で,高齢者でみられる加齢性眼瞼内反症の原因は,CPFの弛緩による瞼板の易回転性と眼瞼水平方向の弛緩であり,その手術は多岐にわたる.わが国では,CPFをターゲットにしたJones変法(Kakizaki法,眼瞼下制筋前転法)が広く行われており,良好な術後成績が得られている.また,Ili.が報告した埋没法に改変を加えた術式であるmodi.edIli.suture(MIS)を用いても,Jones変法と同等の成績が得られることが知られている.加齢性眼瞼内反症に対する手術の長期結果を仔細に検討すると,手術が成功したとしても,手術のターゲット部位以外の加齢変化によって再発が生じる可能性があるが,Jones変法やMISでは,術後2年以内の再発例は認めず,再発例(4.6%)の多くは術後約3年で生じている.聞き手:一般的な穿通枝再建術,Hotz変法のコツがあったままとなるため,術者は切開線よりさらに下方,つれば教えてください.まり瞼板下縁と睫毛側皮下組織の縫合を行う必要があり木下:切開線の位置が非常に重要であると思います.不ます.しかし,この縫合により睫毛は眼球から離れます適切な位置で切開すると,その後の操作での修正が非常が,実際には縫合によって瞼板が屈曲して一時的に外反に困難になることがあります.切開線が睫毛に近い場合しているだけで,この外反が改善するとともに睫毛内反(1.2mm)は,切開線直下の瞼板と睫毛側皮下組織を症が再発します.縫合しても睫毛の向きは改善されず,睫毛が眼球に向か(75)あたらしい眼科Vol.41,No.2,20241850910-1810/24/\100/頁/JCOPY考える手術聞き手:適切な切開線の位置はどこなのでしょうか?木下:CPFの瞼板付着部位は瞼板前面ではなく瞼板下縁なので,睫毛側切開線が瞼板下縁に一致すれば,縫合によってCPFからの皮膚穿通枝が自然な位置で再建され,睫毛の向きが無理なく矯正されます.下眼瞼を反転して瞼板の高さをキャリパーで測定し,それと同じ長さで皮膚側にマーキングします.その位置が適切な切開線の位置になります.聞き手:Lidmarginsplitや皮膚切除はどのような患者に対して行うのですか?木下:Lidmarginsplitは,2008年にHwangによって鼻側の睫毛の向きを矯正するために報告された術式なのですが,私は今まで術中・術後に必要と感じた症例は1例も経験していません.鼻側に低矯正の傾向がみられlidmarginsplitが必要になるのであれば,鼻側への切開か,鼻側の瞼板前面の.離が不足していると思います.実際に当該論文の術中写真では,瞼板の露出や瞼板前面の展開が明らかに不足しています.私の場合,切開の全長は全例で涙点の手前から耳側輪部と外角部の中点付近までとしています.また,皮膚切除も全例で行っていません.適切な位置で切開を行えば,余剰皮膚が下眼瞼縁を越えて乗り上げることはありません.もちろん相対的に後葉,つまり眼瞼結膜側が短い患者や後葉側の引き込みが強い患者もいますが,その場合は後葉の引き込む力を弱めたり,後葉を延長したりすることで対応しているため,やはり皮膚切除は不要と感じています.聞き手:相対的に眼瞼結膜側が短い患者はどのように見きわめるのでしょうか?木下:下眼瞼の皮膚が下眼瞼縁を乗り越えているような所見があれば,相対的に眼瞼結膜側が短いと判断しています.かなり専門的になりますが,Khwarg分類のClassIIIとIVが相当します.聞き手:相対的に眼瞼結膜側が短い患者に対する術式を具体的に教えてください.木下:多くの場合,CPFを瞼板ならびに眼瞼結膜から.離すると,眼瞼結膜側を下方の円蓋部方向に引き込む力が相当減弱し,眼瞼結膜側の延長効果が得られます.この操作に加えHotz変法を行います.まれですが,眼瞼結膜側の引き込みが非常に強い場合は,シリコーンシートをスペーサーとして用いて,眼瞼結膜側を延長することもあります.186あたらしい眼科Vol.41,No.2,2024聞き手:下眼瞼眼瞼内反についてですが,Jones変法でも再発が多いと聞きますが,本当でしょうか?木下:Jones変法を適切な症例に適切に行えば,術後2年以内の再発は非常にまれです.術後3年でみても6%ほどの再発率なので,この数字をどう捉えるかによると思います.術後3年における再発に関しては手術のターゲット部位以外の加齢変化,具体的には眼瞼水平方向の弛緩によって生じる場合が多く,Jones変法の問題ではないと思います.もしJones変法で1年以内の再発が多いと感じている先生がいるなら,本術式の開発者である柿崎先生の原法とは異なるステップで手術をされている可能性があるため,まずは使用する手術器具を含め,原法を完全に再現することをお勧めします.聞き手:眼瞼水平方向の弛緩の評価方法を教えてください.木下:各テストの詳細は成書に譲りますが,眼瞼水平方向の弛緩はピンチテストで計測し,8mm以上で眼瞼水平方向の弛緩があるとされています.ただし,同一検者であれば検査結果の再現性が高いかも知れませんが,どの程度の力で眼瞼を引っ張るのか,一般的な定規を用いて目視で正確に1mm単位を計測できているかなど,再現性が低くなる要素があることを念頭において結果を判断する必要があります.私は眼瞼水平方向の弛緩の評価にはsnapbackテストを用いています.ちなみに私の経験から,snapbackテストが陽性であればピンチテストの結果は10mm以上であることがほとんどです.聞き手:Modi.edIli.Suture(MIS)とJones変法の成績は同等であるとの結果が出ているため,手技的に簡単なMISのみ習得すればよいのでしょうか?木下:ほとんどの加齢による下眼瞼眼瞼内反症にはMISのみで対応できると思いますので,下眼瞼眼瞼内反症についてはご指摘の通りMISのみ習得すればよいと思います.ただし,眼瞼水平方向の弛緩を認める患者に対しては,MISにlateraltarsalstrip(LTS)を併用する必要がありますので,MISに加えてLTSを習得することを強くお勧めします.もちろん,眼瞼をご自身の専門分野にしようと考えている先生は,Jones変法ができなければ瘢痕性眼瞼内反症や前述の相対的に後葉が短い睫毛内反症患者には対応できないため,Jones変法の習得は必須になります.(76)

抗VEGF治療セミナー:網膜静脈閉塞症の診療方針のアドバイス

2024年2月29日 木曜日

●連載◯140監修=安川力五味文120網膜静脈閉塞症の診療方針のアドバイス小嶋健太郎京都府立医科大学眼科学教室網膜静脈閉塞症(RVO)は,眼科医が日常的に遭遇する網膜血管疾患であり,糖尿病網膜症についで患者数が多い.現在のCRVOに伴う黄斑浮腫に対する標準治療は抗CVEGF治療であり,その有効性と安全性は前向き大規模臨床試験で確立されているが,一方で抗CVEGF治療の開始時期やいつまで注射を行うか,光凝固術の位置づけとタイミングなどについては判断に迷うこともある.現時点でのCRVOの診療方針について簡単に整理する.RVOの初診時の対応網膜静脈閉塞症(retinalCveinocclusion:RVO)はC40歳以上の約C2%に発生するとされ1),視力低下の原因として急性期は黄斑浮腫,慢性期には黄斑浮腫に加えて網膜虚血により誘発される新生血管に伴う合併症(硝子体出血,血管新生緑内障など)もあげられる.初診時の主訴は急性期の黄斑浮腫に伴う視力低下や変視症であることが多く,特徴的な眼底所見により診断に迷うことは少ないが,時間が経過した黄斑浮腫では糖尿病黄斑浮腫や加齢黄斑変性との鑑別を要することもある.RVOには高血圧や糖尿病などのいわゆる生活習慣病がリスク因子として強く関与しており1,2),初診時には眼だけを診察するのではなく,全身疾患が背景にある可能性を常に念頭におく必要がある.初診時の問診で「持病はない」「内科にかかっていない」という患者はむしろ要注意であり,眼科外来における血圧測定により未治療の高血圧が明らかになることをしばしば経験する(図1).かかりつけ内科がない患者には,血圧測定だけでなく血糖値,全血球計算,赤血球沈降速度,C反応性蛋白などを含む採血検査を行うことが推奨される.両眼性,若年性CRVO患者ではさらに詳しい全身評価が必要であり,女性の場合はホルモン補充療法を受けているかどうかも聴取する.未治療の場合には内科に紹介して,まずは内科的治療を開始する必要がある.CRVOに対する現在の治療法抗CVEGF治療がCRVOに伴う黄斑浮腫の治療としてわが国で認可されたのはC2013年であるが,現在では第一選択の治療法となっており,その有効性と安全性は複数の前向きランダム化比較試験で実証されている.抗図1BRVOの広角眼底撮影と光干渉断層計所見69歳,男性.近医より右眼のCBRVOで紹介.矯正視力は右眼0.3,左眼C1.2.内科通院歴なし,喫煙あり.血圧は収縮期血圧226CmmHg,拡張期血圧C117CmmHg.採血検査で高脂血症も認めた.内科に紹介した結果,右内頸動脈狭窄も指摘された.VEGF治療は網膜静脈分枝閉塞症(branchCretinalCveinocclusion:BRVO)に伴う黄斑浮腫に対しては,既存の治療法である網膜光凝固やステロイド局所投与に比べ視力改善度は高く,また網膜中心静脈閉塞症(centralreti-nalveinocclusion:CRVO)に伴う黄斑浮腫に至っては,そもそも光凝固やステロイド局所投与では視力改善は得られず,抗CVEGF治療が唯一の視力改善が期待できる治療といえる3).さらに良好な視機能を保つためには早期治療が必要と考えられ4),これは早期に抗CVEGF治療を開始した患者と比較して,最初のレーザーのみの期間のあとに抗CVEGF治療に変更した患者の結果が劣っていることからも示唆されている2).治療レジメンはCproCrenata(PRN)やCtreatCandextend(TAE),さらに個別化した投与法など,さまざまな報告があるが,各患者のニーズに適合させて用いる.長期的なデータでは少なくとも初期の半年からC1年は月C1回のフォローアップを行い,視力と解剖学的安定が得られた時点でその後の延長を行うことで,視機能を維持しながら治療負担を軽減することが支持されている5).(73)あたらしい眼科Vol.41,No.2,20241830910-1810/24/\100/頁/JCOPY初診時2カ月後2カ月後(耳側周辺部)図2CRVOの蛍光眼底造影検査と光干渉断層計所見75歳,男性.左眼のCCRVOを指摘,緑内障でも通院中.初診時の左眼矯正視力はC0.6.抗CVEGF治療を左眼にC2カ月連続で施行後,視力はC0.5と維持されていたが,2カ月後に受診したときには虚血型への移行を認め,視力C0.06に低下していた.その後抗CVEGF治療をさらにC3回追加し,汎網膜光凝固を施行した.最終時矯正視力はC0.04.硝子体手術は,早期の治療としては,抗CVEGF治療と比較してその有効性には疑問がある.また,硝子体手術によって抗CVEGF薬の硝子体内クリアランスが増大するため,効果の持続時間が短くなる可能性があることも頭に入れておく必要がある.ただし,晩期に硝子体出血や網膜前膜を合併した場合には当然適応となる.いつまで注射を打つのか実際の臨床における多数例の検討(大久保寛ほか,第125回日本眼科学会総会)で,抗CVEGF治療を開始したCRVO241眼のうち約C3割(71眼,29.8%)で黄斑浮腫がC1年間以上再発しない,いわゆる寛解の状態が得られた一方で,約C4割(100眼,41.4%)は治療継続が必要であった(残りC3割は脱落).4年間にわたり前向きにBRVOおよびCCRVOに対する抗CVEGF治療の治療経過を調べたCRETAINstudyにおいても,BRVOでC50%,CRVOでC44%の患者においてC6カ月以上黄斑浮腫が再発しない状態が得られていた5).しかしCRETAINCstudyでも,BRVOとCCRVOともに約半数において抗CVEGF治療の長期継続が必要であり,とくにCCRVO患者における長期経過観察の重要性が示唆された.CRVO患者では,抗CVEGF治療中でも虚血型に移行し予後不良な転機をたどることがあり(図2),長期間の厳重なモニタリングが望ましい5).C184あたらしい眼科Vol.41,No.2,2024網膜光凝固術の位置づけ網膜光凝固術は,黄斑浮腫に対する治療としては抗VEGF治療の登場により積極的に行われることはなくなったが,RVOに伴う新生血管合併症に対する標準治療である.抗CVEGF治療は新生血管抑制効果もあり,注射を継続している場合には患者が定期的に通院し管理されていることからも,虚血型CCRVO以外では急ぎで予防的網膜光凝固術を検討する必要性は乏しい2).一方で黄斑浮腫の再発がなく抗CVEGF治療を離脱できた患者においては,とくに定期的な診察がむずかしい場合には,予防的網膜光凝固を考慮する.患者への説明患者の病状への理解を促すための説明は通院中断を防ぐ意味からも重要である.全身疾患(高血圧や糖尿病)のリスクファクターについて説明し,抗CVEGF治療について,注射回数や治療継続の見込みについて理解してもらう.また,治療がうまくいっている場合でも長期的なフォローが必要で,将来的に新生血管に関連する合併症が発生する可能性があることも伝える.とくにCRVOの患者に対しては,適切に治療しても予後が不良である可能性にいても説明しておいたほうがよいだろう.文献1)YasudaM,KiyoharaY,ArakawaSetal:PrevalenceandsystemicCriskCfactorsforCretinalveinocclusioninCageneralJapanesepopulation:theHisayamastudy.InvestOphthal-molVisSciC51:3205-3209,C20102)Schmidt-ErfurthCU,CGarcia-ArumiCJ,CGerendasCBSCetal:CGuidelinesCforCtheCmanagementCofCretinalCveinCocclusionCbyCtheCEuropeanCSocietyCofCRetinaSpecialists(EURETI-NA).OphthalmologicaC242:123-162,C20193)PielenA,FeltgenN,IsserstedtCetal:E.cacyandsafe-tyofintravitrealtherapyinmacularedemaduetobranchandCcentralCretinalCveinocclusion:aCsystematicCreview.CPLoSOneC8:e78538,C20134)SakanishiCY,CYasudaCK,CMoritaCSCetal:Twenty-four-monthCresultsCofCintravitrealCa.iberceptCforCmacularCedemaduetobranchretinalveinocclusion.JpnJOphthal-mol65:63-68,C20215)CampochiaroCPA,CSophieCR,CPearlmanCJCetal;RETAINStudyCGroup:Long-termCoutcomesCinCpatientsCwithCreti-nalCveinCocclusionCtreatedCwithranibizumab:theCRETAINstudy.OphthalmologyC121:209-219,C2014(74)

緑内障セミナー:ブリモニジン,リパスジルによる薬剤アレルギー

2024年2月29日 木曜日

●連載◯284監修=福地健郎中野匡284.ブリモニジン,リパスジルによる永山幹夫永山眼科クリニック薬剤アレルギー●はじめに1.0近年,ブリモニジン,リパスジルといったアレルギーを生じやすい緑内障治療薬の使用が増加している.ブリモニジン,リパスジルによるアレルギーは,発症の仕方,所見に特徴があり発症の際,適切に対処するためにあらかじめそれらを念頭に置いておくことが望ましい.緑内障治療では,通常長期にわたる点眼継続が必要と0.8なる.治療薬による薬物アレルギーは,投与中止を余儀なくされるため,大きな問題となる.ブリモニジン酒石酸塩(以下,ブリモニジン),リパスジル塩酸塩水和物(以下,リパスジル)は双方有用な緑内障治療薬であるが,副作用として眼局所のアレルギー反応を生じる頻度が高い.2022年12月,リパスジル・ブリモニジン配合0.2点眼液(以下,グラアルファ)が上市された.グラアルファは眼圧下降効果に優れ,b遮断薬を含まない数少ない配合点眼薬の一つであることから,今後使用が多くなることが予想される.したがって,点眼アレルギー発症のさらなる増加に注意が必要である.●アレルギー発症率自験例ではブリモニジンのアレルギー発症率は1年で13.1%,2年で20.7%.リパスジルでは1年で発症率19.7%であった1)(図1).過去の報告をみても,双方ともに2年での発症率は2~3割程度である2~4).●鑑別に役立つ臨床所見視診と問診が重要である.①眼瞼腫脹,眼瞼発赤,結膜充血,流涙を伴う.②(当然であるが)点眼している眼にのみ症状がある.(ただし両眼に点眼していても左右の所見に差があることも多い)③眼脂は漿液性であり,膿性眼脂は認めない.④通常患者は点眼が原因であることを自覚していない.(ブリモニジンでは点眼直後に一過性に充血が軽減するため,患者自身がむしろ使用に前向きであることも多い)●治療まずは早急な原因薬剤の特定とその中止を考える.原(71)0910-1810/24/\100/頁/JCOPY累積生存0.60.40.0投与期間(日)図1ブリモニジン,リパスジルのアレルギー発症率ブリモニジン群(n=370)は観察期間508.7±407.5日(平均±標準偏差)で53例に発症し,発症率は1年で13.1%(2年で20.7%)であった.リパスジル群(n=117)は観察期間254.0±122.0日でアレルギーは16例に発症し,1年での発症率は19.7%であった.発症率はリパスジル群でやや高い傾向を認めたが,有意な差はなかった(Wilcoxon検定,p=0.119).因薬剤を継続したままステロイド点眼などの追加を行っても,長期的には必ず増悪傾向となる.その結果,患者の不安が増し医師への信頼を損ねる危険もあるため,投与継続は避けるべきである.原則的には,まず投与中の全点眼薬を中止する.緑内障が進行している患者などで,完全な休薬が困難な場合には,比較的アレルギーを生じにくい点眼を残す(プロスタノイド受容体関連薬<b遮断薬<炭酸脱水酵素阻害薬の順に生じる頻度は高くなる),もしくは炭酸脱水酵素阻害薬内服を用いる.4週程度経過をみて症状が改善すれば,点眼アレルギー確定と判断する.その後,多剤点眼がなされていた場合は原則としてアレルギーを生じる頻度の低い点眼から1成分ずつ点眼再開を試み,原因薬剤を調べる.患者には誘発試験となることをよく説明し,納得を得たうえで行う.この場合,あたらしい眼科Vol.41,No.2,202418102004006008001,0001,2001,400図2ブリモニジンによる結膜濾胞図4リパスジルによる眼瞼皮膚炎基本的には片眼トライアルとし,場合によっては左右眼で違う点眼をトライアルすることも有用である(使用されていた点眼数が少なく,疑いのある薬剤なしで眼圧コントロールが可能な場合は,誘発試験を行う必要はない).ブリモニジン,リパスジル両剤,もしくはグラアルファが使用されている場合の鑑別については,以下の症状,所見が有用である.ブリモニジンでは瞼結膜や球結膜に比較的大きめの濾胞を生じ,掻痒感よりも結膜充血や流涙の訴えが多い(図2,3).一方リパスジルでは眼瞼に皮膚炎による発赤腫脹を伴い,掻痒感を訴える頻度が高い5)(図3,4).●アレルギー発症の危険因子過去に他の点眼薬に対してアレルギーを発症した患者は,他剤でも起こしやすいことが知られている2~4).自験例でもブリモニジンにアレルギーを発症した既往のあ182あたらしい眼科Vol.41,No.2,2024(%)100806040200眼瞼発赤結膜濾胞図3ブリモニジン,リパスジルの眼所見眼瞼発赤の頻度は,リパスジル群68.8%,ブリモニジン群24.5%で,リパスジル群で有意に多かった(|二乗検定,p<0.05).結膜濾胞はリパスジル群12.5%,ブリモニジン群69.8%で,ブリモニジン群で有意に多かった(p<0.05).る患者にリパスジルへの切替を行った場合,リパスジルでも1年で49.3%にアレルギーを生じた1).こういった変更は臨床の現場でしばしば行われるが,その際は患者に再度アレルギーを発症する可能性についてあらかじめ説明し,異常があればすぐに受診してもらうように指示しておくことが望ましい.●おわりにブリモニジン,リパスジルによるアレルギーは遅発性に生じることが多いことから,通常,患者本人は原因を自覚していない.さらに診察医も気づかないまま投与が継続され遷延化しているケースも見受けられる.眼瞼の発赤腫脹や結膜充血を呈する患者に遭遇したら,まず使用中の点眼薬にブリモニジン,リパスジルが含まれていないかを確認することをルーチンとしたい.文献1)永山幹夫,永山順子,齋藤かおりほか:リパスジルによる点眼アレルギーの検討第二報ブリモニジンとの交差反応.第70回日本臨床眼科学会発表,20162)永山幹夫,永山順子,本池庸一ほか:ブリモニジン点眼によるアレルギー性結膜炎発症の頻度と傾向.臨眼70:1135-1140,20163)TaniharaH,KakudaT,SanoTetal:Long-termintraocu-larpressure-loweringe.ectsandadverseeventsofripa-sudilinpatientswithglaucomaorocularhypertensionover24months.AdvTher39:1659-1677,20224)SaitoH,KagamiS,MishimaKetal:Long-termsidee.ectsincludingblepharitisleadingtodiscontinuationofripasudil.JGlaucoma28:289-293,20195)永山幹夫,永山順子,齋藤かおりほか:リパスジルによる点眼アレルギーの検討第一報ブリモニジンとの比較.第27回日本緑内障学会,2016(72)リパスジルブリモニジンリパスジルブリモニジン