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軽微な視野障害を契機に診断に至り,良好な転機をたどった 侵襲性アスペルギルス症に伴う眼窩先端症候群の1 例

2024年6月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科41(6):722.727,2024c軽微な視野障害を契機に診断に至り,良好な転機をたどった侵襲性アスペルギルス症に伴う眼窩先端症候群の1例山下翔太*1,2佐々由季生*3永浜布美子*3飯野忠史*4江内田寛*2*1独立行政法人国立病院機構嬉野医療センター眼科*2佐賀大学医学部眼科学講座*3地方独立行政法人佐賀県医療センター好生館眼科*4地方独立行政法人佐賀県医療センター好生館血液内科CACaseofOrbitalApexSyndromeCausedbyInvasiveAspergillosiswithaGoodClinicalCourseaftertheDiagnosisofaSlightVisualFieldDefectShotaYamashita1,2),YukioSassa3),FumikoNagahama3),TadafumiIino3)andHiroshiEnaida2)1)DepartmentofOphthalmology,NHOUreshinoMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,SagaUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,Saga-kenMedicalcentreKoseikan,4)DepartmentofHematology,Saga-kenMedicalcentreKoseikanC目的:軽微な視野障害を契機に副鼻腔侵襲性アスペルギルス症による眼窩先端症候群の診断に至り,良好な転機が得られたC1例を経験したので報告する.症例:58歳,女性.急性骨髄性白血病に対する寛解導入後の地固め療法で入院中,発熱に続き左歯痛,左.部疼痛・知覚鈍麻が出現.霧視も出現したため,眼科へ紹介となった.初診時の矯正視力は両眼ともC1.0と良好だったが,静的視野検査では左眼に傍中心暗点を認めた.画像上は副鼻腔炎を認め,抗真菌薬加療を行われていたが,数日で視力・視野障害が進行.再検したCMRIで側頭葉への炎症波及を認め,深在性真菌症疑いで内視鏡下鼻副鼻腔手術が施行され,摘出組織からアスペルギルス症の診断となった.術後は視力・視野は速やかに改善,2年以上経過後も生存し,視力と視野は維持されている.結論:免疫不全患者で急速に進行する視力障害では侵襲性副鼻腔真菌症を考慮し,早期の診断治療につなげることが予後に重要である.CPurpose:Toreportacaseinwhichaslightvisual.elddefectwasobservedastheearlysymptomofinvasiveaspergillosis,alife-threateninginfectioninimmunocompromisedhosts.CaseReport:A58-year-oldfemalepatientwasadmittedtotreatacutemyeloidleukemia.Shehadfeverfollowedbybuccalpainandparesthesiaonherleftside,andat20-dayspostfever,visualdiscomfortoccurred.Althoughasmallparacentralscotomawasdetectedinherlefteye,hervisualacuity(VA)was20/20.MagneticresonanceimagingandserologicalexaminationsrevealedsinusitisCwithCanCaspergillosisCantigenemia.CDespiteCpharmaceuticalCtreatments,CherCleft-eyeCVACwasCa.ectedCinCaCcoupleCofCdays.CEndoscopicCparanasalCsurgeryCwasCimmediatelyCperformed,CandCherCVACandCvisualC.eldCimprovedCwithin1-weekpostsurgeryandhasbeenmaintainedfor2years.Conclusion:Aninvasivefungalinfectionshouldbeconsideredinimmunocompromisedpatientswithrapidlyprogressivevisualimpairment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(6):722.727,C2024〕Keywords:副鼻腔侵襲性アスペルギルス症,侵襲性真菌症,眼窩先端症候群急性骨髄性白血病,傍中心暗点.in-vasiveaspergillosis,invasivefungaldisease,orbitalapexsyndrome,acutemyeloidleukemia(AML),paracentralCscotoma.Cはじめにある.診断にはCCTやCMRIなどの画像検査が有用だが,真侵襲性アスペルギルス症はアスペルギルス症のうち組織浸菌性副鼻腔炎に特有の石灰化などの特徴的所見がみられない潤を伴う急速進行性の病型とされる1).肺アスペルギルス症場合もあり,画像のみでは確定診断に至らない場合もある.がもっとも一般的だが,副鼻腔や皮膚病変から始まる場合も副鼻腔侵襲性アスペルギルス症の症状として,一般的には〔別刷請求先〕山下翔太:〒843-0393佐賀県嬉野市嬉野町大字下宿甲C4279-3独立行政法人国立病院機構嬉野医療センター眼科Reprintrequests:ShotaYamashita,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NHOUreshinoMedicalCenter,4279-3Shimojuku-kou,Ureshinomachi,Ureshino,Saga843-0393,JAPANC722(118)悪臭のある鼻漏や.部痛,.部腫脹を初発とすることが多く,病変が眼窩内へ進展すると眼窩周囲の疼痛や視機能障害を生じる2).さらに頭蓋内に進展すると種々の脳神経障害や脳梗塞,意識障害などを起こす.診断が遅れると死に至る疾患であり,血液悪性疾患やステロイドの長期内服,糖尿病など免疫不全患者において発症のリスクが高い1,2).一方,眼窩先端症候群は感染症,腫瘍,外傷などさまざまな要因で生じ,視神経,動眼神経,滑車神経,三叉神経,外転神経の機能障害をきたす.視力低下・複視・眼球突出や眼瞼下垂などの症状を呈する3).その症状から,早期より眼窩先端症候群を考慮する症例はあるものの原因が多彩であり,とくに侵襲性アスペルギルス症によるものはまれなため,診断に難渋した症例や,治療が行われ救命につながった場合でも失明に至った症例が散見される4).今回,筆者らは軽微な視野異常を契機に,副鼻腔侵襲性アスペルギルス症に伴う眼窩先端症候群の診断に至り,外科的治療と抗真菌薬治療で生命予後のみならず,視機能の面でも良好な転機を得られたC1例を経験したので報告する.CI症例患者:58歳,女性.主訴:左眼視力低下.既往歴:胃潰瘍,急性骨髄性白血病.現病歴:急性骨髄性白血病に対して寛解導入後の地固め療法目的にC20XX年C7月C16日に血液内科に入院となった.血球減少期に発熱があり,セフェピムやメロペネムなどの抗菌薬治療が開始された.発熱C4日後から左歯痛,左.部知覚鈍麻が出現した.血液検査でCbDグルカンは陰性で,追加で評価されたアスペルギルス抗原は陽性であったが,感染巣は不明であった.発熱の原因としてアスペルギルス感染症が予想され,発熱C7日後からCCPFG(カスポファンギン)50mg/dayの投与を開始した.その後も症状は改善に乏しく,発熱11日目から鼻閉,霧視が出現したため精査目的で当科へ紹介となった.初診時眼所見:視力は右眼(1.0×+2.25D),左眼(1.0C×+1.50D).眼圧は右眼C11mmHg,左眼C16mmHg.眼位・眼球運動に明らかな異常所見はなく,相対性求心性瞳孔反応欠損は左眼でわずかに陽性であった.フリッカ値は左眼で15CHz前後に低下していた.前眼部,中間透光体,眼底には白内障以外に特記所見を認めなかった(図1a,b).静的視野検査(Humphrey視野計:HFA)では左内下方に傍中心暗点を認めた(図1c).視野異常の原因検索目的で頭部CCT・眼窩部CMRIが評価され,CTでは左上顎洞・左篩骨洞に粘膜肥厚を認め,MRIでも副鼻腔炎を疑う粘膜肥厚と左下直筋の肥厚を認めたが,真菌症を示す石灰化などの特異的な所見は認めなかった(図2a,b).1週間後の再診時の左眼の視力は(0.2×+2.50D)と著明な低下を認め,眼底には大きな変化はみられなかったがCHFAでは中心C30°に広く拡大した視野障害を認めた(図3).頭部CMRIを再検したところ,左側頭葉に炎症の波及がみられた(図4a).深在性副鼻腔真菌症を疑い,再来C2日後,耳鼻科で内視鏡下鼻副鼻腔手術が施行され,病理結果から侵襲性アスペルギルス症の診断となった(図4b).術後はCCPFGの投与が継続されていたが,画像所見では改善に乏しく,副鼻腔手術C1週間後よりアムホテリシンCB100Cmg/日の点滴に変更となった.同時期に当科を再来した際は,左眼視力はC0.3(0.8×+1.50D)まで改善しており,視野検査でも明らかな改善を認めた(図5a).その後は症状の増悪などなく経過していたが,副鼻腔手術C1カ月後より左の眼瞼下垂が出現した.その後のCMRIで左の海綿静脈洞部に感染性動脈瘤が疑われ,脳神経外科にて左浅側頭動脈-中大脳動脈バイパス+左内頸動脈遮断術が施行された.術後C6日目からけいれん,見当識障害・発語障害が出現し,保存的加療でC10日目までにけいれん,見当識障害は改善したものの失語症は残存した.全身状態の悪化のために眼科受診は中断されていたが,約2年後の再来時には,左眼視力はC0.3(1.2CpC×sph+1.75D(cyl.0.50DAx40°)と良好で,HFAもほぼ正常であった(図5b).CII考察本症例は発熱と.部から側頭部の疼痛および知覚鈍麻に続き,急激な視力低下・視野障害を生じ,診断に至った侵襲性アスペルギルス症による眼窩先端部症候群である.良好な生命予後,視機能維持が得られた要因について,既報を参照しながら検討した.真菌感染症の早期の診断のため,非侵襲的であり広く行われているのが生化学検査である.Cb-Dグルカンが一般的には使用されるが,侵襲性アスペルギルス症においては陽性率がC77%との報告があり,診断に至らない場合もある5).一方で,好中球減少患者における侵襲性真菌症では,発熱に続くもっとも早期の検査所見としてCb-Dグルカンの有用性をあげているものもみられる6).同報告では,侵襲性真菌症の診断がつくまでの日数の中央値がC7.5日であったのに対し,Cb-Dグルカンは発熱から中央値C0.5日,CT上の変化は中央値C4日で陽性となっていた6).また,血清アスペルギルス抗原も広く使用されており,侵襲性アスペルギルス症において感度C71%,特異度C89%と良好な成績であったとの報告もある7).さらに感度を高めるため両者の併用を推奨する論文もみられ,今回の症例でも両者を併用しており,Cb-Dグルカンは陰性であったもののアスペルギルス抗原が陽性であったため,早期の抗真菌薬投与を行っている8).CTを用いた診断の有効性について検討した論文では,侵abc左眼右眼図1初診時検査所見(20XX/8/7)Ca:眼底写真.眼底には視神経乳頭を含め明らかな異常所見を認めなかった.Cb:光干渉断層写真(OCT).左眼の内下方にわずかな神経線維層の菲薄化を認める以外に大きな変化はみられなかった.Cc:HFA.右眼はほぼ正常所見であったが,左眼に傍中心暗点を認めた.襲性真菌性副鼻腔炎と診断のついた患者C43人のうち,11.6腔内視鏡での観察を行い,感染が疑わしい際は生検まで施行%の症例ではCCTでまったく副鼻腔所見がなく,39.5%ではし,早期に診断をつける方法の有用性を示している.この方軽微な変化にとどまり,真菌感染症に特異的な石灰化像の所法で,同施設における生命予後は約C50.69.8%まで改善し見もなかったとされており,CTのみでは診断がむずかしいたとされているが,これほどの密な対応を行っても罹患後のことを示している9).同報告では易感染性のある患者で発熱生命予後はC70%に届かず,この疾患の生命予後の悪さが伺や.部痛などがみられた場合は全例でC24.48時間ごとの鼻える9).ab図2頭部CT,MRI所見(20XX/8/8)Ca:頭部CCT画像.眼科初診後に施行した頭部CCTでは,左上顎洞,左篩骨洞に粘膜肥厚を認めたが,石灰化の所見などはみられなかった.Cb:頭部CMRI画像.同日施行した頭部CMRIでも副鼻腔炎を疑う左副鼻腔の粘膜肥厚や左下直筋の肥厚を認める程度であった.侵襲性副鼻腔真菌症の生命予後に関連する因子として,Monroeらは頭蓋内進展の有無をあげているが,年齢や免疫不全の原因疾患は有意差がなかった10).Piromchaiらは急性侵襲性副鼻腔真菌症C59例の解析において,症状出現から治療開始までの期間が予後に関連していた(p=0.045)としており,とくにC14日以内の生存確率の減少が著しいことから,14日を良好な生命予後のための治療開始のカットオフポイントとしている11).また,Turnerらは急性侵襲性真菌症として報告されたC398症例で多変量解析を行った結果として,年齢が高く(OR:1.018,p=0.005),頭蓋内への波及(OR:1.892,p=0.03)がある患者で予後が不良であった12).この解析で扱った患者のC2割は何らかの眼窩部への進展の症状を認めていたが,直接的な生命予後とは結びついておらず,眼図3再診時HFA所見(20XX/8/13)初診からC6日後には,中心C30°まで広汎に視野障害が進行していた.図4頭部MRI再検時の所見および病理検査所見a:頭部CMRI画像.視野障害進行後(20XX/8/13)に再検された際には,左側頭葉に炎症の波及がみられた.Cb:病理所見.手術時に左蝶形骨洞より摘出された病変からは壊死組織とともにアスペルギルスを疑う真菌が認められ,侵襲性アスペルギルス症の診断となった.ab図5:耳鼻科手術2週後および2年後の左眼HFA所見a:耳鼻科手術C2週後に施行したCHFA所見.視野障害は著明に改善していた.b:2年後に再来となった際のCHFA所見.視野障害は改善を維持していた.窩部への進展を認めた場合でも,眼球摘出および眼窩内容除去術を行うかどうかは,状況を見きわめる必要がある12).一方で副鼻腔手術(OR:0.357,p=0.02)は生命予後を改善し,内視鏡を用いた手術(OR:0.486,p=0.005)でも改善効果が統計学的に示されている12).侵襲性副鼻腔真菌症と診断されたC55症例の解析では,45%に眼筋麻痺,36%に視力低下,33%に眼球突出を認めたと報告されており,眼症状の頻度は高い13).そのうち診断初期に視力評価を行えたC34例C68眼において,16眼(24%)は光覚なしであった.また,最終的な視力評価を行えたC32例61眼ではC18眼(30%)で光覚なし(眼球内容除去・眼球摘出を行ったC9例を含む),8眼(13%)で矯正視力C0.3以下であったと報告されており,実に半数近くの症例で視力に強い悪影響を及ぼしていた13).視力予後良好因子を解析した報告は少ないが,Hirabayashiらは内視鏡下副鼻腔手術を受けた患者は受けられなかった患者と比較し,logMAR視力で平均C7.8ライン視力がよかったと報告しており,手術は視機能維持にも有用と考えられる13).しかし,症状出現から手術までの期間については言及されておらず,視機能に対する早期手術療法の有用性については,さらなる解析が待たれる.筆者らの経験した症例では,副鼻腔感染を疑わせる歯痛,頭痛の出現からC3日,.部疼痛,知覚鈍麻出現からC1日でCPFGの投与が開始されており,そのC13日後に手術となっている.眼症状を契機とした場合には,軽微な視野障害が判明してからはC8日,視野障害が進行し視力がC0.2まで悪化してからはC2日で手術と速やかに対応できた.一方で,前述のように綿密に副鼻腔内視鏡検査を行う場合でも診断に難渋したとの報告もある.今回の症例は眼窩先端部への侵襲により自覚症状が出現しやすく,真菌抗原血症の感染源同定にもつながり,病巣コントロールとしての内視鏡下副鼻腔手術を早期に施行できたため,頭蓋内進展があったにもかかわらず良好な生命予後および視力予後を得られたものと考えられる.侵襲性副鼻腔真菌症は予後不良な疾患であり,眼窩先端症候群を生じた場合は視機能維持も困難な症例が多い.眼症状の頻度が高い疾患であり,眼科が初診となる場合もあるため,病期や進展部位によって症状が多彩であることを理解し,とくに免疫不全の病歴のある患者において,自覚症状がある場合には視力がよくても視野検査,フリッカ視野計測などまで行って視神経への影響を検索することが疾患を見落とさないC1つのポイントと思われる.そして他科と協力し早期の診断・治療につなげることが生命予後のみならず視機能維持のためにも非常に重要である.文献1)ChakrabartiCA,CDenningCDW,CFergusonCBJCetal:Fungalrhinosinusitis:aCcategorizationCandCde.nitionalCschemaCaddressingCcurrentCcontroversies.CLaryngoscopeC119:C1809-1818,C20092)大國毅,朝倉光司,本間朝ほか:副鼻腔真菌症症例の検討.耳鼻臨床101:21-28,C20083)YehCS,CForoozanR:OrbitalCapexCsyndrome.CCurrCOpinCOphthalmolC15:490-498,C20044)越塚慶一,花澤豊行,中村寛子ほか:眼窩先端症候群を伴った浸潤型副鼻腔真菌症のC2症例.頭頸部外科C25:325-332,C20155)KarageorgopoulosCDE,CVouloumanouCEK,CNtzioraCFCetal:b-D-glucanassayforthediagnosisofinvasivefungalinfections:aCmeta-analysis.CClinCInfectCDisC52:750-770,C20116)SennL,RobinsonJO,SchmidtSetal:1,3-Beta-D-glucanantigenemiaCforCearlyCdiagnosisCofCinvasiveCfungalCinfec-tionsCinCneutropenicCpatientsCwithCacuteCleukemia.CClinCInfectDisC46:878-885,C20087)Pfei.erCCD,CFineCJP,CSafdarN:DiagnosisCofCinvasiveCaspergillosisusingagalactomannanassay:ameta-analy-sis.ClinInfectDisC42:1417-1427,C20068)DichtlCK,CForsterCJ,COrmannsCSCetal:ComparisonCofCb-D-glucanandgalactomannaninserumfordetectionofinvasiveaspergillosis:retrospectiveCanalysisCwithCfocusConearlydiagnosis.JFungi(Basel)C6:253,C20209)SilveiraCMLC,CAnselmo-LimaCWT,CFariaCFMCetal:CImpactofearlydetectionofacuteinvasivefungalrhinosi-nusitisCinCimmunocompromisedCpatients.CBMCCInfectCDisC19:310,C201910)MonroeMM,McLeanM,SautterNetal:Invasivefungalrhinosinusitis:aC15-yearCexperienceCwithC29Cpatients.CLaryngoscopeC123:1583-1587,C201311)PiromchaiCP,CThanaviratananichS:ImpactCofCtreatmentCtimeConCtheCsurvivalCofCpatientsCsu.eringCfromCinvasiveCfungalCrhinosinusitis.CClinCMedCInsightsCEarCNoseCThroatC7:31-34,C201412)TurnerJH,SoudryE,NayakJVetal:SurvivaloutcomesinCacuteCinvasiveCfungalsinusitis:aCsystematicCreviewCandquantitativesynthesisofpublishedevidence.Laryngo-scopeC123:1112-1118,C201313)HirabayashiKE,IdowuOO,Kalin-HajduEetal:Invasivefungalsinusitis:riskCfactorsCforCvisualCacuityCoutcomesCandCmortality.COphthalmicCPlastCReconstrCSurgC35:535-542,C2019C***

眼底イメージングの進化─さらによく見える─

2024年6月30日 日曜日

《第12回日本視野画像学会シンポジウム》あたらしい眼科41(6):717.721,2024c眼底イメージングの進化─さらによく見える─松井良諭三重大学大学院医学系研究科臨床医学講座眼科学,中部眼科CTheEvolutionofFundusImagingYoshitsuguMatsuiCDepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,ChubueyeclinicCはじめに眼底写真や光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)がわれわれに提供してくれる情報は現在の眼科臨床および研究に欠かすことができない.とくに,この十数年において,これらの眼底画像を巡る撮影装置のテクノロジーの進歩は著しい.観察対象の拡大が起こり,網膜を中心にその前後の硝子体や脈絡膜の画像化が容易になり,撮影の侵襲性も低下し,さらに生成される画像がもたらす情報の粒度は加速度的に増大している.その恩恵として,患者の診断精度の向上,治療成績の改善につながっている.本稿では,①CWide.eldCFundusImaging,②COCT,③CArti.cialIntelligence(AI)inCFundusImagingのC3つのポイントに着目し,これらのテクノロジーの進歩と今後の発展について述べたい.CIWide.eldFundusImaging眼底から情報を得る営みは,1851年に直像鏡を開発したCvonHelmholtzにより始まり,その後,1886年に眼底撮影が可能となり,1926年にCZeiss社から市販機の眼底カメラが登場した.その後,1枚の撮影範囲はC35.60°程度のものとなった.眼底全体の広さに対して限られた範囲であったが,視神経や黄斑を中心とした後極を記録可能な画角は非常に有用であった.2011年に超広角走査型レーザー検眼鏡のCOptos200Txが市販され,検眼鏡は網膜全体を見る機械へと進化した.眼球中心からC1画像でC200°の画像を取得可能となり,焦点深度が非常に深く,周辺の病変の記録が容易となった.しかし,Optos画像の色調は赤と緑のレーザーで取得した走査レーザー検眼鏡(scanningClaserophthalmoscope:SLO)画像を合成する.このため,通常の眼底カメラから青成分を除いた緑色の強い擬似カラー画像であり,網膜表面の微細な病変の観察には不十分であった.この色調に対する改善を光源の変更により実現したCTruecolorの超広角検眼鏡装置が登場した.まず,CRALUSC500.は,走査型レーザー検眼鏡で光源は赤色CLED,緑色LED,短波長の青色CLEDのC3色を用いてカラー画像を作成するため,網膜の深層から表面までさまざまのレイヤーの病変の描出が可能となり,検眼鏡でじかに眼底を観察した際に認識する眼底に近い色調の画像が得られる.また,解像度が7Cμmと高く,画像取得後に画像拡大による微小変化の観察評価が可能となった.なお,撮影範囲はC2画像の自動モンタージュにより,眼球中心C200°の撮影が可能であり,共焦点技術により周辺部のアーチファクトも除外可能となった.Optosと比較して,それぞれの画像中心が異なる点と周辺部の焦点深度の差からCCRALUSは鼻側の周辺部評価がより広いことが判明している(図1)1).つぎに,EidonはC3画像の自動モンタージュにて最大C163°の画角を完全に自動撮影で得られる.そして,Miranteは眼球中心から最大C270°のモンタージュ画像を取得可能であり,血管造影,眼底自発蛍光,OCTやCOCTCangiography(OCTA)も可能な複合機である.これらの新たな検眼鏡装置の出現から考えられる今後の進化の方向性として,画像の高解像度化,撮影の自動化,広角化,多機能化にあると思われる.CIIOCT眼底写真の情報は二次元の網膜情報であるが,OCT画像は微細な三次元の網膜情報をわれわれに与え,病状,病態および治療効果の評価において欠かすことができない検査装置である.1980年代にCFujimotoらがフェムトセカンドレーザーで得た知見と短コーヒレンス長干渉の技術を組み合わせて,反射率の低い網膜からの反射光の測定に成功したことに〔別刷請求先〕松井良諭:〒514-8507三重県津市江戸橋C2-174三重大学大学院医学系研究科臨床医学講座眼科学Reprintrequests:YoshitsuguMatsui,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-174Edobashi,Tsu-shi,Mie514-8507,JAPANC図1OptosとCRALUSの画質,周辺部の比較aはCLARUS500の200°画像(Ultra-Wide),bはCOptosC200TxのC200°画像.ともに眼球中心のC200°の範囲であるが,周辺部の血管視認性をみるとCCLARUSはアーチファクトが少なく,また,画像の中心が黄斑鼻側にあることもあり,鼻側の周辺部がCOptosより広いことがわかる.色調はCCRALUSが通常の眼底検査のときと同じ,自然な色調であり,網膜表面の視認性が高い.端を発し,1996年にCZeiss社から市販機のCOCT装置が販売された2).その後,時間分解能と空間分解能の改善があり,臨床での利活用にてCOCT画像の網膜形態と視機能の関係の理解が深まった.とくに網膜外層の高輝度反射帯の形態は視機能を反映しており,その連続性に着目する定性的な評価は臨床で非常に有用である.スペクトラルドメイン干渉光干渉断層計(SD-OCT)の深さ解像度は高いが,7Cμ程度の装置ではCinterdigi-tationzone(IZ)の反射帯は正常者においての検出率はC88.96%程度の検出率となる3).このため,黄斑ジストロフィの一種の三宅病や急性帯状潜在性網膜外層症(acuteCzonalCoccultCouterretinopathy:AZOOR)complexの初期の変化としてのCIZの反射帯の連続性の変化を評価する際には注意が必要である.そこでCKOWA社製の超高解像度CSD-OCTは解像度がC2Cμを使用した知見を共有する.この画像では,7Cμ程度の装置と比較して網膜の各層の境界が明瞭となり,IZも鮮明となる(図2a,b).それぞれの装置における網膜外層の輝度値のプロファイルでは,高解像度画像ではCellip-soidzone(EZ)やCIZのプロファイルの高さに変化はないが,それらのピークは細く,また,それらの間の谷の部分も深かった(図2c,d).この結果,主観的にも評価困難なCIZの視認性は改善することが判明した4).この一例から,見えるという主観は装置の解像度による限界がある点に留意する必要があること,そして,解像度の進化により,疾患眼を含めて網膜各層のアライメント評価はさらに改善する可能性があると思われる.また,画像鮮明化技術も進歩している.画像鮮明化装置のMIErは,撮影されたデジタル画像のC1画素単位に対して解析を行い,注目画素の周囲の明度分布から近傍のダイナミックレンジを求め,ダイナミックレンジが最大になる明度を算出する技術である.この装置の応用はすべてのデジタル画像,さらには動画への適応が可能である.OCT画像へのMIErの応用について,筆者らは黄斑円孔(macularhole:MH)のCOCT画像に対して,この画像鮮明化技術を適用した.MHでは円孔周囲の網膜内液の貯留により,その後方の組織からの反射が減弱し網膜外層の状態評価が困難となる.この装置の使用により,外境界膜-網膜色素上皮間の面積とCphotoreceptorCoutersegment(PROS)面積ともに鮮明化後にともに有意に増大することが判明した(図3,4).不鮮明なCOCT画像から評価困難な長さや面積などのベクトル情報を抽出する方法として,この技術の可能性を感じる結果であった.CIIIAIinFundusImaging前述のように検眼鏡とCOCTは現在も進歩の途上にあり,画像装置が得た情報量と複雑性が増大している.これらの画像情報は臨床医が読影をしてこそ臨床的な価値をもつが,それらの解釈に要するコストの増大は,日々の診療における時間の有限性から困難な課題となりうる.そこで,膨大な眼底情報を最適に利活用するために,AI技術への期待が高まっている.第三次CAIブームの到来により,医療分野でもCAIを用いた研究や技術開発が盛り上がっており,①物体検出による注目領域を示唆するカメラの登場,②領域抽出で病勢を判断するアルゴリズムの登場,③臨床予後予測,これらへのCAIの応用が期待されている.筆者らは網膜静脈分枝閉塞症(branchCretinalCveinCocclu-sion:BRVO)の黄斑浮腫への抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialCgrowthfactor:VEGF)治療の維持治療前のOCT画像情報と患者情報から,維持治療期間の経時的な視機能が良好な群と,その他を分類する課題に取り組み,その図2SD-OCTの比較aは深さ分解能が7μmのSPECTRALISのhighCresolutionmodeのSD-OCT画像,CbはC2μmのCbi-μのSD-OCT画像.CcはCSPECTRALISの網膜外層の輝度値のプロファイル,CdはCbi-μの網膜外層の輝度値のプロファイル.accuracyはC80%で可能であることを報告した5).その経験から機械学習を用いて予後予測をするうえで重要な二つの点について説明する.1点目は,AIアライメントを考慮する点である.AIアライメントとは,AIシステムを利用者である人間の意図する目的や嗜好に合致させるとこを目的とする研究領域である.臨床予後予測においては,患者の治療意思決定を支援し,かつ治療モチベーションの向上に寄与するモデルデザインが重要と考え,実験では予後良好群に高適合し,予後不良群への適合率は低くても許容するモデル設計を行った.その結果,予測モデルが予後良好と予測した場合,「この場合,ほぼ確実に回復するので頑張って治療していきましょう」と励ますことが可能となる.一方で,予測モデルが予後不良と予測した場合,「この場合,40%の確率で外れるかもしれません.頑張ってみませんか?」と治療を促すこと,あるいは今回の実験データで用いたC1+prorenata(PRN)の治療アルゴリズム以上の強度の治療を提案することも可能となる.2点目はモデルの予測結果への説明可能性の重要性である.臨床予測が信頼可能となるかは,その説明可能性に依存する.すでにCBRVOの黄斑浮腫への抗CVEGF治療における予後因子について,多くの特徴量が報告されている.しかし,それらを統合して個別の患者の予測をすることはむずかしい.そこで,ShapleyCAdditiveexPlanations(SHAP)値を利用することで,予測に貢献した特徴量の交互作用も包含図3画像鮮明化技術aは鮮明化処理前のCOCT画像,Cbは鮮明化処理後のCOCT画像.した評価を行った.SHAP値とはゲーム理論に由来するShapley値の概念を基にしており,機械学習モデルの解釈可能性を高めるための一手法で,複雑なモデルが出力する予測に対して,入力特徴がどれだけ影響を与えたのかを定量的に評価することが可能である.モデル情報として,解析対象の各患者の各説明変数の値とCSHAP値をCbeeswarmplotで視覚化し,説明変数ごとの予測への貢献の大きさと方向を明示2,500外境界膜-網膜色鮮明化前vs鮮明化後素上皮間の画素数1,400PROS鮮明化前の画素数vs鮮明化後2,0001,2001,000鮮明化後1,5001,000鮮明化後800600500400200005001,000鮮明1,500化前02,0002,5000200400600鮮明8001,0001,2001,400化前図4画像鮮明化技術網膜外層における外境界膜から網膜色素上皮層の間の画素数の鮮明化前後の分布とCPROSの画素数の鮮明化前後の分布.ともに鮮明化前後において,検定で有意差を認めた(p<0.01).横軸と縦軸の単位はpixel.CHigh浮腫消失時logMAR視力ELMの輝度値治療前logMAR視力年齢左右病型EZの輝度値性別ELMの輝度値_org発症から治療までの期間視細胞面積EZの輝度値_orgEZの連続性ELMの連続性治療~浮腫消失の期間病変位置(上下)不良群のほうに寄与良好群のほうに寄与FeaturevalueLow-6-4-202SHAPvalue(impactonmodeloutput)図5Beeswarmplot各説明変数の値が低いものは青で,高いものは赤でドットの色調で表現し,説明変数のCSHAP値の横軸の分布が大きいものが上位にある.この場合,浮腫消失時のClogMAR視力がもっとも予測に大きく貢献していること,そして,相関の方向がわかる.した(図5).さらに,患者個人への予測過程をCwaterfall報とするための眼底画像はめざましい進化を遂げている.眼plotで視覚化した(図6).このように詳細なモデルの説明底カメラやCOCTの進化の方向として,広角化,高解像度化,可能性により,臨床予後予測が患者の臨床意思決定システム自動化,リアルな色調の再現,複合化が進んでいる.また,の補助となる可能性を感じている.その画像のベクトル情報を増加させる画像鮮明化技術が登場している.そして,眼底からの情報は,「より見える」環境まとめにおいて情報過多ともなり,AIの利活用がこの課題への解眼底から情報を得ることはC1851年のCHelmholtzの眼底観決となる可能性がある.AIシステムの臨床導入には,シス察に起源があり,主観的な眼底検査からそれらを客観的な情テムデザインや説明可能性など配慮すべき点がある.図6Waterfallplotaはある症例の予測過程を視覚化したCwaterfallplot.訓練データの平均値のベースレートから最終的な出力までの,各説明変数のCSHAP値の貢献がわかる.Cbはその出力を分類閾値と比較する過程を示す.この場合は,ベースレートのC.2.595から説明変数のCSHAP値から出力がC.3.708となり,シグモイド関数に代入後に分類閾値のC0.639未満であったため,最終的に予後不良と分類された.文献1)MatsuiCY,CIchioCA,CSugawaraCACetal:ComparisonsCofCe.ectiveC.eldsCofCtwoCultra-wide.eldCophthalmoscopes,COptos200TxandClarus500.BioMedResInt:20192)HuangCD,CSwansonCEA,CLinCCPCatal:OpticalCcoherenceCtomography.ScienceC254:1178-1181,C19913)Terasaki,CH,CShirasawaCM,CYamashitaCTCetal:Compari-sonCofCfovealCmicrostructureCimagingCwithCdi.erentCspec-traldomainopticalcoherencetomographymachines.Oph-thalmologyC119:2319-2327,C20124)MatsuiCY,CKondoCM,CUchiyamaCECetal:NewCclinicalCultrahigh-resolutionCSD-OCTCusingCA-scanCmatchingCalgorithm.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC257:255-263,C20195)MatsuiCY,CImamuraCK,COokaCMCetal:Classi.cationCofCgoodvisualacuityovertimeinpatientswithbranchreti-nalveinocclusionwithmacularedemausingsupportvec-torCmachine.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC260:C1501-1508,C2022C***

視野ケースカンファレンス~この視野,なんだゃあも: 網膜編Part 1 「ASPPC とAAOR」

2024年6月30日 日曜日

《第12回日本視野画像学会シンポジウム》あたらしい眼科41(6):713.716,2024c視野ケースカンファレンス~この視野,なんだゃあも:網膜編Part1「ASPPCとAAOR」國吉一樹近畿大学医学部眼科学教室Visual-FieldGrandRound:AcuteSyphiliticPosteriorPlacoidChorioretinitisandAcuteAnnularOuterRetinopathyKazukiKuniyoshiCDepartmentofOphthalmology,KinkiUniversityFacultyofMedicineCはじめに近年,わが国では梅毒感染の届け出数が急増している1).それに伴って梅毒による眼炎症(眼梅毒)も増加していると考えられる.眼梅毒には先天梅毒と後天梅毒に伴うものがあり,先天梅毒には,角膜実質炎,内耳難聴,Hutchinsonの歯(三徴候),後天梅毒には,網膜の滲出斑や出血を伴う網膜脈絡膜炎,虹彩炎,強膜炎,視神経炎などがよく知られている.しかし近年,後天梅毒に伴う梅毒性網膜外層症(syph-iliticCouterretinopathy)2)やCacuteCsyphiliticCposteriorCplac-oidchorioretinitis(ASPPC)3)が報告されており,いずれも眼底所見からは梅毒の感染を想起しにくい.本稿ではそのなかで,ASPPCと,それに類似した眼底所見を呈するCacuteCannularouterretinopathy(AAOR)3)の症例を提示し,その鑑別ポイントと治療方針について解説する.CI症例[症例1]ASPPC(図1,2)57歳,男性.初診の半年前から左眼に「何か違和感があった」という.初診のC1週間前から左眼の視力が急に落ち,「左眼視野の中央部が真っ暗」ということであった.初診時,左眼眼底の視神経乳頭から黄斑部,上方の血管アーケード付近にかけて円形の白濁病変が認められた(図1,2).右眼眼底は正常であった.初診時視力は,右眼C0.05(1.5C×sphC.6.0D(cyl.1.5DAx15o),左眼C0.02(0.05C×sph.2.75D(cyl.1.5DAx155o)であった.病変部は眼底自発蛍光検査では過蛍光を示し,フルオレセイン蛍光造影検査では網膜血管からの蛍光漏出を認め,インドシアニングリーン蛍光造影検査では後期像で低蛍光を示した(図1).Goldmann視野計による動的視野では大きな中心暗点を認めた(図2).光干渉断層計検査(opticalCcoherencetomography:OCT)では硝子体中に炎症性細胞を認め,網膜色素上皮のラインは不整で,多数の隆起を認めた(図2矢印).初診C1週後には左眼眼底の円形病巣はやや広がったものの淡くなり,左眼矯正視力は(0.2)まで改善した(図2).本人も「視野の暗点がうすくなってきた」というので,無投薬で経過観察することとした.その結果,左眼眼底の円形病巣は次第に不明瞭となり,初診C2カ月後には左眼の矯正視力は(0.9)に改善し,OCTではCellipsoidzoneが回復してきた(図2小矢印).この時点で全身検査を施行したところ,RPRはC137.89CR.U.(正常値:1CR.U.未満),TPHAはC40,960倍(正常値:80倍未満)と高値を示したので,ASPPCと診断し,皮膚科へ紹介してペニシリンによる駆梅療法を行った.[症例2]AAOR(図3)33歳,男性.初診のC1年半ほど前から右眼視野の中央に「カメラのフラッシュを見た後のような」暗点があり,右眼の視力が低下した.以来,初診まで症状は不変である.図3に眼底,眼底自発蛍光,OCT,視野の所見を示す.初診時の右眼眼底では視神経乳頭周囲の網膜色素上皮が軽度萎縮していた.左眼は正常であった.初診時視力は,右眼C0.01(0.08C×15.0.sph×,左眼0.04(0.9Ax5o)C1.25D.cyl(0DC.16.sphD)であった.右眼の病変部は,眼底自発蛍光検査では過蛍光に縁どられた低蛍光と過蛍光のモザイク状の異常蛍光を示した.OCTではCellipsoidzoneが消失して外顆粒層は著しく菲薄化し,中心窩付近の網膜色素上皮ラインは途絶していた.視野検査では大きな中心暗点を示した(図3).全身検査を行ったが,RPR,TPHAともに陰性で,トキソプラズマ〔別刷請求先〕國吉一樹:〒589-8511大阪府大阪狭山市大野東C377-2近畿大学医学部眼科学教室Reprintrequests:KazukiKuniyoshi,DepartmentofOphthalmology,KinkiUniversityFacultyofMedicine,377-2Ohno-Higashi,Osakasayama,Osaka589-8511,JAPANCIgGは陰性,TスポットCTB,単純/帯状ヘルペス抗体価も陰性であった.これらの結果から,AAORの慢性期と診断した.発症からC1年以上経過しており,OCTで外顆粒層がほとんど消失していたことから,視機能回復の可能性は低いと判断し,経過観察となった.CIIASPPCとAAOR(表1)ASPPCとCAAORは,それぞれC1990年2)とC1995年3)にGassが報告した疾患概念である.いずれも片眼あるいは両眼に発症し,視神経乳頭に連続した,あるいは眼底後極の円形白色病巣を特徴とし,急激な視力低下と大きな中心暗点を呈する疾患である.両者ともCOCT画像では網膜外層の障害を示し,網膜電図(electroretinogram:ERG)は病変部で低下し,フルオレセイン/インドシアニングリーン蛍光検査所見では病変部は過蛍光あるいは低蛍光を示す(表1).つまりCASPPCとCAAORの眼科所見は類似する.したがって,両者の鑑別には血液検査が必要で,梅毒血清反応が陽性であればCASPPCと診断できる(表1).症例C1は,当初はCAAORを疑って経過観察した.しかし,図1ASPPC(acutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinopathy)の眼底,眼底自発蛍光(fundusauto-.uorescence:FAF),フルオレセイン蛍光造影(FA),インドシアニングリーン蛍光造影(IA)検査所見(症例1)症状が改善してから行った血液検査で梅毒感染が判明した.つまりCASPPCは,最初から梅毒感染を疑って血液検査を行わなければ診断できない.ASPPCの眼底病変は症例C1のように自然緩解することもあるが,全身の梅毒感染に対して駆梅療法が必要である.ステロイドの単独投与は眼梅毒を重症化させることがあり,投与は慎重になされるべきである5).一方のCAAORは自然緩解例が報告されている6)一方で,症例C2のように瘢痕とともに恒久的な視機能障害を残すことがある4).ASPPCとCAAORの病因は不明だが,ASPPCは梅毒トレポネーマに対する免疫反応3),AAORは何らかのウイルスに対する免疫反応4)の可能性が疑われている.ASPPCや梅毒性網膜外層症を含む眼梅毒は早期神経梅毒に含まれており,第C1期梅毒から発症するので,患者は他科よりも先に眼科を受診することがある.したがって,原因不明の脈絡膜炎や網膜炎に遭遇した場合には,老若男女を問わずに「梅毒を疑うこと」が重要で,血液検査を必ず行う必要がある.眼底視野OCT初診時VS=(0.05)初診4日後VS=(0.05)初診1週後VS=(0.2)初診1カ月後VS=(0.6)初診2カ月後VS=(0.9)図2ASPPCの経過(症例1)病初期にはCOCTで網膜色素上皮ラインの凹凸や隆起が認められ(.),ellipsoidzoneは消失している.初診C2カ月後にはCellipsoidzoneは回復してきている(→).本症例の眼底病変は無投薬で自然緩解したが,梅毒感染が判明したため,駆梅療法を行った図3AAOR(acuteannularouterretinopathy)(慢性期)の眼底,FAF(眼底自発蛍光),OCT,視野検査の所見(症例2)視神経乳頭の周囲に萎縮病変を認め,同部位の網膜外層は萎縮している.表1Acutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinitis(ASPPC)とAcuteannularouterretinopathy(AAOR)ASPPCCAAOR眼底(急性期)白色円形病巣灰白色輪状病巣側性両眼性/片眼性片眼性/両眼性視力・視野急激な視力低下・病巣に一致した暗点急激な視力低下・病巣に一致した暗点COCT網膜外層障害(EZ消失,RPEの不整,隆起)網膜外層障害(EZ消失,RPEの隆起)CERG病巣に一致して低下病巣に一致して低下CFA円形の過蛍光(蛍光漏出)輪状の過蛍光CIA円形の低蛍光内に点状の低蛍光輪状の低蛍光確定診断梅毒血清反応陽性除外診断経過・治療ペニシリンによる駆梅療法自然治癒あり・ステロイド+抗ウイルス治療病因梅毒トレポネーマに対する免疫反応?ウイルスに対する免疫反応?眼科臨床所見(水色)は類似する.治療方針は異なるので,血清反応で鑑別する(オレンジ色).OCT:光干渉断層計検査,ERG:網膜電図検査,FA:フルオレセイン蛍光造影検査,IA:インドシアニングリーン蛍光造影検査,EZ:ellipsoidzone,RPE:retinalpigmentepithelium(網膜色素上皮).文献1)厚生労働省ホーム>政策について>分野別の政策一覧>健康・医療>健康>感染症情報>性感染症>梅毒について.Chttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenk-ou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/seikansenshou/Csyphilis.html2)LimaBR,MandelcornED,BakshiNetal:Syphiliticouterretinopathy.OculImmunolIn.ammC22:4-8,C20143)GassCJDM,CBraunsteinCRA,CChenowethRG:AcuteCsyphi-liticCposteriorCplacoidCchorioretinitis.COphthalmologyC97:C1288-1297,C19904)GassJDM,SternC:Acuteannularouterretinopathyasavariantofacutezonaloccultouterretinopathy.AmJOph-thalmolC119:330-334,C19955)FurtadoJM,SimoesM,Vasconcelos-SantosDetal:Ocu-larsyphilis.SurvOphthalmolC67:440-462,C20226)SimunovicCMP,CHughesCEH,CTownendCBSCetal:AcuteCannularCouterCretinopathyCwithCsystemicCsymptoms.CEye(Lond)C24:1125-1126,C2010

西葛西・井上眼科病院運転外来における ドライビングシミュレータ施行後の運転追跡調査

2024年6月30日 日曜日

《第12回日本視野画像学会原著》あたらしい眼科41(6):707.712,2024c西葛西・井上眼科病院運転外来におけるドライビングシミュレータ施行後の運転追跡調査岩坂笑満菜*1國松志保*1平賀拓也*1深野佑佳*1小原絵美*1野村志穂*1黒田有里*1伊藤誠*2高橋政代*3田中宏樹*1溝田淳*1井上賢治*4*1西葛西・井上眼科病院*2筑波大学システム情報系*3ビジョンケア*4井上眼科病院CFollow-UpSurveyafterDrivingSimulatorTestingattheNishikasai-InouyeEyeHospitalDrivingAssessmentClinicEminaIwasaka1),ShihoKunimatsu-Sanuki1),TakuyaHiraga1),YukaFukano1),EmiObara1),ShihoNomura1),YuriKuroda1),MakotoItoh2),MasayoTakahashi3),HirokiTanaka1),AtsushiMizota1)andKenjiInoue4)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InstituteofInformationandSystemsEngineering,UniversityofTsukuba,3)4)InouyeEyeHospitalCVisioncare,目的:運転外来にてドライビングシミュレータ(DS)を施行したのち,追跡調査を行い,その効果を調べた.対象および方法:運転外来を受診したC144例に対して,Humphrey視野計中心C24-2SITA-Standard(HFA24-2),DSを施行した.HFA24-2から両眼重ね合わせ視野(IVF)を作成した.DS施行後C2年以上経過し,運転状況を聴取できた48例を対象に,運転中止群と継続群の背景因子を比較した.結果:DS施行後に運転中止したのはC13例(27%)であった.運転中止群は,継続群と比較し,年齢,視力,IVF上半視野の平均網膜感度に差はないが,IVF下半視野の平均網膜感度が有意に低下していた(p=0.004).緑内障患者C46名では病期が進行するにつれ,運転を中止していたものが多かった(p=0.025).運転継続群では,運転時間は,DS施行時と比べ減少しており(p=0.011),より運転に注意をするようになったと述べられていた.結論:DS施行後の追跡調査では,患者の運転時間・意識の変化を確認でき,視野障害患者の安全運転指導のために運転外来が有効であることがわかった.CPurpose:Toinvestigatethee.ectofadrivingsimulator(DS)anddrivingcessationinadrivingassessmentclinic.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved144patientswhounderwentDS(HondaMotorCo.)testingandtheCHumphreyCFieldCAnalyzerC24-2CSITA-Sprogram(HFA24-2;CarlCZeissCMeditecAG)C.CWeCcalculatedCtheintegratedvisual.eld(IVF)basedontheHFA24-2data.Forty-eightpatientswhosedrivingstatuswasavailableforCmoreCthanC2CyearsCafterCDSCwereCinterviewed,CandCweCcomparedCmeandeviation(MD)andCIVFCinCpatientsCwhocontinuedorceaseddriving.Results:Thirteenpatients(27%)ceaseddriving.Theceased-drivinggrouphadlowerinferior-hemi.eldIVFsensitivity(p=0.004)C.Of46glaucomapatients,thenumberofthosewhoceaseddriv-ingwashigherinthesevereglaucomagroup(p=0.025)C.Thecontinued-drivinggroupstatedthattheydroveless(p=0.011)C,andbecamemorecautiousaboutdriving.Conclusion:The.ndingsinthisfollow-upsurveyafterDStestingshowedchangesinpatients’drivingtimeandawareness,indicatingthatDSmightbeusefulforimprovingdrivingsafetyinpatientswithvisual.eldimpairment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(6):707.712,C2024〕Keywords:ドライビングシミュレータ,運転中止,運転継続,追跡調査.drivingsimulator,drivingcessation,continuedriving,follow-upsurvey.Cはじめにり運転外来を開設し,アイトラッカー搭載ドライビングシ西葛西・井上眼科病院(以下,当院)では,2019年C7月よミュレータ(DS)を用いて,自動車運転能力の評価を行って〔別刷請求先〕岩坂笑満菜:〒134-0088東京都江戸川区西葛西C3C-12-14西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:EminaIwasaka,NishikasaiInouyeEyeHospital,3-12-14Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPANC0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(103)C707いる.運転外来では,速度一定の条件下で,視野障害患者が事故を起こしやすいと予想される場面を織り込んだCDSを用いて走行する(5分間).その後,リプレイ機能を用い,運転場面ごとの視線の動きを確認しながら,患者およびその家族に,視野障害が原因で事故が起こりうることを知らせている1,2).過去に須藤らは,自治医科大学眼科にてCDSを施行した後期緑内障患者C30例を対象に,ドライビングシミュレータ施行後C2.17カ月後の追跡調査を行ったところ,DS施行後,運転を中止していたのはC5例であり,運転を中止した患者の理由は「自分が見えていないのを確認した」「視野が狭いことを実感した」であった.一方,運転を継続していたのは25例であり,全例から「より注意深く運転するようになった」という回答が得られた.患者はCDSを行うことにより,運転時に注意すべき点を理解し,その後の運転に活かされ,DSは有用であったと報告している3).今回,筆者らは,DS施行後C2年以上経過した患者に運転追跡調査を行った.また,患者本人の運転意識,運転状況を調査し,DSの有用性について検討したので報告する.CI対象および方法2019年C7月.2023年C2月に,当院の運転外来に受診し,DSを施行した視野障害患者C144例のうち,DS施行後C2年以上経過し運転追跡調査を施行したC48例(平均年齢C65.7C±12.5歳,緑内障C46例,網膜色素変性C2例,男:女=36:12)を対象とした.全例に対して,DS施行時に視力検査,Humphrey自動視野計中心C24-2SITA-Standard(HFA24-2),両眼開放Estermanテスト,運転状況の聴取,認知機能検査(Mini-MentalCStateExamination:MMSE),DSを施行した.なお,HFA24-2をもとに,既報に基づき4,5),両眼重ね合わせ視野(integratedCvisual.eld:IVF)を作成し,上下半視野の平均網膜感度を算出した.視力検査,運転調査,MMSE,DSは同日に実施し,HFA24-2,両眼開放CEstermanテストはCDS施行日の前後C3カ月以内に実施した結果を使用した.運転評価のためのCDSは,エコ&安全運転教育用ドライビングシミュレータであるCHondaセーフティナビ(本田技研工業)を改変したものを使用した.運転条件を統一するため,速度は一定とし,ハンドル操作はなく,危険を感じたらブレーキを踏むのみとしている.所要時間は,練習コースをC3分間,評価コースをC5分間走行し,赤信号や左右からの飛び出しなど,全C15場面の事故の有無を記録した6).運転追跡調査時には,視力検査,HFA24-2,両眼開放Estermanテストを施行し,対面にて,〔①運転時間の変化(中止・減少・変化なし・増加),②運転中止または減少の理由,③CDS施行後の自動車事故の有無,④CDS施行後の感想〕の聞き取りを行った.運転追跡調査にて,運転中止と回答したものを運転中止群,運転時間が減少,変化なし,増加と回答したものを運転継続群のC2群に分け,両群を比較検討した.運転中止・継続群の比較にあたっては,Wilcoxon順位和検定,Fisher正確確率検定を使用し,運転継続群のCDS施行前後の比較にはCWilcoxon符号付順位和検定,Fisher正確確率検定を使用した.さらに緑内障患者のC46名については,病期をCHFA24-2のCmeandeviation(MD)によりC3期(初期:>.6CdB,中期:C.6.C.12CdB,後期:<C.12CdB)7)に分類し,病期別に運転継続群と中止群の割合が異なるのかを検討をした(Cochran-Armitage検定).本研究は,当院倫理委員会の承認のもと(「視野障害患者に対する高度運転支援システムに関する研究」(課題番号:201906-1)各対象者にインフォームド・コンセントを得た.CII結果運転外来を受診したC144例中,DS施行後C2年以上経過したC48例に対して運転追跡調査を施行した.運転中止群はC48例中C13例(27%),運転継続群はC35例(73%)であった.運転中止群と運転継続群を比較した結果,運転中止群は,女性が多く(p=0.061),視野良好眼のCHFA24-2のCMD,Ester-manスコアが悪い傾向があった(p=0.054,p=0.081).また,IVF下半視野の平均網膜感度は,有意に低かった(p=0.0040)(表1).運転中止群と継続群でCMMSEスコアに有意差はなく,認知機能に差はみられなかった.運転継続群のCDS施行前後の患者背景を表2に示す.DS施行前と施行後C2年以上の背景を比較したところ,視力に変化はなく,視野良好眼のCMD値,Estermanスコアが悪化していた(p=0.0003,0.0004).また,1週間の運転時間は,C4.5±5.8時間からC3.5C±5.8時間と,運転時間が減少していた(p=0.011,Wilcoxon符号付順位和検定).運転時間が減少した理由として,「見えにくさの増加」と回答した例がもっとも多かった.また,DS施行前は,35例中C11例が過去C5年間に事故を起こしていたが,DS施行後は軽微な事故を起こしたC1例のみだった.運転継続群C35例中,33例(94%)が運転時に注意を払うようになったと回答した.緑内障患者C46名を,DS施行時の病期別に分類したところ,初期C11例,中期C15例,後期C20例であった.初期では,運転中止した例はいなかったものの,中期ではC15例中C5例(33.3%),後期ではC20例中C8例(40.0%)が運転を中止しており初期より中期,後期と進行した病期であるほど,運転を中止した割合が有意に高かった(p=0.0250).運転中止群はC13例中C11例が,DS施行後C1年以内に運転を中止していた.運転中止の理由として,「DS後自主的に中止,または家族から勧められたため(6例)」がもっとも多表1運転中止群と運転継続群の患者背景運転継続群(n=35)運転中止群(n=13)p値年齢(歳)C61.4±12.9C67.5±9.6C0.18+性別(男:女)29:67:6C0.061++MMSEtotalscoreC28.81±1.93C27.85±2.82C0.36+1週間の運転時間(h/w)C4.5±5.8C8.2±13.1C0.63+過去C5年間の事故歴あり11例(C31.4%)6例(4C6.2%)C0.50++視力良好眼視力ClogMARSC.0.03±0.09C0.001±0.09C0.17+視力不良眼視力ClogMARSC0.17±0.35C0.27±0.38C0.19+視野良好眼CMD(dB)C.10.56±6.48C.14.64±5.85C0.054+視野不良眼CMD(dB)C.19.03±8.20C.20.58±5.48C0.31+EstermanスコアC86.80±16.90C79.10±16.82C0.081+IVF上半視野の平均網膜感度(dB)C20.80±7.73C19.66±6.94C0.59+IVF下半視野の平均網膜感度(dB)C22.95±6.71C15.72±8.52C0.0040+DSでの衝突件数(件)C1.55±1.18C2.92±2.93C0.37+【運転目的別】仕事で使用(%)16(C45.7%)5(3C8.5%)C0.75++平均±標準偏差/+:Wilcoxon順位和検定,++:Fisher正確確率検定表2運転継続群のDS施行前後の患者背景DS施行前DS施行後p値視力良好眼視力ClogMARSC.0.03±0.09C0.0006±0.14C0.10+視力不良眼視力ClogMARSC0.17±0.34C0.18±0.32C0.55+視野良好眼CMD(dB)C.10.56±6.48C.12.14±6.47C0.0003+視野不良眼CMD(dB)C.19.03±8.20C.20.37±7.62C0.25+EstermanスコアC86.80±16.90C82.39±17.38C0.0004+1週間の運転時間(h/w)C4.5±5.8C3.5±5.8C0.011+事故歴DS施行前C5年間で事故あり11例(31%)DS施行後C2年以上で事故あり1例(3%)C0.0029**平均±標準偏差/+:Wilcoxon符号付順位和検定,**:Fisher正確確率検定DS後n=13n=13運転中止の理由運転減少の理由図1運転中止と減少の理由く,ついで「事故を起こしたため(3例)」であった(図1).査を実施したところ,48例中C13例が運転を中止していた.視野障害度と運転中止との関連については,Ramuluらは,CIII考按1,135名のドライバー(73.93歳)をC10年間経過観察した今回,DS施行後C2年以上経過したC48例に,運転追跡調ところ,正常者のC15%,片眼緑内障患者のC21%,両眼緑内MD-10.60dBMD-13.84dB左眼視力=(0.2)右眼視力=(0.8)IVFとDS場面を被せたもの.視野障害部位と青い車が一致し,車に気づかず衝突した.図2運転を中止した事例64歳,男性,緑内障.運転歴:46年.過去C5年間の事故歴:なし.運転時の自覚症状:なし.DS結果:15場面中C2場面で事故.運転外来での指導内容:IVFでは左下方の視野障害を認めるが,視力良好の右眼は,左眼と比べて下半視野障害が重症なことから,左右からの飛び出しに反応が遅れることを説明した.患者は「見えていない部位がよくわかり,勉強になった」と述べていた.DS後の運転追跡調査:患者から「ふだんから左右を注意して運転していたが,左側の縁石に乗り上げて消火栓と衝突し廃車になった.」と報告があった.事故の原因が,自身の視野障害によって起きた可能性があることを理解し,運転を中止した.障患者のC41%が運転を中止していると報告している8).Takahashiらは,正常者C148名と緑内障患者C211名をC3年間経過観察したところ,正常者のC7%,軽度緑内障患者のC5%,中等度緑内障患者のC0%,重度緑内障患者のC31%が運転を中止し,視野障害が高度になるに従い,運転を中止している例が増えていた9).TamらもC50歳以上の緑内障患者C99名のうち,19名(19%)が運転を中止しており,中期・後期の緑内障患者は,初期の緑内障患者と比較して,運転中止の割合が高かったと報告している10).筆者らも,緑内障患者46例では,緑内障の病期が進行するに従い,運転を中止している例が多く,既報と同様の結果であった.今回,運転中止群が,運転継続群と比較して,Estermanスコアが低い傾向にあった.運転に関する視機能を評価の方法では,視野良好眼のCMD値,両眼重ね合わせ視野CIVFのほかに,80°の範囲で周辺視野を評価できるCEsterman視野検査がよいとされている11).一方で,路上運転の結果とCEsterman視野の結果からは,視野欠損のある個々のドライバーの運転能力を予測できなかったとする報告もある12).筆者らの研究からは,運転の継続・中止には,Estermanスコアの低下も関与している可能性があると考える.筆者らは,運転中止群・継続群の比較を行ったところ,運転中止群は,IVF下半視野の平均網膜感度が,運転継続群に比べ有意に低かった.運転外来を受診する患者は,視野障害の重症例が多く,すでにCIVF上半視野の平均網膜感度は両群ともに低下していた.しかし,運転中止群は継続群に比べて,IVF下半視野の平均網膜感度が低かったことから,IVF下半視野の平均網膜感度の低下が運転中止に関与することが考えられた.今回の運転追跡調査では,運転中止群のC13例中C11例(84.6%)がCDS施行後C1年以内に運転を中止していたことがわかった.その理由として,「DS後自主的に中止,または家族から運転中止を勧められた」と回答した例が多かった.DS施行後に,視野障害が原因で事故を起こしたことを理解し,運転を中止した症例もあった(図2,3)一方,運転継続MD-12.64dBMD-24.29dB左眼視力=(1.0)右眼視力=(1.2)図3DS無事故例での運転中止事例58歳,男性,緑内障.運転歴C35年.過去C5年間の事故歴:物損事故C1回運転時の自覚症状:なしDS結果:15場面で事故・違反なし.運転外来での指導内容:DSではC15場面とも無事故であったが,下方視野障害のため,左右からの飛び出しへの反応が遅れる可能性があることを伝えた.患者は,「日常生活の運転は控えるが,65歳くらいまで仕事での運転は続けたい」と述べていた.DS後の運転追跡調査:急な上り坂にある駐車場を左折時に,左側の柱と衝突した(廃車になった).患者から「柱がまったく見えなかった.普段の道より,上り坂のほうが,下方が見えにくいと感じた.そのために,柱が見えずに衝突したのだと思う」と述べていた.運転は危険だと理解し,仕事での運転を中止した.群は,DS施行後C2年以上経過で,1週間の運転時間は減少と,緑内障患者が多く,網膜色素変性はC2例,脳出血・脳梗し,DS施行前には,35例中C11例(31%)が過去C5年間に自塞の症例がないなど,疾患に偏りがみられた.これは,当院動車事故を起こしていたが,DS施行後はC1例のみ,しかもの患者は緑内障が多いことに加えて,緑内障患者はC2.3カ軽微な事故であった.運転継続群のC35例中C33例が「運転月ごとと,定期的に通院されており,運転追跡調査をしやす時に注意を払うようになった」と回答が得られた.運転継続かったことが考えられる.運転中止・継続には,疾患による群が,視野良好眼のCMD値,Estermanスコアが悪化してい違いがみられるのかを,今後は症例を増やして検討したい.たにもかかわらず,DS後に事故をほとんど起こしていなか今回は,DS施行後の運転追跡調査を行うことにより,患ったのは,運転を控え,安全運転のための意識を高めていた者の運転時間・意識の変化を確認することができた.運転中ためと考えられ,運転外来の効果があったと考える.止群は,自身の運転のリスクを理解し運転を中止し,運転継運転追跡調査の問題点としては,聞き取り調査の対象は患続群は運転時の意識を改め安全運転を心がけていることがわ者本人であり,家族などからの事実確認を行っていないことかった.運転外来受診後は,DSを通して,自身の視野障害があげられる.患者本人が「運転を中止した」といっていてのリスクをより理解し,その後の生活に活かされていることも,後日「運転用の眼鏡がほしい」と,運転を継続しているがわかり,運転外来の有用性が確認された.と思われる発言が聞かれることがある.運転中止群が,全員が運転を中止しているかは定かでなく,聞き取り調査の限界利益相反:利益相反公表基準に該当なしと考える.また,今回の対象は,48例中緑内障患者がC46例文献1)平賀拓也,國松志保,野村志穂ほか:運転外来にて認知機能障害が明らかになったC2例.あたらしい眼科C38:1325-1329,C20212)高橋佑佳,國松志保,平賀拓也ほか:西葛西・井上眼科病院における職業運転手の運転機能評価.臨眼C76:1259-1263,C20223)須藤治子,國松志保,保沢こずえほか:後期緑内障患者に対するドライビングシミュレータ後の運転調査.眼臨紀6:C626-629,C20134)Nelson-QuiggJM,CelloK,JohnsonCA:Predictingbinoc-ularCvisualC.eldCsensitivityCfromCmonocularCvisualC.eldCresults.InvestOphthalmolVisSciC41:2212-2221,C20005)CrabbCDP,CFitzkeCFW,CHitchingsCRACetal:ACpracticalCapproachCtoCmeasuringCtheCvisualC.eldCcomponentCofC.tnesstodrive.BrJOphthalmolC88:1191-1196,C20046)小原絵美,野村志穂,國松志保ほか:西葛西・井上眼科病院運転外来における視野障害と事故との関連.あたらしい眼科40:257-262,C20237)AndersonCDR,CPatellaVM:AutomatedCstaticCperimetry.C2ndEdition,StLouis,CVMosby,19998)RamuluCPY,CWestCSK,CMunozCBCetal:DrivingCcessationCandCdrivingClimitationCinCglaucoma.COphthalmologyC116:C1846-1853,C20099)TakahashiCA,CYukiCK,CAwano-TanabeCSCetal:Associa-tionCbetweenCglaucomaCseverityCandCdrivingCcessationCinCsubjectsCwithCprimaryCopen-angleCglaucoma.CBMCCOph-thalmolC18:122,C201810)TamCALC,CTropeCGE,CBuysCYMCetal:Self-perceivedCimpactCofCglaucomatousCvisualC.eldClossCandCvisualCdisabili-tiesConCdrivingCdi.cultyCandCcessation.CJCGlaucomaC27:C981-986,C201811)CrabbDP,ViswanathanAC,McNaughtAIetal:Simulat-ingbinocularvisual.eldstatusinglaucoma.BrJOphthal-molC82:1236-1241,C199812)FarajiY,Tan-BurghouwtMT,BredewoudRAetal:Pre-dictivevalueoftheEstermanvisual.eldtestontheout-comeoftheon-roaddrivingtest.TranslVisSciTechnolC11:20,C2022***

imo vifa とHumphrey 視野計の比較

2024年6月30日 日曜日

《第12回日本視野画像学会原著》あたらしい眼科41(6):703.706,2024cimovifaとHumphrey視野計の比較栗岡恵坂本麻里島内深希荒井実奈高野史生上田香織和田友紀中西裕子中村誠神戸大学医学部附属病院眼科CComparisonoftheimovifaandtheHumphreyFieldAnalyzerMegumiKurioka,MariSakamoto,MikiShimauchi,MinaArai,FumioTakano,KaoriUeda,YukiWada,YukoNakanishiandMakotoNakamuraCDepartmentofOphthalmology,KobeUniversityHospitalC目的:imovifa(imoV)とCHumphrey視野計(HFA)の結果を比較検討すること.対象および方法:神戸大学附属病院眼科に通院中の,imoVによる視野検査を受けたC18歳以上の患者を対象とした.imoVはCAmbientCInteractiveZippyEstimatedSequentialTesting(AIZE)の単眼測定を右眼から左眼の順に施行し,測定プログラムは前回のCHFAと同じプログラムを採用した.対象者のCimoVと前回のCHFACSwedishCInteractiveCThresholdAlgorithm(SITA)Standardの検査時間およびCmeandeviation(MD)値をCWilcoxon符号順位検定およびCBland-Altmanplotを用いて比較した.結果:33例C66眼の視野検査を解析した.患者の年齢の中央値(四分位範囲)はC61(52.70)歳で,疾患内訳は,緑内障がC18例,非緑内障がC15例であった.検査時間はCimoV右眼:303(247.359)秒,左眼:316(262.363)秒,HFAは右眼:415(368.474)秒,左眼:429(379.487)秒で,imoVがCHFAより有意に短かった(p<0.0001).imoVとCHFAのCMD値は左右眼ともに統計学的有意差はなく,Bland-Altmanplotで固定誤差および比例誤差は認めなかった.結論:imoVではCHFAより短い検査時間で同等の視野検査を行うことができる可能性がある.CPurpose:ToCcompareCtheCresultsCofCtheCimovifa(CREWTCMedicalSystems)(IMOV)andCtheCHumphreyFieldAnalyzer(HFA;CarlZeissMeditec)C.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolvedpatientsaged18yearsorolderseenattheDepartmentofOphthalmology,KobeUniversityHospitalwhounderwentvisual.eld(VF)testingwithCtheCimoCvifa.CimoCvifaCwasCperformedCbyCAmbientCInteractiveCZippyCEstimationSequentialCTesting(AIZE)CmonocularCmeasurementCfromCtheCrightCeyeCtoCtheCleftCeye,CandCtheCmeasurementCprogramCwasCtheCsameCasCtheCpreviousHFASwedishInteractiveThresholdAlgorithm(SITA)Standardprogram.Ineachsubject,theexamina-tiontimeandmeandeviation(MD)wascomparedbetweentheimovifaandthesubject’spreviousHFA.ndingsusingtheWilcoxonsigned-ranktestandBland-Altmanplotanalysis.Results:VFexaminationsof66eyesin33patientswereanalyzed.Themedianage(interquartilerange)ofthepatientswas61(52to70)years.Therewere18glaucomapatientsand15non-glaucomapatients.Fortherighteyeandlefteye,respectively,themedianexam-inationtime(seconds,interquartilerange)forimovifawas303(247-359)and316(262-363)C,whilethatforHFAwas415(368-474)and429(379-487)(p<0.0001)C.CThereCwasCnoCsigni.cantCdi.erenceCinCMDCbetweenCimoCvifaCandHFAfortherightandlefteyes,andBland-Altmanplotanalysisrevealedno.xedorproportionalbias.Con-clusions:imovifaCmayallowforcomparableVFtestinginashortertestingtimethanHFA.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(6):703.706,C2024〕Keywords:imovifa,ハンフリー視野.imovifa,Humphreyvisual.eld.はじめにの負担軽減を目指して開発された小型軽量の自動静的視野計視野検査は検者・被検者双方にとって負担が大きい検査でである1).imoは暗室不要で,両眼開放下で視野検査を行うあり,imo(クリュートメディカルシステムズ)は視野検査ことができ,また独自の閾値決定アルゴリズムにより検査時〔別刷請求先〕坂本麻里:〒650-0017兵庫県神戸市中央区楠町C7-5-2神戸大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:MariSakamoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KobeUniversityHospital,7-5-2Kusunoki-cho,Chuou-ku,Kobe,Hyogo650-0017,JAPANC間が短縮されるため,患者に好評であると報告されている2,3).また,緑内障や脳疾患において従来の自動視野計よりも短時間に,かつ同等の視野測定が可能であることが報告されている2.5).imoは当初ヘッドマウント型視野計として開発されたが,より小型化した据え置き型のCimovifaが登場した.頭部装着がなくなったことにより,被検者は従来型の検査時の圧迫感がなくなり,また検者は検査中の被検者の状態(眼の位置や眼瞼の状態など)を確認しやすくなった.また,非測定眼を遮閉して測定する従来の自動視野計と異なり,imoは両眼開放下で,左右眼で独立した光学系を覗いて検査を行うため,検査開始前に瞳孔間距離や左右眼の位置を正しく調整する必要がある.ヘッドマウント型の場合,顔や頭の形,大きさや被検者の眼の状態によっては,この検査前の調整に時間を要することが問題であった.imovifaではこの点が改善され,また正しい頭部の位置がわかるように液晶画面に表示されるため,被検者自身が画面を見ながら頭部の位置を調整することができ,検査前の調整が容易になった.Cimovifaの登場により,視野検査の負担がさらに軽減されることが期待されるが,imovifaを用いた視野検査の報告はまだ少ない6.8).本研究の目的は,imovifaとCHumphrey視野計(Hum-phreyC.eldanalyzer:HFA)(CarlCZeissMeditec,Inc.)の結果を比較検討することである.CI対象および方法本研究は診療録の後ろ向き調査研究である.2022年C10.11月に神戸大学医学部附属病院眼科を受診した患者のうち,Cimovifaによる視野検査を受けたC18歳以上の患者を対象とした.imovifaによる視野検査と前回の視野検査との間に内眼手術を受けた者は除外した.imovifaは,AmbientInter-activeCZippyCEstimatedSequentialCTesting(AIZE)による単眼視野検査を,両眼開放下で右眼から左眼の順に行った.背景輝度は検査眼,非検査眼ともにC31.5Casbで,視標最大輝度はC10,000Casb,標準視標提示時間はC0.2秒,視標サイズはCGoldmannIIIで行った.テストプログラムは,同患者の前回のCHFA視野検査と同じプログラムを採用した.つまり,前回CHFAがC30-2だった者はCimovifaもC30-2,前回CHFAがC24-2だった者はCimovifaもC24-2で測定した.HFAはCSwedishCInteractiveCThresholdAlgorithm(SITA)Stan-dardを用いて,右眼から左眼の順に測定された.HFA測定時には非測定眼はアイパッチで遮閉された.imovifaと前回HFAの検査時間およびCmeandeviation(MD)値を,Wil-coxon符号順位検定およびCBland-Altmanplotを用いて比較した.有意水準はCp<0.05とし,統計解析はCMedCalcCSta-tisticalSoftware19.3.1(MedCalcSoftwareLtd)を用いた.本研究は臨床研究に関する倫理指針を遵守し,ヘルシンキ宣言に則り行われ,院内の倫理委員会の承認を受けて第C12回日本視野画像学会学術集会において報告した.CII結果33例C66眼の視野検査を解析した.年齢の中央値(四分位範囲)はC61(52.70)歳で,16例(48%)が男性だった.測定プログラムはC30-2がC29例,24-2がC1例,10-2がC3例であった.対象者の過去のCHFA歴の中央値(四分位範囲)はC7(5.15)回で,前回のCHFAからの期間はC8(6.12)カ月であった.対象者の疾患の内訳は,緑内障がC18例,高眼圧症がC3例,視神経低形成がC1例,脳腫瘍がC6例,視神経炎がC3例,その他がC2例であった.CimovifaとCHFAの検査時間とCMD値の結果を表1に示す.検査時間の中央値(四分位範囲)はCimovifaの右眼は303(247.359)秒,左眼はC316(262.363)秒,HFAの右眼はC415(368.474)秒,左眼はC429(379.487)秒で,imovifaがCHFAより有意に短かった(p<0.0001).一方,imovifaとCHFAのCMD値は左右眼ともに差はなかった.imovifaとCHFAのCMD値のCBland-Altmanplotを図1に示す.CimovifaとCHFAの平均差(95%信頼区間,p値)とC95%ClimitsCofagreement(LoA)は,右眼C.0.6CdB(C.1.3.0.1,0.07)とC.4.4.3.1CdB,左眼C.0.5CdB(C.1.1.0.1,0.12)とC.3.9.3.0dBであった.右眼,左眼ともに,imovifaとHFAのCMD値には固定誤差および比例誤差は認めなかった.CIII考按本研究において,imovifaにより検査時間はCHFAの約C27%短縮され,これは従来のヘッドマウント型Cimoを用いた既報と矛盾しなかった2.5).imovifaを用いたCNishidaらの報告では,imovifaで検査時間がCHFAのC39%短縮したが,彼らの研究では検査時間短縮プログラムであるCAIZE-RapidとCHFASITA-Fastが採用されている.筆者らが過去にヘッドマウント型CimoのCAIZE(両眼ランダム測定)とCHFAのSITA-standardを比較した研究では,緑内障眼でCHFAの約25%3),脳疾患患者においてはCHFAの約C20%5)検査時間が短縮された.本研究では両眼ランダム測定ではなく単眼検査を行ったが,単眼検査でも両眼ランダム測定と同様に検査時間が短縮されることがわかった.AIZEはベイズ推定により測定毎に刺激強度を決定し,最尤法を用いて最終的な網膜感度閾値を決定するもので,各検査点における応答を隣接する周囲の検査点に反映し事前の予測精度を高め,閾値決定までの試行回数を低減する.既報と同様に,本研究におけるCimoの検査時間の短縮は,アルゴリズムの違いによるものと考えられる.また,この検査時間には,測定前の設定に要する時間や休憩時間は含まれない.imovifaでは,前述のようにヘッドマウント型Cimoに比べ測定開始前の設定が容易とな表1imovifaとHFAの測定時間およびMD値検査時間(秒)C右眼左眼imovifaC303(C247.C359)316(C262.C363)HFAC415(C368.C474)429(C379.C487)pvalue<C0.0001<C0.0001MD(dB)C右眼C左眼CimovifaC.1.8(C.8.4.C.0.1)C.4.3(C.9.3.C.1.1)CHFAC.1.3(C.7.0.0)C.2.3(C.8.3.C.1.3)Cpvalue0.140.40HFA:humphrey.eldanalyzer,MD:meandeviation.Dataarepresentedasmedian(interquartilerange)C,Wilcoxontest.4左眼MD値(dB)右眼MD値(dB)4322imovifaR.HFAimovifaR.HFA10-10-2-2-3-4-5-4-6-25-20-15Meano-6-10-505-30-25-20-15fimovifaRandHFAMeanofimovifaR-10-5andHFA05図1imovifaとHFAのMD値のBland-AltmanplotimovifaとCHFAの平均差(95%信頼区間,p値)とC95%一致限界は,右眼C.0.6CdB(C.1.3.0.1,0.07)とC.4.4.3.1CdB,左眼C.0.5CdB(C.1.1.0.1,0.12)とC.3.9.3.0CdBで右眼,左眼ともに固定誤差および比例誤差は認めなかった.ったため,設定時間も含めた総検査時間は従来型Cimoよりもさらに短縮される可能性がある.検査時間の短縮は,被検者のみならず検者にも有益であり,imovifaの臨床的有用性を考えるうえで,今後,設定に要する時間も含めた検討が必要と考える.今回の対象において,MD値はCimovifaとCHFAで差を認めなかった.従来型Cimo(両眼ランダム検査)とCHFAを比較した過去の研究では,両者のCMD値の差の平均値(95%LoA)は緑内障3)でC0.4(C.3.3,4.1)dB,脳疾患5)でC0.1(.3.6,3.9)dBで,本研究の結果と同様であった.また,CimovifaとCHFAを比較した既報6,8)でも両者のCMD値には差がなく,Nishidaらの報告では両者の差の平均値(95%LoA)はC.0.1(C.3.8,3.5)dBで,本研究と同様であった.よって,imovifaでも,ヘッドマウント型と同様に,従来の自動視野計と同等の視野検査ができる可能性がある.本研究の問題点として,少数の対象者における後ろ向き解析であり,事前にサンプルサイズを設定していないことがある.今後,必要な症数例における追試験が必要である.また,対象者はCHFAの経験は十分あるものの,imoの経験者はC1名のみで,全例がCvifaは初回であったことが結果に影響した可能性がある.今後,imoの経験を増やした対象で追試験が必要である.また,本研究の対象者には選択バイアスがある.今回対象となった患者は,病状が安定しCHFAで視野結果が安定しており,HFAからCimovifaに変更しても問題がないと判断された患者のみで,病状が進行している症例は対象には含まれていない.対象者は病状が安定しているため,頻回の視野検査はされておらず,本研究でCimovifaの結果と比較した前回CHFAは約半年からC1年前に測定されたものであった.病状が安定しているとはいえ,前回CHFAとCimovifaの期間が開いているため,前回から視野障害が進行した可能性はあり,結果に影響をおよぼした可能性がある.結果としては,全例が視野障害は概ね変化なしと判断され,引き続き経過観察されている.結論として,imovifaは,短い検査時間でCHFAと同様に視野検査を行うことができた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MatsumotoC,YamaoS,NomotoHetal:Visual.eldtest-ingCwithChead-mountedCperimeter‘imo’.CPLoSCOneC11:Ce0161974,C20162)北川厚子,清水美智子,山中麻友美:アイモC24plus(1)の使用経験とCHumphrey視野計との比較.あたらしい眼科C35:1117-1121,C20183)林由紀子,坂本麻里,村井佑輔ほか:緑内障診療におけるアイモ両眼ランダム測定の有用性の検討.日眼会誌C125:C530-538,C20214)KimuraCT,CMatsumotoCC,CNomotoH:ComparisonCofChead-mountedperimeter(imoCR)andCHumphreyCFieldCAnalyzer.ClinOphthalmolC13:501-513,C20195)SakamotoCM,CSawamuraCH,CAiharaCMCetal:AgreementinCtheCdetectionCofCchiasmalCandCpostchiasmalCvisualC.eldCdefectsCbetweenCimoCbinocularCrandomCsingle-eyeCtestCandCHumpheryCmonocularCtest.CJpnCJCOphthalmolC66:C413-424,C20226)NishidaT,EslaniM,WeinrebRetal:Perimetriccompar-isonbetweentheIMOvifaandHumphreyFieldAnalyzer.JGlaucomaC1:32:85-92,C20237)FreemanSE,DeArrigunagaS,KangJetal:Participantexperienceusingnovelperimetryteststomonitorglauco-maprogression.JGlaucomaC32:948-953,C20238)KangJ,DeArrigunagaS,FreemanSEetal:ComparisonofCperimetricCoutcomesCfromCaCtabletCperimeter,CsmartCvisualCfunctionCanalyzer,CandCHumphreyC.eldCanalyzer.COphthalmolGlaucomaC6:509-520,C2023***

基礎研究コラム:15.サイトメガロウイルス前部ぶどう膜炎の病態解明

2024年6月30日 日曜日

サイトメガロウイルス前部ぶどう膜炎の病態解明白根茉利子図2眼内液から検出したUL40の特徴眼内から検出したCUL40は,NK細胞抑制能が強く,ホストのCHLAクラスⅠと一致するという特徴があった.サイトメガロウイルス前部ぶどう膜炎の現状近年の眼内液CPCR検査の普及により,明らかな免疫低下のないホストにサイトメガロウイルス前部ぶどう膜炎(cyto-megalovirusanterioruveitis:CMV-AU)を生じることが明らかとなりました.CMV-AUはわが国の感染性ぶどう膜炎の最多の原因であるにもかかわらず,根治的治療はなく,病態もほとんどわかっていません.一方,日本を含む東アジアで高頻度にみられることがわかっており,発症の地域差があることから,ウイルス・ホストの遺伝的背景が病態に関与していると考えられています.CCMV-AU発症におけるCMV蛋白UL40の意義CMVは初感染後,血球に潜伏感染し,血行性に眼組織へ進展しますが,眼組織には血管内皮による血液C-眼バリアがあることから,限られたウイルスのみ眼内へ進展していることが考えられます.CMVは約C250の遺伝子を有していますが,その多くは免疫逃避にかかわることが知られており,なかでもCUL40のシグナルペプチド(UL40signalpeptides:CUL40SP)は免疫制御に重要な蛋白として近年報告されました1).筆者らは患者の眼内液と末梢血で次世代シーケンスによるCUL40SP多型解析とホストの免疫機能解析を行い,眼内液に特徴的なCUL40SPがCNK細胞活性を強く抑制すること,患者CHLAクラスⅠCSPと一致することを見出し,これらのCUL40SPをもつCCMVが,中枢性・末梢性免疫回避を介し,血液C-眼バリアを越えて眼内へ侵入する可能性を提唱しました2).①NK細胞抑制能が強いNK細胞抑制能末梢血NKCD8+T免疫寛容眼内抑制UL40SPSP1SP3SP2CMVの眼内進展(91)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY九州大学大学院医学研究院眼科学今後の展望他のCCMV遺伝子についても眼内液と末梢血中で多型解析および免疫学的意義を検討することで,CMV-AUのより深い病態理解をめざします.そして将来的に治療予後予測や新たな治療法の開発につながることを期待しています.文献1)TomasecP,BraudVM,RickardsCetal:Surfaceexpres-sionCofCHLA-E,CanCinhibitorCofCnaturalCkillerCcells,CenhancedCbyChumanCcytomegalovirusCgpUL40.CScienceC287:1031-1033,C20002)ShiraneCM,CYawataCN,CMotookaCDCetal:IntraocularChumanCcytomegalovirusesCofCocularCdiseasesCareCdistinctCfromCthoseCofCviremiaCandCareCcapableCofCescapingCfromCinnateCandCadaptiveCimmunityCbyCexploitingCHLA-E-mediatedperipheralandcentraltolerance.FrontImmunol13:1008220,C2022図1サイトメガロウイルス(CMV)の眼内進展機序血管内皮でのCNK細胞やCCD8T細胞による抗ウイルス応答を免れたCCMVが眼内へ進展する.あたらしい眼科Vol.41,No.6,2024C695

硝子体手術のワンポイントアドバイス:253.糖尿病黄斑浮腫と MacTel type 2(中級編)

2024年6月30日 日曜日

253糖尿病黄斑浮腫とMacTeltype2(中級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに黄斑部毛細血管拡張症C2型(macularCtelangiectasisCtype2:MacTeltype2)は,黄斑色素の消失,傍中心窩の毛細血管拡張,ellipsoidzoneの欠損,網膜の肥厚を伴わない網膜内の空洞所見などを特徴とする疾患である.OCT所見で観察される網膜内の空洞所見は,糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)などの黄斑浮腫との鑑別を要する.MacTeltype2と糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)は,それぞれ異なる臨床的特徴をもつ眼疾患であるが,いくつかの類似点があり,その合併例も多いことが報告されている1).C●症例提示67歳,男性.以前よりコントロール不良の糖尿病を指摘され,HbA1cはC9%程度で推移していた.最近,右眼の変視症を自覚して来院した.眼底検査では後極から中間周辺部に毛細血管瘤と散在性の小出血をわずかに認めた.OCTでは網膜肥厚を伴わない傍中心窩の空洞形成を認め,その大きさは時間の経過とともにやや拡大してきた(図1).フルオレセイン蛍光造影検査では黄斑部に目立った漏出を認めなかった(図2).矯正視力はCab0.9であった.他院でCDMEを疑われ,ステロイドのTenon.下注射を受けたが,軽快しなかった.OCT所見からCDRに合併したCMacTelCtype2と診断し経過観察することにした.C●MacTeltype2と糖尿病黄斑浮腫の鑑別両疾患とも発症にCMuller細胞の関与が指摘されており,MacTeltype2はCMuller細胞の枯渇による神経変性疾患とする説が最近は有力である2).筆者らはサル眼を用いた免疫組織学的検討により,中心窩の未分化な細胞群のうち,fovealslopeに存在する未分化なCMuller細胞のアポトーシスがCMacTelCtype2の本態ではないかと考えている3).アポトーシスによる組織欠損はCapop-toticCvolumedecreaseといわれ4),容積の増加を伴わないので通常のCDMEとは異なり網膜厚の増加を伴わない空洞形成をきたすと考えられる.DRでこのような空洞形成を中心窩に認めた場合には,MacTeltype2の可能性を考え,抗CVEGF療法や硝子体手術の効果は得られにくいという認識をもつ必要がある.文献1)vanRomundeSHM,vanderSommenCM,MartinezCiria-noJPetal:Prevalenceandseverityofdiabeticretinopa-thyCinCpatientsCwithCmacularCtelangiectasiaCtypeC2.COph-thalmolRetinaC5:999-1004,C20212)PownerMB,GilliesMC,TretiachMetal:PerifovealMul-lerCcellCdepletionCinCaCcaseCofCmacularCtelangiectasiaCtypeC2.OphthalmologyC117:2407-2416,C20103)池田恒彦,中村公俊,奥英弘ほか:網膜硝子体疾患の病態解明臨床の素朴な疑問を出発点として.日眼会誌C126:C254-297,C20224)OkadaCY,CMaenoCE,CShimizuCTCetal:Receptor-mediatedcontrolofregulatoryvolumedecrease(RVD)andapoptot-icCvolumedecrease(AVD).CJCPhysiolC532(Pt1):3-16,2001C図2提示例のフルオレセイン蛍光造影写真黄斑部にめだった漏出は認めなかった.図1提示例のOCT所見網膜肥厚を伴わない傍中心窩の空洞形成を認め(a),その大きさは時間の経過とともに拡大した(b).(89)あたらしい眼科Vol.41,No.6,20246930910-1810/24/\100/頁/JCOPY

考える手術:30.線維柱帯切開術の変遷と合併症

2024年6月30日 日曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅線維柱帯切開術の変遷と合併症細田進悟独立行政法人国立病院機構埼玉病院眼科線維柱帯切開術の歴史は古く,1960年代にSmith,Burianらが報告したのが始まりといわれている.それは角膜輪部の小切開からSchlemm管を同定してナイロン糸を挿入し,一部の線維柱帯を切開する方法であったが,現在の技術をもってしても非常に難度の高い術式といえる.その後,Mcphersonらにより強膜弁作製と金属製のトラベクロトームにより線維柱帯を切開する術式が確立され,広く普及するに至った.さらなる眼圧下降効果が期待される術式として,従来の金属トラベクロトームの代わりに先端を熱加工した5-0ナイロン糸するべく,ナイロン糸を眼内からSchlemm管内に挿入し全周の線維柱帯を切開する360°スーチャートラベクロトミー眼内法が発表され,さらに簡便な術式としてナイロン糸ではなくマイクロフックで眼内から線維柱帯を切開するマイクロフックトラベクロトミーが谷戸らにより発表された.線維柱帯切開術はより効果が高く,より侵襲の少ない術式をめざして進歩してきたが,どの術式が最適解となりえるのか,どの症例にどの術式が適応となるのかを考えて選択することが大切である.聞き手:術式選択のコツを教えてください.う.このことから360°スーチャートラベクロトミー眼細田:それぞれの術式の特徴を表1に示しましたので見内法とマイクロフックトラベクロトミーは非常に優れたてみましょう.まずは眼圧下降効果についてですが,既術式となります.しかし,これらの術式では角膜上に隅報では線維柱帯の切開範囲が広いほど,眼圧下降効果が角鏡を載せて前房内操作をすることが前提となりますの高い傾向が示されています.ですが,何度の範囲を切開で,角膜透見性の悪い症例では眼外法がよい適応になるするのが最適なのかは決着がついていません.180°以上こともあります.総合的に考えると,①低侵襲かつ操作の線維柱帯を切開すれば高い眼圧下降効果が期待されまが簡便,②切開範囲を自分で決められて眼圧下降効果がすので,できる限り広い範囲を切開するのは正しいとい期待できる,という利点から,マイクロフックトラベクえると思われます.次に結膜や強膜への侵襲についてでロトミーが優れていると考えられます.私の病院では,す.これは眼内法が圧倒的に優れているといえるでしょ鼻側耳側下方の線維柱帯を切開することで最大限の眼圧(87)あたらしい眼科Vol.41,No.6,20246910910-1810/24/\100/頁/JCOPY考える手術表1線維柱帯切開術の比較眼圧下降効果結膜侵襲合併症習得の難易度金属ロトーム△×△△360°眼外法〇×××360°眼内法〇〇△×マイクロフック△.〇〇〇〇下降効果を狙い,かつ上方の線維柱帯を切開しないことで上方からの出血の垂れ込みを防ぐという意味で,270°マイクロフックトラベクロトミー眼内法を多く選択しております.270°以上の切開が必要であったり,広範囲な周辺虹彩前癒着があったりする場合は360°スーチャートラベクロトミー眼内法を選択する場合もあります.聞き手:ナイロン糸とフックの違いはなんでしょうか?細田:ナイロン糸を前房内や眼外から正確にSchlemm管に挿入する操作は非常に難度が高く,熟練した技術を要します.それに比べてマイクロフックでは線維柱帯を直接視認しながら切開するので,簡便かつ安全性の高い手技といえます.マイクロフックの落とし穴としては,初心者にありがちですが,フックをSchlemm管の後壁に押しつけてしまうことです.これにより集合管を傷つけて出血させるリスクが高くなります.この点ではナイロン糸は集合管を傷つける可能性は低いと考えられます.また,強固な周辺虹彩前癒着がある場合はフックが進まなくなったり出血したりすることがありますが,ナイロン糸であればSchlemm管内からペーパーナイフの要領で線維柱帯とともに虹彩の癒着部位をスムーズに切開することが可能です.聞き手:合併症はないのでしょうか?細田:もちろんあります.眼外法の場合は早期穿孔を起こすとSchlemm管内に金属ロトームやナイロン糸を正確に挿入することがきわめて困難となります.スーチャートラベクロトミーの場合は眼外法であっても眼内法であってもナイロン糸の先端を常に視認できるわけではないため,ナイロン糸がSchlemm管から別の組織(多くは脈絡膜下腔)に迷入してしまうこともあります.ナイロン糸がSchlemm管内を通っている場合は適度な抵抗があるのですが,その抵抗がスッと抜けた場合は要注意です.それ以上ナイロン糸を進めないようにして先端の位置を確認し,危険であれば糸を抜くか,狙った切692あたらしい眼科Vol.41,No.6,2024開範囲でなくとも一部の線維柱帯切開に留めることがあります.線維柱帯切開術共通の合併症としては,術後の一過性眼圧上昇があげられます.おおむね術後1カ月以内に眼圧が急上昇することが一定の割合でみられます.多くの場合は点眼や内服などの保存的治療で速やかに眼圧下降が得られる場合が多いですが,眼圧上昇の程度や期間によっては視野欠損が悪化する場合もあるので要注意です.術後はこまめに経過観察することが大事だといえるでしょう.線維柱帯切開術の最多の合併症は前房出血です.術後の前房出血を少なくするコツとしては,手術終了時に創口からの水の漏れを徹底的に止め,眼圧をかなり上げた状態にすることです.それでも前房出血をゼロにすることは困難で,ときには瞳孔領を越えるほどの大量の前房出血を経験することもあります.出血の吸収が遅い場合や眼圧が上昇した場合は再手術が必要となります.硝子体出血を合併している場合は硝子体切除術の適応となります.溶血前の血腫は吸引のみでは非常に除去しにくいのですが,硝子体カッターであれば比較的簡便に除去できるので,おすすめです.聞き手:緑内障手術治療の中で,線維柱帯切開術は第一選択になりうるのでしょうか?細田:線維柱帯切開術は簡便かつ眼圧下降効果の期待できる優れた術式です.ただ弱点として,①集合管以降の機能が悪い場合は一定割合で無効例があること,②術後の一過性眼圧上昇で視野が悪化するケースがあること,などがあげられます.そのため,過度な期待で眼圧が高いにもかかわらず経過をみすぎてしまうことは禁物で,効果が不十分と判断された場合は速やかに線維柱帯切除術など他の緑内障手術に移行することが大切です.逆にいえば,一定の割合で効果があるということになりますので,線維柱帯切除術に至る患者を一人でも減らせればという心構えで臨むのがよいと考えます.(88)

抗VEGF治療セミナー:ブロルシズマブの利点

2024年6月30日 日曜日

●連載◯144監修=安川力五味文124ブロルシズマブの利点コンソルボ上田朋子富山大学大学院医学薬学研究部眼科学講座ブロルシズマブ(ベオビュ)の利点は,投与間隔を延長できることである.滲出型加齢黄斑変性の中でも,網膜色素上皮下に伸展するC1型黄斑新生血管やポリープ状脈絡膜血管症には頻回治療を要する症例がみられるが,ブロルシズマブに切り替えることにより投与間隔を延長できることが少なくない.本稿では,病型ごとのブロルシズマブの利点について概説する.1型黄斑新生血管1型黄斑新生血管(typeC1CmacularCneovasculariza-tion:typeC1MNV)はCchoriocapillarisから発生した新生血管が網膜色素上皮の下に伸展している病型である.ブロルシズマブ(ベオビュ)は分子量が約C26kDと小さく眼組織移行性が高いことと,溶解性が高くモル投与量が大きいことから,網膜色素上皮下の新生血管および脈絡膜に対する効果が他剤に比べて大きい1).筆者の施設では,アフリベルセプト(アイリーア)からブロルシズマブへCtreatandextend(TAE)継続のまま切り替えを行ったCtypeC1MNV症例C19例C19眼において,平均治療間隔はC7.4±1.4週からC11.6±2.6週に延長された(p<0.001)2).導入期を設けずCTAEを継続しながら切り替え効果が得られることは通院・治療の負担軽減に適っており,切り替えを積極的に選択する理由となる.また,新生血管の大きさについて,切り替え前とC1年半後を比較すると,新生血管は有意に縮小がみられた(切り替え前C7.04±3.9Cmm2,1年半後C5.71±4.1Cmm2,p=0.015)2).ブロルシズマブによるCTAE治療は,網膜色素上皮下の新生血管の拡大を抑制する効果があると考えられる(図1).ポリープ状脈絡膜血管症ブロルシズマブは,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoi-dalchoroidalvasculopathy:PCV)のポリープ退縮率が他の抗CVEGF薬に比べて高い.導入期C3回連続投与後のポリープ退縮率はブロルシズマブではC79.93%と報告されており,ラニビズマブ(ルセンティス)はC23.34%,アフリベルセプトはC42.57%,ファリシマブ(バビースモ)(3回連続)はC52.61%である(ファリシマブの導入期はC4週ごとC4回連続投与が基本とされており,ファリシマブのポリープ退縮率については今後新たな報告も待たれる).また,ラニビズマブと光線力学療法図1Type1MNVに対するブロルシズマブ切り替えアフリベルセプトで治療開始しC2年半後,8週間隔であった.TAEを継続してブロルシズマブへ切替後,網膜下液は消退し新生血管は縮小した.治療間隔はC16週まで延長され,縮小した新生血管の拡大はみられない.FA:フルオレセイン蛍光造影,IA:インドシアニングリーン蛍光造影,IVBr:ブロルシズマブ硝子体内注射.(85)あたらしい眼科Vol.41,No.6,20246890910-1810/24/\100/頁/JCOPY図2PCVに対するブロルシズマブ切り替えアフリベルセプトC10週間隔で治療されていた症例.網膜下液が少量みられていたが,ブロルシズマブへ切り替え,10週間隔でC3回投与後,ポリープは退縮した.IVBr:ブロルシズマブ硝子体内注射.(photodynamicCtherapy:PDT)併用のポリープ退縮率はC69%(EVERESTII試験),アフリベルセプトとCPDT併用療法ではC69.77%とされており,PDT併用療法と比較してもブロルシズマブ単独療法のほうがポリープ閉塞率は高いと考えられる.したがって,他剤で反応が不良なCPCV症例では,早期にブロルシズマブへ切り替えることによって治療間隔の延長が期待できる.筆者の施設ではCTAE継続のままアフリベルセプトからブロルシズマブへ切り替えを行ったCPCV症例において,1年半後C26.7%(15眼中C4眼)でポリープ状病巣が退縮し,とくにポリープ数が少なく異常血管網を含めた病巣の小さなCPCVにおいて,投与間隔を長く延ばすことができた2).小さなCPCV症例では,TAE継続のまま切り替えを行った場合でも,投与間隔が延長できると筆者は考えている(図2).一方,ポリープ数の多い病巣の大きなPCVでは,TAEを継続するよりも導入期を設けるほうが治療間隔を延ばせるかもしれない.ブロルシズマブの利点を生かすためにわが国では,ブロルシズマブ投与後眼内炎症のC1年間の累積発生率はC12.2%であった3).安心して切り替えを行うためには,眼内炎症に対する対策が重要である.眼内炎症は約C7割が初回投与後C6カ月以内に発生し,投与後C1カ月以内に生じることが多い4).早期発見・早期治療が不可欠であり,ブロルシズマブ投与後に「無数の黒い点がみえる」といった飛蚊症や,見え方の異常などを自覚した場合には,施行施設に早急に連絡するよう,患者指導を行うことが大切である.無治療では網膜血管閉塞に進展する可能性があるため,0.1%ベタメタゾン点眼C1日C6回およびトリアムシノロンアセトニドテノン.下注射C20Cmg/0.5Cmlで加療する.文献1)BosciaCG,CPozharitskiyCN,CGrassiCMOCetal:ChoroidalCremodelingCfollowingCdi.erentCanti-VEGFCtherapiesCinCneovascularAMD.SciRepC14:1941,C20242)Ueda-ConsolvoCT,CTanigichiCA,CNumataCACetal:Switch-ingtobrolucizumabfroma.iberceptinage-relatedmacu-larCdegenerationCwithCtypeC1CmacularCneovascularizationCandCpolypoidalCchoroidalvasculopathy:anC18-monthCfol-low-upCstudy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC261:C345-352,C20233)InodaCS,CTakahashiCH,CMaruyama-InoueCMCetal:InciC-denceCandCriskCfactorsCofCintraocularCin.ammationCafterCbrolucizumabCtreatmentCinJapan:ACmulticenterCAMDCstudy.RetinaC2023C44:714-722,C20244)MonesCJ,CSrivastavaCSK,CJa.eCGJCetal:RiskCofCin.amma-tion,retinalvasculitis,andretinalocclusion-relatedeventswithbrolucizumab:posthocreviewofHAWKandHAR-RIER.COphthalmologyC128:1050-1059,C2021690あたらしい眼科Vol.41,No.6,2024(86)

緑内障セミナー:眼圧上昇における線維柱帯細胞の関与

2024年6月30日 日曜日

●連載◯288監修=福地健郎中野匡288.眼圧上昇における線維柱帯細胞の関与根本穂高東京大学医学部眼科学教室緑内障の最大のリスク因子である眼圧は房水の産生と排出のバランスで規定されており,眼圧上昇は線維柱帯流出路の房水流出機能低下が関与している.線維柱帯細胞は線維柱帯の主要な構成細胞であり,線維柱帯の機能や構造を維持する役割を果たしている.本稿では眼圧上昇における線維柱帯細胞の関与について紹介する.●はじめに眼内の房水は毛様体により産生され,房水流出路より眼外へと排出されることで一定のバランスを保っている.房水流出路は主流出路およびぶどう膜強膜流出路と大きく二つの流出路に分けられ,主流出路では房水は線維柱帯を通過しCSchlemm管を経由して房水静脈,上強膜静脈へと還流し,眼外に排出されていく(図1).線維柱帯は,房水がCSchlemm管に流出する際に眼内で発生した不要物を除去し,上強膜静脈やCSchlemm管内から血液が眼内に逆流することを防いでいる.線維柱帯の主要な構成細胞である線維柱帯細胞は,その周囲を取り囲む細胞外マトリックスの産生や分解,また貪食能を介して線維柱帯のクリアランスを維持することで流出抵抗を制御し,眼圧を維持していることから,緑内障病態を考えるうえで線維柱帯細胞の機能やその役割を理解することは非常に重要である.線維柱帯細胞の流出抵抗維持にはさまざまな機序が関与しており,代表的なものを以下に記述する.角膜Schlemm管線維柱帯①房水強膜②毛様体図1主経路のシェーマ房水は毛様体で産生され,前房へと達したのち,房水流出路から排出される.①主流出路:線維柱帯を通過しCSchlemm管に流出する.②ぶどう膜強膜流出路..は房水の流れを示す.●線維柱帯細胞の細胞外マトリックスに与える組織学的変化線維柱帯細胞はコラーゲン,エラスチンなどの細胞外マトリックスを産生し,さらに細胞外マトリックス分解酵素Cmatrixmetalloproteinase(MMP)による分解を介して恒常的に細胞外マトリックスの再構成を行っている1).緑内障患者での細胞外マトリックス蓄積の異常増加は線維柱帯細胞の減少・機能低下によると考えられている(図2).C●細胞・組織収縮と流出抵抗線維柱帯細胞のCa-smoothCmuscleactin(a-SMA)発現細胞への形質転換や細胞骨格変化による収縮弛緩,細胞間接着などの収縮プロパティが流出抵抗に関与することが報告されている2).Rho/ROCKはアクチンの細胞骨傍Schlemm管ぶどう膜網Schlemm管結合組織角強膜網線維柱帯細胞房水細胞外マトリックス図2線維柱帯の層構造緑内障眼では線維柱帯細胞の減少,細胞外マトリックスの異常蓄積,硬化など,線維柱帯細胞および細胞外マトリックスの変化が生じていることが報告されている.(83)あたらしい眼科Vol.41,No.6,20246870910-1810/24/\100/頁/JCOPYApoptosisinhibitorofmacrophage(AIM)コントロールによって貪食能が促進された線維柱帯細胞図3Apoptosisinhibitorofmacrophage(AIM)により促進された貪食能線維柱帯細胞に,貪食能を促進する作用のあるCAIMという蛋白質を作用させることで,死細胞から作成した不要物(debris)の貪食が促進された.格変化やアクトミオシンの収縮などに関与しておりROCK阻害薬は線維柱帯細胞の弛緩や細胞外マトリックスの収縮変化および異常沈着の抑制などを介して眼圧下降に寄与することが知られている.C●生理活性物質を介した眼圧制御機構緑内障病態において生理活性脂質やサイトカインなどのさまざまな生理活性物質が関与していることが近年報告されてきている.transformingCgrowthCfactorCb2(TGF-b2)は原発開放隅角緑内障の患者の前房水中で増加していることが報告されており,線維柱帯細胞の形質転換・細胞骨格変化などを介して流出抵抗増大に関与していることが示唆されている3).生理活性脂質であるCsphingosine1-phosphate(S1P)やClysophosphatidicacid(LPA)においても同様に,緑内障眼の房水中における増加が指摘されており,筆者らのグループはCLPA産生酵素であるCautotaxin(ATX)-LPAの眼圧との相関を報告している4).C●線維柱帯細胞の貪食能と房水流出抵抗の維持緑内障患者では線維柱帯細胞の貪食能低下がみられ,貪食能の抑制によるマウス眼での眼圧上昇が過去に報告されていることから,線維柱帯細胞の貪食能は線維柱帯のクリアランスを維持することで流出機能に重要な役割を果たしている可能性が示唆されている5).筆者らのグループでは,apoptosisinhibitorofmacrophage(AIM)という他分野で細胞の貪食能を促進する作用が知られている蛋白質に,線維柱帯細胞の貪食能も促進する作用があることを明らかにし,マウスにおいて眼圧下降に寄与することを報告した6)(図3).AIMは現在創薬開発が進められており,ネコの腎疾患に対してC2026年の承認をC688あたらしい眼科Vol.41,No.6,2024めざして臨床治験が行われている.今後CAIMが臨床現場で用いられるようになれば,線維柱帯細胞の貪食能促進による新たな眼圧下降機序による緑内障治療が期待される.C●おわりに線維柱帯細胞はさまざまな作用を介して流出抵抗を制御している.今後さらに機序の理解が深まることで,薬剤や手術を含むさまざまな新規緑内障治療の開発や,将来的には線維柱帯の構造や機能の回復に繋がっていくことが期待される.文献1)WeinrebCR,CRobinsonCM,CDibasCMCetal:MatrixCmetallo-proteinasesCandCglaucomaCTreatment.CJCOculCPharmacolCTherC36:208-228,C20202)Lutjen-DrecollE:FunctionalCmorphologyCofCtheCtrabecu-larCmeshworkCinCprimateCeyes.CProgCRetinCEyeCResC18:C91-119,C19993)PervanC:Smad-independentCTGF-b2CsignalingCpath-waysCinChumanCtrabecularCmeshworkCcells.CExpCEyeCResC158:137-145,C20174)HonjoCM,CIgarashiCN,CKuranoCMCetal:Autotaxin-lyso-phosphatidicacidpathwayinintraocularpressureregula-tionCandCglaucomaCsubtypes.CInvestCOphthalmolCVisCSciC59:693-701,C20185)IkegamiCK,CMasubuchiS:SuppressionCofCtrabecularCmeshworkCphagocytosisCbyCnorepinephrineCisCassociatedCwithCnocturnalCincreaseCinCintraocularCpressureCinCmice.CCommunBiolC5:339,C20226)NemotoCH,CHonjoCM,CAraiCSCetal:ApoptosisCinhibitorCofCmacrophages/CD5LenhancesphagocytosisCinthetrabecu-larCmeshworkCcellsCandCregulatesCocularChypertension.CJCellPhysiol238:2451-2467,C2023(84)