硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載171171Arrugasuturesyndrome(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめにArrugasuturesyndromeは強膜バックリング手術後に生じる合併症の一つである.バックル素材としてシリコーンが普及する前に,Arrugasutureという糸を用いて輪状締結術を施行していた時期があった.このArru-gasutureに使用された糸が強膜さらには脈絡膜を侵食し,網膜をテント状に吊り上げたり,硝子体腔内に露出するなどの合併症をきたすことがあり,これをArrugasuturesyndromeとよぶ.筆者は以前にArrugasuturesyndromeの1例を経験し報告したことがある1).●症例62歳,男性.40年以上前に左眼の裂孔原性網膜.離に対して某病院にて強膜バックリング手術を受けた.網膜は復位したが,経過中,結膜充血,結膜浮腫,軽度の眼瞼下垂が持続していた.最近左眼の霧視を自覚するようになり,当科を受診した.左眼の矯正視力は(0.5),眼圧は20mmHgであった.左眼の前眼部には虹彩炎を認め,角膜後面には多数の色素細胞の付着を認めた(図1).左眼眼底は軽度の硝子体混濁,網膜色素上皮萎縮,網膜下索状物を認めたが,網膜は復位していた.全周に丈の高い輪状締結の隆起を認めたが,下方のバックルの隆起を食い破るように光沢のある紐状の異物を硝子体腔内にあるのを認めた(図2).Arrugasuturesyndromeと診断し,左眼の虹彩炎に対して低濃度のステロイド点眼を開始し,炎症はその後消退した.●Arrugasuturesyndromeの臨床的特徴Arrugasutureに用いられるスプラミッド糸は非吸収性合成糸である.Arrugasutureはシリコーン素材に比べて幅が狭く,単位面積あたりの絞扼力が強くなる上に弾性が少ないので,眼球壁を侵蝕しやすい.直径は2mm程度で表面はやや光沢を帯びている.Arrugasuturesyndromeの眼所見としては,結膜炎,虹彩炎,(77)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1左眼の前眼部写真虹彩炎を認め,角膜後面には多数の色素細胞の付着を認める.(文献1より引用)図2左眼の眼底写真下方のバックルの隆起を食い破るように光沢のある紐状の異物を硝子体腔内にあるのを認める.(文献1より引用)眼瞼下垂,硝子体混濁,網脈絡膜萎縮などがある.●Arrugasuturesyndromeの硝子体手術適応通常は経過観察するが,眼球内へのArrugasutureの侵入によって裂孔原性網膜.離が再発した症例,非裂孔原性テント状.離が黄斑部に及んだ症例,網脈絡膜出血や硝子体出血が生じた症例では,硝子体手術の適応となることがある.従来は眼外よりArrugasutureを除去する方法が用いられてきたが,眼内液の漏出や眼球破裂の危険がつきまとうので,硝子体手術によって眼内から治療するほうが理に適っている.その際には,眼内から硝子体剪刀や硝子体カッターで硝子体腔に露出したArrugasutureを部分的に除去し,穿孔部位に眼内光凝固を施行するのが一般的と考えられる.●おわりにArrugasuturesyndromeのようにバックル材料が強膜を浸食し,硝子体腔内に脱出したとする合併症は,シリコーンバンドやロッドでも報告があり,とくに強度近視眼で強膜がもともと菲薄化しているような症例では注意が必要である.また,輪状締結を施行する際には,必要以上に締めすぎないことも重要と考えられる.文献1)KitagakiT,MorishitaS,KohmotoRetal:Acaseofintra-ocularerosionandintrusionbyanArrugasuture.CaseRepOphthalmol7:174-178,2016あたらしい眼科Vol.34,No.8,20171151