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眼窩内悪性腫瘍

2017年8月31日 木曜日

眼窩内悪性腫瘍OrbitalMalignantTumors兒玉達夫*はじめに眼部腫瘍のなかで唯一,眼窩内腫瘍は眼科医が直接的に腫瘍の性状を確認できない部位にある.眼球突出や複視,眼窩痛などの自覚症状があれば,眼窩内病変を疑い画像検査をオーダーして発見に至るが,まったくの無症状で緩徐な増殖速度で他人から顔貌変化を指摘されたり,脳梗塞などの画像検査で偶然発見されたりすることもある.患者の多い一般外来では,いきなり細隙灯顕微鏡前に患者を座らせ診察を開始することも少なくない.「眼を見て顔を見ず」では眼窩内腫瘍に気づくことはできない.眼腫瘍の診療は患者の顔を診ることから始まる.本稿では頻度の高い眼窩内悪性腫瘍として眼窩リンパ腫と涙腺癌を中心に述べる.I眼窩内腫瘍診療の注意点1.顔貌の観察まず正面視での眼球偏位の有無を観察する.視神経腫瘍や海綿状血管腫のように筋円錐内に好発する眼窩内腫瘍では,眼球は前方に突出する.涙腺腫瘍や副鼻腔.腫などの筋円錐外腫瘍では,眼球は腫瘍の対側に偏位する(図1).眼窩内腫瘍では瞼裂開大だけでなく眼瞼下垂を伴うこともある.瞼裂開大を伴う眼球突出はバセドウ病眼症も疑い,甲状腺関連抗体も精査する.眼球突出の有無は前上方から,あるいは頭部を後屈してもらい後方から左右差を観察する.眼窩腫瘍は片眼性の眼球突出が多いが,バセドウ病眼症であっても片眼性の眼球突出や眼球運動障害は少なくない.眼球偏位観察後は患者の了解を得て,一眼レフカメラによる顔面正面の開閉瞼・上方からの撮影で顔貌を記録する.2.触診眼窩内腫瘍はしばしば眼瞼を前方に圧排するため,眼*TatsuoKodama:島根大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕兒玉達夫:〒693-8501島根県出雲市塩冶町89-1島根大学医学部眼科学講座0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(45)1119図2眼窩内悪性リンパ腫右側内眼角部皮下(a)に結節性隆起()があり慢性涙.炎の疑いで紹介された.右眼底鼻側周辺部(b)に腫瘍の眼球外圧迫による隆起性病変を認める().眼窩部MRIの冠状断(c)と軸位断(d).T2強調画像で右眼窩内下鼻側に,内部構造が均一でやや高信号で分葉状の結節性腫瘤が描出されている(c,d).眼球壁への浸潤はみられない.病理診断は,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫であった.が高度であっても複視の自覚がなければ視機能上困らないため,発症後数年以上経過して,他者からの指摘で受診することもある.眼窩痛は腺様.胞癌や中悪性度リンパ腫でみられるが,必発ではない.一般に悪性腫瘍は進行が早いため数カ月.1年前からの,良性腫瘍は1年.数年前にかけての緩徐な発症エピソードで語られることが多い.しかしながら,低悪性度リンパ腫は増殖速度が遅く,眼窩炎症性腫瘤は良性でも急激な経過や眼窩痛・圧痛を伴うことがあるため,病歴だけでは悪性・良性の判断は困難である.1年以上前に発症した良性腫瘍であっても,患者が自覚したのが1カ月前であれば,「急激な発症」を訴えることになる.臨床経過は参考程度にとどめておくとよい.4.視機能検査a.矯正視力視神経腫瘍・視神経近傍腫瘍からの圧迫で,視力低下をきたす場合がある.対光反射のチェックを忘れないようにする.b.眼圧測定眼窩内占拠容積が大きい場合,眼窩内圧亢進に伴う続発緑内障をきたすことがある.必要に応じて緑内障検査を追加する.c.Red.greentest,Hessチャート眼球運動障害の有無を記録する.自覚的な複視を訴えない症例でも,眼球運動検査で異常を検出することがある.d.眼球突出度Hertel眼球突出計で左右の値と眼窩縁間距離を記録するが,測定値は再現性に乏しく絶対的なものではない.左右差があることを客観的に確認するために行う.e.細隙灯顕微鏡検査眼窩リンパ腫は眼窩内だけでなく結膜下にも顔を出すことがある(図3).涙腺腫瘍の多くは上耳側の結膜円外部にドーム状の赤色隆起として観察される(図4).他の領域でも結膜円蓋部の膨隆から,直下の眼窩腫瘍の存在を間接的に知ることができる場合もある(図5).結膜浮腫や結膜血管の拡張・蛇行なども記録する.f.眼底撮影眼球圧排による網脈絡膜皺襞がみられる場合がある(図2).視神経圧迫による下行性の視神経萎縮が疑われるときは,OCTで黄斑マップも記録する.5.画像検査眼窩内腫瘍の術前診断においてもっとも重要な情報を与えてくれるが,注意すべきは画像診断を妄信しないことである.放射線科医は実際の患者を診ずに読影を迫られている.眼窩腫瘍の多くは非特異的画像所見を呈することが多く,画像のみで良性・悪性の鑑別は困難である.“炎症性偽腫瘍疑い”という診断名は,「画像だけではよくわかりません」という放射線科医からのメッセージである.放射線科医にとって依頼録が患者情報のすべてであり,眼科医の記載内容によって診断にバイアスが入ることも否定できない.もっとも強調したいのは,「画像はまず自分で読影する習慣をつけて欲しい」ということである.a.眼窩部CTほとんどの病院に設置されており,短時間で眼窩腫瘍の存在の有無を確認するのに有用である.涙腺癌や副鼻腔.胞による骨破壊像や石灰化などの描出に優れる.副鼻腔から波及した.腫や浸潤癌もCT画像で診断可能である.単に「頭部CT」としてオーダーすると眼窩のスライス面が少なく評価困難となる.必ず「眼窩部」と指定して軸位断(横断)と冠状断(前額断)をオーダーする.b.眼窩部MRI軟部組織の描出に優れるので,腫瘍と眼球壁,外眼筋や視神経との位置関係,被膜の有無,内部構造の把握に有用である.眼窩部の軸位断と冠状断に加えて,患側の矢状断を追加する.T1強調画像では脂肪に近いものが高信号,T2強調画像では水分を多く含む組織が高信号に描出される.ガドリウムはT1強調画像で高信号を呈するので,造影検査で腫瘍内構造の観察に用いられる.眼窩内は脂肪が多いので,T2脂肪抑制画像は炎症性病変の評価に有用である.リンパ腫や涙腺癌など細胞密度が高いものは,拡散強調画像(DW1)で高信号,拡散係数画像(ADC-map)で低信号を呈する(図6).(47)あたらしい眼科Vol.34,No.8,20171121図3眼窩MALTリンパ腫左眼結膜下にsalmonpinkmassを認める(a).さらに下方視で上眼瞼を挙上すると結膜円蓋部にも腫瘤形成がみられ(),眼窩内から浸潤してきたことがわかる(b).図4MALTリンパ腫とIgG4関連眼疾患の合併例両側性に上眼瞼の耳側結膜円蓋部からドーム状の腫瘤形成を観察できる(a,b).結膜膨隆部に一致して,眼窩部CT冠状断で両側の涙腺部に内部構造が均一な腫瘤陰影を認める(c).IgG4関連眼疾患に特徴的な眼窩神経の腫大もみられる().図5眼窩MALTリンパ腫左下眼瞼鼻側円蓋部に結節性の膨隆を認める(Ca).MRIでは,結膜膨隆と一致する部位にCT1強調画像冠状断で低信号(Cb),T2強調画像軸位断でやや高信号(Cc)の眼窩腫瘍が描出されている.C図6MALTリンパ腫のMRI画像内部が均一で,両側の眼窩内組織を取り囲むように腫瘍組織が増生している.T1強調画像で軽度低信号(Ca),T2強調画像で軽度高信号を示している(Cb).拡散強調画像では高信号(Cc),拡散係数画像で低信号を呈している(Cd).C接する眼窩腫瘍への取り込みを判定するには不向きである.低悪性度で増殖能の低いリンパ腫では描出されないこともある.C6.血液・生化学検査a.リンパ腫マーカー悪性リンパ腫では病期の進行や悪性度に応じて腫瘍マーカーが上昇する傾向にあるため,診断の参考となる.しかしながら,炎症や感染症,腎機能低下などでも上昇する非特異的マーカーであるため,検査値の評価には既存疾患の影響にも注意を払う必要がある.眼科領域のリンパ腫は他臓器と比較して腫瘍量が小さいため,眼窩内限局のリンパ腫では上昇傾向に乏しい.それゆえ下記の腫瘍マーカーが正常範囲であっても眼窩リンパ腫を否定することにはならない.・可溶性インターロイキンC2受容体(sIL-2R:正常値145.519CU/ml):各種リンパ球に表出される.リンパ腫以外では腎機能障害(透析中),自己免疫疾患,感染症でも上昇がみられる.小児・若年者の正常値は元々高く,3歳以下ではC1,000U/mlを超えるので,小児の眼窩腫瘍検査時には注意を要する.・b2-ミクログロブリン(Cb2MG:正常値<1.6Cmg/l):各種リンパ球に豊富に表出される.リンパ腫以外では腎機能障害,感染症,上皮性悪性腫瘍で上昇する.・乳酸脱水素酵素(LDH:正常値C100.215CIU/l):あらゆる組織に分布し,組織障害で上昇するのでもっともリンパ腫特異性が低い.リンパ腫以外では心筋梗塞や骨格筋障害,貧血,自己免疫疾患,肝炎,各種悪性腫瘍で上昇する.Cb.IgG4良性腫瘍性病変であるCIgG4関連眼疾患では,高IgG4血症(135Cmg/dl以上)が診断基準のC1項目に含まれる.IgG4関連眼疾患では,sIL-2RやCIgEの上昇を伴うことがある.Cc.炎症マーカー熱発や疼痛を伴う眼窩炎症性病変では,しばしば血沈亢進やCCRPの上昇を伴う.II眼窩悪性リンパ腫1.頻度疾患定義の解釈や施設間の差はあるものの,リンパ腫は眼窩腫瘍全体のC10.15%,原発性眼窩腫瘍のC1/4を占め,眼窩内悪性腫瘍で最多である.眼科領域のリンパ腫はほとんど非ホジキンCB細胞リンパ腫であり,以下のC4種でC99%近くを占める.Ca.MALT型リンパ腫(extranodalmarginalzonelymphomaofmucosa.associatedlymphoidtissue:MALT)眼窩リンパ腫のなかで最多のC6割前後を占める低悪性度リンパ腫で,増殖は緩徐である(図3~6).IgG4関連眼疾患のC1割にCMALTが合併するので,血清CIgG4が高値でもリンパ腫の可能性を忘れてはならない(図4).Cb.びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(di.uselargeB.celllymphoma:DLBCL)MALTに次いで多く,3割前後を占める中悪性度リンパ腫である(図2).数週間単位で急速に増大することがあり,初診時にすでに他臓器病変を認めることが少なくない.早期診断・早期治療が必要である.Cc.濾胞性リンパ腫(follicularlymphoma:FL)5%前後を占める低悪性度リンパ腫である.Cd.マントル細胞リンパ腫(mantlecelllymphoma:MCL)5%以下の中悪性度リンパ腫である.C2.診断画像検査および血液・生化学検査(前述)でリンパ腫が疑われた場合,生検による病理組織検査によって診断を確定する.Ca.画像検査MRIとCCT検査では,内部構造が均一で比較的境界明瞭な結節性を呈する(図2~6).低悪性度リンパ腫では通常骨破壊はみられない(図4).悪性リンパ腫と良性病変である特発性眼窩炎症,反応性リンパ過形成,IgG4関連眼疾患は,同じリンパ増殖性疾患であるために類似所見を示すことが多く,画像による鑑別は困難である.全摘出が必要な涙腺腫瘍などの上皮性腫瘍や血管1124あたらしい眼科Vol.34,No.8,2017(50)C腫との判別ができればよい.Cb.組織検査生検時には最低限,HE染色による形態観察と免疫染色目的のホルマリン固定用と,遺伝子再構成検査目的の未固定用の腫瘍組織を確保する必要がある.リンパ腫は放射線治療や化学療法によく反応するため,眼球運動障害をきたさない範囲で可及的に採取すればよい.ほとんどCB細胞性なので,遺伝子再構成はCJHを提出すると再構成を検出しやすい.生検組織量に余裕があれば,未固定細胞でフローサイトメトリー,染色体検査,遺伝子検査を行うと病型診断や予後の情報を得ることができる.逆にいえば,これらの検査体制が備わっていない医療機関で生検することは避けたほうがよい.「リンパ腫の疑い」で再生検手術を受ける患者が可哀想である.病理組織診断はもっとも信頼できる最終確定診断であるが,現実的には臨床所見と合致しない症例も少なからず経験される.リンパ腫のCWHO分類は長年にわたり改訂を繰り返され,現在の新分類は分子生物学的特徴や悪性度・治療反応性といった生物学的病態を反映したものになっているが,それでも分類困難な境界域病変が存在する.組織検査結果に疑問があれば病理診断医とともにプレパラートを鏡検し,診断困難例は他の病理専門施設にセカンドオピニオンを求める姿勢も必要である.C3.病期判定リンパ腫の診断がついたら,治療方針決定のために病変がどの程度全身に広がっているか病期判定が必要である.PET-CT検査に加え,血液腫瘍内科に骨髄検査,消化管内視鏡検査などの全身精査を依頼する.病期分類にはCAnnArbor(アナーバー)分類を用いる(1971年に提唱され,現在もホジキン・非ホジキンリンパ腫の病期分類として使用されている).I期:1カ所のリンパ節領域あるいは節外領域に限局.II期:2カ所以上の領域に病変があるが,横隔膜より上か下に限局.III期:横隔膜の上下に複数の病変を認める.IV期:1つ以上のリンパ節外臓器(肝,骨髄,肺など)にびまん性病変を認める.C4.治療方針明確なガイドラインはない.眼科,血液腫瘍内科,放射線科医が連携して,症例ごとに治療方針を決定する.当院の治療方針を示す.Ca.低悪性度リンパ腫(MALT,FL)限局性(病期CI.CII期)で複視や眼球突出などの眼症状があれば,30CGy前後の放射線照射を行う.腫瘍自体をほとんど摘出できた場合,無症候性,高齢者で化学療法の副作用が懸念される場合は,無治療で経過観察(watchfulCwaiting)を行うことがある.病期CIII期以上であれば,CD20に対するモノクローナル抗体であるリツキサンCR(rituximab:R)を用いた分子標的療法や,リツキサンRを併用したCR-CHOP(cyclophosphamide,doxorubicin,vincristine,prednisolone)などの化学療法を考慮する.Cb.中悪性度リンパ腫(DLBCL,MCL)病期にかかわらず,原則としてCR-CHOPを代表とする化学療法を考慮する.眼症状があれば,局所制御目的にC40CGy超の放射線照射を併用する.全身状態が悪く化学療法に耐えられない場合,緩和照射のみを選択する.CIII涙腺癌1.頻度涙腺腫瘍は眼窩腫瘍のC1/4以下であり,リンパ増殖性病変と上皮性腫瘍の割合はC6:4である.涙腺の上皮性腫瘍のなかでは良性の涙腺多形腺腫がC2/3を占め,1/3が涙腺癌である.涙腺の上皮性悪性腫瘍を総称して涙腺癌と表記したが,腺様.胞癌,多形腺腫源癌が大半を占める.本稿では腺様.胞癌について述べる.C2.診断a.病歴腺様.胞癌のC8割が眼窩痛や複視を訴えるが,多形腺腫では眼窩痛はみられない.腺様.胞癌は腫瘍関連症状を自覚してから眼科を受診するまでの間隔はC1年.数カ月以内と短期間である(多形腺腫は平均C2年以上).Cb.画像検査(図7)CTとCMRI画像で境界明瞭な楕円形腫瘍を呈するものが多く(60.80%),CTでは均一な軟部濃度腫瘤と(51)あたらしい眼科Vol.34,No.8,2017C1125図7涙腺腺様.胞癌眼窩部CCT冠状断で,左側涙腺腫瘍に接した眼窩骨壁の破壊がみられる(a:点線円内).同部位のCMRI画像では,T1強調画像で低信号(b),T2強調画像で不均一な輝度の内部構造の腫瘍が描出されている(c).C

眼瞼の腫瘤:脂腺癌・基底細胞癌

2017年8月31日 木曜日

眼瞼の腫瘤:脂腺癌・基底細胞癌EyelidTumors:SebaceousCarcinoma・BasalCellCarcinoma中山知倫*渡辺彰英*はじめに眼瞼原発悪性腫瘍のなかで頻度の高いものとして,基底細胞癌,脂腺癌,扁平上皮癌といった上皮性の悪性腫瘍がある.欧米と比較してわが国では基底細胞癌の頻度が低く,脂腺癌は高いという特徴があり,脂腺癌と基底細胞癌が二大眼瞼原発悪性腫瘍となっている1).どちらも高齢者に多く,今後症例数の増加が予想される疾患である.I脂腺癌1.臨床像眼瞼の脂腺癌はその名の通り,眼瞼の脂腺であるMeibom腺,Zeis腺から発生する.まれには涙丘より発生することもある.多くはMeibom腺より発生し,そのため,Meibom腺の多い上眼瞼にできることが多い.高齢者に多く,京都府立医科大学附属病院眼科(以下,当科)にて2004~2016年に脂腺癌に対して切除再建術を行った54症例の平均年齢は73.3±14.3歳であった.脂腺癌は基底細胞癌,扁平上皮癌と比較して局所再発やリンパ節転移,遠隔転移が多く,臨床的な悪性度が高い.当科における54症例の検討では,局所再発は11%,転移は14%の症例で認めた.転移先としては耳前リンパ節がもっとも多かった.脂腺癌は腫瘍死の原因となりうる疾患であり,早期発見,早期治療が重要である.脂腺癌は,そのほとんどが瞼板内のMeibom腺より発生するため,眼瞼縁や瞼結膜に認めることが多い.肉眼的所見は大きく二つのタイプに分けられ,黄色調の結節状の病変として眼瞼結膜や眼瞼縁に隆起してくる場合(nodulartype)(図1)と,びまん性の眼瞼肥厚や眼瞼炎,慢性結膜炎のような所見を認める場合(di.usetype)(図2)がある.Di.usetypeは組織学的に腫瘍細胞の上皮内浸潤であるpagetoidspread(図3)を認めることが多い.その他,瞼結膜側に乳頭腫様の増殖(図4)を示す場合や,瞼板内に留まり,硬い腫瘤として触れるのみの場合もある.疫学的には人種差が知られており,脂腺癌は白色人種よりもアジア人に多いことが知られている.また,臨床所見については,アジア人にはnodulartypeがdi.usetypeよりも多いが2),白色人種ではdi.usetypeとnod-ulartypeはほぼ同じ頻度であることがわかっている3).なんらかの遺伝的背景があると推測されるが,脂腺癌についての遺伝子検索はこれまであまり行われておらず,はっきりしたことはわかっていない.2.鑑別脂腺癌の鑑別としては脂腺腺腫と霰粒腫がある.脂腺腺腫は脂腺癌と比較してやや白色調であり,正常のMeibom腺に似た脳回様,あるいは毛糸玉状の紋様をもつ(図5).良性の腺腫であるため,周辺組織の構造を破壊しない.また,一般的には脂腺癌より成長は緩徐である.しかし,実際は脂腺癌と脂腺腺腫を肉眼的所見のみで完全に鑑別することはむずかしく,脂腺腺腫と考*TomomichiNakayama&*AkihideWatanabe:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕中山知倫:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(39)1113図1脂腺癌(Nodulartype)図2脂腺癌(Di.usetype)図3Pagetoidspread(HE染色)図4脂腺癌(乳頭腫様の増殖)図5脂腺腺腫図6脂腺癌切除術(単純縫縮+TenzelFlap)表1切除範囲に応じた再建法切除範囲上眼瞼C1/3未満下眼瞼C1/2未満上眼瞼C1/3以上下眼瞼C1/2以上前葉単純縫縮(直接縫合)1.局所皮弁2.眼輪筋皮弁3.植皮4.動脈皮弁(Lateralorbital.ap)5.遊離組織移植後葉外眥切開Z形成Tenzel.ap1.硬口蓋粘膜2.鼻中隔軟骨+粘膜3.耳介軟骨+粘膜4.Hughes.ap全層1.眼瞼全層弁(Switch.ap,Cutler-beard)2.眼瞼全層遊離複合移植図7脂腺癌切除術Hughes法下眼瞼欠損部に上眼瞼の瞼結膜および瞼板組織を用いる.図8基底細胞癌図10基底細胞癌切除術局所皮弁による再建.図9脂漏性角化症

乳幼児の眼内病変:網膜芽細胞腫

2017年8月31日 木曜日

乳幼児の眼内病変:網膜芽細胞腫PediatricIntraocularTumor:Retinoblastoma鈴木茂伸*はじめに乳幼児の眼内悪性腫瘍の代表疾患は網膜芽細胞腫(retinoblastoma)であり,それ以外には毛様体に悪性腫瘍が生じる程度である.成人の眼内腫瘍では転移性腫瘍と悪性黒色腫が代表疾患であるが,乳幼児にはほとんど生じない.本稿ではおもに網膜芽細胞腫について,腫瘍の増大・進行様式と関連づけて臨床所見を示し,各段階での鑑別診断を述べる.最後に治療と遺伝についても要点を述べる.I網膜芽細胞腫1.網膜芽細胞腫の自然史と臨床所見厳密な意味での由来細胞は未解明であるが,未熟な網膜細胞においてRB1遺伝子変異が生じると,その細胞はがん化し,無秩序な増殖を始める.腫瘍がある程度の大きさになると,眼底検査でも検出できるようになり,光干渉断層装置(opticalcoherencetomography:OCT)で網膜のどの層から生じているかを検出できるようになる.腫瘍が増大するに従い,最初は半透明の淡い腫瘍が徐々に白濁し,隆起が明らかになる(図1).2乳頭径程度の腫瘍は石灰化を伴わない.増殖速度は腫瘍により異なるが,経験的に腫瘍径は1カ月で倍ほどに増大する.網膜は眼球外組織に比べると血流が限られているため,この細胞が眼球外に浸潤した場合の倍加速度はさらに早い.網膜芽細胞腫は酸素要求度が高く,血管依存性に増大するが,腫瘍の増大が早く血液の供給が追いつかなくなると腫瘍は壊死を生じ,壊死産物が腫瘍内で凝集して石灰化を生じ(図2),これが本疾患の特徴的所見になっている.腫瘍細胞からは血管増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)などが分泌され,腫瘍に栄養を供給する腫瘍血管が増え,腫瘍はやや赤みのある色調になる.腫瘍血管は脆弱な壁構造のため漏出が多く,蛍光眼底造影で蛍光漏出が確認される.また,網膜下に滲出液が貯留することで網膜.離を生じる.VEGFが硝子体腔にも排出されるため,一部の症例では腫瘍表面に増殖膜を生じ,牽引性.離を生じることがある.腫瘍細胞は細胞間接着が弱いため,徐々に崩れて散布する.内境界膜を越えて硝子体腔に散布した細胞は,酸素分圧が低いため壊死するものが多いが,一部生き延びた細胞は腫瘍塊を作り,いわゆる雪玉様の硝子体播種を生じる(図3).また,網膜下腔に散布された細胞は,網膜下液に乗って広がり,網膜下播種を生じる(図4).前部硝子体膜は一つの障壁となっているが,一部の症例では前部硝子体膜を越えて腫瘍細胞が浸潤し,後房から前房浸潤を生じる(図5).腫瘍塊が増大すると,水晶体が後方から圧排され,浅前房による隅角閉塞緑内障を生じる.また,硝子体腔の血管増殖因子濃度が上昇することで虹彩に新生血管を生じ,血管新生緑内障を生じる.眼球内で急速増大した腫瘍が,相対的に血流不足から虚血になると大きな壊死を生じ,壊死産物に対する炎症*ShigenobuSuzuki:国立がん研究センター中央病院眼腫瘍科〔別刷請求先〕鈴木茂伸:〒104-0045東京都中央区築地5-1-1国立がん研究センター中央病院眼腫瘍科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(31)1105図1網膜芽細胞腫の初期病変図2石灰化ごく初期の病変は淡い白色を示し(※),少し大きくなる3乳頭径以上になると,腫瘍内に石灰化を生じることがと白濁し網膜血管の走行変化がみられる(*).多い.図3硝子体播種図4網膜下播種硝子体腔に散布した腫瘍細胞が増殖,腫瘍塊を作り,雪玉網膜下腔に散布した細胞が腫瘍塊を作り,びまん性に網膜様硝子体播種になる.下播種を生じている.図5前房浸潤前房内に水泡様の腫瘍塊がある.本症例では角膜裏面を這うように広がっている.図6網膜細胞腫(retinocytoma)透明感のある腫瘍で,腫瘍血管に乏しく,辺縁に網脈絡膜変性を伴う.表1鑑別疾患のポイント色調形状・性状血管超音波検査FAOCT増大傾向注意すべき所見など年齢,性別網膜芽細胞腫白色ドーム状,石灰化微細な腫瘍血管充実性腫瘍,石灰化蛍光漏出神経網膜の肥厚増大両眼発症,13q-症候群5歳以下,多くは1歳前後網膜細胞腫白色半透明扁平隆起,石灰化,周囲に網脈絡膜変性腫瘍血管なし─漏出なしなだらかな立ち上がり不変──網膜白色病変星細胞過誤腫白色,時に黄白色桑実様もしくは半透明腫瘍血管なし充実性時に漏出神経線維層の肥厚不変(まれに増大)結節性硬化症─有髄神経線維白色隆起なし,辺縁の毛羽立ち透見できず所見なし蛍光ブロック─不変─先天性コロボーマ白色乳頭下方,境界明瞭,軽度陥凹脈絡膜血管なし軽度陥凹脈絡膜フラッシュなし陥凹,脈絡膜欠損不変CHARGE症候群(心疾患など)先天性脈絡膜骨腫黄白色,色素斑不整形,扁平隆起時に新生血管板状の高反射新生血管から漏出脈絡膜無構造腫瘍緩徐増大─思春期以降,女性白色瞳孔胎児血管遺残白色水晶体後面の白色線維膜,毛様体突起伸展,球状水晶体,小眼球網膜血管と異なる走行の血管乳頭から線維血管膜に連なる構造物────先天性トキソカラ白色線維性病変増殖性変化血管の牽引────炎症細胞浸潤─Coats病黄白色(硬性白斑)硬性白斑の著明な網膜.離拡張蛇行,分枝異常充実性腫瘍なし高度の漏出,分枝異常───思春期,男児胞状.離半透明,.離網膜硬性白斑の乏しい網膜.離網膜血管が観察可能充実性腫瘍なし───時に両眼発症原因疾患による図7星細胞過誤腫黄斑部に血管に乏しい半透明隆起病変があり周囲に滲出斑を伴う.図8コロボーマ図9脈絡膜骨腫乳頭下方に白色病変が2個連なる.隆起がなく軽度陥凹し黄白色扁平隆起病変であり,網膜色素上皮が残っている部ている.分は橙色にみえる.図10トキソカラ黄白色炎症性瘢痕であり,牽引を生じている.図11Coats病高度の滲出性変化のため,硬性白斑の集簇が腫瘍のようにみえる.図12無菌性蜂窩織炎眼球内の石灰化病変と,とくに眼窩前方の浮腫所見を認める.眼窩後方は所見が乏しいことが特徴である.

眼底の色素性病変:脈絡膜悪性黒色腫

2017年8月31日 木曜日

眼底の色素性病変:脈絡膜悪性黒色腫MelanocyticTumoroftheOcularFundus:ChoroidalMelanoma古田実*はじめに色素性病変という語句は,通常メラニン色素を伴う病変をさす.すなわち,メラニン産生細胞の腫瘍である.しかし,網膜下血腫が黒く見える時期,逆に病変上の網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE),網膜.離,神経網膜,増殖膜や硝子体混濁に修飾されて本来の色がマスクされていること,さらにメラニン産生細胞であっても無色素性であることもある.簡単には生検できない中で,筆者自身も色素性病変の鑑別は眼科医としての能力を試されているのではないかと感じることがある.眼科外来で得られる画像所見は,専門家とて他の先生と同じである.本稿では脈絡膜悪性黒色腫(脈絡膜メラノーマ)の診断と治療について,なにに注目して,どのように考えるかを概説する.I脈絡膜メラノーマの基礎知識脈絡膜メラノサイトの悪性腫瘍で,成人の原発性眼内腫瘍でもっとも高頻度である.有色人種は白人よりも発症頻度が低く,わが国での新規発症は1年間に100例以下である.全身に生じるメラノーマのうち約5%が眼内に生じ,紫外線や化学薬品と発症との因果関係は明らかではない.発症の平均年齢は60歳で性差はない.II好発部位,形態,色調,大きさ脈絡膜メラノーマは,眼底赤道部より周辺に17%,黄斑から赤道部77%,黄斑に6%の頻度で生じる.形態は,典型的なマッシュルーム型(Bruch膜を超える病変)20%,ドーム状75%,びまん性5%である.色調は人種により異なる可能性があるが,白人では無色素性16%,色素性51%,混合性33%である1).図1に色素性メラノーマの色調がどのように観察されるかを示す.色素性腫瘍ではあっても,メラノーマはRPE下に発育するため,黒く見えないことが多く,網膜面状にメラニンが直接観察できる腫瘍はかなり進行したメラノーマか他の腫瘍であることに注意する.腫瘍の大きさは,旧来から臨床的には厚さ3.0.mm以下がsmall,3.1~8.0.mmがmedium,8.1mm以上はlargeに分類されるが,最近ではTNM分類を使うことが推奨されている(表1).III検眼鏡的鑑別疾患表2に,代表的な眼底色素性病変と所見の特徴を列記した.また,紹介されてくることの多い眼底の黒色病変を図2に示す.メラノーマとの鑑別点は図説に記載したが,もっとも鑑別がむずしい病変は「大きな脈絡膜母斑」である.臨床所見から危険因子を統計的に割り出した研究があるので,参考にするとよい(表3)2).IV診断の確定に必要な検査(図3)1.超音波断層検査脈絡膜メラノーマの大きさの計測と内部反射の評価,および眼球外進展の確認に必須である.病変の最大基底長と厚みを計測し,内部反射が低反射を示すことを確認*MinoruFuruta:福島県立医科大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕古田実:〒960-1295福島市光が丘1福島県立医科大学医学部眼科学講座0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(23)1097abcd図1脈絡膜メラノーマは黒く見えないa:20歳台,女性.右眼視神経乳頭下鼻側病変.b:50歳台,女性.右眼上方の大きな病変.黄斑が隠れる.c:60歳台,男性.右眼上方の病変.網膜浸潤しメラニン色素の散布が著明.d:60歳台,女性.左眼下方の病変.網膜.離のため硝子体手術とレーザーを施行されている.表1UICC.AJCC分類脈絡膜メラノーマの厚さと最大基底径によるT分類(第8版)>1544412.1~15.033449.1~12.03333346.1~9.022223343.1~6.01112234≦3.01111224厚さmm最大基底径mm≦3.03.1~6.06.1~9.09.1~12.012.1~15.015.1~18.0>18表2眼内のおもな色素性腫瘍の種類と特徴色素細胞の部位病変の種類おおよその特徴網膜色素上皮肥大腺腫・腺癌先天性,平坦,神経網膜菲薄網膜栄養血管,滲出性網膜.離脈絡膜母斑悪性黒色腫厚さC2.mm以下,ドライ,超音波高反射厚さC3.mm以上,ウェット,超音波低反射視神経乳頭黒色細胞腫厚さC2.mm以下,ドライ,視神経萎縮表3小さな脈絡膜メラノーマの早期診断のための危険因子イニシャル覚え方所見ハザード比将来メラノーマとなった割合%CTCFCSCOCMCUHCHCDCToFindSmallOcularMelanomaUsingCHelpfulHintsDailyThickness厚み>2.mmCFluid網膜.離(+)CSymptoms自覚症状(+)COrangeCpigmentオレンジ色素(+)CMargin腫瘍辺縁<3.mmCtoCtheCopticCdiscCUltrasoundCHollow超音波低反射CHaloCabsent病変辺縁部の萎縮所見CDrusenCabsentドルーゼン(-)C2C3C2C3C2C3C6C─C19C27C23C30C13C25C7C─(文献C2より改変)図2眼底のおもな黒色病変a:先天性網膜色素上皮肥大(con-genitalChypertrophyCofCretinalpigmentCepithelium:CHRPE).OCTで病変は平坦で,神経網膜は菲薄化している.Cb:網膜色素上皮腺腫.網膜上に色素性病変が直接観察され,滲出性網膜.離がある.通常は周辺部に生じる腫瘍である.フルオレセイン蛍光眼底造影では網膜血管によって栄養されていることがわかる.Cc:視神経乳頭黒色細胞腫.OCTで視神経乳頭から生じ,脈絡膜内の病変はない.Cd:周辺部滲出性出血性脈絡網膜症(peripheralCexuda-tiveChemorrhagicCchorioretinopa-thy:PEHCR).周辺部脈絡膜新性血管からの網膜下血腫で,ポリープ様脈絡膜血管症が周辺部に生じたものと考えられている.超音波所見はメラノーマに類似する.1週間経過すれば病変は白色化して血腫であることがわかる.Ce:脈絡膜母斑.網膜.離や自覚症状はない.超音波検査では病変の厚さC2Cmm未満で,内部は高反射である.図3確定診断に必要な画像検査a:60歳台,女性.右眼耳側に厚さC3.8mm,基底径C9mmの色素性病変があり,腫瘍上に薄く網膜.離がある.Cb:同症例の超音波断層像.腫瘍は正常脈絡膜よりも低反射で,脈絡膜が掘れているように見える(→:choroidalCexca-vation).c:同症例のフルオレセイン蛍光眼底造影早期と後期.網膜色素上皮障害が強い.後期には斑状点状の過蛍光がみられる.Cd:同症例のインドシアニン・グリーン蛍光眼底造影早期と後期.早期から網膜血管とは異なる病変内血管が描出され(doubleCcircu-lation),ループ状血管(→)がみられる.腫瘍自体は後期でも低蛍光であり,メラニン色素を含む腫瘍と考えられる.臨床的にはCa~dの所見でも十分に脈絡膜メラノーマの診断が可能である.以下Ce~hのように確認のための放射線学的検査を行う.Ce:別症例のMRICT1強調像.右眼耳側病変は高信号である.Cf:の症例のCMRIT2強調像.病変は低信号である.Cg:の症例のCFDG-PET/CT.SUVmaxはC2.9であり,有意な集積を呈さない.脈絡膜メラノーマでも陰性を示すことが多々ある.h:の症例のC123I-IMPシンチグラムC24時間像.右眼の病変に一致して,強い集積を示す.メラノーマに関してはCPETよりも診断的価値が高い.図4小線源療法を施行した症例a:20歳台,女性.右眼下鼻側に厚さC4.6.mm,基底径C10.mmの脈絡膜メラノーマがある.Cb:小線源治療を他院で施行し,その後にCTTTによる凝固術も追加した.Cc:小線源治療からC3年後.放射線網膜症に対するレーザー治療も行い,腫瘍は平坦化している.d:OCT.網脈絡膜は萎縮している.ーマだけでなくさまざまな悪性腫瘍への臨床応用が期待されている.CVI予後と予後予測因子脈絡膜メラノーマは,肝転移をきたしやすく,遠隔転移した症例のC90%に肝病変がみられる.肝転移の治療は困難であり,分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を含めたさまざまな薬剤が使える現在でも,最終的には転移率≒死亡率となる.現在の臨床研究のトレンドは,腫瘍遺伝子から転移のリスクを推定することである.C1.古典的予後予測因子腫瘍の大きさはもっとも簡便で信憑性のある因子である.UICC-TMN分類(図3)は,多くの予後研究結果に基づいたもので,腫瘍の厚さ,基底径,毛様体病変の有無,眼外進展の有無と大きさがポイントである7).T1:腫瘍の大きさCcategoryC1(頻度C46%,10年遠隔転移率C15%)T2:腫瘍の大きさCcategoryC2(頻度C27%,10年遠隔転移率C25%)T3:腫瘍の大きさCcategoryC3(頻度C21%,10年遠隔転移率C49%)T4:腫瘍の大きさCcategoryC4(頻度C6%,10年遠隔転移率C63%)大きさ以外に予後に関係する因子として,病理組織学的な細胞型や核分裂頻度,血管や強膜への浸潤の有無などが重要であるが,これらは摘出眼球によって評価される.眼球外進展がある場合には極端に予後が悪くなる.C2.微量検体による予後予測脈絡膜メラノーマ発育の分子機構が解明されてきている.眼球温存療法を選択した場合でも,治療直前に針生検で腫瘍細胞を採取し,染色体検査8)やCgeneCexpres-sionCpro.ling9,10)で高精度な予後推定が可能となってきた.海外では商業ベースでの検査が可能となっているが,わが国では普及していない.おわりに脈絡膜メラノーマの早期診断に立ちはだかる壁は高く,驚くことに初診時の腫瘍の大きさはC30年前と変わりない.数多くある悪性腫瘍のうち,早期診断が進まないのはまれであり歯がゆい.いまや,眼科を受診したことのない人は少数派である.健診や診察中に発見した色素性病変の観察と記録を忘れずに行うことが第一歩であろう.文献1)ShieldsCCL,CFurutaCM,CThangappanCACetal:MetastasisCofCuvealCmelanomaCmillimeter-by-millimeterCinC8033Cconsec-utiveCeyes.CArchOphthalmolC127:989-998,C20092)ShieldsCCL,CFurutaCM,CBermanCELCetal:ChoroidalCnevustransformationCintoCmelanoma:CanalysisCofC2514Cconsecu-tiveCcases.CArchOphthalmol127:981-987,C20093)YoshimuraCM,CKanesakaCN,CSaitoCKCetCal:DiagnosisCofCuvealCmalignantCmelanomaCbyCaCnewCsemiquantitativeassessmentCofCN-isopropyl-p-[123I]-iodoamphetamine.CJpnJOphthalmolC55:148-154,C20114)MashayekhiCA,CShieldsCCL,CRishiCPCetCal:PrimaryCtrans-pupillaryCthermotherapyCforCchoroidalCmelanomaCinC391cases:CimportanceCofCriskCfactorsCinCtumorCcontrol.COph-thalmologyC122:600-609,C20155)ToyamaCS,CTsujiCH,CMizoguchiCNCetCal;WorkingCGroupforCOphthalmologicTumors:Long-termCresultsCofCcarbonCionCradiationCtherapyCforClocallyCadvancedCorCunfavorablylocatedCchoroidalCmelanoma:CusefulnessCofCCT-basedC2-portCorthogonalCtherapyCforCreducingCtheCincidenceCofCneovascularCglaucoma.CIntCJCRadiatCOncolCBiolCPhysC86:C270-276,C20136)KinesCRC,CCerioCRJ,CRobertsCJNCetal:HumanCpapillomaviC-rusCcapsidsCpreferentiallyCbindCandCinfectCtumorCcells.CIntCJCancerC138:901-911,C20167)ShieldsCCL,CKalikiCS,CFurutaCMCetal:AmericanCjointCcom-mitteeConCcancerCclassi.cationCofCuvealCmelanoma(ana-tomicCstage)predictsCprognosisCinC7,731Cpatients:CTheC2013CZimmermanCLecture.COphthalmologyC122:1180-1186,C20158)DamatoCB,CDukeCC,CCouplandCSECetCal:CytogeneticsCofuvealCmelanoma:CaC7-yearCclinicalCexperience.COphthal-mologyC114:1925-1931,C20079)HarbourCJW:ACprognosticCtestCtoCpredictCtheCriskCofCmetastasisCinCuvealCmelanomaCbasedConCaC15-geneCexpres-sionCpro.le.CMethodsMolBiolC1102:427-440,C201410)FieldCMG,CDecaturCCL,CKurtenbachCSCetCal:PRAMECasCanCindependentCbiomarkerCforCmetastasisCinCuvealCmelano-ma.CClinCancerResC22:1234-1242,C2016(29)あたらしい眼科Vol.C34,No.8,2017C1103

治らないぶどう膜炎:仮面症候群

2017年8月31日 木曜日

治らないぶどう膜炎:仮面症候群IncurableUveitis:MasqueradeSyndrome楠原仙太郎*はじめにぶどう膜炎に限らず,あらゆる疾患において基本となるが,的確な診断の基に治療を開始することが重要である.しかしながら,わが国ではぶどう膜炎の約C30%でその原因が分類不能である1)という事情から,原因疾患の特定を待たずに治療開始を余儀なくされることがしばしばである.そして,実際のぶどう膜炎診療では,感染性ぶどう膜炎が概ね否定されれば副腎皮質ステロイド(以下,ステロイド)を柱とした治療が選択されている.多くの場合,ステロイドの点眼および眼局所注射もしくは全身投与で炎症がコントロールされるが,炎症所見が治療に反応しない場合もある.このような「治らないぶどう膜炎」に遭遇した場合の次の手は,①ステロイドではコントロールできないほど強い炎症が存在していると判断し,免疫抑制薬や抗CTNF-a薬治療を追加する,②炎症以外の原因の存在を疑い精査する,の二通りである.後者は炎症反応とは異なる機序で眼内に浸潤した細胞がぶどう膜炎様の所見を呈することから「仮面症候群」とよばれている.「仮面症候群」の原因には,血液疾患,網膜芽細胞腫,網膜.離,外傷があげられるが,もっとも頻度が高く重要なものは悪性リンパ腫である.眼内悪性リンパ腫は中枢神経リンパ腫を併発しやすく,生命予後不良の悪性腫瘍であり,決してこれを見逃してはならない.したがって,「治らないぶどう膜炎」ではまず悪性リンパ腫を疑って精査をしなければならない.I眼内悪性リンパ腫の診断1.患者背景先進国では眼内悪性リンパ腫の頻度が増える傾向にあり,わが国の統計では全ぶどう膜炎に占める割合がC2.5%であったと報告されている1).これは非感染性ぶどう膜炎ではCBehcet病に次ぐ頻度であり,悪性リンパ腫はぶどう膜炎を専門とする医療機関では決してまれな疾患ではない.好発年齢はC60歳前後とされており,性差については報告によって異なることから,大きな差はないと考えてよい.自覚症状は霧視や飛蚊症の場合が多いが,病変の部位と広がりによっては無症状や著しい視力・視野障害の場合もある.患者背景から悪性リンパ腫を疑うことがむずかしいことから臨床経過や後に述べる眼所見が診断過程において重要となる.臨床経過での特徴はステロイド治療に対する反応が悪いことである.リンパ腫細胞の周囲には反応性の炎症細胞が存在するため,ステロイド治療によって炎症所見が軽度改善するが,その後増悪するという経過をたどることが多い.C2.眼所見両眼性・片眼性のどちらの場合もある.以下に特徴的な所見を記すが,非典型的な所見を呈する症例も多く,眼所見をもって悪性リンパ腫を否定することはできない.*SentaroKusuhara:神戸大学医学部附属病院眼科〔別刷請求先〕楠原仙太郎:〒650-0017神戸市中央区楠町C7-5-2神戸大学医学部附属病院眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(17)C1091図1硝子体混濁オーロラ状硝子体混濁が強く眼底の詳細が不明である.図2眼底病変黄斑部に黄白色病変を認める().光干渉断層計では病変が網膜下に及んでいることがわかる().図3脈絡膜生検a:硝子体混濁はないが眼底に黄白色病変を多数認める.b:生検予定部位の周囲に光凝固を行った後に網膜を除去する.Cc:硝子体カッターで脈絡膜に存在する腫瘍細胞を採取する.Cd:硝子体術後.採取されたサンプルからモノクローナルなCIgH遺伝子再構成が検出された.5010015020025030035040045012,0001,00008,0006,0004,0002,0000図4PCR結果(genescan法)IgH遺伝子のモノクローナルな再構成が検出されている.図5MTX硝子体注射の効果a:治療前,b:治療後.図6MTXによる角膜上皮障害中等度の角膜上皮異常を認める.抗葉酸代謝拮抗薬の投与を考慮する必要がある.-

結膜の隆起性病変:悪性リンパ腫,扁平上皮癌

2017年8月31日 木曜日

結膜の隆起性病変:悪性リンパ腫,扁平上皮癌ElevatedConjunctivalLesions:LymphomaofMucosa-associatedLymphoidTissueandSquamousCellCarcinoma福岡秀記*はじめに結膜は,眼球表面を覆う眼球結膜,折り返し部位に該当する円蓋部結膜,および眼瞼の裏側に相当する眼瞼結膜に分類される.結膜組織は結膜上皮と上皮下の固有層からなる.固有層には豊富な血管組織,リンパ組織や神経組織などが含まれている.正常では表面平滑な結膜であるが,隆起性病変として頻度の高い悪性リンパ腫と扁平上皮癌について述べる.CI悪性リンパ腫結膜の隆起性病変を示すリンパ増殖性疾患には,良性の反応性リンパ過形成と悪性リンパ腫があるが,外観が似ているため鑑別が重要である.症状は無痛で,何らかの自覚症状は乏しい.そのため隆起病変出現から確定診断まで約C8カ月を要すとされる.細隙灯顕微鏡所見は両者類似しており,62%の症例で片眼性,残りの症例で両眼性に発生する1).典型では円蓋部結膜から球結膜にサーモンピンク色のヒダ状の表面平滑な病変として認められる.ときに充実性の孤立した腫瘤として認めることもある.病理組織学的には結膜原発の悪性リンパ腫のほとんどがCB細胞性でびまん性の小~中細胞型であり核分裂像はみられない.その他の特徴を認める場合は他臓器リンパ腫からの転移性の可能性を考慮する.片眼性よりも両眼性のほうが転移性のことが多い.ノンホジキンリンパ腫のC1~2%を眼部リンパ腫が占め,結膜原発が30~40%とされている2).1983年より粘膜由来のリンパ腫のうち低悪性度,B細胞性,発育緩徐,粘膜局所限局などの特徴を有するものをCMALT(mucosa-associatedlymphoidtissue)リンパ腫とよぶことで他のリンパ腫と区別されている.頻度が高い順にCMALTlymphoma,濾胞性,巨細胞CB細胞である.C1.病因病因は,何らかの感染もしくは自己免疫疾患などの慢性炎症が関連していると考えられている.たとえば,CChlamydophilaCpsittaci,CHelicobacterCpylori,CBorreliaburgdorferiやCC型肝炎ウイルスによる感染による慢性炎症や甲状腺眼症,橋本病,Sjogren症候群やセリアック病などの自己免疫疾患による慢性炎症などがあげられるが,本当に発症要因であるかは不明である2,3).C2.診断鑑別診断や確定診断には,生検組織を用いて形態組織検査,免疫組織学的検査を行う.免疫組織学的検査ではリンパ球胞体内の免疫グロブリンと細胞表面マーカーの検索を行う.悪性リンパ腫は単クローン性であるが,反応性リンパ過形成においては多クローン性を示すことが鑑別診断に重要な点である.実際には,腫瘍組織が未熟で表面マーカーを発現していない場合や正常組織が混在している場合が多く,免疫組織学的検査では判定が困難なことがある.結膜のリンパ腫を摘出した組織に少量の*HidekiFukuoka:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕福岡秀記:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(11)C1085図1典型的なMALT(mucosa.associatedlymphoidtissue)リンパ腫ヒダ状病変の場合は,結膜.下に腫瘍が伸びていることが多く,完全切除は困難である.C図2孤立性のMALTリンパ腫a:右眼下方のサーモンピンク様の表面平滑な腫瘤病変である.b:腫瘤は孤立性であり怒張した血管が入っているのを確認できる(術中所見).図3病理組織染色切除した組織病理結果からCMALT(mucosa-associatedlymphoidtissue)リンパ腫と判明した.図4胃以外に発生したMALT(mucosa.associatedlymphoidtissue)リンパ腫の治療方針フローチャート病期CIとは,単独リンパ節領域の病変またはリンパ節病変を欠く単独リンパ外臓器または部位の限局性病変と定義される.(造血器腫瘍診療ガイドラインC2013年版より改変)図5扁平上皮癌の前眼部写真図6明確に描出された角膜上の扁平上皮癌①腫瘍組織は角結膜を覆い,境界は不明瞭である.強膜散乱(スクレラル・スキャッター)法で角膜上の異常上皮が明確に区別できる.図7明確に描出された角膜上の扁平上皮癌②フルオレセイン染色の染色パターンの違いにより正常角膜上皮と異常上皮を区別することが可能である.を.離させることが可能である.摘出組織は必ず術中迅速病理診断を行い,切除断端に腫瘍細胞がない(陰性)ことを確認する.切除組織は位置情報を失いやすいので,縫合糸で目印を付け病理医にその情報とともに提出する.小さな腫瘍の場合は,腫瘍切除とC0.04%マイトマイシンCC(MMC)術中塗布や切除断端の冷凍凝固を追加する.冷凍凝固は通常,2~3回冷凍凝固と解凍を繰り返して行う.そのことで結膜切除断端あるいは切除領域の残存腫瘍細胞の除去が期待できる9).OSSNが大きく,手術後に広範囲な眼表面上皮の欠損が予想される場合には再建術を併用する.腫瘍切除により角膜輪部のC1/2周以上にわたって欠損が生じる場合には,上皮供給を目的とし角膜上皮移植を行う.眼球-眼瞼結膜が広範囲に欠損する場合は,上皮化促進,癒着防止の目的で羊膜移植を併用すると有効である.腫瘍が眼窩内や眼球内へすでに浸潤している場合は,一般的にCSCCは放射線治療感受性が高いため放射線照射治療を併用する.放射線治療は放射線科医と相談して照射量を決定し,照射による眼副作用(白内障,放射線網膜症,角膜輪部疲弊)を予防するため鉛コンタクトを装用する.鉛コンタクトレンズは眼瞼を覆わないため,眼瞼の瘢痕性収縮やドライアイの合併症が問題点として残ることを念頭に置く.C5.再発予防のための化学療法OSSNの術後の再発予防のためにC5フルオロウラシル(5-FU)の点眼,抗腫瘍薬(インターフェロンCa2b〔IFNCa2b〕),MMC,抗血管新生薬(VEGF)10~14)の点眼,結膜下注射の有用性が報告されている.筆者らは,腫瘍摘出手術1~2カ月経過後1%5-FU点眼(1日4回1週間点眼をC1クールとしてC2~3クール)の併用を行い良好な経過を得ている.5-FUはフッ化ピリミジン系の代謝拮抗薬で,抗悪性腫瘍薬でありCDNA合成を阻害する.1~5サイクルの投与(1サイクル:1カ月投与C3カ月休薬)で有効率C100%,再発率は最大C20%であるとされている.CIFNa2bはサイトカインの一種で,細胞増殖抑制作用,細胞毒性,抗原特性を有する特徴をもっており,OSSNに対しては点眼や結膜下注射として使用される.点眼での腫瘍縮小効果の有効性はC80~100%との報告もあり,高齢などで切除困難な症例では試してみても良い方法である.MMCはさまざまな酵素により還元されて複数の活性代謝物となり,DNAへの架橋形成,アルキル化,フリーラジカルによるCDNA鎖切断を介してCDNAの複製を阻害し,抗腫瘍効果を示す抗腫瘍性抗生物質である.0.02~0.04%の濃度で使用する.低濃度CMMCはC1カ月使用し高濃度CMMCはC1週間使用する.MMCの副作用には眼球疼痛,角膜輪部上皮幹細胞疲弊,強膜融解,睫毛の白髪化などの副作用がある.点眼での腫瘍縮小効果の有効性はC80~100%にのぼる.抗CVEGF薬を点眼もしくは結膜下注射C3カ月で腫瘍サイズの減少を得たことを報告している.C6.予後と経過観察OSSNは増殖拡大速度が比較的緩徐なため,切除後の再発確認に数年かかる場合がある.拡大切除結膜に腫瘍細胞を含む症例では再発率が高いとされている.海外の研究では拡大切除部位で腫瘍細胞が陰性の場合でもC10年以内の再発率がC1/3と報告している.筆者らの経験では,腫瘍摘出術後に上記の術後C5-FU点眼を併用することにより,再発率を限りなくC0%に抑えられている.術後の経過観察方法であるが,術後数年は数カ月ごとの診察を行い,腫瘍再発の有無と術後の合併症についてチェックを行う.眼表面の不自然な隆起や蛇行血管を見逃さないことが重要である.可能であれば前眼部スリット撮影を毎回行い,前回撮影のものと比較し変化を見逃さないようにする.再発病変を疑った場合は,低侵襲のインプレッションサイトロジーが有用である.10年以上経って再発するケースもあり,少なくともC10年間は2,3回/年の経過観察とする.文献1)ShieldsCCL,CShieldsCJA,CCarvalhoCCCetCal:ConjunctivallymphoidCtumors:clinicalCanalysisCofC117CcasesCandCrela-tionshiptosystemiclymphoma.COphthalmologyC108:979-984,C20012)MoslehiCR,CSchymuraCMJ,CNayakCSCetCal:OcularCadnexal(15)あたらしい眼科Vol.34,No.8,2017C1089’-

結膜の色素性病変:結膜悪性黒色腫

2017年8月31日 木曜日

結膜の色素性病変:結膜悪性黒色腫ConjunctivalMelanocyticLesion:MalignantMelanomaoftheConjunctiva児玉俊夫*白石敦**はじめに―ほくろは悪性黒色腫に変わるか?―結膜の色素性腫瘍を有する患者の診察を行っていると必ず出てくる質問の一つが「この黒い腫瘍は悪性ですか」である.その質問は皮膚科においてよく遭遇する「ほくろは悪性黒色腫に変わりますか」というやりとりによく似ている.古い皮膚科の教科書においても悪性黒色腫がほくろから生じるという記載があり,一般患者のみならず医師でさえそういう認識をもつ者も少なくない.ほくろが悪性黒色腫に変わるかどうかの答えはほくろの定義によるといわれている.すなわち,ほくろが小型の後天性色素細胞母斑を意味するのであれば,母斑から悪性黒色腫に進展することはないとされている1).その鑑別には腫瘍性病変を拡大して観察できるデルモスコピー(用語解説参照)が有用であり,悪性黒色腫の初期病変には色素細胞母斑が残存していないことがその根拠になっている.眼科においては細隙灯顕微鏡を用いて詳細な結膜所見を得ることができるので,術前に結膜腫瘍の性状が把握できれば,治療方針の決定やインフォームド・コンセントを円滑に進めることができる.悪性黒色腫は眼部腫瘍のなかでも生命予後の悪い腫瘍の一つであり,その診断には慎重を要する.本稿では結膜の悪性黒色腫と良性の色素性腫瘍の鑑別について,細隙灯顕微鏡所見と病理組織所見を対比しながら,悪性黒色腫の特徴について解説する.I結膜悪性黒色腫とは悪性黒色腫は結膜のメラニン産生細胞から発生するが,球結膜や瞼結膜に隆起する黒色病変として発症し,短期間のうちに大きくなる(図1a).悪性黒色腫の形態学的特徴として,怒張した腫瘍血管を伴い(図1b),角膜輪部に発生した悪性黒色腫は角膜上皮下に浸潤することもある(図1c,d).組織学的には明瞭な核小体を有し,核異型性を示すメラニン産生細胞の増殖組織である(図2a).メラニン産生細胞が少ない場合には悪性黒色腫の鑑別として免疫組織化学染色を行い,悪性黒色腫のマーカーであるS-100蛋白質(用語解説参照)およびHMB-45(用語解説参照)が陽性であること(図2b,c)および細胞増殖マーカーであるMIB-1index(用語解説参照)が高値であること(図2d)より悪性黒色腫と診断される.松山赤十字病院眼科(以下,当科)における結膜悪性黒色腫の頻度を調べると2004年4月1日~2017年5月31日の13年1カ月間で病理組織学的に確定診断が下された結膜色素性腫瘍67例のうち結膜悪性黒色腫は5例で,その発症頻度は結膜色素性腫瘍の7.5%と決して高いものではない.表1に結膜悪性黒色腫5例の概要を示す.II結膜悪性黒色腫の鑑別診断結膜悪性黒色腫の形態学的特徴をより深く理解するた*ToshioKodama:松山赤十字病院眼科**AtsushiShiraishi:愛媛大学大学院医学系研究科器官・形態領域眼科学〔別刷請求先〕児玉俊夫:〒790-8524愛媛県松山市文京町1松山赤十字病院眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(3)1077図1症例1の前眼部および組織写真a:左眼の球結膜から角膜に進展し,隆起した黒色腫瘍を認める.b:上方の角膜輪部を越えた腫瘍には怒張した腫瘍血管が流入している.c:角膜輪部を越えた腫瘍から角膜上皮に腫瘍細胞の浸潤がみられる().d:角膜に侵入した腫瘍の組織所見.ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色.腫瘍細胞巣は角膜上皮と角膜実質の間隙に浸潤している.図2症例1の免疫組織化学染色a:HE染色.核異型性が高度で大小不同な核を有する類円形細胞が増殖している.細胞内には褐色色素の沈着がみられたことより悪性黒色腫と考えられた.メラニン陽性細胞は少ない.b:S-100蛋白質にびまん性に陽性を示す.c:HMB-45陽性細胞が散在する.d:MIB-1標識率は約40%で細胞増殖が活発であることがわかる.以上の免疫組織化学所見より悪性黒色腫と診断された.表1結膜悪性黒色腫の5症例の概要症例年齢,性別初発部位手術方法・回数後療法転帰(初回手術より)C173歳,女性左)球結膜腫瘍切除C4回羊膜移植C3回DAV3クールマイトマイシンCC点眼は副作用のため中止術後5年10カ月で肺転移のため死亡C254歳,女性左)球結膜腫瘍切除+羊膜移植C1回以後腫瘍切除をC2回行い,いずれもメラノーシスDAV3クール術後4年9カ月の時点で再発なしC327歳,男性右)眼瞼皮膚,瞼結膜,球結膜腫瘍切除C3回羊膜移植C1回切徐C2回目まで母斑と診断,3回目で悪性黒色腫と確定なし術後C1年C4カ月で眼窩内容除去(愛媛大学形成外科)C467歳,男性右)眼瞼皮膚,瞼結膜,球結膜眼瞼・結膜腫瘍切除C3回硬口蓋粘膜移植C1回眼球摘出,眼瞼切徐C1回結膜腫瘍切除のみC1回DAV3クールDAV-Feron3クール眼球摘出後にCFeronを2年間毎月注射術後10年2カ月の時点で再発なしC547歳,男性右)球結膜腫瘍切除+羊膜移植C1回なし術後C1年で受診せずC図3結膜母斑(20歳,女性)a:生後より左眼の鼻側結膜に色素沈着がみられ,成長とともに着色が増加して大きくなってきた.Cb:組織所見(HE染色).結膜上皮内および上皮下に褐色色素を有する細胞が胞巣状に増殖()しており,複合母斑と考えられた.図4小.胞を伴った結膜母斑(59歳,女性)a:数年前より発症した結膜母斑.小.胞を伴っている.Cb:組織所見(HE染色).結膜上皮下に褐色色素を有する細胞が増殖()しており,.胞形成を伴っていた.内容物は好酸性でムチンの可能性がある.C図5結膜悪性黒色腫の前癌病変-PAM(症例2)a:左眼の上耳側に隆起した悪性黒色腫が認められ,腫瘍と角膜の中間には扁平な結膜メラノーシスがみられた.Cb:結膜メラノーシスの組織所見(HE染色):結膜組織に褐色色素を含む異型細胞()を認め,CPAMwithatypiaと考えられた.Cc:悪性黒色腫と結膜メラノーシスを一塊として摘出後,羊膜移植を行った.d:移植した羊膜は生着している.d表2おもな結膜色素性腫瘍の鑑別点母斑CPAM悪性黒色腫発症時期おもに先天性中年中年以降境界鮮明びまん性不鮮明隆起+.+栄養血管+.+~++易出血性C..+.胞+..PAM:原発性後天性メラノーシス.図6強膜メラノーシス(65歳,女性)発症時期は不明だが,強膜に黒褐色の色素沈着を認めた.~図8症例4の腫瘍摘出後の局所再発a:右眼の瞼縁部皮膚と瞼結膜および球結膜に黒色腫瘍を認めたため,初回手術として眼瞼皮膚と瞼結膜腫瘍を同時に摘出し,皮膚移植と硬口蓋粘膜移植を行った.Cb:初回手術時,右眼の上方結膜にもメラノーシス()を認めたために切徐した.Cc:初回手術よりC3カ月後.移植した硬口蓋粘膜と皮膚は生着しており,結膜悪性黒色腫の再発は認めない.Cd:初回手術からC1年後に右眼の上方結膜に黒色腫瘍が発生し,1カ月の間に急激に大きくなった.d図7結膜悪性黒色腫の前癌病変-母斑(症例3)a:右眼の瞼縁部皮膚と瞼結膜に黒色腫瘍を認めたため,眼瞼皮膚と瞼結膜腫瘍を同時に摘出して羊膜移植を行った.b:組織所見(HE染色).結膜下に褐色色素を有する細胞塊を認め,異型性が乏しいことから複合母斑と考えられた.c:初回手術よりC1年C2カ月後に色素性腫瘍が増殖してきたために腫瘍切除を行った.d:組織所見(HE染色).核の不整や大小不同は強く,細胞分裂像も散見され(),異型細胞の密な増殖がみられる.悪性黒色腫と診断された.C表3結膜悪性黒色腫再発のリスクファクター■用語解説■デルモスコピー:光源のついた約C10倍の拡大鏡による検査で,皮膚表面から真皮浅層レベルまでの皮膚状態を観察することができる.とくに色素性病変や皮膚腫瘍の診断において有用である.S.100蛋白質:グリア細胞やメラニン細胞など神経外胚葉由来の細胞質に含まれる.S-100蛋白質は悪性黒色腫のマーカーであるが,母斑でも陽性となる.ただしメラニン色素の少ない悪性黒色腫の鑑別には有用である.HMB.45(HumanMelaninBlack.45):悪性黒色腫やメラノサイト由来の腫瘍内の未熟なプレメラノゾームに存在する糖蛋白質に対する抗体である.悪性黒色腫では陽性だが,成人のメラニン細胞と真皮内母斑では陰性となる.MIB.1index:MIB-1は細胞増殖マーカーであるKi-67抗体のクローンの一つであり,MIB-1陽性細胞が多いということは細胞増殖が活発であることを示す.MIB-1は多くの腫瘍において腫瘍の悪性度や予後とよく相関している.

序説:見逃したくない眼部悪性腫瘍

2017年8月31日 木曜日

見逃したくない眼部悪性腫瘍OcularMalignantTumors─WeshouldnotMissThem渡辺彰英*外園千恵*本特集は,「見逃したくない眼部悪性腫瘍」と題し,眼部の悪性腫瘍に関する知識と理解を深めることを目的として,結膜,眼内,眼瞼,眼窩に至るまで,眼球および眼周囲の腫瘍を網羅し,悪性腫瘍はもちろん,悪性腫瘍と鑑別すべき疾患について,それぞれの領域のエキスパートの先生方に解説していただいた.結膜の着色病変でまず注意しなければならないのは,黒色の病変が悪性腫瘍(結膜悪性黒色腫)であるか,または今後悪性腫瘍に変化する可能性があるのかどうかである.結膜悪性黒色腫は母斑や原発性後天性メラノーシス(primaryacquiredmelanosis:PAM)を発生母地とするため,前癌状態ともいえるこれらの母斑,PAMと悪性黒色腫の鑑別は非常に重要である.また,悪性黒色腫の治療は近年めざましい進歩を遂げており,以前よりも効果の高い分子標的薬などが開発され,予後不良であった悪性黒色腫治療にも希望を与えている.また,結膜には隆起性病変としての悪性腫瘍も存在する.代表的なものは扁平上皮癌と悪性リンパ腫であり,それぞれ特徴的な臨床所見を呈することが多いが,扁平上皮癌は上皮内癌とともに,角膜輪部周囲の隆起性病変との鑑別が,悪性リンパ腫はおもに結膜円蓋部周囲の隆起性病変との鑑別が必要である.いずれの結膜病変も,スリット上での詳細な観察が可能な部位であり,経過観察にて少しでも増大傾向を認める場合には生検や治療開始を直ちに行うことができる部位であるといえる.しかしその反面,見逃してしまった場合に患者さんや医師の受けるダメージは大きく,常に悪性腫瘍の可能性は念頭に置いて診療を行いたい.眼内腫瘍は,乳幼児では網膜芽細胞腫が,成人では転移性腫瘍と悪性黒色腫が代表疾患である.また,眼内悪性リンパ腫は,「治らないぶどう膜炎」として治療されている可能性がある.いずれも悪性度が高い腫瘍であり,治療は視機能と生命とを両天秤にかけての苦渋の決断のうえになされることも多い.鑑別すべき疾患を念頭に置きながら検査を行い,早期診断を要する腫瘍である.眼瞼腫瘍では,脂腺癌と基底細胞癌の頻度が高い.脂腺癌は霰粒腫や脂腺腺腫,基底細胞癌は脂漏性角化症や母斑といった,比較的頻度の高い良性腫瘍と鑑別が必要である.また,脂腺癌のdi.usetypeは,眼瞼炎様の臨床所見を呈することがあり,いたずらに経過をみていてはいけない,まさに見逃したくない腫瘍である.眼窩腫瘍には多くの悪性腫瘍が存在するが,頻度の高い悪性リンパ腫や腺様.胞癌は,診断するため*AkihideWatanabe&*ChieSotozono:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(1)1075

涙囊炎に合併した副鼻腔画像所見

2017年7月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科34(7):1065.1068,2017c涙.炎に合併した副鼻腔画像所見五嶋摩理*1,2齋藤勇祐*2小栗真美*2山本英理華*1尾碕憲子*1川口龍史*1村上喜三雄*1松原正男*2齋藤誠*3*1がん・感染症センター都立駒込病院眼科*2東京女子医科大学東医療センター眼科*3がん・感染症センター都立駒込病院臨床研究支援室ComputedTomographyImagingofSinusinDacryocystitisMariGoto1,2),YusukeSaito2),MamiOguri2),ErikaYamamoto1),NorikoOzaki1),TatsushiKawaguchi1),KimioMurakami1),MasaoMatsubara2)andMakotoSaito3)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanKomagomeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast,3)DivisionofClinicalResearchSupport,TokyoMetropolitanKomagomeHospital目的:涙.炎を合併した鼻涙管閉塞における鼻腔や副鼻腔の異常をcomputedtomography(CT)で調べ,炎症の関与および手術に際しての留意点を予測した.対象および方法:涙.鼻腔吻合術の術前に副鼻腔CTを施行した片側性の慢性涙.炎症例36例の患側におけるCT所見を健側と比較検討した.結果:副鼻腔炎と副鼻腔炎術後例の合計は,患側のみが9例,健側のみが1例であり,患側に有意に多かった.鼻中隔弯曲は,患側と健側への弯曲がそれぞれ5例ずつで,両側の狭鼻腔を3例に認めた.本人の記憶にない鼻骨骨折と患側の眼窩壁骨折が1例ずつ発見された.結論:慢性涙.炎における副鼻腔の炎症は,健側に比べて患側で有意に多かった.Purpose:Toreporton.ndingsinthenasalcavityandsinusbycomputedtomography(CT)incasesofdac-ryocystitis,forassessmentofunderlyingin.ammatoryfactorsandsurgicalprecautions.Method:Investigatedwere36unilateralcasesofchronicdacryocystitisthatunderwentsinusCTpriortodacryocystorhinostomy(DCR).CT.ndingswerecomparedwiththefellowside.Result:Sinusitiscasespluspostsurgicalsinusitiscasestotaled9onthedacryocystitissideonly,versusoneonthefellowsideonly,provingastatisticallysigni.cantdi.erence.Nasalseptumwasdeviatedtothedacryocystitissidein5casesandtothefellowsidein5cases.Threecasesshowedbilaterallynarrownasalcavity.Asymptomaticfracturewasfoundinthenasalboneandtheorbital.oorindi.erentcases.Conclusion:In.ammationofthesinusonthedacryocystitissidewassigni.cantlymorefrequentthanonthefellowside.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1065.1068,2017〕Keywords:CT,涙.炎,副鼻腔炎,無症候性骨折,涙.鼻腔吻合術.computedtomography,dacryocystitis,si-nusitis,asymptomaticbonefracture,dacryocystorhinostomy.はじめに鼻涙管閉塞の発生には,炎症が関与するとされる1,2).Kallmanらは,鼻涙管は,解剖学的に鼻腔や副鼻腔と隣接しているため,これらの部位の炎症が,鼻涙管に波及する可能性があると指摘している3).筆者らは,涙.炎を合併した鼻涙管閉塞における鼻腔や副鼻腔の異常をcomputedtomography(CT)で調べ,炎症の関与および手術に際しての留意点を予測したので報告する.I対象および方法対象は,平成23年8月.平成27年1月に,東京女子医科大学東医療センターまたは都立駒込病院において,涙.鼻腔吻合術の術前検査として副鼻腔CTを施行した片側性の慢性涙.炎(涙管通水時に排膿を認める鼻涙管閉塞)症例36例36側(男性11例,女性25例),年齢28.95歳(平均70.3±標準偏差13.5歳)である.患側は,右が22例,左が14例であった.〔別刷請求先〕五嶋摩理:〒113-8677東京都文京区本駒込3-18-22がん・感染症センター都立駒込病院眼科Reprintrequests:MariGoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanKomagomeHospital,CenterforCancerandInfectiousDiseases,3-18-22Honkomagome,Bunkyo-ku,Tokyo113-8677,JAPAN表1副鼻腔CTの結果年齢性別患側副鼻腔炎*副鼻腔炎術後*鼻中隔弯曲**その他*72男左左眼窩内壁骨折(図3)77女左左75女右左73女右右85女右右左鼻骨骨折75男右右(真菌性)(図1)64女左左78女右右,左32女右右82男右81男右右左71男左狭鼻腔(図2)66女右右狭鼻腔74女右83女左80女左左右75女左66男右82女左28女右44女左左右74男左61女左63女右右69女右63女左60女左60女右左77男右狭鼻腔67男右右72男右72女右75女右79男右右79女右右95女左右患側におけるCT所見を健側と比較検討した.検討項目は,副鼻腔炎の有無(副鼻腔に膿の貯留が認められるものを副鼻腔炎と診断した),副鼻腔手術の既往,鼻中隔弯曲の方向,狭鼻腔ならびに骨折の有無とした.II結果(表1)副鼻腔炎:患側の慢性上顎洞炎を男性11例中2例(19%),女性25例中5例(20%)に認めた.このうち男性1例で石灰化を伴い,真菌性副鼻腔炎と考えられた(図1).ほか男性1例,女性2例が患側の上顎洞炎術後であった.一方,健側における慢性上顎洞炎は女性1例で,健側の上顎洞炎術後例は,両側術後の女性1例のみであった.副鼻腔炎合併例と副鼻腔炎術後例を合計すると,36例中11例(30.5%)であった.これらを患側と健側に分けて検討すると,患側のみが9例,健側のみが1例となり,副鼻腔の炎症は,術後例も含めると,有意差をもって涙.炎と同側に認められた(二項検定,p=0.039).鼻中隔弯曲と狭鼻腔:鼻中隔弯曲は患側方向,健側方向にそれぞれ5例ずつ,いずれも男性1例,女性4例に認められた.このうち,上顎洞炎も合併した症例は,健側に弯曲した2例であったため,上顎洞炎を合併しない鼻中隔弯曲例に限ると,この2例を除く8例中,患側への弯曲が5例(62%)となった.患側への弯曲例も,全例涙.鼻腔吻合術鼻内法が施行できた.一方,両側の狭鼻腔は男性2例,女性1例に認められ(図2),涙.鼻腔吻合術鼻外法が適応となった.骨折:鼻骨骨折と眼窩壁骨折が1例ずつ発見された.鼻骨骨折は女性の健側にみられ,軽度であった.一方,男性の患側における眼窩内壁骨折では,眼窩内容の脱出も伴っていたが(図3),複視や眼球運動制限などの自覚症状はなかった.涙.鼻腔吻合術は鼻内法で行ったが,のみの使用を避けた.いずれの症例も,撮影後の問診で外傷歴が判明した.III考按鼻涙管閉塞は,中高年の女性に多く,顔面骨格の違いが性差の背景にある可能性が指摘されている4).一方,鼻涙管閉塞においては,鼻性の要因が関与し,炎症が遷延・再燃しやすい可能性が推察されている3,5).上岡は,涙道閉塞307例の術前検討で,副鼻腔炎が18例,副鼻腔炎術後が19例,鼻中隔弯曲が4例,顔面骨骨折が男性のみで3例認められたと報告している5).このことから,副鼻腔の炎症ないし術後の炎症が涙道閉塞の契機になった可能性が考えられた.上岡の報告では,副鼻腔炎と副鼻腔炎術後例の合計は,307例中37例(14%)となるが,涙.炎合併の有無に関する記載がなく,涙.炎を合併しない閉塞例も含まれることが本検討と異なると考えられる.一方,Dinisらは,60例の涙.炎症例におけるCT所見か*太字は患側,**太字は患側方向.図1真菌性副鼻腔炎合併例のCT右真菌性上顎洞炎(★)を合併した右鼻涙管閉塞例.図2両側狭鼻腔例のCT両側の狭鼻腔(.)を認める左鼻涙管閉塞例.涙.鼻腔吻合術は鼻外法で施行した.★図3眼窩壁骨折合併例のCT左眼窩内壁骨折(.)を合併した左鼻涙管閉塞例.涙.鼻腔吻合術は鼻内法で行ったが,のみの使用を避けた.ら,副鼻腔炎の頻度が対照群と比較して差がなかったとしている6).しかし,これら既報においては,健側と患側に分けての検討がされていない.筆者らは,涙.炎を合併した片側性の鼻涙管閉塞例について検討を行い,副鼻腔炎と副鼻腔炎術後例を合わせると,患側に有意に多いという結果を得た.本検討でみられた副鼻腔炎はいずれも上顎洞炎であったが,上顎洞は,鼻涙管に近接し,中鼻甲介の下方に位置する自然孔である半月裂孔に開口するため,この部位の炎症が鼻涙管にも波及した可能性がある3).副鼻腔炎術後例に関しては,術前の副鼻腔の炎症のほか,手術そのものによる炎症の影響も考えられる5).Leeらは,39例中25例(64%)で鼻中隔が鼻涙管閉塞側に弯曲していたと報告している4).この報告では,副鼻腔所見についての言及がないが,今回の鼻中隔弯曲における検討で,上顎洞炎の関与を除外すると,患側への弯曲例は8例中5例(62%)となり,Leeらの結果とほぼ一致する.以上のことから,鼻中隔の弯曲による鼻腔の狭さ,鼻涙管に隣接した副鼻腔の炎症,あるいは術後炎症のいずれもが鼻涙管閉塞の発生や涙道内の炎症と関連している可能性が推測される.なお,患側への弯曲があっても,涙.鼻腔吻合術鼻内法は可能であり,術式への影響はなかった.術式に影響した因子としては,両側の狭鼻腔と患側の眼窩内壁骨折があった.前者では涙.鼻腔吻合術鼻外法を行い,後者では,涙.鼻腔吻合術鼻内法の際に,のみの使用を避けた.なお,本検討には含まれなかったが,鼻涙管閉塞におけるCTでは,腫瘍性病変や鼻腔の広汎なポリポーシスが発見されることもあるため7),これらの疾患も念頭においた術前精査が肝要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LindbergJV,McCormickSA:Primaryacquirednasolac-rimalductobstruction.Aclinicopathologicreportandbiopsytechnique.Ophthalmology93:1055-1063,19862)TuckerN,ChowD,StocklFetal:Clinicallysuspectedprimaryacquirednasolacrimalductobstruction.Clinico-pathologicreviewof150patients.Ophthalmology104:1882-1886,19973)KallmanJE,FosterJA,WulcAEetal:Computedtomog-raphyinlacrimalout.owobstruction.Ophthalmology104:676-682,19974)LeeJS,LeeHL,KimJWetal:Associationoffaceasym-metryandnasalseptaldeviationinacquirednasolacrimalductobstructioninEastAsians.JCraniofacSurg24:1544-1548,20135)上岡康雄:鼻と涙道疾患─鼻・副鼻腔疾患と涙道疾患との関連─.耳展42:198-202,19997)FrancisIC,KappagodaMB,ColeIEetal:Computed6)DinisPG,MatosTO,AngeloP:Doessinusitisplayatomographyofthelacrimaldrainagesystem:Retrospec-pathologicroleinprimaryacquiredobstructivediseaseoftivestudyof107casesofdacryostenosis.Ophthalmicthelachrymalsystem?OtolaryngolHeadNeckSurg148:PlastReconstrSurg15:212-226,1999685-688,2013***

裂孔原性網膜剝離硝子体術後の網膜皺襞に対して手術が有効であった2例

2017年7月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科34(7):1060.1064,2017c裂孔原性網膜.離硝子体術後の網膜皺襞に対して手術が有効であった2例野村僚子水口忠谷川篤宏堀口正之藤田保健衛生大学医学部眼科学教室TwoCasesofSurgicalRepairofRetinalFoldfollowingRetinalDetachmentSurgeryRyokoNomura,TadashiMizuguchi,AtsuhiroTanikawaandMasayukiHoriguchiDepartmentofOphthalmology,FujitaHealthUniversitySchoolofMedicine背景:裂孔原性網膜.離(RRD)術後の網膜皺襞に対して硝子体手術が有効であった症例を2例経験したので報告する.症例1:58歳,男性.左眼RRDに対して,前医にて硝子体手術施行.術後1時間安静ののち帰宅.術後網膜皺襞を認め,当院紹介.初診時左眼視力(0.3).左眼水晶体再建術,硝子体同時手術を施行.術後,網膜皺襞は消失し,左眼視力は(0.5)に改善した.症例2:48歳,男性.左眼RRDに対して,前医にて水晶体再建術,硝子体同時施行.術後体位を十分に指導されなかった.術後網膜は復位するも,網膜皺襞を認めたため,再手術目的に当院紹介.初診時視力左眼(0.3).左眼硝子体手術を施行.網膜皺襞は消失し,左眼視力は(0.7)に改善した.結論:今回の症例では,急な発症,上側裂孔,黄斑に及ぶ網膜.離,術直後の安静の不十分さが網膜皺襞の形成に関与したと考えられた.2例とも内境界膜.離を伴う硝子体手術により網膜皺襞は消失した.Background:Retinalfoldisararecomplicationfollowingrhegmatogenousretinaldetachment(RRD)surgery.Wereporttwocasesofe.ectivesurgicalrepairofretinalfoldfollowingRRDsurgery.Case:Case1,a58-year-oldmale,underwentRRDsurgeryandreturnedhomeafterrestofonehouratapreviousclinic.Threeweeksafterthesurgery,retinalfoldwasnoted.Hethenreferredtoourhospitalandunderwentvitrectomy.Theretinalfolddisappeared.Case2,a48-year-oldmale,underwentRRDsurgeryatapreviousclinic.Hewasnotinstructedtokeephisfacedownpost-operatively.Afterthesurgery,retinalfoldwasnoted.Afterweperformedvitrectomy,theretinalfolddisappeared.Conclusion:Inourcases,lackofmaintainingpostoperativeposturejustafteresurgerymayplayapartintheformationofretinalfold,whichwassuccessfullyrepairedbyvitrectomywithinternallimit-ingmembranepeeling.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1060.1064,2017〕Keywords:裂孔原性網膜.離硝子体術後,網膜皺襞.retinaldetachmentsurgery,retinalfolds.はじめに網膜皺襞は裂孔原性網膜.離(rhegmatogenousretinaldetachment:RRD)手術後のまれな合併症である1,2).黄斑部の網膜皺襞は,網膜外層に恒久的な障害を起こすため,早期外科的治療が考慮される3).網膜皺襞の手術治療の報告は多くなく4.9),術式に関して定まった見解はない.今回筆者らは,術後の網膜皺襞に対して硝子体手術が有効であった症例を2例経験したので報告する.I症例〔症例1〕58歳,男性.主訴:左眼の視野障害.現病歴:2015年1月初旬より左眼半分の視野異常を訴え,同年1月下旬に前医を受診した.左眼上耳側に網膜裂孔と,上側から黄斑を超えて下方に及ぶ網膜.離を認めた.同日硝子体手術を施行した.術後1時間安静し,そのまま自動車に乗せてもらい帰宅した.午前4時間,午後4時間の〔別刷請求先〕野村僚子:〒470-1192愛知県豊明市沓掛町田楽ケ窪1-98藤田保健衛生大学医学部眼科学教室Reprintrequests:RyokoNomura,M.D.,DepartmentofOpthalmology,FujitaHealthUniversitySchoolofMedicine,1-98Kutsukake-cho,Dengakugakubo,Toyoake-city,Aichi470-1192,JAPAN1060(144)図1症例1の初診時左眼眼底写真(a)とOCT(b)黄斑に及ぶ網膜皺襞を認める.図2症例1の術後左眼眼底写真(a)とOCT(b)網膜皺襞は消失した.下向きを指導された.同年2月中旬の再診時に網膜皺襞を認め,ゆがみも自覚するため,同年2月下旬,当院紹介となった.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼1.2(矯正不能),左眼0.1(0.3×.1.50D(cyl.0.75DAx140°),非接触圧平眼圧計検査では右眼13mmHg,左眼14mmHg.細隙灯顕微鏡検査では両眼軽度白内障(Emery-Little分類NS2度)を認めた.眼底検査では,左眼網膜は復位していたが,黄斑に及ぶ網膜皺襞を認めた(図1a,b).Amsler検査にて歪みの自覚を認めた.眼底直視下微小視野計検査にて網膜皺襞に一致した網膜感度の低下を認めた.治療経過:2015年3月中旬に左眼SF6(sulfurhexa.uo-ride)ガス注入術を施行した.しかし,網膜皺襞は変化しなかった.同年4月初旬に左眼水晶体再建術,25ゲージ経結膜硝子体手術を施行した.ブリリアントブルーグリーン(以下,ILM-BLUER)にて染色後,25ゲージ硝子体鑷子で内境界膜.離した.41Gカニューラで網膜皺襞の近くの網膜下にbalancedsaltwater(以下,BSSR)を注入し,網膜.離を作製した.網膜皺襞は伸展し,ドーム状の網膜.離となった.網膜下液は吸引せずに液-空気置換をした後,SF6ガスを注入した.術後,網膜皺襞は消失し(図2),自覚症状も改善した.2016年1月中旬の左眼視力は,(0.5×.1.00D)に改善した.眼底直視下微小視野計検査にて術前と比較し,網膜感度の低下は改善した.〔症例2〕48歳,男性.主訴:左眼の違和感.現病歴:2015年10月中旬に左眼の違和感を感じ,2日後に前医受診.翌日,左眼上側と耳側の網膜裂孔と,上側から黄斑を超えて血管アーケードまで及ぶ網膜.離を認め,左裂孔原性網膜.離にて,同日,左硝子体白内障同時手術施行.術後のFacedownの方法を十分に指導されず,術直後から坐位で飲食をしていた.術後網膜は復位していたが,後極に黄斑皺襞が残存しており,再手術目的にて2016年2月26日に当院紹介となった.既往歴,家族歴に特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼0.06(1.5×.8.50D),左眼0.03(0.3×.8.00D(cyl.1.00DAx160°),非接触圧平眼圧計検査では右眼20mmHg,左眼21mmHg,細隙灯顕微鏡検査では右眼軽度白内障,左眼眼内レンズ挿入眼を認めた.眼底検査では,左眼網膜は復位していたが,後極に網膜皺襞を認めた.超広角眼底写真にて後極に及ぶ網膜皺襞を認め,光干渉断層計検査にて網膜皺襞を認める(図3).図3症例2の初診時左眼超広角眼底写真(a)とOCT(b)後極に網膜皺襞を認める.図4症例2の術後左眼超広角眼底写真(a)とOCT(b)網膜皺襞は消失している.治療経過:2016年3月下旬に左眼25ゲージ経結膜硝子体手術を施行した.ILM-BLUERにて染色後,25ゲージ硝子体鑷子で内境界膜.離した.41ゲージカニューラで網膜皺襞の近くの網膜下にBSSRを注入し,網膜.離を作製した.網膜皺襞は伸展し,ドーム状の網膜.離となった.網膜下液は吸引せずに液-空気置換をした後,SF6ガスを注入した.術後,網膜皺襞は消失し(図4),自覚症状も改善した.同年0月中旬の左眼視力は,(57.×.7.75D(=cyl.1.25DAx160°)裂による網膜のずれ,バックリング手術時のガス注入過多などがあげられる1.3).網膜皺襞は,硝子体手術時に後極に内部排液のための意図的裂孔作製をしたり,per.uocarbonliquid(PFCL)を使用したりすることで,術中により完全に網膜下液を排出すれば防ぐことができる.術後の下向き姿勢も,黄斑から網膜下液を排出するのに役立つ.黄斑に網膜皺襞が及べば,視力障害は必発となる.自然に網膜皺襞が伸展した症例も過去に報告されている4)が,多くは不可逆性の歪みが残存してしまう.であった.眼底直視下微小視野計検査にて術前と比較し,網膜感度の低下は改善した.II考按網膜皺襞は裂孔原性網膜.離手術後のまれな合併症である1.3).網膜皺襞は網膜.離部分と未.離部分との間にできる.網膜下液が吸収されるときに,強膜バックルによる網膜組織の余剰や胞状網膜.離による網膜の伸展により網膜皺襞が形成される.網膜皺襞形成の危険因子として,上方の胞状網膜.離,広範囲の強膜バックリング,巨大裂孔や鋸状縁断網膜皺襞が形成されて1週間もすると,視細胞の障害が現れはじめる.黄斑の網膜皺襞は典型的に視力予後が不良であるため,この網膜.離術後の合併症を解剖学的に治すいくつかの手術方法が報告されている.ChenXら5)によると,黄斑部に及ぶ裂孔原性網膜.離において裂孔が閉鎖していれば,完全に網膜下液を排液した群と不完全排液群では術後の網膜復位率と術後視力は有意差がなかったと報告している.しかし,不完全排液の場合は術後下向き姿勢が必要になる.網膜皺襞を生じないためには術中の完全な網膜下液の排液が重要であると考えられる.術後に網膜皺襞を起こしやすい裂孔原性網膜.離の特徴と表12症例の危険因子RBの位置maculaon/o.日帰り/入院術後安静胞状網膜.離急性発症意図的裂孔症例1上側o.日帰り×不明1.3週間×症例2上側と耳側o.入院×◯2日×表2過去の手術方法著者Subretinalbleb作製液-空気置換タンポナーデ物質術後姿勢その他,必要とした処置Witkinら41GBSSありSF6facedownEl-Amirら41GBSSありairfacedownHerbertら41GBSSなしheavysiliconeoilspinerepeatedvitrectomyPFCLremovalTrinhら39GBSSありsiliconeoil記載なしlaserretinopexy,retinotomyLeandroら41GBSSありC3F8nospeci.cheadposioninglaserretinopexy,retinotomy筆者ら41.GBSSありSF6facedownILMpeelingして,網膜上側裂孔,胞状網膜.離,黄斑に及ぶ網膜.離,急な発症などが危険因子としてあげられる6.11).今回の2症例の危険因子について検討した(表1).2例とも裂孔が上側にあり,.離範囲が上側から黄斑部を超えており,その下方は.離していなかった.症例1では日帰り手術,症例2では入院手術であったが,どちらも術直後のうつぶせはできていなかった.さらに症例2では,胞状網膜.離を認めた.症例1は,発症後1.3週,症例2は発症2日後に来院している.2症例とも内部排液のための意図的裂孔は作製されていなかった.これらにより,術後に残存した網膜下液が下方に移動して,網膜皺襞が形成されたと考察される.Isaicoら11)は,術後の網膜皺襞の危険因子として,日帰り手術をあげている.その発生率は,外来手術で1.96%であったのに対して,入院手術では,0.06%であった.この差は術式によるものではなく,術後の下向きが厳格になされたかどうかによると結論している.加えて,Isaicoら11)は,外来手術での術後少なくとも2時間は厳格に下向き姿勢をとるように,患者用パンフレットを作成し,患者教育した結果,その後18カ月,497例で網膜皺襞は発生していないと報告している.筆者らの症例でも日帰り,入院の違いはあるものの,どちらも術直後の下向きはできていなかった.手術方法に定まった見解はないが,過去の報告では,BSSRを網膜下に注入し,網膜.離を作製する方法が一般的である6.11).その後液-空気置換をすることで,.離部位が後極に移動し,網膜皺襞が伸展し,解除される.網膜下液は,除去しないという報告が多い6,8,9,11)が,ガスタンポナーデ,下向き姿勢で吸収されていく.タンポナーデ物質や術後の姿勢はさまざまであった(表2).筆者らの2症例では,ILM-BLUERによる染色後,内境界膜を.離した.その後41ゲージカニューラでBSSRを網膜皺襞近くの網膜下に注入し,網膜.離を作製し,網膜皺襞を伸展させ解除させた.網膜下液は,除去せずに液-空気置換し,SF6ガスでタンポナーデした.2症例とも同様の方法で,残存網膜下液は,術後自然吸収された.2症例ともドレナージ用の網膜切開や眼内網膜光凝固は行っていない.さらに網膜皺襞解除にPFCLを使用していない.PFCLを使用すれば除去のための再手術を必要とする.筆者らはSF6ガスを使用したが,網膜下液が通常24時間以内に吸収されるため12),空気によるさらに短期間のタンポナーデでもよかった可能性もある.網膜皺襞の解除法や,そもそも手術しなくても網膜皺襞が自然に解除されるかどうかについても,いまだ明確な答えはない.網膜下にBSSRを注入してブレブを作製することは,再網膜.離を起こすため,視細胞に対してさらなる障害を与える可能性がある.また,ガスタンポナーデにより.離した網膜が黄斑に移動してしまう可能性もある13).筆者らは,過去の報告と異なり内境界膜を.離した.内境界膜を.離することで,網膜の伸展性が回復し,皺襞が戻りやすくなる14)と考えた.しかしBSSRを網膜下に注入する際に黄斑円孔を生じる危険がある.とくに内境界膜.離まで行う場合,網膜下にBSSRを注入する手技は非常にゆっくり行う必要がある.筆者らは,黄斑に対する合併症や手術侵襲の可能性があっても,黄斑が含まれる網膜皺襞では,視力障害が深刻であり,早急な手術による網膜皺襞の回復が必要と考えた.筆者らの方法は裂孔原性網膜.離術後の網膜皺襞を解剖学的に解除し,恒久的な視細胞障害,視力障害を防ぐと考えられた.文献1)PavanPR:Retinalfoldinmacularfollowingintraoculargas:anavoidablecomplicationofretinaldetachmentsur-gery.ArchOphthalmol102:83-84,19842)LarrisonWI,FrederickAR,PetersonTJetal:Posteriorretinalfoldsfollowingvitreoretinalsurgery.ArchOphthal-mol111:621-625,19933)HayashiA,UsuiS,KawaguchiKetal:Retinalchangesafterretinaltranslocationsurgerywithscleralimbricationindogeyes.InvestOphthalmolVisSci41:4288-4292,20004)AhnSJ,WooSJ,AhnJetal:Spontaneousresoluteionofmacularfoldfollowingretinalreattachment:morphologicfeaturesonSDOCT.OphthalmicSurgLasersImaging42:e81-e83,20115)ChenX,ZhangY,YanYetal:Completesubretinal.uiddrainageisnotnecessaryduringvitrectomysurgeryformacula-o.rhegmatogenousretinaldetachmentwithperipheralbreaks:AProspective,NonrandomizedCom-parativeIntervenetionalStudy.Retina37:487-493,20176)WitkinAJ,HsuJ:Surgicalrepairofmacularfoldsaftervitrectomyforbullousrhegmatogenousretinaldetachment.Retina32:1666-1669,20127)HeimannH,BoppS:Retinalfoldsfollowingretinaldetachmentsurgery.Ophthalmologica226:18-26,20118)El-AmirAN,EveryS,PatelCK:Repairofmacularfoldfollowingretinalreattachmentsurgery.ClinExperimentOphthalmol35:791-792,20079)HerbertEN,GroenewaldC,WongD:Treatmentofreti-nalfoldsusingamodi.edmacularelocationtechniquewithper.uorohexyyloctanetamponade.BrJOphthalmol87:921-922,200310)ZachariasLC,NobregaPFC,WalterYetal:Surgicalcor-rectionofretinalfoldsinvolvingthefovea.OphthalmicSurgLasersImagingRetina45:50-53,201411)IsaicoR,MalvitteL,BronAMetal:Macularfoldsafterretinaldetachmentsurgery:thepossibleimpactofoutpa-tientsurgery.GraefesArchClinExpOphthalmol251:383-384,201312)TornambePE:Pneumaticretinopexy.SurvOphthalomol32:270-281,198813)deJuanEJr,VanderJF:E.ectivemaculartranslocationwithoutscleralimbrication.AmJOphthalmol128:380-382,199914)LoganHB:Macularholesurgerywithandwithoutinter-nallimitingmembranepeeling.Ophthalmology107:1939-1949,2000***