●連載◯286監修=稗田牧神谷和孝286.放射状角膜切開術後の長期角膜岩本悠里高静花大阪大学医学部眼科学教室屈折力変化放射状角膜切開術(RK)後に進行性の角膜扁平化が生じることは知られている.RK後C20年以上経過した患者の長期的な角膜屈折力の変化の検討でも,角膜扁平化や不正乱視の増加,屈折力の変動が大きいことがわかった.白内障手術目的でCRK後患者が受診した際には,とくに眼内レンズ選択において十分な注意が必要である.●はじめに放射状角膜切開術(radialkeratotomy:RK)はC1980.1990年代にかけて行われていた屈折矯正手術である.前方角膜を放射状に切開することで角膜中央部を平坦にし,近視を矯正する.術後C10年の長期報告によれば,RKは妥当な安全域を有しているとされているが1),RKに伴う術後合併症には以下のようなものが知られている.術後長期にわたる遠視化,正乱視および不正乱視の増加,屈折の日内変動,ハロー・グレアの出現,角膜生体力学的強度の低下,角膜穿孔,角膜内皮機能障害,三叉神経切断に伴うドライアイ,感染症などである2).新しい屈折矯正手術の出現によりCRKは現在ではほぼ行われていない.C●角膜屈折力の経時的変化RK後に角膜扁平化が生じることは知られており,Scheimp.ugカメラを用いた既報においても角膜前面および後面の曲率半径の球面成分の減少がみられ,角膜前面および後面の平衡性の崩れ,角膜曲率の前後比の減少も報告されている3).RK後C20年間の視力やケラトメトリーの値に関する症例報告は知られているが,長期にわたって角膜前面,後面について経時的に検討した報告は知られていない.1990年代にCRKを受け,術後C20年以上経過した患者について,前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)を用いて長期的な角膜屈折力の変化を後ろ向きに検討したので紹介する4).C●症例初診時C41歳,男性.1993年に両眼CRK施行.術後から霧視の訴えがあり,1997年当科紹介受診.細隙灯顕微鏡検査で両眼角膜に8本の放射状切開痕,微小穿孔(microperforation:MP)を認め,左眼には乱視矯正角膜切開術(astigmatickeratotomy:AK)も併用されていた(図1).(83)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1症例1の細隙灯顕微鏡検査写真両眼ともにC8本切開のCRK痕が認められる..はMP,.はAKの瘢痕を示している.(文献C4より改変引用)初診時右眼視力はC0.1(0.5×sph+11.0(cyl.5Ax5°),左眼はC0.07(0.5×sph+13.0(cyl.5Ax180°)と強い遠視化を認めた.初診時から両眼ともに球面ハードコンタクトレンズ装用を開始,2023年現在も継続している.RKの術中角膜穿孔はCMPとCmacroperforationに分類される.Macroperforationと異なりCMPは通常,縫合や手術の中止を必要としないがCMPによる瘢痕は不正乱視を誘発する可能性があり,約C2.35%の患者に発生する.OCTを用いた屈折力の評価は,Fourier解析を用いて球面成分,正乱視成分,非対称成分,高次不整成分のC4成分に分類し,それぞれ定量化した.後者二つの非対称成分,高次不整成分が角膜不正乱視である.片眼または両眼にCMPを生じたC3人の患者においてC8年以上COCTを用いて角膜屈折力を評価したところ,総じて「角膜扁平化,不正乱視が強い,また観察期間中の変動が大きいことがわかった(図2).角膜前面および後面の不正乱視がともに大きく,経過中の変動が大きい傾向があった.前面の非対称成分は観察期間中に減少傾向を認めた.提示症例のように片眼のみに乱視矯正角膜切開術が追加された症例では,前面および後面の正乱視成分と後面の非対称成分の両方で値が大きかった.RKの術前および術中の情報がないため詳細は不明だが,手術適応および術式が適切であったかどうかが不正乱視の量に影響している可能性がある.あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024319a球面成分(D)角膜前面50454035302520151050192021222324252627282930(Y)c非対称成分角膜前面(D)(D)122.510281.56140.5200192021222324252627282930(Y)192021222324252627282930(Y)Case1RCase1LCase3RCase3L(D)角膜後面0-1-2-3-4-5-6192021222324252627282930(Y)角膜後面b正乱視成分角膜前面(D)3.5(D)0.7角膜後面30.62.50.521.510.50192021222324252627282930(Y)d高次不整成分(D)角膜前面2.521.510.50192021222324252627282930(Y)Case2RCase2LCase4RCase4L0.40.30.20.10192021222324252627282930(Y)(D)角膜後面0.80.70.60.50.40.30.20.10192021222324252627282930(Y)図2角膜屈折力変化(角膜前面,後面)横軸はCRK後の年数.Case1とCCase3は両眼に,Case2は右眼のみにCMPを伴っている.Case4は術後裸眼視力含め経過良好なCRK後の症例を対照例として示した.(文献C4より改変引用)●RK患者を診たら現在CRKが行われることはなくなった.しかし,RK後の患者が加齢に伴って白内障手術のために眼科を受診する機会は増えてきている.もともと近視眼ゆえ,緑内障,網膜疾患などの診断および治療で受診する可能性も十分にある.RK眼では前述のとおり,前後面の角膜曲率半径の比率が変化するため,標準的な眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数計算式では換算屈折率の誤差が大きく,IOLの度数ずれを引き起こす可能性が高い.術後のCIOL度数計算式の比較について数多くの研究がなされている.術後屈折値のより正確な予測のためには,BarrettTrueK式,標準CHaigis式,またはそれらの式を含め,平均C3種類以上の計算式を用いることが推奨されている5).術後のCIOL度数ずれについても患者に十分な術前説明が必要である.不正乱視の増大やハロー・グレアなどの合併症を伴う患者も多く,多焦点IOLは推奨されない.術中にCRK切開部の.離や,同部位の穿孔リスクがあることから,切開の部分を適切に計画することも重要である.C●おわりにRK施行眼では術後C20年以上経過しても角膜屈折力C320あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024の変動が見られるため,術後長期経過後も注意深い観察が必要である.RK後の患者が受診した際には十分な説明,とくに白内障手術の際はCIOLの選択に注意を要する.文献1)WaringCGOCIII,CLynnCMJ,CMcDonnellPJ:ResultsCofCtheCprospectiveevaluationofradialkeratotomy(PERK)study10yearsaftersurgery.ArchOphthalmolC112:1298-1308,C19942)山口達夫:角膜全面放射状切開術の現況.眼科手術C5:C19-30,C19923)CamellinCM,CSaviniCG,CHo.erCKJCetal:Scheimp.ugCcam-erameasurementofanteriorandposteriorcornealcurva-tureCinCeyesCwithCpreviousCradialCkeratotomy.CJCRefractCSurgC28:275-279,C20124)IwamotoCY,CKohCS,CInoueCRCetal:Long-termCcornealCrefractiveCpowerCchangesCtwoCdecadesCqfterCradialCkera-totomywithmicroperforations.EyeContactLens49:258-261,C20235)Do.owiec-KwapiszCA,CMisiuk-Hoj.oCM,CPiotrowskaH:CCataractCsurgeryCafterCradialCkeratotomyCwithCnon-di.ractiveCextendedCdepthCofCfocusClensCimplantation.Medicina(Kaunas)C58:689,C2022(84)