●連載◯288監修=稗田牧神谷和孝289.ICL術後診察のポイント後藤田哲史中京眼科後房型有水晶体眼内レンズであるCICLは毛様溝に固定されるため,水晶体.内に固定する白内障手術とは異なる視点で術後診察を行う必要がある.ICL挿入眼の増加に伴い,屈折矯正専門施設だけでなく,一般の病院・クリニックでもCICL挿入眼の患者を診る機会が増えることが想定されるので,ICL術後診察のポイントを事前に把握しておくことが肝要である.C●はじめにIntraocularCcollamerlens(ICL)挿入術は,近年,レンズ自体の進歩,インフルエンサーのCSNSなどでの情報発信,術後合併症の大幅な改善により,屈折矯正手術の主流になりつつある.JSCRSCClinicalSurveyでも,「現在行っている屈折矯正手術」と「今後有用と思う屈折矯正手術」という設問に対し,どちらも「ICL挿入術」の回答が最多であった1).わが国における近視人口の増加も相まって,本稿読者がCICL挿入後の患者を診る機会も増えると思われる.今回は,ICL挿入術の術後に行う各種眼科検査別に,術後診察のポイントを解説する.C●細隙灯顕微鏡検査,眼底検査受診時に毎回細隙灯顕微鏡検査にて前眼部所見,vault(ICLと水晶体との距離),レンズのポジショニングなどを確認する.前眼部所見に関しては,炎症の程度,感染症の有無,レンズ脱臼の有無など,ICL挿入術に伴う合併症がないか詳しくチェックしていく.Vaultは細隙灯顕微鏡検査でも定性的に評価できるが(図1),後述するように前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)を用いれば,正確にCvaultを定量可能である.また,ICL挿入眼はもともと強度近視眼が多く,黄斑部病変や周辺部変性を含んだ網膜疾患,緑内障を合併しやすいことから,定期的に眼底検査も行う.トーリックICLで裸眼視力が出にくくなったり,自覚屈折に乱視が残っていたりした場合は,散瞳して乱視軸を確認することが望ましい.レンズ回旋により乱視矯正効果が低下し,裸眼視力の低下がみられれば,再手術にて軸ずれを補正することを考慮する.C●視力検査,屈折検査まずは視力検査にて,どれだけ裸眼視力,矯正視力が(81)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1ICL挿入眼の術後前眼部所見細隙灯顕微鏡のスリット幅を細くして,観察軸からC30.45°の位置からスリット光を入れて,中心角膜厚と比較することで評価できる.出ているか,球面レンズ/円柱レンズ度数がどれだけ入るか,そしてそれらの数値が術前の狙いどおりか,患者自身はその見え方に満足しているかを確認する.予測より過矯正になると眼精疲労や頭痛を訴えることが多く,低矯正になると実際の裸眼での見え方が落ちる.また,ICL挿入術はCLASIKと比較して再近視化(リグレッション)しにくいとされているが,長期経過とともに近視が進むリスクは否定できない.術後長期における再近視化のリスクとして,手術時の年齢が高い,眼軸長が長い症例が報告されている2).対処としては,まずはコンタクトレンズなどで検眼時シミュレーションを行い,必要に応じてエキシマレーザーによるタッチアップ手術やCICL度数交換手術を考慮する.C●眼圧検査術直後眼圧が高い場合は,粘弾性物質が眼内に残存しあたらしい眼科Vol.41,No.6,2024685図2図1と同一症例の前眼部OCTVaultはC457Cμm(0.91CT)であり,角膜・ICL・水晶体の位置は良好である.ている可能性が高い.必要に応じて眼圧下降治療(点眼・内服・前房洗浄など)を行う.ICLのサイズが大きく,器質的隅角閉塞を生じている場合は,ICL摘出を考慮する.術後しばらくしてからの眼圧上昇は,術後のステロイド点眼による影響も考えられる.一方,術直後眼圧が低い場合は創口閉鎖不全の可能性があり,前房形成の有無,創口からの漏出の有無をチェックする.C●前眼部OCTによるvaultの測定・評価ICL術後診察において,vaultの評価はもっとも重要な項目といえる.ICL独特の評価項目でもある.最適vaultは中心角膜厚(cornealthickness:CT)と同じC500Cμm(1CT)程度であり,250.750Cμm(0.5.1.5CT)の範囲内が適切とされている(図2).術翌日からCvaultがC250μm(0.5CT)未満であればClowvaultと分類する.ICLと水晶体の距離が近いことで物理的な接触や房水循環不全が生じ,白内障の発症リスクも高くなるが,holeICL(貫通孔付きのCICL)になってからはそのリスクは著明に減少している.自覚症状によるが,ICLと水晶体の距離が近すぎたり,白内障を認めた場合は,必要に応じて①CICL摘出,②垂直固定なら水平固定にレンズ回旋(ICLが固定される毛様溝は解剖学的に縦方向に長い楕円形となる形状をしているから),③CICLをC1Csizeupにて摘出・交換し,白内障手術を行う.術翌日からCvaultがC750Cμm(1.5CCT)より大きければChighvaultと分類する.通常,時間経過とともにCvaultは低下していくので,眼圧上昇や角膜内皮細胞密度低下に注意して経過観察を行う.角膜と虹彩の距離が近すぎたり,眼圧上昇,角膜内皮細胞機能障害を生じれば,ICL摘出,水平固定なら垂直固定にレンズ回旋,ICLをC1sizedownにて摘出・交換を行う.C686あたらしい眼科Vol.41,No.6,2024図3Highvaultにてレンズ位置修正を施行した症例(再手術直前の前眼部OCT)ICLが固定される毛様溝間距離は,横に比べ縦のほうが長い形状をしている.本症例はCnon-Toricであり,水平方向にレンズが固定されていたため,再手術にてレンズを垂直方向に回旋させるだけで,vaultが再手術前C861Cμm(1.72CCT)から再手術後C418Cμm(0.84CT)となり正常化した.C●角膜内皮細胞密度検査筆者のクリニックでは,術翌日,1カ月,3カ月,6カ月,1年のタイミングで角膜内皮細胞密度検査を施行している.前房型有水晶体眼内レンズでは長期的に角膜内皮機能低下が問題になることが少なくないが,後房型のCICLでは長期経過後も問題となりにくい3).しかし,ICL挿入術はやはり白内障手術と同じ内眼手術であり,定期的な経過観察が重要である.経過観察中に著明な内皮減少がみられた際は,適宜レンズを摘出することも考慮する.C●おわりにICL挿入術はCLASIKなどの角膜屈折矯正手術と比べ比較的歴史が浅いが,ここ数年新たな合併症の報告はなく,安全性や有効性が確立されつつある非常に完成度の高い術式となっている.日常外来でも今後CICL挿入眼に遭遇する機会が増えていくことが容易に予想されるので,本稿を屈折矯正分野以外の先生方にもご一読いただきたいと考えている.文献1)佐藤正樹,田淵仁志,神谷和孝ほか:2023JSCRSClinicalSurvey.CIOL&CRS37:358-381,C20232)SandersDR,DoneyK,PocoMetal:UnitedStatesFoodandCDrugCAdministrationCclinicalCtrialCofCtheCimplantableCcollamerlens(ICL)forCmoderateCtohighCmyopia:three-yearfollow-up.OphthalmologyC111:1683-1692,C20043)PackerM:TheCEVOCICLCforCmoderatemyopia:ResultsCfromCtheCUSCFDACclinicalCtrial.CClinCOphthalmolC16:C3981-3991,C2022(82)