光干渉断層血管撮影の緑内障領域への応用ApplicationofOCTangiographyinGlaucomaStudy千原悦夫*はじめに光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyangiography:OCTA)の理論とその発展および将来への展望はGaoの総説に詳しい1).従来,眼底の血管異常や循環障害を調べる方法はフルオレセインとインドシアニングリーンなど,造影のための色素を使った蛍光眼底撮影が標準的なものであったが,このような色素を使うことなく,しかも組織の層別に血管を毛細血管レベルの画像まで高い再現性で描出できる技術ができたことは,血管閉塞,血管新生などを調べるうえで非常に有用であり,網膜の研究者にとっては画期的なことである.臨床家にとっても,注射などの身体侵襲を伴わず,薬剤アレルギーも心配することはないうえに,わずか数秒で再現性の良い血管画像が得られる技術は貴重で,今後この技術を使った機器は臨床現場で重宝されることになると考えられる.臨床研究においても従来はレーザースペックル法,超音波ドップラ法,microsphere法,水素クリアランス法などを用いて調べるほかになかった血管の密度,血流量などの情報を,網膜や神経の層別に情報化し,数値化することができるようになった.今後このOCTAを使って多くの研究データが報告されるようになるであろうことは想像にかたくない.OCTA本体およびその周辺機器やソフトウエアの開発は,現在多くの機械メーカーがしのぎを削っており,画像撮影範囲の拡大,撮影時間の縮小,projectionarti-factをはじめとするアーチファクトの削減のための開発が行われ,また同時に臨床的な需要に応じるためのソフトウエアの開発が行われているが,現在までに開発された技術だけでも十分に素晴らしいもので,今後臨床研究にも革命的な変革を起こすと予測されている.I視神経の萎縮とOCTAOCTAの技術は網膜.脈絡膜の血管病変を調べるうえで一大革命をもたらしたことは前述したとおりである.しかし,応用は網膜.脈絡膜だけにとどまるものではない.緑内障は視神経の萎縮をきたす疾患であるが,視神経の萎縮は必ず血管の脱落を伴うものであり,それを解析する目的でOCTAへの興味をもつものが緑内障専門家の中にも増えてきた.緑内障眼のOCTA所見では乳頭周囲の放射状傍乳頭毛細血管(radialperipapillarycap-illary:RPC)の欠損,乳頭内の血管密度や血流量が注目を集めている.緑内障性視神経萎縮の原因についてはいくつかの仮説があるが,代表的なものは機械的障害説2)と血管障害説3)であり,それぞれの理論を支持する多くの論文が執筆され,学会での議論が続いている.II緑内障と循環障害緑内障はその眼圧水準によって高眼圧を示すものと正常眼圧を示すものがあり,高眼圧のものは眼圧による神経線維の機械的障害の重要性が指摘され,正常眼圧のも*EtsuoChihara:千原眼科医院〔別刷請求先〕千原悦夫:〒611-0043京都府宇治市伊勢田町南山50-1千原眼科医院0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(57)815図1Decorrelationと血流量の関係Interscantimeを短くするとdecorrelationと血流量との間の相関関係が成り立つ領域は広くなるが,血流の少ない部分のシグナルは失われ,画質の低下が危惧される.(文献8より改変)図2緑内障患者におけるRPC(放射状傍乳頭毛細血管)の脱落とenface画像で見た網膜神経線維層欠損a:OCTA,b:enface画像.OCTAでは毛細血管レベルの血管脱落を優れた解像力で描出できる(円は乳頭縁から700μm).(文献9より転載)図3高度近視眼における網膜神経線維層のひび割れ(cleavage)所見高度近視,網膜前膜など神経線維の走行から垂直方向に牽引がかかる状況では神経線維層の離断が起こる.このような所見は従来無赤光撮影で報告されてきたが撮影はむずかしかった.OCTAのenface画像ではこの所見が簡単かつ鮮明にわかる.ひび割れ部位に相当してRPCも欠損していることが理解できる.(文献11より転載)図5Enface画像でみたOCTAにおける.owindex測定領域乳頭表面から50.250μmの範囲をとると篩状板前域をほぼカバーすることがわかる.この領域の単位体積当たり.owindexを調べることで組織の虚血の程度を調べることができる.図4でハイライトされたものはこの部位に含まれる血管像である.(文献9より転載)図4Elschnigscleralring内で乳頭表面から50~250μmの範囲の血管をハイライトしたものこの領域の血管は篩状板前域の血管をほぼ網羅し,単位体積当たりの血管密度や.owindexはこの部位の虚血状態を反映すると考えられる.(文献9より転載)たものであり,図5はその描出部位の矢状断図を示したものである.視神経における障害が血管の障害で起こるのであれば,病理学的に最初の障害部位である篩状板前域で率先して血管障害が起こるはずである.しかしながら,実際のデータをみると最初に起こる循環障害は乳頭の表層であり,深層はむしろautoregulationによって保護されるという結果が得られた9).OCTAで認められる毛細血管の脱落は網膜神経線維層欠損の部位に起こり,RPCの脱落についてもこれを組織脱落に続発的なものであるとする論調もみられ19),今後この点に関する議論が再び注目を集めるかもしれない.V近視乳頭のOCTA所見OCTAの乳頭所見で,最近,乳頭内あるいは乳頭周囲の血管と視神経の脆弱性との関連を示す一連の報告がみられるようになってきた.近視は緑内障発症の危険因子であり,近視眼に緑内障が発症するとその視野進行が早いことが指摘されてきた20.22).近視乳頭は変形とともに退色が認められ,乳頭周辺ではしばしば脈絡膜萎縮が随伴している.米国からの報告であるが,近視と緑内障を合併する眼をOCTAで調べると,篩状板の欠損と周辺血管脱落との関係や,bPPAにおける深層血管の脱落がみられた23).OCTAでは傍乳頭脈絡膜萎縮内の脈絡膜血管は明らかに減少しているように見え,また近年OCTやOCTAで報告される近視眼における篩状板の変形,菲薄化,血管密度の減少などの所見はどの報告をみても視神経の脆弱性と結びついた所見となっている.これらOCTやOCTAで報告される所見は組織病理で報告される視神経支持組織の脆弱性とも一致しており,これらの所見が臨床的な緑内障の経過とどのように関連しているのかという点については,今後さらに検討してゆかねばならないであろう.おわりにOCTAは新しく開発された将来有望な検査機器である.今後,網膜,緑内障などの領域で眼科の血管病変の臨床と研究に大きな貢献をすると予測される.文献1)GaoSS,JiaY,ZhangMetal:Opticalcoherencetomogra-phyangiography.IOVS57:OCT27-OCT36,20162)QuigleyHA,AddicksEM:Chronicexperimentalglauco-mainprimates.II.E.ectofextendedintraocularpressureelevationonopticnerveheadandaxonaltransport.IOVS19:137-152,19803)FlammerJ,Moza.ariehM:Whatispresentpathogeneticconceptofglaucomatousopticneuropathy?SurvOphthal-molSuppl2:S162-S173,20074)BudenzDI,AndersonDR,FeuerWJetal:Detectionofprognosticsigni.canceofopticdischemorrhageduringocularhypertensiontreatmentstudy.Ophthalmology113:2137-2143,20065)ShigaY,KunikataH,AizawaNetal:Opticnerveheadblood.ow,asmeasuredbylaserspeckle.owgraphy,issigni.cantlyreducedinpreperimetricglaucoma.CurrEyeRes41:1447-1453,20166)千原悦夫:緑内障眼循環障害とOCTangiography.第27回日本緑内障学会抄録集シンポジウム17,p201,20167)LiuL,JiaY,TakusagawaHLetal:Opticalcoherencetomographyangiographyoftheperipapillaryretinainglaucoma.JAMAOphthalmol133:1045-1052,20158)ChoiW,MoultEM,WaheedNKetal:Ultrahigh-speed,sweptsourceopticalcoherencetomographyangiographyinnon-exudativeage-relatedmaculardegenerationwithgeographicatrophy.Ophthalmology122:2532-2544,20159)ChiharaE,DimitrovaG,AmanoHetal:Discriminatorypowerofsuper.cialvesseldensityandprelaminarvascu-lar.owindexineyeswithglaucomaandocularhyperten-sionandnormaleyes.IOVS58:690-697,201710)ChiharaE,ChiharaK:Apparentcleavageoftheretinalnerve.berlayerinasymptomaticeyeswithhighmyopia.GraefesArchClinExpOphthalmol230:416-420,199211)ChiharaE:Myopiccleavageofretinalnerve.berlayerassessedbySSADAOCT.JAMAOphthalmology133:e152143,201512)WangL,CullGA,PiperCetal:Anteriorandposterioropticnerveheadblood.owinnonhumanprimateexperi-mentalglaucomamodelmeasuredbylaserspeckleimag-ingtechniqueandmicrospheremethod.IOVS53:8303-8309,201213)JiaY,WeiE,WangXetal:Opticalcoherencetomogra-phyangiographyofopticdiscperfusioninglaucoma.Oph-thalmology121:1322-1332,201414)WangX,JiangC,KoTetal:Correlationbetweenopticdiscperfusionandglaucomatousseverityinpatientswithopen-angleglaucoma:anopticalcoherencetomographyangiographystudy.GraefesArchClinExpOphthalmol253:1557-1564,201515)HenkindP:Newobservationsontheradialperipapillarycapillaries.InvestOphthalmol6:103-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