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光干渉断層血管撮影の緑内障領域への応用

2017年6月30日 金曜日

光干渉断層血管撮影の緑内障領域への応用ApplicationofOCTangiographyinGlaucomaStudy千原悦夫*はじめに光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyangiography:OCTA)の理論とその発展および将来への展望はGaoの総説に詳しい1).従来,眼底の血管異常や循環障害を調べる方法はフルオレセインとインドシアニングリーンなど,造影のための色素を使った蛍光眼底撮影が標準的なものであったが,このような色素を使うことなく,しかも組織の層別に血管を毛細血管レベルの画像まで高い再現性で描出できる技術ができたことは,血管閉塞,血管新生などを調べるうえで非常に有用であり,網膜の研究者にとっては画期的なことである.臨床家にとっても,注射などの身体侵襲を伴わず,薬剤アレルギーも心配することはないうえに,わずか数秒で再現性の良い血管画像が得られる技術は貴重で,今後この技術を使った機器は臨床現場で重宝されることになると考えられる.臨床研究においても従来はレーザースペックル法,超音波ドップラ法,microsphere法,水素クリアランス法などを用いて調べるほかになかった血管の密度,血流量などの情報を,網膜や神経の層別に情報化し,数値化することができるようになった.今後このOCTAを使って多くの研究データが報告されるようになるであろうことは想像にかたくない.OCTA本体およびその周辺機器やソフトウエアの開発は,現在多くの機械メーカーがしのぎを削っており,画像撮影範囲の拡大,撮影時間の縮小,projectionarti-factをはじめとするアーチファクトの削減のための開発が行われ,また同時に臨床的な需要に応じるためのソフトウエアの開発が行われているが,現在までに開発された技術だけでも十分に素晴らしいもので,今後臨床研究にも革命的な変革を起こすと予測されている.I視神経の萎縮とOCTAOCTAの技術は網膜.脈絡膜の血管病変を調べるうえで一大革命をもたらしたことは前述したとおりである.しかし,応用は網膜.脈絡膜だけにとどまるものではない.緑内障は視神経の萎縮をきたす疾患であるが,視神経の萎縮は必ず血管の脱落を伴うものであり,それを解析する目的でOCTAへの興味をもつものが緑内障専門家の中にも増えてきた.緑内障眼のOCTA所見では乳頭周囲の放射状傍乳頭毛細血管(radialperipapillarycap-illary:RPC)の欠損,乳頭内の血管密度や血流量が注目を集めている.緑内障性視神経萎縮の原因についてはいくつかの仮説があるが,代表的なものは機械的障害説2)と血管障害説3)であり,それぞれの理論を支持する多くの論文が執筆され,学会での議論が続いている.II緑内障と循環障害緑内障はその眼圧水準によって高眼圧を示すものと正常眼圧を示すものがあり,高眼圧のものは眼圧による神経線維の機械的障害の重要性が指摘され,正常眼圧のも*EtsuoChihara:千原眼科医院〔別刷請求先〕千原悦夫:〒611-0043京都府宇治市伊勢田町南山50-1千原眼科医院0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(57)815図1Decorrelationと血流量の関係Interscantimeを短くするとdecorrelationと血流量との間の相関関係が成り立つ領域は広くなるが,血流の少ない部分のシグナルは失われ,画質の低下が危惧される.(文献8より改変)図2緑内障患者におけるRPC(放射状傍乳頭毛細血管)の脱落とenface画像で見た網膜神経線維層欠損a:OCTA,b:enface画像.OCTAでは毛細血管レベルの血管脱落を優れた解像力で描出できる(円は乳頭縁から700μm).(文献9より転載)図3高度近視眼における網膜神経線維層のひび割れ(cleavage)所見高度近視,網膜前膜など神経線維の走行から垂直方向に牽引がかかる状況では神経線維層の離断が起こる.このような所見は従来無赤光撮影で報告されてきたが撮影はむずかしかった.OCTAのenface画像ではこの所見が簡単かつ鮮明にわかる.ひび割れ部位に相当してRPCも欠損していることが理解できる.(文献11より転載)図5Enface画像でみたOCTAにおける.owindex測定領域乳頭表面から50.250μmの範囲をとると篩状板前域をほぼカバーすることがわかる.この領域の単位体積当たり.owindexを調べることで組織の虚血の程度を調べることができる.図4でハイライトされたものはこの部位に含まれる血管像である.(文献9より転載)図4Elschnigscleralring内で乳頭表面から50~250μmの範囲の血管をハイライトしたものこの領域の血管は篩状板前域の血管をほぼ網羅し,単位体積当たりの血管密度や.owindexはこの部位の虚血状態を反映すると考えられる.(文献9より転載)たものであり,図5はその描出部位の矢状断図を示したものである.視神経における障害が血管の障害で起こるのであれば,病理学的に最初の障害部位である篩状板前域で率先して血管障害が起こるはずである.しかしながら,実際のデータをみると最初に起こる循環障害は乳頭の表層であり,深層はむしろautoregulationによって保護されるという結果が得られた9).OCTAで認められる毛細血管の脱落は網膜神経線維層欠損の部位に起こり,RPCの脱落についてもこれを組織脱落に続発的なものであるとする論調もみられ19),今後この点に関する議論が再び注目を集めるかもしれない.V近視乳頭のOCTA所見OCTAの乳頭所見で,最近,乳頭内あるいは乳頭周囲の血管と視神経の脆弱性との関連を示す一連の報告がみられるようになってきた.近視は緑内障発症の危険因子であり,近視眼に緑内障が発症するとその視野進行が早いことが指摘されてきた20.22).近視乳頭は変形とともに退色が認められ,乳頭周辺ではしばしば脈絡膜萎縮が随伴している.米国からの報告であるが,近視と緑内障を合併する眼をOCTAで調べると,篩状板の欠損と周辺血管脱落との関係や,bPPAにおける深層血管の脱落がみられた23).OCTAでは傍乳頭脈絡膜萎縮内の脈絡膜血管は明らかに減少しているように見え,また近年OCTやOCTAで報告される近視眼における篩状板の変形,菲薄化,血管密度の減少などの所見はどの報告をみても視神経の脆弱性と結びついた所見となっている.これらOCTやOCTAで報告される所見は組織病理で報告される視神経支持組織の脆弱性とも一致しており,これらの所見が臨床的な緑内障の経過とどのように関連しているのかという点については,今後さらに検討してゆかねばならないであろう.おわりにOCTAは新しく開発された将来有望な検査機器である.今後,網膜,緑内障などの領域で眼科の血管病変の臨床と研究に大きな貢献をすると予測される.文献1)GaoSS,JiaY,ZhangMetal:Opticalcoherencetomogra-phyangiography.IOVS57:OCT27-OCT36,20162)QuigleyHA,AddicksEM:Chronicexperimentalglauco-mainprimates.II.E.ectofextendedintraocularpressureelevationonopticnerveheadandaxonaltransport.IOVS19:137-152,19803)FlammerJ,Moza.ariehM:Whatispresentpathogeneticconceptofglaucomatousopticneuropathy?SurvOphthal-molSuppl2:S162-S173,20074)BudenzDI,AndersonDR,FeuerWJetal:Detectionofprognosticsigni.canceofopticdischemorrhageduringocularhypertensiontreatmentstudy.Ophthalmology113:2137-2143,20065)ShigaY,KunikataH,AizawaNetal:Opticnerveheadblood.ow,asmeasuredbylaserspeckle.owgraphy,issigni.cantlyreducedinpreperimetricglaucoma.CurrEyeRes41:1447-1453,20166)千原悦夫:緑内障眼循環障害とOCTangiography.第27回日本緑内障学会抄録集シンポジウム17,p201,20167)LiuL,JiaY,TakusagawaHLetal:Opticalcoherencetomographyangiographyoftheperipapillaryretinainglaucoma.JAMAOphthalmol133:1045-1052,20158)ChoiW,MoultEM,WaheedNKetal:Ultrahigh-speed,sweptsourceopticalcoherencetomographyangiographyinnon-exudativeage-relatedmaculardegenerationwithgeographicatrophy.Ophthalmology122:2532-2544,20159)ChiharaE,DimitrovaG,AmanoHetal:Discriminatorypowerofsuper.cialvesseldensityandprelaminarvascu-lar.owindexineyeswithglaucomaandocularhyperten-sionandnormaleyes.IOVS58:690-697,201710)ChiharaE,ChiharaK:Apparentcleavageoftheretinalnerve.berlayerinasymptomaticeyeswithhighmyopia.GraefesArchClinExpOphthalmol230:416-420,199211)ChiharaE:Myopiccleavageofretinalnerve.berlayerassessedbySSADAOCT.JAMAOphthalmology133:e152143,201512)WangL,CullGA,PiperCetal:Anteriorandposterioropticnerveheadblood.owinnonhumanprimateexperi-mentalglaucomamodelmeasuredbylaserspeckleimag-ingtechniqueandmicrospheremethod.IOVS53:8303-8309,201213)JiaY,WeiE,WangXetal:Opticalcoherencetomogra-phyangiographyofopticdiscperfusioninglaucoma.Oph-thalmology121:1322-1332,201414)WangX,JiangC,KoTetal:Correlationbetweenopticdiscperfusionandglaucomatousseverityinpatientswithopen-angleglaucoma:anopticalcoherencetomographyangiographystudy.GraefesArchClinExpOphthalmol253:1557-1564,201515)HenkindP:Newobservationsontheradialperipapillarycapillaries.InvestOphthalmol6:103-108,1967(61)あたらしい眼科Vol.34,No.6,2017819

光干渉断層血管撮影の網膜静脈閉塞症への応用

2017年6月30日 金曜日

光干渉断層血管撮影の網膜静脈閉塞症への応用ApplicationofOCTangiographyinRetinalVeinOcclusion平野佳男*はじめに網膜静脈閉塞症は,網膜静脈内の血栓形成などにより網膜静脈が閉塞し,静脈がうっ滞,灌流圧が上昇し,網膜・網膜下出血,黄斑浮腫,網膜無灌流領域,網膜血管・毛細血管拡張,側副血管,毛細血管瘤,網膜新生血管などの多彩な微小血管異常をきたす.光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyangiography:OCTA)は造影剤を使用せず,網脈絡膜の血管構造を層別に表示することができる新しい技術である.この新しい技術を用いて得られるそれらの所見を,従来のフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)所見と比較しながら解説する.I網膜無灌流領域,中心窩無血管帯網膜無灌流領域,中心窩無血管帯の描出に関しては,OCTAのほうがFAよりも鮮明で,両者の境界も明瞭である1,2)(図1).これはOCTAが造影剤の影響を受けないこと,また解像度が高いためである.OCTAは層別評価も可能とする1,2)(図1,2).さらに網膜無灌流領域,中心窩無血管帯などの面積を測定することも可能である3,4)(図2).筆者らはこれらの技術を使い,網膜静脈閉塞症においては,網膜無灌流領域,中心窩無血管帯ともに,網膜表層よりも網膜深層のほうが広いと報告4)した.最近では,視力とOCTAで評価した構造的変化との関連について多く報告されており,網膜深層の中心窩無血管帯の拡大3),傍中心窩血管密度5),傍中心窩無灌流領域6)などが視力と相関すると報告されている.それらの報告は,OCTAによる構造評価が機能評価にも結びつく可能性を示している.II毛細血管拡張,側副血管網膜静脈閉塞症では,静脈圧の上昇に伴う毛細血管拡張が認められる.毛細血管拡張は,網膜表層・深層ともに認められるが,深層においてより高率かつ広範囲に認められる1,2)(図3).側副血管は静静脈吻合で,蛍光造影による動的映像で確認するのが確実であるが,OCTAでも十分検出できる(図4).III毛細血管瘤毛細血管瘤はその内部に血流を伴っていないものはOCTAでは検出されないため,検出率はFAに劣る1).また,OCTAでは網膜浮腫などの影響によるセグメンテーションエラーで,屈曲した血管が毛細血管瘤のように見えることがあるため,本当に毛細血管瘤であるかを確かめるためには,B-scan画像で確認したり,FA画像と対比したり,浮腫消退時に再評価するなどの工夫が必要である.毛細血管瘤の検出率はFAに劣るものの,OCTAは毛細血管瘤の局在の層別評価が可能(図5)である.IV網膜新生血管OCTAでは蛍光漏出がないため,FAよりも鮮明に血*YoshioHirano:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学教室〔別刷請求先〕平野佳男:〒467-8601愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(51)809図1網膜静脈分枝閉塞症患者のフルオレセイン蛍光造影(FA)とOCTA所見(RTVueXRAvantiOCT,オプトビュー社,3mm×3mm)a:FA所見.b:aの黄色部分の拡大像.c,d:OCTA所見.c:網膜表層血管叢.d:網膜深層血管叢.OCTAでは網膜無灌流領域が網膜表層・深層血管叢の層別に鮮明に描出される.(文献15より改変)図2網膜静脈分枝閉塞症患者のOCTA所見(3mm×3mm)a,c:網膜表層血管叢.b,d:網膜深層血管叢.a:手動で中心窩無血管帯を囲み,中心窩無血管域の面積を測定した(黄色線).0.386mm2.b:中心窩無血管帯:0.423mm2.c:non-.owモードで無灌流領域の部分をクリックし選択すると,その部分の合算面積が測定できる.無灌流領域:1.001mm2.d:無灌流領域:0.887mm2.(文献15より改変)図3網膜静脈分枝閉塞症患者のOCTA所見(3mm×3mm)a:網膜表層血管叢.b:網膜深層血管叢.毛細血管拡張が深層では表層よりも広範囲に認められる.(文献15より改変)図4網膜静脈分枝閉塞症患者のフルオレセイン蛍光造影(FA)とOCTA所見(3mm×3mm)a:FA所見.b:aの黄色部分の拡大像.c:同範囲のOCTA所見.:側副血管.(文献15より改変)BaselineMonth1Month3図5網膜静脈分枝閉塞症患者のフルオレセイン蛍光造影(FA)とOCTA所見(3mm×3mm)a:FA所見.b:aの黄色部分の拡大像.c:同範囲のOCTA所見(網膜表層血管叢).d:OCTA所見(網膜深層血管叢).毛細血管瘤()が表層にも深層にも認められる.(文献15より改変)Month6DeepLayerSuper.cialLayer図6網膜静脈分枝閉塞症患者のOCTA所見(3mm×3mm)発症時から経時的にOCTAを撮影した.発症後6カ月目に毛細血管瘤()が網膜深層に認められる.(文献11より改変)図7網膜静脈分枝閉塞症患者のOCTAとフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)所見a:OCTA所見(RTVueXRAvantiOCT,Optovue,6mm×6mm).b:OCTAパノラマ画像(DRIOCTTriton,Topcon).c:広角FA造影所見(OptosCalifornia,Optos).すべて同一患者.OCTAも固視点を移動し,複数枚撮影して重ね合わせることで広範囲なパノラマ画像が作成できる.また自動でパノラマ画像を作成する機種もある.—

光干渉断層血管撮影の糖尿病網膜症への応用

2017年6月30日 金曜日

光干渉断層血管撮影の糖尿病網膜症への応用ApplicationofOCTangiographyinDiabeticRetinopathy石羽澤明弘*はじめにフルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinangi-ography:FA)は糖尿病網膜症における網膜血管障害を鮮明に描出でき,病期を適切に判定するうえできわめて有用な検査である.では,糖尿病網膜症の診療においてOCTangiography(OCTA)が有用かと聞かれれば,今日の回答は当然イエスである.造影検査とは原理がまったく異なるものの,OCTAはFAと類似した画像を非侵襲的かつ簡便に得ることができる.造影剤合併症のリスクが皆無のため,全身状態が不良なケースが少なくない糖尿病患者であっても,安全に施行して経過を追うことができる.また,当初問題であった画角の狭さは解消されつつあり,血管アーケードより周辺の撮影も可能となってきている.さらにOCTAの強みは,網膜の毛細血管を表層,深層に分けて詳細に解析できることであり,とくに深層血管障害が糖尿病黄斑浮腫の病態に関与していることが報告されてきている.血管透過性を評価できないという本質的な問題は残っているが,OCTA所見の特徴を理解すれば,造影剤の蛍光漏出や貯留といった所見が得られずとも病状を把握できる可能性もみえてきた.本稿では,糖尿病網膜症における特徴的な病変について,FAと対比しながら,OCTAの読影のポイントと臨床活用法について考察する.I毛細血管瘤毛細血管瘤(microaneurysm:MA)は糖尿病性網膜血管障害の初期変化として臨床的に重要な所見である.OCTAでMAは,.状や紡錘状,また屈曲しコイル状となった局所的毛細血管拡張として観察される(図1)1~4).検眼鏡的に網膜症が明らかではない,またはごく軽度の網膜症と診断されても,OCTAを撮影すると,MAが多数発見されることがある.過去の病理学的所見と一致して,OCTAでは表層より深層に多く観察され,77.3%が深層のMAであるとの報告がある2).また,浮腫領域にあるMAの91.3%は深層のMAであり,.胞様黄斑浮腫で有意に浮腫内のMA密度が高いとも報告されている2).一方で,MAのOCTAでの判定については,議論の余地もある.FAでみられる血管瘤がもれなくOCTAで描出されるわけではなく1),OCTAのMA検出率は41%3)や62%4)程度にすぎないとの報告もある.瘤内の血流がきわめて緩徐,乱流の存在,瘤内に赤血球がなく血漿成分のみであるなどの要因が考えられるが,FAでの点状過蛍光が必ずしもMAを表すわけではなく,毛細血管からの局所漏出をみている可能性もある.前述の通り,FAとOCTAは原理が異なる検査であることを念頭に置いた解釈が必要である.また,補償光学適応眼底走査型レーザー検眼鏡(adaptiveopticsscan-ninglaserophthalmoscope:AO-SLO)を用いたFAで詳細にMA形態を分類した報告があるが5),OCTAではこのレベルでの形態観察は困難であり,浮腫の原因となるMAの形態的特徴などは現時点では報告されていない.*AkihiroIshibazawa:旭川医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕石羽澤明弘:〒078-8510旭川市緑が丘東2条1-1-1旭川医科大学眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(43)801図1毛細血管瘤(MA)のフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)とOCTAの比較FAで確認されるMAは,OCTA表層(青◯)または深層(黄◯)に.状または紡錘状の毛細血管拡張として描出されているが,FAでMAと判定されてもOCTAでは認めないものや(白),OCTAでのみMAのように見えるものもある(→)(文献1より許可を得て改変のうえ転載)図2増殖糖尿病網膜症のパノラマOCTA(Triton,9×9mmの5枚から合成)42歳,男性,透析患者.造影検査は禁忌ではないが,OCTAによって非侵襲的にアーケード外の無灌流領域や網膜内最小血管異常,新生血管が鮮明に描出され,病期を適切に判定しえた.abFlowDensityカラーコードマップ(表層)SectionFlowDensity(%)Fovea20.56ParaFovea44.17-Tempo42.90-Superior45.23-Nasal43.54-Inferior45.0247.6449.7542.4843.6823.3242.5049.2545.8543.61Grid-baseFlowDensity(%)図3OCTAの定量的解析a:中心窩無血管帯(FAZ)は境界明瞭であり,面積を層別に求めることができる.本症例の表層FAZは0.477mm2,深層FAZは0.692mm2と定量することができ,FAZの拡大が明らかとなる.b:いくつかのOCTA機種では,血管密度(FlowDensity)を表示可能である.カラーコードマップにより,non-.owarea(寒色で表示)の判別が容易になり,領域のごとの.owdensityを定量化できる.ab緑線部のOCTB-scanc青線部のOCTB-scan図4OCTAにおける新生血管(NVE)と網膜内最小血管異常(IRMA)の鑑別a:増殖糖尿病網膜症の9×9mmOCTA.黄色い丸で囲まれた領域に異常血管を認める.b:aの緑点線部のOCTB-scan.黄色い丸で囲まれた血管に相当する部位は,網膜上の硝子体皮質付着部に赤い.owsignal()を認め,NVEであると確認できる.c:aの青点線部のOCTB-scan.黄色い丸で囲まれた血管に相当する.owsignalは網膜内にあり(),これはIRMAであるとわかる.a:未治療増殖糖尿病網膜症(PDR)の新生血管.微小な異常血管が生い茂るように増殖した領域(exu-berantvascularproliferation:EVP)を認める.b:汎網膜光凝固が1年前に施行された既治療PDRの新生血管.新生血管はフィラメント状に剪定されたような形態で,分岐が少ないループ構造のみであり,EVPを認めない.(文献14より許可を得て改変のうえ転載)aEVP(+)bEVP(-)abd図6治療前後の新生血管のOCTAa:58歳男性のPDR眼.2年前に近医でPRPを受けたが,その後未受診だった.光凝固斑はまばらで,網膜前出血,硝子体出血,増殖膜を認める.b:本患者のFA早期像.とくに視神経乳頭部に旺盛な蛍光漏出を認め(黄色丸),活動性の高い新生血管である.c:この新生血管のOCTA(4.5×4.5mm).乳頭上と上方アーケードから絡むように増殖した微細な異常血管を認め,EVP領域(黄色丸)はFAでの旺盛な蛍光漏出部位に一致している.d:PRPを追加して3カ月後の新生血管.EVP領域は減少し,剪定された構造に変化した.–

強度近視眼における光干渉断層血管撮影

2017年6月30日 金曜日

強度近視眼における光干渉断層血管撮影OCTangiography:EyeswithHighMyopia石田友香*大野京子*IOCTAとは光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyangiography:OCTA)は,同じ場所の断層面をOCTで2回以上撮影し,変化している部分(=赤血球が動いている部分)のみの信号を取り出してソフトウェアで再構成した,血流のある血管を観察する最新のツールである.従来,血流状態は,蛍光眼底造影検査を行わなければ把握することができなかったが,造影剤を使用せず,数十秒で撮影が可能なOCTAは画期的な技術である.また,フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiogra-phy:FA)でも,ごく早期にきれいに撮れた場合には毛細血管レベルまで観察することが可能ではあったが,OCTAを用いると,常に毛細血管レベルまでクリアに観察することができる.さらに,FA検査はおもに網膜血管を,インドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiography:IA)検査はおもに脈絡膜血管を観察するものと認識してきたが,OCTAでは,網膜の浅層,深層,網膜色素上皮付近,脈絡毛細血管板など,層別に見たい部位の血流を観察することができる.その一方,OCTAの弱点としては,蛍光眼底造影検査はwide.eldでの撮影が可能となり,周辺部までクリアに観察することが可能となってきたのに対し,OCTAは大きいサイズのもので9mm×9mmと撮影範囲が狭いことである.その他,トラッキング機能が向上したものの,あまり固視不良すぎる患者ではきれいな画像が得られないこと,白内障が強い,近視が強すぎるなどでOCT断層画像がはっきりと撮れなければ,アンギオグラフィーも判定困難となることがある.SD(spectraldomain)-OCTを使用したものよりは,SS(sweptsource)-OCTを使用したアンギオグラフィーのほうが,白内障や強度近視に特有の硝子体の軽度の濁りによる影響を受けにくい印象がある.強度近視眼の撮影については,機種により撮影可能な屈折範囲がさまざまであり,当院のように強度近視患者の多い施設においては,.30Dなどの屈折がよくあることなので,屈性範囲の広い機種が重宝される.その他に強度近視眼の撮影において特徴的なこととして,OCTがうまく撮影できたとしても,網膜の構造が正常からの逸脱の大きい眼では,機械が自動的に判定してくれる層別構造の判別がきちんと行われず,間違った層を解析してしまう場合がある.とくに強い網脈絡膜萎縮部位や,domeshapedmacularのような変形部位で,機械が間違ったラインで層構造を認識している場合があり,手動で補正が必要となる.手動で補正する際は,OCTのB-scan(断面像)において,血流を示す信号を重ね合わせて,自分の目的としている層にきちんと血流が存在しているか確認が必要(アーチファクトではないことの確認が必要)なので,B-scanの重ね合わせを必ず見る必要がある.近視性脈絡膜新生血管の検出におけるOCTAの有用*TomokaIshida&*KyokoOhno-Matsui:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕石田友香:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(35)793性はMiyataら1)やQuerquesら2)がすでに報告している.強度近視眼においてOCTAが有用であると思われる状況は,①単純出血と近視性脈絡膜新生血管の判別,②点状脈絡膜内層症(punctateinnerchoroidopathy:PIC)における脈絡膜新生血管の検出がおもなものと思われる.さらに,強度近視眼の脈絡膜新生血管の治癒後の新生血管周囲の網脈絡膜萎縮が最終的な視力予後に大きくかかわる因子であることから,その成り立ちに筆者らは注目しているが,その萎縮性変化もOCTAでは早期にとらえることができる.本稿では,強度近視眼のOCTAの撮り方のコツと,典型的な所見について述べる.II強度近視眼におけるOCTAの撮り方のコツ強度近視に限らないが,顔の高さに無理があると位置がずれやすい.とくにSD-OCTのアンギオグラフィーは,一度フレームアウトしてしまうと,網膜レベルはよくても,それより深い層の層構造の認識に支障をきたす症例が多いため,顎台の高さが無理のないよう準備をすることはコツの一つと思う.また,強度近視眼の患者は,コンタクトレンズ使用者が多いため,ドライアイの人が多い.OCTAの撮影はOCT撮影の割には長い.トラッキングが付いていれば瞬きはしてもよいが,機種によっては,瞬きが入りすぎたり長すぎると,強度近視眼の正常からかけ離れた構造を認識できず層構造がおかしくなることが多い.そのため,筆者はベノキシール点眼をする.事前に説明として,撮影時間が長いので,瞬きは軽く,最小限にしてくださいと話しておくようにしている.また,SD-OCTの場合にはOCTのラインが患者に見えるので,上から(視野の下から)撮影していっているときはよいのに,真ん中から下に(視野では上に)ラインが移動するときに患者がつられて眼球を動かしやすい.トラッキングがあっても,大きく動くとあまりきれいに撮影できないため,ラインにつられないよう説明が必要である.とくに強度近視眼で後極に萎縮が多発しているような場合に,見える部分に急にラインが出てくるとそれを追いかけてしまう患者が多いように思う.また,強度近視眼においては,固視がむずかしい例も多いが,指標を大きくするなどの工夫で大きな萎縮がある人でも撮影が可能な場合も多い.また,強度近視眼では,後部ぶどう腫がある人が多く,後極のカーブが異常に急な場合もある.4.5mmや6mmでもフレームアウトしてしまったり,血流を読むラインの設定が端から端まで,一様に正確な位置を示すのがむずかしい場合が多い.そのうえ,近視性脈絡膜新生血管は小型な場合も多く,強度近視眼では,4.5mmや6mmでは新生血管を見落とすことがあるため,筆者はかならず4.5mmでスクリーニングし,3mmで確認している.強度近視眼の患者を撮影すると,初診の脈絡膜新生血管がまだ小さいうちはほぼ全員撮影可能である.治療後まもなくの瘢痕化している眼もわりとよく撮影可能であるが,大きな萎縮が出現してくると,撮影可能な人は機種にもよるが平均的には10人に1人くらいと思われる.撮影がきれいにできても,そのまま自動的に機械の作成してくれたOCTAのenface画像をうのみにしないほうがよい.OCTAは各層別にenface画像を作成してくれるが,層を機械が判定し,ラインをひいているため,網膜も脈絡膜も薄い強度近視眼では,層の判定が今一つで,新生血管がアーチファクトの中に埋もれてしまっている場合がある.よって,B-scanに血流を重ねた画像を必ず上から下まで動かして見ていき,新生血管らしき異常構造の中に血流が入っていることを確認する必要がある.アーチファクトの例を図1に示す.図1ではBruch膜レベルでのenface画像で,3カ所の血流部位があるようにみえるが,1カ所のみが真の脈絡膜新生血管であり,残りの2カ所はアーチファクトである.Bruch膜レベルのenface画像において,強度近視眼によくある強膜の凹凸部位(たとえばdomeshapedmacu-lar)や,網膜分離などによって網膜の構造のラインが追いにくい部分で,白いもやもやした構造物として現れるので,実際の血流の有無をB-scanにアンギオグラフィーを重ねたもので確認する必要がある.また,enface画像では新生血管は曲線で引いたような血管ラインがみえるので,ある程度判別が可能であるが,アーチファクトのように見えても,よく見ると瘢痕化した新生血管で内部に細い血流が多発している場合もある.そのような例は,大抵,網膜色素上皮が不整となっていて,まったくの正常ではない.そして,その網膜色素上皮の軽度の794あたらしい眼科Vol.34,No.6,2017(36)図1近視性脈絡膜新生血管のOCTAのアーチファクト例(70歳,女性.眼軸31.6mm)a:カラー眼底写真.瘢痕期の近視性脈絡膜新生血管にて出血などはみられず,脈絡膜新生血管は判別しにくい.b:OCT像.瘢痕化した脈絡膜新生血管がみられる().c:FA早期.脈絡膜新生血管の組織染が見られる().d~i:OCTAのBruch膜レベルでのenface画像,dとgでは脈絡膜新生血管部位にB-scanを合わせている.dのOCTAでは網目状の血流成分を示しており,gのB-scanでは脈絡膜新生血管の内部に赤で血流成分が示されている.eとfでは,OCTAのenface画像において,その下方にある白く描出されている部分は網目状にはみえない.hとiで示したそれぞれのB-scanにおいては,該当部位に脈絡膜新生血管の形状はなく,異常な血流信号もないことからアーチファクトと判断できる.図2活動期脈絡膜新生血管(68歳,女性.眼軸30.9mm)a:カラー眼底写真では出血がみられる.b:FA早期では脈絡膜新生血管の過蛍光がみられ,出血部位がブロックされている.c:FA後期では脈絡膜新生血管の漏出が確認できる.d:IA所見では特記事項なし.e:OCTでは脈絡膜新生血管とその周囲の網膜下液がみられる.f:bのFAの黄色い四角に一致するOCTA像.網目状の脈絡膜新生血管がみられる.g:fの脈絡膜新生血管のB-scanでは,脈絡膜新生血管内部に赤で血流成分が示されている.図3瘢痕期脈絡膜新生血管(57歳,男性.眼軸26.82mm)a:カラー眼底写真では瘢痕化した脈絡膜新生血管が黄白色病変としてみられる.b:OCTでは上皮化した脈絡膜新生血管が観察される.周囲に滲出はない.c:OCTAではいびつな形状の網目状の血管成分が観察される.d:cのB-scanでは脈絡膜新生血管内部に血流成分が示される.e:脈絡膜レベルでのOCTAでは脈絡膜新生血管周囲の毛細血管板は正常に保たれている.f:eのB-scan.図4瘢痕期から萎縮期への移行期(57歳,男性.眼軸28.9mm)a:カラー眼底写真では出血などなく,脈絡膜新生血管が瘢痕化しているのがわかる.鼻側に軽度の萎縮が広がりはじめている.b:OCTでは脈絡膜新生血管周囲に滲出はなく,周囲の網膜色素上皮がやや萎縮している.c:OCTA像.網目状の脈絡膜新生血管がみられる.e:B-scanでは,脈絡膜新生血管内部に赤で血流が示されている.d:OCTA像.脈絡膜レベルでは脈絡膜新生血管から離れた部分は毛細血管板がみられるが,脈絡膜新生血管の鼻側では毛細血管が脱落し,その下の脈絡膜血管がみられる.f:dのB-scanを示した.緑が脈絡膜レベルの血流成分.図5萎縮期(72歳,女性.眼軸28.2mm)a:カラー眼底写真では黄斑部に円形の網脈絡膜萎縮がみられる.b:眼底自発蛍光では,萎縮部位は低自発蛍光である.c:FAでは萎縮部位は低蛍光となり,その内部に過蛍光の脈絡膜新生血管成分がみられる.d:OCTでは萎縮部位に網膜外層の萎縮,網膜色素上皮の脱落,脈絡膜の萎縮がみられる.また,脈絡膜新生血管が塊状でみられる.e,f:OCTAとそのB-scanでは脈絡膜新生血管部位に血流がみられる.g,h:脈絡膜レベルでのOCTAとそのB-scanでは萎縮部位は脈絡膜の毛細血管が消失し,わずかに残存した脈絡膜血管が観察される.

光干渉断層血管撮影の加齢黄斑変性への応用

2017年6月30日 金曜日

光干渉断層血管撮影の加齢黄斑変性への応用ApplicationofOCTangiographyinAge-RelatedMacularDegeneration森隆三郎*はじめにこれまでフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangi-ography:FA)やインドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiography:IA)を施行しなければ診断や治療後の評価ができなかった眼底疾患において,光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomogra-phyangiography:OCTA)により,網膜,脈絡膜血管および新生血管の描出が可能となる症例も多いことが知られてきている.脈絡膜新生血管(choroidalneovascu-larization:CNV)が主要所見の一つである滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)も,OCTAでFA,IAと同等の所見が描出され,症例によってはFAやIAで検出できないCNVも検出でき,その有用性に大きな期待がかかる.しかし,OCTAが臨床で利用され,さまざまな所見が蓄積されるにつれ,実際には撮影された所見がFAやIAほど鮮明な画像が得られないこともあり,またartifactにより,所見の読影や解釈に注意しなければならないことも報告されてきている1).本稿では,AMDのOCTA所見について,RTVueXRAvanti(Optovue)で撮影された画像をFAやIA,従来のOCTに加え,血流が表示されたB-scanの画像とともに提示し解説する.I画像の表示OCTAの強みは層別解析であり,自動層別解析で表示される網膜表層(super.cial),網膜深層(deep),網膜外層(outerretina),脈絡毛細血管板層(choroidcap-illary)の4層のそれぞれの画像を読影するが,網膜外層の画像は,網膜血管は正常では存在しないため,血管が描出した場合は,AMDの症例であればCNVの存在が示唆される(図1).その場合は網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)から網膜側に隆起したCNVが描出されるが,RPEより上にCNVが存在するType2CNVだけでなく,RPEより下にCNVが存在するType1CNVも隆起していれば描出される.より詳細にCNVを検出するには,セグメンテーションの幅を任意に設定し,それを上下にずらすことでCNVを描出させることができる2).OCTAは,血流を示した赤色部位を表示したB-scanの画像の重ね合わせで構築されているので,この基となるB-scanの画像を確認することで,CNV自体の血流による所見であることが証明できる.IIArtifactOCTAの代表的なartifactには,motioncontrast,segmentationerror,block,projectionartifactがある1).1.Motioncontrast被検者の眼球運動による画像の乱れ,瞬目による部分的な画像の欠損などのmotioncontrastは,読影の前の撮影時の問題である.とくにAMDの患者は高齢のため,長い時間の固視ができないことがあり,また他眼もAMDに罹患している場合は外部固視灯を利用した固視*RyusaburoMori:日本大学医学部視覚科学系眼科学分野〔別刷請求先〕森隆三郎:〒101-8309東京都千代田区神田駿河台1-6日本大学病院眼科0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(23)781図1画像の表示(症例はType2CNV)OCTAは自動層別解析で表示される4層(c,d,e,f)の画像を読影するが,網膜外層の画像(e)で,網膜色素上皮(RPE)から網膜側に隆起した脈絡膜新生血管(CNV)を検出する.鮮明にさらに詳細にCNVを検出するには,セグメンテーションの幅を任意に設定し,それを上下方向にずらす(l,m).血流を示した赤色部位を表示したB-scanの画像を確認することで,CNV自体の血流による所見であることを証明する.a:FA30秒.b:FA7分.CNVは早期から造影され,時間とともに強く増強,拡大する過蛍光として認める(classicCNV).c:OCTA.網膜表層.d:OCTA.網膜深層.e:OCTA.網膜外層.f:OCTA.脈絡毛細血管板層.g:OCTA.網膜外層(e)の拡大.脈絡膜新生血管(CNV)をこの層でのみ確認できる.h,i:gのB-scan像.hは水平,iは垂直.赤と緑のラインの間のセグメンテーション.j,k:OCTA.CNVの部位を拡大して表示.セグメンテーションのラインを下方にずらすとCNVの形態は変わる.jとkを合わせるとセグメンテーションの幅が広いgの形態に近くなる.l,m:j,kのB-scan像.脈絡毛細血管板層のモードで赤のラインの間のセグメンテーションの幅は約30μm(.).赤色は血流のある部位.図2網膜下出血によるblock網膜下出血より深層は測定光が到達しないため所見を得ることはできない.a:カラー眼底写真.中心窩に網膜下出血を認める.b:IA5分.ポリープ状病巣を示唆する過蛍光と出血による低蛍光を認める.c:OCTA.網膜表層.d:OCTA.網膜深層.網膜下出血のため網膜血管は描出される.e:OCTA.網膜外層.f:OCTA.脈絡毛細血管板層.g:OCTA.fの拡大.網膜下出血によるblockの範囲は黒色に表示される.h,i:gのB-scan像.hは水平,iは垂直.赤のラインの間のセグメンテーション.図3Projectionartifact脈絡毛細血管板層で検出された血管(b)は網膜表層の血管(a)と同部位であり,projectionartifactによる実際には存在しない偽血管である.a,b:OCTA.セグメンテーションのラインを網膜表層から脈絡毛細血管板層まで下方にずらすと,網膜表層(a)の網膜血管が再び描出される(b).c,d:a,b.のラインのB-scan像.赤のラインの間のセグメンテーション(.).赤色部位は血流のある部位では,網膜血管の真の血流で,は網膜色素上皮に現れた偽の血流.図4Type1+2CNVOCTAで,IAで検出された血管構造と同様のCNV所見が検出されるが,FAのclassicCNVの蛍光色素漏出の強い部位のCNV所見が検出されない場合は,type1CNVのみであるか,あるいはtype2CNVは存在してもRPEに接して薄く平坦に存在し,OCTの網膜下の高反射病巣にはCNVの成分は多くは含まれない可能性がある.a:カラー眼底写真.中心窩に網膜下出血を伴う灰白色病巣を認める.b:OCT.網膜下にCNVとフィブリンを示唆する高反射病巣()とRPE下のCNV(.)を示唆するRPEの扁平隆起病巣を認める.c:FA30秒.d:FA10分.cの①ライン上では早期から造影され,時間とともに強く増強,拡大する過蛍光として認められる.cの②ライン上では後期は①ライン上ほど過蛍光は強くはない.e:IA30秒.f:IA5分.早期eの①と②のライン上にCNVを明瞭に認める.g:OCTA.網膜外層.CNVを示唆する血管構造は認めない.h:OCTA.PPEレベル.CNVを示唆する血管構造を明瞭に認める.i:g①ライン上のB-scan像.赤と緑のラインの間のセグメンテーション().CNVを示唆する血流表示を認めない.j:g②ライン上のB-scan像.赤のラインの間のセグメンテーション().CNVを示唆する血流表示がRPEレベルに明瞭に認める.図5Pachychoroidalneovasculopathy慢性CSCからPCVが生じた症例の自覚症状のない対側眼.OCTAの脈絡毛細血管板層レベルのセグメンテーションで,IAの面状の過蛍光の部位に一致してCNVを示唆する血管構造が明瞭に描出されている.B-scan像でRPE下のBruch膜レベルで血流を示す赤色部位を認めている.a:FA1分.b:IA5分.FAとIA同部位に面状の過蛍光を2カ所認める(..).IAで脈絡膜血管透過性亢進所見を認める().c:OCT.脈絡膜の肥厚を認める(中心窩下脈絡膜厚400μm).d:OCTA.脈絡毛細血管板層.FAとIAの面状過蛍光の部位に一致してCNVを示唆する所見を認める(..).e:OCTA.dの拡大.血管構造が明瞭に描出されている(.).f:dの①ライン上のB-scan像.g:eの②ライン上のB-scan像.赤のラインの間のセグメンテーション().CNVを示唆する血流表示はRPE下のBruch膜レベルで血流を示す赤色部位を認めている.図6ポリープ状脈絡膜血管症PCVは,セグメンテーションのラインをずらすことによりポリープ状病巣と異常血管網を検出する.a:カラー眼底写真.橙赤色隆起病巣(ポリープ状病巣)()出血性色素上皮.離()を認める.b:OCT.異常血管網(.)とポリープ状病巣()を示唆する網膜色素上皮の隆起と漿液性網膜.離()を認める.c:IA24秒.d:5分.異常血管網()とポリープ状病巣()を認める.e,f:OCTA.eの異常血管網とfのポリープ状病巣の深さが異なるため,IAのように一つの画像で描出できない.それぞれの血管が存在する深さのラインをOCTB-scanのセグメンテーションのラインをずらしていくと,病巣が描出される.g,h:e,fのB-scan像.赤のラインの間のセグメンテーション().i:OCTA.j:IA24秒.iとJは同部位.ポリープ状病巣()と網膜血管()が描出されている.k:iのB-scan像.赤のラインの間のセグメンテーション.隆起したRPE下に血流を示す赤色部位が数個あるのが確認できるが(.),iで検出されるポリープ状病巣()はセグメンテーション内に存在する血管のみが描出される.また,iで検出される網膜血管()がprojectionarti-factによるものであることは同部位で網膜内にも網膜血管の血流を示めす赤色部位があることで確認できる().図7網膜血管腫状増殖a:FA20秒.網膜血管と吻合する新生血管を認める(.).b:FA13分.その周囲は強い蛍光漏出を認める().c:IA15秒.網膜血管と吻合する新生血管を認める(.).d:IA10分.新生血管は過蛍光として認める().e:OCT(水平断).網膜色素上皮の中央に新生血管を示唆する高反射病巣を認める().f,g:OCTA.網膜血管と吻合する新生血管が描出されている(,).h,i:B-scan像.赤のラインの間のセグメンテーション.網膜内の新生血管()は網膜血管()より深層に存在する.新生血管の赤色部位は深層に延びるが,projectionartifactに伴うものの可能性があり,RPEを穿破しているかは不明である.j:cのIA早期拡大(fとgの同部位のと).図8ポリープ状脈絡膜血管症治療後の経過①治療前.a:OCT.漿液性網膜.離(.)と網膜浮腫()を認める.b:OCTA.ポリープ状病巣(.)と異常血管網を認める().c:Bスキャン像.赤のラインの間のセグメンテーション.d:IA10分.ポリープ状病巣を認める.②アフリベルセプト硝子体内注射併用光線力学的療法後1カ月.e:OCT.漿液性網膜.離と網膜浮腫は消失.f:OCTA.ポリープ状病巣は認めず,異常血管網は縮小している().g:B-scan像.赤のラインの間のセグメンテーション().③アフリベルセプト硝子体内注射併用光線力学的療法後3カ月.h:OCT.滲出所見なし.i:OCTA.異常血管網は拡大している().j:B-scan像.赤のラインの間のセグメンテーション().④アフリベルセプト硝子体内注射併用光線力学的療法後9カ月.k:OCT.滲出所見なし.l:OCTA.異常血管網はさらに拡大している().m:B-scan像.赤のラインの間のセグメンテーション().ープ状病巣が網膜内に突出している場合には,網膜血管との判別が困難となるので,自動層別解析ではポリープ状病巣は描出しにくい.B-scanで隆起したRPE内の血流を示す赤色部位を確認し,OCTAで描出されたポリープ状病巣が,それより内層の網膜血管やその網膜血管のprojectionartifactでないことを証明する必要がある(図6).V網膜血管腫状増殖網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousprolifera-tion:RAP)は,病名がtype3neovascularizationとなっていることもあるが13),新生血管の網膜血管との吻合を確認し診断するためFAとIAのいずれかが有用となるが,OCTAの報告もある14.16).網膜外層レベルの新生血管が網膜血管と吻合し,RPEから網膜内に存在するため,網膜内に出血を伴うことや.胞様黄斑浮腫を伴う症例もあり,OCTAで網膜内レベルの新生血管を検出す際には上述したsegmentationerrorやblockなどartifactの影響を受けやすい16).OCTAでは新生血管が網膜血管より深層の網膜外層で検出されることから,NVがRPEに接するレベルの部位に存在し,その部位から網膜血管と吻合している可能性がある.図7の症例で示すようにB-scanの赤色部位の所見から,網膜内の新生血管は網膜血管より深層に存在し,RPE下にも連続する新生血管の可能性もある.しかし,赤色部位は深層に延びるが,projectionartifactに伴うものの可能性があり,新生血管がRPEを穿破しているかは不明である.VI治療効果の判定滲出型AMDに対して抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬硝子体注射や光線力学療法(photodynamictherapy:PDT)が行われているが,その治療効果の判定にOCTAが用いられている.図8のPCVの症例のようにOCTで滲出性所見が消失していても,サイレントに病巣が拡大していることもある.OCTAでこのような所見を認めた場合に,追加治療を行うか,あるいは診療の間隔を短縮するかなどは今後の検討課題であり,現状ではOCTA所見で追加治療の有無の判定はできないが,参考にはなっている.おわりに本稿では,滲出型AMDのOCTA所見について症例を提示し解説した.自動層別解析で表示される所見だけではなく,セグメンテーションの幅を任意に設定し,それを上下にずらすことでより詳細に所見を描出させ,さらに血流を示した赤色部位を表示したB-scanの画像を合わせて読影することで,AMDへの応用がさらに広がると思われる.OCTAの進歩により,今後はprojectionartifactを含めさまざまなartifact影響の軽減や除去が可能となり,さらに詳細な所見を得ることができる可能性がある.また所見の読影の解釈が変わる可能性もある.OCTAは,FAとIAと同様の所見が得られることが期待されたが,造影剤を用いて描出される血管像とOCTAの血流のみで描出される血管像は異なる.OCTAにFAとIAと同様の所見を求める必要はなく,OCTA独自の所見を確立できれば,造影剤を使用する必要がないため,非侵襲的に,迅速に,AMDの診断や治療方針の選択が可能となる.文献1)SpaideRF,FujimotoJG,WaheedNK:Imageartifactsinopticalcoherencetomographyangiography.Retina35:2163-2180,20152)CoscasGJ,LupidiM,CoscasFetal:Opticalcoherencetomographyangiographyversustraditionalmultimodalimaginginassessingtheactivityofexudativeage-relatedmaculardegeneration:Anewdiagnosticchallenge.Retina35:2219-2228,20153)野崎美穂,園田祥三,丸子一朗ほか:網脈絡膜疾患における光干渉断層血管撮影と蛍光眼底造影との有用性の比較.臨眼71:651-659,20174)GassJD:Biomicroscopicandhistopathologicconsider-ationsregardingthefeasibilityofsurgicalexcisionofsub-fovealneovascularmembranes.AmJOphthalmol118:285-298,19945)PangCE,FreundKB:Pachychoroidneovasculopathy.Retina35:1-9,20156)DansinganiKK,BalaratnasingamC,KlufasMAetal:Opticalcoherencetomographyangiographyofshallowirregularpigmentepithelialdetachmentsinpachychoroidspectrumdisease.AmJOphthalmol160:1243-1254,20157)MiuraM,MuramatsuD,HongYJetal:Noninvasivevas-790あたらしい眼科Vol.34,No.6,2017(32)-

光干渉断層血管撮影の機種による特徴

2017年6月30日 金曜日

光干渉断層血管撮影の機種による特徴CharacteristicsofOCTangiographyDevices野崎実穂*はじめに光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyangiography:OCTA)は,2015年3月にわが国でXRAvanti(Optovue)が承認され,その後,次々と各社のOCTAが発売されてきた.各社ともソフトや性能は日々進化し続けており,今後の眼科臨床にはOCTAは欠かせない検査になると思われる.本稿では現在わが国で市販されているOCTAの各機種の特徴について述べるが,筆者の施設で実際に使用したことのある機種は3機種(XRAvanti,Triton,RS-3000Advance)であること,各機種の性能は2017年4月時点でのものであることを,あらかじめことわっておく.IOCTAの種類2017年4月現在,日本で市販されているOCTAが撮影できる機種は,XRAvanti(Optovue),RS-3000Advance(ニデック),Triton(トプコン),Cirrus5000,PLEXElite9000(カールツァイスメディテック),OCT-HS100(キヤノン),SpectralisOCT2(HeidelbergEngineering)の7機種である(図1).TritonとPLEXElite9000の2機種は,波長1,050nmのスウェプトソース(sweptsource:SS)OCT(SS-OCT)がベースとなっており,それ以外は波長約840nmのスペクトラルドメイン(spectraldomain:SD)OCT(SD-OCT)がベースとなっている.また,OCTAの原理は,血流中の赤血球の動きのちらつきを検出するものであるが,さらに分類すると,位相(phase)変化の検出,振幅(ampli-tude)変化の検出,位相と振幅両方の変化の検出の3つに分けられるが,Cirrus5000,PLEXElite9000,RS-3000Advanceでは位相と振幅両方の変化を検出,それ以外の機種は振幅変化の検出が元になっている.以下,個々の機種について特徴を述べる.また,個々の機種の比較を表1にあげる.IIXRAvantiXRAvantiは世界で最初に販売されたOCTA撮影機種である.スキャンスピード70,000A-scan/秒のSD-OCTであるXRAvantiOCTでは,OregonHealth&ScienceUniversityのDavidHuangらが開発したsplit-spectrumamplitudedecorrelationangiography(SSADA)というアルゴリズムを用いており,少ない連続撮影画像から波長を分割し,動きのある信号(振幅変化)を増強して,再構築する仕組みになっており1),約3秒という早い時間で撮影・解析が終わる.また,motioncorrectiontechnologyも搭載されているため,多少固視微動があった場合も,補正してアーチファクトが入らない比較的鮮明な画像を得ることができる.自動的にsuper.cial(網膜表層毛細血管層)(内境界膜-内網状層),deep(網膜深層毛細血管層)(内顆粒層-外網状層),outerretina(網膜外層)(外顆粒層-Bruch膜),choroidcapillary(脈絡毛細血管板)の4層に層別表示される(図2).解剖学的に,網膜毛細血管は,神経節細*MihoNozaki:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学〔別刷請求先〕野崎実穂:〒467-8601愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(13)771ade図1現在日本で市販されているOCTA撮影機種a:XRAvanti,b:RS-3000Advance,c:Cirrus5000,d:PLEXElite9000,e:Triton,f:OCT-HS100,g:SPECTRALISOCT2.表1OCTA機種比較商品名XRAvantiRS-3000AdvanceTritonCirrus5000PLEXElite9000OCT-HS100SPECTRALISOCT2OCTA名称AngioVueAngioScanAngioPlexメーカーOptovueニデックトプコンカールツァイスカールツァイスキヤノンHeidelbergEngineeringSDorSS-OCTSD-OCTSD-OCTSS-OCTSD-OCTSS-OCTSD-OCTSD-OCTアルゴリズムSSADACODAAOCTARAOMAGOMAGamplitudedecorrelationFullspectrumprobabilisticapproachスキャンスピード(A-scan/秒)70,00053,000100,00068,000100,00070,00085,000光源波長(nm)8408801,0508401,000855870アイトラッキングMotionCorrectionTechnologySLOによるトラッキングSMARTTrackLSOによるトラッキングLSOによるトラッキングSLOによるトラッキングDualBeamLiveEyeTracking最大撮影画角8mm9mm9mm8mm12mm10mm3mm自動セグメンテーション網膜表層/網膜深層/網膜外層/脈絡毛細血管板網膜表層/網膜深層/網膜外層/脈絡膜網膜表層/網膜深層/網膜外層/脈絡膜網膜全層網膜硝子体界面/網膜表層/網膜深層/視細胞層/脈絡膜毛細血管板/脈絡膜網膜表層/網膜深層/網膜外層/脈絡毛細血管板任意の層でプリセット可能網膜表層/網膜深層/網膜外層/(脈絡膜はユーザー定義)解像度(ピクセル)304(3mm)400(6mm)256512245(3mm)350(6/8mm)300(3mm)500(6/9/12mm)232(3mm)464(6mm)696(10mm)512横方向分解能(μm)15202010.2010.20205.7縦方向分解能(μm)572.6(デジタル)8(光学)51.95(デジタル)6.3(光学)1.6(デジタル)3(光学)3.9解析ソフト/特徴などAngioAnalytics・12×9mmパノラマ自動合成・MP-3重ね合わせ・パノラマ機能搭載予定AngioPlex市販のOCTAで画角最大(12mm)・3D表示・自動で10層セグメンテーション・FAなど他のイメージングと重ね合わせ・自動で網膜10層セグメンテーション図2XRAvantiのOCTAレポート画面糖尿病網膜症症例の3×3mmOCTA画像.自動セグメンテーションで,super.cial(網膜表層),deep(網膜深層),outerretina(網膜外層),choroidcapillary(脈絡毛細血管板)の4層に分けて結果が表示される(上段).図3同一眼の6×6mm網膜表層画像の比較a:XRAvanti以前のバージョンで撮影.解像度304ピクセル.b:XRAvanti最新バージョンで撮影.解像度400ピクセル.c:Tritonで撮影.解像度512ピクセル.図4RS.3000AdvanceのOCTAレポート画面膜静脈分枝閉塞症の3×3mmOCTA画像.自動セグメンテーションで,網膜表層,網膜深層,網膜外層,脈絡膜の4層に分けて結果が表示される.OCT厚みマップも一緒に表示される.図5網膜静脈分枝閉塞症の蛍光眼底造影画像(a)とRS3000Advanceの自動パノラマ合成機能で撮影された9×12mm網膜表層画像(b)3×3mmを計12枚撮影したものを自動合成.下方の無灌流領域がOCTAでも観察できる.2016/10/12,右眼,マイクロペリメトリ,固視標&指標表示,2016/10/12,右眼,黄斑マップAX-Y,Enface画像:網膜表層図6RS3000Advanceで撮影されたOCTA画像にMP.3結果を重ね合わせたもの網膜静脈分枝閉塞症症例.OCTAの無灌流領域に一致して感度が低下していることがわかる.図7TritonのOCTAレポート画像糖尿病網膜症例(画角3×3mm).自動セグメンテーションでsupe.cial(網膜表層),deep(網膜深層),outerretina(網膜外層),choriocapillaris(脈絡毛細血管板)の4層に分けて表示される.右下にカラー眼底写真も表示される.CompositeSRLDRLAvascularB-scanChoriocapillarisChoroid図8Cirrus5000のOCTAレポート画像自動セグメンテーションでcomposite(網膜表層-外層),SRL(網膜表層),DRL(網膜深層),avascular(網膜外層),choriocapillaris(脈絡毛細血管板),choroid(脈絡膜)に分けて表示される.(画像提供:カールツァイスメディテック)AngioPlex-RetinaStructure-Retina図9PLEXElite900012mmのOCTA画像糖尿病網膜症症例(画角12×12mm).左:OCTA(網膜)と右:enface画像.OCTAでアーケード血管外の無灌流領域や新生血管も明瞭に観察できる.(画像提供:カールツァイスメディテック)図10OCT.HS100正常人OCTA画像画角10×10mm.広い画角であるが696ピクセルと高解像度である.(画像提供:キヤノン)図11OCT.HS100による視神経乳頭OCTA画像上段が2D表示,下段が3D表示.(画像提供:キヤノン)図12SPECTRALISOCT2の正常人OCTA画像高い解像度のため,a:網膜表層,b:内網状層/内顆粒層にある毛細血管,c:内顆粒層/外網状層にある毛細血管を分けて描出できる.(画像提供:JFCセールスプラン)

OCTと光干渉断層血管撮影

2017年6月30日 金曜日

OCTと光干渉断層血管撮影OCTandOCTangiography丸子一朗*飯田知弘*はじめに光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyangiography:OCTA)は眼底イメージング分野において近年その話題を独占しており,学会でも注目されている.この技術はその名の通り,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の技術,つまり,網膜に赤外光を当てて網膜内組織の反射の違いから網膜各層を描出する方法を用いて,網脈絡膜の血管をあたかも蛍光眼底造影を行ったかのように描出することを可能にした.もちろんOCTなので造影剤は必要なく,非侵襲的に検査を行うことができる.一方で,現行のOCTAにはさまざまな問題もある.本稿ではOCTを初期から使い続けている医師側の立場から,OCTAに至るまでの変遷と現状について解説する.IタイムドメインOCT(TD.OCT)後眼部用のOCTは1996年に商品化され,以降その有用性からさまざまな黄斑疾患の病態が明らかになった.1997年には日本にも導入されるようになり,日本からもたくさんの報告がなされた.初期のOCTは第一世代(図1)とよべるもので,単純にいえば,照射した光の最大反射強度を1本1本測定し,それを断層像として描出するのみ〔タイムドメイン(timedomain:TD)方式〕であり,1枚の断層像を作るためには光源(実際には参照ミラー)を移動させながら何本もの光照射を行うことから,約1秒のスキャンが必要であった.実際の画像も黄斑部陥凹や円孔の有無,網膜全層の形態や厚みを評価することは可能であったが,網膜の層別解析は困難であった.その後,2000年代に入り検出機器の性能向上により網膜の各層が評価可能となり,視機能に直結するとされる網膜外層における網膜視細胞内節外節境界(innerandoutersegment:IS/OS)と呼称された1本のラインの存在がクローズアップされることとなった(第二世代,図2).IIスペクトラルドメインOCT(SD.OCT)2006年にはそれまでのTD方式からスペクトラルドメイン(spectraldomain:SD)方式が採用された.照射光から発した光の対象物からの反射を分光器にかけ,波長変化を検出することで1本の照射から得られる情報が増し,より高速な網膜スキャンを可能にした.さらに同じ部位を複数回スキャンし,得られた複数枚の断層像を加算平均処理することでノイズを減少させ,さらなる高解像度な画像を取得できるようになった.つまり機器性能そのものの向上だけでなく,得られた画像データの解析法も改善されたことで,数十倍の高速化・高解像度化が進んだ(第三世代,図2).その結果,上述したIS/OSラインのさらに後方に,もう1本のラインの存在(3rdライン)が確認されることとなった.さらにスキャンそのもののスピードが高速化したことで,同じ場所だけでなく,ある一定の範囲を3D(volume)*IchiroMaruko&*TomohiroIida:東京女子医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕丸子一朗:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(3)761図1第一世代光干渉断層計(OCT)a:正常眼.中心窩陥凹が観察できる.b:黄斑円孔.黄斑部網膜の裂隙と浮腫が確認できる.第二世代黄斑円孔a:第二世代,正常.Ellipsoidzone(IS/OS)がなんとか判別できる.網膜色素上皮が少し波打っているが,これは撮影時にわずかに動いたことによる.b:第三世代(SD-OCT),正常.aと同一症例.Ellipsoidzone(IS/OS)だけでなく,外境界膜も確認できる.網膜色素上皮に不整はない.c:第二世代,黄斑円孔.網膜内層外層の浮腫が確認できるが,硝子体ははっきりしない.d:第三世代(SD-OCT),黄斑円孔.cと同一症例.浮腫が鮮明に描出され,硝子体も確認できる.*どれも厚みと縮尺が同じになるようにサイズ調整済み.図3SD.OCTとSS.OCTの比較a:SD-OCT.ellipsoidzone,interdigitatioinzoneのいずれも鮮明に描出されている.b:EDIモードで撮影.脈絡膜強膜境界が通常の撮影より鮮明である.その分ellipsoidzone,interdigitatioinzoneがやや不鮮明になっている.c:SS-OCT.ellipsoidzone,interdigitatioinzone,脈絡膜のいずれもが鮮明に描出されている.ab図4EnfaceOCT(同一症例の右眼〔左列〕および左眼〔右列〕)a:水平断.左:黄斑円孔,右:正常.b:水平断の白点線におけるスライス,中心窩の描出はよいが,眼球の湾曲のため,その周囲ははっきりしない.c:網膜色素上皮(PRE)ラインで平坦化後の黄色点線におけるen-face画像.中心窩付近だけでなくその周囲も鮮明に描出される.右下では脈絡膜中大血管が描出されている.VIIOCTangiography(OCTA)これまでのOCTは網脈絡膜の形態を評価するものであって,血流のような動的な変化を観察するものではなく,この点においてフルオレセイン蛍光造影(.uore-sceinangiography:FA)やIAとはまったく別の検査であった.近年急速に普及してきているOCTAはOCTで血流という動的変化をとらえることができる検査である.簡単な原理として,OCTAは連続的に網脈絡膜のOCT撮影を繰り返すことで得られる複数枚の画像の間にある変化(位相変化または信号強度変化,もしくはその両者)を血流情報として抽出し,それ以外の変化のなかった部位の情報を削除することで,動的変化の部位として血管像を構築し,FAやIA画像のように表示することができる.さらに得られた画像を,先述のenface画像作成の技術を応用して,血流情報を三次元的に解析し,網膜から脈絡膜の血管を深さ別にenface画像として描出することで,これまでのFA・IAとは異なり層別解析が可能となっている.得られた画像はFA・IAとは異なるが,病変の検出は同等である一方,検査時間が短く副作用がない利点が報告されている10).また,現時点ではSD-OCTにangiography機能を付加した装置が主流だが,一部ではSS方式を採用しているものもある.OCTAにおけるSD-OCTとSS-OCTの違いについては今後の検討を待つ必要がある.VIIIOCTangiographyで見えるもの詳細については別項に譲るが,現時点でOCTAで有効性が期待できるものとして,次のようなものがある.1.無灌流領域(図5a)糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症などで生じる無灌流領域はFAよりも鮮明に描出される.ただし,現行機種では描出範囲が限定されており,眼底周辺部まで描出するのは困難である.また,OCTを応用したものであることから,OCTの光が届かない出血や浮腫,漿液性網膜.離より後方の変化は,真の画像ではない可能性があり,注意する必要がある.2.網膜新生血管(図5b)とくに糖尿病網膜症における視神経乳頭上の新生血管や無灌流領域の後極部側にみられる.無灌流領域と同様OCTAはまだ画角が狭いため,周辺部の新生血管は描出困難である.3.脈絡膜新生血管(図5c,d)滲出型加齢黄斑変性や近視性黄斑症などの新生血管描出がもっとも期待されている.ただし,網膜色素上皮上に新生血管のあるいわゆるtype2の描出は良好だが,網膜色素上皮下の病変の検出力はそれほど高くないとの報告もあり,注意が必要である.また,加齢黄斑変性症例は固視不良例が多く,鮮明な画像が得られないことが多い.4.中心窩無血管域(図5e,f)FAでは早期像でしか確認できない中心窩無血管域(fovealavascularzone:FAZ)が鮮明に描出できる.FAZの大きさによる病的な意義ははっきりしていないが,糖尿病症例では単純網膜症やそれ以前のまだ網膜症がない症例でもFAZが拡大しているとの報告もある11).IXOCTangiographyの限界基本原理上または技術上,OCTAには簡単には解決できない限界が存在する.上記ではFA・IAと同じまたはそれ以上の画像が得られると述べたが,実際には次のように検出できないものもある.1.画角が狭いFA・IAと比較して,現行のOCTAでは3mm×3mmや6mm×6mm程度と範囲が狭い.これはスキャンそのものやその後の解析スピードの問題で,今後解決されると思われる.2.蛍光漏出・蛍光貯留が検出できないOCTAでは基本的に赤血球の動きを検出しているため,血漿成分の動きは描出できない.蛍光漏出や蛍光貯留は病変の活動性を示す重要な所見であり,たとえば糖尿病網膜症の毛細血管瘤の漏出や,中心性漿液性脈絡網(7)あたらしい眼科Vol.34,No.6,2017765図5OCTangiographyで期待されている画像a:網膜静脈分枝閉塞症例の黄斑部パノラマ画像.b:増殖糖尿病網膜症における視神経乳頭上の網膜新生血管.c:脈絡膜新生血管.網膜外層および脈絡膜血管層に新生血管がみられる.d:中心窩無血管域.e:40歳代の正常眼,f:60歳代の糖尿病網膜症例.図6Motionartifacta:網膜血管のダブリング.撮影時のわずかな動きにより網膜血管が二重に映り込むこと.b:キルティング.水平および垂直スキャン位置合わせを行うことによって起こるアーチファクト.図7Blockinge.ect黄斑部耳側に低輝度所見がみられるが,網膜表層,網膜深層,網膜外層および脈絡膜血管層のすべてに写っていることからアーチファクトだとわかる.この症例では硝子体混濁が存在していた.ab図8Segmentationerrora:OCTangiography.耳側1/4が描出されていない.b:水平断.耳側が撮影範囲からズレておりsegmentationができていない.図9Projectionartifactドルーゼンが多発している症例で網膜外層および脈絡膜血管層に脈絡膜新生血管はみられないが,脈絡膜血管層に網膜血管が写り込んでいる.ここまで映り込むことは稀であるが,本症例では網膜色素上皮不整により,segmentationも困難なため生じたと考えられる.図10Transmissione.ect黄斑部に網膜色素上皮萎縮があり,OCTAでは萎縮部位でのみ脈絡膜血管が白色に描出されている.-

序説:光干渉断層血管撮影(OCT angiography)のすべて

2017年6月30日 金曜日

光干渉断層血管撮影(OCTangiography)のすべてOCTangiography:AllYouNeedtoKnow小椋祐一郎*光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は,光の干渉作用を利用して組織の断面画像を描出する技術で,1991年に,DavidHuangらにより開発された1).昨年はその開発から25年ということで,InvestigativeOphthalmology&VisualScience誌にその記念号が特集された.現在,眼科領域以外でもOCT技術は使用されているが,図1OCTPublicationsByYear4,0003,5003,000NumberofPublications2,5002,0001,5001,0005000のように眼科領域での研究報告がきわめて多く,この分野において眼科が果たしてきた貢献は特記すべきものがある2).OCTのハードウェアの進歩も著しく,初期の機器では1秒間に400スキャンであったが,最新の機器では1秒間に100,000スキャンという超高速の測定が可能となっている.このような計測の高速化SurgeryOtherNon-MedicalMicroscopyNDE/NDTOralCavity(notDentistry)GynecologyBronchoscopy&PulmonologyDevelopmentalBiologyUrologyOtolaryngologyOtherMedicalDentistryNeurologyGastroenterology&EndoscopyDermatologyTechnology1991199219931994199519961997199819992000200120022003200420052006200720082009201020112012201320142015CardiovascularOphthalmologyYear図125年間のOCTに関する領域別論文数緑色が眼科領域の論文数.(文献2から引用)*YuichiroOgura:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(1)759

千葉労災病院における糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬硝子体注射12カ月の治療成績

2017年5月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科34(5):744.748,2017c千葉労災病院における糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬硝子体注射12カ月の治療成績高綱陽子*1岡田恭子*1大岩晶子*1山本修一*2*1千葉労災病院眼科*2千葉大学大学院医学研究院眼科学IntravitrealInjectionofAnti-VEGFDrugforDiabeticMacularEdemaYokoTakatsuna1),KyokoOkada1),ShokoOiwa1)andShuichiYamamoto2)1)DepartmentofOphthalmology,ChibaRosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,ChibaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)に対する抗VEGF薬硝子体注射12カ月の治療成績を検討する.対象および方法:千葉労災病院において2014年3.8月にDMEと診断され,抗VEGF薬硝子体注射後12カ月以上経過観察できた症例の視力(logMAR換算)と中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)について,治療前,治療1,2,3,6,9,12カ月後に検討した.3カ月以上前のステロイドTenon.下注射,毛細血管瘤への直接凝固などのDMEに対する先行治療は含まれる.結果:17人18眼.平均年齢64.8歳.平均HbA1C6.8%.3カ月までに使用した抗VEGF薬はすべてラニブズマブであり,3カ月間のラニビズマブ注射回数は平均1.7回で,その後の12カ月まででは,アフリルベセプトも含まれるが,抗VEGF薬総注射回数は2.4回.期間中,抗VEGF薬以外の追加治療は,ステロイドTenon.下注射2眼,閾値下凝固3眼,局所レーザー5眼.治療前の視力(logMAR換算)は0.524で,治療1,2,6,9カ月後で,それぞれ0.428,0.425,0.386,0.381となり,有意に改善した(1,2,6カ月後ではp<0.05,9カ月後ではp<0.01).3,12カ月後では有意差はなかった(3M:0.422,12M:0.424).CRTは,治療前540.8μmで,治療1,2,3,9,12カ月後ではそれぞれ407.4,398.9,415.2,391.7,386.2μmとなり,有意に改善した(1,2,12カ月後ではp<0.01,3,9カ月後ではp<0.05).6カ月後では有意差はなかった(6M:415.5μm).結論:当院でのDMEに対する抗VEGF薬硝子体注射12カ月の治療成績は,総注射回数2.4回で,治療効果は12カ月にわたり維持できていた.Purpose:Toevaluatethee.cacyofintravitrealinjectionofanti-VEGFdrugfordiabeticmacularedema(DME)overaperiodof12months.Methods:FromMarch2014toAugust2014,18eyesof12patientswithDMEwhoreceived0.5mganti-VEGFdrug(ranibizumab)werefollowedupfor12months.Best-correctedvisualacuity(BCVA)andopticalcoherencetomography-determinedcentralretinalthickness(CRT)wereevaluatedbeforeandat1,3,6,9and12months(M)afterthe.rstinjection.Results:Injectionincidenceaveraged1.7dur-ingthe.rstthreemonthsand2.4duringthe12months.BaselineBCVAandCRTwere0.52and544.8μm,respectively.Atmonths1,2,6and9,BCVAshowedsigni.cantdi.erence(1M:0.428,2M:0.425,6M:0.386,9M:0.381),thoughmonths3and12didnotshowsigni.cantdi.erence(3M:0.422,12M:0.424μm).Atmonths1,2,3,9and12,CRTshowedsigni.cantdi.erence(1M:407.4,2M:398.9,3M:415.2,9M:391.7,12M:386.2μm).Atmonth6,CRTdidnotshowsigni.cantdi.erence(6M:415.5μm).Conclusion:Anti-VEGFdrugise.ectiveforDMEduringa12-monthperiod,evenatupto2.4injections.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(5):744.748,2017〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,抗VEGF薬,ラニビズマブ,アフリルベセプト,併用療法,光凝固.diabeticmacu-laredema,anti-VEGFdrugs,ranibizmab,a.ibercept,combinedtherapy,photocoagulation.〔別刷請求先〕高綱陽子:〒290-0003市原市辰巳台東2-16千葉労災病院眼科Reprintrequests:YokoTakatsuna,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,ChibaRosaiHospital,2-16Tatsumidai-higashi,Ichihara,Chiba290-0003,JAPAN744(142)はじめにわが国における糖尿病患者数の動向は厚生労働省国民健康・栄養調査結果によれば,調査が始まった平成9年度の糖尿病が強く疑われる者の数は690万人であったのに対し,平成14年度では740万人,平成19年度では890万人,平成24年度では950万人となっている.また,糖尿病網膜症は,糖尿病罹病期間の延長とともに累積的に増加し,後天性視覚障害の主要な原因となってきた.最近の報告では,若い世代では,高齢者と比較し,重症な増殖網膜症の発症頻度が2倍近く高く,また,年齢別にまた進展と重症化の割合も,65歳以上の高齢者に比べ,40歳未満の若年者においてより高く,若年者では,重症化した網膜症患者が増えていることが示されている1).また,網膜症の重症度が増すにつれ,黄斑浮腫合併の割合も増えるとされており,働く世代における糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)への対策が社会的にも非常に重要になっていると考えられる.これまでにレーザー治療,90年代からは硝子体手術,ステロイド治療などが行われてきたが,さまざまな問題点もあり,黄斑浮腫に対する治療は十分確立されたものとはいえないものであった.このようななかで,筆者らは,マイクロパルスレーザーに取り組んできた2).マイクロパルスレーザーは,レーザー連続照射時間がきわめて短くなることにより,温度上昇が網膜色素上皮に限局し,側方にも広がらない特徴をもつもので,副作用の少ない低侵襲な治療として行ってきたが,12カ月の治療成績では,中心窩網膜厚の改善はできたが,視力は維持のみで,単独治療としては,まだ十分とはいえなかった2).DMEの病態解明が進み,血管内皮増殖因子(vas-cularendotherialgrowthfactor:VEGF)が,DMEの硝子体中では高濃度に存在していることが解明された3).加齢黄斑変性症の治療薬としてすでに認可されていたラニビズマブが,DMEにおいても大規模臨床試験でその有用性が示され4,5),わが国においても,2014年には,ラニブズマブ,ついで,アフリルベセプトと2種類の抗VEGF薬にDMEの適応が拡大された.抗VEGF薬は,これまでのレーザーや,ステロイド治療に比較して,即効性があり,中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)の改善のみならず,視力も改善できるなど,これまで以上の大変優れた治療効果が示されたが,年間7,8回以上もの繰り返し投与が必要とされ,頻回の外来受診と高額な薬剤費用が大きな負担になってくると思われる.このような背景のもとで,筆者らは,DMEに対する治療として,抗VEGF薬硝子体注射を行うようになり,1年間の治療成績を診療録より後ろ向きにまとめたので報告する.I対象および方法2014年3.8月に千葉労災病院にて,DMEと診断され,抗VEGF薬硝子体注射を施行された症例で,その後12カ月以上経過観察できた症例の視力(logMAR値),CRTについて,治療前および治療1,2,3,6,9,12カ月後について診療録より後ろ向きに検討した.これらの症例で,DMEに対する治療歴がまったくないものは3眼で,先行治療があるものも多く含まれている.3カ月以上前に施行された,毛細血管瘤(microaneurysm:MA)へのレーザー5眼,汎網膜光凝固4眼,白内障手術施行2眼,2年前にDMEに対して硝子体手術施行の1眼である.3カ月以内に何らかの治療を受けているものはすべて除外した.硝子体手術については6カ月以上の経過が空いていることとした.基本的な治療方針としては,ラニビズマブ硝子体注射(intravitrealinjectionofranibizumab:IVR)を行い,その後は2段階以上の視力の悪化または20%以上のCRTの増悪があった場合には,再燃と考え,IVRを繰り返す方針であるが,患者の同意が得られない場合には,必ずしもその限りではない.6カ月以降での再注射には,新しく発売されたアフリルベセプト使用も含まれる.また,経過中にMAの出現がみられた場合や,造影検査で,無血管野の残存があった場合にはレーザー追加すること,また,硝子体注射を希望しない場合の追加治療として,マイクロパルスレーザーや,ステロイドTenon.下注射もできることをあらかじめ説明した.統計処理は,Wilcoxon順位和検定による.II結果18人19眼が対象で,6カ月までは全例が経過観察できたが,2眼は6カ月経過後に網膜症の活動性が増し,硝子体出血発症などのため硝子体手術適応となり,16人17眼について検討した.平均年齢64.5歳,平均HbA1C6.8%であった.3カ月までの抗VEGF薬は,すべてラニビズマブが用いられ,IVRの3カ月間の回数は平均1.7回で,3カ月以降12カ月までの期間で追加投与した抗VEGF薬には,アフリルベセプトも含まれているが,12カ月間の抗VEGF薬総注射回数は2.4回であった.期間中の抗VEGF薬硝子体注射以外の追加治療は,ステロイドTenon.下注射2眼,閾値下凝固3眼,局所レーザー5眼であった.視力(logMAR換算)は治療前0.524より,1,2,3,6,9,12カ月後でそれぞれ,0.428,0.425,0.422,0.386,0.381,0.424となり,1,2,6,9カ月後で有意に改善した(1,2,6カ月後ではp<0.05,9カ月後ではp<0.01).3,12カ月後では有意差はなかった(図1,表1).CRTは,治療前540.8μmより,1,2,3,6,9,12カ月後では,それぞれ407.4,398.9,415.2,415.5,391.7,386.2μmとなり,1,2,3,9,12カ月後では有意に改善した(1,2,12カ月後ではp<0.01,3,9カ月後では,0.7*p<0.05**p<0.01700*p<0.05,**p<0.010.6600*500*******0.5視力(logMAR)中心窩網膜厚(μm)0.40.34003002001000.20.10Before1M2M3M6M9M12M0Before1M2M3M6M9M12M図1視力(logMAR)の経過図2中心窩網膜厚の経過投与前,1,2,3,6,9,12カ月後の視力.投与前中心窩網膜厚(CRT)は,治療前540.8μmで,1カ月後0.524,1カ月後0.428,2カ月後0.425,3カ月後0.422,407.4,2カ月後398.9,3カ月後415.2,9カ月後391.7,6カ月後0.386,9カ月後0.381,12カ月後0.424とな12カ月後386.2μmとなり,1,2,3,9,12カ月後では,り,術後1,2,6,9カ月では有意に改善した(1,2,6有意に改善した(1,2,12カ月後ではp<0.01,3,9カカ月後ではp<0.05,9カ月後ではp<0.01).月後ではp<0.05).6カ月後では,有意差はなかった.表1視力(logMAR)の経過before1M2M3M6M9M12M視力(logMAR)0.524±0.0740.428±0.0730.425±0.0760.422±0.0890.386±0.0600.381±0.0700.424±0.074p値0.0150.0300.1550.0200.0010.083表2中心窩網膜厚の経過before1M2M3M6M9M12M中心窩網膜厚(mm)540.8±29.9407.4±25.3398.9±30.9415.2±27.7415.5±34.8391.7±23.3386.2±29.8p値0.0040.0020.0110.0550.0120.008p<0.05).6カ月後では有意差はなかった(図2,表2).代表的な症例を2例示す.〔症例1〕60歳,女性.3カ月以上前に,中心窩上方の毛細血管瘤へのレーザー施行歴はあるが,視力(0.6),CRT715μmで,漿液性.離を伴う黄斑浮腫が持続していた.IVRを1カ月ごとに2回行い,視力(0.7),CRT465μmとやや改善したが,3回目の注射は希望されなかったため,初回IVR施行から3カ月後にステロイドTenon.下注射を施行し,さらにその3カ月後に,まだ残存している毛細血管瘤へのレーザー光凝固を施行した.12カ月後の視力(0.5),CRT249μmと改善が認められた.網膜全体の出血斑,白斑も減少している(図3).〔症例2〕58歳,女性.3カ月以上前に,輪状行性白斑内の毛細血管瘤を凝固したが,視力(0.2),CRT653μmと黄斑浮腫が持続していた.IVRを1カ月ごとに3回行い,視力(0.4),CRT295μmと改善がみられた.6カ月後に再燃し,その後4回のアフリルベセプト硝子体内注射を行い,12カ月後の視力(0.5),CRT229μmと改善した.12カ月後の眼底では,抗VEGF薬投与前と比較し,眼底全体の硬性白斑や出血斑が著明に減少している(図4).III考按これまでに,DMEに対するIVRについては,大規模臨床試験4,5)により,その高い臨床効果は示されており,現在のDME治療の第一選択の位置にあることは明らかなものとなっている.しかしながら,大規模臨床試験での総投与回数は1年間で,7,8回以上となっており,繰り返しの注射は,さまざまな新たな問題につながっている.高額な医療費の経済的な負担のほか,頻回の外来通院は,患者側,医療者側にも負担になる.また,繰り返し注射は眼内炎のリスクにつながるものであり,そのような因子を考慮すると,大規模臨床試験の示す頻回の注射回数をそのまま実際の日常診療には適応しにくい.DMEの患者の硝子体中のサイトカインを調べた研究では,DME患者では,非常に高濃度のVEGFが発現しているが,それ以外にも,IL-6ほか,炎症性サイトカインもあり6),ステロイド投与は,理論的にも治療法として有効であると考えられる.また,血管透過性が亢進し,漏出しているMAがあれば,直接的凝固により,浮腫が速やかに改善でき図3症例1(60歳,女性)左:眼底写真.上段:注射前,中段:6カ月後,下段:12カ月後.右:OCT所見.上段より,注射前,1カ月後,2カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後.3カ月以上前に,中心窩上方の毛細血管瘤へのレーザー施行歴はあるが,視力(0.6),中心窩網膜厚(CRT)715μm,漿液性.離を伴う黄斑浮腫が持続していた(写真上段).ラニビズマブ硝子体注射を1カ月ごとに2回行い,視力(0.7),CRT465μmとやや改善した(右3段目).3カ月後にステロイドTenon.下注射を施行し,さらに,残存する毛細血管瘤へのレーザーを6カ月後に施行した(眼底は左中段,OCTは右5段目).12カ月後では視力(0.5),CRT249μmと改善した(右下段).網膜全体の出血斑,白斑も減少している(左下段).視力の表示は小数視力による.ることは,1985年から推奨されており7),今回の症例においても,経過中に浮腫の原因となっていると思われるMAが新たに出現した場合には,凝固を行った.筆者らは,これまでにDMEに対するマイクロパルスレーザー閾値下凝固に取り組んできたが,色素上皮を刺激することにより,色素上皮のポンプ機能を賦活化し,網膜内浮腫を改善させるのではないかという作用機序を支持してきたが,即効性にはやや欠けるが,12カ月にわたる持続した治療効果を示し2),今回も追加治療として行っている.また,Takamuraらは,1回の抗VEGF薬投与でも,無血管野へのレーザー光凝固の併用により浮腫の再燃を抑制でき,レーザー光凝固が内因性のVEGFを減少させると考察しており8),今回の筆者らの治療図4症例2(58歳,女性)左:眼底写真.上段:注射前,中段:2カ月後,下段:12カ月後.右:OCT所見.上段より,注射前,1カ月後,2カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後.3カ月以上前に,輪状行性白斑内の毛細血管瘤を凝固したが,視力(0.2),中心窩網膜厚(CRT)653μm,黄斑浮腫が持続していた(眼底左上段,OCT右上段).ラニビズマブ硝子体注射1カ月ごとに3回行い,3カ月後には視力(0.4),CRT295μmと改善した(OCT右4段)が,6カ月後に再燃がったので,さらに4回のアフリルベセプト硝子体内注射を行った.12カ月後の視力(0.5),CRT229μmと改善した(眼底左下段,OCT右下段).12カ月後の眼底(左下段)では,抗VEGF薬投与前と比較し,眼底全体の硬性白斑と出血斑が減少し,病期が改善している.視力の表示は小数視力による.においても,経過中に残存した無血管野が確認できた場合には,光凝固の追加を行うようにした.筆者らは,DMEの病態を考えると,このような異なる作用機序をもつ治療法を併用して対応することが重要ではないかと考えて治療に取り組んできたので,今回の治療成績は,純粋に抗VEGF薬のみの治療効果を検討したものではない.今回の対象でも,事前治療がまったくなかったものは3眼のみであり,残りの14眼はさまざまな事前治療があり,また,10眼についてレーザー,ステロイドなどの追加治療がなされている.したがって,1年間当たり平均2.4回の少ない注射回数にもかかわらず,有意な視力改善とCRTの改善がほぼ1年にわたり維持できたことは,併用療法も重要な役割を果たしたものと考えられる.また,12カ月後の眼底は,全体として,血管透過性亢進が改善し,浸出斑や出血斑が減少し,網膜症としての病期が軽快したと思われる症例も多く経験した.実際に,ラニビズマブ投与3年の治療成績では,病期を改善する効果もあると報告されている9).とくに若年層では,重症網膜症が増えている1)ことを考えると,抗VEGF薬の網膜症の改善効果については,今後もDMEへの治療効果とともに,注目していきたいところである.この論文の6カ月までの経過は,第20回日本糖尿病眼学会総会にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)KatoS,TakemoriM,KitanoSetal:Retinopathyinolderpatientswithdiabetesmellitus.DiabetesResClinPract58:187-192,20022)TakatsunaY,YamamotoS,NakamuraYetal:Long-termtherapeutice.cacyofthesubthresholdmicropulsediodelaserphotocoagulationfordiabeticmacularedema.JpnJOphthalmol55:365-369,20113)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothe-rialgrowthfactorinocular.uidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEnglJMed331:1480-1487,19944)MitchellP,BandelloF,Schmidt-ErfurthUetal;RESTOREStudygroup:TheRESTOREstudy:ranibi-zumabmonotherapyfordiabeticmacularedema.Ophthal-mology118:615-625,20115)BrownDM,NguyenQD,MarcusDMetal;RIDEandRISEResearchgroup:Longtermoutcomesofranibizum-abtherapyfordiabeticmacularedema:the36-monthresultsfromtwophaseIIItrials:RISEandRIDE.Oph-thalmology120:2013-2022,20136)FunatsuH,NomaH,MiuraTetal:Associationofvitre-ousin.ammatoryfactorswithdiabeticmacularedema.Ophthalmology116:73-79,20097)EarlyTreatmentofDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Photocoagulationfordiabeticmacularedema.ArchOphthalmol103:1796-1806,19858)TakamuraY,TonomatsuT,MatsumuraTetal:Thee.ectofphotocoagulationinischemicareastopreventrecurrenceofdiabeticmacularedemaafterintravitrealbevacizumabinjection.InvestOphthalmolVisSci55:4741-4746,20149)IpMS,DomalpallyA,SunJKetal:Long-terme.ectsoftherapywithranibizumabondiabeticretinopathyseveri-tyandbaselineriskfactorsforworseningretinopathy.Ophthalmology122:367-374,2015***

両眼の浅前房と近視化を初発症状とした全身性エリテマトーデスの1例

2017年5月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科34(5):740.743,2017c両眼の浅前房と近視化を初発症状とした全身性エリテマトーデスの1例小橋川裕司*1,2江夏亮*1酒井寛*1*1琉球大学医学部眼科学教室*2大浜第一病院眼科ACaseofInitialOnsetofMyopiaCausedbySystemicLupusErythematosusYujiKobashigawa1,2),RyoEnatsu1)andHiroshiSakai1)1)DepartmentofOphthalmology,UniversityoftheRyukyus,2)DepartmentofOphthalmology,OhamadaiichiHospital近視化を伴う浅前房で発症した全身性エリテマトーデス(SLE)の1例を報告する.症例は15歳,女性.1週間前からの両眼の視力低下と眼瞼腫脹を主訴に琉球大学医学部付属病院(以下,当院)を紹介受診した.初診時の矯正視力は右眼(0.8),左眼(0.9).元来,正視で裸眼視力良好とのことだったが,屈折値は右眼.12.75D,左眼.8.75Dの近視であった.眼圧は右眼20mmHg,左眼15mmHg.両眼の浅前房があり,両眼後極部に放射状の網膜皺襞と網膜血管の拡張・蛇行を認めた.前眼部OCTを施行し毛様体脈絡膜.離と診断した.全身検索にて蛋白尿,著明な低アルブミン血症と血小板減少を認め,当院内科に紹介しSLEおよび蛋白漏出性胃腸症と診断された.ステロイド全身投与により眼科的異常所見はすべて改善した.若年女性の近視化と浅前房ではSLEに伴う毛様体脈絡膜.離を鑑別する必要がある.A15-year-oldfemaledevelopedblurredvisionandlidedemainbotheyes,lastingforoneweek.Hervisualacuitywas0.8ODand0.9OS,representingmyopiaof.12.75dioptersODand.8.75dioptersOS.Intraocularpressurewas20mmHgODand15mmHgOS.Anteriorchamberwasshallowinbotheyes;ciliochoroidale.usionwasdiagnosedbyanteriorsegmentOCT.Urineproteinwaspositiveandlaboratorystudiesshowedseverehypoal-buminemiaandthrombocytopenia.Thepatientwasreferredtoaninternalmedicinespecialistanddiagnosedassystemiclupuserythematosus(SLE).Aftersystemicadministrationofsteroids,alloftheocular.ndingsdisap-peared.LowplasmaosmolalitycausedbyhypoalbuminemiaduetoSLEprotein-losinggastroenteropathymaybeacauseofciliochoroidale.usionandshallowanteriorchamber.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(5):740.743,2017〕Keywords:全身性エリテマトーデス,毛様体脈絡膜.離,近視化,浅前房,低アルブミン血症.systemiclupuserythematosus,ciliaryedema,myopia,shallowanteriorchamber,hypoalbuminemia.はじめに全身性エリテマトーデス(systemiclupuserythemato-sus:SLE)は,免疫複合体による細胞障害が原因となり,多くの臓器に障害をきたす自己免疫疾患である.好発年齢は20.40歳代であり,男女比は1:10で若い女性に多い.初発症状は関節炎,顔面蝶形紅斑などの皮膚所見,発熱や倦怠感が多く1),さまざまな眼合併症もきたしうる.眼合併症は涙液分泌障害・角結膜障害(56.5%),網膜病変(10.3%),強膜炎・ぶどう膜炎(4.3%),視神経障害(1.5%)が知られており2),浅前房・近視化の報告はまれである3.5).今回,筆者らは,急激な近視化を主症状に眼科を受診し,診断に苦慮したSLEの1例を経験したので報告する.I症例患者:15歳,女性.平成23年6月9日より両眼視力低下,両眼眼瞼腫脹があり,近医眼科を受診した.黄斑部に異常を指摘され,精査のため同年6月16日に琉球大学医学部付属病院(以下,当院)眼科へ紹介された.家族歴や既往歴に特〔別刷請求先〕小橋川裕司:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YujiKobashigawa,DepartmentofOphthalmology,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPAN740(138)図1眼底写真a,b:初診時の眼底写真.両眼の後極部に放射状の網膜皺襞および網膜血管の拡張と蛇行を認める.c,d:治療後の眼底写真.上記所見が改善している.記事項はなく,平成23年4月の学校健診でも異常はなかった.受診1カ月前から2kgの体重増加があった.初診時所見:視力は右眼0.2(0.8×.7.00D(cyl.2.50DAx75°),左眼0.3(0.9×.6.50D(cyl.1.75DAx110°).屈折値は右眼.12.75D,左眼.8.75D.眼圧は右眼20mmHg,左眼15mmHg.両眼瞼に浮腫を認めた.両眼の前房はVanHerick法でI度と浅く,前房内炎症は認めなかった.中間透光体に異常はなかった.両眼後極部に放射状の網膜皺襞,網膜血管の拡張と蛇行を認めた(図1).黄斑部OCTでは網膜表面の不整化を認めた(図2).前眼部OCTでは,前房深度は右眼1.54mm,左眼1.58mmと浅前房であり(図3),両眼に全周性の毛様体脈絡膜浮腫を認めた(図4).視野検査は正常であった.蛍光眼底造影検査では無灌流領域,新生血管,漿液性網膜.離,視神経乳頭過蛍光はなく,その他異常所見は認めなかった.治療および経過:血液検査と尿検査にて,血中アルブミン値は1.9g/dl,血小板数は3.9×104/μlと低下を認め,蛋白尿も認めたため,当院内科へ紹介した.その後,内科精査中に血液検査で抗核抗体陽性,抗dsDNA抗体陽性,顔面蝶形紅斑,光線過敏症,膝関節炎,胸膜炎(両側胸水貯留)も伴ってきたため,SLEの診断基準のうち8項目(4項目以上で診断確定)を満たし,SLEの確定診断となった.さらに,SLEに伴う蛋白漏出性胃腸症(Lupus腸炎)も検出された.7月13日からメチルプレドニゾロン500mg/dayを3日間投与するステロイドミニパルス療法を1クール施行後,プレドニゾロン50mg/day内服へ切り替え,以後,漸減していった.ステロイド全身投与開始後,前眼部OCTで毛様体浮腫の消失を認め(図4),前房深度は両眼とも2.69mmとなった(図3).8月4日の矯正視力は右眼1.2(矯正不能),左眼0.9(1.0×+0.25D)と近視化は改善され,黄斑周囲の網膜皺襞,網膜血管の拡張と蛇行は消失し(図1),黄斑部OCTにて網膜表面の形態も正常化していた(図2).血中アルブミン値は3.8g/dl,血小板数は21.3×104/μlと正常化し,dsDNA抗体も陰性化した.尿蛋白,蛋白漏出性胃腸症,図2黄斑部OCT写真a,b:治療前の黄斑部OCT写真.網膜表面が不整で,微細な皺襞を認める.c,d:治療後の黄斑部OCT写真.形態的異常は消失した.図3前眼部OCT写真①a,b:治療前の前房深度は右眼1.54mm,左眼1.58mm.浅前房と狭隅角を認めた.c,d:治療後の前房深度は両眼2.69mm.図4前眼部OCT写真②a:治療前,左眼鼻側の毛様体浮腫(.).同様の所見は両眼全周性にみられた.b:治療後,同部位の毛様体浮腫は消退している(.).全周で改善を認めた.胸水は軽快した.全身の浮腫も改善し,8月17日退院時には入院時の身長152cm体重55kgから9kg体重減少していた.II考按SLEの診断は,米国リウマチ学会(ACR)の1982年基準(1997年改定)に基づいて行われる.すなわち,①顔面紅斑,②円板状皮疹,③光線過敏症,④口腔内潰瘍,⑤関節炎(2カ所以上),⑥漿膜炎(胸膜炎,心外膜炎),⑦腎病変(蛋白尿1日0.5g以上か3+以上,細胞円柱),⑧神経学的病変(痙攣,精神症状),⑨血液学的異常(溶血性貧血,白血球減少:2度以上の4,000/μl以下,リンパ球減少:2度以上の1,500μl以下,血小板減少:薬剤によらない10万μl以下),⑩免疫学的異常(抗dsDNA抗体,抗Sm抗体,抗リン脂質抗体),⑪抗核抗体のうち,4項目以上陽性(出現時期は一致しなくてよい)を満たした場合,SLEと診断される.本症例は内科精査中に,上記診断基準のうち①顔面紅斑,③光線過敏症,⑤関節炎,⑥胸膜炎,⑦腎障害,⑨血液学的異常,⑩免疫学的異常,⑪抗核抗体の8項目が陽性となりSLEの診断となったが,最初に眼科を受診した際は⑦腎障害,⑨血液学的異常の2項目を認めるのみであった.眼科的所見は,眼瞼浮腫と浅前房,近視化を認め,前眼部OCTでは両眼に全周性の毛様体浮腫を認めた.毛様体浮腫に伴う浅前房,近視化を呈したSLEの例は報告が少ないうえ,本症例の網膜所見(後極部の放射状の網膜皺襞,網膜静脈の拡張と蛇行)は,綿花様白斑や網膜出血といった典型的なSLE網膜症の所見ではなかったことから,ただちにSLEを疑うことができず診断に苦慮した.本症例で認めた網膜皺襞に類似の所見は,Epstein-Barrウイルス感染症に続発した水晶体前方移動を伴う毛様体.離の症例6)でも報告されている.この報告によれば後部硝子体.離の起こっていない若年者において,液化の進んでいない硝子体が水晶体前方移動により牽引され,網膜皺襞をきたしたものと推測されている.本症例における網膜皺襞も本症例での浅前房および近視化と同様に,毛様体浮腫に伴う水晶体前方移動が引き起こした一連の変化と考えた.SLEに眼瞼浮腫,近視化と浅前房を合併した過去の報告3.5)において,毛様体の炎症がその発症機序と考察されている.また,SLE患者の剖検眼において,毛様体上皮,結膜上皮,脈絡膜微小血管などに免疫複合体の沈着を認めていたとの報告7,8)があり,それによる局所的な細胞障害が示唆されている.加えて,本症例ではSLEに伴う蛋白漏出性胃腸症により著しい低アルブミン血症を発症し,血漿膠質浸透圧が低下していた.血漿膠質浸透圧の低下による血管内から組織への水分移動も毛様体脈絡膜.離の発症の一因であると考えられる.ステロイド治療開始後,低アルブミン血症と眼瞼浮腫,毛様体脈絡膜.離が速やかに改善したことから,血管炎と血漿膠質浸透圧低下が発症機序として重要であると推測される.今回,筆者らはSLEに伴う浅前房と近視化の原因が毛様体脈絡膜.離とそれに伴う水晶体の前方移動であることを前眼部OCTを用いた検査で初めて明らかにした.毛様体脈絡膜.離の診断には前眼部OCTが有用である.毛様体脈絡膜.離とそれに続発する浅前房,近視化は,SLEの全身症状に先行して生じる可能性のある合併症である.若年女性に両眼性の浅前房・近視化を認めた場合には,典型的な網膜所見や全身症状を呈さなくともSLEの可能性も考慮し,全身状態の把握や他科との連携が必要であると考える.文献1)VonFeldtJM:Systemiclupuserythematosus.Recogniz-ingitsvariouspresentations.PostgradMed97:79,83,86passim,19952)木村至,鈴木参郎助,大曽根康夫ほか:全身性エリテマトーデス患者における眼合併症とその頻度.眼紀50:293-297,19993)三宅太一郎,堀尾和弘,西田保裕ほか:一過性の浅前房と近視化を呈した全身性エリテマトーデスの1例.臨眼57:555-558,20034)梅山圭以子,高井勝史,湖崎淳ほか:一過性の浅前房と近視化をきたしたSLEの症例.臨眼47:883-886,19935)内田研一,田中住美,新家眞ほか:一過性の浅前房と近視化,高度の眼瞼・結膜浮腫を呈した全身性エリテマトーデスの1例.臨眼43:43-46,19896)加藤寛彬,横田怜二,山添克弥ほか:Epstein-Barウイルスの関与が疑われた両眼性毛様体.離の1例.臨眼70:767-772,20167)AronsonAJ,OrdonezNG,DiddieKRetal:Immune-com-plexdepositionintheeyeinsystemiclupuserythemato-sus.ArchInternMed139:1312-1313,19798)KarpikAG,MelvinM,SchwartzLEetal:Ocularimmunereactantsinpatientsdyingwithsystemiclupuserythema-tosus.ClinImmunolImmunopathol35:295-312,1985***