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弱視と斜視のABC 9.動脈神経麻痺

2017年5月31日 水曜日

斜視と弱視のABC監修/佐藤美保9.動眼神経麻痺西村香澄上野眼科・聖隷浜松病院眼科動眼神経麻痺は支配筋の運動障害や眼瞼下垂,瞳孔異常などさまざまな症状を呈する.外眼筋6本中4本が障害されるため,通常の斜視とは異なる治療が必要になる.発症早期は保存的治療を行い,症状が固定したら手術治療を行う.大角度の外斜視を矯正する手術と,眼位維持のための外直筋減弱術を合わせて行うと効果的である.動眼神経麻痺とは動眼神経は,中脳の動眼神経核から起始し,脳幹の腹側を通過して,後大脳動脈と上小脳動脈の間を走行する.その後,海綿状脈洞に至り,上眼窩裂から眼窩内に入る.眼窩内で上下に分かれ,上枝は上眼瞼挙筋と上直筋を,下枝は内直筋,下直筋,下斜筋,瞳孔括約筋,毛様体筋を支配する.動眼神経が麻痺すると,支配筋の運動制限,上斜筋過動,外直筋拘縮による運動障害や眼瞼下垂,瞳孔異常(散瞳),調節障害などさまざまな症状を呈する.完全麻痺では内方回旋を伴う外下斜視となる.また,動眼神経麻痺再生時に,神経が本来支配する筋肉ではなく,別の筋肉に迷入して支配する動眼神経異常再生が起こることがある.たとえば,内直筋枝が上眼瞼挙筋に迷入すると,内転時に上眼瞼が挙上して瞼裂が開大する異常連合運動が起こる.動眼神経麻痺の治療動眼神経麻痺のおもな原因は,小児では先天性や外傷性,大人では神経栄養血管の微小循環障害による血管性や外傷,脳腫瘍,動脈瘤である.とくに内頸動脈.後交通動脈分岐部動脈瘤が原因の散瞳を伴うものは,生命の危険を伴うため適切な診断と治療を要する.最初に内科や脳外科で原因疾患の治療を行い,斜視が残れば眼科の治療を開始する.複数の眼筋障害や眼瞼下垂や瞳孔異常,動眼神経異常再生などが合併しているため,個々の症例に対してオーダーメイドの治療が必要になる.保存的治療①薬物治療:急性期の治療で,神経の修復や保護を目的にビタミンB12製剤やカリジノゲナーゼ,ATP製剤の内服を行う.②A型ボツリヌス毒素注射:発症後早期にA型ボツリヌス毒素を拮抗筋に注射して眼位の改善を促進し,(83)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY拮抗筋の拘縮を防ぐ.③遮蔽:眼帯,遮蔽コンタクトレンズ,すりガラスレンズや膜による片眼遮蔽は複視の解消に役立つ.小児では形態覚遮断弱視に注意する.④プリズム治療:プリズムには組み込みレンズとFres-nel膜プリズムがある.組み込みレンズは両眼合計で10⊿程度の矯正が限界である.Fresnel膜プリズムは40⊿の大角度の矯正も可能であるが,プリズム度数が上がると視力低下も著しいため大角度の矯正は困難であることが多い.自然治癒傾向のある症例では,症状の改善とともに頻回のプリズム交換が必要になる.手術治療内服やプリズム治療を行っても症状が改善しない場合に手術を行う.発症6カ月以上経過して,症状が固定したことを確認したうえで手術を行う.不全麻痺の手術手術は第一眼位の改善,頭位異常や複視の解消,両眼単一視野の拡大を目的に行う.術式の選択は,障害された筋肉の本数や,麻痺,拮抗筋拘縮の程度よって異なる.1.単筋不全麻痺内直筋単筋不全麻痺は通常,大量前後転術を行う.麻痺の程度に応じて最大外直筋後転は付着部から12mm程度,内直筋短縮は10~12mmを目標に行う.上下斜視を合併している場合は垂直方向への水平筋移動を同時に行う.2.動眼神経の上枝,下枝が単独で麻痺動眼神経上枝単独麻痺による上直筋障害には,水平直筋の筋移動術に加え,下直筋後転を拘縮による運動制限が解除されるまで行う.動眼神経下枝単独麻痺に対してKushner1)は,上斜筋の切腱に加え,外直筋を下直筋側に,上直筋を内直筋側に移動し,良好な第一眼位を得たと報告した.あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017685図1動眼神経完全麻痺術前写真眼球は外下方で固定し,全方向で眼球運動は制限されている.完全動眼神経麻痺のため左眼は眼瞼下垂も合併している.完全麻痺の手術動眼神経完全麻痺の治療は眼球運動神経麻痺のなかでもっとも困難である.なぜなら外眼筋6本中4本の筋肉が障害されているため,前後転術や筋移動術では大角度の外斜視を矯正できないからである.そのため通常とは異なった治療のアプローチが必要になる.1.大角度の外斜視を矯正する術式①前後転術:Helveston2)は完全麻痺に対して筋腹幅80%の周辺切筋術を併用した大量の外直筋後転と内直筋短縮を行ったが,多くの症例で追加手術が必要であった.②上斜筋移動術:前後転術や外直筋大量後転術に併用して,上斜筋腱を内直筋付着部上端付近に縫着する3).予想外の水平斜視や新たな垂直斜視,paradoxicalな眼球運動が生じることがある.③外直筋移動術:外直筋を分割して,上下の外直筋をそれぞれ上斜筋と下斜筋の下を通して内直筋付着部付近の鼻側に縫着する4).外直筋が拘縮・萎縮している場合は適応にならない.④眼球固定術:眼窩内側壁と眼球を非吸収糸5)や筋膜,骨膜などを用いて固定する.下斜視では上斜筋切腱や前方移動術を行う(図1,2).上記手術は単独で行うと再発の可能性があるため,外直筋の外転力を制御するために外直筋減弱術を併用すると良好な眼位を維持できる.2.眼位維持のための術式①外直筋切除:外直筋の力を減弱できるが,単独手術の術後MRIで眼球と外直筋間が線維性組織で連結され,外転運動と外斜視再発がみられた6).図2動眼神経完全麻痺術後写真初回手術で筋膜を用いた眼球固定術を行ったが,術後外斜視が再発した.外直筋Tenon.固定術と上斜筋切腱を追加して眼位の改善を得た.その後眼瞼下垂手術を行い,治療を終了した.②外直筋Tenon.固定術:外直筋を眼球から切離し,外側Tenon.内に埋没させる.単独で外斜視矯正力は弱いが,眼位の安定に有効である.③非麻痺眼の手術:残余斜視の調整,異常連合運動や偽眼瞼下垂の改善のために非麻痺眼の手術を行う.おわりに動眼神経麻痺では,眼球運動の改善は困難であるが,良好な第一眼位を得るために適切な治療を選択することが重要である.文献1)KushnerBJ:Surgicaltreatmentofparalysisoftheinferi-ordivisionoftheoculomotornerve.ArchOphthalmol117:485-489,19992)HelvestonEM:Muscletranspositionprocedure.SurvOphthalmol16:92-97,19713)EraslanM,CermanE,OnalSetal:Superiorobliqueanteriortranspositionwithhorizontalrectirecession-resectfortotalthirdnervepalsy.OphthalmologyIDs780139,20154)SaxenaR,SharmaM,SinghDetal:Medialtranspositionofsplitlateralrectusaugmentedwith.xationsuturesincaseofcompletenervepalsy.BrJOphthalmol100:1-3,20165)HullS,VerityDH,AdamsGGW:Periostealmuscleanchoringforlargeangleincomitantsquint.Orbit3:1-6,20126)SatoM,MaedaM,OhmuraTetal:Myectomyoflateralrectusmuscleforthirdnervepalsy.JpnJOphthalmol44:555-558,2000686あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017(84)

眼瞼・結膜:マイボーム腺分泌物の色の意味するもの

2017年5月31日 水曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人26.マイボーム腺分泌物の色の意味するもの有田玲子伊藤医院マイボーム腺機能不全(MGD)はドライアイの主因であり,日常臨床でよく遭遇する疾患の一つである.マイボーム腺開口部から分泌される脂(マイバム)の性状はマイボーム腺機能の指標となる.とくにマイバムの色はマイボーム腺脂質の組成と関連しており,病態の把握に重要である.●はじめにマイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunc-tion:MGD)は日常臨床でよく遭遇する疾患であり,ドライアイの原因の80%以上を占めるといわれている1).眼不快感,眼違和感,眼灼熱感,眼乾燥感,流涙感などの不定愁訴を主訴に来院することが多く,発症してから数年以上経過している症例も多い慢性疾患である.適切な診断を行い,効果的なセルフケア,メディカルケアをすすめていくことが重要である.●MGDの診断2010年のMGDワーキンググループによるMGDの診断基準を表1に示す.マイバムは眼瞼の温度では液状であり,透明な液体として分泌される.マイバムの主成分はコレステロール,ワックス,コレステロールエステルなどである2).細隙灯顕微鏡で眼瞼縁異常所見を観察し,マイバムの表1分泌減少型マイボーム腺機能不全の診断基準以下の3項目(自覚症状,マイボーム腺開口部周囲異常所見,マイボーム腺開口部閉塞所見)が陽性のものを分泌減少性MGDと診断する.1.自覚症状眼不快感,異物感,乾燥感,圧迫感などの自覚症状がある.2.マイボーム腺開口部周囲異常所見①血管拡張②粘膜皮膚移行部の前方または後方移動③眼瞼縁不整①~③のうち1項目以上あるものを陽性とする.3.マイボーム腺開口部閉塞所見①マイボーム腺開口部閉塞所見(plugging,pouting,ridgeなど)②拇指による眼瞼の中等度圧迫でマイボーム腺から油脂の圧出が低下している.①②の両方を満たすものを陽性とする.(文献6より引用)色や性状の変化を観察することは,簡易的でありながら診断力の高い方法である.マイバムの色,性状の観察は上眼瞼中央部を拇指で中等度の力で圧迫し,その色と性状を観察する(図1,表2).●マイバムの色の意味するものObataら(IOVS2002;43:ARVOE-Abstract60)はマイバムの性状を,油状,クリーム状,練り歯磨き状の3グループに分け,色を黄色,黄白色,白色に分類した.細胞学的特徴は,3グループすべてで同じだった.この知見は,マイバムの性状と色の変化は脂質成分の変化を反映したものであって,角化の程度を反映したものではないことを示している.(図2).筆者らのグループは,マイバムの色を無色透明,白濁あり,黄色がかっている,の3種類に分類し(図3),MGD関連パラメータ,マイバム中の遊離脂肪酸の組成との関連を網羅的に解析した.MGD眼のなかでマイバム色調と高い相関を示した項目は,マイボ.ム腺の消失面積グレード(マイボスコア)3)であった(p<0.0001).さらにマイバムの色調を大きく透明群と黄色群に分けてボルカノプロット解析を行ったところ,色調が白色・黄色群で,より不飽和脂肪酸が多いことがわかった(図4)4).これらのことから,マイバムの色の変化は脂質の組成変化と関連していると考えられた.表2マイバム圧迫のグレード分類0:透明で簡単に圧出される1:軽い圧迫で混濁したマイバムが圧出される2:中等度の圧迫で混濁したマイバムが圧出される3:強い圧迫でもマイバムが圧出されない(文献7より引用)(81)あたらしい眼科Vol.34,No.5,20176830910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1MGD患者のマイバム黄色がかった粘稠度の高いマイバムが観察される.図2マイバムの病態的観察像a:72歳女性,黄白色で混濁したのマイバム.b:71歳女性の黄白色で混濁したマイバムのインプレッションサイトロジー.オレンジの角化物が観察される.パパニコロ.染色で炎症細胞は検出されなかった.(文献5より転載引用)無色透明白濁あり黄色がかっているマイバム色調図3マイバム色調の分類図4MGD患者のマイバムのボルカノプロット右上には不飽和の脂肪酸が,左上には飽和の脂肪酸がプロットされていることから,脂肪酸の飽和・不飽和と色調が関係している.文献1)LempMA,CrewsLA,BronAJetal:Distributionofaqueous-de.cientandevaporativedryeyeinaclinic-basedpatientcohort:aretrospectivestudy.Cornea31:472-478,20122)ButovichIA:LipidomicanalysisofhumanmeibumusingHPLC-MSn.MethodsMolBiol579:221-246,20093)AritaR,ItohK,InoueKetal:Noncontactinfraredmei-bographytodocumentage-relatedchangesofthemeibo-mianglandsinanormalpopulation.Ophthalmology115:911-915,20084)AritaR,MoriN,ShirakawaRetal:Meibumcolorandfreefattyacidcompositioninpatientswithmeibomianglanddysfunction.InvestOphthalmolVisSci56:4403-4412,20155)KnopE,KnopN,MillarTetal:Theinternationalwork-shoponmeibomianglanddysfunction:reportofthesub-committeeonanatomy,physiology,andpathophysiologyofthemeibomiangland.InvestOphthalmolVisSci52:1938-1978,20116)天野史郎,MGDワーキンググループ:マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科27:627-631,20107)ShimazakiJ,GotoE,OnoMetal:Meibomianglanddys-functioninpatientswithSjogrensyndrome.Ophthalmolo-gy105:1485-1488,1998684あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017(82)

抗VEGF治療:抗VEGF薬の費用対効果

2017年5月31日 水曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二40.抗VEGF薬の費用対効果小畑亮東京大学大学院医学系研究科眼科学抗VEGF薬は効果が高い反面,非常に高価である.抗VEGF薬は,その価格に見合う価値があるのだろうか.また,もし価値があるとして,それを国家として賄う優先度をどのように考えればよいだろうか.本稿では,費用効果分析の方法について概説したうえで,抗VEGF薬治療についての今までの費用効果分析の結果を簡単に紹介する.はじめに:費用効果分析とは何か費用効果分析(cost-e.ectiveanalysis)とは,医療の効果とその費用を定量的に評価し,比較するための検討手法の一つである.費用効果分析医療における費用効果分析の解説としては鎌江らの総説1)が,眼科における費用効果分析の応用については日本眼科学会の解説2)が大変参考になる.広義の費用効果分析にはさまざまな手法が含まれるが,現在もっともよく用いられる手法は,共通のアウトカム指標を得るための費用を計算する方法と,効果をさらに普遍的なアウトカム指標である「効用値(utilityvalue)」に換算し,その費用を求める方法である.治療効果の計算:QALYs費用効用分析は,効果をQALYs(quality-adjustedlifeyears)で評価する.QALYsは,ある視機能における生活の質を1(完全な健康)から0(死)までの「効用値(utilityvalue)」として定量化し,生存年数にかけ合わせた値である.効用値は,患者の主観評価に基づいたスケーリングにより求められることが多い.今の状態で10年生きるのと,健常な状態でx年生きるのとが同等に感じられるxとして算出する「time-tradeo.(TTO)法」や,健常な状態になるためにx%の危険度で死亡する仮想の治療を受けてもよいと感じられるxとして算出する「stan-dardgambling(SG)法」などが一般的である.治療費用の計算治療にかかる費用は,①直接費用,②間接費用に分類され,それぞれの研究の目的に即して計算に組み入れられる.①直接費用は医療費(薬剤費,検査費用など)および非医療費(交通費,介助者の費用など),②間接費用は罹病による労働時間損失などの生産性損失費用を意味する.なお,さらには痛みや精神的苦痛といった算定不可能な費用が想定される.増分費用効果比(ICER)ある治療Aを従来の治療Bと比較して,費用がx増加し,QALYがy増加したとすると,増分費用効果比(incrementalcost-e.ectiveratio:ICER)はx/y(通貨単位/QALY)で求められる.ICERは低いほうがcost-e.ectiveである.求められたICERを評価するには,基準となる金額(willingnesstopay:WTP)があると便利である.各国においてはそのような「この額よりも費用効果がよい治療であれば採用すべき」という閾値が示されている.もちろんこの閾値は画一的に算定ができるものではないから,政策に用いる確定的なものではなく目安として考えるべきである.一般的なWTPは,米国5~10万ドル/QALY,英国2~3万ポンド/QALY,日本500万円/QALY,または1人あたりGDPの1~3倍の値が利用されている1,4).不確実性への対処:感度分析費用対効果の計算に用いられるパラメータはほとんどが不確実なものであり,その仮定が違っていた場合に,費用対効果の優劣が逆転しないか(頑強性)を確認しなければならない.これを感度分析という.感度分析としてはおもに「一元感度分析」と,「モンテカルロシミュレーション」が用いられている.各黄斑疾患に対する抗VEGF薬の費用対効果分析の報告表1に,各黄斑疾患に対する抗VEGF(vascularendo-thelialgrowthfactor)の費用効果分析の報告を示す.この結果を見ると以下のことがわかる.①加齢黄斑変性については,経過観察に比較して抗VEGF療法の増分費用効果が高い.(79)あたらしい眼科Vol.34,No.5,20176810910-1810/17/\100/頁/JCOPY表1各黄斑疾患に対する抗VEGF薬の費用効果分析の報告疾患検討治療(国)対照治療ICER(/QALY)判定AMDOphthalmology115:1039-1045,e5,2008ラニビズマブ(米国)経過観察約5万ドル(視力良好眼罹患の場合)ラニビズマブが良好AMD日眼会誌115:825-831,2011ラニビズマブまたはPDT(日本)経過観察Dominant(マイナス)ラニビズマブまたはPDTが良好AMDOphthalmology121:936-945,2014ラニビズマブPRN(米国)ベバシズマブ毎月固定投与Dominant(マイナス)ベバシズマブ毎月投与が良好DMEBrJOphthalmol96:688-693,2012ラニビズマブ(英国)レーザー約2.4万ポンドラニビズマブが良好DMEJAMAOphthalmol2016アフリベルセプトまたはラニビズマブ(米国)ベバシズマブ約110~170万ドルベバシズマブが良好PDROphthalmology123:1912-1918,2016ラニビズマブ(米国)汎網膜光凝固15万ドル対2万ドル汎網膜光凝固が良好BVO&CVOJMedEcon17:423-434,2014ラニビズマブ(英国)レーザー(BVO)経過観察(CVO)約1.6万ポンド約1.7万ポンドラニビズマブが良好MyopicCNVDrugsAging31:837-848,2014ラニビズマブ(英国)経過観察PDT約9千ポンドDominant(マイナス)ラニビズマブが良好AMD:加齢黄斑変性,DME:糖尿病黄斑浮腫,PDR:増殖糖尿病網膜症,BVO:網膜静脈分枝閉塞症,CVO:網膜中心静脈閉塞症,MyopicCNV:近視性脈絡膜新生血管.PDT:光線力学的療法,PRN:必要時投与.ベバシズマブ治療は未承認.PDRに対するラニビズマブ治療は未承認.②糖尿病黄斑浮腫や網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫では,レーザー治療と比較して抗VEGF療法の増分費用効果が高い.③近視性脈絡膜新生血管では,光線力学的療法(pho-todynamictherapy:PDT)または経過観察に比較して抗VEGF療法の増分費用効果が高い.④抗VEGF薬間では,安価に設定されたアバスチン(未承認)の増分費用効果が顕著に高い.ただし,費用効果が高いといっても,近視性脈絡膜新生血管を除けば上述のWTPの上限であることが多く,満足すべきとまではいえないことがわかる.注射薬の費用はベバシズマブ注射の価格(20分の1)と比較すれば当然費用対効果も差が出ており示唆に富むが,だからどうすればよいかはむずかしい.すでに海外では行われているような「国産」抗VEGF薬の開発ができれば良いかもしれない.PDTとの併用療法についての費用効果分析は未報告だが,今後とくにポリープ状脈絡膜血管症に対して,併用療法の視力改善効果および抗VEGF薬投与回数減少効果が十分高ければ,費用対効果も注目されるだろう.なお,結果の解釈における注意点として,計算方法が変わることにより,たとえ感度分析を前提としたとしても,結果も変わるという点がある.実際,加齢黄斑変性の費用効果分析においては,直接非医療費用および間接費用を含めない分析5)ではラニビズマブの費用効果が許容範囲内である一方で,それらの一部を含めた分析6)においては,ラニビズマブもPDTも費用効果がきわめて高くなる.どちらのデザインで評価すべきかは意見の分かれるところで,むしろ,それを解釈する側が十分意識682あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017すべきものである.おわりに新たな医薬品,医療機器の効果を医学的側面のみならず,社会的・経済的・倫理的な側面から科学的に分析・評価する概念を医療技術評価(healthtechnologyassessment:HTA)と称し,1999年の英国NationalInstituteforHealthandCareExcellence(英国国立医療技術評価機構)の設立に代表されるように,日本を除く諸外国では10年ほど前からHTA組織を設立し,そのなかで医療・公衆衛生に費用対効果評価を反映させる取り組みが進んできた.わが国においても,ようやく2016年より,薬価再算定に際して,中央社会保険医療協議会(中医協)の部会を主体とした費用対効果評価が試行的に導入されることとなった.医療の進歩は目覚ましいが,社会・経済のなかでそれをどうとらえていくか,むずかしい問題である.しかしこの問題は,今後さらに顕在化してくるであろう.文献1)鎌江伊三夫:医療技術評価ワークブック:臨床・政策・ビジネスへの応用.じほう,20162)平塚義宗,山田正和,村上晶ほか:医療における費用効果分析と白内障手術.日眼会誌155:730-734,20113)YanagiY,UetaT,ObataRetal:UtilityvaluesinJapa-nesepatientswithexudativeage-relatedmaculardegen-eration.JpnJOphthalmol55:35-38,20114)ShiroiwaT,SungY-K,FukudaTetal:Internationalsur-veyonwillingness-to-pay(WTP)foroneadditionalQALYgained:whatisthethresholdofcoste.ectiveness?HealthEcon19:422-437,2010(80)

緑内障:機能選択的視野計

2017年5月31日 水曜日

●連載203監修=岩田和雄山本哲也203.機能選択的視野計伊藤義徳中野匡東京慈恵会医科大学眼科光干渉断層計(OCT)の進歩により,明度識別視野検査(SAP)で捉えられない極早期の緑内障が検出可能になった.しかし一方で,視野と眼底の整合性がない症例において,OCTの検査結果をどう評価するかが新たな課題となってきた.そこで,SAPよりも早期視野異常の検出をめざす機能選択的視野計が,近年,改めて注目されるようになった.本稿では代表的な4機種の機能選択的視野計について,その原理と特徴について概説する.●はじめに網膜神経節細胞は判明しているだけでも10種類以上存在し,それぞれparvocellular系(P細胞系),koniocelllar系(K細胞系),magnocellular系(M細胞系)のいずれかのグループに分類され,外側膝状体のP細胞層,K細胞層,M細胞層に投影される.中でもK細胞系とM細胞系は比較的大きな細胞体で易障害性であること,余剰性が少ないことなどから,早期緑内障の異常を検出されやすいとされている.各種機能選択的視野計は,これらの網膜神経節細胞の細胞特性に注目し,SAPでは検出できない極早期の機能変化をより早期に検出するとされている(図1).●Shortwavelengthautomatedperimetry(SWAP)SWAPは選択的色順応法を用い,高輝度(100cd/m2)の黄色背景光(530nm)で赤,緑錐体の反応を抑制し,視標としてサイズVの青色視標(440nm)を呈示することからblue-on-yellowperimetryともいわれ,K細胞神経節細胞外側膝状体視野計MidgetcellsP細胞系HRPParvocellular・色覚・視カ・形状認識に大きく関与layer(80%)・高空間・低時間周波数に反応Smallbistrati.edcellsK細胞系SWAP・Blue-on-yellowの光刺激に反応Koniocellularlayer(8~10%)ParasolcellsM細胞系・輝度・動きに関与FDT・低空間・高時間周波数に反応MagnocellularFlickerlayer(8~10%)Pulsar図1細胞特性と機能選択的視野計(77)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY系であるsmallbistrati.ed細胞の機能障害を評価することで早期緑内障の検出をめざしている.SWAPは視標サイズを大きくすることで屈折異常の影響を受けにくいが,青色視標を用いるため白内障の影響を受けやすいという欠点がある.●Frequencydoublingtechnology(FDT)FDTは検査視標として逆位相の縞模様を15Hz以上の高時間周波数で反転すると,その縞幅が実際の半分にみえるfrequencydoublingillusionという錯視現象を利用した視野計で(図2),M細胞系のサブタイプの機能を反映するとされている1).第一世代のFDTであるFDTスクリーナーでは,10°の視標サイズで20°内17カ所または,30°内19カ所を測定する.一方,第二世代のHumphreyMatrixは,視標サイズを5°とし,Humphrey視野計の30-2,24-2に対応する測定点配置にした検査プログラムもある.●フリッカー視野フリッカー視野は視標刺激にフリッカー光を用いた視野計で,FDTと同様にM細胞系の機能を反映するとされている2).フリッカー視野には,各測定点におけるフリッカー融合頻度(criticalfusionfrequency:CFF)を測定する方法と,時間変調感度を測定する方法がある.図2Frequencydoublingillusion(錯視現象)あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017679図3Pulsar光空間解像度とコントラストを変化させ,①→④のように高空間解像度であるほど,また低コントラストであるほど視標は見えにくくなる.図5症例のHumphrey視野Humphrey30-2SITA-Standardでは,Anderson-Patellaの診断基準は満たさない.CFFを測定するフリッカー視野では,白内障などの中間透光体の混濁の影響や屈折異常の影響を受けにくいとされている.●Pulsar視野Pulsar視野は2014年に日本で発売された新しい機能選択的視野計で,コントラストレベルの異なる同心円パターンを10Hzで反転させる検査視標を使用している.この視標刺激はコントラストだけではなく空間解像度も調整しているため,SAPやFDTのようにdB単位ではなく,src(spatialresolutioncontrast:空間解像度コントラスト)の単位で表される(図3).Pulsar視野におい680あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017図4症例の眼底写真とOCT下方にNFLDを認め,OCTにおいても同部位の菲薄化を認める.MatrixPATTERNDEVIATIONPalsar視野Correctedprobabilities図6症例のMatrix,Pulsar視野Matrix,Pulsar視野では,同じ30°の測定範囲においても視野異常を認める.てもFDT,フリッカー視野と同様にM細胞系の機能を反映するとされている3).●症例(52歳,男性)健康診断にて網膜神経線維層欠損(nerve.berlayerdefect:NFLD)を指摘され,受診した.右眼下方網膜にNFLDを認め,OCT上も同部位に菲薄化を認めるが(図4),Humphrey視野計30-2SITA-Standardでは,Anderson-Patellaの診断基準を満たす視野異常は認めなかった(図5).しかし,Humphrey-MatrixやPulsar視野では,中心30°内の測定範囲においても感度低下の検出が可能であった(図6).文献1)MaddessT,HenryGH:Performanceofnonlinearvisualunitsinocularhypertensionandglaucoma.ClinVisionSci7:371-383,19922)MatsumotoC,TakadaS,OkuyamaSetal:Automated.ickerperimetryinglaucomausingOctopus311:acom-parativestudywiththeHumphreyMatrix.ActaOphthal-molScand84:210-215,20063)ZeppieriM,BrusiniP,ParisiLetal:Pulsarperimetryinthediagnosisofearlyglaucoma.AmJOphthalmol149:102-112,2010(78)

屈折矯正手術:改良型クロスリンキング

2017年5月31日 水曜日

監修=木下茂●連載204大橋裕一坪田一男204.改良型クロスリンキング愛新覚羅維東京大学医学部附属病院眼科角膜クロスリンキングは,円錐角膜をはじめとする進行性角膜拡張疾患の進行抑制のための治療法として,すでに有効性と安全性が確立されている.近年,標準法の欠点を改善させた高速法や経上皮法といった改良型クロスリンキングも開発され,手術時間の短縮,術中および術後合併症の軽減,適応症例の拡大なども期待できるようになった.●はじめに角膜クロスリンキング(cornealcrosslinking:CXL)は2003年にWollensak,Seilerらにより開発された治療法で1),長波長紫外線(ultravioletA:UVA)に対するリボフラビンの感受性を利用し,角膜実質コラーゲンの架橋を強め,剛性を高める方法である.現在まで世界中で20万眼以上施術されており,円錐角膜,レーシック後角膜拡張症,ペルーシド角膜辺縁変性などの進行性角膜拡張疾患の進行を抑制するための治療法として,有効性と安全性が確立されてきた.近年,標準法の欠点を改善させた改良型CXLも開発され,CXLの新たな可能性が期待されている.今回,改良型CXLを中心に,術式,治療成績および位置づけについて述べる.●CXLの原理370nmのUVAで励起された光感受性物質であるリボフラビンが,酸素分子との反応により活性酸素の一種である一重項酸素を産生し,角膜実質コラーゲン線維の架橋結合を増加させる.その結果,角膜全体の強度が高まる(図1).●CXLの標準法Wollensakらが提案したドレスデン法は標準法として広く使われており,手順は以下の通りである.・角膜上皮.離・等張性0.1%リボフラビン点眼液を30分間点眼・角膜厚を測定400μm以上:等張性リボフラビン点眼液を継続点眼400μm未満:低張性リボフラビン点眼液を400μm以上になるまで頻回点眼・UVAを3mW/cm2の照射強度で30分間照射・保護用コンタクトレンズを装着,抗菌薬を点眼(75)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY●改良型CXL標準法の短所として1時間以上に及ぶ手術時間の長さと,角膜上皮掻爬に伴う疼痛,易感染性,角膜ヘイズなどの合併症があげられ,前者を改善させるために高速CXL,後者を改善させるために経上皮CXLが開発された.1.高速CXL(acceleratedCXL)高速法は「光化学反応の反応量は光の照射強度と照射時間の積,すなわち総エネルギー量が一定であれば同等の効果が得られる」というBunsen-Roscoeの法則に基づく高出力を用いる短時間照射の方法である.豚眼実験の結果,CXLでは45mW/cm2以下の照射強度までならBunsen-Roscoeの法則に従うと考えられる.現在,複数のメーカーから高速法にも対応可能な第二世代のデバイスが発売され,最短2分40秒の照射時間で施術が可能となった.あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017677DeliveryElectrodeCounterElectrode(-)(+)図2イオン導入法の原理角膜表面にdeliveryelectrodeとして陰性電極,体表の他の部位にgroundelectrodeとして陽性電極を置き,弱い電流をかけることによって陰性荷電のリボフラビン分子を角膜実質深層へ浸透させる.2.経上皮CXL(transepithelialCXL:TE.CXL,epithelium.onCXL:Epi.onCXL)経上皮法は2010年に報告された手法である.角膜上皮.離の代わりに,角膜上皮のバリアを破壊し薬剤の浸透性を上げるケミカルエンハンサーを添加した強化リボフラビンを用い,リボフラビンを実質内に浸透させる.角膜上皮を.がないことからEpi-onCXLともよばれ,それに対して角膜上皮を.ぐ従来法はEpi-o.CXLとよばれる.角膜上皮.離を行わないため,リボフラビンの浸透性がEpi-o.CXLの半分程度になる.近年,角膜実質へのリボフラビンの浸透性をさらに上げるために,イオン導入法(iontophoresis-assistedCXL)も開発された.リボフラビンは水溶性の小分子で生理的PH下では陰性に荷電するため,イオン導入に適していると考えられる.角膜表面に陰性電極,他の部位(前額部など)に陽性電極を置き,弱い電流をかけてリボフラビン分子を角膜実質深層へ浸透させる(図2).●CXLの治療成績標準法の治療成績はこれまで無作為比較化試験(ran-domizedclinicaltrial:RCT)を含む多くのスタディで検討されており,最長10年にわたり有効かつ安全な治療であることが証明された.角膜屈折値は安定化のみならず,有意な改善も報告されている.ただし,術後2~6週に角膜実質中層に現れるヘイズ,およびまれにみられる角膜実質瘢痕,無菌性角膜浸潤,感染性角膜炎などの合併症に注意する必要がある.高速CXLの治療成績については,標準法とほぼ同様であるとする報告が多いが2),やや弱いと示唆する文献もある.その理由として酸素接触時間の減少に伴う治療効果の減弱が考えられ,40%程度の照射時間の延長や,パルス照射による酸素接触時間の増加を図る手法も検討されている.678あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017経上皮CXLの臨床成績は報告によってさまざまである.Epi-onとEpi-o.を比較した3年間のRCTでは,術後1年では両群間で有意差があるものの,ともに有意な改善,術後3年ではEpi-o.群は進行なし,Epi-on群は角膜最大屈折力の進行を認めた.一方,別の2年間のRCTでは両群間で有意差があるものの,ともに術前より有意な改善を認めた3).イオン導入法に関して,術後1年では標準法とほぼ同等な効果を認めた報告がある.まだ歴史が浅い経上皮法の長期成績については,さらなる検証が必要である.筆者らは高速法と経上皮法を併用したacceleratedtransepithelialCXLの術後1年成績を報告した4).術中・術後の合併症はなく,角膜最大屈折力・平均屈折力と矯正視力の有意な改善,裸眼視力の安定化を認め,既報の標準法の治療成績に匹敵するものであった.●改良型CXLの位置づけ高速CXLは手術時間を大幅に短縮させ,術者と患者の負担を軽減できる.治療成績も標準法とほぼ同様と考えられるが,高出力ができる第二世代のデバイスが必要となる.経上皮CXLでは標準法と比較して効果がやや弱いが,術後合併症および疼痛が少なく,視力が良好な初期症例や小児への応用が期待できる.また,角膜上皮厚を含めうるため適応は380μm以上と広がり,進行症例でも適応になる場合がある.●おわりにCXLの登場により,円錐角膜をはじめとする進行性角膜拡張疾患の治療概念に大きなパラダイムシフトが生まれた.早期発見と進行予防を推進することで確実に患者のQOLの維持ならびに向上をめざせる時代になってきた.文献1)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Ribo.avin/ultraviolet-a-inducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkerato-conus.AmJOphthalmol135:620-627,20032)KanellopoulosAJ:Longtermresultsofaprospectiverandomizedbilateraleyecomparisontrialofhigher.uence,shorterdurationultravioletAradiation,andribo.avincollagencrosslinkingforprogressivekeratoco-nus.ClinOphthalmol6:97-101,20123)RushSW,RushRB:Epithelium-o.versustransepithelialcornealcollagencrosslinkingforprogressivecornealecta-sia:arandomisedandcontrolledtrial.BrJOphthalmolJul7Epub,20164)AixinjueluoW,UsuiT,MiyaiTetal:Acceleratedtran-sepithelialcornealcrosslinkingforprogressivekeratoco-nus:aprospectivestudyof12months.BrJOphthalmolJan5Epub,2017(76)

眼内レンズ:アクリル眼内レンズの歪み

2017年5月31日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋366.アクリル眼内レンズの歪み中村充利中村眼科眼内レンズ(IOL)挿入眼のIOLの位置異常は乱視をきたし,著しい場合,視力低下やコントラスト感度低下を起こし得る.最近,筆者らはアクリルIOL挿入眼にコマ収差,トレフォイル収差などからなる複雑な眼球内部高次収差が発生した症例に対し,Nd:YAGレーザーによる前.切開で治療できることがあることを報告1)した.●はじめに最近の白内障手術では,手術を受けた患者の大半は高い満足を感じ,技術進歩の恩恵を受けられるようになっている.しかし,ときに時間とともに手術を受けた眼の満足度が低下し,たとえ視力があまり変わらなくても,見えにくさ,ぼやけた感じなどの不満を訴えることがある.筆者らは,術後視力低下は認めず,眼球高次収差が増大して見え方の質の低下が認められ,連続円形切.(continuouscurvelinearcapsulorhexis:CCC)と前.に原因があると考えられる症例に対してNd:YAGレーザーによる前.切開術を施行し,その後に眼球高次収差と自覚症状の改善を認めた.●症例(79歳,男性)他院で20年前に球面アクリル眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入術を施行.手術記録には合併症の記載はなく,2015年にものが二重に見えるとのことで当院を受診した.視力はR.V.=0.3(1.0×.1.25D),L.V.=0.6(1.0×.0.75D)と良好,オートレフケラトメーターで強い乱視は認めず,Hessコージメーターも正常であ図1症例のNd:YAGレーザー切開前の前眼部写真12時の前.縁が確認できず,その位置ではIOLのオプティクス端まで前.に覆われず,3-9時より下方の前.はIOLのオプティクスを覆っていた.(73)0910-1810/17/\100/頁/JCOPYった.細隙灯顕微鏡でIOLの傾斜や偏位の明らかな位置異常はみられなかったが,散瞳後の細隙灯顕微鏡で左眼の12時の前.縁が確認できず,その位置ではIOLのオプティクス端まで全体前.に覆われず,下方の前.はIOLのオプティクスを覆っている状態にあった(図1).波面収差測定器(KR-1W,TOPCON)マルチマップで眼球高次収差が大きく,rootmeansquare(RMS)(4mm)0.757と高い異常値を示した(図2).3時-9時方向の前.収縮によるIOLの歪みと6時部を中心とした後極方向の収縮によるIOLの傾きの影響と判断し,Nd:YAGレーザーによる前.切開を施行した(図3).術後すぐに眼球高次収差がRMS(4mm)0.210と著明に減少し(図4),自覚症状も改善しL.V.=0.9(1.0×.0.5D)であった.眼球高次収差のコンポーネント解析ではRMSの減少,コマ収差と眼球トレフォイルの改善,正常化を認めた(図2,4).Hartmann像の抜けた部分は,後.混濁による光の不透過と散乱の影響と考えられ,切開により透過するHartmann像はNd:YAGレーザー切開前後で大きな変化はなかった.CCC後,水晶体前.は物理的収縮を起こし,その後,図2症例の眼球高次収差のコンポーネント解析高次収差のコンポーネント解析ではRMS(4mm)0.757と高い異常値を示し,強いコマ収差と眼球トレフォイル,乱視を認めた.Hartmann像は下方に後.混濁部に一致して一部抜けた部分を認めた.あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017675図3症例のNd:YAGレーザー切開後の前眼部写真IOLの上方のオプティクスは前.に覆われず,下方のオプティクスが前.に覆われている部分のみの前.収縮によってIOLに対し不均一な圧力が加わり,光学的歪みが生じたものと判断し,Nd:YAGレーザーによる前.切開術を施行した.前.下に線維組織が形成され,中心に向かっていく前.収縮が起こり,前.収縮は通常では術後数カ月後には停止すると考えられている2).ぶどう膜炎,糖尿病,原発性閉塞隅角緑内障,網膜色素変性症,偽落屑症候群などを伴う眼ではケミカルメディエーターの影響などで強い収縮が持続し,著しい場合は視力低下やコントラスト感度低下をきたすことも報告されている3).アクリルは高温に熱すると柔らかくなり,冷やすと固くなる熱可塑性プラスチックである.アクリル眼内レンズは室温では比較的剛性が高い状態にあるが,眼内では体温近くに温度が上昇し,室温時より剛性がかなり低下している.そこに,前.後.収縮によりIOLに強い圧力が加わると,アクリルIOL挿入例ではレンズの光学的歪み(高次収差の発生)が生じる可能性が考えられる.IOL眼に起こり得る眼球高次収差の増大1)はIOLのグリスニング4)などとともに,アクリルIOL眼の術後合併症の一つとして留意しておく必要がある.図4症例のNd:YAGレーザー切開後の眼球高次収差のコンポーネント解析Nd:YAGレーザーによる前.切開術後に眼球高次収差はRMS(4mm)0.210と著明に減少し,コンポーネント解析ではコマ収差と眼球トレフォイル,乱視の減少を認めた.Hartmann像の抜けた部分はNd:YAG前と比較してわずかな変化しかなかった.●おわりに視力は視機能評価法の一つで,同じ値でも視力の質は高次収差が高いと低く,視力がよくても見えにくいことがあり得る.IOL挿入眼では,術後アクリルIOLの歪みが原因で眼球高次収差が発生し,Nd:YAGレーザーでの前.切開で改善できることがある.文献1)中村充利:白内障術後の水晶体.の収縮によりアクリル眼内レンズに眼球内部高次収差が発症した症例に対するNd-YAGによる前.切開.臨床眼科71:623-629,20172)HansenSO,CrandallAS,OlsonRJ:Progressiveconstric-tionoftheanteriorcapsularopeningfollowingintactcap-sulorhexis.JCataractRefractSurg19:77-82,19933)HayashiH,HayashiK,NakaoFetal:Anteriorcapsulecontractionandintraocularlensdislocationineyeswithpseudoexfoliationsyndrome.BrJOphthalmol82:1429-1432,19984)大鹿哲郎:アクリルソフト眼内レンズ術後2年の臨床評価.臨床眼科48:1463-1468,1994

コンタクトレンズ:紫外線が眼に及ぼす影響

2017年5月31日 水曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方つぎの一歩~症例からみるCL処方~監修/下村嘉一80604020031.紫外線が眼に及ぼす影響●はじめに紫外線による健康への影響のうち,日焼け,シミ,しわ,皮膚癌など,皮膚への影響については一般の認知度もきわめて高いのに対して,眼への影響についての認知度はいまだに低く,十分な紫外線対策が普及していないのが現状である.本稿では,紫外線による眼疾患および有効な眼部紫外線対策について解説する.●紫外線よる眼疾患紫外線による眼疾患は急性障害と慢性障害に分けられる.急性障害には紫外線性角膜炎(電気性眼炎,雪眼炎)がある.短時間に大量の紫外線を浴びた場合,被曝後6~12時間で発症する.結膜充血,角膜上皮障害を生じ,重症例では上皮.離を伴うため,強い眼痛をきたす.通常は24時間以内に自然治癒するが,このような高度の被曝を繰り返すことで次に述べる慢性障害の発症リスクは高くなる.慢性障害としては瞼裂斑,翼状片,白内障などがある.瞼裂斑は加齢に伴う結膜の変性疾患であり,病変部に(%)100佐々木洋金沢医科大学眼科学講座は日光弾力線維症と同様の類弾性線維変性がみられる.中高齢者では高頻度にみられるが,紫外線被曝がその発症リスクを高めることは明らかであり,紫外線が要因の一つであると考えられている.筆者らが石川県在住の日本人とアフリカの赤道部に位置するタンザニアの小中学生および高校生を対象に行った調査では,初期瞼裂斑の有病率はタンザニア人で著しく高かった.日本人でも眼部被曝量の多い小児で有病率が著明に高いことがわかった(図1).瞼裂斑そのものは視機能低下に直接関与することは少ないが,過去の紫外線被曝の指標として有用であるといえる.翼状片は紫外線との関連がもっとも強い疾患である.慢性の紫外線曝露により,角膜上皮細胞に上皮間葉系移行を生じ発症すると考えられている.物理的な刺激も要因であるとの考えもあるが,天空紫外線量が赤道部地域の約8分の1であるアイスランドでの50歳以上の一般住民における有病率は0.2%であり,紫外線を浴びないかぎり発症することはほとんどないと考えてよい.一方,紫外線の強い熱帯・亜熱帯地域住民や屋外労働者の図1瞼裂斑有所見率(日本人1,047名,タンザニア人227名)(71)あたらしい眼科Vol.34,No.5,20176730910-1810/17/\100/頁/JCOPY有病率は高く,中国海南島在住の農民における有病率(50歳以上)は71.7%であり,慢性的に紫外線を浴び続けると高頻度に発症する疾患であると考えてよい.翼状片は鼻側に発症することが多いが,その要因としてCoroneoらが提唱したperipherallightfocusingがある1).耳側あるいは耳側上方から入射した紫外線は耳側角膜で屈折し,前房内を通過し,鼻側輪部に集光する.集光部の紫外線強度は耳側の約20倍であり,そのため鼻側に翼状片は好発すると考えられている.白内障については,1980年代以降の疫学調査において眼部被曝量と皮質白内障には有意な関連があることが多数報告されている2).核白内障と紫外線の関連については否定的な研究結果が多かったが,近年,紫外線レベルが高い熱帯・亜熱帯地域における核白内障の有病率が著しく高いことが報告されている.動物実験でも慢性のUV-A曝露によりモルモットで核白内障を生じたことが報告されおり,高度の紫外線被曝は核白内障の要因である可能性がある.●眼の紫外線対策眼の紫外線対策アイテムとしては帽子,眼鏡,サングラス,紫外線カット機能付きのコンタクトレンズがある.帽子はつばが7cm以上のものが推奨されているが,帽子のみでの眼部紫外線カット率は50%程度であり,単独使用での効果は十分とはいえない.現在市販されている眼鏡レンズのほとんどは紫外線カット機能がついており,眼鏡は紫外線対策アイテムとしてきわめて有用である.サングラスとの効果の違いはフレームの形状であり,レンズの色は紫外線カット効果とは無関係である.レンズが大きく,テンプルの太いもの,ゴーグルタイプのものが,レンズを通さずに眼に入射する紫外線を効率よくカットする.レンズの色が濃いサングラスは可視光透過率が低く,瞳孔径が拡大するため,不適切な形状のサングラスを使用すると水晶体への紫外線被曝量が増え,白内障発症リスクが逆に増加する可能性がある.紫外線カット機能のあるコンタクトレンズのうち,角膜輪部までをカバーするソフトコンタクトレンズはきわめて有用である.直達紫外線に加え,peripherallightfocus-ingにより鼻側輪部および水晶体赤道部に入射する紫外線を確実にカットするためである.コンタクトレンズの種類により紫外線カット率が大きく異なる点については注意が必要であるが,もっともカット率が高いものではUV-Bを99%,UV-Aを96%カットするため,瞼裂斑以外の眼疾患予防には単独使用で十分な効果が期待できる.小児期からの眼部紫外線対策は重要であり,とくに屋外でのスポーツをする場合はコンタクトレンズの装用を指導すべきと考える.●おわりに眼への紫外線被曝による影響は,日焼けのような自覚しやすい急性障害が出にくいため,被曝したという認識に乏しく,視機能低下を生じる翼状片や白内障の発症は40代以降になるため,紫外線被曝とそれらの疾患を関連づけて捉えにくい.しかし,紫外線被曝が眼疾患の要因となることは確実である.眼部紫外線被曝の影響に対する啓発と,有用性が証明されている紫外線対策アイテムの適正使用の普及が望まれる.文献1)CoroneoMT,Muller-StolzenburgNW,HoA:Peripherallightfocusingbytheanterioreyeandtheophthalmohelio-ses.OphthalmicSurg22:705-711,19912)TaylorHR,WestSK,RosenthalFSetal:E.ectofultravi-oletradiationoncataractformation.NEnglJMed319:1429-1433,1988ZS981

写真:レバミピド点眼が奏功した結膜リンパ嚢胞の合併が考えられる結膜弛緩症

2017年5月31日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦小林加寿子396.レバミピド点眼が奏効した結膜リンパ京都市立病院眼科,京都府立医科大学眼科.胞の合併が考えられる結膜弛緩症横井則彦京都府立医科大学眼科図2図1のシェーマ①隆起性病変②異所性メニスカス図1リンパ.胞の合併症が考えられる結膜弛緩症下方結膜の両側に結膜弛緩に類似した隆起性病変と,それに隣接して異所性メニスカスが明瞭に形成されているのがわかる.図3図1の症例の前眼部OCT所見(鼻下側球結膜)水平断で,結膜下に低反射の空隙を認め,その病変が結膜表面の隆起の原因となっていることがわかり,結膜リンパ.胞と考えられた.図4図1の症例のレバミピド点眼治療後レバミピド点眼1カ月半後には,下方結膜の両側の隆起が消失し,異所性メニスカスの形成も改善した.(69)あたらしい眼科Vol.34,No.5,20176710910-1810/17/\100/頁/JCOPY結膜リンパ.胞は,結膜リンパ管拡張症と同様に結膜のリンパ管が拡張し,.胞状の外観を呈する病変である.発症メカニズムは現時点では不明であり,特発性,加齢,炎症,外傷後,リンパ管循環障害などが考えられている.結膜リンパ管拡張症は,結膜弛緩症の約90%に合併するとされ1),数珠状の透明な結膜の隆起として観察され,比較的可動性があり,中のリンパ液はしばしば黄色調に見える.リンパ管に血液が流入し内部に出血したものは,出血性リンパ管拡張症として区別される2).一方,結膜リンパ.胞は,急性のアレルギー炎症で見られる結膜浮腫に類似し,効果なくステロイド点眼で治療されていることもある.結膜弛緩症と同様,結膜リンパ.胞においても,隆起性病変が下方のメニスカスにおいて涙液の流れを遮断したり,隆起性病変に隣接して異所性メニスカスのために涙液層の破壊を招いたり,隆起性病変と眼瞼結膜との間で瞬目時の摩擦が亢進したりすることがある.つまり,結膜リンパ.胞は,ドライアイのメカニズムである「涙液層の安定性低下」と「瞬目時の摩擦亢進」の両方のメカニズムを介して,さまざまなドライアイ症状を生じうる.結膜リンパ.胞は,前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)で結膜下に低反射の.胞状構造として認められる.症例は69歳,女性で,1年前より左眼に流涙症状を自覚し,前医にて結膜浮腫と診断されステロイド点眼で治療されてきたが,症状および所見の改善がなく,当科に紹介されて受診した.初診時,下方結膜に浮腫状隆起を認め(図1,2),細隙灯顕微鏡および前眼部OCT所見(図3)から,結膜リンパ.胞を伴う結膜弛緩症と診断した.隆起性病変に隣接した異所性メニスカス形成による涙液層破壊時間の異常も認めたため,レバミピド点眼4回/日を開始し,無効な場合を考慮して,3カ月後に手術を予定した.しかし,点眼開始より1カ月半後には,隆起性病変は著明に改善し(図4),自覚症状も改善したため,手術は中止となった.その後レバミピド点眼を継続しているが,再発することなく,経過は良好である.結膜リンパ.胞が大きな場合,ドライアイと同様のメカニズムが働くため,涙液層破壊時間の異常を伴っていれば,ドライアイの治療を基本とし,症状の改善が乏しい場合は外科的治療が必要となる.今回,なぜレバミピド点眼が結膜下の病変の改善に奏効したか,その機序は不明であるが,レバミピドの抗摩擦作用3)が瞬目時の摩擦軽減に働き,摩擦の悪循環が排除されることで,結膜下の病変を自然消退に導いたのではないかと考えている.文献1)WatanabeA,YokoiN,KinoshitaSetal:Clinicopathologicstudyofconjunctivochalasis.Cornea23:294-298,20042)岩部利津子,横井則彦:写真セミナー321.出血性結膜リンパ管拡張症.あたらしい眼科28:233-234,20113)横井則彦,木下茂:杯細胞増加とムチン産生作用をもつムコスタ点眼液.あたらしい眼科32:943-951,2015

網膜の血管腫瘍性病変

2017年5月31日 水曜日

網膜の血管腫瘍性病変VascularTumorsoftheRetina川上摂子*後藤浩*はじめに網膜の血管腫瘍性病変には,網膜血管芽腫(毛細血管腫),海綿状血管腫,蔓(つる)状血管腫,血管増殖性腫瘍などがある.I網膜血管芽腫〔retinahemangioblastoma,(毛細血管腫:capillaryhemangioma)〕眼底の周辺部や視神経乳頭上に赤みを帯びた桃色の腫瘤として認められる良性の腫瘍で,網膜からの流入血管と流出血管を有し,これらが拡張しているものが網膜血管芽腫である.網膜血管芽腫は,孤発例またはvonHippel-Lindau(VHL)病の一部として発生する.VHL病は,染色体3番短腕25-26領域にあるVHL腫瘍抑制遺伝子の異常が原因であるとされ,常染色体優性遺伝である.頻度は36,000人に1人とされ,わが国では200家系,600~1,000名の症例数が推定されている.網膜血管芽腫のほかに,小脳や脊髄の血管芽腫,褐色細胞腫,腎細胞癌などさまざまな腫瘍が発生する1~3).VHL全患者のうち網膜血管芽腫の合併は28%にみられ1),わが国の全国調査では34%であった4).網膜血管芽腫の初診時平均年齢は,VHL病でない場合は36歳であるのに対し,VHL病に伴う場合では18歳と比較的若年で5),網膜血管芽腫の初診時に孤発例であったとしても,10歳未満の45%では後にVHL病と診断される6).とくに網膜血管芽腫が多発性の場合や若年発症例,家族歴のある場合には,VHL病関連病変精査のためCTやMRIなどによる検討とともに,脳神経外科など他科との連携が重要である.検眼的には,眼底の周辺部や視神経乳頭上に赤みを帯びた桃色の腫瘤として観察される.滲出性変化や腫瘍による網膜の牽引や硝子体出血を伴うことがあり,視機能障害の原因となることがある.網膜の浮腫や硬性白斑などの滲出性変化は,周辺部に存在する腫瘍の周囲のみならず,離れた黄斑部に生じることもある.フルオレセイン蛍光眼底造影では造影早期から腫瘍に一致して過蛍光を呈し,流入動脈,腫瘍内,流出静脈と描出され,後期には腫瘍から旺盛な血管漏出が認められる.病理組織学的には,毛細血管と泡状の空胞を伴った間質細胞からなる7).間質の細胞にみられるVHL遺伝子にヘテロ結合性の消失がみられ,腫瘍抑制の不活性化に関与していることが知られている.その産生物であるpVHLが欠損すると血管内皮増殖因子(vascularendo-thelialgrowthfactor:VEGF)がアップレギュレートされ,血管新生が引き起こされると推測されている8~10).治療は腫瘍径や所在,併発症によっても異なる.網膜光凝固や冷凍凝固が有効な場合が多いが11),その他にも経瞳孔温熱療法12),放射線外照射ないし小線源放射線治療13,14)が用いられることもある.流入血管の結索や15)近年では抗VEGF療法や光線力学療法,あるいは両者,の併用の報告がある16~19).ただし,抗VEGF療法単独では視機能および形態学的な改善に乏しく,網膜血管芽腫に対する光線力学療法の反応も一定しないようである*SetsukoKawakami&*HiroshiGoto:東京医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕川上摂子:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(63)665図1右眼網膜血管増殖性腫瘍(38歳,男性)a:カラー眼底写真.右眼下耳側周辺部腫瘤がみられる.近傍に網膜出血を生じている.b:フルオレセイン蛍光眼底造影.FA(早期).わずかな拡張を呈する流入および流出血管と,腫瘍内部の血管が描出されている.c:FA(中期).腫瘍部は組織染による過蛍光を呈し,腫瘍およびその周囲には血管透過性亢進に伴う色素の漏出がみられる.図2右眼網膜血管増殖性腫瘍(13歳,男性)カラー眼底写真.右眼上側に腫瘤がみられ,その周囲から連続して黄斑部に滲出性変化や,硬性白斑(星芒状白斑)がみられる.図3左眼網膜血管増殖性腫瘍(38歳,男性)カラー眼底写真.左眼下耳側に腫瘤がみられる.黄斑部に網膜前膜を併発している.能が低下する症例もある.腫瘤の状態や併発症の程度により経過はさまざまで,無症候性のものは自然経過で不変のことが多く,なかには縮小していくものもある.活動性を伴う症例に対しては,まずは腫瘍本体に対し網膜光凝固や経強膜的に冷凍凝固を行うことが多い22,23,26,27).難治例では小線源ないしプラーク放射線治療が行われることもある26,28~30).また,近年では光線力学療法や抗VEGF療法が用いられることもある31~33).網膜前膜や硝子体出血,網膜.離を伴う症例では硝子体手術が適応になる34).その一方で,網膜前膜を伴う網膜血管増殖性腫瘍では,冷凍凝固を行った後に63%で前膜が自然に網膜表面からはずれて自然軽快したとの報告もある35).とくに腫瘍径6mm以下の症例では良好な結果を得ていることから,硝子体手術の適応は慎重に判断する必要がある35).文献1)MaherER,YatesJR,HarriesRetal:ClinicalfeaturesandnaturalhistoryofvonHippel-Lindaudisease.QJMed77:1151-1163,19902)LonserRR,GlennGM,WaltherMetal:vonHippel-Lindaudisease.Lancet361:2059-2067,20033)vonHippel-Lindau病の病態調査と診断治療系確立の研究班(研究代表者執印太郎)VonHippel-Lindau病.平成21年度概要より.難病情報センターホームページhttp://www.nanbyou.or.jp/4)松下恵理子,福島敦樹,石田晋ほか:vonHippel-Lindau(VHL)病における網膜血管腫発症の全国疫学調査結果.あたらしい眼科28:1773-1775,20115)SinghAD,NouriM,ShieldsCLetal:Retinalcapillaryhemangioma:acomparisonofsporadiccasesandcasesassociatedwithvonHippel-Lindaudisease.Ophthalmology108:1907-1911,20016)SinghAD,ShieldsJA,ShieldsCL:Solitaryretinalcapil-laryhemangioma.hereditary(vonHippel-Lindaudisease)ornonhereditary?ArchOphthalmol119:232-234,20017)ChewEY,SchachatAP:CapillaryhemangioblastomaoftheretinaandvonHippel-Lindaudisease.Retina,5thed.RyanSJ,ed.2156-2163ElsevierSaunsersPhiladelphia,20128)ChanCC,VortmeyerAO,ChewEYetal:VHLgenedeletionandenhancedVEGFgeneexpressiondetectedinthestromalcellsofretinalangioma.ArchOphthalmol117:625-630,19999)SiemeisterG,WeindelK,MohrsKetal:Reversionofderegulatedexpressionofvascularendothelialgrowthfac-torinhumanrenalcarcinomacellsbyvonHippel-Lindautumorsuppressorprotein.CancerRes56:2299-2301,199610)IliopoulosO,LevyAP,JiangCetal:Negativeregulationofhypoxia-induciblegenesbythevonHippel-Lindaupro-tein.ProcNatlAcadSciUSA93:10595-10599,199611)SinghAD,NouriM,ShieldsCLetal:Treatmentofreti-nalcapillaryhemangioma.Ophthalmology109:1799-1806,200212)KimH,YiJH,KwonHJetal:Therapeuticoutcomesofretinalhemangioblastomas.Retina34:2479-2486,201413)RajaD,BenzMS,MurrayTGetal:Salvageexternalbeamradiotherapyofretinalcapillaryhemangiomassec-ondarytovonHippel-Lindaudisease:visualandanatomicoutcomes.Ophthalmology111:150-153,200414)KreuselKM,BornfeldN,LommatzschAetal:Rutheni-um-106brachytherapyforperipheralretinalcapillaryhemangioma.Ophthalmology105:1386-1392,199815)FarahME,UnoF,Hol.ng-LimaALetal:TransretinalfeedervesselligatureinvonHippel-Lindaudisease.EurJOphthalmol11:386-388,200116)WongWT,LiangKJ,HammelKetal:Intravitrealranibi-zumabtherapyforretinalcapillaryhemangioblastomarelatedtovonHippel-Lindaudisease.Ophthalmolgy115:1957-1964,200817)HussainRN,JmorF,DamatoBetal:Vertepor.nphoto-dynamictherapyforthetreatmentofsporadicretinalcap-illaryhaemangioblastoma.PhotodiagnosisPhotodynTher12:555-560,201518)SlimE,AntounJ,KourieHRetal:Intravitrealbevaci-zumabforretinalcapillaryhemangioblastoma:Acaseseriesandliteraturereview.CanJOphthalmol49:450-457,201419)MennelS,MeyerCH,CallizoJ:Combinedintravitrealanti-vascularendothelialgrowthfactor(Avastin)andpho-todynamictherapytotreatretinaljuxtapapillarycapillaryhaemangioma.ActaOphthalmol88:610-613,201020)GaudricA,KrivosicV,DuguidGetal:Vitreoretinalsur-geryforsevereretinalcapillaryhemangiomasinvonHip-pel-Lindaudisease.Ophthalmology118:142-149,201121)ArcherDB,DeutmanA,ErnestJTetal:Arteriovenouscommunicationsoftheretina.AmJOphthalmol75:224-241,197322)ShieldsJA,DeckerWL,SanbornGEetal:Presumedacquiredretinalhemangiomas.Ophthalmology90:1292-1300,198323)ShieldsCL,ShieldsJA,BarrettJetal:Vasoproliferativetumorsoftheocularfundus.Classi.cationandclinicalmanifestationsin103patients.ArchOphthalmol113:615-623,199524)ShieldsCL,KalikiS,Al-DahmashSetal:Retinalvasop-roliferativetumors.Comparativeclinicalfeaturesofprima-ryvssecondarytumorsin334cases.JAMAOphthalmol131:328-334,2013668あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017(66)

病的近視の網膜血管変化

2017年5月31日 水曜日

病的近視の網膜血管変化RetinalVascularChangesinEyeswithPathologicMyopia森山無価*はじめに病的近視眼では眼軸延長および後部ぶどう腫形成という特殊な形状変化に伴って,後極部では後部ぶどう腫形成などによる眼球の機械的伸展および牽引によって,周辺部ではおもに眼球赤道部の伸展によって,網膜血管系の変化が生じる.網膜血管の観察にはフルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceineangiography:FA)が有用であるが,近年では広角眼底撮影機器の進歩により周辺部網膜のFAも可能となった.本稿では病的近視眼の網膜血管変化について広角FAの所見を交えて述べる.I病的近視とは病的近視の定義は国際的には未だ確立されていない.わが国では所らの厚生省網脈絡膜萎縮症研究班の「.8.0Dを超える近視」という定義が一般的に用いられている1).病的近視の本質は眼軸延長や後部ぶどう腫形成という眼球形状変化であり(図1)2),そのために眼底後極部や眼底周辺部にさまざまな網膜変化が生じる.II眼底後極部における網膜血管の変化1.動静脈交叉部での網膜血管の折れ曲がり病的近視眼では網膜動静脈交叉部位において網膜静脈が折れ曲がっている所見がみられる(図2).Hayashiらは強度近視眼の7割以上に認められたと報告している3).この現象は機械的伸展時に動静脈交叉部は固定が強く,その結果,血管壁が脆弱な網膜静脈が牽引されることによって生じると推察されている.また,網膜血管の折れ曲がりを有する症例では,他の網膜変化(網膜微小皺壁,網膜分離,網膜上膜)を合併することも多い.2.網膜毛細血管瘤病的近視眼では,明らかな血流異常がないにもかかわらず網膜毛細血管瘤が生じることがある(図3).Hayashiらによると強度近視眼の2割に認められ,長眼軸眼や後部ぶどう腫を有する症例に多くみられると報告されている3).前述の網膜血管の折れ曲がりを合併することも多く,動静脈交叉部での血流うっ滞が関与していると推察されている.III眼底周辺部における網膜血管の変化1.毛細血管拡張,毛細血管瘤病的近視眼では網膜最周辺部の毛細血管拡張や毛細血管瘤がみられることがある.これらの所見は正視眼でも認められるが,病的近視眼ではより明瞭に認められ,あたかも唐草文のような造影所見となる(図4).拡張した毛細血管野毛細血管瘤からは色素漏出が認められることもある(図5).Kanekoらによると毛細血管拡張は8割,毛細血管瘤は約3割に認められ,眼軸長延長による網膜周辺部の菲薄化が要因となっていると推察されている4).*MukaMoriyama:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕森山無価:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(59)661図1眼球の3DMRIを鼻側から観察した像a:正視眼.眼球はほぼ球状を呈している.b:病的近視眼.眼球後部に突出した後部ぶどう腫を認め,眼球赤道部も伸展している.図2眼底後極部における網膜血管変化64歳,女性.眼軸長29.2mm.動静脈交叉部()で静脈の折れ曲がりが認められる.(文献1より転載)図3後極部にみられる毛細血管瘤52歳,男性.眼軸長30.9mm.乳頭黄斑間に毛細血管瘤が複数認められる().また,動静脈交叉部での血管の折れ曲がりも認められる.(文献1より転載)図5網膜最周辺部にみられる毛細血管拡張,毛細血管瘤②48歳,女性,眼軸長30.5mm.毛細血管瘤(),拡張した毛細血管()からの色素漏出が認められる.(文献2より転載)図7網膜最周辺部無血管領域②b73歳,女性.眼軸長32.5mm.無血管領域は拡大し,網膜全周広範囲に及んでいる.図6網膜最周辺部無血管領域①59歳,男性.眼軸長33.0mm.a:広角写真.b:耳側部分の拡大.周辺部の網膜血管は途絶し,さらに周辺側は無血管領域となっている.途絶部位の後極側には毛細血管拡張が認められる.黄色矢印は網膜裂孔に対する光凝固班.(文献2より転載)