‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

視神経乳頭腫脹で発症した眼トキソプラズマ症の1例

2017年5月31日 水曜日

《第50回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科34(5):701.706,2017c視神経乳頭腫脹で発症した眼トキソプラズマ症の1例庄田裕美*1小林崇俊*1高井七重*1松尾純子*1多田玲*1,2丸山耕一*1,3竹田清子*1岡本貴子*1池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2多田眼科*3川添丸山眼科ACaseofOcularToxoplasmosiswithOpticDiscSwellingHiromiShoda1),TakatoshiKobayashi1),NanaeTakai1),JunkoMatsuo1),ReiTada1,2),KoichiMaruyama1,3),SayakoTakeda1),TakakoOkamoto1)andTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)TadaEyeClinic,3)KawazoeMaruyamaEyeClinic目的:全身のトキソプラズマ症が再活性化し,視神経乳頭腫脹で発症したと考えられた眼トキソプラズマ症の1例を報告する.症例:47歳,女性.約2週間前からの右眼の視力低下と眼痛を主訴に大阪医科大学眼科紹介受診.初診時,矯正視力は(0.6).右眼のみにぶどう膜炎と視神経乳頭腫脹を認めた.原因の精査中に視力は(0.2)に低下.採血では抗トキソプラズマIgM抗体は陰性であったが,IgG抗体は陽性.眼所見,全身検査,南米赴任時の全身のトキソプラズマ症による発熱の既往などから,全身のトキソプラズマ症が再活性化し,視神経乳頭腫脹で発症した眼トキソプラズマ症と診断した.抗菌薬とステロイドの内服によって炎症は鎮静化し,視神経乳頭腫脹も改善.視力は(0.7)まで回復したが,視野障害は残存した.結論:非典型的な眼トキソプラズマ症では,眼所見,全身検査,問診などから鑑別診断を慎重に行い,視機能保護のため可能なかぎり速やかに治療を開始することが重要である.Purpose:Toreportacaseofoculartoxoplasmosiswithopticdiscswelling.CaseReport:Ina47-year-oldfemalereferredtoOsakaMedicalCollegeHospital,funduscopicexaminationoftherighteyedisclosedswellingoftheopticdisc;visual.eldtestingoftheeyeshowedablindspotofMariotteenlargedwithcecocentralscotoma.Testingofthepatient’sserumshowednegativeforToxoplasma-speci.cIgMantibodies,butpositiveforToxoplasma-speci.cIgGantibodies.Thepatienthadamedicalhistoryoftoxoplasmosiswithouteyesymptoms,accompaniedbyfever,whileonanoverseasassignmentinSouthAmerica,sowediagnosedhermanifestationasreactivationoftoxoplasmosis.Aftertreatmentwithsystemicantibioticsandsteroids,theopticdiscswellingshowedremissionandvisualacuityrecoveredto0.7OD,butthevisual.elddefectremained.Conclusions:Althoughsomeatypicalcasesofoculartoxoplasmosisaredi.culttodiagnose,itisimportanttoinitiatetreatmentassoonaspossi-ble,inordertoprotectvisualfunction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(5):701.706,2017〕Keywords:トキソプラズマ症,先天感染,後天感染,視神経乳頭腫脹,再活性化.toxoplasmosis,congenitalin-fections,acquiredinfections,opticdiscswelling,reactivation.はじめにトキソプラズマ感染症は,トキソプラズマ原虫の細胞内寄生により発症する人畜共通感染症であり,全身や眼球にさまざまな症状を引き起こす.眼球に生じる眼トキソプラズマ症は,感染時期により先天感染と後天感染に分類され,先天感染では両眼の瘢痕病巣,後天感染では片眼性の限局性滲出性網脈絡膜炎といった特徴的な眼所見を呈する.そのため診断に迷うことは比較的少ないが,非典型的な病像を呈する場合には診断がむずかしい場合があり注意が必要である1.3).また,炎症を鎮静化させることは他のぶどう膜炎よりも比較的容易と考えられるが,なかには網膜新生血管が生じて硝子体出血を繰り返す症例や4),炎症の鎮静化が困難であった症例など難治例の報告も散見され5),視力予後は病変の発症部位にも左右される.〔別刷請求先〕庄田裕美:〒569-8686大阪府高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:HiromiShoda,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-cho,Takatsuki-shi,Osaka569-8686,JAPAN今回,全身のトキソプラズマ症が再活性化し,片眼の視神経乳頭近傍で発症し,炎症は鎮静化したものの視野障害が残存した眼トキソプラズマ症の1例を経験したので報告する.I症例患者:47歳,女性.主訴:右眼視力低下,眼痛.現病歴:平成27年5月,約2週間前からの右眼の疼痛と視力低下を自覚して近医眼科を受診.右眼のぶどう膜炎と視神経乳頭腫脹を指摘され,精査加療目的にて大阪医科大学眼科へ紹介受診となった.既往歴:副鼻腔炎(手術加療は2回).家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼(0.6×sph.4.25D(cyl.1.00DAx10°),左眼(1.2×sph.3.25D(cyl.1.00DAx160°).眼図1初診時の右眼眼底写真視神経乳頭耳側に乳頭腫脹を認める.図3初診時の右眼視野検査結果Mariotte盲点の拡大と盲点中心暗点を認める.圧は右眼26mmHg,左眼16mmHg.右眼の相対的瞳孔求心路障害(relativea.erentpupillarydefect:RAPD)は陽性であり,中心フリッカー値は右眼30Hz,左眼40Hzであった.前眼部の細隙灯顕微鏡検査では,右眼の前房内に2+程度の炎症細胞が観察され,肉芽腫性の角膜後面沈着物を伴っていた.眼底検査では,右眼の視神経乳頭の腫脹があり,とくに耳側の境界が不明瞭であった.萎縮瘢痕病巣は眼底周辺部も含めて認めなかった(図1).フルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinangiography:FA)では,右眼の視神経乳頭耳側に,初期で中央部が低蛍光,周辺部が輪状過蛍光を呈し,後期で視神経乳頭全体が過蛍光を呈する所見が得られた(図2).動的量的視野検査では,右眼でMariotte盲点の拡大と盲点中心暗点が検出された(図3).なお,初診時,経過中を含めて,左眼には炎症所見を認めず,発熱やリンパ節腫脹などの全身症状も認めなかった.図2初診時の右眼蛍光眼底造影写真a:初期.視神経乳頭は,中央部が低蛍光,周辺部が輪状過蛍光を呈している.b:後期.視神経乳頭全体が過蛍光を呈している.初診時血液検査所見:WBC5,560/μl(Neut54.4%,Mono4.9%,Eos1.4%,Baso0.3%,Lymph36.6%),RBC4.03×106/μl,Plt249×103/μl,CRP0.01mg/dl,ACE7.6U/l,IgG1,229mg/dl,IgA120mg/dl,IgM87mg/dl,totalIgE25.9IU/ml,抗トキソプラズマIgM抗体0.3IU/ml(正常値:6未満)経過:ぶどう膜炎に関連して生じた片眼性の視神経乳頭腫脹と考え,原因検索のため,採血検査,胸部X線写真,心電図検査を行った.前医からのステロイド点眼薬を続行とし,1週間後に再診したが,右眼矯正視力は(0.6)のままであった.初診時のFA所見から眼トキソプラズマ症を疑ったものの,抗トキソプラズマIgM抗体は正常範囲内であった.そのため,抗トキソプラズマIgG抗体を追加で測定するとともに,再度問診を行い,既往歴を改めて確認したところ,10年以上前に南米に数年間赴任して勤務した経験があり,その当時に発熱し,現地の病院にてトキソプラズマ症と診断され内服薬にて治癒した,という既往歴が判明した.そのときは眼症状はなく,その後に中米への赴任も経験し,旅行で南米を再訪したこともある,とのことであった.また,犬の飼育歴はあったが生肉食の嗜好や喫食はなかった.抗トキソプラズマIgG抗体の結果を待ってから治療を開始する方針としたが,視神経乳頭耳側に白色滲出斑と,網膜出血が出現し,矯正視力が(0.2)に低下したため,アセチルスピラマイシンR1,200mg/日の内服とプレドニゾロン30mg/日の内服を開始した(図4).ほぼ同時に抗トキソプラズマIgG抗体が上昇しているこ図4白色滲出斑出現時の右眼眼底写真視神経乳頭耳側に白色滲出斑と,網膜出血を認めた.図5内服治療開始直後の右眼光干渉断層計画像白色滲出斑に一致して網膜内層が隆起しており,病変が網膜内層に存在していると考えられる.また,黄斑部には滲出性網膜.離を認める.図6治療後の右眼眼底写真視神経乳頭耳側の白色滲出斑は消退している.とが判明し〔抗トキソプラズマIgG抗体77IU/ml(正常値:6未満)〕,一連の経過から,本症例の視神経乳頭腫脹は,全身のトキソプラズマ症が再活性化して生じた眼トキソプラズマ症が原因であると診断した.なお,経過中に施行した光干渉断層計(opticalcoherecetomography:OCT)では,白色滲出斑の部位では網膜内層が隆起しており,その部位に病変が局在していることが示唆された(図5).内服開始後,経過中に硝子体混濁の出現や滲出性網膜.離を認めたが,治療開始後1カ月の時点で右眼矯正視力は(0.35),3カ月で(0.5),6カ月で(0.6)と徐々に改善した.なお,プレドニゾロンは経過をみながら約1カ月ごとに5mg/dayずつ漸減とし,約6カ月後には内服中止とした.また,アセチルスピラマイシンRも同時に内服中止とした.右眼の最終視力は(0.7)であり,硝子体混濁や滲出性網膜.離も消退した.視神経乳頭耳側の白色滲出斑も徐々に縮小し,現在は瘢痕化しつつある(図6).また,視野障害は残存している(図7).治療後の抗トキソプラズマIgG抗体について,測定はしていない.II考按眼トキソプラズマ症は,日本のぶどう膜炎の原因疾患のなかで,三大ぶどう膜炎のつぎの位置を占めていた時代もあったが6),2009年のぶどう膜炎初診患者の全国疫学調査の報告では,眼結核症に続いて13位となっている7).しかし,依然としてぶどう膜炎の原因疾患として重要であることに変わりはない.典型的な病像を呈するものは診断,治療も比較的容易であり,予後は良好と考えられるが,非典型的な病像を呈するものや,典型的な病像であっても発症部位によっては予後不良となることがあり,現在も従来と変わらずわれわれ眼科医を悩ませる疾患であり,注意が必要である3).図7治療後の右眼視野検査結果視野障害は残存している.本症例は,今回の血液検査で抗トキソプラズマIgG抗体(以下,IgG抗体)の上昇を認めていること,経過中に特徴的な白色滲出斑と硝子体混濁が出現したこと,眼底に他に萎縮瘢痕病巣を認めなかったこと,FAで得られた画像所見,そして,以前の南米赴任時に眼症状を伴わない全身のトキソプラズマ症と診断されていること,などから,全身のトキソプラズマ症が再活性化した結果,後天性に眼トキソプラズマ症が発症し,それに伴って生じた視神経乳頭腫脹と診断した.初診時に特徴的な白色滲出斑が出現していなかったため,ほかのぶどう膜炎の原因との鑑別がむずかしく,確定診断に至るまでに時間を要し,眼トキソプラズマ症に対する治療がやや遅くなった点は否定できない.とくに画像所見では,初診時のFAにおいて,耳側の視神経乳頭腫脹の部位では,初期に中心部が低蛍光,後期に過蛍光を呈する眼トキソプラズマ症に特徴的な画像が得られていた8).その時点で眼トキソプラズマ症を疑い,早急に治療を開始するべきであったかもしれないが,抗トキソプラズマIgM抗体(以下,IgM抗体)が正常範囲内であったことから,後天性眼トキソプラズマ症ではない可能性があると判断し,抗菌薬の内服開始が遅れた.眼トキソプラズマでは,速やかな治療が予後に直結することから2),抗菌薬の内服開始が遅れた点は反省しなければならない.本症例を振り返ると,その特徴の一つは,全身のトキソプラズマ症が再活性化した結果,後天性の眼トキソプラズマ症が発症したと考えられる点である.先天性の眼トキソプラズマ症の再発であったとしても同様にIgM抗体は低下しているが,眼内の他の部位に先天性を示唆する萎縮瘢痕病巣はなく,先天性眼トキソプラズマ症の再発とは考えにくい状況であった.既往歴と眼所見から考えると,過去に全身性のトキソプラズマ症に罹患しており,その際に潜伏感染したトキソプラズマ原虫が何かが契機となって眼内に侵入し,眼トキソプラズマ症を発症したものと考えた.全身のトキソプラズマ感染の既往のある患者が免疫不全状態に陥ったときにトキソプラズマ脳症を発症する場合があるが,免疫状態に問題がなくてもトキソプラズマ脳症を発症している報告も存在し9),眼トキソプラズマ症は,その発症に免疫状態は関係ないとされている10).免疫正常者の血液中からトキソプラズマ原虫が見つかったとする報告もあり11),本症例も血流を介して眼内に感染したと考えても矛盾はない.なお,今回のようにIgM抗体陰性かつIgG抗体陽性であればIgGavidityを検査し,IgGと抗原の結合状態を測定することによって感染時期を推定することが可能である.すなわち,IgGavidityが高値(>40%)であれば感染から一定の期間が経過しており,低値(≦40%)であれば感染成立は比較的最近である,というように推定し,治療方針に影響する可能性があるため,検査を推奨している報告もある10).ただしIgGavidityは,トキソプラズマの初感染が疑われる妊婦の場合には,先天性トキソプラズマ症が関係するため非常に重要であるが,後天性の眼トキソプラズマ症の場合はIgGavidityの結果で治療方針が影響を受けることは少ないため,本症例でも測定を行っていない.眼トキソプラズマ症においては,生肉食などの嗜好や喫食歴がなく,トキソプラズマ原虫の感染経路が判然としないケースにしばしば遭遇するが,そのなかには,今回のように全身のトキソプラズマ症に罹患した結果,潜伏感染へ移行し,のちにトキソプラズマ症が再活性化して眼内で眼トキソプラズマ症の形で発症した,という経過を辿った症例が一定の割合で含まれていると考えられ,IgGavidityを測定すれば,その点が明確になる可能性が高い.本症例の特徴の二つ目は,眼トキソプラズマ症が視神経乳頭に隣接した部位に発症した点である.同様な症例の存在は古くから知られており,かつてはEdmund-Jensen型の乳頭隣接網脈絡膜炎とよばれていた12).しかし,その主原因がトキソプラズマであることが次第に判明し13),最近ではEdmund-Jensen型と記載されることは少なくなってきている.わが国でも複数の報告があるが,いずれの報告でも,欧米では珍しくないが,わが国では比較的少ないと述べられており,事実,わが国の症例報告は決して多くはない13.17).ただ,本症例のように非典型的な眼トキソプラズマ症があることは熟知しておく必要がある.さらに,病変の主座に関しては,本症例のOCT画像では網膜内層が隆起しており,脈絡膜に明らかな変化は確認できなかった.Edmund-Jensen型の乳頭隣接網脈絡膜炎における病変の主座が網膜に存在するのか,あるいは脈絡膜に存在するのかについては意見が分かれ断定はできないとされていたが13),今後はOCTを活用することによって,その点についても新たな知見が得られる可能性が高い.最後に,本症例においては今後,今回の病巣に隣接して再発病変が生じてくることに注意しなければならない.事実,沖波らは,11年後に再発したものの,早急に治療を行い,視力が保たれた1例を報告している14).再発率については,約30%再燃するという報告があるようだが,わが国での再発例については,調べる限りでは沖波らの症例のみであった.今後の再発は視野障害の拡大と視力障害に直結することから,長期間にわたる慎重な経過観察が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DelairE,LatkanyP,NobleAGetal:Clinicalmanifesta-tionsofoculartoxoplasmosis.OculImmunolIn.amm19:91-102,20112)AtmacaLS,SimsekT,BatiogluF:Clinicalfeaturesandprognosisinoculartoxoplasmosis.JpnJOphthalmol48:386-391,20043)SmithJR,CunninghamETJr:Atypicalpresentationsofoculartoxoplasmosis.CurrOpinOphthalmol13:387-392,20024)小林崇俊,高井七重,家久来啓吾ほか:硝子体出血を繰り返したトキソプラズマ網脈絡膜炎の1例.眼臨紀5:568-573,20125)ReichM,RuppensteinM,BeckerMDetal:Timepat-ternsofrecurrencesandfactorspredisposingforahigherriskofrecurrenceofoculartoxoplasmosis.Retina35:809-819,20156)小沢博子,佐賀歌子,宗司西美:慶大眼科におけるぶどう膜炎の統計的考察.眼臨76:1704-1708,19827)OhguroN,SonodaKH,TakeuchiMetal:The2009pro-spectivemulti-centerepidemiologicsurveyofuveitisinJapan.JpnJOphthalmol56:432-435,20128)IijimaH,TsukaharaY,ImasawaMetal:Angiographic.ndingsineyeswithactiveoculartoxoplasmosis.JpnJOphthalmol39:402-410,19959)KannoA,SuzukiY,MinamiMetal:Ahealthy,81-year-oldwomanwithtoxoplasmicencephalitis.GeriatrGerontolInt12:759-761,201210)VillardO,CimonB,L’OllivierCetal:Serologicaldiagno-sisofToxoplasmagondiiinfection:RecommendationsfromtheFrenchNationalReferenceCenterforToxoplas-mosis.DiagnMicrobiolInfectDis84:22-33,201611)SilveiraC,VallochiAL,RodriguesdaSilvaUetal:Toxo-plasmagondiiintheperipheralbloodofpatientswithacuteandchronictoxoplasmosis.BrJOphthalmol95:396-400,201112)JensenE:Retino-chorioiditisjuxtapapillaris.GraefesArchOphthalmol69:41-48,190813)谷口慶晃,原田一道,藤田晋吾ほか:乳頭隣接網脈絡膜炎(Jensen)の6例─トキソプラズマ症との関連について─.眼紀25:822-830,197416)菊池豊彦,神戸孝,石嶋清隆ほか:トキソプラズマによ14)沖波聡,岩城正佳,仁平美果ほか:11年後に再燃した乳頭る乳頭隣接網脈絡膜炎の1例.眼科42:189-192,2000隣接網脈絡膜炎の症例.眼紀43:39-42,199217)小國務,川瀬和秀:トキソプラズマによる乳頭隣接網脈15)三宅睦子,砂川光子:トキソプラズマによる乳頭隣接網脈絡膜炎(Edmund-Jensen)の1例.眼臨101:786-789,絡膜炎(Edmund-Jensen)の1症例.臨眼51:405-408,20071997***

二次元から三次元を作り出す脳と眼 12.空間視と形態視の最終ステージ

2017年5月31日 水曜日

連載⑫二次元から三次元を作り出す脳と眼雲井弥生淀川キリスト教病院眼科はじめに網膜に映る像をジグソーパズルの絵と考えてみる.一つずつのピースを受けもつ神経節細胞が情報を外側膝状体に送る.いくつかの細胞の反応が合成されることで後頭葉第一次視覚野(V1)に特定の方向の動き・線の傾き(方位)・色に反応する細胞が出現する(連載⑪参照).V1から高次に進むほどピースの統合が進み,曲線や突起をもつ図形など,もとの複雑な像の再現に近づいていく1,2).空間視の背側経路・形態視の腹側経路(連載⑩参照),両者の最終ステージで構成成分の異なるパズルが完成する(図1).空間視の最終ステージ後頭頂葉空間視情報は背側経路を進む(図1:→).神経節細胞Pa→外側膝状体M層→V1→V2→(V3)→V5/MT(.)→V5A/MST(.)→後頭頂葉postparietal(PP)cortex(.).V5/MT(middletemporalarea):この部位は初めて報告された論文でMTと命名され,別の論文ではV5とよばれた.ここでは両者を併記する(V5A/MSTも同様).V5/MTには多くの方向選択性細胞が存在する.細胞の受容野は狭く,受容野内の動きが周囲と異なるときに強く反応する(図2).中心の円が3時→9時に動くときに強く反応する方向選択性細胞(図2a)は,中心の円が動かず周辺が9時→3時に動くときにも同じように反応する(図2b).この細胞の最適方向は3時→9時である.視野の中心と周辺の相対的な動きが3時→9時という最適方向であれば強く反応する.しかし視野の中心と周辺が同じ方向に動くとき細胞の反応は減弱する(図2c).静止環境のなかでの物体の動きの検出に有効である..V5A/MST(medialsuperiortemporalarea):V5/MTに隣接する.方向選択性細胞のほかに,広い視野のパターンの動きに反応する細胞が多い.パターン図形の拡大や縮小あるいは回転(反時計回りに反応するが,時計回りには反応しないなど)に反応するものがある(図3).正面の家に向かって進むとき,家は視野の中心にあり網膜黄斑部に映り像は動かない.黄斑部近くの網膜上の像の流れは小さく,周辺網膜では大きくなる(図3a).動くときに生じる網膜上の像の流れをオプティカルフローとよぶ.家に近づくときオプティカルフローは拡大し(図3a’),遠ざかるとき縮小する(図3b).止まって頭を右に傾けると景色は反対方向に回転する.パターン図形の拡大や縮小(図3c,d)・回転(図3e,f)に反応する細胞はさまざまなオプティカルフローに反応し,空間内での自分の動きをつかむのに有効である..後頭頂葉:この部位で位置情報(空間内での自分の位置や対象物との位置関係)と運動情報(自分や周囲の動きやその方向・速度)が統合される.さらに体性感覚としての身体感覚,聴覚,平衡感覚も視覚と統合されていく.その働きから頭頂連合野と表すこともある1).a.円を3時→9時b.円静止.背景をc.円・背景ともに動かす9時→3時に動かす3時→9時に動かす図1空間視と形態視の最終ステージ…,①②③と高次に進むほど単純な刺激から複雑細胞の反応最大細胞の反応最大細胞の反応減弱な刺激に反応する形に変化していく.図2V5.MTの相対運動を検出する方向選択性細胞(87)あたらしい眼科Vol.34,No.5,20176890910-1810/17/\100/頁/JCOPYa.家に向かって進むとき,景色の流れは中心で小さく,周辺で大きい.網膜上の像の流れをオプティカルフローとよび,空間内の動きの把握に有効である.a’.前進→オプティカルフロー拡大b.後退→縮小c.拡大d.縮小e.回転―時計回りf.回転―反時計回り図3オプティカルフローと視覚刺激形態視の最終ステージ下側頭葉前部形態・色情報は腹側経路を進む(図1:.).神経節細胞Pb細胞.外側膝状体P層.V1(K層の情報も合流).V2.V4(①).下側頭葉inferiortemporal(IT)area(後部②.前部③)①V4,②下側頭葉後部:①と②については特徴が似ているため合わせて述べる.細胞の受容野は狭く,比較的単純な形に選択的に反応する細胞が多い.特定の傾きや長さの線分(─や/)や円,円弧の一部,十字や2本の線で作られた角∠などに選択的に反応する細胞がある.一部の細胞は色に反応する.③下側頭葉前部:①②に比べて受容野が広く,複雑な形に反応する細胞が多い.手のシルエットや多くの突起物を持った複雑図形(…など),形・色・表面のテクスチャー(凹凸やパターン模様,連載⑥参照),いくつかの視覚成分を併せもつような図形(…など)や顔に反応する細胞が現れるのも③の特徴であり,異なる成分が③で統合されることを示す1).視覚的記憶にも関係する.「恒常性」の力――大きさ・形・色網膜に映るものの像の大きさ・形・波長(色)は視的環境によって変化する.網膜像がさまざまに変化してもそれに惑わされず同じものは同じものと認識できる.これは「恒常性」とよばれる脳の情報補正の力である.V4や下側頭葉の障害で失われる.次回でも触れる.大きさの恒常性:路上のネコは近くで大きく,遠くで小さく見える.しかしネコそのものの大きさが変化したとは感じない.距離によって網膜像の大きさが変わっても同じ大きさとして知覚できる力を「大きさの恒常性」とよぶ.この感覚に逆らうような視覚刺激は脳に錯覚を起こさせる(連載⑥,図1b参照)形の恒常性:対象物を見る方向や角度の違いで網膜に映る像の形が変化する.正方形の紙が斜め上からは長方形に見えたり,円錐が上からは円,横からは三角形に見えたりなど形を変化させても,本来の形を認識できることを「形の恒常性」とよぶ.色の恒常性:一般的に色は物の反射する光の波長により認識される.しかしリンゴの反射する光の波長が明所と薄暗い所で異なっていても,私たちには同じ赤と認識できる.「色の恒常性」とよび,V1やV2の色選択性細胞にはなく,高次のV4で初めて出現する能力である.視覚情報の構成成分の違いから,背側経路(空間視)の障害では失行,腹側経路(形態視)の障害では失認と,異なる病状が認められる.次回で詳説する.文献1)田中啓治:脳はどのように認識するか.脳研究の最前線上(理化学研究所脳科学総合研究センター編),p228-280,講談社,20072)福田淳・佐藤宏道:V1以遠の視覚情報処理.脳と視覚─何をどう見るか,p232-259,共立出版,2002690あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017(88)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 168.強膜バックリング手術習得のコツ(その3)裂孔の位置決め(初級編)

2017年5月31日 水曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載168168強膜バックリング手術習得のコツ(その3)裂孔の位置決め(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに強膜バックリング手術における裂孔の位置決めは,手術を円滑かつ短時間で遂行するうえできわめて重要な手術手技である.前々回で述べたが,まずは仰臥位での双眼倒像鏡による眼底検査と強膜圧迫法に習熟し,術中に眼底検査を行いながら,裂孔部位を確実に強膜面にマークする必要がある.●裂孔のマーキング筆者は裂孔のマーキングを行う際に,阪大式スクレラルマーカー(図1)を好んで用いている.従来から使用されているアムスラー鈎やマイヤーシュビッケラート鈎を用いる場合には,先端が鋭利なため,強膜が極端に薄い強度近視眼では穿孔の危険があるので注意が必要である.阪大式スクレラルマーカーは円形に強膜に刻印される(図2)が,刻印が比較的薄いため,ピオクタニンなどで追加のマークをしておくとよい(図3).●胞状の網膜.離における裂孔の位置決め胞状の網膜.離では強膜圧迫をした部位が実際よりも後極に見えるので,網膜が復位した時点での裂孔の位置をある程度予想する必要がある(図4).●マットレス縫合はマークした位置を確認しながら確実に通常,裂孔の位置決めが正確に施行されていれば,マットレス縫合はその位置を確認しながら確実に設置することができる.円周方向のバックルを設置する際には,原則としてマークした位置から前後等距離になるように通糸する(図5).通糸幅はバックルの大きさにもよるが,#506シリコーンスポンジの場合は7~8mm,(85)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1阪大式スクレラルマーカー一端が強膜マーカー,もう一端は鈎になっている.図2強膜面の刻印円形に刻印されている.図3ピオクタニンによる再刻印上記の刻印が不明瞭となる前にピオクタニンでもう一度刻印しておく.図4胞状の網膜.離における裂孔の位置決め網膜が復位した時点での裂孔の位置を予想する.(眼科Surgeonsの会:網膜.離の手術~確実な復位をめざして.医学書院,1986,p78より許可を得て転載)図5マットレス縫合マットレス縫合はマークした位置を確認しながら確実に設置する.#501シリコーンスポンジの場合には5~6mm程度を筆者は目分量で行っている.この操作が確実に施行できるかで,手術時間は随分違ってくる.あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017687

弱視と斜視のABC 9.動脈神経麻痺

2017年5月31日 水曜日

斜視と弱視のABC監修/佐藤美保9.動眼神経麻痺西村香澄上野眼科・聖隷浜松病院眼科動眼神経麻痺は支配筋の運動障害や眼瞼下垂,瞳孔異常などさまざまな症状を呈する.外眼筋6本中4本が障害されるため,通常の斜視とは異なる治療が必要になる.発症早期は保存的治療を行い,症状が固定したら手術治療を行う.大角度の外斜視を矯正する手術と,眼位維持のための外直筋減弱術を合わせて行うと効果的である.動眼神経麻痺とは動眼神経は,中脳の動眼神経核から起始し,脳幹の腹側を通過して,後大脳動脈と上小脳動脈の間を走行する.その後,海綿状脈洞に至り,上眼窩裂から眼窩内に入る.眼窩内で上下に分かれ,上枝は上眼瞼挙筋と上直筋を,下枝は内直筋,下直筋,下斜筋,瞳孔括約筋,毛様体筋を支配する.動眼神経が麻痺すると,支配筋の運動制限,上斜筋過動,外直筋拘縮による運動障害や眼瞼下垂,瞳孔異常(散瞳),調節障害などさまざまな症状を呈する.完全麻痺では内方回旋を伴う外下斜視となる.また,動眼神経麻痺再生時に,神経が本来支配する筋肉ではなく,別の筋肉に迷入して支配する動眼神経異常再生が起こることがある.たとえば,内直筋枝が上眼瞼挙筋に迷入すると,内転時に上眼瞼が挙上して瞼裂が開大する異常連合運動が起こる.動眼神経麻痺の治療動眼神経麻痺のおもな原因は,小児では先天性や外傷性,大人では神経栄養血管の微小循環障害による血管性や外傷,脳腫瘍,動脈瘤である.とくに内頸動脈.後交通動脈分岐部動脈瘤が原因の散瞳を伴うものは,生命の危険を伴うため適切な診断と治療を要する.最初に内科や脳外科で原因疾患の治療を行い,斜視が残れば眼科の治療を開始する.複数の眼筋障害や眼瞼下垂や瞳孔異常,動眼神経異常再生などが合併しているため,個々の症例に対してオーダーメイドの治療が必要になる.保存的治療①薬物治療:急性期の治療で,神経の修復や保護を目的にビタミンB12製剤やカリジノゲナーゼ,ATP製剤の内服を行う.②A型ボツリヌス毒素注射:発症後早期にA型ボツリヌス毒素を拮抗筋に注射して眼位の改善を促進し,(83)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY拮抗筋の拘縮を防ぐ.③遮蔽:眼帯,遮蔽コンタクトレンズ,すりガラスレンズや膜による片眼遮蔽は複視の解消に役立つ.小児では形態覚遮断弱視に注意する.④プリズム治療:プリズムには組み込みレンズとFres-nel膜プリズムがある.組み込みレンズは両眼合計で10⊿程度の矯正が限界である.Fresnel膜プリズムは40⊿の大角度の矯正も可能であるが,プリズム度数が上がると視力低下も著しいため大角度の矯正は困難であることが多い.自然治癒傾向のある症例では,症状の改善とともに頻回のプリズム交換が必要になる.手術治療内服やプリズム治療を行っても症状が改善しない場合に手術を行う.発症6カ月以上経過して,症状が固定したことを確認したうえで手術を行う.不全麻痺の手術手術は第一眼位の改善,頭位異常や複視の解消,両眼単一視野の拡大を目的に行う.術式の選択は,障害された筋肉の本数や,麻痺,拮抗筋拘縮の程度よって異なる.1.単筋不全麻痺内直筋単筋不全麻痺は通常,大量前後転術を行う.麻痺の程度に応じて最大外直筋後転は付着部から12mm程度,内直筋短縮は10~12mmを目標に行う.上下斜視を合併している場合は垂直方向への水平筋移動を同時に行う.2.動眼神経の上枝,下枝が単独で麻痺動眼神経上枝単独麻痺による上直筋障害には,水平直筋の筋移動術に加え,下直筋後転を拘縮による運動制限が解除されるまで行う.動眼神経下枝単独麻痺に対してKushner1)は,上斜筋の切腱に加え,外直筋を下直筋側に,上直筋を内直筋側に移動し,良好な第一眼位を得たと報告した.あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017685図1動眼神経完全麻痺術前写真眼球は外下方で固定し,全方向で眼球運動は制限されている.完全動眼神経麻痺のため左眼は眼瞼下垂も合併している.完全麻痺の手術動眼神経完全麻痺の治療は眼球運動神経麻痺のなかでもっとも困難である.なぜなら外眼筋6本中4本の筋肉が障害されているため,前後転術や筋移動術では大角度の外斜視を矯正できないからである.そのため通常とは異なった治療のアプローチが必要になる.1.大角度の外斜視を矯正する術式①前後転術:Helveston2)は完全麻痺に対して筋腹幅80%の周辺切筋術を併用した大量の外直筋後転と内直筋短縮を行ったが,多くの症例で追加手術が必要であった.②上斜筋移動術:前後転術や外直筋大量後転術に併用して,上斜筋腱を内直筋付着部上端付近に縫着する3).予想外の水平斜視や新たな垂直斜視,paradoxicalな眼球運動が生じることがある.③外直筋移動術:外直筋を分割して,上下の外直筋をそれぞれ上斜筋と下斜筋の下を通して内直筋付着部付近の鼻側に縫着する4).外直筋が拘縮・萎縮している場合は適応にならない.④眼球固定術:眼窩内側壁と眼球を非吸収糸5)や筋膜,骨膜などを用いて固定する.下斜視では上斜筋切腱や前方移動術を行う(図1,2).上記手術は単独で行うと再発の可能性があるため,外直筋の外転力を制御するために外直筋減弱術を併用すると良好な眼位を維持できる.2.眼位維持のための術式①外直筋切除:外直筋の力を減弱できるが,単独手術の術後MRIで眼球と外直筋間が線維性組織で連結され,外転運動と外斜視再発がみられた6).図2動眼神経完全麻痺術後写真初回手術で筋膜を用いた眼球固定術を行ったが,術後外斜視が再発した.外直筋Tenon.固定術と上斜筋切腱を追加して眼位の改善を得た.その後眼瞼下垂手術を行い,治療を終了した.②外直筋Tenon.固定術:外直筋を眼球から切離し,外側Tenon.内に埋没させる.単独で外斜視矯正力は弱いが,眼位の安定に有効である.③非麻痺眼の手術:残余斜視の調整,異常連合運動や偽眼瞼下垂の改善のために非麻痺眼の手術を行う.おわりに動眼神経麻痺では,眼球運動の改善は困難であるが,良好な第一眼位を得るために適切な治療を選択することが重要である.文献1)KushnerBJ:Surgicaltreatmentofparalysisoftheinferi-ordivisionoftheoculomotornerve.ArchOphthalmol117:485-489,19992)HelvestonEM:Muscletranspositionprocedure.SurvOphthalmol16:92-97,19713)EraslanM,CermanE,OnalSetal:Superiorobliqueanteriortranspositionwithhorizontalrectirecession-resectfortotalthirdnervepalsy.OphthalmologyIDs780139,20154)SaxenaR,SharmaM,SinghDetal:Medialtranspositionofsplitlateralrectusaugmentedwith.xationsuturesincaseofcompletenervepalsy.BrJOphthalmol100:1-3,20165)HullS,VerityDH,AdamsGGW:Periostealmuscleanchoringforlargeangleincomitantsquint.Orbit3:1-6,20126)SatoM,MaedaM,OhmuraTetal:Myectomyoflateralrectusmuscleforthirdnervepalsy.JpnJOphthalmol44:555-558,2000686あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017(84)

眼瞼・結膜:マイボーム腺分泌物の色の意味するもの

2017年5月31日 水曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人26.マイボーム腺分泌物の色の意味するもの有田玲子伊藤医院マイボーム腺機能不全(MGD)はドライアイの主因であり,日常臨床でよく遭遇する疾患の一つである.マイボーム腺開口部から分泌される脂(マイバム)の性状はマイボーム腺機能の指標となる.とくにマイバムの色はマイボーム腺脂質の組成と関連しており,病態の把握に重要である.●はじめにマイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunc-tion:MGD)は日常臨床でよく遭遇する疾患であり,ドライアイの原因の80%以上を占めるといわれている1).眼不快感,眼違和感,眼灼熱感,眼乾燥感,流涙感などの不定愁訴を主訴に来院することが多く,発症してから数年以上経過している症例も多い慢性疾患である.適切な診断を行い,効果的なセルフケア,メディカルケアをすすめていくことが重要である.●MGDの診断2010年のMGDワーキンググループによるMGDの診断基準を表1に示す.マイバムは眼瞼の温度では液状であり,透明な液体として分泌される.マイバムの主成分はコレステロール,ワックス,コレステロールエステルなどである2).細隙灯顕微鏡で眼瞼縁異常所見を観察し,マイバムの表1分泌減少型マイボーム腺機能不全の診断基準以下の3項目(自覚症状,マイボーム腺開口部周囲異常所見,マイボーム腺開口部閉塞所見)が陽性のものを分泌減少性MGDと診断する.1.自覚症状眼不快感,異物感,乾燥感,圧迫感などの自覚症状がある.2.マイボーム腺開口部周囲異常所見①血管拡張②粘膜皮膚移行部の前方または後方移動③眼瞼縁不整①~③のうち1項目以上あるものを陽性とする.3.マイボーム腺開口部閉塞所見①マイボーム腺開口部閉塞所見(plugging,pouting,ridgeなど)②拇指による眼瞼の中等度圧迫でマイボーム腺から油脂の圧出が低下している.①②の両方を満たすものを陽性とする.(文献6より引用)色や性状の変化を観察することは,簡易的でありながら診断力の高い方法である.マイバムの色,性状の観察は上眼瞼中央部を拇指で中等度の力で圧迫し,その色と性状を観察する(図1,表2).●マイバムの色の意味するものObataら(IOVS2002;43:ARVOE-Abstract60)はマイバムの性状を,油状,クリーム状,練り歯磨き状の3グループに分け,色を黄色,黄白色,白色に分類した.細胞学的特徴は,3グループすべてで同じだった.この知見は,マイバムの性状と色の変化は脂質成分の変化を反映したものであって,角化の程度を反映したものではないことを示している.(図2).筆者らのグループは,マイバムの色を無色透明,白濁あり,黄色がかっている,の3種類に分類し(図3),MGD関連パラメータ,マイバム中の遊離脂肪酸の組成との関連を網羅的に解析した.MGD眼のなかでマイバム色調と高い相関を示した項目は,マイボ.ム腺の消失面積グレード(マイボスコア)3)であった(p<0.0001).さらにマイバムの色調を大きく透明群と黄色群に分けてボルカノプロット解析を行ったところ,色調が白色・黄色群で,より不飽和脂肪酸が多いことがわかった(図4)4).これらのことから,マイバムの色の変化は脂質の組成変化と関連していると考えられた.表2マイバム圧迫のグレード分類0:透明で簡単に圧出される1:軽い圧迫で混濁したマイバムが圧出される2:中等度の圧迫で混濁したマイバムが圧出される3:強い圧迫でもマイバムが圧出されない(文献7より引用)(81)あたらしい眼科Vol.34,No.5,20176830910-1810/17/\100/頁/JCOPY図1MGD患者のマイバム黄色がかった粘稠度の高いマイバムが観察される.図2マイバムの病態的観察像a:72歳女性,黄白色で混濁したのマイバム.b:71歳女性の黄白色で混濁したマイバムのインプレッションサイトロジー.オレンジの角化物が観察される.パパニコロ.染色で炎症細胞は検出されなかった.(文献5より転載引用)無色透明白濁あり黄色がかっているマイバム色調図3マイバム色調の分類図4MGD患者のマイバムのボルカノプロット右上には不飽和の脂肪酸が,左上には飽和の脂肪酸がプロットされていることから,脂肪酸の飽和・不飽和と色調が関係している.文献1)LempMA,CrewsLA,BronAJetal:Distributionofaqueous-de.cientandevaporativedryeyeinaclinic-basedpatientcohort:aretrospectivestudy.Cornea31:472-478,20122)ButovichIA:LipidomicanalysisofhumanmeibumusingHPLC-MSn.MethodsMolBiol579:221-246,20093)AritaR,ItohK,InoueKetal:Noncontactinfraredmei-bographytodocumentage-relatedchangesofthemeibo-mianglandsinanormalpopulation.Ophthalmology115:911-915,20084)AritaR,MoriN,ShirakawaRetal:Meibumcolorandfreefattyacidcompositioninpatientswithmeibomianglanddysfunction.InvestOphthalmolVisSci56:4403-4412,20155)KnopE,KnopN,MillarTetal:Theinternationalwork-shoponmeibomianglanddysfunction:reportofthesub-committeeonanatomy,physiology,andpathophysiologyofthemeibomiangland.InvestOphthalmolVisSci52:1938-1978,20116)天野史郎,MGDワーキンググループ:マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科27:627-631,20107)ShimazakiJ,GotoE,OnoMetal:Meibomianglanddys-functioninpatientswithSjogrensyndrome.Ophthalmolo-gy105:1485-1488,1998684あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017(82)

抗VEGF治療:抗VEGF薬の費用対効果

2017年5月31日 水曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二40.抗VEGF薬の費用対効果小畑亮東京大学大学院医学系研究科眼科学抗VEGF薬は効果が高い反面,非常に高価である.抗VEGF薬は,その価格に見合う価値があるのだろうか.また,もし価値があるとして,それを国家として賄う優先度をどのように考えればよいだろうか.本稿では,費用効果分析の方法について概説したうえで,抗VEGF薬治療についての今までの費用効果分析の結果を簡単に紹介する.はじめに:費用効果分析とは何か費用効果分析(cost-e.ectiveanalysis)とは,医療の効果とその費用を定量的に評価し,比較するための検討手法の一つである.費用効果分析医療における費用効果分析の解説としては鎌江らの総説1)が,眼科における費用効果分析の応用については日本眼科学会の解説2)が大変参考になる.広義の費用効果分析にはさまざまな手法が含まれるが,現在もっともよく用いられる手法は,共通のアウトカム指標を得るための費用を計算する方法と,効果をさらに普遍的なアウトカム指標である「効用値(utilityvalue)」に換算し,その費用を求める方法である.治療効果の計算:QALYs費用効用分析は,効果をQALYs(quality-adjustedlifeyears)で評価する.QALYsは,ある視機能における生活の質を1(完全な健康)から0(死)までの「効用値(utilityvalue)」として定量化し,生存年数にかけ合わせた値である.効用値は,患者の主観評価に基づいたスケーリングにより求められることが多い.今の状態で10年生きるのと,健常な状態でx年生きるのとが同等に感じられるxとして算出する「time-tradeo.(TTO)法」や,健常な状態になるためにx%の危険度で死亡する仮想の治療を受けてもよいと感じられるxとして算出する「stan-dardgambling(SG)法」などが一般的である.治療費用の計算治療にかかる費用は,①直接費用,②間接費用に分類され,それぞれの研究の目的に即して計算に組み入れられる.①直接費用は医療費(薬剤費,検査費用など)および非医療費(交通費,介助者の費用など),②間接費用は罹病による労働時間損失などの生産性損失費用を意味する.なお,さらには痛みや精神的苦痛といった算定不可能な費用が想定される.増分費用効果比(ICER)ある治療Aを従来の治療Bと比較して,費用がx増加し,QALYがy増加したとすると,増分費用効果比(incrementalcost-e.ectiveratio:ICER)はx/y(通貨単位/QALY)で求められる.ICERは低いほうがcost-e.ectiveである.求められたICERを評価するには,基準となる金額(willingnesstopay:WTP)があると便利である.各国においてはそのような「この額よりも費用効果がよい治療であれば採用すべき」という閾値が示されている.もちろんこの閾値は画一的に算定ができるものではないから,政策に用いる確定的なものではなく目安として考えるべきである.一般的なWTPは,米国5~10万ドル/QALY,英国2~3万ポンド/QALY,日本500万円/QALY,または1人あたりGDPの1~3倍の値が利用されている1,4).不確実性への対処:感度分析費用対効果の計算に用いられるパラメータはほとんどが不確実なものであり,その仮定が違っていた場合に,費用対効果の優劣が逆転しないか(頑強性)を確認しなければならない.これを感度分析という.感度分析としてはおもに「一元感度分析」と,「モンテカルロシミュレーション」が用いられている.各黄斑疾患に対する抗VEGF薬の費用対効果分析の報告表1に,各黄斑疾患に対する抗VEGF(vascularendo-thelialgrowthfactor)の費用効果分析の報告を示す.この結果を見ると以下のことがわかる.①加齢黄斑変性については,経過観察に比較して抗VEGF療法の増分費用効果が高い.(79)あたらしい眼科Vol.34,No.5,20176810910-1810/17/\100/頁/JCOPY表1各黄斑疾患に対する抗VEGF薬の費用効果分析の報告疾患検討治療(国)対照治療ICER(/QALY)判定AMDOphthalmology115:1039-1045,e5,2008ラニビズマブ(米国)経過観察約5万ドル(視力良好眼罹患の場合)ラニビズマブが良好AMD日眼会誌115:825-831,2011ラニビズマブまたはPDT(日本)経過観察Dominant(マイナス)ラニビズマブまたはPDTが良好AMDOphthalmology121:936-945,2014ラニビズマブPRN(米国)ベバシズマブ毎月固定投与Dominant(マイナス)ベバシズマブ毎月投与が良好DMEBrJOphthalmol96:688-693,2012ラニビズマブ(英国)レーザー約2.4万ポンドラニビズマブが良好DMEJAMAOphthalmol2016アフリベルセプトまたはラニビズマブ(米国)ベバシズマブ約110~170万ドルベバシズマブが良好PDROphthalmology123:1912-1918,2016ラニビズマブ(米国)汎網膜光凝固15万ドル対2万ドル汎網膜光凝固が良好BVO&CVOJMedEcon17:423-434,2014ラニビズマブ(英国)レーザー(BVO)経過観察(CVO)約1.6万ポンド約1.7万ポンドラニビズマブが良好MyopicCNVDrugsAging31:837-848,2014ラニビズマブ(英国)経過観察PDT約9千ポンドDominant(マイナス)ラニビズマブが良好AMD:加齢黄斑変性,DME:糖尿病黄斑浮腫,PDR:増殖糖尿病網膜症,BVO:網膜静脈分枝閉塞症,CVO:網膜中心静脈閉塞症,MyopicCNV:近視性脈絡膜新生血管.PDT:光線力学的療法,PRN:必要時投与.ベバシズマブ治療は未承認.PDRに対するラニビズマブ治療は未承認.②糖尿病黄斑浮腫や網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫では,レーザー治療と比較して抗VEGF療法の増分費用効果が高い.③近視性脈絡膜新生血管では,光線力学的療法(pho-todynamictherapy:PDT)または経過観察に比較して抗VEGF療法の増分費用効果が高い.④抗VEGF薬間では,安価に設定されたアバスチン(未承認)の増分費用効果が顕著に高い.ただし,費用効果が高いといっても,近視性脈絡膜新生血管を除けば上述のWTPの上限であることが多く,満足すべきとまではいえないことがわかる.注射薬の費用はベバシズマブ注射の価格(20分の1)と比較すれば当然費用対効果も差が出ており示唆に富むが,だからどうすればよいかはむずかしい.すでに海外では行われているような「国産」抗VEGF薬の開発ができれば良いかもしれない.PDTとの併用療法についての費用効果分析は未報告だが,今後とくにポリープ状脈絡膜血管症に対して,併用療法の視力改善効果および抗VEGF薬投与回数減少効果が十分高ければ,費用対効果も注目されるだろう.なお,結果の解釈における注意点として,計算方法が変わることにより,たとえ感度分析を前提としたとしても,結果も変わるという点がある.実際,加齢黄斑変性の費用効果分析においては,直接非医療費用および間接費用を含めない分析5)ではラニビズマブの費用効果が許容範囲内である一方で,それらの一部を含めた分析6)においては,ラニビズマブもPDTも費用効果がきわめて高くなる.どちらのデザインで評価すべきかは意見の分かれるところで,むしろ,それを解釈する側が十分意識682あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017すべきものである.おわりに新たな医薬品,医療機器の効果を医学的側面のみならず,社会的・経済的・倫理的な側面から科学的に分析・評価する概念を医療技術評価(healthtechnologyassessment:HTA)と称し,1999年の英国NationalInstituteforHealthandCareExcellence(英国国立医療技術評価機構)の設立に代表されるように,日本を除く諸外国では10年ほど前からHTA組織を設立し,そのなかで医療・公衆衛生に費用対効果評価を反映させる取り組みが進んできた.わが国においても,ようやく2016年より,薬価再算定に際して,中央社会保険医療協議会(中医協)の部会を主体とした費用対効果評価が試行的に導入されることとなった.医療の進歩は目覚ましいが,社会・経済のなかでそれをどうとらえていくか,むずかしい問題である.しかしこの問題は,今後さらに顕在化してくるであろう.文献1)鎌江伊三夫:医療技術評価ワークブック:臨床・政策・ビジネスへの応用.じほう,20162)平塚義宗,山田正和,村上晶ほか:医療における費用効果分析と白内障手術.日眼会誌155:730-734,20113)YanagiY,UetaT,ObataRetal:UtilityvaluesinJapa-nesepatientswithexudativeage-relatedmaculardegen-eration.JpnJOphthalmol55:35-38,20114)ShiroiwaT,SungY-K,FukudaTetal:Internationalsur-veyonwillingness-to-pay(WTP)foroneadditionalQALYgained:whatisthethresholdofcoste.ectiveness?HealthEcon19:422-437,2010(80)

緑内障:機能選択的視野計

2017年5月31日 水曜日

●連載203監修=岩田和雄山本哲也203.機能選択的視野計伊藤義徳中野匡東京慈恵会医科大学眼科光干渉断層計(OCT)の進歩により,明度識別視野検査(SAP)で捉えられない極早期の緑内障が検出可能になった.しかし一方で,視野と眼底の整合性がない症例において,OCTの検査結果をどう評価するかが新たな課題となってきた.そこで,SAPよりも早期視野異常の検出をめざす機能選択的視野計が,近年,改めて注目されるようになった.本稿では代表的な4機種の機能選択的視野計について,その原理と特徴について概説する.●はじめに網膜神経節細胞は判明しているだけでも10種類以上存在し,それぞれparvocellular系(P細胞系),koniocelllar系(K細胞系),magnocellular系(M細胞系)のいずれかのグループに分類され,外側膝状体のP細胞層,K細胞層,M細胞層に投影される.中でもK細胞系とM細胞系は比較的大きな細胞体で易障害性であること,余剰性が少ないことなどから,早期緑内障の異常を検出されやすいとされている.各種機能選択的視野計は,これらの網膜神経節細胞の細胞特性に注目し,SAPでは検出できない極早期の機能変化をより早期に検出するとされている(図1).●Shortwavelengthautomatedperimetry(SWAP)SWAPは選択的色順応法を用い,高輝度(100cd/m2)の黄色背景光(530nm)で赤,緑錐体の反応を抑制し,視標としてサイズVの青色視標(440nm)を呈示することからblue-on-yellowperimetryともいわれ,K細胞神経節細胞外側膝状体視野計MidgetcellsP細胞系HRPParvocellular・色覚・視カ・形状認識に大きく関与layer(80%)・高空間・低時間周波数に反応Smallbistrati.edcellsK細胞系SWAP・Blue-on-yellowの光刺激に反応Koniocellularlayer(8~10%)ParasolcellsM細胞系・輝度・動きに関与FDT・低空間・高時間周波数に反応MagnocellularFlickerlayer(8~10%)Pulsar図1細胞特性と機能選択的視野計(77)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY系であるsmallbistrati.ed細胞の機能障害を評価することで早期緑内障の検出をめざしている.SWAPは視標サイズを大きくすることで屈折異常の影響を受けにくいが,青色視標を用いるため白内障の影響を受けやすいという欠点がある.●Frequencydoublingtechnology(FDT)FDTは検査視標として逆位相の縞模様を15Hz以上の高時間周波数で反転すると,その縞幅が実際の半分にみえるfrequencydoublingillusionという錯視現象を利用した視野計で(図2),M細胞系のサブタイプの機能を反映するとされている1).第一世代のFDTであるFDTスクリーナーでは,10°の視標サイズで20°内17カ所または,30°内19カ所を測定する.一方,第二世代のHumphreyMatrixは,視標サイズを5°とし,Humphrey視野計の30-2,24-2に対応する測定点配置にした検査プログラムもある.●フリッカー視野フリッカー視野は視標刺激にフリッカー光を用いた視野計で,FDTと同様にM細胞系の機能を反映するとされている2).フリッカー視野には,各測定点におけるフリッカー融合頻度(criticalfusionfrequency:CFF)を測定する方法と,時間変調感度を測定する方法がある.図2Frequencydoublingillusion(錯視現象)あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017679図3Pulsar光空間解像度とコントラストを変化させ,①→④のように高空間解像度であるほど,また低コントラストであるほど視標は見えにくくなる.図5症例のHumphrey視野Humphrey30-2SITA-Standardでは,Anderson-Patellaの診断基準は満たさない.CFFを測定するフリッカー視野では,白内障などの中間透光体の混濁の影響や屈折異常の影響を受けにくいとされている.●Pulsar視野Pulsar視野は2014年に日本で発売された新しい機能選択的視野計で,コントラストレベルの異なる同心円パターンを10Hzで反転させる検査視標を使用している.この視標刺激はコントラストだけではなく空間解像度も調整しているため,SAPやFDTのようにdB単位ではなく,src(spatialresolutioncontrast:空間解像度コントラスト)の単位で表される(図3).Pulsar視野におい680あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017図4症例の眼底写真とOCT下方にNFLDを認め,OCTにおいても同部位の菲薄化を認める.MatrixPATTERNDEVIATIONPalsar視野Correctedprobabilities図6症例のMatrix,Pulsar視野Matrix,Pulsar視野では,同じ30°の測定範囲においても視野異常を認める.てもFDT,フリッカー視野と同様にM細胞系の機能を反映するとされている3).●症例(52歳,男性)健康診断にて網膜神経線維層欠損(nerve.berlayerdefect:NFLD)を指摘され,受診した.右眼下方網膜にNFLDを認め,OCT上も同部位に菲薄化を認めるが(図4),Humphrey視野計30-2SITA-Standardでは,Anderson-Patellaの診断基準を満たす視野異常は認めなかった(図5).しかし,Humphrey-MatrixやPulsar視野では,中心30°内の測定範囲においても感度低下の検出が可能であった(図6).文献1)MaddessT,HenryGH:Performanceofnonlinearvisualunitsinocularhypertensionandglaucoma.ClinVisionSci7:371-383,19922)MatsumotoC,TakadaS,OkuyamaSetal:Automated.ickerperimetryinglaucomausingOctopus311:acom-parativestudywiththeHumphreyMatrix.ActaOphthal-molScand84:210-215,20063)ZeppieriM,BrusiniP,ParisiLetal:Pulsarperimetryinthediagnosisofearlyglaucoma.AmJOphthalmol149:102-112,2010(78)

屈折矯正手術:改良型クロスリンキング

2017年5月31日 水曜日

監修=木下茂●連載204大橋裕一坪田一男204.改良型クロスリンキング愛新覚羅維東京大学医学部附属病院眼科角膜クロスリンキングは,円錐角膜をはじめとする進行性角膜拡張疾患の進行抑制のための治療法として,すでに有効性と安全性が確立されている.近年,標準法の欠点を改善させた高速法や経上皮法といった改良型クロスリンキングも開発され,手術時間の短縮,術中および術後合併症の軽減,適応症例の拡大なども期待できるようになった.●はじめに角膜クロスリンキング(cornealcrosslinking:CXL)は2003年にWollensak,Seilerらにより開発された治療法で1),長波長紫外線(ultravioletA:UVA)に対するリボフラビンの感受性を利用し,角膜実質コラーゲンの架橋を強め,剛性を高める方法である.現在まで世界中で20万眼以上施術されており,円錐角膜,レーシック後角膜拡張症,ペルーシド角膜辺縁変性などの進行性角膜拡張疾患の進行を抑制するための治療法として,有効性と安全性が確立されてきた.近年,標準法の欠点を改善させた改良型CXLも開発され,CXLの新たな可能性が期待されている.今回,改良型CXLを中心に,術式,治療成績および位置づけについて述べる.●CXLの原理370nmのUVAで励起された光感受性物質であるリボフラビンが,酸素分子との反応により活性酸素の一種である一重項酸素を産生し,角膜実質コラーゲン線維の架橋結合を増加させる.その結果,角膜全体の強度が高まる(図1).●CXLの標準法Wollensakらが提案したドレスデン法は標準法として広く使われており,手順は以下の通りである.・角膜上皮.離・等張性0.1%リボフラビン点眼液を30分間点眼・角膜厚を測定400μm以上:等張性リボフラビン点眼液を継続点眼400μm未満:低張性リボフラビン点眼液を400μm以上になるまで頻回点眼・UVAを3mW/cm2の照射強度で30分間照射・保護用コンタクトレンズを装着,抗菌薬を点眼(75)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY●改良型CXL標準法の短所として1時間以上に及ぶ手術時間の長さと,角膜上皮掻爬に伴う疼痛,易感染性,角膜ヘイズなどの合併症があげられ,前者を改善させるために高速CXL,後者を改善させるために経上皮CXLが開発された.1.高速CXL(acceleratedCXL)高速法は「光化学反応の反応量は光の照射強度と照射時間の積,すなわち総エネルギー量が一定であれば同等の効果が得られる」というBunsen-Roscoeの法則に基づく高出力を用いる短時間照射の方法である.豚眼実験の結果,CXLでは45mW/cm2以下の照射強度までならBunsen-Roscoeの法則に従うと考えられる.現在,複数のメーカーから高速法にも対応可能な第二世代のデバイスが発売され,最短2分40秒の照射時間で施術が可能となった.あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017677DeliveryElectrodeCounterElectrode(-)(+)図2イオン導入法の原理角膜表面にdeliveryelectrodeとして陰性電極,体表の他の部位にgroundelectrodeとして陽性電極を置き,弱い電流をかけることによって陰性荷電のリボフラビン分子を角膜実質深層へ浸透させる.2.経上皮CXL(transepithelialCXL:TE.CXL,epithelium.onCXL:Epi.onCXL)経上皮法は2010年に報告された手法である.角膜上皮.離の代わりに,角膜上皮のバリアを破壊し薬剤の浸透性を上げるケミカルエンハンサーを添加した強化リボフラビンを用い,リボフラビンを実質内に浸透させる.角膜上皮を.がないことからEpi-onCXLともよばれ,それに対して角膜上皮を.ぐ従来法はEpi-o.CXLとよばれる.角膜上皮.離を行わないため,リボフラビンの浸透性がEpi-o.CXLの半分程度になる.近年,角膜実質へのリボフラビンの浸透性をさらに上げるために,イオン導入法(iontophoresis-assistedCXL)も開発された.リボフラビンは水溶性の小分子で生理的PH下では陰性に荷電するため,イオン導入に適していると考えられる.角膜表面に陰性電極,他の部位(前額部など)に陽性電極を置き,弱い電流をかけてリボフラビン分子を角膜実質深層へ浸透させる(図2).●CXLの治療成績標準法の治療成績はこれまで無作為比較化試験(ran-domizedclinicaltrial:RCT)を含む多くのスタディで検討されており,最長10年にわたり有効かつ安全な治療であることが証明された.角膜屈折値は安定化のみならず,有意な改善も報告されている.ただし,術後2~6週に角膜実質中層に現れるヘイズ,およびまれにみられる角膜実質瘢痕,無菌性角膜浸潤,感染性角膜炎などの合併症に注意する必要がある.高速CXLの治療成績については,標準法とほぼ同様であるとする報告が多いが2),やや弱いと示唆する文献もある.その理由として酸素接触時間の減少に伴う治療効果の減弱が考えられ,40%程度の照射時間の延長や,パルス照射による酸素接触時間の増加を図る手法も検討されている.678あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017経上皮CXLの臨床成績は報告によってさまざまである.Epi-onとEpi-o.を比較した3年間のRCTでは,術後1年では両群間で有意差があるものの,ともに有意な改善,術後3年ではEpi-o.群は進行なし,Epi-on群は角膜最大屈折力の進行を認めた.一方,別の2年間のRCTでは両群間で有意差があるものの,ともに術前より有意な改善を認めた3).イオン導入法に関して,術後1年では標準法とほぼ同等な効果を認めた報告がある.まだ歴史が浅い経上皮法の長期成績については,さらなる検証が必要である.筆者らは高速法と経上皮法を併用したacceleratedtransepithelialCXLの術後1年成績を報告した4).術中・術後の合併症はなく,角膜最大屈折力・平均屈折力と矯正視力の有意な改善,裸眼視力の安定化を認め,既報の標準法の治療成績に匹敵するものであった.●改良型CXLの位置づけ高速CXLは手術時間を大幅に短縮させ,術者と患者の負担を軽減できる.治療成績も標準法とほぼ同様と考えられるが,高出力ができる第二世代のデバイスが必要となる.経上皮CXLでは標準法と比較して効果がやや弱いが,術後合併症および疼痛が少なく,視力が良好な初期症例や小児への応用が期待できる.また,角膜上皮厚を含めうるため適応は380μm以上と広がり,進行症例でも適応になる場合がある.●おわりにCXLの登場により,円錐角膜をはじめとする進行性角膜拡張疾患の治療概念に大きなパラダイムシフトが生まれた.早期発見と進行予防を推進することで確実に患者のQOLの維持ならびに向上をめざせる時代になってきた.文献1)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Ribo.avin/ultraviolet-a-inducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkerato-conus.AmJOphthalmol135:620-627,20032)KanellopoulosAJ:Longtermresultsofaprospectiverandomizedbilateraleyecomparisontrialofhigher.uence,shorterdurationultravioletAradiation,andribo.avincollagencrosslinkingforprogressivekeratoco-nus.ClinOphthalmol6:97-101,20123)RushSW,RushRB:Epithelium-o.versustransepithelialcornealcollagencrosslinkingforprogressivecornealecta-sia:arandomisedandcontrolledtrial.BrJOphthalmolJul7Epub,20164)AixinjueluoW,UsuiT,MiyaiTetal:Acceleratedtran-sepithelialcornealcrosslinkingforprogressivekeratoco-nus:aprospectivestudyof12months.BrJOphthalmolJan5Epub,2017(76)

眼内レンズ:アクリル眼内レンズの歪み

2017年5月31日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋366.アクリル眼内レンズの歪み中村充利中村眼科眼内レンズ(IOL)挿入眼のIOLの位置異常は乱視をきたし,著しい場合,視力低下やコントラスト感度低下を起こし得る.最近,筆者らはアクリルIOL挿入眼にコマ収差,トレフォイル収差などからなる複雑な眼球内部高次収差が発生した症例に対し,Nd:YAGレーザーによる前.切開で治療できることがあることを報告1)した.●はじめに最近の白内障手術では,手術を受けた患者の大半は高い満足を感じ,技術進歩の恩恵を受けられるようになっている.しかし,ときに時間とともに手術を受けた眼の満足度が低下し,たとえ視力があまり変わらなくても,見えにくさ,ぼやけた感じなどの不満を訴えることがある.筆者らは,術後視力低下は認めず,眼球高次収差が増大して見え方の質の低下が認められ,連続円形切.(continuouscurvelinearcapsulorhexis:CCC)と前.に原因があると考えられる症例に対してNd:YAGレーザーによる前.切開術を施行し,その後に眼球高次収差と自覚症状の改善を認めた.●症例(79歳,男性)他院で20年前に球面アクリル眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入術を施行.手術記録には合併症の記載はなく,2015年にものが二重に見えるとのことで当院を受診した.視力はR.V.=0.3(1.0×.1.25D),L.V.=0.6(1.0×.0.75D)と良好,オートレフケラトメーターで強い乱視は認めず,Hessコージメーターも正常であ図1症例のNd:YAGレーザー切開前の前眼部写真12時の前.縁が確認できず,その位置ではIOLのオプティクス端まで前.に覆われず,3-9時より下方の前.はIOLのオプティクスを覆っていた.(73)0910-1810/17/\100/頁/JCOPYった.細隙灯顕微鏡でIOLの傾斜や偏位の明らかな位置異常はみられなかったが,散瞳後の細隙灯顕微鏡で左眼の12時の前.縁が確認できず,その位置ではIOLのオプティクス端まで全体前.に覆われず,下方の前.はIOLのオプティクスを覆っている状態にあった(図1).波面収差測定器(KR-1W,TOPCON)マルチマップで眼球高次収差が大きく,rootmeansquare(RMS)(4mm)0.757と高い異常値を示した(図2).3時-9時方向の前.収縮によるIOLの歪みと6時部を中心とした後極方向の収縮によるIOLの傾きの影響と判断し,Nd:YAGレーザーによる前.切開を施行した(図3).術後すぐに眼球高次収差がRMS(4mm)0.210と著明に減少し(図4),自覚症状も改善しL.V.=0.9(1.0×.0.5D)であった.眼球高次収差のコンポーネント解析ではRMSの減少,コマ収差と眼球トレフォイルの改善,正常化を認めた(図2,4).Hartmann像の抜けた部分は,後.混濁による光の不透過と散乱の影響と考えられ,切開により透過するHartmann像はNd:YAGレーザー切開前後で大きな変化はなかった.CCC後,水晶体前.は物理的収縮を起こし,その後,図2症例の眼球高次収差のコンポーネント解析高次収差のコンポーネント解析ではRMS(4mm)0.757と高い異常値を示し,強いコマ収差と眼球トレフォイル,乱視を認めた.Hartmann像は下方に後.混濁部に一致して一部抜けた部分を認めた.あたらしい眼科Vol.34,No.5,2017675図3症例のNd:YAGレーザー切開後の前眼部写真IOLの上方のオプティクスは前.に覆われず,下方のオプティクスが前.に覆われている部分のみの前.収縮によってIOLに対し不均一な圧力が加わり,光学的歪みが生じたものと判断し,Nd:YAGレーザーによる前.切開術を施行した.前.下に線維組織が形成され,中心に向かっていく前.収縮が起こり,前.収縮は通常では術後数カ月後には停止すると考えられている2).ぶどう膜炎,糖尿病,原発性閉塞隅角緑内障,網膜色素変性症,偽落屑症候群などを伴う眼ではケミカルメディエーターの影響などで強い収縮が持続し,著しい場合は視力低下やコントラスト感度低下をきたすことも報告されている3).アクリルは高温に熱すると柔らかくなり,冷やすと固くなる熱可塑性プラスチックである.アクリル眼内レンズは室温では比較的剛性が高い状態にあるが,眼内では体温近くに温度が上昇し,室温時より剛性がかなり低下している.そこに,前.後.収縮によりIOLに強い圧力が加わると,アクリルIOL挿入例ではレンズの光学的歪み(高次収差の発生)が生じる可能性が考えられる.IOL眼に起こり得る眼球高次収差の増大1)はIOLのグリスニング4)などとともに,アクリルIOL眼の術後合併症の一つとして留意しておく必要がある.図4症例のNd:YAGレーザー切開後の眼球高次収差のコンポーネント解析Nd:YAGレーザーによる前.切開術後に眼球高次収差はRMS(4mm)0.210と著明に減少し,コンポーネント解析ではコマ収差と眼球トレフォイル,乱視の減少を認めた.Hartmann像の抜けた部分はNd:YAG前と比較してわずかな変化しかなかった.●おわりに視力は視機能評価法の一つで,同じ値でも視力の質は高次収差が高いと低く,視力がよくても見えにくいことがあり得る.IOL挿入眼では,術後アクリルIOLの歪みが原因で眼球高次収差が発生し,Nd:YAGレーザーでの前.切開で改善できることがある.文献1)中村充利:白内障術後の水晶体.の収縮によりアクリル眼内レンズに眼球内部高次収差が発症した症例に対するNd-YAGによる前.切開.臨床眼科71:623-629,20172)HansenSO,CrandallAS,OlsonRJ:Progressiveconstric-tionoftheanteriorcapsularopeningfollowingintactcap-sulorhexis.JCataractRefractSurg19:77-82,19933)HayashiH,HayashiK,NakaoFetal:Anteriorcapsulecontractionandintraocularlensdislocationineyeswithpseudoexfoliationsyndrome.BrJOphthalmol82:1429-1432,19984)大鹿哲郎:アクリルソフト眼内レンズ術後2年の臨床評価.臨床眼科48:1463-1468,1994

コンタクトレンズ:紫外線が眼に及ぼす影響

2017年5月31日 水曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方つぎの一歩~症例からみるCL処方~監修/下村嘉一80604020031.紫外線が眼に及ぼす影響●はじめに紫外線による健康への影響のうち,日焼け,シミ,しわ,皮膚癌など,皮膚への影響については一般の認知度もきわめて高いのに対して,眼への影響についての認知度はいまだに低く,十分な紫外線対策が普及していないのが現状である.本稿では,紫外線による眼疾患および有効な眼部紫外線対策について解説する.●紫外線よる眼疾患紫外線による眼疾患は急性障害と慢性障害に分けられる.急性障害には紫外線性角膜炎(電気性眼炎,雪眼炎)がある.短時間に大量の紫外線を浴びた場合,被曝後6~12時間で発症する.結膜充血,角膜上皮障害を生じ,重症例では上皮.離を伴うため,強い眼痛をきたす.通常は24時間以内に自然治癒するが,このような高度の被曝を繰り返すことで次に述べる慢性障害の発症リスクは高くなる.慢性障害としては瞼裂斑,翼状片,白内障などがある.瞼裂斑は加齢に伴う結膜の変性疾患であり,病変部に(%)100佐々木洋金沢医科大学眼科学講座は日光弾力線維症と同様の類弾性線維変性がみられる.中高齢者では高頻度にみられるが,紫外線被曝がその発症リスクを高めることは明らかであり,紫外線が要因の一つであると考えられている.筆者らが石川県在住の日本人とアフリカの赤道部に位置するタンザニアの小中学生および高校生を対象に行った調査では,初期瞼裂斑の有病率はタンザニア人で著しく高かった.日本人でも眼部被曝量の多い小児で有病率が著明に高いことがわかった(図1).瞼裂斑そのものは視機能低下に直接関与することは少ないが,過去の紫外線被曝の指標として有用であるといえる.翼状片は紫外線との関連がもっとも強い疾患である.慢性の紫外線曝露により,角膜上皮細胞に上皮間葉系移行を生じ発症すると考えられている.物理的な刺激も要因であるとの考えもあるが,天空紫外線量が赤道部地域の約8分の1であるアイスランドでの50歳以上の一般住民における有病率は0.2%であり,紫外線を浴びないかぎり発症することはほとんどないと考えてよい.一方,紫外線の強い熱帯・亜熱帯地域住民や屋外労働者の図1瞼裂斑有所見率(日本人1,047名,タンザニア人227名)(71)あたらしい眼科Vol.34,No.5,20176730910-1810/17/\100/頁/JCOPY有病率は高く,中国海南島在住の農民における有病率(50歳以上)は71.7%であり,慢性的に紫外線を浴び続けると高頻度に発症する疾患であると考えてよい.翼状片は鼻側に発症することが多いが,その要因としてCoroneoらが提唱したperipherallightfocusingがある1).耳側あるいは耳側上方から入射した紫外線は耳側角膜で屈折し,前房内を通過し,鼻側輪部に集光する.集光部の紫外線強度は耳側の約20倍であり,そのため鼻側に翼状片は好発すると考えられている.白内障については,1980年代以降の疫学調査において眼部被曝量と皮質白内障には有意な関連があることが多数報告されている2).核白内障と紫外線の関連については否定的な研究結果が多かったが,近年,紫外線レベルが高い熱帯・亜熱帯地域における核白内障の有病率が著しく高いことが報告されている.動物実験でも慢性のUV-A曝露によりモルモットで核白内障を生じたことが報告されおり,高度の紫外線被曝は核白内障の要因である可能性がある.●眼の紫外線対策眼の紫外線対策アイテムとしては帽子,眼鏡,サングラス,紫外線カット機能付きのコンタクトレンズがある.帽子はつばが7cm以上のものが推奨されているが,帽子のみでの眼部紫外線カット率は50%程度であり,単独使用での効果は十分とはいえない.現在市販されている眼鏡レンズのほとんどは紫外線カット機能がついており,眼鏡は紫外線対策アイテムとしてきわめて有用である.サングラスとの効果の違いはフレームの形状であり,レンズの色は紫外線カット効果とは無関係である.レンズが大きく,テンプルの太いもの,ゴーグルタイプのものが,レンズを通さずに眼に入射する紫外線を効率よくカットする.レンズの色が濃いサングラスは可視光透過率が低く,瞳孔径が拡大するため,不適切な形状のサングラスを使用すると水晶体への紫外線被曝量が増え,白内障発症リスクが逆に増加する可能性がある.紫外線カット機能のあるコンタクトレンズのうち,角膜輪部までをカバーするソフトコンタクトレンズはきわめて有用である.直達紫外線に加え,peripherallightfocus-ingにより鼻側輪部および水晶体赤道部に入射する紫外線を確実にカットするためである.コンタクトレンズの種類により紫外線カット率が大きく異なる点については注意が必要であるが,もっともカット率が高いものではUV-Bを99%,UV-Aを96%カットするため,瞼裂斑以外の眼疾患予防には単独使用で十分な効果が期待できる.小児期からの眼部紫外線対策は重要であり,とくに屋外でのスポーツをする場合はコンタクトレンズの装用を指導すべきと考える.●おわりに眼への紫外線被曝による影響は,日焼けのような自覚しやすい急性障害が出にくいため,被曝したという認識に乏しく,視機能低下を生じる翼状片や白内障の発症は40代以降になるため,紫外線被曝とそれらの疾患を関連づけて捉えにくい.しかし,紫外線被曝が眼疾患の要因となることは確実である.眼部紫外線被曝の影響に対する啓発と,有用性が証明されている紫外線対策アイテムの適正使用の普及が望まれる.文献1)CoroneoMT,Muller-StolzenburgNW,HoA:Peripherallightfocusingbytheanterioreyeandtheophthalmohelio-ses.OphthalmicSurg22:705-711,19912)TaylorHR,WestSK,RosenthalFSetal:E.ectofultravi-oletradiationoncataractformation.NEnglJMed319:1429-1433,1988ZS981