●連載◯140監修=安川力五味文120網膜静脈閉塞症の診療方針のアドバイス小嶋健太郎京都府立医科大学眼科学教室網膜静脈閉塞症(RVO)は,眼科医が日常的に遭遇する網膜血管疾患であり,糖尿病網膜症についで患者数が多い.現在のCRVOに伴う黄斑浮腫に対する標準治療は抗CVEGF治療であり,その有効性と安全性は前向き大規模臨床試験で確立されているが,一方で抗CVEGF治療の開始時期やいつまで注射を行うか,光凝固術の位置づけとタイミングなどについては判断に迷うこともある.現時点でのCRVOの診療方針について簡単に整理する.RVOの初診時の対応網膜静脈閉塞症(retinalCveinocclusion:RVO)はC40歳以上の約C2%に発生するとされ1),視力低下の原因として急性期は黄斑浮腫,慢性期には黄斑浮腫に加えて網膜虚血により誘発される新生血管に伴う合併症(硝子体出血,血管新生緑内障など)もあげられる.初診時の主訴は急性期の黄斑浮腫に伴う視力低下や変視症であることが多く,特徴的な眼底所見により診断に迷うことは少ないが,時間が経過した黄斑浮腫では糖尿病黄斑浮腫や加齢黄斑変性との鑑別を要することもある.RVOには高血圧や糖尿病などのいわゆる生活習慣病がリスク因子として強く関与しており1,2),初診時には眼だけを診察するのではなく,全身疾患が背景にある可能性を常に念頭におく必要がある.初診時の問診で「持病はない」「内科にかかっていない」という患者はむしろ要注意であり,眼科外来における血圧測定により未治療の高血圧が明らかになることをしばしば経験する(図1).かかりつけ内科がない患者には,血圧測定だけでなく血糖値,全血球計算,赤血球沈降速度,C反応性蛋白などを含む採血検査を行うことが推奨される.両眼性,若年性CRVO患者ではさらに詳しい全身評価が必要であり,女性の場合はホルモン補充療法を受けているかどうかも聴取する.未治療の場合には内科に紹介して,まずは内科的治療を開始する必要がある.CRVOに対する現在の治療法抗CVEGF治療がCRVOに伴う黄斑浮腫の治療としてわが国で認可されたのはC2013年であるが,現在では第一選択の治療法となっており,その有効性と安全性は複数の前向きランダム化比較試験で実証されている.抗図1BRVOの広角眼底撮影と光干渉断層計所見69歳,男性.近医より右眼のCBRVOで紹介.矯正視力は右眼0.3,左眼C1.2.内科通院歴なし,喫煙あり.血圧は収縮期血圧226CmmHg,拡張期血圧C117CmmHg.採血検査で高脂血症も認めた.内科に紹介した結果,右内頸動脈狭窄も指摘された.VEGF治療は網膜静脈分枝閉塞症(branchCretinalCveinocclusion:BRVO)に伴う黄斑浮腫に対しては,既存の治療法である網膜光凝固やステロイド局所投与に比べ視力改善度は高く,また網膜中心静脈閉塞症(centralreti-nalveinocclusion:CRVO)に伴う黄斑浮腫に至っては,そもそも光凝固やステロイド局所投与では視力改善は得られず,抗CVEGF治療が唯一の視力改善が期待できる治療といえる3).さらに良好な視機能を保つためには早期治療が必要と考えられ4),これは早期に抗CVEGF治療を開始した患者と比較して,最初のレーザーのみの期間のあとに抗CVEGF治療に変更した患者の結果が劣っていることからも示唆されている2).治療レジメンはCproCrenata(PRN)やCtreatCandextend(TAE),さらに個別化した投与法など,さまざまな報告があるが,各患者のニーズに適合させて用いる.長期的なデータでは少なくとも初期の半年からC1年は月C1回のフォローアップを行い,視力と解剖学的安定が得られた時点でその後の延長を行うことで,視機能を維持しながら治療負担を軽減することが支持されている5).(73)あたらしい眼科Vol.41,No.2,20241830910-1810/24/\100/頁/JCOPY初診時2カ月後2カ月後(耳側周辺部)図2CRVOの蛍光眼底造影検査と光干渉断層計所見75歳,男性.左眼のCCRVOを指摘,緑内障でも通院中.初診時の左眼矯正視力はC0.6.抗CVEGF治療を左眼にC2カ月連続で施行後,視力はC0.5と維持されていたが,2カ月後に受診したときには虚血型への移行を認め,視力C0.06に低下していた.その後抗CVEGF治療をさらにC3回追加し,汎網膜光凝固を施行した.最終時矯正視力はC0.04.硝子体手術は,早期の治療としては,抗CVEGF治療と比較してその有効性には疑問がある.また,硝子体手術によって抗CVEGF薬の硝子体内クリアランスが増大するため,効果の持続時間が短くなる可能性があることも頭に入れておく必要がある.ただし,晩期に硝子体出血や網膜前膜を合併した場合には当然適応となる.いつまで注射を打つのか実際の臨床における多数例の検討(大久保寛ほか,第125回日本眼科学会総会)で,抗CVEGF治療を開始したCRVO241眼のうち約C3割(71眼,29.8%)で黄斑浮腫がC1年間以上再発しない,いわゆる寛解の状態が得られた一方で,約C4割(100眼,41.4%)は治療継続が必要であった(残りC3割は脱落).4年間にわたり前向きにBRVOおよびCCRVOに対する抗CVEGF治療の治療経過を調べたCRETAINstudyにおいても,BRVOでC50%,CRVOでC44%の患者においてC6カ月以上黄斑浮腫が再発しない状態が得られていた5).しかしCRETAINCstudyでも,BRVOとCCRVOともに約半数において抗CVEGF治療の長期継続が必要であり,とくにCCRVO患者における長期経過観察の重要性が示唆された.CRVO患者では,抗CVEGF治療中でも虚血型に移行し予後不良な転機をたどることがあり(図2),長期間の厳重なモニタリングが望ましい5).C184あたらしい眼科Vol.41,No.2,2024網膜光凝固術の位置づけ網膜光凝固術は,黄斑浮腫に対する治療としては抗VEGF治療の登場により積極的に行われることはなくなったが,RVOに伴う新生血管合併症に対する標準治療である.抗CVEGF治療は新生血管抑制効果もあり,注射を継続している場合には患者が定期的に通院し管理されていることからも,虚血型CCRVO以外では急ぎで予防的網膜光凝固術を検討する必要性は乏しい2).一方で黄斑浮腫の再発がなく抗CVEGF治療を離脱できた患者においては,とくに定期的な診察がむずかしい場合には,予防的網膜光凝固を考慮する.患者への説明患者の病状への理解を促すための説明は通院中断を防ぐ意味からも重要である.全身疾患(高血圧や糖尿病)のリスクファクターについて説明し,抗CVEGF治療について,注射回数や治療継続の見込みについて理解してもらう.また,治療がうまくいっている場合でも長期的なフォローが必要で,将来的に新生血管に関連する合併症が発生する可能性があることも伝える.とくにCRVOの患者に対しては,適切に治療しても予後が不良である可能性にいても説明しておいたほうがよいだろう.文献1)YasudaM,KiyoharaY,ArakawaSetal:PrevalenceandsystemicCriskCfactorsforCretinalveinocclusioninCageneralJapanesepopulation:theHisayamastudy.InvestOphthal-molVisSciC51:3205-3209,C20102)Schmidt-ErfurthCU,CGarcia-ArumiCJ,CGerendasCBSCetal:CGuidelinesCforCtheCmanagementCofCretinalCveinCocclusionCbyCtheCEuropeanCSocietyCofCRetinaSpecialists(EURETI-NA).OphthalmologicaC242:123-162,C20193)PielenA,FeltgenN,IsserstedtCetal:E.cacyandsafe-tyofintravitrealtherapyinmacularedemaduetobranchandCcentralCretinalCveinocclusion:aCsystematicCreview.CPLoSOneC8:e78538,C20134)SakanishiCY,CYasudaCK,CMoritaCSCetal:Twenty-four-monthCresultsCofCintravitrealCa.iberceptCforCmacularCedemaduetobranchretinalveinocclusion.JpnJOphthal-mol65:63-68,C20215)CampochiaroCPA,CSophieCR,CPearlmanCJCetal;RETAINStudyCGroup:Long-termCoutcomesCinCpatientsCwithCreti-nalCveinCocclusionCtreatedCwithranibizumab:theCRETAINstudy.OphthalmologyC121:209-219,C2014(74)