眼科外傷および眼科救急における禁忌と診療上の留意点─自験例から学ぶ盲信回避の重要性ContraindicationsandCriticalMindsetinOcularTraumaandOphthalmicEmergencies:LessonsLearnedfromClinicalExperienceontheImportanceofAvoidingBlindTrust藤澤邦見*はじめに本稿は眼科の外傷と救急における禁忌がテーマだが,「リカバリーできないほどの禁忌」というと案外むずかしい.恩田が想定される眼外傷と原因,疾患を表に示している1)ので,その項目に沿って記述した.本稿の内容は禁忌といっても,リカバリーがまったく不可能なことばかりではない.あわせて自験例について,別の視点で(禁忌とまではいかないが)重要な心構えについても詳しく記載した.これら自験例の内容について「こんなことをするわけがない」と思う読者もいるだろうが,筆者の反省も込めて記載しており,参考にしていただきたい.ちなみに,chatGPT5に眼外傷と救急における禁忌を聞くと,疾患項目ごとの記載が返され,最後に下記であるとまとめられていた.①視力・生命にかかわる処置を優先②圧迫を避け,眼球を保護③専門医への速やかな搬送なるほど,と思うところであるが,本稿で自験例を用いながら示したのは,chatGPTは示してくれない内容である.I眼外傷の禁忌1.鈍的眼外傷における禁忌a.眼窩壁骨折で筋絞扼型を見逃す外眼筋が萎縮してしまう絞扼型に至急の対応をしなければ,回復不能の眼球運動障害を残してしまう.受傷後,嘔吐や強い疼痛などが継続し,強い眼球運動障害があれば強く疑う.眼窩のCT像(冠状断)で,副鼻腔側に必ず眼窩脂肪や外眼筋の絞扼を確認でき2),診断がつく.forcedductiontestは筋絞扼型ではさらなる筋の挫滅を生じる危険性があり,外来では禁忌である3).筋絞扼型は可及的速やかに手術する必要がある.b.眼球破裂で見える裂傷範囲だけを確認する必ず見えない裂傷範囲を探す.具体的には,結膜下,外眼筋下,主裂傷の対側などである.見てすぐに確認がとれる場所ばかりが裂傷部位ではない.2.裂傷,穿孔,貫通型眼外傷における禁忌a.感染が疑われる場合に培養せずに診療を進める初診時すぐや手術時の前房水や硝子体での培養は必須であり,忘れれば機会を失う.b.眼球の刺入物を無計画に抜く安易に抜いて房水や眼内組織が脱出すれば,即座の対応をしないとリカバリー不能となる可能性がある.3.眼内・眼窩内異物による眼外傷における禁忌a.眼窩異物・眼内異物を見逃す異物を疑えば必ずCT撮影をするべきである.b.金属異物の疑いがあるのにMRIを行う少しでも金属異物の疑いがあれば,MRIは行わない.このほか,裂傷部位確認や感染については項目1,2*KunimiFujisawa:昭和医科大学横浜市北部病院眼科〔別刷請求先〕藤澤邦見:〒224-8503神奈川県横浜市都筑区茅ヶ崎中央35-1昭和医科大学横浜市北部病院眼科(1)(69)11490910-1810/25/\100/頁/JCOPYと同様である.4.薬傷・熱傷・電磁波による眼外傷における禁忌a.洗眼よりも受診を優先する指示薬傷や熱傷では,水道水の流水での洗眼を早く十分にやるほど予後がよくなる可能性が高まる.時間との勝負なので,受診よりもまず十分な洗眼を指示し,そのあとに受診するようにすべきである.5.外傷以外における禁忌a.緑内障発作でのレーザー虹彩切開で虹彩に穴を開けられずに終わる角膜の浮腫などで,どうにも虹彩に穴を開けられないことがある.縮瞳薬などですでに降圧がはかられていればよいが,瞳孔ブロックが解除できないままでは治療を終わるべきではなく,どうしてもレーザーで開けられなければ,観血的な治療に変えて完遂すべきである.b.眼内炎での診察の遅延眼内炎,とくに眼底がみえない術後眼内炎におけるのんびり診察は禁忌である.菌によるが,1時間ごとに病態は悪化していく.ほかの外来や手術を止めて,1分を争って診断し,抗菌薬投与や手術に踏み切る.菌によっては1.2時間遅れるだけで予後を悪くしてしまう.6.全般的な禁忌a.全身状態,脳への影響,迷走神経反射を考えないどんな場合であっても,これらを念頭におかないのは禁忌である.b.反対眼の診療を怠る反対眼の診療を怠らず,激しい外傷であれば交感性眼炎をつねに念頭におく.緑内障発作や網膜.離では,反対眼にも生じそうなことや,すでに生じていることもある.c.至急の患者の受診診察を翌日以降にするこれは禁忌というほどではないが,極力すべきではない.実際にみるまでは,本当のところどうなっているかはわからないからである.視力などの検査ができなくとも,1回診察してみるべきである.そのうえで,治療を翌日にするというのは当然ありうる.とはいえ,すぐの診察を現場で実践するのはなかなかむずかしく,網膜.離などでは「明日の朝一番に来てください」「週明けに来てください」と伝えることもある.II自験例筆者が,もっとも尊敬するかたにかつていわれたと思い込んでいる言葉があり,診療のたびに思い出し,うまくできず反省したりしている.「いいかい藤澤君,誰も信じちゃいけないよ.自分だけを信じなさい.」という言葉である.後年,「そんなこといったかな?」とのことだったので,筆者が思い込んでいるだけのようだが,筆者的には勝手な思い込みと解釈から,大事な戒めとしている.そのままでは人間不信のようだが,他を信じることで,自身でしっかりみたり,聞き取ったり,調べたりすることに少しでも手を抜いてはいけないという言葉として解釈している.つまり,「他を盲信してはいけない.自身を信じられるように律せよ」ということであり,とても大事なことを示唆している.どんな診療においても重要なことであるが,時間や環境が整わないことの多い救急ではとくに大事なのではないかと考える.患者の話を信じない,前医の診療を信じない,スタッフを信じない,機器の測定結果を信じない.どれもひどいことに聞こえるが,「盲信してはいけない」といえばわかっていただけるだろうか.患者の話を盲信するのも,前医の診療を盲信するのも,スタッフを盲信するのも,機器の測定結果を盲信するのも禁忌──ということである.加えると,さらに重要なのは「自分を信じない」ことと,「自分だけを信じる」ということである.自分の行為も疑ってみると同時に,自身のみたこと,聞いたこと,調べたことをきちんと把握できているなら,それだけは信じて診療にあたることである.患者の話は,受傷機転などをしっかり聞いたつもりでも,患者本人が脚色していることもあれば,誰かに脚色させられている(“労災飛ばし“のときなど)こともある.所見との相違などがあれば,話を鵜呑みにせず,多方面から聞き取る必要がある.医師が患者の話を勝手に思い込みで解釈していることもあるので,本当に客観性1150あたらしい眼科Vol.42,No.9,2025(70)のある見方なのかを自身に問いかけながら話を聞く必要がある.前医での診療結果は,実際に自分で診察するまで鵜呑みにしないこと.優秀な先生がみていても,見逃しや思い込みでの診断がありうる.治療において,「この先生ならこれぐらいできるだろう」と考えるのも危険である.救急では,いつもできていることができないこともある.環境によって,人は能力が変わるのである.スタッフはこれぐらいのことはわかっているだろう,できるだろうと考えていると足元をすくわれる.筆者が師事した先生は,手術の前日に必ず手術室を訪れて看護師をよび出し,手術の段取りをシェーマにして説明し,重要事項やタイミングを詳しく伝えていた.スタッフが「これぐらいのことは教えなくともできるだろう」というような考えはもたずに,ルーチンで事前に重要ポイントを伝えていた.実際のところ,筆者自身これらがうまくできているかといえばなかなかむずかしいのだが,以下の眼科救急の自験例を,自戒を込めつつ示す.[症例1]63歳,男性.網膜に釘が刺さっていた穿孔性眼外傷の症例である.地方病院で筆者の診察日の前に,2名の医師がそれぞれ別日に診察していた.初診時は,「木の枝に左眼がぶつかった」という訴えだったが,あとから日曜大工で釘打ち機エアガンを使っていて受傷したことが判明した〔→患者(の話)を信じてはいけない〕.この受傷機転の話と所見から,初診時では眼内異物の想定はむずかしく,CTは行われていなかった.角膜裂傷と軽度の水晶体損傷があったが眼圧は保たれており,矯正視力1.0であった.眼底はOptosで広角撮影(図1a)されていた.初診時には釘打ち機の話が出ておらず,硝子体混濁もほとんどなかったため,点眼などで4日間保存的に経過をみられていた.白内障が進行して視力低下しており水晶体損傷があるが,この地方病院で手術可能かと筆者に診療が回ってきた.当該の週だけは日曜日と火曜日が筆者の診察日であり,診療時間は限られていたものの日曜日が筆者の初見となった.視力・眼圧などは落ち着いており,前房の炎症も少なく,硝子体混濁は軽度であった.2名の医師が眼底チェックもしており,Optosの眼底所見をみて,素早く眼底を観察し,損傷のある白内障手術の説明をして短時間の診察とした.Optos撮影は診察のたびに行っていたが,異物は写っていなかった(撮影の際に開瞼が足りなかったか,睫毛に隠されたと思われる).翌々日の火曜日に再診とした.「すでに専門医受験前で知識も豊富な2名の医師が眼底検査をしており,Optos像でも明らかな問題がないので,眼底には大きな問題はないだろう.植物が眼内異物になっていればみつかるだろうし,刺さったなら真菌には要注意かな」.このように,前医の診療とOptos眼底像を盲信してしまった.あとから考えれば,短時間でも眼底の大きな問題はチェックし切れていると自分を過信・盲信し,「この施設では非常勤医師しかいないし,硝子体手術して入院管理は困難だから,点眼で保存的に加療できる状態でよかった」と,都合のよいほうに診療内容を誘導してしまっている(→機械の所見を盲信してはいけない.前医の所見を盲信してはいけない.自分でしっかりみよ!).前医を非難しているのではまったくない.患者の受傷時の説明,炎症や硝子体混濁の少なさ,Optos画像,角膜裂傷があり接眼レンズでの眼底精査がしにくい状態であったことなどで,筆者を含め3回の診察で眼内異物をみつけ損ねており,キャリアを考えれば筆者が一番反省すべきである.そして,火曜日(受傷後6日)の診察時に倒像鏡で散瞳精査したところ,鼻下側周辺に光るものが!「これは…….眼内異物.釘……?」スタッフにそのことを伝え,Optos撮影を再度依頼すると,見事に異物が撮影されていた(図1b).約1週間で感染性眼内炎や網膜.離は生じておらず,取り返しがつかないことにはなっていないと自分を慰めながら,患者に状態を説明し,約200km離れた昭和医科大学横浜市北部病院眼科(以下,当院)での入院手術を計画した(図2a~d).術式の詳細は本稿の論じるところではないので記さないが,受傷後9日目に水晶体乳化吸引術(phacoemulsi.-cationandaspiration:PEA)+眼内レンズ(intraocularlens:IOL)+硝子体切除術(vitrectomy)で,眼内異物(71)あたらしい眼科Vol.42,No.9,20251151a図1症例1の眼底広角撮影a:初診時.眼内異物は確認できない.b:受傷後6日後.眼内異物を確認できる.a図2症例1の大学病院受診時a:前眼部写真.b:CT像.c:超音波Bモード写真.d:眼底パノラマ写真.図3症例1の眼内異物摘出術中写真[症例2]26歳,男性.午後になってドクターtoドクターで連絡が来た救急の穿孔性眼外傷である.前医からの連絡は「誤ってナイフで自分の眼を刺した若者で,角膜裂傷になっている.虹彩がかんでいて現状ほとんどリークはないから,明日まで様子をみられるかもしれないが,とりあえず受けてほしい.水晶体損傷はあるかもしれない」という内容だった.「とにかくすぐ来てもらってください.見ます」と返事をした.Iの項目でも述べたとおり,ここで「今からだと時間外になる可能性が高いですし,抗菌薬の点眼と眼帯保護をして,明日受診してください」といった返事は禁忌である.救急の患者は,なにより自分の目で可及的速やかにみることである.みたうえで「明日再度受診してください」ならばよい.この時点で勤務後の予定もあった筆者は,前医からの話から「うまく虹彩がかんでいるなら,メディカルユースでカバーして,明日のオペ日にしっかり対応すれば大丈夫かも」という甘い考えが巡っていた.しかし,前医としては「大学病院は忙しいからあまり負担をかけたくない」という気持ちもあるだろうし,もしかすると「重症度が高いといって,断られたらどうしよう」という考えもあるかもしれない.これらはクリニックの立場からすれば当然である.救急診療の依頼者がどんなに優秀なドクターであっても,伝えられる所見を盲信せず,参考程度に割り切り,できるだけすぐに一度診察するべきである.今回の症例とは異なるが,来院が遅くなるほど人員の確保もむずかしくなり,対応が悪くなるのは当然なので,「すぐに向かわせます(行きます)」という前医(患者)の言葉を鵜呑みにするのは禁忌である.こちらから,「そこからタクシーなら○時には受診できるでしょうから,それまでに来てください」「入院の準備で荷物を家にとりに帰ったりするのは避けてください」「連絡なしで受診されない場合は,いらっしゃらないと判断して医師もスタッフも不在となる可能性があります」などと伝えることが重要だと考える.症例に戻るが,診察すると角膜裂傷にとどまらず強膜にも相当の裂傷があり(図4),虹彩も大きく脱出していた.受傷の原因となったのは,仕事で建具を工作していたノミ(図5a,b)で自分の眼を切り裂いたことだった.明日まで待つのも不可能ではないだろうが,可及的速やかに創を確認し,縫合することが必要と判断し,眼脂培養のうえですぐの緊急入院・緊急手術とした.結膜を開いていくと,鋸状縁に届く強角膜裂傷だった.角膜裂傷3.5mmに続き強膜裂傷10mmであった.この日は創縫合のみとし,強膜裂傷部にラジアールバックルを置いた.その後,水晶体損傷も強く,PEA+IOL+vitrecto-myを行い,矯正視力1.2と良好に回復した.[症例3]49歳,男性.水晶体温存で硝子体混濁に対し筆者がクリニックで行った硝子体術後眼内炎である.手術翌日は炎症も硝子体混濁もごく軽度であった.2日目の朝6時頃よりかすみはじめ,9時に開くクリニックに受診.クリニックで診察を待っている間も,時間とともにどんどん見えなくなったとのことであった.クリニックで瞳孔のフィブリンと眼底が透見不能であった.前房蓄膿は認めなかった.超音波Bモードでは明確な網膜.離や菌塊を認めていない.術後眼内炎の診断で,当大学病院に紹介受診.午前11時,筆者は手術室だったがいったん止めて外来診察し,同様の所見を認め,至急での対応を指示.眼脂培養,全身検査,IOL計測などを行い,バンコマイシンなどの全身投与を開始し,病棟には行かず外来から直接手術に入り,手術室は定期手術を止め,13時半頃からPEA+IOL+vitrectomyを開始した.ぼやけだしてから7時間半後,クリニック受診の4時間半後,当院受診の2時間半後であった.硝子体混濁は著明で,眼底血管は大半が白線化し網膜出血も広範にあり,白血球塊が網膜面に多数付着していた(図6).眼内炎では,網膜中心静脈閉塞(centralretinalveinocclusion:CRVO)様所見はかなり強くても,対応が早ければかなり回復するので失明まではないと考えたが,どこまでの視力回復が得られるかは悩ましい状態であった.しかし,そのあとの抗菌薬投与と2回のvitrectomyで,まだらにみえるとの訴えはあるものの,最終的な矯正視力は1.2となった.もし初回手術が数時間後であれば,網膜の不可逆的損傷が進行し,それほどの視力回復は得られなかった可能性がある.1154あたらしい眼科Vol.42,No.9,2025(74)図4症例2の大学病院受診時前眼部写真図5症例2のノミの先端(a)と柄(b)図6症例3の術後眼内炎術中写真強度の網膜中心静脈閉塞症様眼底と白濁塊の網膜付着を認める.