神経栄養因子を用いた網膜色素変性に対する視細胞保護遺伝子治療の臨床試験ClinicalTrial.ofNeurotrophicFactorGeneTherapyinPatientswithRetinitisPigmentosa池田康博*はじめに筆者が網膜色素変性(retinitispigmentosa:RP)に対する遺伝子治療の研究を始めたのはC1990年代の終わりごろであるが,抗血管内皮増殖因子(vascularendothe-lialgrowthfactor:VEGF)治療のように眼内へ薬剤を頻回に投与することは臨床的に非常にハードルの高い時代であった.一回の眼内投与で完結する治療法はないかと考え,遺伝子治療にたどり着いた.また,当時はゲノム編集遺伝子治療のように病気の原因となっている遺伝子を正常に戻すということが患者の眼内でできるようになるような状況でもなかった.そもそも,病因遺伝子を調べる遺伝子診断の技術もまだまだ未熟であった.そのため,種々の病因遺伝子によりCRPで生じる視細胞死(アポトーシス)を何らかの薬で抑制できないだろうかと考え,神経栄養因子とよばれる蛋白質のもつ神経保護効果に着目した(図1a).遺伝子という形で眼内へ薬(神経栄養因子)の設計図を投与し,遺伝子導入された細胞から薬を分泌させる(図1b).薬の製造工場を眼のなかに造るイメージである.本稿では,神経栄養因子を用いたCRPに対する視細胞保護遺伝子治療研究とそれに基づく臨床応用について紹介する.CI神経栄養因子による神経保護治療神経栄養因子とは神経細胞の生存維持や分化誘導などに影響する蛋白質の総称で,神経成長因子(nervegrowthfactor:NGF),脳由来栄養因子(brain-derivedCneurotrophicfactor:BDNF),毛様体由来神経栄養因子(ciliaryCneurotrophicfactor:CNTF)などが有名であるが,それぞれがさまざまな神経細胞の細胞死(アポトーシス)を抑制する生理作用を有することが知られている.これらの神経栄養因子は,筋萎縮性側索硬化症(amy-otrophicClateralsclerosis:ALS)やアルツハイマー病などの神経変性疾患の治療薬として臨床応用されたが,これまで十分な治療効果が得られていなかった1).しかし,CNTF遺伝子を導入した細胞を封じ込めたカプセルNT-501(ENCELTO)を毛様体扁平部に固定して硝子体内に留置し(図2),硝子体腔中に持続的にCCNTF蛋白質を分泌させるという臨床試験(第C3相)において,黄斑部毛細血管拡張症(maculartelangiectasia:MacTel)2型の患者に対する治療効果が証明され,最近,米国で神経保護作用を有する治療法として承認された2).今後,神経保護治療が見直されることが期待されている.多くの神経栄養因子のなかから筆者が選んだのは,色素上皮由来因子(pigmentCepithelium-derivedfactor:PEDF)である.ヒト胎児網膜色素上皮(retinalCpig-mentepithelium:RPE)細胞の培養上清から抽出された分泌型の糖蛋白で,その生理作用として神経保護効果と強力な血管新生抑制効果を併せもつことが知られていたため3,4),RPや緑内障だけでなく糖尿病網膜症や加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)*YasuhiroIkeda:宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野〔別刷請求先〕池田康博:〒889-1692宮崎県宮崎市清武町木原C5200宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野(1)(51)C8350910-1810/25/\100/頁/JCOPYa発症遺伝子治療(SIV.hPEDF投与)bhPEDF蛋白質SIV.hPEDF視細胞RPE細胞視機能年齢病気の進行を遅らせることを目的とする図1視細胞保護遺伝子治療のコンセプトa:遺伝子治療により,RPの進行を抑制させることを目的とする.Cb:網膜にCSIV-hPEDFを遺伝子導入すると,RPE細胞から神経栄養因子であるChPEDF蛋白質が分泌される.図2眼内に留置されるカプセルNT-501(ENCELTO).https://www.encelto.com/about-encelto/(ENCELTOのホームページより抜粋引用)abWistarUntreatedSIV-EmptySIV-hPEDFMergeTUNELAIFPEDFreceptorミトコンドリアAIFアポトーシス図3PEDFによる視細胞保護のメカニズムa:RPモデル動物であるCRCSラットの網膜組織.未治療群(UntreatedとCSIV-Empty)では,アポトーシスを起こしている視細胞(TUNEL陽性細胞,緑色)にCAIFの核内移行(赤色)が認められる.一方,治療群(SIV-hPEDF)ではアポトーシスが抑制されている.b:PEDFはCBcl-2の発現亢進を介して,AIFのミトコンドリアからの放出を抑制することでアポトーシスを防止している.(文献C8より改変引用)AAVベクターLVベクター主流◎眼への臨床応用少ない△弱い△遺伝子発現高い△催炎性・免疫原性約4.5kb△搭載遺伝子図5術中眼底写真38G針を用いてCDVC1-0401(SIV-hPEDF)を網膜下投与し,bleb(網膜.離)が形成されている().—’C