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ブリモニジン関連角膜実質混濁の臨床経過 ~自験3 症例からの考察

2024年1月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科41(1):82.88,2024cブリモニジン関連角膜実質混濁の臨床経過~自験3症例からの考察篠崎友治*1溝上志朗*2細川寛子*1田坂嘉孝*1,3鳥飼治彦*4白石敦*2大橋裕一*1*1南松山病院眼科*2愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座*3愛媛大学大学院医学系研究科視機能再生学講座*4とりかい眼科クリニックCClinicalCourseof3CasesofBrimonidine-RelatedCornealStromalOpacityTomoharuShinozaki1),ShiroMizoue2),HirokoHosokawa1),YoshitakaTasaka1,3),HaruhikoTorikai4),AtsushiShiraishi2)andYuichiOhashi1)1)DepartmentofOphthalmology,Minami-MatsuyamaHospital,2)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)4)TorikaiEyeClinicCDepartmentofOphthalmology&RegenerativeMedicine,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,C目的:ブリモニジン点眼液C0.1%(以下,BT)の長期使用により生じた角膜実質混濁のC3例について発症前段階からの進行経過を報告する.症例:1)81歳,女性.2015年両眼CBT開始.2018年に両眼の濾胞性結膜炎,2019年に両眼の周辺部角膜浸潤が出現.2020年には角膜新生血管を伴う角膜実質炎へ進展し角膜脂肪変性に至った.2)73歳,男性.2015年左眼,2019年両眼CBT開始.翌月に濾胞性結膜炎,2022年角膜新生血管を伴う角膜実質炎が両眼に発症した.3)88歳,女性.2018年両眼CBT開始.2020年に両眼の濾胞性結膜炎と周辺部角膜浸潤,2022年に周辺部角膜浸潤の中央への拡大とそれに向かう角膜新生血管の侵入を認めた.考按:3症例の臨床経過から本症は結膜充血や濾胞性結膜炎が生じる「結膜充血期」,周辺部角膜に輪状の浸潤が出現する「周辺部角膜浸潤期」,角膜浸潤に向かって新生血管が伸長し角膜脂肪変性に至る「角膜実質炎期」,の順に進行すると考えられた.CPurpose:ToCreportC3CcasesCofCcornealCstromalCopacityCcausedCbyCtopicalCbrimonidinetartrate(BT).CCasereports:CaseC1,CanC81-year-oldCfemale,CwasCstartedConCtopicalCBTCtreatmentCinC2015,CandClaterCdiagnosedCwithCbilateralCfollicularCconjunctivitisCinC2018.CBilaterally,CperipheralCcornealCin.ltrationCdevelopedCinC2019CandCstromalCkeratitisCwithCneovascularizationCandfattyCdegenerationCdevelopedCin2020.CCaseC2,Ca73-year-oldCmale,CwasstartedontopicalBTinthelefteyein2015andbilaterallyin2019.Thefollowingmonth,bilateralfollicularconjunctivitisdeveloped,leadingtobilateralperipheralstromalkeratitiswithneovascularizationin2022.Case3,an88-year-oldfemale,wasstartedontopicalBTinbotheyesin2018.In2020,bilateralfollicularconjunctivitisandstromalkera-titiswithneovascularizationoccurred.Conclusion:Clinicalcourseassessmentofthecasesshowedthatafterlong-termCadministrationCofCtopicalCBT,CtheCdiseaseCprogressedCfromCconjunctivalChyperemiaCtoCperipheralCcornealCin.ltration,and.nallystromalkeratitis,oftenaccompaniedbyfattydegeneration.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(1):82.88,2024〕Keywords:ブリモニジン点眼,副作用,角膜実質混濁,角膜新生血管,結膜充血.brimonidineophthalmicsolu-tion,sidee.ects,cornealstromalopacity,cornealneovascularization,conjunctivalhyperemia.Cはじめに房水産生を抑制し,ぶどう膜強膜流出路を介した房水流出を交感神経Ca2受容体作動薬(以下,a2作動薬)であるブリ促進することにより眼圧を下降させる.緑内障診療ガイドラモニジン酒石酸塩点眼液C0.1%(以下,ブリモニジン)は,イン(第C5版)によれば,点眼治療の第一選択薬は,プロス〔別刷請求先〕篠崎友治:〒790-8534愛媛県松山市朝生田町C1-3-10南松山病院眼科Reprintrequests:TomoharuShinozaki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,Minami-MatsuyamaHospital,1-3-10Asodamachi,Matuyama-shi,Ehime790-8534,JAPANC82(82)タノイドCFP受容体作動薬(以下,FP作動薬),交感神経Cb受容体遮断薬(以下,Cb遮断薬)およびプロスタノイドCEP2受容体作動薬(以下,EP2作動薬)の三つであり,Ca2作動薬は炭酸脱水酵素阻害薬,Rhoキナーゼ阻害薬(以下,ROCK阻害薬)とともに第二選択薬に位置づけられている1).他系統との合剤も開発されるなか,あるレセプトデータベースによればブリモニジンを含有する製剤は緑内障薬物治療患者の5名にC1名程度の割合で広く用いられている2).長期間にわたって使用されることもあって,緑内障点眼薬には多様な副作用がみられる.なかでも,FP作動薬における眼瞼・虹彩色素沈着,上眼瞼溝深化,Cb遮断薬における気管支収縮,徐脈が知られており,その他,EP2作動薬では黄斑浮腫,ROCK阻害薬では結膜充血や眼瞼炎などが代表的なものとしてあげられる.ブリモニジンの副作用については結膜炎,眼瞼炎,点状角膜症などが主体とされるが,頻度こそ少ないものの,2017年のCMaruyamaらの報告を皮切りに,近年,長期投与に伴う炎症性の角膜実質混濁をきたす症例が増加している3.12).その臨床所見は角膜ヘルペスなどでみられる角膜実質炎に酷似しており,進行例では血管新生を伴う扇状の角膜実質混濁を呈する.しかし,これまでの報告の大半は悪化後に大学病院や基幹病院などに紹介された症例であり,どのような経過で角膜病変が進行していくかについては不明な点も多かった.今回,筆者らは同様な角膜実質混濁のC3症例を診療する機会を得たが,そのなかで,前医での診療情報をもとに発症に至るまでの経過を詳細に把握することができた.ここでは,これまでの報告例の臨床プロフィールを比較供覧するとともに,ブリモジニンに起因する角膜混濁の進行様式について若干の考察を加えて報告する.CI症例[症例1]81歳,女性.既往歴に両眼白内障手術(2004年右眼,2006年左眼)があり,骨粗鬆症に対して内服治療中であった.2015年C10月に開放隅角緑内障と診断され両眼にラタノプロスト点眼を開始,2016年C2月から両眼にブリモニジンを追加した.2018年C12月より両眼に結膜充血と濾胞性結膜炎を認めるようになり(図1a),2019年C11月には両眼の角膜下方周辺部に角膜浸潤が出現(図1b),2020年C7月からは新生血管を伴う角膜実質炎へと進行した.この時点で,消炎のためにベタメタゾン点眼を開始すると結膜充血は軽減し,角膜新生血管の活動性も低下した.その後,眼圧が上昇しC2021年C2月にはラタノプロスト点眼をビマトプロスト点眼に切り替え,2021年C7月にリパスジル点眼を追加した.なお,角膜混濁は徐々に再燃増強し,治療に難渋したためC2022年C1月C14日,南松山病院(以下,当院)受診となった.初診時矯正視力は右眼光覚(+),左眼(0.2),眼圧右眼20CmmHg,左眼C17CmmHg,両眼に著明な結膜充血と濾胞性結膜炎,および眼瞼炎がみられた.角膜下方を中心に瞳孔領にまで及ぶ半円形の濃厚な角膜浸潤と灰白色の沈着,輪部実質側からの新生血管侵入がほぼ対称性に両眼にみられた(図1c).また,小型ながらこれに類似した角膜病変が上方に複数認められた.前眼部光干渉断層計では病変部に一致した輝度の高い混濁を角膜実質に認め,その部を中心に角膜厚が著明に増大していた(図1d).生体共焦点顕微鏡では角膜実質混濁内に脂質と思われる針状結晶が観察された(図1e).特徴的な両眼性の角膜病変とブリモニジンの長期投与歴から,ブリモニジンによる副作用の可能性が高いと診断した.なお,血液検査では,ヘルペスウイルス感染,結核,梅毒などを疑わせる所見は認めなかった.そこで,処方されていた緑内障点眼薬C3剤(ビマトプロスト点眼,リパスジル点眼,ブリモニジン)を中止し,アセタゾラミド内服とカルテオロール-ラタノプロスト配合剤およびベタメタゾン点眼を両眼に開始した.その後,結膜充血と眼瞼炎は速やかに軽快したものの,眼圧コントロールがむずかしくなったため,2022年C3.4月に両眼にトラべクレクトミーを施行し,その後眼圧は正常化した.角膜浸潤は徐々に混濁の周辺部から軽減したが,2023年C4月の段階においても病変の中央部に混濁が残存している(図1f).[症例2]73歳,男性.正常眼圧緑内障の診断でブリモニジンとイソプロピルウノプロストン点眼を左眼にC4年間使用し,2019年C9月からは右眼にも追加投与した(図2a).2019年C10月,両眼に結膜充血と濾胞性結膜炎を認めたが点眼をそのまま継続すると,2022年C6月に,右眼に軽微な新生血管の侵入を伴う周辺部角膜浸潤が,左眼に新生血管を伴う扇状の角膜混濁が出現した.ブリモニジンによる副作用を疑い,同薬を休止してフルオロメトロン点眼を開始したところ,翌月の診察で結膜充血は改善したが,角膜混濁は残存していたため(図2b),診断目的にてC2022年C9月当院を受診した.初診時矯正視力は右眼(1.2),左眼(1.2),眼圧右眼C10mmHg,左眼C13CmmHg,すでに消炎傾向で,両眼の結膜充血は消退し,濾胞性結膜炎も認めなかった.角膜周辺部の病変は両眼ともに瘢痕化傾向にあったが,左眼の鼻下側,耳下側の一部の混濁にはまだ新生血管が侵入していた.初診時以降,両眼ともに緑内障点眼薬は休止し,角膜混濁に対しては角膜浸潤の治療ため左眼にフルオロメトロン点眼を継続している.正常眼圧緑内障については,眼圧上昇はなく,視野障害は進行していないため,点眼薬なしで慎重に経過観察している.2023年C4月の診察時も角膜混濁は残存している.f図1a~eは症例1の左眼,fは症例1の両眼a:点眼開始からC2年C10カ月後,結膜充血とともに角膜周辺部に微細な輪状の浸潤がみられる.Cb:3年C9カ月後,角膜下方周辺部に弧状の角膜浸潤が出現している.Cc:6年C3カ月後(当科初診時),結膜充血と眼瞼炎,脂質沈着を伴う濃厚な角膜浸潤が角膜下方全体に認められる.d:前眼部光干渉断層計にて病変部に一致して音響反射を伴う輝度の高い角膜実質混濁があり,著明な角膜厚の増加(1594Cμm)が認められる.e:共焦点顕微鏡検査では脂質の沈着と考えられる針状結晶が多量に認められた.f:両眼に角膜混濁が残存している.図2症例2の左眼a:点眼開始C4年後,角膜周辺部に淡い混濁があり,小さな角膜浸潤が鼻下側に複数認められる(この時点ではブリモニジンによるものと認識されていない).b:点眼開始後C7年,結膜充血と周辺部の角膜浸潤および角膜血管新生像を認める.透明帯は存在しない.ブリモニジンの中止,フルオロメトロン投与にて充血は消退しているが,角膜病変にはまだ活動性がみられる.Cc:前眼部光干渉断層計にて病変部に一致して輝度の高い角膜実質混濁を認める.[症例3]88歳,女性.リモニジンとチモロール点眼に切り替えた.2010年C1月から落屑緑内障に対して両眼にビマトプロスその後のC2020年C6月から結膜充血が両眼に出現するようト点眼を開始.2018年C2月に両眼白内障手術を施行したが,になり,2020年C7月には両眼に周辺部角膜浸潤が認められ術後に眼圧が上昇しため,ビマトプロスト点眼を休止し,ブた(図3a).そこで,ベタメタゾン点眼をC1カ月使用したと図3症例3の右眼a:点眼開始C2年C4カ月後,著明な結膜充血が認められ,濾胞性結膜炎と周辺部角膜浸潤がみられる.Cb:点眼開始後C4年C7カ月後,高度の結膜充血がみられ,表層性の角膜新生血管が伸長し,角膜下方を中心に角膜浸潤が拡大,進行している.透明帯は認められない.Cc:前眼部光干渉断層計にて病変部に一致した輝度の高い角膜実質混濁があり,角膜厚の増大(963Cμm)を認める.ころ,濾胞性結膜炎は軽減したため,ブリモニジン投与を継続した.しかし,2022年C9月には顕著な結膜充血,濾胞性結膜炎を認めるようになり,角膜混濁が進行したため(図3b),ブリモニジンによる副作用を強く疑い,同薬を休止しフルオロメトロン点眼を開始するとともに診断目的にて当院紹介となった.初診時矯正視力は右眼(0.7),左眼(0.5Cp),眼圧右眼C17mmHg,左眼C25CmmHg,著明な結膜充血と濾胞性結膜炎があり,両眼の角膜下方には血管侵入を伴った角膜浸潤を認めた.角膜浸潤は下方を中心に右眼は鼻側,左眼は耳側にまで拡大し,点状表層角膜症も顕著であった.両眼にフルオロメトロン点眼をベタメタゾン点眼に変更し,落屑緑内障に対してはチモロール点眼を継続した.結膜充血はC2週間で軽減したが角膜新生血管と瘢痕化した角膜混濁はC2023年C4月の段階で残存している.CII考按ブリモニジンの上市から約C5年が経過したC2017年,Maruyamaら3)により特異な角膜実質混濁のC2例が報告された.いずれもブリモニジンの長期投与例で,角膜実質炎に該当する臨床所見が観察されたが,他に原因は同定されず,点眼の中止とステロイド点眼投与にて瘢痕治癒した.以後,筆者らが検索した限りにおいて,同様の症例が計18例,わが国を中心にC10施設から報告3.12)されている.表1に自験例C3例と合わせた全C21例の臨床像をまとめた.既報をもとにした臨床像の特徴としては,①長期間のブリモニジン投与歴があること,②周辺部から新生血管を伴う角膜浸潤が生じ,重症例では角膜脂肪変性に至ること,③発症前(または発症時)に顕著な結膜充血がみられること,④ブリモニジンの中止とステロイド点眼で角膜実質炎は消退するが病変部に角膜瘢痕が残存する,などが共通項としてあげられる.筆者らの角膜混濁C3症例の診断も,既報に準じて,①ブリモニジンによる長期投与歴があり,②結膜充血と角膜実質炎に酷似した病変がみられたこと,③血液検査,血清抗体検査,全身症状などからヘルペス,梅毒,結核などの原因が否定的であること,などに基づいて行った.緑内障という疾患の性格上,患者は両眼点眼を行っており,左右差こそあれ病変は両眼性に生じるのが一般的であるが,既報の症例のなかには,白内障術後にステロイドを点眼していた小島らのC1例10)を含めて片眼のみに発症している症例も散見される.角膜実質炎の診断に確定的な検査がない以上,このなかにヘルペスウイルス感染などによるものが含まれている可能性は完全には否定できないが,そのほとんどが両眼に結膜充血と濾胞性結膜炎を発症しており,発症の時間差を示すものと解釈される.ここで改めて認識しておきたいのが前駆所見としての結膜充血の重要性である.濾胞性結膜炎や眼瞼炎(ときにマイボーム腺機能異常とも表現される)については一部でこれを認めない症例もあるが,結膜充血は報告例のほぼすべてで観察されている.これは永山ら13)がいう点眼の副作用としての「ブリモニジンアレルギー」であり,診断基準は「ブリモニジン点眼下に進行性の結膜充血および眼瞼結膜濾胞や眼瞼発赤を生じ,中止によって症状の寛解が認められる」とされる.彼らの臨床研究によれば,その発症頻度はC1年でC15.7%,2年でC27.1%であり,製薬企業サイドからの副作用報告とほぼ同様な値を示しており,頻度の高い副作用として重要である.実際の臨床ではブリモニジンアレルギーが出現した時点で薬剤の投与中止を検討することになるが,やむをえない理由で結膜炎発症後も点眼が継続された場合には,角膜病変の生じるリスクが高まることが自験例の臨床経過からも推察できる.本報告で強調したいのは,自験C3症例についての臨床経過を詳細に解析できた点である.これは,前医の協力のもと,発症前に遡って診療録を確認することができたためであり,偶然ではあるが,3症例のステージがそれぞれ異なっていた表1ブリモニジンによる角膜実質混濁症例(自験3例と既報18例)年性使用発症結膜充血濾胞性角膜発症時矯正視力症例使用期間発症時併用点眼または眼瞼炎治療薬齢別眼眼結膜炎結膜炎新生血管右左ラタノプロスト自験例C1C81女両両4年++++光覚+0.2ベタメタゾン点眼リパスジル右7年自験例C2C73男両両イソプロピルウノプロストン++.+1.2C1.2フルオロメトロン点眼左3年自験例C3C88女両両2年チモロール++.+0.7C0.5Cpフルオロメトロン点眼Maruyamaら3)C1C78女左左2年ラタノプロストチモロール++++記載なしC0.15フルオロメトロン点眼レボフロキサシン点眼ベタメタゾン内服C2C75女両両1年4カ月ラタノプロストドルゾラミドーチモロール不詳不詳++記載なし記載なしフルオロメトロン点眼Tsujinakaら4)ビマトプロスト3C74男両両1年6カ月ドルゾラミド-チモロール++.+0.7C0.5ベタメタゾン点眼依藤ら5)C4C5C6C627976女女男両両両右左左4年6年3年ブナゾシンブリンゾラミドーチモロールビマトプロストドルゾラミドヒアルロン酸+++..+…+++0.7C1.01.2C1.20.9C0.3フルオロメトロン点眼アシクロビル眼軟膏Cフルオロメトロン点眼アシクロビル眼軟膏Cベタメタゾン点眼Manabeら6)C7C8C6575男女両両左左2年2年リパスジルブリンゾラミドビマトプロストドルゾラミド+++不詳++++1.0C1.0記載なし記載なしフルオロメトロン点眼Cフルオロメトロン点眼中澤ら7)ラタノプロスト-チモロール9C80男両両不詳ブリモニジン-ブリンゾラミド+不詳C.+0.7C1.0フルオロメトロン点眼宮久保ら8)タフルプロスト10C73女両右4年ヒアルロン酸++.+0.1C1.0ベタメタゾン点眼岡橋ら9)ビマトプロスト11C69男両両5年ブリンゾラミドーチモロール+..+0.4CpC1.2ベタメタゾン点眼小島ら10)タフルプロスト12C78女両右2年チモロール+不詳C.+0.3C1.2ベタメタゾン点眼Chikamaら11)Cフルオロメトロン点眼13C69女両両3年トロボプロスト-チモロール+.++記載なし記載なしセフメノキシム点眼バラシクロビル内服クラリスロマイシン内服C14C60男両両4年10カ月ビマトプロストドルゾラミド-チモロール+.++記載なし記載なしフルオロメトロン点眼C15C61女両両8年5カ月トロボプロストチモロール+.++記載なし記載なしフルオロメトロン点眼C16C56男両両不明なし+.++記載なし記載なしフルオロメトロン点眼C17C71男両両6年ラタノプロストカルテオロール+.+不詳記載なし記載なしフルオロメトロン点眼Moshirfarら12)C18C86女両両7年人工涙液不詳C..+0.3C0.3ジフルプレドナート点眼こと,すなわち,初期の周辺部角膜浸潤と末期の角膜脂肪変性の症例に加えて,その中間の角膜浸潤が拡大する時期の症例から構成されていた点にも恵まれたといえる.要約すれば,まず結膜充血と濾胞性結膜炎が前駆病変として全例で発生しており(結膜充血期),この時期を越えて点眼が継続された結果,角膜輪部付近に斑状,ときに輪状を呈する上皮下浸潤が出現し,経過とともに角膜中央方向へ浸潤が増強した(周辺部角膜浸潤期).この後もさらに点眼が継続された自験症例C1,3では,輪部角膜の深層から新生血管が伸長して扇状の角膜浸潤病変を形成し,角膜実質内への脂(86)図4ブリモニジンによる角膜混濁の臨床経過a:症例C1左眼.濾胞性結膜炎に加え周辺部にわずかな角膜浸潤が始まっている.Cb:症例C3の右眼.周辺部角膜浸潤,角膜新生血管を認める.Cc:症例C3右眼.角膜浸潤の亢進し角膜実質炎を発症.Cd:症例C1の右眼.角膜実質炎を発症し脂質の沈着.Ce:症例C2の左眼.結膜充血に伴い周辺部角膜浸潤が進行.f:症例C2左眼.ブリモニジンを休止し周辺部までで瘢痕化した角膜混濁.質漏出(角膜実質炎期)に至った(図4).結論としては,「結膜充血期」「周辺部角膜浸潤期」,および「角膜実質炎期」の順に進展していくものと考えられる.ブリモニジンによる角膜混濁が生じる明確な機序は不明であるが,本点眼薬に含まれる何らかの成分が角膜内に浸透,蓄積し,角膜輪部の深部血管叢に作用して炎症性機転を惹起させることが推測される.最新のイオン化イメージング質量分析法を用いたCGroveらによる研究では,ブリモニジンは点眼後C15分で角膜全体に速やかに浸透し,前房,虹彩毛様体に高濃度で分布後,ぶどう膜強膜流出路から後眼部へと排出されることが示されており14),この薬剤移行のなかで前眼部組織に何らかの薬理作用を及ぼす可能性は十分に考えられる.加えて,緑内障点眼薬の角膜血管新生作用については,Schwartzら16)による興味深い研究がある.彼らはCbFGF(塩基性線維芽細胞成長因子)ペレットを埋込んだラット角膜に種々の緑内障点眼薬を投与し,ブリモニジン>ラタノプロスト>ドルゾラミド>チモロールの順に強い血管新生作用を認めたという.使用されたブリモニジンがCAbbVie社製品という制約はあるが,この事実は,ブリモニジンが角膜新生血管の主因となっている可能性が高いことが考えられるとともに,多剤点眼による血管新生の可能性も示唆するデータでもある.角膜実質炎との臨床所見の類似性からみて,発症メカニズムには共通の基盤があると思われるが,機序の解明は今後の課題となる.ブリモニジンによる角膜混濁の報告は長らくの間,わが国だけに限られていて,海外からの報告は病態の異なる多発性角膜上皮下浸潤のC1例15)のみであった.その理由として当初,宮久保ら8)も指摘するように,国内製品(千寿製薬)とC2種類ある海外製品(AbbVie社:米国向けおよび欧州向け)との点眼組成の違いの可能性が考えられたが,国内製品のみに特異的な成分が見当たらないこと,また,最近市販されたブリモニジン配合点眼薬においても同様の角膜混濁例が報告されている7)ことなどから,点眼組成よりもブリモニジン自体の関与が強く疑われる.そのなかで最近,AbbVie社のブリモニジン点眼液により生じたと考えられる両眼性の角膜実質混濁のC1例が米国から初めて報告された12).これによりブリモニジン主因説がさらに有力とはなったが,興味深いのは報告例の虹彩の色調が「褐色(ブラウン)」という点である.前述したCGroveらの報告14)でも,有色家兎の虹彩組織においてメラニン色素への取り込みを反映すると考えられる薬剤濃度の上昇が認められており,人種差と本症との関係について今後の検討が待たれるところである.現時点で,ブリモニジンとの併用薬について特定の関連は示されていないが,ブリモジニン非使用の多剤点眼患者の両眼に同様な角膜混濁が生じたとするCKasuyaらの報告17)があり,先のラット実験の結果も踏まえれば,ブリモニジン以外の緑内障点眼薬でも同様な病変を惹起する可能性は否定できない.炎症性の角膜実質混濁については,既報のように,ブリモニジンの中止とステロイド点眼で消炎することが可能であった.実際,自験例ではブリモニジンを点眼している場合でも一定の消炎が得られているほか,先に述べた小島ら10)の報告でもステロイド点眼中の眼には病変は発症していない.ただし,角膜中央部にまで病変が進展した場合には,治療への反応も比較的緩徐であり,最終的に角膜実質瘢痕が残存し視力予後は不良となる.ブリモニジンはわが国における緑内障診療に広く用いられており,重篤な副作用である角膜混濁の発生が今後増加する懸念もある.今回のC3症例の臨床経過を振り返ると,角膜混濁に至るまでの段階において,リスクの高い所見を察知し発症あるいは進展を阻止することが重要と考えられる.とくに,結膜充血が常態化した場合においては,ブリモニジンの投与はそこで断念し,他の降圧治療の選択へと舵を切るべきと思われる.本論文は角膜カンファランスC2023一般口演CBにて発表した内容です.謝辞:製品情報を提供いただいた千寿製薬株式会社末信敏秀様に厚くお礼申し上げます.利益相反:白石敦(カテゴリーF:参天製薬株式会社)文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版)日眼会誌126:85-177,C20222)2021年C10月.2022年C9月における縮瞳薬及び緑内障治療剤:局所用の使用状況.株式会社CJMDC3)MaruyamaY,IkedaY,YokoiNetal:Severecornealdis-ordersCdevelopedCafterCbrimonidineCtartrateCophthalmicCsolutionuse.CorneaC36:1567-1569,C20174)TsujinakaCA,CTakaiCY,CInoueCYCetal:ACcaseCofCbilateralCdeepstromalcornealopacityandvascularizationafteruseofCmultipleCantiglaucomaCmedicationsCincludingCbrimoni-dineCtartrateCophthalmicCsolution.CActaCOphthalmolC97:Ce948-e949,C20195)依藤彰記,細谷友雅,岡本真奈ほか:ブリモニジン点眼液使用経過中に発症した角膜実質炎のC3例.眼科C61:1527-1533,C20196)ManabeCY,CSawadaCA,CMochizukiK:CornealCsterileCin.ltrationCinducedCbyCtopicalCuseCofCocularChypotensiveCagent.EurJOphthalmolC30:NP23-NP25,C20207)中澤満,原藍子:緑内障治療中に強い角膜混濁を生じた症例.臨眼75:1282-1285,C20218)宮久保朋子,戸所大輔,秋山英雄:ブリモニジンによる角膜混濁が疑われたC1例.臨眼76:921-925,C20229)岡橋昌己,原雄将,山上聡:ブリモニジン酒石酸塩点眼による角膜実質混濁を認めたC1例.眼科C64:691-695,C202210)小島創太,岩瀬剛:ブリモニジン酒石酸塩点眼液使用中に角膜実質混濁が急速に進行したC1例.臨眼C76:1049-1053,C202211)ChikamaCT,CShinjiCK,CYokotaCCCetal:In.ammatoryCcellsCandlipiddepositsdetectedbyinvivoconfocalmicroscopyinbrimonidinetartrateophthalmicsolution-relatedcorne-aldisorders:ACcaseCseries.COculCImmunolCIn.ammC28:C1-6,C202212)MoshirfarM,ZiariM,PayneCJetal:BilaterallipidkeraC-topathyCinCtheCsettingCofCbrimonidineCtartrateCuse.CCaseCRepOphthalmolMedCVolume2023,ArticleID8115622,4pagesApr,202313)永山幹夫,永山順子,本池庸一ほか:ブリモニジン点眼によるアレルギー性結膜炎発症の頻度と傾向.臨眼C70:C1135-1140,C201614)GroveCKJ,CKansaraCV,CPrentissCMCetal:ApplicationCofCimagingmassspectrometrytoassessoculardrugtransit.SLASDiscovC22:1239-1245,C201715)PurgertRJ,MeghparaB,KolomeyerNN:CornealsubepiC-thelialCin.ltratesCassociatedCwithCbrimonidineCuse.CCanJOphthalmolC55:e172-e173,C202016)SchwartzCS,CGeorgeCJ,CBen-ShoshanCJCetal:DrugCmodi.cationCofCangiogenesisCinCaCratCcorneaCmodel.CInvestCOphthalmolVisSciC49:250-254,C200817)KasuyaCY,SanoI,MakinoSetal:CornealCopacityinducedbyCantiglaucomaCagentsCotherCthanCbrimonidineCtartrate.CCaseRepOphthalmolMedC2020,C4803651,C2020C***

基礎研究コラム:80.MAIT細胞とぶどう膜炎

2024年1月31日 水曜日

MAIT細胞とぶどう膜炎MAIT細胞とは従来型のCT細胞は多様性に富むCT細胞受容体(TCcellreceptor:TCR)を発現し,抗原提示細胞により提示されたペプチドを認識します.それら従来型のCT細胞とは異なる,単一性のCTCRをもつ自然免疫型CT細胞が自己免疫性疾患,癌,感染症といったさまざまな病態制御にかかわることが明らかとなり,近年注目されています.自然免疫型CT細胞の一つであるCmucosal-associatedCinvariantCTcells(MAIT)細胞は,固有のインバリアントなCTRAV1-2/TRAJ33鎖と限られたCTCRCb鎖とペアになったCT細胞受容体を介して,主要組織適合性複合体クラスCI関連遺伝子蛋白質(MR1)によって提示された微生物のビタミンCBC2前駆体由来の代謝物を認識します.MAIT細胞は末梢血,腸管粘膜固有層,肝臓に存在し,とくにヒト末梢血ではCT細胞中のC5.10%を占め,インターロイキン(interleukin:IL)-2,IL-17A,IL-10,IL-22,顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(granulocyteC-macrophageCcolony-stimulatingfactor:GM-CSF),グランザイムB,腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor:TNF)C-aといった炎症性サイトカインや組織修復因子を分泌し,免疫制御にかかわることが報告されています1).炎症性疾患の中でも,Crohn病や潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患,関節リウマチや強直性脊椎炎を含む自己免疫性関節炎では,それぞれ活性化したCMAIT細胞が炎症粘膜組織や滑膜組織に移行し,各種サイトカインを産生していることが明らかになっています.また,多発性硬化症においては,MAIT細胞がCB細胞を介したCIL-10産生により病態改善に働くことが,マウスモデルを用いた実験で報告されています1).近年,疾患ごとに腸内細菌叢が異なることがあいついで報告され,その病態制御メカニズムが注目されています2).またCMAIT細胞と腸内細菌との関連性も明らかになってきており1),今後それぞれの疾患において,MAIT細胞の機能制御にかかわる腸内細菌や,それらが産生するCMAIT細胞認識代謝産物が明らかとなれば,新たな創薬ターゲットとなる可能性があり注目されています.眼の領域ではどうでしょうかぶどう膜炎の中で典型的な自己免疫疾患といえば,Vogt・小柳・原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadesease:VKH)があげられます.VKHは,ステロイド治療開始後も炎症が遷延化する例がC20%程度あります.これまでCCD4陽性CT細胞が発症に関与することが知られていましたが,遷山名智志九州医療センター眼科IL-22産生ぶどう膜炎の軽減視機能保護MR1MAIT細胞微生物のビタミンB2前駆体由来の代謝物図1MAIT細胞の自己免疫性ぶどう膜炎における役割MAIT細胞がCIL-22を介してぶどう膜炎を軽減した.延化する原因は明らかになっていません.そこで,筆者らはマスサイトメトリー解析にて,炎症が遷延化した症例と寛解した症例の末梢血単核球の比較を行いました.解析の結果,遷延化した症例ではCMAIT細胞が有意に減少していることがわかりました.そこで実験的自己免疫性ぶどう膜炎マウスモデルを用いてぶどう膜炎におけるCMAIT細胞の働きを解析したところ,おもにCIL-22産生を介してぶどう膜炎の軽減や視機能保護に寄与していることがわかりました3)(図1).今後の展望腸内細菌は約C1千種,40兆個以上存在すると考えられており,消化吸収の促進,免疫系の調節に関与し,そこでは腸内細菌由来代謝産物が重要な役割を担います2).実際に炎症性腸疾患,糖尿病,肥満症,自己免疫疾患では,腸内細菌由来代謝産物を認識するCMAIT細胞が病態制御にかかわることが明らかとなっています1).さらに筆者らは,MAIT細胞が自己免疫性眼疾患において病態改善効果を有することを見いだしました3).今後さらに腸内細菌によるCMAIT細胞の機能制御機構が明らかとなれば,ステロイドなどの免疫抑制薬を用いずに,腸内細菌を利用したぶどう膜炎治療を行うことが可能になる時代も来るかもしれません.文献1)GodfreyCDI,CKoayCH-F,CMcCluskeyCJCetal:TheCbiologyCandCfunctionalCimportanceCofCMAITCcells.CNatCImmunolC20:1110-1128,C20192)DurackJ,LynchSV:Thegutmicrobiome:RelationshipswithCdiseaseCandCopportunitiesCforCtherapy.CJCExpCMedC216:20-40,C20193)YamanaS,ShibataK,HasegawaEetal:Mucosal-associ-atedCinvariantCTCcellsChaveCherapeuticCpotentialCagainstCocularCautoimmunity.CMucosalCImmunolC15:351-361,C2022C(67)あたらしい眼科Vol.41,No.1,2024C670910-1810/24/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:248.乳頭上増殖膜抜去時の網膜下出血(中級編)

2024年1月31日 水曜日

248乳頭上増殖膜抜去時の網膜下出血(中級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopa-thy:PDR)の硝子体手術では,視神経乳頭部位の線維血管増殖膜(.brovascularmembrane:FVM)を硝子体鑷子で抜去することがある.この際に乳頭表面の網膜血管を損傷し,乳頭上に出血をきたすことがあるが,乳頭周囲の網膜下にも出血をきたすことがある.●症例提示60歳,男性.透析中のPDRで右眼の乳頭周囲にFVMを認め,陳旧性硝子体出血をきたしていた.混濁した硝子体を切除したのち,水平硝子体剪刀で乳頭周囲のFVMと網膜の癒着部位を切断し,硝子体鑷子でFVMを乳頭から上鼻側の方向に抜去した(図1a).このときに乳頭周囲に網膜下出血が生じた(図1b).灌流圧を60mmHgに上昇させて止血し,黄斑部に出血が広がっていないことを確認して手術を終了した.術後,乳頭周囲に網膜下出血は残存したが,時間の経過とともに徐々に吸収した(図2).●PDRの視神経乳頭周囲に生じる網膜下出血本シリーズの「53.網膜下出血を伴う糖尿病牽引性網膜.離に対する硝子体手術(中級編)」でも記載したが,乳頭部位にFVMを伴うPDRでは,自然経過で乳頭周囲に網膜下出血をきたすことがある.これは乳頭上のFVMに後部硝子体.離による前後方向の牽引が働き,その結果,乳頭周囲の血管(おもに短後毛様動脈の分枝)が破綻することが原因と考えられる1).硝子体手術時にもこれと同様の機序で視神経乳頭上のFVMに過度の牽引を加えると,網膜下出血が生じる可能性がある.本提示例はFVMの活動性が低下しており,視神経乳頭とFVMの癒着が強固であったにもかかわらず,強引にFVMを抜去しようとして出血が生じたものと考え(65)0910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1術中所見右眼の視神経乳頭周囲のFVMと網膜の癒着部位を切断し,硝子体鑷子でFVMを乳頭から抜去した(a).このときに乳頭周囲の網膜下に出血が生じた(b).図2術後の右眼眼底写真乳頭周囲に網膜下出血は残存したが,時間の経過とともに徐々に吸収した.られる.本症例では幸い灌流圧を上昇させることで黄斑部に出血が広がる前に止血できたが,このように癒着が強固な視神経乳頭のFVMを処理するときには,トリミングのみに留めて残存させるほうが無難である.文献1)池田恒彦:硝子体手術のワンポイントアドバイス53.網膜下出血を伴う糖尿病牽引性網膜.離に対する硝子体手術(中級編).あたらしい眼科24:1331,2007あたらしい眼科Vol.41,No.1,202465

考える手術:25.理想的な白内障手術

2024年1月31日 水曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅理想的な白内障手術中村竜大中村眼科医院白内障手術は,紀元前800年,インド亜大陸のベンガル地方,学者スシュルタによる鍼針金を用いた墜下法に始まる.日本では,西暦1355年頃(室町時代)にインドから中国を経て白内障手術が伝わり,名古屋の馬島清眼僧都という高僧により墜下法が始まった.さらに西暦1745年頃,フランス宮廷医ダビエルにより白内障摘出術が考案された.日本には,西暦1823年頃にオランダのシーボルトにより白内障摘出術が伝授された.そして19世紀に入り,ドイツのGraefeが線状切開法を開発,英国のRidleyが眼内レンズを開発,米国のそのような流れの中で今も昔も不変であることは,白内障手術の理想は,安全に,効率的に,そしてできるかぎり低侵襲に水晶体を摘出し,人工眼内レンズを精度高く,眼内に挿入し固定することに尽きるという点である.しかし,最近の白内障手術では,効率性=手術時間の短縮を追求するあまり,超音波装置の設定はhighvacuum,high.owに,そして,そのような設定でも前房が安定するようにと,highIOPまたは加圧システムによる前房内圧制御を必要とする傾向にある.しかし,超音波チップの種類や超音波装置の選択肢が広がった現代では,その特徴を理解し,手術手技や設定を見直すことで,円熟期にある白内障手術をさらに理想に近づけられる可能性がある.聞き手:白内障手術装置は何を使用していますか?を変えています.CENTURION,Constellationでの手中村:主にDORC社のeva,Alcon社のCENTURION術では,divide&conquermethodをおもに選択してを使用し,ときにConstellationを使用しています.います.その理由は,Alcon社の最大の特徴はBal-ancedTipと回旋発振超音波による核破砕力にあり,そ聞き手:それぞれの器械の特徴に合わせて,どのようにの力をもっとも効率よく使えるのは,手術の序盤でまだ手技を変えていますか?核が固定されている状態のときで,分割する前に水晶体中村:DORC社とAlcon社の装置で核処理の際の手技の中心部の核の硬い部分を溝を掘りながら処理してしま(63)あたらしい眼科Vol.41,No.1,2024630910-1810/24/\100/頁/JCOPY考える手術うのがより効率的だと考えるからです.また,水晶体を乳化し液体に近づけることで,それほど高い吸引圧を必要とせず,より安全な設定で,十分効率よく手術を行えると考えるからです.evaでは,当初,DORC社の純正チップを使用しており,水晶体乳化吸引(phacoemulsi.-cationandaspiration:PEA)が縦発振超音波装のため,回旋発振超音波の装置と比較すると効率の悪さを感じました.しかしSCIMENDESIGN社のチップを使用した時からevaの印象は大きく変わりました.動画のとおり,各社のチップを比較すると,SCIMEN社のチップは吸引口が大きくなっており,BalanceTipと比較しても大きく,吸引効率がよいことが伺えます.さらに,そのリムは刃物のように薄く加工してあり,縦発振超音波方式でもチップによる核の前方への弾きが軽減され,pulseなどの設定を使用せずとも効率的にPEAが行えます.さらにevaの特徴は,吸引系がdiaphragmpumpである点で,術中に二種類のmodeを切り替えることで,vacuumcontrolmodeではventuripumpのような手術を,.owcontrolmodeではperistalticpumpのような手術を行うことができます.例えば,硬い核を処理する際,核を閉塞させることで,吸引圧を上げる仕組みである.owmodeでは,peristalticpumpのマシンと同様に核が詰まりやすい特徴があります.そのような場合は,vacuummodeでなるべくチップの先端を閉塞させないように核を乳化吸引すると詰まりにくくなります.また,Zinn小帯脆弱や術中虹彩緊張低下症の場合には,ペダルリングで吸引圧と吸引流量をコントロールできるvacuummodeが適しています.吸引効率とコントロールが良好なevaでの手術では,phacochopmethodを主に選択しています.CENTURIONのように乳化して液体に近づけて吸引するというより,核を吸引可能な大きさに切り分けて,そのまま吸引していくイメージです.聞き手:それぞれの手術装置の設定値はどうですか?中村:CENTURIONでは分割前は眼圧(intraocularpressure:IOP):55mmhg,Asp:21-23-25ml/min,Vac:150.300mmHg,分割後はIOP:55mmHg,Asp:28.36ml/min,Vac:120.400mmHgとしています.evaでは,分割前は.owmodeIOP:52mmHg,Asp:0.20ml/min,Vac:280mmHg,分割後はvac-uummodeIOP:40mmHg,Vac:220mmHg,.ow64あたらしい眼科Vol.41,No.1,2024modeIOP:40mmHg,Asp:25.30ml/min,Vac:200mmHgです.設定値にはチップの形状による影響も大きいと思っています.例えると,ストローでスムージーを飲むようなイメージで,細いストローを使用すればそれだけ高い吸引圧を必要とします.CENTURIONでは,チップが細いため,吸引効率のよいevaと比較して,吸引圧と吸引流量を若干高めに設定しています.IOPはもう少し下げることも可能ですが,当院では,創口2.1mm切開で行っており,創口がややタイトであるために,灌流不全になりにくいように少し余裕をみた設定になっています.聞き手:USpowerについては何かこだわりはありますか?中村:powerを0スタートにせず,15.20%スタートにしている点です.私がPEAを習得しはじめた頃は,できるだけ吸引口を閉塞させて核を保持してから分割し,閉塞させて核を中心に引き出してからUSをかけて核を吸引するというのが一つのセオリーでした.しかし,サージの原因の一つは閉塞した際に上昇する吸引圧によるもので,特にperistalticpumpや.owmodeの手術で起こります.最近のマシンでは,センサーや加圧システムにより,閉塞後に起こるサージに備え灌流圧を上昇させることで前房を安定させる対策が取られています.しかし,そもそも閉塞による急激な吸引圧上昇を抑えることができればサージは小さくなります.そのため,USの立ち上がりをよくすることで,閉塞が起こる前に核を乳化吸引していくことが目的です.聞き手:最後に,先生にとっての理想の白内障手術とは?中村:理想の白内障手術というと,麻酔に始まり,術後のqualityofvisionまで,奥が深くとてもむずかしい質問ですが,手術装置設定に関していえば,白内障手術は比較的ノーマルなものから超難症例まで千差万別ですが,なるべく大きく設定を変更せずに対応できる設定を基本とすることが理想であると考えます.また,術者のペダリングの好み(踏み込みが浅い人,深い人,細かい人など),使用している手術装置の特徴などをvideooverlayなどで分析してみることが,各自の理想設定に到達するための近道であると思います.(64)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性における長期治療継続のコツ

2024年1月31日 水曜日

●連載◯139監修=安川力五味文119加齢黄斑変性における安藤智子岐阜大学医学部眼科学教室長期治療継続のコツ滲出型加齢黄斑変性(AMD)は治療が長期にわたる症例が多く,視力低下を抑えCQOLを保持するためには,しばしば厳密な治療継続が求められる.そのためには患者自身の病状や治療方針への理解が必要である.本稿では滲出型CAMDにおける長期治療継続のコツについて述べる.はじめに加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)は中途失明の主要疾患であり,身体障害者視覚障害の原因疾患の第C4位となっている1).滲出型CAMDの治療の第一選択は抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialCgrowthCfactor:VEGF)療法となっているが,その継続においては頻回通院や経済的負担など,抱える問題も大きい.根治がむずかしい疾患であるがゆえに長期通院が必至となり,治療を中断するケースも少なくない.本稿では患者のCQOL保持の観点から,より少ない負担で長期治療を継続させるポイントについて考える.治療方針治療の中心を担うのは抗CVEGF療法であり,滲出型AMDにおいて使用可能な薬剤は現在C5種類ある.導入期後の治療方針としては,reactive治療であるCproCrenata(PRN),proactive治療であるCtreatCandCextend(TAE),固定投与に分けられ,それぞれを選択していくことになる.PRNでは投与回数が最小限になる代わりに再燃後の投与となるため治療は後手にまわる傾向や,頻回通院が必要になる可能性がある.TAEや固定投与は視力の維持を優先する一方で過多投与となる可能性がある.厳密なCproactive治療が視力維持にはよいが,僚眼の視力も関連した治療への意欲,経済状況,通院の負担など,患者個人によってコンプライアンスに関連する背景は大きく異なり,実臨床では約C3割の患者は厳密な治療継続が困難となってくる.さらには緩い治療でも視力が低下しにくい患者もいる.そこで,視力維持ではなく,僚眼の視力も考慮したCqualityofCvision(QOV),ひいてはCQOLの保持という観点に立って,使用薬剤と治療方針に関してメリット・デメリットを提示し,患者とともに治療方針を選択していくことが重要と思われる.また,診断が確定した際には長い付き合いの必要な疾患であることをあらかじめ伝え(61)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPYることも重要であり,目先の視力維持でなく,いかに長期に視力維持,それが無理でも僚眼も含めてCQOVを保持するかを目標として治療計画を立てることが望ましい.治療方針決定に関しては,患者と医療者がともに参加する共同意思決定(shareddecisionmaking:SDM)(図1)が,双方の考え方のギャップを埋めるコミュニケーションの一つになる.従来のインフォームド・コンセント(informedconsent:IC)は,治療行為の内容や選択肢について十分な説明を受けたうえで同意することであるが,治療方針決定までのプロセスを共有することを重要視するCSDMは,それと異なる新しい考え方であり,近年注目されている3).情報の共有が双方向のやりとりであること,医療情報に限らない,個々の希望や生活環境までを含めた個別情報も共有しながら,患者に寄り添った治療のあり方を重要視する点が特徴である.とくに投与間隔や薬剤の変更を検討する際など,臨床的結果に確実性がない状況において大きな意義をもつものと思われる.長期にわたる治療のなかでは,病状だけではなく,患者を取り巻く環境が大きく変わることは十分に起こりうる.そのときどきでの最善の治療選択をサポートするために,われわれ医療者側にはCSDMに基づいた十分なコミュニケーションが求められる.治療方針への理解,納得が得られることは,信頼関係を構築するうえでも重要な観点であり,長期治療継続を可能にする重要なポイントの一つである.積極的な病診連携地域の事情もあるが,抗CVEGF療法を継続している患者の中には,投与可能な施設に遠方から通院している場合もある.中核病院や大学病院は待ち時間の長さから嫌厭されることも多く,患者・家族の負担も大きい.抗VEGF薬の投与頻度や病状に応じて,投与間の検査や診察をかかりつけ医へ依頼するなど,治療以外の通院の負担を極力減らす工夫も必要である.当院では硝子体内あたらしい眼科Vol.41,No.1,202461ICは医療行為への同意SDMは意思決定プロセスをたどり合意を形成すること【説明─同意モデル】【情報共有─合意モデル】患者についての一般的判断説明説明医療者患者医療チームbiological価値観・人生医師晨臨師・患者・家族専門的知識計画・選好MSWbiographical同意説明価値観・人生計画・選好の理由裁量権自己決定権インフォームド・コンセント最善についての個別化した判断合意インフォームド・コンセント図1ICとSDMの考え方ICは十分な説明を受けた患者が医療行為について理解をしたうえで同意をすること.SDMは患者・家族側と医療者側で双方ともにコミュニケーションをとりながら意思決定のプロセスをたどる.これにより合意が形成されるとCICになる.病診連携図2当院でのTAE治療の一例導入療法後,間隔を延長しながら治療継続した.注射翌日の診察はかかりつけ医に依頼した.16週まで延長可能となったところで治療終了とし,無治療経過観察とした.現在,最終投与よりC1年が経過したが再発はなく,今後はかかりつけ医に再発の有無の経過観察を依頼する.注射の翌日は術後診察を推奨しているが,導入期から紹介元や開業医などと連携を図り,かかりつけ医への受診を基本としている.術後診察を含む定期的な通院で治療早期からかかりつけ医にも治療に参加してもらうことで,治療が落ち着いたあとにかかりつけ医への逆紹介を勧める際にも,患者自身のハードルも下がり,理解が得られやすい.長期にわたる治療においては病診連携を勧め,通院の負担を減らすことも重要と考える(図2).予防のすすめ必要な疾患である.とくに治療開始初期には,頻回の通院や経済的負担に驚く患者もおり,すべての患者に同様の基準で治療計画をたてることは困難と思われる.最低限の負担で,いかに個々のCQOVを長期的に維持できるかというところに焦点を当てた診療が求められる.そのためには長期継続が必至であり,病状や治療計画に対して十分な理解が得られること,患者とその家族に寄り添うかかわりが重要なポイントになる.QOL保持の観点で,片眼発症の場合は僚眼の発症予防についても指導する必要がある.両眼の治療が必要になれば身体障害のリスクが高まり,また,通院や治療費の負担も増え,高度の視力低下を伴うと通院困難,通院中断に至ることも少なくない.大規模に行われたCAge-ReratedCEyeCDiseaseStudy(AREDS),AREDS23)の結果をもとに日本の治療指針においてもサプリメントの摂取が推奨されている4).禁煙指導はもちろんのこと,サプリメントの導入においても積極的に情報提供を行い,“自宅でできる継続可能な予防”を勧めていく.おわりにAMDは慢性疾患であり,ときには一生の付き合いがC62あたらしい眼科Vol.41,No.1,2024文献1)MatobaCR,CMorimotoCN,CKawasakiCRCetal:ACnationwideCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividualsCinCJapanCforCtheC.scalCyear2019:impactCofCtheCrevisionCofCcriteriaCforCvisualCimpairmentCcerti.cation.CJpnCJCOpthal-molC67:346-352,C20232)会田薫子:今日から実践!SDMおたすけノート.中外製薬CWebサイト(PLUSCHUGAI)3)Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyC2CResearchGroup:CLutein+zeaxanthinandomega-3fattyacidsforage-relat-edCmaculardegeneration:theCAge-RelatedCEyeCDiseaseCStudy2(AREDS2)randomizedCclinicalCtrial.CJAMAC309:C2005-2015,C20134)髙橋寛二,小椋祐一郎,石橋達朗ほか:加齢黄斑変性の治療指針.日眼会誌116:1150-1155,C2012(62)

緑内障セミナー:緑内障患者の読書能力

2024年1月31日 水曜日

●連載◯283監修=福地健郎中野匡283.緑内障患者の読書能力石井雅子新潟医療福祉大学大学院健康科学専攻緑内障による視機能低下は読書能力に大きな影響を与える.緑内障患者では読書能力が低下するが,とくに縦書きの文章での読みにくさが顕著である.これは視野障害による視線移動のむずかしさがその原因となっている.読書能力の低下は視覚補助具の使用や通信情報技術(ICT)を活用することで改善することが多い.したがって,緑内障患者の読書能力を評価してケアにつなげることが重要である.●はじめに緑内障は慢性疾患であり,症状がほとんどないまま徐々に視機能が障害されるため,患者が自覚症状を感じたときには,すでに病状がかなり進んでいることがある.生活の質(qualityoflife:QOL)が著しく低下しているにもかかわらず,不自由さに適応し,ケアを受けず生活している患者も多い.QOLを考えるうえでは,文字や文章を読むことは日常生活の中で重要度が高く,読書困難は視覚障害者の訴えとしてもっとも多く,緑内障患者においても例外ではない1).緑内障では末期まで視力が保たれることが多いが,視力値だけでは読書困難を予測することはできない.中心視野障害は読書能力に大きな影響を与える2).読書困難の程度を知るためには,読書を直接測定することが重要である3).C●読書能力のパラメータと読書曲線読書の評価にはCJapaneseCversionCofCMinnesotaReadingAcuityChart(MNREAD-J)を用いる(図1).はじめに練習用読書チャートを使用して方法を十分に理解してもらう.測定はチャートを書見台に置き,両眼開放の条件で,視距離はC30Ccmとし,近見屈折矯正を行ったうえで測定する.大きな文字サイズから小さな文字サイズへとC1ブロックごとに順にできるだけ速く正確に音読するよう指示し,1ブロックごとに読みに要した時間と読み間違えた文字数を記録し,読書速度を算定する.データの解析には,分析プログラム(MNREAD-JCAnalysisCalphaversion2)を用いて,最大読書速度,臨界文字サイズ,読書視力の三つのパラメータ3)(図2)を算出して読書能力を評価する.C●正常コントロールとの比較矯正視力C0.7以上の緑内障患者C49例と年齢をマッチングした正常コントロールC30例で,読書の三つのパラメータを比較した研究では,緑内障患者では,三つのパラメータすべてが正常コントロールよりも有意に低下していた4)(表1).緑内障患者の読書能力は,視野障害に影響されることが示された.C●読書能力の低下とその対応日本語には,縦書き,横書きの二つの表記形式がある.そのため,縦書きと横書きの読み物で読みの困難度に差が出る.新聞は縦書きであるがゆえに,多くの緑内障患者が読み飛ばしや行間違えを起こしやすく,読みに困難を感じる.これは,緑内障性視野障害が網膜神経線維の走行に沿って表れるため,水平経線を挟んで視野の感度差が出ることから生じる.そのため視線を上下に移動させて読むことがむずかしくなる.とくに下方視野の感度低下は読みを困難にする5).症例はC66歳,女性,原発開放隅角緑内障,矯正視力は右眼C1.0で左眼C0.06である.視野と読書曲線を図3に示す.読書困難を主訴とした.近用拡大鏡で文字を大きくしても読めないという.縦書きの最大読書速度は74.82文字/分,臨界文字サイズはC0.70ClogMAR(13.91pt),読書視力はC0.53ClogMAR(9.40Cpt)である.横書きの最大読書速度はC200.74文字/分,臨界文字サイズは0.70logMAR(13.91pt),読書視力は0.40logMAR(6.97Cpt)である.臨界文字サイズの値より,新聞本文の文字サイズであるおよそC10Cptを読むには,低倍率の近用拡大鏡の使用で読み速度の向上が期待される.しかし,縦書きでは十分な読み速度が得られない.この場合には縦書きの文章を読む時には,タイポスコープ(黒い短冊のようなもの)を文字の脇に置いて視線の移動を補助すること,iPadやスマートフォンによる通信情報技術(informationCandCcommunicationtechnology:ICT)を活用した文字の音声変換や活字の縦横変換アプリなどの指導が有効である.(59)あたらしい眼科Vol.41,No.1,2024590910-1810/24/\100/頁/JCOPY1,00010010100.20.40.60.81.21.4文字サイズ(logMAR)1正常視覚者緑内障患者図2読書曲線と読書能力のパラメータAは最大読書速度.文字サイズが最適な場合に読める最大速度.Bは臨界文字サイズ.最大読書速度で読める最小の文字サイズ.読書に適する文字サイズを示す.Cは読書視力.なんと図1JapaneseversionofMinnesotaReadingAcuityChartかぎりぎり読むことができる文字サイズ.緑内障患者では視機(MNREAD-J)能の障害程度により,これらのパラメータが低下する.縦書きと横書きがあり,一つの文章はC3行で漢字C8文字を含む30文字からなる.文字サイズ以外の刺激次元である認知的言語的次元にできるだけ違いが出ないように,配慮された刺激単語を用いている.表1正常コントロールと緑内障患者の読書能力の比較緑内障群(n=49)平均±標準偏差正常視覚群(n=30)平均±標準偏差p値*最大読書速度(文字/分)C臨界文字サイズ(logMAR)C読書視力(logMAR)C年齢(歳)C屈折異常(D)C視力(logMAR)C329.9±55.4C0.24±0.14C0.02±0.12C53.3±12.6C.5.25±4.08C1.10±0.08C363.0±42.90.09±0.13.0.13±0.1051.2±11.9.4.01±3.831.15±0.04<C0.01<C0.01<C0.01C0.47C0.06C0.05読書速度(文字/分)*Cunpairedt-test(文献C5より引用)C●おわりに人生C100年時代が到来して,いかに健康寿命を延ばせるかがわが国の課題となっている.緑内障により読書能力が低下し,読み書きを諦めることは認知能力を低下させる要因となり,身体能力にも影響を与える.緑内障患者の読書能力を評価し,ケアにつなげることで,健康寿命の延伸に寄与できる.文献1)ViswanathanCAC,CMcNaughtCAI,CPoinoosawmyCDCetal:CSeverityCandCstabilityCofglaucoma:patientCperceptionCcomparedCwithCobjectiveCmeasurement.CArchCOphthalmolC117:450-454,C19992)藤田京子,湯沢美都子,安田典子:緑内障による中心視野障害と読書成績.日眼会誌110:914-918,C2006C60あたらしい眼科Vol.41,No.1,20241.00文字サイズ(logMAR)図3症例の視野と読書曲線上:HumphreyFieldAnalyzerプログラムC10-2,トータル偏差.下:縦書きと横書きの読書曲線の比較.3)LeggeCGE,CRossCJA,CLuebkerCACetal:PsychophysicsCofCreading.CVIII.CTheCMinnesotaCLow-VisionCReadingCTest.COptomVisSci66:843-853,C19894)IshiiM,SekiM,HarigaiRetal:ReadingperformanceinpatientsCwithCglaucomaCevaluatedCusingCtheCMNREADCcharts.JapJOphthalmolC57:471-474,C20135)石井雅子,福地健郎,張替涼子ほか:緑内障患者の読書評価─CMNREAD-Jによる検討.眼臨紀5:14-20,C2012(60)0.00.20.40.60.81.01.21.4

屈折矯正手術セミナー:職業選択における屈折矯正手術の役割

2024年1月31日 水曜日

●連載◯284監修=稗田牧神谷和孝284.職業選択における屈折矯正手術の役割脇舛耕一バプテスト眼科クリニック視力基準の設定された職業を選択するうえで,眼鏡やコンタクトレンズ装用では物品の準備や破損などにより業務の対応に支障をきたす場合がある.そのような職業では屈折矯正手術により裸眼で安定した視機能が得られれば,業務遂行が術前より改善することが期待できる.C●はじめにわが国では憲法により職業選択の自由が認められている.一方で,安全性,専門性の担保のため,一部の職業では就労・資格取得条件が存在する.眼科領域に関係するものでは,視力や視野,色覚,両眼視機能,眼球運動などの基準設定がある.本稿では,そのうち裸眼視力,矯正視力の基準が設定されている職業と,その選択における屈折矯正手術の役割について解説する.C●視力既定のある職業視力基準が設定されている職業の代表例とその基準値を表1に示す.警察官や消防士,自衛官等の公的職業のほか,パイロットや運転士などの専門性が高い交通機関,騎手や競艇選手などの接触リスクのある職業が含まれる.またこれ以外にも,刑務官やオートレーサー,ボクサーなど,複数の職業で視力基準が設定されている.これら職業の共通点としては,有事での対応が求められることや多数の人命にかかわること,常時外傷の危険性があり随時判断が必要とされることがあげられる.●視力既定のある職業における屈折矯正手術の役割これらの職業では,原則的には眼鏡やコンタクトレンズ装用で既定の視力基準を満たせば資格取得や就労は可能である.しかし,職種によっては眼鏡やコンタクトレンズの破損の危険性が通常より高い状況に遭遇しやすい.また,客室乗務員や騎手,競艇選手などは眼鏡装用での矯正視力は認められていないため,コンタクトレンズ不耐症者では保存的な方法では職業選択が不可能となる.たとえ装用可能者であっても,当直業務や緊急出動要請の対応が必要とされる職業で,就寝状態からすぐに勤務が求められる状況では,コンタクトレンズの装用や準備,携行が業務上の負担や支障となる場合がある.また,パイロットではC6D以上,自衛官ではC8Dを超える近視では就業が不可能となる.屈折矯正手術のメリットは,術後のコンタクトレンズや眼鏡が不要となり,とくに準備や管理を必要とせず勤務に携われることや,規定度数以上の屈折異常にも対応できることである.警察官消防士自衛官パイロット客室乗務員電車運転士海技士海上保安官宇宙飛行士騎手競艇選手表1視力既定のある職業(一部)と基準値裸眼視力が両眼ともC0.6以上,または矯正視力が両眼ともC1.0以上矯正視力が両眼でC0.7以上,片眼で各C0.3以上裸眼視力が両眼ともC0.6以上,または矯正視力が両眼ともC0.8以上(8D以内)裸眼または矯正視力が両眼でC1.0以上,片眼で各C0.7以上(.6.+2D)裸眼またはコンタクトレンズでの矯正視力が両眼ともC1.0以上裸眼または矯正視力が両眼でC1.0以上,片眼で各C0.7以上矯正視力が,両眼ともC0.5以上(航海),両眼でC0.4以上(機関),両眼ともC0.4以上(通信,電子通信)裸眼または矯正視力が片眼で各C0.6以上裸眼または矯正視力が両眼でC1.0以上裸眼またはコンタクトレンズでの矯正視力が両眼でC0.8以上,片眼で各C0.5以上裸眼またはコンタクトレンズでの矯正視力が両眼でC0.8以上(57)あたらしい眼科Vol.41,No.1,2024570910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1Photorefractivekeratectomy(PRK)のシェーマ●当該職業に対する屈折矯正手術の術後成績これらの職業における屈折矯正手術の術後成績が報告されている.米国海軍での屈折矯正手術の報告は以前からなされており,1996年の最初の報告では術C1年後もC30例全例で裸眼視力がC1.0以上であり,グレアやコントラスト感度低下も術後一過性に悪化するも経時的に多くの症例で術前レベルまで回復した1).米国陸軍での屈折矯正手術の効果についても,85%以上で術後裸眼視力C1.0以上が得られ,93%以上で業務の準備が術前より改善したとの報告がある2).欧米だけでなく,アジアでの空軍パイロットへの屈折矯正手術の成績についても,98%以上で術後裸眼視力C1.0以上が得られたとされている3).とくに空軍パイロットは,高度が高く低大気圧,低酸素,低湿度状態で紫外線暴露量が多いなど,前眼部に負荷のかかる環境下での実務となるが,その長期成績についても,術後C4年経過後もC89%以上で術後裸眼視力C1.0以上を維持していたとされる4).C●屈折矯正手術の術式これまでの報告でもっとも選択されている術式はレーザ―屈折矯正角膜切除術(photorefractiveCkeratecto-my:PRK,図1)である.しかし,フェムトセカンドレーザーによるフラップ作製技術の普及に伴い,米国海軍では施行された術式におけるClaser-assistedCinCsituC図2Laser-assistedinsitukeratomileusis(LASIK)のシェーマkeratomileusis(LASIK,図2)の割合が増加傾向にある5).有水晶体眼内レンズについての報告はこれまでにないが,LASIKと同様に有用であると考えられる.しかし,外傷や接触事故の危険性,頻度が高い職種については,合併症の面から従来通りCPRKが望ましい.C●おわりに屈折矯正手術は長期にわたる有効性,安全性が示されており,より精緻な視機能が必要となる職業においても担保可能と考えられる.一方,合併症を避け,良好な術後成績を得るためにも,厳密な手術適応や術式選択の判断が求められる.文献1)SchallhornCSC,CBlantonCCL,CKauppCSECetal:PreliminaryCresultsCofCphotorefractiveCkeratectomyCinCactive-dutyCUnitedStatesNavypersonnel.COphthalmologyC103:5-22,C19962)HammondCMD,CMadiganCWPCJr,CBowerKS:RefractiveCsurgeryCinCtheCUnitedCStatesCArmy,C2000-2003.COphthal-mologyC112:184-190,C20053)SeeB,TanT,ChiaSEetal:PhotorefractivekeratectomyinyoungAsianaviatorswithlow-moderatemyopia.CAviatSpaceEnvironMedC85:25-29,C20144)MoonCH:Four-yearCvisualCoutcomesCafterCphotorefrac-tivekeratectomyinpilotswithlow-moderatemyopia.CBrJOphthalmolC100:253-257,C20165)StanleyCPF,CTanzerCDJ,CSchallhornSC:LaserCrefractiveCsurgeryintheUnitedStatesNavy.CCurrOpinOphthalmolC19:321-324,C200858あたらしい眼科Vol.41,No.1,2024(58)

眼内レンズセミナー:創口熱傷

2024年1月31日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋木澤純也446.創口熱傷岩手医科大学眼科創口熱傷は最新の手術機械ではまれであるが,眼粘弾性物質が超音波チップやハンドピース内に詰まると合併することがある.●はじめに超音波チップ(以下,チップ)は発振すると発熱し,連続発振を続けると高温となったチップの熱により創口部分の蛋白質が熱変性し創口熱傷を合併し,強い角膜不正乱視により,視力が不良となりうる.高頻回パルスモードが使用され,さらにチップの回転や楕円振動の破砕方法では,創口熱傷は硬い核でも非常に少なくなった.しかし,眼粘弾性物質(ophthalmicviscosurgicaldevice:OVD)がチップやハンドピース内で詰まり,創口熱傷を生じることがある.症例報告も含めて創口熱傷について解説する.●創口熱傷とは白内障手術で用いる超音波振動は発熱するため,その熱がチップを経由し創口熱傷を合併することがある.熱による眼組織への影響については,角膜コラーゲンの変性は温度が約39°で生じ,温度が約60°に達すると角膜コラーゲン線維の拘縮を生じて創口熱傷となる.米国とカナダの多施設臨床研究の結果では,創口熱傷の頻度は920,095件の白内障手術の341件(0.037%)であり,縦振動発振よりも楕円振動発振が有意に創口熱傷は少なかったと報告している.また,鈴木は豚眼を用いて,縦振動よりも首振り回転振動や楕円振動では,チップ先端部分の温度上昇が有意に少ないと報告しているので,高頻回パルスモードとこれらの超音波発振を組み合わせることで,現在の白内障手術では創口熱傷は非常に少なくなっている.しかし,超音波発振モードとOVDの違いによるチップの発熱について,吉沢らは凝集型OVD(ヒーロン,AMO社)と,viscoadaptive型OVD(ヒーロンV,AMO社)で豚眼の前房内を全置換し,WHITESTARSIGNATURE(AMO社)を用いて,それぞれのOVDに対して連続発振モードと高速パルスモードで10秒間,超音波発振した際の創口部の温度変化を計測し報告している.ヒーロン群では連続発振で有意に創口部温度上昇(55)を認めたが,創口熱傷を認めなかった.ヒーロンV群では連続発振とパルスモードとも有意な温度上昇を認め,連続発振では5秒で創口温度は約50°,10秒で約60°に温度上昇し創口熱傷が生じたが,パルスモードでは発生しなかったので,パルスモードは熱傷抑制に有効であると報告している.しかし,ヒーロンV群では実験中に前房内灌流が認められず,実験終了後にチップ内に粘弾性物質の閉塞が生じていたので,OVDによる閉塞が創口温度上昇の原因になっていると報告している.筆者らはviscoadaptive型OVDと同様に眼内での滞留性が高いviscousdispersive型OVDを使用した症例において創口熱傷を経験したので,症例報告する.●症例報告症例:78歳,男性.主訴:右眼視力低下.現病歴:右眼の網膜中心静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫があり,抗VEGF療法を繰り返したが黄斑部は萎縮した.右眼硝子体出血を生じ,手術加療目的に当科紹介となった.視力は右眼手動弁(n.c.),左眼1.0(n.c.),眼圧は両眼14mmHgであった.眼科所見は右眼に皮質白内障を認め,眼底は透見不能であった.左眼は皮質白内障以外に特記事項なし.既往歴:前立腺肥大症と高血圧症の内服加療中.家族歴:特記事項なし.治療方針:右眼の硝子体出血に対して白内障手術と顕微鏡下硝子体茎離断術を行う方針となった.手術時所見:右眼の散瞳径は約5mm,OVDはディスコビスク(日本アルコン)を適量使用して前.円形連続切開を行い,hydrodissectionを行った.その際に角膜切開から虹彩脱出し,術中虹彩緊張低下症を合併した.陥頓した虹彩を前房内に戻す際に,ディスコビスクを前房内へ過剰に注入した.低設定の連続発振モード設定でチップを挿入し水晶体の溝堀を開始したが,乳化された水晶体は吸引されず,チップ先端付近は乳化した水晶体により白濁していた(図1).乳化した水晶体を吸引あたらしい眼科Vol.41,No.1,2024550910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1超音波作動直後の手術所見図2超音波作動5秒後の手術チップ先端部に乳化された水晶体所見(…)を認め,前房内の灌流はみら熱変性により切開創の蛋白凝固れない.(…)を生じている.するため超音波連続発振したままで吸引を続けたが,超音波発振から約5秒(図2)で切開創の熱による蛋白凝固が始まり,超音波作動約10秒(図3)で切開創は創口熱傷を合併し創口周囲にも拡大した.超音波作動を約20秒間続け,術者が切開創の異常に気づき,チップを抜いたが切開創の自己閉鎖は得られなかった.創口は10-0ナイロン糸で縫合を行い,創口閉鎖を確認し新たな切開創を作製し(図4),水晶体摘出と眼内レンズ挿入を施行し,硝子体手術を施行した.術翌日は前房内炎症は軽度であり,創口熱傷の切開創からの漏れはなかったが,術後の惹起乱視が11Dとなった.右眼の視力は30cm指数弁(n.c.),眼圧20mmHg,眼底は黄斑部に萎縮を認めた.術後1カ月の右眼視力は30cm指数弁(n.c.),眼圧は17mmHg,角膜乱視は11Dと不変だったが,自覚症状は改善したので,逆紹介となった.●本症例での創口熱傷発症の考察本症例で創口熱傷を生じた理由としては,OVDを前房内に過剰に注入し,灌流液の循環を確認せず,超音波の連続発振を続けたことが原因と考えられる.眼内の滞留性が高いOVDを前房に過剰に注入すると,チップ内にOVDが逆流する.さらに前房内はOVDで充.された状況のままでは,灌流液が前房内を循環しないため,チップ温度は急上昇する.連続発振を続けるほど温度は図3超音波作動10秒後の手術図4切開創縫合後の手術所見所見熱変性による蛋白凝固により切新たな切開創をスリット開創は完全変性し,周囲まで蛋ナイフで作製した.白凝固は拡大している(…).上昇し続け,創口熱傷を合併したと考えられる.●本症例で反省すべきこと眼内滞留性の高いOVDが前房内を過剰に注入している場合は,水晶体上のOVDを少し吸引除去したのち,灌流液が前房内を循環していることを虹彩の動態,水晶体の沈下などにより確認してから超音波作動させることで,創口熱傷は防ぐことができると考える.また,チップ内が閉塞した際は,必ず手術機械が警告音を鳴らす.通常では水晶体の溝堀の際はチップは閉塞させないように操作するので,警告音が鳴らないはずである.しかし,溝堀時に警告音が3秒以上続いた際には,チップ内のOVDや水晶体核による閉塞を疑い,チップを眼外へ出し,吸引口から眼内潅流液をフラッシュし,チップ内部の詰まりを解除するべきと考える.また,破砕吸引モードにおいても,警告音が5秒以上継続し,前房内の灌流動態が悪く,破砕吸引効率が低下している場合はチップ閉塞を疑うべきであると考える.●おわりに眼内滞留性の高いOVDを用いて連続発振で溝堀を行っている場合は,創口熱傷を合併する可能性があるので,灌流動態を確認し,警告音に注意して行う必要があると考える.

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く CLEARについて

2024年1月31日 水曜日

■オフテクス提供■1.CLEARについてはじめにコンタクトレンズ(contactlens:CL)がC1887年に発明されて以降,CLに関する査読を経た学術論文はすでにC19,000以上にも及ぶ.英国コンタクトレンズ協会(BritishCContactCLensAssociation:BCLA)はC2021年にCCLのエビデンスに基づく総説“ContactClensCevi-dence-basedCacademicCreports”(CLEAR)を発表した1).CLEARは,約C100人に及ぶ多くの分野の専門家らが,これまでのCCL研究のエビデンスをもとにレビューを行い,今後の実臨床,製造に関するイノベーション,研究の方向性を示すためにまとめたもので,その内容は表1に示す全C11章にわたっている.本セミナーでは,この叡智の結晶ともよべるCCLEARに日本の眼科医やスタッフが少しでも親しんでいただけるよう,紐解くこととした.しかし,英国と日本との考え方や習慣などの違いや,用語や略語の相違などの点から,日本においては次期尚早,あるいはにわかには受け入れがたいと思われる内容も含まれている.プロセスについてCLEARのプロジェクトでは,CLに関連するトピックが包括的にカバーされるように,専門家からなる複数の作業グループが構成された.各章のサブトピックは各専門家に割り振られ,エビデンスに基づいた臨床的なガイドラインとなるように執筆された.システマティック・レビューについてCLEARではシステマティック・レビュー方式が採用された.これは一定の基準以上の複数の論文からエビデンスを収集し,評価,総合する方法で,個別の研究論文よりも高いエビデンスレベルとされ,ガイドラインの策定に活用されている.CL研究においては,異なる研究デザインや試験方法,被験者の選択などによって,研究の質が異なることがある.一部のCCL研究では,一般的な研究の質が担保されていない研究デザインが用いられている場合がある.土至田宏順天堂大学医学部附属静岡病院眼科松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学,川崎市立多摩病院眼科表1CLEARの目次第C1章CLEARについて第C2章前眼部の解剖学・生理学第C3章CL水濡れ性,洗浄,消毒,相互作用第C4章CLの素材およびデザインによる眼への解剖学的・生理学的影響第C5章CL関連眼光学第C6章オルソケラトロジー第C7章スクレラルレンズ第C8章CLの治療目的装用第C9章CL眼合併症第C10章エビデンスに基づいたCCL装用練習C1第C11章CL技術の未来CL用語についてCLの分野では異なる用語が混在しており,混乱を招く可能性がある.解剖学的用語の一部は,たとえばBowman膜やCDescemet膜は個人名に由来する命名であるが,それらは解剖学用語委員会によってCanteriorClimitinglaminaとCposteriorClimitinglaminaと再定義された.Rigidgaspermeable(RG)レンズという用語は当初,酸素透過性の硬いCCLを,ポリメチルメタクリレート(PMMA)をはじめとする既存の酸素を通さない素材と区別するために用いられるようになった経緯がある.RGは硬いものと解釈され,これがCCL装用時の不快感を引き起こす印象を患者に与えると考えられたことから,最近では単純に「ガス透過性」または「GP」と短縮されるようになった.しかし,現存するCCLはソフトCCL(softCL:SCL)を含め,すべて「酸素透過性」である点に意義を唱える者もいた.そこで「角膜レンズ」という用語への変更をメンバーに問うたところ,62%が賛成し,18%が反対した.反対のおもな理由はCLも角膜に接触しているためとした.CLEARは結局,日本でいうところの酸素透過性ハードCCLに対してはRGという用語を採用した.スクレラルレンズの用語は最近再定義された経緯があったが,CLEARではこれを受け入れ,角膜を超えるサイズのすべてのCRGは「スクレラルレンズ」とよぶこととした.(53)あたらしい眼科Vol.41,No.1,2024C530910-1810/24/\100/頁/JCOPY表2CLEAR提示のコンタクトレンズ分野の一般的な略語リスト略語英名日本名CBAKCBOZR/BOZDCCIECCLDCCLIDECCLPCCDk/tCECPCEDOFCEDTACHEMACHPMCCHVIDCLIPCOFCLWECMGDCMKCMPDSCOrtho-kCPEGCPHMBCPMMACPoLTFCPVACPVPCSICSCSiHyCVPACbenzalkoniumchlorideCbackopticzoneradius/diameterCCornealin.ltrativeeventCcontactlensdiscomfortCcontactlensinduceddryeyeCcontactlens-inducedpapillaryconjunctivitisCoxygenpermeability/transmissibilityCeyecarepractitionerCextendeddepthoffocusCethylenediaminetetraaceticacidC2-hydroxyethylmethacrylateChydroxypropylmethylcelluloseChorizontalvisibleirisdiameterClid-parallelconjunctivalfoldsClidwiperepitheliopathyCmeibomianglanddysfunctionCmicrobialkeratitisCmultipurposedisinfectingsolutionCorthokeratologyCpolyethyleneglycolCpolyhexamethylenebiguanideCpolymethylmethacrylateCpost-lenstear.lmCpolyvinylalcoholCpolyvinylpyrrolidoneCsolutioninducedcornealstainingCsilicone-hydrogelsoftcontactlensCverticalpalpebralaperture塩化ベンザルコニウムレンズ後面曲率半径/直径CL装用による上眼瞼結膜の乳頭結膜炎酸素透過率/透過性拡張焦点深度エチレンジアミン四酢酸C2-ヒドロキシエチルメタクリレートヒドロキシプロピルメチルセルロースマイボーム腺機能不全細菌性角膜炎多目的消毒製剤オルソケラトロジーポリエチレングリコールポリヘキサメチレンビグアニドポリメチルメタクリレートレンズ下の涙液層ポリビニルアルコールポリビニルピロリドンシリコーンヒドロゲルレンズ注:空欄はまだ適切な日本名のないもの.略語について用語の統一を図るためにCCLEARでは略語の使用について検討し,略語は広範に知られている場合や読みやすさを向上させる場合にのみ使用することとした.2語の略語は,略語が表す言葉よりも一般的に使用される場合にのみ採択された.これらの用語リストが今後の著作物で標準的に使用され,新しい眼科医療従事者に用いられることを期待していると綴られた.標準単位および国の略語は,一般的に受け入れられている用語であるため省略された.略語の代表例を表2に示す.ちなみに,これらはあくまでCBCLAによるCCLEARで提示された略語であって,日本眼科学会用語集や日本コンタクトレンズ学会の見解とは相違があるものもあることをお断りしておく.まとめCLEARは全C300頁である.そのすべてを解説するのは到底不可能であるため,本セミナーで取りあげる内容は,筆者が重要と考える主観に基づく構成になるであろう点はご容赦いただきたいが,まずは本セミナーを通じてCCLEARについて知り,これを取っかかりとして興味が湧いた分野の原著に触れるきっかけにしていただければと思う.文献1)WolffsohnCJS,CMorganCPB,CBarnettCMCetal:ContactClensCevidence-basedCacademicreports(CLEAR)C.CContCLensCAnteriorEyeC44:129-131,C2021

写真セミナー:角膜蜂刺傷

2024年1月31日 水曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史藤本優福岡秀記476.角膜蜂刺傷京都府立医科大学眼科学教室図2図1のシェーマ①浮腫・混濁図1初診時前眼部写真角膜中央瞳孔領近傍にCDescemet膜皺襞を伴う浮腫・混濁を認める.図3図1のフルオレセイン画像角膜浮腫に一致した上皮障害を認める.図4最終受診時の前眼部写真角膜浮腫は消失した.(51)あたらしい眼科Vol.41,No.1,2024C510910-1810/24/\100/頁/JCOPY蜂による角膜外傷はこれまで多数報告されており,角膜に対する刺傷と蜂毒によりさまざまな病態を発症することが知られている.受傷すると水疱性角膜症から角膜移植に至る可能性や1),また蜂毒に接触するだけで失明する可能性もあり,適切な処置を行うことが重要である.また,局所だけでなく,全身状態としてアナフィラキシーになっていないかの確認も重要である.既報ではミツバチ・アシナガバチ・スズメバチでの受傷が多く,またこの順に局所反応は強く重篤になりやすいといわれている.ミツバチは刺すとその蜂は死ぬが,アシナガバチとスズメバチは繰り返し刺すことが可能である.とくにスズメバチは針が約C7Cmmあり,また針の先端から毒液を噴射することもできる.その毒液の量も他種の蜂と比べ多いため,刺されていなくても毒液の接触のみで受診が必要となった症例1)も報告されている.どの種類の蜂であっても,刺される部位によっては前房もしくは硝子体内まで毒液が侵入する可能性があり,重篤な状態へと進展しやすい2,3).蜂毒にはヒスタミン・セロトニンなどを含むアミン,疼痛の原因となる蜂毒キニンといった低分子ペプチド,組織破壊にかかわるプロテアーゼなどを含む加水分解酵素など,さまざまな成分が混在している.症状はこれらの成分により引き起こされ,自覚症状として霧視・眼痛・視力低下,他覚所見として結膜充血や,眼内にまで炎症が進行すると前房蓄膿・白内障・虹彩萎縮・ぶどう膜炎などが認められる4).診断は患者の病歴聴取により容易につくることが多い.問診では眼瞼を刺されたか眼球面に刺されたかを確認する.また,毒液の接触のみでも発症するため,刺されていない場合も入念な細隙灯所見の取得が必須である.また蜂の種類によっても予後が変わってくるため,可能なかぎり把握したいところである.治療は保存的治療と外科的治療に分けられる.まず細隙灯下にて針が残存していれば抜去する.眼内に炎症が波及していなければ抗菌点眼とステロイド局所および全身投与による保存的治療で経過をみていくが,前房内にまで蜂毒が波及すると眼内組織を持続的に破壊していき,点眼のみでは炎症を鎮静化することはむずかしいため,可及的速やかに前房洗浄による毒素の除去も組み合わせて施行する.症例はC81歳,男性.近医にて加齢黄斑変性症でフォロー中であった.左眼を蜂に刺されたとのことで近医を受診し,左眼視力低下・眼瞼浮腫・結膜充血・結膜浮腫・Descemet膜皺襞を伴った角膜混濁を認めたため,ガチフロキサシン点眼液C4回/日,ベタメタゾン点眼液0.1%C4回/日,ベタメタゾン眼軟膏C1回/日,セレスタミン配合錠で治療開始となった.翌日再診時には自覚症状は改善していたが,Descemet膜皺襞が悪化していたため,筆者らの病院に紹介受診となった.当院受診時には局所的な角膜浮腫と上皮障害(図1~3)を認めたが,その他の所見は改善傾向であったため投薬は変更することなく継続とし,経過観察の方針とした.3日後再診時には角膜浮腫は消失していたため(図4),近医にてフォローとなった.今回の症例では原因となる蜂はミツバチであり,症状も軽度であったので局所ステロイドのみで改善傾向を示したが,刺された蜂の種類がスズメバチだとわかっている場合や眼内炎症が強い場合は,前房洗浄やステロイドの全身投与を躊躇せずに施行することが重要である.文献1)高望美,千葉桂三,菊池道晴ほか:蜂毒のみで水疱性角膜症と白内障をきたした症例.あたらしい眼科C25:549-552,C20082)三原現,山本裕樹,鷲尾紀章ほか:アシナガバチによる角膜蜂症のC1例.眼科64:291-295,C20223)NowroozzadehCMH,CHamidCA,CBolkheirCACetal:Cornealwaspsting:acasereportandreviewofliterature.CJCurrOphthalmolC31:95-97,C20194)岩見達也,西田保裕,村田豊隆ほか:角膜蜂刺症のC2症例.あたらしい眼科20:1293-1295,C2003