眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋444.虹彩捕獲に対するブロック縫合後の城山朋子松島博之獨協医科大学眼科学教室続発緑内障虹彩捕獲の治療法として,眼内レンズと虹彩間に糸を張るブロック縫合術がある.術後合併症として,縫合糸と虹彩の接触が原因となり,虹彩損傷,色素散布,続発緑内障などを生じることがあるので,術後長期の経過観察が必要である.●はじめに眼内レンズ(intraocularlens:IOL)縫着術やCIOL強膜内固定術の術後合併症として,虹彩捕獲が知られている1,2).虹彩捕獲の治療として,散瞳薬や縮瞳薬を用いた整復,逆瞳孔ブロックを伴う場合はレーザー虹彩切開術や周辺部虹彩切除術,それでも治療に抵抗性の場合はIOL整復術を施行する1~4).近年,KimらがCIOL光学部表面に糸を張ることで虹彩捕獲を予防するブロック縫合術を報告した5).筆者らの病院でも,繰り返す虹彩捕獲に対してブロック縫合術を施行しているが,術後C5年で虹彩損傷,続発緑内障を生じた患者を経験した6).本稿ではブロック縫合術とその合併症について解説する.C●ブロック縫合術(Tram-tracksuture法)ブロック縫合術は虹彩捕獲に対する新しい治療法であり,虹彩とCIOLの間に縫合糸を通すことでCIOLの前方偏位を抑える方法である7).当院では,角膜輪部より3.0Cmm離れた位置で,2時からC9時方向と,4時からC8時方向に向かって,9-0ポリプロピレン糸をC2針通針し,縫合糸の端々を結紮し,強膜内に埋没する方法で施行している.C●症例60歳の男性.2009年に前医にて右眼白内障手術を施行した.2015年C6月に右眼CIOL偏位を認め,手術目的に当院を紹介受診した.同年C7月C16日にCIOL摘出+硝子体切除術+IOL縫着術を施行した.右眼の術後視力はC0.3×IOL(1.2C×IOL×.3.50D(cyl.0.50DCAx170°),眼圧はC12.0CmmHgであった.8月C10日,右眼虹彩捕獲を認め,ピロカルピン塩酸塩点眼で一時整復したが,9月C15日に再度右眼虹彩捕獲を認めたため,9月C17日にブロック縫合術を施行した(図1).右眼の術後視力はC0.07×IOL(1.2C×IOL×.4.00D(cyl.0.50DAx140°),眼圧はC15.0CmmHgで,経過良好のため前医で経過観察(77)となった.その後,海外出張のため通院できず,2019年C8月,前医受診時に前房内セルの増加および眼圧上昇を認めたため,ラタノプロストおよびカルテオロール点眼,ステロイド点眼を開始した.2020年C7月に右眼視力低下と頭痛を自覚したため前医を受診し,右眼虹彩損傷を認めたため当院へ再紹介となった.右眼視力はC0.06C×IOL(0.5C×IOL×.4.00D(cyl.1.00DCAx135°),眼圧は21.0mmHgであり,右眼虹彩下方に虹彩損傷(図2),隅角鏡検査では右眼線維柱帯下方に色素沈着,前眼部光干渉断層撮影ではCIOLと虹彩が接触していること(図3)が確認できた.眼底所見は,視神経乳頭陥凹拡大,Goldmann視野検査で中心暗点を認めた.ブロック縫合糸と一致した位置に虹彩損傷を認めたため,ブロック縫合糸またはCIOLが虹彩と機械的に接触し,虹彩炎,色素散布,虹彩損傷,眼圧上昇,続発緑内障を発症したことが考えられた.治療としてブロック縫合糸の抜去と,IOLの摘出交換強膜内固定術によるCIOL位置矯正を施行した.術後の右眼視力はCVd=0.1×IOL(0.8C×IOL×.1.50D(cyl.2.50DAx160°),眼圧は12.5mmHgであり,視力の悪化はなく眼圧は低下した.また,前眼部光干渉断層撮影では虹彩とCIOLが接触していないことが確認できた(図4).術後C7カ月まで眼圧C15.00CmmHg以下で経過している.C●考察虹彩捕獲は,IOL縫着術やCIOL強膜内固定術の合併症としてあり,その発症率はそれぞれC6.75~36.8%7,8),2.4~8.0%9,10)と報告されている.これらの術式では,IOL.内固定では発生しにくいCIOL傾斜や虹彩捕獲が生じやすい.くり返す虹彩捕獲に対して,手術による侵襲を少なくするためにブロック縫合が効果的であるという報告はあるが,術後長期の報告は少ない.本症例では,IOL縫着後にくり返す虹彩捕獲に対してブロック縫合術を施行したが,術後C5年で虹彩損傷,虹彩炎,続発あたらしい眼科Vol.40,No.11,2023C14470910-1810/23/\100/頁/JCOPY図12015年9月,ブロック縫合術後の前眼部写真点線はブロック縫合糸の位置を示している.2時からC9時方向と,4時からC8時方向に向かって,9-0ポリプロピレン糸をC2針通針し,縫合糸の端々を強膜に結紮している.緑内障を生じた.視力検査結果をみても,ブロック縫合術前後で等価球面度数に変化はなかったので,IOL位置変化による虹彩との接触は考えにくい.ブロック縫合によって虹彩捕獲は予防できたが,日常的な瞳孔運動によって縫合糸と虹彩が長期間にわたって接触したことが原因と考えた.また,下方線維柱帯に色素沈着を認めたことから,色素散布があり続発緑内障を発症したと考えた.今までにブロック縫合術後の虹彩損傷の報告はなく,今回のような術後合併症を生じることは予測が困難であった.術後眼圧上昇,前房内セルの増加や炎症所見を認めた場合は,今回のような合併症発症を予測し,定期的な診察と,必要時には早期にCIOL交換や整復術の準備をすることが望ましいと考える.C●おわりにIOL縫着術,IOL強膜内固定術後は虹彩捕獲を生じるリスクがある.その対処法としてブロック縫合があるが,長期予後は未だに報告が少なく,今回報告した例では術後C5年で虹彩損傷,続発緑内障に至った.IOL摘出よりも侵襲の低い術式ではあるが,虹彩と縫合糸の接触による合併症を考慮し,虹彩と縫合糸,IOL間の距離の確認と,定期的な経過観察が必要と考える.図22020年10月の再紹介時の前眼部写真ブロック縫合,IOL光学部周辺部に一致した虹彩損傷が認められる.図3再紹介時の前眼部光干渉図4ブロック縫合糸の抜去+断層撮影による写真IOL摘出交換強膜内固定虹彩とCIOLの接触とCIOLの傾術後の前眼部光干渉断層斜が認められる.撮影による写真虹彩とCIOLの間に十分な空間が確認できる.文献1)西村哲哉:眼内レンズ強膜縫着術後の逆瞳孔ブロック.あたらしい眼科28:1575-1576,C20112)鄭暁東,五藤智子:眼内レンズ再縫着後瞳孔捕獲に対するCtram-tracksuture法による整復.臨眼C73:201-207,C20193)永田万由美:Marfan症候群の水晶体脱臼に対する水晶体再建術後に虹彩捕獲を繰り返した症例.眼科手術C33:425-429,C20204)木村元貴,津田メイ,西村哲哉ほか:眼内レンズ縫着後の逆瞳孔ブロックにレーザー虹彩切開術を施行したC3例.臨眼64:1341-1346,C20105)KimCSI,CKimK:Tram-trackCsutureCtechniqueCforCpupil-larycaptureofascleral.xatedintraocularlens.CaseRepOphthalmolC7:290-295,C20166)城山朋子,松島博之,永田万由美ほか:虹彩捕獲に対して施行したブロック縫合によって続発緑内障を生じたC1例.CIOL&RS36:98-103,C20227)櫻井寿也,木下太賀,福岡佐知子:眼内レンズ毛様溝縫着術後瞳孔捕獲に対する防止用糸.眼科手術C27:105-107,C20148)下村智恵美,山田知之,野宗研志ほか:眼内レンズ縫着術の原因と予後.臨眼61:1409-1412,C20079)太田俊彦:IOL偏位・脱臼に対する強膜内固定CT-.xationtechniqueとCL-ポケット切開法を併用した整復術.臨眼C73:171-180,C201910)KumerCDA,CAgarwalCA,CPackiyalakshmiCSCetal:CompliC-cationsCandCvisualCoutcomesCafterCgluedCfoldableCintraocu-larClensCimplantationCinCeyesCwithCinadequateCcapsules.CJCataractRefractSurg39:1211-1218,C2013