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眼内レンズ:虹彩捕獲に対するブロック縫合後の続発緑内障

2023年11月30日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋444.虹彩捕獲に対するブロック縫合後の城山朋子松島博之獨協医科大学眼科学教室続発緑内障虹彩捕獲の治療法として,眼内レンズと虹彩間に糸を張るブロック縫合術がある.術後合併症として,縫合糸と虹彩の接触が原因となり,虹彩損傷,色素散布,続発緑内障などを生じることがあるので,術後長期の経過観察が必要である.●はじめに眼内レンズ(intraocularlens:IOL)縫着術やCIOL強膜内固定術の術後合併症として,虹彩捕獲が知られている1,2).虹彩捕獲の治療として,散瞳薬や縮瞳薬を用いた整復,逆瞳孔ブロックを伴う場合はレーザー虹彩切開術や周辺部虹彩切除術,それでも治療に抵抗性の場合はIOL整復術を施行する1~4).近年,KimらがCIOL光学部表面に糸を張ることで虹彩捕獲を予防するブロック縫合術を報告した5).筆者らの病院でも,繰り返す虹彩捕獲に対してブロック縫合術を施行しているが,術後C5年で虹彩損傷,続発緑内障を生じた患者を経験した6).本稿ではブロック縫合術とその合併症について解説する.C●ブロック縫合術(Tram-tracksuture法)ブロック縫合術は虹彩捕獲に対する新しい治療法であり,虹彩とCIOLの間に縫合糸を通すことでCIOLの前方偏位を抑える方法である7).当院では,角膜輪部より3.0Cmm離れた位置で,2時からC9時方向と,4時からC8時方向に向かって,9-0ポリプロピレン糸をC2針通針し,縫合糸の端々を結紮し,強膜内に埋没する方法で施行している.C●症例60歳の男性.2009年に前医にて右眼白内障手術を施行した.2015年C6月に右眼CIOL偏位を認め,手術目的に当院を紹介受診した.同年C7月C16日にCIOL摘出+硝子体切除術+IOL縫着術を施行した.右眼の術後視力はC0.3×IOL(1.2C×IOL×.3.50D(cyl.0.50DCAx170°),眼圧はC12.0CmmHgであった.8月C10日,右眼虹彩捕獲を認め,ピロカルピン塩酸塩点眼で一時整復したが,9月C15日に再度右眼虹彩捕獲を認めたため,9月C17日にブロック縫合術を施行した(図1).右眼の術後視力はC0.07×IOL(1.2C×IOL×.4.00D(cyl.0.50DAx140°),眼圧はC15.0CmmHgで,経過良好のため前医で経過観察(77)となった.その後,海外出張のため通院できず,2019年C8月,前医受診時に前房内セルの増加および眼圧上昇を認めたため,ラタノプロストおよびカルテオロール点眼,ステロイド点眼を開始した.2020年C7月に右眼視力低下と頭痛を自覚したため前医を受診し,右眼虹彩損傷を認めたため当院へ再紹介となった.右眼視力はC0.06C×IOL(0.5C×IOL×.4.00D(cyl.1.00DCAx135°),眼圧は21.0mmHgであり,右眼虹彩下方に虹彩損傷(図2),隅角鏡検査では右眼線維柱帯下方に色素沈着,前眼部光干渉断層撮影ではCIOLと虹彩が接触していること(図3)が確認できた.眼底所見は,視神経乳頭陥凹拡大,Goldmann視野検査で中心暗点を認めた.ブロック縫合糸と一致した位置に虹彩損傷を認めたため,ブロック縫合糸またはCIOLが虹彩と機械的に接触し,虹彩炎,色素散布,虹彩損傷,眼圧上昇,続発緑内障を発症したことが考えられた.治療としてブロック縫合糸の抜去と,IOLの摘出交換強膜内固定術によるCIOL位置矯正を施行した.術後の右眼視力はCVd=0.1×IOL(0.8C×IOL×.1.50D(cyl.2.50DAx160°),眼圧は12.5mmHgであり,視力の悪化はなく眼圧は低下した.また,前眼部光干渉断層撮影では虹彩とCIOLが接触していないことが確認できた(図4).術後C7カ月まで眼圧C15.00CmmHg以下で経過している.C●考察虹彩捕獲は,IOL縫着術やCIOL強膜内固定術の合併症としてあり,その発症率はそれぞれC6.75~36.8%7,8),2.4~8.0%9,10)と報告されている.これらの術式では,IOL.内固定では発生しにくいCIOL傾斜や虹彩捕獲が生じやすい.くり返す虹彩捕獲に対して,手術による侵襲を少なくするためにブロック縫合が効果的であるという報告はあるが,術後長期の報告は少ない.本症例では,IOL縫着後にくり返す虹彩捕獲に対してブロック縫合術を施行したが,術後C5年で虹彩損傷,虹彩炎,続発あたらしい眼科Vol.40,No.11,2023C14470910-1810/23/\100/頁/JCOPY図12015年9月,ブロック縫合術後の前眼部写真点線はブロック縫合糸の位置を示している.2時からC9時方向と,4時からC8時方向に向かって,9-0ポリプロピレン糸をC2針通針し,縫合糸の端々を強膜に結紮している.緑内障を生じた.視力検査結果をみても,ブロック縫合術前後で等価球面度数に変化はなかったので,IOL位置変化による虹彩との接触は考えにくい.ブロック縫合によって虹彩捕獲は予防できたが,日常的な瞳孔運動によって縫合糸と虹彩が長期間にわたって接触したことが原因と考えた.また,下方線維柱帯に色素沈着を認めたことから,色素散布があり続発緑内障を発症したと考えた.今までにブロック縫合術後の虹彩損傷の報告はなく,今回のような術後合併症を生じることは予測が困難であった.術後眼圧上昇,前房内セルの増加や炎症所見を認めた場合は,今回のような合併症発症を予測し,定期的な診察と,必要時には早期にCIOL交換や整復術の準備をすることが望ましいと考える.C●おわりにIOL縫着術,IOL強膜内固定術後は虹彩捕獲を生じるリスクがある.その対処法としてブロック縫合があるが,長期予後は未だに報告が少なく,今回報告した例では術後C5年で虹彩損傷,続発緑内障に至った.IOL摘出よりも侵襲の低い術式ではあるが,虹彩と縫合糸の接触による合併症を考慮し,虹彩と縫合糸,IOL間の距離の確認と,定期的な経過観察が必要と考える.図22020年10月の再紹介時の前眼部写真ブロック縫合,IOL光学部周辺部に一致した虹彩損傷が認められる.図3再紹介時の前眼部光干渉図4ブロック縫合糸の抜去+断層撮影による写真IOL摘出交換強膜内固定虹彩とCIOLの接触とCIOLの傾術後の前眼部光干渉断層斜が認められる.撮影による写真虹彩とCIOLの間に十分な空間が確認できる.文献1)西村哲哉:眼内レンズ強膜縫着術後の逆瞳孔ブロック.あたらしい眼科28:1575-1576,C20112)鄭暁東,五藤智子:眼内レンズ再縫着後瞳孔捕獲に対するCtram-tracksuture法による整復.臨眼C73:201-207,C20193)永田万由美:Marfan症候群の水晶体脱臼に対する水晶体再建術後に虹彩捕獲を繰り返した症例.眼科手術C33:425-429,C20204)木村元貴,津田メイ,西村哲哉ほか:眼内レンズ縫着後の逆瞳孔ブロックにレーザー虹彩切開術を施行したC3例.臨眼64:1341-1346,C20105)KimCSI,CKimK:Tram-trackCsutureCtechniqueCforCpupil-larycaptureofascleral.xatedintraocularlens.CaseRepOphthalmolC7:290-295,C20166)城山朋子,松島博之,永田万由美ほか:虹彩捕獲に対して施行したブロック縫合によって続発緑内障を生じたC1例.CIOL&RS36:98-103,C20227)櫻井寿也,木下太賀,福岡佐知子:眼内レンズ毛様溝縫着術後瞳孔捕獲に対する防止用糸.眼科手術C27:105-107,C20148)下村智恵美,山田知之,野宗研志ほか:眼内レンズ縫着術の原因と予後.臨眼61:1409-1412,C20079)太田俊彦:IOL偏位・脱臼に対する強膜内固定CT-.xationtechniqueとCL-ポケット切開法を併用した整復術.臨眼C73:171-180,C201910)KumerCDA,CAgarwalCA,CPackiyalakshmiCSCetal:CompliC-cationsCandCvisualCoutcomesCafterCgluedCfoldableCintraocu-larClensCimplantationCinCeyesCwithCinadequateCcapsules.CJCataractRefractSurg39:1211-1218,C2013

写真:内頸動脈海綿静脈洞瘻による眼症状

2023年11月30日 木曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史474.内頸動脈海綿静脈洞瘻による眼症状河野泰己北澤耕司京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ結膜血管の怒張図1前眼部所見右眼結膜に角膜輪部まで先細りのない特徴的な結膜血管の怒張を認める.図51カ月後の前眼部所見症状発生よりC1カ月で結膜充血を含む眼症状は改善した.図3MRI右上眼静脈の拡張を認める.図4MRA海綿静脈洞右側にC.owの流入を認める.(75)あたらしい眼科Vol.40,No.11,2023C14450910-1810/23/\100/頁/JCOPY症例は79歳の女性で,右眼の充血を主訴に前医を受診した.右眼に0.1%フルオロメトロン4回/日および1.5%レボフロキサシン4回/日にて治療を開始したが,1カ月経過しても改善しないため当院紹介となった.当院初診時,右眼結膜血管の特徴的な怒張を認めた(図1,2).右視力はC0.5であり,眼圧はC31.3mmHgと高値であった.眼底に異常所見は認めなかった.頭蓋内の病変を疑い,MRI・MRA検査を施行した.MRI検査にて上眼静脈の拡張・右眼球突出を認め(図3),MRA検査にて海綿静脈洞に流入する高信号(.ow)を認めた(図4).以上の所見より内頸動脈海綿静脈洞瘻(carotid-cavernous.stula:CCF)を疑い,脳神経外科精査および加療目的に入院となった.選択的頸動脈血管造影検査を施行し,右内頸動脈の硬膜枝から海綿静脈洞へのシャントを認めたため,CCF(間接型)の確定診断に至った.入院後,眼科では右眼高眼圧に対してC0.5%チモロールマレイン酸C2回/日による治療を開始した.入院C1カ月後には右視力はC0.8改善し,右眼眼圧も9.0CmmHgまで下降した(図5).MRA検査でも上眼静脈に逆流する血液は減少し,結膜充血および眼球突出の症状は改善したため退院となった.CCFは,1809年にCBenjaminTraversらにより脈動する眼球外症として初めて報告された疾患概念であり,内頸動脈本幹あるいは内・外頸動脈の硬膜枝などから海綿静脈洞へ血流の短絡が生じる疾患である.本疾患は直接型と間接型に分類される.直接型は海綿静脈洞と内頸動脈が直接的に交通したものであり,外傷により発生することがほとんどである.間接型は海綿静脈洞と内頸動脈の硬膜枝や動脈瘤などが交通したものであり,硬膜動静脈瘻や動脈瘤の破裂などが原因とされている.一般的に間接型の発生頻度が高く,CCF全体のC83%といわれているが,直接型は交通する血液量が多いため,症状がより重篤化しやすい.確定診断には選択的頸動脈血管造影検査が必要であり,検査所見より直接型と間接型を分類することができる.CCFの古典的C3主徴は眼球突出,結膜血管の怒張,拍動性雑音だが,ほかにも眼痛,頭痛,眼圧上昇,眼球運動障害などが出現する場合もある.これらの症状は内頸動脈から海綿静脈洞に流入した血液が,静脈に逆流することにより生じる.逆流がみられる静脈には,上眼静脈および上・下垂体静脈があげられ,逆流する静脈により前方型,後方型に分類される.上眼静脈への逆流は前方型といわれ,拡張した上眼静脈の圧迫により眼球突出,結膜血管の怒張,眼痛,高眼圧および神経圧迫による眼球運動障害や顔面神経麻痺などが認められる.上・下垂体静脈への逆流は後方型といわれ,拍動性雑音,頭痛,複視などが認められる.鑑別疾患には,眼球突出を呈する甲状腺眼症,頭痛・動眼神経麻痺を呈する内頸動脈後交通動脈瘤や虚血性視神経炎,閉塞隅角緑内障などがあげられる.治療は直接型と間接型で異なり,直接型は血管内治療によるコイルや塞栓剤を用いた瘻孔閉鎖が選択される.間接型は逆流する血液量が少なく,症状が軽度であれば経過観察での瘻孔の自然閉鎖が期待できるが,症状が重度である場合や難治性の場合には血管内治療や放射線治療が選択される.高眼圧に対しては,Cb遮断薬や炭酸脱水酵素阻害薬などによる点眼治療を行う.CCFの確定診断,根治的治療は脳神経外科でなされることがほとんどであるが,初期症状が眼に出現する場合があるため,初診時に眼科を受診する患者も少なくない.そのため眼科医としては,特徴的な眼所見から本疾患を疑い,適切な検査と紹介を行ったうえで,高眼圧や複視などの眼症状に対して適切な治療とフォローアップをする必要がある.文献1).meloJ:Carotid-cavernousC.stulaCfromCtheCperspectiveCofCanCophthalmologist.CACreview.CCeskCSlovCOftalmolC2020:1-8,C20202)HendersonCAD,CMillerNR:Carotid-cavernous.stula:CcurrentCconceptsCinCaetiology,Cinvestigation,CandCmanage-ment.Eye(London)C32:164-172,C20183)GemmeteCJJ,CAnsariCSA,CGandhiDM:EndovascularCtech-niquesCforCtreatmentCofCcarotid-cavernousC.stula,CJCNeur-oophthalmol29:62-71,C2009

複視のある斜視の手術治療

2023年11月30日 木曜日

複視のある斜視の手術治療SurgicalTreatmentofStrabismuswithDiplopia太根ゆさ*はじめに複視を伴う斜視に対しては,整容的改善目的に加えて,整容的には気にならなくとも自覚症状軽減のための機能的改善目的で手術が行われる.自然軽快が期待できるものについてはまず経過観察を行う.また非観血的治療として,斜視角によってはプリズム装用が有用であり,近年はボツリヌス毒素による治療も増えてきている.しかし,経過観察しても改善が得られない患者,非観血的治療では対応できない患者については,手術治療を検討する.本稿では,複視を伴う斜視に対する観血的手術治療のタイミング,その術式選択や術量決定などについて,帝京大学医学部附属病院眼科(以下,当科)における上下回旋斜視治療を中心に,解説する.I手術の検討の前に1.原因はなにか先天斜視や幼少からの間欠性外斜視などで抑制がかかっている,あるいは対応がなく交代視をしている斜視などを除き,多くの後天斜視が複視を自覚する.急性発症の複視であれば,原因検索を第一に考える.眼球運動制限があれば頭蓋内疾患の有無の確認のため,頭部MRIやCTを施行するが,頭蓋内疾患のほかに,甲状腺眼症,眼窩筋炎などの筋原性斜視,強度近視性斜視やsaggingeyesyndromeといったpulleyの異常により生じる機械的斜視などについても合わせて鑑別できるよう,可能であれば冠状断スライスもオーダーする.また,複視の自覚が変動したり,受診時ごとに異なる斜視角を示したりする場合は重症筋無力症も疑う.原因となる疾患が明らかであれば,その疾患についてのフォローや加療が優先され,疾患の病状が落ち着くまでは経過観察となる.麻痺性斜視では,血管性や外傷性麻痺の場合は自然軽快の可能性が高く,自然軽快する患者では3カ月以内に回復が始まる.したがって,少なくとも発症後半年は経過をみてから手術を検討することを患者に説明し,1~2カ月ごとに経過をみる.徐々によくなっていく場合は,さらに経過観察をする.半年過ぎても一向に改善の兆しがみられない患者や,3カ月以上変動がないものに対して手術を検討する1).2.非観血的治療が可能か斜視角が小さければ,まずはプリズム眼鏡で複視の改善を試みる.また,A型ボツリヌス毒素注射による治療で眼位の改善が得られる場合があり,詳細は他項に譲る.これらの非観血的治療で複視の改善が得られない,あるいは対応できなくなった場合に,手術を検討する.回旋斜視は外見上わかりにくいため,上下斜視に回旋が伴っていても,その存在に気づかず上下斜視に対するプリズム眼鏡を作製すると,装用困難で対応できない場合がある.現時点でプリズム眼鏡では回旋を治すことはできず,患者の「何かずれる」「傾く」という訴えがあ*YusaTane:帝京大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕太根ゆさ:〒173-8605東京都板橋区加賀2-11-1帝京大学医学部眼科学講座0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(67)1437表1帝京大学医学部附属病院眼科における斜視手術の基本方針ab図1術中量定(仮縫合後の眼位確認)a:ペンライトをかざしてcoveruncoverしている.b:天井の視標をみているところ.屈折異常があれば矯正眼鏡をあてがう.c:Cyclophorometerを用いた回旋の確認.眼前に吊るしたペンライトの光を固視する.外直筋内直筋外直筋Tillauxの螺旋内直筋下直筋外直筋図3右眼下直筋後転鼻側移動の例後転はTillauxの螺旋に沿って行う.==図4Cyclophorometer赤はBagolini線条レンズ,緑はMaddoxrodが入っている.眼前に光指標を呈示すると2本の線が見える.Maddoxrodに連動したダイヤルを操作し,2本が平行になる角度を測定する.赤の固視眼では中心に光指標が見えるので固視が安定し,むき眼位での回旋測定も可能である.右下の顔写真は,日常診療において測定しているところ.bLFa左右-7-9-2R/L11R/L16R/L18IN7IN2-5-6-2R/L5R/L15R/L21IN7IN5-7R/L5IN11-8R/L14IN9-1R/L22IN2図5症例1:右眼下直筋短縮8mm+前転2mma:術前の9方向むき眼位.右眼外下転の制限を認める.b:術前の大型弱視鏡による9方向むき眼位.左眼固視にて右下方で上下偏位最大,左下方で内方回旋最大となっている.c:術後眼位(2週間).眼位は正位.a1b1a2b2RFRFa3RFb3左右LF+9+9+4L/R3L/R3L/R4EX4EX3EX5+7+6+4L/R4L/R4L/R7EX8EX7EX9+9L/R2EX11+11L/R4EX8+7L/R7EX10c図6症例2:右眼下直筋後転6mm+1.25筋幅鼻側移動⇒右眼下斜筋切除術a1:1回目術前眼位(通常左固視).a2:1回目術前9方向むき眼位(右固視).両眼下斜筋過動は明らかでない.内下転も左右差ないようにみえる.a3:1回目術前の大型弱視鏡による9方向むき眼位.右眼固視にて,右下方で上下偏位最大,左下方で外方回旋最大となっている.b1:2回目術前眼位(左固視で右上斜視に逆転).b2:2回目術前9方向むき眼位:1回目との比較で,右眼固視にて右下斜筋過動と内下転制限がみられている.b3:2回目術前9方向むき眼位.左眼眼固視にて,さらに右下斜筋過動と内下転制限が著明.c:2回目術後眼位(3カ月).眼位は正位.abc図7症例3:右眼下斜筋ミエクトミーa:術前の9方向むき眼位.右眼下斜筋過動を認める.b:術前眼底カメラ写真.両眼とも回旋偏位はみられない.c:術後眼位(3カ月).c1:正面,眼位は正位.c2:左上方視.右下斜筋過動は改善.

共同性斜視,麻痺性斜視に対するボツリヌス治療の実際

2023年11月30日 木曜日

共同性斜視,麻痺性斜視に対するボツリヌス治療の実際TheActualPracticeofBotulinumToxinTherapyforStrabismus宇井牧子*はじめに後天的に発症した斜視では,幼少期からの斜視と異なり抑制が形成されないため,患者は複視に悩まされる.複視の症状は機能面だけでなく,患者の心理面にも影響を与える可能性があり,可能な限り早期の解決が望ましい.このような複視に対する従来の治療法はおもにプリズム眼鏡や手術であったが,2015年にわが国で斜視に対するCA型ボツリヌス毒素(botulinumtoxintype-A:BTX-A)注射が保険適用となり,治療の選択肢が増えた.一方で,BTX-A療法だけですべての斜視が解決するわけではない.本稿では,BTX-A療法の適応と実際の方法について述べる.CIA型ボツリヌス毒素とはBTX-Aはボツリヌス菌が産生する神経毒素の一種である.神経筋接合部でのアセチルコリン放出阻害によって神経筋伝達を阻害することで,筋の不全麻痺を起こし,筋の収縮力が減弱する.広い分野で多岐にわたる治療に用いられているが,ボツリヌス毒素の医療製剤としての開発は,1980年に米国の眼科医CAlanScott博士が斜視へ臨床使用したことから始まった1).外眼筋にCBTX-Aを注射することで,外眼筋の収縮力を減弱させ,斜視手術における筋の弱化・後転術に似た効果が得られる.効果は注射翌日.数日後から現れ,3.4カ月後に神経末端より別の発芽が生じて収縮力は回復する.ただし,筋線維の細い外眼筋においてはBTX-A注射によって同部位に萎縮や線維化といった不可逆的な変化が認められるとする報告もあり2),投与を繰り返すと眼位に残存効果が認められるようになる.C1.適応わが国においてC12歳以上のすべての斜視に保険適用となっている.海外では,乳児内斜視を含む小児の共同性斜視への有効性が明らかにされている3,4)が,わが国では小児に対しての使用が認可されていない.わが国におけるよい適応は,急性後天性共同性内斜視,急性期外転神経麻痺,甲状腺眼症といった後天的な斜視である.三村らの報告によると,前述の斜視に対して,反復注射や手術なしで斜位化に至った例はC51.83%であった5).自験例においても,BTX-A注射を行った後天性内斜視のC100例中C67例(67.0%),外転神経麻痺のC7例中C6例(85.7%),甲状腺眼症のC4例中C2例(50.0%)において,最終注射からC6カ月以上経過した時点で複視のない良好な状態が得られていた6).手術療法に比べ圧倒的に侵襲が少なく,発症早期に治療介入できるCBTX-A療法は,後天発症で複視があり,早期改善を望む斜視患者にこそ,もっとも試みる価値がある.大角度の斜視に対する後転術との併用療法も有効である7,8).大角度を呈する甲状腺眼症や麻痺性斜視では,後転筋にCBTX-Aを注射することによって弱化効果を増大させ,多数筋の手術や筋移動術を回避できる可能性がある.*MakikoUi:CS眼科クリニック〔別刷請求先〕宇井牧子:〒113-0033東京都文京区本郷C3-15-1美工本郷ビルC5F・8FCS眼科クリニックC0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(61)C1431幼少期から認められる間欠性外斜視,内斜視や,慢性期の麻痺性斜視に対しては,BTX-A注射は一時的な効果を示すにすぎず,反復注射や手術が必要となることが多い.三村らによると,BTX-A注射を行った慢性期麻痺性斜視ではC95.5%で手術治療を要したとされている5).しかし,幼少期からの斜視であるが手術に抵抗がある患者では,BTX-A注射によって斜視角が減少し,斜位の維持が良好となるため,定期的に注射を希望するケースもある.C2.合併症BTX-A療法の欠点は,定量性に乏しく効果にばらつきがあることと,注射後の一過性眼瞼下垂や一過性上斜視といった合併症発現の可能性である.眼瞼下垂は薬液が上眼瞼挙筋に,上斜視は薬液が下直筋に波及することで起こるが,通常C1カ月程度で回復する.既報によるとBTX-A注射後の合併症発現率はC22.55%に及ぶが,重篤なものはなく,永続したものはなかった3,4,6,9).自験例では,斜視に対するCBTX-A注射後に合併症の有無を確認できたC199例中,合併症をC66例(33.2%)に認め,眼瞼下垂がC46例(23.1%),上斜視がC31例(15.6%)であった6).しかし,すべて一過性であり,1カ月程度で改善した.CII注射の実際1.医師の資格斜視へのCBTX-A使用は日本眼科学会認定眼科専門医に限定されており,本療法の講習実技セミナーの受講が必須である.加えて,注射を行う医師は斜視について十分な知識・経験を有しており,50筋以上の斜視手術経験が必要とされている10).自験例においては,BTX-A注射を行った斜視症例C203例中C22例(16.7%)で手術に至っていた6).BTX-A注射を施行する医師は,手術の選択肢ももっておく必要がある.C2.対象となる外眼筋BTX-A注射が可能な外眼筋は,内直筋,外直筋,下直筋,下斜筋である.上直筋への注射は眼瞼下垂が必発のため,行わないほうがよい.解剖学的に上斜筋への注射は困難である.内斜視に対しては内直筋に,外斜視に対しては外直筋に注射する.2019年に報告したように11),斜視眼へのBTX-A注射によって注射後一過性の異常頭位を呈した例を複数経験したため,筆者は共同性の水平斜視に対しては原則的に固視眼(非斜視眼)への注射としている.注射後の合併症として一過性上斜視をきたすことがあるため,内斜視・外斜視に上下偏位を合併している場合は,固視眼・非固視眼にかかわらず下斜視眼側の内直筋・外直筋に注射を行っている.麻痺性の内斜視(外転神経麻痺)・外斜視(動眼神経不全麻痺)に対しては,麻痺眼に注射する.上下斜視に対しては,前述のとおり上直筋には注射が適さないため,病型にかかわらず下斜視眼の下直筋に注射する.手技的に高度な活用法であるが,後天性滑車神経麻痺などの回旋性複視の患者に対し,下斜筋へのCBTX-A注射も有効である.その場合は上斜視眼側の下斜筋に注射を行うが,下直筋に効果が波及して上斜視が悪化する可能性に留意しなければならない.C3.投与量筆者は共同性水平斜視の場合,初回は斜視角がC20CΔより小さければC1.25単位,20.40CΔであればC2.5単位,C45Δ以上であれば総量でC5.0単位を投与の目安とし,甲状腺眼症でない上下斜視の場合は,下直筋にC2.5単位を基本としている.初回投与への反応をみて,必要であればC4週間後以降に追加投与を検討する.一つの筋への投与量が多いと,合併症が出やすい6).したがって,斜視角が大きく,上下偏位を合併していない共同性内斜視・外斜視の場合は,筆者は両眼の内直筋・外直筋へ注射を行っている(一眼あたりC2.5単位ずつなど).甲状腺眼症で肥大している筋に注射を行う場合は,斜視角によらず初回からC5.0単位を注射することが多い.投与量の決定は施術者の経験に頼る部分があり,経験を重ねても反応には個人差が大きい.しかし,過矯正になったとしても一過性であり,重篤な合併症は起こらない.1432あたらしい眼科Vol.40,No.11,2023(62)図1注射の必要物品と注射の様子a:ツベルクリンシリンジには投与したい量だけを入れておき,全量注射する.b:左眼の内直筋に注射をしているところ.患者にはまっすぐ天井を見させ,電極兼注入針をベベルダウンで垂直に,筋肉の走行に沿って刺入する.ab図2急性後天性共同性内斜視(症例1)a:注射前.20CΔ内斜視を認めた.右眼固視で左眼に外転抑制を認めた.b:注射C1週間後.右内直筋CBTX-A2.5単位注射後,眼位はC4CΔ外斜位となり複視は消失した.ab図3右外転神経麻痺(症例2)a:注射前.35CΔ内斜視を認めた.右眼は正中までの外転制限を認めた.Cb:右内直筋CBTX-A2.5単位注射後C1カ月,眼位は正位となり,右眼の外転制限もなくなった.

複視のある斜視の非観血的治療

2023年11月30日 木曜日

複視のある斜視の非観血的治療Non-SurgicalTreatmentofStrabismuswithDiplopia─PrismorOcclusionTherapyforStrabismuswithDiplopia臼井千惠*はじめに本特集で扱う病的複視(以下,複視)は,網膜対応や複視の間隔(以下,複像間距離)からそれぞれ以下に分類される1).1)網膜対応による分類は,・調和性複視:網膜対応が正常であり,斜視角の大きさと複像間距離が一致している.・不調和性複視:斜視角と複像間距離が一致しない複視で,網膜異常対応のときにみられる.・背理性複視.不調和性複視の特殊なもので,網膜異常対応に基づいて起こる.2)複像間距離による分類・共同性複視:各むき眼位で複像間距離が同じであるもの.共同性斜視にみられる.・非共同性複視:各むき眼位によって複像間距離が異なるもの.麻痺性斜視にみられる.斜視に伴う複視の非観血的治療にはプリズム療法,遮閉療法,視能訓練およびボツリヌス治療がある2)が,本稿では調和性で共同性または非共同性複視へのプリズム療法と,プリズム療法がむずかしい場合の遮閉療法について解説する.Iプリズム療法複視のプリズム療法はプリズム眼鏡を装用することで行われる3).プリズム眼鏡は,原則として患者が正面視で自覚する複視を軽快あるいは消失させる目的で処方され,とくに以下のような場合に有用である.1)斜視角が小さく,手術の適応にならないとき.2)斜視角に変化が生じる可能性が予想されるとき.3)観血的治療(以下,手術)を受けるまでの複視対策.4)手術を望まないときの複視対策である.一方,プリズムには収差があり,複像間距離が大きい場合は,複視を消失させるプリズムの収差が原因で,眼鏡装用が不可能になることがある.複視は自覚的所見であるが,眼鏡の装用感も自覚的な感覚であるため,たとえプリズムで複視を消失させることが可能であっても,患者が複視の苦痛よりプリズム眼鏡の装用感の悪さを重要視してプリズム療法を選択しないことがあり,この場合は遮閉療法(後述)を試みる.1.プリズムの基礎知識プリズムは,入射面から入り放射面から出る光線を常に基底(base)方向に屈折させる.入射光線を延長させた直線と放射面で屈折された光線の成す角を偏角(devi-ationangle)とよび,偏角の大きさをプリズム度数としてプリズムジオプトリー(prismdiopter,単位記号Δ)で表す(図13)).1Δとは入射面から入った光線を1m先で基底方向に1cm偏角させるプリズムであると定義され,次式の関係がある4).1Δ=100×0.01(m)/1(m)偏角i°=arctan(0.01(m)/1(m))≒0.57°*ChieUsui:帝京大学医療技術学部視能矯正学科〔別刷請求先〕臼井千惠:〒173-8605東京都板橋区加賀2-11-1帝京大学医療技術学部視能矯正学科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(51)1421頂角a°頂角a°b(cm)基底(base)図1プリズムの構造と屈折作用プリズムによる光線の偏角iは頂角aとプリズム屈折率nから次式で求める.i=a(n-1)臨床で用いるプラスチック製プリズムの屈折率は約1.5であるため,i=0.5a,すなわち頂角aの1/2が偏角iとなる.さらに,入射面から入った光線をam先でbcm偏角させるPΔおよびi°は次式で求める.PΔ=100×b(m)/a(m)i°=arctan[b(m)/a(m)]なお,図のように光線が入射面に垂直に入射するプリズムの位置をプレンティスポジション(prenticeposition)とよぶ.(文献3より改変引用)基底(base)矯正する対象プリズムの基底(両眼に分けて装用する場合)眼鏡処方箋の記入水平斜視内斜視(内斜位)外方(baseout)右眼:基底外方(baseout)左眼:基底外方(baseout)外斜視(外斜位)内方(basein)右眼:基底内方(basein)左眼:基底内方(basein)垂直斜視右眼上斜視RL下方(basedown)右眼:基底下方(basedown)左眼:基底上方(baseup)右眼下斜視RL上方(baseup)右眼:基底上方(baseup)左眼:基底下方(basedown)図2a水平・垂直斜視のプリズム基底方向(検者からみた場合)プリズムを両眼に分けて装用する場合を想定した眼位別の基底方向を示す.ただし,以下のような例外もある.麻痺性斜視:麻痺眼のみにプリズムを装用したり,左右眼に分ける場合も麻痺眼に強い度数を装用する.共同性斜視だが優位眼が明確な場合:非優位眼(斜視眼)を主体にプリズムを装用する.(文献3より改変引用)矯正する対象プリズムの基底(両眼に分けて装用する場合)眼鏡処方箋の記入水平斜視+垂直斜視例)外斜視右眼上斜視方法1右眼で垂直斜視矯正RL左眼で水平斜視矯正右眼:基底下方(basedown)左眼:基底内方(basein)方法2右眼で垂直・水平斜視矯正L左眼で水平斜視矯正(補足)R右眼:基底内下方(275-355°)左眼:基底外方(basein)方法3L両眼で垂直・水平斜視矯正R右眼:基底内下方(275-355°)左眼:基底内上方(95-175°)例)内斜視右眼上斜視方法1右眼で垂直斜視矯正RL左眼で水平斜視矯正右眼:基底下方(basedown)左眼:基底外方(baseout)方法2右眼で垂直・水平斜視矯正RL左眼で水平斜視矯正(補足)右眼:基底外下方(185-265°)左眼:基底外方(baseout)方法3RL両眼で垂直・水平斜視矯正右眼:基底外下方(185-265°)左眼:基底外上方(5-85°)図2b水平斜視と垂直斜視が合併する場合のプリズム基底方向(検者からみた場合)水平斜視と上下斜視が合併する場合のプリズム基底方向の組み合わせを,上段に水平斜視が外斜視,下段に内斜視の場合でそれぞれ示す.垂直斜視が合併しても外斜視は基底内方(basein),内斜視は基底外方(baseout)で基本的な方向性は変わらない.方法1:水平と垂直の斜視角が近似しない場合は,一眼に水平,他眼に垂直のプリズムを装用する.方法2:水平斜視角を2分して,一方を垂直斜視角と近似させて1枚の合成プリズムとし,基底を斜め方向に装用する.残りの水平斜視角矯正分のプリズムを他眼に装用する.方法3:水平斜視角と垂直斜視角が近似している場合は1枚の合成プリズムとし,それを2等分して等量を各眼に基底を斜め方向に装用する.【実際例】内斜視,右上斜視に由来する複視を8Δ基底外方,垂直5Δ基底下方のプリズムで矯正した.方法1:右眼に5Δ基底下方,左眼に8Δ基底外方に装用する.方法2:垂直斜視角5Δに合わせて水平斜視角8Δを5Δと3Δに分け,水平・垂直5Δの合成プリズム7Δを右眼に225°,水平の残り3Δを左眼に基底外方に入れる.方法3:水平斜視角8Δを左右5Δと3Δに,垂直斜視角5Δを3Δと2Δにそれぞれ分け,右眼に水平・垂直3Δの合成プリズム4Δを225°,左眼に水平5Δ・垂直2Δの合成プリズム5Δを20°に入れる.実際には,方法1は左眼のプリズムを特別注文の組み込みレンズか膜プリズムにするが,左右眼のプリズムの基底方向が大きく異なるため良好な装用感は得られない可能性が高い.方法2は右眼のプリズムを特別注文の組み込みレンズか膜プリズムにし,左眼は組み込みレンズにすることになる.外見は両眼組み込みレンズがよく,価格的には右眼膜プリズムの選択が安価になる.方法3は左右眼のΔが近似し,既製品の組み込みレンズが対応可能な度数のため,最も理想的なプリズム眼鏡になると思われる.なお,合成プリズム度数は計算時に小数点以下を切り捨てるため実際の計算値より低矯正となり,自覚的に複視が残存する可能性がある.その場合は微調整を行う.==上方上方右(baseup)(baseup)左外上方外上方95~175°5~85°外方外方(baseout)(baseout)180°0°外下方外下方185~265°下方下方275~355°(basedown)(basedown)270°270°図3検眼枠の乱視軸とプリズム基底との関係プリズム基底方向と検眼枠の乱視軸との関係を示す(基底方向を全て360°で表記することを推奨する意見もある).斜めの基底は,水平斜視と垂直斜視が合併し,それぞれを矯正するプリズムを合成して1枚のプリズムで矯正するときの基底方向となり,角度(°)で表す.1/2D1D2D3D4D6D図4眼鏡処方に用いる組み込みプリズムレンズ検眼レンズセットの組み込みプリズムトライアルレンズ各種.度数が増えると基底方向の厚さが増し,レンズによる収差が強くなる.厚いほうが基底方向(図中央下では黒線方向).装用練習では,トライアルレンズは検眼枠のもっとも眼に近いところに挿入する.膜プリズム断面(拡大図)前眼部側レンズ側平らな面をレンズに貼りつける軟質のポリ塩化ビニル35D10D膜プリズムトライアルレンズ検眼枠にはもっとも眼に近い場所に挿入する図5眼鏡処方に用いる膜プリズム柔らかいシート状のプリズムで,片面に幅の狭いプリズムが帯状に並び,反対面は平面になっている.平面側を眼鏡レンズの内側に貼る.右下は眼鏡の左レンズに膜プリズムを装用した時の外見.帯の幅はプリズム度数が強くなるほど細かくなる(図中央上,右10Δ,左35Δ).装用練習に用いる膜プリズムトライアルレンズは検眼枠のもっとも眼に近いところに挿入する.左レンズに膜プリズム装着検討には患者の融像幅による融像域を考慮する.5.症例別にみるプリズム治療a.麻痺性斜視による複視原則として正面視の水平・垂直複視の軽減や消失を目的に処方を行う(回旋複視はプリズムでは矯正できない).眼筋麻痺では麻痺筋の作用方向で複視が増悪するが,すべての方向で複視を消失させることはできない.ただし,融像幅の狭い垂直斜視角をプリズムで矯正すると水平・回旋の融像が容易になり,水平斜視角も実測値より弱いプリズム度数で複視を矯正できることがある.また,正面視の複視を矯正すると,むき眼位の複視や代償性頭位異常が軽減することもある.開散麻痺ではおもに遠見で同側性複視を自覚するため,遠見の複視を矯正すると近見で交差性複視が出現する可能性がある.患者の融像幅を考慮し,近見で複視が出現せず,遠見の複視も軽快できるプリズム度数を検討する.症例1:60代,男性.右眼上斜筋麻痺.主訴:5年前からのおもに近見での上下・回旋複視と遠見での奥行き感の喪失.所見:眼位は右眼上斜視で,左眼固視による大型弱視鏡検査では正面視+3°R/L1.5°外方回旋8°で,融像域は正面視で上下・回旋偏位を矯正すれば.2.+19°であった.対応:正面視での右眼上斜視(R/L1.5°)に対して,右眼2Δ基底下方(基底270°),左眼2Δ基底上方(基底90°)を装用したところ,上下・回旋複視が軽快し,遠見の奥行き感も改善したため,累進屈折力レンズによる遠近プリズム眼鏡(後述)を作製した.症例2:40代,男性.開散麻痺.主訴:1年前からの遠見での同側性複視.所見:眼球運動検査で各むき眼位に運動制限を認めず,遠近プリズム遮閉試験では遠見30Δ,近見6Δであった.大型弱視鏡による融像幅は.8.+29°であったが融像域は+4.+43°と開散方向の融像幅でも眼位が0°に達しなかった.対応:融像域の開散側を0°にする目的で,患者の自覚を重視しながら各眼5Δ基底外方(合計10Δ,右眼基底180°,左眼基底0°)のプリズム眼鏡を装用したところ,遠見で複視を自覚する頻度が減少した.手術希望があり,プリズム眼鏡は手術までの複視対策として装用することになった.b.間欠性外斜視による複視(眼精疲労)外斜視が顕性化する頻度を減少させ,斜位の状態に保つ目的で処方を行う.患者の融像幅を考慮し,輻湊を補助する弱いプリズム度数で矯正することが多いが,輻湊不全があり筋性眼精疲労が起きている場合は眼位を完全矯正する度数を選択したほうがよいことがある.症例3:10代,女性.主訴:ときどき自覚する遠見での複視.所見:20Δの間欠性外斜視があり,輻湊良好で,大型弱視鏡検査による融像域は.11.+30°であった.対応:手術を希望しないため,両眼に3Δ基底内方(合計6Δ,右眼基底0°,左眼基底180°)のプリズム眼鏡を装用したところ,斜位の頻度が増え,遠見での複視も消失した.症例4:30代,男性.主訴:PC作業が主体の仕事で,夕方以降に出現する複視で歩くのも躊躇するほどつらい.所見:遠見12Δ,近見30Δの間欠性外斜視だが輻湊は良好で,融像幅は開散側10Δ,輻湊側30Δであった.対応:各眼5Δ基底内方(合計10Δ,右眼基底0°,左眼基底180°)のプリズム眼鏡を作成した.プリズム眼鏡装用直後は地面が立体的に見えて気分が悪くなることが頻繁にあったが,2週間程度で落ち着き,現在は眼疲労と複視が軽快した.c.検査時に発見される複視眼鏡処方のための視力検査などで患者の複視がみつかることがある.患者は片眼ずつの視力検査では良好な視力を得ているにもかかわらず,両眼では視力が低下したり違和感を訴えたりするが,はっきり複視として自覚しないこともある.眼位検査で斜視およびそれに起因する複視が検出されたら,プリズムでの矯正を試みる.なお,眼位異常の説明は主治医が診察時に行うのが望ましく,視能訓練士は検査中の安易な発言を控える.症例5:70代,男性.主訴:両眼視下での違和感.1426あたらしい眼科Vol.40,No.11,2023(56)図6急性内斜視の症例(初診時)10代,男性.主訴:6カ月前からの遠見での複視と内斜視.所見:大型弱視鏡検査で右眼固視の正面視は+24°,融像域は+16.38°で,正位にならない.常に右眼固視のため,左眼内斜視の外見と同側性複視を解消させるために髪型を工夫している.(本人および家族の許諾を得て掲載)全遮閉部分遮閉すべてのむき眼位で右眼の単眼視左方視のみ右眼の単眼視図7眼鏡を利用した遮閉療法の種類図左側:全遮閉はレンズ全体を遮閉して単眼視にする.図右側:部分遮閉は複視を自覚するむき眼位の方向を遮閉して部分的に単眼視にする.abcクリアブラウン30%グレー30%図8眼鏡レンズを遮閉する方法各種a:従来から使用されてきたすりガラスによる片眼遮閉.b:オクルア(東海光学株式会社),すりガラスに比べ,外から遮閉下の眼が見えるため外見が自然である.色はクリア以外にブラウンとグレーがある(%は色の濃度を表す).c:弱視治療法眼鏡箔(RyserMedical,アールイーメディカル株式会社),正方形の膜を用途に応じてカットし,レンズの裏側に貼りつけて使用する(膜プリズムと同様に水滴を利用して貼りつける).上段0.0は肌色の膜による完全遮閉になるため,患者の視力は光覚に低下し,外から遮閉下の眼は見えない.中段LPの患者の視力は指数弁程度,下段<0.1は視力0.1未満の遮閉効果があり,オクルアと同様に外から遮閉下の眼が見える.(a,bの画像提供:東海光学株式会社)

眼窩MRIの撮像と読影─Sagging eye syndromeと強度近視性内斜視の画像診断

2023年11月30日 木曜日

眼窩MRIの撮像と読影─Saggingeyesyndromeと強度近視性内斜視の画像診断ScanningConditionsandInterpretationsforOrbitalMRIImaging-ImageDiagnosisofSaggingEyeSyndromeandHighlyMyopicEsotropia河野玲華*はじめに複視を伴って中高年で発症する後天性の斜視,なかでも後天性内斜視については,まだ分類が定まっていない.解剖学的要因が原因の内斜視としては,眼球の長軸方向への伸展によって眼球後部が筋円錐から脱臼して生じる強度近視性内斜視や,その重症型である固定内斜視とheavyeyesyndrome1),中高年における後天性複視の原因の約30%を占め,加齢性変化による眼窩プリーの位置異常によって遠見内斜視あるいは回旋上下斜視を生じるsaggingeyesyndrome(SES)2),正常眼軸眼や若年でも発症し,眼窩に対して眼球が大きいことが原因で,明らかな眼球運動障害を伴わない開散不全型の内斜視または上下斜視を呈する眼窩窮屈症候群(crowdedorbitalsyndrome3))などがある.眼窩窮屈症候群は疾患概念としては固定内斜視の軽症例とされ,軽度の機械的外転制限と内斜視を有する強度近視性内斜視との病態のオーバーラップがある.また,近視を伴うSESや軽症の強度近視性内斜視では,加齢による眼周囲の結合組織プリーの脆弱化や近視進行による眼球の拡大によって固定内斜視へ移行することが推察されている.SESと軽症の強度近視性内斜視は,斜視角の程度,眼球運動制限の有無などの臨床所見だけで診断するのが困難なこともあり,画像診断が重要となる.本稿では,SESと強度近視性内斜視の磁気共鳴画像(magneticres-onanceimaging:MRI)の診断のための眼窩MRIの撮像と読影のポイント,両疾患の臨床所見とMRI所見の定性的評価について解説する.I眼窩MRIの撮像と読影のポイント解像度が良好なMRIは,正確な画像診断の第一歩である.眼窩MRIを撮像するときは,冠状断と軸位断(水平断)を基本とし,状況に応じて矢状断を追加する.一般的に,外眼筋の観察にはT1強調像,炎症性疾患やSESの外直筋-上直筋バンド(LR-SRband)など眼窩周囲結合組織の観察にはT2強調像が適している.成人眼窩は,通常,.eldofview(FOV)120×120mmの範囲でカバーできる.スライス厚は2.3mm程度が適切である.SESと強度近視性内斜視の鑑別を念頭におく場合は,少なくとも冠状断については,T1強調像とT2強調像,両方の撮像を勧める.著者は,T1冠状断は3mmスライス厚で眼窩全体を,T2冠状断は2mmスライス厚で眼窩プリー組織の箇所を中心に撮像している.T2強調像は,T1強調像よりも瞬目や眼球運動の影響を受けにくいため,T1強調像では判定が困難であった外直筋-上直筋バンドの連続性が,T2強調像では確認できることもしばしば経験する(図1).眼窩の開口部と視神経管を結ぶ,解剖学的眼窩軸に直交するquasi-coronalは直筋と視神経に対してほぼ直交する面となるため,直筋の位置の判定の精度が増し,眼球や直筋をとりまく眼窩結合組織の形状の評価に有用である.また,眼窩側壁によるアーチファクトの影響を冠*ReikaKono:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学講座,河野眼科〔別刷請求先〕河野玲華:〒700-8558岡山市北区鹿田町2-5-1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学講座0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(45)1415外直筋.上直筋バンド外直筋.上直筋バンド外直筋.上直筋バンド外直筋.上直筋バンド外直筋.上直筋バンド正常正常偏位断裂断裂(消失)(17歳)(46歳)(42歳)(82歳)(76歳)図1眼窩MRIにおける外直筋-上直筋バンドの加齢性変化上段:Quasi-coronalT1強調像.下段:Quasi-coronalT2強調像.上段と下段のペアCa,b,c,d,eはおおむね同一面の画像.T2強調像における外直筋-上直筋バンド().図2:MRI冠状断におけるSESと強度近視性内斜視の比較a:SES(T1強調像).外直筋-上直筋バンドの断裂(),外直筋(*)の下方偏位.Cb:強度近視性内斜視(T1強調像).筋円錐外への眼球後部脱出().眼球の圧迫による外直筋(*)の下方偏位と上直筋(C#)の鼻側偏位.laterallevatoraponeurosis(superolateralintermuscularseptum)().図3MRI軸位断におけるSESと強度近視性内斜視の比較a:SES(T1強調像).内直筋(**)よりも外直筋(*)の厚みが薄く描出.Cb:強度近視性内斜視(T1強調像).後部ぶどう腫(),外直筋(*)の一部が描出.~b図4MRI矢状断におけるSESと強度近視性内斜視の比較a:SES(T2強調像,右眼).上眼瞼溝の深掘れ(),上眼瞼挙筋の菲薄化().b:強度近視性内斜視(T1強調像,右眼).軸位断では確認できなかった,後部ぶどう腫を認める.表1SESと強度近視性斜視の臨床所見とMRI所見の比較SES強度近視性内斜視臨床所見発症年齢,性差,症状・中高年で発症,女性に多い・後天性の遠見複視(近見は両眼単一視可能)・成人で発症,女性に多い・後天性の複視眼位,眼球運動・遠見内斜視,近見眼位がおおむねC10C.以下の内斜位または正位・回旋上下斜視は下斜視眼の外方回旋が上斜視眼よりも大きい・内斜視と回旋上下斜視を合併した混合型あり・外転制限なし・水平の衝動性眼球運動正常・内斜視,上下斜視の合併・機械的外転制限と上転制限あり・軽症例は軽度の機械的外転制限と内斜視眼瞼・腱膜性眼瞼下垂・上眼瞼溝の深掘れ(superiorsulcusdeformity)・下眼瞼のたるみ(baggyeyelid)MRI所見眼球形状と眼球後部脱出の有無・眼球後部脱出なし,筋円錐内(円弧に外直筋と上直筋の重心を含む円内)に眼球がある・軸性の強度近視あり・後部ぶどう腫・筋円錐外への眼球後部脱出(上直筋と外直筋の間からの脱出)直筋プリー・少なくとも片眼に外直筋の下方偏位・下直筋プリー,内直筋プリーの下方偏位・外直筋上方の耳側傾斜・眼球の圧迫による外直筋下方偏位と外直筋の上方耳側傾斜,上直筋の鼻側偏位(眼球による圧迫のため,眼球と外直筋,上直筋は接している)外直筋-上直筋バンド・外直筋-上直筋バンドの菲薄,伸展,断裂,消失・眼球の圧迫によって,外直筋C-上直筋バンドは消失上斜筋・上斜筋萎縮なし・上斜筋萎縮なし*重要なものは太字で示した.~–

後天斜視の原因とその検索

2023年11月30日 木曜日

後天斜視の原因とその検索CausesofAcquiredStrabismusandItsExamination飯森宏仁*はじめに本稿では一般的に行われる斜視や両眼視機能検査以外に,斜視診療の現場で知っておくと役立つ検査を紹介する.まず麻痺性斜視なのか機械的斜視(筋の拘縮など)なのかを鑑別するのに有用な「眼圧測定」,そして斜視手術既往のある患者の過去の手術や外眼筋の状態を知るのに有用な前眼部光干渉断層計(opticalcoherence表1後天斜視の原因となる疾患1.斜視の原因となる全身疾患,頭部・神経疾患甲状腺機能異常症(甲状腺眼症)重症筋無力症,Fisher症候群慢性進行性外眼筋麻痺(chronicprogressiveexternalophthalmoplegia:CPEO)腫瘍,血流障害(III,IV,VI麻痺,skewdeviation,開散麻痺,輻湊麻痺,doubleelevatorpalsy,mediallongitudinalfasciculussyndrome:MLF症候群など)脳動脈瘤,頸動脈海綿静脈洞瘻Tolosa-Hunt症候群,IgG4関連眼疾患,肥厚性硬膜炎外傷,眼窩骨折,低髄液圧症候群特発性眼窩炎症など2.その他急性内斜視感覚性斜視saggingeyesyndrome強度近視性固定内斜視眼窩窮屈症斜位の代償不全眼科手術後(斜視手術強膜バックリング緑内障チューブシャントなど)副鼻腔術後などtomography:OCT)について紹介,解説する.また,MRI撮影が診断に有用であった症例の紹介やシネモード撮影についても述べる.I後天斜視の原因となる疾患後天斜視の原因となる疾患にはさまざまなものがあるが,診断を行っていくにはどういった疾患が原因となり得るのか,そしてそれぞれの疾患の特徴について知っておく必要がある.全身疾患に伴うもの,神経麻痺によるもの,医原性のもの,代償不全によるものなど原因は以下のように多岐にわたる.原因を突き止めるうえで問診は重要である.各疾患の特徴については本稿では説明しきれないため解説は割愛するが,問診で得られた情報と疾患の特徴を結びつけることで診断に比較的容易にだどりつけるケースも少なくない(図1,2).問診では以下のような内容を聴取する.①発症様式:急性,亜急性,慢性②自覚症状:像のずれる方向(水平方向,上下方向,網膜子午線に対して回旋のずれ),複視・眼位ずれ以外の症状(痛み,眼瞼下垂,眼球突出,四肢運動異常など),日内変動,症状の進行の有無,速さ.③全身疾患既往歴:頭部・顔面外傷歴,副鼻腔炎治療歴,糖尿病など.④眼疾患治療歴:弱視治療歴,眼手術歴(強膜バックリング,緑内障チューブシャント術,眼瞼手術)問診ののちに眼位,眼球運動についての評価を行う*HirohitoIimori:愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻器官・形態領域眼科学〔別刷請求先〕飯森宏仁:〒791-0295愛媛県東温市志津川454愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻器官・形態領域眼科学0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(33)1403図2マイラゲルの膨化が原因の斜視の症例数年前から徐々に複視が悪化してきたため受診.30年以上前に左眼網膜.離手術を施行された.眼窩MRIで膨化したマイラゲル(.)を認める.図1重症筋無力症の症例a:亜急性発症の複視.症状が夕方に悪化.対面時には眼瞼下垂はないが,夕方になると右まぶたが下がるという訴えがあった.b:上方注視負荷試験1分後.右眼瞼下垂を認める(.).c:bの続き.アイスパックテスト2分後.右眼瞼下垂が改善している(.).図3全身麻酔下でFDTを行った甲状腺眼症の症例a:上方視を指示すると左上転制限があることがわかる.b:FDTを行っている画像.右眼を上方に牽引している(斜視手術のために全身麻酔がかかっている).牽引時抵抗はない.FDT陰性.Cc:左眼を上方に牽引している.右眼に比べて上転に制限があり抵抗を感じる.FDT陽性.a:正面視を指示した際の眼位写真.このとき眼圧は右眼C14mmHg左眼C16mmHgであった.左眼の上眼瞼後退もみられる.b:上方視を指示した際の眼位写真.左眼の上転制限を認める.このとき眼圧を測定すると右眼C17mmHg,左眼C30mmHgであり,正面視で測定した値より左眼圧が上昇していた.図5アイケアIC200手持眼圧計(エムイーテクニカ)本体を斜めに傾けても眼圧を測定することが可能なため,上方視,下方視した際の眼圧測定が容易である.図6右眼に斜視手術歴のある症例a:右眼耳側結膜の細隙灯顕微鏡写真.瘢痕形成を認め(.),過去に手術歴があることが予測されるが,その内容まではわからない.b:左眼耳側結膜のスリット写真.明らかな瘢痕形成は認めない.c:右眼の外直筋付着部付近の前眼部COCT画像.dに比べると外直筋付着部が後方にみられ(.)過去に外直筋後転術を受けたことが予測される.d:左眼の外直筋付着部付近の前眼部COCT画像.外直筋が低輝度領域として描出される(.)..のあたりが付着部と考えられる.図7上斜筋麻痺の2症例a,cは症例A.b,dは症例B.a:左向きの顔回しと首傾げをして代償性頭位をとっている.b:右向きの首傾げをして代償性頭位をとっている.c:脳腫瘍を認める(.).d:左上斜筋の萎縮を認める(.).図830年前に脳幹梗塞の既往のある外斜視の症例a:第一眼位の写真.大角度の左外斜視を認める.Cb:MRIで著明に菲薄化した左眼の内直筋が観察される.図9シネモードMRIa:右方視をして撮影した画像.Cb:正面視をして撮影した画像.c:左方視をして撮影した画像.右眼CAhmed緑内障バルブ挿入術後に外斜視の出現した症例であるが,画像からは内直筋,外直筋の収縮伸展に明らかな異常は認められない.

回旋複視を疑う場合とその検査

2023年11月30日 木曜日

回旋複視を疑う場合とその検査SuspectingCyclodiplopiaandItsExamination佐々木翔*I回旋斜視,回旋複視とその種類回旋斜視は視軸を中心に眼球が回旋した状態である.眼球上部を基準として,外方に回旋しているのが外方回旋,内方に回旋しているのが内方回旋偏位で,それぞれ内方回旋複視,外方回旋複視を生じる(図1).回旋偏位は水平・上下斜視とは異なり,covertestなど通常の眼位検査で発見することができない.そのため患者の訴えや検査所見などから回旋偏位・回旋複視の存在を疑い,適切に回旋検査を行うことで見逃しを防ぐ必要がある.II回旋偏位を伴う斜視高齢者の斜視として知られるSaggingeyesyndrome1)や,外眼筋麻痺としてもっとも頻度の高い滑車神経麻痺(上斜筋麻痺)が代表的である.Saggingeyesyndromeでは多くの患者で外方回旋偏位を伴うが,水平・上下偏位がほぼみられないケースもあり,回旋偏位を検出することが発見のきっかけとなることも少なくない.滑車神経麻痺(上斜筋麻痺)では片眼性の場合,患眼の上斜視と外方回旋斜視を示す.また,両眼性の滑車神経麻痺では上下偏位は打ち消され角度が小さくなり,外見上は斜視が目立たないこともあるが,大角度の外方回旋偏位を示す.covertestなどの水平・上下のみの検査では見逃しが生じる可能性があるため,回旋検査が診断のうえできわめて重要となる.これ以外にも,とくに上下偏位を伴う斜視では回旋偏位を伴っていることが多い.回旋偏位の種類や程度を調べることにより診断や治療方針の決定に役立つ.III回旋複視を疑う所見回旋複視が存在する場合でも,それを患者が複視として訴えるケースは多くない.水平・上下斜視の場合は物が二つに見えるような複視となるが,純粋な回旋複視の場合は左右の像が重なるような見え方となり,これを適切に表現するのが困難なためである.回旋複視の存在を疑わせる訴えとしては,・両眼で見るとぼやける.・なんとなくすっきりしない.・めまいのような感じがする.などがある.また,融像の手がかりが少ない状況下でのみ回旋複視特有の見え方を自覚することもあり,・夜間の運転時にセンターラインが交わって見えた.・テレビの字幕が右下がり(左下がり)にずれて見えた.などは回旋偏位の存在が強く疑われる.上記の患者の訴えに加え屈折検査,眼位検査を行うなかで,・片眼ずつの矯正視力や見え方に問題がないにもかかわらず両眼開放下での見え方に違和感がある.・水平・上下斜視に対してプリズム中和を行っても満*KakeruSasaki:帝京大学医療技術学部視能矯正学科〔別刷請求先〕佐々木翔:〒173-8605東京都板橋区加賀2-11-1帝京大学医療技術学部視能矯正学科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(25)1395内方回旋複視外方回旋複視外方回旋内方回旋図1回旋斜視の種類図2正常な視神経乳頭と中心窩の位置関係回旋なし外方回旋内方回旋図3臨床的な他覚的回旋偏位の判定視神経乳頭中心と視神経乳頭下縁を通るC2本の水平線を基準とする.中心窩がこれより下方にあれば外方回旋偏位,上方にあれば内方回旋偏位と判断する.図4大型弱視鏡a.円と十字b.小屋と兵隊固視眼測定眼固視眼測定眼図5回旋偏位の測定に使用する異質図形水平・上下のずれを十字が円の隙間に合わせた状態収まるように回旋ノブを回す図6大型弱視鏡による回旋偏位の測定必要に応じて5程度のΔ上下プリズムを片眼に装用90°90°右眼左眼患者からの見え方平行=回旋偏位なし90°90°内方回旋複視=外方回旋偏位90°100°で水平=外方回旋10°図8Maddoxdoublerodtest左眼固視左方視+2°+2°+3°R/L3°R/L1°外方1°外方1°+4°+1°0°R/L8°R/L4°R/L1°外方2°外方4°外方5°+8°+7°+9°R/L11°R/L9°R/L6°外方5°外方6°外方8°図7右眼滑車神経麻痺の大型弱視鏡測定結果右眼の内下転方向(左下方視)で上下偏位が最大,外下転方向(右下方視)で回旋偏位が最大となる.右方視赤色Bagolini線条レンズ(固視眼)緑色Maddox杆(測定眼)目盛りダイヤル膜プリズムアタッチメント図9回旋偏位の測定と結果の判定図10Cyclophorometerによる回旋偏位の測定と結果の判定固視眼の前に赤色CBagolini線条レンズが来るように保持し,点光源を提示して線条光の見え方をたずねる(写真は左眼固視で検査をする様子).a.線条光がC2本見え,互いに平行である場合は回旋偏位はない.Cb.線条光がC2本見え,互いに平行でない場合は回旋偏位がある.Cc.線条光がC1本しか見えない場合は融像もしくは片眼の抑制が考えられる.付属の上下プリズムアタッチメントを装着し,光を上下に分離して再検査を行う.図11むき眼位での測定や,頭位を変えての測定

Hess赤緑試験の記録と読み方

2023年11月30日 木曜日

Hess赤緑試験の記録と読み方RecordingandInterpretationoftheHessRed-GreenTest古森美和*稲垣理佐子*はじめにHess赤緑試験は,赤と緑のフィルターで左右眼を分離し,融像を除去した状態で各向き眼位における眼位および眼筋の働きを測定する検査である.複視を自覚している患者に行う.検査は第1眼位から9方向の眼位の状態を記録紙に四角形で図示し,その大きさや形から眼球運動異常の診断に利用する.日常診療では,麻痺筋の同定や術式の選択,術前後の比較,疾患の経時的な変化の記録などに用いられる.IHess赤緑試験の記録1.Hess赤緑検査の原理検査は赤緑眼鏡を通して行う.赤色の固視灯は緑色のフィルターを通すと黒く見えるため(図1a),赤いフィルターからは緑の光は見えず赤の固視灯のみが見える.緑色のフィルターを通すと赤い固視灯は見えず緑の光のみが見える.したがって,左右眼が分離され融像ができない状態となる(図1b).眼球運動制限がない場合には,左右の眼のともむき筋に同等の力が働く(Heringの法則)ため,緑色でさし示された点をつないだ四角形は左右対称になる.一方,麻痺があると,健眼固視では麻痺筋の眼球運動制限によって四角形は小さくなるが(第1偏位),麻痺眼固視ではHeringの法則により大きくなる(第2偏位).このため,四角形が小さいほうが麻痺眼で,狭くなっている方向に作用する筋が麻痺筋であると判断できる(図2).また,内斜視では内側へ,外斜視では外側へ,上斜視では上側へ,下斜視では下側へ図形全体がずれる.V型斜視では四角形が上に開いた形,A型斜視では下に開いた形になる.視標が線ではなく点のため,Harms正接スクリーンテスト1)などの特殊な場合を除き,Hess赤緑試験では回旋偏位を測定することはできない.2.Hess赤緑試験の機器の種類一般に使用されているHess赤緑試験の機器は壁掛け式と投影式の2種類がある(図3).格子状にマスがあり,1マスは5°で,測定点は15°と30°の範囲がある.壁掛け式の検査距離は50cmで,測定点は中心の固視灯と中心から15°が8点,中心から30°が16点,合計25点を計測できる(図3a).一方,投影式の検査距離は1.4mで,測定点は中心の固視灯と中心から15°の8点は壁掛け式と同様だが,中心から30°は器械の構造上四隅が測定できないため12点となり,合計21点の計測となる(図3b).3.Hess赤緑試験の検査方法検査は半暗室で行う.眼の高さは中心の固視灯に合わせる(図4).検査時は顔を動かさず,眼だけを動かして光を見るように説明する.被検者には赤緑眼鏡を装用させ,赤色の固視灯に緑色の光を重ねるよう指示する.麻痺眼では固視がしづらいため健眼固視のほうが被検者にとっては負担が少ない.そこで麻痺眼が明らかな場合に*MiwaKomori&RisakoInagaki:浜松医科大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕古森美和:〒431-3192静岡県浜松市東区半田山1-20-1浜松医科大学医学部眼科学講座0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(15)1385ab左.赤の眼鏡右.緑の眼鏡左.緑の眼鏡右.赤の眼鏡図1Hess赤緑検査の原理(仮)右に赤の光,左に緑の光を照らした場合,a:右に緑の眼鏡,左に赤の眼鏡を重ねると,それぞれの眼鏡は赤と緑が重なり黒く見えるが,b:右に赤の眼鏡,左に緑の眼鏡を重ねると,赤の眼鏡には赤の光が,緑の眼鏡には緑の光が見える.図2左眼の外転神経麻痺の場合(仮)左眼の外転神経麻痺では,左眼の外直筋が麻痺筋となる(.).この場合,右眼(健眼)で固視したときは左眼の四角形は小さく(第1偏位),左眼(麻痺眼)で固視したときは右眼の四角形が大きくなる(第2偏位).図3Hess赤緑試験の機器a:壁掛け式,b:投影式.測定点は両機器とも中心の固視灯と中心から15°は8点だが,中心から30°は壁掛け式では16点,投影式では四隅(○)が測定できないため12点となる.図4検査時の写真視線は中心の固視灯(.)の高さに合わせる.ab図5Hess赤緑試験の結果a:15°のみ測定,b:15°と30°を測定.15°の範囲では異常を認めないが(a),30°を測定することにより右眼の外転制限があることが確認できる(b).a-①b-①c-①a-②b-②c-②図6症例1の初診時(a)と術前(b)・術後(c)の写真a:初診時は20ΔETで左眼の外転は正中をやや超える程度だった.b:術前は50ΔETとなり著明な外転制限を認めた.c:術後は正位となり外転も軽度可能となった(①:第1眼位,②:左方視時).==~ab図8症例2の頭部傾斜試験(a)とHess赤緑試験(b),眼窩MRI(c)a:Bielschowsky頭部傾斜試験は右眼で陽性.b:Hess赤緑試験では右眼の下斜筋過動を認めたが,拮抗筋である右眼の上斜筋の遅動は明らかではなかった.c:眼窩MRIで右眼上斜筋の萎縮を認めた().ab図9症例3の第二眼位(a)と頭部傾斜試験(b)の写真,眼窩MRI(c)a:右方視時に左眼が下斜視となり強い複視を自覚した.b:Bielschowsky頭部傾斜試験は右眼で陽性.c:右上斜筋の萎縮を認めた().a-①b-①a-②b-②図10症例3の術前後のHess赤緑試験(a)と第一眼位の写真(b)①:術前,②:術後.術前のHess赤緑試験では,右眼の下直筋麻痺や左眼のBrown症候群が考えられる結果だった(a-①).遠見眼位は術前25ΔRHT(b-①)から術後12ΔRH(T)(b-②)に軽快したが,右方視での複視が残存し追加手術を検討している(a-②).ab-①b-②c-①c-②d00+14L/R2L/R2L/REx14Ex14Ex14+1001L/R1R/L3R/LEx16Ex16Ex16+4+4+31L/R2R/L5R/LEx22Ex23Ex23+10+21R/L1R/L1R/LEx1Ex2Ex1+2+2+32R/L2R/L2R/LEx6Ex6Ex7+4+5+21R/L2R/L2R/LEx8Ex9Ex9図11症例4の9方向眼位写真(a)と眼底写真(b),Hess赤緑試験(c),大型弱視鏡(d)1:術前,2:術後.9方向眼位写真(a)では明らかな眼位異常は認めなかったが,術前の眼底写真(d)では著明な外方回旋偏位を認めた.術後はHess赤緑試験(b)でV型斜視は軽快し,大型弱視鏡(c)で外方回旋偏位の改善を認めた.ab-①b-②図12症例5の9方向眼位写真(a),Hess赤緑試験(b),アイスパックテスト前後の顔写真(c)a:9方向眼位写真(左眼瞼を挙上して撮影)では左眼の内転,上転制限を認めた.b:前医①と当科②の中心と中心から15°の9点を比較すると異なる結果を示した.c:アイスパックテスト前(上)後(下)で左眼瞼下垂の改善を認めた.■用語解説■Hummelsheim法:上直筋,下直筋の耳側半分をそれぞれ外直筋付着部に移動する術式.

眼球運動の見方

2023年11月30日 木曜日

眼球運動の見方EvaluationofOcularMotilityExaminationMethods塚本晶子*はじめに複視を訴える患者の診察では,まず問診で単眼複視か両眼複視かを確認する.両眼複視の場合は,眼位のずれがあることを念頭に頭位異常の有無,眼位を確認する.遮蔽-遮蔽除去試験(cover-uncovertest:CUT)や交代遮蔽試験(alternateprismcovertest:APCT)などの眼位検査で斜視の型を確認し,眼球運動検査で共同性斜視か非共同性斜視かを判断する.眼球運動検査では,①両眼運動(むき運動,version)による9方向眼位,②単眼運動(ひき運動.duction),③輻湊運動(よせ運動,vergence)を検査する1).眼球運動の検査はまず両眼で行い,もし運動に障害があれば,片眼ずつ検査する.大角度の斜視や上下筋過動では,両眼で検査すると,眼球運動が障害されているように見えることがあるので注意が必要である2).I9方向むき眼位検査9方向むき眼位とは第1眼位(正面視),第2眼位(上方視,下方視,右方視,左方視),第3眼位(右上方視,右下方視,左上方視,左下方視)の9方向でのむき眼位のことである2).各方向での眼位ずれ,各外眼筋の過動,不全,運動制限の有無を確認する.この検査は斜視,眼球運動障害が疑われる患者が対象となる.1.診断的むき眼位定性検査患者の30~50cmのところに固視目標,またはペンライトを用い,9方向むき運動を検査する.追視がむずかしい乳幼児にはおもちゃ,とくに音の出るものが有用である3).第1眼位から第2眼位(上下左右方向)に視標を動かし眼球運動(両眼むき運動)を確認する.つぎに第2眼位から第3眼位(右上方,左上方,右下方,左下方)への眼球運動の動きを確認し,それぞれの動きが正常範囲か検査する4).記録方法としては図示するか,眼位写真撮影を行う(図1).2.診断的むき眼位定量検査遠見(5m)を基本とし,必要であれば近見眼位の測定を行う.正面に固視目標を置き,第1眼位でのAPCTを行い,第2眼位は前庭動眼反射(vestibuloocularre.ex:VOR)を利用し顔を回し,APCTを行う.上下方向の眼球運動があれば顎を上げ下げしてAPCTを行い,第3眼位は顔回しと顎上げ下げを組み合わせた頭位でAPCTを行う5).回旋複視を訴える患者には,大型弱視鏡やcyclophorometer(回旋偏位測定装置),Maddoxdoublerodtestを用いた定量検査が有用である.II検査の留意点9方向むき眼位検査では,ときに眼瞼の形状により誤った判断してしまうことがある.たとえば内眼角部の上眼瞼が下がっている患者に対しては下斜筋過動という診断をつけやすい.そこで,十分に眼瞼を引き上げて観察*ShokoTsukamoto:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕塚本晶子:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(9)1379図1正常眼の9方向眼位(むき運動)両眼が同時に同じむき方向へ向かう両眼共同運動をむき運動といい,眼球運動評価の際は,まず,むき運動での9方向眼位を確認する.第1眼位:頭位をまっすぐにしたときの正面視の眼位.第2眼位:右方視,左方視の水平視,上方視,下方視の垂直視での眼位.第3眼位:右上方視,右下方視,左上方視,左下方視での眼位.図29方向眼位ひき運動(duction)(写真は正常)むき運動で眼球運動障害が疑われた際は,片眼を遮蔽して単眼性の眼球運動(ひき運動)を左右それぞれ確認する.上転下転角膜下縁が内外眼角を結ぶ線上にある角膜上縁が内外眼角を結ぶ線上にある内転瞳孔内縁が上下涙点を結ぶ線上にある外転角膜外縁が外眼角に達する位置にある図3眼球運動の正常範囲~右眼左眼上直筋下斜筋下斜筋上直筋外直筋内直筋内直筋外直筋下直筋上斜筋上斜筋下直筋図4眼球運動評価の記載外上転は上直筋のおもな作用方向.内上転は下斜筋のおもな作用方向.外下転は下直筋のおもな作用方向.内下転は上斜筋のおもな作用方向である.各筋の運動評価は,水平・垂直筋は0~.4.斜筋は.4~0~+4で表し記載する.-1-3-2-4図5外転障害の程度(右眼)正常を0とし,障害程度を.1~.4で表し記載する.(文献7より改変)+1+3+2+4図6下斜筋過動(inferiorobliquemuscleoveractio:IOOA)の程度第3眼位でのみIOOAを認めた場合,程度により+1,+2.第2眼位でIOOAを認めた場合,+3.第2眼位で内転眼が上転する場合,+4と記載する.(文献7,9より改変)右方視右方視右方視abc図7牽引試験a:右眼に外転制限が認められる場合,点眼麻酔後,患者に右方視を指示する.b:結膜輪部をピンセットでしっかりつかみ,眼球が外転できるかをみる.右眼の外転神経麻痺の場合は容易に外転できる.c:機械的運動制限の場合は抵抗を感じ外転できず,内転方向に動かすと拮抗筋の抵抗を感じる.SOSOLRLR図8外眼筋と神経支配上直筋(superiorrectus:SR),内直筋(medialrectus:MR),下直筋(inferiorrectus:IR),下斜筋(inferioroblique:IO),上斜筋(superioroblique:SO),外直筋(lateralrectus:LR)表1各むき眼位における筋の相互関係表2各種眼球運動障害の特徴作用する筋ともむき筋間接拮抗筋右方視右外直筋左内直筋左外直筋左内直筋右外直筋右内直筋左方視右内直筋左外直筋左内直筋左外直筋右内直筋右外直筋右上方視右上直筋左下斜筋左上斜筋左下斜筋右上直筋右下直筋右下方視右下直筋左上斜筋左下斜筋左上斜筋右下直筋右上直筋左上方視右下斜筋左上直筋左下直筋左上直筋右下斜筋右上斜筋左下方視右上斜筋左下直筋左上直筋左下直筋右上斜筋右下斜筋1.動眼神経麻痺:内転・上転・下転障害,外斜視,眼瞼下垂,瞳孔散大.2.滑車神経麻痺:内下転障害,上下斜視,回旋偏位,斜頸(頭位異常),Bielschowsky頭部傾斜試験(Bielschowskyheadtilttest:BHTT).3.外転神経麻痺:外転障害,内斜視.4.甲状腺眼症:上下斜視,眼球突出.5.重症筋無力症:日内変動,眼瞼下垂.6.眼窩底骨折:上転障害,上下斜視,外傷の既往.7.MLF症候群:内転障害,輻輳可能.(文献8より改変)■用語解説■Heringの法則:両眼むき運動を行うときに同時に動く外眼筋をともむき筋という.ともむき筋はそれぞれの神経支配から同等量の神経刺激を受ける.そのため両眼むき運動では左右眼とも同じ角度だけ動くしくみになっている.麻痺性斜視の場合は,患眼を罹患筋の作用方向に動かすために,その方向へ神経刺激が多く送られる.その刺激はHeringの法則によって健眼にも送られるために,患眼固視の偏位ずれは健眼固視の偏位ずれより大きくなる.-