もっと守ろうよ!マイボーム腺:切らない霰粒腫治療Let’sBetterProtectMeibomianGlands!Non-SurgicalTreatmentofChalazion福岡詩麻*はじめに霰粒腫は,幅広い年齢層にみられるもっとも身近な眼瞼の疾患の一つである.瞼板内のマイボーム腺が何らかの原因で閉塞し,マイボーム腺分泌脂(meibum)が貯留することで生じると考えられている1).霰粒腫の治療としては,これまではすぐに手術をするのが一般的であったが,霰粒腫切除術後眼では術後長期経過したのちもマイボーム腺の脱落や短縮が高率にみられ,将来的な涙液の安定性にも影響しうる2).最近では,マイボーム腺を守るために「切らない霰粒腫治療」が見直されてきている.「切らない霰粒腫治療」としては,温罨法,眼瞼清拭,ステロイド局所注射などがある.霰粒腫は局所的なマイボーム腺機能不全(meibomianCglandCdysfunc-tion:MGD)とも考えられており,霰粒腫に対するCIntenseCpulsedlight(IPL)治療の有効性も報告されている.CI霰粒腫とは霰粒腫は,非感染性の慢性肉芽腫性炎症である.典型的には,発赤,疼痛,圧痛を伴わない眼瞼皮下の結節である.瞼板内にとどまらず,眼瞼皮膚にまで炎症が及ぶと,発赤し痛みを伴うことがある.さらに眼瞼皮膚や結膜側に炎症が広がり菲薄化すると,自壊することがある.CII霰粒腫のリスクファクター霰粒腫のリスクファクターで,もっとも重要なものは眼瞼炎であり3),霰粒腫に眼瞼炎を合併していると,治癒までにより多くのステロイド注射が必要になる(眼瞼炎の合併ありでは平均C2回,眼瞼炎を合併なしでは平均1.4回)4).そのほか,霰粒腫は結膜炎やドライアイ,眼瞼皮膚炎や酒さの患者に多くみられる3).いわゆる睫毛ダニ,Demodexも霰粒腫のリスクファクターとなりえる.70%もの霰粒腫患者の睫毛からCDemodexが検出され,Demodex陽性の霰粒腫患者の再発率はC33%であったという報告がある5).Demodex陽性の再発霰粒腫に対し,ティーツリーオイルを含む目元洗浄液で眼瞼清拭を行うことで,再発をC97%予防することができたとする報告もある6).CIII「切らない霰粒腫治療」のエビデンス「切らない霰粒腫治療」としては,患者自身による温罨法,眼瞼清拭によるケア,点眼や軟膏による薬物療法,ステロイド局所注射などがある.これらの治療法の有効性を比較する臨床研究が行われている.C1.温罨法のみと抗菌薬・ステロイドの局所療法併用の比較「切らない霰粒腫治療」のうち,もっとも侵襲度が低いのは,温罨法と抗菌薬やステロイドの点眼・軟膏による局所療法である.温罨法のみと,温罨法に抗菌薬・ステロイドの局所療法を併用した場合とを比較した多施設でのランダム化比較試験7)の報告では,4~6週間の治癒*ShimaFukuoka:大宮はまだ眼科西口分院〔別刷請求先〕福岡詩麻:〒330-0854埼玉県さいたま市大宮区桜木町C1-169-1大宮はまだ眼科西口分院C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(45)C45図1霰粒腫に対するマイボケアと薬物療法(4歳,女児,左上眼瞼)a:4カ月前に発症し,前医で処方されたトスフロキサシン点眼液,フルオロメトロンC0.1%点眼液,プレドニン眼軟膏を使用していたが,徐々に大きくなってきたため受診した.Cb:温罨法と眼瞼清拭によるマイボケアを指導した.点眼と眼軟膏は中止した.1週間後,皮膚側から自壊したとのことで受診した.Cc:マイボケアを継続し,自壊している間は湿潤療法の目的でオフロキサシン眼軟膏をC1日数回塗布した.2カ月後,皮膚に軽度の発赤を残して治癒した.Cd:再発予防のためにマイボケアの継続をすすめた.半年後,再発はみられず眼瞼皮膚の状態は改善していた.とをすすめる(図1).ただし,治るまでに数週から数カ月かかりうる7,8)ので,根気強く続けることの重要性をあらかじめ患者や保護者によく説明しておく.前述のように,霰粒腫のリスクファクターに眼瞼炎3)やCdemo-dex5)があることから,マイボケアは今ある霰粒腫の治療だけでなく,再発の予防にも有用である6).霰粒腫が再発しても,初期の段階で患者自身がマイボケアにより治すことができれば,通院の必要がなくなる.注C1)具体的な方法はCLIME研究会ホームページに動画が掲載されている(https://www.lime.jp/main/mgd/treatment).C2.点眼,眼軟膏による局所療法霰粒腫は無菌性の慢性肉芽腫性炎症であるので,基本的には抗菌薬の投与は必要ない.急性霰粒腫の初期で細菌感染が原因でマイボーム腺閉塞を引き起こしている可能性が考えられる場合は,トブラマイシン点眼7),エリスロマイシン眼軟膏1),レボフロキサシン点眼やオフロキサシン眼軟膏などを使用する.霰粒腫の背景に眼瞼炎があると考えられる場合は,アジスロマイシン点眼の投与を検討する1).発赤や疼痛を伴う霰粒腫では,マイボーム腺の感染による内麦粒腫との鑑別が困難なことがある.抗菌薬を投与して反応をみることで,改善がみられなければ霰粒腫と診断できる.皮膚側から自壊した場合には,湿潤療法の意味で眼軟膏をC1日数回塗布する(図2).抗菌薬の長期投与に伴う耐性菌の出現に配慮する.小児の霰粒腫で手術が困難な場合や,成人でも手術以外の治療を希望される場合,ステロイドの点眼や眼軟膏による治療が行われることがある.眼圧上昇や白内障に注意し,漫然とステロイド投与を継続することは避ける.C3.ステロイド局所注射ステロイド局所注射による霰粒腫の治癒率は,1回もしくはC2回の注射によりC60~90%程度であり,霰粒腫切除術と同等である8).治癒までにかかる期間もC5日~2.5週程度4)と短い(図2).部位を選ばず,多発霰粒腫や再発霰粒腫も対象となる.1回の注射で十分な効果が得られなければ複数回の注射が可能であるが,2回注射しても軽快しないようであれば,手術もしくはCIPL治療を検討する.実際の手技としては,点眼麻酔をしたのち,眼瞼を翻転し,角板で眼球を保護しながら,27-28G針を用いてトリアムシノロンC2Cmg(ケナコルト-AC40Cmg/mlC0.05ml程度)を瞼結膜側から霰粒腫の中に注射する.注射後の眼帯は不要である.皮膚側からではなく,瞼結膜側から霰粒腫内に注射することで,ステロイド注射の合併症である皮膚の脱色素やトリアムシノロンの沈着の予防ができる8).トリアムシノロンの沈着は数カ月で吸収される.なお,ステロイド注射の診療報酬は,「霰粒腫の穿刺」45点である.ケナコルト-Aは,「霰粒腫」の病名に対する適用はないが,「外眼部の炎症性疾患の対症療法で点眼が不適当又は不十分な場合」であれば使用分を請求できる.C4.IPL治療最新の霰粒腫治療として,国際的にもCIPL治療が注目されている.500~1,200Cnm程度の波長の光を照射することで,眼瞼の温度を上昇させCmeibumを融解させる効果や抗炎症作用,Demodexの感染抑制の効果などがある.難治性の両眼多発・再発霰粒腫に対して,IPL治療をC2週間ごとにC4回まで行ったところ,平均C2.8C±1.3回の治療により,全例で両眼の霰粒腫が治った9).IPL治療終了後C6カ月の観察期間中,再発はみられなかった9).おわりに霰粒腫ができた部位のマイボーム腺は,霰粒腫が治癒したのちも短縮・脱落が残ってしまう10).とくに多発霰粒腫や再発を繰り返している患者では,再発を予防していくことが重要となる.温罨法,眼瞼清拭によるマイボケアは年齢を問わず自宅で行うことができ,今できている霰粒腫の治療だけでなく再発の予防にもなる.ステロイド局所注射は,手術よりも侵襲が少ないが,手術と同等の効果がある.IPL治療でも再発が予防できる.これらの霰粒腫のマイボーム腺温存療法の禁忌は脂腺癌であり,少しでも悪性腫瘍を疑う場合は手術治療を選択すべきである.小児の霰粒腫では,瞳孔領にかかるような視機能の発達に影響が出る恐れがある場合は手術が必要で(47)あたらしい眼科Vol.41,No.1,2024C47図2霰粒腫に対するステロイド局所注射(23歳,女性,左上眼瞼)a,b:5カ月前に発症.前医でステロイド注射を施行され一時軽快したが,2カ月前に再発した.手術を受けたくないとのことで受診した.c:マイボグラフィーで,腫瘤のある部位が黒く抜けていた.d,e:瞼結膜側から霰粒腫の中にトリアムシノロンC2Cmgを注射し,1日C2回のマイボケアを指導した.注射C1週間後に受診したときには,霰粒腫は軽快していた.Cf:マイボグラフィーでは,霰粒腫があった部位のマイボーム腺は短縮しており,トリアムシノロンが白く残っていた.