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網膜色素変性の診断,検査と最新の治療

2025年3月31日 月曜日

網膜色素変性の診断,検査と最新の治療Diagnosis,ClinicalExamination,andLatestTreatmentsforRetinitisPigmentosa池田康博*はじめに網膜色素変性(retinitispigmentosa:RP)は,「視細胞および網膜色素上皮細胞を原発とした進行性の広範な変性がみられる遺伝性の疾患群」と定義される1).すなわち,網膜外層にある視細胞や網膜色素上皮(retinalpig-mentepithelium:RPE)に発現している遺伝子の異常により,一般には若年期に発症して緩徐に進行し,中年ないし老年で高度な視機能障害に至る疾患の総称である.眼科領域の代表的な難病で,指定難病の一つである2).定型RPは,病初期には杆体の変性が先行し,疾患の進行とともに錐体の変性が生じる杆体錐体ジストロフィと同義で,典型的な臨床所見を呈する.臨床所見が典型的でないRPは非定型RPと分類され,網膜の一部のみにしか変性が認められない区画性RP,片眼性RP,中心型(傍中心型)RPなどが含まれる.さらに,他臓器疾患あるいは全身的な疾患に合併するRPも認められ,感音難聴を伴うUsher症候群は頻度が高い(表1).国内における頻度は4,000.5,000人に1人程度とされており,視覚障害の原因疾患では第二位となっている3).1990年に常染色体顕性(優性)RPの原因として報告されたロドプシン遺伝子をはじめとして,これまでに80種類以上の遺伝子がRPの原因となることが知られているが,わが国ではEYS遺伝子に変異のある患者の頻度が高い4).遺伝形式は,常染色体顕性遺伝(15%程度),常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)(30%程度),X染色体潜性遺伝(2%程度)で,家系内に他の発症者が確認できない孤発例も約半分存在する5).I診断と検査網膜色素変性診療ガイドラインに記載されている診断基準は,指定難病の認定基準とほぼ同義である(表2)1).進行性の夜盲,求心性視野狭窄,視力低下,羞明や昼盲という自覚症状に加え,後述の検査所見により診断される.杆体細胞の障害により生じる夜盲が初発症状としては多い.検査としては眼底検査,網膜電図(electroret-inogram:ERG),視野検査,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT),眼底自発蛍光(fundusauto.uorescence:FAF)が有用であるが,このうち確定診断に必要な検査は,眼底検査とERGである(視野検査は自覚症状の確認のために必要).眼底検査では,RPEの粗造化(色素むら),網膜血管の狭細化,骨小体様などの色素沈着が両眼性に認められるが(図1),特徴的な色素沈着が認められない無色素性表1網膜色素変性を合併する全身疾患Alagille症候群Bardet-Biedl症候群Cockayne症候群Hunter症候群Hurler症候群Kearns-Sayre症候群Scheie症候群Usher症候群*YasuhiroIkeda:宮崎大学医学部眼科学〔別刷請求先〕池田康博:〒889-1692宮崎市清武町木原5200宮崎大学医学部眼科学0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(17)281表2網膜色素変性の診断基準1自覚症状①夜盲②視野狭窄③視力低下④羞明(または昼盲)2臨床検査所見(1)眼底所見網膜血管狭小粗造な網膜色調骨小体様色素沈着多発する白点視神経萎縮黄斑変性(2)網膜電図の異常(減弱型,陰性型,消失型)(3)眼底自発蛍光所見で網膜色素上皮萎縮による過蛍光または低蛍光(4)光干渉断層計で中心窩におけるエリプソイドゾーン(IS/OS)の異常(不連続または消失)3診断の判定①進行性の病変である.②自覚症状で,上記のいずれかC1つ以上がみられる.③眼底所見で,上記のいずれかC2つ以上がみられる.④網膜電図で,上記の所見がみられる.⑤炎症性または続発性でない.上記,①.⑤のすべてを満たすものを,指定難病としての網膜色素変性と診断する.注C1:矯正視力,視野ともに,良好なほうの眼の測定値を用いる.注2:視野狭窄ありとは,中心の残存視野がCGoldmannI-4視標でC20度以内とする.(文献C1より引用)図1網膜色素変性の眼底所見網膜色素上皮細胞の粗造化(色素むら),網膜血管の狭細化が認められる.色素沈着の程度は患者によってさまざまである.a:黄斑部まで変性が進行している.b:後極が保たれている.図2Goldmann視野検査の経時的な変化a,b:中間周辺部の暗点が少しずつ拡大する.c,d:輪状暗点(Cc)から求心性視野狭窄(Cd)に進行していく.図3網膜色素変性患者のOCT所見a:初診時.網膜が菲薄化し,周辺部のCEZは消失している.Cb:12年後.EZがさらに短縮している.図4網膜色素変性患者の眼底自発蛍光所見a:網膜変性の部位に一致した低蛍光を認める.b:視野検査(GP)では,眼底自発蛍光写真を上下反転した低蛍光の部分に対応した視野欠損を認める.図5眼底自発蛍光とOCTの対応黄斑部に輪状の過蛍光(AFring)を認める.AFringの内側はEZが保たれている.表3遺伝子治療の第III相臨床試験一覧臨床試験登録CNo.対象疾患フェーズ治験薬投与方法被験者数開発者CNCT00999609CLCA2第CIII相CAAV2-hRPE65v2網膜下31名CSparkTherapeuticsCNCT04516369CLCA2第CIII相VoretigeneNeparvovec(AAVC2-hRPE65v2)網膜下4名CNovartisPharmaceuticalsCNCT03496012コロイデレミア第CIII相CAAV2-REP1網膜下169名CNightstaRxLtd/BiogenCompanyCNCT03116113RP(RPGR)第CIC/II/III相CAAV8-RPGR網膜下63名CNightstaRxLtd/BiogenCompanyCNCT03584165コロイデレミア&RP(RPGR)第CIII相BIIB111(AAVC2-REP1)C&BIIB112(AAVC8-RPGR)網膜下330名CNightstaRxLtd/BiogenCompanyCNCT06388200RP(RHO,その他)第CIII相OCU400(AAVC5,gene-agnosticmodi.ergenetherapyproductbasedonNHRgene,NR2E3)網膜下150名COcugenCNCT04671433RP(RPGR)第CIII相CAAV5-hRKp.RPGR網膜下97名CJanssenResearch&Development,LLCCNCT05926583RP(RPGR)第CIII相CAAV5-hRKp.RPGR網膜下4名CJanssenPharmaceuticalCK.K.CNCT03913143CLCA10第CIIC/CIII相QR-110(RNAantisenseoligonucleotide)硝子体内36名CProQRTherapeuticsCNCT04855045CLCA10第CIIC/CIII相QR-110(RNAantisenseoligonucleotide)硝子体内15名CProQRTherapeuticsCNCT05158296RP(USHC2A)第CIIC/CIII相Ultevursen(QR-421a,ssRNAoligo)硝子体内7名CProQRTherapeuticsCNCT05176717RP(USHC2A)第CIIC/CIII相Ultevursen(QR-421a,ssRNAoligo)硝子体内5名CProQRTherapeuticsCNCT04850118RP(RPGR)第CIIC/CIII相AGTC-501(AAVC2tYF-GRK1-RPGR)網膜下75名CBeaconTherapeuticsLCA:Leber先天盲,RP:網膜色素変性-

遺伝性網膜疾患と遺伝子解析 

2025年3月31日 月曜日

遺伝性網膜疾患と遺伝子解析GeneticAnalysisofInheritedRetinalDisease西口康二*はじめにこれまで長らく,遺伝性網膜疾患に対しては病因遺伝子や変異に対する特異的な治療法はなかった.しかし,遺伝子治療を含め病因遺伝子や変異をターゲットとした治療の社会実装が全科横断的に進むなか,網膜分野でも遺伝子治療薬のボレチゲンネパルボベクルクスターナ注(ノバルティスファーマ)が保険収載され,遺伝子検査や検査結果に基づく病因遺伝子ごとの病型の把握の重要性が増している.本稿では,遺伝子検査の現状を研究と臨床応用の両面から考察し,治療開発の観点で注目を集めているいくつかの病因遺伝子などについて,遺伝子異常が引き起こす網膜疾患の特徴を解説する.I遺伝性網膜疾患と遺伝子解析法遺伝性網膜疾患に対して網羅的な遺伝子解析を行った場合,遺伝子診断に至る確率(遺伝子診断率)は地域や人種によって大きく異なる.日本人の遺伝子診断率は40%程度であり1.3),他の地域の多くで診断率が60%程度以上であるのに比べて低い3).しかし,ゲノム医療の拡大が予測されるなか,遺伝性網膜疾患の遺伝子診断の向上は遺伝子研究で解決しなければならない重要な課題である.ここでは,眼科領域の研究で行われている代表的な四つの遺伝子解析法について長所と短所を比較しつつ説明する(表1).1.パネルシーケンス特定の疾患と関連する既知の病因遺伝子群についてターゲットを絞ってDNA配列を調べることで,解析に要するコストや時間を節約可能である.しかし,未知の病因遺伝子変異を検出する目的に用いることはできない.解析対象の遺伝子では,蛋白質をコードしているすべてのエクソン(用語解説参照)を評価することで,これまで報告されているほとんどの病因遺伝子変異とエクソン内の未知の変異を検出可能である.一方で,蛋白をコードしていない非翻訳領域や,イントロン(用語解説参照)の変異の多くは検出することがむずかしい.これらの点は新規性が重要な研究では欠点とも考えられるが,判断や扱いに困る余分な情報が発生しにくいことにもなるため,臨床現場での遺伝子診断への応用に適している.一方で,遺伝子診断率向上に資する新規遺伝子変異を特定することを視野に入れた研究では,異なった遺伝子解析手法と組み合わせて行われることが多い.2.全エクソーム解析全エクソーム解析(wholeexomesequencing:WES)は,エクソンに絞ってシーケンスする点はパネルシーケンスに似ているが,解析対象が特定の遺伝子ではなく全遺伝子である点が異なる.眼科領域においても,既知の病因遺伝子だけでなく,未知の遺伝子や新たな病因遺伝子を発見する際に広く用いられている.一方で,WESにはいくつかの制約もある.パネルシーケンスと同様*KojiNishiguchi:名古屋大学大学院医学系研究科眼科学分野〔別刷請求先〕西口康二:〒980-8574名古屋市昭和区鶴舞町65名古屋大学大学院医学系研究科眼科学分野0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(11)275表1遺伝子解析法の長所・短所手法長所短所パネルシーケンス・疾患に関連する既知の病因遺伝子を効率よく解析可能・データ量が比較的少なく解析が容易・臨床に応用されやすい・解析対象が限られる(対象外の遺伝子や未知の原因は検出できない)全エクソーム解析・すべての遺伝子のエクソン領域(蛋白質をコードする部分)全体を網羅・未知の病因遺伝子などの探索に適している・イントロン(エクソンとエクソンの間の非翻訳領域)などエクソン外の領域の変異の多くは検出できない・データ解析がパネルシーケンスより複雑全ゲノム解析・ゲノム全体を網羅的に解析可能・エクソン外の領域や構造変異も検出可能・膨大なデータ量が生じるために解析が複雑・コストが高い・解析に時間を要するゲノムワイド関連解析・非翻訳領域にあるバリアントなど直感的にわかりにくい疾患関連バリアントを検出可能・バイアスなくゲノム全体を解析可能・疾患感受性遺伝子と病因変異の両方を検出可能・集団レベルの情報が得られる・頻度が比較的高い疾患関連バリアントのみ検出可能であるため,検出感度は低い・単独では病因変異の特定に至らない・解析を外注できない・膨大な数の患者と対象者のCDNAを解析する必要があるため,要する費用も解析時間も桁違いに大きい図1RPE65関連網膜色素変性の眼底写真型を示すことが多い可能性がある.これらの患者は眼振もなく,幼少期に生活に大きな支障が出にくく,早期に眼科受診しないことも多々ある.網膜電図(electroretinogram:ERG)では幼少期から「消失型」の反応が一般的であるが,残存機能がある場合は「杆体-錐体型」の反応が観察されることがある.光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では,網膜外層の菲薄化が確認されるものの,視機能の低下に比べて組織が比較的良好に保たれている点も特徴的である.また,眼底自発蛍光検査では全体的な蛍光低下が顕著であり,網膜色素上皮の機能不全と眼内ビタミンCA代謝異常に矛盾しない9).CVRPGR関連網膜色素変性RPGR(retinitisCpigmentosaCGTPaseregulator)は,網膜視細胞の繊毛構造に局在し,細胞内輸送機能を維持するために不可欠な蛋白質をコードする遺伝子である.この遺伝子の変異による網膜色素変性は,若年で発症する傾向があり,進行性の視力低下や視野欠損が生じる.近年,RPGR関連網膜色素変性に対する遺伝子治療の開発が進められており,現在,わが国でも治験が行われている.RPGR関連網膜色素変性は,おもにCX染色体性遺伝を示し,男性(XY染色体)はC1コピーしかないCRPGR遺伝子に病的変異があると症状が重症化する傾向がある.これに対し,女性(XX染色体)は同遺伝子をC2コピーもつため,通常はキャリアとして無症状または軽症であることが多い.しかし,女性患者でもまれに網膜変性が進行し,男性患者と区別がつかない重症な表現型を示す場合もある.視力や視野に関して,RPGR関連網膜色素変性は初期に比較的良好であることが多いが,病状の進行は比較的早く,経過に伴い視機能の低下が顕著となる10,11).とくに視野欠損が進行し,早期に中心性視野狭窄を呈することもある.また,強度近視を示す患者が多く,女性保因者でも強度近視を示すことも報告されている11).男性患者の眼底自発蛍光検査では,網膜色素変性に特徴的な斑状・顆粒状・弓状・輪状の低蛍光や過蛍光が周辺網膜を中心に広い範囲でみられる.一方で女性保因者は,黄斑部から周辺部に向かって放射状に低蛍光や過蛍光が混ざって広がる特徴的なパターンがみられるケースが多い12).このため,女性保因者の眼底自発蛍光はCRPGR関連網膜色素変性の診断にも有用である.また,RPGR遺伝子の変異の多くはCORF15というリピート配列が多い領域に存在する.この領域にバリアントをもつ患者は重症化しやすいことが知られており,また,杆体錐体ジストロフィを呈しやすい傾向もある13).CVIEYS関連網膜色素変性EYS蛋白質は健常者の視細胞において結合線毛に局在する.EYS遺伝子変異は常染色体潜性遺伝形式をとる.マウスやラットではCEYS遺伝子が欠損しているため,適切な疾患モデルの確立が課題である.また,光暴露による視細胞胞死がCEYS関連網膜変性疾患の病態に重要な役割を果たしていることが報告されている13).EYS関連網膜色素変性は東アジアに多いとされるが,日本人患者のなかではとりわけ頻度が高い.とくに,Cp.S1653Kfs*2,p.Y2935XまたはCp.G843E変異が多くみられることが,日本人患者の大きな遺伝的特徴である4).遺伝子サイズが大きいため,アデノ随伴ウイルスを用いた通常の遺伝子補充療法の開発はむずかしいが,高頻度変異を標的としたゲノム編集遺伝子治療の対象となりうる.臨床的には夜盲,視野狭窄で発症し,進行すると順応障害,視力低下,羞明などを訴える.また,ほとんどのケースでは網膜色素変性のフェノタイプを示すが,杆体錐体ジストロフィを呈することもある.ERGでは典型的な杆体錐体ジストロフィを示す.一部のCEYS関連網膜症は,視神経乳頭を挟んで鼻側と耳側の両側の網膜温存された結果,あたかも∞(インフィニティ)マークのような所見を示したり(図2),下方赤道部網膜が強く障害され,上方または鼻側網膜が比較的温存される所見を示すなど,眼底自発蛍光検査で特徴的な結果がみられることがある.CVIISAG関連網膜色素変性小口病はきわめてまれな疾患であり,病因遺伝子としてCSAGとCGRK1の二つが知られている.同疾患は日本278あたらしい眼科Vol.42,No.3,2025(14)図2EYS関連網膜色素変性の所見a:眼底自発蛍光画像.特徴的な∞(インフィニティ)サインがみられる.Cb:眼底写真.図3SAG関連網膜色素変性の眼底写真網膜変性の周辺に金屏風様反射が認められる().■用語解説■エクソン:遺伝子のなかで蛋白質をコードする部分.遺伝子はエクソンとイントロンから構成されており,エクソンは実際に蛋白質の設計図となる配列をもっている.エクソン内の変異は,蛋白質の機能に直接影響を与えるため,病気の原因となることがある.イントロン:遺伝子のなかで蛋白質をコードしない部分.エクソンと交互に存在し,mRNAのスプライシング過程で除去される.イントロンの役割は完全には解明されていないが,遺伝子の発現調節に関与していると考えられている.CPrismGuideIRDパネル:遺伝性網膜疾患の原因となるC82の遺伝子を対象にした遺伝子検査.2023年に薬事承認され,全国C12施設で実施可能.治療適応の判定を目的とし,とくにルクスターナ注の投与対象患者の同定に用いられる.体外診断薬(IVD):生体試料(血液など)を用いて体外で解析し,治療の適応判定などの評価を行うための検査薬である.また,IVDは高い品質管理基準が適用されているため,検査代が高額になり,適応が限定される傾向がある.–

遺伝性網膜疾患の診断と評価

2025年3月31日 月曜日

遺伝性網膜疾患の診断と評価DiagnosisandEvaluationofInheritedRetinalDiseases上野真治*はじめに近年の遺伝子解析技術の進歩により,遺伝性網膜疾患(inheritedretinaldystrophy:IRD)の病態解明が飛躍的に進んできた.世界的にはIRDの診断は遺伝子解析によって行われる流れではあるが,一方で多くのIRDと考えられる患者で原因遺伝子が同定できない現実もある.わが国ではまだIRDの一部しか遺伝子診断が保険で認められていない状況ではあるが,たとえ遺伝子診断ができるようになっても適切な臨床診断・評価の重要性は変わらないであろう.本稿では,総説としてIRDの診断と評価について概説する.I問診1.症状IRDの診断および病状把握のためには,症状の聞き取りが重要である.症状は障害の部位や程度によって多様であり,視力障害,視野障害に加えて夜盲,羞明,色覚異常などがみられる.杆体細胞が優先的に障害される網膜色素変性(retinitispigmentosa:RP)では,夜盲が視野狭窄や視力低下などの症状に先行することが多い.一方で,錐体機能が障害される錐体ジストロフィや黄斑ジストロフィでは,視力低下に加えて羞明や色覚異常が主訴となる.幼少期から障害があるLeber先天盲や杆体一色覚では眼振がみられることが多く,Leber先天盲では手で目を押さえたりこすったりするdigito-ocularsignがみられる場合もある.2.既往歴全身疾患を伴う症候性のIRDでは,視細胞の繊毛(cilia)に関連する遺伝子の変異により網膜障害を生じるが,腎臓や内耳などの他臓器のciliaの障害も併発するciliopathyとよばれる病態が有名である.それ以外にミトコンドリアの異常や神経難病に伴う障害も知られており,IRDを疑った場合に頻度は低いが症候性も考慮する.3.家族歴IRDにおいて家族歴の正確な聴取は重要で,家系図をカルテに記載する.遺伝形式は常染色体潜性,常染色体顕性,伴性潜性,孤発の四つに大きく分けられる.近年は少子化に伴い孤発例が増えている.両親が近親婚であれば,常染色体潜性の可能性が高いので,問診で聴取すべきである.常染色体顕性では同じ遺伝子変異をもっても重症度に差があり,軽度な場合は罹患者自身が疾患に気がついてないこともあり,正確な家族歴の聴取がむずかしいときもある.男性の場合は伴性潜性を考慮する必要がある.伴性潜性のRPや伴性潜性であるコロイデレミアや眼白皮症では,保因者である母親の眼底に異常があることが知られており,診断に役立つこともある.II視力検査視力は黄斑の中心窩の障害程度によって決まるが,RPでは中心機能が比較的保たれ,黄斑ジストロフィや*ShinjiUeno:弘前大学大学院医学研究科眼科学講座〔別刷請求先〕上野真治:〒036-8562弘前市在府町5弘前大学大学院医学研究科眼科学講座0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(3)267図1比較的軽症な網膜色素変性(RP)の画像所見a:眼底所見は典型的なRPのものである.b:OCTではellipsoidzone(EZ)が比較的広範囲に残存しているが,中心から離れたところでは外顆粒層の菲薄化()とEZの消失がみられる.c:超広角眼底カメラによる眼底所見.d:眼底自発蛍光所見.過蛍光リングとよばれる過蛍光の輪状所見()がみられ,その周囲には網膜色素上皮の萎縮に伴う低蛍光領域がみられる.図2眼底は正常だがOCTでEZの不鮮明化とIZの消失がみられた症例a:正常.Cb:眼底が正常な錐体ジストロフィの患者.aと比較してCEZが淡い.Cc:オカルト黄斑ジストロフィの患者.EZが不鮮明になり,顆粒状になっている.C-図3Best病の偽蓄膿における眼底写真と眼底自発蛍光検査(FAF)a:眼底写真.b:FAF.眼底写真の黄色の網膜下の沈着物に一致した過蛍光がみられる.図4白点状眼底の眼底写真と眼底自発蛍光検査(FAF)a:眼底写真.b:FAF.全体的に低蛍光となっている.これは,白点状眼底がレチノイドサイクルの酵素であるCRDH5の遺伝子の変異により生じるため,レチノイドサイクルが回らずにリポフスチンが蓄積されないことが理由と考えられている.a杆体応答(rodresponse)b杆体―錐体混合応答rodcone錐体応答(coneresponse)30HzFlickerLA3.0図5国際臨床視覚電気生理学会(ISCEV)プロトコールによるERG波形とその細胞起源a:杆体応答.Cb:杆体-錐体混合応答.Cc:錐体応答.30HzCFlicker応答の正常波形.錐体完全型正常小口病ジストロフィ停在性夜盲杆体応答100mV(DA0.01)50ms杆体-錐体混合応答(DA10.0)200mV25ms錐体応答100mV(LA3.0)25msFlicker応答25mV(30HzFlicker)25ms図6網膜障害のパターンによるERGの相違正常,小口病(選択的な杆体機能の低下),錐体ジストロフィ,完全型停在性夜盲(双極細胞レベルでの障害)のCISCEVプロトコールに従ったCERG波形.C-

序説:遺伝性網脈絡膜疾患アップデート

2025年3月31日 月曜日

遺伝性網脈絡膜疾患アップデートUpdatesontheKnowledgeofHereditaryChorioretinalDisorders上野真治*辻川明孝**RPE65遺伝子変異によるLeber先天盲に対する遺伝子治療薬が日本でも認可された.それに伴い,RPE65遺伝子関連網膜ジストロフィを疑う場合には遺伝学的検査が保険適用となっている.また,RPE65以外の原因遺伝子による網膜疾患に対しても国内で治験が進行しており,遺伝性網脈絡膜疾患はこれまでの「治療法がない疾患」から「治療の可能性がある疾患」へと変わりつつある.今後,眼科医には患者を適切に診断し,治療適応のある患者を見落とさないことが求められる.しかし,網膜色素変性以外の遺伝性網脈絡膜疾患は比較的珍しく,知識がなければ診断がむずかしい.さらに,遺伝子解析や画像検査の急速な進歩に知識が追いついていないのが眼科医の現状ではないだろうか.また,患者がインターネットで自身の疾患について調べ,その情報をもとに質問する時代となっており,眼科医にも遺伝性網脈絡膜疾患に関する一定の知識が必要となっている.本特集では,さまざまな遺伝性網脈絡膜疾患の検査,病態,治療に至る最新知識を網羅的に掲載し,知識のアップデートをはかることを目的としている.本書では,まず総論として遺伝性網脈絡膜疾患の診断に必要な臨床検査所見,遺伝子検査の実際とその具体例について述べ,続いて各論として疾患につ視細胞障害視細胞以外の障害網膜全体の異常網膜中層障害(双極細胞)おもに杆体の異常・進行性-網膜色素変性とその類縁疾患・停在性-小口病,白点状眼底・停在性夜盲・先天網膜分離おもに錐体の異常・停在性-杆体一色覚・進行性-錐体ジストロフィ視神経の障害・遺伝性視神経萎縮黄斑の異常硝子体の異常・黄斑ジストロフィ(Stargardt病,Best病,ほか多数)・家族性滲出硝子体網膜症図1遺伝性網脈絡膜疾患の分類いて解説する.遺伝性網脈絡膜疾患の分類を図1に示した.まず,視細胞の障害か視細胞以外の障害かに分類する.視細胞の障害の場合は,網膜全体の異常か黄斑の異常かで分類する.網膜全体の障害であれば,さらに錐体障害か杆体障害かで分類し,さらに進行性と停在性のものに分類する.本特集では視神経疾患と硝子体異常以外の疾患について解説していただいた.遺伝性網脈絡膜疾患のなかでもっとも頻度が高いのは網膜色素変性である.これは,視細胞障害のなかで網膜全体の杆体機能が進行性に障害される代表的な疾患である.網膜色素変性の項では,その診断*ShinjiUeno:弘前大学大学院医学研究科眼科学講座**AkitakaTsujikawa:京都大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(1)265-

糖尿病網膜症の経過観察中に網膜細動脈瘤が原因で硝子体出血をきたした1例

2025年2月28日 金曜日

《原著》あたらしい眼科42(2):254.258,2025c糖尿病網膜症の経過観察中に網膜細動脈瘤が原因で硝子体出血をきたした1例岡本紀夫*1濱本亜裕美*2*1おかもと眼科*2淀川キリスト教病院眼科CACaseofVitreousHemorrhageDuetoRetinalArterialMacroaneurysmObservedDuringDiabeticRetinopathyFollow-UpExaminationNorioOkamoto1)andAyumiHamamoto2)1)OkamotoEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,YodogawaChristianHospitalC症例はC67歳,女性.健康診断にて糖尿病網膜症を指摘され当院を受診した.既往歴として高血圧と糖尿病があった.視力は両眼ともC1.0であったが,両眼とも眼底検査で糖尿病網膜症を認めた.糖尿病網膜症に伴う黄斑浮腫に対して右眼に抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬硝子体内投与にて経過観察をしていた.初診からC14年後に左眼の霧視を自覚,硝子体出血を認めたので淀川キリスト教病院眼科へ紹介した.1週間後の受診時には硝子体出血はあるが眼底が透見可能となり,鼻側に網膜細動脈瘤(RAM)を認めた.RAM発症前の眼底写真を見直すと,鼻側の網膜動脈に沿って硬性白斑があるが明らかなCRAMはなかった.CThisstudyinvolveda67-year-oldfemalewhowasreferredtoourhospitalafterbeingdiagnosedwithdiabeticretinopathyduringaphysicalexamination.Hervisualacuitywas1.0inbotheyes,yetfundusexaminationrevealedbilateralCdiabeticCretinopathy.CSheCwasCfollowedCupCwithCintravitrealCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCinjec-tionsinherrighteyefordiabeticretinopathy-associatedmacularedema.Fourteenyearsaftertheinitialexamina-tion,shebecameawareoffoggyvisioninherlefteye,andvitreoushemorrhagewasobserved,soshewasreferredtotheDepartmentofOphthalmologyatYodogawaChristianHospital.Attheinitialpresentation1-weeklater,thepatientChadCvitreousChemorrhage,CyetCtheCfundusCwasCclear,CandCaCnasalCretinalCarterialCmacroaneurysmCwasCobserved.Thereviewoffundusphotographstakenbeforetheonsetofretinalarterialmacroaneurysmrevealedahardexudatealongthenasalretinalartery,butnoobviousretinalarterialmacroaneurysm.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(2):254.258,C2025〕Keywords:糖尿病網膜症,網膜細動脈瘤,発症前,硝子体出血.diabeticretinopathy,retinalarterialmacroaneu-rysm(RAM),beforeonset,vitreoushemorrhage.Cはじめに網膜細動脈瘤(retinalCarterialmacroaneurysm:RAM)はCRobertson1)によって報告されて以来,数多くの報告がある.RAMは網膜動脈の第C3分枝以内で,一部が.状,紡錘状に拡大し,滲出性の変化により視力低下をきたしたり,突然破裂して網膜下出血,網膜内出血を起こすことが知られている.RAMのほとんどが突然発症するため,早期発見は困難である.今回,筆者らは糖尿病網膜症の経過観察中に硝子体出血を発症し,自然吸収後に鼻側にCRAMを認めたC1例を経験し,発症前の眼底写真と比較したので報告する.CI症例患者:67歳,女性.主訴:糖尿病網膜症の精査.初診:2010年C7月.既往歴:高血圧,糖尿病(42歳).現病歴:健診センターの眼底検査にて糖尿病網膜症を認めたので受診した.〔別刷請求先〕岡本紀夫:〒564-0041大阪府吹田市泉町C5-11-12-312おかもと眼科Reprintrequests:NorioOkamoto,M.D.,Ph.D.,OkamotoEyeClinic,5-11-12-312Izui-Cho,Suita,Osaka564-0041,JAPANC254(120)図1初診時眼底写真とOCT(2010年)両眼とも毛細血管瘤と網膜出血,右眼には輪状の硬性白斑を認める.OCTでは右眼に浮腫がある.Cab図2眼底写真a:硝子体出血吸収後.硝子体出血と下鼻側に硬性白斑とCRMAを認める().b:硝子体出血発症C4カ月前.下鼻側の網膜動脈に沿って硬性白斑がある.初診時所見:視力はC1.0(1.2).眼圧は正常.両眼とも白内障を認めた.眼底検査では両眼とも毛細血管瘤,点状,斑状出血,硬性白斑を認めた.光干渉断層計(opticalCcoher-encetomography:OCT)では右眼の輪状硬性白斑に一致して黄斑浮腫があった(図1).2012年C7月の再診時には右眼の硬性白斑は増加しCOCTで黄斑浮腫の増加と漿液性網膜.離も認めるようになった.その後,硬性白斑は徐々に減少し,漿液性網膜.離も消失し視力も矯正C1.0と良好を維持したので経過観察した.2016年C6月ごろ視力はC0.5と低下したが徐々に黄斑浮腫の増加があったので,2016年C12月に淀川キリスト教病院眼科へ紹介した.2017年C2月に右眼に局所光凝固したが黄斑浮腫がやや増悪したのでC3月に抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬硝子体内投与を行った.その後,2017年C9.2024年C1月まで計C11回抗CVEGF薬硝子体内投与が施行され,2021年C7月には両眼の白内障手術が施行された.一方,左眼は初診時より黄斑浮腫を認めず経過観察をしていた.2024年C4月末より見えくいことを自覚し,5月初旬に当院を受診した.視力は左眼C0.4(矯正不能)と低下し,眼底検査では硝子体出血により透見不能であった.淀川キリスト教病院をC1週間後に受診したときには透見可能で,下鼻側にCRAMと網膜動脈に沿った硬性白斑を認めた(図2a).フルオレセイン蛍光造影検査では,.状のCRAMが確認できた(図3).5月中旬のOCTではCRAMに一致して網膜厚がC460Cμmと肥厚し硝子図3フルオレセイン蛍光造影写真38秒(Ca)とC11分(Cb).RMAは.状であることがわかる().新生血管はない.図4MAのOCT像RAM高はC460Cμmで,硝子体側に突出している.Bモード水平断で網膜内に明らかな瘤が確認でき,内腔壁の高反射がある().体側に突出し,網膜内のCRAMの内腔壁の高反射があった(図4).7月に左眼の出血源と思われるCRAM周囲に光凝固(yellowC200μm180mw0.15sec50shots)が施行された(図5).現在,両眼とも矯正視力はC0.9である.2023年C1月のCRAMによる硝子体出血前の眼底写真を見直すと視神経乳頭の下鼻側の網膜動脈に沿って硬性白斑を認めるが,明らかなCRAMはなかった(図2b).硝子体出血吸収後の眼底写真と比較すると明らかに硬性白斑が増加していた.なお,経過観察中のCHbA1cは7%前後で推移していた.CII考按RAMは一般的に網膜中心動脈から第C3分枝以内の網膜動脈に生じる血管瘤であると定義されている1).高齢者や女性の割合が高く,高血圧がC75%の患者に認められるとされる2).本症例も高齢者の女性で既往歴に高血圧があった.糖尿病網膜症の経過観察中に硝子体出血を発症した場合は,原因として新生血管がまず考えられる.本症例は硝子体出血吸収時に鼻側にCRAMが確認できたので,これが出血源であると判断した.フルオレセイン蛍光造影検査で,.状のRAMは確認されたが,新生血管は確認されていない.糖尿病網膜症に細動脈瘤を認めた報告は丸山ら3)が51例中5例に糖尿病を認め,そのうちのC2例に糖尿病網膜症に伴うRAMであり,2例とも汎網膜光凝固を施行された症例であると報告している.鼻側のCRMAは視力低下をきたしにくいためか報告例は少ない.Tizelら4)はCRAMの発生部位は網膜耳側がC90%,鼻側がC10%であると報告している.自験例5)でも鼻側がC32眼中C5例からも明らかに網膜の耳側が多かった.丸山ら3)の報告でも,鼻側発症はC53眼中C4眼であり,そのうちのC2眼が初発硝子体出血の原因となっていた.耳側発症がC49眼中C4眼に初発硝子体出血の原因となっていることから,鼻側RAMは初発硝子体出血の発生頻度が高いことになるが,耳側と鼻側ともに硝子体出血はC2.8週間で消退し,視力は良好であったと報告している.RAMは動脈硬化による網膜動脈壁の脆弱性に加えて高血圧による動脈圧の上昇が原因として考えられている6).本症例のCRAMについて仮説ではあるが,糖尿病網膜症により脆弱な網膜動脈にCRAMが形成されつつあるときにCVEGFが産生され,RAM形成に先立って網膜動脈に沿った硬性白斑が形成された可能性がある.以前,筆者らが報告したCRAMの症例は,急激が圧力の変化が起きてCRAMが破裂し網膜出血をきたした7).しかし,発症C3カ月前の眼底写真を見直すと本症例のような硬性白斑を認めていない.RAMのCOCTでは,平林ら8)の未破裂CRAMと同様にRAM高がC460Cμmと肥厚し,硝子体側に突出していた.また,水平断CBスキャン像で網膜内に明らかな瘤を確認する図5光凝固施行時下鼻側の硬性白斑とCRMAを含んで広範囲に光凝固を行った.ことができた.RAMは一度破裂すると閉塞することが多いが,硝子体出血吸収後も網膜出血が綿毛のように広がっており,「.u.ysign」を呈していたので予後不良と考え9),また,硬性白斑の増加を認めていたので,その範囲も含めて光凝固を行った.近年では抗CVEGF薬硝子体内投与によってCRAMの閉鎖と滲出性変化の改善が報告されているが,わが国では保険適用外なので使用することはできない10).糖尿病網膜症の経過観察中に硝子体出血を発症し,RAMが原因であるC1例を報告した.糖尿病網膜症に伴う黄斑浮腫の発症に注意を払っていたが,乳頭周囲の硬性白斑にはあまり注意をしていなかった.平林ら8)の症例(高眼圧症)や自験例7)(中心窩ドルーゼン)に対してCOCTを経時的に撮影していたため,RAM発症前後のCOCTを比較することができたが,本症例ではCOCTは黄斑部の撮影であったため,発症前にCOCTで捉えることができなかった.最近では広範囲に撮影できるCOCTが開発されていることから,RAMの早期発見につながるかもしれない.文献1)RobertsonDM:MacroaneurysmsCofCtheCretinalCarteries.CTransAmAcadOphthalmolOtolaryngolC77:55-67,C19732)阪口沙織:網膜細動脈瘤.あたらしい眼科C39:17-22,C20223)丸山泰弘,山崎伸一:網膜細動脈瘤C53例の視力の転帰.臨眼45:1506-1512,C19914)TezelCT,CGunalpCI,CTezalG:MorphometricalCanalysisCofCretinalCarterialCmacroaneurysms.CDocCOphthalmolC88:C113-125,C1994C5)青松圭一,岡本紀夫,杉岡孝二ほか:網膜細動脈瘤C32例の検討.動脈瘤が明瞭な症例.眼科57:1163-1169,C20156)柳靖雄:OCT・OCTAパーフェクト読影法,Chapter12網膜出血を認めたら.p133-141,羊土社,20237)岡本紀夫,木坊子展生,渡邉敦士ほか:誤嚥後に網膜出血を発症した網膜細動脈瘤のC1例.眼科66:605-609,C20248)平林博,若林真澄,平林一貴:OCTによる経過観察が有用であった網膜細動脈瘤のC1例.臨眼73:595-601,C20199)DoiCS,CKimuraCS,CMorizaneCYCetal:AdverseCe.ectCofCmacularintraretinalhemorrhageontheprognosisofsub-macularChemorrhageCdueCtoCretinalCarterialCmacroaneu-rymrupture.RetinaC40:989-997,C202010)MansourCAM,CFosterCRE,CGallego-PinazoCRCetal:Intra-vitrealCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCinjectionsCforCexudativeCretinalCarterialCmacroaneurysms.CRetinaC39:1133-1141,C2019***

COVID-19ワクチン接種後に角膜移植術後拒絶反応を認めた2症例

2025年2月28日 金曜日

《原著》あたらしい眼科42(2):250.253,2025cCOVID-19ワクチン接種後に.膜移植術後拒絶反応を認めた2症例瀬越一毅*1脇舛耕一*1南出みのり*1山崎俊秀*1外園千恵*2木下茂*1*1バプテスト眼科クリニック*2京都府.医科.学眼科学教室CTwoCasesofCornealGraftRejectionFollowingCOVID-19VaccineKazukiSegoe1),KoichiWakimasu1),MinoriMinamide1),ToshihideYamasaki1),ChieSotozono2)andSigeruKinoshita1)1)DepartmentofOphthalmology,BaptistEyeInstitute,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineCCOVID-19ワクチン接種に伴って炎症性の眼合併症が報告されている.今回,ワクチン摂種後に.膜移植術後拒絶反応を認めた症例を経験した.症例C1はC78歳,男性.15年前に右眼の全層.膜移植術を施.され,3年前に全層.膜移植術を再施.されていた.4回.のCCOVID-19ワクチン接種後C12C..に急激な右眼の視.低下を.覚し受診..膜移植術後拒絶反応と診断し,ステロイド全.投与および点眼治療を.い,治療開始後C14C..には拒絶反応による炎症の改善を得た.症例C2はC61歳,.性.12年前に右眼の全層.膜移植術を施.されていた.5回.のCCOVID-19ワクチン接種後C9..に急激な右眼の視.低下を主訴に受診..膜移植術後拒絶反応と診断し,ステロイド全.投与および点眼治療を.い,治療開始後C7..には拒絶反応による炎症の改善を得た.ワクチン接種後には.膜移植術後拒絶反応のリスクがあることを認識し,早期の診断や治療を.う必要があると考えられた.CIn.ammatoryocularcomplicationshavebeenreportedpostCOVID-19vaccination.Hereinwereporttwocas-esCofCcornealCgraftCrejectionCthatCoccurredCpostCCOVID-19Cvaccination.CCaseC1CinvolvedCaC78-year-oldCmaleCwhoChadundergonepenetratingkeratoplasty(PKP)inhisrighteye15yearsago,andonce-again3yearsago.TwelvedaysafterhisfourthCOVID-19vaccination,heexperiencedsuddenlossofvisualacuity(VA)inhisrighteyeandwasdiagnosedwithcornealgraftrejection.Treatmentwithsystemicandtopicalsteroidswasinitiated,andhisVAimprovedCafterC14Cdays.CCaseC2CinvolvedCaC61-year-oldCfemaleCwhoChadCundergoneCPKPC12CyearsCago.CAtC9CdaysCpostCOVID-19vaccination,shepresentedwithsuddenlossofVAinherrighteyeandwasdiagnosedwithcorne-alCgraftCrejection.CSteroidCtreatmentCwasCinitiated,CandCherCVACimprovedCafterC7Cdays.CAlthoughCbothCcasesCimprovedwithsteroidtherapy,itiscrucialtobeawareoftheriskofcornealgraftrejectionpostCOVID-19vacci-nationandensurethatpromptdiagnosisandtreatmentisinitiated.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(2):250.253,C2025〕Keywords:.膜移植術後拒絶反応,COVID-19,ワクチン,.膜移植,眼合併症.cornealCgraftCrejection,CCOVID-19,vaccines,keratoplasty,ocularadversee.ects.Cはじめに2020年C1C.,中国武漢市での肺炎の流.の報告に始まった新型コロナウイルス感染症(CoronaCVirusCDisease2019:CCOVID-19)は,瞬く間に全世界に拡.した.COVID-19による重篤な症状や死亡を防ぐために,ワクチンの迅速な開発が.常に重要であった.世界各国で直ちにワクチンや治療薬の開発が始まり,わが国ではC2021年C2.に医療従事者への接種が始まりC4.にはC65歳以上の国.へC6.にはさらに対象が拡.された.そして現在もCCOVID-19に対するワクチンの接種が感染予防のために施.されている.以前よりインフルエンザワクチンなどのワクチン接種によるぶどう膜炎や視神経炎,.膜移植術後拒絶反応などが報告されている〔別刷請求先〕脇.耕.:〒606-8287京都市左京区北.川上池.町C12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:KoichiWakimasu,DepartmentofOphthalmology,BaptistEyeInstitute,12Kitashirakawa,Kamiikeda-cho,Sakyo-ku,Kyoto606-8287,JAPANC250(116)図1前眼部所見(症例1)a:発症前の所...膜透明性は保たれており,炎症所.も認めない.Cb:発症時の所...膜輪部の.様充.および.膜浮腫,.膜後.沈着物を認める.c:治療後の所...膜浮腫と.膜後.沈着物の軽減を認める.図2前眼部所見(症例2)a:発症前の所...膜透明性は保たれており,炎症所.も認めない.Cb:発症時の所...膜輪部の.様充.および.膜浮腫,.膜後.沈着物を認める.c:治療後の所...膜浮腫と.膜後.沈着物の軽減を認める.が1.5),COVID-19ワクチンの接種でも同様に眼への副作.が報告されている6.10).今回筆者らは,COVID-19ワクチン接種後に.膜移植術後拒絶反応を認めた全層.膜移植術(penetratingCkeratoplasty:PKP)後のC2例を経験したので報告する.CI症例症例C1患者:78歳,男性.既往歴:2007年C12.に右眼のレーザー虹彩切開術後.疱性.膜症に対して右眼のCPKP(.晶体再建術併.)を施.された.2016年C12.に移植.機能不全となり,2019年C8C.に右眼のCPKP再移植を施.された.2022年C6.の受診時は右眼視.C0.2(0.5C×sph.2.00D(cyl.4.50DAx60°),眼圧15CmmHgであり.膜透明性も良好であった(図1a).なお,左眼は浅前房に対してレーザー虹彩切開術後で.内障を認めるものの,視.はC0.8(1.2C×sph+2.50D(cyl.1.50DCAx90°)で.膜内.細胞は2,653cells/mmC2であった.現病歴:2022年C7.にC4回.のCCOVID-19ワクチン(BNT162b2,P.zer)を接種し,接種後C12..に急激な右眼の視.低下,霧視,充.を.覚したため接種後C19..に当院を受診した.所.:右眼の視.はC0.01(n.c.),右眼の眼圧はC15CmmHgであった..膜輪部の.様充.および.膜浮腫,.膜後.沈着物を認めた(図1b).なお,左眼はとくに所.の変化を認めなかった.臨床経過:.膜移植術後拒絶反応と診断し,治療としてメチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム(ソルメドロール)125Cmgの全.投与をC3.間.い,点眼を発症前のフルオロメトロン(フルメトロン)点眼液C0.1%をC1C.C3回からベタメタゾンリン酸エステルナトリウム(リンデロン)0.1%点眼をC1C.C6回に増量した.治療開始してからC2週間後の受診時には右眼視.C0.2(0.4C×sph.2.00D(cyl.5.00DAx60°)に改善し,.膜浮腫と.膜後.沈着は軽減を認めた(図1c).その後は拒絶反応の再燃はなくいったんは.膜の透明化を得られたが,.膜内.細胞が減少しC6カ.後に移植.機能不全となった.症例C2患者:61歳,.性.既往歴:2011年C7.に右眼の.膜実質ヘルペス後の.膜混濁に対して右眼のCPKPを施.された.2023年C10.の受診時は右眼視.C0.8(1.0C×sph+1.50D(cyl.2.00DCAx40°),眼圧C10CmmHgであり.膜透明性も良好であった(図1a).なお,左眼は周辺部に.膜実質ヘルペス後の.膜混濁を認めるものの中.部の透.性は良好であり,視.はC0.1(0.7C×sph.1.50D(cyl.5.00DAx130°)であった.現病歴:2023年C12C.にC5回C.CCOVID-19ワクチン(BNT162b2,P.zer)を接種し,接種後C9..に急激な右眼の視.低下,霧視,充.を.覚したため接種後C11..に当院を受診した.所.:右眼の視.はC0.2(0.4C×sph+2.50D(cyl.2.00DAx40°),右眼の眼圧はC31mmHgであった..膜輪部の.様充.および.膜浮腫,.膜後.沈着物を認めた.前房内炎症や硝.体混濁などぶどう膜炎を疑う所.は認めなかった(図2b).なお,左眼はとくに所.の変化を認めなかった.臨床経過:.膜移植術後拒絶反応と診断し,治療としてメチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム(ソルメドロール)125Cmgの全.投与をC2.間.い,3..よりベタメタゾン(リンデロン)1Cmgの内服投与を.った.点眼を発症前のフルオロメトロン(フルメトロン)点眼液C0.1%をC1C.C3回からベタメタゾンリン酸エステルナトリウム(リンデロン)0.1%点眼をC1C.C5回に増量した.治療を開始してからC1週間後の受診時には右眼の視.は0.7(1.0C×sph+2.75D(cylC.3.00DAx60°)に改善し,.膜浮腫と.膜後.沈着は軽減を認めた(図2c).その後は拒絶反応の再燃はなくいったんは.膜の透明化を得られたが,.膜内.細胞が減少しC3カ.後に移植.機能不全となった.CII考按COVID-19ワクチンの接種により引き起こされる有害事象は,ワクチン未接種で感染した場合に発症する有害事象よりも頻度が少ないと報告されている..で11),COVID-19ワクチン接種後には.筋炎や.栓症などの全.疾患から12),眼科領域においてもぶどう膜炎や視神経炎,.膜移植術後拒絶反応などが報告されている6.10).ワクチン接種後に.膜移植術後拒絶反応を起こすvaccine-associatedgraftrejection(VAR)についてはC1988年に報告されて以来2),インフルエンザやCB型肝炎,破傷.のワクチン接種後にも.じた報告があり古くから知られている現象である.本来,.膜移植は特有の免疫特権に加えて.管がないことやCMHC陽性細胞が少ないことなどから拒絶反応のリスクが低い13).しかし,頻度は少なくとも.膜移植術後に拒絶反応が.じることがあり,その機序としては移植されたドナー.膜の抗原にホストのCTh1細胞が反応し,炎症性サイトカインを分泌することで導かれるとの説がある14).ワクチン接種と拒絶反応発症の直接的な因果関係を証明することはむずかしいが,COVID-19ワクチンは接種後C21C.以内に体内でCSARS-CoV-2中和抗体を誘導し,強.なCCD4陽性CTh1細胞の免疫応答を引き起こしCIFN-cなどの炎症性サイトカインが増加することが.されている15).今回の症例1ではワクチン接種後C12C..,症例C2ではC9..に発症しておりもっとも免疫反応が強いタイミングであり,これが.膜移植術後拒絶反応に寄与したのではないかと考えられる.実際にCCOVID-19ワクチン接種後からCVARまでの発症期間をデータ解析した報告16)では初回接種でC16.26C±12.97.,2回.以降ではC10.37C±9.32.で発症しており,今回の症例ではC2例ともに既報と.較しても.盾ないタイミングであった.しかし,同様にワクチン接種をした患者で.膜移植術後拒絶反応が報告されているのはまれであることや,VAR発症患者において以前にワクチン接種した際は発症していないことを考えると,他の要因も関与していると推測される..膜移植術後拒絶反応のリスク因.として若年であることや,前眼部炎症の既往,拒絶反応の既往,再移植後,.管新..膜などが知られている17).今回の症例C1は移植.機能不全の既往があり再移植後であったこと,症例C2ではヘルペス性.膜実質炎後の.膜混濁で.膜実質内に.管侵.があり,両.の症例において拒絶反応のリスクが.かったことも.膜移植術後拒絶反応を発症した要因であったのではないかと考えられる.また,ワクチン接種後の抗体価のピーク値はC2回.よりも3回.で.値であったとの報告もあり18),過去に接種歴がありCVARを発症していなくても回数を重ねるごとにリスクが.くなる可能性もある.既報ではステロイドの全.投与および点眼の強化により拒絶反応の改善を得ることができており,速やかな診断および治療により良好な転機が得られている9).しかし,拒絶反応による不可逆的な.膜内.細胞の減少は避けられず,治療が遅れる場合や発症前の.膜内.細胞密度が低い場合などは移植.機能不全となる可能性も考えられる.今回の症例においてもステロイド治療により炎症は改善することができたものの,VAR発症前の.膜内.細胞密度が低かったこともあり,最終的には移植.機能不全となった.今回の検討から,COVID-19ワクチンの接種後には.膜移植術後拒絶反応を発症するリスクがあり,患者への啓発および医療機関での接種後の綿密な診察によりCVARの早期診断,治療を図る必要があると考えられた.中でも,.膜移植術後拒絶反応のリスク因.がある症例ではより注意が必要である.また,.膜内.細胞密度が減少している症例ではVAR発症後に移植.機能不全となる可能性もあり,全.状態のリスクと合わせてワクチン接種について考慮することが望ましい.そしてワクチン接種が必要な症例ではCVAR発症の予防を.的に,接種前のステロイド全.投与および点眼の強化をはじめとする免疫抑制治療を検討すべきと考えられた.文献1)WertheimMS,KeelM,CookSDetal:Cornealtransplantrejectionfollowingin.uenzavaccination.BrJOphthalmolC90:925,C20062)SteinemannCTL,CKo.erCBH,CJenningsCD:CornealCallograftCrejectionCfollowingCimmunization.CAmCJCOphthal-molC106:575-578,C19883)SolomonA,FruchtPeryJ:BilateralsimultaneouscornealgraftCrejectionCafterin.uenzaCvaccination.CAmCJCOphthal-molC121:708-709,C19964)MarinhoCPM,CNascimentoCH,CRomanoCACetal:Di.useCuveitisandchorioretinalchangesafteryellowfevervacci-nation:are-emergingepidemic.IntJRetinaVitreousC5:C30,C20195)CunninghamCET,CMoorthyCRS,CFraunfelderCFWCetal:CVaccine-associatedCuveitis.COculCImmunolCIn.ammC27:C517-520,C20196)KeikhaCM,CZandhaghighiCM,CZahedaniSS:OpticCneuritisCassociatedCwithCCOVID-19-relatedCvaccines.CVacunasC24:158-159,C20237)PillarCS,CWeinbergCT,CAmerR:PosteriorCocularCmanifes-tationsfollowingBNT162b2mRNACOVID-19vaccine:acaseseries.IntOphthalmolC43:1677-1686,C20238)SinghRB,ParmarUPS,KahaleFetal:Vaccine-associat-edCuveitisCafterCOVID-19vaccination:vaccineCadverseCeventCreportingCsystemCdatabaseCanalysis.COphthalmologyC130:179-186,C20239)RallisKI,TingDSJ,SaidDGetal:CornealgraftrejectionfollowingCOVID-19vaccine.Eye(Lond)C36:1319-1320,C202210)PhylactouM,LiJO,LarkinDFP:Characteristicsofendo-thelialcornealtransplantrejectionfollowingimmunisationwithSARS-CoV-2messengerRNAvaccine.BrJOphthal-molC105:893-896,C202111)BardaCN,CDaganCN,CBen-ShlomoCYCetal:SafetyCofCtheCBNT162b2CmRNACCovid-19CvaccineCinCaCnationwideCset-ting.NEnglJMedC16:1078-1090,C202112)AbuMouchS,RoguinA,HellouEetal:Myocarditisfol-lowingCOVID-19mRNAvaccination.VaccineC39:3790-3793,C202113)TaylorAW:OcularCimmuneCprivilege.CEyeC23:1885-1889,C200914)HegdeCS,CBeauregardCC,CMayhewCECetal:CD4(+)T-cell-mediatedCmechanismsCofCcornealCallograftCrejec-tion:roleCofCFas-inducedCapoptosis.CTransplantationC79:C23-31,C200515)PolackCFP,CThomasCSJ,CKitchinCNCetal:SafetyCandCe.cacyCofCtheCBNT162b2CmRNACCovid-19Cvaccine.CNEnglJMedC383:2603-2615,C202016)SinghCRB,CLiCJ,CParmarCUPSCetal:Vaccine-associatedCcornealCgraftCrejectionCfollowingCSARS-CoV-2Cvaccina-tion:aCCDC-VAERSCdatabaseCanalysis.CBrCJCOphthalmolC108:17-22,C202317)CosterDJ,WilliamsKA:Theimpactofcorneala1lograftrejectionofthelong-termoutcomeofcornealtransplanta-tion.AmJOphthalmolC140:1112-1122,C200518)成.慎治,.島秀幸,宮崎未緒ほか:モデルナ社製新型コロナワクチン(mRNA-1273)接種後の抗体価について-2回.,3回.接種後の抗体価の経時的推移.医学検査C73:C360-365,C2024C***

3焦点眼内レンズ挿入眼における自覚屈折値と他覚屈折値

2025年2月28日 金曜日

《原著》あたらしい眼科42(2):245.249,2025c3焦点眼内レンズ挿入眼における自覚屈折値と他覚屈折値藤﨑理那太田友香小原絵美南慶一郎ビッセン宮島弘子東京歯科大学水道橋病院眼科CSubjectiveandObjectiveRefractionsinEyeswithTrifocalIntraocularLensesRinaFujisaki,YukaOta,EmiObara,KeiichiroMinamiandHirokoBissen-MiyajimaCDepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospitalC目的:Clareon素材の回折型C3焦点眼内レンズ(IOL)挿入眼の他覚的屈折値と自覚屈折値を後向きに検討した.対象と方法:東京歯科大学水道橋病院にて非トーリックC3焦点CIOL(CNWTT0,Alcon)を挿入したC38例C68眼とトーリックC3焦点CIOL(CNWTT3-5,Alcon)を挿入したC22例C27眼である.術後C1カ月のオートレフラクトメータで得られた他覚屈折値と,Landolt環チャートを用いた明所視下視力検査で得られた自覚屈折値の平均,各平均の差,両者の相関を評価した.結果:CNWTT0挿入眼では,他覚値が自覚値に比べ円柱度数はC0.32D,等価球面(SE)度数はC0.17D近視化していた.CNWTT3-5挿入群では,球面度数はC0.09D,円柱度数はC0.24D,SE度数はC0.17Dの近視化が認められた.また,両群とも球面,円柱,SE度数が有意に相関し,回帰直線の切片から,CNWTT0挿入眼は円柱度数とSE度数でC.0.40D,C.0.17Dの近視化,CNWTT3-5挿入眼は円柱度数でC.0.27D,SE度数でC.0.21Dの近視化が確認された.結論:Clareon3焦点CIOL挿入眼では,球面度数は自覚値と他覚値はほぼ一致していたが,円柱とCSE度数は他覚値が自覚値に比べておよそC0.30D近視化していた.CPurpose:ToCretrospectivelyCevaluateCsubjectiveCandCobjectiveCrefractionsCofCeyesCwithCdi.ractiveCtrifocalintraocularlens(IOL)ofClareonmaterial.Methods:Non-toric(CNWTT0,Alcon)andtoric(CNWTT3-5)trifocalIOLswereimplantedin68eyesof38patientsand27eyesof22patients,respectively.Onemonthpostoperatively,objectiveandsubjectiverefractionsweremeasuredusinganauto-refractometerandLandoltchartunderphotopicillumination.Insphere,cylinder,andsphericalequivalent(SE)refractions,themeansofeachrefraction,themeandi.erences,CandCtheCcorrelationsCbetweenCobjectiveCandCsubjectiveCrefractionsCwereCevaluated.CResults:InCeyesCwithCNWTT0,themeanobjectivecylinderandSEvaluesweremyopicallyshiftedby0.32and0.17D,respective-ly,comparedwithsubjectiveones.IneyeswithCNWTT3-5,thereweremyopicshiftsof0.09,0.24,and0.17Dinthesphere,cylinder,andSErefractions.Regressionanalysisresultedinthemyopicshiftsof.0.40and.0.17DintheCcylinderCandCSECwithCCNWTT0,CandC.0.27CandC.0.21DCinCtheCcylinderCandCSECwithCCNWTT3-5.CConclu-sions:IneyeswithClareontrifocalIOLs,whiletherewasnosigni.cantdi.erencebetweenobjectiveandsubjec-tivesphere,objectivecylinderandSEweremyopicallyshiftedbyabout0.30D.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(2):245.249,C2025〕Keywords:回折型,3焦点眼内レンズ,他覚屈折値,自覚屈折値.di.ractive,trifocalintraocularlens,objectiverefraction,subjectiverefraction.Cはじめに多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)は,遠方だけでなく中間,近方においても焦点をもつことで遠近,遠中の視力を提供し,白内障術後の眼鏡装用率を減らすことを可能とする.多焦点CIOL挿入後に中間,近方視力を獲得するためには,術後の屈折ずれが小さいことが必須であり,正確な屈折検査を積み重ねることが重要となる.通常,視力検査(自覚屈折検査)を行う際には,あらかじめ測定した他覚屈折検査値が参考にされる.しかし,一部の多焦点CIOLでは,他覚屈折値と自覚屈折値に乖離が生じるため1),他覚屈折検査値を参考にしてよいか,注意する必要がある.近年,Clareon素材(Alcon)の回折型C3焦点眼CIOLが使〔別刷請求先〕ビッセン宮島弘子:〒101-0061東京都千代田区神田三崎町C2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科Reprintrequests:HirokoBissen-Miyajima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital,2-9-18Kanda-Misakicho,Chiyoda-ku,Tokyo101-0061,JAPANC表1患者背景CNWTT0挿入群CNWTT3-5挿入群症例数38例68眼22例27眼年齢(歳)C67.8±7.7[38-80]C71.8±7.7[48-84]術前角膜乱視(D)*C0.6±0.3[0.13-1.2]C1.46±0.5[0.28-2.48]眼軸長(mm)C24.8±1.4[21.9-29.0]C24.5±1.8[21.1-29.6]眼内レンズ度数(D)C18.9±3.5[6.0-24.0]C18.1±4.9[6.0-26.0]*IOLマスターC700で測定した角膜前面乱視.平均±標準偏差[範囲]表2CNWTT0挿入群とCNWTT3-5挿入群の他覚値と自覚値球面度数(D)円柱度数(D)SE度数(D)CNWTT0挿入群他覚C自覚Cp値*C0.19±0.43C0.19±0.40C0.47.0.70±0.39C.0.38±0.40C<C0.001.0.16±0.350.01±0.30<C0.001CNWTT3-5挿入群他覚C自覚Cp値*C0.17±0.42C0.25±0.40C0.016.0.70±0.51C.0.45±0.42C<C0.001.0.18±0.320.03±0.30<C0.001*t検定用可能となった.本CIOLは,回折型C3焦点CIOL(TFNT00,TFNT20-60,Alcon)と同一の光学デザインをもち,疎水性アクリルのCAcrySof素材から含水率が高いCClareon素材に改良されたCIOLである.TFNT00挿入眼では,円柱度数と等価球面(sphericalCequivalent:SE)度数において,他覚屈折値は自覚屈折値に比べて有意に近視化することが知られている2).Clareon素材のCIOLに対してもCAcrySof素材の場合と同等であると期待されるが,他覚屈折値と自覚屈折値について検討されていない.そこで,本CIOL挿入眼における他覚屈折値と自覚屈折値に顕著な差がないかを後向きに検討した.CI対象と方法本後ろ向き研究は,東京歯科大学倫理審査委員会の承認後(承認番号:1142),ヘルシンキ宣言に遵守して行われた.対象は,2022年C5.10月に東京歯科大学水道橋病院にてClareon素材の回折型C3焦点CIOL(CNWTT0,CNWTT3-6,Alcon)を正視狙いで挿入し,術後C1カ月の矯正視力C0.8以上得られた症例とした.白内障手術以外の眼手術歴のある症例は除外した.手術は,2.2CmmまたはC2.4Cmmの角膜耳側切開からCCen-turion(Alcon)を用いて水晶体超音波乳化吸引術を行い,プリセットの挿入器を用いて全例水晶体.内にCIOLを挿入した.IOL度数は,眼軸などをCIOLマスターC700(Zeiss)で生体計測し,BarrettUniversalII式を用いて正視にもっとも近くなる度数を採用した.トーリックCIOLは角膜乱視の度数と軸をオンラインのトーリックカリキュレーター平均±標準偏差(https://www.myalcon-toriccalc.com/#/calculator)に入力し,残余乱視がもっとも少ないモデルと軸を採用した.IOLの軸位置は,デジタル認証システムのCVerion(Alcon)かCALLIST(Zeiss)を用いて固定した.術後C1カ月時に屈折検査を行った.他覚屈折は,オートレフラクトメータ(TONOREFII,Nidek)で得られた球面,円柱,SE度数値とした.自覚屈折検査には距離C5Cmに配置したCLandolt環視力チャートを用い,明所下視力を測定した.最高視力が得られるまでC0.25Dステップで球面度数を付加し,最高視力がC1段階低下する前の付加球面度数を自覚球面度数とした3,4).自覚円柱度数は,最高視力が得られる最低限の円柱度数とした.自覚球面度数と自覚円柱度数から自覚CSE度数値を求めた.トーリックの有無による影響がないかも確認するため,非トーリックとトーリックのC2群に分けて,検討を行った2).他覚と自覚の屈折値に差があるかをt検定で確認し,さらに,相関関係は単回帰分析を用いて解析した.p<0.05を有意差ありとした.CII結果解析対象となった症例はC60例C95眼で,非トーリックのCNWTT0を挿入したC38例C68眼(CNWTT0挿入群)と,トーリックCIOLのCCNWTT3-5を挿入したC22例C27眼(CNWTT3-5挿入群)であった.各群の平均年齢は,CNWTT0挿入群がC67.8C±7.7歳,CNWTT3-5挿入群はC71.8±7.7歳.その他の患者背景を表1に示す.細隙灯顕微鏡による観察では,術後明らかな眼内レンズ偏心,傾斜を示す症例はなかった.術前角膜乱視においてのみ,群間差(p表3CNWTT0挿入群とCNWTT3-5挿入群の他覚値と自覚値の差(他覚-自覚)球面度数(D)円柱度数(D)SE度数(D)CNWTT0挿入群C0.00±0.24C.0.32±0.24C.0.17±0.24CNWTT3-5挿入群C.0.09±0.21C.0.24±0.16C.0.21±0.20平均±標準偏差C0.0-0.5-1.0-1.5-2.00.0-0.5自覚円柱屈折値(D)他覚円柱屈折値(D)-1.0-1.5-2.0自覚球面屈折値(D)自覚SE屈折値(D)図1CNWTT0挿入群における球面,円柱,SEの他覚値と自覚値との相関関係<0.001,t検定)があった.CNWTT3-5挿入群における挿入CIOLの内訳は,T3(1.50D加入)挿入眼がC10眼,T4(2.25D加入)挿入眼がC15眼,T5(3.00D加入)挿入眼がC2眼であった.各群の他覚値と自覚値の平均と差を表2に示す.球面度数では,CNWTT0挿入群は他覚と自覚に有意な差はなかったが,CNWTT3-5挿入群ではC0.09Dだけ有意に近視化した(p=0.016).円柱度数では,他覚が自覚に比べてCCNWTT0挿入群はC0.32D,CNWTT3-5挿入群はC0.24D有意に近視化した(p<0.001).SE度数ではCCNWTT0挿入群はC0.17D,CNWTT3-5群は0.21D有意に近視化した(p<0.001).他覚値と自覚値の相関関係を図1,2に示す.図1はCNWTT0挿入群,図2はCCNWTT3-5挿入群における他覚値と自覚値の相関である.縦軸は他覚屈折値,横軸は自覚屈折値である.CNWTT0挿入群では,球面度数(RC2=0.68,Cb=0.91,単回帰分析),円柱度数(RC2=0.66,Cb=0.80),SE度数(RC2=0.54,Cb=0.86)は有意な正の相関であった.(p<C0.001).球面度数は回帰直線の切片はほぼゼロに対して,円柱度数とCSE度数ではおよそC.0.40D,C.0.17Dと近視化が確認された.同様に,CNWTT3-5挿入群では,球面度数(R2=0.75,Cb=0.90),円柱度数(RC2=0.90,Cb=0.93),SE度数(RC2=0.62,Cb=0.84)は有意な正の相関を示し(p<C0.001),円柱とCSEの切片はC.0.27D,C.0.21Dと近視化していた.0.0-0.5-1.0-1.5-2.00.0他覚円柱屈折値(D)-0.5-1.0-1.5-2.0-2.5自覚球面屈折値(D)円柱自覚屈折値(D)自覚SE屈折値(D)図2CNWTT3-5挿入群における球面,円柱,SEの他覚値と自覚値との相関関係III考按AcrySof素材のC3焦点CIOLでは,球面度数はトーリックのみ,円柱度数は非トーリック,トーリックで他覚値と自覚値との差が確認されている2).これは本検討の結果と一致した.平均差では,トーリックの球面度数はC0.08D,非トーリックとトーリックの円柱度数はC.0.43D,C.0.44Dと2),球面度数は同程度,円柱度数では本結果のほうが小さかった.既報はC105例C105眼の評価であり,症例数の違いが要因の一つと考えた.球面度数では,CNWTT3-5挿入群,既報の結果はともに,自覚検査における球面度数ステップ0.25D未満であった.よって,臨床的に無視できるレベルで,他覚屈折値は自覚屈折検査の参考となりえると考えた.一方,円柱度数の平均差はC.0.32.C.0.24D,回帰直線の切片ではC.0.40.C.0.27D,AcrySof素材CIOLの評価ではC.0.44.C.0.43D2)あった.自覚屈折検査の円柱度数ステップ(0.25D)程度の差であり,多少の注意は必要であるが,他覚屈折値は自覚屈折検査の目安として有用であると考えられる.他覚値と自覚値との相関図では,傾きはほぼC1で縦軸の切片は平均差とよく一致した.CNWTT0挿入群の円柱度数では傾きC0.796と小さかった.これは,度数範囲がC.1.0Dまでと限られていたため,今回の限られた症例数では過小評価されたと考えられた.円柱度数が他覚値と異なる要因のひとつとして,当院では良好な視力が得られる円柱度数で矯正を終了していることが考えられる.クロスシリンダーを用いることで,症例によっては他覚値に近くなる場合がありうるので,術後視力検査時にクロスシリンダーを用いる施設と用いない施設で,円柱度数については,さらなる検討が必要と思われる.CPanOptixIOLでは,四つ回折光とC0次光によってC3焦点を形成し,回折光の一つは遠方焦点に寄与している.回折型の焦点深度拡張型CIOLSymfony(Johnson&JohnsonSurgi-calVision)では,エシェレット回折のC1次回折が遠方焦点を形成しているため,他覚CSE値は自覚CSE値よりC0.80Dも近視化する5).これは,回折レンズの屈折力が,焦点他覚屈折測定で用いる近赤外光より,可視光のほうが高いためである.このような効果は,ClareonPanOpticsではみられなかった.回折デザインの遠方焦点への寄与が少ないためと推察される.本研究の限界として,解析対象症例はC60例C95眼と症例数は限られ,両眼症例が混在していた.より正確な評価を行うために,症例数を増やしC1例C1眼で解析を進めたい.さらに,円柱度数のみで乱視軸を配慮していなかった点もあげられる.直乱視は多少の度数でも良好な視力が得られることが知られている6).Rementeria-CapeloらはCPowervector解析も行い,他覚屈折値が自覚屈折値に比べてわずかに倒乱視化することを示している2).これらのことから,自覚屈折値と他覚屈折値を検討する場合,円柱度数のみでなく,瞳孔径や乱視軸についてもさらなる検討が必要と思われる.本研究より,Clareon素材の回折型CIOL挿入眼では,他覚円柱屈折値はC0.25D程度近視化する可能性があるため,視力検査時には過矯正とならないように注意を要すると考える.文献1)BellucciCC,CMoraCP,CTedescoCSACetal:AutomatedCandCsubjectiveCrefractionCwithCmonofocal,Cmultifocal,CandCEDOFintraocularlenses:review.JCataractRefractSurgC49:642-648,C20232)Rementeria-CapeloCLA,CGarcia-PerezCJL,CContrerasCICetCal:AutomatedCrefractionCafterCtrifocalCandCtrifocalCtoricCintraocularlensimplantation.EurJOphthalmolC31:1031-1038,C20213)滝澤菜摘,南慶一郎,平沢学ほか:焦点深度拡張型眼内レンズ挿入眼における他覚屈折値と自覚屈折値の差.臨眼74:317-322,C20204)太田友香,南慶一郎,中村邦彦ほか:連続焦点型眼内レンズ挿入眼における自覚屈折値と他覚屈折値.臨眼C76:C773-778,C20225)OtaCY,CMinamiCK,COkiCSCetal:SubjectiveCandCobjectiveCrefractionsCinCeyesCwithCextended-depth-of-focusCintraoc-ularlensesusingecheletteoptics:clinicalandexperimen-talstudy.ActaOphthalmolC99:e837-e843,C20216)KobashiH,KamiyaK,ShimizuKetal:E.ectofaxisori-entationonvisualperformanceinastigmaticeyes.JCata-ractRefractSurgC38:1352-1359,C2012***

Split fixationを呈する症例における線維柱帯切除術後の視力低下に影響する因子の検討

2025年2月28日 金曜日

《原著》あたらしい眼科42(2):241.244,2025cSplit.xationを呈する症例における線維柱帯切除術後の視力低下に影響する因子の検討井原茉那美平澤一法笠原正行庄司信行北里大学病院眼科CFactorsA.ectingtheChangesofVisualAcuityafterTrabeculectomyinPatientswithSplitFixationManamiIhara,KazunoriHirasawa,MasayukiKasaharaandNobuyukiShojiCDepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospitalC目的:Split.xationを呈する症例において,線維柱帯切除術(TLE)後に視力が悪化する原因を調査する.対象および方法:対象は,split.xationを呈する広義開放隅角緑内障および落屑緑内障のうち,TLEを施行し,術前と術後C3カ月の時点で視力,静的視野検査を施行できたC65例C65眼.術後の視力低下がClogMARでC3段階未満を回復群,3段階以上を低下群とし,患者背景,眼圧,視野,合併症について検討した.結果:回復群はC50例,低下群はC15例であった.低下群は回復群に比べ,高齢であり(p<0.01),落屑緑内障の割合が多く(p=0.046),浅前房の割合が高かった(p=0.031).また,術前眼圧が高かったが(p=0.030),眼圧下降率に差を認めなかった.静的視野検査上,回復群に比べて低下群で術前の中心窩閾値が低かったが(p<0.01),その他のパラメータに有意差を認めなかった.結論:Split.xationを呈する緑内障患者のCTLE後視力悪化の原因は,高齢,落屑緑内障,術後浅前房,術前高眼圧,中心窩閾低下であった.CPurpose:Toinvestigatethecausesofincreasedvisualacuity(VA)lossposttrabeculectomy(TLE)inglauco-mapatientswithsplit.xation.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved65eyesof65glaucomapatientswithsplit.xationwhounderwentTLE.Postsurgery,patientsaVAlossoflessthan3logMARgradeswereclassi.edinthe‘recoverygroup’,whilethosewithaVAlossof3ormorelogMARgradeswereclassi.edinthe‘reductiongroup’.CPatientCbackground,Cintraocularpressure(IOP)C,CvisualC.eld,CandCcomplicationsCwereCexamined.CResults:CComparedtotherecoverygroup,thereductiongroupwasolder(p<0.01)C,hadahigherrateofexfoliationglauco-ma(p=0.046)andshallowanteriorchamber(p=0.031)C,hadhigherpreoperativeIOP(p=0.030)C,andlowerfoveathreshold(p<0.01)C.Conclusion:VAlosspostTLEinglaucomapatientswithsplit.xationwasfoundtoberelat-edCtoCadvancedCage,CexfoliationCglaucoma,CpostoperativeCshallowCanteriorCchamber,ChigherCpreoperativeCIOP,CandClowerfoveathreshold.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(2):241.244,C2025〕Keywords:視力変化,線維柱帯切除術,split.xation,開放隅角緑内障,落屑緑内障.visualacuitychange,trab-eculectomy,split.xation,primaryopenangleglaucoma,exfoliationglaucoma.Cはじめに緑内障は,視神経と視野に特徴的変化を有し,通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である1).保存的治療による眼圧下降が不十分かつ視野障害の進行速度が十分に抑制できない場合には観血的手術が行われる.長年にわたり緑内障手術のゴールドスタンダードとされている術式は線維柱帯切除術(trabeculectomy:TLE)であり,眼圧下降効果には優れるが,視力低下につながる合併症が生じるリスクは少なくない2.3).これまでに,筆者らは,TLE後に視力低下をきたす割合を調査し,一過性の視力低下の割合がC56.5%,長期的な視〔別刷請求先〕井原茉那美:〒252-0375神奈川県相模原市南区北里C1-15-1北里大学病院眼科Reprintrequests:ManamiIhara,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0375,JAPANC0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(107)C241図110-2測定点のクラスター(左眼)文献C7)の報告に準じてC10-2測定点をC4つのクラスターに分けた.中心C4点はグレーで示す固視点近傍C4点を示し,この4点をさらに上方,下方,鼻側,耳側C2点ずつに分けた.またさらにC1点ずつ上鼻側,上鼻側,下鼻側,下耳側のC4つに分けた.力低下の割合がC2%であることを報告した.長期的な視力低下が生じる要因として,術前に中心視野障害を有する進行例であること,術後低眼圧による浅前房,脈絡膜.離,低眼圧黄斑症などの合併症があげられた.そのため,TLE後の視力維持に重要な点として,中心窩閾値が低下する前に手術を勧めること,また,術後の眼圧下降率が高くなり過ぎないことを推奨した4).術前の中心視野障害にはさまざまなパターンがあるが,その中の一つにCsplit.xationがある.Split.xationは,動的視野検査では視野欠損が固視点を横切っている状態として定義され5),静的視野検査では黄斑プログラムにおいて,少なくとも一つの象限のすべての測定点の感度がC0CdBになった視野の状態と定義されている6).これまでに,Bhadraらは,静的視野検査におけるCsplit.xationを呈する症例の約C7割において,術翌日の視力はClogMARでC2段階以上の悪化を認めたが,術後C2カ月目までに全例で視力が回復したことを報告している6).しかし,この検討は症例数が少なく,検討項目も少ないため,十分なコンセンサスは得られていない.Split.xationを呈すような視野障害が進行した症例に対して手術を行う際に,視機能の予後が予測できる因子がわかれば,今後,TLEを提案する際の一つの指標となる可能性がある.本研究の目的は,split.xationを呈する症例におけるTLE後の視力低下に影響する因子を調査することである.I対象と方法本研究は後方視的観察研究であり,北里大学病院医学部・病院倫理委員会の承認後(B20-134),ヘルシンキ宣言を遵守し施行した.対象は2015年4月1日.2020年3月31日に当院でTLEを施行した広義開放隅角緑内障および落屑緑内障のうちCsplit.xationを呈し,術前と術後C3カ月目に視力検査,眼圧検査,Humpgrey視野検査C10-2SITA-Standardを施行したC65例C65眼である.術前と比較した術後C3カ月の矯正視力の変化がClogMARでC3段階未満の症例を回復群,logMARでC3段階以上悪化した症例を低下群とし,2群に分けて解析を行った.なお,視野検査結果は術前の結果を解析し,術前平均C42.3C±38.4日に施行されたものである.静的視野検査におけるCsplit.xationは,黄斑プログラムにおいて少なくとも一つの象限のすべての測定点の感度がC0CdBになった視野の状態と定義されているが6),今回の検討では,固視点近傍4点の測定点のうち少なくとも一つの測定点において0CdBの状態になった視野と定義した.検討項目は,患者背景,眼圧変化,術前の視野検査結果,術後合併症である.視野検査結果は,中心窩閾値,meandeviation(MD)値,各クラスターの感度,中心C4点における視野感度を比較した.10-2測定点のクラスターはCNakani-shiらの報告7)を基に分類し(図1),さらに中心C4点の各測定点,4点の平均,2点の平均(上方,下方,耳側,鼻側)と,細かく分けて比較した.固視不良はモニター上で固視がよければ固視不良の値が高くても結果には大きな影響を与えないこと8),本研究で解析されているような後期症例の視野異常では偽陰性が高くなりやすいことや評価されないことを考慮し9),固視不良と偽陰性に関しては基準値を設けず,偽陽性がC15%未満の症例を採用した.統計解析にはCR(version4.0.0;TheCFoundationCforCSta-tisticalComputing)を使用し,対応のないC2群のデータの比較は対応のないCt検定,比率の比較はC|2検定を用いて解析を行った.CII結果回復群がC50眼(76.9%),視力低下群がC15眼(23.0%)であった.各群における患者背景,眼圧,合併症の比較の結果を表1に,視野検査結果の比較を表2に示す.病型の比率は,回復群では広義開放隅角緑内障がC43眼(86.0%)および落屑緑内障がC7眼(14.0%),低下群では広義開放隅角緑内障がC9眼(60.0%)および落屑緑内障がC6眼(40.0%)であり,視力低下群では落屑緑内障の割合が多かった(p=0.046).平均年齢は,回復群がC64.4C±13.6歳,低下群がC74.3C±9.4C242あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025(108)表1回復群と低下群における患者背景,眼圧,合併症の比較回復群(50例)低下群(15例)p値病型(POAG/XFG)C43/7C9/6C0.046性別(男/女)C29/21C11/4C0.44年齢(歳)C64.4±13.6C74.3±9.4<0.01眼軸長(mm)C25.9±2.5C24.7±1.5C0.083術前眼圧(mmHg)C17.7±5.3C18.8±6.5C0.030眼圧下降率(%)C.41.3±30.2C.47.2±35.27C0.44術後合併症脈絡膜.離(有/無)C3/47C4/11C0.073浅前房(有/無)C2/48C4/11C0.031CPOAG:primaryCopen-angleCglaucoma,XFG:exfoliationCglau-coma.歳であり,低下群で年齢が高かった(p<0.01).術前眼圧は,回復群でC17.7C±5.3CmmHg,低下群ではC18.8C±6.5CmmHgであり,低下群で高かった(p=0.030).合併症に関しては,浅前房を認めた割合は,回復群でC50例中C2例(4%),低下群でC15例中C4例(13.3%)であり,低下群で多かった(p=0.031).脈絡膜.離を認めた割合は,回復群でC50例中C3例(6%),低下群でC15例中C4例(13.3%)であり,低下群で多い傾向であった(p=0.073).術前CHFA10-2では,回復群の中心窩閾値はC30.6C±4.3dB,低下群でC23.5C±9.4CdBであり,低下群において低かったが(p<0.01),その他のパラメータは両群間に差を認めなかった(表2)CIII考察本研究は,split.xationを呈した広義開放隅角緑内障および落屑緑内障C65眼におけるCTLE後の視力低下の原因を患者背景,眼圧,術前の視野検査結果,術後合併症から解析した.その結果,術後視力低下の原因として,落屑緑内障,高齢,術前高眼圧,術後浅前房,中心窩閾値の低下が検出された.視力低下群では落屑緑内障の割合が高かった.Honjoらは落屑緑内障では線維柱帯切開術後に眼圧がコントロールされていても視野障害が進行する可能性を報告し10),Konstasらは落屑緑内障では眼圧以外にも進行因子が存在する可能性を報告している11).また,Kocaturkらは,落屑緑内障と健常対象者の眼動脈血流パラメータをカラードップラ画像で比較したところ,眼動脈の抵抗率指数は健常者よりも落屑緑内障患者で有意に高く,血管壁の抵抗が増加すると,拡張終期速度が最大収縮期速度よりも低下し,抵抗指数が高くなると報告している12).すなわち,落屑緑内障では血流障害が術後の視機能悪化に影響を及ぼした可能性を推察する.本研究における症例のように,split.xationを呈するような中心付近の感度低下を認める病期において,落屑緑内障では術後にさら(109)表2回復群と低下群における視野検査結果の比較回復群(50例)低下群(15例)p値中心窩閾値C30.6±4.3C23.5±9.4<0.01CMeanCdeviation(dB)C.25.9±5.6C.24.0±6.6C0.34クラスターの感度上鼻側(dB)C1.0±6.1C4.3±8.0C0.24上耳側(dB)C1.9±7.4C5.3±10.2C0.092下鼻側(dB)C7.2±10.2C7.3±10.6C0.76下耳側(dB)C13.2±8.8C13.1±7.2C0.97中心4点<0CdBの数(個)C1.4±0.7C1.4±0.6C1.0平均感度(dB)C10.7±5.8C10.6±6.5C0.95上鼻側(dB)C0.9±5.1C3.8±9.3C0.30上耳側(dB)C10.8±11.7C11.4±11.2C0.94下鼻側(dB)C13.1±13.6C10.5±13.6C0.52下耳側(dB)C17.8±13.0C16.7±12.7C0.60上方C2点(dB)C5.9±5.3C7.6±5.6C0.70下方C2点(dB)C15.5±10.3C13.6±11.6C0.51鼻側C2点(dB)C7.0±7.0C7.1±7.4C0.95耳側C2点(dB)C14.3±9.7C14.0±8.7C0.94Cに中心感度低下が進行したことにより恒常的な視力低下をきたした可能性を推察する.加えて,視力低下群では年齢が高い結果であったが,落屑緑内障の発症年齢は高く,結果に影響しているものと考える.また,Dumanらが行ったC80歳以上の高齢者とC80歳未満の群に分けて比較したCTLE後の視力経過の検討においても,1年の観察期間中のすべての観察点においてC80歳以上の高齢者群ではC80歳未満の群に比べ,平均術後視力低下をきたす結果であり,本研究結果と矛盾しなかった13).つぎに,視力低下群では術後浅前房をきたした症例が多かった.これまでに,線維柱帯切除術後C1カ月目のコントラスト感度は術前と比較して有意に低下し14),高次収差・コマ収差は有意に増加したと報告されている14.15).原因として,内部光学系の変化が推察されており,前房深度の変化も要因の一つとされる.ただし,通常,浅前房は自然経過や処置により比較的短期間に改善し得る合併症であり,本研究においても,もっとも長く認めた症例はC43日であった.したがって,浅前房のみが恒常的な視機能悪化に影響しているわけではなく,眼球形状に影響を及ぼすような低眼圧となることが,黄斑付近に何らかの血流障害や構造的変化を引き起こし,中心窩付近の視細胞を障害するのではないかと推察する.本検討において,有意差は認めなかったものの,脈絡膜.離を認めた割合も視力低下群で多い傾向であった.脈絡膜.離は,脈絡膜静脈圧を下回る低眼圧により相対的に血管透過性が亢進して血管外への血液成分の漏出が起こると推測されているが16),本症例では,いずれも黄斑部に及ぶ脈絡膜.離を認めた症例はなかった.すなわち,脈絡膜.離による直接的な黄斑部への器質的影響ではなく,眼球形状の変化によあたらしい眼科Vol.42,No.2,2025C243って,黄斑部に何らかの間接的な影響が及んだ可能性を推察する.ただし,恒常的な視力低下をきたす明確な原因は不明であるものの,脈絡膜.離を起こさないように注意しながら術後管理を行う必要がある.筆者らはこれまでに,TLE単独手術を施行したC208眼を対象とし,脈絡膜.離を発症した症例の背景因子を調べた自験例において,脈絡膜.離は術前眼圧がC19CmmHg以上の症例で生じやすく,術後C3日目の時点では下降率C50%以上,7日目の時点ではC70%以上下降すると生じやすいことを報告した4).そのため,これらの基準を超えて下がり過ぎないように術後管理を行うことが重要と考える.また,筆者らは,TLE後に浅前房や脈絡膜.離を合併する症例には落屑緑内障の割合が多いと報告している17).やはり,落屑緑内障は,高齢であることや低眼圧に伴う合併症を介して,恒常的な視力低下をきたす一連の原因に大きく関与している可能性を推察する.視野検査結果において,視力低下群の術前の中心窩閾値は回復群に比べ低かった.これまでにも朝岡らは,乳頭黄斑線維の領域が視力低下に直結する部位であると報告しており18),筆者らも以前にCTLE後において乳頭黄斑線維の領域の感度は術後視力の回復に関連していることを報告した4).今回の研究では,split.xationの定義を少し緩和したため十分な検出力を得られなかった可能性がある.また,光干渉断層計による神経節細胞層の解析や血流変化の解析を行っていないため,構造的な変化をとらえることはできていないが,Csplit.xationの所見を呈し,すでに中心窩閾値が低下している症例では視力の予備能が低い可能性が高く,手術侵襲や術後の眼球形状,血流変化などに予備能が耐えられない可能性を推察する.今後,TLE前後の黄斑部の構造的変化や血流変化の評価を行い,視力低下をきたす本質的な原因解明を行うことが重要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)木内良明,井上俊洋,庄司信行ほか:緑内障ガイドライン第C5版.日眼会誌126:85-177,C20222)GeddeCSJ,CHerndonCLW,CBrandtCJDCetal:PostoperativeCcomplicationsCinCtheCtubeCversustrabeculectomy(TVT)CstudyCduringC.veCyearsCofCfollow-up.CAmCJCOphthalmolC153:804-814,C20123)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicale.ectsoftrabeculotomyCabCexternoConCadultCeyesCwithCprimaryCopenCangleCglaucomaCandCpseudoexfoliationCsyndrome.CArchOphthalmolC111:1653-1661,C19934)庄司信行:緑内障手術で視力を守るために.あたらしい眼科39:1063-1076,C20225)KolkerAE:VisualCprognosisCinCadvancedglaucoma:aCcomparisonCofCmedicalCandCsurgicalCtherapyCforCretentionCofvisionin101eyeswithadvancedglaucoma.TransAmOphthalmolSocC75:539-555,C19776)BhadraTR,GhoshRP,SaurabhKetal:ProspectiveevalC-uationCofCwipe-outCafterCglaucomaC.ltrationCsurgeryCinCeyesCwithCsplitC.xation.CIndianCJCOphthalmolC70:3544-3549,C20227)NakanishiCH,CAkagiCT,CSudaCKCetal:ClusteringCofCcom-binedC24-2CandC10-2CvisualC.eldCgridsCandCtheirCrelation-shipCwithCcircumpapillaryCretinalCnerveC.berClayerCthick-ness.InvestOphthalmolVisSciC57:3203-3210,C20168)YohannanJ,WangJ,BrownJetal:Evidence-basedcri-teriaforassessmentofvisual.eldreliability.Ophthalmol-ogyC124:1612-1620,C20179)BengtssonCB,CHeijlA:False-negativeCresponsesCinCglau-comaperimetry:indicatorsCofCpatientCperformanceCorCtestreliability?InvestOphthalmolVisSciC41:2201-2204,C200010)HonjoCM,CTaniharaCH,CInataniCMCetal:Phacoemulsi.-cation,intraocularlensimplantation,andtrabeculotomytotreatpseudoexfoliationsyndrome.JCataractRefractSurgC24:781-786,C199811)KonstasCAG,CHolloCG,CAstakhovCYSCetal:FactorsCassoci-atedwithlong-termprogressionorstabilityinexfoliationglaucoma.ArchOphthalmolC122:29-33,C200412)KocaturkCT,CIsikligilCI,CUzCBCetal:OphthalmicCarteryCblood.owparametersinpseudoexfoliationglaucoma.EurJOphthalmolC26:124-127,C201613)DumanCF,CWaisbourdCM,CFariaCBCetal:TrabeculectomyCinpatientswithglaucomaover80yearsofage:relativelyshort-termoutcomes.JGlaucomaC25:123-127,C201614)AbolbashariCF,CEhsaeiCA,CDaneshvarCRCetal:TheCe.ectCoftrabeculectomyoncontrastsensitivity,cornealtopogra-phyandaberrations.IntOphthalmolC39:281-286,C201915)FukuokaS,AmanoS,HondaNetal:E.ectoftrabeculec-tomyonocularandcornealhigherorderaberrations.JpnJOphthalmolC55:460-466,C201116)山本哲也:緑内障手術CABC:非観血的・観血的治療を成功させるためのCFirstCStep.C5.Cp124-125,メジカルビュー社,C200217)SatoCN,CKasaharaCM,CKonoCYCetal:EarlyCpostoperativeCvisualCacuityCchangesCafterCtrabeculectomyCandCfactorsCa.ectingvisualacuity.GraefesArchClinExpOphthalmolC261:2611-2623,C202318)AsaokaR:TheCrelationshipCbetweenCvisualCacuityCandCcentralvisual.eldsensitivityinadvancedglaucoma.BrJOphthalmolC97:1355-1356,C2013***244あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025(110)

基礎研究コラム:93.コレステロールによる細胞老化と加齢黄斑変性

2025年2月28日 金曜日

コレステロールによる細胞老化と加齢黄斑変性寺尾亮加齢黄斑変性とマクロファージ老化加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)の前駆病変として,脂質沈着物のドルーゼンが網膜色素上皮下に蓄積しますが,治療法は現在ありません.ゲノムワイド相関解析よりChepaticClipaseC,cholesterylCesterCtransferprotein,lipoproteinlipase,ATPbindingcassetteA1(Abca1)などの脂質代謝に関する遺伝子のCAMDへの関与が明らかになっていますが,細胞内コレステロール排出トランスポーターであるCAbca1とCAbcg1を骨髄系細胞に特異的にノックアウトしたマウスがCsubretinalCdrusenoidCdepos-it(SDD)をきたすという報告をC2018年に慶應義塾大学の伴紀充先生らのグループがしています1).筆者らのグループはそのモデルマウスにおけるCSDDの病態機序を探ったところ,免疫細胞の一つであるマクロファージがCSDD内に集積しており,それらのマクロファージは「細胞老化」をきたしていることがわかりました2).「細胞老化」とは加齢や酸化ストレスなどによる持続的なCDNA損傷応答によってみられる細胞周期の停止状態です.老化した細胞は,周囲の正常な細胞の老化を促進したり,senescence-associatedsecretoryCphenotype(SASP)とよばれる炎症性サイトカインや増殖因子の一群を分泌することで,加齢性疾患に関与しています3).マクロファージ老化とNAD+なぜ本モデルのマクロファージが細胞老化をきたしているかを探ったところ,酸化還元反応で非常に重要な役割を果たす補酵素であるニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD+)がマクロファージで枯渇することが原因であるこ東京大学大学院医学系研究科眼科学教室とが判明しました.具体的には,マクロファージにコレステロールが蓄積することでCNAD+の分解酵素であるCCD38の発現が増加します.それによりマクロファージのCNAD+が消費分解され,細胞老化を引き起こします.その結果,老化したマクロファージの中にドルーゼンのおもな成分であるリポフスチンが蓄積し,SDDの原因となります.現に老化細胞除去治療が本モデルマウスのCSDD形成を抑えたことからも,老化したマクロファージが原因であることが裏づけられました.また同様に,NAD+の前駆体であるニコチンアミド・モノヌクレオチド(NMN)の投与もCSDDを抑えることができました.これらの結果から,老化細胞除去治療やCNAD+補.療法がCAMDの前駆病変に対する治療として有効である可能性が明らかになりました(図1).今後の展望AMD前駆病変に対する治療は,AMDへの進展を抑えることで重篤な視力障害を予防できる可能性が示唆されました.今後治療として展開されることが期待されます.文献1)BanN,LeeTJ,SeneAetal:Impairedmonocytecholes-terolCclearanceCinitiatesCage-relatedCretinalCdegenerationCandvisionloss.JCIInsightC3:e120824,C20182)TeraoR,LeeTJ,ColasantiJetal:LXR/CD38activationdrivesCcholesterol-inducedCmacrophageCsenescenceCandCneurodegenerationCviaCNAD+depletion.CCellCRepC43:C114102,C20243)TeraoCR,CSohnCBS,CYamamotoCTCetal:CholesterolCaccu-mulationCpromotesCphotoreceptorCsenescenceCandCretinalCdegeneration.InvestOphthalmolVisSciC65:29,C2024網膜下ドルーゼノイド沈着AMD図1本研究の概要(101)あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025C2350910-1810/25/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:261.黄斑疾患の硝子体手術後に生じるparacentral retinal hole(初級編)

2025年2月28日 金曜日

261黄斑疾患の硝子体手術後に生じるparacentralretinalhole(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに黄斑上膜(epiretinalmembrane:ERM)や黄斑円孔(macularhole:MH)の硝子体手術後のまれな合併症の一つとして,中心窩からやや離れた部位にCspontane-ouslyに小裂孔が生じることがあり,paracentralretinalholeとよばれ,過去にいくつかの報告がある1.4).筆者らも過去に同様の症例をC3例経験したことがある.そのうちのC1例を提示する.C●症例提示72歳,女性.両眼のCERMに対して硝子体手術が施行され,術中にCERM.離に引き続き内境界膜(internallimitingmembrane:ILM).離がやや広範囲に施行された.両眼ともCdissociatedCopticCnerveC.berClayer(DONEL)を認めたが,中心窩の陥凹は徐々に改善した.左眼は術後の光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)でたまたま中心窩のやや下耳側に小さな円孔を認めた(図1).患者の自覚症状はとくになく,OCTでは裂孔周囲に残存牽引を認めなかったので,光凝固は施行せず,そのまま経過観察とした.現在までのところ網膜.離の発症は認めていない.硝子体手術後に生じたCparacentralretinalholeと診断した.C●硝子体手術後に生じるparacentralretinalholeの臨床的特徴本合併症に関してはCRubensteinら1)がCILM.離を併用したCMH手術で初めて報告して以来,いくつか報告がみられる2.4).Sandalら4)はCMH400眼,ERM509眼をレトロスペクティブに検討し,6眼(0.6%)に術後Cparacentralretinalholeを生じたと報告している.裂孔は術後C2.12週間(平均約C5週間)で生じ,3眼が上方,(99)C0910-1810/25/\100/頁/JCOPY図1ParacentralretinalholeのOCT所見中心窩(点線円)のやや耳下側に小裂孔(赤実線円)を認める.平坦な全層孔であり,裂孔周囲に牽引を示唆する所見は認めない.3眼が耳側で,全例が無症状であった.6眼中C5眼が初回手術時にCILM.離を併用し,裂孔はいずれもCILM.離部位のエッジに生じたとしている.ただしCOCTでは全例平坦な全層孔であり,裂孔周囲に続発CERMのような牽引を示唆する所見は認めなかった.光凝固は全例で施行せずに経過観察されたが,平均追跡期間C2年の間に網膜.離や脈絡膜新生血管などの合併症はみられなかった.本合併症の原因は不明な点が多いが,ILM.離手技の出現以前には報告されておらず,ILM.離に続発する網膜の菲薄化になんらかの要因が加味されて発症する可能性が考えられる.文献1)RubinsteinCA,CBatesCR,CBenjaminCLCetal:IatrogenicCeccentricfullthicknessmacularholesfollowingvitrectomywithILMpeelingforidiopathicmacularholes.Eye(Lond)C19:1333-1335,C20052)StevenP,LaquaH,WongDetal:SecondaryparacentralretinalCholesCfollowingCinternalClimitingCmembraneCremov-al.BrJOphthalmolC90:293-295,C20063)MasonJO3rd,FeistRM,AlbertMAJr:Eccentricmacu-larholesaftervitrectomywithpeelingofepimacularpro-liferation.RetinaC27:45-48,C20074)SandaliO,SanharawiMEI,BasliEetal:Paracentralreti-nalholesoccurringaftermacularsurgery:incidence,clin-icalCfeatures,CandCevolution.CGraefesCArchCClinCExpCOph-thalmol250:1137-1142,C2012あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025233