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液垂れを低減する点眼ノズルの形状の開発

2023年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科40(12):1611.1616,2023c液垂れを低減する点眼ノズルの形状の開発藤本高志山口正純大久保宏哉高見勇人千寿製薬株式会社DevelopmentofanEyeDropNozzleShapethatReducestheAdhesionofLiquidTakashiFujimoto,MasazumiYamaguchi,HiroyaOkuboandHayatoTakamiSenjuPharmaceuticalCo,.Ltd点眼容器のノズル形状および薬液の物性によっては,点眼するときの角度によりノズル側面に薬液が垂れる現象である「液垂れ」が生じることがある.この液垂れを低減することを目的とした点眼ノズルを開発した.自社の従来のノズル形状では滴下する角度が45°以下から徐々に液垂れが認められた.一方,液垂れの低減を目的としたノズル形状は,表面張力40.9mN/m以上および粘度45.0mPa・s以下の物性の薬液であれば,20°で滴下させても液垂れは認められなかった.液垂れはノズル先端の半径(R)が影響しており,Rが小さいほうが液垂れは起こりにくかった.したがって,開発したノズル形状はノズル先端のRが小さく,自社の従来のノズル形状より液垂れを低減する効果があった.Dependingontheshapeofthenozzleofaneye-dropcontainerandthephysicalpropertiesofthedrugsolu-tion,“adhesionofliquid”(aphenomenoninwhichthedrugsolutionadheresanddripsfromthesideofthenozzle)canoccurduetotheangleatwhichtheeye-dropsareinstilled.Hereinwereportthedevelopmentofanophthal-micnozzlethatreducestheadhesionofliquid.Usinganeyedropcontainerwithaconventionalnozzleshape,adhe-sionofliquidwasobservedwhenthedropswereinstilledatanangleofbelow45°.However,usingacontainerwithournewnozzleshapedesignedtoreducetheadhesionofliquid,noadhesionwasobservedatthedroppedangleof20°foradrugsolutionwithasurfacetensionofover40.9mN/mandaviscosityofunder45.0mPa・s.Our.ndingsrevealedthattheradius(R)ofthenozzletipa.ectedtheadhesionofliquid(i.e.,adhesionwaslesslikelytooccurwhentheRwassmall),andthatcomparedtotheconventionalnozzleshape,ournewlydevelopednozzleshapewithasmallerRnozzletipwasmoree.ectiveinreducingtheadhesionofliquidanddrips.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(12):1611.1616,2023〕Keywords:点眼容器,ノズル,液垂れ,表面張力,滴下角度.eyedropcontainer,nozzle,adhesionofliquid,sur-facetension,dropangle.はじめに点眼容器で点眼する際に,斜めに薬液を滴下するとノズル形状によっては,薬液がノズル側面に垂れる現象,つまり「液垂れ」が生じることがある.点眼剤は,繰り返し使用する無菌製剤である.とくにノズル先端に液が垂れた状態でキャップの開閉を繰り返すと,内溶液が微生物に汚染される原因になる.これ以外の問題点として,①ノズル先端(側面)が濡れることで,液が漏れているように見える.②点眼するときに不衛生である.③点眼時に必要な総液滴数が減り,点眼期間が短くなることがあげられる.これらのことから「液垂れしない」もしくは「液垂れしにくい」ノズルの開発が求められている.点眼時に液垂れが生じる要因として,ノズルの先端形状に起因することが大きいと考えられる.さらに,ノズル先端部の表面状態(濡れやすさ,あるいは濡れにくさ)および薬液の物性(表面張力および粘性)も影響する1,2).近年,液垂れを防止する,あるいは低減することを目的としたノズル形状として,ノズル先端をきのこ状に半円に突出させたような形状3)が用いられている.また,ノズル先端に微細な溝を入れた形状4)も研究されている.しかし,ノズル先端をきのこ状に半円に突出させた形状や溝がある形状にした場合,その形状がきれいに成型されないと液垂れを防止,もしくは低減す〔別刷請求先〕山口正純:〒679-2215兵庫県神崎郡福崎町西治767-7千寿製薬株式会社生産本部生産企画部Reprintrequests:MasazumiYamaguchi,Ph.D.,ProductionDivision,ProductionPlanningDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,767-7Saiji,Fukusaki-machi,Kanzaki-gun,Hyogo672-2215,JAPAN形状特徴対照ノズル一般的な円錐形のノズル形状で,ノズル先端から側面にかけて大きな曲線(以下,R)になっている形状評価ノズルノズル先端を細く円筒形にし,ノズル先端のRが小さい形状図1ノズル形状とその特徴対照ノズル:通常のノズル形状(材質:PE),評価ノズル:液垂れの低減を目的としたノズル形状(材質:PE).る効果を発揮することはむずかしい.その形状をきれいに成型するには,シンプルなノズル形状が求められる.通常のノズル形状と同様にシンプルなノズル形状で,かつ液垂れを防止,あるいは低減できるノズル形状にすることが望ましい.眼科薬メーカーなどのホームページで正しい点眼方法が紹介5,6)されている.しかし,点眼するときの点眼ノズルの角度を何度まで傾けてよいかなどの情報は紹介されていない.患者ごとに点眼しやすい角度で点眼が行われ,点眼時のノズルの角度(滴下角度)は患者によってさまざまである.そこで,想定される点眼時の滴下角度の範囲内で液垂れを低減させること,また従来のノズルと同様にシンプルなノズル形状であることをコンセプトとしたノズル形状を開発した.通常のノズル形状と開発したノズル形状を比較し,液垂れに対する開発したノズルの効果を評価した.また,薬液の物性(表面張力および粘性)は液垂れに影響を及ぼすことから,液垂れが生じやすい薬液物性の点眼剤を用いて評価を行った.I試験材料1.容器ノズル(材質:ポリエチレン(PE)は,通常の千寿製薬で使用しているノズル形状(以下,対照ノズル)と,液垂れの低減を目的として開発したノズル形状(以下,評価ノズル)の2形状を用いて評価した.それぞれのノズル形状および特徴を図1に示す.キャップ(材質:ポリプロピレン(PP))は千寿製薬製を用いた.2.薬液千寿製薬の点眼液のなかで液垂れがしやすいと考えられる薬液物性の点眼液(表面張力40.9mN/m,粘度45.0mPa・s,以下,評価薬液),比較対照の点眼液(表面張力36.7mN/m,粘度1.0mPa・s,以下,比較薬液),コントロールとして精製水(表面張力72.0mN/m,粘度0.9mPa・s,以下,水)を用いた.図2滴下角度滴下角度を60°,45°,30°および20°で評価.図3液垂れなしと液垂れあり液垂れなし:ノズル先端に液が留まっている状態.液垂れあり:ノズル先端から側面に液が付着している状態.II方法1.滴下角度の違いによる液垂れの有無図2に示した各滴下角度(60°,45°,30°および20°)で1滴ずつ2滴を滴下(1眼1滴として両眼で2滴を滴下することを想定)したときの液垂れの有無を目視で確認した.液垂れの有無を確認した後,使用時を想定して滴下後にキャップをトルクメータ(日本電産シンポ社,TNX-5)にて19±1N・cmで巻き締めた.評価薬液では1試料につき10回繰り返し,16試料(160回)での液垂れ回数を確認した(2滴滴下後の液垂れ回数).比較薬液および水では1試料につき10回繰り返し,5試料(50回)での液垂れの有無を確認した(2滴滴下後の液垂れの回数).液垂れが生じた場合は,そのつど,キムワイプでノズル先端を清拭してからキャップを巻き締めた.測定は23℃±2℃の環境下で行った.液垂れの有無の定義は,ノズル先端のR部(ノズル先端吐出穴から側面にかけて付加された曲線)に液が付着もしくは,液が留まっ図4先端のRを変えたときのノズル形状3Dプリンターでノズル先端のRを変えたものを3種類造形した(材質:アクリルライク,3Dプリンター:DWS社,XFAB2500).50対照ノズルおよび評価ノズル(n=16)107471500000対照ノズルおよび評価ノズル(n=5)403000000100液垂れ回数(回)液垂れ回数(回)40302010060°45°30°20°滴下角度対照ノズル評価ノズル図5評価薬液における滴下角度違いによる液垂れ回数の推移表面張力:40.9mN/m,粘度:45.0mPa・s.対照ノズルおよび評価ノズル:16試料×10回(計160回)で液垂れした回数をカウントした.ている状態を「液垂れなし」とし,ノズル側面までに液が垂れて付着している状態を「液垂れあり」とした(図3).2.滴下角度の違いによる液垂れ量の測定図2に示した各滴下角度(60°,45°,30°および20°)で1滴を滴下し,電子天秤(ザルトリウス社,MSA225P-000-DI)で容器質量を測定した.ノズル先端をキムワイプで清拭した後,再び電子天秤で容器質量(ノズル清拭前の質量とノズル清拭後の質量の差)を測定した.評価薬液では1試料につき10回繰り返し,16試料の平均値(160回測定した平均値),比較薬液および水では1試料につき10回繰り返し,5試料(50回測定した平均値)をノズル先端への液残り量とした.測定は室温23℃±2℃の環境下で実施し,電子天秤は感量0.0001g表示とした.3.ノズル先端のRを変えたときの滴下角度の違いによる液残り量の測定ノズル先端のR(R=半径)の大きさを2mm,1.5mmおよび1mm(以下,R2mm,R1.5mmおよびR1mm)にした形状3種類を3Dプリンター(DWS社,XFAB2500)で造60°45°30°20°滴下角度対照ノズル評価ノズル図6比較薬液における滴下角度違いによる液垂れ回数の推移表面張力:36.7mN/m,粘度:1mPa・s.対照ノズルおよび評価ノズル:5試料×10回(計50回)で液垂れした回数をカウントした.形(図4)し,図2に示した各滴下角度(60°,45°,30°および20°)で1滴を滴下し,電子天秤で容器質量を測定した.ノズル先端をキムワイプで清拭した後,再び電子天秤で容器質量を測定した.1試料につき10回繰り返し,3試料の平均値(30回測定した平均値)をノズル先端への液残り量とした.測定は室温23℃±2℃の環境下で実施し,電子天秤は感量0.0001g表示とした.III結果1.滴下角度の違いによる液垂れの有無滴下角度の違いによる液垂れの有無の確認として,評価薬液,比較薬液および水で,液が垂れた回数を評価した(図5~7).その結果,評価薬液の場合,対照ノズルは滴下角度60°の滴下では,液垂れは認められなかった.しかし,滴下角度45°から徐々に角度が小さくなるに従い,液垂れする回数が増加した.一方,評価ノズルは,滴下角度60°.20°で液垂れは認められなかった.また,比較薬液では対照ノズルは,滴下角度60°.45°までは液垂れは認められなかった.1.200.80対照ノズルおよび評価ノズル(n=5)00000000対照ノズルおよび評価ノズル(n=16)液垂れ回数(回)液残り量(mg)0.600.400.200.0060°45°30°20°60°45°30°20°滴下角度滴下角度対照ノズル評価ノズル対照ノズル評価ノズル図7水における滴下角度違いによる液垂れ回数の推移図8評価薬液における滴下角度違いによる液残り量対照ノズルおよび評価ノズル:5試料×10回(計50回)で液垂対照ノズルおよび評価ノズル:16試料×10回(計160回)の液れした回数をカウントした.残り量の平均値をmg換算した.表1評価薬液における対照ノズルの各滴下角度における液垂れ回数の内訳単位=回実施回数1回目2回目3回目4回目5回目6回目7回目8回目9回目10回目合計60°0000000000045°00000133261530°0616411211244720°0151410121012101410107n数=各16×10,160回確認したときの液垂れ回数.対照ノズルの各滴下角度で液垂れした回数を確認した結果,滴下角度が小さくなるに従い液垂れする回数が増加した.表2比較薬液における対照ノズルの各滴下角度における液垂れ回数の内訳単位=回実施回数1回目2回目3回目4回目5回目6回目7回目8回目9回目10回目合計60°0000000000045°0000000000030°0000001110320°044455445540n数=各5×10,50回確認したときの液垂れ回数.対照ノズルの各滴下角度での液垂れした回数を確認した結果,滴下角度20°で液垂れ回数が増加した.しかし,滴下角度30°でわずかに液垂れが認められ,滴下角おける滴下角度の違いによる液垂れ回数の内訳(表2)を確度20°ではほぼ全数に液垂れが認められた.評価ノズルは,認すると,滴下角度30°は7回目以降から液垂れが認められ滴下角度20°でも液垂れは認められなかった.た.また,滴下角度20°では,1回目では液垂れは認められ評価薬液での対照ノズルの滴下角度の違いによる液垂れ回なかったが,2回目以降はほぼすべてに液垂れが認められた.数の内訳(表1)を確認すると,どの滴下角度でも1回目でこれらのことから,キャップの巻き締めを繰り返すことで,は液垂れは認められなかった.しかし,45°では6回目,30°ノズル先端に残った薬液が徐々にキャップ天面に蓄積され,からは2回目以降に液垂れが認められた.また,比較薬液にキャップ天面に付着した薬液によりノズル側面に濡れが生1.00対照ノズルおよび評価ノズル(n=5)対照ノズルおよび評価ノズル(n=5)液残り量(mg)液残り量(mg)0.600.400.800.600.400.200.200.000.0060°45°30°20°60°45°30°20°滴下角度滴下角度対照ノズル評価ノズル評価ノズル対照ノズル図9比較薬液における滴下角度違いによる液残り量図10水における滴下角度違いによる液残り量対照ノズルおよび評価ノズル:5試料×10回(計50回)の液残対照ノズルおよび評価ノズル:5試料×10回(計50回)の液残り量の平均値をmg換算した.り量の平均値をmg換算した.4.00ていると考えられる.対照ノズルは,円錐形でノズル先端に(n=3)3.002.001.000.0060°45°30°20°滴下角度先端R2先端R1.5先端R1大きなR(R2mm)が付加された形状である.評価ノズルは,円筒形でノズル先端の吐出口から側面までがフラットであり,ノズル先端に小さなR(R0.3mm)が付加された形状である.つまり,ノズル先端のRが大きいと液切れが悪く,ノズル先端に残る液量が多くなる.ノズル先端のRが小さいと液切れがよくなり,ノズル先端に残る液量が少なくなると考えられる.このことは,薬液の物性からもわかるように,評価薬液の物性は表面張力40.9mN/m,粘度45.0mPa・sであり,比較薬液(表面張力36.7mN/m,粘度1.0mPa・s)よりも粘度が高い.また,コントロールとした水(表面張力72.0mN/m,粘度0.9mPa・s)は,評価薬液より表面張力は高く,粘度が低いが液垂れはしなかった.つまり,表面張力以外に粘度が液垂れに大きく影響していることがわかる.以上のことから,表面張力が低く,粘度が高い薬液のほうが,液垂れがしやすい薬液であると考えられる.したがって,評価薬液は液垂れしやすい薬液であると考えられた.3.ノズル先端のRを変えたときの滴下角度の違いによる液残り量の測定ノズル先端のRが小さいほうが液残り量は少なると考え,ノズル先端のRの大きさ(R2mm,R1.5mmおよびR1mm)を変えて,滴下角度の違いによる液残り量を評価した(図11).ノズル先端のRが小さいほど,滴下角度が小さくなっても,液残り量はノズル先端のRが大きいもの(R2mm)よりも減少した.このことから,対照ノズルと評価ノズルでの滴下角度の違いによる液残り量は,ノズル先端のRが影響していることが裏づけられた.IV考察健常人を用いた点眼容器の操作角度を調査した結果7)で液残り量(mg)図11ノズルの先端Rを変えたときの滴下角度違いによる液残り量造形3試料×10回(計30回)の液残り量の平均値をmg換算した.じ,液垂れがしやすくなったと考えられた.2.滴下角度の違いによる液残り量の測定評価薬液,比較薬液および水での滴下角度の違いによるノズル先端への液残り量を測定した(図8~10).その結果,評価薬液では,対照ノズルの滴下角度が小さくなる(60°→20°)に従い,液残り量が増加した.一方,評価ノズルは,滴下角度が小さく(60°→20°)なっても,角度差による液残り量に大きな差は認められなかった.また,比較薬液では,対照ノズルの滴下角度30°.20°で液残り量が増加した.評価ノズルでは,滴下角度が小さく(60°→20°)なっても液残り量はなかった.なお,水では対照ノズルおよび評価ノズルのどちらも,どの滴下角度においても液残り量はなかった.このことから,評価ノズルはノズル先端への液残り量を低減する効果があることがわかった.以上の結果から,液垂れにはノズル先端形状,とくにノズル先端のRが大きく影響しは,点眼時の角度が60°.69°が33.3%,50°.59°が23.3%と被験者全体の約60%を占めている.ついで40°.49°が20%であり,一般的な点眼時の滴下角度は90°.45°であるとされている.このことから,液垂れの要因として,45°以下で点眼されている可能性が考えられた.今回,45°以下の角度として,30°および20°の滴下角度を追加し,60°.20°の範囲で液垂れを評価した結果,対照ノズルは滴下角度が小さく(60°→20°)なるに従い,ノズル先端に残る量が多くなった.一方,評価ノズルでは,滴下角度が小さくなってもノズル先端に残る液量はほぼなかった.このことは,使用時を想定してキャップを繰り返し嵌合したときの滴下角度の違いによる液残り回数にも表れている.対照ノズルは,滴下角度が小さくなるに従い,液垂れがしやすくなり回数も増加する傾向にある.これは,キャップを巻き締めることにより,ノズル先端に残った薬液がキャップ天面に付着し,付着する薬液が徐々に蓄積されたと考えられる.キャップの開閉を繰り返すといずれは,ノズル側面にも濡れが生じる.ノズル側面が濡れると滴下する際に,濡れ面を伝いノズル側面まで薬液が流れ,液垂れが生じると考えられる.評価ノズルは液切れがよいため,ノズル先端の液残り量がなく,キャップの開閉を繰り返してもキャップ天面への薬液の付着が少ない.したがって,ノズル側面が濡れるまで至らず,結果的に液垂れが生じなかったと考えられる.以上のことより,ノズル先端に残る液残り量が多いほど,液垂れがしやすくなる.したがって,液垂れを低減もしくは防止する場合,滴下角度が小さくてもノズル先端に残る液残り量をできるだけ少なくできるノズル形状にする必要がある.つまり,ノズル先端のRを極力小さくすることが望ましい.このことはすでに述べたように,3Dプリンターで造形したノズル先端のRの大きさの違いで角度を変えて滴下した結果(図11)からも示唆されている.液切れをよくする方法として,ノズル先端を直角(エッジ形状)にするほうがよいが,点眼時にエッジが角膜に接触したときの危険性を考慮すると,少なくともRを付加する必要がある.また,ノズル形状以外では,ノズル先端の濡れ性(接触角度)を大きくすることも重要である.今回の評価には評価薬液に表面張力が40.9mN/mおよび粘度が45.0mPa・sのもの,比較薬液として表面張力が36.7mN/mおよび粘度が1.0mPa・sのもの,コントロールに精製水(表面張力72.0mN/m,粘度0.9mPa・s)を用いた.表面張力が低いと濡れやすく液体が付着したときの接触角度は鋭角になり,高いと濡れにくく接触角度は鈍角になる.また,粘度が高いと流れにくく,低いと流れやすい.このことから,評価薬液は表面張力が低く,粘度が高いため,液垂れがしやすい物性の薬液であるといえる.このような薬液でも,評価ノズルは滴下角度20°でも液垂れが起こりにくかった.V結論今回,液垂れを低減することを目的とし,ノズル形状が円筒形でノズル先端のRを小さくした形状(評価ノズル)を評価した.円錐形でノズル先端のRが大きい自社の従来のノズル形状(対照ノズル)と比較した結果,評価ノズルは自社の従来のノズル形状より液垂れを低減する効果が認められた.評価ノズルは,滴下角度90°.20°の範囲内であれば,患者がその範囲内で点眼しても,十分に液垂れを抑えることができると考えられる.評価ノズルでは,表面張力40.9mN/m以上および粘度45.0mPa・s以下の物性の薬液であれば,液垂れを低減することは可能であると考えられる.このような液垂れを低減するノズルを開発できたことにより,液垂れによる諸問題が改善され,患者にとっても使いやすく点眼療法に貢献できるノズルとして普及することが期待される.今後も患者に寄り添った優しい点眼容器をめざして,さらなる技術開発を続けていきたい.文献1)大矢勝:横浜国立大学教育人間科学部界面活性剤の作用【2】:表面張力とぬれの関係Ver.1.00,11.20,20042)高田保之:九州大学ぬれ性と表面張力伝熱学・熱流体力学における「のどの小骨」を流し込む.jour.HTSJ:43,43-48,20043)ロート製薬株式会社ジー|ロート製薬:商品情報サイト(https://jp.rohto.com/zi/)4)横山真男,瀬田洋平,矢川元基:容器口に刻んだ溝による液だれ防止の効果.日本機械学会論文集83:856,1-10,20175)千寿製薬株式会社目薬の正しい使い方|Eyeノート|一般生活者・患者のみなさま|千寿製薬株式会社(https://www.senju.co.jp/consumer/note/usage.html)6)日本眼科医会監修:医療関係者向け資料「点眼剤の適正使用のハンドブック-Q&A-」,20117)高橋佳子,樋上智子,倉本美佳ほか:兵庫医科大学病院薬剤部点眼剤容器の操作性に関する評価1滴滴下に及ぼす点在容器角度の影響.医療薬学30:475-482,2004***

Intrachoroidal Cavitation のEn Face 画像を用いた 定量評価とOCT および視野所見の特徴

2023年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科40(12):1605.1610,2023cIntrachoroidalCavitationのEnFace画像を用いた定量評価とOCTおよび視野所見の特徴大内達央*1山下力*1,2荒木俊介*1,2後藤克聡*1三宅美鈴*1水上菜美*1春石和子*1,2家木良彰*1三木淳司*1,2桐生純一*1*1川崎医科大学眼科学1*2川崎医療福祉大学リハビリテーション学部視能療法学科CQuantitativeEvaluationofIntrachoroidalCavitationUsingEn-FaceImagingandCharacteristicsofOCTandVisualFieldFindingsTatsuhiroOuchi1),TsutomuYamashita1,2)C,ShunsukeAraki1,2),KatsutoshiGoto1),MisuzuMiyake1),NamiMizukami1),KazukoHaruishi1,2)C,YoshiakiIeki1),AtsushiMiki1,2)CandJunichiKiryu1)1)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,2)DepartmentofOrthoptics,FacultyofRehabilitation,KawasakiUniversityofMedicalWelfareC目的:OCTのCenface画像を用いてCintrachoroidalcavitation(ICC)の面積や深度の定量評価を行い,OCTパラメータおよび視野所見の臨床的特徴について検討した.対象および方法:対象はCenface画像で脈絡膜内空隙状病変を認めたC3例C3眼である.Enface画像からCICCの最大面積,最大深度を算出し,OCTパラメータ[乳頭周囲網膜神経線維層(cpRNFL)厚,網膜神経節細胞複合体(GCC)厚],視野所見との関連性を評価し,ICCの臨床的特徴について検討した.結果:ICCの最大面積,最大深度とCOCTパラメータ,視野障害に関連性はみられなかった.全症例でCICCは視神経乳頭下方に存在し,下方のCcpRNFL厚およびCGCC厚の菲薄化がみられ,上半視野障害を示した.眼底写真では病変が不明瞭な症例が存在した.結論:ICCの検出および定量評価にCenface画像を用いた解析は有用であった.CPurpose:Toevaluatetheareaanddepthofintrachoroidalcavitation(ICC)usingopticalcoherencetomogra-phy(OCT)en-faceimagingandclinicalcharacteristicsoftheOCTparametersandvisual.eld.ndings.SubjectsandMethods:InCthisCstudy,C3CeyesCofC3CpatientsCwithCICCCdetectedCusingCen-faceCimagesCwereCexamined.CTheCmaximumareaanddepthofICCwascalculated,andtherelationshipwithOCTparameters〈circumpapillaryreti-nalCnerveC.berlayer(cpRNFL)andCretinalCganglionCcellcomplex(GCC)thickness〉andCvisualC.eldC.ndingsCwasCevaluated.CInCaddition,CtheCclinicalCfeaturesCofCICCCwereCanalyzed.CResults:TheCmaximumCareaCorCdepthCofCICCCandOCTparametersorvisual.elddefectswereunrelated.TheICCwaslocatedinferiortotheopticdisc,theinfe-riorCcpRNFLCandCGCCCthicknessesCwereCthinned,CandCupperChemi.eldCdefectsCwereCobserved.CSomeClesionsCwereCunclearConCfundusCphotographs.CConclusion:En-faceCimagingCanalysisCwasCusefulCforCtheCdetectionCandCquantita-tiveevaluationofICC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(12):1605.1610,C2023〕Keywords:intrachoroidalcavitation,enface画像,光干渉断層計,視野障害.intrachoroidalcavitation,en-faceimages,opticalcoherencetomography,visual.elddefects.CはじめにIntrachoroidalcavitation(ICC)は視神経乳頭近傍にみられる黄白色.橙色の三日月状の脈絡膜内空隙状病変であり,Freundら1)が当初,網膜色素上皮.離としてCperipapillarydetachmentCinpathologicCmyopiaという表記で報告した病態である.その後,Taranzoら2)は本病態が網膜色素上皮.離ではなく,脈絡膜内の洞様構造であると報告し,ICCとよんだ.ICCは強度近視のC4.9.16.9%にみられ3,4),視神経乳頭の下方に多く存在する5)と報告されている.Shimadaら3)はCICCによって視神経乳頭近傍で網膜内層の菲薄化や断裂〔別刷請求先〕大内達央:〒701-0192岡山県倉敷市松島C577川崎医科大学眼科学C1Reprintrequests:TatsuhiroOuchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KawasakiMedicalSchool,577Matsushima,Kurashiki,Okayama701-0192,JAPANCc図1症例1(63歳,男性,左眼,屈折度数:C.11.75D(cyl.1.00DCAx80°,眼軸長:27.64mm)の検査結果a:Enface画像から算出したCICCの最大面積はC4.34CmmC2であった.ICC/Disc面積比はC1.69であった.Cb:Enface画像から算出したCICCの最大深度はC0.42Cmmであった(Caの×の位置でのCBスキャン画像).c:眼底写真では黄白色.橙色の病変がみられた(.).d:左:cpRNFL解析,右:GCC解析の結果.下方CcpRNFL厚および下方CGCC厚の菲薄化がみられた.e:HFA中心C30-2プログラム,SITA-Fastの結果.上鼻側領域の感度低下がみられた.が生じ,71%が緑内障様視野障害を伴うと報告している.基準となる深さで平坦化処理する技術で,任意の層の網脈絡また,Fujimotoら6)はCICCの体積,深さ,長さと視野障害膜病変の広がりを捉えることが可能である.そこで本研究での関連性について報告しているが,光干渉断層計(opticalはCenface画像を用いてCICCの面積や深度の定量評価を行Ccoherencetomography:OCT)のパラメータを含めた検討い,OCT,視野検査所見との関連性およびCICCの臨床的特はなされておらず,いまだ詳細な病態は明らかとなっていな徴,enface画像を用いたCICCの検出,解析の有用性についい.て検討した.近年,OCTの撮影・解析技術は急速に発展している.Enface画像はCOCTの三次元断層画像から眼底画像を再構築し,c図2症例2(78歳,男性,左眼,眼内レンズ挿入眼,屈折度数:C.0.75D(cyl.2.00DCAx90°,眼軸長:24.46Cmm)の検査結果a:Enface画像から算出したCICCの最大面積はC1.48CmmC2であった.ICC/Disc面積比はC0.68であった.Cb:Enface画像から算出したCICCの最大深度はC0.20Cmmであった(Caの×の位置でのCBスキャン画像).c:眼底写真ではCICCの病変が不明瞭であった.d:左:cpRNFL解析,右:GCC解析の結果.上下象限CcpRNFL厚および下方CGCC厚の菲薄化がみられた.e:HFA中心C30-2プログラム,SITA-Fastの結果.上方および鼻側の感度低下がみられた.検査が施行されたC3例とした.緑内障以外の眼疾患を有するCI対象および方法症例は対象から除外した.本研究は,川崎医科大学・同附属対象はC2015年C4月.2018年C3月に川崎医科大学附属病病院倫理委員会の承認のもと(承認番号C5798-00),ヘルシ院眼科において眼底写真およびCOCT画像で脈絡膜内空隙状ンキ宣言に準拠して行われた.病変がみられ,swept-sourceOCTによるCenface画像解析,ICCの最大面積,最大深度の算出で用いるCOCT画像はCspectralCdomainOCTによる網膜内層解析,HumphreyCDRIOCT-1Atlantis(トプコン)を用いて取得した.本装置C.eldanalyzer(HFA,CarlCZeissMeditec)による静的視野は,光源波長C1,050Cnm,スキャンレートC100,000CA-scans/c図3症例3(52歳,女性,右眼,屈折度数:C.9.00D(cyl.0.50DCAx20°,眼軸長:27.10mm)の検査結果a:Enface画像から算出したCICCの最大面積はC0.53CmmC2であった.ICC/Disc面積比はC0.17であった.Cb:Enface画像から算出したCICCの最大深度はC0.15Cmmであった(Caの×の位置でのCBスキャン画像).c:眼底写真ではCICCの病変が不明瞭であった.d:左:GCC解析,右:cpRNFL解析の結果.下耳側象限のCcpRNFL厚および下方CGCC厚の菲薄化がみられた.e:HFA中心C30-2プログラム,SITA-Fastの結果.上半視野障害がみられた.秒,深さ方向8μmである.スキャンプロトコルはC12C×9測した.また,ICCの最大面積と視神経乳頭面積(mmC2)をCmmの黄斑部三次元スキャン(512C×256枚)とした.En比較するため,同様の方法で視神経乳頭面積を手動計測し,face画像はCDRIOCT-1Atlantisで取得したC3次元スキャンICC/視神経乳頭(ICC/Disc)面積比を算出した.なお,算出画像を専用のソフトウェア(EnViewversion1.0.1,トプコした面積は光学式眼軸長測定装置(OA-1000,トーメーコン)を用い,Bruch膜で平坦化して構築した.ICCの最大面ーポレーション)で測定した各眼の眼軸長とCDRICOCT-1積は脈絡膜内空隙状病変(低反射領域)の最大面積(mmC2),Atlantisのモデル眼軸長(24.39Cmm)から既報7,8)を参考に倍ICCの最大深度(mm)はCBruch膜から脈絡膜高反射領域ま率補正を行った.での垂直距離と定義し,上記のソフトウェアを用いて手動計乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryCretinalCnerveC.berlayer:cpRNFL)厚,網膜神経節細胞複合体(ganglionCcellcomplex:GCC)厚の測定はCRTVue-100(Optovue)を用いた.本装置は,光源波長C840nm,スキャンレート26,000CA-scans/秒,深さ方向C5Cμmである.スキャンプロトコルはCGCC,ONHとし,signalCstrengthindexがC45以上のデータを採用した.視野測定はCHFA(中心C30-2プログラム,SITA-Fast)を用い,固視不良,偽陽性,偽陰性のすべてがC20%未満の結果のみ採用した.緑内障性視野障害との類似性を評価するために,Anderson-Patella基準9)の1)パターン偏差確率プロットで,p<5%の点がC3個以上隣接して存在し,かつそのうちC1点がp<1%,2)パターン標準偏差がCp<5%,3)緑内障半視野テストが正常範囲外の項目別の陽性率を算出した.また,視野障害部位は既報5,10)を参考に各測定点を神経線維の走行に沿ってC6個のクラスターに分割し,各クラスターの異常率を算出して評価した.異常率は,patternCdevia-tionplotsで同一クラスター内にCp<0.05が隣接したC3点以上存在し,そのうちC1個がCp<0.01であるものを異常と判定して算出した.検討項目はCICCの最大面積や最大深度とCcpRNFL厚,GCC厚,視野検査所見の関連性とした.CII結果本研究の対象はC3名C3眼,平均年齢C±標準偏差はC64.3C±13.1歳であった.各症例の結果を図1~3に示す.全症例でICCはCenface画像において視神経乳頭下方に存在していたが,視神経乳頭より面積が小さい症例(ICC/Disc面積比がC1未満)は眼底写真では病変が不明瞭であった.全症例で下方CcpRNFL厚およびCGCC厚は,上方CcpRNFL厚およびCGCC厚よりも菲薄化していた.ICCの最大面積,最大深度とCcpRNFL厚,GCC厚に関連性はみられなかった.全症例で上方トータル偏差,パターン偏差が,下方トータル偏差,パターン偏差よりも低値であった.Anderson-Patella基準の陽性率は全症例,すべての項目が陽性であった.各クラスターの異常率は全症例,上半視野のCBjerrum領域のクラスターで異常がみられた(図4).ICCの最大面積,最大深度と視野障害の程度に関連性はみられなかった.CIII考察本研究では,ICCを伴うC3例を対象にCenface画像を利用してCICCの面積や深度を定量評価した.また,全症例でICCの病変部位に対応する領域にCcpRNFL厚,GCC厚の菲薄化がみられ,Bjerrum領域の視野障害を伴っていた.ICCは視神経周囲の機械的伸展に伴い,視神経乳頭周囲のCbordertissueofJacobyの断裂が生じ,網膜周囲組織が徐々に強膜脈絡膜側に入り込むことで形成される11.13)と考えら図4各クラスターの異常症例数全症例,上半視野のCBjerrum領域のクラスターで異常がみられた.れている.ICC眼では視野障害を伴うことが知られており3,5,14),その原因としてCSpaideら12)はCICCの病変部位では強膜カーブの後方偏位が生じ,ICCと視神経乳頭の境界領域に沿って網膜内層の菲薄化がみられることを報告している.Okumaら5)のCICC眼における静的視野計での視野障害,GCC厚についての検討では,ICCは視神経乳頭下方に生じ,下方CGCC厚の菲薄化,上半視野のCBjerrum領域の視野障害が生じると報告しており,本研究と類似した結果であった.したがって,ICCは網膜内層の連続性の途絶により,病変部位に対応した網膜内層の菲薄化,Bjerrum領域の視野障害が生じ,初期緑内障眼と類似した所見を呈する可能性が示唆された.本研究では,ICCの最大面積が大きくなるほど,ICCの最大深度が深くなる傾向がみられたが,ICCの最大面積,ICCの最大深度とCcpRNFL厚,GCC厚および視野障害の程度に関連性はみられなかった.Fujimotoら6)は,OCT画像からICCのC3D画像を生成し,ICCの深さ,体積と視野障害の程度を検討した結果,ICCの体積とCMeanDeviation(MD)値,上半視野障害は負の相関がみられるが,ICCの深さとCMD値には相関関係はみられなかったと報告している.本研究は既報とはCICCの解析方法,症例数が異なるため,結果に相違が生じたと考えられるが,enface画像によるICCの深さ,面積,体積の解析は,ICCの網膜内層の菲薄化,視野障害の病態解明に有用である可能性があるため,今後症例数を増やした検討が必要であると考えられる.本研究では,視神経乳頭より面積が小さいCICCは眼底写真では病変が不明瞭であった.既報4,15)においても,OCT画像で検出されたCICCのうち,眼底写真で病変を認めたのは47.53.3%であったと報告されており,面積が小さく,病変の色調が明らかではないCICCは見逃される可能性がある.その一方で,enface画像はCICCの病変を境界明瞭な低反射領域として描出することが可能であり,本研究においてもC1.0Cmm2未満の病変を検出することができた.したがって,ICCの検出にはCenface画像が有用と考えられる.本研究の限界として,症例数が少なく,緑内障性視神経障害を含む可能性がある.ICCによって生じる視野障害は,緑内障性視野障害とは異なる機序であると考えられているが,詳細な発生機序は明らかとなっておらず,今後,経時的変化を含めた病態解明が必要となる.本研究では,enface画像を利用することでCICCの面積や深度の定量評価が可能であることが明らかとなった.ICCに対するCenface画像の活用は,ICCの検出,病態解明に有用である可能性が示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)FreundCKB,CCiardellaCAP,CYannuzziCLACetal:Peripapil-laryCdetachmentCinCpathologicCmyopia.CArchCOphthalmolC121:197-204,C20032)ToranzoCJ,CCohenCSY,CErginayCACetal:PeripapillaryCintrachoroidalCcavitationCinCmyopia.CAmCJCOphthalmolC140:731-732,C20053))ShimadaCN,COhno-MatsuiCK,CYoshidaCTCetal:Charac-teristicsofperipapillarydetachmentinpathologicmyopia.ArchOphthalmolC124:46-52,C20064)YouQS,PengXY,ChenCXetal:Peripapillaryintracho-roidalCcavitations.CTheCBeijingCeyeCstudy.CPLoSCOneC8:Ce78743,C20135)OkumaCS,CMizoueCS,COhashiY:VisualC.eldCdefectsCandCchangesCinCmacularCretinalCganglionCcellCcomplexCthick-nessCinCeyesCwithCintrachoroidalCcavitationCareCsimilarCtoCthoseinearlyglaucoma.ClinCOphthalmolC10:1217-1222,C20166)FujimotoCS,CMikiCA,CMaruyamaCKCetal:Three-dimen-sionalvolumecalculationofintrachoroidalcavitationusingdeep-learning-basedCnoiseCreductionCofCopticalCcoherenceCtomography.TranslVisSciTechnolC11:1,C20227)LittmannH:DeterminationCofCtheCrealCsizeCofCanCobjectConCtheCfundusCofCtheClivingCeye.CKlinCMblCAugenheilkC180:286-289,C19828)SampsonDM,GongP,AnDetal:AxiallengthvariationimpactsConCsuper.cialCretinalCvesselCdensityCandCfovealCavascularCzoneCareaCmeasurementsCusingCopticalCcoher-encetomographyangiography.InvestOphthalmolVisSciC58:3065-3072,C20179)AndersonDR,PatellaVM:Interpretationofasingle.eldprintout.CautomatedCstaticCperimetry,C2ndCed,CMosby,CStCLouis,Cp121-190,C199910)Garway-HeathCDF,CPoinoosawmyCD,CFitzkeCFWCetal:CMappingCtheCvisualC.eldCtoCtheCopticCdiscCinCnormalCten-sionglaucomaeyes.OphthalmologyC107:1809-1815,C200011)ShimadaN,Ohno-MatsuiK,NishimutaAetal:Peripapil-laryCchangesCdetectedCbyCopticalCcoherenceCtomographyCinCeyesCwithChighCmyopia.COphthalmologyC114:2070-2076,C200712)SpaideRF,AkibaM,Ohno-MatsuiK:Evaluationofperi-papillaryCintrachoroidalCcavitationCwithCsweptCsourceCandCenhancedCdepthCimagingCopticalCcoherenceCtomography.CRetinaC32:1037-1044,C201213)ChenCY,CMaCX,CHuaR:Multi-modalityCimagingC.ndingsCofhugeintrachoroidalcavitationandmyopicperipapillarysinkhole.BMCOphthalmolC18:24,C201814)XieS,KamoiK,Igarashi-YokoiTetal:StructuralabnorC-malitiesinthepapillaryandperipapillaryareasandcorre-spondingvisual.elddefectsineyeswithpathologicmyo-pia.InvestOphthalmolVisSciC63:13,C202215)YehSI,ChangWC,WuCHetal:Characteristicsofperi-papillaryCchoroidalCcavitationCdetectedCbyCopticalCcoher-encetomography.OphthalmologyC120:544-552,C2013***

溶血性連鎖球菌Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis によるまれな内因性眼内炎の1 例

2023年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科40(12):1598.1604,2023c溶血性連鎖球菌CStreptococcusdysgalactiaeCsubsp.equisimilisによるまれな内因性眼内炎のC1例秋山由貴*1,2牧山由希子*1村岡勇貴*2星野真子*2森田英典*2辻川明孝*2*1康生会武田病院眼科*2京都大学大学院医学研究科眼科学CARareCaseofEndogenousEndophthalmitisCausedbyStreptococcusdysgalactiaeCsubsp.equisimilisCYukiAkiyama1,2),YukikoMakiyama1),YukiMuraoka2),MakoHoshino2),HidenoriMorita2)andTsujikawaAkitaka2)1)KouseikaiTakedaHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,KyotoUniversityGraduateSchoolofMedicineC要約:溶血性連鎖球菌CStreptococcusCdysgalactiaeCsubsp.Cequisimilis(SDSE)による片眼性のまれかつ重篤な内因性眼内炎を経験したので報告する.症例:81歳,男性.弓部大動脈置換術,54歳時に右眼網膜.離に対するバックリング手術の既往がある.3日前からの発熱と呼吸苦にて救急外来を受診され,全身性細菌感染症の疑いにて入院,広域抗菌薬の全身投与が開始された.右眼の視力低下と眼痛のため,同日眼科紹介となった.右眼は眼前手動弁で,高度な前眼部炎症のため眼底は透見不能であった.細菌性眼内炎を疑い,抗菌薬の頻回点眼を開始したが改善はなく,翌日硝子体手術を施行した.術中,黄斑部を含む網膜に白色病変を認め,乳頭は蒼白浮腫を呈していた.血液,眼内液よりSDSEが検出され,右眼内因性眼内炎と確定診断した.全身検索にて原発感染巣は特定できなかったが,抗菌薬の全身投与にて炎症マーカーは沈静化した.その後右眼は光覚を消失したが眼痛遷延があり,眼球摘出術を追施した.僚眼は,経過中感染徴候は認めず視力C1.5を保持した.結語:SDSEによる眼内炎は,急速進行性で視機能予後もきわめて不良となる可能性があり注意を要する.CInthisreport,wepresentararecaseofendogenousendophthalmitiscausedbyStreptococcusdysgalactiaeCsub-sp.equisimilis(SDSE).An81-year-oldmalepatientwithahistoryoftotalarchreplacementsurgeryandbucklingsurgeryforretinaldetachmentinhisrighteyeat54yearsoldpresentedtotheemergencydepartmentwithhighfeverandsuspectedsystemicbacterialinfection,andcomplainedofdecreasedvisionandpaininthateye.Uponini-tialexamination,therighteyeexhibitedseverein.ammationintheanteriorchamberincludinghypopyon,andthefundusCwasCinvisible.CSDSECwasCdetectedCinCtheCintraocularC.uidCandCblood,CandCtheCrightCeyeCwasCdiagnosedCasCSDSE-inducedCendogenousCendophthalmitis.CAlthoughCsystemicCantibacterialCagentsCdecreasedCsystemicCin.ammatorymarkers,enucleationoftherighteyewasultimatelyrequiredduetothepersistentocularpain.The.ndingsinthisstudyhighlighttherapidprogressionandpoorvisualprognosisincasesofendogenousendophthal-mitiscausedbySDSEandemphasizetheimportanceofearlydiagnosisandtreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(12):1598.1604,C2023〕Keywords:内因性眼内炎,StreptococcusdysgalactiaeCsubsp.equisimilis,G群溶血性レンサ球菌,眼球摘出術.Cendogenousendophthalmitis,StreptococcusdysgalactiaeCsubsp.equisimilis,groupGStreptococcus,enucleation.Cはじめに占める内因性眼内炎の割合はC2.8%とまれではあるが2),視眼内炎は外因性眼内炎と内因性眼内炎に分類される1,2).力予後がきわめて不良となるばかりでなく,死亡する例もあ内因性眼内炎は病原体が眼外の感染巣から血行性に眼内に運り2),生命予後の観点からも注意を要する病態である.今回ばれてきて眼の感染症を引き起こすものである.全眼内炎に筆者らは,細菌性眼内炎の原因菌として溶血性レンサ球菌〔別刷請求先〕牧山由希子:〒600-8558京都市下京区東塩小路町C841-5康生会武田病院眼科Reprintrequests:YukikoMakiyama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KouseikaiTakedaHospital,841-5Higashishiokoji-cho,Shimogyo-ku,Kyoto600-8558,JAPANC1598(94)(溶連菌)の一種であるCStreptococcusCdysgalactiaeCsubsp.equisimilis(SDSE)によるまれかつ重篤な転帰に至った片眼性の内因性眼内炎を経験したので報告する.CI症例患者:81歳,男性.主訴:右眼視力低下,眼痛.既往歴:高血圧症,脂質異常症,痛風,慢性腎臓病,慢性閉塞性肺疾患,弓部大動脈.状瘤に対する弓部大動脈置換術,心房細動,陳旧性心筋梗塞,慢性心不全.眼科既往歴:54歳:右眼網膜.離に対するバックリング手術,60代:左眼水晶体再建術,70代:右眼水晶体再建術.現病歴:初診C3日前より,発熱,右眼の眼痛と視力低下を認めていた.初診同日,呼吸苦が新たに出現したため,深夜に救急搬送された.初診時全身所見:身長C175Ccm,体重C71.5Ckg,意識清明,体温C40.1℃,血圧C132/78CmmHg,心拍数C92回/分,呼吸数24回/分,血中酸素飽和度は酸素投与下(6Cl/分)にC96.99%であった.血液検査では白血球数C12,200/μl,C反応性蛋白(CRP)19.52Cmg/dl,胸部CX線上,肺野には異常所見を認めなかったが心拡大を認めた.SARS-COV-2の核酸増幅検査は陰性であった.内科にて入院管理となり(第C0病日),血液細菌培養検査後にスルバクタムナトリウム・アンピシリンナトリウム1.5Cg/日の全身投与を開始した.感染巣の同定のため胸腹部CTを施行したところ,両腎周囲の脂肪織混濁や左尿管の軽度拡張所見を認めた.経胸壁心エコーで弁膜症や感染性心内膜炎を示唆する疣贅は認めなかった.腎盂腎炎に伴う敗血症が疑われたが,入院後に施行した尿検査では尿中白血球や細菌は陰性であり尿路感染は否定的であった.同日夕方,右眼眼痛と視力低下に関し眼科を受診された.眼科初診時,視力は右眼C30Ccm手動弁,左眼(0.5),眼圧は右眼C27CmmHg,左眼C16CmmHg,右眼には結膜毛様充血,前房フィブリン析出・蓄膿を伴う高度な前眼部炎症を認めた(図1a).右眼の硝子体,網膜は透見不能であった.超音波Bモードにて右眼に網膜.離は明らかでなかった(図1b).左眼には炎症所見を認めなかった(図1d).右眼眼内炎を疑い,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム・フラジオマイシン硫酸塩(点眼・点鼻用リンデロンCA液R)の点眼C4回/日とともに,レボフロキサシン水和物液(クラビット点眼液C1.5%)およびセフメノキシム塩酸塩液(ベストロン点眼液C0.5%)を夜間も含めC2時間ごとの点眼を開始した.全身投与の抗菌薬は眼組織への移行性を考慮し,セフトリアキソンナトリウム(CTRX)2g/日に変更した.翌日(第C1病日)朝の診察時,右眼は眼痛が増強し,視力は光覚弁に低下,前房フィブリン析出および蓄膿の増加,結膜充血・浮腫の悪化を認めた(図1c).眼窩部CCTにて,右眼の強膜スポンジ周囲の脂肪織に軽度の陰影増強があり(図1e),バックル感染の可能性も否定できなかった.診断と治療のために,同日夜,右眼硝子体手術を施行した.前房水・硝子体液の採取後に,セフタジジム,バンコマイシンを溶解した眼灌流液(各C40Cμg/ml,20Cμg/ml)を用いて,前房洗浄,混濁硝子体の切除を進めた.視神経乳頭内の網膜中心動脈には白色の塞栓様物質が認められ,視神経乳頭は蒼白浮腫を呈していた.網膜病変は,周辺部より黄斑部を含む後極部に優位であった.また,強膜スポンジの周囲組織の炎症所見は,バックルのない象限の炎症所見と同等であり,バックル感染よりは内因性眼内炎の可能性を考慮した.入院時に採取した血液,術中に採取した前房水や硝子体液から,SDSEが検出され,SDSEによる右眼の内因性眼内炎と確定診断した.右眼視力は,第C1.6病日は光覚弁であったが,第C7病日に光覚を消失した.内因性眼内炎の診断後も,感染巣の検索を継続した.経胸壁および経食道心臓エコーでは,弁膜症や感染性心内膜炎を疑う疣贅は認めなかった.PET-CTにて大動脈弓部の人工血管部に18F-FDGの集積像を認めたが(図2a),集積は軽微で非特異的所見と判断され,人工血管部および心臓は感染巣と積極的には考慮しなかった.治療は,感受性および眼内移行性を考慮しCCTRX1Cg/日の点滴加療を継続し,炎症反応は順調に改善傾向であったが,第C20病日から発熱,白血球減少,CRPの上昇をきたし,CTRXによるアレルギーが原因である可能性を考慮した.感染制御部に相談のうえ,第C22病日に感受性および眼内移行性のあるバンコマイシンに変更し,顆粒球コロニー形成刺激因子製剤を投与後は発熱,白血球数,CRPは改善した.発熱時採取した血液培養の結果は陰性であった.しかし,第27病日にバンコマイシンによる薬剤性肝障害を認め,再度抗菌薬変更が必要となった.テイコプラニンは眼内移行性が低いが,すでに光覚を消失していたため,第C28病日より同薬に変更した.入院時より右手背部から右前腕に疼痛および腫脹を認めていたが,増悪傾向となり,四肢CCT,MRI検査にて,右化膿性手関節炎,腱膜炎と診断された.第C9病日に筋膜切開・洗浄術が施行され,その後疼痛は消失した.第C10病日に施行された頭部CMRIでは,右脳梁膨大部付近に新鮮梗塞と両側後頭葉,右前頭葉,右視床に陳旧性の多発脳梗塞が認められた.保存的経過観察にて,所見の増悪は認めなかった(図2b).感染巣の特定には至らなかったが,抗菌薬の全身投与を継続することで血液検査上の炎症マーカーは減少傾向であった(図3).しかし,右眼球および眼瞼部には,鎮痛剤の内服に図1第0病日および第1病日の前眼部所見・超音波Bモード・眼窩部CT画像a:第C0病日の右眼前眼部写写真.前房内フィブリン析出,蓄膿.Cb:第C0病日の右眼CBモードエコー.硝子体混濁.Cc:第C1病日の右眼前眼部写真.前日と比較し前房フィブリン析出や蓄膿の悪化.Cd:第C1病日左眼前眼部写真.異常所見なし.e:第C1病日眼窩部CCT画像(矢印部:強膜スポンジ).ても制御できない高度の疼痛が遷延していたため,第C36病変更のうえ,第C67病日退院となった.日に右眼眼球摘出術を施行した.病理学的検索では,角膜,僚眼は経過観察期間において感染徴候は認めず,初診C6カ網膜,脈絡膜,視神経に好中球を含む炎症細胞の浸潤を認月後の時点で視力C1.5を保持した.め,急性および慢性の炎症が示唆された(図4).CII考按右眼眼球摘出後,眼痛は消失し,全身に新たな感染徴候は認めなかったため,抗菌薬はアモキシシリン水和物の内服に内因性細菌性眼内炎のおもな原因菌は,日本を含むアジア抗菌剤手術CRP濃度,白血球数,体温の推移図2PET-CT(第16病日)と頭部造影MRI(第13病日)の所見a:PET-CTにて上行大動脈遠位部にC18F-FDGの軽度集積を認めた(矢印).b:頭部造影CMRIにて右側優位に梗塞巣の散在を認めた(矢印).CRPWBC体温(mg/dl)(/μl)(℃)2514,00039.512,00039.02010,00038.5158,00038.06,00037.5104,00037.052,00036.50036.0051015202530354045505560病日図3入院後の経過表SBT/ABPC:sulbactam/ampicillin,CTRX:ceftriaxone,VCM:vancomycin,TEIC:teicoplanin,PCG:penicillinG,CRP:C-reactiveprotein,WBC:whitebloodcells.では,肺炎桿菌を主としたグラム陰性菌による感染が多く2),グラム陽性菌では黄色ブドウ球菌,B群溶連菌,肺炎球菌が多いとされている1,2).本症例は,眼科初診時では血液細菌培養検査の結果は出ておらず,また,バックリング手術歴をもつ眼の片眼性眼内炎であったこともあり,バックル感染も鑑別すべき病態の一つとした.しかし,硝子体手術時,強膜や眼内の所見は,バックル周囲にとくに高度であったわけではなく,バックル感染は否定的であった.また,第0,1病日に得た血液,前房水,硝子体液すべてからCSDSEが検出されたことより,SDSEによる内因性眼内炎と確定診断することができた.SDSEはおもにCG群溶連菌に分類され3),鼻咽頭,皮膚,腸,腟などに常在する.従来,病原性をほとんど発揮しない連鎖球菌として扱われてきたが,1980年代より感染症の報告が増加し,1996年にヒトに感染症を引き起こすレンサ球菌として,1998年にヒトCG群溶連菌CSDSEとして報告された3.5).内因性細菌性眼内炎の日本での多施設調査では,溶連菌群図4摘出眼と病理組織学的所見(ヘマトキシリン・エオジン染色)a,b:眼球摘出術前日の右眼スリット写真.前房内に瞳孔領を覆うフィブリン塊を認め,眼底は透見不能.右眼視力は光覚なし,眼圧C8.2CmmHgであった.Cc:摘出した右眼.矢印:視神経断端.Cd:摘出した右眼,耳側方向.矢印:強膜バックリング部.e:角膜輪部,虹彩毛様体(弱拡大).好中球・リンパ球・形質細胞の著しい浸潤を認める.Cf:視神経を含む後眼部(弱拡大).漿液性網膜.離および,好中球・リンパ球・形質細胞の著しい浸潤を認める.Cg:バックリング部(強拡大).圧迫による出血が目立つが,炎症細胞の浸潤は認めない.Ch:黄斑部網膜(強拡大).外顆粒層・内顆粒層などの強い変性,網膜前・網膜内出血および,好中球・リンパ球・形質細胞の浸潤を広範囲に認めるが,血管閉塞や血管内細菌コロニーは明らかでない.Ci:視神経(fの強拡大).一部に炎症による空胞変性を認める.の検出が25例中2例であり6),またCJacksonらによれば,2001.2012年に調査されたC75例の内因性細菌性眼内炎のうち,溶連菌群が原因であった症例はC15例,なかでもSDSEが原因であった眼内炎はC1例のみであった2).このように溶連菌による内因性眼内炎の割合は少なく,さらにSDSEが原因菌となる症例はさらにまれといえる.国内からのCG群溶連菌もしくはCSDSEによる内因性眼内炎の症例報告は,PubMedと医中誌での検索範囲ではC2023年C3月時点でC8報C9症例であり,年齢はC31.86歳,両眼性がC3例,片眼性がC6例,原因疾患は蜂窩織炎C2例,感染性心内膜炎C2例,僧帽弁置換術後C1例,透析シャント感染C1例,尿路感染症C1例,原発性菌血症C2例とさまざまであった.本症例を含めたC10例C13眼では,69%は最終的に手動弁以下に,31%は眼球摘出に至った5,7.12).本例において,高齢,片眼性,失明に至った点はいずれも既報の結果に矛盾しなかった.G群溶連菌は,劇症型連鎖球菌感染症のおもな原因菌であるCA群溶連菌の病態と類似した侵襲性の病態を示すことがあり4),死亡率もC3.17%と報告されている2,13).視機能だけでなく生命予後にもかかわるため,感染巣の特定とともに適切な全身治療をすることが重要である.本症例は,右手関節と右眼手術を要したものの,原因菌を特定できたため,感受性の高い抗菌薬を継続的に全身投与することで,生命には問題が生じなかった.SDSE,G群溶連菌による内因性眼内炎の感染巣として,感染性心内膜炎,蜂窩織炎などがあげられるが,原因の特定ができない症例も認められる12).本例は,弓部大動脈置換術の既往があり,PET-CTでは人工血管部に集積像を認めた.眼内炎,化膿性手関節・腱膜炎は右側であり,多発脳梗塞も右側優位であったことより,人工血管部に生じた菌塊が腕頭動脈を経由・分岐して右鎖骨下動脈や右総頸動脈に血行性に転移し,今回の感染症や塞栓症を引き起こした機序を推測したが,原発感染巣との特定には至らなかった.内因性眼内炎のうち感染巣が特定できたのはC52%との報告もあり2),内因性眼内炎の約半数は感染巣が特定できないことが示唆される.内因性細菌性眼内炎に対する治療は,抗菌薬の全身および眼内投与,硝子体手術がおもに用いられるが2,3,15),重症度,病態は症例によりさまざまで,治療法が確立していないのが現状である.本症例では,眼科初診時に内因性眼内炎も疑い,全身投与抗菌薬の速やかな変更と,抗菌薬C2剤の頻回点眼治療を開始したが,効果は判然とせず,初診翌日に硝子体手術を施行した.術中所見ではすでに眼底の不可逆的変化が強く,その後も制御できない眼痛のため最終的に眼球摘出に至った.SDSEによる眼内炎は,急速進行性の重篤な転帰に至る可能性が示唆された.筆者らは,溶連菌の一つであるCSDSEによるまれな内因性眼内炎のC1例を経験した.臨床的知見の蓄積は十分ではないが,SDSEによる眼内炎の報告は,急速進行性で視機能予後が著しく不良となる可能性がある.内因性眼内炎の臨床において,SDSEも原因菌の一つとして考慮すべきであり,眼科医のみならず他科の医師へも広く認識されることが大切であると考える.利益相反:辻川明孝(カテゴリーCF:キヤノン,ファインデックス,参天製薬)文献1)CunninghamET,FlynnHW,RelhanNetal:Endogenousendophthalmitis.COculCImmunolCIn.ammC26:491-495,C20182)JacksonCTL,CParaskevopoulosCT,CGeorgalasI:SystematicCreviewCofC342CcasesCofCendogenousCbacterialCendophthal-mitis.SurvOphthalmolC59:627-635,C20143)BrandtCCM,CSpellerbergB:HumanCinfectionsCdueCtoCStreptococcusCdysgalactiaeCsubspeciesCequisimilis.ClinCInfectDisC49:766-772,C20094)生方公子,砂押克彦,小林玲子ほか:C群およびCG群溶血性レンサ球菌による侵襲性感染症についてのアンケート.感染症誌C80:480-487,C20065)笹本洋子,松村正,小林由佳ほか:G群溶血性レンサ球菌による内因性細菌性眼内炎の血液透析患者.透析会誌C49:599-604,C20166)TodokoroCD,CMochizukiCK,CNishidaCTCetal:IsolatesCandCantibioticCsusceptibilitiesCofCedogenousCbacterialCendo-phthalmitis:ACretrospectiveCmulticenterCstudyCinCJapan.CJInfectChemotherC24:458-462,C20187)森田信子,中島富美子,冲永貴美子ほか:G群Cb溶血性レンサ球菌による内因性細菌性眼内炎のC2例.眼科C56:C1365-1370,C20148)HagiyaCH,CSembaCT,CMorimotoCTCetal:PanophthalmitiscausedbyStreptococcusdysgalactiaeCsubsp.equisimilis:Acasereportandliteraturereview.JInfectChemotherC24:C936-940,C20189)中川頌子,澁谷真彦,河合健志ほか:内因性眼内炎を契機に発覚した三尖弁感染性心内膜炎の一例.心臓C48:1377-1382,C201610)SuemoriCS,CSawadaCA,CKomoriCSCetal:CaseCofCendoge-nousCendophthalmitisCcausedCbyCStreptococcusCequisimilis.ClinOphthalmolC4:917-918,C201011)河野伸二郎,小堀朗,額田和之ほか:角膜混濁と虹彩萎縮をきたしたCG群Cb溶血性連鎖球菌による内因性眼内炎の一例.眼臨紀C8:166-170,C201512)大和田裕介,石原徹,真鍋早季ほか:StreptococcusCdys-galactiaeCsubspeciesCequisimilis原発性菌血症から細菌性眼内炎を合併した結腸癌患者のC1例.日本病院総合診療医学会雑誌C7:315-320,C202113)三好和康,馳亮太,清水彰彦ほか:G群溶血性連鎖球菌菌血症C104症例の臨床的特徴および市中発症群と院内発症群の臨床的特徴.感染症誌C91:553-557,C201715)TanCJH,CNewmanCDK,CBurtonCRLCetal:Endogenous14)大曲貴夫,藤田崇宏:G群溶血性レンサ球菌による多発性CendophthalmitisCdueCtoCgroupCGCstreptococcus.CEye化膿性関節炎・椎体椎間板炎・腸腰筋膿瘍・菌血症の一例.(London)C13:116-117,C1999感染症誌C84:1-5,C2010***

白内障術後の屈折誤差に対しSecondary Piggyback 法で スリーピース眼内レンズを追加挿入した症例

2023年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科40(12):1594.1597,2023c白内障術後の屈折誤差に対しSecondaryPiggyback法でスリーピース眼内レンズを追加挿入した症例黄野雅惠*1渡邉佳子*1岡田浩幸*1立石守*1大西純司*1水木信久*2*1国際親善総合病院眼科*2横浜市立大学眼科CACaseofThree-PieceIntraocularLensImplantationwithSecondaryPiggybackforCorrectingRefractiveErrorafterCataractSurgeryMasaeKouno1),YoshikoWatanabe1),HiroyukiOkada1),MamoruTateishi1),JunjiOnishi1)andNobuhisaMizuki2)CDepartmentofOpthalmology,FujisawashounanndaiHospital.DepartmentofOpthalmology,KokusaishizenHospital.DepartmentofOpthalmology,YokohamaCityUniversityHoslpitalC緒言:2枚の眼内レンズを重ねて挿入する術式を総称してCpiggyback法とよんでいる.白内障術後の屈折誤差を補正するために新たな眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を追加挿入するのがCsecondarypiggyback法である.症例:81歳,女性.左眼視力CVS=0.7(1.0×+1.00),眼軸長C21.28Cmmの白内障を認めた.白内障手術目的に当院紹介受診した.超音波乳化吸引術およびワンピース眼内レンズ(IOL+18.5D).内固定を施行した.術C2日後CVS=0.3×IOL(0.6+5.50(cyl.1.75DAx20°)と残余屈折異常を認め,レンズの誤挿入が発覚した.術C9日後,piggybackIOL度数=(必要度数)×1.5を用いて眼内レンズ(IOL+7.0D)を.外に追加挿入した.術C11日後,VS=0.2×IOL(0.3×.0.50)と軽度の近視化を認めたが,術C8カ月後にはCVS=1.2×IOL(id+0.75(cyl.0.75DAx85°)と良好な結果を得た.結論:レンズ誤挿入による白内障術後の屈折誤差に対してスリーピースCIOLを用いたCsecondarypiggyback法が有効であった.CPurpose:Thesurgicaltechniqueofinsertingtwointraocularlenses(IOLs)intotheeyeistermed“piggyback”CIOLimplantation.HereinwereportacaseofsecondarypiggybackIOLimplantationforcorrectingrefractiveerror(RE)followingCcataractCsurgery.CCasereport:AnC81-year-oldCfemaleCwithCaCvisualacuity(VA)ofCVS=0.7(1.0xsph+1.00)andCaxialClengthCofC21.28CmmCinCherCleftCeyeCwasCreferredCtoCourChospitalCtoCundergoingCcataractCsurgery.CForCtreatment,Cphacoemulsi.cationCaspirationCandCimplantationCofCaCone-pieceIOL(+18.5D)wasCper-formed.CAtC2-daysCpostoperative,CherCVACwasCVS=0.3xIOL(0.6Cxsph+5.50=cyl.1.75Ax20°)andCRECwasCobserved,CthusCindicatingCtheCIOLCwasCmalpositioned.CAtC9-daysCpostoperative,CweCperformedCimplantationCofCaCthree-pieceIOL(+7.0D)outofbagwithpiggybackIOLpower=(neededpower)x1.5.At11-dayspostoperative,mildCmyopiaCandCaCVACofCVS=0.2xIOL(0.3xsphC.0.50)wasCobserved.CHowever,CatC8-monthsCpostoperative,CaCgoodCVACofCVS=1.2xIOL(id+0.75=cyl.0.75Ax85°)wasCobtained.CConclusions:SecondaryCpiggybackCIOLCimplantationwithathree-pieceIOLise.ectiveforcorrectingREaftercataractsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(12):1594.1597,C2023〕Keywords:ピギーバック,短眼軸長眼,術後残余屈折異常.piggyback,extremelyshorteyes,refractiveaftercataractsurgery.Cはじめにる.このような症例に対してC2枚のCIOLを重ねて挿入する超短眼軸長眼および強度遠視に対する白内障手術の際に,ことが必要な場合がある.このようにCIOLをC2枚以上挿入1枚だけの眼内レンズ(intraocularlens:IOL)では屈折矯する手技をCpiggyback法とよぶ.piggybackとは肩車を表正が不十分となり術後に残余屈折異常が残存する場合があす英単語である.眼科領域ではレンズ上にレンズをのせると〔別刷請求先〕黄野雅惠:〒224-0802神奈川県藤沢市高倉C2345藤沢湘南台病院眼科Reprintrequests:MasaeKouno,M.D.,DepartmentofOpthalmology,FujisawashounanndaiHospital,2345Takakura,Fujisawa,Kanagawa224-0082,JAPANC1594(90)図1Secondarypiggyback前の前眼部写真虹彩萎縮と角膜はCDescemet膜皺襞を伴っている.いう意味で用いられている.初回の手術でC2枚のCIOLを挿入するのがCprimaryCpiggyback法である.1993年にGaytonらによって初めて報告された1).また,白内障手術後の残余屈折異常がある症例に対し,屈折誤差を補正する目的で追加のCIOLを追加して挿入するCpiggyback法をCsecond-arypiggyback法とよぶ2).今回筆者らは誤ったレンズを挿入したことによる白内障術後の屈折誤差に対しCsecondarypiggyback法でスリーピース眼内レンズを追加挿入し修正し良好な視力を得た症例を経験したので報告する.CI症例患者:81歳,女性.主訴:両眼の霧視.現病歴および経過:2018年C10月初旬,両眼の霧視と視力低下を自覚し前医受診した.両白内障による視力低下を認め白内障手術目的に当院紹介受診した.当院初診時,視力は右眼C0.7(1.0×sph+1.50),左眼C0.7(1.0×+1.00),眼軸長は右眼C21.39Cmm,左眼C21.28Cmmであった.白内障は両眼ともにCgrade2であり,眼底はドルーゼンを認めるのみであった.2019年C1月初旬,左眼の超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(上方強角膜切開,ワンピースCIOL)を施行した.IOL度数は当院で取り扱っているCSRK/T式を用いて算出し,A定数C119.1ALCONCUltrasert+26.5D(目標屈折値.0.33)を挿入予定も,A定数C119.2HOYAisertXY1+18.5Dを誤挿入してしまった.術中はCZinn小帯と虹彩が脆弱であり創口から虹彩が脱出した.IOLは.内に固定した.術翌日,左眼視力C0.3×IOL(0.6×sph+5.50(cyl.1.75DAx20°)と高度の遠視化を認めた.IOLは正位で.内固定良好,角膜はCDescemet膜皺襞を伴っていた(図1).眼底は正図2Secondarypiggyback後の超音波画像2枚の眼内レンズ(..で示す高エコー領域)が挿入されていることが確認された.ビューフォーム(第C7版)常であった.この時点で初回手術のレンズ誤挿入が発覚した.誤挿入の理由として,順番の変更が直前に行われたこと,それに気づかず変更前の順番でCIOLが準備されていたこと,IOL挿入前にCIOLマスター表で氏名の確認が不十分であったことが考えられた.患者本人,家族に上記を説明したうえで,後日修正手術を行う方針となった.術C6日後,角膜CDes-cemet膜皺襞は改善されたが,左眼視力はC0.09×IOL(1.0+4.75(cyl.0.75DAx30°)と高度の遠視化が残存していた.術C9日後,角膜の状態が正常化したため,.外(毛様溝)に追加挿入する再手術を施行した.挿入レンズはCpiggybackIOL度数=(必要度数)×1.53)=4.75×1.5=7.125より,「スリーピースCIOL:PN6AS+7.00D(AvanseeKOWA)」を選択した.再手術翌日の左眼視力はC0.2×IOL(0.3×sph.0.50)と軽度の近視化を認めた.前眼部はCcell+,.brin+,.are.であった.超音波検査(Bモード)ではCIOLがC2枚挿入されているのが確認された(図2).再手術C2日後の左眼視力はC0.4C×IOL(0.5×cyl.1.50DAx30°)であった.再手術14日後の左眼視力はC0.4×IOL(0.9×cyl.1.75DAx35°)とレフラクトメータでは円柱度数は完全に矯正された.自覚症状も改善された.再手術C2カ月後,左眼視力C0.9×IOL(1.2×sph+0.75(cyl.1.00DAx50°)であり,日常生活を不自由なく過ごせる程度まで回復した.再手術C8カ月後の左眼視力はC1.2C×IOL(id+0.75(cyl.0.75DAx85°)まで矯正視力良好であり,現在まで大きな術後合併症なく経過している.既往歴:高血圧症,狭心症.家族歴:特記事項なし.手術歴:なし.アレルギー:なし.II考按今回,筆者らは誤挿入による白内障手術後の残余屈折異常に対してCsecondaryCpiggyback法を用いてスリーピースIOLを追加挿入する手段を用いた.白内障手術後に生じた屈折誤差が眼鏡やコンタクトレンズでも十分に矯正できないほど残存する場合,患者の生活に不自由をきたしてしまう恐れがある.そのため術後の度数矯正を補正するため早めに対処を考える必要がある.誤挿入の原因を考案したところ,当院では手術する患者の順番どおりにレンズ表を並べて手術室に持ち込むシステムであるが,直前に患者の順番が変更になったにもかかわらず,レンズ表は順番を変更しないままになってしまった.結果的に,異なる患者のレンズ表であることに気づかず間違った度数のCIOLが挿入されてしまったことが発覚した.本来ならば順番変更の口頭指示があった際に失念しないようにメモを残すべきであった.また,変更があったことに気づくために手術直前に再度CIOLの確認を行い,変更があった場合は全員で情報を共有し,最終確認作業はC2人以上の複数人で行う必要があった.また,手術室に持ち込むレンズ表を入室する患者の順番どおりにまとめる習慣がついていたため,表と患者氏名が合致していると思い込みCIOL挿入前の氏名確認を行う作業が不十分であったことも考えられた.このようなことが起こらないようにするためにできる限りC2人以上で行うべきであるが,やむをえず一人で作業を行う場合は複数回確認を徹底すること,情報の伝達漏れが生じないように日ごろからこまめに連絡や相談,他者と円滑なコミュニケーションを取ることが必要であった.今後医療を安全に提供するためにチーム医療者内で情報の共有や報告,明確な連絡,複数人でのダブルチェック体制を強化することが再発防止に重要であると考えられた.屈折矯正を目的とした外科的な手術の方法として角膜屈折矯正術とCIOLを使用する手術があげられる.IOLを使用する手術の場合,すでに固定されているCIOLを取り出して新たなCIOLを.内に挿入するCIOL交換法と追加のCIOLを.外に挿入するCsecondaryCpiggyback法がある.角膜屈折矯正術はClaserinsitukeratomileusis(LASIK),photorefractivekeratectomy(PRK)などの方法がある.適応条件として角膜疾患がないこと,角膜内皮障害がないことおよび角膜内皮細胞数が極端に減少していないことなど角膜清明であることが前提としてあげられる.また,専門的な分野であり手術可能な施設が限られる.そのため地域格差を考慮するといずれの施設でもできる手術ではないため利便性に乏しい.今回の症例では当院で対応できる範囲内で追加修正手術をする必要があったため選択しなかった.一方でCIOLを使用する手術は白内障手術を施行した同施設で対応できる場合が多い.IOL交換法はすでに固定されているCIOLを取り出して新しいCIOLを.内に挿入するため,結果としてC1枚だけのCIOLが.内に固定されることになる.そのため長期予後として術後の合併症は通常どおりのことが多く安心感が得られる.術後約C1カ月までの早期であればCIOL交換は行いやすい手技とされており,度数ずれの際はまず考えるべき方法の一つとされている.今回の症例では術翌日C9日目の比較的早期の再手術であった.誤挿入が発覚したのが術翌日のためCIOLを交換する方法が多いとされているが,筆者らはCsecondarypiggyback法を選択した.その理由として,secondaryCpig-gyback法はCIOL交換法と比較するとCIOLを追加するだけで侵襲性が少ない手技であることと今回の症例ではCZinn小帯が脆弱であったためである.IOL交換を選択した場合,前房内での操作が多くCZinn小帯が脆弱であるため過度な負担がかかり,IOL摘出時に後.破損やCZinn小帯断裂を生じて.内に新しいCIOLを固定することが困難になると考えられた.後.破損した場合の硝子体脱やCIOLを.内固定できなかった場合のCIOL強膜内固定など追加処置が必要になるとさらに患者の負担がかかると考えた.また,IOL交換する場合,切開創を広げるため角膜内皮減少や角膜乱視の増悪,虹彩脱出や挫滅の危険性もある.医師と患者と医療安全管理課で話し合った結果,侵襲性が低い方法であるCsecondarypig-gyback法を選択するに至った.この方法はすでに.内固定されているCIOLの上に新たなCIOLを.外(毛様溝)に追加挿入するため比較的安全で簡便な手術法である.手術時間も前述の方法よりも短時間であり患者の負担も必要最小限にとどめられ,また,初回手術から時間が経過した時期でも可能である.追加挿入する際の角膜内皮損傷や後.破損,硝子体脱出の合併症を発症する頻度も低いと考えられる.Karjouらは,secondarypiggyback法の適応として,強い屈折異常の場合,レーザー屈折処置を除外する角膜疾患または全身疾患がある場合,またはエキシマレーザープラットフォームが利用できない場合に推奨されると論じている4).どの施設でも取り入れやすい術式のため最近では徐々に普及してきている.追加で挿入するCIOL度数はCHolladayの計算式5)がよく引用されている.本症例はCpiggybackIOL計算式「Piggy-backCIOL=(必要度数)C×1.5」5)を用いて代用した.また,北大路の計算式「目的とする屈折値に必要な眼鏡度数/0.7」6)を用いる場合も多い.筆者らは目標屈折値を正視(+0.00D)とした.術C7日後の左眼視力LV=0.1×IOL(0.9×+4.75(cyl.1.00DAx45°)であったため,「PiggybackIOL=(必要度数)C×1.5」の式の(必要度数)にC4.75を当てはめて追加挿入する眼内レンズを+7Dとして算出した.今回の症例では術後早期は軽度の近視化を認めたものの術後C8カ月時点で+0.75Dで留まった.このことより,secondaryCpiggyback法は度数補正の正確さに長けていると考えられる..外に固定する追加のCIOLはCPN6AS(Avansee)のスリーピースを使用した.AddOnIOLは海外から輸入するため,手術までに時間がかかり,かつ自由診療となる.しかし,PN6ASは多くの施設が汎用されているCIOLであり入手も容易で早期に手術することができる..内にワンピースIOL,.外にスリーピースCIOLを固定することで虹彩刺激症状による色素性緑内障が生じにくいと報告されている7).今回の症例でも虹彩炎,眼圧上昇,色素散乱症候群,瞳孔捕獲などの合併症は確認されていない.ただし,piggybackIOLは.外固定のためCZinn小帯脆弱があると偏位を起こすリスクはあるため慎重に経過観察としている.しかし,secondaryCpiggy-back法のC5週後に色素散乱症候群(pigmentaryCdispersionCsyndrome8),2年後に緑内障が発生した症例9)が報告されており,長期的な経過観察とさらなる検討の必要がある.CIII結論今回筆者らの経験で,スリーピースCIOLを用いたCsecond-arypiggyback法は臨床的に簡便で精査性が高く有用な方法であった.Secondarypiggyback法の報告数が少ないため,今後,IOL変形や偏位,収差,屈折変化,虹彩刺激兆候などの合併症に対して長期にわたるさらなる検討が必要である.最後に追加手術が必要になった際には十分な説明をして患者の満足度を得られるよう努める必要がある.文献1)GaytonCJL,CSandersVN:ImplantingCtwoCposteriorCcham-berintraocularlensesinacaseofmicrophthalmos.JCata-ractRefractSurgC19:776-777,C19932)Habot-WilnerCZ,CSachsCD,CCahaneCMCetal:RefractiveCresultsCwithCsecondaryCpiggybackCimplantationCtoCcorrectCpseudophakicCrefractiveCerrors.CJCCataractCRefractCSurgC31:2101-2103,C20053)GaytonJL:SecondaryCpiggybackCIOLCimplant.COSNCOPHTHALMICHYPERGUIDEDecember27,20054)KarjouZ,JafarinasabMR,Sei.MHetal:Secondarypig-gybackCintraocularClensCforCmanagementCofCresidualCame-tropiaCafterCcataractCsurgery.CJCOphthalmicCVisCResC16:C12-20,C20215)HolladayJT:RefractivepowercalculationsforintraocularlensesCinCtheCphakicCeye.CAmCJCOphthalmolC11:63-66,C19936)宮本康平,谷藤泰寛,武田和夫ほか:二枚重ね後房レンズ法による複数医療機関での白内障術後度数誤差の補正,日本の眼科69:357-359,C19987)飯田嘉彦:1.超短眼軸長眼に対するCIOLCpiggyback.CMBCOCULI33:46-50,C20158)ChangCWH,CWernerCL,CFryCLLCetal:PigmentaryCdisper-sionCsyndromeCwithCaCsecondaryCpiggybackC3-pieceChydrophobicacryliclens.Casereportwithclinicopatholog-icalCcorrelation.CJCCataractCRefractCSurgC33:1106-1109,C20079)KimCSK,CLancianoCRCCJr,CSulewskiME:PupillaryCblockCglaucomaassociatedwithasecondarypiggybackintraocu-larlens.JCataractRefractSurgC33:1813-1814,C2007***

高含水率疎水性アクリル素材3 焦点眼内レンズ挿入後早期の 視機能

2023年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科40(12):1591.1593,2023c高含水率疎水性アクリル素材3焦点眼内レンズ挿入後早期の視機能太田友香上原朋子藤崎理那南慶一郎ビッセン宮島弘子東京歯科大学水道橋病院眼科CEarlyPostoperativeVisualFunctionAfterImplantationofTrifocalIOLwithHighWaterContentHydrophobicAcrylicMaterialYukaOta,TomokoUehara,RinaFujisaki,KeiichiroMinamiandHirokoBissen-MiyajimaCDepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospitalC目的:高含水率の疎水性アクリル素材(Clareon)を用いたC3焦点眼内レンズ(IOL)の術後早期の視機能を後向きに検討すること.対象および方法:東京歯科大学水道橋病院にてCClareonのC3焦点CIOL(CNWTT0,CNWTT3-6:アルコン社)を挿入した症例を対象とし,術後C1カ月の裸眼および遠方矯正下視力(遠方,60Ccm,40Ccm),コントラスト感度(CSV-1000),光障害の有無を調査した.結果:対象はC47例C84眼(67.9C±9.1歳),術後ClogMAR視力は,遠方裸眼/矯正C.0.07±0.12/.0.14±0.05,60Ccm裸眼/遠方矯正C0.05C±0.11/0.01±0.10,40Ccm裸眼/遠方矯正C0.03C±0.11/0.00±0.08であった.コントラスト感度は正常範囲内で,重度の光障害を訴える症例はなかった.結論:ClareonのC3焦点CIOL挿入後C1カ月の視機能は良好であった.CPurpose:Toevaluatetheearlypostoperativevisualfunctionsafterimplantationoftrifocalintraocularlenses(IOLs)ofChydrophobicCacrylicCmaterialCwithChighCwaterCcontent.CSubjectsandMethods:InCthisCretrospectiveCstudy,CweCreviewedCandCevaluatedCtheCpostoperativeCoutcomesCinCpatientsCwhoCunderwentCClareonCtrifocalCIOL(CNWTT0,CNWTT3-6:Alcon)implantationattheDepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuido-bashiCHospital.CAtC1-monthCpostoperative,ClogMARuncorrected(UC)visualacuity(VA)andCdistance-correctedVA(DCVA)at5meters,60Ccm,and40Ccm,aswellasphotopiccontrastsensitivityandsymptomsofvisualimpair-ment,wereassessed.Results:Thisstudyinvolved84eyesof47patients(meanage:67.9C±9.1years).Postopera-tiveCUCVA/DCVACwasC.0.07±0.12/.0.14±0.05CatC5Cmeters,C0.05±0.11/.0.01±0.10CatC60cm,CandC0.03±0.11/0.00±0.08CatC40Ccm.CContrastCsensitivitiesCwereCwithinCtheCnormalCrange,CandCthereCwereCnoCcomplaintsCofCsevereCphoticCphenomena.CConclusion:ClareonCtrifocalCIOLCimplantationCresultedCinCgoodCvisualCfunctionCduringCtheearlypostoperativeperiod.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(12):1591.1593,C2023〕Keywords:高含水率疎水性アクリルC3焦点眼内レンズ,視機能,術後視力,コントラスト感度.highCwaterCcon-tenthydrophobicacrylictrifocalIOL,visualfunction,postoperativevision,contrastsensitivity.Cはじめに近年,多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の技術開発が進み,さまざまな光学デザインのCIOLが登場している.3焦点デザインのCIOLとして,2019年に日本で初めてTFNT00(AcrysofCIQCPanOptixTrifocal,アルコン社)が承認を受けた.このCIOLは疎水性アクリル素材(Acrysof)で,回折デザインにより遠方,中間(60Ccm),近方(40Ccm)のC3カ所に焦点をもつ1).術後視機能に関しては,遠方から近方までの良好な視力,正常範囲内のコントラスト感度,眼鏡装用率の軽減が多くの論文で報告されている2.5).しかし,このCIOLに使用されているCAcrysof素材は,術後長期の合併症としてグリスニングやCsubsurfaceCnano-glistening(SSNG)が報告され6.9),視機能への影響はいまだに見解が分かれている7).SSNGなどを減少させるために,高含水率〔別刷請求先〕太田友香:〒101-0061東京都千代田区神田三崎町C2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科Reprintrequests:YukaOta,DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital,2-9-18,Chiyoda-ku,Tokyo101-0061,JAPANC0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(87)C1591表1患者背景症例数47例84眼年齢(歳)C術前角膜前面乱視(D)C眼軸長(mm)C眼内レンズ度数(D)C眼内レンズモデル(眼数)67.9±9.1[38.84]0.8±0.4[C0.1.C2.5]24.3±1.5[C21.9.C29.3]18.8±3.7[C6.0.C24.0]T0(65),TC3(5),TC4(9),TC5(1)平均±標準偏差[範囲]疎水性アクリル素材(Clareon,アルコン社)が開発された.特徴として,アクリレート/メタクリレート共重合体でできており,35°における含水率がC1.5%とCAcrysof素材のC0.23%より高くなっている.すでに単焦点CIOLで使用され,実験と臨床双方において経年変化によるグリスニングやCSSNGは認められない10,11).Acrysof素材のCTFNT00と同一の光学デザインをもち,Clareon素材に改良されたC3焦点CIOL(ClareonCPanOptixTrifocal:CNWTT0,アルコン社)が,世界に先駆けて日本で承認された.筆者らが調べた範囲では,本CIOL挿入後の視機能に関する報告がないため,今回,術後早期の視機能を後向きに検討した.CI対象および方法本臨床研究は東京歯科大学倫理審査委員会の承認後,ヘルシンキ宣言に遵守して行われた.対象は,2022年C3月.10月に東京歯科大学水道橋病院にてCClareon素材を用いたC3焦点CIOL(CNWTT0またはCCNWTT3-6:Alcon社)が挿入され,術後目標屈折を正視とし,矯正視力C0.8以上が得られた症例のうち,視力に影響を及ぼす可能性がある網膜疾患やぶどう膜炎,視神経疾患の合併がなく,白内障以外の眼科手術歴を有さないC47例C84眼(平均年齢はC67.9C±9.1歳)である.IOL度数は,眼軸などをCIOLマスターC700(CarlZeiss社)で測定し,BarrettUniversalII式を用いて決定した.角膜乱視はオートケラトメータ(TONOREFII,ニデック社)による角膜前面乱視と前眼部三次元画像解析(CASIA2,トーメーコーポレーション社)による角膜全乱視を,それぞれアルコン社CWebにあるトーリックカリキュレーターに入力し,トーリックモデルが選択された症例にはトーリックCIOLを用いた.手術は,2.2CmmまたはC2.4Cmmの角膜耳側切開からCCen-turion(アルコン社)を用いて水晶体超音波乳化吸引術を行い,IOLをインジェクターにて挿入した.トーリックCIOLの場合,乱視軸のデジタル表示が可能なCCALLISTOCeye(CarlZeiss社)を用いて軸合わせを行った.評価項目として,術後C1カ月における自覚屈折値(球面,円柱,等価球面度数),5Cm,60Ccm,40Ccmにおける裸眼おC1592あたらしい眼科Vol.40,No.12,2023-0.3-0.2-0.10.00.10.20.30.40.5測定距離図1術後裸眼および遠方矯正下視力術後C1カ月において,5m,60Ccm,40Ccmの各測定距離において,良好な裸眼および遠方矯正下視力であった.CCSV-1000ContrastSensitivitylogMAR視力5m60cm40cm361218SpatialFrequency─(CyclesPerDegree)図2術後明所コントラスト感度術後C1カ月において,全周波数領域でコントラスト感度は正常範囲内であった.よび遠方矯正下視力,明所(85Ccd/mC2)のコントラスト感度(CSV-1000,VectorVision社),日常生活に支障を及ぼす光障害の有無に関する問診結果を診療記録から評価した.CII結果表1に患者背景を示す.術後の自覚屈折値は,球面度数がC0.20±0.40D,円柱度数がC.0.40±0.41D,等価球面度数がC0.01±0.31Dであった.裸眼ClogMAR視力は,5mでC.0.07C±0.12,60CcmでC0.05C±0.11,40CcmでC0.03C±0.11,矯正Clog-(88)MAR視力は,5mでC.0.14±0.05,60CcmでC.0.01±0.10,40cmでC0.00C±0.08であった(図1).遠方裸眼小数視力が1.0以上となった割合はC81.0%,0.8以上はC92.9%と良好な結果であった.図2に明所のコントラスト感度を示す.空間周波数C3,6,12,18Ccpdの対数コントラスト感度は,それぞれC1.71C±0.17,1.83C±0.17,1.38C±0.23,0.81C±0.21と正常範囲内であった.また,診察時にグレア,ハローなどの光障害の有無について問診しているが,日常生活に支障を及ぼすような光障害を訴える例はなかった.CIII考按わが国でのCAcrysof素材のC3焦点CIOLの臨床試験結果では,術後C1カ月の片眼裸眼ClogMAR視力が,1眼目C.0.039C±0.084/2眼目C.0.024±0.102(5m),1眼目C.0.012±0.101/2眼目C.0.0186±0.087(60Ccm),1眼目C0.014C±0.095/2眼目C0.06C±0.082(40Ccm)と5),いずれの測定距離においても,Clareon素材の本結果と同程度であった.コントラスト感度に関して,福岡らの検討では,Acrysof素材のC3焦点CIOL挿入眼における空間周波数C3,6,12,18Ccpdでの対数コントラスト感度はC1.72,1.88,1.55,1.02であり12),本結果と同等であった.Acrysof素材のC3焦点CIOL挿入眼における光障害に関しては,一貫した結果は示されていない.韓国で行われた研究ではC32%が重度のハローを訴えたのに対し13),インドではわずかC1.4%であった14).わが国でも,15.6%が重度のハロー,6.3%が重度のグレア,ハローとグレアともにC1.5%しか重度の訴えがなかったなど,一貫性はない5,15).これらの結果から,今回の症例で重度のハローやグレアを訴えた症例はないものの,今後,症例数を増やして検討する必要があると考える.また,Clareon素材に関して,AcrySof素材と同様,術後長期における安定した透明性を維持されることが必要である.よって,視機能に加え,グリスニングやCSSNGの評価も重要である.単焦点CIOLでは,術後C9年の長期にわたってグリスニングとCSSNGは認められていない11).回折デザインをもつC3焦点CIOLにおいても単焦点デザインと同様に,これらの現象が生じてこないか長期経過を評価する必要がある.以上より,高含水率疎水性アクリルC3焦点CIOL挿入後C1カ月の視機能は,遠方から近方まで良好な視力,コントラスト感度が得られ,生活に支障を及ぼすほどの不快な光障害を訴える症例は認めなかった.しかし,今後長期経過における本CIOLに対する視機能評価が必要と考える.文献1)KohenT:FirstCimplantationCofCaCdi.ractiveCquadrifocal(89)(trifocal)intraocularClens.CJCCataractCRefractCSurgC41:C2330-2332,C20152)KohenCT,CHerzogCM,CHemkepplerCECetal:VisualCperfor-manceofaquadrifocal(trifocal)intraocularlensfollowingremovalCofCtheCcrystallineClens.CAmCJCOphthalmolC184:C52-62,C20173)Lapid-GortzakR,BhattU,SanchezJGetal:MulticentervisualCoutcomesCcomparisonCofC2CtrifocalCpresbyopia-cor-rectingIOLs:6-monthCpostoperativeCresults.CJCCataractCRefractSurgC46:1534-1542,C20204)GundersenCKG,CPotvinR:TrifocalCintraocularlenses:aCcomparisonCofCtheCvisualCperformanceCandCqualityCofCvisionCprovidedCbyCtwoCdi.erentClensCdesigns.CClinCOph-thalmolC11:1081-1087,C20175)Bissen-MiyajimaH,OtaY,HayashiKetal:ResultsofaclinicalCevaluationCofCaCtrifocalCintraocularClensCinCJapan.CJpnJOphthalmolC64:140-149,C20206)MiyataCA,CYaguchiS:EquilibriumCwaterCcontentCandCglisteningsinacrylicintraocularlenses.JCataractRefractSurgC30:1768-1772,C20047)WernerL:GlisteningsCandCsurfaceClightCscatteringCinCintraocularlenses.JCataractRefractSurgC36:1398-1420,C20108)谷口重雄,千田実穂,西原仁ほか:アクリルソフト眼内レンズ挿入術後長期観察例にみられたレンズ表面散乱光の増強.日眼会誌C106:109-111,C20029)MatsushimaH,KatsukiY,MukaiKetal:ObservationofwhiteningCbyCcryo-focusedCionCbeamCscanningCelectronCmicroscopy.JCataractRefractSurgC37:788-789,C201110)WernerL,ThatthamlaI,OngMetal:EvaluationofclariC-tyCcharacteristicsCinCaCnewChydrophobicCacrylicCIOLCinCcomparisonCtoCcommerciallyCavailableCIOLs.CJCCataractCRefractSurgC45:1490-1497,C201911)KinoshitaK,MiyataK,NejimaRetal:Surfacelightscat-teringfrom1-piecehydrophobicacrylicintraocularlenseswithhydroxyethylCmethacrylate:contralateralCobserva-tionCforC7Cyears.CJCCataractCRefractCSurgC47:702-705,C202112)福岡佐知子,佐藤衣莉,辻麻見ほか:加入度数の異なる2種類のC3焦点眼内レンズの臨床成績.眼科手術C34:439-446,C202113)KimCTI,CChungCTY,CKimCMJCetal:VisualCoutcomesCandCsafetyCafterCbilateralCimplantationCofCaCtrifocalCpresbyopiaCcorrectingintraocularlensinaKoreanpopulation:apro-spectiveCsingle-armCstudy.CBMCCOphthalmolC20:288,C202014)RamamurthyD,VasavadaA,PadmanabhanPetal:Clini-caloutcomesafterbilateralimplantationofatrifocalpres-byopia-correctingintraocularlensinanIndianpopulation.ClinOphthalmolC15:213-225,C202115)HayashiK,SatoT,IgarashiCetal:ComparisonofvisualoutcomesbetweenbilateraltrifocalintraocularlensesandcombinedCbifocalCintraocularClensesCwithCdi.erentCnearCaddition.JpnJOphthalmolC63:429-436,C2019あたらしい眼科Vol.40,No.12,2023C1593

線維柱帯切除術後眼に生じた糸状角膜炎に対し レバミピド点眼が著効した1 例

2023年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科40(12):1587.1590,2023c線維柱帯切除術後眼に生じた糸状角膜炎に対しレバミピド点眼が著効した1例大田啓貴*1近間泰一郎*2木内良明*2*1広島県厚生農業協同組合連合会尾道総合病院眼科*2広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学CACaseofFilamentaryKeratitisafterTrabeculectomyinwhichTopicalRebamipidewasE.ectiveHirokiOta1),TaiichiroChikama2)andYoshiakiKiuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,JAHiroshimaKouseirenOnomichiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,HiroshimaUniversityGraduateSchoolofBiomedicalandHealthSciencesC背景:糸状角膜炎(.lamentarykeratitis:FK)は,角膜表面に糸状物を形成する慢性,再発性の角膜疾患であり,さまざまな眼表面の病態や疾患に関連して生じる.今回,線維柱帯切除術後眼に生じたCFKに対し,レバミピド点眼(RM)が著効した症例を報告する.症例:82歳,女性.複数回の線維柱帯切除術施行後,左眼に異物感が出現しCFKがみられたことから,0.1%フルオロメトロン点眼を行った.1カ月後に,重度の点状表層角膜症(SPK)も生じたことから,点眼をすべて中止し,ホウ酸・無機塩類配合人工涙液点眼の適時使用を行った.SPKの改善はみられたが,FKの改善に乏しいため,RM単独で加療したところ,1カ月でCFKならびにCSPKは消失し,著しい改善が得られた.考察:本症例ではマイボーム腺機能不全による涙液油層の不足やCoverhangingblebによる眼表面の摩擦亢進がみられた.RMで,角膜ムチン産生を促進し,眼表面の摩擦を低下させ,眼表面の涙液が安定したことが著効した原因と考えている.CBackground:Filamentarykeratitis(FK)C,achronicrecurrentcornealdiseasethatforms.lamentsonthecor-nealsurface,isassociatedwithvariousocularsurfacedisorders.HereinwereportacaseofFKaftertrabeculecto-myCsurgeryCthatCwasCsuccessfullyCtreatedCwithCtopicalCrebamipide.CCase:AnC82-year-oldCfemaleCinCwhomCFKCdevelopedCinCherCleftCeyeCafterCmultipleCtrabeculectomyCsurgery,CunderwentCsurgicalCremovalCofCcornealC.lamentsandadministrationof0.1%.uorometholoneeyedrops.At1-monthpostoperative,severesuper.cialpunctatekera-topathy(SPK)developed,CsoCallCmedicationsCwereCdiscontinuedCandCaCcombinedCtreatmentCofCboricCacidCandCinor-ganicsaltswasadministered.AfterSPKimproved,rebamipidealonewasadministeredtotreatthepersistentFK,whichCwasCmarkedlyCimprovedCatC1Cmonth.CConclusions:InCcasesCofCFK,CadministrationCofCrebamipideCpromotesCcornealmucinproduction,reducesfrictionontheocularsurface,andstabilizestear.uidontheocularsurface,thusresultinginmarkedimprovement.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(12):1587.1590,C2023〕Keywords:糸状角膜炎,レバミピド,線維柱帯切除術,ドライアイ..lamentarykeratitis,rebamipide,trabecu-lectomy,dryeye.Cはじめに糸状角膜炎Cfilamentarykeratitis(FK)は,角膜表面に連なる糸状の構造物からなる慢性,再発性の角膜疾患である.FKの発症には,さまざまな眼表面疾患や眼瞼疾患が複合的に関与しており,そのメカニズムはいまだ明確にされていない.一般的にはドライアイが多くの症例で合併しているが,そのほかの基礎疾患として,上輪部角結膜炎などの眼表面疾患,各種眼手術後,糖尿病などの全身疾患,プロスタグランジン関連薬などの点眼薬,眼瞼下垂などがある1,2).FKにおける角膜糸状物は瞬目により牽引され,角膜の知覚神経が刺〔別刷請求先〕大田啓貴:〒722-8508広島県尾道市平原C1-10-23広島県厚生農業協同組合連合会尾道総合病院Reprintrequests:OtaHiroki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JAHiroshimaKouseirenOnomichiGeberalHospital,1-10-23,CHirahara,Onomichi-shi,Hiroshima722-8508,JAPANC激されることで,強い異物感などの症状の原因となる3).FKの治療は,角膜糸状物を物理的に除去するだけでは再発を繰り返すため,完治をめざすためには発症に関与する原因疾患を治療する必要がある.保存的な治療としては,防腐剤無添加の人工涙液の頻回点眼や,低力価副腎皮質ステロイド点眼,治療用ソフトコンタクトレンズの装着が知られている4.6).このように,さまざまな治療が行われるものの,満足いく効果が得られないことが多い疾患である.今回,線維柱帯切除術後眼に生じた難治性のCFKに対し,レバミピド懸濁点眼液(ムコスタCUD点眼液C2%CR,大塚製薬)が著効した症例を経験したので報告する.CI症例82歳,女性.両眼緑内障に対し,右眼はチューブシャント手術と線維柱体切除術を施行され,左眼は線維柱帯切除術や濾過法再建術を計C4回施行された.2019年C4月頃から左眼異物感があった.両眼前眼部所見では,マイボーム腺機能不全があり,涙液メニスカス高(tearCmeniscusheight:TMH)はCnormal,涙液層破壊時間(tearC.lmCbreak-uptime:BUT)はC5秒以下だった.右眼はC11時方向にCblebがみられた.左眼はC2時,10時方向にCoverhangingblebがみられた.左眼異物感の症状は,overhangingblebによる合併症と考えられ,摩擦緩和目的にオフロキサシン眼軟膏(タリビッド眼軟膏,参天製薬)を開始した(図1a,b).眼軟膏開始後は自覚症状の改善がみられたが,2カ月経過時点で症状が再発した.症状緩和のため,同年C9月にジクアホソルナトリウム点眼(ジクアス点眼液C3%,参天製薬)を追加したところ,同年C11月に糸状角膜炎が出現した(図1c,d).ジクアホソルナトリウム点眼が要因と考えられ,ジクアホソルナトリウム点眼を中止しレバミピド懸濁点眼液をC1日C4回で開始したところ,2020年C1月には自覚症状が改善して,FKは消失した.その後,レバミピド懸濁点眼液は自己中断していたが,角膜は寛解状態を保っていた.2021年C4月に左眼眼圧がC14CmmHgまで上昇したため,タフルプロスト点眼(タプロス点眼,参天製薬)を開始した.タフルプロスト点眼開始後,左眼異物感が生じ,眼球上方結膜の充血や上皮障害がみられた.レバミピド懸濁点眼液を再開したが,自覚症状や所見の改善はなく,上輪部角結膜炎の発症と考え,0.1%フルオロメトロン点眼液(フルメトロン点眼液C0.1%,参天製薬)を開始した.しかし,0.1%フルオロメトロン点眼開始C1カ月後に左眼異物感症状の悪化があり,左眼でびまん性に点状表層角膜症(super.cialCpunctateCkeratopathy:SPK)とCFKの散在がみられた(図1e).中毒性角膜症の発症と考え,点眼をすべて中止し,ホウ酸・無機塩類配合剤液(人工涙液マイティア点眼液,千寿製薬)を開始したが,点眼アドヒアランスの不良もあり,改善に乏しく,FKに対して糸状物除去術を施行しつつ,経過観察を行った(図1f).2022年C3月には,左眼眼圧がC18CmmHgまで上昇したため,マイトマイシンCCを併用した濾過法再建術(needle法)を施行した.レボフロキサシン点眼液(クラビット点眼液C0.5%,参天製薬)とC0.1%フルオロメトロン点眼をC1日C3回でC1週間点眼したが,所見の悪化はなかった.2022年C5月にはSPKの一定の改善がみられ,眼表面の状態は薬剤毒性が解消され,ドライアイに伴うCSPKと糸状角膜炎のみになったと判断したことから,レバミピド懸濁点眼液をC1日C2回で開始したところ,2022年C6月にはCSPKとCFKは消失し,自覚症状は改善した(図1g,h).その後,眼圧コントロールは良好で,自覚症状は落ち着いており,FKの再発もみられていない.CII考察糸状物の構造は,ムチンと変性した角膜上皮細胞により構成されている.角膜上皮障害が原因となり上皮細胞の成分周囲にムチンが絡みつき,瞬目による摩擦ストレスで基底細胞レベルから上皮が.離されることにより形成される7).FKは,多様な疾患背景のもとに生じるために,対症的な治療が行われることが多いが,完治をめざすためには所見から病態を理解して治療方針を考慮する必要がある.本症例は,両眼で線維柱体切除術を施行し,右眼は経過中にラタノプラスト(キサラタン点眼液C0.005%,ヴィアトリス製薬)やブリモニジン酒石酸塩液(アイファガン点眼液C0.1%,千寿製薬)を点眼し,マイトマイシンCCを併用した濾過法再建術(needle法)を施行後したが,異物感の症状やCFKの発症はなかった.左眼は複数回の線維柱帯切除術後で,bleb周囲の部分的輪部機能不全による上皮細胞の供給不足をきたしていると考えた.マイボーム腺機能不全による涙液油層の不足やCblebによる角膜表面の摩擦亢進もあった.ドライアイによる異物感の症状に対しジクアホソルナトリウム点眼を開始したが,ジクアホソルナトリウム点眼は杯細胞からのムチン分泌を促し,ムチン/水分比の増加や涙液の粘性の増加を促すことで,結果的に摩擦亢進を引き起こし,糸状物が形成される可能性があると考えられている8).本症例でもジクアホソルナトリウム点眼を使用した際にCFKの発症を招いた.本来摩擦を生じない間隙(Kessingspace)9)がCoverhangingblebによって狭められ,瞬目摩擦が亢進した場合もしくはCbleb周囲に異所性涙液メニスカスが形成され,meniscus-inducedCthin-ningが起こった場合10),bleb周囲に優位にCFKを発症すると考えられる.しかし,本症例では当初角膜耳側の中央から下方優位に糸状物がみられた.10時方向よりもC2時方向のblebの丈が高いことから,耳側で摩擦亢進が強くなったと推測した.また,ドライアイによる涙液安定性の低下が背景にあり,摩擦亢進と強く相互作用する場所が角膜耳側の中央図1本症例の前眼部所見とその経時的変化a,b:2時,10時方向にCoverhangingblebがある.Cc,d:ジクアホソルナトリウム点眼投与後,耳側優位に角膜糸状物が発症している.Ce:0.1%フルオロメトロン点眼後,角膜ほぼ全面にCSPKと糸状角膜炎がある.中毒性角膜症と考え,全点眼中止し,人工涙液マイティアR投与開始した.f:人工涙液マイティアR投与C2週目.改善に乏しく,マイボーム腺機能不全による影響が考えられたため,ホットパックを併用開始した.Cg:人工涙液マイティア投与C21週目.一定の改善がある.従来のドライアイによる点状表層角膜症(SPK)や糸状角膜炎(FK)と考え,レバミピド懸濁点眼液投与開始した.h:レバミピド懸濁点眼液投与C5週目,SPKと糸状角膜炎はほぼ消失している.から下方であったことから,FKが下方に優位にみられたのから糸状角膜炎が再発した.結膜充血や点状の結膜上皮障害ではないかと考えているが,FKの発症部位に関しては今後があり,上輪部角結膜炎の発症を確認したため,炎症性変化さらなる検討が必要である.レバミピド懸濁点眼液でいったに対しC0.1%フルオロメトロン点眼を開始した.しかし,0.1んはCFKの寛解状態にあったが,タフルプロスト点眼開始後%フルオロメトロン点眼により角膜上皮細胞の増殖が抑制され,中毒性角膜症を引き起こしたと推察した.ホウ酸・無機塩類配合剤液で薬剤毒性を解消し,SPKの改善を試みたが,マイボーム腺機能不全による涙液油層の不足やCbleb周囲の部分的輪部機能不全による上皮細胞の供給不足,また点眼アドヒアランスの不良もあり改善に時間を要したと考えられる.薬剤毒性が解消された後に,遷延するCSPKやCFKに対し,レバミピド懸濁点眼液単剤投与を行ったところ,著明に改善した.FKは,眼表面摩擦の亢進が要因となることが報告されている11).本症例は,左眼でCoverhangingblebによる眼表面摩擦の亢進もあった.レバミピド懸濁点眼液は,結膜杯細胞の増加作用や,角膜上皮での膜結合型ムチンの増加作用,角膜上皮創傷治癒促進作用,眼表面摩擦の軽減作用などが報告されている12.14).本症例では,すべての点眼薬の影響をいったん排除した後に,レバミピド懸濁点眼液によりムチン産生を促進し,眼表面の涙液を安定させ,眼表面の摩擦を低下させたことが糸状角膜炎に著効した原因ではないかと考えている.今回の症例では,緑内障点眼を再開することなく眼圧を保つことができている.しかし,緑内障点眼薬の多剤併用時に生じるCFKに対するレバミピド懸濁点眼液投与の有効性については,今後の検討課題である.文献1)KinoshitaCS,CYokoiN:FilamentaryCkeratitis.CtheCcornea,Cfourthedition(FosterCCS,CAzarCDT,CDohlmanCCHeds)C,Cp687-692,Philadelphia,20052)DavidsonCRS,CMannisMJ:FilamentaryCkeratitis.CtheCcor-nea,secondedition(KrachmerJH,MannisMJ,HollandEJeds),p1179-1182,ElsevierInc,20053)HamiltonW,WoodTO:Filamentarykeratitis.AmJOph-thalmolC93:466-469,C19824)AlbietsCJ,CSan.lippoCP,CTroutbeckCRCetal:ManagementCofC.lamentaryCkeratitisCassociatedCwithCaqueous-de.cientCdryeye.OptomVisSciC80:420-430,C20035)MarshCP,CP.ugfelderSC:TopicalCnonpreservedCmethyl-prednisoloneCtherapyCforCkeratoconjunctivitisCsiccaCinCSjogrensyndrome.OphthalmologyC106:811-816,C19996)Bloom.eldSE,GassetAR,ForstotSLetal:Treatmentof.lamentarykeratitiswiththesoftcontactlens.AmJOph-thalmolC76:978-980,C19737)TaniokaCH,CFukudaCK,CKomuroCACetal:InvestigationCofCcornealC.lamentCinC.lamentaryCkeratitis.CInvestCOphthal-molVisSciC50:3696-3702,C20098)青木崇倫,横井則彦,加藤弘明ほか:ドライアイに合併した糸状角膜炎の機序とその治療の現状.日眼会誌C123:C1065-1070,C20199)KnopCE,CKnopCN,CZhivovCACetal:TheClidCwiperCandCmuco-cutaneousCjunctionCanatomyCofCtheChumanCeyelidmargins:anCinCvivoCconfocalCandChistologicalCstudy.CJAnatC218:449-461,C201110)横井則彦:涙液メニスカスの観察.ドライアイ診療CPPP(ドライアイ研究会),p25-27,メジカルビュー社,200211)北澤耕司,横井則彦,渡辺彰英ほか:難治性糸状角膜炎に対する眼瞼手術の検討.日眼会誌C115:693-698,C201112)UrashimaCH,COkamotoCT,CTakejiCYCetal:RebamipideCincreasesCtheCamountCofCmucin-likeCsubstancesConCtheCconjunctivaandcorneaintheN-acetylcysteine-treatedinvivomodel.CorneaC23:613-619,C200413)TakejiY,UrashimaH,AokiAetal:Rebamipideincreas-esCtheCmucin-likeCglycoproteinCproductionCinCcornealCepi-thelialcells.JOculPharmacolTherC28:259-263,C201214)TakahashiY,IchinoseA,KakizakiH:TopicalrebamipidetreatmentCforCsuperiorClimbicCkeratoconjunctivitisCinCpatientswiththyroideyedisease.AmJOphthalmolC157:C807-812,C2014C***

基礎研究コラム :79.アドレノメデュリンを標的とした網脈絡膜疾患の治療

2023年12月31日 日曜日

アドレノメデュリンを標的とした網脈絡膜柿原伸次*1,2村田敏規*2新藤隆行*1疾患の治療アドレノメデュリンとはアドレノメデュリン(adrenomedullin:ADM)は,ヒト褐色細胞腫から血管拡張作用を有する物質として発見された生理活性ペプチドです.全身の組織で産生され,血管拡張作用やそれに伴う降圧作用以外にも,抗炎症作用,抗酸化作用,抗アポトーシス作用など,多彩な生理活性をもつ生理活性物質であることが明らかになっています.ADMはCcalcitoninCgene-relatedpeptide(CGRP)やアドレノメデュリン2(ADM2)とともにカルシトニンファミリーを形成しています.これらはC7回膜貫通型CG蛋白質共役型受容体であるCCLR(calcitoninreceptor-likereceptor)を受容体として部分的に共用し,CLRは受容体活性調節蛋白質(receptorCactivity-modifyingprotein:RAMP)サブアイソフォームのうちいずれか一つとC1対C1で結合することで,受容体とリガンドとの親和性や受容体機能が制御されていると考えられています1)(図1).眼の領域ではどうでしょうかヒトの臨床検体から,糖尿病網膜症・加齢黄斑変性・ぶどう膜炎・緑内障などのさまざまな眼疾患において,房水中におけるCADM濃度が上昇していることが報告されています.また,細胞実験や動物実験の結果から,網膜色素上皮細胞や感覚網膜において低酸素刺激に応答してCADMの発現が増加することが明らかになっています.ADMは,眼において虹彩毛様体の平滑筋の弛緩作用,網膜動脈や脈絡膜の血管拡張作用や血流増加作用などを示すことが知られており,cAMP/PKAやCPI3K/AKTなどのシグナル経路を介してこれらの生理作用を呈していると考えられています1).筆者らの研究室では,ADM,CGRP,ADM2やCRAMPのノックアウトマウスを樹立し,さまざまな網脈絡膜疾患のマウスモデルを適応することで,網脈絡膜疾患におけるこれらの病態生理学的意義を明らかにしてきました2.4).糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症,加齢黄斑変性などの網脈絡膜疾患のマウスモデルで,ADMが関与しており,多くはこれらの病態の進行を抑制・改善する方向に働くことがわかっています.今後の展望ADMやその下流のシグナルの意義や病態をさらに詳細に明らかにし,ADMに対する抗体や各CCLR/RAMPの特定の(75)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY*1信州大学医学部循環病態学教室*2信州大学医学部眼科学教室CLR/RAMP1CLR/RAMP2CLR/RAMP3図1カルシトニンファミリーペプチドの受容体システムCLRは,RAMP1,RAMP2,RAMP3のうちいずれか一つとC1対C1で結合することで小胞体から細胞膜に移動し,受容体として機能する.ADM,CGRP,ADM2などのリガンドとCCLR/RAMPsとの親和性の違いや,細胞によるこれらの発現の違いが,生理活性の多様性を生んでいると考えられる.アゴニスト,アンタゴニストを用いることにより,さまざまな網脈絡膜疾患に対する有効な治療薬が現実になる日も遠くないかもしれません.文献1)IesatoCY,CYudaCK,CChongCKTCetal:Adrenomedullin:ACpotentialCtherapeuticCtargetCforCretinochoroidalCdisease.CProgRetinEyeResC52:112-129,C20162)ImaiA,ToriyamaY,IesatoYetal:Adrenomedullinsup-pressesvascularendothelialgrowthfactor-inducedvascu-larChyperpermeabilityCandCin.ammationCinCretinopathy.CAmJPatholC187:999-1015,C20173)HirabayashiCK,CTanakaCM,CImaiCACetal:DevelopmentCofCanovelmodelofcentralretinalvascularocclusionandthetherapeuticCpotentialCofCtheCadrenomedullin-receptorCactivity-modifyingCproteinC2Csystem.CAmCJCPatholC189:C449-466,C20194)TanakaCM,CKakiharaCS,CHirabayashiCKCetal:Adreno-medullin-receptorCactivity-modifyingCproteinC2CsystemCamelioratesCsubretinalC.brosisCbyCsuppressingCepithelial-mesenchymaltransitioninage-relatedmaculardegenera-tion.AmJPatholC191:652-668,C2021あたらしい眼科Vol.40,No.12,2023C1579

硝子体手術のワンポイントアドバイス:247.Paravascular inner retinal defect(初級編)

2023年12月31日 日曜日

247Paravascularinnerretinaldefect(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめにParavascularCinnerCretinaldefectは,強度近視眼の血管アーケードに沿って主幹血管の傍らに紡錘型あるいはキャタピラ型の網膜菲薄部位をきたす病態で1),以前はCparavascularClamellarholesとよばれていた2).これらの多くは網膜全層孔ではなく分層(内層)孔であるが,硝子体手術時には同部位の処理に注意を要することがある.C●症例提示74歳,女性.両眼とも後部ぶどう腫を伴う近視性網脈絡膜萎縮眼で,右眼は下方血管アーケードに沿ってキャタピラ型の網膜菲薄部位を認めた(図1a,b).光干渉断層計(OCT)では黄斑上膜と網膜分離を認めた(図1c).手術により視力改善が得られる可能性は低いと考えられたが,患者の希望が強く硝子体手術を施行することにした.硝子体切除後に肥厚した後部硝子体膜を.離除去し,後部ぶどう腫内の内境界膜を.離した.術中,下耳側血管アーケードに沿ってみられたCparavascularCinnerCretinaldefect部位には網膜硝子体癒着を認めた(図2).将来全層孔となるリスクを考慮して,周囲に眼内光凝固を施行し,ついで液空気置換術を施行した.術後,網膜分離はほぼ消退した.矯正視力はC0.06と不変であったが,自覚症状はやや改善した.C●Paravascularinnerretinaldefectの臨床所見本病態には以下のような臨床的特徴がある1).1)強度近視眼に生じることが多い.2)眼底写真では紡錘型あるいはキャタピラ型のCdarkareasを呈する.3)耳側の主幹血管に沿うか,あるいは血管の下に生じることが多い.(73)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPYabc図1術前の右眼眼底写真(a,b)およびOCT(c)下耳側の網膜主幹血管に沿って,キャタピラ状の網膜内層孔を複数個認める(.).OCTでは黄斑上膜と網膜分離を認める.図2術中所見網膜内層孔部位に網膜硝子体癒着を認める.4)OCTでその断面を観察すると,.胞様の空隙として観察される.5)病変部位の網膜血管は硝子体腔内に遊離していることが多い.6)約半数に黄斑上膜を伴う.7)Bjerrum領域に視野欠損をきたすことがあり,緑内障の鑑別が必要となる.8)黄斑上膜による求心性の牽引,あるいは眼軸延長による網膜の伸展が原因と考えられている.本病態を有する患者に硝子体手術を施行する場合には,同部位に網膜硝子体癒着を認めることが多いので2),不用意な牽引を加えないなどの配慮が必要である.文献1)MuraokaCY,CTsujikawaCA,CHataCMCetal:ParavascularCinnerretinaldefectassociatedwithhighmyopiaorepireti-nalmembrane.JAMAOphthalmolC133:413-420,C20152)ShimadaN,Ohno-MatsuiK,NishimutaAetal:DetectionofCparavascularClamellarCholesCandCotherCparavascularCabnormalitiesCbyCopticalCcoherenceCtomographyCinCeyesCwithhighmyopia.OphthalmologyC115:708-717,C2008あたらしい眼科Vol.40,No.12,20231577

考える手術:24.角膜内皮移植の術式選択─DSAEKかDMEKか

2023年12月31日 日曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅角膜内皮移植の術式選択―DSAEKかDMEKか谷口紫東京歯科大学市川総合病院眼科角膜移植が誕生して100年以上が経過した.長い間,全層角膜移植が標準治療であったが,続発性緑内障や拒絶反応,創部離開,縫合糸に起因する感染症や乱視などの合併症と隣り合わせであった.現在は,低侵襲かつ拒絶反応リスクが低く,視力回復が早いパーツ移植が普及し,角膜移植の主流となっている.なかでも水疱性角膜症に対する角膜内皮移植の割合は近年増加しており,筆者の病院でも角膜移植全体の4割強を占めるようになった.ここでは,Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)とDes-ムで厚み150μm程度に切離した角膜内皮移植片を,約8.0mm径でくりぬいて用いる.レシピエントの角膜内皮とDescemet膜を.離したのち,角膜内皮移植片を引き込み法やインサーターを用いて眼内に引き込む.前房内を全空気置換し,10~15分静置後に眼圧調整を行って終了となる(動画1).DMEKはDSAEKと同時期の2006年にMellesが報告し誕生した.グラフトはDescemet膜と角膜内皮層のみであるため,厚さは約20μmである.グラフトはドナーのDescemet膜・角膜内皮層を注意深く実質から.離して作成する.アジア人種は虹彩色素が強いため,トリパンブルーでグラフトをしっかりと染色しておくと術中操作が容易となる.ドナーパンチで約8.0mm径に打ち抜き,.離し葉巻状に巻いているグラフトをDMEK専用のインジェクターに装.し,水流でレシピエントの前房内に挿入する.10-0ナイロン糸で創部を縫合し,前房内でnontouchtechniqueでグラフトを広げ,前房内を20%SF6で置換し終了する(動画2).聞き手:白内障も併発している場合は,どのような手術期的手術が安全と考えています.しかし,患者の対眼の戦略を立てますか?状況,日常生活動作(ADL),自宅の遠さなども含めて谷口:角膜内皮移植を行う際には,前房スペースをしっ総合的に判断して,水晶体再建術と角膜内皮移植を同時かり確保し操作性を向上させるため,ある程度の年齢でに行うこともあります.二期的に施行する場合は,初回白内障がある場合には水晶体再建術も行います.水疱性の水晶体再建術のみでは視力回復を望めないばかりか,角膜症の角膜は浮腫性混濁をきたしており,手術中の視角膜浮腫がより一層顕著になり視力が低下するため,事認性が劣ります.確実に眼内レンズ(intraocularlens:前によく病状説明を行う必要があります.施設によってIOL)を水晶体.内に収めることを優先するために,二角膜移植までの待期期間は異なりますが,角膜内皮移植(71)あたらしい眼科Vol.40,No.12,202315750910-1810/23/\100/頁/JCOPY考える手術を予定する1~2カ月前に水晶体再建術を施行するのが適切と考えます.当院では国内ドナー角膜での移植希望例では,待機順番の進む状況をみながら,水晶体再建術の時期を考えます.聞き手:DMEKの特徴やメリットはなんですか?谷口:DMEKの特徴は術後の視力の回復が早いことです.Maierら1)が報告したDMEKの長期予後データでは,DMEKはDSAEKと比較して術後の視力回復効果が高い一方,DSAEKよりもre-babblingの回数が多いという結果でした.日本ではレーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症に代表されるように,眼軸が短く前房が浅い患者が多く,さらに硝子体圧も高い傾向にあることからグラフトを前房内で広げる動作がむずかしいため,DMEKが発表された当初は,日本では普及しないのではないかといわれたこともありました.これまでDMEKは,難易度の高いDescemet膜.離の必要がないプレピールドナーの普及や,眼内でグラフトの裏表を認知しやすいように非対称性の目印をおくSスタンプ(図1)の導入など,グラフト側の改善がなされてきました.また,小林氏DMEK鑷子(イナミ)など手術器具の登場や,角膜径に応じて適切なDMEKグラフト径を選択すること,硝子体圧を下げる目的でホナンバルーンを使用した眼球圧迫など手術面の工夫もあり,現在では日本人の眼においても安全に施行できることがわかり,手術数が増加しています.聞き手:DMEKのグラフトを前房内で広げるコツはなんでしょうか?また,表裏が逆のときはどうしますか?谷口:ガラス製の移植片挿入器具にグラフトを格納する時点で,ダブルロールの形にできると,前房内挿入後もスムーズにグラフトを展開できます.前房を浅くして,グラフトを展開します.小さめの眼に大きめのグラフト図1Sスタンプ移植片の表裏が正しいと「S」が判読できる.では展開しにくいため,無理をせずに少し小さなグラフト(7.75mm径や7.5mm径)を選択するのもコツです.術中は思いがけない水流でグラフトが創方向に押し出されたり折りたたまれたりするので,注意深く操作します.移植片の折りたたまれ方にはさまざまなパターンがあるので,このパターンのときはこう操作するということは,教科書で事前に学んでおくといいでしょう.また,グラフトの表裏は前述のようにSスタンプの導入で判断がすぐにつくようになりました.自施設でグラフトを作製しスタンプがない場合は,ピオクタニンで非対称的なマーキングをすることで代替になります.術中の前眼部光干渉断層計の使用やライトガイドができる施設であれば,これも判断の一助となります.表裏反対の時は,前房をBSSで深くして,ヒーロン針でBSSの水流をつくって,グラフトをひっくり返します.聞き手:DMEKとDSAEKはどちらも適応疾患は水疱性角膜症ですが,使い分けはどのようにしたらよいのでしょうか?あえてDSAEKを選択したほうがいい患者はどのような患者ですか?谷口:本来,水疱性角膜症であればDSAEKもDMEKも適応であるはずですが,術者要因として,DMEKはラーニングカーブもあることから,ある程度DSAEKを経験した術者がやるべきだといわれています.また,患者要因として,眼内レンズ縫着眼や十分な縮瞳が得られない場合はDMEKはむずかしいとされています.虹彩や水晶体.による隔壁がない眼では,DMEKではグラフトが薄いため硝子体腔に落下するリスクがありますし,前房水を抜いて前房を潰してグラフトの展開を試みても,硝子体腔からの水が回ってうまくいかないことがあります.また,緑内障術後眼では,周辺虹彩切除術のPIウィンドウやチューブシャントの存在により,眼内の水流が通常と異なることがグラフト展開に影響するようで,より一層の注意が必要です.緑内障術後の10mmHgを下回る低眼圧眼では,術後内皮グラフトが.がれやすく,その場合は,眼内ガスは滞留性のよいSF6を選択したり,10-0ナイロン糸で移植片縫合を検討したりします.どこまでDMEKが適応となりうるかは,今後も検証と議論が重ねられていくと思われます.文献1)MaierAB,MilekJ,JoussenAMetal:Systemicreviewandmeta-analysis:OutcomesafterDescemetmembraneendothelialkeratoplastyversusultrathinDescemetstrip-pingautomatedendothelialkeratoplasty.AmJOphthal-mol245:222-232,20231576あたらしい眼科Vol.40,No.12,2023(72)

抗VEGF治療:糖尿病黄斑浮腫における局所網膜光凝固の活用

2023年12月31日 日曜日

●連載◯138監修=安川力五味文118糖尿病黄斑浮腫における局所網膜加藤房枝JA愛知厚生連豊田厚生病院名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学光凝固の活用糖尿病黄斑浮腫治療においてCVEGF阻害薬に対する反応不良例はC30.40%存在し,原因に毛細血管瘤が関与していることも多い.毛細血管瘤からの漏出による中心窩外の局所性浮腫は網膜光凝固のよい適応であり,VEGF阻害薬主体の糖尿病黄斑浮腫治療においても,局所網膜光凝固の適応の見きわめは重要である.はじめに糖尿病黄斑浮腫は,高血糖により網膜血管内皮細胞や周皮細胞が障害され,血管透過性亢進や毛細血管瘤が形成され生じる.そのなかでCVEGFの発現亢進が密接に関与しており,VEGF阻害薬硝子体内注射は糖尿病黄斑浮腫治療の主体である.VEGF阻害薬の登場以前は,CEarlyCTreatmentCDiabeticCRetinopathyCStudy(ETDRS)で局所/格子状網膜光凝固により重篤な視力低下を避けられるとされ,積極的に行われていたが,その後に網膜光凝固による瘢痕拡大や網膜下の線維性瘢痕などの合併症を生じることもあり,VEGF阻害薬登場以降はすっかり減少した.しかし,VEGF阻害薬が効きにくい患者,頻回投与が必要である抗CVEGF治療の経済的負担,VEGF阻害薬による心筋梗塞や脳卒中を発症するリスクもわずかながらあり,抗CVEGF治療以外の治療法はやはり必要と考える.局所網膜光凝固は毛細血管瘤からの漏出と考えられる中心窩外の局所性浮腫にはよい適応である1).局所網膜光凝固が奏効すれば,VEGF阻害薬に比べ効果が長く持続することが期待でき,低コストで,頻回通院の負担が減るなどメリットも大きい.糖尿病黄斑浮腫診療において,局所網膜光凝固の適応を見きわめることが重要である.図1抗VEGF治療後に浮腫が残存する症例a:抗CVEGF治療前のCOCTカラーマップ.びまん性浮腫となっている.b:抗CVEGF治療をC6回行いC1年経過した時点でのCOCTカラーマップ.びまん性浮腫から局所性浮腫となり,残存している.視力を脅かす糖尿病黄斑浮腫の状態であり,局所網膜光凝固を行うタイミングと考える.抗CVEGF治療などで網膜肥厚を減少させた状態で毛細血管瘤への網膜光凝固を行うと,最小限のエネルギーで凝固でき,網膜の瘢痕拡大を避けられる.c:抗CVEGF薬治療前のフルオレセイン蛍光造影とCOCTカラーマップ(b)を重ね合わせた.既報4)同様,浮腫の残存部位には治療前に毛細血管瘤が多く存在し,VEGF阻害薬に抵抗しやすいことが予測される.(69)あたらしい眼科Vol.40,No.12,202315730910-1810/23/\100/頁/JCOPY視力を脅かす糖尿病黄斑浮腫に対する局所凝固光凝固ETDRSが提唱してきた中心窩を含まない糖尿病黄斑浮腫(=clinicallyCsigni.cantCmacularedema:CSME)を放置すると,中心窩に黄斑浮腫がかかり視力低下する危険があるため,わが国の糖尿病網膜症診療ガイドライン(初版)では,CSMEを「視力を脅かす糖尿病黄斑浮腫」とわかりやすく表記し,その診断基準を明確に定義している.「視力を脅かす糖尿病黄斑浮腫」では硬性白斑や網膜肥厚の内部に毛細血管瘤が存在することが多く,局所網膜光凝固により抗CVEGF治療が不要になることも期待できるため,局所光凝固を推奨している.抗VEGF治療と局所凝固光凝固の併用治療抗CVEGF治療に抵抗する糖尿病黄斑浮腫はC30.40%程度あることや,さまざまな研究で併用治療はCVEGF単独治療に比べ,VEGF阻害薬の注射回数が少ないことが報告されている.現時点で抗CVEGF治療と局所網膜光凝固の併用に関する明確な治療プロトコルはないが,国内の専門家により作成された治療指針では,抗VEGF治療をC6カ月以上行ったのち,毛細血管瘤が存在すれば局所光凝固治療を併用する内容が記載されている2).VEGF阻害薬により毛細血管瘤は減少するが,中心窩周囲の毛細血管瘤,高密度に集簇した毛細血管瘤や大型の毛細血管瘤がCVEGF阻害薬の反応不良例に存在し,遷延する原因となっている3.5).抗CVEGF治療中に再発する患者において,再発直前の光干渉断層計(opti-calcoherencetomography:OCT)カラーマップを見ると,「視力を脅かす糖尿病黄斑浮腫」の状態にあることがある.その場合に毛細血管瘤があれば,局所網膜光凝固を検討する(図1).局所網膜光凝固の際は,中心窩に近いほど瘢痕を残さないようにショートパルスの条件でより低侵襲な凝固を心がける.具体的には凝固時間C0.02.0.03秒,スポットサイズC50Cμm,凝固出力はC100CmW.瘢痕が出る程度まで上げる1).新しいレーザー治療装置であるナビゲーションレーザーは,従来の局所網膜光凝固に比べ,成功率が高く,再治療の頻度が少ない.また,トラッキング機能により患者の眼が動いても安全に行うことができるため,中心窩に近い局所網膜光凝固ではナビゲーションレーザーが推奨される.さらにナビゲーションレーザーC1574あたらしい眼科Vol.40,No.12,2023ではCOCTや光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)を組み合わせた局所網膜光凝固も可能である.一方,毛細血管瘤がない場合には,閾値下凝固といった低侵襲な治療法もある.インドシアニングリーンガイド下局所凝固毛細血管瘤の評価にはフルレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)のほかに,インドシアニングリーン蛍光造影(indocyanineCgreenCangiogra-phy:IA)も有用である.IAは浮腫に直接関連している毛細血管瘤の検出が可能であるため,FAに比べて少ない凝固数で効果が得られやすい.IA後期に染まる毛細血管瘤があると抗CVEGF治療を行っても再発しやすいという報告や,慢性糖尿病黄斑浮腫の原因として150Cμm以上の大型の毛細血管瘤をCPaquesらはとくにtelangiectaticCcapillariesとよび,局所網膜光凝固が有用であると報告している5).おわりに抗CVEGF治療単独で患者も医師側も満足な結果が得られているのであれば継続してよいと考えるが,継続がむずかしい患者や,再発も含め遷延している場合は,局所網膜光凝固を活用し双方の負担を軽減したい.文献1)NozakiM.,AndoR,KimuraT:Theroleoflaserphotoco-agulationintreatingdiabeticmacularedemaintheeraofintravitrealCdrugadministration:ACdescriptiveCreview.Medicina(Kaunas)C9:1319,C20232)YoshidaS,MurakamiT,NozakiMetal:Reviewofclini-calCstudiesCandCrecommendationCforCaCtherapeuticC.owCchartfordiabeticmacularedema.CGraefesArch.Clin.Exp.COphthalmolC259:815-836,C20213)HiranoCT,CToriyamaCY,CIesatoCYCetal:E.ectCofCleakingCperifovealmicroaneurysmsonresolutionofdiabeticmacu-laredematreatedbycombinationtherapyusinganti-vas-cularendothelialgrowthfactorandshortpulsefocal/gridlaserphotocoagulation.CJpnJOphthalmolC61:51-60,C20174)YamadaCY,CTakaniuraCY,CMoriokaCMCetal:Microaneu-rysmCdensityCinresidualoedemaCafterCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCtherapyCforCdiabeticCmacularCoedema.CActaOphthalmolC99:e876-e883.C20215)PaquesCM,CPhilippakisCE,CBonnetCCCetal:Indocyanine-green-guidedCtargetedClaserCphotocoagulationCofCcapillaryCmacroaneurysmsinmacularoedema:Apilotstudy.BrJ.OphthalmolC101:170-174,C2017(70)