●連載◯136監修=安川力五味文116加齢黄斑変性に対するファリシマブの武内潤杏林大学医学部眼科学講座使用経験滲出型加齢黄斑変性の治療においては抗CVEGF薬が中心的役割を担っており,2022年C5月からは新たにバイスペシフィック抗体医薬品であるファリシマブが使用可能となった.本稿では筆者の施設(名古屋大学)における滲出型加齢黄斑変性に対するファリシマブの現時点の使用方針と使用経験について述べる.はじめに現在,滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)の治療において,抗CVEGF薬をCtreatandextend(TAE)法で投与することが,長期的な視力維持が期待できること,および通院回数を抑制することができることから主流となっている1).一方で高額である抗CVEGF薬の頻回投与が必要となる場合も多く,患者や医療経済に与える負担が大きいことが課題である.そんな状況のなか,VEGFとアンジオポエチン(angiopoietin:Ang)-2の両方に作用するバイスペシフィック抗体であるファリシマブが登場し,硝子体内注射間隔の延長や長期的な視力維持につながることが期待されている.ファリシマブの投与方法AMDに対するファリシマブの投与方法は添付文書に以下のように記載されている.「ファリシマブ(遺伝子組換え)としてC6.0Cmg(0.05Cml)をC4週ごとにC1回,通常,連続C4回(導入期)硝子体内投与するが,症状により投与回数を適宜減じる.その後の維持期においては,通常,16週ごとにC1回,硝子体内投与する.なお,症状により投与間隔を適宜調節するが,8週以上あけること」.今までに長期の使用経験のあるアフリベルセプトやラニビズマブと比較すると,導入期の投与回数がC3回から「4回(適宜減じる)」になっている点と,導入期以降の最短投与期間がC4週間ではなく「8週間」となっている点に注意が必要である.未治療眼に対する使用今まで筆者の施設では未治療のCAMD眼に対しては,原則的にアフリベルセプトを第一選択とし,導入療法C3回後にC2週間間隔で投与間隔を調整するCTAEで使用していた.現在はファリシマブも未治療眼に対して使用しており,投与方法はアフリベルセプトと統一して導入療(65)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY法C3回,その後はC2週間間隔調整でCTAEとしている.添付文書では維持期においては「通常,16週ごと」と記載があるが,ファリシマブの国際共同第III相試験であるCTENAYA試験では治験終了時のC112週時点においてC16週まで投与間隔が延長できた症例はC59%であったため2),導入療法後すぐに投与間隔をC16週まで延長してしまうと,治療が不十分となってしまう患者が一定数出てしまうと考えられる.そのため,ファリシマブも従来通りのCTAEで使用している.ただし,ファリシマブの最短投与間隔であるC8週間ごとで投与しても疾患活動性を抑えきれない場合には,アフリベルセプトまたはブロルシズマブへの切り替えを検討している.アフリベルセプトからの切り替えによる使用筆者の施設では現時点ではアフリベルセプトで一定期間治療を継続してもC12週以下の投与間隔となっている患者で,本人の希望があった場合に,投与間隔の延長を期待してファリシマブへの切り替えを行っている.切り替え前に毎月投与が必要であった患者は,疾患活動性をしっかり抑え込むことを目的にC4週ごとC3回の導入期を設けている.一方,切り替え前に注射間隔がC6週間以上だった患者は導入期は設けず,アフリベルセプトでの治療間隔を考慮して切り替え当初からC4~12週間隔のTAEを開始し,滲出性変化が抑えられていれば最大C16週間隔まで延長している(図1).切り替え後,ファリシマブ投与を繰り返し行ってもアフリベルセプトより明らかな改善がみられない場合や,維持期に最短のC8週投与間隔でも滲出の増悪がみられる場合は,未治療眼と同様にアフリベルセプトへのスイッチバック,またはブロルシズマブへの変更を行っている(図2).筆者の施設でアフリベルセプトの投与間隔がC4~12週であったC54例C54眼を対象とし,切り替え前後の間隔は一定としてファリシマブをC1回投与した結果を評価したところ,切り替え後の滲出性変化は,改善C28眼(52%),不変C8眼(15%),悪化C18眼(33%)であった3).あたらしい眼科Vol.40,No.10,20231323図1効果良好例77歳,男性.ポリープ状脈絡膜血管腫症.アフリベルセプトによる治療では毎月投与を行っても網膜下液が残存していたが,ファリシマブへ切り替え後は速やかに網膜下液が消退した.3回の導入療法後Ctreatandextend法へ移行し,投与間隔をC12週まで延長しても滲出性変化の再発は認めない.おわりにファリシマブはCVEGFとCAng-2を同時に阻害できる新規薬剤であり,上市からC1年以上が経過し,実臨床における短期治療成績が報告されはじめている.今後のさらなる検討により,長期の治療成績や,どのような患者に対してファリシマブが有効であるのかが明らかとなることを期待したい.C1324あたらしい眼科Vol.40,No.10,2023アフリペルセプト×564週ファリシマブ4週ファリシマブ4週ファリシマブ4週ファリシマブ5週アフリベルセプト図2効果不良例81歳,男性.典型加齢黄斑変性(typeC1CmacularCneovascular-ization).アフリベルセプトによる治療では毎月投与を行っても網膜下液・網膜色素上皮下の滲出が残存していた.ファリシマブへ切り替え後も毎月投与を行ったが滲出性変化の改善はなく,ファリシマブの最短投与間隔であるC8週間までの延長が困難であったためアフリベルセプトへスイッチバックした.文献1)OkadaCM,CKandasamyCR,CChongCEWCetal:TheCtreat-and-extendCinjectionCregimenCversusCalternateCdosingCstrategiesCinCage-relatedCmaculardegeneration:ACsys-tematicCreviewCandCmeta-analysis.CAmCJCOphthalmolC192:184-197,C20182)HeierCJS,CKhananiCAM,CQuezadaCRuizCCCetal;TENAYACandCLUCERNEInvestigators:E.cacy,Cdurability,CandCsafetyCofCintravitrealCfaricimabCupCtoCeveryC16CweeksCforCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration(TENAYACandLUCERNE):twoCrandomised,Cdouble-masked,CphaseC3,non-inferioritytrials.LancetC399:729-740,C20223)等々力崇仁,武内潤,太田光ほか:a.iberceptからCfar-icimabへ切り替え前後の加齢黄斑変性眼の前房水中サイトカイン濃度.第C127回日本眼科学会総会(2023年C4月)(66)