‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

考える手術:23.多焦点眼内レンズ挿入眼への硝子体手術

2023年11月30日 木曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅多焦点眼内レンズ挿入眼への硝子体手術佐藤尚人鈴木眼科グループ戸塚駅前鈴木眼科近年,国内のみならず世界的なトレンドとして,多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の挿入手術は増加傾向にある.さらに手術目的として,屈折矯正は当然のこととして,老視矯正手術としての需要も増えつつある.自費診療や選定療養対象レンズのみならず,保険適用となる低加入度数分節型や高次非球面IOLなど,広義の多焦点IOLも含めると,現在非常に多くの白内障手術において,多焦点IOLが選択されている.今後も多焦点IOLが挿入されている患者の人口は増えていくことが予想され,とくに屈折矯正の観点から多焦点IOL一方で,以前より改善はされているものの,単焦点IOLと比較すると,患者自身がコントラスト感度の低下や不快光視現象を自覚する頻度が高い.われわれ硝子体手術の術者も,そのようなレンズの特徴によって,術中の視認性が低下してしまうことをしばしば経験する.多焦点IOL挿入眼に対して硝子体手術を行う場合は,その点に留意する必要がある.対策としては,通常よりさらに術中視認性を向上させる工夫を心がける.具体的には,なるべく可視化剤を使用する,周辺部処理のみならず,黄斑部観察にも広角観察系を用いて膜.離を行うことなどが有用である.本稿では,多焦点IOL挿入眼において硝子体手術が必要となった場合に,どのような点に注意して手術をすればよいかについて述べる.聞き手:多焦点IOL挿入眼の患者に硝子体手術をするがけています.まずは,後.についてお話しましょう.際,何となく全体的に見づらく感じます.何か対策はあ前部硝子体を切除する際や後.を切除する場合は,多焦りますか?点IOLにみられるリング状の構造や回折格子のため,佐藤:多焦点IOLが挿入されていると,術野における観察しづらいことがあります(図1a).そのような場合観察像のコントラストが低下する場合があるため,すべは顕微鏡の照明を直照明のみにするなど,徹照法を用いての手技において,通常より視認性をよくすることを心ることが有用です.前眼部での光反射を極力抑えること(85)あたらしい眼科Vol.40,No.11,202314550910-1810/23/\100/頁/JCOPY考える手術によって,後.付近の構造が見やすくなります(図1b).また,眼内は広角観察系を用いて観察することが主流ですが,やはりそれでも通常よりコントラストが落ちる場合があるため,「硝子体観察を容易にするためにトリアムシノロンを用いる」「周辺部観察の際は,通常より像を拡大する」「場合に応じてIOLの外側の虹彩との隙間部分から観察する」ことなどを意識しています.視認性を良好に保つために,前眼部の状態も常に意識しながら眼内観察を行うことが重要です.聞き手:黄斑円孔の手術などで,黄斑部を観察する際にとくに見づらいのですが,どうすればよいでしょうか?佐藤:黄斑部の膜.離は,通常,拡大レンズなど直像のレンズを用いる先生も多いと思われますが,やはり直像レンズは多焦点IOLの影響を受けやすく,屈折率の異なるレンズ境界部位でとくに見づらさを感じます.対策としては,より影響を受けにくい倒像の広角観察系を用いることで,視認性が改善します.よって普段から広角観察系での黄斑部操作にも慣れておくことが有用だと思います.また,もしある角度が見づらければ,ライトパイプなどで眼球の角度を調節すると,光の入射角が変化して見やすくなることも多いです.インドシアニングリーンやブリリアントブルーなどの染色剤も,注入してから少し時間をおいてから除去する,5%グルコースで溶解するなど工夫して,より組織染色のコントラストを強調することを意識しています.聞き手:多焦点IOL挿入眼に硝子体手術を施行する場合に,他に気をつけていることはありますか?佐藤:まず多焦点IOLが挿入されている患者は,多焦点IOLにこだわりをもっているケースが多いです.なぜなら通常よりも高額な手術を受けているからです.硝子体手術後も裸眼で見えることを期待しているケースが多くみられます.しかし,残念ながら現時点で,縫着や強膜内固定を行うことができる多焦点IOLは一般的でありません.もし硝子体手術後に多焦点IOLが偏位してしまった場合は,眼内に再度挿入できるのは,基本的に単焦点IOLとなってしまいます.極端に最周辺部まで硝子体を切除することによって,Zinn小帯を障害し,のちにIOL偏位をきたした事例も報告されており,硝子体切除範囲にも注意が必要です.一方で網膜.離など硝子体郭清をしっかりと行うことが望ましい場合もあり,悩ましいところですが,術前に患者にしっかり説明をして,術後にIOL偏位が起こりうる可能性についても同意を得ておくことが重要だと考えています.術後IOLの位置が変化して,レフ値が変化する可能性については,単焦点IOLと比較して,多焦点IOLのほうが広い範囲で焦点が合うため,自覚症状として問題にならないケースが多いですが,一つの可能性として事前に説明することは必要だと考えます.最後に他院で多焦点IOLが挿入されていて,それがどのような種類のレンズか不明である場合は,空気置換を行うべきかという判断は慎重に行っています.親水性アクリルのレンズの場合は,空気置換後にカルシウム沈着を起こしたといった事例もあるため,挿入されているレンズが不明である場合は,網膜.離などの空気置換が必須である疾患を除き,可能であれば空気置換を避けるように心がけています.図1多焦点眼内レンズ挿入眼における後.の見え方a:レンズ表面の反射や回折格子により,後.観察が困難である.b:徹照法を用いることで,後.観察がしやすくなる.1456あたらしい眼科Vol.40,No.11,2023(86)

抗VEGF治療:Pachychoroid Neovasculopathyの治療

2023年11月30日 木曜日

●連載◯137監修=安川力五味文117PachychoroidNeovasculopathy山本学大阪公立大学大学院医学研究科視覚病態学の治療Pachychoroidneovasculopathy(PNV)はパキコロイド関連疾患の一つとされ,脈絡膜の異常を伴ったC1型黄斑新生血管を伴うのが特徴とされる.本稿では,PNVの特徴およびその病態に基づいた治療を,これまでのエビデンスをもとに概説する.はじめにPachychoroidCneovasculopathy(PNV)はパキコロイド関連疾患,またはパキコロイドスペクトラム疾患群(pachychoroidspectrumdiseases:PSD)とよばれる一連の疾患群の一つとされる.Pachychoroidとは,その名の通り脈絡膜の肥厚を意味し,中心性漿液性脈絡網膜症(centralCserouschorioretinopathy:CSC)や滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD),その特殊型のポリープ状脈絡膜血管症(polyp-oidalCchoroidalvasculopathy:PCV)といった疾患に関連する病態として着目されるようになった.PSDの定義は報告によってまちまちであるが,CSCに代表される脈絡膜血管の拡張や脈絡膜血管透過性亢進といった脈絡膜の異常を伴うとされ,最近では脈絡膜血管(おもに中大血管)の拡張を重視し,脈絡膜厚の肥厚は必ずしも必須の所見ではないとされる傾向にある.PSDの中でも脈絡膜新生血管を伴うものをCPNVとし,CSCやAMD,PCVと区別するようになっている.CPNVの診断PNVはその病態から欧米人と比較してアジア人に多く,最近のわが国の報告でもCPNVの比率はCAMDのC20%程度にみられるとされる1).PNVでは,光干渉断層計(opticCcoherencetomography:OCT)でCType1黄斑新生血管(macularneovascularization:MNV)に伴う網膜色素上皮の不整隆起がみられ,漿液性網膜.離のような滲出性病変を伴うことが多い.インドシアニングリーン蛍光造影は脈絡膜血管の透過性亢進やCMNVの診断に有用であるが,MNVは光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)が描出に優れている(図1,2).CPNVの治療PNVはCCSCにみられるような脈絡膜異常と,AMDにみられるCMNVという二つの要素をもつため,治療も(83)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPYIA図1PNVの画像眼底は漿液性網膜.離に一致して網膜色素上皮異常がみられ,眼底自発蛍光(FAF)では網膜.離部に異常過蛍光がみられる.フルオレセイン蛍光造影(FA)ではCMNVからの漏出,インドシアニングリーン蛍光造影(IA)では脈絡膜血管の拡張と異常透過性亢進を認める.その二つの方向性から考えることができる.CSC,とくに慢性CCSCの治療として考えると,脈絡膜血管の透過性亢進を抑制する目的としては,光線力学的療法(pho-todynamicCtherapy:PDT)が有効であることが知られている.慢性CCSCに対しては,保険適用外であるが照射量や照射時間,ベルテポルフィンの投与量を半減したPDTにより漿液性網膜.離の改善や脈絡膜厚の減少が期待でき,治療として確立されている.このため,PNVに対してもCPDTにより,視力の改善や漿液性網膜.離の消失,脈絡膜厚の減少など病態の改善に寄与できたとする報告が多数なされている2).一方,PNVにおけるCMNVの病態に着目すると,あたらしい眼科Vol.40,No.11,20231453OCTOCTA図2OCTおよびOCTAの治療前後図C1と同一症例におけるアフリベルセプト硝子体内注射併用光線力学的療法の治療前後のCOCTおよびCOCTA画像.上段が治療前で,OCTでは漿液性網膜.離とCMNVを疑う網膜色素上皮の隆起を認め,OCTAではCMNVが描出されている.下段は治療C3カ月後で,網膜.離は消失し,MNVも範囲が縮小し目立たなくなっている.AMD治療として代表的な抗CVEGF薬が適応として考慮され,その有用性も検証されている.PNVに対するベバシズマブ,ラニビズマブ,アフリベルセプトの有効性を比較した検討では,平均C30カ月の経過で網膜厚は3群とも有意に減少する一方で,脈絡膜厚はベバシズマブで有意な減少はみられなかったがラニビズマブ,アフリベルセプトで有意に減少し,アフリベルセプトが他の2薬より少ない回数で治療が可能であったと報告している3).いずれにしても,抗CVEGF薬はCPNVの治療に有効であると考えられる.また,PDTと抗CVEGF薬の併用療法も,PNVに対してより高い治療効果を示す可能性がある.Matsumotoらは,PNVに対しアフリベルセプト併用照射エネルギー半減CPDTを施行し,視力改善や中心窩網膜厚,中心窩脈絡膜厚といった解剖学的な改善がC1年間維持されたことを報告している4).また,Takeuchiらは,PNVに対しアフリベルセプト併用投与量半減CPDTを施行した半年間の結果を検討し,年齢が若い,治療歴がない,MNVのサイズが小さいもので効果が高い可能性があると考察している5).PNVに対しては,VEGF薬とCPDTの併用はその病態からも理にかなっており,推奨されうる(図2).CPNV治療の今後これまで述べてきたように,PNVの治療はCPDT,抗VEGF薬,もしくはその併用療法で効果が認められてC1454あたらしい眼科Vol.40,No.11,2023いるが,どの治療がもっとも推奨されるかは現在のところ不明である.PNVの病態は網膜色素上皮細胞や脈絡膜循環などのさまざまな要素が関連しているため,AMDやCCSCに対する治療と同様に,各病態の特性に応じた治療法を選択していく必要があると考えられる.文献1)MiyakeM,OotoS,YamashiroKetal:Pachychoroidneo-vasculopathyCandCage-relatedCmacularCdegeneration.CSciCRepC5:16204,C20152)MatsumotoCH,CHiroeCT,CMorimotoCMCetal:E.cacyCofCtreat-and-extendCregimenCwithCa.iberceptCforCpachycho-roidCneovasculopathyCandCtypeC1CneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CJpnCJCOphthalmolC62:144-150,C20183)KarasuCB,CAkbasCYB,CKaskalCMCetal:LongCtermCresultsCofthreeanti-vascularendothelialgrowthfactoragentsinpachychoroidCneovasculopathy.CCutanCOculCToxicolC41:C145-154,C20224)MatsumotoCH,CMukaiCR,CKikuchiCYCetal:One-yearCout-comesCofChalf-.uenceCphotodynamicCtherapyCcombinedCwithCintravitrealCinjectionCofCa.iberceptCforCpachychoroidCneovasculopathywithoutpolypoidallesions.JpnJOphthal-molC64:203-209,C20205)TakeuchiJ,OtaH,NakanoYetal:PredictivefactorsforoutcomesCofChalf-doseCphotodynamicCtherapyCcombinedCwithCa.iberceptCforCpachychoroidCneovasculopathy.CGrae-fesCArchCClinCExpCOphthalmol2023(onlineCaheadCofprint)(84)

緑内障:Heads-up surgeryと OCTを用いた緑内障手術

2023年11月30日 木曜日

●連載◯281監修=福地健郎中野匡281.Heads-upsurgeryとOCTを用いた杉原一暢島根大学医学部眼科学講座緑内障手術Heads-upsurgery(HUS)は,顕微鏡の鏡筒を覗く代わりに大型の専用ディスプレイを見ながら行う手術である.網膜・角膜領域では有用性が多く報告されているが,緑内障領域では限定的な活用にとどまっている.緑内障手術中のCHUSとCOCTの活用について概説する.●はじめにHeads-upsurgery(HUS)は,角膜疾患・白内障・網膜疾患の手術では,術中光干渉断層計(opticalCcoher-encetomography:OCT)による移植片のアダプテーションの確認,CCCマーカー,トーリックマーカー,黄斑円孔の確認をはじめとした多彩なデジタル支援技術や,教育面での有用性との親和性もあり,使用する術者や導入する施設が増えてきており,眼科手術における一つのトピックとなっている.とくに硝子体手術においては,内境界膜.離時に黄斑円孔形成の有無や,翻転した内境界膜の位置確認,また強膜内固定術では眼内レンズの偏位の確認など,多くの有用性が報告されている.しかし,画面のハレーションや,ディスプレイがC1台だと助手の座る位置が限られる,手術室が狭いとディスプレイを置く位置に難渋する,OCTを操作する人員が必要,などいくつかのデメリットも存在している.緑内障手術では,単純なCHUSは使用できるが,術中COCTはまだまだ活用できていないのが現状である.C●HUSの手術顕微鏡顕微鏡はCAlcon社のCNgenuityとCZeiss社のCARTE-VO800が使用可能である.多少のタイムラグがあるとされるが,硝子体手術での報告では,通常の手術操作の範囲内では気にならないとしている1).これらの顕微鏡にCZeiss社のCRescan700を組み合わせることでCHUSにおける術中COCTが使用可能となる.本稿における画像はすべて当院で手術を行ったCARTEVO800とCRes-can700による術中画像である.C●緑内障手術におけるHUSとOCTの活用緑内障手術における術中COCTの活用はいくつか既報があるが,強膜フラップの確認や,エクスプレスや緑内障チューブシャント手術のチューブ位置確認,ブレブの広がりの確認などにとどまっており,正直にいうと「術(81)中COCTがあると非常に便利な手術ができる」というわけではない.実際に緑内障手術で活用しようとすると,いくつかの困難に直面する.たとえば,隅角手術では隅角レンズを使用するため,手術部位にCOCTでピントを合わせるのが困難で,どうしても解像度が下がってしまう.球後麻酔を行い眼球運動を抑制する硝子体手術とは異なり,隅角手術では眼球運動や隅角鏡の押し手によって眼球が動いてしまう.また,角膜や硝子体と違い,観察部位に少量の出血があるだけで,解像度が一気に低下してしまう.そのような限定的な条件の中でも,いくつかの挑戦を行ったので紹介する.C●隅角鏡下のSchlemm管の同定外来で前眼部COCTを撮影するとCSchlemm管や集合管が確認できることがあるが,MicrohookCabCinternoCtra-beculotomyの術中は前房内の粘弾性物質や隅角鏡の圧迫のためか,Schlemm管の同定はむずかしかった(図1).マイクロフックが金属製品のため,隅角切開の瞬間は観察がむずかしい.切開後に確実に線維柱帯が切開されてCSchlemm管が開放されていることは確認できる(図2:).切開の瞬間はマイクロフックを動かすと眼球が動くため,切開部分をCOCTで見ながら切開するのは至難の業である.切開後の開放確認にとどめることをお勧めする.CiStentinjectW挿入後に術中COCTで確認すると,隅角部に埋め込まれた本体が確認できる(図3:).深く埋没していないことは確認できるが,金属製品のため詳細はわからない.Ahmed緑内障バルブ挿入時の自己強膜弁作製を術中OCTで撮影した(図4).十分な厚さのフラップが作製されている.しかし,OCTがなくても「見ればわかる」ので,有用性という意味ではあまり利点がない.C●おわりにHUSおよび術中COCTは硝子体手術の分野では活用あたらしい眼科Vol.40,No.11,202314510910-1810/23/\100/頁/JCOPYされてきているが,緑内障手術においては有用性が低く,観察時間は単なる手術時間の延長を意味している.HUSはスタッフに対する手術教育という面では多くの利点があるが,術者に対するメリットはまだまだ少ない.ただし,今後は緑内障手術も含めて眼科手術はロボット手術化,遠隔手術化していく可能性もあり,緑内図1前房内を粘弾性物質で置換後,隅角鏡越しにOCT撮影図2赤矢印部分でSchlemm管が切開されフラップでできていることがわかる図3赤矢印部分にiStentinjectWが埋没していることがわかる図4翻転したフラップが確認できる障術者もCHUSに慣れていく必要があるかもしれない.文献1)TaKimD,ChowD:Thee.ectoflatencyonsurgicalper-formanceCandCusabilityCinCaCthree-dimensionalCheads-upCdisplayCvisualizationCsystemCforCvitreoretinalCsurgery.CGraefesArchClinExpOphthalmolC260:471-476,C20221452あたらしい眼科Vol.40,No.11,2023(82)

屈折矯正手術:円錐角膜に対する眼内レンズ度数計算

2023年11月30日 木曜日

●連載◯282監修=稗田牧神谷和孝飯島敬282.円錐角膜に対する眼内レンズ度数計算新百合ヶ丘眼科,北里大学病院円錐角膜眼に対する眼内レンズ(IOL)度数計算において,進行例はケラト値の過大評価により遠視ずれを生じて予測性が低下する.以前はCSRK/式を用いるのが主流であったが,近年は円錐角膜用の補正式として,Kane円錐角膜式やCBarrettTrueK円錐角膜式があり,SRK/T式より予測性が向上している.●はじめに円錐角膜眼に対する眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数計算は予測性が低いことが知られている1,2).本稿では,これまでの円錐角膜眼に対するCIOL度数計算に関する既報や現状について紹介する.C●円錐角膜眼における屈折誤差IOL度数計算式の選択について,2018年に神谷らが各CIOL度数計算式(SRK/T式,Haigis式,Ho.erQ式,Holladay1式,Holladay2式,SRKCII式)の予測性を比較したところ,SRK/T式がもっとも良好であったことを報告している1).また近年,正常角膜眼に対してCBar-rettCUniversalII式はCSRK/T式より予測性が高いことが知られているが,円錐角膜眼に用いても向上しないことが報告されている2)(表1).そして,どの計算式でも円錐角膜の病期が中等度以上になると,ケラト値の過大評価により遠視ずれを生じ予測性が低下する.ケラト値を過大評価している要因として,神谷らは,円錐角膜の角膜後面屈折力は円錐角膜の病期が進行するほど大きくなって,角膜前面換算屈折力と角膜全屈折力の乖離が大きくなることを報告している3).C●円錐角膜用の補正式の登場2020年以降に円錐角膜用の補正式としては,Kane円錐角膜式やCBarrettTrueK円錐角膜式がCSRK/T式より予測性が高いことが報告され4,5),オンラインで使用可能となっている.Kane円錐角膜式の度数計算の必須入力項目は眼軸長,ケラト値,前房深度,A定数,性別で,オプションは水晶体厚,角膜厚,目標屈折の範囲は.6.0~+2Dで,「Keratoconus」というタグを押してから度数計算を行う.BarrettCTrueK円錐角膜式の度数計算のパラメータとして,必須入力項目は眼軸長,ケラト値,前房深度,A定数,オプション項目は水晶体厚,whiteCtoCwhite(WTW)で,角膜後面屈折は予測値(Predicted)か実測値(Measured)を選択できる.目標屈折の範囲はC.10~+10Dで,Historyを「Keratoconus」に選択してから度数計算を行う.予測屈折に対する±1.0D以内の割合は,Kane円錐角膜式は軽度の場合はCSRK/T式とほぼ同等だが,進行例表1円錐角膜眼に対するIOL度数計算の既報著者眼数病期の内訳度数計算式予測屈折に対する±1.0D以内の割合CKamiyaetal1)101眼病期1:65眼病期2:20眼病期3:8眼病期4:8眼CSRK/TMild:C80%Moderate:32%Severe:C0%CSavinietal2)41眼病期1:21眼病期2:13眼病期3:7眼CSRK/T病期C1:80.95%病期C2:53.85%病期C3:14.29%CBUII病期C1:76.19%病期C2:23.08%病期C3:14.29%CKane円錐角膜病期C1:90.5%病期C2:56.8%病期C3:48.0%CKaneetal4)146眼病期1:84眼病期2:37眼病期3:25眼SRK/T病期C1:88.1%病期C2:48.6%病期C3:20.0%CBUII病期C1:89.3%病期C2:54.1%病期C3:16.0%CSRK/TC84%57眼Kane円錐角膜C79%Vandevenneetal5)病期1:36眼病期2:17眼病期3:4眼CBTK円錐角膜(Predicted)C88%BTK円錐角膜(Measured)C90%BUII:BarrettUniversalII,BTK円錐角膜:BarrettTrue円錐角膜.(79)あたらしい眼科Vol.40,No.11,202314490910-1810/23/\100/頁/JCOPYになるとCSRK/T式より予測性が向上している4).Bar-rettTrueK円錐角膜式もCSRK/T式より予測性は向上しているが,角膜後面屈折力は実測値を用いても,予測値の場合とほぼ同等の予測性であることが報告されている5)(表1).C●症例提示軽度の円錐角膜眼に対して白内障手術を施行した症例を示す.患者はC62歳,女性.術前矯正視力C0.15(0.5C×sph.2.00D(cyl.1.50DA50°),IOLMaster700(CarlZeiss社)で生体計測を行い,K1:44.06D,K2:46.32D,眼軸長C24.43Cmm,前房深度C3.37Cmmであった.トポグラフィ画面を図1に示す.近方狙いで,AQ-110NV(STAAR社)+20.5Dを挿入した.予測屈折はCKane円錐角膜式で.2.55D,BarrettCTrueK円錐角膜式でC.2.3D,SRK/T式でC.2.18Dであった.術後C1カ月の矯正視力はC0.2(1.0C×sph.2.00D(cyl.1.50DCA15°×IOL)であった.予測誤差はそれぞれC.0.20D,C.0.45D,C.0.57Dで,3式ともにほぼ同等の予測性で屈折誤差も小さかった.次に,進行した円錐角膜眼に対して白内障手術を施行した症例を示す.患者はC52歳,男性.術前視力はC0.02(0.3C×sph.14.0D),IOLMaster700で生体計測を行い,K1:51.85D,K2:56.33D,眼軸長C26.03Cmm,前房深度C3.23Cmmであった.トポグラフィ画像を図2に示す.近方狙いで,PU6A(興和)+6.0Dを挿入した.予測屈折はCKane円錐角膜式でC.2.33D,BarrettCTrueK円錐角膜式で.4.5D,SRK/T式でC.5.44Dであった.術後1カ月の矯正視力はC0.3(1.0C×sph+1.00D(cyl.3.00DCA70°×IOL),予測誤差はそれぞれ+1.83D,+4.00D,+4.94Dで,3式ともに遠視ずれを生じたが,Kane円錐角膜式やCBarrettTrueK円錐角膜式はCSRK/T式より遠視ずれが軽減した.C●おわりに円錐角膜用の補正式であるCKane円錐角膜式やCBar-rettTrueK円錐角膜式は,進行例でCSRK/T式より遠視ずれが小さくなって予測性が向上するが,補正式でIOL度数計算しても遠視ずれの症例があることに注意して度数決定したほうがよい.文献1)KamiyaCK,CIijimaCK,CNobuyukiCSCetal:PredictabilityCofCIntraocularClensCpowerCcalculationCforCcataractCwithCkera-toconus:AccuracyCofCintraocularClensCpowerCformulasCmodi.edCforCpatientsCwithkeratoconus:ACmulticenterCstudy.SciRepC8:1312,C20182)SaviniCG,CAbbateCR,CHo.erCKJCetal:IntraocularClensCpowerCcalculationCinCeyesCwithCkeratoconus.CJCCataractCRefractSurgC45:576-581,C20193)KamiyaCK,CKonoCY,CTakahashiCMCetal:ComparisonCofCsimulatedkeratometryandtotalrefractivepowerforker-atoconusCaccordingCtoCtheCstageCofCAmsler-KrumeichCclassi.cation.SciRepC8:12436,C20184)KaneJX,ConnellB,YipHetal:AccuracyofintraocularlensCpowerCformulasCmodi.edCforCpatientsCwithCkeratoco-nus.Ophthalmology127:1037-1042,C20205)VandevenneCMMS,CWebersCVSC,CSegersCMHMCetal:CAccuracyofintraocularlenscalculationsineyeswithker-atoconus.JCataractRefractSurgC49:229-233,C20231450あたらしい眼科Vol.40,No.11,2023(80)

眼内レンズ:虹彩捕獲に対するブロック縫合後の続発緑内障

2023年11月30日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋444.虹彩捕獲に対するブロック縫合後の城山朋子松島博之獨協医科大学眼科学教室続発緑内障虹彩捕獲の治療法として,眼内レンズと虹彩間に糸を張るブロック縫合術がある.術後合併症として,縫合糸と虹彩の接触が原因となり,虹彩損傷,色素散布,続発緑内障などを生じることがあるので,術後長期の経過観察が必要である.●はじめに眼内レンズ(intraocularlens:IOL)縫着術やCIOL強膜内固定術の術後合併症として,虹彩捕獲が知られている1,2).虹彩捕獲の治療として,散瞳薬や縮瞳薬を用いた整復,逆瞳孔ブロックを伴う場合はレーザー虹彩切開術や周辺部虹彩切除術,それでも治療に抵抗性の場合はIOL整復術を施行する1~4).近年,KimらがCIOL光学部表面に糸を張ることで虹彩捕獲を予防するブロック縫合術を報告した5).筆者らの病院でも,繰り返す虹彩捕獲に対してブロック縫合術を施行しているが,術後C5年で虹彩損傷,続発緑内障を生じた患者を経験した6).本稿ではブロック縫合術とその合併症について解説する.C●ブロック縫合術(Tram-tracksuture法)ブロック縫合術は虹彩捕獲に対する新しい治療法であり,虹彩とCIOLの間に縫合糸を通すことでCIOLの前方偏位を抑える方法である7).当院では,角膜輪部より3.0Cmm離れた位置で,2時からC9時方向と,4時からC8時方向に向かって,9-0ポリプロピレン糸をC2針通針し,縫合糸の端々を結紮し,強膜内に埋没する方法で施行している.C●症例60歳の男性.2009年に前医にて右眼白内障手術を施行した.2015年C6月に右眼CIOL偏位を認め,手術目的に当院を紹介受診した.同年C7月C16日にCIOL摘出+硝子体切除術+IOL縫着術を施行した.右眼の術後視力はC0.3×IOL(1.2C×IOL×.3.50D(cyl.0.50DCAx170°),眼圧はC12.0CmmHgであった.8月C10日,右眼虹彩捕獲を認め,ピロカルピン塩酸塩点眼で一時整復したが,9月C15日に再度右眼虹彩捕獲を認めたため,9月C17日にブロック縫合術を施行した(図1).右眼の術後視力はC0.07×IOL(1.2C×IOL×.4.00D(cyl.0.50DAx140°),眼圧はC15.0CmmHgで,経過良好のため前医で経過観察(77)となった.その後,海外出張のため通院できず,2019年C8月,前医受診時に前房内セルの増加および眼圧上昇を認めたため,ラタノプロストおよびカルテオロール点眼,ステロイド点眼を開始した.2020年C7月に右眼視力低下と頭痛を自覚したため前医を受診し,右眼虹彩損傷を認めたため当院へ再紹介となった.右眼視力はC0.06C×IOL(0.5C×IOL×.4.00D(cyl.1.00DCAx135°),眼圧は21.0mmHgであり,右眼虹彩下方に虹彩損傷(図2),隅角鏡検査では右眼線維柱帯下方に色素沈着,前眼部光干渉断層撮影ではCIOLと虹彩が接触していること(図3)が確認できた.眼底所見は,視神経乳頭陥凹拡大,Goldmann視野検査で中心暗点を認めた.ブロック縫合糸と一致した位置に虹彩損傷を認めたため,ブロック縫合糸またはCIOLが虹彩と機械的に接触し,虹彩炎,色素散布,虹彩損傷,眼圧上昇,続発緑内障を発症したことが考えられた.治療としてブロック縫合糸の抜去と,IOLの摘出交換強膜内固定術によるCIOL位置矯正を施行した.術後の右眼視力はCVd=0.1×IOL(0.8C×IOL×.1.50D(cyl.2.50DAx160°),眼圧は12.5mmHgであり,視力の悪化はなく眼圧は低下した.また,前眼部光干渉断層撮影では虹彩とCIOLが接触していないことが確認できた(図4).術後C7カ月まで眼圧C15.00CmmHg以下で経過している.C●考察虹彩捕獲は,IOL縫着術やCIOL強膜内固定術の合併症としてあり,その発症率はそれぞれC6.75~36.8%7,8),2.4~8.0%9,10)と報告されている.これらの術式では,IOL.内固定では発生しにくいCIOL傾斜や虹彩捕獲が生じやすい.くり返す虹彩捕獲に対して,手術による侵襲を少なくするためにブロック縫合が効果的であるという報告はあるが,術後長期の報告は少ない.本症例では,IOL縫着後にくり返す虹彩捕獲に対してブロック縫合術を施行したが,術後C5年で虹彩損傷,虹彩炎,続発あたらしい眼科Vol.40,No.11,2023C14470910-1810/23/\100/頁/JCOPY図12015年9月,ブロック縫合術後の前眼部写真点線はブロック縫合糸の位置を示している.2時からC9時方向と,4時からC8時方向に向かって,9-0ポリプロピレン糸をC2針通針し,縫合糸の端々を強膜に結紮している.緑内障を生じた.視力検査結果をみても,ブロック縫合術前後で等価球面度数に変化はなかったので,IOL位置変化による虹彩との接触は考えにくい.ブロック縫合によって虹彩捕獲は予防できたが,日常的な瞳孔運動によって縫合糸と虹彩が長期間にわたって接触したことが原因と考えた.また,下方線維柱帯に色素沈着を認めたことから,色素散布があり続発緑内障を発症したと考えた.今までにブロック縫合術後の虹彩損傷の報告はなく,今回のような術後合併症を生じることは予測が困難であった.術後眼圧上昇,前房内セルの増加や炎症所見を認めた場合は,今回のような合併症発症を予測し,定期的な診察と,必要時には早期にCIOL交換や整復術の準備をすることが望ましいと考える.C●おわりにIOL縫着術,IOL強膜内固定術後は虹彩捕獲を生じるリスクがある.その対処法としてブロック縫合があるが,長期予後は未だに報告が少なく,今回報告した例では術後C5年で虹彩損傷,続発緑内障に至った.IOL摘出よりも侵襲の低い術式ではあるが,虹彩と縫合糸の接触による合併症を考慮し,虹彩と縫合糸,IOL間の距離の確認と,定期的な経過観察が必要と考える.図22020年10月の再紹介時の前眼部写真ブロック縫合,IOL光学部周辺部に一致した虹彩損傷が認められる.図3再紹介時の前眼部光干渉図4ブロック縫合糸の抜去+断層撮影による写真IOL摘出交換強膜内固定虹彩とCIOLの接触とCIOLの傾術後の前眼部光干渉断層斜が認められる.撮影による写真虹彩とCIOLの間に十分な空間が確認できる.文献1)西村哲哉:眼内レンズ強膜縫着術後の逆瞳孔ブロック.あたらしい眼科28:1575-1576,C20112)鄭暁東,五藤智子:眼内レンズ再縫着後瞳孔捕獲に対するCtram-tracksuture法による整復.臨眼C73:201-207,C20193)永田万由美:Marfan症候群の水晶体脱臼に対する水晶体再建術後に虹彩捕獲を繰り返した症例.眼科手術C33:425-429,C20204)木村元貴,津田メイ,西村哲哉ほか:眼内レンズ縫着後の逆瞳孔ブロックにレーザー虹彩切開術を施行したC3例.臨眼64:1341-1346,C20105)KimCSI,CKimK:Tram-trackCsutureCtechniqueCforCpupil-larycaptureofascleral.xatedintraocularlens.CaseRepOphthalmolC7:290-295,C20166)城山朋子,松島博之,永田万由美ほか:虹彩捕獲に対して施行したブロック縫合によって続発緑内障を生じたC1例.CIOL&RS36:98-103,C20227)櫻井寿也,木下太賀,福岡佐知子:眼内レンズ毛様溝縫着術後瞳孔捕獲に対する防止用糸.眼科手術C27:105-107,C20148)下村智恵美,山田知之,野宗研志ほか:眼内レンズ縫着術の原因と予後.臨眼61:1409-1412,C20079)太田俊彦:IOL偏位・脱臼に対する強膜内固定CT-.xationtechniqueとCL-ポケット切開法を併用した整復術.臨眼C73:171-180,C201910)KumerCDA,CAgarwalCA,CPackiyalakshmiCSCetal:CompliC-cationsCandCvisualCoutcomesCafterCgluedCfoldableCintraocu-larClensCimplantationCinCeyesCwithCinadequateCcapsules.CJCataractRefractSurg39:1211-1218,C2013

写真:内頸動脈海綿静脈洞瘻による眼症状

2023年11月30日 木曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史474.内頸動脈海綿静脈洞瘻による眼症状河野泰己北澤耕司京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ結膜血管の怒張図1前眼部所見右眼結膜に角膜輪部まで先細りのない特徴的な結膜血管の怒張を認める.図51カ月後の前眼部所見症状発生よりC1カ月で結膜充血を含む眼症状は改善した.図3MRI右上眼静脈の拡張を認める.図4MRA海綿静脈洞右側にC.owの流入を認める.(75)あたらしい眼科Vol.40,No.11,2023C14450910-1810/23/\100/頁/JCOPY症例は79歳の女性で,右眼の充血を主訴に前医を受診した.右眼に0.1%フルオロメトロン4回/日および1.5%レボフロキサシン4回/日にて治療を開始したが,1カ月経過しても改善しないため当院紹介となった.当院初診時,右眼結膜血管の特徴的な怒張を認めた(図1,2).右視力はC0.5であり,眼圧はC31.3mmHgと高値であった.眼底に異常所見は認めなかった.頭蓋内の病変を疑い,MRI・MRA検査を施行した.MRI検査にて上眼静脈の拡張・右眼球突出を認め(図3),MRA検査にて海綿静脈洞に流入する高信号(.ow)を認めた(図4).以上の所見より内頸動脈海綿静脈洞瘻(carotid-cavernous.stula:CCF)を疑い,脳神経外科精査および加療目的に入院となった.選択的頸動脈血管造影検査を施行し,右内頸動脈の硬膜枝から海綿静脈洞へのシャントを認めたため,CCF(間接型)の確定診断に至った.入院後,眼科では右眼高眼圧に対してC0.5%チモロールマレイン酸C2回/日による治療を開始した.入院C1カ月後には右視力はC0.8改善し,右眼眼圧も9.0CmmHgまで下降した(図5).MRA検査でも上眼静脈に逆流する血液は減少し,結膜充血および眼球突出の症状は改善したため退院となった.CCFは,1809年にCBenjaminTraversらにより脈動する眼球外症として初めて報告された疾患概念であり,内頸動脈本幹あるいは内・外頸動脈の硬膜枝などから海綿静脈洞へ血流の短絡が生じる疾患である.本疾患は直接型と間接型に分類される.直接型は海綿静脈洞と内頸動脈が直接的に交通したものであり,外傷により発生することがほとんどである.間接型は海綿静脈洞と内頸動脈の硬膜枝や動脈瘤などが交通したものであり,硬膜動静脈瘻や動脈瘤の破裂などが原因とされている.一般的に間接型の発生頻度が高く,CCF全体のC83%といわれているが,直接型は交通する血液量が多いため,症状がより重篤化しやすい.確定診断には選択的頸動脈血管造影検査が必要であり,検査所見より直接型と間接型を分類することができる.CCFの古典的C3主徴は眼球突出,結膜血管の怒張,拍動性雑音だが,ほかにも眼痛,頭痛,眼圧上昇,眼球運動障害などが出現する場合もある.これらの症状は内頸動脈から海綿静脈洞に流入した血液が,静脈に逆流することにより生じる.逆流がみられる静脈には,上眼静脈および上・下垂体静脈があげられ,逆流する静脈により前方型,後方型に分類される.上眼静脈への逆流は前方型といわれ,拡張した上眼静脈の圧迫により眼球突出,結膜血管の怒張,眼痛,高眼圧および神経圧迫による眼球運動障害や顔面神経麻痺などが認められる.上・下垂体静脈への逆流は後方型といわれ,拍動性雑音,頭痛,複視などが認められる.鑑別疾患には,眼球突出を呈する甲状腺眼症,頭痛・動眼神経麻痺を呈する内頸動脈後交通動脈瘤や虚血性視神経炎,閉塞隅角緑内障などがあげられる.治療は直接型と間接型で異なり,直接型は血管内治療によるコイルや塞栓剤を用いた瘻孔閉鎖が選択される.間接型は逆流する血液量が少なく,症状が軽度であれば経過観察での瘻孔の自然閉鎖が期待できるが,症状が重度である場合や難治性の場合には血管内治療や放射線治療が選択される.高眼圧に対しては,Cb遮断薬や炭酸脱水酵素阻害薬などによる点眼治療を行う.CCFの確定診断,根治的治療は脳神経外科でなされることがほとんどであるが,初期症状が眼に出現する場合があるため,初診時に眼科を受診する患者も少なくない.そのため眼科医としては,特徴的な眼所見から本疾患を疑い,適切な検査と紹介を行ったうえで,高眼圧や複視などの眼症状に対して適切な治療とフォローアップをする必要がある.文献1).meloJ:Carotid-cavernousC.stulaCfromCtheCperspectiveCofCanCophthalmologist.CACreview.CCeskCSlovCOftalmolC2020:1-8,C20202)HendersonCAD,CMillerNR:Carotid-cavernous.stula:CcurrentCconceptsCinCaetiology,Cinvestigation,CandCmanage-ment.Eye(London)C32:164-172,C20183)GemmeteCJJ,CAnsariCSA,CGandhiDM:EndovascularCtech-niquesCforCtreatmentCofCcarotid-cavernousC.stula,CJCNeur-oophthalmol29:62-71,C2009

複視のある斜視の手術治療

2023年11月30日 木曜日

複視のある斜視の手術治療SurgicalTreatmentofStrabismuswithDiplopia太根ゆさ*はじめに複視を伴う斜視に対しては,整容的改善目的に加えて,整容的には気にならなくとも自覚症状軽減のための機能的改善目的で手術が行われる.自然軽快が期待できるものについてはまず経過観察を行う.また非観血的治療として,斜視角によってはプリズム装用が有用であり,近年はボツリヌス毒素による治療も増えてきている.しかし,経過観察しても改善が得られない患者,非観血的治療では対応できない患者については,手術治療を検討する.本稿では,複視を伴う斜視に対する観血的手術治療のタイミング,その術式選択や術量決定などについて,帝京大学医学部附属病院眼科(以下,当科)における上下回旋斜視治療を中心に,解説する.I手術の検討の前に1.原因はなにか先天斜視や幼少からの間欠性外斜視などで抑制がかかっている,あるいは対応がなく交代視をしている斜視などを除き,多くの後天斜視が複視を自覚する.急性発症の複視であれば,原因検索を第一に考える.眼球運動制限があれば頭蓋内疾患の有無の確認のため,頭部MRIやCTを施行するが,頭蓋内疾患のほかに,甲状腺眼症,眼窩筋炎などの筋原性斜視,強度近視性斜視やsaggingeyesyndromeといったpulleyの異常により生じる機械的斜視などについても合わせて鑑別できるよう,可能であれば冠状断スライスもオーダーする.また,複視の自覚が変動したり,受診時ごとに異なる斜視角を示したりする場合は重症筋無力症も疑う.原因となる疾患が明らかであれば,その疾患についてのフォローや加療が優先され,疾患の病状が落ち着くまでは経過観察となる.麻痺性斜視では,血管性や外傷性麻痺の場合は自然軽快の可能性が高く,自然軽快する患者では3カ月以内に回復が始まる.したがって,少なくとも発症後半年は経過をみてから手術を検討することを患者に説明し,1~2カ月ごとに経過をみる.徐々によくなっていく場合は,さらに経過観察をする.半年過ぎても一向に改善の兆しがみられない患者や,3カ月以上変動がないものに対して手術を検討する1).2.非観血的治療が可能か斜視角が小さければ,まずはプリズム眼鏡で複視の改善を試みる.また,A型ボツリヌス毒素注射による治療で眼位の改善が得られる場合があり,詳細は他項に譲る.これらの非観血的治療で複視の改善が得られない,あるいは対応できなくなった場合に,手術を検討する.回旋斜視は外見上わかりにくいため,上下斜視に回旋が伴っていても,その存在に気づかず上下斜視に対するプリズム眼鏡を作製すると,装用困難で対応できない場合がある.現時点でプリズム眼鏡では回旋を治すことはできず,患者の「何かずれる」「傾く」という訴えがあ*YusaTane:帝京大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕太根ゆさ:〒173-8605東京都板橋区加賀2-11-1帝京大学医学部眼科学講座0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(67)1437表1帝京大学医学部附属病院眼科における斜視手術の基本方針ab図1術中量定(仮縫合後の眼位確認)a:ペンライトをかざしてcoveruncoverしている.b:天井の視標をみているところ.屈折異常があれば矯正眼鏡をあてがう.c:Cyclophorometerを用いた回旋の確認.眼前に吊るしたペンライトの光を固視する.外直筋内直筋外直筋Tillauxの螺旋内直筋下直筋外直筋図3右眼下直筋後転鼻側移動の例後転はTillauxの螺旋に沿って行う.==図4Cyclophorometer赤はBagolini線条レンズ,緑はMaddoxrodが入っている.眼前に光指標を呈示すると2本の線が見える.Maddoxrodに連動したダイヤルを操作し,2本が平行になる角度を測定する.赤の固視眼では中心に光指標が見えるので固視が安定し,むき眼位での回旋測定も可能である.右下の顔写真は,日常診療において測定しているところ.bLFa左右-7-9-2R/L11R/L16R/L18IN7IN2-5-6-2R/L5R/L15R/L21IN7IN5-7R/L5IN11-8R/L14IN9-1R/L22IN2図5症例1:右眼下直筋短縮8mm+前転2mma:術前の9方向むき眼位.右眼外下転の制限を認める.b:術前の大型弱視鏡による9方向むき眼位.左眼固視にて右下方で上下偏位最大,左下方で内方回旋最大となっている.c:術後眼位(2週間).眼位は正位.a1b1a2b2RFRFa3RFb3左右LF+9+9+4L/R3L/R3L/R4EX4EX3EX5+7+6+4L/R4L/R4L/R7EX8EX7EX9+9L/R2EX11+11L/R4EX8+7L/R7EX10c図6症例2:右眼下直筋後転6mm+1.25筋幅鼻側移動⇒右眼下斜筋切除術a1:1回目術前眼位(通常左固視).a2:1回目術前9方向むき眼位(右固視).両眼下斜筋過動は明らかでない.内下転も左右差ないようにみえる.a3:1回目術前の大型弱視鏡による9方向むき眼位.右眼固視にて,右下方で上下偏位最大,左下方で外方回旋最大となっている.b1:2回目術前眼位(左固視で右上斜視に逆転).b2:2回目術前9方向むき眼位:1回目との比較で,右眼固視にて右下斜筋過動と内下転制限がみられている.b3:2回目術前9方向むき眼位.左眼眼固視にて,さらに右下斜筋過動と内下転制限が著明.c:2回目術後眼位(3カ月).眼位は正位.abc図7症例3:右眼下斜筋ミエクトミーa:術前の9方向むき眼位.右眼下斜筋過動を認める.b:術前眼底カメラ写真.両眼とも回旋偏位はみられない.c:術後眼位(3カ月).c1:正面,眼位は正位.c2:左上方視.右下斜筋過動は改善.

共同性斜視,麻痺性斜視に対するボツリヌス治療の実際

2023年11月30日 木曜日

共同性斜視,麻痺性斜視に対するボツリヌス治療の実際TheActualPracticeofBotulinumToxinTherapyforStrabismus宇井牧子*はじめに後天的に発症した斜視では,幼少期からの斜視と異なり抑制が形成されないため,患者は複視に悩まされる.複視の症状は機能面だけでなく,患者の心理面にも影響を与える可能性があり,可能な限り早期の解決が望ましい.このような複視に対する従来の治療法はおもにプリズム眼鏡や手術であったが,2015年にわが国で斜視に対するCA型ボツリヌス毒素(botulinumtoxintype-A:BTX-A)注射が保険適用となり,治療の選択肢が増えた.一方で,BTX-A療法だけですべての斜視が解決するわけではない.本稿では,BTX-A療法の適応と実際の方法について述べる.CIA型ボツリヌス毒素とはBTX-Aはボツリヌス菌が産生する神経毒素の一種である.神経筋接合部でのアセチルコリン放出阻害によって神経筋伝達を阻害することで,筋の不全麻痺を起こし,筋の収縮力が減弱する.広い分野で多岐にわたる治療に用いられているが,ボツリヌス毒素の医療製剤としての開発は,1980年に米国の眼科医CAlanScott博士が斜視へ臨床使用したことから始まった1).外眼筋にCBTX-Aを注射することで,外眼筋の収縮力を減弱させ,斜視手術における筋の弱化・後転術に似た効果が得られる.効果は注射翌日.数日後から現れ,3.4カ月後に神経末端より別の発芽が生じて収縮力は回復する.ただし,筋線維の細い外眼筋においてはBTX-A注射によって同部位に萎縮や線維化といった不可逆的な変化が認められるとする報告もあり2),投与を繰り返すと眼位に残存効果が認められるようになる.C1.適応わが国においてC12歳以上のすべての斜視に保険適用となっている.海外では,乳児内斜視を含む小児の共同性斜視への有効性が明らかにされている3,4)が,わが国では小児に対しての使用が認可されていない.わが国におけるよい適応は,急性後天性共同性内斜視,急性期外転神経麻痺,甲状腺眼症といった後天的な斜視である.三村らの報告によると,前述の斜視に対して,反復注射や手術なしで斜位化に至った例はC51.83%であった5).自験例においても,BTX-A注射を行った後天性内斜視のC100例中C67例(67.0%),外転神経麻痺のC7例中C6例(85.7%),甲状腺眼症のC4例中C2例(50.0%)において,最終注射からC6カ月以上経過した時点で複視のない良好な状態が得られていた6).手術療法に比べ圧倒的に侵襲が少なく,発症早期に治療介入できるCBTX-A療法は,後天発症で複視があり,早期改善を望む斜視患者にこそ,もっとも試みる価値がある.大角度の斜視に対する後転術との併用療法も有効である7,8).大角度を呈する甲状腺眼症や麻痺性斜視では,後転筋にCBTX-Aを注射することによって弱化効果を増大させ,多数筋の手術や筋移動術を回避できる可能性がある.*MakikoUi:CS眼科クリニック〔別刷請求先〕宇井牧子:〒113-0033東京都文京区本郷C3-15-1美工本郷ビルC5F・8FCS眼科クリニックC0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(61)C1431幼少期から認められる間欠性外斜視,内斜視や,慢性期の麻痺性斜視に対しては,BTX-A注射は一時的な効果を示すにすぎず,反復注射や手術が必要となることが多い.三村らによると,BTX-A注射を行った慢性期麻痺性斜視ではC95.5%で手術治療を要したとされている5).しかし,幼少期からの斜視であるが手術に抵抗がある患者では,BTX-A注射によって斜視角が減少し,斜位の維持が良好となるため,定期的に注射を希望するケースもある.C2.合併症BTX-A療法の欠点は,定量性に乏しく効果にばらつきがあることと,注射後の一過性眼瞼下垂や一過性上斜視といった合併症発現の可能性である.眼瞼下垂は薬液が上眼瞼挙筋に,上斜視は薬液が下直筋に波及することで起こるが,通常C1カ月程度で回復する.既報によるとBTX-A注射後の合併症発現率はC22.55%に及ぶが,重篤なものはなく,永続したものはなかった3,4,6,9).自験例では,斜視に対するCBTX-A注射後に合併症の有無を確認できたC199例中,合併症をC66例(33.2%)に認め,眼瞼下垂がC46例(23.1%),上斜視がC31例(15.6%)であった6).しかし,すべて一過性であり,1カ月程度で改善した.CII注射の実際1.医師の資格斜視へのCBTX-A使用は日本眼科学会認定眼科専門医に限定されており,本療法の講習実技セミナーの受講が必須である.加えて,注射を行う医師は斜視について十分な知識・経験を有しており,50筋以上の斜視手術経験が必要とされている10).自験例においては,BTX-A注射を行った斜視症例C203例中C22例(16.7%)で手術に至っていた6).BTX-A注射を施行する医師は,手術の選択肢ももっておく必要がある.C2.対象となる外眼筋BTX-A注射が可能な外眼筋は,内直筋,外直筋,下直筋,下斜筋である.上直筋への注射は眼瞼下垂が必発のため,行わないほうがよい.解剖学的に上斜筋への注射は困難である.内斜視に対しては内直筋に,外斜視に対しては外直筋に注射する.2019年に報告したように11),斜視眼へのBTX-A注射によって注射後一過性の異常頭位を呈した例を複数経験したため,筆者は共同性の水平斜視に対しては原則的に固視眼(非斜視眼)への注射としている.注射後の合併症として一過性上斜視をきたすことがあるため,内斜視・外斜視に上下偏位を合併している場合は,固視眼・非固視眼にかかわらず下斜視眼側の内直筋・外直筋に注射を行っている.麻痺性の内斜視(外転神経麻痺)・外斜視(動眼神経不全麻痺)に対しては,麻痺眼に注射する.上下斜視に対しては,前述のとおり上直筋には注射が適さないため,病型にかかわらず下斜視眼の下直筋に注射する.手技的に高度な活用法であるが,後天性滑車神経麻痺などの回旋性複視の患者に対し,下斜筋へのCBTX-A注射も有効である.その場合は上斜視眼側の下斜筋に注射を行うが,下直筋に効果が波及して上斜視が悪化する可能性に留意しなければならない.C3.投与量筆者は共同性水平斜視の場合,初回は斜視角がC20CΔより小さければC1.25単位,20.40CΔであればC2.5単位,C45Δ以上であれば総量でC5.0単位を投与の目安とし,甲状腺眼症でない上下斜視の場合は,下直筋にC2.5単位を基本としている.初回投与への反応をみて,必要であればC4週間後以降に追加投与を検討する.一つの筋への投与量が多いと,合併症が出やすい6).したがって,斜視角が大きく,上下偏位を合併していない共同性内斜視・外斜視の場合は,筆者は両眼の内直筋・外直筋へ注射を行っている(一眼あたりC2.5単位ずつなど).甲状腺眼症で肥大している筋に注射を行う場合は,斜視角によらず初回からC5.0単位を注射することが多い.投与量の決定は施術者の経験に頼る部分があり,経験を重ねても反応には個人差が大きい.しかし,過矯正になったとしても一過性であり,重篤な合併症は起こらない.1432あたらしい眼科Vol.40,No.11,2023(62)図1注射の必要物品と注射の様子a:ツベルクリンシリンジには投与したい量だけを入れておき,全量注射する.b:左眼の内直筋に注射をしているところ.患者にはまっすぐ天井を見させ,電極兼注入針をベベルダウンで垂直に,筋肉の走行に沿って刺入する.ab図2急性後天性共同性内斜視(症例1)a:注射前.20CΔ内斜視を認めた.右眼固視で左眼に外転抑制を認めた.b:注射C1週間後.右内直筋CBTX-A2.5単位注射後,眼位はC4CΔ外斜位となり複視は消失した.ab図3右外転神経麻痺(症例2)a:注射前.35CΔ内斜視を認めた.右眼は正中までの外転制限を認めた.Cb:右内直筋CBTX-A2.5単位注射後C1カ月,眼位は正位となり,右眼の外転制限もなくなった.

複視のある斜視の非観血的治療

2023年11月30日 木曜日

複視のある斜視の非観血的治療Non-SurgicalTreatmentofStrabismuswithDiplopia─PrismorOcclusionTherapyforStrabismuswithDiplopia臼井千惠*はじめに本特集で扱う病的複視(以下,複視)は,網膜対応や複視の間隔(以下,複像間距離)からそれぞれ以下に分類される1).1)網膜対応による分類は,・調和性複視:網膜対応が正常であり,斜視角の大きさと複像間距離が一致している.・不調和性複視:斜視角と複像間距離が一致しない複視で,網膜異常対応のときにみられる.・背理性複視.不調和性複視の特殊なもので,網膜異常対応に基づいて起こる.2)複像間距離による分類・共同性複視:各むき眼位で複像間距離が同じであるもの.共同性斜視にみられる.・非共同性複視:各むき眼位によって複像間距離が異なるもの.麻痺性斜視にみられる.斜視に伴う複視の非観血的治療にはプリズム療法,遮閉療法,視能訓練およびボツリヌス治療がある2)が,本稿では調和性で共同性または非共同性複視へのプリズム療法と,プリズム療法がむずかしい場合の遮閉療法について解説する.Iプリズム療法複視のプリズム療法はプリズム眼鏡を装用することで行われる3).プリズム眼鏡は,原則として患者が正面視で自覚する複視を軽快あるいは消失させる目的で処方され,とくに以下のような場合に有用である.1)斜視角が小さく,手術の適応にならないとき.2)斜視角に変化が生じる可能性が予想されるとき.3)観血的治療(以下,手術)を受けるまでの複視対策.4)手術を望まないときの複視対策である.一方,プリズムには収差があり,複像間距離が大きい場合は,複視を消失させるプリズムの収差が原因で,眼鏡装用が不可能になることがある.複視は自覚的所見であるが,眼鏡の装用感も自覚的な感覚であるため,たとえプリズムで複視を消失させることが可能であっても,患者が複視の苦痛よりプリズム眼鏡の装用感の悪さを重要視してプリズム療法を選択しないことがあり,この場合は遮閉療法(後述)を試みる.1.プリズムの基礎知識プリズムは,入射面から入り放射面から出る光線を常に基底(base)方向に屈折させる.入射光線を延長させた直線と放射面で屈折された光線の成す角を偏角(devi-ationangle)とよび,偏角の大きさをプリズム度数としてプリズムジオプトリー(prismdiopter,単位記号Δ)で表す(図13)).1Δとは入射面から入った光線を1m先で基底方向に1cm偏角させるプリズムであると定義され,次式の関係がある4).1Δ=100×0.01(m)/1(m)偏角i°=arctan(0.01(m)/1(m))≒0.57°*ChieUsui:帝京大学医療技術学部視能矯正学科〔別刷請求先〕臼井千惠:〒173-8605東京都板橋区加賀2-11-1帝京大学医療技術学部視能矯正学科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(51)1421頂角a°頂角a°b(cm)基底(base)図1プリズムの構造と屈折作用プリズムによる光線の偏角iは頂角aとプリズム屈折率nから次式で求める.i=a(n-1)臨床で用いるプラスチック製プリズムの屈折率は約1.5であるため,i=0.5a,すなわち頂角aの1/2が偏角iとなる.さらに,入射面から入った光線をam先でbcm偏角させるPΔおよびi°は次式で求める.PΔ=100×b(m)/a(m)i°=arctan[b(m)/a(m)]なお,図のように光線が入射面に垂直に入射するプリズムの位置をプレンティスポジション(prenticeposition)とよぶ.(文献3より改変引用)基底(base)矯正する対象プリズムの基底(両眼に分けて装用する場合)眼鏡処方箋の記入水平斜視内斜視(内斜位)外方(baseout)右眼:基底外方(baseout)左眼:基底外方(baseout)外斜視(外斜位)内方(basein)右眼:基底内方(basein)左眼:基底内方(basein)垂直斜視右眼上斜視RL下方(basedown)右眼:基底下方(basedown)左眼:基底上方(baseup)右眼下斜視RL上方(baseup)右眼:基底上方(baseup)左眼:基底下方(basedown)図2a水平・垂直斜視のプリズム基底方向(検者からみた場合)プリズムを両眼に分けて装用する場合を想定した眼位別の基底方向を示す.ただし,以下のような例外もある.麻痺性斜視:麻痺眼のみにプリズムを装用したり,左右眼に分ける場合も麻痺眼に強い度数を装用する.共同性斜視だが優位眼が明確な場合:非優位眼(斜視眼)を主体にプリズムを装用する.(文献3より改変引用)矯正する対象プリズムの基底(両眼に分けて装用する場合)眼鏡処方箋の記入水平斜視+垂直斜視例)外斜視右眼上斜視方法1右眼で垂直斜視矯正RL左眼で水平斜視矯正右眼:基底下方(basedown)左眼:基底内方(basein)方法2右眼で垂直・水平斜視矯正L左眼で水平斜視矯正(補足)R右眼:基底内下方(275-355°)左眼:基底外方(basein)方法3L両眼で垂直・水平斜視矯正R右眼:基底内下方(275-355°)左眼:基底内上方(95-175°)例)内斜視右眼上斜視方法1右眼で垂直斜視矯正RL左眼で水平斜視矯正右眼:基底下方(basedown)左眼:基底外方(baseout)方法2右眼で垂直・水平斜視矯正RL左眼で水平斜視矯正(補足)右眼:基底外下方(185-265°)左眼:基底外方(baseout)方法3RL両眼で垂直・水平斜視矯正右眼:基底外下方(185-265°)左眼:基底外上方(5-85°)図2b水平斜視と垂直斜視が合併する場合のプリズム基底方向(検者からみた場合)水平斜視と上下斜視が合併する場合のプリズム基底方向の組み合わせを,上段に水平斜視が外斜視,下段に内斜視の場合でそれぞれ示す.垂直斜視が合併しても外斜視は基底内方(basein),内斜視は基底外方(baseout)で基本的な方向性は変わらない.方法1:水平と垂直の斜視角が近似しない場合は,一眼に水平,他眼に垂直のプリズムを装用する.方法2:水平斜視角を2分して,一方を垂直斜視角と近似させて1枚の合成プリズムとし,基底を斜め方向に装用する.残りの水平斜視角矯正分のプリズムを他眼に装用する.方法3:水平斜視角と垂直斜視角が近似している場合は1枚の合成プリズムとし,それを2等分して等量を各眼に基底を斜め方向に装用する.【実際例】内斜視,右上斜視に由来する複視を8Δ基底外方,垂直5Δ基底下方のプリズムで矯正した.方法1:右眼に5Δ基底下方,左眼に8Δ基底外方に装用する.方法2:垂直斜視角5Δに合わせて水平斜視角8Δを5Δと3Δに分け,水平・垂直5Δの合成プリズム7Δを右眼に225°,水平の残り3Δを左眼に基底外方に入れる.方法3:水平斜視角8Δを左右5Δと3Δに,垂直斜視角5Δを3Δと2Δにそれぞれ分け,右眼に水平・垂直3Δの合成プリズム4Δを225°,左眼に水平5Δ・垂直2Δの合成プリズム5Δを20°に入れる.実際には,方法1は左眼のプリズムを特別注文の組み込みレンズか膜プリズムにするが,左右眼のプリズムの基底方向が大きく異なるため良好な装用感は得られない可能性が高い.方法2は右眼のプリズムを特別注文の組み込みレンズか膜プリズムにし,左眼は組み込みレンズにすることになる.外見は両眼組み込みレンズがよく,価格的には右眼膜プリズムの選択が安価になる.方法3は左右眼のΔが近似し,既製品の組み込みレンズが対応可能な度数のため,最も理想的なプリズム眼鏡になると思われる.なお,合成プリズム度数は計算時に小数点以下を切り捨てるため実際の計算値より低矯正となり,自覚的に複視が残存する可能性がある.その場合は微調整を行う.==上方上方右(baseup)(baseup)左外上方外上方95~175°5~85°外方外方(baseout)(baseout)180°0°外下方外下方185~265°下方下方275~355°(basedown)(basedown)270°270°図3検眼枠の乱視軸とプリズム基底との関係プリズム基底方向と検眼枠の乱視軸との関係を示す(基底方向を全て360°で表記することを推奨する意見もある).斜めの基底は,水平斜視と垂直斜視が合併し,それぞれを矯正するプリズムを合成して1枚のプリズムで矯正するときの基底方向となり,角度(°)で表す.1/2D1D2D3D4D6D図4眼鏡処方に用いる組み込みプリズムレンズ検眼レンズセットの組み込みプリズムトライアルレンズ各種.度数が増えると基底方向の厚さが増し,レンズによる収差が強くなる.厚いほうが基底方向(図中央下では黒線方向).装用練習では,トライアルレンズは検眼枠のもっとも眼に近いところに挿入する.膜プリズム断面(拡大図)前眼部側レンズ側平らな面をレンズに貼りつける軟質のポリ塩化ビニル35D10D膜プリズムトライアルレンズ検眼枠にはもっとも眼に近い場所に挿入する図5眼鏡処方に用いる膜プリズム柔らかいシート状のプリズムで,片面に幅の狭いプリズムが帯状に並び,反対面は平面になっている.平面側を眼鏡レンズの内側に貼る.右下は眼鏡の左レンズに膜プリズムを装用した時の外見.帯の幅はプリズム度数が強くなるほど細かくなる(図中央上,右10Δ,左35Δ).装用練習に用いる膜プリズムトライアルレンズは検眼枠のもっとも眼に近いところに挿入する.左レンズに膜プリズム装着検討には患者の融像幅による融像域を考慮する.5.症例別にみるプリズム治療a.麻痺性斜視による複視原則として正面視の水平・垂直複視の軽減や消失を目的に処方を行う(回旋複視はプリズムでは矯正できない).眼筋麻痺では麻痺筋の作用方向で複視が増悪するが,すべての方向で複視を消失させることはできない.ただし,融像幅の狭い垂直斜視角をプリズムで矯正すると水平・回旋の融像が容易になり,水平斜視角も実測値より弱いプリズム度数で複視を矯正できることがある.また,正面視の複視を矯正すると,むき眼位の複視や代償性頭位異常が軽減することもある.開散麻痺ではおもに遠見で同側性複視を自覚するため,遠見の複視を矯正すると近見で交差性複視が出現する可能性がある.患者の融像幅を考慮し,近見で複視が出現せず,遠見の複視も軽快できるプリズム度数を検討する.症例1:60代,男性.右眼上斜筋麻痺.主訴:5年前からのおもに近見での上下・回旋複視と遠見での奥行き感の喪失.所見:眼位は右眼上斜視で,左眼固視による大型弱視鏡検査では正面視+3°R/L1.5°外方回旋8°で,融像域は正面視で上下・回旋偏位を矯正すれば.2.+19°であった.対応:正面視での右眼上斜視(R/L1.5°)に対して,右眼2Δ基底下方(基底270°),左眼2Δ基底上方(基底90°)を装用したところ,上下・回旋複視が軽快し,遠見の奥行き感も改善したため,累進屈折力レンズによる遠近プリズム眼鏡(後述)を作製した.症例2:40代,男性.開散麻痺.主訴:1年前からの遠見での同側性複視.所見:眼球運動検査で各むき眼位に運動制限を認めず,遠近プリズム遮閉試験では遠見30Δ,近見6Δであった.大型弱視鏡による融像幅は.8.+29°であったが融像域は+4.+43°と開散方向の融像幅でも眼位が0°に達しなかった.対応:融像域の開散側を0°にする目的で,患者の自覚を重視しながら各眼5Δ基底外方(合計10Δ,右眼基底180°,左眼基底0°)のプリズム眼鏡を装用したところ,遠見で複視を自覚する頻度が減少した.手術希望があり,プリズム眼鏡は手術までの複視対策として装用することになった.b.間欠性外斜視による複視(眼精疲労)外斜視が顕性化する頻度を減少させ,斜位の状態に保つ目的で処方を行う.患者の融像幅を考慮し,輻湊を補助する弱いプリズム度数で矯正することが多いが,輻湊不全があり筋性眼精疲労が起きている場合は眼位を完全矯正する度数を選択したほうがよいことがある.症例3:10代,女性.主訴:ときどき自覚する遠見での複視.所見:20Δの間欠性外斜視があり,輻湊良好で,大型弱視鏡検査による融像域は.11.+30°であった.対応:手術を希望しないため,両眼に3Δ基底内方(合計6Δ,右眼基底0°,左眼基底180°)のプリズム眼鏡を装用したところ,斜位の頻度が増え,遠見での複視も消失した.症例4:30代,男性.主訴:PC作業が主体の仕事で,夕方以降に出現する複視で歩くのも躊躇するほどつらい.所見:遠見12Δ,近見30Δの間欠性外斜視だが輻湊は良好で,融像幅は開散側10Δ,輻湊側30Δであった.対応:各眼5Δ基底内方(合計10Δ,右眼基底0°,左眼基底180°)のプリズム眼鏡を作成した.プリズム眼鏡装用直後は地面が立体的に見えて気分が悪くなることが頻繁にあったが,2週間程度で落ち着き,現在は眼疲労と複視が軽快した.c.検査時に発見される複視眼鏡処方のための視力検査などで患者の複視がみつかることがある.患者は片眼ずつの視力検査では良好な視力を得ているにもかかわらず,両眼では視力が低下したり違和感を訴えたりするが,はっきり複視として自覚しないこともある.眼位検査で斜視およびそれに起因する複視が検出されたら,プリズムでの矯正を試みる.なお,眼位異常の説明は主治医が診察時に行うのが望ましく,視能訓練士は検査中の安易な発言を控える.症例5:70代,男性.主訴:両眼視下での違和感.1426あたらしい眼科Vol.40,No.11,2023(56)図6急性内斜視の症例(初診時)10代,男性.主訴:6カ月前からの遠見での複視と内斜視.所見:大型弱視鏡検査で右眼固視の正面視は+24°,融像域は+16.38°で,正位にならない.常に右眼固視のため,左眼内斜視の外見と同側性複視を解消させるために髪型を工夫している.(本人および家族の許諾を得て掲載)全遮閉部分遮閉すべてのむき眼位で右眼の単眼視左方視のみ右眼の単眼視図7眼鏡を利用した遮閉療法の種類図左側:全遮閉はレンズ全体を遮閉して単眼視にする.図右側:部分遮閉は複視を自覚するむき眼位の方向を遮閉して部分的に単眼視にする.abcクリアブラウン30%グレー30%図8眼鏡レンズを遮閉する方法各種a:従来から使用されてきたすりガラスによる片眼遮閉.b:オクルア(東海光学株式会社),すりガラスに比べ,外から遮閉下の眼が見えるため外見が自然である.色はクリア以外にブラウンとグレーがある(%は色の濃度を表す).c:弱視治療法眼鏡箔(RyserMedical,アールイーメディカル株式会社),正方形の膜を用途に応じてカットし,レンズの裏側に貼りつけて使用する(膜プリズムと同様に水滴を利用して貼りつける).上段0.0は肌色の膜による完全遮閉になるため,患者の視力は光覚に低下し,外から遮閉下の眼は見えない.中段LPの患者の視力は指数弁程度,下段<0.1は視力0.1未満の遮閉効果があり,オクルアと同様に外から遮閉下の眼が見える.(a,bの画像提供:東海光学株式会社)

眼窩MRIの撮像と読影─Sagging eye syndromeと強度近視性内斜視の画像診断

2023年11月30日 木曜日

眼窩MRIの撮像と読影─Saggingeyesyndromeと強度近視性内斜視の画像診断ScanningConditionsandInterpretationsforOrbitalMRIImaging-ImageDiagnosisofSaggingEyeSyndromeandHighlyMyopicEsotropia河野玲華*はじめに複視を伴って中高年で発症する後天性の斜視,なかでも後天性内斜視については,まだ分類が定まっていない.解剖学的要因が原因の内斜視としては,眼球の長軸方向への伸展によって眼球後部が筋円錐から脱臼して生じる強度近視性内斜視や,その重症型である固定内斜視とheavyeyesyndrome1),中高年における後天性複視の原因の約30%を占め,加齢性変化による眼窩プリーの位置異常によって遠見内斜視あるいは回旋上下斜視を生じるsaggingeyesyndrome(SES)2),正常眼軸眼や若年でも発症し,眼窩に対して眼球が大きいことが原因で,明らかな眼球運動障害を伴わない開散不全型の内斜視または上下斜視を呈する眼窩窮屈症候群(crowdedorbitalsyndrome3))などがある.眼窩窮屈症候群は疾患概念としては固定内斜視の軽症例とされ,軽度の機械的外転制限と内斜視を有する強度近視性内斜視との病態のオーバーラップがある.また,近視を伴うSESや軽症の強度近視性内斜視では,加齢による眼周囲の結合組織プリーの脆弱化や近視進行による眼球の拡大によって固定内斜視へ移行することが推察されている.SESと軽症の強度近視性内斜視は,斜視角の程度,眼球運動制限の有無などの臨床所見だけで診断するのが困難なこともあり,画像診断が重要となる.本稿では,SESと強度近視性内斜視の磁気共鳴画像(magneticres-onanceimaging:MRI)の診断のための眼窩MRIの撮像と読影のポイント,両疾患の臨床所見とMRI所見の定性的評価について解説する.I眼窩MRIの撮像と読影のポイント解像度が良好なMRIは,正確な画像診断の第一歩である.眼窩MRIを撮像するときは,冠状断と軸位断(水平断)を基本とし,状況に応じて矢状断を追加する.一般的に,外眼筋の観察にはT1強調像,炎症性疾患やSESの外直筋-上直筋バンド(LR-SRband)など眼窩周囲結合組織の観察にはT2強調像が適している.成人眼窩は,通常,.eldofview(FOV)120×120mmの範囲でカバーできる.スライス厚は2.3mm程度が適切である.SESと強度近視性内斜視の鑑別を念頭におく場合は,少なくとも冠状断については,T1強調像とT2強調像,両方の撮像を勧める.著者は,T1冠状断は3mmスライス厚で眼窩全体を,T2冠状断は2mmスライス厚で眼窩プリー組織の箇所を中心に撮像している.T2強調像は,T1強調像よりも瞬目や眼球運動の影響を受けにくいため,T1強調像では判定が困難であった外直筋-上直筋バンドの連続性が,T2強調像では確認できることもしばしば経験する(図1).眼窩の開口部と視神経管を結ぶ,解剖学的眼窩軸に直交するquasi-coronalは直筋と視神経に対してほぼ直交する面となるため,直筋の位置の判定の精度が増し,眼球や直筋をとりまく眼窩結合組織の形状の評価に有用である.また,眼窩側壁によるアーチファクトの影響を冠*ReikaKono:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学講座,河野眼科〔別刷請求先〕河野玲華:〒700-8558岡山市北区鹿田町2-5-1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学講座0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(45)1415外直筋.上直筋バンド外直筋.上直筋バンド外直筋.上直筋バンド外直筋.上直筋バンド外直筋.上直筋バンド正常正常偏位断裂断裂(消失)(17歳)(46歳)(42歳)(82歳)(76歳)図1眼窩MRIにおける外直筋-上直筋バンドの加齢性変化上段:Quasi-coronalT1強調像.下段:Quasi-coronalT2強調像.上段と下段のペアCa,b,c,d,eはおおむね同一面の画像.T2強調像における外直筋-上直筋バンド().図2:MRI冠状断におけるSESと強度近視性内斜視の比較a:SES(T1強調像).外直筋-上直筋バンドの断裂(),外直筋(*)の下方偏位.Cb:強度近視性内斜視(T1強調像).筋円錐外への眼球後部脱出().眼球の圧迫による外直筋(*)の下方偏位と上直筋(C#)の鼻側偏位.laterallevatoraponeurosis(superolateralintermuscularseptum)().図3MRI軸位断におけるSESと強度近視性内斜視の比較a:SES(T1強調像).内直筋(**)よりも外直筋(*)の厚みが薄く描出.Cb:強度近視性内斜視(T1強調像).後部ぶどう腫(),外直筋(*)の一部が描出.~b図4MRI矢状断におけるSESと強度近視性内斜視の比較a:SES(T2強調像,右眼).上眼瞼溝の深掘れ(),上眼瞼挙筋の菲薄化().b:強度近視性内斜視(T1強調像,右眼).軸位断では確認できなかった,後部ぶどう腫を認める.表1SESと強度近視性斜視の臨床所見とMRI所見の比較SES強度近視性内斜視臨床所見発症年齢,性差,症状・中高年で発症,女性に多い・後天性の遠見複視(近見は両眼単一視可能)・成人で発症,女性に多い・後天性の複視眼位,眼球運動・遠見内斜視,近見眼位がおおむねC10C.以下の内斜位または正位・回旋上下斜視は下斜視眼の外方回旋が上斜視眼よりも大きい・内斜視と回旋上下斜視を合併した混合型あり・外転制限なし・水平の衝動性眼球運動正常・内斜視,上下斜視の合併・機械的外転制限と上転制限あり・軽症例は軽度の機械的外転制限と内斜視眼瞼・腱膜性眼瞼下垂・上眼瞼溝の深掘れ(superiorsulcusdeformity)・下眼瞼のたるみ(baggyeyelid)MRI所見眼球形状と眼球後部脱出の有無・眼球後部脱出なし,筋円錐内(円弧に外直筋と上直筋の重心を含む円内)に眼球がある・軸性の強度近視あり・後部ぶどう腫・筋円錐外への眼球後部脱出(上直筋と外直筋の間からの脱出)直筋プリー・少なくとも片眼に外直筋の下方偏位・下直筋プリー,内直筋プリーの下方偏位・外直筋上方の耳側傾斜・眼球の圧迫による外直筋下方偏位と外直筋の上方耳側傾斜,上直筋の鼻側偏位(眼球による圧迫のため,眼球と外直筋,上直筋は接している)外直筋-上直筋バンド・外直筋-上直筋バンドの菲薄,伸展,断裂,消失・眼球の圧迫によって,外直筋C-上直筋バンドは消失上斜筋・上斜筋萎縮なし・上斜筋萎縮なし*重要なものは太字で示した.~–