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屈折矯正手術:角膜クロスリンキング前後の屈折変化

2014年12月31日 水曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載175大橋裕一坪田一男175.角膜クロスリンキング前後の屈折変化加藤直子埼玉医科大学眼科角膜クロスリンキングは,円錐角膜の進行を停止させる手術である.個々の症例をみると,術後に角膜形状が若干平坦化し,乱視度数が軽減するものもあるが,その変化はわずかである.角膜クロスリンキング単独で視機能を改善させるほどの効果はなく,視機能の改善には他の屈折矯正法を組み合わせる必要がある.●はじめに角膜クロスリンキングは円錐角膜の進行を停止させる治療である1).その歴史はまだ10年あまりと短いが,世界各国で多くの円錐角膜症例に対して施行され,90%以上で円錐角膜の進行停止効果が確認されている.●原理リボフラビンに長波長紫外線を照射することで発生する一重項酸素の作用で,角膜実質のコラーゲン線維間の架橋結合を増加させる.架橋結合が増えたコラーゲン線維は直径がわずかに増加し,角膜全体の剛性が高まるこ3に示すのは,角膜クロスリンキングを行った26例29眼(男性16例,女性10例,22.2±6.2歳)の術前から術後にかけての強主経線上の角膜屈折力(図1),自覚等価球面値度数(図2),自覚円柱乱視度数(図3)である.いずれも術前値と比べて統計的に有意な変化はみられない.それを反映して,最終観察時の最高眼鏡矯正視力は70%以上の症例で不変である(図4).一方,角膜クロスリンキングにより角膜屈折力は若干平坦化するという報告がある3).実際に自験例でも個々0.00-2.00自覚等価球面度数(D)とで眼圧による角膜の前方突出が予防されると考えられている2).角膜の透明性は維持され,重篤な合併症はまれである.●治療効果-4.00-6.00-8.00-10.00-12.00角膜クロスリンキングは,円錐角膜の進行を停止させPre1W1M3M6M1Yる治療であり,屈折異常を矯正する効果はない.図1~図2角膜クロスリンキング後の自覚等価球面度数の変化角膜クロスリンキング後,自覚等価球面度数は術前値と比べて有意な変化はない.70強主経線上角膜屈折力(D)円柱乱視度数(D)0.0060-1.00-2.00-4.00-3.00-6.00-5.0050Pre1W1M3M6M1Y図1角膜クロスリンキング後の強主経線上角膜屈折力の変化角膜クロスリンキング後,強主経線上角膜屈折力は術前値と比べて有意な変化はない.(87)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY-7.00-8.00Pre1W1M3M6M1Y図3角膜クロスリンキング後の自覚円柱乱視度数の変化角膜クロスリンキング後,自覚円柱乱視度数は術前値と比べて有意な変化はない.あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141825 80%70%60%50%40%30%20%10%0%2段階低下不変2段階改善3段階以上改善図4角膜クロスリンキング後の最高眼鏡矯正視力の変化角膜クロスリンキングを受けた症例の77%で,最終観察時の最高眼鏡矯正視力は術前値と比べて不変である.の症例ごとにみると,平坦化していると思われる症例はある.図5に,29歳女性の円錐角膜症例での角膜クロスリンキング術前から術後1,3,6カ月までの角膜形状の変化を示す.この症例は1年前まで眼鏡矯正視力が良好であったにもかかわらず,半年余りの間に乱視が著しく進行し,矯正視力も0.8に低下し,角膜形状解析検査にて明らかな円錐角膜パターンが確認された.術前の強主経線上の角膜屈折力は50.1Dであったが,角膜クロスリンキング術後1カ月目には50.5Dと若干急峻化した.しかし,3カ月目には49.5Dと術前値よりわずかに減少し,術後6カ月目には48.1Dとさらに減少し,術前と比べて2.0Dの平坦化がみられた.この症例では,自覚屈折度数は等価球面で術前.6.13D,術後6カ月目で.6.25D,円柱乱視度数は術前.2.75D,術後6カ月目で.2.00Dで,術後に乱視度数にも減少がみられた.しかし,これらの変化はごくわずかであるため,患者が大きな改善を自覚するほどではなく,実際に最高眼鏡矯正視力は不変であった.●手術適応筆者の施設では,角膜クロスリンキングの手術適応を,直前の2年間以内に強主経線上の角膜屈折力,自覚等価球面度数,自覚円柱度数のいずれかが1.0D以上増加している症例と定めている.したがって,術後に角膜の急峻化が止まり,逆にわずかながらも角膜の平坦化やカカカ図5角膜クロスリンキング前後の角膜形状の変化角膜クロスリンキング後角膜形状には一見してわかる変化はみられない.乱視の減少がみられることから,これらの症例で角膜クロスリンキングにより円錐角膜の進行が停止していることはまず間違いないと考えられる.しかし,角膜クロスリンキングによる屈折変化はごくわずかであり,屈折矯正効果が期待できるものとはとてもいえない.視機能を改善させるためには,術後にコンタクトレンズの装用や他の屈折矯正手術の併用が必須であることを,術前からよく説明しておく必要がある.文献1)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Riboflavin/ultraviolet-ainducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkeratoconus.AmJOphthalmol135:620-627,20032)WollensakG,WilschM,SpoerlEetal:Collagenfiberdiameterintherabbitcorneaaftercollagencrosslinkingbyriboflavin/UVA.Cornea23:503-507,20043)KollerT,PajicB,VinciguerraPetal:Flatteningofthecorneaaftercollagencrosslinkingforkeratoconus.JCataractRefractSurg37:1488-1492,20111826あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(88)

眼内レンズ:多焦点トーリック眼内レンズ

2014年12月31日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋338.多焦点トーリック眼内レンズビッセン宮島弘子東京歯科大学水道橋病院多焦点にトーリック機能が加わった多焦点トーリック眼内レンズ(intraocularlens:IOL)が承認を受け,角膜乱視例への適応が広がった.手術方法は,IOLの乱視軸を角膜強主経線に合わせる操作が加わるのみのため,乱視矯正角膜切開術を施行していない術者でも導入が容易で,術後に良好な遠方および近方裸眼視力が得られている1,2).●IOLの特徴本セミナーで紹介するのは,厚生労働省の承認を得たアルコン社のAcrySofRIQReSTORRトーリックで,前面が近方加入+3.0Dの多焦点IOL(SN6AD1),後面がトーリックIOL(SN6AT)と同じデザインになっている(図1).したがって,最適近方視の距離が40cm,矯正可能な角膜乱視度数は表1のごとくである.●IOLモデル決定ウェブ上のトーリックカリキュレーターでAcrySofRIQReSTORRMultifocalToricIOLを選択し,角膜曲率3.0mm前面後面13.0mm図1AcrySofRIQReSTORRトーリック前面が近方加入+3.0Dの多焦点IOL(SN6AD1),後面がトーリックIOL(SN6AT)と同じデザインになっている.表1各モデルの円柱矯正度数IOLモデル円柱矯正度数(D)IOL面角膜面SND1T31.501.03SND1T42.251.55SND1T53.002.06SND1T63.752.57(85)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY半径,各施設の方法で計算されたIOL球面度数,切開位置,術後惹起乱視を入力する.近年,角膜後面乱視を考慮した角膜全乱視が注目されているが,多くの施設では角膜前面乱視のみの計測になるので,乱視軸によってカリキュレーターの推奨モデル,あるいは1モデル強め,あるいは弱めを選択する.●手術方法基本はトーリックIOLと同じである.仰伏位による眼回旋を考慮し,術前に座位にて基準点(水平あるいは垂直)をマークし,IOLの乱視軸を,基準点を参考に求められた強主経線位置に合わせる.近年,術前に撮影した画像の結膜血管を術中の手術顕微鏡下の結膜血管と照合させ,眼回旋を補正して正しい強主経線位置を提示する装置が開発され(図2),これによって,術前や術中のマーキングなしでトーリックIOLの位置を合わせるこ図2マーキングを用いない術中の乱視軸合わせ手術顕微鏡画面にオーバーレイされた角膜強主経線位置(黄色矢印)にIOLの乱視軸マークを合わせる.これにより,術前の基準点マーキングや術中の乱視軸マーキングが必要なくなる.あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141823 図3多焦点トーリックIOL挿入後の波面収差解析結果乱視マップにて,角膜収差と内部収差(主にIOL)が打ち消し合い,眼球収差が軽減しているのがわかる.とができるようになった.●術後成績わが国における臨床試験での成績が報告されている2).術前角膜乱視が1.0D以上の症例でも,術後に良好な裸眼視力が得られている.以前,同施設で行われた角膜乱視の少ない症例にトーリック機能をもたない多焦点IOLを挿入した臨床成績と比較しても3),同等あるいはそれ以上の結果であった(表2).また,IOL軸位置のずれは術後1年で5.7±4.4°で,多くのトーリックIOLの報告と変わりなかった.これらの結果から,今後,角膜乱視がある症例で多焦点IOLを希望する場合,多焦点トーリックIOLを用いることで,より良好な裸眼視力が得られることになる.最近経験した症例を紹介する.62歳,女性,術前視力が右0.09(0.8x.4.75Dcyl.2.00/30°)左0.06(1.0x.4.50Dcyl.3.25/160°),角膜乱視が右(,).2.20@8°,左.3.09@166°の白内障例に右眼SND1T5,左眼SND1T6を挿入し,術後両眼とも遠方裸眼視力1.5,近方視力1.0が得られている.波面収差解析にて,IOLで乱視成分が軽減されているのが確認できる(図3).直乱表2多焦点トーリックIOL挿入後の両眼裸眼視力多焦点トーリックIOL(SND1T3-6)2)乱視の少ない例への多焦点IOL(SN6AD1)3)症例数65例130眼64例128眼平均年齢66.4±9.9歳68.8±6.2歳遠方(5m)≧0.798.5%96.8%≧1.078.5%76.2%近方(40cm)≧0.4100%100%中間(100cm)≧0.778.5%73.0%視とはいえ,トーリック機能のない多焦点IOLでは得られない良好な術後成績と思われる.●おわりに多焦点トーリックIOLは,今までは海外で使われている多焦点トーリックIOLを輸入して,限られた施設のみで使用されてきたが,国内で臨床試験を行い,安全性と有効性が確認され,承認を得たIOLの使用が可能になった.今後,角膜乱視例で多焦点IOLを断念していた症例に適応が広がることが期待される.文献1)AlfonsoJF,KnorzMC,Fernandez-VegaLetal:Clinicaloutcomesafterbilateralimplantationofanapodized+3.0Dtoricdiffractivemultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg40:51-59,20142)中村邦彦,ビッセン宮島弘子,林研ほか:着色非球面多焦点乱視矯正眼内レンズ(SND1T3,SNDAT4,SND1T5,SND1T6)の白内障摘出眼を対象とした臨床試験成績.日眼会誌,印刷中3)ビッセン宮島弘子,林研,吉野真未ほか:近方加入+3.0D多焦点眼内レンズSN6AD1の白内障摘出眼を対象とした臨床試験成績.あたらしい眼科27:1737-1742,2010

コンタクトレンズ:屈折検査(2)自覚的屈折検査のコツ

2014年12月31日 水曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一7.屈折検査(2)自覚的屈折検査のコツ梶田雅義梶田眼科●はじめにオートレフラクトメータ(以下,オートレフ)が普及していない時代には,最小錯乱円矯正を求めた後に乱視を検出して,最良視力が得られる最弱屈折値を求めていた.オートレフの性能が向上した昨今では,乱視を先に矯正して自覚的屈折検査を行うほうが現実的である.●自覚的屈折検査の手順測定の初期値設定注意深く測定した1)オートレフのデータをもとに,円柱レンズ度数はオートレフの球面度数から0.75D減じた値の検眼レンズを,オートレフの円柱軸度に10°ステップで近似して検眼枠に装入する.球面度数はオートレフの測定値から.0.75Dを減じた検眼レンズを検眼枠に装入する.非測定眼の検眼枠には遮蔽板を装入する.●視力値の判定視力検査を行うときに,回答結果が正しかったか誤っていたかを被験者に知らせてはいけない.被験者が「わかりません」と回答したのを採用してはいけない.被験者には必ず回答をしてもらい,回答視標数に対する正答表1視力判定基準標準閾値準標準閾値1視標1正答2視標2正答3視標3正答4視標3正答5視標3正答5視標4正答6視標4正答7視標4正答8視標5正答9視標5正答10視標6正答文字視標を含む場合には準標準閾値を採用し,ランドルト環のみに視力表の場合には標準閾値を用いる.(83)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY数の割合で視力値を判定する(表1).回答するのに考え込んでしまうような状況を作らないように,一定のリズムで進めるのがよい.測定のフローチャート(図1)①初期設定の状態で視力表を読ませて,矯正視力値を判定する.この時点ですでに1.0以上の視力値が出ている場合には,球面度数をさらに.0.75D減じて,一度は1.0未満の矯正視力が得られる矯正度数を取得する.②.0.25Dずつ矯正度数を増して,1.0を超える最良視力が得られる最弱屈折値を求めれば測定は終了である.③1.0を超える矯正視力が得られる前に球面矯正度数がオートレフの球面度数を超える場合には,乱視矯正度数を0.25Dあるいは0.50D強めて,最初から測定をやり直す.④乱視矯正度数もオートレフの値を超える場合には,自覚的に乱視度数を求めて,検査をやり直す.●自覚的乱視の測定自覚的に乱視を求めるのは乱視表(図2)を用いるの図1自覚屈折検査のフローチャート一度は視力が1.0未満になる矯正度数を求めることで,近視の過矯正が防げる.最初に0.75Dの乱視を残して検査を行うことで,被験者の乱視に対する感受性をチェックすることができ,個人ごとに異なる快適な乱視矯正を提供できる.球面値がオートレフ未満で視力値1.0未満球面値がオートレフ値に達しても1.0未満の時オートレフの円柱値より大きいオートレフの円柱値より小さい視力値1.0以上1.0未満スタート球面度数に+0.75Dを加える球面度数に-0.25Dを加える視力値視力値1.0以上あるいは球面・円柱ともに完全矯正に達したとき円柱度数に-0.50Dor-0.25Dを加える終了円柱度数自覚的乱視検査あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141821 1822あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(00)が一般的であるが,スリット板を用いるほうが容易に測定できる.スリット板を用いる方法(図2)①最小錯乱円の矯正から.1.00Dを減じて,スリット板を検眼枠に加える.②スリット板を回転させて,視力表の全体の見え方を問う.視力表全体の見え方に変化があれば,正乱視が存在する.③スリット板を回転させて,視力表全体がもっとも鮮明に見えるところでスリット板を止める.このときのスリット方向がマイナス円柱レンズの軸度である.④この状態で,球面度数のみで最良視力値が得られる最弱屈折値を求める.この球面レンズ度数〔S1〕が,自覚的屈折値の球面度数である.⑤続いて,スリット板を90°回転させて,球面レンズを.0.25Dずつ追加を繰り返して,最良視力値が得られる最弱屈折値を求める.このときの球面度数〔S2〕と④で求めた〔S1〕の差〔S2-S1〕が,自覚的屈折値の円柱レンズ度数である.これらの方法で求めた自覚的屈折値は片眼で最良視力が得られる最弱屈折値を求めたものであり,快適な視力が得られる矯正度数ではない.矯正用具の処方にはこの後に,両眼同時雲霧法2)で適正な矯正度数を求める必要がある.●近方視力検査標準的な近方視力検査表は30cmで測定するものが多いが,遠近両用眼鏡や遠近両用コンタクトレンズを処方するときには40cmで測定する近方視力表を用いるほうが,処方成功率が高くなる.●赤緑試験(レッドグリーンテスト)矯正度数の適正を判定するために用いられている赤緑試験であるが,調節ができる眼ではまったく適切に判定されていない事実はあまり知られていない.赤緑試験の原理は光の波長が異なることで,凸レンズ(角膜と水晶体)を通った光は赤色のほうが緑色よりも後ろで収束し,白色光はその間に存在するため,赤色が明瞭に見えて,緑色が不明瞭であれば,白色光は網膜よりも前で収束しており,過矯正ではないと判定するものである.しかし,調節ができる眼では,赤色の焦点が網膜面後方にずれると,赤色が網膜面で正しく結像するように調節をしてしまうため,過矯正の判定には役に立たないのである.もちろん調節麻痺薬使用時や眼内レンズ挿入眼では有用である.文献1)梶田雅義:コンタクトレンズセミナー6.屈折検査(1).あたらしい眼科31:1633-1634,20142)梶田雅義,山田文子,伊藤説子ほか:両眼同時雲霧法の評価.視覚の科20:11-14,1999ZS937図2スリット板絆創膏でスリットを塞いで遮蔽板の代用にしている施設が多いが,スリット板として活用していただきたい.

写真:慢性涙嚢炎に併発した角膜穿孔

2014年12月31日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦367.慢性涙.炎に併発した角膜穿孔山中行人外園千恵京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①穿孔,②潰瘍,③結膜の充血.図1当院初診時角膜中央部やや鼻側に急峻に掘れこむ潰瘍を認めた.中央部は穿孔していた.図3当院初診時図4角膜潰瘍閉鎖後角膜穿孔部は閉鎖している.(81)あたらしい眼科Vol.31,No.12,201418190910-1810/14/\100/頁/JCOPY 慢性涙.炎は鼻涙管ないし涙.‐鼻涙管移行部の閉塞によって涙.内に涙液が停滞し,病原微生物が増殖した病態をさす.涙.内に膿が貯留し,慢性的な炎症を伴う.しかしながら眼脂や流涙の訴えに乏しく,慢性結膜炎と診断されている症例も少なくない.慢性涙.炎はときに感染巣を伴わない角膜穿孔をきたすことが,日野らによって報告されている1,2).<症例>83歳,女性.主訴:既往歴:高血圧症現病歴:2013年12月25日,近医受診.右眼に多量の眼脂,角膜潰瘍があり,0.5%モキシフロキサシン点眼2時間ごと,オフロキサシン眼軟膏3/日,レボフロキサシン内服が処方された.2日後の再診時,角膜穿孔をきたし前房消失していたために,同日(12月27日)当科紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.03(n.c.),左眼0.1(0.8×sph+3.5D(cyl.1.5DAx120°).右眼に多量の膿性眼脂を認め,角膜中央部やや鼻側に急峻に掘れこむ潰瘍を認めた(図1,2).角膜潰瘍の中央部は穿孔しており,ザイデル試験陽性,前房は消失していた.潰瘍部に明らかな細胞浸潤を伴わず,前房内炎症も認めなかった.通水試験を施行したところ,多量の膿の逆流を認め,慢性涙.炎と診断した.経過:0.3%ガチフロキサシン点眼4/日,0.5%セフメノキシム点眼2/日,オフロキサシン眼軟膏3/日,セフカペン(100)3錠分3にて治療を開始し,2日後に角膜潰瘍は上皮化,10日後の再診時には穿孔部の閉鎖を得た(図3).その後,涙管チューブを挿入し,慢性涙.炎は軽快,治癒した.考察:本症例の鑑別疾患として,Mooren潰瘍やリウマチ性角膜潰瘍,角膜感染症があげられる.Mooren潰瘍では角膜輪部に沿って潰瘍が進展し,本症とは部位が異なる.リウマチ性角膜潰瘍は,本症例に類似した角膜潰瘍を形成することがあるが,本症例は膠原病を有さず,またリウマチ性角膜潰瘍で通常伴う二次性Sjogren症候群を伴っていなかった.潰瘍部には膿瘍や細胞浸潤を伴っておらず,前房蓄膿もないために角膜感染症も否定的と考えられた.前医の初診時に多量の眼脂があったことより,感染の可能性を完全には否定できないものの,潰瘍部分に細胞浸潤がないこと,前医処方による抗菌薬の使用が2日間という短期間であったことから,角膜感染症による穿孔とは考えにくかった.実際,初診時に行った右眼の眼脂培養で細菌を検出しなかった.一方,慢性涙.炎があり,当科初診時にも多量の眼脂を認めたことより,多量の膿貯留が関与して穿孔部局所で角膜実質融解が急速に進行したことが疑われた.すなわち,好中球のライソゾーム酵素や,眼脂に含まれる菌毒素などが複合的に関与し,急速な穿孔をきたしたことが疑われた.そこで,膿(好中球)を除去することを目的に涙道洗浄を施行し,圧出された膿を丁寧に除去し続けたところ,約10日後に潰瘍の治癒を得た.日野らは本症例と類似の症例を報告し,多量の膿性眼脂を伴う高齢者の角膜潰瘍で細胞浸潤に乏しい場合には,通水試験を行い,慢性涙.炎の有無を確認する必要があると指摘している2).慢性涙.炎による角膜潰瘍が疑われた場合は,感受性のある抗菌薬の点眼と内服を処方し,涙道再建術を行うことが望ましい.古くより慢性涙.炎は角膜感染症の重要なリスクファクターであり,肺炎球菌性角膜炎など膿瘍を伴う感染症をきたす.一方で本症例のように,角膜実質内の細胞浸潤を伴わず,二次的ともいえる角膜潰瘍をきたす可能性があることを知っておきたい.文献1)芝野宏子,日比野剛,福田昌彦ほか:慢性涙.炎が原因と考えられた周辺部角膜潰瘍の3例.眼臨医報101:755758,20072)日野智之,外園千恵,渡辺彰英ほか:慢性涙.炎が契機と考えられた角膜潰瘍の3症例.あたらしい眼科31:567570,20141820

視神経疾患の「OCTを読む」

2014年12月31日 水曜日

特集●OCTを読むあたらしい眼科31(12):1805.1810,2014特集●OCTを読むあたらしい眼科31(12):1805.1810,2014病的近視の「OCTを読む」OpticalCoherenceTomographyofPathologicMyopia島田典明*大野京子*はじめに病的近視は,眼軸の延長に加えて,後部ぶどう腫や視神経乳頭傾斜のように眼球が形状変化することで病的な状態になったものであり,さまざまな変化が光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)で確認できる.また,それらを可視化することが病態解明などに重要である.OCTにより,近視性脈絡膜新生血管や単純型出血の鑑別,黄斑部萎縮の評価,黄斑円孔網膜.離の前段階の近視性牽引黄斑症の診断,dome-shapedmaculaの診断が可能である.さらに近年,硝子体皮質と強膜,眼球後方まで観察することができるようになっている.本稿では,病的近視眼のOCTとして,正視眼と強度近視眼のOCTの違い,びまん性や限局性の近視性網膜脈絡膜萎縮,近視性脈絡膜新生血管,単純型出血,近視性牽引黄斑症や黄斑円孔網膜.離,domeshapedmacula,硝子体,強膜や球後組織について概説する.I軽度近視眼と強度近視眼のOCTの違い軽度近視眼と強度近視眼のOCTを比較すると,強度近視眼では中心小窩以外の網膜の菲薄化,脈絡膜の著明な菲薄化,眼軸延長に伴う強膜カーブの急峻化,強膜や眼球後方の組織などが観察できる(図1).強度近視眼では網膜の伸展や網膜脈絡膜萎縮,強膜カーブに伴う反射の減弱により,視細胞の内節外節接合部(IS/OS)や内境界膜,網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:図1正視眼と強度近視眼のOCT軽度近視眼のOCT(上)と強度近視眼のOCT(下)を比較すると,強度近視眼では,網膜の菲薄化,脈絡膜の極度の菲薄化,強膜カーブの急峻化,強膜全層や眼球後方の組織の一部が観察できる.RPE)の各層が明瞭に描出されにくくなる.II近視性網膜脈絡膜萎縮近視性網膜脈絡膜萎縮は,びまん性萎縮病変と限局性萎縮病変とに分けられる1).びまん性病変は眼底後極部の境界不鮮明な黄色の萎縮病巣としてみられ,OCTで*NoriakiShimada&KyokoOhno-Matsui:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕島田典明:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-49東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(67)1805 図2びまん性萎縮病変と限局性萎縮病変のOCT眼底写真では黄斑全体のびまん性萎縮病変と中心窩耳側に限局性萎縮病変を認める.OCTでは,脈絡膜の厚さは極度に菲薄化しているものの,びまん性萎縮部位の網膜外層や網膜色素上皮は比較的保たれているが,限局性萎縮病変の部位では,網膜外層,網膜色素上皮がほぼ消失している.眼底写真の限局性萎縮病変内の黒い部位は,OCTでは網膜下の小さい隆起として描出され,陳旧性の脈絡膜新生血管と考えられる.図3近視性脈絡膜新生血管と単純型出血のOCT近視性脈絡膜新生血管(上段)と単純型出血(下段)は,OCTではともに網膜下の隆起性病変を呈する.近視性脈絡膜新生血管では,出血の中に灰白色の新生血管(上段矢印)を認めることが多いこと,OCTでは隆起病変が活動期では辺縁と内部が不均一であることと,隆起性病変の周囲にときに網膜浮腫や網膜.離を認めることがあることで判別する.単純型出血では出血(下段矢印)の内部は均一で,OCTでは網膜化隆起病変は内部が比較的均一で辺縁が明瞭である.しかしながら,単純型出血様の脈絡膜新生血管もあり,確定診断にフルオレセイン眼底造影検査を要することも多い. 図4近視性牽引黄斑症のOCT像症例により網膜分離の範囲や有無,他の合併病変とは異なり,多彩なOCTを示す.表1近視性牽引黄斑症の東京医科歯科大学分類網膜分離の範囲による分類S0分離なしS1分離が中心窩外のみS2分離が中心窩内のみS3分離が中心窩含むが黄斑全体を含まないS4分離が黄斑全体にひろがっている合併病変による分類M黄斑前膜V硝子体黄斑牽引L黄斑内層分層円孔D(1-4)黄斑部網膜.離H全層黄斑円孔A黄斑部萎縮(文献4を改変) 図5近視性牽引黄斑症における網膜.離の進行過程(すべて非同一症例)左上:ステージ1.中心窩のIS/OSが牽引により不整もしくは網膜内方へやや上昇.右上:ステージ2.IS/OSに亀裂が生じ(外層分層黄斑円孔)ている.左下:ステージ3.分層円孔周囲に網膜.離が拡大し,網膜分離と.離は共存する.右下:ステージ4.分層円孔の端の網膜外層が網膜内層にくっついて見える状態となる.図6Dome.shapedmaculaのOCT中心窩下強膜厚が肥厚している.この症例では脈絡膜新生血管を合併している.後部皮質前硝子体ポケットもある程度まで観察できる. 図7黄斑渦静脈のOCTでの描出左上:眼底では黄斑部に渦静脈(小矢印)がみられる.右上:ICG赤外蛍光眼底造影では渦静脈が黄斑部で膨大部を形成して眼外に流出(矢印)する様子がみられる.左下および右下:渦静脈の分枝は強膜内を走行したのち(矢印),黄斑部付近で強膜を貫いて眼外に流出(矢頭)する. 1810あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(72)4)所敬,大野京子:近視─基礎と臨床─.金原出版,20125)ShimadaN,Ohno-MatsuiK,YoshidaTetal:Progressionfrommacularretinoschisistoretinaldetachmentinhighlymyopiceyesisassociatedwithouterlamellarholeforma-tion.BrJOphthalmol92:762-764,20086)SunCB,LiuZ,XueAQetal:Naturalevolutionfrommacularretinoschisistofull-thicknessmacularholeinhighlymyopiceyes.Eye24:1787-1791,20107)GaucherD,ErginayA,Lecleire-ColletAetal:Dome-shapedmaculaineyeswithmyopicposteriorstaphyloma.AmJOphthalmol145:909-914,20088)ImamuraY,IidaT,MarukoIetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthescleraindome-shapedmacula.AmJOphthalmol151:297-302,20119)ItakuraH,KishiS,LiDetal:Vitreouschangesinhighmyopiaobservedbyswept-sourceopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci55:1447-1452,201410)Ohno-MatsuiK,AkibaM,ModegiTetal:Associationbetweenshapeofscleraandmyopicretinochoroidallesionsinpatientswithpathologicmyopia.InvestOphthal-molVisSci53:6046-6061,201211)Ohno-MatsuiK,AkibaM,IshibashiTetal:Observationsofvascularstructureswithinandposteriortoscleraineyeswithpathologicmyopiabyswept-sourceopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci53:7290-7298,2012より観察可能である.病的近視眼の中心窩下強膜厚は,平均227.9±82.0mmであり10),剖検眼での正常眼の強膜厚が660mmであることに比較し著明に菲薄化している.強度近視眼では強膜内の血管および球後の血管もOCTで観察することが可能で11),強膜内を走行する長後毛様動脈や短後毛様動脈,渦静脈(図7)が観察できる.おわりにOCTの登場と進歩により,病的近視眼に生じるさまざまな病変の鑑別は比較的容易になった.さらなる進歩により,病的近視の新たな病態解明や治療効果の向上につながることが期待される.文献1)TokoroT(ed):AtlasofPosteriorFundusChangesinPathologicMyopia.Tokyo,Springer-Verlag,19982)MoriyamaM,Ohno-MatsuiK,ShimadaNetal:Correla-tionbetweenvisualprognosisandfundusautofluorescenceandopticalcoherencetomographicfindingsinhighlymyo-piceyeswithsubmacularhemorrhageandwithoutchoroi-dalneovascularization.Retina31:74-80,20113)PanozzoG,MercantiA:Opticalcoherencetomographyfindingsinmyopictractionmaculopathy.ArchOphthalmol122:1455-1460,2004

病的近視の「OCTを読む」

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特集●OCTを読むあたらしい眼科31(12):1805.1810,2014特集●OCTを読むあたらしい眼科31(12):1805.1810,2014病的近視の「OCTを読む」OpticalCoherenceTomographyofPathologicMyopia島田典明*大野京子*はじめに病的近視は,眼軸の延長に加えて,後部ぶどう腫や視神経乳頭傾斜のように眼球が形状変化することで病的な状態になったものであり,さまざまな変化が光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)で確認できる.また,それらを可視化することが病態解明などに重要である.OCTにより,近視性脈絡膜新生血管や単純型出血の鑑別,黄斑部萎縮の評価,黄斑円孔網膜.離の前段階の近視性牽引黄斑症の診断,dome-shapedmaculaの診断が可能である.さらに近年,硝子体皮質と強膜,眼球後方まで観察することができるようになっている.本稿では,病的近視眼のOCTとして,正視眼と強度近視眼のOCTの違い,びまん性や限局性の近視性網膜脈絡膜萎縮,近視性脈絡膜新生血管,単純型出血,近視性牽引黄斑症や黄斑円孔網膜.離,domeshapedmacula,硝子体,強膜や球後組織について概説する.I軽度近視眼と強度近視眼のOCTの違い軽度近視眼と強度近視眼のOCTを比較すると,強度近視眼では中心小窩以外の網膜の菲薄化,脈絡膜の著明な菲薄化,眼軸延長に伴う強膜カーブの急峻化,強膜や眼球後方の組織などが観察できる(図1).強度近視眼では網膜の伸展や網膜脈絡膜萎縮,強膜カーブに伴う反射の減弱により,視細胞の内節外節接合部(IS/OS)や内境界膜,網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:図1正視眼と強度近視眼のOCT軽度近視眼のOCT(上)と強度近視眼のOCT(下)を比較すると,強度近視眼では,網膜の菲薄化,脈絡膜の極度の菲薄化,強膜カーブの急峻化,強膜全層や眼球後方の組織の一部が観察できる.RPE)の各層が明瞭に描出されにくくなる.II近視性網膜脈絡膜萎縮近視性網膜脈絡膜萎縮は,びまん性萎縮病変と限局性萎縮病変とに分けられる1).びまん性病変は眼底後極部の境界不鮮明な黄色の萎縮病巣としてみられ,OCTで*NoriakiShimada&KyokoOhno-Matsui:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕島田典明:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-49東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(67)1805 図2びまん性萎縮病変と限局性萎縮病変のOCT眼底写真では黄斑全体のびまん性萎縮病変と中心窩耳側に限局性萎縮病変を認める.OCTでは,脈絡膜の厚さは極度に菲薄化しているものの,びまん性萎縮部位の網膜外層や網膜色素上皮は比較的保たれているが,限局性萎縮病変の部位では,網膜外層,網膜色素上皮がほぼ消失している.眼底写真の限局性萎縮病変内の黒い部位は,OCTでは網膜下の小さい隆起として描出され,陳旧性の脈絡膜新生血管と考えられる.図3近視性脈絡膜新生血管と単純型出血のOCT近視性脈絡膜新生血管(上段)と単純型出血(下段)は,OCTではともに網膜下の隆起性病変を呈する.近視性脈絡膜新生血管では,出血の中に灰白色の新生血管(上段矢印)を認めることが多いこと,OCTでは隆起病変が活動期では辺縁と内部が不均一であることと,隆起性病変の周囲にときに網膜浮腫や網膜.離を認めることがあることで判別する.単純型出血では出血(下段矢印)の内部は均一で,OCTでは網膜化隆起病変は内部が比較的均一で辺縁が明瞭である.しかしながら,単純型出血様の脈絡膜新生血管もあり,確定診断にフルオレセイン眼底造影検査を要することも多い. 図4近視性牽引黄斑症のOCT像症例により網膜分離の範囲や有無,他の合併病変とは異なり,多彩なOCTを示す.表1近視性牽引黄斑症の東京医科歯科大学分類網膜分離の範囲による分類S0分離なしS1分離が中心窩外のみS2分離が中心窩内のみS3分離が中心窩含むが黄斑全体を含まないS4分離が黄斑全体にひろがっている合併病変による分類M黄斑前膜V硝子体黄斑牽引L黄斑内層分層円孔D(1-4)黄斑部網膜.離H全層黄斑円孔A黄斑部萎縮(文献4を改変) 図5近視性牽引黄斑症における網膜.離の進行過程(すべて非同一症例)左上:ステージ1.中心窩のIS/OSが牽引により不整もしくは網膜内方へやや上昇.右上:ステージ2.IS/OSに亀裂が生じ(外層分層黄斑円孔)ている.左下:ステージ3.分層円孔周囲に網膜.離が拡大し,網膜分離と.離は共存する.右下:ステージ4.分層円孔の端の網膜外層が網膜内層にくっついて見える状態となる.図6Dome.shapedmaculaのOCT中心窩下強膜厚が肥厚している.この症例では脈絡膜新生血管を合併している.後部皮質前硝子体ポケットもある程度まで観察できる. 図7黄斑渦静脈のOCTでの描出左上:眼底では黄斑部に渦静脈(小矢印)がみられる.右上:ICG赤外蛍光眼底造影では渦静脈が黄斑部で膨大部を形成して眼外に流出(矢印)する様子がみられる.左下および右下:渦静脈の分枝は強膜内を走行したのち(矢印),黄斑部付近で強膜を貫いて眼外に流出(矢頭)する. 1810あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(72)4)所敬,大野京子:近視─基礎と臨床─.金原出版,20125)ShimadaN,Ohno-MatsuiK,YoshidaTetal:Progressionfrommacularretinoschisistoretinaldetachmentinhighlymyopiceyesisassociatedwithouterlamellarholeforma-tion.BrJOphthalmol92:762-764,20086)SunCB,LiuZ,XueAQetal:Naturalevolutionfrommacularretinoschisistofull-thicknessmacularholeinhighlymyopiceyes.Eye24:1787-1791,20107)GaucherD,ErginayA,Lecleire-ColletAetal:Dome-shapedmaculaineyeswithmyopicposteriorstaphyloma.AmJOphthalmol145:909-914,20088)ImamuraY,IidaT,MarukoIetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthescleraindome-shapedmacula.AmJOphthalmol151:297-302,20119)ItakuraH,KishiS,LiDetal:Vitreouschangesinhighmyopiaobservedbyswept-sourceopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci55:1447-1452,201410)Ohno-MatsuiK,AkibaM,ModegiTetal:Associationbetweenshapeofscleraandmyopicretinochoroidallesionsinpatientswithpathologicmyopia.InvestOphthal-molVisSci53:6046-6061,201211)Ohno-MatsuiK,AkibaM,IshibashiTetal:Observationsofvascularstructureswithinandposteriortoscleraineyeswithpathologicmyopiabyswept-sourceopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci53:7290-7298,2012より観察可能である.病的近視眼の中心窩下強膜厚は,平均227.9±82.0mmであり10),剖検眼での正常眼の強膜厚が660mmであることに比較し著明に菲薄化している.強度近視眼では強膜内の血管および球後の血管もOCTで観察することが可能で11),強膜内を走行する長後毛様動脈や短後毛様動脈,渦静脈(図7)が観察できる.おわりにOCTの登場と進歩により,病的近視眼に生じるさまざまな病変の鑑別は比較的容易になった.さらなる進歩により,病的近視の新たな病態解明や治療効果の向上につながることが期待される.文献1)TokoroT(ed):AtlasofPosteriorFundusChangesinPathologicMyopia.Tokyo,Springer-Verlag,19982)MoriyamaM,Ohno-MatsuiK,ShimadaNetal:Correla-tionbetweenvisualprognosisandfundusautofluorescenceandopticalcoherencetomographicfindingsinhighlymyo-piceyeswithsubmacularhemorrhageandwithoutchoroi-dalneovascularization.Retina31:74-80,20113)PanozzoG,MercantiA:Opticalcoherencetomographyfindingsinmyopictractionmaculopathy.ArchOphthalmol122:1455-1460,2004

脈絡膜の「OCTを読む」

2014年12月31日 水曜日

特集●OCTを読むあたらしい眼科31(12):1797~1804,2014特集●OCTを読むあたらしい眼科31(12):1797~1804,2014脈絡膜の「OCTを読む」OCTImagingofChoroid丸子一朗*はじめに脈絡膜は全眼球血流の80~90%を占めるとされ,視細胞を含む網膜外層の栄養を担っていることから重要な組織であることは明らかであるが,インドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiography:IA)のような侵襲的な検査以外に,脈絡膜を詳細に観察することは困難であった.そのIAにしても,解像度の問題や実際に厚みをもち何重にも重なった脈絡膜血管を2次元的にしか評価できないなどの問題があり,脈絡膜は画像診断で簡単に論じることはむずかしく,一種のブラックボックスといえるものであった.一方で,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は,1997年にわが国に初上陸してから,非侵襲的に眼底後極部を観察できる装置として発展を遂げてきた.2006年ごろから導入されたスペクトラルドメインOCTは網膜の各層が詳細に観察可能であり,さまざまな網膜疾患の病態理解や臨床上の治療および経過観察に際し強力なツールとなった.2008年にはSpaideら1)が市販のOCTで脈絡膜を簡単に観察する方法を報告し,一気に脈絡膜観察の理解が進んだ.本稿ではSpaideらが報告したenhanceddepthimaging(EDI)OCTに加えて,通常より長波長光源を利用したsweptsource(SS)OCTの使用経験から正常や各種黄斑疾患の脈絡膜観察について述べる.硝子体網膜脈絡膜図1正常眼のOCT(21歳,男性,左眼)硝子体,網膜,脈絡膜がきれいに描出されている.中心窩下脈絡膜厚は293μm(矢印).I正常眼の脈絡膜(図1)正常眼の脈絡膜をOCTでみると,全体としては加齢により菲薄化することや,眼軸が長ければ長いほど,屈折度が近視側に傾くほど薄くなることが示されている.Ikunoら2)やMargolisら3)が報告しているように,中心窩でもっとも厚く,鼻側より耳側が,下方より上方の脈絡膜のほうがより厚いとされる.一方で,脈絡膜は個体差が大きく,若年者でも脈絡膜が薄い例や近視眼でも肥厚している例もある.ただし,近年の脈絡膜OCTによる研究で,ある程度の基準となる数値は明らかとなってきており,SS-OCTではIkunoら2)が354μm,SpectralisOCTではMargolisら3)が287μmと報告している.多数例の報告が注目されているBeijingEyeStudy*IchiroMaruko:東京女子医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕丸子一朗:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学眼科学教室0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(59)1797 図2中心性漿液性脈絡網膜症(41歳,男性,右眼)中心窩を含む漿液性網膜.離があり,FAでは視神経乳頭上耳側に点状の漏出点(ブロック矢印)がみられる.IAでは黄斑部全体に脈絡膜血管透過性所見を示す過蛍光が確認できる.OCTで脈絡膜肥厚が観察できる.中心窩下脈絡膜厚は401μm(矢印). 図3中心性漿液性脈絡網膜症の光線力学的療法前後(47歳,男性)治療前と比較して光線力学的療法後に脈絡膜は菲薄化している.中心窩下脈絡膜厚は治療前349μm,光線力学的療法後1カ月で278μm(各矢印). 図4Vogt・小柳・原田病(66歳,男性):ステロイド治療経過上段:治療前は隔壁で区画分けされた滲出性網膜.離がみられる.また脈絡膜の肥厚があり,網膜色素上皮のラインも不整である.中段:ステロイド大量療法後1週間では滲出性網膜.離は減少し,脈絡膜は治療開始前と比較して劇的に薄くなっている.下段:治療開始後1カ月では網膜.離はなく,脈絡膜もさらに薄くなっている.中心窩下脈絡膜厚はそれぞれ834μm,381μm,230μm(各矢印). 図5ポリープ状脈絡膜血管症(62歳,男性)黄斑部に軽度の硬性白斑を伴った漿液性網膜.離があり,FAで同部位はオカルト型加齢黄斑変性を示す.IAでは病変の鼻側にポリープ状病巣とその耳側に広がる異常血管網が観察できる.OCTでは漿液性網膜.離があり,異常血管網に一致したdabblelayersignと,その鼻側縁にポリープ状病巣に一致した網膜色素上皮の急峻な隆起がみられる.中心窩下脈絡膜厚は367μm(矢印). 図6網膜血管腫状増殖(89歳,女性)中心窩付近に網膜内および下出血があり,FAでは.胞状黄斑浮腫がみられ,IAではhotspotが確認されることからRAPと診断できる.OCT所見は多彩で,網膜色素上皮.離,漿液性網膜.離,.胞状黄斑浮腫がみられる.中心窩下脈絡膜厚は138μm(矢印). あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141803(65)脈絡膜が厚いとする報告35)がある一方で,薄いとする報告36)もあり一定の見解を得ていない.これは病期や網膜症の進行度によっても変化する可能性もあり,単純ではないことを示唆している.最近,正常ボランティアにおいてさまざまな特殊環境下で脈絡膜の厚みが変化することが示されており,今後脈絡膜の厚みを規定するさまざまな因子が明らかになることが期待されている.たとえば,飲水負荷37)やバイアグラ(sildenafil)内服38)で脈絡膜が肥厚することが示されている一方で,コーヒーの飲用(カフェイン負荷)で薄くなることが報告されている39).脈絡膜血管もある一定の自己調節能を有しているが,その幅は狭く,特殊条件下では脈絡膜の変化が生じやすい可能性もある.また,自律神経の影響もあることも示唆されているなど,脈絡膜の厚みを規定する因子の解析はこれからも検討していかなければならない課題である.おわりに2008年のSpaideらのEDI-OCTの報告以来,脈絡膜観察が一つのトピックとなり,正常眼やさまざまな網膜疾患での研究がなされてきた.最近では,疾患によらず特殊条件下での脈絡膜の変化をみることで,脈絡膜厚の増減の生理的な意義についても検討されるようになってきた.今後OCTがさらに進化し,網膜同様脈絡膜の研究の発展に期待したい.文献1)SpaideRF,KoizumiH,PozzoniMC:Enhanceddepthimagingspectral-domainopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol146:496-500,20082)IkunoY,KawaguchiK,NouchiTetal:ChoroidalthicknessinhealthyJapanesesubjects.InvestOphthalmolVisSci51:2173-2176,20103)MargolisR,SpaideRF:Apilotstudyofenhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidinnormaleyes.AmJOphthalmol147:811-815,20094)WeiWB,XuL,JonasJBetal:Subfovealchoroidalthickness:theBeijingEyeStudy.Ophthalmology120:175180,20135)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:Subfovealchoroidalthicknessinfelloweyesofpatientswithcentralserouschorioretinopathy.Retina31:1603-1608,20116)NagasawaT,MitamuraY,KatomeTetal:Macularchoroidalthicknessandvolumeinhealthypediatricindividualsmeasuredbyswept-sourceopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci54:7068-7074,20137)Ruiz-MorenoJM,Flores-MorenoI,LugoFetal:Macularchoroidalthicknessinnormalpediatricpopulationmeasuredbyswept-sourceopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci54:353-359,20138)ReadSA,CollinsMF,VincentSJetal:Choroidalthicknessinchildhood.InvestOphthalmolVisSci54:35863593,20139)MoriT,SuganoY,MarukoIetal:Subfovealchoroidalthicknessandaxiallengthinpreschoolchildrenwithhyperopicanisometropicamblyopia.CurrEyeRes2014[Epubaheadofprint]10)ImamuraY,FujiwaraT,MargolisRetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidincentralserouschorioretinopathy.Retina29:14691473,200911)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:Subfovealchoroidalthicknessaftertreatmentofcentralserouschorioretinopathy.Ophthalmology117:1792-1799,201012)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:One-yearchoroidalthicknessafterphotodynamictherapyforcentralserouschorioretinopathy.Retina31:1921-1927,201113)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:SubfovealchoroidalthicknessaftertreatmentofVogt-Koyanagi-Haradadisease.Retina31:510-517,201114)NakayamaM,KeinoH,OkadaAetal:EnhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidinVogt-Koyanagi-Haradadisease.Retina32:2061-2069,201215)HashizumeK,ImamuraY,FujiwaraTetal:ChoroidalthicknessineyeswithposteriorrecurrenceofVogt-Koyanagi-Haradadiseaseafterhigh-dosesteroidtherapy.ActaOphthalmol92:e490-e491,201416)TakahashiH,TakaseH,IshizukaAetal:ChoroidalthicknessinconvalescentVogt-Koyanagi-Haradadisease.Retina34:775-780,201417)NazariH,HaririA,HuZetal:ChoroidalatrophyandlossofchoriocapillarisinconvalescentstageofVogt-Koyanagi-Haradadisease:invivodocumentation.JOphthalmicInflammInfect4:9,201418)IkunoY,TanoY:Retinalandchoroidalbiometryinhighlymyopiceyeswithspectral-domainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci50:3876-3880,200919)FujiwaraT,ImamuraY,MargolisRetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidinhighlymyopiceyes.AmJOphthalmol148:445450,200920)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:Morphologicanalysisin

硝子体の「OCTを読む」

2014年12月31日 水曜日

特集●OCTを読むあたらしい眼科31(12):1789.1795,2014特集●OCTを読むあたらしい眼科31(12):1789.1795,2014硝子体の「OCTを読む」DiagnosticImagingoftheVitreousbyOpticalCoherenceTomography板倉宏高*はじめに黄斑部には黄斑円孔,黄斑前膜,硝子体黄斑牽引症候群など,発症に硝子体による牽引の関与した疾患が好発し,これらを網膜硝子体界面病変という.界面病変を理解するためには,黄斑部硝子体の特殊構造を知る必要がある.しかし,硝子体は透明であるため,細隙灯顕微鏡のみで網膜との関係を観察するのはむずかしい.一方,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は透明な硝子体でも描出することができる.最近ではスペクトラルドメインOCT(spectral-domainOCT:SDOCT),さらにはスウェプトソースOCT(swept-sourceOCT:SS-OCT)の登場で硝子体のより精密な観察が可能になった.IOCTで硝子体を撮影するコツOCTで硝子体を撮影するコツは,網膜を画面のなるべく下方に位置させ,ピントを網膜前方の硝子体に合わせることである.また,スキャンする長さをできるだけ長く設定すると後部硝子体の全貌を把握しやすい.シラスSD-OCT(Zeiss社)では,scanlengthを9mmに設定することができる.また,画像の重ね合わせ(加算平均)によるスペックルノイズの除去によって,より鮮明な画像が得られる.SS-OCTは深さ方向の信号低下が少ないため,さらに硝子体の観察に優れている.DRIOCT-1(トプコン社)は,水平・垂直方向で最大12mmの広角スキャンが2Dおよび3Dで検索可能な最新のSS-OCT装置であり,後極全体の硝子体画像を明瞭に描出できる.撮影した硝子体が不明瞭な場合でも,撮影後にコントラストを調節することで,硝子体ゲルや皮質の輪郭が浮き出てくる.II黄斑部硝子体の特殊構造ヒトの眼の硝子体には,黄斑前に生理的な液化腔がある.1990年に岸らは,剖検眼を染色することでこれを観察し,『ArchivesOphthalmology』誌に報告した.「Posteriorprecorticalvitreouspocket:後部硝子体皮質前ポケット(通称,岸ポケット)」である1).岸ポケットの後壁をなす皮質が黄斑部を牽引することで,さまざまな黄斑疾患に関与する.2002年,硝子体手術にトリアムシノロン染色が導入されると,生体眼の岸ポケットを術中に観察できるようになった2).2009年,SD-OCTのimageを加算平均することで硝子体ゲルが描出可能となり,やや不鮮明なものの正常眼でも岸ポケットを断面で観察できるようになった(図1)3).岸ポケットは左右の眼でほぼ対称の扁平な舟形の形状であり,その前壁は硝子体ゲルで,後壁は薄い後部硝子体皮質からなる.水平断で観察すると,視神経乳頭から前方にのびるクローケ管(Cloquet’scanal)と岸ポケットとの間には隔壁がある.垂直方向でスキャンすると岸ポケットは上方が下方よりも膨らんだ形状をしている.2012年にSS-OCTが登場すると,さらに岸ポケットの詳細が明らかとなった(図2)4).SS-OCTで観察すると,Clo*HirotakaItakura:前橋赤十字病院眼科/群馬大学大学院医学系研究科病態循環再生学講座眼科学分野〔別刷請求先〕板倉宏高:〒371-0014群馬県前橋市朝日町3-21-36前橋赤十字病院眼科0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(51)1789 1790あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(52)る.強度近視眼では,中心窩から岸ポケット前壁までの距離が正視眼よりも大きい(図6)8).また,岸ポケットとCloquet管との隔壁も高い傾向がある.一方で,岸ポケットの幅は近視が強くてもあまり変わらない.眼軸が長くなるほど,岸ポケットも眼軸方向に大きくなるものと考えられる.III網膜硝子体界面疾患への新しい治療法最近,黄斑円孔などの網膜硝子体界面疾患の新しい治療法として,酵素的硝子体融解薬の硝子体注射が行われはじめている9).これは,不完全に.離した後部硝子体皮質と網膜との癒着を薬剤によって融解し,硝子体手術をせずに硝子体の牽引を解除する治療法である.この治療の適応判断にはOCTによる硝子体画像診断が必須となる.特に重要なのは,後部硝子体.離(posteriorvit-reousdetachment:PVD)のステージを診断することである.ステージによって,黄斑への牽引の掛かり方がquet管と岸ポケットとの間には連絡通路がある.抗酸化物質や酸素などに富んだ房水が,Cloquet管を介して岸ポケットへと流入し,黄斑に何らかの影響を及ぼしているのかもしれない(図3).岸ポケットは,体位によって変形する.OCT検査は通常,座位で行うが,手持ち式のSD-OCT,iVue-100(Optovue社)を用いて仰臥位で検索すると,岸ポケットの前壁は仰臥位では座位よりも前方に移動する(図4)5).岸ポケットは生後,裂隙のごとく出現し,成長とともに深さ方向に膨らんで船形を呈する(図5)6,7).岸ポケットとCloquet管との連絡通路は3.4歳では観察できないが5歳から出現し,成長とともに観察頻度は増加し,11歳で50%となる.岸ポケットとCloquet管の連絡通路は後天的に形成されると推測される.硝子体ゲルの密度が低く,SD-OCTでは見えづらかった強度近視眼の岸ポケットもSS-OCTなら観察でき右眼(水平断)右眼(垂直断)左眼(水平断)左眼(垂直断)耳側鼻側pc鼻側耳側pc下方上方p下方上方p図1スペクトラルドメインOCT(シラスSD-OCT,Zeiss社)による岸ポケットの観察35歳,男性.岸ポケットは左右の眼で対称的な形状をしている.その前壁は硝子体ゲル(矢印)で,後壁は薄い後部硝子体皮質からなる.岸ポケットとCloquet管との間には隔壁がある.垂直断では,岸ポケットの上方は下方よりも前方に膨らんでいる.p:岸ポケット,c:Cloquet管.右眼(水平断)右眼(垂直断)左眼(水平断)左眼(垂直断)耳側鼻側pc鼻側耳側pc下方上方p下方上方p図1スペクトラルドメインOCT(シラスSD-OCT,Zeiss社)による岸ポケットの観察35歳,男性.岸ポケットは左右の眼で対称的な形状をしている.その前壁は硝子体ゲル(矢印)で,後壁は薄い後部硝子体皮質からなる.岸ポケットとCloquet管との間には隔壁がある.垂直断では,岸ポケットの上方は下方よりも前方に膨らんでいる.p:岸ポケット,c:Cloquet管. あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141791(53)図2スウェプトソースOCT(DRIOCT-1,トプコン社)による岸ポケットの観察30歳,男性.岸ポケットの前壁をなす硝子体ゲル(黄矢印)がスペクトラルドメインOCT(SD-OCT)よりもさらに鮮明に描出される.黄斑と視神経乳頭を通る付近を水平断で観察すると,岸ポケットとCloquet管との隔壁の前方には両者を連絡する通路(白矢印)がある(A).垂直断では,岸ポケットの上方は下方よりも前方に膨らんでいる(B).視神経乳頭部を垂直にスキャンするとCloquet管は前方に伸びている(C).p:岸ポケット,c:Cloquet管.右眼耳側鼻側pcpc左眼鼻側耳側A上方下方pp右眼左眼上方下方Bcc右眼左眼上方下方上方下方CスOCT(DRIOCT-1,トプコン社)による岸ポケットの観察30歳,男性.岸ポケットの前壁をなす硝子体ゲル(黄矢印)がスペクトラルドメインOCT(SD-OCT)よりもさらに鮮明に描出される.黄斑と視神経乳頭を通る付近を水平断で観察すると,岸ポケットとCloquet管との隔壁の前方には両者を連絡する通路(白矢印)がある(A).垂直断では,岸ポケットの上方は下方よりも前方に膨らんでいる(B).視神経乳頭部を垂直にスキャンするとCloquet管は前方に伸びている(C).p:岸ポケット,c:Cloquet管.A右眼pcpc左眼p右眼耳側鼻側鼻側耳側Bp左眼上方下方上方下方Ccc右眼左眼上方下方上方下方(53)あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141791 pcpcpcpc図3Cloquet管を介した岸ポケットへの房水の流入(推測)左図は房水流入経路のシェーマ.右図は後極のスウェプトソースOCT画像.連絡通路(黄矢印)を介して房水が岸ポケットに流入している可能性がある.p:岸ポケット,c:Cloquet管.座位仰臥位pp下方上方下方上方図4体位による岸ポケットの変形手持ち式のSD-OCT,iVue-100(Optovue社)による観察.岸ポケットの前壁は仰臥位では座位よりも前方に移動する. あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141793(55)3歳5歳8歳cpcpcp図5小児の岸ポケット(スウェプトソースOCT画像)岸ポケットは生後,裂隙のごとく出現し(黄矢印),成長とともに深さ方向に膨らんで船形を呈する.岸ポケットとCloquet管との連絡通路は3.4歳では観察できないが5歳くらいから出現し(白矢印),成長とともに観察頻度が増す.岸ポケットとCloquet管の連絡通路は後天的に形成されると推測される.pc耳側鼻側図6強度近視眼の岸ポケット(スウェプトソースOCT画像)31歳,男性,右眼.-13Dの強度近視.硝子体ゲルは,強度近視眼では液化が強く,正視眼よりも反射が弱い.強度近視眼では,網膜から岸ポケット前壁(黄矢印)までの距離が大きく,岸ポケットは前方に大きい形状をしている.また,岸ポケットとCloquet管との隔壁(白矢印)も高い.その一方で,岸ポケットの幅は近視が強くてもあまり変わらない.Stage0Stage1Stage2Stage3Stage4pppp部分PVD=PVDなし=完全PVD=図7後部硝子体.離(PVD)の進展(スウェプトソースOCT画像)岸ポケットの後壁(黄矢印)は加齢とともに黄斑周囲で厚みを増し,徐々に.離する(stage1:paramacularPVD).やがて傍中心窩PVD(stage2:perifovealPVD)となり,さらに岸ポケットごと中心窩から離れ(stage3:vitreofovealseparation),最後に視神経乳頭から.離して完全PVD(stage4:completePVD)となる.Stage1.3が完全PVDに至る前段階の部分PVD.完全PVDを生じると,細隙灯顕微鏡検査でWeissringが観察され,OCTでは網膜の前方から硝子体ゲルの反射がなくなる.cp3歳cp5歳cp8歳図5小児の岸ポケット(スウェプトソースOCT画像)岸ポケットは生後,裂隙のごとく出現し(黄矢印),成長とともに深さ方向に膨らんで船形を呈する.岸ポケットとCloquet管との連絡通路は3.4歳では観察できないが5歳くらいから出現し(白矢印),成長とともに観察頻度が増す.岸ポケットとCloquet管の連絡通路は後天的に形成されると推測される.図7後部硝子体.離(PVD)の進展(スウェプトソースOCT画像)岸ポケットの後壁(黄矢印)は加齢とともに黄斑周囲で厚みを増し,徐々に.離する(stage1:paramacularPVD).やがて傍中心窩PVD(stage2:perifovealPVD)となり,さらに岸ポケットごと中心窩から離れ(stage3:vitreofovealseparation),最後に視神経乳頭から.離して完全PVD(stage4:completePVD)となる.Stage1.3が完全PVDに至る前段階の部分PVD.完全PVDを生じると,細隙灯顕微鏡検査でWeissringが観察され,OCTでは網膜の前方から硝子体ゲルの反射がなくなる.pc耳側鼻側図6強度近視眼の岸ポケット(スウェプトソースOCT画像)31歳,男性,右眼.-13Dの強度近視.硝子体ゲルは,強度近視眼では液化が強く,正視眼よりも反射が弱い.強度近視眼では,網膜から岸ポケット前壁(黄矢印)までの距離が大きく,岸ポケットは前方に大きい形状をしている.また,岸ポケットとCloquet管との隔壁(白矢印)も高い.その一方で,岸ポケットの幅は近視が強くてもあまり変わらない.PVDなし=Stage0Stage1部分PVD=Stage2Stage3完全PVD=Stage4pppp(55)あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141793 A■:完全PVD■:部分PVD■:PVDなし0%25%50%75%100%1001189296924543134314438017320~2930~3940~4950~5960~6970~79歳(n=60)(n=36)(n=48)(n=56)(n=93)(n=70)B■:完全PVD■:部分PVD■:PVDなし0%25%50%75%100%624702647264621322617571538396420~2930~3940~4950~5960~6970~79歳(n=17)(n=19)(n=28)(n=23)(n=40)(n=24)図8後部硝子体.離(PosteriorVitreousDetachment:PVD)と年齢分布正常眼(A)では,50.60歳代で部分PVDが好発する.一方,強度近視(B)では,より若年から部分PVDを生じ,完全PVDへと進展する.症例もあったが,SS-OCTでは,ほぼ全例でPVDを診断できる.硝子体手術前にPVDの有無を確認したい場合,SS-OCTで岸ポケットが描出されれば硝子体は未.離だと診断できる.Stage1.3のいわゆる部分PVDから完全PVDへの進展は50.60歳代にピークを迎え,黄斑円孔や裂孔原性網膜.離の好発年齢と一致する(図8A).強度近視眼では,若いうちから硝子体の液化が進み,PVDの発症年齢も若い(図8B).Spaideらは,黄斑円孔の僚眼をOCTで観察し,岸ポケットの後壁と中心窩との接着面積が少ないほど,中心1794あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014窩を挙上させる力が強く,黄斑円孔のリスクが高まると報告した11).このようなリスクがある状態を,黄斑円孔を生じる前段階で検出し,治療することで発症を予防できるようになるかもしれない.■用語解説■網膜硝子体界面病変:黄斑円孔,黄斑前膜,硝子体黄斑牽引症候群など.加齢に伴い硝子体が液化し,後部硝子体皮質が黄斑を牽引することで発症する疾患群.後部硝子体皮質前ポケット(posteriorprecorticalvitreouspocket=通称,岸ポケット):ヒトの目の硝子体に存在する,黄斑前の生理的な液化腔.網膜硝子体界面病変の発症に関与するが,その生理的機能はこれまで不明であった.クローケ管(Cloquet'scanal):硝子体中を,視神経から水晶体後面に向かって伸びる管腔.1次硝子体の遺残として存在し,胎生期には硝子体動脈が通っている.文献1)KishiS,ShimizuK:Posteriorprecorticalvitreouspocket.ArchOphthalmol108:979-982,19902)SakamotoT,MiyazakiM,HisatomiTetal:Triamcinolone-assistedparsplanavitrectomyimprovesthesurgicalproceduresanddecreasesthepostoperativeblood-ocularbarrierbreakdown.GraefesArchClinExpOphthalmol240:423-429,20023)ItakuraH,KishiS:Agingchangesofvitreomacularinterface.Retina31:1400-1404,20114)ItakuraH,KishiS,LiDetal:Observationofposteriorprecorticalvitreouspocketusingswept-sourceopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci54:3102-3107,20135)ItakuraH,KishiS:Alterationsofposteriorprecorticalvitreouspocketswithpositionalchanges.Retina33:14171420,20136)YokoiT,ToriyamaN,YamaneTetal:Developmentofapremacularvitreouspocket.JAMAOphthalmol131:1095-1096,20137)LiD,KishiS,ItakuraHetal:Posteriorprecorticalvitreouspocketsandconnectingchannelsinchildrenonswept-sourceopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci55:2412-2416,20148)ItakuraH,KishiS,LiDetal:Vitreouschangesinhighmyopiaobservedbyswept-sourceopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci55:1447-1452,20149)StalmansP,BenzMS,GandorferAetal:MIVI-TRUST(56) あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141795(57)StudyGroup:Enzymaticvitreolysiswithocriplasminforvitreomaculartractionandmacularholes.NEnglJMed367:606-615,201210)ItakuraH,KishiS:Evolutionofvitreomaculardetach-mentinnormalsubjects.JAMAOphthalmol131:1348-1352,201311)SpaideRF,WongD,FisherYetal:Correlationofvitre-ousattachmentandfovealdeformationinearlymacularholestates.AmJOphthalmol133:226-229,2002

加齢黄斑変性の「OCTを読む」

2014年12月31日 水曜日

特集●OCTを読むあたらしい眼科31(12):1779.1788,2014特集●OCTを読むあたらしい眼科31(12):1779.1788,2014加齢黄斑変性の「OCTを読む」InterpretationofOpticalCoherenceTomographyinExudativeAge-RelatedMacularDegeneration永井由巳*はじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)は近年の検査や治療法の進歩に伴い,受診者数が大きく増加している.従来は,診断を行ううえでフルオレセイン蛍光造影(fluoresceinangiography:FA)やインドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiography:IA)などを頻繁に行っていたが,1997年にわが国に光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)が導入されてより正確な診断を行えるようになった.OCTは導入以降今日に至るまでの間に画像の解像度が目覚ましく進歩し,短時間で詳細な画像所見を得ることが可能となったこともあり,侵襲性の強いFAやIAを行わなくてもOCTの画像だけで病態の把握や診断が可能な症例も多くなった.また,以前は治療後の経過の観察を行ううえでもFAやIAを必要時に行っていたが,OCTで治療後の病態の判断が可能となったので,高齢者が多いAMD診療においてOCTは欠かすことのできない検査となっている.〔AMDの病型分類とOCT所見〕AMDは2008年に作成された「加齢黄斑変性の分類と診断基準1)」に沿って診断,治療が行われており,この分類(表1)と診断基準(表2)に沿って画像所見の特徴と読影のポイントを述べる.表1加齢黄斑変性の分類1.前駆病変1)軟性ドルーゼン2)網膜色素上皮異常2.加齢黄斑変性1)滲出型加齢黄斑変性*2)萎縮型加齢黄斑変性*滲出型加齢黄斑変性の特殊型①ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)②網膜内血管腫状増殖(RAP)〔文献1)より〕I前駆病変前駆病変は,軟性ドルーゼンと網膜色素上皮異常とが挙げられている.1.軟性ドルーゼン軟性ドルーゼンは加齢変化により眼底に生じる小さな黄白色の円形病巣で,慢性炎症,酸化ストレス,遺伝的素因などが発症に関与するとされている.診断基準上は63μm以上のものが1個でもみられる場合は前駆症状とするとされている1)(これより小さいと硬性ドルーゼンとされている).診断の際には,網膜静脈径が視神経乳頭縁では125μmであることを参考にする.OCTで軟性ドルーゼンは網膜色素上皮とBruch膜との間にみられ,網膜内側へ隆起した状態で観察される.内部の反射は中等度から高輝度を示すものまでさまざまである(図1).*YoshimiNagai:関西医科大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕永井由巳:〒573-0101枚方市新町2-5-1関西医科大学医学部眼科学教室0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(41)1779 表2加齢黄斑変性(AMD)の診断基準年齢50歳以上の症例において,中心窩を中心とする直径6,000μm以内の領域に以下の病変がみられる.1.前駆病変軟性ドルーゼン,網膜色素上皮異常2.滲出型加齢黄斑変性主要所見:以下の主要所見の少なくとも1つを満たすものを確診例とする.①脈絡膜新生血管②漿液性網膜色素上皮.離③出血性網膜色素上皮.離④線維性瘢痕随伴所見:以下の所見を伴うことが多い①滲出性変化:網膜下灰白色斑(網膜下フィブリン)硬性白斑,網膜浮腫,漿液性網膜.離②網膜または網膜下出血※滲出型加齢黄斑変性の特殊型:ポリープ状脈絡膜血管症(PCV),網膜内血管腫状増殖(RAP)3.萎縮型加齢黄斑変性脈絡膜血管が透見できる網膜色素上皮の境界鮮明な地図状萎縮を伴う4.除外規定近視,炎症性疾患,変性疾患,外傷などによる病変を除外する付記*1軟性ドルーゼンは直径63μm以上のものが1個以上みられれば有意とする.*2網膜色素上皮異常とは網膜色素上皮の色素脱失,色素沈着,色素むら,小型の漿液性網膜色素上皮.離(直径1乳頭未満)をさす.*3脈絡膜新生血管は,検眼鏡所見,蛍光眼底造影によって診断する.検眼鏡所見として,網膜下に灰白色または橙赤色隆起病巣を認める.蛍光眼底造影はフルオレセイン蛍光眼底造影またはインドシアニングリーン蛍光眼底造影所見に基づく.*4漿液性網膜色素上皮.離は,直径1乳頭径以上のもので脈絡膜新生血管を伴わないものも含める.*5出血性網膜色素上皮.離は大きさを問わない.*6網膜色素上皮の地図状萎縮は大きさを問わない〔文献1)より〕 あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141781(43)2.滲出型加齢黄斑変性(exudativeAMD:滲出型AMD)滲出型AMDは,その主要所見として,脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV),漿液性網膜色素上皮.離,出血性網膜色素上皮.離,線維性瘢痕が挙げられていて,そのうち1つでも認めたら確診例とできる1).この滲出型AMDのなかには,その特殊型であるポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopa-thy:PCV)と網膜内血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)とが含まれており,それ以外のものを典型加齢黄斑変性(典型AMD)とよんで区別している.滲出型AMDの4つの主要所見と,診断基準における随伴所見(滲出性変化としてみられる網膜下灰白色斑(網膜下フィブリン),硬性白斑,網膜浮腫,漿液性網膜.離と,網膜または網膜下出血)とについて典型AMDの項目で説明し,特殊型の項目でそれぞれの疾患でみられる特徴的な所見について説明する.a.典型加齢黄斑変性(典型AMD)1)脈絡膜新生血管滲出型AMDの主要所見のなかでも重要視されているのがCNVである.CNVは網膜色素上皮を境にその上II加齢黄斑変性1.萎縮型加齢黄斑変性(atrophicAMD:萎縮型AMD)日本人では10%程度とされている萎縮型AMDは,脈絡膜血管が透見できる網膜色素上皮の境界鮮明な地図状萎縮を伴うものとされており,その地図上萎縮は大きさを問わないと定義されている1).OCTでは,地図上萎縮の部における網膜色素上皮の高反射層の菲薄化を認め,視細胞内節外節接合部(IS/OSline)が欠損していたり感覚網膜厚も菲薄化していたりすることもある(図3).abcd図1軟性ドルーゼンa:眼底写真.黄斑部に黄白色の軟性ドルーゼンが集積し,一部癒合している.矯正視力は0.3.b:FA.軟性ドルーゼンは淡い過蛍光を示す.蛍光漏出は認めない.c:OCT(垂直断).軟性ドルーゼンが多発しており,その部の網膜色素上皮は波打ったようなラインとなる.d:OCT(cの赤枠部の拡大).軟性ドルーゼンは網膜色素上皮とBruch膜との間にあって,内部は均一な中等度反射を示す(矢印).軟性ドルーゼンの基底部にBruch膜の水平ラインがみられる.網膜色素上皮,IS/OSライン,外境界膜は波打っているが断裂は認めない.abc図2Reticularpseudodrusena:眼底写真.黄斑部の耳側に多数のreticularpseudodrusenが均一で小さな黄白色斑として認められる.b:OCT.網膜色素上皮よりも網膜側に突出するような形で沈着する像をretic-ularpseudodrusenは示す.c:OCT(bの赤枠部の拡大).Reticularpseudodrusenは,均一な高反射を示す.abcd図1軟性ドルーゼンa:眼底写真.黄斑部に黄白色の軟性ドルーゼンが集積し,一部癒合している.矯正視力は0.3.b:FA.軟性ドルーゼンは淡い過蛍光を示す.蛍光漏出は認めない.c:OCT(垂直断).軟性ドルーゼンが多発しており,その部の網膜色素上皮は波打ったようなラインとなる.d:OCT(cの赤枠部の拡大).軟性ドルーゼンは網膜色素上皮とBruch膜との間にあって,内部は均一な中等度反射を示す(矢印).軟性ドルーゼンの基底部にBruch膜の水平ラインがみられる.網膜色素上皮,IS/OSライン,外境界膜は波打っているが断裂は認めない.abc図2Reticularpseudodrusena:眼底写真.黄斑部の耳側に多数のreticularpseudodrusenが均一で小さな黄白色斑として認められる.b:OCT.網膜色素上皮よりも網膜側に突出するような形で沈着する像をretic-ularpseudodrusenは示す.c:OCT(bの赤枠部の拡大).Reticularpseudodrusenは,均一な高反射を示す. 1782あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(44)OCTでは,Type1CNVは扁平で不整に隆起した網膜色素上皮とBruch膜との間で中等度の反射を示し,網膜色素上皮とBruch膜の2本のラインから,後述のPCV(ポリープ状脈絡膜血管症)でよく用いられているdoublelayersignを呈する(図4).Type2CNVは,網膜色素上皮よりも上の感覚網膜下あるいは感覚網膜内に高反射塊として描出され,時に明瞭な網膜色素上皮の下(感覚網膜下か網膜色素上皮下)どちらかに広がるか,あるいは上下両方にみられる症例もある.病理組織学的には,網膜色素上皮の下にみられるCNVはGass分類I型(Type1CNV),網膜色素上皮の上に広がるCNVはGass分類II型(Type2CNV)としている3).臨床ではType1CNVやType1+2CNVの症例が多く,純粋なType2CNVのみの症例は頻度としては少ない4).abcd図3萎縮型加齢黄斑変性a:眼底写真.網膜色素上皮の地図状萎縮病巣を認める.b:FA後期(6分).地図状萎縮病巣の部は境界鮮明なwindowdefectによる過蛍光を示している.c:IA晩期(18分).地図状萎縮の部は脈絡膜毛細管板の萎縮のため境界鮮明な低蛍光を示し,脈絡膜中大血管を透見できる.d:OCT(水平断).黄斑部の網膜厚は菲薄化し,中心窩付近では網膜外層は萎縮している.萎縮した部は,網膜色素上皮萎縮により深部反射が亢進し脈絡膜の輝度が高くなっている.abcde図4滲出型加齢黄斑変性(典型AMD;Type1CNV)a:眼底写真.黄斑部に中心窩からやや耳下側にかけて網膜色素上皮の変性を認める.矯正視力は0.8.b:FA後期(6分).網膜色素上皮変性部がわずかな蛍光漏出を伴う淡い過蛍光を認める.c:IA晩期(30分).FAで過蛍光を示した部(矢印)に淡い過蛍光を認める(plaque).d:OCT(水平断).中心窩下に網膜色素上皮の不整な隆起を認め(矢印,内部は中等度反射を示し,Type1CNVの存在を示唆する.隆起した網膜色素上皮基底部にはBruch膜を認める.e:OCT(垂直断).水平断と同様,内部が中等度反射を示す網膜色素上皮の隆起を認める.水平断でも認めているが,太矢印で示す中心窩を含む漿液性網膜.離を認める.感覚網膜の層構造はIS/OSラインを含め保たれているので,矯正視力は0.8と比較的良好である.abcd図3萎縮型加齢黄斑変性a:眼底写真.網膜色素上皮の地図状萎縮病巣を認める.b:FA後期(6分).地図状萎縮病巣の部は境界鮮明なwindowdefectによる過蛍光を示している.c:IA晩期(18分).地図状萎縮の部は脈絡膜毛細管板の萎縮のため境界鮮明な低蛍光を示し,脈絡膜中大血管を透見できる.d:OCT(水平断).黄斑部の網膜厚は菲薄化し,中心窩付近では網膜外層は萎縮している.萎縮した部は,網膜色素上皮萎縮により深部反射が亢進し脈絡膜の輝度が高くなっている.abcde図4滲出型加齢黄斑変性(典型AMD;Type1CNV)a:眼底写真.黄斑部に中心窩からやや耳下側にかけて網膜色素上皮の変性を認める.矯正視力は0.8.b:FA後期(6分).網膜色素上皮変性部がわずかな蛍光漏出を伴う淡い過蛍光を認める.c:IA晩期(30分).FAで過蛍光を示した部(矢印)に淡い過蛍光を認める(plaque).d:OCT(水平断).中心窩下に網膜色素上皮の不整な隆起を認め(矢印,内部は中等度反射を示し,Type1CNVの存在を示唆する.隆起した網膜色素上皮基底部にはBruch膜を認める.e:OCT(垂直断).水平断と同様,内部が中等度反射を示す網膜色素上皮の隆起を認める.水平断でも認めているが,太矢印で示す中心窩を含む漿液性網膜.離を認める.感覚網膜の層構造はIS/OSラインを含め保たれているので,矯正視力は0.8と比較的良好である. あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141783(45)2)漿液性網膜色素上皮.離滲出型AMDの主要所見として定められている漿液性網膜色素上皮.離は,1乳頭径以上の大きさとされており,CNVの有無は問わない.1乳頭未満のものはAMDの前駆病変として扱う.断裂を認めることもある(図5).一番頻度の多いType1+2CNVでは,Type1と2のそれぞれの特徴をみることもあるが,病巣が大きくなり,また網膜色素上皮を挟んで上下に重なることなどから,網膜色素上皮のラインやType1CNVの反射を捉えにくくなることも多い.abcde図5滲出型加齢黄斑変性(典型AMD;Type2CNV)a:眼底写真.黄斑部に網膜下出血を伴う灰白色病巣を認める.矯正視力は0.2.b:FA早期(30秒).早期から灰白色病変の部に境界鮮明な過蛍光を認める.c:IA晩期(19分).FAで認めた過蛍光域に早期から境界明瞭な網目状血管を認め,時間とともに周囲に低蛍光輪(darkrim)を伴う過蛍光を認める.d:OCT(水平断).網膜色素上皮よりも上側に高反射塊を認める(矢印).e:OCT(垂直面).水平断と同様,網膜色素上皮の上側に高反射塊を認め(矢印),太矢印の部で網膜色素上皮の断裂を認める.abcde図6漿液性網膜色素上皮.離a:眼底写真.2乳頭径大のドーム状の網膜色素上皮.離を認める.矯正視力は0.8.b:FA早期(30秒).早期から網膜色素上皮は境界鮮明な均一な過蛍光を示す.c:FA後期(6分).網膜色素上皮の過蛍光は時間の経過とともに増強する.矢印の部に網膜色素上皮障害による過蛍光を認める.d:IA晩期(27分).網膜色素上皮.離は造影全期間を通して低蛍光を示す.FA後期の過蛍光部はIAでplaque形成を認めずCNVは認めなかった.e:OCT(水平断).太矢印で示す内部が低反射を示す網膜色素上皮のドーム状隆起を認めた.網膜色素上皮.離の縁(矢印)部には網膜色素上皮がやや不整となっており,今後CNVの発生に注意を要する箇所である.abcde図5滲出型加齢黄斑変性(典型AMD;Type2CNV)a:眼底写真.黄斑部に網膜下出血を伴う灰白色病巣を認める.矯正視力は0.2.b:FA早期(30秒).早期から灰白色病変の部に境界鮮明な過蛍光を認める.c:IA晩期(19分).FAで認めた過蛍光域に早期から境界明瞭な網目状血管を認め,時間とともに周囲に低蛍光輪(darkrim)を伴う過蛍光を認める.d:OCT(水平断).網膜色素上皮よりも上側に高反射塊を認める(矢印).e:OCT(垂直面).水平断と同様,網膜色素上皮の上側に高反射塊を認め(矢印),太矢印の部で網膜色素上皮の断裂を認める.abcde図6漿液性網膜色素上皮.離a:眼底写真.2乳頭径大のドーム状の網膜色素上皮.離を認める.矯正視力は0.8.b:FA早期(30秒).早期から網膜色素上皮は境界鮮明な均一な過蛍光を示す.c:FA後期(6分).網膜色素上皮の過蛍光は時間の経過とともに増強する.矢印の部に網膜色素上皮障害による過蛍光を認める.d:IA晩期(27分).網膜色素上皮.離は造影全期間を通して低蛍光を示す.FA後期の過蛍光部はIAでplaque形成を認めずCNVは認めなかった.e:OCT(水平断).太矢印で示す内部が低反射を示す網膜色素上皮のドーム状隆起を認めた.網膜色素上皮.離の縁(矢印)部には網膜色素上皮がやや不整となっており,今後CNVの発生に注意を要する箇所である. 1784あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(46)b.ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)PCVは網膜色素上皮下に広がる異常血管網と,その先端にポリープ状病巣を形成する滲出型AMDの特殊型で,日本人の滲出型AMDに占める割合が高い5,6).ポリープ状病巣も網膜色素上皮とBruch膜との間に存在すると考えられている7).OCTでは,ポリープ状病巣は網膜色素状の急峻な立ち上がりを特徴としており,内部は充満する血管のために充実性の高反射を示すことが多い.異常血管網は,網膜色素上皮とその下のBruch膜との間に中等度の反射として認められることが多く,この網膜色素上皮とBruch膜のラインが2本並んでいることから,doublelayersignという呼び方をされている8)(図7).元々,PCVのOCTの読影で用いられてきたが,最近はOCTがspectraldomainとなって解像度が良くなっており,前述の典型AMDにおけるType1CNVも同じような所見を呈している.このようなPCVとType1CNVの区別がむずかしい場合,PCVでは脈絡膜が肥厚していることが多く(図8),診断の参考となることも報告されている9).ポリープ状病巣からの漏出が強くフィブリンや網膜下出血に覆われている場合,眼底検査で橙赤色病巣を認められないことが多いが,OCTでは網膜内のフィブリンや出血の反射の下に急峻な立ち上がりを示すポリープ状病巣を検出することができることがある(図9).このような強いフィブリンの析出を伴うポリープ状病巣は透過性亢進病巣と呼び,当科におけるPCVにおいて12%の症例に認められた.c.網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)RAPは網膜内血管由来の新生血管が生じて滲出性所見を呈する滲出型AMDの特殊型で,2001年にYan-nuzziによって提唱された10).YannuzziらはRAPをstage1.3に病期分類しており9),下記に述べるように,その病期によって眼底やOCTの所見にも違いを認める.また,YannuzziやFreundらは,RAPの新生血管をGass分類のI型,II型に加える形でIII型(Type3neo-vascularization)としている11,12).Gassは,網膜由来のOCTでは,内部反射の低い網膜色素上皮のドーム状隆起として認め,網膜色素上皮.離の基底部にBruch膜を認めることが多い.経過の長い網膜色素上皮.離では網膜色素上皮の重層化や内部反射の輝度が高くなるものもある(図6).3)出血性網膜色素上皮.離出血性網膜色素上皮.離については大きさを問わず,認めたときには滲出性AMDと診断してよい主要所見の一項目である.OCTでは漿液性網膜色素上皮.離と同様,網膜色素上皮のドーム状隆起として認められるが,内部の反射は出血による血液成分のため高反射となる.4)線維性瘢痕線維性瘢痕は滲出性AMDの終末像であり,疾患としての活動性は認めない状態であるが,主要所見の一つとされている.OCTでは,瘢痕組織の部は高反射を示す.5)AMDの随伴所見(滲出性所見,網膜または網膜下出血)滲出型AMDでよくみられる所見のなかで,網膜下灰白色斑(網膜下フィブリン),硬性白斑,網膜浮腫,漿液性網膜.離などの滲出性所見と,網膜または網膜下出血も診断基準では随伴所見とされている.これらの所見は,疾患の活動性に伴って生じる所見なので,診断時に認めていた所見も治療後に活動性が鎮静化するにつれて消失する.それゆえに,AMDの治療効果の判定にはOCTの所見を参考にすることが一般的になり,以前のようにFAやIAを頻繁に行わなくなった.OCTにおける所見としては,網膜下フィブリン(網膜下灰白色斑)は均一な中等度.高反射を示し,硬性白斑は網膜内の境界明瞭な高反射として描出され,その下部の陰影が減衰する.網膜浮腫はびまん性浮腫から.胞様黄斑浮腫の形態を示し,漿液性網膜.離は網膜色素上皮と感覚網膜層との間に低反射の間隙を認める.網膜出血は出血の程度によって輝度は変わるが,基本的には高反射を示すことが多い.造影検査でブロックによってCNVを含めて詳細が不鮮明なときでも,OCTでCNVやポリープを観察できることも多い.にBruch膜を認めることが多い.経過の長い網膜色素上皮.離では網膜色素上皮の重層化や内部反射の輝度が高くなるものもある(図6).3)出血性網膜色素上皮.離出血性網膜色素上皮.離については大きさを問わず,認めたときには滲出性AMDと診断してよい主要所見の一項目である.OCTでは漿液性網膜色素上皮.離と同様,網膜色素上皮のドーム状隆起として認められるが,内部の反射は出血による血液成分のため高反射となる.4)線維性瘢痕線維性瘢痕は滲出性AMDの終末像であり,疾患としての活動性は認めない状態であるが,主要所見の一つとされている.OCTでは,瘢痕組織の部は高反射を示す.5)AMDの随伴所見(滲出性所見,網膜または網膜下出血)滲出型AMDでよくみられる所見のなかで,網膜下灰白色斑(網膜下フィブリン),硬性白斑,網膜浮腫,漿液性網膜.離などの滲出性所見と,網膜または網膜下出血も診断基準では随伴所見とされている.これらの所見は,疾患の活動性に伴って生じる所見なので,診断時に認めていた所見も治療後に活動性が鎮静化するにつれて消失する.それゆえに,AMDの治療効果の判定にはOCTの所見を参考にすることが一般的になり,以前のようにFAやIAを頻繁に行わなくなった.OCTにおける所見としては,網膜下フィブリン(網膜下灰白色斑)は均一な中等度.高反射を示し,硬性白斑は網膜内の境界明瞭な高反射として描出され,その下部の陰影が減衰する.網膜浮腫はびまん性浮腫から.胞様黄斑浮腫の形態を示し,漿液性網膜.離は網膜色素上皮と感覚網膜層との間に低反射の間隙を認める.網膜出血は出血の程度によって輝度は変わるが,基本的には高反射を示すことが多い.造影検査でブロックによってCNVを含めて詳細が不鮮明なときでも,OCTでCNVやポリープを観察できることも多い.1784あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014b.ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)PCVは網膜色素上皮下に広がる異常血管網と,その先端にポリープ状病巣を形成する滲出型AMDの特殊型で,日本人の滲出型AMDに占める割合が高い5,6).ポリープ状病巣も網膜色素上皮とBruch膜との間に存在すると考えられている7).OCTでは,ポリープ状病巣は網膜色素状の急峻な立ち上がりを特徴としており,内部は充満する血管のために充実性の高反射を示すことが多い.異常血管網は,網膜色素上皮とその下のBruch膜との間に中等度の反射として認められることが多く,この網膜色素上皮とBruch膜のラインが2本並んでいることから,doublelayersignという呼び方をされている8)(図7).元々,PCVのOCTの読影で用いられてきたが,最近はOCTがspectraldomainとなって解像度が良くなっており,前述の典型AMDにおけるType1CNVも同じような所見を呈している.このようなPCVとType1CNVの区別がむずかしい場合,PCVでは脈絡膜が肥厚していることが多く(図8),診断の参考となることも報告されている9).ポリープ状病巣からの漏出が強くフィブリンや網膜下出血に覆われている場合,眼底検査で橙赤色病巣を認められないことが多いが,OCTでは網膜内のフィブリンや出血の反射の下に急峻な立ち上がりを示すポリープ状病巣を検出することができることがある(図9).このような強いフィブリンの析出を伴うポリープ状病巣は透過性亢進病巣と呼び,当科におけるPCVにおいて12%の症例に認められた.c.網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)RAPは網膜内血管由来の新生血管が生じて滲出性所見を呈する滲出型AMDの特殊型で,2001年にYannuzziによって提唱された10).YannuzziらはRAPをstage1.3に病期分類しており9),下記に述べるように,その病期によって眼底やOCTの所見にも違いを認める.また,YannuzziやFreundらは,RAPの新生血管をGass分類のI型,II型に加える形でIII型(Type3neovascularization)としている11,12).Gassは,網膜由来の(46) あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141785(47)新生血管とは異なりstage1の段階でCNVが存在するという考え方を提唱している13)が,現在はRAPが網膜内新生血管由来であると考えられている.Stage1はRAPの極初期の段階で,網膜内新生血管を認め,視力は良好でも網膜内層に.胞浮腫を認めることが多い.OCTでも網膜内新生血管の高反射とその周囲の.胞浮腫を認める(図10).ただし,比較的視力が良いことが多く,stage1の段階で受診する人は少ない.Stage2は,網膜内新生血管が網膜外層のほうへ伸展し,OCTでは中等度.高反射の反射塊として描出されabcde※図7ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)a:眼底写真.黄斑部の鼻上側に網膜下出血を伴う小さな橙赤色病巣を認める,矯正視力は0.9.b:FA後期(5分).橙赤色病巣の部は円形過蛍光を示し,すぐ鼻側の網膜下出血はブロック効果で低蛍光を示している.円形過蛍光部のすぐ耳側に網膜色素上皮の障害によると考えられる淡い過蛍光を示している.c:IA晩期(18分).FAで示した円形過蛍光はポリープ状の過蛍光を示し,耳側には異常血管網によると考えられる淡い過蛍光を示している(plaque).d:OCT(異常血管網部).FA,IAで異常血管網を示唆した部は,網膜色素上皮が不整に隆起し,内部は中等度反射を示している(※印).e:OCT(ポリープ状病巣部).ポリープ状病巣の部は,網膜色素上皮急峻な立ち上がりがみられ,内部は中等度.高反射を示す(矢印).ポリープ状病巣の周囲には漿液性網膜.離を認める.abc※図8ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)a:眼底写真.黄斑部の耳側に網膜下出血を認め,網膜色素上皮の変性も中心窩を含んで広汎に認める.矯正視力は0.2.b:IA(17分).複数のポリープ状過蛍光を認め,その黄斑部側には淡いplaque様過蛍光を認める(異常血管網).c:OCT(水平断).ポリープは網膜色素上皮の急峻な立ち上がりを示し(矢印),異常血管網の部(※印)は不整な網膜色素上皮の隆起によりdoublelayersignを示している.この症例では脈絡膜の中大血管がやや太く拡張し脈絡膜厚も厚くなっている.abcde※図7ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)a:眼底写真.黄斑部の鼻上側に網膜下出血を伴う小さな橙赤色病巣を認める,矯正視力は0.9.b:FA後期(5分).橙赤色病巣の部は円形過蛍光を示し,すぐ鼻側の網膜下出血はブロック効果で低蛍光を示している.円形過蛍光部のすぐ耳側に網膜色素上皮の障害によると考えられる淡い過蛍光を示している.c:IA晩期(18分).FAで示した円形過蛍光はポリープ状の過蛍光を示し,耳側には異常血管網によると考えられる淡い過蛍光を示している(plaque).d:OCT(異常血管網部).FA,IAで異常血管網を示唆した部は,網膜色素上皮が不整に隆起し,内部は中等度反射を示している(※印).e:OCT(ポリープ状病巣部).ポリープ状病巣の部は,網膜色素上皮急峻な立ち上がりがみられ,内部は中等度.高反射を示す(矢印).ポリープ状病巣の周囲には漿液性網膜.離を認める.abc※図8ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)a:眼底写真.黄斑部の耳側に網膜下出血を認め,網膜色素上皮の変性も中心窩を含んで広汎に認める.矯正視力は0.2.b:IA(17分).複数のポリープ状過蛍光を認め,その黄斑部側には淡いplaque様過蛍光を認める(異常血管網).c:OCT(水平断).ポリープは網膜色素上皮の急峻な立ち上がりを示し(矢印),異常血管網の部(※印)は不整な網膜色素上皮の隆起によりdoublelayersignを示している.この症例では脈絡膜の中大血管がやや太く拡張し脈絡膜厚も厚くなっている. 1786あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(48)る.実際,明確にstage1とstage2の初期とを区別するのはむずかしいことが多い.さらに進行すると網膜色素上皮.離を生じるようになり,OCTでは網膜色素上皮のラインの一部に瘤状に盛り上がった箇所(bumpsign)を認めることもある(図11).Stage3になると,網膜色素上皮.離の頂部に網膜色素上皮の断裂を認め,この部を通して網膜内新生血管が網膜色素上皮.離内に伸展していることを示す反射をOCTで観察することができる(図12).おわりにAMDのOCT所見を,「加齢黄斑変性の分類:2008」に基づいて病型ごとに簡潔に述べた.Spectraldomain(SD)OCTの登場によりって解像度が飛躍的に向上し,AMDの病態を考えるうえで重要な網膜色素上皮層と,その上下の視細胞層や脈絡毛細管板,脈絡膜の観察を詳abcd※図9滲出型加齢黄斑変性の随伴所見(PCVの症例)a:眼底写真.中心窩やや耳側に網膜下出血を伴う灰白色病巣を認める.矯正視力は0.7.b:FA後期(6分).灰白色病巣に一致して旺盛な蛍光漏出を伴う過蛍光を示した.c:IA中期(8分).FAで過蛍光を示した部位は,ポリープ状の強い円形過蛍光を認めた.d:OCT(水平断).灰白色病巣の部には,内部が中等度反射を示す網膜色素上皮の隆起病巣を認め(矢印),その上部に均一な高反射を認めた(フィブリン:太矢印).中心窩下には漿液性網膜.離を認める(※印).この症例のように一見Type2CNVのAMDにみえる症例でもOCTからPCVであることを確認できることがある14).abdc※図10網膜血管腫状増殖(RAP:stage1)a:眼底写真.後極部に多数の軟性ドルーゼンを認め,中心窩の鼻側に網膜表層出血を認める.b:FA後期(7分).軟性ドルーゼンは過蛍光を示し,網膜表層出血の低蛍光部の上側にやや過蛍光を示している(矢印).c:IA晩期(19分).軟性ドルーゼンの部は低蛍光を示し,FAでみられた網膜表層出血の低蛍光部に円形の過蛍光を認める(hotspot.矢印).d:OCT(斜め断).多発するドルーゼンのために網膜色素上皮は不整に隆起しており,中心窩にはわずかに漿液性網膜.離を認める.IAでみられたhotspotの部は網膜内層に高反射塊として描出され,網膜内新生血管と考えられる(矢印).この高反射のすぐ鼻上側には網膜浮腫も認められる.abcd※図9滲出型加齢黄斑変性の随伴所見(PCVの症例)a:眼底写真.中心窩やや耳側に網膜下出血を伴う灰白色病巣を認める.矯正視力は0.7.b:FA後期(6分).灰白色病巣に一致して旺盛な蛍光漏出を伴う過蛍光を示した.c:IA中期(8分).FAで過蛍光を示した部位は,ポリープ状の強い円形過蛍光を認めた.d:OCT(水平断).灰白色病巣の部には,内部が中等度反射を示す網膜色素上皮の隆起病巣を認め(矢印),その上部に均一な高反射を認めた(フィブリン:太矢印).中心窩下には漿液性網膜.離を認める(※印).この症例のように一見Type2CNVのAMDにみえる症例でもOCTからPCVであることを確認できることがある14).abdc※図10網膜血管腫状増殖(RAP:stage1)a:眼底写真.後極部に多数の軟性ドルーゼンを認め,中心窩の鼻側に網膜表層出血を認める.b:FA後期(7分).軟性ドルーゼンは過蛍光を示し,網膜表層出血の低蛍光部の上側にやや過蛍光を示している(矢印).c:IA晩期(19分).軟性ドルーゼンの部は低蛍光を示し,FAでみられた網膜表層出血の低蛍光部に円形の過蛍光を認める(hotspot.矢印).d:OCT(斜め断).多発するドルーゼンのために網膜色素上皮は不整に隆起しており,中心窩にはわずかに漿液性網膜.離を認める.IAでみられたhotspotの部は網膜内層に高反射塊として描出され,網膜内新生血管と考えられる(矢印).この高反射のすぐ鼻上側には網膜浮腫も認められる. あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141787(49)abefdc図11網膜内血管腫状増殖(RAP:stage2)a:眼底写真.黄斑部に漿液性網膜色素上皮.離を認め,傍中心窩に網膜表層出血を認める.矯正視力は0.4.b:FA後期(7分).網膜色素上皮.離の過蛍光の中に,点状の強い過蛍光を複数認める.c:IA早期(17秒).網膜色素上皮.離は低蛍光を示し,その中に網膜血管から流入する過蛍光点を認める(矢印).d:IA晩期(22分).IA早期にみられた過蛍光点の蛍光が強くなり,瘤状過蛍光(hotspot)を呈する(矢印).e:OCT(水平断).大きな漿液性網膜色素上皮.離を認め,FA,IAで過蛍光を示した点に一致して高反射所見を認める.その周りには.胞浮腫も認める.f:OCT(斜め断).網膜内に高反射塊(網膜内新生血管:太矢印)を認め,瘤状に隆起した網膜色素上皮(bumpsign:白矢頭)と接している.新生血管の高反射の周りには.胞浮腫の低蛍光やhyperreflectivefociの点状過蛍光(矢印)も認める.abcde※図12網膜内血管腫状増殖(RAP:stage3)a:眼底写真.中心窩のやや鼻下側にフィブリンと思われる黄白色病巣を認め,網膜表層出血を伴っている.b:FA早期(30秒).網膜出血による低蛍光の上側に過蛍光点を認める(矢印).c:FA後期(5分40秒).早期にみられた過蛍光は増強し,その過蛍光点を含んで網膜色素上皮.離の範囲は過蛍光を示している.d:IA晩期(20分).FAで認めた過蛍光点の部がIAでも過蛍光を示している(hotspot:矢印).e:OCT(斜め断).網膜色素上皮.離の頂部に瘤状の隆起を認め(太矢印),網膜色素上皮の断裂がみられる(※印).網膜内および網膜色素上皮.離内に新生血管と思われる高反射(矢印)を認め,断裂部を通して吻合している.abefdc図11網膜内血管腫状増殖(RAP:stage2)a:眼底写真.黄斑部に漿液性網膜色素上皮.離を認め,傍中心窩に網膜表層出血を認める.矯正視力は0.4.b:FA後期(7分).網膜色素上皮.離の過蛍光の中に,点状の強い過蛍光を複数認める.c:IA早期(17秒).網膜色素上皮.離は低蛍光を示し,その中に網膜血管から流入する過蛍光点を認める(矢印).d:IA晩期(22分).IA早期にみられた過蛍光点の蛍光が強くなり,瘤状過蛍光(hotspot)を呈する(矢印).e:OCT(水平断).大きな漿液性網膜色素上皮.離を認め,FA,IAで過蛍光を示した点に一致して高反射所見を認める.その周りには.胞浮腫も認める.f:OCT(斜め断).網膜内に高反射塊(網膜内新生血管:太矢印)を認め,瘤状に隆起した網膜色素上皮(bumpsign:白矢頭)と接している.新生血管の高反射の周りには.胞浮腫の低蛍光やhyperreflectivefociの点状過蛍光(矢印)も認める.abcde※図12網膜内血管腫状増殖(RAP:stage3)a:眼底写真.中心窩のやや鼻下側にフィブリンと思われる黄白色病巣を認め,網膜表層出血を伴っている.b:FA早期(30秒).網膜出血による低蛍光の上側に過蛍光点を認める(矢印).c:FA後期(5分40秒).早期にみられた過蛍光は増強し,その過蛍光点を含んで網膜色素上皮.離の範囲は過蛍光を示している.d:IA晩期(20分).FAで認めた過蛍光点の部がIAでも過蛍光を示している(hotspot:矢印).e:OCT(斜め断).網膜色素上皮.離の頂部に瘤状の隆起を認め(太矢印),網膜色素上皮の断裂がみられる(※印).網膜内および網膜色素上皮.離内に新生血管と思われる高反射(矢印)を認め,断裂部を通して吻合している. 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網膜血管病変の「OCTを読む」

2014年12月31日 水曜日

特集●OCTを読むあたらしい眼科31(12):1771.1777,2014特集●OCTを読むあたらしい眼科31(12):1771.1777,2014網膜血管病変の「OCTを読む」OpticalCoherenceTomographyObservationsinEyeswithRetinalVascularDisease村岡勇貴*辻川明孝**はじめに網膜循環疾患のなかには,糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR),網膜静脈閉塞症(retinalveinocclusion:RVO),網膜細動脈瘤,Coats病,網膜動脈閉塞症,眼虚血症候群などさまざまなものが存在する.しかし,これらの疾患に伴う網膜血管病変には共通なものが多い.本項では,網膜循環疾患に生じるさまざまな網膜・網膜血管の形態変化に関して,頻度の高いDRとRVO症例を中心に,また,視機能との関連が高い所見の光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)像について解説する.I黄斑浮腫(感覚網膜の浮腫)と視細胞所見DRやRVOをはじめとした網膜循環疾患では,毛細血管あるいは網膜静脈の血管透過性が亢進しているため,血管内の血漿成分が網膜に漏出する.漏出が黄斑部に及ぶと黄斑浮腫とよばれる病態となる.黄斑部には視細胞(錐体)が高密度に存在するため,黄斑浮腫は視力低下に直結する.黄斑浮腫は網膜実質(感覚網膜)の膨化と.胞様腔からなる.疾患によって多少分布が異なるが,.胞様腔は網膜のあらゆる層に形成され,中心窩の比較的大きなものと,傍中心窩の内顆粒層・外網状層を中心とした比較的小さなものが特徴的である(図1)1).多くのOCTでは,網膜最内層の内境界膜(internallimitingmembrane:ILM)から最外層の網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)までの距離が網膜厚として計測され,黄斑部の網膜厚は黄斑浮腫の指標となる.疾患により程度が異なるが,黄斑部の網膜厚は視力と弱い負の相関を示すことが知られている(浮腫が強く網膜厚が厚くなると,視力が下がる傾向となる).網膜厚よりも強く視力と関連するOCT所見は,中心窩の視細胞の状態である2).OCT上,視細胞の状態を示す指標として,視細胞の内節外節接合部(photoreceptorinnersegment/outersegment:IS/OS)ライン(最近は,ellipsoidラインとよばれる)や外境界膜(externallimitingmembrane:ELM)ラインの連続性に注目する.仮に,中心窩に大きな.胞様腔が存在したとする.ここで,.胞様腔の下にIS/OSやELMラインがはっきりと確認できれば,視力良好の場合がある2).一方,IS/OSやELMラインが不連続,あるいは,完全に欠損している場合には,中心窩の視細胞が相応に障害されていると考えられ,治療により黄斑浮腫が軽減したとしても良好な視力が得られないことがある2).II漿液性網膜.離(SRD)OCT上,漿液性網膜.離(serousretinaldetachment:SRD)は感覚網膜とRPE間の低反射領域として観察される(図2).DRでは重症非増殖糖尿病網膜症(severeNPDR)以上の重症例に比較的多く,RVOでは急性期症例の8割程度にSRDが認められる1,3).SRDは,比較的広汎なものから,OCTで初めて検出されるような限局性のものまである1).SRDはほとんどの場合に中*YukiMuraoka:京都大学大学院医学研究科眼科学**AkitakaTsujikawa:香川大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕村岡勇貴:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(33)1771 1772あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(34)hyperreflectivefoci(hyperreflective=高反射のfoci=病変を意味するfocusの複数形)とよばれる小さな高輝度粒子が観察されることがある(図2)4,5).Hyperreflectivefociは硬性白斑と異なり検眼鏡では観察できず,硬性白斑の前駆物質(hyperreflectivefociが集積することで硬性白斑として認められるようになるもの)と考えられている.RVO〔網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)〕とDRでは,硬性白斑の網膜内分布は平面的にも,深さ方向にも異なることが多い4.6).特に注意すべきはDR症例においてである.DRでは,SRDの中に硬性白斑やhyperreflectivefociが認められ心窩を含み,丈は中心窩でもっとも高くなる1).DRにおけるSRDの存在は,治療抵抗性,視力予後不良のサインであるとも報告されており,重要な所見である4).RVOの場合は,急性期を過ぎると消失することが多いが,一方,SRDの増加や再出現の際には,障害静脈の再閉塞を考慮する必要がある.III硬性白斑とhyperreflectivefoci硬性白斑は検眼鏡的には境界明瞭な黄色沈着物として観察されるが,OCTでは,網膜内層から外層,ときに網膜下の高反射塊として描出される.網膜循環疾患のOCTを詳細に観察すると,網膜内に中心窩の.胞様腔外網状層の.胞様腔,網膜膨化内顆粒層の.胞様腔図1黄斑浮腫を伴った急性期網膜静脈分枝閉塞症のOCT像(文献1を改変)BRVOに伴う.胞様腔は網膜のあらゆる層に形成されるが,中心窩の大きな.胞様腔と傍中心窩の内顆粒層・外網状層の比較的小さな.胞様腔が特徴的である.Hyperreflectivefoci漿液性網膜.離漿液性網膜.離の消失とともに硬性白斑が中心窩へ集積した図2糖尿病網膜症に伴う漿液性網膜.離(SRD)とhyperreflectivefoci(文献4を改変)上:SRDは中心窩でもっとも丈が高い.Hyperreflectivefociが網膜外層,網膜下腔に多く認められる.下:SRDの消失とともに,中心窩下にhyperreflectivefoci(硬性白斑)が集積している.中心窩の.胞様腔外網状層の.胞様腔,網膜膨化内顆粒層の.胞様腔図1黄斑浮腫を伴った急性期網膜静脈分枝閉塞症のOCT像(文献1を改変)BRVOに伴う.胞様腔は網膜のあらゆる層に形成されるが,中心窩の大きな.胞様腔と傍中心窩の内顆粒層・外網状層の比較的小さな.胞様腔が特徴的である.Hyperreflectivefoci漿液性網膜.離漿液性網膜.離の消失とともに硬性白斑が中心窩へ集積した図2糖尿病網膜症に伴う漿液性網膜.離(SRD)とhyperreflectivefoci(文献4を改変)上:SRDは中心窩でもっとも丈が高い.Hyperreflectivefociが網膜外層,網膜下腔に多く認められる.下:SRDの消失とともに,中心窩下にhyperreflectivefoci(硬性白斑)が集積している. 網膜下出血.胞様腔の出血網膜下出血.胞様腔の出血図3網膜静脈分枝閉塞症に伴う網膜下出血,.胞様腔の出血(文献3を改変)左:ニボーを形成した.胞様腔の出血(矢頭).右:中心窩を通るOCT画像..胞様腔内の出血はニボーを形成している.中心窩下には網膜下出血も認められる.動脈静脈網膜神経線維層動脈静脈200μm血管壁図4正常網膜血管のOCT像(文献7を改変)視神経乳頭そばの主要網膜血管のOCT断面.緑矢印はSD-OCT断面を示す.網膜血管は網膜神経線維層に描出され,そのセンターラインにおいて4つの高反射点が認められる.下段はOCT画像のイラスト.最外,最内の点は血管壁に由来,内部の対になった円形の高反射像は血流による. 32歳,男性70歳,男性図5若年者と高齢者の網膜血管のOCT像(文献8を改変)上:32歳,男性の網膜血管断面.下:70歳,男性の網膜血管断面.若年者に比べ,高齢者では,動脈,静脈ともに網膜血管壁が厚く高反射に描出されている.動脈静脈動脈静脈 あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141775(37)る.興味深いことに,A/V,V/Aの2つの交叉パターンにおいて,血栓はすべて交叉部下流,つまり近位側を中心に認められた(図7)7).このOCT所見は,BRVOの機序として,静脈が動脈壁に物理的に閉塞させられる可能性を示唆するものではなく,静脈内の慢性的な乱流が血栓形成の原因であることを推測させる.V/Aパターンでは,これらの機序に加えて,ILMや動脈壁からの機械的圧迫が関与するのかもしれない.3.BRVOの原因交叉部BRVOは,典型的には網膜動静脈交叉部で生じる.通常,動静脈交叉部の約7割は動脈が静脈の上(硝子体側)を走行するA/Vパターンである.しかし,BRVOを生じた交叉部のみで解析すると,A/Vパターンは9割以上と,その頻度は圧倒的に多くなる.網膜動静脈交叉部では動脈と静脈は共通鞘を有しているとされ,交叉部の動脈壁が動脈硬化により肥厚した場合に近接している静脈を機械的に押しつぶすことが,従来BRVOの病因であると考えられてきた.しかし,OCTを用いてBRVOの原因交叉部を詳細に観察すると,A/Vパターンでは,交叉部の静脈は網膜の深部方向に潜り込み,かつ内腔が保たれているとされた(図6)7).その逆に,静脈が動脈の上(硝子体側)を走行するV/Aパターンでは,交叉部の静脈内腔はILMと動脈壁との狭い範囲に挟まされ狭窄していることが多いとされた7).OCTによって,静脈内に血栓が認められることもあ静脈静脈動脈動脈図6網膜静脈分枝閉塞症を生じた網膜動静脈交叉部(文献7を改変)上:眼底写真.緑矢印はSD-OCT断面を示す.中:SD-OCT断面.下:SD-OCT断面のイラスト.交叉部の静脈は動脈を大きく迂回しており,外境界膜にまで達している.静脈内腔は閉塞せず,保たれている.静脈血栓動脈血栓近位側遠位側図7網膜静脈分枝閉塞症に伴う静脈内の血栓(文献7を改変)上:フルオレセイン蛍光眼底写真.緑矢印はSD-OCT断面を示す.中:SD-OCT断面.下:SD-OCT断面のイラスト.静脈内の血栓は網膜動静脈交叉部からその下流(視神経側)にみられる.静脈静脈動脈動脈図6網膜静脈分枝閉塞症を生じた網膜動静脈交叉部(文献7を改変)上:眼底写真.緑矢印はSD-OCT断面を示す.中:SD-OCT断面.下:SD-OCT断面のイラスト.交叉部の静脈は動脈を大きく迂回しており,外境界膜にまで達している.静脈内腔は閉塞せず,保たれている.3.BRVOの原因交叉部BRVOは,典型的には網膜動静脈交叉部で生じる.通常,動静脈交叉部の約7割は動脈が静脈の上(硝子体側)を走行するA/Vパターンである.しかし,BRVOを生じた交叉部のみで解析すると,A/Vパターンは9割以上と,その頻度は圧倒的に多くなる.網膜動静脈交叉部では動脈と静脈は共通鞘を有しているとされ,交叉部の動脈壁が動脈硬化により肥厚した場合に近接している静脈を機械的に押しつぶすことが,従来BRVOの病因であると考えられてきた.しかし,OCTを用いてBRVOの原因交叉部を詳細に観察すると,A/Vパターンでは,交叉部の静脈は網膜の深部方向に潜り込み,かつ内腔が保たれているとされた(図6)7).その逆に,静脈が動脈の上(硝子体側)を走行するV/Aパターンでは,交叉部の静脈内腔はILMと動脈壁との狭い範囲に挟まされ狭窄していることが多いとされた7).OCTによって,静脈内に血栓が認められることもあ(37)静脈血栓動脈血栓近位側遠位側図7網膜静脈分枝閉塞症に伴う静脈内の血栓(文献7を改変)上:フルオレセイン蛍光眼底写真.緑矢印はSD-OCT断面を示す.中:SD-OCT断面.下:SD-OCT断面のイラスト.静脈内の血栓は網膜動静脈交叉部からその下流(視神経側)にみられる.る.興味深いことに,A/V,V/Aの2つの交叉パターンにおいて,血栓はすべて交叉部下流,つまり近位側を中心に認められた(図7)7).このOCT所見は,BRVOの機序として,静脈が動脈壁に物理的に閉塞させられる可能性を示唆するものではなく,静脈内の慢性的な乱流が血栓形成の原因であることを推測させる.V/Aパターンでは,これらの機序に加えて,ILMや動脈壁からの機械的圧迫が関与するのかもしれない.あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141775 1776あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(38)する網膜・網膜下に認められる病変と,網膜血管そのものの病的変化を「網膜血管病変」として,そのOCT所見について概説した.文献1)TsujikawaA,SakamotoA,OtaMetal:Serousretinaldetachmentassociatedwithretinalveinocclusion.AmJOphthalmol149:291-301,20102)OtaM,TsujikawaA,MurakamiTetal:Fovealphotoreceptorlayerineyeswithpersistentcystoidmacularedemaassociatedwithbranchretinalveinocclusion.AmJOphthalmol145:273-280,20083)MuraokaY,TsujikawaA,MurakamiTetal:Branchretinalveinocclusion-associatedsubretinalhemorrhage.JpnJOphthalmol57:275-282,20134)OtaM,NishijimaK,SakamotoAetal:Opticalcoherencetomographicevaluationoffovealhardexudatesinpatientswithdiabeticmaculopathyaccompanyingmaculardetachment.Ophthalmolofy117:1996-2002,20104.CRVOの蛇行静脈CRVOの閉塞部位は視神経内の篩状板レベルであるので,BRVOの場合のように障害部位を詳細に観察することは不可能である.しかし,BRVOと同様の手法で網膜静脈をOCTで詳細に観察すると,静脈蛇行が網膜最表層からRPEレベルまで,肥厚した網膜内を全層にわたり走行していることが報告された(図8)9).また,その強い静脈蛇行によって,その近傍に網膜裂隙がしばしば形成されることがわかった.さらに,その蛇行度は,視力と負の相関を,黄斑浮腫やSRDの高さとは正の相関を示すこと,虚血型CRVOの蛇行度は非虚血型のそれよりも有意に大きいことが報告されている9).おわりに網膜循環疾患においても,OCTはさまざまな病態解明に大いに貢献している.今回は,網膜循環疾患に併発.胞様腔200μm図8網膜中心静脈閉塞症に伴う静脈蛇行とその周囲の網膜裂隙(文献9を改変)上:OCT断面でみると網膜静脈は網膜内層から外層までほぼ全層にわたり蛇行している.下:蛇行した網膜静脈周囲に網膜裂隙が形成されている..胞様腔200μm図8網膜中心静脈閉塞症に伴う静脈蛇行とその周囲の網膜裂隙(文献9を改変)上:OCT断面でみると網膜静脈は網膜内層から外層までほぼ全層にわたり蛇行している.下:蛇行した網膜静脈周囲に網膜裂隙が形成されている. あたらしい眼科Vol.31,No.12,20141777(39)5)UjiA,MurakamiT,NishijimaKetal:Associationbetweenhyperreflectivefociintheouterretina,statusofphotoreceptorlayer,andvisualacuityindiabeticmacularedema.AmJOphthalmol153:710-717,20126)OginoK,MurakamiT,TsujikawaAetal:Characteristicsofopticalcoherencetomographichyperreflectivefociinretinalveinocclusion.Retina32:77-85,20127)MuraokaY,TsujikawaA,MurakamiTetal:Morphologicandfunctionalchangesinretinalvesselsassociatedwithbranchretinalveinocclusion.Ophthalmology120:91-99,20138)MuraokaY,TsujikawaA,KumagaiKetal:Age-andhypertension-dependentchangesinretinalvesseldiameterandwallthickness:anopticalcoherencetomographystudy.AmJOphthalmol156:706-714,20139)MuraokaY,TsujikawaA,KumagaiKetal:Retinalvesseltortuosityassociatedwithcentralretinalveinocclusion:anopticalcoherencetomographystudy.InvestOph-thalmolVisSci55:134-141,2014