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反張式眼圧計・アイケアic200 手持眼圧計による 眼圧測定値の検討

2023年10月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科40(10):1337.1341,2023c反張式眼圧計・アイケアic200手持眼圧計による眼圧測定値の検討吉村雅弘重城達哉徳田直人遠藤誠子山田雄介豊田泰大塚本彩香北岡康史聖マリアンナ医科大学眼科学教室CInvestigationofIntraocularPressureMeasuredbyiCareIC200ReboundTonometerMasahiroYoshimura,TatsuyaJujo,NaotoTokuda,AkikoEndo,YusukeYamada,YasuhiroToyoda,AyakaTukamotoandYasushiKitaokaCDepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicineC目的:アイケアCic200手持眼圧計(ic200)による眼圧測定値を,非接触型眼圧計(NCT)およびアイケアCPRO手持眼圧計(PRO)と比較する.ic200による異なる体位での眼圧測定値についても評価する.方法:開放隅角緑内障患者C50名C50眼に対し,NCTでは座位にて,PROでは座位・仰臥位,ic200では座位・仰臥位・半座位で眼圧を測定し比較検討した.結果:座位についてはCNCT13.6CmmHg,PRO13.7CmmHg,ic20013.0CmmHgであり,ic200はCNCTよりも有意に低かった.体位の影響について検討した結果,ic200では半座位,仰臥位ともに座位よりも有意に眼圧が高かった.各機種とも角膜厚との相関関係は認められなかった.結論:ic200ではCNCTよりも眼圧測定値が低く表示される傾向がある.ic200は仰臥位,半座位による眼圧上昇を正確に評価している可能性がある.CPurpose:Tocompareintraocularpressure(IOP)measurementsobtainedusingtheiCareIC200(ic200)(IcareFinland)hand-heldreboundtonometer(ic200)withthoseobtainedusinganon-contacttonometer(NCT)andtheiCarePRO(IcareFinland)hand-heldreboundtonometer(PRO)C,andevaluateIOPindi.erentpositionsusingtheic200.CMethods:In50eyeswithopen-angleglaucoma,IOPwasmeasuredinthesittingpositionwiththeNCT,intheCsittingCandCsupineCpositionsCwithCtheCPRO,CandCinCtheCsitting,Csupine,CandCsemi-recumbentCpositionsCwithCtheCic200.CResults:TheCIOPCvaluesCinCtheCsittingCpositionCwereC13.6mmHgCforCNCT,C13.7mmHgCforCPRO,CandC13.0CmmHgforic200,withic200beingsigni.cantlylowerthanNCT.TheIOPmeasuredbyic200indi.erentposi-tionsCwasCsigni.cantlyChigherCinCtheCsemi-seatedCandCsupineCpositionsCthanCinCtheCseatedCposition.CThereCwasCnoCcorrelationbetweenIOPmeasurementsinthesittingpositionandcornealthicknessforeachmodel.Conclusions:CTheic200showedatendencytomeasurelowerIOPvaluesthanNCT.IOPtendedtobehigherinthesupineandsemi-recumbentpositionsthanintheseatedposition.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(10):1337.1341,C2023〕Keywords:反跳式眼圧計,アイケアCic200手持眼圧計,アイケアCPRO手持眼圧計,座位,仰臥位,半座位.re-boundtonometer,iCareIC200hand-heldreboundtonometer,iCarePROhand-heldreboundtonometer,sittingpo-sition,supineposition,semi-recumbentpositions.Cはじめに緑内障治療においてもっとも確実な治療法は眼圧下降である1).眼圧は緑内障診療における治療効果判定や予後予測に大きく関与するため,測定された眼圧値が正確であることは重要である.眼圧測定値は測定する時間や季節などさまざまな要因に影響を受け変動することが知られている2).体位も眼圧に影響を及ぼす因子であり,座位と比較して仰臥位では眼圧測定値が上昇することが知られている3).日常診療でもっとも多く使用されているCGoldmann圧平眼圧計(Goldma-nnCapplanationtonometer:GAT)や非接触型眼圧計(non-〔別刷請求先〕吉村雅弘:〒216-8511神奈川県川崎市宮前区菅生C2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:MasahiroYoshimura,DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki,Kanagawa216-8511,JAPANCcontacttonometer:NCT)は座位で測定するため,このC2機種間においては体位による影響はない.しかし,GATは検者間での測定誤差が生じることが指摘されている4)のに対し,NCTは測定が容易であり,検者間での測定誤差も少なくコメディカルでも使用可能である5).その後,反張式眼圧計であるアイケア手持眼圧計(エムイーテクニカ)が開発され,その改良機種としてアイケアCPRO手持眼圧計(以下,PRO)が誕生し,座位のみならず仰臥位でも眼圧測定が可能となった.しかし,仰臥位での眼圧測定時にCPROと角膜がほぼ垂直の状態でなければ眼圧測定が成功しないため,PROにおいても眼圧測定が困難な患者が存在した.その後アイケア手持眼圧計はさらに改良され,座位,仰臥位のみならず半座位のあらゆる角度での眼圧測定が可能となったアイケアCic200手持眼圧計(以下,ic200)が開発された.ic200の登場により仰臥位が困難な車いす利用の患者などでも比較的容易に眼圧測定が可能となった.そこで今回筆者らはCic200,PRO,NCTを用いて,座位・仰臥位・半座位での眼圧測定を行い,その眼圧値を比較検討したので報告する.CI対象および方法2022年C4.10月に聖マリアンナ医科大学病院(以下,当院)緑内障外来を受診し,初診時にCNCT,PRO,ic200のC3機種で眼圧測定が可能であった原発開放隅角緑内障患者C50名C50眼を対象とした.各症例と右眼,左眼の順に両眼の測定を行い,右眼を解析対象とした.C.6D以下の強度近視眼,重篤な角結膜疾患眼,内眼手術と近視矯正手術の既往があるものは,対象から除外した.NCT,PRO,ic200による眼圧測定は同日,同時刻(14.16時)に行った.NCTは座位にて,PROでは座位と仰臥位,ic200では座位,仰臥位,半座位C45°でそれぞれ測定した.NCTについては当院視能訓練士(3名)が測定し,PRO,ic200については同一検者(M.H.)が測定した.眼圧測定の順序は,座位・半座位C45°・仰臥位で行った.はじめに座位でC5分間姿勢保持したのちに,NCT,PRO,ic200の順で測定した.続いて半座位C45°でC5分間姿勢保持しCic200で測定した.その後仰臥位にてC5分間姿勢保持しCPRO,ic200の順に測定した.眼圧測定の際にはPRO,ic200では額あてを額に当てて固定し,眼瞼挙上はしていない.NCTでも基本的には眼瞼挙上はしないが,眼瞼挙上が必要な場合のみ眼球に圧迫を加えずに眼瞼挙上し眼圧を測定した.NCTはCCanonフルオート非接触眼圧計CTX-F(キヤノン)により,3回の連続測定の平均値を,PRO,ic200についてはC6回の連続測定の平均値を測定結果とした.PROの測定結果はC6回測定し,ばらつきが正常範囲内であることを示す「Deviation:OK」と緑色で表示された眼圧値を採用した.同様にCic200の測定結果も信頼性の色分けシステムにより緑色・黄色・赤色のいずれかに分類されるが,そのなかで変動制がもっとも低く,信頼性がもっとも高い緑色の平均値のみを採用した.得られた眼圧測定値について,測定機種,測定体位について比較検討した.角膜厚については眼圧測定と同日に前眼部光干渉断層計CASIA2(トーメーコーポレーション)で測定し,各機種の座位における眼圧測定値と角膜厚の相関について検討した.統計学的な検討は,2群間の比較についてはCpaired-tCtestを行い,有意水準をCp<0.05とした.3群間の比較においては反復測定分散分析(RepeatedCMeasuresANOVA)により,p<0.05となった場合,Bonferroni補正を行った.各種眼圧計間の一致度についてはCBland-Altmanplot,級内相関係数(intraclassCcorrelationcoe.cients:ICC)により評価した.統計解析ソフトはCIBMCSPSSCStatistics21(IBM社)を使用した.なお,本研究は診療録による後ろ向き研究である(聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会C5879号).CII結果表1に対象の背景を示す.Humphrey自動視野計によるCmeandeviationがC.6CdB未満の早期緑内障症例であり,使用中の緑内障点眼薬数は無点眼がC18眼(36%),単剤C29眼(58%),2剤C1眼(2%),3剤(4%)であった.単剤の症例はすべてプロスタノイドCFP受容体作動薬,2剤の症例はプロスタノイドCFP受容体作動薬,交感神経Cb遮断薬の配合点眼薬,3剤の症例はプロスタノイドCFP受容体作動薬と交感神経Cb遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬の配合点眼薬を使用していた.表2にCNCT,PRO,ic200による測定体位別の眼圧測定値(平均値C±標準誤差)を示す.座位についてはCNCTC13.6C±2.9mmHg,PRO13.7C±2.0CmmHg,ic200C13.0C±2.9CmmHgであった.3群間で反復測定分散分析(RepeatedMeasuresANOVA)を行った結果,有意差(p<0.01)を認めたため,Bonferroni補正を行った結果,ic200の眼圧測定値はCPROと有意差を認めなかったが,NCTよりも有意に低く表示されていた(p<0.01).つぎに同機種における体位の影響について検討した.PROについては,座位C13.7C±2.0CmmHg,仰臥位C15.1C±2.5mmHgであり,仰臥位は座位よりも有意に眼圧が高くなっていた(p<0.05).ic200については座位C13.0C±2.9CmmHg,半座位C14.4C±3.6mmHg,仰臥位C15.6C±3.7CmmHgであり,3群間で有意差を認めた(p<0.01)ため,Bonferroni補正を行った結果,半座位(p<0.05),仰臥位(p<0.01)ともに座位よりも有意に眼圧は高くなっていた.図1~3に各種眼圧計による眼圧測定値と,その他の眼圧計で測定した眼圧測定値の関係についてCBland-Altmanplotを示す.ic200とCNCTについては,中央値C.0.56,95%信表1対象の背景年齢C60.4±17.7歳性別(男/女)C24/26logMAR(小数視力)C0.11±0.33(C0.5.C1.2)等価球面度数C.1.9±2.3D眼軸長C24.3±1.1Cmm角膜厚C541.6±43.5CμmHumphrey自動視野計30-2プログラムによるC.3.3±1.8CdBmeandeviationC緑内障点眼薬数C0.74±0.7本表2各種眼圧計による測定体位別の眼圧測定値眼圧測定機種CNCTCPROCic200測定体位C13.0±2.9*座位C13.6±2.9C13.7±2.0C**─C─*C14.4±3.6*半座位C仰臥位C15.1±2.5C15.6±3.7*:p<0.01,**:p<0.05.座位における眼圧測定値は,ic200はCNCTよりも有意に眼圧測定値は低くなっていた(p<0.01).PROによる眼圧測定値は,仰臥位では座位よりも有意に高くなっていた(p<0.05).ic200による眼圧測定値は,半座位(p<0.05),仰臥位(p<0.01)ともに座位よりも有意に高くなっていた.C5.02.52.5.0ic200-NCTPRO-NCT.0-2.5-2.5-5.0-7.5(ic200+NCT)/2図1ic200とNCTによる眼圧測定値に対するBland-Altmanplot:眼圧測定値の差の平均,:誤差の許容範囲.ic200とNCTの眼圧測定値の差とその平均の間に有意な相関は認めない(r=0.02).頼区間.5.33.4.09であった(図1).ic200とCNCTの眼圧測定値の差とその平均の間に有意な傾向は認めなかった(r=0.02).PROとCNCTについては,中央値C0.13,95%信頼区間.4.21.4.39であった(図2).PROとCNCTの眼圧測定-5.0(PRO+NCT)/2図2PROとNCTによる眼圧測定値に対するBland-Altmanplot:眼圧測定値の差の平均,:誤差の許容範囲.PROとNCTの眼圧測定値の差とその平均の間に負の相関を認めた(r=.0.45).値の差とその平均の間に有意な負の相関が認められた(r=.0.45).ic200とCPROについては中央値C.0.63,95%信頼区間.4.05.2.63であった(図3).ic200とCPROの眼圧測定値の差とその平均の間に有意な正の相関が認められた(r.05.010.015.020.0.05.010.015.020.0304.02.0眼圧(mmHg)2010ic200-PRO.0-2.0-4.00.05.010.015.020.0400500600(ic200+PRO)/2図3ic200とPROによる眼圧測定値に対するBland-Altmanplot:眼圧測定値の差の平均,:誤差の許容範囲.ic200とPROの眼圧測定値の差とその平均の間に正の相関を認めた(r=0.57).=0.57).ICCは,ic200とCNCTについてはC0.78,PROとCNCTについてはC0.76,ic200とCPROについてはC0.85であった.各機種の座位における眼圧測定値と角膜厚の関係について散布図を作製し,その相関関係について検討したが,各機種とも角膜厚との相関関係は認められなかった(図4).CIII考按今回の検討では,まず座位においてCNCTと手持ち眼圧計のCPRO,ic200の眼圧測定値の比較を行った.その結果,NCTとCPROの眼圧測定値には有意差が認められなかったが,ic200はCNCTよりも有意に眼圧測定値が低くなっていた.ChenらはCNCTとCPROとCGATとを比較し,眼圧測定値がC22.30CmmHgの群以外では有意差を認めなかったとしている6).今回の検討においてはC3機種ともC20CmmHgを超えた症例はなかったため,NCTとCPROの関係については同様の結果であったといえる.NakakuraらはCGAT,PRO,ic200による眼圧測定値を比較した結果,GATでもっとも高く,続いてCPRO,ic200の順であったと報告している7).今回の結果とこれらの報告をあわせて考えると,ic200による眼圧測定値はCNCTよりも低く表示される傾向があることが示唆された.つぎに同機種における体位の影響については,PROでは,仰臥位は座位に比較し有意に眼圧測定値が高く,ic200においては仰臥位と半座位は座位よりも有意に眼圧測定値が高くなっており,既報3,6,8)と同様の結果であった.これはCPRO,ic200ともに体位の変化による眼圧上昇を正確に検知したことを示唆している.NCT,PRO,ic200のC3機種による眼圧測定値の誤差につ角膜厚(μm)図4各種眼圧計による眼圧測定値と角膜厚の相関NCT,PRO,ic200ともに眼圧測定値と角膜厚に相関関係を認めなかった.いてCBland-Altmanplotにより検討した.ic200とCNCT,PROとCNCT,ic200とCPROのどの組み合わせにおいてもほとんどのプロットがC95%信頼区間内に収まっており,固定誤差は認められなかったが,PROとCNCTでは負の比例誤差,ic200とCPROでは正の比例誤差が認められた.Nakaku-raらの検討7)では,ic200とCGATの平均値が低いほどCic200の測定値は低く測定される傾向が示されていたが,今回の筆者らの検討ではCic200とCNCTの間にはそのような傾向は認められなかった.ICCについては,これらの組み合わせがそれぞれC0.7以上であり一致性が確認された.とくにCic200とPROについてはCICCがC0.85ともっとも高く,ic200がCPROの上位機種であることからこの結果は妥当性があると考える.今回の検討において,NCT,PRO,ic200のC3機種による眼圧測定値と角膜厚の相関関係は認められなかった.つまり3機種とも角膜厚の影響を受けなかったということになるが,圧平式眼圧計であるCNCTは眼圧測定値と角膜厚の関係についての多数の報告9)から考えると,今回の検討ではなんらかのバイアスが影響した可能性が否定できない.反跳式眼圧計と角膜厚の関係については,Raoらは反跳式眼圧計とGATの差と角膜厚に相関関係があることを示しており,反跳式眼圧計の測定時には角膜厚の影響も考慮すべきとしている10).Nakakuraらの検討7)においても各種眼圧計での眼圧測定値と角膜厚の相関は認められている.PRO,ic200の眼圧測定値についても角膜厚との相関は既報と異なる結果となった.原因としては,症例のなかに緑内障点眼薬を使用していなかった患者から多剤併用の患者まで存在したため,この点が今回の結果に影響した可能性はある.しかし,既報の反跳式眼圧計と眼圧測定値の相関は弱い相関であることと今回の結果とあわせて考えると,反跳式眼圧計は比較的角膜厚の影響を受けづらい可能性が示唆された.以上,ic200,PRO,NCTの眼圧測定値について,機種間,体位での違いについて検討した.ic200ではCNCTよりも眼圧測定値が低く表示される傾向が認められた.この点については臨床でCic200を用いる際には注意が必要であるといえる.ic200では仰臥位において眼圧測定値は高くなり,半座位においてもその傾向は認められた.また,ic200の眼圧測定値と角膜厚の相関関係が認められなかったことから,LASIK後や高眼圧症の眼圧評価にも適している可能性が示唆された.症例ごとで使用中の緑内障点眼薬が異なること,角膜曲率,眼軸長といった角膜厚以外の眼圧測定値に影響を及ぼす因子の検討ができていないこと,GATとの比較がなされていないこと,NCTでは検者間再現性,PRO,ic200の検者内再現性なども考慮し,今後さらに検討の精度を上げて解析する必要があると考える.文献1)TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInter-ventionStudy(AGIS):7.CTheCrelationshipCbetweenCcon-trolCofCintraocularCpressureCandCvisualC.eldCdeterioration.CAmJOphthalmolC130:429-440,C20002)GardinerS,DemirelS,GordonMetal:SeasonalchangesinCvisualC.eldCsensitivityCandCintraocularCpressureCinCtheCocularChypertensionCtreatmentCstudy.COphthalmologyC120:724-730,C20133)NajmanovaCE,CPluha.ekCF,CHaklovaM:IntraocularCpres-sureCresponseCa.ectedCbyCchangingCofCsittingCandCsupineCpositions.ActaOphthalmolC98:e368-e372,C20204)MihailovicCA,CVaradarajCV,CRamuluCPCetal:EvaluatingCGoldmannCapplanationCtonometryCintraocularCpressureCmeasurementCagreementCbetweenCophthalmicCtechniciansCandphysicians.AmJOphthalmolC219:170-176,C20205)SaganCW,CSchwadererK:Non-contactCtonometryCbyCassistants.AmJOptomPhysiolOptC52:288-290,C19756)ChenCM,CZhangCL,CXuCJCetal:ComparabilityCofCthreeCintraocularCpressuremeasurement:iCareCproCrebound,Cnon-contactCandCGoldmannCapplanationCtonometryCinCdi.erentIOPgroup.BMCOpthalmologyC19:225,C20197)NakakuraCS,CAsaokaCR,CTeraoCECetal:EvaluationCofCreboundCtonometerCiCareCIC200CasCcomparedCwithCIcare-PROCandCGoldmannCapplanationCtonometerCinCpatientswithglaucoma.EyeVis(Lond)C8:25,C20218)LeeCT,CYooCC,CLinCSCetal:E.ectCofCdi.erentCheadCposi-tionsCinClateralCdecubitusCpostureConCintraocularCpressureCintreatedpatientswithopen-angleglaucoma.AmJOph-thalmolC160:929-936,C20159)DoughtyCM,CZamanM:HumanCcornealCthicknessCandCitsCimpactConCintraocularCpressuremeasures:aCreviewCandCmeta-analysisCapproach.CSurvCOphthalmolC44:367-408,C200010)RaoA,KumarM,PrakashBetal:RelationshipofcentralcornealCthicknessCandCintraocularCpressureCbyCiCareCreboundtonometer.JGlaucomaC23:380-384,C2014***

基礎研究コラム:77.分子状水素の眼科応用

2023年10月30日 月曜日

分子状水素の眼科応用水素医学の始まり水素の医学応用研究はC2007年に始まりました.水素は直接的にフリーラジカルと反応することで酸化ストレスを抑制し,炎症や病的血管新生の抑制に寄与することから,多くの領域で研究が展開されてきました.筆者らも超音波白内障手術における水素含有眼内灌流液による角膜内皮酸化ストレス抑制効果や,ラットアルカリ外傷モデルにおける水素持続点眼による創傷治癒促進効果1),網膜色素変性症への水素飲用による治療効果2)などを報告してきました.今後も眼科領域のさまざまな分野で水素医学の普及が期待されています.眼科領域における「予防医療」への応用水素持続点眼は,直接的な酸化ストレス抑制以外に,スーパーオキシドディスムターゼ(superoxidedismutase:SOD)の発現を亢進することがわかっています(図1).細胞質に存在するCSODはストレス応答に重要な役割を果たしており,活性化することでフリーラジカルに保護的な役割を示します.興味深いことに,水素持続点眼を事前に投与することでストレス侵襲に対する予防効果を発揮することがわかり,筆者らは水素水の予防投与による角膜の保護効果に関して報告しました(図2)3).今後は水素の術前予防投与に関するさらなる調査が期待されます.順調に進めば予定された侵襲(白内障手術などの予定手術)に対して,術前に水素点眼を施すという新たなルーティンを提唱でき,さらなる低侵襲手術に寄与できる可能性があります.SOD1染色アルカリ外傷後0h有馬武志日本医科大学眼科今後の展望水素のもう一つの特徴として「拡散力」があげられます.分子量が小さい水素は前房内であれば数分,網膜までであればC15分程度の持続投与で最高濃度に到達します.筆者らの実験でも,ラット片眼の角膜に水素を持続投与すると,僚眼でも水素濃度の上昇を認めました.このような水素の拡散特性に着目し,網膜動脈閉塞症の虚血再灌流時に発生するフリーラジカルに水素の持続点眼が検討されています.現在,網膜動脈閉塞症に対する水素点眼の臨床研究が進んでおり,続報が期待されます.また,フリーラジカルに起因した新生血管の抑制という点から,水素は加齢黄斑変性の新たな治療候補になると考えています.水素の拡散力を利用した持続点眼は,現在の標準的治療である硝子体注射に代わる,非侵襲的かつ安価に提供できる抗血管新生治療となる可能性があります.今後さらに水素の治療応用に関する研究が進んで,より普及することを願っております.文献1)ArimaCT,CIgarashiCT,CUchiyamaCMCetal:HydrogenCpro-motestheactivationofCu,ZnsuperoxidedismutaseinaratCcornealCalkali-burnCmodel.CIntCJCOphthalmolC13:6,20202)IgarashiCT,COhsawaCI,CKobayashiCMCetal:DrinkingChydrogenCwaterCimprovesCphotoreceptorCstructureCandCfunctionCinCretinalCdegenerationC6Cmice.CSciCRepC12:C13610,C20223)KasamatsuM,ArimaT,IkebukuroTetal:ProphylacticinstillationCofChydrogen-richCwaterCdecreasesCcornealCin.ammationCandCpromotesCwoundChealingCbyCactivatingCantioxidantCactivityCinCaCratCalkaliCburnCmodel.CIntCJCMolCSci23:9774,C2022C12h0.4角膜上皮欠損の割合arearatio0.30.20.10.00h6h12h18h24h図1水素点眼によるSODの活性化水素水の持続点眼により,抗酸化スト図2水素水の予防点眼による炎症抑制効果レス酵素であるCSOD(..)が角膜上皮水素水(または生理食塩水)を予防点眼してC6時間後にアルカリ外傷を加えてフルオレセ細胞に多く発現している.イン染色で比較したところ,水素予防点眼群が有意に角膜上皮欠損の割合を抑制した.(71)あたらしい眼科Vol.40,No.10,2023C13290910-1810/23/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:245.Cystic Retinal Tufts(初級編)

2023年10月30日 月曜日

245CysticRetinalTufts(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに硝子体手術時に,網膜結石とでもいいたくなるような白色の隆起性病変を赤道部付近に見かけることがあるが,これは大半がCcysticCretinaltuftsという病変である1).CysticCretinaltuftsは,granularCpatches,Cgranu-lartissueともよばれ2),網膜裂孔および網膜.離との関連が指摘されている.C●症例提示69歳,女性.左眼に特発性黄斑円孔を認め,白内障と硝子体の同時手術を施行した.人工的後部硝子体.離作製,内境界膜.離に引き続き,強膜を圧迫しながら周辺部の硝子体を切除した.この際に鼻側の赤道部に灰白色の隆起性病変を認めた(図1).病変部位には網膜硝子体癒着を認めたが,裂孔にはなっておらず,異常な網膜硝子体牽引も認めなかったので眼内光凝固は施行しなかった.その後,液空気置換を施行して手術を終了した.術後も同部位にとくに変化を認めなかったが,念のために光凝固を施行した(図2).C●Cysticretinaltuftsの臨床像一般にCtuftsとよばれる病変は,noncycticCretinalCtufts,CcysticCretinalCtufts,Czonular-tractiontuftsの三つに分類される1).NoncycticCretinaltuftsは赤道部から鋸状縁にみられる病変で,0.1Cmmと小さく,剖検眼の約C70%に認められ,しばしば病変が集簇する3).Cycticretinaltuftsは0.1~1mmの不透明な白色隆起性病変で,成人の約C5%でみられ,95%が片眼性である.通常は赤道部にみられ,周囲に色素沈着を伴い,濃縮した硝子体ゲルがその表面に癒着していることが多い.組織学的には変性した網膜細胞やグリア細胞からなる.NoncycticCretinaltuftsは通常,網膜裂孔や網膜.離との関連性はないとされているが,cysticretinaltufts部位には弁状裂孔や遊離網膜蓋を伴う円孔が生じることがある1).遊離網膜蓋を伴う円孔では,その周囲に無症状の限局性網膜.離を認めることもある.網膜.離の原因裂孔の約C7(69)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY図1術中所見強膜を圧迫しながら周辺部の硝子体を切除している際に,鼻側の赤道部に灰白色の隆起性病変を認めた.形状からCcysticCretinalCtuftsと診断した.図2光凝固施行後の眼底所見とくに裂孔にはなっていなかったが,予防的に光凝固を施行した.~10%がCcysticretinaltuftsに起因するとする報告があるが,cysticretinaltuftsは頻度の高い病変であり,それ自体が網膜.離に進行する頻度はC0.3%とされている4).明らかな裂孔や異常な硝子体牽引を伴う場合には光凝固の適応となるが,無症状の場合は経過観察でよいとする意見が多い.Zonular-tractiontuftsは通常鼻側の硝子体基底部内に認める隆起で,その長さや厚さには個人差がある.剖検眼のC9%に認められ,網膜.離をきたすことはきわめてまれである5).文献1)MichelsCRG,CWilkinsonCCP,CRiceTA:RetinalCdetachment.Cp38-42,C.V.Mosby,St.Louis,19902)RutninCU,CSchepensCL:FundusCappearanceCinCnormalCeyes.II.Thestandardperipheralfundusanddevelopmen-talvariations.AmJOphthalmolC64:840-852,C19673)SpencerCLM,CFoosCRY,CStraatsmaBR:MeridionalCfolds,Cmeridionalcomplexes,andassociatedabnormalitiesoftheperipheralretina.CAmJOphthalmolC70:679-714,C19704)ByerNE:CysticCretinalCtuftsCandCtheirCrelationshipCtoCretinalCdetachment.CArchCOphthalmolC99:1788-1790,C19815)FoosR:ZonularCtractionCtuftsCofCtheCperipheralCretinaCinCcadavereyes.ArchOphthalmol82:620-632,C1969あたらしい眼科Vol.40,No.10,20231327

考える手術:22.視機能を考えた黄斑円孔への硝子体手術

2023年10月30日 月曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅視機能を考えた黄斑円孔への硝子体手術寺島浩子新潟大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野特発性黄斑円孔(MH)は,さまざまな要因による硝子体黄斑界面障害である.有病率は黄斑前膜に比べると少ないが,55歳以上のサブグループにおいて1,000人あたり3.3人と推定され,硝子体手術適応疾患のなかでも比較的多く経験する疾患である.患者の自覚症状は,まず視力低下があげられるが,中心が窪んで見える歪視の自覚が強いのも特徴である.MHの手術は,1991年のKellyとWendelが硝子体手術の有用性を報告して以降,術式の改良により円孔閉鎖率が飛躍的に向上した.とくに1997年にEckardtらが内境界膜(ILM)式(invertedILM.ap法)がゲームチェンジャーとして登場し,さらに円孔閉鎖率が向上した.さまざまなILM.離法,ILM.apに対する術式の改良,考案が進められているが,どの手術法を選択すべきかは医師の裁量にゆだねられているのが現状である.一方,ILM.離術に対しては,黄斑構造に与える影響や視機能への弊害も近年は考慮されている.MH手術では現在,解剖学的な円孔閉鎖だけをめざしていた時代から,よりよい視機能の回復をめざした術式が求められている.視機能を考えたMH硝子体手術におけるポイントとしてとくに重要なものは次の三つである.①最適なILM.離手法の選択(初回円孔閉鎖をめざす),②黄斑部操作は速やかに安全に行うこと(網膜光障害や網膜神経線維への機械的ダメージを回避),③後部硝子体.離やガス置換の際の視神経乳頭付近の吸引操作は慎重に行う(乳頭周囲網膜神経線維障害による術後視野欠損を回避する).聞き手:MH(macularhole:MH)の手術時に行われるず,ほぼ100%の円孔閉鎖率が報告されています.ただ内境界膜(internallimitingmembrane:ILM).離は,し,円孔のサイズが大きい場合や網膜表面に問題があるどの程度の大きさでするべきでしょうか?場合には,.離の範囲がやや影響する可能性がありま寺島:ILM.離の大きさは術者の経験と勘にゆだねらす.ILM.離の利点は,網膜への接線方向の牽引を解れており,実際のところサイズに関するグローバルなガ消し円孔の閉鎖を促すこと,および残存する黄斑部の硝イドラインは存在しません.平均的なサイズ(400μm子体皮質を除去して黄斑前膜の再発とMHの再発を防以下)のMHについては,ILM.離の範囲にかかわらぐことです.ただし,非常に小さなILM.離を行って(67)あたらしい眼科Vol.40,No.10,202313250910-1810/23/\100/頁/JCOPY考える手術しまうと,本来の目的を達成できない可能性があります..離を行う場合は,最低でも2乳頭径以上の範囲を.離するほうがよいと考えています.その理由は,術後にenface画像で網膜表層を確認すると,網膜上異常組織や黄斑前膜がILM.離のエッジ付近に高頻度にみられるからです.ILM.離が非常に小さい場合は,黄斑前膜の発生が中心窩に近くなり,術後の歪視などの視機能に影響する可能性があるためです.聞き手:では,ILM.離は視機能にどのような負の影響を与えるのでしょうか?.離時の注意点を教えてください.寺島:MHに対するILM.離後の網膜構造の変化としては,dissociatedopticnerve.berslayer(DONFL)とよばれる所見が広く知られており,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では神経線維層や内層にくぼみ(欠損)が認められます.ただし,多くの報告ではDONFLは視力に影響を与えないとされています.私たちは緑内障や強度近視を併発していない多数のMH患者を対象に,ILM.離後の中心視野(網膜感度)を調査しました.その結果,Humphrey視野とマイクロペリメトリーMP3の両方において,術後の視野感度の有意な低下はどの領域でも認められませんでした.ただし,ILM.離に使用された染色剤がインドシアニングリーンであった場合は,トリアムシノロン染色例と比較して,黄斑の耳側領域での神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)の減少と鼻側視野感度の低下が顕著にみられる症例が報告されています.黄斑の耳側領域はもともとGCCが薄く,機械的な損傷を受けやすい領域なので,とくに緑内障や強度近視の患者では,染色剤に関係なくILM.離の影響を十分に考慮する必要があります.ILM.離を行う際には,視機能を意識して神経線維にできるだけダメージを与えないように丁寧に行う必要があります.MHが閉鎖し視力が改善しても,術後に視野障害を自覚されるケースもあることに注意が必要です.聞き手:では,緑内障を合併しているMHに対するILM.離に関してどのように考えたらよいでしょうか?何か工夫されていることはありますか?1326あたらしい眼科Vol.40,No.10,2023寺島:MHに関しては,円孔閉鎖を第一の目的としているため,緑内障があってもある程度の範囲でILM.離が必要と考えています.術前に中心視野障害が認められる緑内障患者に対しては,ILM.離を行うと視野欠損が拡大する傾向にあります.とくに黄斑の耳側領域や網膜感度低下がある領域は影響を受けやすいと考えられます.したがって,視野欠損を最小限に抑えるために,術前にMP3を使用してILM.離の範囲を事前に決め,感度の低下した領域のILMは温存するようにしています(動画①).それでも視野欠損が拡大する場合もありますが,現時点ではその手法により比較的視野が維持される傾向にあります.聞き手:最近はinvertedILM.ap法が広く行われていますが,通常のILM.離と比べて視機能への影響は心配ありませんか?寺島:現在,500μm以上の大きなMHや陳旧例,強度近視眼には積極的にinvertedILM.ap法を行っています.具体的なILMの.離方法や翻転方法はさまざまな手法が提案されているため,どの方法が最適かは一概には言えません.私が好んで使用している方法は,強度近視眼の場合と同様に,中心に向かって多角的にILM.離を行い,花びら様の.apをトリミングして円孔に被せる方法です(動画②).注意点は,確実な円孔閉鎖をめざそうとするあまり.apをMH内部に埋め込まないことです.円孔が閉鎖された後に外層の再構築が妨げられ,その結果として視機能の回復が阻害されることがあります.ただし,注意を払って行っても,通常のILM.離のように円滑な外層の回復が得られず,外境界膜も確認できない場合も多くあります.自験例ですが,500μm以上の大きなMHに対して通常ILM.離18眼とinverted.apを行った18眼を比較しました.その結果,両群とも視力は有意に改善され,12カ月時点では若干inverted.ap群のほうが劣っていましたが,有意差はみられませんでした.視力の回復はMHの形態に依存するため,難治性のMHの場合は視力の回復は限定的です.ただし,円孔の閉鎖が達成されれば,視力や中心網膜感度が有意に改善するため,適切なILM.離を行い,初回の円孔閉鎖をめざしましょう.(68)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性に対するファリシマブの使用経験

2023年10月30日 月曜日

●連載◯136監修=安川力五味文116加齢黄斑変性に対するファリシマブの武内潤杏林大学医学部眼科学講座使用経験滲出型加齢黄斑変性の治療においては抗CVEGF薬が中心的役割を担っており,2022年C5月からは新たにバイスペシフィック抗体医薬品であるファリシマブが使用可能となった.本稿では筆者の施設(名古屋大学)における滲出型加齢黄斑変性に対するファリシマブの現時点の使用方針と使用経験について述べる.はじめに現在,滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)の治療において,抗CVEGF薬をCtreatandextend(TAE)法で投与することが,長期的な視力維持が期待できること,および通院回数を抑制することができることから主流となっている1).一方で高額である抗CVEGF薬の頻回投与が必要となる場合も多く,患者や医療経済に与える負担が大きいことが課題である.そんな状況のなか,VEGFとアンジオポエチン(angiopoietin:Ang)-2の両方に作用するバイスペシフィック抗体であるファリシマブが登場し,硝子体内注射間隔の延長や長期的な視力維持につながることが期待されている.ファリシマブの投与方法AMDに対するファリシマブの投与方法は添付文書に以下のように記載されている.「ファリシマブ(遺伝子組換え)としてC6.0Cmg(0.05Cml)をC4週ごとにC1回,通常,連続C4回(導入期)硝子体内投与するが,症状により投与回数を適宜減じる.その後の維持期においては,通常,16週ごとにC1回,硝子体内投与する.なお,症状により投与間隔を適宜調節するが,8週以上あけること」.今までに長期の使用経験のあるアフリベルセプトやラニビズマブと比較すると,導入期の投与回数がC3回から「4回(適宜減じる)」になっている点と,導入期以降の最短投与期間がC4週間ではなく「8週間」となっている点に注意が必要である.未治療眼に対する使用今まで筆者の施設では未治療のCAMD眼に対しては,原則的にアフリベルセプトを第一選択とし,導入療法C3回後にC2週間間隔で投与間隔を調整するCTAEで使用していた.現在はファリシマブも未治療眼に対して使用しており,投与方法はアフリベルセプトと統一して導入療(65)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY法C3回,その後はC2週間間隔調整でCTAEとしている.添付文書では維持期においては「通常,16週ごと」と記載があるが,ファリシマブの国際共同第III相試験であるCTENAYA試験では治験終了時のC112週時点においてC16週まで投与間隔が延長できた症例はC59%であったため2),導入療法後すぐに投与間隔をC16週まで延長してしまうと,治療が不十分となってしまう患者が一定数出てしまうと考えられる.そのため,ファリシマブも従来通りのCTAEで使用している.ただし,ファリシマブの最短投与間隔であるC8週間ごとで投与しても疾患活動性を抑えきれない場合には,アフリベルセプトまたはブロルシズマブへの切り替えを検討している.アフリベルセプトからの切り替えによる使用筆者の施設では現時点ではアフリベルセプトで一定期間治療を継続してもC12週以下の投与間隔となっている患者で,本人の希望があった場合に,投与間隔の延長を期待してファリシマブへの切り替えを行っている.切り替え前に毎月投与が必要であった患者は,疾患活動性をしっかり抑え込むことを目的にC4週ごとC3回の導入期を設けている.一方,切り替え前に注射間隔がC6週間以上だった患者は導入期は設けず,アフリベルセプトでの治療間隔を考慮して切り替え当初からC4~12週間隔のTAEを開始し,滲出性変化が抑えられていれば最大C16週間隔まで延長している(図1).切り替え後,ファリシマブ投与を繰り返し行ってもアフリベルセプトより明らかな改善がみられない場合や,維持期に最短のC8週投与間隔でも滲出の増悪がみられる場合は,未治療眼と同様にアフリベルセプトへのスイッチバック,またはブロルシズマブへの変更を行っている(図2).筆者の施設でアフリベルセプトの投与間隔がC4~12週であったC54例C54眼を対象とし,切り替え前後の間隔は一定としてファリシマブをC1回投与した結果を評価したところ,切り替え後の滲出性変化は,改善C28眼(52%),不変C8眼(15%),悪化C18眼(33%)であった3).あたらしい眼科Vol.40,No.10,20231323図1効果良好例77歳,男性.ポリープ状脈絡膜血管腫症.アフリベルセプトによる治療では毎月投与を行っても網膜下液が残存していたが,ファリシマブへ切り替え後は速やかに網膜下液が消退した.3回の導入療法後Ctreatandextend法へ移行し,投与間隔をC12週まで延長しても滲出性変化の再発は認めない.おわりにファリシマブはCVEGFとCAng-2を同時に阻害できる新規薬剤であり,上市からC1年以上が経過し,実臨床における短期治療成績が報告されはじめている.今後のさらなる検討により,長期の治療成績や,どのような患者に対してファリシマブが有効であるのかが明らかとなることを期待したい.C1324あたらしい眼科Vol.40,No.10,2023アフリペルセプト×564週ファリシマブ4週ファリシマブ4週ファリシマブ4週ファリシマブ5週アフリベルセプト図2効果不良例81歳,男性.典型加齢黄斑変性(typeC1CmacularCneovascular-ization).アフリベルセプトによる治療では毎月投与を行っても網膜下液・網膜色素上皮下の滲出が残存していた.ファリシマブへ切り替え後も毎月投与を行ったが滲出性変化の改善はなく,ファリシマブの最短投与間隔であるC8週間までの延長が困難であったためアフリベルセプトへスイッチバックした.文献1)OkadaCM,CKandasamyCR,CChongCEWCetal:TheCtreat-and-extendCinjectionCregimenCversusCalternateCdosingCstrategiesCinCage-relatedCmaculardegeneration:ACsys-tematicCreviewCandCmeta-analysis.CAmCJCOphthalmolC192:184-197,C20182)HeierCJS,CKhananiCAM,CQuezadaCRuizCCCetal;TENAYACandCLUCERNEInvestigators:E.cacy,Cdurability,CandCsafetyCofCintravitrealCfaricimabCupCtoCeveryC16CweeksCforCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration(TENAYACandLUCERNE):twoCrandomised,Cdouble-masked,CphaseC3,non-inferioritytrials.LancetC399:729-740,C20223)等々力崇仁,武内潤,太田光ほか:a.iberceptからCfar-icimabへ切り替え前後の加齢黄斑変性眼の前房水中サイトカイン濃度.第C127回日本眼科学会総会(2023年C4月)(66)

緑内障:緑内障とグリア機能

2023年10月30日 月曜日

●連載◯280監修=福地健郎中野匡280.緑内障とグリア機能篠崎陽一東京都医学総合研究所視覚病態プロジェクトグリア細胞は,脳や網膜など神経組織に存在する非神経細胞である.緑内障患者の網膜や視神経乳頭部で大きく変化することが知られていたが,その役割については不明であった.本稿では,グリア細胞の機能異常が正常眼圧緑内障様症状を惹起する知見およびそのメカニズムを紹介する.●はじめに緑内障は,日本における中途失明原因第C1位の疾患である.もっとも広く知られたリスク因子は高眼圧であるが,アジア人,とくに日本人緑内障患者の大部分は正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)であるため,眼圧以外の要因について考える必要がある.緑内障は多因子疾患であるため,さまざまな要因が緑内障のリスクを上昇させる.それらのなかで,筆者らはとくに「グリア細胞」とよばれる細胞群が緑内障発症に関与する可能性について研究を進めている.グリア細胞は脳や網膜など神経系を構成する非神経細胞である.従来,これらの細胞は重要な機能をもたない,単に神経細胞の間を埋めるだけの「膠(にかわ)=glue」のような細胞と考えられており,膠を意味するギリシャ語から「グリア」とよばれるようになった.その後の研究から,グリア細胞は正常な神経組織の形成や脳機能発現に必須であることが明らかとなった.また,さまざまな神経傷害や神経変性疾患において「反応性化(reactivegliosis)」とよばれる応答を示す.緑内障患者網膜や視神経乳頭部においても反応性グリアの存在が報告されていることから,緑内障病態におけるグリア細胞の関与が予想されていた.本稿では,グリア細胞の一種「アストロサイト」の機能異常が,NTG様の症状を引き起こす可能性に関する知見1)を紹介する.C●グリア細胞網膜を構成するグリア細胞には,神経組織内の免疫担当細胞であるミクログリア,網膜特異的グリアであるMuller細胞,そしてアストロサイトが含まれる(図1).また,視神経周囲には髄鞘を形成するオリゴデンドロサイトが存在する.ミクログリアは神経線維層~内網状層(63)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY神経線維層神経節アストロサイト細胞層内網状層ミクログリアMuller内顆粒層細胞外網状層外顆粒層図1網膜グリアの分布グリアは網膜において特徴的な分布を示す.まで広く分布する.Muller細胞は網膜全層を貫通する.アストロサイトは網膜最内層に位置してメッシュ状の構造を形成し,とくに視神経乳頭部~視神経においては非常に高い密度で存在する.緑内障でもっとも脆弱な部位の一つである篩状板では,アストロサイトが視神経周囲を直接取り囲むため,その異常が緑内障発症の原因となる可能性が推察される.C●グリアと緑内障ゲノムワイド関連解析研究から,コレステロールや脂肪酸を細胞外へと輸送するCATP-bindinCcassetteCtrans-porterA1(ABCA1)遺伝子のC1塩基多型が緑内障発症あたらしい眼科Vol.40,No.10,20231321図2グリア異常と緑内障アストロサイトの異常はCNTG様症状を誘導する.リスクに相関することが示された2~4).しかし,その後の研究からCABCA1がどのように緑内障発症に関与するかはまったく不明であった.そこで筆者らはCABCA1と緑内障との関連を明らかにするため,①CABCA1の機能的欠損と異常な機能の獲得のどちらが関与するか,②CABCA1は眼圧を変化させることによって緑内障発症に関与するか,③どの細胞に発現するCABCA1が緑内障発症にかかわるか,のC3点を中心に解析を行った.まず,ABCA1欠損マウスを用い,緑内障でとくに傷害されやすい神経細胞である網膜神経節細胞(retinalCganglioncell:RGC)への影響を調べた.若齢(3カ月齢)では野生型マウスとCABCA1欠損マウス間におけるRGC数の差は認められなかったが,中年齢(12カ月齢)ではCABCA1欠損マウスのCRGC数が減少していた.このとき,ABCA1欠損マウス網膜ではCRGCのアポトーシスが亢進していた.つまり,ABCA1の欠損が緑内障と関連すると推察された.次に,この結果が眼圧変化によるものかを検討した.ABCA1欠損マウスは,月齢にかかわらず野生型マウスと比べて眼圧に変化はなかった.したがって,眼圧以外の要因によって緑内障様症状が誘導されると推察された.続いて,マウス網膜のCABCA1遺伝子発現細胞を磁気分離法により検討すると,アストロサイトおよびMuller細胞画分での発現が高かった.網膜切片を用いた免疫組織化学染色では,ABCA1は網膜最内層に線維状のシグナルとして認められ,アストロサイトマーカーであるCGFAPとよく一致した.これらの結果からABCA1はアストロサイトに高発現することが明らかとなった.アストロサイト特異的にCABCA1を欠損するマウスを用いて検討したところ,眼圧は顕著な変化を示さず,RGCが加齢依存的に脱落したほか,網膜菲薄化,RGC樹状突起退縮,シナプス脱落,視神経膨潤,視覚応答の減弱などの表現型を示し,アストロサイトの機能異常がNTG様の症状を引き起こすことが明らかとなった(図2).1細胞CRNAシークエンスによる詳細な解析から,アストロサイトがケモカインを産生して神経炎症を惹起することや,RGCにおける過剰興奮などが緑内障発症の引き金となる可能性を見出した.本研究により,世界で初めてアストロサイトの遺伝子異常がCNTG発症の原因となる可能性が示された.今後はさらに研究を進め,グリアを標的としたCNTG治療法の開発に努めていきたい.文献1)ShinozakiY,LeungA,NamekataKetal:Astrocyticdys-functionCinducedCbyCABCA1Cde.ciencyCcausesCopticCneu-ropathy.SciAdv8:eabq1081,C20222)GharahkhaniCP,CBurdonCBP,CFogartyCRCetal:CommonCvariantsCnearCABCA1,CAFAP1CandCGMDSCconferCriskCofCprimaryCopen-angleCglaucoma.CNatCGenetC46:1120.1125,C20143)HysiCPG,CChengCC-Y,CSpringelkampCHCetal:Genome-wideanalysisofmulti-ancestrycohortsidenti.esnewlociin.uencingintraocularpressureandsusceptibilitytoglau-coma.NatGenetC46:1126-1130,C20144)ChenY,LinY,VithanaENetal:CommonvariantsnearABCA1andinPMM2areassociatedwithprimaryopen-angleglaucoma.NatGenetC46:1115-1119.C20141322あたらしい眼科Vol.40,No.10,2023(64)

屈折矯正手術:上方角膜切開によるICL手術

2023年10月30日 月曜日

●連載◯281監修=稗田牧神谷和孝281.上方角膜切開によるICL手術神谷和孝北里大学医療衛生学部視覚生理学通常,手術適応となる若年者は直乱視を有することがほとんどであり,上方切開アプローチによるCICL手術は一定の乱視矯正効果を有する.また,それに続くCICLの垂直固定は手術手技がシンプルであり,ややCvault量は低くなるが,平均裸眼視力C1.58,矯正視力C1.78であり,重篤な合併症もなく,とくにノントーリックモデルを選択する際に有用と考えられる.C●はじめに後房型有水晶体眼内レンズ(implantableCcollamerlens:ICL)手術では,通常,耳側角膜切開から水平方向にレンズが固定される.実際にメーカーが推奨するオーダリングシステムでは,水平固定が前提となっている.しかし,ICL手術を希望する若年者ではそのほとんどが直乱視であり1,2),耳側切開によって乱視を惹起する可能性が高い.とくにノントーリックCICLを選択する際は,自覚乱視度数がわずかであっても一定の角膜乱視が存在することが多く2),上方切開によるアプローチはさらなる術後アウトカムの向上が期待できる.さらに,ホールCICLの導入によって虹彩切開術が不要となり,レンズが任意の方向に固定可能となった背景から,上方切開からそのまま垂直方向に固定できれば,レンズをC90°回転させる操作が不要となり,手術操作がよりシンプルとなることから,術者の負担も軽減しうる.これまで上方角膜切開によるアプローチやそれに続くICLの垂直固定については,一部の術者が経験的な観点から限定的に施行している現状があるが,実際の手術成績についての詳細な検討はなされていない.本稿では,自験例における上方切開による角膜乱視変化,惹起乱視2)や上方切開・垂直固定によるCICL手術成績3,4)について概説し,実際の上方切開によるCICL手術やレンズ選択における注意点5)についても紹介する.C●上方切開による角膜乱視変化・惹起乱視3.0Cmm耳側切開および上方切開によるCICL挿入術を施行したC121例C121眼を対象として,術前,術後C3カ月の時点で,オートケラトメータによる角膜乱視量と乱視軸を検討した2).その結果,耳側切開群では角膜乱視が有意に増加し,上方切開群では角膜乱視が有意に減少した(図1).耳側切開では,算術平均値ではC0.48Dの直乱視化を生じたのに対し,セントロイド値ではC0.23D(61)の直乱視化であった.上方切開でも算術平均値では0.57Dの倒乱視化を生じたのに対し,セントロイド値ではC0.47Dの倒乱視化であった(図2).以上より,ICL手術は算術平均としては約C0.5Dの惹起乱視を生じるが1,2),セントロイド値としては,耳側切開で約C50%,上方切開で約C80%と減少する.とくに通常行う耳側切開では,白内障手術の惹起乱視ほどではないものの,算術平均とセントロイド値の乖離は少なくない.個々の術者によって手術手技がそれぞれ異なることから,術者特有の惹起乱視については個々で把握しておくことが望ましい.本来乱視はベクトル量であり,セントロイド値は手術全体のトレンドを理解するうえで重要であり,メーカーのオンラインカリキュレーターには,各術者の惹起乱視の算術平均値よりセントロイド値を組み込むべきであろう.現状ではCICLカリキュレーターには惹起乱視は一切考慮されておらず,実際にそのような対応が困難であり,レンズを発注する際に微調整することも考慮したい.C●上方切開・垂直固定による手術アウトカムICL挿入術を施行したC43例C71眼(年齢C30.3±6.3歳,術前屈折度数.6.20±2.60D)を対象として術後成績について検討した.その結果,術後C1年の時点における裸眼視力(logMAR)は.0.20±0.10(平均小数視力C1.58)矯正視力(logMAR)は.0.25±0.07(平均小数視力C1.78),と良好であった3,4).裸眼視力C1.2以上がC100%(図3),矯正視力不変がC29眼(58%),1段階向上C18眼(36%),1段階悪化C3眼(6%)であり,2段階以上低下した症例を認めなかった.目標矯正度数に対して±0.5,1.0D以内の割合が,それぞれC98,100%,術後C1週からの屈折変化は.0.04±0.18Dであった(図6).術後C1週,1,3,12カ月の時点におけるCvault量は,それぞれC456±197,C465±192,435±193,382±171Cμmと通常の水平固定と比較してやや低めであった.術後早期の軽度グレア・あたらしい眼科Vol.40,No.10,202313190910-1810/23/\100/頁/JCOPY耳側切開上方切開45°45°角膜乱視(D)2.01.51.00.50,0,90°90°180°180°135°135°重心値0.23D@82°±0.52D重心値0.47D@1°±0.45D算術平均値0.48D±0.30D算術平均値0.57D±0.30D重心値重心値の95%信頼区間図1上方切開・耳側切開による角膜乱視量変化全データの95%信頼区間同心円=0.5D刻み上方切開では有意に減少する一方,耳側切開では有意に角図2上方切開・耳側切開による惹起乱視の倍角座標表示膜乱視が増加した.(文献C2より改変引用)耳側切開の算術平均値ではC0.48D,重心値ではC0.23Dの直乱視化,上方切開の算術平均値ではC0.57D,重心値では術前術後術前術後耳側切開情報切開100%98%100%100%80%0.47Dの倒乱視化を生じた.(文献C2より改変引用)累積眼数(%)ではC1サイズ大きくするなど,適宜対処する必要がある.60%もちろんトーリックCICLでも垂直固定することは可能で40%あるが,自覚屈折乱視軸・角膜乱視軸をC90°逆転させたレンズをオーダーする必要があり,レンズ回転指示シートもC90°異なるため,乱視軸の間違いに細心の注意を払20%0%20/12.520/1620/2020/25累積Snellen視力(20/×以上)図3上方切開・垂直固定によるICL手術前後の裸眼視力平均裸眼視力はC1.58,全例裸眼視力C1.2以上と良好であった.(文献C3より改変引用)ハローをC4眼(6%)認めたが,重篤な合併症は生じなかった.C●手術やレンズ選択における注意点手術全体の流れは,耳側切開によるCICL手術とほぼ同様であり,特殊な手術器具を必要としない.しかし,上方切開によるCICL手術はワーキングスペースが狭く,やや手術操作が行いにくい印象を受ける.とくに上眼瞼の影響から角膜表面に粘弾性物質が貯留し,上方のハプティクスを虹彩下に入れる手術操作の視認性が低下しやすい.創口閉鎖の際もスペースが狭ければ,少しだけ下方視してもらうなどの工夫も必要であろう.したがって,すぐに初心者が飛びつくのではなく,ある程度習熟してから検討すべきである.その後,そのままCICLを垂直固定する場合は,毛様溝は水平径より垂直径が長いことから,通常のCICLサイズを選択すると,vault量がやや低くなる傾向がある.前眼部光干渉断層計の垂直方向の撮影像を用いることで,従来とほぼ同様の予測性が得られるが,一部の患者C1320あたらしい眼科Vol.40,No.10,2023わなければならない.ただし,前述の通り,解剖学的に垂直径が長いことからトーリックレンズの軸回旋が生じにくい可能性もあり,さらなる検証が必要であろう.その一方で,水平固定を行う場合はサイズ選択に困ることはないが,垂直方向に入ったレンズをC90°回転させる必要がある.回転操作自体はそれほどむずかしくないが,一部の患者では回転させにくい場合があり,その際は逆方向に回転させるか,ノントーリックレンズでサイズ選択に大きな問題がなければ,そのまま固定してもかまわない.文献1)KamiyaCK,CShimizuCK,CIgarashiCACetal:SurgicallyCinducedastigmatismafterposteriorchamberphakicintra-ocularlensimplantation.BrJOphthalmol93:1648-1651,C20092)KamiyaCK,CAndoCW,CTakahashiCMCetal:ComparisonCofCmagnitudeCandCsummatedCvectorCmeanCofCsurgicallyCinducedastigmatismvectoraccordingtoincisionsiteafterphakicCintraocularClensCimplantation.CEyeVis(Lond)C8:C32,C20213)KamiyaK,AndoW,HayakawaHetal:Vertically.xatedposteriorCchamberCphakicCintraocularClensCimplantationCthroughasuperiorcornealincision.OphthalmolTher11:C701-710,C20224)神谷和孝:ICLの上方切開・垂直固定.有水晶体眼内レンズ手術(神谷和孝,清水公也編),p91-96,医学書院,20225)神谷和孝:ICL上方切開のコツと問題点.IOL&CRSC36:C559-566,C2022(62)

眼内レンズ:エタニティー挿入眼におけるYAGレーザー後囊切開術後の再閉塞

2023年10月30日 月曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋443.エタニティー挿入眼におけるYAG太田晶子近藤峰生三重大学医学系研究科臨床医学系講座眼科学レーザー後.切開術後の再閉塞後発白内障は眼内レンズ挿入術後の約C50%の患者に発症する合併症である.視力障害が進行するとCYAGレーザー後.切開術が行われるが,まれに水晶体後.開口部の再閉塞により視力障害を起こすことが知られている.本稿では,眼内レンズのエタニティー挿入眼に生じたCYAG治療後の水晶体後.開口部の再閉塞の特徴と過程を紹介する.●はじめに後発白内障は,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入眼において,術後数カ月から数年で水晶体後.が混濁してくることにより視機能が障害され発症する.治療はCNd:YAGレーザー後.切開術(以下,YAG)を行うことが一般的であるが,YAG後,水晶体上皮細胞の再増殖により後.切開窓(posteriorCcapsuleCaperture:PCA)が再閉塞する症例も報告されている1,2).今回,筆者らはCYAG後のCPCA再閉塞を複数のエタニティー挿入眼にて観察したので,その特徴と閉鎖過程をまとめた.C●対象と結果眼科三宅病院と付属施設にてC2009~2022年に白内障手術もしくは白内障・硝子体トリプル手術を行った患者で,YAG後CPCAの再閉塞を認め,再度CYAGが必要となったC22眼C17例の検討を行った.症例の内訳としては白内障手術単独がC12眼,トリプル手術がC10眼であった.そのうちC16眼(73%)がエタニティー挿入眼であった.すべての症例で再度CYAGにより,再閉塞と視力低下は改善したが(図1),そのうちC7眼ではC2回目の再閉塞を認め,3回目のCYAGを要した症例もあった.IOL挿入術から後発白内障に対するCYAGまでの期間は4.3~37.3カ月(平均C19.5C±8.7カ月)であった.そこからCPCA再閉塞に対するC2回目のCYAGレーザーが必要となるまでの期間はC4.3~26.6カ月(平均C10.4C±5.8カ月)であり,PCA再閉塞の再発に対するC3回目のCYAGまでの期間はC2.8~8.1カ月(平均C6.0C±1.7カ月)であった.症例数は少ないが,間隔は統計的に有意に短縮しており(p=0.017,p=0.004),どれも混濁の形状としては扁平Cpearl状の混濁であった.図12回目のYAG前後の前眼部写真a,b:後発白内障に対するC1回目のCYAG後からC6カ月後の前眼部写真(Ca:徹照法,Cb:直接照明法).c,d:PCA再閉塞に対するC2回目のCYAG直後の前眼部写真(Cc:徹照法,d:直接照明法).C●孝按今回,筆者らが認めた後発白内障CYAG後のCPCA再閉塞の特徴は,すべてがCElshnigpearl形成を伴う扁平な混濁であったことである.IOLの表面に沿って単層の増殖組織が伸展しており,IOLの材質がCPCA再閉塞に関与していることが推測される.YAG後のCPCA再閉塞に関する報告は多くはないが,注意して観察すればまれな合併症ではないと考える.数例においてCPCA再閉塞の過程を詳細に観察することができたため,筆者らはCPCA再閉塞過程を0~4期の5期に分類した.0期:PCA断端に水晶体上皮細胞の増殖を認めない(図2a),1期:PCAのCedgeにCElschnigpearlが形成されるが,PCAを越えた光学部には水晶体上皮細胞の増殖は認めない(図2b).2期:PCAを越えて棘状水晶体上皮細胞の侵入がみられるが,光学部中心(59)あたらしい眼科Vol.40,No.10,2023C13170910-1810/23/\100/頁/JCOPYabcde図2PCA再閉塞のstage分類上段が徹照法,下段が直接照明法の前眼部写真.a:0期,Cb:1期,Cc:2期,Cd:3期,Ce:4期.(文献C5より引用)に混濁はみられない(図2c).3期:IOL光学部全体に網目状に混濁の伸展・癒合がみられる(図2d).4期:3期の網目状混濁の間隙を埋めるように薄い膜状の混濁が観察される(図2e).3期以降では混濁が光学部中心部へかかってくるため,視力障害が出現する.実際,YAGが必要となったのはすべてC3期以降の症例であった.筆者らはエタニティー以外のCIOLにおいてもCPCA再閉塞を観察してはいるが,割合としてはエタニティーが多かった(73%).YAG後の再閉塞は親水性アクリルIOL挿入眼で発症しやすいという報告がある3).エタニティーはグリスニングを防ぐ目的で親水性アクリルモノマーが多く配合されており,吸水率がC4%と高く4),エタニティーの材質の特徴がCPCAの再閉塞に関連している可能性が高いと考えている.また,YAGによってCPCA再閉塞のどの症例でも視力障害は改善したが,なかにはCPCA再閉塞を繰り返す症例もあり,それらでは再発までの間隔は徐々に短縮していた.これにはCYAGを行うことによる変化も何かしら影響しているのかもしれない.PCA再閉塞の原因と考えられる水晶体上皮細胞の分化方向の決定因子はまだ解明されておらず,PCA再閉塞がCIOLの材質の特性か,患者の背景疾患やトリプル手術などに起因するのかは明らかではない.しかし,筆者らが経験したCPCA再閉塞症例の約C7割においてエタニティーが使用されていることから5),IOLの材質が発症に関与しているものと考えている.ただし,すべてのエタニティー挿入患者でCPCA再閉塞を発症するわけではなく,IOLの含水率以外の要素の関与は否定できないだろう.白内障術後の視力予後改善のため,PCA再閉塞に関与する因子については,さらなる研究が必要と考える.文献1)OshikaCT,CSantouCS,CKatoCSCetal:SecondaryCclosureCofneodymium:YAGlaserposteriorcapsulotomy.JCataractRefractSurgC27:1695-1697,C20012)JonesCNP,CMcLeodCD,CBoultonME:MassiveCproliferationCoflensepithelialremnantsafterNd-YAGlasercapsuloto-my.BrJOphthalmolC79:261-263,C19953)GeorgopoulosM,FindlO,MenapaceRetal:In.uenceofintraocularClensCmaterialConCregeneratoryCposteriorCcap-suleopaci.cationafterneodymium:YAGlasercapsuloto-my.JCataractRefractSurgC29:1560-1565,C20034)TetzCM,CJorgensenMR:NewChydrophobicCIOLCmaterialsCandCunderstandingCtheCscienceCofCglistenings.CCurrCEyeCResC40:969-981,C20155)OtaA,OtaI,KachiSetal:Factorsassociatedwithreclo-sureCofCposteriorCcapsuleCapertureCbyC.atCopaci.cationsCwithCpearlsCafterNd:YAGClaserCposteriorCcapsulotomy.CDiseasesC11:82,C2023

写真:Stevens-Johnson症候群のトポグラフィの変化

2023年10月30日 月曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史473.Stevens-Johnson症候群の松前洋東京歯科大学市川総合病院眼科トポグラフィの変化図2図1のシェーマ①角膜新生血管②角膜実質菲薄化図1Stevens-Johnson症候群の左眼前眼部写真耳下側から新生血管が侵入し,角膜中央部が菲薄化している.矯正視力C0.6であったが,ハードコンタクトレンズ着用でC1.0に改善した.図3図1の症例の角膜形状解析画像(AxialPower)図4図1の症例の角膜形状解析画像(Pachymetry)CASIA画像.菲薄化している耳下側がCsteepになり,対側の鼻CASIA画像.中央部の角膜が菲薄化している.上側がC.atになっている.(57)あたらしい眼科Vol.40,No.10,2023C13150910-1810/23/\100/頁/JCOPY図5Stevens-Johnson症候群による角膜形状の変化a:Ectasiaパターン.Cb:Asymmetricパターン.Stevens-Johnson症候群(Stevens-Johnsonsyn-drome:SJS)は,おもに皮膚と粘膜に影響を及ぼす重篤な急性炎症性疾患である.急性期には偽膜性結膜炎や角膜上皮欠損などの眼表面異常を伴う1).慢性期には眼瞼縁の角化,ドライアイ,角膜新生血管の形成,角膜上皮幹細胞の減少や消失が生じる2)(図1,2).SJSの慢性期では,角膜混濁や眼表面の角化が原因で視力が低下するが,角膜形状の変化による高次収差の増加も視力低下に関与する(図3,4).前眼部光干渉断層計(opti-calcoherencetomography:OCT)による角膜形状解析では,ectasia(角膜突出),asymmetry(非対称性),.attening(平坦化),minimalchange(微小変化)のカテゴリに分けられることが報告されている3).Ectasiaパターン(図5a)は角膜実質の局所的な菲薄化により角膜が突出する.Asymmetricパターン(図5b)は角膜上皮や結膜上皮の異常な侵入と増殖による局所的な角膜の肥厚化で生じる.Flatteningパターンはectasiaと同様に角膜実質が局所的に菲薄化や瘢痕化することで生じる.これらの角膜形状の変化は,他の前眼部疾患でも同様に報告されている4).Ibrahimらの報告によれば,SJSではCasymmtericパターン,または形状変化がみられないパターンがもっとも多い3).SJSの角膜移植などの外科的処置の予後は不良である5).高次収差に対してCKyotoCSなどの強膜レンズなどで補正し,保存的にアプローチすることは患者満足度向上に重要である.文献1)Lopez-GarciaCJS,CRivasCJaraCL,CGarcia-LozanoCCICetal:COcularCfeaturesCandChistopathologicCchangesCduringCfol-low-upCofCtoxicCepidermalCnecrolysis.COphthalmologyC118:265-271,C20112)SchwartzRA,McDonoughPH,LeeBW:Toxicepidermalnecrolysis:PartCII.CPrognosis,Csequelae,Cdiagnosis,Cdi.erentialCdiagnosis,Cprevention,CandCtreatment.CJAmAcadDermatolC69:187,Ce1-16;quizC203-204,C20133)IbrahimCOMA,CYagi-YaguchiCY,CNomaCHCetal:CornealChigher-orderCaberrationsCinCStevens-JohnsonCsyndromeCandCtoxicCepidermalCnecrolysis.COculCSurfC17:722-728,C20194)ShimizuCE,CYamaguchiCT,CYagi-YaguchiCYCetal:CornealChigher-orderaberrationsininfectiouskeratitis.AmJOph-thalmolC175:148-158,C20175)IlariCL,CDayaSM:Long-termCoutcomesCofCkeratolimbalCallograftCforCtheCtreatmentCofCsevereCocularCsurfaceCdisor-ders.OphthalmologyC109:1278-1284,C2002

高齢者に対するインプラント手術の適正使用と留意点

2023年10月30日 月曜日

高齢者に対するインプラント手術の適正使用と留意点GlaucomaDrainageImplantSurgeriesforElderlyPatients松田彰*はじめに高齢者に対する緑内障インプラント手術は,1)線維柱帯切除術などの濾過手術が奏効しなかった症例,2)濾過手術が種々の理由で奏効しにくいと予想される患者,3)濾過手術の施行が困難である患者に用いられる1).緑内障インプラント手術の特徴として,房水産生能が障害されているぶどう膜炎続発緑内障や血管新生緑内障を除くと,眼圧が1桁に低下することはまれであり,目標眼圧が低い正常眼圧緑内障においては線維柱帯切除術を選択することが一般的であり,緑内障インプラント手術(本稿ではプレートのあるロングチューブ手術をさす)の役割は小さいと考えられる.わが国で施行可能な緑内障インプラント手術としてはBaerveldt緑内障インプラント挿入術とAhmed緑内障バルブ(Ahmedglaucomavalve:AGV)挿入術の2種があるが,高齢者の場合は手術侵襲を小さくしたいこと,手術時間をできるだけ短くしたいことから,筆者は緑内障インプラントのなかでも筋間に挿入可能なAGVを選択することが多い.本稿では高齢者に対するAGV挿入手術の適応と留意点について述べる.I濾過手術が奏効しなかった患者に対するインプラント手術の留意点線維柱帯切除術あるいはExpress手術の濾過胞が瘢痕化して眼圧が再上昇した場合はインプラント手術のよい適応であり,とくに耳上側に濾過胞があって周辺虹彩切除が施行されている場合には毛様溝へのチューブ挿入が容易になるというメリットがある.筆者は,AGV挿入術を開始した当初は濾過胞の瘢痕化部位を避けて,耳下側の結膜を開けてインプラントを挿入する方法がよいのではと考えていた.しかし,耳下側は耳上側と比較して結膜.の奥行きが短く,インプラントの露出例を経験したため,原則として瘢痕化濾過胞を.離して,フラップ部位の後端からチューブを挿入する方針に転換した.過去の報告でも,AGVの上方挿入と下方挿入では眼圧下降効果には有意差はみられないが,下方挿入でインプラント露出などの術後合併症の発症が有意に多かったとされている2).実際の手術における留意点として,1)濾過胞部位の.離は結膜に穴を開けないように丁寧に施行し,濾過胞から房水が漏出する場合は前房内に粘弾性物質を注入しフラップを追加縫合するなど,術中低眼圧防止に留意する(図1).2)多くの症例で,濾過胞の周囲を越えると結膜+Tenon組織の可動性が保たれているので(図2a),プレートを挿入するスペースを斜視剪刀などで.離・確保したあとにプレートを挿入し,輪部から9.10mmの位置でプレートを8-0ナイロン糸でしっかりと固定している.3)線維柱帯切除術,水晶体再建術をすでに施行している症例では角膜内皮細胞数が減少している患者もあることから,可能な限りチューブは前房ではなく毛様溝から挿入することを心がけている.毛様溝からのチューブ挿入はブラインド操作になるため,前房出*AkiraMatsuda:順天堂大学大学院医学研究科眼科学講座〔別刷請求先〕松田彰:〒113-8431東京都文京区本郷2-1-1順天堂大学大学院医学研究科眼科学講座0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(49)1307図1線維柱帯切除術後の無血管濾過胞部位の結膜切開線維柱帯切除術後の無血管濾過胞(a),濾過胞からやや離れた部位から丁寧に結膜を切開してゆく(b).結膜切開後,フラップ中央の縫合を追加する(c),フラップの後端からチューブを毛様溝経由で挿入した(d).図2線維柱帯切除術の周辺虹彩切除施行部位を利用してチューブを毛様溝から挿入した症例線維柱帯切除術後の瘢痕化濾過胞部位の結膜を.離(a),周辺虹彩切除部位を利用してチューブ挿入のためのトンネルを23G針で作製(b),同部位からチューブを毛様溝経由で挿入し(c),強膜パッチを設置後に結膜を縫合した(d).図3Ahmed緑内障バルブ(AGV)手術に付随する追加処置a:瘢痕化したExpressミニチューブ手術部位の結膜を切開し,やや離れた部位から前房内にAGVのチューブを挿入後,強膜表面から露出していたExpressミニチューブを抜去した.b:AGV挿入術後,時間が経過してから眼圧が急上昇した症例.チューブ先端にIOL前面に移動してきた硝子体が嵌頓しており,硝子体鑷子(.)を用いてチューブ先端から嵌頓硝子体を除去した.このあと,前部硝子体切除を施行した.図4チューブ内にステントを挿入した状態でのチューブ留置前房側に脱出している硝子体を切除したのち(Ca),耳下側に設置したCAhmed緑内障バルブのチューブ内腔にC4-0プローリン糸を挿入した状態で角膜輪部からC1.5Cmmの位置から前房内にチューブを挿入し(Cb),チューブをC10-0ナイロン糸で強膜上に固定(Cc),強膜パッチ+結膜でチューブを被覆した.術後眼圧はローティーンに維持されている(Cd).図5結膜とTenon組織が薄い症例におけるAhmed緑内障バルブ挿入術a:結膜とCTenon組織の厚みを評価しながら,丁寧に.離を進めてゆく.Cb:7-0バイクリル糸をTenon組織に通糸し牽引することで,広い術野を確保した.Cc,d:結膜縫合時に発見したボタンホールをC8-0バイクリル糸で縫合した.図6手術に協力が得られない患者に対するAhmed緑内障バルブ挿入術a:全身麻酔下に眼底検査を施行し,視神経乳頭がフルカッピングであることを確認した.Cb:術後低眼圧防止のためにC8-0バイクリル糸でチューブを結紮し,前房内にチューブを挿入して手術を終了した.図7Ahmed緑内障バルブ(AGV)術後低眼圧眼のチューブ内腔に3-0プローリン糸を挿入した症例AGV術後に低眼圧による浅前房と脈絡膜.離を生じた眼に対し,まずサイドポートから粘弾性物質を注入(Ca),チューブ先端から角膜輪部を超える長さに切断したプローリン糸をチューブ挿入部位の対角から前房内に挿入(Cb),スーチャーロトミー鑷子を用いて(Cc),チューブ内腔にプローリン糸を挿入した(Cd).低眼圧に対する治療としてはC4-0プローリン糸ではなく,3-0プローリン糸を用いたほうが濾過量をコントロールしやすい.図8超高齢者の落屑緑内障,唯一眼に対するAhmed緑内障バルブ(AGV)挿入術眼圧コントロールが不良の落屑緑内障患者にCAGV挿入を施行した.術後低眼圧防止のためC8-0バイクリル糸でチューブを結紮し(a,.),前房中に前房内にチューブを挿入して手術を終了した(b).