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高齢者に対する濾過手術の適応と注意点

2023年10月30日 月曜日

高齢者に対する濾過手術の適応と注意点IndicationsandPrecautionsforFiltrationSurgeryinElderlyPatients坂田礼*はじめに緑内障治療の最終目的は,生涯にわたって視覚の質を維持させることである.視覚が維持されることで,少なくとも「見る」ということに関しては生活の質の維持が約束される.そのためには,現状維持(もしくは発症予防)を目標に眼圧下降治療を行うしかない.開放隅角緑内障における治療の第一選択は点眼薬であるが,点眼薬による管理もさまざまな問題を抱え,アドヒアランスや副作用の発現によっては,点眼治療そのものの継続が困難になる.このような場合は次の一手(レーザーや手術)を考えていかないといけない.緑内障手術は,流出路再建術に代表されるローリスクローリターン型,濾過手術に代表されるハイリスクハイリターン型に大別され,どちらの術式を選択するかは,「緑内障診療ガイドライン」にも記されている通り,病型,緑内障病期,患者の病識,年齢,全身状態,患者の社会的背景などから総合的に判断していくことになる.濾過手術,なかでも線維柱帯切除術は,観血的治療のなかでは中核をなす術式であり,手術の切り札としてこれまで多くの眼を救ってきた.一方の流出路再建術は低侵襲緑内障手術(minimmalyinvasiveglaucomasur-gery:MIGS)が全盛となっており,手術件数は増加の一途をたどっている.濾過手術も低侵襲化が進んできており,エクスプレス挿入術(日本アルコン,2011年認可),そしてプリザーフロマイクロシャント(参天製薬,2022年認可)という術式が選択できるようになっている.本稿では,超高齢社会の真っただ中,そして今後さらに高齢化が進む現状において,高齢患者に対する濾過手術の立ち位置について再考する.そのためには,点眼治療と手術治療の選択,そして手術治療では流出路再建術と濾過手術の選択について考えていかなければならない.まずは日本における超高齢社会の現状について振り返える.I緑内障の現状1.高齢化と緑内障進行内閣府の発表によると,65歳以降の人口が総人口に占める割合は年々増加しており,2021(令和3)年度で28.9%と推定されている.このうち75歳以上の割合は総人口の14.9%とされ,65.74歳の人口を上回っている1).日本は総人口が減少傾向であり,平均寿命が男性81.6歳,女性87.7歳と徐々に伸びていることを考えると,高齢者の割合は今後も右肩上がりになる.緑内障は慢性進行性疾患であることを考えると,平均余命が伸びるほど視覚障害者もその分増加する方向に向かうのは当然のことである.平均寿命と並んで,健康寿命という考え方も普及してきているが,男性では8.9年(健康寿命72.7歳),女性では12.3年(75.4歳)が通院を含めてなんらかのサポートが必要になる期間と推定される.緑内障発症や進行のリスクファクターの一つとして「加齢」が報告されており,高齢の緑内障患者はそれだけで進行のリスクを抱えていることになる.また,加齢*ReiSakata:東京大学医学部附属病院眼科〔別刷請求先〕坂田礼:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学医学部附属病院眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(41)1299新規の視覚障害認定患者数7,000緑内障網膜色素変性症6,000糖尿病網膜症黄斑変性症5,0004,0003,0002,0001,00020152019会計年度図1日本における視覚障害の原疾患(文献2より引用)図2中心前房深度3.33mmのプラトー虹彩の眼若干浅前房にもみえるが,一見しただけでは閉塞隅角メカニズムがあるとはわかりにくい.図3図2と同一症例のCASIA2解析かなりの部分の隅角閉塞が疑われた.図4線維柱帯切開術(眼内法)マイクロフックを使用して線維柱帯を切開しているところ.図5輪部からの房水漏出図6低眼圧に伴う網膜(黄斑)皺襞フルオレセイン染色がはじかれている.図7線維柱帯切除術後の前房出血図8抗凝固薬継続下での濾過手術における著明な結膜下出血図10無血管で結膜壁が薄い濾過胞図9濾過手術後の眼内炎前房蓄膿が認められる.図12エクスプレスの挿入部図11有血管で結膜壁が厚い濾過胞図13プリザーフロマイクロシャントの前眼部図14図13と同一症例の濾過胞円蓋部側に丈高く広がっている.図15隅角のプリザーフロマイクロシャントのチューブ挿入部~眼圧(mmHg)302520151050年齢80歳超=80歳以下群術前1日目1カ月目6カ月目12カ月目時間図17濾過手術後の眼圧経過80歳以下の患者に線維柱帯切除術を行った場合とC80歳超の高齢者に同じ手術を行った場合のC1年後の眼圧は,両群でほぼ同じであった.(文献C16より改変引用)図16上眼瞼の脂肪萎縮があり開瞼しづらい眼-

高齢者に対する流出路再建術の適正な選択

2023年10月30日 月曜日

高齢者に対する流出路再建術の適正な選択AppropriateSelectionofOut.owPathwayReconstructionSurgeriesinElderlyPatients谷戸正樹*はじめにマイクロフックトラベクロトミーなどのトラベクロトミー眼内法やiStentなどのいわゆる低侵襲緑内障手術(minimallyinvasiveglaucomasurgery:MIGS)の登場により,施行される緑内障手術の内訳,件数が大きく変化している.厚生労働省NationalDataBase(NDB)オープンデータの解析によれば,2014年度には濾過手術がもっとも多く施行されていたのに対し,2020年度には隅角手術(MIGSを含む流出路再建術)が濾過手術を遥かにしのぐ件数となっている(図1)1).松江赤十字病院では,2014.2018年の統計でも,すでに流出路再建術がもっとも施行件数が多い術式となっていた(図2)2).濾過手術との比較において,流出路再建術は,白内障手術により効果が減弱しない,術後の頻回の通院が必要ない,緊急の対応が必要な濾過胞感染などの晩期合併症が少ないなど,高齢者にとって有利な点が多い(表1).緑内障病型は年齢とともに変化し,とくに高齢者では落屑緑内障と原発閉塞隅角病の割合が高くなる(図3)2).落屑緑内障をはじめとする高齢者の緑内障は,術後炎症の要因となりやすく,また年齢による房水産生能低下と相まって,しばしば脈絡膜.離を伴い3),濾過胞の維持が困難となる.また,原発閉塞隅角病は白内障手術が治療の第一選択となるが,白内障手術後の濾過手術は眼圧下降効果が減弱する4).臨床的な諸条件を勘案すると,患者の年齢は術式決定の大きな要因となり,とくに高齢者では相対的に流出路再建術を選択する機会が増える(図4)2).流出路再建術は適応を間違えず,正しい術中手技と術後管理を行えば予測性の高い眼圧下降効果を得ることができる術式である.一方で高齢者では,緑内障以外の眼疾患や全身疾患を有する,しばしば点眼の使用など術後指示を守ることが困難,などの問題を有する.本稿では,実際の高齢者緑内障患者を取り上げ,臨床上の注意点を共有する.特殊な患者ではなく,日常的に遭遇する患者を取りあげた.流出路再建術の術式や術後成績については,他書に解説が多いため本稿では割愛する.I症例提示1.症例186歳,女性.両眼落屑緑内障,右眼トラベクロトミー眼外法後.a.経過14年前(74歳時)に,島根大学医学部附属病院(以下,当院)で右眼トラベクロトミー眼外法+白内障手術を施行.術前視力は右眼(0.6),左眼(1.0),眼圧は右眼21.mmHg,左眼15.mmHg(点眼3成分)であった.術後5年間経過観察を行い,最終受診時,視力は右眼(1.2),左眼(1.0),眼圧は右眼11mmHg,左眼13mmHg(点眼1成分)であった.その後,近医に逆紹介し,治療継続.近医通院9年間で徐々に眼圧上昇したため,当院に再紹介となった.*MasakiTanito:島根大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕谷戸正樹:〒693-8501島根県出雲市塩冶町89-1島根大学医学部眼科学講座0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(31)128940,00035,75935,00030,00025,00019,90920,00015,00010,0005,0003,1290図1国内で行われる緑内障手術件数の変化(NDBオープンデータ)(文献1より引用)図2緑内障術式の内訳(松江赤十字病院,n=2,036)(文献2より引用)~-%100908070605040302010%1009080706050403020100(n=565)(n=568)(n=857)(n=46)表1高齢者に対する濾過手術と流出路再建術の利点と欠点濾過手術流出路再建術利点・一桁の眼圧下降が期待できる・薬剤を中止できる可能性がある・白内障手術との相性がよい・術後通院・処置が少ない・晩期合併症が少ない欠点・白内障手術で効果減弱・濾過胞維持に不利な条件(結膜・Tenon.菲薄化,房水産生能低下,偽落屑などの易炎症性要因)・頻回の通院と術後処置(レーザー切糸,ニードリングなど)が必要・視力にかかわる晩期合併症(低眼圧黄斑症,濾過胞感染など)の可能性・一桁の眼圧下降は困難・しばしば薬剤の継続が必要その他続発落屑緑内障原発閉塞隅角病原発開放隅角緑内障発達緑内障.64歳65~74歳75~89歳.90歳(n=565)(n=568)(n=857)(n=46)図3緑内障手術症例の年代別病型(松江赤十字病院,n=2,036)(文献2より引用)7%7%2%その他白内障+GSLロングチューブシャント流出路再建術(GSL除く)濾過手術.64歳65~74歳75~89歳.90歳図4年代別の緑内障術式の内訳(松江赤十字病院,n=2,036)(文献2より引用)右眼左眼図5症例1の再紹介時の前眼部所見図6症例1の右眼黄斑内層厚の変化図7症例1の左眼黄斑内層厚の変化当院最終初診再紹介図8症例1の視野の経過図9症例1の眼周囲所見上眼瞼溝深化など深層整容的CPAP(SU-PAPグレード2)を認める.右眼左眼図10症例2の初診時の前眼部所見右眼左眼図11症例2の初診時の前眼部OCT所見(STAR360による隅角解析)虹彩線維柱帯接触(iridotrabecularcontact)を両眼に認める(青く塗られた部位).右眼左眼図12症例2の初診時の眼底写真右眼左眼図13症例2の初診時の視神経乳頭形状解析と乳頭周囲網膜神経線維層(RNFL)厚解析図15症例2の左眼術後3カ月の黄斑断層像限局した網膜色素上皮.離()を認める.図14症例2の左眼術後2週間の前眼部所見瞳孔領にフィブリン膜の残存()と虹彩後癒着を認める.当院初診図16症例2の視野の経過

高齢者に対する白内障手術との併用手術

2023年10月30日 月曜日

高齢者に対する白内障手術との併用手術CombinedCataractandGlaucomaSurgeryinElderlyGlaucomaPatients徳田直人*はじめに現代医学において,加齢による身体の変化に抗う方法は,エビデンスの強弱はあるものの,さまざまなジャンルから多数の報告が存在する.その中でも眼科における白内障手術は,適応を誤らなければ加齢により低下した視力をほぼ確実に改善させることができる治療法として確固たる地位を築いている.一方,緑内障は「超」がつくほどの慢性疾患であり,眼圧下降治療を行っても症状の改善は得られず,進行速度を遅らせるに留まる.長寿社会において加齢により誰しもが発症するものの,改善方法がある白内障と,誰しもが発症するわけではないが,改善方法がない緑内障を同時に診る機会は,今後しばらくは増えていくことが予想される.本稿では白内障と緑内障が生じている高齢患者に対して,どのような治療戦略により緑内障白内障同時手術に結びつけていくのかについて述べる.CI緑内障白内障同時手術の適応「ついでに…」という表現はシリアスな医療現場においてやや軽薄な印象があり,患者に対して使うことに一瞬ためらいを感じることもある.しかし,国語辞典によると「ついで」とは,「あることを併せてするよい機会」となっており(広辞苑,岩波書店),時と場合をわきまえれば十分使用可能なフレーズである.緑内障白内障同時手術の適応を考えるにあたり,緑内障については眼圧コントロールが悪く,白内障も進行しているので緑内障白内障同時手術を選択するケースもあれば,「白内障手術のついでに緑内障手術」や「緑内障手術のついでに白内障手術」というケースも存在する.前者の場合は,加齢に伴い白内障が進行してきた患者に対して白内障手術を検討した際に,その患者が緑内障点眼薬で緑内障治療もしている場合は,緑内障手術も「ついで」に行えば,術後にあわよくば緑内障点眼なしの状態にできるかもしれないという考えのもと,患者に緑内障白内障同時手術を勧める.それに対して後者の場合は,緑内障に対して眼圧コントロールが悪いため緑内障手術を検討する際に,水晶体の存在が緑内障術後の眼圧下降に対してマイナスになることが予想される場合や,高齢につき今後手術室に入ること自体がむずかしいと判断されるような場合に,緑内障手術の「ついで」に白内障手術も行うことがある.CII緑内障白内障同時手術における緑内障術式選択筆者の緑内障白内障同時手術における緑内障術式の選択基準を表1にまとめた.緑内障白内障同時手術における緑内障術式選択としては,眼圧をどこまで下げなければならないかということが決め手となる.「眼圧下降と進行した白内障に対する緑内障白内障同時手術」や「緑内障手術のついでに白内障手術」の場合は,術後確かな眼圧下降が求められるため,緑内障術式は線維柱帯切除術をはじめとした濾過手術,または流出路再建術のなか*NaotoTokuda:聖マリアンナ医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕徳田直人:〒216-8511神奈川県川崎市高津区菅生C2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(25)C1283表1緑内障白内障同時手術における緑内障術式選択(私見)緑内障病期緑内障術式緑内障初期.中期中期後期濾過手術(線維柱帯切除術)C×△〇流出路再建術線維柱帯切開術(眼内法,眼外法)〇〇〇水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術〇〇C×濾過手術と白内障手術を同時に行うことで濾過胞の生存率が下がることが知られているため,緑内障白内障同時手術においては,流出路再建術と白内障手術の組み合わせが選択しやすいが,そこに年齢や病期などの背景因子の存在を同時に考え術式を選択すべきである.図1水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術後の隅角写真a:初代のCiStent(ステントをC1本挿入).b:iStentinject(ステントをC2本挿入).表2水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術の選択基準(白内障手術併用眼内ドレーン使用要件等基準,第C2版より作成)表3水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術の除外基準(白内障手術併用眼内ドレーン使用要件等基準,第C2版より作成)表4iStent,iStentinjectWのMRIに関する情報静磁場強度3テスラ以下7テスラのみ最大空間傾斜磁場4,000ガウス/cm(4C0テスラ/m)10,000ガウス/cm(1C00テスラ/m)最大全身平均比吸収率(SAR)第一次水準管理操作モードの場合:4CW/kg非臨床試験にてiStent,iStentinjectWは条件付きCMRI対応である.iStent,iStentinjectWが挿入されている患者は上記の条件を満たすCMRIシステムで安全に走査することができる.(添付文書より作成)

高齢者に対する毛様体光凝固術

2023年10月30日 月曜日

高齢者に対する毛様体光凝固術TransscleralCyclophotocoagulationinGeriatricGlaucomaPatients小川俊平*はじめに厚生労働省のデータによれば,2016年の身体障害者手帳(視覚障害)所持者数は31万2,000人で,そのうち65歳以上の高齢者が69%を占めている(平成28年生活のしづらさなどに関する調査,https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/seikatsu_chousa_c_h28.html).一方で日本の総人口はすでにピークアウトし,2020年の1億2,615万人から2065年には9,000万人を割り込むが,平均寿命は2019年の男性82歳・女性87歳から,2065年には男性85歳・女性91歳に延長し,65歳以上の人口の割合を示す高齢化率は28.6%から38.4%へと増加すると予測されている.緑内障は加齢とともに罹患率が上昇する疾患で1~5),同じ眼圧レベルであった場合に加齢は進行のリスクファクターでもある6).これまで眼圧下降治療には,点眼と手術治療が用いられてきたが,高齢者にはどちらの治療法を選択しても高齢者特有の影響を免れない.本稿では,高齢緑内障患者の眼科治療における課題を確認し,治療選択としての毛様体光凝固術の位置づけを考える.I高齢緑内障患者の点眼治療の注意点点眼治療のメリットは,手術療法と比べて非侵襲的で,調整が容易で,手術のリスクや回復期間が不要であることがあげられる(表1).このため緑内障治療では初期には点眼治療を中心に行い,目標眼圧が未達成の場合や,複数の点眼治療でも視野障害が進行する場合にレーザーや観血的手術を検討することが推奨されている7).高齢者の点眼治療には,高齢者特有の問題がある.点眼治療は適正に薬剤が眼の表面に到達しなければ,効果は期待できない.一般に高齢者のアドヒアランスは良好であることが多いが8),加齢や病状の進行により視力低下や視野進行があると,点眼失敗の可能性が高まる9).病状の進行と相まって薬剤の種類と消費量は加齢とともに増加する10).しかし,投与回数の増加は,アドヒアランスの低下と関連11)してしまう.患者側からみると,加齢や病状の進行とともに自身での点眼操作や管理がむずかしくなれば,座位から仰臥位での点眼や,家族の協力を求めるなどの対策を指導される.しかし,そもそも独居で協力が得られない場合や,入居施設が点眼に対応しないなど,社会的な支援が期待できない場合には,本人の意志にかかわらずアドヒアランスは大幅に低下してしまう.また,ほかの全身疾患の合併が多いことも高齢者の特徴であり,他疾患のための入院,手術などの加療中に点眼治療が途切れ,短期間に急激に病状が進行してしまう患者を経験することはまれではない.高齢で複数の点眼薬でなんとか管理されている患者の安全域はきわめて狭いと考えられる.II高齢緑内障患者の手術療法の注意点現在の緑内障手術には多くの選択肢が存在する.2019~2021年6月の社会医療行為別統計では緑内障手術は75~79歳が最多であった.また,それよりも高齢*ShumpeiOgawa:東京慈恵会医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕小川俊平:〒105-8471東京都港区西新橋3-19-18東京慈恵会医科大学眼科学講座0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(19)1277表1点眼治療と手術治療の長所と短所点眼治療手術治療長所C-非侵襲性であり,手術的なリスクが低いC-費用が比較的低いC-治療の調整が容易C-大きな回復期間が不要C-短期的な効果が期待できるC-精神的ストレスが手術より少ないC-進行した緑内障での眼圧の大幅な低下が期待できるC-長期的な眼圧管理が可能C-薬物治療が不要,または減少することが多いC-一度の手術で長期的な効果が期待できる短所C-毎日の点眼が必要C-薬物の副作用があるC-時間とともに効果が減少することがあるC-一部の患者に効果が不十分な場合があるC-アドヒアランスや点眼の仕方に影響を受けるC-手術自体のリスク(視力低下,感染,出血など)C-手術後の合併症のリスクC-回復期間が必要C-費用が高い場合があるC-すべての患者に効果的ではない場合があるC-再手術図1半導体レーザー装置CYCLOG6(トプコン提供)MPCW図2マイクロパルス(MP)と連続波(CW)の発振方式マイクロパルスは,0.5Cmsの「ON」とC1.1Cmsの「o.」がC1サイクルで,dutycycle=31.3%で固定されている.MPでは,「o.」の期間に放熱されるため,組織の温度上昇が抑えられる.一方でCCWではレーザー照射時間に比例して組織温度が上昇する.(トプコンより提供の図を改変引用)=表2連続波とマイクロパルスの比較CW-CPC(contiuouswavecyclophotocoagulation)CMP-TLT(transscleralLasertherapy)プローブGプローブPC3プローブ対象難治性緑内障原発開放隅角緑内障など機序毛様体皺襞部の細胞破壊毛様体扁平部(細胞破壊なし)麻酔場所処置室・手術室処置室・手術室再照射不可可能パワー・照射範囲2,000mW・2Csec(ポップ音が出る程度)3時C9時の動脈,blebを避けるC2,000CmW80Csec×2C2,500CmW80Csec×23時C9時の動脈,blebを避けるプローブの位置C角膜輪部側図3P3プローブRev1,Rev2の先端構造の比較Rev2はCRev1と比べて一回り小さなヘッドとなり,レーザーの照射部が陥凹した.このためCRev2では,粘弾性物質をしっかりと使用し,強膜に圧迫した状態で使用する必要がある.操作性はCRev2で向上した.(トプコン提供の図を改変引用)半球アプローチ:150°象限アプローチ:75°スイープ速度:20秒×4スイープ速度:10秒×8図4MP-TLTのレーザー照射方法図のプローブはCRev2.(トプコン提供の図を改変引用)-

高齢者緑内障に対する選択的レーザー 線維柱帯形成術の使い方

2023年10月30日 月曜日

高齢者緑内障に対する選択的レーザー線維柱帯形成術の使い方HowtoUseSelectiveLaserTrabeculoplastyforElderlyGlaucomaPatients新田耕治*はじめに緑内障患者を長期間にわたり診察する場合には,根治療法がないので点眼治療のみではなく,レーザー治療や観血的治療もおりまぜながら管理しなければならない.本稿で取り上げる緑内障レーザー治療の一つである選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabculo-plasty:SLT)は1990年代に登場したが,説明に時間がかかる,レーザー治療に対する抵抗感が強く患者を説得しきれない,期待したほど眼圧が下降しない,などが原因で日本ではなかなか普及しなかった.しかし,2019年にLancet誌にLiGHTtrialの結果が発表され1.3),原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)や高眼圧症(ocularhypertension:OH)にSLTが第一選択治療として有用であることが発表され,日本でも緑内障の第一選択治療としてのSLT(つまり点眼治療で開始せずいきなりSLTを施行)や1剤の緑内障点眼で治療しても目標眼圧に到達しない,あるいは緑内障が進行する患者に対する第二選択治療としてのSLT(つまり現在使用している1剤の点眼は継続したままSLTを施行)が注目されている.本稿では,高齢者緑内障にSLTをどのように活用すべきかについて概説する.I現在の日本社会が抱える課題と視機能日本社会は超高齢社会であり,2070年には総人口の38.7%が65歳以上の高齢者となるとの試算がある.内閣府の『令和5年版高齢者社会白書(全体版)』には次ように書かれている4).高齢者の定義と区分に関しては,日本老年学会・日本老年医学会「高齢者に関する定義検討ワーキンググループ報告書」(平成29年3月)において,近年の高齢者の心身の老化現象に関する種々のデータの経年的変化を検討した結果,特に65.74歳では心身の健康が保たれており,活発な社会活動が可能な人が大多数を占めていることや,各種の意識調査で従来の65歳以上を高齢者とすることに否定的な意見が強くなっていることから,75歳以上を高齢者の新たな定義とすることが提案されている.また,「高齢社会対策大綱」においても,「65歳以上を一律に『高齢者』と見る一般的な傾向は,現状に照らせばもはや現実的なものではなくなりつつある.」とされている.一方,高齢者はとくに全身疾患を合併していることが多く,これまで施行可能だった緑内障検査を行うことができないとか,寝たきり状態になり通院が不可能となることもある.福井県済生会病院で緑内障と初めて診断された患者のうち3年間継続的に眼科を受診できた比率に関する年代別の検討では,80歳代の継続受診率は56.2%とほかの年代と比較して低率であった(図1).緑内障は慢性進行性疾患であり,すでに後期の病期の高齢者患者のなかには慣れ親しんでいる自宅での生活を送るのが精いっぱいで,外出などはまったく不可能なほどに視機能が低下し*KojiNitta:福井県済生会病院眼科〔別刷請求先〕新田耕治:〒918-8503福井市和田中町舟橋7-1福井県済生会病院眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(11)126910.8率生存0.6積50歳未満診累50歳台継続受0.460歳台70歳台0.280歳以上0010203040506070経過観察期間(月)80図1緑内障患者の継続受診率(初診時の緑内障年代別)福井県済生会病院を2007.2009年に初診した緑内障患者330例の継続受診率を初診時の年代別に示す.3年間の継続受診率は50歳未満(73例)で75.9%,50歳代(82例)90.1%,60歳代(73例)90.0%,70歳代(64例)75.8%,80歳以上(38例)56.2%であり,80歳以上の高齢者緑内障患者の継続受診率が有意に低率であった.表1高齢者緑内障にかかわる諸事情難聴患者が多い(70歳以上では約3割)脳卒中にて片麻痺認知症(80歳以上の2.3割)定期的に受診できない(自動車を運転できない,寝たきり,施設に入所,老老介護)Goldman圧平眼圧計による眼圧測定が困難なことがある(車いすがスリットの顎台の高さが合わない,開瞼不能など)自己点眼が不可能なことがある呼吸器や循環器に影響を及ぼすb遮断薬を使用しにくい落屑緑内障高頻度急性閉塞隅角症のリスク大Tenon.が後方へ移動しており濾過手術術後に濾過胞関連合併症が生じやすいさんだけなので,仕事に行く直前と帰宅してからしか点してあげられません」「母は,施設に入所しているので,きちんと点眼してもらっているのか心配です」など,家庭の種々の事情により点眼アドヒアランスが高齢者緑内障では不良なことが多いと思われる.III手術を回避したい場合高齢緑内障患者は,非高齢緑内障患者と異なる方針で管理しなければならないことがある.非高齢緑内障患者では,点眼などの治療が奏効せず緑内障が進行する場合に手術を選択することが多いが,高齢者緑内障患者の場合には,点眼アドヒアランスの面で手術を選択することもある.しかし,局所麻酔での手術には体勢の保持は欠かせず,認知症の患者などではわれわれの指示を理解できずに術中に手術継続が困難になってしまう恐れがある場合には,手術を躊躇せざるを得ない.全身麻酔であれば手術が可能であるが,術後せん妄の危険性があるので主治医として手術をすべきか判断に迷うことがある.また,濾過手術の術後に濾過量不足の場合にはレーザー切糸を施行する必要があるが,患者の協力が得られなければ施行不可能である.また,過剰濾過の場合にも強膜弁の追加縫合や前房形成を局所麻酔下で施行するが,同様に患者の協力が必要となる.術後の通院に自分で運転して来院できる高齢の症例も多いが,家族や施設の協力を得ながらやっと受診する高齢者も多い.その場合には,長期的には通院ができなくなってしまうことも危惧される.IV高齢緑内障患者にSLTをどのように呈示するか一般的にSLTを患者に呈示する場合は,緑内障の病状や特徴などを一通り説明したあとに,治療方針として点眼治療あるいはSLT治療を呈示する.点眼治療とSLT治療のメリットとデメリットについても説明するようにしている.点眼治療のメリットは,1)気軽に始めることが可能,2)1回の診察代金が低額の2点があげられる.点眼のデメリットは,1)毎日点眼をしなければならない.2)点眼による有害事象が懸念されること,などである.SLT治療のメリットは,1)毎日のわずらわしさがない.2)1回のSLTで2.3年間治療効果が持続する.SLT治療のデメリットは,1)1回の処置代金が高額(1割負担で9,660円,3割負担で28,980円),2)奏効するか施行してみないと予測困難である.3)レーザー治療には医師も患者も怖いイメージがある,などがあげられる.これらを十分に説明したうえで,SLT治療に関するパンフレットを渡し,じっくりと治療方針について患者と相談して決めている.白内障術後に初めて緑内障と診断された高齢者緑内障の場合には,緑内障の病状としては初期の病期のことが多く,年齢を加味して治療方針を判断すべきである.高齢者の場合には治療アドヒアランスが不良なことが多いので,結果的に無治療で経過観察することも多いが,主治医として無治療の選択肢を強調すべきではないと考えている.施設に入所中であったり,施設へ入所予定となった場合には,定期的な眼科受診は困難になると想定される.それぞれの高齢者の生活状況も加味して治療方針を決めるべきである.SLTの効果を高齢者と若年者で比較した論文で,年齢が若い群のほうがSLT後の生存率が良好と報告されている5).逆にいえば,高齢者ではSLT効果があまり期待できないということになる.加齢とともに集合管が減少するのでSLTが効かなくなることが予想されるのである.それでもSLTを施行することになった場合には,筆者は患者にSLTの有効性は70%であり,3割の患者は効果がないこと,まれにSLT施行後に眼圧が上昇すること.効果の持続時間は2.3年であるが数カ月で効果が減衰する場合があること,有害事象としては,眼圧上昇以外にSLTを施行してから数日間にわたり霧視,結膜充血,違和感が出現する場合があるが,おおむね1週間以内に改善すること,などを説明している.また,SLT施行当日は帰宅可能で,帰宅後は通常の生活を送ることができ,当日から入浴も可能であることなど,日常生活に制限はないと伝えてからSLTを施行するようにしている.VSLTの施行方法照射1時間前にアプラクロニジンとピロカルピンを点眼する.施設によってはアプラクロニジンのみ点眼している施設もある.全周360°照射を基本とする.線維柱(13)あたらしい眼科Vol.40,No.10,20231271図2SLT照射の方法レーザー照射径は400μm,レーザー照射時間は3nsで固定されている.照射瘢痕は生じないが,重ならないように線維柱帯色素帯に照射する.図3SLT照射の際の注意点スポットサイズは直径400μmなので照射範囲に毛様体帯が含まれてしまう場合がある(左×).毛様体帯を照射した場合は炎症が強く惹起され,レーザー後に重篤な眼圧上昇や前房出血をきたす可能性がある.また,角膜寄りに照射すると,角膜内皮を損傷するおそれがある(右×).気泡(シャンパンバブル)図4SLT照射エネルギーレーザー出力を0.6mJから照射を開始し,実際に照射してみて気泡が生じる最小のパワーで順次進めていくのが一般的である.しかし,隅角に色素沈着が生じている部位はより小さいエネルギーでも気泡が生じ,色素沈着のない部位ではより大きいエネルギーでも気泡が生じないことが多く,その場合は2.3発に1度程度で気泡が生じるエネルギーを照射するとよい.図5筆者がSLTの際に使用している隅角鏡(OcularHwang-Latina5.0IndexingSLTw/Flange)レンズが回るindexingレンズで,白色のツバを目印に45°分を半時計回りに10.12発を照射する.その部分の照射が終わればレンズをカチッと半時計回りに次の引っかかりまで回し,また10.12発照射する.これを8回繰り返す.SLTでは凝固斑が出現しないのでどこまで照射してどこから再開したらよいかがわかりにくいが,このレンズを使用するようになって施行しやすくなった.また,隅角血管(左×)や虹彩突起(右×)の照射は避けるようにする.Hwang-Latina5.0IndexingSLTw/Flangeを愛用している.このレンズは45°分が白色のツバで表示されるので,この45°分の白いツバを目印に半時計回りに10.12発を照射する.その部分の照射が終われば外套をカチッと次の引っかかりまで半時計方向に回し10.12発照射する.このことを8回繰り返すと360°全周照射が完了する(図5).SLTは凝固斑が出現しないので,どこまで照射してどこから再開したらよいかがわかりにくかったが,このレンズを使用するようになってスムーズになった.VI高齢の最大耐用緑内障点眼使用患者へのSLT「緑内障診療ガイドライン」第5版6)にも,「眼圧コントロールに多剤の薬剤を要するときは,レーザー治療や観血的手術などの他の治療法も選択肢として考慮する必要がある」とあり,緑内障治療におけるSLTの位置づけは最大耐用点眼でも眼圧がコントロールできないときや,手術に同意が得られないときに試す治療としている.齋藤らは,最大耐用薬剤使用中のPOAGにSLTを施行した結果,施行前眼圧20.9±3.4mmHgが施行後18.7±4.6mmHgと下降したが,下降率は10.0%でKaplan-Meier法による12カ月後の眼圧累積生存率は23.2%と不良であったと報告した7).Mikiら8)は,最大耐用薬剤使用中(平均3.4剤)の緑内障患者〔POAG39眼,落屑緑内障23眼,続発開放隅角緑内障(secondaryopenangleglaucoma:SOAG)13眼〕にSLTを施行し1年以上経過を観察し,眼圧がSLT施行前と同じか,それ以上に上昇した場合を脱落基準1,SLT施行前より眼圧下降率が20%未満になった場合を脱落基準2とした場合に,脱落基準1での成功率は45.3%,脱落基準2での成功率は14.2%であったと報告した.多変量解析の結果,SLT施行前の眼圧が高いほど,病型ではSOAGのSLT成功率が有意に悪かった.実際に観血的緑内障手術が必要な患者で,手術に同意が得られない場合に手術を回避あるいは先延ばしする目的でSLTを施行することがあるが,そのようなSLTの効果は限定的であるが,上述したように手術を施行できないと思われる高齢緑内障患者の場合には,SLTに期待して施行することもある.短期間であるが現状よりも眼圧が下降できることもあるからである.VII正常眼圧緑内障へのSLTの成績白内障術後に発見された高齢緑内障患者の大多数は正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)である.NTGへのSLT治療の報告について概説する.NTGへの追加治療としてのSLTの報告では,ElMallahら9)がSLT前の眼圧14.3±2.6mmHgがSLT後に眼圧12.2±1.7mmHgへと平均14.7%の眼圧下降が得られたと報告している.1.7±1.0成分の緑内障点眼薬を使用していたNTG32例60眼に全周SLTを施行した別報10)では,SLT前の眼圧は16.0±2.1mmHg,1カ月後の眼圧は12.5±2.1mmHgで21.5±11.4%の眼圧減少率であった.SLTでの20%以上の眼圧下降達成率は61.7%(37/60)であった.多変量解析では,SLT前の眼圧が高い(coe.cient=1.1,オッズ比=3.1,p=0.05)こととSLT施行1週間後の眼圧が低い(coe.cient=.0.8,オッズ比=0.5,p=0.04)ことが予後と有意に関連した因子であった.筆者らは日本人NTG42例42眼に第一選択治療としてのSLTを施行し,前向きに3年間観察した結果,眼圧はSLT前15.8±1.8mmHg,1年後13.2±1.9mmHg(15.8±8.6%),2年後13.5±1.9mmHg(13.2±9.4%),3年後13.5±1.9mmHg(12.7±10.2%)と常に有意に下降していた.SLT施行1カ月後のout.owpressure改善率が20%以上の著効群は37/40例(92.5%)であった.SLT施行2年後の眼圧下降効果の累積生存率は64.3%であった11).SLTに対するnon-responderが1.2割存在するとしたら,NTGにSLTを施行して効果があれば2年程度は効果が持続すると患者が多いということがわかった.この結果に基づき,筆者はとくにNTGの第一選択治療としてSLTも積極的に施行してきた.患者によっては長期管理中にSLTによる眼圧下降効果が減衰し,点眼薬を開始し,2成分,3成分と増やし,緑内障手術を考慮している患者もいるが,10年以上前にSLTを施行し,現在も眼圧下降効果が持続している患者もいる.1274あたらしい眼科Vol.40,No.10,2023(16)-

序説:緑内障手術の変遷

2023年10月30日 月曜日

緑内障手術の変遷GreatChangesinGlaucomaSurgery木内良明*I緑内障手術の夜明け1)CvonGraefeによる虹彩切除術が緑内障手術の嚆矢とされる2).急性緑内障発作の患者に全幅虹彩切除を行い,その良好な成績をC1857年に報告したものである.vonGraefe自身は房水産性抑制がその作用機序と考えていたらしい.1920年にCCurranが相対的瞳孔ブロックの概念を発表し3),1938年にCBarkan4)が隅角鏡を用いて閉塞隅角緑内障と開放隅角緑内障の区別を行った.外科的周辺虹彩切除が相対的瞳孔ブロック解除に有効であることが知られて,1950年代には周辺虹彩切除術が閉塞隅角緑内障に対する第一選択の治療法として普及した.1876年にはCWeber5)がピロカルピンの瞳孔や眼圧に対する作用を報告している.術前にピロカルピンの作用で縮瞳させると周辺虹彩切除が容易になることがわかり,周辺虹彩切除術の術前に使用されるようになった.CII濾過手術の進歩周辺虹彩切除後に濾過胞が形成されて濾過手術の効果が得られる患者がC2割程度出てきた.現在と比べると縫合材料や技術が未熟であることを考慮に入れると納得できる.DeWeckerが濾過胞の重要性に気づき,強膜創からの房水漏出を重要視するようになった6).その後,強膜創から結膜下に房水を導く手技がいくつか考案された.強膜パンチやトレパンで創を作る方法,強膜創に虹彩を挟み込む方法(iridencleisis),強膜創に熱凝固を加えるCScheie法7)などがある.いずれも全層強膜創からの濾過通路を維持する工夫である.1958年に登場したScheie法は,1968年に線維柱帯切除術が登場するまで緑内障手術の主力として行われた.全層強膜切除術は濾過効果が高いものの,濾過過剰に伴う浅前房や脈絡膜.離が高率に発生した.ベッド上で安静を保つことが治療のひとつであったために,患者に大きな負担をかけたであろうことは想像にかたくない.半層強膜弁をもつ濾過手術がCSugarらによって1961年に始まった6).1968年にCCairnsが同様の報告を行い線維柱帯切除術が普及した8).二人とも線維柱帯を切除することで房水が生理的な房水流出路であるCSchlemm管に流れる術式として発表した.しかし,後に濾過手術であることが判明した.全層濾過手術と比べて眼圧下降効果が劣るものの,安全性が高いことも明らかにされた9).線維柱帯切除術の術後,しばらくして濾過効果が乏しくなる患者が多く経験されるようになった.線維柱帯切除術の以*YoshiakiKiuchi:広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学(眼科学)C0910-1810/23/100/頁/JCOPY(1)C1259後の発展は創傷治癒機転の制御に移ることになる.そしてC5フルオロウラシルやマイトマイシンCCを併用した線維柱帯切除術が行われるようになったのである10).CIII流出路再建術の進歩房水を結膜下という非生理的な場所に流すのではなく,本来の房水流出路であるCSchlemm管に導こうという試みもなされた.房水流出抵抗の主座は線維柱帯にある.線維柱帯切開術はこの線維柱帯を切開し,流出抵抗を少なくして眼圧を下げるという試みである.1962年にCHarmsら11)が提唱した.線維柱帯切開術は線維柱帯切除術よりも眼圧下降効果が劣る.そのために欧米では次第に線維柱帯切開術は行われなくなった.日本においてはC1972年から天理よろず相談所病院の永田誠が積極的に線維柱帯切開術に取り組んだ.濾過手術に伴う合併症を避けることがその主たる目的であった.閉塞隅角緑内障には隅角癒着解離術や白内障手術を併用した.欧米では線維柱帯切開術の出番が小児緑内障以外ほとんどなくなった一方,日本では線維柱帯切開術が永田を中心に行われて,その効果と限界が明らかにされた.単独手術の場合,術後の眼圧はChighteenに収まることが多いこと12).白内障手術を併用すると眼圧下降成績がよいこと13).小児緑内障14)やステロイド緑内障15)にはよい適応であること.閉塞隅角緑内障に隅角癒着解離術,線維柱帯切開術,白内障を併用するとよい眼圧コントロールが得られること16).とくに隅角癒着解離術を必要とするような虹彩前癒着の範囲が広い患者では,術後早期にレーザーで隅角膜形成術(虹彩根部にレーザーを照射して隅角を広げる)を行うと,眼圧の再上昇が少ないことなどが明らかにされた17).流出路再建術も濾過手術もよりよい眼圧下降効果,合併症の減少を求めてさまざまな工夫が行われた18,19).根本的な眼圧下降原理を変えるものではなかった.さまざまな工夫は考案されたものの,消えていった術式も多い.その後チューブインプラント手術やCminimallyinvasiveglaucomasurgery(MIGS)が現れた.近年,MIGSが広まり,欧米の緑内障専門医が隅角手術に興味をもちはじめたことはおもしろい.おわりにわが国は超高齢社会を迎えた.本特集では人生100年時代に緑内障治療はいかにあるべきかを解説する.現在,われわれがもっているレーザーを含めた緑内障手術の使い方,緑内障治療が抱える問題点も解説している.消える術式,消える考え方もあるかもしれない.たとえ消えても,そこを踏み台にして新たなアイデア,術式が生まれてくるであろう.「過去が咲いている今,未来の蕾でいっぱいの今」(河井寛次郎)文献1)上野聰樹:緑内障手術治療(総説).日眼会誌C108:241-263,C20042)vonCGraefeA:UeberCdieCiridectomieCbeiCGiaucomCundCICberCdenCglaucomatSsenCProcess.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC3:456-555,C18573)CurranEJ:ACnewCoperationCforCglaucomaCinvolvingCaCnewCprincipleCinCtheCaetiologyCandCtreatmentCofCchronicCprimaryglaucoma.ArchOphthalmolC49:131-155,C19204)BarkanO:Glaucoma:classi.cation,Ccauses,CandCsurgicalCcontrol.AmJOphthalmol21:1099-1117,C19385)PackerCM,CBrandtJD:OphthalmologyC’sCbotanicalCheri-tage.SurvOphthalmolC36:357-365,C19926)SugarHS:Courseofsuccessfully.lteringblebs.afollowupstudy.CAnnOphthalmolC3:485-487,C19717)ScheieHG:RetractionCofCscleralCwoundedges;asCaC.stulizingCprocedureCforCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC45(4CPt2):220-229,C19588)CairnsJE:Trabeculectomy.preliminaryreportofanewmethod.AmJOphthalmolC66:673-679,C19689)WatkinsCPHCJr,CBrubakerRF:ComparisonCofCpartial-thicknessandfull-thickness.ltrationproceduresinopen-angleglaucoma.AmJOphthalmolC86:756-761,C197810)KitazawaCY,CKawaseCK,CMatsushitaCHCetal:TrabeculecC-tomyCwithCmitomycin.CACcomparativeCstudyCwithC1260あたらしい眼科Vol.40,No.10,2023(2)’C

アフリベルセプトからファリシマブへの切り替えを契機に 網膜色素上皮裂孔を生じた滲出型加齢黄斑変性の1 例

2023年9月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科40(9):1249.1253,2023cアフリベルセプトからファリシマブへの切り替えを契機に網膜色素上皮裂孔を生じた滲出型加齢黄斑変性の1例岸真椰三木明子上村亜弥奥田実奈中村誠神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野CACaseofExudativeAge-RelatedMacularDegenerationwithRetinalPigmentEpithelialTearafterSwitchingfromIntravitrealA.iberceptInjectiontoFaricimabMayaKishi,AkikoMiki,AyaKamimura,MinaOkudaandMakotoNakamuraCDivisionofOphthalmology,DepartmentofSurgery,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicineC目的:アフリベルセプトからファリシマブへの切り替えを契機に網膜色素上皮裂孔(RPEtear)を生じたC1例を経験したので報告する.症例:89歳,男性.2013年に近医で左眼滲出型加齢黄斑変性(nAMD)と診断され,抗血管内皮増殖因子薬硝子体内注射で加療されていた.ラニビズマブC3回,アフリベルセプトC21回の加療後,2016年に神戸大学医学部附属病院眼科に紹介された.初診時,中心窩の網膜色素上皮.離と傍中心窩の漿液性網膜.離を認め,検眼鏡,光干渉断層計,蛍光眼底造影検査でCnAMDと診断し,アフリベルセプトで加療した.治療経過中にアフリベルセプトに抵抗性を示したため,ファリシマブへ切り替えた.切り替えC1カ月後に矯正視力低下,RPEtear,黄斑下出血を認めた.結論:滲出型加齢黄斑変性において,ファリシマブへの切替えの際にはCRPEtearの発生に留意する必要がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCretinalpigmentCepithelial(RPE)tearCafterCintravitrealCinjectionCofCfaricimab.CCasereport:AnC89-year-oldCmaleCwasCdiagnosedCwithCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration(nAMD)Cbyhisprimarycarephysician,andwastreatedwithintravitrealinjectionsofanti-vascularendothelialgrowthfac-tor(VEGF)C.CAfterCtreatmentCwithranibizumab(3times)anda.ibercept(21times)C,CheCwasCreferredCtoCtheCDepartmentofOphthalmology,KobeUniversityHospital.HewasdiagnosedasnAMD,andtreatedwithintravitre-ala.ibercept(IVA)injections.CDuringCtheCtreatmentCcourse,CtheCpatientCexhibitedCresistanceCtoCIVACandCwasCswitchedCtoCfaricimab.CAtC1CmonthCafterCswitchingCtoCfaricimab,ChisCbest-correctedCvisualCacuityCdecreased,CandCaCRPEtearandsubretinalhemorrhagedeveloped.Conclusions:WeexperiencedacaseofRPEtearafterintravitre-alinjectionoffaricimab,thusillustratingtheriskofaRPEtearwhenfaricimabisadministered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(9):1249.1253,C2023〕Keywords:加齢黄斑変性,硝子体注射,ファリシマブ,網膜色素上皮裂孔.age-relatedmaculardegeneration,intravitrealinjection,faricimab,retinalpigmentepithelialtear.Cはじめに加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)は現在,アフリベルセプト(アイリーア)やラニビズマブ(ルセンティス)といった抗血管内皮増殖因子(vascularCendo-thelialgrowthfactor:VEGF)薬硝子体内注射を用いた治療が主流となっている.AMDは慢性疾患であり,継続的な治療を要するため,投与が頻回となると,経済的,身体的負担が大きくなる.そのため,より少ない投与回数で,効果が得られることが望まれる.ファリシマブ(バビースモ)はC2022年C5月に承認された抗CVEGF薬であり,VEGF-A阻害作用による血管新生抑制とともに,アンジオポエチン-2(angiopoietin-2:Ang-2)阻害作用による血管不安定化の抑制効果を有すると考えられている.未治療加齢黄斑変性症を対象とした第CIII相試験〔別刷請求先〕岸真椰:〒650-0017兵庫県神戸市中央区楠町C7-5-2神戸大学医学部附属病院眼科医局Reprintrequests:MayaKishi,DivisionofOphthalmology,DepartmentofSurgery,KobeUniversityHospital,7-5-2Kusunoki-cho,Chuo-ku,KobeCity,HyogoPrefecture650-0017,JAPANCabcd図1初診時画像所見a:フルオレセイン蛍光造影.Cb:インドシアニングリーン蛍光造影.Cc:カラー眼底写真.Cd:スペクトラルドメイン光干渉断層計画像(SD-OCT).脈絡膜新生血管,漿液性網膜.離,網膜色素上皮.離を認め,滲出型加齢黄斑変性と診断した.(TENAYA試験およびCLUCERNE試験)では,ファリシマブCQ8W-Q16W投与群が,アフリベルセプトCQ8W投与群と同等の視覚的,解剖学的結果を示し1),ファリシマブの効果持続性が期待されている.一方で,ファリシマブ硝子体内注射(intravitrealCfarici-mab:IVF)による有害事象について,網膜色素上皮裂孔(RPEtear)やぶどう膜炎が報告されている1).今回,筆者らはファリシマブへの切替えを契機にCRPEtearを生じたC1例を経験したので報告する.CI症例患者:89歳,男性.既往歴:糖尿病,高血圧,心肥大,高脂血症.主訴:左眼視力低下.現病歴:2009年に眼精疲労のため近医を受診し,2011年2月に両眼白内障手術を施行された.その後経過観察中に,左眼漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SD)が出現し,AMDの診断でC2013年C1月からラニビズマブ硝子体内注射(intravitrealranibizumab:IVR)をC3回,アフリベルセプト硝子体注射(intravitrealaflibercept:IVA)をC21回施行された後,2016年C5月,神戸大学医学部附属病院眼科(以下,当科)に紹介となった.経過:初診時視力はCVD=0.7(1.2C×sph+0.50D(cylC.1.25DAx90°),VS=0.4(0.7C×sph+1.00D(cyl.0.75DAx90°)であった.左眼眼底に中心窩下網膜色素上皮.離(pigmentCepithelialdetachment:PED)および傍中心窩にSDを認めた(図1).右眼は中心窩下方に小さなCPEDを認めた.フルオレセイン,インドシアニングリーン蛍光造影検査にて左眼に脈絡膜新生血管(choroidalCneovascula-rization:CNV)を認め,左滲出型加齢黄斑変性と診断した(図1).2016年C6月当院にてCIVA単独治療を必要時投与で開始した.その後C2カ月ごとにCSDが再発したため,2カ月ごとの固定投与に変更した.IVAのC6週間後,近医受診時にCSDの再発を指摘されたため,2019年C2月以降C6週間ごとの投与で加療した.6週間ごとの投与においてもCSDの消失は得られなかったが,経済的な理由で,患者が積極的な治療を希望されず,2019年C10月以降は再度C2カ月ごとの固定投与を行った.2020年C5月に光干渉断層計(opticalCcoher-encetomography:OCT)で中心窩に網膜下高輝度物質(subretinalChyperre.ectivematerial:SHRM)が出現したが,経済的な理由でC2カ月ごとの固定投与を継続していた.経過中,SHRMは増悪と改善を繰り返し,SDの消失も得られなかった.2022年C2月には左眼矯正視力がC0.4に低下したため,注射間隔をC6週間に再度短縮した.その後注射間隔をC5週間,4週間とさらに短縮したが,SDの消失は得られなかったため(図2a),2022年C6月CIVFに切り替えた.切り替え直前,黄斑部網膜下出血(submacularhemorrhage:SMH)が出現し,PED丈はC318Cμm,PED最大直径はC2,508μmであった(図2b).切り替えC1カ月後,左眼矯正視力は0.3とさらに低下し,RPEtearおよびCSMHの増悪を認めた図2RPEtear発生前後の画像所見a:ファリシマブ硝子体注射(IVF)施行C4週前のCSD-OCT像.網膜色素上皮.離(PED),網膜下高輝度病変(SHRM:)と漿液性網膜.離(SD)を認める.Cb:IVF施行直前のCSD-OCT像.PED丈はC318Cμm,PED最大直径はC2,508Cμmであった.黄斑下出血(SMH)によるCSHRMの増悪()を認める.SDの残存も認めた.Cc,d:IVF投与C4週後のCSD-OCT(Cc)とカラー眼底写真(Cd).SMHの悪化,網膜色素上皮の断裂を認めた.(図2c,d).ブロルシズマブ硝子体注射(intravitrealbrolucizumab:IVBr)のC1カ月ごと連続投与を行い,SMHは改善し,CNVの活動性も低下した(図3a,b).その後はIVBr2カ月ごとの固定投与にて,滲出性変化の再燃なく経過した.しかし,RPEtearによるCRPE欠損は中心窩に及び(図3c),左眼矯正視力はC0.15に低下した.CII考察抗CVEGF薬硝子体内注射後の合併症にCRPEtearがあり,発生率はC1.36%と報告されている2).ファリシマブの第CIII相試験(TENAYA試験およびCLUCERNE試験)において,投与後C48週までに,ファリシマブ投与群でCTENAYA試験では333例中2例(1%),LUCERNE試験では331例中2例(1%)でCRPEtearが生じ,アフリベルセプト投与群ではTENAYA試験,LUCERNE試験ともにCRPEtearは生じなかった1).抗CVEGF薬の作用機序として,アフリベルセプトはCVEGF-A,BおよびCVEGFと類似した分子構造を有する胎盤成長因子(placentalCgrowthfactor:PlGF)を阻害し3),ファリシマブはCVEGF-AおよびCAng-2を同時に阻害する1).ファリシマブが有する二重経路阻害作用は,血管の安定性を図3RPEtear発生後の経過a:発生C1カ月後.Cb:発生C3カ月後.Cc:発生C5カ月後.徐々に黄網膜下高輝度病変()は消失し,解剖学的な改善も得られたが,中心窩を含む網膜色素上皮が欠損している(.).相乗的に促進し,新生血管の伸長,血管透過性亢進,および線維化や細胞死による萎縮をもたらす炎症を抑制することによって,VEGF経路のみを標的とする薬剤よりも治療効果が期待できる4).各抗CVEGF薬におけるCRPEtearの発生率について,ベバシズマブ,ラニビズマブ,アフリベルセプトで加療された未治療滲出型CAMDにおいて差を認めなかった2).ファリシマブの二重経路阻害が,RPEtearの発生リスクを高めるかどうかは不明であるが,本症例ではファリシマブ切り替え直後にCRPEtearを生じたことから,ファリシマブの作用がCRPEtearの発生に関与した可能性がある.抗CVEGF加療後のCRPEtearのリスク因子として,丈が400Cμmを超えるCPED5),PEDの大きさに対する比率の小さなCCNV6)が報告されている.既報では,RPEtearを生じた群ではCPEDの最大直径がC3.2Cmmであり,生じなかった群(1.8Cmm)より有意に大きかった7).また,RPEtear発生の前兆として,RPEのCmicrorip8)が報告されている.RPEのmicroripはCOCTで網膜色素上皮(retinalCpigmentCepi-thelium:RPE)の小さな欠損として確認できるほか,フルオレセイン蛍光造影検査(FA)では網膜下への蛍光漏出として過蛍光を示し,自発蛍光眼底では低蛍光を示す.本症例では切り替え前のPED丈はC318Cμm,PED最大直径はC2,508Cμmであり,OCT上はCPEDのサイズについて明らかなリスク因子は認めなかった.今回CFAは施行していないため,PEDに対するCCNVの比率については十分に検討できていない.RPEのCmicroripはCOCTでは認めなかったが,切り替え時に黄斑下出血を生じていたことからCmicroripが存在していた可能性がある.滲出型CAMDに対する抗CVEGF薬硝子体内注射後のCRPEtearのメカニズムとして,NigelらはCPED部分のCRPEの下面に付着したCCNVが,抗CVEGF薬の作用によって急速に退縮および収縮し,CNVの付着していない部分のCRPEに負荷がかかり断裂すると結論づけている9).既報では,滲出型AMDにおける抗CVEGF薬硝子体内注射後のCRPEtearのうちC76%(16眼/21眼)が,治療開始後C3カ月以内に生じた10).複数回の抗CVEGF薬硝子体内注射を受けた滲出型AMDでは,PED下のCCNVの線維性瘢痕化が進み,PEDの安定化効果が得られているため,RPEの断裂リスクは低いと考えられている9).一方で,Invernizziらは治療開始後6カ月以降にCRPEtearを生じた症例では,抗CVEGF薬の治療効果が不良であることを報告し,CNVの伸長およびそれに伴うCRPEの萎縮,また,長期の疾患活動によって引き起こされる線維化が,RPEtearを引き起こすと推測している11).本症例は,前医も合わせてC9年の治療経過があり,IVR3回,IVA60回,IVF1回を施行後にCRPEtearを発症した.ファリシマブ切り替え時,疾患活動性は高い状態であり,PEDの安定化は十分には得られておらず,CNVの伸長が起こっていたと推測される.IVF投与によりCPED部分のRPE下面に新規に伸長したCCNVが収縮し,RPEtearが生じた可能性がある.CRPEtear後の治療に関して,RPEtear発生後も抗CVEGF薬硝子体内注射を継続することで視覚的,解剖学的な改善が得られることが報告されている2).また,Bilgicらの報告ではCIVAで効果不十分であった滲出型CAMDおよび未治療AMDに発生したCRPEtearに対して,IVBrが解剖学的,視覚的改善に有効であった12).本症例においても,RPECtear発生前CIVAは効果不十分であったが,RPEtear発生後,IVBrに切替え,滲出性変化は消失した.視力改善は得られなかったが,その理由としてCRPEtearによるCRPE欠損が中心窩に及んだためと考えられる.ファリシマブとCRPEtearの関連について,今後さらに多数例での検討が必要である.ファリシマブ新規投与や切替え前には,他の抗CVEGF薬と同様に,RPEtearのリスク因子をCOCTなどの画像検査で確認する必要がある.CIII結論ファリシマブ切り替え後にCRPEtearを生じたC1例を経験した.PEDを有する症例へのファリシマブ投与の際には,CRPEtearのリスクに留意すべきである.文献1)HeierCJS,CKhananiCAM,CQuezadaCRuizCCCetal:E.cacy,Cdurability,andsafetyofintravitrealfaricimabuptoevery16CweeksCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegenera-tion(TENAYACandLUCERNE):twoCrandomised,Cdou-ble-masked,CphaseC3,Cnon-inferiorityCtrials.CLancetC399:C729-740,C20222)AhnJ,HwangDD,SohnJetal:Retinalpigmentepitheli-umCtearsCafterCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCtherapyCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegenera-tion.OphthalmologicaC245:1-9,C20223)PapadopoulosCN,CMartinCJ,CRuanCQCetal:BindingCandCneutralizationCofCvascularCendothelialCgrowthCfactor(VEGF)andrelatedligandsbyVEGFTrap,ranibizumabandbevacizumab.AngiogenesisC15:171-185,C20124)HeierCJS,CSinghCRP,CWyko.CCCCetal:TheCangiopoietin/tiepathwayinretinalvasculardiseases:areview.RetinaC41:1-19,C20215)ChanCK,AbrahamP,MeyerCHetal:Opticalcoherencetomography-measuredCpigmentCepithelialCdetachmentCheightCasCaCpredictorCforCretinalCpigmentCepithelialCtearsCassociatedCwithCintravitrealbevacizumabinjections.RetinaC30:203-211,C20106)ChanCK,MeyerCH,GrossJGetal:Retinalpigmentepi-thelialCtearsCafterCintravitrealCbevacizumabCinjectionCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CRetinaC27:541-551,C20077)ChiangCA,CChangCLK,CYuCFCetal:PredictorsCofCanti-VEGF-associatedretinalpigmentepithelialtearusingFAandOCTanalysis.RetinaC28:1265-1269,C20088)ClemensCCR,CAltenCF,CEterN:ReadingCthesigns:CMicroripsCasCaCprognosticCsignCforCimpendingCRPECtearCdevelopment.ActaOphthalmolC93:e600-e602,C20159)NagielA,FreundKB,SpaideRFetal:Mechanismofret-inalCpigmentCepitheliumCtearCformationCfollowingCintravit-realCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCtherapyCrevealedCbyCspectral-domainCopticalCcoherenceCtomogra-phy.AmJOphthalmolC156:981-988,C201310)CunninghamETJr.,FeinerL,ChungCetal:Incidenceofretinalpigmentepithelialtearsafterintravitrealranibi-zumabCinjectionCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.OphthalmologyC118:2447-2452,C201111)InvernizziCA,CNguyenCV,CArnoldCJCetal:EarlyCandClateCretinalpigmentepitheliumtearsafteranti-vascularendo-thelialCgrowthCfactorCtherapyCforCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration.OphthalmologyC125:237-244,C201812)BilgicA,KodjikianL,VasavadaSetal:BrolucizumabforchoroidalCneovascularCmembraneCwithCpigmentCepithelialCtearandsubretinal.uid.JClinMedC10:2425,C2021***

琉球大学病院における小児外傷性黄斑円孔の臨床転帰

2023年9月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科40(9):1244.1248,2023c琉球大学病院における小児外傷性黄斑円孔の臨床転帰愛知高明今永直也北村優佳山内遵秀古泉英貴琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座CClinicalOutcomesofPediatricTraumaticMacularHoleCasesSeenattheUniversityoftheRyukyusHospitalTakaakiAichi,NaoyaImanaga,YukaKitamura,YukihideYamauchiandHidekiKoizumiCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyusC目的:琉球大学病院における小児外傷性黄斑円孔の臨床転帰を報告する.対象および方法:対象はC2000.2020年に当科を受診したC18歳以下の外傷性黄斑円孔C17例C17眼(男性C16例,女性C1例,平均年齢C12.5±3.1歳).初診時視力,最終視力,光干渉断層計(OCT)による黄斑円孔の形態を後ろ向きに検討した.結果:自然閉鎖例がC7眼,硝子体手術症例がC10眼で,最終的に全例で円孔閉鎖した.平均ClogMAR視力は初診時C1.06±0.30から最終受診時C0.33±0.33と有意に改善した(p<0.01).初診時からC1カ月時点で最小円孔径や円孔底径が有意に縮小している症例では経過観察が選択されていた(291.6Cμmvs.83.6Cμm,p<0.05,449.1CμmCvs.189.3Cμm,p<0.05).一方,手術症例は初診時から1カ月時点で最小円孔径が有意に拡大していた(363.6CμmCvs.552.9Cμm,p<0.05).結論:円孔径が縮小している症例には経過観察が選択され,縮小を認めない症例には手術が選択されていた.最終的に全例で円孔閉鎖し,視力の改善が得られていた.CPurpose:Toreporttheclinicaloutcomesofpediatrictraumaticmacularhole(MH)casesseenattheUniver-sityCofCtheCRyukyusCHospital.CSubjectsandMethods:ThisCretrospectiveCobservationalCcaseCseriesCstudyCinvolvedC17eyesof17traumaticMHcases(16malesand1female,18yearsoldoryounger[meanage:12.5±3.1years])CseenCbetweenC2000CandC2020.CInCallCcases,Cbest-correctedCvisualacuity(BCVA)atCbothCinitialCandC.nalCvisitCandCopticalCcoherenceCtomographyC.ndingsCwereCevaluated.CResults:InCallC17Ceyes,CtheCMHclosed(spontaneousCclo-sure:n=7eyes;closureCpostCvitrectomysurgery:n=10eyes).CMeanBCVA(logMAR)signi.cantlyCimprovedCfrom1.06±0.30atbaselineto0.33±0.33at.nalfollow-up(p<0.01).Inthe7spontaneousMHclosurecases,themeanCMHCminimumCdiameterCandCtheCmeanCMHCbasalCdiameter,Crespectively,CatC1CmonthCwasCsigni.cantlyCdecreasedcomparedwiththoseattheinitialvisit(p<0.05).Inthe10eyesthatunderwentsurgery,themeanMHminimumdiameterat1monthwassigni.cantlyincreasedcomparedwiththatattheinitialvisit(p<0.05).Conclu-sions:InpediatrictraumaticMHcases,theeyeswithdecreasingMHdiametersat1monthaftertheinitialvisittendedCtoChaveCspontaneousCMHCclosure,CwhileCthoseCwithCincreasingCMHCdiametersCtendedCtoCrequireCsurgicalCtreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(9):1244.1248,C2023〕Keywords:外傷性黄斑円孔,小児,硝子体手術,光干渉断層計,黄斑円孔径.traumaticmacularhole,pediatric,parsplanavitrectomy,opticalcoherencetomography,macularholediameter.Cはじめに外傷性黄斑円孔は,眼外傷によって黄斑に網膜全層または分層円孔を生じたものである1).特発性黄斑円孔はC60歳以上の女性に多くみられるが,外傷性黄斑円孔は若年者に多く発症し,小児での発症報告も少なくない2,3).小児の外傷性黄斑円孔は成人と同様に,自然閉鎖が認められる場合があり,かつ小児は成人よりも自然閉鎖率が高く1),硝子体手術のリスクが高いため,受傷後しばらくは経過観察されることが多い.一方で,過去の報告では受傷から硝子体手術までの期間が長かった症例は,早期に手術を受けた症例よりも円孔〔別刷請求先〕愛知高明:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原C207琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座Reprintrequests:TakaakiAichi,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPANC1244(122)が閉鎖しにくい可能性が指摘されており4),過度の経過観察は恒久的な視機能低下につながる可能性がある.このように,現状では小児の外傷性黄斑円孔の手術時期については適切な手術時期は定まっていない3).また,視力予後についても網膜.離の合併,網膜震盪,脈絡膜破裂,網膜色素上皮の損傷,経過中の網膜下脈絡膜新生血管や線維化など,外傷による網膜の損傷を合併するため,機能的な予後は不明なことが多いことが示唆されている1).今回筆者らは,琉球大学病院(以下,当院)を受診した小児の外傷性黄斑円孔患者における,視力予後と円孔閉鎖にかかわる因子に関して,文献的考察を加え検討したので報告する.CI対象および方法2000.2020年の間に当院において外傷性黄斑円孔と診断され,6カ月以上経過観察可能であったC18歳以下の患者(17例C17眼)を対象とした.対象症例の受傷機転,自然閉鎖あるいは手術までの日数,初診時視力,最終視力,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)による黄斑円孔の形態(最小円孔径と円孔底径)について,診療録をもとに後ろ向きに検討した.自然閉鎖例および手術を要した代表症例のCOCT経過を,それぞれ図1,2に示す.本検討はヘルシンキ宣言に則り行い,琉球大学の人を対象とする医学系倫理審査委員会によって承認された.後ろ向き研究のため,研究内容を琉球大学のホームページに掲載し,オプトアウトの機会を提供した.図116歳,男性:ペットボトルで受傷a:初診時のCOCT.最小円孔径はC512Cμm,円孔底径はC522Cμmであった.Cb:初診時からC1カ月後のCOCT.最小円孔径はC192μm,円孔底径はC288Cμmで縮小傾向を認めた.Cc:最終受診時のOCT.受傷C58日後に黄斑円孔は閉鎖したが,網膜萎縮,脈絡膜損傷のため,最終視力は(0.6)であった.図213歳,男性:野球ボールで受傷a:初診時のCOCT.最小円孔径はC362Cμm,円孔底径はC1,580Cμmであった.Cb:初診時からC1カ月後のCOCT.最小円孔径はC551Cμm,円孔底径はC1,080Cμmと拡大傾向を認め,受傷C43日後に硝子体手術を施行し,黄斑部耳側の内境界膜を半周.離し円孔上に被覆した.Cc:術後C1カ月時点でのCOCT.円孔は閉鎖せず,受傷後C78日に再手術を施行し,鼻側の内境界膜を被覆した.Cd:最終受診時のCOCT.術後,黄斑円孔は閉鎖し,最終視力は(0.6)であった.表1全症例の臨床的特徴と転機初診時最終受傷から自受傷から初診時初診時症例年齢性別受傷原因経過然閉鎖まで手術まで最小円孔径円孔底径合併症視力視力の日数の日数(μm)(μm)1C7男野球バットC0.1C1.2経過観察C8C128C408C2C16男ペットボトルC0.04C0.6経過観察C58C512C522網膜振盪/網膜下出血/脈絡膜破裂3C18男交通外傷C0.06C0.2経過観察C38C232C417網膜振盪4C12男サッカーボールC0.2C0.6経過観察C42C247C480網膜振盪5C11男サッカーボールC0.2C0.9経過観察C29C316C480C6C12男野球バットC0.15C0.9経過観察C59C190C246網膜振盪7C11男野球ボールC0.05C0.4経過観察C32C416C991C8C14男野球ボールC0.15C0.3硝子体手術C99C316C917網膜下出血/脈絡膜破裂9C16男野球ボールC0.15C0.8硝子体手術C50C0C1,044脈絡膜破裂10C13男野球ボールC0.1C0.5硝子体手術C94C328C1,153C11C14男サッカーボールC0.03C0.2硝子体手術C106C530C980網膜振盪12C13男野球ボールC0.03C0.6硝子体手術C43C221C4,262網膜振盪/網膜下出血/脈絡膜破裂13C14男野球ボールC0.1C0.7硝子体手術C116C480C993網膜振盪14C14男野球ボールC0.15C0.5硝子体手術C120C664C1,762網膜振盪15C14男野球ボールC0.2C0.6硝子体手術C132C362C1,580網膜振盪/網膜下出血/再手術16C9女野球ボールC0.03C0.6硝子体手術C98C410C1,125C17C5男テニスボールC0.08C0.05硝子体手術C120C325C1,540網膜振盪/脈絡膜破裂II結果全症例の特徴と転機を表1に示す.性別は男性C16例,女性C1例,平均年齢はC12.5C±3.1歳(5.18歳)であった.受傷原因の内訳は野球ボールがC9例,サッカーボールがC3例,野球バットがC2例,テニスボールがC1例とスポーツに関する外傷がC83.3%であった.全症例のうち,円孔が自然閉鎖した症例がC7例で,受傷から円孔閉鎖までの平均期間はC43.0C±27.1日,硝子体手術を施行した症例はC10例で,受傷から手術までの平均期間はC97.8C±31.3日であった.手術後C1例は円孔閉鎖が得られず,再手術により円孔閉鎖し,最終的には全例が円孔閉鎖した.全例における初診時の平均ClogMAR視力はC1.07C±0.06で,円孔閉鎖後の平均ClogMAR視力はC0.33C±0.33と有意に改善した(p<0.01).自然閉鎖群の初診時平均ClogMAR視力はC1.02±0.29,円孔閉鎖後の平均ClogMAR視力はC0.22C±0.26,手術群の初診時平均ClogMAR視力はC1.08C±0.32,円孔閉鎖後の平均ClogMAR視力はC0.40C±0.36であり,両群間で初診時および円孔閉鎖後の視力において有意差はなかった.OCTで測定した最小黄斑円孔径および黄斑円孔底径は,自然閉鎖群では初診時の最小黄斑円孔径はC291.6C±133.7μm,黄斑円孔底径はC449.1C±109.0Cμm.手術群では初診時の最小黄斑円孔径はC363.6C±179.9Cμm,黄斑円孔底径は1,535.6±1,001.6Cμmであり,最小黄斑円孔径では有意差はなかったが,黄斑円孔底径は手術群で有意に大きかった(p<0.01).受傷後C2週間では,自然閉鎖群および手術群ともに,最小黄斑円孔径や黄斑円孔底径の有意な変化は認めなかった.受傷後C1カ月時点で,自然閉鎖群は最小黄斑円孔径C83.6±81.8Cμm,黄斑円孔底径C189.3C±131.8Cμmであり,有意に円孔径は縮小傾向であった(p<0.05)が,手術群では最小黄斑円孔径C552.9C±153.8μm,黄斑円孔底径C1,188.4C±675.0Cμmであり,最小黄斑円孔径が有意に拡大していた(p<0.05).自然閉鎖群と手術群それぞれの最小黄斑円孔径と黄斑円孔底径の経過を図3に示す.CIII考按外傷性黄斑円孔は眼球前方からの瞬間的な外力で眼球が圧排され,黄斑を含む網膜全体が遠心方向に牽引されることで生じると考えられている5).外力による黄斑部の進展によって生じるため,後部硝子体.離が生じていない若年者では,黄斑部網膜に接着した硝子体皮質が黄斑部と一緒に遠心方向に牽引され,外傷性黄斑円孔が生じやすい2,5).また,自然閉鎖の報告も多数あり,どの程度経過観察を行い硝子体手術に踏み切るかは,術者や施設に委ねられているのが現状である.成人を含めた外傷性黄斑円孔の自然閉鎖率は,既報ではabμmp<0.05μmp<0.056001,2005001,00040080030060020040010020000初診時2週4週8週初診時2週4週8週症例1症例2症例3症例4症例1症例2症例3症例4症例5症例6症例7症例5症例6症例7cμmp<0.05dμm9008007006005004003002001004,5004,0003,5003,0002,5002,0001,5001,0005000初診時2週4週8週0初診時2週4週8週症例8症例9症例10症例11症例12症例8症例9症例10症例11症例12症例13症例14症例15症例16症例17症例13症例14症例15症例16症例17図3自然閉鎖群と硝子体手術群の最小黄斑円孔径と黄斑円孔底径の経過a:自然閉鎖群の最小黄斑円孔径.初診時からC4週で有意に円孔が縮小した.Cb:自然閉鎖群の黄斑円孔底径.初診時からC4週で有意に円孔が縮小した.Cc:硝子体手術群の最小黄斑円孔径.初診時からC4週で有意に円孔が拡大した.Cd:硝子体手術群の黄斑円孔底径.円孔径に有意な変化はなかった.25.0.66.7%2,3,6,7)とかなりばらつきがあるが,小児の外傷性黄斑円孔ではC34.5.50%2,4,6,8)であり,成人とほぼ同等の自然閉鎖率である.筆者らの検討でも,41.2%の症例で自然閉鎖しており,既報と同等の結果であった.受傷から閉鎖までの期間は,既報ではC39.63日程度2,4)であり,本検討でも自然閉鎖群は平均C43日で円孔閉鎖を得られており,自然閉鎖はC2カ月前後に得られることが多い.一方,小児例においては,手術時に全身麻酔を必要とし,人工的な後部硝子体.離作製や水晶体温存での手術など,成人と比較し手術難度が高いことが問題となる.小児の外傷性黄斑円孔では自然閉鎖例が存在する以上,経過観察による円孔閉鎖を期待したくなるが,Millerら4)は受傷後C3カ月を超えた症例は硝子体手術の閉鎖率が低下することを報告している.また,過度の経過観察が弱視を惹起し,恒久的な視機能低下リスクになることが指摘されており2,8),受傷後C2.3カ月時点で円孔閉鎖が得られない場合は,小児であっても硝子体手術に踏み切る必要がある.小児外傷性黄斑円孔における硝子体手術は,成人に対する特発性黄斑円孔と同様に,円孔周囲の内境界膜.離を併用した硝子体手術が標準的な術式である.成人の外傷性黄斑円孔の閉鎖率は初回手術でC90%以上を達成した報告が多いが9,10),以前は小児外傷性黄斑円孔に対する硝子体手術は,後部硝子体と内境界膜の癒着が成人と比べて強く11),完全な後部硝子体.離を人工的に作製することは困難であり,網膜損傷,視野障害,硝子体出血が生じやすく,年齢が若い患者ほど手術成績が悪いことが指摘されていた5).しかし,近年では,Liuら2)は受傷後平均C13日の手術で,初回手術による閉鎖率はC14/18眼(77.8%),最終的に全例の円孔閉鎖を達成しており,Brennanら8)は受傷後平均C147日で内境界膜.離を併用した硝子体手術を施行し,初回閉鎖率C12/13眼(92.3%)を達成した.本検討でも内境界膜.離を併用した硝子体手術により,初回円孔閉鎖率はC9/10眼(90%),最終円孔閉鎖率はC100%であった.近年は黄斑円孔手術において,巨大円孔や陳旧性黄斑円孔のような難治性の黄斑円孔に,内境界膜翻転を併用した硝子体手術が考案され,円孔閉鎖率の大幅な改善がみられている12).本検討でも難治性症例では内境界膜翻転を併用していた.他にプラスミン併用硝子体手術13)やCbloodCcoating2)などの報告もあり,小児における外傷性黄斑円孔の治療成績も向上している.このことからも自然閉鎖の見込みが低いと考えられる場合は,積極的な硝子体手術を行い円孔の閉鎖を試みる価値があると思われる.一方で,どのような患者が黄斑円孔の自然閉鎖となるかは議論の余地がある.Chenら3)は初診時の円孔径が小さいこと,網膜内.胞がない症例は自然閉鎖する可能性が高いことを報告しているが,Liuら2)は円孔径がC400Cμm以上の症例でも,縮小傾向なら自然閉鎖の可能性があると指摘している.Millerら5)は同様に円孔径が縮小傾向なら自然閉鎖率が高いことを報告しており,初診時の円孔径は自然閉鎖とは関連しないと結論している.筆者らの検討では,初診時の時点では,最小円孔径は自然閉鎖群と手術群で有意差はなかったが,自然閉鎖群は初診時と比べて受診からC1カ月時点での最小黄斑円孔径や黄斑円孔底径が有意に縮小しており,逆に手術群では初診時と比べて受診からC1カ月時点での最小黄斑円孔径が有意に拡大していた.このことは,LiuやCMillerらの指摘と合致する.しかし,初診時と受診からC2週間時点での円孔径では,自然閉鎖群も手術群も円孔径は有意差がなかった点からは,少なくともC1カ月以上の経過観察が妥当と考えられる.しかし,受傷からC1カ月時点で黄斑円孔径が拡大傾向にあるのであれば,手術のリスクとベネフィットや患者の希望を考慮したうえで,手術時期を検討すべきであろう.今回の検討では,視力予後については自然閉鎖群と手術群で有意差はなく,どちらの群も初診時と比べて視力は改善しており,手術群でもC7/10眼(70.0%)で最終小数視力(0.6)以上を達成していた.過去の報告においても手術を要した症例でも術後は初診時より視力が改善し2,4,6,8),自然閉鎖群と視力予後は差がなかった2,6)ことが報告されている.Azevedoら14)は小児外傷性黄斑円孔の視力予後において,早期硝子体手術は安全で効果的な選択であり,手術のリスク/ベネフィット比は経過観察よりも優れていることを指摘した.一方で,外傷性黄斑円孔においては,外傷によるCellipsoidzoneや脈絡膜の損傷,網膜震盪や網膜.離の合併が,視力不良と関連することが知られており2,5),筆者らの検討でも最終小数視力が(0.3)以下の症例は,全例で網膜震盪や脈絡膜損傷を合併していた.解剖学的な黄斑円孔閉鎖が得られたとしても視力不良の患者が存在することは念頭に置くべきである.今回,当院における若年者外傷性黄斑円孔の臨床転帰を呈示した.成人の外傷性黄斑円孔と同じく,小児でも硝子体手術による黄斑円孔閉鎖によりある程度良好な視力が得られる可能性がある.自然閉鎖例もあり手術時期の判断はむずかしいが,硝子体手術による円孔閉鎖で視機能維持が期待できる場合も多数あるため,OCTによる黄斑円孔の形状変化を見逃さず,円孔の拡大があれば硝子体手術に踏み切る必要がある.文献1)Budo.CG,CBhagatCN,CZarbinMA:TraumaticCmacularhole:diagnosis,CnaturalChistory,CandCmanagement.CJCOph-thalmol2019;2019:58378322)LiuCJ,CPengCJ,CZhangCQCetal:Etiologies,Ccharacteristics,Candmanagementofpediatricmacularhole.AmJOphthal-molC210:174-183,C20203)ChenH,ChenW,ZhengKetal:Predictionofspontane-ousCclosureCofCtraumaticCmacularCholeCwithCspectralCdomainCopticalCcoherenceCtomography.CSciCRepC5:12343,C20154)MillerJB,YonekawaY,EliottDetal:Long-termfollow-upCandCoutcomesCinCtraumaticCmacularCholes.CAmCJCOph-thalmolC160:1255-1258Ce1,C20155)MillerJB,YonekawaY,EliottDetal:Areviewoftrau-maticmacularhole:diagnosisandtreatment.IntOphthal-molClinC53:59-67,C20136)YamashitaCT,CUemaraCA,CUchinoCECetal:SpontaneousCclosureCofCtraumaticCmacularChole.CAmCJCOphthalmolC133:230-235,C20027)ChenCHJ,CJinCY,CShenCLJCetal:TraumaticCmacularCholestudy:amulticentercomparativestudybetweenimmedi-ateCvitrectomyCandCsix-monthCobservationCforCspontane-ousclosure.AnnTranslMedC7:726,C20198)BrennanCN,CReekieCI,CKhawajaCAPCetal:Vitrectomy,CinnerClimitingCmembraneCpeel,CandCgasCtamponadeCinCtheCmanagementCofCtraumaticCpaediatricCmacularholes:aCcaseseriesof13patients.OphthalmologicaC238:119-123,C20179)KuhnF,MorrisR,MesterVetal:Internallimitingmem-braneCremovalCforCtraumaticCmacularCholes.COphthalmicCSurgLasersC32:308-315,C200110)BorC’iCA,CAl-AswadCMA,CSaadCAACetal:ParsCplanaCvit-rectomywithinternallimitingmembranepeelingintrau-maticmacularhole:14%p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原発閉塞隅角病における網膜血管密度に対する 水晶体再建術の影響

2023年9月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科40(9):1238.1243,2023c原発閉塞隅角病における網膜血管密度に対する水晶体再建術の影響北村優佳力石洋平澤口翔太新垣淑邦古泉英貴琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座CEvaluationofRetinalVascularDensityafterCataractSurgeryinPrimaryAngleClosureGlaucomaYukaKitamura,YoheiChikaraishi,ShotaSawaguchi,YoshikuniArakakiandHidekiKoizumiCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyusC目的:原発閉塞隅角病(PACD)における水晶体再建術後の視神経乳頭周囲血管密度(p-VD)および黄斑部血管密度(m-VD)の変化を評価すること.対象および方法:2020年C6.12月に琉球大学病院にて水晶体再建術を行ったPACD症例C13例C21眼を対象とした.疾患の内訳は原発閉塞隅角症(PAC)がC10眼,原発閉塞隅角症疑い(PACS)が11眼,原発閉塞隅角緑内障(PACG)がC0眼であった.術前,術後C1週,1カ月,3カ月,6カ月の眼圧,前眼部形状変化,網膜血管密度を評価した.光干渉血管断層撮影を用いて視神経乳頭を中心としたC4.5×4.5Cmmの上方,耳側,下方,鼻側部位の網膜血管密度をCp-VDとして測定し,中心窩を中心としたC6×6Cmmの上方,耳側,下方,鼻側,中央部位の網膜血管密度をCm-VDとして測定した.結果:水晶体再建術後,眼圧は術後C1カ月で有意に下降した.p-VDは術後C1週で下方において有意に増加した.その後,上方・下方では術後C1週から術後C1カ月で有意に減少したが,術後C6カ月ではその変化は消失した.m-VDは術前後で一貫して変化しなかった.結論:PACおよびCPACSにおける水晶体再建術後の網膜血管密度変化は一過性かつ限局的であり網膜への影響が小さいことが示唆された.CPurpose:ToCevaluateCchangesCinCperipapillaryCvasculardensity(pVD)andCmacularCvasculardensity(mVD)CafterCcataractCsurgeryCinCprimaryCangle-closuredisease(PACD).CSubjectsandMethods:Twenty-oneCeyesCofC13CPACDpatientswereincluded.Teneyeshadprimaryangleclosure(PAC),11eyeshadprimaryangleclosuresus-pect(PACS),and0eyeshadprimaryangle-closureglaucoma(PACG).Usingopticalcoherencetomographyangi-ography,pVDandmVDweremeasuredina4.5×4.5Cmmareacenteredontheopticdiscanda6×6Cmmareacen-teredConCtheCcentralCfovea.CEvaluationCwasCperformedCpreoperativelyCandCatC1Cweek,C1Cmonth,C3Cmonths,CandC6CmonthsCpostoperatively.CResults:AtC1-weekCpostoperative,CpVDCincreasedCsigni.cantlyCinCtheCinferiorCarea,CandCthenCdecreasedCsigni.cantlyCinCtheCinferiorCandCsuperiorCareasCfromC1-weekCtoC1-monthCpostoperative.CHowever,CthoseCchangesCdisappearedCatC6-monthsCpostoperative.CNoCchangeCinCmVDCwasCobservedCbetweenCtheCpre-andCpostoperativeCperiods.CConclusions:TheCchangesCinCretinalCvascularCdensityCafterCcataractCsurgeryCinCPACCandCPACSweretemporaryandlimited.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(9):1238.1243,C2023〕Keywords:原発閉塞隅角症,水晶体再建術,血管密度,光干渉断層血管撮影,眼圧.primaryangleclosure,cata-ractsurgery,vesseldensity,opticalcoherencetomographyangiography,intraocularpressure.Cはじめにい(primaryCangleCclosuresuspect:PACS)などのCPACG緑内障診療ガイドライン(第C5版)では原発閉塞隅角緑内の前駆病変のすべてを包括する呼称として,新たに原発閉塞障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)と,原発閉塞隅角病(primaryangleclosuredisease:PACD)という用語隅角症(primaryCangleclosure:PAC)や原発閉塞隅角症疑が定義された1).PACDの治療は根本的には閉塞隅角の解除〔別刷請求先〕北村優佳:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原C207琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座Reprintrequests:YukaKitamura,M.D.,DepartmentofOpthalmology,GraduateSchoolofMedicine,UniversityoftheRyukyus,207Uehara,Nishihara-cho,Nakagami-gun,Okinawa903-0215,JAPANC1238(116)表1患者背景(平均値±標準偏差)症例13例21眼年齢(歳)C63.85±7.56C性別男性3例C5眼(2C3.8%)女性10例C16眼(C76.2%)病型PAC11眼(52.4%)PACS10眼(47.6%)PACG0眼(0%)術前眼圧(mmHg)C15.57±3.22緑内障・高眼圧症治療薬の使用14眼(66.7%)術前屈折値(D)C0.41±3.26C前眼部COCT所見ACD(mm)C2.08±0.26TISAC500(mmC2)C0.08±0.03PAC:原発閉塞隅角症,PACS:原発閉塞隅角症疑い,PACG:原発閉塞隅角緑内障,ACD:前房深度,TISA:trabecularCirusCspacearea.が必要であり,Azuara-Blancoら2)が瞳孔ブロック機序の存在するCPACDに対し水晶体再建術の有効性を報告し,わが国でも水晶体再建術が第一選択になりつつある.しかし,水晶体再建術は,術後合併症として.胞様黄斑浮腫や糖尿病網膜症の進行,加齢黄斑変性の発症など,手術侵襲による網膜への影響が示唆されている3).光干渉断層計(opticalCcoher-encetomography:OCT)を用いた検討では,水晶体再建術後に黄斑部の網膜厚や脈絡膜厚,体積が増加し,加齢黄斑変性が発症する可能性が報告されており4,5),網脈絡膜変化の原因として,手術侵襲による血液網膜関門の破綻,網膜血管密度の増加,硝子体牽引,術中術後の低眼圧,炎症による機序などが提唱されているが3),水晶体再建術後における眼底変化の正確な病態や機序はいまだ不明である.網膜血流を測定する方法として非侵襲的に網脈絡膜循環を描出する光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)があり,近年,網脈絡膜疾患だけでなく,緑内障においても網膜血流との関連が報告されている6).2018年にCInら7)はOCTAを用いて開放隅角緑内障(primaryCopenCangleCglau-coma:POAG)患者の線維柱帯切除術後に,視神経乳頭周囲の網膜血管密度を測定し,眼圧下降により網膜血管密度が増加したことを報告した.一方で,PACD眼では水晶体再建術後に眼圧が下降することが示されている8.10)が,これまでPACD眼における水晶体再建術後の網膜血管密度の評価はされていない.本研究ではCOCTAを用いてCPACD眼における水晶体再建術後の網膜血管密度の変化を後ろ向きに評価した.図1TISA500AOD500,角膜後面,AOD500と平行に強膜岬(SS)から引いた線および虹彩表面で囲まれた面積I対象および方法2020年C6.12月に,琉球大学病院にて水晶体再建術を行った患者のうち,術後C6カ月まで経過観察が可能であり,かつCOCTAで評価が可能であったCPACD患者C13例C21眼(男性C3例C5眼,女性C10例C16眼,年齢C63.85C±7.56歳)を対象とした.PACDは,前眼部所見および隅角所見から,Inter-nationalSocietyofGeographicandEpidemiologicalOpthal-mology(ISGEO)分類11)に従い定義した.PACGに関しては,MD(meandeviation)値C.6CdB未満を対象とした.疾患の内訳はPACが10眼,PACSが11眼,PACGが0眼であった.水晶体再建術は緑内障専門医C3人が全症例でC2.4Cmm耳側角膜切開にて行った.屈折値は等価球面度数を用いて求めた.症例の詳細を表1に示す.検討項目は眼圧,前房深度(anteriorCchamberdepth:ACD),隅角形状および網膜血管密度とした.眼圧はノンコンタクトトノメーターを用いて,3回測定した平均値を採用した.ACDと隅角形状は前眼部COCT(CASIA2,トーメーコーポレーション)を用いて測定し,角膜後面から水晶体前面または眼内レンズ前面までの距離をCACDと定義した.また,角膜後面の強膜岬(scleralspur:SS)からC500Cμmの点から垂直に下した虹彩までの距離であるCAOD(angleopen-ingdistance)500,角膜後面,AOD500と平行にCSSから引いた線および虹彩表面で囲まれた面積のCtrabecularCirisCspacearea(TISA)500を隅角形状として評価した(図1).網膜血管密度はスウェプトソースCOCTA(SS-OCTA)(DRI-OCTTriton,トプコン)を用いて,網膜表層の視神経乳頭周囲血管密度(peripapillaryCvesseldensity:p-VD)および黄斑部血管密度(macularCvesseldensity:m-VD)を評価した.p-VDは視神経乳頭周囲を中心とした4.5C×4.5CmmC図2OCTAを用いた網膜血管密度の測定a:視神経乳頭周囲血管密度(p-VD).b:黄斑部血管密度(m-VD).平方をスキャンしCETDRS(EarlyCTreatmentCDiabeticCReti-nopathyStudy)サークル内の直径C3Cmmの範囲を上方,耳側,下方,鼻側の部位で測定(図2a),m-VDは黄斑部中心窩を中心としたC6C×6Cmm平方をスキャンしCETDRSサークル内の直径C3Cmmの範囲を,上方,耳側,下方,鼻側,中央の部位で測定した(図2b).網膜血管密度の解析はCSS-OCTAに内蔵されている自動解析ソフトで行った.各項目は,水晶体再建術の術前,水晶体再建術後C1週,1カ月,3カ月,6カ月で測定した.網膜硝子体疾患を有する症例,取得した画像が不鮮明で解析困難な症例は除外した.統計解析は対応のある一元配置分散分析を使用し,すべての時点での比較を行い,最終的にCBonferroni法で補正した.p<0.05の場合に,統計学的に有意と判断した.本検討はヘルシンキ宣言に則り行い,琉球大学の人を対象とする生命科学・医学系研究倫理審査委員会の承認を得た(承認番号:1267).CII結果屈折値は術前でC0.41C±3.26D,術後C1週でC.0.49±0.66Dであり,術前と比較して有意差はみられなかった.眼圧の経過を図3aに示す.眼圧は術前でC15.57C±3.22mmHg,術後C1週でC14.94C±2.80mmHg,術後C1カ月でC14.31±2.65mmHg,術後C3カ月でC14.69C±2.56CmmHg,術後C6カ月でC14.55C±2.51CmmHgであり,術前と比較して術後1カ月のみ有意に眼圧が下降した(p<0.05).全症例のうち,14眼は術前に緑内障・高眼圧症治療薬が投与されていた.また,術後の観察期間中はすべての症例で緑内障・高眼圧症治療薬は使用されなかった.前眼部COCTにおけるCACDとCTISA500の結果を図3bに示す.ACDは術前でC2.08C±0.26mm,術後C1週でC3.56C±0.30Cmm,術後C1カ月でC3.72C±0.21Cmm,術後C3カ月でC3.76C±0.22Cmm,術後C6カ月でC3.79C±0.19Cmmであり,すべての時点で術前と比較して深くなった(p<0.01)(図3b-1).TISA500は術前でC0.08C±0.03Cmm2,術後C1週でC0.14C±0.06Cmm2,術後C1カ月でC0.16C±0.06Cmm2,術後C3カ月でC0.15C±0.05Cmm2,術後C6カ月でC0.15C±0.06Cmm2であり,すべての時点で術前より有意に開大した(p<0.01)(図3b-2).p-VDとCm-VDの経過を図4に示す.p-VDは視神経乳頭上方において,術前でC46.48%,術後C1週でC48.70%,術後C1カ月でC45.35%,術後C3カ月でC45.99%,術後C6カ月で45.33%であった.術後C1週と比較して術後C1カ月,術後C3カ月,術後C6カ月で有意に低下がみられた(p<0.05)が,術前と比較して術後各測定時点での変化はなかった.視神経乳頭下方では,術前でC46.68%,術後C1週でC49.82%,術後C1カ月でC46.07%,術後C3カ月でC46.32%,術後C6カ月でC47.07%であった.術後C1週と比較し術後C1カ月,術後C3カ月で有意に低下した(p<0.05)が,術前との比較では術後C1週で有意に増加した(p<0.05)のみであった.視神経乳頭耳側では,術前でC49.06%,術後C1週でC48.67%,術後C1カ月で48.34%,術後C3カ月でC48.04%,術後C6カ月でC47.94%,視神経乳頭鼻側では,術前でC45.01%,術後1週でC44.61%,術後C1カ月でC44.64%,術後C3カ月でC44.26%,術後C6カ月でC44.43%であり,術前後,および術後の経過中に変化はみられなかった(図4a).m-VDはすべての測定時点,測定部位において有意な変化はなかった(図4b).CIII考按本研究ではCPACD眼における水晶体再建術後の眼圧,前房深度,隅角形状,p-VDおよびCm-VDの変化を術後C6カ月まで評価した.水晶体再建術により前房深度は深くなり,TISAは拡大した.術後C1カ月時点で眼圧は有意に下降したが,その後は有意な変化はみられなかった.また,視神経乳頭周囲において,術後C1週で一部の領域で網膜血管密度の上昇がみられたが,その後,網膜血管密度は低下した.術後C6カ月の時点では,視神経乳頭周囲,黄斑部のいずれの領域においても,網膜血管密度は術前と差がなかった.水晶体再建術後の網膜血管密度の変化は,既報では眼圧のa*眼圧(mmHg)20181614121086420術前術後術後術後術後1週1カ月3カ月6カ月平均値±標準偏差*:p<0.05,Bonferroni法b-1***b-2***4.5*0.25*0.500術前術後術後術後術後術前術後術後術後術後1週1カ月3カ月6カ月1週1カ月3カ月6カ月平均値±標準偏差平均値±標準偏差ACD:前房深度TISA500:TrabecularIrusSpaceArea500*:p<0.01,Bonferroni法*:p<0.01,Bonferroni法4TISA500(mm2)0.23.532.52ACD(mm)0.150.11.510.05図3水晶体再建術前後における眼圧,ACD,TISAの経過a:水晶体再建術前後における眼圧の変化.Cb-1:水晶体再建術前後におけるCACDの経過.Cb-2:水晶体再建術前後におけるCTISAの経過.C*b5550454035a55p-VD(%)50453025201510403530術前術後術後術後術後術前術後術後術後術後1週1カ月3カ月6カ月1週1カ月3カ月6カ月上方耳側下方鼻側上方耳側下方鼻側中央平均値±標準偏差平均値±標準偏差p-VD:視神経乳頭周囲血管密度m-VD:黄斑部血管密度*:p<0.05,Bonferroni法図4水晶体再建術前後における網膜血管密度の経過a:水晶体再建術前後におけるCp-VDの経過.Cb:水晶体再建術前後におけるCm-VDの経過.変動,あるいは術後の炎症による影響が指摘されていHiltonら14)は水晶体再建術後の眼圧レベル低下により拍動る3,12,13).PACD眼に対する水晶体再建術は,前房容積の拡性眼血流が改善することを報告した.また,POAG患者に大による眼圧の低下を引き起こすと考えられており10),対する線維柱帯切除術後C3カ月における報告7)では,眼圧は下降し,視神経乳頭周囲血管密度が増加したと報告されている.また,観察期間中,視神経乳頭周囲血管密度は術後C1週でわずかに減少したが,その後は徐々に増加し術後C3カ月で術前と比較して有意な増加がみられた.眼圧下降と視神経乳頭血管密度の増加は有意に関連していたと述べられている.本研究においてもCPACD眼は水晶体再建術後,ACDは深くなり眼圧は術後C1週で不変,1カ月で下降した.本研究ではp-VD,m-VDは術後C1週で一部増加したのみで,眼圧下降がみられた術後C1カ月での増加はなく,眼圧と関連した変化はみられなかった.Zhaoら12)は水晶体再建術後の黄斑部の網膜血管密度増加を報告しており,彼らのコホートでは水晶体再建術後にC2.80C±1.12CmmHgの眼圧下降がみられているが,本研究では術後C1カ月時点でC0.87C±2.09CmmHgと下降幅が小さかった.既報では術前の眼圧が低い症例は水晶体再建術後の眼圧下降が低いことが示唆されており10),本検討の対象眼は,術前に緑内障・高眼圧症治療薬を使用されている症例がC21眼中C14眼あり,眼圧上昇をきたしている症例は少なかったため,眼圧の下降幅が小さく,網膜血管密度に影響をおよぼさなかった可能性がある.水晶体再建術については,Pilottoら15)が術後の局所的な炎症反応により血管系の変化が起こることを示唆している.Zhouら3)は術後の網膜血管密度増加を報告しているが,その原因として,炎症反応によりプロスタグランジンの放出が誘発され,血液-房水関門の崩壊を引き起こし,房水に他の炎症メディエーターが蓄積され,硝子体に拡散することで網膜血管系の一時的な拡張と,網膜毛細血管の開通を引き起こすことを提唱している.また,合併症のない水晶体再建術後の炎症反応は術後C1週からC1カ月の間に最大となり,2.6カ月後にはベースラインに戻ると報告されている5).本研究の結果も術後C1週時点でのCp-VD増加,その後のCp-VD低下という網膜血管密度変化と術後炎症の転機は,既報と合致するものであった.これまで水晶体再建術後にCOCTAにて視神経乳頭周囲血管密度および黄斑部血管密度を測定した既報3)と,黄斑部血管密度のみを測定した既報12,13)では,術後にすべての追跡期間で血管密度の増加がみられている.本研究では,既報3,12,13)と異なり,p-VDの増加は限定的で,m-VDは有意な変化はなかった.原因として本研究の対象がCPACD眼であることや,既報3,12,13)と比較し若年であり,水晶体核硬度が低かった可能性や,手術時の切開幅が本研究ではC2.4Cmmと既報3)のC2.8Cmm切開より小さいことなどから,炎症惹起が少なかったことが考えられる.超音波乳化吸引装置による累積使用エネルギー値と網膜血管密度変化は相関することが報告されており3),柔らかい水晶体核や極小切開水晶体再建術は,網膜血管密度への影響が小さい可能性が示唆される.また,m-VDはCp-VDに比べて血管密度が低く,眼圧変化や炎症の影響を受けにくい可能性があるが,水晶体再建術後に網膜の部位別に血管密度変化の比較を行った報告はなく,まだ十分には検討されていない.最後に,本研究の限界としてつぎの二点があげられる.1点目は対象についてである.今回は,条件を満たす症例がいなかったためCPACGは含まれず,PACSおよびCPACが対象となった.緑内障性視神経症は網膜血管密度へ影響を及ぼすことが推察され,PACGを含む検討では異なる結果となった可能性がある.2点目は術前後の拡大率の違いである.今回はCOCTA測定時に屈折値補正は行っていないが,術前後の屈折値の変化により,OCTA撮像範囲が変化した可能性が考えられる.本研究では術前と比較し術後の屈折値に有意差はなかったものの,対象症例では遠視眼が多く,術前後の拡大率の違いが結果に影響を与えた可能性も推察される.これら二点は本研究の限界であり,今後はさらなる多数例での観察と屈折値を考慮した測定が必要であると考える.今回,PACDにおける水晶体再建術後の網膜血管密度の変化を検討した.既報3,12,13)と同じく術後C1週時点ではp-VDの増加がみられたが,m-VDの増加はみられず,網膜血管密度の変化は限定的であった.本研究におけるCPACD眼に対する侵襲がきわめて少ない極小切開水晶体再建術は,前房深度増大とCTISA増加の有用性と,網膜血流や網膜血管密度への影響が軽微であることを示す結果となった.水晶体再建術における網脈絡膜血管に対する影響は,OCTAにおける網膜血管の層別解析や脈絡膜血流の解析によるさらなる検討が必要である.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20222)Azuara-BlancoCA,CBurrCJ,CRamsayCCCetal:E.ectivenessCofCearlyClensCextractionCforCtheCtreatmentCofCprimaryangle-closureCglaucoma(EAGLE):aCrandomisedCcon-trolledtrial.LancetC388:1389-1397,C20163)ZhouCY,CZhouCM,CWangCYCetal:Short-termCchangesCinCretinalCvasculatureCandClayerCthicknessCafterCphacoemul-si.cationsurgery.CurrEyeResC45:31-37,C20204)NodaY,OgawaA,ToyamaTetal:Long-termincreaseinCsubfovealCchoroidalCthicknessCafterCsurgeryCforCsenileCcataracts.AmJOphthalmolC158:455-9Ce1,C20145)FalcaoMS,GoncalvesNM,Freitas-CostaPetal:Choroi-dalCandCmacularCthicknessCchangesCinducedCbyCcataractCsurgery.ClinOphthalmolC8:55-60,C20146)AkilH,HuangAS,FrancisBAetal:Retinalvesseldensi-tyCfromCopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCtoCdi.erentiateearlyglaucoma,pre-perimetricglaucomaandnormaleyes.PLoSOneC12:e0170476,C20177)PaulCJF,CRaufCB,CHarryCAQCetal:TheCde.nitionCandCclassi.cationCofCglaucomaCinCprevalenceCsurveys.CBrJOpthalmolC86:238-242,C20028)InJH,LeeSY,ChoSHetal:PeripapillaryvesseldensityreversalCafterCtrabeculectomyCinCglaucoma.CJCOphthalmolC2018;8909714,C20189)VuCAT,CBuiCVA,CVuCHLCetal:EvaluationCofCanteriorCchamberCdepthCandCanteriorCchamberCangleCchangingCafterCphacoemulsi.cationCinCtheCprimaryCangleCcloseCsus-pectCeyes.COpenCAccessCMacedCJCMedCSciC7:4297-4300,C201910)MelanciaD,AbegaoPintoL,Marques-NevesC:CataractsurgeryCandCintraocularCpressure.COphthalmicCResC53:C141-148,C201511)CarolanJA,LiuL,Alexee.SEetal:IntraocularpressurereductionCafterphacoemulsi.cation:ACmatchedCcohortCstudy.OphthalmolGlaucomaC4:277-285,C202112)ZhaoCZ,CWenCW,CJiangCCCetal:ChangesCinCmacularCvas-culatureCafterCuncomplicatedCphacoemulsi.cationCsur-gery:OpticalCcoherenceCtomographyCangiographyCstudy.CJCataractRefractSurgC44:453-458,C201813)KrizanovicA,BjelosM,BusicMetal:MacularperfusionanalysedCbyCopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCafteruncomplicatedCphacoemulsi.cation:bene.tsCbeyondCrestoringvision.BMCOphthalmolC21:71,C202114)HiltonEJ,HoskingSL,GherghelDetal:Bene.ciale.ectsofCsmall-incisionCcataractCsurgeryCinCpatientsCdemonstrat-ingreducedocularblood.owcharacteristics.Eye(Lond)C19:670-675,C200515)PilottoE,LeonardiF,StefanonGetal:EarlyretinalandchoroidalCOCTCandCOCTCangiographyCsignsCofCin.ammationCafterCuncomplicatedCcataractCsurgery.CBrJOphthalmolC103:1001-1007,C2019***

視路疾患の視野異常とMRI との対比

2023年9月30日 土曜日

《第11回日本視野画像学会シンポジウム》あたらしい眼科40(9):1234.1237,2023c視路疾患の視野異常とMRIとの対比橋本雅人中村記念病院眼科CTheContrastbetweentheVisualFieldDefectsandtheMRIFindingsofVisualPathwayDisordersMasatoHashimotoCDepartmentofOphthalmology,NakamuraMemorialHospitalはじめに視路疾患の診断において画像検査とくにCMRIは欠かすことのできない画像検査である.視路は眼球後部から後頭葉の第一次視覚中枢に至る長い経路であるため,どこに焦点を当てて撮影するかが重要である.そのためには,その部位で生じる視野障害のパターンを十分理解したうえで,責任病巣の画像検査を進めていく必要がある.本稿では「視路疾患の視野異常とCMRIとの対比」と題し,具体的な症例を提示しながら,視路病変とそのおもな疾患,さらにCMRI所見について解説する.CI球後から眼窩先端部病変球後から眼窩先端部に至る視路病変ではさまざまな視野欠損が生じるが,黄斑に近い網膜神経線維は球後視神経内でも中心に位置し,周辺網膜からの神経線維は視神経内でも周辺に位置するため,視神経周囲病変では中心視野は比較的保たれ周辺視野が障害されやすい(図1).この部位におけるMRIのオーダー法としては冠状断が最良の撮影角度で,手法は視神経炎などの炎症性病変が明瞭に描出されるCSTIR(shortTIinversionrecovery)が望ましく,必要があれば造影CMRI(脂肪抑制併用)も有用である.CII視神経管から視交叉病変視神経管から視交叉に至る部位では,副鼻腔病変,脳動脈瘤,トルコ鞍近傍腫瘍など多彩な病変が視路障害の原因となる(表1).視野障害のパターンとしては,両耳側半盲,junc-図1視神経鞘髄膜腫初期の視野とMRIHumphrey30-2では左眼の求心性視野狭窄を示し,眼窩部造影CMRI水平断では左視神経鞘(髄膜)に造影効果(.)を示す腫瘤陰影を認める.〔別刷請求先〕橋本雅人:〒060-8570北海道札幌市中央区南C1条西C14丁目中村記念病院眼科Reprintrequests:MasatoHashimoto,DepartmentofOphthalmology,NakamuraMemorialHospital,S-1,W-14,Chuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8570,JAPANC1234(112)0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(112)C12340910-1810/23/\100/頁/JCOPYab図2視交叉前部病変の視野とMRIa:9歳,女児,視力は右眼手動弁,左眼C1.0.Goldmann動的視野検査では右Cjunctionalscotoma(右眼の中心暗点と左眼の上耳側欠損)を示した.造影CMRI(CISS)冠状断では視交叉左前部(.)は明瞭に描出されているが,視交叉右前部に造影効果のある腫瘤(病理診断:視神経膠腫)が認められる.Cb:68歳,女性,30-2Humphrey静的視野検査において垂直子午線で境界された右上耳側欠損(単眼性耳側半盲)が認められ,HeavyT2強調反転画像冠状断では,視交叉右側()を内下方から圧排する内頸動脈─眼動脈分岐部脳動脈瘤(.)を認めた.クリッピング術後視野欠損は改善した(下段視野).(113)あたらしい眼科Vol.40,No.9,2023C1235表1視交叉近傍のおもな疾患視神経管.視交叉前部病変内頸動脈─眼動脈分岐部脳動脈瘤蝶形骨縁髄膜腫視神経膠腫蝶形骨洞CmucoceleOnodi症候群外傷性視神経症視交叉病変下垂体腺腫下垂体卒中頭蓋咽頭腫ラトケ.胞鞍結節髄膜腫視交叉部視神経膠腫リンパ球性下垂体炎エタンブトール視神経症Emptysella症候群Septo-opticdysplasia視交叉部視神経炎ationalscotoma,単眼性耳側欠損,単眼性鼻側欠損があげられる.Junctionalscotomaは接合部暗点あるいは連合暗点ともいわれ,視交叉前部の障害で起こる視野異常で,同側の中心暗点と対側の上耳側欠損が特徴である(図2a).これは網膜下鼻側の線維が,対側の視交叉前部に湾入(Wilbrand’sknee)するという解剖学的な特徴から生じるといわれている.CWilbrand’skneeは視交叉部の視神経萎縮によるCartifactであるという意見もあったが1),特殊染色でその存在が立証されている2).単眼性耳側欠損は視交叉前部の内側からの圧迫で(図2b),単眼性鼻側欠損は外側からの圧迫で生じやすい.画像は冠状断および矢状断で撮影すると病変が捉えやすい.CIII視索病変視交叉で半交叉したあとの交叉線維と非交叉線維の配列は,視索においてC90°内回旋するため,左右の視神経線維が不均一に障害されることが多く,非調和性(不一致性)同名半盲になりやすいという特徴がある(図3).視路疾患としてC背後から見た視交叉右後部(交叉後)b視交叉90°内回旋右視索背後から見た内下方より圧迫右外側膝状体入口部図3右視索障害の視野所見とMRIa:造影CMRI冠状断.下垂体腺腫が右視索を内下方から圧排している(.).b:右視索のシェーマ.右視索が内下方から圧迫を受けているので,左眼の神経線維が右眼の線維よりも障害されやすいことがわかる.c:動的視野検査では,左眼に視野欠損の大きい非調和性左同名半盲を認めた.(114)は,視交叉部視神経炎の波及,下垂体腫瘍の後方伸展,頭蓋咽頭腫,視床出血などがあげられる.MRIの撮影方向としては水平断,冠状断が有用である.CIV外側膝状体病変外側膝状体は解剖学的にC6層構造をなし,1,4,6層が交叉線維,2,3,5層が非交叉線維である.また,黄斑の神経線維は外側膝状体背側にある岬(crest)へ,一方,周辺網膜の神経線維は上方線維が腹側にある内角(medialhorn)に,下方線維は外角(lateralhorn)に投射される(図4a).したがって,部分的な外側膝状体病変では左右の一致性に欠けた非調和性同名半盲を形成する.1975年にCHoytはこれをCret-inotopicClaminaranatomyCtheoryと提唱した3).筆者らも近年,このような非調和性同名半盲を示した先天性大脳皮質形成異常の患者を経験している4).また,外側膝状体の栄養血管は,内角および外角では前脈絡叢動脈が,その他は外側後脈絡叢動脈が支配しているので,前者が閉塞すると上下の視野が区画的に欠損する四重分画盲(quadrupleCsectoranopia)を,後者が閉塞すると楔形同名半盲(wedge-shapedhomonymoushemianopia)を示す(図4b).MRIのオーダーは,外側膝状体以降視覚中枢までは急性期脳梗塞による後頭葉病変が多いため,水平断の拡散強調画像およびCFLAIR(.uidCattenuatedCinversionCrecov-ery)が有用である.CVMeyerループから視放線の病変外側膝状体の外側角からの神経線維(網膜下方線維)は前方に進み,Meyerループを回って側頭葉(視放線)から第一次視覚中枢の鳥距溝下唇に投射される.また,内側角からの神経線維(網膜上方線維)は,頭頂葉(視放線)を回って視覚中枢の鳥距溝上唇に投射される.したがって,Meyerループの障害では上同名半盲(pieinthesky)が特徴的な視野欠損であり,側頭葉てんかんの外科的治療である側頭葉切除術後に起こることが多い.CVI第一次視覚中枢病変鳥距溝上唇,下唇に広がる領域で,視野の中心ほど後方へ,視野の周辺ほど前方に投射される.視野の中心C30°は視覚中枢の約C8割を占めるといわれており5),視覚中枢では中心視野の投射領域が大きい.視野障害のパターンは調和性同名半盲に黄斑回避,耳側半月(temporalcrescent)など特徴的な視野所見を伴うこともある.おわりにこれまで解明できなかった脳の形態,機能が高解像度画像検査のめざましい急速な進歩によってつぎつぎと明らかにさ(115)aCrest視野外側内側前脈絡叢動脈外側後脈絡叢動脈後方前額断で見た左外側膝状体外側後脈絡叢動脈前脈絡叢動脈図4後方前額断で見た左外側膝状体のシェーマa:外側膝状体のC6層構造.1,4,6層は交叉線維,2,3,5層は非交叉線維で構成される.黄斑領域の神経線維は背側の岬(crest)へ,周辺の網膜神経線維は,上方線維が腹側にある内角へ(下方周辺視野領域),下方線維が外角に投射される(上方周辺視野領域).Cb:外側膝状体の血管支配と視野の関係.外側後脈絡叢動脈閉塞が起こると,外側膝状体の中心部(黄と緑)が障害されるため視野は楔形同名半盲を示す.一方,前脈絡叢動脈閉塞が起こると内側(青)と外側(赤)領域が障害されるため,四重分画盲が生じる.れてきている.今後,これらの最先端画像診断技術を積極的に臨床応用することで,多くの視路病変の病態解明が進むことを期待している.文献1)HortonJC:WilbrandC’sCkneeCofCtheCprimateCopticCchiasmCisCanCartifactCofCmonocularCenucleation.CTransCAmCOph-thalmolSocC95:579-609,C19972)ShinCRK,CQureshiCRA,CHarrisCNRCetal:WilbrandCknee.CNeurologyC82:459-460,C20143)HoytWF:Geniculatehemianopias:incongruousCvisualCdefectsCfromCpartialCinvolvementCofCtheClateralCgeniculateCnucleus.ProcAustAssocNeurolC12:7-16,C19754)HanaiCK,CHashimotoCM,CIshikawaCFCetal:CongenitalCgeniculatequadruplesectoranopiawithoccipitalheteroto-pia.AmJOphthalmolCaseRepC20:100929,C20205)HortonCJC,CHoytWF:TheCrepresentationCofCtheCvisualC.eldCinChumanCstriateCcortex.CaCrevisionCofCtheCclassicCHolmesmap.ArchOphthalmolC109:816-824,C1991あたらしい眼科Vol.40,No.9,2023C1237