近視生物学生物学と近視生物学生物学とは生命とは何であるかを探究する学問です.生物学では個体や臓器,組織,細胞,細胞内小器官,さらには分子といった異なるレベルにおける生命単位を対象に,生命単位同士または外部/内部環境と生命単位の相互作用と,それによる生命単位の構造や機能の変化から,さまざまな生命現象の仕組みやその本質を明らかにすることを目的としています.筆者のグループは,近視とは何であるかを探究する「近視生物学」という学問分野の提唱を行なっています.さまざまなレベルの生命単位における構造や機能の変化をもとに,近視を形作る生命単位同士の相互作用(たとえば網膜・脈絡膜・強膜間の相互作用)や,外部・内部環境(光環境や全身状態,炎症など)の影響を明らかにすることを目的とした学問です.近視生物学の実際筆者らの近視生物学研究によって(図1),網膜における網膜神経節細胞がもつ非視覚オプシンであるOpsin5(OPN5)が360~400nm領域の光(紫光)を受け取ることで近視を抑制する働きを有することを見出しました1).すなわち紫光という外部環境が網膜神経節細胞の機能を介して近視を抑制しているのです.また,網膜色素細胞が分泌する血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)の機能が脈絡膜の厚みを維持しており,この機構が破綻し脈絡膜が薄くなるという構造変化を生じることで近視を引き起こすことを見出しました2).さらに,近視強膜は小胞体ストレスとよばれる機能異常状態にあること,その小胞体ストレスを4-phenylbuticacid(4-PBA)という薬剤によって緩和すると,近視強膜におけるコラーゲン線維の構造異常が改善し近視進行が抑制されることを明らかにしました3).このように構造と機能にフォーカスしながら内外の環境との関係性を注意深く観察することで,近視の原因やその発生機序に迫ることができます.今後の展望生物学においては,次世代シークエンサーやシングルセル図1近視生物学が明らかにしてきた構造・機能変化形態変化と機能変化の関連性,それを引き起こす環境要因を明らかにする必要がある.解析,バイオインフォマティクスツールの発展など,解析手法の目覚ましい進歩によって生命の理解が加速度的に進んでいます.近視生物学は黎明期にある学問領域です.生物学の発展と同様に新たな解析技術によって今後その理解が進んでいくのと同時に,学問として成長することが期待されます.未知の知と出会い,それを自らの力で既知へと変えていくことで一つの分野を成熟させる喜びが近視生物学にはあります.その喜びを手にする若手研究者/医師が増えてくれることを願ってやみません.文献1)JiangX,PardueMT,MoriKetal:Violetlightsuppress-eslens-inducedmyopiavianeuropsin(OPN5)inmice.ProcNatlAcadSciUSA118:e2018840118,20212)ZhangY,JeongH,MoriKetal:Vascularendothelialgrowthfactorfromretinalpigmentepitheliumisessentialinchoriocapillarisandaxiallengthmaintenance.PNASNexus1:pgac166,20223)IkedaSI,KuriharaT,JiangXetal:ScleralPERKandATF6astargetsofmyopicaxialelongationofmouseeyes.NatCommun13:5859,2022☆☆☆(69)あたらしい眼科Vol.41,No.9,202411110910-1810/24/\100/頁/JCOPY