《第11回日本視野画像学会シンポジウム》あたらしい眼科40(9):1228.1233,2023c緑内障診療ガイドライン変更点のFlow中村誠神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科分野CFlowofRevisionin“TheJapanGlaucomaSocietyGuidelinesforGlaucoma”MakotoNakamuraCDepartmentofSurgery,DivisionofOphthalmology,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicineCはじめに2022年に緑内障診療ガイドラインの第C5版が刊行された1.5).初版発刊がC2003年であるから,おおよそC20年近い時が流れたことになる.このC20年の間に,緑内障診療を取り巻く環境,またガイドラインのあるべき姿も大きく変わった.しかし,日常診療に忙殺されていると,こうした変化を自明のことのように受け流してしまい,蓄積された変革の程度を実感しにくいものである.緑内障診療ガイドラインの変遷を改めて振り返ることで,現在の緑内障診療のスタンダード,そしてガイドラインの役割がC20年前と比べて,どのような流れで変わってきたのかを可視化することができる.以下,おもに表1に沿って,ガイドラインの変更点について概観したあとに,「診療ガイドライン」の成り立ちに触れ,最後に第C6版作成に向けた課題について私見を述べる.CI第1版から第2版への変更点2006年に改定された第C2版2)において,「緑内障性視神経症(glaucomatousCopticneuropathy:GON)」の概念が明確に導入された.すなわち,視神経障害が起こって初めて「緑内障」とよぶことになったのである.現在では当然のように感じられるかもしれないが,当時は画期的なパラダイムシフトと受け止められた.なぜなら,緑内障は「眼圧病」であり,視神経障害はその「結果」にすぎないというのが従来の考えだったからである.このパラダイムシフトをもっとも強く意識させられたのは,「原発閉塞隅角緑内障」の概念の転換である.それまでは「隅角が閉塞して眼圧が上昇すること」=「緑内障」とみなされていたが,たとえ閉塞隅角から高眼圧状態になっていたとしても,視神経障害が検出されなければ緑内障とは呼称せず,「原発閉塞隅角症(primaryangleclosure:PAC)」とよぶことになった.緑内障発作とか急性閉塞隅角緑内障という,眼科学の学生講義でもっとも馴染みのある用語が,急性原発閉塞隅角症(acutePAC)に書き換えられたのであるから,かなり衝撃的であった.「緑内障=眼圧病」という従来の等式を捨ててもCGONの概念を導入せざるをえなくなった背景には,内外の優れた疫学調査により,非典型例と思われていた,眼圧が統計的正常範囲内にとどまる「正常眼圧緑内障(normaltensionglauco-ma:NTG)」こそが,日本のみならず,多くの国で,もっとも患者数の多い緑内障病型であるというエビデンスがつぎつぎに示されたことがあろう6,7).こうした事情を踏まえ,第C2版では,視神経乳頭の量的判定基準や乳頭・神経線維層変化判定ガイドラインが附記された.一方で,診断的意義は下がったものの,治療の観点からは,NTGであっても眼圧下降が重要であることがCCollabor-ativeCNormalCTensionCGlaucomaCStudy8)で明らかになったことも踏まえ,ベースラインデータの収集と目標眼圧の設定の重要性が強調される改定となった.これに対して,PACの治療としては,この改定時点では,レーザー周辺虹彩切開術が本流であり,水晶体再建術の記載はない.当時はまだCPACの成因を相対的瞳孔ブロックに強く求め,小切開超音波乳化吸引術の有効性と安全性に現在ほど確信をもてていなかったからであろう.CII第2版から第3版への変更点第3版3)は第C2版からC6年後のC2012年に刊行された.第C3版では初めて「preperimetricCglaucoma(PPG)」という概念が導入された.この時点ではまだ邦訳はない.PPGが提唱されるようになった背景には,補助診断技術として三〔別刷請求先〕中村誠:〒650-0017兵庫県神戸市楠町C7-5-1神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科分野Reprintrequests:MakotoNakamura,DepartmentofSurgery,DivisionofOphthalmology,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicine,7-5-1Kusunoki-cho,Chuo-ku,Kobe,Hyogo650-0017,JAPANC1228(106)表1おもな改変点のサマリ版数変化1版→2版2版→3版3版→4版4版→5版発行年C2003C→C2006C2006C→C2012C2012C→C2018C2018C→C2022形式少数のエキスパートからの提言Minds形式の試行Minds形式の拡充BQ,CQ,FQ設定・記載概念緑内障性視神経症(GON)PPGの記載PPG→前視野緑内障の邦訳原発隅角閉塞症(PAC)CPACSPACDの記載検査反跳眼圧計の記載OCTの記載OCTの比重↑OCTAの記載診断乳頭量的判定診断基準WGACM→小児緑内障乳頭・神経線維層変化判定ガイドライン治療コンプライアンス→アドベースラインデータ収集の強調ヒアレンス危険因子と目標眼圧設定PG関連薬種類拡大・配合PG関連薬の視野維持効果と薬登場推奨ブリモニジン,CRhoキナー抗CVEGF薬の記載ゼ阻害薬PAC→レーザー中心PAC→水晶体再建術にもCPACGの水晶体再建術の比重↑市民権補遺:チューブシャント白内障手術併用眼内ドレーン手術ガイドラインプロスタノイド受容体関連薬EP2受容体選択性作動薬配合薬の記述↑線維柱帯切開術(眼内法)マイクロパルスレーザーの記載Minds:MedicalInformationDistributionService,BQ:backgroundquestion,CQ:clinicalquestion,FQ:futureresearchquestion,GON:glaucomatousCopticneuropathy,PPG:preperimetricglaucoma(前視野緑内障),PAC:primaryCangleclosure(原発閉塞隅角症),PACS:primaryangleclosuresuspect(原発閉塞隅角症疑い),PACD:primaryangleclosuredisease(原発閉塞隅角病),OCT:CopticalCcoherencetomography(光干渉断層計),WGACM:WorldCGlaucomaCAssociationCConsensusMeeting(世界緑内障連合コンセンサス会議),PG:prostaglandin.次元画像解析装置が一定の市民権を得,これによりCHum-phreyprogram30-2やC24-2(ないし等価の視野検査プログラム)では視野異常が検出されない段階でも,網膜神経線維の菲薄化や視神経乳頭構造変化が検出されるというエビデンスが蓄積されたことと,2008年に眼底三次元画像解析が保険収載されたことがある.ただし,この時点では,三次元画像解析装置の記載は,HeidelbergCretinatomograph,GDx,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)を横並びとした注釈的扱いにとどまっていた.まだCOCTが現在ほど洗練されておらず,乳頭形状解析に関して弱かった時代である.第C2版で導入されたCPACを補完する形で,「原発閉塞隅角症疑い(PACsuspect:PACS)」が記載された.器質的な周辺虹彩前癒着がなく,眼圧上昇もない,機能的隅角閉塞をさす.また,これに連動する形で,隅角閉塞の成因として,相対的瞳孔ブロックのみならず,プラトー虹彩や水晶体因子,毛様体因子の関与についてもしっかりとした記載が加えられた.これを踏まえて,PACの治療の選択肢として,水晶体再建術が市民権を得たのも重要な改正点であった.検査に関しては,この版で初めて反跳眼圧計に触れている.治療に関しては,まず,薬物治療における患者態度に関して,従来の「コンプライアンス」という用語から,「アドヒアレンス」という用語への転換があった.当時は耳慣れなかった「アドヒアレンス」という言葉も,今ではまったく違和感がなくなったのには時代の流れを感じる.また,第C3版発刊までの間に,いわゆるプロスタグランジン関連薬(現,プロスタノイドCFP受容体作動薬)の種類が増え,配合薬も日本で導入されたことを受け,これらの点が記載されている.抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬が普及し始めたことを受け,その血管新生緑内障への適応に関する記述がみられるようになった.外科的治療においては,チューブシャント手術が保険診療として認められたことを受け,補足資料に解説が設けられた.しかし,当時は日本に導入されたばかりで,エビデンスは乏しく,もっぱら海外の成績の紹介にとどまっていた.III第3版から第4版への変更点2018年に刊行された第C4版4)と旧版との最大の違いは,Minds(MedicalInformationDistributionService)形式に準拠し,よりエビデンスに基づいた標準治療の推奨を試みようとした点にある.あとでもう少し詳しく触れるが,このMinds形式は,evidence-basedmedicine(EBM)普及推進事業として,2002年度から厚生労働省科研補助事業として始まり,2011年からは厚生労働省委託事業として公益財団法人日本医療機能評価機構が普及を進めている「ガイドライン」のあり方のことをさす9).ここで簡単にいえば,ガイドラインとは,エビデンスに基づき,最適と思われる「推奨」を各医療課題について明示する文書のことである.この形式に基づき,第C4版では随所に推奨レベルとエビデンスの強さが記載されるようになった.しかし,第C4版の段階では,あくまで比較的少数のガイドライン作成委員が独自に文献検索を行い,会議の場で,各委員の意見を集約する形で推奨とエビデンスの強さを決めているので,本来のCMINDS形式のレベルには至っていない.むしろ,この改定では,世界緑内障連合(WorldCGlauco-maAssociation)のCconsensusCmeeting10)を受けて,世界標準に合わせるため,小児緑内障の項を大幅に改定した点が特筆に値する.これまでの改定でいったん消滅した「原発先天緑内障」の用語も復活した.その他,小児緑内障の病型分類,治療について大幅な加筆が加えられた.概念としてはCPPGの邦訳として「前視野緑内障」があてられた.治療適応を考えた場合,実践的にはこの概念は有益である一方,学術的観点から,はたして構造変化が機能変化に先行するのかという点において懐疑的な意見があることは,公平性の立場からここで言及しておく11).実際,Euro-peanCGlaucomaSocietyのCTerminologyCandCGuidelinesCforCGlaucoma12)には,PPGという略語もCpreperimetricCglauco-maという概念そのものも記載はない.この版までには,OCTが眼底三次元画像解析のなかで主流の検査となった.治療の側面では,UnitedCKingdomCGlaucomaCTreatmentCStudy13)により,点眼薬が視野維持効果を有することが初めて実証されたことを高く評価し,いわゆるプロスタグランジン関連薬(FP受容体作動薬)の使用を強く推奨している.その他,ブリモニジン酒石酸塩の眼圧下降によらない視野維持効果への言及,日本初の古典的房水流出路促進薬リパスジル塩酸塩水和物の記載,原発閉塞隅角緑内障(primaryCangleCclosureglaucoma:PACG)における水晶体再建術の重要性の周知,チューブシャント手術の補足資料から本文中への格上げ,白内障手術併用眼内ドレーンの紹介など,第C4版までの改定の間に,めざましい治療の進歩があったことを反映した改定となっている.CIV第4版から第5版への変更点今回の改定5)は,第C4版で試行されたCMinds形式により近づけるべく,統括委員会,ガイドライン改訂委員会,システマティックレビューチーム,文献検索や統計の専門家,非専門分野の有識者からなるC45名の関係者という,旧版のC4倍以上の構成員が役割を分担しつつ,推奨とエビデンスの強さに関して,より深い討議を行ったこと,そしてとりわけ重要な臨床的課題を,clinicalquestion(CQ),backgroundquestion(BQ),futureCresearchquestion(FQ)としてまとめたことが一番のポイントであろう.CQ,BQ,FQの位置づけと意義に関しては後述するが,日常診療において,患者と医療者が特定の治療を行うべきか否かを判断するうえで,明確な指針を出している点で旧版までとは一線を画す版となっている.個別の改定点で特記すべきことは以下のとおりである.まず,概念として「原発閉塞隅角病(PACdisease:PACD)」の用語の導入があげられる.PACS,PAC,PACGという病態の総称がこれまでなかったので,それに対応する用語として,国際的に提言されていることを受けての記載である.検査としては,近年開発導入された光干渉断層血管撮影(OCTangiography)に関する記載がある.ただ,従来のOCTほどには評価が定まっていないため,あくまでCintro-ductionの扱いである.一方,治療に関しては,日本初のオミデネパグ・イソプロピルが開発されたことを踏まえ,薬効分類において,プロスタグランジン関連薬という用語を廃し,プロスタノイド受容体関連薬という分類を新設し,これをさらに,FP受容体作動薬(従来のプロスタグランジン関連薬がこの範疇に入る)とCEP2受容体選択的作動薬(オミデネパグ・イソプロピルが該当する)に細分化した.その他,新しい配合薬の記載も増加した.手術に関しては,低侵襲緑内障手術(micro-invasiveないしCminimallyCinvasiveCglaucomasurgery:MIGS)の代表である,線維柱帯切開術眼内法が記載された.また,毛様体レーザーの一つとして経強膜的マイクロパルス波毛様体凝固の記述が追記された.CVMinds形式の診療ガイドライン第C4版で試行され,第C5版でかなりその形式に近づいたMinds診療ガイドラインについて触れておかねばならない.Mindsによれば,診療ガイドラインとは,「健康に関する重要な課題について,医4療4利4用4者4と4提4供4者4の4意4思4決4定4を4支4援4す4る4た4め4に,システマティックレビューによりエ4ビ4デ4ン4ス4総4体444444444444444を評価し,益と害のバランスを勘案して,最適と考えられる推4奨4を4提4示4す4る4文書」と定義される(傍点筆者)9).漠然と読み流すと理解しにくいが,筆者が重要と考える箇所に傍点を施した.すなわち,ここでいうガイドラインは,①患者や医師が何らかの医療行為を行うか行わないかの「意思決定」をする際に,それを支援するためのものであること.②単に「眼圧下降に優れる」などという有効性のエビデンスがメタ解析で得られたからというだけでなく,「副作用」などの害も考慮したエビデンスの「総体」に基づくこと.③そのうえで,その医療行為を推奨するのか,しないのか,するとしたら,どの程度強く推奨するのかを提示すること.の三要素をすべて満たしたものである.したがって,医療行為の前提となる,診断や検査法に関しての記述は狭義のガイドラインには当てはまらない(ただし,検査でも侵襲性の高いものは,当然,医師と患者間で行うか否かの合意形成をしなければいけないので,ガイドラインの推奨対象となる).それは教科書の果たす役割である.その意味で,第C4版で散見される診断や検査に対する「推奨」は,筆者を含め作成委員がCMinds形式を十分に咀嚼してできていなかったために生じた齟齬である.Mindsでの「ガイドライン」が上記の定義である以上,厳格な意味でのガイドライン部分(治療パート)とそれ以外の部分が混在する現行の「緑内障診療ガイドライン」は,正しくは,「緑内障診療マニュアル」とすべきかもしれないが,名称変更はさまざまな意味で混乱を招くので,今後の重要な課題であろう.また,上記の定義に,システマティックレビューという言葉があるが,これもいわゆるメタ解析などで用いられるものと診療ガイドラインで用いられるものでは,その意味するところは同じではない.先に述べたようにメタ解析では「眼圧」などのような定量化しやすい数値を用いて,薬物や手術などの有効性を複数のランダム化比較試験(randomizedCclinicaltrial:RCT)結果から抽出して検討する.よく,メタ解析によるエビデンスが最上位で,権威者の意見は最下位においたエビデンスのピラミッドを目にするが,それはあくまでこうした意味でのシステマティックレビューである.これに対して,診療ガイドラインでは,定量化されるエビデンスだけでは判断しない.それでは定量化されない事象は評価から省かれてしまうかもしれないからである.RCTでは総じて主要評価項目以外の統計解析は行われず,副次評価項目である安全性評価(すなわち副作用や合併症)は,いわば「おまけ」扱いとなるため,定量化されない.また,よく知られるように,RCTでは対象の選択基準と除外基準が厳しく定められている結果,かえって選択のバイアスがかかりやすい.人種による成績の違いなどが生じる原因である.こうしたバイアスのため,医療提供者は,しばしばCRCTの結果と実臨床のそれとの乖離を経験する.それ以外にもさまざまなバイアスがかかっているが,RCTの結果にそうしたバイアスが多く含まれていることは,その分野の研究者(つまりは「権威者」)でなければ簡単には知りえない.そうした意味では,権威者の意見は決して最下位に打ち捨てるようなエビデンスではない.また,後ろ向き観察研究はエビデンスレベルが低いといわれるが,たとえばCMIGSが普及し,線維柱帯切開術眼内法が主流となった現在,眼外法の線維柱帯切開術を対照としたRCTを今から行うことなどは倫理的に許容されない.その結果,RCTだけを頼りにすると,本当に眼内法の線維柱帯切開術を推奨すべきか否かの判断ができなくなる.よって,診療ガイドラインにおけるシステマテイックレビューにおいては,観察研究も重要なエビデンスとみなされるのである.CVICQ,BQ,FQ第C5版で特記すべき事項にCCQ,BQ,FQが設けられたことはすでに述べた.このうちCBQは臨床課題ではあるものの,新たにCRCTを組むことのできないような基本的課題である.代表例は,妊婦への緑内障点眼の可否などである(第C5版のBQ-1).医療提供者も医療利用者も知りたい課題であるが,胎児をリスクに晒してCRCTを組むことは倫理的に許容されないため,今後も永遠に解決はできない課題であろう.これに対し,FQでは現時点ではエビデンスはないが,将来的には解決可能性のある臨床課題である.代表例は,「緑内障患者に対して,〇〇薬は,眼圧下降薬と比較して,神経保護効果を有するか」といった課題である(第C5版のCFQ-3).これに対して,CQは「どういう対象に(patient/popula-tionの頭文字を取ってCP)」「どのような治療ないし侵襲のある検査を(interventionの頭文字を取ってI)」「誰を対照として比較し(comparatorの頭文字を取ってC)」「どのような予後(outcomeの頭文字を取ってCO)」を期待して推奨するのかを,一文の疑問文として記載した臨床課題である.表2に第C5版で記載されたCCQの一覧を示す.そのなかで,CQ-3「点眼薬で眼圧がC10CmmHg台後半になっていても視野障害が進行する症例(P)に,緑内障手術(I)を推奨するか」は,眼圧がC10CmmHg後半までは下降していない患者と比較して,というCCの設定と,手術によって視野進行が停止ないし減速されるかといったCOの設定は省略されているものの,それは自明のことなので,診療ガイドラインに準拠したCCQの一つといえる.一方で,「どのような症例にC×××を投与するべきか」「△△△が有効な患者の特徴は?」「◎◎◎の適応は?」といった,特定の治療・介入を実施することを前提としたCCQは適さないとされる.推奨を問うていないCCQ-1,CQ-6や表2CQ一覧5)番号CQuestionサマリーおよび推奨提示推奨の強さCCQ-1高眼圧症の治療を始める基準は?危険因子を有する高眼圧症症例では治療を開始することが推奨される.高眼圧症からCPOAGを発症する危険因子として,年齢が高い,垂直陥凹乳頭径比(CCD比)が大きい,眼圧が高い,CpatternCstandarddeviationが大きい,中心角膜厚が薄い,視神経乳頭出血の出現があげられる.「危険因子を有する症例では治療すること」を強く推奨する.CCQ-2正常眼圧の前視野緑内障(CPPG)の治療を推奨するか?正常眼圧のCPPGに対して慎重な経過観察を行ったうえで,危険因子を勘案しながら治療開始を随時検討することを提案する.「治療すること」を弱く推奨する.CCQ-3点眼薬で眼圧がC10CmmHg台前半になっていても視野障害が進行する症例に緑内障手術を推奨するか?点眼治療下で眼圧がC10CmmHg台前半にもかかわらず視野障害が進行する症例に対して,線維柱帯切除術を行うことを弱く推奨する.「実施すること」を弱く推奨する.CCQ-4チューブシャント手術を線維柱帯切除術の代わりに推奨するか?両術式の選択にあたっては,治療眼・患者の背景,術者の術式に対する習熟度などを勘案して選択することが重要である.チューブシャント手術を線維柱帯切除術の代わりに実施することは推奨しない.「実施しないこと」を弱く推奨する.CCQ-5POAGに対する線維柱帯切除術後の副腎皮質ステロイド点眼は推奨されるか?POAGに対する線維柱帯切除術後に,副腎皮質ステロイド点眼などの局所消炎治療を行うことが眼圧コントロールに有用であり,推奨される.前房出血,一過性眼圧上昇,浅前房などの手術合併症の抑制効果があるかどうかについては,十分な研究結果がなく結論が出ていない.「投与すること」を強く推奨する.CCQ-6線維柱帯切除術後の抗菌薬の点眼・軟膏治療はいつまで必要なのか?術後しばらくは抗菌薬の点眼・軟膏を継続して使用することを推奨する.長期に関しては濾過胞感染リスクに応じて抗菌薬の点眼・軟膏を適宜使用する.「実施すること」を強く推奨する.CCQ-7POAGに対して線維柱帯切除術を施行する際に白内障手術の併施を推奨するか?POAGに対して線維柱帯切除術を施行する際の白内障手術の併施は,眼圧コントロール成績を悪化させる可能性があるものの,水晶体再建が視機能改善に有益と考えられる場合には行ってもよい.「実施すること」を弱く推奨する.CCQ-8原発閉塞隅角緑内障(PCACG)およびその前駆病変としての原発閉塞隅角症(CPAC)に対する治療の第一選択は水晶体再建術か,レーザー治療か?PACGとCPACに対する第一選択治療として水晶体再建術を強く推奨する.症候性白内障の有無にかかわらず水晶体再建術を第一選択として選択可能であるが,絶対的な第一選択ではなく個々の症例の状況に応じてレーザー治療を選択する.また,眼圧が正常なCPACについては治療適応を慎重に検討すべきことに留意する.「水晶体再建術を施行すること」を強く推奨する.CCQ-9原発閉塞隅角症疑い(CPACS)に治療介入は必要か?PACSに対する治療介入にあたっては個々の症例によるリスク評価が必要であり,すべて一律には治療介入を行わないことを推奨する.急性原発閉塞隅角症(CAPAC)やPACGに進行するリスクが高いCPACS症例に対しては治療介入を行うことを推奨する.PACS全体:「一律には治療介入を行わないこと」を弱く推奨する.「ACPAC僚眼に対しては実施すること」を強く推奨する.PICOのCPがないCCQ-4なども,正しいCCQの記載ではないが,今回のガイドライン作成は,諸々の事情で時間的制約が強く,CQの練度を高める時間が足りなかった.次回改定に向けた大きな宿題であろう.CVII第6版への課題第C5版が発刊されたばかりではあるが,ガイドラインの寿命はせいぜいC5年程度とされるため,第C6版の刊行までにそ(文献C5より引用)れほど猶予があるわけではない.つぎつぎと到来するであろう新薬やCMIGSデバイスに加え,昨今のビッグデータや人工知能を用いた診断・患者行動支援機器開発や治療効果判定の研究の成果などをシステマティックレビューして,推奨の可否,程度を決めていかねばならないのは当然である.が,それ以上に,第C5版の作成に携わったものの一人として感じたことは,緑内障治療におけるエビデンスの少なさ,である.緑内障点眼薬にしろ,手術治療にしろ,大半が「眼圧」をCsurrogatemarker(代理マーカー)として検討した研究である.しかし,緑内障治療のゴールは患者の「生活と視覚の質(qualityoflifeorvision)」を守ることである.いわゆる視野維持効果を主要評価項目とした研究は,ラタノプロストの視野維持効果を検討したCTheCUnitedCKingdomCGlaucomaCTreatmentStudy(UKGTS)13)を含めわずかしかない.とりわけ,日本独自のエビデンスは皆無に近い.上述したように,人種や国家間で治療の予後は大きく異なる.人口減少社会に入ったとはいえ,一つの国家としてのわが国の人口はまだまだ大きい.しかし,これまでは(とりわけ製薬メーカーの関与しない手術成績は眼圧という代理マーカーに関してさえ)ビッグデータの構築がなされてこなかったため,施設ごとのデータしかなく,論文もサンプル数を事前に検討して多機関が共同して研究したものは数えるほどである14).したがって,わが国の緑内障治療に関するデータベースの構築とそれに基づくエビデンスの創出が一つ目の喫緊の課題といえるだろう.個別の課題は,上述のようにCCQの洗練に加えて,文献検索の精度の向上,フローチャートとCCQとの整合などがある.前者として,たとえば,第C5版では,わが国初の製薬となったCRhoキナーゼ阻害薬に関する報告15),EP2作動薬に関する報告16)などが漏れている.後者としては,CQ-8でPACやCPACGの治療の第一選択は水晶体再建術が「強く推奨」されているが,フローチャートは抑制的で,レーザー周辺虹彩切開術や周辺虹彩切除術と並列扱いであり,とくに急性CPACやCPACGでの水晶体再建術は,技術的困難さを思料して,熟練した術者が行うよう注記されている.ガイドラインの推奨は,「益と害のバランスを勘案」して決定するのであるから,その意味でどちらの立ち位置をとるべきか,検討が必要であろう.文献検索の遺漏やCCQとフローチャートの不整合をなくすには,改定に時間的余裕を持つことに加えて,ガイドライン執筆校正者に,図書館司書や緑内障非専門家や行政・患者団体などにも参画してもらう必要があるかもしれない.しかし,そのためには十分な外部資金を獲得する必要があり,これが第二の大きな喫緊の課題であろう.おわりに緑内障診療ガイドラインの改定の変遷を振り返ってきた.改めてこのC20年間に生じた,緑内障の概念のパラダイムシフト,検査・診断法の革新,新規治療法の発展に目を見開かされる.一方で,「ガイドライン」というものが,単なる「教科書」ではないという事実を突きつけられていることを認識する.「ガイドライン」への理解を深め,これからの緑内障診療の進歩にわが国ならではのエビデンスを創出すべき時代であることに思いを馳せ,論を置くこととする.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン.日眼会誌107:125-157,C20032)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第C2版.日眼会誌110:777-814,C20063)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第C3版.日眼会誌116:3-46,C20124)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第C4版.日眼会誌122:5-53,C20185)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン第C5版.日眼会誌126:85-177,C20226)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:theCTajimiCStudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C20047)ChoCHK,CKeeC:Population-basedCglaucomaCprevalenceCstudiesinAsians.SurvOphthalmolC59:434-447,C20148)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup:CThee.ectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentCofCnormal-tensionCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC126:498-505,C19989)Minds診療ガイドライン作成マニュアル編集委員会:Minds診療ガイドライン作成マニュアルC2020ver.3.0.日本医療機能評価機構CEBM医療情報部,202110)WeinrebCRN,CGrajewskiCA,CPapadopoulosCMCetal(eds):C9thconsensusmeeting:Childhoodglaucoma.KuglerPub-lications,Amsterdam,201311)HoodDC:DoesCretinalCganglionCcellClossCprecedeCvisualC.eldlossinglaucoma?JGlaucomaC28:945-951,C201912)EuropeanGlaucomaSociety:TerminologyandguidelinesforCglaucoma,C9thCedition.CBrCJCOphthalmolC105(Suppl1):1-169,C202113)Garway-HeathDF,CrabbDP,BunceCetal:Latanoprostforopen-angleCglaucoma(UKGTS):aCrandomised,Cmulti-centre,Cplacebo-controlledCtrial.CLancetC385:1295-1304,C201514)MoriCS,CTanitoCM,CShojiCNCetal:NoninferiorityCofCmicro-hookCtotrabectome:TrabectomeCversusCabCinternoCmicrohooktrabeculotomyCcomparativeCstudy(TramCTracStudy).OphthalmolGlaucomaC5:452-461,C202215)TaniharaCH,CInoueCT,CYamamotoCTCetal:PhaseC2Cran-domizedclinicalstudyofaRhokinaseinhibitor,K-115,inprimaryCopen-angleCglaucomaCandCocularChypertension.CAmJOphthalmolC156:731-736,C201316)AiharaCM,CLuCF,CKawataCHCetal:OmidenepagCisopropylCversusClatanoprostCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCandCocularhypertension:TheCPhaseC3CAYAMECStudy.CAmJOphthalmolC220:53-63,C2020***