非感染性ぶどう膜炎とHLA遺伝子検査HLATypinginNon-InfectiousUveitis石原麻美*目黒明*はじめにぶどう膜炎は感染性と非感染性に大別され,非感染性ぶどう膜炎の多くは全身性炎症性疾患と関連する.その発症には,遺伝要因と環境要因が関与すると考えられている.近年のゲノム解析により,多くの疾患感受性遺伝子(用語解説参照)が同定されているが,なかでもヒト白血球抗原(humanleukocyteantigen:HLA)遺伝子はもっとも強い疾患感受性を示し,疾患の発症に深く関与している.非感染性ぶどう膜炎の診断や鑑別には全身検査が重要であり,HLA遺伝子検査は有用な免疫学的検査の一つである.本稿では,HLAの機能や役割を概説し,HLAとの関連が知られる非感染性ぶどう膜炎およびHLA遺伝子検査の概要を紹介する.IHLA分子1.HLAとは何かHLAは,ヒトの主要組織適合遺伝子複合体(majorhistocompatibilitycomplex:MHC)である.ほぼすべての有核細胞の膜表面に発現する膜貫通型糖タンパク質であり,T細胞による「自己」と「非自己」の識別において中核的な役割を担う.T細胞はHLA分子に結合した抗原ペプチドを認識し,これを契機として免疫応答を開始する.すなわち,HLAは抗原提示分子として自然免疫と獲得免疫をつなぐ重要な構成要素である.HLA遺伝子群は,第6染色体短腕の6p21.3領域に集中し,クラスI,クラスII,クラスIII領域から構成される.この領域は,ヒトゲノム中でもとくに遺伝的多型性(用語解説参照)が高く,個々人で異なるHLA型(HLA対立遺伝子,アレル)の組み合わせをもつ.この多様性は抗原認識の幅を広げ,集団としての病原体防御に寄与するとともに,自己免疫疾患や全身性炎症性疾患,移植拒絶反応,感染症への感受性にも深く関与している.2.HLA分子の分類1)HLA分子は,構造や機能,抗原提示経路,発現細胞の違いから,クラスIとクラスIIに大別される(表1)1).それぞれに古典的分子と非古典的分子が存在し,抗原提示様式や免疫応答の違いから臨床的にも明確に区別される.クラスIには古典的なHLA-A,-B,-Cと,非古典的なHLA-E,-F,-Gが含まれる.クラスIIには,古典的なHLA-DR,-DQ,-DPと,非古典的なHLA-DM,-DOがある.3.HLA分子の立体構造1)a.クラスI分子クラスI分子は,クラスI遺伝子がコードするa鎖(a1,a2,a3ドメイン)とb2ミクログロブリン遺伝子がコードするb2mから構成される膜タンパクである.a1とa2ドメインで形成されるペプチド結合溝には,ポケットA~Fのくぼみが存在し,9残基前後の抗原ペプチドが収容される.ホットドッグのパン(クラスI分*MamiIshihara&AkiraMeguro:横浜市立大学大学院医学研究科視覚器病態学〔別刷請求先〕石原麻美:〒236-0004横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学大学院医学研究科視覚器病態学(1)(3)7870910-1810/25/\100/頁/JCOPY表1HLAの分類―HLAクラスI分子とクラスII分子の比較HLAHLAクラスI分子HLAクラスII分子構造a鎖+b2ma鎖+b鎖ペプチド結合部位a1-a2ドメインa1-b1ドメインペプチドの長さ約9(8~10)個のアミノ酸約15(10~30)個のアミノ酸ペプチド結合溝両端が閉じている両端が開いている抗原提示するT細胞CD8+T細胞CD4+T細胞結合する抗原ペプチド細胞内由来(ウイルス,腫瘍など)細胞外由来(細菌,ウイルスなど)発現細胞全身の有核細胞および血小板ランゲルハンス細胞,樹状細胞,単球などの抗原提示細胞や活性化T細胞図1HLAクラスII抗原(HLA-DR1分子)の三次元立体構造モデルa1ドメインとb1ドメインからなる「ペプチド結合溝」に抗原ペプチドが結合する.「ペプチド結合溝」に存在するポケット1,4,6,7,9には,それぞれ抗原ペプチドのアミノ酸残基であるP1,P4,P6,P7,P9が直接結合する.HLA分子は多型性に富み,ポケットを構成するアミノ酸は各HLA分子により異なる.また,HLA分子により,結合できる抗原ペプチドには一定の特徴(HLA結合モチーフ)がある.((Nature368:215,1994より引用)表2HLAのDNA型検査の種類方法原理特徴PCR-SSP法特異的プライマーを用いた増幅反応により,目的のアレルの有無を確認する比較的迅速かつ簡便医療現場で多用されているPCR-rSSO法オリゴプローブとCPCR産物をハイブリダイズさせてアレルを検出する高いスループットが可能PCR-SBT法塩基配列を直接読み取ることで,詳細なアレル情報が得られる解像度が高く,研究や臨床移植に適するNGS法近年導入された方法で,CHLA遺伝子全体を網羅的に解析できる既知・新規アレル,Cnullアレルの同定にも対応.タイピング精度が飛躍的に向上PCR-SSP:sequence-speci.cCprimer,PCR-rSSO:reverseCsequence-speci.cColigonu-cleotide,PCR-SBT:sequence-basedCtyping,NGS:next-generationCsequencing(次世代シークエンシング).CHLA-DRB1*04:05:01①②③④①HLA遺伝子名.②第一フィールド:血清学的抗原型に相当する.③第二フィールド:アミノ酸配列の違いに基づくアレルを表す.④第三フィールド以降:同義変異(アミノ酸配列が変化しない塩基置換)や非翻訳領遺域の違いを表す.図2HLAアレルの表記法表3ぶどう膜炎を合併する疾患と相関するHLAおよびオッズ比疾患相関するHLA型オッズ比Behcet病B51(日本人)B51(シルクロード沿いの流行国)A26(日本人)CB*51:0C1CB*51CA*26:0C1C6.83C5.90C2.50(B*51:0C1陰性者:3C.86)CAAUB27(欧州白人)CB*27C68.4CBCRA29(欧州白人)CA*29:0C2C157.5VKH病DR4(東アジア人)DR4(ヒスパニック)DR4(イタリア人)DR4(インド人)CDRB1*04CDRB1*04CDRB1*04CDRB1*04C13.69C4.79C8.67C2.09サルコイドーシスDR3(欧州白人)(Lofgren症候群)DR8(日本人)DR11(アフリカ系米国人)(米国白人)DR12(アフリカ系米国人)(欧州白人)DR14(欧州白人)(米国白人)DR15(欧州白人)(米国白人)CDRB1*03:0C1CDRB1*03:0C1CDRB1*08:0C3CDRB1*11:0C1CDRB1*11:0C1CDRB1*12:0C1CDRB1*12CDRB1*14CDRB1*14:0C1CDRB1*15CDRB1*15:0C1C1.95.2~C12.51.82~C2.0C2.24C3.31C3.23C3.71C2.54C4.66C1.42C16.6クローン病DR1(白人)DR7(白人)CB*52(白人)CDRB1*01:0C3CDRB1*07:0C1CB*52:0C1C2.51C1.14C1.44潰瘍性大腸炎DR1(白人)DR15(白人)CB*52(白人)CDRB1*01:0C3CDRB1*15:0C2CB*52:0C1C3.59C2.21C2.21AAU:急性前部ぶどう膜炎,BCR:バードショット網脈絡膜炎,VKH病:Vogt-小柳-原田病.表4ぶどう膜炎を合併する全身疾患と相関するHLAおよび相対危険度疾患相関するCHLA型患者群健常者群相対危険度強直性脊椎炎B27(日本人)B27(白人)B27(黒人)85%89%58%1.5%9%4%C208C69C54ライター病B27(白人)80%9%C37Behcet病B51(日本人)B5(白人)CB*5157%31%14%12%C7.9C3.8尋常性乾癬Cw6(日本人)Cw6(白人)27%56%4%15%C8.5C7.5関節リウマチDR4(日本人)DR4(白人)DR4(黒人)CDRB1*04:0C5CDRB1*04:0C1CDRB1*04:0C171%68%40%41%25%10%C3.4C3.8C5.4全身性エリテマトーデスDR15(日本人)DR15(白人)DR3(白人)DR15(黒人)CDRB1*15:0C1CDRB1*15:0C1CDRB1*03:0C1CDRB1*15:0C132%25%27%47%14%16%12%21%C2.9C1.8C2.7C3.3多発性硬化症DR15(日本人)DR15(白人)CDRB1*15:0C1CDRB1*15:0C136%51%14%27%C3.4C2.7(文献C2より改変引用)C-代シルクロード」沿いの国々で多く報告されている.1973年にCOhnoらがCHLA-B51との強い相関を初めて報告して以降,HLA-B51との関連を対象とした多数の研究が行われ,78編の論文を対象としたメタ解析ではHLA-B51のオッズ比はC5.90とされた4).また,本疾患の好発地域では,他地域と比べて,一般集団におけるHLA-B51陽性率が高く5),HLA-B*51が地域特異的な疾患発症に関与している可能性が示唆されている.日本人患者では近年CHLA-B51陽性率が低下傾向にあり,50%程度とされる5).また,筆者らは日本人集団においてCHLA-A*26がCHLA-B*51と独立してCBehcet病と相関することを報告した6).HLA-A*26の頻度は健常群(19.7%)に比べて患者群(38.0%)で有意に高く(OR=2.50),HLA-B*51:01陰性患者に限るとC48.5%(OR=3.86)に達した6).②CHLAと臨床症状・予後CHLA-B*51と眼病変の関連を検討したC18編の論文のメタ解析では,HLA-B*51陽性者は眼病変のリスクが高く(p=0.000057,OR=1.76),シルクロード東方ほど関連が強まる傾向があった7).日本人C3,044例の全国調査でも,B*51陽性患者は眼病変(OR=1.59)のリスクが高かった.一方,陰部潰瘍(OR=0.72)や消化器症状(OR=0.65)のリスクは低く8),その後の研究でも,消化器症状を有する患者ではCHLA-B*51陽性率が低いことが報告されている5).さらに日本人患者では,CHLA-A*26:01が視力予後不良と有意に関連することも報告されている(p=0.026)9).Cb.急性前部ぶどう膜炎①相関するCHLA遺伝子AAUは白人でもっとも一般的なぶどう膜炎であり,1973年にCHLA-B*27との関連が報告された.白人のCHLA-B*27保有率はC8~10%であるが,「HLA-B27関連CAAU」は前部ぶどう膜炎のC18~32%といわれている10).一方で,HLA-B*27保有率は中国人では2~9%,中東人やアフリカ人ではC2~5%である10).日本人では保有率はC0.5%以下と非常に低く,ぶどう膜炎の原因疾患に関する全国統計(2002年)では「HLA-B27関連AAU」はC1.5%であった11).AAUでは強直性脊椎炎(ankylosingCspondylitis:AS),反応性関節炎(ライター病),乾癬性関節炎,炎症性腸疾患などの脊椎関節症(spondyloarthritis:SpA)を合併することがある.AAU患者のCHLA-B*27陽性率はC50%程度とされ10),「HLA-B27関連CAAU」患者175例の解析では,77.7%がCSpA症状を有し,ASがもっとも多かった(46.3%)12).CHLA-B*27には人種差のあるサブタイプがあり,北欧白人のCHLA-B*27陽性者の約C90%がCHLA-B*27:05を保有するのに対し,日本人ではCHLA-B*27:04の頻度が高い.いずれのサブタイプも疾患との関連が示されている10).②臨床症状や予後との関連22編の論文を対象としたメタ解析では,「HLA-B27関連CAAU」の特徴として,AS(RR=6.8)やCSpA(RR=9.9)の合併,男性(RR=1.2),片眼性(RR=1.1),両眼交互の炎症(RR=2.2),前房蓄膿(RR=5.5),フィブリン析出や視神経乳頭炎(RR=7.7)との関連が示されている.一方で,白内障や黄斑浮腫などの眼合併症や視力予後との関連はなかった13).「HLA-B27関連CAAU」患者ではぶどう膜炎発症後にSpAが診断されることが少なくないため12),背部痛や末梢関節炎,皮膚症状などの全身症状に留意する.C2.HLAクラスIIと相関を示す疾患a.Vogt-小柳-原田病①相関するCHLA遺伝子VKH病は東アジア人,ネイティブアメリカン,アラブ人,インド人,イヌイット,アボリジニなどに好発し,サハラ以南のアフリカ人では報告がなく,白人ではまれとされる14).1981年にCOhnoらがCHLA-DR4/DR53との相関を報告し,その後の解析で,日本人患者ではCHLA-DR4(DRB1*04)のサブタイプであるCDRB1*0405とCDRB1*0410の頻度が有意に高いことが示された15).21編の論文の系統的レビュー16)では,HLA-DR4/CDRB1*04保有者の発症リスクはCOR=8.42と高く,CHLA-DR4/DRB1*04は人種を超えた感受性アレルであることが示された.人種別では,HLA-DR4/DRB1*04との関連は東アジア人でもっとも強く,インド人でもっ792あたらしい眼科Vol.42,No.7,2025(8)とも弱かった.サブタイプ解析では,HLA-DRB1*04:04(OR=2.57),HLA-DRB1*04:05(OR=10.31),CHLA-DRB1*04:10(OR=6.52)がCVKH病の発症リスクを高め,HLA-DRB1*04:01(OR=0.21)がリスクを低下させていた.Cb.サルコイドーシス①相関するCHLA遺伝子サルコイドーシスは人種を問わずみられる疾患で,日本人患者の家族の発症のリスクは約8倍とされることから,遺伝的要因の関与が強く示唆されている17).HLA領域はもっとも強い疾患感受性領域であり18),HLA-DR(DRB1)の複数のアレルが相関を示す.白人ではCHLA-DR11(DRB1*11),HLA-DR12(DRB1*12),HLA-DR14(DRB1*14),HLA-DR15(DRB1*15)19,20),アフリカ系米国人ではCHLA-DRB1*11およびCHLA-DRB1*1220)との相関が報告されている.また,急性発症・自然寛解型のCLofgren症候群は欧州白人に多く,DRB1*03が強い相関を示す19).一方,日本人ではCDRB1*08(08:03)がもっとも強く相関し(健常群:17.2%,患者群:29.3%,OR=1.82)18),ほかにCDRB1*04(04:01),DRB1*11,DRB1*12,DRB1*14との相関も報告されている19,21).一方,DRB1*01はどの人種でも患者群で有意に少なく(OR=0.12~0.5),発症リスクを低下させる19,21).このように相関するアレルが人種間で異なる一因として,DRB1アレル頻度の人種間差があげられる.DRB1*08は日本人に多く,他人種ではまれなため,日本人に特異的な相関がみられ,逆にCDRB1*03が非常にまれな日本人ではCLofgren症候群の発症もまれである22).②臨床症状や予後との関連CDRB1*04:01は白人19,23)と日本人19)でぶどう膜炎と関連し,DRB1*08:03は日本人で心臓病変24),ぶどう膜炎19),神経病変19)と関連していた.また,DRB1*03保有者(Lofgren症候群)は予後良好とされる22).おわりに非感染性ぶどう膜炎の発症には,HLAを含む遺伝要因と環境要因が関与している.HLA遺伝子検査は確定診断には至らないものの,一部の疾患では診断補助や鑑別の参考になる.HLAと非感染性ぶどう膜炎の関連を理解することは,的確な診療や今後の個別化医療の推進に寄与すると考えられる.文献1)西村泰治:T細胞に抗原を認識させる主要組織適合性抗原の構造と機能.蛋・核・酵45:1205-1218,C20002)西村泰治:HLAと免疫疾患.病理と臨床C16:581-592,C19983)難病情報センター:特定疾患医療受給者証所持者数.Chttps://www.nanbyou.or.jp/entry/13564)deMenthonM,LavalleyMP,MaldiniCetal:HLA-B51/CB5CandCtheCriskCofCBehcet’sdisease:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysisCofCcase-controlCgeneticCassociationCstudies.ArthritisRheumC61:1287-1296,C20095)TakenoM:TheCassociationCofCBehcet’sCsyndromeCwithCHLA-B51CasCunderstoodCinC2021.CCurrCOpinCRheumatolC34:4-9,C20226)MeguroA,InokoH,OtaMetal:GeneticsofBehcetdis-easeCinsideCandCoutsideCtheCMHC.CAnnCRheumCDisC69:C747-754,C20107)HorieY,MeguroA,OhtaTetal:HLA-B51carriersaresusceptibletoocularsymptomsofBehcetdiseaseandtheassociationCbetweenCtheCtwoCbecomesCstrongerCtowardsC(9)あたらしい眼科Vol.42,No.7,2025C793’C’C-’C’C