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緑内障セミナー:「緑内障サマリーページ」

2024年11月30日 土曜日

●連載◯293監修=福地健郎中野匡293.「緑内障サマリーページ」三木篤也愛知医科大学眼科学講座「緑内障サマリーページ」は,緑内障の診療支援のための電子診療録のツールとして山梨大学の柏木賢治先生が作成されたものである.その目的は,毎回の診療においてその患者のもっとも重要なデータを一読で理解できるページを作ることであるが,最近ではビッグデータ収集への応用も視野に入れて整備が進んでいる.●はじめに緑内障のような慢性かつ不可逆性の疾患では,患者によっては経過が大変長くなり,毎回の診療に必要な投薬や手術の既往,ベースラインのデータ,家族歴,禁忌薬剤などのデータが診療録の各所に分散してしまい,毎回確認することがむずかしい場合がある.こうした患者ごとの基礎的データをいつでも一読で確認できるツールとして,山梨大学の柏木賢治先生が開発されたのが「緑内障サマリーページ」である.●「緑内障サマリーページ」とは「緑内障サマリーページ」は現在ファインデックスの眼科部門システムに実装されているが,そのイメージは図1の通りである.同社のカルテは左側が閲覧用,右側が記載用の2ページ見開き構成となっているが,左側の上部にある「緑内障」のタブをクリックすると,いつでも作成したサマリーページが閲覧できるようになっている.「緑内障サマリーページ」は2ページでできており,1ページ目は文字で記載する情報(図2),2ページ目は眼底写真,OCT,視野などの画像情報となっている(図3).文字情報は,視力,直近および無治療時の眼圧,手術やレーザーの既往,現在の治療薬,中心角膜厚,合併症,禁忌薬などが記載できる.検査データは自動取得できるほうが入力が効率化されるが,「緑内障サマリーページ」では今のところ直近の視力,眼圧など一部のデータのみが自動入力に対応している.画像情報は,眼底写真,視野検査,OCTなどの結果を選択して貼り付けることができる.サマリーページは1患者にひとつ(2ページ)となっており,更新しないかぎり同じデータを保持する.こうすることで,非常に経過が長い患者でも,ワンクリックでベーシックな情報を一読することができる.●ビッグデータへの応用このようなサマリーページは,緑内障に限らず眼科すべての領域の慢性疾患診療に有用であると考えられる.そこで日本眼科学会では,日本医療機器協会と連携して緑内障以外にも網膜,眼炎症,角膜それぞれの領域のサマリーページおよび全分野に共通するサマリーページを開発している.また,ファインデックスだけでなく,日本の主要な眼科部門システムベンダーでも使用できるように,それぞれのベンダー版を開発中である.サマリーページを用いることで,上記のように一読でデータが閲覧できるメリットだけでなく,各分野の診療に不可欠な情報をとり漏らすことがなくなるという効果も期待できる.とくに必ずしもその分野のエキスパートとはいえない医師が診療に当たる際にも,サマリーページを用いることで必須の検査が抜け落ちたり,必須の情報の問診を忘れたりすることを避けることができるので,診療レベルの向上,あるいは均てん化に貢献すると考えられる.また,最近では人工知能(AI)解析などの目的でビッグデータの収集が臨床研究に重要となっているが,サマリーページには各分野のベーシックな情報と画像が凝縮されているので,ビッグデータ収集にも適したツールとしてその方面でも開発が進んでいる.緑内障および共通,各分野のサマリーページは,近いうちに日本の多くの電子診療録で使用できるようになるはずである.今後の展開を注目して見守っていただきたい.(67)あたらしい眼科Vol.41,No.11,202413370910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1「緑内障サマリーページ」の電子診療録上での表示イメージ左側の「緑内障」タブ()を押すと左側の閲覧ページにサマリーページが表示される.右側の記載ページには,緑内障サマリーページの入力画面が表示されている.図2「緑内障サマリーページ」の文字所見ページ図3「緑内障サマリーページ」の画像入力ページ1338あたらしい眼科Vol.41,No.11,2024(68)

屈折矯正手術セミナー:LASIK フラップ偏位への対処法

2024年11月30日 土曜日

●連載◯294監修=稗田牧神谷和孝294.LASIKフラップ偏位への対処法南幸佑京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学LASIKはフラップを作製するため,フラップ作製に伴う合併症が報告されている.なかでも外傷によるフラップ偏位は術後いつでも生じる可能性がある.フラップ偏位を放置するとさまざまな合併症をきたし,視力低下につながるため,早期に整復術を施行することが望ましい.●はじめに角膜屈折矯正手術のなかでも,とくにClaserCinCsitukeratomileusis(LASIK)はその安全性と有効性が広く認められている.わが国ではC2000年にエキシマレーザーが近視矯正手術用に承認され,レーザー屈折矯正角膜切除術Cphotorefractivekeratectomy(PRK)が医療に導入された.2006年にはCLASIKが承認され,2023年にCsmallCincisionClenticuleextraction(SMILE)が薬事承認されている.このようにさまざまな屈折矯正手術が台頭している現在でも,LASIKは矯正可能範囲が広いことや,術後屈折度の安定や裸眼視力の回復が早いこと,PRKと異なり上皮.離をしないため角膜創傷治癒が穏やかで疼痛が少ないことなどの利点により,今も世界的に主流となっている.しかし,フラップを作製することでさまざまな合併症(フラップ偏位,フラップの皺,角膜層間の炎症,フラップ下角膜上皮迷入,角膜上皮下混濁など)が報告されている1).なかでも外傷によるフラップ偏位は,術直後から長期間経過後までいつでも生じる可能性があり,これまでにもいくつもの報告がある2).ただし,外傷によるフラップ偏位はほとんどの報告において軽微であり,整復術の治療成績は良好であることが多い.筆者は,今までに同様の報告がない,瞳孔領で多層に折り畳まれたフラップ偏位を認めた症例を経験したので,その経過を報告する.C●症例患者はC43歳,男性.12年前に他院にて両眼のLASIKを受けている.読書中に本の角で右眼を受傷し,近医を受診.改善を認めなかったため,他大学病院眼科を紹介受診した.フラップの偏位と角膜上皮の層間迷入(epithelialingrowth)を認めたため,フラップ整復目的に当院(京都府立医科大学附属病院)へ紹介となった.視力は右眼C0.1(矯正(65)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY不能),左眼C1.2(矯正C1.2)で,眼圧は右眼C23.3CmmHg,左眼C13.7mmHg,右眼角膜ケラト値は測定不能であった.細隙灯顕微鏡検査では角膜のC4時からC11時方向のフラップが偏位しており,角膜中央付近でフラップが複雑に折り畳まれている状態であり(図1),同部位にCepi-thelialingrowthを認めた(図2).局所麻酔下にてフラップ整復術と異物除去術,フラップ縫合(10-0ナイロン糸)を行ったうえで治療用ソフトコンタクトレンズを載せて終了した.術中に角膜中央部にてフラップがC3層以上折り畳まれていることが確認できた(図3).術翌日からC1日C4回のレボフロキサシン点眼とベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼を開始した.手術翌日の診察では角膜上皮欠損を認めたが,治療用ソフトコンタクトレンズ装用を継続し,術後C5日目には角膜上皮欠損の改善を認めた.術後C2週間目にベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼をフルオロメトロン点眼(4回/日)に変更を行った.術後C1カ月後に治療用ソフトコンタクトレンズの装用を終了し,縫合糸を除去した(図4).点眼はC1日C2回を継続した.術後C6カ月の時点で視力はC1.0(1.2×.0.5D(cyl.0.5DCAx75°),眼圧は13.7CmmHg,角膜ケラト値はCD141.0D,D242.0Dであり,epithelialingrowthの再発を認めなかった.C●対処法外傷によるCLASIKフラップ偏位は,LASIKを受けた数日後からC10年以上経過した場合でも生じる可能性がある3).受傷直後に整復術を施行できた場合はソフトコンタクトレンズ装用のみで治癒する.一方で皺の程度が強い場合や,epithelialingrowthを伴う場合にはソフトコンタクトレンズ装用のみでは皺の伸展が不十分である可能性があり,フラップ縫合を追加することが推奨されている4).また,epithelialCingrowthは軽度であれば自然消退することもあるが,やや胞状の白い細胞塊が周囲に透明帯と白色境界線を伴う場合は増殖力が旺盛であり,不正乱視やフラップ融解の原因になることもあり,あたらしい眼科Vol.41,No.11,20241335図1初診時の前眼部写真角膜のC4時からC10時方向にかけて角膜フラップが偏位しており,中央部分で何層にも折り畳まれている(→).図3術中前眼部写真眼科用吸水スポンジで角膜中央にて折り畳まれた角膜フラップを愛護的に伸展した.フラップ裏面と実質ベッドの迷入上皮を完全に除去し,洗浄することが必要となる5).再整復術中に.離したフラップを安定させるためにも,縫合するほうが良いとされている6).C●おわりにLASIK後のフラップの外傷による偏位は,術後どのタイミングでも起こりうる術後合併症である.偏位直後であれば比較的簡単に復位を得ることができるが,偏位した状態を長期間放置するとCepithelialCingrowthの発生やフラップが偏位したまま角膜上皮が再生することで整復操作がより複雑になるため,できるだけ早期の外科的介入が望ましい.適切な整復術を施行できれば,良好な視力を得ることができる.昨今,国内でのCLASIK件数は減少傾向にあり,眼科医のCLASIK認知度が下がってきており,術後の合併症に対応しづらくなっている.そのため,LASIKに携わる機会がなかった眼科医に対して,起こりうる合併症のC1336あたらしい眼科Vol.41,No.11,2024図2初診時の前眼部写真の拡大折り畳まれた角膜フラップの層間にCepithelialingrowthを認める.図4術1カ月後の前眼部写真フラップを伸展し,角膜縫合でフラップ固定を行った.Epithelialingrowthの再発は認めない.周知が必要である.また,合併症に対応できない場合には,すみやかに専門施設へ紹介することが望ましい.文献1)伊藤光登志,木下茂:LaserCinCsituCKeratomileusis(LASIK)の問題点について教えてください.あたらしい眼科14(臨増):29-32,C19972)福本光樹:LaserCinCsitukeratomileusis後,鈍的外傷によりフラップの偏位を起こしたC1例.臨眼C55:526-528,C20013)HoltCDG,CSikderCS,CMi.inMD:SurgicalCmanagementCofCtraumaticCLASIKC.apCdislocationCwithCmacrostriaeCandCepithelialCingrowthC14CyearsCpostoperatively.CJCCataractCRefractSurgC38:357-361,C20124)堀好子:エキシマレーザー手術の合併症.臨眼C66:276-279,C20125)堀好子:LaserCinCsitukeratomileusis術後の外傷によりフラップずれを生じた症例の治療.日眼会誌C112:465-471,C20086)SchmackI,DawsonDG,McCareyBEetal:Cohesiveten-sileCstrengthCofChumanCLASIKCwoundsCwithChistologic,Cultrastructural,CandCclinicalCcorrelations.CJCRefractCSurgC21:433-445,C2005(66)

眼内レンズセミナー:プレート型眼内レンズの破損

2024年11月30日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋眞鍋洋一450.プレート型眼内レンズの破損大多喜眼科白内障手術中の眼内レンズの破損が非常にまれに発生する合併症である.ループのみの破損やクラックが少し入っただけの場合はそのまま挿入することもあるが,破損部位が大きいと摘出して再挿入する必要がある.今回,プレート型眼内レンズ挿入時にレンズ破損を経験したので,その原因および対処法について考察する.●はじめに白内障手術の合併症の一つに,眼内レンズ(intraocu-larlens:IOL)の挿入時の破損がある.多くの白内障術者が,軽度のクラックの場合はそのまま留置したり,摘出して交換したりといった対応をした経験があると思われる.しかし,学会報告まで至らないことが多いためか,実際の頻度など,文献にはなっていないことが判明した.今回はプレート型CIOLの破損を経験したので報告およびCIOL破損について考案する.C●症例と結果通常の白内障において,角膜切開C2.4mmで超音波乳化吸引術後にレンティスコンフォート(参天製薬)を挿入した.インジェクターは同社のエタニティーアクセスイーズを使用した.このインジェクターは,プランジャーを押してCIOLを挿入するタイプである.カートリッジを眼内に挿入し,プランジャーを押すときに少し抵抗を感じたが,IOL先端は通常通りに出ていた(図1).そのまま挿入したところ,先端C1/4程度の部分で横に断裂したレンズが眼内に挿入された(図2).断裂した残りの部分はインジェクターの中にとどまっていた.破損したレンズは,切開創を広げることなく有鉤鑷子にて除去した(図3).その後,再び同じ度数のレンズを挿入し手術を終了した.術後経過はとくに問題はなかった.C●考按小切開から挿入可能なフォールダブルCIOLは,当初シリコーン製のものであった.その後C1994年にアクリル素材のCIOLが登場し,現在の主流になっている.最初の頃は,まだインジェクターとCIOLは一体化しておらず,術者がインジェクターにレンズを装.してから挿入していた.その後インジェクターとの一体型(プリロード)が販売されて,挿入方法が簡便になり,レンズ破損の頻度もより低くなったと思われる.(63)IOLメーカーに問い合わせたところ,2023年のレンズや支持部の破損に関する報告では,発生率は約C0.006%(14/250,000)とあり,原因としては製造時の組付けなどの問題やセッティング時の操作(ミス)などであった.また,厚生労働省のホームページに国内不具合報告があり,その中の分類C7に眼科用機器についての記載がある2).それによると,IOLの光学部または支持部の損傷はC39件報告があった.令和C1年の手術数がC1,659,699件なので,約C0.002%となる.筆者も術中にCIOLの入れ替えが必要になったことが今まで数件あるが,厚生労働省に不具合報告を提出したことは一度もない.このように発生頻度が非常に低く,入替することにより術後合併症もないことから,ほとんど報告されていないものと思われる.筆者は以前,IOLのループが欠損したまま挿入したという報告をした1).これは欠損したまま挿入しても問題なかったという報告だったが,現在では倫理的に問題があり,摘出交換が適切であったと考える.IOLの取り出しには切開創を広げて取り出したり3,4),眼内で切断して取り出したり5),カートリッジに再び挿入して取り出したりする方法6)がある.切開創を広げて取り出す方法は乱視量が増える可能性があるが,ポリメチルメタクリレート(PMMA)製のCIOLの場合はそれしか方法はなかった.その後,シリコーンやアクリル製のCIOLになり,眼内で切断して取り出すことができるようになったが,切断時の眼内操作がややむずかしいため,角膜内皮細胞の減少などの合併症も考慮する必要があった.これらの合併症を回避するためにカートリッジに挿入して取り出す方法が考えられた.これらの摘出方法はCIOL挿入直後のみでなく,術後時間が経過してからのCIOL脱臼や偏位にも用いることができる.現在日本で認可されているプレート型CIOLはレンティスコンフォートだけである.以前はシリコーン製のプレート型CIOLが発売されていたが,当時は毛様溝に挿入していたため,シリコーンは後.との癒着が起きあたらしい眼科Vol.41,No.11,2024C13330910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1眼内レンズ挿入時の顕微鏡写真先端は普通に挿入されているように見える.あとからビデオを確認すると,眼内レンズが水平方向に断裂していることが判明した.図3摘出持の顕微鏡写真有鉤鑷子にてそのまま摘出した.摘出時に角膜に抵抗があったものの,すんなり摘出できた.ず,また虹彩との摩擦による炎症が長く続く傾向があった.そのうえ後発白内障切開術を大きく行うと,後.が裂けて硝子体中にCIOLが落下するという問題があった.レンティスコンフォートはアクリル製であるため,そのような問題はない.レンティスコンフォートのような親水性CIOLは保存液の中に保管されて販売されている.そのためプリセット化するのがむずかしいためか,親水性CIOLのプリセット型はまだ販売されていない.図2挿入直後の顕微鏡写真水平方向に断裂した眼内レンズが.内に挿入されている.今回の症例ではレンズ装.時に問題があったものと考えられるのだが,垂直方向に破損せず,水平方向に破損した原因はわからなかった.ただ,このレンズが柔らかいため,有鉤鑷子を用いて切開創を広げることなく取り出せたことは運がよかったのかもしれない.このような合併症は珍しいこととはいえ,その対処方法を知っておくことは重要であろう.文献1)眞鍋洋一:支持部欠損のまま.内固定したシングルピースアクリル眼内レンズ挿入例の経過.IOL&RSC21:236-238,C20072)令和C5年度第C2回薬事・食品衛生審議会医療機器・再生医療等製品安全対策部会議事次第.厚生労働省,2024-3-73)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000190382_00016.Chtml3)YuCAKF,CNg,ASY:ComplicationsCandCclinicalCoutcomesCofCintraocularClensCexchangeCinCpatientsCwithCcalci.edChydrogelClenses.CJCCataractCRefractCSurgC28:1217-1222,C20024)江口俊一郎:眼内レンズ交換.IOL&RSC25:183-189,C20115)郡司久人:小切開から摘出可能な新しい眼内レンズ切断法.眼科手術23:603-607,C20106)福岡佐知子,木下太賀,森田真一ほか:カートリッジと鑷子による低侵襲CIOL摘出法(C“CartridgeCpull-throughCtech-nique”).IOL&RSC34:467-474,C2020

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く 強膜レンズ(1)

2024年11月30日 土曜日

■オフテクス提供■コンタクトレンズセミナー英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く11.強膜レンズ(1)松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学,川崎市立多摩病院眼科土至田宏順天堂大学医学部附属静岡病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の第C7章は強膜レンズについてである1).今回はその前編として,強膜レンズの基本的な事項から処方について紹介する.はじめに1世紀以上にわたって強膜レンズはさまざまな眼疾患の屈折矯正や治療に使用されてきた.ガス透過性素材などの製造技術や前眼部画像診断技術の進歩により,近年,強膜レンズの処方が復活している.強膜レンズの適応現在,ガス透過性強膜レンズのおもな対象疾患は,円錐角膜を含む原発性角膜拡張症(53%),眼表面疾患(18%),角膜移植後(17%)である.これらに加えて,老眼を含む単純な屈折異常を矯正するためにも使用されている.強膜レンズの用語以前はレンズ径に基づいて,大口径のハードコンタクトレンズ(HCL)を強膜レンズとしていたが,現在は「輪部を含む角膜全体を覆い,強膜上にある結膜に着地するように装着されたレンズ」と定義されている.また,メーカーにより呼称が異なるが,強膜レンズの部位は,光学部であるCopticzoneと強膜に接する周辺部のlandingzone,それらをつなぐCtransitionzoneのC3ゾーンに分類されており,本稿ではこの用語を使用する.COpticzone:屈折矯正を行い,通常のCHCLと同様にカスタマイズすることができる.また,opticzoneの後面形状を変化させてフィッティングを最適化したり,レンズの中心を偏心させて,光学系と瞳孔の位置を合わせることもできる.CTransitionzone:レンズ頂点からレンズエッジまでの高さ(lenssagittalCdepth,以下,レンズCsag)を変化させ,涙液クリアランス(lensvault)の深さを調整することができる.CLandingzone:強膜上の結膜組織と接触しており,強膜形状に応じてカスタマイズすることができる.(61)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPYLandingzoneの形状は,レンズの吸着やセンタリング,強結膜への圧迫に影響を与える.近年では,結膜の異常を避けるための切り込みや局所的なアーチ構造(vault),吸引を減らしてレンズをはずしやすくするための開窓(fenestration),涙液クリアランスの交換を促進するための通気口(ventingchannel)などのカスタマイズが可能となってきている.眼表面の形状近年は,光干渉断層計(opticalCcoretenceCtomogra-phy:OCT)や角膜輪部形状測定法などの前眼部画像診断が進歩しており,眼表面の形状をより正確に把握できるようになっている.強膜の形状:角膜輪部後方の前部強膜は,鼻側が比較的平坦で耳側が急勾配となっているため,球状ではなく非対称またはトーリックである.角膜輪部から離れるにつれ,強膜の非対称性はさらに増大するため,大口径の強膜レンズでは,トーリックを選択するなどのカスタマイズが必要である.角膜と強膜のトーリック性は,軽度の乱視の場合には相関しないことが多く,高度の乱視や角膜の不整があった場合に強膜はより大きな不規則性を示す.角膜強膜接合部:角膜強膜接合部の非対称性は,レンズの動きやセンタリングに影響を及ぼし,とくに進行した円錐角膜ではより顕著になる.非対称性により強膜レンズが耳側に偏心することがあり,涙液クリアランスの厚みの変化や装用感悪化の原因となる.アジア人は,角膜の直径がより小さく,垂直方向の角膜形状が細長い傾向があり,角膜強膜接合部が目立ちにくい.強膜レンズ処方1.フィッティング強膜レンズはトライアルレンズを装用させて評価するあたらしい眼科Vol.41,No.11,2024C1331レンズsag眼球sag図1レンズのsagittaldepthレンズの頂点からレンズ支持部が眼表面に接触する機能的レンズ直径部分までの垂直の深さをさす.本文中ではレンズCsagと表記.一方,眼球Csagは角膜頂点から同部分までの高さをさす.が,強角膜輪部形状解析や前眼部COCTなど,レンズ選択に必要なデータを数値化する技術の進歩により,そのデータを用いた強膜レンズの設計やフィッティングが可能となっている.しかし,角膜や強膜の形状がきわめて不規則な場合には,従来通りのレンズフィッティングが必要である.C2.レンズフィッティングの評価レンズ直径:レンズ直径の選択は,角膜の直径と眼球sag,眼や眼瞼の状態,結膜異常の有無などに影響を受ける.眼表面疾患の治療を目的とした場合には,ややレンズ直径の大きなものを選択する.一般的には,レンズ後面が角膜輪部に接触しないようするために,レンズ直径は角膜径または水平方向の虹彩径よりもC1.5.2Cmm大きいものを選択する.レンズsag(図1):レンズが最初に結膜と接触する部位のレンズ直径を機能的レンズ直径といい,角膜前面に涙液クリアランスを形成するには,機能的レンズ直径における眼球CsagよりもレンズCsagを大きくする必要がある.レンズ後面プロファイル:レンズ後面は,角膜とのアライメントを改善し,より薄く均一な涙液クリアランスとなるようにカスタマイズすることができる.後面がprolate型は,opticzone後面の曲率がより急峻な,標準的なレンズ設計である.一方Coblate型は,opticzone後面の曲率が比較的平坦な設計であるため,角膜移植後や屈折矯正術後などの角膜中央部が周辺部よりも平坦な場合に適応となる.涙液クリアランスの厚み:推奨される中央部涙液クリアランスの厚みは,レンズメーカーによって異なるが,装用直後は約C300.500Cμmの厚みが必要である.結膜および強膜組織の特性,レンズ直径,デザインなど,さまざまな要因の影響を受けるが,レンズが結膜に落ち着くと,約C8時間で中央の涙液クリアランスは約C100.200Cμm減少する.そのため,装用中にレンズ後面と角膜が接触しないようにレンズCsagを設定する必要がある.おわりに今回はCCLEARの第C7章の前半を要約し解説した.現在,強膜レンズはわが国では未承認であるため,レンズを処方している施設は少ないが,世界では強膜レンズの処方割合は増えている.今後,わが国でも強膜レンズの処方は増える可能性が高く,多くの患者に恩恵を与えるのではないかと考える.文献1)BarnettM,GoureyG,FadelDetal:CLEAR.Sclerallens-es.ContLensAnteriorEyeC44:270-288,C2021

写真セミナー:眼瞼脂腺癌

2024年11月30日 土曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史486.眼瞼脂腺癌奥拓明京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①翻転した上眼瞼結膜②黄色の隆起病変図1翻転時の前眼部写真上眼瞼翻転時に眼瞼結膜に黄色の隆起病変を認める.図3翻転していない前眼部写真図4術後前眼部写真上眼瞼の腫瘍切除を施行.後葉は遊離瞼板移植術,前葉は皮膚をCadvanceして再建した.上眼瞼翻転を行わずに観察すると,瞼縁に霰粒腫様の腫瘤を認め,霰粒腫と誤診してしまう.(59)あたらしい眼科Vol.41,No.11,2024C13290910-1810/24/\100/頁/JCOPY3カ月前より右眼霰粒腫疑いにて経過観察をされていた44歳の男性症例を提示する.腫瘍の増大は認めないが,改善を認めないため切除目的で当院(京都府立医科大学病院)に紹介となった.当院受診時,上眼瞼瞼縁に腫瘤を認めた.眼瞼を翻転すると瞼縁の腫瘤と連続するように,結膜から突出する黄色の腫瘤性病変を認めた(図1~3).肉眼的所見より脂腺癌を疑い,safe-tymargin:5Cmmを含めた腫瘍切除を行い,後葉は遊離瞼板移植,前葉は皮膚をCadvanceして再建を行った(図4).病理学的診断は脂腺癌であり,切除断端は陰性であった.PET-CTでは全身の腫瘍転移を認めず,術後の局所再発,転移の検索を継続して行った.術後C5年経過した現在も局所再発,転移を認めず経過している.眼瞼悪性腫瘍は脂腺癌,基底細胞癌,扁平上皮癌が多くを占める.脂腺癌はアジアにとくに多い腫瘍であり1),わが国の報告では眼瞼悪性腫瘍のC44%を占めるとされている2).基底細胞癌は皮膚に発症する腫瘍であるのに対し,脂腺癌はマイボーム腺またはCZeiss腺より発症する悪性腫瘍である.発症部位はマイボーム腺の多い上眼瞼に好発する.高齢者に多いが,中年での発症もしばしばみられる.肉眼的所見はCnodularタイプとCdi.useタイプに大別される.Nodularタイプは結節性の表面凹凸不整形の硬結腫瘤を示し,黄色.黄白色を呈することが多い.潰瘍,びらん,出血,睫毛の脱落なども同時に認める場合もある.一方,di.useタイプはびまん性に眼瞼肥厚を示し,眼瞼結膜炎・眼瞼炎様の所見を呈する.眼瞼脂腺癌は他疾患と鑑別が困難な場合がある.とくにCnodularタイプは霰粒腫,di.useタイプは眼瞼炎と誤診されることが多い.治らない腫瘍を認めた場合は常に悪性腫瘍を鑑別に入れ,積極的に生検を行い,病理学的診断を行う.脂腺癌の予後は眼瞼腫瘍の中でもとくに悪いとされている.わが国の成績では切除後の局所再発率はC6.9%程度,転移率はC7.9.9%程度とされている3,4).そのため,局所再発の有無,遠隔転移の精査を半年にC1回程度で施行する必要がある.脂腺癌の治療は,現時点では有効な化学療法は存在せず,外科的切除が第一選択である.通常CsafetymarginをC3.5Cmmに設定し,広範囲に,断端陰性になるまで切除する.欠損部した眼瞼にはさまざまな再建方法(単純縫縮,遊離瞼板移植,Hughes.apなど)を駆使する必要がある.腫瘍が眼窩内に浸潤する場合は眼窩内容除去を選択する.一方,放射線治療の治療効果は報告されているが,単独では根治可能であるとのエビデンスはなく,手術不可能な場合や緩和療法時に選択される.そのためなるべく早期に発見し,転移する前に完全切除をめざす必要がある.本症例は,霰粒腫様に見えるが,眼瞼を翻転することで脂腺癌を疑うことができた症例である.脂腺癌はマイボーム腺内に発症する腫瘍のため,表皮に突出する前に眼瞼結膜内に腫瘍が露出することも多い.脂腺癌は眼瞼悪性腫瘍の中では予後が悪い腫瘍であり,早期発見,早期手術が望ましい.日常診療において霰粒腫を疑った場合は,眼瞼を翻転し,眼瞼結膜に腫瘍性病変がないことを確認することが見逃しを減らすために重要である.文献1)SatoCY,CTakahashiCS,CToshiyasuCTCetal:SquamousCcellCcarcinomaoftheeyelid.JpnJClinOncol54:4-12,C20242)GotoCH,CYamakawaCN,CKomatsuCHCetal:EpidemiologicalCcharacteristicsCofCmalignantCeyelidCtumorsCatCaCreferralChospitalinJapan.JpnJOphthalmolC66:343-349,C20223)WatanabeCA,CSunCMT,CPirbhaiCACetal:SebaceousCcarci-nomaCinCJapanesepatients:clinicalCpresentation,CstagingCandoutcomes.CBrJOphthalmolC97:1459-1463,C20134)GotoH,TsubotaK,NemotoRetal:ClinicalfeaturesandprognosisCofCsebaceousCcarcinomaCarisingCinCtheCeyelidCorCconjunctiva.JpnJOphthalmolC64:549-554,C2020

コンタクトレンズによる近視進行抑制

2024年11月30日 土曜日

コンタクトレンズによる近視進行抑制MyopiaManagementwithContactLenses松村沙衣子*I小児近視抑制治療の必要性全世界的に小児や若年層の近視人口が増加し,公衆衛生上の脅威となっている.近視が進行することによるデメリットとしては,視覚の質の低下だけでなく,高度近視眼における近視黄斑症,網膜.離,緑内障などの合併症の罹患率の上昇があげられる.Bullimoreらの報告によると1D増加するごとに近視性黄斑症は58%,網膜.離は30%,後.下白内障は21%,開放隅角緑内障は20%の割合で発症するリスクが増加する1).近視の進行は小児期に著しく,日本人では男女ともに8歳前後に進行のピークを迎えると報告されている.この時期に有効性の高い介入を施し,将来の高度近視合併症リスクを下げることが重要である.近年ではスマートフォンの急速な普及やデジタル機器による学習活動の増加から,さらなる近視発症の低年齢化が懸念されている.中国の69カ所の幼稚園における336,608人の未就学児(3.6歳)を対象とした報告では,調節麻痺下屈折値の近視有病率は,2011年の2.5%から2021年の6.5%へと著しい増加が認められている2).また,2005.2021年に受診した4.18歳の患者870,372人を対象とした病院ベースの研究では,近視の平均発症年齢は2005年の10.6歳から2021年の7.6歳へと低年齢化していた3).このような早期発症近視は将来に高度近視になるリスクが高いとされるため,積極的な介入が必要となる.II小児近視抑制治療のトレンド近年多くの介入研究が行われ,すでに確立されつつある治療法から急速に進歩しているものも含め,近視進行抑制治療の選択肢は増加しつつある.現在世界で臨床に使用されている治療法としては,低濃度アトロピン点眼薬,defocusincorporatedmultiplesegments(DIMS)レンズ,highlyasphericallenslettarget(HALT)レンズ,di.usionopticstechnology(DOT)レンズなどを含めた特殊眼鏡,多焦点ソフトコンタクトレンズ(multifo-calsoftcontactlens:MFSCL),オルソケラトロジー(以下,オルソK),レッドライト療法があげられる.このなかでも,視覚の質・生活の質の向上効果が得られるオルソKやMFSCLによるCL治療の需要は年々高まっている.世界66カ国を調査した報告では,全CL処方のうち近視進行抑制用CLの割合(ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)とSCLを含む)は2011年の0.2%から2018年の6.8%へと増加している4).CL治療のメリットは高い有効性だけでなく,併用療法の選択肢や良好なコンプライアンスもあげられる.80件のランダム化比較試験(27,103眼)を対象としたメタアナリシスでは,対照群と比較するとオルソKと低濃度アトロピン点眼治療の併用療法が屈折値と眼軸長の両方に対して有効性の高い治療法であると述べている5).近視進行抑制治療は長期にわたるため,コンプライアンスは治療効果に直接影響する重要なファクターで*SaikoMatsumura:東邦大学医療センター大森病院眼科〔別刷請求先〕松村沙衣子:〒143-8540東京都大田区大森西6-11-1東邦大学医療センター大森病院眼科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(49)1319図1乱視眼によるオルソKのルーズなフィッティング乱視眼では強主経線の方向のアライメントカーブが浮き,染色されるルーズなフィッティングを示すことがある.リバースゾーンの陰圧がかからない状態になるため,トーリックデザインのレンズ選択を考慮する.図2アカントアメーバによる角膜感染症近医から紹介となった使用歴6年目(右眼.4.25D,左眼.5.00D使用)の19歳女性の両眼発症のアカントアメーバ角膜感染症.毛様充血と角膜中央のレンズ圧迫部に沿った上皮下浸潤,放射状角膜神経炎,偽樹枝状病変を認めた.図3リバースカーブに汚れが付着したオルソKの実体顕微鏡写真リバースカーブというC1mm程度の溝状の部位には構造上蛋白質や脂質が蓄積しやすい.長時間レンズに付着した変性蛋白質は除去するのがむずかしく,使用を継続すると装用時の不快感,角膜障害や角膜感染のリスクにつながる.表1多焦点ソフトコンタクトレンズと近視進行抑制効果レンズデザインレンズ名製造会社名レンズ種類近視抑制効果同心円状(2重焦点)CMisightCCooperVisionC1Day13)59%(3年RCT対照群:SVSCL)MyloCMark’ennovyC1Month15)C32%(3年RCT対照群:SVSCL)1daypure*CSEEDC1Day17)C59%(1年RCT対照群:SVSL)多焦点(EDOF)CNaturalVueCVisioneeringTechnologiesC1Day約C90%が年間の近視進行減少(後ろ向き多施設研18)C究:ベースライン比較)MeniconBloomdayCMeniconC1Day(上記のCNaturalVueのCOEM製品)多焦点(累進屈折)*MeniconDuo(Low)MeniconC2Weeks19)32%(1年CRCT.対照群:SVSCL)*Bio.nity(High)CooperVisionC2Weeks20)43%(3年CRCT.対照群:SVSCL)同心円状(特殊デザイン)CAcuvueAblilitiCJohnson&JohnsonC1Day21)0.11CmmのCAL抑制(6CMRCT.対照群:SVSCL)*わが国で使用可能な製品RCT:ランダム化比較試験,SVSCL:単焦点ソフトコンタクトレンズ,SVSL:単焦点眼鏡,AL:眼軸,OEM:相手先商標製造会社製品.+2.00D加入のトリートメントゾーンより近視性デフォーカスを作製近視性デフォーカス矯正ゾーン焦点図4Misightの光学デザイン+2.00Dの加入度部分が同心円状に交互に配置されたデザインであり,視距離によらず網膜上に近視性のデフォーカスを作製する.(クーパービジョンジャパン提供,一部改変)図5MeniconDuoの光学デザイン+0.50Dの周辺部加入度をもつ累進屈折型コンタクトレンズであり,光学中心は鼻側に偏心したデザインとなっている.(メニコン提供,一部改変)+7.0D+7.0D+10.0D網膜RingBoost技術トリートメントゾーンを通過する光を網膜前方に収束視軸からずらす図6ACUVUEAbilitiの光学デザイン+7.0D加入の外側のトリートメントゾーンを通過した光は網膜の前方で焦点を結ぶが,視軸からははずれるといったCRingBoost技術.さらに+10.0Dを中心に加入した特殊なデザインである.(Johnson&CJohnsonビジョンケア社ホームページより改変引用)少数/対数1.6/-0.21.25/-0.11.0/0.00.8/0.10.63/0.20.5/0.30.4/0.40.32/0.50.25/0.60.2/0.70.16/0.80.125/0.90.1/1.0図7多焦点SCL使用の小児の実用視力11歳,男児.多焦点CSCL(シードC1dayPureEDOF)使用.ドライアイ症状に伴い実用視力の低下が認められた.実用視力は,視標提示時間C2秒としてC1分間連続して視力測定することで,日常生活を想定した視機能を評価する検査である.051015202530354045505560.18歳のC3433人の高校生を対象としたドライアイの有病率は男子C4.3%(重症C21.0%)女子C8.0%(重症C24.4%)であり,HCL使用率C1.7%だったのに対し,SCLの使用率はC36.1%と高かった22).ドライアイは生活の質に大きく影響する因子であるため,防腐剤フリーのヒアルロン酸ナトリウム点眼などで積極的に対処されたい.また,MFSCLに特化した合併症としては,調節変動,周辺コントラスト感度の低下やグレア・ハローがあげられる.グレア・ハローは瞳孔径と依存して出現しやすくなるため,低濃度アトロピン点眼を併用する際は注意が必要である.C4.MFSCLの限界と今後の課題使い捨てのCMFSCLは簡便で装用感も良好である一方で,複雑な光学デザイン構造をもつため,視覚の質を担保することが課題となる.オルソCKと比較し,広範囲な適応度数をもつものの,多焦点性からも乱視があると視覚の質が落ちやすい.小児における乱視の有病率は20%程度と少なくないため,今後はとくに高度近視の乱視眼に対する安全な治療選択肢を増やすことが課題と考える.MFSCLの分野は,近視進行のメカニズムの研究や技術の進歩により有効性の高いデザイン製品が多数開発されている.近年の近視発症低年齢化から,CL装用による治療期間は長期にわたると予想される.長期の安全性と良好な装用感,視覚の質の向上と優れた有効性のバランスの取れた製品開発が期待される.文献1)BullimoreCMA,CRitcheyCER,CShahCSCetal:TheCrisksCandCbene.tsCofCmyopiaCcontrol.COphthalmologyC128:1561-1579,C20212)PanCZ,CWangCZY,CWangCYXCetal:PrevalenceCandCtimeCtrendsCinCmyopiaCamongCpreschoolCchildrenCinCchina.CInvestOphthalmolVisSciC64:1960,C20233)ChenCZ,CGuCD,CWangCBCetal:Signi.cantCmyopicCshiftCovertime:sixteen-yearCtrendsCinCoverallCrefractionCandCageofmyopiaonsetamongChinesechildren,withafocusonages4-6years.CJglobHealthC13:04144,C20234)EfronCN,CMorganCPB,CWoodsCCACetal:InternationalCsur-veyCofCcontactClensC.ttingCforCmyopiaCcontrolCinCchildren.CContactClensC&Canterioreye:ContCLensCAnteriorCEyeC43:4-8,C20205)ZhangCG,CJiangCJ,CQuC:MyopiaCpreventionCandCcontrolCinchildren:asystematicreviewandnetworkmeta-anal-ysis.Eye(Lond)C37:3461-3469,C20236)VanderVeenCDK,CKrakerCRT,CPinelesCSLCetal:UseCofCorthokeratologyCforCtheCpreventionCofCmyopicCprogressionCinchildren:aCreportCbyCtheCAmericanCacademyCofCoph-thalmology.OphthalmologyC126:623-636,C20197)KakitaCT,CHiraokaCT,COshikaT:In.uenceCofCovernightCorthokeratologyConCaxialCelongationCinCchildhoodCmyopia.CInvestigativeOphthalmolVisSciC52:2170-2174,C20118)HiraokaCT,CKakitaCT,COkamotoCFCetal:Long-termCe.ectCofovernightorthokeratologyonaxiallengthelongationinchildhoodmyopia:a5-yearfollow-upstudy.InvestigativeOphthalmolVisSciC53:3913-3919,C20129)ChoCP,CCheungSW:DiscontinuationCofCorthokeratologyConeyeballCelongation(DOEE)C.CContCLensCAnteriorCEyeC40:82-87,C201710)HuP,ZhaoY,ChenDetal:Thesafetyoforthokeratolo-gyinmyopicchildrenandanalysisofrelatedfactors.CContLensAnteriorEyeC44:89-93,C202111)LiuYM,XieP:Thesafetyoforthokeratology–asystem-aticreview.EyeContactLensC42:35-42,C201612)GuoCB,CCheungCSW,CKojimaCRCetal:VariationCofCortho-keratologylenstreatmentzone(VOLTZ)study:a2-yearrandomisedCclinicalCtrial.COphthalmicCPhysiolCOptC43:C1449-1461,C202313)ChamberlainP,Peixoto-de-MatosSC,LoganNSetal:A3-yearrandomizedclinicaltrialofMisightlensesformyo-piacontrol.OptomVisSciC96:556-567,C201914)ChamberlainCP,CBradleyCA,CArumugamCBCetal:Long-termCe.ectCofCdual-focusCcontactClensesConCmyopiaCpro-gressionCinchildren:aC6-yearCmulticenterCclinicalCtrial.COptomVisSci99:204-212,C202215)SankaridurgP,BakarajuRC,NaduvilathTetal:MyopiacontrolCwithCnovelCcentralCandCperipheralCplusCcontactClensesandextendeddepthoffocuscontactlenses:2yearresultsfromarandomisedclinicaltrial.OphthalmicPhysi-olOptC39:294-307,C201916)WengCR,CLanCW,CBakarajuCRCetal:E.cacyCofCcontactClensesCforCmyopiacontrol:InsightsCfromCaCrandomised,CcontralateralCstudyCdesign.COphthalmicCphysiolCOptC42:C1253-1263,C202217)ManoharanCMK,CVerkicharlaPK:RandomisedCclinicalCtrialofextendeddepthoffocuslensesforcontrollingmyo-piaCprogression:outcomesCfromCSEEDCLVPEICIndianCmyopiastudy.BrJOphthalmol108:1292-1298,C202418)CooperJ,O’ConnorB,AllerTetal:ReductionofmyopicprogressionCusingCaCmultifocalCsoftCcontactlens:aCretro-spectiveCcohortCstudy.CClinCOphthalmolC16:2145-2155,C202219)FujikadoT,NinomiyaS,KobayashiTetal:E.ectoflow-additionsoftcontactlenseswithdecenteredopticaldesignonCmyopiaCprogressionCinchildren:aCpilotCstudy.CClinC1326あたらしい眼科Vol.41,No.11,2024(56)

角膜屈折矯正術後眼に対するハードコンタクトレンズ処方

2024年11月30日 土曜日

角膜屈折矯正術後眼に対するハードコンタクトレンズ処方PrescriptionofHardContactLensesforPost-RefractiveSurgeryEyes岩本悠里*高静花*はじめに良好な裸眼視力への需要が高まるなか,屈折矯正手術はさまざまな進歩をとげてきた.屈折矯正手術は角膜面で矯正を行う角膜屈折矯正手術と,implantablecollam-erlens(ICL)など眼内レンズ面にて矯正を行う有水晶体眼内レンズに大別される.屈折矯正手術は良好な裸眼視力を得ることを目的として施行され,患者満足度の高い手術ではあるが,過矯正や低矯正を起こすことがある.また,とくに角膜屈折矯正手術の場合には角膜形状の変化によって不正乱視が生じ,視力低下を引き起こすことがある.不正乱視は眼鏡などでは矯正できない乱視で,その矯正方法としてハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)が広く用いられている.しかし,屈折矯正手術によって変形した角膜へのCHCL処方はしばしば困難となることが知られている1).本稿では屈折矯正手術の歴史を振り返りながら,角膜屈折矯正術後のHCL処方について述べる.CI角膜屈折矯正手術1930年代に佐藤氏手術が施行された.この手術は角膜前後面を切開するものであり,その後の内皮減少に伴う水疱性角膜症の発症により,わが国で屈折矯正手術はほとんど行われなくなった.この合併症からの教訓をもとに,1980.1990年代にかけて放射状角膜切開術(radialkeratotomy:RK)が広く行われるようになった.RKでは角膜前面に放射状の切開を入れることで角膜中央部を平坦化し,近視を軽減する.同様の術式として角膜前面に切開を入れて乱視を矯正する,乱視矯正角膜切開術(astigmaticCkeratotomy)なども用いられていたが,いずれも正確な術後の予測がむずかしかった.その後,レーザーで角膜実質を切除するCphotorefractivekeratectomy(PRK)やClaserCinCsituCkeratomileusis(LASIK)が出現し,RKは徐々に衰退して現在では行われなくなった.2023年C3月にはフェムトセカンドレーザーを用いて角膜内部を切開し角膜片を小切開から取り出すCsmallCincisionClenticuleextraction(SMILE)が承認された.2023年の日本白内障屈折矯正手術学会の調査2)によると,屈折矯正手術を行っていると回答した医師はC26%程度である.その中でCPRK,LASIK,SMILEを施行していると回答した医師の割合はCPRK:18%,LASIK:27%(microkeratomeLASIK:10%,femtosecondClaserLASIK:27%),SMILE:11%であった.今後有用と考えられる屈折矯正手術に関する設問ではCLASIK,SMILEはそれぞれC38%,24%であり,オルソケラトロジーやCICLの発展により減少傾向ではあるものの,LASIKを含む角膜屈折矯正手術は現在も多く行われている.角膜切開を行うCRK,レーザーで角膜実質を切除するPRKやCLASIKはそれぞれ異なる角膜変化を示す.以下にそれぞれの手術後の特徴について述べる.*YuriIwamoto&ShizukaKoh:大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室〔別刷請求先〕岩本悠里:〒565-0871大阪府吹田市山田丘C2-2大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(43)C13131.RKRKは,前方角膜を放射状に切開することで,角膜中央部を平坦化し近視を軽減する.術後合併症としては,術直後の過矯正,低矯正に加え,術後長期に遠視化が起こることや,屈折の日内変動,切開に誘発された乱視(不正乱視を含む)などが広く知られている.RK後の角膜形状は通常と比較して中央部が扁平で周辺部が急峻となるため,通常の球面CHCLではフィッティングがむずかしいことが多い(図1a)3).角膜の不正により,中心からCHCLがずれてしまうことがあるため,大径のレンズを使用する.また,周辺が急峻になっているため涙液交換がうまく行えず,酸素供給やデブリの排出が不十分になってしまう可能性があり,通常と比較して光学部(opticalzone:OZ)の直径は小さいほうが望ましいとされている.筆者らがC2023年に行った調査4)では,RK術後の視機能低下を主訴とするC44人の患者のうち,HCLが効果的であったのはC16人(36%)であり,そのうちのC9人がカスタム球面レンズ,7人がリバースジオメトリーレンズを処方されていた.治療に至らなかった患者には,HCL装用に伴う不快感が強かった患者や,良好な視力改善が得られなかった患者などが含まれる.近年では,屈折矯正手術後の患者に対する強膜レンズの有用性がさまざまに報告されている.強膜レンズは角膜の凹凸が顕著であっても安定した視力を提供でき,レンズ後面の液層から角膜に一定の水分を供給できる.台湾からの報告5)によると,ミニ強膜レンズは眼鏡やソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)で矯正できない不正乱視に対してC64%の有効性を示した.RK施行領域の偏心や,2Cmm未満の小さな中央クリアゾーンが最適なフィッティングを妨げる要因となった.強膜レンズは,ほかのCHCLが適応とならない患者に対する外科的介入の代替手段と考えられる.C2.PRK,LASIKいずれもレーザーで角膜実質を切除し,角膜屈折力を変化させる術式である.PRKでは角膜上皮を除去した後にエキシマレーザーを照射し,上方の角膜実質を切除する.LASIKでは一定厚の角膜フラップを作製し,エキシマレーザーを照射したあとにフラップを戻す.その術式上から,PRKでは角膜上皮下混濁,LASIKではフラップ異常やびまん性層状角膜炎などが合併症として知られている.2000年以降,波面収差解析や角膜形状解析のデータを用いて切除を行うことで,術後の不正乱視が軽減されるようになった.RKと比較し予測精度が高いものの,RK同様に過矯正,低矯正のリスクや,予測不能な不正乱視に伴いハロー・グレア,片眼複視などが出現する可能性がある.これらの症状に対しレーザーの再照射が検討されるが,必ずしも成功するとは限らず,また角膜厚によっては再手術が禁忌となる場合がある.その際,に屈折矯正手段としておもに使用されるのがHCLである.角膜形状解析において,PRKやCLASIKでは周辺部は残されるため,通常はCRKほどの著明な変化をきたすことはないが,RK同様に中央部の平坦化と周辺部の角膜の急峻化が知られている.そのため,通常の球面レンズで対応できることもあるが,リバースジオメトリーレンズが有用であるとされている.Yeungらの報告1)ではCRK,PRKおよびCLASIK後の患者はいずれも複雑なレンズデザインのガス透過性(rigidgaspermeable:RGP)レンズを必要とし,多くの患者にリバースジオメトリーレンズが有用であることが示された.LASIK後に視機能低下を生じたC28例に対する検討6)では,対象となったすべての患者においてリバースジオメトリーレンズは有用であり,視力の向上(0.99C±0.33C→C1.11±0.24)や高次収差の約C65%の減少を認めた.重篤な合併症としてまれではあるが,術後に進行性の角膜菲薄化,突出を認める角膜拡張症(ectasia)とよばれる角膜形状異常をきたす(図2a)3).角膜拡張症をきたした眼に対する屈折矯正としてCHCLは有用であるが,円錐角膜同様に中央部の突出が大きく,周辺部との曲率差が正常眼と比較して大きいため,HCLのフィッティングがむずかしくなることも多い.Woodward7)らによる報告では,角膜拡張症をきたしたC45人の患者のC74眼(うちLASIK後が72眼,PRK後が2眼)のうち,76%の患者で屈折矯正としてCRGPレンズが使用されたが,そのうちのC20%の患者でフィッティング不良や,1314あたらしい眼科Vol.41,No.11,2024(44)ab図1RK後の症例16本のCRK切開痕を認め,角膜形状解析で中央部は扁平化を認める.Ca:前眼部写真.b:前眼部COCTによる角膜形状解析.Cc:フルオレセインパターン.(文献C3より引用)b図2LASIK術後にectasiaをきたした症例周辺部にフラップ痕を認める.角膜形状解析では中央部下方は菲薄化を示す.a:前眼部写真,b:前眼部COCTによる角膜形状解析.Cc:フルオレセインパターン.(文献C3より引用)エッジPCベベルエッジリフト図3カスタムタイプレンズデザインIC:中間カーブ.PC:周辺カーブ.標準的なレンズデザイン.オプティカルゾーンの外側に緩やかなカーブとしてベベル部分がデザインされている.(サンコンタクトレンズより提供)エッジPC図4ツインベルLVCレンズデザインIC1:第C1中間カーブ.IC2:第C2中間カーブ.PC:周辺カーブ.NBC:ノーマルCBC(レンズ設計時にベースとなるカーブ).BCと比較し,IC1を急峻にしている.中央部のフィッティングをCBCで,中間周辺部をCNBCで調整する.(サンコンタクトレンズより提供)CabノーマルBC(NBC)図5ベベルデザインa:IC1はCNBC差(BC-NBC)で自動的に決定する.Cb:IC2はフィッティングに合わせて変更可能.(サンコンタクトレンズ社より提供)状のCHCLである(図4).中心(OZ),第一中間カーブ(intermediateCcurve1:IC1),第二中間カーブ(interC-mediateCcurve2:IC2),周辺カーブ(peripheralcurve:PC)の各領域に対して異なる四つの曲率半径が設けられている.IC1の曲率半径をより小さくすることで,BCを平坦化させることが可能となっており,屈折矯正術後の角膜にフィットしやすくしている.周辺部の形状に合わせ,ベベルタイプの選択も可能である(図5).ベベル部分が広くなるため球面レンズと比較して光学部であるCOZが狭く,レンズ調整を行ってもセンタリングが不良な例などではむしろ視力不良になる場合もあることに注意が必要である.図1,2に実際の処方例を示す.症例1(図1):RK術後で中央部角膜が扁平化している.初回は球面HCLを装用し矯正視力はC1.0であったが,レンズのセンタリングが不良であり長時間の装用が困難であった.LVCレンズに変更後,矯正視力はC1.2と良好でレンズも角膜中央部で安定した.フルオレセインパターンではベベル幅は安定し,中央部が濃くややレンズがスティープな印象を受ける.41カ月の長期にわたって装用を継続している.症例2(図2):LASIK後にCectasiaをきたした症例.角膜中央部の突出,菲薄化を認める.LVCレンズを初回から使用し,矯正視力はC1.2と良好で装用期間はC39カ月に及ぶ.フルオレセインパターンではC3点接触が確認できる.C3.強膜レンズ詳細については別稿に譲るが,角膜径よりもサイズが大きく(直径C12.9Cmm以上),強膜でフィットするCHCLである9).レンズ後面に涙液貯留スペースがあり強膜部分で装着するため,角膜形状にかかわらず安定したフィッティングが得られる.利点として,視力向上が期待できること,さらにレンズ下の涙液層が角膜とレンズの直接接触を防ぐため上皮障害が少ないことなどがあげられる.一方で,サイズが大きいため取り扱い自体もむずかしく,瞼裂が小さい場合は装着が困難な場合もあるが,サイズの小さいものや,脱装着を補助する器具の開C1318あたらしい眼科Vol.41,No.11,2024発も進んでおり,使用しやすくなってきている.わが国においては強膜レンズがまだ承認されていないため,現時点では自由診療での使用となる.おわりに角膜屈折矯正術後の角膜は通常と比して扁平化し,その変化は症例ごとにかなりのバリエーションがある.元来は視力が良好であった患者がほとんどで,視機能に対する要求も高いため,CL処方の難度が高い.現在変形が大きい角膜に対する解決方法の一つとして強膜レンズが世界的に使われてきており,わが国でも導入する施設が徐々に増えてきている.処方の際にはさまざまなレンズ種類があることを念頭におき,BCの選択,エッジ加工を含め試行錯誤を繰り返すことが必要である.文献1)YeungKK,OlsonMD,WeissmanBA:Complexityofcon-tactlens.ttingafterrefractivesurgery.AmJOphthalmol133:607-612,C20022)SatoM,KamiyaK,HayashiKetal;onthedataanalysiscommitteeCofCtheCjapaneseCsocietyCofCcataract,Crefractivesurgery:ChangesCinCcataractCandCrefractiveCsurgeryCpracticeCpatternsCamongCJSCRSCmembersCoverCtheCpastC20years.JpnJOphthalmolC68:443-462,C20243)立花都子,前田直之,宇髙健一ほか:角膜形状異常眼に対するリバースジオメトリーコンタクトレンズ処方.日コレ誌58:68-72,C20164)IwamotoY,KohS,InoueRetal:Whathappens20to30yearsCafterCradialCkeratotomy?CcaseCseries.CEyeCContactCLens50:329-331,C20245)ChuHS,WangIJ,TsengGAetal:Mini-sclerallensesforcorrectionofrefractiveerrorsafterradialkeratotomy.EyeCContactLensC44(SupplC2):S164-S168,C20186)TanG,ChenX,XieRZetal:ReversegeometryrigidgaspermeableCcontactClensCwearCreducesChigh-orderCaberra-tionsCandCtheCassociatedCsymptomsCinCpost-LASIKCpatients.CurrEyeResC35:9-16,C20107)WoodwardCMA,CRandlemanCJB,CRussellCBCetal:VisualCrehabilitationCandCoutcomesCforCectasiaCafterCcornealCrefractiveCsurgery.CJCCataractCRefractCSurgC34:383-388,C20088)小玉裕司:角膜形状とハードコンタクトレンズフィッティング.日コレ誌53:74-81,C20119)吉野健一:円錐角膜や強度不正乱視に対する強膜レンズ.あたらしい眼科33:1737-1738,C2016(48)

瘢痕性角結膜症に対する輪部支持型ハードコンタクトレンズ

2024年11月30日 土曜日

瘢痕性角結膜症に対する輪部支持型ハードコンタクトレンズLimbal-RigidContactLensWearTherapyinCicatricialKeratoconjunctivitisCases吉川大和*I瘢痕性角結膜症に対するコンタクトレンズ処方の必要性瘢痕性角結膜症は,Stevens-Johnson症候群などをはじめとする眼表面の高度な炎症により,恒久的な角膜混濁および眼表面の癒着と瘢痕化,重度のドライアイを生じる疾患で,その結果著しい視力障害と眼不快感が生涯にわたって持続してしまう.これらに対して口腔粘膜上皮を用いた上皮シート移植(培養自家口腔粘膜上皮シート移植,COMET)をはじめとする再生医療により,瘢痕性角結膜症の視機能を長期的にも改善させることが可能になった.しかしその一方で,不正乱視や角膜混濁の残存などにより視力障害が十分に改善しない患者も多い.それらの視力障害に対しては,通常の眼鏡装用やソフトコンタクトレンズ(softCcontactlens:SCL)では矯正不能であることがほとんどである.重度のドライアイと眼表面の恒久的な角膜混濁および眼表面の癒着と瘢痕化による視力低下に対しては通常サイズのハードコンタクトレンズ(hardCcontactlens:HCL)ではすぐに脱落してしまい装用が困難なため,強膜レンズや輪部支持型CHCLのようなサイズの大きいCLが登場した.これらにより脱落することなく装用することができるようになった.とくに輪部支持型CHCLは瞬目するだけでCCLと角膜の間の涙液交換が可能であり,終日装用がしやすいというメリットがある1).高度な瘢痕化と角膜混濁により通常では視力が出にくい眼でも,輪部支持型CHCLの装用により読書が可能となる患者も多い(図1).同時に,レンズと眼表面の間に涙液をためる層が形成されるため,涙液の蒸発を抑制し,眼表面の乾燥を防ぐ効果もある.筆者らは,5年間の輪部支持型CHCL長期装用で結膜充血を改善させつつ視力を安定させることができた症例を報告した2).必ずしも外科的治療に踏み切らなくても,生活の質を高めることができる選択肢が増えてきている.ローリスクで大きなリターンを得られる可能性のある選択肢であり,積極的に処方を検討したい.CII輪部支持型HCLのスペック輪部支持型CHCLは直径C13.0.14.0Cmmと通常サイズのCHCLより大きく,角膜全体から強膜の一部を覆う形に設計されたCHCLである.同様の用途で使用されるものとして強膜レンズがあるが,強膜レンズよりはサイズが小さく,眼球が小さい患者や瞼球癒着がある患者でも装用しやすい.周辺部分がハット型に広がった多段式カーブになっており(図2),周辺部分に涙液が貯留しつつ瞬目時にレンズ下とレンズ外の涙液が入れ替わるようになっているため,慣れてくれば終日装用が可能である.ベースカーブ(basecurve:BC)や周辺部の形状にバリエーションがあり,添付文書より作成したトライアルレンズ規格の一覧を示す(表1).レンズサイズはC13.0mmとC14.0CmmのC2種類があり,レンズサイズC14.0Cmm*YamatoYoshikawa:よしかわ眼科医院〔別刷請求先〕吉川大和:〒619-0214京都府木津川市木津駅前C1-5よしかわ眼科医院C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(37)C1307図1代表2症例の前眼部写真a,b:症例1.47歳,女性.角膜表面が高度に角化しており(Ca),通常では視力が出ないが,輪部支持型CHCL装用により(Cb),タブレットを使用した読書が可能となり,生活の質が大いに向上した.Cc,d:症例2.31歳,女性.角膜中央まで結膜が侵入しており(Cc),高度乱視で眼鏡では十分な視力が出なかった.輪部支持型HCL装用により(Cd)異物感乾燥感も減少し,良好な視力が得られているC.Cベースカーブ(7.60~8.10mm)0.1mmステップレンズサイズ(13.0または14.0mm)図2輪部支持型ハードコンタクトレンズのレンズデザイン周辺部分が広がった構造になっており,その部位の下に貯留する涙液がリザーバーとなり,瞬目時に眼表面の涙液とコンタクトレンズ下の涙液との交換が自動的に行われる.(文献C1を参考に作成)表1レンズ規格(添付文書より)規格ベースカーブ7.60.C8.10.mm(0C.1.mm刻み)レンズサイズC13.0CmmC14.0CmmオプティカルゾーンC8.5.mmC9.0.mmベベルタイプノーマル型タイト型図3装用困難な症例の前眼部写真角膜上に瞼球癒着がまたがっており,このままでは輪部支持型HCLの装用は困難である.このような症例ではCCOMETや羊膜移植で癒着解除を行って装用可能な眼表面に再建する必要がある.初回処方・再処方年月日Kyoto-CSテストレンズ一覧患者ID:レンズ装用眼(R・L)BCPSBT17.60±0.0013.085N27.70±0.0013.085N37.80±0.0013.085N47.90±0.0013.085N58.00±0.0013.085N68.10±0.0013.085N77.60±0.0014.085N87.70±0.0014.085N97.80±0.0014.085N107.90±0.0014.085N118.00±0.0014.085N128.10±0.0014.085N137.60±0.0014.090N147.70±0.0014.090N157.80±0.0014.090N167.90±0.0014.090N178.00±0.0014.090N188.10±0.0014.090N197.60±0.0014.090T207.70±0.0014.090T217.80±0.0014.090T227.90±0.0014.090T238.00±0.0014.090T248.10±0.0014.090T装用順BC浮きコメントスティープ・フラット小・適・大スティープ・フラット小・適・大スティープ・フラット小・適・大スティープ・フラット小・適・大スティープ・フラット小・適・大スティープ・フラット小・適・大スティープ・フラット小・適・大スティープ・フラット小・適・大スティープ・フラット小・適・大スティープ・フラット小・適・大スティープ・フラット小・適・大スティープ・フラット小・適・大スティープ・フラット小・適・大スティープ・フラット小・適・大スティープ・フラット小・適・大スティープ・フラット小・適・大スティープ・フラット小・適・大スティープ・フラット小・適・大スティープ・フラット小・適・大スティープ・フラット小・適・大スティープ・フラット小・適・大スティープ・フラット小・適・大スティープ・フラット小・適・大スティープ・フラット小・適・大図4Kyoto-CS処方オーダーシート例13.0mm14.0mmレンズサイズ13.014.014.014.0オプティカルゾーン8.58.59.09.0ベベルタイプノーマルノーマルノーマルタイト図5レンズの形状とSagittalDepth(SAG)の関係レンズサイズが小さくなるとCSAGは浅くなり,オプティカルゾーンが広くなったり,周辺部分のベベル形状がタイトになるとCSAGは深くなる.一般に瘢痕が強くなればCSAGは浅くなる傾向がある.(文献C3を参考に作成)目で抜けない場合はスティープフィットと判断する.フルオレセイン染色のパターンがレンズ中央部の接触面で均一に染まっており(パラレル),瞬目時に周辺部への涙液交換が問題なく行われていればよい.下方にずれるなどのセンタリングの異常がある場合は,オプティカルゾーンを広くすることでCSAGが深くなり,センタリングが安定しやすい.レンズの型とSAGの関係を示す(図5).そのうえでCBCの微調整を行ってフィッティングを整えていく.最適と判断された場合にも,その前後のCBCを確認して比較することが推奨される.C4.ベベルタイプの選択必要に応じてタイトな周辺エッジデザイン(タイト型ベベルタイプ)に変更する.コンタクト中央部の接触面のフルオレセイン染色が均一に染まっているにもかかわらず,周辺部のベベル部分に気泡が含まれるケースでは,ベベルタイプをタイト型に変更する.一般に,瘢痕が少なく正常に近い形状の眼球ほど,ノーマル型のベベルタイプでは周辺部分が浮きやすくなるので,タイト型にするほうが安定する.逆にタイト型にして涙液交換がうまくいかなくなったり,エッジが眼球側に食い込むようであれば,ノーマル型のベベルタイプを選択する.C5.レンズパワーの決定フィッティングがある程度落ちつけば,しばらく装用したまま過ごしてもらい,痛みなどが生じないかを判断する.痛みなどがなく装用可能であれば,レンズ上から屈折値を測定し,加入度数を決定する.非装用下では屈折値を測定できない眼表面でも,CL装用後には屈折値を測れるケースがあるので可能なら測定し,加入度数の参考にする.低視力の場合は,遠方の視力よりも近方の視力が確保できるほうが生活に便利なことも多く,加入度数は患者のライフスタイルに合わせて決定する.装用開始時は,通常のCHCLと同様に短時間から開始し,状態をみながら徐々に装用時間を延長してもらう.V限界輪部支持型CHCLにおいても通常のCCLと同様に,異物に伴う外傷やレンズの機械的トラブルなども発生しうる.その際に,瘢痕性角結膜症の患者はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(mechicillin-resistantCStaphylococcusaureus:MRSA)などの保菌率が高かったり,小さな角膜上皮欠損が遷延してしまったりと,眼表面の細菌叢や創傷治癒が正常眼と異なるため,無理に装用を継続してしまうと予期せぬ角膜感染症や角膜潰瘍などの合併症につながる可能性がある.輪部支持型CHCLの処方時には結膜.培養を行い,MRSAなどの保菌の状態があるかなどを検査しておくことは重要である.処方後も十分な指導とこまめな診察が必要である.重症の瘢痕性角結膜症の患者は,涙液量がまったく得られないほどの高度なドライアイを有することも多い.そのような患者においては,輪部支持型CHCLにより涙液の蒸発が抑制されるとはいえ,完全に人工涙液の点眼が不要になることはむずかしい.涙液の補充のために,ある程度の頻回の人工涙液の点眼が必要となる(基本的には防腐剤無添加の人工涙液が推奨される).ただ,瞬目によりCCL下の涙液は簡単に新しいものに置き換わるため,涙液補充のために付けはずしする必要はなく,装用したまま点眼するとよい.乾燥感が減少して人工涙液の点眼回数が減少すると,脱落や異物感などが生じやすくなる.装用時にもこまめな人工涙液の点眼を指導する必要がある.瘢痕が高度な患者の場合は,装用前の視力は手動弁などが珍しくなく,CLの装用練習に苦慮するケースもしばしば遭遇する.CLの紛失なども視機能の良好な装用者と比較すると生じやすく,注意を要する.レンズの洗浄時や装脱時に排水溝にレンズマットを敷く,レンズ装脱時には体と机を密着させるなどの指導をすることで,万が一レンズが落下した際に紛失してしまうリスクを減らすことができるので,そのような指導が肝要である.おわりに執筆時点では輪部支持型CHCLはCStevens-Johnson症候群と中毒性表皮壊死症にのみ保険適用となっており,(41)あたらしい眼科Vol.C41,No.C11,2024C1311

円錐角膜に対する強膜レンズ

2024年11月30日 土曜日

円錐角膜に対する強膜レンズScleralLensesforEyeswithKeratoconus小島隆司*はじめにこれまで長らく円錐角膜診療に携わってきたが,円錐角膜診療にとって強膜レンズは必要不可欠であると筆者は考えている.わが国ではまだ未認可の治療であるが,すでに臨床治験が始まっており,近い将来に認可され広く普及する治療であることをお伝えしたい.本稿では,強膜レンズをすでに処方している医師の知識の整理のためだけでなく,これから処方を考えている医師や,処方をしていなくても知識をもっておきたい医師など幅広い読者を対象に,円錐角膜に対する強膜レンズ処方の現状および将来についてまとめた.CI海外の現状と日本最近では諸外国で認可されているにもかかわらず,わが国で認可されていない薬剤・医療機器が多いが,強膜レンズもその一つである.最近の調査によると,欧米諸国のガス透過性(rigidCgaspermeable:RGP)コンタクトレンズに占める強膜レンズの割合はどの国でもC10%以上を占め,オランダとデンマークではそれぞれC56%,58%と過半数を占めるに至っている1).それでは,欧米各国ではどのような症例に強膜レンズが処方されているのだろうか.ScleralCLensesCinCCur-rentCOphthalmicCPracticeEvaluation(SCOPE)studyの結果2)によると,84%が円錐角膜などの角膜不正乱視症例で,10%が眼表面疾患(兎眼,Stevens-Johnson症候群,重症ドライアイ),2%が合併症のない屈折異常の矯正目的となっている.これらの結果から,欧米諸国では強膜レンズは角膜不正乱視の矯正手段の一つとして大きなポジションを占めていることがわかる.CII円錐角膜の屈折矯正治療における強膜レンズの有効性強膜レンズは角膜に触れずに強膜で眼球に接するコンタクトレンズ(contactlens:CL)である.それゆえに装用感がよく,はずれたりずれる心配もない.また,角膜表面が常に涙液に接しているためにドライアイ症状も軽減される.ハードコンタクトレンズ(hardCcontactlens:HCL)不耐の原因となる,装用感,ずれ,ドライアイの三つの問題をすべてカバーしているため,円錐角膜眼のCHCL不耐症(後述)にはとてもよい適応となる.円錐角膜に対する屈折矯正治療の戦略を図1に示す.眼鏡矯正可能な軽度な状態であれば,眼鏡やソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)での矯正を考えるが,円錐角膜が進行すると不正乱視により眼鏡矯正視力が不良となり,HCLが選択肢となる.HCLは角膜不正乱視の矯正において非常に有効であるが,円錐角膜がさらに進行すると,角膜頂点への圧迫によって角膜上皮障害が強くなり,場合によってはレンズがはずれやすくなり長時間の装用が困難になることがある.このような状態をCHCL不耐症とよび,特殊コンタクトレンズが選択肢となる.具体的には特殊CSCL,強膜レンズ,ハイ*TakashiKojima:名古屋アイクリニック〔別刷請求先〕小島隆司:〒456-0003愛知県名古屋市熱田区波寄町C24-14COLLECTMARK金山C2F名古屋アイクリニックC0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(31)C1301矯正視力HCL不耐図1円錐角膜の屈折矯正治療の戦略図2強膜レンズのパラメータと装用時のクリアランスa:強膜レンズのパラメータを示す.b:強膜レンズを装用したときのクリアランス,涙液リザーバーの状態を示す.3.26mm13mm図3前眼部OCTを使用したトライアルレンズのlenssag決定方法3.26にC0.5を加えたC3.76に近いClenssag3.75Cmmのトライアルレンズを選択.予測クリアランスはC3.75C.3.26=0.49.ランディングゾーンの角度を変更ab図4ランディングゾーンの調整a:血管の圧迫所見を認め,ランディングゾーンの角度を変更した.b:フルオレセインのレンズ下への流入が確認できる.この程度の流入は適正である-

強度乱視に対するトーリックソフトコンタクトレンズ

2024年11月30日 土曜日

強度乱視に対するトーリックソフトコンタクトレンズToricSoftContactLensesforCasesofHighAstigmatism平岡孝浩*I乱視の程度分類近視の程度分類に関しては.3Dと.6Dが国際的な基準になっており,.0.5..3.0Dを弱度,.3.0..6.0Dを中等度,.6.0D.を強度近視と分類しているが,乱視に関しては明確な基準がない..1.0Dを弱度,1.0.3.0Dを中等度,3.0D以上を強度乱視と分類している場合もあるが,国際的にコンセンサスが得られた基準とはいえない.また,コンタクトレンズ(contactlens:CL)シェアの大多数を占める1日使い捨てソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)や2週間頻回交換SCLに関しては,乱視矯正用のトーリックレンズが多くのメーカーから製造販売されているが,円柱度数が2.75Dまでの規格(大多数は2.25Dまでの規格)に限定されている.したがって,これらのトーリックレンズで矯正できない乱視を漠然と強度乱視と捉えるようになっており,慣習的に3D以上が一つの目安になっているといえる.II弱度~中等度の乱視矯正弱度.中等度の乱視であれば,上述のトーリックデザインSCLで矯正可能であり,また球面ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)でも高い矯正効果が得られる.ただし,水晶体乱視がある場合はHCLで角膜乱視をキャンセルすると水晶体乱視が顕在化してしまうため,トーリックSCLが用いられる.III強度乱視の矯正使い捨てや頻回交換型のトーリックSCLの製造範囲を超える乱視を有する場合は,製造範囲内最大の円柱度数(2.25.2.75D)を処方して,残余乱視が軽度であればそのまま様子をみてもよい.しかし,十分な視力が出ない,もしくは視力は出るが乱視によるボケ像に満足できないケースでは別の対策が必要となる.球面HCLがその候補となるが,レンズ安定性が悪かったり強主経線方向でレンズ周辺部が強く浮き上がったりする場合は装用感が不良となるので,後面トーリックHCLやピギーバック法(間に使い捨てSCLを挟む)を試してみる.また,球面HCLでも前面にMZ加工(周辺部にリング状の溝を付ける加工)を施すと上眼瞼がレンズをとらえやすくなり,開瞼時の上方移動が促されレンズ安定性が向上すると報告されている1).IVHCL不耐症に対する矯正HCL特有の装用感になじめずHCL処方をあきらめざるを得ない患者が一定の割合で存在する(HCL不耐症).とくに円錐角膜や外傷後,角膜移植後などの病的角膜では形状が複雑であるため,突出部にHCLが強く当たり痛みや異物感を生じやすい.しかし,KeraSoftIC(UltraVision)など特殊デザインを有するSCLが近年開発され,これらの不整角膜に対しても有用であることが報告された2,3).*TakahiroHiraoka:筑波大学医学医療系眼科〔別刷請求先〕平岡孝浩:〒305-8575つくば市天王台1-1-1筑波大学医学医療系眼科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(23)1293図1ユーソフトのデザイン直径が14.5mm,中心厚が0.4mmと分厚く,乱視軸安定のためのバラストデザインを有する.(トーメーコンタクトレンズ,シードより許可を得て引用)表1ユーソフト規格範囲ベースカーブ(mm)球面度数(D)7.80.8.80(0.20ステップ)+30.00..30.00(0.25ステップ)円柱度数(D).0.25..6.00(0.25ステップ)円柱軸(°)5.180(5ステップ)(トーメーコンタクトレンズ,シードより許可を得て引用)角膜形状が角膜形状の正乱視の場合不正乱視が強い場合平均角膜曲率半径+0.8mm図2ベースカーブの選択角膜形状が正乱視の場合は青矢印,角膜形状の不正乱視が強い場合は赤矢印に従ってファーストベースカーブを選択する.(トーメーコンタクトレンズ,シードより許可を得て引用)/==/==図3乱視軸ガイドマークトライアルレンズにはC6時方向にガイドマークが入っており(),装用時に下方に位置することを確認する.(トーメーコンタクトレンズ,シードより許可を得て引用)図4強度乱視眼のトポグラフィ所見両眼ともに強い直乱視を認めるが,Fourier解析で角膜前後面に明らかな不正乱視は認めなかった.20Dでありユーソフトより狭いが,円柱度数はC.6DまでC5度刻みで設定できる.不正乱視を有さない強度乱視眼ではこのレンズも使用可能である.CVIIIユーソフトは円錐角膜眼にも有効筆者らはユーソフトを円錐角膜眼へも多数処方しており,その成績を論文にまとめ報告している4).以下にその概要を示す.対象はCHCL不耐症を有する円錐角膜C20例C36眼で,平均年齢はC33.1C±11.7歳(12.52歳),平均球面度数はC.4.99±3.97D(C.14.75.0.75D),平均円柱度数はC.3.39±2.13D(C.9.75.0.50D),平均観察期間はC21.6C±9.2カ月(6.1.33.4カ月)であった.トポグラフィでのCAverageK値はC50.3C±6.6D(42.0.70.0D)であり,KmaxはC55.2C±8.4D(42.5.80.0D)であった.また,最小角膜厚はC429.8C±55.1Cμm(271.536Cμm)であった.視力に関しては,レンズ装用前の裸眼視力はC1.08C±0.43ClogMAR(0.22.2.00logMAR)であったが,レンズ装用後はC0.01C±0.15ClogMAR(C.0.18.0.40ClogMAR)まで有意に改善した(p<0.0001).小数視力C1.0以上を達成できたのはC24/36眼(67%)であった.レンズ度数の交換回数はC1.3C±1.8回(0.6回)であった.変更の必要がなかった症例が多いが,最高C6回の変更を要した症例も存在した.とくにCHCLから切り替えた場合に,徐々に角膜形状がスティープ化するため,頻回の調整が必要となることがあった.脱落患者はC3例であり,レンズの装脱着が困難な症例がC1例,角膜混濁が強く視力改善が不十分であった症例がC2例であった.残りの患者は使用を続けており,継続率はC88%であった.角膜内皮細胞密度に関しては,使用前C2,373C±482Ccells/mm2,最新の検査時がC2,402C±464Ccells/mm2であり,使用前後で有意差はなく,明らかに減少したという症例も経験していない.合併症はC17眼で認められ,内訳は角膜周辺部血管侵入がC8眼,ドライアイがC8眼,点状表層角膜症がC5眼,アレルギー性結膜炎,結膜充血,pigmentslideがそれぞれC2眼,結膜下出血がC1眼(重複あり)であった.感染症など重篤な障害の発生は認められず,いずれも装用時間短縮や一時的な装用中止,投薬により改善を認めた.また,合併症の発生を理由に脱落した患者はいなかった.以上から,ユーソフトはCHCL不耐性を示す円錐角膜眼に対して有効な矯正手段であり,許容できる安全性を有することが示された.CIX角膜移植後やペルーシド角膜変性にも有効筆者らはペルーシド角膜辺縁変性や角膜移植後にも処方を行っている.以下に代表症例を提示する.症例2:39歳,男性.会社員.10年前にペルーシド角膜辺縁変性を指摘され,眼鏡とCHCLを使用していたが,HCLは痛みのため使用できなくなった.眼検査所見:スリット所見では角膜下方に帯状の菲薄部を認めた.視力:右眼=0.03(0.9C×.2.00D(cyl×.8.00DAx55°)左眼=0.06(1.2C×.3.75D(cyl×.4.00DAx110°)トポグラフィのオリジナルマップで,角膜下方にカニ爪様の形状変化が認められ,Fourier解析では不正乱視成分(非対称成分,高次不正乱視成分)の増加も確認できた(図5).ユーソフトの処方により,視力:右眼=1.2×ユーソフト(n.c.)左眼=1.2p×ユーソフト(n.c.)と改善した.症例3:23歳,男性.タクシー運転手.16歳時に円錐角膜を指摘されCHCLを装用していたが,右眼急性水腫を発症し,それ以降は角膜混濁のため視力矯正不良となる.17歳時に右角膜全層移植術を受け,その後は裸眼で過ごすことも多かったが,保育士からタクシー運転手への転職を希望し,視力改善目的で筆者の施設を受診.眼検査所見:スリット所見では右眼の移植グラフトは透明性を維持しており,左眼は角膜の突出と非薄化が認められた(図6).視力:右眼=0.04(0.7C×.6.00D(cyl×.4.00DAx50°)左眼=0.1(0.9×+0.50D(cyl×.6.00DCAx65°)1296あたらしい眼科Vol.41,No.11,2024(26)図5症例2のペルーシド角膜辺縁変性のトポグラフィ所見右眼のトポグラフィを示す.オリジナルマップで,角膜下方にカニ爪様の形状変化が認められ,Fourier解析では不正乱視成分(非対称成分,高次不正乱視成分)の増加も確認できた.図6症例3の角膜移植後の前眼部所見右眼の移植グラフトは透明性を維持しており,左眼は角膜の突出と非薄化が認められた.==ab図7症例3の角膜移植後のトポグラフィ写真a:右眼の広範囲にわたる前方突出と不正乱視の著しい増加が確認された.b:左眼には下方に突出した円錐角膜の典型像を認めた.