考える手術.監修松井良諭・奥村直毅翼状片手術のコツ家室怜大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室翼状片は結膜下に増殖組織が生じて角膜内に侵入した状態で,視機能障害や整容的な訴えがあれば外科的治療を行う.翼状片手術では翼状片および結膜下組織を切除後,露出した強膜部を自己結膜組織で覆う結膜弁移植が一般的に行われる.術式には切除部に隣接する結膜を移動させる有茎結膜弁移植と,他部位から結膜を採取するタゾン1mg(0.5mg2錠)の内服を併用する.翼状片を合併した白内障眼においては,先に翼状片切除を行って角膜形状を安定化させた後,白内障術前検査を実施して眼内レンズ度数を計算する.聞き手:翼状片の手術適応はどのように考えたらよいでと」を患者に伝えておかなければなりません.次に整容しょうか?面ですが,これは患者が「目が赤い」などと訴えている家室:適応を大別すると視機能的適応と整容的適応の二場合で,術後の充血を最小限に抑える術式の選択が必要つです.まず視機能的適応についてですが,侵入した翼です.状片が瞳孔領に達すれば高度の視力低下に陥ります.そこまで達していなくても翼状片が角膜を水平方向に牽引聞き手:手術では有茎結膜弁と遊離結膜弁のどちらを選すれば直乱視化,遠視化,または不正乱視を伴うことで択すべきでしょうか?視機能障害につながります.これらは自覚視力,オート家室:翼状片手術は再発が最大の問題であり,これを防レフケラトメーターだけでなく,前眼部光干渉断層計にぐことが第一とされます.そして,単純切除や強膜露出よる角膜形状解析,波面センサーによる不正乱視の検出法では再発率が高いために,再発率の低い有茎弁移植かを行えば詳細に評価可能です.注意点として,翼状片が遊離弁移植が一般的に行われています.両者の再発頻度存在するにもかかわらず,直乱視がごく軽度な例や,倒については報告によってばらつきが大きく,単純な比較乱視を呈している患者をときどき経験します.この場合がむずかしいので,術式の特性を理解して選択すればよは術後に倒乱視が増加して裸眼視力が低下することがあいと思います.私は遊離結膜弁移植を標準的に行っているため,術前に「裸眼視力が低下する可能性があるこます.遊離結膜弁移植は,遊離弁の採取や縫着の手技に(89)あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025890910-1810/25/\100/頁/JCOPY考える手術習熟が必要ですが,弁の採取部位とサイズ設定における自由度が高く,患者によらず一定の術式で行えます.さらに,健常な結膜を移植するので術後の充血を抑制でき,先述した整容的適応例において満足を得られやすいという大きなメリットがあります(図1).一方,有茎結膜弁移植では結膜弁が半固定されるため,弁の扱いが容易で遊離結膜弁と比較して短い手術時間で施行可能です.ただし,病変に隣接する結膜を用いるために術後の充血を惹起する懸念があること,翼状片のサイズが大きい場合には被覆する結膜を移動させることが困難な場合があることに注意しておく必要があるでしょう.聞き手:具体的な手術方法を教えてください.家室:私が標準的に行っている手順を紹介します(動画1).まず翼状片頭部にマーキングし,鼻側結膜下にリドカインを少量注射します.翼状片頭部を有鉤鑷子で把持し,スパーテルで鈍的に角膜から.離したあと,マーキングに沿って翼状片頭部を切除します.次に有鉤鑷子で結膜下組織を把持し,スプリング剪刀を用いて結膜と強膜から.離し切除します.露出強膜をキャリパーで測定して結膜弁サイズを決定し,測定したサイズを遊離結膜弁の採取予定部位にマーキングします.このとき,結膜弁は上方で採取しますが,将来的に濾過手術を行う可能性がある患者の場合は下方から採取します.結膜弁を損傷させないためにマーキング部のわずかに外側からリドカインを結膜下注射し,マーキングに沿ってTenon.を残し,結膜のみを.離して遊離弁を採取します.採取した遊離弁を露出強膜部に乗せて向きと表裏を合わせたあと,9-0ナイロン糸で縫合します.術後に抜糸をしやすくするため縫合糸は長めに残して切ります.最後にソフトコンタクトレンズを装用して,デキサメタゾン結膜下注射を行い手術を終了します.聞き手:翼状片手術後の再発を防ぐコツを教えてください.家室:まずは弁移植を基本手技とすることです.そして,若年,高度の充血,厚みのある翼状片,再発翼状片図1初発翼状片への遊離結膜弁移植a:術前,b:術後.といったハイリスク患者ではマイトマイシンCや羊膜移植といった追加の手技を検討します.マイトマイシンCは結膜下組織の線維芽細胞増殖を抑制する作用があり,弁移植に併用すれば再発率を低下させることができます.一方で強膜軟化症の合併リスクがあるため,私はハイリスク患者に限って適応としています.なお,保険適用外であるため倫理委員会などを通して病院の許可を得る必要があります.また,再発翼状片で翼状片のサイズが大きい場合や,眼球運動障害または瞼球癒着を伴う患者では,広範囲に結膜下組織を切除する必要があるので羊膜移植で対応しています.羊膜移植は翼状片と結膜下組織の切除後に,露出強膜を羊膜で覆って結膜上皮が進展する基質を供給することを目的としています.可能であれば遊離結膜弁移植を併用して上皮化を促し,炎症期間を短縮させるようにしています(動画2).こういった術式選択に加えて術後管理も重要です.術後は0.1%ベタメタゾン点眼1日4回を用いて消炎し,周術期はベタメタゾン1mg(0.5mg×2錠)4~7日間の内服を併用しています.なお,ベタメタゾン点眼は3カ月以上処方するようにしています.海外では免疫抑制薬を用いて消炎する報告もあります.患者のアドヒアランス不良により再発することもあり,患者への入念な説明と薬剤使用状況の確認も大切です.聞き手:白内障と翼状片の合併例を経験しますが,どのように対応すべきでしょうか?家室:先述のように翼状片眼では水平方向に角膜が牽引されるため,翼状片を切除すると,術後,牽引が解除され角膜形状が変化します.そのため,翼状片がある状態で白内障の術前検査を行い,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数を計算すると,度数ずれのリスクになります.正確な測定結果を得るために,先に翼状片切除を行って角膜形状を安定化させてからIOL度数を決定すべきです.形状安定化に要する期間についてはMiyataらの報告が非常に参考になります.翼状片先端の位置が角膜半径の1/3以下の軽度,1/3より大きく2/3以下の中度,2/3より大きい重度という分類をしたとき,軽度は術後1カ月以降,中度と重度は術後3カ月以降で角膜形状が安定するというものです.これを参考にしつつ,屈折の実測値が安定したタイミングでIOL度数決定を行うとよいでしょう.文献1)宮田和典,子島良平,森洋斉ほか:翼状片の進展率に基づく重症度分類の検討.日眼会誌122:586-592,201890あたらしい眼科Vol.42,No.1,2025(90)