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緑内障セミナー:緑内障の神経保護・再生医療研究の現状

2024年10月31日 木曜日

●連載◯292監修=福地健郎中野匡292.緑内障の神経保護・再生医療研究の現状西島義道東京慈恵会医科大学眼科学講座緑内障の神経保護・再生医療研究では近年,遺伝子治療や薬物療法,インプラント治療など新たなアプローチが試みられている.改変型CTrkB受容体を用いた遺伝子治療では視神経軸索再生効果が,リパスジル・ブリモニジン配合点眼薬では神経保護効果が報告されている.また,CNTF徐放性眼内インプラントの臨床試験も現在進行中である.●はじめに緑内障は世界的に主要な失明原因の一つであり,網膜神経節細胞(retinalCganglioncell:RGC)および視神経軸索の不可逆的な障害によって引き起こされる進行性の視野障害を特徴とする1).以前より眼圧下降以外の治療法の開発のひとつとして神経栄養因子による軸索再生治療が注目されているが,これまで十分な効果が得られずにいた.しかし近年,遺伝子治療が急速に進展し,なかでもアデノ随伴ウイルス(adeno-associatedvirus:AAV)を使用した遺伝子治療は眼科分野でも臨床応用が進められている.ここでは神経栄養因子の受容体の一つであるCTrkBの改変型遺伝子を組み込んだCAAVによる遺伝子治療研究2)を中心に,近年の緑内障に対する神経保護および再生治療研究に関して述べる.C●改変型TrkB受容体の作製およびシグナル伝達TrkBは神経栄養因子の一つである脳由来神経栄養因子(brain-derivedCneurotrophicfactor:BDNF)の受容体であり,神経の分化および成長に重要な役割を担っている.筆者らはCTrkBの細胞内領域のみを取り出し,ファルネシル化シグナル配列を付加することで常時BDNF-TrkBシグナルを活性化することが可能なCfarne-sylatedCintracellularTrkB(F-iTrkB)を作製した(図1).C●F-iTrkB遺伝子を用いた視神経軸索の再生効果マウスの急性の傷害モデルである視神経挫滅(opticCnervecrush:ONC)モデルを用いて,F-iTrkBをAAVに組み込んだCAAV-F-iTrkBによる治療効果を検証した.その結果,AAV-F-iTrkB投与群では視神経の軸索再生効果を認め,再生した軸索の一部は,視神経損傷部位から約C4Cmm離れた視交叉に到達した(図2).さらに,マウスの視神経軸索をより中枢に近い上丘(superiorcolliculus:SC)近傍で切断したモデルについても検証を行った.その結果,AAV-F-iTrkB投与群のCSCでは再生軸索が観察された(図3a)2).同時に視機性眼球反応(optokineticresponse:OKR)を測定したところ,AAV-Control投与群ではCOKRはほぼ消失していたが,AAV-F-iTrkB投与群では有意に回復していることがわかった(図3b)2).C●リパスジル・ブリモニジン配合点眼薬による神経保護効果リパスジルとブリモニジン配合点眼薬による神経保護効果を報告した3).リパスジルとブリモニジンの点眼はそれぞれCRGC死を抑制するが,両剤の配合点眼によりさらなる保護効果が認められた(図4)3).リパスジルはp38のリン酸化や炎症性サイトカインの発現を抑制し,ブリモニジンはCp38のリン酸化を抑制するとともに,塩基性線維芽細胞増殖因子の発現を増加させた.これらのことから,リパスジルとブリモニジンの配合点眼薬は,複数の経路を介して相乗的に神経保護効果を示す可能性が示唆された.C●毛様体神経栄養因子(CNTF)徐放性眼内インプラントによる緑内障治療神経栄養因子を用いた緑内障に対する実際の臨床応用として,毛様体神経栄養因子(ciliaryCneurotrophicCfac-tor:CNTF)を眼内で徐放するインプラント(NT-501インプラント)の臨床試験が進められている.スタンフォード大学を中心として昨年CphaseIの臨床試験の結果が発表された4).開放隅角緑内障患者C11名を対象に,片眼にCNT-501インプラントを投与し,もう一方の眼を対照眼とした結果,投与眼では網膜神経線維層厚が治療前よりも増加する傾向を認めた.現在も臨床試験は継続されている.(79)あたらしい眼科Vol.41,No.10,202412270910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1FarnesylatedintracellularTrkB(F-iTrkB)の模式図TrkBの細胞内領域のみを取り出し,Farnesyl基を付与した活性型CTrkBを作製した.aInjuryaPBSRipasudilBrimonidineMix図2視神経挫滅モデルにおけるAAV-F-iTrkBの軸索再生効果視神経挫滅モデルマウスの眼球内にCAAV-F-iTrkBを投与すると,視交叉に至るほどの軸索再生効果を認めた.(文献C2より改変引用)b1,000**図3上丘切断モデルにおけるAAV-F-iTrkBの軸索再生効果a:AAV-ControlまたはCAAV-F-iTrkBを眼球内投与したマウスの上丘付近における再生軸索上丘の領域は白い点線で示す.RBPMS陽性細胞数(cell/mm2)黄色の点線部分の拡大図を下段に示す(スケールバーは上段C0300Cμm,下段C50Cμm).Cb:左は視機性眼球反応の測定の様子.右はCAAV-ControlまたはCAAV-F-iTrkBを投与した上丘切断モデルの検査結果.StudentのCt検定.*はCp<0.05で有意差があることを示す.(文献C2より改変引用)PBSRipasudilBrimonidineMix●おわりにTrkBの改変型であるCF-iTrkBを用いた遺伝子治療による視神経軸索再生研究と,リパスジル・ブリモニジン配合点眼薬による神経保護効果研究,およびCCNTFを徐放する眼内インプラントによる緑内障に対する臨床試験の現状について述べた.これらの治療法は作用機序が異なることから,今後は併用治療なども含め,新たな緑内障治療の進展が期待される.文献1)MalihiCM,CMouraCFilhoCER,CHodgeCDOCetal:Long-termCtrendsCinCglaucoma-relatedCblindnessCinCOlmstedCcounty,CMinnesota.OphthalmologyC121:134-141,C20142)NishijimaE,HondaS,KitamuraYetal:Visionprotection1228あたらしい眼科Vol.41,No.10,2024図4視神経挫滅モデルマウスに対するリパスジル,ブリモニジン,および合剤を用いた点眼治療における神経保護効果a:視神経損傷C14日後における各治療後の網膜のCRBPMS陽性細胞(網膜神経節細胞)の免疫染色像(スケールバーはC100μm).Cb:網膜全体における網膜神経節細胞の定量グラフ.Tukeyの多重比較検定.*p<0.05,**p<0.01で有意差があることを示す.(文献C3より改変引用)CandCrobustCaxonCregenerationCinCglaucomaCmodelsCbyCmembrane-associatedCTrkCreceptors.CMolCTherC31:810-824,C20233)NamekataCK,CNoroCT,CNishijimaCECetal:DrugCcombina-tionCofCtopicalCripasudilCandCbrimonidineCenhancesCneuro-protectioninamousemodelofopticnerveinjury.JCPhar-macolSciC154:326-333,C20244)GoldbergCJL,CBeykinCG,CSatter.eldCKRCetal:PhaseCICNT-501ciliaryneurotrophicfactorimplanttrialforprima-ryCopen-angleglaucoma:Safety,Cneuroprotection,CandCneuroenhancement.OphthalmolSciC3:100298,C2023(80)

屈折矯正手術セミナー:白内障手術後の調節微動

2024年10月31日 木曜日

●連載◯293監修=稗田牧神谷和孝293.白内障手術後の調節微動貝田智子宮田眼科病院白内障手術後に眼精疲労を自覚する患者を経験する.眼精疲労の原因となる調節けいれんは,調節微動が増加して発症する.白内障手術後のCIOL挿入眼には調節微動が存在し,調節負荷により調節微動の高周波成分出現頻度(HFC)が増加し,調節けいれんでみられる高値CHFCも存在する.とくに長眼軸眼に高値CHFCが多く,術後調節けいれんに注意が必要である.●はじめに臨床において,白内障手術後に原因不明の眼精疲労を訴える患者にしばしば出会う.眼精疲労の原因の一つに調節けいれんがある.従来,白内障手術後は水晶体の調節作用がなくなるため調節反応は起こらないと考えられてきた.一方,多くの眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入患者で調節作用が観察され,調節けいれん様他覚屈折(D)瞳孔径(mm)通常のIOL挿入眼調節微動調節微動屈折刺激(D)屈折刺激(D)の臨床像を経験する.これまで,IOL挿入眼は調節負荷が加わるとCIOLの前方移動により見かけ上の調節変化が生じること1,2)が報告されている.筆者らは,IOL挿入眼には調節微動が存在し,調節負荷で調節微動の高周波成分(high-frequencyCcomponents:HFC)出現頻度が増加することを示した3).さらに調節けいれんでみられる高値CHFCが約C3割に存在し,長眼軸眼で多い傾向であった3).これらの知見を紹介するとともに,白内障術後眼精疲労への治療症例を提示する.C●調節微動とは調節微動とは,一定の距離にピントを合わせている状態でみられる屈折値の揺らぎのことで,調節負荷による持続的な調節輻湊の際に生じる屈折値の急速で小さな変動である.この調節微動は,0.6CHz以下の低周波成分(low-fre-quencycomponents:LFC)と,1.0.2.3CHzのCHFCの二つの帯域パターンから構成される.HFCは毛様体筋やCZinn小帯の動きに由来し,HFC出現頻度は調節負荷時や調節けいれんで増加し,眼精疲労の指標として用いられている.C●IOL挿入眼の調節微動検査調節微動は,アコモレフCSpeedy-i(ライト製作所)で測定した.アコモレフCSpeedy-iは,調節負荷時の他覚屈折値の微動を測定し,1.0.2.3CHz帯成分の出現頻度(77)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1IOL挿入眼の調節微動検査結果調節微動はアコモレフCSpeedy-i(ライト製作所)で測定.調節安静位(0D),調節負荷(.1D,.2D,.3D)における調節微動のC1.0.2.3CHz帯の積算ゲイン(dB)を計算し,HFC値として表示.HFC値のC65以上を高値とし,赤色で表示している.調節けいれんでは高値CHFCが増加する.を積算した値を,毛様体筋の震えを反映した数値としてHFC値としている.HFC値C65以上を高値として赤色で表示し,高値CHFCの増加は調節けいれんと診断される.IOL挿入眼における通常の結果と調節けいれんの結果を図1に示す.C●研究結果と考察単焦点CIOLを挿入したC713例C1,160眼を対象とした.白内障手術後C2カ月とC6カ月時に調節負荷をかけると,HFC値は有意に増加し,年齢,術後の期間にかかわらず,約C3割の患者で高値CHFCがみられた.高値CHFCの割合は術後C2カ月におけるC26Cmm以上の眼軸長眼で有意に高かった.また,IOL挿入眼の安静位(0D負荷時)平均CHFC値は,以前の研究における有水晶体眼のHFC値とほぼ同じであった4).過去に,単焦点CIOL挿入眼は近見視力に対する自覚的屈折値と他覚的屈折値に差があり,調節力はほぼゼロであるが,調節努力が存在することが報告されている1).つまり,白内障手術後であっても,毛様体が動いてCIOLの位置や形状を変化させ,焦点を合わせるための調節努あたらしい眼科Vol.41,No.10,20241225a点眼開始前b点眼開始1カ月後点眼中止1カ月後d点眼再開始1カ月後図2提示症例の調節微動検査の結果60歳,男性(右眼C2焦点IOL,左眼有水晶体眼).0.05%シクロペントラート塩酸塩点眼前,HFCは高値を示し眼精疲労を自覚していた(Ca).点眼開始C1カ月後,HFCは低下し症状が改善したため点眼を中止した(Cb).点眼中止C1カ月後,HFCが高値を示し眼精疲労が再発したため(Cc)点眼を再開したところ,HFCは低下し症状は改善した(Cd).力が行われていると考えられる.筆者らの検討も,この調節努力が調節けいれんを生み,眼精疲労をもたらす可能性を裏付ける結果と考える.C●白内障手術後の眼精疲労への治療有水晶体眼では,調節けいれんを原因とした眼精疲労にC0.05%シクロペントラート塩酸塩点眼が有効である.筆者らはCIOL挿入眼にも調節けいれんが発症すると考え,白内障手術後,原因不明の眼精疲労があり高値HFCを認めた患者にC0.05%シクロペントラート塩酸塩点眼治療を行い,症状の改善を得たので紹介する5).患者はC60歳,男性.右眼C2焦点CIOL挿入眼,左眼有水晶体眼.術後視力:右眼C1.2(1.5C×cyl+0.75DAx110°),左眼0.9(1.2C×sph+0.5D×cyl.1.5DCAx90°)現病歴:右眼の白内障手術後から眼精疲労を自覚,高値CHFCを認めた.術後C8カ月目よりC0.05%シクロペントラート塩酸塩の就寝前C1回点眼を開始した.点眼開始後,HFCは低下し症状が改善したため点眼を中止した.中止後C1カ月目,HFCは高値を示し眼精疲労が再発したため点眼を再開したところ,HFCは低下し症状は改善したが,点眼は本人の希望により継続とした(図2).●おわりに臨床において白内障手術後も調節けいれんが発症する可能性があるため,原因不明の眼精疲労を訴えるCIOL挿入眼患者には調節微動の検査が有効である.とくに強度近視患者では術後の調節けいれんに注意することが重要である.文献1)Win-HallCDM,CGlasserA:ObjectiveCaccommodationCmea-surementsCinCpseudophakicCsubjectsCusingCanCautorefrac-torandanaberrometer.JCataractRefractSurgC35:282-290,C20092)Lesiewska-JunkCH,CKa.uznyJ:IntraocularClensCmove-mentandaccommodationineyesofyoungpatients.JCat-aractRefractSurgC26:562-565,C20003)KaidaT,OnoT,TokunagaTetal:Prevalenceofaccom-modativemicro.uctuationsineyesaftercataractsurgery.JClinMedC12:5135,C20234)梶田雅義,伊藤由美子,佐藤浩之:調節微動による調節安静位の検出.日眼会誌101:413-416,C19975)桑原直杜,貝田智子,徳永忠俊ほか:白内障手術後の眼精疲労に対するC0.05%シクロペントラート塩酸塩点眼の治療効果.臨眼77:1203-1208,C20231226あたらしい眼科Vol.41,No.10,2024(78)

眼内レンズセミナー:Posterior optic captureによる偏位IOLの再固定術

2024年10月31日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋449.Posterioropticcaptureによる浅野泰彦昭和大学医学部眼科学講座偏位IOLの再固定術3ピース眼内レンズ(IOL)単独偏位例は,水晶体.が残存していれば偏位したCIOLを.外固定しなおすことで再固定できる場合がある.偏位CIOLの支持部を.外固定し,さらに硝子体カッターで後.を開窓して光学部をキャプチャーすることで,より強固な再固定が可能となる.●はじめに近年,脱臼・亜脱臼といった眼内レンズ(intraocularlens:IOL)偏位例に遭遇する機会が増加している.IOL偏位例は.・IOL複合体が一体化して偏位する例とIOLが単独で偏位する例に分類される.単独偏位例では,偏位したCIOLがC3ピースレンズであれば,IOLを摘出することなく偏位CIOLを縫着・強膜内固定することにより確実な再固定が得られるが,その手術難度は高い.水晶体.が残存していれば支持部を.外固定することによって再固定できることがあるが,支持部間全長と毛様溝間距離の不一致やCZinn小帯断裂が原因で再偏位をきたす場合もある.GimbelらはCopticCcaptureによるCIOL固定法を報告した1).これは小児白内障手術における固定法として報告されたが,IOL偏位例に対しても応用可能である.本稿では偏位したC3ピースCIOLの支持部を.外固定し,さらに後.を開窓して光学部をキャプチャーして固定するCposteriorCopticCcapture(POC)による再固定術を紹介する.C●3ピースIOL単独偏位例の分類3ピースCIOLが単独で偏位する原因は,.外固定されていたCIOLがCZinn小帯断裂部にずり落ちて偏位する場合(以下,.外偏位例.図1a)と,片側支持部が.内固定,片側.外固定であったことにより.収縮に伴って偏位する場合(以下,.内・.外偏位例.図1b)がある.C●POCによる偏位IOLの再固定法.外偏位例においては,まずCIOLを拾い上げ,再度.外固定とする.この際,Zinn小帯断裂部と支持部固定部位が重ならないようにする..内・.外偏位例の場合は眼粘弾剤で.とCIOLを分離して.内の片側支持部をゆっくり抜き出し,両方の支持部を.外固定とする.前房メインテナーを設置し,フックで光学部を持ち上(75)げ,光学部と後.の間に角膜サイドポートから挿入した硝子体カッターを潜り込ませる.硝子体カッターにて後.を切開し,前部硝子体切除を行いながら少しずつ切開窓を拡大し,直径C4.5Cmmの後.切開窓を作製する.眼粘弾剤を前房内に満たし,フックを用いて光学部を後.切開窓に嵌め込む.図2に.内・.外偏位例に対する連続手術写真を示す.この方法より偏位したCIOLの支持部を.外固定し,さらに光学部を後.切開窓にキャプチャーして固定することができる(図3).C●POCの利点POCの利点は,①偏位したCIOL支持部を.外固定し,さらに光学部を後.切開窓で固定するため強固な固定となること,②必要な切開創がC3カ所の角膜サイドポートのみであり低侵襲であること,③硝子体カッター使用により硝子体脱出を防ぎつつ,適切な大きさの後.切開窓作製が可能であることである.さらに後発白内障切開による視力改善も期待できる.C●POCの適応と限界POCの適応は,①C3ピースCIOL単独偏位例であること,②光学部をキャプチャーできる範囲の水晶体.が残存していること,③CZinn小帯断裂範囲がC120°以下であることである.シングルピースアクリルレンズ偏位例は,.外固定によりCpigmentdispersionsyndromeによる虹彩炎や眼圧上昇を誘発するため禁忌である.また,広範囲のCZinn小帯断裂例は再偏位リスクがあるため適応外と考えるべきである.C●おわりにPOCによる偏位CIOL再固定術は,適応例は限定されるものの低侵襲かつ簡便な手技で施行可能であり有用性は高い.手術選択肢の一つとして記憶に留めていただければ幸いである.あたらしい眼科Vol.41,No.10,2024C12230910-1810/24/\100/頁/JCOPY図13ピースIOL単独偏位例の分類a:.外固定されていたCIOLがZinn小帯断裂部()にずり落ちて偏位した症例(.外偏位例).Cb:片側支持部が.内固定,片側が.外固定であったことにより,.収縮に伴って偏位した症例(.内・.外偏位例).図2.内・.外偏位例に対するPOCの手順(図1bと同一症例)a:眼粘弾剤で.とCIOLを分離する.Cb:.内の支持部をフックで抜き出す.Cc:両方の支持部を.外固定とする.Cd:角膜サイドポートから挿入した硝子体カッターで直径C4.5mmの後.切開窓を作製する.Ce:フックで光学部を押し込んで後.切開窓に嵌め込む.Cf:支持部は.外固定,光学部は後.にキャプチャーして固定した.図3POCによる再固定術後2年(図1b,図2と同一症例)a:前眼部写真.Cb:前眼部OCT.光学部の後.キャプチャーは維持され,IOLは正位を保っている.文献riccataractsurgery.JCataractRefractSurgC20:658-664,1)GimbelCHV,CDeBro.BM:PosteriorCcapsulorhexisCwithC1994opticcapture:Maintainingaclearvisualaxisafterpediat-

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く オルソケラトロジー(3)

2024年10月31日 木曜日

■オフテクス提供■コンタクトレンズセミナー英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く10.オルソケラトロジー(3)土至田宏順天堂大学医学部附属静岡病院眼科松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学,川崎市立多摩病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の第C6章はオルソケラトロジーについてである.今回はその第C3回目で,近視コントロール関連が中心である.近視の定義,進行のメカニズム,管理,および治療の有効性に関する研究結果などがとりあげられている.近視と近視進行本章1)ではオルソケラトロジー(orthokeratology)はortho-kと略されており,本稿でも踏襲する.C1.近視の程度と評価法近視の定義は,一般的にも国際的にもC.0.50D以下としている報告が多い.近視の進行は,近視の程度や年齢,家族歴,民族的背景などの要因によって影響を受ける.とくにアジア系の子どもにおいては,若年層での近視進行が早く,6.8歳の中国系の子どもでは,年間C1D以上の進行が一般的とされる.①近視進行の評価法:近視進行の程度は,屈折値(D)や眼軸長(mm)で評価される.ortho-K装用による近視の真の進行を評価するためには,装用を中断し角膜が治療前の状態に戻るのを待つ必要がある.②近視抑制効果の定量化:近視抑制の効果は,治療群と対照群の平均変化量の差として報告されることが多いが,眼軸伸長や近視度数の絶対値も重要である.とくにortho-K治療の初期段階では進行の抑制が顕著にみられることが多いが,治療が長期化するとその効果が減少する傾向がある.C2.近視抑制の管理近年,近視の子どもをどのように管理し,治療を選択するかが重要視されている.ortho-Kは適切なガイドラインに基づいて実施されるべきであり,標準的な治療アプローチから個別化された治療へと移行することが推奨される.具体的には,年齢,屈折状態,近視の進行歴,親の近視の家族歴,個々のニーズやライフスタイルなどを考慮して,治療を個別化することが重要とされる.C①ortho-Kの開始:近視の進行を抑制するための段階的な戦略として,まずはC10歳未満の子どもには環境要因をコントロールとして,屋外活動を増やすことが推奨されている.ハイリスクの子ども,とくに病的な近視(.5.00D以上または眼軸長C26Cmm以上)の場合は,臨(73)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY床的介入が推奨されている.C②ortho-Kの中止:治療中に近視進行抑制効果が不十分な場合や,眼科的な問題が発生した場合には,他の治療法への切り替えを検討する必要がある.とくにortho-Kの治療中止後にも近視の進行が再発する可能性があるため,治療終了後も継続的な監視が推奨される.C3.近視進行抑制効果の有効性の評価ortho-Kによる近視進行抑制効果はC2005年にCLongi-tudinalCOrthokeratologyCResearchCinCChildren(LORIC)2)で初めて報告された.その後,RetardationCofCMyopiaCinOrthokeratology(ROMIO)スタディ3)や他の臨床試験でも同様の結果が報告されている.ortho-Kを装用した子どもは,単視眼鏡を使用した対照群と比較して眼軸の伸長が有意に抑制されたとされる.トーリックCortho-Kは,角膜乱視が中程度から高度の子どもにおいて近視進行抑制効果が報告されている.それによれば,単視眼鏡を使用した対照群と比較して,眼軸の伸長がC52%抑制されたとある.C4.近視抑制に関連する要因①開始年齢:ortho-Kによる効果は,治療を開始する年齢と強く関連している.とくに若いうちに治療開始することで,眼軸の伸長がより抑制されることが示されている.②屈折値:もともと近視の程度が強い子どもでは,ortho-K治療中の眼軸伸長が少ないことが報告されている.しかし一部の研究では,基礎屈折度と眼軸伸長の間に統計的に有意な関連がないとする報告もある.③角膜の屈折力とその変化:ortho-Kによる角膜形状の変化は,近視進行抑制の有効性に影響を与える可能性がある.とくに角膜の中間周辺部の屈折力変化が大きい場合は,眼軸の伸長が遅くなることが報告されている.あたらしい眼科Vol.41,No.10,2024C1221オルソケラトロジーによる近視進行抑制のメカニズムortho-kによる近視抑制効果の正確なメカニズムは完全には解明されていないが,本章では考えられる光学的な影響を説明している.①周辺部デフォーカス:視覚体験は眼の成長に影響を与えることが知られており,ortho-Kが引き起こす相対的な周辺部遠視性デフォーカスが,近視進行抑制効果に寄与していると考えられている.複数の研究において,中心部からC35°の範囲で相対的な周辺部遠視デフォーカスが報告されている.②高次収差:ortho-K治療後,角膜形状が変化することで,高次収差が増加する.とくに,主要な球面収差やコマ収差の増加が観察され,これが近視進行の抑制に関連している可能性がある.③調節:近業作業と調節が近視の発症と関連しているため,ortho-Kが調節機能に与える影響も調査されている.ortho-K装用により調節の遅延が減少し,これが近視抑制効果に寄与している可能性があるとする報告がある.④瞳孔径:瞳孔径は周辺部屈折,高次収差,調節反応に影響を与える可能性があるが,暗所での瞳孔径拡大がortho-K治療中の眼軸伸長の抑制に関連していることが示唆されている.⑤治療ゾーンサイズ:ortho-Kレンズの治療ゾーンサイズは治療効果に影響を与える可能性がある.たとえば治療ゾーンサイズがより小さい場合は,相対的な周辺部角膜急峻化と正の球面収差を引き起こし,近視進行の抑制に寄与する可能性がある.⑥ジェッセンファクター:ジェッセンファクター4)または圧縮係数とは,望ましい視力を維持するために目標矯正度数に追加される屈折バッファーで,C.0.75Dであることが多い.ジェッセンファクターの増加がCortho-K治療中の眼軸伸長を抑制する効果に関連していることが報告されている.⑦脈絡膜:脈絡膜は,眼球の成長に関与する信号の伝達に重要な役割を果たしている.ortho-K治療後に脈絡膜の厚みが増加することが観察されており,この変化が眼軸伸長の抑制と関連している可能性がある.オルソケラトロジーの未来ortho-kの技術は近年大きく進化し,将来的にはさらに発展が期待されており,その展望と課題について議論されている.C1.未来のortho-KレンズデザインOrtho-Kレンズデザインの目標は近視進行抑制効果を高めることであり,とくに軽度近視や角膜乱視をもつ患者への治療効果を向上させることが求められる.また,各患者の瞳孔径や角膜プロファイルに基づいたカスタマイズされたレンズデザインが,より一般的になることが予想されている.C2.組み合わせ治療最近の研究では,ortho-KとC0.01%アトロピンとを組み合わせた治療が近視進行抑制に有効であることが示されている.組み合わせ治療により,単独治療よりも効果的に眼軸伸長が抑制されることが報告されているが,費用やリスクを考慮する必要がある.まとめortho-kは近視の一時的な矯正や進行抑制に効果的な方法であるが,その効果を最大限に引き出すためには適切な管理と個別化が必要である.今後の技術の進歩と研究により,ortho-Kはさらに多くの患者に恩恵をもたらす可能性がある.文献1)VincentCSJ,CChoCP,CChanCKYCetal:CLEARC-Orthokera-tology.ContLensAnteriorEye44:240-269,C20212)ChoCP,CCheungCSW,CEdwardsMH:TheClongitudinalCorthokeratologyCresearchCinchildren(LORIC)inCHongKong:aCpilotCstudyConCrefractiveCchangesCandCmyopicCcontrol.CurrEyeResC30:71-80,C20053)ChoCP,CCheungSW:RetardationCofCmyopiaCinCorthokera-tology(ROMIO)study:a2-yearrandomizedclinicaltrial.CInvestOphthalmolVisSci53:7077-7085,C20124)ChanCB,CChoCP,CMountfordJ:TheCvalidityCofCtheCJessenCformulaCinovernightCorthokeratology:aCretrospectiveCstudy.OphthalmicPhysiolOptC28:265-268,C2008

写真セミナー:格子状角膜ジストロフィIV型

2024年10月31日 木曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史堤剛己福岡秀記485.格子状角膜ジストロフィIV型京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①翼状片②角膜実質深層の混濁図1LCD4の前眼部所見鼻側に翼状片,角膜中央の実質深層に混濁を認める.図4LCD4の前眼部OCT所見角膜中央に限局した実質深層の沈着を認める.角膜内皮面が前房側に突出している所見を認める.図3LCD4の前眼部所見(フルオレセイン染色)再発性角膜びらんなど,角膜上皮の接着異常を認めない.(71)あたらしい眼科Vol.41,No.10,2024C12190910-1810/24/\100/頁/JCOPY両眼白内障,両眼翼状片,両眼角膜混濁の所見を有し,角膜専門医の精査加療のため当院紹介となった79歳,女性の症例を図1~3に示す.両眼の翼状片に対しては両眼とも手術(翼状片切除術+マイトマイシンCC術中塗布)を行い,抗菌薬およびステロイド点眼で経過をみた.その後,翼状片の再発は認めなかったが,角膜混濁は残存していた.角膜ジストロフィを疑い遺伝子検査を行ったところ,トランスフォーミング増殖因子Cb誘導型遺伝子(transformingCgrowthCfactorCb1:TGFBI)の変異(p.Leu527Arg)を認め,格子状角膜ジストロフィ(latticecornealdystrophy:LCD)IV型と確定診断された.CLCDCIV型はその名のとおり,おもに格子状の混濁が角膜実質に観察され,混濁の深さから実質性角膜ジストロフィに分類され,病理学的にはアミロイドの沈着を認める1).LCDI型はもっとも一般的な型で,TGFBIのR124C変異によって引き起こされる.若年期から発症し,角膜実質にアミロイドが沈着して視力低下を引き起こし,最終的に角膜移植が必要になる場合がある.今回のCLCDIV型はほかのCLCDとは異なり,角膜の深部間質層にアミロイド沈着を伴う(図4)遅発性の角膜ジストロフィである.このCLCDバリアントはTGFBIの変異(p.Leu527Arg)によって引き起こされており,この変異が何世代にもわたって遺伝する可能性があるとされている1).LCDI型は世界的に報告がある2)が,LCDIV型はおもに日本人に報告されている3).そのためCLCDIV型は,日本人に発生した創始者変異によって引き起こされたと推測されている.LCDCIV型患者のゲノムCDNAを抽出し,ハプロタイプ解析を行った結果,疾患保有対立遺伝子はすべて同一のハプロタイプ(TからG;c.1580T>G)4)を共有しており,ロイシンからアルギニンに移行していた(p.Leu527Arg)ことが報告されている.また,LCDの患者は日本のC6県にまたがった地域に居住しており,これはCLCD4が単一の日本人の祖先に発生したCTGFBIの創始者変異によって引き起こされたことを強く示していた5).TGFBI関連角膜ジストロフィの顕著な特徴として,対立遺伝子の均一性があげられる6).これは,突然変異のホットスポットの存在と創始者変異の二つの異なるメカニズムによってうまく説明される.文献1)FukuokaH,KawasakiS,KinoshitaKetal:Latticecorne-aldystrophytypeIV(p.Leu527Arg)iscausedbyafound-erCmutationCofCtheCTGFB1CgeneCinCaCsingleCJapaneseCancestor.InvestOphthalmolC51:4523-4530,C20102)MunierCFL,CKorvatskaCE,CDjemaiCACetal:Kerato-epithe-linmutationsinfour5q31-linkedcornealdystrophies.NatGenet15:247-251,C19973)FujikiCK,CNakayasuCK,CKanaiA:CornealCdystrophiesCinCJapan.JHumGenet46:431-435,C20014)CooperCDN,CYoussou.anH:TheCCpGCdinucleotideCandChumangeneticdisease.HumGenet78:151-155,C19885)MashimaCY,CYamamotoCS,CInoueCYCetal:AssociationCofCautosomalCdominantlyCinheritedCcornealCdystrophiesCwithCBIGH3CgeneCmutationsCinCJapan.CAmCJCOphthalmolC130:C516-517,C20006)TsujikawaCK,CTsujikawaCM,CWatanabeCHCetal:AllelicChomogeneityCinCAvellinoCcornealCdystrophyCdueCtoCaCfoundere.ect.JHumGenetC52:92-97,C2007

顔面神経麻痺における麻痺性兎眼に対する静的再建術

2024年10月31日 木曜日

顔面神経麻痺における麻痺性兎眼に対する静的再建術StaticReconstructionforParalyticLagophthalmos林礼人*はじめに顔面神経麻痺で生じる麻痺性兎眼は,乾燥性角結膜炎に伴って結膜充血や疼痛といった症状を呈し,適切な治療が行われず慢性化すると,角膜の損傷や潰瘍を惹起して重篤な視力障害を生じる(図1a,b).そのため,麻痺性兎眼は顔面神経麻痺の発症後急性期にもっとも注意が必要な症状と考えられ1),症状の重症度や回復見込みなどを考慮し,保存的または外科的治療を急性期から積極的に検討していく1,2).麻痺性兎眼に対する外科的治療には,静止時の形態改善を目的とする静的再建術がおもに用いられ,麻痺により生じた眼瞼の変形に対する整容的再建に加え,眼球保護という機能的再建の側面も重要になる.眼瞼の閉瞼には,85%は上眼瞼,15%は下眼瞼が関与するともいわれ3),麻痺性兎眼の治療には,上眼瞼へのlidloadingがゴールドプレートを中心に広く行われてきた4.6).しかし,わが国では移植材料としての保険適用がないために使用しづらい側面があり,長期的にはプレート露出や偏位といった合併症を高率に生じる4,7,8)(図1c).そこで,瞼板と挙筋腱膜の間に筋膜や耳介軟骨を挿入し眼瞼挙筋全体を延長するlevatorlengthening法(LL法)が注目を集め,筆者らは報告を行ってきた9.11).一方,下眼瞼は眼輪筋麻痺に伴う下眼瞼の弛緩に重力の影響が加わり,眼瞼縁の下垂ならびに外反を生じる12).とくに皮膚や筋肉の張りが弱くなる中高齢者では症状が顕著となり,乾燥性角結膜炎の大きな要因になる.そのため,症状が長期遷延する場合には外科的治療を積極的に検討する12).本稿では,麻痺性兎眼で生じる閉瞼不全に対する治療アルゴリズムを紹介するとともに,部位別に適応する術式について筆者の経験も踏まえ解説する.I閉瞼不全に対する術式選択(治療アルゴリズム)麻痺性兎眼に対する再建は,麻痺性兎眼に伴う乾燥性角結膜炎に対する急性期治療と重力や加齢などに伴う経時的な変化に対する慢性期治療の二つの側面を持ち合わせている14,15).そのため,術式選択を考えるとき,自然回復の可能性を残す患者に対する一時的治療として行うのか,慢性的な麻痺や長期的な経過を見こしての恒久的治療として行うのかが一つの大きなポイントになる13)(表1).急性期.亜急性期の治療アルゴリズムを検討してみる(図2).まず麻痺の自然回復の可能性があるかないかを考える13).自然回復の可能性がある場合には,まずは点眼薬や眼軟膏による湿潤環境の保持や夜間のテーピングまたはパッチといった保存的加療を行い,一時的な瞼板縫合を行うこともある.適切なテーピングによる加療は急性期におけるQOL保持に役立つが,その手法は簡易的な静的再建術ともいえる(図3).それでも乾燥性角結膜炎の増悪を認め症状が強い場合や,3カ月以上麻痺性兎眼が継続する可能性のある場合,さらに三叉神経麻痺*AyatoHayashi:横浜市立大学医学部形成外科学講座〔別刷請求先〕林礼人:〒236-0004神奈川県横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学医学部形成外科学講座0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(61)1209図1顔面神経麻痺による眼瞼の閉瞼不全とゴールドプレート露出例a:麻痺性兎眼に伴う乾燥性角結膜炎と角膜潰瘍.結膜充血や疼痛,流涙といった症状を呈し,角膜中央の混濁を認める.b:完全麻痺例における麻痺性兎眼の閉瞼時.下眼瞼縁の下垂を認め,兎眼が顕著となっている.c:ゴールドプレート長期埋入例におけるプレート露出(埋入後12年の状態).表1眼瞼部静的再建術の術式選択…急性期治療⇒麻痺後急性期に生じる麻痺性兎眼に伴う乾燥性角結膜炎*自然回復の可能性を残す症例にも一時的な治療・機能的側面を重視(閉瞼機能)…・侵襲や負担の少ない手法慢性期治療⇒重力や加齢などに伴う経時的な変化*長期的な経過(経時的な変形や弛緩)を見越したうえでの恒久的治療・整容的側面を重視・重力や加齢にも耐えうる,よりしっかりとした手法乾燥性角結膜炎麻痺の自然回復の可能性ありなし非手術的療法症状改善症状増悪(テーピング,点眼薬)保存的治療の早急な外科的治療動的再建と同時に外科的治療継続(低侵襲手術)(陳旧例と同様なしっかりした再建)手術療法下眼瞼の静的再建術(低侵襲な術式)[低侵襲な術式(KS法,LTS法)]上眼瞼の静的再建術[以前はゴールドプレートを利用したlidloading,現在はlevatorl法]*眉毛挙上は急性期には基本的には行わない(閉瞼機能を第一に考える)図2急性期~亜急性期における麻痺性兎眼に対する治療アルゴリズム機能的側面を重視し,侵襲や負担の少ない手法を選択する.KS法:Kuhnt-Szymanowski法.LTS法:lateraltarsalstrip法.LevatorL法:levatorlengthening法.(文献13より作成)図3Ramsy-Hunt症候群に伴う左顔面神経完全麻痺例に対するテーピング施行例76歳,男性.a:閉瞼時.眉毛下垂と上眼瞼皮膚弛緩に伴い,閉瞼可能なように見える.b:用手的な眉毛挙上時の閉瞼.下眼瞼下垂と外反を認め,兎眼が顕著.乾燥性角結膜炎に伴う結膜充血も認める.c:3Mテープによる吊り上げ施行後,静止時.下眼瞼の吊り上げで下垂が改善され,眉毛部の吊り上げで視野が確保されている.d:3Mテープによる吊り上げ施行後,閉瞼時.兎眼の大幅な改善を認める.麻痺性兎眼・大腿筋膜(二~四つ折りの架橋型)軽症重症・耳介軟骨下眼瞼の静的再建術低侵襲な術式の施行移植材料と伴う(架橋型/衝立型)(KS法,LTS法)術式の施行・骨膜・側頭筋・筋膜症状改善症状の残存症状改善症状の残存(下眼瞼:Anderson手術)ありなし下眼瞼下垂の残存保存的治療移植材料を伴う保存的治療下眼瞼の再建術眉毛部・上眼瞼部に対する静的再建術図4陳旧例における麻痺性兎眼に対する治療アルゴリズム(下眼瞼部)整容面と機能面の双方を考えた治療を検討する.KS法:Kuhnt-Szymanowski法,LTS法:lateraltarsalstrip法.(文献13より作成)眉毛の用手的な持ち上げで眉毛下垂に伴う皮膚弛緩を評価ありなし(眉毛挙上術の施行)皮膚弛緩によるありなしありなし眼瞼下垂眉毛挙上術眉毛挙上術のみ上眼瞼再建のみ下眼瞼再建のみ+(LevatorL法)上眼瞼再建上眼瞼を下げる(LevatorL法)必要性図5陳旧例における麻痺性兎眼に対する治療アルゴリズム(眉毛部・上眼瞼部)下眼瞼部の再建後に眉毛や上眼瞼への手術が必要かを用手的に眼瞼部を持ち上げて評価する.眉毛下垂による上眼瞼の皮膚弛緩の程度や弛緩皮膚の裏に隠れた上眼瞼縁の位置に特に留意する.LevatorL法:levatorLengthening法.(文献13より作成)図6右前頭筋麻痺に伴う眉毛下垂例67歳,男性.Ca:術前所見.b:手術時デザイン.下垂の程度に応じ,7.10Cmmの眉毛上の皮膚切除を施行する.Cc:術中所見.下垂の再発予防を踏まえ,前頭筋のCtuckingを行うこともある().眼輪筋上縁の吊り上げは弛緩した上眼瞼皮膚の矯正に有効で,ほぼ全例に施行している().d:手術終了時所見.e:術後C9カ月.瘢痕も目立たず良好な形態・位置が保たれている.図7Anchoringsutureによる眉毛挙上術17歳,女性.左完全麻痺例.Ca:術前所見.b:手術時デザイン.眉毛下と前頭部生え際に小切開をデザインする.c:手術終了時所見(はCanchoringsutureでの牽引部).3Mテープによる吊り上げ施行後,静止時.下眼瞼の吊り上げで下垂が改善され,眉毛部の吊り上げで視野が確保されている.Cd:術後C10カ月.瘢痕も目立たず良好な形態となっている.Ce:眉毛上の小切開による修正例.固定部のCdimple形成を認める().(一部文献C13より作成)bc挙筋腱膜瞼板AB図8Levatorlengthening法の手術方法a:挙筋腱膜およびCMuller筋をその全幅にわたって切断し,頭側に.離挙上.Cb:麻痺側と同側の耳甲介腔から軟骨(5.7CmmC×20mm)を採取.Cc:手術シェーマ(正面).瞼板上縁と切断した挙筋腱膜およびCMuller筋の間に筋膜または耳介軟骨()を移植する.Cd:筋膜を使用する原法では,移植筋膜の縦幅を術前の瞳孔上縁と上眼瞼縁との距離の左右差のC2倍として延長を行った10).e:手術シェーマ(縦断面).耳介軟骨()を使用した場合には,瞼板上端縁に移植軟骨端を合わせて縫着し,瞼板を押し下げる()ようにする場合もある.(文献C10,11より作成)d図9下眼瞼に対する代表的な静的再建術と移植材料a:KS法の術式シェーマ.瞼縁のくさび状切除による水平方向の短縮と下眼瞼皮膚の吊り上げ固定を行う(は瞼板,は骨膜固定)26).Cb:LTS法の術中所見(はCstrip部).c,d:移植材料として頻用する四つ折として大腿筋膜とCL型に採取した耳介軟骨27).e:U字型筋膜移植による下眼瞼修正.眉毛部骨膜に固定を行う.KS法:Kuhnt-Szymanowski法.LTS法:lateraltarsalstrip法.(文献C26,27より作成)図10陳旧性左完全麻痺例に対する眼瞼周囲再建例(眉毛上皮膚切除による眉毛挙上術+下眼瞼部へのKS法,U字型筋膜移植術)69歳,男性.Ca,b:術前所見.Ca:静止時.Cb:閉瞼時.眉毛下垂に伴う視野障害と乾燥性角結膜炎による疼痛を認める.Cc,d:術後1年2カ月.Cc:静止時.Cd:閉瞼時.視野障害は改善し,整容面でも高い満足度を得ている.閉瞼時に結膜の露出を認めるが,点眼薬の併用にて乾燥性角結膜炎症状は軽快している.移植材料を用いた吊り上げ術を検討し,内眼角靱帯と外眼角部頭側の眼窩骨膜の間に筋膜または軟骨を架橋して移植する手法(吊り橋型)が一般的に広く用いられている.筋膜による吊り上げのほうが簡便で行いやすいが,筋膜が伸張して経時的な緩みを生じるため12),二.四つ折りとして移植するようにしている(図9c~e)29).内側部にも下垂を認める場合には,内側の固定位置を眉毛下とより頭側に求め,U字状に筋膜を移植することで,下眼瞼全体によりしっかりとした吊り上げ効果が得られている(図9e).閉瞼時に結膜露出が残存する状況に留まる場合もしばしば経験するが,下垂と外反の矯正がしっかりと行えている場合には,点眼薬や眼軟膏などの併用で乾燥性角結膜炎のコントロールを長期にわたって行える場合も多い(図10).耳介軟骨はより強い矯正力を有するが,吊り橋型では長期経過でその形態が顕著になったり触知したりする傾向にある.そのため,重度例については下眼窩縁と瞼板の間に耳介軟骨を立てて移植する衝立型の軟骨移植を取り入れており12),筋膜移植との併用で軟骨形態の顕在化を予防することも行っている(図9c,d).また,Ander-sonの側頭筋膜弁移植は眼瞼部に対する動的再建術にはなるものの14),下眼瞼への効果についてはCviabletissueの移行であることや上外側からの吊り上げが可能といった特性から,非常に有用な静的再建術ということもできると考えている.まとめ顔面神経麻痺によって生じる麻痺性兎眼に対する静的再建術についてまとめ,報告を行った.発症時期や形態,重症度,自然回復など,個々の患者の状態をしっかり評価することがまず重要で,さまざまな要素を加味しながら適切な術式選択を行っていく.また,それぞれの術式には特性があり,施行法によりその効果も異なってくるため,全体的なバランスも踏まえた系統的な手術治療を検討していく必要があると考えられた.文献1)BaheerathanN,EthunandanM,IlankovanV:GoldweightimplantsCinCtheCmanagementCofCparalyticClagophthalmos.CIntJOralMaxillofacSurg38:632-636,C20092)HarrisbergCBP,CSinghCRP,CCroxsonCGRCetal:Long-termCoutcomeCofCgoldCeyelidCweightsCinCpatientsCwithCfacialCnervepalsy.Otolneurotol22:397-400,C20013)KeenMS,BurgoyneJD,KaySL:SurgicalmanagementoftheCparalyzedCeyelid.CEarCNoseCThroatCJC72:692,C659-701,C19934)KelleyCSA,CSharpeDT:GoldCeyelidCweightsCinCpatientsCwithCfacialpalsy:aCpatientCreview.CPlastCReconstrCSurgC89:436-440,C19925)SmellieGD:RestorationCofCtheCblinkingCre.exCinCfacialCpalsybyasimplelid-loadoperation.BrJPlastSurgC19:C279-283,C19666)HenstromCDK,CLindsayCRW,CCheneyCMLCetal:SurgicalCtreatmentCofCtheCperiocularCcomplexCandCimprovementCofCqualityoflifeinpatientswithfacialparalysis.ArchfacialPlastSurgC13:125-128,C20117)SonmezA,OzturkN,Durmu.Netal:Patients’perspec-tivesontheocularsymptomsoffacialparalysisaftergoldweightCimplantation.CJCplastCReconstrCAesthetCSurgC61:C1065-1068,C20088)RofaghaS,Sei.SR:Long-termresultsfortheuseofgoldeyelidloadweightsinthemanagementoffacialparalysis.PlastReconstrSurgC125:142-149,C20109)林礼人,小室裕造,宮本英子ほか:Levatorlengthening法による顔面神経麻痺性兎眼の治療.FacialNervRes30:C100-102,C201010)Guillou-JamardCMR,CLabbeCD,CBardotCJCetal:PaulCTessi-er’stechniqueinthetreatmentofparalyticlagophthalmosbyClengtheningCofCtheClevatormuscle:evaluationCofC29Ccases.AnnPlastSurgC67:S31-S35,C201111)林礼人,名取悠平,吉澤秀和ほか:麻痺性兎眼に対する軟骨移植によるClevatorlengthening法.形成外科57:489-496,C201412)阪場貴夫,上田和毅,梶川明義ほか:麻痺性下眼瞼変形の治療.FacialNervResC30:111-113,C201013)林礼人,吉澤秀和:顔面神経麻痺に対する静的再建術の治療アルゴリズム.日頭顎顔会誌34:1-8,C201814)多久嶋亮彦,波利井清紀:顔面神経麻痺における眼瞼再建.CPEPARSC43:57-63,C201015)林礼人,名取悠平,吉澤秀和ほか:麻痺性兎眼に対する軟骨移植によるClevatorlengthening法.形成外科57:489-496,C201416)松田健:麻痺性兎眼に対するClateralCorbitalCperiosteal.ap法.形成外科57:481-487,C201417)上田和毅:顔面神経麻痺・痙攣C1前頭部(眉毛下垂)→[眉毛挙上].形成外科58:S76-S82,C201518)田中一郎:顔面神経麻痺による眉毛下垂に対する整容的改善治療.FacialNervResC30:1-3,C201019)UedaCK,CHariiCK,CYamadaCACetal:ACcomparisonCofCtem-poralCmuscleCtransferCandClidCloadingCinCtheCtreatmentCofCparalyticClagophthalmos.CScandCJCPlastCReconstrCSurgC(69)あたらしい眼科Vol.41,No.10,2024C1217

下眼瞼外反の3術式

2024年10月31日 木曜日

下眼瞼外反の3術式LowerEyelidEctropion─ThreeSurgicalTechniques小久保健一*大井皓介*藤原文麗*はじめに下眼瞼外反症は瞼板が外側に向いてしまう眼瞼の位置異常である.眼瞼が眼表面から離れてしまうことで,眼表面および眼瞼結膜が露出し,炎症,疼痛,羞明,異物感,流涙,視力低下などをきたす.外反症は先天性,機械性,瘢痕性,退行性,麻痺性に分類され,なかでも退行性,麻痺性は比較的多く,外来でみられる疾患である.退行性外反症は水平方向と垂直方向の緩みによって起こると考えられており,通常,手術による治療が基本となる.筆者は外側方向に下眼瞼を牽引し(lateraldistractiontest),下眼瞼が眼球に密着すればlateraltarsalstrip(LTS)1)やpentagonalexcision法(瞼板五角形全層切除),Kuhnt-SzymanowskiSmith変法などを考慮する.LTSと瞼板五角形全層切除は通常どちらを使用してもよいと考えるが,内眼角靱帯や外眼角靱帯が緩い場合には,瞼板五角形全層切除を用いると瞼裂横径が小さくなるため,LTSを用いる.Kuhnt-SzymanowskiSmith変法は皮弁を挙上する必要があるため,余剰皮膚が顕著な場合に用いる.外側に牽引しても下眼瞼内側の外反が残存する場合には眼瞼下制筋群(lowereyelidretractors:LER)の瞼板裏固定2)やLazy-T3)を考慮する.外側に牽引しても下眼瞼全体が外反している場合には,耳介軟骨移植や筋膜移植を考慮する.本稿では,LTSとpentagonalexcision法およびLER瞼板裏固定術について解説する.ILateraltarsalstrip(LTS)LTSは最初に覚えておきたい術式であり,退行性でも麻痺性でも使用可能である.水平方向の弛緩に対して用いられ,下眼瞼外反はもちろん,下眼瞼内反や眼瞼腫瘍切除に使用できる汎用性の高い術式である.1.デザイン右下眼瞼外側1/3の睫毛下に皮膚切開のデザインを置く.そして外側の瞼板を露出させるために取り除く皮膚の範囲もデザインしておく(図1a).2.Tarsalstripの作製局所麻酔2.5ccを注入後に外眼角で瞼板の下脚を切離し,外側から7mm程度皮膚と結膜・瞼縁を除去する.さらに下脚からLERもはずす(図1b).3.骨膜固定作製したstripを眼窩内側の骨膜に5-0ナイロン糸を用いて縫合する(図1c).4.皮膚縫合6-0ナイロン糸を用いて皮膚を縫合する.外眼角の上脚の瞼縁を切除し6-0バイクリル糸を用いて下脚と縫合することで新たな外眼角を形成しておく(図1d).*KenichiKokubo,KousukeOi&BunreiFujiwara:横浜市立大学附属市民総合医療センター形成外科〔別刷請求先〕小久保健一:〒神奈川県横浜市南区浦舟町4-57横浜市立大学附属市民総合医療センター形成外科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(57)1205図1Lateraltarsalstripa:デザイン.b:Tarsalstripの作製.c:Tarsalstripを骨膜に固定.d:術直後.e:術前.外側のみ外反.f:術後6カ月.図2Pentagonalexcisiona:デザイン.b:全層切除.c:全層切除後.d:縫合直後.e:術前.f:術後6カ月.図3LER瞼板裏固定術a:デザイン.b:結膜側切除デザイン.c:結膜紡錘状切除.d:結膜と瞼板の間を剥離.e:LERを瞼板の裏に固定.f:五角形全層切除.g:皮膚縫合.h:術前.i:術後6カ月.

下眼瞼睫毛内反症の手術

2024年10月31日 木曜日

下眼瞼睫毛内反症の手術OptimalTreatmentsforEpiblepharon尾山徳秀*はじめに本稿では若年者に多い下眼瞼の睫毛内反症に対する手術方法を説明する.顔は千差万別であり,中顔面の作りや眼周囲の形も異なる.つまり,同じような睫毛内反症にみえても患者によって内反症の状態は必ず異なるはずである.そのような状態であるのに画一的な方法で手術に臨めば再発することは容易に想像できる.今回は,以前から若年者に多い睫毛内反症に対しては皮膚切開法(いわゆるHotz変法)が行われているが1.4),それ以外の方法および再発しやすい症例を提示し,そのような患者に対しての手術アプローチを解説する.I術前検査のポイント下眼瞼睫毛内反症の病因は,下直筋から連続する眼瞼下制筋群(lowereyelidretractors:LERs)の前層の皮膚穿通枝が未発達もしくは欠損しているため睫毛が外反しないことである(図1).さらに,皮膚および眼輪筋(眼瞼前葉)が上方へ乗り上げることで睫毛を圧排し病態を悪化させる.この病因を理解すれば,通常の睫毛内反は一般的に行われているいわゆるHotz変法で治癒すると思われる.診察時は正面視で軽度の睫毛内反であっても,人間は1日で数千回の視線移動があるため,正面視だけでなく,とくに下方視での睫毛と角膜の接触具合を診る必要がある.下方視で睫毛接触を高度に認める場合は手術適応を検討する(図2).また,内眼角贅皮(epicanthalfold)の発達した患者(図3)や下眼瞼後退がある患者(図4)にHotz変法のみで対処すると再発率が高くなるので注意が必要である.内眼角贅皮の発達した患者は,用手的な上眼瞼挙上により下眼瞼の動きを診察する(rolluptest).上眼瞼とともに下眼瞼がつられて挙上し,睫毛が眼瞼前葉の皮膚や眼輪筋に押され,睫毛内反が高度に悪化すれば陽性である(図5).このような患者は,日常生活時に大きく開瞼する,上目遣いをするなどで頭側に下眼瞼前葉が挙上されるため,Hotz変法のみでは再発しやすくなる.このテストを施行することで,上眼瞼と下眼瞼の皮膚および皮下の連絡を見きわめ,再発を少なくするための内眥形成術が必要かどうかを判断する参考になる.下眼瞼後退のある患者では,眼瞼後葉が過剰に後退していることにより,眼瞼前葉の乗り上げがさらに過剰になり睫毛内反の程度が高度になる.この場合もHotz変法だけで処理すると,内反症の低矯正もしくは再発の原因となる.また,術後6カ月程度では再発しないことも多く,治癒したと思っても2年程度経過をみないと再発することがあり注意が必要である.II基本の手術通糸法と切開法(Hotz変法のみ)の術後再発率は,通糸法は約30%,切開法は約9%と切開法が少ない.最近のランダム化比較試験でも切開法(Hotz変法と後述の追加手術を併用)は有意に再発率が低い1.4).ここでは,基本の手術として再発率の少ない切開法(Hotz変*TokuhideOyama:うおぬま眼科,長岡赤十字病院眼科,新潟大学医歯学総合病院眼科〔別刷請求先〕尾山徳秀:〒946-0001新潟県魚沼市日渡新田字ヒワタリ84-1うおぬま眼科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(47)1195ab眼瞼下制筋群の後層瞼板Lookwood靭帯睫毛眼瞼下制筋群の前層下斜筋下直筋眼輪筋図1下眼瞼の解剖と下眼瞼睫毛内反症の病態模式図a:下眼瞼の解剖模式図.眼瞼下制筋群(lowereyelidretractors:LERs)の前層が瞼板前方を走行し,皮膚穿通枝により睫毛を外反させている(文献11より引用).b:下眼瞼睫毛内反症の病態模式図.LERsの前層から連続する皮膚穿通枝が,正常と比較すると未発達もしくは欠損している.また,余剰皮膚の存在や瞼板前眼輪筋の乗り上げも,下眼瞼睫毛内反症を悪化させる要因と考えられている().図2睫毛内反症の症例a:正面視の状態.軽度の睫毛内反症と診断されていたが,角膜障害が高度であった.b:下方視の状態.睫毛が高度に角膜に接触している.これが原因であった.図3内眼角贅皮(epicanthalfold)の発達した症例内眼角贅皮が発達し,下眼瞼前葉が睫毛を眼球に押し付けているように見える.図4下眼瞼後退が顕著な症例a:下眼瞼後退も併発し,下方結膜が露出している.b:下眼瞼前葉は用手的に上方に持ち上がり,瘢痕によるものではないことを確認する.図5上下眼瞼の動きとrolluptesta:内眼角贅皮が発達した睫毛内反症の通常時.b:上眼瞼を引き上げると,下眼瞼前葉がつられて挙上する(:rolluptest陽性).c:この上下の連絡()を絶つような手術手技を選択する.図6基本的なHotz変法a:睫毛列から2mm程度のところに睫毛下切開ラインを引く.b:睫毛下切開から眼輪筋間を切開し,瞼板下縁に到達する.c:瞼板下縁と睫毛側眼瞼皮下を7-0モノフィラメント糸で縫合する.d:余剰した眼瞼前葉組織を切除する.e:皮膚を7-0モノフィラメント糸で縫合して終了である.(文献11より引用)図7他院術後のlowereyelidcrease(下眼瞼しわ)の発生術後1年経過しているが,両下眼瞼のlowereyelidcreaseが目立つ.図8Lidmarginsplitting法a:Hotz変法を行っても内反矯正が不十分な患者は,graylineを11番メスなど先が鋭利なもので切開する.b:瞼縁は切離した状態のまま皮膚縫合して終了である.瞼縁の切開部は数週間で目立たなくなる.(文献11より引用)~図9LERsの瞼板および結膜からの切離LERsを瞼板下縁および結膜から7.8mm程度.離する.鼻側および耳側のLERsを垂直方向にも切開を加えるとLERsの牽引が弱くなる.図10Turn-overseptum.ap法によるLERs延長術を加えたHotz変法a:睫毛下切開から眼輪筋を.離し,瞼板と眼窩隔膜表面を露出する.Cb:LERsを瞼板下縁および結膜から.離する.c:LERsの伸展したい量より多めに眼窩隔膜の切離幅(眼瞼後退量のC2倍+2Cmm程度)を決める.Cd:横方向に眼窩隔膜を切開すると眼窩脂肪が見える.Ce:翻転した眼窩隔膜を鑷子で把持している.Cf:翻転した眼窩隔膜と瞼板下縁および睫毛側皮下をC7-0モノフィラメント糸で埋没縫合する.Cg:縫合終了した状態.これをC4針程度行う.(文献C11より引用)図11結膜自体の伸展が悪い症例LERsを瞼板下縁および結膜から切離したのちに,結膜横切開を加えてさらに減張している.(文献C11より引用)図12Z形成術のデザインa:内眼角贅皮を正中に引っ張り,涙丘鼻側にあたる位置にマーカーを置く.Cb:皮膚を戻し固定しておいたマーカーで付けた内眼角贅皮表側の点をCA点とする.Cc:A点から,上眼瞼の重瞼ラインもしくは開瞼した際の瞼縁に沿ってラインを延ばしてCB点とする.Cd:内眼角贅皮の最尾側下端をCC点として,緩やかなカーブをつけてCA点とつなぐ(点線).e:B点から内眼角贅皮裏側の点をCD点とする.f:睫毛下の皮膚切除も同時に行う場合は,切除幅が含まれるようにデザインする.g:A-C-Dで形成された皮弁の頂点CCをCB点に移動させる.Hotz変法と組み合わせることで睫毛内反と内眼角贅皮が解消される.(文献C11より引用)図13内眼角贅皮の上下の連絡を絶つ重要な操作内眼角贅皮下のCsubcutaneousC.brousband()を切離し,さらに眼輪筋を内眥腱直上まで.離し,必要に応じて眼輪筋も切離する.(文献C11より引用)図14Redraping法を加えたHotz変法を施行した症例a:術前.内眼角贅皮が発達し,下眼瞼前葉により睫毛が眼球に押されている.b:術後.内眼角贅皮による圧排は解除され,眼瞼前葉の乗り上げはなく,術前と比較し顔貌の変化は少ない.abAcd図15Redraping法を加えたHotz変法の模式図a:作成する内眼角(涙丘鼻側にあたる位置)をCA点とする.内眼角贅皮に水平に伸ばした辺縁をCB点とする.Cb:皮膚を伸ばして,涙湖の鼻側C2mmの位置をCC点とする.Cc:A-B-Cを結んだ線とCHotz変法を行うための下眼瞼皮膚切開線をつなげて,皮膚切開する.不要な前葉切除(黄緑部)を行う.赤い点線部の皮下と眼輪筋を.離し,subcutaneousC.brousCbandの切離および眼輪筋の処理を行う.d:Hotz変法を行い,デザインのCA点とCC点を埋没縫合し,最後に睫毛下切開部も縫合して終了である.内眼角贅皮は解除されている.図16Redraping法を加えたHotz変法a:A-B-Cを結んだ点(図C15参照)を皮膚切開し,Hotz変法を行うための下眼瞼皮膚切開を行う.Cb:皮下および眼輪筋を.離し,subcutaneous.brousbandの切離や眼輪筋の処理を行う.Cc:Hotz変法を行い,不要な前葉切除を行う.Cd:デザインのCA点とCC点を埋没縫合する.Ce:下眼瞼皮膚切開部も縫合して終了である.(文献C11より引用)図17Hotz変法に代わる睫毛内反症手術法a:皮膚切開後,瞼板下縁および結膜からCLERsを切離する(:瞼板,:LERs,:結膜)Cb:切離したCLERsの先端部を睫毛側眼輪筋に縫合する(:縫合部).c:両下眼瞼の睫毛内反症術前の顔貌.d:術後半年の顔貌.■用語解説■dogear:皮膚縫合部で生じる余剰皮膚が盛り上がった状態をさし,その形状が犬の耳に似ていることから名付けられた.原因は①皮膚の切除や縫合の際の形状とサイズの不均衡,②皮膚の弾力性や張力の違いにより,縫合部に不均一な張力が生じることである.–

退行性下眼瞼内反症

2024年10月31日 木曜日

退行性下眼瞼内反症InvolutionalLowerEyelidEntropion高橋靖弘*はじめに退行性下眼瞼内反症は,退行性変化により下眼瞼縁が後方に回転することで睫毛が眼表面に接触する疾患である(図1a)1).通常は睫毛の向きは正常である.退行性下眼瞼内反症は退行性変化を呈する高齢者に多く,60歳以上の患者のC2.1%にみられる1).睫毛の眼表面への接触により眼異物感,充血,眼脂,流涙などの症状を引き起こすが,下眼瞼睫毛内反症と比較すると眼表面の傷害は軽微であり,重度の角膜障害を引き起こすような患者はほとんどいない2).退行性下眼瞼内反症の原因として,下眼瞼垂直方向の弛緩〔下眼瞼下制筋群(lowerCeyelidretractors:LER)の弛緩〕,下眼瞼水平方向の弛緩(内・外眥支持組織および瞼板の弛緩),上眼瞼圧,隔膜前部眼輪筋の瞼板前部眼輪筋への乗り上げ,眼球陥凹,短眼軸,および眼窩下方の脂肪の前方突出が考えられている1).このうちLERの弛緩が主たる発症原因であり,これに加え水平方向の弛緩および隔膜前部眼輪筋の乗り上げが手術矯正の対象となる1).CI術前評価術前には,下眼瞼垂直・水平方向の弛緩の有無を確認する.垂直方向に関しては,下眼瞼を眼窩下縁のレベルまで下方に牽引し,下眼瞼結膜.に脂肪突出が確認できれば下眼瞼垂直方向の弛緩があると判断できる1).また,下方視時から上方視時にかけての下眼瞼の移動域(lowerCeyelidexcursion)は正常では5mm程度であるが,LERが弛緩すると2.3Cmm程度にまで低下する1).水平方向の弛緩の有無はCpinchCtest,ClateralCdistrac-tiontestおよびCmedialCdistractiontestを用いて確認できる1).Pinchtestにおいては下眼瞼を前方に牽引し,瞼縁が眼球からC8Cmm以上離れた場合に下眼瞼水平方向に弛緩があると判定する1).Distractiontestにおいては,下眼瞼を外側(lateral)または内側(medial)に牽引し,涙点が半月ひだと角膜内側輪部の中点を通る垂線,または涙丘の中点を通る垂線を越えて外側または内側にシフトした場合に,それぞれ内眥または外眥に弛緩があると判定される1).退行性下眼瞼内反症は,下眼瞼を下方に牽引するとつぎの瞬目まで一過性に改善する.つぎの瞬目を待たずに内反状態に戻る場合は,下眼瞼に瘢痕性変化が混在している可能性があり,内反症の矯正に瘢痕の修正も必要となる場合がある.CII退行性下眼瞼内反症に対する手術前述のとおり,退行性下眼瞼内反症の主たる原因はLERの弛緩である.LERは前層と後層のC2層構造を有し,後層に含まれる平滑筋線維が下眼瞼を後下方に牽引する動力源である1).したがって,退行性下眼瞼内反症治療の主眼はCLER後層を前転し緊張を与えることである.これに加え,下眼瞼水平方向の弛緩の矯正と隔膜前*YasuhiroTakahashi:愛知医科大学病院眼形成・眼窩・涙道外科〔別刷請求先〕高橋靖弘:〒480-1195愛知県長久手市岩作雁又C1-1愛知医科大学病院眼形成・眼窩・涙道外科C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(41)C1189図1退行性下眼瞼内反症と下眼瞼下制筋群(LER)前転術a:顔写真.右下眼瞼退行性内反症を認める.Cb:マーキング.Cc:眼輪筋を分けて.離後に眼窩隔膜,LER,瞼板を露出.Cd:LERを結膜から.離.Ce:眼窩隔膜を切開しCLER前層を露出.Cf:LERに通糸する際に後層に通糸されていることを確認.g:LER,瞼板下縁,眼輪筋,皮下に通糸.図2Transcanthalcanthopexya:マーキング.縦線は眼窩外側縁の前面内縁に相当する.b:外側眼瞼交連の穴から通糸.Cc:骨膜にも通糸.d:閉創.-図3Lateralwedgeresection法a:マーキング.縦線は眼窩外側縁の前面内縁に相当.b:Lateralcantholysis後,下眼瞼の外眥部が自由に動くことを確認.Cc:外眥部を外側に牽引し下眼瞼の余剰分を測定:破線は切開予定部.Cd:下眼瞼の全層切開後.e:瞼板の断端を眼窩外側縁に固定.f:閉創.’–

上眼瞼皮膚弛緩の治療

2024年10月31日 木曜日

上眼瞼皮膚弛緩の治療OptimalTreatmentforDermatochalasis奥村仁*はじめに上眼瞼皮膚弛緩の治療は,瞼縁より垂れ下がった皮膚の切除により視野を改善し,開瞼時の重たさを取り除く目的で行われるが,形態変化を伴うために整容面にも留意する必要がある.上眼瞼皮膚弛緩で受診する中高年の患者では,眼瞼下垂を合併したり,眉毛位置が前頭筋の作用で挙上していたり,逆に皺眉筋や眼輪筋の作用で下降していたりとさまざまな症状を呈する.そのため,上眼瞼だけでなく,上顔面(上眼瞼.眉毛.額)を診察し,必要な術式を選択し,ときには複数の術式を組み合わせて治療を行う.本稿では,上眼瞼皮膚弛緩に対する筆者の術式選択方法と,手術の詳細について紹介する.I術式選択手順フローチャートに沿って術式選択を行う(図1).瞼縁が瞳孔を隠す中等症以上の眼瞼下垂合併患者では,挙筋腱膜や挙筋群の前転術を先に行う.眼瞼下垂手術時に重瞼部皮膚切除を同時に行うこともできるが,上瞼縁角膜反射間距離(marginre.exdistance-1:MRD-1)の低下だけでなく挙筋能も悪い患者では目標位置まで下垂が改善しない可能性もあるため,術前に皮膚切除量を正確に決められない.筆者は軽症例を除き二期的に手術術式を検討する方針としている.眉毛下縁位置が眼窩上縁よりも低い患者では,眉毛上皮膚切除や前額部リフトを行い眉毛.上眼瞼を挙上する.術後,眉毛位置が正常に改善してから上眼瞼皮膚弛緩の程度を診察し,治療方針を検討する.上眼瞼皮膚弛緩の術式選択には,ブジーを用いたシミュレーションを行う.正面視の瞳孔の垂線周辺にブジーを当てて開瞼位にし,鏡で患者に確認してもらいながら重瞼をシミュレーションする.①重瞼の形(末広型・平行型など),②見かけの二重幅(pretarsalshow),③重瞼の厚み,④眉毛位置の変化などに注意して確認を行う.シミュレーションの重瞼が気に入った患者で,ブジーの位置が瞼板の高さよりも低い場合は皮膚切除しない重瞼術を行う.ブジーの位置が瞼板の高さよりも高い場合は重瞼部皮膚切除を併用した重瞼術を行う.シミュレーションをした重瞼が気に入らない患者で「一重を二重にしたくない」「昔の二重のままでいたい」など重瞼形成が不要な場合は眉毛下皮膚切除を行う.「一重を二重にしたい」「睫毛内反」「重瞼に左右差がある」など重瞼形成を要する患者では,不自然にならない比較的低位置での重瞼形成と眉毛下皮膚切除を段階的に行う.II重瞼部皮膚切除1.手術適応上眼瞼の皮膚・皮下脂肪は睫毛付近では薄く,眉毛に近づくにつれて徐々に厚くなる.皮膚切除量が多いと厚い皮膚・皮下脂肪や深層の隔膜前脂肪,眼窩内脂肪によ*HitoshiOkumura:銀座ファインケアクリニック,井上眼科病院〔別刷請求先〕奥村仁:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(33)1181図1上眼瞼皮膚弛緩の術式選択のフローチャート⑦⑥⑤④①②③図3実際の重瞼部皮膚切除デザイン図2重瞼部皮膚切除デザイン①内嘴と瞳孔中心の中点.②瞳孔中心.③瞳孔中心と外嘴の中点.④外嘴.⑤内嘴付近.この部位の高さは重瞼の形(末広型や平行型)に影響する.⑥皮膚弛緩最外側位置.C⑦×は理想の重瞼幅の折れ返る位置.図4重瞼形成断面図①:瞼板-挙筋腱膜後層-眼輪筋-眼輪筋上筋膜縫合.②:挙筋腱膜-眼窩脂肪縫合.③:皮膚-眼窩隔膜(挙筋腱膜浅層)-皮膚縫合.図5重瞼部皮膚切除症例(70代,女性)a:術前.b:術後C6カ月.BBBB⑥⑤⑦③④①②図6眉毛下皮膚切除デザイン図7実際の眉毛下皮膚切除のデザイン①CA:眉毛直下.②CA:眉毛内にC1.2Cmm入った位置.③CA,④CA:②CAの高さ+0.3Cmm(眉毛内に入る).①B.④B:座位閉瞼時の基準線から①A.④CAの計測距離と同じ高さの点を座位眉毛挙上閉瞼時に尾側切開位置としてプロットした点.⑤眉頭近辺.⑥皮膚弛緩最外側位置.⑦基準線(瞼縁.外嘴から水平方向に伸びる皺).図8眉毛下皮膚・皮下組織切除後皮膚・皮下脂肪切除後,眼輪筋・ROOFの切除,皺眉筋の部分切除・離断をした後の状態.③④①②図9眉毛下皮膚切除時の皺眉筋切断やROOF切除①眼輪筋.②CROOF隔膜前部から眉尻近くの眼窩上外側の切除症例が多い.③皺眉筋浅層のCobliquehead.④皺眉筋深層のCtranseversehead.C図10眉毛下皮膚切除症例(60代,女性)a:術前.b:術後C6カ月.