考える手術.監修松井良諭・奥村直毅プリザーフロマイクロシャントの手術テクニック三浦悠作高知大学医学部眼科学講座プリザーフロマイクロシャント(PMS)は2022年にわが国で保険収載された濾過手術のドレナージデバイスである.強膜トンネルを介して前房内にチューブの先端を留置することで,結膜下に房水を濾過する仕組みとなっている.PMS手術は結膜切開・強膜露出をしたうえでマイトマイシンCを塗布し,房水を結膜下へ濾過することで濾過胞を形成するもので,コンセプトは線維柱帯切除術(TLE)と同様であるが,TLEと比較すると次のような特長がある.術中の強膜弁の作製・縫合や術後のレーザー切糸が不要なため,術後の惹起乱視が少なく,されるため,濾過胞がより円蓋部側に形成されることが多く,角膜輪部からの房水漏出をきたしにくく,術後の開放隅角緑内障の患者におけるPMSとTLEの前向きランダム化比較試験では,TLEに比べてPMSでは有意に低眼圧の発生頻度が低く,また術後早期の処置の頻度も低かった.一方で,術後1年での手術成功率は有意にPMSが低かった.総じて,PMSはTLEより眼圧下降効果が劣るものの,より低侵襲な濾過手術であり,minimallyinvasiveblebsurgery(MIBS)と称されることもある.聞き手:「プリザーフロマイクロシャント緑内障ドレ聞き手:TLEとの違いはどのような点でしょうか.ナージシステム」(参天製薬)はどのような手術ですか.三浦:術中の強膜弁の作製・縫合や術後のレーザー切糸三浦:プリザーフロマイクロシャント(Preser.oが不要なため,術後の惹起乱視が少なく,手技が簡便でMicroShunt:PMS)手術は,結膜切開・強膜露出をし手術時間が短いことがあげられます.また,強膜切開がたうえでマイトマイシンCCを塗布し,強膜トンネルをわずかなため,PMSを施行した象限への再手術(TLE介して前房内にチューブの先端を留置し,結膜下に房水やロングチューブシャント手術など)も可能です.さらを濾過する仕組みとなっていて,手術のコンセプトとしに,TLEでは強膜弁の後位端である角膜輪部から約ては線維柱帯切除術(trabeculotomy:TLE)と同様で3Cmmの位置で房水が濾過されますが,PMSではCPMSす.留置するデバイスであるCPMSは全長C8.5Cmm,外後端の角膜輪部から約C6Cmmの位置で房水が濾過され,径C350Cμm,内径C70Cμmの樹脂製のチューブです.濾過胞がより円蓋部側に形成されることが多く,角膜輪部付近の結膜からの房水漏出をきたしにくく,術後のコ(97)あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025C2310910-1810/25/\100/頁/JCOPY考える手術ンタクトレンズの装用も可能です.聞き手:PMS手術がよい適応となるのはどのような患者でしょうか?三浦:TLEでは術中の線維柱帯の切除後に急激な眼圧下降をきたすため,無硝子体眼や強度近視眼などでは脈絡膜出血を生じる可能性があります.PMSでは強膜トンネル作製時にわずかに眼圧下降をきたすのみであり,術中の脈絡膜出血の危険性が低く,無硝子体眼や強度近視眼などの場合はCPMSが好適と考えます.また,TLEでは術後に低眼圧の頻度が高く,ときに低眼圧黄斑症を発症したり,また強膜弁の作製や縫合に伴う術後の惹起乱視が起こりやすいため,術後に視力低下の自覚症状が出現することもまれではありません.そのため,術前視力が良好な眼ではCTLEの手術適応のハードルが高くなりやすいのですが,PMSではそれらの頻度が高くないため,医師側からは手術を勧めやすく,患者側は受け入れやすいと思います.さらに,TLEでは感染予防の点から術後にコンタクトレンズの使用が制限されますが,PMSでは使用が可能であり,術後にもコンタクトレンズ装用の希望がある患者にも好適です.聞き手:PMS手術では,どのようなことに注意するべきでしょうか.三浦:もっとも頻度が高く,注意すべき術後合併症は低眼圧です.低眼圧の多くは自然軽快しますが,浅前房や脈絡膜.離,低眼圧黄斑症をきたすこともあります.その場合は粘弾性物質の前房内注入などの処置が必要となりますが,それでも改善が得られない場合は,房水流出抵抗を増加させるためにCPMSの内腔にナイロン糸をステントとして留置する必要があります1).過去の報告では術後の低眼圧はC2.69%,自験例ではC65.2%で発症しており,比較的高頻度で低眼圧が発症することがわかっ図1プリザーフロマイクロシャント(PMS)の閉塞と露出の例a:硝子体によるCPMS先端の閉塞.Cb:PMSの露出.ていますので,術中の予防的なステント留置が有効と考えます.9-0またはC10-0ナイロン糸をステントとしてPMS内腔に留置することで,術直後からの低眼圧の予防することが可能です2).また,そのステントの断端を角膜輪部付近に固定しておくことで,術後の眼圧上昇時にステントを抜去して眼圧下降を得ることが可能となります.ナイロン糸の径やステント抜去のタイミングについては検討が必要ですが,過去の報告や自験例から,術中のステント留置は術後の低眼圧予防に有効な方法と考えます.聞き手:低眼圧以外の合併症としては何がありますか.三浦:角膜内皮障害にも注意が必要です.PMSの先端と角膜内皮の距離が短いほど角膜内皮障害が発生しやすいとの報告があるため,虹彩寄りにCPMSを留置する必要があります.さらに,まれではありますがCPMSの閉塞や露出も起こりえます(図1).PMSの内径はわずかC70Cμmであり,硝子体やフィブリン,出血塊などによりCPMSの内腔が閉塞し,眼圧上昇をきたす場合があります.また,Tenon.が薄い高齢者やぶどう膜炎続発緑内障の患者ではCPMSが結膜上に露出する場合もあります.PMSはCTLEに比べて低侵襲ではあるものの,このようなさまざまな術後合併症が起こりうるため,それらに対応できる知識や技術は必要です.聞き手:多様化する緑内障手術のなかでのCPMSの位置づけを教えてください.三浦:現時点では,侵襲度においてはCiStentや線維柱帯切開術などの低侵襲緑内障手術(minimallyinvasiveglaucomasurgery:MIGS),PMS,TLEの順に高く,眼圧下降効果はCTLE,PMS,MIGSの順に低く,PMSは,侵襲度,眼圧下降効果においてCMIGSとCTLEの中間に位置する術式と考えられます.今後,長期的なPMSの有効性や安全性が明らかになれば,この位置づけも変化していく可能性はあります.文献1)MiuraCY,CFukudaCK,CYamashiroK:AbCinternoCintralumi-nalstentinsertionforprolongedhypotonyafterPreserFlomicroshuntimplantation.CureusC16:e60221,C20242)MiuraCY,CFukudaCK,CYamashiroK:ComparisonCofCout-comeswithandwithoutintrastentplacementduringPMSsurgery.SciRepC15:2981,C2025232あたらしい眼科Vol.42,No.2,2025(98)