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硝子体手術のワンポイントアドバイス:243.硝子体手術後に再燃した中心性漿液性網脈絡膜症(初級編)

2023年8月31日 木曜日

243硝子体手術後に再燃した中心性漿液性網脈絡膜症(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに中心性漿液性網脈絡膜症(centralCserousCchorioreti-nopathy:CSC)は脈絡膜の循環障害により二次的に網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium:RPE)が障害され,漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SRD)をきたす疾患である.CSCはステロイドの使用のほかに,種々の内眼手術が誘因となる可能性が過去に指摘されている.C●症例提示61歳,男性.CSC既往眼である左眼に発症した特発性黄斑上膜に対して,経毛様体扁平部硝子体手術(parsCplanavitrectomy:PPV)を施行した.術前光干渉断層計(opticalCcoherencetomogaphy:OCT)でCRPEの不整を認め,矯正視力はC0.6であった(図1).白内障手術後に硝子体を切除し,ついで黄斑上膜を.離した.術翌日には矯正視力がC0.3に低下し,OCTでドーム状のSRDをきたしていた(図2a).フルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA)ではCRPE萎縮によるCwindowdefectに加えて漏出点をC2カ所認めた(図2b).PPVが誘因となって再発したCCSCと診断し,術1週間後に漏出点に対してレーザー光凝固を施行した.その後,SRDは徐々に消退し,矯正視力はC0.7に改善した(図3).C●硝子体手術後のCSCの増悪CSCは,ステロイドに加えて白内障手術,緑内障手術,PPVなどの内眼手術が誘因となる可能性が報告されている.PPVに関するものとして,黒田らは網膜.離および眼内レンズ亜脱臼に対してCPPVを施行後,早期にCCSCを発症したC2例を報告し,2例とも全身疾患のためステロイド内服中であり,ステロイドと手術侵襲の両者が発症に関与した可能性を述べている1).山崎らも黄斑上膜を合併したサルコイドーシスに対してCPPVとステロイドCTenon.下注射を施行し,翌日にCCSCを発症したC1例を報告している2).Imasawaらは糖尿病黄(91)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY図1術前の左眼OCT黄斑上膜に加えてCRPEの不整を認め,矯正視力はC0.6であった.Cab図2術翌日の左眼OCTとFAa:OCTでドーム状のCSRDをきたしていた.b:FAでは漏出点をC2カ所認めた.図3術2週間後の左眼OCT蛍光漏出点に対するレーザー光凝固後,SRDは徐々に消退した.斑浮腫に対してCPPVとトリアムシノロン硝子体内注射後にCCSCが発症したC1例を報告している3).一方,今回のようにCCSCの既往眼にCPPVが誘因となってCCSCが再発したとする報告として,Moreno-Lopezらは網膜.離に対するCPPV後の肥厚した内境界膜に対して再度PPVを施行したところ,CSCが増悪したC1例を報告している4).筆者らも過去に,黄斑上膜に対するCPPV後,晩期にCCSCが再燃したC1例を経験している5).以上のことから,CSCの既往眼にCPPVを施行する際には,術前にCFAを施行してCCSCの活動性を評価することに加えて,PPV後にCCSCが再燃する可能性を念頭におくことが重要と考えられる.文献1)黒田佳陽,吉田章子,三輪裕子ほか:硝子体手術後に中心性漿液性脈絡網膜症を発症したC2例.眼臨紀C9:766-771,C20162)山崎厚志,富長岳史,佐々木慎一ほか:黄斑上膜手術とトリアムシノロンCTenon.下注射が中心性漿液性脈絡網膜症を誘発したサルコイドーシスのC1例.眼臨紀C9:819-822,C20163)ImasawaCM,COhshiroCT,CGotohCTCetal:CentralCserousCchorioretinopathyCfollowingCvitrectomyCwithCintravitrealCtriamcinoloneacetonidefordiabeticmacularoedema.ActaOphthalmolScandC83:132-133,C20054)Moreno-LopezCM,CPerez-LopezCM,CCasas-LleraCPCetal:CPersistentsubretinal.uidduetocentralserouschorioreti-nopathyCafterCretinalCdetachmentCsurgery.CClinCOphthal-molC5:1465-1467,C20115)森下清太,河本良輔,福本雅格ほか:黄斑上膜を伴う中心性漿液性脈絡網膜症のC2例.眼臨紀10:905-909,C2017あたらしい眼科Vol.40,No.8,20231077

考える手術:20.網膜血管腫に対する硝子体手術

2023年8月31日 木曜日

考える手術⑳監修松井良諭・奥村直毅網膜血管腫に対する硝子体手術石川桂二郎九州大学大学院医学研究院眼科学硝子体手術が必要となるおもな網膜血管腫は,先天網膜過誤腫のvon-Hippel-Lindau(VHL)病と後天性の網膜血管増殖性腫瘍である.治療は,網膜光凝固,経強膜冷凍凝固,光線力学療法,抗血管内皮増殖因子療法が行われるが,黄斑上膜,硝子体出血,網膜.離などを合併する場合は硝子体手術が適応となる.網膜血管腫に対する硝子体手術の目的は以下①血管腫の退縮,②すでに形成された線維膜の除去による網膜牽引解除,③硝子体切除(硝子体出血がある場合は出血の除去),④網膜.離がある場合は網膜復位,⑤術後に生じる線維増殖に対成に十分注意する.網膜血管腫では眼内に線維増殖を促進する因子が高濃度で存在しているため,手術操作による網膜への過度の損傷は術後の増殖硝子体網膜症のリスクを高めるからである.③では血管腫から連続する硝子体を郭清し,後部硝子体.離を周辺まで広げて切除を行う.④では裂孔のない牽引性網膜.離に対しては,前述したように,不要な網膜損傷を避ける必要があるため,意図的裂孔作製による網膜下液排液の必要性は慎重に判断する.タンポナーデ物質は,空気,ガス,シリコーンオイルを術者の判断で選択する.⑤では線維増殖の足場となる後部硝子膜の除去,黄斑上膜予防のための内境界膜.離を行う.線維増殖による網膜.離や牽引が強い場合や術後の増殖リスクが高い場合は,輪状締結などバックリンク手術を併施する.網膜血管腫に対する手術は,通常の硝子体手術で行う手技の組み合わせであり,特殊な手技を要さない.ただし,血管腫は炎症性サイトカインや成長因子などを旺盛に分泌していることから,術後に線維性増殖が起きやすい環境であることに十分留意して,過剰な凝固や網膜損傷を避けた低侵襲な手術を行うことが肝要である.聞き手:硝子体手術の適応にならない網膜血管腫に対し聞き手:網膜光凝固の条件を教えてください.ては,どのような治療を行いますか?石川:緑または黄色のレーザー光を用いて,照射時間は石川:血管腫は小さいサイズの病変であれば,網膜光凝0.3~0.5秒,200~500mWで血管腫を直接凝固します.固療を行います.von-Hippel-Lindau(VHL)病では,一度の光凝固で完結させるのではなく,数週間で2回以直径1.5mm以下であれば網膜光凝固が有用であること上に分けて血管腫の状態を観察しながら行います.が報告されています.(89)あたらしい眼科Vol.40,No.8,202310750910-1810/23/\100/頁/JCOPY考える手術聞き手:血管腫が大きい場合はどのように治療しますか?石川:VHL病では4.5mmまでの大きさであれば,網膜光凝固を試す価値があるとされています.その際は,血管腫への直接凝固に加えて,流入血管に対して光凝固を行い,血管閉塞による血管腫退縮をめざします.網膜血管増殖性腫瘍も含めて,光凝固では制御が不十分な大型の血管腫に対しては経強膜冷凍凝固を行い,血管腫の頂点まで凝固を行います.光線力学療法の効果は限定的とされており,抗血管内皮増殖因子療法は滲出性変化には効果があったという報告がありますが,血管腫を退縮させる効果は乏しいようです.聞き手:硝子体手術を行う場合に,血管腫は切除しなくていいのですか?石川:ほとんどの患者において初回手術時に血管腫を切除する必要はないと思われます.初回の硝子体手術で眼内光凝固と経強膜冷凍凝固を行っても出血,滲出性変化が制御不能である場合に限って,血管腫の切除を考慮します.ただし,血管腫の切除は網膜切開など侵襲が大きくなりますので,術後の増殖硝子体網膜症への進展には術前十分注意する必要があります.血管腫の切除を行う際は,前房に移動させて強角膜創から摘出します.眼内レンズ挿入眼で,大型の血管腫を摘出する際は,後.切開窓を通しての血管腫の前房内移動は困難であるため,眼内レンズの摘出も考慮します.聞き手:バックリンク手術を単独で行う場合はありますか?石川:血管腫が周辺部に存在し,網膜への牽引が血管腫の周囲のみに限局している場合には網膜牽引の解除を目的にバックリンク手術を単独で適応することがあります.血管腫からの滲出を制御する目的で,術前や術後に光凝固を行い,術中には経強膜冷凍凝固を行います.聞き手:硝子体手術後の管理で注意する点はありますか?石川:滲出性変化の増悪に注意し,適宜網膜光凝固の追加を考慮します.また,術後に.胞様黄斑浮腫が出現することがありますので,点眼による消炎に加えて,必要であればトリアムシノロンアセトニドの局所注射を行います.術後図1von-Hippel-Lindau病の術前,術後写真術前術後図2網膜血管増殖性腫瘍の術前,術後写真1076あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023(90)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性へのラニビズマブBSの使用経験

2023年8月31日 木曜日

●連載◯134監修=安川力髙橋寛二114加齢黄斑変性へのラニビズマブBSの加藤亜紀名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学使用経験滲出型加齢黄斑変性の治療において,抗CVEGF薬の硝子体内注射は第一選択である.複数の抗CVEGF薬が承認されており選択肢が広がるなか,バイオ後発品(バイオシミラー:BS)も承認された.本稿では,わが国で最初に承認されたCBSであるラニビズマブCBSにて治療したポリープ状脈絡膜血管症の症例を紹介する.はじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegenera-tion:AMD)に対する治療は抗CVEGF薬の硝子体内注射が第一選択となっている.ラニビズマブは滲出型AMDに対して,現在使用されている抗CVEGF薬の中では,最初に有効性が示された薬剤である.その後アフリベルセプト,近年ブロルシズマブ,ファリシマブが相次いで承認され,選択の幅が広がっている(表1).しかし,抗CVEGF薬は複数回の投与を必要とすることが多く,高額な薬価が患者の負担になり,理想的な治療の継続が困難になることもある1).バイオ医薬品の後発品はバイオシミラー(biosimilar:BS)とよばれ,「国内で既に新有効成分含有医薬品として承認されたバイオテクノロジー応用医薬品(先行バイオ医薬品)と同等/同質の品質,安全性,有効性を有する医薬品として,異なる製造販売業者により開発される医薬品」と定義されている2).先発品と比較して薬価が低く設定されていることが多く,新規後発品の薬価は先発品のC50%,バイオシミラーについてはC70%と規定されている3).滲出型CAMD治療に用いられる抗CVEGF薬においても,2009年にわが国で承認されたラニビズマブのCBSが,2021年に『ラニビズマブCBS硝子体内注射用キットC10Cmg/ml「センジュ」』として各種非臨床試験および日本人の滲出型CAMD患者への第Ⅲ相試験を経て承認された4).本稿ではラニビズマブCBSを用いて治療したポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalCchoroidalCneovas-culopathy:PCV)の症例を提示する.症例患者はC74歳,男性.左眼の視力低下を自覚し受診.初診時左眼視力0.1(0.5×sph+1.50D(cyl.1.00DAx70°).傍中心窩の橙赤色病変に一致して光干渉断層計で網膜色素上皮の急峻な立ち上がりおよび網膜下液(subretinal.uid:SRF)を認め,蛍光眼底造影検査ではポリープ状病巣が描出されたことから,PCVと診断した(図1).患者が費用負担の少ない治療を希望し,か表1滲出型加齢黄斑変性に承認されている抗VEGF薬一覧(2023年7月現在)ラニビズマブアフリべルセプトブロルシズマブファリシマブ構造ヒト化マウス抗CVEGFモノクローナル抗体のCFab断片VEGFR-1VEGFR-2細胞外ドメインとヒトCIgG1のCFcドメインからなる融合蛋白ヒト化抗CVEGFモノクローナル抗体一本鎖CFv断片抗VEGF/抗CAng-2ヒト化二重特異性モノクローナル抗体分子量約C48CkDa約C115CkDa約C26CkDa約C149CkDa1回投与量C0.5CmgC2CmgC6CmgC6Cmg特徴VEGF-Aに結合CVEGF-A,CPlGF,VEGF-B,に結合VEGF-Aに結合VEGF-A,Ang-2に結合薬価*先発品108,987円131,083円135,000円163,894円CBS76,772円Ang:アンジオポエチン,PlGF:胎盤増殖因子,BS:バイオシミラー(87)あたらしい眼科Vol.40,No.8,202310730910-1810/23/\100/頁/JCOPYOCTRPEmap図1ポリープ状脈絡膜血管症の初診時所見傍中心窩の橙赤色病変に一致して,フルオレセイン・インドシアニングリーン蛍光造影(FA/IA)後期相でポリープ状病巣,光干渉断層計(OCT)で網膜色素上皮(RPE)の急峻な立ち上がりおよび漿液性.離を認め,ポリープ状脈絡膜血管症と診断した.週数0W4W10W18W24W32WIVRBS矯正視力(4W)(6W)(8W)(6W)(8W)(0.5)(0.7)(0.7)(0.7)SRF再燃(0.7)(0.8)図2治療経過ラニビズマブCBSに硝子体内注射(IVRBS)よる導入期なしのCtreatandextendレジメン治療を開始.治療開始32週(W),5回投与後矯正視力はC0.8,網膜下液(SRF)も改善している.つ硬性白斑や網膜下出血は伴わず,病変サイズも比較的小さいことから,ラニビズマブCBSによる治療を開始した.1回の投与でCSRFは消失した.患者と相談して導入期なしのCtreatCandextendレジメンで治療を継続した.途中C1回の再燃がみられたためC8週からC6週に投与間隔を短縮したが,その後延長が可能となり,最終受診時C8週目でCSRFの再燃はなく,左眼矯正視力はC0.8に改善し,次回投与はC12週に延長とした(図2).おわりに近年承認された抗CVEGF薬は,投与間隔が長くても先行承認薬と同等の有効性を有するとされているが,先行したラニビズマブでも投与の延長1)や休止が可能5)な場合もある.患者に応じて薬剤を選択することが,患者の経済的,精神的負担を軽減し,結果的に長期的治療が可能になると考えられる.C1074あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023文献1)KatoCA,CYasukawaCT,CSugitaCICetal:MentalCstatusCandCfeasibilityofanintravitrealranibizumabtreat-and-extendregimeninpatientswithNeovascularage-relatedmaculardegeneration.AdvTherC39:1403-1416,C20222)厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知「バイオ後続品の品質・安全性・有効性確保のための指針」(令和2年2月4日付,薬食審査発0204第1号)3)厚生労働省保険局長通知「薬価算定の基準について」(令和4年2月9日付,保発0209第1号)4)近藤峰生,小椋祐一郎,髙橋寛二ほか:滲出型加齢黄斑変性を対象としたラニビズマブ(遺伝子組換え)バイオ後続品SJP-0133の第CIII相臨床試験─先行バイオ医薬品との比較ならびに継続長期投与時の有効性および安全性評価.あたらしい眼科C39:1421-1434,C20225)柴田有紗,木村雅代,加藤亜紀ほか:滲出型加齢黄斑変性に対して血管内皮増殖因子阻害療法が休止可能で良好な視力が維持された症例の検討.眼薬理36:30-34,C2022(88)

緑内障:緑内障とライフスタイル

2023年8月31日 木曜日

●連載◯278監修=福地健郎中野匡278.緑内障とライフスタイル羽入田明子慶應義塾大学医学部眼科学教室緑内障は遺伝的要因と環境要因が複雑に関与する多因子疾患であり,食生活の変化や運動不足など,さまざまなライフスタイルの影響も指摘されている.本稿では,修正可能なライフスタイルの中で,とくに緑内障との関連が指摘されている血圧,身体活動,睡眠に関して解説する.●はじめに緑内障はわが国の中途失明の主要な原因疾患であるが,未だ眼圧下降以外にエビデンスのある有効な予防や治療法はみつかっていない.昨今,疫学研究を中心に,糖尿病や睡眠時無呼吸症候群などさまざまな慢性疾患と緑内障との関連が指摘されており,眼圧下降の点眼加療にとどまらず,ライフスタイルへの介入を含めた有効な予防法の探索が期待されている.本稿では,高齢者に関心の高いライフスタイルの中でも,①血圧,②身体活動,③睡眠に着目し,緑内障との関連について紹介する.C●血圧と緑内障複数の疫学研究から,全身の血圧が眼圧に影響を及ぼすことがわかってきた.メタアナリシスによると,血圧と眼圧の関連は,収縮期血圧がC10CmmHg上昇するごとに眼圧はC0.26CmmHg上昇し,拡張期血圧がC5CmmHg上昇するごとに眼圧はC0.17CmmHg上昇するという正の関連が報告されている1).一方,血圧と緑内障の関連に関しては,血圧が高いと緑内障の有病率・発症率が上昇するという報告が多いものの,研究ごとの異質性が高く,とくに拡張期血圧と緑内障の関連に関しては議論の余地がある.この背景として,視神経乳頭の循環の指標である眼灌流圧という観点が最近注目されている.眼灌流圧は,全身の平均血圧から眼圧を引いたものと定義され,低い眼灌流圧は緑内障進行の危険因子であることがわかってきた.Leeらの決定木分析を用いた報告によると,正常眼圧緑内障C166名を対象に,血圧とCOCTで測定される乳頭周囲網膜神経線維層と神経節複合体の構造変化を評価したところ,収縮期血圧がC108CmmHg以下の群は,収縮期血圧がC108CmmHgより高い群と比べ,有意に網膜神経線維層の菲薄化を有することがわかった(図1)2).この研究から,収縮期・拡張期血圧はそれぞれ108/63CmmHgがカットオフ値で,それよりも血圧を下げすぎると緑内障性視神経症の進行リスクとなる可能性(85)が示唆される2).緑内障診療ガイドライン第C5版では,緑内障の進行にかかわる危険因子として,「眼灌流圧が低い」と「拡張期・収縮期血圧が低い」があげられている3).以上から,適切な血圧管理は緑内障発症・進行管理の観点からも重要であると考えられる.C●身体活動と緑内障身体活動と緑内障性視神経障害に関するエビデンスは年々増えており,身体活動量が増えると緑内障の進行を抑制する可能性が示唆されている4).60.80歳の緑内障および緑内障疑いの患者C141人を対象に,加速度計を用いて身体活動量を計測し,視野障害の進行を縦断的に検討したところ,5,000歩/日または座位時間をC2.6時間/日短くすると,視野欠損の進行を約C10%抑制できることがわかった4).運動は,ドパミンや神経成長因子の上昇や,循環血流量の増加により網膜神経節細胞に保護的に働くと考えられる.一方で,運動の中でも,ウェイトリフティングのようないきむ動作のある筋トレやヨガの頭低位は一時的に眼圧を上昇させることが知られているため,運動の種類によっては注意が必要と考えられる5).以上から,適度な有酸素運動は緑内障進行抑制の観点からも重要と考えられる.C●睡眠睡眠時無呼吸症候群は緑内障のリスク因子であることがわかってきた(図2a)6).年齢,性別でマッチさせた閉塞性睡眠時無呼吸症候群とコントロール群を対象にC5年間フォローした縦断研究では,睡眠時無呼吸症候群における緑内障のハザード比がC1.67倍に達した(図2b)6).そのメカニズムとして,当初は,夜間の無呼吸発作時に胸腔内圧が上昇し,眼圧が上がることで緑内障を誘引するという説が有力であったが,研究が進むにつれて,睡眠時無呼吸症候群に起因する虚血や低酸素が緑内障性視神経傷害を誘引する可能性が示唆されている.実際,日本人の緑内障患者を対象とした研究において,睡眠時無あたらしい眼科Vol.40,No.8,202310710910-1810/23/\100/頁/JCOPYSurvivalprobabilityた結果,乳頭周囲網膜神経層菲薄化をきたす収縮期血圧のカットオフ値はC108CmmHgであった.(文献C2より改変引用)図2睡眠時無呼吸症候群とGlaucoma-FreeSurvivalRate0.990.980.970.96緑内障の関連a:睡眠時無呼吸症候群と対照群の開放隅角緑内障生存曲線の比較.Cb:5年間縦断における開放隅角緑内障の発症率.対照群に対して,睡眠時無呼吸症候群の患者では調整0.95後のハザード比がC1.67倍と有意に上昇した.C0.94(文献C6より改変引用)CDayafterIndexDate文献05001,0001,5002,000呼吸症候群の患者では血中酸化ストレスが上昇しており,MDslopeの進行も速いことが報告された7).さらに,睡眠時無呼吸症候群を有する緑内障患者に持続陽圧呼吸療法を導入すると,MDslopeの進行抑制が認められた8).以上から,良質な睡眠は緑内障予防・治療の観点からも重要で,とりわけ睡眠時無呼吸症候群の早期治療介入が望まれる.C●おわりに本稿では,緑内障に関連するライフスタイルの中で,血圧・身体活動・睡眠に関して疫学研究を中心に紹介した.緑内障は多因子疾患であり,遺伝的要因だけでなく,生活・環境要因などさまざまな因子が発症に関与する.未だ眼圧降下以外にエビデンスの高い予防・治療法はないが,大規模なCpopulation-basedの疫学調査により,適正な血圧の維持,適度な有酸素運動,良質な睡眠は,眼圧管理や神経保護の観点からも重要と考えられる.今後もアジア人を対象とした,より客観的な評価法を用いた大規模な前向き研究の蓄積が望まれる.1)ZhaoCD,CChoCJ,CKimCMHCetal:TheCassociationCofCbloodCpressureCandprimaryCopen-angleCglaucoma:aCmeta-analysis.AmJOphthalmolC158:615-627,Ce9,C20142)LeeCK,CYangCH,CKimCJYCetal:RiskCfactorsCassociatedCwithstructuralprogressioninnormal-tensionglaucoma:CIntraocularpressure,systemicbloodpressure,andmyopia.CInvestOphthalmolVisSciC61:35,C20203)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌126:85-177,C20224)LeeCMJ,CWangCJ,CFriedmanCDSCetal:GreaterCphysicalCactivityisassociatedwithslowervisual.eldlossinglau-coma.OphthalmologyC126:958-964,C20195)ZhuCMM,CLaiCJSM,CChoyCBNKCetal:PhysicalCexerciseCandglaucoma:areviewontherolesofphysicalexerciseonintraocularpressurecontrol,ocularblood.owregula-tion,neuroprotectionandglaucoma-relatedmentalhealth.ActaOphthalmolC96:e676-e691,C20186)LinCC,HuCC,HoJDetal:Obstructivesleepapneaandincreasedriskofglaucoma:apopulation-basedmatched-cohortstudy.OphthalmologyC120:1559-1564,C20137)YamadaCE,CHimoriCN,CKunikataCHCetal:TheCrelationshipCbetweenincreasedoxidativestressandvisual.elddefectprogressionCinCglaucomaCpatientsCwithCsleepCapnoeaCsyn-drome.ActaOphthalmolC96:e479-e484,C20188)HimoriCN,COgawaCH,CIchinoseCMCetal:CPAPCtherapyCreducesCoxidativeCstressCinCpatientsCwithCglaucomaCandCOSASCandCimprovesCtheCvisualC.eld.CGraefesCArchCClinCExpOphthalmolC258:939-941,C20201072あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023(86)

屈折矯正手術:屈折矯正手術の世界的動向

2023年8月31日 木曜日

●連載◯279監修=稗田牧神谷和孝279.屈折矯正手術の世界的動向北澤世志博アイクリニック東京屈折矯正手術はClaserinsituCkeratomileusis(LASIK)を中心に普及したが,近年はCimplantablecollamerlens(ICL)やCsmallincisionlenticuleextraction(SMILE)も増えている.国ごとに屈折矯正手術の歴史や承認の影響もあり,普及術式も異なる.C●論文投稿数にみる屈折矯正手術の世界的動向屈折矯正手術の世界的動向をみるために,インターネットの文献検索で汎用されるCPubMedを使い「myo-pia,LASIKまたはCICLまたはSMILE」で検索してヒットした論文数をまとめた(図1).1990年代の論文はほぼCLASIKのみで,ICLはC1998年にCSandersらが米国食品医薬品局(FoodCandCDrugAdministration:FDA)のトライアルについて報告したもの1)が最初である.SMILEの最初の論文はC2010年にCBlumらが報告した2)ものである.LASIKの論文投稿数はC2005年まで右肩上がりに増加し続けたが,2008年のリーマンショックの影響で施行数の減少とともに,論文数も減少傾向にある.一方,ICLとCSMILEの投稿論文数は増加し続け,2022年はCLASIKとCSMILEがほぼ同数で,ついでCICLである.C●矯正手術の世界的動向では実際のシェアはどうであろうか.2022年のCMar-ketScopeのデータでは,世界的にはCLASIKやCSMILEを含めたClaserCvisioncorrectionがC82.2%(403.6万眼)でもっとも多く,ついでrefractivelensexchange(RLE)がC10.0%(49.1万眼),ICLを含めたCphakicIOLはC7.8%(38.2万眼)であった.PhakicIOLの中ではCICLが81%,前房型のCArtisanやCArti.exがC10%,残るC9%がその他のレンズであった.地域別にみると,米国ではLASIKがC70%を超え,ついでCRLE,SLIMEの順でphakicIOLは数%しかない.また,欧州でもCLASIKが50%を超え,ついでRLE,SMILE,phakicIOLの順で,ある.アジアの中で屈折矯正手術の施行数がもっとも多い中国では,LASIKとCSMILEが約C40%ずつで,pha-kicIOLはC20%弱である.また,韓国では興味深いことにCSMILEのシェアがC75%と圧倒的に多く,続いてLASIK,そしてCICLは数%である.韓国においては日本と同じようなCLASIKのネガティブキャンペーンがあ(83)り,LASIKの減少と対照的にCSMILEが増加した.また,日本ではCLASIKの施行数が減る一方でCICLが急速に増加し,2022年はCICLの施行数がCLASIKの施行数を初めて上回った.C●LASIKの変遷と今後の展望LASIKはこれまでもっとも多くの患者に施行された屈折矯正手術である.1990年当初のCconventionalLASIKは,器械的なマイクロケラトームでフラップを作り,エキシマレーザーは近視と乱視のみの矯正しかできず,レーザーの照射径も小さいためリグレッションやハロー・グレアは必発で,視力の質の低下が問題であった.2003年頃からフラップ作製はフェムトセカンドレーザーで作製されるようになり,照射径の拡大と高次収差も矯正できるCwaveCfrontCguidedLASIK(WFG-LASIK)が普及した.日本においてC2008年に厚生労働省の承認を受けたエキシマレーザーCSTARS4IR(John-sonC&Johnson社)のCiDesigniLASIKはその代表である.その後CWFG-LASIKに大きな進歩はなかったが,同社は角膜前面のCtopographyと高次収差を測定するCWFanalyzerを合体させたCiDesignCRefractiveCStudioを開発してさらなる視機能の低下抑制に取り組んでいる.LASIKは日本では感染症多発事件,LASIK難民や集団訴訟事件,厚生労働省の注意喚起などにより施行数が激減したが,世界的には未だ施行数がもっとも多く,当面その地位は変わらないであろう.C●ICLの変遷と今後の展望ICLは古くはC1986年に最初のレンズが埋植され,1993年から現在の素材Ccollamerが使用され,1997年にCICL,2011年にホールCICLがCCEマークを取得した.日本ではC2010年にCICLが,そしてC2014年にホールICLが厚生労働省に承認された.ホールCICLの普及に伴い,当初問題であった緑内障や白内障の術後合併症は激減し手術件数が増加した.ICLは強度から最強度近視あたらしい眼科Vol.40,No.8,202310690910-1810/23/\100/頁/JCOPY(件)250LASIKmyopiaICLmyopiaSMILEmyopia200150100500(年)図1PumMedでの論文検索ヒット数1993199519971999200120032005200720092011201320152017201920212023が適応であったが,日本眼科学会屈折矯正手術ガイドラインの改訂もあり,世界的に対象の屈折度は低度数化している.筆者はC2007年C11月.2023年C6月にC10,016例C19.911眼のCICLを施行したが,このC2.3年で症例数が急増し,対象の平均屈折度はC2008年の-9.36DからC2022年には-6.08Dに下がっている3).しかし,米国ではC2004年のCFDA承認取得後ホールCICLの承認が遅れ,phakicIOLはC2004年にCFDAの承認を取ったVerisyse(JohnsonC&Johnson社)が中心で,ホールICLが早期に承認された欧州や日本に大きく遅れを取った.Verisyseは虹彩固定の前房型のため手技の煩雑さや角膜内皮細胞の減少が危惧され,米国ではCLASIKが中心で,phakicIOLは普及しなかった.しかし,2022年にホールCICLがCFDAに承認され,今後米国でもCICLの症例数増加が予想される.C●SMILEの変遷と今後の展望SMILEの前身はC2008年にCSekundoらが報告したフェムトセカンドレーザーのみでレンチクルを作製し近視を矯正するCfemtosecondClenticuleextraction(FLE)である.しかし,FLEはCLASIKと同様にフラップを作ることからメリットが少なく,SekundoやCBlumらは2010年にフラップを作らず角膜実質をレンチクルとして除去し近視を矯正するCSMILEを報告した.SMILEはCFLEと違い,最小C2Cmmの角膜切開創からレンチクルを抜き取るので角膜知覚神経の損傷が少なくドライアイになりにくいこと,また高次収差の増加も少なく外傷にも強いことから,LASIKに勝る手術として注目されC1070あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023施行数が増加している.しかし,SMILEができるフェムトセカンドレーザーがCVisuMax(CarlZeiss社)に限られることに加え,手技的なラーニングカーブが長いこと,そしてCLASIKやCICLよりも術後視力の改善,とくに術翌日の視力回復が遅いことがデメリットである.また,術後の創間炎症やまれにCkeratectasiaの報告もある.SMILEはC2018年にCFDAが承認後,厚生労働省も2023年C3月に承認し,これまでC750万眼以上に施行されてきた.日本ではまだなじみの薄いCSMILEであるが,SMILEができる数社のフェムトセカンドレーザーが出てきており,今後CICLと同様に施行数が増加し,そのシェアは伸びていくであろう.C●おわりに屈折矯正手術のC3大術式はCLASIK,ICL,SMILEであり,国ごとに各術式のシェアは異なるが,長期的にはLASIKの施行数はゆっくり減少し,ICLやCSMILEのシェアが伸びていくと予想される.文献1)SandersCDR,CBrownCDC,CMartinCRGCetal:ImplantableCcontactClensCforCmoderateCtohighCmyopia:phaseC1CFDACclinicalCstudyCwithC6CmonthCfollow-up.CJCCataractCRefractCSurgC24:607-611,C19982)BlumCM,CSekundoW:FemtosecondClenticuleCextraction(FLEx).OphthalmologyC107:967-970,C20103)北澤世志博:老視対応CPhakicIOL.CIOL&RSC37:2023.印刷中(84)

眼内レンズ:Cerulean cataractの臨床所見と視機能

2023年8月31日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋中村美月鵜飼祐輝441.Ceruleancataractの臨床所見と視機能金沢医科大学眼科学講座CeruleancataractはCbluedotsおよびCfocaldotsを伴う先天白内障の一種で,成人後に徐々に進行し手術が必要になることがあるが,その認知度はきわめて低く,症例報告以外の詳細な報告はほとんどない.今回,ceru-leancataractの混濁の特徴および自験例での頻度を紹介するとともに,代表例C2例における混濁形態から,視機能への影響について考察する.●CeruleancataractとはCeruleancataractは先天性白内障に分類される両眼性の発達性白内障である.常染色体優性遺伝性疾患であるといわれており,クリスタンCb-B2(CRYBB2),クリスタンCy-D(CRYGD),筋腱膜線維肉腫,および主要な内因性蛋白質遺伝子など,特定の遺伝子の変異が原因であると報告されている1).青みがかった点状混濁(bluedots)と加齢に伴い徐々に進行する同心円状に広がる白点状混濁(focaldots)が特徴である.細隙灯顕微鏡ではbluedotsが水晶体核部に認められ,focaldotsが核部および水晶体周辺部に観察され,冠状白内障を赤道部付近に合併することも多い(図1).徹照像では微細な点状陰影が観察され(図2),進行に伴い陰影密度は増加する.C●Ceruleancataractの頻度CeruleanCataractの認知度はきわめて低く,国内での報告はなく,海外からの報告もケースレポートがほとんどである.本疾患の有病率は不明であるが,筆者らが図1Ceruleancataractのslit像BluedotsおよびCfocaldotsが水晶体核部に認められ,水晶体周辺部にはCfocaldotsおよび冠状に広がる棍棒状のCcoronarycataractが観察される.(81)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY2007年以降に金沢医科大学病院で白内障手術を行った患者のカルテの所見から,bluedotsの記載があったものを後ろ向きに検討したところ,8,538例C17,076眼のうちC24例C48眼(0.28%,平均年齢C47.3C±21.5歳)に本疾患が確認され,全症例両眼発症であった.しかし,最近はCceruleancataractで手術が必要になる患者を多く経験することから,視機能低下をきたしていない患者を含めると実際の有病率はさらに高いと考えられる.一般的にC40代までに白内障手術が必要になるのはアトピー白内障,糖尿病白内障,前.下白内障などが多いと考えられていたが,ceruleancataractの頻度も少なくない可能性がある.Ceruleancataractでは小児期から水晶体混濁を認めることがあるが,混濁は軽度であり視機能への影響は少ないため,小児が症状を自覚することはない.成人期になり白内障手術が必要になる患者の割合が増加することが報告されている1).C●症例呈示視力低下をきたしたC19歳の女性(症例C1)と視力低下図2Ceruleancataractの徹照像徹照像では微細な点状陰影が観察される.あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023C1067右眼左眼図3症例1の水晶体所見BluedotsおよびCfocaldotsを認め,徹照像での著明な陰影を認める.右眼左眼図4症例2の水晶体所見BluedotsおよびCfocaldotsを認めるが,徹照像での陰影は軽微である.のないC32歳の男性(症例2)の水晶体所見を提示する.症例C1は視力は右眼C0.5(0.7C×.1.0D(cyl.0.5DAx130°),左眼C0.7(0.8C×cyl.2.0D)で,羞明および視力低下を自覚しており,両眼にCfocaldots,bluedotsを認め,徹照像では微細な混濁陰影が多数みられた(図3).コントラスト感度は両眼とも明所・薄暮視のグレアon・o.とも著明に低下し,C-quant(OCULUS社製)で測定した迷光量(正常値:1.4Clog(s)以下)は右眼1.59Clog(s),左眼C1.75Clog(s)と上昇,TearFilmAna-lyzer(Visiometrics社製)で測定したCobjectiveClightCscatteringindex(OSI)(透明水晶体眼で平均C1.45以下2))は右眼C6.8,左眼C8.9と著明な上昇を認めた.症例C2は視力は右眼C0.2(1.5C×.2.0D(cyl.1.0DCAx17°),左眼C0.08(1.2C×.2.0D(cyl.2.0DAx30°)で,羞明および視力低下の自覚はなかった.症例C1と同様に両眼にCfocaldots,bluedotsを認めたが,徹照像での微細な混濁陰影は軽微であった(図4).コントラスト感度は正常範囲,迷光量は右眼C1.31Clog(s),左眼C1.39log(s),OSIは右眼C0.6,左眼C1.2と正常範囲であった.両症例とも細隙灯顕微鏡像で著明なCfocaldotsおよびCbluedotsを認めたが,徹照像では視機能低下のある症例C1のみ著明な混濁陰影を認めた点で違いがみられた.このことからCCeruleancataractにおける視機能低下は,比較的大きな混濁であるCbluedotsや白色のCfocaldotsによるものではなく,徹照像でのみ確認できる微細な陰影所見による前方散乱の増加が要因であると考える.C●おわりにCeruleancataractはまれな白内障だと考えられてきたが,手術適応となる若年~40代では少なくない白内障病型で,徹照像で確認される混濁陰影所見が視機能低下の要因として重要である.Bluedotsを認めた場合は,必ず散瞳により徹照像所見を確認し,瞳孔領を占める微細な陰影所見に視機能低下を伴う場合は,手術治療の適応を検討すべきである.文献1)KumawatCD,CJayaramanCN,CSahayCPCetal:MulticolouredClenticularCopacitiesCinCaCcaseCofCceruleanCcataract.CBMJCCaseRep12:e230167,C20192)GalliotCF,CPatelCRS,CBeatriceC:ObjectiveCscattererindex:Workingtowardanewquanti.cationofcataract?JRefractSurgC32:96-102,C2016

コンタクトレンズ:読んで広がるコンタクトレンズ診療 Contact lens discomfortの概要

2023年8月31日 木曜日

提供コンタクトレンズセミナー読んで広がるコンタクトレンズ診療12.Contactlensdiscomfortの概要糸井素啓京都府立医科大学■はじめに現在,contactlensdiscomfort(CLD)とよばれる「コンタクトレンズ(CL)装用中に生じる眼の不快感」に注目が集まっている.以前から,CL装用時に乾燥感や不快感を訴える患者が存在することは知られており,臨床的に重要な課題であった.しかし,2013年にCTearCFilmCandCOcularSociety(TFOS)という国際会議でCLDという用語が定義され,同年のCInvestigativeOph-thalmologyC&CVisionScience誌で特集号が組まれたことで,その重要性が広く知られるようになった.現在,筆者が所属しているニューサウスウェールズ大学でもCLDに関する研究は多数行われており,CLDはCCL分野における重要なトピックであることは間違いない.本稿では,CLDについて解説する.C■CLDの定義CLDは「コンタクトレンズと眼の環境との適合性の低下により生じる,レンズ装用に関連した視機能異常の有無を問わない,一過性あるいは持続する眼の感覚異常であり,装用時間の減少あるいはレンズ装用の中止を余儀なくされるもの」と定義1)されている.文章にすると少しわかりづらく感じるが,1)涙液層破壊時間の短縮や上皮障害などの客観的所見や視機能異常の有無を問わず,2)CLを装用したくなくなるような不快感,と考えるとわかりやすい.また,CLDは「CL装用に伴って生じ,CLをはずすとその症状は軽快・軽減するもの」と述べられており,「ドライアイを有するCCL装用者のドライアイ症状」とは区別されている.C■CLDの評価方法CLDは臨床的な所見の有無にかかわらず,自覚症状によって診断される.しかし,「“CLを装用したくなくなる不快感」というのは主観的な表現であるため,その有無を問うだけでは客観性に乏しく,CLDを適切に評価したとはいえない.そこで,質問表を用いて症状の頻度と程度を数値化することが試みられている.とくにCContactCLensCDryCEyeQuestionnaire(CLDEQ)はCCL装用者に特化した質問表として開発されており,ソフト(79)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY道玄坂糸井眼科図1J-CLDEQ-8(文献C2より引用)コンタクトレンズ(SCL)に対する満足度を評価することが可能とされている.2019年には,高らはCCLDEQの短縮版として知られるCCLDEQ-8の日本語版である「J-CLDEQ-8」を開発し,カットオフ値をC11点(全C37点)とすれば,SCLに対する満足度を判別することができると報告した2).J-CLDEQ-8は日常臨床や研究において活用されている(図1).C■CLDの原因と治療CLDの原因は多岐にわたるが,CLに関連するものと装用環境に関連するものに大別される.CLに関連する要因としては,素材,レンズのデザイン,フィッティンあたらしい眼科Vol.40,No.8,2023C1065図2Contactlensdiscomfortの分類コンタクトレンズに関連するものと環境要因に大別され,さらに細かく分かれる.(文献C3より引用)グと装用スケジュール,ケア手法があげられ,装用環境に関連する要因としては,年齢や性別などの患者固有の要因,コンプライアンスなどの変更可能な患者要因,眼表面の状態,外部環境に分けられる(図2).そして,これらの要因が複合的に作用することでCCLDが生じていると考えられている.CLDの治療とは,これらの要因のうち変更可能なものから改善することであり,SCLにおけるCCLDの治療では,1)ケア用品の変更,2)1日交換使い捨て型への変更,3)装用スケジュールの変更,4)素材やデザインの変更,5)涙液の補充,6)環境の改善などがあげられる.C■CLDの詳細TFOSでは,CLDをC8部門(subcommittee)に分け,それぞれの分野について総括している.各部門の総括はCInvestigativeCOphthalmologyC&CVisionScience誌からそれぞれ発表されている.本稿で紹介しているのはそのごく一部であるため,興味をもった方はぜひ,原文を読んでいただきたい.8編も英語の論文を読むのは骨が折れると感じる方は,まとめとなるCExecutivesummary3)だけでも一読することをお勧めする.C■おわりに株式会社サンコンタクトレンズの協賛の下,これまで12回にわたって執筆させていただいた本セミナーも今月号で最終回となる.CLは非常に多面的な研究分野であり,学会に参加すると,眼科医をはじめとした臨床家のほかに,デザインや素材,ケア製品の開発者,製造技術の開発者など,光学・化学・工学などのさまざまな分野の研究者が関与していることを実感する.そういった異分野研究の協力がCCL分野を支えており,筆者はその多面性こそがCCL研究の最大の魅力だと感じている.本セミナーでは,そういった魅力に気づくうえで必要となるCCLに関する基本的な知識を,臨床的に役立つポイントとともに紹介してきた.本セミナーが,皆様にとってCL分野のもつ面白さ・奥深さに触れる良いきっかけとなったのであれば,嬉しく思う.文献1)横井則彦:TheCTFOSCInternationalCWorkshopConCContactLensDiscomfort.日コレ誌57:286-287,C20152)KohS,ChalmersR,KabataDetal:Translationandvali-dationofthe8-itemContactLensDryEyeQuestionnaire(CLDEQ-8)amongCJapaneseCsoftCcontactClenswearers:CTheCJ-CLDEQ-8.CContCLensCAnteriorCEyeC42:533-539,C20193)NicholsCJJ,CWillcoxCMD,CBronCAJCetal:TheCTFOSCInter-nationalCWorkshopConCContactCLensDiscomfort:execu-tiveCsummary.CInvestCOphthalmolCVisCSciC54:TFOS7-13,C2013C

写真:眼類天疱瘡への角膜輪部移植

2023年8月31日 木曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史鈴木孝典471.眼類天疱瘡への角膜輪部移植東京歯科大学市川総合病院眼科図2図1のシェーマ①結膜上皮の侵入②角膜の角化③睫毛乱生④上下眼瞼の癒着図1初診時の前眼部所見角膜上に結膜上皮が侵入し,角膜の角化や睫毛乱生,上下の眼瞼同士の癒着を認める.図3角膜輪部移植後の前眼部所見(左眼)初診からC3カ月後に角膜輪舞移植を行った.ドナー角膜輪部をC字にトリミングし,10-0ナイロン糸を用いてレシピエント角膜に縫合した.術後C4カ月の時点で結膜上皮の侵入や角膜新生血管の改善が認められる.図4図3のフルオレセイン染色下前眼部所見術後C4カ月経過し,角膜上皮は滑らかになり,異常結膜上皮の改善を確認することができる.(77)あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023C10630910-1810/23/\100/頁/JCOPY症例は53歳の男性.両眼の睫毛内反,瞼球癒着,角膜上皮障害にて近医眼科より別の医療機関の眼科を紹介受診した.所見から眼類天疱瘡(ocularcicatri-cialpemphigoid)を疑い確定診断目的に各種抗体検査を施行したが,抗デスモグレイン抗体などはいずれも陰性であった.蛍光抗体間接法にて検体基底膜側にCIgGの沈着を認めたものの,その他の検査では類天疱瘡に特異的な検査結果は得られなかった.症状および所見から類天疱瘡の可能性が高いと判断され,臨床的に類天疱瘡と診断された.眼症状に対する治療のため東京歯科大学市川総合病院眼科(以下,当科)紹介となった.当科初診時の所見として,両眼性に結膜の瞼球癒着,上下の瞼結膜同士の癒着,睫毛乱生,角膜への結膜侵入,角膜への血管新生,角膜上皮の角化を認めた(図1,2).以上の所見より術前のCFoster分類はCIV期の状態にあると判断した.涙点は確認できなかった.術前の視力はC10Ccm指数弁であった.慢性結膜炎の治療として抗菌薬点眼を行い,慢性炎症の治療として低用量ステロイド点眼を行い,角結膜上皮のメンテナンスとして睫毛抜去を定期的に施行した.初診からC3カ月経過した時点で角膜輪部移植を計画した.手術は点眼麻酔と球後麻酔を併用し施行した.瞼球癒着を解除し,ドナー角膜をトレパンを用いて円形に打ち抜いた.ドナー角膜輪部をCC字になるようにトリミングし,10-0ナイロン糸を用いてレシピエント角膜輪部に端々縫合した.同時に毛根切除および羊膜移植を施行した.術後はモキシフロキサシンおよびリン酸ベタメタゾンをC1日C4回点眼し,術後C1週間で角膜上の上皮化を促進する目的で縫着した羊膜を摘除した.上皮化は良好に完了し,結膜組織の侵入や角膜角化の改善を認めた.術後C4カ月経過した時期の視力はC0.4(矯正不能)まで改善を認めた(図3,4).眼類天疱瘡は粘膜類天疱瘡(mucousmembranepem-phigoid)の亜型とされ1),おもに両眼性に発症する角結膜の瘢痕性変化を伴う自己免疫性疾患である.疫学的に高齢女性に好発し,慢性結膜炎として発症することで知られている.所見として結膜.の短縮や瞼球癒着,睫毛乱生といった眼表面の慢性瘢痕性変化を認める.経過とともに次第に涙液分泌が不良となるうえ,角膜上皮幹細胞が消失した結果,結膜組織の角膜への侵入や新生血管の角膜への侵入を生じる2).治療は低濃度ステロイド薬点眼,人工涙液点眼,抗菌薬点眼などの点眼治療のほか,対症療法としての定期的な睫毛抜去に留まることもある3).観血的治療としては角膜輪部移植をはじめ,ヒト(自己)口腔粘膜由来上皮細胞シート移植やヒト羊膜基質使用ヒト(自己)口腔粘膜由来上皮細胞シート移植などの治療が注目されている.本症例はドナー角膜を用いた角膜輪部移植を行ったが,自覚症状および他覚的所見ともに改善を認めた.シート移植との優劣については今後の研究が待たれるが,積極的な外科的加療の選択肢が増えていることは,眼類天疱瘡治療の今後に向けた明るい材料である.文献1)ArafatCSN,CSuelvesCAM,CSpurr-MichaudCSCetal:Neutro-philCcollagenase,Cgelatinase,CandCmyeloperoxidaseCinCtearsCofCpatientsCwithCStevens-JohnsonCsyndromeCandCocularCcicatricialpemphigoid.OphthalmologyC121:79-87,C20142)DaCostaJ:OcularCcicatricialCpemphigoidCmasqueradingCasCchronicconjunctivitis:aCcaseCreport.CClinCOphthalmolC6:2093-2095,C20123)SawCVPJ,CDartJKG:OcularCmucousCmembraneCpemphi-goid:diagnosisandmanagementstrategies.OculSurfC6:C128-142,C2008C

総説:緑内障の構造から機能へ,そして QOLへ

2023年8月31日 木曜日

あたらしい眼科40(8):1047.1062,2023c第33回日本緑内障学会須田記念講演緑内障の構造から機能へ,そしてQOLへFromStructuretoFunctionofGlaucomatousOpticNeuropathy,andFurthertoQualityofLife福地健郎*はじめに広義・原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)は従来の高眼圧のPOAGと,正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)を合せた臨床的疾患群である1.3).緑内障患者の約80%を占める広義POAGは,臨床的に構造変化で発見して診断し,機能変化を評価して経過観察し,最終的に生活の質(qualityoflife:QOL)を守ることを治療の目的とする疾患である.緑内障による視神経障害の病態について,現在では緑内障性視神経症(glaucomatousopticneu-ropathy:GON)と称されているが,その詳細なメカニズムについては,いまだに十分に解明されていない.かつては,高眼圧POAGが緑内障のメインであり,眼圧上昇によってどのように視神経が障害されるのかが研究の中心であった.その後,臨床的にNTGが広く認知され,有病率がきわめて高いことが明らかとなった4).これは,正常眼圧でなぜGONが生じるのかという,緑内障のメカニズムとしては矛盾する問題を投げかけることになり,緑内障研究はより複雑化した.POAGとNTGは連続し,合わせて広義POAGとされたことは,さらにこの問題を複雑にしている.現在に至るさまざまな緑内障研究の成果として,GONにはミトコンドリア異常,神経性栄養因子,グルタミン酸神経毒性,虚血,酸化ストレスなど,さまざまなメカニズムが複合的にかかわる可能性が高いと考えられている5).現時点で広義POAGに対するエビデンスに基づいた治療は,眼圧下降のみである.しかし,これらのGONメカニズムに関する知見は,今後の眼圧下降治療以外の緑内障治療の可能性を示唆している.本講演では,筆者の眼科医,緑内障医としてのキャリアの最初に取り組んだ視神経乳頭の緑内障による構造変化に関する研究を振り返り,現在進行中のさまざまなGONのメカニズムに関する緑内障基礎研究との接点を確認し,総括する.さらに,緑内障の機能である視野障害進行と眼圧に関する研究について再検証し,緑内障における眼圧下降治療について再考した.最後に,緑内障治療のアウトカムである緑内障患者のQOLに関する最近の研究について紹介し,今後の展望について述べる.I構造から1980年代半ばにおける緑内障臨床の主体はPOAGであった.NTGは注目されていたが,緑内障としての位置づけが確定しておらず,POAGとNTGの同異について盛んに論じられていた.緑内障に対する点眼薬としてはb遮断薬が市販され,すでに定着し,緑内障治療の中心になっていた.ほかにはピロカルピンとエピネフリンのみと,現在の治療薬の状況と比べるときわめて貧弱であった.おもな視野検査はGoldmann視野で,現在の緑内障視野測定の標準であるHumphrey視野計(HumphreyFieldAnalyzer:HFA)などによる自動静的視野計(staticautomatedperimetry:SAP)が臨床に普及するには,さらに数年を要する.GONのメカニズムに関する研究については,いわゆる血管説と機械説があり,盛んに議論されていた.*TakeoFukuchi:新潟大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕福地健郎:〒951-8510新潟市中央区旭町通1-757新潟大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(61)10471.視神経篩状板の構造と細胞外マトリックス,緑内障における変化Quigleyらによる研究6,7)から,GONによる視神経障害の初発部位は視神経乳頭,篩状板部付近と考えられるという仮説は,現在でも広く認知されている.ヒト眼の視神経乳頭の病理組織所見や,さまざまな実験動物の高眼圧モデルで篩状板部に一致して軸索輸送障害が生じている所見は,これを強く支持している7.15).ヒト眼の視神経篩状板は,視神経乳頭部にあり,強膜の後方約2/3層に連続して視神経を横切るように存在する結合組織性の構造である16.21).篩状板は前方はグリア柱と連続し,後方では軟膜中隔と連続している.網膜神経線維層を走行してきた網膜神経節細胞(retinalgan-glioncell:RGC)の軸索は,前篩状板部でグリア柱によって束状に隔てられ,神経線維束を形成する.さらに篩状板部を通過し,後篩状板部で有髄神経となり,視神経を形成する.篩状板はアストロサイトによる細胞性成分による層と結合組織層が互いに重層化した特異的な構造をしている.細胞成分を消化し,硝子体側から観測すると,篩状板表層の多数の穴あきシート構造を観察することができる(図1).サル眼の高眼圧緑内障モデルではヒト緑内障眼と類似した病理組織所見を示し,篩状板表層からは篩状板孔の変形,狭小化,断面では篩状板束の横ずれなど,著しい構造変化を生じていることが示されている6,7,18,22.26).細胞外マトリックス(extracellularmatrix:ECM)は,細胞外スペースの大部分を構成するさまざまな巨大分子の総称である27).ECMのおもな機能として,組織の骨格の維持という構造的機能とともに,周囲の細胞と共同し,さまざまな生体機能の発現に関与する細胞-マトリックス相互作用がある.篩状板を構成するECMには,コラーゲン群(I,III,IV,V,VI,VIII型),エラスチン,フィブリリン,非コラーゲン性糖蛋白質群(フィブロネクチン,ビトロネクチン,ラミニン,テネイシン,トロンボスポンジン),プロテオグリカン群(コンドロイチン硫酸,デルマタン硫酸,ヘパラン硫酸)などが分布していること,ヒト眼緑内障眼,実験眼圧上昇モデルにおける変化について報告されている28.43).免疫組織化学染色の結果(図2)によると,篩状板層板内には結合組織の実質成分であるコラーゲンI,III,V,VI型,フィブロネクチンが分布し,これらは周囲の強膜,後方の軟膜中隔と共通している.篩状板層板の周囲と血管には基底膜成分であるコラーゲンIV型,ラミニンが分布している34).篩状板層板内には弾性線維成分であるa-エラスチンが豊富に分布している.サル高眼圧モデル眼の篩状板を透過型電子顕微鏡で詳細に観察した(図3)44).正常眼の篩状板層板内では径の細いコラーゲン線維が整然と配列し,これは弾性線維と密に接触している.一方,サル慢性眼圧上昇眼では,篩状板層板内のコラーゲン線維束は配列が乱れ,無構造の空間が散在,基底膜様構造の沈着が観察された.弾性線維はしばしばコラーゲン線維との接触を失って孤立していた.篩状板は隣接する強膜,軟膜中隔と比較して弾性線維がきわめて豊富で,より弾性をもつ,より弾性を必要とする組織と考えられる.緑内障眼の篩状板では弾性線維の形態変化と機能低下,つまり,著しい弾性低下を生じていると考えられる39.42).サル高眼圧モデルの篩状板における硫酸化プロテオグリカンの変化について電子顕微鏡レベルでの組織化学的方法によって検討した(図4)37).篩状板層板内にはコラーゲン線維の結合にかかわる2種類のデルマタン硫酸(図4a),空間の充.に働くコンドロイチン硫酸(図4b),基底膜に沈着するヘパラン硫酸(図4c)の4種類の硫酸化プロテオグリカンが分布している35,37).これらは,その分布から考え篩状板の組織強度の維持に重要な機能を果たしていると考えられる.慢性眼圧上昇眼の篩状板では,コラーゲン線維束の分離とデルマタン硫酸の配列の乱れ,空隙の拡大とコンドロイチン硫酸による充.(図4e,f),アストロサイト基底膜の肥厚,ヘパラン硫酸の増加(図4g)が観察された.その結果としてサル慢性眼圧上昇眼では,コラーゲン線維束の脆弱化,含水性の亢進によって,組織強度が著しく低下していることが推測された.細胞-マトリックス相互作用にかかわる細胞接着性グリコプロテインのヒト篩状板への分布と緑内障眼における発現変化について検討した(図5)43).ヒト篩状板には既報のラミニン,フィブロネクチンに加えて,テナスチン,ビトロネクチン,トロンボスポンジンの発現が認められ,いずれも緑内障眼で発現が亢進していた.テナスチンは篩状板と軟膜中隔に,対してトロンボスポンジンは篩状板と強膜に限局して発現していた.篩状板はECM成分として強膜と軟膜中隔の成分が混合した組織であることが推測された.現在,テナスチン,トロンボスポンジンなどは基質細胞性蛋白(matricellularpro-図1視神経篩状板の構造ヒト視神経乳頭のトリプシン消化標本を走査型電子顕微鏡で観察した.正常眼(a,b),正常眼圧緑内障眼(c,d).ヒト眼の視神経篩状板は,視神経乳頭部にあり,強膜の後方約2/3層に連続して視神経を横切るように存在する結合組織性の構造である.トリプシン消化によって細胞成分は消化され,結合組織成分による篩状板の立体構築が観察される.正常ヒト眼では篩状板の各層板は規則正しく配列し,神経線維束が通過する孔は直線的である(a,b).正常眼圧緑内障症例の篩状板は形態が乱れ,篩状板孔も不規則である.各層板の崩れも著しい(c,d).図2視神経篩状板を構成する細胞外マトリックス(ECM)サル正常眼,コラーゲンVI型(a),コラーゲンIV型(b),a-エラスチン(c)に対する免疫染色.aのパターンは篩状板ビームの実質を構成する成分で,コラーゲンI型,III型,フィブロネクチンなどが同様の染色像を示す.bは基底膜パターンで篩状板ビームを取り巻くように染色され,コラーゲンIV型以外に.ラミニンも同様の染色像を示す.弾性線維の成分であるa-エラスチンは,篩状板のビーム内と,前篩状板部のグリア柱内に分布する血管に伴って細かい染色パターンとして観察される(c).図3緑内障眼・篩状板のECM,サル慢性眼圧上昇モデルにおける微細構造変化サル正常眼(a~c),慢性眼圧上昇モデル(d~e)(LB:篩状板,BL:基底膜).透過型電子顕微鏡で観察すると,篩状板の実質は径の小さい比較的均一なコラーゲン線維に,よって構成されている(a).縦断面(b),横断面(c)で観察すると,弾性線維()が,コラーゲン線維束の走行に沿って密接に接触して分布していることがわかる.一方,慢性眼圧上昇モデルの篩状板では,実質内のコラーゲン線維束構造が崩れ,各所に空間が生じ,基底膜様構造が沈着している(d).縦断面(e),横断面(f)の観察で,弾性線維()はコラーゲン線維との接触が失われ,空間内に孤立している所見が観察される.(版権使用許諾のうえ文献44より転載)図4緑内障眼・篩状板のECM,サル慢性眼圧上昇モデルにおける硫酸化プロテオグリカンの変化サル正常眼(a~c),慢性眼圧上昇モデル(d~f).篩状板層板内にはコラーゲン線維の結合にかかわる2種類のデルマタン硫酸(a),空間の充.に働くコンドロイチン硫酸(b),基底膜に沈着するヘパラン硫酸(c)の4種類の硫酸化プロテオグリカンが分布している.これらは,その分布から篩状板の組織強度の維持に重要な機能を果たしていると考えられる.慢性眼圧上昇眼の篩状板では,コラーゲン線維束の分離とデルマタン硫酸の配列の乱れ,空隙の拡大とコンドロイチン硫酸による充.(e,f),アストロサイト基底膜の肥厚,ヘパラン硫酸の増加(g)が観察された.その結果としてサル慢性眼圧上昇眼では,コラーゲン線維束の脆弱化,含水性の亢進によって,組織強度が著しく低下していることが推測された.(版権使用許諾のうえ文献37より転載)teins)に分類され,その機能とさまざまな疾患病態への2.GONにおけるRGC死に関連するさまざまな因子関与が注目され,GONの病態へのさらなる関与につい1995年にQuigleyらによって緑内障におけるRGC死ても示唆されている45,46).の少なくとも一部はアポトーシスのプロセスを経て生じることが報告47)され,これをきっかけとしてGONメカニズムに関する研究は大きく転換した.その焦点はECMから細胞へシフトし,GONにおけるRGCの神経細胞死にかかわるさまざまなメカニズムや視神経乳頭変化にかかわる細胞因子に関連して,多くの研究グループから多数の報告がされることになった.緑内障眼の視神経乳頭部で生じているRGC死に関連するもっとも重要な現象は軸索輸送障害と考えられる7.15).かつてはそのメカニズムとして血管説と機械説が論じられたが,さまざまな現象を総合的に考えると,緑内障眼の視神経乳頭部における軸索輸送障害が篩状板の変形と機械的因子のみによって生じているとは考えにくい.では,どのように軸索輸送障害が生じ,どのような経路を介してRGC死に至るのか?有力な仮説の一つはミトコンドリア異常である.古くからヒト緑内障眼の視神経乳頭部の篩状板付近で神経線維が腫張とともにミトコンドリアの集積,densebodies,空胞形成所見が報告されている8,9,42).筆者らのグループの開発したラット眼圧上昇モデルの視神経乳頭部にも変性ミトコンドリアの集積や外膜の断裂,封入体を内包所見が認められ図5緑内障眼・篩状板の細胞外マトリックス(ECM),ヒト緑内障眼における細胞接着性グリコプロテインの変化ビトロネクチン(a~d),テナスチン(e~h),トロンボスポンジン(i~l)に対する免疫染色.ヒト正常眼(a,b,e,f,i,j),原発開放隅角緑内障眼(c,d,g,h,k,l).ヒト篩状板にはさまざまな細胞接着性グリコプロテインが分布している.ヒト緑内障眼ではいずれのECMも発現が更新しており,cell-matrixinteraction,ECMremodelingにかかわっていることが示唆される.た13).RGCはミトコンドリアが豊富で,網膜内で活動電位を発生する唯一の細胞である.視神経乳頭部,とくに無髄神経線維にミトコンドリア酵素が集積している48,49).ラット慢性眼圧上昇モデルでは,眼圧上昇早期からcaspese3,cytochromCなどの発現が上昇し,ミトコンドリアに関連したアポトーシス経路の活性化は眼圧上昇初期からみられる現象であることが明らかとなった.その後の研究から,ミトコンドリア異常は,アポトーシス経路の活性化だけでなく,低酸素,マイトファジー機能低下,膜電位の低下,活性酸素による酸化ストレス,ミトコンドリアの分裂・融合変化,炎症などを引き起こすことが明らかにされている50).軸索輸送障害とミトコンドリア異常はさまざまな因子の影響を受ける可能性が高く,GONによる視神経障害メカニズムのmainstreamであることが強く疑われる51).Moganは緑内障眼の篩状板のレベルにおけるミトコンドリアの集積所見は,軸索のmetabolicdemandを反映しているように思われると述べている52).GONにおけるRGCのアポトーシスにかかわる可能性が強く疑われる因子として,神経栄養因子枯渇説があ図6緑内障視神経症(GON)にかかわる可能性のあるさまざまなメカニズム,サル慢性眼圧上昇モデル眼の視神経乳頭部における脳由来神経栄養因子(BDNF)とそのレセプター(TrkB)の発現BDNF(a,b),Trk(c,d)に対する免疫染色.サル正常眼(a,c),慢性眼圧上昇モデル(b,c).サル正常眼ではBDNFは神経線維束に沿って観察され,慢性眼圧上昇モデルでは篩状板部付近で発現は低下し,後篩状板部から球後視神経で発現はむしろ増加し,また篩状板部には局所的集積のような所見が観察された.BDNFのレセプターであるTrkBは篩状板部を中心にその前後で発現が上昇している所見が観察された.る5,53).神経栄養因子はニューロンに対する生理活性作用をもつ増殖因子の総称で,ニューロンの発生・維持・再生に必須で,脳由来神経栄養因子(brain-derivedneurotrophicfactor:BDNF)はその代表である.ヒト緑内障眼やサル,ラットなどの実験緑内障モデルの視神経乳頭部におけるBDNFや,そのレセプターであるTrkBの発現について報告されている14,54,55).筆者らのサル慢性眼圧上昇眼の結果では,BDNFは篩状板部付近で発現低下し,後篩状板部から球後視神経で発現増加し,また篩状板部には局所的集積所見が認められ,一方でTrkBは前から後篩状板部で発現上昇していた(図6).また,ラット眼圧上昇モデルの網膜のBDNFを定量したところ,眼圧上昇1週でBDNF量はコントロールの約2.5倍に増加,2週でほぼ同等,次第に減少し12週では約20%まで減少した56).眼圧上昇初期にBDNFによる内因性防御機構が作動し,一方で慢性期にBDNFは低下し,GONに内因性防御機構障害というメカニズムが加わる可能性を示唆していると考えられた.さらにGONにかかわる可能性のあるメカニズムとしてグルタミン酸神経毒性がある5,52,53).グルタミン酸は中枢神経系における興奮性神経伝達物質で,強い神経興奮性ゆえに過剰量のグルタミン酸は神経毒性を有する57).当初,ヒト,サル緑内障眼の硝子体でグルタミン酸濃度が上昇しているとの報告が注目されたが,その後の追試では結果は再現されなかった58.61).しかし,グルタミン酸の代謝には輸送蛋白であるグルタミン酸トランスポーターの動態もかかわっている62,63).筆者らはグルタミン酸のNMDA型レセプターであるf1(GluRf1)のノックアウト(KO)マウス64)の眼圧を上昇させ,GONの発現について正常コントロール眼と比較した65).その結果,眼圧上昇後4週の早期にこのKOマウス眼ではRGC死は抑制されたが,12週経過後には両者で差がなかった(図7)65).つまり,少なくとも眼圧上昇早期のRGC死にグルタミン酸毒性がかかわることが明らかとなった.筆者らのマウス眼圧上昇モデルでは,時間の経過とともに眼圧は低下した.また,ラット眼圧上昇モデルには二つのフェーズがあるとの報告66)や,高眼圧でのみGLAST障害が生じたとの報告がある67).この結果は眼圧レベルや時間経過によってRGC死メカニズムのバランスが変わる可能性を示唆していると考えられる.3.NTGにおけるGONのメカニズムかつての緑内障研究の主体はPOAGであり,実験モデルを用いたGONのメカニズムに関する研究は,いずれも高眼圧モデルを用いたものである.以上に述べた現象はいずれも高眼圧緑内障におけるGONのメカニズムについて研究された結果である.現在の緑内障臨床でNTGの比重は大きく,広義POAGでもNTGの割合が圧倒的に大きい.「GONの視神経障害メカニズム」を考える際に,高眼圧緑内障とNTGをどのように考えるべ図7緑内障視神経症(GON)にかかわる可能性のあるさまざまなメカニズム,グルタミン酸受容体ノックアウトマウスの眼圧上昇モデルと網膜神経節細胞死抑制上強膜静脈結紮法によるマウス眼眼圧上昇モデルを作製した(a).コントロール眼(b)に対して4週の眼圧上昇眼(c)では,明らかな網膜神経節細胞(RGC)数の減少が観察された.野生型マウス(W)とグルタミン酸f1レセプターのノックアウト(f1KO)マウス(f1-/-)の眼圧を上昇させ,RGC数を比較した.眼圧上昇4週では野生型に対してf1KOマウスではRGCが抑制された.それに対して12週では両群間で差がなかった.つまり,グルタミン酸毒性は眼圧上昇の少なくとも早期のRGCメカニズムに関与していることが明らかになった.(版権使用許諾のうえ文献65より転載)きなのかについては,いまだに明確な解答は得られていない.わずかであるがNTGの視神経乳頭を病理組織学的に観察した研究報告68,69)があり,視神経乳頭の各所に軸索腫脹,軸索輸送障害,著しい篩状板の変形などの所見が認められている.いずれの報告も組織学的所見は高眼圧緑内障に近似していると結論している.正常範囲内の眼圧にもかかわらずNTGが生じる背景として,視神経の眼圧に対する脆弱性の存在が疑われてきた.WaxらのグループはGON,とくにNTGへの自己免疫機構の関与を疑い,さまざまな研究データを発表した69.71).たとえばNTG眼の網膜,視神経乳頭へのIgG,IgAの沈着の所見69),熱応答蛋白(heatshockprotein:HSP)60,Hsp27への自己免疫が認められること70),NTG,POAG眼の視神経乳頭にグルコスアミノグリカンに対する自己抗体が認められること71)などを報告した.また,MaruyamaらはPOAG,NTGの約25%に神経特異エノラーゼ(neuron-speci.cenolase:NSE)に対する自己抗体が認められ,POAGでは陰性群に比較し眼圧が低い傾向であったことを報告した72).これは内因性防御機構や組織構築に対する障害機構と考えられる.また,Yanらは免疫染色を用いてヒト緑内障眼の視神経乳頭におけるメタルプロテイナーゼ(MMP)-2,-3,腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor:TNF)aの分布と発現を調べ,正常眼に対してPOAG眼で増強,NTG眼ではさらに著しく増強していたことを報告した73).これらの結果はいずれも神経細胞の易障害性や組織構築の脆弱性にかかわる可能性がある.つまり,NTGは臨床所見,組織学的所見のいずれも高眼圧緑内障に近似しているものの,GONのメカニズムには異なった背景,修飾,促進因子の存在が疑われる.4.GONによる視神経障害メカニズムにおける攻撃因子と防御因子・仮説臨床的に緑内障の発症,進行にはさまざまな危険因子があることが知られている1.3).CollaborativeNormalTensionGlaucomaStudy(CNTGS)のサブ解析では乳頭出血,片頭痛,緑内障の家族歴,心血管疾患の既往などの因子の有無によって,眼圧下降効果に対する視野障害進行の傾向が異なることが示されている74).また,開放隅角緑内障(openangleglaucoma:OAG)に関連す図8緑内障性視神経症(GON)における眼圧と視神経のバランス,関連するさまざまな攻撃因子と防御因子(仮説)眼圧は最大の攻撃因子であり,軸索輸送障害,ミトコンドリア異常,神経栄養因子枯渇,グルタミン酸毒性,虚血・低酸素などが連動する.一方で内因性防御因子に対する障害という因子があり,神経栄養因子や熱応答蛋白の低下はこれに相当する.細胞外マトリックス(ECM)の再構成や虚血・低酸素,近視性変化は視神経乳頭の構築を変化させ,視神経の易障害性の原因となりうる.酸化ストレス,活性化アストロサイト,自己免疫機構は神経細胞障害を促進する因子として働く可能性がある.BDNE:脳由来神経栄養因子,HSP:熱応答蛋白.るさまざまな遺伝子多型が明らかにされている.これらの遺伝子多型は大きく眼圧に関連するもの,眼球の形態に関連するもの,視神経形態や脆弱性に関するもの,その他に大別することができるのではないかと報告されている75).現在に至るまでさまざまな緑内障の基礎研究から,GONのメカニズムにはさまざまな因子がかかわっており,以上に紹介したミトコンドリア障害,神経栄養因子枯渇,グルタミン酸神経毒性以外にもさまざまなメカニズムの関与が想定されている5).これらの因子について,視神経に対する攻撃因子と防御因子という考え方は理解しやすい(図8).つまり,眼圧は最大の攻撃因子であり,軸索輸送障害,ミトコンドリア異常,神経栄養因子枯渇,グルタミン酸毒性,虚血・低酸素などが連動する.一方で内因性防御因子に対する障害という因子があり,神経栄養因子やHSPの低下はこれに相当する.ECMの再構成や虚血・低酸素,近視性変化は視神経乳頭の構築を変化させ,視神経の易障害性の原因となり得る.酸化ストレス,活性化アストロサイト,自己免疫機構は神経細胞障害を促進する因子として働く可能性がある.ぞれぞれのメカニズムを個別に考えるのではなく,GONの全体の構図のなかでどのように作用しているのかについて,さらに総合的に考えて行く必要がある.II機能へ1990年頃にHFA,オクトパス視野計を代表とするSAPが眼科の一般臨床の場に普及した.さらに約10年の臨床における患者データの蓄積を経て,視野障害進行に関する研究論文が次々と発表されるようになった.海外におけるさまざまな多施設共同ランダム化試験の結果も,SAPによる視野検査結果に基づいている.それ以前には,緑内障の治療は視野障害進行の有無で評価された.SAPによる経過観察期間がより長期にわたると視野障害は高率に進行する.むしろ重要なのは進行の速度であることが理解されるようになった1).現在の「緑内障治療は,眼圧下降によって,進行を減速させること」という概念が確立したということができる.SAPによる視野の評価,視野障害進行の評価の方法が提案され,検証していったのも同じ頃である.SAPの内蔵プログラムに加えて,視野解析プログラムが紹介され,一般臨ab1.51.511p<0.05p<0.10p≧0.10経過中平均眼圧値(mmHg).5MD変化率(dB/年).50-.5-1-1.5-20-.5-1-1.5-2-2.5-2.5-3-3510152025510152025図9広義・原発開放隅角緑内障(POAG)の経過中平均眼圧値と視野障害進行速度5.20年経過観察した広義POAG287例287眼について,治療前眼圧値21mmHgを超える高眼圧緑内障(HTG)群と,以下の正常眼圧緑内障(NTG)群に分けて,経過中の平均眼圧値とMDスロープ(MDS)の相関について調べた.HTG群121眼については経過中の平均眼圧値とMDスロープの間には弱いが統計学的に有意な相関がみられた(MDS=1.132.0.097×平均眼圧,R2=0.150:p<0.001).一方,NTG群166眼については,両者の間に有意な相関はみられなかったMDS=.0.225.0.009×平均眼圧,R2=0.002:p=0.599).床の場で,緑内障患者の視野の経過を統計学的に容易に解析することが可能になった.眼科医の緑内障視野についての理解が進み,緑内障治療の質を大きく改善させたと考えられる.1.広義POAGの眼圧と視野障害の進行筆者らは自施設で4年以上SAPを用いて経過した広義POAG患者について,経過眼圧値に対する視野障害進行速度について検証した76,77).症例数は287例287眼で,経過観察期間の平均は9.0±3.6(4-20)年,SAPのプログラムはHFA30-2全閾値を用い,平均偏差(meandeviation:MD)スロープを視野障害進行速度とし,経過中の眼圧値との関連について検証した.無治療時眼圧値が21mmHgを超える症例を高眼圧(hightensionglaucoma:HTG)群,21mmHg以下の患者をNTG群とした.また,MDスロープが.0.3dB/年以下の症例を進行の速い群,.0.3dB/年より大きい症例を進行の遅い群とした.HTG群121眼については経過中の平均眼圧値とMDスロープの間には弱いが統計学的に有意な相関がみられた(MDS=1.132.0.097×平均眼圧,R2=0.150:p<0.001).一方,NTG群166眼については,両者の間に有意な相関はみられなかったMDS=.0.225.0.009×(版権使用許諾のうえ文献77より転載)平均眼圧,R2=0.002:p=0.599)(図9).進行の速い群と遅い群の間の眼圧値の差について検定した(表1).HTG群では進行の速い群で経過中の平均眼圧値,最高眼圧値,最低眼圧値が有意に高かった.一方,NTG群では平均眼圧値などには差はなく,両群の標準偏差,最高最低眼圧値の差に統計学的に有意な差が認められた.つまり,HTG群では進行の速い群では眼圧値そのものが高く,NTG群では変動が大きいという結果であった.Caprioliら78)はAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS)のサブ解析として,経過中の平均眼圧値が低い患者では長期の眼圧変動が進行に関連していたが,平均眼圧値が高い患者では関連はみられなかったと報告しており,筆者らの報告と類似の研究結果と考えられる.同時にサブ解析としてHTG221眼について,経過中の平均眼圧値とHFA30-2MDスロープの相関の単回帰と多項式回帰による比較を行った(図10).単回帰,多項式回帰のいずれも統計学的に有意な相関がみられるが,決定係数(R2値)は単回帰で0.106に対して二次曲線回帰では0.471であった.眼圧値とMDスロープの関係は二次曲線がより適合するようである.このモデルは臨床的に<10mmHgで緑内障による視野障害は減速,ほぼ停止し,>20mmHgでは次第に加速する現象とよく一致している.眼圧値10.20mmHgでは表1広義POAG:視野障害進行の速い群と遅い群の比較HTG(n=121)NTG(n=166)速い群(≦.0.3dB/年)遅い群(>.0.3dB/年)p値速い群(≦.0.3dB/年)遅い群(>.0.3dB/年)p値症例数C68C53C80C86平均眼圧値(mmHg)C17.8±2.21C15.9±2.52<C0.001C13.7±1.95C13.4±1.70C0.318標準偏差(mmHg)C2.04±0.60C1.85±0.48C0.097C1.60±0.40C1.45±0.36C0.013最高眼圧値(mmHg)C22.3±3.17C19.8±3.26<C0.001C17.1±2.18C16.3±2.20C0.026最低眼圧値(mmHg)C13.8±2.26C12.3±2.53C0.001C10.5±2.18C10.6±1.91C0.832最高.最低眼圧値(mmHg)C8.49±2.97C7.49±2.20C0.088C6.54±1.85C5.70±1.55C0.002平均眼圧下降率(%)C26.4±8.1C33.0±12.8C0.001C23.3±8.0C23.2±9.6C0.955MD変化率(dB/年)HTG:治療前眼圧値>21mmHg,NTG:同じく≦21mmHg.Ca単回帰分析b21.5MD変化率(dB/年)1.50-.5-1-1.5-2-2.5-3多項式回帰分析051015202530経過中平均眼圧値(mmHg)経過中平均眼圧値(mmHg)図10高眼圧POAG:平均経過眼圧値とHFA30-2MDスロープの単回帰分析と多項式回帰分析の比較HTG221眼について,経過中の平均眼圧値とCHFA30-2MDスロープ(MDS)の相関について,単回帰と多項式回帰による比較を行った.単回帰(MDS=0.757.0.074×IOP,RC2=0.106:p<0.0001),多項式回帰(MDS=.0.018×IOP.0.003×IOP2,R2=0.471:p<0.0001))のいずれも統計学的に有意な相関がみられるが,決定係数(RC2値)は単回帰に対して二次曲線回帰ではより高かった.眼圧値とCMDスロープの関係は二次曲線がより適合するようである.このモデルは臨床的に,高眼圧緑内障症例で,<10CmmHgで視野障害は減速し,ほぼ停止,>20CmmHgでは次第に加速する現象とよく一致している.いずれのモデルでもほぼ一致していた.最近になってCHFA24-2CSITAstandardのCMDスロープを用いて追試を行った.既報と同様にCHTG群では経過中の平均眼圧値とCMDスロープの間に有意な相関があったのに対して,NTGでは相関はなかった.一方,平均眼圧下降率とCMDスロープの相関を調べたところ,HTG群,NTG群のいずれでも弱いが有意な相関がみられた.C2.目標眼圧の再考「緑内障診療ガイドライン第C5版」1)において,患者ごとに目標とすべき眼圧(目標眼圧)を設定して緑内障治療を行うことが,合理的な方法として推奨されている.日本における緑内障治療における目標眼圧の概念の先駆けは,1992年の岩田による第C96回日本眼科学会総会特別講演である24).この中で岩田は目標眼圧を,緑内障の進行を阻止しうる眼圧」として紹介した.この講演のもととなったデータは,おもに高眼圧CPOAGのCGoldma-nn視野検査の経過に基づいた研究によっている.当時は,まだCPOAGとCNTGの同異が議論されていた時代であり,HFAは普及したばかりで,進行速度という概念はなかった.その後の目標眼圧の概念について,ヨーロッパ緑内障学会(EuropeCGlaucomaSociety:EGS)による緑内障の用語とガイドラインについて振り返ってみた2).1998年に発行された初版,2003年の第C2版では,目標眼圧は「さらなる緑内障性障害の進行を防ぐための治療による平均眼圧値」と記載されている.2008年の第C3版では,「疾患の進行を最小限まで遅らせる眼圧値」と記載され,進行の速度,進行を遅らせるという概念が加わった.さらにC2014年の第C4版では「患者の生涯のCQOLを維持するために進行の速度を十分に遅くすることのできる眼圧値」とされた.緑内障治療の目的として生涯のQOLという概念を導入した点で画期的である.現行の第C5版で,具体的な眼圧の目標値としては,早期にC18.20mmHgかつ眼圧下降率C.20%,中期でC15.17mmHgかつC.30%,後期ではC10.12CmmHg以下が示されている2).前記の筆者らの研究データに基づくと,HTGつまりPOAGでは>20CmmHgではほぼすべての症例がCMDスロープで.0.3CdB/年より進行の速い群に含まれた.正常眼圧域では眼圧が下降するにしたがって進行の速い群に含まれる症例は減少し,<10CmmHgではほぼすべての症例が進行の遅い群に含まれた.一方,NTG群については同様な傾向は弱い.たしかに正常眼圧域内で眼圧が低いほど,進行の速い群に含まれる症例は減るが,10.12CmmHgの眼圧域であっても≦C.0.3CdB/年の症例が約C30%残存する.POAGは治療による眼圧レベルに対して確率的に進行が抑制され,いわゆる正常眼圧下限以下まで低下すると,進行の速い群に含まれる症例はほとんどみられない.また,POAGの進行速度は眼圧値,眼圧下降率のいずれとも相関し,目標眼圧を眼圧値によって設定することが可能である.対してCNTGでは,眼圧値と相関せず,眼圧下降率と相関する.したがって,NTGに対して目標眼圧は眼圧下降率で設定するのが適切である.日本国内では,POAGとCNTGを合せて広義CPOAGという用語が用いられている1).一方,EGS2)や米国眼科学会(AmericanAcademyofOphthalmology:AAO)3)など,海外のガイドラインでは,すでにCNTGという用語は用いられておらず,すべてを包括してCPOAG,高眼圧CPOAG,正常眼圧CPOAGと称している.さらに欧米の多施設共同研究では落屑緑内障もあわせてCOAGとし,落屑症候群をCOAGのリスクファクターのひとつとして扱うことも多い2,3).POAGとCNTGは厳密な境界設定が不可であり,広義CPOAGと称するのはすでに標準的ということがいえる.一方で,POAG,NTGは臨床的な傾向,治療目標の設定,手術術式の選択などに差がある.今後も緑内障診療においてサブタイプとして残していくことを強く推奨する.当初,目標眼圧は緑内障の進行を阻止,停止させる眼圧,つまり健常眼圧と同義と考えられてきた.しかし,緑内障をごく長期に経過観察した場合,完全に停止する患者はむしろわずかである.目標眼圧は健常眼圧とは切り離して考えることが必要である.現在の目標眼圧は,患者ごとにその時点で経過観察が可能な眼圧値と考えることが適切である.CIIIそしてQOLへ日本緑内障学会による「緑内障診療ガイドライン」第4版では,「緑内障治療の目的は,視覚の質(qualityCofvision:QOV)と,それに伴う生活の質(qualityCoflife:QOL)を維持することである」と明記された1).第3版までの「患者の視機能を維持することである」と意図するところは同じだが,より患者の立場に立った表現がされている意味でこの違いは大きい.QOLは,しばしば「生命の質,生活の質」と訳されるが,きわめて広い概念で,単に日常生活における症状を意味しているわけではない.たとえば緑内障という疾患をもつことによる心理的な負担,しみる,かすむなどの点眼薬の使用感,受診や治療に対する時間的,経済的負担もCQOLの一部である.眼科医が緑内障患者のCQOLをより理解しようという試みによって,1)患者と治療の目的を共有することができる,2)患者の症状を理解することは,緑内障という疾患そのものを理解することである,3)本来の意味での重症度の判定,治療目標の設定が可能となる,4)進行した患者では適切なロービジョンへの導入が可能である,結果として,われわれは緑内障治療の目的と現実により近づくことができることが期待される.個々の緑内障患者のCQOLをすべて把握し,理解することはきわめてむずかしいが,その努力は必要である.筆者らは緑内障の機能である視野に関する研究とともに,その延長として緑内障患者のCQOLに関する研究を続けてきた79.81).緑内障でCQOLがどのように障害されるのかは,まさに疾患の本質にかかわる問題であるが,まだ十分には理解されていない.ここでは,緑内障患者のCQOLにかかわる現在進行中の研究の一部を紹介する.C1.人工知能を用いたQOLスコア推定モデルの検討われわれは日常の緑内障診療の中で,患者の病歴などの臨床情報と,視力,視野などの検査所見を記録している.筆者らは,現在,それらの臨床情報,検査所見を元に,人工知能(arti.cialintelligence:AI)を用いることによって緑内障患者のCQOLを推定することが可能かというプロジェクトに取り組んでいる.もし仮に推定が可能で,その方法を確立することができれば,逆にCQOLを悪化させる臨床的要因をさらに明らかにできる可能性がある.今回の対象は広義CPOAGに限定し,エンドポイントであるCQOLスコアをCVFQ-25ラシュスコアに設定した.まず,最初のスタディとして説明変数の組み合わせ,モデリングとモデルフィッティングの評価を行った.患者情報として性別,年齢,病型(POAG/NTG),視野データとしてCbetterCeye,Cworseeye別のCHFA24-2/10-2の個別点における実測感度閾値,パターン偏差,トータル偏差,またCbestlocation(BL)法による両眼重ね合わせ視野,その他の臨床データとして,矯正視力,等価球面度数,円柱度数,眼軸長,角膜厚などを設定した.予測手法としては三つの線形重回帰分析の結果を比較した.その結果,予測手法としてはステップワイズ法で説明変数を選ぶCMLR.allVarStepwise-rmMulticollineariC-ty-full法のCRC2値がもっとも高く,説明変数としては両眼の視野:左右眼個別点のパターン偏差値でCRC2値が高かった.これに両眼の矯正視力,等価球面度数,角膜厚,眼軸長などの臨床データ,また年齢,性別,病型などの患者情報を加えても,RC2値はほぼ不変であった.現時点までの結果では,RC2値≦0.7C.0.8と予測精度としてはやや弱いものの,AIを用いたCVFQ-25ラシュスコアの予測モデルの構築は可能と考えられた.また,視野データのみで予測が可能のようであることがわかった.C2.両眼開放同時刺激視野測定一般的な視野検査は,片眼を遮蔽し,片眼ごとに行われている.手術適応など緑内障治療は眼単位で行われ,これは妥当である.しかし,われわれは通常,日常生活を両眼開放状態で過ごしている.眼科医が緑内障患者のQOLをより正確に評価するためには,両眼開放下での視野測定が必要ではないか,また視野における両眼の相互作用について検討するべきではないか,という新たな課題に至った.iMo(クリュートメディカルシステムズ)は,両眼に別々に使用提示が可能な視野計で,両眼を開放した状態で左右眼の視野検査を同時に行うことができる82).すでに,片眼を遮蔽した片眼ごとの測定と,両眼開放の左右眼同時測定の結果に関して,いくつかの研究報告がなされている83).その結果,おおむねの傾向として,両眼開放で測定を行った場合,視野感度はCbettereyeでやや上昇,worseeyeではやや低下することが報告されている.緑内障の視野障害とCQOLを検討する際に,しばしばBL法による両眼重ね合わせ視野(integratedCvisual.eld:IVF)が用いられている84).これは,片眼ごとの測定結果をもとに理論的に推定された両眼視野である.このCIVFは正しいのか?筆者らはCiMoに両眼の同じ部位に同じ光刺激を提示する両眼開放同時刺激のためのプログラムを設定し,両眼重ね合わせ視野の直接測定を試みた83).研究は現在進行中であり,ここではこれまでに測定されたC8例について提示する.最初の予備研究として,緑内障性の視野欠損が片眼のみに限局している患者を選択した.このうちC4例(図11a~d)はCiMoによる片眼ごと(片眼遮蔽)の測定結果とそれをもとにしたBL法によるCIVF,さらに両眼同時刺激視野測定の結果を示した.残りのC4例(図11e~h)はCiMoによる片眼ごとの測定は未施行のためCHFA24-2の測定結果と,BL法によるCIVFを示した.計C8例のうちC6例ではCIVFと両眼同時刺激視野測定の結果は一致した.しかし,2例(図11)については一致せず,worseeyeのCMariotte盲点に相当する部位の感度低下を検出した.BL法によるCIVFの方法はおおむね適切と考えられたが,ときに一致しない患者があることがわかった.緑内障患者のQOL評価のために両眼開放,両眼重ね合わせ視野についてはさらに検討を重ねる必要性がある.CIVまとめこの講演では筆者自身の緑内障研究歴に沿った形で,基礎研究から臨床研究までを振り返った.少なくとも現時点で,緑内障治療のオールマイティは眼圧下降である.さまざまなCGONによる視神経障害メカニズムはすべて眼圧に連動しているように思われる.現実的に現在片眼遮蔽片眼測定(iMo)BL法IVF両眼同時刺激片眼遮蔽片眼測定(HFA24-2)BL法IVF両眼同時刺激aefcdh図11iMoを用いた両眼同時刺激視野測定(片眼遮蔽)片眼視野測定をCiMoによって行ったC4例(Ca~d)とCHumphrey視野計で行ったC4例(Ce~h)について,bestlocation法による両眼重ね合わせ視野(IVF)と,iMoによる両眼同時刺激視野の結果を比較した.このC8例はいずれも緑内障性視野障害が片眼にのみに限局している.IVFと両眼同時刺激視野検査の結果はおおむね一致するが,2例では一致しなかった(Cb,g).可能な緑内障治療は眼圧下降治療であり,まず眼圧下降治療を徹底させることが緑内障治療の基本である.NTGはCGONのメカニズムとして,もっとも複雑で,特殊な病型と考える必要がある.危険因子,背景因子による広義CPOAGのサブタイプ化と分析が必要と考えられる.たとえば,遺伝子検査,バイオマーカー,近視,乳頭出血,角膜性状(中心角膜厚や角膜ヒステリシス)などは有力な候補である.そのような分析に基づいて個別化治療の可能性についてさらに模索,推進する必要がある.現在,日本国内でもビッグデータ構築が進められており,さらに総合的な分析の成果が期待される.緑内障治療の目的でありアウトカムは患者のCQOLである.緑内障に関するさまざまな分野とさまざまな課題があるが,すべての緑内障研究は,最終的に緑内障患者のCQOLを守るという目的のために行われるということは忘れてはいけない.緑内障のCQOLへの影響は視力,視野だけではない.緑内障病期の進行とともにコントラスト感度や両眼視など,さまざまな視覚機能が影響を受けることが明らかになってきている.視覚機能とCQOLの関連についてのさらに総合的な理解が必要である.さらに両眼開放視野測定など,より日常に即したCQOL評価とその方法の開発が待たれる.謝辞:須田記念講演という名誉ある機会を与えてくださった日本緑内障学会・相原一理事長,第C32回学術総会学会長・鈴木康之先生,理事,評議員の先生方に感謝いたします.恩師である故・岩田和雄新潟大学名誉教授,阿部春樹新潟大学名誉教授,故・澤口昭一琉球大学前教授,留学中にご指導いただきましたCBeatriceYue米国シカゴ・イリノイ大学元教授に心より感謝いたします.今回の講演で紹介した数々の緑内障研究に携わってくれた代々の新潟大学眼科緑内障グループのメンバーの先生方,検査を担当してくれた視能訓練士の皆様,日頃から諸事に補助していただいている眼科事務局の皆様に感謝申し上げます.また,日本緑内障研究会の時代からの「学閥を超えて緑内障を議論する」という素晴らしい伝統を,そのままに引き継いで今に至る日本緑内障学会の諸先輩,同世代,後輩の先生方に,この場を借りて御礼申し上げます.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン.第C5版.日眼会誌126:85-177,C20222)EuropeanGlaucomaSociety:TerminologyandGuidelinesforCglaucoma.C5thCed.Chttps://www.eugs.org/eng/guideClines.asp,20203)GeddeCSJ,CVinodCK,CWrightCMMCetal:PrimaryCopen-angleCglaucomaCpreferredCpracticeCpattern.Chttps://www.Caaojournal.org/article/S0161-6420(20)31024-1/pdf,20204)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:theCTajimiCStudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C20045)VernazzaCS,COddoneCF,CTirendiCSCetal:RiskCfactorsCforCretinalganglioncelldistressinglaucomaandneuroprotec-tivepotentialintervention.IntJMolSciC22:7994,C20216)QuigleyCHA,CAddicksCEM,CGreenCWRCetal:OpticCnerveCdamageinhumanglaucoma.II.Thesiteofinjuryandsus-ceptibilityCtoCdamage.CArchCOphthalmolC99:635-649,C19817)QuigleyHA,HohmanRM,AddicksEMetal:Morpholog-icCchangesCinCtheClaminaCcribrosaCcorrelatedCwithCneuralClossCinCopen-angleCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC95:673-691,C19838)Minckl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甲状腺眼症に対するバイオ治療薬と治療戦略

2023年8月31日 木曜日

甲状腺眼症に対するバイオ治療薬と治療戦略BiologicTherapeuticsandTreatmentStrategyforThyroidEyeDisease柿﨑裕彦*Iバイオ治療薬が出てきた背景1)甲状腺眼症は,眼部をターゲットとした自己免疫疾患で,甲状腺の機能異常に関連して出現する2).眼瞼や眼窩の症状など,眼部に出現するあらゆる病的状態を含む.病期は大まかに,炎症反応の旺盛な活動期と,炎症が消退した不活動期に分けることができる.活動期には消炎治療としてステロイドの点滴治療,内服治療,また放射線治療が行われてきた.しかし,これらは甲状腺眼症の病因に治療目標を絞ったものではない.不活動期には手術治療が行われる.ステロイド治療としては,点滴治療で急速な炎症低減を図り,その後,内服に切り替えて管理してゆくことが多い.しかし,点滴治療であるステロイドパルス療法では,劇症肝炎や重症糖尿病を発症することがあり,最悪の場合,死亡することがある.また,長期に及ぶステロイドの内服治療は,糖尿病,骨粗鬆症,満月様顔貌など,さまざまな副作用が懸念される.放射線治療の有効性は,エビデンス上,断定的なものではないが,消炎の長期的効果を狙って行われることが多い.以上のような背景から,甲状腺眼症の病因に焦点を絞り,かつ副作用が小さい分子標的治療が開発されるに至った3).II甲状腺眼症に対して用いられてきた分子標的生物学的製剤甲状腺眼症の治療には,以下に示すような分子標的生物学的製剤が用いられてきた4).リツキシマブ:ヒトBリンパ球表面に存在する抗原CD20を標的としたマウス-ヒトキメラモノクローナル抗体.CD20陽性のB細胞性非Hodgkinリンパ腫が主とした治療対象となる.甲状腺眼症に対しては,Clini-calActivityScore(CAS:7点満点で点数が小さいほど炎症が少ないと判断する),眼球突出,眼球運動の改善における結果はさまざまである.副作用には,炎症の増悪,腸疾患,関節痛,低血圧などがある.アダリムマブ:TNF-aを標的としたヒトモノクローナル抗体で,関節リウマチの治療薬として認可されている.甲状腺眼症に対しては,6/10の患者(60%)で炎症の軽減がみられたが,眼球突出や眼球運動への効果は小さい.副作用は感染症が主で,まれに敗血症がみられる.インフリキシマブ:TNF-aを標的としたマウス-ヒトキメラモノクローナル抗体.Crohn病,潰瘍性大腸炎,関節リウマチなどの自己免疫疾患,リウマチ性疾患の治療に使用されている.甲状腺眼症では,視力およびCASの改善が認められたという報告がある.副作用は,感染症,悪性腫瘍の発症,薬剤誘発性ループスなどが報告されている.*HirohikoKakizaki:愛知医科大学病院眼形成・眼窩・涙道外科〔別刷請求先〕柿﨑裕彦:〒480-1195愛知県長久手市岩作雁又1-1愛知医科大学病院眼形成・眼窩・涙道外科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(53)1039ab図1甲状腺眼症における眼窩内線維芽細胞のIGF-1受容体眼窩線維芽細胞のCIGF-1受容体は,甲状腺眼症の経過を通して過剰に発現している.Ca:活動期.Cb:不活動期においても,IGF-1受容体は過剰発現している.(Teprotumumabforthetreatmentofchronicthyroideyedisease|Eye(nature.com)より引用)・Teprotumumab-trbwisdosedaccordingtothepatient’sactualweight・Ifnotwelltolerated,theminimuminfusiondurationshouldremainat90minutes・Nospecialconsiderationsormonitoringrequiredforpatientswithmildormoderaterenalimpairment図2テプロツムマブの投与方法初回はC10Cmg/kgを点滴静注,その後はC20Cmg/kgをC7回,3週間ごとに点滴静注.最初のC2回はC90分かけて,その後はC60分で投与とする.(TEPEZZA(teprotumumab-trbw)[prescribinginformation]Horizonより引用)図3テプロツムマブによる複視の改善テプロツムマブ治療によって,複視は改善し,その割合は経時的に増加している.(文献C13より引用)図4甲状腺眼症の全経過におけるテプロツムマブの有効性テプロツムマブは活動期だけでなく,不活動期の病態に対しても有効である.図5テプロツムマブによる外眼筋と眼窩脂肪の容積の減少テプロツムマブ治療によって,明らかに外眼筋の容積が減少し,左右差が小さくなっている.(Teprotumumabforthetreatmentofchronicthyroideyedisease|Eye(nature.com)より引用)BeforeTeprotumumabPostTeprotumumab図6テプロツムマブによる眼球突出の改善眼球突出の改善に伴って,眼の開き具合も改善している.(Teprotumumabforthetreatmentofchronicthyroideyedisease|Eye(nature.com)より引用)-