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視神経炎に対するバイオ治療薬と治療戦略

2023年8月31日 木曜日

視神経炎に対するバイオ治療薬と治療戦略BiologicsandTreatmentStrategyforOpticNeuritis坪田欣也*はじめに特発性視神経炎は多発性硬化症をはじめとする脱髄疾患の一型と考えられてきた.脱髄疾患は自己抗原に対する異常な免疫反応を起こし,健常な神経組織を障害する自己免疫疾患である.視神経と脊髄に繰り返し炎症がみられる難治性視神経炎を視神経脊髄炎(neuromyelitisoptica:NMO,Devic病)とよんでいた1).視神経炎を引き起こす自己抗原は長らく不明であったが,2004年にアストロサイト上に発現するアクアポリンC4(aquapo-rin-4:AQP4)に対する抗体(抗CAQP4抗体)が視神経炎の発症因子の一つと判明した2).抗CAQP4抗体の発見によりC2006年にCWingerchukらが診断基準を改定したが3),視神経炎と脊髄炎が同時にみられない患者や,脳病変から発症する患者など症状が多彩であったために,2015年により広い疾患概念として視神経脊髄炎スペクトラム(neuromyelitisCopticaCspectrumdisorders:NMOSD)となった4).本稿では視神経炎の簡単な病態から生物学的製剤の選択と治療戦略について述べる.CI視神経炎の病態アストロサイトは神経と連携する働きをもつグリア細胞の中でもっとも多く,おもに神経に栄養を運ぶ,指令を伝えやすくするといった働きをもち,豊富なCAQP4を有する細胞である.そのためアストロサイトのCAQP4が標的とされることによって,視機能障害,運動機能障害,感覚障害などが起こる.NMOSDの多くの患者は抗AQP4抗体陽性となる一方で,抗CAQP4抗体陰性にもかかわらず,臨床症状などからCNMOSDの診断基準を満たす患者が存在する.その一部は抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(myelin-oligodendrocyteglycopro-tein:MOG)抗体陽性の場合があり,抗CMOG抗体は視神経炎の発症に関連する因子として注目されている.MOG抗体は髄鞘にみられオリゴデンドロサイト糖に対する抗体であり,髄鞘の安定性と免疫系に関与している5,6).さらに近年では,NMOSDの病態形成に抗AQP4抗体に加え,補体(C5)の活性化7,8),炎症性サイトカインであるインターロイキン(interleukin:IL)-6)の関与が明らかとなり9)(図1),さまざまな生物学的製剤が保険適用となった(表1).CII生物学的製剤(バイオ治療薬)視神経炎に対する急性期治療の第一選択はステロイド大量点滴療法である.ステロイド抵抗性の視神経炎やステロイド依存性に再発を繰り返す視神経炎では,ステロイド大量点滴療法が繰り返し行われてきた.難治性視神経炎の病態に抗CAQP4抗体や抗CMOG抗体の関与が明らかになってから,抗体を体内から除去することを目的とした血液浄化療法が導入されるようになった(抗MOG抗体関連視神経炎は保険適用外).さらに大量免疫グロブリン療法がステロイド抵抗性視神経炎に有効であることが報告され10),わが国でも保険収載されたが原則として抗CAQP4抗体陽性の患者に限られている.ま*KinyaTsubota:東京医科大学臨床医学系眼科学分野〔別刷請求先〕坪田欣也:〒160-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(47)C1033血管図1抗AQP4抗体陽性視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)の病態と生物学的製剤B細胞が形質細胞に分化し抗CAQP4抗体を産生する.抗CAQP4抗体と結合したCAQP4(免疫複合体)によって補体が活性化し炎症を生じる.IL-6はCB細胞から形質細胞への分化を通じ抗CAQP4抗体産生の亢進,補体の活性化やCTh17細胞の誘導に関与する.サトラリズマブはCIL-6,リツキシマブはCB細胞,イネビリズマブはCB細胞と形質細胞,エクリズマブとラブリズマブは補体をそれぞれ抑制し,視神経炎の再発を予防する.表1難治性視神経炎に対する生物学的製剤の一覧一般名(薬品名)エクリズマブ(ソリリス)ラブリズマブ(ユルトミス)サトラリズマブ(エンスプリング)イネビリズマブ(ユプリズナ)リツキシマブ(リツキサン)治療適応抗CAQP4抗体陽性CNMOSD抗CAQP4抗体陽性CNMOSD抗CAQP4抗体陽性CNMOSD抗CAQP4抗体陽性CNMOSD抗CAQP4抗体陽性CNMOSD治療目的再発予防再発予防再発予防再発予防再発予防作用機序補体減少補体減少IL-6減少CD19細胞減少(B細胞,形質細胞)CD20細胞減少(B細胞)投与方法初月は週C1回1回C900Cmg点滴静注.その後C2週間ごとに1,200Cmg点滴静注.1回C2,400.C3,000Cmgを開始用量2週後にC1回C3,000.C3,600Cmg以降C8週ごとに1回C3,000.C3,600Cmgを点滴静注(体重によって投与量を変更)1回C120Cmgを初回,C2,4週後以降C4週ごとに皮下注射1回C300Cmgを初回,2週目,以降C6カ月ごとに点滴静注射1回量C375Cmg/mC2をC1週間ごとにC4回点滴静注.初回投与からC6カ月ごとC1,000Cmg/bodyをC2週間ごとにC2回点滴静注副作用投与時反応,感染症,髄膜炎など投与時反応,感染症,髄膜炎など投与時反応,感染症,リンパ球減少など投与時反応,感染症,進行性多巣性白質脳症など投与時反応,感染症,進行性多巣性白質脳症など薬価593,721円C/300Cmg699,570円C/300Cmg1,532,660円C/1シリンジ3,495,304円C/C100Cmg24,221円C/100Cmg年間薬力(2年目以降)約C6,600万円約C4,200万円約C1,800万円約C2,000万円約C100万円ステロイド少量維持*難病申請を受けていること脳神経内科との連携がとれていること(ステロイド)+免疫抑制薬有効年に1回以上の再発ステロイド依存性有効ステロイド漸減中止免疫抑制薬中止生物学的製剤継続図2生物学的製剤導入の過程NMOSDの再発予防治療は必要不可欠であるが,副作用の観点から可能な限り低用量のステロイドが望まれる.一方で,ステロイド投与継続が困難な患者,ステロイド抵抗性がみられる患者では免疫抑制薬の併用が用いられる.ステロイドと免疫抑制薬を使用しても再発がみられる患者,ステロイド投与が困難であり免疫抑制薬単剤では再発がみられる患者などでは生物学的製剤の使用を検討するが,生物学的製剤の導入には難病申請を受けていること,脳神経内科と連携がとれていることが必須条件である.-溶血性尿毒症候群,全身型重症筋無力症の治療に承認されている.非盲検第CIII相多施設国際共同試験でエクリズマブとの非劣性が明らかとなり,2023年C5月に承認された.副作用はエクリズマブ同様で,アナフィラキシーショックといった投与時反応,上気道感染,髄膜炎がみられるため,髄膜炎菌ワクチンを本剤の投与開始C2週間前までに接種することが推奨されている.用法用量は患者の体重を考慮し,1回C2,400.3,000Cmgを開始用量とし,初回投与C2週後にC1回C3,000.3,600Cmg,以降C8週ごとにC1回C3,000.3,600Cmgを点滴静注する.本剤はエクリズマブと同様に高い有効性が期待され,さらにC8週間ごとの投与間隔であることが大きな利点であり,今後おおいに期待される.C3.サトラリズマブ抗CIL-6抗体のサトラリズマブ(エンスプリング)はヒト化CIgG2モノクローナル抗体である.IL-6はCB細胞や形質細胞の分化や抗体産生,細胞性免疫全般の活性化や脳内グリア活性に関与するため,IL-6抑制によって広く抗炎症効果が期待される.さらに通常の抗体薬は抗原と一度しか結合できないが,本剤は抗原と何度でも結合できる「リサイクリング抗体」である.その機序として抗原-抗体複合体となると細胞内に取り込まれリソソームに移行し抗原-抗体複合体は分解されるが,本剤は細胞内に取り込まれた後にCpH依存的に抗原を遊離することで,再度細胞外に放出され,新たな抗原と再結合することが可能となる.サトラリズマブはC2020年C6月に抗CAQP4抗体陽性患者におけるCNMOSDの再発予防として承認された.重大な副作用として,アナフィラキシーショックといった投与時反応,敗血症,肺炎といった感染症がある.本剤は炎症性サイトカインであるIL-6を抑制するため,炎症マーカーであるCCRPが上昇しない.そのために発熱などはみられず,呼吸苦がみられて初めて合併症の発見に至ることもあるため,注意が必要である.用法用量はC1回C120Cmgを初回,2週間後,4週間後に皮下注射し,以降はC4週間ごとに皮下注射する.本剤はC4週間ごとに皮下注射のため,慣れれば患者自身でも投与可能であり,投与方法が簡便であることが大きな利点と思われる.4.イネビリズマブ抗CCD19抗体であるイネビリズマブ(ユプリズナ)はヒト化脱フコシル化免疫グロブリンCG1Cl(IgG1Cl)モノクローナル抗体である.CD19細胞はCB細胞特異的表面抗原であり,抗CAQP4抗体産生に関与する形質芽細胞やCB細胞を減少させる.イネビリズマブはC2020年C2月に抗CAQP4抗体陽性例におけるCNMOSDの再発予防および身体的障害の進行抑制として承認された.重大な副作用としてアナフィラキシーショックといった投与時反応,B型肝炎ウイルスの再活性化,感染症,進行性多巣性白質脳症などがある.とくに非盲検期間を伴う二重盲検プラセボ対照国際共同第CIIC/III相試験では投与時反応が多く報告されたため,イネビリズマブ投与のC30分.1時間前に抗ヒスタミン薬および解熱鎮痛薬を経口投与し,イネビリズマブ投与のC30分前に副腎皮質ホルモン剤を点滴静注することが推奨されている.また,B細胞を抑制するため,生ワクチンや弱毒化ワクチンの接種を行う場合はイネビリズマブの投与開始C4週間前までに行うことが推奨されている.用法用量はC1回C300Cmgを初回,2週間後に点滴静注し,以降は初回投与からC6カ月間隔で点滴静注する.本剤はC6カ月ごとの投与間隔のため,遠方に在住で定期的な来院が困難な患者も投与が可能であることが大きな利点と思われる.C5.リツキシマブ抗CCD20抗体であるリツキシマブ(リツキサン)は,幹細胞や形質細胞以外のCB細胞上のCCD20抗原特異的に結合するCCD20モノクローナル抗体である.B細胞性の非CHodgkinリンパ腫,慢性リンパ球性白血病,多発血管炎性肉芽腫症,難治性ネフローゼ症候群などの治療に古くから用いられてきた.リツキシマブはC2021年C10月に抗CAPQ4抗体陽性例におけるCNMOSDの再発予防として承認された.副作用はイネビリズマブと同様に,アナフィラキシーショックといった投与時反応,B型肝炎ウイルスの再活性化,感染症,進行性多巣性白質脳症などがある.用法用量はC1回量C375Cmg/mC2をC1週間ごとにC4回点滴静注し,初回投与からC6カ月ごとに1,000Cmg/bodyをC2週間間隔でC2回点滴静注する.本剤は他疾患で長く使用されてきた経験や安全面がすでに証1036あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023(50)-

小児ぶどう膜炎に対するバイオ治療薬と治療戦略

2023年8月31日 木曜日

小児ぶどう膜炎に対するバイオ治療薬と治療戦略BiologicTherapeuticsandTreatmentStrategyforPediatricUveitis鴨居功樹*はじめに小児ぶどう膜炎は眼炎症が遷延する特徴があり,経過中に重篤な合併症を引き起こすことがあるため,早期発見と適切な治療が必要である.一方で,患者本人からの自覚症状の訴えが乏しいこともあり,発見時にすでに進行していることがある.小児ぶどう膜炎は感染性,非感染性,仮面症候群に分類され,多くは非感染性ぶどう膜炎である.非感染性の従来の治療法では,ステロイドや免疫抑制薬がおもに使用されていたが,副作用や効果に限界があることから,近年はバイオ治療薬が注目されている.本稿では,小児ぶどう膜炎に対するバイオ治療薬とその治療戦略について概説する.I小児ぶどう膜炎の特徴ぶどう膜炎全体の5.10%が小児ぶどう膜炎である1).成人のぶどう膜炎と同様に,小児ぶどう膜炎は,解剖学的に前部・中間部・後部・汎ぶどう膜炎に分類される.また,病因としては,感染性・非感染性・腫瘍による仮面症候群に分けられる.小児ぶどう膜炎は非感染性ぶどう膜炎が多く,若年性特発性関節炎(juvenileidiopathicarthritis:JIA)に伴うぶどう膜炎,若年性慢性虹彩炎(JIAに伴うぶどう膜炎およびJIAに該当しない小児における慢性再発性の特発性非肉芽腫性前部ぶどう膜炎),尿細管間質性腎炎ぶどう膜炎症候群((tubulointerstitialnephritisanduveitissyndrome:TINU症候群),クリオピリン関連周期熱症候群などが小児に特有な疾患としてあげられる2).感染性ぶどう膜炎としては,世界的にはトキソプラズマの報告が多い3).また,仮面症候群としては,白血病が原因(眼浸潤,日和見感染)であることが多い4).診断において,感染性・非感染性・仮面症候群の鑑別が必須であり,成人のぶどう膜炎と同様に全身疾患に随伴する可能性を考慮しなければならない.そのため小児科医と連携して,全身疾患のスクリーニングを行って診断することが重要である.また,同時に,家族のサポートや情報提供も重要である.小児ぶどう膜炎でみられる眼所見としては,強い前眼部炎症(図1),帯状角膜変性(図2),虹彩後癒着(図3),白内障(図4),高眼圧,緑内障,.胞様黄斑浮腫(図5),網膜上膜などがある.小児ぶどう膜炎では,炎症自体よりも,炎症に続発した合併症が視力障害に影響する.小児ぶどう膜炎における問題点は,成人患者に比べて自覚症状の訴えが少ないため,発見が遅れることである.とくに非感染性ぶどう膜炎は慢性の経過をたどるため,充血・白色瞳孔などによってようやく気づかれることもあり,受診時にはある程度炎症・合併症が進行している場合も少なくない.II小児ぶどう膜炎の従来の治療とその問題点小児ぶどう膜炎の治療の目標は,眼炎症を抑制し,合併症を防ぐことである.治療の第一選択はステロイド点*KojuKamoi:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学〔別刷請求先〕鴨居功樹:〒113-8510東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(39)1025図1JIAに伴うぶどう膜炎における強い前眼部炎症図2JIAに伴うぶどう膜炎患者に生じた帯状角膜変性房水中の蛋白濃度の上昇によって強い前房フレアがみられる.図3小児の非感染性ぶどう膜炎にみられた角膜後面沈着物と虹彩後癒着図4小児の非感染性ぶどう膜炎に生じた続発白内障図5小児の非感染性ぶどう膜炎のOCT写真.胞様黄斑浮腫がみられる.長ホルモン阻害による成長障害などが懸念される.このように長期のステロイド投与は問題が生じるため,ステロイドの減量が重要な治療上の課題となってくる.ステロイド減量効果(steroid-sparinge.ect)のある薬剤として,小児ぶどう膜炎においては,メトトレキサートがもっとも多く使用されており,ほかにもミコフェノール酸モフェチル・アザチオプリン・シクロスポリンを中心とした免疫抑制薬が使用される.メタ分析では,メトトレキサートの導入は小児の非感染性ぶどう膜炎の抑制に有効で,70%以上の症例に有効であったと報告されている5).一方で,免疫抑制薬による炎症抑制やステロイド減量がむずかしい患者も存在するため,次の治療として,近年開発されたバイオ治療薬の導入が重要な選択肢となる.CIIIバイオ治療薬とはバイオ治療薬は,生物学的技術(バイオテクノロジー)を用いて開発された薬剤である.免疫反応や細胞増殖などを調節する蛋白質や抗体で,これらは病態に関与する分子を特異的に標的とすることができるため,効果的な治療が期待される.バイオ治療薬の作用機序は,炎症反応に関与するサイトカインや細胞表面受容体を標的とし,炎症の制御や免疫抑制を行うことで眼内炎症を抑制する.バイオ治療薬は,先述の従来治療(ステロイドや免疫抑制薬)に対して抵抗性がある場合や,従来治療の副作用のリスクが高い患者に対して適応とされる.また,病状が急速に進行している場合や,病変が重篤である場合にも検討される6)CIVTNF阻害薬1.インフリキシマブインフリキシマブは,可溶性および膜結合型腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisfactor:TNF)C-aに結合し,その働きを阻害するキメラ(ヒト-マウス)型モノクローナル抗体である.投与は点滴で行われる.インフリキシマブの有効性および安全性は,多くの炎症性疾患に対し後ろ向きおよび前向きの研究で立証されている.日本の眼科領域ではCBehcet病が対象であるが7),世界的にはCJIAに伴うぶどう膜炎に使用されており8),良好な成績を得ている.メタ分析によると,小児ぶどう膜炎のC70%程度に効果があったとも報告されている9).インフリキシマブ分子のマウス部分に対する抗体形成を防ぐために,低用量のメトトレキサートの使用が推奨されている10).重篤な副作用としては易感染性があげられ,結核の再活性化や,ほかにも悪性腫瘍やループス様症候群の発症なども報告されている.投与時反応はC10.17%に発現するとの報告がある7).C2.アダリムマブアダリムマブは,完全ヒト型CTNF-aモノクローナル抗体であり,皮下注射で投与され,非感染性ぶどう膜炎に対して使用される11).また,多施設,二重盲検,無作為化,プラセボ対照試験において,メトトレキサート併用でのアダリムマブは,活動性のあるCJIAに伴うぶどう膜炎の眼炎症を抑制し,治療失敗率がプラセボよりも低かったことが示された(SYCAMORE試験)12).また,アダリムマブは,局所療法およびメトトレキサートに対する反応が不十分な小児の慢性前部ぶどう膜炎で有効であることが示された(ADJUVITE試験)13).ほかにも小児ぶどう膜炎におけるアダリムマブの有効性の報告がある14,15).メタ分析によると,アダリムマブとインフリキシマブは慢性の小児ぶどう膜炎の治療に有効であることが示され,インフリキシマブよりもアダリムマブのほうが有効性が高いとの結果も示されている16).アダリムマブの副作用は,インフリキシマブと同等なプロファイルでみられるが,日本人の小児において問題となるのは肝機能障害であり,8%にみられるとの報告がある17).アダリムマブは小児ぶどう膜炎における高い有効性と,家庭での皮下投与が可能な点で,小児患者とその家族にとって利便性が高いと考えられている.C3.TNF阻害薬・バイオシミラーバイオシミラーとは,先行バイオ薬と同等・同質の品質,安全性,有効性を有する後発バイオ薬のことで,TNF阻害薬に関しては日本でもすでに発売されている.医療経済面からも,英国などでは先行バイオ薬からの切(41)あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023C1027り替えが推奨されており,今後の投与対象の拡大が予想される.成人のぶどう膜炎に関しては,すでにインフリキシマブとアダリムマブのバイオシミラーの有効性と安全性が報告されている一方で,小児ぶどう膜炎に関しては,インフリキシマブのバイオシミラーが有効かつ安全であったという報告や18),アダリムマブのバイオシミラーは小児CBehcet病患者に有効性と安全性が確かめられたという報告がある程度で19),まだ限られたエビデンスしか存在せず,今後の研究が期待されている.C4.その他のバイオ製剤:IL-6阻害薬(トシリズマブ)トシリズマブは,インターロイキン(interleukin:IL)-6受容体に結合し,IL-6を介したシグナル伝達を阻害することで,T細胞活性化,免疫グロブリン産生,血管新生を抑制するヒト化抗ヒトCIL-6受容体抗体である.近年,トシリツマブ投与は抵抗性CJIAに伴うぶどう膜炎に対し有効で安全な治療法であるという報告があった20).メトトレキサートとCTNF阻害薬に抵抗性のCJIAに伴うぶどう膜炎の患者に対するトシリツマブ投与に関する研究(フェーズC2)では,主要エンドポイントは達成されなかったとの報告もある(APTITUDE試験)21).トシリツマブは小児ぶどう膜炎の治療において有望な薬剤であると考えられているが,最適な投与用量を決定するためにはさらなる研究が必要である.これまでに月次投与のトシリツマブは,週次注射よりも効果が高いことなどの報告があり20),現在知見が集積されつつある.C5.IL-1阻害薬:カナキヌマブ,アナキンラ,リロナセプトカナキヌマブは完全ヒト型抗CIL-1Cbモノクローナル抗体,アナキンラは組換えヒトCIL-1受容体拮抗薬,リロナセプトはヒトCIL-1受容体-Fc融合蛋白質で,いずれも炎症性CIL-1Cb/IL-1受容体シグナル伝達の遮断を目的としている.小児ぶどう膜炎に対するCIL-1阻害薬の投与に関していくつかの知見がある.カナキヌマブは,クリオピリン関連周期症候群に伴うぶどう膜炎22),JIAに伴うぶどう膜炎やCTNF阻害薬抵抗性のぶどう膜炎23),Behcet病ぶどう膜炎24)への投与が有効であったとの報告がある.アナキンラは,クリオピリン関連周期症候群25),Behcet病ぶどう膜炎24)への投与が有効であったとの報告がある.リロナセプトの臨床報告はなく,今後の報告が待たれる.対象疾患としてとくにCIL-1Cbが過剰産生されるクリオピリン関連周期症候群は,ステロイドなど既存治療では効果がないため,診断後早期にIL-1阻害薬を導入する.C6.B細胞標的薬:リツキシマブリツキシマブは,B細胞マーカーCCD20を標的とし,その後CB細胞アポトーシスを誘導するキメラ抗体である.作用機序として,補体依存性細胞傷害作用や抗体依存性細胞傷害作用が確認されている.リツキシマブを投与された重度の抵抗性CJIA関連ぶどう膜炎の研究において,投与後C4カ月で抑制効果みられ平均約C4年の観察期間の最終受診時にすべての患者のぶどう膜炎が抑制されていたとの報告がある26).また,リツキシマブはステロイド,免疫抑制薬,TNF阻害薬に反応のないCJIA関連ぶどう膜炎に対して長期的に効果があったとの報告もある27).副作用として,投与時反応,遅発性好中球減少症,低ガンマグロブリン血症,心不全,およびまれに致命的な進行性多巣性白質脳症があり,またリツキシマブを投与されている患者へのCIgGモニタリングの有用性が指摘されている28).C7.T細胞標的薬:アバタセプトアバタセプトは,抗原提示細胞のCCD80/CD86に結合することで,CD28を介した共刺激シグナルを阻害し,T細胞活性化を抑制する可溶性融合蛋白である.最近の研究では,小児の特発性のぶどう膜炎に有効であることが示されたとの報告がある一方で,アバタセプトを使用した患者の約半数で治療が不成功で,小児ぶどう炎の治療にアバタセプトは成功しなかったとの報告もある29,30).現段階では,小児ぶどう炎に対するアバタセプトの有効性に関する評価は定まっていない.副作用には感染,消化器症状などがあるが,癌発症のリスクは低いと考えられている.1028あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023(42)ステロイド(局所/全身)眼炎症の抑制(+)継続・減量眼炎症の抑制(一)全身疾患の存在眼炎症の抑制(+)継続眼炎症の抑制(一)眼炎症の抑制(+)継続図6小児ぶどう膜炎(非感染性)の治療フローチャート治療には小児科医との連携が重要である.クリオピリン関連周期熱症候群に関しては,診断後早期にCIL-1阻害薬を導入する.たる治療が必要な場合が多い.従来のステロイドによる治療は,成長遅延や発育障害といった副作用が生じるリスクがあるため,小児科医や家族と連携して,適切なタイミングでバイオ治療薬を導入することが治療戦略の重要なポイントと考えられる.バイオ治療薬は,小児ぶどう膜炎の治療法として有望な選択肢であるが,新規のバイオ治療薬の長期的な効果や安全性に関するデータは依然として不十分である.さらなる臨床研究と新規バイオ治療薬の開発が進展することで,小児ぶどう膜炎の治療がより個別化され,効果的な治療法の選択ができるようになることが期待される.文献1)EdelstenCC,CLeeCV,CBentleyCCRCetal:AnCevaluationCofCbaselineCriskCfactorsCpredictingCseverityCinCjuvenileCidio-pathicarthritisassociateduveitisandotherchronicanteri-oruveitisinearlychildhood.BrJOphthalmolC86:51-56,C20022)日本リウマチ学会小児リウマチ調査検討小委員会ぶどう膜炎ワーキンググループ編:小児非感染性ぶどう膜炎初期診療の手引きC2020年版.羊土社,20203)MarkomichelakisCNN,CChatzistefanouCKI,CPapaefthymiouCICetal:InfectiousCuveitisCinCchildren.COphthalmologyC116:C1588,C20094)MajumderCPD,CBiswasJ:Pediatricuveitis:anCupdate.COmanJOphthalmolC6:140-150,C20135)SimoniniG,CantariniL,BresciCetal:Currenttherapeu-ticCapproachesCtoCautoimmuneCchronicCuveitisCinCchildren.CAutoimmunRevC9:674-683,C20106)鴨居功樹:ぶどう膜炎における生物学的製剤.日本の眼科C92:10-14,C20217)鴨居功樹:ベーチェット病に対するインフリキシマブ療法.眼科62:547-554,C20208)RichardsCJC,CTay-KearneyCML,CMurrayCKCetal:CIn.iximabCforCjuvenileCidiopathicCarthritis-associatedCuve-itis.ClinExpOphthalmolC33:461-468,C20059)SimoniniG,DruceK,CimazRetal:Currentevidenceofanti-tumorCnecrosisCfactorCatreatmentCe.cacyCinCchild-hoodchronicuveitis:asystematicreviewandmeta-anal-ysisapproachofindividualdrugs.ArthritisCareResC66:C1073-1084,C201410)UkumaranCS,CMarzanCK,CShahamCBCetal:HighCdoseCin.iximabCinCtheCtreatmentCofCrefractoryuveitis:doesCdosematter?ISRNRheumatol2012:765380,C201211)鴨居功樹,高瀬博:アダリムマブ(ヒュミラ).あたらしい眼科34:499-504,C201712)RamananCAV,CDickCAD,CJonesCAPCetal;SYCAMOREStudyCGroup:AdalimumabCplusCmethotrexateCforCuveitisCinCjuvenileCidiopathicCarthritis.CNCEnglCJCMedC376:1637-1646,C201713)QuartierCP,CBaptisteCA,CDespertCVCetal;ADJUVITEStudyCGroup:ADJUVITE:aCdouble-blind,Crandomised,Cplacebo-controlledCtrialCofCadalimumabCinCearlyConset,Cchronic,CjuvenileCidiopathicCarthritis-associatedCanteriorCuveitis.AnnRheumDis77:1003-1011,C201814)Vazquez-CobianCLB,CFlynnCT,CLehmanTJ:AdalimumabCtherapyCforCchildhoodCuveitis.CJCPediatrC149:572-575,C200615)SimoniniG,TaddioA,CattaliniMetal:Superiore.cacyofCAdalimumabCinCtreatingCchildhoodCrefractoryCchronicCuveitiswhenusedas.rstbiologicmodi.erdrug:Adalim-umabasstartinganti-TNF-atherapyinchildhoodchron-icuveitis.PediatrRheumatolOnlineJC11:16,C201316)MaccoraCI,CFuscoCE,CMarraniCECetal:ChangingCevidenceCovertime:updatedCmeta-analysisCregardingCanti-TNFCe.cacyCinCchildhoodCchronicCuveitis.CRheumatology(Oxford)60:568-587,C202117)ImagawaT,TakeiS,UmebayashiHetal:E.cacy,pharC-macokinetics,andsafetyCofCadalimumabCinCpediatricCpatientsCwithCjuvenileCidiopathicCarthritisCinCJapan.CClinCRheumatolC31:1713-1721,C201218)SozeriCB,CKarde.E,CSaliCECetal:DrugCsurvivalCofCtheCin.iximabbiosimilar(CT-P13)inCpaediatricCpatientsCwithCnon-infectiousCuveitis.CClinCExpCRheumatolC39:907-912,C202119)SoheilianM,EbrahimiadibN,HedayatfarAetal:E.cacyofCbiosimilarCadalimumabCinCtheCtreatmentCofCBehcet’sCuveitis.OculImmunolIn.ammC30:1495-1500,C202220)MalekiCA,CManhapraCA,CAsgariCSCetal:TocilizumabCemploymentCinCtheCtreatmentCofCresistantCjuvenileCidio-pathicarthritisassociateduveitis.COculImmunolIn.ammC6:1-7,C202021)RamananCAV,CDickCAD,CGulyCCCetal;APTITUDECTrialCManagementGroup:TocilizumabCinCpatientsCwithCanti-TNFCrefractoryCjuvenileCidiopathicCarthritis-associateduveitis(APTITUDE):aCmulticentre,Csingle-arm,CphaseC2Ctrial.LancetRheumatol2:e135-e141,C202022)SobolewskaCB,CAngermairCE,CDeuterCCCetal:NLRP3CA439VCmutationCinCaClargeCfamilyCwithCcryopyrin-associ-atedperiodicCsyndrome:descriptionCofCophthalmologicCsymptomsCinCcorrelationCwithCotherCorganCsymptoms.CJRheumatolC43:1101-1106,C201623)BrambillaCA,CCaputoCR,CCimazCRCetal:CanakinumabCforCchildhoodCsightthreateningCrefractoryuveitis:aCcaseCseries.JRheumatolC43:1445-1447,C201624)FabianiCC,CVitaleCA,CEmmiCGCetal:Interleukin(IL)C-1CinhibitionwithanakinraandcanakinumabinBehcet’sdis-ease-relateduveitis:amulticenterretrospectiveobserva-tionalstudy.ClinRheumatolC36:191-197,C201725)TeohCSC,CSharmaCS,CHoganCACetal:TailoringCbiologicaltreatment:Anakinratreatmentofposterioruveitisassoci-1030あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023(44)

皮膚疾患に伴うぶどう膜炎に対するバイオ治療薬と治療戦略

2023年8月31日 木曜日

皮膚疾患に伴うぶどう膜炎に対するバイオ治療薬と治療戦略BiologicsandTreatmentStrategyforUveitisResultingfromSkinDisorders柳井亮二*はじめに皮膚疾患に対するバイオ治療薬として,アトピー性皮膚炎や乾癬に対する生物学的製剤やヤヌスキナーゼ(Januskinase:JAK)阻害薬が登場し,皮膚科領域においても難治例に対する治療戦略が大きく変わろうとしている.皮膚疾患に伴うぶどう膜炎としては,乾癬によるぶどう膜炎が古くから知られている.乾癬に対する治療は生物学的製剤の導入により大きく進歩しており,眼科医として最新の情報を把握しておく必要がある.本稿では,ぶどう膜炎を伴う皮膚疾患として乾癬を取りあげ,バイオ治療薬を含めた治療戦略について概説する.I乾癬とは皮膚の表皮角化細胞の増殖あるいは角質の.離障害によって角質肥厚をおもな病態とする疾患群を角化症という1).角化症のなかで著明な炎症所見を呈する代表疾患が乾癬である(図1).従来,乾癬は皮膚のみに症状を呈する慢性疾患とみなされてきたが,近年,乾癬の病態がより明らかとなることで,皮膚疾患にとどまらない全身性炎症性疾患として捉えられるようになってきた.ぶどう膜炎のほか,関節炎やうつ病などの精神疾患,心血管障害などが乾癬に合併することが明らかとなり,皮膚科以外の診療科における乾癬診療の重要性が高まった.台湾で行われたコホート研究では,ぶどう膜炎がある患者は健常者に比べ乾癬の発症リスクが1.41倍高いことが報告されている2).逆に,乾癬性関節炎を伴う重症乾癬表1乾癬の病型病型頻度概要尋常性乾癬関節症性乾癬乾癬性紅皮症85.90%5.10%1%程度もっとも多い通常の病型.局面型乾癬尋常性乾癬に乾癬性関節炎を合併した病型体表面積の90%以上に乾癬の皮疹が広がった状態膿疱性乾癬1%程度全身症状とともに全身皮膚に膿疱形成を伴う潮紅を生じる特殊形で指定難病(急性)滴状乾癬数%程度おもに小児と若年成人に発症.一過性では,ぶどう膜炎の発症リスクが2.4倍高くなることも示されている3).乾癬の罹患率は欧米では2.3%と高く,日常的にみられる疾患と考えられるが,わが国の罹患率は0.4%で欧米よりも低いと報告された4).しかし,近年の食生活や生活スタイルの変化に伴い,患者数は増加傾向であると考えられている.乾癬の病型は,臨床的に5病型に大別されるが(表1,図1),一般的に「乾癬」という場合にはもっとも頻度の高い尋常性乾癬を意味している.II乾癬に対する治療乾癬の治療薬は外用薬,経口薬,注射薬(生物学的製剤)が導入されており,さらに局所治療として光線療法が併用される(図2)1,5).重症例の全身治療としては,*RyojiYanai:山口大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕柳井亮二:〒755-8505山口県宇部市南小串1-1-1山口大学大学院医学系研究科眼科学0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(33)1019尋常性乾癬乾癬性紅皮症膿疱性乾癬関節症性乾癬(乾癬性関節炎:PsA)図1乾癬の臨床像(山口大学大学院医学系研究科皮膚科学講座山口道也先生のご厚意による)表2乾癬で使用可能な生物学的製剤1(TNF阻害薬・IL-17阻害薬)標的CTNFaIL-17AIL-17受容体CACIL-17A/F薬剤名(商品名)インフリキシマブ(レミケード)アダリムマブ(ヒュミラ)セルトリズマブ(シムジア)セクキヌマブ(コセンティクス)イキセキズマブ(トルツ)ブロダルマブ(ルミセフ)ビメキズマブ(ビンゼレックス)構造キメラ型モノクローナル抗体ヒト型モノロクローナル抗体ペグヒト化モノロクローナル抗体ヒト型モノロクローナル抗体ヒト化モノロクローナル抗体ヒト型モノロクローナル抗体ヒト化モノロクローナル抗体注射形態静脈注射皮下注射皮下注射皮下注射皮下注射皮下注射皮下注射承認年月2010年C1月2010年C1月2019年C12月2014年C12月2016年C7月2016年C6月2022年C1月乾癬の適応症尋常性乾癬関節症性乾癬膿疱性乾癬乾癬性紅皮症尋常性乾癬関節症性乾癬膿疱性乾癬尋常性乾癬関節症性乾癬膿疱性乾癬乾癬性紅皮症尋常性乾癬関節症性乾癬膿疱性乾癬尋常性乾癬関節症性乾癬膿疱性乾癬乾癬性紅皮症尋常性乾癬関節症性乾癬膿疱性乾癬乾癬性紅皮症尋常性乾癬膿疱性乾癬乾癬性紅皮症ぶどう膜炎の適応症Behcet病非感染性ぶどう膜炎C─C─C─C─C─表3乾癬で使用可能な生物学的製剤2(IL-12/23阻害薬)標的CIL-12/23p40CIL-23Cp19薬剤名(商品名)ウステキヌマブ(ステラーラ)グセルクマブ(トレムフィア)リサンキズマブ(スキリージ)チルドラキズマブ(イルミア)構造ヒト型モノクローナル抗体ヒト型モノロクローナル抗体ヒト化モノロクローナル抗体ヒト化モノロクローナル抗体注射形態皮下注射皮下注射皮下注射皮下注射承認年月2011年C1月2018年C3月2019年C3月2020年C6月乾癬の適応症尋常性乾癬関節症性乾癬膿疱性乾癬乾癬性紅皮症尋常性乾癬関節症性乾癬膿疱性乾癬尋常性乾癬関節症性乾癬膿疱性乾癬乾癬性紅皮症尋常性乾癬関節症性乾癬膿疱性乾癬乾癬性紅皮症ぶどう膜炎の適応症C─C─C─C─C~表4乾癬で使用可能なJAK阻害薬標的CJAK1CTYK2薬剤名(商品名)ウパダシチニブ(リンヴォック)デュークラバシチニブ(ソーティクツ)用法・用量15CmgをC1日C1回経口投与6CmgをC1日C1回経口投与承認年月2021年C5月2022年C9月乾癬の適応症関節症性乾癬尋常性乾癬尋常性乾癬膿疱性乾癬ぶどう膜炎の適応症C─C─C図3乾癬の病態カスケードと生物学的製剤の標的サイトカイン(文献C5より改変)表5日本人の乾癬性ぶどう膜炎の特徴平均年齢C43.6±7.1歳性別男10例,女性3例尋常性乾癬54%C乾癬の病型(重複あり)関節症性乾癬膿疱性乾癬31%C23%C乾癬性紅皮症C8%・発症形式急性発症85%Cぶどう膜炎の病型(1C9眼)潜行性・分類前部ぶどう膜炎汎ぶどう膜炎併発15%92%C8%C・炎症再燃C69%ステロイド点眼100%Cデキサメタゾン結膜下注射54%治療(重複あり)ステロイド内服免疫抑制薬内服31%C54%C生物学的製剤46%HLA-A2陽性率C100%(6/6例)(文献C7より引用)図4乾癬性ぶどう膜炎(57歳,女性)乾癬性ぶどう膜炎による再発性慢性虹彩毛様体炎のため,虹彩後癒着を生じ,散瞳不良となっている.治療は眼科よりステロイド点眼,ステロイド内服のちアダリムマブを導入した.アダリムマブ導入後はぶどう膜炎の再燃はみられない.皮膚科からはビタミンCD・ステロイド配合軟膏による局所治療が行われていたが,アダリムマブ導入後は乾癬の皮膚症状も改善した.(広島大学原田陽介先生のご厚意による)有効図5乾癬性ぶどう膜炎に対する治療戦略(私見)

強直性脊椎炎に伴うぶどう膜炎に対するバイオ治療薬と治療戦略

2023年8月31日 木曜日

強直性脊椎炎に伴うぶどう膜炎に対するバイオ治療薬と治療戦略BiotherapeuticsandTreatmentStrategyforAnkylosingSpondylitisAssociatedUveitis佐田幾世*原田陽介*はじめに強直性脊椎炎(ankylosingspondylitis:AS)は,若年男性に多く発症し,脊椎,仙腸関節,股関節,肩などの関節に炎症を起こす疾患である.また,ヒト白血球抗原(humanleukocyteantigen:HLA)-B27と関連しており,日本では比較的まれな疾患である.関節外症状は,眼,心血管,肺,消化管,皮膚など多様であるが,ぶどう膜炎の合併が最多であり,実際,眼科受診をきっかけにASと診断されることも多々ある.ほとんどのASに伴うぶどう膜炎は,局所的なステロイド治療に速やかに反応するが,治療に抵抗する場合は,腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor:TNF)阻害薬などの治療法が近年開発されている.今回,ASに伴うぶどう膜炎の最近の知見と治療法について紹介する.I分類脊椎関節炎の分類を図1に示す.脊椎関節炎(spondy-loarthritis:SpA)は,炎症が付着部に集中することやHLA-B27遺伝子の関与などの共通点をもつ一連の疾患である.この中でもSpAは体軸性(axial)と末梢性(peripheral)に大別される.体軸性SpAには,X線検査で仙腸関節炎を有する強直性脊椎炎(ankylosingspondylitis:AS)(体軸性脊椎関節炎radiographicaxialspondyloarthritis:r-axSpAともよばれる)と,X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎(nonradiographicaxialspondyloarthritis:nr-axSpA)がある.末梢性SpAには,乾癬性関節炎(psoriaticarthritis:PsA),反応性関節炎(reactivearthritis:ReA),炎症性腸炎関連関節炎(in.ammatoryboweldiseaseassociatedarthri-tis:IBD-SpA),分類不能脊椎関節炎(undi.erentiatedspondyloarthritis:uSpA)が含まれる.以前は,AS(r-axSpA)の診断に「改訂ニューヨーク基準」が用いられてきたが,この基準ではnr-axSpAの早期診断が困難であると指摘されていた1).2009年,国際脊椎関節炎評価会(AssessmentofSpondyloArthri-tisinternationalSociety:ASAS)は,体軸性SpAの新しい分類基準を提唱し2)(図2),これによりnr-axSpAの分類や治療介入が可能となった.しかし,実際には,体軸性と末梢性の症状が共存することが多く,各疾患のオーバーラップも少なくないため,診断確定には困難な面がある.そのため,提唱された分類基準は,特異度が高くなるように設定されたものであり,「診断基準」とは異なる.AS(r-axSpA)とnr-axSpAは,臨床症状,併存疾患,治療への反応に関してほぼ同様であることが示されている3).このような情報を念頭に置いて,正確な情報収集と評価が必要とされる.II疫学AS(r-axSpA)の発症頻度は,欧米では成人の0.5~1%とされているが,わが国では0.02~0.03%と非常にまれな疾患であり,実際には3万人前後が罹患していると考えられている.2018年の全国疫学調査によると,日*IkuyoSada&YosukeHarada:広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学(眼科学)〔別刷請求先〕佐田幾世:〒734-8553広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学(眼科学)0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(25)1011体軸性脊椎関節炎末梢性脊椎関節炎(axSpA)(pSpA)■3カ月以上持続する腰背部痛があり,発症が45歳未満の患者仙腸関節炎の画像所見*+または一つ以上の脊椎関節炎徴候*画像所見・MRI所見で仙腸関節炎を強く示唆する活動性(急性)炎症または・改訂ニューヨーク基準のX線基準を満たす仙腸関節炎HLA-B27+lHLA-B27以外の二つ以上の脊椎関節炎の徴候脊椎関節炎の徴候・ぶどう膜炎・炎症性腰背部痛・関節炎・付着部炎(踵骨)・指趾炎・乾癬.Crohn病/潰瘍性大腸炎.NSAIDsに対する良好な反応.HLA-B27.CRP陽性図2AssessmentofSpondyloArthritisinternationalSociety(ASAS)による体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎を含む)の分類基準(文献2より一部改変)本国内の患者数は推定C3,200人と報告された4).また,2016年には,国の特定難病として指定されている.HLA-B27は,ASの発症リスクをC16倍増加させ1,5),また急性前部ぶどう膜炎とも関連しており,そのリスクをC23倍増加させると報告されている6).ASはCHLA-B27の分布に一致して地理的に不均一な疾患であり,一般人口におけるCHLA-B27保有率は,米国でC6.1%,中国でC1.8%であるのに対し,日本ではC0.3~0.5%程度とされている.海外の研究でCAS患者のC8割以上がHLA-B27保有者とされる一方で,わが国の研究では,AS患者のうちCHLA-B27陽性率がC78%だったという報告があるが7),1.3%であったという報告もあり,地域差が著しく,頻度差を考慮する必要があるとの指摘がある.ASは男女比約3:1で男性に多く,nr-axSpAは女性に多いとされる.女性では発症が遅く,軽症例が多いとされる.また,喫煙との関与も指摘されている.わが国では比較的まれな疾患であるため,リウマチや整形外科において,発症初期は通常の腰痛や関節リウマチなどと診断され,フォローされる例も少なくない.CIII臨床症状ASはC10~20代で発症し,20~30代に病勢がピークを迎え,40代に入ると徐々に鎮静化するのが一般的である.症状の特徴は,3カ月以上続く炎症性腰背部痛であるが,殿部痛,頑固な腰痛,背部痛など不定愁訴的な訴えも多く,他疾患との鑑別が重要となる.進行速度が遅く,初発から診断確定までC9年前後かかる場合もある.ASの腰背部痛は,初期には痛みが強い時期(数日から数週間)とまったく痛みがない時期の波が激しく,安静では改善せず,動くと改善するのが特徴的で,「炎症性腰背部痛」とよばれる.ASの早期発見には,いくつかのキラーワードがあり,「腰や股関節の痛みで夜間に目が覚める」「運動したら緩和する関節痛」などの訴えがあげられる.これらの症状がある場合は,速やかにリウマチ膠原病内科への紹介が必要である.40代に入ると痛みは徐々に鎮静化し,痛みの訴えが減る一方で,脊椎や関節の運動制限,拘縮や強直が目立つようになり,こわばりと倦怠感などが主体となるため8),年代別での訴えの変化に注意が必要である.筆者らも,片眼性の急性前部ぶどう膜炎患者に対しては,初診時から慎重に腰痛の有無や痛みの性状を聴取している.とくにC40代以降では,腰痛を訴えない例もあり,視診で脊椎や関節の拘縮や強直がないか注意深く観察し,少しでも疑わしい場合は,速やかに骨盤部CX線撮影を施行するとともに,X線所見が認められない場合でも,nr-axSpAの可能性を考慮し,リウマチ膠原病内科への紹介を行っている.CIV検査ASの体軸病変は通常,仙腸関節,下部腰椎から上方へと進展する.「改訂ニューヨーク基準」では,仙腸関節のCX線変化を,0度:正常,1度:疑い(骨縁の不鮮明化),2度:軽度(小さな限局性の骨びらん・硬化.関節裂隙は正常),3度:明らかな変化(骨びらん・硬化の進展と関節裂隙の拡大,狭小化または部分的な強直),4度:関節裂隙全体の強直,に分けており,おおむねこのグレード順に進行する(図3).脊椎のCX線変化は,まず椎体の靱帯付着部にびらん性変化による方形化(squaring)がみられ,その後,脊椎の垂直方向に起こる骨新生による靱帯骨棘(syndesmophytes)が形成され,左右対称性の椎体間架橋,脊椎強直(ankylosis)の順に進行する.靱帯骨棘の存在は,より多くの靱帯骨棘が発生するリスクが高いことを反映し,予後的価値があるとされる.ASの前段階であるCnr-AxSpAでは,MRIのCSTIR画像で骨髄浮腫を示唆する高信号領域と骨びらんの存在が診断のカギとなる.しかし,骨髄浮腫は,オーバーユースや外傷でもみられるため,注意が必要である.仙腸関節と脊椎のCMRIは,軸索の炎症の有無を評価できるが,臨床的な疾患活動性と炎症の関連はわずかであり,モニタリングには推奨されていない.ASの分類基準の項目には(図2),仙腸関節炎の画像所見の有無があげられ,MRI上の活動性(急性)の炎症がCSpAに関連する仙腸関節炎を強く示唆しているか,あるいは「改訂ニューヨーク基準」に基づいて確定したCX線基準を満たす仙腸関節炎である必要がある.そのため,MRI画像における炎症所見の有無は,AS診断において重要な指標とされる.(27)あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023C1013図3強直性脊椎炎(AS)の骨盤部X線とMRI63歳,男性.左右交互に再発する急性前部ぶどう膜炎で紹介になった.最近,両膝関節痛が出現していた.骨盤部X線正面像では,両側仙腸関節のびらんがあり(),骨盤部CMRIでは,脂肪抑制CT2強調像で仙骨,両側腸骨の仙腸関節部に高信号域があり(),辺縁に硬化性変化を伴う仙腸関節炎を認め,ASと診断された.その後,アダリムマブ投与開始となった.図4強直性脊椎炎(AS)に対する治療中に再発した急性前部ぶどう膜炎(左眼)48歳,男性.5年前から急性前部ぶどう膜炎を左右交互に繰り返すため紹介となった.ASの既往があり,アダリムマブ加療中だったが左眼の眼痛,充血,前房内炎症細胞C3+が出現し,レミケードへ変更された.表1強直性脊椎炎(AS)に有効性が示されている生物学的製剤とASに伴うぶどう膜炎への効果一般名製品名分類CASへの効果わが国でのAS保険適用ASぶどう膜炎ヘの効果Cインフリキシマブ(IFX)レミケードキメラ型抗ヒトCTNFCaモノクローナル抗体C○C○C○インフリキシマブCBS(バイオシミラー)C○C○C○TNF阻害薬アダリムマブ(ADA)ヒュミラヒト型抗ヒトCTNFCaモノクローナル抗体C○C○C○セルトリズマブペゴル(CZP)シムジアペグ化ヒト化抗ヒトCTNFCaモノクローナル抗体C○C─C○ゴリムマブ(GLM)シンポニーヒト型抗ヒトCTNFCaモノクローナル抗体C○C─C○エンブレル完全ヒト型可溶性CTNFCa/LTaレ○C─ぶどう膜炎惹起の可能性ありエタネルセプト(ETN)エタネルセプトCBSCセプターC○C─Cセクキヌマブ(SEC)コセンティクスヒト型抗ヒトCIL-17Aモノクローナル抗体C○C○前部ぶどう膜炎のリスクありIL-17阻害薬イキセキズマブ(IXE)トルツヒト化抗ヒトCIL-17Aモノクローナル抗体C○C○C─ブロダルマブ(PDL)ルミセフヒト型抗ヒトCIL-17受容体CAモノクローナル抗体C○C○C─CJAKウパダシチニブ(UPA)リンヴォックヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬C○C○C─阻害薬トファシチニブ(TOF)ゼルヤンツヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬C○C─C─CETN)は,海外ではCASへの有効性が示されているものの,わが国ではCASに対する承認はまだされていない.しかし,AS以外の関節リウマチなどではすでに承認,使用されており,一般診療において眼科医が遭遇する機会も多々ある.IL-17阻害薬に関しては,わが国では現在,ASに対してセクキヌマブ(secukinumab:SEC),イキセキズマブ(ixekizumab:IXE),ブロダルマブ(brodalum-ab:PDL)のC3剤が承認されている.どの薬剤も有効性はおおむね同様であり,ASではCTNF阻害薬と同等の有効性を示している21,22).さらに生物学的製剤で効果不十分の場合には,ヤヌスキナーゼ(Januskinase:JAK)阻害薬が推奨される.ASでは,ウパダシチニブ(upadacitinib:UPA)とトファシチニブ(tofacitinib:TOF)の有効性が実証されており,わが国では,2022年C5月からCUPAが承認されている.JAK阻害薬は,サイトカインシグナルを媒介する細胞内キナーゼのCJAKを標的とする分子標的合成抗リウマチ薬である.ASでは,現在までに関連性のある比較試験が行われておらず,TNF阻害薬,IL-17阻害薬とCJAK阻害薬のいずれを優先するかについては,結論は出ていない.CIXASに伴うぶどう膜炎の治療ASに伴うぶどう膜炎の治療は,局所的なコルチコステロイドと散瞳薬点眼の併用治療が中心である.難治性の場合や後眼部病変を併発した場合には,トリアムシノロンアセトニドの後部CTenon.下注射や副腎ステロイドの全身投与が有効である.さらに無効例や治療抵抗例には,2016年C9月に眼科領域として非感染性の中間部・後部・汎ぶどう膜炎に保険適用となった,TNFCa阻害薬の一つであるCADAの使用が考慮される.海外でCASに伴うぶどう膜炎に有効性が示されているのは,モノクローナルCTNF阻害薬であるCIFX,ADA,CZP,GLMである.これらの薬剤は,ASに伴う前部ぶどう膜炎のフレアを減らし23),ぶどう膜炎の既往患者では,再発予防効果があることが報告されている.また,IFXやCADAによる治療は,IL-17阻害薬であるSECやCTNF可溶性受容体抗体であるCETNと比較して,ぶどう膜炎の発症リスクが低いことが示されている.一方,ETNによるぶどう膜炎惹起の報告もある24).ETNは,その作用機序からマクロファージなどのCTNF産生細胞を傷害しないため,他の炎症性サイトカインの産生が続き,炎症を惹起する可能性があるとされている.SECは,非感染性ぶどう膜炎患者において有効性の検証が試みられたが,有効性が示されず,IL-12/23阻害薬のウステキヌマブを用いた第CII相試験が現在進行中である.最近の報告では,SpAの臨床で使用される場合に,SECは,モノクローナルCTNF阻害薬と比較して,前部ぶどう膜炎のリスクが高く,ETNと比較して同程度のリスクであると報告されている25).以上より,モノクローナルCTNF阻害薬は,ETNやSECと比較して,ASにおけるぶどう膜炎を予防するため,より効果的な選択肢であるされている.おわりにASASなどは,ぶどう膜炎を伴うCAS患者には,モノクローナルCTNF阻害薬を優先する必要があると勧告している.ASの治療薬として,わが国では近年,TNFCa阻害薬,IL-17阻害薬,JAK阻害薬が承認されてきたが,このうちCASに伴うぶどう膜炎に有効性が示されている薬剤はCADA,IFXある.TNF可溶性受容体抗体であるCETNはぶどう膜炎の惹起の可能性があり,IL-17阻害薬CSECは前部ぶどう膜炎のリスクがあるため注意が必要である.ASに伴う前部ぶどう膜炎の治療の際には,リウマチ膠原病内科との連携が必須であるが,前述のCASぶどう膜炎に対する有効な薬剤は限られているため,眼科医が薬剤の副作用や機序を把握し,ぶどう膜炎を認める場合はリウマチ膠原病内科医に,薬剤選択の際に治療方針について提案する必要がある.文献1)vanderLindenS,AValkenburgH,CatsAetal:Evalua-tionCofCdiagnosticCcriteriaCforankylosingCspondylitis:aCproposalformodi.cationoftheNewYorkcriteria.CArthri-tisRheum27:361-368,C19842)RudwaleitCM,CvanCderCHeijdeCD,CLandeweCRCetal:TheCdevelopmentCofCassessmentCofCspondyloarthritisCinterna-tionalCsocietyCclassi.cationCcriteriaCforCaxialCspondyloar-(31)あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023C1017–’C

強膜炎に対するバイオ治療薬と治療戦略

2023年8月31日 木曜日

強膜炎に対するバイオ治療薬と治療戦略TherapeuticStrategyforScleritisUsingBiologics八幡信代*はじめに強膜炎は強膜を中心とした炎症性疾患で,眼内炎症を伴う強膜ぶどう膜炎はぶどう膜炎初診患者の4~5位と頻度の高い疾患である1).前頭部や頬部へ放散する強い眼痛を伴い,眼球穿孔や視神経萎縮などにより高度の視力障害に至ることもあり,多くは慢性炎症の経過をとる2).30~40%は関節リウマチなどの全身炎症性疾患を伴っており,眼局所治療,消炎鎮痛薬,副腎皮質ステロイド全身投与のみでは炎症コントロールが困難な患者も少なくない3).これらの治療に抵抗性を示す場合には免疫抑制薬や生物学的製剤などの併用が必要となる.近年の生物学的製剤開発の進歩により,全身炎症性疾患の治療は大きく変わってきており,強膜炎に対する生物学的製剤治療の知見も蓄積してきている4).本稿では,難治性強膜炎に対する生物学的製剤を含めた今後の治療戦略について考える.I強膜炎と全身炎症性疾患強膜炎は病型より前部強膜炎(びまん性,結節性),壊死性強膜炎,後部強膜炎に分類される(図1)2,5).びまん性前部強膜炎はもっとも高頻度であり,全体の60~75%を占める5).また,壊死性強膜炎は強膜穿孔のリスクが高く,後部強膜炎は視神経・網膜障害による高度の視力障害をきたすリスクがあることから,いずれも速やかな治療導入が必要である.さらに強膜炎はその原因により感染性,非感染性,術後強膜炎に分類され,非感染性がその多くを占める.非感染性強膜炎の中で関節リウマチや抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilcytoplasmicantibody:ANCA)関連血管炎,多発性軟骨炎,炎症性腸疾患などの全身炎症性疾患の合併が40%にみられる(表1)3,6,7).とくに壊死性強膜炎はANCA関連血管炎をはじめとした全身炎症性疾患の合併率が80%前後と高頻度である(表2)5).このため,ステロイド点眼治療のみでは眼痛や炎症のコントロールが困難な患者が多く,全身治療の併用が必要となることが多い.一方,後部強膜炎の80%は全身炎症性疾患の合併がみられないが,その多くは全身治療を要する(表3).強膜ぶどう膜炎に対して保険適用のある全身治療薬は非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidalanti-in.amma-torydrugs:NSAIDs),副腎皮質ステロイドのほか,カルシニューリン拮抗薬であるシクロスポリン,生物学的製剤として腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor:TNF)阻害薬の一つであるアダリムマブである.さらに,合併する全身炎症性疾患に対する保険適用薬の使用が可能である.メトトレキサート(methotrexate:MTX)は強膜炎に対する保険適用はないが,国内外では副腎皮質ステロイドに次いでよく用いられており,ステロイド治療抵抗例,ステロイド減量中に再発する患者に有効である7,8).強膜炎にもっとも合併する関節リウマチの第一選択薬であることを鑑みると理にかなっている.しかし,MTXの併用でもコントロール不十分な患*NobuyoYawata:九州大学大学院医学研究院眼病態イメージング講座〔別刷請求先〕八幡信代:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼病態イメージング講座0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(17)1003図1強膜炎分類a:びまん性前部強膜炎.b:結節性前部強膜炎.c:壊死性強膜炎.d:後部強膜炎(エコー画像).表1強膜炎に合併するおもな全身炎症性疾患表2全身炎症性疾患の合併率5)びまん性前部結節性前部壊死性後部C35.7%C29.6%C80%C19.3%表3全身治療を要した強膜炎の割合3,5,7,19)びまん性前部結節性前部壊死性後部全身ステロイド治療免疫抑制薬生物学的製剤33~C37%14~C23%3~1C4%14~C29%<7C%<C13%20~C70%70~C100%<C17%C80~C83%17~C33%5%C図2強膜炎炎症にかかわる細胞と生物学的製剤表4強膜炎に合併するおもな全身炎症性疾患に対してわが国で保険適用のある生物学的製剤,免疫抑制薬生物学的製剤免疫抑制薬など関節リウマチTNF阻害薬,IL-6阻害薬,CTLA-4-Ig製剤MTX,タクロリムス,JAK阻害薬ANCA関連血管炎IL-6阻害薬,CDC20阻害薬(一部)アザチオプリン,シクロホスファミド再発性多発軟骨炎MTX,シクロホスファミド,アザチオプリン,シクロスポリン潰瘍性大腸炎TNF阻害薬アザチオプリン,タクロリムス,JAK阻害薬C関節リウマチと診断図3関節リウマチ治療フローチャート副腎皮質ステロイド,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を補助的治療とする.MTX:メトトレキサート.(文献C11より改変)非感染性強膜炎と診断全身炎症性疾患の検索への治療でみられるように,パラドキシカル反応が多いようである.また,投与の持続が必要なケースが多く,無治療寛解を持続できる患者は限られている.TNF阻害薬無効例や二次無効のケースに対しては他のCTNF阻害薬や生物学的製剤への切り替えが行われている.CD20阻害薬はわが国でも保険適用となっている多発血管炎性肉芽腫症を合併した難治性強膜炎を中心とした報告がみられ,90%以上の寛解率を示している15,16).これらの症例は従来治療であるCMTXやシクロホスファミドなどの免疫抑制薬に抵抗性を示した症例に直接導入したケースと,TNF阻害薬に抵抗性を示したために導入したケースがみられる.このほか,IL-1阻害薬はCTNF阻害薬抵抗性の難治性強膜炎に奏効し,ステロイド投与量も大幅に減量できたという報告がある.IL-6阻害薬による強膜炎治療の報告は少ないが,免疫抑制薬やCTNF阻害薬に抵抗性の強膜炎の一部で炎症コントロールやステロイド減量に奏効しており,とくに既存治療に抵抗性の再燃性多発軟骨炎合併例での報告がみられる.生物学的製剤の多様な選択肢が増えている現在,難治性強膜炎は,まず背景にある全身炎症性疾患に基づいた戦略をとるのがよいであろう.これまでの知見をもとに作成した非感染性強膜炎治療のフローチャートを図4に示す.強膜炎は多様な全身炎症性疾患を背景にもつため,その治療選択はより複雑である.また,全身炎症性疾患はコントロールされているにもかかわらず,強膜炎のみ活動性が高いケースに遭遇することも少なくない.さらに強膜炎の約半数には明らかな全身炎症性疾患の合併がみられないため,血液中炎症マーカーなども参考に眼科主導で治療を進めることが多くなるが,これらの場合も膠原病内科などとの連携体制の下で治療を進めることが望ましい.CVI今後の課題生物学的製剤の台頭により以前と比べて強膜炎に対する治療選択肢が増えてきたが,強膜炎そのものに対する適応薬は限られている.また,全身炎症性疾患に対する複数の生物学的製剤の選択基準はまだ確立していない.これは各病型や治療抵抗性に関与する炎症病態やバイオマーカーがまだよくわかっていないためである.近年,炎症局所の微量検体から遺伝子・蛋白発現解析が可能なシングルセル解析技術が進歩し,関節リウマチでは関節腔内の局所炎症の病態解明が進んでいる.局所炎症病態に合った治療を選択することで,より高い治療効果を期待できることが報告されている17,18).難治性強膜炎の治療戦略の確立にも今後まだ多くの臨床からの知見が必要である.さらにそれによって多様な強膜炎の病態への理解が進むと考える.また,現在多様な治療薬によって多くのケースでは炎症コントロールは可能になってきているが,drug-free寛解が可能なケースは限られている.Drug-free寛解のバイオマーカー,再燃予測バイオマーカーが明らかになれば,副作用や医療負担軽減にも大きく貢献するであろう.文献1)SonodaCKH,CHasegawaCE,CNambaCKCetal:EpidemiologyCofCuveitisCinJapan:aC2016CretrospectiveCnationwideCsur-vey.JpnJOphthalmolC65:184-190,C20212)WatsonCPG,CHayrehSS:ScleritisCandCepiscleritis.CBriJOphthalmolC60:163-191,C19763)JabsDA,MudunA,DunnJPetal:Episcleritisandscleri-tis:clinicalfeaturesandtreatmentresults.AmJOphthal-molC130:469-476,C20004)SotaJ,GirolamoMM,FredianiBetal:Biologictherapiesandsmallmoleculesforthemanagementofnon-infectiousscleritis:aCnarrativeCreview.COphthalmolCTherC10:777-813,C20215)SainzCdeClaCMazaCM,CMolinaCN,CGonzalez-GonzalezCLA,CDoctorCPPCetal:ClinicalCcharacteristicsCofCaClargeCcohortCofCpatientsCwithCscleritisCandCepiscleritis.COphthalmologyC119:43-50,C20126)Wake.eldCD,CDiCGirolamoCN,CThurauCSCetal:Immuno-pathogenesisCandCmolecularCbasisCforCtherapy.CProgCRetinCEyeRes35:44-62,C20137)TanakaCR,CKaburakiCT,COhtomoCKCetal:ClinicalCcharac-teristicsandocularcomplicationsofpatientswithscleritisinJapanese.JpnJOphthalmolC62:517-524,C20188)SainzCdeClaCMazaCM,CMolinaCN,CGonzalez-GonzalezCLACetal:Scleritistherapy.OphthalmologyC119:51-58,C20129)StemCMS,CTodorichCB,CFaiaLJ:OcularCpharmacologyCforscleritis:reviewoftreatmentandapracticalperspective.JOculPharmacolTher33:240-246,C201710)Sarzi-PuttiniCP,CCeribelliCA,CMarottoCDCetal:SystemicCrheumaticdiseases:Frombiologicalagentstosmallmole-cules.AutoimmunRevC18:583-592,C20191008あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023(22)-

Vogt-小柳-原田病に対するバイオ治療薬と治療戦略

2023年8月31日 木曜日

Vogt-小柳-原田病に対するバイオ治療薬と治療戦略BiologicTherapiesandTreatmentStrategiesforVogt-Koyanagi-HaradaDisease出口英人*はじめにVogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Harada:VKH)は日本におけるぶどう膜炎の原因疾患において,サルコイドーシスに次いで頻度の高い疾患であり,両眼性の汎ぶどう膜炎を生じる疾患である.日本ではステロイドパルス療法,それに続くステロイド内服漸減療法が一般的に行われる1).ステロイド治療により多くの患者では寛解が得られるが,治療抵抗性の患者や,いったん寛解してもステロイドの漸減により再発し,炎症が遷延する患者もみられる.従来はそのような患者に対してはシクロスポリン(cyclosporine:CsA)の併用が行われていたが,2016年より難治性の非感染性ぶどう膜炎に対し,アダリムマブ(adalimumab:ADA)が使用できるようになり,VKHにおけるADAの効果に関する報告が少しずつ蓄積されてきている.本稿ではVKHの疫学,病態,治療方針,VKHに対するADAの効果に関する報告,当院での使用方法とその問題点,今後の課題について概説する.IVKHの疫学,病態VKHはアジア系やヒスパニック系,中東系の有色人種に多いとされ,髄膜炎症状,聴覚異常,皮膚の異常知覚,両眼性の汎ぶどう膜炎を特徴とする疾患である.2016年度に実施されたわが国のぶどう膜炎診療を行う66病院を対象としたぶどう膜炎の原因疾患調査では,8.1%(第2位)をVKHが占めており,ぶどう膜炎の中では頻度の高い疾患である2).VKHの病因や病態はまだ解明されていないが,遺伝的背景(HLA-DR4など)をもつ患者がなんらかの環境要因(ウイルス感染など)を契機に,眼球,内耳,髄膜,皮膚といった標的臓器のメラニン抗原に対する自己免疫反応を生じ,臨床症状が引き起こされると考えられている.VKHの病理像は,脈絡膜の肉芽腫性炎症であり,脈絡膜へのリンパ球,マクロファージ,類上皮細胞,多核巨細胞の浸潤を呈する.臨床症状としては,感冒様症状,全身倦怠感,頭部知覚過敏,頭痛,耳鳴りなどの前駆期が先行し,1~2週間ほどで眼症状が出現する.眼病期に入ると前房,硝子体に細胞浸潤をきたし,毛様体肥厚,毛様体.離,および脈絡膜肥厚を生じる.前房炎症が強い患者では毛様体.離が顕著となり,水晶体が前方偏位し,狭隅角をきたすため,急性緑内障発作と誤診される例も存在する(図1,2).光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では脈絡膜厚の著しい増加,脈絡膜血管影の消失,網膜色素上皮細胞層の波打ち像を呈する.炎症が網膜下や網膜色素上皮に波及すると滲出性網膜.離をきたし,多房性の網膜.離がみられることもある(図3).蛍光眼底造影で特徴的な像がみられ,フルオレセイン蛍光造影では造影早期から点状の蛍光漏出がみられ,乳頭過蛍光を呈することが多い(図4).インドシアニングリーン蛍光造影では,脈絡膜肉芽腫形成により,脈絡膜血管に造影剤が灌流されず,肉芽腫形成部位がダークスポッ*HidetoDeguchi:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕出口英人:〒602-8566京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(9)995図2図1と同一症例の治療開始2週間後の前眼部OCT所見前房は深くなり,毛様体.離離,毛様体肥厚は消失した.図1発症早期に狭隅角をきたした症例の初診時所見浅前房を認め,前眼部COCTで著明な毛様体.離を呈していた.図3初診時の後眼部OCT所見水平断(Ca)および垂直断(Cb).脈絡膜の波打ちを認め,多房性の滲出性網膜.離をきたしている.図4図3と同一症例のフルオレセイン蛍光造影画像両眼とも乳頭過蛍光および広範囲に蛍光漏出を認め,滲出性網膜.離を伴っている.図5図3と同一症例のインドシアニングリーン蛍光造影画像両眼とも脈絡膜の肉芽腫により後極部にダークスポットを認める.-図6夕焼け状眼底VKHによる炎症の遷延に伴い脈絡膜の菲薄化をきたし,夕焼け状眼底を生じる.図8寛解維持期(a)と同一症例の再発時(b)のOCT画像ステロイド漸減中に脈絡膜の肥厚と波打ちを認めた症例.寛解維持期(Ca)には脈絡膜が薄いのに比べ,再発時(Cb)には肥厚し,また脈絡膜の波打ちを認め,再発と判断した.図7治療前後でのOCT画像の変化治療開始前(Ca)と寛解維持できている時点(Cb)のCOCT画像.脈絡膜の肥厚および波打ちはステロイド治療により改善し,脈絡膜血管も確認できる.====表1当院でのADA導入症例のまとめADA導入時観察期間ADA導入前ADA導入後年齢(歳)性別(月)PSL投与量(mg)CsA投与量(mg)最終CPSL投与量(mg)効果判定61女性C76C7.5C150C0有効C72男性C70C7C150C0有効C75男性C61C15C100C3有効C54女性C56C30C150C9有効PSL:プレドニゾロン,CsA:シクロスポリン.図9ADA導入症例の初診時のOCT所見図10図9と同一症例の寛解時のOCT所見滲出性網膜.離を認め,脈絡膜肥厚と波打ちを認める.滲出性網膜.離は消失し,脈絡膜肥厚も改善した.図11図9と同一症例の再燃時のOCT所見図12図9と同一症例のADA導入後のOCT所見PSLをC15Cmgまで減量した時点で滲出性.離,脈絡膜肥厚を漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚は認めず,現在もCPSL内服なし認め,再燃と判断した.で経過観察している.

Behçet病に対するバイオ治療薬と治療戦略

2023年8月31日 木曜日

Behcet病に対するバイオ治療薬と治療戦略BiotherapeuticsandTreatmentStrategyforBehcet’sDisease竹内正樹*はじめにBehcet病とは,全身の臓器に発作性の炎症を繰り返す慢性炎症性疾患である.眼病変であるぶどう膜炎は,口腔内潰瘍,皮膚病変,陰部潰瘍とともに主症状に分類され,副症状には関節炎,精巣上体炎,消化管病変,血管炎,中枢神経症状がある1).Behcet病の発症原因については未だ完全に解明されていないが,遺伝子解析研究などから得られた知見からは,さまざまな免疫系が病態に関与していると考えられる2).1999年にCKastnerらは自然免疫系異常を病態の中心とする疾患を自己炎症疾患として分類し,獲得免疫系の異常による自己免疫疾患と対比した3).Behcet病では,発作性のエピソードや,好中球主体の炎症など,獲得免疫だけでなく自然免疫の異常も大きくかかわっており,自己炎症疾患としての側面がある.狭義の自己炎症疾患は,自然免疫にかかわる単一遺伝子の異常を原因とするものが多く,非常にまれな疾患であり,眼病変を伴うものも存在する(表1).本稿ではCBehcet病を中心として自己炎症疾患を含めたバイオ治療薬とその治療戦略について述べる.Behcet病の眼病変は,非肉芽腫性ぶどう膜炎が発作性に生じることが特徴である.90%以上は両眼性ではあるが,発作は片眼ずつに生じることが多い.発作時には結膜毛様充血や眼内炎症による霧視,視力低下を自覚する.眼炎症は比較的短い期間で消退することが多いが,発作時の網膜や視神経へのダメージが蓄積されることで不可逆的な視機能障害につながる1).Behcet病のぶどう膜炎の有病率は,1970年代には男性でC80%以上,女性でC60%以上であったが,2000年代にかけて有病率は低下し,現在は男性でC40%台,女性はC30%前後で推移している.それに伴い,国内のぶどう膜炎の原因疾患の割合の疫学調査(2016年)においても,Behcet病は第C6位に後退しC4.2%であった4).以前はCBehcet病は視力予後不良の代表的な眼疾患であり,2000年以前では4割近くの患者でC10年後の矯正最高視力がC0.1未満となっていた5).近年では眼病変有病率の低下,重症眼発作の減少に加えて,バイオ治療薬の登場により視力予後は大きく改善するに至った.CIBehcet病眼病変治療の変遷わが国ではCBehcet病の眼炎症発作の予防に痛風治療薬であるコルヒチンや免疫抑制薬のシクロスポリンが用いられてきた.しかし,これらの既存治療薬の効果が不十分である患者も多く存在し,前述の通りCBehcet病の視力予後は長らく不良であった.このような状況のなか,2007年に世界に先駆けて腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisfactor:TNF)阻害薬であるインフリキシマブが,わが国でCBehcet病による難治性網膜ぶどう膜炎に対して保険収載されることとなった.TNFは単球やマクロファージ,T細胞から産生される生体反応のメディエーターである.TNFはインターロイキン(interleu-kin:IL)-1やCIL-6,IL-8といった炎症性サイトカインの産生を刺激するほか,好中球を活性化し免疫応答を活*MasakiTakeuchi:横浜市立大学大学院医学研究科視覚器病態学〔別刷請求先〕竹内正樹:〒236-0004横浜市金沢区福浦C3-9A345横浜市立大学大学院医学研究科視覚器病態学C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(3)C989表1眼病変を伴う自己炎症疾患自己炎症疾患略語原因遺伝子眼病変クリオピリン関連周期熱症候群CCAPSCNLRP3ぶどう膜炎家族性地中海熱CFMFCMEFVぶどう膜炎・強膜炎A20ハプロ不全症CHA20CTNFAIP3ぶどう膜炎TNF受容体関連周期性症候群CTRAPSCTNFRSF1A眼科周囲浮腫・結膜炎アデノシンデアミナーゼC2欠損症CDADA2CADA2網膜閉塞性血管炎Blau症候群C─CNOD2ぶどう膜炎±±・ステロイドテノン.下注射・ステロイド結膜下注射・ステロイド内服図1Behcet病眼病変治療アルゴリズム・眼発作時の治療(文献C1より転載)めわが国の第一選択薬はコルヒチンとなる(図2上).コルヒチンで効果不十分な症例では,シクロスポリンの内服が行われる.これらの治療でも眼発作抑制が困難な症例にCTNF阻害薬の投与が行われる(図2下).しかし,頻度の高い発作や後極部に病変が及ぶような視機能低下リスクが高い患者では,早期のCTNF阻害薬の導入が重要であり,コルヒチン投与後にシクロスポリンの投与を介さずにCTNF阻害薬を導入することが推奨されている.TNF阻害薬の有効性についてはインフリキシマブ,アダリムマブの両剤でさまざまな報告がなされている.インフリキシマブの有効性について,Okadaらは,投与後C1年間でC60%の眼発作が消失し,90%の患者で有効性が認められたと報告している9).2023年には,Takeuchiらによってわが国でのC10年間のインフリキシマブの使用実績が報告された.140例中C75.7%でインフリキシマブが継続されており,導入後C10年間でC50%以上の患者で発作の再発を一度も認めなかった10).アダリムマブについては,Behcet病ぶどう膜炎患者の発作回数を投与前のC2回から平均投与期間C21カ月でC0.42回に減少させたと報告されている.また,Fabianiらの報告では,アダリムマブの投与によりC1年あたりの眼発作回数がC2回からC0.085回に減少していた.自己炎症疾患の眼病変治療については,非感染性ぶどう膜炎の治療に準じて,局所治療は副腎皮質ステロイド点眼,散瞳薬を投与する.重症例では全身治療としてバイオ治療薬を投与するが,自己炎症疾患では眼病変以外の病変を伴うため,リウマチ内科や小児科と連携して治療にあたることが重要である.自己炎症疾患のうち,クリオピリン関連周期熱症候群(cryopyrin-associatedCperiodicsyndrome:CAPS),TNF受容体関連周期性症候群(tumorCnecrosisCfactorCreceptor-associatedperiodicCsyndrome:TRAPS),高CIgD症候群,家族性地中海熱(familialCmediterraneanfever:FMF)では,ヒト型抗ヒトCIL-1Cbモノクローナル抗体のカナキヌマブが承認されている.「自己炎症性疾患診療ガイドラインC2017」では,Blau症候群において眼症状にCTNF阻害薬の使用を考慮するとされており,後部ぶどう膜炎,汎ぶどう膜炎に対してはアダリムマブの適用となる11).IIIバイオ治療の今後の課題登場からC15年以上経過した現在も,Behcet病眼病変治療におけるCTNF阻害薬の重要性はゆるぎないものの,課題もあげられる.まずは,高い有効性を示すCTNF阻害薬ではあるが,効果不十分な患者は依然として存在する.無効例には,導入時より効果不良な一次無効,一定期間の治療継続後に効果が不十分となる二次無効がある.また,有害事象によって中断を余儀なくされる場合もある.筆者らの報告では,140例中,10年間に再発が理由でインフリキシマブが投与中断となった症例はC6例(4.3%),有害事象により中断となった症例はC19例(13.6%)であった10).眼発作再発の時期では,TNF阻害薬投与直前には血中濃度が低下しているため,発作が生じやすいとされる.「ベーチェット病診療ガイドライン」では,TNF阻害薬の効果不良例では,シクロスポリンなどの併用薬の追加やCTNF阻害薬の増量または投与間隔の短縮,もう一方のCTNF阻害薬へのスイッチを提案している1).しかし,増量や投与間隔の短縮は承認されていないため,所属施設での倫理委員会で承認を得る必要がある.また,Behcet病で使用できるバイオ治療薬はC2剤しかない現状では,安易な切り替えは治療の選択肢を狭めてしまうため,慎重に検討すべきである.TNF阻害薬以外のバイオ治療薬のCBehcet病への応用についての報告もいくつかある(表2)12.15).有効性を示すものが多いが,DickらはセクキヌマブによるBehcet病ぶどう膜炎患者C118例を含む無作為化比較試験を行ったが,プラセボ群と比較して有意な差はなかったと報告した15).新たなバイオ治療薬の可能性についてはコンセンサスに至っておらず,今後の研究が待たれる.次に,TNF阻害薬により長期寛解が得られている患者にCTNF阻害薬をいつまで継続するべきかという点についても議論の余地がある.有害事象のリスクや患者の負担の観点から可能であるなら休薬によるメリットが見込まれるが,血中濃度が低下することで抗製剤抗体が産生されるリスクが高まる.抗製剤抗体が産生されるとTNF阻害薬再開時に効果減弱や投与時反応を引き起こす可能性があることに留意すべきである.また,筆者らはCTNF阻害薬導入後C5年以上にわたり長期寛解が得ら(5)あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023C991ベーチェット病に伴うぶどう膜炎と診断±治療不要*1治療必要経過観察治療の継続高い*3低い視機能低下リスク*1視機能に影響しない軽い眼炎症発作であると判断される場合.*2臨床的寛解は発作が6か月間以上みられない状態とし,達成できなくても低疾患活動性を目指す.*3眼発作を頻発する症例,後極部に眼発作を生じる症例,視機能障害が著しく失明の危機にある症例では早期のTNF阻害薬導入を検討する.±±±±±Yes治療の継続Yes治療の継続NoNo*2臨床的寛解は発作が6か月間以上みられない状態とし,達成できなくても低疾患活動性を目指す.*4保険外治療に関しては各施設における倫理委員会の承認が必要.図2Behcet病眼病変治療アルゴリズム・眼発作抑制の治療(文献C1より転載)表2ぶどう膜炎に対するTNF阻害薬以外のバイオ治療薬の有効性一般名標的分子研究概要著者カナキヌマブCIL-1bTNF阻害薬抵抗性のCBehcet病患者で眼炎症発作とPSL量を有意に低下させたFabianiら12)トシリズマブCIL-611例中C11例でCBehcet病ぶどう膜炎の寛解を得たAtienza-Mateoら13)セクキヌマブCIL-17A16例中C11例でぶどう膜炎患者の眼炎症を抑制したHueberら14)セクキヌマブCIL-17ABehcet病ぶどう膜炎C118例,活動性ぶどう膜炎C31例,非活動性ぶどう膜炎C125例を含むランダム化比較試験でプラセボ群と比較して有意な差はなかったDickら15)-’’C’C’C

序説:バイオ時代における眼炎症性疾患の新しい治療戦略

2023年8月31日 木曜日

バイオ時代における眼炎症性疾患の新しい治療戦略UpdateonTherapeuticStrategiesforOcularIn.ammatoryDiseasesintheBiologicEra園田康平*バイオ製剤は炎症性疾患の切り札である.ステロイドが中心であった抗炎症治療は,まずは膠原病リウマチ科において劇的に変化した.さらに皮膚疾患,アレルギー疾患,消化器疾患,神経疾患,内分泌疾患などさまざまな炎症疾患にその裾野が広がった.眼科領域のぶどう膜炎においては,2007年にインフリキシマブが「Behcet病による難治性網膜ぶどう膜炎」に,また2016年にアダリムマブが「従来治療抵抗性の非感染性ぶどう膜炎」の治療薬として認可された.これら腫瘍壊死因子(tumornecro-sisfactor:TNF)阻害薬は優れた炎症抑制効果が期待できる薬剤であり,従来のステロイド中心のぶどう膜炎治療戦略に大きな変化をもたらした.また,全身病に伴う強膜炎,視神経炎,甲状腺眼症などの眼科領域炎症疾患の治療もバイオ製剤によって大きく変化しつつある.本特集ではバイオ時代の各眼炎症疾患の治療について,エキスパートの先生方にまとめていただいた.横浜市立大学の竹内正樹先生には,眼科炎症領域で最初にバイオ製剤が導入されたBehcet病に対して,長期効果検証を踏まえた最近の治療戦略を述べていただいた.京都府立医科大学の出口英人先生には,とくに遷延型Vogt-小柳-原田病に対するバイオ治療薬と治療戦略を述べていただいた.通常のステロイド治療を行っても,一部の患者は眼炎症を繰り返し,網膜組織が徐々に破壊される.遷延型への対応がこの疾患のアンメットニーズである.九州大学の八幡信代先生には,関節リウマチおよびその関連疾患に伴う強膜炎に焦点を当てて述べていただいた.リウマチやその関連疾患に対しては多種多様なバイオ製剤が開発されており,眼科医と内科医が緊密に連携することで,早めにバイオ製剤の適応を考えることが可能になる.同様の視点で,広島大学の佐田幾世先生・原田陽介先生には強直性脊椎炎に伴うぶどう膜炎(急性前部ぶどう膜炎)を,山口大学の柳井亮二先生には乾癬に伴うぶどう膜炎を取り上げていただき,それぞれ膠原病内科や皮膚科との連携について考えていただいた.小児には特有の眼炎症疾患が存在し,視覚保全のためには眼合併症を最小限に抑えつつ,全身状態の改善をはかる必要がある.東京医科歯科大学の鴨居功樹先生には,小児ぶどう膜炎に対するバイオ製剤をご紹介いただき,その治療戦略を述べていただいた.東京医科大学の坪田欣也先生には,最近登場している炎症性神経疾患に対するさまざまなバイオ製剤をまとめていただき,視神経炎への応用を述べていただいた.最後に愛知医科大学の柿﨑裕彦先生には,甲状腺眼症に対*Koh-heiSonoda:九州大学大学院医学研究院眼科学分野0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(1)987

BCG 膀胱内注入療法後に片眼ぶどう膜炎を発症した1 例

2023年7月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科40(7):978.981,2023cBCG膀胱内注入療法後に片眼ぶどう膜炎を発症した1例多田愛*1川野健一*2大池東*1中村将一朗*1平田朝彦*3西口康二*3*1碧南市民病院眼科*2名古屋大学医学部附属病院眼科*3碧南市民病院泌尿器科CACaseofUnilateralUveitisafterBCGIntravesicalInjectionTherapyAiTada1),KenichiKawano2),AzumaOike1),ShouichiroNakamura1),AsahikoHirata3)andKojiNishiguchi3)1)DepartmentofOphthalmology,HekinanCityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,NagoyaUnivercityHospital,3)DepartmentofUrology,HekinanCityHospitalC緒言:昨今,医学の日進月歩の発展に伴い,新規の治療薬の登場や既存の治療薬の新規適応の追加が増加している.同時にさまざまな眼副作用も報告されている.今回筆者らは膀胱癌に対して,BCG膀胱内注入療法中に片眼の急性前眼部ぶどう膜炎を発症した患者を経験したので報告する.症例:70歳,女性.既往歴:膀胱癌(66歳.,BCG膀胱内注入療法中),大腸癌.現病歴:5日前に左眼結膜充血出現,前日より左眼の圧迫感,疼痛,眼球運動痛が出現したため碧南市民病院眼科を受診した.前眼部に炎症細胞と虹彩後癒着が認められ,特発性急性前部ぶどう膜炎と診断し,点眼治療を開始した.その翌日C4回目のCBCG膀胱内注入療法を施行した.翌朝,背部痛が出現し,5日後に手足関節痛も出現,CRP,WBCの炎症反応の上昇を認め,反応性関節炎(Reiter症候群)と診断された.NSAIDs,プレドニン内服治療を開始した.4カ月後に内服を終了し,9カ月後に点眼治療を終了した.結論:ぶどう膜炎を発症した時点で薬剤性ぶどう膜炎を疑い,BCG膀胱内注入療法によるCReiter症候群の可能性を考えることができれば,症状の悪化を未然に防ぐことができたかもしれない.ぶどう膜炎患者が膀胱癌の治療中であれば,治療内容の聴取および他科との連携が必要である.CBackground:Recently,withtheever-evolvingdevelopmentofmedicalscience,therehasbeenanincreaseintheCintroductionCofCnewCtherapeuticCagentsCandCtheCadditionCofCnewCindicationsCforCexistingCtherapeuticCagents.CSimultaneously,CaCvarietyCofCocularCsideCe.ectsChaveCbeenCreported.CInCthisCarticle,CweCreportCaCcaseCofCunilateralCacuteCanteriorCuveitisCduringCBCGCintravesicalCinjectionCtherapyCforCbladderCcancer.CCasereport:ThisCstudyCinvolveda70-year-oldfemalewithamedicalhistoryofbladdercancer(sinceage66,andduringtheBCGintra-vesicalCinfusiontherapy)andCcolorectalCcancer.CFiveCdaysCpriorCtoCpresentation,CconjunctivalChyperemiaCappearedCinCherCleftCeye,CfollowedCbyCaCpressureCfeelingCandCocularCandCeyeCmovementCpainCinCthatCeyeC1CdayClater.CUponCexamination,in.ammatorycellsandposteriorsynechiawereobservedintheanteriorsegmentofthateye.Adiag-nosisofidiopathicacuteanterioruveitiswasmade,andophthalmictreatmentwasinitiated.Thefollowingday,thefourthintravesicalBCGinjectionwasperformed.Thenextmorning,backpainoccurred,and5dayslater,limbandfootCjointCpainCalsoCoccurred,CandCtheCin.ammatoryCresponseCofCC-reactiveCproteinCandCwhiteCbloodCcellCcountCincreased.CTheCpatientCwasCtreatedCwithCnonsteroidalCanti-in.ammatoryCdrugsCandCprednisone,CwhichCwereCcom-pletedCafterC4CandC9Cmonths,Crespectively.CConclusions:IfCweChadCsuspectedCdrug-inducedCuveitisCwhenCtheCpatientdevelopeduveitisandhadconsideredthepossibilityofReiter’ssyndromecausedbyBCGintravesicalinfu-siontherapy,wemighthavebeenabletopreventtheworseningofthesymptoms.Thus,inpatientswithuveitisundergoingCtreatmentCforCbladderCcancer,CitCisCvitalCtoCknowCtheCtreatmentCdetailsCinCcollaborationCwithCotherCdepartments.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(7):978.981,C2023〕Keywords:前部ぶどう膜炎,膀胱癌,BCG膀胱内注入療法,反応性関節炎,Reiter症候群.anterioruveitis,bladdercancer,BCGintravesicaltherapy,reactivearthritis,Reitersyndrome.C〔別刷請求先〕多田愛:〒507-8522岐阜県多治見市前畑町C5-161岐阜県立多治見病院眼科Reprintrequests:AiTada,DepartmentofOphthalmology,GifuPrefectualTajimiHospital,5-161MaehataTown,TajimiCity,GifuPrefecture507-8522,JAPANC978(130)図1初診時の左眼前眼部写真前房内炎症細胞,虹彩後癒着認めた.はじめに昨今,医学の日進月歩の発展に伴い,新規の治療薬の登場や既存の治療薬の新規適応の追加が増加している.同時にさまざまな眼副作用も報告されている.今回筆者らは,BCG膀胱内注入療法中に反応性関節炎を生じ,片眼の急性前部ぶどう膜炎を発症した患者を経験したので報告する.CI症例患者:70歳,女性.主訴:左眼の充血と疼痛.現病歴:7日前から左眼結膜充血が出現し,眼科受診せずに様子をみていたが,2日前より左眼の圧迫感と疼痛が出現,症状が悪化したため碧南市民病院(以下,当院)眼科を受診した.既往歴:当院泌尿器科にて,4年前に経尿道的膀胱腫瘍切除術を施行後,膀胱癌と診断された.3年前に再発性・多発性膀胱腫瘍を認め,化学療法が開始された.その後,膀胱癌は落ち着いていたが,47日前より膀胱癌の再発病変に対してCBCG膀胱内注入療法が開始され,眼科受診までにC3回施行されていた.初診時初見:右眼視力C0.4(1.0C×sph.0.25D(cyl.1.50DCAx110°),左眼視力0.4(1.2C×sph+0.00D(cyl.1.00DAx100°),眼圧は右眼C13mmHg,左眼11mmHgであった.左眼の前眼部所見として,前房内に炎症細胞および虹彩後癒着を認めた(図1).中間透光体と眼底には明らかな異常所見は認めなかった.光干渉断層計でも異常所見は認められなかった.初診時の血液検査ではCCRP(C反応性蛋白):0.71mg/dl,WBC(白血球):10.5C×103/μlで軽度の炎症反応の上昇を認めた.CH50(血清補体価):>60.0,C3:152で補体価の上昇を認めた.Ig(免疫グロブリン)G:1,256Cmg/図2左眼点眼治療後50日後虹彩後癒着は解除された.dl,IgA:312Cmg/dl,IgM:44Cmg/dlは正常範囲内,ACE(アンギオテンシン変換酵素):15.6CU/lは特定の疾患を疑う上昇とは考えなかった.また,VZV(水痘・帯状疱疹ウイルス)M0.20(C.),VZVG17.5(+),CMV(サイトメガロウイルス)M0.29(C.),CMVG18.7(+)は幼児期に感染したことによる不頸性感染と考えられた.リウマチ因子,HLA-B27はともに陰性で,HLA-B13,B67陽性であった.胸部CX線でもとくに異常所見は認められなかった.この時点では全身症状はみられなかった.経過:初診時に血液検査でとくに異常を認めなかったため,特発性前部ぶどう膜炎と診断し,抗菌薬点眼(レボフロキサシン)左眼C4回/日,ステロイド点眼(1%ベタメタゾン)左眼C6回/日,散瞳点眼薬(トロピカミド配合)左眼C1回/日を開始した.点眼開始C2日後に当院泌尿器科にてCBCG膀胱内注入療法C4回目が施行された.その翌日より背部痛が出現し,5日後に手足関節痛が出現した.点眼開始後C8日で前房内炎症は消失したが,虹彩後癒着は残存した.点眼開始C10日後の血液検査でCCRP9.67Cmg/dl,WBCC10.5×103/μlで大幅な炎症反応の上昇を認めたため,関節痛に対し非ステロイド抗炎症薬(non-steroidalCanti-inflammatorydrugs:NSAIDs)(ロキソプロフェン)の内服を開始され,炎症反応は低下したが,膝や手首の部分的な関節痛が残存した.初診よりC29日後,CRP2.27Cmg/dl,WBCC12.0×103/μlで,新たな左眼の虹彩後癒着が出現したため,トロピカミド配合薬の点眼回数を左眼C4回/日に増量した.泌尿器科より反応性関節炎を疑われプレドニンC5Cmg/日の内服を開始した.そのC2週間後に虹彩後癒着は解除された(図2).ぶどう膜炎の原因として当初は特発性と考えていたが,3回目のCBCG膀胱内注入療法からC19日後に左眼のぶどう膜炎を発症したことと,そのほかに原因となる所見は認められなかったこと,一連の症状から泌尿器科でも反応性関節炎が疑われていることから,本症例のぶどう膜炎はCBCG膀胱内注入療法が原因となった可能性が高いと考えた.また,初診よりC29日後にプレドニゾロンC5Cmg/日の内服を開始後,膝や手首の痛みは軽度改善し,スムーズな歩行ができるようになったが,3週間経過しても関節痛は残存し,炎症反応上昇の持続(CRP2.15Cmg/dl,WBC9.8C×103/μl)を認めたため,プレドニゾロンC20Cmg/日に増量したところ,炎症反応は低下(CRP0.35Cmg/dl,WBC7.8×103/μl)し,関節痛も改善した.徐々に点眼とステロイド内服を減量し,プレドニゾロン増量後よりC70日後にプレドニゾロン内服中止,点眼開始後からC270日後に点眼中止とし,その後再発なく経過している.膀胱内の再発性の腫瘍も消失したままである.CII考按BCG膀胱内注入療法は,筋層非浸潤膀胱癌の治療および再発予防のための標準治療である.明確な作用機序は未解明であるが,BCG(弱毒化したCMycobacteriumbovis)を膀胱内に注入し,BCGはフィブロネクチンを介して腫瘍細胞内に取り込まれ(invitro),BCGを取り込んだ腫瘍細胞は直接的に抗原提示細胞として,あるいは間接的にマクロファージに貪食されることにより,BCG抗原または腫瘍特異抗原をTリンパ球に提示し,Tリンパ球の感作が成立する.細胞傷害性CTリンパ球は標的腫瘍細胞を直接に傷害し,Tリンパ球の産生する種々のサイトカインもまた,腫瘍細胞に傷害的に作用する.また,サイトカインの一部はマクロファージを活性化し,腫瘍細胞の貪食,破壊を効果的に行うようになると考えられる1).投与頻度は週にC1回で計C8週間繰り返すが,用量や回数は症状に応じて適宜増減し,また投与間隔も必要に応じて延長できる.おもな副作用として,排尿痛(32.9%),頻尿(29.2%),血尿(15.7%)が出現するが,重症な副作用として,BCG感染,間質性肺炎,反応性関節炎(わが国C2.0%2),国外C0.5%3))があげられる.反応性関節炎は,関節炎・尿道炎・結膜炎の三徴を示す疾患で,胃腸炎または性感染症の数週間後に発生することが多い.HLA-B27遺伝子保有者に多い4)との報告があるが,正確な関連は不明である.本症例でもCHLA-B27は陰性であった.眼症状としては,結膜炎・ぶどう膜炎・強膜炎・角膜炎などがあげられる.約C7割の症例で眼症状が関節炎に先行したという報告5)もある.本症例においても眼症状が最初の症状で,左眼結膜充血が出現したC10日後に背部痛出現,15日後に手足関節痛が出現した.また,眼症状は両眼よりも片眼に出現する頻度のほうが高く(両眼C32%,片眼C68%)6),本症例においても片眼の眼症状のみであった.ぶどう膜炎の原因はさまざまであり,2016年に日本眼炎症学会が行った疫学調査7)によると,もっとも頻度の高い疾患はサルコイドーシス(10.6%),ついでCVogt-小柳-原田病(8.1%),ヘルペス性虹彩炎(6.5%)であり,分類不能は36.6%であった.本症例は薬剤性のぶどう膜炎(drug-inducedUveitis:DIU)に分類される.DIUを引き起こす薬剤はシドフォビル,リファブチン,パビドロネート,アレンドロネート,スルホンアミド,エタナーセプト,インフリキシマブ,アダリムマブ,フルオロキノロン,ブリモニジン,ラニビズマブ,BCGワクチン,MMR(麻疹・流行性耳下腺炎・風疹の三種混合ワクチン)ワクチン,インフルエンザワクチン,B型肝炎ウイルスワクチンなどがこれまで報告されている8).DIUはまれであるが,ワクチン,内服薬,静注薬など多種多様な薬剤で発症する可能性がある.原因薬剤を特定することにより,ぶどう膜炎の再発のリスクを減少できる可能性が高いため,初診時に患者の詳細な薬剤歴も把握する必要がある.反応性関節炎の治療法は確立されていないが,NSAIDs内服が第一選択で,効果不十分の場合はステロイドを使用する.通常はC6カ月以内に症状は改善する.本症例でも反応性関節炎出現後から,NSAIDs内服,ステロイド内服,増量を経て,約C4カ月で関節痛は改善した.膀胱癌もCBCG膀胱内注入療法が奏効し,寛解した.本症例では反応性関節炎も改善がみられ,ぶどう膜炎も改善した.再発の所見もなく,膀胱癌も寛解し経過良好ではあるが,左眼ぶどう膜炎を発症した際にCBCG膀胱内注入療法を中止していれば,反応性関節炎の発症を予防もしくは症状軽減できた可能性がある.BCG膀胱内注入療法中に副作用として反応性関節炎が出現するのはわが国ではC2.0%,ぶどう膜炎の報告はC0.7%2)と頻度は低いが,ぶどう膜炎患者が膀胱癌の治療中であれば,治療内容を聴取するべきであり,他科との連携が必要である.利益相反:【F】JCRファーマ文献1)Ratli.TL:MechanismsCofCactionCofCintravesicalCBCGCforCbladdercancer.ProgClinBiolResC10:107-122,C19892)TaniguchiY,NishikawaH,KarashimaTetal:Frequencyofreactivearthritis,uveiris,andconjunctivitisinJapanesepatientsCwithCbladderCcancerCfollowingCintravesicalCBCGtherapy:AC20Cyear,Ctwo-centreCretrospectiveCstudy.CJtBoneSpineC84:637-638,C20173)LammCDL,CStogdillCVD,CCrispenCRGCetal:ComplicationsCofCbacillusCCalmette-GuerinCimmunotherapyCinC1,278CpatientsCwithCbladderCcancer.CJCUrologyC135:272-274,19864)PennisiCM,CPerdueCJ,CRoulstonCTCetal:AnCoverviewCofCreactivearthritis.JAAPAC32:25-28,C20195)小池繭美,夏山隆夫,松崎香奈子ほか:尿路上皮癌CBCG膀胱内注入療法によるCReiter症候群による自験例を加えた本邦過去C13年間のまとめ.日本泌尿器学会雑誌C106:238-242,C20156)KissCS,CLetkoCE,CQamruddinCSCetal:Long-termCprogres-sion,Cprognosis,CandCtreatmentCocularCmanifestationsCofCReiter’ssyndrome.OphthalmologyC110:1764-1769,C20037)SonodaCKH,CHasegawaCE,CNambaCKCetal:EpidemiologyCofCuveitisCinJapan:aC2016CretrospectiveCnationwideCsur-vey.JpnJOphthalmolC65:184-190,C20218)AgarwalCM,CDuttaCMajumderCP,CBabuCKCetal:Drug-indiceduveitis:Areview.IndianJOphthalmolC68:1799-1807,C2020C***

網膜下フィブリンを伴う中心性漿液性脈絡網膜症の治療経過

2023年7月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科40(7):973.977,2023c網膜下フィブリンを伴う中心性漿液性脈絡網膜症の治療経過天野佑理田中ふみ山本聡一郎江内田寛佐賀大学医学部附属病院眼科CACaseofCentralSerousChorioretinopathywithSubfovealFibrinTreatedwithTriamcinoloneAcetonideInjectionandHalf-dosePhotodynamicTherapyYuriAmano,FumiTanaka,SoichiroYamamotoandHiroshiEnaidaCDepartmentofOphthalmology,SagaUniversityHospitalC目的:網膜下フィブリンを伴う中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)に半量光線力学的療法(PDT)を行ったC1症例を報告する.症例:43歳,男性.9年前より再発を繰り返す左眼CCSCにて受診した.左眼は漿液性網膜.離(SRD)が中心窩から中間周辺部まで連続し,同部位の自発蛍光低蛍光点に一致して蛍光眼底造影での蛍光漏出を認めた.中心窩の黄色病変は光干渉断層計で高輝度物質の析出と内部の低輝度領域(vacuolesign)を認め,直下の網膜色素上皮は不整であった.トリアムシノロンCTenon.下注射(STTA)と半量CPDTを施行したところ,SRDおよび黄色病変は消失し,矯正視力は改善した.結論:再発を繰り返す網膜下フィブリンを伴うCCSCにCSTTA併用半量CPDTは有効であった.網膜下フィブリンを伴うCCSCのCvacuolesignは特徴的な所見であり,治療効果を含む疾患活動性評価に有用である.CPurpose:Toreportacaseofcentralserouschorioretinopathy(CSC)withsubretinal.brinsuccessfullytreat-edCwithCtriamcinoloneCacetonideCinjectionCandChalf-dosephotodynamicCtherapy(PDT)C.CCasereport:AC43-year-oldmalepresentedwitha9-yearhistoryofrecurrentCSC.Inhislefteye,serousretinaldetachment(SRD)wasobservedCfromCtheCfoveaCtoCmiddleCperipheralCarea,CandC.uoresceinCangiographyCshowedCleaksCthatCcorrespondedCwiththefundushypo-auto.uorescenceimage.Opticalcoherencetomographyrevealedsubretinalhyper-re.ectivematerialCandCvacuoleCsignCindicatedCwhereCfundusCsubretinalCyellowishCdepositsCwereClocated.CTheCpatientCwasCtreatedwithasub-Tenontriamcinoloneacetonideinjectionandhalf-dosePDT,andthesubretinal.brinandSRDdisappearedCandCvisualCacuityCimproved.CConclusions:Half-doseCPDTCwasCfoundCe.ectiveCagainstCrecurrentCCSCCwithsubretinal.brin.ThevacuolesignisthecharacteristicandimportantsignofCSConactivitiesincludingther-apeutice.ect.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(7):973.977,C2023〕Keywords:中心性漿液性網脈絡膜症,網膜下フィブリン,半量CPDT,vacuolesign,トリアムシノロンCTenon.下注射.centralserouschorioretinopathy,subretinal.brin,half-dosephotodynamictherapy,vacuolesign,sub-Ten-ontriamcinoloneacetonideinjection.Cはじめに中心性漿液性脈絡網膜症(centralCserousCchorioretinopa-thy:CSC)は脈絡膜の限局性またはびまん性肥厚,脈絡膜Haller層の血管拡張と脈絡膜内層の菲薄化,脈絡膜血管透過性亢進を特徴とするパキコロイド関連疾患に属している1).発症要因の一つとして,慢性的うっ滞により渦静脈が分水嶺を越えて吻合し,吻合血管の拡張・透過性亢進による静水圧の上昇によってCBruch膜-網膜色素上皮(retinalCpigmentCepithelium:RPE)複合体へ負荷が生じ,RPE細胞間のCtightjunctionの破断が起こり,網膜下液の漏出が生じるとされている1.3).網膜下フィブリンを含むCCSCは全体の約C10.15%で観察され,とくにフィブリンが多いものは劇症型とされる.妊婦やステロイド内服がリスク因子である4,5)が,リスク因子をもたない患者の発症も報告されている6).漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SRD)内に黄色病変を認め,〔別刷請求先〕天野佑理:〒849-0014佐賀市鍋島C5-1-1佐賀大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:YuriAmano,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SagaUniversityHospital,5-1-1Nabeshima,Saga-shi,Saga849-0014,JAPANC光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では網膜下高輝度物質(sub-retinalChyper-re.ectivematerial:SHRM)中に低輝度の領域を認めるCvacuolesignとして観察され6.9),フルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiog-raphy:FA)で蛍光漏出点と一致して出現する10).RPE障害部位より漏出した網膜下液中のフィブリノーゲンからフィブリンが形成されると,SHRMとして観察される9).検眼鏡で目視できないCRPE障害部位(RPEmicro-rip)を介し連続して流入する網膜下液は,対流によりフィブリンが析出しないため透明である.この透明な液体がCvacuolesignの低輝度領域として描出され,FAでは蛍光漏出点と一致する11).CVacuolesignは本症の特徴的な所見であり,RPECmicro-ripからの継続的な漏出を示しているため,FAを行えない患者でのCRPEや疾患活動性の評価に有用である9).今回,網膜下フィブリンを伴う劇症型CCSCにトリアムシノロンCTenon.下注射(sub-TenonCtriamcinoloneCaceton-ideinjection:STTA)併用半量光線力学的療法(photody-namictherapy:PDT)を行った症例を経験したので報告する.CI症例患者:43歳,男性.主訴:左眼の視力低下.既往歴:2011年に不明熱.2020年に憩室炎,手足口病.いずれもステロイド内服歴なし.生活歴:喫煙歴C20歳からC1日C10本継続.現病歴:2012年に左眼CCSCを発症し,近医眼科を受診.加療目的に総合病院眼科を紹介されたが,自然軽快したため受診しなかった.2018年に左眼CCSCが再燃したが,自然軽快した.2020年C12月に左眼CCSCが再燃し改善しないため,精査加療目的に佐賀大学医学部附属病院(当院)眼科を紹介受診した.初診時所見:矯正視力は右眼C1.0,左眼C0.07.眼圧は右眼11CmmHg,左眼C12CmmHg.前眼部,中間透光体に特記所見を認めなかった.左眼眼底は後極から下方中間周辺部にかけ広範なCSRDを認めた.自発蛍光眼底画像(fundusauto.uor-escence:FAF)ではCSRDの範囲に一致し高信号領域を認め,中心窩近傍では一部低信号領域も認めた.OCTでは右眼にごく軽度のCSRD,左眼にCSRD領域のフィブリン析出により生じたと考えられるCSHRMによる信号強度の異なる高信号領域を認めた.また,中心窩下の領域にわずかなCRPE.離を認め,その直上の高信号域の内部に円形の低輝度領域によるvacuolesignを認めた.中心窩脈絡膜厚は553μm,pachyvesselを認めた.FAでは黄斑部の黄色病変に一致して初期から強い蛍光漏出を認め経時的に下方に拡大した.インドシアニングリーン蛍光造影検査(indocyaninegreenangiography:IA)では初期に低蛍光,後期は高蛍光を認めた(図1).難聴,耳鳴,頭痛などの自覚症状はなかった.経過:左眼にCSTTAを施行,そのC2日後に半量CPDTを施行した.ベルテポルフィンを用い,体表面積あたりC3Cmg/Cm2を静注してC15分後にCVISULAS690S(CarlCZeissCMed-itec社)を用いて波長C689nm,光照射エネルギー量C50J/Ccm2,出力密度C600CmW/cmC2,スポットサイズC2,000Cmmの条件でC83秒間照射した.実施にあたっては,本学未承認新規医薬品導入評価委員会の審査により認可を受け,患者より書面で同意を得た.初診時から半量CPDT施行までのC9日間で,SRDは網膜下方周辺部まで急速な拡大を認めた(図2).黄斑部の黄色病変は半量CPDT後C12日目に鮮明化したが,40日目には縮小し,62日目には消失した.FAFでは,半量CPDT後CSRDの消失により高信号領域の輝度が低下し,広範なCRPE障害が鮮明化した.中心窩近傍の低信号領域は縮小を認めた(図3).OCTでは,半量PDT後12日目にSRD減少により,vacuolesignの鮮明化を認めた.40日目にはCSRD,vacuolesignともに減少し,62日目には消失した.網膜外層構造は不明瞭で,微細な網膜下沈着物を認めたが線維化や瘢痕化は認めなかった.中心窩脈絡膜厚は380Cμmまで改善した(図4).視力は半量CPDT後C162日時点で左眼矯正視力C0.4まで改善し,その後も再燃,視力低下なく経過している.STTAは半量CPDT前に投与したC1回のみで,追加投与は行っていない.CII考察本症例では,SRDと黄色病変を認め,OCTでCSRD内に網膜下フィブリン析出によるCSHRMおよびCvacuolesignを認めた.両眼性にCSRDを認めており原田病が鑑別に上がったが,前房内炎症や視神経炎,FAの多発性蛍光漏出や蛍光貯留,IAの斑状低蛍光灌流欠損を認めないことより除外した.Teraoらは慢性CCSCでは急性期と比較し前房水中の炎症性サイトカインが有意に上昇していたと報告しており,網膜下液が長期間存在することでCRPEの免疫調節機能が破綻し,マクロファージの異常活性化が炎症性サイトカインの過剰産生を誘発すると推測している12).Liangらによると,脈絡膜血管透過性亢進により,脈絡膜血管からCRPE下に滲出したフィブリノーゲンからフィブリンが形成されCRPEの傷害部位を介して網膜下に析出する9,10).本症例ではCFAの漏出部位およびCFAFでの低信号領域であるCRPEの障害部位を介してフィブリンが網膜下に析出した,あるいはCvacuolesign領域内にCRPEmicro-ripを生じているものと推察される.増悪寛解を繰り返しており,慢性化によるCRPE障害や炎症性サイトカインの上昇により,病態が劇症型として修飾されc図1初診時初見a:カラー眼底写真.SRD()と黄白色病変()を認める.Cb:FAF.SRDに一致した高蛍光と中心窩耳上側の不明瞭な低蛍光を認める.Cc:FA(4分C46秒).中心窩から噴水状の蛍光漏出を認める.Cd:IA(4分C46秒).SRD部の高蛍光を認める.Ce:OCT.網膜下フィブリンとvacuolesign(),RPE障害(C.)を認める.た可能性が示唆された.Yannuzziは網膜下フィブリンを伴うCCSCへのCPDTは,網膜下フィブリンを伴うCCSCの治療は研究段階である.網膜下フィブリンがベルテポルフィンとバイオコンジュゲーScharzらは無治療の網膜下フィブリンを伴うCSCについて,トを形成することで,網膜下の線維化を促進し恒久的な視力7眼が線維化や血管新生,RPE断裂をきたし,視力予後不良低下を生じる危険性があり,中心窩病変の治療の際はとくにであったと報告している11).フィブリン下のCRPEは正常な注意を要すると指摘している13).PDTのリスク(脈絡膜虚形態学的特徴やポンプ機能を失う傾向にあり,網膜下の線維血,RPE萎縮,脈絡膜新生血管誘発およびCRPE断裂など)性瘢痕や血管新生,RPEripの形成により,視力低下が起こはベルテポルフィンの減量やレーザー照射時間の短縮,出力ると示唆している11).の低下で低減することが知られている3,10).CSCに対する半図2広角眼底自発蛍光画像高信号で示されるCSRD()の下方への急速な拡大を認める.Ca:初診時,b:半量CPDT時.図3半量PDT後経過半量PDT後12日(Ca,d,g),40日(Cb,e,h),62日後(Cc,f,j).a,b,c:カラー眼底写真.SRD,黄白色病変は徐々に縮小し,62日後には消失している.Cd,e,f:FAF.SRDの消失によりCRPE障害を示す低蛍光が鮮明化している.Cg,h,j:広角眼底自発蛍光眼底画像.SRDの消失により高信号領域の輝度が低下し,中心窩近傍の低信号領域は縮小している.量CPDTはCSRDの消失だけでなく,脈絡膜をより正常な構造に戻すと考えられている1).網膜下フィブリンを伴うCCSCへの半量CPDTに関し,Liangらは通常のCCSCに対する半量PDTと同様に有効かつ安全だったと報告している10).Fuji-motoらは半量CPDT後,網膜下フィブリンはCSRD改善後も,視細胞外節部の顆粒状沈着物として暫く残存したと報告している14).本症例では炎症が基盤にあることは明らかであり,PDTによるベルテポルフィンとのバイオコンジュゲート形成による炎症反応のさらなる増悪,網膜下の線維化や瘢痕化などの合併症リスクを考慮し,STTAで消炎を図りながら半量PDTを施行した.ステロイドの全身投与は網膜化フィブリンを含むCCSCのリスク因子であるが4),ステロイドの眼局所投与によるCCSCの報告はまれであり,リスクは低いと報告されている3).本症例ではCPDT治療直前にCSRDの拡大を認めた.病勢によるものかCSTTAの影響かは不明であるが,図4半量PDT治療後のOCT上記報告もあり,単回の局所投与のリスクは低いと思われsign:vacuoleCa.)c日後(C26,)b日(C04,)a半量PDT後12日(る.治療後,SRDとフィブリンはほぼ同時に消失し,脈絡膜の肥厚は改善を認めた.網膜外層構造は不明瞭のまま微細な網膜下沈着物残存を認めたが,この所見はフィブリンの影響に加え,慢性化したCCSCが基盤として存在するためと考えられた.網膜下フィブリンを伴う劇症型CCSCに対してCSTTA併用半量CPDT療法は有効であった.半量CPDTにより脈絡膜構造が改善しCCSCの活動性は抑えられ,STTA併用により半量CPDTと同時に消炎を図ることで恒久的な視力低下のリスクを回避できたと考えられる.しかし同様の報告はなく,今後も症例の蓄積が必要である.利益相反カテゴリー:N(NoCommercialRelationship)文献1)CheungCCMG,CLeeCWK,CKoizumiCHCetal:PachychoroidCdisease.EyeC33:14-33,C20192)KishiCS,CMatsumotoH:ACnewCinsightCintoCpachychoroiddiseases:RemodelingCofCchoroidalCvasculature.CGraefesCArchClinExpOphthalmolC260:3405-3417,C20223)NicholsonCB,CNobleCJ,CForooghianCGCetal:CentralCserouschorioretinopathy:updateConCpathophysiologyCandCtreat-ment.SurvOphthalmolC58:103-126,C20134)BouzasCEA,CKaradimasCP,CPournarasCJ:CentralCserousCchorioretinopathyCandCglucocorticoids.CSurvCOphthalmolC47:431-448,C20025)GassJD:Centralserouschorioretinopathyandwhitesub-retinalCexudationCduringCpregnancy.CArchCOphthalmolC109:677-681,C19916)SahooCNK,CGovindhariCV,CBediCRCetal:SubretinalChyper-(129)はCSRDの減少とともに鮮明化している.Cb:vacuolesignは網膜下フィブリン,SRDともに減少している.Cc:SRD,vacuolesignが消失している.Ellipsoidzoneに点状高輝度物質を認める.Cre.ectiveCmaterialCinCcentralCserousCchorioretinopathy.CIndianJOphthalmolC68:126-129,C20207)SaitoCM,CIidaCT,CKishiCSCetal:Ring-shapedCsubretinalC.brinousexudateincentralserouschorioretinopathy.JpnJOphthalmolC49:516-519,C20058)IidaCT,CHagimuraCN,CSatoCTCetal:EvaluationCofCcentralCserousCchorioretinopathyCwithCopticalCcoherenceCtomogra-phy.AmJOphthalmolC129:16-20,C20009)RajeshB,KaurA,GiridharAetal:“Vacuole”signadja-centCtoCretinalCpigmentCepithelialCdefectsConCspecialCdomainCopticalCcoherenceCtomographyCinCcentralCserousCchorioretinopathyassosiatedwithsubretinal.brin.RetinaC37:316-324,C201710)LiangCZ,CQuCJ,CHuangCLCetal:ComparisonCofCtheCout-comesofphotodynamictherapyforcentralserouschorio-retinopathyCwithCorCwithoutCsubfovealC.brin.Eye(Lond)C35:418-424,C202111)SchatzCH,CMcDonaldCHR,CJohnsonCRNCetal:SubretinalC.brosisCinCcentralCserousCchorioretinopathy.COphthalmolo-gyC102:1077-1088,C199512)TeraoCN,CKoizumiCH,CKojimaCKCetal:AssociationCofCupregulatedCangiogenicCcytokinesCwithCchoroidalCabnor-malitiesinchroniccentralserouschorioretinopathy.InvestOphthalmolVisSciC59:5921-5931,C201813)YannuzziLA:CentralCserouschorioretinopathy:aCper-sonalperspective.AmJOphthalmolC149:361-363,C201014)FujimotoCH,CGomiCF,CWakabayashiCTCetal:MorphologicCchangesinacutecentralserouschorioretinopathyevaluat-edbyfourier-domainopticalcoherencetomography.Oph-thalmologyC115:1494-1500,C2008あたらしい眼科Vol.40,No.7,2023C977