●連載◯277監修=稗田牧神谷和孝277.LASIK術後診察のポイント伊藤栄獨協医科大学眼科学教室LASIK術後診察は,術直後,術後早期,術後中長期と時期を分けて把握すると,判断が容易となる.患者が若く活動的である点が通院を継続させる障壁となるが,角膜拡張症や屈折の戻りなど,術後長期間経過してから生じる合併症もあるため,注意が必要である.C●はじめにLaserCinCsitukeratomileusis(LASIK)は安全性,有効性が非常に高く,屈折矯正手術の中では完成された術式である.しかし,見逃してはならない術後合併症があるため,今回,LASIKの術後を術直後,術後初期,術後中長期に分けて,術後診察のポイントを解説する.C●術直後・フラップ偏位と皺(striae)大きなフラップのずれや皺は視機能に影響を与えるため,必ず術直後にフラップを確認する.獨協医科大学病院(以下,当院)では,手術C30分後に細隙灯顕微鏡で再度診察し,フラップの異常がないか確認してから帰宅させるようにしている.フラップが薄い場合やヒンジが短い場合にフラップのずれや皺が起こりやすいため,フラップの厚さはC120Cμmを標準に,最低でもC100Cμmは確保するようにしている.術直後であれば容易に整復できるが,時間が経過してしまった場合は,複数回の手術やフラップの縫合が必要となることもあるため,術直後に見逃さないことが重要である.・フラップ層間の異物眼脂,MQAやガーゼの繊維,滅菌手袋のラテックス粉,マイクロケラトームの金属粉などがフラップ層間の異物としてあげられる.フラップの洗浄に注意し,できるかぎり繊維や粉状の成分が出ないものを術中使用する.通常は,微小な層間異物があったとしても,瞳孔領にかからなければ視機能に影響することはない.C●術後初期(術後1日~3カ月)・Di.uselamellarkeratitisフラップ下への細胞浸潤であり,術翌日にみられることが多い.ほとんどの場合,ステロイド点眼を使用しC1週間程度で消退するが,中心部に及ぶ強い浸潤の場合は,フラップの洗浄やステロイドの全身投与を行う必要(91)がある.・ドライアイフラップ作製により角膜の三叉神経が切断されるため,LASIK術後ドライアイは多くの症例で生じる.神経の回復とともに術後数カ月で改善する一時的な合併症であることが多いが,まれに難治性となる場合もある.自覚症状が強い場合や,涙液減少,角結膜上皮障害などの所見がある場合はドライアイ治療を強化し,遷延させないことが重要である.・角膜内皮増殖(epithelialingrowth)角結膜上皮細胞がフラップ下に迷入し,進展増殖することで角膜混濁が生じた状態である.術後C1.3週程度で認められ,フラップ辺縁から連続して生じるものと,フラップ辺縁とは連続せずフラップ内部で限局して生じるものに分けられる.進行するものや範囲が広いものはフラップ下の上皮組織を除去する必要がある.・屈折誤差術後屈折誤差の範囲は施設によって異なる場合があるが,当院ではCLASIK術後C1週間程度で,目標屈折値からC0.5Dを上回る屈折誤差があった場合は,低矯正や過矯正が生じたと考える.術後C1.3カ月程度経過し,術後屈折値が安定した段階で患者に自覚症状があれば,再手術によるCenhancementを検討する.術後進行する近視化の場合は,regressionや軸性近視の悪化,角膜拡張症でないか注意する必要がある.・感染症LASIK術後の感染症はC0.004.0.2%程度など報告により頻度はさまざまである1,2).フラップ辺縁の上皮化は約C24時間で完成すると考えられているが,上皮欠損している間は感染の成立に注意しなければならない.ブドウ球菌やレンサ球菌の場合は術後C1.3日で症状が進行するが,非定型抗酸菌やCNocardiaなどではC1週間以上経って顕在化する場合もある.当院では,フラップが安定するC1カ月くらいの期間は感染症に注意し,激しいスポーツや水泳と温泉に入ることは禁止している.あたらしい眼科Vol.40,No.6,20238030910-1810/23/\100/頁/JCOPY図2角膜拡張症に急性角膜水腫を合併した症例数年前に他院でCLASIKを施行し,術後角膜拡張症を発症.その後,急性角膜水腫を合併した症例.角膜浮腫によりLASIKフラップの辺縁が明瞭となっている.●術後中長期(術後3カ月~)・角膜拡張症(keratectasia)エキシマレーザー角膜屈折矯正術後に,円錐角膜のように進行性に角膜が突出し,菲薄化する合併症である.発症頻度はC0.09%程度3)とまれであるが,発症した場合は矯正視力が低下する可能性が高い.角膜拡張症の平均発症期間は術後C15.3カ月と報告されているが,術後C62カ月経過してから発症した例もあり4),長期間にわたり経過観察をする必要がある.術前に角膜拡張症のリスクファクタースコア4)でリスクの高い症例を避けることが予防につながるが,低リスクでも角膜拡張症が発生する可能性がゼロではないことに留意する.発症予防として,角膜前後面の形状解析により術前に潜在的な円錐角膜を除外することはいうまでもないが,当院では術前後C804あたらしい眼科Vol.40,No.6,2023図1角膜生体力学特性による評価CorvisST(OCULUS社)を用いて,エキシマレーザー角膜屈折矯正術後の角膜生体力学特性を測定し,角膜拡張症発症のリスクを評価する.に角膜生体力学特性を評価し(図1),リスクの程度を把握している.進行した場合は恒久的な視力低下を起こすため(図2),円錐角膜と同様,早期に発見することが重要であり,角膜拡張症を認め次第,未承認治療ではあるが角膜クロスリンキングの施行を検討する.・Regression(屈折の戻り)AlioらはCLASIK術後C3カ月から術後C10年間に,平均.1.04±1.73Dの近視化が生じたと報告しており5),LASIK術後は一定の割合で再近視化する.原因としては角膜や水晶体の変化,眼軸長の延長などの影響が考えられるが,近視化による自覚症状が強く,患者の希望があればCenhancementを検討する.術後Cenhancementの方法としては,初回のCLASIKフラップを再.離してablationする方法と,レーザー屈折矯正角膜切除術(photorefractiveCkeratectomy:PRK)によりCsurfaceablationをする方法がある.どちらの方法を選択するかは,術後年数やCLASIKフラップ厚,残存角膜ベッド厚などから複合的に判断している.文献1)IdeCT,CKurosakaCD,CSenooCTCetal:FirstCmulticenterCsur-veyoninfectiouskeratitisfollowingexcimerlasersurgeryinJapan.TaiwanJOphthalmol4:116-119,C20142)StultingRD,CarrJD,ThompsonKPetal:Complicationsoflaserinsitukeratomileusisforthecorrectionofmyopia.OphthalmologyC106:13-20,C19993)MoshirfarCM,CTukanCAN,CBundogjiCNCetal:RiskCfactorsCandCprognosisCforCcornealCectasiaCafterCLASIK.COphthal-molTher10:753-776,C20214)RandlemanJB,WoodwardM,LynnMJetal:Riskassess-mentforectasiaaftercornealrefractivesurgery.COphthal-mology115:37-50,C20085)AlioCJL,CMuftuogluCO,COrtizCDCetal:Ten-yearCfollow-upCoflaserinsitukeratomileusisformyopiaofupto-10diop-ters.CAmJOphthalmol145:46-54,C2008(92)