●連載◯277監修=福地健郎中野匡277.MRIでみる緑内障小川俊平東京慈恵会医科大学眼科学講座緑内障による視覚障害は,脳内の視覚経路や中枢にも萎縮,微小組織変化,脳活動変化をもたらしていることがCMRIによる生体脳研究で明らかになってきた.視覚再建医療の実現には,より詳細な視覚系への影響の理解が不可欠である.●はじめにMRIを用いた緑内障患者の生体脳計測により,緑内障は脳視覚経路にも影響することが明らかとなった.従来のCT1強調画像やCT2強調画像に加え,拡散強調画像を用いた視覚白質線維の研究が進められている.本稿ではCMRIでみる緑内障について紹介する.C●解剖学的MRIでみる緑内障解剖学的CMRI(T1強調画像やCT2強調画像)を用いて緑内障患者の視交叉,外側膝状体,第一次視覚野など視覚にかかわる部位のサイズを計測すると,疾患進行とともに萎縮していることがわかる.視神経の横断面積(crossCsectionalarea:CSA)は緑内障の重症度と第一次視覚野の灰白質密度にも相関していた1).C●拡散強調MRI+トラクトグラフィーでみる緑内障拡散強調CMRI(di.usionCmagneticCresonanceCimag-ing:dMRI)は,組織内の水分子拡散を計測・画像化する手法で,ボクセルごとに水拡散の角度と速度をつなぐことで脳内線維を三次元的に再構築できる(トラクトグラフィー).拡散テンソル画像(di.usionCtensorimage:DTI)はCdMRIの解析方法で,fractionalCanisot-ropy(FA),mean(MD),axonal(AD),radial(RD)などのパラメータが得られる.FAは拡散異方性を示し,疾患による組織変化で水拡散が変化する(図1).緑内障患者の視索・視放線をCDTIで調べると,FA値が正常視覚者に比べ低下し,視覚経路のCDTIパラメータで原発開放隅角緑内障と高眼圧症が判別可能である.ただし,DTIのパラメータと網膜光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)のパラメータとの相関は限られた条件でのみ報告されている.緑内障診断力において,DTIはCOCTには及ばないが,脳視覚系への影響を非侵襲的に評価するツールとして有用である.C●早期緑内障への影響は?静的自動視野計測(staticCautomatedperimetry:SAP)で検出可能な緑内障の診断力は,現状ではCMRIはCOCTに及ばない.しかし,早期例では結果が異なる.機能的CMRIを用いると,視覚刺激によるCV1のCBOLD反応*がCOCTによる網膜神経線維層厚や網膜神経節細胞層厚+内網状層厚と相関しており,SAPのCMD値の低下よりも先にCV1のCBOLD反応低下が検出された.また,正常眼圧緑内障患者のCDTI研究においても,脳白質構造異常とCSAPのCMD値に相関があり,これらの変化はCSAPによる異常検出よりも早期であった.これらの結果から緑内障による脳内変化は,SAP検出より早期から発生することが示唆された.C●dMRIのモデルの進化テンソルモデルは単純な楕円球モデルであるため,組織変化に対する感度が高く計算量が少ないというメリットがあるが,解析モデルとしては単純すぎるという欠点もある.そのため結果を特定の組織変化と一義に解釈することができない.モデルの進化が進めば,より詳細な神経接続や疾患影響の評価が可能となる.例として,脳内神経軸索の直径分布や軸索と神経突起の分散・密度を利用するCneuriteCorientationCdispersionCandCdensityC*BOLD(blood-oxygenation-level-dependent)反応:脳の局所的な活動によって酸素消費が増加すると,酸素と結合したオキシヘモグロビンが減少し,酸素を放出したデオキシヘモグロビンが増加する.この反応は約C6秒でピークに達し,20~25秒後に基準値に戻る.機能的CMRIはこのCBOLD反応の変化率を計測することで,脳の活動を可視化する.(73)あたらしい眼科Vol.40,No.7,20239210910-1810/23/\100/頁/JCOPYabdMRIimageCTensorCCSDCcdefg0.7Ch0.65C0.15CLGNCV1C0.3図1トラクトグラフィーとトラクトメトリーa:拡散強調画像の脳水平断(b=0).b:緑と青のボクセル内の水拡散データ(dMRIimage,短いほど速い)とテンソル(Tensor)モデル,CSD(constrainedshericaldeconvolution)モデルをフィットしたもの.Cc:CSDモデルの長軸を数学的につないでいくと線維が特定できる.Cd:全脳トラクトグラフィーから,主要な線維を左半球のみ描出.Ce:トラクトグラフィーで特定した筆者の視索(紫)と視放線(.).f:各ボクセル内のCFA値をホットマップで表現している.Cg:線維束の重心であるコアファイバーに沿って測定値を平均する.h:視放線のCFA値.LGNからCV1までの位置情報を有する(文献2,3より作図).Fractionalanisotropy(FA)imaging(NODDI)法が提案されている.モデルの進化は,視覚障害の神経学的基盤を正確に把握し,個々の患者に適切な治療戦略を立てることにつながる可能性がある.C●dMRIと定量的MRIの組み合わせdMRIの限界に対して,定量的CMRIは,組織の物理的・生物学的特性を定量的かつ再現性高く測定する技術であり,神経組織の密度や分子組成などが測定できる.dMRIと組み合わせることで,特定部位における組織特性の具体的な情報を測定することが可能となる.筆者らは緑内障患者の視覚経路において,NODDIと定量的MRIを組み合わせて評価した.その結果,視放線の変化は髄鞘障害ではなく,軸索障害を引き起こしている可能性が示唆された4).C●おわりに疾患による視覚障害は,脳内になんらかの構造変化をC922あたらしい眼科Vol.40,No.7,2023引き起こしていることは明らかである.疾患の種類,障害の程度,網膜障害部位により変化するパラメータはそれぞれ異なっている.緑内障に代表される網膜疾患による視覚障害の影響の神経学的基盤を正確に把握することは,視覚をより深く理解し,疾患の克服にも重要であると考える.文献1)FukudaCM,COmodakaCK,CTatewakiCYCetal:QuantitativeCMRICevaluationCofCglaucomatousCchangesCinCtheCvisualCpathway.PLoSOneC13:e0197027,C20182)OgawaCS,CTakemuraCH,CHoriguchiCHCetal:WhiteCmatterCconsequencesCofCretinalCreceptorCandCganglionCcellCdam-age.InvestOphthalmolVisSciC55:6976-6986,C20143)RokemA,TakemuraH,BockASetal:Thevisualwhitematter:TheCapplicationCofCdi.usionCMRICandC.berCtrac-tographytovisionscience.JVisC17:4,C20174)OgawaS,TakemuraH,HoriguchiHetal:Multi-contrastmagneticCresonanceCimagingCofCvisualCwhiteCmatterCpath-waysinpatientswithglaucoma.InvestOphthalmolVisSciC63:29,C2022(74)