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眼内レンズ挿入眼への眼鏡処方

2024年6月30日 日曜日

眼内レンズ挿入眼への眼鏡処方ThePrescriptionofGlassesforPseudophakicEyes長谷川優実*はじめに白内障手術後は,挿入した眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の性能や術後の屈折によって必要な眼鏡の種類と使用頻度が異なってくる.単焦点IOLを遠方に合わせれば近用眼鏡が必要であり,近方に合わせれば遠用眼鏡が必要となる.どちらも眼鏡のつけはずしをしたくなければ遠近両用眼鏡となる.患者によっては白内障手術をしたら遠方から近方までよく見えるようになって眼鏡は必要なくなると思っている人もいるので,術前にほとんどの場合に術後眼鏡が必要であることを説明しておく.多焦点IOLの場合,レンズの種類によっては眼鏡が不要となるが,パワーエラーや乱視,近方の見え方の不満がある場合は眼鏡が必要となる.IOL挿入眼への眼鏡処方において注意する点は,度数が安定する時期に処方すること,術前の屈折や術前に使用していた矯正の状況も考慮すること,IOLの種類によって他覚的屈折値と自覚屈折値が乖離することなどである.I眼鏡処方の時期白内障術後の屈折が安定する時期は,レンズの種類や切開創の大きさによって異なる.支持部と光学部が異なる素材で角度がついている3ピースIOLは,支持部と光学部が同素材で平坦な1ピースIOLよりも術後屈折が安定するまで時間がかかり,術後1カ月頃まで0.4Dほど近視化することが報告されている1,2)(図1).親水性アクリルでプレート形状の分節型多焦点IOLであるLENTISMplus(TELEONSURGICAL社)の多数例の報告では,術後1週間で目標屈折値よりも0.2Dほど近視化し,術後3カ月頃に目標屈折値に近づくとされている3).国内では,同じデザインで加入度数が異なる低加入度数分節IOLのLENTISComfort(参天製薬)が保険適用であり,同様の経過となる可能性がある.当院の患者では,術後1日では平均0.59Dの近視誤差を生じ,術後1週,1カ月と徐々に目標屈折値に近づき,1カ月以降はほぼ変化しなかった(図2).3ピースIOLやLENTISComfortでは術後1カ月以内の早期に眼鏡を処方するのは避けたほうがよいと考えられるが,IOLを近方合わせにした際は眼鏡がないと運転ができないため,早期に処方をしている.近用眼鏡が必要な場合は,ひとまず既製品を使用するように勧めるが,乱視などで既製品では矯正困難な場合は,術後早期に眼鏡を処方することもある.その場合は,屈折の変化によって作り替えが必要になる可能性について説明しておく.一定期間はレンズ度数変更が無料の眼鏡店もあるため,そのようなサービスを利用するのも有効である.切開創による惹起乱視の変化も考慮する.切開経線方向の角膜曲率半径は大きくなり,角膜屈折力は小さくなるので,上方切開では倒乱視が強くなり,直乱視は弱くなる.術後惹起乱視は切開創の大きさによって安定するまでの期間が異なる.3.2mmの自己切開創では2週間程度で安定化すると報告されており(図3)4),2.2mmの切開創では術後1週,1カ月の惹起乱視が0.1D程度*YumiHasegawa:筑波大学医学医療系眼科〔別刷請求先〕長谷川優実:〒305-8575茨城県つくば市天王台1-1-1筑波大学医学医療系眼科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(33)6370.4AbsoluteValueofthelnducedVectors(D)Sphericalequivalent(D)-1.0Postoperativeperiod図1種類の異なる眼内レンズの術後屈折値の経過術後C2日,1週間,1カ月,3カ月,6カ月,12カ月の等価球面値の経時的な変化を示している.○で示される支持部と光学部に角度のあるC3ピースレンズ(MA60AC)は術後C1カ月まで近視化し,その後安定するが,●で示される平坦なC1ピースレンズ(SA60AT)は術後の屈折変化が少ない.(文献C2より転載)-1.61D1W1M2M3M図2LentisComfortの術後屈折値の変化術後C1日,術後C1週,1カ月,2カ月,3カ月の等価球面値と目標屈折値の差の経時的な変化を示している(N=75).術後C1日,1週,1カ月と徐々に目標屈折値に近づき,1カ月以降は術後自覚等価球面値-目標屈折値ほぼ安定している.0.2-0.50-0.2-0.4-0.6-0.8-1-1.2-1.42D1W1M3M6M12M3.532.521.510.50Pre1D1W2W1M3M6MTime図3切開創の大きさと惹起乱視の経時変化切開幅C3.2Cmm(○)では術後C2週間程度で乱視量は安定しているが,11Cmm+連続縫合(△),6.5Cmm+連続縫合(▲)では術後C6カ月でも安定しない.6.5Cmm+単縫合(□),6.5Cmm+自己閉鎖(■)ではC3カ月で安定し,5.5Cmm+自己閉鎖(C×)ではC1カ月で安定した.(文献C4より引用)術後視力(1カ月)右眼=0.4×IOL(1.2×-1.00Dcyl-0.25DAx10°)左眼=0.8×IOL(1.2×cyl-1.00DAx10°)()()近用眼鏡処方右眼:S+1.50D左眼:S+2.50DC-0.75DAx10°1.211.01.01.0小数視力0.80.60.8右眼0.4左眼0.2両眼0遠方2m70cm40cm図440cm視力は良好であったが近用眼鏡作成が必要となった症例74歳,男性.核近視を伴う強度近視の白内障であった.近方狙いを希望されたため,LentisComfortを右眼C.1.01D,左眼C.0.94Dの目標屈折値で挿入した.グラフは裸眼距離別視力の結果である.数値は両眼視力を示している.視力術後はC40Ccmまで両眼で小数視力C1.0まで得られていたが,新聞が読めないとのことで+2.5D加入の近用眼鏡を作製し,満足が得られた.核近視のために術前の眼鏡が低矯正になっていたこともあり,新聞を読む視距離が近くなっていたと考えられる.a0Dastigmatismb0.5DastigmatismP=0.0037*P=0.0264*P=0.0472*P=0.0018*LogMARvisualacuity(D)-0.1P=0.0475*P=0.0013*P<0.0001*-0.02-0.04-0.04-0.040.000.000.010.010.00.01-0.030.040.040.04-0.020.05-0.010.080.090.040.080.050.100.10.10.030.070.080.070.080.090.120.150.150.20.3trifocalgrouptrifocalgroup0.4bifocalgroupbifocalgroup0.5Distance(m)Distance(m)c0.75Dastigmatismd1.0DastigmatismP=0.0322*P=0.0401*P=0.0457*LogMARvisualacuity(D)-0.1P=0.0472*P=0.0304*P=0.0005*0.00.040.040.050.030.060.080.090.100.100.100.120.120.10.070.070.150.090.050.100.170.100.120.120.120.130.160.150.160.160.20.170.250.30.31trifocalgrouptrifocalgroup0.4bifocalgroupbifocalgroup0.5Distance(m)Distance(m)e1.5Dastigmatism0.0P=0.0324*0.13P=0.0018*0.1P=0.0039*0.16図5多焦点IOLの全距離視力に乱視が与える影響0.170.170.21P=0.0105*LogMARvisualacuity(D)0.20.180.190.190.200.27P=0.0310*○で示されるC3焦点CIOL(PanOptix)と■で示される0.30.290.360.400.360.40.50.470.530.6trifocalgroup0.7bifocalgroup0.8Distance(m)2焦点CIOL(ReSTOR+3D)挿入眼に対し,0.5Dから1.5Dの倒乱視を負荷して全距離視力を測定した.Ca~c:0.75D以下の乱視では,すべての距離でC0.2logMAR(小数視力C0.63)以上の視力を得ている.Cd,e:1.0D以上の乱視では遠方視力が低下している.b:3焦点CIOLではC0.5Dの乱視でもC2Cmから遠方にかけての視力が2焦点CIOLより有意に不良である.(文献C7より引用)2211Y=XY=X他覚等価球面値(D)他覚等価球面値(D)0-1-2-1-2-3-4-4-3-2-1012自覚等価球面度数(D)図6LentisComfortの自覚屈折値と他覚屈折値の比較(N=75)他覚屈折(オートレフラクトメータ)の等価球面値は,自覚等価球面値よりも近視の値である症例が多い.差の平均はC.0.36C±0.42Dであった.-3-4-4-3-11-20自覚等価球面度数(D)図7TECNISEyhanceの自覚屈折値と他覚屈折値の比較(N=50)他覚屈折(オートレフラクトメータ)の等価球面値は,自覚等価球面値よりも近視の値である症例が若干多い.差の平均は.0.24±0.47Dであった.他覚等価球面値(D)210-1-2-3Y=X--4-4-3-2-1012自覚等価球面度数(D)図8VivinexImpressの自覚屈折値と他覚屈折値の比較(N=48)他覚屈折(オートレフラクトメータ)の等価球面値と自覚等価球面値は近い値の症例が多く,差の平均はC0.09C±0.25Dであった.C-

不同視弱視への眼鏡処方

2024年6月30日 日曜日

不同視弱視への眼鏡処方OpticalCorrectionforAnisometropiaandAmblyopia長谷部佳世子*はじめに不同視弱視は,不同視が原因で生じる片眼性の弱視である.両眼の屈折異常に左右差があったとき,屈折異常の強いほうの眼の網膜中心窩には網膜像のボケが生じ,その眼側の正常な視覚発達に必要となる視性刺激が不足して片眼弱視が発症する.通常遠視眼がもっとも多く,乱視眼にもみられる.眼位異常のない近視性不同視では,不同視眼でも眼前有限の距離で明視できるため,強度の近視性不同視を除いて弱視の発症はまれである.ただし,小児は視覚の発達途上にあること,また,両眼視機能の低下をきたさないために眼鏡を装用することが望ましい.不同視弱視は眼位異常がなく片眼の視力は良好なため,日常生活の様子から発見されることはまれであるが,3歳児健康診査では見逃すことなく発見したい弱視である.純粋な不同視弱視であれば,眼位の異常は伴わず中心固視で,両眼視機能(立体視)は視力とともに向上し,治療予後は比較的良好である.しかし,不同視弱視は微小斜視を合併することが多く,経過観察に際しては合併の可能性に留意して検査を行う必要がある.それでは,どれくらいの不同視で弱視発症の危険因子となるのか.2021年,米国小児学会斜視協会(Ameri-canAssociationforPediatricOphthalmology&Stra-bismus:AAPOS)1)は,小児用視覚スクリーニング機器の進化に伴い,2003年と2013年に策定した弱視スクリーニングのガイドラインを更新し,1.25Dを超える不表1斜視のない不同視の屈折矯正基準1歳未満1.2歳未満2.3歳未満近視性不同視.4.0D以上.3.0D以上.3.0D以上遠視性不同視+2.5D以上+2.0D以上+1.5D以上乱視性不同視2.5D以上2.0D以上2.0D以上不同視の矯正に関するガイドラインで,これ以上の不同視があれば眼鏡を処方する.(文献3より改変引用)同視は要精査とした.不同視は一般的に2D以上とされているが,1.00Dの不同視の10%,1.50Dの不同視の20%が2段階(logMAR)以上の視力差を生じるというデータ2)もあり,不同視が2D以内であっても弱視の危険因子となるという認識をもつ必要がある.したがって,Landolt環による字ひとつ視力が測定できない年齢でも,調節麻痺薬を用いた屈折検査で不同視が検出されれば,視覚の発達を正常に促すという観点から眼鏡処方を考慮すべきである.米国眼科学会(AmericanAcade-myofOphthalmology:AAO)3)は,不同視の矯正について表1の基準を示している.これらの基準も参考にしながら,保護者に眼鏡装用の必要性を十分理解してもらったうえで眼鏡を処方する.I小児の不同視弱視への眼鏡処方1.必ず調節麻痺薬を用いて屈折検査を不同視弱視の原因の多くは遠視性不同視である.小児は良好な調節力を有し調節の介入が大きいため,必ず調*KayokoHasebe:すぎもと眼科医院〔別刷請求先〕長谷部佳世子:〒719-1134岡山県総社市真壁158-5すぎもと眼科医院0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(27)6311%シクロペントラート塩酸塩点眼下+2.00D0.00D調節麻痺効果消失後調節+6.00D+6.00D調節図1屈折異常の完全矯正調節麻痺効果消失後,健眼は調節をして網膜中心窩に焦点を結ぶが,調節は両眼等量に起こるため,弱視眼の焦点は前方に移動する.表2外径指定加工の有無によるレンズ(生地)の中心厚・重量の比較種類度数基準外径外径指定なし外径指定C55Cz中心厚重さ中心厚重さ(mm)(mm)(g)(mm)(g)+1.00C70C2.1C12.1C2.0C5.2+2.00C70C3.2C12.9C2.1C4.51.60球面(ニコンVIDA3SP)+3.00C65C3.8C10.6C2.5C4.8+4.00C65C4.7C12.6C3.2C6.0+5.00C65C5.4C13.8C3.8C6.8+6.00C65C6.4C16.2C4.5C8.0+1.00C65C2.3C8.2C2.2C5.9+2.00C65C2.7C8C2.3C5.21.60非球面(ニコンNL3-AS)+3.00C65C3.4C9.4C2.7C5.6+4.00C65C4.2C11C3.3C6.5+5.00C65C4.7C11.6C3.7C6.9+6.00C65C5.6C13.7C4.3C7.8+1.00C80C2.1C8.8C1.8C4.9+2.00C75C2.7C9.7C2.1C5.01.67非球面(ニコンNL4-AS)+3.00C70C3.5C11.5C2.6C5.8+4.00C70C4.1C12.9C3C6.2+5.00C65C4.2C11.1C3.4C6.8+6.00C65C5.0C12.7C3.9C7.5CNikon.1.60球面:VIDAC3CSP,1.60非球面:NL3-AS,1.67非球面:NL4AS.非球面および高屈折率のレンズを選択すると,中心厚が薄く,軽い生地になる.外径指定(55Cmm)をすると,さらに中心厚は薄く.重さは軽くなる.実際には,これを眼鏡の玉型に合わせてカットするため,さらに軽く仕上がる.直径65mm直径55mm図2外径指定55Cmmに外径指定をして作製すると中心厚を薄く,また軽く仕上げることができる.表3正常3,4歳児の平均視力(Landolt環)年齢平均視力3歳0カ月C0.553歳2カ月C0.823歳4カ月C0.793歳6カ月C0.823歳8カ月C0.823歳10カ月C0.874歳0カ月C0.884歳2カ月C0.904歳4カ月C0.994歳6カ月C0.974歳8カ月C1.00Landolt環字ひとつ視力表による正常C3.4歳児の平均視力を示す.4歳C8カ月でC1.0に到達する.(文献C4より改変引用)図3絆創膏型遮閉具および布製遮閉具を装着した状態布製の遮閉具は周囲に隙間ができていないか点検する.また,遮閉具を装着しても眼鏡のフィッティングが良好に保たれているか確認する.■用語解説■外径指定:最低限どれだけの生地径があればレンズをフレームにはめることができるかを調べて,そのレンズ生地径で作製すること.

累進屈折力眼鏡の特徴

2024年6月30日 日曜日

累進屈折力眼鏡の特徴TheCharacteristicsofProgressivePowerGlasses金子弘*はじめに累進屈折力レンズは,1959年にフランスのエッセル社から初めて発売されて以来,境目のない遠近両用レンズとしてめざましい発展を遂げてきた.それまでの二重焦点レンズにおける小玉のような明確な遠近の境目がないので,外見が自然であり,中間距離も連続して明視できるという特徴がある.一方,レンズの側方部などで累進レンズに特有の視界の揺れ・歪みを生じるので,それに慣れるのに時間がかかるという欠点がある.当初はレンズ外面(前面)に累進面を配置した外面累進設計であったが,遠近の屈折力差による揺れ・歪みを低減し視野を広げるために,1997年にレンズ内面(後面)に累進面を配置する内面累進設計が現れた.これは高速演算が可能なコンピューターの発達を背景に,複雑な自由曲面を設計する光線追跡のアルゴリズムと,その自由曲面をレンズ表面に精密に加工するフリーフォーム加工機が開発されたことによる躍進であった.最近では,累進面を両面に配置した両面累進設計や,縦方向と横方向の累進要素を外面と内面に振り分けて加工する両面複合累進設計なども登場している1).これらの累進屈折力眼鏡は,装用状態によって実効度数や装用感が大きく影響される.一人ひとりのフレームの装用状態を加味して,頂点間距離の違いや前傾角・そり角による屈折力誤差を予測し,それらを打ち消すようにレンズ設計を行う個別設計(individual)レンズも徐々に知られるようになった.一方,累進屈折力レンズは遠くから近くまでカバーする汎用の遠近累進だけでなく,おもに室内向けの中近累進やデスクワーク向けの近々累進といった,視距離や目的に応じた分化も進んでいる.視線を動かしたときの揺れ・歪みを低減し,近方視野や中間距離の視野をできるだけ広く確保するために,レンズメーカー各社は独自の工夫でそれぞれ特色ある製品を世に送り出している.本稿では,累進屈折力レンズの種類と特徴を確認するとともに,レンズメータでの測定方法,テストレンズを用いた屈折測定や装用テストの注意点などを述べる.I累進屈折力レンズの種類と構造2)累進屈折力レンズとは,レンズの一部または全体にわたって,屈折力が連続的に変化する非回転対称面(累進面)をもつレンズである.いわゆる境目のない遠近両用レンズとして,用途別に遠近累進,中近累進,近々累進などがある.1.遠近累進レンズ上部では遠方が見え,視線を下に落とすにつれて中間距離から手元まで連続して見ることができる通常の汎用タイプの累進レンズである.枠入れ加工前の代表的な遠近累進屈折力レンズのレイアウトおよび主子午線に沿った屈折力の変化を図1に示す.レンズ中央のフィッティングポイントは,装用者の第一眼位の水平視線がこの点を通るように枠入れ加工す*HiroshiKaneko:新潟医療福祉大学医療技術学部視機能科学科〔別刷請求先〕金子弘:〒950-3198新潟市北区島見町1398新潟医療福祉大学医療技術学部視機能科学科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(17)621遠用部測定主子午線に沿った屈折力変化フィッティング基準点インセット(内寄せ)主子午線図1遠近累進屈折力レンズの構造と主子午線に沿った屈折力変化遠用部測定基準点主子午線に沿った屈折力変化インセット(内寄せ)図2中近累進屈折力レンズの構造と主子午線に沿った屈折力変化主子午線に沿った屈折力変化近用フィッティングポイント累進帯長近用屈折力近用部測定基準点図3近々累進屈折力レンズの構造と主子午線に沿った屈折力変化フィッティング遠用部測定基準点左右識別ポイント(参照円の中心)プリズム測定アライメント基準点基準マークアライメント水平基準線基準マーク製品情報加入度情報メーカー名(2桁または3桁)製品名屈折率累進帯長など近用部測定基準点(参照円の中心)図4加工前の累進屈折力レンズ面上の刻印とペイントマーク(右眼)図5加工直後の刻印とペイントマーク(でき上がりチェック時)図6ペイントマーク拭き取り後の刻印(装用者への納品時)図7隠しマーク読み取り機とその見え方アライメント基準マークと加入屈折力3.00(D)の刻印が読み取れる.〔ニデックHP(https://www.nidek.co.jp/)より引用〕==a図8自動レンズメータ(a)とその画面例(b,c)測定基準点と推定される位置で大きなプラスマークに変化し,遠用屈折力(b)と加入屈折力(c)が表示される.図9累進屈折力レンズを通過する視線方向とレンズメータによる測定方向の違い図10眼に与える正確な実効度数の測定法図11レンズ袋の二重表記の例上段:処方屈折力.下段:確認屈折力.遠近(累進屈折力)遠用PD:64mmテストレンズ遠用屈折力テストレンズ近々(逆進屈折力)近用PD:60mmテストレンズ近用屈折力テストレンズ図12遠近累進または中近累進の場合遠用PDの検眼枠に遠用屈折力+累進屈折力テストレンズ(プラス加入).図13近々累進の場合近用PDの検眼枠に近用屈折力+近々テストレンズ(マイナス加入).a==15mm図14検眼枠のテストレンズ挿入位置(仮)a:検眼枠.b:テストレンズの挿入位置は4列の場合,最大15mmの幅がある.

成人の眼鏡

2024年6月30日 日曜日

成人の眼鏡TheTheoryandPracticeofPrescribingSpectaclesforAdults長谷部聡*はじめに成人の眼鏡処方で小児と異なる点として,まず,加齢とともに起こる調節力の低下があげられる.つぎに,眼鏡矯正に付随する不等像視に対する感覚的順応力も衰える傾向がある.加えて,白内障,緑内障,網膜疾患など,何らかの眼疾患を発症することで視機能の余力が失われた患者に眼鏡処方を行う機会が増えてくる.このため成人の眼鏡処方では,細かな工夫や配慮が必要になる.本稿では,成人に対する眼鏡処方のコツについて,その根拠となる光学的理論を含めて解説する.CI遠視の代償不全と眼精疲労遠視が軽度ならば,小児期には豊富な調節力により代償され,裸眼視力は良好である(潜伏遠視).しかし,調節力は加齢とともに徐々に低下するため(図1),代償不全症状とともに顕性化する.症状としては,近業での視力低下,眼精疲労,複視などがある.代償不全症状が出現する年齢は,遠視強度に応じておよそ推定できる.スマホ時代を前提に近業時に必要な調節力を+4D(視距離C25Ccm)と仮定すれば,遠視+6DではC20歳から,+4DではC30歳から,+2DではC35歳から眼鏡矯正が必要になる.遠視矯正眼鏡を常時装用できれば,遠見時にも過剰な調節負担を緩和できる.さらに調節力が低下すると,代償不全症状の距離範囲は近見から中間距離へ,さらには遠見へと拡大する.こうした患者のなかには,近用眼鏡はもっているが,普段は裸眼で生活しており,遠見での視力障害のみを訴えて受診する患者も少なくない.特徴として,午前中は比較的楽にみえるが,夕方から夜間にかけて,つまり瞳孔径が拡大して焦点深度が浅くなるとともに症状が悪化する.しかし,若い頃から眼鏡をかけない生活スタイルに慣れており,常時眼鏡を装用することに対して心理的抵抗を感じる場合が多い.こうした患者には漫然とシアノコバラミン点眼液を処方するのではなく,眼鏡矯正の必要性について説明することが大切である.眼鏡度数としては,年代ごとの調節力を考慮して,低矯正.完全矯正で遠視矯正眼鏡を処方するのがよいだろう.CII乱視眼鏡と経線不等像視の問題乱視眼鏡処方に関する「試しがけの結果を参考にしながら,控えめに矯正するのがよい」という経験則は有効ではあるが,おそらく経線不等像視(meridionalanisei-konia)に対する不十分な理解に起因する.両眼で度数が大きく異なる近視を眼鏡で完全矯正すると,不等像視が起こり眼鏡装用感が低下することはよく知られている.しかし,この問題は球面レンズに留まらず円柱レンズにもみられ,経線不等像視とよばれる1).図2は,円柱レンズ(凹レンズ)による像の歪みを示したものであるが,像は軸がC90°なら水平方向に,軸が180°なら垂直方向に圧縮されて見える.軸が斜めでも同様に,軸と直角方向に圧縮されるが,その結果,軸が45°なら反時計回転方向に,軸がC135°なら時計回転方向*SatoshiHasebe:川崎医科大学眼科学C2〔別刷請求先〕長谷部聡:〒700-8505岡山市北区中山下C2-6-1川崎医科大学眼科学C2C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(11)C615調節力(D)1614121086420調節力遠視強度眼鏡矯正が必要となる遠視強度(D)0102030405060708090年齢(歳)図1調節力および眼鏡矯正が必要になる遠視強度と年齢の関係図2円柱レンズ(凹レンズ)によるイメージの歪み白点は軸,矢印は圧縮作用の方向を示す.a,b:垂直線は軸がC90°かC180°なら垂直に見える.Cc,d:垂直線は軸の傾きとともに傾斜し,軸がC45°かC135°のときに最大傾斜を示す.図3回転ドア感覚を作るステレオグラムの例交差法で両眼単一視するとき,右手が奥に,左手が前に,人形は奥行き方向に傾斜する.図4スラント感覚を作るステレオグラムの例交差法で両眼単一視するとき,上端が奥に,下端が前に,鉛筆は奥行き方向に傾斜する.残余乱視(%)200表1年齢と調節力および近用加入度数の関係150100500図5円柱レンズの軸シフトと残余乱視の関係年齢(歳)C40平均(C±SD)調節力(D)C6.0±2.0平均(C±SD)近用加入度数C0.0C44C4.5±1.5C0.0C48C3.0±1.5C0.0±1.5C52C2.5±1.5C0.5±1.5C56C2.0±2.0C1.0±1.5C60C1.5±1.0C1.5±1.0C64C1.0±0.5C2.0±0.5C68C0.5±0.5C2.5±0.5C0153045607590正しい乱視軸に対するレンズ軸のシフト量(°)破線は対策①(本文参照)を併用する場合(シフト量C15°でC20%,(米国眼科学会ウェブサイトChttps://www.aao.org/education/30°でC50%円柱度数を減らす).Cbcscsnippetdetail.aspx?id=9bad008c-c23f-4243-bb20-f7bfabaf04bdより改変引用)a.遠近タイプb.中近タイプc.近近タイプフィッティングポイント隠しマーク図6累進屈折力レンズのタイプフィッティングポイントは隠しマークの中点よりC3.4Cmm上方に位置し,正面視で瞳孔中心と一致するようフレーム調整することで,最良のレンズ・パフォーマンスが得られるように設計されている.隠しマーク下方に加入度数が刻印されているレンズが多い.明視に要する調節力(D)10コンタクトレンズ-12D眼鏡レンズ8-20D眼鏡レンズ642001020304050視距離(cm)図7近視眼鏡による見かけの調節コンタクトレンズ,.12D眼鏡レンズ,C.20D眼鏡レンズで近視を完全矯正するとき,近業(30Ccm)に要する調節力は,それぞれC3.3,C2.6,C2.2Dである.C-

小児の眼鏡

2024年6月30日 日曜日

小児の眼鏡PediatricEyeglasses湖﨑淳*はじめに小児の眼鏡は,成人のそれとは異なる特徴がある.幼児期の眼鏡は弱視予防であるため「おくすり」と同じである.児童になると学習効率のために眼鏡が必要になる.フレームもさまざまな大きさのフロントサイズがある.小児は鼻が低く,側頭部の左右の長さが異なることも多い.小児の眼鏡は決して大人のミニチュアではない.I処方度数1.検査方法遠視による調節性内斜視や屈折性弱視が考えられる場合は完全矯正が必要であるので,アトロピン硫酸塩やシクロペントラート塩酸塩などの調節麻痺薬を使用して屈折検査を行う(表1)1).では近視はどうか.小児はオートレフによる「機械近視」が入りやすいため,過矯正になる可能性がある.近視の場合でもトロピカミド程度の調節麻痺薬は使用したほうが過矯正は防げる.2.装用開始のタイミング未就学児は黒板を見ることがないため,球面度数.1.0..1.5Dぐらいは,観察のみとしている.ただし,間欠性外斜視のある小児では遠見視力が不良であると遠見時に外斜視となり,両眼視が崩れる場合がある.両眼視機能が不安な場合は,近視度数が軽度であっても処方したほうがいいだろう.遠視の場合は球面度数+4.0Dぐらいでも裸眼視力はよい.裸眼視力が不良であるときや,不同視差が2D以上あるときは弱視の危険性があるため,完全矯正を行う.2D以上の乱視のときも同様である.また,裸眼視力がよくても眼位ずれ(用語解説参照)があるときも調節麻痺薬を使用して完全矯正を行う.就学児童の場合は学習効率を考える.教室の後ろから黒板を見るのに必要な視力の確保が重要である.字画数にもよるが,小学校高学年で教室の後ろの席から黒板を見るのに必要な視力は0.7である.この0.7が確保できていないときは眼鏡処方の対象または更新の対象となる.裸眼視力が0.7であっても矯正視力が1.0以上出ることを確認する必要はある.3.完全矯正か低矯正か近視の進行を考えた場合,眼鏡は完全矯正のほうがいいか低矯正のほうがいいのかについては議論がある2).どちらの論文もあるが,完全矯正派のほうが多い.しかし,調節ラグ(用語解説参照)や軸外収差(周辺部遠視性デフォーカス,用語解説参照)を近視の進行の一因と考えるならば,完全矯正は必ずしも正解とはいえない3).いずれにしても,統計的有意差はあっても臨床上の有意差があるわけではない.ただし,過矯正は避ける必要がある.4.不同視の場合小児は軸性近視が多いので,Knappの法則により不等像は起こりにくい.しかし,2D以上の差がある場合*JunKozaki:湖崎眼科〔別刷請求先〕湖﨑淳:〒545-0021大阪市阿倍野区阪南町1-51-10湖崎眼科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(3)607表1調節麻痺薬の作用発現時間と使対象疾患一般名商品名濃度点眼回数検査までの時間回復までの時間対象疾患アトロピン硫酸塩日点アトロピン,リュウアト0.5.1%1日3回5日間2.3週間高度遠視内斜視シクロペントラート塩酸塩サイプレジン1%1回60分2.3日遠視トロピカミドミドリン0.5%1回30分2.3時間近視アトロピン硫酸塩の調節麻痺作用がもっとも強い.非球面凸レンズ球面凸レンズ図1球面凸レンズと非球面凸レンズの厚みの差左右のレンズとも屈折度数+6.0D,屈折率0.6.凸レンズの場合は,同一屈折度数・同一屈折率でも球面と非球面では明らかに厚みに違いがある.生地の直径(外径)が長い生地の直径(外径)が短い小児用眼鏡フレームの幅図2小児の遠視眼鏡の外径指定凸レンズの場合,使用するレンズ(生地)の直径でレンズの厚みは変わる.フレーム幅の小さい小児用のフレームでは直径の短い生地を指定(外径指定)することで眼鏡レンズの厚みを薄くすることができる.屈折度数が強いほうのレンズ屈折度数が弱いほうのレンズ図3近視性不同視が強い場合(3~4D)の厚み指定凹レンズの場合,屈折度数が弱いほうのレンズの中心厚を厚くする(厚み指定)ことでコバ厚を揃えることができる.見栄えはよくなるが,不同視が強い場合には不等像は解消されない.図4フレーム一体型鼻パッドの加工小児用のセルフレームの鼻パッドは盛り上げ加工がしてある.それでもフィッテングが悪い場合は,シリコーン鼻パッドを張り付けたり,さらに盛り上げ加工をすることができる.図5クリングスパッドの加工クリングスパッドの場合はシリコーン製のツインパッドを付け替えることができる.図6モダンの工夫眼鏡がずれるとアイポイントとレンズの光学中心点がずれる.これを防ぐためにモダンを「2段曲げ」にしたり「巻きつる」状にしてフィッティングをよくする.モダンにバンドをつけて装用することも多い.13121086420側面長(mm)60708090図7標準フロントサイズにおける側面長の分布何種類かのフロントサイズがあるが,1例としてフロントサイズ44mmのフレームでは側面長〔丁番からモダンの曲げ位置までのテンプル長〕が78mmである.しかし,実測をするとさまざまな長さの小児がいる.(文献4より転載)人数3025201510501mm2mm3mm4mm5mm6mm7mm8mm9mm10mm11mm12mm側面長図8側面長の左右差(差がある者130名)側面長に5mm以上の左右差のある小児は30%にのぼる.(文献4より転載)図10テンプルの細い眼鏡と太い眼鏡テンプルを太くすることで,鼻への重みの負担が軽減される.大きいフレームコバ厚図9フレーム径を短くすることで縁厚(コバ厚)を薄くできる強度近視の場合は,短いフレーム径にすることでレンズが薄くなり,輪郭の映り込みが軽減されて見栄えがよくなる.■用語解説■眼位ずれ:斜視または斜位調節ラグ:近見調節時に調節必要量に対して調節応答量が少ないこと.焦点が網膜の後ろに合い遠視性のボケになる.この遠視性の像のボケが眼軸長の伸びる(近視化する)要因といわれている.周辺部遠視性デフォーカス:中心窩に焦点が合った場合,網膜周辺部には遠視性の像のボケが起こり眼軸長が伸びる要因となる.Abbe(アッベ)数:色のにじみ(色収差)を表す数値.Abbe数が小さいと色収差は大きくなり,色のにじみが大きくなる.アイポイント:視線の通る位置.ヒトはやや下方の有限距離をみるため,アイポイントは瞳孔中心より1mm内側,4mm下方になる.コバ厚:凹レンズの周辺部のレンズの厚み.

序説:初心者のための眼鏡処方

2024年6月30日 日曜日

初心者のための眼鏡処方AnIntroductiontothePrescriptionofEyeglasses不二門尚*臼井千惠**眼鏡処方は,眼科医にとって基本中の基本であるが,眼科医が患者に対して自ら眼鏡処方のための検査を行うことはまれで,実際には臨床経験の豊富な視能訓練士や看護師が検査を担当し,眼科医は指導的立場で検査結果を確認し,処方箋を発行する.その際,眼科医は,眼鏡を処方する対象が視覚発達途上の小児か成人かによって処方の目的を区別し,各年代に適した検査方法を選択したうえで,適切な度数の決定を行う必要がある.さらに加齢に伴う屈折の変化に対しては,年々進歩する累進屈折力レンズや多焦点眼内レンズ技術の知識を得て,検査・処方上の注意点を把握することが求められる.患者のqualityofvision(QOV)あるいはqualityofvisuallife(QOVL)に対する要求水準は近年高まっており,もっとも非侵襲的な屈折矯正手段である眼鏡でどこまで見え方の質を上げられるかは,一般眼科医の腕の見せどころである.本特集は,そのような立場から,眼鏡に詳しい眼科医,視能訓練士,技術者の先生に,臨床で役立つ眼鏡処方のポイントを,眼鏡処方の経験が少ない眼科医にもわかりやすく解説いただいた.まず,眼鏡処方の基本(総論)として,視覚発達期の小児の眼鏡については,遠視と近視それぞれの屈折異常の観点から調節麻痺薬の必要性を含めた処方度数の留意点と,小児特有の頭部形状や顔貌を考慮した眼鏡レンズやフレーム選択に必要な情報を湖崎淳先生に,成人の眼鏡については,加齢による遠視の代償不全とそれに伴う眼精疲労,乱視眼鏡と経線不等像視によって生じる回転ドア感覚・スラント感覚の原理を長谷部聡先生にわかりやすく解説いただき,老視眼鏡では患者の調節力による明視域の観点から加入度数を検討する方法についても説明いただいた.また,とくに成人で処方の頻度が高い累進屈折力眼鏡については,遠近・中近・近々累進の光学特性とできあがった眼鏡度数をレンズメータで測定する場合の方法および注意点を金子弘先生にわかりやすく解説いただいた.つぎに,特殊な眼鏡処方の実際(各論)として,小児については不同視弱視への眼鏡処方の実際を,弱視訓練中の諸注意・管理を含め長谷部佳世子先生に執筆いただき,白内障術後の眼内レンズ挿入眼への眼鏡処方については,各種眼内レンズの特性を踏まえたうえで術後屈折度の変化に応じた適切な時期に眼鏡を作製することの重要性と,各種眼内レンズに適した眼鏡について長谷川優実先生に詳細を解説いただいた.さらに,複視を主訴として来院した患者へのプリズム眼鏡の適応については,適応となるのは両眼複視であり,水平・上下・回旋融像の正常*TakashiFujikado:大阪大学大学院生命機能研究科**ChieUsui:帝京大学医学部医療技術学部視能矯正学科0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(1)605

白内障術後Descemet 膜剝離の治療に難渋した1 例

2024年5月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科41(5):592.596,2024c白内障術後Descemet膜.離の治療に難渋した1例横田智香小林隆幸国家公務員共済組合連合会吉島病院眼科CARefractoryCaseofDescemetMembraneDetachmentafterCataractSurgeryChikaYokotaandTakayukiKobayashiCDepartmentofOphthalmology,FederationofNationalPublicServiceandA.liatedPersonnelMutualAidAssociations,YoshijimaHospitalC目的:白内障術後にデスメ膜.離(Descemetmembranedetachment:DMD)を診断し,治療に難渋した症例を報告する.症例:74歳,男性.数カ月前から左眼視力低下が進行したため吉島病院眼科を受診した.左眼の視力は(0.15)であった.左眼の核白内障と黄斑前膜に伴う視力低下と診断し,左眼白内障手術,硝子体手術を行った.術中に角膜浮腫を生じ,手術翌日の診察で左眼CDMDを診断した.2度の前房内気体注入を行ったがCDMDは治癒しなかった.3度目の前房内空気注入は細隙灯顕微鏡でCDescemet膜の位置を確認しながら行ったところ,正確に前房内空気注入を行うことができ,Descemet膜の接着を得られた.注入した空気が吸収した後もCDMDの再発はなく左眼視力(0.7)まで改善した.結論:白内障術後CDMDに対して,細隙灯顕微鏡を用いて処置を行うことでCDescemet膜の接着が得られたC1例を経験した.CPurpose:ToreportachallengingcaseofDescemetmembranedetachment(DMD)followingcataractsurgery.Case:A74-year-oldmalepresentedtotheDepartmentofOphthalmologyatYoshijimaHospitalwithprogressivevisionlossinhislefteyeandabest-correctedvisualacuityof0.15.Hewasdiagnosedwithcataractandepiretinalmembraneinthateye,andsubsequentlyunderwentcataractsurgeryandvitrectomy.Intraoperativecornealede-maoccurred,andDMDwasobservedat1-daypostoperative.Despitetwoattemptsatintracameralairtamponade,DMDwasnotcured.Athirdintracameralairtamponadeguidedviatheuseofaslitlampwasperformed,result-inginaccurateinjectionandsuccessfulreattachment.Followingcompletegasabsorptioninthetreatedeye,therewasnorecurrenceofDMDandvisualacuityimprovedto0.7.Conclusion:WepresentacaseofDMDaftercata-ractsurgeryinwhichDescemetmembranereattachmentwassuccessfullyachievedthroughtreatmentguidedbyuseofaslitlamp.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(5):592.596,C2024〕Keywords:デスメ膜.離,白内障手術,前房内空気置換.Descemetmembranedetachment,cataractsurgery,intracameralairtamponade.Cはじめにデスメ膜.離(Descemetmembranesetachment:DMD)は内眼手術後,眼外傷後に生じうる疾患である.DMDを発症すると角膜内皮細胞のポンプ機能が失われ,角膜浮腫を生じ,視機能低下をきたす1).DMDの原因となる内眼手術としてもっとも多いのが白内障手術であるが2,3),白内障術中に作製した角膜切開創のCDescemet膜の裂け目に沿って房水が流れ込むことで発症すると考えられている2).白内障術後DMDはまれな合併症ではなく,注意深い観察を行うと多くの症例に生じていたという報告がある4).軽症のCDMDは自然軽快することが多いが,まれに重症CDMDを生じた場合には早急な治療を行うことが必要である.今回広範囲なCDMDを生じ,複数回の処置を行ったがCDescemetの膜の接着を得られず,最終的に細隙灯顕微鏡で観察しながら前房内空気注入を行ったことでCDMDを治すことができたC1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕横田智香:〒730-0822広島市中区吉島東C3-2-33吉島病院眼科Reprintrequests:ChikaYokota,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FederationofNationalPublicServiceandA.liatedPersonnelMutualAidAssociations,YoshijimaHospital,3-2-33Yoshijima-higashi,Naka-ku,Hiroshima-shi,Hiroshima730-0822,JAPANC592(120)図1初診時眼所見a,c:右眼の前眼部写真と眼底三次元画像解析(opticalcoherencetomography:OCT)画像であり,軽度白内障と,黄斑部COCTでは一部網膜色素上皮の不整を認めるのみだった.Cb:左眼前眼部写真であり,Emery-Little分類2.3程度の核白内障がある.Cd:左眼COCT画像であり,網膜前膜と中心窩陥凹の消失がある.CI症例患者:74歳,男性.主訴:左眼視力低下.既往歴:高血圧症,心房細動.現病歴:数カ月前からの左眼視力低下がありC2022年C7月吉島病院眼科を初診した.左眼白内障,黄斑前膜を認め,2022年C10月左眼白内障手術と硝子体手術を行うこととなった.初診時所見:矯正視力は右眼(1.2),左眼(0.15),眼圧は右眼C13CmmHg,左眼C12CmmHgであった.左眼核白内障,左眼黄斑前膜(図1)を認めた.術前検査時のスペキュラーマイクロスコープCEM-4000(トーメーコーポレーション)による評価では角膜内皮数は右眼C2,808/mmC2,左眼角膜内皮細胞数C3,092/mmC2であり,滴状角膜などの角膜内皮異常はなかった.術中記録:2022年C10月左眼白内障と黄斑前膜に対して白内障手術と硝子体手術を行った.麻酔はC2%リドカイン塩酸塩水和物CTenon下麻酔,創はC12時にC2.75Cmmの強角膜C3面切開,10時とC2時にC1mmのサイドポートを作製した.前.切開のためにC26CGチストトームをC10時のサイドポートから挿入した際に,サイドポートの角膜切開創においてわずかなCDMDを生じCDescemet膜が翻転した.その後の前.切開,ハイドロダイセクション,超音波乳化吸引術後の際にはDMDの拡大を認めなかった.創口閉鎖のためにハイドレーションを行い,その後C27CGシステムを用いて硝子体手術を行った.黄斑前膜の除去を行っている最中に角膜浮腫を生じ,眼底の視認性が低下したが,角膜上皮掻把により透明性は改善したため,手術を続行し,予定どおりの術式を完了し,手術を終了した.術後経過:手術翌日,細隙灯顕微鏡での診察を行い,広範囲に及ぶCDMDと著明な角膜浮腫を認めた.DMDは広範囲に及び,自然軽快はむずかしいと考え,前房内ガス注入を行うこととした.仰臥位になり,顕微鏡下で処置を行った.耳下側にCDMDを生じていない部位があったため,そこへ新たにサイドポートを作製し,27G鈍針でC20%六フッ化硫黄(SFC6)の前房内注入を行った.20%CSFC6を前房内のC80%程度置換し,処置後は仰臥位とした(図2).処置翌日,角膜浮腫の改善はなく,前房内ガスはC50%残存しており,DMDの詳細な評価はできなかった.処置C3日後にガスがほぼ消失したところ,角膜全体にCDMDを再度認めた.初回処置時にCSF6の注入量が十分でなかったことを反省点とし,また前房内気体注入の角膜内皮毒性(5)を懸念し,2回目の処置時にはCSF6ではなく空気を用いて前房内完全置換を行った.初回処置時に作製したサイドポートに,27CG鋭針のベベルを圧着させて空気注入を行った.この方法をとることで前房内の完全空気置換を行うことができた.処置C3時間後に眼痛を生じ,左眼眼圧C60CmmHgに上昇した.瞳孔ブロックを生じた図2手術翌日の左眼前眼部写真a,b:中央から下方にかけてCDescemet膜.離(.)がある.c:耳下側のCDescemet膜.離を生じていない部分から処置を行った.図32回目処置後の左前眼部写真a:処置直後,前房内はC100%空気置換された.b:処置C3時間後に瞳孔ブロックを生じた(.).c:前房内空気部分除去後,Descemet膜.離を生じた(.).ため空気注入で使用したサイドポートにC27CG鋭針を挿入し前房内空気の部分除去を行ったところ,DMDを再度認めた(図3).その際,残存した空気がCDescemet膜上に存在していたため,空気注入部位が誤っていたことが判明した.3度目の処置時は角膜内皮後面に確実に空気を注入するために,細隙灯顕微鏡の観察下で処置を行った.まず洗眼を行い,開瞼器をかけた.その状態で眼周囲が不潔にならないように看護師に誘導してもらいながら座位で細隙灯顕微鏡に顔を乗せ,処置中に頭が動かないように頭部を看護師が固定しつづけた.27CG鈍針を前回処置時のサイドポートから挿入したが,鈍針ではCDescemet膜を穿破できなかった.30CG鋭針を今までの処置で使用したサイドポートとは別部位の耳下側角膜輪部から刺入した.針先がCDescemet膜を穿破したことを確認し,空気注入を行った.完全前房内空気置換を行うことができたが,2回目の処置時に注入したCDescemet膜前面の空気が残存したため,2回目の処置時に使用したサイドポートへC30G針を刺入し,創口を圧迫することで残存したDescemet膜前面の空気を除去した.3度目の前房内完全空気置換後も処置C3時間後に瞳孔ブロックを生じたため,耳下側角膜輪部の創にC30CG針を再度挿入し,前房内空気の部分除去を行った.空気はC50%程度に減少したが,DMDの再燃はなく,角膜の透明性は良好であった(図4).処置翌日には完全に空気が消失したが,その後もCDMDの再発はなかった.術後半年時点でCDMDの再発はなく,角膜透明性を維持している.術後半年CVD=(0.7)まで向上し,内皮細胞数はC2,518/mm2と保たれていた(図5).CII考察今回,白内障術後にCDMDと診断し,その治療に難渋した1例を報告した.白内障手術に併発するCDMDは主創口から生じることがもっとも多いと考えられており2),術中COCTで主創口を観察したCDaiらの報告では,133例中C125例(94%)でCDMDを生じていた6).既報では白内障術後CDMDは0.04.0.5%とまれな合併症であるという報告もあったが1,2),白内障術後全例で前眼部三次元画像解析(anteriorsegmentopticalCcoherencetomography:AS-OCT)を行った報告ではC36.7%,82.0%にCDMDを生じていた4,7).白内障手術では,周辺に存在しているCDMDや小さなCDMDは検眼鏡検査のみでは見落とされることが多いと考えられる.DMDを疑う所見ではCAS-OCTの撮像が詳細な病状把握には有効であると考える.本症例ではCAS-OCTがなかったため細隙灯顕微鏡の観察のみだったが,広範囲な丈の高いCDMDであった図43回目処置後の左眼前眼部写真a:前房内完全空気置換を行った.Cb:前房内空気部分除去後,前房内の空気はC50%程度となったが,Descemet膜.離は再発せず,角膜透明性を維持した.ため診断はむずかしくなかった.本症例では術中にCDMDの拡大を把握できておらず,また術後の動画検証においても,DMDがいつ拡大したのかは不明であった.推測にはなるが,サイドポートからの器具の出し入れの際にCDescemet膜の翻転を生じており,創口閉鎖のためのハイドレーションにより.離が広がった可能性を考えた.山口らは,白内障術後CDMD6症例中C3症例がハイドレーションをきっかけに拡大したと報告しており,術中にCDMDを生じている症例では角膜内方弁にかかる位置でハイドレーションを行うと灌流液が迷入しやすいため,DMDの拡大を回避するために切開創側面の角膜実質に針先を向ける方法が安全であると考えられている8).チストトームの出し入れの際に,針先が角膜内皮側に当たることでCDMDを生じるので,器具の出し入れの際には注意が必要であり,またCDMDを生じた場合はハイドレーションの方法にも配慮が必要である.DMDは自然軽快するものが存在するが,自然軽快を得られずCDMDが長期間持続するとCDescemet膜の線維化を生じる.自然軽快を得られにくいと予想される症例では早期に治療を検討すべきである.DMDの予後予測の分類として,Mackoolらは.離の大きさ(1Cmm未満か,1Cmm以上か)9),Mulhernらは.離の部位(周辺部のみか,中央も含むか)10)を提唱している.DMDの治療基準はまだ確立したものはないが,視軸にかかるような.離範囲の大きなCDMDでは早期治療介入を検討するべきだろう.DMDの治療方法としては前房内気体注入によるタンポナーデがもっとも一般的である.これは角膜内皮移植(Des-cemetCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty:DSAEK)において角膜内皮グラフトをホスト角膜実質裏面に接着させる際に用いる手技と同様である.DSAEKでは眼圧がC30.60CmmHgに上昇する程度の完全前房気体置換を少なくともC15分間行うことが接着のために重要と考えられている10).前房内完全気体置換を行う時間は術者により異なる図5術後半年の左眼前眼部写真Descemet膜.離の再発はなく,角膜透明性を維持した.が,DSAEK310症例をまとめたCRoyらの報告では,瞳孔ブロックや空気による角膜内皮障害を懸念して処置後C1時間後に前房内気体を完全に除去したが,術後CDescemet膜.離を生じた割合はC1.3%と低かった11).また,本症例でも完全前房内空気置換後C3時間で前房内空気の部分除去を行ったが,Descemet膜の接着を得られた.完全前房内気体置換を行うと,数時間後に瞳孔ブロックを生じることが多い.角膜内皮移植(DescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty:DMEK)では瞳孔ブロック予防のため前房内空気注入を行う前に周辺虹彩切除術を行うことがあるが,周辺虹彩切除術を行っていても瞳孔ブロックを生じた報告がある12).よって前房内完全空気置換を行った後は瞳孔ブロックの予防のために処置後早期に前房内空気の部分除去を行うか,眼圧上昇をきたした際にすぐに処置ができるように慎重な処置後のフォローを行う必要がある.処置方法は.離範囲が広範囲に及ぶ場合はCDescemet膜を観察しながらでないと適切な位置に注入を行うことがむずかしい.よって広範囲CDMDの場合は細隙灯顕微鏡またはCAS-OCTでCDescemet膜の後方に注入針が入ったことを確認したうえで注入を行うべきである.本症例のようにCDescemet膜.離が角膜全体に及んだ場合は鈍針でDescemet膜を穿破することがむずかしいため注入針は鋭針を用いるべきと考える.また,DMDでは部分的なCDes-cemet膜の亀裂から房水が流入しているので,DSAEKと比較しCDescemet膜前面のフルイド除去がむずかしいことが予想される.本症例においても誤って注入したCDescemet膜前面の空気をサイドポートから除去したが,丈の高い.離となっている場合はCDescemet膜前面のフルイドを除去することが接着率向上につながると考える.結論として,本症例は広範囲に及ぶCDMDであり視力低下が著明であったため早期処置を行った.処置用顕微鏡にAS-OCTやスリット照明が搭載されていなかったため,適切な部位に空気を注入することができず,複数回の処置が必要となったが,診察用の細隙灯顕微鏡を用いることで対応することができた.DMDを生じた際にCAS-OCTが搭載された顕微鏡がない場合でも本方法であれば多くの施設で施行可能であると考える.DMDは適切な処置を行えば,治癒率の高い疾患であるので,処置の必要があれば積極的に行うべきである.文献1)ChowCVW,CAgarwalCT,CVajpayeeCRBCetal:UpdateConCdiagnosisCandCmanagementCofCDescemet’sCmembraneCdetachment.CurrOpinOphthalmolC24:356-361,C20132)TiCSE,CCheeCSP,CTanCDTCetal:DescemetCmembraneCdetachmentCafterCphacoemulsi.cationsurgery:riskCfac-torsCandCsuccessCofCairCbubbleCtamponade.CCorneaC32:C454-459,C20133)MulhernCM,CBarryCP,CCondonP:ACcaseCofCDescemet’sCmembraneCdetachmentCafterCphacoemulsi.cationCsurgery.CBrJOphthalmolC80:185-186,C19964)XiaY,LiuX,LuoLetal:EarlychangesinclearcorneaincisionCafterphacoemulsi.cation:anCanteriorCsegmentCopticalCcoherenceCtomographyCstudy.CActaCOphthalmolC87:764-768,C20095)LandryH,AminianA,Ho.artLetal:CornealendothelialtoxicityCofCairCandCSF6.CInvestCOphthalmolCVisCSciC52:C2279-2286,C20116)DaiCY,CLiuCZ,CWangCWCetal:Real-timeCimagingCofCinci-sion-relatedDescemetmembranedetachmentduringcat-aractsurgery.JAMAOphthalmolC139:150-155,C20217)FukudaCS,CKawanaCK,CYasunoCYCetal:WoundCarchitec-tureCofCclearCcornealCincisionCwithCorCwithoutCstromalChydrationCobservedCwithC3-dimensionalCopticalCcoherenceCtomography.AmJOphthalmolC151:413-419,C20118)山口大輔,西村栄一,早田光孝ほか:治療を要した小切開水晶体乳化吸引術後のデスメ膜.離.臨眼C71:1723.1729,C20179)MackoolCRJ,CHoltzSJ:DescemetCmembraneCdetachment.CArchOphthalmolC95:459-463,C197710)GharraM,AchironA,NaftaliLetal:Wound-assistedairinjectionCinCDescemetCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplasty.AmJOphthalmolCaseRepC26:1-3,C202211)LehmanRE,CopelandLA,StockEMetal:Graftdetach-mentrateinDSEK/DSAEKaftersame-daycompleteairremoval.CorneaC34:1358-1361,C201512)LivnyE,BaharI,LevyIetal:“PI-lessDMEK”:ResultsofCDescemet’sCmembraneCendothelialCkeratoplasty(DMEK)withoutCaCperipheralCiridotomy.CEyeC33:653-658,C2019C***

球状角膜に複数回全層角膜移植を行った1 例

2024年5月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科41(5):586.591,2024c球状角膜に複数回全層角膜移植を行った1例田邉ゆき*1吉川大和*1長嶋泰志*2奥村峻大*3向井規子*4田尻健介*1喜田照代*1*1大阪医科薬科大学眼科学教室*2高槻病院眼科*3高槻赤十字病院眼科*4市立ひらかた病院眼科CACaseofKeratoglobusthatRequiredMultiplePenetratingKeratoplastySurgeriesYukiTanabe1),YamatoYoshikawa1),TaishiNagashima2),TakahiroOkumura3),NorikoMukai4),KensukeTajiri1)andTeruyoKida1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2)CHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TakatsukiRedCrossHospital,4)CDepartmentofOphthalmology,TakatsukiDepartmentofOphthalmology,HirakataCityHospitalC緒言:球状角膜の急性水腫後眼に対して,全層角膜移植(PKP)を複数回施行したC1例を経験したので報告する.症例:69歳,男性.円錐角膜の診断で近医にてハードコンタクトレンズ(HCL)を処方されていたが脱落,紛失を繰り返していた.2017年C5月に左眼の急な視力低下を主訴に大阪医科薬科大学病院(以下,当院)眼科を受診した.HCLによる矯正視力は右眼(0.15Cp×HCL),左眼(0.02×HCL)で,両眼の角膜全体の菲薄化と高度突出を認め,球状角膜と診断した.2017年C7月に左眼CPKPを施行した.ホスト角膜は周辺部で約C200Cμmまで菲薄化し,ドナー角膜との縫合に難渋した.その後移植片に浮腫が出現し移植片機能不全となりC2019年C8月に再度左眼CPKPを施行した.ホスト角膜の創部の瘢痕形成により,既存移植片除去後の形状が保持されており,縫合は比較的容易であった.結論:球状角膜に対する初回のCPKPは,ドナーとホストの角膜厚の不一致とホスト角膜の脆弱性から縫合に難渋するが,再移植の際にはホスト角膜の創部の瘢痕形成により縫合は容易である可能性が示唆された.本症例に対するCPKPの再移植までの期間は,他の疾患に対するCPKPより短く,頻回のCPKPは最良な治療とはいえないが,治療方針に難渋し,少しでも視機能改善を期待するのならばCPKPも選択肢の一つになると考えた.CPurpose:Toreportacaseinwhichpenetratingkeratoplasty(PKP)wasperformedmultipletimesinaneyewithCkeratoglobusCdueCtoCacuteCcornealCedema.CCasereport:AC69-year-oldCmaleCwhoChadCbeenCdiagnosedCwithCkeratoconusandwasusinghardcontactlense(HCL)wasreferredtoourhospitalafterbecomingawareofasud-denClossCofCvisionCinChisCleftCeye.CHeCwasCdiagnosedCwithCkeratoglobusCwithCthinningCandChighCprotrusionCofCtheCentirecorneainbotheyes.Inhislefteye,acuteedemaandstromaopacitywasobservedandtheHCL.ttingwaspoor,soPKPwasperformed.Sincethehostcorneahadthinnedtoapproximately200μmattheperipheryandwasfragile,itwasdi.culttosuturethedonorcornealgraft,andat2-yearspostoperative,edemaappearedinthecor-nealgraft.Hewasdiagnosedwithgraftrejectionandtreatmentwitheyedropswasinitiated,however,therewasnoCimprovementCandCPKPCwasConce-againCperformed.CScarCformationCatCtheCwoundCofCtheChostCcorneaCpreservedCtheshapeoftheexistinggraftandsuturingwasrelativelyeasy.Conclusion:Inthispresentcase,althoughtheini-tialPKPwasdi.cultduetokeratoglobusproducingadiscrepancyinthickness,aswellasfragility,inthehostcor-nea,theeaseofsuturingthedonorgraftintherepeatPKPmayhavebeenduetoscarformationattheperipheralwoundsiteofthehostcornea.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(5):586.591,C2024〕Keywords:球状角膜,全層角膜移植,円錐角膜,角膜移植片機能不全.keratoglobus,penetratingkeratoplasty,keratoconus,cornealgraftdysfunction.C〔別刷請求先〕田邉ゆき:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科薬科大学眼科学教室Reprintrequests:YukiTanabe,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2-7Daigaku-machi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPANC586(114)図1初診時前眼部写真と前眼部OCTと角膜形状解析(上段:右眼,下段:左眼)a,b:前眼部写真.両眼とも角膜は球状に突出し,全体的にびまん性に菲薄化し,周辺部に最菲薄部を認めた.左眼は鼻下側に急性水腫による角膜実質混濁も認めた.Cc,d:前眼部COCT.両眼角膜の球状突出を認め,左眼では急性水腫によるCDescemet膜の断裂や実質内の浮腫(黄色矢印)を認めた.Ce,f:角膜形状解析.右眼中心角膜厚C214Cμm,最菲薄部厚はC130Cμm,左眼中心角膜厚C325Cμm,最菲薄部厚はC173Cμmであった.左眼は浮腫による角膜厚増大を認めた.はじめに球状角膜は,両眼性の角膜の菲薄化と前方への突出をきたすきわめてまれな疾患で,1947年にCVerryによって初めて報告された1,2).先天性と後天性のいずれの症例も存在するが,前者では青色強膜,Ehlers-Danlos症候群のような結合組織に異常がある場合が多いとされている2,3).類縁疾患である円錐角膜では角膜中央下方の菲薄化を認めるが,球状角膜では角膜全体の菲薄化が特徴である.治療として眼鏡での視力矯正が困難となるとハードコンタクトレンズ(hardCcontactlens:HCL)での矯正がまず行われるが,高度な角膜変形によりCHCLでの矯正が困難になりやすい.HCLが装用できない症例については外科的治療が考慮される.近年円錐角膜では角膜クロスリンキングや有水晶体眼内レンズ挿入術などが行われるようになってきたが,球状角膜はその希少さからか治療法は現在確立しておらず,また周辺部にも角膜菲薄が及んでいることから通常の全層角膜移植(penetratingkeratoplasty:PKP)もむずかしいとされる4).今回,筆者らは,球状角膜の急性水腫後眼に対してCPKPをC2回行い,再移植の際にはホスト角膜の創部の瘢痕形成により縫合が容易であった症例を経験したので,その臨床経過を報告する.CI症例患者:69歳,男性.主訴:左眼視力低下.既往歴:高血圧と大腿骨骨折.家族歴:特記事項なし.現病歴:10歳半ばころより視力低下を自覚されていた.20歳半ば頃に円錐角膜と診断され,HCLによる視力矯正が近医で行われていたが,脱落,紛失を繰り返していた.2017年C5月,左眼の急激な視力低下を主訴に,大阪医科薬科大学病院(以下,当院)を紹介受診した.初診時所見:HCLによる矯正視力は右眼(0.15CpC×HCL),左眼(0.02C×HCL)で,細隙灯顕微鏡所見では両眼とも角膜は球状に突出し,全体的にびまん性に菲薄化しており,周辺に最菲薄部を認めた.左眼は鼻下側に急性水腫による角膜実質混濁も認めた(図1a,b).前眼部光干渉断層計(前眼部OCT)では両眼とも角膜の球状突出を認め,左眼では急性水腫によるCDescemet膜の断裂や実質内の浮腫を認めた(図1c,d).角膜形状解析では右眼中心角膜厚C214Cμm,左眼中心角膜厚C325Cμmで,左眼は浮腫による角膜厚増大も認めた(図1e,f).経過:急性水腫発症後C2カ月が経過したが視力は(0.02C×CL),十分な視力改善が得られなかったため,手術加療を行うこととなった.2017年C7月に左眼CPKPおよび白内障同時手術を施行した.ドナー角膜は角膜内皮密度C2,404cells/Cmm2であったが,術前から角膜浮腫を認めていた.ドナー角膜は径C7.5Cmm,ホスト角膜はトレパンでC8Cmm切開後,手術開始時角膜切除直後手術終了時1回目2回目図2上段:1回目の手術,下段:2回目の手術1回目の手術ではトレパン後のホスト角膜は脆弱で,形状保持が困難であった.2回目の手術時,ホスト角膜は創部の瘢痕形成により,形状保持が良好で縫合は初回と比較して容易であった.図31回目手術後約6カ月後の前眼部写真と角膜内皮スペキュラーマイクロスコープ写真a,b:前眼部写真.角膜は清明で浮腫は認めず前房形成も良好である.c:フルオレセイン染色後.角膜上皮に不整なく経過良好である.Cd:角膜内皮細胞密度C588Ccells/mmC2とやや少なかった.abd図42回目手術後約6カ月後の前眼部写真と前眼部OCTと角膜内皮スペキュラーマイクロスコープ写真a:前眼部写真.角膜は清明で浮腫は認めず前房形成も良好である.Cb:フルオレセイン染色後.角膜上皮に不整なく経過良好である.c:前眼部COCT.接合部においてホスト角膜と移植片に角膜厚の大きな差は認めなかった.d:角膜内皮細胞密度C1,405Ccells/mmC2ホスト角膜周辺部の突出した形状の改善を図るため,ドナー角膜との半径較差を意識しつつ,縫合しうる範囲で慎重にマニュアルで拡大した.トレパン後のホスト角膜は脆弱で,かつドナー角膜厚との差が大きかったため,上皮面を合わせて17針縫合したが,角膜厚差のため縫合は容易ではなかった(図2上段).術翌日,前房は浅く,針穴からの前房水漏出を認めた.0.3%ガチフロキサシン点眼C1日C4回,0.1%リン酸ベタメタゾン点眼C1日C6回,ブロムフェナク点眼C1日C1回を開始した.術後C9日目には角膜は清明で,前房形成も良好で前房水の漏出はなく退院となった.術後C14日目の角膜内皮細胞密度C1,398cells/mmC2,眼圧は右眼C8mmHg,左眼C14mmHgであり,術後半年では,矯正視力(0.2C×Sph.3.0D)角膜内皮細胞密度C588Ccells/mmC2とやや少ないが,角膜は清明であった(図3).その後C2019年C1月頃より左眼霧視を自覚した.細隙灯顕微鏡検査で,左眼はびまん性の角膜上皮浮腫,および実質浮腫を認め,左眼の眼圧はC22CmmHgと上昇していた.0.1%リン酸ベタメタゾン点眼の点眼回数を増加であった.し,カルテオロール/ラタノプロスト配合点眼液を追加するなど点眼加療を行ったが,症状の改善を認めなかった.角膜移植片機能不全と診断しC2019年C7月に再度左眼CPKPを施行した.ドナー角膜は透明で,角膜内皮細胞密度C2,237Ccells/Cmm2であった.ドナー角膜は径C7.75Cmmで作製し,ホスト角膜はトレパンを使用せず,既存グラフトをスパーテルで鈍的にはずした.ホスト角膜は創部の瘢痕形成により,形状保持が良好で縫合は前回と比較して容易であった(図2下段).0.3%ガチフロキサシン点眼C1日C4回,0.1%リン酸ベタメタゾン点眼C1日C6回を開始した.術後C1週間で前房形成は良好であり,移植片も清明であった.角膜形状解析では中心部角膜厚はC512Cμmで明らかな浮腫は認めなかった.術後半年後では,矯正視力は(0.3C×sph.1.50D(cyl.3.50DAx80°),角膜内皮細胞密度C1,405Ccells/mmC2,角膜は清明で拒絶反応を認めず,眼圧コントロールも良好であった.前眼部COCTでは,ホスト角膜厚は増大しており移植片接合部でのホストとドナー間の角膜厚差は認めなかった(図4).2022年C4月図52回目手術後約2年6カ月後の前眼部写真と前眼部OCTと角膜内皮スペキュラーマイクロスコープ写真a:前眼部写真.角膜は清明で浮腫は認めず前房形成も良好である.Cb:フルオレセイン染色後.角膜上皮に不整なく経過良好である.Cc:前眼部COCT.ホスト角膜や移植片に大きな形状の変化はなかった.Cd:角膜内皮細胞密度C443Ccells/mmC2とやや少なかった.には矯正視力(0.4C×sph+1.00D(cyl.10.00DAx65°),角膜内皮細胞密度C443Ccells/mmC2と内皮細胞数は減少していた(図5).CII考按球状角膜は角膜形状異常の一つで非常にまれな疾患である5).球状角膜の特徴は,角膜直径は正常であり,前房隅角,眼圧には異常を認めないが,角膜形状では全体が菲薄化し,特に角膜輪部C2.3Cmmの部でもっとも薄く,前方へ突出を認める.類縁疾患として円錐角膜やペルーシド角膜変性が知られている5,6).本症例では,円錐角膜と診断されていたが,角膜全体の菲薄化と球状突出を認め,角膜径も正常であったことより球状角膜と診断した.球状角膜の治療として眼鏡での視力矯正が困難となるとHCLでの矯正がまず行われるが,本症例のように進行例においてはCHCLの装用もむずかしい.また,本症例では急性水腫も生じていたため外科的治療を考慮する必要があった.しかし,球状角膜に対する有効な外科的治療法は確立されておらず,通常のCPKPでは,ドナーとホスト角膜厚不一致や角膜周辺部まで菲薄部が及ぶため手術難度は高いとされる.また,角膜輪部を含むような拡大CPKPを行うことがあるが,術後の拒絶反応のリスクが増えるとされる7,8).他の手術方法としては,結膜の後方切開で,ホスト角膜上皮のみを除き,そこに表層移植片をのせて,強膜周辺部で縫合するClamellarkeratoplastyが報告された9).また,ホスト角膜周辺部を半層切開して移植片を挿入するCtuck-in法や,それらの半層切開や移植片作製にフェムトセカンドレーザーを用いたCtuck-in法も報告されているが,いずれの術式も急性水腫がある場合は行えない10).本症例では,急性水腫発症後のため,前述のClamellarCker-atoplastyやCtuck-in法は行えず,また拒絶反応の面から拡大PKPではなく通常のCPKPを選択した.初回はドナーとホストの角膜厚の不一致とホスト角膜の脆弱性により縫合には難渋した.移植片機能不全後は角膜内皮移植術(DescemetCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty:DSAEK)なども選択肢として考えたが,前方突出があるため移植片の接着不良になる可能性があったため再移植の際もCPKPを選択した.再移植の際には,初回手術のトレパンによってできたホスト角膜の創部が肥厚していたため,縫合は容易であった.角膜実質は損傷を受けると,角膜実質細胞が創傷部に移動し線維芽細胞や筋線維芽細胞へと形質転換して組織の修復を行うことが知られている11,12).本症例においても,初回移植から再移植までの間に,角膜実質の組織修復がなされ,瘢痕形成によりホスト角膜が肥厚したと考えられる.ホスト角膜の肥厚により,ドナー角膜との間にあった角膜厚の不一致がなくなり,手術が容易になったと考えられた.今回の球状角膜に対するCPKPの再移植までの期間は,円錐角膜を初めとした他の疾患に対するCPKP再手術までの期間より短く,移植片機能不全のことも考慮すれば完璧な治療であるとはいえない.視機能改善を望むのであれば,今回の症例のようにC2回目のCPKPでは初回時より縫合が容易であったことを考慮にいれると治療の選択肢になると考えた.2回目の手術の約C2年C6カ月後では,矯正視力低下は認めないが乱視の増加と角膜内皮細胞の減少を認めている.このような経過から,すべての球状角膜の症例においてCPKPを推奨はできないが,熟慮したうえで治療の選択肢の一つになるのではないかと考えた.本症例は,角膜カンファレンスC2021ポスターで発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)VerreyF:KeratoglobeCaigu.COphthalmologicaC114:284-288,C19472)WallangCBS,CDasS:Keratoglobus.CEyeC27:1004-1012,C20133)NelsonME,TalbotJF:KeratoglobusinRubinstein-Taybisyndrome.BrJOphthalmolC73:385-387,C19894)気賀沢一輝:解離性大動脈瘤破裂を合併した球状角膜のC1例.臨眼49:1887-1891,C19955)藤田美穂,堀純子,小原澤英彰ほか:視神経萎縮を伴った片眼性の球状角膜のC1例.眼臨99:668-671,C20056)戸張幾生:球状角膜.臨眼20:1303-1314,C19667)JonesCDH,CKirknessCM:ACnewCsurgicalCtechniqueCforCkeratoglobus-tectonicClamellarCkeratoplastyCfollowedCbyCsecondaryCpenetratingCkeratoplasty.CCorneaC20:885-887,C20018)CowdenJW,CopelandRAJr,SchneiderMS:Largediam-etertherapeuticpenetratingkeratoplasties.RefractCorne-alSurgC5:244-248,C19899)VajpayeeCRB,CBhartiyaCP,CSharmaN:CentralClamellarCkeratoplastyCwithCperipheralCintralamellartuck:aCnewCsurgicalCtechniqueCforCkeratoglobus.CCorneaC21:657-660,C200210)AlioCDelCBarrioCJL,CAl-ShymaliCO,CAlioJL:FemtosecondClaser-assistedCtuck-inCpenetratingCkeratoplastyCforCadvancedCkeratoglobusCwithCendothelialCdamage.CCorneaC36:1145-1149,C201711)YeungV,BoychevN,FarhatWetal:Extracellularvesi-clesCinCcornealC.brosis/scarring.CIntCJCMolCSciC23:5921,C202212)MedeirosCS,MarinoGK,SanthiagoMRetal:Thecorne-albasementmembranesandstromal.brosis.InvestOph-thtalmolVisSciC59:4044-4053,C2018***

当院でのCOVID-19 陽性裂孔原性網膜剝離に対する手術経験 ─ COVID-19 陽性患者手術時の留意点について─

2024年5月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科41(5):580.585,2024c当院でのCOVID-19陽性裂孔原性網膜.離に対する手術経験─COVID-19陽性患者手術時の留意点について─水谷凜一郎*1杉本昌彦*1,2原田純直*1佐々木拓*1中条慎一郎*1天満有美帆*1松井良諭*1松原央*1近藤峰生*1*1三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室*2山形大学医学部眼科学教室CSurgeryforRhegmatogenousRetinalDetachmentinaPatientInfectedwithCOVID-19:TipsforSurgicalManagementofCOVID-19-PositiveCasesRinichiroMizutani1),MasahikoSugimoto1,2),SumineHarada1),TakuSasaki1),ShinichiroChujo1),YumihoTenma1),YoshitsuguMatsui1),HisashiMatsubara1)andMineoKondo1)1)DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,YamagataUniversityC目的:COVID-19陽性の網膜.離(RRD)症例の経験から新興感染症陽性患者に対する周術期管理について検討する.症例:53歳,男性.右眼CRRDに対する手術を計画したが入院前のCCOVID-19抗原検査で陽性が判明した.各部署と連携し,導線を確保しての入院・手術を計画した.感染対策に配慮し,手術は陰圧室にて助手は設けず,完全防護衣で清潔となった執刀医C1名と外回り看護師C1名のC2人体制で実施された.単独術者による手術であるための軽微なトラブルや,ゴーグルの曇りが問題となったが,安全な手術が遂行され,術後経過も良好であった.結論:COVID-19陽性患者のCRRDに対する手術にはさまざまな課題が残るが,スタッフとの徹底した連携の元,感染管理に注意して行うことで安全に手術が実施可能である.CPurpose:ToCreportCtheCcaseCofCCOVID-19-positiveCpatientCwithCrhegmatogenousCretinaldetachment(RRD)Cwhowassurgicallytreatedandpresenttipsforsafemanagementinsuchcases.Case:A53-year-oldmalepatientwasscheduledforsurgicaltreatmentofRRDinhisrighteye,however,hetestedpositivefortheCOVID-19anti-genpriortoadmission.Thus,andfromtheaspectofinfectioncontrol,wecollaboratedwithotherdepartmentsandscheduledCtheCsurgeryCtoCbeCperformedCinCaCnegativeCpressureCroomCviaConeCprimaryCsurgeonCinCfullCprotectiveCclothing,withoutanassistant,andonenurseoutsidetheroom.AlthoughminorproblemsdidoccurduetoasinglesurgeonCandCfoggingCofCtheCgoggles,CtheCoperationCwasCperformedCsafelyCandCtheCpostoperativeCcourseCwasCgood.CConclusion:AlthoughvariousissuescanoccurinthesurgeryofRRDinCOVID-19-positivepatients,theopera-tioncanbeperformedsafelyunderawell-coordinatedcollaborationwithmedicalsta..〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(5):580.585,C2024〕Keywords:COVID-19,網膜.離,単独術者.COVID-19,rhegmatogenousretinaldetachment,solosurgeon.Cはじめにコロナウイルス感染症C2019(COVID-19)は迅速かつ広範囲に拡大したため,世界保健機関はCCOVID-19をパンデミックとして宣言した1).世界情勢は激変し,医療も大きな打撃を受けた.COVID-19感染症の流行下において医療従事者の集団感染を予防し医療体制を維持することは重要な課題であった.受診抑制や病床ひっ迫などによる受診遅延が問題となり,多くの疾患の治療成績に影響した.感染力の強さから海外の複数の国ではロックダウンも行われていた.眼科診療ではパンデミック時であっても密接な接触が危惧される近接距離での検査・診療が要求されるため,感染症曝露のリスクが高いとされ,この影響を大きく受けた.とくに網膜硝子体疾患の予後に多大な影響が出たことが多数報告されている2.5).〔別刷請求先〕水谷凜一郎:〒514-8507三重県津市江戸橋C2-174三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室Reprintrequests:RinichiroMizutani,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-174Edobashi,Tsu,514-8507,JAPANC580(108)徐々に海外では制限が緩和されたが,わが国でもC2023年5月にCCOVID-19感染症はC5類となり,ようやく入院・手術加療の制限が緩和された.眼科診療もコロナ前の状態に戻りつつあるがCCOVID-19は消失してはおらず,COVID-19感染患者への周術期対応は依然重要である.今回,COVID-19陽性の網膜.離(rhegmatogenousCretinaldetachment:RRD)症例を経験した.そのなかで,今後のCCOVID-19など新興感染症陽性の手術患者に対する周術期管理についてさまざまな課題が浮き彫りとなったので報告する.CI症例患者:53歳,男性.主訴:右眼視力低下.現病歴:202x年C8月初旬より右視力障害を自覚した.8月C22日,近医受診し,右眼CRRDを指摘された.同日,手術目的に当科紹介初診となった.既往歴:とくになし.当院初診時に発熱や咳嗽・咽頭痛はなかったが,1週間ほど前に同僚がCCOVID-19陽性を指摘されていた.所見:右眼視力C0.7(矯正).前眼部・中間透光体には明らかな異常なし.後眼部には下方裂孔による,増殖性変化を伴う網膜.離を認めた(図1).経過:即日入院のうえ,局所麻酔による手術を予定したが入院前のCCOVID-19抗原検査で陽性が判明した.当時はコロナ感染の第C7波到来時期であり,当院手術部・感染制御部と協議し,即日入院は中止となった.入院時・手術時の導線を確保できる翌日午後の予定入院ならびに準夜帯での予定手術を計画した.手術所見:感染制御の観点から,手術は他科定期手術が終Cab了した準夜帯に予定を組み,陰圧室で実施された.手術室汚染防止の観点から,使い捨てカバーを装着するなどの感染対策を行い,必要な最低限の器機のみを室内に搬入した(図2a).眼内レンズなどの随時必要となる物品は室外のグリーンゾーンから別のスタッフが安全に配慮しながら室内のレッドゾーンへ適宜手渡しをした.医療スタッフの感染を危惧し,陰圧室への入室者は最低限として,手術助手は設けず,清潔となった執刀医C1名と外回り看護師C1名のC2人体制で手術を実施した(図2b).術者・看護師は通常の術衣に加えてN-95マスクと眼鏡ないしはフェイスシールドを着用した.術者は眼鏡を装用したが,術中の曇りが問題となった.白内障手術を行い,眼内レンズを挿入した.その後,4-portでのC25ゲージ硝子体手術を開始した.眼内を観察し図1初診時所見初診時の眼底写真を示す.下方裂孔(C.)と増殖性変化を伴う網膜.離を認める.図2周術期の室内周術期の室内を示す.陰圧室で使い捨てカバーを装着し,必要最低限の器機のみ搬入されている(Ca).完全防護具で清潔となった執刀医C1名が執刀している(Cb,.).図3術中所見術中所見を示す.液ガス置換中,空気泡による視認性低下を認めた(Ca).手術継続したが,角膜浮腫も出現したため視認性が著しく低下した(Cb).角膜上皮.離を行い,視認性を確保し(Cc),ガス置換を完遂した(Cd).たところ,下方網膜格子状変性に生じた原因裂孔からの広範な網膜.離と増殖性変化を認めた.硝子体切除し,後部硝子体膜.離を作製後,圧迫しながら裂孔周囲の硝子体処理と増殖膜処理を実施した..離範囲が広汎であることからアーケード上方に意図的裂孔を作製し,液空気置換を行って網膜下液の排液を行った.液空気置換時,術者一人であったため機器パネル操作による設定変更を行った際に術野を離れざるをえない場面があった.再度術野を確認したところ,空気泡による視認性の低下を認めた(図3a,b).また,角膜浮腫も出現し,角膜上皮.離を行って視認性を確保した(図3c).視認性が改善したため,ガス置換を完遂し(図3d),原因裂孔と意図的裂孔などへの眼内網膜光凝固を実施し,シリコーンオイルに置換して手術を終了した.術後経過:手術終了術,術者自身が個人用防護具着用のままで眼科病棟の隔離個室まで搬送した.手術翌日,往診にて診察したところ経過良好であったため,当日に当院退院となった.無症候患者であるため,ホテル待機療養となった.療養中,電話で患者に連絡し,経過確認を行ったが,大きな自覚変化はなかった.術後C5日(待機期間C7日目)で療養施設からの退所となり,以後当科外来通院となっている.術C2週間後の受診時には網膜復位が得られ,右眼視力はC0.3(矯正)であった(図4).術後C4カ月でシリコーンオイル抜去を実施し,手術後C5カ月で右眼視力はC0.7(矯正)である.CII考按コロナ禍当初,ビジョンアカデミーでは,COVID-19パンデミック時の硝子体内抗CVEGF注射に関する具体的なガイダンスを提示した6).このなかでコロナ禍においても網膜疾患を管理するための戦略として①患者と医療スタッフの双方がCCOVID-19の曝露リスクを最小限にすること,②不可逆的な視力喪失のリスクが高い患者に対する治療を優先すること,③抗血管内皮増殖因子阻害薬治療レジメンを簡略化することに重点を置くべきであると結論づけている.また,各国の眼科学会が,パンデミック時の患者管理に関する眼科医向けの一般的ガイダンスを発表したが,とくに米国眼科学会ではさまざまな具体的な対策を推奨していた.外用ポビドンヨードはコロナウイルスに有効であり手術前処置に重要であること,手術用マスクとフェイスシールドなどの保護具の着用,そして必要時のCN-95マスク使用が推奨されていた[https://Cwww.aao.org/headline/alert-important-coronavirus-context.(Accessed:Oct21,2023)].硝子体手術では理論的にはエアロゾルが発生し,術者に感染が波及する可能性がある.しかし,最近の小切開手術ではバルブ付きトロッカーカニューレを使用するため,発生するエアロゾルは眼内に限定される.このため,感染リスクは低いと思われ,標準的な手術用防護衣で感染対策は十分であると考えられる.また,近年広まりつつある三次元ヘッドアップディスプレイシステムなどの新しいデジタル技術を使用することで,医師と患者との間の距離をとることも可能となり,予防の可能性が増す7).このようにCCOVID-19パンデミック当初には厳重な管理が行われてきたが,その知見が集積したことやC5類への移行などからC2023年現在,手術のハードルは下がってきている.今回,施設内の感染拡大を防止する目的から本手術は術者一人で実施した.現在の硝子体手術はシステマティックであり,単純なものであれば一人でも十分実施可能である.しかし,本症例の執刀中の問題点として,保護眼鏡の曇りがあったこと,液空気置換やレーザー実施などのモード変更に時間を要したこと,そしてそのために術中角膜障害などが生じ,術中手順が煩雑化したことなどがあげられる.院内感染の観点からでの選択ではあったが,手術安全性という点からは術者の技量・術眼の状態など,症例ごとに熟考が必要である.パンデミック当初は受診と手術時期の遅延が重要な課題であった.COVID-19流行当初に英国ではロックダウンが行われた.すべての病院に対し,当局から医療抑制の指示があり,眼科では眼外傷やCRRDなどの重篤な疾患に対する手術のみが行われ手術を必要とするCRRD症例が減少したものの増殖硝子体網膜症や黄斑.離を伴うCRRDは増加したとされている8).COVID-19に感染することを恐れての受診抑制などがこの理由として考えられた.加えて,家庭医のいるプライマリー施設もほぼ閉鎖されたため,眼科専門医へのコンサルトが遅れたことも一因とされている.黄斑部を脅かすCRRDは緊急性の高い眼疾患であり,重大な視力低下をもたらす.視力予後は黄斑の状態に左右され,黄斑部網膜.離の発見や手術が遅れることで術後視力などの治療成績は悪化する9.12).RRDの手術時期がC7日遅れると視力予後が悪くなることが報告されているが,最近の研究では,3日でも視力予後は不良となることも示唆されている13).このように受診や手術時期の遅延はCRRDの治療成績に明らかに影響し,非復位への懸念があるため早期手術が望ましい.米国でも,当初は学会図4加療後所見術後C2週間の眼底写真を示す.シリコーンオイル下に網膜復位が得られている.からCCOVID-19陽性患者の予定手術はC6週間延期すべきと推奨されていたが,パンデミック期間中にCRRDを発症した患者では,治療が遅れ,術後視力の悪化や増殖性網膜症が悪化する可能性が高かった14).また,加齢黄斑変性の治療が大幅に遅れ,短期転帰が悪化したことも報告されている2).日本眼科学会が示す「新型コロナウイルス感染症流行時の眼科手術に対する考え方」ではCRRDは要緊急対応疾患に分類される[https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/news/069.pdf(Accessed:Oct21,2023)].ロックダウンやパンデミック時に黄斑.離を伴うCRRDが増加した事実から考えても,やはり早期手術が望ましい.本症例加療当時の待機期間は有症状者でC10日間,無症状者でC7日間であった.無症状CCOVID-19陽性であったため,本来はC7日間待機したのちに手術入院となるが,要緊急対応疾患に分類されるため院内各部署と協議したうえで,翌日入院となった.本症例では初診時,黄斑.離はなく,数日の待機は不可能ではなかったかもしれない.今回,筆者らは比較的早期に手術を実施することができたが,それでも入院時間や手術開始時間の変更,搬送などスタッフに与えた影響は無視できないものであった.この点から,今後新たに生じる可能性のある新興感染症流行下においても手術時期の決定は病勢や医療情勢・スタッフへの負担増加などを踏まえての判断が必要となる.今回,スタッフへの感染拡大を恐れ,単独術者で執刀したが,これに伴い手技が煩雑となった.現在はC5類となり待機期間や隔離が形骸化されたが,入院取り扱いをどうするか,施設ごとに指針があり完全に統一はされていない.すべての入院患者に対する抗原検査を行う施設はほぼなくなり,発熱の確認程度で入院してくる従来の形になった現在では,発熱や風邪症状ではじめて抗原検査を行うことがほとんどである.このため,院内発生症例に対してどのように取り扱うか表1新興感染を伴う網膜.離患者の治療に関する留意点・症例によっては隔離期間での手術待機も考慮する.・黄斑部.離に至ったものには早期の手術が望ましい.・院内各部署と連携し,搬送時や病棟での感染拡大防止に努める.・手術は陰圧室で実施し,術者やスタッフへの感染に留意する.・手術は完全防護衣着用に準じた防護で行う.・フェイスシールドなどで飛沫に留意するが,曇りに留意が必要である.・器具の受け渡しにはグリーンゾーンとレッドゾーンの区別に留意する.・単独術者により実施も可能だが,難易度・技量により計画する.が現実的な課題である.今後,COVID-19に類似した新興感染症が流行する危険性も懸念されており,また入院中にCOVID-19陽性が判明したCRRDや外傷など準緊急・緊急手術が必要な症例もあるかもしれない.今回のコロナ禍で筆者らが得た知見を基に,秩序だった入院・手術を計画できるよう,配慮することが重要である.国内でのCCOVID-19患者に対するCRRD手術の報告は他にもあり15),今回の経験も含めた治療留意点を示す(表1).RRDの手術時期延期は術後視力不良に直結し,早期対応と手術が必要である.進行を想定し,適切なタイミングの治療介入が重要であり,スタッフとの徹底した連携の元,単独術者で硝子体手術を実施することが可能であった.5類となった現在,COVID-19陽性患者の入院・手術を計画する場面が依然あるが,実際にCCOVID-19陽性患者に対する手術を行うなかでさまざまな課題を考えていく必要がある.〈利益相反〉水谷凜一郎,原田純直,天満有美帆,佐々木拓:なし杉本昌彦:経済的支援)ノバルティスファーマ,中外製薬株式会社,アルコンファーマ,バイエル薬品報酬)ノバルティスファーマ,アルコンファーマ,参天,興和創薬,千寿製薬,バイエル薬品,わかもと製薬中条慎一郎:報酬)参天製薬,ノバルティスファーマ,参天製薬,中外製薬,バイエル薬品松井良諭:経済的支援)バイエル薬品,中外製薬報酬)AMO,参天製薬,ノバルティスファーマ,日本アルコン,バイエル薬品松原央:経済的支援)中外製薬報酬)参天製薬,千寿製薬,ノバルティスファーマ,バイエル薬品近藤峰生:経済的支援)ノバルティスファーマ,日本アルコン,参天,大塚製薬,千寿製薬,HOYA,ファイザー,AMO,興和,バイエル薬品コンサルタント)千寿製薬,小野薬品,第一三共報酬)ノバルティスファーマ,アルコン,参天,サノフィ,興和,大塚製薬,千寿製薬,バイエル薬品,アッビィ,AMO,ファイザー,第一三共文献1)CucinottaD,VanelliM:WHOdeclaresCOVID-19apan-demic.ActaBiomedC91:157-160,C20202)BorrelliCE,CGrossoCD,CVellaCGCetal:Short-termCoutcomesCofCpatientsCwithCneovascularCexudativeAMD:theCe.ectCofCCOVID-19Cpandemic.CGraefesCArchCClinCExpCOphthal-molC258:2621-2628,C20203)dell’OmoR,FilippelliM,SemeraroFetal:E.ectsofthe.rstmonthoflockdownforCOVID-19inItaly:aprelimi-naryCanalysisConCtheCeyecareCsystemCfromCsixCcenters.CEurJOphthalmolC31:2252-2258,C20214)YangCKB,CFengCH,CZhangH:E.ectsCofCtheCCOVID-19CpandemicConCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCtreatmentCinCChina.CFrontMed(Lausanne)C7:576275,C20205)AbdullatifAM,MakledHS,HamzaMMetal:ChangeinophthalmologyCpracticeCduringCCOVID-19pandemic:CEgyptianperspective.OphthalmologicaC244:76-82,C20216)KorobelnikCJF,CLoewensteinCA,CEldemCBCetal:GuidanceCforCanti-VEGFCintravitrealCinjectionsCduringCtheCCOVID-19Cpandemic.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC258:C1149-1156,C20207)IovinoCC,CCaporossiCT,CPeirettiE:VitreoretinalCsurgeryCtipandtricksintheeraofCOVID-19.GraefesArchClinExpOphthalmolC258:2869-2870,C20208)JasaniKM,IvanovaT,SabatinoFetal:ChangingclinicalpatternsCofCrhegmatogeneousCretinalCdetachmentsCduringCtheCCOVID19CpandemicClockdownCinCtheCNorthCWestCofCtheUK.EurJOphthalmolC31:2876-2880,C20219)TaniCP,CRobertsonCDM,CLangworthyA:PrognosisCforCcentralCvisionCandCanatomicCreattachmentCinCrhegmatoge-nousCretinalCdetachmentCwithCmaculaCdetached.CAmCJOphthalmolC92:611-620,C198110)RehmanSiddiquiMA,AbdelkaderE,HammamTetal:CSocioeconomicCstatusCandCdelayedCpresentationCinCrheg-matogenousCretinalCdetachment.CActaCOphthalmolC88:C352-353,C201011)MitryCD,CAwanCMA,CBorooahCSCetal:Long-termCvisualCacuityCandCtheCdurationCofCmaculardetachment:.ndingsCfromaprospectivepopulation-basedstudy.BrJOphthal-molC97:149-152,C201312)RyanCEH,CRyanCCM,CForbesCNJCetal:PrimaryCRetinalCdetachmentoutcomesstudyreportnumber2:phakicret-inalCdetachmentCoutcomes.COphthalmologyC127:1077-1085,C2020C13)RossWH:VisualCrecoveryCafterCmacula-o.CretinalC128:686-692,C2021detachment.Eye(Lond)C16:440-446,C200215)熊崎茜,星山健,富原竜次ほか:COVID-19陽性の裂14)PatelLG,PeckT,StarrMRetal:Clinicalpresentationof孔原性網膜.離C3例に対する手術経験.臨眼C77:1134-rhegmatogenousCretinalCdetachmentCduringCtheCCOVID-1141,C2023C19pandemic:aChistoricalCcohortCstudy.COphthalmologyC***

生体接着剤を用いた無縫合翼状片手術の有効性の検討

2024年5月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科41(5):574.579,2024c生体接着剤を用いた無縫合翼状片手術の有効性の検討髙..重文*1小野喬*1,2長井信幸*1向坂俊裕*1森洋斉*1子島良平*1岩崎琢也*1宮田和典*1*1宮田眼科病院*2東京大学大学院医学系研究科眼科学教室CInvestigationoftheE.ectivenessofSuturelessPterygiumSurgeryUsingaBioadhesiveShigefumiTakahashi1),TakashiOno1,2),NobuyukiNagai1),ToshihiroSakisaka1),YosaiMori1),RyoheiNejima1),TakuyaIwasaki1)andKazunoriMiyata1)1)DepartmentofOphthalmology,MiyataEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyo,GraduateSchoolofMedicineC目的:生体接着剤を用いた無縫合の翼状片手術法の有効性を検討すること.対象および方法:両眼の翼状片に対して片眼を縫合による結膜弁移植術(縫合群),僚眼を生体接着剤(ベリプラストCP)による結膜弁移植術(FG群)を行った症例の翼状片のグレード,手術時間,術後C1年における再発,術後疼痛の強さと頻度,合併症を後ろ向きに検討した.結果:32眼C16例(年齢C70.2±8.6歳)において翼状片のグレード,手術時間は両群で差はなく,両群とも再発はなかった.術後疼痛の強さは縫合群がC4.4±3.1,FG群がC2.3±2.1,術後疼痛の頻度は縫合群がC4.4±3.1,FG群がC2.3±1.7であり,FG群が有意に低かった(各Cp=0.0053,p=0.0047).合併症は両群とも認められなかった.結論:生体接着剤を用いた翼状片手術法は術後疼痛が少なく有効な術式と考えられた.CPurpose:ToCexamineCtheCe.cacyCofCsuturelessCpterygiumCsurgeryCusingCaCbioadhesive.CPatientsandmeth-ods:Thisstudyinvolved32eyesof16patients(meanage:70.2±8.6years)whounderwentpterygiumsurgeryviaCsuturingCofCtheCconjunctivalC.apCinConeeye(Suturegroup)andCsuturelessCfree-.apCsurgeryCusingCaCbioadhe-sive(BeriplastPFibrinSealant;CSLBehring)inthefelloweye(FSgroup).Gradeofpterygium,operationtime,recurrenceCafterC1Cyear,CsurgicalCcomplications,CandCintesityCandCfrequencyCofCpostoperativeCpainCwereCretrospec-tivelyexamined.Results:Nodi.erencewasobservedbetweenthetwogroupsinthepterygiumgradeandopera-tionCtime,CandCinCbothCgroupsCnoCrecurrenceCorCcomplicationsCwereCobserved.CInCtheCSutureCgroupCandCFSCgroup,CtheCmeanCintensityCofCpostoperativeCpainCwasC4.4±3.1CandC2.3±2.1,Crespectively,CandCtheCfrequencyCofCpostopera-tiveCpainCwasC4.4±3.1CandC2.3±1.7,Crespectively,CthusCdemonstratingCaCsigni.cantCdi.erenceCbetweenCtheCtwogroups(p=0.0053CandCp=0.0047,respectively).CConclusions:OurC.ndingsCshowCthatCsuturelessCpterygiumCsur-geryusingabioadhesiveise.ective,withlessfrequentandlessseverepostoperativepain.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(5):574.579,C2024〕Keywords:翼状片,術後炎症,術後疼痛,フィブリン,充血度.pterygium,postoperativein.ammation,postop-erativepain,.brin,degreeofhyperemia.Cはじめに翼状片は結膜の増殖性疾患であり,角膜乱視を引き起こすことで視機能を障害する1).初発翼状片に対する手術として,Cbaresclera法,単純縫合法,遊離・有茎結膜弁移植法などが広く行われている2).結膜弁移植法の再発率は低く,高い有効性が示されているが2,3),縫合糸は術後の疼痛や炎症を惹起し感染のリスクとなる4).近年,縫合糸を用いずにフィブリン糊などの生体接着剤による術式が報告されている5,6).生体接着剤(ベリプラストCP)は,世界的に広く用いられている血漿分画製剤であり7),本剤に含まれるフィブリノーゲンはトロンビンの作用によりフィブリンと変化し,Ca2+存在下でトロンビンにより活性化された血液凝固第CXIII因子により物理的強度を増して,安定なフィブリンとして組織を接着させる.白内障手術,眼窩手術,緑内障術後のCblebの〔別刷請求先〕髙..重文:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町C6-3宮田眼科病院Reprintrequests:ShigefumiTakahashi,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kuraharacho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPANC574(102)補強などにも用いられている4,7).しかし,翼状片手術に対する生体接着剤のわが国における臨床効果はまだ十分に評価されていない.今回,筆者らは日本における生体接着剤を用いた翼状片手術の有効性を検討し,充血の程度や術後疼痛の強さ・頻度について定量的評価を行った.CI対象および方法本研究は後ろ向き観察研究であり,宮田眼科病院の倫理委員会で承認(CS-371-020)を受け,患者の同意を得たうえで行った.ヘルシンキ宣言に則って本研究は施行した.対象はC2018年C2月.2021年C1月にかけて両眼の初発翼状片に対して切除術を行った患者のうち,片眼について生体接着剤(ベリプラストCP)を用いて遊離結膜弁移植を行い,僚眼について吸収糸を用いて有茎結膜弁移植を行った症例で,同一術者が行った症例を対象とした.翼状片手術は,利益および起こりうる合併症について十分な説明を行い,患者の書面による同意を得たうえで行った.術後C1年間以上経過観察ができなかった症例や,翼状片以外の角結膜疾患を有する症例は除外した.翼状片手術において縫合糸を用いた眼を「縫合群」,生体接着剤を用いた眼を「FG群」として,診療録を元に翼状片のグレード,手術時間,術後の疼痛の強さと頻度,術後C1カ月における充血の程度,術後合併症,1年時における再発の有無,裸眼・矯正視力,等価球面度数,眼圧について比較した.翼状片のグレードは宮田らによる分類を用いた8).術後の疼痛の強さと頻度は,術直後から術翌日までの症状について,既報と同様にCNumericalCRatingScaleによる評価を行った9).頻度については痛みなしをC0点,常時痛みがある場合をC10点として評価した.結膜の充血の重症度は,日本眼科アレルギー学会における結膜充血の分類に則ってC0.3点のC4段階で評価を行った10).また,翼状片の先端が角膜輪部より内側に侵入した場合を再発と定義した.生体接着剤を用いた翼状片手術の概略を以下に示す.手術20分程度前に冷蔵庫からベリプラストCPを出し,添付文書のとおり薬液の調整を行った.4%リドカイン液で点眼麻酔後,結膜下にC2%リドカイン液にて浸潤麻酔を行った.翼状片頭部を.離して切除した後,露出した強膜を焼灼止血し,周辺結膜下の増殖組織を綿抜き法にて十分に切除した.0.04%マイトマイシンCCをマイクロスポンジに浸し,露出強膜および周辺結膜下にC1分間留置した後に除去し,200.300mlの生理食塩水で洗浄した.遊離結膜移植片を上方の球結膜より作製し(図1a),半分を翻転した後に,水分を除去して移植片の裏面にフィブリノーゲン液,露出強膜にトロンビン液を塗布し(図1b),同様に反対半分の移植片を翻転して接着させた(図1c).また,周辺結膜も同様にフィブリノーゲン液,トロンビン液を塗布して接着させた(図1d).手術終了時にリン酸デキサメタゾンC0.3Cmlを結膜下に注射した.吸収糸を用いた翼状片手術は,上述と同様に翼状片切除後に上方より有茎結膜弁を作製し,その後に吸収糸(10-0CVic-ryl,ETHICON)を用いて露出強膜にC6針またはC7針で縫合した.抜糸は行わなかった.両群とも,全例で術後にソフトコンタクトレンズを翌日まで装用した.術後の点眼はC0.1%ベタメタゾン点眼とC1.5%レボフロキサシン点眼C1日C4回を術後C1週間まで,0.1%フルオロメトロン点眼とC1.5%レボフロキサシン点眼C1日C4回を術後C3カ月まで,0.1%フルオロメトロン点眼とC1.5%レボフロキサシン点眼C1日C2回を術後6カ月まで,0.5%トラニラスト点眼C1日C4回を術後C1年まで行った.コストに関しては,どちらも保険診療の翼状片手術として請求した.統計学的検討として,C|2検定,Mann-Whitney検定を行った.群間の経時的な比較においては,混合効果モデルおよびCTukeyの多重比較検定を行った.解析にはCGraphPadPrism(GraphPadSoftware)を使用し,p<0.05を統計学的に有意として扱った.また,本文における値はすべて平均値C±標準偏差として表記した.CII結果32眼16人(男性8人,女性8人,平均年齢70.2C±8.6歳)が対象となり,縫合群とCFG群それぞれC16眼について解析を行った.年齢,翼状片のグレード,術前の裸眼視力,矯正視力,等価球面度数,眼圧などの患者背景に群間差は認めなかった(表1).縫合群とCFG群において,手術時間に群間差はなかった(表2).一方で,FG群における術後疼痛の強さ(平均C2.3C±2.1)(図2a)と頻度(平均C2.3C±1.7)(図2b)は,縫合群(平均C4.4C±3.1および平均C4.4C±3.1)よりも有意に低値であった(p=0.0053およびC0.0047).充血の重症度スコアも,FG群(平均C0.24C±0.42)では縫合群(平均C1.2C±0.76)よりも有意に低値であった(図2c,p=0.0022).両群とも術後C1年において再発は認めず,再発率に群間差はなかった(表2).また,それぞれの手術方法について術中および術後の合併症は両群ともに認めず,群間に差はなかった(表2).裸眼視力と矯正視力に関しては,術後C1カ月およびC1年後において群間に差はなく,経時的な変化もなかった(図3a,b).等価球面度数に関しても,術後C1カ月およびC1年後において群間に差はなく,経時的な変化もなかった(図3c).眼圧は,術後C1カ月の時点でCFG群において術前よりも有意な眼圧上昇が認められたが(p=0.0006),術後C1年では術前と同程度に戻った(図3d).どの観察時点においても,縫合群とCFG群の間に有意差はなかった.以下に,代表症例を示す.61歳,男性.翼状片のグレードは両眼ともグレードC2で図1生体接着剤を用いた翼状片手術の術中写真a:遊離結膜移植片を上方の球結膜より作製した.Cb:半分を翻転した後に,水分を除去して移植片の裏面にフィブリノーゲン液,露出強膜にトロンビン液を塗布した.Cc:同様に反対半分の移植片を翻転して接着させた.d:周辺結膜も同様にフィブリノーゲン液,トロンビン液を塗布して接着させた.表1患者背景縫合群FG群p値左:右8:88:8C1.0年齢(歳)C70.2±8.6C70.2±8.6C1.0翼状片グレードC2.1±0.48C2.2±0.39C0.56術前の裸眼視力(logMAR)C0.43±0.42C0.36±0.39C0.64術前の矯正視力(logMAR)C0.044±0.23C0.039±0.21C0.95術前の等価球面度数(D)C0.69±2.2C0.51±2.0C0.81術前の眼圧(mmHg)C13.7±3.4C13.1±4.0C0.71表2縫合群とFG群における手術結果の比較縫合群FG群p値手術時間C18’48”±1’55”C18’13”±2’52”C0.441年後の再発率(%)C0C0C1.0合併症出現率(%)C0C0C1.0Cあった(図4a,b).右眼に対して生体接着剤を用いた翼状片を行い(FG群),左眼は縫合糸を用いて(縫合群)手術を行った.両眼とも術後の合併症はなく,術後C1年時点での再発は認めなかった.術直後は図のようであった(図4c,d).術後C1カ月時点では,FG群は結膜血管の拡張がなく充血スコアはC0である一方で(図4e),縫合群では数本の血管拡張がありスコアC1と考えられた(図4f).両眼とも術後C1年時点で再発は生じず,術後合併症は認めなかった.CIII考按翼状片に対する生体接着剤を用いた結膜遊離弁移植法では,術後C1年における再発は認めず,縫合群と統計学的有意差はなかった.本術式は再発率が低く,AlamdariらはC120眼の検討で術後C1年の再発率はC0%11),Ratnalingamらはabc2.0881.566*0.0縫合群FG群縫合群FG群縫合群FG群00図2翼状片手術後の術後疼痛と充血度の比較a:FG群と縫合群における術後疼痛の強さ.FG群では有意に術後疼痛の程度が低値であった(p=0.0053).b:FG群と縫合群における術後疼痛の頻度.FG群では有意に術後疼痛の頻度が低値であった(p=0.0047).c:FG群と縫合群における術後C1カ月の充血の重症度スコア.FG群では充血の重症度スコアが有意に低値であった(p=0.0022).Ca縫合群b縫合群FG群FG群1.00.4疼痛の強さ(Numericalratingscale)疼痛の頻度(Numericalratingscale)充血度のスコア1.0440.522裸眼視力(logMAR)矯正視力(logMAR)0.20.0-0.20.50.0-0.5-0.4術前術後カ月1年術前術後カ月1年時間時間c縫合群d縫合群425等価球面度数(D)3210201510眼圧(mmHg)50-2時間時間図3縫合群とFG群における視力・等価球面度数・眼圧の経時的な比較a:裸眼視力の翼状片手術前後の推移.縫合群およびCFG群において各観察時点の値の差はなく,群間差も認めなかった.Cb:矯正視力の翼状片手術前後の推移.縫合群およびFG群において各観察時点の値の差はなく,群間差も認めなかった.Cc:等価球面度数の翼状片手術前後の推移.縫合群およびCFG群において各観察時点の値の差はなく,群間差も認めなかった.Cd:眼圧の翼状片手術前後の推移.縫合群およびCFG群において各観察時点の値の差はなかった.FG群において,術前と比較して術後C1カ月の値は有意に増加していた(p=0.0006).図4両眼の翼状片手術を行った代表症例(61歳,男性)a,b:術前の前眼部写真.右眼(Ca)と左眼(Cb)においてグレードC2相当の翼状片を認める.Cc:生体接着剤を用いて結膜弁移植を行った翼状片手術後C1週間における前眼部写真.結膜下出血が認められるものの,結膜弁は強膜に接着している.Cd:縫合糸を用いて結膜弁移植を行った翼状片手術後C1週間における前眼部写真.結膜弁は縫合糸により強膜に接着しており,断端が観察される.Ce:生体接着剤を用いて結膜弁移植を行った翼状片手術後C1カ月における前眼部写真.翼状片切除領域の血管拡張は認められない.Cf:縫合糸を用いて結膜弁移植を行った翼状片手術後C1カ月における前眼部写真.結膜弁を移植した領域の周囲および内部に血管拡張が観察される.137眼の検討でC4.4%と報告している12).また,再発と術後創傷治癒が早く進行する14).今回の検討では,FG群におい合併症が少ないことが,メタアナリシスによっても示されてて術後の眼表面の充血の程度が有意に低下しており,生体接いる5).本検討も再発率が低い点で既報に一致していた.翼着剤を使用した翼状片手術では縫合糸を使用する場合よりも状片手術に対する自己結膜弁移植は,安全かつ低い再発率を組織修復の経過が早く,術後の炎症が少なかったと推察され示すことから広く普及している13).しかし,縫合糸による不た.今回の検討では術後疼痛および充血の評価を術後の一時快感や疼痛が生じることがある.生体接着剤を併用すること点のみで行ったが,経時的な炎症の詳細な推移について,観により,術後の疼痛が減少することが明らかとなり,今後日察地点を増やした検討が今後必要と考えられた.本においても本術式が普及する可能性があると考えられた.今回の検討において,矯正視力・裸眼視力・等価球面度数縫合糸による炎症が遷延することは翼状片再発リスクと考の変化に関して差は認めなかった.一方で,FG群においてえられるが,生体接着剤使用による翼状片術後早期において術後C1カ月で術前に比較して眼圧上昇が認められた.しかはさまざまな増殖因子や炎症性サイトカインの発現が高く,し,術後C1年において術前と同程度まで低下し,また経過を通じて縫合群の眼圧値と同程度で,正常範囲内であった.過去の研究でも眼圧上昇は生じないことが報告されており15),長期的な眼圧上昇は生じないことが推察された.また,翼状片に対する自己結膜弁移植術において生体接着剤を併用することにより,手術時間が短縮することが報告されている15)が,本検討では差がなかった.これは本術式への慣れが必要であることが理由として考えられる.症例数を増やすことで,手技が向上して手術時間が短縮する可能性がある.本製剤は血液を原料としており殺菌処理が施されているが,ヒトパルボウイルス感染,プリオン感染が生じる可能性はある.本検討の対象で合併症は認められなかったが,術後の長期経過観察が必要である.本研究にはいくつかの限界が考えられる.まず,観察研究であるため症例数が少ない点である.今回は,当院における翼状片の術式変更を検討した時期に,片眼は縫合による切除,片眼は生体接着剤を使用した症例のみを解析した.一方,同一症例について両眼に対して異なった術式を採用している症例のみを選択することで,症例背景によるバイアスは軽減した.第二は,有茎結膜弁移植を行った症例を対照群として設定した点である.より正確には縫合糸を用い遊離結膜弁を行った症例を対照とすべきであり,より適切な症例をつぎの研究では設定していきたい.結論として,生体接着剤を用いた翼状片に対する遊離結膜弁移植術は,縫合糸による術式と比較して術後疼痛の強さと頻度,充血がいずれも有意に軽度であり,有効であると考えられた.「利益相反」宮田和典:CFビーバービジテックインターナショナルジャパン株式会社CIV日本アルコン株式会社IVCPトーメイコーポレーション文献1)MinamiCK,CTokunagaCT,COkamotoCKCetal:In.uenceCofCpterygiumCsizeConCcornealChigher-orderCaberrationCevalu-atedCusingCanterior-segmentCopticalCcoherenceCtomogra-phy.BMCOphthalmolC18:166,C20182)Clear.eldCE,CMuthappanCV,CWangCXCetal:ConjunctivalCautograftCforCpterygium.CCochraneCDatabaseCSystCRevC2:CCD011349,C20163)AlpayA,UgurbasSH,ErdoganB:Comparingtechniquesforpterygiumsurgery.ClinOphthalmolC3:69-74,C20094)PandaCA,CKumarCS,CKumarCACetal:FibrinCglueCinCoph-thalmology.IndianJOphthalmolC57:371-379,C20095)RomanoV,CrucianiM,ContiLetal:FibringlueversussuturesCforCconjunctivalCautograftingCinCprimaryCpterygi-umCsurgery.CCochraneCDatabaseCSystCRevC12:CD011308,C20166)MaitiR,MukherjeeS,HotaD:Recurrencerateandgraftstabilitywith.bringluecomparedwithsutureandautol-ogousCbloodCcoagulumCforCconjunctivalCautograftCadher-enceinpterygiumsurgery:ameta-analysis.CorneaC36:C1285-1294,C20177)YukselCB,CUnsalCSK,COnatS:ComparisonCofC.brinCglueCandCsutureCtechniqueCinCpterygiumCsurgeryCperformedCwithlimbalautograft.IntJOphthalmolC3:316-320,C20108)宮田和典,子島良平,森洋斉ほか:翼状片の進展率に基づく重症度分類の検討.日眼会誌122:586-591,C20189)OnoCT,CMoriCY,CNejimaCRCetal:SustainabilityCofCpainCreliefaftercornealcollagencross-linkingineyeswithbul-lousCkeratopathy.CAsiaCPacCJOphthalmol(Phila)C7:291-295,C201810)Takamura,CE,CUchioCE,CEbiharaCNCetal:JapaneseCguide-linesCforCallergicCconjunctivalCdiseasesC2017.CAllergolCIntC66:220-229,C201711)AlamdariCDH,CSedaghatCMR,CAlizadehCRCetal:Compari-sonCofCautologousC.brinCglueCversusCnylonCsuturesCforCsecuringCconjunctivalCautograftingCinCpterygiumCsurgery.CIntOphthalmolC38:1219-1224,C201812)RatnalingamCV,CEuCAL,CNgCGLCetal:FibrinCadhesiveCisCbetterCthanCsuturesCinCpterygiumCsurgery.C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