●連載◯276監修=福地健郎中野匡276.緑内障における抗酸化サプリメントの結城賢弥名古屋大学大学院医学系研究科眼科学・感覚器障害制御学教室可能性活性酸素種が緑内障に関与しているという報告は多い.ほぼすべての緑内障動物モデルで活性酸素種の抑制により網膜神経節細胞死が抑制可能であり,ヒトのサンプルを用いた多くの症例対照研究が緑内障と活性酸素種の関係を示唆している.あとは無作為化比較試験で抗酸化サプリメントの有効性を証明するだけのように思われる.●活性酸素種と緑内障モデルマウス抗酸化サプリメントが緑内障性視神経症を抑制するためには,緑内障性視神経症に酸化ストレスが関与している必要がある.緑内障動物モデルには眼圧上昇モデル,軸索損傷モデル,TNF-a軸索障害モデル,グルタミン酸毒性モデルなどがあるが,それらすべてで傷害に伴い網膜神経節細胞(retinalCganglioncell:RGC)で活性酸素種が発生し,その除去によりCRGC死が抑制可能であると報告されている.Yangらは前房内マイクロビーズ投与高眼圧モデルマウスを用い,抗酸化物質CTempolの神経保護効果を検討した.マイクロビーズにより眼圧は平均してC25CmmHg程度に上昇したが,抗酸化物質投与群では網膜中の抗酸化能が有意に高値であり,また網膜内の酸化ストレスマーカーCHNEなどが有意に低値であった.RGC死に関しても対照群では約C40%の減少が認められたが,抗酸化物質投与群では細胞死は約C25%に抑制されていた.この報告ではCSOD1欠損マウスにも同様に眼圧上昇負荷を行い,RGC死を検討しているが,SOD1欠損マウスのCRGC死は約C50%と野生型よりも有意に多く,眼圧上昇によるCRGC死に活性酸素の関与があることを示唆している1).C●ヒト緑内障における活性酸素種の関与ヒト緑内障における酸化ストレスの関与はどうであろうか.ヒト緑内障眼の線維柱帯,房水,血液,尿において,8-OHdGなどのCDNA酸化損傷マーカーとマロンジアルデヒドのような脂質酸化損傷マーカーの高値,SOD1などの抗酸化酵素の変化などが報告されている.正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)では眼圧非依存的な因子の存在が考えられている.筆者らは,NTG患者の血清中のビタミンCC濃度が対照群と比較し有意に低値であることを報告した(図1)2).また筆者らは,NTGの進行に関与する因子を明らかにするために,DNAの酸化ストレスマーカーであるC8-OHdG(93)の尿中濃度と,5年後のCNTG進行との関係を検討した.その結果,5年後にCNTGが進行した群と進行しなかった群で,ベースライン眼圧や治療下の眼圧に差はなかったが,進行群では有意に尿中C8-OHdG濃度が高値であった(図2)3).緑内障患者では全身や眼内の抗酸化酵素濃度が上昇しているという報告が複数ある.抗酸化物質や抗酸化酵素濃度が減り,その結果,活性酸素種が増えて緑内障になるならば,矛盾していないのかと考えるかもしれない.抗酸化酵素は活性酸素種が増えると,それに対応して濃度が増えるとされており,たくさんあるとよいという単純なものではないのである.C●緑内障性視神経症に対する抗酸化サプリメントによる介入研究無作為化比較試験の結果はどうであろうか.Garcia-Medinaらは原発開放隅角緑内障患者C117名に対し,経口にてビタミンCA,B,C,E,ルテイン,ゼアキサンチン,亜鉛,銅,セレン,マンガンからなる抗酸化物質投与を行った4).この研究ではC26名に対しC~3不飽和脂肪酸を含む抗酸化物質投与群に,26名に対しC~3不飽和脂肪酸を含まない抗酸化物質投与群に,63名をプラセボ群に無作為化割付けし,抗緑内障薬を併用してC2年間経過観察を行なった.介入前のC3群間の視野や網膜内層厚に有意な差はなかったが,2年経過後もC3群間に明らかな差はなかった(図3)4).症例数が少ない,経過観察期間が短いなどの問題点はあるが,抗酸化物質の緑内障進行予防効果は認められなかった.一部の抗酸化サプリメントの眼圧下降効果が報告されている.活性酸素種はCRGC死だけでなく,線維柱帯細胞を障害し,眼圧上昇をきたすと考えられている.Manabeらは平均眼圧C17.2CmmHgの原発開放隅角緑内障患者に対し松樹皮エキスとビルベリー果実エキスからなるサプリメントをC1日C1粒投与した5)(図4).その結果,投与C4週間後の平均眼圧はC15.7CmmHgと有意に下降したと報告している.また,Steigerwaltらの高眼圧症あたらしい眼科Vol.40,No.6,20238050910-1810/23/\100/頁/JCOPY血清中ビタミンC濃度(μg/ml)12108*サプリメントサプリメント0対照群A群B群-212108-4尿中8-OHdG濃度(ng/mgクレアチニン)6-6-84-102-120対照群(n=44)NTG群(n=47)非進行群(n=23)進行群(n=17)図3原発開放隅角緑内障患者へのサプリ図1正常眼圧緑内障患者と対照者の血図2正常眼圧緑内障進行群と非進行群の尿メント投与2年後の視野MD値清中ビタミンC濃度の比較中DNA酸化損傷マーカー値の比較抗酸化サプリメント投与群(サプリメントNTG患者では対照群と比較し,血清中緑内障薬物治療下でも進行するCNTG患者の中身の違いによりCA群とCB群に分かれビタミンCC濃度が有意に低値であった(進行群)は,DNA酸化損傷マーカーであるる)と対照群のC2年後の視野CMD値であ(*p<0.05,t検定).尿中C8-OHdGの濃度が非進行群と比較し,る.投与開始時のCMD値と網膜内層厚にC3(文献C2より改変引用)有意に高値であった(*p<0.05,t検定).群間で有意な差はなかった.2年後もC3群図4栄養補助食品「サンテグラジェノックス」一部の抗酸化作用があるとするサプリメントで眼圧下降効果が報告されている.平均眼圧C17.2CmmHgの原発開放隅角緑内障患者に対し,松樹皮エキスとビルベリー果実エキスからなる本製品をC1日C1粒投与した結果,投与C4週間後の平均眼圧はC15.7CmmHgと有意に下降したとの報告5)がある.(写真提供:参天製薬株式会社)患者に対する無作為化試験においても,松樹皮エキスとビルベリー果実エキスサプリメントの眼圧下降効果が報告されている6).神経保護効果を証明することは,多くの研究において困難だが,むしろ抗酸化物質による眼圧下降効果が先に証明される可能性があると考えている.C●抗酸化サプリメントは無害か?サプリメントの神経保護効果は証明されていないとしても,害がなければ使用することに問題はないのではなかろうか.実際はサプリメントにも害がある可能性がある.喫煙者はCbカロテンを摂取することにより,肺癌の罹患率が約C20%程度上昇することや,ビタミンCEの摂取は前立腺がんや大腸癌がんのリスクを上昇させるこC806あたらしい眼科Vol.40,No.6,2023(文献C3より改変引用)間に有意な差を認めなかった.(文献C4より作成)とが報告されており7),その理由は,生体では癌細胞などができたときに活性酸素種を利用して癌細胞を除去しているが,抗酸化物質の投与により活性酸素種が除去され,癌細胞の除去ができなくなるためではないかと考えられている7).そういった観点から効果が証明されていないサプリメントの摂取は個人的にはお薦めしない.とくに日本人は魚や野菜などをバランスよく食べていることが多く,十分な抗酸化物質を摂取している可能性が高い.今後のエビデンスの蓄積が必要である.文献1)YangX,HondurG,TezelG:Antioxidanttreatmentlimitsneuroin.ammationCinCexperimentalCglaucoma.CInvestCOph-thalmolVisSciC57:2344-2354,C20162)YukiK,MuratD,KimuraIetal:Reduced-serumvitaminCandincreaseduricacidlevelsinnorma-tensionglauco-ma.GraefesArcClinExpOphthalmol248:243-248,C20103)YukiCK,CTsubotaK:IncreasedCurinaryC8-hydroxy-2’-deoxyguanosine(8-OHdG)/creatininelevelsisassociatedwithCtheCprogressionCofCnormal-tensionCglaucomaCCurrCEyeResC38:983-988,C20134)Garcia-MedinaCJJ,CGarcia-MedinaCM,CGarrido-FernandezCPetal:Atwo-yearfollow-upoforalantioxidantsupple-mentationCinprimaryCopen-angleCglaucoma:anCopen-label,Crandomized,CcontrolledCtrialCActaCOphthalmolC93:C546-545,C20155)ManabeCK,CKaidzuCSachikoCTsutsuiCACetal:E.ectsCofCFrenchCmaritimeCpineCbark/bilberryCfruitCextractsConCintraocularCpressureCforCprimaryCopen-angleCglaucoma.CJClinBiochemNutrC68:67-72,C20216)SteigerwaltRD,BelcaroG,MorazzoniPetal:MirtogenolpotentiatesClatanoprostCinCloweringCintraocularCpressureCandimprovesocularblood.owinasymptomaticsubjectsClinOphthalmolC4:471-476,C20107)PoljsakCB,CMilisavI:TheCroleCofCantioxidantsCinCcancer,Cfriendsorfoes?CurrPharmCDes24:5234-5244,C2018(94)