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2023年6月30日 金曜日
臨床研究のインフォームド・コンセントInformedConsentinClinicalResearch八木彰子*岩江荘介**宮田和典*はじめに医学・医療分野の研究の大半は,政府が策定した「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」1)(以下,倫理指針)の対象である.ただし,人を対象としたものでも,再生医療は再生医療法で,医薬品や医療機器を使って有効性や安全性の検証を目的とするものは臨床研究法で,また国による承認や適応拡大をめざすいわゆる治験は医薬品,医療機器等に関する法律(薬機法)で,別々に規制されている.いずれの規制でも,研究計画の科学的妥当性,倫理的妥当性について法律あるいは倫理指針が規定する委員会で審査と承認を受け,実施施設の責任者による実施許可を得る必要がある.それらを経て初めて,研究対象者からインフォームド・コンセント(informedconcent:IC)を取得することも,研究を開始することも,データ解析や論文作成もできるのである.そのICであるが,大きく分けて「文書説明・文書同意(以下,文書IC)」「口頭説明・同意記録(以下,口頭IC)」および「通知または公開(通知・公開)」(通知・公開に研究参加拒否の機会の保証を付加したものが,いわゆる「オプトアウト」である)の3種類がある.研究倫理の原則では文書ICが基本であり,可能な範囲で対応すべきである.とくに,研究目的の医薬品投与や穿刺などの侵襲のある研究では文書ICが必須である.ただし,研究の内容や状況によっては,別の方法により研究対象者の意思確認を行うことができる(図1~3).たとえば,いわゆる後ろ向き研究など日常診療で蓄積されたカルテ情報を二次的に利用するだけの研究であれば,一定の条件を満たせば「通知・公開」によって文書ICに代えることができる.しかし,文書ICを取得しなくてよいからといって,適当な内容の研究概要を,適当な場所に公示することでよいわけではない.この「通知・公開」あるいは「オプトアウト」を行うにも充足すべき要件があり,実施上の注意点もある.「カルテ情報を使用する研究」は,開業医にとって実施しやすい研究であり,観察研究の中でもその割合はそれなりに多い.以下,カルテ情報を使用する場合のICについてのキーポイントを述べる.I既存資料・情報とはカルテ情報は,元々は診療目的で取得された情報であるため,倫理指針では「既存試料・情報」とされ,以下のように定義されている.「試料・情報のうち,次に掲げるいずれかに該当するものをいう.①研究計画書が作成されるまでにすでに存在する試料・情報,②研究計画書の作成以降に取得された試料・情報であって,取得の時点においては当該研究計画書の研究に用いられることを目的としていなかったもの」1)①は,すでに実施した研究のデータや保存検体,記載済のカルテ情報や残余検体が該当する.いわゆる「後ろ向き観察研究」で使用する試料・情報はこれに当たる.*AkikoYagi&KazunoriMiyata:宮田眼科病院**SosukeIwae:宮崎大学〔別刷請求先〕八木彰子:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町6-3宮田眼科病院0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(67)779はい文書ICいいえはい文書IC口頭IC+記録いいえはい文書IC口頭IC+記録いいえはい文書IC口頭IC+記録図1新たに試料・情報を取得して研究を実施する場合フローチャートは文献2を参考に指針の規定をわかりやすく示したものであり,網羅的に反映したものではない.はい通知または公開いいえはいオプトアウト可いいえ文書IC口頭IC+記録図2既存情報を用いて研究を実施する場合フローチャートは文献2を参考に指針の規定をわかりやすく示したものであり,網羅的に反映したものではない.いいえ文書IC口頭IC+記録はいはいオプトアウト可いいえ提供不可図3他の研究機関に既存情報を提供する場合フローチャートは文献2を参考に指針の規定をわかりやすく示したものであり,網羅的に反映したものではない.公開(HP)この研究にご協力いただけない場合は,問い合わせ先まで連絡ください.ご協力いただけなくても,患者さまの不利益は生じませんのでご安心ください.図4オプトアウトの例表1通知・公開に記載する事項1.試料・情報の利用目的及び利用方法(他の機関へ提供される場合はその方法を含む)2.利用し,又は提供する試料・情報の項目3.利用又は提供を開始する予定日4.試料・情報の提供を行う機関の名称及びその長の氏名5.提供する試料・情報の取得の方法6.提供する試料・情報を用いる研究に係る研究責任者(多機関共同研究にあっては,研究代表者)の氏名及び当該者が所属する研究機関の名称7.利用する者の範囲8.試料・情報の管理について責任を有する者の氏名又は名称9.研究対象者等の求めに応じて,研究対象者が識別される試料・情報の利用又は他の研究機関への提供を停止する旨10.9の研究対象者等の求めを受け付ける方法(文献1より引用)III通知または公開+オプトアウトの実際オプトアウトは患者に研究参加拒否の機会の保証することで,「あなたのデータをこの研究に使用したくない場合はいつでも窓口に申し出てください」という記載が該当し,常に「通知・公開」とセットになっている.通知は研究概要を個人配布することで,公開は研究概要を院内掲示またはホームページ掲載することであり(図4),通知・公開すべき内容は倫理指針に規定されている(表1).また,公開とは「研究対象者等が容易に知り得る状態」と定義されており,掲示場所は患者の目につきやすい場所,ホームページでは可能であればワンクリック,多くてもツークリックで情報にアクセスできるようにすることが奨められている.IVその他の注意点文書ICなど,直接研究対象者から同意の意思確認を行うことが基本である点を改めて強調したい.たしかに,臨床現場で費やす時間を確保し,コストはできるだけ節約したいため,ICの手続きもできることなら簡便な方法を選びたいところである.ただし,海外誌に論文投稿した際に「writtenIC」を求められることも往々にしてある.文書ICは,取得に時間と手間がかかる分,研究対象者による明確な同意を取得できるため,同意を得た範囲内であれば提供を受けた試料・情報を柔軟に利活用できる利点がある.そのため,前向き研究のように,研究対象者と直接コンタクト可能な状況下では,できる限り文書ICを取得することを奨める.たとえオプトアウトの場合でも,ホームページ上に研究概要を掲示するのもよいが,患者にそれを直接配布することで確実に周知できる「通知」のほうが望ましい.次に,手術説明書に「将来の研究のために,あなたのカルテ情報を使用することがあります」のように記載すれば二次利用の際のIC手続きが不要になる,と誤解されがちなので注意が必要である.「白紙同意」のような方法は認められていない.ただし,日常診療の中で発生した患者の試料・情報が,将来において研究利用されることを,事前にある程度想定できる状態にしておくことは大切である.たとえば,白内障手術説明書にカルテ情報を将来の白内障の術後成績の評価などの研究に使用することや,研究実施時には研究計画書を作成し,研究実施に必要な手続きを行うことなどを併記して,了解を得ておくことが考えられる.こうした倫理的配慮を行うことで,研究対象者との信頼の醸成につながり,「既存試料・情報」の研究利用が円滑に進められると考える.おわりにICは研究を実施するために必要なステップであり,本来の目的は研究対象者の権利保護である.したがって,侵襲や介入のある患者へのリスクの高い研究では,「研究者による十分な説明」「研究対象者の十分な理解」「研究対象者の自発的同意」がセットで成立することが重要である.同意書に署名をもらえば終わりではなく,円滑な研究遂行のためには,研究者と研究対象者となる患者の相互理解を深め,研究に対してお互いが何をすべきなのか十分に理解しあうことが重要と考える.2002年に制定された「疫学研究に関する倫理指針」では,カルテ情報を使用した研究については例外なくオプトアウトが標準であった.この10年で指針の統合,改定によってIC手続きが複雑になってしまったが,根本にあるのは,この施設なら,この医師なら自分のカルテ情報を適正に利用してくれるという信頼関係である.指針を遵守することに加えて,日常診療で培われた患者との信頼関係をもとに,必要な要件を満たしつつ必要な範囲でICの簡略化を利用して研究を進めることを望む.文献1)文部科学省,厚生労働省,経済産業省:人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針.令和3年3月23日(令和4年3月10日一部改正,令和5年3月27日一部改正))2)厚生労働省:人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針ガイダンス.令和3年4月16日(令和4年6月6日一部改訂,令和5年4月17日一部改訂)782あたらしい眼科Vol.40,No.6,2023(70)■用語解説■「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」の用語侵襲:研究目的で行われる,穿刺,切開,薬物投与,放射線照射,心的外傷に触れる質問などによって,研究対象者の身体または精神に傷害または負担が生じることをいう.一義的には研究計画書の作成に際して研究責任者が判断し,その妥当性を含めて倫理審査委員会で審査するものとする.軽微な侵襲:侵襲のうち,研究対象者の身体または精神に生じる傷害または負担が小さいものをいう.日常生活や日常的な医学検査で被る身体的,心理的,社会的危害の可能性の限度を超えない危険であって,社会的に許容される種類のものが該当する.たとえば,採血および放射線照射に関して,労働安全衛生法に基づく一般健康診断で行われる採血や胸部単純X線撮影などと同程度(対象者の年齢・状態,行われる頻度などを含む)であれば,「軽微な侵襲」を伴うと判断してよい.16歳未満の未成年者を研究対象者とする場合には,身体および精神に生じる傷害および負担が必ずしも小さくない可能性を考慮して,慎重に判断する.一義的には研究計画書の作成に際して研究責任者が判断する.一義的には研究計画書の作成に際して研究責任者が判断し,その妥当性を含めて倫理審査委員会で審査するものとする.要配慮個人情報:個人情報のうち,一定の記述(病歴,医師などにより行われた健康診断などの結果,医師などより指導または診療もしくは調剤が行われたことなど)が含まれるものは該当する.たとえば,診療録,レセプトに記載された個人情報は学術研究機関等:(個人情報保護法の定義)大学その他の学術研究を目的とする機関もしくは団体またはそれらに属する者をいう.
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2023年6月30日 金曜日
動画を活用したインフォームド・コンセントInformedConsentviaVideoInstructions森山涼*はじめに白内障手術に関するインフォームド・コンセント(informedconsent:IC)に必要な医療者サイドが提供すべき情報の量は年々増加傾向にある.そのおもな要因は,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の種類が20年前には単焦点レンズ1種類だったのが,現在では単焦点IOLに加え,保険適用の付加価値レンズ,選定療養適用の多焦点レンズ,クリニックによっては個人輸入の自費レンズと非常に多種多様化したことだと考える.その結果,ICに膨大なマンパワーを割くことになり,人件費や外来患者の待ち時間の増加を引き起こした.当院は2019年に開院し,当初は医師からの説明に加え,紙のパンフレットを用いて,看護師や視能訓練士が直接オリエンテーションを行っていた.しかし,前述のマンパワーや待ち時間管理の観点から2021年より動画を用いたICを導入した.本稿では,動画を用いたICについて運用の実際やメリット・デメリットについて解説する.I動画を活用したICの実際動画のイメージは図1~10の通りである.動画の全編は当院ホームページにリンクがあるので,そちらも参照いただきたい.元々当院で使用していた紙のIC用パンフレットを軸に動画作成業者に依頼して作成した.全編7分半の動画で文字,アニメーションに加えてナレーション音声で説明する.動画の内容は,手術前の注意点,術前および術後の点眼方法,白内障の疾患説明および手術の方法,術後の注意点,合併症などを説明している.また,高度の難聴の人のために字幕もつけている.この動画データを院内の複数台のタブレット端末に入れておいて患者の散瞳待ちなど,空いた時間にタブレットおよびイヤホンを使用し視聴させている.現在は,ナレーションの言語として,日本語版,英語版,中国語版,韓国語版を用意している.II動画ICのメリット第一にマンパワーの削減である.以前,紙のパンフレットで説明していたときには,患者1人あたり平均15分程度かかっていた.当院では2022年現在,年間約2,000件の白内障手術を行っており,口頭での説明のみでは膨大なマンパワーを必要としていた.動画IC導入後は,患者は先に動画を視聴しているため,対面では個別に説明が必要な事項,患者からの質問に答えるだけでよいため,補足説明に要する時間は半分程度に圧縮できた.また,患者は待ち時間に動画を視聴しているため,患者の在院時間の短縮にもなる.第二のメリットは,患者がクリニック受診前にホームページで視聴し予習ができること,また手術日までに復習も可能である.当院では紙のパンフレットも従来通り使用しているため,アナログ,デジタルどちらでもオリエンテーションを復習することができる.また,オリエンテーションに同席できない患者の家族にもホームページ経由で見せることができる.手術は申し込まないが,*RyoMoriyama:森山眼科クリニック〔別刷請求先〕森山涼:〒190-0021東京都立川市羽衣町2-49-6森山眼科クリニック0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(63)775図1タイトルページ図2術前点眼図3術後に必要な物品の案内図4来院スケジュール図5術後点眼図6術後の生活上の制限図7白内障の疾患説明図8手術方法図9術後合併症図10個別説明の案内
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2023年6月30日 金曜日
クリニックにおけるインフォームド・コンセントInformedConsentinanOutpatientClinic三戸岡克哉*福沢紫乃*熊谷光*はじめにクリニックにおけるインフォームド・コンセント(informedconsent:IC)といっても,大学病院と大きくその内容が変わるわけではない.白内障の状態や治療方法について説明し,患者が手術に対して期待していることを把握し,手術によって治ることと治らないことを患者に十分理解してもらい,手術に同意してもらうことであると思っている.しかし,そのやり方については,複数医師が在籍する施設とは異なり,個人クリニックでは,そのすべての説明を医師一人で行うことはむずかしく,看護師や受付スタッフの手を借りる必要がある.また,麻酔科医や硝子体術者がいる環境ではないため,患者の全身状態や眼の状態によっては近隣の総合病院への紹介も検討する必要がある.当クリニックは,保険診療で取り扱い可能な単焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)のみを使用している.以上の点を踏まえて,当クリニックにおける手術に関するIC,および術前後の注意点として患者に説明していることを,その一連の流れに沿って紹介する.I通常の外来にて白内障手術目的で他院から紹介となった患者を除き,初診時に白内障手術適応と診断したとしても,当日に手術日まで決めないようにしている.まずは,白内障という病気をしっかり理解してもらうことから始めている.現在の視力などの検査結果,白内障の程度,白内障の進行スピードなどを説明し,日常生活でどのような場面で不自由を感じているかを尋ねる.その要因が白内障に起因するものであれば,白内障手術に関するパンフレットを渡し,自宅で家族と一緒に読んでもらい,白内障およびその手術について理解を深めてもらう.パンフレットのおもな内容は図1に示す通りで,大学病院勤務時代に使用していたものをクリニック用にアレンジしている.また,ホームページにもパンフレットと同様の内容を掲載し,離れた家族でも内容を共有できるようにしている(図2).そして患者が手術を希望した際には,改めて手術相談の予約を取って来院してもらう.II手術相談(手術決定時)検査,診察後に,現状について医師から説明を行い,患者が手術を希望した場合に,大まかな白内障手術の説明から始める.おもな内容は,濁った水晶体を取り除き,透明なIOLに入れ替える手術であること,傷口を作って手術を行うので,その傷口から細菌などが入ってしまうと,眼の中にひどい炎症を起こし失明につながることがあるため,術後管理が重要であること,水晶体.を破損したり,Zinn小帯断裂などがあればIOL挿入できず,後日IOL縫着(強膜内固定)が必要になることがあることなどである.とくに,過熟白内障,小瞳孔,前.線維化が顕著な患者などは,そのリスクが高くなることを説明し,同意書も通常患者と異なるものを用意している.*KatsuyaMitooka,ShinoFukuzawa&HikaruKumagai:北戸田駅前みとおか眼科〔別刷請求先〕三戸岡克哉:〒335-0021埼玉県戸田市新曽2220-1北戸田駅前みとおか眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(57)769図1患者に配布しているパンレットQ&A方式で記載し,患者や家族が読みやすいように工夫している.図2ホームページへの掲載ホームページにもパンフレットと同様の内容を掲載し,離れた家族でも内容を共有できるようにしている.医師からの説明後に,看護師が手術日程の調整および周術期における情報収集を行う.白内障の日帰り手術であること(入院できないこと),手術予定眼や術後予定屈折度数の確認,手術までの流れ,そのほか,術後制限などを説明する.また,問診や薬剤情報などを元に現在治療中の疾患・怪我,入院や手術歴,アレルギー情報,眼外傷歴,前立腺肥大治療薬の服用歴などを聴取する.看護師が情報収集することにより,眼外傷歴,前立腺肥大治療薬の服用歴などが判明したり,患者から新たな質問が出ることが多く,その都度医師に報告し適切な対応を行う.III術前検査時術前検査時には家族同伴での来院をお願いしている.個別に一連の術前検査を行ったあとに,家族とともに集団で看護師が説明を行う.おもな説明内容は,1)白内障とは,2)白内障の代表的な原因,3)白内障の治療および手術を受けるのに適した時期,4)手術の流れ(手術は局所麻酔であり,医師や看護師から声かけをしたり,音楽を流したりして緊張感を和らげるように心がけていることも加えて説明),5)術後の見え方(術後予定度数の違いや老視についても説明),6)手術に関する合併症(アレルギー,Zinn小帯断裂・後.破損,術後眼内炎など,状況に応じて転院加療が必要であること,そのほかパワーずれや後発白内障などについて説明),7)検査データや手術動画などを医学研究目的で使用することがある,といったことである.一連の説明終了後に質疑応答を行うが,もし,患者から質問が出ないようであれば,感想を聞いてみることによって,質問を引き出すことができるようである.看護師からの説明後に,医師が,患者および家族へ現在の眼の状況を説明する.その際には,患者自身と正常眼の細隙灯顕微鏡画像を比較提示して白内障の状況を説明するだけでなく,患者自身と正常眼の眼底写真を比較提示すると,どれほど患者が見えにくい状況であることを家族が理解しやすいようである(図3).最後に,看護師が説明した内容について質問がないかどうかの確認をする.追加質問に対し医師から説明し,理解を得られたら,手術同意書に捺印してもらう.同意書は項目ごとに捺印することで,各項目が確実に理解できているか確認してもらう(図4).IV術前診察時術前診察時にも家族同伴での来院をお願いしている.最初に,個別に医師から術前検査の結果報告,術後予定屈折度数の確認を行う.次に家族とともに集団で看護師から,手術当日までのオリエンテーションを行う.おもな内容は,1)術順・来院時間に関する事項,2)術前の日常生活に関する事項,3)手術当日の流れに関する事項,4)手術当日の身支度などに関する事項である.引き続き,そのまま集団で医師から,1)術後眼内炎,2)Zinn小帯断裂・後.破損などによりIOL入ができない場合,3)老視,4)パワーずれ,5)状況に応じて転院加療が必要であることを説明する.そのほか,術後にエッジグレアや飛蚊症を感じることがあることについても説明する.集団で説明する利点として,他者からの質疑応答があることでグループダイナミクス効果による納得感や,集団心理による安心感が得やすいと考えている(図5).最後の会計時には受付スタッフが術前点眼の確認,手術当日の注意事項(来院時間,服装,化粧など)について再度説明し,あわせて手術当日の費用についても説明する.V手術当日手術終了後に,受付スタッフが痛みや急変時の当クリニック緊急連絡先,および当クリニックから連絡が必要な場合のための患者連絡先の確認を行う.また,翌日来院時は眼帯を装着しているため見えづらさがあること,術後の注意事項などの説明があるため,家族の同伴が望ましいことを説明する.VI術後診察時視能訓練士が視力や眼圧検査などを施行し,とくに問題ない場合には,医師の診察の前に,看護師から術後の注意事項などの説明し,手術相談,術前検査,術前診察で繰り返し指導した内容を振り返り術後管理の重要性を772あたらしい眼科Vol.40,No.6,2023(60)〈白内障手術同意書チェックリスト〉白内障手術計面書を良く読んで頂き、ご理解頂けましたら全ての項目に確認印を押して下さい。「手術計画書」を渡され、その内容をよく読みました。「手術計画書」に書かれている内容について理解致しました。手術の必要性を説明してもらいました。通常手術によって良い視力を回復しますが、眼の状態によっては手術後に視力が回復しない場合がある事を理解致しました。極めてまれですが、眼の状態によって手術前の視力よりも悪くなる場合がある事を理解致しました。手術は非常に安全ではありますが、まれに手術中に合併症が発生する事がある事を理解致しました。まれに、手術の際、眼内レンズを挿入しない方が良い事がある事を理解致しました。当施設の対応出来ない状況が発生した場合、転院・加療も必要になる揚合がある事は、説明を受け理解出来ました。検査データや手術動画などを医学研究の目的で個人を特定できない状態で使用される事がある事を理解致しました。今回手術を受けるにあたり、手術によって得る利益と、手術によって起こる危険性について説明を受け十分に検討し、手術を受ける事を希望致しました。平成年月日患者氏名同席行氏名(ご関係)図4同意書同意書は,チェックリスト方式として,項目ごとに捺印することで,各項目が確実に理解できているか確認してもらっている.図5患者および家族への集団の説明風景コロナ禍以前は,10組以上の集団で説明していたが,現在は4組程度に縮小して行っている.他者からの質疑応答があることでグループダイナミクス効果による納得感や,集団心理による安心感が得やすい.図3患者および家族への個別の説明風景患者自身と正常眼のスリット画像を比較提示して白内障の状況を説明するだけでなく,患者自身と正常眼の眼底写真を比較提示すると,どれほど患者が見えにくい状況であることを家族が理解しやすい.
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2023年6月30日 金曜日
クリニックにおけるインフォームド・コンセントInformedConsentinaClinic柴琢也*はじめに現在の白内障手術は,超音波水晶体乳化吸引術とfoldable眼内レンズ(intraocularlens:IOL)による小切開創白内障手術が普及しており,多くの患者で良好な術後視機能を獲得することが可能になっており,わが国でも年間約170万件もの手術が行われている(一般社団法人日本眼科医療機器協会アニュアルレポート2022より推察).このことは世間的にも広く認知されており,ともすれば白内障手術を安易に捉える風潮も否定できないが,現在でも術中・術後合併症や,なんらかの既往症により良好な術後視機能が得られないことも経験する.そのため,患者やその家族が白内障手術を受ける前に医師から医療行為について十分な説明を受け,それに対して疑問があれば解消し,内容について十分納得したうえでその医療行為に同意するインフォームド・コンセント(informedconsent:IC)が重要である.I当院の概要当院のICについて述べる前に,医院の環境について説明する.当院は病床を有しないクリニックであり,東京の繁華街である六本木に位置している.公共交通機関が発達しており,ほとんどの患者は地下鉄やタクシーを利用して来院する.また,周辺3km以内に筆者の出身医局を含む5つの医学部附属病院,5つの眼科を有する総合病院,1つの公立病院が存在する,いざというときの後方病院に恵まれているエリアである.ここで医師1人(筆者)と看護師を含むスタッフ数名で手術を行っている.白内障手術を受ける人の85%以上は他院からの紹介患者であり,紹介元のほとんどが眼科クリニックである.II白内障手術術前の流れ当院を受診する患者はすでに紹介元にて白内障についてある程度の説明を受けていることが多いため,情報や知識を整理することを目的として,まずは文章での説明を行っている.具体的な流れは,患者に問診票を書いてもらい,視力検査および眼圧検査がすんだ状態で患者と初めて対面する.アナムネ聴取および未散瞳状態の前眼部診察を行ったあとに,続きの検査の指示を出す.必要であればコントラスト感度を測定したあとで,施行可能であれば散瞳薬点眼を行う.その後,眼軸長や角膜内皮細胞密度の測定を行い,必要に応じて光干渉断層計撮影や角膜形状解析検査を行った後に待合室で白内障手術説明書(図1)を読んでもらい,本人が読めない場合は付き添いの人に読んでもらう.読んだ後で残りの診察を行い,白内障手術の適応があればその旨を伝えるが,その時点で説明書を読んでいるので,まずはその内容について理解できない点や不安な点などを聞いて説明を行う.理解してもらいたいことは説明書にすべて網羅しているが,そのほかに質問したいことがあるかも尋ねる.規模が大きい施設では,医師以外がカウンセリングや手術説明会を行ったり,集団での手術説明会を行っているケー*TakuyaShiba:六本木柴眼科〔別刷請求先〕柴琢也:〒106-0032東京都港区六本木1-7-28-201六本木柴眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(49)761図1白内障手術の説明書表紙を入れると12ページにわたり,I.白内障について,II.六本木柴眼科で白内障手術を希望される方へ,III.白内障手術を受けられた方への3項目から構成されている.患者はこれを読んでから散瞳後の診察を受ける.障手術を安全に行いやすい時期があるので,定期検査を受けてその時期を逸しないようにすることが重要である.③一般に,時期が早いほうが手術を安全に行いやすく,手術時期を延ばして白内障を進行させすぎると,核が硬くなったり,水晶体が膨化したりして手術の難易度が高くなる.④進行しすぎた場合,手術時間の延長や,最新の術式を採用できなくなることがある.また,放置したままにすると,緑内障の発作や水晶体の脱臼などを生じて視機能に不可逆的な影響を及ぼす可能性がある.⑤手術後1週間くらいは,根を詰めた仕事はしないほうがよく,旅行や軽い運動は2週間くらい,ゴルフなどの運動や海外旅行などは1カ月くらいは避けたほうがよい.したがって,これらの予定を考えたうえで手術日を決定する.⑥術中に生じた結膜下出血が消えるのに2.3週かかることがあるため,結婚式や重要な会合がある場合なども,1カ月程度余裕をみたほうがよい.6.手術後には必ず見えるようになりますか?①手術である以上,その安全性は100%ではないが,最近の白内障手術はきわめて安全になっている.②白内障以外の眼疾患を有しなければ,ほとんどの場合手術によってよい視機能を獲得することができるが,視力が安定する時期には個人差があり,手術翌日からよく見えるようになる人や1カ月ほどを要することもある.③網膜や視神経が障害されている場合には,視機能が十分に上がらないことがある.なお,白内障で水晶体が強く混濁している場合には術前に十分な眼底検査を行うことができないため,術前には網膜や視神経が障害されていることがわからないことがある.④水晶体(亜)脱臼や後.破損の状態によっては,1回の手術で眼内レンズを挿入しないほうがよいことがあるが,手術後の眼の状態が良好であれば,後日眼内レンズを特殊な方法(縫着術,強膜内固定など)で眼内に固定することが可能である.その場合は,大学病院など他院で手術を受けてもらう可能性がある.⑤きわめて安全に行われるようになった白内障手術でも,必ず一定の割合で手術中に合併症が発生するが,最終的にはほとんどの患者で通常の場合と大差ない結果を得ることができる.⑥通常の眼内レンズには調節機能がないため手術後には眼鏡装用が必要となる.⑦多焦点眼内レンズを挿入すると遠方から近方にかけてピントを合わせることができるが,見え方の質が少し劣ることがあり,このレンズが適していない患者もある.また,通常の保険診療では使用できない.⑧もっとも重篤な合併症の一つは術後眼内炎である.わが国では5,000例に1例の頻度で発生するといわれている.一度発症すると視力の回復を望めない場合があり,このような合併症を未然に防ぐためにも,手術後の管理や診察が大変重要である.II.六本木柴眼科で白内障手術を希望される方へ1.手術前に決めておいたほうがよいことはありますか?術後にどこを裸眼で見たいかによって目標屈折度数を設定するが,一人ひとりの眼の状態が違うため,どうしても誤差が生じることがある.2.手術の時に発生しうる合併症は?①水晶体(亜)脱臼,後.破損の状態によっては,1回の手術で眼内レンズを挿入しないほうがよい場合があり,そのようなときには手術の時間も長くなる.手術後の眼の状態が良好であれば,後日眼内レンズを特殊な方法(縫着術,強膜内固定など)で眼内に固定することが可能である.②駆逐性出血が発症する可能性があるが,現在の小切開創手術になってからはきわめてまれな合併症になった.③白内障手術は,全身状態への影響が非常に少ない手術であるが,手術と関係なく突然心筋梗塞や脳梗塞が起こる可能性がある.3.手術直後,強い痛みは起こりますか?通常の白内障手術では,術直後に異物感を感じること(51)あたらしい眼科Vol.40,No.6,2023763があるが,強い痛みを感じることはなく,痛みを感じた場合には医師に相談すること.4.術後はどのように見えますか?①通常は良好な視機能を獲得することが可能である.②手術直後は,顕微鏡光により陽性残像を生じるが,自然に消滅する.③飛蚊症状を術前よりも強く自覚することがある.④羞明感を強く感じたり,色感覚が変わることがある.5.手術がむずかしい眼であるといわれているのですが,大丈夫ですか?①散瞳不良症例,先天異常眼,全身疾患合併症例,外傷や手術歴のある場合などは,手術の難易度が高くなるが,従来に比べて安全に手術を行うことが可能になっている.②手術を受けるか否かは,現在感じている不自由さと手術をしないでそのまま放置していた場合にさらに悪化していく可能性などを検討したうえで,最終的に患者自身が総合的に判断すべきである.③医師は,これらの情報を患者に提供し,判断を委ねられた場合には「自分の家族ならば手術をしたほうがよいと思うか」ということを基準にアドバイスするが,残念ながらその結果を保証することはできない.6.白内障手術は本当に簡単なのですか?①簡単であると思われる要素以前に比べて手術時間が短くなり,手術中の痛みも少なく手術の安全性も飛躍的に向上した.また,日帰りで手術を受けることも可能になり,患者にとっては以前よりも負担が少なく,気軽に手術を受けることができるようになった.②白内障手術を軽視すると大変ですどんなに安全な手術であっても,合併症はやはりある一定の確率で生じる.手術中に術者が誤った処置をしていないにもかかわらず合併症が発生する頻度は,ごくわずかと考えられているが,中には術後視機能が十分に回復できない場合もある.手術である以上,危険性をゼロにすることはできないため,あまり軽い気持ちで手術を受けることは避けたほうがよい.③安全が第一,眼に優しい手術を心がけています当院では,合併症に対してできる限りの適切な処置を行うが,硝子体手術など当院で対応できない治療が必要になった場合には,大学病院などを責任もって紹介するのでそちらを受診してもらう.III.白内障手術を受けられた方へ1.手術直後の見え方はどのようになりますか?①明るく鮮明だが,羞明感がある特殊な状態の場合を除き,術翌日から非常に明るく,物が鮮明に見えるようになるが,少しまぶしすぎるように感じることがある.手術直後はかなりまぶしく感じるものの,時間が経過するとあまり感じなくなってくる.まぶしさが続くようであれば,白内障術後用のサングラスを使用すること勧める.②陽性残像を自覚するが,自然消失する手術顕微鏡により視野の中心に感じることがあるが,数日で消失する.③青視症の可能性白内障により黄色味がかった水晶体が短波長のフィルターの役割を果たしていたが,これを摘出して眼内レンズに置き換わったため生じる.現在はほとんど着色レンズを使用しているため,以前に比べると症状は軽減している.④飛蚊症の出現術後,飛蚊症の出現や増悪を自覚することがある.これは,術前よりも眼内に入る光量が増えたことにより,硝子体混濁を自覚しやすくなったことが原因であるが,まれに網膜.離などの前兆として現れることもあるので,術後必ず眼底検査を行うが,自覚した場合は医師に伝えることが必要である.⑤Positivedysphotopsia,negativedysphotopsiaほとんどが術後経過により改善されるが,症状が残ることもあり,ごくまれではあるが眼内レンズの入れ替えを行った報告もある.764あたらしい眼科Vol.40,No.6,2023(52)2.視力はすぐによくなりますか?①視力の回復の速さは,人によって,また眼の状態によって大きく異なる.②裸眼視力(屈折)は少しずつ変化する.裸眼視力が安定するのは術後1.2カ月後のため,その間は眼鏡の度数も変化する.3.眼鏡はいつ作ればよいのですか?屈折状態が安定するのに1.2カ月かかるため,手術直後に合わせた眼鏡が数カ月で合わなくなることがある.①術後1.2カ月してから眼鏡を作製することを勧める場合・術前に使用していた眼鏡である程度不自由なく見える場合・術後に眼鏡を使用しなくてもある程度不自由なく見える場合今までの眼鏡を使って,または眼鏡なしで1.2カ月過ごす.②術後1週以内に眼鏡を作製することを勧める場合・術前の眼鏡や眼鏡なしでは,日常生活・社会生活に困る場合・作り変えることを納得したうえで,すぐに最善の眼鏡を使用したい場合術後すぐに適切な眼鏡を作製し,2.3カ月後に微調整した新しい度数の眼鏡を作り直すことが前提になる.4.日常生活の注意点は?①術後感染症予防のため,手指などを清潔に保つことが大切である.②洗顔は,術後数日で可能であるが,流水を使い眼球を圧迫しないよう注意して行う.術後4.5日は眼球周囲に触れないよう洗顔する.③入浴は最初のうちはシャワーだけにして,数日後から浴槽に入るようにする.④洗髪は,術後1週くらいから可能であるが最初はシャンプーなどが眼に入らないよう注意が必要であり,術直後は美容院・理容室での洗髪が必要である.5.仕事や運動はいつからできますか?①通常の白内障手術では,日常の家事や散歩は術後3日目頃より可能であり,術後1カ月を経過すればほぼ術前と同じ生活ができる.仕事の種類にもよるが,重労働でなければ術後数日で職場復帰は可能である.②ゴルフなどの通常のスポーツは3.4週後より可能だが,眼を打撲する可能性のある競技や水泳などは1.2カ月ぐらい避けておいたほうがよい.6.術後の合併症として,何に気をつければよいのですか?①術後早期の合併症:細菌性眼内炎もっとも重篤な合併症の一つである術後細菌性眼内炎は,術直後何も問題なく鮮明に見えるようになっていたにもかかわらず,術後3.7日頃に急に見にくくなり,強い痛みやひどい充血が生じた場合にはこの合併症の可能性がある.放置すると失明する危険あるため,すぐに近医または当科を受診すること.早期に治療を開始する必要がある.②術後数カ月.数年経過してから生じる合併症:後発白内障術後しばらく経過してから,眼内レンズを入れている水晶体の.が混濁して手術前のように霧がかかって見えるようになることがある.後発白内障という合併症であり,外来でレーザー治療を受けることによってすぐに治療することが可能である.術後視機能低下を感じたら,あきらめずに診察を受けることを勧める.7.何か心配がおありですか?①眼内レンズの寿命特別なことがなければ,50.100年くらいの耐久性があるが,何か問題が生じれば眼内レンズを交換することも可能である.②眼球掻痒について通常の衝撃では,眼内レンズがはずれたりずれたりすることはないが,まれに水晶体.がはずれやすい人がいるため,術後異変を感じたら受診が必要である.(53)あたらしい眼科Vol.40,No.6,2023765図2説明同意書説明同意書(図右側黒線内)に,目標屈折度数や使用する眼内レンズを記載している(図左側赤線内).図3FLACSの説明書12ページにわたりFLACSを説明している.図4多焦点眼内レンズの説明書4ページにわたり多焦点眼内レンズについて解説しており,最後に今回使用するレンズの名称とその特徴を患者ごとに記載している.
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2023年6月30日 金曜日
大学病院(教育施設)におけるインフォームド・コンセントInformedConsentforCataractSurgeryatUniversityHospitals木澤純也*はじめに教育機関である大学病院におけるインフォームド・コンセント(informedconsent:IC)が他の施設と異なる点としては,病院は教育現場であるためさまざまな職種の学生や研修医が手術および診療にかかわること,初期研修医や眼科専攻医が将来自身でICを取得するための教育を行うこと,研究機関でもあるため臨床研究についてICを取得する必要があることと考える.本稿では大学病院でのICの取得について要点について解説を行う.I大学病院(教育施設)の医学教育大学病院において「●●大学附属病院は教育機関でもあるため,学生が診療に参加することへ,患者さんのご協力とご理解をお願いします.また,学生の診療参加を望まない場合は,気兼ねなく申し出てください」などの医学教育に関する協力をお願いする掲示は,病院内の新患受付や各診療科の診察受付前に設置されている.しかし,白内障患者のなかにはこれらの掲示を確認できない人もいるため,個々の患者へ医学養育への協力の説明は必要であると考える.大学病院(教育施設)での白内障手術のICにおいても最重要事項は,医師と患者間での手術法・麻酔法・術後予後・合併症に関するICを医療スタッフの同席のもとに取得・了承を得ることであり,この点においてはクリニックや他の病院でのICの取得と同様であると考える.その際に,教育施設では学生(医学部,看護学部,薬学部,視能療法学科)や研修医,眼科専攻医が術前後の診察を行うことや,手術時の見学や助手や執刀医として参加する医学教育の重要性を説明し,医学教育に関するICも取得する必要がある.医学教育における手術場や術前後の病棟診療での体験により,眼科医を志すきっかけとなる場合もあるため,学生が参加できる現場を多く設ける努力を指導医はするべきであると思う.IC取得のほとんどが外来診察室で執刀医と医療スタッフ1名程度が同席する少人数で行うことが多いと思われる.しかし,入院後は多くの病棟スタッフがかかわることや,手術室内にも複数の医師と看護師,各業種の学生など,多くの人が在室していると事前に説明しておくとよい.この理由としては,少数ではあるがこの説明していないと手術室への入室時に患者が急に不安になり,「こんなに人がいるとは聞いていなかった.この手術室では晒し者にされるから手術したくない」と患者にいわれ,在室する関係者の多くを退室させてから手術を行ったことがあるからである.また,手術前後の病棟診療を研修医,専攻医,高次臨床実習の医学生,さらに指導医もそれぞれが行うことなども説明すると,入院中に病棟診察室と病室を何往復もしてもらうことにも了承していただけることがほとんどである.術後経過が良好な患者においては,視機能改善した喜びがこれらの労力よりも優るため,問題にはならないと考えている.しかし,とくに術翌日の視機能改善が思わしくない患者においては,自覚症状が改善していないにもかか*JunyaKizawa:岩手医科大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕木澤純也:〒020-8505岩手県盛岡市内丸19-1岩手医科大学医学部眼科学講座0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(45)757わらず何度も診察室に呼び出されることに激高した患者を経験しているので,入院後の診療体制についても説明しておいたほうがよいと考えている.II指導医が完遂する手術のIC取得:眼科専攻医や研修医(医学生)が同席している場合指導医が眼科専攻医や研修医(医学生)と同席してIC取得する場合は,患者に専攻医などを紹介し,一緒に診察してよいか確認し,了承を得ておくと,その後は専攻医などと交代して診察することができる.専攻医などに白内障所見を細隙灯顕微鏡で診させ,指導医がその場で指導がすることによる臨床教育の効果は高いと考えている.コロナ禍では一緒に患者を診る機会が少なく,電子カルテの画像によるカンファランスなどにより白内障所見の教育をしていたが,実際に診察室で細隙灯顕微鏡を使用して徹照像を含めて白内障や前眼部疾患の所見を指導医と一緒に確認できると,専攻医などはスキルアップを実感できるようである.とくに一般のクリニックや病院では比較的まれな症例とされる患者を多く診療している大学病院では,このような患者を指導を受けながら交互に診療した経験は,その後の眼科医としての重要な経験値となると思っている.たとえば白色瞳孔が疑われている新生児や乳児の先天白内障と網膜芽細胞腫などを含めた網膜疾患との鑑別方法や,新生児の水晶体所見,診察時に行う抑制帯やバスタオルによる患児の抑制方法などは,実際に行った経験があるかどうかで,独り立ちした後の診療が変わると思うので,専攻医などに実際に体験させることが重要であると思う.また,全身疾患に伴う他科と関連する水晶体や白内障診療の機会も多いので,これらの患者に対する診療経験も重要であり,ぜひ経験させる必要があると思う.IC取得においては,患者やその家族が理解しやすい説明を行うだけではなく,専攻医自身が将来ICを取得する際に参考になる内容で行うことはIC取得の教育にもなるが,自身の説明方法を見直すきっかけとなることもあると考えている.1.麻酔方法現在,白内障手術の麻酔方法はほとんどが局所麻酔で行われるが,患者の心身の状態により全身麻酔が必要な患者は大学病院に紹介になることがある.麻酔方法選択を判断する基準としては,入室時の自立歩行や杖歩行の状況,車いすの場合は高齢女性の脊椎圧迫骨折による円背の程度や腰痛の有無,問診により15分程度の仰臥位が可能であるかなどを確認し,まずは判断する.先天白内障や小児白内障は全身麻酔を選択し,重度の統合失調症,認知症,発達障害を伴う患者の白内障手術では,外来診察に協力が得られなければ全身麻酔を選択する.しかし,軽度の統合失調症,認知症,発達障害を伴う白内障手術における術中の安静維持ができるかの判断は,外来処置ベッド上で圧布と開瞼器を使用して外来手術顕微鏡による模擬手術環境を整えて判断すると,手術中止となる患者は少なくなると考え実践している.さらに振戦がある患者では,体位や緊張により振戦の具合が変動することもあるので,外来の処置ベッドで体動を確認する.これらの過程を患者の家族と一緒に行うと,全身麻酔の必要性について家族の理解も得られやすい.全身麻酔が可能な全身状態の判断については,かかりつけ医に紹介するなどの確認を行ってから,麻酔科へ麻酔を依頼する必要がある.また,局所麻酔での手術が可能であると判断した患者が,手術室で不穏状態となり,安全な手術が不能となった場合はその日の手術を中止して退院となる場合もある.この際も事前に不穏で手術中止になる可能性を説明しておけば,後日改めて行う全身麻酔での白内障手術の検査や再入院をスムーズに行うことができることが多い.2.現症と術後屈折値の説明現症については,白内障の病型や原因,左右の進行程度,病型により予測される複視や霧視などの視機能症状,視力など現状に状況について説明する.白内障の病型などについては前眼部写真撮影を行うと説明に対する理解度が高くなると思う.白内障手術を行うべきか判断を患者が迷っている場合は,白内障が軽微であればその病型と症状が一致するかどうか重要であり,その白内障病型と症状が一致しない場合はコントラスト感度や波面収差解析の結果が手術適応になるかの判断材料になるこ758あたらしい眼科Vol.40,No.6,2023(46)
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2023年6月30日 金曜日
大学病院におけるインフォームド・コンセントInformedConsentatKeioUniversityHospital西恭代*はじめに本稿では,慶應義塾大学病院における白内障手術患者に対するインフォームド・コンセント(informedcon-sent:IC)の実際について述べる.当院における初診から白内障手術までの診療の流れは表1のとおりである.以下に各項目の詳細を述べる.I初診から術前検査までの確認事項1)1.全身および眼合併症の有無ICを行う前に全身および手術眼の合併症の有無,使用している内服薬(とくにa遮断薬),薬剤アレルギーの有無を確認する.どの眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を選択するかについては,患者の希望を聞く前に,医学的にみた適応・不適応を検討する.たとえば,糖尿病などの全身疾患により眼底管理が必要な場合は,光学径が一定以上大きいレンズを選択するなどの配慮も必要である.また,眼合併症によって視機能が著しく低下している眼に多焦点IOLを入れても,その機能を十分に発揮できない可能性があるため,ICの前に医師が十分にこの点を把握して,患者のIOL選択の際に情報として伝える必要がある.また,小児や認知症のある患者,迷走神経反射などのため局所麻酔が困難な患者については,あらかじめ麻酔科説明外来を受診してもらい,全身麻酔に関する説明と同意を得る.2.ライフスタイル単焦点IOLの場合,ねらい度数を決めるのに患者のライフスタイルを把握することは重要である.仕事や趣味,自動車の運転,スポーツなど,どのようなときにできるだけ裸眼でいることがメリットなのか,患者の希望を把握したうえ推奨する狙いを提案する.また,多焦点IOLを希望する場合も,仕事の内容やライフスタイル,性格,期待度によっては多焦点IOLが推奨できない場合もあるので,これらについて把握すべきである.多焦点IOLの希望者には,あらかじめ多焦点IOLの特徴や,術後の見え方の違い(単焦点IOLに比べハロー・グレアが強く,コントラスト感度の低下が起こりやすいなどデメリットを含む)についてまとめた動画を視聴してもらい,医師との最終的な度数決定の際の参考にしてもらう.3.患者の理解度初診時の面談で理解度に問題があると感じられた場合には,ICを行う日に必ず家族あるいは家族に近い第三者に来てもらうよう手配しておく.説明同意書は事前に渡しておき,ICまでに家族などとともに自宅でゆっくり眼を通してきてもらったうえで話をする.II看護師によるオリエンテーション術前後の点眼や術後の療養上の注意などは,看護師がオリエンテーションを行う.看護師から手術前点眼や手*YasuyoNishi:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕西恭代:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(39)751表1初診から白内障手術までの診療の流れ1.初診:手術適応の検討2.術前検査3.(全身麻酔の場合)麻酔科説明外来4.看護師オリエンテーション5.執刀医によるIC6.手術表2慶應義塾大学ICガイドライン1.インフォームド・コンセントについて2.目的3.対象者4.対象となる医療行為5.方法6.カルテへの記載・保管7.理解・意思の確認8.患者からICを取得できない場合9.患者が同意書に署名できない場合10.外国人など日本語が堪能でない患者の場合11.身体抑制に関する説明および同意12.麻酔科外来における全身麻酔手術説明13.反復して輸血・特定生物由来製品を投与する場合14.感染症検査を実施する場合15.説明同意書標準フォーマット16.説明同意書の作成・修正・廃止17.当ガイドラインの改廃について表3患者が若年の場合のIC対象者0歳.6歳7歳.18歳未満18歳以上親権者のみでもよい.本本人と親権者が必ず説明本人のみでもよい.人にも年齢相応の説明をを受ける.本人への説明親権者がいる場合には,することが望ましい.内容は,本人の年齢や性親権者にも説明すること格を考慮し,事前に親権が望ましい.者と相談をすること.(文献2より改変引用)表4医療行為のグレード分類と説明同意者・病院側同席者グレード123医療行為の内容侵襲度が低い医療行為(生理検査,造影剤を用いない画像検査,採血,末梢静脈路確保,抗癌剤・生物学的製剤以外の薬物治療,など)侵襲度が中等度の医療行為(造影剤を用いる画像検査,髄液検査,骨髄検査,内視鏡検査,局所麻酔を伴う手術・処置,内視鏡による手術・処置,抗癌剤治療,生物学的製剤,血管内カテーテル治療・検査,輸血療法,人工透析療法,中心静脈カテーテル挿入,身体抑制など)侵襲度が高い医療行為(全身麻酔を伴う手術,ハイリスク症例に対する治療,高難度治療,など)説明者主治医,または主担当医,または担当医など主治医,または主担当医,または担当医など主治医,または主担当医病院側同席者必ずしも同席しなくともよい看護師あるいは説明者以外の医師,その他の医療者の同席が望ましい看護師あるいは説明者以外の医師の同席を必要とする患者(家族等)の理解・意思(賛同)確認必ずしも確認しなくともよい説明者以外の医療者による確認が望ましい説明者以外の医療者による確認を必要とする文書同意必ずしも必要としない必要必要(文献2より改変引用)表5説明同意書に記載される一般事項・病名と病態(眼の解剖を含む)・手術の目的・手術の方法麻酔方法,レンズの種類,狙い・注意事項・避けられない合併症その他の不利益後.破損,Zinn小帯断裂,感染性眼内炎,駆逐性出血,術後屈折の予測誤差・当該の治療・検査に代替可能な治療・検査の有無眼鏡,コンタクトレンズについて・何も治療・検査を行わなかった場合に予想される経過・セカンドオピニオン他の医療機関でセカンドオピニオンを受けることが可能であること個人的な病状について以下の項目の通りですので疑問の点は主治医におたずねください..以下の病状がありますので,その影響で視力は通常通りには回復しない可能性があります..網膜・黄斑疾患.緑内障.糖尿病網膜症.強度近視性網脈絡膜萎縮.網膜色素変性症.不正乱視.その他().白内障の進行のため,眼底検査ができません.手術後の視力回復の程度は,眼底の状態によります.眼底に病気があった場合は,手術後に改めて,検査とご説明をさせていただきます..以下のため,眼内レンズの度数を計算する際に誤差が生じやすい可能性があります..LASIK(laserinsitukeratomileusis)などの屈折矯正手術後.PTK(PhotoThelapeuticKeratetomy,治療的角膜切除術)術後.円錐角膜.角膜移植後.白内障手術時は,瞳孔を広げて(散瞳)手術を行いますが,前立腺肥大の治療薬を内服している場合,手術中に広がっていた瞳孔が縮んで,手術の難易度が上がる可能性があります..レンズを支えるZinn小帯という組織がもろい状況が考えられます.Zinn小帯脆弱・Zinn小帯断裂という合併症をおこしやすくなります.次の合併症の項目をご覧ください..緑内障によって失われた視野は,白内障手術によって悪化する可能性はありますが,改善することはありません..その他()図1ハイリスク症例の説明同意書厚生労働省承認多焦点眼内レンズ使用をご希望の方へ以下の点については,単焦点レンズ使用の場合と異なります.説明を受けられた後,不明な点がありましたら,何でもおたずねください.【ご注意いただきたい事項等】《手術前》1.多焦点眼内レンズ説明用DVD「白内障手術と眼内レンズ」を視聴していただいた後,内容について不明な点は必ず確認してください.《手術後》2.手術後,見え方に順応するまでに3カ月.6カ月を要することがあります.3.手術後に屈折異常(近視,遠視,乱視など)がある場合には,眼鏡が必要なことがあります.眼鏡をかけたくない場合,適応があれば手術(乱視矯正手術やレーシックなど)により矯正可能ですが,その場合の費用は自費になります.4.将来的に他の眼科疾患になった場合,眼内レンズを摘出しなければならない事があります.【避けられない合併症その他の不利益】5.多焦点眼内レンズを使用しても,見るものの距離によっては眼鏡が必要なことがあります.6.多焦点眼内レンズをいれるとコントラスト感度の低下(見え方の質の低下)がおこることがあります.7.多焦点眼内レンズをいれるとグレア・ハロー(光のにじみ,ハレーションを起こしたようにみえる現象)を生じることがあります.そのため夜間の作業(例えば車の運転等)がしづらくなることがあります.8.手術中の状況によっては,挿入予定の多焦点眼内レンズではなく,単焦点眼内レンズに変更することがあります.【費用について】9.厚労省承認の多焦点眼内レンズを使用する場合,手術費用(眼内レンズ代を含む)は以下の金額となり,全額自費になります..厚労省承認の多焦点眼内レンズを使用する場合1眼あたり60万円(税別)になります..厚労省承認の乱視矯正多焦点眼内レンズを使用する場合1眼あたり63万円(税別)になります.10.入院の場合には,入院費用は自費での追加負担となります.11.合併症が生じた場合には,治療費は患者さんの負担となります.12.合併症なく手術および術前後の管理が十分に行われたにもかかわらず,患者が多焦点眼内レンズの見え方に満足せず,眼内レンズ摘出や交換を希望した場合,あるいは原因不明の視機能低下により眼内レンズ摘出や交換を希望した場合,その要用は原則全額自費担となります.図2多焦点眼内レンズの説明同意書図3ICノート
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2023年6月30日 金曜日
特殊症例(追加説明を要する症例)のインフォームド・コンセントInformedConsentinSpecialCases(RequiringAdditionalExplanations)松島博之*I白内障手術における特殊症例とは本稿では通常の白内障手術とは異なる条件が追加された,いわゆる難症例を中心に解説する.難症例にはたくさんの種類がある.少し例をあげるだけで,小瞳孔,浅前房,角膜混濁,角膜内皮障害,硬い核,成熟白内障,Zinn小帯断裂,水晶体亜脱臼,外傷性白内障,術中虹彩緊張低下症,認知障害,閉所恐怖症,聴覚障害などと枚挙にいとまがない.今回はこの中から日常診療でよく遭遇する特殊症例に絞って,筆者が実際にインフォームド・コンセント(informedconsent:IC)を活用している図を用いて解説する.特殊症例の説明をするためには,まず通常の白内障手術のことを知ってもらう必要がある.わかりやすく+効率よく説明するために,iPadにPDF化した図を用意して患者に見せながらICを行っている.PDFデータを分類して保存するアプリは多数あるが,筆者はNoteshelf(FluidTouch社)を利用している(図1).Noteshelfは手書きノートやPDFデータを保存し書き込みができるアプリで,保存しているIC図をいつでも選択してスライドショーとして見せることができるので,ICの内容をパターン化できる.ほかにもGoodNotes(APLEON)などのアプリがある.外来時間が長くなり,疲れてきたときなどに生じやすい説明の抜けを予防する効果もある.電子カルテを使用している施設では,説明内容を文書化して電子カルテ内に保存できるので,IC後のカルテの記入も短時間で可能となる.さらに,外勤に行く場合にもiPadを持参していけば同じICができるという有用性もある.最初に通常の白内障手術について理解してもらったうえで,特殊症例の解説を始める.大学病院への紹介であると前クリニックである程度説明を受けていることも多いが,実際に話を聞くと,なぜ大学病院まで白内障手術を受けにきているのか不思議に思っている患者も多い.口頭の説明だけはわかりにくいことも多いので,特殊症例のパターンもiPadに図として保存してあり,ICに活用している.ここからは,それぞれの説明内容について解説する.II通常症例のIC通常症例のICについては,他項目で解説1,2)しているので,簡単に説明する.まずは,眼球解剖は必要で,水晶体がどこにあってどのような役目をしているのか説明する.水晶体核硬度の相違は柔らかいものから硬いものまでカラー写真で用意しておき,外来で撮影した患者の水晶体と比較すると,混濁の程度を理解してもらえる(図2).核硬度を知ってもらうことは,硬い核や成熟白内障の解説前にとくに有用である.後は水晶体がカプセルに囲まれた細胞の塊で,カプセル内の混濁水晶体を破砕吸引除去して,その中にプラスチック素材の眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を入れることで水晶体の代用となることを知ってもらう(図3).通常では水晶体.*HiroyukiMatsushima:獨協医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕松島博之:〒321-0293栃木県下都賀郡壬生町北小林880獨協医科大学眼科学教室0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(31)743図1iPadを活用した白内障手術のICアプリであるNoteshelf内にいくつかのパターンの説明用図を保存し,ICに活用している.軽度中等度重度図2白内障程度の解説水晶体核硬度をカラー写真で用意しておき,外来で撮影した患者の水晶体と比較すると,混濁の程度を共有できる.白内障を削り取る眼内レンズを入れる図3通常白内障手術のIC水晶体がカプセルに囲まれた細胞の塊であり,手術ではカプセル内の混濁水晶体を破砕吸引除去して,その中に眼内レンズを入れることを説明する.あとの特殊症例の説明時に有用となる.通常の白内障手術小瞳孔図4小瞳孔の解説先にiPadで通常と小瞳孔の散瞳状態をみてもらう.その後に患者の眼を撮影した細隙灯顕微鏡写真を見せることで,自分の眼の状態が理解できる.図5前眼部OCTによる狭隅角の説明CASIA2(トーメーコーポレーション)では正常症例(左)と実症例(右)を並べて表示できるので,隅角が狭くなっていることをわかりやすく解説できる.毛様体図6狭隅角眼に対する白内障手術の効果水晶体と眼内レンズで厚みに差があることを説明し,白内障手術によって隅角が開大することを理解してもらう.通常の白内障角膜混濁のある白内障図7角膜混濁眼の解説先にCiPadで通常の白内障の状態と角膜混濁眼の白内障状態を見てもらう.その後に患者の眼を撮影した細隙灯顕微鏡写真を見せることで,自分の眼の状態が理解できる.図8角膜内皮障害の解説角膜の最内層に角膜内皮細胞があり,ポンプのように水の量をコントロールして角膜の透明性を維持していることを説明する.通常の白内障進行した白内障図9硬い核・成熟白内障の解説同様にCiPadで通常と進行した白内障状態を見てもらう.図C2の白内障程度も一緒に見せるとさらに効果的である.その後に患者の眼を撮影した細隙灯顕微鏡写真を見てもらい,自分の眼の状態を理解してもらう.通常の白内障進行した白内障図10外傷白内障の解説外傷白内障は虹彩形状が異なることを説明する.虹彩離断部に一致してCZinn小帯断裂が疑われることを理解してもらう.図11Zinn小帯断裂白内障手術のICZinn小帯の一部が断裂していると,水晶体が傾いてしまい手術操作ができない.水晶体.拡張(CTR)リングを使って補強しながら白内障手術を行う.水晶体.が取れてしまうと特殊な眼内レンズを眼内レンズが入らない強膜に固定する図12強膜内固定術のICZinn小帯断裂などで水晶体.が取れてしまうことがある.水晶体.がないと眼内レンズを入れる場所がないので,支持部が細く硬い眼内レンズを使用して,強膜に直接固定する方法を行う.■用語解説■水晶体.拡張リング(capsulartensionring:CTR):Zinn小帯断裂や脆弱によって白内障手術が困難な状況で,水晶体.をCPMMA製のリングを挿入して安定性を増し,白内障手術を可能にする補助器具.2014年C7月より国内で認可された.
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2023年6月30日 金曜日
白内障手術特殊症例のインフォームド・コンセントInformedConsentinSpecialCataractSurgeryCases鵜飼祐輝*佐々木洋*はじめに近年の白内障手術はさまざまな眼内レンズ(intraocu-larlens:IOL)が開発され,より良い視機能の獲得をめざした屈折矯正・老視矯正手術としての意味合いが大きくなった.選択できるCIOLが増えたことにより,術後視機能への期待度は高くなっている.しかし,白内障手術後には術前にはなかった不快光視現象を自覚したり,期待した視力やコントラスト感度が得られなかったりすることがある.さらに,同じCIOLを使用しても瞳孔径により術後の明視域は異なることや,残余乱視が術後視機能に大きく影響するなど,さまざまな因子が患者満足度に影響する.このような事象に関しては,術前に適切なインフォームド・コセント(informedconsent:IC)を行うことで患者の理解を得られやすい.また,患者に最適なCIOL選択もきわめて重要である.本稿では術後不快光視現象を考慮したCIC,術後に良好な視力が期待できにくい患者のCIC,近方視狙いの単焦点CIOL挿入における瞳孔径別目標屈折値のCIC,術後CIOL軸回転を生じやすいアトピー白内障のCICについて解説する.CI術後不快光視現象を考慮したIC術後不快光視現象には,グレア,ハロー,スターバーストがあり,とくに夜間の運転時に自覚され,まぶしさと視界を妨げることから不満の原因となっている.有水晶体眼や単焦点CIOL挿入眼でもグレアとスターバーストは自覚されるが,ハローを自覚することはほとんどない.低加入度数分節型CIOLのCLENTISComfort挿入眼では小型の扇状のハロー,3焦点CIOLのCPanOptixおよび連続焦点CIOLのCSynergy挿入眼では円形のハローを自覚するが,その程度はCSynergy挿入眼で強いことが報告されている1).正視眼に比べ軽度近視で不快光視現象が増強され,瞳孔径の大きい患者でも不快光視現象は強く自覚されることが報告されている2,3).図1はCLEN-TISComfortを挿入したC71歳の男性に凸レンズを負荷することで近視状態を作り,不快光視現象測定検査であるCphoticCphenomenatest(PPT)4)を施行した結果である.患者の矯正少数視力は(1.5),遠見みかけ瞳孔径は明所でC3.29Cmmであった.正視状態では比較的軽度だったスターバーストおよび扇状ハローが,近視量の増加に伴い増強していることがわかる.患者の自覚症状としても近視化に伴い「徐々に眩しさが増していく」ことを訴えた.次に,LENTISComfort挿入眼(54例C76眼,C69.0±8.6歳,瞳孔径C3.83±0.75mm),PanOptix挿入眼(35例C35眼,65.8±8.3歳,瞳孔径C4.15±0.84Cmm),Synergy挿入眼(33例C33眼,62.8±9.0歳,瞳孔径C4.05C±0.63Cmm)についてCPPT環境下での瞳孔径とCPPT測定値の関係について検討した(表1).3種CIOLともグレアと瞳孔径の間には有意な相関はなかったが,LENTISComfort挿入眼では瞳孔径が大きい症例ほど大きいハローを自覚し,Synergy挿入眼では瞳孔径が大きいほど大きく強いハローとスターバーストを自覚した.Pan-Optix挿入眼では瞳孔径と不快光視現象には有意な相関*YukiUkai&HiroshiSasaki:金沢医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕鵜飼祐輝:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学C1-1金沢医科大学眼科学講座C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(25)C7370D-0.50D-1.00D-1.50D-2.00D図1LENTIS挿入眼における屈折値ごとの不快光視現象表1不快光視現象と瞳孔径の関係IOL不快光視現象回帰式Crp値ハローサイズCy=0.0554x.0.0179C0.35<C0.05LENTIS挿入眼ハロー明度CスターバーストサイズC─C─Cn.s.n.s.スターバースト明度C─Cn.s.ハローサイズC─Cn.s.PanOptix挿入眼ハロー明度CスターバーストサイズC─C─Cn.s.n.s.スターバースト明度C─Cn.s.ハローサイズCy=1.4445x+0.2676C0.53<C0.01Synergy挿入眼ハロー明度CスターバーストサイズCy=0.1197x.0.0044Cy=0.0599x+0.3318C0.480.47<C0.01C0.01スターバースト明度Cy=0.1037x+0.1351C0.59<C0.01(logMAR)-0.30p<0.01p<0.05-0.20-0.100.00良好群(n=8)同等群(n=63)不良群(n=16)図2白内障手術前における混濁程度に対する矯正視力別の白内障手術後矯正視力図3単焦点IOL挿入眼の-3.0Dの見え方(瞳孔径2.0mm)図4単焦点IOL挿入眼の-2.5Dの見え方(瞳孔径2.0mm)図5単焦点IOL挿入眼の-2.5Dの見え方(瞳孔径3.0mm)表2アトピー白内障手術後のtoric軸回旋量翌日1週間1カ月有意差平均回旋量(°)C7.00±6.23C8.91±11.63C8.72±8.96Cn.s.表3アトピー白内障手術後のtoric軸回旋量(CTRの有無による比較)翌日1週間1カ月平均回旋量(°)CTR挿入群C4.60±3.56C4.50±3.10C3.25±0.83CTR非挿入群C7.71±6.67C10.56±13.13C10.29±9.59
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2023年6月30日 金曜日
多焦点眼内レンズ症例のインフォームド・コンセントInformedConsentinCasesUndergoingMultifocalIntraocularLensImplantation荒井宏幸*Iインフォームド・コンセント(IC)は最大の防御壁である多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)に限らず,不可逆的な処置・手術を行うにあたり,事前のインフォームド・コンセント(informedconsent:IC)はトラブルを防止する最大の防御壁であると感じている.言い換えれば「最後の砦」である.術後の不具合が発生した場合,それが想定の範囲内であれば,大きなクレームやトラブルになることはまれであるが,医療者からみれば日常的に起こりうる軽微な症状であっても,患者本人にとって想定外の不具合であれば,大きなトラブルになる可能性がある.「見え方」は感覚的な要素が多く,われわれが日常的に使用する「視力値」とは乖離があることを認識すべきであろう.手術前後の「見え方」の違いを患者本人に的確に伝えることこそが,多焦点CIOLにおけるCICの本質であると考えている.正確なCICを担保するためには,術前検査において黄斑部における微細な異常の有無を光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)などで精査しておくことが前提となる1).みなとみらいアイクリニック(以下,当院)ではパンフレットを一緒に読み進めることによって,患者の理解が深くなるように工夫している.重要なポイントにはマークを入れ,帰宅後に再度読み返すように促している(図1~3).II多焦点IOLの特殊性一般的な白内障手術とは異なり,多焦点CIOLでは「日常生活において眼鏡を使用したくない」ために手術を受ける患者が多い.術前のCICにおいて「必ずしもすべてが見えるわけではない」「必要時には眼鏡を使うこともある」など,丁寧に説明している施設も多いと思われるが,患者の本質的な願望はあくまでも「眼鏡なしでの生活」なのである.術後に正視が達成され,遠方・近方ともに良好な視力値であっても満足が得られないという,現在の技術では解決されない感覚的な要因を含むのが多焦点CIOLである.したがって,「視力」と「見え方」は異なるものであり,現在の医療で解決できるのは「視力値」を改善するものであることを理解してもらう必要がある.同時視による多焦点性を理解してもらうことは非常にむずかしいが,当院では図を作成して比較的簡潔に説明している(図4).多焦点CIOL症例において,患者から直接聞かれる不具合としては「ものがにじむ・ダブる」「夜の光が散る」が多いと思われるので,次項にてこれらに対するCICを述べる.CIII「ものがにじむ・ダブる」に対するIC一般的な多焦点CIOLは回折型であり,回折構造により集光点をC2カ所ないしはC3カ所に分散させている.映画館のスクリーンに当たる網膜には,二つないしは三つの映像が写っている状態であり,どの映像を選択するか*HiroyukiArai:みなとみらいアイクリニック〔別刷請求先〕荒井宏幸:〒220-6208神奈川県横浜市西区みなとみらいC2-3-5クイーンズタワーCC8FみなとみらいアイクリニックC0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(21)C733図1当院で用いている白内障手術用パンフレット用途に応じてC3種類のパンフレットを準備している.左から保険診療用,主として屈折矯正手術用,自費診療用である.患者の受診動機により提供するパンフレットを選別し,手術の目的をより明確に理解してもらえるように工夫している.図2インフォームド・コンセント(IC)を得るための説明の様子約C30分をかけて手術の内容や注意事項,術後の検診スケジュールなどを説明する.会話を通じて,患者の希望,性格,手術への積極性などを観察し,医師に伝える.それぞれに質問事項があれば,その場で適切に回答する.最終的な判断は医師の診察後に患者により決定してもらう.図3説明会の様子当院では定期的に手術説明会を開催している.受診することに対してハードルが高く感じている場合には,説明会のほうがより参加しやすい.執刀医自身が説明会において話をすることも重要なポイントである.手術に対する恐怖心を和らげ,術後のケアの重要性や術後検診の大切さなども伝えておく.単焦点(遠く合わせの場合)単焦点(手元合わせの場合)3焦点図4単焦点と多焦点の光配分のシェーマ多焦点CIOLによる同時視の原理をわかりやすく説明するためのシェーマ.3焦点は遠方・中間・近方のものが見えるが,それぞれの光量(色の面積)が減るため,コントラストは低下するという説明にも使用している.希望する距離のものをハッキリと見たければ,単焦点のほうがよく見えるという説明にもなっている.図5FEMTISの眼内でのイメージ図Femtosecondlaserassistedcataractsurgery(FLACS)により正円の前.切除を行い,四つのフラップを前.縁上に固定する.IOLの光学中心と瞳孔中心がほぼ一致することで,IOLの光学性能を最大限に引き出すことができる.(TeleonSurgical社CHPより転載)図6ハロー・グレアのイメージ写真ハロー・グレアがイメージしやすいように,同じ背景写真を用いている.背景写真としては,対向車のヘッドライト,満月,店舗のネオンサインなども一般的によく用いられる背景イメージである.
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2023年6月30日 金曜日
多焦点眼内レンズ症例のインフォームド・コンセントInformedConsentinMultifocalIntraocularLensCasesビッセン宮島弘子*はじめに多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)はインフォームド・コンセント(informedconsent:IC)のハードルが高いとされている.その理由は,通常の単焦点CIOLを用いる白内障手術に加え,多焦点CIOLにおいては,IOLの種類,術後の見え方の特徴,費用の説明,さらに現実的な期待度をもってもらえるような十分な説明が必要だからである.したがって,ICに要する時間を含め,患者に対応する時間は多焦点CIOLのほうが単焦点CIOLより長くなる1).このように手術前に時間を使って十分な説明をすることで,多焦点CIOL挿入例のC9割以上に高い満足度が得られるが,6~7%に不満を訴える患者があり2),その対応にさらに時間を要する場合がある.多焦点CIOLを選択し,術後の見え方に満足している患者は問題ないので,ICの鍵は,いかに不満例をゼロに近づけるかである.2008年に先進医療として導入され,約C15年を経た多焦点CIOLは,近年,新しい近方加入度,焦点数,光学デザインが加わり,患者のライフスタイルに合った選択が重視されている.また,費用面でC2020年より先進療養の全額自己負担から選定療養となり,多焦点CIOLに関する費用のみ自己負担ということで,経済的な負担が軽減した.筆者の施設では,多焦点CIOL挿入を受けた人の家族や友人の紹介で,多焦点CIOLを希望して受診する患者の割合が高くなっている.時代にあったCICを得るために,ぜひ知っておいてほしい情報や注意すべき点について説明する.CI進歩し続ける多焦点IOLの知識をアップデート眼科手術のCICは,術式が大きく変わらない限り,何年も同じ説明を繰り返すことができるが,多焦点CIOLは光学デザインが進歩を続けているため,眼科医は知識をアップデートし,説明内容を変更していく必要がある.日頃の診療において,患者が来院前にインターネットなどを通じて多焦点CIOLに関する新しい情報を得ており,診察時に眼科医レベルの質問をしてくることに驚かされることが少なくない.ICの本題に入る前に,眼科医に知っておいてほしい多焦点CIOLに関する新しい情報を紹介する.C1.PresbyopiacorrectingIOL多焦点CIOLは英語でCmultifocalIOLと訳されるが,国内で多焦点CIOLとされているCIOLすべてが,海外ですべてCmultifocalIOLとよばれているわけではない.近年,海外では老視矯正(presbyopiaCcorrecting:PC)IOLはCmultifocalIOL,焦点深度拡張型(extendedCdepthCoffocus:EDOF)を含む概念となり,学会や論文でCPCIOLという略語が多く用いられるようになっている3~5).米国眼科学会ウェブサイト(https://eyewiki.aao.org/Presbyopia-Correcting_IOLs)のCPCIOLの分類が参考になるので,抜粋したものを表1に示す.*HirokoBissen-Miyajima:東京歯科大学水道橋病院眼科〔別刷請求先〕ビッセン宮島弘子:〒101-0061東京都千代田区神田三崎町C2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(15)C727表1Presbyopiacorrecting(PC)IOLの分類1.Multifocal(多焦点)IOLs1)BifocalDi.ractive(回折型C2焦点)IOLs2)TrifocalDi.ractive(回折型C3焦点)IOLs3)Refractive(屈折型)IOLs2.ExtendedDepthofFocus(焦点深度拡張型)IOLs3.Accommodative(調節型)IOLs(https://eyewiki.aao.org/Presbyopia-Correcting_IOLsより改変引用)表2EDOFIOLの基準・症例数:100例以上で検討・コントロール:類似した背景因子の単焦点CIOL挿入例・臨床成績1.遠方矯正視力:同等2.焦点深度:logMAR0.2において.0.5D以上3.中間視力(66cm):術後C6カ月において遠方矯正下で有意に良好50%以上でClogMAR0.2以上(文献C6より改変引用)販売名CAcrysofPanOptixCClareonPanOptixCSynergyCFINEVISIONHPモデル名CTFNT00/TFNT30-60CCNWTT0/CNWTT3-6CDFR00V/DFW150-375CPODFGF加入度C3.25/2.17C─C3.5/1.75製造会社アルコンJ&JCBVI表4EDOFIOL販売名CSymfonyCVivityモデル名CDFR00V/DFW150-375CCNAET0製造会社J&Jアルコンまで良好な裸眼視力が得られる.近方に関しては,3焦点CIOLより劣るため,眼鏡を必要とする可能性が高い.参考までに,国内承認されているC3焦点CIOLの特徴をもつCIOLは,PanOptix(アルコン),Synergy(ジョンソン・エンド・ジョンソン),FINEVISIONHP(BVI社)(表3),EDOFIOLはCSymfony(ジョンソン・エンド・ジョンソン)とCVivity(アルコン)である(表4).CIII現実的な期待度を設定するIC1.見えるという感覚の個人差眼科医は,視力の数値で見え方を判断するが,多焦点IOLを挿入して感じることは,見えるという感覚の個人差が大きいことである.多焦点CIOL挿入後,多くの患者から,遠くも近くも見えて,若いころに戻ったようだという喜びの声をきく.一方,多焦点CIOLをある程度多数の患者に挿入していくと,視力検査の結果は良好でも不満を訴える患者を経験する.このような患者からわれわれ眼科医が学ぶべきことは,視力検査でCLandolt環の切れ目が判別できても,実際に見ているものがはっきりしないと感じる場合があることである.近方視力も同様で,裸眼でC1.0まで見えていても,近くが見えないと感じる場合がある.近方視の場合,Landolt環の切れ目やひらがなのC1文字がわかっても,実際に文章を読むときに,自分が以前文字を読んでいた見え方のレベルに達していないと感じるからである.ICで,多焦点CIOLは,術後に遠くが見える,近くが見えるとだけ説明すると,患者は自分が期待する見え方で受け止めがちである.すなわち,近くが見えると聞けば,本や新聞をすらすら読めると理解し,多少,文字のコントラストが薄かったり,にじんで見えると,見えないという気持ちとなり,そのことが日常生活で気になり,時間経過による順応が困難となる.手術前に,多焦点CIOL挿入後,近くは見えるけれど,人によっては多少文字が薄く見えると感じたり,眼鏡を使用したほうが見やすい場合があると説明しておくと,患者はそのレベルの期待度で手術に臨むことになる.術後の見え方が,術前の期待度と同等あるいはそれ以上であることで,多焦点CIOLを選択したことに満足してもらえる.2.夜間のグレア・ハロー多焦点CIOLの回折デザインでは,夜間のグレア・ハローを単焦点CIOLと同レベルにすることはできない.今後,多焦点CIOLの選択において,夜間のグレア・ハローが気になる患者には,回折デザインをもたないEDOFIOLの選択も検討すべきである.ただし,3焦点IOLに比べて近方の見え方は弱い.EDOFIOLでは,片眼の術後屈折を軽い近視に設定するモノビジョン法で,近方の見え方を向上させることができる.夜間に運転することが多い職業の場合,または夜間のグレア・ハローが気になる場合は,グレア・ハローが少ないCIOLを選択するのか,多少グレア・ハローがあっても,近くの見え方が良好なC3焦点CIOLを選択するか,先に述べたライフスタイルとのバランスでCIOLを決定する.C3.期待度の設定これまでの白内障手術では,混濁した水晶体を摘出し,IOLを挿入することで視力が改善するので,術後の見え方への期待度を考える必要がなかったといっても過言ではない.しかし,多焦点CIOLは,眼鏡への依存度を減らすことができ,患者にとっては差額を支払って遠くも近くも見えるCIOLを選択したということで,術後の見え方に対して,それなりの期待度をもつのは当然だと考える.最初に述べたように,挿入後に多くの患者が満足して快適な日常生活を送っている多焦点CIOLなので,1例でも不満例を減らすCICが重要である.海外では老視矯正目的で,水晶体混濁がない,あるいは混濁が非常に軽度な患者にもCPCIOLが使用されている.日本では,多焦点CIOLを挿入する患者のほとんどが白内障例なので,手術後に視力が改善する確率は非常に高く,そこで不満をもつのは,明らかに手術前に説明をきいて理解していた見え方,すなわち期待度より術後の見え方が劣っているからである.今回C2種類に分けたC3焦点IOLとCEDOFIOLの特徴を理解し,ぜひ患者のライフスタイルにあったCIOLを選択することで,多焦点CIOLを希望する患者に,よりよい生活の質(qualityoflife:QOL)を提供していただければと願う.730あたらしい眼科Vol.40,No.6,2023(18)
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