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皮膚疾患に伴うぶどう膜炎に対するバイオ治療薬と治療戦略

2023年8月31日 木曜日

皮膚疾患に伴うぶどう膜炎に対するバイオ治療薬と治療戦略BiologicsandTreatmentStrategyforUveitisResultingfromSkinDisorders柳井亮二*はじめに皮膚疾患に対するバイオ治療薬として,アトピー性皮膚炎や乾癬に対する生物学的製剤やヤヌスキナーゼ(Januskinase:JAK)阻害薬が登場し,皮膚科領域においても難治例に対する治療戦略が大きく変わろうとしている.皮膚疾患に伴うぶどう膜炎としては,乾癬によるぶどう膜炎が古くから知られている.乾癬に対する治療は生物学的製剤の導入により大きく進歩しており,眼科医として最新の情報を把握しておく必要がある.本稿では,ぶどう膜炎を伴う皮膚疾患として乾癬を取りあげ,バイオ治療薬を含めた治療戦略について概説する.I乾癬とは皮膚の表皮角化細胞の増殖あるいは角質の.離障害によって角質肥厚をおもな病態とする疾患群を角化症という1).角化症のなかで著明な炎症所見を呈する代表疾患が乾癬である(図1).従来,乾癬は皮膚のみに症状を呈する慢性疾患とみなされてきたが,近年,乾癬の病態がより明らかとなることで,皮膚疾患にとどまらない全身性炎症性疾患として捉えられるようになってきた.ぶどう膜炎のほか,関節炎やうつ病などの精神疾患,心血管障害などが乾癬に合併することが明らかとなり,皮膚科以外の診療科における乾癬診療の重要性が高まった.台湾で行われたコホート研究では,ぶどう膜炎がある患者は健常者に比べ乾癬の発症リスクが1.41倍高いことが報告されている2).逆に,乾癬性関節炎を伴う重症乾癬表1乾癬の病型病型頻度概要尋常性乾癬関節症性乾癬乾癬性紅皮症85.90%5.10%1%程度もっとも多い通常の病型.局面型乾癬尋常性乾癬に乾癬性関節炎を合併した病型体表面積の90%以上に乾癬の皮疹が広がった状態膿疱性乾癬1%程度全身症状とともに全身皮膚に膿疱形成を伴う潮紅を生じる特殊形で指定難病(急性)滴状乾癬数%程度おもに小児と若年成人に発症.一過性では,ぶどう膜炎の発症リスクが2.4倍高くなることも示されている3).乾癬の罹患率は欧米では2.3%と高く,日常的にみられる疾患と考えられるが,わが国の罹患率は0.4%で欧米よりも低いと報告された4).しかし,近年の食生活や生活スタイルの変化に伴い,患者数は増加傾向であると考えられている.乾癬の病型は,臨床的に5病型に大別されるが(表1,図1),一般的に「乾癬」という場合にはもっとも頻度の高い尋常性乾癬を意味している.II乾癬に対する治療乾癬の治療薬は外用薬,経口薬,注射薬(生物学的製剤)が導入されており,さらに局所治療として光線療法が併用される(図2)1,5).重症例の全身治療としては,*RyojiYanai:山口大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕柳井亮二:〒755-8505山口県宇部市南小串1-1-1山口大学大学院医学系研究科眼科学0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(33)1019尋常性乾癬乾癬性紅皮症膿疱性乾癬関節症性乾癬(乾癬性関節炎:PsA)図1乾癬の臨床像(山口大学大学院医学系研究科皮膚科学講座山口道也先生のご厚意による)表2乾癬で使用可能な生物学的製剤1(TNF阻害薬・IL-17阻害薬)標的CTNFaIL-17AIL-17受容体CACIL-17A/F薬剤名(商品名)インフリキシマブ(レミケード)アダリムマブ(ヒュミラ)セルトリズマブ(シムジア)セクキヌマブ(コセンティクス)イキセキズマブ(トルツ)ブロダルマブ(ルミセフ)ビメキズマブ(ビンゼレックス)構造キメラ型モノクローナル抗体ヒト型モノロクローナル抗体ペグヒト化モノロクローナル抗体ヒト型モノロクローナル抗体ヒト化モノロクローナル抗体ヒト型モノロクローナル抗体ヒト化モノロクローナル抗体注射形態静脈注射皮下注射皮下注射皮下注射皮下注射皮下注射皮下注射承認年月2010年C1月2010年C1月2019年C12月2014年C12月2016年C7月2016年C6月2022年C1月乾癬の適応症尋常性乾癬関節症性乾癬膿疱性乾癬乾癬性紅皮症尋常性乾癬関節症性乾癬膿疱性乾癬尋常性乾癬関節症性乾癬膿疱性乾癬乾癬性紅皮症尋常性乾癬関節症性乾癬膿疱性乾癬尋常性乾癬関節症性乾癬膿疱性乾癬乾癬性紅皮症尋常性乾癬関節症性乾癬膿疱性乾癬乾癬性紅皮症尋常性乾癬膿疱性乾癬乾癬性紅皮症ぶどう膜炎の適応症Behcet病非感染性ぶどう膜炎C─C─C─C─C─表3乾癬で使用可能な生物学的製剤2(IL-12/23阻害薬)標的CIL-12/23p40CIL-23Cp19薬剤名(商品名)ウステキヌマブ(ステラーラ)グセルクマブ(トレムフィア)リサンキズマブ(スキリージ)チルドラキズマブ(イルミア)構造ヒト型モノクローナル抗体ヒト型モノロクローナル抗体ヒト化モノロクローナル抗体ヒト化モノロクローナル抗体注射形態皮下注射皮下注射皮下注射皮下注射承認年月2011年C1月2018年C3月2019年C3月2020年C6月乾癬の適応症尋常性乾癬関節症性乾癬膿疱性乾癬乾癬性紅皮症尋常性乾癬関節症性乾癬膿疱性乾癬尋常性乾癬関節症性乾癬膿疱性乾癬乾癬性紅皮症尋常性乾癬関節症性乾癬膿疱性乾癬乾癬性紅皮症ぶどう膜炎の適応症C─C─C─C─C~表4乾癬で使用可能なJAK阻害薬標的CJAK1CTYK2薬剤名(商品名)ウパダシチニブ(リンヴォック)デュークラバシチニブ(ソーティクツ)用法・用量15CmgをC1日C1回経口投与6CmgをC1日C1回経口投与承認年月2021年C5月2022年C9月乾癬の適応症関節症性乾癬尋常性乾癬尋常性乾癬膿疱性乾癬ぶどう膜炎の適応症C─C─C図3乾癬の病態カスケードと生物学的製剤の標的サイトカイン(文献C5より改変)表5日本人の乾癬性ぶどう膜炎の特徴平均年齢C43.6±7.1歳性別男10例,女性3例尋常性乾癬54%C乾癬の病型(重複あり)関節症性乾癬膿疱性乾癬31%C23%C乾癬性紅皮症C8%・発症形式急性発症85%Cぶどう膜炎の病型(1C9眼)潜行性・分類前部ぶどう膜炎汎ぶどう膜炎併発15%92%C8%C・炎症再燃C69%ステロイド点眼100%Cデキサメタゾン結膜下注射54%治療(重複あり)ステロイド内服免疫抑制薬内服31%C54%C生物学的製剤46%HLA-A2陽性率C100%(6/6例)(文献C7より引用)図4乾癬性ぶどう膜炎(57歳,女性)乾癬性ぶどう膜炎による再発性慢性虹彩毛様体炎のため,虹彩後癒着を生じ,散瞳不良となっている.治療は眼科よりステロイド点眼,ステロイド内服のちアダリムマブを導入した.アダリムマブ導入後はぶどう膜炎の再燃はみられない.皮膚科からはビタミンCD・ステロイド配合軟膏による局所治療が行われていたが,アダリムマブ導入後は乾癬の皮膚症状も改善した.(広島大学原田陽介先生のご厚意による)有効図5乾癬性ぶどう膜炎に対する治療戦略(私見)

強直性脊椎炎に伴うぶどう膜炎に対するバイオ治療薬と治療戦略

2023年8月31日 木曜日

強直性脊椎炎に伴うぶどう膜炎に対するバイオ治療薬と治療戦略BiotherapeuticsandTreatmentStrategyforAnkylosingSpondylitisAssociatedUveitis佐田幾世*原田陽介*はじめに強直性脊椎炎(ankylosingspondylitis:AS)は,若年男性に多く発症し,脊椎,仙腸関節,股関節,肩などの関節に炎症を起こす疾患である.また,ヒト白血球抗原(humanleukocyteantigen:HLA)-B27と関連しており,日本では比較的まれな疾患である.関節外症状は,眼,心血管,肺,消化管,皮膚など多様であるが,ぶどう膜炎の合併が最多であり,実際,眼科受診をきっかけにASと診断されることも多々ある.ほとんどのASに伴うぶどう膜炎は,局所的なステロイド治療に速やかに反応するが,治療に抵抗する場合は,腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor:TNF)阻害薬などの治療法が近年開発されている.今回,ASに伴うぶどう膜炎の最近の知見と治療法について紹介する.I分類脊椎関節炎の分類を図1に示す.脊椎関節炎(spondy-loarthritis:SpA)は,炎症が付着部に集中することやHLA-B27遺伝子の関与などの共通点をもつ一連の疾患である.この中でもSpAは体軸性(axial)と末梢性(peripheral)に大別される.体軸性SpAには,X線検査で仙腸関節炎を有する強直性脊椎炎(ankylosingspondylitis:AS)(体軸性脊椎関節炎radiographicaxialspondyloarthritis:r-axSpAともよばれる)と,X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎(nonradiographicaxialspondyloarthritis:nr-axSpA)がある.末梢性SpAには,乾癬性関節炎(psoriaticarthritis:PsA),反応性関節炎(reactivearthritis:ReA),炎症性腸炎関連関節炎(in.ammatoryboweldiseaseassociatedarthri-tis:IBD-SpA),分類不能脊椎関節炎(undi.erentiatedspondyloarthritis:uSpA)が含まれる.以前は,AS(r-axSpA)の診断に「改訂ニューヨーク基準」が用いられてきたが,この基準ではnr-axSpAの早期診断が困難であると指摘されていた1).2009年,国際脊椎関節炎評価会(AssessmentofSpondyloArthri-tisinternationalSociety:ASAS)は,体軸性SpAの新しい分類基準を提唱し2)(図2),これによりnr-axSpAの分類や治療介入が可能となった.しかし,実際には,体軸性と末梢性の症状が共存することが多く,各疾患のオーバーラップも少なくないため,診断確定には困難な面がある.そのため,提唱された分類基準は,特異度が高くなるように設定されたものであり,「診断基準」とは異なる.AS(r-axSpA)とnr-axSpAは,臨床症状,併存疾患,治療への反応に関してほぼ同様であることが示されている3).このような情報を念頭に置いて,正確な情報収集と評価が必要とされる.II疫学AS(r-axSpA)の発症頻度は,欧米では成人の0.5~1%とされているが,わが国では0.02~0.03%と非常にまれな疾患であり,実際には3万人前後が罹患していると考えられている.2018年の全国疫学調査によると,日*IkuyoSada&YosukeHarada:広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学(眼科学)〔別刷請求先〕佐田幾世:〒734-8553広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学(眼科学)0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(25)1011体軸性脊椎関節炎末梢性脊椎関節炎(axSpA)(pSpA)■3カ月以上持続する腰背部痛があり,発症が45歳未満の患者仙腸関節炎の画像所見*+または一つ以上の脊椎関節炎徴候*画像所見・MRI所見で仙腸関節炎を強く示唆する活動性(急性)炎症または・改訂ニューヨーク基準のX線基準を満たす仙腸関節炎HLA-B27+lHLA-B27以外の二つ以上の脊椎関節炎の徴候脊椎関節炎の徴候・ぶどう膜炎・炎症性腰背部痛・関節炎・付着部炎(踵骨)・指趾炎・乾癬.Crohn病/潰瘍性大腸炎.NSAIDsに対する良好な反応.HLA-B27.CRP陽性図2AssessmentofSpondyloArthritisinternationalSociety(ASAS)による体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎を含む)の分類基準(文献2より一部改変)本国内の患者数は推定C3,200人と報告された4).また,2016年には,国の特定難病として指定されている.HLA-B27は,ASの発症リスクをC16倍増加させ1,5),また急性前部ぶどう膜炎とも関連しており,そのリスクをC23倍増加させると報告されている6).ASはCHLA-B27の分布に一致して地理的に不均一な疾患であり,一般人口におけるCHLA-B27保有率は,米国でC6.1%,中国でC1.8%であるのに対し,日本ではC0.3~0.5%程度とされている.海外の研究でCAS患者のC8割以上がHLA-B27保有者とされる一方で,わが国の研究では,AS患者のうちCHLA-B27陽性率がC78%だったという報告があるが7),1.3%であったという報告もあり,地域差が著しく,頻度差を考慮する必要があるとの指摘がある.ASは男女比約3:1で男性に多く,nr-axSpAは女性に多いとされる.女性では発症が遅く,軽症例が多いとされる.また,喫煙との関与も指摘されている.わが国では比較的まれな疾患であるため,リウマチや整形外科において,発症初期は通常の腰痛や関節リウマチなどと診断され,フォローされる例も少なくない.CIII臨床症状ASはC10~20代で発症し,20~30代に病勢がピークを迎え,40代に入ると徐々に鎮静化するのが一般的である.症状の特徴は,3カ月以上続く炎症性腰背部痛であるが,殿部痛,頑固な腰痛,背部痛など不定愁訴的な訴えも多く,他疾患との鑑別が重要となる.進行速度が遅く,初発から診断確定までC9年前後かかる場合もある.ASの腰背部痛は,初期には痛みが強い時期(数日から数週間)とまったく痛みがない時期の波が激しく,安静では改善せず,動くと改善するのが特徴的で,「炎症性腰背部痛」とよばれる.ASの早期発見には,いくつかのキラーワードがあり,「腰や股関節の痛みで夜間に目が覚める」「運動したら緩和する関節痛」などの訴えがあげられる.これらの症状がある場合は,速やかにリウマチ膠原病内科への紹介が必要である.40代に入ると痛みは徐々に鎮静化し,痛みの訴えが減る一方で,脊椎や関節の運動制限,拘縮や強直が目立つようになり,こわばりと倦怠感などが主体となるため8),年代別での訴えの変化に注意が必要である.筆者らも,片眼性の急性前部ぶどう膜炎患者に対しては,初診時から慎重に腰痛の有無や痛みの性状を聴取している.とくにC40代以降では,腰痛を訴えない例もあり,視診で脊椎や関節の拘縮や強直がないか注意深く観察し,少しでも疑わしい場合は,速やかに骨盤部CX線撮影を施行するとともに,X線所見が認められない場合でも,nr-axSpAの可能性を考慮し,リウマチ膠原病内科への紹介を行っている.CIV検査ASの体軸病変は通常,仙腸関節,下部腰椎から上方へと進展する.「改訂ニューヨーク基準」では,仙腸関節のCX線変化を,0度:正常,1度:疑い(骨縁の不鮮明化),2度:軽度(小さな限局性の骨びらん・硬化.関節裂隙は正常),3度:明らかな変化(骨びらん・硬化の進展と関節裂隙の拡大,狭小化または部分的な強直),4度:関節裂隙全体の強直,に分けており,おおむねこのグレード順に進行する(図3).脊椎のCX線変化は,まず椎体の靱帯付着部にびらん性変化による方形化(squaring)がみられ,その後,脊椎の垂直方向に起こる骨新生による靱帯骨棘(syndesmophytes)が形成され,左右対称性の椎体間架橋,脊椎強直(ankylosis)の順に進行する.靱帯骨棘の存在は,より多くの靱帯骨棘が発生するリスクが高いことを反映し,予後的価値があるとされる.ASの前段階であるCnr-AxSpAでは,MRIのCSTIR画像で骨髄浮腫を示唆する高信号領域と骨びらんの存在が診断のカギとなる.しかし,骨髄浮腫は,オーバーユースや外傷でもみられるため,注意が必要である.仙腸関節と脊椎のCMRIは,軸索の炎症の有無を評価できるが,臨床的な疾患活動性と炎症の関連はわずかであり,モニタリングには推奨されていない.ASの分類基準の項目には(図2),仙腸関節炎の画像所見の有無があげられ,MRI上の活動性(急性)の炎症がCSpAに関連する仙腸関節炎を強く示唆しているか,あるいは「改訂ニューヨーク基準」に基づいて確定したCX線基準を満たす仙腸関節炎である必要がある.そのため,MRI画像における炎症所見の有無は,AS診断において重要な指標とされる.(27)あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023C1013図3強直性脊椎炎(AS)の骨盤部X線とMRI63歳,男性.左右交互に再発する急性前部ぶどう膜炎で紹介になった.最近,両膝関節痛が出現していた.骨盤部X線正面像では,両側仙腸関節のびらんがあり(),骨盤部CMRIでは,脂肪抑制CT2強調像で仙骨,両側腸骨の仙腸関節部に高信号域があり(),辺縁に硬化性変化を伴う仙腸関節炎を認め,ASと診断された.その後,アダリムマブ投与開始となった.図4強直性脊椎炎(AS)に対する治療中に再発した急性前部ぶどう膜炎(左眼)48歳,男性.5年前から急性前部ぶどう膜炎を左右交互に繰り返すため紹介となった.ASの既往があり,アダリムマブ加療中だったが左眼の眼痛,充血,前房内炎症細胞C3+が出現し,レミケードへ変更された.表1強直性脊椎炎(AS)に有効性が示されている生物学的製剤とASに伴うぶどう膜炎への効果一般名製品名分類CASへの効果わが国でのAS保険適用ASぶどう膜炎ヘの効果Cインフリキシマブ(IFX)レミケードキメラ型抗ヒトCTNFCaモノクローナル抗体C○C○C○インフリキシマブCBS(バイオシミラー)C○C○C○TNF阻害薬アダリムマブ(ADA)ヒュミラヒト型抗ヒトCTNFCaモノクローナル抗体C○C○C○セルトリズマブペゴル(CZP)シムジアペグ化ヒト化抗ヒトCTNFCaモノクローナル抗体C○C─C○ゴリムマブ(GLM)シンポニーヒト型抗ヒトCTNFCaモノクローナル抗体C○C─C○エンブレル完全ヒト型可溶性CTNFCa/LTaレ○C─ぶどう膜炎惹起の可能性ありエタネルセプト(ETN)エタネルセプトCBSCセプターC○C─Cセクキヌマブ(SEC)コセンティクスヒト型抗ヒトCIL-17Aモノクローナル抗体C○C○前部ぶどう膜炎のリスクありIL-17阻害薬イキセキズマブ(IXE)トルツヒト化抗ヒトCIL-17Aモノクローナル抗体C○C○C─ブロダルマブ(PDL)ルミセフヒト型抗ヒトCIL-17受容体CAモノクローナル抗体C○C○C─CJAKウパダシチニブ(UPA)リンヴォックヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬C○C○C─阻害薬トファシチニブ(TOF)ゼルヤンツヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬C○C─C─CETN)は,海外ではCASへの有効性が示されているものの,わが国ではCASに対する承認はまだされていない.しかし,AS以外の関節リウマチなどではすでに承認,使用されており,一般診療において眼科医が遭遇する機会も多々ある.IL-17阻害薬に関しては,わが国では現在,ASに対してセクキヌマブ(secukinumab:SEC),イキセキズマブ(ixekizumab:IXE),ブロダルマブ(brodalum-ab:PDL)のC3剤が承認されている.どの薬剤も有効性はおおむね同様であり,ASではCTNF阻害薬と同等の有効性を示している21,22).さらに生物学的製剤で効果不十分の場合には,ヤヌスキナーゼ(Januskinase:JAK)阻害薬が推奨される.ASでは,ウパダシチニブ(upadacitinib:UPA)とトファシチニブ(tofacitinib:TOF)の有効性が実証されており,わが国では,2022年C5月からCUPAが承認されている.JAK阻害薬は,サイトカインシグナルを媒介する細胞内キナーゼのCJAKを標的とする分子標的合成抗リウマチ薬である.ASでは,現在までに関連性のある比較試験が行われておらず,TNF阻害薬,IL-17阻害薬とCJAK阻害薬のいずれを優先するかについては,結論は出ていない.CIXASに伴うぶどう膜炎の治療ASに伴うぶどう膜炎の治療は,局所的なコルチコステロイドと散瞳薬点眼の併用治療が中心である.難治性の場合や後眼部病変を併発した場合には,トリアムシノロンアセトニドの後部CTenon.下注射や副腎ステロイドの全身投与が有効である.さらに無効例や治療抵抗例には,2016年C9月に眼科領域として非感染性の中間部・後部・汎ぶどう膜炎に保険適用となった,TNFCa阻害薬の一つであるCADAの使用が考慮される.海外でCASに伴うぶどう膜炎に有効性が示されているのは,モノクローナルCTNF阻害薬であるCIFX,ADA,CZP,GLMである.これらの薬剤は,ASに伴う前部ぶどう膜炎のフレアを減らし23),ぶどう膜炎の既往患者では,再発予防効果があることが報告されている.また,IFXやCADAによる治療は,IL-17阻害薬であるSECやCTNF可溶性受容体抗体であるCETNと比較して,ぶどう膜炎の発症リスクが低いことが示されている.一方,ETNによるぶどう膜炎惹起の報告もある24).ETNは,その作用機序からマクロファージなどのCTNF産生細胞を傷害しないため,他の炎症性サイトカインの産生が続き,炎症を惹起する可能性があるとされている.SECは,非感染性ぶどう膜炎患者において有効性の検証が試みられたが,有効性が示されず,IL-12/23阻害薬のウステキヌマブを用いた第CII相試験が現在進行中である.最近の報告では,SpAの臨床で使用される場合に,SECは,モノクローナルCTNF阻害薬と比較して,前部ぶどう膜炎のリスクが高く,ETNと比較して同程度のリスクであると報告されている25).以上より,モノクローナルCTNF阻害薬は,ETNやSECと比較して,ASにおけるぶどう膜炎を予防するため,より効果的な選択肢であるされている.おわりにASASなどは,ぶどう膜炎を伴うCAS患者には,モノクローナルCTNF阻害薬を優先する必要があると勧告している.ASの治療薬として,わが国では近年,TNFCa阻害薬,IL-17阻害薬,JAK阻害薬が承認されてきたが,このうちCASに伴うぶどう膜炎に有効性が示されている薬剤はCADA,IFXある.TNF可溶性受容体抗体であるCETNはぶどう膜炎の惹起の可能性があり,IL-17阻害薬CSECは前部ぶどう膜炎のリスクがあるため注意が必要である.ASに伴う前部ぶどう膜炎の治療の際には,リウマチ膠原病内科との連携が必須であるが,前述のCASぶどう膜炎に対する有効な薬剤は限られているため,眼科医が薬剤の副作用や機序を把握し,ぶどう膜炎を認める場合はリウマチ膠原病内科医に,薬剤選択の際に治療方針について提案する必要がある.文献1)vanderLindenS,AValkenburgH,CatsAetal:Evalua-tionCofCdiagnosticCcriteriaCforankylosingCspondylitis:aCproposalformodi.cationoftheNewYorkcriteria.CArthri-tisRheum27:361-368,C19842)RudwaleitCM,CvanCderCHeijdeCD,CLandeweCRCetal:TheCdevelopmentCofCassessmentCofCspondyloarthritisCinterna-tionalCsocietyCclassi.cationCcriteriaCforCaxialCspondyloar-(31)あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023C1017–’C

強膜炎に対するバイオ治療薬と治療戦略

2023年8月31日 木曜日

強膜炎に対するバイオ治療薬と治療戦略TherapeuticStrategyforScleritisUsingBiologics八幡信代*はじめに強膜炎は強膜を中心とした炎症性疾患で,眼内炎症を伴う強膜ぶどう膜炎はぶどう膜炎初診患者の4~5位と頻度の高い疾患である1).前頭部や頬部へ放散する強い眼痛を伴い,眼球穿孔や視神経萎縮などにより高度の視力障害に至ることもあり,多くは慢性炎症の経過をとる2).30~40%は関節リウマチなどの全身炎症性疾患を伴っており,眼局所治療,消炎鎮痛薬,副腎皮質ステロイド全身投与のみでは炎症コントロールが困難な患者も少なくない3).これらの治療に抵抗性を示す場合には免疫抑制薬や生物学的製剤などの併用が必要となる.近年の生物学的製剤開発の進歩により,全身炎症性疾患の治療は大きく変わってきており,強膜炎に対する生物学的製剤治療の知見も蓄積してきている4).本稿では,難治性強膜炎に対する生物学的製剤を含めた今後の治療戦略について考える.I強膜炎と全身炎症性疾患強膜炎は病型より前部強膜炎(びまん性,結節性),壊死性強膜炎,後部強膜炎に分類される(図1)2,5).びまん性前部強膜炎はもっとも高頻度であり,全体の60~75%を占める5).また,壊死性強膜炎は強膜穿孔のリスクが高く,後部強膜炎は視神経・網膜障害による高度の視力障害をきたすリスクがあることから,いずれも速やかな治療導入が必要である.さらに強膜炎はその原因により感染性,非感染性,術後強膜炎に分類され,非感染性がその多くを占める.非感染性強膜炎の中で関節リウマチや抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilcytoplasmicantibody:ANCA)関連血管炎,多発性軟骨炎,炎症性腸疾患などの全身炎症性疾患の合併が40%にみられる(表1)3,6,7).とくに壊死性強膜炎はANCA関連血管炎をはじめとした全身炎症性疾患の合併率が80%前後と高頻度である(表2)5).このため,ステロイド点眼治療のみでは眼痛や炎症のコントロールが困難な患者が多く,全身治療の併用が必要となることが多い.一方,後部強膜炎の80%は全身炎症性疾患の合併がみられないが,その多くは全身治療を要する(表3).強膜ぶどう膜炎に対して保険適用のある全身治療薬は非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidalanti-in.amma-torydrugs:NSAIDs),副腎皮質ステロイドのほか,カルシニューリン拮抗薬であるシクロスポリン,生物学的製剤として腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor:TNF)阻害薬の一つであるアダリムマブである.さらに,合併する全身炎症性疾患に対する保険適用薬の使用が可能である.メトトレキサート(methotrexate:MTX)は強膜炎に対する保険適用はないが,国内外では副腎皮質ステロイドに次いでよく用いられており,ステロイド治療抵抗例,ステロイド減量中に再発する患者に有効である7,8).強膜炎にもっとも合併する関節リウマチの第一選択薬であることを鑑みると理にかなっている.しかし,MTXの併用でもコントロール不十分な患*NobuyoYawata:九州大学大学院医学研究院眼病態イメージング講座〔別刷請求先〕八幡信代:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼病態イメージング講座0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(17)1003図1強膜炎分類a:びまん性前部強膜炎.b:結節性前部強膜炎.c:壊死性強膜炎.d:後部強膜炎(エコー画像).表1強膜炎に合併するおもな全身炎症性疾患表2全身炎症性疾患の合併率5)びまん性前部結節性前部壊死性後部C35.7%C29.6%C80%C19.3%表3全身治療を要した強膜炎の割合3,5,7,19)びまん性前部結節性前部壊死性後部全身ステロイド治療免疫抑制薬生物学的製剤33~C37%14~C23%3~1C4%14~C29%<7C%<C13%20~C70%70~C100%<C17%C80~C83%17~C33%5%C図2強膜炎炎症にかかわる細胞と生物学的製剤表4強膜炎に合併するおもな全身炎症性疾患に対してわが国で保険適用のある生物学的製剤,免疫抑制薬生物学的製剤免疫抑制薬など関節リウマチTNF阻害薬,IL-6阻害薬,CTLA-4-Ig製剤MTX,タクロリムス,JAK阻害薬ANCA関連血管炎IL-6阻害薬,CDC20阻害薬(一部)アザチオプリン,シクロホスファミド再発性多発軟骨炎MTX,シクロホスファミド,アザチオプリン,シクロスポリン潰瘍性大腸炎TNF阻害薬アザチオプリン,タクロリムス,JAK阻害薬C関節リウマチと診断図3関節リウマチ治療フローチャート副腎皮質ステロイド,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を補助的治療とする.MTX:メトトレキサート.(文献C11より改変)非感染性強膜炎と診断全身炎症性疾患の検索への治療でみられるように,パラドキシカル反応が多いようである.また,投与の持続が必要なケースが多く,無治療寛解を持続できる患者は限られている.TNF阻害薬無効例や二次無効のケースに対しては他のCTNF阻害薬や生物学的製剤への切り替えが行われている.CD20阻害薬はわが国でも保険適用となっている多発血管炎性肉芽腫症を合併した難治性強膜炎を中心とした報告がみられ,90%以上の寛解率を示している15,16).これらの症例は従来治療であるCMTXやシクロホスファミドなどの免疫抑制薬に抵抗性を示した症例に直接導入したケースと,TNF阻害薬に抵抗性を示したために導入したケースがみられる.このほか,IL-1阻害薬はCTNF阻害薬抵抗性の難治性強膜炎に奏効し,ステロイド投与量も大幅に減量できたという報告がある.IL-6阻害薬による強膜炎治療の報告は少ないが,免疫抑制薬やCTNF阻害薬に抵抗性の強膜炎の一部で炎症コントロールやステロイド減量に奏効しており,とくに既存治療に抵抗性の再燃性多発軟骨炎合併例での報告がみられる.生物学的製剤の多様な選択肢が増えている現在,難治性強膜炎は,まず背景にある全身炎症性疾患に基づいた戦略をとるのがよいであろう.これまでの知見をもとに作成した非感染性強膜炎治療のフローチャートを図4に示す.強膜炎は多様な全身炎症性疾患を背景にもつため,その治療選択はより複雑である.また,全身炎症性疾患はコントロールされているにもかかわらず,強膜炎のみ活動性が高いケースに遭遇することも少なくない.さらに強膜炎の約半数には明らかな全身炎症性疾患の合併がみられないため,血液中炎症マーカーなども参考に眼科主導で治療を進めることが多くなるが,これらの場合も膠原病内科などとの連携体制の下で治療を進めることが望ましい.CVI今後の課題生物学的製剤の台頭により以前と比べて強膜炎に対する治療選択肢が増えてきたが,強膜炎そのものに対する適応薬は限られている.また,全身炎症性疾患に対する複数の生物学的製剤の選択基準はまだ確立していない.これは各病型や治療抵抗性に関与する炎症病態やバイオマーカーがまだよくわかっていないためである.近年,炎症局所の微量検体から遺伝子・蛋白発現解析が可能なシングルセル解析技術が進歩し,関節リウマチでは関節腔内の局所炎症の病態解明が進んでいる.局所炎症病態に合った治療を選択することで,より高い治療効果を期待できることが報告されている17,18).難治性強膜炎の治療戦略の確立にも今後まだ多くの臨床からの知見が必要である.さらにそれによって多様な強膜炎の病態への理解が進むと考える.また,現在多様な治療薬によって多くのケースでは炎症コントロールは可能になってきているが,drug-free寛解が可能なケースは限られている.Drug-free寛解のバイオマーカー,再燃予測バイオマーカーが明らかになれば,副作用や医療負担軽減にも大きく貢献するであろう.文献1)SonodaCKH,CHasegawaCE,CNambaCKCetal:EpidemiologyCofCuveitisCinJapan:aC2016CretrospectiveCnationwideCsur-vey.JpnJOphthalmolC65:184-190,C20212)WatsonCPG,CHayrehSS:ScleritisCandCepiscleritis.CBriJOphthalmolC60:163-191,C19763)JabsDA,MudunA,DunnJPetal:Episcleritisandscleri-tis:clinicalfeaturesandtreatmentresults.AmJOphthal-molC130:469-476,C20004)SotaJ,GirolamoMM,FredianiBetal:Biologictherapiesandsmallmoleculesforthemanagementofnon-infectiousscleritis:aCnarrativeCreview.COphthalmolCTherC10:777-813,C20215)SainzCdeClaCMazaCM,CMolinaCN,CGonzalez-GonzalezCLA,CDoctorCPPCetal:ClinicalCcharacteristicsCofCaClargeCcohortCofCpatientsCwithCscleritisCandCepiscleritis.COphthalmologyC119:43-50,C20126)Wake.eldCD,CDiCGirolamoCN,CThurauCSCetal:Immuno-pathogenesisCandCmolecularCbasisCforCtherapy.CProgCRetinCEyeRes35:44-62,C20137)TanakaCR,CKaburakiCT,COhtomoCKCetal:ClinicalCcharac-teristicsandocularcomplicationsofpatientswithscleritisinJapanese.JpnJOphthalmolC62:517-524,C20188)SainzCdeClaCMazaCM,CMolinaCN,CGonzalez-GonzalezCLACetal:Scleritistherapy.OphthalmologyC119:51-58,C20129)StemCMS,CTodorichCB,CFaiaLJ:OcularCpharmacologyCforscleritis:reviewoftreatmentandapracticalperspective.JOculPharmacolTher33:240-246,C201710)Sarzi-PuttiniCP,CCeribelliCA,CMarottoCDCetal:SystemicCrheumaticdiseases:Frombiologicalagentstosmallmole-cules.AutoimmunRevC18:583-592,C20191008あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023(22)-

Vogt-小柳-原田病に対するバイオ治療薬と治療戦略

2023年8月31日 木曜日

Vogt-小柳-原田病に対するバイオ治療薬と治療戦略BiologicTherapiesandTreatmentStrategiesforVogt-Koyanagi-HaradaDisease出口英人*はじめにVogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Harada:VKH)は日本におけるぶどう膜炎の原因疾患において,サルコイドーシスに次いで頻度の高い疾患であり,両眼性の汎ぶどう膜炎を生じる疾患である.日本ではステロイドパルス療法,それに続くステロイド内服漸減療法が一般的に行われる1).ステロイド治療により多くの患者では寛解が得られるが,治療抵抗性の患者や,いったん寛解してもステロイドの漸減により再発し,炎症が遷延する患者もみられる.従来はそのような患者に対してはシクロスポリン(cyclosporine:CsA)の併用が行われていたが,2016年より難治性の非感染性ぶどう膜炎に対し,アダリムマブ(adalimumab:ADA)が使用できるようになり,VKHにおけるADAの効果に関する報告が少しずつ蓄積されてきている.本稿ではVKHの疫学,病態,治療方針,VKHに対するADAの効果に関する報告,当院での使用方法とその問題点,今後の課題について概説する.IVKHの疫学,病態VKHはアジア系やヒスパニック系,中東系の有色人種に多いとされ,髄膜炎症状,聴覚異常,皮膚の異常知覚,両眼性の汎ぶどう膜炎を特徴とする疾患である.2016年度に実施されたわが国のぶどう膜炎診療を行う66病院を対象としたぶどう膜炎の原因疾患調査では,8.1%(第2位)をVKHが占めており,ぶどう膜炎の中では頻度の高い疾患である2).VKHの病因や病態はまだ解明されていないが,遺伝的背景(HLA-DR4など)をもつ患者がなんらかの環境要因(ウイルス感染など)を契機に,眼球,内耳,髄膜,皮膚といった標的臓器のメラニン抗原に対する自己免疫反応を生じ,臨床症状が引き起こされると考えられている.VKHの病理像は,脈絡膜の肉芽腫性炎症であり,脈絡膜へのリンパ球,マクロファージ,類上皮細胞,多核巨細胞の浸潤を呈する.臨床症状としては,感冒様症状,全身倦怠感,頭部知覚過敏,頭痛,耳鳴りなどの前駆期が先行し,1~2週間ほどで眼症状が出現する.眼病期に入ると前房,硝子体に細胞浸潤をきたし,毛様体肥厚,毛様体.離,および脈絡膜肥厚を生じる.前房炎症が強い患者では毛様体.離が顕著となり,水晶体が前方偏位し,狭隅角をきたすため,急性緑内障発作と誤診される例も存在する(図1,2).光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では脈絡膜厚の著しい増加,脈絡膜血管影の消失,網膜色素上皮細胞層の波打ち像を呈する.炎症が網膜下や網膜色素上皮に波及すると滲出性網膜.離をきたし,多房性の網膜.離がみられることもある(図3).蛍光眼底造影で特徴的な像がみられ,フルオレセイン蛍光造影では造影早期から点状の蛍光漏出がみられ,乳頭過蛍光を呈することが多い(図4).インドシアニングリーン蛍光造影では,脈絡膜肉芽腫形成により,脈絡膜血管に造影剤が灌流されず,肉芽腫形成部位がダークスポッ*HidetoDeguchi:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕出口英人:〒602-8566京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(9)995図2図1と同一症例の治療開始2週間後の前眼部OCT所見前房は深くなり,毛様体.離離,毛様体肥厚は消失した.図1発症早期に狭隅角をきたした症例の初診時所見浅前房を認め,前眼部COCTで著明な毛様体.離を呈していた.図3初診時の後眼部OCT所見水平断(Ca)および垂直断(Cb).脈絡膜の波打ちを認め,多房性の滲出性網膜.離をきたしている.図4図3と同一症例のフルオレセイン蛍光造影画像両眼とも乳頭過蛍光および広範囲に蛍光漏出を認め,滲出性網膜.離を伴っている.図5図3と同一症例のインドシアニングリーン蛍光造影画像両眼とも脈絡膜の肉芽腫により後極部にダークスポットを認める.-図6夕焼け状眼底VKHによる炎症の遷延に伴い脈絡膜の菲薄化をきたし,夕焼け状眼底を生じる.図8寛解維持期(a)と同一症例の再発時(b)のOCT画像ステロイド漸減中に脈絡膜の肥厚と波打ちを認めた症例.寛解維持期(Ca)には脈絡膜が薄いのに比べ,再発時(Cb)には肥厚し,また脈絡膜の波打ちを認め,再発と判断した.図7治療前後でのOCT画像の変化治療開始前(Ca)と寛解維持できている時点(Cb)のCOCT画像.脈絡膜の肥厚および波打ちはステロイド治療により改善し,脈絡膜血管も確認できる.====表1当院でのADA導入症例のまとめADA導入時観察期間ADA導入前ADA導入後年齢(歳)性別(月)PSL投与量(mg)CsA投与量(mg)最終CPSL投与量(mg)効果判定61女性C76C7.5C150C0有効C72男性C70C7C150C0有効C75男性C61C15C100C3有効C54女性C56C30C150C9有効PSL:プレドニゾロン,CsA:シクロスポリン.図9ADA導入症例の初診時のOCT所見図10図9と同一症例の寛解時のOCT所見滲出性網膜.離を認め,脈絡膜肥厚と波打ちを認める.滲出性網膜.離は消失し,脈絡膜肥厚も改善した.図11図9と同一症例の再燃時のOCT所見図12図9と同一症例のADA導入後のOCT所見PSLをC15Cmgまで減量した時点で滲出性.離,脈絡膜肥厚を漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚は認めず,現在もCPSL内服なし認め,再燃と判断した.で経過観察している.

Behçet病に対するバイオ治療薬と治療戦略

2023年8月31日 木曜日

Behcet病に対するバイオ治療薬と治療戦略BiotherapeuticsandTreatmentStrategyforBehcet’sDisease竹内正樹*はじめにBehcet病とは,全身の臓器に発作性の炎症を繰り返す慢性炎症性疾患である.眼病変であるぶどう膜炎は,口腔内潰瘍,皮膚病変,陰部潰瘍とともに主症状に分類され,副症状には関節炎,精巣上体炎,消化管病変,血管炎,中枢神経症状がある1).Behcet病の発症原因については未だ完全に解明されていないが,遺伝子解析研究などから得られた知見からは,さまざまな免疫系が病態に関与していると考えられる2).1999年にCKastnerらは自然免疫系異常を病態の中心とする疾患を自己炎症疾患として分類し,獲得免疫系の異常による自己免疫疾患と対比した3).Behcet病では,発作性のエピソードや,好中球主体の炎症など,獲得免疫だけでなく自然免疫の異常も大きくかかわっており,自己炎症疾患としての側面がある.狭義の自己炎症疾患は,自然免疫にかかわる単一遺伝子の異常を原因とするものが多く,非常にまれな疾患であり,眼病変を伴うものも存在する(表1).本稿ではCBehcet病を中心として自己炎症疾患を含めたバイオ治療薬とその治療戦略について述べる.Behcet病の眼病変は,非肉芽腫性ぶどう膜炎が発作性に生じることが特徴である.90%以上は両眼性ではあるが,発作は片眼ずつに生じることが多い.発作時には結膜毛様充血や眼内炎症による霧視,視力低下を自覚する.眼炎症は比較的短い期間で消退することが多いが,発作時の網膜や視神経へのダメージが蓄積されることで不可逆的な視機能障害につながる1).Behcet病のぶどう膜炎の有病率は,1970年代には男性でC80%以上,女性でC60%以上であったが,2000年代にかけて有病率は低下し,現在は男性でC40%台,女性はC30%前後で推移している.それに伴い,国内のぶどう膜炎の原因疾患の割合の疫学調査(2016年)においても,Behcet病は第C6位に後退しC4.2%であった4).以前はCBehcet病は視力予後不良の代表的な眼疾患であり,2000年以前では4割近くの患者でC10年後の矯正最高視力がC0.1未満となっていた5).近年では眼病変有病率の低下,重症眼発作の減少に加えて,バイオ治療薬の登場により視力予後は大きく改善するに至った.CIBehcet病眼病変治療の変遷わが国ではCBehcet病の眼炎症発作の予防に痛風治療薬であるコルヒチンや免疫抑制薬のシクロスポリンが用いられてきた.しかし,これらの既存治療薬の効果が不十分である患者も多く存在し,前述の通りCBehcet病の視力予後は長らく不良であった.このような状況のなか,2007年に世界に先駆けて腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisfactor:TNF)阻害薬であるインフリキシマブが,わが国でCBehcet病による難治性網膜ぶどう膜炎に対して保険収載されることとなった.TNFは単球やマクロファージ,T細胞から産生される生体反応のメディエーターである.TNFはインターロイキン(interleu-kin:IL)-1やCIL-6,IL-8といった炎症性サイトカインの産生を刺激するほか,好中球を活性化し免疫応答を活*MasakiTakeuchi:横浜市立大学大学院医学研究科視覚器病態学〔別刷請求先〕竹内正樹:〒236-0004横浜市金沢区福浦C3-9A345横浜市立大学大学院医学研究科視覚器病態学C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(3)C989表1眼病変を伴う自己炎症疾患自己炎症疾患略語原因遺伝子眼病変クリオピリン関連周期熱症候群CCAPSCNLRP3ぶどう膜炎家族性地中海熱CFMFCMEFVぶどう膜炎・強膜炎A20ハプロ不全症CHA20CTNFAIP3ぶどう膜炎TNF受容体関連周期性症候群CTRAPSCTNFRSF1A眼科周囲浮腫・結膜炎アデノシンデアミナーゼC2欠損症CDADA2CADA2網膜閉塞性血管炎Blau症候群C─CNOD2ぶどう膜炎±±・ステロイドテノン.下注射・ステロイド結膜下注射・ステロイド内服図1Behcet病眼病変治療アルゴリズム・眼発作時の治療(文献C1より転載)めわが国の第一選択薬はコルヒチンとなる(図2上).コルヒチンで効果不十分な症例では,シクロスポリンの内服が行われる.これらの治療でも眼発作抑制が困難な症例にCTNF阻害薬の投与が行われる(図2下).しかし,頻度の高い発作や後極部に病変が及ぶような視機能低下リスクが高い患者では,早期のCTNF阻害薬の導入が重要であり,コルヒチン投与後にシクロスポリンの投与を介さずにCTNF阻害薬を導入することが推奨されている.TNF阻害薬の有効性についてはインフリキシマブ,アダリムマブの両剤でさまざまな報告がなされている.インフリキシマブの有効性について,Okadaらは,投与後C1年間でC60%の眼発作が消失し,90%の患者で有効性が認められたと報告している9).2023年には,Takeuchiらによってわが国でのC10年間のインフリキシマブの使用実績が報告された.140例中C75.7%でインフリキシマブが継続されており,導入後C10年間でC50%以上の患者で発作の再発を一度も認めなかった10).アダリムマブについては,Behcet病ぶどう膜炎患者の発作回数を投与前のC2回から平均投与期間C21カ月でC0.42回に減少させたと報告されている.また,Fabianiらの報告では,アダリムマブの投与によりC1年あたりの眼発作回数がC2回からC0.085回に減少していた.自己炎症疾患の眼病変治療については,非感染性ぶどう膜炎の治療に準じて,局所治療は副腎皮質ステロイド点眼,散瞳薬を投与する.重症例では全身治療としてバイオ治療薬を投与するが,自己炎症疾患では眼病変以外の病変を伴うため,リウマチ内科や小児科と連携して治療にあたることが重要である.自己炎症疾患のうち,クリオピリン関連周期熱症候群(cryopyrin-associatedCperiodicsyndrome:CAPS),TNF受容体関連周期性症候群(tumorCnecrosisCfactorCreceptor-associatedperiodicCsyndrome:TRAPS),高CIgD症候群,家族性地中海熱(familialCmediterraneanfever:FMF)では,ヒト型抗ヒトCIL-1Cbモノクローナル抗体のカナキヌマブが承認されている.「自己炎症性疾患診療ガイドラインC2017」では,Blau症候群において眼症状にCTNF阻害薬の使用を考慮するとされており,後部ぶどう膜炎,汎ぶどう膜炎に対してはアダリムマブの適用となる11).IIIバイオ治療の今後の課題登場からC15年以上経過した現在も,Behcet病眼病変治療におけるCTNF阻害薬の重要性はゆるぎないものの,課題もあげられる.まずは,高い有効性を示すCTNF阻害薬ではあるが,効果不十分な患者は依然として存在する.無効例には,導入時より効果不良な一次無効,一定期間の治療継続後に効果が不十分となる二次無効がある.また,有害事象によって中断を余儀なくされる場合もある.筆者らの報告では,140例中,10年間に再発が理由でインフリキシマブが投与中断となった症例はC6例(4.3%),有害事象により中断となった症例はC19例(13.6%)であった10).眼発作再発の時期では,TNF阻害薬投与直前には血中濃度が低下しているため,発作が生じやすいとされる.「ベーチェット病診療ガイドライン」では,TNF阻害薬の効果不良例では,シクロスポリンなどの併用薬の追加やCTNF阻害薬の増量または投与間隔の短縮,もう一方のCTNF阻害薬へのスイッチを提案している1).しかし,増量や投与間隔の短縮は承認されていないため,所属施設での倫理委員会で承認を得る必要がある.また,Behcet病で使用できるバイオ治療薬はC2剤しかない現状では,安易な切り替えは治療の選択肢を狭めてしまうため,慎重に検討すべきである.TNF阻害薬以外のバイオ治療薬のCBehcet病への応用についての報告もいくつかある(表2)12.15).有効性を示すものが多いが,DickらはセクキヌマブによるBehcet病ぶどう膜炎患者C118例を含む無作為化比較試験を行ったが,プラセボ群と比較して有意な差はなかったと報告した15).新たなバイオ治療薬の可能性についてはコンセンサスに至っておらず,今後の研究が待たれる.次に,TNF阻害薬により長期寛解が得られている患者にCTNF阻害薬をいつまで継続するべきかという点についても議論の余地がある.有害事象のリスクや患者の負担の観点から可能であるなら休薬によるメリットが見込まれるが,血中濃度が低下することで抗製剤抗体が産生されるリスクが高まる.抗製剤抗体が産生されるとTNF阻害薬再開時に効果減弱や投与時反応を引き起こす可能性があることに留意すべきである.また,筆者らはCTNF阻害薬導入後C5年以上にわたり長期寛解が得ら(5)あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023C991ベーチェット病に伴うぶどう膜炎と診断±治療不要*1治療必要経過観察治療の継続高い*3低い視機能低下リスク*1視機能に影響しない軽い眼炎症発作であると判断される場合.*2臨床的寛解は発作が6か月間以上みられない状態とし,達成できなくても低疾患活動性を目指す.*3眼発作を頻発する症例,後極部に眼発作を生じる症例,視機能障害が著しく失明の危機にある症例では早期のTNF阻害薬導入を検討する.±±±±±Yes治療の継続Yes治療の継続NoNo*2臨床的寛解は発作が6か月間以上みられない状態とし,達成できなくても低疾患活動性を目指す.*4保険外治療に関しては各施設における倫理委員会の承認が必要.図2Behcet病眼病変治療アルゴリズム・眼発作抑制の治療(文献C1より転載)表2ぶどう膜炎に対するTNF阻害薬以外のバイオ治療薬の有効性一般名標的分子研究概要著者カナキヌマブCIL-1bTNF阻害薬抵抗性のCBehcet病患者で眼炎症発作とPSL量を有意に低下させたFabianiら12)トシリズマブCIL-611例中C11例でCBehcet病ぶどう膜炎の寛解を得たAtienza-Mateoら13)セクキヌマブCIL-17A16例中C11例でぶどう膜炎患者の眼炎症を抑制したHueberら14)セクキヌマブCIL-17ABehcet病ぶどう膜炎C118例,活動性ぶどう膜炎C31例,非活動性ぶどう膜炎C125例を含むランダム化比較試験でプラセボ群と比較して有意な差はなかったDickら15)-’’C’C’C

序説:バイオ時代における眼炎症性疾患の新しい治療戦略

2023年8月31日 木曜日

バイオ時代における眼炎症性疾患の新しい治療戦略UpdateonTherapeuticStrategiesforOcularIn.ammatoryDiseasesintheBiologicEra園田康平*バイオ製剤は炎症性疾患の切り札である.ステロイドが中心であった抗炎症治療は,まずは膠原病リウマチ科において劇的に変化した.さらに皮膚疾患,アレルギー疾患,消化器疾患,神経疾患,内分泌疾患などさまざまな炎症疾患にその裾野が広がった.眼科領域のぶどう膜炎においては,2007年にインフリキシマブが「Behcet病による難治性網膜ぶどう膜炎」に,また2016年にアダリムマブが「従来治療抵抗性の非感染性ぶどう膜炎」の治療薬として認可された.これら腫瘍壊死因子(tumornecro-sisfactor:TNF)阻害薬は優れた炎症抑制効果が期待できる薬剤であり,従来のステロイド中心のぶどう膜炎治療戦略に大きな変化をもたらした.また,全身病に伴う強膜炎,視神経炎,甲状腺眼症などの眼科領域炎症疾患の治療もバイオ製剤によって大きく変化しつつある.本特集ではバイオ時代の各眼炎症疾患の治療について,エキスパートの先生方にまとめていただいた.横浜市立大学の竹内正樹先生には,眼科炎症領域で最初にバイオ製剤が導入されたBehcet病に対して,長期効果検証を踏まえた最近の治療戦略を述べていただいた.京都府立医科大学の出口英人先生には,とくに遷延型Vogt-小柳-原田病に対するバイオ治療薬と治療戦略を述べていただいた.通常のステロイド治療を行っても,一部の患者は眼炎症を繰り返し,網膜組織が徐々に破壊される.遷延型への対応がこの疾患のアンメットニーズである.九州大学の八幡信代先生には,関節リウマチおよびその関連疾患に伴う強膜炎に焦点を当てて述べていただいた.リウマチやその関連疾患に対しては多種多様なバイオ製剤が開発されており,眼科医と内科医が緊密に連携することで,早めにバイオ製剤の適応を考えることが可能になる.同様の視点で,広島大学の佐田幾世先生・原田陽介先生には強直性脊椎炎に伴うぶどう膜炎(急性前部ぶどう膜炎)を,山口大学の柳井亮二先生には乾癬に伴うぶどう膜炎を取り上げていただき,それぞれ膠原病内科や皮膚科との連携について考えていただいた.小児には特有の眼炎症疾患が存在し,視覚保全のためには眼合併症を最小限に抑えつつ,全身状態の改善をはかる必要がある.東京医科歯科大学の鴨居功樹先生には,小児ぶどう膜炎に対するバイオ製剤をご紹介いただき,その治療戦略を述べていただいた.東京医科大学の坪田欣也先生には,最近登場している炎症性神経疾患に対するさまざまなバイオ製剤をまとめていただき,視神経炎への応用を述べていただいた.最後に愛知医科大学の柿﨑裕彦先生には,甲状腺眼症に対*Koh-heiSonoda:九州大学大学院医学研究院眼科学分野0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(1)987

BCG 膀胱内注入療法後に片眼ぶどう膜炎を発症した1 例

2023年7月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科40(7):978.981,2023cBCG膀胱内注入療法後に片眼ぶどう膜炎を発症した1例多田愛*1川野健一*2大池東*1中村将一朗*1平田朝彦*3西口康二*3*1碧南市民病院眼科*2名古屋大学医学部附属病院眼科*3碧南市民病院泌尿器科CACaseofUnilateralUveitisafterBCGIntravesicalInjectionTherapyAiTada1),KenichiKawano2),AzumaOike1),ShouichiroNakamura1),AsahikoHirata3)andKojiNishiguchi3)1)DepartmentofOphthalmology,HekinanCityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,NagoyaUnivercityHospital,3)DepartmentofUrology,HekinanCityHospitalC緒言:昨今,医学の日進月歩の発展に伴い,新規の治療薬の登場や既存の治療薬の新規適応の追加が増加している.同時にさまざまな眼副作用も報告されている.今回筆者らは膀胱癌に対して,BCG膀胱内注入療法中に片眼の急性前眼部ぶどう膜炎を発症した患者を経験したので報告する.症例:70歳,女性.既往歴:膀胱癌(66歳.,BCG膀胱内注入療法中),大腸癌.現病歴:5日前に左眼結膜充血出現,前日より左眼の圧迫感,疼痛,眼球運動痛が出現したため碧南市民病院眼科を受診した.前眼部に炎症細胞と虹彩後癒着が認められ,特発性急性前部ぶどう膜炎と診断し,点眼治療を開始した.その翌日C4回目のCBCG膀胱内注入療法を施行した.翌朝,背部痛が出現し,5日後に手足関節痛も出現,CRP,WBCの炎症反応の上昇を認め,反応性関節炎(Reiter症候群)と診断された.NSAIDs,プレドニン内服治療を開始した.4カ月後に内服を終了し,9カ月後に点眼治療を終了した.結論:ぶどう膜炎を発症した時点で薬剤性ぶどう膜炎を疑い,BCG膀胱内注入療法によるCReiter症候群の可能性を考えることができれば,症状の悪化を未然に防ぐことができたかもしれない.ぶどう膜炎患者が膀胱癌の治療中であれば,治療内容の聴取および他科との連携が必要である.CBackground:Recently,withtheever-evolvingdevelopmentofmedicalscience,therehasbeenanincreaseintheCintroductionCofCnewCtherapeuticCagentsCandCtheCadditionCofCnewCindicationsCforCexistingCtherapeuticCagents.CSimultaneously,CaCvarietyCofCocularCsideCe.ectsChaveCbeenCreported.CInCthisCarticle,CweCreportCaCcaseCofCunilateralCacuteCanteriorCuveitisCduringCBCGCintravesicalCinjectionCtherapyCforCbladderCcancer.CCasereport:ThisCstudyCinvolveda70-year-oldfemalewithamedicalhistoryofbladdercancer(sinceage66,andduringtheBCGintra-vesicalCinfusiontherapy)andCcolorectalCcancer.CFiveCdaysCpriorCtoCpresentation,CconjunctivalChyperemiaCappearedCinCherCleftCeye,CfollowedCbyCaCpressureCfeelingCandCocularCandCeyeCmovementCpainCinCthatCeyeC1CdayClater.CUponCexamination,in.ammatorycellsandposteriorsynechiawereobservedintheanteriorsegmentofthateye.Adiag-nosisofidiopathicacuteanterioruveitiswasmade,andophthalmictreatmentwasinitiated.Thefollowingday,thefourthintravesicalBCGinjectionwasperformed.Thenextmorning,backpainoccurred,and5dayslater,limbandfootCjointCpainCalsoCoccurred,CandCtheCin.ammatoryCresponseCofCC-reactiveCproteinCandCwhiteCbloodCcellCcountCincreased.CTheCpatientCwasCtreatedCwithCnonsteroidalCanti-in.ammatoryCdrugsCandCprednisone,CwhichCwereCcom-pletedCafterC4CandC9Cmonths,Crespectively.CConclusions:IfCweChadCsuspectedCdrug-inducedCuveitisCwhenCtheCpatientdevelopeduveitisandhadconsideredthepossibilityofReiter’ssyndromecausedbyBCGintravesicalinfu-siontherapy,wemighthavebeenabletopreventtheworseningofthesymptoms.Thus,inpatientswithuveitisundergoingCtreatmentCforCbladderCcancer,CitCisCvitalCtoCknowCtheCtreatmentCdetailsCinCcollaborationCwithCotherCdepartments.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(7):978.981,C2023〕Keywords:前部ぶどう膜炎,膀胱癌,BCG膀胱内注入療法,反応性関節炎,Reiter症候群.anterioruveitis,bladdercancer,BCGintravesicaltherapy,reactivearthritis,Reitersyndrome.C〔別刷請求先〕多田愛:〒507-8522岐阜県多治見市前畑町C5-161岐阜県立多治見病院眼科Reprintrequests:AiTada,DepartmentofOphthalmology,GifuPrefectualTajimiHospital,5-161MaehataTown,TajimiCity,GifuPrefecture507-8522,JAPANC978(130)図1初診時の左眼前眼部写真前房内炎症細胞,虹彩後癒着認めた.はじめに昨今,医学の日進月歩の発展に伴い,新規の治療薬の登場や既存の治療薬の新規適応の追加が増加している.同時にさまざまな眼副作用も報告されている.今回筆者らは,BCG膀胱内注入療法中に反応性関節炎を生じ,片眼の急性前部ぶどう膜炎を発症した患者を経験したので報告する.CI症例患者:70歳,女性.主訴:左眼の充血と疼痛.現病歴:7日前から左眼結膜充血が出現し,眼科受診せずに様子をみていたが,2日前より左眼の圧迫感と疼痛が出現,症状が悪化したため碧南市民病院(以下,当院)眼科を受診した.既往歴:当院泌尿器科にて,4年前に経尿道的膀胱腫瘍切除術を施行後,膀胱癌と診断された.3年前に再発性・多発性膀胱腫瘍を認め,化学療法が開始された.その後,膀胱癌は落ち着いていたが,47日前より膀胱癌の再発病変に対してCBCG膀胱内注入療法が開始され,眼科受診までにC3回施行されていた.初診時初見:右眼視力C0.4(1.0C×sph.0.25D(cyl.1.50DCAx110°),左眼視力0.4(1.2C×sph+0.00D(cyl.1.00DAx100°),眼圧は右眼C13mmHg,左眼11mmHgであった.左眼の前眼部所見として,前房内に炎症細胞および虹彩後癒着を認めた(図1).中間透光体と眼底には明らかな異常所見は認めなかった.光干渉断層計でも異常所見は認められなかった.初診時の血液検査ではCCRP(C反応性蛋白):0.71mg/dl,WBC(白血球):10.5C×103/μlで軽度の炎症反応の上昇を認めた.CH50(血清補体価):>60.0,C3:152で補体価の上昇を認めた.Ig(免疫グロブリン)G:1,256Cmg/図2左眼点眼治療後50日後虹彩後癒着は解除された.dl,IgA:312Cmg/dl,IgM:44Cmg/dlは正常範囲内,ACE(アンギオテンシン変換酵素):15.6CU/lは特定の疾患を疑う上昇とは考えなかった.また,VZV(水痘・帯状疱疹ウイルス)M0.20(C.),VZVG17.5(+),CMV(サイトメガロウイルス)M0.29(C.),CMVG18.7(+)は幼児期に感染したことによる不頸性感染と考えられた.リウマチ因子,HLA-B27はともに陰性で,HLA-B13,B67陽性であった.胸部CX線でもとくに異常所見は認められなかった.この時点では全身症状はみられなかった.経過:初診時に血液検査でとくに異常を認めなかったため,特発性前部ぶどう膜炎と診断し,抗菌薬点眼(レボフロキサシン)左眼C4回/日,ステロイド点眼(1%ベタメタゾン)左眼C6回/日,散瞳点眼薬(トロピカミド配合)左眼C1回/日を開始した.点眼開始C2日後に当院泌尿器科にてCBCG膀胱内注入療法C4回目が施行された.その翌日より背部痛が出現し,5日後に手足関節痛が出現した.点眼開始後C8日で前房内炎症は消失したが,虹彩後癒着は残存した.点眼開始C10日後の血液検査でCCRP9.67Cmg/dl,WBCC10.5×103/μlで大幅な炎症反応の上昇を認めたため,関節痛に対し非ステロイド抗炎症薬(non-steroidalCanti-inflammatorydrugs:NSAIDs)(ロキソプロフェン)の内服を開始され,炎症反応は低下したが,膝や手首の部分的な関節痛が残存した.初診よりC29日後,CRP2.27Cmg/dl,WBCC12.0×103/μlで,新たな左眼の虹彩後癒着が出現したため,トロピカミド配合薬の点眼回数を左眼C4回/日に増量した.泌尿器科より反応性関節炎を疑われプレドニンC5Cmg/日の内服を開始した.そのC2週間後に虹彩後癒着は解除された(図2).ぶどう膜炎の原因として当初は特発性と考えていたが,3回目のCBCG膀胱内注入療法からC19日後に左眼のぶどう膜炎を発症したことと,そのほかに原因となる所見は認められなかったこと,一連の症状から泌尿器科でも反応性関節炎が疑われていることから,本症例のぶどう膜炎はCBCG膀胱内注入療法が原因となった可能性が高いと考えた.また,初診よりC29日後にプレドニゾロンC5Cmg/日の内服を開始後,膝や手首の痛みは軽度改善し,スムーズな歩行ができるようになったが,3週間経過しても関節痛は残存し,炎症反応上昇の持続(CRP2.15Cmg/dl,WBC9.8C×103/μl)を認めたため,プレドニゾロンC20Cmg/日に増量したところ,炎症反応は低下(CRP0.35Cmg/dl,WBC7.8×103/μl)し,関節痛も改善した.徐々に点眼とステロイド内服を減量し,プレドニゾロン増量後よりC70日後にプレドニゾロン内服中止,点眼開始後からC270日後に点眼中止とし,その後再発なく経過している.膀胱内の再発性の腫瘍も消失したままである.CII考按BCG膀胱内注入療法は,筋層非浸潤膀胱癌の治療および再発予防のための標準治療である.明確な作用機序は未解明であるが,BCG(弱毒化したCMycobacteriumbovis)を膀胱内に注入し,BCGはフィブロネクチンを介して腫瘍細胞内に取り込まれ(invitro),BCGを取り込んだ腫瘍細胞は直接的に抗原提示細胞として,あるいは間接的にマクロファージに貪食されることにより,BCG抗原または腫瘍特異抗原をTリンパ球に提示し,Tリンパ球の感作が成立する.細胞傷害性CTリンパ球は標的腫瘍細胞を直接に傷害し,Tリンパ球の産生する種々のサイトカインもまた,腫瘍細胞に傷害的に作用する.また,サイトカインの一部はマクロファージを活性化し,腫瘍細胞の貪食,破壊を効果的に行うようになると考えられる1).投与頻度は週にC1回で計C8週間繰り返すが,用量や回数は症状に応じて適宜増減し,また投与間隔も必要に応じて延長できる.おもな副作用として,排尿痛(32.9%),頻尿(29.2%),血尿(15.7%)が出現するが,重症な副作用として,BCG感染,間質性肺炎,反応性関節炎(わが国C2.0%2),国外C0.5%3))があげられる.反応性関節炎は,関節炎・尿道炎・結膜炎の三徴を示す疾患で,胃腸炎または性感染症の数週間後に発生することが多い.HLA-B27遺伝子保有者に多い4)との報告があるが,正確な関連は不明である.本症例でもCHLA-B27は陰性であった.眼症状としては,結膜炎・ぶどう膜炎・強膜炎・角膜炎などがあげられる.約C7割の症例で眼症状が関節炎に先行したという報告5)もある.本症例においても眼症状が最初の症状で,左眼結膜充血が出現したC10日後に背部痛出現,15日後に手足関節痛が出現した.また,眼症状は両眼よりも片眼に出現する頻度のほうが高く(両眼C32%,片眼C68%)6),本症例においても片眼の眼症状のみであった.ぶどう膜炎の原因はさまざまであり,2016年に日本眼炎症学会が行った疫学調査7)によると,もっとも頻度の高い疾患はサルコイドーシス(10.6%),ついでCVogt-小柳-原田病(8.1%),ヘルペス性虹彩炎(6.5%)であり,分類不能は36.6%であった.本症例は薬剤性のぶどう膜炎(drug-inducedUveitis:DIU)に分類される.DIUを引き起こす薬剤はシドフォビル,リファブチン,パビドロネート,アレンドロネート,スルホンアミド,エタナーセプト,インフリキシマブ,アダリムマブ,フルオロキノロン,ブリモニジン,ラニビズマブ,BCGワクチン,MMR(麻疹・流行性耳下腺炎・風疹の三種混合ワクチン)ワクチン,インフルエンザワクチン,B型肝炎ウイルスワクチンなどがこれまで報告されている8).DIUはまれであるが,ワクチン,内服薬,静注薬など多種多様な薬剤で発症する可能性がある.原因薬剤を特定することにより,ぶどう膜炎の再発のリスクを減少できる可能性が高いため,初診時に患者の詳細な薬剤歴も把握する必要がある.反応性関節炎の治療法は確立されていないが,NSAIDs内服が第一選択で,効果不十分の場合はステロイドを使用する.通常はC6カ月以内に症状は改善する.本症例でも反応性関節炎出現後から,NSAIDs内服,ステロイド内服,増量を経て,約C4カ月で関節痛は改善した.膀胱癌もCBCG膀胱内注入療法が奏効し,寛解した.本症例では反応性関節炎も改善がみられ,ぶどう膜炎も改善した.再発の所見もなく,膀胱癌も寛解し経過良好ではあるが,左眼ぶどう膜炎を発症した際にCBCG膀胱内注入療法を中止していれば,反応性関節炎の発症を予防もしくは症状軽減できた可能性がある.BCG膀胱内注入療法中に副作用として反応性関節炎が出現するのはわが国ではC2.0%,ぶどう膜炎の報告はC0.7%2)と頻度は低いが,ぶどう膜炎患者が膀胱癌の治療中であれば,治療内容を聴取するべきであり,他科との連携が必要である.利益相反:【F】JCRファーマ文献1)Ratli.TL:MechanismsCofCactionCofCintravesicalCBCGCforCbladdercancer.ProgClinBiolResC10:107-122,C19892)TaniguchiY,NishikawaH,KarashimaTetal:Frequencyofreactivearthritis,uveiris,andconjunctivitisinJapanesepatientsCwithCbladderCcancerCfollowingCintravesicalCBCGtherapy:AC20Cyear,Ctwo-centreCretrospectiveCstudy.CJtBoneSpineC84:637-638,C20173)LammCDL,CStogdillCVD,CCrispenCRGCetal:ComplicationsCofCbacillusCCalmette-GuerinCimmunotherapyCinC1,278CpatientsCwithCbladderCcancer.CJCUrologyC135:272-274,19864)PennisiCM,CPerdueCJ,CRoulstonCTCetal:AnCoverviewCofCreactivearthritis.JAAPAC32:25-28,C20195)小池繭美,夏山隆夫,松崎香奈子ほか:尿路上皮癌CBCG膀胱内注入療法によるCReiter症候群による自験例を加えた本邦過去C13年間のまとめ.日本泌尿器学会雑誌C106:238-242,C20156)KissCS,CLetkoCE,CQamruddinCSCetal:Long-termCprogres-sion,Cprognosis,CandCtreatmentCocularCmanifestationsCofCReiter’ssyndrome.OphthalmologyC110:1764-1769,C20037)SonodaCKH,CHasegawaCE,CNambaCKCetal:EpidemiologyCofCuveitisCinJapan:aC2016CretrospectiveCnationwideCsur-vey.JpnJOphthalmolC65:184-190,C20218)AgarwalCM,CDuttaCMajumderCP,CBabuCKCetal:Drug-indiceduveitis:Areview.IndianJOphthalmolC68:1799-1807,C2020C***

網膜下フィブリンを伴う中心性漿液性脈絡網膜症の治療経過

2023年7月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科40(7):973.977,2023c網膜下フィブリンを伴う中心性漿液性脈絡網膜症の治療経過天野佑理田中ふみ山本聡一郎江内田寛佐賀大学医学部附属病院眼科CACaseofCentralSerousChorioretinopathywithSubfovealFibrinTreatedwithTriamcinoloneAcetonideInjectionandHalf-dosePhotodynamicTherapyYuriAmano,FumiTanaka,SoichiroYamamotoandHiroshiEnaidaCDepartmentofOphthalmology,SagaUniversityHospitalC目的:網膜下フィブリンを伴う中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)に半量光線力学的療法(PDT)を行ったC1症例を報告する.症例:43歳,男性.9年前より再発を繰り返す左眼CCSCにて受診した.左眼は漿液性網膜.離(SRD)が中心窩から中間周辺部まで連続し,同部位の自発蛍光低蛍光点に一致して蛍光眼底造影での蛍光漏出を認めた.中心窩の黄色病変は光干渉断層計で高輝度物質の析出と内部の低輝度領域(vacuolesign)を認め,直下の網膜色素上皮は不整であった.トリアムシノロンCTenon.下注射(STTA)と半量CPDTを施行したところ,SRDおよび黄色病変は消失し,矯正視力は改善した.結論:再発を繰り返す網膜下フィブリンを伴うCCSCにCSTTA併用半量CPDTは有効であった.網膜下フィブリンを伴うCCSCのCvacuolesignは特徴的な所見であり,治療効果を含む疾患活動性評価に有用である.CPurpose:Toreportacaseofcentralserouschorioretinopathy(CSC)withsubretinal.brinsuccessfullytreat-edCwithCtriamcinoloneCacetonideCinjectionCandChalf-dosephotodynamicCtherapy(PDT)C.CCasereport:AC43-year-oldmalepresentedwitha9-yearhistoryofrecurrentCSC.Inhislefteye,serousretinaldetachment(SRD)wasobservedCfromCtheCfoveaCtoCmiddleCperipheralCarea,CandC.uoresceinCangiographyCshowedCleaksCthatCcorrespondedCwiththefundushypo-auto.uorescenceimage.Opticalcoherencetomographyrevealedsubretinalhyper-re.ectivematerialCandCvacuoleCsignCindicatedCwhereCfundusCsubretinalCyellowishCdepositsCwereClocated.CTheCpatientCwasCtreatedwithasub-Tenontriamcinoloneacetonideinjectionandhalf-dosePDT,andthesubretinal.brinandSRDdisappearedCandCvisualCacuityCimproved.CConclusions:Half-doseCPDTCwasCfoundCe.ectiveCagainstCrecurrentCCSCCwithsubretinal.brin.ThevacuolesignisthecharacteristicandimportantsignofCSConactivitiesincludingther-apeutice.ect.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(7):973.977,C2023〕Keywords:中心性漿液性網脈絡膜症,網膜下フィブリン,半量CPDT,vacuolesign,トリアムシノロンCTenon.下注射.centralserouschorioretinopathy,subretinal.brin,half-dosephotodynamictherapy,vacuolesign,sub-Ten-ontriamcinoloneacetonideinjection.Cはじめに中心性漿液性脈絡網膜症(centralCserousCchorioretinopa-thy:CSC)は脈絡膜の限局性またはびまん性肥厚,脈絡膜Haller層の血管拡張と脈絡膜内層の菲薄化,脈絡膜血管透過性亢進を特徴とするパキコロイド関連疾患に属している1).発症要因の一つとして,慢性的うっ滞により渦静脈が分水嶺を越えて吻合し,吻合血管の拡張・透過性亢進による静水圧の上昇によってCBruch膜-網膜色素上皮(retinalCpigmentCepithelium:RPE)複合体へ負荷が生じ,RPE細胞間のCtightjunctionの破断が起こり,網膜下液の漏出が生じるとされている1.3).網膜下フィブリンを含むCCSCは全体の約C10.15%で観察され,とくにフィブリンが多いものは劇症型とされる.妊婦やステロイド内服がリスク因子である4,5)が,リスク因子をもたない患者の発症も報告されている6).漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SRD)内に黄色病変を認め,〔別刷請求先〕天野佑理:〒849-0014佐賀市鍋島C5-1-1佐賀大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:YuriAmano,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SagaUniversityHospital,5-1-1Nabeshima,Saga-shi,Saga849-0014,JAPANC光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では網膜下高輝度物質(sub-retinalChyper-re.ectivematerial:SHRM)中に低輝度の領域を認めるCvacuolesignとして観察され6.9),フルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiog-raphy:FA)で蛍光漏出点と一致して出現する10).RPE障害部位より漏出した網膜下液中のフィブリノーゲンからフィブリンが形成されると,SHRMとして観察される9).検眼鏡で目視できないCRPE障害部位(RPEmicro-rip)を介し連続して流入する網膜下液は,対流によりフィブリンが析出しないため透明である.この透明な液体がCvacuolesignの低輝度領域として描出され,FAでは蛍光漏出点と一致する11).CVacuolesignは本症の特徴的な所見であり,RPECmicro-ripからの継続的な漏出を示しているため,FAを行えない患者でのCRPEや疾患活動性の評価に有用である9).今回,網膜下フィブリンを伴う劇症型CCSCにトリアムシノロンCTenon.下注射(sub-TenonCtriamcinoloneCaceton-ideinjection:STTA)併用半量光線力学的療法(photody-namictherapy:PDT)を行った症例を経験したので報告する.CI症例患者:43歳,男性.主訴:左眼の視力低下.既往歴:2011年に不明熱.2020年に憩室炎,手足口病.いずれもステロイド内服歴なし.生活歴:喫煙歴C20歳からC1日C10本継続.現病歴:2012年に左眼CCSCを発症し,近医眼科を受診.加療目的に総合病院眼科を紹介されたが,自然軽快したため受診しなかった.2018年に左眼CCSCが再燃したが,自然軽快した.2020年C12月に左眼CCSCが再燃し改善しないため,精査加療目的に佐賀大学医学部附属病院(当院)眼科を紹介受診した.初診時所見:矯正視力は右眼C1.0,左眼C0.07.眼圧は右眼11CmmHg,左眼C12CmmHg.前眼部,中間透光体に特記所見を認めなかった.左眼眼底は後極から下方中間周辺部にかけ広範なCSRDを認めた.自発蛍光眼底画像(fundusauto.uor-escence:FAF)ではCSRDの範囲に一致し高信号領域を認め,中心窩近傍では一部低信号領域も認めた.OCTでは右眼にごく軽度のCSRD,左眼にCSRD領域のフィブリン析出により生じたと考えられるCSHRMによる信号強度の異なる高信号領域を認めた.また,中心窩下の領域にわずかなCRPE.離を認め,その直上の高信号域の内部に円形の低輝度領域によるvacuolesignを認めた.中心窩脈絡膜厚は553μm,pachyvesselを認めた.FAでは黄斑部の黄色病変に一致して初期から強い蛍光漏出を認め経時的に下方に拡大した.インドシアニングリーン蛍光造影検査(indocyaninegreenangiography:IA)では初期に低蛍光,後期は高蛍光を認めた(図1).難聴,耳鳴,頭痛などの自覚症状はなかった.経過:左眼にCSTTAを施行,そのC2日後に半量CPDTを施行した.ベルテポルフィンを用い,体表面積あたりC3Cmg/Cm2を静注してC15分後にCVISULAS690S(CarlCZeissCMed-itec社)を用いて波長C689nm,光照射エネルギー量C50J/Ccm2,出力密度C600CmW/cmC2,スポットサイズC2,000Cmmの条件でC83秒間照射した.実施にあたっては,本学未承認新規医薬品導入評価委員会の審査により認可を受け,患者より書面で同意を得た.初診時から半量CPDT施行までのC9日間で,SRDは網膜下方周辺部まで急速な拡大を認めた(図2).黄斑部の黄色病変は半量CPDT後C12日目に鮮明化したが,40日目には縮小し,62日目には消失した.FAFでは,半量CPDT後CSRDの消失により高信号領域の輝度が低下し,広範なCRPE障害が鮮明化した.中心窩近傍の低信号領域は縮小を認めた(図3).OCTでは,半量PDT後12日目にSRD減少により,vacuolesignの鮮明化を認めた.40日目にはCSRD,vacuolesignともに減少し,62日目には消失した.網膜外層構造は不明瞭で,微細な網膜下沈着物を認めたが線維化や瘢痕化は認めなかった.中心窩脈絡膜厚は380Cμmまで改善した(図4).視力は半量CPDT後C162日時点で左眼矯正視力C0.4まで改善し,その後も再燃,視力低下なく経過している.STTAは半量CPDT前に投与したC1回のみで,追加投与は行っていない.CII考察本症例では,SRDと黄色病変を認め,OCTでCSRD内に網膜下フィブリン析出によるCSHRMおよびCvacuolesignを認めた.両眼性にCSRDを認めており原田病が鑑別に上がったが,前房内炎症や視神経炎,FAの多発性蛍光漏出や蛍光貯留,IAの斑状低蛍光灌流欠損を認めないことより除外した.Teraoらは慢性CCSCでは急性期と比較し前房水中の炎症性サイトカインが有意に上昇していたと報告しており,網膜下液が長期間存在することでCRPEの免疫調節機能が破綻し,マクロファージの異常活性化が炎症性サイトカインの過剰産生を誘発すると推測している12).Liangらによると,脈絡膜血管透過性亢進により,脈絡膜血管からCRPE下に滲出したフィブリノーゲンからフィブリンが形成されCRPEの傷害部位を介して網膜下に析出する9,10).本症例ではCFAの漏出部位およびCFAFでの低信号領域であるCRPEの障害部位を介してフィブリンが網膜下に析出した,あるいはCvacuolesign領域内にCRPEmicro-ripを生じているものと推察される.増悪寛解を繰り返しており,慢性化によるCRPE障害や炎症性サイトカインの上昇により,病態が劇症型として修飾されc図1初診時初見a:カラー眼底写真.SRD()と黄白色病変()を認める.Cb:FAF.SRDに一致した高蛍光と中心窩耳上側の不明瞭な低蛍光を認める.Cc:FA(4分C46秒).中心窩から噴水状の蛍光漏出を認める.Cd:IA(4分C46秒).SRD部の高蛍光を認める.Ce:OCT.網膜下フィブリンとvacuolesign(),RPE障害(C.)を認める.た可能性が示唆された.Yannuzziは網膜下フィブリンを伴うCCSCへのCPDTは,網膜下フィブリンを伴うCCSCの治療は研究段階である.網膜下フィブリンがベルテポルフィンとバイオコンジュゲーScharzらは無治療の網膜下フィブリンを伴うCSCについて,トを形成することで,網膜下の線維化を促進し恒久的な視力7眼が線維化や血管新生,RPE断裂をきたし,視力予後不良低下を生じる危険性があり,中心窩病変の治療の際はとくにであったと報告している11).フィブリン下のCRPEは正常な注意を要すると指摘している13).PDTのリスク(脈絡膜虚形態学的特徴やポンプ機能を失う傾向にあり,網膜下の線維血,RPE萎縮,脈絡膜新生血管誘発およびCRPE断裂など)性瘢痕や血管新生,RPEripの形成により,視力低下が起こはベルテポルフィンの減量やレーザー照射時間の短縮,出力ると示唆している11).の低下で低減することが知られている3,10).CSCに対する半図2広角眼底自発蛍光画像高信号で示されるCSRD()の下方への急速な拡大を認める.Ca:初診時,b:半量CPDT時.図3半量PDT後経過半量PDT後12日(Ca,d,g),40日(Cb,e,h),62日後(Cc,f,j).a,b,c:カラー眼底写真.SRD,黄白色病変は徐々に縮小し,62日後には消失している.Cd,e,f:FAF.SRDの消失によりCRPE障害を示す低蛍光が鮮明化している.Cg,h,j:広角眼底自発蛍光眼底画像.SRDの消失により高信号領域の輝度が低下し,中心窩近傍の低信号領域は縮小している.量CPDTはCSRDの消失だけでなく,脈絡膜をより正常な構造に戻すと考えられている1).網膜下フィブリンを伴うCCSCへの半量CPDTに関し,Liangらは通常のCCSCに対する半量PDTと同様に有効かつ安全だったと報告している10).Fuji-motoらは半量CPDT後,網膜下フィブリンはCSRD改善後も,視細胞外節部の顆粒状沈着物として暫く残存したと報告している14).本症例では炎症が基盤にあることは明らかであり,PDTによるベルテポルフィンとのバイオコンジュゲート形成による炎症反応のさらなる増悪,網膜下の線維化や瘢痕化などの合併症リスクを考慮し,STTAで消炎を図りながら半量PDTを施行した.ステロイドの全身投与は網膜化フィブリンを含むCCSCのリスク因子であるが4),ステロイドの眼局所投与によるCCSCの報告はまれであり,リスクは低いと報告されている3).本症例ではCPDT治療直前にCSRDの拡大を認めた.病勢によるものかCSTTAの影響かは不明であるが,図4半量PDT治療後のOCT上記報告もあり,単回の局所投与のリスクは低いと思われsign:vacuoleCa.)c日後(C26,)b日(C04,)a半量PDT後12日(る.治療後,SRDとフィブリンはほぼ同時に消失し,脈絡膜の肥厚は改善を認めた.網膜外層構造は不明瞭のまま微細な網膜下沈着物残存を認めたが,この所見はフィブリンの影響に加え,慢性化したCCSCが基盤として存在するためと考えられた.網膜下フィブリンを伴う劇症型CCSCに対してCSTTA併用半量CPDT療法は有効であった.半量CPDTにより脈絡膜構造が改善しCCSCの活動性は抑えられ,STTA併用により半量CPDTと同時に消炎を図ることで恒久的な視力低下のリスクを回避できたと考えられる.しかし同様の報告はなく,今後も症例の蓄積が必要である.利益相反カテゴリー:N(NoCommercialRelationship)文献1)CheungCCMG,CLeeCWK,CKoizumiCHCetal:PachychoroidCdisease.EyeC33:14-33,C20192)KishiCS,CMatsumotoH:ACnewCinsightCintoCpachychoroiddiseases:RemodelingCofCchoroidalCvasculature.CGraefesCArchClinExpOphthalmolC260:3405-3417,C20223)NicholsonCB,CNobleCJ,CForooghianCGCetal:CentralCserouschorioretinopathy:updateConCpathophysiologyCandCtreat-ment.SurvOphthalmolC58:103-126,C20134)BouzasCEA,CKaradimasCP,CPournarasCJ:CentralCserousCchorioretinopathyCandCglucocorticoids.CSurvCOphthalmolC47:431-448,C20025)GassJD:Centralserouschorioretinopathyandwhitesub-retinalCexudationCduringCpregnancy.CArchCOphthalmolC109:677-681,C19916)SahooCNK,CGovindhariCV,CBediCRCetal:SubretinalChyper-(129)はCSRDの減少とともに鮮明化している.Cb:vacuolesignは網膜下フィブリン,SRDともに減少している.Cc:SRD,vacuolesignが消失している.Ellipsoidzoneに点状高輝度物質を認める.Cre.ectiveCmaterialCinCcentralCserousCchorioretinopathy.CIndianJOphthalmolC68:126-129,C20207)SaitoCM,CIidaCT,CKishiCSCetal:Ring-shapedCsubretinalC.brinousexudateincentralserouschorioretinopathy.JpnJOphthalmolC49:516-519,C20058)IidaCT,CHagimuraCN,CSatoCTCetal:EvaluationCofCcentralCserousCchorioretinopathyCwithCopticalCcoherenceCtomogra-phy.AmJOphthalmolC129:16-20,C20009)RajeshB,KaurA,GiridharAetal:“Vacuole”signadja-centCtoCretinalCpigmentCepithelialCdefectsConCspecialCdomainCopticalCcoherenceCtomographyCinCcentralCserousCchorioretinopathyassosiatedwithsubretinal.brin.RetinaC37:316-324,C201710)LiangCZ,CQuCJ,CHuangCLCetal:ComparisonCofCtheCout-comesofphotodynamictherapyforcentralserouschorio-retinopathyCwithCorCwithoutCsubfovealC.brin.Eye(Lond)C35:418-424,C202111)SchatzCH,CMcDonaldCHR,CJohnsonCRNCetal:SubretinalC.brosisCinCcentralCserousCchorioretinopathy.COphthalmolo-gyC102:1077-1088,C199512)TeraoCN,CKoizumiCH,CKojimaCKCetal:AssociationCofCupregulatedCangiogenicCcytokinesCwithCchoroidalCabnor-malitiesinchroniccentralserouschorioretinopathy.InvestOphthalmolVisSciC59:5921-5931,C201813)YannuzziLA:CentralCserouschorioretinopathy:aCper-sonalperspective.AmJOphthalmolC149:361-363,C201014)FujimotoCH,CGomiCF,CWakabayashiCTCetal:MorphologicCchangesinacutecentralserouschorioretinopathyevaluat-edbyfourier-domainopticalcoherencetomography.Oph-thalmologyC115:1494-1500,C2008あたらしい眼科Vol.40,No.7,2023C977

濾胞性結膜炎を伴う眼瞼伝染性軟属腫の2 例

2023年7月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科40(7):968.972,2023c濾胞性結膜炎を伴う眼瞼伝染性軟属腫の2例奥野周蔵*1原祐子*2鳥山浩二*2細川寛子*3竹澤由起*2北澤荘平*4井上康*5白石敦*2*1松山赤十字病院眼科*2愛媛大学医学部眼科学教室*3南松山病院眼科*4愛媛大学医学部病理学教室*5井上眼科CTwoCasesofFollicularConjunctivitisComplicatedbyMolluscumContagiosumontheEyelidMarginShuzoOkuno1),YukoHara2),KojiToriyama2),HirokoHosokawa3),YukiTakezawa2),SoheiKitazawa4),YasushiInoue5)andAtsushiShiraishi2)1)DepartmentofOphthalmology,MatsuyamaRedCrossHospital,2)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,MinamiMatsuyamaHospital,4)CEhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,5)InoueEyeClinicCDepartmentofMolecularPathology,濾胞性結膜炎の原因は感染性および非感染性に分けられ,感染性濾胞性結膜炎の原因微生物としてはクラミジアやアデノウイルス,ヘルペスウイルス,伝染性軟属腫ウイルス(Molluscumcontagiosumvirus:MCV)などが知られている.今回筆者らは,眼瞼伝染性軟属腫に伴う濾胞性結膜炎のC2例を経験したので報告する.2例とも眼瞼縁にC2Cmm大の腫瘍を認め,腫瘍の切除のみで濾胞性結膜炎は軽快した.切除した病変の組織内には伝染性軟属腫小体(Hender-son-Pattersonbodies)を認めた.さらに,伝染性軟属腫ウイルスCDNAのCPCR検査およびCSangerシーケンス法による解析により,両病変内へのCMCV1の存在が示唆された.伝染性軟属腫ウイルスはCMCV1.4のC4種が報告されているが,臨床的な意義は未だほとんど不明であるため,さらなる検討が必要である.CBackground:Infectiousfollicularconjunctivitiscanbecausedbychlamydia,adenovirus,herpessimplexvirus,andthemolluscumcontagiosumvirus(MCV),etc.Herein,wereporttwocasesofinfectiousfollicularconjunctivitiscomplicatedCbyCmolluscumcontagiosum(MC)onCtheCeyelidCmargin.CCasereports:InCbothCcases,CsmallCroundedC2Cmm-diameterCpapulesCwereCobservedConCtheCeyelidCmargin.CAfterCsurgicalCexcisionCofCtheCpapules,CtheCfollicularCconjunctivitisdisappearedinbothcases.Examinationofthetissueoftheresectedlesionsrevealedmolluscumbod-ies,CalsoCknownCasCHenderson-PattersonCbodies,CconsistentCwithCtheC.ndingsCinCpreviousCreports,CandCpolymeraseCchainreactionandSangersequencingrevealedthepresenceofMCV1inbothlesions.Conclusions:AlthoughfourtypesofMCV(i.e.,MCV1-4)havebeenreported,littleisknownabouttherelationshipbetweenthevarioustypesofMCVandclinical.ndings,sofurtherresearchisnecessary.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(7):968.972,C2023〕Keywords:濾胞性結膜炎,伝染性軟属腫,ポックスウイルス.follicularconjunctivitis,molluscumcontagiosum,poxvirus.Cはじめに濾胞性結膜炎の原因は感染性および非感染性に分けられる.感染性濾胞性結膜炎の原因微生物としてクラミジアやアデノウイルス,ヘルペスウイルス,伝染性軟属腫ウイルス(MolluscumCcontagiosumvirus:MCV)などが知られている.伝染性軟属腫は,小児や免疫不全者,アトピー性皮膚炎患者などに好発し,中心に臍窩を伴う乳白色の良性腫瘍が皮膚や粘膜組織に生じる.接触や性交渉により伝播するが,多くの場合は数カ月から数年程度で自然軽快するため,整容上の理由以外では積極的な治療はあまり行われない1).しかし,眼瞼縁病変では慢性濾胞性結膜炎の原因となりうることも古くから知られており2.4),外科的治療法として切除や切開掻〔別刷請求先〕奥野周蔵:〒790-8524愛媛県松山市文京町1松山赤十字病院眼科Reprintrequests:ShuzoOkuno,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MaatsuyamaRedCrossHospital,1Bunkyocho,Matsuyama-city,Ehime798-8510,JAPANC968(120)爬,冷凍凝固,焼灼,圧搾,レーザーなど,保存療法として局所薬物療法や内服薬などが報告されている3,5,6).今回筆者らは,伝染性軟属腫の眼瞼縁病変切除のみで軽快した,濾胞性結膜炎のC2例を経験した.また,うちC1例の病変切除後に病理組織学的検査を,2例ともに分子生物学的検査を施行し,病変内へのCMCVの存在を確認し遺伝子型を同定したので報告する.CI症例[症例1]35歳,男性.主訴:右眼充血.既往歴:梅毒(24歳).現病歴:1カ月前からの右眼充血を主訴にCXX年CX月に近医眼科を受診した.右眼アレルギー性結膜炎の診断でオロパタジン点眼液C0.1%とフルオロメトロン点眼液C0.02%が処方された.1カ月で改善し点眼中止したが,再度増悪し同年9月に再診した.眼球結膜・眼瞼結膜の充血と高度の濾胞形成,白色眼脂を認め,クラミジア結膜炎を疑い,結膜ぬぐい液CPCR検査,血清抗体検査を施行したが,ともに陰性であった.涙液総CIgE測定試験(アレルウォッチ)を施行したところ弱陽性であったため,アレルギー性結膜炎として前述の点眼治療が再開されたが改善が認められず,XX+1年X月に愛媛大学附属病院を紹介受診した.初診時所見:右眼視力C0.4(1.2C×sph.0.50D(cyl.1.75DCAx90°),左眼視力C0.4(1.2C×sph.0.75D(cyl.1.50DAx90°),右眼眼圧C17mmHg,左眼眼圧C17mmHgであった.右眼毛様充血および結膜充血が強く,下眼瞼結膜には濾胞を伴っていた(図1a).また,右上眼瞼縁中央部にC2Cmm大の腫瘍を認めた(図1b).腫瘍の性状は境界明瞭な乳白色の小丘疹であった(図1c).左眼には特記すべき所見を認めず,その他の部位に同様の小丘疹は認めなかった.経過:細隙灯顕微鏡所見より伝染性軟属腫による濾胞性結膜炎を疑い,右上眼瞼縁の小丘疹を点眼麻酔下に剪刀で切除し,点眼はすべて中止し経過観察を行った.切除後C2週間の時点で結膜濾胞は消失(図1d),充血も改善した.切除後C4カ月でも腫瘍や濾胞性結膜炎の再発はなかった(図1e).[症例2]6歳,女児.主訴:右眼充血.既往歴:なし.現病歴:皮膚科で眼周囲伝染性軟属腫の診断を受け,充血を伴う眼瞼病変を伴うことから眼科受診を勧められて,XX年CX月に井上眼科を受診した.初診時所見:右眼に濾胞性結膜炎と眼球結膜充血,下眼瞼縁中央部にC2Cmm大の腫瘍を認めた(図2a,b).眼周囲にも複数の同様の伝染性軟属腫病変を認めた.経過:下眼瞼縁中央部の腫瘍を無麻酔下に鑷子で除去し,点眼薬は使用せず経過観察とした.2週間後の再診時に腫瘍の再発はなく,濾胞性結膜炎および結膜充血は軽快していた(図2c).切除後C1カ月時点でも腫瘍の再発は認められていない(図2d).眼瞼以外の皮膚病変は皮膚科で切除され,ベタメタゾン・ゲンタマイシン配合軟膏の処方を受けていた.CII採取組織の解析方法症例C1から切除した病変はヘマトキシリン・エオジン染色,抗CCD3抗体免疫染色を行った.また,症例C1およびC2の組織片からCDNA抽出を行い,MCVのCDNAに反応するよう設計したプライマーを用いてCPCR法により増幅した.電気泳動後に目的のバンドからCDNAを抽出して精製し,Sangerシーケンス法を用いて塩基配列を決定し,NCBI(NationalCCenterCforCBiotechnologyInformation)データベースでのCAlignment解析により遺伝子型検索を行った.CIII結果症例C1から採取した検体の病理組織学的検査では,既報と同様の伝染性軟属腫を示唆する好酸性の細胞質内封入体(Henderson-Pattersonbodies:伝染性軟属腫小体)が認められた(図3a)3,7),CD3抗体による免疫染色でCTリンパ球の浸潤が確認された(図3b)8).また,両症例から抽出したCDNAを鋳型としてCPCR法を施行した結果,いずれも予測される長さ(638Cbps)の反応産物が得られた(図4).PCR産物のCDNA配列についてCNCBIデータベースを使用して解析を行った結果,いずれの配列もGenBankに登録されているCMCV1のCDNA配列(GenBankAccession:MH320554)と一致した.CIV考按伝染性軟属腫の眼瞼縁病変に合併する濾胞性結膜炎のC2例を経験した.濾胞性結膜炎は,ウィルス,クラミジアなどの感染症や,アレルギー性結膜炎,薬剤性結膜炎など,さまざまな原因により発症し,鑑別に難渋することも多い.症例C1でも,アレルギー性結膜炎と診断されて約半年間加療されたが寛解しないという経過をたどっている.アレルギー性結膜炎と診断した根拠であるアレルウオッチは,涙液中のCIgEを簡単に測定可能であり,有病正診率C73.6%,無病正診率はC100%と診断精度も高いため,日常診療でも頻用されている.しかし,近年の調査では,国内のアレルギー性結膜炎有病率はC48.7%と高頻度であることが明らかになっており9),アレルギー性結膜炎を合併している患者が多いことを考慮する必要がある.今回のC2症例はいずれも伝染性軟属腫に特徴的な腫瘍が眼瞼縁に認められた.結膜炎の診察では,ともすれば眼表面や瞼結膜,場合によって眼内も含む診察にとどまりかねないが,眼瞼まで含めた詳細な診察を行うことが大切であることが示唆された.眼部伝染性軟属腫に伴う濾胞性結膜炎のC40%は初診で診断されていないとの報告もあるため8),眼球や結膜以外の部位も含めた広範な診察や丁寧な病歴聴取を心がける必要があると考えられる.伝染性軟属腫に合併する濾胞性結膜炎の発症機序は,眼瞼縁の腫瘍からウイルス蛋白が涙液層に流れ込み,慢性的な濾胞反応や上皮下混濁,パンヌスなどの二次的な過敏性反応を引き起こすためと考えられている3).これらの二次的な症状が出現したあとでも,腫瘍消失後には急速に改善することが図1症例1の外眼部写真a:初診時,下眼瞼結膜に多数の濾胞を認めた.Cb:眼球結膜の充血と上眼瞼縁中央部にC2Cmm大の腫瘍を認めた.Cc:境界明瞭な乳白色の腫瘍を認めた.Cd:切除後C2週間.結膜濾胞は消失した.Ce:切除後C4カ月.充血は改善し腫瘍再発もない.知られている3).今回のC2症例では,眼瞼の腫瘍切除のみで濾胞性結膜炎は消失した.眼部伝染性軟属腫に対しては,外科的治療法として切除や切開掻爬,冷凍凝固,焼灼,圧搾,レーザーなど,保存療法としてサリチル酸やイミキモド,グリコール酸などの局所薬物療法やシメチジンの内服などが報告されているが1,3,5,6),本症例では腫瘍の切除のみで濾胞性結膜炎が軽快し,再発はみられなかった.切除は,低コストかつ短時間で治療が終了する点や,薬物アドヒアランスや副作用を心配す図2症例2の外眼部所見a,b:初診時,下眼瞼縁中央部に腫瘍あり,濾胞性結膜炎を認めた.Cc:切除後C2週間.結膜炎は軽快した.Cd:切除後C1カ月.濾胞性結膜炎は軽快し腫瘍再発はない.図3症例1の病理組織標本a:びまん性のリンパ球浸潤と,好酸性の細胞質内封入体(伝染性軟属腫小体:Henderson-Pattersonbodies)()がみられる.b:CD3陽性のCTリンパ球浸潤がみられる().る必要がない点などにおいて保存療法に対して優位性がある(Henderson-Pattersonbodies)と多数のCTリンパ球の浸潤と考えられる.一方,切除以外の外科的治療との比較に関しがみられ,Serinらの報告と一致する所見であった3).ては,さらなる検討が必要である.MCVには,MCV1からCMCV4のC4種の遺伝子型がある本症例では病理組織学的検査において伝染性軟属腫小体ことが知られている10)が,過去の報告ではC76.97%が(bps)症例1陰性対照(bps)症例2陰性対照1,0001,000500500図4PCR反応後の電気泳動写真症例C1,2ともにC638CbpsのCPCR産物が確認された.陰性対照(鋳型CDNAなし,PCR反応あり)では遺伝子増幅は確認されなかった.MCV1でもっとも多く,ついでCMCV2が多い7,11).MCV3とCMCV4はきわめてまれであり,全ゲノム配列がCGenBankデータベースに公開されているのはCMCV1とCMCV2のみである.今回筆者らが経験した症例はいずれもCMCV1であることが確認されたが,濾胞性結膜炎の原因となった眼部伝染性軟属腫の遺伝子型についてはいまだほとんど報告されていない.遺伝子型と臨床症状との関連については,成人女性ではCMCV2への感染が多いこと,非性器部位ではCMCV1が多いことなどの限られた報告11)はあるものの,未だほとんど不明であるため,今後さらなる検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)Meza-RomeroCR,CNavarrete-DechentCC,CDowneyC:Mol-luscumcontagiosum:anCupdateCandCreviewCofCnewCper-spectivesCinCetiology,Cdiagnosis,CandCtreatment.CClinCCos-metInvestigDermatolC12:373-381,C20192)MagnusJA:UnilateralCfollicularCconjunctivitisCdueCtoCmolluscumCcontagiosum.CBrCJCOphthalmolC28:245-248,C19443)SerinC.,CBozkurtCO.azCA,CKaraba.l.CPCetal:EyelidCmol-luscumcontagiosumlesionsintwopatientswithunilateralCchronicCconjunctivitis.CTurkCJCOphthalmolC47:226-230,C20174)亀山和子,吉川啓司,林皓三郎:濾胞性結膜炎を伴った眼部伝染性軟属腫.眼科C20:141-144,C19785)KarabulutGO,OzturkerC,KaynakPetal:TreatmentofextensiveCeyelidCmolluscumCcontagiosumCwithCphysicalCexpressionCaloneCinCanCimmunocompetentCchild.CTurkCOftalmolojiDergisiC44:158-160,C20146)ScheinfeldN:TreatmentCofCmolluscumcontagiosum:aCbriefreviewanddiscussionofacasesuccessfullytreatedwithadapelene.DermatolOnlineJC13:15,C20077)ChenCX,CAnsteyCAV,CBugertJJ:MolluscumCcontagiosumCvirusinfection.LancetInfectDisC13:877-888,C20138)CharterisDG,BonshekRE,TulloAB:Ophthalmicmollus-cumcontagiosum:clinicalCandCimmunopathologicalCfea-tures.BrJOphthalmolC79:476-481,C19959)MiyazakiCD,CFukagawaCK,CFukushimaCACetal:AirCpollu-tionCsigni.cantlyCassociatedCwithCsevereCocularCallergicCin.ammatorydiseases.SciRepC9:18205,C201910)NakamuraCJ,CMurakiCY,CYamadaCMCetal:AnalysisCofCmolluscumcontagiosumvirusgenomesisolatedinJapan.JMedVirolC46:p339-348,C1995C11)TCr.koCK,CHo.njakCL,CKu.arCBCetal:Clinical,Chistopatho-logical,CandCvirologicalCevaluationCofC203CpatientsCwithCaCclinicalCdiagnosisCofCmolluscumCcontagiosum.COpenCForumCInfectDisC5:ofy298,C2018***

スクリーニング目的で得られた角膜ヒステリシスの値と 緑内障性眼底変化の有無

2023年7月31日 月曜日

《第33回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科40(7):963.967,2023cスクリーニング目的で得られた角膜ヒステリシスの値と緑内障性眼底変化の有無瀧利枝丸山勝彦杉浦奈津美八潮まるやま眼科CCornealHysteresisValuesObtainedbyOcularResponseAnalyzerforScreeningExaminationswithorwithoutGlaucomatousFundusChangeToshieTaki,KatsuhikoMaruyamaandNatsumiSugiuraCYashioMaruyamaEyeClinicC目的:スクリーニング目的で行ったCOcularResponseAnalyzer(ORA)での眼圧検査で測定された角膜ヒステリシス(CH)の値を,眼底の緑内障性変化のある群とない群で比較すること.対象および方法:一定期間内にスクリーニングとしてCORAを用いて眼圧を測定し,かつ,眼底写真撮影と光干渉断層計(OCT)検査が行われている眼を対象とした.眼底写真とCOCTの結果から眼底の緑内障性変化の有無を判定し(あり群,なし群),両群のCCHの値を比較した(t-検定).結果:127例(平均年齢C53.5C±18.0歳),192眼が解析対象となった.あり群はC53眼,なし群はC139眼だった.あり群となし群のCCHはそれぞれC9.6C±1.4(6.8.13.3)mmHg,10.2C±1.2(6.9.13.3)mmHgとなり,あり群のほうが有意に低かった(p=0.003).結論:眼底に緑内障性の変化がある眼では,ない眼に比べCCHは低値だが,分布は重複する.CPurpose:ToCinvestigateCcornealChysteresisCvaluesCobtainedCbyCOcularResponseCAnalyzer(ORA)(Reichert)Cforscreeningexaminationpurposeswithorwithoutglaucomatousfunduschange.SubjectsandMethods:Weret-rospectivelyanalyzedthemedicalrecordsofeyesinwhichintraocularpressure(IOP)wasmeasuredbyORAforscreeningexaminations,andfundusphotographsandopticalcoherencetomographyimageswereobtained.Cornealhysteresis(CH)wascomparedbyt-testbetweeneyeswith(positivegroup)andwithout(negativegroup)glauco-matousCfundusCchange.CResults:ThisCstudyCinvolvedC192CeyesCofC127patients(meanage:53.5C±18.0years)C.CInCtheCpositivegroup(n=53eyes)andCtheCnegativegroup(n=139eyes)C,CtheCmean±standarddeviation(range)ofCCHwas9.6±1.4CmmHg(6.8to13.3mmHg)and10.2C±1.2CmmHg(6.9to13.3mmHg)C,respectively(p=0.003)C.CCon-clusions:OurC.ndingsCrevealedCthatCtheCmeanCCHCwasClowerCinCtheCpositiveCgroupCeyesCthanCinCtheCnegativeCgroupeyes,however,therewasanoverlapinthemeasureddistributions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(7):963.967,C2023〕Keywords:OcularResponseAnalyzer,角膜ヒステリシス,スクリーニング,緑内障,眼圧.OcularResponseAnalyzer,cornealhysteresis,screeningexamination,glaucoma,intraocularpressure.Cはじめにライカート社のCOcularResponseCAnalyzer(ORA)は,緑内障の発症1.3),あるいは進行4.9)に影響するとされる角膜ヒステリシス(cornealhysteresis:CH)が測定できる眼圧計である.また,ORAは非接触型眼圧計であるため日常診療でスクリーニング用眼圧計として使用されることもあり,スクリーニング目的でCORAを用いた場合でも約C8割の症例で信頼性のある測定結果が得られることがわかっている10).これまでのCCHと緑内障の関係を論じた研究は,すでに診断がついている患者を選択して対象としたものが多く,緑内障点眼薬による治療介入後の測定値を解析した報告も少なくない.また,不特定多数に対するスクリーニング検査で測定されたCCHでの検討は行われていない.さらに,ほとんどの〔別刷請求先〕丸山勝彦:〒340-0822埼玉県八潮市大瀬C5-1-152階八潮まるやま眼科Reprintrequests:KatsuhikoMaruyama,M.D.,Ph.D.,YashioMaruyamaEyeClinic,2F,5-1-15Oze,Yashio-shi,Saitama340-0822,JAPANC報告は視野異常を有する緑内障眼を対象としているが,緑内障性視神経症の病態は視野異常が検出される前から存在し,眼底に特徴的な変化が観察されることがわかっている11).本研究の目的は,スクリーニング目的で行ったCORAによる眼圧検査で測定されたCCHの値を,眼底の緑内障性変化がある眼とない眼で比較することである.CI対象および方法2021年C3月C1日.5月C15日に,八潮まるやま眼科でスクリーニングとしてCORAG3(ライカート社)を用いて眼圧測定を行ったC747例(男性C287例,女性C460例,平均年齢C53.5±20.4歳,レンジC6.94歳),1,488眼(右眼C745眼,左眼C743眼)の中で,WaveformScore6以上の結果が得られ,眼底写真撮影と光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)検査が行われている眼を対象とした.レーザー治療を含む内眼手術歴のある眼や,緑内障点眼薬を使用中の眼は対象から除外した.ORAは患者に応じて開瞼を補助しながらC3回測定を行い,平均値を解析に使用した.なお,同一眼に別の日にも測定を行っている場合には初日の結果を解析に用いた.眼底写真は無散瞳眼底カメラCAFC-330(ニデック)を用い,散瞳下,あるいは無散瞳下で後極部を画角C45°で撮影した.OCTはCRS-3000Advance(ニデック)を用い,同様に散瞳下,あるいは無散瞳下で黄斑マップを撮影後,緑内障解析を行った.なお,OCT測定時の信号強度指数の値は問わなかった.同一検者(丸山)が診療録データの眼底写真とCOCT結果を読影し,眼底の緑内障性変化の有無を判定した.眼底の緑内障性変化は,眼底写真で視神経乳頭陥凹拡大や乳頭辺縁部の菲薄化,それに伴う網膜神経線維層欠損と,OCT網膜内層厚解析で神経線維の走行に沿った菲薄化を認め,かつ,網膜神経線維層欠損を生じうる緑内障以外の眼底疾患(網膜静脈分枝閉塞症,糖尿病網膜症,高血圧性眼底,腎性網膜症など)が除外できることにより判定した.眼底読影の結果,緑内障性変化の有無が明らかな眼のみを抽出し,緑内障性変化を認める眼(あり群)と認めない眼(なし群)で,等価球面度数,最高矯正視力(logMAR)を比較した(t-検定).また,ORAで測定されたCGoldmann圧平眼圧計に相当する眼圧値(IOPg),CHをもとに補正された眼圧値(IOPcc),CHの分布の差を検討し(F-検定),数値を比較した(t-検定).なお,緑内障以外の他の疾患があっても,明らかに緑内障性変化を合併していると思われる眼はあり群と判定した.本研究は日本医師会倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号CR3-8).CII結果スクリーニングとしてCORAを用いて眼圧測定を行った1,488眼の中で,WaveformScoreがC6以上の結果が得られた眼はC1,245眼あり,その中で内眼手術歴のある眼はC663眼あった.残りのC582眼の中で,読影可能な眼底写真撮影とOCT検査が行われている眼はC341眼あったが,緑内障性変化の有無が判定できない眼がC149眼あり,最終的にC127例(平均年齢C53.5C±18.0歳,レンジC9.87歳,男性C46例,女性C81例),192眼が解析対象となった.あり群はC40例C53眼,なし群はC89例C139眼だった.なお,2例は片眼があり群に,片眼はなし群に組み入れられていた.すべての眼にオートレフケラトメータ(ARK-1s,ニデック)を用いた屈折検査と,視力検査が行われていた.あり群となし群の屈折(等価球面度数)はそれぞれC.2.11±4.15D(レンジC.17.13.+4.00D),.2.13±3.07D(レンジC.8.75.+5.00D)であり,差はなかった(p=0.98).また,最高矯正視力(logMAR)もそれぞれC.0.01±0.11(レンジC.0.18.0.30),.0.03±0.14(レンジC.0.30.0.70)と差はなかった(p=0.26).あり群,なし群のIOPg,IOPcc,CHのヒストグラムを図1に示す.いずれのパラメータもあり群となし群の間に分布の差はなかった(IOPg:p=0.17,IOPcc:p=0.16,CH:p=0.09).あり群,なし群のCIOPg,IOPcc,CHの箱ひげ図を図2に示す.あり群となし群のCIOPgはそれぞれC15.7C±3.3CmmHg(レンジC10.2.24.3CmmHg),16.2C±3.9CmmHg(レンジC8.1.29.8CmmHg)で差はなかった(p=0.42).また,IOPccはそれぞれC17.0C±2.7CmmHg(レンジC12.8.24.0CmmHg),16.8C±3.2CmmHg(レンジC10.5.28.3CmmHg)となり,やはり差はなかった(p=0.65).一方,CHはC9.6C±1.4CmmHg(レンジC6.8.13.3CmmHg),10.2C±1.2CmmHg(レンジC6.9.13.3CmmHg)となり,あり群のほうがなし群より有意に低かった(p=0.003).CIII考按本研究は,スクリーニング目的で行ったCORAでの眼圧検査で測定されたCCHの値を,眼底の緑内障変化の有無で比較した初めての報告である.測定値への影響を除外するため,内眼手術や緑内障点眼薬による治療介入が行われていない眼を対象に検討を行った.その結果,眼底に緑内障性の変化がある眼では,ない眼に比べCCHは全体としては低値だが,測定値のレンジは重複することがわかった.これまでのCCHと緑内障の関係を論じた研究は,すでに診断がついている症例を選択して対象としたものが多い.Abitbolら1)は,点眼治療中の緑内障眼C58眼(開放隅角C88%,閉塞隅角C12%,正常眼圧緑内障なし)と正常眼C75眼のCHを比較した結果,緑内障眼C8.77C±1.4CmmHg(レンジC5.0.11.3CmmHg)に対して正常眼はC10.46C±1.6CmmHg(レンジ4030201006.97.98.99.910.911.912.9(mmHg)図1OcularResponseAnalyzerで測定された各パラメータのヒストグラムa:IOPg,b:IOPcc,c:角膜ヒステリシス(CH).あり群:眼底に緑内障性変化を認めるC53眼.なし群:眼底に緑内障性変化を認めないC139眼.7.08.09.010.012.013.09.911.913.915.917.919.921.923.925.927.9(mmHg)c509.911.913.915.917.919.921.923.925.927.9(mmHg)b50a50あり群なし群4034眼数眼数眼数4030201003020100~38~~~~~~~~~~10.012.014.016.018.020.022.024.026.010.012.014.016.018.020.022.024.026.0~~~~~~~~~~~~~~~~~~~(mmHg)IOPg(mmHg)IOPcc(mmHg)CH353535303030252525202020151515101010555000あり群なし群あり群なし群あり群なし群図2あり群,なし群のIOPg,IOPcc,角膜ヒステリシス(CH)の箱ひげ図あり群:眼底に緑内障性変化を認めるC53眼.なし群:眼底に緑内障性変化を認めないC139眼.7.1.14.9CmmHg)と,緑内障眼のほうが有意に低かったとしている.また,Hirneisら2)は,点眼治療中の片眼性の原発開放隅角緑内障C18例と僚眼のCCHを比較しており,緑内障眼C7.73C±1.46mmHgに対して僚眼はC9.28C±1.42CmmHg(レンジ未記載)と,緑内障眼のほうが有意に低値だったとしている.さらにCKaushikら3)は,すでに診断がついた緑内障外来を受診中のCGlaucomaClikedisc101眼,高眼圧症C38眼,原発閉塞隅角症C59眼,原発開放隅角緑内障(狭義)36眼,正常眼圧緑内障C18眼の眼圧,ならびにCCHをはじめとする角膜の特徴を正常コントロール71眼と比較している(全症例手術歴や点眼使用なし).その結果,原発開放隅角緑内障(狭義),正常眼圧緑内障のCCHはそれぞれC7.9CmmHg(レンジ未記載,95%信頼区間C6.9.8.8CmmHg),8.0CmmHg(95%信頼区間C7.2.8.8CmmHg)であり,正常眼C9.5CmmHg(95%信頼区間C9.2.9.8CmmHg)に比べ,有意に低かったと報告している.本研究でもあり群のCCHはなし群より低い結果となったが,既報では測定値のレンジやC95%信頼区間をみてみると緑内障眼は対象全体が低めに測定されているのに対し,本研究ではあり群となし群の測定値のレンジは重複した.その理由として,本研究でのあり群の臨床背景が影響していると考えられる.本研究では組み入れの条件に視野異常の有無を問わなかったため,あり群のなかに前視野緑内障が含まれていたと予想され,また,内眼手術歴や点眼治療中の眼を除外しているため,多くの未発見,あるいは未治療の症例が解析対象となった.これらの要因が関与して後期の症例が除外され,早期の症例が多く含まれたため,本研究のあり群のCCHは既報より高く測定された可能性がある.スクリーニングとしてCCHが測定された不特定多数の症例を対象とした本研究の結果には意義がある.緑内障の危険因子の一つとしてCCHが低いことは緑内障診療ガイドラインに明記されているが12),日常臨床での緑内障の発見の機会を考えたとき,スクリーニングとして視力,眼圧,前眼部細隙灯,眼底などの諸検査を行って,緑内障が疑われる場合は適宜検査を追加して診断をすすめていくのが通例である.スクリーニング用眼圧計としてCORAを用いた場合,CHの測定値が低ければ緑内障の存在を疑う根拠になるが,測定値のレンジは正常眼と重複することから,それだけでは不十分であり,他の検査結果も加味して総合的に緑内障を疑う必要があることが確認できた.本報告は単一施設での後ろ向き研究であり,結果の解釈には各種バイアスの影響を考慮しなければならない.まず,眼底所見の読影に関して本研究にはいくつかの特徴があるため,結果の解釈に制限がある.たとえば,他院からのデータがあれば当院を受診した際に改めて眼底写真やOCTを撮影していないことも多く,眼底写真とCOCTは緑内障が疑われた全例に行われたわけではない.また,読影は一人の検者が行っているため,所見の見逃しや判定の偏りが生じることは否定できない.さらに,視神経乳頭の立体観察を全例で行っているわけではないため,眼底写真やCOCTでも判定困難なごく早期の陥凹拡大を見逃している可能性がある.OCTの測定結果の精度を問わなかった影響も考えられるが,今回は精度によらず緑内障性変化の有無が明らかに判定できる症例のみを対象としたので影響は少ないと考えられる.本研究でCOCTの乳頭周囲網膜神経線維層厚解析を用いなかった理由は,黄斑疾患の除外のためCOCTで乳頭部の撮影を行っていなくても黄斑部の撮影を行っている症例が多くあり,それらの症例を解析対象に加えなければとくに正常眼の眼数が著しく減少してしまうからであるが,乳頭周囲網膜神経線維層厚解析の結果を加味していないことにより診断の精度が低下している可能性はある.さらにまた,読影対象となった眼のうちC4割強は判定不能のため除外したことなどが結果に影響した可能性がある.眼底所見の読影以外でも,結果に影響を及ぼす可能性のあるいくつかの要素がある.本研究の結果は,ORAでCWave-formScoreがC6以上の結果が得られ,内眼手術歴のない未治療の眼に限定したものである.さらに,ORAの測定条件が一定ではないことも影響していると思われる.たとえば,閉瞼が強い症例や瞼裂が狭い症例,睫毛が長い症例などに対して開瞼の補助を行う明確な基準はなく,今回の測定値はそのときの検者の判断に任せた結果である.今回は,3名の検者が測定を担当したが,検者ごとの結果は明らかではない.さらに,本研究はデザインの特性から,眼底の緑内障性変化の有無に影響する背景因子の交絡は排除できない.屈折や最高矯正視力には群間の差はなかったものの,緑内障の有病率は年齢とともに高い12)ことを反映し,年齢が結果に影響を与えている可能性はある.本研究の対象には片眼はあり群,片眼はなし群に組み入れられた症例がC2例存在しており,単純な比較は困難と考え検討は行っていないが,あり群はなし群より明らかに年齢の高い眼が多く含まれている.しかし,本研究の目的はスクリーニングとして測定されたCCHの値を眼底の緑内障性変化がある眼とない眼で比較することであり,交絡因子が影響している前提で,臨床像としての結果と解釈できると考える.このようにいくつかの問題点はあるが,スクリーニングとしてCCHの情報が加われば緑内障検出の精度の向上が期待できる.そして,将来的には緑内障の早期発見や進行の危険因子を有する患者の早期発見に貢献でき,重症化の回避などによる医療経済的効果に繋がる可能性があると考えられる.今後,さらに多数例を対象とした多施設での検証が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AbitbolCO,CBoudenCJ,CDoanCSCetal:CornealChysteresisCmeasuredCwithCtheCOcularCResponseCAnalyzerCinCnormalCandCglaucomatousCeyes.CActaCOphthalmolC88:116-119,C20102)HirneisC,NeubauerAS,YuAetal:Cornealbiomechan-icsCmeasuredCwithCtheCocularCresponseCanalyserCinCpatientsCwithCunilateralCopen-angleCglaucoma.CActaCOph-thalmolC89:e189-e192,C20113)KaushikCS,CPandavCSS,CBangerCACetal:RelationshipCbetweencornealbiomechanicalproperties,centralcornealthickness,CandCintraocularCpressureCacrossCtheCspectrumCofglaucoma.AmJOphthalmolC153:840-849,C20124)DeCMoraesCCG,CHillCV,CTelloCCCetal:LowerCcornealChys-teresisisassociatedwithmorerapidglaucomatousvisual.eldprogression.JGlaucomaC21:209-213,C20125)MedeirosCFA,CMeira-FreitasCD,CLisboaCRCetal:CornealChysteresisCasCaCriskCfactorCforglaucomaCprogression:aCprospectivelongitudinalstudy.OphthalmologyC120:1533-1540,C20136)ZhangCC,CTathamCAJ,CAbeCRYCetal:CornealChysteresisCandprogressiveretinalnerve.berlayerlossinglaucoma.AmJOphthalmolC166:29-36,C20167)SusannaCN,Diniz-FilhoA,DagaFBetal:AprospectivelongitudinalCstudyCtoCinvestigateCcornealChysteresisCasCaCriskfactorforpredictingdevelopmentofglaucoma.AmJOphthalmolC187:148-15,C20188)AokiCS,CMikiCA,COmotoCTCetal:BiomechanicalCglaucomaCfactorCandCcornealChysteresisCinCtreatedCprimaryCopen-angleCglaucomaCandCtheirCassociationsCwithCvisualC.eldCprogression.InvestOphthalmolVisSciC62:4,C20219)MatsuuraM,HirasawaK,MurataHetal:TheusefulnessofCorvisSTTonometryandtheOcularResponseAnalyz-erCtoCassessCtheCprogressionCofCglaucoma.CSci.CRepC7:40798;doi:10.1038/srep40798,C201710)杉浦奈津美,丸山勝彦,瀧利枝ほか:スクリーニング用眼圧計としてCOcularCResponseCAnalyzerG3を用いた際の測定値の信頼度の検討.あたらしい眼科C39:959-962,C202211)WeinrebCRN,CFriedmanCDS,CFechtnerCRDCetal:RiskCassessmentCinCtheCmanagementCofCpatientsCwithCocularChypertension.AmJOphthalmolC138:458-467,C200412)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン第C5版.日眼会誌126:85-177,C2022***