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診断書・意見書の書き方

2023年5月31日 水曜日

診断書・意見書の書き方KeyPointsofWritingaMedicalCerti.cateandOpinion堀寛爾*I書類医師が交付する書類といえば,つまり診断書である.医師法第19条第2項に「(略)医師は,診断書(略)の交付の求があつた場合には,正当の事由がなければ,これを拒んではならない」とある.診断名と簡単な経過だけを書く自由書式の診断書ならともかく,ここで取りあげるような公務所に提出する書類は,不慣れな様式で間違いがあってはいけないと心配になり,筆が進まない気持ちも理解できる.ただし,これらの書類は意見書としての性質が強く,公務所の判定,裁定の参考資料となるものであり,伝えるべき要点さえ押さえておけば些事にとらわれる必要はない.所見や検査結果については診療録に記載の通り転記すればよく,予後などの意見については記載日時点での医療水準に基づいて判断して構わない.つまり研究段階の治療法などがいくら世間を賑わせていても,具体的な臨床応用の時期が確定するまでは「改善は見込まれない」としてよい.以下に,制度自体については概略にとどめ,書類ごとの要点を解説する.なお,これらの書類の記載は,必然的に検査結果を踏まえ,経過観察を含めた療養上の指導管理を行うことになるため,ロービジョン検査判断料250点(保険点数は令和4年度診療報酬改定のもの.以下同様)の算定要件を満たしていると考えられる.II身体障害者診断書・意見書(視覚障害用)身体障害者手帳(以下,手帳)の診断書である(図1).手帳は障害者が諸々のサービスを受けるためのいわば入場券で,「障害者福祉は手帳申請から始まる」といってもあながち間違いではない.手帳を交付するのは都道府県の知事または政令市・中核市の市長であるため,地域によってわずかに様式が異なることもあるが,病院の所在地の様式で提出して受理されなかった,という話は聞かない.手帳の要点は,申請日現在の申請者の視機能が等級表にある障害程度にあり,傷病名からそれが妥当であることである.手帳の診断書は,身体障害者福祉法第15条指定医だけが書くことができる.1頁目の総括表は,他の障害用のものとおおむね共通の様式となっている.要点として,「①障害名」は視力障害,視野障害,またはその両方のみを記載する.具体的な疾患名は「②原因となった疾病・外傷名」に記載する.「③疾病・外傷発生年月日」は,明確なら記載するが,不明・不詳ならそのように記載して構わない.「④参考となる経過・現症」は疾病・外傷名を支持する情報を記載するとよい.「障害固定または障害確定(推定)」の年月日は,一定の障害程度に該当したから申請する,という建前から,診断書記載日で構わない.著変がないようなら,記載医療機関の初診日や,紹介状に記載の確定診断時期などの記載でもよい.「⑤総合所見」には「改善は見込まれない」ことや,再認定を要とするなら*KanjiHori:国立障害者リハビリテーションセンター病院眼科〔別刷請求先〕堀寛爾:〒359-8555埼玉県所沢市並木4-1国立障害者リハビリテーションセンター病院眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(59)637図1身体障害者手帳の様式記入例を赤字,コメントなどを他の色で提示する.QRコードは視覚障害者等級計算機のURL1)である.記載する.両眼中心視野角度および両眼中心視野視認点数は,4で割った商を四捨五入して整数で記入する.現症は傷病名と合致する所見を記載すればよい.白内障がある場合は,「⑤総合所見」の欄に「白内障の影響は軽微であり,手術によっても視力や視野の改善は見込まれない」などと記載するとよい.たとえば幼児や広義の発達障害,認知症などで検査が完遂できなかった場合に,測定できた数値をもって視機能を評価するのは適当ではない.「⑤総合所見」の欄に「黄斑を含む広範な網脈絡膜萎縮があり,視力はよくとも0.1を上回らないと考える」など客観的な情報を元にした意見を記載すれば,審査の際の参考となるだろう.また,詐盲が疑われる患者において,診断書記載医にそれが詐盲であるか否かを証明する責任はなく,それは更生相談所,ひいては知事・市長の責任の下にある.いずれにしても,現時点で判定不能であり時期をみて追加の検査が必要であることを説明しても,なお医師法第19条第2項を盾に診断書・意見書の交付を求められた場合は,前述の通り「該当しない」にチェックして発行してもよく,あるいは「⑤総合所見」に検査が完遂できていない旨を記載することでもよい.医師および医療機関は,悪質な詐病師の反社会的な行為の矢面に立つ必要はないのである.3頁目は視野検査結果の台紙であるが,検査結果の写しも一般的にはA4判のコピー用紙に複写すると思われ,糊づけするとむしろ収まりが悪い.添付書類の散逸や紛失を防ぐ目的では,ゼムクリップなどで留めれば十分である.筆者は添付忘れのないようにダブルチェックもしたうえで発行したはずの診断書について,役所から「視野図を添付してください」と照会が来た経験から,視野図と台紙の間で割印を捺す運用としている.とくに次節の障害年金などで,時期の異なる複数の現症日についての診断書を同時に発行する必要のある場合には,割印の位置や向きを変えることにより,どの診断書と添付資料がセットであるかという意思表示をしている.III国民年金・厚生年金保険の診断書(眼の障害用)障害年金の診断書は最終的に日本年金機構に提出するものであり,全国で一律の様式2)である(図2).用紙サイズはA3判であり,医療機関で診断書作成ソフトなどを使っている場合でも,原則A3判での印刷で,と指定されている.こちらは手帳の診断書と違って指定医や認定医などの要件がないため,眼科医であれば誰でも記載できる.障害年金は初診日と障害認定日が非常に重要である.1.初診日の時点で被保険者であり2.その前々月まで規定の保険料を納付しており3.障害認定日に一定の障害程度であった場合に,障害年金が受給できる.つまり,手帳は現在どうであるかが重要であるが,障害年金は認定日(初診日の1年半後)時点での状況もまたきわめて重要である.要点として,①欄に傷病名を記載する.「②傷病の発生年月日」欄は不詳であれば不詳との記載でよい.「③①のため初めて医師の診療を受けた日」欄が前述の通りとにかく重要である.診断書記載医療機関が初診医であるなら単純であるが,紹介元がある場合なら紹介状に初診日の記載があるか確認する.初診日がはっきりしないなら初診医に次節の受診状況等証明書の発行を依頼することになる.「④傷病の原因または誘因」欄は不明なら不明でよい.糖尿病網膜症の場合はここに糖尿病の記載が入り,その内科の初診日が障害年金でいう初診日になるため,ここにその日付を記入する.「⑤既存障害」欄は視覚障害以外の障害があるなら記載する.「⑥既往症」欄はその他の特記すべき既往症を記載する.「⑦傷病が治ったかどうか」欄は今後良くも悪くもならない傷病の場合は上段で,今後徐々に悪くなるものは下段の「症状のよくなる見込無」になる.眼科疾患の場合は,ほとんどの場合が下段の「無」になると思われる.⑧欄と⑨欄は診断書記載医療機関からの情報である(裏面の記入上の注意も参照のこと).「⑩障害の状況」欄からは現症を記載する.現症日の記入漏れに注意する.「(1)視力」「(2)視野」「(3)所見」は基本的には手帳のそれと同様である.「(4)その他の障害」については手帳にはない要件であるが,相当に悪い状態で厚生年金保険法の障害手当金相当の障害と記載する.該当のない場合は「該当なし」と記載するか斜線で欄を抹消する.「⑪現症時の日常生活活動能力及び労働能力」欄は「日常生活および(61)あたらしい眼科Vol.40,No.5,2023639図2年金診断書と受診状況等証明書初診日と障害認定日の確定が最大のポイントである.QRコードは日本年金機構のそれぞれのページ2,3)である.労働に著しい支障がある」などと記載する.「⑫備考」欄は「改善は見込まれない」などと記載する.白内障について影響が軽微である旨もここに記載するとよい.⑬欄については障害程度が1級相当で改善が見込まれない場合には「永久認定で問題ないと考える」など記載してもよい.記載日,医療機関名,医師名を記載して,完成となる.障害状態確認届(障害年金の更新の診断書)はヘッダーに患者の住所や氏名,フッターに年金コードなどが印字された様式である.記載の要点は申請の診断書とおおむね同様であるが,すでに確定している初診日などの欄はなく,現症をありのままに書くだけである.障害年金は20歳前傷病の場合を除いてその受給に所得制限はない.意外と知られていないが働きながらでも受給でき,障害基礎年金だけでも2級なら老齢年金の満額と同等で,1級ならその1.25倍である.これに余命年数を掛けたものが生涯受給額と考えると,総額で数千万円が受給できることになる.障害厚生年金は「報酬比例の年金額」ということで平均標準報酬額と加入期間に比例するが,加入期間は300月未満であれば300月とみなす計算式であり,意外と大きな額となる.さらにいえば,障害年金は非課税であり,雑所得として課税対象となる老齢年金とは対照的である.IV受診状況等証明書障害年金の初診日を確定させるために重要な書類3)である(図2).基本的にはその傷病の初診医療機関から発行されるものであるが,カルテ破棄や廃業などで発行で640あたらしい眼科Vol.40,No.5,2023(62)図3補装具費支給意見書市区町村によって様式は異なる.かれているが,白杖は意見書を省略することができると規定されているので,この書類は義眼と眼鏡についてのものとなる.記載できるのは第15条指定医と視覚障害者用補装具適合判定医師研修会を修了した医師であり,難病患者にあっては難病指定医も記載することができる.国の制度であるが市町村が主体となって実施するので,自治体ごとに様式が異なる.制度の利用には,この意見書と補装具の処方箋(指示箋)および商品の見積書を添えて役所に提出することになる.氏名から手帳等級,現症,視力までは定型通り記載する.視野については有の場合は「求心性視野狭窄」など視野パターンを記載するとよい.処方する補装具が,制度のなかでどれに該当するかは確認が必要で,種目・名称などを意見書と処方箋で一致させることが重要である.よくある間違いは,いわゆる単眼鏡は「眼鏡弱視用焦点調整式」であり「焦点調節式」ではない.また,度入り色入り眼鏡は「眼鏡矯正用遮光機能の必要なもの」であり,「眼鏡遮光用掛けめがね式」は度なし色入り眼鏡のことをさす.使用効果見込として具体的に記載することと,他の手段ではその効果が得られないことを明記する.また,2個支給とする場合は,自治体に2個支給が認められるか問い合わせたうえで,2個支給が必要である旨とその理由を明記する.VI臨床調査個人票難病法の指定難病に関する診断書である(図4).難病指定医のみが書ける.難病ごとに様式が異なるが,いずれも患者の基本情報,診断基準と現症,重症度分類,人工呼吸器の情報,指定医の情報という作りになっており,基本的にはチェックボックスやマス目になった欄を埋めるだけで完成する様式である.新規と更新で同じ様式を用いる.細線欄は新規でも更新でも必須,太線欄は新規のみ必須とされている.点線欄は更新のみ必須とされているが,少なくとも眼科関連の臨床調査個人票で点線欄のあるものはないと思われる.難病情報センターのWebページ4)の臨床調査個人票は入力可能なPDFで掲載されているので,ここからダウンロードして入力し,プリントアウトすることもできる.難病法の対象となる難病患者は,診断基準を満たしていることと,一定の重症度を満たしていることが要件となる.たとえば告示番号90「網膜色素変性症」では重症度I度(矯正視力0.7以上,視野狭窄なし)は対象とならず,重症度II度(矯正視力0.7以上,視野狭窄あり)からが対象となる.ここで「視野狭窄ありとは,中心の残存視野がGoldmannI-4視標で20°以内」であることに注意が必要である.また,たとえば告示番号328「前眼部形成異常」,329「無虹彩症」,332「膠様滴状角膜ジストロフィ」ではIII度(罹患眼が両眼で,良好なほうの眼の矯正視力が0.3未満)からが対象となる.他の対象疾病についてもそれぞれ定められているので,記載の前には確認するべきである.対象となると,難病法のもとでの患者側のメリットとしては医療費の助成がある.また,障害者総合支援法では難病法の指定難病+aの疾病につき,手帳基準相当の視機能であれば手帳交付を受けていなくても障害福祉サービスなどを受けられる旨の規定がある.療養・就労両立支援指導料(初回800点)の算定要件のひとつである対象疾病には,難病法の指定難病が丸ごと含まれる.この指導料の算定には施設基準などの要件はないため,就労世代の難病患者には折をみて就労上の困りごとはないか確認するとよい.また,経過観察を含めて適切な時期の検査の必要性など療養上の指導を行うなら,難病外来指導管理料270点の算定も可能である.これはロービジョン検査判断料とも併せて算定できる.臨床調査個人票は毎年提出する必要があるが,医療費助成の自己負担上限額(月額)については世帯所得によって変わる.そのため前年所得に基づく市町村民税の課税額が確定した時期に臨床調査個人票が役所から送られてくることが多い.つまり,患者が医療機関に受診する時期が6.8月頃に集中する結果となる.障害状態確認届(障害年金の更新)が1年を通して分散することと対照的である.対象患者が多い医療機関にあっては,毎年当該時期にGoldmann視野検査などの検査予約枠の拡充も検討されたい.VII医師意見書・主治医意見書障害者総合支援法のもとで障害福祉サービス等を受け642あたらしい眼科Vol.40,No.5,2023(64)図4臨床調査個人票(090網膜色素変性症の様式)新規のときは太線欄と細線欄,更新のときは細線欄を埋める.QRコードは難病情報センターのページ4)である.図5障害福祉サービスの医師意見書介護保険の主治医意見書も似たような様式である.自由記述欄に視覚障害により必要なサービスの情報を記載する.

ロービジョンケアにおける多職種連携

2023年5月31日 水曜日

ロービジョンケアにおける多職種連携InterprofessionalCollaborationinLowVisionCare清水朋美*はじめに近年,超高齢社会や価値観の多様化などに伴った保健医療福祉をめぐる社会の変化は目覚ましく,多職種連携はますます重要視されている.ロービジョンケア(lowvisioncare:LVC)においてもまったく同様であり,連携の取り方も以前より多面的になってきている.しかも,自身が日常的に身を置いている医療以外の福祉,教育,行政などの他分野との連携が必要になる場面がしばしばあり,とくにLVC初心者には,連携といわれてもどこからどのように手を付けたらいいのか見当がつかず,困ることが多いのではないだろうか.一般的に,多職種連携は決して容易なものではないとされているが,筆者の経験上,LVCの連携にはいくつかのコツがあると思う.コツを押さえておくことで,不必要な苦手意識をもたずにすみ,むしろ円滑な連携に近づけるかもしれない.連携によってロービジョンの患者の前途が開けることも多く,連携のもつ力は想像以上に大きいのではないだろうか.本稿では,近年の連携を取り巻く知見と筆者が考えるコツを交えながら紹介する.I多職種連携と専門職連携教育多職種連携とはinterprofessionalwork(以下,IPW)のことであり,相互に尊重しあい,もちつもたれつの関係による協働の概念が土台となっており,真のチーム医療ともいわれている.IPWを実践する能力は,社会に出る前の卒前教育の段階から,その基盤教育となる専門職連携教育であるinterprofessionaleducation(以下,IPE)によって培うべきと提唱されている1).もともと,1988年に世界保健機関よりIPEを推奨する報告書が出版され,国際的に促進されるようになった2,3).一例だが,英国では医学部卒業時に有している専門職としての能力として,「コミュニケーションと対人スキル」が示されている4).さらに,多職種連携コンピテンシーという他の専門職と協働実践ができる能力と評価方法についても具体的に示されている.日本でも医学部卒業時の目標として「コミュニケーションとチーム医療」が示されているが,実際には他分野の学生とともに学ぶ機会は十分ではなく,一部の大学に限られている1).IPEは,「複数の領域の専門職者が連携およびケアの質を改善するために,同じ場所でともに学び,お互いから学び合いながら,お互いのことを学ぶこと」と定義されている1).複数の領域の専門職者のなかには,地域住民や当事者も含まれている.日本のIPEは十分に普及しているとはいえない段階だが,急速な少子高齢化を考えると,医療だけでなく,その人らしい生活を包括的に支援する福祉の視点から考えることができる医療人の育成が急務である.IPWをLVCに置き換えて考えると,患者および家族,眼科医療者,福祉,教育,行政など,あらゆる関連する人たちの技術と知識の提供を相互に行いながら,患者および家族が生活しやすくなるという共通目標を達成するために,関係者全員で行う協働活動といえる.そして,*TomomiNishida-Shimizu:国立障害者リハビリテーションセンター病院第二診療部〔別刷請求先〕清水朋美:〒359-8555埼玉県所沢市並木4-1国立障害者リハビリテーションセンター病院第二診療部0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(51)629図1多職種連携のコア・コンピテンシー日本では協働的能力(collaborative)にとくに焦点が当てられている.(文献5より作成)役割,知識,意見,価値観を双方向に伝え合うことができるコミュニケーション力であり,円滑なCIPWを進めるためには欠かせない.架空例で考えると,医療では眼科医,視能訓練士,看護師,医療以外では歩行訓練士などがかかわる可能性がある.眼科医はこれまでの経過確認,視機能の評価を兼ねた診察,視能訓練士は保有視機能の検査,看護師は眼科以外のことも含めた日常生活全般の困り事の傾聴,がそれぞれの専門性から対応できる.現在の保有視機能の評価を行ったうえで,必要な補助具を選定と評価を行い,生活全般での困り事を関連スタッフ一同で把握することが可能になる.就労支援という側面も念頭に置く必要があり,歩行訓練士,ソーシャルワーカーをはじめとした医療以外の職種とのかかわりも生じるであろう.医療分野内部のCIPWが円滑でないのに医療以外の分野とのCIPWを円滑に進めるのは無理があり,日頃から自身の職場内職種間コミュニケーションを円滑にしておくことが,IPW全体をうまく進めるために重要である.C2.コア領域を支える四つの領域a.職種としての役割をまっとうする互いの役割を理解し,知識・技術を活かし合い,職種としての役割をまっとうする.眼科医,視能訓練士,看護師などの医療職のみならず,福祉分野の歩行訓練士,ソーシャルワーカー,教育分野の学校教諭,行政の事務担当者など,それぞれの役割を十分に理解し,それぞれの知識・技術を最大限生かすことである.架空例で考えると,医療分野では保有視機能の評価に基づいた補助具の選定と評価であれば対応できるが,今後の就労継続という最大の課題については,福祉分野の職員にかかわってもらう必要がある.身体障害者手帳は取得しているようだが,障害年金は請求できるのか,今後の視機能の状況によっては視覚リハビリテーションの専門的な訓練を受ける必要も生じるであろう.一例だが,就労支援の相談先として,おもに視覚障害の当事者が行っている認定CNPO法人タートルのロービジョン就労相談会への参加も検討できる可能性もある.円滑に連携を進めるためにもそれぞれがプロフェッショナルに役割をまっとうする必要がある.b.関係性に働きかける複数の職種との関係性の構築・維持・成長を支援・調整することができ,ときに生じる職種間の葛藤に,適切に対応することができる.架空例で考えると,たとえば看護師と歩行訓練士など,もともと医療と福祉の分野で異なる背景をもつ職種同士も,同じケースを中心に協働していく必要がある.職種間の関係性を良好に保つためにも,共通の話題をもつなど,日頃から積極的なコミュニケーションを図っておけると心強い.また,眼科医は全体の統括的役割を担い,視能訓練士,看護師に指示を出す立場にあるが,眼科医の発言が必ずしも正しいとは限らない.視能訓練士,看護師は,眼科医がいっているので……という理由のみでその指示通りに動くのではなく,自身でもその指示が適切か否かをともに考える力を磨き,必要時には意見を出し合いながらよりよい対応策をチームとして検討していく必要がある.Cc.自職種を省みる自職種の思考,行為,感情,価値観を振り返る力を意味する.振り返りをとおして,自身の強み・弱みを客観的に把握することで,他職種とコミュニケーションをとるうえで必要な自己コントロール能力を向上させることができる.架空例で考えると,福祉分野の歩行訓練士,ソーシャルワーカーから医療分野の視能訓練士,看護師に対して,就労継続のために眼科医に職場に提出する診断書を作成してほしいと依頼があっても,眼科医はどのような診断書なのかわからないので書けないというパターンがありえる.単に書けないと拒む前に,実際にどのような診断書なのか,メディカルスタッフの手を借りるとはしても,最終的には眼科医自身で確認を要するのではないだろうか.とくにロービジョンケアにかかわる診断書は,診断書の有無によって患者の就労に関する進退が決まるなど,重要な局面もあるので,不明な場合には断るという単純な解釈ではロービジョン患者の就労支援に支障をきたす.断るのであれば,具体的にどこでどのように作成を依頼すべきなのか,道筋を示す必要がある.「できない」「わからない」という言葉だけで止めないことも連携では大切なことである.また,断った経験があ(53)あたらしい眼科Vol.40,No.5,2023C631る場合には,どのようなときに断ったのかを自身でしっかり把握しておくとよいであろう.Cd.他職種を理解する他の職種の思考,行為,感情,価値観を理解し,連携協働に活かす.職種を越えて同じテーマで勉強会を行うというのも効果的である.架空例で考えると,合同カンファランスが相当する.つまり,眼科医,視能訓練士,看護師,歩行訓練士など,かかわった職種が一堂に会して,それぞれの立場で何をどのようにケアを進めたのかを共有し,課題を整理し合い,解決に向けて検討していく.リハビリテーション医療のなかでは日常的に多職種を交えた合同カンファランスが行われている.手術患者や入院患者を対象としたカンファランスは眼科でも日常茶飯事だが,LVC対応をしたケースがあれば,不定期でよいので,眼科医,視能訓練士,看護師などの眼科医療チームの中だけでも合同カンファランスを行ってみると,IPWも取りやすく,LVCに関する何か気づきがあるかもしれない.このように多職種連携コンピテンシーは比較的新しい概念であるが,LVCをチーム医療として考える際には大変役立つ内容が詰まっている.基本的なことだが慣れていないとむずかしいことも多く,日頃から学習できる機会を作っておきたい.CIII医療間連携とコツ眼科間連携,他科と眼科の連携が考えられる.医師同士を中心とした連携なので,医療以外との連携よりは手順がわかりやすい.つまり,紹介元は診療情報提供書を作成して患者に渡し,患者は作成された診療情報提供書を持参して紹介された医療機関を受診し,診察の結果を返書という形で紹介元に送るという基本の流れが定着している.これまでの多くは,検査,手術,入院,治療などが必要であるために他院紹介となることが多かったが,近年はCLVC目的で診療情報提供書を作成するということも増えていると思われる.LVC目的で紹介をする際のコツとしては,実施されていれば,古くてもよいので動的であれ静的であれ視野検査の結果を同封したほうが紹介先では参考になる.再検査を行う場合も多いが,最初の視機能評価の際に役立つ.また,紹介されてCLVCを行った側としても,LVCで行った結果は紹介元にフィードバックすることもLVCの啓発という観点からも必要であると考える.たとえば,新たにCGoldmann視野検査を行ったのであれば,その結果のコピー,LVCの中で紹介した福祉施設や患者団体があればその資料を同封して返書で送ると,紹介元の医師にとって新たな学びや気づきになり,ひとつの医療間連携になりえる.CIV福祉,教育,行政との連携とコツ医療以外の分野との連携はむずかしいといわれることも多い.実は,医療以外の福祉,教育,行政からみても医療は連携がむずかしいと感じられていることも多いことを知っておきたい.医療以外の分野から医療側へ連絡する際には,電話ひとつかけるにも,多忙な医療者にこんなことで連絡をしたら叱責されないだろうかなど,さまざまな気がねが生じやすい.医療側から医療以外に連絡をする際にも,そもそもどこの部署の誰に何を聞いたらいいのかなど,やはり気がねが生じやすい.気がねの原因として考えられるのは,文化の違いが大きいのではないだろうか.同じ分野であれば,1日のなかの時間の流れや担当者なども何となくでもイメージがつくが,分野が違うと想像してもむずかしいことが多い.いまは幸いにも全国の各都道府県でスマートサイト(ロービジョンケア紹介リーフレット)が整備されており,以前よりは福祉,教育,行政との連携がとりやすくなったところも増えてきたと思われるが,まだ十分とはいえない.しかし,各都道府県に何人かは眼科医や視能訓練士でロービジョンネットワークの仕事に従事している人がいるはずであり,まずはその人たちと地域のロービジョン関連の勉強会などを通して顔見知りになるのも一案である.また,とくに福祉,教育については,医療からの見学,問い合わせは予想以上に歓迎されることが多いため,行けるところには見学を兼ねて行ってみるのもよいであろう.行政については,人事異動が必ずあるので担当もしばしば変わるが,不明な点については積極的に電話で聞いてみるとよい.関係性ができてくれば,逆に行政の現場から眼科関連の不明点を電話で質問されること632あたらしい眼科Vol.40,No.5,2023(54)表1疾病によるおもな患者団体団体名CURL二次元バーコード日本網膜色素変性症協会(JRPS)Chttp://jrps.org/加齢黄斑変性友の会Chttps://sites.google.com/site/amdtomonokai/Chome?authuser=0Leber病患者の会Chttp://leber.web.fc2.com/緑内障フレンドC・ネットワークChttp://www.gfnet.gr.jp/ベーチェット病友の会Chttps://www.behcets-jp.net/サルコイドーシス友の会Chttps://www.ne.jp/asahi/h/sato/日本円錐角膜患者会Chttp://xn--w6q358i.fn1j.jp/C表2患者背景によるおもな患者団体団体名CURL二次元バーコード日本視覚障害者団体連合(日視連)C視覚障害者自身の全国組織http://nichimou.org/タートルChttp://www.turtle.gr.jp/視覚障害者の就労支援をおもに行っている団体視覚障がい者ライフサポート機構“viwa”Chttp://www.viwa.jp/視覚障害者やその家族,視覚障害関係の仕事をしている人たちを対象とした会.若い世代が多く,子育てや就学,就労に関する情報が多い.視覚障害をもつ医療従事者の会(ゆいまーる)Chttp://yuimaal.org/視覚障害をもつ医師やメディカルスタッフの会日本弱視者ネットワーク(弱視者ネット)Chttps://jakumonken.com/弱視者(ロービジョンの人)を対象にした会全国社会福祉協議会(全社協)Chttps://www.shakyo.or.jp/各地にある社会福祉協議会(社協)の中央組織.各地の社協は地域の患者グループ情報をもっていることがある.図3ロービジョン連携手帳の表紙A5サイズの見開きノート形式であり,14ページで構成されている.(日本ロービジョン学会連携委員会提供)

デジタルデバイスを用いるロービジョンケア

2023年5月31日 水曜日

デジタルデバイスを用いるロービジョンケアLowVisionCarewithDigitalDevices三宅琢*和田浩一*はじめに視覚障害者は移動障害を伴う情報障害者と表現されてきた.一方でロービジョンや全盲の視覚障害者がスマートフォン(以下,スマホ)やスマート家電を利用して,生活情報をインターネット経由で入手,発信する事例や視覚障害になった時点でデジタルデバイスを日常的に利用しているデジタルネイティブな事例が散見されるようになった.背景としてスマホやタブレット型パソコン(PC)をはじめとした情報通信技術(informationandcommunica-tiontechnology:ICT)端末は,障害の有無にかかわらず現代人の生活にとって情報の入手・発信デバイスとして欠かせない存在となったことが考えられる.本稿では上記状況を踏まえて患者のニーズの代表である視認(見たい),識字(読みたい),識別(知りたい)に関する困難さに応えるスマホやタブレット端末の紹介に加えて,スマート家電やウェアラブルデバイスの活用法について解説する.I視認ニーズに対する活用視認においては,視認対象を最適な拡大率およびコントラスト・輝度で視認できるまでの工程が少ないことが重要である.最新の端末では,背面カメラを利用して拡大鏡アプリを,音声コマンドによる操作で画面の操作に依存せずにアプリを起動することが可能である.拡大鏡アプリでは視認対象を静止させ,任意の拡大率まで拡大図1拡大鏡アプリを利用して対象を静止後,拡大し色調・コントラストなどを調整して視認している様子コントラスト強調,色反転により表示し視認している様子.アプリ名:明るく大きく,価格:無料.縮小して視認することや,コントラストや色調などの調整を行い,個別の視認特性や嗜好性に合わせた最適な視認環境を個別に設定することが可能である(図1).視認性を低下させる代表的な理由としては,1)対象物との距離がある,2)小さくて見えない,3)コントラストが悪い,4)視野が狭く全体の把握ができないなどがあげられる.原因に合わせて,1)望遠ズーム・デジタル拡大機能,2)拡大鏡アプリ利用,3)広角撮影機能などのスマホのカメラ機能を紹介することで困難さを軽減できる(図2).*TakuMiyake&KoichiWada:公益社団法人NEXTVISION〔別刷請求先〕三宅琢:〒650-0047兵庫県神戸市中央区港島南町2-1-8公益社団法人NEXTVISION0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(45)623abc15倍(ズーム)1倍(等倍)0.5倍(広角)図2デジタルズーム(a),等倍率(b),広角レンズ(c)で同一距離の対象を撮影した様子倍率により表示される範囲は大きく異なり,視野狭窄を伴う事例では広角レンズが有効に機能する.図3スマホの背面カメラを利用したOCR機能アプリ撮影された風景の状況説明,撮影画像内に存在するテキスト情報,顔認証による個人識別などを音声情報として受け取ることが可能である.アプリ名:Sullivan+,価格:無料,画像元:AppleAppStore.図4左から6.7インチ,8.3インチ,12.9インチの端末における電子書籍の比較図5背景カメラ機能を利用した物体認証アプリテキストの音声化,顔認証,紙幣識別,製品情報,照度レベル,色情報などを音声情報へと変換することが可能なアプリ.アプリ名:SeeingAI価格:無料,画像元:AppleAppStore.図6オンラインで支援者を繋ぎビデオ通話機能を利用して遠隔で視覚支援を受けられるアプリダウンロード後に視覚補助の支援を必要とする人か支援をするボランティアかを選択することで利用ができる.アプリ名:BeMyEyes.Helpingblindsee,価格:無料,画像元:AppleAppStore.図7もっとも普及しているスマートスピーカーであるAmazon製のechoシリーズ図8スマートウォッチ「Alexa」と話かけることで音声アシスタントを利用可基本設定内の障害者補助機能であるアクセシビリティ機能能である.左から標準タイプのEcho第4世代,高音質で,拡大表示や音声読み上げなどにも対応しており,弱視で立体音響に対応したEchoStudio.や全盲の患者でも操作が可能である.製品名:AppleWatchSeries5.図9ウェアラブルデバイスで掲示物を読み上げている様子AI搭載のウェラブル視覚支援デバイス,左からOrCamMyEye2,EnvisionGlass.

歩行に関するロービジョンケア

2023年5月31日 水曜日

歩行に関するロービジョンケアLowVisionCareforOrientationandMobility別府あかね*はじめに視覚に障害があると,日常のさまざまな場面で支障をきたしてくるが,おもな困りごととして,読み書きと歩行があげられる.「歩行訓練」や「白杖」と聞くとまったく見えない全盲の人のケアのイメージが強いかもしれないが,ロービジョンの人にとっても必要なロービジョンケアのひとつである.I視覚障害者の歩行視覚障害者の歩行というと白杖というイメージであると思うが,白杖歩行以外にも,屋内では白杖を使用しない屋内歩行や,介助者と同行する手引き歩行,盲導犬との歩行など,方法はさまざまである.また,最近ではさまざまな歩行デバイスが登場しており,白杖と併用するなど視覚障害者の歩行を取り巻く環境もIT化が進んできている.II歩行訓練目の見えない・見えにくい視覚障害者が歩行するとき,白い杖を持つだけで簡単に自由に歩行できるわけではない.視覚障害者の歩行訓練は英語で「orientation&mobility」といわれ「定位と移動」と表現されている.このように単なる歩くという意味の歩行ではなく,目的地まで安全・安心して移動するために,周囲の環境を確認しながら歩くことを意味する.そのため,視覚障害者の歩行訓練は白杖の持ち方や振り方といった白杖の操作技術だけでなく,目的地までの歩行ルート上の目印(ランドマーク)を確認し,今いる場所がどこかということを常に確認しながら移動をするための訓練となる.また,白杖を使用した単独歩行についても,完全に一人ですべてを歩くことだけをめざすのではなく,援助依頼をすることも含まれている.援助依頼についても歩行訓練の中で実施する場合がある.IIIロービジョン者の歩行訓練視力や視野など活用できる保有視覚がどの程度かにより,困りごとは異なってくる.ロービジョン者の歩行訓練は保有視覚を活用しながら,白杖はシンボル的な活用のみでよいか,また歩行する環境などにも合わせて,一人ひとりのニーズに合わせて実施していく.そのため訓練時には,見え方を把握することはとても大切である.たとえば,道路の白線は視認できるかどうか,信号機の色は判別できるのか,信号機の位置を把握するのに視野障害の影響はあるのか,これらの見え方は天候によって左右されるのかといったことを丁寧に確認しながら行う.眼科では,診察時や視力検査時に「信号が見えにくい」「車止めにつまずく」「目の前を自転車が横切ってびっくりした」「下りの段差が見えなくて怖い」「溝に片足を落とした」など,具体的なエピソードを聞く機会があるのではないだろうか.まずは眼科でできるロービジョンケアとして,所持眼鏡の矯正度数の確認や羞明があれ*AkaneBefu:岡本石井病院眼科(歩行訓練士・視能訓練士)〔別刷請求先〕別府あかね:〒425-0031静岡県焼津市小川新町5-2-3岡本石井病院眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(35)613ば遮光眼鏡の処方を行い,保有視覚を最大限に生かせるよう光学的なケアを行うことが第一歩である.所持眼鏡のチェックはどこのクリニックでもできることなので,ロービジョンケアを実施していない眼科でもぜひ確認をお願いしたい.眼鏡処方においては,矯正視力が裸眼視力とあまり変わらない場合に,眼鏡をしても意味がないと眼鏡処方をしてもらっていないロービジョンの人もいるが,拡大鏡を使うときも屈折矯正をきちんとしてから補助具を使うということはロービジョンケアの基本である.裸眼のほうが楽で見やすいという人もいるのでケースバイケースであるが,最初からあきらめずに眼鏡処方についても試していただきたい.そして,遮光眼鏡の処方ができない場合は,近隣のロービジョン外来のある眼科につないでもらいたい.眼科で視機能を最大限活用できるようにケアしてから歩行訓練士につなぐと,視覚を活用しながらの歩行訓練を効果的に行うことができる.また,高齢者の患者の場合,一人では外出しないという患者も少なくない.そのような場合でも,「ゴミ箱を蹴飛ばしてしまう」「引き戸が開いていると思ったら半分閉まっていて肩をぶつけた」など家の中での移動に不便を抱えていることもある.年齢に限らず,その患者の生活環境の中で,見えにくさのために困っていることがあれば,安全に安心して移動できるように,歩行訓練についての情報提供をしていただきたい.IV歩行訓練士(視覚障害生活訓練等指導者)視覚障害者の歩行訓練をする「歩行訓練士」という職種がある.視覚障害生活訓練等指導者ともいわれ,歩行訓練のみならず,調理訓練や掃除などの日常生活動作訓練や,文字の読み書き・点字や音声パソコンなどのコミュニケーション訓練など,見えない・見えにくいことが原因での生活の不便を解消するための視覚リハビリテーション全般を担っている.歩行訓練士は,日本で養成している機関が2カ所しかなく,養成課程の修了者は1,000人近くいるが,実際に職場で歩行訓練に携わっているのは半分の500人くらいといわれている.まだ1人もいない県もあるが,日本盲導犬協会など広域に訪問リハビリテーションを実施している施設がカバーしている状況である.また歩行訓練士は,視覚障害情報提供施設(点字図書館のある場所)などの福祉機関や視覚特別支援学校(盲学校)などの教育機関に在籍していることが多い.最近では眼科に在籍している歩行訓練士も少しずつ増えてきている.日本眼科医会が各都道府県の眼科医会に働きかけて整備された「スマートサイト」というロービジョンケア紹介リーフレットがある.現在はすべての都道府県で整備されており,このリーフレットには,各都道府県の歩行訓練士のいる施設なども紹介されている.スマートサイトがまだ眼科に設置されていない場合は,ぜひ地元の眼科医会から取り寄せて情報提供できるように整備していただきたい.V白杖身体障害者福祉法では「視覚障害者安全つえ」と表現されているが,一般的には白杖(はくじょう)とよばれている.白杖には三つの役割がある.1.白杖の役割a.安全の確保1.2歩前方を確認することにより,障害物を発見するバンパーの役割で身体を保護する.この役割を果たすためには杖の長さが重要である.一般的には白杖を直立したときに脇の下あたりにくる長さが必要である.歩行速度が速い人や,成長期の子どもの場合などは,基本の長さより少し長めの杖を使用する場合がある.b.情報の入手段差の発見や路面の変化,電柱や標識のポールなどの目印の情報を得ることができる.溝蓋を白杖で触れたときの音やスーパーの入口のマットなどから位置情報として情報を入手できる.また,道路横断後に歩道と車道の境の縁石を確認することによって「歩道に到着した」という情報から安全に道路横断を終えたということを確認している.c.シンボルの役割運転手や歩行者など,周囲の人に見えない・見えにくいことを知らせ,援助依頼や周囲の見守りなどの効果が614あたらしい眼科Vol.40,No.5,2023(36)図1いろいろな種類の石突き(チップ)左からノーマルチップ,パームチップ(キノコ型),ティアドロップ,ミズノチップ(ティアドロップ),ローラーチップ.(写真は高知県視覚障害者向け機器展示室ルミエールサロン提供)図2一般的な白杖直杖(左)と折りたたみ式の白杖(右).(写真は高知県視覚障害者向け機器展示室ルミエールサロン提供)図3折りたたんだ白杖一般的な白杖の折りたたみ式(左)とシンボル用の白杖を折りたたんだ状態(右).比較するとシンボル用のほうがコンパクトである.(写真は高知県視覚障害者向け機器展示室ルミエールサロン提供)図4身体支持用の白杖長さ調節式で72.92cmまで9段階で調整可能である.このほか,スライド式で自由に長さが調節できるタイプや,購入時に長さを決めて注文するタイプなどがある.(写真は高知県視覚障害者向け機器展示室ルミエールサロン提供)図5盲導犬との歩行交差点で横断前の位置で停止している様子.(写真は関西盲導犬協会提供)図6暗所視支援眼鏡HOYAMW10HiKARI新モデル本体.コントローラーはケーブルで本体とつなががっている.(写真はViXion株式会社提供)図7暗所視支援眼鏡の見え方左から市販のビデオカメラの見え方,MW10標準カメラの見え方,MW10広角カメラレンズでの夜間の横断歩道の見え方の比較.(写真はViXion株式会社提供)図8視覚障がい者向け歩行ナビゲーションシステム「あしらせ」四角い箱の部分は5cm×4cm,厚みは1cmで,スマホとの通信機器やバッテリーが内蔵されている.靴の中に入れる部分は柔らかく,カカトから足の甲まで,足の側面に沿うようになっているため,足の裏には何もない形状となっており,重さは100g以下と軽い.(写真は株式会社Ashirase提供)図9スニーカーに装着した「あしらせ」装着時は四角い箱の部分のみが靴の外に出る.白色以外に青色もある.(写真は株式会社Ashirase提供)図10NaviLensタグの活用事例神戸アイセンター2階のビジョンパーク入り口にある検温と手指消毒につけられたNaviLensのタグ.専用アプリを開いてタグを読み取ると「2メートル先,消毒液」と消毒液があることとその距離について音声で情報を得ることができる.(写真は公益社団法人NEXTVISION提供)図11コード化点字ブロックの活用事例すでに敷設されている点字ブロックにコードを設置した実証実験中の点字ブロック.写真は高知県のオーテピア声と点字の図書館の入り口の点字ブロック.専用アプリで読み取ると点字図書館やトイレの位置を音声で情報を得ることができる.(写真は高知県視覚障害者向け機器展示室ルミエールサロン提供)

日常生活に関するロービジョンケア

2023年5月31日 水曜日

日常生活に関するロービジョンケアLowVisionCareRelatedtoDailyLife小谷真弘*はじめに日常生活に関するロービジョンケアとして,日常生活用具,便利グッズをとりあげる.日常生活用具,便利グッズをロービジョン患者に紹介,提案し,その活用度や活用効果,快適に使用できるか,持続して使用可能か再現性を確認することによってロービジョン患者の「している活動」を把握し,「できない」ために「していない」なら「できる活動」を増やすために必要な情報を提供し1),本人が日常生活など活動に主体性をもち「する活動」となるようにめざす.I日常生活用具給付等事業とは障害者総合支援法で決められた障害者用の補助具には,自立支援給付として支給される補装具と,地域生活支援事業の中の「日常生活用具給付等事業」から給付または貸与される日常生活用具がある.自立支援給付は国がサービスや類型や運用ルールを定める.地域生活支援事業は都道府県,市区町村が主体となって実施し,地域の特性に応じて実施するサービスと位置づけられている.日常生活用具は市区町村により認定基準が異なるため,患者の居住している市区町村の福祉課に対象品目や給付条件,給付限度額,耐用年数,利用者負担などを問い合わせる.患者が負担する金額についても市区町村の判断により決定される.多くの地域で各対象品の基準額の1割を負担(所得により月額負担上限額あり)となっているほか,一部の地域では,負担額が所得に応じて決定される制度を採用している.また,1割負担の地域でも負担が軽減される場合がある.1.日常生活用具給付等事業の概要障害者等の日常生活がより円滑に行われるための用具を給付または貸与することなどにより,福祉の増進に資することを目的とした事業である.日常生活用具を必要とする障害者,障害児,難病患者等(障害者総合支援法の対象となる疾患)が対象者となる.利用者負担は実施主体の市区町村の判断によって決定されるが,原則1割負担で,低所得(市区町村民税非課税世帯)や生活保護受給者の利用者負担はない.本人または世帯員のうち市町村民税所得割の最多納税者の納税額が46万円以上の場合は給付対象外となる.2.給付制度のポイント1.市区町村によるが,対象品目ごとに給付限度額が決まっている.それを超える分は自己負担となる.また,給付限度額内でも一部自己負担が発生する場合がある.2.給付には対象品目ごとに耐用年数が定められている.耐用年数とは原則的に「給付支給から次回に再度申請できるまでの期間」をいう.一度給付を受けると一定期間は再申請ができない(拡大読書器の耐用年数は8年*MasahiroKotani:田附興風会医学研究所北野病院アイセンター〔別刷請求先〕小谷真弘:〒530-8480大阪市北区扇町2-4-20田附興風会医学研究所北野病院アイセンター0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(27)605間など).3.用具の要件①安全かつ容易に使用できるもので実用性が認められるもの.②日常生活上の困難を改善し,自立を支援し,かつ社会参加を促進すると認められるもの.③用具の製作,改良または開発にあたって障害に関する専門的な知識や技術を要するもので,日常生活品として一般に普及していないもの.4.日常生活用具の種目:用途および形状(6種目)1.介護・訓練支援用具:障害者(児)の身体介護を支援する用具や,障害児が訓練に用いる椅子など.2.自立生活支援用具:障害者(児)の入浴補助用具や聴覚障害者用屋内信号装置などの入浴,食事,移動などの自立支援を支援する用具.3.在宅療養等支援用具:電気式たん吸引器や視覚障害者用体温計などの障害者(児)の在宅療養などを支援する用具.4.情報・意思疎通支援用具:点字器や人工咽頭などの,障害者(児)の情報収集,情報伝達,意思疎通などを支援する用具.5.排泄管理支援用具:ストーマ用装具などの障害者(児)の排泄管理を支援する衛生用品.6.在宅生活動作補助用具:障害者(児)の居宅生活活動などを円滑にする用具で,設置に小規模な住宅改修を伴うもの.5.視覚障害者(児)および視覚系難病患者等向けの対象品上記6種目のうち,視覚障害者は以下の3種目が対象となっている(代表的な対象品).(1)自立生活支援用具:電磁調理器,歩行時間延長信号機用小型送信機など.(2)在宅療養等支援用具:音声式体重計.音声式体温計など.(3)情報・意思疎通支援用具:点字ディスプレイ,点字タイプライター,点字器,視覚障害者用ポータブルレコーダー,視覚障害者用活字文章読み上げ装置,視覚障害者用拡大読書器,視覚障害者用時計,視覚障害者用タグレコーダー,視覚障害者用音声色柄認識装置など.6.日常生活用具申請の流れ1.福祉機器業者に機器の説明を受け,日常生活用具の選択をする.必要な機器の見積書とカタログの2点をもらう.2.見積書,カタログ,身体障害者手帳,印鑑の4点を持ち,居住している市区町村の福祉課で申請手続きをする.3.市区町村の福祉課より決定通知書が送られてきたら,福祉機器業者に連絡する.4.福祉機器業者は機器を用意.印鑑と自己負担額を持ち,福祉機器業者から申請した機器を受け取る.II視覚障害者(児)および視覚系難病患者等向けの製品以下に日常生活用具を紹介する(参考価格は2023年3月時点).1.自立生活支援用具「電磁調理器」(パナソニック:KZ-PH34,アイリスオーヤマ:EIH1470V-Bなど):音声での読み上げ,またはボタンなどの構造がわかりやすい機器.「歩行時間延長信号機用小型送信機」(池野通建:シグナルエイド):視覚障害者向け信号機や案内装置に対し,動作命令をかける機器.ボタンを押すと電波を送信し,周囲に設置された音声標識ガイドシステム,歩行時間延長信号機,音響案内装置メロガイドホームを動作させる.見通しのよい場所で15.20の距離なら電波受送信可能.2.在宅療養等支援用具「音声式体重計」(TANITA:インナースキャンVoiceBC-202):体重の測定において,音声で測定値を案内し,かつ操作がわかりやすい機器.「音声式体温計」(OMRON:けんおんくんMC-174V):体温の測定において,音声で測定値を案内し,606あたらしい眼科Vol.40,No.5,2023(28)図1視覚障害者用活字文章読み上げ装置「テルミー」視覚障害者向けに開発された音声コード専用読み取り機.図3視覚障害者用ポータブルレコーダー図2視覚障害者用タグレコーダー「タッチボイス」「プレクストークPTR3」対象物に貼り付けたタグに使用者が音声情報を録音し,音声でパソコンを使わずにサピエのデイジー図確認できるペン型の機材.書などが聴けるデイジーオンラインサービス対応の卓上型デイジー録音再生機.-図4さまざまな画面サイズがある拡大読書器図5遠見も拡大できる携帯型拡大読書器「クローバー6」50倍以上の拡大可能の機種もある.機種によっては近見だけではなく遠見を拡大して映しだすことができる携帯型拡大読書器もある.図6みずいろクリップ液体の注量と色がわかるスマートクリップ.図7グルスボイスクッキングスケールと計量カップ音声で重さを知らせるクッキングスケールの上に指先で中身と目盛を確認できる計量カップを載せて撮影した.計量カップ内側には凸線の目盛がついている.図8白黒両用まな板,ひとしおくん(2本組),各種プッシュワン視認や判別のしやすさによって,炊事や食事が主体性をもち「する活動」となる便利グッズ.図9コインホームとコインケースあわせて硬貨側面の凹凸の有無を確認し,本人で硬貨の判別が可能となる.図11フラッシュライト全体を照らすだけではなく,スポットライトとして地面の形状,段差の有無を把握する.図10ブラックメモパットとホワイトペン黒色メモ用紙に白いインクペンの文字で,書字した文字をみやすくする.白マジックもある.

読みに関するロービジョンケア

2023年5月31日 水曜日

読みに関するロービジョンケアLowVisionCareforReading岩﨑佳奈枝*田中恵津子**I読みに困るとはどういうことか1.矯正視力からわかること視力から読みの困難さを考えてみると,新聞や一般書籍を読むために必要な近見矯正視力は0.4~0.6程度といわれている1,2)ので,少なくともそれ以下の視力では読みの手助けが必要な可能性が高い.「読めている?」と背後にある生活場面を想像しながら日々の視力値をみることは,読みに関するロービジョンケアの第一歩となる.2.視力だけでは判断できない(図1)では,視力0.5では困難がないかといえば,実際には異なる.角膜混濁では,羞明やコントラスト感度が低下し,配色によっては読みにくさがあるかもしれない.歪視や線が途切れて見える黄斑疾患では,視線を動かして0.5視標をなんとか判別しているとしたら,文字としての判断も即座にできないはずである.明るさの変化に敏感な視機能特性をもつ人であれば,明るい検査室で見えた0.5視標も暗い環境では見えにくい.視力は良好でも黄斑近傍の暗点や視野狭窄があると,全体から読む場所を探索することや,文字を追視するのは困難かもしれない.このように視力以外の多くの視機能が読みに影響するので,同じ視力0.5でも近用眼鏡のみで大丈夫な人から,遮光眼鏡が必要な人,とても大きく拡大したい人,白黒反転がよい人,音声を併用したい人まで,多様な対応が必要となる.医療機関では,屈折,眼鏡,中心視野の暗点や感度低下とその範囲,周辺視野の状況,コントラスト感度,色覚,他覚的所見(網膜・角膜・水晶体など)など多くの情報を取得できる.それらが日常の読み課題を困難にする原因になっていないかと意識を向けることが必要となる.「読めている?」と疑問に思ったら,「新聞は読みますか?」「スマホの文字はどのくらいの大きさで見ていますか?」「眼鏡や他の道具で文字を大きくしたら読めますよ.試してみますか?」などの声かけを行い,聞き取りに進むとよい.3.人によって読み書きを困難に思う尺度は違う(表1)さらに,日常直面する読み課題は人により異なるので,視機能だけで本人が感じる不便さを測ることはできない.したがって,読みに困る具体的な場面,もっとも優先順位の高い読みの場面,社会的背景(学生か社会人かなど)などの聞き取りを要する.また,読むための手段について,眼鏡や拡大鏡,拡大読書器,ICT(拡大表示・読み上げ)などの使用状況も確認する.読まない(諦めた),代読してもらうという回答を得ることもある.聞き取りを進めると,「新聞の本文が読みたい」見出しが読めれば困らない」「読めるけど疲れるし時間がかかる」「辞書が読めない」「拡大教科書以外の問題集が困る」「パソコンでの処理は対応できるが紙文書の扱いに*KanaeIwazaki:静岡県立総合病院眼科**EtsukoTanaka:浜松視覚特別支援学校,愛知淑徳大学〔別刷請求先〕岩﨑佳奈枝:〒420-8527静岡市葵区北安東4-27-1静岡県立総合病院眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(17)595図1読みに影響する視機能とロービジョンケア表1読みに関する聞き取り読みに関する聞き取り.各場面や課題(年代別に下表参照)での状況確認・読める,読めない,何とか読んでいる,読まない(諦めた).読む手段の確認・眼鏡の有無・遮光眼鏡の有無(羞明の確認を含む)・拡大鏡,拡大読書器,ICT(拡大表示機能)などの利用について・拡大教科書,拡大コピーなどの対応・代読(家族,障害福祉サービス)の有無・環境(照明,書見台,配席など)確認.音声読み上げ機器について・ICT(文字認識と音声読み上げ機能),専用機器の使用状況.家族,ケアマネジャー,事業所などキーパーソンの確認・代読依頼,拡大鏡や拡大読書器などの導入時に協力できる人材の有無学生成人(就労世代)高齢者・教科書・参考書,ドリル,辞書・黒板・スマホ,PC・趣味,雑誌,本など・バス,電車関連・新聞,本,紙の資料・会議(遠方と手元の資料)・PC,スマホ・趣味,雑誌,本など・バス,電車関連・新聞,本,郵便物・スマホ,PC・趣味・バス,電車関連・薬のただし書きなど図2文字を拡大してみるための方法↑速読み速度(文字数/分)遅↓MNREAD図3最適な文字サイズを調べる方法①拡大に必要な倍率=最適な文字サイズ÷読みたい文字サイズ②拡大に必要な視距離(cm)=最適な文字サイズを判断したときの視距離÷拡大に必要な倍率③拡大に必要な屈折力(D)=100cm÷拡大に必要な視距離(cm)例題1・読みたい文字サイズは,9pt(3.15mm)・視距離25cmで,最適な文字サイズは45ポイント(15.75mm)①拡大に必要な倍率=45pt(15.74mm)÷9pt(3.15mm)=5倍②拡大に必要な視距離=25÷5=5cm∴5cmに近づけると網膜像は5倍になる③5cmにピントを合わせる屈折=100cm÷5cm=20D∴拡大に必要な屈折力は20D45pt5倍最適な文字5倍20D=拡大鏡+矯正+眼の屈折例題2・読みたい文字サイズは,9pt(3.15mm)・視距離10cmで,最適な文字サイズは45pt(15.75mm)①拡大に必要な倍率=45pt(15.74mm)÷9pt(3.15mm)=5倍②拡大に必要な視距離=10÷5=2cm∴2cmに近づけると網膜像は5倍になる③2cmにピントを合わせる屈折=100cm÷2cm=50D∴拡大に必要な屈折力は50D最適な文字5倍45pt5倍50D=拡大鏡+矯正+眼の屈折図4最適な文字サイズから拡大に必要な屈折力を求める方法※拡大に必要な視距離が5cm,拡大に必要な屈折力が20Dの場合20D等価屈折力EVPEquivalentViewingPower等価屈折力20D20Dの拡大鏡を屈折遠見矯正調節力にするための使用した時の拡大鏡Diopter拡大効果なしなし20D20D=正視+5.00Dのなし調節ありとする15D25D↑近視あり.4.00Dなし20D20D=.4.00なしなし16D24D↑遠視ありなし20D20D=+4.00D+4.00なしなし24D16D↓図5拡大に必要な屈折力を調達する方法表2拡大鏡の種類と特徴ハイパワープラス眼鏡眼鏡型拡大鏡手持ち拡大鏡置型拡大鏡・スタンプ近用眼鏡(+3.00D加入)よりもさらに多くの加入度数を入れた眼鏡・両手があく・両眼使用なら+6.00D程度・片眼使用なら大きなDiopterも対応可能.形状は,跳ね上げ式,クリップ式,貼り付けタイプなどを検討する・両手があく・低倍率・近用眼鏡の上からかける・低~高倍率まである・遠用眼鏡で使用できる・近用眼鏡と同時に使う場合は,拡大鏡は密着させて使う(拡大鏡が離れるほど拡大効果は低下する)・両手が開く・調節力がないとピントが合わない・老眼鏡を併用すれば可・空間ができるタイプでは,書字が可能・簡便5×20D・拡大鏡はDiopter表示を確認する・Diopterが大きいほどレンズ径は小さくなり,一度に見える文字数は少なくなる目と拡大鏡が密着眼と拡大鏡が離れている一度に見える文字数は,多い一度に見える文字数は,少なくなる近用眼鏡を装用すると拡大効果は低下する書見台明るさの確保と姿勢保持のため書見台,照明(紙面を眼と拡大鏡は固定(視線も一定)し,紙面を眼前で動か照らす)を使うして文字を視界に入れていく図6拡大鏡の使い方表3視覚障害者用読書器の種類と特徴据置型拡大読書器・モニターが大きく,より高い倍率表示が可能・XYテーブルがあり安定した読み(文書内の移動)が得られる・読み書き以外の手作業も可能・置き場所が必要・持ち運びは困難携帯型拡大読書器・携帯性に優れている・モニターが小さい・カメラと読み物との空間がない,あるいは狭い電子ルーペ・拡大読書器より安価・モニターが小さい・電子ルーペとして拡大読書器とは別に日常生活用具の対象となる自治体あり音声(拡大)読書器・音声読み上げも拡大表示も可能・手書きの文字は読み上げない・音声読み上げ機能のみの機器は,比較的操作は簡単・ウェアラブルのデバイスもあるが高価・視覚障害者用読書器として日常生活用具の対象の自治体もある表4拡大読書器の使い方・拡大鏡の倍率では拡大不足,読むことが困難な場合・白黒反転やコントラスト調整をして読みたい場合・空間を利用した手作業をしたい場合・空間を利用した手作業(書字・爪切り・工作など)がある場合,目的に応じた広さ(奥行・高さ)があるか・画面の高さや角度の調整は可能か・画面の大きさが足りているか(最適な文字の大きさが画面に5~8文字程度入るか)・白黒反転表示が見えやすいか,操作性は容易か・コントラスト調整の操作性・最低倍率と見え方・全体表示と拡大表示の切替え機能・XYテーブルの使いやすさ・携帯性を重んじるか・音声を利用する場合,音声拡大読書器・音声読書器も検討・基本的な操作(拡大・表示切替・コントラスト調整)の習得をする・XYテーブルの操作性を習得する(読む方向にまっすぐゆっくり動かす,視線は固定,文字を視線の中に入れていく)・画面との距離に合わせた屈折矯正を行う・まぶしさを伴う場合は遮光眼鏡も検討・照明や光が画面に映りこまない位置・XYテーブルが十分に動くスペースを確保・画面の高さ,角度の調整(無理な姿勢になっていないか)・必要に応じてマスキングやライン機能を使う・無理して長時間使用しない,休憩をする

羞明に関するロービジョンケア─遮光眼鏡の理論と処方

2023年5月31日 水曜日

羞明に関するロービジョンケア─遮光眼鏡の理論と処方LowVisionCareforPhotophobia-TheoryandSelectionofLight-AbsorptiveGlasses立本志磨*阿曽沼早苗*はじめに羞明に対するロービジョンケアとして,本稿ではおもに遮光眼鏡とその選定について述べる.遮光眼鏡は,身体障害者および難病患者の補装具となっている.2010年に厚生労働省から出された「補装具費支給事務取扱指針の一部改正について」(障発0331第12号障害保健福祉部長通知)において,遮光眼鏡が身体障害者(視覚障害)の補装具として適用される際の支給対象者の要件などが見直され,疾患の限定がなくなった.2013年から難病患者も対象となり,疾患や手帳の有無を問わず広く紹介できる有効な選択肢となっている.I羞明とは光が強くて不快に感じたり見えにくい状態になったりする「まぶしさ」を,医学的に症状として表現する場合に,これを羞明という1).羞明は正常者においても病的状態においても生じうるものであり,過剰な輝度または過剰な輝度対比のために不快感または視機能低下を生じる現象であり,不快グレアと障害グレア(減能グレア)に分類される.ロービジョン者と視覚正常者では視機能に影響を及ぼすグレアレベルが異なり,ロービジョン者は視覚正常者よりも,より低照度のグレアによって視力低下が引き起こされる2).羞明と特定波長を抑制することによる羞明軽減のメカニズムは不明であるが,「短波長光のほうが高エネルギーである」「短波長光はレイリー(Rayleigh)散乱の影響が大きい」という波長の特性からの説明が広く知られている.レイリー散乱は,太陽光のうち波長の短い青色の光が波長の長い赤色の光よりも多く散乱される現象のことであり,日中の空が青く見えることで知られる.可視光のうち波長の短い青色光は眼内で散乱しやすく,視界に膜が張ったようなグレアの原因になりやすい3).人は色の明るさを知覚できるが,どれだけ明るくなっても知覚できるわけではなく,ある程度以上の明るさになると飽和して,すべて白に見えてしまう.同様に,ある程度以上暗くなると区別がつかなくなってすべて黒に見えてしまう.この,違いがわかる知覚可能範囲をダイナミックレンジという.疾患などによりダイナミックレンジの幅が狭まると,暗すぎて見えない夜盲を生じ,明るすぎて見えない昼盲を生じる.そしてこれは環境の明るさに応じて動的にシフトするものであるが,ダイナミックレンジのシフト不全(明順応・暗順応不全)が起こると,同様に夜盲・昼盲を生じる4).また,三叉神経第一枝である眼神経支配領域に病変があることで虹彩の血管拡張と痛覚過敏が起き,過敏性を獲得した状態のときに,対光反射で虹彩が動くことにより羞明痛が生じることで不快な羞明となるという報告がある5).視細胞変性などの疾患のために網膜神経節細胞の入力量が変化し過敏性を獲得することで,弱い入力でも脳への出力が増加するため羞明の原因となるという報告もあり,光受容器から神経節細胞,外側膝状態を経由して後頭葉の一次視覚野に運ばれる一連の視覚系が羞明*ShimaTatemoto&SanaeAsonuma:大阪大学医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕立本志磨:〒565-0871大阪府吹田市山田丘2-2大阪大学医学系研究科眼科学0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(9)587に関与することが示されている5).ほとんどの遮光眼鏡は短波長領域をカットしているが,眼内で散乱しやすい光を抑制できることに加え,明るさ知覚と瞳孔対光反射に関与する網膜神経節細胞のメラノプシンに入力される光を抑制できることが,短波長領域を抑制する遮光眼鏡により羞明が軽減する機序であることが示唆されている5).II遮光眼鏡(光吸収フィルタ)1.遮光眼鏡とは学術的には「グレアの軽減,コントラストの改善,暗順応の補助等を目的として装用する光吸収フィルタを用いた眼鏡」と定義されている1).障害者総合支援法による補装具の名称としては,「遮光眼鏡とは,羞明の軽減を目的として,可視光のうちの一部の透過を抑制するものであって,分光透過率曲線が公表されているものであること」と規定されている.一般的には,補装具支給の対象となりうる,一定の分光透過率曲線が得られるレンズを製作することのできるメーカーの製品を遮光眼鏡とよび,その他をカラーレンズ,サングラスとすることが多い.国内メーカーでは,東海光学CCPシリーズやCCG,HOYAのRETINEXなどがこれに該当する.遮光眼鏡はまぶしさの原因となる短波長光(500nm以下)を選択的にカットし散乱を抑え,比視感度の高い波長光(555nm付近)を透過させることから,まぶしさやコントラストを改善させる効果をもつ6).そのため比較的薄い色でも対応できる(図1).遮光眼鏡は,入射光そのものの青空の中にある白い建物や,緑の葉の上の赤や白の花といった領域のコントラストは上昇するが,白地に赤い文字で書かれた看板などでは,コントラストは低下する7,8)(図2).見やすくなる配色と,見えにくくなる配色の組み合わせがあることを使用者に説明することが重要である.羞明が改善されるレンズの種類は,疾患による特異性は低く,個人によるばらつきが大きい9).錐体の感受性がもっとも高い波長以下をカットする種類の遮光眼鏡の装用により,屋外ですでに暗順応をしているのと同じ状態となるので,暗順応に時間がかかる人では屋内に入っての順応時間が短縮する6).2.選定手順確立された方法はないが,大まかな手順を示す.①視力検査,屈折異常の確認,処方度数の決定②遮光レンズの選択③フレームの選択④補装具申請の有無の確認3.遮光レンズの選定方法通常の眼鏡処方同様にまずは完全屈折矯正を行ったうえで,遮光レンズの選択に移る.必要に応じて矯正値を装用した状態で遮光レンズを付加し,自覚的に羞明が改善するレンズを選択する.視感透過率を参考にする方法や,分光透過率曲線を参考にする方法がある.いずれの方法でも,パンフレットなどで決定せず,トライアルレンズを用いて実際に見え方を確認して選択することが重要である(図3).屋外用であれば,実際に共に屋外へ出て日なたや日陰,順光,逆光の状態での見え方を確認する.コントラストが低い具体的な対象物を見ながら比較してもらい,羞明の改善だけでなく,暗くなりすぎないか,くっきり感が改善するかも参考にして選定する(図4).視感透過率を参考にして選定する場合は,はじめに視感透過率が中間の色を提示して,羞明が残るなら視感透過率が低いものに変えていき,暗く感じるなら視感透過率が高いものに変えていく.選定にあたっては羞明を感じる天候や環境に合わせて試用する必要があるため,予約当日に悪天候によりトライアルレンズでの羞明の軽減が確認できない場合などは,患者と相談のうえ,日程を変更するとよい.屋外用であっても,外出時に日陰や屋内に入り急に暗くなった場合を想定し,その環境での屋内での見え方が許容できる範囲であるかも確認しておく必要がある.可能ならばより確実な処方のために一定期間の貸し出しを行うなど,実際の使用場面や複数の条件下でトライアルを行うことが重要である.機能的な側面から選定する場合は分光透過率曲線を参照する.遮光眼鏡にはさまざまな分光透過をもつレンズがあり,見た目の色味が似ていても分光透過率曲線が近いとは限らないので注意が必要である.眩しさの原因が眼内の散乱に起因すると考えられる場合は短波長のカッ588あたらしい眼科Vol.40,No.5,2023(10)ab100500300400500600700800図1各波長の透過率を示した分光透過曲線と可視光線レンズにより分光透過曲線は異なり,この透過率を参考にレンズを選定する.(東海光学HPより改変引用)abc図2遮光眼鏡のトライアルa:遮光眼鏡なし,b:CCPWH装用,c:CCPBR装用.白地に青の文字のコントラストが上昇し視認性は向上しているが,色の誤認が起こる可能性がある.また,白地に赤の文字や赤いコーンに貼られた白いシールはかえってコントラストが低下している.紫外線可視光線赤外線波長(nm)紫外線可視光線赤外線波長(nm)図3トライアルレンズクリップオンタイプ,板状,献眼枠に差し込むタイプなどがある.a:東海光学CCP.b:HOYARetinex.図4屋外,屋内でのトライアル屋外では自然光下での羞明の軽減と,対象物の見え方を確認する.日陰に入った場合に暗すぎないことも重要である.屋内用は目的に応じて,可能な限り実際に見るものを使用して選定を行う.とくにデスクワークに使用する場合は,PCやタブレットのバックライト,紙面の見え方などを確認する.図5遮光眼鏡メーカーのフレーム①のVergine(ヴェルジネ)とRetinexglassは度数を入れることが可能.②はオーバーグラスタイプのViewnal.③のナイロールのクリップオンタイプはフレームに合わせた成形が可能.④のC-CLIPはサイドシールドのついたクリップオンタイプで,③④とも跳ね上げが可能.図6小児のトライアルa:左遮光レンズなし,b:右遮光レンズ装用により顔の力が抜け開瞼している.LY/調光グレー視感透過率LY/LY発色62/9調光前調光後透過率(%)1.60PGC100500調光前調光後400600800波長(nm)図7その他の光吸収フィルタ調光機能つき遮光眼鏡であるCCPATは調光前後の分光透過曲線が公開されている.調光レンズは室温や紫外線の強さで発色の程度が変わるため注意が必要である.右は高濃度のサングラスHDGlassである.abc図8非光学的な補助具a:持ち運べる卓上ライト,軽量のLEDライトが近年安価で購入できる.光の色味を確認して購入するとよい.タイポスコープ(b),リーディングバー(c)を使用すると,紙面の反射を抑えることができる.

ロービジョンケアと視機能

2023年5月31日 水曜日

ロービジョンケアと視機能UnderstandingLowVisionCareandVisualFunction藤田京子*はじめにロービジョンケアとは,視覚障害によって日常生活・社会生活に支障をきたしているロービジョン者をさまざまな角度から支援することである.眼科で行うロービジョンケアには「ニーズの聞き取り」「視機能評価」「書類作成」「社会資源の紹介」「エイドの紹介」「環境整備」のC6つのステップがある1)が,なかでも詳細な視機能評価は眼科領域の重要な役目である.本稿では視機能評価の基本であり,かつ書類作成に欠かすことができない視力および視野についてロービジョンケアの観点から述べる.CIロービジョンケアと視力1.視力表視力はどこまで細かい判別ができるかという眼の解像度を表し,最小分離閾,最小可読閾で示される.眼科診療でもっとも基本的な検査であるが,各施設で設置されている視力表は統一されていないため,使用している視力表の特徴を知っておく必要がある.わが国ではCLandolt環小数視力表が広く普及しているが,小数視力は視角の逆数であるため各視標の大きさは等間隔に変化していないことに注意を要する.一方,logMAR視力表では各段の視標が等間隔で変化する.小数視力ではC0.1~0.3は間隔が大きいが,logMAR視力は小数視力C0.1とC0.2の間にC3段階の視標があるため,ロービジョンの詳細な視力評価に適している(表1).表1logMARと小数視力の関係0.0C0.1C0.2C0.3C0.4C0.5C0.6C0.7C0.8C0.9C1.0C1.0C0.8C0.63C0.5C0.4C0.32C0.25C0.2C0.16C0.13C0.1Cまた,視力表には字詰まり視力表と字ひとつ視力表とがあり(図1),字ひとつ視力表では一つのCLandolt環が単独で提示される.字詰まり視力表では多くの視標が一つの表に配列されるため,視標間の間隔が小さくなると視標の読み分けが困難になる混み合い現象の影響を受ける.ロービジョンでは混み合い現象のために実際の値よりも低く測定される可能性がある.C2.ロービジョンの視力検査で留意すること視力検査では視力値そのものもさることながら患者の視線や視標をみつけるまでにかかった時間など検査中の観察が重要である.視力測定時の視標提示時間は「3秒」2),学校保健では「3~5秒」と規定されているが,日常診療では患者の反応によりまちまちである.川畑ら*KyokoFujita:愛知医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕藤田京子:〒480-1195愛知県長久手市岩作雁又C1-1愛知医科大学眼科学教室C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(3)C581ab図1字ひとつ視力表と字詰まり視力表a:字ひとつ視力表.b:字詰まり視力表.図2偏心視域(preferredretinallocus:PRL)加齢黄斑変性瘢痕期のCmicroperimetry.黄斑部は瘢痕病巣のため絶対暗点であり(.),preferredCretinalClocus(+)は瘢痕病巣上方にみられる.水色の点は各刺激提示時の固視点を示す.最大読書速度(文字数.分)速い↑読書速度↓遅い読書視力臨界文字サイズ(logMAR)小さい←文字サイズ→大きい図3読書速度と文字サイズとの関係大きな文字サイズから順に読書速度をプロットすると,ある文字サイズまでは速い速度で読めるが(最大読書速度),ある文字サイズ以上に小さくなると読書速度は急激に低下する.読書速度が急激に低下する直前の文字サイズは臨界文字サイズとよばれ,読書に適した文字サイズとされている.読書視力は近見視力に相当する.Cab図4読書評価a:MNREAD-J.b:iPad版MNREAD.abcd図5BerkeleyRudimentaryVisionTesta:SingleTumblingCard(STE).カードはC2枚が連結されている.左上:視標サイズC100CM(145CmmC×145mm).右上:視標サイズC63M(92mmC×92mm).左下:視標サイズC25M(36mmC×36mm).右下:視標サイズC40M(58mmC×58Cmm).b:CGratingCAcuityCard(GA).STEで測定できない場合に視距離C25Ccmで提示する.左上:視標サイズC200CM(60Cmm幅).右上:視標サイズC125CM(38Cmm幅).左下:視標サイズC50CM(15Cmm幅).右下:視標サイズC80M(24Cmm幅).c:BasicVisionCard(WhiteFieldProjection).GAで測定できない場合に用い,視距離C25Ccmに提示する.上:白い領域が右上,右下,左上,左下のいずれにみられるかを答えてもらう.d:BasicVisionCard(BlackWhiteDiscrimination).GAで測定できない場合に視距離C25Ccmに提示し,白か黒かを答えてもらう.(文献C5より改変引用)図6両眼Esterman視野の測定点水平方向にそれぞれC90°,上方C30°,下方C60°の範囲内に合計C120ポイントが配置されている.(点)40353025201510(点)Estermanスコア図7日常生活困難とEstermanスコアとの関係日常生活困難度が高いほどCEstermanスコアが低かった.(文献C5より改変引用)総合得点020406080100図8Amslerチャート30Ccmの視距離で中心の点を見てもらいながら,線のゆがみや見えづらい部位を問い,記録する.-

序説:ロービジョンケア

2023年5月31日 水曜日

ロービジョンケアLowVisionCare石子智士*仲泊聡**厚生労働省のデータによると2016年における身体障害者手帳(視覚障害)所持者数は312,000人で,そのうち65歳以上の高齢者が69%を占めている.その主要な原因疾患として,緑内障や糖尿病網膜症,黄斑変性など加齢に伴って罹患率が上昇する疾患が含まれており,視覚障害に関する加齢の影響は大きい.このような状況の中,日本では超高齢社会に突入している.日本の人口はすでにピークを過ぎ年々減少しており,総人口は2020年の12,615万人から2065年には9,000万人を割り込むものの,65歳以上人口の割合を表す高齢化率は28.6%から38.4%に達すると推計されている.さらに,平均寿命は男女とも年々延びており,2019年には,男性82歳,女性87歳であったものが,2065年には,男性85歳,女性91歳となると見込まれている.したがって,視覚障害による身体障害者手帳所持者およびその障害程度に達していない視覚に障害を有する者は,今後ますます増え続けることが懸念され,そのような人々に対するロービジョンケアのニーズはますます高まるものと思われる.ロービジョンケアは,視機能の程度にかかわらず,視覚に障害があるため生活になんらかの支障をきたしている人に対する支援とされている.眼科医療においては,残された視機能を使って見えにくさを克服するのに役立つ適切なケアを行うもので,「見えない,見えにくいけれどできる」ようにすることが目的である.したがってロービジョンケアは,眼科医療の枠を超えて,必要とされる多職種との連携も包括したものとして行われるべきものである.わが国における第4次障害者基本計画では,すべての国民が,障害の有無によって分け隔てられることなく,相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため,障害者の自立および社会参加の支援などのための施策を総合的かつ計画的に推進することが目的として掲げられている.したがって,ロービジョンケアにおいても,患者の見え方の質(qualityofvision:QOV)を高め,生活の質(qualityoflife:QOL)の向上につなげるにとどまらず,他者との交流,社会参加を通して,幸福な満たされた状態であるwell-beingを達成することを目標とすることが求められる時代になってきた.これは,眼科医療だけで達成できるものではなく多職種との連携が重要であるものの,視覚障害を有する患者は眼科を受診することもあり,眼科医がまずは眼科医療としてできることを行い,適切な施設へ橋渡しをすることが重要である.眼科医療の現場で視覚に障害があるために日常生*SatoshiIshiko:森山病院眼科**SatoshiNakadomari:NEXTVISION0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(1)579

頭部MRI にて構造的異常を認めた視索症候群の1 例

2023年4月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科40(4):569.573,2023c頭部MRIにて構造的異常を認めた視索症候群の1例土橋一生*1原ルミ子*1槃木悠人*1中井駿一朗*1安田絵里子*1前田祥史*1中村誠*2*1加古川中央市民病院眼科*2神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野CACaseofOpticTractSyndromeinwhichStructuralAbnormalityWasRevealedbyMagneticResonanceImagingKazukiTsuchihashi1),RumikoHara1),YutoIwaki1),ShunichiroNakai1),ErikoYasuda1),YoshifumiMaeda1)andMakotoNakamura2)1)DepartmentofOphthalmology,KakogawaCentralCityHospital,2)DepartmentofSurgery,DivisionofOphthalmology,KobeUniversityGraduateSchoolofMedicineC目的:磁気共鳴画像(MRI)で構造的異常が確認できた視索症候群のC1例を報告する.症例:52歳,女性.1年前からの左眼の視力低下を主訴に近医を受診.光干渉断層計(OCT)で網膜神経線維層の菲薄化および視野異常が認められたため,当院紹介受診となった.矯正視力は両眼ともC1.2と良好であったが,右眼の相対的求心路瞳孔障害が陽性であり,両眼の視神経乳頭に部分的蒼白を認めた.OCTで右眼は耳鼻側の乳頭周囲神経線維層厚と鼻側黄斑網膜の菲薄化,左眼は耳上下側の乳頭周囲神経線維層厚と耳側黄斑網膜の菲薄化があり,視野検査では右側の非調和性同名半盲を呈していた.MRIで左側視索の萎縮像があり,左視索症候群と診断した.結論:MRIで構造的異常を確認しえた貴重な視索症候群のC1例である.CPurpose:Toreportacaseofoptictractsyndromeinwhichstructuralabnormalitywasrevealedbymagneticresonanceimaging(MRI)C.Casereport:A52-year-oldfemalepatientwhowasbeingseenatanotherhospitalduetoCaC1-yearChistoryCofCvisualClossCinCherCleftCeyeCwasCreferredCtoCourChospitalCafterCopticalCcoherenceCtomography(OCT)revealedathinningoftheretinalnerve.berlayerandvisual.elddefect.Uponexamination,hercorrectedvisualacuitywas1.2inbotheyes,relativea.erentpupillarydefect(RAPD)waspresentintherighteye,andbothopticCdiscsCwereCpartiallyCpaleCinCcolor.COCTCrevealedCreductionCofCcircumperipapillaryCretinalCnerveC.berClayerthickness(cpRNFLT)ofthetemporalandnasalsegmentsintherighteyeandthesuperior-andinferior-temporalsegmentinthelefteye.Visual.eldexaminationdemonstratedarightincongruoushomonymoushemianopsia,andMRIrevealedaleftoptictractatrophy,whichledtothediagnosisofoptictractsyndrome.Conclusion:WereportararecaseofoptictractsyndromeinwhichanatomicalabnormalitieswererevealedbyMRI.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(4):569.573,C2023〕Keywords:視索症候群,磁気共鳴画像.optictractsyndrome,magneticresonanceimaging.Cはじめに視索症候群は病変の反対側の非調和性同名半盲,相対的求心路瞳孔障害(relativeCa.erentCpapillarydefect:RAPD)および特徴的な視神経萎縮を呈する片眼性の視索機能異常である.近年では光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)の発達により定量的な乳頭周囲網膜神経線維層厚(circumpapillaryCretinalCnerveC.berClayerthickness:cpRNFLT)の計測や黄斑部解析が可能となり,その特徴的な所見などから視索症候群の診断が比較的容易になってきているが,多くは臨床的診断であり,実際に磁気共鳴画像(magneticresonanceimaging:MRI)で責任病巣が確認できた報告は少ない.今回,MRIで視索の構造的異常を認めた患者を経験したので報告する.CI症例患者:52歳,女性.〔別刷請求先〕土橋一生:〒675-8611兵庫県加古川市加古川町本町C439加古川中央市民病院眼科Reprintrequests:KazukiTsuchihashi,DepartmentofOphthalmology,KakogawaCentralCityHospital,439Honmachi,Kakogawacho,KakogawaCity,Hyogo675-8611,JAPANC図1眼底写真上段:初診時の眼底所見.下段:視神経乳頭拡大写真.主訴:左眼の視力低下.現病歴:1年前からの左眼の視力低下を主訴に近医眼科を受診.OCTで網膜神経線維層の菲薄化や静的視野検査での右同名半盲があったため,精査目的に加古川中央市民病院紹介受診となった.既往歴:12年前に交通事故による頭部外傷.家族歴:特記すべき事項なし.初診時所見:視力は右眼C0.5(1.2C×sph+1.25D),左眼C0.9(1.2C×sph+1.25D),眼圧は右眼C16.0mmHg,左眼C14.7mmHg,眼位は正位で眼球運動に異常はなかった.限界フリッカ値(criticalCfusionfrequency:CFF)は右眼C37CHz,左眼C37CHzで左右差なく,対光反射も両眼とも迅速かつ十分であったが,右眼のCRAPDは陽性であった.前眼部・中間透光体に異常所見はなかった.視神経乳頭は右眼で耳鼻側が蒼白化し,いわゆる帯状萎縮を呈していた.一方,左眼は耳上下方向に蒼白化し,砂時計状萎縮を呈していた(図1).また,それに一致してCOCT(Heidelberg社製CSpectralis)のcpRNFLTマップでは右眼は鼻側と耳側の菲薄化があり(図2),左眼は耳上側・耳下側が菲薄化していた.黄斑部網膜厚のカラーマップでも右眼は乳頭黄斑線維束領域が相対的に菲薄化し,左眼は上下の弓状線維領域が菲薄化していた.これらの形態的異常に一致してCHumphrey視野検査(図3)では右同名半盲,Goldmann視野検査(図4)では右非調和性同名半盲を認めた.以上の所見から左視索症候群を疑い,頭部MRIを施行したところ,T1強調画像で左視索に明らかな萎縮性変化を認め(図5),左視索症候群と診断した.ほかに動脈瘤,腫瘍,脳梗塞などを認めず,頭部外傷の既往があったことから以前の外傷が原因と考えた.CII考按視索症候群は先天性あるいは外傷や動脈瘤,腫瘍,脳梗塞などの後天的な頭蓋内病変を契機として発症し,反対側の非調和性同名半盲と健側のCRAPD陽性,半盲様視神経乳頭萎縮の三つを特徴とする疾患である.その診断においてはこれa右眼bら三徴からの臨床的所見に基づいたものが主体であり,実際に視索の構造的変化を明らかにした既報は少ない1).近年COCTの飛躍的な発展に伴い,視神経疾患の分野でもCmultimodalimagingによる診断が普及し,視索症候群の診断においてもその有用性が報告されている2).視神経線維は視交叉部で交叉性線維と非交叉性線維に分かれるが,一側の視索障害では,反対側の交叉性線維と同側の非交叉性線維が障害されるため反対側の同名半盲となる.また,交叉性神経線維は鼻側半網膜に分布する網膜神経節細胞からの神経線維であり,これらの神経線維は視神経乳頭のおもに鼻耳側に投射することから,反対側(健眼)では鼻耳側のCcpRNFLが菲薄化し,検眼鏡的に視神経乳頭は帯状萎縮を呈する.一方,非交叉性神経線維は耳側半網膜に分布する網膜神経節細胞からの神経線維であるため,同側(患眼)の視神経乳頭においてとくに上下弓状線維が萎縮し,視神経乳頭は上下の砂時計状萎縮を呈する.これらの所見は視索障害に特徴的である.また,視索障害では,反対側のCRAPDが陽性となり,その理由として交叉線維が非交叉線維よりも多いためとした報告も多いが,そのあたりはまだ議論の余地がある3).本症例は視力低下を契機に眼科受診となったが,視力低下の原因は屈折異常によるものであり,たまたま施行したCOCTで異常があったため視索症候群を疑うきっかけとなった.反対側図3Humphrey視野検査(右)の非調和性同名半盲と右眼のCRAPD陽性,特徴的な視神経萎縮といったC3徴に加え,OCTでもCcpRNFLTならびに黄斑網膜マップにおいてそれぞれの神経線維障害に一致した菲薄化が証明され,左側の視索症候群を強く疑う根拠となった.通常視索症候群は,前述のような後天的な頭蓋内病変を契機として発症し,他の神経学的異常があれば発症原因や発症時期を容易に推測することが可能であるが,本症例のように他の神経学的異常がなく,本人の自覚症状もない場合にはたまたま眼科受診をした際に発見されることも珍しくないと思われる.過去の外傷歴があっても,すでにその記憶がない場合もある.同名半盲性の視神経萎縮は通常視索障害後C6週以図2OCT所見a:乳頭周囲網膜神経線維層(cpRNFLT)マップ.Cb:黄斑部網膜厚のカラーマップ.左眼右眼図4Goldmann視野検査図5MRI所見a:頭部CMRI(T1強調画像).b:視索拡大像.左視索(.)に萎縮性変化を認める.内に発症するといわれており1),その診断においてCOCTは非常に有用であるが,MRIで構造的変化をとらえた報告は少なく,実際に構造的変化が生じているのかどうかは十分に解明されていない.本症例ではC12年前の事故と,既報に比べ発症までの経過は長い.視路病変のなかにはアクアポリン4やアクアポリンC9の異常値を示す病変もあるが4),上記所見により診断がついており,いまなお視力良好であることから,検査の意義が乏しかったために測定しなかった.Tat-sumiら5)は外傷性視索症候群のC1例において,受傷C1カ月のCMRIには異常所見はみられなかったとも述べている一方,Bruceら6)は一連の外傷性同名半盲症例を調べ,そのC10%に視索障害が起こるとしているが,MRIで異常を証明するのは神経放射線科医でも困難だと述べており,視索症候群におけるCMRIを用いた局在診断のむずかしさがうかがわれる.わが国で視索の器質的異常を証明した報告はCHayashiら1)の小児期てんかん既往のある視索症候群のC1症例しか見当たらず,その原因として胎生期または出生早期に生じた頭蓋内病変が原因と推測している.今回,本症例ではCT1強調画像で構造的変化を認めたため,それ以上の画像検査は行っていないが,NaghamらはCMRIの拡散テンソル画像(DTI)が外傷性視索症候群を診断するのに有用だと述べている7).拡散テンソル画像は拡散強調画像をもとに一定の方向に向かって連続する神経線維を画像化したもので,視索症候群において萎縮した視索が明瞭に描出されている.一般的なCMRIで原因の局在が判明しない場合には試してみてもよいかもしれない.今回筆者らはCOCT・視野検査でその特徴的な所見から視索症候群が疑われ,MRIにて視索に構造的異常が確認できた視索症候群のC1例を報告した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HayashiCK,CIshiiN:MorphologicalCchangesCofCtheCopticCtractinacaseofoptictractsyndrome.JpnJOphthalmolC69:231-236,C20152)金森章泰:視交叉部・視索疾患のOCT.神経眼科C31:175-180,C20143)KupferC,ChumbleyL,DownerJetal:Quantitativehis-tologyCofCopticCnerve,CopticCtractCandClateralCgeniculateCnucleusinman.JAnatC101:393-401,C19674)根木昭:視神経疾患の新しい展開.日眼会誌C117:187-210,C20135)TatsumiY,KanamoriA,KusuharaAetal:Retinalnerve.berClayerCthicknessCinCopticCtractCsyndrome.CJpnCJCOpthalmolC49:294-296,C20056)BruceCBB,CZhangCX,CKedarCSCetal:TraumaticChomony-moushemianopia.JNeurolNeurosurgPsychiatryC77:986-988,C20067)NaghamCA,CWaseemCA,CSteveCHCetal:Di.usionCtensorCimagingCinCtraumaticCopticCtractCsyndrome.CJCNeuro-OpthamolC34:95-104,C2014***