診断書・意見書の書き方KeyPointsofWritingaMedicalCerti.cateandOpinion堀寛爾*I書類医師が交付する書類といえば,つまり診断書である.医師法第19条第2項に「(略)医師は,診断書(略)の交付の求があつた場合には,正当の事由がなければ,これを拒んではならない」とある.診断名と簡単な経過だけを書く自由書式の診断書ならともかく,ここで取りあげるような公務所に提出する書類は,不慣れな様式で間違いがあってはいけないと心配になり,筆が進まない気持ちも理解できる.ただし,これらの書類は意見書としての性質が強く,公務所の判定,裁定の参考資料となるものであり,伝えるべき要点さえ押さえておけば些事にとらわれる必要はない.所見や検査結果については診療録に記載の通り転記すればよく,予後などの意見については記載日時点での医療水準に基づいて判断して構わない.つまり研究段階の治療法などがいくら世間を賑わせていても,具体的な臨床応用の時期が確定するまでは「改善は見込まれない」としてよい.以下に,制度自体については概略にとどめ,書類ごとの要点を解説する.なお,これらの書類の記載は,必然的に検査結果を踏まえ,経過観察を含めた療養上の指導管理を行うことになるため,ロービジョン検査判断料250点(保険点数は令和4年度診療報酬改定のもの.以下同様)の算定要件を満たしていると考えられる.II身体障害者診断書・意見書(視覚障害用)身体障害者手帳(以下,手帳)の診断書である(図1).手帳は障害者が諸々のサービスを受けるためのいわば入場券で,「障害者福祉は手帳申請から始まる」といってもあながち間違いではない.手帳を交付するのは都道府県の知事または政令市・中核市の市長であるため,地域によってわずかに様式が異なることもあるが,病院の所在地の様式で提出して受理されなかった,という話は聞かない.手帳の要点は,申請日現在の申請者の視機能が等級表にある障害程度にあり,傷病名からそれが妥当であることである.手帳の診断書は,身体障害者福祉法第15条指定医だけが書くことができる.1頁目の総括表は,他の障害用のものとおおむね共通の様式となっている.要点として,「①障害名」は視力障害,視野障害,またはその両方のみを記載する.具体的な疾患名は「②原因となった疾病・外傷名」に記載する.「③疾病・外傷発生年月日」は,明確なら記載するが,不明・不詳ならそのように記載して構わない.「④参考となる経過・現症」は疾病・外傷名を支持する情報を記載するとよい.「障害固定または障害確定(推定)」の年月日は,一定の障害程度に該当したから申請する,という建前から,診断書記載日で構わない.著変がないようなら,記載医療機関の初診日や,紹介状に記載の確定診断時期などの記載でもよい.「⑤総合所見」には「改善は見込まれない」ことや,再認定を要とするなら*KanjiHori:国立障害者リハビリテーションセンター病院眼科〔別刷請求先〕堀寛爾:〒359-8555埼玉県所沢市並木4-1国立障害者リハビリテーションセンター病院眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(59)637図1身体障害者手帳の様式記入例を赤字,コメントなどを他の色で提示する.QRコードは視覚障害者等級計算機のURL1)である.記載する.両眼中心視野角度および両眼中心視野視認点数は,4で割った商を四捨五入して整数で記入する.現症は傷病名と合致する所見を記載すればよい.白内障がある場合は,「⑤総合所見」の欄に「白内障の影響は軽微であり,手術によっても視力や視野の改善は見込まれない」などと記載するとよい.たとえば幼児や広義の発達障害,認知症などで検査が完遂できなかった場合に,測定できた数値をもって視機能を評価するのは適当ではない.「⑤総合所見」の欄に「黄斑を含む広範な網脈絡膜萎縮があり,視力はよくとも0.1を上回らないと考える」など客観的な情報を元にした意見を記載すれば,審査の際の参考となるだろう.また,詐盲が疑われる患者において,診断書記載医にそれが詐盲であるか否かを証明する責任はなく,それは更生相談所,ひいては知事・市長の責任の下にある.いずれにしても,現時点で判定不能であり時期をみて追加の検査が必要であることを説明しても,なお医師法第19条第2項を盾に診断書・意見書の交付を求められた場合は,前述の通り「該当しない」にチェックして発行してもよく,あるいは「⑤総合所見」に検査が完遂できていない旨を記載することでもよい.医師および医療機関は,悪質な詐病師の反社会的な行為の矢面に立つ必要はないのである.3頁目は視野検査結果の台紙であるが,検査結果の写しも一般的にはA4判のコピー用紙に複写すると思われ,糊づけするとむしろ収まりが悪い.添付書類の散逸や紛失を防ぐ目的では,ゼムクリップなどで留めれば十分である.筆者は添付忘れのないようにダブルチェックもしたうえで発行したはずの診断書について,役所から「視野図を添付してください」と照会が来た経験から,視野図と台紙の間で割印を捺す運用としている.とくに次節の障害年金などで,時期の異なる複数の現症日についての診断書を同時に発行する必要のある場合には,割印の位置や向きを変えることにより,どの診断書と添付資料がセットであるかという意思表示をしている.III国民年金・厚生年金保険の診断書(眼の障害用)障害年金の診断書は最終的に日本年金機構に提出するものであり,全国で一律の様式2)である(図2).用紙サイズはA3判であり,医療機関で診断書作成ソフトなどを使っている場合でも,原則A3判での印刷で,と指定されている.こちらは手帳の診断書と違って指定医や認定医などの要件がないため,眼科医であれば誰でも記載できる.障害年金は初診日と障害認定日が非常に重要である.1.初診日の時点で被保険者であり2.その前々月まで規定の保険料を納付しており3.障害認定日に一定の障害程度であった場合に,障害年金が受給できる.つまり,手帳は現在どうであるかが重要であるが,障害年金は認定日(初診日の1年半後)時点での状況もまたきわめて重要である.要点として,①欄に傷病名を記載する.「②傷病の発生年月日」欄は不詳であれば不詳との記載でよい.「③①のため初めて医師の診療を受けた日」欄が前述の通りとにかく重要である.診断書記載医療機関が初診医であるなら単純であるが,紹介元がある場合なら紹介状に初診日の記載があるか確認する.初診日がはっきりしないなら初診医に次節の受診状況等証明書の発行を依頼することになる.「④傷病の原因または誘因」欄は不明なら不明でよい.糖尿病網膜症の場合はここに糖尿病の記載が入り,その内科の初診日が障害年金でいう初診日になるため,ここにその日付を記入する.「⑤既存障害」欄は視覚障害以外の障害があるなら記載する.「⑥既往症」欄はその他の特記すべき既往症を記載する.「⑦傷病が治ったかどうか」欄は今後良くも悪くもならない傷病の場合は上段で,今後徐々に悪くなるものは下段の「症状のよくなる見込無」になる.眼科疾患の場合は,ほとんどの場合が下段の「無」になると思われる.⑧欄と⑨欄は診断書記載医療機関からの情報である(裏面の記入上の注意も参照のこと).「⑩障害の状況」欄からは現症を記載する.現症日の記入漏れに注意する.「(1)視力」「(2)視野」「(3)所見」は基本的には手帳のそれと同様である.「(4)その他の障害」については手帳にはない要件であるが,相当に悪い状態で厚生年金保険法の障害手当金相当の障害と記載する.該当のない場合は「該当なし」と記載するか斜線で欄を抹消する.「⑪現症時の日常生活活動能力及び労働能力」欄は「日常生活および(61)あたらしい眼科Vol.40,No.5,2023639図2年金診断書と受診状況等証明書初診日と障害認定日の確定が最大のポイントである.QRコードは日本年金機構のそれぞれのページ2,3)である.労働に著しい支障がある」などと記載する.「⑫備考」欄は「改善は見込まれない」などと記載する.白内障について影響が軽微である旨もここに記載するとよい.⑬欄については障害程度が1級相当で改善が見込まれない場合には「永久認定で問題ないと考える」など記載してもよい.記載日,医療機関名,医師名を記載して,完成となる.障害状態確認届(障害年金の更新の診断書)はヘッダーに患者の住所や氏名,フッターに年金コードなどが印字された様式である.記載の要点は申請の診断書とおおむね同様であるが,すでに確定している初診日などの欄はなく,現症をありのままに書くだけである.障害年金は20歳前傷病の場合を除いてその受給に所得制限はない.意外と知られていないが働きながらでも受給でき,障害基礎年金だけでも2級なら老齢年金の満額と同等で,1級ならその1.25倍である.これに余命年数を掛けたものが生涯受給額と考えると,総額で数千万円が受給できることになる.障害厚生年金は「報酬比例の年金額」ということで平均標準報酬額と加入期間に比例するが,加入期間は300月未満であれば300月とみなす計算式であり,意外と大きな額となる.さらにいえば,障害年金は非課税であり,雑所得として課税対象となる老齢年金とは対照的である.IV受診状況等証明書障害年金の初診日を確定させるために重要な書類3)である(図2).基本的にはその傷病の初診医療機関から発行されるものであるが,カルテ破棄や廃業などで発行で640あたらしい眼科Vol.40,No.5,2023(62)図3補装具費支給意見書市区町村によって様式は異なる.かれているが,白杖は意見書を省略することができると規定されているので,この書類は義眼と眼鏡についてのものとなる.記載できるのは第15条指定医と視覚障害者用補装具適合判定医師研修会を修了した医師であり,難病患者にあっては難病指定医も記載することができる.国の制度であるが市町村が主体となって実施するので,自治体ごとに様式が異なる.制度の利用には,この意見書と補装具の処方箋(指示箋)および商品の見積書を添えて役所に提出することになる.氏名から手帳等級,現症,視力までは定型通り記載する.視野については有の場合は「求心性視野狭窄」など視野パターンを記載するとよい.処方する補装具が,制度のなかでどれに該当するかは確認が必要で,種目・名称などを意見書と処方箋で一致させることが重要である.よくある間違いは,いわゆる単眼鏡は「眼鏡弱視用焦点調整式」であり「焦点調節式」ではない.また,度入り色入り眼鏡は「眼鏡矯正用遮光機能の必要なもの」であり,「眼鏡遮光用掛けめがね式」は度なし色入り眼鏡のことをさす.使用効果見込として具体的に記載することと,他の手段ではその効果が得られないことを明記する.また,2個支給とする場合は,自治体に2個支給が認められるか問い合わせたうえで,2個支給が必要である旨とその理由を明記する.VI臨床調査個人票難病法の指定難病に関する診断書である(図4).難病指定医のみが書ける.難病ごとに様式が異なるが,いずれも患者の基本情報,診断基準と現症,重症度分類,人工呼吸器の情報,指定医の情報という作りになっており,基本的にはチェックボックスやマス目になった欄を埋めるだけで完成する様式である.新規と更新で同じ様式を用いる.細線欄は新規でも更新でも必須,太線欄は新規のみ必須とされている.点線欄は更新のみ必須とされているが,少なくとも眼科関連の臨床調査個人票で点線欄のあるものはないと思われる.難病情報センターのWebページ4)の臨床調査個人票は入力可能なPDFで掲載されているので,ここからダウンロードして入力し,プリントアウトすることもできる.難病法の対象となる難病患者は,診断基準を満たしていることと,一定の重症度を満たしていることが要件となる.たとえば告示番号90「網膜色素変性症」では重症度I度(矯正視力0.7以上,視野狭窄なし)は対象とならず,重症度II度(矯正視力0.7以上,視野狭窄あり)からが対象となる.ここで「視野狭窄ありとは,中心の残存視野がGoldmannI-4視標で20°以内」であることに注意が必要である.また,たとえば告示番号328「前眼部形成異常」,329「無虹彩症」,332「膠様滴状角膜ジストロフィ」ではIII度(罹患眼が両眼で,良好なほうの眼の矯正視力が0.3未満)からが対象となる.他の対象疾病についてもそれぞれ定められているので,記載の前には確認するべきである.対象となると,難病法のもとでの患者側のメリットとしては医療費の助成がある.また,障害者総合支援法では難病法の指定難病+aの疾病につき,手帳基準相当の視機能であれば手帳交付を受けていなくても障害福祉サービスなどを受けられる旨の規定がある.療養・就労両立支援指導料(初回800点)の算定要件のひとつである対象疾病には,難病法の指定難病が丸ごと含まれる.この指導料の算定には施設基準などの要件はないため,就労世代の難病患者には折をみて就労上の困りごとはないか確認するとよい.また,経過観察を含めて適切な時期の検査の必要性など療養上の指導を行うなら,難病外来指導管理料270点の算定も可能である.これはロービジョン検査判断料とも併せて算定できる.臨床調査個人票は毎年提出する必要があるが,医療費助成の自己負担上限額(月額)については世帯所得によって変わる.そのため前年所得に基づく市町村民税の課税額が確定した時期に臨床調査個人票が役所から送られてくることが多い.つまり,患者が医療機関に受診する時期が6.8月頃に集中する結果となる.障害状態確認届(障害年金の更新)が1年を通して分散することと対照的である.対象患者が多い医療機関にあっては,毎年当該時期にGoldmann視野検査などの検査予約枠の拡充も検討されたい.VII医師意見書・主治医意見書障害者総合支援法のもとで障害福祉サービス等を受け642あたらしい眼科Vol.40,No.5,2023(64)図4臨床調査個人票(090網膜色素変性症の様式)新規のときは太線欄と細線欄,更新のときは細線欄を埋める.QRコードは難病情報センターのページ4)である.図5障害福祉サービスの医師意見書介護保険の主治医意見書も似たような様式である.自由記述欄に視覚障害により必要なサービスの情報を記載する.