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緑内障:緑内障治療下における長期の眼圧変遷と季節変動

2023年4月30日 日曜日

●連載◯274監修=福地健郎中野匡274.緑内障治療下における長期の眼圧変遷と池田陽子御池眼科池田クリニック京都府立医科大学眼科季節変動1997年C1月~2016年C12月のC20年にわたる京都緑内障レジストリーのデータを用いて,点眼治療されている広義原発開放隅角緑内障C2,781例・総数C8万超の月ごとの眼圧を抽出・可視化し,緑内障治療下におけるCrealworlddataとしての管理眼圧の長期経過による眼圧の変遷と季節変動を考察した.●はじめに広義原発開放隅角緑内障(primaryCopenCangleCglau-coma:POAG)の点眼治療下における管理眼圧の長期経過と季節変動を知るために,京都緑内障レジストリー(KyotoCGlaucomaRegistry:KGR)より眼圧を抽出し可視化を試みた.KGRはC1995年に京都府立医科大学が開設し,以後,バプテスト眼科クリニックおよび御池眼科池田クリニックも参加してC1受診ごとにデータを入力し,2022年C3月末でC404,591件のデータを保有している.今回は1997年1月~2016年12月の20年にわたる広義CPOAGの眼圧データを抽出した.C●広義POAG患者の20年間の眼圧推移対象は広義CPOAGの患者で,①C1例C1眼/月で抽出した全例の眼圧平均値,②同一症例で同月に複数回眼圧値がある場合は全眼圧の平均値,③両眼対象の場合は右眼値,を選択した.線維柱帯切開術あるいは線維柱帯切除術施行例については,術後眼圧を除外した.ただし,白内障手術あるいは選択的レーザー線維柱体形成術施行例は術後眼圧を含めた.患者背景を表1に示す.図1a1)に広義CPOAG症例のC20年間の月平均眼圧値の変化を示す.図1bにはCPOAGと正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)の病型に分けて示す.全病型でC20年間に徐々に眼圧が下降した.1997年から2016年にかけ,広義CPOAGではC19mmHgからC14mmHgへ,POAGではC21CmmHgからC17CmmHgへ,NTGではC16mmHgからC13mmHgへ下降した.月ごとの眼圧は回帰曲線に近似でき,全病型でC20年間,夏は低く冬は高い眼圧季節変動の存在が示された.NTG症例をC4年ごとにC5グループ(1997~2000年,2001~2004年,2005~2008年,2009~2012年,2013~2016年)に分け,1~12月の平均眼圧の変化を調べた(図2)2).季節変動は回帰曲線を求めた.各月とも,年代とともに眼圧が下降し(1997~2000年の眼圧は冬14CmmHg,夏C13CmmHgであったが,2013~2016年には冬C12.5mmHg,夏C11.5mmHgとなった),また,5グループとも冬に高く夏に低い有意な眼圧季節変動が示された.C●処方薬の推移4年ごとのCNTGの使用薬剤割合を図32)に示した.1997~2000年ではCb阻害薬(以下,b)がもっとも多く,プロスタグランジン関連薬(以下,PG)が続き,2001~2004年ではCPGの割合が増加し,bの割合が減少した.また炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicCanhydraseCinhibi-tor:CAI)とCa1遮断薬の割合が増加した.2005~2008年ではC2001~2004年と同じ傾向を示し,2009~2012年では配合薬の上市によりCPG/b,CAI/bの割合が増え,a2刺激薬の上市でその割合が増加した.2013~2016年では配合薬,a2刺激薬の割合が倍増した.C●おわりに新規作用機序の点眼薬や同一作用機序の別製品が上市され,点眼薬の選択肢の増加が長期にわたる眼圧下降に貢献したと考えられた.また,平均寿命延長に伴い,より長期に視機能を維持させなければならない社会状況と,視野悪化時にはさらに低く眼圧管理しようとする眼表1患者背景病型症例数(人)眼圧データ数(件)男性:女性(人)平均年齢(歳)平均経過観察期間(年)広義原発開放隅角緑内障C原発開放隅角緑内障C正常眼圧緑内障C2,781C1,007C1,774C80,25831,25149,0071,186:1,595C521:486C665:1,109C60.8±14.1C62.6±13.3C59.8±14.4C5.5±4.75.5±5.15.5±4.4C(89)あたらしい眼科Vol.40,No.4,20235210910-1810/23/\100/頁/JCOPYa70020600データポイント(onedata/patient/month)データポイント(onedata/patient/month)図1病型別の20年間の眼圧経過(a:広義原発開放隅角緑内障,b:原発開放隅角緑内障と正常眼圧緑内障)月ごとの平均眼圧を解析した.病型にかかわらず,20年間で眼圧は徐々に下降してきており,夏は低く冬は高い眼圧の有意な季節変動を示した.(文献C1より改変引用)18500164001430020012眼圧(mmHg)100100b700500184001630014200122260020眼圧(mmHg)1001000%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%1997~20002001~20042005~2008眼圧(mmHg)13.52009~201213.02013~201612.5■PG■b■CAI■a1■a2■S■PS■PG/b■CAI/b■RK■0ral12.0図3正常眼圧緑内障の処方薬の4年ごとの推移新薬の上市が処方に反映されている.配合剤,Ca2刺激薬,ROCK阻害薬が上市されてからは,それら薬剤の増加割合が大きかった.図2正常眼圧緑内障の4年間ごとの眼圧の変化PG:プロスタグランジン関連薬,Cb:b遮断薬,CAI:炭酸脱11.5JanFebMarAprMayJunJulAugSepOctNovDec年が進むごとに眼圧が下降していた.また,5グループとも夏は低く冬は高い有意な季節変動を示した.点線は回帰曲線.(文献C2より改変引用)科医の意識や努力も,眼圧下降に影響したと考えられた.これら長期管理眼圧のCrealworlddataを把握し参照することで,日々の治療の立ち位置や眼圧の季節変動を確認し,今後の緑内障診療の参考にしていただければ幸いである.水酵素阻害薬,Ca1:a1遮断薬,Ca2:a2刺激薬,S:交感神経刺激薬,PS:副交感神経刺激薬,PG/Cb:PG・Cb配合薬,CCAI/b:CAI・Cb配合薬,RK:ROOK阻害薬,Oral:経口CCAI(文献C2より改変引用)文献1)IkedaCY,CUenoCM,CYoshiiCKCetal:LongitudinalCseasonalCvariationsCofCintraocularCpressureCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCpatientsCasCrevealedCbyCreal-worldCdata.CActaCOphthalmol98:e657-e658,C20202)IkedaCY,CMoriCK,CUenoCMCetal:SeasonalCvariationCandCtrendCofCintraocularCpressureCdecreaseCoverCaC20-yearCperiodCinCnormal-tensionCglaucomaCpatients.CAmCJCOph-thalmol234:235-240,C2022522あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023(90)

屈折矯正手術:LASIKはどのような人に適応となるのか

2023年4月30日 日曜日

●連載◯275監修=稗田牧神谷和孝275.LASIKはどのような人に適応となるのか戸田郁子南青山アイクリニックLASIKにおいて良好な結果と患者満足度を得るためには,適応選択を厳しく行うべきである.矯正度数,角膜厚,角膜形状,眼表面の状態,患者因子(年齢,希望,性格,職業など)を総合的に評価し,適応を決定する.リスク因子がある場合は無理をせず,他の屈折矯正術や「手術をしない」選択肢を推奨することも必要である.●はじめにLASIK(laserinsitukeratomileusis)が本格的に臨床応用されてすでにC30年が経過し,その有用性や安全性については確立され,世界的にも屈折矯正手術のスタンダードの一つとなっている.しかし,LASIKはすべての屈折異常をもつ患者に適応になるわけではなく,術前の適切な適応選択が術後患者満足度の一番の鍵である.適応選択基準はC30年間の経験に基づき変化してきており,より厳しく「LASIKが最適な患者」のみを適応とする方向にシフトしている.このような適応の厳格化によって,合併症を最小化し,満足度を最大化できると考えられる.LASIKの適応を決定するうえで重要な因子を,以下にあげる.C●適応決定の重要因子1.矯正屈折度数日本眼科学会の「屈折矯正手術のガイドライン(第C7版)」1)によれば,「近視については,矯正量の限度を原則としてC6Dとする.ただし,何らかの医学的根拠を理由としてこの基準を超える場合には,十分なインフォームド・コンセントのもと,10Dまでの範囲で実施することとする」とある.実際の現場では,術後の視力の質を考慮し,近視矯正では等価球面度数.4D程度までを最適応,希望があれば.6D程度までを適応とし,それ以上の高度近視は有水晶体眼内レンズを推奨している.一方,遠視と乱視については,上記ガイドラインでは6Dまでとされているが,術後のCregressionの起こりやすさから遠視はC2D,乱視はC3D程度を上限としている.C2.角膜厚残存角膜をC400Cμm確保することが,術後の医原性角膜拡張症を防止するために必須であるため,切除量を計算し,術後角膜厚がC1回の再手術量(30Cμm程度)を含めC430Cμm程度は残る状況を適応とする.(87)3.角膜形状医原性角膜拡張症の原因となる円錐角膜(FFKも含む)の除外は重要である.現在の角膜形状解析装置には円錐角膜疑いを表示するインデックスシステムが付属しており,非常に有用である.これに加えてリスクファクターとして,①薄い角膜(500μm未満),②高度乱視(とくに斜乱視),③非対称角膜,④角膜後面異常,⑤若年など,⑥アレルギー,などがあげられる.円錐角膜インデックスがC0%であっても,これらのリスクファクターが複数ある患者では適応に注意を要する.Randle-manらは複数のリスクファクターを点数化し,4点以上は医原性角膜拡張症のハイリスクとしている(表1)2).C4.眼表面の異常角膜フラップ作製とレーザー照射は角膜内神経に一時的ダメージを与え,涙液分泌をはじめとする眼表面の生理に影響を及ぼす.たとえば術後C1カ月程度はドライアイ所見と症状を呈することが多い3).ドライアイ患者でも術前からドライアイマネージメントを行えば安全にLASIKは可能であるが,術後の症状悪化のリスクを考えると,他の方法(ReLExSMILEや有水晶体眼内レンズなど)を推奨するほうがよい.また,角膜実質に混濁がある患者では,混濁が視軸に近い部位に存在するとフェムトセカンドレーザーによるフラップ作製時に問題が起こる可能性があり,photorefractiveCkeratectomy(PRK)などの表層切除などを選択するのがよい.流行性核結膜炎後の多発性角膜上皮下混濁はフラップ作製で一時的に悪化することがあり,LASIK不適応ではないが,術後1~2カ月程度のステロイド使用が必要である.ヘルペス性角膜炎既往者ではヘルペス再活性化の可能性があり,術後C1週間~1カ月の予防的アシクロビルの内服を推奨する.瘢痕のあるようなケースではレーザーによる再発の可能性が高く,角膜屈折矯正術ではなく有水晶体眼内レンズを推奨する.C5.患者の職業やアクティビティLASIKではフラップを作製するため,眼球に直接外あたらしい眼科Vol.40,No.4,20235190910-1810/23/\100/頁/JCOPY表1EctasiaRiskScoreSystem(ERSS)ParameterCPointsC4C3C2C1C0CTopographyCAbnormalTopographyCInf.Steep/SRACABTCNormal/SBTCRSB<2C40CμC240-259CμC260-279CμC280-299CμC.300CμCAgeC18-21CyrsC22-25CyrsC26-29CyrsC.30CyrsCCT<4C50CμC451-480CμC481-510CμC.510CμCMRSE>.14D>.12–14D>.10–12D>.8–10DC.8Dorless合計点がC4点以上はハイリスクと判断される.CInf.Steep:inferiorCsteepeningCpattern,SRA:skewedCradialCaxis,ABT:asymmetricCbowtie,SBT:symmetricbowtie,RSB:residualstromalbedthickness,CT:preoperativecornealthickness,MRSE:Cpreoperativesphericalequivalentmanifestrefraction.(文献C2より引用)力が頻繁にかかる可能性のある患者には向いていない.日常生活や通常のスポーツ程度であればCLASIK施行は問題はないが,格闘家(とくにボクサー)など確率的に眼外傷の可能性が高い患者はCLASIK以外の方法がよい.一定の視力が必要な職業の患者(パイロット,レーサー,騎手など)は手術方法についての基準があるので注意が必要である.旅客機や自衛隊パイロットはCLASIKは可能であるが後房型有水晶体眼内レンズは許可されていないので,C.6Dを超える場合でもCLASIK適応とする必要がある(実情と合っていないこの基準は改定が必要と個人的には考える).C6.患者の年齢上記ガイドラインではC18歳以上が適応とされている.18歳以上であっても,過去C6カ月間に屈折度数変動があった患者では,安定するまで待つ.年齢上限はとくにないが,LASIKで単眼多焦点を達成するのは困難であるため(過去には多焦点照射が試みられたが効果が不十分であった)ので,老視年齢(約C45歳)以上では,老眼鏡の必要性やモノビジョンなどの対応を患者が十分理解したうえでの適応判断が必須である.C7.患者の性格と理解度LASIKのみならずすべての屈折矯正手術に共通する問題であるが,手術のメリット・デメリットを理解できない,コミュニケーションがうまく取れない,手術が100%完璧であると思っている,手術を安易に考えている,などの患者は不適応である.しかし,性格や理解度を客観的評価(数値での評価など)することはむずかしく,また術前に性格が問題なくみえても術後の結果によって(たとえ他覚的に良好であったとしても,なんらかの理由で)豹変してしまう患者もいるため,非常にむずかしい問題である.必要な説明をして記録に残し,適切に適応判断を行い,しっかりとインフォームド・コンセントを取得することが非常に重要である.C520あたらしい眼科Vol.40,No.4,20238.患者の希望LASIKを希望しても,他覚的に不適応または他の方法がより向いている,ということがある.医学的不適応を除いて,たとえCLASIK以外の方法のほうが向いていたとしても,患者の希望を無視して他の方法のみを一方的に押し付けることは好ましくない.さまざまな理由(金銭的,眼内に異物を入れる抵抗感など)でCLASIKを受けたいと希望する患者には,最終的な決定は患者自身であるという前提で,経験とエビデンスからのアドバイスとしては他の方法を推奨するということを伝えたうえで,患者の選択を尊重することも,術後の良好な医師患者関係を築くためにときに必要となる.C●おわりにわが国ではCLASIKの施行件数は年間C5万件程度であるが,欧米ではC80万件程度がコンスタントに施行されている.また,わが国では屈折矯正手術における有水晶体眼内レンズの割合が先進国中唯一C50%以上を占め,世界の国々(70~80%程度がレーザー屈折矯正手術)とは違ったユニークな状況となっている.どの方法がもっともよいということではなく,各方法の特性を理解し,上記因子を考慮しつつ,個々の患者に最適な方法を提供することがもっとも重要と考える.文献1)日本眼科学会屈折矯正委員会:屈折矯正手術のガイドライン(第C7版).日眼会誌123:167-169,C20192)RandlemanCJB,CTrattlerCWB,CStultingRD:ValidationCofCtheCEctasiaCRiskCScoreCSystemCforCpreoperativeClaserCinCsitukeratomileusisscreening.AmJOphthalmolC145:813-818,C20083)TodaI:DryCeyeCafterCLASIK.CInvestCOphthalmolCVisCSciC59:109-115,C2018(88)

眼内レンズ:ループ式核分割デバイスによる核分割

2023年4月30日 日曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋437.ループ式核分割デバイスによる核分割宮本武トメモリ眼科・形成外科いわで宮本クリニックループ式核分割デバイスであるCmiLOOPは,白内障手術時にループ状のカッティングワイヤを使って核分割を行うという新しい概念の分割器具で,近年わが国でも使用が可能となったため注目されている.●はじめに核分割操作は現在ではほとんどの超音波白内障手術で行われる手技である.核分割の方法にはCdivideCandconquerやCphacoCchop,prechopなどさまざまなバリエーションはあるものの,水晶体を分割しつつ乳化吸引していくことが基本操作となっている.しかし,核硬化度が進行したCEmery-Little分類のCgradeIVやCgradeVの場合,なかでも核中心が固い場合や後.側まで硬い場合は,通常の分割手技では対応が困難である.分割操作に手間どると核を動かしてしまい,Zinn小帯に負担がかかる可能性もある.Zinn小帯に負担をかけずに,水晶体を後.側からも核の中心に向かって分割できる方法としてループ式核分割デバイスを紹介する.C●ループ式核分割デバイスmiLOOPmiLOOPはCCarlCZeissMeditech社から発売されている核分割デバイスである1.3).スライダーを動かすことで先端のカッティングワイヤが出入りしループの径が変わる.このカッティングワイヤで水晶体核を括ってワイヤを絞ることで核を切断する.通常の核分割操作は水晶体前面もしくは赤道部からのアプローチになるが,miLOOPは水晶体後.側からのアプローチで核を切断できる唯一のツールである.miLOOPを用いた白内障手術では,超音波エネルギー量や角膜内皮細胞減少量を減らすことができたとの報告がある1,2).C●使用方法前.切開は連続円形切.(continuousCcurvilinearcapsulorhexis:CCC)で行う.CCCに亀裂が入っている状態,あるいはCcanopener法でCmiLOOPを用いると,水晶体.から核が脱臼してくるだけでなく,亀裂が後.側に回って後.破損につながる恐れがある.CCCを完成させたあとは,水晶体.内で核が回転できるまでしっかりハイドロダイセクションを行う.前房内に粘弾性物質を十分に入れる.ループを確実に前.下に挿入で(85)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY図1miLOOPの全体像①ハンドル.②スライダー.前方に押すとカッティングワイヤが伸びて大径となる.後方に引くとカッティングワイヤが格納され小径となる.③ポジショニングベロー.正しい挿入位置にガイドする.④カッティングワイヤ.水晶体核の切断を行う.きるように粘弾性物質を少し前.下に入れてスペースを作っておくと,ループ先端を前.下に刺入しやすくなる.前.よりも前にワイヤを出して操作してしまうとZinn小帯を断裂させてしまう恐れがある.前.下にループ先端を刺入し,スライダーを押し込むことでカッティングワイヤを伸ばしていく.伸び切ってから,赤道部方向に軽くあて,ハンドルを回転させループを後.側に展開していく.核の中心を越えるまで回転させたあとで中心まで戻す.その後スライダーを引きカッティングワイヤを縮小させることで核を切断することができる.核をC90°回転させたあとで,もう一度同様の操作を行うことでC4分のC1分割ができる.C●miLOOPの利点miLOOPは水晶体後.側から切断できるため,硬い核でも比較的安全に切断することができる.また,水晶体核の中心に向かって切断するため,切断の際にCZinn小帯へのダメージは少ないと考えられる.切断後の断面は凹凸がない.そのため核片を乳化吸引する際に周りの核片に引っかからず吸引除去しやすくなる.あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023C517図2miLOOPを使用した白内障手術症例a:カッティングワイヤを前房内に挿入する.Cb:カッティングワイヤを前.切開下に刺入する.Cc:カッティングワイヤを伸ばしハンドルを回転させ,カッティングワイヤを後.側に回していく.Cd:カッティングワイヤを絞り,核を切断する.Ce:核をC90°回転させたあと同様に核を切断し,4分割を完成させる.Cf:超音波乳化吸引を行う.核が鋭利に切断されているのがわかる.●miLOOPの注意点miLOOPは水晶体.内で操作するが,操作中に核を引っぱってしまうと水晶体.から脱出してくることがあるので,スライダーを引く際に水晶体.を引っ張らないようにする必要がある.そのため,本来はサイドポートからスパーテルなどで核を抑えておくほうがよい.筆者はスパーテルを用いないことが多いが,核が水晶体.から脱出しないように先端を水晶体.に押し込みつつ切断するようにしている.核が硬いと完全に切断できないことがあり,その際は分割器具でアシストするかハンドルを回転させることで残った部分を切断することができる.切断後に器具を引き抜く際にも,慎重に引き抜く必要がある.カッティングワイヤは完全には格納できないので,慌てて引き抜こうとすると前.切開縁に引っかけて前.を切ってしまう可能性がある.ループの出し入れは5回ほどでロックがかかる構造になっている.無駄に出し入れをしないようにしなければいけない.●おわりに日本はC2007年にC65歳以上がC21%以上となる超高齢社会に突入した.核硬化の進んだ白内障患者に遭遇する機会は今後も増えてくるであろう.核硬化が進行した白内障は合併症発生リスクが高く,十分な対策が必要である4).miLOOPを用いることで超音波エネルギー量を減らし,合併症の発生リスクを軽減できる可能性がある.文献1)IanchulevT,ChangDF,KooEetal:MicrointerventionalendocapsularCnucleusdisassembly:novelCtechniqueCandCresultsof.rst-in-humanrandomisedcontrolledstudy.BrJOphthalmolC103:176-180,C20192)HuCEH,CBuieCT,CJensenCRJCetal:ComparativeCstudyCofCsafetyCoutcomesCfollowingCnucleusCdisassemblyCwithCandCwithoutCtheCmiLOOPClensCfragmentationCdeviceCduringCcataractsurgery.ClinOphthalmolC16:2391-2401,C20223)野口三太朗:手術器具CLoopfragmentation.CIOL&CRSC36:C118-123,C20224)山根真:超高齢者の白内障手術.眼科手術C35:35-40,C2022C

コンタクトレンズ:読んで広がるコンタクトレンズ診療 トーリックソフトコンタクトレンズ処方

2023年4月30日 日曜日

提供コンタクトレンズセミナー読んで広がるコンタクトレンズ診療8.トーリックソフトコンタクトレンズ処方糸井素啓京都府立医科大学■はじめにわが国の乱視用ソフトコンタクトレンズ(toricCsoftCcontactlens:TSCL)の処方割合は諸外国に比較して低い.この背景として,「TSCLは処方に手間と時間がかかる」という先入観があるようだ.しかし,近年発売されたCTSCLは,以前に比較して格段に処方しやすい.そこで本稿ではCTSCL処方のポイントを解説する.C■TSCLの効果乱視眼は強主経線と弱主経線の焦点,すなわち前焦線と後焦線が一致していない.このため,乱視眼はボケを伴った像を見ている.TSCLは強主経線と弱主経線の焦点を一致させ,眼外からの光線をC1点に集めることで,視力やコントラスト感度を改善できる.さらには調節刺激量の減少による眼精疲労の改善やリーディングスピードの向上なども期待でき,適切なCTSCL装用は視機能の向上に寄与する.C■TSCLの適応TSCLの適応を考えるうえでは,乱視の程度と種類,そして「乱視による愁訴」の有無がポイントとなる.乱視の程度と種類については,1.0~3.0Dまでの正乱視眼がよい適応となる.不正乱視やC3D以上の正乱視眼ではハードコンタクトレンズ(HCL)のほうが矯正効果に優れる.また,正乱視眼であっても,市販されているTSCLの円柱軸にない斜乱視の場合は,TSCLで安定したフィッティングが得られない場合がある.「乱視に困っています」と訴える患者はほとんどいない.丁寧に問診を行い,乱視による愁訴に気づくことが大切である.「球面レンズでの矯正視力が良好な乱視眼にはCTSCLは不要」とは必ずしもいえない.健常人に意図的に乱視を負荷した場合,矯正視力(1.0)を維持しているにもかかわらず,実用視力やコントラスト視力が低下することが報告されており1),矯正視力が良好であっても未矯正の乱視によって不調を生じている可能性が(83)道玄坂糸井眼科表1未矯正の乱視による症状を探す問診1.夜間の運転で見えづらいと感じることはないですか?2.暗くなってくると看板や標識が見えづらくないですか?3.夕方,ピントが合いにくいと感じていませんか?4.小さな文字が見えづらくないですか?5.目の疲れや肩こりなどの眼精疲労の症状がありませんか?ある.暗所や調節刺激に着目した具体的な問診(表1)を行い,TSCLが有効な患者を見きわめる.C■TSCLの選択TSCL処方では,まず素材とデザインを選択する.トーリックレンズは部分的に分厚くなるため,低酸素による角膜障害の危険性が球面レンズに比較して高い2).そのため,TSCLの素材は酸素透過性に優れるシリコーンハイドロゲルが望ましい.レンズデザインについては,プリズムバラストとダブルスラブオフのC2種に大別され,乱視の種類と眼瞼の形状によって,それぞれ向き不向きがある3).しかし,技術的進歩に伴ってデザイン間の性能の差は減少傾向にあり,近年発売されたCTSCLはいずれも良好な軸安定性を示している.筆者はそれぞれのデザインのレンズをC1,2種用意したうえで,患者ごとに装用テストをして判断している.C■トライアルレンズの決定円柱軸,円柱度数,球面度数の順番にトライアルレンズの規格を決める.円柱軸は自覚的屈折度数から選択する.円柱度数と球面度数は,自覚的屈折度数をそのまま使うことはできず,軸ごとに頂点間距離補正(コンタクトレンズと眼鏡の角膜頂点からの距離の違いから生じる矯正効率に対する補正)を行う.すなわち,自覚的屈折度数を経線方向に展開し,それぞれの経線方向で屈折度数に対して頂点間距離補正を行い,その結果から円柱度数と球面度数を算出する(図1).慣れるまでは各レンズメーカーが提供している早見表を用いるとよい.あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023C5150910-1810/23/\100/頁/JCOPY-5.5D-5.0D-4.0D-3.75D〈自覚的屈折値〉〈頂点間距離補正後〉sph-4.0(cyl-1.5Ax180°sph-3.75(cyl-1.25Ax180°図1円柱度数の頂点間距離補正自覚的屈折度数が(sphC.4.0(cyl.1.5Ax180°)の場合,頂点間距離補正後の屈折度数は(sphC.3.75(cyl.1.25Ax180°)となり,球面度数・円柱度数ともに変化している.C■フィッティングの観察通常のCSCLと同様に,センタリングの確認とCpushupテスト(指で下眼瞼の上からレンズを押し上げ,指を離してレンズが元の位置に戻る様子を確認する)でレンズの動きを評価する.安静位置で角膜輪部が露出している場合や,レンズの動きが大きすぎる(1Cmm以上)あるいはレンズが動かない場合には,ベースカーブを変更する.次に,TSCLのガイドマーク(図2)を目安にレンズの回転安定性を評価する.瞬目によるガイドマークの変動がC15°を超える場合は不安定と判断し,異なるタイプのCTSCLに変更する.次に,レンズが安定したときのガイドマークの位置から,偏位度数つまり軸ズレを評価する.軸ズレの許容範囲はC10°と考えられており,軸ズレがC10~30°の場合は軸補正を行い,30°より大きい場合は異なるタイプのCTSCLに変更する.なお,ガイドマークは各レンズのデザイン上の向きを示しているのであり,円柱軸を示しているのではない.C■軸補正軸補正とは,レンズの円柱軸を変更することでレンズと角膜の乱視軸を一致させることである.方法は「正加反減則」とよばれ,TSCLが時計回り(正方向)に回転しているときには,乱視軸に偏位度数を加算して処方す円柱軸30°円柱軸90°円柱軸180°図2TSCLのガイドマーク黒線がガイドマーク,赤線が円柱軸を示す.ガイドマークはレンズの種類によって配置が異なり,そのレンズのデザイン上の向きを示しているのであって,円柱軸を示しているのではない.る円柱軸とし,反時計回りに回転しているときには元の円柱軸に偏位度数を減算して処方する円柱軸とする.梶田雅義先生が提唱されているように,軸補正を誤ると乱視の矯正の成果が半減するという意味合いで,「正加反減」を「成果半減」と語呂合わせで記憶すると大変便利である.C■おわりにTSCLは見え方の質を向上できるため,処方に成功すれば患者の満足度が高くなる.具体的には,「夜の運転が楽になった」「夜まで仕事をしても疲れにくくなった」など,眼精疲労が軽減したことによる喜びの声を得られる.乱視眼では,球面レンズによる矯正視力が良好であっても,丁寧な問診によって「TCLが有効な患者」を探し出し,積極的にCTSCLを処方していただきたい.文献1)WatanabeCK,CNegishiCK,CKawaiCMCetal:E.ectCofCexperi-mantalyCinducedCastigmatismConCfunctional,Cconventional,Candlow-contrastvisualacuity.JRefSurC29:19-24,C20132)TyagiG,CollinsM,ReadSetal:Regionalchangesincor-nealCthicknessCandCshapeCwithCsoftCcontactClenses.COptomCVisSciC87:567-575,C20103)塩谷浩:乱視眼へのトーリックソフトコンタクトレンズ処方.図説コンタクトレンズ完全攻略(小玉裕司編),p105-113,メディカル葵出版,2018

写真:鉗子分娩によるDescemet膜破裂と水疱性角膜症

2023年4月30日 日曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史467.鉗子分娩によるDescemet膜破裂と笠松広嗣東京歯科大学市川総合病院眼科水疱性角膜症図2図1のシェーマDescemet膜破裂図1前眼部所見右眼に斜めに走るCDescemet膜破裂を認めた.図3前眼部OCT所見角膜の浮腫と.離したCDescemet膜,およびCDescemet膜の肥厚を認めた.図4トポグラフィマップ所見上段:Elevationmap.Descemet膜破裂と一致して前面(左)および後面(右)ともに平坦化を認めた.左下:AxialCpowermap.Descemet膜破裂と強主経線の一致を認めた.右下:Pachymetrymap.Descemet膜破裂に伴い角膜の肥厚を認めた.(81)あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023C5130910-1810/23/\100/頁/JCOPY症例は46歳,男性.30代からの視力低下を自覚していたが,もともと弱視であり,手術加療などはせずに様子をみていた.40代で右眼の疼痛を自覚し,疼痛の治療目的に当院を紹介受診した.初診時矯正視力は右眼C20Ccm指数弁であった.右眼にCDescemet膜破裂と角膜浮腫を認めた(図1,2).前眼部光干渉断層法では.離したCDescemet膜と肥厚したCDescemet膜を認めた(図3).トポグラフィマップ(図4)における前後面のCelevationmapは平坦化しており,帯状の領域はDescemet膜破裂の方向と強主経線の角度と一致していた.中心角膜厚はC1,024Cμmと肥厚しており,角膜内皮細胞密度も測定不能であった.鉗子分娩によるCDes-cemet膜破裂例に伴う水疱性角膜症と診断し,初診から2カ月後に水晶体再建術+Descemetstrippingautomat-edkeratoplasty(DSAEK)を施行した.術後角膜浮腫は改善し,疼痛も改善したが,最良矯正視力はC0.01に留まった.鉗子分娩によるCDescemet膜破裂はC1895年にCNoyesらが初めて報告した1).鉗子を用いた分娩は盲目的に行われるため,鉗子で誤って患児の眼球を圧迫ることにより生じる.疾患の病相は各ライフステージにおいて異なる.分娩直後にはCDescemet膜の欠損のため前房水が角膜実質に流入することにより角膜浮腫をきたすが,数週間~数カ月で瘢痕を内皮面に残して自然治癒し,角膜は透明化する.角膜乱視を生じた場合は弱視を生じるため,弱視を防ぐために幼少期には乱視の矯正,健眼遮蔽など,適切な弱視の管理が必要となる2,3).角膜内皮細胞は徐々に減少するため,中高年期に水疱性角膜症を発症し,視力低下や疼痛を主訴に病院受診をすることが多い4).鉗子分娩によるCDescemet膜破裂に続発する水疱性角膜症はわが国では水疱性角膜症のC1.6%5),DSAEK導入疾患の2%であり,比較的まれである6).水疱性角膜症の治療はCDSAEKが比較的良好な成績を示しているが7),もともと弱視であることが多いので,弱視の有無と最高視力を確認し,それ以上の視力は出ない可能性が高いことを患者に十分に説明したうえで手術を行う.手術の際の注意点としては,Descemet膜が肥厚し,実質との癒着が強いこともあるため,Descemet膜を丁寧に残さず.離除去することが重要である.また,角膜の変形が強く後面の凹凸が強い場合や,過度な平坦化をきたしている場合はグラフトの接着が悪いこともあるため,術前に十分に戦略を練り,術後は注意深く診察する必要がある.また,外傷であるためCDescemet膜破裂の方向や角膜の変形の度合いも個人差が大きい.現状では,視力の回復の早さや拒絶反応の少なさからDSAEKが第一選択であるが,変形の強い場合や角膜混濁が強い場合には全層角膜移植術のほうが有利な場合もあるので,術式は十分に検討する必要がある.文献1)NoyesHD:TraumaticCkeratitisCcausedCbyCforcepsCdeliv-eryCofCanCinfant.CTransCAmCOphthalmolCSocC7:454-455,C18952)AngellCLK,CRobbCRM,CBersonFG:VisualCprognosisCinCpatientsCwithCrupturesCinCDescemet’sCmembraneCdueCtoCforcepsinjuries.ArchOphthalmolC99:2137-2139,C19813)LambertCSR,CDrackCAV,CHutchinsonAK:LongitudinalCchangesCinCtheCrefractiveCerrorsCofCchildrenCwithCtearsCinCDescemet’sCmembraneCfollowingCforcepsCinjuries.CJAAPOSC8:368-370,C20044)HonigMA:Forcepsandvacuuminjuriestothecornea:Chistopathologicfeaturesoftwelvecasesandreviewoftheliterature.CorneaC15:463-472,C19955)ShimazakiJ,AmanoS,UnoTetal;JapanBullousKera-topathyStudyG:NationalsurveyonbullouskeratopathyinJapan.CorneaC26:274-278,C20076)YazuH,YamaguchiT,AketaNetal:Preoperativeaque-ousCcytokineClevelsCareCassociatedCwithCendothelialCcellClossafterDescemet’sstrippingautomatedendothelialker-atoplasty.InvestOphthalmolVisSciC59:612-620,C20187)KobayashiA,YokogawaH,MoriNetal:CaseseriesandtechniquesCofCDescemet’sCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplastyCforCsevereCbullousCkeratopathyCafterCbirthCinjury.BMCOphthalmolC15:1-7,C2015

色覚―検査と指導

2023年4月30日 日曜日

色覚―検査と指導ColorVisionTestingandInstruction杢野久美子*はじめに眼科医にとって色覚の知識は必要である.本稿では,小児の色覚異常の診療に必要と思われる,一般眼科で可能な検査・診断・指導について解説する.I色覚とはヒトの眼に入って明るさの感覚を起こさせるのは,380~780nm(=10-9m)の波長範囲にある電磁波で,人間は波長の差によって種々の色を感じる.光は視路を通って,大脳で色として認識される.人間の眼球内の網膜にある視細胞には,明るいところではたらく錐体(cone)と暗いところではたらく杆体(rod)がある.錐体の視物質は三種類あり,最大吸収波長が異なる.それらを含む錐体を,長波長感受性錐体(L-錐体),中波長感受性錐体(M-錐体),短波長感受性錐体(S-錐体)という.少なくとも二種類の錐体の興奮により,可視光を電気信号に変換し脳へ伝達して,色として認識される(図1).II色覚異常の分類色覚異常は先天色覚異常と後天色覚異常に分類される.先天色覚異常は遺伝子異常による錐体視物質の異常によって起こる.1型色覚はL-錐体,2型色覚はM-錐体,3型色覚はS-錐体の最大吸収波長が正常とは異なっている.先天色覚異常の大部分は1型色覚と2型色覚で,先天赤緑色覚異常である.2色覚(旧用語の色盲)は3種類の錐体視物質のうちの一つが欠損している.異常3色覚(旧用語の色弱)は一つの視物質の最大吸収波長が正常と異なるものである.先天赤緑色覚異常に関係する遺伝子はX染色体上に存在し1),遺伝形式はX染色体連鎖潜性(劣性)遺伝である.日本人では男性の約20人に1人(5%),女性の約500人に1人(0.2%)にみられる.保因者(女性)の頻度は約10人に1人(10%)である.1型色覚と2型色覚の比は1:3.0~3.5で,2型色覚が多い(図2).先天青黄異常の3型色覚と,杆体1色覚,錐体1色覚はきわめてまれである.本稿では先天色異常として,1型色覚と2型色覚の先天赤緑色覚異常について解説する.後天色覚異常は,遺伝的要因による先天色覚異常を除くすべての色覚異常で,視路のいずれの障害によっても色覚異常が起こる.小児の色覚異常の中には,心因性視覚障害の場合があることにも留意すべきである.III色覚に関する用語2005年10月に『眼科用語集』第5版で色覚関係の用語が改訂された2)(図3).旧用語の色盲,色弱は新用語では2色覚,異常3色覚にそれぞれ改訂された.2017年9月に日本遺伝学会は,『遺伝学用語』改訂において,英語<colorblindness>に対する旧来の訳語である色覚異常,色盲に替えて,邦語と英語をペアにした*KumikoMokuno:刈谷豊田総合病院眼科〔別刷請求先〕杢野久美子:〒448-0852愛知県刈谷市住吉町5-15刈谷豊田総合病院眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(71)503相対的感度L-錐体400500600700波長(nm)図1色覚とは人間の可視光の波長領域は380~780nm.波長の差によって色が変わると感じる.視細胞には錐体と杆体がある.最大感度波長の異なる少なくとも2種類の錐体細胞が,光を電気信号に変換し,脳へ伝達して色として認識される.XYXXXYXXXYXXXYXXXYXXXYXXXY=遺伝学的にも正常の女性=正常色覚男性XXXXXY=保因者=色覚異常女性=色覚異常男性図2先天赤緑色覚異常の遺伝形式X連鎖性潜性遺伝.日本人は男性の20人に1人,女性の500人に1人.保因者は約10%.1型色覚:2型色覚=1:3.0~3.5.図3色覚用語2005年『眼科用語集』第5版で色覚に関する用語が大幅に改訂された.従来の第1・第2・第3色覚異常は1型・2型・3型色覚,1色型・2色型・3色型色覚は1色覚・2色覚・3色覚と表され,3色覚は正常3色覚と異常3色覚に分けられる.新用語からは「色盲」「色弱」という表現がなくなった.2017年日本遺伝学会は,遺伝学用語改訂において,英語〈colorblindness〉に対する旧来の訳語である色覚異常,色盲に替えて,色覚多様性(colorvisionvariation)という呼称(概念)を提案した.1.赤と緑2.オレンジと黄緑3.緑と茶4.青と紫5.ピンクと白・灰色正常1型色覚2型色覚6.緑と灰色・黒7.赤と黒8.ピンクと水色1型色覚の混同色は1-82型色覚の混同色は1-6図4色感覚のモデルと先天色覚異常の混同色5,6)色覚異常のモデルの楕円では,赤と緑の隔たりが正常に比べて少なく,似ている色と感じられる.楕円の短径方向で向かい合う色が混同色.先天色覚異常の色感覚は,正常の円形が一定の方向に圧縮された楕円で表すことができる5)(図4).軽い色覚異常ならば円に近い楕円,強い色覚異常ならば細い楕円である.この色感覚モデルで円の直径の両端にある2色,たとえば赤と緑は反対色とよばれ色の違いが著明であるが,色覚異常のモデルの楕円では赤と緑の隔たりが正常に比べて少ない.これはこの2色が正常の感覚で見るほどには違って見えないことを示す.強度異常(楕円が細い)ほど赤と緑の位置が近づく.つまり非常に似た色と感じられる.先天色覚異常は,ふつうには著しい違いのある色がよく似て見えて識別しにくいことがある.色覚異常のモデルである楕円の短径の方向で向かい合うこのような色を混同色という.赤と緑,オレンジと黄緑,緑と茶,青と紫などは,1型・2型色覚で混同しやすい.さらに1型色覚では,L-錐体の異常により赤の感度が低下し暗く見えるため,赤を見分けにくい場合がある.先天色覚異常の混同色を図4に示す6).VI先天色覚異常の検査・診断1.色覚検査の種類①仮性同色表:互いに混同色である2色,数色を使った模様,数字によって構成された検査表である.石原色覚検査表(石原表),SPP標準色覚検査表第1部先天異常用(SPP-1),東京医科大学式色覚検査表などがある.仮性同色表は色覚異常の検出に用いる.複数の検査表を使用して検査することが望ましい.正常か先天色覚異常かの診断が可能であるが,不確実な場合は疑いとする.仮性同色表で程度分類や型の判定はできない.②色相配列検査:色相環に沿って色票(Cap)を並べる検査である.FarnsworthDichotomousTestPanelD-15(パネルD-15)が一般的に使用されている.色覚異常の程度を強度と中等度以下に二分する検査である.③アノマロスコープ:単色光の赤+単色光の緑=単色光の黄となる条件(Rayleigh均等,等色)を検査する.正確な診断はこの検査によってのみ可能であるが,一般の眼科には備えられていない.本稿では,石原表,SPP-1,パネルD-15について解説する.a.石原R色覚検査表(石原表)先天色覚異常の検出表として国際的に普及している色覚検査表で,国際版38表7)と24表版がある.石原R色覚検査表II国際版38表(2014年12月改訂)の検査表・検査方法・判定(図5).通常は数字表および環状表を検査・判定に用いる.数字が読めない被験者の場合は曲線表を参考として使用し,環状表を検査・判定に用いる.検査では,被験者に第1表から第15表を順番に読み,ついで第38表から第32表と遡順番で読むように指示する.第1表から第15表および第38表から第32表の計22表のうち,「誤読」表数が4表以下であれば正常色覚と判定する.「誤読」表数が8表またはそれ以上であれば先天色覚異常と判定する.数字の読めない被験者の場合,曲線表を使用する.この場合,これらの表は色覚異常の疑いにとどめ,異常の有無の判定には数字が読める状態または環状表で判定を行う(石原R色覚検査表II国際版38表,取扱説明書より引用).b.SPP標準色覚検査表第1部先天異常用8)(SPP-1)(図6)デモンストレーション表,検出表,分類表からなる.被検者が読んだ数字は記録用紙の該当する数字を○でかこむ.一つの表の中の二つの数字が読める場合は,どちらかはっきり読めるほうを答として採る.検出表10表のうち正常の答が8表以上ならば色覚正常とする.分類表では,1型の欄,2型の欄の○印の多いほうに分類する.No.1の表の読めないものは詐病の疑いがある(SPP標準色覚検査表第1部先天異常用より引用).FarnsworthDichotomousTestPanelD-159~11)c.(パネルD-15)(図7)色覚異常の程度を強度と中等度以下に二分する検査である.検査は基準色票(referencecap)を左側に固定し,他の15個のcolorcapを順不同に並べておく.まず,15個の中からreferencecapにもっとも近い色を選んでその隣に置き,続いてその色にもっとも近いものを次に並べるというように,似た色の順に全部のcolorcapを配列させる.Capの裏面の数字の番号を順序に従って記録用紙に記入し,その番号の順に図表の上の各点を結506あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023(74)図5石原R色覚検査表II国際版38表(2014年12月改訂)7)数字表(第C1表から第C19表),曲線表(第C20表から第C31表)および環状表(第C32表から第C38表)からなる.通常は数字表および環状表を検査・判定に用いる.数字が読めない被験者の場合は曲線表を参考として使用し,環状表を検査・判定に用いる.第C1表から第C15表および第C38表から第C32表の計C22表のうち,「誤読」表数がC4表以下であれば正常色覚,「誤読」表数がC8表またはそれ以上であれば先天色覚異常と判定する.写真は実際の検査表と色が異なるため,本図で検査はできない.(本図は公益財団法人一新会が著作権を保有しているため複製はできません)図6SPP標準色覚検査表第1部先天異常用StandardPseudoisochromaticPlates8)デモンストレーション表CNo.1~4は数字の形と配置を被検者に理解させるための表.検出表CNo.5~14はC1型・2型色覚者(先天赤緑色覚異常者)を検出するための表.正常者にしか読めない表と,正常者と異常者とで読み方のちがう表からできている.分類表CNo.15~19はC1型色覚とC2型色覚とを分類するためのもの.検出表C10表のうち正常の答がC8表以上ならば色覚正常とする.検査表の写真は,実際の検査表と色が異なるため,本図で検査はできない.記録図誤りなしのPass1型色覚異常2型色覚異常図7パネルD-15色覚異常の程度を強度と中等度以下に分類するための検査.Failした場合は強度の色覚異常.Passしても正常色覚とはいえず,中等度以下の色覚異常である可能性がある.誤りなしのPass,1型色覚異常,2型色覚異常のパターン.図8仮性同色表とパネルD-15による診断仮性同色表:色覚異常の検出に用いる.正常色覚か先天色覚異常か診断可能.程度分類や型の判定は参考程度にとどめる.不確実な場合は疑いとする.パネルCD-15:程度分類に用いる.1型,2型色覚異常のパターンでCFailする場合はC1型か2型か診断可能で,異常の程度は強度となる.表1色覚で制約がある資格試験,色覚が関連する職種の例自動車運転免許適性試験の合格基準色彩識別能力の合格基準赤色,青色及び黄色の識別ができること警視庁ホームページより引用鉄道別表二(第六条,第八条の二関係)視機能四色覚が正常であること動力車操縦者運転免許に関する省令航空身体検査基準第一種,第二種十,視機能第一種(定期運送用操縦士,事業用操縦士,准定期運送用操縦士)(七)色覚が正常であること第二種(自家用操縦士,一等航空士,二等航空士,航空機関士,航空通信士)(五)色覚が正常であること航空法施行規則別表第C4(航空法施行規則第C61条のC2関係)海技士身体適性基準海技士(航海)①石原色覚検査表国際版C38表(以下「石原表」という)により正常か否かを判定.②石原表により正常でないと判定された場合は,パネルD-15により合否を判定.国土交通省海事海技資格警察官警視庁身体基準色覚警察官としての職務執行に支障がないこと警視庁警察官採用試験受験案内より引用消防官東京消防庁試験方法第C2次試験身体・体力検査内容色覚消防官として職務執行に重大な支障がないこと令和C2年度東京消防庁消防官(CI類・CII類・CIII類)採用試験案内より引用自衛官身体検査などの基準について自衛官候補生検査項目色覚色盲または強度の色弱でないもの自衛官募集ホームページ防衛省・自衛隊より引用色を扱う職業の例塗装業,染色業,印刷業,繊維業,デザイン系,美容関係,映像関係,青果市場関連する職種の例を表1に示す.資格基準は変更される場合があること,地域によって異なる場合があるため,最新の情報を確認する必要がある.CVIII診療の流れ色覚について受診する小児とその保護者は,検査結果・診断について不安を抱えている.色覚検査を行い,診断して,生活・進路などについてアドバイスできるように,医療者側も色覚についての知識をもって対応する.参考資料として,日本眼科医会ホームページC13)目についての健康情報〈色覚異常といわれたら〉などがある.C1.問診受診した理由について問診する.保護者など周囲の人が色の間違いに気づいて受診する場合,学校の検査で異常を指摘された場合,進路の選択に際し相談のために受診する場合,本人・保護者とも色覚異常について気づいていなかった場合もあれば,色覚異常の家族歴があり気にしていた場合など,さまざまである.色に関してこれまでに気づいたこと,色を間違えたことがある場合,どのような色が見分けにくいか,間違えた色,その状況などを問診する.間違えた色が先天赤緑色覚異常の混同色の場合,色覚異常の可能性が推測される.また,幼小児において保護者が色の誤りに気づく場合,強度色覚異常の可能性がある.きょうだいの有無,父親,母親のきょうだいについて,色覚異常の家族歴の有無について問診する.C2.検査色覚検査だけでなく,視力・眼圧・細隙灯顕微鏡検査・眼底検査などの一般的眼科検査を行う.心因性視覚障害,後天色覚異常などは,色覚以外の検査結果と総合して判断することで診断できる.色覚検査中に被検者が答える様子,検査に要する時間などから,検査に対する理解度,色覚異常の有無,被検者の性格などを推測することができる.検査者が検査中に気づいたことは,コメントとしてカルテに記載するとよい.3.結果検査結果について話をする際,本人と保護者が同席していいか確認する.小学校低学年までの幼小児の場合,検査に対する理解がむずかしく診断できない場合がある.小学校高学年以上になると十分に検査可能と思われるため,適切な時期での再検査を勧める.筆者は,色感覚のモデル(図4)を示しながら,混同しやすい色について説明を行っている.また,パネルD-15をCFailした場合は,本人が並べたCCapの結果を保護者に示し,本人には隣り合う色が似て見えることを説明する.色覚異常がある場合,正常色覚者にとっては見分けやすい色でも,混同色では似て見えることがあり,見分けが困難な場合や,色があると気づかない場合,色を間違えてしまう場合があることを説明する.診断結果について学校に伝えるほうがよいか.保護者の判断にもよるが,色覚異常について伝えておくと,学校側も色について配慮しながら指導を行うことができると思われる.C4.先天色覚異常以外の疾患小学校中学年以上の場合,心因性視覚障害により色覚異常をきたす場合がある.また,まれではあるが,遺伝性疾患などにより後天色覚異常を起こす場合がある.非定型的な色覚検査結果や,視力・視野などに異常がある場合,先天色覚異常以外の疾患を考え,さらに精査をする必要がある.C5.先天色覚異常に対する指導先天色覚異常の治療法はない.先天異常の程度は一生変わらず,年齢とともに悪化することはない.視力には影響しない.色の見分けが困難な場合があるが,白黒しかわからないのではない.同じ色でも条件によって見分けが困難な場合,可能な場合がある.明るいところで見るとき,視標が大きいとき,色があざやかな場合,集中してじっくり見るときは見分けやすいが,薄暗いところで,淡い色,小さな視標を,一瞬で見分けるのはむずかしい場合がある.自身の色覚異常について頭の片隅におき,色のみで判510あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023(78)■用語解説■L-錐体:長波長感受性錐体,旧用語赤錐体CM-錐体:中波長感受性錐体,旧用語緑錐体CS-錐体:短波長感受性錐体,旧用語青錐体C1型2色覚:旧用語第1色盲C1型3色覚:旧用語第1色弱C2型2色覚:旧用語第2色盲C2型3色覚:旧用語第2色弱潜性遺伝recessive:旧用語劣性遺伝顕性遺伝dominant:旧用語優性遺伝-

学校教育とデジタルデバイスの使用

2023年4月30日 日曜日

学校教育とデジタルデバイスの使用UseDigitalDevicesDuringEducation吉田朋世*はじめに2019年末,文部科学省(文科省)は小・中・高等教育における情報活用能力のさらなる育成に向けて,「GIGA(globalandinnovationgatewayforall)スクール構想」を発足させた.さらに,2020年春より急速に拡大した新型コロナウイルス感染症に後押しをされ,2021年4月までに全国の小中学校で1人1台のデジタル機器が配布され,日常的に使用できる環境となった.本稿では,学校教育における情報教育の過去と現在,デジタル教科書の利点について解説し,それによって起こりうる子どもたちへの眼科的な弊害,またデジタル機器を使用するうえで指導すべき点について解説する.I学校教育における情報活用能力の育成わが国における情報教育の歴史は,1970年代前半に高等教育の専門教育において情報処理教育が行われたことに始まり,1989年の学習指導要領に「情報活用能力」を学校教育で育成することの重要性が示され,中学校の技術・家庭科において「情報基礎」科目や,各教科で情報に関する内容が取り入れられることとなった.1998年には小・中・高等学校段階を通じて,各教科でコンピューターや情報通信ネットワークの積極的な活用を行い,中・高等学校で情報に関する教科・内容を必修とし,情報教育の充実化を図った.2006年にはコンピューター教室1人1台の整備,教育用コンピューター1台あたり児童生徒3.6人の割合を達成,すべての教室をインターネットに接続など,2010年までにICT(informa-tionandcommunicationtechnology)環境を整備し活用するために達成すべき目標が明示されたが,結局これらの環境整備の遅れは解消されず,2018年の調査において,教育用コンピューター1台あたりの児童生徒数5.4人/台,普通教室の無線LAN(localareanetwork)整備率41.0%となっており1),学校におけるICT活用率が経済協力開発機構(OrganizationforEconomicCoopera-tionandDevelopment:OECD)の国のなかで最下位である2)という結果につながった.このことから,2019年12月,文科省は各学校に標準的に1人1台端末および高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備するとともに,ICTを活用した学習活動を充実させるためGIGAスクール構想を立ち上げた3).小児に対する情報活用能力の育成のため,ICTの基本的な操作・情報の収集や発信,プログラミング授業の必修化,情報モラルの教育などを盛り込んだのである.実際の活用法としては,2011年に文科省が行った「学びのイノベーション事業」の調査に基づき,教員による教材の拡大提示や,音声・動画などの活用,また個別学習では一人ひとりの習熟の程度に応じた学習や,インターネットを用いた情報収集,情報端末の持ち帰りによる家庭学習などを主体に行われている4)(図1)5).*TomoyoYoshida:国立成育医療研究センター眼科〔別刷請求先〕吉田朋世:〒157-8535東京都世田谷区大蔵2-10-1国立成育医療研究センター眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(63)495図1学校におけるICT機器を活用した学習場面(文献C5より引用)使用が急性後天内斜視につながる可能性もある.筆者らが過去に斜視患者に対しデジタルデバイスの使用状況について行ったアンケート調査によると,より低年齢の患者においてC1日平均使用時間が長くなくても斜視悪化を自覚した例が多く,低学年のデジタルデバイスの使用にはより注意を払うべきであると考えられる12).そのほか,ドライアイ,眼精疲労などのコンピューター視覚症候群も増加すると考えられる.Seresikrika-chornらがバンコクで行ったアンケート調査によると,15歳以下の子どもで,1日C6時間以上のデジタルデバイスの使用や,オンライン授業をC1日C5時間以上受けること,複数のデジタルデバイスを使用することなどが,コンピューター視覚症候群のハイリスクになると述べている13).CIIIデジタルデバイスを教育に用いる場合の留意点眼の健康を損なわないようにするためには,どのような使い方を指導すべきか.文科省は,2014年に策定した「児童生徒の健康に留意してCICTを活用するためのガイドブック」14),2018年に公開した「学習用デジタル教科書の効果的な活用の在り方などに関するガイドライン」15)のなかで,健康に関する留意点について記載している(図2)14).また,教育現場における急速なデジタルデバイスの配置を受けて,2021年C4月には日本眼科医会が眼の健康啓発漫画「ギガっこデジたん!」のポスターやリーフレットを作成し,教育現場に啓発を行っている16).以下に,記載されている改善策について説明する.C1.教室の明るさ暗いところ,あるいは極端に明るいところでデジタルデバイスを見ると眼精疲労が生じるため,教室内の明るさを一定に保つように工夫する必要がある.たとえば,教室の窓から入る光によって電子黒板に映り込みが生じ見えにくくなるため,遮閉カーテンを設置したり,晴天時にはカーテンを閉めたりするなどの工夫が必要である.また,教室の照明が電子黒板やタブレットパソコンに映り込むこともあり,反射防止用の専用フィルターを画面に取りつけることも対策となる.C2.電子黒板電子黒板自体も,窓に背を向けるように角度をつけ,位置を調整して反射せず見やすいように机・椅子なども移動する.教室の最後部に座る生徒にも見やすいよう拡大機能を利用するなどし,また最前列に座る生徒が見やすいよう机の距離をある程度離して設置する.C3.タブレットPCの使用児童生徒の姿勢が悪かったり,机と椅子が生徒の体格に合っていなかったりすると,画面が見えにくくなるため,適切な机と椅子を使い生徒が正しい姿勢で視聴できるように指導する.お尻を後ろにして深く腰掛け,背中を伸ばし,画面の角度を傾けて目線が画面に直行する角度に近づける,眼とコンピューターの距離はC30Ccm以上離して視聴するなどの指導が必要である(図3)16).一方で長時間同じ姿勢を続けると疲れてしまうので,授業の中で少し身体を動かして,眼や身体の疲労を軽減させることも重要である.C4.スクリーンタイム「児童生徒の健康に留意してCICTを活用するためのガイドブック」では,大人を対象とした「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」15)を引き合いに出し,連続作業時間がC1時間を超えないようにし,超える場合には休止時間を設けるという目安が示されていることを説明したうえで,授業中にデジタルデバイスを用いる場合,機器を用いない活動時間が含まれるため,実際には長時間の視聴は行われていないとしている.「ギガっこデジたん!」では,30分にC1回はC20秒以上遠く(少なくともC2Cm以上,可能であればC6Cm以上)を見て眼を休めること,眼が乾かないように瞬きをすること,就寝C1時間前からは画面を見ないように指導する内容となっている(図4)16).C5.屋外活動長時間同じ姿勢をとりやすいタブレットCPCの使用による起こる眼精疲労や頭痛,肩こりなどの軽減のほか,(65)あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023C497図2学習環境の充実を図るための留意点(文献C14より引用)図3タブレットPCを使うときのポイント(文献C14より引用)図4「ギガっこデジたん!」の啓発ポスター(文献C16より引用)表1デジタル教科書のおもな活用方法教科書の紙面を拡大して表示する教科書の紙面にペンやマーカーで書き込むことを簡単に繰り返す教科書の紙面に書き込んだ内容を保存・表示する教科書の紙面を機械音声で読み上げる教科書の紙面の背景色・文字色を変更・反転する教科書の感じにルビを振る音声を教科書の本文に同期させつつ使用する教科書の文章や図表を抜き出して活用するツールを使用する教科書の紙面に関連づけて動画・アニメーションなどを使用する教科書の紙面に関連づけてドリル・ワークシートなどを使用する大型提示装置や教師のコンピューターに児童生徒の教科書の画面を表示するネットワーク環境を利用して,児童生徒が行った書き込みの内容や関連して検索した情報などを教師や児童生徒間,さらには学校・家庭間で共有する(文献C15より改変引用)-

学校でのスポーツ眼外傷

2023年4月30日 日曜日

学校でのスポーツ眼外傷SportsRelatedOcularTraumaatSchool宮浦徹*はじめに子どもたちは危険を回避する能力が低いため,学校の管理下においてもさまざまな状況でけがをする.しかし,その体験を積み重ねることにより,子どもたちは危険を察知し,それを回避する能力を自然に身につけていくのである.一方,心身の発達を育むべき学校の場において,障害を残すような重度の外傷は避けなければならない.本稿では日本スポーツ振興センター(以下,センター)の基本統計資料1),学校事故例検索データベース(以下,検索データベース)を用いながら,学校での眼外傷について述べる.なお,ここで用いたデータはコロナ禍による影響を避けるため,パンデミック前年の令和元(2019)年度に,センターが運営する災害共済制度により給付金が支給された事例を対象とした.また,センターの検索データベースで得られるデータは現時点で検索できる得る平成30(2018)年度までの事例を対象とした.I学校における外傷全般の発生状況「学校での眼外傷」について述べる前に,まず学校での外傷全般について述べる.最初にセンターの基本統計資料より得られた学校における外傷全般の発生時の状況について述べる.図1は令和元(2019)年度の給付支給事例より得られた外傷発生時の状況を学校種別に分類したものある.小学校では外傷(疾病を含む)の約半数にあたる47.8%の事例が「休憩時間」に起きていた.教科間の休憩時間や給食時,昼休み,掃除や放課後の時間に子ども同士の遊び,ふざけ合い,けんか,アクシデントなど,教職員の目の届かない時間帯での受傷が多いのが小学校の特徴である.一方,小学校ではわずか2%であった「課外指導(以下,部活動)」が中学校,高等学校になるとそれぞれ48.9%,58.3%となり,そのうちのほとんどが運動部の活動時に発生したスポーツ外傷であった.つぎに多いのが「教科等」で,小学校29.9%,中学校27.8%,高等学校22.9%であり,そのほとんどが体育の授業中に発生したスポーツ外傷であった.1学年あたりの年間外傷発生件数がもっとも多かったのは中学校で,以下高等学校,小学校の順であった.なお,小学校での部活動は教職員の働き方改革の影響もあり,文部科学省の指導要領にも記載されておらず,今後は地域のスポーツクラブに依存する市町村が増えてくるといわれている.図2は学校の体育の授業と部活動でみられるスポーツ外傷が,どのようなスポーツで起きやすいのかを学校種別に示したものである.小学校での上位3位までのスポーツは球技34.9%,体操29.3%,陸上15.4%の順であった.中学校では球技73.7%,陸上9.4%,体操5.1%となり,高等学校では球技81.8%,陸上5.5%,武道5.1%となり,球技でもっとも多くの外傷が起きていることがわかる.*ToruMiyaura:宮浦眼科〔別刷請求先〕宮浦徹:〒564-0051大阪府吹田市豊津町13-44-205宮浦眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(55)487図1学校での負傷(含疾病)発生時の状況の学校種別割合特別活動は掃除・給食・ホームルームなど,課外活動は部活動を表す.日本スポーツ振興センターの令和元(2019)年度給付支給事例より作成した.0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%他:スキー,スケート,登山,自転車など準備:準備運動,組体操,縄跳びなど図2部活,体育授業時に受傷の原因となったスポーツの種類と学校種別割合日本スポーツ振興センターの令和元(2019)年度給付支給事例より作成した.II眼外傷を起こしやすい球技種目このように球技による外傷が多いなか,具体的にどのような種目が眼外傷を起こしやすいのかを推測してみた.対象を中学校と高等学校に絞り,センターの部位別・種目別集計により得られた1年間の球技種目別眼外傷数をそれぞれの部員数で除すことによって得られたものが図3,4の球技種目別年間受傷率〔令和元(2019)年度給付支給事例〕である.部員数についてはセンターの資料にはないため,中学校は日本中学校体育連盟の,高等学校は日本高等学校体育連盟および日本高等学校野球連盟の登録者数を用いた.各連盟への加入は学校に義務づけられていないものの,連盟に加入することで連盟主催の大会に参加できることから,学校の加入率は高い(約90%).正確な受傷率とはいえないが,これにより眼外傷を起こしやすい種目の概要が把握できるものと考えている.その結果,ソフトボール,野球,ラグビー,ハンドボールは中学校,高等学校ともに眼外傷の受傷率が高い種目といえる.一方でバレーボールと卓球は中学校,高等学校ともに年間の受傷率が低い種目といえる結果が得られた.このことは以前に同じ方法で実施した平成26(2014)年度の内容とほぼ同様の結果であった.III学校における重度の眼外傷学校での外傷全般の部位別発生状況〔令和1(2019)年度)〕を図5に示す.眼部受傷の割合は幼稚園では11.0%,小学校では7.8%,中学校では5.8%,高等学校では3.9%と学校が進むにつれてその割合は減少する.各割合は年度ごとに多少の変化はみられるものの,危険を回避する能力が成長とともに高まることの指標ともいえる2,3).一方,同年度の障害を残した重度の眼外傷の割合は幼稚園9.1%,小学校17.2%,中学校17.8%,高等学校21.8%となり(表1),幼稚園を除けば外傷全般の部位別発生状況の値より高率となっている.すなわち,眼部の外傷は幼稚園を除けば眼部以外の外傷に比べて障害を残しやすいことになり,学校が進むほどその傾向が顕著になっている.これについては,たとえば四肢の骨折は多数みられても多くは障害を残さず治癒するのに比べ,再生能力をもたない網膜,視神経を含む眼部は障害を残しやすく,さらに学年が進み運動量が増えるほど外傷による損傷は強くなり,その傾向が増すのではないかと考えている.障害を残す重度眼外傷の受傷時状況は,先に述べた学校での外傷全般の発生状況とほぼ同様である.すなわち,小学校では休憩時間など教職員の目が届きにくい時間帯に起こる遊び・ふざけ合い,けんか,アクシデントが多く,中学校,高等学校になると運動部や体育教科などスポーツ時の事故がほとんどを占めるようになる.表2は検索データベースにより平成30(2018)年度給付支給事例における眼障害時の状況を学校種別にみたものであるが,上記のことを反映している.なお,スポーツ眼外傷78例中73例(93.5%)は球技によるもので,残りは武道4例と陸上1例であった.このように,子どもたちは学校が進むにつれて危険を避ける能力を身につけていく一方で,眼障害数は残念なことに学校が進むにつれ増加する傾向にある.表3は平成17.30(2005.2018)年度の14年間にスポーツが原因で障害を残したスポーツの種目をまとめたものである.センターの検索データベースを用いて調べた結果,上位10種目のうち9位までが球技で占められていた.また,この14年間のスポーツによる眼障害総数969例中,球技が占める割合は882例(91.0%)と高率であった.一口に球技といってもボールの大きさ,性状,形,質量などは種目ごとに異なり,それにより外傷の内容も変わる.さらに事故の状況,たとえばボールによる打撲でも投球,打球,蹴球,跳ね返りの球などによって外傷の程度も変わる.また,ボール以外の打撲,接触プレーによるもの,ラケットやバット,ネットのワイヤーなど用具によるものなど,さまざまなケースがある.以下,障害の多かった種目の特徴を述べる.1.野球(軟式を含む)多くの眼障害例のうち野球によるものが最多で約半数を占めている.障害例の事故発生状況では自打球,捕球,複数プレーでの受傷が多く,バッティングマシーン(以下,マシーン),球出し(トス),打撃投手が続く.とくに自打球による障害が多く約1/3を占める.また,(57)あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023489図3球技種目別の眼外傷の年間受傷率(中学校)眼外傷数はセンターの,部員数は日本中学校体育連盟の登録数を用いた.図4球技種目別の眼外傷の年間受傷率(高等学校)眼外傷数はセンターの,部員数は日本高等学校体育連盟,日本高等学校野球連盟の登録数を用いた.ソフトボール野球(硬軟)ハンドボールラグビーテニスサッカーバドミントンバスケットバレーボール卓球眼外傷数/部員数1,210/37,3431,424/167,475328/27,67842/6,0552.273/345,7271,243/193,602851/133,6611,675/289,389680/188,832338/262,550ソフトボールラグビーバドミントン野球(硬軟)ハンドボールバスケットサッカーテニスバレーボール卓球眼外傷数/部員数771/23,814249/20,001837/85,7531,372/152,08135,842,6331,122/143,6561,285/173,388929/166,401353/102,26155/76,510外傷の部位別発生状況3.9%※眼部の割合は頭・顔部に含まれる5.8%7.8%29.311.0%37.035.946.427.637.927.711.7対象事例15,199313,227277,552233,558園児小学生中学生高校生図5外傷全般の部位別発生率を学校種別に表示したもの日本スポーツ振興センター資料の令和元(2019)年度給付支給事例より作成した.表1負傷により発生した障害例を障害種別,学校種別に分類したもの幼稚園保育園小学校中学校高等学校支援学校計(%)歯牙障害0122126463(17.4)視力・眼球運動障害1(9.1%)17(17.2%)16(17.8%)33(21.8%)067(18.5)手指切断・機能障害06512225(6.9)上肢切断・機能障害1538017(4.7)足指切断・機能障害020002(0.6)下肢切断・機能障害0360110(2.8)精神・神経障害0131219044(12.1)胸腹部臓器障害02626236(9.9)外貌・露出部醜状障害9321620279(21.8)聴力障害021205(1.4)脊柱障害0546015(4.1)計11999015211363(100.0)小・中・高等学校では眼障害の発生率が図1の眼部の受傷率に比べて高くなっていた.平成元(2019)年度給付支給事例より.表2平成30(2018)年度の給付支給事例における眼障害例表3平成17~30(2005~2018)年度の14年間に眼障害を残し小学校中学校高等学校計スポーツ2265078遊び・ふざけ合い84012けんか2305アクシデント3317計153651102た重度眼外傷例を競技種目別,学校種別に表わしたもの(上位10種目)眼外傷受傷時の状況を学校種別に分類したもの.日本スポーツ振興センターの検索データベースより作成した.種目小学校中学校高等学校合計野球(硬軟)1153263417サッカー(フットサルを含む)287786191バドミントン0354580ソフトボール4182244バスケットボール8201240テニス(軟式を含む)0231437ラグビー021921バレーボール112619ハンドボール07714柔道03710日本スポーツ振興センターの学校事故事例検索データベースより作成した.種目となっている.7.ラグビー部員数が少ないため,軽度の負傷を含む眼外傷の総数は少ないが,眼外傷の年間受傷率は高校ではソフトボールについで2番目に高かった.14年間で21例の眼障害例は,すべて部活動時に起きたものである.事故発生状況ではボールによる打撲はまれで,頭,肩,肘,指,膝など,接触プレーによる障害がほとんどを占めている.8.バレーボール軽度の負傷を含む眼外傷数は少なく,年間受傷率も中学校,高校ともに卓球についで低い.レシーブ時の受傷が眼障害に至る例が多いが,ボールによるものはむしろ少ない.スパイク,ブロックなどネットプレーに絡んで障害に至る例もまれにあり,ネットのワイヤーによるものも時折みられる.9.ハンドボール年間受傷率は中学校ではソフトボール,野球についで3位,高等学校では5位と高かった.ただし,部員数が少ないためか,14年間の眼障害は14例であった.サッカーボールとほぼ同じ重さだが,それより少しサイズの小さいボールのため注意が必要である.障害例のほとんどがゴール付近で起きており,接触プレーやシュートボールによるものである.IVスポーツ眼障害の予防学校での眼障害の大部分はスポーツ眼外傷によるものであり,その多くが球技による眼外傷に起因している.現場で指導にあたる者は設備・用具の安全点検(練習用防護ネット,グランドの整備など),グランド・体育館の使用管理(複数プレーの同時進行を避ける),集中力が途切れないように過剰な練習は控えるなどの安全管理を常に心がけるべきであり,これらを遵守することで多くのスポーツ眼障害の発生を防ぐことができる.そのうえで今後,適正なスポーツ眼鏡など(以下,保護眼鏡)の開発・普及が望まれる4,5).これら保護眼鏡の学校での普及には品質が確保されており,プレーの妨げにならないことはもちろんのこと,安価であること,児童生徒が装用したくなる魅力あるデザインであること,さらに学校関係者や関連団体の理解と協力が欠かせない.とはいえ子どもたちに練習,試合を問わず保護眼鏡を常時装用させることは容易ではない.種目ごとに効率のよい保護眼鏡の使用方法を以下のように検討してみた.V種目別保護眼鏡保護眼鏡の条件のひとつに「個々のプレーの妨げにならないこと」がある.そのため,ヘディングの妨げになるサッカー,接触プレーの多いバスケットボール,ラグビー,ハンドボール,さらに武道,格闘技などでの使用は対象外と考えている.逆に保護眼鏡の使用により眼障害が減少することが期待でき,プレー上大きな妨げにならないと思われる野球・ソフトボール,バドミントン,テニスについて検討してみた.1.野球・ソフトボールファールチップしたボールがバットに当たってから顔面に達するまでの時間は0.05秒であり,自打球の回避は不可能であることが報告されている6).そこで打席に立つときにはヘルメットに加えて保護眼鏡の装用を義務づけることが望まれる.自打球による眼外傷を防止できれば,野球による眼障害の1/3を減らすことができることになる.さらにマシーン使用時やトスバッティングの練習では打者だけでなく,トス出しする者にも保護眼鏡の装用を義務づければ野球による眼障害を大幅に減らすことができると考えている.ただし,野球の硬球は重く(145g),その打球の破壊力は強力なため,保護眼鏡にはレンズやフレームに相当の強度が求められる.そのため価格面のハードルが高く,学校現場で使用されるようになるためには学校関係者だけでなく,競技や開発にかかわる団体の協力が必須である.2.バドミントンネットをはさんでの対面プレーにおいてはシングル,ダブルスにかかわらず保護眼鏡を装用すべきである.さらにシャトル出しでトス出しする者が保護眼鏡を装用す(61)あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023493

中高生のコンタクトレンズ

2023年4月30日 日曜日

中高生のコンタクトレンズManagementofContactLensesforJuniorHighandHighSchoolStudents清水有紀子*はじめに毎年春になると,学校健診結果のお知らせを持った学童や生徒が受診する.弱視や斜視は小学校ですでに指摘されていることが多く,中高生では屈折変化による生活視力の低下が精密検査の中心となる.それに加えて,最近の中高生へのコンタクトレンズ(contactlens:CL)の普及により,CL関連の角結膜障害に対する対応が必要となっている.眼科学校保健の健診マニュアル1)の事前質問表には「本を読むと目が疲れたり,頭痛がしたりする」「目がかゆくなる,目やにが出る,目が赤くなる」「目がかわく,涙が出ることが多い」「メガネ・コンタクトレンズを使用している」「CL使用で,見にくい,充血,ゴロゴロする」などの項目がある.これをみると,不適切な屈折矯正,感染性およびアレルギー性結膜炎に代表される非感染性角結膜障害,ドライアイなどに加えて,CLに関連するトラブルが想定されていることがわかる.マニュアル1)ではさらに,健診後の留意事項として「眼鏡,コンタクトレンズ装用者については,装用状態を検査し,指導する.とくにコンタクトレンズについては,装用時間やケアの方法など適切なコンタクトレンズの使用方法の指導は大切である」と記載があり,CL管理の指導も学校保健の一部として求められている.本稿では,中高生のCL使用の現状とそれをふまえた管理について考察する.I中高生のコンタクトレンズの使用開始時期とレンズの種類日本眼科医会は2000年から3年ごとにCLの使用状況の全国調査を行っている.2018年にも各都道府県から1,2校を選抜して,全国の小学生30,882例,中学生23,610例,高校生23,610例を対象とした調査が行われた.その報告書2)では,中高生のCL使用の現状を反映する重要なデータが示されているので,一部を紹介する.まず,最近の小児はいつからCLを使い始めているのか.使用開始時期でもっとも多いのは高校1年生で,ついで中学1年生であり,学校が変わるタイミングに多いことは予想通りである.そして新年度から使用を開始した場合は,開始後1~2カ月で学校健診を受けることになる.健診ではCLを適切に使用できているかの確認と,充血などの異常に注意して観察する.健診後の医療機関受診時は,誤った使い方を修正するよい機会となる.CL使用率は中学生全体が8.7%,高校生全体が27.5%であるが,学年が上がるごとに増えて,学年別では高校3年生が29.2%と最多であった.中学生全体の使用率は2000年の4.6%から2倍近くに増加しており,開始時期が早くなっていることがわかる.カラーCLの使用経験ありは中学生の14.3%,高校生の18.2%であった.おもに使用しているレンズの種類は,中高生ともに使い捨てソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:*YukikoShimizu:ツカザキ病院眼科〔別刷請求先〕清水有紀子:671-1227兵庫県姫路市網干区和久68-1ツカザキ病院眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(49)481表1SCLの種類小学生(%)中学生(%)高校生(%)1日使い捨てSCL82.862.452.61週間使い捨てSCL0.00.40.32週間頻回交換SCL15.535.945.5定期交換SCL1.71.21.5その他00.10.1小中高校生のいずれも1日使い捨てSCLがもっとも多く,ついで2週間頻回交換SCLの順であるが,その割合は異なる.2週間頻回交換SCLの割合が高校生では半分近くまで増える.a.中学生のCL購入場所b.高校生のCL購入場所雑貨店4.2その他1.7雑貨店4.2その他0.6薬局0.4薬局0.8■病院・眼科■CL量販店■眼鏡店■薬局■インターネット■雑貨店■その他(雑貨店:雑貨店・化粧品店・CLショップ)図1全国調査における中高生の通常CL購入場所(%)中学生,高校生ともに同じ順番であった.病院・眼科診療所隣接販売店(病院・眼科)がもっとも多く,つぎはCL量販店であった.インターネット・通信販売(インターネット)は三番目であるが,年々増えつつある.(文献2より改変引用)a.中学生のカラーCL購入場所b.高校生のカラーCL購入場所その他6.6病院・眼科6.3その他4.1病院・眼科6.5CL量販店1眼鏡店1.8薬局3.8■病院・眼科■CL量販店■眼鏡店■薬局■インターネット■雑貨店■その他(雑貨店:雑貨店・化粧品店・CLショップ)図2全国調査における中高生のカラーCL購入場所(%)カラーCLの購入場所は,中学生は雑貨店が最多で二番目のインターネットと合わせて67.6%を占めた.高校生はそれぞれ36.9%で合わせると73.8%となった.これらは眼科の処方なしに購入していると考えられる.(文献2より改変引用)図3CLの不適切使用により生じたアメーバ角膜炎17歳,女性.日常的にSCLを長時間使用し,角膜浸潤を繰り返していた.眼痛と充血の持続を訴えて眼科を受診し,抗生物質点眼でも改善せず当院へ紹介となった.病巣よりアカントアメーバが検出された.a.通常CL購入場所b.カラーCL購入場所インターネット5.3雑貨店0.4■病院・眼科■CL量販店■インターネット■雑貨店病院・眼科(眼科病院・医院),インターネット(インターネット・通信販売),雑貨店(大型量販店・雑貨店)図4姫路市とその近郊の高校生の通常CLとカラーCLの購入場所(%)CLの購入先は,通常CL群とカラーCL群で傾向が大きく異なった.通常CL群は眼科病院・医院が73.5%と最多であるが,カラーCL群はCL専門店が48.2%ともっとも多かった.(文献4より改変引用)

学校健診での斜視への対応

2023年4月30日 日曜日

学校健診での斜視への対応ManagementofStrabismusinSchoolMedicalExaminations國見敬子*後関利明**はじめに学校健診での斜視検査の意義は,顕性,潜在性斜視を早期に検出することで学校生活への支障を最小限にすること,つまり斜視・複視が原因で,勉学に集中できない,スポーツが苦手になってしまう,外見をからかわれることで精神的なストレスを受ける,などを予防することである.異常が疑われた際には専門機関への受診を勧め,治療の必要性の有無について判断しなければならない.本稿では学校健診における斜視の検出方法の留意点と,異常と診断された児童生徒の医療機関での精密検査の方法と治療方針について解説する.I学校健診での斜視検査1.視力検査眼科医の健診の前に視力検査をするのが望ましい.視力検査の結果と,以下の検査に矛盾がないかを確かめる.とくに片眼の視力低下がある児は,視力が良いほうの眼で無意識にのぞいてしまうことがある.顕性斜視を認めており,固視眼を遮閉したとき,開放眼が正中に移動しない場合は重度の弱視の可能性があり,精密検査を勧めるべきである.視力が1.0未満の場合は精密検査を勧める.2.視診頭位異常が明らかであれば,眼性なのか頸性なのか原因検索する必要があるため,精密検査を勧めるべきである.頭位異常とは,顎上げ下げ,顔回し,首の傾けを認めた場合である.3.角膜反射法Hirschberg法により確認する.Hirschberg法はペンライトによる角膜表面の反射輝点の位置を瞳孔領や角膜縁と比較する.輝点が瞳孔領で15°,瞳孔領と角膜縁の中間30°,角膜縁で45°の眼位ずれがあると推測できる(図1).正位以外は精密検査の対象であるが,角膜反射法だけでは斜位と正位は区別をつけられないため,後述の検査が必要である.4.遮閉試験はじめに遮閉試験で斜視の有無を確認する.その後,遮閉-遮閉除去試験で斜視および斜位を確認する.しっかりと観察したつもりでも,小角度の斜視や融像幅の強い患児は斜視を検出しづらく見逃されることが多い.時間に限りがあるため,全員に行うことはむずかしいかもしれないが,疑わしい児には長めに遮閉を行うのがよい(図2).正位・小角度の斜位以外は精密検査の対象である.5.眼球運動眼位眼球運動検査は調節視標を用いて行う.正面だけでなく,上下,左右,斜め上下を含む9方向の眼位を確*KeikoKunimi:東京医科大学眼科学講座,国際医療福祉大学熱海病院眼科,北里大学眼科**ToshiakiGoseki:国際医療福祉大学熱海病院眼科,北里大学眼科〔別刷請求先〕國見敬子:〒111-0032東京都台東区浅草1-26-5ROX・3G2F浅草ふじい眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(43)475bd図1Hirschberg試験角膜反射が瞳孔中央は正位(Ca),瞳孔瞭はC15°(Cb),瞳孔領と角膜縁の間はC30°(c),角膜縁はC45°(d)のおおよその斜視角となる.①②③図2遮閉試験a:遮閉試験.両眼開放で正位でも遮閉後外側または内側からの眼球運動が観察できれば斜視または斜位が疑われる.Cb:遮閉C-遮閉除去試験.片眼を遮閉し,単眼視の状態にし,その後遮閉を除いたとき,眼球の動きがあるかをみる.両眼開放で正位に戻るなら斜位,眼位ずれの状態であれば斜視となる.④小児問診票空欄に記入,または〇を付けてお答えください1.生まれた時の体重(g)2.出生週数(週日)3.自然分娩帝王切開その他()4.発達の問題があれば教えてください()5.全身疾患があれば教えてください()6.現在,通院中の病気があれば教えてください()7.家族歴(両親や兄弟などが病気を患っている)があれば教えてください()8.今日は誰と来ましたか?父母祖父母その他()9.一緒に住んでいる人は誰ですか?父母祖父母その他()10.本日,母子手帳は持参されていますか?はいいいえ11.聞きたいことがあれば,自由に書いてください()図3当院の小児患者への問診票どんな斜視が気になるか(水平・垂直の合併の場合,医学的には上下の異常が強くとも,両親は水平斜視を気にしていることがある)聞いておくと,手術の場合,患者・家族とのコミュニケーションがとりやすくなる.また,誰と来たか,家族構成を聞いておくと,原因として心因性を考察するにあたり一助となる.表1小児における手術適応外斜視・複視あり間欠性外斜視が恒常性外斜視へと悪化斜位時の両眼視機能が低下1日の半分以上で外斜視内斜視・整容面での治療希望・眼精疲労後天共同性内斜視(用語解説参照)で生活指導,適正眼鏡装用後も改善なし下斜筋過動が顕著顕著な首かしげ上下斜視abcd図4下斜筋過動の定量健眼(左眼)を外転外眼角まで外転,固視させ,右眼(内転眼)の下斜筋過動を評価する.Ca:下斜筋過動+1:健眼が外転したとき,内転眼がわずかに内上転する.外転眼が上外方視したとき,さらに内上転が観察される.Cb:下斜筋過動+2:健眼が外眼角まで外転したとき,内転眼が内上転する.Cc:下斜筋過動+3:健眼の外転時,明らかに内転眼が内上転する.d:下斜筋過動+4:健眼の外転時,内転眼が上転するほど過動する.下斜筋の作用領域で上転するため内転時に外転してしまうことがある.■用語解説■後天共同性内斜視:後天性に内斜視が発症する病態として急性後天性内斜視が存在するが13),その報告はC100年前のものであり,時代背景や生活様式の変化のため,現在では既報の診断基準に当てはまらない患者が多く存在している.昨今,調節輻湊など,機能的な異常による疾患の代表例として後天共同性内斜視(acquiredCcomitantesotropia:ACE)という疾患が存在することが報告されている.ACEとは,急性に限らず,後天性に発症した内斜視により複視を訴える疾患で,近年増加している14,15).近代化に伴う近見作業時間の増加,社会的生活環境の大きな変化が病態を変化させている可能性が考えられている.原因は,デジタルデバイスを使用した近見作業時間の増加16),近視の低矯正による輻湊と調節のアンバランスなどの報告がある.-