0910-1810/10/\100/頁/JCOPY重症となり,中央に強い点状表層角膜症(superficialpunctate keratopathy:SPK)や糸状角膜炎を生じてきた場合であろう.このレベルのドライアイでは治療として涙点プラグを考慮することになるが,軽症の人に涙点プラグを行うと逆に涙液が溜まりすぎてよけいにぼやけることもあるので注意が必要である.b. 薬剤毒性角膜症薬剤毒性角膜症によるSPK は「かすむ」原因となるが,ドライアイや眼精疲労の患者ではこの「かすみ」が,本人が点眼の種類や回数を増加する契機となる.そのため,よけいに「かすみ」が強くなり,不安になった患者はさらに点眼を増やして悪循環につながる.「かすみ」という症状そのものが疾患の悪化につながるという特異なケースである.c. その他のSPK を起こす疾患春季カタルでは,落屑様SPK を起こすが,患者は「かすみ」よりも,掻痒・羞明・眼脂・流涙・眼痛・異物感などを訴えることが多い.また,マイボーム腺炎角膜上皮症ではフリクテン以外に血管侵入を伴ったSPKを生じる.コンタクトレンズによる低酸素状態・機械的障害・ドライアイもSPK につながる.いずれも重症化すると「かすみ」につながる.d. 樹枝状病変を生じる疾患樹枝状病変も瞳孔領にかかると「かすみ」につながる.上皮型角膜ヘルペスが代表的だが,偽樹枝状病変を起こすアカントアメーバ角膜炎初期,再発性角膜びらんはじめに角膜は眼球のレンズの役割を果たしていることから,その異常は見え方の質に多かれ少なかれ影響する.したがって眼の「かすみ」を起こす疾患イコールすべての角膜疾患といっても過言ではない.ただ,円錐角膜のような角膜形状異常による症状は「かすみ」ではなくやはり歪みであるし,角膜周辺部が障害される疾患では「かすみ」よりも異物感などの他の症状が主体となる.やはり,「かすみ」を生じる大きな原因は角膜中央の浮腫あるいは混濁であるので,角膜中央の浮腫や混濁を生じる疾患について,その診断や治療のトピックをまじえて解説する.一応軽度と重度に分けて解説するが,軽度で述べた疾患が重度の「かすみ」を生じることもあれば,重度で述べた疾患が軽度の「かすみ」ですむ場合もあることはいうまでもない.I 軽度の「かすみ」を生じる角膜疾患1. 中央の上皮障害をきたす疾患a. 重症ドライアイドライアイの症状は乾燥感,異物感,眼精疲労,充血などさまざまであるが,もともと自覚症状の強い疾患であり,当然,視力低下もその症状の一つであって,たとえ角膜中央の上皮に問題がなくても見え方の質は低下する.ただ,この場合は涙液層の不安定性に起因するものであり,「かすみ」ではなく「ぼやけ」という表現のほうがあてはまるであろう.「かすみ」になるのはやはり,(13) 151* Yoshitsugu Inoue:鳥取大学医学部視覚病態学〔別刷請求先〕 井上幸次:〒683-8504 米子市西町86 番地 鳥取大学医学部視覚病態学特集●眼のかすみ あたらしい眼科 27(2):151.157,2010眼のかすみを起こす疾患(1)角膜疾患Diseases with Blurred Vision(1):Corneal Diseases井上幸次*152 あたらしい眼科 Vol. 27,No. 2,2010 (14)伏感染があるのではないかという考えもある.治療としてはステロイド点眼を使用することになるが,漸減しながらかなり長期にわたって使用しないと,中止によってまた再燃する.なお,アデノウイルスについては最近54 型が同定され1),しかも現在日本で8 型といわれているもののほとんどが,54 型によるものであることが明らかにされた.c. 顆粒状角膜ジストロフィ(アベリノ角膜ジストロフィ)このジストロフィによる混濁は,境界明瞭であり,混濁のない部分は透明であるため,初期は無症状であるが,やがて羞明を訴えるようになり,やがて混濁が大き治癒期,重症薬剤毒性角膜症で認められるepithelialcrack line などがある.いずれも「かすみ」だけでなく,異物感や充血などを必ず伴う.2. 中央の角膜混濁をきたす疾患a. 上皮の混濁をきたす疾患角結膜上皮の異型性や腫瘍性変化を起こすCIN(conjunctivaland corneal intraepithelilal neoplasia)が伸展して瞳孔領にかかると「かすみ」を訴える(図1).この疾患は炎症性疾患ではないが,症状としては異物感や充血を伴うことが多い.Fabry 病や全身投与薬の副作用(アミオダロンなど)として認められる上皮混濁(epithelialopacity)も「かすみ」の原因となることがあるが,この場合は異物感や充血は伴わない.b. 流行性角結膜炎による多発性角膜上皮下浸潤アデノウイルスによる流行性角結膜炎の後に生じる多発性角膜上皮下浸潤は,数が少なければ無症状であるが,多くなると羞明を感じるようになり,さらに多くなり融合したものまで出てくるようになると「かすみ」の原因となる.多発性角膜上皮下浸潤の病態としては,結膜炎を生じた際に角膜実質表層にアデノウイルスの抗原が蓄積し,それに対する遅延型過敏反応を生じてくると考えられているが,感染後半年以上たって症状が出てくる例や数年たっても鎮静化しない例もあり,単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)のような潜図 1 CIN(conjunctival and corneal intraepithelilal neoplasia)異型上皮・腫瘍性の上皮は混濁しているため,瞳孔領にかかると「かすみ」の原因となる.図 3 アベリノ角膜ジストロフィこのような金平糖様の白い混濁は実質のやや深いところに認められるのでPTK で効果が得にくい.図 2 アベリノ角膜ジストロフィ実質表層の境界明瞭な混濁を生じるが,瞳孔領で融合傾向を認めると「かすみ」を訴える.(15) あたらしい眼科 Vol. 27,No. 2,2010 153PCR(polymerase chain reaction)でCMV を証明する必要がある.治療は抗CMV 薬のガンシクロビルやバラガンシクロビルを投与することになるが,投与経路や投与期間をどうすればよいかということについてはまだevidence が少なく個々の施設で独自に行われている.II 重度の「かすみ」を生じる疾患1. 中央の上皮障害をきたす疾患a. 瘢痕性角結膜上皮疾患Stevens-Johnson 症候群,graft-versus-host disease(GVHD),眼類天疱瘡などの瘢痕性角結膜上皮疾患は重度の上皮障害と角膜血管侵入,角膜混濁とドライアイを合併しており,さまざまな眼症状を生じてくる.「かすみ」はその症状の一部にすぎない.ある程度の視力が確保されている例ではドライアイ,炎症,感染を点眼治療などでコントロールして保存的に見ていくが,重症例では輪部移植,さらには培養角膜上皮移植など先進的な治療が必要となる.なお,Stevens-Johnson 症候群については発症したときの局所のステロイド治療が予後に大きく影響すること4),種々の遺伝子の多型がその発症に関与していること5),methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)の感染が非常に多く認められることなど,多くの新知見があるが,その治療は依然としてむずかしい.b. 栄養障害性角膜潰瘍角膜ヘルペス後,聴神経腫瘍,糖尿病など三叉神経が障害され角膜知覚が低下する疾患で,角膜上皮の創傷治癒が遷延化して生じる.典型例では上皮欠損は楕円形を示し,辺縁上皮は灰白色に丸くもりあがり,実質からやや浮いたような所見を示すのが特徴である.治療としては治療用ソフトコンタクトレンズ装用,フィブロネクチン点眼,瞼板縫合など種々の治療が行われているが,現在その特効薬としてinsulin-like growth factor-1(IGF-1)とsubstance P の各々のペプチドであるSSSR とFGLM-NH2 を組み合わせた点眼6)の治験が行われている.く濃くなるとともに融合する状態となって「かすみ」を訴えるようになる.現在治療の第一選択はエキシマレーザーによるPTK(phototherapeutic keratectomy)であるが,最もよい適応は浅い層の混濁が瞳孔領で融合して認められるケースである(図2).混濁が多くてもこれが深くて融合傾向のない場合(図3)は混濁も十分とれないばかりか,レーザー後の遠視化のために,かえって患者は見にくくなったと感じる場合もあるので,注意が必要である.なお,顆粒状角膜ジストロフィはTGFBI 遺伝子の異常によって起こるが,日本ではより顆粒の大きさが細かい狭義の顆粒状角膜ジストロフィ(R555W)は少なく,多くはR124H タイプのアベリノ角膜ジストロフィである.d. 帯状角膜変性帯状角膜変性は基礎疾患としてぶどう膜炎,角膜炎,緑内障などがあり,二次的にBowman 膜レベルにカルシウムが沈着して生じる.瞼裂部の周辺から生じて中央へ向かって進行し,瞳孔領に及ぶと「かすむ」ようになる.帯状角膜変性の場合もエキシマレーザーによるPTK は非常に有効だが,沈着の状態が部位によって異なり,凹凸不整を生じて,異物感を主訴とするケースでは,非常に硬いところはレーザーによってうまく削れないため,むしろmanual でのkeratectomy のほうが有効である.3. 中央の角膜浮腫をきたす疾患サイトメガロウイルス角膜内皮炎角膜内皮炎の原因として,HSV,水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV),ムンプスウイルスなどが知られていたが,最近サイトメガロウイルス(CMV)によるものがあることが判明し,話題となっている.HSV による角膜内皮炎と比較して角膜浮腫が軽度のものが多く,浮腫を起こした部位にcoin lesion とよばれる輪状の角膜後面沈着物を認めるのが特徴である2).内皮にCMV 感染を示唆するOwl’s Eye を認めた3)との報告もある.CMV による虹彩炎も注目されており,おそらくCMV 虹彩炎と内皮炎は一連の疾患である可能性があり,CMV は免疫不全者で感染を起こすという概念が崩れてきている.診断にあたっては前房水の154 あたらしい眼科 Vol. 27,No. 2,2010 (16)できるが,角膜内への移行が悪いのが欠点である.一方,アゾール系の新しい薬剤であるボリコナゾールは水溶性にすぐれ,1%点眼を自家作製して用いることができ8),深層のフザリウムでも治療できる可能性がある.c. 実質型角膜ヘルペス角膜ヘルペスも円板状角膜や壊死性角膜炎のように実質型で再発すると,充血を伴った強い「かすみ」となる.異物感,眼痛は生じない.再発性の疾患であるため,患者は症状から再発したと自分でわかることが多いが,それが逆に自己治療をかってに行う原因となり,アシクロビル眼軟膏なしにステロイド点眼を使用したり,ステロイド点眼なしにアシクロビル眼軟膏を使用したり,良くなったのでかってに突然点眼を打ち切ったりすることにつながる.自己治療をするとかえって再発を起こしやすい状況をつくってしまうことや,使用する薬剤の意味合い(ステロイド点眼だけでは逆にウイルスが増えてしまうことなど)を十分説明しておくことが重要である.d. アカントアメーバ角膜炎近年,症例数が増加し,コンタクトレンズ関連角膜感染症の重症例として緑膿菌とならぶ存在となっている9).「かすみ」よりも眼痛・異物感・充血などの炎症に伴う症状が強いのが特徴であるが,ステロイド点眼が使用さ2. 中央の実質混濁をきたす疾患a. 細菌性角膜炎細菌性角膜炎は瞳孔領にかかると重度の視力低下を招くが,もちろんそれだけでなく,異物感,眼痛,眼脂,流涙,充血などの症状を伴う.視力低下に比べてこれらの症状のほうが初期の抗菌薬による治療の効果があったかどうかの判定の目安にしやすい.たとえば,治療を開始した翌日,患者が「痛みが楽になった」といえば,まだ他覚所見があまり改善していなくても,一応この治療で継続すればよいのではないかということがわかる.「かすみ」については,最終的には改善するものの治療効果の判定にはあまり参考にならず,また,治療が終了しても,瘢痕が残れば「かすみ」は残る.現在は細菌性角膜炎の主体が異物飛入によるものから,コンタクトレンズ(CL)関連のものに移り,特に20.30 代での感染が主体である7).CL については単にその種類だけでなく,商品名,装用方法,装用日数・時間,誤用の有無とその内容,CL の管理方法(特にこすり洗いやレンズケースの定期交換,CL 装用時に手洗いをしていたかどうか,消毒の種類とmultipurpose solutionの商品名,水道水使用の有無)などを詳細に問診する必要がある.使い捨てCL の場合,眼表面の常在菌であるグラム陽性球菌による感染を起こしやすく,定期交換CL の場合は保存ケースで増殖しやすい環境菌である緑膿菌やセラチアなどのグラム陰性桿菌の感染を起こしやすい.b. 角膜真菌症角膜真菌症はステロイド点眼薬の使用によって,その頻度が増加したが,特に病原性の低いものほど診断がむずかしく,なかにはほとんど炎症を起こさず角膜表面でコロニーを形成するものもある(図4).その場合は,炎症に伴う症状はほとんどなく,「かすみ」のみが症状ということもある.角膜真菌症という用語が用いられるのは炎症を伴う通常の真菌性角膜炎だけでなく,そのような炎症があまりないものも時に認められるからである.角膜真菌症の治療は種々のアゾール系の薬剤やキャンディン系のミカファンギンなど選択肢が増えたが,やはり治療には時間がかかる.角膜真菌症で最も病原性が強いフザリウムについてはピマリシン点眼・眼軟膏が使用図 4 角膜真菌症カンジダが角膜に付着するようにコロニーを形成し,ほとんど炎症所見を認めなかった症例.このように真菌の場合,炎症所見が非常に弱い例が時にあり,一見沈着物のように見えるため診断がむずかしい.(17) あたらしい眼科 Vol. 27,No. 2,2010 155し,しだいに中央の角膜混濁が増加して「かすみ」が強くなる.進行した格子状角膜ジストロフィでは中央の混濁が強いために格子状の病変がわかりにくい.この場合,細隙灯顕微鏡で周辺の角膜をよく観察すると,そこに格子状の病変を発見できる(図5).なお,このように角膜混濁が強く起こってくるのは格子状角膜ジストロフィのI 型であり,IIIA 型は発症年齢も高く,混濁も少ない.g. 斑状角膜ジストロフィCHST6 遺伝子の異常による常染色体劣性遺伝の疾患である.CHST6 は硫酸の転移酵素をコードしており,その異常によって,低硫酸化ケラタン硫酸プロテオグリカンが実質に沈着して,角膜全体が混濁する.そのため,「かすみ」は強く,角膜移植の適応となる.内皮は障害されないので,deep anterior lamellar keratoplasty(DALK)が可能であるが,実質が異常なケラタン硫酸によって粘稠となるため,実質を層間分離しにくく手術に時間がかかる.h. 膠様滴状角膜ジストロフィM1S1(tumor-associated calcium signal transducer2:TACSTD2)遺伝子の異常による常染色体劣性遺伝の疾患であり,欧米ではきわめてまれで,日本に特有な疾患である.角膜上皮のバリア機能が障害され,透過性が亢進し,実質浅層に涙液中のラクトフェリンが蓄積してアミロイドとなる.単に濁るだけでなく,上皮が凹凸不整となり,血管侵入も伴うため,その症状は多彩であり,「かすみ」だけでなく,異物感・羞明・充血など種々の症状をきたす.治療用CL の装用が進行を防止することから,最近は進行した例は減少している.3. 中央の角膜浮腫をきたす疾患a. ヘルペス性角膜内皮炎ヘルペスの病型としては上皮型,実質型に加えて内皮型があるが,純粋に内皮炎だけを生じているものは意外に少なく,そのような症例ではむしろCMV によるもののほうがより可能性が高いであろう.ヘルペスの場合,多くの症例で実質型に合併して内皮炎を生じているため,本当に内皮に病変の主座があるのか,単に実質の炎症に伴う二次的なものかは判断がむずかしい.欧米ではれてしまうと,これがマスクされてしまい,わかりにくくなる.初期には点状・斑状・線状の上皮・上皮下混濁や偽樹枝状角膜炎,放射状角膜神経炎などが認められる.この時期は前述した炎症に伴う症状が強いが,「かすみ」は比較的軽度である.完成期には円板状浸潤・潰瘍,輪状浸潤・潰瘍の状態となり,「かすみ」は重症となる.治療としては特効薬がないため,掻爬が重要な治療手段となる.薬物治療に抵抗する場合は治療的角膜移植をせざるをえないこともある.e. 角膜実質炎(梅毒性,結核性など)梅毒・結核・Hansen 病などに合併して角膜実質炎を生じると,炎症に伴う症状に加えて「かすみ」を訴えるが,現在,その新鮮例に遭遇することはきわめてまれである.先天梅毒による瘢痕期の患者にはときどき遭遇するが,こういう患者の訴える「かすみ」は加齢に伴う白内障の進行によるもので,角膜の混濁の悪化を認める例はあまりない.ただ,角膜実質炎が深層にも及んでいるケースでは内皮の数が少ないため,加齢とともにこれがさらに減って水疱性角膜症に移行してきた場合は「かすみ」を訴えるようになる.f. 格子状角膜ジストロフィアベリノ角膜ジストロフィ同様TGFBI 遺伝子の異常によって発症する常染色体優性遺伝の疾患である.初期は上皮の接着不良による再発性角膜びらんを起こすのが特徴であり,症状は眼痛・異物感・充血である.しか図 5 格子状角膜ジストロフィI 型中央の混濁部よりも周辺で格子状のラインの存在がわかる.156 あたらしい眼科 Vol. 27,No. 2,2010 (18)が,欧米では主にYAG が使用されていることなどが関係しているとされている.しかし本当の原因は不明である.前房が浅い例が多く,そのままではDSAEK は困難で,先にあるいは同時に白内障手術を行ってDSAEKをすることが推奨されている.最近はシャンデリア照明を使用した白内障手術が可能となり,かなりの角膜浮腫があってもPEA(水晶体乳化吸引術)+IOL(眼内レンズ)が可能である11).e. 眼内レンズ性水疱性角膜症最もよいDSAEK の適応となる.日本ではFuchs 角膜内皮ジストロフィは少なく,上記のALI 後やこの白内障術後の水疱性角膜症が多いので,Descemet 膜をとる必要が必ずしもなく,Descemet 膜を剥がないnon-Descemet stripping automated endothelial keratoplasty(nDSAEK)が行われるようになってきている12).f. ICE(iridocorneal endothelial)症候群片眼性に角膜内皮・線維柱帯・虹彩が障害される疾患で,Chandler 症候群,Cogan-Reese 症候群,progressiveessential iris atrophy を包含する.片眼性であるため,原因として遺伝は考えにくく,ウイルス説なども言われているが,いまだに原因は不明である.緑内障の合併が多く,水疱性角膜症に移行すると「かすみ」を訴えるようになる.g. 角膜移植後拒絶反応角膜移植後の3 大合併症は拒絶反応,感染,緑内障であるが,移植後に「かすみ」と充血を伴ってきた場合は角膜移植後拒絶反応の可能性が高く,これに眼痛・異物感が加わると感染の可能性が高い.緑内障は症状もなく最も厄介な合併症であり,移植眼の失明はほとんどが緑内障によるものであるといってもよい.h. 急性角膜水腫円錐角膜で突然の重度の「かすみ」を訴えた場合は,Descemet 膜破裂に伴う急性水腫の可能性がある.多くの症例でDescemet 膜のみならず実質にまで亀裂が生じている(stromal cleft)が,それでも自然修復する.自然修復して浮腫が引けば再びハードコンタクトレンズが装用可能となる例も多く,急性角膜水腫を生じたら移植になるというものではない.円板状角膜炎を内皮型に分類しているが,これには少なからず違和感がある.円板状角膜炎のなかで浮腫が強く実質の混濁が少ないタイプが確かにあるが,実質にも炎症があるにもかかわらず,内皮型に分類するのはどうかと思われる.やはりこれは実質型と内皮型の合併とみるべきであろう(上皮型と実質型の合併もよくあるので,実質型と内皮型の合併があっても何ら不思議はない).ヘルペス性角膜内皮炎は実質炎同様にアシクロビルとステロイドの併用で治療されることが多いが,その妥当性に関するevidence はない.b. Fuchs 角膜内皮ジストロフィVIII 型コラーゲンのa 2 鎖をコードするCOL8A2 遺伝子の異常で起こるという報告があるものの,13 番染色体,18 番染色体上のlocus も報告されており,今に至るも原因遺伝子が十分解明されていない.角膜内皮にguttata とpigment dusting を認め,若年で水疱性角膜症に移行する.Fuchs 角膜内皮ジストロフィは欧米ではかなりよく認められるジストロフィであり,全層角膜移植のかなりの部分をこの疾患が占めていた.しかし,最近は内皮側のみを移植するDescemet stripping automatedendothelial keratoplasty(DSAEK)が広く行われるようになり,急速に術式が変化している.c. 後部多形性角膜ジストロフィ(posterior polymorphousdystrophy:PPD)常染色体優性遺伝,両眼性の疾患で,原因遺伝子は20 番染色体にあるとされているが,正確な原因遺伝子はまだ不明である.Fuchs 角膜内皮ジストロフィ同様日本人には少ない.角膜内皮面に.胞状病変,posteriorcollagenous layer などを伴う.病態としては内皮が分化異常を起こして,上皮様変化(微絨毛多数,ケラチン陽性)を生じているとされている.通常は無症状で,水疱性角膜症への進展があれば「かすみ」を訴えるようになる.なお,片眼の孤発例をposterior corneal vesicle(PCV)というが,これとPPD の関係は不明である.PCV で水疱性角膜症に移行することはまずない.d. アルゴンレーザー虹彩切開術(ALI)後水疱性角膜症日本人ではこのタイプの水疱性角膜症が多い10)が,欧米では珍しい.人種的なもの以外に,日本ではレーザー虹彩切開術にアルゴンレーザーが主に使用されてきたあたらしい眼科 Vol. 27,No. 2,2010 157文 献1) Ishiko H, Shimada Y, Konno T et al:Novel human adenoviruscausing nosocomial epidemic keratoconjunctivitis. JClin Microbiol 46:2002-2008, 20082) Koizumi N, Yamasaki K, Kawasaki S et al:Cytomegalovirusin aqueous humor from an eye with corneal endotheliitis.Am J Ophthalmol 141:564-565, 20063) Shiraishi A, Hara Y, Takahashi M et al:Demonstration of“Owl’s Eye”morphology by confocal microscopy in apatient with presumed cytomegalovirus corneal endotheliitis.Am J Ophthalmol 143:715-717, 20074) Sotozono C, Ueta M, Koizumi N et al:Diagnosis andtreatment of Stevens-Johnson syndrome and toxic epidermalnecrolysis with ocular complications. Ophthalmology116:685-690, 20095) Ueta M, Sotozono C, Inatomi T et al:Association of combinedIL-13/IL-4R signaling pathway gene polymorphismwith Stevens-Johnson syndrome accompanied by ocularsurface complications. 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Am JOphthalmol 146:543-549, 2008(19)■用語解説■マイボーム腺炎角膜上皮症:重度のマイボーム腺炎に伴い,フリクテン角膜炎や血管侵入を伴った点状表層角膜症(SPK)を認める.若い女性に多く,その原因はマイボーム腺内のアクネ菌といわれている.再発をくり返すケースではマクロライド系の内服が有効である.Epithelial crack line:薬剤毒性角膜症によって生じる分岐のあるひび割れ状のラインである.その特徴として,角膜中央やや下方に水平方向に生じ,混濁を必ず伴っており,時に盛り上がりを認める.また,周囲に必ず著明なSPK を認める.Fabry 病:a ガラクトシダーゼの先天的な欠損による全身性代謝異常で,心血管,腎臓,皮膚の異常を呈する.角膜上皮内にceramide trihexoside が沈着して特徴的な渦巻き状の混濁を生じる(渦状角膜).アミオダロン:古くから使用されている抗不整脈薬だが,角膜の中央やや下に車軸上,猫ひげ様の上皮混濁が生じるので有名である.ただ,視力障害につながるほどの混濁になる例は少ない.Owl’s Eye:サイトメガロウイルスが感染した細胞に核内封入体ができるとまるでフクロウの目のように見えることから,サイトメガロウイルス感染細胞に特徴的な所見として知られている.Multipurpose solution(MPS):CL の洗浄・消毒・保存・すすぎが一つの溶液ですべて可能(多目的というのはそういう意味である)な製剤で,その簡便性から,現在,定期交換SCL の使用者の間で広く使用されているが,一方で抗菌力の弱さが問題となっており,現在のCL 関連角膜感染症増加の一因となっている.Deep anterior lamellar keratoplasty(DALK):Descemet膜と内皮を残して実質をすべてとって行う表層角膜移植.全層と同等の透明性が得られ,かつ内皮型拒絶反応が生じない理想的な手術だが,手術自体は全層移植よりもむずかしい.なお,従来はdeep lamellar keratoplasty(DLK, DLKP)といわれていたが,最近は特に欧米で内皮移植と対比させてこの名称がよく使用されている.Guttata:角膜内皮が障害されてくるとDescemet 膜にコラーゲン様物質が瘤状に付加され,スペキュラーマイクロスコープや細隙灯顕微鏡の鏡面法により観察すると黒い丸として観察される.周辺部に加齢とともに認められるものはHassall-Henle 小体,中央部に病的所見として認められるものはguttata といわれている.Pigment dusting:Guttata を多数認める角膜では角膜内皮面に小さいpigment を多数認める.このpigment は角膜後面沈着物が色素塊となったものではなく,病的な内皮に貪食されたpigment である.したがって時間が経過しても消失しない.Posterior collagenous layer(PCL):内皮細胞がDescemet膜後面にコラーゲン様物質を産生し膜状となったもの.内皮が異常なストレスにさらされた時にできる.