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緑内障:眼圧日内変動と調節機構

2023年2月28日 火曜日

●連載◯272監修=福地健郎中野匡272.眼圧日内変動と調節機構土屋俊輔金沢大学附属病院眼科眼圧日内変動は概日時計によって制御される生理現象の一つであり,近年は眼圧の低い緑内障患者において大きな眼圧変動は進行のリスクであることも示され,臨床的意義も大きい.最近の基礎研究によって眼圧リズムはグルココルチコイドやノルアドレナリンなどのホルモンによって調節されている可能性が示唆されている.今後さらなる解明が進むことで緑内障の新規治療法開発に期待したい.●はじめに眼圧日内変動研究の歴史は非常に古く,最初の報告は100年以上前まで遡る.それ以来そのメカニズムの解明のために研究がなされてきた.ヒトの眼圧変動は,体内時計によって制御を受けるリズム変動に加えて,体位,ストレス,運動など,さまざまな要因により影響を受けるため正確な測定がむずかしいが,その要因をできるかぎり除外した場合,明け方から午前中にかけて眼圧は高値を示し,それ以後低下するパターンをとることが知られている.マウスやラット,ウサギなどの実験動物を対象とした基礎研究では,昼行性・夜行性にかかわらず,夜間に高値を示すリズムパターンを示すことが知られている.この眼圧日内変動は一定期間,外部の周期的な光刺激がなくとも維持されるため,眼圧日内変動のリズムは生体内の概日時計に従っていることがわかる.近年はこの概日時計と眼圧日内変動との関連に着目した多くの報告がなされ,少しずつそのメカニズムが明らかになってきている.C●眼圧日内変動の臨床的意義眼圧日内変動は正常眼でも認められるが,とくに緑内障患者ではそのパターンが日中上昇型,夜間上昇型,もしくは変動がないなど多岐にわたることや1),これらの多彩な変動パターンが存在するために,約C7割程度の緑内障患者ではC1日における最高眼圧が診療時間外に記録されるという報告もある2).したがってわれわれが通常行っている外来診療では,変動のある一時点を捉えているに過ぎず,患者の眼圧を正確に把握できているとはいいがたい.さらに最近の報告では,5年以上経過を追えたベースライン眼圧の低い(≦12CmmHg)正常眼圧緑内(81)C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY障患者において,点眼治療開始前の眼圧日内変動が大きいことがその後の緑内障進行のリスクファクターであるということが明らかとなった3).よって,日本人緑内障患者の大多数を占める正常眼圧緑内障患者のマネージメントとして,眼圧日内変動の把握が非常に重要であることがわかる.C●眼圧日内変動と概日リズム哺乳類の体内時計の中枢は視床下部の視交叉上核(suprachiasmaticnucleus:SCN)に存在し,この部分が中枢時計として,全身の組織における固有の概日リズムを生み出す末梢時計の位相を調節し,全身のリズムを同期させている.さらに細胞レベルでは,概日時計は時計遺伝子(clockgenes)とよばれる一連の遺伝子群によって構成されている.時計遺伝子の一つであるCCry遺伝子をノックアウトしたマウスでは,眼圧日内変動が消失してしまうことや4),房水産生の場である毛様体に時計遺伝子が規則的に発現すること5),さらには盲状態のマウスは外部サイクルから独立して,SCNのリズムに沿った眼圧日内変動を示すこと6)などの数多くの知見から,眼圧変動は生体の概日時計によってコントロールされていることはほぼ間違いないと思われる.そのCSCNからどのようにして眼圧リズムが生み出されるのか,という問いに対しては,最近の研究で重要な示唆が得られている.まず,副腎から体内の概日リズムに合わせて規則的に分泌されるホルモンであるグルココルチコイドに着目した研究では,exvivoで副腎ホルモンを投与することにより毛様体の局所時計の位相調節ができることや,副腎を摘出したマウスは行動リズムが正常であるにもかかわらず眼圧リズムが消失することから,副腎の働きが眼圧リズム形成に必須であることが明あたらしい眼科Vol.40,No.2,2023219図1眼圧日内変動の制御機構概日リズムは視床下部に存在する視交叉上核CSCNが中枢時計となって,各臓器などに存在する末梢時計の位相を調節している.外部の明暗サイクルを網膜が感受し,中枢時計に伝達することで,外部のリズムと体内時計のリズムを同調させている(光同調).近年の報告により,中枢時計からのシグナル伝達経路として副腎ホルモンであるグルココルチコイドや,交感神経系のノルアドレナリンの働きにより,眼圧リズムが制御されている可能性が示唆されている.らかになった7).その後,他の報告では副腎に加えて上頸神経節を外科的に切除すると眼圧リズムのとくに夜間の上昇が消失してしまうことが明らかとなり,グルココルチコイドだけでなく,ノルアドレナリンの関与も示唆された8).さらに同じグループは,眼局所でのホルモンの働きとCphagocytosis(食作用)の関連に着目し,とくにノルアドレナリンによる線維柱帯における食作用抑制を介して眼圧が変動するという可能性を示した9).上記のことから,眼圧リズムは体内時計の制御下におかれ,中枢時計からの副腎および交感神経を介したシグナルを受けとり,房水動態を変化させることでそのリズムが形成されていると考えられる(図1).C●おわりに本稿では眼圧日内変動の重要性,および基礎研究によって現在明らかになりつつある眼圧リズムの調節機構に関して述べた.今回は触れなかったが,近年はコンタクトレンズセンサーなども登場し,生活の制限をあまり設けずに眼圧に関連したパラメータをC24時間連続で測定できるようになってきた.現状ではまだ広く普及していないが,今までの眼圧連続測定における医療側,患者側の負担を軽減し,今後さまざまな眼圧変動と緑内障の病態との関連が解明されることが期待できる.また,日内変動の基礎研究がさらに発展することで,現在の緑内障標準治療である眼圧を低下させることだけでなく,将来的には眼圧リズムをコントロールし,変動を抑制することをターゲットとした緑内障新規治療につながることが期待される.文献1)RenardE,PalombiK,Gron.erCetal:Twenty-fourhour(Nyctohemeral)rhythmofintraocularpressureandocularperfusionCpressureCinCnormal-tensionCglaucoma.CInvestCOphthalmolVisSciC51:882-889,C20102)BarkanaCY,CAnisCS,CLiebmannCJCetal:ClinicalCutilityCofCintraocularCpressureCmonitoringCoutsideCofCnormalCo.ceChoursCinCpatientsCwithCglaucoma.CArchCOphthalmolC124:C793-797,C20063)BaekCSU,CHaCA,CKimCDWCetal:RiskCfactorsCforCdiseaseCprogressionCinClow-teensCnormal-tensionCglaucoma.CBrJOphthalmolC104:81-86,C20204)MaedaA,TsujiyaS,HigashideTetal:Circadianintraoc-ularCpressureCrhythmCisCgeneratedCbyCclockCgenes.CInvestCOphthalmolVisSciC47:4050-4052,C20065)DalvinCLA,CFautschMP:AnalysisCofCcircadianCrhythmCgeneexpressionwithreferencetodiurnalpatternofintra-ocularCpressureCinCmice.CInvestCOpthalmolCVisCSciC56:C2657,C20156)TsuchiyaCS,CBuhrCED,CHigashideCTCetal:LightCentrain-mentofthemurineintraocularpressurecircadianrhythmutilizesCnon-localCmechanisms.CPloSCOneC12:e0184790,C20177)TsuchiyaCS,CSugiyamaCK,CVanCGelderRN:AdrenalCandCGlucocorticoidE.ectsontheCircadianRhythmofMurineIntraocularCPressure.CInvestCOphthalmolCVisCSciC9:5641-5647,C20188)IkegamiK,ShigeyoshiY,MasubuchiS:Circadianregula-tionCofCIOPCrhythmCbyCdualCpathwaysCofCglucocorticoidsCandCtheCsympatheticCnervousCsystem.CInvestCOphthalmolCVisSciC61:26,C20209)IkegamiCK,CMasubuchiS:SuppressionCofCtrabecularCmeshworkCphagocytosisCbyCnorepinephrineCisCassociatedCwithCnocturnalCincreaseCinCintraocularCpressureCinCmice.CCommunBiolC5:339,C2022220あたらしい眼科Vol.40,No.2,2023(82)

屈折矯正手術:外傷によるICL脱臼とその予後

2023年2月28日 火曜日

●連載◯273監修=稗田牧神谷和孝273.外傷によるICL脱臼とその予後小島隆司名古屋アイクリニックICL術後にまれに起こる合併症として,外傷による脱臼がある.スポーツ外傷が多く,脱臼すると患者は霧視を訴える.速やかな整復手術によって角膜内皮に与える影響を最小限にでき,予後は良好である.患者にはスポーツ時の眼球打撲について注意喚起するべきである.●ICLImplantablecollamerlens(ICL)は,後房型有水晶体眼内レンズである.1986年にロシアのフィヨドロフ医師が前房と後房にまたがるポリメタクリル酸メチル樹脂(polymethylmethacrylate:PMMA)製の有水晶体眼内レンズを開発したのが始まりといわれている.その後1990年代に入ってスターサージカル社(米国)とフィヨドルフ医師の共同開発が始まり,1993年に第一世代のICLが埋植され,デザインを幾度か変更して現在はバージョンC4に至っている.1997年にCCEマークを取得し,2005年には米国食品医薬品局の承認を得ている.日本ではC2010年にCICLが,2011年にトーリックCICLが厚生労働省に認可されている.現在までにC64カ国でC25万枚以上が埋植されている.ICLの最大の特徴は,コラーゲンとメタクリル酸ヒドロキシエチル(hydroxy-ethylCmethacrylate:HEMA)の共重合体という素材にある.生体適合性が高い素材で,虹彩など眼内組織への刺激がほとんどないのが特徴である.ICLは毛様溝に固定され,サイズがC0.5Cmm刻みでC11.5~13.0CmmのC4種類ある.光学径はレンズの球面度数によって異なりC4.65~5.50mmである.また,レンズ球面度数は-3~-23DのC0.5D刻みで注文可能で,実際の近視矯正可能量は-1.75~-19Dと広い範囲をカバーしている.乱視度数は+1~+6DのC0.5D刻みで注文可能で,実際の乱視矯正可能量は-0.75~-5Dである.ICLは,角膜のカーブを変化させるレーザー屈折矯正手術と異なり,元に戻すことが可能な手術である.また,術後に角膜が薄くならないために,角膜が薄い患者や円錐角膜疑いの患者でも手術可能である.ICL手術は若くて活動的な人が対象になることが多く,術後の外傷には注意が必要である.以前から屈折矯正手術ではlaserinsitukeratomileusis(LASIK)後の外傷によるフラップの偏位が知られているが,ICLに関しては眼科医の間でもまだ広く認識されていない現状がある.C●ICL脱臼の症状ICLが脱臼しても,ICLそのものが柔らかいため痛みなどの症状に乏しく,霧視だけの症状のことも多い.多くの患者は視力低下にセンシティブであることが多く,すぐに受診することが多いが,受診が遅れると後述するように角膜内皮障害を起こすことがあるため,筆者は手術が終わった患者に,今後気をつけることとして,鈍的外傷によるCICL脱臼について必ず話をしている.C●ICL脱臼の対処方法(整復術)虹彩上にハプティクスが出ている状態になっており,自然に軽快することはありえない.このため,速やかな手術による整復が重要である.術前には,トーリックICLであれば,元々どの位置に固定されていたのかをカルテからチェックしておく.また,術前にしっかり散瞳させておくことによって,スムーズに整復が可能になる.手術室では,術者の利き手側にC1Cmm程度の切開創を作製し,粘弾性物質を前房に注入する.この際に使用する粘弾性物質はCICL挿入時と同じオペガンが最適である.その他の粘弾性物質では,ICL裏面に残ることによって術後眼圧上昇や瞳孔ブロックを起こす可能性もある.粘弾性物質で前房を安定化させたら,切開創からICLマニピュレーターを挿入し,虹彩上に脱臼したハプティクスを虹彩下に入れていく.手技はCICL挿入と同じである.トーリックCICLの場合は,この時点でターゲット軸にCICLを合わせる.最後に前房洗浄を十分に行い,粘弾性物質を吸引除去する.(79)あたらしい眼科Vol.40,No.2,20232170910-1810/23/\100/頁/JCOPY受傷後受診時整復翌日図1ICL脱臼時および整復後の前眼部細隙灯顕微鏡写真フットサル中の打撲でCICL脱臼を起こし,その当日に受診した.ICLは片側のハプティクスが両方虹彩上に脱臼しており,瞳孔の変形を認めた.受診当日に整復術が行われ,瞳孔の変形も認めなかった.このように,ICL脱臼の整復には専用の器具と,ICL手術に習熟していることが必要であり,ICL手術の経験がない場合は,手術を施行している施設に緊急で紹介する必要がある.C●国内多施設研究からわかったICL脱臼の予後わが国のC4カ所の主要な屈折矯正手術施設におけるICL脱臼の発生率,患者背景,術後予後について検討した研究結果1)を解説する.調査期間中にC7件のCICL脱臼が発生し,ICL脱臼の発生率はC0.072%とその割合は非常にまれであると思われる.報告された症例は平均年齢がC29.2歳と若く,全員が男性であった.また,特筆すべきこととしてC2名の患者が同一眼にC2回CICL脱臼を経験している.ICL脱臼C7例のうちC5例は,スポーツ中の鈍的眼球外傷によるものであり,フットサルの試合中がC4例,バスケットボールの試合中がC1例であった.全世界でC100万枚以上のCICLが移植されていることを考えると,鈍的眼外傷のリスクがある球技の際には,保護眼鏡を使用するよう患者を教育することが重要である.今回調査したC7例は全例CICL位置修正術が速やかに行われ,ICL脱臼前の最終フォローアップとCICL位置修正手術後C3カ月の間に,裸眼視力や角膜内皮細胞密度に大きな差はなかった.しかし過去には,脱臼したCICLが角膜内皮に接触し,角膜内皮細胞障害を起こし,水疱性角膜症になった症例が報告されている2).この患者は受傷後C5日目に整復術が施行されている.筆者らの研究では,ICLは受傷後平均C2.1日で修正手術が行われた.C218あたらしい眼科Vol.40,No.2,2023患者には受傷後できるだけ早く眼科医の診察を受けるよう促し,できるだけ早期に手術を行う必要がある.1名の患者は手術後C8日目に網膜.離を起こし,網膜手術が必要となっていた.眼瞼裂傷もあり,眼球衝突の外力はかなり強かったと思われる.網膜.離は周辺部のみであったため,ICLは摘出せず,強膜バックリング手術のみで網膜は修復された.術後は矯正視力の低下や屈折変化はほとんどなかった.また,別の症例では受傷後軽度の網膜振盪症を認めたが,2日後に消失した.やはりCICLを脱臼させるほど強い鈍的眼球外傷の場合,網膜障害が生じる可能性があり,受傷後は網膜を注意深く観察することが重要である.C●おわりにICLは健康な人を対象にする屈折矯正手術であり,術後スポーツを楽しむ患者も多い.ICL脱臼は非常にまれな合併症であり,遭遇する屈折矯正手術サージャンは少ないと思われるが,事前に起こりうることを頭に入れて,どのような対処をとるべきか覚えておくことが必要である.文献1)KojimaCT,CKitazawaCY,CNakamuraCTCetal:MulticenterCsurveyonimplantablecollamerlensdislocation.PLoSOneC17:e0264015,C20222)Espinosa-MattarCZ,CGomez-BastarCA,CGraue-HernandezCEOCetal:DSAEKCforCimplantableCcollamerClensCdisloca-tionCandCcornealCdecompensationC6CyearsCafterCimplanta-tion.OphthalmicSurgLasersImagingC43:e68-e72,C2012(80)

眼内レンズ:強膜内固定時に作製した周辺虹彩切除による不快光視症状

2023年2月28日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋435.強膜内固定時に作製した周辺虹彩切除水戸毅金沢医科大学眼科学講座による不快光視症状Positivedysphotopsia(PD)は白内障手術時に挿入する眼内レンズに起因する異常な光視像として知られている.しかし,強膜内固定術の際に作製する周辺虹彩切除孔も,眼内レンズの光学部エッジとの位置関係によりPDの要因となりうることを術者は理解しておく必要がある.●はじめに近年,白内障手術件数の増加に伴い眼内レンズ(intra-ocularlens:IOL)強膜内固定術やIOL縫着術を行う機会が増えているが,術後にIOL虹彩捕獲やそれに伴う瞳孔ブロックによる眼圧上昇といった合併症が生じることがある.そのような術後合併症を予防するために術中に周辺虹彩切除(peripheraliridectomy:PI)を施行することがあるものの,その大きさや作製位置についてはこれまでのところ明確に定まったものはない.今回,強膜内固定術の際に作製されたPIが原因で,術後に単眼性の不快光視症状が生じた症例を経験した1).●症例患者は52歳,男性.両眼のIOL亜脱臼に対してIOL抜去と強膜内固定術を他院にて施行された.術後の右眼の見え方に異常はなかったが,左眼は屋内で光源が複数見える症状を自覚するようになった(図1).両眼とも強膜内固定の術中に作製された約2mm長のPI孔を鼻側に認め(図2),右眼のPI孔はIOL光学部に覆われていたが,左眼はIOLの光学部エッジがPI孔に重なっていた(図3).PI孔に入射する光がIOLの光学部エッジに反射して生じるpositivedysphotopsia(PD)と診断し,外科的にPI孔閉鎖を試みたところ不快光視症状は消失した(図4).●PositivedysphotopsiaとはDysphotopsia(異常光視症)は白内障術後の患者を悩ます視機能現象であり,異常な光の環が見えたり影が見えたりする症状で,前者をPD,後者をnegativedys-photopsiaという2).PDは1990年代後半から徐々に知られるようになり,具体的には夜間または屋内において(77)0910-1810/23/\100/頁/JCOPY光源が存在する場合に,弧状,放射状に広がる異常な光視像として自覚される.原因は外部からの入射光が瞳孔領を通過してIOLに入り,一部の光がIOLの光学部エッジ内面に反射して入射方向と異なる網膜に異常光として結像することによる3).多くは挿入したIOLの性状に起因するとされており,ラウンドエッジよりもスクエアエッジで発生しやすく,またシリコーンやPMMAよりも高屈折率であるアクリル素材で生じやすいとされる.術中の連続円形切.がきれいにIOL全周を覆っていれば,術後に前.が混濁し光学部エッジに到達する入射光量が低下するため,PDが時間経過とともに自覚されなくなることがある.これまでに白内障術後以外のPDの報告はなかったが,強膜内固定を施行された本症例ではPI孔のサイズが大きめであり,さらに作成位置が鼻側の瞼裂間に存在するため直接PI孔から入射する光がIOLの光学部エッジに反射して生じたものと考えられた.また,症状が片眼のみであった理由は,PI孔とIOLの光学部エッジが重なっていた位置関係が主要因と思われた.強膜内固定(あるいは縫着術)の術後眼では,通常IOLを覆う水晶図1患者が作成したグラフィックス左眼のみで見た場合に屋内の光源が複数に分裂(赤丸部分)して見えると訴えた.あたらしい眼科Vol.40,No.2,2023215図2患者の前眼部写真右眼(a)と左眼(b)に大きさと作製位置がほぼ同じ周辺虹彩切除(PI)孔を認める.徹照像では右眼(c)は眼内レンズ(IOL)光学面で覆われているのに対して,左眼(d)はPI孔の中央にIOLの光学部エッジが確認できる.図4術後の前眼部写真周辺虹彩切除孔は閉鎖しており,徹照像では眼内レンズの光学部エッジは確認できない.体.は存在しないためエッジが露出しており,白内障手術以上にPDが発生しやすい状況とも考えられる.●おわりにPDはこれまでは白内障手術後に生じるものとされており,ときに強い訴えを引き起こすことがあるため術者を悩ます問題の一つとなっている.しかし,白内障以外の内眼手術においてもPDは生じうる.一般の眼科医に図3前眼部光干渉断層計所見暗所下にて右眼(上)は周辺虹彩切除(PI)孔の直下に眼内レンズ(IOL)光学面があるのに対して,左眼(下)はPI孔とIOL光学部エッジの位置が重なっている.とってはまだPDの認知度はそれほど高くないと思われるが,とくにIOL強膜内固定術や縫着術を施行する術者は,術中に作製するPI孔によって術後にPDが惹起される可能性を念頭において手術や経過観察を行う必要がある.文献1)MitoT,KawakamiH,IkomaTetal:Positivedysphotop-siaafterintrascleralintraocularlens.xation:acasereport.BMCOphthalmol22:263,20222)DavisonJA:Positiveandnegativedysphotopsiasinpatientswithacrylicintraocularlenses.JCataractRefractSurg26:1346-1355,20003)HolladayJT,LangA,PortneyV:Analysisofedgeglarephenomenainintraocularlensedgedesigns.JCataractRefractSurg25:748-752,1999

コンタクトレンズ:読んで広がるコンタクトレンズ診療 世界から見た日本のコンタクトレンズ

2023年2月28日 火曜日

提供コンタクトレンズセミナー読んで広がるコンタクトレンズ診療6.世界から見た日本のコンタクトレンズ糸井素啓京都府立医科大学大学院医学研究科■はじめにコンタクトレンズ(CL)診療は,製品の進歩に応じてアップデートされており,10年前と現在では,レンズやケア用品の選択傾向は大きく異なっている.また,時代のみならず地域ごとでもその傾向は異なっており,とくに日本と欧米諸国ではレンズの選択やケア用品の好みに違いがある.そこで本稿では,各国のCCL処方状況を毎年総括している“Internationalcontactlensprescrib-ing”1.2)(米国CContactCLensSpectrum誌に掲載)という記事をもとに,日本におけるCCL診療の傾向を,諸外国と比較しながら簡潔に解説する.C■平均年齢諸外国におけるCCLユーザーの平均年齢は,2003年にC30.6歳だったのが,2021年にはC33.1歳となっており,緩徐に上昇傾向にある.一方,同年の日本におけるCLユーザーの平均年齢は,それぞれC29.1歳とC29.6歳で,あまり変化していない1,2).これは,諸外国では老視矯正を目的とした多焦点レンズの普及に伴いC45歳以上のCCL装用者が増加傾向にある一方で,日本では多焦点レンズがあまり普及していないこと,日本ではサークルレンズを主体としたC20歳以下のCCL装用者が増加傾向にあることが要因として考えられる.C■RGPレンズの処方割合CL全体のうち,酸素透過性(rigidCgaspermeable:RGP)レンズが占める処方割合は国によって大きく異なる(図1)3).日本はかつて,諸外国に比較してCRGPレンズの処方割合が高いという特徴があった.日本はオランダと同様に,国産のCRGPレンズメーカーが数多く存在したため,RGPレンズが処方しやすい環境だったことが影響したと考えられる.その後,日本のCRGPレンズの処方割合は,諸外国と同様にソフトコンタクトレンズ(SCL)の普及に伴って大きく減少し,2021年には11%まで低下した.一方,欧米諸国では数年前からRGPレンズの一種である強膜レンズ・強角膜レンズが高い関心を集めており,その結果として,RGPレンズの処方割合は増加傾向に転じている1,2).(75)視覚再生機能外科学道玄坂糸井眼科C■シリコーンハイドロゲル(Si-Hy)レンズの処方割合シリコーンハイドロゲル(siliconehydrogel:Si-Hy)レンズは,2004年に日本の市場に登場して以降,数多くの製品が発売され,2021年にはCSCL全体の処方のうちC57%を占めるに至った2).一方で,欧米には,日本よりもCSi-Hyレンズの処方割合が高い国が多数存在する(図2)3).日本のCSi-Hyレンズの処方割合が諸外国に比較して低い理由として,日本ではカラーレンズおよびC1日使い捨てレンズの処方が多いことがあげられる.現在,日本で発売されるサークルレンズ・カラーレンズの多くがハイドロゲルレンズで,Si-Hy素材の製品は少ない.そのため,サークルレンズ・カラーレンズの処方割合の増加とともに,Si-Hyレンズの処方割合の増加が抑制されていると推測される.また,日本はC2週間交換型レンズに比較してC1日使い捨てレンズの処方割合が高いという特徴がある.1日使い捨てレンズはCCL関連眼障害の危険性が比較的低いと考えられているため,酸素透過性の高いCSi-Hyレンズより,安価なハイドロゲルレンズが好まれている可能性がある.日本と同様にCSi-Hyレンズの処方割合が少ないことで知られているデンマーク,台湾両国ともにC1日使い捨てレンズの割合が高いことも,上記の推測を裏付けるものである.C■トーリックSCLの処方割合2003年にC7%だった日本のトーリックCSCL処方割合は,2021年にはC18%と増加した1.2)が,依然として諸外国に比較して低い状況が続いている(図3)3).これは,乱視の程度や有病率の差などさまざまな要因が影響しているが,日本ではトーリックCSCLが眼科医から敬遠されていることも関係していると推察している.かつてのトーリックCSCLに対する「値段が高い,矯正効果が不十分,処方が煩雑」というイメージが残っているために,現在もなお処方を避けられているのだろう.しかし,近年発売された乱視用レンズは,従前の製品に比較して処方しやすく,矯正効果も優れている.そのため今後,乱視CSCLによる乱視矯正の有効性について,本セミナーで取り扱うつもりである.あたらしい眼科Vol.40,No.2,2023C2130910-1810/23/\100/頁/JCOPY〈%〉〈%〉601009050807040AUAUJP60JP処方割合処方割合NL5030NL40UKUK20US30US100〈年〉図1各国におけるRGPCLの処方割合の推移オーストラリア(AU)・日本(JP)・オランダ(NL)・英国(UK)・米国(US)の全CCL処方における酸素透過性(RGP)レンズの処方割合が示されている.赤色で示される日本のRGPレンズの処方割合は減少傾向にある.他のC4カ国ではC2003~2018年は減少傾向だが,2018年以降は増加傾向を認めている.(文献C3より一部改変)C6050201002003200620092012201520182021〈年〉図2各国におけるSi-HySCLの処方割合の推移オーストラリア(AU)・日本(JP)・オランダ(NL)・英国(UK)・米国(US)の全CSCL処方におけるシリコンハイドロゲル(Si-Hy)レンズの処方割合が示されている.赤色で示される日本のCSi-Hyレンズの処方割合は増加傾向にあるが,他のC4カ国に比較すると低値である.(文献C3より一部改変)ジにより眼科医から敬遠されているだけでなく,日本人200320062009201220152018202140AUが好むC1日使い捨てタイプの多焦点レンズが少ないことCJP30NLが原因として推察される.近年,1日使い捨てタイプのCUK20US多焦点レンズが増えており,多焦点レンズの処方の増加C10が期待される.C02003200620092012201520182021〈年〉■おわりに処方割合図3各国におけるトーリックSCLの処方割合の推移オーストラリア(AU)・日本(JP)・オランダ(NL)・英国(UK)・米国(US)の全CSCL処方におけるトーリックレンズの処方割合が示されている.日本のトーリックCSCLの処方割合は緩徐に増加傾向にあるが,他のC4カ国に比較すると低値である.(文献C3より一部改変)C■多焦点レンズ日本の多焦点CSCLの割合は緩徐に増加傾向にあるものの,SCL全体のうちC10%に満たないまま現在に至っており,諸外国に比較して低い値となっている1,2).また,45歳以上のユーザーに対する多焦点CSCLの処方割合も諸外国に比較して低く,老視の矯正手法として多焦点CSCLが選択されにくい状況にある.日本の多焦点SCLの処方割合の低さには,処方が面倒というイメー本稿と読者自身の処方状況とを照らし合わせることで,ご自身の処方を振り返り,今後の診療に役立てていただければ幸いである.文献1)MorganCPB,CEfronCN,CWoodsCCACetal:InternationalCcon-tactClensCprescribingCinC2003.CContactCLensCSpectrC19,C2004.Chttps://www.clspectrum.com/issues/2004/janu-ary-2004/international-contact-lens-prescribing-in-20032)MorganCPB,CEfronCN,CWoodsCCACetal:InternationalCcon-tactClensCprescribingCinC2021.CContactCLensCSpectrC37,C2022.Chttps://www.clspectrum.com/issues/2022/janu-ary-2022/international-contact-lens-prescribing-in-20213)MorganCPB,CEfronN:GlobalCcontactClensCprescribingC2000-2020.CClinExpOptom105:298-312,C2022

写真:画像鮮明化ソフトウェアのマイボグラフィ画像への応用

2023年2月28日 火曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦福岡秀記横井則彦465.画像鮮明化ソフトウェアの京都府立医科大学眼科マイボグラフィ画像への応用図1マイボグラフィ画像の鮮明化処理前(a)と処理後(b)鮮明化処理前には暗く不明瞭なマイボーム腺が,処理後は眼瞼中央だけでなく瞼縁近傍ならびに眼瞼の耳側,鼻側まで鮮明化されていることがよくわかる.図2マイボグラフィ画像(マイボーム腺脱落例)の鮮明化処理前(a)と処理後(b)鮮明化処理前はマイボーム腺が脱落していることが見えにくいが,処理後は確認できる.(73)あたらしい眼科Vol.40,No.2,2023C2110910-1810/23/\100/頁/JCOPYマイボーム腺は,上下眼瞼瞼板内にある皮脂腺であり,17世紀のドイツの医師HeinrichMeibomによって初めて詳細に記述され,彼の名にちなんで名づけられた1).マイボーム腺から分泌された脂質(マイバム)は,涙液層の最表層で涙液油層を形成し,その機能は液層の水分の蒸発抑制であると一般には考えられているが,まだ議論の多いところである.各腺の導管は眼瞼縁の皮膚側に開口している.マイバムの分泌は,導管の弾性と瞬目の際に働く眼輪筋(Riolan筋)の収縮による機械的な力によってなされる.涙液には,約C100種類以上の脂質,90種類以上の蛋白質や電解質が含まれており2),液層の水分や分泌型あるいは膜型ムチンとの相互作用により,涙液層の安定性が維持されている.前述のマイボーム腺を可視化する方法としてマイボグラフィがあるが,いくつかの方法がある.まずC1977年にCTapieらが考案した接触型マイボグラフィ3,4)である反転した眼瞼皮膚側より赤外光プローブにより直接可視化する方法である.また,非接触マイボグラフィ,生体共焦点顕微鏡,前眼部光干渉断層計などがある.画像鮮明化処理ソフトウェアとは,画像のオリジナリティを保持した状態でソフトウェア独自の処理を行うことで人間の眼に見えやすいように強調する技術である.具体的には,医療の分野以外では消防レスキュー隊の利用するカメラのほか,監視カメラの暗所・逆光・半逆光映像の鮮明化など,さまざまな領域で先に応用され,筆者らは眼科領域にもその有用性を報告してきた5).ドライアイ症例の涙液層破壊パターン6),超広角走査レーザー検眼鏡画像7),眼科手術動画8),フルオレセイン染色画像9)などである.図1aは上眼瞼を反転して非接触型マイボグラファーによって観察したマイボーム腺画像であり,不鮮明にしか写らなかった画像を選択している.全体的に暗く,とくに眼瞼の中央部のマイボーム腺しか観察できないが,図1bに示す鮮明化後の画像では,瞼縁部および眼瞼の左右の暗所部位が鮮明化され,全体的なマイボーム腺の走行部位が一目瞭然となった.また,鮮明化前には左右眼がわからないが,鮮明化後は皮膚や涙点の位置や眼瞼の形状から左眼であることがわかる.図2でも,処理前はマイボーム腺が脱落していることが見えにくいが,処理後は鮮明化され確認できる.画像鮮明化ソフトウェアにより所見の不明瞭な画像が明瞭になり,マイボグラフィ画像一般に有用であると筆者らは考えている.文献1)MeibomiusH:DeCvasisCpalpebrarumCnovisCepistola.CMuller,Helmstadt,16662)TsaiPS,EvansJE,GreenKMetal:Proteomicanalysisofhumanmeibomianglandsecretions.BrJOphthalmolC90:C372-377,C20063)TapieR:EtudeCbiomicroscopiqueCdesCglandesCdeCmeibo-mius.AnnOculistique210:637-648,C19774)YokoiN,KomuroA,YamadaHetal:Anewly-developedvideo-meibographyCsystemCfeaturingCaCnewly-designedCprobe.JpnJOphthalmolC51:53-56,C20075)福岡秀記,横井則彦,外園千恵:画像鮮明化処理ソフトウェアCSoftDEFの眼科画像に対する有用性の検討.あたらしい眼科C36:559-565,C20196)福岡秀記,横井則彦:画像鮮明化ソフトによる涙液層破壊パターンへの応用.あたらしい眼科35:785-786,C20187)山下耀平,福岡秀記,永田健児ほか:画像鮮明化処理ソフトウェアの超広角走査レーザー検眼鏡画像への有用性の検討.日眼会誌C126:574-580,C20228)青木崇倫,横井則彦:画像鮮明化装置CLISr-101の眼科手術動画への応用.あたらしい眼科37:443-444,C20209)福岡秀記:画像鮮明化ソフトのフルオレセイン画像への応用.あたらしい眼科40:61-62,C2023

強度近視のロービジョンケア最前線

2023年2月28日 火曜日

強度近視のロービジョンケア最前線TheForefrontofLowVisionServicesforHighlyMyopicPatientswithVisualImpairment世古裕子*はじめに強度近視では,近視性黄斑症,緑内障あるいは近視関連緑内障様視神経症,網膜.離などを合併すると視機能が低下し,重度の視覚障害に至ることもある.個々の合併症に対する治療法は進歩してきているが,治療を尽くしても視覚障害あるいはロービジョンという結果に至る例もある.視覚障害者のなかで強度近視はまれではない1).ロービジョンとは,視覚に障害があるため生活になんらかの支障をきたしている状態をさし,ロービジョンケアとは,そのような人に対する医療的,教育的,職業的,社会的,福祉的,心理的等すべての支援の総称である(日本ロービジョン学会HPよりURL1)).一方,視覚障害には,身体障害者手帳(以下,手帳)の等級に認定される矯正視力(以下,視力)や視野の基準がある.視覚障害認定基準にあてはまらなくてもロービジョンにあてはまる強度近視患者はロービジョンケアの対象となる.強度近視を伴うロービジョン患者へのケアは,他の疾患によるロービジョン患者へのケアと共通することが多い.Iロービジョンの強度近視患者の特徴高齢の患者が多いのがひとつの特徴である.国立障害者リハビリテーションセンター病院眼科ロービジョンクリニック(以下,当院)に受診した強度近視患者183名の年齢分布でも70歳代がもっとも多かった2)(図1).また,当院では,20歳以上の強度近視患者のうち62%に白内障手術の既往があり(経過中に進行し手術となった例を含む),無水晶体眼も少なからずみられた.強度近視患者では,視機能低下の原因は,近視性黄斑症,網膜ジストロフィ,緑内障,網膜.離などさまざまである.おおまかにみると,近視性黄斑症あるいは緑内障では初診時年齢が比較的高く(平均69歳),拡大読書器の訓練が比較的多く,網膜ジストロフィでは初診時年齢が比較的低く(平均53歳),遮光眼鏡の処方が比較的多いなど,病態によるケアの差がみられる2).ロービジョンクリニックを訪れる患者の訴えは,視力低下と中心視野障害による「見えにくさ」が中心である.また,羞明の訴えも多い.合併症は進行性であることが多く,ニーズも変化する.訓練対応の経過中,読み書き困難に対応して拡大読書器の選定を行った患者に対して,その後の進行によって白杖訓練も行うケースなどである.さらに,近視性黄斑症や緑内障を合併する強度近視患者では,進行程度に左右差がみられることが多い.片眼の視機能が著しく不良の患者では,数年の経過で視機能低下が両眼性に至り,「視覚障害」となった時点でさまざまな生活上の支障が生じる.近視性黄斑部脈絡膜新生血管が片眼に発症すると,8年経過後には約3割の症例が両眼性となるとも報告されている3).片眼を失明した緑内障患者では,良いほうの眼の視力が同程度のコントロールと比較して,抑うつ傾向が有意に強いことが報告されている4).良いほうの眼の視力が比較的良*YukoSeko:国立障害者リハビリテーションセンター研究所,病院第二診療部併任〔別刷請求先〕世古裕子:〒359-8555埼玉県所沢市並木4-1国立障害者リハビリテーションセンター研究所感覚機能系障害研究部0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(67)2055040302010090~図12011~2019年までに国立障害者リハビリテーション病院ロービジョンクリニックに受診した強度近視者183名(屈折度<-6.0D,または眼軸長≧26.5mm,または前医で強度近視と診断)の年齢分布2)患者数は加齢とともに増加していたが,70歳代よりはC80歳代で少なく,10歳代もやや多かった.患者数(人)<1010~20~30~40~50~60~70~80~年齢(歳)活用して情報提供をすることができれば,以降のロービジョンケアが円滑に進みやすいであろう.C2.ニーズの把握と保有視機能の評価すべてのロービジョンケアは,困りごとの聞き取り,傾聴から始まる.読み書きがしづらいとの訴えに対しては,テレビ,新聞,雑誌,あるいは通帳や値札,電車の運賃表など,困る場面も聞きとる.また,羞明の訴えも多いので,眩しくて困るのが屋外なのか屋内なのかなど,困る場面も聞きとる.保有視機能の評価では,通常の視力検査と視野検査に加え,最小可読視標,読書速度・臨界文字サイズ,偏心視域の機能などを適宜評価する.強度近視患者は,新聞や書物を読むとき,近づけて見ることによって網膜像を拡大する効果を得られるため,裸眼で近づけて見ることが多い.近見試視力表がどの距離でどのくらい小さい視標まで識別できるか(最小可読視標)を確認する.近見視力視標C0.5(視距離C12Ccm)のように記載する.最大読書速度・臨界文字サイズは,MNREAD-Jを用いて求めることができる.MNREADはミネソタ大学で開発された読書チャートであるが,日本語版としてCMNREAD-Jが小田によって開発され,iPadアプリもリリースされているURL4).得られる値は,読書用補助具の選定時に参考となる.中心視力が低下しても,偏心視域(preferredretinallocus:PRL)を使った偏心視によって中心視力を補って見ることができる場合がある.Amslerチャート,Humphrey視野計やCGoldmann視野計,眼底直視下微小視野計であるマイクロペリメーター(MP-3やCMacularCIntegrityAssessment(MAIA)などを用いて,中心視野の状態やCPRLの位置を把握する.C3.視覚障害にかかわる申請書類の作成手帳を取得することによって,補助具の購入や各種サービスへのアクセスに際して,患者負担は大幅に軽減される.手帳は,身体障害者福祉法に基づき,申請によって交付される.障害者総合支援法による障害福祉サービスの利用を希望する場合などには,法に定められた身体障害者であるという認定を受ける必要がある.この申請に医師の判定が必須となるため,クイック・ロービジョンケアとして申請書類の作成は重要である.一方,障害年金は手帳とはまったく別の制度であるが,患者の生活基盤にかかわるため,受給の制度を眼科医として知っている必要がある.手帳と障害年金の等級の基準にあてはまるかどうかを矯正視力と視野によって判断し,あてはまる場合には申請書を作成する.等級の判定には,視覚障害等級計算機URL5)はたいへん便利であるため紹介したい.当院では,強度近視患者のC86%が手帳の基準に該当していた2).眼科医が書く書類は,手帳については身体障害者診断書・意見書(視覚障害用),障害年金については診断書(眼の障害用)・確認届である.診断書では,その傷病名について初めて医療機関を受診した日が重要となるため,初診医の診断書や受診状況等証明書などの初診日証明書類はとても重要となる.障害年金については令和C4年C1月C1日に改正が行われ,両眼の視力の和ではなく,両眼それぞれの視力で判定するようになり,視野の判定に自動視野計の結果を使用できるようになった.強度近視のロービジョン患者ではこの改正によって等級変更に該当する場合もあるため要確認である.片眼だけが視力不良の場合でも受給できるケースもある.社会保険労務士への相談も選択肢のひとつである.C4.屈折矯正と偏心視の獲得強度近視患者は,ロービジョンクリニックを受診する時点ですでに眼鏡をもっていることが多いが,あらためて,遠方,近方,遠近,中近などの眼鏡処方を行うことは非常に多い.強い凹レンズを装用することによる像の縮小効果(たとえば.10.00Dの凹レンズ装用では約C12%縮小)があるため,自覚的屈折検査の際には,頂間距離にも注意する.変性近視のほとんどは軸性近視であるため,前焦点である角膜からC15Cmmの距離にレンズを置くと網膜像の縮小効果が少なくなる(Knappの法則).眼鏡処方の際には,15Cmmで測定した場合には処方箋の備考欄に頂間距離を指定する6).コンタクトレンズでは像の縮小効果がなく,眼鏡装用下よりも矯正視力が良好なことが多い.また,コンタクトレンズと補装具とを組み合わせ(69)あたらしい眼科Vol.40,No.2,2023C207表1ロービジョンエイドの処方状況(年齢別,合併症別)(年齢別)20歳未満C20.75歳C75歳以上年齢(10人)(129人)(44人)拡大鏡5人76人31人単眼鏡7人11人3人拡大読書器1人55人31人タブレット1人13人2人遮光眼鏡5人77人28人白杖1人21人5人(合併症別)網膜ジストロフィ緑内障Cand/or近視性黄斑症(49人)(115人)拡大鏡15人61人単眼鏡2人9人拡大読書器17人62人タブレット5人8人遮光眼鏡37人42人白杖13人14人各エイドについて,すでに保有あるいは新規に選定した患者数.ことも多く,その際には術後屈折値について提案させていただくことが多い.強度近視眼の白内障手術では,術後屈折値の設定には注意を要する.もともと新聞や書物を裸眼で近づけて見ることに慣れているため,近視寄りを狙うのがよいとの報告が多い.正視眼を狙った場合,あるいは通常の近方狙いで.3.00Dを狙った場合でも,すでに眼底病変が進行している患者では術後まもなく眼底病変が再度進行してロービジョンになると,不満足度は高く,補助具が必要になることが多い9).そのため,当院から白内障手術目的で紹介する際には,術前の屈折度と同程度の近視寄りを狙った術後屈折値を提案させていただくこともある.しかし,比較的若年で核白内障が進行する例などでは,視力の長期的な予後の見きわめはむずかしく,変性(病的)近視患者にとって,なるべく長期にわたって,比較的高い満足度が得られる術後屈折値の基準が求められている.C7.その他のロービジョンケア強度近視患者は,見えにくさや羞明を訴えてロービジョンクリニックを訪れることが多い.しかし,読み書きの手助けをする対応を続けているうちに,病変が進行し,白杖が必要となる例も散見される.歩行訓練,すなわち白杖使用の練習は,スマートサイトを活用し,専門の教育を受けた経験豊富な歩行訓練士(用語解説参照)が所属する専門施設に依頼することもできる.また,同行援護(用語解説参照)などの障害福祉サービスも利用できることがある10).また,40歳代など比較的若年の働き盛りにロービジョンとなることもある強度近視では,就労継続にかかわる支援も重要である.視機能低下に伴い,以前はできていた仕事が次第にむずかしくなって困難を感じている患者に対して,できる限り辞めずに働き続けることができるよう調整を試みる.事業所と労働者が共同して作成した「勤務情報を記載した文書」を元に指導を行い,「病状,治療計画,就労上の措置に関する意見書」を発行することにより,療養・就労両立支援指導料として,ロービジョン検査判断料の算定に加えて算定することができる場合もある(難病である網膜色素変性を合併する場合など).さらに,心理面でのサポートも重要なロービジョンケアである.強度近視のCqualityoflife(QOL)を調査した結果,強度近視患者のCQOLには,眼の将来への不安,疾患の受容,憂鬱感,心の支え・生き甲斐といった心理状態を反映する項目が強く関与していることが示されている11).視覚障害に詳しい臨床心理士などの専門職につなぐことができれば理想であるが,そのようなサポートは制度として立ち遅れている.眼科医が患者の読み書きや移動についての困りごとを傾聴し気にかけるだけでも,患者の不安な心が軽くなることもある.CIIIロービジョンケアの例【例C1】初診時年齢C50歳代前半,男性.両眼の矯正視力は(0.09).コンタクトレンズを装用.両眼ともに軽度の白内障(+).視線をずらして見る習慣があったが,中心視では,両眼ともに(0.01p).眼軸長は,右眼C33.1mm,左眼C33.2Cmm.緑内障に対して点眼治療中.両眼ともに近視性黄斑変性.対応C1:身体障害者手帳C1級,障害年金C1級を申請.対応C2:ルーペの選定.対応C3:遮光眼鏡の処方.対応C4:拡大読書器の選定.対応C5:パソコン訓練.白黒反転などを指導.便利グッズとして,タイポスコープを紹介(架空症例).【例C2】初診時年齢C70歳代前半,女性.矯正視力は,右眼(0.04),左眼(0.15).両眼底ともに近視性網脈絡膜萎縮性病変あり.両眼ともに眼内レンズ挿入眼.緑内障に対して点眼治療中.対応C1:身体障害者手帳C2級申請.対応C2:遮光眼鏡の処方.対応C3:スタンプルーペを処方.対応C4:介護保険の申請.対応C5:日常生活訓練として,コインと紙幣の見分け方を指導.対応C6:白杖操作の指導を開始.対応C7:初診からC3年後,矯正視力が,右眼指数弁,左眼(0.05)となり,iPhoneでの音声アプリ,デイジー(digitalCaccessibleCinformationsystem:DAIGY)図書,プレクストークなどを紹介・指導.対応C7:内斜視に対してオクルーダーを検討.(架空症例)CIVまとめ強度近視の合併症の治療は進歩してきているが,ロー(71)あたらしい眼科Vol.40,No.2,2023C209■用語解説■補助具:身体機能の障害を補い,日常生活または社会生活を容易にし,自立と社会参加を可能とするための道具や手段などの総称.補装具:失われた身体機能を補完,代替する用具.視覚障害関連では,眼鏡,義眼,視覚障害者安全杖(つえ)などがある.障害者総合支援法に基づいて給付され,給付に際しては,専門的な知見(医師の判定書または意見書)を要する.日常生活用具:障害者や難病患者などが日常生活を円滑に過ごすために必要な用具.視覚障害対象では,拡大読書器,点字ディスプレイ,音声時計,音声式体温計などがある.障害者総合支援法に基づいて利用できるサービスのひとつである.歩行訓練士:視覚障害生活訓練等指導者ともよばれる.ロービジョン患者が白杖(視覚障害者安全つえ)を用いて安全に歩行できるよう,歩行訓練を行うほか,点字やパソコンを含む,日常生活に必要な動作・技能を指導する専門職.同行援護:視覚障害により,移動に著しい困難を有する障害者などにつき,外出時において,当該障害者等に同行し,移動に必要な情報を提供するとともに,移動の援護その他の厚生労働省令で定める便宜を供与することをいう(障害者総合支援法第C5条C4).障害福祉サービスのひとつである.-

成人の近視と長期予後 強度近視眼の緑内障:特徴と実際,そして 治療の可能性

2023年2月28日 火曜日

成人の近視と長期予後強度近視眼の緑内障:特徴と実際,そして治療の可能性ThePathogenesisofGlaucomatousVisualFieldDefectsandTheE.ectivenessofIOPLoweringTherapyinHighlyMyopicEyes吉田武史*はじめに日本を含む東アジア諸国を中心に,全世界において近視患者数は急速に増加している.そのなかでも深刻な視力・視野障害に至るさまざまな疾患をしばしば合併する強度近視患者の増加は大きな社会的懸念となっている1~3).強度近視の本態は眼球の過度な延長(眼軸延長)による極端な近視化であり,一般的に眼軸長C26.0Cmmを超えるものを強度近視とすることが多い.強度近視に合併するさまざまな合併症のなかでも,頻度が多く,かつ病状がもっとも深刻なものの一つが緑内障様視野障害である.近年の近視患者の増加に伴い,強度近視患者数の増加は必然であるため,強度近視眼における緑内障様視野障害の重要性は日に日に高まっている.通常,緑内障の診断と進行の判断には光干渉断層計(opticalCcoherencetomogoraphy:OCT)や視野検査を用いることが一般的であるが,強度近視眼,とくに眼軸長C30Cmmを超えるような場合ではCOCTの評価は機能せず,視野検査による評価が主体となることが多い.しかし,実際に強度近視眼で視野異常が疑われる患者に視野検査を行うと,通常の緑内障症例とは異なる視野パターンを示すことが少なくない.これは眼科医にとって診断や治療方針を困難にする一因となっている.通常の緑内障の視野障害パターンは,Bjerrum領域の暗点,鼻側階段であるが,強度近視眼ではそれらに加えて耳側周辺部欠損型や耳側と鼻側の両側周辺部欠損パターンを示すひょうたん型とよばれるものや,通常の緑内障ではほとんどみられない中心視野から欠損してくる中心視野障害型がみられる4)(図1).このなかでも中心視野から欠損するパターンでは初期から深刻な視力低下に直結し,生活が困難になるケースがあるため要注意である.さらに,近視が進むと視神経乳頭周囲の近視性コーヌスの形成と視神経乳頭そのものも眼軸が伸びた方向に引き伸ばされ変形するが,とくに強度近視眼では顕著であり,視神経乳頭形状のバリエーションは個人差が大きく決まったパターンがないこと,引き伸ばされた視神経乳頭では陥凹所見が曖昧になるため(図2)評価がきわめてむずかしく,視神経乳頭の所見だけでは視野異常の有無やパターンを読みとくのは非常にむずかしく,視野異常のパターンと視神経乳頭所見に整合性がつかないことが多いことは診療するうえでもっとも悩ましい点である5).また,近視は緑内障様視野障害の発症リスクであることはこれまでに報告されているが,進行のリスク因子かどうかについては明らかにはなってない.この理由は現在まで明らかにはされていないものの,近視眼で緑内障と診断されたなかに,一定の進行を認めたあとに進行が止まる症例があることがCSawadaら6)によって報告されていることから,強度を含む近視眼では通常の眼圧依存性の視野障害以外の因子が働いていることが示唆される.筆者は近視の本態である眼軸延長に原因があるので*TakeshiYoshida:東京医科歯科大学先端視覚画像医学講座〔別刷請求先〕吉田武史:〒113-8519東京都文京区湯島C1-5-45東京医科歯科大学先端視覚画像医学講座C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(61)C199図1強度近視眼に生じる緑内障様視野障害パターンa:緑内障型(Humphrey視野C30°).b:中心視野障害型(Humphrey視野C30°).c:周辺部視野障害型(Goldmann視野).図2強度近視眼における視神経乳頭形状形状は多種多様であり,陥凹所見ははっきりしない.乳頭所見から視野異常を予測するのは非常にむずかしい.図3強度近視眼における局所篩状板欠損a:眼底写真(右眼).b:Humphrey10°視野,乳頭黄斑線維束に一致する中心視野障害を認める.Cc,d:乳頭の水平断COCT画像(c)と篩状板部の拡大写真(d).白線:篩状板前面と後面.黄色線:篩状板が強膜側からはずれているために低信号領域として描出されており,局所篩状板欠損の所見である.進行停止図4強度近視眼に生じた中心視野障害型緑内障様視野障害の自然経過経過中に視野障害は自然停止したものの,その時点で大幅な感度低下に至っている.-

成人の近視と長期予後 近視性牽引黄斑症管理の最前線

2023年2月28日 火曜日

成人の近視と長期予後近視性牽引黄斑症管理の最前線FrontLineTreatmentsfortheManagementofMyopicTractionMaculopathy浦本賢吾*I近視性牽引黄斑症2015年の病的近視の国際メタ解析スタディ(Meta-AnalysisforPathologicMyopiastudy:META-PM)において,病的近視は「びまん性萎縮以上の萎縮性変化を眼底に有する,もしくは後部ぶどう腫を有する」眼であると明確に定義された1).病的近視では眼軸の延長や後部ぶどう腫に伴い,さまざまな病変が生じる.1999年に近視に伴う網膜分離症が初めて報告され,病的近視の主要な合併症の一つとして認識されるようになった2).一方で近視性牽引黄斑症は,強度近視眼にみられる牽引によって引き起こされる黄斑部網膜障害の総称であり,眼軸延長に伴う網膜の機械的伸展と硝子体による網膜の牽引により生じると考えられている.近視性牽引黄斑症は,病的近視眼底変化に加えて,①黄斑前膜,②硝子体黄斑牽引,③200μm以上の中心窩網膜の肥厚,④網膜分離,⑤網膜.離,⑥黄斑分層円孔のうち,いずれか一つを認めることによって診断される3).このため網膜分離症は近視性牽引黄斑症の疾患概念の一つとされている.網膜の分離は,外網状層,内網状層,内境界膜(innerlimitingmembrane:ILM)と神経節細胞層の間で起こるといわれている.網膜外層の分裂は,おもにMuller細胞と考えられる柱状構造で構成されている4).強度近視眼729眼を調べた研究では,網膜分離症は全例が外層の網膜分離を呈しており,そのうち3割が内層の網膜分離を合併していた.また,729眼のうち66%が後部ぶどう腫を合併しており,19%が網膜分離症を合併していた5).後部ぶどう腫の強度近視患者の9~34%に網膜分離症が認められるとの報告2)もあり,網膜分離症と後部ぶどう腫は関連性が高いと考えられる(図1).II後部ぶどう腫の影響後部ぶどう腫は病的近視の病態の最大の特徴の一つであり,「周囲の眼球壁の曲率半径よりも明らかに小さい曲率半径を有する後極部眼球壁の突出」と定義されている6).Ohno-Matsuiら7)は,オプトス画像と3D-MRIによる画像解析を組み合わせ,後部ぶどう腫の新分類を提唱した(I型が黄斑広域型,II型が黄斑限局型,III型が乳頭周囲型,IV型が鼻側型,V型が下方型,それ以外がその他).後部ぶどう腫を有する病的近視眼の中で,もっとも多い後部ぶどう腫のタイプは黄斑広域型で74%,ついで黄斑限局型(14%)であった8).また,病的近視眼の約半数の症例が後部ぶどう腫を有しておらす,MRIで樽型形状を示していた6).さらに後部ぶどう腫のない眼は,後部ぶどう腫のある眼に比べて視力が有意に良好で,限局性脈絡膜萎縮や近視性黄斑部新生血管の有病率が有意に低く,後部ぶどう腫の形成が病的近視眼の視機能に著しい悪影響を及ぼす要因であることが示されている.*KengoUramoto:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕浦本賢吾:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(55)193図1網膜分離症と後部ぶどう腫a:眼底写真.アーケード周囲にぶどう腫エッジが認められる.Cb,c:3D-MRIによる画像解析像.ぶどう腫がより明快に描出されている.d,e:OCTの水平断(d)と垂直断(e).S3の網膜分離が認められる.図2OCT所見による網膜分離症の分類上段がCOCTの水平断・下段が垂直断.b図4病的近視による黄斑円孔と黄斑円孔網膜.離a:全層黄斑円孔(FTMH).b:黄斑円孔網膜.離(MHRD).図3網膜分離から黄斑部網膜.離合併への増悪進行a:黄斑部の網膜外層の乱れ・厚みの上昇(stage1).Cb:外層分層黄斑円孔と小さな網膜.離(stage2).c:網膜.離を覆う柱状構造の水平方向への拡大と,外層分層円孔の垂直方向への拡大(stage3).d:外層分層円孔の端が網膜内層に達するまで拡大(stage4).図5内層分層黄斑円孔の増悪進行過程(変性型)a:後部硝子体皮質による牽引()によるCILMHと網膜分離症を認める.Cb:で示す部分に黄斑部網膜.離が発生.c:さらに増悪し,全層黄斑円孔に至っている().図7EMSSRDの代表症例丈の高い網膜分離を認め,黄斑部分のCcolumn構造は過疎化・消失しており(),黄斑円孔網膜.離のようにみえるが,網膜色素上皮上に薄い網膜外層が残存している().図6Fovea-sparinginternallimitingmembrane(ILM)peeling(FSIP)–

成人の近視と長期予後 近視性黄斑症管理の最前線

2023年2月28日 火曜日

成人の近視と長期予後近視性黄斑症管理の最前線CurrentStrategiesfortheManagementofMyopicMaculopathy塩瀬聡美*はじめに近年,世界的に近視人口は増加しており,とくにアジア諸国では,若年成人の90%が近視であるといわれている.変性近視は視力障害の2位(Beijingスタディ)や,近視性黄斑変性は失明原因の上位(多治見スタディ)など,近視が視力障害の重要な原因であることは多数報告されている.しかし,すべての近視が矯正視力を障害するわけではなく,「矯正視力の低下を起こすもの」=「病的近視」であり,そのなかでも失明の原因となる病態は,おもに近視性黄斑症,近視性視神経症,近視性牽引黄斑症である.本稿では,これらのうち「近視性黄斑症」についてとりあげる.I病的近視とは病的近視とは,遺伝・環境などから発生する進行性の眼球延長によって,さまざまな合併症を生じ,矯正視力の低下をきたすものである.従来,その定義は,屈折値や眼軸長をもとになされ報告されてきたが,強度近視であっても必ずしも合併症,視力障害をきたすとは限らず,病的近視に対する適切な定義が必要となっていた.国際的に統一した基準を定める目的で行われた2015年の病的近視の国際メタ解析スタディ(Meta-AnalysisforPathologicMyopiastudy:META-PM)において,はじめて「病的近視」=びまん性萎縮以上の近視性黄斑症を有する近視,もしくは後部ぶどう腫を有する近視,と定義された1).II近視性黄斑症とは近視性黄斑症は近視に伴う網脈絡膜病変であり,前述のMETA-PMにおいて,定義,明示された(図1).長期経過においてカテゴリー0からカテゴリー4へと進行していく.またどのカテゴリーの段階においても生じる病変がプラス病変で,カテゴリー2以上とプラス病変が病的近視の定義に入る.III近視性黄斑症の有病率久山町研究によると,わが国での近視性黄斑症の有病率は40歳以上の1.7%であった.また,有病率は2005年,2012年,2017年にかけて徐々に増加しており,40代,50代,60代,70代と,加齢とともに増加することが報告されている2).IV近視性黄斑症の分類1.びまん性萎縮(カテゴリー2)初期は視神経周囲がメインの黄色調の萎縮(乳頭周囲びまん性萎縮)だが,進行すると後極全体に萎縮が広がる(黄斑に及ぶびまん性萎縮).光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)で観察すると,脈絡膜は非常に菲薄化しているが,びまん性萎縮だけで視力は障害されず,維持していることが多い.FangらはsweptsourceOCTを用いて,乳頭周囲びまん性萎縮の目安を中心窩から3,000μm鼻側の脈絡膜厚<56.5μm,*SatomiShiose:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕塩瀬聡美:812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(45)183category0近視性黄斑症なしcategory1紋理眼底病的近視mentepithelium:RPE)や視細胞も消失する.この病変が中心窩に及べば黄斑部萎縮(カテゴリー4)となり,高度の視力障害を起こすが,この病変自体は通常,黄斑部から離れる方向に拡大癒合するので,黄斑部に及ぶことは少ない4).3.黄斑部萎縮(カテゴリー4)①限局性萎縮(カテゴリー3)が拡大・癒合し黄斑部に至るもの,②硝子体手術後,③近視性黄斑新生血管(macularneovasculalization:MNV)の萎縮期,などの成因による黄斑部萎縮がある.①の限局性萎縮は,通常,黄斑から離れる方向に拡大し,黄斑部に至ることはまれとされているので,病的近視眼の黄斑部萎縮はほとんど③の近視性MNV関連の黄斑部萎縮である.4.プラス病変a.Lacquercracks眼軸延長に伴ってBruch膜が線状,機械的に断裂することで起こる眼底の黄色線状病変である.新しいlac-quercracksが生じると単純型黄斑部出血を伴うことがある.眼底は紋理眼底か軽度のびまん性網脈絡膜萎縮であることが多い.OCTではRPEの断裂および深部信号の増強を認める.b.Fuchs斑近視性MNVの萎縮期に形成される色素沈着を伴った瘢痕萎縮病巣である.病的近視眼の5.10%にみられ,MNVがBruch膜の断裂を通ってRPE下に伸展し,漿液性か出血性のRPE.離を起こし,線維瘢痕化したものである.MNVが黄斑近傍に発生しやすいため,Fuchs斑も同部位に発生し,急速に黄斑萎縮に至って視力を障害する.c.近視性MNV病的近視に合併する脈絡膜新生血管である.外来で近視に合併するMNVは時折みかけるが,すべてが近視性MNVではなく,紋理眼底(カテゴリー1)や萎縮のない(カテゴリー0)MNVは,定義上は近視性MNVではない.近視性黄斑症のカテゴリー3である限局性萎縮やlacquercracksから生じることもある.近視性黄斑症の分類ではプラス病変の一部であるが大変重要な病態である.なぜなら,カテゴリー2,3の近視性黄斑症のみでは基本的に中心視力は下がらず,高度の中心視力障害はカテゴリー4の黄斑部萎縮であること,そして,そのほぼ92.7%の原因が近視性CNVであることをFangらが報告しているからである3).ここからは,この近視性黄斑症のなかで視力低下に直結する「近視性MNV」について詳しく述べる.V近視性MNV1.近視性MNVの発症病的近視の10%に5),強度近視者の5.2.11.3%に6),一般住民の0.1%に発症し2),50歳以下の若年MNVの62%を占める7)と報告されている.平均8年で反対眼に35%発症し8),強度近視眼発症MNVの15%が両眼性である6)といわれているため,患眼のみならず反対眼のチェックも定期的に行うことが大変重要である.2.近視性MNVの発症機序近視性MNVの発症機序には機械的因子と遺伝的因子がかかわっているとされている.遺伝的因子については,MNV拡大に関する遺伝子の報告はあるものの,血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)遺伝子を含めて,発生に関するはっきりした遺伝子は同定されていない.機械的因子について,もっとも有力とされているのは眼軸延長をベースとする説である.近視眼は眼軸が延長することで,RPE,Bruch膜脈絡膜が菲薄になり,脈絡膜,網膜外層が虚血に陥り,血管形成因子と抗血管形成因子とのバランスが崩れる.これに加えて眼球が引き伸ばされることでBruch膜に裂け目が生じると,その治癒反応としてその穴を通じて網膜下に新生血管ができる,という説である9).近年,このMNVは加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegen-eration:AMD)でみられるような脈絡膜血管由来ではなく,強膜を貫通した短後毛様動脈由来ではないかと報告されている10).3.近視性MNVの診断(気をつけるポイント)a.眼底AMDのMNVに比べて非常に小さな灰白色の病変で(47)あたらしい眼科Vol.40,No.2,2023185図2中心窩外の近視性黄斑新生血管(MNV)a:84歳,女性.左眼歪視で近医を受診したが,異常がないといわれ脳外科を紹介された.脳に異常がないのでやはり眼科ではないかといわれて脳外科から当院を紹介され受診した.視力(1.0).b:OCTで黄斑は一見,問題なさそうにみえる.Cc:造影検査を行うと黄斑の上方から蛍光が漏出していた(.).d:OCTAでも黄斑上方に血管構造がみられ(),近視性CMNVとして治療を開始した.図3単純型黄斑部出血a:35歳,女性.右眼中心暗点で受診.視力(0.8).黄斑に出血がみられる(.).b:OCTで黄斑下の隆起がみられる().c:FAで蛍光漏出はなく,インドシアニングリーン蛍光造影で出血近傍に線状の低蛍光のCBruch膜の断裂(lacquercracks,.)がある.断裂に伴った単純型黄斑部出血と考えられた.Cd:OCTAでは血管構造がみられない.Ce:経過観察にて,1カ月後には出血は自然消退し,自覚も消失した.図4抗VEGF薬投与後の近視性黄斑分離症a~c:45歳,女性.右眼近視性CMNVに対し,抗CVEGF薬をC1回投与した.視力(0.7C×sph.17.0Ccyl.0.5Ax170°).d~f:治療開始C5カ月後.FA,OCTで近視性CMNVは消失しているが,網膜分離が増悪している.その後,視力(0.5)に低下してきたため硝子体手術を施行した.眼底・FA・OCT・OCTAによる評価近視性MNV+近視性MNV-図5近視性MNVの治療ガイドライン(文献C22より改変引用)近視性CMNVのC5年成績を報告した(第C4回日本近視学会)が,いったん有意に改善した視力はC5年間維持できていたものの,徐々に治療前視力との有意差が減少していった.大石ら23)を含む他の報告でも,治療開始C3年までの視力は有意に改善していたが,4年目から視力の有意差はなくなったと述べられている.長期経過後の視力と関連ある因子については,治療前視力,MNVの面積,高齢であることなどのほかに,黄斑部の萎縮の拡大があげられており,ほとんどの報告で長期期間中に萎縮面積が拡大していくと述べられている.佐柳ら24)は,治療C1年後の経過ではあるが萎縮の拡大にはアフリベルセプト,ラニビズマブという薬剤間の有意差はなかったと報告している.さらに長期の経過の報告が待たれる.萎縮の拡大との関連因子としては投与回数,MNVの位置,MNVの面積などが報告されているものの,関連因子はないという報告もあり,明らかなコンセンサスは得られていない.随時,治療眼を自発蛍光で観察しながら,萎縮の経過を追うことが大切である.近年,この萎縮はただの網脈絡膜の萎縮だけでなく,Bruch膜の穴であることが示された25).つまり,強膜の伸展によって,穴が拡大していくことが黄斑部萎縮拡大の問題である.この萎縮に対する治療が,今後の近視性CMNV治療の視力予後を改善していくために必要と思われる.おわりに近視性黄斑症の疫学やイメージングの報告は相次ぎ,病態は少しずつ解明されている.一方,新生血管に対する治療は確立しているものの,病的近視に特異的な眼球の機械的構造の変化とそれに伴う萎縮の進行に対する治療はない.近視性黄斑症の長期マネージメントにおいて,これらに対する治療の確立こそ,患者,そして眼科臨床医が切望しているところであろう.病的近視の患者,近視性CMNVを発症した患者は大きな不安をかかえて病院を受診する.とくに若年患者はインターネットで近視性CMNVを検索し,「失明」の文字をみつけて,ナーバスになって頻繁に来院する.現状では,そのような患者に自覚症状が出てすぐ治療をすれば,ある程度急速な視力低下は防げることを伝え,患者の自覚に耳を傾けて適切な治療を提供することが大切である.文献1)Ohno-MatsuiK,KawasakiR,JonasJBetal:Internationalphotographicclassi.cationandgradingsystemformyopicmaculopathy.AmJOphthalmolC159:877-883,C20152)UedaE,YasudaM,FujiwaraKetal:Trendsintheprev-alenceCofCmyopiaCandCmyopicCmaculopathyCinCaCJapanesepopulation:TheCHisayamaCStudy.CIOVSC60:2781-2786,C20193)FangCY,CDuCR,CNagaokaCNCetal:OCT-basedCdiagnosticCcriteriaCforCdi.erentCstagesCofCmyopicCmaculopathy.COph-thalmologyC126:1018-1032,C20194)FangY,YokoiT,NagaokaNetal:ProgressionofmyopicmaculopathyCduringC18-yearCfollow-up.COphthalmologyC125:863-877,C20185)HayashiCK,COhno-MatsuiCK,CYoshidaCTCetal:Long-termCpatternCofCprogressionCofmyopicCmaculopathy:aCnaturalChistorystudy.OphthalmologyC117:1595-1611,C20106)WongTY,FerreiraA,HughesRetal:Epidemiologyanddiseaseburdenofpathologicmyopiaandmyopicchoroidalneovascularization:anevidence-basedsystematicreview.AmJOphthalmolC157:9-25,C20147)CohenSY,LarocheA,LeguenYetal:Etiologyofchoroi-dalCneovascularizationCinCyoungCpatients.COphthalmologyC103:1241-1244,C19968)Ohno-MatsuiCK,CYoshidaCT,CFutagamiCSCetal:PatchyCatrophyCandClacquerCcracksCpredisposeCtoCtheCdevelop-mentCofCchoroidalCneovascularizationCinCpathologicalCmyo-pia.BrJOphthalmol87:570-573,C20039)WongTY,Ohno-MatsuiK,LevezielNetal:Myopiccho-roidalneovascularization:CurrentCconceptsCandCupdateConCclinicalCmanagement.CBrCJCOphthalmolC99:289-296,C201510)IshidaCT,CWatanabeCT,CShinoharaCKCetal:PossibleCcon-nectionofshortposteriorciliaryarteriestochoroidalneo-vascularizationsineyeswithpathologicmyopia.BrJOph-thalmol103:457-462,C201911)YoshidaCT,COhno-MatsuiCK,CYasuzumiCKCetal:MyopicCchoroidalneovascularization:aC10-yearCfollow-up.COph-thalmologyC110:1297-1305,C200312)Ohno-MatsuiCK,CItoCM,CTokoroT:SubretinalCbleedingCwithoutchoroidalneovascularizationinpathologicmyopia.ACsignCofCnewClacquerCcrackCformation.CRetinaC16:196-202,C199613)FarinhaCCL,CBaltarCAS,CNunesCSGCetal:ChoroidalCthick-nessCafterCtreatmentCforCmyopicCchoroidalCneovasculariza-tion.EurJOphthalmolC23:887-898,C201314)WolfCS,CBalciunieneCVJ,CLaganovskaCGCetal:RADI-ANCE:aCrandomizedCcontrolledCstudyCofCranibizumabCinCpatientsCwithCchoroidalCneovascularizationCsecondaryCtoCpathologicmyopia.OphthalmologyC121:682-692,C201415)IkunoCY,COhno-MatsuiCK,CWongCTYCetal:IntravitrealCa.iberceptinjectioninpatientswithmyopicchoroidalneo-190あたらしい眼科Vol.40,No.2,2023(52)-

学童近視の進行予防外来最前線 小児の近視に対するレッドライト治療

2023年2月28日 火曜日

学童近視の進行予防外来最前線小児の近視に対するレッドライト治療RedLightTherapyforMyopiaControlinChildren五十嵐多恵*はじめに長波長の可視光線である赤色光が,高い近視進行予防効果を有することを示す論文が発表されている1~3).中国では,可視光線を用いる光治療装置がC2008年から弱視治療装置として認可を受けて,中国国内の病院で使用されていた(図1).2014年に,この装置で用いられているC650Cnmの赤色光に,近視眼での過剰な眼軸長伸展を抑制する効果が偶発的に発見された.中国国内では,このレッドライト治療法に対する近視進行予防効果の知見が集積したことから,この光治療装置は弱視治療用だけでなく近視治療用としても中国の国家食品薬品監督管理局(ChinaCFoodCandCDrugAdministration:CFDA)に承認された.2019年以降,世界最大級の臨床試験登録・公開サイトであるCClinicalTraials.govには,レッドライト治療の,1)近視進行予防効果,2)近視発症予防効果,3)網脈絡膜循環へ与える影響,4)オルソケラとロジーとの併用効果,5)成人の近視に対する効果,などを検証する大規模な無作為化比較試験が次々と登録されており4),結果報告を待つ状態である.CIレッドライト治療の近視進行予防効果2021年から国際誌において,レッドライト治療の近視進行予防効果を検討した研究結果が掲載されるようになった.Xiongらは,229人の6~16歳の近視の小児を,単焦点レンズ(single-visionCspectacleClenses:SVL)群,オルソケラトロジー群,レッドライト治療群(650.nm/2図1光治療装置写真のような可視光線を用いる光治療装置は,2008年から弱視治療装置として認可を受けて,中国国内の病院で使用されていた.近視進行予防に用いる赤色光はC650Cnmの低出力レーザー光であり,自宅でC1回C3分C1日C2回,週C5回実施し,1回の治療間隔はC4時間以上あける必要がある.低濃度アトロピン点眼を使用中の瞳孔径が拡大した患者では使用してはいけないなど,注意事項を守って安全に実施することが必須である.(文献C2より引用)mW/1回C3分C1日C2回)のC3群にランダムに割り当て,眼軸長の経過をC6カ月モニターした1).わずかC6カ月の研究期間であり,近視進行予防治療としての有効性を評価するうえで十分な期間ではない.しかし,1回C3分C1日C2回,可視光である波長C650Cnmの低出力レーザーによる赤色光を覗く治療は,オルソケラトロジーによる眼*TaeIgarashi-Yokoi:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕五十嵐多恵:〒113-8519東京都文京区湯島C1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(41)C179ab眼軸長伸展量(mm)0.10.0-0.2-0.4-0.60.0-0.80123456789101112(月)0123456789101112(月)図2レッドライト治療の近視進行予防効果小児(8~13歳)の近視患者を対象とした中国の無作為化比較試験における,レッドライト治療群および単焦点眼鏡群(SVL群)の眼軸長(Ca)と屈折値(Cb)の変化(intentionCtotreat解析の結果).治療開始C1年後,SVL群の眼軸長伸展量はC0.38.mmであったのに対し,レッドライト治療群ではC0.13Cmmの伸展であった.また,SVL群の近視進行量はC.0.79Dであったのに対し,レッドライト治療群では.0.18Dの進行であった.(文献C2より引用)75CPhotobiomodulationNO↑IntermembranespaceMitochondrialmatrixFR/NIRTGF-b強膜線維芽細胞脈絡膜血流の増加↓強膜の酸素欠乏改善前駆細胞筋線維芽細胞図3レッドライト治療が近視化を阻害する分子的および細胞的機序(仮説)赤~近赤外領域光のもつフォトバイオモジュレーション(photobiomodulation:PBM)作用によって脈絡膜血流が増加し,強膜の酸素欠乏が改善するだけでなく,遊離一酸化窒素(NO)の増加や,TGF-b/Smad経路の活性化が強膜の酸素欠乏を改善する機序も考えられる.強膜の酸素欠乏が改善することで,強膜線維芽細胞の形質転換が阻害され,強膜のリモデリングが回復する,との仮説が立てられている.FR/NIR:赤~近赤外領域光,CCO:チトクロームCcオキシダーゼ(文献C5を一部改正)