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学童への眼鏡処方のタイミングと処方の留意点

2023年4月30日 日曜日

学童への眼鏡処方のタイミングと処方の留意点TimingandTipsforPrescribingSpectaclesinChildrenwithMyopia長谷部聡*はじめに表1文部科学省の視力判定区分ボストンの科学記者Dolginが「パンデミック」と称した近視人口の増加1)は,わが国も例外ではない.文部科学省の統計をみると,COVID-19に対する全国的な学級閉鎖や,黒板の代わりにタブレットを使う授業(GIGA構想)など,子どもを取り巻く視覚環境の激変により,近視人口の増加傾向はさらに加速しているようにみえる.一方,デフォーカス組み込み型(defocusincorpo-判定区分視力症状A1.0以上後ろの席から黒板の文字がよく見えるB0.9~0.7後ろの席から黒板の文字がほとんど見えるC0.7~0.3後ろの席では黒板の文字が見えにくいD0.3未満前の席でも黒板の文字が十分見えない2.0ratedmultiplesegments:DIMS)レンズなど特殊眼鏡0Dは近視進行速度を半減することが報告されており2),小1.0児の近視に対する関心はにわかに高まっている.こうした時代の流れを受け,日本弱視斜視学会,日本小児眼科学会,日本近視学会,日本眼光学学会,日本視視力-0.5D0.5能訓練士協会の5団体は合同で「小児眼鏡処方の手引き」が作成され,『日本眼科学会雑誌』に掲載される予定である.しかし,眼鏡処方の方法論については眼科医の間でも伝統や流派がみられ,必ずしも意見の一致がみられてないのが現状である.本稿では,近視眼鏡を中心に,眼鏡処方のタイミングと留意点について筆者の考えを述べる.I眼鏡処方のタイミングまず,古くから利用されている文部科学省の視力判定区分(表1)を考えてみる.ここでは,視力0.7以上ならば教室の後ろの席から黒板に書かれた文字が読める.-1D0.2-2D12345瞳孔径(mm)678図1瞳孔径と視力の関係(文献3より改変引用)つまり,視力0.7が眼鏡処方のタイミングを決める一つの目安となっている.また,視力0.3~0.7は,必要に応じて眼鏡を使用することになっているので,少なくとも眼鏡を持っておくべきであろう.しかし,この判定区分は,現象の一側面をみているに*SatoshiHasebe:川崎医科大学眼科学2〔別刷請求先〕長谷部聡:〒700-8505岡山市北区中山下2-6-1川崎医科大学眼科学20910-1810/23/\100/頁/JCOPY(35)467商品名1%アトロピン点眼液1%サイプレジン点眼液0.4%ミドリンP点眼液使用法1日3回3~5日間10分間隔で2回点眼点眼開始60分後5分間隔で2回点眼点眼開始30分後効果強力強力不完全持続時間10~15日1~2日3~6時間おもな副作用羞明,近見障害心悸亢進頭痛,発熱顔面紅潮羞明,近見障害心悸亢進羞明,近見障害図2調節麻痺薬の比較bc中和同行図3動的検影法による他覚的調節検査検者はレチノスコープ(R)と調節視標(T)を手に持ち,検眼に近づく.眼底反射が中和から逆行に変わる位置が,調節近点NPA(m)であり,その逆数が調節力(D)である.図は正視眼での検査を示す.中和bc中和逆行図4動的検影法による調節遠点(近視度数)の評価検者はレチノスコープ(R)と調節視標(T)を手に持ち,視標を見るように促しながら,ゆっくり検眼から遠ざかる.眼底反射が中和から逆行に変わる位置が調節遠点CFPA(m)であり,その逆数が近視度数(D)である.水平経線における評価を示す.中和まで逆行,そこではじめて中和がみられればC.5Dの近視である.ただし上記の情報は,スキャンを行う経線方向に限定される.つまり,スキャンの方向を変えて乱視の有無を調べる必要がある.ここが検影法の厄介な部分であるが,乱視度数に対する調節の影響は球面度数に比べて小さい.あらかじめ自動レフラクトメータ検査で一定の乱視があると考えられる場合には,得られた値をもとに円柱レンズで完全矯正を行い,検査用眼鏡枠の上から動的検影法を行うのも効率的である.CV患児や保護者に対する説明眼鏡装用を勧めるとき,患児や保護者の反応はさまざまである.弱視や斜視がみられる場合を除けば,眼鏡を装用しないことによって永続的な障害が起こるわけではない.最終的には眼鏡を作るかどうかの判断は患児や保護者の権利であり,自己責任である.提案はするが強制する必要ない.一般的に近視は成長とともに進行するため,こうした議論はやがて時間が解決してくれる.患児のなかには,裸眼視力が悪いにもかかわらず,「ちゃんと見えているので眼鏡は必要ない」と主張する場合も多い.近視による視力障害は緩徐に進むため,「見えにくさ」を実感できないためと思われる.このような場合は,「とりあえずよく見える眼鏡を持っておいて,必要なときだけ使用すればよい」と提案する.数カ月後,来院する頃には,眼鏡を上手に使いこなしているはずである.CVI経過観察-近視低矯正のスクリーニング近視眼鏡を使用する学童は,1年間に平均C.0.7Dの近視進行がみられ,なかにはC.1.5Dを超える児もまれではない7).眼鏡を処方したあとも定期的に経過観察を行い,眼鏡度数を確認することが望ましい.その目的にも動的検影法は有用である.手持ちの眼鏡を装着させ(オーバーレフラクション),同様に動的検影法を行う.距離C1Cmでスキャンを行い眼底からの反射光が中和のパターンを示せば,眼鏡には少なくてもC1Dを超える残余近視,つまり低矯正はないと判断できる.眼鏡視力が良好であれば,そのまま眼鏡を継続するよう伝える.もしC1Cmで逆行がみられれば,眼鏡にはC1Dを超える低矯正がある.50Ccmの距離でもなお逆行がみられれば,低矯正は.2Dを超えており,眼鏡を作り直す必要がある.CVII乱視矯正の考え方筆者が研修医の頃,つまり自動レフラクトメータが初めて登場した時代であるが,「乱視は,試し掛けの結果を参考にしながら,控えめに矯正するのがよい」と教わった.また「乱視軸がC90°またはC180°に近い場合,小角度の斜乱視であれば,これを無視してC90°またはC180°として眼鏡処方すべき」と指導された.しかし筆者は,とくに小児では,なるべく乱視は完全矯正をめざしている.第一の理由は,小児では感覚的順応力が強く,経線不等像視がもたらす空間感覚異常に速やかに順応できるためである.眼鏡レンズは角膜頂点から約C12Cmm前方に置かれるため,レンズ度数に応じてサイズ効果がある.これは球面レンズばかりでなく,円柱レンズでもみられる.図5は,円柱レンズ(凹レンズ)によるサイズ効果を示したものである.軸がC180°なら図形は上下に圧縮,軸がC90°なら水平方向に圧縮されて見える.興味深いのは軸が斜めの場合で,軸がC135°であれば,垂直線は反時計回転で傾斜,軸がC45°であれば,時計回転で傾斜して見える.像の歪は小さい(1.25%/D)が,歪み方が左右の眼で一致しないとき(経線不等像視),円柱レンズの度数や軸角度に応じて強い空間感覚の異常が生じることがある6).空間感覚異常には回転ドア感覚とスラント感覚のC2種類あり,通常,両者は混在する.それぞれ図6,7に,ステレオグラムとして例を示した.前者は,水平方向の経線不等像視によるもので,図形は中央の固視点を通る垂直線を軸として奥行き方向に傾斜して知覚される.後者は,斜め方向に直行する経線不等像視によるもので,図形は固視点を通る水平線を軸として奥行き方向に傾斜して知覚される.柱が傾いて見える,平坦な道路が坂道に見えるなどの異常感覚を引き起こし,経験的に成人では感覚的順応が起こりにくいことが知られている.この470あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023(38)図5円柱レンズ(凹レンズ)による画像の歪図6回転ドア感覚のステレオグラム寄り目で両眼視するとC3つの円が見える.中央の画像は奥行方向に傾斜して知覚される.たとえば右眼にC.2Dの円柱レンズを軸C90°,左眼にCplaneのレンズで処方する場合にみられる.図7スラント感覚のステレオグラム三つの円の中で中央の画像は,奥行方向に傾斜して知覚される.たとえば,右眼にC.2Dの円柱レンズを軸C45°で,左眼にC.2Dの円柱レンズを軸C135°で処方する場合にみられる.成人では順応がむずかしい.IX低矯正が必要な患児現実には,近視眼鏡を低矯正とすべき患児が一定数存在する.第一は,完全矯正眼鏡装用させた場合に,近見で内斜偏位が生じる患児である9).0.3Cmの距離に置いた調節視標をしっかり見せながら,交代遮閉試験を行えば判断できる.このような患児ではCAC/A比が高いため,近見に際して過度の調節性輻湊が起こる.次に生じた内斜偏位を代償するための融像性開散運動が起こり,輻湊性調節を介して調節が抑制される.像のボケを避けようとすれば複視が生じ,複視を避けようとすれば像はボケる.感覚的なコンフリクトにより眼精疲労が起こり,眼鏡に装用することが困難になる場合がある.このような患児では,意図的に低矯正眼鏡を処方するか,または累進屈折力眼鏡を処方するのがよい10).第二に,何らかの眼疾患により矯正視力が悪い(ロービジョン)患者があげられる11).低視力者では,たとえ焦点誤差が生じても,像のボケを認知しにくい.眼球の焦点深度(depthCoffocus:DOF)が広くなるとみなすことができる.DOFの範囲内では低矯正であっても遠見での視力低下が自覚しにくく,近視眼鏡は低矯正とすることができる.一方,矯正視力が低いと調節反応が低下するため,近業時に調節ラグが増大する.低矯正分だけ調節必要量は減るため,近見視力の改善が期待できる.第三は,自覚的・他覚的屈折検査のデータに大きなばらつきがみられ,検査の信頼性が乏しい場合である.固視不良や眼振が例としてあげられる.このような患児では,近視眼鏡を意図的に低矯正とすることで,過矯正に対する安全マージンを確保できる.乱視矯正の場合も,乱視軸データに大きなばらつきがみられる場合は,円柱度数を完全矯正すると,軸の誤差の程度に応じて強い残余乱視を作ることがある.軸の誤差がC30°を超えれば,円柱レンズの処方は逆に乱視を増やす方向に作用する.等価球面度数を一定に保ちながら(最小錯乱円を網膜上においたまま),円柱度数を減らすとよい.おわりに筆者は,診療の多忙を理由に,つい眼鏡処方を視能訓練士任せにすることがある.しかし,彼らによって提案された眼鏡処方箋が適切かどうか,診察室において,動的検影法を用いて最終確認することにしている.検影法は仕組みこそ単純であるが,調節検査に始まって斜視・弱視のスクリーニング,ひいては乳児の他覚的視力検査に至るまで,先人のさまざまなアイデアに満ちている.また,医師が直接,眼底反射の動きを眼で見て判断できる.ブラックボックスと化した自動レフラクトメータとは,別の意味で信頼できる検査法である.もしレチノスコープが引き出しの底に眠ったままになっているなら,小児の眼鏡処方に活用してはどうだろうか.文献1)DolginE:Themyopiaboom.NatureC519:276-278,C20152)LamCSY,TangWC,TseDYYetal:Defocusincorporat-edCmultiplesegments(DIMS)spectacleClensesCslowCmyo-piaCprogression:aC2-yearCrandomisedCclinicalCtrial.CBrJOphthalmol104:363-368,C20203)AtchisonCDA,CCharmanCWN,CWoodsRL:SubjectiveCdepth-of-focusCofCtheCeye.COptomCVisCSciC74:511-520,C19974)HunterDG:Dynamicretinoscopy:themissingdata.SurvOphthalmolC46:269-274,C20015)GuytonDL:Prescribingcylinders:theproblemofdistor-tion.SurvOphthalmolC22:177-188,C19776)ChungCK,CMohidinCN,CO’LearyDJ:UndercorrectionCofCmyopiaenhancesratherthaninhibitsmyopiaprogression.VisionResC42:2555-2559,C20027)HasebeCS,COhtsukiCH,CNonakaCTCetal:E.ectCofCprogres-siveCadditionClensesConCmyopiaCprogressionCinCJapanesechildren:aCprospective,Crandomized,Cdouble-masked,Ccrossovertrial.InvestOphthalmolVisSciC49:2781-2789,C20088)AdlerCD,CMillodotM:TheCpossibleCe.ectCofCundercorrec-tionConCmyopicCprogressionCinCchildren.CClinCExpCOptomC89:315-321,C20069)WallineCJJ,CLindsleyCK,CVedulaCSSCetal:InterventionsCtoCslowprogressionofmyopiainchildren.CochraneDatabaseSystRevC7:CD004916,C201110)HasebeCS,CNonakaCF,CNakatsukaCCCetal:MyopiaCcontrolCtrialCwithCprogressiveCadditionClensesCinCJapaneseCschool-children:baselinemeasuresofrefraction,accommodation,andheterophoria.JpnJOphthalmol49:23-30,C200511)BerntsenDA,SinnottLT,MuttiDOetal:ArandomizedtrialusingprogressiveadditionlensestoevaluatetheoriesofCmyopiaCprogressionCinCchildrenCwithCaChighClagCofCaccommodation.CInvestCOphthalmolCVisCSciC53:640-649,C2012C(41)あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023C473

眼科学校医の役割

2023年4月30日 日曜日

眼科学校医の役割RoleoftheOphthalmologistsinSchoolHealth近藤永子*はじめに学校医の職務にすべての眼科医がかかわっているわけではない.しかし,現在担当していなくても,若い先生の中にはいずれ学校医になったり,勤務医でも学校医の職務につくこともありえる.また,学校での健診後の精査は地域の病院やクリニックで行うので,学校において児童生徒に対して,どのような目的でどのような検査が行われているのかを知ることは,日ごろの診療のためにも大切なことである.すべての眼科医に学校医の役割と内容を理解してもらいたく,できるだけわかりやすく解説する.I学校医(眼科学校医)とは1.学校保健の歴史-健康診断の始まりと学校医設置現在の学校における健康診断の始まりは,明治11(1878)年まで遡る.当時児童生徒らの中に病弱な者やそれにより休学や死亡する者が多く,その対応策として西洋体操が取り入れられた.その効果判定の目的として行われた体格や体力の測定「活力検査」が健康診断の始まりといわれる.明治21(1879)年に視力,明治30(1897)年には眼疾が検査項目に加わり,明治31(1898)年に「学校医制度」が創設された.大正9(1920)年には,これまでの環境衛生第一から個々の児童生徒らの健康状態の把握・指導管理へと移行し,事後措置の規定が加わった.そして,昭和33(1958)年に「学校保健法」(現「学校保健安全法」)が制定され,「身体検査」が「健康診断」に改められた.そこで,学校保健全般にかかわる医療関係の専門職として,学校医,学校歯科医および学校薬剤師(総称して「学校3師」といわれる)について,その設置が法令で定められた(学校保健安全法第23条).その職務についても施行規則第22条で明確にされ,表1に眼科に関連づけたおもな職務を示す1).ちなみに学校保健に携わる医師は「学校医」とだけあり,とくに科を規定しているものではない.実際内科,小児科,眼科,耳鼻咽喉科などの医師がおもに携わっている.すなわち,法令上は「眼科学校医」という言葉はないのである.平成20~21年にかけて学校現場では,情報化,少子化など社会環境や生活様式の急激な変化に伴い,児童生徒らの健やかな成長のうえで,単に体だけでなく心の健康についても課題として認識されるようになった.これを受けて「学校保健法」が改訂され,新たな時代の学校保健,学校安全について定めた「学校保健安全法」が平成21年4月1日に施行された.なお,これら学校保健の変遷についての詳細は文献2の巻末資料を参照されたい.2.学校保健における学校医の役割前述のように学校保健の歴史は非常に古く,その時代に合わせて児童生徒らの健康増進を図ってきた公衆衛生の一つであり,地域医療の大きな柱となっている.新しい学校保健安全法においては,「養護教諭その他*NagakoKondo:眼科三宅病院〔別刷請求先〕近藤永子:〒462-0825愛知県名古屋市北区大曽根3-14-20眼科三宅病院0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(27)459表1学校医の職務学校保健安全法施行規則第22条第1項学校医(眼科)のおもな職務1.学校保健計画および学校安全計画の立案に参与すること学校保健委員会をはじめ,学校医(眼科)として次年度計画に対する要望を学校長に伝えておく.2.学校の環境衛生の維持および改善に関し,学校薬剤師と協力して,必要な指導および助言を行うこと教室の照度・照明,プールの衛生管理(塩素濃度,ゴーグルの使用,洗眼器),教室の机・椅子の選択,教室のICT化による視環境,運動場のラインに使用する炭酸カルシウム,色のバリアフリーなどについて必要な指導と助言を行う.3.法第8条の健康相談に従事すること視力,色覚をはじめ眼科に関連する健康相談日を設定する.眼科健診後の時間を利用してもよい.4.法第9条の保健指導に従事すること健診時にたとえばCLの装用指導をアドバイスすることもこれにあたる.また受診勧奨で受診した児童生徒らには事後措置として保健指導に配慮する.5.法第13条の健康診断に従事すること感染性眼疾患,その他外眼部疾患および眼位の異常等に注意する.6.法第14条の疾病の予防処置に従事すること感染症の予防と早期発見の方法を指導する.7.法第2章第4節の感染症の予防に関し必要な指導および助言を行い,並びに学校における感染症および食中毒の予防処置に従事すること感染症発生時には出席停止(法19条)と休業(法20条)の要否(規則19条)とその期間(規則20条)などについて指導助言する.8.校長の求めにより,救急処置に従事すること緊急時の電話による指導助言なども含めて,応需態勢をとっておく.9.市町村の教育委員会または学校の設置者の求めにより,法第11条の健康診断または法第15条第1項の健康診断に従事すること法11条は就学時の健康診断,法15条は職員の健康診断である.健康教育の場として活用する.10.必要に応じ,学校における保健管理に関する専門的事項に関する指導に従事すること学校保健委員会に出席して指導助言する.機会があれば児童生徒への講話,保護者への講演,教職員との懇談などを行う.(文献1より許可を得て引用)保健調査(アンケート)小学校,中学校,高等学校,高等専門学校…全学年幼稚園,大学…必要と認めるとき視力:おもに養護教諭などの学校の先生で行われる予診的検査370方式裸眼の者裸眼視力幼稚園~高等学校…全学年眼鏡等を矯正視力大学…省略可している者*眼鏡等をしている場合は,裸眼視力は省略可眼の疾病および異常:定期健康診断時に学校医が行う幼稚園から大学生まで,ほぼ全員に実施される図1定期健康診断の検査項目および実施学年視力判定の手順:370方式正しい判別:上下左右4方向のうち3方向以上を正答した場合判別できない:上下左右4方向のうち2方向以下しか正答できない場合使用視標0.3判定結果DC区分0.3未満0.6~0.3事後措置等図2視力判定の手順(370方式)0.3の視標でC4方向のうち正答がC2方向以下の場合は「判別できない」とし,「D」と判定する.4方向のうちC3方向を正答できれば「正しい判別」と判定し,次にC0.7の視標にうつる.0.7の視標で同じく「判別できない」なら「C」と判定し,「正しい判別」と判定しC1.0の視標にうつる.1.0の視標でも同様に「判別できない」なら「B」と判定し,「正しく判別」できれば「A」と判定する.ただし,現場の状況などを考慮し視標をC1.0C→C0の状況C0.3の順に使用することも差し支えない.0.71.0図3見え方のABCD(文献C1より改変引用)020406080100(%)図4眼科学校医設置割合日本眼科医会の調査3)において,都道府県眼科医会学校保健担当役員向けに公立学校での眼科学校医設置状況につきアンケートを行った.回答したC43都道府県のうち,小学校では学校総数C16,449校のうちC12,966校(78.8%),中学校では7,809校のうちC6,167校(79.0%),高校ではC3,443校のうち2,584校(75.1%)であった.(文献C3より許可を得て引用)全体(n=294)6.510.215.019.49.929.39.9020406080100(%)■1校■2校■3校■4校■5校■6~9校■10校以上図51人あたりの担当学校数日本眼科医会の調査3)において,一般CA会員の約C10%を任意抽出しアンケートを行った.「学校医をしている」と回答した眼科医C1人が担当する学校数の平均はC4.6校であった.(文献C3より許可を得て引用)では,眼科医C1人が担当する学校数の平均はC4.6校(園)であった.図5はC1人あたりの担当学校数であり,約C4割の眼科学校医がC6校以上を担当しており,なかには10校以上担当していた医師もいた(9.9%).前述のように眼科学校医が必要ではあるが,実際はC1人の眼科学校医にかなり負担がかかっている.健診の時期は法律で定められており,その限られた期間内に学校行事を考慮しながら養護教諭と相談し日程のやりくりをしなければならない.担当校が多ければさらにむずかしいのは容易に想像できる.コロナ禍において例外的に健康診断の期間延長が認められたことで,複数校ある学校健診の予定が少し立てやすかったという経験をした学校医もいたのではないだろうか.前述のようにC1人あたりの担当学校数がC10校以上という学校医もいて,学校医不足が指摘されている.その一方で,「学校医をしていない」と答えたC16.2%のうち,43.9%が学校医をしていない理由を「地区に眼科医が多いため」と答えた3).このように,学校医不足に関してはかなり地域差があると思われる.これは眼科医の地域偏在などもあり,同じ都道府県内でも差がある.地域によっては開業医に限らず,勤務医の協力を得ながら行わないと成り立たないところもあり,実際,大学病院などに委託している例があるようである.地域の市民病院や総合病院など,協力が得られれば地域医療貢献の一環として携わってもらうこともあるだろう.また,今後は地域の勤務医を退職した医師で,希望があれば学校医として活動してもらえるような制度があってもよいのではないかと考える.眼科学校医不足や地域偏在について,眼科学校保健がすべての地域で円滑に行われるように今後の対策が望まれる.C4.新しい時代の眼科学校保健眼科の診療は診断機器の進歩によりこの数十年でかなり変化した.しかし,学校保健における眼科健診は,時間や場所の制約もあり,以前のスタイルと変わっていない.ただし,眼科医だからこそできる学校健診の意義があるのではないだろうか.内容についてはその時代にあわせて変化させていくことが望まれる.とくに学校医の役割の一つである健康教育において,健康や病気に関する知識だけでなく,予防に必要な生活習慣や行動を身に着け,それを将来にわたり継続させる力を獲得させる教育が求められる.本誌が発行されるC2023年C4月には「こども家庭庁」が創設される.社会全体で子どもの成長を後押しすべく,学校保健においても新しい変化を及ぼすことを期待したい.おわりに学校医の役割,学校における健康診断,学校医の抱える問題や今後の課題について解説した.成長期にある児童生徒が等しく眼科的な検査を受けることができる学校健診は非常に重要な機会である.眼科学校医は視覚の専門家として児童生徒の検査に直接かかわるだけでなく,教育的な役割を果たしている.それは,子どもたちが将来にわたり自身の眼に対して健康な状態を保つことを一人一人が意識できるよう,「健康リテラシー」を身につけるための大切なサポートである.眼科医の診療専門分野は細分化されつつあるが,眼科学校保健の内容はすべての眼科医が知っておくべき子どもの診療の基本でもある.一人でも多くの眼科医が眼を守る専門家として学校保健の大切さを理解し,学校医活動に積極的にかかわっていただければ幸いである.謝辞:本稿に貴重なご助言を賜った日本眼科医会常任理事柏井真理子先生に深謝いたします.文献1)日本眼科医会平成C26・27年度学校保健部編:眼科学校保健資料集.日本眼科医会,20162)日本学校保健会保健診断調査研究小委員会:児童生徒等の健康診断マニュアル.平成C27年度改訂.日本学校保健会,C20153)柏井真理子,宮浦徹,大藪由布子:眼科学校保健に関する全国調査の報告(平成C29年度調査).日本の眼科C9:C1274-1290,C2018参考文献柏井真理子:眼科学校保健総論学校健診─学校医の役割─.MBOCULISTAC103:1-8,C2021(33)あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023C465

就学時健診における発達障害児の視力検査

2023年4月30日 日曜日

就学時健診における発達障害児の視力検査HealthExaminationwhenEnteringSchool-VisualAcuityMeasurementsforChildrenwithDevelopmentalDisorders森隆史*はじめに就学時健康診断(以下,健診)は文部科学省の管轄にあり,学校保健安全法により実施が規定されている.出生後から乳幼児期に行われてきた母子保健法による健康診査(以下,健診)では,疾患の早期発見と早期治療が健診の目的であったのに対して,就学時健診では,義務教育に入るにあたって,支障なく学校生活をおくることができる身体状態かを判定し,必要に応じて適切な就学環境を整えることに主眼が置かれる.就学時健診は,小学校に入学する前年に,居住区の小学校を会場として,集団健診として行われるのが通常である.したがって,子どもの発達や成長に悩んでいる保護者にとっては参加しづらい状況で実施される.このような背景で集団健診を受診しなかった幼児や,集団健診での視力検査ができなかった幼児に対しても,学校生活に必要な視機能があるのかの判断が求められる.本稿では,就学先の相談に眼科医がかかわることを想定し,就学時健診の視力評価の位置づけとその目的を記述するとともに,ときに集団健診での対応が困難である発達障害をもつ小児の視力検査について解説する.I就学時健診の位置づけとその目的就学時健診にかかわる法律を抜粋して表1にまとめる.就学時の健康診断は,学校保健安全法第11条,第12条に定められた法定健診のひとつである.就学時健診は,市(特別区を含む)町村の教育委員会の任務として,学校教育法第17条に定められた義務教育諸学校への初めての就学にあたって,疾患に対する適切な治療や身体障害・発達障害に対する教育相談・就学支援に結びつけるために実施されている(表2)1).就学時健診では,就学予定者の心身の状態を把握するとともに,学校生活・日常生活に支障となる疾病や障害のスクリーニングが行われる.児童の発達障害を早期に発見するために,発達障害者支援法第5条の第1項では母子保健法での乳幼児健診,第2項では学校保健安全法での就学時健診で十分に留意されなければならないと規定されている.II就学時健診での視力検査就学時健診での視力検査の実施については,学校保健安全法施行令および規則に定められている.視力は就学後の学習のみならず日常生活に影響を与えるため,就学前に適切に把握されなければならない.また,就学時健診は3歳児健診で指摘されなかった弱視を発見する機会としても重要である.視力検査は,就学後の学校健診での視力検査と同様に,普通学校の通常学級での学習に支障のない見え方であるかどうかを判定する方法により,健診会場で実際に測定することが原則となっている.標準的な視力検査は,Landolt環の単独視標の0.3,0.7,1.0を使用した字ひとつ視力5mでの遠方視力検査である.上下左右4*TakafumiMori:福島県立医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕森隆史:〒960-1295福島市光が丘1福島県立医科大学眼科学講座0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(21)453表1就学時健診にかかわる法律就学時健診.学校保健安全法第十一条市(特別区を含む.以下同じ.)町村の教育委員会は,学校教育法第十七条第一項の規定により翌学年の初めから同項に規定する学校に就学させるべき者で,当該市町村の区域内に住所を有するものの就学に当たって,その健康診断を行わなければならない..学校保健安全法第十二条市町村の教育委員会は,前条の健康診断の結果に基づき,治療を勧告し,保健上必要な助言を行い,及び学校教育法第十七条第一項に規定する義務の猶予若しくは免除又は特別支援学校への就学に関し指導を行う等適切な措置をとらなければならない.視力検査.学校保健安全法施行規則第三条第四項視力は,国際標準に準拠した視力表を用いて左右各別に裸眼視力を検査し,眼鏡を使用している者については,当該眼鏡を使用している場合の矯正視力についても検査する.義務教育.学校教育法第十七条第一項保護者は,子の満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから,満十二歳に達した日の属する学年の終わりまで,これを小学校,義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部に就学させる義務を負う.ただし,子が,満十二歳に達した日の属する学年の終わりまでに小学校の課程,義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部の課程を修了しないときは,満十五歳に達した日の属する学年の終わり(それまでの間においてこれらの課程を修了したときは,その修了した日の属する学年の終わり)までとする.発達障害の早期発見.発達障害者支援法第五条第二項市町村の教育委員会は,学校保健安全法(昭和三十三年法律第五十六号)第十一条に規定する健康診断を行うに当たり,発達障害の早期発見に十分留意しなければならない.表2就学時健診の目的①学校教育を受けるにあたり,幼児等の健康上の課題について保護者及び本人の認識と関心を深めること.②疾病又は異常を有する就学予定者については,入学時までに必要な治療をし,あるいは生活規正を適正にする等により,健康な状態もしくは就学が可能となる心身の状態で入学するよう努めること.③就学時の健康診断は,学校生活や日常生活に支障となるような疾病等の疑いがある者及び視覚障害者,聴覚障害者,知的障害者,肢体不自由者,病弱者(身体虚弱者を含む),その他心身の疾病及び異常の疑いのある者をスクリーニングし,適切な治療の勧告,保健上の助言及び就学支援等に結び付けること.(文献1より抜粋)支障はないとされている.D,C,Bはすべて眼科への受診勧告となる.1.0を「正しく判別」したものはA判定とされ,受診勧告は行われない.学校教育における視覚障害者の定義は,学校教育法施行令第22条にて,「両眼の視力がおおむね0.3未満のもの又は視力以外の視機能障害が高度のもののうち,拡大鏡等の使用によっても通常の文字,図形等の視覚による認識が不可能又は著しく困難な程度のもの」とされている.このような児では就学先について,教育委員会は保護者の意見を聞いて適切に対処する必要がある.一方で,このような児が受診した際,われわれ眼科医は,視力・視野などの正確な視機能を評価し,原因疾患の診断を行うとともに,適切な眼鏡やコンタクトレンズでの屈折矯正に加えて,視覚障害についての教育相談・就学支援のセンター的機能を担っている地域の視覚支援学校などの教育機関と連携して,就学に必要な補助具の選定や拡大教科書,ICT(informationandcommunicationtechnology)機器の活用について助言を行う.自院での対応が困難な場合には,小児眼科専門医に紹介して対応を依頼するのがよいと考える.また,視覚認知がむずかしい小児のなかには,単一の要因でなく,機能的弱視や器質的弱視に発達障害・知的障害などがかかわっている場合があることに配慮が必要である.III発達障害児の視力検査1.検査時の留意点発達障害児の視力検査で配慮すべきことは,障害者差別解消法での合理的配慮と共通している.また,視力検査の実施方法は,低年齢の幼児の検査と共通するものが多い.言語発達は知的障害の程度によって,まったく発語がない段階から,単語で話す,簡単な文で話す,日常生活の会話ができる,社会性のあるやり取りができる,書きことばが使える段階までさまざまである.したがって,その児がどの程度の言語能力をもっているのかを推測するために,検査室に呼び入れてから対面するまでの児と保護者とのやり取りを観察し,明るい挨拶で声がけして,その反応を確認する.着ている服や身に着けているものについて,褒めながら簡単な質問をしてみると,オウム返しでないか,こだわりが強そうかの推測ができる.それに加えて,われわれ検査者が発達障害の児に対応する際には,その行動の特徴を知っている必要がある.乳児期に言語を発するまでは言葉によらないコミュニケーションが重要であることと同様に,発達障害では表情や身振り,手まねなどのボディーランゲージを用いて音声言語での意思伝達の不足を補助する.また,検査者が発声する音声言語では,曖昧な表現を避け,短く,わかりやすく,はっきりと話すことを心がける.しかし,自閉症スペクトラム障害では,相手の表情や身振りから意図をくみ取り,情緒的な交流をすることがむずかしいのが特徴である.また,大きな声が恐怖となる聴覚過敏にも,声がけのときは注意が必要である2,3).2.検査を円滑に進めるための工夫音声言語で説明する際には,写真や絵カードなどの視覚素材をあわせて用いることが有効である.口から出た言葉はすぐに消えるが,視覚素材からだとゆっくりと時間をかけて,それが表していることを理解することができる(図1).今日,病院に来て,どんな人に会うのか,自分はどんなことをやるのか,あるいは,どんなことをされるのか,そして,いつ終わるのかを順序立てて児に説明し,ゴールに向かって一つずつ達成する動機づけをする.また,一つのことができた達成感が,次の検査への動機づけとなるので,できたことを褒め,喜びを得させることが,検査可能率の向上に役立つ(図2).重度の知的障害の場合には,視力検査は自覚的には困難であるため,「テラーアキュイティカード」(TellerAcuityCards)などのpreferentiallooking(PL)法を用いた行動観察によって他覚的に視力を測定する.特定の物にしか興味を示さず,視標では興味をひくことができない場合には,児の好きな玩具などを視反応の確認に用いる.また,知的障害では,周囲の環境に慣れるための時間や繰り返しの機会を設ける必要がある.初診時にはまったくコミュニケーションが取れなかった場合でも,保護者に日常の児の様子を聞いて,普段は意思表示ができているようであれば,初診時には児の嫌がることはせ(23)あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023455図1絵カードa:視力検査.b:それ以外にやらなければならないこと.図2スケジュール確認a:今日のやることとその順番.b:できたところに印をつける.図3『たべたのだれかな?』絵本の表紙(a)と近方視力検査の練習(b).図4絵視標による視力検査視力検査装置以外には注意が向かないように配慮した検査室.a:絵合わせでの回答.b:ジェスチャーでの回答.

3 歳児健診への屈折検査の導入と精度管理に 向けて

2023年4月30日 日曜日

3歳児健診への屈折検査の導入と精度管理に向けてIntroductionandAccuracyControlofRefractionTestingina3-Year-OldChild’sHealthCheckup板倉麻理子*はじめに弱視の子どもの割合は約2%と報告されているが1),視力検査は自覚的な要素が大きく,幼児では検査が正しくできないことも多いため,眼科アンケートと家庭での視力検査の結果から要精密検査かを判定している自治体では,弱視の見逃しが問題となってきた2~4).視覚の発達にはタイムリミットがある.視覚感受性期に正常に脳の視覚領域が発達しなければ,生涯弱視になるおそれがある.手遅れにならないよう,弱視は3歳児健康診査(以下,健診)で発見し治療を開始すべきである.また,両眼視機能も,物を両眼で同時に見ることで発達する.脳の感受性が高い時期に斜視や不同視弱視などを発見して,治療を開始する必要がある.群馬県を例にみると,平成28年度の3歳児健康診査では従来行われてきた家庭での視力検査とアンケートによる眼科検査の結果,「視覚」で要医療と判定された児は全体の約0.1%しかなく,弱視のほとんどが見逃されていた4).I屈折検査の必要性幼児は0.3程度の視力があれば日常生活は不自由なく送ることができる.弱視があっても普段の生活では何も症状がないため,家族も気づかないことが多い(図1).また,3歳0カ月児のLandolt環を用いた視力検査の実施可能率は73.3%であり5),視力異常の検出を家庭での視力検査のみに期待するのは困難である.兵庫県宝塚市の3歳児視覚検査では,屈折検査で異常だった児の56.7%は家庭での視力検査では「見えた」と回答しており,さらに眼科精密検査で「弱視」と診断された児は,屈折検査では全例検出できたが,56.5%は家庭での視力検査で「見えた」と回答していて,家庭での視力検査のみでは見逃されてしまう症例があると報告されている6).視力異常をより効率よく,見落としがないように検出するには,視力検査に加えて健診会場などにおける二次検査で屈折検査を実施することが有効である.視力0.5以上にもかかわらず比較的強い遠視眼がある場合などは一次検査で見落とされるため,その解決法として屈折検査の併施が望ましく,同時に,視力が測れない児において問題となる屈折異常の検出の可能性を高めるためにも屈折検査は大きな意味をもつ7).令和3年に日本眼科医会から「3歳児健診における視覚検査マニュアル~屈折検査の導入に向けて~」が発刊され8),令和4年度には,厚生労働省「母子保健対策強化事業」の補助金も決定したことから,スポットビジョンスクリーナー(SpotVisionScreener:SVS,ウェルチアレンジャパン社)やプラスオプティクスA12(Plusoptix社),ビジョンスクリーナーS12C(同)など(図2),保健師や看護師でも簡単なトレーニングで精度の高い検査が可能なフォトスクリーナーによる屈折検査が保健センターでの二次検査に導入され,弱視などの要治療児発見率が向上している4,9~12).SVSは2015年に*MarikoItakura:前橋ミナミ眼科〔別刷請求先〕板倉麻理子:〒371-0814群馬県前橋市宮地町146-1前橋ミナミ眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(11)443幼児は視力が0.3程度あれば,生活に不自由がないため,周囲は異常に気づかない正常な見え方の例弱視児の見え方の例鳥さんいるね!ぼやけていても視力1.0イメージ鳥がいるとわかる視力0.3イメージ図1弱視児の見え方弱視の児は生まれてからずっとピントがぼやけた状態で過ごしているため,視力不良と訴えず,視力が0.3程度あれば不自由なく生活できるため,周囲もまったく気づかない場合がほとんどである.図2各種屈折検査(フォトスクリーニング)機器と検査の様子小型で持ち運びが可能で,視距離1mため調節の影響を受けにくい.ただし,屈折検査機器では視力そのものを評価することはできないため,屈折検査導入により視力検査を省略することはできない.PlusoptixビジョンスクリーナーS12Cスポットビジョンスクリーナー図3フォトスクリーナーの検査結果画面(自動判定機能付き)あらかじめ基準値を登録しておくと,自動で判定可能である.ただし,遠視や近視は等価球面度数で判定されるため,乱視の影響に注意が必要である.表1スポットビジョンスクリーナーの推奨判定基準基準自動判定機能の利用屈折(値は絶対値)斜視(度)遠視(等価球面度数)近視(等価球面度数)遠視(球面度数)近視(球面度数)乱視不同視垂直方向内側方向外側方向①現行基準≦可能2.50D1.25D──1.75D1.00D8°5°8°②学会推奨基準≦可能※2.50D2.00D──2.00D1.50D同上③球面度数を用いた基準<付加──2.00D2.00D2.00D2.00D7°※あらかじめ手動で異常判定基準を変更しておく.自治体の状況に合わせて,どの基準を用いても構わない.学会推奨基準は,現行基準よりも偽陽性が少なくなるよう設定されているため,偽陰性に注意が必要である.スポットビジョンスクリーナーによる斜視の検査では,間欠性斜視など眼位が変動するタイプの斜視は検査の際に検出できないことがある.3歳児健康診査眼科精密検査依頼票兼結果報告書眼科医療機関担当医様○○市長○○○○下記の方について、3歳児健康診査を実施しましたところ、眼科検査において、異常所見を認めました。つきましては、精密検査を実施いただき、その結果を精密検査結果報告書にて報告をお願い致します。1.視力検査□異常なし□異常あり(右眼・左眼・両眼)□検査不可2.屈折検査添付のとおり3.視覚アンケート□異常なし□異常あり(該当項目)4.その他()発行番号健診日西暦年月日精密検査結果報告書(眼科)ふりがな性別生年月日氏名男・女年月日視力・屈折値(測定不可の場合は斜線)裸眼視力矯正視力球面度数円柱度数調節麻痺点眼右□あり所見□なし左その他所見□アレルギー性結膜炎□眼瞼皮膚炎□霰粒腫□麦粒腫□睫毛内反□眼瞼下垂□眼位異常□その他()1屈折異常(弱視含まず)□遠視□近視□乱視2斜視(弱視含まず)□内斜視□外斜視□上下斜視□その他診断名3弱視□屈折異常弱視□不同視弱視□斜視弱視□形態覚遮断弱視4その他()1異常なし2経過観察□弱視疑い□定期検査が必要総合判定□検査不可□その他()3要治療□眼鏡処方□眼鏡処方予定□その他()□他施設紹介(紹介先)受診年月日医療機関名西暦年月日医師名連絡先:○○市○○課図43歳児健康診査眼科精密検査依頼票兼結果報告書市町村内だけでなく都道府県単位で精度管理を行うために,共通の結果報告書様式を用いる.(「群馬県3歳児健康診査における眼科検査の手引き」より引用)図53歳児健康診査(視覚検査)集計表市町村で結果を取りまとめ,県に提出する.要観察は,視力検査ができなかった場合など,本来視力再検査や眼科精密検査が必要な場合が含まれる場合があり,適切な眼科受診のタイミングを逃すことにつながりかねない.二次検査の判定ができない場合には適切な次のアクションにつなげられる形で分類し,データを管理する必要がある.(「群馬県C3歳児健康診査における眼科検査の手引き」より引用)異常なし眼位検査検査不可異常あり異常なし屈折検査検査不可異常あり異常なし視力検査検査不可異常ありアンケート異常なし異常あり3歳児健診受診者数対象人数二次検査の判定結果異常なし要精検治療中三次(眼科精密検査)総合判定異常なし要観察要治療精密検査結果異常ありの内訳屈折異常(弱視含まず)人斜視(弱視含まず)人弱視人その他人弱視の内訳屈折異常弱視人不同視弱視人斜視弱視人形態覚遮断弱視人図63歳児眼科健診二次検査のフローチャート二次検査から眼科精密検査依頼票発行,結果報告書確認までの流れの例.保健センター精密検査機関精密検査No異常なしYes自院でNo紹介状作成治療可能専門医療機関紹介Yes治療・観察開始自治体に結果報告書を送付保健センター要精検児のデータ管理二次検査後2~3カ月No保護者にNo結果報告精検受診の受診済あり受診確認再勧奨YesYes保護者からの結果報告をデータ化データの集計・分析年度末の健診受診に係る精密検査の受診状況が十分把握できる時期(6月末)まで眼科からの結果報告書を待ってから,分析する.終了図7要精密検査となった場合のフローチャート眼科精密検査~診断後の流れの例.要精密検査となった児の眼科精密検査結果は,一覧表に取りまとめ,市町村単体だけでなく,より広域での精度管理を行う.–

3 歳児健診での精密検査方法とみつけたい疾患

2023年4月30日 日曜日

3歳児健診での精密検査方法とみつけたい疾患ComprehensiveExaminationandDiseasesthatareDetectablebyVisionScreeningin3-Year-OldChildren林思音*はじめに3歳児健康診査(以下,3歳児健診)は,法定健診としてすべての市区町村で義務づけられている.そして,9割以上の自治体では集団健診という形で実施されており1),視覚検査もまた,集団健診のなかで小児科医や保健師によって行われることが多い.したがって,眼科医が健診に加わるのは,精密検査からということになる.自治体から精密検査受診勧告を受けた児は,眼科外来やクリニックに個別に受診してくることになるが,来院する3歳児を目の前に,どのような疾患を想起するだろうか.2018年の日本眼科医会による3歳児健診実態調査報告2)では,健診で発見されるおもな疾患は屈折異常,弱視,斜視であったが,その他として眼振,眼瞼下垂,強膜疾患,水晶体疾患,眼底疾患なども報告されており,生後すぐから存在する器質的疾患もこの時期に発見されていることが示唆された.つまり,こうした疾患も念頭に,診察と検査に取り組むことが求められている.本稿では,疾患を発見するための検査とその評価方法,おもな疾患とその治療について紹介する.I検査手順健診で精密検査受診勧告を受けた児は,「精密検査依頼票および精密検査結果報告書」(以下,精密検査依頼票)(図1)3)が発行された後,1~3カ月後に眼科を受診する.検査手順の例を図2に掲載した.検査は待ち時間を合わせると2~3時間かかることが多いため,落ち着きがない児の場合は,2日に分けて検査を行うこともある(保護者と相談して決める).1.診察・問診初めての診察の場合,成人ではいくつか検査を済ませてから診察することが多いが,乳幼児の場合は問診・診察から始めるとよい.診察でその児の発達や見え方の特徴を把握することは,その後の検査の組み立てに役立つ.問診は小児用の問診票をあらかじめ用意する(図3).通常の問診内容に加えて,出生歴,発達の様子を確認する.加えて家族歴では,小児・若年期に白内障,緑内障,網膜芽細胞腫,網膜.離を発症した家族歴を聴取することで,重篤な器質的疾患の早期発見につながる.また,自由記載欄を設けておくと,保護者の抱えている心配・訴えを事前に把握できる.2.Redre.ex法検影法の際に使用するレチノスコープを用いた検査方法である.板付レンズを使用せず,網膜からの反射光の特徴(明るさ,左右差,混濁,異常な色調の有無)から眼異常を検出する.小児科医が行う乳児の視覚スクリーニングとして米国やスウェーデンなどで実施されており,とくに先天白内障,先天緑内障,そして網膜芽細胞腫といった乳幼児の重篤な器質的疾患の発見に効果があ*ShionHayashi:国立成育医療研究センター眼科〔別刷請求先〕林思音:〒157-8535東京都世田谷区大蔵2-10-1国立成育医療研究センター眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(3)435図1精密検査依頼票および精密検査結果報告書の例(文献3より引用)る.眼科の精密検査時も,上述の疾患があると特徴的な3.両眼視機能検査所見を示すことから,疾患予測と検査組み立てに役立感覚融像は,弱視,斜視,屈折異常,視覚遮断で障害つ.光量は倒像鏡より少なく,細隙灯顕微鏡のように子される.RandotStereoTestやTitmusFlyTestによどもに近づく必要がないため,恐怖心を与えずに検査がる立体視の評価は,両眼視機能検査の重要な要素であ可能である.り,立体視が良好であれば正常眼位を維持できているこ436あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023(4)↓↓図2診察・検査の順番(例)診察・検査の順番は,施設の動線を考慮する.1日ですべてを行うことがむずかしい場合は,後日検査日を設けることもある.2日に分ける場合,保護者にあらかじめ説明する.図3小児の問診票の例図43歳児健診で発見された右眼先天白内障症例3歳C8カ月男児.それまで視力不良を指摘されたことはなかった.3歳時健診の際の家庭での視力検査で右眼視力不良が指摘され,精密検査にて先天白内障と診断された.術前矯正視力:右C0.1,左C0.9.Ca:右眼術中写真.層間白内障を認める.b:左眼術中写真.表1AmericanAcademyofOphthalmology(AAO)による3歳児の眼鏡処方の基準(屈折値は絶対値)両眼同等の屈折異常の場合近視遠視(斜視を伴わない)遠視(内斜視を伴う)乱視不同視(斜視を伴わない)近視遠視乱視2.50C.3.50C.1.50C.1.50C.2.50C.1.50C.1.50C.

序説:小児の眼科健診と学校保健

2023年4月30日 日曜日

小児の眼科健診と学校保健VisionScreeningforChildrenandSchoolHealth杉山能子*佐藤美保**わが国では,現在,さまざまな健康診査や健康診断(以下,健診)が行われていますが,乳幼児健診は母子保健法の下で,就学時健診と学校健診は学校保健法のもとで行われています.眼科領域では,乳児健診では先天白内障,乳児内斜視など早急に治療を要する疾患の発見が重要であり,1歳6カ月健診では斜視や強度の屈折異常の発見,3歳児健診では弱視の早期発見が重要です.1991年に3歳児健診に視覚検査が導入され,一次検査として家庭での視力検査が開始されました.しかし,保護者にとっても3歳児にとっても生まれて初めての視力検査を家庭で行うのは容易なことではありません.それでも各自治体が工夫を凝らした結果,3歳児健診の受診率は高く,家庭では検査できなくても,二次検査として保健センターで保健師らにより視力検査を行い,弱視の発見に努めてきました.視力検査に屈折検査を加えることにより,弱視の取りこぼしが少なくなるという多数のエビデンスも示されてはいましたが,屈折検査機器の取り扱いが日ごろから使いこなしている眼科のスタッフ以外にとってはむずかしいことや,得られたデータをどう判断すればよいのか,検査項目が増えるとマンパワーが不足する,機器購入にはお金がかかる,などの課題が解決されず,屈折検査の導入は長年見送られてきました.ところが,近年,屈折・眼位の自動判定機能付きフォトスクリーナーが普及して眼科スタッフでなくても短時間に検査が可能になったこと,2018年に成育基本法が成立したこと,さらに,2021年12月に(3歳児)健診への屈折機器整備等の国家予算が確定したことなどによって,屈折検査の導入に弾みがつきました.これによって,3歳児健診における視覚検査の精度が大きく上がり,弱視や弱視予備軍の取りこぼしが少なくなることが大いに期待できる状況となりました.このように乳幼児健診のハード面は近年飛躍的に充実しました.今後は,日本中のどの市町村でも,精密検査として眼科受診した児の弱視など眼疾患・眼異常を正確に診断し,早期に治療を開始できるよう眼科医・眼科スタッフのスキルアップといったソフト面の充実が喫緊の課題となっています.就学時健診では,視力検査を実施することが定められており,入学後の生活・学習に支障をきたすことがないかどうかを判定します.現場では3歳児健診で取りこぼした弱視が発見されて眼科を初診する児もいます.また,文科省のGIGAスクール構想により児童生徒1人1台の電子タブレットの普及を行っていることや,子どもたちへのスマートフォンやゲーム機器の普及,COVID-19のパンデミック*YoshikoSugiyama:金沢大学附属病院眼科**MihoSato:浜松医科大学医学部眼科学講座0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(1)433

上方視神経低形成における網膜内層菲薄化の検出に有用な 光干渉断層計パラメータの検討

2023年3月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科40(3):420.427,2023c上方視神経低形成における網膜内層菲薄化の検出に有用な光干渉断層計パラメータの検討川口由夏*1後藤克聡*1三木淳司*1,2荒木俊介*1家木良彰*1桐生純一*1*1川崎医科大学眼科学1教室*2川崎医療福祉大学リハビリテーション学部視能療法学科COpticalCoherenceTomographyParametersUsefulforDetectingInnerRetinalLayerThinninginSuperiorSegmentalOpticHypoplasiaYukaKawaguchi1),KatsutoshiGoto1),AtsushiMiki1,2),SyunsukeAraki1),YoshiakiIeki1)andJunichiKiryu1)1)DepartmentofOphthalmology1,KawasakiMedicalSchool,2)DepartmentofSensoryScience,FacultyofRehabilitation,KawasakiUniversityofMedicalWelfareC目的:上方視神経低形成(SSOH)における網膜内層菲薄化の検出に有用な光干渉断層計(OCT)パラメータを検討した.対象および方法:対象はCSSOH群C19例C33眼,正常群C34例C34眼である.OCTによる乳頭周囲網膜神経線維層(cpRNFL)および神経節細胞複合体(GCC)パラメータをC2群間で比較し,ROC曲線下面積(AUC)を求めた.結果:SSOH群のCcpRNFL厚は耳側および下耳側を除く領域で正常群よりも有意に減少し,減少率はC16セクター解析での上鼻側(SN1)(41.3%)でもっとも高かった.GCC厚は上半側でCSSOH群C87.7Cμm,正常群C95.7Cμmであった.cpRNFL厚のC8セクター解析における上耳側+上鼻側/下耳側+下鼻側の比(ST+SN/IT+IN比)はCSSOH群C0.62,正常群C0.89,GCC厚の上半側/下半側の比(S/I比)はCSSOH群C0.92,正常群C0.99といずれも有意差がみられた(各Cp<0.001).AUCはCcpRNFL厚のC8セクター解析においてCSN0.98,ST+SN/IT+IN比C0.99,GCC厚ではCS/I比C0.81であった.結論:SSOHの網膜内層菲薄化の検出にはCcpRNFL厚の上鼻側およびCST+SN/IT+IN比が有用であることが示唆された.CPurpose:ToCcompareCopticalCcoherencetomography(OCT)parametersCusefulCforCdetectingCinnerCretinalthinninginsuperiorsegmentaloptichypoplasia(SSOH).SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved33eyesof19SSOHCpatientsCandC34CeyesCofC34CnormalChealthyCcontrolCsubjects.CUsingCOCT,CtheCcircumpapillaryCretinalCnerveC.berlayer(cpRNFL)andganglioncellcomplex(GCC)parameterswerecomparedbetweenthetwogroups,andtheCareaCunderCtheCreceiverCoperatingCcharacteristiccurve(AUC)wasCdetermined.CResults:TheCcpRNFLCthick-nessintheSSOHgroupwassigni.cantlylowerthanthatinthecontrolgroupinallregionsexceptthetemporalandCinferiorCtemporalCsectors,CwithCtheChighestCreductionCrateCatCtheCsuperiorCnasal1(SN1)sector(41.3%)inCaC16-sectoranalysis.GCCthicknessatsuperiorhemispherewas87.7CμmintheSSOHgroupand95.7Cμminthecon-trolCgroup.CThereCwereCsigni.cantCdi.erencesCinCtheCsuperiorCtemporal+superiorCnasal/inferiorCtemporal+inferiorCnasalratio(ST+SN/IT+INratio)atCanC8-sectorCanalysisCinCcpRNFLCthickness,Ci.e.,C0.62CinCtheCSSOHCgroupCandC0.89CinCtheCcontrolCgroup,CandCinCtheCsuperior/inferiorratio(S/Iratio)ofCGCCCthickness,Ci.e.,C0.92CinCtheCSSOHCgroupCandC0.99CinCtheCcontrolgroup(p<0.001,respectively).CTheCAUCCwasC0.98CatCtheCsuperiorCnasalCsectorCinCcpRNFLthickness,0.99atST+SN/IT+INratioin8-sectoranalysis,and0.81inGCCthicknessS/Iratio.Conclu-sion:ThesuperiornasalsectorandST+SN/IT+INratioofthecpRNFLthicknessareusefulfordetectinginnerretinalthinninginSSOH.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(3):420.427,C2023〕Keywords:上方視神経低形成,光干渉断層計,神経節細胞複合体,網膜神経線維層,視野障害.superiorsegmen-taloptichypoplasia,opticalcoherencetomography,ganglioncellcomplex,retinalnerve.berlayer,visual.ledde-fect.C〔別刷請求先〕川口由夏:〒701-0192岡山県倉敷市松島C577川崎医科大学眼科学C1教室Reprintrequests:YukaKawaguchi,DepartmentofOphthalmology1,KawasakiMedicalSchool,577Matsushima,Kurashiki,Okayama701-0192,JAPANC420(138)はじめに上方視神経低形成(superiorCsegmentalCopticChypopla-sia:SSOH)は先天性の視神経乳頭異常であり,視力良好でMariotte盲点に連なる下方から耳側にかけて楔状の非進行性視野障害を呈する疾患である1).SSOHの眼底所見の特徴として,網膜中心動脈の上方偏位,上方視神経乳頭の蒼白,上方乳頭周囲の強膜ハロー,乳頭上鼻側における網膜神経線維層の菲薄化があげられる2).SSOHの診断には,特徴的な視神経乳頭の検眼鏡的所見や視野検査における楔状視野欠損の検出に加えて,共焦点走査型レーザー検眼鏡や光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomog-raphy:OCT)を用いた画像検査の有用性が報告されている3.11).しかし,OCTによる検討では乳頭周囲網膜神経線維層(circumpapillaryCretinalCnerveC.berlayer:cpRNFL)のみを解析した報告が多く4.6,8,9),神経節細胞複合体(gangli-oncellcomplex:GCC)をはじめとする黄斑部網膜内層厚を詳細に検討した報告は少ない7,10).さらに,筆者らが調べた限り黄斑部網膜内層の菲薄化検出に有用なパラメータを検討した報告はない.そこで本研究は,OCTを用いてCSSOHにおける視神経乳頭周囲および黄斑部の網膜内層菲薄化の検出に有用なCOCTパラメータを検討することを目的とした.CI対象および方法1.対象川崎医科大学倫理委員会の承認のもと,ヘルシンキ宣言に基づき後ろ向き観察研究を行った.対象はC2013年C2月.2021年C1月に川崎医科大学附属病院眼科を受診し,OCTおよび眼底カメラ,Humphrey静的視野計(HumphreyCFieldAnalyzer:HFA)またはCGoldmann視野計による視野検査を行い,SSOHと診断され,本研究に対してオプトアウトによる包括同意が得られた患者である.SSOHの診断は,Yamamotoら12)の報告に基づき上鼻側の視神経乳頭縁の菲薄化,上鼻側の神経線維層欠損かつ下方の楔状視野欠損を伴うものとし,緑内障専門医(Y.I.)と神経眼科医(A.M.)のC2名によって行われた.対象の除外基準は,C.6.00Cdiopter(D)未満の高度近視,緑内障,他の視神経および網膜疾患を合併した症例とした.対照群は,両眼ともに矯正視力がC1.0以上で,屈折異常は+2.75.C.5.75Dで,眼圧検査,細隙灯顕微鏡による前眼部検査,HFA30-2SITA-Standard,眼底検査,眼底写真,spectral-domainOCT(SD-OCT)を施行し,軽度白内障を除いて明らかな異常所見がなかった正常眼とし,ランダムに選択した片眼のデータを解析に用いた.HFAにおける正常の判定は,パターン偏差確率プロットでCMariotte盲点の上下のC2点を除く部位において,少なくともCp<5%の連続したC3点,p<0.5%またはC1%のC1点が存在せず,95%信頼区間やCglaucomaChemi.eldtestにおいて正常範囲内である場合と定義した.なお,固視不良,偽陽性,偽陰性がそれぞれC20%未満のデータを解析に用いた.C2.OCTによる網膜内層厚測定SD-OCTはCRTVue-100(Optovue社)を使用し,ソフトウェアCversion4.0で解析した.cpRNFL厚は,opticCnerveCheadmap(ONH)プログラムを用い,視神経乳頭を中心としたC4.9Cmmの範囲を長さC3.4CmmのC12本の放射状ラインスキャンとC13本の同心円リング(1.3.4.9Cmm径)で測定した.cpRNFL解析では,視神経乳頭中心から直径C3.45Cmm円周上のCcpRNFL厚が算出される(図1a).cpRNFLパラメータは全体,上半側(superior),下半側(inferior)の各平均値,上半側/下半側の比(S/I比)(図1b),4象限(図1c),8セクター(図1d),16セクターの各平均値(図1e),8セクターにおけるCST+SN/IT+IN比を用いた.黄斑部網膜内層厚は,GCCプログラムを用いて,黄斑部C7Cmm×7Cmmの範囲で長さC7Cmmの水平ラインスキャンC1本,7Cmmの垂直ラインスキャンC15本をC0.5Cmm間隔で測定した.GCC解析では,中心窩より耳側C0.75Cmmの位置を中心とした直径C6Cmm領域の網膜神経線維層から内網状層までの厚みが算出される(図2a).GCCパラメータは全体,上半側,下半側の各平均値およびCGCC厚のCS/I比を用いた(図2b).解析に用いたCOCT画像はCsignalstrengthindex(SSI)がCcpRNFL解析でC45以上,GCC解析でC50以上得られたデータで,セグメンテーションエラーがみられたものは除外した.検討項目は,各COCTパラメータをCSSOH群と正常群で比較,receiverCoperatingcharacteristic(ROC)曲線下面積(areaCunderCtheCROCcurve:AUC)とし,SSOH群における網膜内層菲薄化の検出に有用なパラメータを検討した.カットオフ値はCROC曲線において,左上の隅との距離が最小となる点と定義した.また,各パラメータにおける減少率または増加率は,(正常群の厚み.SSOH群の厚み)C÷正常群の厚み×100の計算式で求めた.C3.統計学的検討SSOH群と正常群の臨床パラメータの比較には,Mann-WhitneyのCU検定,Fisherの直接確率検定,各COCTパラメータの比較には一般化線形混合モデル(generalizedlinearmixedmodel:GLMM)を用い,年齢を共変量として解析した.AUCの差の検定にはCDelong検定を用いた.統計解析の有意水準はCp=0.05とし,統計ソフトはCSPSSver.22(IBM社)およびCMedCalc(MedCalcSoftware社)を用いた.各データは平均値±標準偏差で表記した.CII結果1.SSOH群と正常群における患者背景SSOH群C19例C33眼と正常群C34例C34眼における患者背下半側cdNUNLe図1cpRNFL解析視神経乳頭中心から直径C3.45Cmm円周上のCcpRNFL厚を測定した(Ca).cpRNFLパラメータは全体,上半側(superior),下半側(inferior),上半側/下半側の比セクタC61),dセクター(C8),c象限(C4),b((S/I比)ー(e),8セクターにおけるCST+SN/IT+IN比を用いた.ST:上耳側(superiortemporal),TU:耳上側(temporalupper),TL:耳下側(temporallower),IT:下耳側(inferiortemporal),IN:下鼻側(inferiornasal),NL:鼻下側(nasalClower),NU:鼻上側(nasalupper),SN:上鼻側(superiornasal).Ca:SSOH(右眼),b~e:解析領域.Cab上半側下半側図2GCC解析中心窩より耳側C0.75Cmmの位置を中心とした直径C6Cmm円内の網膜神経線維層から内網状層までのCGCC厚を測定した(Ca).GCCパラメータは,全体,上半側,下半側,S/I比とした(Cb).a:SSOH(右眼),b:解析領域.景を示す(表1).年齢はCSSOH群C30.3C±17.5歳(9.62歳),正常群C47.6C±9.5歳(15.59歳),性別はCSSOH群男性C2例,女性C17例,正常群男性C15例,女性C19例,屈折度数はSSOH群C.2.22±2.04D,正常群C.1.66±1.82D,眼圧はSSOH群C13.8C±2.8CmmHg,正常群C15.2C±2.5CmmHgであった.両群間で年齢および性別,眼圧に有意差があったが,屈折度数に有意差はなかった.また,SSOH群では正常群と比較して,HFAの平均偏差(meandeviation:MD)は有意な低下,パターン標準偏差(patternCstandarddeviation:PSD)は有意な増加,視野指数(visual.eldindex:VFI)は有意な減少がみられた.C2.cpRNFLパラメータSSOH群と正常群における各CcpRNFLパラメータを示す(表2).SSOH群は正常群に比べて全体,上半側,下半側のすべてのパラメータで有意な減少がみられた.4象限解析では,耳側を除く上方,下方,鼻側のC3象限においてCSSOH群で有意に減少し,減少率は上方がもっとも高かった.8セクター解析では,TLとCIT以外でCSSOH群の有意な減少がみられ,減少率はCSN(41.0%)がもっとも高かった.16セクター解析では,TU1,TL1,TL2,IT2を除いた領域でSSOH群の有意な減少がみられ,減少率はCSN1(41.3%)がもっとも高かった.S/I比およびC8セクター解析におけるCST+SN/IT+IN比もCSSOH群で有意に低下していた.C3.GCCパラメータSSOH群と正常群における各CGCCパラメータを示す(表3).SSOH群は正常群に比べて全体および上半側において有意な減少がみられたが,下半側では有意差はなかった.S/I比はCSSOH群C0.92,正常群C0.99とCSSOH群で有意に低下していた.C4.AUC各COCTパラメータにおけるAUCの値を示す(表4).cpRNFLパラメータでは,8セクター解析におけるCST+SN/CIT+IN比がC0.99ともっとも高く,ついでCS/I比,8セクター解析におけるCSN,16セクター解析におけるCST1,SN1で0.98であった.GCCパラメータではCS/I比でC0.81,上半側で0.74であった.cpRNFL厚のCST,SNおよびCST+SN/IT+IN比のCAUCは,GCC厚のCS/I比よりも有意に高かった(各p値:0.019,0.002,<0.001)(表5).cpRNFL厚のCST,SN,ST+SN/IT+IN比間のCAUCに有意差はなかった.また,cpRNFL厚のCST+SN/IT+IN比のカットオフ値C0.78を基準に検討した結果,0.78未満がCSSOH群C93.9%(31眼)に対して正常群C2.9%(1眼)と両群の比率に有意差がみられた(p<0.001).SNのカットオフ値C98.5Cμmでは,98.5Cμm未満がCSSOH群C90.9%(30眼)に対して正常群C5.9%(2眼)と両群の比率に有意差がみられた(p<0.001).表1SSOH群と正常群における臨床パラメータの比較SSOH群正常群p値年齢(歳)C30.3±17.5C47.6±9.5<C0.001**性別(男性:女性)2:1C715:1C9C0.015*屈折度数(D)C.2.22±2.04C.1.66±1.82C0.266眼圧(mmHg)C13.8±2.8C15.2±2.5C0.026*MD(dB)C.4.02±3.57C0.69±0.77<C0.001**PSD(dB)C6.64±4.25C1.52±0.26<C0.001**VFI(%)C93.8±6.1C99.8±0.4<C0.001****:p<0.01,*:p<0.05.MD:meandeviation,PSD:patternstandarddeviation,VFI:visual.eldindexCIII考按SD-OCTを用いてCSSOHにおける網膜内層厚の詳細な検討を行った結果,SSOH群のCcpRNFL厚は正常群と比較して耳側および下耳側を除く領域で有意に減少し,上鼻側での減少率がもっとも高かった.SSOH群のCGCC厚は正常群に比べて全体および上半側で有意な減少がみられた.また,SSOHによる網膜内層菲薄化の検出には,cpRNFLパラメータがCGCCパラメータよりも有用で,とくにCcpRNFL厚のCST+SN/IT+IN比がもっともCAUCが高い結果であった.SSOH群におけるCcpRNFL厚について,本研究ではC8セクター,16セクター解析において耳側および下耳側を除いた領域で正常群よりも有意に減少し,ST+SN/IT+IN比も有意に低下していた.Time-domainOCT(TD-OCT)を用いたCcpRNFL厚の検討では,布施ら4)はC12セクター解析ではC7-10時方向を除いた領域での菲薄化,4象限解析では耳側を除いた領域での菲薄化を報告している.Yamadaら5)は4時とC7-9時方向を除いた領域で菲薄化がみられたと報告している.一方,SD-OCTを用いたCcpRNFL厚の検討では,Hanら7)やCYagasakiら8)はC12セクター解析でC6-9時を除く領域,7-9時を除く領域での菲薄化をそれぞれ報告している.これらの既報4,5,7,8)において,SSOHでは耳側および下耳側を除く領域でCcpRNFLの菲薄化をきたすとされている.本研究ではC16セクターの解析でより詳細な検討を行ったが,既報4,5,7,8)と同様の傾向であった.よって,SSOHによるcpRNFLの菲薄化は耳側および下耳側を除く広範囲で生じ,その検出はCOCTの原理や機種にかかわらず可能であることが示唆された.SSOHにおける耳側および下耳側のCcpRNFLが保存される理由として,視神経乳頭耳側に入射する乳頭黄斑束の網膜神経節細胞はほとんどがCmidget細胞で,midget細胞は網膜神経節細胞の約C8割を占めることから13,14),乳頭黄斑束では網膜神経節細胞の余剰性が高いことが影響している可能性がある.これは,SSOHでは一般的に視力良好であ表2SSOH群と正常群における各cpRNFLパラメータの比較cpRNFLパラメータ(μm)SSOH群正常群減少率/増加率(%)p値全体C88.2±13.7C107.9±6.3C.18.3<C0.001**上半側C74.0±16.5C105.8±7.4C.30.1<C0.001**下半側C102.4±12.5C110.0±6.4C.6.9C0.001**S/I比C0.72±0.10C0.96±0.05<C0.001**4象限上方C82.6±18.7C128.7±11.3C.35.8<C0.001**耳側C80.9±13.6C84.3±8.5C.4.0C0.392下方C134.0±17.6C144.8±9.7C.7.5C0.001**鼻側C55.5±15.8C74.1±9.7C.25.1<C0.001**8セクターCSTC95.3±21.9C138.9±11.3C.31.4<C0.001**CTUC79.3±18.7C88.5±9.6C.10.4C0.044*CTLC82.5±11.5C80.0±9.4C3.1C0.297CITC153.8±21.4C156.9±9.1C.2.0C0.175CINC114.1±19.9C132.6±15.8C.14.0<C0.001**CNLC59.2±16.9C70.6±10.4C.16.1C0.001**CNUC51.8±17.4C77.5±10.1C.33.2<C0.001**CSNC69.9±18.3C118.4±14.8C.41.0<C0.001**CST+SN/IT+IN比C0.62±0.10C0.89±0.08<C0.001**16セクターCST1C85.8±20.9C140.5±16.4C.38.9<C0.001**CST2C104.7±26.4C137.3±17.1C.23.7<C0.001**CTU2C88.1±25.1C102.0±14.4C.13.6C0.017*CTU1C70.5±13.4C75.0±6.9C.6.0C0.302CTL1C68.8±8.3C68.1±5.7C1.0C0.213CTL2C96.1±16.1C91.9±13.6C4.6C0.377CIT2C150.9±25.4C145.5±17.1C3.7C0.833CIT1C156.8±23.8C168.4±14.3C.6.9C0.015*CIN1C125.3±23.2C144.9±20.1C.13.5C0.001**CIN2C102.8±18.7C120.3±13.7C.14.5<C0.001**CNL2C69.7±20.0C80.7±12.3C.13.6C0.003**CNL1C48.6±14.5C60.6±9.7C.19.8<C0.001**CNU1C44.5±15.6C62.7±9.0C.29.0<C0.001**CNU2C59.1±20.2C92.3±13.5C.36.0<C0.001**CSN2C70.9±21.8C119.6±14.3C.40.7<C0.001**CSN1C68.8±16.6C117.2±17.9C.41.3<C0.001****:p<0.01,*:p<0.05.S/I:superior/inferior,ST:superiortemporal,TU:temporalupper,TL:temporallower,IT:inferiortemporal,IN:inferiornasal,NL:nasallower,NU:nasalupper,SN:superiornasal.表3SSOH群と正常群における各GCCパラメータの比較GCCパラメータ(μm)SSOH群正常群減少率/増加率(%)p値全体C91.4±7.1C96.0±5.6C.4.8C0.002**上半側C87.7±9.9C95.7±6.2C.8.4<C0.001**下半側C95.1±5.6C96.3±5.2C.1.2C0.059S/I比C0.92±0.08C0.99±0.03<C0.001****:p<0.01,*:p<0.05.4.0×4.8mmのC6セクター解析において,SSOHのCganglion(143)あたらしい眼科Vol.40,No.3,2023C425表4各OCTパラメータにおけるAUCcpRNFLパラメータCAUCカットオフ値(Cμm)全体C0.91C100.2上半側C0.94C96.9下半側C0.70C103.2S/I比C0.98C0.854象限上方C0.97C112.5耳側C0.61C80.3下方C0.68C135.5鼻側C0.84C63.38セクターCSTC0.94C123.0CTUC0.74C82.0CTLC0.56C81.0CITC0.56C150.5CINC0.76C123.5CNLC0.71C63.0CNUC0.90C64.5CSNC0.98C98.5CST+SN/IT+IN比C0.99C0.7816セクターCST1C0.98C120.0CST2C0.87C116.0CTU2C0.75C92.0CTU1C0.67C70.0CTL1C0.55C69.0CTL2C0.58C88.0CIT2C0.58C151.0CIT1C0.64C159.0CIN1C0.73C138.0CIN2C0.76C109.0CNL2C0.67C69.0CNL1C0.75C54.0CNU1C0.84C51.0CNU2C0.91C78.0CSN2C0.97C100.0CSN1C0.98C89.0GCCパラメータCAUCカットオフ値(Cμm)全体C0.69C94.3上半側C0.74C93.3下半側C0.57C96.8S/I比C0.81C0.95り,乳頭黄斑束が保存されることを支持すると思われる.SSOHにおけるCSD-OCTを用いた黄斑部網膜内層厚について,多数例での検討は筆者らの調べた限りCHanら7)と本研究のC2報のみである.本研究では,中心窩より耳側C0.75mmの位置を中心とした直径C6mmの上下の半側領域において,SSOH群のCGCC厚は上半側でのみ正常群に比べて有意な減少がみられた.Hanら7)は中心窩を中心とした楕円形表5各OCTパラメータにおけるAUCの比較cpRNFL8セクターGCCパラメータcpRNFL8セクターCSTCTUCTLCITCINCNLCNUCSNCST+SN/IT+IN比全体上半側下半側S/I比CSTC.<0.001<0.001<0.001C0.002<0.001C0.228C0.166C0.095<0.001<0.001<0.001C0.019CTU**C.0.122C0.008C0.771C0.748C0.005<0.001<0.001C0.445C0.908C0.030C0.213CTL**C.0.997C0.018C0.083<0.001<0.001<0.001C0.216C0.074C0.950C0.008CIT****.0.0170.114<0.001<0.001<0.0010.0700.0140.9360.004*IN***C.0.422C0.019<0.001<0.001C0.257C0.775C0.005C0.502CNL**C.0.002<0.001<0.001C0.796C0.638C0.071C0.199CNU*********.0.0170.011<0.0010.005<0.0010.133*SN**********C.0.295<0.001<0.001<0.001C0.002CST+SN/IT+IN比***********C.<0.001<0.001<0.001<0.001GCCパラメータ全体********.0.0120.0010.072*上半側*********C.<0.001C0.182下半側***************C.0.005S/I比***********C.**:p<0.01,*:p<0.05.celllayer(GCL)+innerplexiformClayer(IPL)厚を正常群と比較検討し,上耳側,上方,下耳側,下方でのみ有意に減少したと報告している.本研究では,Hanら7)の報告で示された下方領域での黄斑部網膜内層厚の減少はみられなかった.この理由として,GCC厚とCGCL+IPL厚のセグメンテーションの違いやCOCTの機種,解析領域,対象による違いが影響していると考えられる.しかし,上半側のCGCCの菲薄化のみで下半側のCGCCが保存された本研究の結果は,乳頭黄斑束が保存されるCSSOHの病態と一致するため,SSOHの網膜内層菲薄化をより正確に捉えた所見であると考えられる.SSOHの網膜内層菲薄化の検出に有用なパラメータについて,本研究のCcpRNFLパラメータではC8セクター解析においてCSNのCAUCがC0.98と高く,16セクター解析においてもCST1,SN1のCAUCがC0.98と高値であった.また,ST+SN/IT+IN比のCAUCはC0.99で,全COCTパラメータのなかでもっとも高い値を示した.TD-OCTを用いたCcpRNFL厚におけるCAUCの検討では,布施ら4)はC12時方向(0.93)が最大であり,ついでC1時方向(0.90),2時方向(0.87)が高いことを報告している.Yamadaら5)とCLeeら6)も1時方向のCAUCがもっとも高く,SSOHと正常眼の鑑別に有用であると報告している.本研究は既報4.6)と同様の結果で,上方から上鼻側にあたるC12時やC1時方向での識別能力が高かった.さらに,本研究で新たに検討したCcpRNFL厚のCST+SN/IT+IN比は,全COCTパラメータのなかでCAUCがもっとも高く,SSOH群のC93.9%がCST+SN/IT+IN比C0.78未満であったことから,SSOHの網膜内層菲薄化を検出するうえで有用性の高い指標であることが示唆された.ST+SN/CIT+IN比の検出力が高かった理由として,cpRNFL厚の個体差による影響があげられる.cpRNFL厚は正常範囲に幅があり,軽度の減少があっても正常眼の厚みとオーバーラップしてしまい,異常領域として判定されない問題がある15).一方,ST+SN/IT+IN比は上下比を用いることで個体差の影響を受けにくく,上方セクターと下方セクターの厚みの差を著明に反映したと考えられる.よって,ST+SN/IT+IN比はCSSOHにおける網膜内層の個体間評価においても有用なパラメータであると思われる.また,SSOHにおいて黄斑部の網膜内層パラメータを用いてCAUCを検討した報告はなく,本研究が初めての報告である.本研究におけるCGCCパラメータのCAUCは,全体で0.69,上半側でC0.74,下半側でC0.57,S/I比でC0.81とCGCC厚が減少していた上半側およびCS/I比で高値を示した.しかし,GCCパラメータはCcpRNFLパラメータほど高い検出力は得られなかった.その理由として,本研究で用いたCGCC厚の測定領域は直径C6Cmm円で,測定中心が中心窩から耳側に偏心していることがあげられる.また,中心窩は視神経乳頭よりも下方に位置しており,SSOHの視神経乳頭上方から広がる網膜内層菲薄化が中心窩近傍の測定領域内に及ばなければ捉えることができないと考えられる.さらに,本研究で用いたCGCC厚の自動解析では解析部位が上下分割のみで細分化されておらず,局所的な網膜内層厚の減少は平均化されてしまい過小評価されることが考えられる.そのため,SSOHと正常眼の鑑別には,GCCパラメータよりもcpRNFLパラメータのほうが有用であることが明らかとなった.本研究における問題点として,SSOHの症例数が少ないこと,両眼のデータを採用している症例が存在したこと,SSOH群と正常群の年齢に有意差がみられたことがあげられる.しかし,年齢についてはCSSOH群のほうが正常群よりも若いため,SSOH群における加齢によるCcpRNFLの減少16)はなく,さらに年齢を共変量として統計解析を行ったため,年齢による解析結果への影響は小さいと考えられる.今回の検討はCSSOHと正常眼の比較であり,臨床において鑑別が必要となる緑内障眼との比較はできていないため,今後は症例数を増やして下方視野障害を伴う緑内障眼との検討を行う必要がある.CIV結論今回の検討により,SSOHではCcpRNFL厚の減少は上鼻側だけでなく耳側および下耳側を除く広範囲でみられ,ST+SN/IT+IN比も有意に低下し,黄斑部の上半側のCGCC厚も減少していた.OCTを用いたCSSOHと正常眼の鑑別には,OCTパラメータのなかでもCcpRNFL厚の上方から上鼻側およびCST+SN/IT+IN比が有用であることが示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)PetersenCRA,CWaltonDS:OpticCnerveChypoplasiaCwithCgoodCvisualCacuityCandCvisualC.elddefects:aCstudyCofCchildrenCofCdiabeticCmothers.CArchCOphthalmolC95:254-258,C19772)KimCRY,CHoytCWF,CLessellCSCetal:SuperiorCsegmentalCopticChypoplasia.CACsignCofCmaternalCdiabetes.CArchCOph-thalmolC107:1312-1315,C19893)MikiA,ShirakashiM,YaoedaKetal:OpticnerveheadanalysisofsuperiorsegmentaloptichypoplasiausingHei-delbergCretinaCtomography.CClinCOphthalmolC4:1193-1199,C20104)布施昇男,相澤奈帆子,横山悠ほか:SuperiorCsegmen-talopticChypoplasia(SSOH)の網膜神経線維層厚の解析.日眼会誌C116:575-580,C20125)YamadaCM,COhkuboCS,CHigashideCTCetal:Di.erentiationbyCimagingCofCsuperiorCsegmentalCopticChypoplasiaCandCnormal-tensionglaucomawithinferiorvisual.elddefectsonly.JpnJOphthalmolC57:25-33,C20136)LeeCHJ,CKeeC:OpticalCcoherenceCtomographyCandCHei-delbergCretinaCtomographyCforCsuperiorCsegmentalCopticChypoplasia.BrJOphthalmolC93:1468-1473,C20097)HanJC,ChoiDY,KeeC:Thedi.erentcharacteristicsofcirrusCopticalCcoherenceCtomographyCbetweenCsuperiorCsegmentalCopti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発症から2 カ月で自然解除された硝子体黄斑牽引症候群の 1 例

2023年3月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科40(3):415.419,2023c発症から2カ月で自然解除された硝子体黄斑牽引症候群の1例髙岡秀輔日榮良介井田洋輔日景史人大黒浩札幌医科大学医学部眼科学講座CACaseofVitreomacularTractionSyndromethatSpontaneouslyImprovedatTwoMonthsPostOnsetShusukeTakaoka,RyosukeHiei,YosukeIda,FumihitoHikageandHiroshiOhguroCDepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,SapporoMedicalUniversityC症例はC63歳,女性.1カ月前からの左眼の歪視および視力低下を自覚し眼科を受診.初診時,視力は右眼(1.5),左眼(0.6),両眼に軽度の白内障,左眼の黄斑部に硝子体黄斑牽引症候群による網膜牽引を認めた.左眼の硝子体黄斑牽引症候群に伴う視力低下と診断され,初診からC1カ月後に硝子体手術予定となった.しかし,手術前日の診察時に左眼の視力改善,自覚症状消失,左黄斑部の網膜牽引が改善していた.そのため手術は中止となった.硝子体黄斑牽引症候群は長期に牽引が持続することで不可逆的な視力低下をきたす可能性があるため手術適応であるが,本症例では発症からC2カ月の経過中に自然解除が生じ,視力低下や変視の自覚症状が完全に消失した.硝子体黄斑牽引症候群は数カ月程度の期間であれば後遺症なく自然解除される可能性があるため,手術の直前まで病状を確認することが重要であると思われた.CPurpose:ToCreportCtheCcaseCofCvitreomaculartraction(VMT)syndromeCthatCspontaneouslyCimprovedCatC2Cmonthspostonset.Casereport:A63-year-oldfemalepresentedwiththecomplaintofdistortedvisioninherlefteyefor1month.Uponexamination,opticalcoherencetomography(OCT)revealedVMTinherlefteye,andcata-ractswereobservedinbotheyes.Shewasdiagnosedwithdecreasedvisualacuity(VA)duetoVMTsyndromeinherlefteyeandwasscheduledtoundergosurgeryinourhospital.However,onthedaybeforesurgery,theVAinherCleftCeyeCwasCimproved,CtheCsubjectiveCsymptomsCdisappeared,CandCtheCmacularCtractionCimageCimprovedConCOCT.Thus,thesurgerywascanceled.Conclusion:AlthoughVMTsyndromeisanindicationforsurgery,sponta-neousresolutionmaybeobservedduringfollow-up.Thus,incaseswherespontaneousresolutionislikelytooccur,observingthe.ndingsbyOCTuntiljustbeforesurgeryisimportant.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(3):415.419,C2023〕Keywords:硝子体黄斑牽引症候群,硝子体黄斑癒着,硝子体手術,自然解除.vitreomaculartractionsyndrome,vitreomacularadhesion,parsplanavitrectomy,spontaneousresolution.Cはじめに硝子体黄斑牽引症候群(vitreomaculartraction:VMT)は特発性黄斑円孔,黄斑前膜とともに網膜と硝子体の境界面を病変の場とする網膜硝子体界面症候群の一つである1,2).眼球の内腔は硝子体とよばれる透明なゲル状の組織で満たされているが,硝子体は加齢によりゲルが液化,収縮し眼底から.離する.これが後部硝子体.離(posteriorCvitreousdetachment:PVD)である.PVDの進行が黄斑近傍で停止すると,後部硝子体ポケットの後壁にある薄い硝子体皮質が黄斑部を前後方向に牽引する.この慢性的な牽引により黄斑.離や.胞様黄斑浮腫が生じ,変視や視力低下をきたすのがVMTである2.4).VMTの治療は硝子体手術が第一選択であり,過去の多くの研究では,高い割合での術後の視力改善が報告されている1.5).VMTのなかでも網膜と硝子体の接着面積が広い場合は自然経過で黄斑円孔が生じたり,手術のタイミングが遅〔別刷請求先〕髙岡秀輔:〒060-8543札幌市中央区南C1条西C16丁目C291番地札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:ShusukeTakaoka,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,SapporoMedicalUniversity,16-291Nishi,Minami1Jo,Chuo-Ku,Sapporo060-8543,JAPANCれることで.胞様黄斑浮腫が黄斑円孔に至る場合もあることが報告されている5).一方で,網膜と硝子体の接着面積が狭いものでは症状の変化が少なかったり,自然解除に至る場合もあるため6),自然解除が期待される場合は手術をせずに経過観察するのが望ましいと考えられる.しかし,経過観察期間に関して一定の見解はない.今回筆者らは,VMTで手術を予定していたが,発症から2カ月後に自然解除が起こり,視力低下および変視の自覚症状が完全に消失した患者を経験したので報告する.CI症例患者:63歳,女性.主訴:左眼の歪視および視力低下.既往歴:とくになし.現病歴:1カ月前からの左眼の歪視および視力低下を主訴にC2021年C3月(X日)に近医眼科を受診した.近医受診時,矯正視力は右眼0.5(1.5C×sph+2.75D(cyl.0.75DCAx90°),左眼C0.3(0.6C×sph+2.50D(cyl.1.00DAx70°),眼圧は右眼C14mmHg,左眼C15mmHgであった.両眼にCnuclearCsclerosisgrade1.1.5の白内障を認め,光干渉断層計(opti-calCcoherencetomography:OCT)では左眼の黄斑部にVMTによる網膜牽引を認めた(図1).そのほかに眼底所見では明らかな網膜.離,出血を認めなかった.左眼の矯正視力の低下,OCTでCVMTによる網膜牽引が認められ,黄斑部に.胞様黄斑浮腫や線維化,慢性的な網膜.離,網膜.離がなく,硝子体手術による視力改善,歪視の軽減が期待できると判断したため,硝子体手術目的でC1カ月後に当院に紹介となった.経過:当院初診時(X+33日),矯正視力は右眼C0.8(1.25C×sph+2.75D(cyl.1.25DCAx100°),左眼C0.8(1.25C×sph+2.00D(cyl.1.00DCAx75°)と前医受診時と比較して左眼視力改善を認め,患者の自覚症状も消失していた.OCTでは左眼黄斑部にごくわずかな.胞性変化を認めたが,後部硝子体による黄斑部の牽引は認めなかった(図2).眼底検査でも病的所見を認めなかったため,手術は不要となった.当院初診時からC17日後(X+50日)に撮像されたCOCTでは.胞性変化は消失しており(図3),その後も左眼の視力は良好に推移している.CII考按網膜硝子体界面症候群は,網膜と硝子体の境界面に発生する疾患の総称であり,VMTの他に硝子体黄斑癒着(vitreo-macularadhesion:VMA),黄斑円孔(macularhole:MH),黄斑上膜(epiretinalmembrane:ERM),黄斑偽円孔(macularpseudohole:PH),分層黄斑円孔(lamellarCmacularhole:LMH)を含む6).これら網膜硝子体界面症候群のなかでもCVMAとCVMTの定義は曖昧で,明確な診断基準が示されていなかったことから,過去の論文のなかには両病名を混同して用いている論文も散見される.しかし,2013年にCInternationalCVitreomacularCTractionCStudy(IVTS)GroupによってCOCT所見に基づいたCVMAとVMTの疾患の定義が定められた6).それによれば,VMAとCVMTはともに後部硝子体が網膜面から不完全に.離し,後部硝子体が黄斑部との接着を保った状態,すなわち傍中心窩の後部硝子体.離(posteriorCvitreousdetachment:PVD)が起こった状態(perifovealPVD)であるとされている.この黄斑部の接着により黄斑部の構造に変化がきたしたものがVMT,きたしていないものがCVMAと定義される.VMAとCVMTの鑑別は治療方針の決定に重要である.その理由は,VMAは正常な加齢変化として起こるCPVDの一段階であるので,VMTやCMHへの進行,ERMの形成がなければ基本的に治療を必要とせず,経過観察で問題ない7).それに対して,VMTに対しては黄斑部への硝子体牽引を解除する目的で硝子体手術が行われる7).しかし,硝子体手術の明確な適応基準は定まっておらず,施設や術者によって異なるのが現状である.したがって,VMTに対しては黄斑構造の変化をCOCTで観察しつつ,視力や患者の自覚症状を考慮して手術の時期を決定する必要がある.本症例の場合は,図1に示すようにCOCT上で黄斑部に後部硝子体による牽引が生じ,構造の変化をきたしていたことからCVMTと診断し,矯正視力の低下および患者の歪視の自覚症状が強かったため,発症早期から手術を予定することとなった.VMTに対する硝子体手術の効果に関して,術前のCOCT所見で.胞様黄斑浮腫や線維化,慢性的な網膜.離,網膜.離が生じている症例では視力改善効果が制限される8)とされており,これらの変化が生じる前の手術が望ましい.本症例の場合も黄斑部の牽引は認めるものの,これら黄斑浮腫や繊維化などの変化は生じておらず,手術により視力向上,自覚症状の改善が期待できると考えられた.実際,自然軽快後には自覚症状は消失した.VMTの自然解除はこれまでにも報告されている,Hikichiら6)は,VMTのC53眼中C6眼(11%)で経過中に自然解除が起こり,診断から解除までの中央値はC15カ月であったことを報告している.そのほかにもCOCTを用いたCVMTの自然解除の報告はあり9.14),VMT患者のうち一定の割合で経過中に自然解除が生じることは間違いない(表1).そうすると,VMT患者のうちどのような場合に自然解除が起こりやすいかが問題となるが,IVTSGroupは硝子体と黄斑網膜の接着部の直径がC1,500Cμm以下のものをCfocal,1,500Cμmより広いものをCbroadと定義し,focalのほうが自然解除されやすいこと,broadのCVMTでは硝子体の接着が強く,黄斑部の肥厚,網膜分離,.胞様黄斑浮腫,網膜血管漏出をきたab図1前医初診時(X日)のOCT画像a:黄斑部が後部硝子体に牽引されている(N:鼻側,T:耳側,S:上側,I:下側).b:黄斑部を拡大し,網膜と硝子体の接着部分を測定したところC87Cμmであった.図2当院初診時(X+33日)のOCT画像図3当院初診時から17日後(X+50日)のOCT画像前医初診時のCOCTと比較すると黄斑部にごくわずかな.胞性変.胞性変化は消失し,黄斑浮腫も認めない.化を認めるものの,後部硝子体による黄斑部の牽引が解除されている.しやすく,視力低下や変視症,小視症を起こしやすいことを報告しており,牽引の自然解除は直径と負の関係にあると述報告した6).また,Theodossiadisら10)は,接着部の直径がべている.本症例の初診時のCOCTで黄斑表面と硝子体の接400Cμm以上の患者は有意に自然解除の可能性が低かったと着部の直径はC87CμmとC400Cμmよりはるかに小さく,IVTS表1OCTを用いた硝子体黄斑牽引症候群の自然解除に関する既報報告者Odrobinaら9)Theodossiadisら10)Codenottiら11)Almeidaら12)症例数19眼46眼26眼61眼フォローの平均期間C8±4.4カ月記載なしC12.9±4.8カ月自然解除のない例はC10.0C±6.6カ月自然解除例はC13.7C±11.4カ月自然解除率47.37%26.09%23.01%34.43%自然解除までの平均期間記載なしC8.75±6.06カ月C7.3±3.1カ月記載なし網膜内層障害のみの例や自然解除に関する記載記載なし記載なし記載なし抗CVEGF薬硝子体内注射の既往例では自然解除しやすい手術選択黄斑円孔への移行記載なし7眼が手術施行11眼が手術施行記載なし報告者Stalmansら13)Erreraら14)症例数203眼183眼フォローの平均期間10.9カ月(中央値C6.9カ月)C17.4±12.1カ月自然解除率22.66%19.67%自然解除までの平均期間記載なしC15±14カ月自然解除に関する記載自然解除例のC69.6%は180日以内に解除記載なし手術選択黄斑円孔への移行52眼が手術施行視力はC35.7%が改善,1C4.3%が低下11眼が黄斑円孔へ移行15眼が手術施行し視力改善23眼が黄斑円孔へ移行し視力悪化Groupの分類ではCfocalに分類された(図1).そのため,本症例はもともと黄斑と後部硝子体の接着が自然解除されやすいケースであったと思われる.過去の報告ではCVMTの自然解除までの期間は表1に示すようにC7.3カ月.15カ月であり,本症例と比較すると比較的長かった.これは過去の自然解除が起こった症例のなかには視機能障害が残存したもの,回復したものが混在しているためと考えられた.さらに表1に示すように,VMTの自然経過を観察した報告では,手術後も視力が改善しなかったものや,黄斑円孔に移行したものも少なくない.これらはCVMT発症から手術に至るまでの期間が術後の視機能障害残存に影響を及ぼすことを示唆している.また,VMTの術後視力回復は解除時の黄斑部障害の程度に依存する8)とされており,症状が出現してから手術までの期間が短いほど術後視力の改善が良いことも報告されている15)ため,自然解除を待つべきか早期に手術するべきか判断がむずかしい場合も多い.TheodossiadisらはCVMT発症から自然解除するまでに平均でC8.75C±6.06カ月かかり,VMT解除後の視機能はCVMT出現前よりも悪化していたことを報告した10).本症例では初診時より歪視が強く,手術を予定していたが,手術直前にCVMTが改善,後遺症を残さずに治癒した.本症例の場合,初診時のCOCTで後部硝子体と黄斑部の接着部の直径が小さく,自然解除の可能性が高かったことが示唆された.このような後部硝子体膜と黄斑部の接着の小さい症例は自然解除が期待できる.これらのことから,VMTの手術時期,および手術適応に関しては統一した見解は示されておらず,個々の症例に対して術者が判断してC418あたらしい眼科Vol.40,No.3,2023いる.本症例ではCM-CHARTSによる変視の評価やコントラスト感度の測定は行っていない.そのため,より精密に検査を行うと,本症例でも発症前と自然解除後で視機能に差が出ている可能性がある.しかし一般的な視力検査およびCOCTでは自然解除後に異常所見を認めず,自覚症状の訴えもなくなった.本症例の経験と,前述のCTheodossiadisの報告から,発症からC2カ月間は経過観察しても自覚症状が残存することなく改善すると思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)McDonaldHR,JohnsonRN,SchatzH:SurgicalresultsintheCvitreomacularCtractionCsyndrome.COphthalmologyC101:1397-1402,C19942)MassinCP,CErginayCA,CHaouchineCBCetal:ResultsCofCsur-geryofvitreomaculartractionsyndrome.JFrOphthalmolC20:539-547,C19973)RouhetteH,GastaudP:Idiopathicvitreomaculartractionsyndrome.CVitrectomyCresults.CJCFrCOphthalmolC24:496-504,C20014)KoernerCF,CGarwegJ:VitrectomyCforCmacularCpuckerCandCvitreomacularCtractionCsyndrome.CDocCOphthalmolC97:449-458,C19995)WitkinCAJ,CPatronCME,CCastroCLCCetal:AnatomicCandCvisualCoutcomesCofCvitrectomyCforCvitreomacularCtraction(136)syndrome.COphthalmicCSurgCLasersCImagC41:425-431,C20106)HikichiT,YoshidaA,TrempeCL:Courseofvitreomacu-larCtractionCsyndrome.CAmCJCOphthalmolC119:55-61,C19957)DukerCJS,CKaiserCPK,CBinderCSCetal:TheCInternationalCVitreomacularCTractionCStudyCGroupCclassi.cationCofCvit-reomacularCadhesion,Ctraction,CandCmacularChole.COphthal-mologyC120:2611-2619,C20138)MelbergCNS,CWilliamsCDF,CBallesCMWCetal:VitrectomyCforvitreomaculartractionsyndromewithmaculardetach-ment.RetinaC15:192-197,C19959)OdrobinaCD,CMichalewskaCZ,CMichalewskiCJCetal:Long-termCevaluationCofCvitreomacularCtractionCdisorderCinCspectral-domainCopticalCcoherenceCtomography.CRetinaC31:324-331,C201110)TheodossiadisGP,GrigoropoulosVG,TheodoropoulouSetal:Spontaneousresolutionofvitreomaculartractiondem-onstratedCbyCspectral-domainCopticalCcoherenceCtomogra-phy.AmJOphthalmolC157:842-851,C201411)CodenottiCM,CIulianoCL,CFogliatoCGCetal:ACnovelCspec-tral-domainCopticalCcoherenceCtomographyCmodelCtoCesti-matechangesinvitreomaculartractionsyndrome.GraefesArchClinandExpOphthalmolC252:1729-1735,C201412)AlmeidaDR,ChinEK,RahimKetal:Factorsassociatedwithspontaneousreleaseofvitreomaculartraction.RetinaC35:492-497,C201513)StalmansP:ACretrospectiveCcohortCstudyCinCpatientsCwithCtractionalCdiseasesCofCtheCvitreomacularCinterface(ReCoVit).GraefesArchClinExpOphthalmolC254:617-628,C201614)ErreraMH,LiyanageSE,PetrouPetal:AstudyofthenaturalChistoryCofCvitreomacularCtractionCsyndromeCbyCOCT.OphthalmologyC125:701-707,C201815)SonmezCK,CCaponeCACJr,CTreseCMTCetal:VitreomacularCtractionsyndrome:impactofanatomicalcon.gurationonanatomicalCandCvisualCoutcomes.CRetinaC28:1207-1214,C2008C***

改良型プローブを使用した両眼マイクロパルス毛様体光凝固 術後に両眼に黄斑浮腫を発症した1 症例

2023年3月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科40(3):410.414,2023c改良型プローブを使用した両眼マイクロパルス毛様体光凝固術後に両眼に黄斑浮腫を発症した1症例馬場口紘成藤代貴志杉本宏一郎相原一東京大学医学部附属病院眼科CACaseofMacularEdemainBothEyesafterBilateralMicropulseCyclophotocoagulationUsingtheImprovedProbeKouseiBabaguchi,TakashiFujishiro,KoichiroSugimotoandMakotoAiharaCDepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospitalC目的:MicroPulseCP3DeviceRev2プローブを使用した両眼マイクロパルス毛様体光凝固術(MP-CPC)後に両眼に黄斑浮腫を発症した症例を経験したので報告する.症例:48歳,男性.落屑緑内障による両眼高眼圧の治療のため当院を受診した.両眼にCMP-CPCを行い,右眼,左眼とも術後C28日で黄斑浮腫を発症した.右眼は術後C56日の時点で自然軽快したが,左眼は黄斑浮腫の程度が強く,術後C42日でトリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(STTA)を行い,術後C79日で改善を得た.結論:MicroPulseCP3DeviceRev2プローブによるCMP-CPCで黄斑浮腫を発症した初めての報告である.MP-CPC後の黄斑浮腫の治療にCSTTAが有効である可能性がある.CPurpose:Toreportacaseofmacularedema(ME)inbotheyesafterbilateralmicropulsecyclophotocoagula-tion(MP-CPC)usingtheMicroPulseP3DeviceRev2(IridexCorp.)probe.Casereport:A48-year-oldmalewasreferredtoourhospitalfortreatmentofhighintraocularpressureinbotheyesduetoexfoliationglaucoma.Bilater-alCMP-CPCCwasCperformed,CyetCMECdevelopedCinCbothCeyesCatC28-daysCpostoperative.CAtC56-daysCpostoperative,CtheMEinhisrighteyeresolvedspontaneously,yetat42-dayspostoperative,theMEinhislefteyewassevere,sosub-Tenon’sCcapsuleCtriamcinoloneCacetonideinjection(STTA)wasCadministeredCandCimprovementCwasCachievedCat79-dayspostoperative.Conclusion:Thisisthe.rstreportedcaseofMEinbotheyesafterbilateralMP-CPCwiththeMicroPulseP3DeviceRev2probe,andSTTAmaybeane.ectivetreatmentforMEafterMP-CPC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(3):410.414,C2023〕Keywords:緑内障,マイクロパルス毛様体光凝固術,MicroPulseP3DeviceRev2,黄斑浮腫,トリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射.glaucoma,micropulsetransscleralcyclophotocoagulation,MicroPulseP3DeviceRev2,macularedema,sub-Tenon’striamcinoloneacetonideinjection.Cはじめに緑内障は視神経と視野に特徴的な変化を有する疾患であり,通常は眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる.現在,緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一の治療法は眼圧下降のみである.眼圧を下降させる方法としては点眼加療,レーザー治療,観血的治療などがある.これまでは点眼やレーザー治療による眼圧下降が不十分な場合は手術で眼圧下降を行っていたが,社会的な理由(高齢,僻地)などにより入院や通院が困難で,加療ができずに失明に至る患者もおり課題が残っていた.近年日本に導入されたマイクロパルス毛様体光凝固術(micropulseCtransscleralcyclophotocoagulation:MP-CPC)は合併症が少なく安全に眼圧下降を得られ,入院や頻回の通院を必要としない治療として注目されている1).今回,新型のプローブ(MicroPulseCP3CDeviceRev2)を用いて両眼にCMP-CPCを行い両眼とも術後黄斑浮腫(macu-laredema:ME)を発症した患者を経験したので報告する.〔別刷請求先〕馬場口紘成:〒113-8655東京都文京区本郷C7-3-1東京大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:Kouseibabaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital,7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPANC410(128)I症例患者:48歳,男性.既往歴:重症アトピー性皮膚炎.手術歴:2001年に両眼水晶体再建術,2019年に右眼,2021年に左眼眼内レンズ強膜内固定術.現病歴:2013年に両眼落屑緑内障(pseudoexfoliationsyndrome:PE)の診断を受け,近医で点眼加療を受けていた.両眼にカルテオロール塩酸塩ラタノプロストC1回,ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミドC2回,リパスジル塩酸塩水和物C2回を点眼していたが,2022年C3月に右眼眼圧C38mmHg,左眼眼圧C29CmmHgと両眼眼圧上昇を認めたため,緑内障治療目的に東京大学医学部附属病院に紹介となった.初診時所見:視力は右眼矯正視力(0.7)(logMAR換算値0.16),左眼矯正視力(1.2)(logMAR換算値C.0.08).眼圧はGoldmann圧平眼圧計で右眼C28CmmHg,左眼C22CmmHg.角膜に異常はなく,前房炎症もなかった.両眼とも落屑物質が虹彩縁にみられCPEと診断した.両眼眼内レンズ強膜内固定後で正位,両眼底とも光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)上で黄斑浮腫はなかった.網膜静脈分枝閉塞症などの血管閉塞性病変の合併もなかった.重症アトピー症候群のため瞼裂は非常に狭小で眼瞼肥厚を認めた.Humphrey30-2静的視野検査では平均偏差(meandeviation:MD)値は右眼C.23.28CdB,左眼C.3.05CdBと右眼で,進行した視野障害を認めた(図1).CII経過眼瞼の状態が悪く術野の確保が困難であるため,手術加療が困難であると判断し,MP-CPCを行う方針となった.2022年3月に右眼MP-CPC,2022年4月に左眼MP-CPCを,それぞれCCycloG6GlaucomaLaserSystem(Iridex社)を用いて行った.CMicroPulseCP3CDeviceRev2プローブを用い,麻酔はC2%リドカイン塩酸塩水和物CTenon.下麻酔C3Cml,レーザー設定は出力C2,500CmW,dutycycle31.3%,経結膜で上下半球それぞれ片道C20秒かけて往復しC2往復ずつ(計C80C×2秒)照射した.両眼とも眼内レンズ強膜内固定後であるが,4時,10時方向の眼内レンズ固定部位へも他の部位と同様に照射した.術中にとくに疼痛の訴えはなかった.術後点眼としてガチフロキサシン点眼C4回,0.1%ベタメタゾン吉草酸エステル点眼C4回をC1週間使用した.右眼は術後C7日で眼圧C16CmmHg,28日後C15CmmHg,56日後C22CmmHg,77日後C23CmmHgと眼圧下降を認めたが,98日後にC40CmmHgと再上昇した.眼瞼の状態が悪く線維柱帯切除術後の濾過胞維持が困難と予想され,Ahmed-FP7によるチューブシャント手術を予定している.術後の前房炎図1静的視野検査MD値:右眼C.23.28CdB,左眼C.3.05CdB.右眼でとくに進行した視野障害を認めた.症は軽度であった.術後C28日の時点でごく軽度のCMEを認めたが,術後C56日の時点では自然軽快しており,以降再発なく経過している(図2).矯正視力は術前ClogMAR換算値0.16に対して,MEを発症した術後C28日の時点でC0.40と低下を認め,ME改善後も視力は変化していない.左眼は術後C7日で眼圧C13CmmHg,28日後C14CmmHg,49日後C20CmmHg,79日後C15CmmHgと眼圧下降を認めた.術後の前房炎症は軽度であった.術後C7日後の時点では,MEを認めなかったが,術後C28日で著明なCMEを認め,術後C42日でトリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(sub-Tenon’striamcinoloneacetonideinjection:STTA)(20mg)を行った.術後C79日でCMEはほぼ消失した(図3).矯正視力は術前logMAR換算値C.0.08に対して,MEを発症した術後C28日の時点でC0.52と悪化を認めたが,術後C79日でCMEがほぼ消失するとC0.10と回復した.この間,高眼圧に対する治療としては,MP-CPC術後点眼以外に点眼の追加や内服の追加は行わなかった.STTA後に点眼の追加は行わず,非ステロイド性抗炎症薬(snon-steroidalCanti-in.ammatorydrugs:NSAID)点眼は使用しなかった.CIII考按MP-CPCは従来型の連続波CPCと比較して遷延性低眼圧,ME,視力低下,眼球勞などの重篤な合併症の率が少ないことが特徴である2,3).MP-CPCは従来型プローブとしてC2017年に日本に導入されたが,先端が大きいため狭瞼裂症例で照射困難をきたすことがあり,先端部分の面積が小さく改良され,プローブ先端が眼球面に沿うように形状が改良されたRev2プローブが導入された.MP-CPCによって組織に供給されるエネルギーに影響を与える既知の因子として,出力,時間,dutyCcycle(実際の照射時間:CycloCG6CGlaucomaCLaserSystemでは,照射時間のC31.3%),sweep時間(プローブを眼球に押し当てて結膜上を滑らす片道移動時間)の四つの変数が報告されている4.6).MP-CPCの有効性と安全性眼圧(mmHg)504030201000306090視力(logMAR)0.800.30-0.200306090MP-CPC術後日数(日)図2右眼経過術後C28日でごく軽度の黄斑浮腫を発症したが,経過観察のみで術後C56日で軽快した.術後C98日で眼圧C40mmHgと上昇を認め,チューブシャント手術を予定している.眼圧(mmHg)504030201000306090視力(logMAR)0.800.30-0.200306090MP-CPC術後日数(日)図3左眼経過術後C28日で著明な黄斑浮腫を発症し,術後C42日でCSTTAを行った.黄斑浮腫発症に伴い視力低下を認めたが,術後C79日でCMEが改善すると視力も改善傾向を認めた.(130)表1MP-CPCと黄斑浮腫についての既報術前眼圧最終受診眼圧Sweep時間黄斑浮腫視力低下低眼圧眼球勞既報(mmHg)(mmHg)エネルギー(J)(秒)(%)(%)(%)(%)Limetal11)C31.5±12.0C23.8±11.8(術後C2年)31.3.C125.2C10C1.4C13.9C0.5C3.4CWilliamsetal10)C31.9±10.251%眼圧低下(術後C8カ月)75.1.C225.4C-5.0C17.0C8.8C0CLimetal12)C35.2±11.0C31.8±13.2(術後C3年)31.3.C112.7C-2.3C32.6C7.0C4.7CChamardetal13)C24.9±7.1C18.9±6.3(術後C6カ月)C75.1C15C1.4C14.3C1.1C0CdeCrometal15)C23.5±9.4C16.8±9.2(術後C2年)100.2.C112.7C-1.4C24.7C0.7C0のバランスには出力(W)C×時間(s)C×dutycycle(0.313)で計算されるエネルギー(J)が関与すると報告されており7,8),SanchezらはC112.150CJのエネルギーを理想的なレーザーパラメーターとして報告している9).MP-CPC後の合併症として知られるCMEは,その頻度は決して高くなくC1.1.5%程度ではあるが10),視力低下をきたしうる重要な合併症の一つである.従来型プローブを用いた既報ではCLimらはC62.8C±12.2JのCMP-CPC後にC1.4%でMEを発症し,いずれも発症後C3カ月以内に自然消退したと報告している11).また,別の報告ではC31.3J.112.7JのMP-CPC後にC2.3%でCMEを発症し,2カ月以内に自然消退したと報告している12).ChamardらはC75.1CJのCMP-CPC後1週間でC1.1%の症例にCMEを認めたが,自然消退したと報告している13).本症例では両眼ともC125.2CJのCMP-CPC後28日でCMEを発症した.左眼はCSTTAを行ったが,両眼ともCMEの発症時期や軽快までの期間は既報と同程度であった.また,MP-CPC術後に両眼CMEを発症した報告はこれまでになく,きわめてまれと考える(表1)10.14).MEの治療に関して,一般的なCMEの治療としてはNSAIDs点眼やステロイド点眼,長期に効果が持続するSTTAが有効である15).既報ではCMP-CPC後のCMEは自然治癒したが,本症例では左眼のCMEの程度が強く,STTAを行い,STTA後C37日(MP-CPC後C79日)で改善を得た.MP-CPC後のCMEは症例数が少ないためにまだ確立した治療法はなく,STTAの治療が適切であるかどうか今後の検討が必要である.既報との相違点としては,まずCME発症の既報は従来型のCMP-CPCプローブを用いて行われたのに対して,今回は新プローブのCRev2を用いていることと,sweep時間も既報のなかでは長いC20秒であったことである.MEが発症した理由として,一つめは,本症例では重症アトピー症候群および長期間のCFP受容体作動薬使用により眼瞼の状態がきわめて悪く,瞼裂が非常に狭小であった.その平均値±標準偏差ためCRev2を用いても治療に十分な照射スペースを確保することがむずかしく,今回のような狭瞼裂に対しては従来型のプローブよりも容易に照射可能であるが,照射の向きが従来型のプローブと異なり,従来型のプローブでは眼球に対して垂直に照射するのに対して,Rev2では視軸に対して平行に照射する.そのため従来型プローブとCRev2で同じエネルギー照射量であったとしても,Rev2の照射は網膜側に向かうため,エネルギーが散乱することで網膜方向へある程度のレーザーエネルギーが伝わり,炎症性のCMEを惹起した可能性が考えられた.二つめは,sweep時間は術者によって異なる因子であり,片道約C5秒.30秒の間で報告されている4).レーザープローブのCsweepの時間を変化させることで治療効果や副作用を比較した報告はまだないが,同じレーザー出力の設定であってもsweep時間が長くなるほど組織の熱変性が大きくなると考えられ,今回は片道C20秒でレーザープローブをCsweepさせたため,既報のなかではプローブのCsweep時間が長いために熱変性が大きくなり炎症性のMEが生じた可能性が考えられた.三つめは,本症例は両眼とも眼内レンズ強膜内固定術後であり,後.が残っておらず無硝子体眼であったこともCME発症に関与していた可能性がある.ME発症時の僚眼へのCMP-CPCに関して,両眼発症の報告はなく不明だが,片眼でCMP-CPC術後にCMEを生じた場合は僚眼のCMP-CPCによるCMEの発症リスクが通常より高い可能性も十分考えられる.治療の際は僚眼への適応を慎重に考え,術前にはCME発症リスクについて患者に十分に説明したうえで理解を得る必要があると考える.また術後は,眼圧だけでなく,OCTで黄斑部の定期的な検査の必要があると考えられた.CIV結論今回,筆者らはCRev2を使用して両眼にCMP-CPCを行い,両眼にCMEを発症した症例を経験した.Rev2によるMP-CPCでCMEを発症した初めての報告であり,ME発症にはCRev2の照射角度やエネルギー,sweep時間,眼瞼の状態などが関与していた可能性がある.MP-CPC後のCMEの治療としてCSTTAが有効である可能性があるが,さらなる検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)山本理紗子,藤代貴志,杉本宏一郎ほか:難治性緑内障におけるマイクロパルス経強膜的毛様体凝固術の短期治療成績.あたらしい眼科C36:933-936,C20192)AquinoMC,BartonK,TanAMetal:MicropulseversuscontinuousCwaveCtransscleralCdiodeCcyclophotocoagulationCinrefractoryCglaucoma:aCrandomizedCexploratoryCstudy.CClinExpOphthalmolC43:40-46,C20153)VarikutiCVNV,CShahCP,CRaiCOCetal:OutcomesCofCmicro-pulsetransscleralcyclophotocoagulationineyeswithgoodcentralvision.JGlaucomaC28:901-905,C20194)AbdelmassihY,TomeyK,KhoueirZ:Micropulsetranss-cleralcyclophotocoagulation.JCurrGlaucomaPractC15:C1-7,C20215)KabaCQ,CSomaniCS,CTamCECetal:TheCe.ectivenessCandCsafetyCofCmicropulseCcyclophotocoagulationCinCtheCtreat-mentCofCocularChypertensionCandCglaucoma.COphthalmolCGlaucomaC3:181-189,C20206)NguyenCAT,CMaslinCJ,CNoeckerRJ:EarlyCresultsCofCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagulationCforCtheCtreatmentCofCglaucoma.CEurCJCOphthalmolC30:700-705,C20207)JohnstoneCMA,CShaozhenCS,CPadillaCSCetal:Microscopereal-timevideo(MRTV)C,high-resolutionOCT(HR-OCT)&histopathology(HP)toCassessChowCtranscleralCmicro-pulselaser(TML)a.ectsCthesclera,CciliaryCbody(CB)C,muscle(CM)C,secretoryCepithelium(CBSE)C,Csuprachoroi-dalspace(SCS)&CaqueousCout.owCsystem.CInvestCOph-thalmolVisSciC60:2825,C20198)SanchezCFG,CPeirano-BonomiCJC,CBrossardCBarbosaCNCetal:UpdateConCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagula-tion.JGlaucomaC29:598-603,C20209)SanchezFG,Peirano-BonomiJC,GrippoTM:Micropulsetransscleralcyclophotocoagulation:aChypothesisCforCtheCidealCparameters.CMedCHypothesisCDiscovCInnovCOphthal-molC7:94-100,C201810)WilliamsCAL,CMosterCMR,CRahmatnejadCKCetal:ClinicalCe.cacyandsafetypro.leofmicropulsetransscleralcyclo-photocoagulationinrefractoryglaucoma.JGlaucomaC27:C445-449,C201811)LimCEJY,CAquinoCCM,CLimCDKACetal:ClinicalCe.cacyCandCsafetyCoutcomesCofCmicropulseCtransscleralCdiodeCcyclophotocoagulationCinCpatientsCwithCadvancedCglauco-ma.JGlaucomaC30:257-265,C202112)LimEJY,AquinoCM,LunKWXetal:E.cacyandsafe-tyofrepeatedmicropulsetransscleraldiodecyclophotoco-agulationCinCadvancedCglaucoma.CJCGlaucomaC30:566-574,C202113)ChamardC,BachouchiA,DaienVetal:E.cacy,safety,andCretreatmentCbene.tCofCmicropulseCtransscleralCcyclo-photocoagulationCinCglaucoma.CJCGlaucomaC30:781-788,C202114)deCCromCR,CSlangenCC,CKujovic-AleksovCSCetal:Micro-pulseCtrans-scleralCcyclophotocoagulationCinCpatientsCwithglaucoma:1-andC2-yearCtreatmentCoutcomes.CJCGlauco-maC29:794-798,C202015)ReichenbachCA,CWurmCA,CPannickeCTCetal:MullerCcellsCasCplayersCinCretinalCdegenerationCandCedema.CGraefesCArchClinExpOphthalmolC245:627-636,C2007***

遅発性に顔面神経麻痺を合併したFisher 症候群の1 例

2023年3月31日 金曜日

《第55回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科40(3):404.409,2023c遅発性に顔面神経麻痺を合併したFisher症候群の1例篠原大輔*1林孝彰*1須田真千子*2鈴木正彦*2中野匡*3*1東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科*2東京慈恵会医科大学葛飾医療センター脳神経内科*3東京慈恵会医科大学眼科学講座CACaseofMillerFisherSyndromeComplicatedbyDelayedFacialNervePalsyDaisukeShinohara1),TakaakiHayashi1),MachikoSuda2),MasahikoSuzuki2)andTadashiNakano3)1)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,2)DepartmentofNeurology,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,3)DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicineC目的:遅発性に顔面神経麻痺を合併したCFisher症候群のC1例について報告する.症例:患者はC26歳,男性.両眼性複視を自覚し,近医眼科を受診,両眼の外転障害を指摘された.頭部CMRIでは原因となる異常を認めず,発症第C3病日に東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科受診となった.初診時所見は両眼の外転障害であったが,第C7病日に両眼の全方向性の眼球運動障害を認めた.神経学的診察で深部腱反射消失と失調を認め,Fisher症候群が強く疑われたが,上下肢の運動・感覚神経障害を疑う自覚症状もあり,Guillain-Barre症候群も否定できないため,入院後(第C12病日)に免疫グロブリン大量静注療法を行った.同日より遅発性に左末梢性顔面神経麻痺を認めた.眼球運動障害や四肢症状の改善がみられた後,ステロイドなどの追加治療を要さず,第C54病日に顔面神経麻痺の改善を認めた.結論:免疫グロブリン大量静注療法後に遅発性顔面神経麻痺を合併したCFisher症候群のC1例を報告した.遅発性顔面神経麻痺に対しては,必ずしも追加治療を必要としない症例も存在する.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCMillerCFishersyndrome(MFS)complicatedCbyCdelayedCfacialCnerveCparalysis.CCasereport:A26-year-oldmalecomplainedofbinoculardiplopiaandvisitedanophthalmologyclinic,andexami-nationrevealedbilateralabductionde.ciency.At3dayspostonset,thepatientwasreferredtoourophthalmologydepartmentforfurtherexaminationandtreatment,althoughabrainMRIshowednocausativeabnormality.Uponexamination,bilateralabductionde.ciencywasfound,andbilateralomnidirectionalophthalmoplegiawasobserved4dayslater.Neurologicalexaminationrevealedalossofdeeptendonre.exandataxia,andMFSwasstronglysus-pected.Sincethereweresubjectivesymptomssuggestingmotorandsensoryneuropathyoftheupperandlowerlimbs,CandCsinceCGuillain-BarreCsyndromeCcouldCnotCbeCruledCout,Chigh-doseCintravenousimmunoglobulin(IVIG)Ctherapywasinitiated5dayslater.Onthatsameday,delayedleftperipheralfacialnerveparalysisdeveloped,yetafterCimprovementCofCtheComnidirectionalCophthalmoplegiaCandClimbCsymptoms,CtheCfacialCnerveCparalysisCalsoCimproved42dayslaterwithoutadditionaltreatment,suchassteroids.Conclusion:Our.ndingsrevealedacaseofMFSCcomplicatedCbyCdelayedCperipheralCfacialCnerveCparalysisCafterChigh-doseCIVIGCtherapyCinCwhichCadditionalCtreatmentfortheperipheralfacialnerveparalysiswasnotrequired.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(3):404.409,C2023〕Keywords:Fisher症候群,遅発性顔面神経麻痺,外眼筋麻痺,免疫グロブリン大量静注療法.MillerCFisherCsyn-drome,delayedfacialnerveparalysis,ophthalmoplegia,high-doseintravenousimmunoglobulintherapy.Cはじめに性末梢神経障害とは,自己免疫性機序により,末梢神経の髄Fisher症候群(MillerCFishersyndrome:MFS)は,急性鞘あるいは軸索の障害をきたす疾患群をさす.MFSは,に発症する外眼筋麻痺,運動失調,深部腱反射の低下・消失Guillain-Barre症候群(Guillain-Barresyndrome:GBS)のを三徴とする免疫介在性末梢神経障害である1,2).免疫介在臨床亜型と考えられているが,数カ月でほとんどの症状が自〔別刷請求先〕林孝彰:〒125-8506東京都葛飾区青戸C6-41-2東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科Reprintrequests:TakaakiHayashi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TheJikeiUniversityKatsushikaMedicalCenter,6-41-2Aoto,Katsushika-ku,Tokyo125-8506,JAPANC404(122)然軽快し予後良好な疾患である3).外眼筋麻痺以外の脳神経障害を認める症例もあり,MFSではC32%に顔面神経麻痺を合併すると報告されている4).多くはCMFS発症早期での合併例であるが,まれに外眼筋麻痺や運動失調症状のピーク直後,もしくは改善傾向を示したのち,遅発性に顔面神経麻痺を発症するケースがあり,追加治療を行った報告が散見される5,6).今回,遅発性に顔面神経麻痺を合併したが追加治療を必要とせずに改善したCMFSのC1例を経験したので報告する.CI症例患者:26歳,男性.主訴:両眼性複視.現病歴:3日前に焦点の合いづらさを自覚した.2日前,右眼で見た際に物が左に傾いて見え,歩きづらくなった.前日起床時に複視を自覚し,近医眼科を受診した.両眼外転障害を指摘され,近医内科で頭部CMRI検査を施行したが,明らかな異常を認めなかった.洗髪時の両手指の動かしづらさ,両手関節以遠の異常感覚,歩行時の左下肢脱力の自覚もあり,発症第C3病日に東京慈恵会医科大学葛飾医療センター(以下,当院)眼科を紹介受診した.既往歴:健康診断で高血圧,肝機能障害,尿蛋白の指摘はあったが,治療歴はなし.初診時眼所見:矯正視力は右眼(1.2C×sph-6.25D(cylC.0.75DCAx180°),左眼(1.5C×sph.5.25D(cyl.0.75DAx180°)であった.眼圧は正常範囲内であった.両眼の外転障害を認め,正面視では左眼固視,右眼は内斜していた.Hess赤緑試験でも内斜と外転制限の所見を認めた(図1).前眼部,中間透光体ならびに眼底に特記すべき所見はみられなかった.血液検査所見:白血球C9,800/μl,CRP0.64Cmg/dl,血沈(1時間値)43Cmm,赤血球数,血小板数,凝固系,腎機能,電解質値に異常なし,AST50CU/l,ALT88CU/l,LDH229U/l,T-Bil0.9mg/dl,ALP83U/l,Cc-GTP111U/l,CHbA1c6.2%,リウマチ因子陰性,抗アセチルコリン受容体抗体陰性,TSH刺激性レセプター抗体陰性,HBs抗原陰性,HCV抗体陰性で,炎症反応,肝胆道系酵素の軽度上昇,軽度の耐糖能異常以外に明らかな異常所見はなかった.頭部・眼窩CMRI検査所見:頭蓋内・眼窩内に眼球運動障害の原因となる明らかな異常所見を認めなかった.経過:第C7病日,頭痛とふらつき,手指の異常感覚の増悪を自覚し再受診となった.診察上,両眼とも下転は比較的保たれていたが,両眼の全方向性の眼球運動制限を認めた.輻湊も不能であった.同日,全身症状を含めた精査目的に当院脳神経内科へ紹介した.神経学的所見として,膝蓋腱・アキレス腱・上腕二頭筋・上腕三頭筋で腱反射の消失を認め,Mann試験は陽性であった.そのほか,眼球運動障害以外の脳神経の異常や,上下肢の運動障害,温痛覚・触覚・位置覚・振動覚の異常は認めなかった.脳神経内科で追加施行した血液検査所見は,白血球10,300/μl,白血球分画は,好中球C76.4%,リンパ球C15.0%,単球7.3%,好酸球1.0%,好塩基球0.3%,Alb4.8g/dl,空腹時血糖C120Cmg/dl,IgG2,148Cmg/dl,IgA408Cmg/dl,CIgM229Cmg/dl,C3155Cmg/dl,C421Cmg/dl,CH50C69.5U/ml,ACE10.2CU/l,PR3-ANCA1.0CU/ml未満,MPO-ANCA1.0CU/ml未満,可溶性CIL-2レセプターC319CU/ml,抗ds-DNAIgG抗体10IU/ml未満,抗Sm抗体陰性,抗SS-A抗体陰性,抗CSS-B抗体陰性,梅毒CRPR陰性,梅毒TP抗体陰性,T-SPOT.TB陰性,Cb-D-グルカンC6.0Cpg/ml未満,ビタミンCB12681Cpg/ml,葉酸C7.4Cng/ml,ビタミンCB141Cng/mlであった.脳脊髄液検査所見は,細胞数C1個/μl,糖C81Cmg/dl,蛋白C24.8Cmg/dl,Alb159.9Cμg/ml,IgG2.7Cmg/dl,ミエリン塩基性蛋白C40.0Cpg/mlであり,蛋白細胞解離やCIgGindexの上昇を認めなかった.脳脊髄液の墨汁染色検査は陰性で,オリゴクローナルバンドも陰性であった.臨床経過から,外眼筋麻痺,運動失調,腱反射消失の三徴を満たし,MFSが強く疑われた.詳細な問診で,当院眼科初診のC1カ月前に下痢症状があったことが判明し,先行感染のエピソードが確認された.しかし,上下肢の運動・感覚障害の自覚症状もあり,GBSの可能性も考慮され,精査加療目的で第C9病日,脳神経内科に入院となった.入院時の瞳孔所見として,瞳孔径に左右差はなく,直接対光反応は迅速で左右差はなかった.同日施行した頭部造影MRI検査で,明らかな頭蓋内の異常や眼球運動障害の原因となる所見を認めなかった.神経伝導速度検査は,右正中神経・尺骨神経,左脛骨神経・腓腹神経で測定し,運動・感覚ともに遠位潜時・振幅・伝導速度・F波の出現率に異常を認めなかった.入院後も両眼の全方向性眼球運動障害を認め改善はみられなかった.このときのC9方向眼位写真を示す(図2).第C12病日から免疫グロブリン大量静注療法(intrave-nousimmunoglobulin:IVIg)として献血ヴェノグロブリンCIH400mg/kg/日を5日間施行した.身長171cm,体重118Ckg,BMIC40.4Ckg/m2と肥満があり,IVIgに伴う血栓症リスクが大きいと考え,ヘパリンナトリウム製剤を併用した.IVIg開始直後(第C12病日),左眼の睫毛徴候に加え,飲みものが口から漏れる,口笛が吹けないなどの訴えもあり左末梢性顔面神経麻痺と診断された.左眼の異物感や眼痛などの訴えはなかった.第C13病日,脳神経内科で追加施行した血清学的検査から抗ガングリオシド抗体のなかで,抗CGQ1bIgG抗体および抗CGT1aIgG抗体が陽性であることが判明し,MFSと確定診断された.その後は増悪なく経過し,両眼外転障害は改善傾向を認め,第C26病日に退院した.経図1眼科初診時(発症第3病日)のHess赤緑試験両眼の外転制限を認める.図2脳神経内科入院時(発症第9病日)の9方向眼位写真両眼とも下転は比較的保たれているが,両眼の全方向性の眼球運動障害を認める.過中,一過性に軽度の肝酵素上昇や尿蛋白を認めたが,その後改善した.IVIg前後の血清中CIgGの変化はC2,148Cmg/dl(治療前)からC5,628Cmg/dl(治療C6日後)であった.第C54病日,左眼睫毛徴候陽性も,口角の左右差は消失し,顔面神経麻痺の回復傾向を認めた.治療開始約C6週後(第C56病日),水平複視は残存していたが,Hess赤緑試験全方向の眼球運動障害の改善を認めた(図3).また,軽度の左眼閉瞼不全はみられたものの明らかな角膜上皮障害はみられなかった.治療開始C10週後(第C82病日)には左末梢性顔面神経麻痺(睫毛徴候)は消失した.その後再燃なく経過し,治療開始C4.5カ月後(第C147病日)の眼科最終受診には複視は消失し,Hess赤緑試験でも明らかな眼球運動制限はみられなかった(図4).経過中,両眼ともに視力障害はなかった.II考按本症例の診断に関して,外眼筋麻痺に伴う複視で発症し,運動失調と深部腱反射の消失を認め,MFSの三徴を呈しており,当初は典型的なCMFSと考えられた.MFSでは多くのケースで複視またはふらつきで発症し,三徴のみの場合もあるが,三徴の揃わない不全型CMFSも報告されている.通常,MFSと診断された場合,無治療で経過観察となる.しかし,外眼筋麻痺を伴うCGBSやCBickersta.型脳幹脳炎(Bickersta.Cbrainstemencephalitis:BBE)への移行例の報告や,MFSと咽頭・頸部・上腕型CGBS(pharyngeal-cervi-cal-brachialCvariantCofGBS:PCB-GBS)とのオーバーラップ例などの臨床病型も報告されている2,4,7).本症例も経過中,上肢優位に四肢運動・感覚障害の自覚症状があり,MFS単図3治療開始約6週後(発症第56病日)のHess赤緑試験水平複視は残存している,全方向の眼球運動障害の改善を認める.図4治療開始4.5カ月後(発症第147病日)のHess赤緑試験軽度の内斜は残存しているものの,明らかな眼球運動制限はみられない.独ではなく外眼筋麻痺を伴うCGBSやCPCB-GBSとのオーバーラップ例であった可能性は否定できない.神経伝導速度検査では明らかな異常を認めなかったが,発症早期には異常がみられない報告例もあり3,8),PCB-GBSとのオーバーラップ例を疑う場合には検査を複数回行うことが重要と考えられている.MFSの原因に関してはCCampylobacterCjejuniやCHae-mophilusin.uenzaなどの先行感染の関与が示唆されており,急性期のCMFS患者の約C80.90%でガングリオシドGQ1bに対するCIgG抗体が血清中に検出される2,9).本症例でも先行感染を確認した.先行感染病原体の抗原刺激により抗体が産生され,それが神経組織の共通構造を有する糖鎖抗原に作用して神経障害が発症すると考えられている2).また,神経組織における抗原の局在が臨床病型を規定していると考えられており,GQ1b糖鎖抗原が外眼筋を支配する脳神経の傍絞輪部や後根神経節の一部の大型細胞,筋紡錘のなかのIa感覚線維に富んだ領域に多く存在することが三徴を引き起こす原因と考えられている2).GQ1bはガングリオシドGT1aとも交差反応を示し,抗CGT1a抗体陽性例のC94%で抗CGQ1b抗体も検出される10).また,抗CGT1a抗体はCPCB-表1遅発性顔面神経麻痺を認めたFisher症候群の過去の報告例との比較渡邊ら5)本症例症例1症例2症例3年齢26歳35歳46歳46歳性別男性男性女性女性抗ガングリオシド抗体CGQ1bIgG,GQ1bIgG,GQ1bIgG,GQ1bIgGCGT1aIgGCGT1aIgGCGM1IgM初期治療CIVIg免疫吸着CIVIgなし顔面神経麻痺発症日16病日(左側)12病日(右側)9病日(左側)8病日(両側)顔面神経麻痺に対する治療なしステロイド(パルス,ステロイド(パルス,CIVIg内服),免疫吸着内服)顔面神経麻痺回復開始日21病日20病日20病日顔面神経麻痺消失日82病日24病日31病日175病日以降抗CGD抗体:抗ガングリオシド抗体,IVIg:intravenousimmunoglobulin(免疫グロブリン大量静注療法).GBSとの関連性が指摘されている10).本症例では抗CGQ1b抗体,抗CGT1a抗体ともに陽性であり,純粋なCMFSの病態だけでなく,MFSにCPCB-GBSがオーバーラップしていたとしても矛盾はないと考えられる.一方でCMFSのC24.50%に四肢の異常感覚を合併したとの報告もあるが4,9),抗GT1a抗体の関与については言及されていない.抗CGQ1b抗体陽性のCMFSは,無治療でも自然軽快し比較的予後良好と考えられており,無治療で経過観察されることが多い2).四肢脱力や中枢神経障害を合併した場合には,GBSに準じて免疫療法(IVIgや血漿交換療法)を行うことが推奨されている11).IVIgは血漿交換療法に比べ患者負担が少ないことや小児の川崎病に対しても施行されていることから,現在CGBSの第一選択薬となっている.本症例も当初は典型的なCMFSと思われたが,四肢の運動・感覚障害のエピソードや,急速な外眼筋麻痺の増悪もあり,早期にCIVIgを行った.IVIgの作用機序としては,IgGが結合するCFcCc受容体を介したマクロファージの活性化の阻害,補体を介する免疫反応の抑制,抗イディオタイプ抗体による自己抗体の制御,炎症性サイトカインの制御などが考えられている12).免疫療法を実施するのであれば,早い段階で行うことが望ましく,発症早期の段階で外眼筋麻痺を伴うCGBSやCBBEへの移行の可能性を評価することが重要で,神経症状悪化の進行が速いCMFS症例では免疫療法の実施を積極的に検討する必要がある.MFSの多数例を検討した臨床研究で,MoriらのC50例の検討では,発症からC6カ月の時点で運動失調と外眼筋麻痺は50例全例で消失したと報告されている4).また,大野らはMFSのC19例を解析し,経過を追跡することができたC18例において複視消失までの期間は平均C70日,無治療で経過観察を行ったC17例の複視消失までの期間も平均約C70日で,最長でもC180日であったと報告している9).本症例ではCIVIgを施行したものの,複視の発症から消失までに約C150日を要しており,IVIgによって症状改善までの期間が短縮されたかは不明である.しかし,IVIg開始後に顔面神経麻痺以外の症状は早期に改善傾向を示しており,自然経過による改善も否定はできないが,IVIgによる一定の効果はあった可能性が考えられる.前述のとおり,MFSでは外眼筋麻痺以外の脳神経障害を認める場合もあり,眼瞼下垂(58%),瞳孔異常(42%),顔面神経麻痺・球麻痺(30%)の順に合併しやすい11).Moriらは,MFSのC32%(16/50例)に顔面神経麻痺を合併し,12%(6/50例)が他の症状が回復したあとに顔面神経麻痺が出現したと報告している4).ほかにも外眼筋麻痺や運動失調の症状がピークに達した,もしくは改善後に遅発性に顔面神経麻痺をきたした症例の報告も散見され,Bell麻痺やCRam-say-Hunt症候群も鑑別となり,ステロイド,IVIgもしくはバラシクロビルが使用されていた5,6).渡邊ら5)が報告した遅発性顔面神経麻痺を合併したCMFSのC3例と本症例を比較した(表1).MFSに対する初期治療はC2例で施行され,遅発性顔面神経麻痺の発症は第C8病日から第C12病日でみられ,全例でステロイド治療もしくはCIVIg治療が施行されていた.遅発性顔面神経麻痺の回復は,3例いずれも第C20.21病日で始まり,本症例の第C54病日に比べ短縮していた.一方,遅発性顔面神経麻痺の消失日に関して,MFSの初期治療が施行されなかったC1例で第C175病日でも閉瞼不全が残存していたが,他のC2例では第C24からC31病日で消失し,本症例に比べ短縮していた.Tatsumotoらは,GBS(195例)とMFS(68例)における遅発性顔面神経麻痺について検討しており,GBSのC28%(55/195例)そしてCMFSのC18%(12/68例)で顔面神経麻痺を合併し,GBSのC12例(6%)がそしてMFSのC4例(6%)が遅発性に生じたと報告している13).また,遅発性顔面神経麻痺合併例のC16例全例でステロイドなどの追加治療を必要とせず,遅発性顔面神経麻痺発症からC3週以内に改善したと報告している13).本症例も他症状がピークに達したのちに顔面神経麻痺を発症しており,遅発性の定義に当てはまると考えられ,初回のCIVIgのみで,追加治療を必要とせずに回復しており,Tatsumotoらの既報13)と同様の結果であった.以上まとめると,MFSに対する初期治療の有無にかかわらず,遅発性顔面神経麻痺は発症しうること,遅発性顔面神経麻痺に対する治療の有無にかかわらずほとんどの症例で短期的に消失する可能性があるものの,遷延化した場合,追加治療を検討する必要があると考えられた.MFSでは外眼筋麻痺以外の脳神経障害の合併例が報告されていること,また,外眼筋麻痺を伴うCGBSやCPCB-GBSとのオーバーラップ例などの臨床病型も存在することから,MFSに対しては,眼科医と脳神経内科医が連携し診療にあたることが重要であると考えられた.文献1)FisherM:AnCunusualCvariantCofCacuteCidiopathicCpoly-neuritis(syndromeCofCophthalmoplegia,CataxiaCandare.exia).NEnglJMedC255:57-65,C19562)千葉厚郎:Fisher症候群と抗CGQ1b抗体.神経眼科C33:C161-170,C20163)山岸裕子,楠進:Guillain-Barre症候群および関連疾患の診断と治療.診断と治療C105:89-92,C20174)MoriM,KuwabaraS,FukutakeTetal:ClinicalfeaturesandCprognosisCofCMillerCFisherCsyndrome.CNeurologyC56:C1104-1106,C20015)渡邊将平,山崎博充,山本麻未ほか:Fisher症候群における遅発性顔面神経麻痺.末梢神経C22:353-354,C20116)佐藤萌美,森悠,赤塚和寛ほか:遅発性に顔面神経麻痺を呈したCFi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