———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYを除く 11 の下位尺度の平均を総合得点として算出し,視覚関連 QOL 全体の評価として用いる.VFQ-25 の優れているところは患者の主観に偏りがちな QOL をある程度客観的に定量評価できるところにある.2001 年に Mangione らがこの VFQ-25 を発表した1)が,2001 年から 2009 年までの間に前眼部,後眼部疾患のみならず視神経・眼窩疾患まで実にさまざまな眼科疾患の評価に使われており,その有用性が示されている(表 3).II視力とQOLが関連する疾患眼科疾患を有する患者ではほとんどの場合,視覚関連QOL が低下する.それでは QOL の低下する原因はなんだろうか?まずわれわれの頭に思い浮かぶのは視力である.物が見えないから QOL が低下する.これは当たり前のようであるが,現代の眼科診療において“視力”という指標が一番重要視されているからである.前述したように,視力は視機能の一部を表すにすぎないが,形態覚という重要な機能の指標である.そのため,視力と QOL には非常に密接な関係がある.現在までに視力と視覚関連 QOL との関連が論文として明確にされている疾患は多数ある(表 4).1. 角膜疾患円錐角膜患者 1,166 人を対象とした大規模な study では,両眼視力 0.5 未満のものや+52 D 以上の角膜屈折力はじめに視機能は形態覚,光覚,色覚,視野,立体視などさまざまな要素から成り立っている.形態覚は視機能のなかで最も重要な因子であり,視力は形態覚の一部を表している.そのため日常診療において視力は視機能の最も基本となる指標といえる.また,日常生活においてヒトが外界から得る情報の 80 90%は視覚とされている.したがって視力と quality of life(QOL)との間には密接な関係があると考えられる.IQOLを評価する指標―VFQ 25―われわれが医療を行うにあたり,治療の最終目標は患者の QOL を改善することである.眼科領域において疾患や治療の効果を従来の視力などの視機能の面からのみ評価するのではなく,患者の日常生活機能や健康関連QOL の面から評価する指標を視覚関連 QOL という.視覚関連 QOL を評価するものとして近年 National Eye Institute-Visual Function Questionnaire 25(VFQ-25)という自己記入式の質問表が用いられるようになった.わが国では日本語に翻訳されたものがある.このVFQ-25 は視覚関連 QOL を評価するための 25 項目の質問から成る.そしてその質問を 12 の小項目(下位尺度)に分類し,それぞれの下位尺度を 0 100 点に変換して評価する.点数が良いほど患者の視覚関連 QOL が高いということになる.25 の質問と 12 の下位尺度は表1,2 のとおりである.12 の下位尺度のうち,健康全般(49) 1489 Fu i i O a oto etsuro Os i a 3 5 8575 1 1 1 特集●視力検査のすべて あたらしい眼科 26(11):1489 1493,2009視力 と Quality of LifeVisual Acuity and Quality of Life岡本史樹*大鹿哲郎*———————————————————————- Page 21490あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(50)をもつ患者の QOL が有意に低かったとしている2).2. 中間透光体疾患白内障では手術による QOL の改善度と視力改善度との間に有意な相関関係があったとしている.すなわち,視力が改善すればするほど QOL も向上するということ表 1VFQ 25(日本語版)の質問内容 1. あなたの全身の健康状態はどうですか? 2.現在,あなたの両眼での「ものの見えかた」は,どうですか? 3.自分の「ものの見えかた」について,不安を感じますか? 4.今まで,目や,目のまわりに,痛みや不快感,例えば熱っぽさ,かゆみ,痛みなどは,どの程度ありましたか? 5.ものが見にくいために,新聞の記事を読むのは,どのくらい難しいですか? 6. ものが見えにくいために,物を近くで見る作業(例えば料理や裁縫をしたり,家の中で修理をしたり工具を使ったり,など)をするのはどのくらい難しいですか? 7.ものが見えにくいために,たくさん物が置いてある棚から特定の物を見つけるのは,どのくらい難しいですか? 8.ものが見えにくいために,道路標識や商店の看板の文字を読むのは,どのくらい難しいですか? 9.ものが見えにくいために,夜や薄暗いところで,階段をおりたり,歩道の段差をおりたりするのはどのくらい難しいですか?10.ふだん道を歩くとき,ものが見えにくいために,まわりのものに気が付かないことがありますか?11.ものが見えにくいために,あなたが何か言った時に相手がどう反応するかをみるのはどのくらい難しいですか?12.ものが見えにくいために,その日に着る服を自分で選んだり,組み合わせたりするのはどのくらい難しいですか?13.ものが見えにくいために,誰かの家を訪ねたり,何かの集まりやレストランに行ったりするのはどのくらい難しいですか?14.ものが見えにくいために,映画や芝居を観たり,スポーツを観戦しに行ったりするのは,どのくらい難しいですか?15.車の運転について伺います.現在,あなたは車を運転することがありますか?16.夜間の運転はどのくらい難しいですか?17.ものが見えにくいために,物事を思いどおりにやりとげられないことがありますか?18.ものが見えにくいために,仕事などのふだんの活動が長く続けられないことがありますか?19.目や,目のまわりの,痛みや不快感が原因で,やりたいことができないことがありますか?20.ものが見えにくいために, 家にいることが多いですか?21.ものが見えにくいために,欲求不満を感じますか?22.ものが見えにくいために,したいことが思うようにできませんか?23.ものが見えにくいために,他の人が話すことにたよらなければなりませんか?24.ものが見えにくいために,誰かの手助けを必要とすることが多いですか?25.ものが見えにくいために,自分が気まずい思いをしたり,他の人を困らせたりするのではないかと心配ですか?表 2VFQ 25の12個の下位尺度 1.健康全般(General health) 2.視覚全般(General vision) 3.眼痛,眼刺激感(Ocular pain) 4.近見障害に伴う不都合(Near activities) 5.遠見障害に伴う不都合(Distance activities) 6.視覚障害による社会生活への影響(Social functioning) 7.視覚障害による精神面への影響(Mental health) 8.視覚障害による社会的役割への制限(Role di culties) 9.視覚障害による他者への依存(Dependency)10.自動車運転(Driving)11.色覚(Color vision)12.周辺視野(Peripheral vision) ※1. を除く 11 の下位尺度の平均が総合得点(Composite score).表 4視力と視覚関連QOLに関連があると考えられている疾患角膜円錐角膜中間透光体白内障網膜糖尿病網膜症,増殖糖尿病網膜症,黄斑前膜,黄斑円孔,加齢黄斑変性,網膜中心静脈閉塞症,網膜中心静脈分枝閉塞症,birdshot retinopathy視神経・眼窩緑内障,多発性硬化症,下垂体腫瘍表 3VFQ 25で評価されている眼科疾患外眼ドライアイ, 斜視, 眼瞼痙攣, アレルギー性結膜炎角膜円錐角膜中間透光体白内障網膜糖尿病網膜症,増殖糖尿病網膜症,網膜 離,黄斑前膜,黄斑円孔,加齢黄斑変性,糖尿病黄斑浮腫,網膜中心静脈閉塞症,網膜中心静脈分枝閉塞症,birdshot retinopathy,網膜色素変性症視神経・眼窩緑内障, 多発性硬化症, Basedow 病, 下垂体腫瘍———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091491(51)で行われるため,患者の QOL は健眼の視力=better eye に影響を受ける.Birdshot retinopathy や下垂体腫瘍のような軽度の視力障害が片眼または両眼にある場合には両眼を用いて日常生活を行うため,患者の QOL はworse eye の視力に影響を受ける4).網膜中心静脈分枝閉塞症は,患眼=worse eye が軽度の視力障害,そして健眼は正常であり,worse eye の視力に QOL が関連していることを考えると,患者の日常生活は両眼主体で行われているのかもしれない.増殖糖尿病網膜症の 51 名の患者を対象として片眼の硝子体手術前後で QOL を評価した論文では,術前は better eye の視力と QOL が関連し,術後は better eye, worse eye ともに QOL に関連したと報告している5).増殖糖尿病網膜症のような両眼性の視力不良な疾患では,術前は術眼=worse eye の視力がかなり不良なため,僚眼=better eye 主体で日常生活を送っている.そのために術前は better eye とQOL が関連する.しかし術後は視力レベルが低いながらも一般的に術眼は僚眼と同程度の視力まで改善するため,better eye, worse eye ともに QOL と関連すると考えられる.QOL と視力との関連を考える場合,このように各々の視力の水準を考慮しなければならないため,両眼開放下視力と QOL との関連を評価するべきだという意見もある.黄斑円孔や黄斑前膜,加齢黄斑変性などの疾患において両眼開放下視力と QOL との間に関連があったとの報告がある.IV視力以外の要素がQOLに関連すると 考えられる疾患 QOL が視力と密接な関係にあることは前述したとおりだが,QOL=視力ではない.日常診療において,視力が良いから必ずしも QOL が高いとは限らない患者に遭遇することはしばしばある.矯正視力 1.0 の白内障患者が霧視や薄暮時の見づらさを訴える,視力良好な網膜 離術後の患者がなんとなく見づらくてものが小さく見える,同じく視力良好な黄斑前膜術後の患者が変視を訴える,などなど….中心視野の残る緑内障や網膜色素変性症患者もしかりである.視機能は視力だけではない.表 5 に視力以外の要素と QOL に関連があると考えられになる.3. 網膜疾患網膜疾患では糖尿病網膜症や黄斑前膜,黄斑円孔,加齢黄斑変性,網膜静脈閉塞症など,視力と QOL との関連を記した論文が多数みられる.糖尿病網膜症ではVFQ-25 の下位尺度のうち,近見視力や遠見視力のQOL に関する項目が視力と関連すると報告されている.増殖糖尿病網膜症では視力が良好なほうの眼(better eye)の視力が QOL に関連があるとされている5).黄斑円孔や黄斑前膜では両眼視力が低下していると QOL も低下し,加齢黄斑変性は better eye の視力が下がるとQOL が低下するといわれている.網膜中心静脈閉塞症は better eye(健眼)の視力と QOL との間に有意な相関を示し,網膜中心静脈分枝閉塞症では視力が不良なほうの眼(worse eye;ここでは患眼ということになる)の視力が QOL との間に有意な相関を示している.また,birdshot retinopathy では worse eye の視力と QOL に関連があったとしている.4. 視神経・眼窩疾患その他緑内障や多発性硬化症,下垂体腫瘍などの疾患でも視力と QOL との関連が報告されている.初期の緑内障 255 人を対象にした study では better eye の視力と QOL との間に関連があることが明らかとなり3),下垂 体 腫 瘍 の 患 者 154 人 を 対 象 に し た も の で は better eye, worse eye ともに QOL との間に関連があることがわかった4).このように,何気なくわれわれが感じていた視力とQOL との関係が VFQ-25 という指標で評価することにより科学的に証明されつつある.多発性硬化症や下垂体腫瘍などの視路疾患などにおいても視力と QOL の関連が明らかにされたことは興味深い.IIIBetter eyeとWorse eye,QOLとの関係ここで注意しなければならないのが患眼と健眼,どちらの視力と QOL が関連するかということである.たとえば,網膜中心静脈閉塞症のように患眼の視力が悪く,健眼の視力が良好な場合には患者の日常生活は健眼主体———————————————————————- Page 41492あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(52)黄斑円孔の変視量と QOL の関係を調べた論文では,両疾患ともに視力やコントラスト感度ではなく変視が一番QOL に関連する因子であることがわかっている6,7).3. 視野緑内障や網膜色素変性症,下垂体腫瘍の患者は視野とQOL に関わりがあるとされている.軽度の緑内障 255例を解析した結果では better eye の視力のみならずworse eye の静的視野の MD(平均偏差)値が QOL に関連していた3).また,網膜色素変性症患者では周辺視野欠損の程度が大きいほど QOL が低下することがわかった.下垂体腫瘍の患者では視力,中心フリッカー値,静的視野感度,罹病期間のすべてに QOL が関連したが,多変量解析で better eye の静的視野 MD 値と罹病期間が選択された4).その他ドライアイでは重症度,Basedow 病では複視の存在が QOL を低下させることが知られており,各疾患それぞれ特有の因子があることがわかる.このように,視力と QOL との間には非常に密接な関係がある.しかし視力は QOL の低下を説明できる万能な指標ではない.われわれが眼科疾患を有する患者を治療する最終の目的は,視力を改善させることではなく患者の QOL を向上させることである.日常臨床において患者の QOL を向上させるためには,疾患ごとに QOLに影響する特有な視機能因子を理解し,視力以外の視機能にも目を配ることが大切である.文献 1) Mangione CM, Lee PP, Gutierrez PR et al;National Eye Institute Visual Function Questionnaire Field Test Investi-gators:Development of the 25-item National Eye Insti-tute Visual Function Questionnaire. Arch Ophthalmol 119:1050-1058, 2001 2) Kymes SM, Walline JJ, Zadnik K et al;Collaborative Lon-gitudinal Evaluation of Keratoconus Study Group:Quality of life in keratoconus. Am J Ophthalmol 138:527-535, 2004 3) Hyman LG, Komaro E, Heijl A et al;Early Manifest Trial Group:Treatment and vision-related quality of life in the early manifest glaucoma trial. Ophthalmology 112:1505-1513, 2005ている疾患をあげた.1. コントラスト感度糖尿病網膜症や網膜 離術後,birdshot retinopathy,多発性硬化症の患者ではコントラスト感度が QOL と関連するといわれている.しかも網膜 離術後の患者は視力と QOL に関連はなく,コントラスト感度にのみ QOLが関連することがわかっている.コントラスト感度は視機能のなかで形態覚全体を表すものであり,視力よりも鋭敏に QOV を表すことができる指標とされている.2. 変視黄斑前膜や黄斑円孔の患者は視力と QOL に関連があり,変視とは関連がなかったとの論文がある.しかしそれらの論文では変視量を評価する指標としてアムスラーチャートを用いている.アムスラーチャートは変視の広がりを的確に捉えることはできるが変視の程度や定量評価するのが困難である.近年,変視量,特に変視の程度を容易に定量評価できる指標として M-CHARTSRが用いられている.この M-CHARTSRを用いて黄斑前膜や表 5 視力以外の要素と視覚関連QOLに関連があると考えられている疾患疾患名視覚関連 QOL と関連のある要素ドライアイ重症度白内障核硬度糖尿病網膜症コントラスト感度,中心視野増殖糖尿病網膜症コントラスト感度網膜 離(術後)コントラスト感度黄斑前膜変視黄斑円孔変視網膜中心静脈閉塞症全身疾患Birdshot retinopathyコントラスト感度網膜色素変性症周辺視野緑内障静的視野(MD 値)多発性硬化症コントラスト感度下垂体腫瘍静的視野(MD,PSD 値),中心フリッカー,罹病期間Basedow 病複視MD:mean deviation,PSD:pattern standard deviation.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091493(53)tomy for epiretinal membrane on visual function and vision-related quality of life. Am J Ophthalmol 147:869-874, 2009 7) Fukuda S, Okamoto F, Yuasa M et al:Vision-Related Quality of Life and Visual Function in Patients undergoing Vitrectomy, Gas tamponade, and Cataract Surgery for Macular Hole. Br J Ophthalmol, 2009 Jun 30. [Epub ahead of print] 4) Okamoto Y, Okamoto F, Hiraoka T et al:Vision-related quality of life in patients with pituitary adenoma. Am J Ophthalmol 146:318-322, 2008 5) Okamoto F, Okamoto Y, Fukuda S et al:Vision-related quality of life and visual function following vitrectomy for proliferative diabetic retinopathy. Am J Ophthalmol 145:1031-1036, 2008 6) Okamoto F, Okamoto Y, Hiraoka T et al:E ect of vitrec-