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視力検査とQuality of Life

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYを除く 11 の下位尺度の平均を総合得点として算出し,視覚関連 QOL 全体の評価として用いる.VFQ-25 の優れているところは患者の主観に偏りがちな QOL をある程度客観的に定量評価できるところにある.2001 年に Mangione らがこの VFQ-25 を発表した1)が,2001 年から 2009 年までの間に前眼部,後眼部疾患のみならず視神経・眼窩疾患まで実にさまざまな眼科疾患の評価に使われており,その有用性が示されている(表 3).II視力とQOLが関連する疾患眼科疾患を有する患者ではほとんどの場合,視覚関連QOL が低下する.それでは QOL の低下する原因はなんだろうか?まずわれわれの頭に思い浮かぶのは視力である.物が見えないから QOL が低下する.これは当たり前のようであるが,現代の眼科診療において“視力”という指標が一番重要視されているからである.前述したように,視力は視機能の一部を表すにすぎないが,形態覚という重要な機能の指標である.そのため,視力と QOL には非常に密接な関係がある.現在までに視力と視覚関連 QOL との関連が論文として明確にされている疾患は多数ある(表 4).1. 角膜疾患円錐角膜患者 1,166 人を対象とした大規模な study では,両眼視力 0.5 未満のものや+52 D 以上の角膜屈折力はじめに視機能は形態覚,光覚,色覚,視野,立体視などさまざまな要素から成り立っている.形態覚は視機能のなかで最も重要な因子であり,視力は形態覚の一部を表している.そのため日常診療において視力は視機能の最も基本となる指標といえる.また,日常生活においてヒトが外界から得る情報の 80 90%は視覚とされている.したがって視力と quality of life(QOL)との間には密接な関係があると考えられる.IQOLを評価する指標―VFQ 25―われわれが医療を行うにあたり,治療の最終目標は患者の QOL を改善することである.眼科領域において疾患や治療の効果を従来の視力などの視機能の面からのみ評価するのではなく,患者の日常生活機能や健康関連QOL の面から評価する指標を視覚関連 QOL という.視覚関連 QOL を評価するものとして近年 National Eye Institute-Visual Function Questionnaire 25(VFQ-25)という自己記入式の質問表が用いられるようになった.わが国では日本語に翻訳されたものがある.このVFQ-25 は視覚関連 QOL を評価するための 25 項目の質問から成る.そしてその質問を 12 の小項目(下位尺度)に分類し,それぞれの下位尺度を 0 100 点に変換して評価する.点数が良いほど患者の視覚関連 QOL が高いということになる.25 の質問と 12 の下位尺度は表1,2 のとおりである.12 の下位尺度のうち,健康全般(49) 1489 Fu i i O a oto etsuro Os i a 3 5 8575 1 1 1 特集●視力検査のすべて あたらしい眼科 26(11):1489 1493,2009視力 と Quality of LifeVisual Acuity and Quality of Life岡本史樹*大鹿哲郎*———————————————————————- Page 21490あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(50)をもつ患者の QOL が有意に低かったとしている2).2. 中間透光体疾患白内障では手術による QOL の改善度と視力改善度との間に有意な相関関係があったとしている.すなわち,視力が改善すればするほど QOL も向上するということ表 1VFQ 25(日本語版)の質問内容 1. あなたの全身の健康状態はどうですか? 2.現在,あなたの両眼での「ものの見えかた」は,どうですか? 3.自分の「ものの見えかた」について,不安を感じますか? 4.今まで,目や,目のまわりに,痛みや不快感,例えば熱っぽさ,かゆみ,痛みなどは,どの程度ありましたか? 5.ものが見にくいために,新聞の記事を読むのは,どのくらい難しいですか? 6. ものが見えにくいために,物を近くで見る作業(例えば料理や裁縫をしたり,家の中で修理をしたり工具を使ったり,など)をするのはどのくらい難しいですか? 7.ものが見えにくいために,たくさん物が置いてある棚から特定の物を見つけるのは,どのくらい難しいですか? 8.ものが見えにくいために,道路標識や商店の看板の文字を読むのは,どのくらい難しいですか? 9.ものが見えにくいために,夜や薄暗いところで,階段をおりたり,歩道の段差をおりたりするのはどのくらい難しいですか?10.ふだん道を歩くとき,ものが見えにくいために,まわりのものに気が付かないことがありますか?11.ものが見えにくいために,あなたが何か言った時に相手がどう反応するかをみるのはどのくらい難しいですか?12.ものが見えにくいために,その日に着る服を自分で選んだり,組み合わせたりするのはどのくらい難しいですか?13.ものが見えにくいために,誰かの家を訪ねたり,何かの集まりやレストランに行ったりするのはどのくらい難しいですか?14.ものが見えにくいために,映画や芝居を観たり,スポーツを観戦しに行ったりするのは,どのくらい難しいですか?15.車の運転について伺います.現在,あなたは車を運転することがありますか?16.夜間の運転はどのくらい難しいですか?17.ものが見えにくいために,物事を思いどおりにやりとげられないことがありますか?18.ものが見えにくいために,仕事などのふだんの活動が長く続けられないことがありますか?19.目や,目のまわりの,痛みや不快感が原因で,やりたいことができないことがありますか?20.ものが見えにくいために, 家にいることが多いですか?21.ものが見えにくいために,欲求不満を感じますか?22.ものが見えにくいために,したいことが思うようにできませんか?23.ものが見えにくいために,他の人が話すことにたよらなければなりませんか?24.ものが見えにくいために,誰かの手助けを必要とすることが多いですか?25.ものが見えにくいために,自分が気まずい思いをしたり,他の人を困らせたりするのではないかと心配ですか?表 2VFQ 25の12個の下位尺度 1.健康全般(General health) 2.視覚全般(General vision) 3.眼痛,眼刺激感(Ocular pain) 4.近見障害に伴う不都合(Near activities) 5.遠見障害に伴う不都合(Distance activities) 6.視覚障害による社会生活への影響(Social functioning) 7.視覚障害による精神面への影響(Mental health) 8.視覚障害による社会的役割への制限(Role di culties) 9.視覚障害による他者への依存(Dependency)10.自動車運転(Driving)11.色覚(Color vision)12.周辺視野(Peripheral vision) ※1. を除く 11 の下位尺度の平均が総合得点(Composite score).表 4視力と視覚関連QOLに関連があると考えられている疾患角膜円錐角膜中間透光体白内障網膜糖尿病網膜症,増殖糖尿病網膜症,黄斑前膜,黄斑円孔,加齢黄斑変性,網膜中心静脈閉塞症,網膜中心静脈分枝閉塞症,birdshot retinopathy視神経・眼窩緑内障,多発性硬化症,下垂体腫瘍表 3VFQ 25で評価されている眼科疾患外眼ドライアイ, 斜視, 眼瞼痙攣, アレルギー性結膜炎角膜円錐角膜中間透光体白内障網膜糖尿病網膜症,増殖糖尿病網膜症,網膜 離,黄斑前膜,黄斑円孔,加齢黄斑変性,糖尿病黄斑浮腫,網膜中心静脈閉塞症,網膜中心静脈分枝閉塞症,birdshot retinopathy,網膜色素変性症視神経・眼窩緑内障, 多発性硬化症, Basedow 病, 下垂体腫瘍———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091491(51)で行われるため,患者の QOL は健眼の視力=better eye に影響を受ける.Birdshot retinopathy や下垂体腫瘍のような軽度の視力障害が片眼または両眼にある場合には両眼を用いて日常生活を行うため,患者の QOL はworse eye の視力に影響を受ける4).網膜中心静脈分枝閉塞症は,患眼=worse eye が軽度の視力障害,そして健眼は正常であり,worse eye の視力に QOL が関連していることを考えると,患者の日常生活は両眼主体で行われているのかもしれない.増殖糖尿病網膜症の 51 名の患者を対象として片眼の硝子体手術前後で QOL を評価した論文では,術前は better eye の視力と QOL が関連し,術後は better eye, worse eye ともに QOL に関連したと報告している5).増殖糖尿病網膜症のような両眼性の視力不良な疾患では,術前は術眼=worse eye の視力がかなり不良なため,僚眼=better eye 主体で日常生活を送っている.そのために術前は better eye とQOL が関連する.しかし術後は視力レベルが低いながらも一般的に術眼は僚眼と同程度の視力まで改善するため,better eye, worse eye ともに QOL と関連すると考えられる.QOL と視力との関連を考える場合,このように各々の視力の水準を考慮しなければならないため,両眼開放下視力と QOL との関連を評価するべきだという意見もある.黄斑円孔や黄斑前膜,加齢黄斑変性などの疾患において両眼開放下視力と QOL との間に関連があったとの報告がある.IV視力以外の要素がQOLに関連すると 考えられる疾患 QOL が視力と密接な関係にあることは前述したとおりだが,QOL=視力ではない.日常診療において,視力が良いから必ずしも QOL が高いとは限らない患者に遭遇することはしばしばある.矯正視力 1.0 の白内障患者が霧視や薄暮時の見づらさを訴える,視力良好な網膜 離術後の患者がなんとなく見づらくてものが小さく見える,同じく視力良好な黄斑前膜術後の患者が変視を訴える,などなど….中心視野の残る緑内障や網膜色素変性症患者もしかりである.視機能は視力だけではない.表 5 に視力以外の要素と QOL に関連があると考えられになる.3. 網膜疾患網膜疾患では糖尿病網膜症や黄斑前膜,黄斑円孔,加齢黄斑変性,網膜静脈閉塞症など,視力と QOL との関連を記した論文が多数みられる.糖尿病網膜症ではVFQ-25 の下位尺度のうち,近見視力や遠見視力のQOL に関する項目が視力と関連すると報告されている.増殖糖尿病網膜症では視力が良好なほうの眼(better eye)の視力が QOL に関連があるとされている5).黄斑円孔や黄斑前膜では両眼視力が低下していると QOL も低下し,加齢黄斑変性は better eye の視力が下がるとQOL が低下するといわれている.網膜中心静脈閉塞症は better eye(健眼)の視力と QOL との間に有意な相関を示し,網膜中心静脈分枝閉塞症では視力が不良なほうの眼(worse eye;ここでは患眼ということになる)の視力が QOL との間に有意な相関を示している.また,birdshot retinopathy では worse eye の視力と QOL に関連があったとしている.4. 視神経・眼窩疾患その他緑内障や多発性硬化症,下垂体腫瘍などの疾患でも視力と QOL との関連が報告されている.初期の緑内障 255 人を対象にした study では better eye の視力と QOL との間に関連があることが明らかとなり3),下垂 体 腫 瘍 の 患 者 154 人 を 対 象 に し た も の で は better eye, worse eye ともに QOL との間に関連があることがわかった4).このように,何気なくわれわれが感じていた視力とQOL との関係が VFQ-25 という指標で評価することにより科学的に証明されつつある.多発性硬化症や下垂体腫瘍などの視路疾患などにおいても視力と QOL の関連が明らかにされたことは興味深い.IIIBetter eyeとWorse eye,QOLとの関係ここで注意しなければならないのが患眼と健眼,どちらの視力と QOL が関連するかということである.たとえば,網膜中心静脈閉塞症のように患眼の視力が悪く,健眼の視力が良好な場合には患者の日常生活は健眼主体———————————————————————- Page 41492あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(52)黄斑円孔の変視量と QOL の関係を調べた論文では,両疾患ともに視力やコントラスト感度ではなく変視が一番QOL に関連する因子であることがわかっている6,7).3. 視野緑内障や網膜色素変性症,下垂体腫瘍の患者は視野とQOL に関わりがあるとされている.軽度の緑内障 255例を解析した結果では better eye の視力のみならずworse eye の静的視野の MD(平均偏差)値が QOL に関連していた3).また,網膜色素変性症患者では周辺視野欠損の程度が大きいほど QOL が低下することがわかった.下垂体腫瘍の患者では視力,中心フリッカー値,静的視野感度,罹病期間のすべてに QOL が関連したが,多変量解析で better eye の静的視野 MD 値と罹病期間が選択された4).その他ドライアイでは重症度,Basedow 病では複視の存在が QOL を低下させることが知られており,各疾患それぞれ特有の因子があることがわかる.このように,視力と QOL との間には非常に密接な関係がある.しかし視力は QOL の低下を説明できる万能な指標ではない.われわれが眼科疾患を有する患者を治療する最終の目的は,視力を改善させることではなく患者の QOL を向上させることである.日常臨床において患者の QOL を向上させるためには,疾患ごとに QOLに影響する特有な視機能因子を理解し,視力以外の視機能にも目を配ることが大切である.文献 1) Mangione CM, Lee PP, Gutierrez PR et al;National Eye Institute Visual Function Questionnaire Field Test Investi-gators:Development of the 25-item National Eye Insti-tute Visual Function Questionnaire. Arch Ophthalmol 119:1050-1058, 2001 2) Kymes SM, Walline JJ, Zadnik K et al;Collaborative Lon-gitudinal Evaluation of Keratoconus Study Group:Quality of life in keratoconus. Am J Ophthalmol 138:527-535, 2004 3) Hyman LG, Komaro E, Heijl A et al;Early Manifest Trial Group:Treatment and vision-related quality of life in the early manifest glaucoma trial. Ophthalmology 112:1505-1513, 2005ている疾患をあげた.1. コントラスト感度糖尿病網膜症や網膜 離術後,birdshot retinopathy,多発性硬化症の患者ではコントラスト感度が QOL と関連するといわれている.しかも網膜 離術後の患者は視力と QOL に関連はなく,コントラスト感度にのみ QOLが関連することがわかっている.コントラスト感度は視機能のなかで形態覚全体を表すものであり,視力よりも鋭敏に QOV を表すことができる指標とされている.2. 変視黄斑前膜や黄斑円孔の患者は視力と QOL に関連があり,変視とは関連がなかったとの論文がある.しかしそれらの論文では変視量を評価する指標としてアムスラーチャートを用いている.アムスラーチャートは変視の広がりを的確に捉えることはできるが変視の程度や定量評価するのが困難である.近年,変視量,特に変視の程度を容易に定量評価できる指標として M-CHARTSRが用いられている.この M-CHARTSRを用いて黄斑前膜や表 5 視力以外の要素と視覚関連QOLに関連があると考えられている疾患疾患名視覚関連 QOL と関連のある要素ドライアイ重症度白内障核硬度糖尿病網膜症コントラスト感度,中心視野増殖糖尿病網膜症コントラスト感度網膜 離(術後)コントラスト感度黄斑前膜変視黄斑円孔変視網膜中心静脈閉塞症全身疾患Birdshot retinopathyコントラスト感度網膜色素変性症周辺視野緑内障静的視野(MD 値)多発性硬化症コントラスト感度下垂体腫瘍静的視野(MD,PSD 値),中心フリッカー,罹病期間Basedow 病複視MD:mean deviation,PSD:pattern standard deviation.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091493(53)tomy for epiretinal membrane on visual function and vision-related quality of life. Am J Ophthalmol 147:869-874, 2009 7) Fukuda S, Okamoto F, Yuasa M et al:Vision-Related Quality of Life and Visual Function in Patients undergoing Vitrectomy, Gas tamponade, and Cataract Surgery for Macular Hole. Br J Ophthalmol, 2009 Jun 30. [Epub ahead of print] 4) Okamoto Y, Okamoto F, Hiraoka T et al:Vision-related quality of life in patients with pituitary adenoma. Am J Ophthalmol 146:318-322, 2008 5) Okamoto F, Okamoto Y, Fukuda S et al:Vision-related quality of life and visual function following vitrectomy for proliferative diabetic retinopathy. Am J Ophthalmol 145:1031-1036, 2008 6) Okamoto F, Okamoto Y, Hiraoka T et al:E ect of vitrec-

視力検査とコントラスト感度

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYIIIコントラスト感度空間周波数で表されるような縞を識別できる最小コントラストをコントラスト閾値(contrast threshold),コントラスト閾値の逆数をコントラスト感度(contrast sensitivity)という.縦軸のコントラスト感度は 1 から始まり,決して 0 ではない.ただし,感度あるいは閾値を常用対数のベキ指数で表示する場合には下限値は 0 となる.IVコントラスト感度と時間周波数特性正弦波刺激の明暗をある周期で反転し,時間周波数を制御しコントラスト感度を測定することで空間周波数に依存した時間周波数特性を測定することができる.刺激の大きさが時間周波数特性に影響することもあり,大きな刺激であるほど感度の最大が高い周波数になる.これまでの研究では空間周波数特性と時間周波数特性の関連性が報告されており,低時間周波数領域で時間的に帯域通過型となり,低空間周波数領域で時間的に帯域通過型の特性を示す2).VMTFと眼光学コントラスト感度測定は視覚系の空間周波数特性modulation transfer function(MTF)を測定している.この MTF はもともと光学分野でレンズやカメラの画像処理能力を評価する方法として用いられたものであり,Iコントラストとはコントラスト(contrast)とは,一般に白黒の明暗対比を表し,基本的には規則的な正弦波状の縞の明暗対比をコントラスト C=(Lmax Lmin)/( Lmax+Lmin)で表示する.これを Michelson contrast という.数式上,コントラストが高ければ明暗の差が強く,コントラストが低ければ明暗の差が小さくなる.Lmaxおよび Lminはそれぞれ明暗の最大輝度と最小輝度を示している.コントラストは定義から 0 1 の値(無次元量であり,単位はない)を取り,これを%コントラスト(0 100%)で表すことが多い.II空間周波数縞の細かさや粗さを表す指標として,空間周波数(spatial frequency)を用いる.単位長さ当たり(あるいは単位視角当たり)に正弦波状の明暗縞が何組あるかで表現している.つまり cycles/mm あるいは cycles/deg(cpd とも略記する)の単位を用いる.空間周波数が高いということは縞が細かいということであり,空間周波数が低いということは縞が太いということを意味する1).空間周波数 30 cpd での縞間隔(白あるいは黒の縞幅)は 1min of arc(視角 1 分)で,視力 1.0 の分解能に相当する.コントラスト感度曲線の終末点を遮断周波数cut-o frequency といい,通常の視力値に相当する.(43) 1483 U N N 228 8555 1 15 1 特集●視力検査のすべて あたらしい眼科 26(11):1483 1487,2009視力検査とコントラスト感度Visual Acuity and Contrast Sensitivity Testing魚里博*中山奈々美*———————————————————————- Page 21484あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(44)ラスト感度に影響を受ける.視力表に近付いたり,字ひとつ視標を近づけたりして視力 0.1 未満を測定する場合,空間周波数特性からすれば,コントラスト感度の低い領域に持ち込んで検査を実施しており,その評価には注意が必要である.VIコントラスト感度に影響する疾患・因子1. 視力一般的に,「どのくらい見えているか」という見え方を評価する場合には視力(visual acuity)が用いられる.しかしながら,視力では見え方の質までは評価することができず,日常の見え方を評価するには不十分だといえる.眼科およびその他医学一般で用いられている視力検査では,高コントラスト(コントラスト約 100%)の視標を用いた最小分離閾(あるいは最小可読閾)で評価される.この場合の視力とはそのほとんどが矯正視力であり,遠見での中心視力を意味している.ものの形を見分ける機能である形態覚は,最小視認閾,最小分離閾,最小可読閾および副尺視力に分類することができる.前述したように,臨床的な視力検査は,このうちの最小分離閾を高コントラスト視標で判定しているため,最も条件の良い高コントラスト視標での判別可能な最小切れ目を求めていることになる.すなわち,視力は細かい視覚刺激の像限界のみを与えるのとは異なり,コントラスト感度は広い周波数領域にわたる感度(分布)を示す.そのため,視標サイズだけでなくコントラストも考慮したコントラスト感度測定や,視力はコントラストが比較的高い間はそれほど低下せず低コントラストになると急激に低下するため,低コントラスト視力5)の重要性が近年高まっている.2. その他疾患視力以外にもコントラスト感度は,白内障6)および眼内レンズの種類,弱視7),laser in situ keratomileusis(LASIK)などの屈折矯正手術8)だけでなくさまざまな疾患によっても大きく影響を受ける.白内障や屈折異常眼ではおもに高周波領域のコントラスト低下が認められる一方で,中心性漿液性網脈絡膜炎では全周波数領域でコントラストの低下が起こる.視神のちに Campbell ら3)によってコントラスト感度測定として眼科臨床に応用され始めた.眼光学系の空間周波数特性は右下がりのローパス型を示すのに対し,正常眼の視覚系全体のコントラスト感度曲線は,数 cpd 付近にピークを有するバンドパス型を示している.これは眼光学系以外にも網膜以降の視覚伝達系が関与しているためであり,網膜受容野の側方抑制やマッハ効果などが関連していることが理由である.コントラスト感度曲線は,さまざまな大きさの空間周波数の縞に対するコントラスト感度を求め,通常横軸に空間周波数(cpd),縦軸にコントラスト感度(あるいは閾値)を対数スケールで表示している(図 1)4).光学系のレスポンス関数 MTF は一般にローパス型であり,眼球光学系も同様であるが,ニューラル系はバンドパス型であるため,トータルとしての視覚系はバンドパス型を呈している.コントラスト感度の最大ピークは数 cpd 付近にあるため,通常の視力表では 0.1 0.2 の視標は,視覚系にとっては比較的見やすい視標であることがわかる.MTF は空間的な明暗コントラストの二次元周波数応答を取り扱い,種々の細かさの縞を見たときに,その縞のコントラストがどの程度に認められるかを伝達関数として表している.ただし,厳密には正弦波と矩形波の違いはあり矩形波状の格子などの視標を用いると,正弦波状の基本周波数以外に高周波成分を含むことになるため,多少のコント図 1明所でのコントラスト感度曲線コントラスト感度曲線は空間周波数が高すぎても低すぎても,コントラスト感度は低下するバンドパス型を示す.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091485(45)2. モニターなどに縞などコントラストの異なる視標を提示するもの紙などに印刷されたコントラスト感度装置に比べ,環境照度など外部の影響が少ないことや視標平均輝度の自動キャリブレーション機能などが利点である.近年ではコンパクトな装置が多く開発されている反面,装置の種類が多くあり統一化されていないのが欠点である.代表的 な 装 置 と し て は,CAT-2000(NEITS 社)(図 3),CGT-1000(タ カ ギ セ イ コ ー 社)(図 4),Optec 6500(JFC 社)などがある.多施設間での臨床治験を行うような場合には,環境照度などの測定上の問題はきわめて経疾患に関しては,低周波領域の感度低下があるなど疾患によってコントラスト低下の領域が異なるのも特徴である.3. 因子健常眼でも加齢9)で特に高周波領域のコントラスト感度の低下があると報告されている.これは加齢に伴う瞳孔径の変化や,水晶体の光の散乱などが原因として考えられる.他に健常眼においてコントラスト感度に影響する因子として代表的なものには視標輝度,環境照度,屈折,瞳孔径などもあげられる.視標輝度は網膜照度を変化させるため,ある程度平均輝度が低下することでコントラスト感度は低下する.環境照度の低下に伴い薄暮視,暗所視では著しいコントラストの低下が認められる.また,瞳孔径は網膜照度や収差に密接に関連しているため,コントラストへも影響すると考えられている.VII検査方法および装置検査対象は眼光学系の異常(屈折異常や中間透光体の混濁),網脈絡膜疾患(糖尿病網膜症,網膜 離など)などに代表される視力低下をきたす疾患である.しかしながら,後述のように微妙な視機能低下を検出可能な検査であるため,視力良好症例(LASIK 術後など)にも有用とされる.臨床におけるコントラスト感度測定装置にはさまざまなものがあるが,以下のように大きく 3 種に大別される.1. 印刷した視標を用いるものこれが最も一般的で普及されている装置である.他の装置に比べ安価であり,測定法が簡便なこと,測定時間が短く結果の解釈が比較的容易なことが長所としてあげられる.しかし,印刷紙のため印刷面の劣化や環境照度の影響を受けやすいことがあげられる.Vision Contrast Test System(Vistech 社)(図 2)が臨床上しばしば用いられている.CSV-1000(Vector Vision 社)(図 3)などの投影式もここに分類される.そのため,多施設でのデータ収集時には,検査上での測定環境の影響を受けやすいので,注意が必要である.図 2 VISION CONTRAST TEST SYSTEM:VCTS(Vistch 社) 壁掛け式で視標が紙に印刷されているタイプ.図 3CSV 1000(Vector Vision 社)上下 2 列のうち,正弦波のあるほうを選ぶ強制二択.———————————————————————- Page 41486あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(46)contrast sensitivity function(AULCSF)10)という方法が近年は一般的に用いられるようになった.この方法を用いる場合は,各空間周波数帯における有意な変化を捉えることができないが,全体的なコントラスト感度の低下などを反映することができる利点がある.つまり空間周波数による影響を無視して,コントラスト感度特性の変化を 1 変数にて評価できる利点を有するが,しかし,コントラスト感度の変化が空間周波数に大きく依存するような場合は,AULCSF の方法では注意が必要である.IXグレア検査グレア障害とは,眼球透光体の光の散乱(scattering)により注視している物体の網膜像のコントラストを低下させ,その像の詳細部を不明瞭にさせることである.この障害は中間透光体である水晶体混濁に起因する白内障眼,photorefractive keratectomy(PRK)や LASIK などの角膜屈折矯正手術施行眼,ドライアイなどでグレア障害が健常眼に比べより多く認められるとの報告がある.特に白内障眼に代表される薄暮視下におけるグレア障害は,著しいコントラスト低下が認められると報告されている.グレア検査は視標の周囲あるいは中央にグレア光源をおいてコントラスト感度や視力を測定する装置がある11).少なく,今後標準化が進んで普及するものと思われる.3. 網膜上に直接レーザー干渉縞を投影するものレーザー光を用いて網膜上に直接干渉縞を形成し,その縞の周波数やコントラストを調整して感度を測定する方法である.この装置の一番のメリットは,装置から発光した光束が直接網膜上に投影されるため,眼光学系の結像作用の影響をまったく受けないところである(眼球光学系の影響をバイパスできる利点がある).すなわち,進行した白内障などの術前検査として有用な装置である.ラムダ 100 レチノメーター(エムイーテクニカ社)などを用いる.コントラスト感度の測定は従来の視力検査に比べて,より視覚系の統合的な光学的評価法であるが,上記の他にも市販されている装置によって視標が異なること,その他視標呈示時間や検査距離が異なることが多く,各装置で測定されたコントラスト感度が厳密には異なることに注意する必要がある.VIIIコントラスト感度とAULCSFこれまでコントラストを統計学的に評価する場合,空間周波数ごとの評価は容易にされてきたが,コントラスト感度曲線全体に対する評価はむずかしいとされてきた.そこで,得られたコントラスト感度を対数値に換算し, そ の 対 数 グ ラ フ の 面 積 を 求 め る area under log 図 4CAT 2000(NEITS 社)視標は Landolt 環を用いているコントラスト視力測定装置.図 5CGT 1000(タカギセイコー社)視標はダブルリングで光学的遠方に位置されている.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091487(47) 2) Kelly DH:Adaptation e ects on spatio-temporal sine-wave thresholds. Vision Res 12:89-101, 1972 3) Campbell FW, Robson JG:Application of Fourier analysis to the visibility of gratings. J Physiol 197:1551-1566, 1968 4) 魚里博:コントラスト感度と視力.Tomey Ophthalmolo-gy News 40:11, 2007 5) 魚里博:低コントラスト視力.IOL&RS 15:200-204, 2001 6) Packer M, Fine IH, Ho man RS:Contrast sensitivity and measuring cataract outcomes. Ophthalmol Clin North Am 19:521-533, 2006 7) Harvey EM:Development and treatment of astigmatism-related amblyopia. Optom Vis Sci 86:634-639, 2009 8) Ho man RS, Packer M, Fine IH:Contrast sensitivity and laser in situ keratomileusis. Int Ophthalmol Clin 43:93-100, 2003 9) Werner JS, Peterzell DH, Scheetz AJ:Light, vision, and aging. Optom Vis Sci 67:214-229, 1990 10) Applegate RA, Howland HC, Sharp RC et al:Corneal aberrations and visual performance after radial keratoto-my. J Refract Surg 14:397-407, 1998 11) 中山奈々美,川守田拓志,魚里博:グレアが他覚的屈折値と瞳孔径に及ぼす影響.視覚の科学 28:72-76, 2007おわりに日常の環境照度は暗所や薄暮状態から明所まで変化し,目標物の細かさやコントラスト(明暗,あるいは色)もさまざまである.光学設計の分野では,光学系の分解能(解像力)だけでなく空間周波数特性 modulation transfer function(MTF)が半世紀前から利用され,このような概念が眼科臨床にも導入されてきたが,最近の視覚の質(quality of vision:QOV)への要求が高まるにつれて,眼科臨床でもコントラスト感度が汎用されるようになっている.今後,眼科臨床における QOV への高いニーズに対応するためには,視力だけではなくコントラスト感度特性への配慮が重要となる.特に屈折矯正手術や白内障・眼内レンズ挿入術(多焦点や非球面など)では,コントラスト感度の評価が必須になるものと考えられる.文献 1) 魚里博,平井宏明,福原潤ほか:生理光学の基礎.眼光学の基礎,p145-196,金原出版, 1990

心理物理学的研究における視力検査

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPY維)で調べることができる.ヒトにおいては,光,音,電気などの刺激を与えてそれに対する反応を自覚的な応答で検出する方法がとられることが多い.すなわち,心理物理学的検査法である.心理物理学とは,視力,視野,色覚など心理的な感覚を数値で記載し,数式化する学問をいう.心理物理学では,感覚を数値化する必要がある.たとえば 100 asb の輝度の面,波長 500 n mの光,視角 10分の円形の視標などの刺激に対して,どのような感覚が起こったかを定量的に答えてもらうことは非常にむずかしい.これに対し,100 asb の面に投影された円が識別できる最小の輝度差,500 n mの色と識別できる最も近い波長というようにして,閾値を測ることは比較的容易である.閾値測定においては,被験者は,見えるか否はじめに眼科臨床において心理物理学的検査が多く行われる.しかし,最も代表的な眼科検査である視力測定は必ずしも心理物理学的方法によって行われてはいない.研究的な意味での視力測定の方法,さらに臨床応用について考えてみたい.I心理物理学的方法一般の神経細胞は細胞内が約 70 mV に保たれており,電気刺激すると,ある電流以下では興奮が起こらないが,ある値を超えると細胞膜全体に興奮が起こる.この興奮はパルス状で,その高さや持続時間は一定である.興奮の程度はパルスの頻度で決められる.一方,網膜内の神経細胞の興奮は,神経節細胞を除き,緩徐で興奮の程度により膜電位が異なるアナログである.図 1 は錐体に光を当てたときの光の強度(横軸)と錐体の膜電位(縦軸)の関係を表したグラフである.光の強度は対数,膜電位は最大を 1 とした値である.膜電位は波線の曲線を中心とした範囲に存在している.この曲線の中間部は直線状で,光のごく弱いところおよび強いところでは,水平に近づいた形の曲線になっている.感覚は刺激の対数に比例するといわれるが,これはこの中間部のことであり,刺激全域あるいは知覚全域について当てはまるのではない1).動物実験においては,神経に微小電極を挿入して電位を測る方法で,刺激に対する反応を単一の神経細胞(線(37) 1477 a taka ani 学 658 16 3 4 5特集●視力検査のすべて あたらしい眼科 26(11):1477 1482,2009心理物理学的研究における視力検査Visual Acuity Measurement in Psychophysiology可児一孝* -6.0-4.8-3.6入射光の強さ(対数;log I)-2.4-1.20膜電位(Vi/Vmax)図 1錐体の膜電位横軸は入射光の強さ(対数),縦軸は膜電位で,最大値を 1 とした相対値である(Baylor & Fuortes, 1970).———————————————————————- Page 21478あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(38)前述したように,実験や検査で知覚の強さを定量することはむずかしいので,参照刺激と比較するなどして識別できる閾値を測定するというような方法がとられる.すなわち,図 2 の a に対する刺激連続体の分布(a¢)または b に対する知覚連続体の分布(b¢)を求めるのである.III閾値測定1. 恒常法による閾値測定図 3 に視力測定結果の一例を示した.横軸はラ環の切れ目の視角,縦軸は正答率である.ここでは,0.12 から 0.64 までの 8 種類のラ環をランダムに各 150 回呈示して,正答した割合をプロットした.S 字形の曲線は知覚確率曲線とよばれる.これは図 2 の刺激連続体と知覚連続体のグラフの曲線のばらつき(b¢)を見たものである.直線部はない.一般にこのばらつきは正規分布するので,知覚確率曲線は累積正規分布関数(ogive)となる.S 字曲線の確率 50%の値が閾値とされる.このように,あらかじめ刺激の強度(ここでは視角)と呈示回数を定めておき,ランダムに呈示して正答率をか,ランドルト(Landolt)環(以下,ラ環)の切れ目はどの方向か,合致しているか否か,というような単純な応答を要求される.ラ環では方向が 4 つあるが,データとしては正答か誤答かの 2 つである.応答が単純であるほうが信頼度が高い.心理物理学的測定の基本は閾値測定である.感覚は受容器に与えられる個々の刺激の感受の過程で,知覚はそれを認知することであるとして厳密に区別することもあるが,ここでは知覚と感覚を厳密に区別せずに使用する.II刺激連続体と知覚連続体心理物理学的測定では,多くの神経機構を経由して反応が生ずるので,刺激と感覚との関係は,光の強さと錐体の膜電位の関係(図 1)のように単純ではないが,同様の関係があり,一般に図 2 のように表される.横軸は刺激の強さで刺激連続体といい,縦軸は知覚の強さで知覚連続体という.いずれも対数である.左下の水平線部分が感覚を生じない閾下刺激,右上は感覚が飽和した部分である.この中間部は直線に近い2).ある一定の刺激に対して常に一定の感覚が生ずるわけではなく,ばらつきがある.ばらつきは正規分布になるといわれている.また,一定の感覚を生じさせる刺激も同様に正規分布する.刺激の強さ(対数)(刺激連続体)感覚(対数)(知覚連続体)aa bb 一定の強さの刺激で生じる感覚は一定ではなく,ある分布を示す一定の感覚を起こす刺激は,ある分布を示す図 2刺激と感覚の関係横軸は刺激の強さ,縦軸は感覚の大きさで,ともに対数である.ある刺激強度(c)より弱い刺激ではほとんど感覚が起こらないが,これを超えるとほぼ直線の関係になる.刺激と感覚は点対点の関係ではなく,ある感覚(a)を起こすための刺激はある範囲(a¢)に分布している.また,ある刺激(b)によって起こる感覚もある範囲(b¢)に分布した形をとる.0.10.20.30.40.60.81.0+1.0+0.8+0.6+0.4+0.2010050正答率(%)視標図 3恒常法で求めた知覚確率曲線横軸はラ環の切れ目の視角で,視角の逆数の小数値(小数視力に対応)と視角の対数値(logMAR に対応),縦軸は正答率である.実線は各視標での正答率,波線はその微分値で感覚の分布状態を示す.強制選択法で測定し,まぐれ当たりを補正してある.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091479(39)2. 調整法(method of adjustment)被験者が自分で刺激を変化させて行う方法である.刺激光の輝度をつまみで変えられるようにしておき,被験者につまみを自由に回させて刺激光がやっと見えるレベルに合わせさせる.刺激光が明るければ暗くなる方向に,暗ければ明るくなる方向に操作し,これを何回かくり返して,最後にこれと思われるところに決定する.つまみの操作は個人差が大きく,信頼度は低い.短時間で行えるので,予備実験で大まかな閾値を知るためには便利な方法である.3. 極限法(method of limits)刺激の強度を増大する方向(上昇系列)あるいは減少する方向(下降系列)のどちらかに,刺激を一定のステップで変化させ,反応の変化が現れた(見えないのが見えるようになった,など)ところで系列を打ち切る.変化の前と後ろの中間を閾値とする.上昇系列と下降系列を何回か行って平均を取り閾値とする.刺激の変化のステップ幅,系列の数などはあらかじめ決めておき,それに従って験者が操作する.被験者は,明るい・暗い・同じというような決まった答をするだけであるから,調整法と比べて信頼性が高い.4. 上下法(up-and-down method)はじめ明らかに見える刺激強度からスタート(下降系列),あるいは見えない強度からスタート(上昇系列)し,被験者の応答が変化する(「見える」から「見えない」,誤答から正答など)と系列を切り替える.そして,応答が変化した前後の刺激の値の間に閾値があると考えて中間値を取る.応答の変化の回数をあらかじめ定めておき,その回数になったら試行を止める.中間値を平均して閾値とする(図 5).恒常法では,すべての刺激強度で同じ回数の試行が行われるのに対し,この方法では,閾値の前後を多く測定するのが特徴である.しかし,知覚確率曲線の端のほうはほとんど測らないので,分布を求めるには難がある.あらかじめ試行回数を決めておく方法もある.また,すべての測定の刺激強度を平均する方法もある.求める方法を恒常法(constant method)という.プロットされた点から閾値を求める方法がいくつかある3).a. 直線補間法50%の上下の点を直線で結び 50%との交点を求める.簡便であるが,2 つの刺激のみのデータが用いられ,他のデータが無視されるのは大きな欠点である.b. 正規グラフ法縦軸を累積正規分布に取ったグラフ用紙で正規確率紙といわれるものがある.正規確率紙に図 3 をプロットすると図 4 のようになる.プロットされた点が直線に乗っておれば正規分布であると判断できる.直線と縦軸 50%との交点の刺激強度を閾値とする.15.9%と 84.1%が標準偏差となる.直線は「めのこ」で引く方法と最小二乗法で計算する方法がある.0%に近い領域と 100%に近いところは大きく離れるので,「めのこ」の場合は無視し,計算の場合は 50%に近いところを重視する方法(Mueller-Urban 法)などがある3 6).0.199.99503010510.10.017090999599.90.20.30.40.60.81.0+1.0+0.8+0.6+0.4+0.20+0.55+0.140.28(0.20~0.39)視標正答率(%)図 4正規確率紙にプロットした正答率図3の知覚確率曲線を正規確率紙にプロットした.直線は最小二乗法で引いたものである.プロットが直線にほぼ乗っているので,感覚のばらつきは正規分布であると推定できる.直線と50%の横線との交点が閾値,矢印のある横線との交点が標準偏差である.この例では,logMAR で+0.55±0.14 の視力である.小数視力では中心が 0.28 で標準偏差は 0.20 0.39 となる.———————————————————————- Page 41480あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(40)国際眼科学会(1909 年)で,minimum angle of reso-lution(MAR)の逆数で表すことが決められた.小数表示である.小数値は直感的でわかりやすいこともあり,わが国では広く使用されてきた.感覚は刺激の対数に比例するので,統計処理などの際は,視力値を対数に直して処理する必要がある.また,視力表の段階が対数系列であると,何段階の増減といった表現を用いることができる.1994 年の ISO(国際標準化機構)や 2002 年の JIS(日本工業規格)では,小数表現であるが,対数が等間隔になるような系列にするように決められたが,臨床では使われていない.ETDRS(Early Treatment Diabetic Retinopathy Study)chartではじめて対数視力が実用化された.欧米では小数視力より前から Snellen 視力表の分数表示が用いられ現在に至っている.分子はその視標を標準視力の人がやっと識別できる距離ということで,米国では 20(20 feet),欧州では 6(6 m)が用いられることが多い.分母は被験者がやっと識別できた距離という意味であるが,実際は視標の大きさである.文字視標であるから,MAR ではなく,MAR が 1.0 と等価の視標を 20/ 20 としている.Snellen 視力表は対数等間隔の系列に近いので 1 段階の改善とか 3 段階の悪化のような表現には使えるが,計算には使えない.分数の計算はむずかしいので計算しようとしないのが分数視力の特徴であるとさえいわれる.各種視力表系列を図 6 に示す.視力の対数値が等間隔になるように並べてある.視標の大きさの誤差は標準検査装置では±5%,準標準検査装置では±10%とされている.誤差を入れて考えると,小数視力では,1.0 から 0.6 の間が対数の 0.5 段階になっていること,0.3 と0.2 の間および 0.15 と 0.2 の間が 2 段階であることを除けば,ほぼ等間隔である.このように考えると,現在使用している小数視力表を対数系列のものに取り替える必要はない.Snellen 視力表には 0.9 と 0.7 がない.これが良いというのではなく,小数視力表には正常と異常の境目の0.9 と 0.7 が加えられていると考えるのが適当であろう.欧文の文献では 20/20 までしか測定していないことが多く,40/20 などは滅多に見られない.彼らは視力測定5. Bracketing法臨床の静的視野測定に用いられる方法で,刺激強度の変化をはじめは粗く,応答が変化するごとに細かくして閾値に挟み込んでいく方法である.視標が見えた場合,4 dB 暗くし,これが見えればさらに 4 dB 暗くする,見えなければ 2 dB 明るくする.見えればその視標強度の1 dB 弱い値を閾値とし,見えなければ 1 dB 明るい値を閾値とする.最低 3 回の試行で閾値を決定するので,臨床に有用である.一方,応答が一つ間違うとデータが大きく誤る.また,視標のステップより細かい視力値は得られない.臨床における静的視野測定のように多数のデータをできるだけ少ない試行回数で得る必要がある場合には用いられるが,心理物理学的実験には不適当である.IV視力測定における諸問題1. 視力値の系列視力の表し方に,小数視力,分数視力,対数視力,logMAR などが用いられている.1.02.03.00.50.10.35101520対数:(log 1.28+log 1.53)/2=0.146小数:1.40小数:2.21対数:(log 2.55+log 1.91)/2=0.344視標試行回数閾値=(0.146+0.146+0.344+0.146+0.146+0.072+0.072+0.072+0.344+0.344)/10=0.183図 5上下法0.91 の視標から下降系列で始めた.0.91, 1.09, 1.28 は正答したが,1.53 は誤答であった.1.28 と 1.53 の中間値,対数で0.146,小数で 1.40 をここでの閾値とする.応答が正から誤に変わったので,上昇系列に切り替え 1.28 を呈示すると正答であったので,ここの閾値は対数で 0.146,小数で 1.40 となる.上昇,下降をくり返し,変化点が 10 回になるところで試行を打ち切る.閾値とした値を対数で平均すると,閾値は対数で0.183,小数で 1.524 となる.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091481(41)たときとを誤答とすることが多い.心理物理学的実験では,わからないという選択肢を許さず,何かを答えさせる強制選択法が用いられる.わからないという選択肢は他の選択肢と同じ重みではなく,結果の計算に支障をきたすためである.上下左右のラ環で測定する場合,でたらめに答えても25%はまぐれ当たりする.そのため,知覚確率曲線の下は 25%に近づく.この場合,25%と 100%の中間で62.5%を閾値とする.正規確率紙にプロットする場合は,25%のバイアスがあると計算式が異なるので,次式により 0 100%に補正する必要がある6).EN=R N×pN( 1 p)図 7 の上の実線は 4 肢強制選択法で測定した知覚確率曲線で,下の実線は補正したものである.N は呈示回数でこの例では 100 回である.R は正答数で,このなかにはまぐれ当たりが含まれている.p はまぐれ当たりの確率で,視標の種類が上下左右の 4 であるから確率は1/4 である.N×p は呈示回数にまぐれ当たりの確率 pをかけたもので,まぐれ当たりの数である.これを全正答数から引くと,まぐれ当たりを除いた正答数になる.N×(1 p)はまぐれ当たりを除いた呈示数である.したの厳密さをあまり重要視していないのではないかと思われる.われわれは,臨床で,1.0 の視力は少し低いと感じる.正常は 1.2 1.5 であろう.1.0 は許容できる値として考えている.0.9 は異常であろう.ここに 0.9 の存在価値がある.心理物理学では MAR や logMAR がよく用いられてきた.ETDRS が logMAR を用いたのは,欧米の一般的な視力表示が分数で,紛らわしくないためであろうと邪推している.筆者らのように小数視力を使っている者にとっては小数視力か logMAR 表示かをいちいち断らなければならず,非常に煩雑になる.dB 表示を採用すればわかりやすかったのにと悔やまれる.1.0 を 0 dB として,0.9 を 0.5 dB,0.8 を 1.0 dB,0.1 を 1 0 d B の ように表すとわかりやすい.2. 強制選択法視力を測定する場合,臨床では「わからない」という選択肢を許し,誤った答えとわからないという答えをしLogMAR分数小数対数-1.0-0.9-0.8-0.7-0.6-0.5-0.4-0.3-0.2-0.10.0+0.1+0.2+0.3+1.0+0.9+0.8+0.7+0.6+0.5+0.4+0.3+0.2+0.10.0-0.1-0.2-0.30.11.00.80.640.50.40.320.240.20.160.1251.251.62.020/20020/10020/7020/5020/4020/3020/2520/2020/1520/1320/100.90.72.01.00.80.50.40.30.20.10.61.21.50.15dB3.02.01.00.0-1.0-2.0-3.0-4.0-5.0-6.0-7.0-8.0-9.0-10.01/MAR-1.5-0.5図 6分数視力,小数視力,logMARの関係視角の対数が等間隔になるように配置した.小数視力とlogMAR との差は,1.5 と 0.15 で 5.7%,0.3,1.2,0.6,0.3 で約 5%であるが,その他は 1%以内である.0.125 と 0.24 を加えると対数系列として十分使用できるものである.しかも,0.6 と 1.0 の間は 1/2 段階と細かく測定できる利点もある.正答率(%)025507510062.5%1.01.52.03.0-0.1-0.2-0.3-0.402.5-0.550%視標図 7強制選択法と「わからない」を許した測定上下左右のラ環を用い,7 視標,各視標 100 回試行の恒常法で測定した.上の実線は強制選択法で,下の実線はまぐれ当たりを補正したものである.点線は「わからない」を許して同様に測定したものである.———————————————————————- Page 61482あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(42)近似させる方法を考案している.臨床に使用する段階には至っていないが,実用化が期待される.5. 測定時間心理物理学的測定は時間がかかるといわれる.正常例での測定では,通常の方法では 48.7±5.9 秒,上下法(系列の切り替わり数 10 回)では 1¢01 ±4.2 ,恒常法では 2¢09 ±0.4 であった.恒常法で両端の 0%,100%に近い視標の呈示回数を少なくするなど最適な方法をとることによって改善することが可能であろう.おわりに眼科臨床においても実験的研究においても,視力は最も基本的な視覚の値として測定されてきた.しかし,100 年以上もの間大きな改良はなされていない.最近のコンピュータやディスプレイの進歩は大きく,これを使った視力測定装置も作られている.心理物理学的測定法に則った strategy をプログラミングすることはむずかしくないが,現在市販されている安価な液晶ディスプレイはドットピッチが 0.25 0.3 m mで 2.0 の視標の切れ目が 0.7 m mであることを考えると十分な解像力ではない.容易に心理物理学的な視力測定が行える装置の開発が望まれる.文献 1) 金子章道:眼球.生理学 1(入来正躬,外山敬介編),p187-212,文光堂, 1986 2) 山下由己男:視覚情報処理ハンドブック.朝倉書店,2000 3) 池田光男:視覚の心理物理学.p19-24,森北出版, 1975 4) 福田秀子,可児一孝:閾値とその測定法.神経眼科 7:291-298, 1990 5) 可児一孝,西田保裕:視力の生理学 1視覚生理学的側面.神経眼科 18:246-251, 2001 6) 可児一孝:視力について.理解を深めよう視力検査屈折検査(松本富美子,大牟禮和代,仲村永江編),p1-14,金原出版, 2008 7) 三田哲大,原平八郎,可児一孝ほか:統計解析を用いた視力測定.第 45 回日本眼光学学会総会,2009がって,右辺は,まぐれ当たりを除いて真の正答数を真の呈示数で割ったもので,これが真の正答確率になる.図 7 の波線は「わからない」を許す方法で測ったものである.強制選択法の結果とほとんど差は出ていなかった.「わからない」を許す方法は,理論的には強制選択法より劣るが,試行回数が少なくてすむ利点がある.切れ目が縦横の 4 方向の強制選択法で,被験者がそれを知っている場合は,まぐれ当たりの確率は 25%であるが,斜めを加えた 8 方向の場合は,12.5%である.ETDRS chart では 10 文字が用いられているので被験者が用いられている文字を知っていれば 10%であるが,アルファベットすべての文字があると思っていると約 4%になる.強制選択法の場合は,被験者への説明が大切である.3. 刺激の値についてここで示した測定において,刺激(視標)の強さは対数で等間隔にはなっていない.これは,視標に液晶ディスプレイを用いたことで,対数で線形の視標を作ることができなかったためである.心理物理学的実験では,刺激ができるだけ対数で線形になるように作るが,出来上がった視標を実測して横軸にプロットするのが一般的である.刺激のステップが必ずしも等間隔になっている必要はない.4. 視力における統計的手法視力を測るためにはかなり多数の視標を呈示している.静的視野の 1 点の閾値決定のための試行回数とは比較にならない.しかし,データとしては,0.9 とか 1.2とかという単一の数値しか現れない.心理物理学的にいえば+0.55±0.14(logMAR)というように平均±標準偏差という表し方であるべきである.このような表示をすれば,視力変化の有意差検定も可能になり,治療の効果判定などに有益であると思われる.視力をこのような値としてとらえる考え方は今までなかった.三田ら7)は,恒常法で視力を測定しながら試行ごとに累積正規分布に

臨床研究や治験における視力検査

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPY的に記載した.たとえば,視力が 20/200 とは,被検者が 20 フィートで見える視標を,助手が見えるところまで後ろへ下がってみると,200 フィートの地点まで視標が見えたということを意味する.このように,分数として表示されるので,この方法は分数視力とよばれている.当初は視標の大きさが一定で,測定距離を変更していたが,その後,測定距離を一定にして,逆に視標を小さくするようになった.遠見視力を Snellen チャートで測定するときは,たとえば 20 フィートの距離で行う場合,視標は上より20/200,20/100,20/70,20/50,20/40,20/30,20/25,20/20,20/15,20/13,20/10 の 合 計 11 段 となる.20/200 は 1 文字のみであるが,20/10 は 9 文字ある.測定距離は国によって異なり,20 フィート,6 m,および5 mの場合がある.その場合,小数視力の1.0 は,それぞれ 20/20,6/6,5/5,小数視力の 0.1 は20/200,6/60,5/50 と表示される.つまり分数視力の分子は測定距離であり,小数視力を分数視力に換算する際には注意が必要である.分数視力の具体的な測定方法としては,暗室でプロジェクターを用い文字視標が投影されていることが多い.Snellen 視力表の問題点としては,暗室で検査が行われていること,電球の消耗などで視標の条件が変化しやすいことがあげられる.また,列ごとの文字の縮小率が異なっているので,同じ 2 段階の視力改善でも,その変化率は違ってくる.加えて,視力表の一段の文字数が異はじめに近年,臨床研究において視力を統計的に解析する場合,あるいは,治験のエンドポイントとして視力が用いられる場合においては,小数視力や分数視力が使用されず,logMAR 視力と ETDRS チャートが用いられる傾向にある.これは,視力検査が主観的な測定法であるため,定量化する際の問題点を是正し,適切な統計処理をするためlogMAR 視力およびその測定法としての ETDRS チャートが採用されているためである.本稿では,欧米や日本で長い間使われている方法にどのような問題があるかと対比させながら解説させていただく.I分数視力,小数視力の問題点視力は,視空間に存在する点や線,それらの組み合わせとしての物の形などを弁別できる閾値,2 次元的に広がっている物の形や位置を見分ける眼の能力,あるいは形態覚の鋭敏さなどに定義することができる.そして,実際の視力測定では,形態覚の鋭敏さを最小分離域,すなわち,2 点または 2 線を認める閾値を用いて表示されている.現在欧米では Snellen チャートを使用して視力検査をすることが一般的である(図 1 左).Hermann Snellenは 1863 年に文字視力表を開発した1).彼は,被検者の視力を,彼の助手で完璧な視力をもつ者の視力と,その識別できる視標までの距離を比較することによって定量(31) 1471 o M 研究 視 565 0 1 2 2 研究 視 特集●視力検査のすべて あたらしい眼科 26(11):1471 1476,2009臨床研究や治験における視力検査Visual Acuity Measurement for Clinical Research and Trial前田直之*———————————————————————- Page 21472あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(32)る装置や,材質が紙であるものやプラスティックで背景に照明があるもの,あるいは液晶モニターを使用するもの,視標も,Landolt 環のみを使用するもの,ひらがなのみを使用するものなど多彩である.小数視力の視力検査の問題点としては,つぎのようなものがあげられる.一つは検査間,検者間で測定結果の再現性が悪いという点である.現在の視力表は,1 列の視標がすべて読めて初めて,下の列を読むことになっている.たとえば,ある列の一つの視標が読めなければ,1 列あるいは,2 列下の視標のいくつかを認識できても,視力としては,認識できなかった視標がある列の視力となってしまう.これが,検査間の測定値のばらつきの一因になっていると考えられる.つぎに,視標が等間隔でないという問題点がある.一般的に,心理的な感覚量は,刺激の強度ではなく,その対数に比例して知覚され,これはウェーバー・フェヒナー(Weber-Fechner)の法則とよばれている.つまり,感覚は,その強度が 10 倍,100 倍になったとしても,2 倍,3 倍というように,元の情報量の対数として知覚されていると考えられている.このことによって,たとえば聴覚であれば,ささやき声より騒音まで,視覚でも,月あなると,1 回の誤りの意味が列によって異なってくる.さらに,A と L は E より認識しやすいといった文字の読みやすさ難易度は考慮されていない.これに対して,小数視力は,視力を最小視角を分で表し,その逆数を小数で表示したものである.すなわちV(視力)=1/A(最小視角)と定義される.たとえば,視角 1¢(分)で視力 1.0,視角 10¢で視力0.1 となる.また,分数視力は,分数を小数に変換すると,そのまま小数視力になる.1909 年の第 11 回国際眼科学会において,視力検査の国際的な標準化が提唱された.そこでは,視力の測定は最小分離域によること,視力の単位として視角 1¢を用いること,視力の表示は最小視角の逆数である小数とすること,および標準視標として Landolt 環を使用することが定められた.わが国では,これに従って小数視力を使用することが一般的である.具体的には明室にて5 mで測定されることが多く,視力表は JIS(日本工業規格)で規格が決められている.図 1 右のような,Landolt 環とひらがなが混在する準標準視力表を使用しているところが多いと思われるが,距離に関しても5 mでなく3 mで測定す図 1 現在欧米およびわが国で一般的に使用される視力表分数視力の Snellen チャート(左)と小数視力の準標準視力表(右).———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091473(33)よって測定される視力はばらつきが大きくなる.そのため,視力をエンドポイントとして使用して治療効果のエビデンスを示す場合には,従来の視力検査は問題が多かった.これらを解決すべく登場したのが,logMAR 視力および ETDRS チャートである.ここで MAR は,minimal angle of resolution(最小分離角)の略であり,logMAR は文字通り,最小分離角の対数値である.LogMAR と小数視力の関係は,LogMAR=log(1/小数視力)となる.表 2 に,分数視力,小数視力,logMAR 視力および視角の換算を示す.ちなみに遠見,近見視力を含めた詳細な換算表が,Journal of Cataract & Refractive Surgery に Visual Acuity Conversion Chart として毎号掲載されていて便利である.ETDRS 視力表は,logMAR 視力を用いた視力表の一つである.最初に Bailey と Lovie によって開発され2),その後,1982 年に Ferris らによって改良された3).その後 ETDRS(Early Treatment Diabetic Retinopathy かりから,日中の砂浜まで,あるいは光と影の強いコントラストのある風景など,広範な範囲の刺激に対応することが可能となっている.実際,聴力検査や視野検査での感度は dB で対数表示されている.視力を小数視力として表示すると,対数に変換した場合,刺激の間隔が等間隔でない(表 1).あるいは,小数視力のままで平均を取ることには問題がある.このような意味で治療効果の統計処理で問題が生じる.さらに,0.1 の文字数が 5 文字ないこと,Landolt 環とひらがなが混在している視力表が使われている.あるいは黄斑疾患やロービジョンなど低視力を測定することが困難であることや,屈折矯正手術など矯正視力が良好である場合に視標の大きさが適当ではないなどの問題がある.加えて,視標の大きさと視標間の距離の比率が一定でないために,字づまりによる影響が列によって異なっていることも問題となる.IILogMAR視力,ETDRSチャート上述した小数視力と分数視力自体の問題点や測定方法での問題点によって,検査間,検者間,あるいは施設に表 1小数視力で2段階の改善小数視力LogMAR 視力0.1 から 0.20.3 から 0.50.8 から 1.00.08 から 0.10.01 から 0.030.70 1.0= 0.30.3 0.5= 0.20 0.1= 0.11.0 1.1= 0.11.5 2= 0.5(3 段階)(2 段階)(1 段階)(1 段階)(5 段階)表 2各種視力の換算Snellen小数LogMAR視角(分)20/20020/10020/4020/2020/1620/100.10.20.51.01.252.0+1.0+0.7+0.30 0.1 0.3105210.750.5図 2ETDRSチャート左から chart R,chart 1,chart 2.———————————————————————- Page 41474あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(34)していく.その文字は Sloan letters とよばれる 10 種類の文字(図 2)が使用され,文字のデザインも統一されている.そして文字認識の難易度(di culty score)を,各段で同じにするべく,文字の組み合わせも定められている.英語圏以外で使用する場合,あるいは小児や高齢者で使用する場合には,視標がアルファベットでは問題がある.このような場合には,特殊なデザインの数字(図 3)や Landolt 環(図 4)が用いられることもある.視力測定は,通常4 mの距離で行うが,各段の縮小Study)が,視力をエンドポイントとする前向き多施設研究で正式に採用したことで有名となり,現在では,エビデンスレベルの高い視力をエンドポイントとする臨床研究や治療効果を視力で判定する治験における視力検査としては,多くの場合 ETDRS チャートを使用することが国際標準となっている.ETDRS チャートでは,白色背景に黒色でアルファベットの視標が使用されている(図 2).各列は 5 文字に固定されている.さらに各列は,対数で等間隔,すなわち logMAR として 0.1 ステップで文字の大きさが縮小図 4さまざまなETDRSチャート左から Light House 社製,Vector Vision 社製,トプコン社製.図 3数字のETDRSチャート左から chart R,chart 1,chart 2.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091475(35)め 1 列の変化で有意になる.このように,視力の結果をどのように表示するかは大変重要であり,表示を列ごとでなく,可読文字数とするだけで,検査間,検者間のばらつきは減少し,視力の統計処理が容易になると考えられる.このほかにも,視力測定を行う部屋の照明,視力測定装置の設置方法,内部照明の蛍光灯の交換方法,視力測定時の質問の方法や,矯正レンズの交換の方法,あるいは屈折値の決定法など細部にわたって標準化することが提案されており5),単に視力表が従来と異なるだけでなく,視力のばらつきに関与する因子をできる限り排除することによって,主観的な視力検査をできるだけ定量的にする努力がなされている.これが,実際多くの臨床研究や治験で,ETDRS チャートを用いて logMAR 視力が測定されている理由である.IIILogMAR視力,ETDRSチャートの限界このように,ETDRS チャートを使用した視力測定法が,現時点では視力をエンドポイントとする臨床研究や治験で最も適していると考えられるが,問題も残っている6).たとえば,現在筆者らの施設で施行している 3 つの治験を比較したものを表 3 に示すが,標準化されているといっても,測定距離,視標,結果の表示方法,検者の資格などが微妙に異なるし,屈折検査でも,読めた文字列によってかざすレンズの度数や実際追加するレンズの度数が異なっている.あるいは,ETDSRS チャート自体で問題とされる,字づまりの影響も解決されていないし,一人の測定に大変時間がかかり,実際の臨床でルーチンに使用できるも率が均一なので同じ視力表を使用して 3.2,2.5,2.0,1.6,1.3,1 mで測定しても,4 mでの logMAR 視力にそれぞれ 0.1,0.2,0.3,0.4,0.5,0.6 を加えることによって,換算することができる.これによって,短い距離で黄斑疾患やロービジョンなどに対して今までより詳細に低視力の測定が可能となるし,逆に屈折矯正手術など視力が良好な症例における視力測定が必要な際には,検査距離を長くすることにより良好な視力の測定も可能となる.ETDRS チャートは,chart R,chart 1,chart 2 の 3つのテストフェースよりなり(図 2, 3),他覚的屈折値を求めた後に chart R で完全矯正し,その後 chart 1 で右眼の,chart 2 で左眼視力を測定するのが正式である.さらに結果は,読めた列で判断するのではなく,可読文字数から logMAR を計算する.たとえば logMAR 値が+0.1 の列(小数視力で 0.8)まですべて読め,さらにその下列の 2 文字が読めたとすると,0.1 (0.02×2)=0.06 が測定値となる.ETDRS チャートの利点として,視標の大きさの縮小率が対数で等間隔となっている点,低視力,高視力への対応の容易さが強調されているが,上述したごとく列ごと(row-by-row)でなく,可読文字数(letter-by-let-ter)で評価していることも大変重要である.1 文字に0.02 logMAR 値の重みをつけることによって,従来より 5 倍細かい目盛りで視力測定がなされる.視力を列ごとで記録した場合,検査の信頼区間はlogMAR で 0.2,すなわち 2 列とされる.これは,日常われわれが列ごとに視力を記録して,2 段階以上の変化を有意な変化としていることに一致している.しかし視力を可読文字数として記録すると,信頼区間は 0.1 に減少する4).つまり,視力測定のばらつきが半分になるた表 3治験間の測定法の違い治験距離視標結果表示検者認定A4 m数字可読文字 20 以上で 30 を加える20 未満では,1 mで+0.75D 加えて 30 文字読ませ,可読文字に追加する講義のみB4 mアルファベット同上試験ありC2 m数字可読文字に 15 を加える,ただし,誤読 2 文字以上は次の列へ進めない3 文字未満では,1 mで+0.5D 加えて 15 文字読ませ,可読文字に追加する試験あり———————————————————————- Page 61476あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(36)方法をどのようにして開発するかは,診断と治療が急速に発展し,視覚の質が問われている現在,今後の大きな課題であると思われる.文献 1) Miller D:Optics of the normal human eye. In:Ophthal-mology, Eds:Yano M, Duker JS, Mosby, London, 2.7.1-2.7.8, 1999 2) Bailey IL, Lovie JE:New design principles for visual acu-ity letter charts. Am J Optom 53:740-745, 1976 3) Ferris FL, Kasso A, Bresnick GH et al:New visual acu-ity charts for clinical research. Am J Ophthalmol 94:91-96, 1982 4) Bailey IL, Bullimore MA, Raasch TW et al:Clinical grad-ing and the e ects of scaling. Invest Ophthalmol Vis Sci 32:422-432, 1991 5) Ferris FL, Bailey IL:Standardizing the measurement of visual acuity for clinical research studies. Guidelines from the eye care technology forum. Ophthalmology 103:181-182, 1995 6) Williams MA, Moutray TN, Jackson AJ:Uniformity of visual acuity measures in published studies. Invest Oph-thalmol Vis Sci 49:4321-4327, 2008 7) Ehrmann K, Fedtke C, Radi A:Assessment of computer generated vision charts. Cont Lens Anterior Eye 32:133-140, 2009のでは到底ない.また,実際には従来の視力表を用いて小数視力で測定し,それを単に logMAR 換算して表示される研究も多く認められ,これらの結果に及ぼす影響に関して十分な検討はなされていない.測定装置についても,図 4 に示すように,さまざまな装置で logMAR 視力は測定可能である.左の Light House 社 製 の も の が 最 も 標 準 的 で, 中 央 の Vector Vision 社製のものは,フェースを交換するとコントラスト感度が測定可能な装置である.そして右のトプコン社製は液晶モニターを使用したもので,通常の小数視力も測定できるなど,視標の選択肢が大きい.これら測定装置間の結果の差異について,検討されつつある7).おわりに視力検査は,眼科において普遍的な検査であり,感覚としての視機能を評価する最も基本的な検査である.それにもかかわらず,上述したごとく臨床検査として標準化されていない.この自覚的な視力検査をどこまで客観的な検査として発展させるか,あるいは,それ以外の客観的,定量的な

資格や身体障害に関する視力検査

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYII身体障害者手帳1. 身体障害者福祉法身体障害者福祉法(昭和 24 年法律第 283 号.以下,法)は,身体障害者の更生援護を目的とするものであるが,この場合の「更生」とは必ずしも経済的,社会的独立を意味するものではなく,日常生活能力の回復をも含む広義のものである.したがって,加齢現象に伴う身体障害および意識障害を伴う身体障害についても,日常生活の回復の可能性または,身体障害の程度に着目することによって障害認定を行うことは可能になる1).法に関する省令などに改正があれば,基準や等級などの内容が変更される.法に規定する「永続する」障害の意味は,その障害が将来とも回復する可能性がきわめて少ないものであれば足りるという意味であり,将来にわたって障害程度が不変なものに限られるものではない1).意識障害のある場合の障害認定は,常時の医学的管理を要しなくなった時点において行う1).乳幼児に係わる障害認定は,障害の種類に応じて,障害の程度を判定することが可能となる年齢(おおむね満 3 歳)以降に行う1).身体障害の診断結果に対し診断書・意見書を書けるのは,法第 15 条第 1 項に規定される指定医(以下,指定医)である.指定医は指定された医療機関でのみ診断書・意見書を書くことができる2).はじめに職業選択や資格取得,および障害申請に際し,視力を含めた視機能に関して相談を受けるという場面は多い.本稿では,資格取得の視力基準,身体障害者手帳交付,労災保険に関連した視力および視機能に関して 2009 年8 月現在における基準の概要を述べる.I資格と視力資格あるいは職業によって視力などの身体検査基準が設けられているが,その内容は年々変更される.眼科医として正しいアドバイスをするためには,ある程度の知識は必要であるが,相談を受けた際に,最終的には患者本人の責任で最新情報を確認させるべきである.ここでは,2009 年 8 月現在の視覚に関する基準と参照先を表にまとめた(表 4).注意すべきは,航空関連の基準である.現状では,屈折矯正手術を受けると航空身体検査・自衛隊航空学生入学試験・自衛隊幹部候補生(飛行要員)・自社養成パイロット(ANA)は受験できない.しかし,世界的には屈折矯正手術に関する制限は緩和される傾向にあり,今後も最新情報をチェックすることが必要であると考えられる.競艇学校入学試験に関しては,以前と異なり,屈折矯正手術に関する記載はなくなった.(23) 1463 de a a a e 160 8 82 3 特集●視力検査のすべて あたらしい眼科 26(11):1463 1470,2009資格や身体障害に関する視力検査Visual Acuity Tests to Screen Job Applications and Qualify Social Security Beneits for Physically Handicapped鳥居秀成*根岸一乃*———————————————————————- Page 21464あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(24)たはコンタクトレンズによって得られた視力によるもので,眼内レンズの装着者についても,これを装着した状態で行う.ただし,矯正不能のものまたは医学的にみて矯正に耐えざるものは裸眼視力による.すなわち,たとえば強度近視の場合,5 m視力表にて 15 D の矯正眼鏡で最高視力が出ても, 10 D が常用しうる限界ならばこれによる矯正視力を採用してよいことになる2).b. 視力障害の判定1,2)① 等級表中「両眼の視力の和」とは両眼視によって累加された視力の意味ではなく,両眼の視力を別々に測った数値の和のことである.② 視力 0.01 に満たないもののうち,明暗弁のものまたは手動弁のものは視力 0 と計算し,指数を弁ずる者(50 cm以下)は 0.01 として計算する.③ 両眼を同時に使用できない複視の場合は,非優位眼の視力を 0 として取り扱う.c. 視野の測定方法1,2)① 視野は Goldmann 視野計および自動視野計またはこれらに準ずるものを用いて測定する.② Goldmann 視野計を用いる場合,中心視野の測定には I/2 の視標を用い,周辺視野の測定には I/4の視標を用いる.それ以外の測定方法によるときは,これに相当する視標を用いることとする.自動視野計を用いた場合の評価方法は,煩雑であるためスペースに限りもありここには記載しないが,詳細が文献3)にわかりやすくまとめられているので必要な場合は参照されたい.ちなみに,背景輝度が Goldmann 視野計と同じ 31.4 asb(約 25 dB)で,最大視標輝度が 10,000 asb(0 dB)の場合,視標サイズが III なら I/4 相当の感度は 20 dB 相当,I/2 相当の感度は 30 dB 相当となる3).d. 視野障害の判定1,2)① 「両眼の視野が 10°以内」とは,求心性視野狭窄の意味であり,輪状暗点があるものについて中心の残存視野がそれぞれ 10°以内のものを含む.② 「両眼による視野の 2 分の 1 以上が欠けているもの」とは,両眼で一点を注視しつつ測定した視野の生理的限界の 2 分の 1 以上欠損している場合の2. 手帳交付申請の流れ2)手帳の交付を申請しようとする者は,区市町村の窓口で診断書・意見書の用紙を受け取り,これを持参して指定医を受診し記載してもらう.これに自身の写真を添え,区市の社会福祉事務所あるいは町村の障害福祉担当課にて都道府県知事宛に手帳の交付申請(15 歳未満の児童にあっては保護者が申請)を行う.都道府県知事は障害程度を審査し,法別表の障害に該当すると認められれば,社会福祉事務所等を通して手帳を交付する.3. 視覚障害の範囲と等級法による視覚障害とは,視力障害と視野障害である.視覚障害の等級表を表 1 に示す.等級表は,平成 21 年(2009 年)8 月現在まで変更はない.以下に概要を記載する.a. 視力の測定方法1,2)① 視力表は万国式を基準とした視力表を用いるものとする.② 標準視度を 400 800 ルクスとし,試視力表から5 mの距離で視標を判読する.③ 屈折異常のある者については,眼科的に最も適切な矯正眼鏡を選び,矯正後の視力によって判定する.④ 屈折異常のある者については,矯正視力を測定するが,この場合最も適正に常用しうる矯正眼鏡ま表 1身体障害者障害程度等級表級別視覚障害1級両眼の視力(矯正視力)の和が 0.01 以下のもの2級1.両眼の視力の和が 0.02 以上 0.04 以下のもの2. 両眼の視野が 10°以内でかつ両眼による視野について視能率による損失が 95%以上のもの3級1.両眼の視力の和が 0.05 以上,0.08 以下のもの2. 両眼の視野が 10°以内でかつ両眼による視野について視能率による損失が 90%以上のもの4級1.両眼の視力の和が 0.09 以上 0.12 以下のもの2.両眼の視野がそれぞれ 10°以内のもの5級1.両眼の視力の和が 0.13 以上 0.2 以下のもの2.両眼による視野の 2 分の 1 以上が欠けているもの6級1 眼の視力が 0.02 以下,他眼の視力が 0.6 以下のもので,両眼の視力の和が 0.2 を越えるもの———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091465(25)I/2 視標による 8 方向の合計角度は 560°よりかなり狭く,正常者でも視能率 100%,損失率 0%にはならない2).また,I/4 視標による視野が 10°以内で I/2 視標が見えない場合,および I/4 視標も I/2 視標も見えない場合は,求心性狭窄であることが V/4 視標などで確認できれば,損失率 100%と判定してよい.f. 視力と視野に重複障害がある場合1,2,4)重複障害がある場合については,つぎのように認定する.2 つ以上の障害が重複する場合の障害等級は,重複する障害の合計指数の算定表(表 2)に基づき認定す る1,2,4).III労働者災害補償保険労働者災害(労災)医療とは業務中または通勤中の受傷が原因となる外傷や疾病に対する医療を指し,労働者を使用するすべての事業に,事業を開始した日から自動的かつ義務的に適応される.職業の種類の如何にかかわらず,事業者に使用され,賃金を支払われる労働者すべてに適用される.常雇,アルバイト,パートなどの雇用の形態は問われず,事業者が労災保険加入の届を怠っていても,労災傷病には労災保険から「保険給付」が行われる.受診や後遺症の補償は,労働者災害補償保険法(労災法)で決められている5,6).詳細は労災保険情報センターホームページ http://www.rousai-ric.or.jp で閲覧可能である.表 3 に労働者災害補償保険法施行規則別表第一障害等級表を示す(2009 年 8 月現在).眼科に関連するポイントとしては,視力障害があり障害等級 13 級以上の場合は眼鏡,4 級以上の視力障害がある場合は点字器,1 級または両眼を失明した場合は義眼の支給を受けられること,白内障,緑内障,網膜 離,角膜疾患な意味である.この場合の視野の測定方法は,片眼ずつ測定し,それぞれの視野表を重ね合わせることで視野の面積を測定する.その際,面積は厳格に測定しなくてもよいが,診断書には視野表を添付する必要がある.すなわち,両眼の高度の不規則性視野狭窄または半盲性視野欠損などは障害に該当するが,交叉性半盲などでは該当しないことがある1,2).また,両眼瞼痙攣により視力・視野が妨げられている状態をもって,視覚障害として認定することは適当ではない1).e. 視能率による損失率の測定1,2)① 認定基準における視野の測定は,求心性視野狭窄が認められる場合,Goldmann 視野計を用いる際には,まず I/4 の視標を用いて周辺視野の測定を行い,I/4 視標での両眼の視野がそれぞれ 10°以内の場合は,I/2 の視標を用いて中心視野の測定を行い,視能率の計算を行うこととしている.視能率を測定・記載するのは,求心性視野狭窄により両眼の中心視野がそれぞれ I/2 の視標で 10°以内の場合である.この場合,輪状暗点があるものについて,中心の残存視野がそれぞれ I/2 の視標で 10°以内のものも含むこととする.② 求心性視野狭窄の判断は,一般的に,視野が周辺からほぼ均等に狭くなるなどの所見から,診断医が総合的に判断するものであり,視野が 10°以内のものと限定しているものではない.③ 視野の正常域の測定値は,内・上・下内・内上60°, 下 70°, 上外 75°, 外下 80°, 外 95°であり, 合計 560°になる.④ 両眼の視能率による損失率は,各眼ごとに 8 方向の視野の角度を測定し,その合算した数値を 560で割ることで各眼の損失率を求める.さらに,次式により,両眼の損失率を計算する.損失率は百分率で表す(各計算における百分率の小数点以下は四捨五入とし,整数で表す).視能率(%)=(3×損失率の低い方の眼の損失率+損失率の高い方の眼の損失率)/4上記からわかるように,視能率とは眼科学あるいは視覚生理学とは別の,法制度上の指数である.正常者の表 2等級別指数表と合計指数の算定表等級別指数認定等級:合計指数1 級:181 級:18 以上2 級:112 級:11 173 級:73 級:7 104 級:44 級:4 65 級:25 級:2 36 級:16 級:1———————————————————————- Page 41466あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(26)ってもその医療効果が期待できなくなったときとし,「治癒」した時点が「症状固定」と定義される.その他のポイントとして,支給を受ける治療は,その時点で社会的に妥当性の認められる治療のみが認められ,研究段階である最先端医療などは支給の対象とならないこと,「障害補償給付」は 7 級以上では生涯もらえる年金,8 級以下では 1 回だけの一時金となることなどがある.どの眼疾患をもち「障害補償給付」を受けているものには,治癒後の継続観察として「アフターケア」が認められることがあげられる.「障害補償給付」を受けていないものにも医学的に特に必要とされると「アフターケア」が認められる.「アフターケア」は原則として「治癒」後 2 年間,月に 1 回程度の診察を受けられる.医学的に必要ならば,さらに継続も可能である.「治癒」とはその症状が安定し,医学上一般に認められた医療を行表3 労働者災害補償保険法施行規則別表第一障害等級表(労災保険情報センターホームページhttp://www.rousai-ric.or.jp より改編)(2009 年 8 月現在) (視力は万国式試視力表を用い測定する.失明とは光覚弁,手動弁,指数弁を含む.)障害の 種類等級給付の内容障害の程度視力障害第1級の1当該障害の存する期間 1 年 につき給付基礎日額の 313 日分両眼が失明したもの第2級の1第2級の2同 277 日分1 眼が失明し,他眼の矯正視力が 0.02 以下になったもの両眼の矯正視力が 0.02 以下になったもの第3級の1同 245 日分1 眼が失明し,他眼の矯正視力が 0.06 以下になったもの第4級の1同 213 日分両眼の矯正視力が 0.06 以下になったもの第5級の1同 184 日分1 眼が失明し,他眼の矯正視力が 0.1 以下になったもの第6級の1同 156 日分両眼の矯正視力が 0.1 以下になったもの第7級の1同 131 日分1 眼が失明し,他眼の矯正視力が 0.6 以下になったもの第8級の1給付基礎日額の 503 日分1 眼が失明し,又は 1 眼の矯正視力が 0.02 以下になったもの第9級の1第9級の2同 391 日分両眼の矯正視力が 0.6 以下になったもの1 眼の矯正視力が 0.06 以下になったもの第10級の1同 302 日分1 眼の矯正視力が 0.1 以下になったもの第13級の1同 101 日分1 眼の矯正視力が 0.6 以下になったもの調節機能障害第11級の1同 223 日分両眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの第12級の1同 156 日分1 眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの眼球運動障害第10級の1の2同 302 日分正面視で複視を残すもの第11級の1同 223 日分両眼の眼球に著しい運動障害を残すもの第12級の1同 156 日分1 眼の眼球に著しい運動障害を残すもの視野障害第9級の3同 391 日分両眼に半盲症,視野狭さく又は視野変状を残すもの第13級の2同 101 日分1 眼に半盲症,視野狭さく又は視野変状を残すもの欠損障害第9級の4同 391 日分両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの第11級の3同 223 日分1 眼のまぶたに著しい欠損を残すもの第13級の3同 101 日分両眼のまぶたの一部に欠損を残し,又はまつげはげを残すもの第14級の1同56日分1 眼のまぶたの一部に欠損を残し,又はまつげはげを残すもの眼瞼運動障害第11級の2同 223 日分両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの第12級の2同 156 日分1 眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091467(27)表4さまざまな資格と視力に関する条件資格視力等に関する条件問い合わせ先自動車関連原付,小型特殊両眼で 0.5 以上,又は一眼が見えない方については,他眼の視野が左右 150度以上で,視力が 0.5 以上.警視庁http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/menkyo/menkyo/tekisei/tekisei03.htm普通第一種,中型第一種(8 t 限定中型),二輪,大型特殊両眼で 0.7 以上,かつ,一眼でそれぞれ 0.3 以上,又は一眼の視力が 0.3 に満たない方,若しくは一眼が見えない方については,他眼の視野が左右 150度以上で,視力が 0.7 以上.大型第一種,中型第一種(限定なし)やけん引,第二種両眼で 0.8 以上で,かつ,一眼がそれぞれ 0.5 以上,さらに,深視力として,三桿(さんかん)法の奥行知覚検査器により 3 回検査した平均誤差が 2 センチ以内.鉄道関連動力車(鉄道)一 各眼の視力が裸眼で一・〇以上又は矯正眼鏡(近視にあつては八・〇ディオプトリー以下の屈折度のもの,遠視にあつては三・〇ディオプトリー以下の屈折度のものに限る.)により一・〇以上に矯正できること.二正常な両眼視機能を有すること.三正常な視野を有すること.四色覚が正常であること.動力車操縦者運転免許に関する省令http://law.e-gov.go.jp/html-data/S31/S31F03901000043.html航空・船舶関連航空身体検査多岐にわたるため,右記ホームページを参照のこと.航空医学研究センターhttp://www.aeromedical.or.jp/manual/manual_10.htm航空大学校身体検査基準(1) 遠見視力:各眼が, 裸眼又は矯正視力で 1.0 以上あること.ただし, 矯正視力の場合は,各レンズの屈折度が 4.5 +2.0 ジオプトリー以内であること.(2)近見視力:各眼が,裸眼または矯正視力で 0.8 以上あること.(3) 屈折矯正手術(角膜前面放射状切開手術,レーシック等)の既往歴がないこと.(4) オルソケラトロジー(コンタクトレンズによる屈折矯正術による矯正)を行っていないこと.航空大学校ホームページhttp://www.kouku-dai.ac.jp/ 02_enter/05.html自社養成パイロット(ANA,JAL)ANA:(1)各眼の矯正視力 1.0 以上(裸眼視力の条件はありません)(2)各眼の屈折率が 4.5 +3.5 ジオプトリーを超えないこと(※ 屈折矯正手術・オルソケラトロジーを受けないこと)JAL:各眼の矯正視力が 1.0 以上であること(裸眼視力の条件はありません).各眼の屈折率が 5.5 +2.0 ジオプトリー内であること.ANA http://www.ana.co.jp/pr/ 09-0103/pdf/09-010.pdfJALhttp://www.jal.com/ja/saiyo/apply/pilot.html航空管制官矯正眼鏡等の使用の有無を問わず,視力が次のいずれかに該当する者は不可.視力:どちらか一眼でも 0.7 に満たない者,両目で 1.0 に満たない者,どちらか一眼でも,80 センチメートルの視距離で,近距離視力表(30 センチメートル視力用)の 0.2 の視標を判読できない者,どちらか一眼でも,30 50センチメートルの視距離で,近距離視力表(30 センチメートルの視力用)の0.5 の視標を判読できない者は不可.色覚に異常のあるものは不可.国土交通省航空保安大学校http://www.kouho-dai.ac.jp/examin/index1.html客室乗務員JAL:矯正視力 1.0 以上であること.(コンタクトレンズのみ使用可)ANA:コンタクトレンズ矯正視力 1.0 以上.JALhttp://www.jair.co.jp/about/recruit/cabin/apply.htmlANAhttp://www.ana.co.jp/recruit/kyaku/form_kisotsu.html———————————————————————- Page 61468あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(28)資格視力等に関する条件問い合わせ先海技士身体検査基準第一種視力(五メートルの距離で万国視力表による.):裸眼視力が両眼共に〇・六以上.弁色力(海技士(航海)の資格に限る.):完全であること.疾病及び身体機能の障害の有無:心臓疾患,眼疾患,精神の機能の障害,言語機能の障害,運動機能の障害その他の疾病又は身体機能の障害(軽微なものを除く.)がないこと.船舶職員及び小型船舶操縦者法施行規則(別表第三)http://law.e-gov.go.jp/html-data/S26/S26F03901000091.html海技士身体検査基準第二種視力(五メートルの距離で万国視力表による.):視力(矯正視力を含む.)が両眼共に〇・六以上であること.弁色力(海技士(航海)の資格に限る.):色盲又は強度の色弱でないこと.疾病及び身体機能の障害の有無:上記の疾病又は身体機能の障害があつても軽症で勤務に支障をきたさないと認められること.船舶職員及び小型船舶操縦者法施行規則(別表第三)http://law.e-gov.go.jp/html-data/S26/S26F03901000091.html小型船舶操縦士身体検査基準視力(五メートルの距離で万国視力表による.):次の各号のいずれかに該当すること.一 視力(矯正視力を含む.次号において同じ.)が両眼共に〇・六以上であること.二 一眼の視力が〇・六に満たない場合であつても,他眼の視野が左右百五十度以上であり,かつ,視力が〇・六以上であること.弁色力:夜間において船舶の灯火の色を識別できること.ただし,法第二十三条の十一において準用する法第五条第六項の規定による限定がなされた操縦免許を受けようとする者については,日出から日没までの間において航路標識の彩色を識別できることをもって足りる.疾病及び身体機能の障害の有無:心臓疾患,眼疾患,精神の機能の障害,言語機能の障害,運動機能の障害その他の疾病又は身体機能の障害があつても軽症で小型船舶操縦者の業務に支障をきたさないと認められること.船舶職員及び小型船舶操縦者法施行規則(別表第九)http://law.e-gov.go.jp/html-data/S26/S26F03901000091.html水先人視力(5 メートルの距離で万国視力表による.):裸眼視力又は矯正視力が,一眼は 0.8 以上,他眼は 0.6 以上であること.弁色力:色盲又は強度の色弱でないこと.疾病及び身体機能の障害の有無:業務を行うに差し支える重い疾病又は身体機能の障害(心臓疾患,眼疾患,精神の機能の障害,言語機能の障害,運動機能の障害その他の著しい疾病又は身体機能の障害をいう.)のないこと.水先人の免許に係る処分についてwww.mlit.go.jp/maritime/shikaku/pdf/mizusaki.pdf公務員関連衆議院・参議院事務局 職 員( I・II・III 種・衛 視 )視力:裸眼視力 0.6 以上または矯正視力 1.0 以上の者.色神に異常がない者.東京アカデミーhttp://www.tokyo-ac.co.jp/koumuin/k3-gaiyou06.htm航空保安大学校生矯正眼鏡等の使用の有無を問わず,視力が次のいずれかに該当する者は不可.視力:どちらか 1 眼でも 0.7 に満たない者,両目で 1.0 に満たない者,どちらか 1 眼でも,80 センチメートルの視距離で,近距離視力表(30 センチメートル視力用)の 0.2 の視標を判読できない者,どちらか一眼でも,30 50 センチメートルの視距離で,近距離視力表(30 センチメートル視力用)の 0.5 の視標を判読できない者,色覚に異常のある者は不可.国土交通省航空保安大学校http://www.kouho-dai.ac.jp/examin/index1.html海上保安大学校生視力:裸眼視力または矯正視力が両眼共に 0.6 以上であること.色覚に異常がない者(職務遂行に支障のない程度の者は差し支えない).海上保安大学校http://www.jcga.ac.jp/海上保安学校学生船舶運航システム課程,情報システム課程,海洋科学課程視力:裸眼視力又は矯正視力が両眼共に 0.6 以上であること.色覚に異常がないもの(職務遂行に支障のない程度の色弱は差し支えない).航空課程視力:1, 裸眼視力が両眼共に 1.0 以上であること(ただし,両眼とも裸眼視力が0.2 以上で矯正視力が 1.0 以上の者は差し支えない).2,中距離において,両眼共に裸眼視力が 0.2 以上であること.海上保安学校http://www.kaiho.mlit.go.jp/saiyou/bosyu/nittei.html———————————————————————- Page 7あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091469(29)資格視力等に関する条件問い合わせ先海上保安学校学生つづき3,近距離において,両眼共に裸眼視力が 1.0 以上であること.色覚に異常がない者.司法・警察・防衛刑務官視力:裸眼視力が両眼共に 0.6 以上であること(ただし,矯正視力が両眼で1.0 以上は可).刑務官公募についてhttp://www.moj.go.jp/KYOUSEI/kyousei17.html法務教官視力:裸眼視力が両眼共に 0.6 以上であること(ただし,矯正視力が両眼で 1.0 以上の者は可).人事院http://www.jinji.go.jp/saiyo/shiken05.htm警視庁警察官視力:裸眼視力が両眼とも 0.6 以上であること.ただしこれに満たない場合は,裸眼視力がおおむね各 0.1 以上であって,矯正視力が各 1.0 以上であること.色覚:職務執行に支障がないこと.警視庁http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/saiyou/keisatsu/keisatu.htm都道府県警察官(大阪府の場合)視力:両眼とも裸眼視力が 0.6 以上又は矯正視力が 1.0 以上.色覚:警察官としての職務遂行に支障のない身体的状態.大阪府警察http://www.police.pref.osaka.jp/06saiyo/keikan/index_2_1.html入国警備官視力:両眼とも裸眼視力が 0.6 以上または矯正視力が両眼で 1.0 以上.色覚:異常のない者(職務遂行に支障のない程度の者は差し支えない).法務省http://www.moj.go.jp/NYUKAN/nyukan06.html皇宮護衛官視力:矯正眼鏡等の使用の有無を問わず,視力が次のいずれかに該当する者(どちらか一眼でも 0.5 に満たない者,両眼で 0.8 に満たない者)は不合格.色覚:異常のある者は不合格.皇宮警察本部http://www.npa.go.jp/kougu/shiken1.htm自衛隊幹部候補生<一般・海上技術要員>視力:両側とも裸眼視力が 0.6 以上または両眼とも裸眼視力が 0.1 以上で矯正視力が 0.8 以上である者.両眼の裸眼視力が 0.1 未満は屈折度測定により評価する.色覚:色盲又は強度の色弱でない者.<飛行要員>視力:両側とも遠距離裸眼視力が 0.2 以上で矯正視力が 1.0 以上,中距離裸眼視力又は矯正視力が 0.2 以上,近視矯正手術を受けていないこと.なお,矯正視力は眼鏡を使用する.色覚:正常な者.自衛隊幹部候補生募集要項http://www.startpage.co.jp/jsdf/kanbu/kanbu-y.htm医科・歯科・幹部自衛官,自衛官(看護),自衛隊学生(防衛大学校,防衛医科大学校,看護)視力:両眼とも裸眼視力が 0.6 以上又は裸眼視力が 0.1 以上で矯正視力が 0.8以上である者.両眼の裸眼視力が 0.1 未満は屈折度測定により評価する.色覚:色盲又は強度の色弱でない者.自衛官募集http://www.mod.go.jp/gsdf/jieikanbosyu/recruit/index.html自衛隊航空学生視力:両眼とも遠距離裸眼視力が 0.2 以上で矯正視力が 1.0 以上,中距離裸眼視力又は矯正視力が 0.2 以上,近距離裸眼視力又は矯正視力が 1.0 以上で,近視矯正施術(オルソケラトロジーを含む.)を受けていないこと.斜位,眼球運動,視野,調整力,夜間視力,色覚等に異常のない者.防衛省・自衛隊http://www.mod.go.jp/gsdf/jieikanbosyu/recruit/05.htmlスポーツ騎手(日本中央競馬:JRA)視力:裸眼で左右とも 0.8 以上.色覚:騎手としての業務を行うのに支障がない人.JRAhttp://www.jra.go.jp/news/200806/060601.html騎手(地方競馬:NAR)視力:両眼とも裸眼(メガネ,コンタクトレンズ等を用いない)で,0.6 以上であること.色覚:全色盲又は全色弱でないこと.地方競馬情報サイト http://www.keiba.go.jp/nar/center-subscription.html———————————————————————- Page 81470あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009文献 1) 障害者福祉研究会監修:新訂 身体障害認定基準及び認定要領(補訂版)解釈と運用.中央法規,p78-134, 2005 2) 坂上達志:【眼科外来必携】身体障害者手帳.眼科プラクティス 10:202-208, 2006 3) 鈴村弘隆:眼科診療に役立つ情報集視覚障害認定基準視野検査の要領.眼科 38:1223-1228, 1996 4) 西信元嗣:眼科診療に役立つ情報集視覚障害認定基準視力測定基準.眼科 38:1219-1221, 1996 5) 戸田和重:【眼科専門医に必要な法知識】労働者災害補償保険法(労災法).眼科 46:423-429, 2004 6) 戸田和重:【眼科外来必携】保険診療労働者災害補償保険.眼科プラクティス 10:227-231, 2006(30)資格視力等に関する条件問い合わせ先競輪選手視力:矯正視力が両眼で 0.8 以上,かつ 1 眼でそれぞれ 0.5 以上であること.色覚:白色,黒色,赤色,青色及び黄色の識別ができること.日本競輪学校募集案内http://keirin.jp/pc/dfw/portal/guest/nkg/pdf/98ippan.pdf競艇選手視力:両眼とも裸眼視力0.8 以上(コンタクトレンズ不可).色覚:強度の色弱でないこと.競艇オフィシャル Webhttp://www.kyotei.or.jp/information/topics/yamato/index.htmlオートレース選手視力:両眼とも裸眼視力0.6 以上で,色神異常でない者.オートレースガイドhttp://autorace.jp/guide/auto/racer.htmlマイクロライトプレーン技量認定視力:遠距離視力は一眼でそれぞれ 0.3 以上,かつ両眼で 0.7 以上(矯正視力を含む)であること.また,一眼の視力が 0.3 未満の者もしくは一眼が見えない者は他眼の視野の左右の和が 150°以上で,視力は両眼で 0.7 以上であること.ただし,矯正によって上記基準を満たすものは,矯正眼鏡(コンタクトレンズを含む)の使用を条件とする.色覚:赤色,青色,黄色の識別ができること.超軽量動力機http://www.geocities.jp/chobi_ yer/what.html

小児の視力検査

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYルト環の切れ目と同じ方向にして答えさせる.病院でランドルト環による視力測定がうまく測定ができなかった場合には,練習パンフレットを渡して家庭練習を指導する(図 2).子供は視力を測定すると見えなくても「わからない」という答えは言わず,次々と方向を指し示すことが多い.検者はランドルト環を調子よく提示せずに,わざと同じ方向を続けて提示し正答を確認する.また,子供が答える手を毎回机の上に置かせて落ち着いて答えさせ,信頼性のある答えを引き出す工夫をする.ランドルト環での視力検査ができない場合は森実式ドットカードを用いる.森実式ドットカードでは“うさぎ”や“くま”の“目”の有無と位置がわかるかを問い,最小視認閾による視力を測定する.“目”の有無を問う場合には 1 枚のカードを提示し「目がある?」「目はどこにある?」という方法と,目があるカードと目がないカードの 2 枚を提示し「目がある子はどっち?」を問う方法がある.検査結果の信頼性を上げるためには 2つの方法で確認することが有効である.森実式ドットカードができない場合には Teller acuity card を用いる.Teller acuity card はカードを提示し検者が中央に空いた穴から子供の顔を観察して,どちらの視標を固視したかによってその視力とするものである.乳幼児が無地より縞模様を好んで注視することを利用したもので,縞視標を認識したときの眼球や顔の運動を通して眼の分解能を測定する.低年齢の小児に対する検査では,集中力が非常に短いはじめに小児の視力検査で特有な点は,発達段階にあることを考慮する必要があることである.視覚中枢の発達という点から考えると,いわゆる“よみ分け困難”があるため,成人と同じような視力表でなく,字ひとつ視標での測定が重要になる.また,ランドルト(Landolt)環による視力検査は 3 歳以降でないと信頼性に乏しく,調節力が強いので,遠視がある場合は調節麻痺の点眼後の検査が必要になる.10 歳前後の女児に多くみられる現象として,心因性視力障害がある.中和法による視力検査が,この場合重要になる.小児の視力検査は,落ち着きがなく集中力も続かないため,検査値の信頼性が問題になるが,弱視治療の指標としての重要性もあり,経過観察を含めた検討が必要となる.本稿では,小児の視力検査を正確に行ううえでの注意点や,工夫も含めた実際の方法を述べる.I年齢による検査表の選択と方法(図 1)1)小児の視力検査は,3 歳ごろになるとランドルト環を用いて測定できる.ただ小児では視覚発達が未熟であるため読み分け困難があり,通常 8 歳程度まで字ひとつ視標が用いられる.測定前にはオリエンテーションを行いどのような測定方法がよいか選択する.ランドルト環は上下左右の 4 方向を提示し,切れ目を指で指すことができるか答え方を練習する.特に左右を間違えることが多いので注意する.指せなければハンドルを持ってランド(17) 1457 1 o a o o 2 a a ado 5 0 0132 2 7 1 特集●視力検査のすべて あたらしい眼科 26(11):1457 1462,2009小児の視力検査The Visual Acuity Test for Children松本富美子*1不二門尚*2———————————————————————- Page 21458あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(18)ランドルト環を用いた検査指さしで答えられる?はいいいえ指さしによる検査はいいいえハンドルで答えられる?ACUITY CARDSMORIZANE DOT CARDACUITY CARDSの実物MORIZANE DOT CARDの実物MORIZANE DOT CARDで答えられる?はいいいえハンドルによる検査図 1視力検査法の選択(文献 1 より改変)図 2視力検査の家庭練習パンフレット———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091459(19)定量的に評価するものである.弱視治療においては読み分け困難の改善状況をみて遮閉治療終了の目安や治療後の再弱視化の指標となる.III調節麻痺薬を使用した屈折検査1. 調節麻痺薬小児における正確な屈折値の測定は,調節麻痺薬点眼による調節解除が不可欠である.調節麻痺薬は硫酸アトロピンか塩酸シクロペントラートを使用し,目的に応じて使い分ける(表 1).塩酸シクロペントラートは硫酸アトロピンに比べ調節麻痺効果が 0.50 1.00D 弱く,特に治療開始前の調節性内斜視や遠視性不同視症例では十分な調節麻痺効果が得られにくいため,おもにスクリーニングや弱視治療後の高年齢児の経過観察に用いる.硫酸ため,何度か来院して再現性をみる必要がある.また,大角度の斜視では,視力の良好な眼が固視眼となるため,むき眼位における固視交代の観察をする.検査眼を変更するときに嫌悪反射で表情が暗くなったり,泣き出す,あるいは固視不定になるなどがないか観察することも有用である.II読み分け困難読み分け困難は小児視覚の特徴で,単独視標による視力値が並列視標による視力値より良好である現象をいい,crowding phenomenon や separation di culty とよばれる.原因は側方抑制の不全説や弱視眼の固視異常説などがある.通常臨床では,単独視力表と並列視力表による視力値の差が 2 段階以上ある場合を読み分け困難と判定している.しかし視標の数,配置,間隔,種類や視標の指し方などさまざまな条件が影響することも報告されてい る2).臨床で読み分け困難の評価をするために並列視標を用いる場合の工夫は,すべてランドルト環の並列視標を用い,端の視標は使わず,一瞬だけ指し示すようにすると再現性のある評価ができうる.筆者らは読み分け困難を簡便に定量的に評価するためにランドルト環 Crowded Card(図 3)を開発し測定している3).ランドルト環 Crowded Card は,中心視標と周囲視標の間隔を変化させることにより読み分け困難を表 1調節麻痺薬の選択硫酸アトロピン塩酸シクロペントラート調節麻痺効果強弱適応症例就学前弱視・斜視症例就学後スクリーニング弱視治療後経過観察使用濃度3 歳未満 0.5%3 歳以上 1.0%1.0%点眼回数1日2回2 回(5 分ごと)検査時期7 日後60 分後作用消失2 3 週後1 2 日後8cm 視標サイズ:視力値0.4, 0.5, 0.6, 0.7, 0.8, 0.9, 1.0視標間隔:1?,2.5′5?,10?,15?,20?,25?,30?30?1?15?0.40.71.0図 3ランドルト環Crowded Card(文献 3 より改変)———————————————————————- Page 41460あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(20)め,小児の興味を引くような声かけを行いながら視標の固視を促す.小児では睫毛が長いため測定範囲を遮らないように必要に応じて上下眼瞼を開ける.また涙液層を乱さないよう瞬目後に測定することが正確な値を得るこつである.調節麻痺薬を使用していない状態では調節は多少入るが,くり返し測定する間に徐々に調節は緩解するので,屈折値がプラス側に安定したところで測定を終える.調節麻痺薬を使用すると安定した値が得られる.3. 自覚的屈折検査初診時など調節麻痺薬点眼を行っていない場合には,調節の介入を最小限に防ぐために予測される屈折値よりプラス 3D 程度増し,プラス側より落とす測定方法を行う( 図 4 )6).乱視度数はオートレフラクトケラトメータの値を重視する.最高視力を得る最もプラス側の値をその自覚的屈折値とする.弱視症例では健眼のほうが弱視眼よりも調節が介入した屈折値となりやすいため,十分にプラス側に増した値で測定を行う.小児の乱視検査は,乱視表やクロスシリンダーで答えることはむずかしい場合が多い.オートレフラクトケラトメータから得られた値の乱視度数を入れ,その後ランドルト環の正答率で調整する方法がある.図 4 に示すようにランドルト環の切れ目が上下方向と左右方向で正答率に差がある場合,図のようにランドルト乱視表での見え方を推測し調整する.つまり上下方向を誤答する場合には水平に像がずれており 180°を軸にした度数を増す.左右方向を誤答する場合には逆に垂直に像がずれておりアトロピンの使用方法は 1 日 2 回 7 日間点眼で 7 日目に検査を行う.点眼日数は施設により少し異なるが,近畿大学医学部附属病院(以下,当院)で 1 日 2 回 5 日間点眼と 7 日間点眼で同一症例において屈折値を比較したところ,有意に 7 日間点眼でプラス側に移行したため 7 日間点眼で測定している.硫酸アトロピンは家庭で正しい点眼を行い,また副作用の発生を抑えるために説明書によって説明する.内容は点眼目的,点眼方法,誤点眼や誤飲予防の注意,薬剤の作用持続期間,生活上の注意についてである.特に点眼方法では点眼時の鼻根部の圧迫と閉瞼を行うように指導し体内への吸収を避ける.硫酸アトロピン点眼の副作用の発生率は通常 2%程度と報告されている.当院の調査では 4%であり点眼開始から 3日以内に起こり,症状は発熱で,年齢,性差,薬剤濃度には関係はなかった.副作用が発生した場合には点眼を中止し,来院時に塩酸シクロペントラート点眼によって屈折検査を行う.近視症例では,斜視を合併していたり,屈折値が不安定であったり,矯正視力が不良である場合には調節麻痺薬を点眼する.当院ではまず塩酸シクロペントラートを選択し調節の介入を除いた屈折値を検査している.2. 他覚的屈折検査小児の自覚的屈折検査は集中力の乏しさや応答の信頼性を欠き正確な検査が困難であるため,オートレフラクトケラトメータによる他覚的屈折値は重要である.測定時には視軸上の屈折値を測定することが重要であるた図 4幼小児の乱視微調整(文献 6 より改変)ランドルト環の正答率上下方向○,左右方向△左右の誤答軸180?の乱視度数を増す上下ずれ像上下に濃い乱視表オートレフ値VS:sph+6.00D(cyl 1.50D Ax180°VS=(0.2×sph+9.00D(cyl 1.50D Ax180°) (0.3×sph+8.00D(cyl 1.50D Ax180°) (0.4×sph+7.50D(cyl 1.50D Ax180°) (0.5×sph+7.50D(cyl 2.00D Ax180°) (0.7×sph+7.00D(cyl 2.00D Ax180°) (0.8×sph+6.50D(cyl 2.00D Ax180°) (0.9×sph+6.25D(cyl 2.00D Ax180°)例)———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091461(21)V心因性視力障害の視力検査小児に多い眼心身症として心因性視覚障害がある.症状で多いのは視力障害で,視野障害や色覚障害もみられることがある.女児に多く発症年齢は 8 10 歳の前思春期年齢である.心因性視覚障害を疑う場合,検査を行う心構えは必ず何らかの眼疾患が存在するという気持ちを忘れないようにし,心因性と決めつけず,しかし心因性の可能性も視野に入れながら検査を行う.両眼性の心因性視力障害と鑑別が必要な眼疾患として Leber 病,近視症例に多い先天性停止性夜盲,遠視症例に多い網膜分離症などがある.片眼性では友人の手や物があたったなど,比較的軽度な外傷経験を契機に起こす症例がある.1. レンズ中和法(図 5)他覚的屈折検査を行い,ランドルト環単独視標を用いて裸眼視力を測定し,まず通常の自覚的屈折検査を行う.屈折異常はごく軽度であることが多く,他覚的屈折値から推測される裸眼視力より極端に悪く,また屈折矯正で良好な視力が出なかった場合,心因性を疑ってレンズ中和法を行う.① 他覚的屈折値から 3.0D 程度プラス側のレンズを入れ,矯正視力を測定する.② ①のレンズを基にして,上からレンズ度数を打ち消す度数のレンズを重ね,矯正視力を測定する.マイナスレンズを重ねるとき「このレンズを入れるとよく見えるよ」と声をかけながら入れる.③ ②のマイナスレンズを抜き,①のレンズの上から90°を軸にした度数を増す.このようにして正答率が方向によって変わらない度数まで調整する.調節麻痺薬点眼後には予測される屈折値よりプラス 1 2D 程度足して,レンズ度数をプラス側より落とす測定方法を行う.後は調節麻痺薬点眼前と同様の測定方法である.IV弱視を疑う症例の視力検査集中力が続かない小児の場合,短時間の検査によって視力や屈折値を見きわめる必要があるため,検査の目的を明らかにして行う工夫が必要である.弱視や片眼性疾患による視力障害を疑う症例では,最高視力を知ることもより左右差を知ることに注目する.健眼の最高視力を求めるばかりに集中力が続かなくなってしまい,肝心の弱視眼の視力が信頼性を欠いてしまうことがある.ランドルト環で測定できる年齢の小児では,初診時には健眼と推測される眼から測定し,患眼との差があるかどうかを知る場合には,そのままの視力で遮閉用具を変えたときの患児の表情も観察や視力の正答率をみる.患児の答える速さ,表情の変化,固視不安定な状況や嫌悪反射がないかを観察し,左右差の有無の判断の参考にする.再診時には患眼と推測されるほうから測定し,健眼との差があるかを注意する.また小児では,視力検査だけで片眼弱視かどうかを判定することがむずかしい場合があるので,調節麻痺薬下の屈折値,固視検査,立体視検査,眼位検査,Bagolini 線条レンズ試験,4ΔBase out testなど,不同視弱視や微小斜視弱視を鑑別に入れ検査を総合的に判断することが重要である.図 5心因性視力障害のレンズトリック法 のレンズを にする は+3.50Dでも+4.0Dでもよい.)マイナスレンズを基準レンズに重ねる.同じ度数のレンズでも別のレンズに入れ替えるだけで視力は向上する.オートレフ値VS:sph+0.50D(cyl 0.25D Ax180°VS=0.3 (0.2×sph+3.00D) (0.3×sph+3.00D(sph 1.00D) (0.5×sph+3.00D(sph 1.75D) (0.6×sph+3.00D(sph 2.00D) (0.8×sph+3.00D(sph 2.50D) (0.9×sph+3.00D(sph 2.75D) (1.0×sph+3.00D(sph 3.00D) (1.2×sph+3.00D(sph 3.00D)例)———————————————————————- Page 61462あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(22)9-14, 2006 2) 深井小久子:弱視の病態と診療のかかわりcrowding phe-nomenon.眼科診療プラクティス 1:64-67, 1998 3) 松本富美子,若山曉美ほか:ランドルト環 Crowded Cardによる読み分け困難の検討─正常成人と正常小児─.日本視能訓練士協会誌 27:241-245, 1999 4) 臼井千惠:調節麻痺薬.理解を深めよう視力検査・屈折検査,p70-74,金原出版, 2009 5) 森隆史,八子恵子,飯田知弘ほか:乳幼児に対する 1%アトロピン点眼液を用いた調節麻痺下の屈折検査.眼臨紀 1:157-160, 2008 6) 若山曉美:弱視がある場合.理解を深めよう視力検査・屈折検査,p78-80,金原出版, 2009 7) 小口芳久:心因性視力障害.日眼会誌 104:61-67, 2000 8) 越後貫滋子:心因性視力障害の測定方法.理解を深めよう視力検査・屈折検査,p81-83,金原出版, 2009②のレンズよりもっと打ち消す度数のマイナスレンズを重ね矯正視力を測定する.このとき基に入れたプラスのレンズが見えにくい状態であることをわざと見せて,打ち消すレンズを入れ良く見えることを自覚させることがこつである.同じ操作をくり返し,徐々に打ち消してプラスマイナス 0Dになるまで行い矯正視力を測定する.※ ③の測定中で,もしプラスマイナスして+0.5D になって(1.2)が得られても,調節麻痺との鑑別を要するため,必ずプラスマイナス 0D になるまで行う.文献 1) 大牟禮和代:小児の視力検査.日本視能訓練士協会誌 35:

屈折矯正と視力検査

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYnystagmus)では眼振の振幅が最も小さい位置(もしあれば完全に眼振が止まる位置)で視力を測らないと本質的に被検者のもっている視力が測れない.この際には,アイパッチなどで確実に非検査眼を遮閉したうえで,眼振が止まる(あるいは振幅が最小となる)位置まで顔をひねってもらい(face turn をしてもらい),眼振の影響を最小限にする.その位置が被検者の最も見やすい頭位であるから,この頭位で視力を測定しなければならない.同じ眼振でも潜伏眼振(latent nystagmus)では,遮閉によって眼振が出るのでポラロイドを使った両眼開放視力表で検査するか,非検査眼に強い凸レンズを入れ光は通るが視標は見えない状態で視力測定をすると,眼振の影響を除いた状態で視力を測ることができる.患者の側にも測定された視力値を変動させうるさまざまな要素がある.たとえばドライアイの患者では,涙液の状態によって瞬時に視力値が変わってしまうことがある.白内障があれば,検査時の明るさの変化によって視力値は変動しうる.小児では検査に不慣れで検査が上手くできないと,実際の視力よりも得られた視力値が悪くなることもしばしば起こるので,初回検査や検査にまだ慣れていないと考えられる場合には注意が必要となる.また,小児は検査中に集中力が持続できないことがあるので,左右眼の視力をそれぞれ測定する場合,後で測定された眼の視力値が低くなることもしばしば遭遇する現象である.このように測定された視力値の読み方一つ取っても,はじめに視力検査は眼科診療の第一歩で,きわめて重要な眼科検査であることは言うまでもないが,細かい疾患には興味を示しても視力・屈折異常にはあまり興味を示さない眼科医は多いし,最近ではこの点に関して新入医局員への教育もしっかりとされていないのではないかと危惧する.視力値はちょっとしたことで変わるので,結果として出された値だけを見て額面通りの判断をするのではなく,視力値のもっている内容を正しく解釈できないと,正確な眼科診療ができないということをしっかりと再認識すべきと思う.測定された視力値は検者,患者の状態によってたやすく変動する可能性がある.検者側の要素として,同じ条件で同じ検者が測った結果でなければ,ある程度誤差があるかもしれないことを考慮して結果を読む必要がある.まず,検査室や視力表の明るさはどこでも同じわけではないので,この影響は視力値に出る可能性がある.検者の要因としては,視標提示時間の長短があれば得られる値は変わってしまうので,検者の測定法にも影響を受ける.患者から回答を得る時間に長短があれば,得られる視力値は変わってしまうことがある.また,検者が眼位性眼振や潜伏眼振が存在することを知らずに不適切な検査法で視力測定をすれば,得られた視力値は眼振の影響により被検者が実際もっている視力値より悪いものになってしまう.ちなみに,眼位性眼振(eccentric (11) 1451 a a 462 25 3 15 6 特集●視力検査のすべて あたらしい眼科 26(11):1451 1455,2009屈折矯正と視力検査Refractive Correction and Visual Acuity Test三宅三平*———————————————————————- Page 21452あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(12)3. 屈折異常を矯正する度数の検索視力検査は自覚的な屈折検査という一面ももつ.したがって視力検査のもう一つの重要な目的は,眼鏡やコンタクトレンズ(CL)の処方あるいは屈折手術の矯正度数を決定することである.この際には視力が矯正されるかどうか以外に,矯正度数が正確であることが重要となるので,他覚的な屈折検査と視力検査を併用して屈折度数を決定せねばならず,近視の過矯正や遠視の低矯正は禁忌となる.II視力検査・屈折検査の注意点1. 調節と視力検査・屈折検査正確な視力検査や屈折矯正を行ううえで常に留意しなくてはならないことは,「調節」の影響である.調節は動的なものであるしその強さに個体差もあるので,非常に扱いがむずかしく厄介なものである.患者が調節していれば,近視の過矯正や遠視の低矯正,正視が近視として矯正されること,遠視が正視と誤られたり(図 1),近視として矯正されることなどが起こりうる.さらに乱視があっても,( )側に強く矯正すると球面レンズだけで矯正されてしまうこともある.たとえば,正しい矯正度数が 0.5 D(cyl 0.5 D Ax180°いろいろなことを考慮して行わないと正確な眼科診療はできない.視力・屈折異常の理解を深めることは眼科診療の質を高めるうえに最低限必要なことで,習得には自分で視力・屈折検査を行うことが最短・最良の方法である.しかしながら,最近の診療施設には視能訓練士などの検査を専門に行ってくれるスタッフが常勤することが多く,新入医局員の時代から視力検査をしなくても診療が進んでいくようになってきているので,ますます眼科医が視力検査や屈折検査を行わなくなってきている.筆者は,少なくとも 1,2 年目の眼科医には自分で視力検査や屈折検査をさせ,これらの技術を習得させることは必要で,彼らの眼科疾患に対する理解を深める意味からも重要と考える.本稿では,視力検査を中心に屈折矯正時に行う際の注意点について主に述べる.I視力検査・屈折検査の意味・目的1. 患者のもっている本質的な視力値の検索視力検査と屈折検査を行う意味は,第一に屈折異常を除いた患者のもっている本質的な視力を知ることである.すなわち,皮質レベルで物を見ているかかどうか確かめる目的である.この場合の視力矯正においては,矯正する度数の過矯正であるか低矯正であるかはあまり大きな意味はなく,視力が矯正できるかどうかが重要となるので,このような目的の視力検査ではただひたすら良い視力値を出せばよい.2. 実生活に即した視力値の検索これとは逆に白内障の場合には手術適応を決めるために,日常生活実生活に即した視力値が必要となることがある.すなわち,通常の視力検査では 1.0 の視力値が得られていても,強い光の下での視力(グレア視力)を測ると 0.5 に視力値が落ちた場合には,手術の適応とすることがある.もしこの患者が車を運転する方だった場合,晴天下や夜間の対向車のヘッドライトを受けたときに視力が悪くなり日常生活が危険と判断されるからである.図 1調節の光路図赤線の光路は,調節していないときの遠視眼,低矯正されているときの遠視眼あるいは過矯正されたときの近視眼における無限遠方から来た光のもので,網膜後方に焦点を結んでいる.このときの水晶体(赤い水晶体)は調節していないので厚さは薄い.青色の光路は調節したときのもので,水晶体を厚くして(青色の水晶体)網膜後方に結んだ焦点は網膜上にもってくることができ,この状態では焦点の合った像を見ることができるので視力値は良く,屈折検査では見かけ上は正視と判断されてしまう.これよりさらに調節すれば,青色の光路は網膜前に焦点を結び,見かけ上は近視として矯正されることとなる.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091453(13)ら,2 回目にはアトロピンを使用し,1 回目にアトロピンを使用していれば,2 回目の検査では点眼回数を増やしたり点眼日数を増やしたりして対応する.b. 調節麻痺薬使用における注意調節麻痺薬点眼は種類にかかわらず一般的に刺激性がある(目にしみる).たとえば,複数回点眼を使用する場合には,患者が 1 回目の点眼で刺激性があることを知り,2 回目の点眼時に目を閉じてしまうことによって点眼液が眼内に十分入らず,薬剤の効果が不十分となることがあるので注意が必要である.また小児では,何度も点眼をすると副作用が出る危険があるので,各々の点眼を効率よく行って十分な効果を得るようにすることが必要となる.c. 調節麻痺薬使用下の視力検査角膜の構造の不均等などの影響から屈折度数は中心部と周辺部では異なる.日常に使用される視力に対して使われるのは中央部の屈折であるが,調節麻痺薬を使用すると散瞳するので周辺の屈折の影響を受けることになる.遠視系の屈折異常では矯正する際に光を収束させる凸レンズを使用し中心部の屈折を使用しやすくなるので問題は少ないが,近視系の屈折異常では光を拡散させる凹レンズを矯正時に使用するので,周辺の屈折の影響を受けやすくなる.このため,散瞳下で測定された近視系の矯正は往々にして過矯正となるので注意しなくてはならない.これを防ぐためには,大き目のピンホウル(PH)を使用して視力を測定するとよい.あまり小さい PH を使うと PH 効果の影響で焦点深度が深まり,実際の矯正度数より弱い度で矯正できてしまうことがあるので注意が必要である.散瞳下における周辺の屈折の影響は検影法でも出る.中央の反射は同行しているのに周辺の反射は逆行しているという逆転現象がしばしば起こる.この際は中心部の反射だけを拾うように努めることが必要となる.検影法においても PH を使用して検査をすることは可能であるが,検査の光軸と視軸が合わせにくく実際に行うのはかなりむずかしい.3. 調節麻痺薬を使わない検査日常の臨床では,子供や斜視がある患者あるいは特にという患者は,調節力があると単に 1.0 D や 1.5 D の球面レンズだけで矯正されてしまう.これらの現象は光路図的には調節して水晶体が厚くなり,後方に結んでいた焦点が前方に移動することにより起こっている.このように,視力が矯正されている屈折度数がその患者の正しい矯正度数であるとは限らないことは常に意識していなければならない.一時的には調節することによって良好な視力が得られるかもしれないが,無理をしているのでしばしば眼精疲労の原因ともなるし,小児では飽きっぽくなったり,本を読まなくなったりすることもあるし,ひどい場合には斜視を起こすことさえあるので,屈折矯正をするときには調節が入っていない状態を再現することが必須となる.2. 調節麻痺薬の点眼調節の影響を除去しようとする方法で,最もよく使われるのは調節麻痺薬である.特にシクロペントラート塩酸塩(cyclopentolate hydrochloride,サイプレジンR)や硫酸アトロピン(atropine sulfate)の調節麻痺作用は強く,よく使用される.a. 調節麻痺薬と残余調節調節麻痺が中途半端に起こっている状態で屈折検査を行うと何も点眼していないときより大きく調節の影響を受けることがあるので,弱い調節麻痺作用の点眼を使って屈折検査を行うことは絶対避けなくてはならない.さらに上記の強い調節麻痺作用のある点眼を使ったからといって,患者の薬剤に対する反応の個体差や点眼方法の良否によって常に調節が除去されているとは限らない.それゆえ,これらの薬剤を使っているときでも常に残余調節の存在を意識して検査を進めることが肝要である.眼鏡や CL を処方した場合には,眼鏡や CL 装用上から検影法を行い,残余調節を再検討することは重要な検査である.さらに,眼鏡や CL 作製後に残余調節の存在が疑われた場合には,いずれかの時期に再度屈折検査をすることになるが,2 回目の検査では 1 回目の検査に使用した調節麻痺薬よりも強い作用が望める点眼の種類あるいは点眼方法を用いることが必須となる.具体的には,初回検査にシクロペントラート塩酸塩を使用した———————————————————————- Page 41454あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(14)ダー法が用いられる理由である.マイナスシリンダーは検査時には重要であるが,眼鏡処方時にはこれにこだわる必要はない.一例として,遠視眼鏡作製時に,眼鏡を処方する前に患者がその眼鏡を常用することができるかどうか確かめる目的で,トライアルフレームにレンズを入れた仮眼鏡をかけてもらって練習をするが,この際に調節に問題があるという患者以外では,調節麻痺薬を使わないで視力検査を行うこともある.このようなときには雲霧法(fogging)を用いることがあるが,単に近視ならば弱い度から,遠視ならば強い度から徐々に度を変えて視力値を求めるだけでもある程度の効果がある.近視の例で言うならば,予想される屈折度数より十分に弱い度数で視力を測定し,0.5 D(必要ならば 0.25 D)ずつ度を上げて(遠視では強い度から下げて)いき,それぞれの視力値を測定していく方法である.表 1 のように視力値の結果を列挙し,近視では同視力が得られた弱いほうの度を採用し,遠視ならば強い度を採用する.表 1 の例1 では 1.25 D が,例 2 では+1.75 D が矯正度数ということになる.ここで大切なことは,各々の度の矯正レンズを入れてそれぞれの視力を測定することで,2 種類のレンズを比較させてよく見えるほうの度を決定する方法では,調節の影響を受けやすくなる.4. 乱視の矯正乱視は一点で焦点を結べない状態で屈折力の最も強い強主経線と最も弱い弱主経線の間を徐々に屈折度が変化し,図 2 のように強主経線からの光は前焦線に弱主経線からの光は後焦線に焦線を結ぶ.直乱視では,縦方向が強主経線で前焦線では横向きの像のピントが合っていて縦方向はぼけている.このような乱視を矯正する場合には,まず後焦線を網膜上に移動させ,その後乱視を円柱レンズで矯正する.この際円柱レンズで焦点(実際は焦線)を後方に動かすので使用する円柱レンズは( )レンズで,検査中に調節の影響が出にくくするための方法で,マイナスシリン図 2a乱視:乱視眼における光路図乱視があると一点に焦点を結ぶことはできない.上図は直乱視の例であるが,直乱視では角膜の縦方向の屈折力が強く,屈折力の強い経線(強主経線:赤い曲線)を通った光は前のほうに焦線を結び,縦方向に比して横方向に焦点の合った像となる(前焦線:赤い楕円).一方,角膜の横方向の屈折力は最も弱く,屈折力の弱い経線(弱主経線:青い曲線)を通った光は後のほうに焦線を結び,横方向に比して縦方向の焦点が合った像となる(後焦線:青い楕円).前焦線と後焦線の間に縦方向と横方向の像が均等にある程度ピントが合う部分が存在し,この部分が最小錯乱円である(橙色の円).混合乱視で裸眼視力が比較的良い症例が多いのは,前焦線と後焦線が網膜を挟む形で存在するので,最小錯乱円が網膜に近い位置でできるためである.:強主経線からの光:弱主経線からの光:最小錯乱円図 2b乱視:最小錯乱円立体的な光路図ではわかりにくいので,同じ平面に強主経線,弱主経線をのせた図で示した最小錯乱円.表 1視力と矯正度数例 1.近視矯正の一例:例 2.遠視矯正の一例:矯正度数 0.0D 0.5D 0.75D 1.0D 1.25D 1.5D 1.75D 2.0D矯正視力0.60.80.91.01.21.21.21.0矯正度数+3.0D+2.5D+2.25D+2.0D+1.75D+1.5D+1.25D+1.0D矯正視力0.50.80.91.01.21.21.21.0———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091455(15)おわりに視力検査・屈折検査は,眼科診療の基本ではずすことのできない検査だが,調節をはじめいろいろな事象の影響を受けるのでなかなか全体を把握しにくい.それゆえ,出された結果だけを鵜呑みにして診療を進めるととんでもない間違いを犯す危険がある.調節ひとつ取っても,これをいつでも完全に取る決定的な方法はない.正確な屈折検査・視力検査の結果を得るためには,正確に複数の屈折検査と視力検査を行う必要がある.少なくとも検査値の矛盾が読み取れるだけの技量をもっていないと,他人が行った視力検査や屈折検査の値を正確に判断することはむずかしい.このためには,一度は自分で視力検査・屈折検査をしっかりと行い,これらの検査の何たるかを知らないとこの技量は身につかないので,少なくとも新米医師時代にはこれらの検査に長い時間をかけるべきである.参考文献 1) Abrams D:Duke-Elder’s Practical Refraction. 9th ed. Churchill Livingstone, 1978 2) Corboy JM:The Retinoscopy Book. 5th ed. Slack Incorpo-rated, 2003マイナスシリンダーを使う必要はない.練習の目的が処方度数の眼鏡の適不適をみるものであるから,できるだけ出来上がり眼鏡に近い形で練習を行う必要がある.トライアルレンズで練習をする際に表 2 に示す例では,プラスシリンダーの例 2 のほうがレンズの組み合わせは単純となり,収差などの面から例 2 のほうを使用すべきである.5. 赤緑試験視力表にある赤の背景の視標と緑の背景の視標を見せ,どちらの視標が鮮明に見えるかで過矯正か低矯正かを知る方法である(図 3).波長の長い赤の視標は網膜の後に焦点を結び,波長の短い緑の視標は網膜の前に焦点を結ぶ.したがって,これらの視標の鮮明さが同じになる所の矯正度数が正しい度数であるとするものである.しかしながら,検査をしてみるとなかなか明確にどちらが鮮明か答えることがむずかしい.この理由は赤の視標は常に調節の影響を受け,前後に動く(被検者の自覚では視標ははっきりしたりぼけたりする)ので被検者は明確に答えられないのである.さらに,通常赤の視標のほうが調節の影響で明確に見えてしまうので赤緑の視標が同じに見える矯正度数は( )側によってしまう(近視なら過矯正,遠視ならば低矯正となる).したがって,赤緑試験は調節が完全に取れた状態でないと正確な結果が得られない検査と考えるべきである.図 3赤緑試験波長の長い赤は網膜の後に像を結び,緑は網膜の前に像を結ぶので,この視標の濃さが同じになる矯正度数が適正度数と考えているが,網膜の後方の像は調節で前方へ移動するので,赤緑の視標が同じ濃さになる屈折度数は,調節が完全にない場合以外は,近視ならば過矯正(遠視ならば低矯正)度数となる.表 2マイナスシリンダーとプラスシリンダー例1.+3.0D(cyl 1.5D Ax180°例2.+1.5D(cyl+1.5D Ax90° 上記の例 1 と例 2 の矯正度数は同じものである.例 1 のマイナスシリンダーは,調節の関与を出にくくする処置であり,検査時にはこちらの方法で屈折矯正を試みるべきである.しかしながら,眼鏡処方前の練習には例 2 のプラスシリンダーを使用してレンズの厚さを薄くしたほうが,収差などの要素を除外できる.

日常臨床における視力検査

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYII視力検査に必要な基礎知識1. 視力(visual acuity)とは物体の形や存在を認識する眼の解像力を示し,眼球から視覚中枢に至るまでの視機能全体の指標である.通常は,眼がかろうじて判別できる 2 点が眼に対してなす角(最小可視角)の逆数で表現する.よって,その値は検査距離に依存しない(図 1).2. 視標標準視標には,ランドルト環(Landolt ring)が用いられる.環の太さと切れ目の幅がともに外径の 1/5 で,視力 1.0 のときのランドルト環の切れ目は視角 1¢(1 分)である.検査距離5 mのときの 1.0 のランドルト環の大きさは,外径 7.5 m m・太さと切れ目の幅 1.5 m mである(図 2).ランドルト環以外にも, 文字や数字などの視はじめに視力検査は眼科診療において最も基本となる検査の一つである.医師自身が視力の原理や測定方法を理解し,検査時における細やかな指示や検査結果の正しい評価をすることが求められる.本稿では,日常臨床における視力検査の重要性を述べた後,視力検査時に必要な基礎知識,基本的な検査の手順,そして最後に検査結果を評価する際の注意点を紹介させていただく.I日常臨床における視力検査の重要性 (どうして視力検査が大切なのか?)診療を行っているとほぼ毎日「よく見えません」と受診される方を経験する.しかし同じ「よく見えない」のなかにもさまざまな程度や原因が含まれていることは言うまでもない.“見え”の感じ方は千差万別であり,かつ本人にしか体験できない.そのため患者自身も表現に苦労し医師やスタッフに正確に伝わっているかが心配になる.一方で,診療側も「よく見えない」と言われるだけでは,さまざまな疾患が頭をよぎり診断にも時間を要してしまう.このような場合でも視力検査は,あいまいな見え方の表現や質を共通の形で表現することができる.それにより,診断の大きな助けにもなる.たとえば屈折異常は,視力検査だけで診断と治療方法がおおよそ決定される.(3) 1443 a a a 視 062 0841 465 視 特集●視力検査のすべて あたらしい眼科 26(11):1443 1450,2009日常臨床における視力検査Daily Assessment of Visual Acuity稗田朋子*稗田牧* 視 q(分)視力=1/θ図 1視力の表示方法最小可視角の逆数が視力である(1/最小可視角).———————————————————————- Page 21444あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(4)ズで矯正できる正乱視と矯正できない不正乱視がある.正乱視では,最も強い屈折力をもつ強主経線と最も弱い屈折力をもつ弱主経線が互いに直交している.各々の経標が使われることがある.それらは,ランドルト環との比較実験で作製されている.3. 視力の表示法国際的な標準視力表示方式は小数視力であり,わが国でも一般的に使用されている.小数視力=1/最小可視角(分)である.一方,欧米では分数視力(スネレン方式:Snellen method)を用いるところが多い.分数視力を小数に換算した値は,小数視力と同じ値である.小数視力や分数視力は視覚に反比例する数値であるため視力表の視標の各段と視力の実質的な差が一致しない.そこで,最小可視角の対数で表す logMAR(logarithmic minimum angle of resolution)が使われることもある1).4. 視力の種類裸眼・矯正視力,遠見・近見視力,字ひとつ・字づまり視力が普段よく使われる.上記以外に両眼視力,中心外視力,動体視力,対比視力,縞視力などがあり,必要に応じて測定する.5. 屈折矯正視力測定時には屈折検査が必要である.平行光線が無調節状態で網膜面に結像する眼を正視(emmetro-pia),結像しない眼を屈折異常という.屈折異常には,網膜面より後方に結像する遠視(hyperopia),前方に結像する近視(myopia),経線方向により結像位置の違う乱視(astigmatism)がある(図 3).乱視には,円柱レン1.5mm7.5mm1.5mm図 2標準視標=ランドルト環(Landolt ring)円環全体の直径:円弧の幅:輪の開いている幅=5:1:1 の比率.5 mでの測定時における 1.0(視角 1 分)のランドルト環は外径 7.5 mm・太さと切れ目の幅 1.5 mmである.正視(emmetropia)遠視(hyperopia)近視(myopia)乱視(astigmatism)図 3正視と屈折異常上から順に正視(emmetropia),遠視(hyperopia),近視(myopia),乱視(astigmatism)を表している.遠視は凸レンズ,近視は凹レンズ,正乱視は円柱レンズで矯正される.Sturmの間隔前焦線後焦線最小錯乱円図 4正乱視眼のシェーマ前焦線〔 rst(anterior)focal line〕=強主経線の焦線.後焦線〔second(posterior)focal line〕=弱主経線の焦線.焦 域(focal interval)(スタームの間隔:interval of Sturm)=乱視度の強さ.最 小錯乱円(circle of least confusion)=全光束が最も接近する位置.———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091445(5)1. 測定条件普遍的な視力検査結果を得るために一定の測定条件が必要である.室内照度は 50 lux 以上で視標輝度を上回らない値とする.視力表の照度は 500±125 ラドルックス(rlx)(rlx=反射率×ルックス)であり,視標のコントラスト比は 85%以上必要である(図 5)1).原則的に,右眼の裸眼視力→左眼の裸眼視力→右眼の矯正視力→左眼の矯正視力の順に測定する.まず,視力は閾値であるので,被検者にはあらかじめぼんやりとでも判別できれば答えてくれるように説明しておく.目を細めると,焦点深度が深くなり視力が実際の値より良く測定される可能性があるので,目は細めないよう注意を促す.散瞳時に視力測定をする場合には3 m mの円孔板を用い,カルテにその旨を記載する.2. 被検者の状態を参考にする視力検査は正確でかつ迅速に行う必要がある.長時間の検査は疲労をきたし,検査の精度を落とすからである.そのためには,問診や年齢(再診の場合は疾患)などを参考に個々の症例に対して必要最低限の検査が求め線のピント(焦線)は,強主経線の焦線が前焦線〔 rst(anterior)focal line〕,弱主経線の焦線が後焦線〔second(posterior)focal line〕とよばれる.そして,焦線間距離を焦域(focal interval)(スタームの間隔:interval of Sturm)といい,乱視度の強さを示している.焦域の中央からやや前方の全光速が最も接近する位置を最小錯乱円(circle of least confusion)という(図 4).乱視眼は通常ここで見ていることが多い.強主経線と弱主経線の屈折度の平均値は等価球面屈折度(spherical equiva-lent)(球面レンズ度+1/2 の円柱レンズ度)という1,2).III視力検査の基本的手順つぎに,実際の検査手順を述べる.視力検査は,自覚的視力検査法と他覚的視力検査法に分けられる.他覚的検査法は,幼児や詐盲など自覚的検査法で信頼のおける結果が得られない場合に使用する.視運動性眼振(opto-kinetic nystagmus:OKN)・ 視 覚 誘 発 電 位(脳 波)〔visual evoked potential(response):VEP〕などがある.ここでは,日常診療時に最も多い成人の自覚的視力検査法を中心に説明する.1.0の視標0.1の視標字づまり視力表字づまり視力表5m5mAB図 5視力検査環境と遠見視力測定の準備室内照度 50 lux 以上で視標輝度を上回らない.視力表の照度は 500±125 rlx.視標のコントラスト比は 85%以上.A: 検査距離は5 m.字づまり視力表の 1.0 の視標を目線の高さに設定.B: 5 mで 0.1 の視標が見えない場合,検者が 0.1 の視標をもって近づく.この場合,視標輝度=室内照度となり,字づまり視力表と若干条件が異なる. 視力=0.1×x/5(x m:視標と被検者間の距離)———————————————————————- Page 41446あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(6)( )・視力 0 と記載する1).b. 矯正視力矯正視力は屈折検査の値を参考にしながら測定する.できるだけ調節の影響を受けないように心がけることが重要である.屈折検査は,自覚的屈折検査と他覚的屈折検査に分けられるが,最終的には自覚的屈折検査で決定することが原則である(図 6).1)他覚的屈折検査臨床でおもに使用されている他覚的屈折検査には,オートレフラクトメータと検影法の 2 種類がある.・オートレフラクトメータ(auto refractometer):赤外線光を被検眼に入れ,返ってくる赤外線光のピントの位置を調べることで他覚的屈折度が自動的に得られる.操作は簡単で,短時間に測定ができ,熟練を要さない.屈折度と同時に角膜曲率半径の測定もできる.加えて測定時に表示されるマイヤーリングで角膜前面の大まかな状態を把握することも可能である.欠点には,機械近視の影響が完全には除去できないことや強い前眼部・中間透光体混濁,測定可能範囲を超える強い屈折異常,小瞳孔で測定不可能なことがあげられる3).・検影法(skiascopy/retinoscopy):検影器と板付きレンズを用い,検者と被検者の網膜共役点を探す検査法である.検影器から瞳孔内に光を入れ,瞳孔内の光影の動きと一致する場合を「同行」・逆方向の場合を「逆行」・動きがない場合を「中和」と言う.屈折度は,中和に要した検査レンズ度数(D) 1/ 検査距離(m)で表されるられる.加えて,検査中も反応により臨機応変に検査方法を変えていき,被検者の気になった様子はカルテに記載する.3. 遠見視力の測定a. 裸眼視力通常5 mの距離でランドルト環字づまり視力表を用いて行う.1.0 の視標が被検者の視線の高さになるように設置する(図 5).遮眼子もしくは,眼鏡検眼枠と遮閉板を用いて片眼ずつ測定する.測定中は非検査眼で覗いていないかの観察が必要である.・まず,視標を上から順にさし(点灯させ)被検者に読ませる.半数以上視標が判別できた限界の段を視力とする.すなわち視標が 5 列の場合は 3/5 以上判別する必要がある.半数以下しか判別できないときに p(partial)をつけて記載する場合があるが,正式な視力は p をつけている前の段の視力である.・検査距離5 mで 0.1 の視標が判別できない場合,被検者に 0.1 の視標が見える位置まで近づいてもらうか,検者が 0.1 の視標を持ち視標を判別できるまで被検者に近づく(図 5).0.1 mの視標が判別できたときの視標と被検者間の距離(x m)を求め,x m での視力は 0.1×x/5である.たとえば2 mで判別できた視力は 0.1×2/5=0.04 となる.中心で見えない場合は視標をずらし中心外でも測定する.・指数弁:50 c mまで近づいても 0.1 の視標が見えないときは,指の数を答えさせる.30 c mの距離で判別ができた場合の記載法は,30 cm指数・30 cm/n.d.(numerous digitorum)・30 c m/c.f.(counting nger)・30 c m/F.Z.(Finger Zahl)である1).・眼前手動弁:指数が判別できないときは,被検者の眼前で手を動かしその方向を判別できるかを聞く.手動弁・m.m.(motus manus)・h.m.(hand motion)・H.B.(Hand Bewegung)と記載する1).・光覚:手の動きがわからないときは,瞳孔に光を入れて明暗が判別できるかを尋ねる.明室で光覚がない場合には暗室で再検査を行う.記載は,光覚・s.l.(sensus luminis)・l.s.(light sense)・L.S.(Licht Sinn)である.光をまったく感じないときは医学的失明を意味し,光覚自覚的屈折検査他覚的屈折検査レフラクトメータ検影法オフサルモメータ球面レンズによる矯正円柱レンズによる乱視矯正球面レンズによる補正球面レンズの再調整二色テスト(赤緑テスト)雲霧法両眼開放での確認図 6屈折検査の流れ———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091447(7)かも簡便に確認できる4).2)自覚的屈折検査自覚的屈折検査は,レンズ交換法が基本である.・検眼枠の調節:レンズの光学中心が瞳孔中心に位置するよう設置し(光学中心の調節),検眼枠に挿入されたレンズ後面から角膜頂点までの距離が 12 m mになるよう調節する(頂点間距離の調節).その後,一方のレンズホルダに遮眼板を入れ片眼ずつ測定する(図 8).・球面レンズ度の決定:他覚的検査結果や手持ち眼鏡の度数を参考にして行われることが多い.不明な場合には弱い凸レンズを入れ,矯正視力が低下すれば近視を考え,最高視力が得られる一番弱い凹レンズ度を,低下しなければ遠視を考え,最高視力の得られる一番強い凸レンズ度を求める.凸レンズは,交換レンズを入れた後に装用レンズを除去すると,調節の影響を受けにくい.2枚以上のレンズを検眼枠に入れる場合は,度が強いレンズが頂点間距離 12 m m寄りになるように(眼に近い位置に)配置する.・円柱レンズの決定:おもに乱視表を用いる方法とクロスシリンダーを用いる方法がある.乱視表を用いる場合は,網膜面上に後焦線をおき,前焦線のみを網膜面に近づけていく要領で行う(図 9).球(図 7).すなわち,一般的な検査距離 50 c mでは,中和レンズ 2 D となる.用いる器具により,鏡面法,点状法,線状法とがあるが,以下線状検影器で開散光を用いた測定方法を述べる.検者は被検者の視線を遮らないよう対座し,被検者を遠方視させる.まず,裸眼で光を瞳孔に入れ,主経線(乱視軸)を決定する.その後,主経線方向に検影器を回転させ,同行なら凸レンズを,逆行なら凹レンズを付加していき中和点を探す.主経線ごとに屈折度を求め,眼屈折度を換算する.検影法は熟練を要するが,精度が比較的高く,小児や寝たきりの方などでも測定が可能である.さらに眼鏡が合っているかどう同行逆行中和図 7検影法による影の動き検査距離 50 cmの場合,同行:2.0 D 未満の近視・正視・遠視,逆行:2.0 D を超える近視,中和:2.0 D の近視である.12mm頂点間距離瞳孔間距離遮眼板を挿入し測定BAC図 8自覚的屈折検査の準備A: 光学中心の調節(瞳孔間距離を測定し,レンズの光学中心が瞳孔中心に位置するよう設置).B: 頂点間距離(検眼枠に挿入されたレンズ後面から角膜頂点までの距離)は12 mm.C: 一方のレンズホルダに遮眼板を入れ片眼ずつ測定.———————————————————————- Page 61448あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(8)クロスシリンダー(cross cylinder)とは,同じ度数の凹と凸の円柱レンズを直交させて組み合わせたレンズであり,各々の円柱レンズの軸が刻まれている.最小錯乱円を網膜面上においたままクロスシリンダーを回転させ,前焦線と後焦線の位置を網膜面上に近づけながら(最小錯乱円を小さく)円柱レンズ度を決定する(図1 0 ).・二色テスト(赤緑テスト:red-green test):色収差を利用した検査法である.最終的な球面レンズ度の微調整に使う(図 11).赤地と緑地を背景に各々黒字の図形が描かれている.はっきりと図形が見えるのが赤地と答えた場合は,遠視の過矯正か近視の低矯正であるため凹レンズを追加し,反対に緑地と答えた場合には,遠視の低矯正か近視の過矯正なので,凸レンズを追加する.この操作を,両方の図形が一様にみえるまでくり返す.4. 近見視力の測定老視や調節障害などで近くが見えづらいときに近見視面レンズ度数を決定したのちに,他覚的屈折値乱視度数の 1/2 程度の凸球面レンズを加えて雲霧した後,乱視表を見てもらい線に濃淡がある場合,濃く見える線と直交する角度を乱視軸とし凹円柱レンズで矯正する.乱視表軸方向AB(雲霧レンズ)球面レンズ円柱レンズ図 9乱視表を用いた円柱度数決定方法A:球面レンズを用い,網膜面に後焦線を置く.B: 乱視表が均一になるように円柱レンズを足し,前焦線を網膜面に近づけていく.ABクロスシリンダー球面レンズ球面レンズ図 10クロスシリンダーを用いた円柱度数決定方法同じ度数の凹と凸の円柱レンズを直交させて組み合わせたレンズである.A:最小錯乱円を網膜面上に置く.B: クロスシリンダーを回転させ,前焦線と後焦線の位置を網膜面上に近づける.正視の状態赤=緑のとき赤黄緑赤がよく見えるとき近視の状態→凹レンズを追加赤黄緑赤黄緑遠視の状態→凸レンズを追加緑がよく見えるとき図 11二色テスト(赤緑テスト:red-green test)赤地に書いてある記号がよりはっきり見えると答えた場合は凹レンズを追加,緑地と答えた場合には凸レンズを追加する.———————————————————————- Page 7あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,20091449力を測定する.わが国では通常 30 c mの距離で近距離視力表を用いて測定する. ひらがな万国式近点検査表を使用することが多い.一方,欧米では 40 c mで測定することが多く,記載法は分数視力のほかに Jaeger やPoint がある.わが国でも,体格の変化・パーソナルコンピュータ作業時の距離を考慮して老視の評価時に 25 cmから 50 c mの距離で測定可能な魚里式 LogMAR 近距離視力表などを用いる場合がある.原則的には遠見視力と同様に,球面矯正→円柱矯正→球面補正の順に矯正するが,臨床では遠見時の矯正度数と調節力の加齢変化の平均値を参考にしながら矯正度数を決定することが多い(図 12).IV診察時における視力評価のポイント(1)まず,矯正視力を確認矯正視力が良好なことを確認できればひとまず安心である.屈折異常以外の器質的な疾患はほぼ除外されるからである.矯正視力が不良なときは,視力低下の程度,他の眼症状,診察,検査所見を総合して原因を解明していく必要がある.一方,矯正視力が良好でも視力低下の訴えがある場合には,視野障害が存在したり,一般的な測定条件下では検出されなかったコントラスト感度の低下などが隠れているため必要に応じて検査の追加が必要となる.(2)裸眼視力を軽視しない最も訴えと直結しているのが裸眼視力(もしくは手持ち眼鏡視力)である.眼科医になりいろいろな疾患を覚えてきたときに陥りやすいことのなかに,矯正視力にばかり目がいきがちになることがあげられる.世間一般的には「目が悪い」≒屈折異常(特に近視・老視)をさす場合が多い.よって,矯正視力ばかりを重視していると患者との間に温度差が生じ,不満が解決しない場合がある.緑内障や網膜疾患など器質的な基礎疾患を有する場合でも裸眼視力の低下のみで不満を訴えることもある.ことさら QOV(quality of vision)が求められるこの時代では,屈折矯正手術・多焦点眼内レンズ挿入時だけではなく白内障手術・眼内レンズ挿入術前後などでも裸眼視力の把握が必須である.おわりに日常臨床における視力検査は,正確に行われることが大前提である.しかし一方で,必ずしも研究用にデータを取るときほど完璧な検査結果が必要なわけではない.一番の目的は視力検査を通して見え方を患者と診療側が共有することである.すなわち訴えによく耳を傾け,何が求められているかを考えながら,視力検査時に一番必要な情報を迅速に得ることが大切である.そのために医師は,視力検査の基本を理解したうえで,日々,愁訴や所見と視力を対比させ考える必要がある.そのうちに,視力検査の結果を見ただけでもある程度患者の状態が頭に浮かんでくるようになる.(9) 図 12近見視力の測定30 c mの距離で測定する.下の写真は,ひらがな万国式近点検査表である.———————————————————————- Page 81450あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009文献 1) 所敬:屈折異常とその矯正 第 3 版,p25-84,金原出版, 1997 2) 平井宏明:幾何光学の基礎.眼光学の基礎(西信元嗣編),p1-41,金原出版, 1990 3) 魚里博,川守田拓志:オートレフラクトメーター.眼科 49:1521-1526, 2007 4) 八子恵子:検影法のコツと意義.眼科 28:707-714, 1986(10)

序説:視力検査のすべて

2009年11月30日 月曜日

———————————————————————- Page 10910-1810/09/\100/頁/JCOPYに応じて視力検査に求められる結果の表示方法,その精度,検査時間,費用などがまったく異なるため,各目的に対して適する方法に変化していったと考えられる.さらに近年では,白内障手術や屈折矯正手術において,視力以外のハローやグレアといった症状やコントラスト感度といった視機能評価法が,その手術適応や術後視機能評価に,視力以上に重要となる状況がありうるし,wavefront-guided LASIK(laser in situ keratomileusis)や非球面眼内レンズなどに代表されるような高次収差を含めた屈折異常を矯正する治療法が登場した結果,視力検査時にはこれら高次収差の矯正をテストすることが不可能となり,屈折検査や視力検査の限界が臨床においても実感される状態になりつつある.一方,屈折矯正手術後,多焦点眼内レンズ,あるいはトーリック眼内レンズ挿入後では,矯正視力に加えて良好な裸眼視力の獲得が重要になり,裸眼視力測定の重要性が再認識される状況も見受けられるし,黄斑疾患やロービジョンにおいては,今まで以上に低視力を正確に測定することが要求されるようになっている.このように,視機能評価のゴールドスタンダードとして視力検査は標準化されるべきであるにもかか視力検査は,19 世紀に Purkinje と Young がさまざまな大きさの文字を使用して,視力測定を開始したのが始まりとされるが,眼球が感覚器として良質な視覚情報を中枢に伝達する必要がある以上,視力検査が眼科臨床における最も重要な検査の一つであることには,視力測定が開始されて以来現在まで変わりがない.このように大変重要な視力検査ではあるが,その検査装置や検査方法には大きなバリエーションが存在する.これは,本検査の歴史が長いことや測定する施設が多彩であることもあるが,ひとつには視力検査には目的が多数存在することが原因と思われる.たとえば,眼科診療においては,眼疾患およびその治療の視機能への影響を評価するために視力測定を施行し,屈折異常がある場合には,眼鏡,コンタクトレンズの処方あるいは屈折矯正手術の矯正度数決定のために検査されている.新しい薬剤や医療機器の開発過程では,それらの安全性,有効性を評価する際には,統計学的に視力を評価することが不可欠となる.あるいは社会生活に関連しても,車の運転免許などの資格取得,特殊な職業,身体障害者や労働災害の認定などで視力検査は必須である.このように多様な目的が存在し,しかもそれぞれの目的(1)ツ黴€ 1441 1ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ 視ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ 2ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ツ黴€ ●序説 あたらしい眼科 26(11):1441 1442,2009視力検査のすべてAll about Visual Acuity Measurement前田直之*1山下英俊*2———————————————————————- Page 21442あたらしい眼科Vol. 26,No. 11,2009(2)わらず,多くのことが要求され,それに対応すべく逆に多様化していると考えられ,それらをすべて把握することは決して容易でない.そこで今回は,「視力検査のすべて」として,視力検査に関連してわれわれ眼科医が理解しておくべき事項に関して特集を組ませていただいた.まず,日常臨床における視力検査に関して,稗田朋子先生と稗田牧先生に,基礎知識,手順的な部分,視力検査に必要な他覚的,自覚的屈折検査について概説していただいた.ついで,三宅三平先生には,視力検査と屈折検査の意味や目的,検査時の注意点についてご解説いただいた.屈折矯正手段の選択や処方に際しての視力測定や屈折検査と,診察に伴う検査との違いを認識することが大切である.小児の視力検査は,適切な屈折矯正がその後の視機能の発達や弱視と関連しているという点や,検査が困難である点で,視力検査の技量が問われる領域である.これに関しては,松本富美子先生と不二門ツ黴€ 尚先生にお願いした.オートレフラクトメータが普及し,検影法があまり行われなくなった今,なおさら小児の屈折異常に対する理解を深める必要がある.鳥居秀成先生と根岸一乃先生には,資格や身体障害に関する視力検査をわかりやすくまとめていただいた.視機能障害がその人の人生に及ぼす影響を考えると,個々のケースに応じて的確なアドバイスを与える義務をわれわれ眼科医は負っていることを認識すべきであろう.臨床研究や治験における視力検査では,近年視力が logMAR で表示される傾向にあるが,これに関しては前田が,その理由や現況を示した.一方,自覚的検査である視力検査をより客観的,定量的に行う手段として,心理物理学的アプローチによる視力測定を可児一孝先生にご紹介いただいた.屈折矯正手術後や多焦点眼内レンズ挿入後では,視力が良好であるにもかかわらず視機能低下を訴えることが問題となることがあり,魚里博先生と中山奈々美先生には,より視機能を精密に評価する方法としてのコントラスト感度について解説していただいた.また,眼疾患治療に対して最も大切であるqualityツ黴€ ofツ黴€ life の向上と視力の関係について,岡本史樹先生と大鹿哲郎先生にまとめていただいた.Value-based medicine の観点から眼疾患の治療による qualityツ黴€ ofツ黴€ life の向上を示すことが,眼科の重要性を世に示すという意味で,今後ますます大切になると思われる.視力検査は,視機能をワンナンバーで表示するという意味で,シンプルかつ臨床的に受け入れられやすいものであるが,その限界も見えてきている.われわれは,その有用性と限界を理解したうえで,それぞれの視力検査の目的に応じて,それに最適の方法を選択して使い分ける必要がある.今後,視力検査あるいは視機能検査がどのような方向に向かうか予測することは困難であるが,コンピュータやイメージング技術の発展に伴って,視機能の複雑な状態を,もっとわかりやすく的確に評価できるようになることを期待したい.最後に,ご多忙中にもかかわらずご執筆いただいた先生方にこの場をお借りしてお礼申し上げる.

ガチフロキサシン点眼液(ガチフロ 邃「 点眼液 0.3%)の製造 販売後調査―特定使用成績調査(新生児に対する調査)―

2009年10月31日 土曜日

———————————————————————- Page 1(131)ツꀀ 14290910-1810/09/\100/頁/JCOPYツꀀツꀀツꀀツꀀツꀀ あたらしい眼科 26(10):1429 1434,2009cはじめにガチフロR点眼液 0.3%(以下,本剤という)は,2004 年 9月の発売時点において 1 歳以上の小児については,その有用性の評価を終えていた.しかしながら,本剤効能である『眼瞼炎,涙 炎,麦粒腫,結膜炎,瞼板腺炎,角膜炎(角膜潰瘍を含む)』のうち,特に急性細菌性結膜炎については免疫未熟な新生児,乳幼児に集中的にみられる疾患であり,眼科医療現場ではフルオロキノロン系抗菌点眼薬が「1 歳未満」の小児に対して汎用されていることから,「1 歳未満の小児」における本剤の安全性および有効性を評価することが急務であった.そこで筆者らは,1 歳未満の小児(細菌性外眼部感染症罹患児)に対する本剤の安全性および有効性の確認を目的として,2005 年 6 月から 2006 年 6 月に特定使用成績調査を実施した.その結果,乳児(生後 28 日以上 1 年未満)110 例および新生児(生後 27 日以下)3 例を収集し,全症例において副作用が認められなかったことを本誌において報告した1).しかしながら,当該調査においては,新生児症例数が計画未達であったことから,新たに新生児を対象とした特定使用成績調査を実施し,当該症例群に対する本剤使用実態下における成績を得たので,続報として報告する.なお,当該調査は,GPSP 省令(「医薬品の製造販売後の調〔別刷請求先〕丸田真一:〒541-0046 大阪市中央区平野町 2-5-8千寿製薬株式会社 開発本部 育薬企画室Reprint requests:Shinichi Maruta, Post-Marketing Surveillance Department, Senju Pharmaceutical Co., Ltd., 2-5-8 Hiranomachi, Chuo-ku, Osaka 541-0046, JAPANガチフロキサシン点眼液(ガチフロR点眼液 0.3%)の製造 販売後調査―特定使用成績調査(新生児に対する調査)―丸田真一*1末信敏秀*1羅錦營*2*1 千寿製薬株式会社 開発本部 育薬企画室*2 羅眼科Post-Marketing Surveillance of Gatiloxacin Ophthalmic Solution(GatiloR Ophthalmic Solution 0.3%)Use-Result Surveillance Speciied for NewbornsShinichi Maruta1), Toshihide Suenobu1) and Ra Kin Ei2)1)Post-Marketing Surveillance Department, Senju Pharmaceutical Co., Ltd., 2)Ra Eye Clinic「ガチフロR点眼液 0.3%」の新生児(27 日以下)に対する安全性および有効性を検討することを目的として,プロスペクティブな連続調査方式にて特定使用成績調査を実施した.その結果,安全性評価対象として 65 例を収集し,その内訳は,外眼部感染症(眼瞼炎,涙 炎および結膜炎)が 62 例,ならびに感染予防(効能外使用)が 3 例であったが,いずれの疾患においても副作用の発現は認められなかった.また,有効性の評価対象症例 61 例における医師判定による全般改善度(有効率)は 98.4%で,高い有効率を示した.以上の結果,本剤は新生児における細菌性外眼部感染症に対して有用な点眼薬であることが示唆された.To evaluate the safety and e cacy of GATIFLOR ophthalmic solution 0.3% for newborns(0 to 27 days), use-result surveillance speci ed that patient grouping employ a prospective and continuous survey method. In the safe-ty evaluation, which involved 65 infants(57 term-newborns and 8 of low birth weight)comprising 62 with exter-nalツꀀ ocularツꀀ infection(blepharitis,ツꀀ dacryocystitisツꀀ orツꀀ conjunctivitis)andツꀀ 3ツꀀ beingツꀀ treatedツꀀ forツꀀ prophylaxis.ツꀀ Noツꀀ adverse drugツꀀ reactionsツꀀ wereツꀀ observed.ツꀀ Inツꀀ theツꀀ e cacyツꀀ evaluation,ツꀀ whichツꀀ involvedツꀀ 61ツꀀ infants(56ツꀀ term-newbornsツꀀ andツꀀ 5ツꀀ of low birth weight), the e ective rate was 98.4% . These results suggest that GATIFLOR ophthalmic solution 0.3% is a useful medication for treating external bacterial infections of the eye in newborns.〔Atarashii Ganka(Journal of the Eye)26(10):1429 1434, 2009〕Key words:ガチフロキサシン,ガチフロRツꀀ 0.3%点眼液,新生児,製造販売後調査,安全性,有効性.gati oxacin, GATIFLOR ophthalmic solution 0.3%, newborns, post-marketing surveillance, safety, e ectiveness.———————————————————————- Page 21430あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(132)査および試験の実施の基準に関する省令」平成 16 年 12 月20 日 付 厚 生 労 働 省 令 第 171 号)に 則 り,2007 年 5 月 2008 年 9 月に実施されたものである.I方法1. 調査対象本剤の効能・効果である細菌性外眼部感染症〔眼瞼炎,涙 炎,麦粒腫,結膜炎,瞼板腺炎,角膜炎(角膜潰瘍を含む)〕を目的として本剤が投与された新生児(生後 27 日以下)患者を対象とした.なお,調査の対象施設は,本剤が納入・採用され,依頼および契約が文書で交わせる施設のうち眼科を中心とする医療機関とした.2. 調査方法,登録方法対象症例を無作為に抽出するため,プロスペクティブな連続調査方式で実施した.すなわち,契約締結日以降に本剤投与が開始された症例を,投与開始順に漏れなく連続して仮登録し,そのうち再診があった症例について投与開始順に最終登録する方法とした.また,最終登録したすべての症例について,調査票を記載することとした.3. 本剤の投与方法,観察期間など承認された本剤の用法・用量である「通常,1 回 1 滴,1日 3 回点眼する」に則り投与することとした.本調査の観察期間は,担当医師が必要と判断した期間としたが,1 症例当たりの標準的な観察期間は 3 14 日とした.なお,本調査は使用実態下での調査であるため,前治療薬,併用薬,処置などについては特に規制しなかった.4. 調査項目調査項目は,患者背景〔性別,低出生体重児の別,使用理由,投与開始時の基礎疾患・合併症(眼合併症,肝機能障害,腎機能障害)など〕,本剤の使用状況,併用薬剤の使用状況,臨床経過(自覚症状,他覚的所見),有害事象,有効性評価(全般改善度)などとした.5. 安全性の判定本剤投与中あるいは投与後に発現した医学的に好ましくないすべての事象を有害事象とし,その発現の有無について調査した.有害事象「あり」の場合は,種類,発現日,重篤度,発現日以降の本剤の投与状況,有害事象に対する処置,転帰,本剤との因果関係などについて調査した.有害事象のうち,本剤との因果関係が否定できないものを副作用として取り扱った.6. 有効性(全般改善度)の判定有効性の評価は,本剤の投与開始後の臨床経過などにより担当医師が総合的に判断し,「改善」,「不変」,「悪化」,「判定不能」の 3 段階 4 区分で判定した.このうち,「改善」の症例を有効例,「不変」および「悪化」の症例を無効例とした.7. 症例の取り扱いおよび解析方法調査(登録)症例のうち,何らかの理由で調査を完了できなかった症例を脱落症例として取り扱うこととした.また,調査完了症例のうち,安全性あるいは有効性評価対象症例群について層別集計を行い,安全性評価については安全性評価対象の全例に占める副作用発現率を,有効性評価については有効性評価対象の全例に占める有効(改善)率を算出した.また,有効性評価においては,要因別に有意水準を両側 5%として,Kruskal-Wallis 検定(以下,H 検定)を実施した.II結果1. 症例構成症例構成を図 1 に示した.すなわち,240 例(24 施設)に関する契約を締結した結果,68 例(16 施設)が最終登録され,すべての調査を完了しえた.これら調査完了症例 68 例のうち,登録期間終了後に本剤投与が開始された 1 症例および調査対象外症例(生後 28 日以上経過した症例)を除外した結果,安全性評価対象症例として 65 例(16 施設)を,さらに,効能外症例 3 例および有効性判定不能症例 1 例を除外した結果,有効性評価対象症例として 61 例(16 施設)を収集しえた.2. 安全性評価対象症例の患者背景および副作用発現率安全性評価対象症例 65 例において副作用は認められなか契約症例数240例(24施設)登録症例68例(16施設)登録期間外症例1例(1施設)調査完了症例68例(16施設)調査対象外症例2例(1施設)安全性評価除外症例3例(2施設)安全性評価対象症例65例(16施設)有効性評価除外症例4例(2施設)効能外症例3例(1施設)有効性判定不能症例1例(1施設)有効性評価対象症例61例(16施設)図 1症例構成———————————————————————- Page 3あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091431(133)った(表 1).患者背景は,男児 45 例(69.2%),女児 20 例(30.8%)であった.年齢(日齢)は,生後 1 27 日齢(平均±SD:13.4±8.18 日)であった.また,使用理由では,「涙 炎」8 例(12.3%),「結膜炎」50 例(76.9%),さらに,「眼瞼炎+結膜炎」などの「使用理由複数例」4 例(6.2%),「効能外症例(眼感染症予防)」3 例(4.6%)であった.投与開始時において肝機能障害および腎機能障害の基礎疾患・合併例は認められず,眼部における基礎疾患・合併症を有する症例は 11 例(16.9%)であり,うち,4 例が先天性鼻涙管閉塞,1 例が先天性鼻涙管狭窄であった.1 日投与回数(平均)は,用法・用量に定められた 1 日 3 回が 48 例(73.9%),投与期間 14 日以上の症例は 27 例(41.5%)であった.また,9 例において施行された併用処置はすべて涙 洗浄などの涙道に対する処置であった(表 2).さらに,7 例において初診時に細菌検査が施行(施行率:10.8%)され,coagulase-negative staphylococci(CNS)5 株(結膜炎 4 例および涙 炎 1 例)を表 1患者背景等要因別副作用発現状況要因区分安全性評価対象症例数副作用発現症例数副作用発現症例率性別男児4500.00%女児2000.00%年齢(日齢)7 日未満1800.00%7 日以上 14 日未満1000.00%14 日以上 21 日未満2300.00%21 日以上 27 日以下1400.00%使用理由別涙 炎800.00%結膜炎5000.00%眼瞼炎+結膜炎100.00%涙 炎+結膜炎300.00%効能外使用(眼感染症予防例)300.00%合併症眼合併症あり1100.00%なし5400.00%肝(機能)障害あり00─なし5400.00%不明1100.00%腎(機能)障害あり00─なし5400.00%不明1100.00%1 日投与回数別(平均)3 回未満600.00%3回4800.00%3 回超1100.00%投与期間別*1 日以上 3 日未満6500.00%3 日以上 7 日未満6500.00%7 日以上 14 日未満5000.00%14 日以上2700.00%併用薬剤の有無別あり800.00%なし5700.00%併用療法の有無別あり900.00%なし5600.00%合計6500.00%*:累積症例数.———————————————————————- Page 41432あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(134)はじめとして計 10 株が分離同定された(表 3).また,安全性評価対象 65 例においては,正期産新生児のほか,低出生体重児に該当する症例が 8 例認められた(表4).すなわち,出生時体重による区分2)において,超低出生体重児(出生時体重:1,000 g未満)4 例,その他の低出生体重児(出生時体重:1,000 2,500 g未満)4 例が認められた.このうち,超低出生体重児の全例が未熟児網膜症を合併しており,うち 3 例については眼底検査時の感染予防を目的に隔日(4 日間隔)にて 4 5 回,残り 1 例は生後 22 日目から結膜炎に対して本剤が投与されていた.3. 有効性評価対象症例の患者背景および有効率効能外症例 3 例(いずれも超低出生体重児の感染予防目的)および有効性判定不能症例 1 例(併用処置により改善したため,本剤効果判定不能)を除外した結果,有効性評価対象症例は 61 例であり,有効性判定は「改善」60 例,「不変」1例,「悪化」0 例であったことから,有効率は 98.4%(60 例/ 61 例)であった(表 5).「不変」と判定された 1 例は結膜炎(正期産新生児)に対して本剤が 12 日間投与された結果,すべての症状が消失したが,本剤投与 5 日目から併用した塩酸セフメノシキム点眼液が奏効し,本剤単独では「不変」であると評価された症例であった.また,本症例が要因別集計の「罹病期間」および「併用薬剤の有無」において,母数の少ない因子に層別された結果,有意差が認められた.III考察一般的に,新生児は免疫機能が未熟であり3)涙液分泌量が少ない4)など,眼感染症に易感染性の素因を有する.このことから,眼感染症の予防を目的として,古くは硝酸銀水溶液による Crede 法が普及したが,薬剤毒性などの理由から敬遠され,0.5%ツꀀ erythromycin,1%ツꀀ tetracycline 軟膏や povi-done-iodine が出生後における眼感染症予防に使用されるようになった5).新生児は出生後ただちに周辺環境に存在する常在菌に曝され,NICU(新生児集中管理室)においてさえ 5%の新生児に細菌性結膜炎が発症する.また,その発症リスクは出生時体重に大きく依存し,超低出生体重児(出生時体重 1,000 g未表 2涙道部に対する処置併用療法診断名(使用理由)症例数涙 指圧涙 炎23涙 炎+結膜炎1涙管ブジー涙 炎22涙 洗浄+涙 指圧涙 炎11涙 洗浄+涙管ブジー涙 炎11涙 洗浄+涙 指圧+ 涙管ブジー涙 炎22計9表 3初診時検出菌(7例)No.使用理由菌名1結膜炎Staphylococcus aureus+ Acinetobacter baumannii2Coagulase-negative staphylococci(CNS)3CNS4CNS+a-Streptococcus5MRCNS+Haemophilus in uenzae6涙 炎CNS7結膜炎+涙 炎Lactobacillus sp.表 4低出生体重児8例の概要No.出生児区分2)使用理由合併症使用期間(日)1超低出生体重児感染予防・未熟児網膜症・晩期循環不全隔日 4 回(4 日間隔)2結膜炎・未熟児網膜症・呼吸窮迫症候群223感染予防・未熟児網膜症・呼吸窮迫症候群・動脈管開存症隔日 5 回(4 日間隔)4感染予防・未熟児網膜症・晩期循環不全隔日 5 回(4 日間隔)5その他の低出生体重児涙 炎+結膜炎先天性鼻涙管閉塞366結膜炎─97結膜炎臍炎158結膜炎─12超低出生体重児:出生時体重 1,000 g未満.その他の低出生体重児:出生時体重 1,000 2,500 g未満.———————————————————————- Page 5あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,20091433(135)表 5患者背景等要因別有効性評価要因区分症例数症例数有効率検定結果(H 検定)改善不変悪化性別男児454500100.0%d.f.=1p0=0.0935 n.s.女児16151093.8%年齢(日齢)7 日未満181800100.0%d.f.=3p0=0.6209 n.s.7 日以上 14 日未満101000100.0%14 日以上 21 日未満22211095.5%21 日以上 27 日以下111100100.0%入院・外来別入院8800100.0%d.f.=2p0=0.8958 n.s.外来50491098.0%入院・外来3300100.0%使用理由別涙 炎7700100.0%d.f.=3p0=0.9743 n.s.結膜炎50491098.0%眼瞼炎+結膜炎1100100.0%涙 炎+結膜炎3300100.0%投与前重症度別軽度404000100.0%d.f.=1p0=0.1675 n.s.中等度21201095.2%重症0000─罹病期間3 日未満292900100.0%d.f.=3p0=0.0059***3 日以上 7 日未満121200100.0%7 日以上 14 日未満431075.0%14 日以上9900100.0%不明7700100.0%合併症眼合併症あり7700100.0%d.f.=1p0=0.7188 n.s.なし54531098.1%肝(機能)障害あり0000─検定になじまないなし505000100.0%不明11101090.9%腎(機能)障害あり0000─検定になじまないなし505000100.0%不明11101090.9%1 日投与回数別(平均)3 回未満3300100.0%d.f.=2p0=0.8616 n.s.3回47461097.9%3 回超111100100.0%投与期間別1 日以上 3 日未満0000─d.f.=4p0=0.7994 n.s.3 日以上 7 日未満121200100.0%7 日以上 14 日未満23221095.7%14 日以上 21 日未満151500100.0%21 日以上 28 日未満2200100.0%28 日以上9900100.0%併用薬剤の有無別あり431075.0%d.f.=1p0=0.0002***なし575700100.0%併用療法の有無別あり8800100.0%d.f.=4p0=0.6976 n.s.なし53521098.1%合計61601098.4%n.s.:not signi cant,d.f.:degree of freedom.***:p0=<0.05.注:「不明」は検定に含めない.———————————————————————- Page 61434あたらしい眼科Vol. 26,No. 10,2009(136)満)では,正期産新生児(同体重 2,500 g以上)に比して 7.9倍高い6).本調査においては,眼底検査時の眼感染症予防を目的として 3 例の超低出生体重児に本剤が隔日投与(4 日間隔)されたが,投与期間中における眼感染症の発現ならびに副作用は認められなかった.さらに,超低出生体重児 1 例を含めた低出生体重児 5 例の眼感染症に対して,本剤が 9 36日間投与されたが,副作用は認められなかった.また,新生児における眼感染症は結膜炎が大半を占め,本調査においても 76.9%(50/65 例)が結膜炎であった.既報において,結膜炎罹患の新生児結膜 からの分離菌としてはCNS の分離頻度が最も高く6,7),これは出生直後の正常結膜 からは vaginalツꀀ delivery あるいは cesareanツꀀ section を問わず CNS の分離頻度が高い8,9)ことに起因するものと考えられる.本調査においても,一部の症例に関する結果ではあるが,結膜炎罹患の 5 眼のうち 4 眼(80.0%)から CNS〔4 株,うち MRCNS(メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)1 株〕が分離された.一方,新生児結膜 の細菌叢は,入院日数に大きく影響され,入院日数が 2 日を超えた場合,MRSE(メチシリン耐性表皮ブドウ球菌)あるいは MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)保菌率が 3 4 倍上昇する7).また,大山ら10)は,入院あるいは外来の新生児(結膜炎罹患児)から分離されたStaphylococcusツꀀ aureusツꀀ 10 株のうち 8 株が MRSA であったことを報告し,さらに中村ら11)は同じく新生児結膜 由来の Haemophilusツꀀ in uenzae をはじめとする主要検出菌に薬剤耐性株の存在を認めている.本調査においても,MRCNS検出症例(出生 15 日後に結膜炎に罹患)が認められており,新生児における細菌性結膜炎であっても,薬剤耐性を有する起炎菌である可能性を考慮し抗菌薬を選択する必要がある.また,本調査では収集されていないが,vaginalツꀀ delivery においては Chlamydia trachomatis による結膜炎にも注意が必要である.このように,新生児眼感染症における起炎菌は多岐にわたるため,幅広い抗菌スペクトルを有する抗菌薬の必要性が高いものの,全身投与による療法については,たとえ小児を含めた年長者における良好な臨床成績を有する抗菌薬であっても,新生児における生理学的,薬理学的特性から,年長者における成績を外挿することはきわめて困難である12).このような観点から,新生児眼感染症に対する薬物療法は点眼薬が中心であり,フルオロキノロン系抗菌点眼薬については成人と同様の用法・用量にて新生児に対する第一選択薬として使用されるようになって久しい.筆者らは,2007 年に新生児を含めた 1 歳未満の小児眼感染症 113 例(新生児 3 例,乳児 110 例)に対する本剤投与成績において,副作用発現症例が認められなかったことを報告するなかで,新生児に対する症例集積を追加する必要性,ならびに新生児期を対象としたフルオロキノロン系抗菌点眼薬の臨床成績に関する報告がきわめて少ないことを述べた1).そこで,今回筆者らは,正期産新生児 57 例および低出生体重児 8 例に対する投与成績を追加収集し,副作用発現症例を認めなかった.以上の結果,ガチフロR点眼液 0.3%は,注意深い観察が必要であることはいうまでもないが,新生児を含めた小児における細菌性外眼部感染症治療の一助になることが期待される.謝辞:稿を終えるにあたり,本調査にご協力賜り,貴重なデータをご提供いただきました多数の先生方に,この場をお借りし心より厚く御礼申しあげます.文献 1) 丸田真一,末信敏秀,羅錦營:ガチフロキサシン点眼液(ガチフロR 0.3%点眼液)の製造販売後調査─特定使用成績調査(新生児および乳児に対する調査).あたらしい眼科 24:975-980, 2007 2) 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